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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C23C
管理番号 1379170
審判番号 不服2020-14258  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-10-09 
確定日 2021-10-13 
事件の表示 特願2017-104015「イオン注入システム中のイオン源の寿命および性能を向上させる方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年11月16日出願公開,特開2017-203216〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成23年2月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2010年2月26日,米国,2010年10月7日,米国)を国際出願日とする特願2012-555205号(以下「原出願」という。)の一部を平成27年2月17日に新たな特許出願(特願2015-28183号)とし,さらに,その一部を平成29年5月25日に新たな特許出願としたものであり,その後の手続の概要は,以下のとおりである。
平成29年 6月20日 :手続補正書の提出
平成30年 8月28日付け:拒絶理由通知書
平成31年 2月 4日 :意見書,手続補正書の提出
令和 元年 7月26日付け:拒絶理由通知書
令和 元年11月 6日 :意見書の提出
令和 2年 6月 1日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 2年10月 9日 :審判請求書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1-6に係る発明(以下,それぞれ順に「本願発明1」-「本願発明6」という。)は,平成31年2月4日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1-6に記載された,次のとおりのものである。
「【請求項1】
(i) 同位体濃縮された三フッ化ホウ素を含むドーパントガスと,
(ii) 水素を含む希釈ガスと,
を含む,ドーパント組成物。
【請求項2】
希釈ガスが水素及びキセノンを含む,請求項1に記載のドーパント組成物。
【請求項3】
共通種ガスをさらに含む,請求項1に記載のドーパント組成物。
【請求項4】
ドーパント組成物がジボランを含む共通種ガスをさらに含む,請求項1に記載のドーパント組成物。
【請求項5】
内部容積と,請求項1から4のいずれか一項に記載のドーパント組成物を含むドーパント供給材料と,を含む,ドーパント供給材料容器。
【請求項6】
(a) イオン源チャンバーと,
(b) 請求項1から4のいずれか一項に記載のドーパント組成物を貯蔵するガス供給材料容器と,
を含み,ドーパント組成物がガス供給材料容器からイオン源チャンバーへ流れる,イオン注入システム。」

第3 原査定の拒絶の理由
拒絶査定の理由である,令和元年7月26日付け拒絶理由通知の理由は,概略,次のとおりのものである。
理由1(進歩性)この出願の請求項1-6に係る発明は,その原出願の優先日前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1-5に記載された発明に基いて,その原出願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
1.特開平03-165443号公報
2.国際公開第2008/091729号
3.特表2009-506580号公報
4.国際公開第2009/102762号
5.国際公開第2008/073845号

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1
(1)引用文献1の記載
原査定の拒絶理由で引用された,本願の原出願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である,特開平3-165443号公報(原査定で引用された引用文献2。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。(下線は当審で付加した。以下同じ。)
「(産業上の利用分野)
本発明は半導体素の製造等に用いられるイオン注入法に関する。
(従来の技術)
半導体基板に不純物を導入するのに,不純物をイオン化し,加速器で加速し,基板に打込むイオン注入法が用いられる。
従来イオン注入法で,基板表面からのイオン注入深さを変えるにはイオンの加速エネルギーを変える方法が用いられていたが,イオン加速に線形加速器を用いたイオン注入装置では,イオン種によらず,イオンは同じ速度に加速されるので同一元素のイオンでは加速エネルギーを変えることができず,同一元素のイオンを用いて,注入深さを変えることができなかった。
(発明が解決しようとする課題)
イオン加速に線形加速器を用いたイオン注入装置は他の型のイオン加速器を用いたものに比し,装置が小型でイオン電流を大きくすることが容易であり,高電圧を必要としないので取扱い上有利であり,半導体素子の製造に適している。しかし上述したように線形加速器では同一元素イオンを用いて注入深さを変えることができないと云う問題があるので,本発明は線形加速器を用い,同じ元素のイオンでイオン注入深さを変え得るイオン注入方法を提供しようとするもので,これにより,線形加速器を用いたイオン注入装置ででも同種イオンを用いてイオン注入深さを変えることが可能となる。
(課題を解決するための手段)
注入イオンとして天然同位体比と異なる組成にした元素を用い,イオンを質量分析して一つの同位体を選択し,線形加速器で加速して基板に照射するようにした。
(作用)
線形加速器でイオンを加速するためには,イオンが加速器に印加される高周波と同期して,電極間を通過して行くように印加電圧を設定するので,イオン質量に関せず,イオンは同じ速度に加速される。同じ元素の異る質量の同位体の場合,ターゲットに打込まれたイオンがターゲット構成原子から受ける作用は打込まれたイオンの原子番号つまり元素の種類によって決まり,同じ元素の同位体ではターゲットから同じ抵抗を受けるから,速度が同じなら,質量の大きな同位体の方が大なるエネルギーを有しているので,そのエネルギーを消費するまでには,軽い同位体より,深くまで進入することになる。
従って,同じ元素の同位体を選択して線形加速器で加速してターゲットに入射させることにより,同一注入元素で,注入深さを変えることができる。
(実施例)
第1図に本発明方法を実施する装置の一例を示す。1はイオン源,2は質量分析器,3は線形加速器,4は打込み部である。イオン源1は導入されたガスを解離し,イオン化して,これを一定エネルギーまで予備加速してイオンビームを形成する。イオン源1より出射したイオンは質量分析器で質量分析されて指定質量の同位体イオンが選択通過され,線形加速器3で一定速度まで加速され,イオン打込み部内に置かれた基板に入射せしめられる。イオン源1には複数のガス源7,8が夫々バルブ5,6を介して接続してある。Si等の基板にBを打込む場合,BはBF_(3)のガスとしてガス源7,8に蓄えられイオン源1に導入されて,BF_(3)が解離されてB^(+)イオンが生成される。Bの場合,天然のBでは質量数10の^(10)Bと質量数11の^(11)Bが存在している。従って質量分析器2で質量数10か11かの何れかを選ぶことで基板へのイオン注入深さを変えることができる。天然のBをそのまま用いていると^(10)Bの存在比が小さいので,^(10)Bのイオン注入の電流量が少くなる。複数のガス源7,8にはBの同位体比を変えたBF_(3)を封入しておき,バルブ5,6を切換えることにより同位体比の異るガスに切換え,^(10)Bおよび^(11)B夫々の注入電流量を上げることができる。」(第1頁左下欄第11行-第2頁左下欄第7行)

