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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H02G |
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管理番号 | 1379243 |
審判番号 | 不服2021-4499 |
総通号数 | 264 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-12-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2021-04-07 |
確定日 | 2021-11-09 |
事件の表示 | 特願2018-161961「グロメット」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 3月 5日出願公開、特開2020- 36478、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件審判請求に係る出願(以下,「本願」という。)は,平成30年8月30日の出願であって,令和2年8月28日付けで拒絶理由が通知され,同年10月7日に意見書及び手続補正書が提出されたが,令和3年1月26日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年4月7日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされたものである。 第2 原査定の概要 原査定(令和3年1月26日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。 請求項1-3に係る発明は,以下の引用文献1に記載された発明に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 <引用文献等一覧> 1.特開2015-154687号公報 第3 本願発明 本願請求項1-3に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」-「本願発明3」という。)は,令和3年4月7日にされた手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-3に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1は,以下のとおりの発明である。 「【請求項1】 ワイヤハーネスの周囲を覆うグロメットであって, 取付孔を有するパネルに装着されるパネル装着部と, 前記パネル装着部に組付けられ,前記取付孔に嵌入されて前記取付孔の縁部を係止するインナー部材と, を備え, 前記パネル装着部は, 環状に形成された基部と, 前記基部に形成され,前記インナー部材を前記取付孔へ嵌入することで前記パネルの表面に密着するシール部と, 前記基部と前記シール部との間における外周側に形成された周方向にわたって連続する溝部と, を有し, 前記インナー部材は, 前記パネルの前記取付孔へ斜めに嵌入された際に,前記取付孔の縁部に当接可能な規制片を有し, 前記シール部は, 前記基部から前記パネルに対する装着方向の前方側へ前記装着方向と平行に延びる支持部と, 前記支持部の前端部から前記装着方向に交差する径方向の外方に延びる延在部と, 前記延在部に形成されて前記装着方向の前方側へ突出し,前記パネルに密着されるリップ部と, 前記支持部における前記装着方向の中間部に形成されて前記支持部の他の部分より肉厚が薄い薄肉部と, 前記薄肉部から離れるにしたがって前記径方向の外方における前記基部側及び前記延在部側へ向かってそれぞれ傾斜するテーパ形状が前記溝部に形成されたテーパ部と, を有し, 前記パネルに対して前記パネル装着部が押し付けられることで,前記支持部が前記薄肉部で屈曲されて潰れるように弾性変形し,前記リップ部が前記装着方向の前方側へ突出した状態で前記パネルに密着される ことを特徴とするグロメット。」 また,本願発明2,3は,本願発明1を減縮した発明である。 第4 引用文献,引用発明等 1 引用文献1について (1)引用文献1の記載 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2015-154687号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審が付与した。)。 ア「【0018】 [実施形態] 図1?4を参照して本発明の一実施形態について説明する。まず図1,2を参照して,本実施形態に係るグロメットインナーの構成について説明する。