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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1379072
審判番号 不服2021-7363  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-06-07 
確定日 2021-11-02 
事件の表示 特願2017-558338「積層体」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 6月29日国際公開,WO2017/111174,請求項の数(17)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2016年(平成28年)12月26日(優先権主張 平成27年12月25日,平成28年8月15日)を国際出願日とする出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。

令和2年2月28日付け :拒絶理由通知書
令和2年4月28日 :意見書及び手続補正書の提出
令和2年5月28日付け :拒絶理由通知(最後)
令和2年6月30日 :意見書及び手続補正書の提出
令和2年11月16日付け:拒絶理由通知
令和3年1月18日 :意見書及び手続補正書の提出
令和3年3月15日付け :拒絶査定
令和3年6月7日 :審判請求書及び手続補正書の提出


第2 原査定の概要
原査定(令和3年3月15日付け拒絶査定)の概要は,本願の請求項1?8,10?19に係る発明は,本願の優先権主張日前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用例1に記載された発明及び引用例1?2に記載された技術的事項に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

引用例一覧
1.国際公開第2015/025500号
2.特開2015-109315号公報


第3 本願発明
本願の請求項1?17に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」?「本願発明17」という。)は,令和3年6月7日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?17に記載された事項により特定される発明であり,そのうちの本願発明1は以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
基板と,接触抵抗低減層と,還元抑制層と,ショットキー電極層と,金属酸化物半導体層とをこの順に有し,
前記ショットキー電極層が,Pd,Mo,Pt,Ir,Ru,Ni,W,Cr,Re,Te,Tc,Mn,Os,Fe,Rh及びCoから選択される1以上の金属の酸化物を含み,
前記ショットキー電極層の厚さが,20nm以上である積層体。」

本願発明2?17は,本願発明1を減縮した発明である。


第4 引用例の記載と引用発明
1.引用例1について
(1)引用例1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1(国際公開第2015/025500号)には,次の記載がある。(下線は当審により付加した。以下同じ。)
「[0001] 本発明は,整流特性を有する酸化物半導体基板及びショットキーバリアダイオード素子に関する。」

「[0030] 本発明のショットキーバリアダイオード素子を構成する酸化物半導体層,ショットキー電極層,オーミック電極層等は,例えば,実施例に記載するように,安価で量産性に優れた方法である従来公知のスパッタ成膜法等により形成することができる。
また,ショットキー電極を形成する電極層と酸化物半導体層の界面は,ショットキー電極スパッタ工程で酸素を導入して反応性スパッタを行い,10nm以下の薄い酸化膜を積層してもよい。」

「[0072] 実施例7
抵抗率0.02Ω・cmのn型Si基板(4インチφ)を用意した。このSiウェハーをスパッタリング装置(島津製作所製:HSM552)に装着し,円形状のエリアマスクを用いて,Tiを15nm,Pdを50nmの順にスパッタ成膜した。エリアマスクを交換後,Ga_(2)O_(3):SnO_(2)=99.9:0.1wt%の焼結体ターゲットを用い,RF100W,Ar100%の条件で,Ga_(2)O_(3):SnO_(2)を200nmの膜厚でスパッタ成膜した。次にこの構造体をホットプレートに載せて,空気中,300℃,1時間の条件でアニール処理した。」

(2)引用発明1
上記(1)によれば,引用例1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「n型Si基板上に,Ti,Pd,Ga_(2)O_(3):SnO_(2)酸化物半導体層を順に積層し,かつ,PdとGa_(2)O_(3):SnO_(2)酸化物半導体層の界面に膜厚10nm以下の酸化Pdが積層された構造を有するショットキーダイオード素子。」

2.引用例2の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用例2(特開2015-109315号公報)には,次の記載がある。
「【0001】
本発明は,薄膜トランジスタ,その製造方法,酸化物半導体層,表示装置及び半導体装置に関する。特に,自己整合型トップゲート構造であり,チャネルとして酸化物半導体層を有した薄膜トランジスタ(TFT)などに関する。」

「【0047】
(酸化物半導体層)
酸化物半導体層30は,絶縁性の基板21上に形成されており,ソース領域22,チャネル領域23及びドレイン領域24を有している。
この酸化物半導体層30は,In,Ga,Zn及びSnの少なくとも一つの元素を含んでいる。」

「【0068】
さらに,薄膜トランジスタ1は,酸化物半導体層30が10nmを超える膜厚を有し,フロントチャネル領域231の平均水素原子濃度HρFCが,10^(17)cm^(-3)以上10^(22)cm^(-3)以下であるとよい。
水素は,酸化物半導体層30中で電子の散乱源になることは無く,ドナーとして働くことから,移動度を低下させることなくキャリア濃度を高めることができる。したがって,フロントチャネル領域231の広がり抵抗の平均値SRFCが上昇し,TFTとして駆動した際に高移動度が実現する。
また,キャリア濃度が上昇することから酸化物半導体層30中に存在するトラップ準位が満たされ,ゲートバイアスに対する経時劣化である信頼性劣化が改善される。
なお,フロントチャネル領域231の平均水素原子濃度HρFCが,10^(17)cm^(-3)未満とすると,キャリア濃度が低くTFTが駆動しないおそれがある。また,キャリア濃度の上限値は高ければ高いほど良いが,酸化物半導体層30中に存在できるキャリア濃度の上限は10^(22)cm^(-3)である。
また,酸化物半導体層30中の平均水素原子濃度は,二次イオン質量分析法(SIMS)によって確認できる。」


第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)本願発明1と引用発明1の対比
本願発明1と引用発明1を対比する。

