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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1379406
審判番号 不服2020-9241  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-07-02 
確定日 2021-10-26 
事件の表示 特願2016-568836「データ及び文脈に基づいた故障判別及び応答処理方法、システム、および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年12月10日国際公開、WO2015/187366、平成29年 6月22日国内公表、特表2017-516548〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)5月20日(パリ条約による優先権主張 2014年6月6日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成31年3月20日付けで拒絶理由が通知され、令和元年9月20日付けで意見書及び手続補正書が提出され、令和2年2月26日付けで拒絶査定されたところ、同年7月2日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。

第2 令和2年7月2日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年7月2日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項3の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)

「【請求項3】
システムによって実行される、インビボ連続検体監視システムにおける故障に応答して応答処理を実施するための方法であって、前記方法は、
検体モニタから信号を受信することと、
臨床文脈データを受信することと、
前記受信された臨床文脈データを臨床文脈基準に対して評価して、臨床文脈情報を決定することと、
少なくとも前記受信された信号及び前記決定された臨床文脈情報に基づいて、応答処理を実施することと、を含み、
前記応答処理を実施することは、自己診断ルーチンを実施することと、薬剤送達デバイスによって利用可能なデータを生成することと、故障を保証するステップを実施することと、を含み、
前記生成することは、基礎またはボーラス値を決定することを含み、
前記故障を保証するステップを実施することは、前記故障の持続時間にわたり前記臨床文脈情報に基づいて、予測、予想、または期待される検体濃度値を決定することを含む、方法。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和元年9月20日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項3の記載は次のとおりである。

「【請求項3】
システムによって実行される、インビボ連続検体監視システムにおける故障に応答して応答処理を実施するための方法であって、前記方法は、
検体モニタから信号を受信することと、
臨床文脈データを受信することと、
前記受信された臨床文脈データを臨床文脈基準に対して評価して、臨床文脈情報を決定することと、
少なくとも前記受信された信号及び前記決定された臨床文脈情報に基づいて、応答処理を実施することと、を含み、
前記応答処理を実施することは、自己診断ルーチンを実施することを含む、
方法。」

2 補正の適否
本件補正は、「前記応答処理を実施すること」が、「薬剤送達デバイスによって利用可能なデータを生成することと、故障を保証するステップを実施することと、を含」むものであって、「前記生成することは、基礎またはボーラス値を決定することを含み、前記故障を保証するステップを実施することは、前記故障の持続時間にわたり前記臨床文脈情報に基づいて、予測、予想、または期待される検体濃度値を決定することを含む」旨の限定を付加するものであって、補正前の請求項3に記載された発明と補正後の請求項3に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項3に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、米国特許出願公開第2014/0005505号明細書(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。