図1は,本発明の一実施形態に係るグロメットインナーを含むグロメットと,このグロメットに挿通されたワイヤーハーネスの概略構成を示す斜視図であり,図2は,図1中のグロメットの分解斜視図である。 【0019】 図1に示すワイヤーハーネス30は,例えば建物内の配線や自動車の各装置間の接続のために,電源供給や信号通信に用いられる複数の電線を束にして集合部品としたものである。ワイヤーハーネス30は,上記の複数の電線を例えばコルゲートチューブや樹脂テープなどの外装品によってまとめ,端部に上記の複数の電線を一度に接続できる多芯コネクタ等の接続部品に取り付けることで,上記の複数の電線を集合化する。 【0020】 このようなワイヤーハーネス30を,任意のパネル40によって区画される2つの空間の間で電気機器同士を電気的に接続する配線として用いる場合には,図1に示すように,ワイヤーハーネス30は,パネル40に形成された貫通孔41を貫通して配設される。・・・(中略)・・・以下の説明では,図1に示すワイヤーハーネス30の延在方向,及び貫通孔41の貫通方向を「軸方向」と表現する。 【0021】 ワイヤーハーネス30をパネル40に形成された貫通孔41に貫通させる際には,図1に示すように,ワイヤーハーネス30の電線を束ねた部分の周囲にグロメット1を外装し,このグロメット1が貫通孔41に装着される(図3参照)。グロメット1は,貫通孔41を通るワイヤーハーネス30の保護と,エンジンルーム側(車外側)から車室側(車内側)への防水,防塵,遮音などを目的とする部品である。 【0022】 グロメット1は,エストラマー(ゴム等)などの剛性の低い弾性材料により形成されるグロメット本体10と,このグロメット本体10の内周側に配置され,グロメット本体10よりも剛性の高いPP(ポリプロピレン)等の合成樹脂材により形成される環状のグロメットインナー20とを備えている。 【0023】 グロメット本体10は,ワイヤーハーネス30の電線部分の外周に密着し,ワイヤーハーネス30を挿通する筒部11と,この筒部11の一端側に形成されグロメットインナー20を保持する台座部12と,この台座部12の開口の全周に亘って形成されるリップ部13とを有する。リップ部13は,その先端部を外周側に湾曲して形成されており,グロメット1がパネル40の貫通孔41に装着されるときには,弾性変形によって貫通孔41の周縁の一方主面40aに密着し,貫通孔41の全周縁をシールするよう構成される。このため,リップ部13は,軸方向視において,貫通孔41と同種の長円形状であり,かつ貫通孔41より大きい形状(長円形状の長径及び短径が貫通孔41のものより大きい)となっている。 【0024】 グロメットインナー20は,環状部21と,この環状部21の外周に設けられる複数の(図1では4個)ロック爪22とを有する。図2に示すように,環状部21の軸方向の一端側には,外周面に沿って係止鍔部23が突設されている。グロメットインナー20は,この係止鍔部23がグロメット本体10の台座部12に内周側から嵌合されることで,グロメット本体10に一体的に固定される。ロック爪22は,グロメット10がパネル40の貫通孔41に装着されるときにグロメット10を貫通孔41の周縁のパネル40に係止させるためのものであり,好ましくは,環状部21の長円形状の長軸を挟んだ線対称位置に配置され,グロメット1が貫通孔41に嵌合されたときに均等に面圧がかかるよう構成されている。図1,2の例では,ロック爪22は,環状部21の長円形状の曲線部分と直線部分との境界近傍の4ヵ所に配置されている。 【0025】 グロメット1がパネル40の貫通孔41に装着されるときには、環状部21は、ロック爪22を他方主面40b側に完全に露出させるまで、貫通孔41の一方主面40aから他方主面40b側へ挿入される。このため、グロメットインナー20の環状部21は、軸方向視において、貫通孔41と同種の長円形状であり、かつ、貫通孔41より小さい形状(長円形状の長径及び短径が貫通孔41のものより小さい)であり、貫通孔41に沿って軸方向に摺動可能な形状となっている。」 イ「【0026】 そして,特に本実施形態では,グロメットインナー20の環状部21の軸方向の他端側,すなわち係止鍔部23と反対側には,複数の突起部24a,24bが設けられている。突起部24a,24bは,環状部21の他端から軸方向に沿って延在するよう形成されている。また,突起部24a,24bは,好ましくは,環状部21の最外径の延長線上にあり,環状部21の最大外側にある。言い換えると,突起部24a,24bの外周面は,環状部21の外周面と連続的に段差なく接続されるよう形成されている。さらに,言い換えると,軸方向視において,突起部24a,24bの外周面の輪郭線が,環状部21の外周面の輪郭線上に重畳することが好ましい。 【0027】 突起部24aは,長円形状のうち長軸方向両端の一対の曲線部分の一方に2個設けられ,2つの突起部24aは,長軸を中心として線対称の位置にそれぞれ設けられる。