(2)引用文献1に記載された技術的事項
上記記載から見て,当該引用文献1には,以下の技術的事項が記載されていると認められる。
ア 引用文献1に記載された「本発明」は,半導体素子の製造等に用いられるイオン注入法に関するものであること。

イ 引用文献1に記載された「本発明」は,従来,イオン加速に線形加速器を用いたイオン注入装置では,イオン種によらず,イオンは同じ速度に加速されるので同一元素のイオンでは加速エネルギーを変えることができず,同一元素のイオンを用いて,注入深さを変えることができなかったことを課題とするものである。

ウ 引用文献1に記載された「本発明」は,線形加速器を用い,同じ元素のイオンでイオン注入深さを変え得るイオン注入方法を提供することを目的とするものであること。

エ 引用文献1に記載された「本発明方法を実施する装置」は,イオン源1,質量分析器2,線形加速器3,打込み部4を有し,イオン源1は導入されたガスを解離し,イオン化して,これを一定エネルギーまで予備加速してイオンビームを形成し,イオン源1より出射したイオンは質量分析器2で質量分析されて指定質量の同位体イオンが選択通過され,線形加速器3で一定速度まで加速され,イオン打込み部4内に置かれた基板に入射せしめられるものであること。

オ 引用文献1に記載された「本発明」において,イオン源1には複数のガス源7,8が夫々バルブ5,6を介して接続してあり,Si等の基板にBを打込む場合,BはBF_(3)のガスとしてガス源7,8に蓄えられイオン源1に導入されて,BF_(3)が解離されてB^(+)イオンが生成されること。

カ Bの場合,天然のBでは質量数10の^(10)Bと質量数11の^(11)Bが存在しており,質量分析器2で質量数10か11かの何れかを選ぶことで基板へのイオン注入深さを変えることができること。

キ 天然のBをそのまま用いていると^(10)Bの存在比が小さいので,^(10)Bのイオン注入の電流量が少くなること。

ク 複数のガス源7,8にはBの同位体比を変えたBF_(3)を封入しておき,バルブ5,6を切換えることにより同位体比の異るガスに切換え,^(10)Bおよび^(11)B夫々の注入電流量を上げることができること。

(3)引用発明
上記(1)及び(2)から,引用文献1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「ガス源7,8に蓄えられイオン源1に導入されるガスであって,ガス源7,8にはBの同位体比を変えたBF_(3)のガスが封入され,バルブ5,6を切換えることにより同位体比の異なるガスに切換えられ,Si等の基板へのBのイオン注入に用いられる,ガス。」

2 引用文献2
(1)引用文献2の記載
原査定の拒絶理由で引用された,本願の原出願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である,国際公開第2008/91729号(原査定で引用された引用文献3。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。
「FIELD OF THE DISCLOSURE
The present disclosure relates generally to semiconductor manufacturing equipment and, more particularly, to a technique for improving the performance and extending the lifetime of an ion source with gas dilution.」(第1頁第5行-第9行)(日本語訳は引用文献2の日本語ファミリー文献である特表2010-517304号公報をもとに当合議体で作成した。以下同じ。:【技術分野】
本発明は一般に,半導体製造装置に関するものであり,特に,ガス希釈によりイオン源の性能を向上させ寿命を延長する技術に関するものである。)

