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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01M
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01M
管理番号 1379459
審判番号 不服2021-899  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-01-22 
確定日 2021-11-16 
事件の表示 特願2016-134388「情報端末の制御方法及び情報端末」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 3月 2日出願公開、特開2017- 45718、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成28年7月6日(優先権主張 平成27年8月28日)の出願であって、令和2年7月10日付け拒絶理由通知に対する応答時、同年8月20日に手続補正がなされたが、同年12月18日付けで拒絶査定(原査定)がなされ、これに対して、令和3年1月22日に拒絶査定不服審判の請求及び手続補正がなされ、当審による同年8月4日付け拒絶理由通知に対する応答時、同年9月9日に手続補正がなされたものである。

第2 本願発明

本願の請求項1ないし7に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明7」という。)は、令和3年9月9日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される、次のとおりの発明である。
「【請求項1】
情報端末の制御方法であって、
電動移動体に搭載される蓄電装置において、前記蓄電装置に設けられた検出器により検出された前記蓄電装置の状態を示す情報から前記情報端末の使用者が前記電動移動体を利用したと判定されると、前記情報端末の通信器であり前記蓄電装置と近距離無線通信する通信器である第1通信器を介して、前記蓄電装置の状態を示す情報を取得するステップと、
前記蓄電装置の状態を示す情報を、前記情報端末の通信器でありサーバ装置と通信する通信器である第2通信器を介して、前記サーバ装置に送信するステップとを備える、
情報端末の制御方法。
【請求項2】
前記電動移動体に搭載される前記蓄電装置において、前記蓄電装置に設けられた検出器により検出された前記蓄電装置の状態を示す情報から前記電動移動体の利用が開始されたと判定されると、前記第1通信器を介して、前記蓄電装置の状態を示す情報を取得する、
請求項1に記載の情報端末の制御方法。
【請求項3】
前記電動移動体に搭載される前記蓄電装置において、前記蓄電装置に設けられた検出器により検出された前記蓄電装置の状態を示す情報から前記電動移動体の利用が終了したと判定されると、前記第1通信器を介して、前記蓄電装置の状態を示す情報を取得する、
請求項1に記載の情報端末の制御方法。
【請求項4】
さらに、前記蓄電装置の状態を示す情報の取得中であることを報知するステップを備える、
請求項1?3のいずれか1項に記載の情報端末の制御方法。
【請求項5】
前記電動移動体に搭載される前記蓄電装置において、前記蓄電装置に設けられた検出器により検出された前記蓄電装置の状態を示す情報から前記電動移動体の利用が継続されていると判定されると、定期的に前記第1通信器を介して前記蓄電装置の状態を示す情報を取得し、
前記電動移動体に搭載される前記蓄電装置において、前記蓄電装置に設けられた検出器により検出された前記蓄電装置の状態を示す情報から前記電動移動体の利用が終了したと判定されると、定期的に前記第1通信器を介して取得された前記情報のうち前記電動移動体の利用終了に最も近いときに前記第1通信器を介して取得された情報を、前記第2通信器を介して前記サーバ装置に送信する、
請求項1に記載の情報端末の制御方法。
【請求項6】
請求項1に記載の情報端末の制御方法を前記情報端末に実行させるためのプログラム。
【請求項7】
蓄電装置と近距離無線通信する第1通信器と、
サーバ装置と通信する第2通信器と、
電動移動体に搭載される前記蓄電装置において、前記蓄電装置に設けられた検出器により検出された前記蓄電装置の状態を示す情報から情報端末の使用者が前記電動移動体を利用したと判定されると、前記第1通信器を介して、前記蓄電装置の状態を示す情報を取得し、前記蓄電装置の状態を示す情報を、前記第2通信器を介して、前記サーバ装置に送信する制御器とを備える、
情報端末。」

第3 当審の拒絶の理由について

1.当審拒絶理由の概要
当審において令和3年8月4日付けで通知した拒絶理由の概要は、次のとおりである。

本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備なため、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。