(引1a)「Overview

[0089] The embodiments described herein relate generally to devices, systems, and methods for processing sensor data and for responding to changes in sensor function. The embodiments described below include one or more sensors configured to provide more reliable continuous glucose or analyte values. In some embodiments, two or more sensors having substantially similar characteristics (e.g., in terms of their function in vivo, e.g., a substantially similar response to a particular analyte and any interferents present in the ambient in vivo environment surrounding the sensors) measure in vivo parameters. In some embodiments, data collected by one or more sensors can be processed by different parallel algorithms. In yet other embodiments, two or more sensors having different characteristics (e.g., a different sensitivity to the same analyte, a different concentration range over which the same analyte can be measured with accuracy, or a different sensitivity to an interferent; such characteristics being due to, e.g., a different chemical composition of the electrode, mode of action, a different membrane system (having different chemistry, porosity, permeability, thickness, hydrophilicity, hydrophobicity, presence or absence of enzyme, presence or absence of additives impacting properties of the membrane or surrounding tissue), a different electroactive surface area, a different surface configuration (e.g., smooth versus rough or porous), a different electrode shape, or the like) can be used to measure in vivo parameters. Such devices, systems, and methods allow for measurement redundancy. Notably, in some embodiments, the devices, systems, and methods can also be used in a manner that provides increased confidence levels in measured parameters or calculated vales (such as, for example, analyte concentration) by providing redundancy. Redundancy can increase confidence in the values obtained; additionally, any deviations between measurements or processing the multiple measurements in certain ways can assist in identifying sensor failure. In turn, information related to sensor performance and identification of sensor failure can provide the user or system with an input (or another input) for determining the appropriate response.
[0090] As illustrated in the flowchart of FIG. 1, in one embodiment, the devices and systems described herein can be used to measure an in vivo property, process sensor data, identify a sensor failure, and respond to the sensor failure. Optionally, the system can also be configured to determine a quality score. In some embodiments, as described further below, the measurement data can be processed by electronic circuitry or a processor module in order to identify a sensor failure and/or produce a quality score. In some embodiments, the system can respond to an identified sensor failure in any of a variety of ways. Additionally or alternatively, the system can prompt a user, such as, for example, a patient or doctor, to respond to the sensor failure in any of a variety of ways. The devices, systems, and methods for completing all or some of the steps of FIG. 1 are described further herein.
[0091] Although certain sensor configurations are described herein, it should be understood that any of a variety of known sensor configurations can be employed with the analyte sensor systems described herein, such as those described in U.S. Patent Publ. No. 2011-0024307-A1 and U.S. Patent Publ. No. 2011-0027127-A1; which are herein incorporated by reference in their entirety. The sensors described in the above-identified applications are not inclusive of all applicable analyte sensors, however, and it should be understood that the disclosed embodiments are applicable to a variety of analyte sensor configurations.」(当審訳:「概要
[0089]本明細書に記載される実施形態は、概して、センサデータを処理するため、及びセンサ機能の変化に応答するための装置、システム、及び方法に関する。以下に説明する実施の形態は、より信頼性の高い連続的なグルコース又は分析対象物の値を提供するように構成された1つ又は複数のセンサを含む。いくつかの実施形態では、実質的に同様の特性(例えば、インビボでのそれらの機能に関して、例えば、特定の分析物及びセンサを取り巻く周囲のインビボの環境に存在する任意の干渉物に対する実質的に類似の応答)を有する2つ以上のセンサは、インビボでパラメータを測定する。いくつかの実施形態において、1つ以上のセンサによって収集されたデータは、異なる並列アルゴリズムによって処理することができる。さらに他の実施形態では、異なる特性(例えば、同じ検体に対し異なる感度、同じ分析物を正確に測定することができる濃度範囲、又は、干渉に対する異なる感度;このような特性は、例えば、電極の異なる化学組成物、動作モード、異なる膜システム(異なる化学的性質、多孔性、浸透性、厚さ、親水性、疎水性、酸素の存在又は不存在、膜の追加の影響ある特性の存在又は不存在、周囲の組織を有する)、異なる電気活性表面領域、異なる表面の構成(例えば、平滑であるか粗い又は多孔性であるか)、異なる電極形状、又はそのようなもの)を有する2以上のセンサは、インビボでパラメータを測定するために使用することができる。このような装置、システム、及び方法は、測定の冗長性を可能にする。特に、いくつかの実施形態では、デバイス、システム、及び方法はまた、冗長性を提供することによって測定されたパラメータ又は計算された値(例えば、分析物濃度のような)において増大した信頼レベルを提供する方法で使用することができる。冗長性は、得られた値の信頼性を高めることができる;加えて、測定間の偏差又は特定の方法での複数の測定値の処理は、センサ故障を特定することに役立つ。次に、センサの性能及び識別に関連する情報は、適切な応答を決定するための入力(又は別の入力)を、ユーザ又はシステムを提供することができる。
[0090]図1のフローチャートに示すように、一実施形態では、本明細書に記載される装置及びシステムは、インビボでの特性を測定し、センサデータを処理し、センサの故障を識別し、そして、障害に応答するために使用することができる。任意選択的に、システムはまた、品質スコアを決定するように構成することもできる。いくつかの実施形態では、以下でさらに説明するように、センサ故障を識別及び/又は品質スコアを生成するために、測定データは、電子回路又はプロセッサモジュールによって処理することができる。いくつかの実施形態では、システムは、種々の方法のいずれかで識別されたセンサ故障に応答することができる。追加的又は代替的に、システムは、任意の様々な方法でセンサの故障に応答して、例えば、患者又は医者のようなユーザを促すことができる。図1の工程の全ての又は幾つかを完了するための本装置、システム、及び、方法は、本明細書にさらに記載されている。
[0091]幾つかのセンサ構成は、本明細書に記載されているが、様々な公知のセンサ構成の任意のものは、本明細書に記載の被分析物センサシステムは、米国特許出願公開に記載されているものを使用することができることを理解すべきである。(GenBank受託番号2011-0024307-A1及び米国特許出願公開第。(GenBank受託番号2011-0027127-A1;その全体が参照により本明細書に組み込まれる。上記の出願に記載のセンサは全ての適用可能な分析対象センサを網羅するものではないが、それは、開示された実施形態は種々の分析対象センサ構成に適用可能であることを理解すべきである。」)

(引1b)「Identification of Sensor Failures

[0130] By comparing data from the two or more sensors having the same characteristics, various sensor failures can be identified. Any measured parameters described herein, and additional information (such as, for example, time of day or time after implant, etc.) can be considered and compared to identify sensor failure. Any measured parameters described herein, and additional information (such as, for example, time of day or time after implant, etc.) can also be considered and compared to provide information on the reliability of sensor system.」(当審訳:「センサ障害の特定
[0130] 同一の特性を持つ2又はそれ以上のセンサからのデータを比較することにより、各種センサの故障を識別することができる。本明細書に記載の任意の測定されたパラメータと、付加情報(例えば、一日の中の時間又は移植後の時間等のような)は、センサ故障を識別するために考慮され、比較される。本明細書に記載の任意の測定されたパラメータと、付加情報(例えば、一日の中の時間又は移植後の時間等のような)はまた、センサシステムの信頼性に関する情報を提供するために考慮され、比較される。」)