「The ion source 102 is a critical component of the ion implanter system 100. The ion source 102 is required to generate a stable, well-defined ion beam 10 for a variety of different ion species and extraction voltages. It is therefore desirable to operate the ion source 102 for extended periods of time without the need for maintenance or repair. Hence, the lifetime of the ion source 102 or mean time between failures (MTBF) is one performance criteria of the ion source 102.」(第3頁第2行-第10行)(イオン源102は,イオン注入システム100の重要な構成要素である。イオン源102は,種々の異なるイオン種及び抽出電圧に対して,安定かつ明確なイオンビーム10を発生させることを要求される。従って,保守または修理を必要とせずに期間を延長してイオン源102を動作させることが望まれる。従って,イオン源102の寿命または平均故障間隔(MTBF)が,イオン源102の1つの性能基準である。)

「A dopant gas source 260 may inject a predetermined amount of dopant gas into the arc chamber 206 via a gas flow controller 266. The dopant gas source 260 may provide a particular dopant gas containing a desired dopant element. For example, the dopant element may include boron (B) , germanium (Ge), phosphorus (P), or silicon (Si) and may be provided as a fluorine-containing gas, such as boron trifluoride (BF_(3)) , germanium tetrafluoride (GeF_(4)) , phosphorous trifluoride (PF_(3)) , or silicon tetrafluoride (SiF_(4)) . Other various dopant gases and/or dopant elements may also be utilized, such as inert gases, including argon (Ar) , xenon(Xe), etc. A common cause of ion source failure is that some materials accumulate on cathode surfaces during extended ion implantation processes. The accumulated materials tend to reduce a thermionic emission rate of source ions from cathode surfaces. Consequently, desired arc currents cannot be obtained and the ion source 102 may have to be replaced in order to maintain normal ion source operation. As a result, performance degradation and short lifetime of the ion source 102 greatly reduces the productivity of the ion implanter system 100.
The above-described problems are especially significant for, but are not limited to, germanium ion implantation. Germanium ion implantation has been widely used in the semiconductor industry to pre-amorphize silicon wafers in order to prevent channeling effects. The demand for pre- amorphizing germanium ion implantation is expected to increase greatly in future semiconductor device manufacturing. One of the most popular source gases for germanium ion beams is germanium tetrafluoride (GeF_(4)) due to its stable chemical properties and cost-effectiveness. However, very short lifetimes of ion sources have been observed while operating with GeF_(4) dopant gas.
The short lifetime of an ion source used in germanium ion implantation may be attributed to the presence of excessive, free fluorine atoms in the arc chamber 206 as a result of chemical dissociation of GeF_(4) molecules. Specifically, arc chamber housing 202 material may be etched away due to chemical reactions with these free fluorine atoms. The arc chamber housing 202 material may eventually be deposited on a surface of the cathode 208, resulting in the degradation of electron emissions from the surface of the cathode 208.
It should be appreciated that while problems with germanium ion implantation are discussed above, other fluorine-containing dopant gases, such as boron trifluoride (BF_(3)) , phosphorous trifluoride (PF_(3)) , and silicon tetrafluoride(SiF_(4)) , may exhibit similar problems that adversely affect performance and lifetime of the ion source 102 as a result of such materials deposited on the cathode 208. Although an inert gas, such as argon, xenon, etc., may be used as a dopant gas, using inert gases, even though they do not contain fluorine, inevitably result in reduced beam currents. As a result, ion source performance and lifetime is still greatly reduced.