(1)請求項6において、「前記情報端末の状態を示す情報から前記情報端末の使用者が前記電動移動体を利用したと判定するステップと、・・・情報端末の制御方法。」と記載されており、かかる記載によれば、情報端末の使用者が電動移動体を利用したとの判定を、「情報端末」が「情報端末の状態を示す情報」から行うものと解される。一方、請求項6が引用する請求項1における「電動移動体に搭載される蓄電装置において、・・・前記蓄電装置の状態を示す情報から前記情報端末の使用者が前記電動移動体を利用したと判定されると」なる記載によれば、情報端末の使用者が電動移動体を利用したとの判定を、「蓄電装置」が「蓄電装置の状態を示す情報」から行うものと解される。そうすると、請求項6に係る発明は、情報端末の使用者が電動移動体を利用したとの判定を、「蓄電装置」が「蓄電装置の状態を示す情報」から行うだけでなく、「情報端末」が「情報端末の状態を示す情報」からも行うということになる。しかしながら、発明の詳細な説明には、電動移動体が利用されたか否かについて、「蓄電装置」が「蓄電装置の状態を示す情報」等の判定基準により判定する例(段落【0131】?【0161】、図6?9)と、「情報端末」が「情報端末の状態を示す情報」により判定し、さらに「蓄電装置の状態を示す情報(具体的には蓄電装置の負荷電流)」により利用されたことを確認する例(段落【0162】?【0189】、図10?13)がそれぞれ記載されているものの、上述したように、情報端末の使用者が電動移動体を利用したとの判定を、「蓄電装置」が「蓄電装置の状態を示す情報」から行うだけでなく、「情報端末」が「情報端末の状態を示す情報」からも行うようなことは記載されていない。
よって、請求項6に係る発明及び請求項6を引用する請求項7,8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとは認められない。

(2)請求項8における「前記情報端末の状態を示す情報から前記情報端末の使用者が前記電動移動体を利用したと判定するステップと」なる記載について、上記(1)と同様のことがいえ、この点において請求項8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとは認められない。
さらに、請求項8に記載の特定事項と請求項8が引用する請求項6に記載の特定事項との技術的関係が明らかでなく、この点において請求項8に係る発明は明確でない。

2.当審拒絶理由についての判断
上記(1)及び(2)の指摘に対して、令和3年9月9日の手続補正により、拒絶の理由の対象となった補正前の請求項6ないし8はすべて削除された。
したがって、当審拒絶理由で指摘した不備な点は解消され、本件出願は、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしているものである。

第4 原査定について

1.原査定の概要
原査定(令和2年12月18日付け拒絶査定)の概要は以下のとおりである。
(進歩性)この出願の請求項1ないし7、10、11に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1に記載された発明及び周知の技術(引用文献2ないし5に記載された技術)に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2004-6136号公報
引用文献2:特開2015-97689号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3:特開2003-33048号公報(周知技術を示す文献)
引用文献4:実開平4-121158号公報(周知技術を示す文献)
引用文献5:特開平3-284088号公報(周知技術を示す文献)