(引1c)「[0134] In some embodiments, the sensor electronics can be used to determine and identify the type of sensor failure present. The sensor electronics may include a potentiostat, A/D converter, RAM, ROM, transceiver, processor, and/or the like. The potentiostat may be used to provide a bias to the electrodes and to convert the raw data (e.g., raw counts) collected from a sensor to an analyte concentration value (such as, for example, a glucose concentration value expressed in units of mg/dL). The transmitter may be used to transmit a first and second signal (or additional signals) to a receiver, where additional data analysis and/or calibration of analyte concentration can be processed. In certain embodiments, the sensor electronics may perform additional operations, such as, for example, data filtering and noise analysis.
[0135] In some embodiments, a processor can be programmed to compare sensor data from multiple sensors. In some embodiments, the processor can compare a magnitude of a parameter measured by a first sensor to the magnitude of a parameter measured by a second sensor. In other embodiments, the processor can be programmed to compare sensor data with expected known or in vitro values. In some embodiments, the processor can compare the magnitude of a parameter measured by a first sensor, and the magnitude of a parameter measured by a second sensor, to known or in vitro values. In certain embodiments, a failure can be identified when the magnitude of a parameter measured by a first electrode is different from the magnitude of a parameter measured by a second electrode by a predetermined amount.
[0136] In some embodiments, the processor can identify one data input, or alternatively can identify one or more of the measured parameters described herein. For example, the processor can be programmed to compare the sensitivity of each sensor a certain time or times after implantation. As another example, the processor can compare baseline changes between each sensor and known in vitro baseline values. In yet another example, the processor can be programmed to compare amplitude and sensitivity changes between two or more sensors. In yet another exemplary embodiment, the processor can compare baseline changes between each sensor and a known in vitro value. In some embodiments where multiple measurements are considered, the processor can be programmed to give each measurement an appropriate weight. For example, where it is known that small changes in amplitude (such as, for example, deviations of less than about 5%) correspond with a high probability (such as, for example, 90% or more) of failure, but small changes in baseline (such as, for example, deviations of less than about 5%) correspond with a lower probability (such as, for example, 50% or more) of failure, the processor can be programmed to compare the amplitudes and changes in baseline in a weighted manner. The processor can also be programmed to recognize that one or more deviations over a certain threshold (such as, for example, deviations of about 2%, 5%, 10%, or 25% or more) between each sensor's measurements of various parameters may be indicative of failure. For example, if one, two, three, or more differences (such as, for example, amplitude and changes in sensitivity both vary by over 5%) are detected, then one or more of the sensors can be considered failed, in some embodiments.

Response to Sensor Failures

[0137] Once a sensor failure is detected and identified, the sensor system can be programmed to respond in any one of a variety of ways. In some embodiments, the sensor system can provide a quality score, which indicates how closely the two or more sensors track each other. Thus, the quality score can be indicative of sensor reliability, accuracy, and sensor failure. In some embodiments, the quality score can be a numerical value. Although various scales can be used for the quality score, in one embodiment, a score of 100 can indicate perfect tracking for all measured parameters.
[0138] Some embodiments can include a closed loop analyte sensor system, wherein the system uses one or more sensors to measure in vivo parameters and calculate analyte values, and wherein the system can deliver an appropriate amount of a fluid to the patient (such as, for example, through a pump). Such closed loop systems can monitor and control analyte values in a host. In some embodiments, the analyte measured is glucose, and the fluid delivered is insulin. In some embodiments of a closed loop system, a quality score can be considered by the system in determining a response. In some embodiments, of a closed loop system, a quality score can be considered by the system to control the analyte to a target value. In other embodiments of a closed loop system, a quality score can be considered by the system to control the analyte to a target range of values. For example, if the quality score is high, a closed loop system can respond by controlling the analyte (such as, for example, glucose) to a target value (such as, for example, 72 mg/dL), in some embodiments. In other embodiments, the system can respond by controlling the analyte (such as, for example, glucose) to a narrow target range (such as, for example, from about 70 mg/dL to about 100 mg/dL). A high quality score value is a relative term and depends on the scale used; however, in one embodiment where 100 indicates perfect tracking, a high quality score may be any score above about 60, 65, 75, 80, 85, 90, or 95.
[0139] In some embodiments, for example, if the quality score is at a medium level, the closed loop system can respond by controlling the analyte (such as, for example, glucose) to a broad target range (such as, for example, from about 70 mg/dL to about 1030 mg/dL). A medium quality score value is a relative term and depends on the scale used; however, in one embodiment where 100 indicates a perfect tracking, a medium quality score may be any score between about 20 to about 95, or about 35 to about 85, or about 45 to about 75, or about 55 to about 65, or about 50 or about 60.
[0140] In certain embodiments, if the quality score is low, the closed loop system can respond by controlling the analyte (such as, for example, glucose) to a broad target range (such as, for example, from about 65 mg/dL to about 150 mg/dL). In some embodiments, the system can respond by instructing or notifying the user to use alternative methods (such as, for example, fingerstick glucose monitoring method) to monitor analyte levels. The system can also respond by temporarily or permanently suspending the closed loop system, for example. The system can also respond to a low quality score in other various ways, as further described below with respect to sensor failure. A low value is a relative term and depends on the scale used; however, in one embodiment where 100 indicates a perfect tracking, a low quality score may be any score below about 5, 10, 15, 20, 25, 30, 35, 40, 45, or 50.」(当審訳:「[0134]いくつかの実施形態では、センサ電子機器は、センサ故障のタイプを決定し、識別するために使用される。センサ電子機器はポテンシオスタット、A/Dコンバーター、RAM、ROM、トランシーバ、プロセッサ、及び/又は同様のものを含むことができる。ポテンシオスタットは電極にバイアスを提供するために、センサは、検体濃度値(例えば、mg/dLの単位で表されるグルコース濃度値のような)から収集された生データ(例えば生カウント)を変換するために使用されてもよい。送信機は受信機に第1及び第2の信号(又は別の信号)を伝送するために使用することができる、分析対象物濃度の追加のデータ分析及び/又は較正は、処理することができる。特定の実施形態では、センサ電子機器は、追加の動作、例えば、データフィルタリング及びノイズ解析を実行することができる。
[0135]いくつかの実施形態では、プロセッサは、多数のセンサからのセンサデータを比較するようにプログラムされる。いくつかの実施形態では、プロセッサは、第1のセンサによって測定されたパラメータの大きさと、前記第2センサによって測定されたパラメータの大きさとを比較する。他の実施形態では、プロセッサは、センサデータを予想される公知の又はインビトロの値と比較するようにプログラムされる。いくつかの実施形態では、プロセッサは、第1のセンサによって測定されたパラメータの大きさ及び第2のセンサによって測定されたパラメータの大きさを既知の又はインビトロの値と比較することができる。特定の実施形態では、第1の電極によって測定されたパラメータの大きさが第2の電極により測定されたパラメータの大きさと予め定められた量だけ異なる場合を故障であると識別することができる。
[0136]いくつかの実施形態では、プロセッサは、1つのデータ入力を識別することができるか、あるいは、本明細書中に記載された測定されたパラメータのうちの1つ以上を識別することができる。例えば、プロセッサは、注入後のある時間又は複数の時間に各センサの感度を比較するようにプログラムされる。別の例として、プロセッサは、各センサと既知のインビトロでのベースライン値との間のベースラインの変化を比較することができる。さらに別の例では、プロセッサは、2以上のセンサ間の振幅及び感度の変化を比較するようにプログラムされる。さらに別の例示的な実施形態では、プロセッサは、各センサと既知のインビトロでの値との間のベースラインの変化を比較することができる。複数の測定値が考慮されるいくつかの実施形態では、プロセッサは、各測定値を適切な重みで得られるようにプログラムされる。例えば、振幅の(例えば、偏差が約5%未満であるような)小さな変化が、故障の(例えば90%以上であるような)高い確率に対応するが、(例えば、偏差が約5%未満であるような)ベースラインの僅かな変化は、故障の(例えば、50%以上であるような)低い確率に対応することが知られている場合は、プロセッサは振幅とベースラインが変化とを重み付けした形で比較するようプログラムされる。プロセッサはまた、各センサのさまざまなパラメータの測定値との間の一定のしきい値(例えば、約2%、5%、10%、又は25%以上の偏差)を超える1つ以上の偏差を故障の指標として認識されるようにプログラムされる。例えば、1、2、3又はそれ以上の相違(例えば、振幅と感度の変化が何れも5%を超えるような相違)が検出された場合、いくつかの実施形態においては、1つ以上のセンサが故障したと考えられる。