突起部24bは,長円形状のうち長軸方向両端の一対の曲線部分の他方に2個設けられ,2つの突起部24bは,長軸を中心として線対称の位置にそれぞれ設けられる。つまり,本実施形態では,合計4個の突起部が設けられている。また,突起部24aと突起部24bは,長円形状の短軸を中心として線対称の位置に設けられる。 【0028】 次に,図3,4を参照して,グロメット1の貫通孔41への装着動作と,この装着動作時における本実施形態に係るグロメットインナー20による作用効果について説明する。図3は,図1中のグロメットがパネルの貫通孔に正しく装着されている状態を示す図であり,図4は,図1中のグロメットの貫通孔への装着動作中にリップ部が貫通孔に噛み込まれた状態を示す図である。 【0029】 まず図3を参照して,グロメット1が貫通孔41に正常に装着される場合を説明する。グロメット1が,グロメット本体10の筒部11,及び,グロメットインナー20の環状部21にワイヤーハーネス30を挿通した状態で,パネル40の一方主面40a(エンジンルーム側,つまり車外側の面)から貫通孔41に外力が付加されると,グロメットインナー20の環状部21が一方主面40aから貫通孔41に挿入される。環状部21の外周面上のロック爪22が他方主面40b側に完全に進出すると,図3に示すように,弾性変形によってロック爪22がパネル40の他方主面40b側にて貫通孔41の周縁のパネル40の他方主面40bに係止される状態となる。また,このとき,グロメット本体10のリップ部13は,パネル40の一方主面40aから受ける反力によって外周側に弾性変形し,貫通孔41の周縁の一方主面40aに密着し,貫通孔41の全周縁をシールする状態となる。この結果,グロメットインナー20のロック爪22と,グロメット本体10のリップ部13との間にパネル40を挟むことにより,グロメット1はパネル40の貫通孔41に装着される。 【0030】 ここで,本実施形態のグロメット1の形状は,貫通孔41の形状と対応して長円形状であるため,上記の装着作業の作業者により,長円形状のグロメット1の短径側が把持されて,長径側の一端が貫通孔41の縁端に突き当てられ,つまり,グロメット1がパネル40に対して斜めに挿入された後に,他端側が挿入されるという装着手法が取られる場合があると考えられる。このような装着手法において,例えば図4に示すように,先に挿入された一端側のグロメット本体10のリップ部13が,他方主面40b側に入り込み,貫通孔41の縁端とグロメットインナー20の環状部21との間に噛み込まれた状態となる場合がある。従来のグロメット1では,このようにリップ部13が噛み込まれた状態で無理やり押し込まれると,リップ部13の一部が他方主面40b側に露出した(飛び出した)状態のままでグロメット1が嵌合される場合がある。このような嵌合状態を「斜め嵌合状態」と本実施形態では表現する。このような斜め嵌合状態が生じると,本来はパネル40の一方主面40a側にて貫通孔41の全周に亘って密閉する役割をもつリップ部13が,その一部を反対側の他方主面40b側にはみ出した状態となるので,貫通孔41を完全に車外から密閉することができず,一方主面40a側(車外側)からの浸水が生じる虞がある。また,リップ部13がはみ出ている付近のロック爪22は,パネル40との間にリップ部13が介在するため,パネル40と直接接触することができず,完全に嵌合できず不完全な装着となる。このため,例えばグロメット1をパネル40から離す方向に外力がかかった場合には,グロメット1が貫通孔41から外れやすくなる。 【0031】 本実施形態において,上述のとおり,グロメットインナー20は,環状部21から軸方向に4個の突起部24a,24bが突設されている。図4の例では,突起部24a,24bのうち突起部24a側が先に挿入されている。この状態で,作業者が強引にグロメット1を貫通孔41に装着しようと力を付加すると,他方側の突起部24bが貫通孔41の縁端や,貫通孔41の周縁と接触して,これ以上他端側の挿入が進まず,これにより上記の斜め嵌合状態にし難くなる。これにより,グロメット1の貫通孔41への装着作業の作業者に対して,リップ部13が噛み込まれているために装着動作がうまく進まないことを気づかせることができ,グロメット1を一旦貫通孔41から取り外して装着動作をやり直すよう促すことができる。」 ウ「【図1】 ![]() 」 エ「【図2】 ![]() 」 オ「【図3】 ![]() 」 カ「【図4】 ![]() 」 (2)引用発明の認定 ア 上記(1)ア,ウ?オによれば,引用文献1には,「ワイヤーハーネス30の電線を束ねた部分の周囲に外装され,パネル40に形成された貫通孔41に装着されるグロメット1」が記載されており,当該グロメット1は,「グロメット本体10」と,「グロメットインナー20」とを備えることが記載されている。 