2.原査定についての判断
(1)引用文献、引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1(特開2004-6136号公報)には、「車両管理システム」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「【0007】
【発明の実施の形態】
図1は、本実施形態に係るネットワークを用いた車両管理システムの全体構成図である。この管理システムは、各ユーザが保有する車両(ハイブリッド自動車や電気自動車)に搭載された組電池システム100の動作状況をリアルタイムで管理するとともに、各ユーザに対して最新の情報を随時提供する。組電池システム100は、車両の駆動系に電力を供給する。また、それぞれの組電池システム100には、通信ユニットが内蔵されている。組電池システム100の動作状況に関するデータは、無線通信端末110を介した無線通信ネットワークによって、外部システムである中央情報管理センタ151に送信される。中央情報管理センタ151が組電池システム100よりデータを受信した場合、ホストコンピュータ151aは、受信したデータを管理データベースに蓄積する。したがって、多数のユーザより随時受信した膨大なデータは、この管理データベースによって一元的に管理される。
【0008】
組電池システム100と中央情報管理センタ151との間のデータ通信には、基地局を介した移動体無線通信システムや人工衛星を介した衛星通信システム等を利用することができる。また、組電池システム100のデータを送信する無線通信端末110としては、組電池システム100にハーネスを介して接続する形態の通信端末でもよいが、ワイヤレス通信によって組電池システム100と切り離して携帯可能な小型通信端末を採用することが望ましい。本実施形態では、携帯可能な通信端末として、組電池システム100との間でワイヤレス通信を行うための通信回路を内蔵した専用の携帯型電話機(携帯電話)を用いている。なお、ユーザが既に携帯電話を所有している場合には、ユーザの携帯電話に接続してデータ通信を行う端末でもよい。
【0009】
車両に搭載される組電池システム100が単一の場合、このシステム100に、無線通信端末110との間のワイヤレス通信を制御するための通信回路が内蔵される。また、車両に搭載される組電池システム100が複数の場合、例えば、図2に示すように、組電池システム#01,#02,#03,#04,#05,・・・が搭載されている場合、これらがネットワーク101を介して互いに接続され、送信すべきデータが一元化されることが好ましい。例えば、ネットワーク101上の特定の組電池システム(例えば、#01)にワイヤレス通信を制御するための通信回路#01aが内蔵される。なお、ネットワーク101は、リアルタイム制御に適した車両用のネットワークである。また、ワイヤレス通信方式としては、例えば、近距離無線通信の標準規格であるブルートゥース(Bluetooth)を採用してもよい。なお、通信回路#01aは、ユーザ専用の無線通信端末110との間のワイヤレス通信以外にも、工場の生産ラインにおけるラインエンドの検査ツールとの間で、或いは、ディーラ等のサービス工場におけるサービスツールとの間で、ワイヤレス通信を行うことも可能である。」

イ.「【0011】
以上のような構成を有する車両管理システムでは、工場の生産ラインにおけるラインエンド156で、検査ツール156bを用いて、個々の車両に搭載される組電池システム100に関するデータの初期値を管理データベースに蓄積する。最適学習値や最適定数等は、このデータベースに蓄積された初期データを解析することによって算出される。出荷される組電池システム100には、これらの値がセットされる。そして、市場への出荷後は、蓄積対象となるデータとして、ユーザから送信されたデータが加えられる。この場合、それぞれのユーザは、自己の車両が稼働状態の場合には、停車中か走行中かに拘わらず、組電池システム100に関するデータを中央情報管理センタ151に随時送信することが可能である。すなわち、自己の車両に搭載された組電池システム100の状態を知りたい場合、ユーザは、無線通信端末110を用いて中央情報管理センタ151にデータを送信することによって、組電池システム100の状態を示す情報を受信することができる。特に、走行中の車両から無線通信によってリアルタイムでデータを送信できるため、走行中にしか現れない異常や再現性の希薄な異常への対処が容易になる。
【0012】
中央情報管理センタ151にデータを送信する場合、ユーザは、無線通信端末110に予めセットされている特定の番号を押すだけよい。これにより、組電池システム#01とのワイヤレス通信が自動的にスタンバイし、中央情報管理センタ151が呼び出される。そして、無線通信端末110と中央情報管理センタ151との接続が確立すると、車両内のネットワーク101を介して、通信回路#01aより識別情報(本実施形態では車体番号)付のデータが無線通信端末110に送信される。そして、これにユーザの識別コード等が負荷されて、無線通信端末110から中央情報管理センタ151にデータが送信される。」

ウ.「【0016】
組電池2を構成する一連の電池セル20は、一方向からみた場合に、表面と裏面とが交互に反転するように配置されている。したがって、隣接した2つの電池セル20において、正極の電極タブ21と負極の電極タブ21とは互いに対向する。そして、互いに対向して隣接した電極タブ21同士を接続することによって、一連の電池セル20が直列に接続される。そして、組電池2における右上端の電極タブ21は、電流センサ6とリレー7とを介して、互いに並列な2つの正極コネクタ3aに接続されている。電流センサ6は、組電池2の充放電電流を検出する。この検出結果は、電流制限値の管理や組電池2の残存容量を算出する際に用いられる。また、リレー7は、図示しない外部システムから供給される制御信号によって制御され、故障した組電池システム100の電流経路を遮断する。一方、組電池2における左下端の電極タブ21は、互いに並列な2つの負極コネクタ3bに接続されている。」