センサ障害への対応

[0137]センサ故障が検出され認識されると、センサシステムは、様々な方法のうちの任意の1つの応答をするようにプログラムされる。いくつかの実施形態では、センサシステムは、2つ以上のセンサが、いかに密接に互いに追従することができるかを示す品質スコアを提供することができる。このように、品質スコアは、センサの信頼性、精度、及びセンサ故障を示すことができる。いくつかの実施形態では、品質スコアは、数値とすることができる。品質スコアとして様々なスケールを使用することができるが、一実施形態では、100点の得点が測定される全パラメータについて完全に追従していることを示すことができる。
[0138]いくつかの実施形態は、インビボのパラメータを測定し、分析物の値を計算するために一つ以上のセンサを使用し、患者に適切な量の流体を(例えば、ポンプなどで)送達することができる、閉ループ分析対象センサシステムを含むことができる。このような閉ループシステムは、ホストにおいて分析物の値をモニタし、制御することができる。いくつかの実施形態では、測定される分析物は、グルコースであり、送達される流体はインスリンである。閉ループシステムのいくつかの実施形態では、品質スコアは、応答を決定する際にシステムによって考慮される。閉ループシステムのいくつかの実施形態では、品質スコアは、分析物を目標値に制御するためにシステムによって考慮される。閉ループシステムの他の実施形態では、品質スコアは、分析物を値の目標範囲内に制御するためにシステムによって考慮される。例えば、品質スコアが高い場合には、閉ループシステムは、いくつかの実施形態では、分析物(例えば、グルコース)を目標値(例えば、72mg/dL等)に制御するように応答することができる。他の実施形態において、システムは、分析物(例えば、グルコース)を狭い目標範囲(例えば、約70mg/dLから約100mg/dLのような)に制御するという応答を行うことができる。高品質スコア値は相対的な用語であり、使用されるスケールにも依存するが、例えば一実施形態では、100は、完全な追跡を示し、高品質スコアは、約60、65、75、80、85、90、又は95を超える任意のスコアとすることができる。
[0139]いくつかの実施形態では、例えば、品質スコアが中程度である場合、閉ループシステムは、分析物(例えば、グルコース)を広い範囲(例えば、約70mg/dLから約1030mg/dLのような)に制御するように応答することができる。中程度の品質評価値は、相対的な用語であり、使用されるスケールにも依存するが、例えば100が完全な追跡を示す一実施形態では、中程度の品質スコアは、約20?約95、又は約35?約85、又は約45?約75、又は約55?約65、又は約50?約60の範囲のスコアとすることができる。
[0140]特定の実施形態において、品質スコアが低い場合には、閉ループシステムは、分析物(例えば、グルコース)を広い範囲(例えば、約65mg/dLから約150mg/dLのような)に制御するように応答することができる。いくつかの実施形態では、システムは、検体のレベルを監視するための代替方法(例えば、フィンガースティックグルコースモニタ法など)を使用することをユーザに指示する又は通知するという応答を行うことができる。また、システムは、例えば、閉ループシステムを一時的に又は永久的に停止するという応答を行うことができる。システムはまた、センサ故障に関連して以下に詳細に説明する、他の種々の方法で低品質スコアに応答することができる。低い値は、相対的な用語であり、使用されるスケールにも依存するが、例えば100が完全な追跡を示す一実施形態では、約5、10、15、20、25、30、35、40、45、又は50未満の任意の点数が低い品質スコアである。」)


