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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1379167
審判番号 不服2020-9117  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-06-30 
確定日 2021-10-13 
事件の表示 特願2018-143775「ブロックチェーン式多要素個人身元認証を実現するシステム及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 4月11日出願公開,特開2019- 57271〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は,平成28年3月29日に出願した実願2018-002943号(パリ条約による優先権主張2016年3月28日 アメリカ合衆国)を,特許法46条1項の規定により,平成30年7月31日に新たな特許出願としたものであって,
平成30年7月31日付けで審査請求がなされ,令和1年5月29日付けで審査官により拒絶理由が通知され,これに対して令和1年12月11日付けで意見書が提出されると共に手続補正がなされたが,令和2年2月25日付けで審査官により拒絶査定がなされ,これに対して令和2年6月30日付けで審判請求がなされると共に手続補正がなされ,令和2年9月3日付けで審査官により特許法164条3項の規定に基づく報告がなされたものである。

第2.令和2年6月30日付けの手続補正の却下の決定

[補正却下の決定の結論]

令和2年6月30日付け手続補正を却下する。

[理由]

1.補正の内容
令和2年6月30日付けの手続補正(以下,「本件手続補正」という)により,令和1年12月11日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲,
「【請求項1】
ブロックチェーン式多要素個人身元認証を実現するシステムであって,
ブロックチェーンを記憶するように構成された1以上のコンピュータ可読記憶媒体と,
1以上のプロセッサを備えるサーバ側コンピュータシステムとを備え,
当該1以上のプロセッサは,コンピュータプログラム命令を実行するようにプログラミングされ,当該コンピュータプログラム命令は実行されると,前記サーバ側コンピュータシステムに,
認証済み個人身元を有する個人に対して,前記ブロックチェーン上に認証アドレスを割り当てることであって,前記認証アドレスが第1の公開鍵と第1の秘密鍵とを含み,
前記ブロックチェーン上に,前記認証アドレスに関連付けて,前記個人の識別子と,前記個人の生体特徴ハッシュとを記憶することであって,前記生体特徴ハッシュは前記個人の生体特徴データのハッシュであり,
前記個人の身元を認証するためのリクエストであって,前記ブロックチェーン上の前記認証アドレスを示すリクエストに応じて,クライアント側装置から,前記識別子及び前記生体特徴データを取得することと,
前記リクエストに示された前記認証アドレスを使用して,前記記憶された識別子と前記記憶された生体特徴ハッシュとを取得することと,
前記リクエストに関連する前記生体特徴データと秘密鍵とが,前記記憶された生体特徴ハッシュと前記第1の公開鍵とに一致するという判定に応じて,前記個人の身元の認証に署名することとを実行させる,システム。
【請求項2】
前記サーバ側コンピュータシステムに,前記認証アドレスに含まれる前記第1の秘密鍵を使用して前記認証に署名することを実行させる,請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記第1の秘密鍵はさらに前記クライアント側装置にも記憶され,
前記クライアント側装置は前記個人のユーザ装置である,請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記サーバ側コンピュータシステムに,
前記個人に,前記ブロックチェーンに関連付けられた別の認証アドレスを割り当てることと,
前記ブロックチェーン上の前記別の認証アドレスに関連付けて,前記個人の別の生体特徴ハッシュを前記ブロックチェーンに記憶することであって,前記別の生体特徴ハッシュは,前記個人の別の生体特徴データのハッシュであることと,
前記ブロックチェーン上の前記別の認証アドレスをさらに示す,前記個人の身元を認証するための前記リクエストに応じて,前記クライアント側装置から前記別の生体特徴データを取得することと,
前記リクエストに示された,前記別の認証アドレスを使用して,前記記憶された別の生体特徴ハッシュを取得することと,
前記リクエストの前記生体特徴データと,前記リクエストの前記別の生体特徴データと,前記リクエストの秘密鍵とが,前記記憶された生体特徴ハッシュと,前記記憶された別の生体特徴ハッシュと,前記第1の秘密鍵とに一致するという判定に応じて,前記個人の身元の前記認証に署名することとを実行させる,請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記サーバ側コンピュータシステムに,
前記個人に対する前記ブロックチェーンのアドレスとして,前記別の認証アドレスを追加するためのユーザ起動コマンドを,ユーザインタフェースを介して取得することと,
前記ユーザ起動コマンドに基づいて,前記ブロックチェーン上の前記別の認証アドレスを前記個人に割り当てることとを実行させる,請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記サーバ側コンピュータシステムに,
前記個人に対する前記ブロックチェーンのアドレスとして,前記別の認証アドレスを削除するためのユーザ起動コマンドを,ユーザインタフェースを介して取得することと,
前記ユーザ起動コマンドに基づいて,前記ブロックチェーン上の前記別の認証アドレスの,前記個人に対する関連付けを外すこととを実行させる,請求項4に記載のシステム。
【請求項7】
前記サーバ側コンピュータシステムに,
前記個人と異なる第1のユーザが前記第1の秘密鍵を有するという認証に基づいて,前記第1のユーザが,前記ブロックチェーン上の前記認証アドレスに関連付けて,前記1以上のコンピュータ可読記憶媒体に記憶されたデータにアクセス可能にすることと,
第2の秘密鍵を有すると認証された,前記個人とは異なる第2のユーザの,前記記憶されたデータに対するアクセスを拒否することとを実行させる,請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記生体特徴データは,画像,記録,又はテンプレートを含む,請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記生体特徴データは,指紋,手のひら静脈,顔認証,DNA,掌紋,手の形状,虹彩認証,網膜,臭い,歩き方,又は声に関連付けられた,請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
ブロックチェーン式多要素個人身元認証を実現する方法であって,実行されると当該方法を実行するコンピュータプログラム命令を実行する1以上のプロセッサを備えるサーバ側コンピュータシステムにより実現される方法であって,
前記サーバ側コンピュータシステムが,前記サーバ側コンピュータシステムの1以上のコンピュータ可読記憶媒体にブロックチェーンを記憶することと,
前記サーバ側コンピュータシステムが,認証済み個人身元を有する個人に対して,前記ブロックチェーン上に,認証アドレスを割り当てることであって,前記認証アドレスが第1の公開鍵と第1の秘密鍵とを含み,
前記サーバ側コンピュータシステムが,前記1以上のコンピュータ可読記憶媒体に,前記ブロックチェーン上の前記認証アドレスに関連付けて,前記個人の識別子と,前記個人の生体特徴ハッシュとを記憶することであって,前記生体特徴ハッシュは前記個人の生体特徴データのハッシュであり,
前記サーバ側コンピュータシステムが,前記個人の身元を認証するためのリクエストであって,前記ブロックチェーンに上の前記認証アドレスを示すリクエストに応じて,クライアント側装置から,前記識別子及び前記生体特徴データを取得することと,
前記サーバ側コンピュータシステムが,前記リクエストに示された前記認証アドレスを使用して,前記記憶された識別子と前記記憶された生体特徴ハッシュとを取得することと,
前記サーバ側コンピュータシステムが,前記リクエストに関連する前記生体特徴データと秘密鍵とが,前記記憶された生体特徴ハッシュと前記第1の公開鍵とに一致するという判定に応じて,前記個人の身元の認証に署名することとを含む,方法。
【請求項11】
前記サーバ側コンピュータシステムが,前記認証アドレスに含まれる前記第1の秘密鍵を使用して前記認証に署名することを含む,請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記サーバ側コンピュータシステムが,前記ブロックチェーン上の前記認証アドレスに関連付けて,前記第1の秘密鍵を前記ブロックチェーンに記憶することと,
前記サーバ側コンピュータシステムが,前記リクエストに示された前記認証アドレスを使用して,前記クライアント側装置から前記秘密鍵を取得することと,