エ.「【0029】
コントローラ9は、このようにして算出された残存容量SOCを診断結果として無線通信ユニット11に出力する。無線通信ユニット11は、コントローラ9からの診断結果を、無線通信によって、外部システムである中央情報管理センタ151に送信する。この診断結果を受信した中央情報管理センタ151は、管理データベースに今回受信したデータを蓄積することにより、組電池システム100に関する診断結果を蓄積・管理する。」

オ.「



上記「ア.」ないし「オ.」から以下のことがいえる。
・上記「ア.」の段落【0007】の記載によれば、引用文献1に記載の「車両管理システム」は、ユーザが保有する車両(ハイブリッド自動車や電気自動車)に搭載され、当該車両の駆動系に電力を供給する組電池システム100の動作状況をリアルタイムで管理するようにしたシステムに関するものである。
・上記「ア.」の記載、及び「オ.」(図1)によれば、車両管理システムにおける組電池システム100には、例えば近距離無線通信(ブルートゥース)などのワイヤレス通信を行うための通信回路が内蔵されており、組電池システム100の動作状況に関するデータは、組電池システム100との間でワイヤレス通信を行うための通信回路を内蔵した無線通信端末110に送信され、さらに無線通信端末110から移動体無線通信システム等を利用して中央情報管理センタ151に送信され、中央情報管理センタ151のホストコンピュータ151aは受信したデータを管理データベースに蓄積するようにしてなるものである。
・上記「イ.」の記載によれば、組電池システム100の動作状況に関するデータの送信に関して、ユーザは、自己の車両が稼働状態の場合、データを中央情報管理センタ151に随時送信することが可能であり、ユーザは、無線通信端末110に予めセットされている特定の番号を押すことにより、組電池システム100とのワイヤレス通信が自動的にスタンバイし、中央情報管理センタ151を呼び出して接続が確立すると、データが無線通信端末110を介して中央情報管理センタ151に送信されてなるものである。
・上記「ウ.」、「エ.」の記載によれば、組電池システム100における組電池2には充放電電流を検出する電流センサ6が接続され、その検出結果から組電池2の残存容量SOCが算出され、かかる残存容量SOCが組電池システム100の動作状況に関するデータの一つとして中央情報管理センタ151に送信されてなるものである。

以上のことから、特に車両管理システムに用いられる無線通信端末110に着目し、組電池システム100の動作状況に関するデータとして組電池2の残存容量SOCを当該無線通信端末110を介して中央情報管理センタ151に送信する動作を「無線通信端末110の制御方法」の発明として捉え、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「ユーザが保有する車両(ハイブリッド自動車や電気自動車)に搭載され、当該車両の駆動系に電力を供給する組電池システムの動作状況をリアルタイムで管理するようにした車両管理システムに用いられる無線通信端末の制御方法であって、
ワイヤレス通信としての近距離無線通信(ブルートゥース)を行うための通信回路が内蔵された前記組電池システムにおいて、前記組電池システムの組電池に充放電電流を検出するために接続された電流センサの検出結果から当該組電池の残存容量が算出され、ユーザは、自己の車両が稼働状態の場合、残存容量に関するデータを中央情報管理センタに随時送信することが可能であり、ユーザが、前記組電池システムとの間で前記ワイヤレス通信を行うための通信回路を内蔵した前記無線通信端末に予めセットされている特定の番号を押すことにより、前記組電池システムとの前記ワイヤレス通信が自動的にスタンバイし、前記中央情報管理センタを呼び出して接続が確立すると、前記無線通信端末は前記ワイヤレス通信を行うための通信回路を介して前記残存容量に関するデータを受信し、
さらに、前記残存容量に関するデータを、前記無線通信端末から移動体無線通信システムを利用して前記中央情報管理センタに送信し、前記中央情報管理センタのホストコンピュータが受信した前記残存容量に関するデータを管理データベースに蓄積する、無線通信端末の制御方法。」