Another common cause of ion source failure is caused by stripping (or sputtering) of cathode material. For example, metallic material (e.g., tungsten (W), molybdenum (Mo), etc.) from the cathode 208 is inclined to react with ions from plasma 20 in the arc chamber 206 accelerating towards the cathode 208. Because sputtering is dominated by the heaviest ion in the plasma 20, as ion mass increases, the sputtering effect may worsen. In fact, continued sputtering of material "thins" the cathode 208 and may eventually lead to an aperture or opening within the cathode 208. Consequently, performance and lifetime of the ion source 102 are greatly reduced when utilizing a dopant gas containing a heavy element, such as germanium (Ge), arsenic (As), xenon (Xe), etc., as opposed to lighter elements, such as boron (B) or carbon (C) . These adverse effects are particularly noticeable when using hydrides (e.g., AsH_(3), PH_(3), CH_(4), etc.), inert gases (Ar, Xe, etc.), or a mixture thereof, as the source of desired implantation species .
In view of the foregoing, it would be desirable to provide a technique for improving the performance and extending the lifetime of an ion source to overcome the above- described inadequacies and shortcomings.
SUMMARY OF THE DISCLOSURE
A technique for improving the performance and extending the lifetime of an ion source with gas dilution is disclosed. In one particular exemplary embodiment, the technique may be realized as a method for improving performance and lifetime of an ion source in an ion implanter with gas dilution. The method may comprise releasing a predetermined amount of dopant gas into an ion source chamber, and releasing a predetermined amount of dilutant gas into the ion source chamber. The dilutant gas may comprise a mixture of a xenon-containing gas and a hydrogen-containing gas for diluting the dopant gas to improve the performance and extend the lifetime of the ion source .」(第5頁第13行-第8頁第24行)(ドーパントガス源260は,ガス流量制御装置266を介して所定量のドーパントガスをアークチャンバ206内に注入することができる。ドーパントガス供給源260は,所望のドーパント元素を含む特定のドーパントガスを提供することができる。例えば,これらのドーパント要素は,ホウ素(B),ゲルマニウム(Ge),リン(P),またはシリコン(Si)を含むことができ,そして,三フッ化ホウ素(BF_(3)),四フッ化ゲルマニウム(GeF_(4)),三フッ化リン(PF_(3)),または四フッ化ケイ素(SiF_(4))のようなフッ素含有ガスとして供給することができる。アルゴン(Ar),キセノン(Xe)等を含む不活性ガスのような他の種々のドーパントガス及び/またはドーパント元素も利用することができる。
イオン源の故障の一般的原因は,延長したイオン注入処理中に,一部の材料が陰極表面上に堆積することである。これらの堆積した材料は,陰極表面からのソースイオンの熱電子放射率を低下させがちである。その結果,所望のアーク電流を得ることができず,通常のイオン源の動作を維持するためにイオン源102を交換しなければならないことがある。その結果,イオン源102の性能劣化及び短い寿命が,イオン注入システム100の生産性を大幅に低減する。
上述した問題は,これに限らないが特にゲルマニウムイオン注入にとって重大である。ゲルマニウムイオン注入は,シリコンウエハをプレアモルファス化してチャネリング効果を防止するために,半導体産業において広く用いられている。プレアモルファス化するためのゲルマニウムイオン注入の需要は,将来の半導体デバイス製造において大幅に増加するものと見込まれている。ゲルマニウムイオンビーム用の最も一般的なソースガスの1つは四フッ化ゲルマニウム(GeF_(4))であり,その安定な化学特性及びコストパフォーマンス(費用対効果)による。しかし,GeF_(4)ドーパントガスで動作させる間に,非常に短いイオン源の寿命が観測された。
ゲルマニウムイオン注入において使用されるイオン源の短い寿命は,GeF_(4)分子の化学的解離の結果として過剰な自由フッ素原子がアークチャンバ206内に存在することに起因し得る。具体的には,アークチャンバ筐体202の材料が,これらの自由フッ素原子との化学反応によりエッチング除去され得る。アークチャンバ筺体202の材料は最終的に陰極208の表面に堆積して,陰極208の表面からの電子放射の劣化を生じさせ得る。
なお,ゲルマニウムイオン注入の問題を以上で説明してきたが,三フッ化ホウ素(BF_(3)),三フッ化リン(PF_(3)),及び四フッ化ケイ素(SiF_(4))のような他のフッ素含有ドーパントガスも,こうした材料が陰極208上に堆積した結果として,イオン源の性能及び寿命に悪影響する同様の問題を有する。アルゴン,キセノン等のような不活性ガスはドーパントガスとして使用することができるが,不活性ガスを使用することは,たとえそれがフッ素を含まなくても,低減されたビーム電流を不可避的に生じさせる。その結果,イオン源の性能及び寿命はさらに大きく低下する。
イオン源の故障の他の一般的原因は,陰極材の剥離(またはスパッタリング)によって生じる。例えば,陰極208からの金属材料(例えばタングステン(W),モリブテン(Mo)等)は,陰極208に向けて加速するアークチャンバ206内のプラズマ20からのイオンと反応する傾向がある。スパッタリングはプラズマ20内の最も重いイオンに支配されるので,イオン質量が増加すると共にスパッタリング効果が悪化し得る。実際に,材料の連続的なスパッタリングは陰極208を「薄く」して,最終的に陰極208内に開口または孔を生じさせ得る。従って,イオン源102の性能及び寿命は,ゲルマニウム(Ge),ヒ素(As),キセノン(Xe)等のような重元素を含むドーパントガスを利用する際に大幅に低下し,ホウ素(B)や炭素(C)のような軽元素とは対照的である。これらの悪影響は,水素化物(例えばAsH_(3),PH_(3),CH_(4)等),不活性ガス(Ar,Xe等),あるいはその混合物を所望の注入種として使用する際に特に顕著である。
以上の観点から,イオン源の性能を向上させイオン源の寿命を延長して上述した欠点及び短所を克服する技術を提供することが望まれる。
【発明の概要】
ガス希釈によりイオン源の性能を向上させ寿命を延長する技術を開示する。1つの特定の好適例では,この技術は,ガス希釈によりイオン注入装置内のイオン源の性能及び寿命を向上させる方法として実現することができる。この方法は,所定量のドーパントガスをイオン源チャンバ内に放出するステップと,所定量の希釈ガスをイオン源チャンバ内に放出するステップとを具えることができる。この希釈ガスは,ドーパントガスを希釈するためのキセノン含有ガスと水素含有ガスの混合物で構成されて,イオン源の性能を向上させイオン源の寿命を延長することができる。)