前記サーバ側コンピュータシステムが,前記第1の秘密鍵を使用して前記個人の身元の前記認証に署名することとを含む,請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記サーバ側コンピュータシステムが,前記個人に,前記ブロックチェーン上にて別の認証アドレスを割り当てることと,
前記サーバ側コンピュータシステムが,前記ブロックチェーン上の前記別の認証アドレスに関連付けて,前記個人の別の生体特徴ハッシュを前記ブロックチェーン上に記憶することであって,前記別の生体特徴ハッシュは,前記個人の別の生体特徴データのハッシュであることと,
前記サーバ側コンピュータシステムが,前記ブロックチェーン上の前記別の認証アドレスをさらに示す,前記個人の身元を認証するための前記リクエストに応じて,前記クライアント側装置から前記別の生体特徴データを取得することと,
前記サーバ側コンピュータシステムが,前記リクエストに示された,前記別の認証アドレスを使用して,前記記憶された別の生体特徴ハッシュを取得することと,
前記サーバ側コンピュータシステムが,前記リクエストの前記別の生体特徴データが,前記記憶された別の生体特徴ハッシュに一致するという判定に応じて,前記個人の身元の前記認証に署名することとを含む,請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記サーバ側コンピュータシステムが,前記個人に対する前記ブロックチェーンのアドレスとして,前記別の認証アドレスを追加するためのユーザ起動コマンドを,ユーザインタフェースを介して取得することと,
前記サーバ側コンピュータシステムが,前記ユーザ起動コマンドに基づいて,前記ブロックチェーン上にて前記別の認証アドレスを前記個人に割り当てることとを含む,請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記サーバ側コンピュータシステムが,前記個人に対する前記ブロックチェーンのアドレスとして,前記別の認証アドレスを削除するためのユーザ起動コマンドを,ユーザインタフェースを介して取得することと,
前記サーバ側コンピュータシステムが,前記ユーザ起動コマンドに基づいて,前記ブロックチェーン上の前記別の認証アドレスの,前記個人に対する関連付けを外すこととを含む,請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記サーバ側コンピュータシステムが,前記個人と異なる第1のユーザが,前記第1の秘密鍵を有するという認証に基づいて,前記第1のユーザが,前記ブロックチェーン上の前記認証アドレスに関連付けて,前記1以上のコンピュータ可読記憶媒体に記憶されたデータにアクセス可能にし,
ユーザーの公開/秘密キーのペアに基づいて,個人のデータへの複数レベルのアクセスが提供される,請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記生体特徴データは,画像,記録,又はテンプレートを含む,請求項10に記載の方法。
【請求項18】
前記生体特徴データは,指紋,手のひら静脈,顔認証,DNA,掌紋,手の形状,虹彩認証,網膜,臭い,歩き方,又は声に関連付けられた,請求項10に記載の方法。
【請求項19】
ブロックチェーン式多要素個人身元認証を実現するシステムであって,
ブロックチェーンを記憶するように構成された1以上のコンピュータ可読記憶媒体と,
1以上のプロセッサを備えるサーバ側コンピュータシステムとを備え,
当該1以上のプロセッサは,コンピュータプログラム命令を実行するようにプログラミングされ,当該コンピュータプログラム命令は実行されると,前記サーバ側コンピュータシステムに,
認証済み個人身元を有する個人に対して,前記ブロックチェーンの複数の認証アドレスを割り当てることであって,前記複数の認証アドレスは,前記ブロックチェーン上の第1の認証アドレスと,前記ブロックチェーン上の第2の認証アドレスと,を含むことであって,前記第1の認証アドレスは第1の公開鍵と第1の秘密鍵とを含み,前記第2の認証アドレスは第2の公開鍵と第2の秘密鍵とを含み,
前記ブロックチェーンに,(i)前記ブロックチェーン上の前記複数の認証アドレスに関連付けて,前記個人の識別子と,前記個人の第1の生体特徴ハッシュと,(ii)前記ブロックチェーン上の前記第2の認証アドレスに関連付けて,前記個人の第2の生体特徴ハッシュとを記憶することであって,前記第1の生体特徴ハッシュは前記個人の第1の生体特徴データのハッシュであり,前記第2の生体特徴ハッシュは前記個人の第2の生体特徴データのハッシュであり,
前記個人の身元を認証するためのリクエストであって,前記ブロックチェーン上の前記第1の認証アドレスと,前記ブロックチェーン上の前記第2の認証アドレスとを示すリクエストに応じて,クライアント側装置から,前記識別子,前記第1の生体特徴データ,前記第2の生体特徴データを取得することと,
(i)前記リクエストに示された前記第1の認証アドレスを使用して,前記記憶された識別子と前記記憶された第1の生体特徴ハッシュとを取得することと,(ii)前記リクエストに示された前記第2の認証アドレスを使用して,前記記憶された第2の生体特徴ハッシュとを取得することと,
前記リクエストに関連する前記第1の生体特徴データ及び秘密鍵と,前記リクエストに関連する前記第2の生体特徴データとが,前記記憶された第1の生体特徴ハッシュと,前記記憶された第2の生体特徴ハッシュと,前記第1の秘密鍵とに一致するという判定に応じて,前記第1の秘密鍵を使用して,前記個人の身元の認証に署名することとを実行させ,
ユーザーの公開/秘密キーのペアに基づいて,個人のデータへの複数レベルのアクセスが提供される,システム。」(以下,上記引用の請求項各項を,「補正前の請求項」という)は,
「【請求項1】
ブロックチェーン式多要素個人身元認証を実現するシステムであって,
ブロックチェーンを記憶するように構成された1以上のコンピュータ可読記憶媒体と,
1以上のプロセッサを備えるサーバ側コンピュータシステムとを備え,
当該1以上のプロセッサは,コンピュータプログラム命令を実行するようにプログラミングされ,当該コンピュータプログラム命令は実行されると,前記サーバ側コンピュータシステムに,
認証済み個人身元を有する個人に対して,前記ブロックチェーン上に認証アドレスを割り当てることであって,前記認証アドレスが第1の秘密鍵と数学的に関連する第1の公開鍵を含み,
前記ブロックチェーン上に,前記認証アドレスに関連付けて,前記個人の識別子と,前記個人の生体特徴ハッシュとを記憶することであって,前記生体特徴ハッシュは前記個人の生体特徴データのハッシュであり,
前記個人の身元を認証するためのリクエストであって,前記ブロックチェーン上の前記認証アドレスを示すリクエストに応じて,クライアント側装置から,前記識別子及び前記生体特徴データを取得することと,
前記リクエストに示された前記認証アドレスを使用して,前記記憶された識別子と前記記憶された生体特徴ハッシュとを取得することと,
前記リクエストに関連する前記生体特徴データと秘密鍵とが,前記記憶された生体特徴ハッシュと前記第1の秘密鍵とに一致するという判定に応じて,前記個人の身元を認証することとを実行させる,システム。
【請求項2】
前記サーバ側コンピュータシステムに,前記第1の秘密鍵を使用して前記認証に署名することを実行させる,請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記第1の秘密鍵はさらに前記クライアント側装置にも記憶され,
前記クライアント側装置は前記個人のユーザ装置である,請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記サーバ側コンピュータシステムに,
前記個人に,前記ブロックチェーンに関連付けられた別の認証アドレスを割り当てるこ
とと,
前記ブロックチェーン上の前記別の認証アドレスに関連付けて,前記個人の別の生体特徴ハッシュを前記ブロックチェーンに記憶することであって,前記別の生体特徴ハッシュは,前記個人の別の生体特徴データのハッシュであることと,
前記ブロックチェーン上の前記別の認証アドレスをさらに示す,前記個人の身元を認証するための前記リクエストに応じて,前記クライアント側装置から前記別の生体特徴データを取得することと,
前記リクエストに示された,前記別の認証アドレスを使用して,前記記憶された別の生体特徴ハッシュを取得することと,
前記リクエストの前記生体特徴データと,前記リクエストの前記別の生体特徴データと,前記リクエストの秘密鍵とが,前記記憶された生体特徴ハッシュと,前記記憶された別の生体特徴ハッシュと,前記第1の秘密鍵とに一致するという判定に応じて,前記第1の秘密鍵を使用して前記個人の身元の前記認証に署名することとを実行させる,請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記サーバ側コンピュータシステムに,
前記個人に対する前記ブロックチェーンのアドレスとして,前記別の認証アドレスを追加するためのユーザ起動コマンドを,ユーザインタフェースを介して取得することと,