(イ)引用文献1に記載された発明
a 上記(引1a)?(引1c)において、「システム」、「センサシステム」、「閉ループ分析対象センサシステム」及び「閉ループシステム」は、何れも同じものを指していることから、「センサシステム」として整理した。また、「センサ」及び「センサ電子機器」は、同じものを指していることから、「センサ」として整理した。

b aを踏まえると、上記(引1a)?(引1c)より、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「センサデータを処理するセンサ機能の変化に応答するためのセンサシステム、及び方法において、
センサシステム、及び方法は、
連続的なグルコースの値を提供するように構成された複数のセンサを含み、
2つ以上のセンサは、インビボでパラメータを測定し、
インビボでの特性を測定し、センサデータを処理し、センサの故障を識別し、そして、障害に応答するために使用され、
センサは、
センサ故障のタイプを決定し、識別するために使用され、
ポテンシオスタット、A/Dコンバーター、RAM、ROM、トランシーバ、プロセッサを含み、

プロセッサは、
多数のセンサからのセンサデータを比較するようにプログラムされ、
第1のセンサによって測定されたパラメータの大きさと、前記第2センサによって測定されたパラメータの大きさとを比較し、
第1の電極によって測定されたパラメータの大きさが第2の電極により測定されたパラメータの大きさと予め定められた量だけ異なる場合を故障であると識別し、

センサシステムは、
センサ故障が検出され認識されると、様々な方法のうちの任意の1つの応答をするようにプログラムされ、
2つ以上のセンサが、いかに密接に互いに追従することができるかを示す品質スコアを提供し、
インビボのパラメータを測定し、分析物の値を計算するために一つ以上のセンサを使用して、患者に適切な量の流体を送達することができ、
測定される分析物は、グルコースであり、送達される流体はインスリンであり、

品質スコアは、
センサの信頼性、精度、及びセンサ故障を示し、
応答を決定する際にセンサシステムによって考慮され、
分析物を目標値に制御するためにセンサシステムによって考慮され、

センサシステムは、
品質スコアが高い場合には、分析物を72mg/dL等の目標値に制御し、
品質スコアが中程度である場合、分析物を約70mg/dLから約1030mg/dLのような広い範囲に制御し、
品質スコアが低い場合には、分析物を約65mg/dLから約150mg/dLのような広い範囲に制御する
センサデータを処理するセンサ機能の変化に応答するためのセンサシステム及び方法。」

イ 参考文献について
本件補正により追加された「前記生成することは、基礎またはボーラス値を決定することを含」む点についての技術を示す文献として、以下の参考文献を示す。

(ア)特表2013-517841号公報(以下「参考文献1」という。)に記載された事項
参考文献1には、以下の事項が記載されている。

(参1a)「【0040】
流体送達デバイスのいくつかの実施形態は、糖尿病と生きる人々および/または彼らの介護者による使用のために適合される。したがって、これらの実施形態において、デバイス、方法、およびシステムは、糖尿病と生きる人(ユーザと称される)の膵島細胞の作用を補助する、または補う、インスリンを送達するのに役立つ。インスリン送達に適合される実施形態は、基礎レベルの流体送達ならびにボーラスレベルの送達の両方を提供することによって、膵臓の作用を模倣することを追求する。基礎レベル、ボーラスレベル、およびタイミングは、無線手持ち式ユーザインターフェースを使用することによってユーザもしくは介護者によって設定されてもよく、またはポンプを使用することによって直接設定されてもよい。さらに、基礎レベルおよび/またはボーラスレベルは、グルコースメータの出力に応答して、トリガされるか、または調節されてもよく、例示的実施形態において、コントローラに一体化される。他の実施形態において、コントローラは、さらに、血糖グルコースセンサからデータを受信する、グルコース監視デバイスを含む。いくつかの実施形態において、ボーラスは、デバイス上、すなわち、コントローラ上および/もしくは注入ポンプ上に位置する指定ボタンまたは他の入力手段を使用して、ユーザによってトリガされてもよい。さらに他の実施形態において、ボーラスまたは基礎は、流体送達デバイス/注入ポンプの上、および/またはコントローラの上のいずれかに位置するユーザインターフェースを通じてプログラムされるか、または投与されてもよい。」