「Referring to Fig. 3A, an ion source 202a may comprise one or more dilutant gas sources to release one or more dilutant gases into the arc chamber 206 to dilute a dopant gas from the dopant gas source 260. For example, a xenon gas source 262 and an associated gas flow controller 268 may provide a predetermined amount of xenon to the arc chamber 206 via a conduit 280 to dilute a dopant gas from the dopant gas source 260, while a hydrogen gas source 264 and an associated gas flow controller 270 may provide a predetermined amount of hydrogen to the arc chamber 206 via the same conduit 280 together with xenon to dilute a dopant gas from the dopant gas source 260. The dopant gas may include a fluorine-containing gas, such as boron trifluoride (BF_(3)) , germanium tetrafluoride (GeF_(4)), silicon tetrafluoride (SiF_(4)), etc. The dopant gas may also include a halogen-containing gas, such as argon (Ar), xenon (Xe), etc. Other combinations and various dopants gases may also be considered. For example, the dilutant gas may comprise at least one of argon (Ar) or argon-containing gas, xenon (Xe) or a xenon-containing gas, hydrogen (H_(2)) or a hydrogen-containing gas, fluorine (F) or a fluorine-containing gas, or a combination thereof. Other combinations and various dilutant gases may also be utilized.
In one embodiment, as depicted in Fig. 3A, the dopant gas and the one or more dilutant gases may be provided via the same conduit 280 into the arc chamber 206. Thus, the one or more dilutant gases may be pre-mixed in the conduit 280 before entering the arc chamber 206. In another embodiment, as depicted in Fig. 3B, the dopant gas and the one or more dilutant gases in ion source 202b may be provided via different conduits 280a, 280b, 280c into the arc chamber 206. In such a case, the one or more dilutant gases are mixed in the arc chamber 206.
Referring back to Fig. 3A, when the filament 214 is heated by an associated power supply to thermionic emission temperatures, electrons from the filament 214 bombard the cathode 208 to thereby also heat the cathode 208 to thermionic emission temperatures. Electrons emitted by the cathode 208 are accelerated and ionize gas molecules of the dopant gas provided by the dopant gas source 260 within the arc chamber 206 to produce the plasma 20. The electrons within the arc chamber 206 may follow spiral trajectories of the magnetic field B 222 to increase the number of ionizing collisions. The repeller electrode 210 builds up a negative charge to repel electrons back through the arc chamber 206 producing additional ionizing collisions. The lifetime of the ion source 202a when operating with fluorine-containing dopant gases, such as BF_(3), GeF_(4), PF_(3), and SiF_(4), may be limited by metallic growth (e.g., tungsten (W) deposits) on arc chamber components exposed to the plasma 20. These components may include the cathode 208 and the repeller 210. Specifically, sputtered or vaporized tungsten, for example, may combine with fluorine to form WF_(6), which stays in a gas form unless exposed to a temperature higher than the arc chamber housing walls and a temperature lower than the extraction aperture 204, cathode 208, and repeller 210. As a result, WF_(6) molecules decomposing on the hottest surfaces may lead to tungsten buildup on such surfaces. Thus, by releasing a predetermined amount of one or more dilutant gases, such as xenon and hydrogen, along with a predetermined amount of dopant gas into the arc chamber 206, the rate of metallic growth or tungsten build-up may be diminished.
For example, xenon gas may strip (or sputter) the tungsten buildup on arc chamber components exposed to the plasma 20, such as the cathode 208 and repeller 210. Additionally, hydrogen gas may scavenge excessive, free fluorine molecules in the arc chamber 206 to reduce the formation of WF_(6). As a result, the combination of xenon and hydrogen dilutant gases may together contribute to improving performance and lifetime of ion sources. In one embodiment, a predetermined ratio of xenon to hydrogen released into the arc chamber 206 may include approximately 70% to 30%. Other various ratios may also be provided. In another embodiment, the one or more dilutant gases may include approximately 10% to 40% of the total gas in the arc chamber 206. In yet another embodiment, the one or more dilutant gases may include approximately 20% of the total gas and the dopant gas may be approximately 80%.」(第13頁第8行-第16頁第6行(図3Aを参照すれば,イオン源202aは1つ以上の希釈ガス源を具え,1つ以上の希釈ガスをアークチャンバ206内に放出して,ドーパントガス源260からのドーパントガスを希釈する。例えば,キセノンガス源262及びこれに関連するガス流量コントローラ268は,所定量のキセノンを,導管280を通してアークチャンバ206内に供給して,ドーパントガス源260からのドーパントガスを希釈することができるのに対し,水素ガス源264及びこれに関連するガス流量コントローラ270は,所定量の水素ガスを,キセノンと一緒に同じ導管280を通してアークチャンバ206内に供給して,ドーパントガス源260からのドーパントガスを希釈することができる。このドーパントガスは,三フッ化ホウ素(BF_(3)),四フッ化ゲルマニウム(GeF_(4)),四フッ化ケイ素(SiF_(4))等のようなフッ素含有ガスを含むことができる。このドーパントガスは,アルゴン(Ar),キセノン(Xe)のようなハロゲン含有ガスを含むこともできる。他の組合せ及び種々ののドーパントガスも考えられる。例えば,希釈ガスは,アルゴン(Ar)またはアルゴン含有ガス,キセノン(Xe)またはキセノン含有ガス,水素(H_(2))または水素含有ガス,フッ素(F)またはフッ素含有ガスの少なくとも1つ,あるいはこれらの組合せで構成することができる。他の組合せ及び種々の希釈ガスを利用することもできる。
一実施例では,図3Aに示すように,ドーパントガス及び1つ以上の希釈ガスを,同じ導管280を通してアークチャンバ206内に供給することができる。従って,1つ以上の希釈ガスを,アークチャンバ206に入る前に導管280内で事前混合することができる。他の実施例では,図3Bに示すように,イオン源202bにおけるドーパントガス及び1つ以上の希釈ガスを,異なる導管280a,280b,280cを通してアークチャンバ206内に供給することができる。こうした場合には,1つ以上の希釈ガスはアークチャンバ内で混合される。
図3Aを再び参照すれば,フィラメント214を関連する電源によって熱電子放射温度に加熱すると,フィラメント214からの電子が陰極208に衝突し,これにより陰極208も熱電子放射温度に加熱される。陰極208が放射する電子は加速されて,ドーパントガス源260が供給するドーパントガスのガス分子をアークチャンバ206内でイオン化してプラズマ20を生成する。アークチャンバ206内の電子は,磁界B222の螺旋軌跡に追従して電離(イオン化)衝突の数を増加させることができる。反射電極210は,負電荷を生成して電子を反射させ,これらの電子はアークチャンバ206を通って戻り,電離衝突を生成する。イオン源202aの寿命は,BF_(3),GeF_(4),PF_(3),及びSiF_(4)のようなフッ素含有ドーパントガスで動作する際は,プラズマ20に晒されたアークチャンバの構成要素上の金属成長(例えばタングステン(W)の堆積)によって制限され得る。これらの構成要素は,陰極208及び反射電極210を含み得る。具体的には,例えばスパッタされるか気化したタングステンは,フッ素と結合してWF_(6)を形成し,このWF_(6)は,アークチャンバの筐体壁よりは高い温度で抽出開口204,陰極208,及び反射電極210よりは低い温度に晒されない限り,ガス形態のままである。その結果,最も熱い表面上で分解するWF_(6)分子は,こうした表面上のタングステン形成を生じさせ得る。従って,キセノン及び水素のような1つ以上の希釈ガスの所定量を,所定量のドーパントガスと共にアークチャンバ206内に放出することによって,金属成長またはタングステン形成の速度を減少されることができる。
例えば,キセノンガスは,陰極208及び反射電極210のようなプラズマ20に晒されたアークチャンバの構成要素上のタングステン形成を剥離(またはスパッタ)することができる。これに加えて,水素ガスは,アークチャンバ206内の過剰な自由フッ素分子を排除して,WF_(6)の形成を低減することができる。その結果,キセノン希釈ガスと水素希釈ガスの組合せは,一緒になって,イオン源の性能及び寿命の向上に寄与することができる。一具体例では,アークチャンバ206内に放出される水素に対するキセノンの所定比率は,約70%?30%を含むことができる。他の種々の比率も与えることができる。他の具体例では,上記1つ以上の希釈ガスの比率は,アークチャンバ206内の総ガス量の約10%?40%を含むことができる。さらに他の具体例では,上記1つ以上の希釈ガスの比率は総ガス量の約20%を含むことができ,ドーパントガスは約80%とすることができる。)