前記ユーザ起動コマンドに基づいて,前記ブロックチェーン上の前記別の認証アドレスを前記個人に割り当てることとを実行させる,請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記サーバ側コンピュータシステムに,
前記個人に対する前記ブロックチェーンのアドレスとして,前記別の認証アドレスを削除するためのユーザ起動コマンドを,ユーザインタフェースを介して取得することと,
前記ユーザ起動コマンドに基づいて,前記ブロックチェーン上の前記別の認証アドレスの,前記個人に対する関連付けを外すこととを実行させる,請求項4に記載のシステム。
【請求項7】
前記サーバ側コンピュータシステムに,
前記個人と異なる第1のユーザが前記第1の秘密鍵を有するという認証に基づいて,前記第1のユーザが,前記ブロックチェーン上の前記認証アドレスに関連付けて,前記1以上のコンピュータ可読記憶媒体に記憶されたデータにアクセス可能にすることと,
第2の秘密鍵を有すると認証された,前記個人とは異なる第2のユーザの,前記記憶されたデータに対するアクセスを拒否することとを実行させる,請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記生体特徴データは,画像,記録,又はテンプレートを含む,請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記生体特徴データは,指紋,手のひら静脈,顔認証,DNA,掌紋,手の形状,虹彩認証,網膜,臭い,歩き方,又は声に関連付けられた,請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
ブロックチェーン式多要素個人身元認証を実現する方法であって,実行されると当該方法を実行するコンピュータプログラム命令を実行する1以上のプロセッサを備えるサーバ側コンピュータシステムにより実現される方法であって,
前記サーバ側コンピュータシステムが,前記サーバ側コンピュータシステムの1以上のコンピュータ可読記憶媒体にブロックチェーンを記憶することと,
前記サーバ側コンピュータシステムが,認証済み個人身元を有する個人に対して,前記ブロックチェーン上に,認証アドレスを割り当てることであって,前記認証アドレスが第1の秘密鍵と数学的に関連する第1の公開鍵を含み,
前記サーバ側コンピュータシステムが,前記1以上のコンピュータ可読記憶媒体に,前記ブロックチェーン上の前記認証アドレスに関連付けて,前記個人の識別子と,前記個人の生体特徴ハッシュとを記憶することであって,前記生体特徴ハッシュは前記個人の生体特徴データのハッシュであり,
前記サーバ側コンピュータシステムが,前記個人の身元を認証するためのリクエストであって,前記ブロックチェーンに上の前記認証アドレスを示すリクエストに応じて,クライアント側装置から,前記識別子及び前記生体特徴データを取得することと,
前記サーバ側コンピュータシステムが,前記リクエストに示された前記認証アドレスを使用して,前記記憶された識別子と前記記憶された生体特徴ハッシュとを取得することと,
前記サーバ側コンピュータシステムが,前記リクエストに関連する前記生体特徴データと秘密鍵とが,前記記憶された生体特徴ハッシュと前記第1の秘密鍵とに一致するという判定に応じて,前記個人の身元を認証することとを含む,方法。
【請求項11】
前記サーバ側コンピュータシステムが,前記第1の秘密鍵を使用して前記認証に署名することを含む,請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記サーバ側コンピュータシステムが,前記個人に,前記ブロックチェーン上にて別の認証アドレスを割り当てることと,
前記サーバ側コンピュータシステムが,前記ブロックチェーン上の前記別の認証アドレスに関連付けて,前記個人の別の生体特徴ハッシュを前記ブロックチェーン上に記憶することであって,前記別の生体特徴ハッシュは,前記個人の別の生体特徴データのハッシュであることと,
前記サーバ側コンピュータシステムが,前記ブロックチェーン上の前記別の認証アドレスをさらに示す,前記個人の身元を認証するための前記リクエストに応じて,前記クライアント側装置から前記別の生体特徴データを取得することと,
前記サーバ側コンピュータシステムが,前記リクエストに示された,前記別の認証アドレスを使用して,前記記憶された別の生体特徴ハッシュを取得することと,
前記サーバ側コンピュータシステムが,前記リクエストの前記別の生体特徴データが,前記記憶された別の生体特徴ハッシュに一致するという判定に応じて,前記第1の秘密鍵を使用して前記個人の身元の前記認証に署名することとを含む,請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記サーバ側コンピュータシステムが,前記個人に対する前記ブロックチェーンのアドレスとして,前記別の認証アドレスを追加するためのユーザ起動コマンドを,ユーザインタフェースを介して取得することと,
前記サーバ側コンピュータシステムが,前記ユーザ起動コマンドに基づいて,前記ブロックチェーン上にて前記別の認証アドレスを前記個人に割り当てることとを含む,請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記サーバ側コンピュータシステムが,前記個人に対する前記ブロックチェーンのアドレスとして,前記別の認証アドレスを削除するためのユーザ起動コマンドを,ユーザインタフェースを介して取得することと,
前記サーバ側コンピュータシステムが,前記ユーザ起動コマンドに基づいて,前記ブロックチェーン上の前記別の認証アドレスの,前記個人に対する関連付けを外すこととを含む,請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記サーバ側コンピュータシステムが,前記個人と異なる第1のユーザが,前記第1の秘密鍵を有するという認証に基づいて,前記第1のユーザが,前記ブロックチェーン上の前記認証アドレスに関連付けて,前記1以上のコンピュータ可読記憶媒体に記憶されたデータにアクセス可能にし,
ユーザーの公開/秘密キーのペアに基づいて,個人のデータへの複数レベルのアクセスが提供される,請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記生体特徴データは,画像,記録,又はテンプレートを含む,請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記生体特徴データは,指紋,手のひら静脈,顔認証,DNA,掌紋,手の形状,虹彩認証,網膜,臭い,歩き方,又は声に関連付けられた,請求項10に記載の方法。
【請求項18】
ブロックチェーン式多要素個人身元認証を実現するシステムであって,
ブロックチェーンを記憶するように構成された1以上のコンピュータ可読記憶媒体と,
1以上のプロセッサを備えるサーバ側コンピュータシステムとを備え,
当該1以上のプロセッサは,コンピュータプログラム命令を実行するようにプログラミングされ,当該コンピュータプログラム命令は実行されると,前記サーバ側コンピュータシステムに,
認証済み個人身元を有する個人に対して,前記ブロックチェーンの複数の認証アドレスを割り当てることであって,前記複数の認証アドレスは,前記ブロックチェーン上の第1の認証アドレスと,前記ブロックチェーン上の第2の認証アドレスと,を含むことであって,前記第1の認証アドレスは第1の秘密鍵と数学的に関連する第1の公開鍵を含み,前記第2の認証アドレスは第2の秘密鍵と数学的に関連する第2の公開鍵を含み,
前記ブロックチェーンに,(i)前記ブロックチェーン上の前記複数の認証アドレスに関連付けて,前記個人の識別子と,前記個人の第1の生体特徴ハッシュと,(ii)前記ブロックチェーン上の前記第2の認証アドレスに関連付けて,前記個人の第2の生体特徴ハッシュとを記憶することであって,前記第1の生体特徴ハッシュは前記個人の第1の生体特徴データのハッシュであり,前記第2の生体特徴ハッシュは前記個人の第2の生体特徴データのハッシュであり,
前記個人の身元を認証するためのリクエストであって,前記ブロックチェーン上の前記第1の認証アドレスと,前記ブロックチェーン上の前記第2の認証アドレスとを示すリクエストに応じて,クライアント側装置から,前記識別子,前記第1の生体特徴データ,前記第2の生体特徴データを取得することと,
(i)前記リクエストに示された前記第1の認証アドレスを使用して,前記記憶された識別子と前記記憶された第1の生体特徴ハッシュとを取得することと,(ii)前記リクエストに示された前記第2の認証アドレスを使用して,前記記憶された第2の生体特徴ハッシュとを取得することと,
前記リクエストに関連する前記第1の生体特徴データ及び秘密鍵と,前記リクエストに関連する前記第2の生体特徴データとが,前記記憶された第1の生体特徴ハッシュと,前記記憶された第2の生体特徴ハッシュと,前記第1の秘密鍵とに一致するという判定に応じて,前記第1の秘密鍵を使用して,前記個人の身元を認証することとを実行させ,
ユーザーの公開/秘密キーのペアに基づいて,個人のデータへの複数レベルのアクセスが提供される,システム。」(以下,上記引用の請求項各項を,「補正後の請求項」という)に補正された。