ここで,「グロメット本体10」は,「グロメットインナー20を保持する台座部12」と「台座部12の開口の全周に亘って形成され,グロメット1がパネル40の貫通孔41に装着されるときには,弾性変形によって貫通孔41の周縁の一方主面40aに密着し,貫通孔41の全周縁をシールするリップ部13」を有することが記載されており,「グロメット本体10」は,グロメット1がパネル40に形成された貫通孔41に装着されるときには,「パネル40に装着される」部位として機能するものと認められる。 そして,上記(1)ウ,エからは,その「台座部12」は,「環状」に形成されていることが看取され,また,上記(1)ウ?カによれば,「その先端部を外周側に湾曲して形成され」てなる「リップ部13」は,その先端部が,全周にわたって「台座部12」の外周よりも内側に位置するように構成され,台座部12の外周とリップ部13の先端部との間に位置する,リップ部13と台座部12との境界部においては,その全周にわたって,台座部12の外周とリップ部13の先端部よりも内周側に位置する径の小さい部分が生じており,「周方向にわたって連続する溝形状」をなしていることが看取される。 イ 上記(1)ア,ウ?オによれば,引用文献1には,「グロメットインナー20」について,環状部21を有し,当該環状部21の軸方向の一端側に,外周面に沿って突設された係止鍔部23が突設され,当該係止鍔部23が,グロメット本体10の台座部12に内周から嵌合されることにより,「グロメット本体10と一体的に固定され」ることが記載されるとともに,環状部21の外周に複数の「ロック爪22」が設けられることが記載され,グロメット1が「パネル40の貫通孔41に装着されるとき」に,環状部21は、貫通孔41の一方主面40aから他方主面40b側へ挿入され,前記「ロック爪22」により,グロメット1を「貫通孔41の周縁のパネル40に係止させる」ものであることが記載されている。 また,上記(1)イ?カによれば,「グロメットインナー20」には,「4個の突起部24a,24bが突設」され,当該突起部は,グロメット1を,「パネル40に対して斜めに挿入」する際に,「貫通孔41の縁端や周縁と接触」して,「斜め嵌合状態にし難くなる」ものであることが記載されている。 ウ 以上によれば,引用文献1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 <引用発明> 「ワイヤーハーネス30の電線を束ねた部分の周囲に外装されるグロメット1であって, パネル40に形成された貫通孔41に装着されるグロメット本体10と, グロメット本体10と一体的に固定され,グロメット1がパネル40の貫通孔41に装着されるときに,貫通孔41に挿入されて,ロック爪22によりグロメット1を貫通孔41の周縁のパネル40に係止させるグロメットインナー20とを備え, グロメット本体10は, グロメットインナー20を保持する環状の台座部12と, 台座部12の開口の全周に亘って形成され,グロメット1がパネル40の貫通孔41に装着されるときには,弾性変形によって貫通孔41の周縁の一方主面に密着し,貫通孔41の全周縁をシールするリップ部13を有し, 台座部12とリップ部13との境界部は周方向にわたって連続する溝形状をなしており, グロメットインナー20には, 4個の突起部24a,24bが突設され,当該突起部により,グロメット1をパネル40に対して斜めに挿入する際に,貫通孔41の縁端や周縁と接触して,斜め嵌合状態にし難くなる グロメット1。」 第5 対比・判断 1 本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。 引用発明の「グロメット1」は,ワイヤハーネスの周囲に外装される点で,本願発明1の,「ワイヤハーネスの周囲を覆うグロメット」に相当するものであり,引用発明の「パネル40」,「貫通孔41」は,それぞれ本願発明1の「パネル」,「取付孔」に相当するから,引用発明の「グロメット本体10」は,パネル40に形成された貫通孔41に装着される点で,本願発明1の,「取付孔を有するパネルに装着されるパネル装着部」に相当するものである。 また,引用発明の「グロメットインナー20」は,「グロメット本体10に一体的に固定され」,グロメット1がパネル40の貫通孔41に装着されるときに,「貫通孔41に挿入されて」,ロック爪22により「グロメット1を貫通孔41の周縁のパネル40に係止」させるものであるから,本願発明1の,「前記パネル装着部に組付けられ,前記取付孔に嵌入されて前記取付孔の縁部を係止するインナー部材」に相当するといえ,さらに,引用発明の「グロメットインナー20」の「突起部24a,24b」は,グロメット1をパネル40に対して斜めに挿入する際に,貫通孔41の縁端や周縁と接触して,斜め嵌合状態にし難くするものであるから,本願発明1の「インナー部材」が有する「前記パネルの前記取付孔へ斜めに嵌入された際に,前記取付孔の縁部に当接可能な規制片」に相当するといえる。 