(2)引用文献2に記載された技術的事項
上記記載から見て,当該引用文献2には,以下の技術的事項が記載されていると認められる。
ア 引用文献2に記載された技術は,半導体製造装置に関するものであり,特に,ガス希釈によりイオン源の性能を向上させ寿命を延長する技術に関するものである。

イ イオン源102は,イオン注入システム100の重要な構成要素であり,イオン源102の寿命または平均故障間隔(MTBF)が,イオン源102の1つの性能基準であること。

ウ GeF_(4)分子の化学的解離の結果として過剰な自由フッ素原子がアークチャンバ206内に存在し,アークチャンバ筐体202の材料が,これらの自由フッ素原子との化学反応によりエッチング除去され,アークチャンバ筺体202の材料は最終的に陰極208の表面に堆積して,陰極208の表面からの電子放射の劣化を生じさせ得るものであり,三フッ化ホウ素(BF_(3))のような他のフッ素含有ドーパントガスも,こうした材料が陰極208上に堆積した結果として,イオン源の性能及び寿命に悪影響する同様の問題を有すること。

エ 引用文献2に記載された技術は,ガス希釈によりイオン注入装置内のイオン源の性能及び寿命を向上させる方法であって,所定量のドーパントガスをイオン源チャンバ内に放出するステップと,所定量の希釈ガスをイオン源チャンバ内に放出するステップとを具え,この希釈ガスは,ドーパントガスを希釈するためのキセノン含有ガスと水素含有ガスの混合物で構成されて,イオン源の性能を向上させイオン源の寿命を延長することができること。

オ 引用文献2に記載された技術は,イオン源202aは1つ以上の希釈ガス源を具え,1つ以上の希釈ガスをアークチャンバ206内に放出して,ドーパントガス源260からのドーパントガスを希釈するものであり,このドーパントガスは,三フッ化ホウ素(BF_(3))等のようなフッ素含有ガスを含むことができ,希釈ガスは,キセノン(Xe)またはキセノン含有ガス,水素(H_(2))または水素含有ガス,あるいはこれらの組合せで構成することができること。