2.補正の適否
本件手続補正が,特許法17条の2第3項の規定を満たすものであるか否か,即ち,本件手続補正が,願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲,及び,図面(以下,これを「当初明細書等」という)に記載した事項の範囲内でなされたものであるかについて,以下に検討する。

(1)本件手続補正によって,補正前の請求項1,及び,補正前の請求項10に記載の,
「前記認証アドレスが第1の公開鍵と第1の秘密鍵とを含み」が,
「前記認証アドレスが第1の秘密鍵と数学的に関連する第1の公開鍵を含み」,
と補正され(以下,これを「補正事項1」という),
補正前の請求項2,及び,補正前の請求項11に記載の,
「前記認証アドレスに含まれる前記第1の秘密鍵を使用して前記認証に署名する」が,
「前記第1の秘密鍵を使用して前記認証に署名する」,
と補正され(以下,これを「補正事項2」という),
補正前の請求項4,及び,補正前の請求項13に記載の,
「前記個人の身元の前記認証に署名する」が,
「前記第1の秘密鍵を使用して前記個人の身元の前記認証に署名する」,
と補正され(以下,これを「補正事項3」という),
補正前の請求項10に記載の,
「前記第1の公開鍵とに一致するという判定に応じて,前記個人の身元の認証に署名する」が,
「前記第1の秘密鍵とに一致するという判断に応じて,前記個人の身元を認証する」,
と補正され(以下,これを「補正事項4」という),
補正前の請求項19に記載の,
「前記第1の認証アドレスは第1の公開鍵と第1の秘密鍵とを含み,前記第2の認証アドレスは第2の公開鍵と第2秘密鍵とを含み」が,
「前記第1の認証アドレスは第1の秘密鍵と数学的に関連する第1の公開鍵を含み,前記第2の認証アドレスは第2の秘密鍵と数学的に関連する第2の公開鍵を含み」,
と補正される(以下,これを「補正事項5」という)と共に,
補正前の請求項12が削除されることに伴い,補正前の請求項13?補正前の請求項19が,補正後の請求項12?補正後の請求項18と補正された(以下,これを「補正事項6」という)。