そして,引用発明の「グロメット本体10」の「台座部12」は,環状に形成されている点で,本願発明1の「パネル装着部」の「環状に形成された基部」に相当するものであり,同「リップ部13」は,台座部12の開口の全周に亘って形成されるとともに,グロメット1がパネルの貫通孔に装着されるときには,弾性変形によって貫通孔41の周縁の一方主面に密着し,貫通孔41の全周縁をシールするものであるから,後述する相違点に係る事項を除いて,本願発明1の「パネル装着部」の「前記基部に形成され,前記インナー部材を前記取付孔へ嵌入することで前記パネルの表面に密着するシール部」に対応するものである。そして,引用発明の「グロメット本体10」において,「周方向にわたって連続する溝形状」をなす,「台座部12」と「リップ部13」との境界部は,本願発明1の「パネル装着部」の「前記基部と前記シール部との間における外周側に形成された周方向にわたって連続する溝部」に相当するといえる。 したがって,本願発明1と引用発明との間には,次の一致点,相違点があるといえる。 (一致点) 「ワイヤハーネスの周囲を覆うグロメットであって, 取付孔を有するパネルに装着されるパネル装着部と, 前記パネル装着部に組付けられ,前記取付孔に嵌入されて前記取付孔の縁部を係止するインナー部材と, を備え, 前記パネル装着部は, 環状に形成された基部と, 前記基部に形成され,前記インナー部材を前記取付孔へ嵌入することで前記パネルの表面に密着するシール部と, 前記基部と前記シール部との間における外周側に形成された周方向にわたって連続する溝部と, を有し, 前記インナー部材は, 前記パネルの前記取付孔へ斜めに嵌入された際に,前記取付孔の縁部に当接可能な規制片を有する グロメット。」 (相違点) 本願発明1のシール部は,「前記基部から前記パネルに対する装着方向の前方側へ前記装着方向と平行に延びる支持部と,前記支持部の前端部から前記装着方向に交差する径方向の外方に延びる延在部と,前記延在部に形成されて前記装着方向の前方側へ突出し,前記パネルに密着されるリップ部と,前記支持部における前記装着方向の中間部に形成されて前記支持部の他の部分より肉厚が薄い薄肉部と,前記薄肉部から離れるにしたがって前記径方向の外方における前記基部側及び前記延在部側へ向かってそれぞれ傾斜するテーパ形状が前記溝部に形成されたテーパ部と,を有し,前記パネルに対して前記パネル装着部が押し付けられることで,前記支持部が前記薄肉部で屈曲されて潰れるように弾性変形し,前記リップ部が前記装着方向の前方側へ突出した状態で前記パネルに密着される」との構成を有するのに対し,引用発明のリップ部は,そのような構成を備えていない点。 (2)相違点についての判断 本願発明1の上記相違点に係るシール部の構成は,引用文献1には記載も示唆もなされておらず,また,引用文献1の記載から自明な構成ともいえない。そして,当該構成は,当業者の周知技術であるということもできない。 したがって,本願発明1は,当業者であっても,引用文献1に記載された発明に基づいて,容易に発明できたものであるとはいえない。 2 本願発明2,3について 請求項1を引用する本願発明2,3も,引用発明との相違点に係る上記構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 第6 原査定について 原査定は,請求項1-3に係る発明について,引用文献1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないというものであるが,上記のとおり,本願発明1-3は,拒絶査定において引用された引用文献1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものではない。したがって,原査定を維持することはできない。 第7 むすび 以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。 また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2021-10-20 |
出願番号 | 特願2018-161961(P2018-161961) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(H02G)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 木村 励 |
特許庁審判長 |
田中 秀人 |
特許庁審判官 |
須田 勝巳 篠原 功一 |
発明の名称 | グロメット |
代理人 | 特許業務法人栄光特許事務所 |