カ イオン源202aの寿命は,BF_(3),GeF_(4),PF_(3),及びSiF_(4)のようなフッ素含有ドーパントガスで動作する際は,プラズマ20に晒されたアークチャンバの構成要素上の金属成長(例えばタングステン(W)の堆積)によって制限され得,これらの構成要素は,陰極208及び反射電極210を含み得,具体的には,例えばスパッタされるか気化したタングステンは,フッ素と結合してWF_(6)を形成し,このWF_(6)は,アークチャンバの筐体壁よりは高い温度で抽出開口204,陰極208,及び反射電極210よりは低い温度に晒されない限り,ガス形態のままであり,その結果,最も熱い表面上で分解するWF_(6)分子は,こうした表面上のタングステン形成を生じさせ得,従って,キセノン及び水素のような1つ以上の希釈ガスの所定量を,所定量のドーパントガスと共にアークチャンバ206内に放出することによって,金属成長またはタングステン形成の速度を減少されることができること。

キ キセノンガスは,陰極208及び反射電極210のようなプラズマ20に晒されたアークチャンバの構成要素上のタングステン形成を剥離(またはスパッタ)することができ,これに加えて,水素ガスは,アークチャンバ206内の過剰な自由フッ素分子を排除して,WF_(6)の形成を低減することができるので,その結果,キセノン希釈ガスと水素希釈ガスの組合せは,一緒になって,イオン源の性能及び寿命の向上に寄与することができること。

第5 対比
1 本願発明1と引用発明を対比する。
(1)本願発明1の「同位体濃縮された三フッ化ホウ素を含むドーパントガス」と引用発明の「BF_(3)」とを対比する。
引用発明の「BF_(3)のガス」は,「Bの同位体比を変えたBF_(3)が封入され」た「ガス源7,8」から,「イオン源1に導入される」ものであり,「Bの同位体比を変えたBF_(3)」は「同位体濃縮された三フッ化ホウ素」を指すことが技術常識であるから,本願発明1の「同位体濃縮された三フッ化ホウ素」に相当する。
また,引用発明の「BF_(3)のガス」は,「Si等の基板へのBのイオン注入に用いられる」ものであるから,「ドーパントガス」であるといえる。
したがって,本願発明1と引用発明とは,「同位体濃縮された三フッ化ホウ素を含むドーパントガス」を含む点で一致する。

(2)引用発明の「ガス」は「ドーパントガス」である「BF_(3)のガス」を含むものであるから,本願発明1の「ドーパント組成物」に対応する。

2 以上のことから,本願発明1と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。
【一致点】
「同位体濃縮された三フッ化ホウ素を含むドーパントガスを含む,ドーパント組成物。」

【相違点】
本願発明1の「ドーパント組成物」は「水素を含む希釈ガス」を含むのに対し,引用発明の「ガス」は,当該事項について特定されていない点。

第6 判断
1 相違点1について
(1)上記第4の2(2)カ,キのとおり,引用文献2には,「イオン源202aの寿命は,BF_(3),GeF_(4),PF_(3),及びSiF_(4)のようなフッ素含有ドーパントガスで動作する際は,プラズマ20に晒されたアークチャンバの構成要素上の金属成長(例えばタングステン(W)の堆積)によって制限され得」,「キセノン及び水素のような1つ以上の希釈ガスの所定量を,所定量のドーパントガスと共にアークチャンバ206内に放出することによって」,「キセノンガスは,陰極208及び反射電極210のようなプラズマ20に晒されたアークチャンバの構成要素上のタングステン形成を剥離(またはスパッタ)することができ,これに加えて,水素ガスは,アークチャンバ206内の過剰な自由フッ素分子を排除して,WF_(6)の形成を低減することができるので,その結果,キセノン希釈ガスと水素希釈ガスの組合せは,一緒になって,イオン源の性能及び寿命の向上に寄与することができること」と記載されている。

(2)イオン源の性能及び寿命の向上させることは,当該技術分野において当業者が当然に追求しうる課題であるから,引用発明においても,イオン源の性能及び寿命の向上させるために,引用文献2に記載された技術を適用し,フッ素含有ドーパントガスであるBF_(3)を,イオン源1内において,キセノン希釈ガスと水素希釈ガスにより希釈するように構成し,本願発明1に係る構成とすることは,当業者であれば適宜なし得たものである。