(2)補正事項1,及び,補正事項5に関して,当初明細書等には,補正事項1,及び,補正事項5と同一の記載は,存在しない。
そこで,当初明細書等から,補正事項1,及び,補正事項5に相当する記載内容が読み取れるかについて,以下に検討すると,
当初明細書等には,「認証アドレス」,「第1の認証アドレス」,及び,「第2の認証アドレス」に関して,

a.「【0014】
認証アドレス割当要素110は,ブロックチェーン上の認証アドレスを,個人に割り当てるように構成されてもよい。所与の認証アドレスは,公開鍵と秘密鍵とを含んでもよい。一例として,第1の認証アドレスが第1の個人に割り当てられてもよい。第1の認証アドレスは,第1の公開鍵と第1の秘密鍵とを含んでもよい。」(下線は当審にて付加したものである,以下,同じ。)

b.「【0017】
いくつかの形態では,認証アドレス割当要素110は,複数の認証アドレスが各個人に割り当てられるように構成されてもよい。例えば,第1の認証アドレスに加えて,第2の認証アドレスが第1の個人に割り当てられてもよい。1以上の形態では,第1の個人に対して,1以上の更なる認証アドレスが割り当てられてもよい。
【0018】
アドレス記録要素112は,個人に関連付けられた識別子及び生体特徴データを,対応する認証アドレスに記録するように構成されてもよい。例えば,第1の個人に関連付けられた第1の識別子及び第1の生体特徴データが,第1の認証アドレスに記録されてもよい。所与の認証アドレスに情報を記録することは,ハッシュ又はその他の暗号化された情報の表現を記録することを含んでもよい。いくつかの形態では,所与の一個人に割り当てられた複数の認証アドレスに,異なる生体特徴データが記録されてもよい。例えば,第1の個人に関連付けられた第1の識別子及び第1の生体特徴データが第1の認証アドレスに記録されることに加え,第1の個人に関連付けられた第1の識別子及び第2の生体特徴データが第2の認証アドレスに記録されてもよい。」

c.「【0044】
動作204において,ブロックチェーン上の認証アドレスが個人に割り当てられてもよい。所与の認証アドレスは,公開鍵と秘密鍵とを含んでもよい。第1の認証アドレスは,第1の個人に割り当てられてもよい。第1の認証アドレスは,第1の公開鍵と第1の秘密鍵とを含んでもよい。動作204は,1以上の形態に係る,(図1を参照に説明した)認証アドレス割当要素110と同一又は同様な機械可読命令要素を実行するように構成された1以上のハードウェアプロセッサにより実行されてもよい。」

d.「【0049】
動作304において,ブロックチェーン上の対応する認証アドレスから1以上の個人に関連付けられた生体特徴データを抽出してもよい。所与の認証アドレスは,公開鍵と秘密鍵とを含んでもよい。第1の個人に関連付けられた第1の生体特徴データは,第1の個人に割り当てられた第1の認証アドレスから抽出されてもよい。第1の認証アドレスは,第1の公開鍵と第1の秘密鍵とを含んでもよい。動作304は,1以上の形態に係る,(図1を参照に説明した)情報抽出要素118と同一又は同様な機械可読命令要素を実行するように構成された1以上のハードウェアプロセッサにより実行されてもよい。」

という記載が存在する。
補正事項1,及び,補正事項5は,
“認証アドレスが第1の秘密鍵と,第1の秘密鍵と数学的に関連する第1の公開鍵を含み”,
という構成(以下,これを「構成1」という)ではなく,
“認証アドレスが(第1の秘密鍵と数学的に関連する)第1の公開鍵を含み”
という構成,即ち,
“認証アドレスが,(第1の秘密鍵を含まず)第1の公開鍵を含み”
という構成(以下,これを「構成2」という)を表現するものであるが,
当初明細書等には,上記aに引用した,段落【0014】,及び,上記cに引用した,段落【0044】に,
「第1の認証アドレスは,第1の公開鍵と第1の秘密鍵とを含んでもよい」,
という記載が存在するのみであって,当初明細書等からは,構成2を読み取ることはできない。また,当初明細書等に記載の構成から見て,構成2が,自明の事項とも認められない。
したがって,本件手続補正は,当初明細書等に記載された事項の範囲内なされたものではない。

3.補正却下むすび
したがって,本件手続補正は,特許法17条の2第3項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。

よって,補正却下の決定の結論のとおり決定する。

第3.本願発明について
令和2年6月30日付けの手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1?本願の請求項19に係る発明(以下,これを「本願発明1」?「本願発明19」という)は,上記「第2.令和2年6月30日付けの手続補正の却下の決定」の「1.補正の内容」において,補正前の請求項1?補正前の請求項19として引用した,令和1年12月11日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?請求項19に記載された事項により特定されるものである。