(イ)特開2007-14751号公報(以下「参考文献2」という。)に記載された事項
参考文献2には、以下の事項が記載されている。

(参2a)「【0034】
図5で原点を通る直線aの下方にプロットされた特性障害数は、第二の領域IIに割り当てられたものである。領域IIは、障害値の平均値が対応する標準偏差より大きい場合を含む。このために、領域IIの特性障害数は、血中グルコース濃度が長時間にわたって目標範囲から大きく乖離していた場合の指標となる。したがって、領域IIの特性障害数に基づいて、インスリン投与の基礎量がうまく滴定されていないと結論付けることができる。血中グルコース濃度が実際の目標範囲の低血糖側に乖離である場合、基礎量を低減しなければならない。また、高血糖側への乖離が明白な場合には、基礎量を増加しなければならない。
【0035】
図5で原点を通る直線bの上方にプロットされた特性障害数は、第三の領域IIIに割り当てられたものである。第三の領域の特性障害数は、検査した時間間隔について算出した加重関数の変数の平均値に対する標準偏差、つまり障害値、が平均値そのものよりかなり大きい、たとえば20%を超えている、ことを示す。したがって、領域IIIは、障害値が短時間のうちに大きく変動する場合を含む。このことは、翻って、基礎となった一連のグルコース濃度が目標範囲から短時間乖離していたことを示す。一般に、そのような乖離は食事または運動に伴って生じるために、食事または運動をした場合にはボーラス投与、つまりインスリンの追加投与、の量を最適になるように調節しなければならない。」

(ウ)周知技術について
a 上記(参1a)より、参考文献1には、「基礎レベルおよび/またはボーラスレベルは、グルコースメータの出力に応答して、・・・調節され・・・血糖グルコースセンサからデータを受信する」、と記載されており、「グルコースメータの出力」である「血糖グルコースセンサから」「受信する」「データ」は、「血中のグルコース濃度」であって、「基礎レベル」及び「ボーラスレベル」は、「基礎値」及び「ボーラス値」であるから、参考文献1には、「測定された血中のグルコース濃度から、基礎またはボーラス値を決定すること」が記載されているといえる。

b 上記(参2a)より、参考文献2には、「血中グルコース濃度が実際の目標範囲の低血糖側に乖離である場合、基礎量を低減しなければならない。また、高血糖側への乖離が明白な場合には、基礎量を増加しなければならない。」「基礎となった一連のグルコース濃度が目標範囲から短時間乖離していた・・・食事または運動をした場合にはボーラス投与の量を最適になるように調節しなければならない。」と記載されており、「基礎量」及び「ボーラス投与の量」は、「基礎値」及び「ボーラス値」であって、「血中グルコース濃度」は、当然測定されたものであるから、参考文献2には、「測定された血中のグルコース濃度から、基礎またはボーラス値を決定すること」が記載されているといえる。

c 以上a及びbより、参考文献1及び2には、何れも、「測定された血中のグルコース濃度から、基礎またはボーラス値を決定すること」が記載されているといえるから、「測定された血中のグルコース濃度から、基礎またはボーラス値を決定すること」は周知技術であるといえる。

(3)引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「センサシステム」は、「連続的なグルコースの値を提供するように構成された複数のセンサを含み、2つ以上のセンサは、インビボでパラメータを測定し」ており、「測定される分析物は、グルコースであ」るから、引用発明の「連続的」に「測定される分析物」である「グルコースの値を」「インビボで」「測定」する「センサシステム」は、本件補正発明の「システムによって実行される、インビボ連続検体監視システム」に相当する。そして、引用発明の「センサシステム、および方法」は、「センサの故障を識別し、そして、障害に応答するために使用され」、「センサ」は、「連続的」に「測定される分析物」である「グルコースの値を」「インビボで」「測定」するものであるから、引用発明の、「連続的」に「測定される分析物」である「グルコースの値を」「インビボで」「測定」する「センサの故障を識別し、そして、障害に応答するために使用され」る「方法」は、本件補正発明の「システムによって実行される、インビボ連続検体監視システムにおける故障に応答して応答処理を実施するための方法」に相当する。

(イ)引用発明の「センサ」及び「センサデータ」は、それぞれ、本件補正発明の「検体モニタ」及び「信号」に相当する。そして、引用発明の「センサシステム、および方法」は、「インビボでの特性を測定し、センサデータを処理し」ており、「インビボでの特性」は、「センサ」が「測定しいる」から、引用発明の「方法」は、「センサデータ」を「センサ」から受信しているといえる。
すると、引用発明の「センサデータ」を「センサ」から受信することは、本件補正発明の「検体モニタから信号を受信すること」に相当する。

(ウ)引用発明は、「第1のセンサによって測定されたパラメータの大きさと、前記第2センサによって測定されたパラメータの大きさとを比較し、第1の電極によって測定されたパラメータの大きさが第2の電極により測定されたパラメータの大きさと予め定められた量だけ異なる場合を故障であると識別し」ており、「第1のセンサによって測定されたパラメータの大きさと、前記第2センサによって測定されたパラメータの大きさとを比較し、第1の電極によって測定されたパラメータの大きさが第2の電極により測定されたパラメータの大きさと予め定められた量だけ異なる場合」は、「第1のセンサによって測定されたパラメータの大きさと、前記第2センサによって測定されたパラメータの大きさと」の差を「予め定められた量」と比較することであるから、この「第1のセンサによって測定されたパラメータの大きさと、前記第2センサによって測定されたパラメータの大きさと」の差及び「予め定められた量」は、それぞれ本件補正発明の「臨床文脈データ」及び「臨床文脈基準」に相当する。