ア 引用発明1における「n型Si基板」「Ga_(2)O_(3):SnO_(2)酸化物半導体層」及び「ショットキーダイオード素子」は,本願発明1における「基板」,「金属酸化物半導体層」及び「積層体」にそれぞれ相当する。

イ 引用発明1の「酸化Pd」は,「PdとGa_(2)O_(3):SnO_(2)酸化物半導体層の界面」に積層されているから,「Ga_(2)O_(3):SnO_(2)酸化物半導体層」に接合されたPdの酸化物であり,本願発明1における「ショットキー電極層」に相当する。そして,本願発明1と引用発明1は,ともに「前記ショットキー電極層が,Pd,Mo,Pt,Ir,Ru,Ni,W,Cr,Re,Te,Tc,Mn,Os,Fe,Rh及びCoから選択される1以上の金属の酸化物を含み」との点で一致する。

ウ 引用例1の段落0072の記載から,引用発明1における「Ti」は「n型Si基板」上に直接スパッタ成膜され,その上にPdがスパッタ成膜された層であるといえる。一方,本願明細書の段落0055には,「接触抵抗低減層は,下地となる基板とショットキー電極金属の相互作用を防止する役割を担う。また,ショットキー電極の下地基板への密着性を改善し,ショットキー電極の表面平滑性を向上させる役割を担う。」と記載され,段落0057には,「接触抵抗低減層としては,Ti,Mo,Ag,In,Al,W,Co及びNiから選択される1以上の金属,その合金又はそのシリサイドを用いることができる。」と記載されている。そうすると,引用発明1における「Ti」は,本願発明1における「接触抵抗低減層」に相当する。

エ 引用発明1において,「PdとGa_(2)O_(3):SnO_(2)酸化物半導体層の界面」に「酸化Pd」が積層されていることから,引用発明1の「Pd」が「酸化Pd」と接する層であることは明らかである。ここで,上記イのとおり,引用発明1の「酸化Pd」は本願発明1の「ショットキー電極層」に相当する。
一方,本願明細書の段落0059には,「還元抑制層は,ショットキー電極層の還元を防止する層」であると記載され,段落0061には,還元抑制層として,「ショットキー電極層を構成する金属酸化物の金属を用いると好ましい。」と記載され,同段落には「還元抑制層とショットキー電極層の組み合わせ(還元抑制層/ショットキー電極層)としては,例えば,Pd/酸化パラジウム,Pt/酸化白金,Ir/酸化イリジウム,Ru/酸化ルテニウム等が挙げられる。」と記載されている。また,段落0084には,実施例2の構成として「接触抵抗低減層の成膜に続き,還元抑制層としてPdを20nm成膜した他は実施例1と同様にして素子を作製した。・・・得られた素子(Si/Ti/Pd/酸化パラジウム/IGZO/Mo)について,実施例1と同様に評価した。」(段落0084)と記載されている。
そうすると,引用発明1における「Pd」は,本願明細書の「還元抑制層」に関する記載において説明されたのと同一の積層位置にある同一の材料層,すなわち「Pd/酸化パラジウム」を構成する「Pd」層であり,当然に還元を防止する作用を有するものといえる。したがって,引用発明1における「Pd」は,本願発明1における「還元抑制層」に相当する。

オ 上記ア?エから,本願発明1と引用発明1は,ともに「基板と,接触抵抗低減層と,還元抑制層と,ショットキー電極層と,金属酸化物半導体層とをこの順に有し」ている点で一致する。

以上によれば,本願発明1と引用発明1の一致点及び相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「基板と,接触抵抗低減層と,還元抑制層と,ショットキー電極層と,金属酸化物半導体層とをこの順に有し,
前記ショットキー電極層が,Pd,Mo,Pt,Ir,Ru,Ni,W,Cr,Re,Te,Tc,Mn,Os,Fe,Rh及びCoから選択される1以上の金属の酸化物を含む,積層体。」
<相違点>
本願発明1は「前記ショットキー電極層の厚さが,20nm以上である」のに対し,引用発明1では,「酸化Pd層」が「膜厚10nm以下」である点。

(2)相違点についての判断
引用例1には,反応性スパッタにより酸化膜を10nmよりも厚く形成することについて記載も示唆もされていない。
引用例2には,TFTに用いられる「In,Ga,Zn及びSnの少なくとも一つの元素を含んでいる」酸化物半導体層について,「10nmを超える膜厚を有し,フロントチャネル領域231の平均水素原子濃度HρFCが,10^(17)cm^(-3)以上10^(22)cm^(-3)以下であるとよい。」との記載はあるものの,金属酸化物で構成されたショットキー電極層の厚さを20nm以上とすることについては,記載も示唆もされていない。
したがって,上記相違点に係る本願発明1を想到することは,引用発明1及び引用例1?2に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易になし得たことではない。

2.本願発明2?17について
本願発明2?17は本願発明1と同じ技術的事項を備える発明であるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明1及び引用例1?2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。


第6 原査定について
審判請求時の補正により,本願発明1?17は「前記ショットキー電極層の厚さが,20nm以上である」という事項を有するものとなっており,当業者であっても,拒絶査定において引用された引用例1?2に基づいて,容易に発明できたものとはいえない。
したがって,原査定を維持することはできない。


第7 結言
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。


 
審決日 2021-10-13 
出願番号 特願2017-558338(P2017-558338)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 柴垣 宙央綿引 隆  
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 ▲吉▼澤 雅博
小川 将之
発明の名称 積層体  
代理人 特許業務法人平和国際特許事務所  

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