第4.原審における拒絶理由
原審における令和1年5月29日付けの拒絶理由(以下,これを「原審拒絶理由」という)は,概略,以下のとおりである。

「 理由
1.(実施可能要件)この出願は,発明の詳細な説明の記載が下記の点で,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
2.(明確性)この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
3.(省略)


●理由1(実施可能要件)について
・請求項 1-20
(1)請求項1の「認証アドレスが導出された秘密鍵及び公開鍵」について,本願発明の詳細な説明の記載を参酌しても,「認証アドレス」とは,どのような情報であるのか(特に,具体的なデータ構造)が不明である。
つまり,本願明細書段落[0011]の記載「所与の認証アドレスは,ある種の情報が格納されるブロックチェーンの特定の場所を含んでもよい」からすると,「認証アドレス」とは,ブロックチェーンの特定の場所を示す情報(アドレス)であると解釈できるが,仮に,このように解釈した場合,本願明細書段落[0014]の「所与の認証アドレスは,公開鍵と秘密鍵とを含んでもよい。」において,技術常識を参酌しても,ブロックチェーンの特定の場所を示す情報である「認証アドレス」が,「公開鍵」と「秘密鍵」とを「含む」とはどのような状態を指すのか明確に把握することができない。
(特に,本願明細書段落[0015]に「秘密鍵は秘密で(例えば,所有者のみが知るものとする),公開鍵は広く公開されてもよい。」と記載されているように,一般的に,「秘密鍵」とは,所有者の端末等において秘密に管理される鍵であることを考慮すると,このような「秘密鍵」が,ブロックチェーン上の特定の場所にアクセスする際に秘密鍵の所有者以外にも利用され得る「認証アドレス」に「含まれている」とは,どのような状態を指すのか明確に把握することができない。)
また,請求項11及び20についても請求項1と同様であり,さらに,請求項
1,11を引用する請求項2-10,12-19についても同様である。
(2)上記(1)とも関連するが,請求項3,13の「前記ブロックチェーンに関連付けられた前記認証アドレスに関連付けて,前記秘密鍵を前記1以上のコンピュータ可読記憶媒体に記憶する」について,本願明細書段落[0014]の「所与の認証アドレスは,公開鍵と秘密鍵とを含んでもよい。」,及び,段落[0029]の「身元認証要素120は,一致する生体特徴データ及び秘密鍵の受信に際して又は応じて,1以上の個人の身元を認証するように構成されてもよい。例えば,第1の個人の個人身元は,(1)第1の生体特徴データに一致する生体特徴データ及び(2)第1の秘密鍵に一致する秘密鍵の受信に際して,認証されてもよい。第1の個人の個人身元の認証は,格納された情報を新たに受信した情報と比較することを含んでもよい。」の記載を参酌しても,サーバ側コンピュータシステムが,個人の身元を認証する際に用いる「格納された」「秘密鍵」と,「認証アドレス」に含まれる「秘密鍵」との関係(特に,異同)が不明である。
つまり,本願明細書段落[0014]の記載「所与の認証アドレスは,公開鍵と秘密鍵とを含んでもよい。」からすると,「秘密鍵」は,「認証アドレス」に含まれる形で,ブロックチェーン上で管理されていると解釈できるが,一方,段落[0051」の記載「例示的形態は,個人データをブロックチェーンに格納しやすくし得る。個人データは,暗号化されてブロックチェーンに格納されてもよい。秘密鍵,指紋,指紋ハッシュ,網膜,網膜のハッシュ,及び/又はその他の固有の情報のうちの1以上により,ブロックチェーンレベルで個人が特定されてもよい。」からすると,「秘密鍵」は,指紋ハッシュ等の個人データと同様に,「認証アドレス」で示される「ブロックチェーンの特定の場所」で管理されるとも解釈できるから,結局,本願明細書等の記載を参酌しても,両「秘密鍵」の関係(つまり,両「秘密鍵」がそれぞれ管理される場所)が不明である。
また,請求項3を引用する請求項4についても同様である。
(3)請求項1の「前記リクエストの前記識別子と,前記リクエストの前記生体特徴データとが,前記記憶された識別子と前記記憶された生体特徴ハッシュとに一致するという判定に応じて,前記個人の身元の認証に署名する」において,当該「認証」とは何を指すのか(特に,本願請求項1の「ブロックチェーン式多要
素個人身元認証を実現するシステムであって,」の「個人身元認証」との関係,異同等)が不明である。
また,これに関し,技術常識を参酌すると,「認証」とは,アクセス要求元の正当性等を確認するといった「処理」を指すと解され,一方,「署名」とは,データの正当性等を示す為に,当該データに鍵情報等を用いて署名情報を付加することを指すと解されるから,上記下線部の「認証に署名」するとは,具体的にどのような処理を指すのか明確に把握することができない。
さらに,仮に,上記下線部の「認証に署名」することが,データに対して鍵情報等を用いて署名情報を付加することであるとすると,当該「署名」に用いられる鍵と,請求項1の他の鍵である「秘密鍵」及び「公開鍵」との関係も不明確である。
また,請求項2,3,5,11-14,20についても請求項1と同様であり,さらに,請求項1-3,5,11-14を引用する請求項4,6-10,15-19についても同様である。」

第5.原審における拒絶査定
原審における令和2年2月25日付けの拒絶査定(以下,これを「原審拒絶査定」という)の理由は,概略,以下のとおりである。

「備考
●理由1(特許法第36条第4項第1号),理由2(特許法第36条第6項第2号)について
(1)請求項 1-19
出願人は令和1年12月11日付け手続補正書による補正で,補正前の請求項1に係る発明の「認証済み個人身元を有する個人に対して,前記ブロックチェーンに関連付けられた認証アドレスを割り当てることと」という構成を,「認証済み個人身元を有する個人に対して,前記ブロックチェーン上に認証アドレスを割り当てることであって,前記認証アドレスが第1の公開鍵と第1の秘密鍵とを含み」(下線は当方にて付与)という構成に変更する補正を行った。
しかし,補正後の請求項1の当該記載は,令和1年5月29日付け拒絶理由通知書で指摘したように,「秘密鍵」は所有者の端末等において秘密に管理される鍵であることを考慮すると,このような「秘密鍵」が,ブロックチェーン上の特定の場所にアクセスする際に秘密鍵の所有者以外にも利用され得る「認証アドレス」に「含み」が,どのような状態を指すのか明確に把握することができない。
よって,補正後の請求項1-19に係る発明は,令和1年5月29日付け拒絶理由通知書における理由1(1),理由2(1)と同様の理由で明確でない。
・・・・(中略)・・・・
(3)請求項 1-19
令和1年5月29日付け拒絶理由通知書における理由1(3)(特に,第2段落),理由2(3)(特に,第1段落)と同様の理由である。(以下略)」