(エ)引用発明の「第1のセンサによって測定されたパラメータ」及び「前記第2センサによって測定されたパラメータ」は、何れも「センサデータ」であって、引用発明の「方法」は、「センサデータ」を「センサ」から受信している。そして、引用発明の「方法」は、「センサ」から受信された「第1のセンサによって測定されたパラメータ」及び「前記第2センサによって測定されたパラメータ」から「プロセッサ」により「第1のセンサによって測定されたパラメータの大きさと、前記第2センサによって測定されたパラメータの大きさと」の差を計算しているから、引用発明の「方法」は、「第1のセンサによって測定されたパラメータの大きさと、前記第2センサによって測定されたパラメータの大きさと」の差は、「センサ」から受信したものであるといえる。
そうすると、引用発明の「センサ」から受信した「第1のセンサによって測定されたパラメータの大きさと、前記第2センサによって測定されたパラメータの大きさと」から、「プロセッサ」が、それらの差を計算することは、本件補正発明の「臨床文脈データを受信すること」に相当するといえる。

(オ)引用発明の「品質スコア」は「2つ以上のセンサが、いかに密接に互いに追従することができるかを示」し、「応答を決定する際にセンサシステムによって考慮され」るものであって、本件補正発明の「臨床文脈情報」も、「臨床文脈情報に基づいて、応答処理を実施すること」から、「応答処理を実施する」際に考慮されるものである。
すると、引用発明の「品質スコア」は、本件補正発明の「臨床文脈情報」に相当する。
また、引用発明の「品質スコアは、センサの信頼性、精度、およびセンサ故障を示し」ており、引用発明の「センサシステム」の「プロセッサ」は、「第1の電極によって測定されたパラメータの大きさが第2の電極により測定されたパラメータの大きさと予め定められた量だけ異なる場合を故障であると識別し」ていることから、引用発明の「品質スコア」と、「第1のセンサによって測定されたパラメータの大きさと、前記第2センサによって測定されたパラメータの大きさと」の差及び「予め定められた量」とは、いずれも故障に関連したものであるから、両者は関連した値であるといえる。
そうすると、引用発明の「第1のセンサによって測定されたパラメータの大きさと、前記第2センサによって測定されたパラメータの大きさと」の差及び「予め定められた量」に関連した「品質スコアを提供」することと、本件補正発明の「前記受信された臨床文脈データを臨床文脈基準に対して評価して、臨床文脈情報を決定すること」とは、「前記受信された臨床文脈データ及び臨床文脈基準に関連した、臨床文脈情報を決定すること」で共通する。

(カ)引用発明の「センサシステム」は、「インビボでの特性を測定し、センサデータを処理し、センサの故障を識別し、そして、障害に応答するために使用され」るものであって、「インビボのパラメータを測定し」、「品質スコアを提供し」、「センサ故障が検出され認識されると」、「患者に適切な量の流体を送達する」ものであるから、引用発明の「障害」への「応答」は、「インビボのパラメータを測定し」、「品質スコアを提供し」、「患者に適切な量の流体を送達する」ことであるといえる。そして、「患者」へ「送達される」「適切な量の流体」は、「センサデータ」に基づいて決定されるものである。また、引用発明の「品質スコア」は、「応答を決定する際にセンサシステムによって考慮され」るものである。
そうすると、引用発明の「障害」への「応答」は、「センサデータ」及び「品質スコア」に基づいて実施されているといえるから、引用発明の「センサデータ」及び「品質スコア」に基づいて、「障害」への「応答」を実施することは、本件補正発明の「少なくとも前記受信された信号及び前記決定された臨床文脈情報に基づいて、応答処理を実施すること」に相当する。

(キ)引用発明は、「品質スコアを提供し」た後、「品質スコアが高い場合」、「品質スコアが中程度である場合」及び「品質スコアが低い場合」に分けており、それぞれの場合に応じて、「分析物」の「目標値」の範囲を決定している。そして、「品質スコア」は、「2つ以上のセンサが、いかに密接に互いに追従することができるかを示す」ものであって、「2つ以上のセンサが、いかに密接に互いに追従することができるか」を示す「品質スコア」を、「高い場合」、「中程度である場合」及び「低い場合」に分けることは、自己診断を実施することであるといえるから、引用発明の「品質スコア」を、「高い場合」、「中程度である場合」及び「低い場合」に分けることは、本件補正発明の「自己診断ルーチンを実施すること」に相当する。

(ク)通常、「分析物」である血中のグルコース濃度は、「患者」へ「送達される」「流体」であるインスリンの量により制御されるものであって、引用発明の「分析物」の「目標値」は、「患者」へ「送達される」「流体」の「適切な量」を決定するためのものであるから、引用発明の「分析物」の「目標値」は、本件補正発明の「薬剤送達デバイスによって利用可能なデータ」に相当する。
そして、引用発明の、「患者」へ「送達される」「流体」の「適切な量」を決定することと、本件補正発明の「前記生成することは、基礎またはボーラス値を決定すること」とは、「前記生成することは、適切な流体の量を決定すること」で共通する。