(3)請求人は審判請求書において,
「しかしながら,審査段階でも論じたように引用文献2には,濃縮されたBF_(3)を希釈ガスと組み合わせることについて記載も示唆もなく,またこのような解決策は,引用文献2において解決すべき課題から一義的に導き出されるものでもない。
引用文献2では,イオン注入の間にイオンビーム電流を増加させるために異なる同位体を選択するという課題の解決が試みられているに過ぎない。引用文献2に接した当業者が,濃縮されたBF_(3)を希釈ガスと組み合わせることについて何らかの動機づけを得ることはない。
引用文献3及び4には確かに,濃縮されていないBF_(3)を,希釈ガスと組み合わせることが開示されている。しかしながら,引用文献2の示唆に基づき,イオンビーム電流を増大させるために濃縮されたBF_(3)を使用する動機づけを得た当業者であれば,濃縮されたBF_(3)を希釈ガスと組み合わせようとはしないはずである。濃縮されたBF_(3)を希釈すると,濃縮されたBF_(3)の使用目的に反して,イオンビーム電流を減少させてしまうと,当業者は予測したはずだからである。
同位体濃縮されたガスは,より高いビーム電流を提供することによってイオン注入性能を改善することができる。さらに,イオン源の寿命を増加させることができる。本願発明によるドーパント組成物は,イオン源の長寿命化とビーム電流の増大という必要性をともに満たす,意想外の相乗的効果の組み合わせをもたらす特定の混合物を目的としている。
しかしながら,同位体濃縮したドーパントガスに希釈ガスを加えれば,ビーム電流の減少につながるというのが,当業者の技術常識であった。よって,同位体濃縮されたガスを希釈ガス(例えば水素,又はキセノン/水素)と組み合わせれば,イオンビーム電流の減少につながるという予測が当業者によってなされる以上,当業者がこのような組み合わせを実施しようとする動機づけを得ることはない。さらに,同位体濃縮されたガスは,同位体濃縮されていないガスよりも,著しく高価である。同位体濃縮の有無によりガス材料のコスト面でも著しい差異が存在する以上,イオンビーム電流の減少が予測される手法を当業者が実施する動機づけを得ることはない。
引用文献2?6には,濃縮されたBF_(3)を希釈ガスと組み合わせることについて,記載も示唆もない。また引用文献2?6には,濃縮されたBF_(3)を希釈ガスと組み合わせてもビーム電流が減少しないこと,また性能の低下につながらないことについて,記載も示唆もない。」と主張する。
請求人の上記主張について検討する。
引用発明は,線形加速器を用い,同じ元素のイオンでイオン注入深さを変え得るイオン注入方法を提供することを目的とするものであり,質量分析器2で質量数10か11かの何れかのBを選ぶことで基板へのイオン注入深さを変えるものであるので,「同位体濃縮したドーパントガスに希釈ガスを加えれば,ビーム電流の減少につながるというのが,当業者の技術常識であった」としても,引用発明はビーム電流の減少を課題としているものではないから,引用発明において希釈することに阻害要因があるとはいえない。
また,引用発明は,「天然のBをそのまま用いていると^(10)Bの存在比が小さいので,^(10)Bのイオン注入の電流量が少くなる」ため「複数のガス源7,8にはBの同位体比を変えたBF_(3)を封入しておき,バルブ5,6を切換えることにより同位体比の異るガスに切換え,^(10)Bおよび^(11)B夫々の注入電流量を上げることができる」ものであるが,引用発明は,^(10)Bおよび^(11)Bの比率を調整することにより,注入電流量を上げるものであるところ,比率の調整されたドーパントガスに対して希釈ガスを加える等の処理を行うことを妨げるものではないから,この点からも,引用発明において希釈することに阻害要因があるとはいえない。
したがって,請求人の上記主張は採用できない。

(4)さらに,請求人は審判請求書において,
「しかしながら本願には,イオン源の寿命向上と,イオン注入システムの性能改善という意想外の効果について,複数の箇所で定性的に開示されている(例えば本願明細書段落[0002],[0028],[0060],[0077]?[0078]参照)。これに対して従来技術では,イオン注入システムの性能を犠牲にして,イオン源の寿命を延ばすことが予測される程度である。
本願発明による効果は,当業者が特定のデータを通じて肯定的に評価可能な数値的な差異に留まるものではなく,これまで従来技術で一般に信じられてきたこととは,真逆の結果をもたらす。
さらに,本願発明による上記効果は,本願発明の名称等からも分かるように本願発明が一義的に目的とするところであり,本願発明によりイオン源の寿命と性能がいずれも向上するという優れた効果は,当業者であれば確実に理解できる。」
と主張する。
請求人の上記主張について検討する。
請求人は「イオン源の寿命向上と,イオン注入システムの性能改善という意想外の効果」を主張するが,当該効果は,引用発明において水素ガス及びキセノンガスの希釈を行うことで得られることが想定される程度のものであり,予想外ということはできない。
したがって,請求人の上記主張は採用できない。

(5)したがって,引用発明に,上記相違点に係る本願発明1の構成を適用することは,当業者が容易になし得たことである。

第7 むすび
以上のとおり,本願発明1は,引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて,その原出願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2021-04-28 
結審通知日 2021-05-11 
審決日 2021-05-26 
出願番号 特願2017-104015(P2017-104015)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C23C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 桑原 清  
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 井上 和俊
小川 将之
発明の名称 イオン注入システム中のイオン源の寿命および性能を向上させる方法および装置  
代理人 園田・小林特許業務法人  

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