第6.原審拒絶査定の理由に対する当審の判断
1.36条4項1号について
(1)令和1年12月11日付けの手続補正により補正された請求項1(以下,これを「本願のの請求項1」という)に記載の,
「認証アドレスが第1の公開鍵と第1の秘密鍵とを含み」,
に関して,上記引用の補正後の請求項1に記載の内容に従えば,「認証アドレス」は,少なくとも「第1の公開鍵と第1の秘密鍵とを含」むものであると解される。
一方,本願の発明の詳細な説明には,その段落【0011】に,
「所与の認証アドレスは,ある種の情報が格納されるブロックチェーンの特定の場所を含んでもよい。いくつかの形態では,個人認証アドレスを「AtenVerifyアドレス」とも称する。」
と記載されていて,上記引用の段落【0011】に記載の内容に従えば,本願明細書の発明の詳細な説明における「認証アドレス」とは,
「ある種の情報が格納されるブロックチェーンの特定の場所を含」むものであることが読み取れ,上記指摘の事項から,本願における「認証アドレス」とは,「ブロックチェーンの特定の場所」を表す情報であるという態様を含むものであると解される。
一方,本願明細書の発明の詳細な説明には,段落【0002】?段落【0005】に,請求項に記載の「認証アドレス」について記載される他,段落【0007】以降に,当該「認証アドレス」について,上記引用の段落【0011】の記載に加え,

e.「機械可読命令106は,ブロックチェーン上に認証アドレスを構築するために実行可能であってもよい。一般的に,ブロックチェーンとは,システム100に参加するノードの一部又は全部が共有するトランザクションデータベースである。」(段落【0009】)

f.「いくつかの形態では,認証アドレス割当要素110は,秘密鍵が1以上のコンピューティングプラットフォーム104内に格納されるように構成されてもよい。」(段落【0016】)

g.「インタフェースは,所与の個人に対して少なくとも1つの認証アドレスが割り当てられている限り,所与の個人が当該所与の個人に対して割り当てられる認証アドレスを追加又は削除可能とするように構成されてもよい。」(段落【0022】)

h.「【0026】
情報抽出要素118は,1以上の個人に関連付けられた生体特徴データを,対応する認証アドレスから抽出するように構成されてもよい。例えば,第1の個人に関連付けられた第1の生体特徴データが,第1の認証アドレスから抽出されてもよい。認証アドレスからの情報(例えば,生体特徴データ)の抽出は,情報の暗号化を含んでもよい。」

i.「図2は,1以上の形態に係る,ブロックチェーン式多要素個人身元認証を実現するためにブロックチェーン上に認証アドレスを構築するための方法200を示す。」(段落【0041】)

j.「【0045】
動作206において,個人に関連付けられた識別子及び生体特徴データが,対応する認証アドレスに記録されてもよい。第1の個人に関連付けられた第1の識別子及び第1の生体特徴データが,第1の認証アドレスに記録されてもよい。1以上の個人の身元は,一致する生体特徴データ及び秘密鍵の受信に際して又は応じて,認証可能であってもよい。第1の個人の個人身元は,(1)第1の生体特徴データに一致する生体特徴データ及び(2)第1の秘密鍵に一致する秘密鍵の受信に際して又は応じて,認証可能であってもよい。動作206は,1以上の形態に係る,(図1を参照に説明した)アドレス記録要素112と同一又は同様な機械可読命令要素を実行するように構成された1以上のハードウェアプロセッサにより実行されてもよい。」

という記載が存在している。
上記eの「ブロックチェーン上に認証アドレスを構築する」という記載から,本願明細書の発明の詳細な説明において,「認証アドレス」とは,「ブロックチェーン上に」「構築」されるものであるとの態様が読み取れ,
上記aの「ブロックチェーン上の認証アドレスを,個人に割り当てるように構成されてもよい」という記載から,本願明細書の発明の詳細な説明において,「ブロックチェーン上の認証アドレス」は,「個人に割り当てる」ものであることが読み取れる。
そして,同じく,上記aの「認証アドレスは,公開鍵と秘密鍵とを含んでもよい」という記載,上記bの段落【0018】の「個人に関連付けられた識別子及び生体特徴データを,対応する認証アドレスに記録するように構成されてもよい」という記載,同じく,上記bの段落【0018】の「認証アドレスに情報を記録することは,ハッシュ又はその他の暗号化された情報の表現を記録することを含んでもよい」という記載,上記cの「認証アドレスは,公開鍵と秘密鍵とを含んでもよい」という記載,上記jの「個人に関連付けられた識別子及び生体特徴データが,対応する認証アドレスに記録されてもよい」という記載と,上記に引用した,段落【0011】の記載内容から,本願明細書の発明の詳細な説明における「認証アドレス」とは,
“ブロックチェーン上に構築され,個人に割り当てられ,ある種の情報が格納されるブロックチェーンの特定の場所に,公開鍵と秘密鍵とを含み前記個人に関連付けられた識別子及び生体特徴データが記録されるもの”
であると解される。
しかしながら,上記に引用した,段落【0011】に「個人認証アドレスを「AtenVerifyアドレス」とも称する」とあるように,本願明細書の発明の詳細な説明においては,「認証アドレス」を,「ある種の情報が格納されるブロックチェーンの特定の場所」という意味で用いているとも解され,本願明細書の発明の詳細な説明に記載された内容からでは,「認証アドレス」がどのようなものか明確にならない。
加えて,
上記gの「認証アドレス」が,「ブロックチェーン上に構築」される点について,どのような構成の「認証アドレス」が,どのようにして「ブロックチェーン上に構築」されるのか,
上記aの「認証アドレスは,公開鍵と秘密鍵とを含んでもよい」という点について,どのような構成の「認証アドレス」に,どのように「公開鍵と秘密鍵」とが含まれるのか,
上記bの「個人に関連付けられた識別子及び生体特徴データを,対応する認証アドレスに記録するように構成されてもよい」という点について,「対応する認証アドレス」に,どのようにして「個人に関連付けられた識別子及び生体特徴データを」「記録」しているか,
について,本願明細書の発明の詳細な説明中には,何ら説明されていない。
更に,段落【0015】に,
k.「当該一対の鍵は,署名用の秘密鍵と,認証用の公開鍵を含んでもよい。秘密鍵は秘密で(例えば,所有者のみが知るものとする),公開鍵は広く公開されてもよい。鍵同士は数学的に関連付けられてもよいが,公開鍵から秘密鍵を計算することは不可能である。」
と記載されてもいるように,「秘密鍵」は,「所有者」以外には秘匿されるものであり,「公開鍵」は,広く公開されるものであるが,秘匿されるべき「秘密鍵」と,公開されるべき「公開鍵」とを,同じ「認証アドレス」に,どのように含ませることで,「秘密鍵」の秘匿性を担保しているかについても,本願明細書の発明の詳細な説明には,何ら記載されていない。