(ケ)引用発明は、「センサ故障が検出され認識されると」、「品質スコアを提供し」、「分析物」の「目標値」の範囲を、「品質スコアが高い場合」は、「72mg/dL等の目標値に制御」するのに対し、「品質スコアが中程度である場合」は、「約70mg/dLから約1030mg/dLのような広い範囲に制御し」、「品質スコアが低い場合」は、「約65mg/dLから約150mg/dLのような広い範囲に制御」していることから、「品質スコア」に基づいて「分析物」の「目標値」を決定している。そして、この「分析物」の「目標値」の範囲は、「期待される検体濃度値」であるといえるから、引用発明の「センサ故障が検出され認識されると」、「品質スコアを提供し」、「品質スコア」に基づいて「分析物」の「目標値」の範囲を決定することは、本件補正発明の「前記故障を保証するステップを実施すること」及び「前記故障の持続時間にわたり前記臨床文脈情報に基づいて、予測、予想、または期待される検体濃度値を決定すること」に相当する。

イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

(一致点)「システムによって実行される、インビボ連続検体監視システムにおける故障に応答して応答処理を実施するための方法であって、前記方法は、
検体モニタから信号を受信することと、
臨床文脈データを受信することと、
前記受信された臨床文脈データ及び臨床文脈基準に関連した、臨床文脈情報を決定することと、
少なくとも前記受信された信号及び前記決定された臨床文脈情報に基づいて、応答処理を実施することと、を含み、
前記応答処理を実施することは、自己診断ルーチンを実施することと、薬剤送達デバイスによって利用可能なデータを生成することと、故障を保証するステップを実施することと、を含み、
前記生成することは、適切な流体の量を決定することを含み
前記故障を保証するステップを実施することは、前記故障の持続時間にわたり前記臨床文脈情報に基づいて、予測、予想、または期待される検体濃度値を決定することを含む、方法。」

(相違点1)「臨床文脈情報」が、本件補正発明は、「前記受信された臨床文脈データを臨床文脈基準に対して評価して」「決定」されるものであるのに対し、引用発明は、「第1のセンサによって測定されたパラメータの大きさと、前記第2センサによって測定されたパラメータの大きさと」の差及び「予め定められた量」に関連したものであって、「第1のセンサによって測定されたパラメータの大きさと、前記第2センサによって測定されたパラメータの大きさと」の差を「予め定められた量」に対して評価することにより決定されたものであるか不明な点。

(相違点2)「適切な流体の量を決定すること」が、本件補正発明は、「基礎またはボーラス値を決定すること」であるのに対し、引用発明は、「患者」へ「送達される」「流体」の「適切な量」を決定することである点。

(4)判断
ア 相違点について
以下、相違点について検討する。

(ア)相違点1について
「2つ以上のセンサが、いかに密接に互いに追従することができるかを示す」「品質スコア」を、どのような方法で算出するかは、適宜選択されるものであって、関連している「第1のセンサによって測定されたパラメータの大きさと、前記第2センサによって測定されたパラメータの大きさと」の差及び「予め定められた量」から、「第1のセンサによって測定されたパラメータの大きさと、前記第2センサによって測定されたパラメータの大きさと」の差を「予め定められた量」に対して評価することにより算出する方法も当該技術分野において常套手段であるから、「品質スコア」の決定方法として、「第1のセンサによって測定されたパラメータの大きさと、前記第2センサによって測定されたパラメータの大きさと」の差を「予め定められた量」に対して評価することにより算出する方法を選択することは、当業者が容易に想到できたことであるといえる。

(イ)相違点2について
上記(2)イ(ウ)で検討したとおり、「測定された血中のグルコース濃度から、基礎またはボーラス値を決定すること」は周知であって、引用発明の「方法」において、「測定」された「連続的なグルコースの値」から、「患者」へ「送達される」「流体」の「適切な量」として、基礎またはボーラス値を決定するとすることは、当業者が容易に想到できたことであるといえる。

イ 作用効果について
本件補正発明の奏する作用効果は、引用文献1、参考文献1及び2に記載された技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

ウ 小括
したがって、本件補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
令和2年7月2日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和元年9月20日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?40に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項3に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項3に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1?40に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1.米国特許出願公開第2014/0005505号明細書

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(2)アに記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「前記応答処理を実施すること」が、「薬剤送達デバイスによって利用可能なデータを生成することと、故障を保証するステップを実施することと、を含」むものであって、「前記生成することは、基礎またはボーラス値を決定することを含み、前記故障を保証するステップを実施することは、前記故障の持続時間にわたり前記臨床文脈情報に基づいて、予測、予想、または期待される検体濃度値を決定することを含む」旨の限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明と引用発明とを対比すると、上記[理由]2(3)イで検討した相違点の内相違点1のみで相違することとなり、相違点1は前記第2の[理由]2(4)ア(ア)に記載したとおり、引用発明に基づいて、当業者が容易に想到できたものであるから、本願発明も、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2021-05-17 
結審通知日 2021-05-24 
審決日 2021-06-09 
出願番号 特願2016-568836(P2016-568836)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
P 1 8・ 575- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼ 芳徳  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 福島 浩司
渡戸 正義
発明の名称 データ及び文脈に基づいた故障判別及び応答処理方法、システム、および装置  
代理人 実広 信哉  
代理人 村山 靖彦  
代理人 阿部 達彦  

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