(2)以上,上記(1)に検討したとおりであるから,本願の請求項1に記載の,
「認証アドレスが第1の公開鍵と第1の秘密鍵を含み」,
に関して,本願明細書の発明の詳細な説明に記載された内容,及び,図面に開示の事項を検討しても,「認証アドレス」が,どのようなもので,「認証アドレス」に,「第1の秘密鍵」を含ませることを,どのようにして実現しているか,不明である。

(3)本願の請求項1に記載の,
「前記個人の身元の認証に署名することを実行させる」,
に関して,本願明細書の発明の詳細な説明には,

l.「【0030】
いくつかの形態によると,身元認証要素120は,第1の個人の個人身元が,(1)第1の生体特徴データ又は第2の生体特徴データに一致する生体特徴データ及び(2)第1の秘密鍵に一致する秘密鍵の受信に際して,認証されるように構成されてもよい。このような形態では,身元認証用の,より大きな識別情報群のサブセットが求められる,いわゆる「M-of-N」署名が実現され得る。
【0031】
いくつかの形態では,身元認証要素120は,第1の生体特徴データに一致する生体特徴データと,第1の秘密鍵に一致する秘密鍵が,第1の個人の個人身元の認証に署名するために使用され得るように構成されてもよい。」

m.「【0033】
いくつかの形態では,少なくとも1つの専用ノードが,第1の個人の個人身元の認証の署名を実行する。所与の専用ノードは,1以上のサーバ102を有してもよい。所与の専用ノードは,新たなブロックを生成する,及び/又は認証署名用に構成されたパブリックノード又はプライベートノードであってもよい。」

という記載が存在するのみであり,上記lの「(1)第1の生体特徴データ又は第2の生体特徴データに一致する生体特徴データ及び(2)第1の秘密鍵に一致する秘密鍵の受信に際して,認証される」との記載から,「認証」とは,「認証する」という行為を指すものと解される,そして,上記l及び上記mに記載された内容を検討しても,「個人の個人身元」を「認証」するという行為について「署名」するという処理が,どのように行われるものであるか,不明である。

よって,本願明細書の発明の詳細な説明は,経済産業省令で定めるところにより,その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記述したものでない。

2.36条6項2号について
(1)本願の請求項1に記載された,
「前記認証アドレスが第1の公開鍵と第1の秘密鍵を含み」(以下,これを「引用記載1」という),
に関して,本願の請求項1には上記引用の記載を含め,その前後に,
「認証済み個人身元を有する個人に対して,前記ブロックチェーン上に認証アドレスを割り当てることであって,前記認証アドレスが第1の公開鍵と第1の秘密鍵を含み,
前記ブロックチェーン上に,前記認証アドレスに関連付けて,前記個人の識別子と,前記個人の生体特徴ハッシュとを記憶する」(以下,これを「引用記載2」という),
と記載されている。
加えて,同じく,本願の請求項1には,
「前記ブロックチェーン上の前記認証アドレスを示すリクエスト」(以下,これを「引用記載3」という),
「リクエストに示された前記認証アドレスを使用して,前記記憶された識別子と前記記憶された生体特徴ハッシュとを取得する」(以下,これを「引用記載4」),
と記載されていて,引用記載2?引用記載4,および,情報処理の技術分野における「アドレス」の通常の意味を参酌すると,本願の請求項1に記載の「認証アドレス」とは,
“ブロックチェーン上に記憶された,個人の識別子と,個人の生体特徴ハッシュの記憶場所を示す情報”
であると解される。
しかしながら,引用記載1からは,「認証アドレス」という情報が,「第1の公開鍵」と,「第1の秘密鍵」を含むものであると読め,このような「認証アドレス」は,通常の「アドレス」とは著しく異なるものであって,「認証アドレス」が,位置を示す情報と,「第1の公開鍵」と,「第1の秘密鍵」とから,どのように構成されているか,本願の請求項1,及び,本願の他の請求項に記載された内容からは不明である。
加えて,当該本願明細書の発明の詳細な説明に記載の内容における,前記「認証アドレス」は,上記「1.36条4項1号について」の(1)において検討したとおりであるから,前記「認証アドレス」について,本願明細書の発明の詳細な説明に記載の内容を参照しても,不明であることは解消しない。

(2)本願の請求項1に記載の,
「前記個人の身元の認証に署名する」(以下,これを「引用記載5」という),
に関して,「認証に署名する」とは,どのような処理を表現したものであるか,本願の請求項1,及び,本願の他の請求項に記載された内容を検討しても,不明である。
この点について,本願明細書の発明の詳細な説明に記載の内容を参照したとしても,上記「1.36条4項1号について」の(3)において検討したとおりであるから,不明であることは解消しない。

(3)以上,上記(1),及び,上記(2)において検討したとおりであるから,本願発明1は,不明である。

第7.むすび
以上のとおり,本願は,発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に規定する要件を満たしておらず,特許請求の範囲の記載が同条6項2号に規定する要件を満たしていないから,拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2021-04-28 
結審通知日 2021-05-11 
審決日 2021-05-28 
出願番号 特願2018-143775(P2018-143775)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (G06F)
P 1 8・ 561- Z (G06F)
P 1 8・ 536- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 赤穂 州一郎吉田 歩  
特許庁審判長 田中 秀人
特許庁審判官 石井 茂和
塚田 肇
発明の名称 ブロックチェーン式多要素個人身元認証を実現するシステム及び方法  
代理人 井上 一  
代理人 黒田 泰  
代理人 竹腰 昇  

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