(2)対比・判断
(2-1)本願発明1について
ア.対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明におけるユーザが保有する「車両(ハイブリッド自動車や電気自動車)」、当該車両に搭載され当該車両の駆動系に電力を供給する「組電池システム」は、それぞれ本願発明1でいう「電動移動体」、電動移動体に搭載される「蓄電装置」に相当する。
また、引用発明における「無線通信端末」、当該無線通信端末に内蔵され、組電池システムとの間でワイヤレス通信としての「近距離無線通信(ブルートゥース)を行うための通信回路」は、それぞれ本願発明1でいう「情報端末」、当該情報端末の通信器であり蓄電装置と近距離無線通信する通信器である「第1通信器」に相当する。
さらに、引用発明における充放電電流を検出するために組電池システムの組電池に接続された「電流センサ」、当該電流センサの検出結果から算出される組電池の「残存容量に関するデータ」は、それぞれ本願発明1でいう蓄電装置に設けられた「検出器」、当該検出器により検出された「蓄電装置の状態を示す情報」に相当する。
そして、引用発明において「ユーザが、前記組電池システムとの間で前記ワイヤレス通信を行うための通信回路を内蔵した前記無線通信端末に予めセットされている特定の番号を押すことにより、前記組電池システムとの前記ワイヤレス通信が自動的にスタンバイし、前記中央情報管理センタを呼び出して接続が確立すると、前記無線通信端末は前記ワイヤレス通信を行うための通信回路を介して前記残存容量に関するデータを受信」することは、本願発明1でいう「第1通信器を介して、前記蓄電装置の状態を示す情報を取得するステップ」に相当する。
したがって、本願発明1と引用発明とは、「前記情報端末の通信器であり(電動移動体に搭載される)蓄電装置と近距離無線通信する通信器である第1通信器を介して、(前記蓄電装置に設けられた検出器により検出された)前記蓄電装置の状態を示す情報を取得するステップ」を備える点で共通するといえる。
ただし、第1通信器を介して蓄電装置の状態を示す情報を取得するステップが、本願発明1では「電動移動体に搭載される蓄電装置において、前記蓄電装置に設けられた検出器により検出された前記蓄電装置の状態を示す情報から前記情報端末の使用者が前記電動移動体を利用したと判定」されると行われる旨特定するのに対し、引用発明では、自己の車両が稼働状態の場合において、ユーザが無線通信端末に予めセットされている特定の番号を押すことにより、組電池システムとのワイヤレス通信が自動的にスタンバイし、中央情報管理センタを呼び出して接続が確立すると行われるものである点で相違する。

(イ)引用発明における「中央情報管理センタのホストコンピュータ」は、本願発明1でいう「サーバ装置」に相当する。
また、引用発明は、無線通信端末から中央情報管理センタにデータを送信する際に「移動体無線通信システム」を利用するものであるから、無線通信端末には、当該移動体無線通信システムを利用するための通信器、すなわち本願発明1でいうサーバ装置と通信する通信器である「第2通信器」に相当するものを有していることは明らかである。
したがって、引用発明において「さらに、前記残存容量に関するデータを、前記無線通信端末から移動体無線通信システムを利用して前記中央情報管理センタに送信し、前記中央情報管理センタのホストコンピュータが受信した前記残存容量に関するデータを管理データベースに蓄積」することは、本願発明1における「前記蓄電装置の状態を示す情報を、前記情報端末の通信器でありサーバ装置と通信する通信器である第2通信器を介して、前記サーバ装置に送信するステップ」に相当する。

(ウ)そして、引用発明における「無線通信端末の制御方法」は、ワイヤレス通信としての近距離無線通信(ブルートゥース)を行うための通信回路を介して残存容量に関するデータを取得するステップと、その残存容量に関するデータを移動体無線通信システムを利用して中央情報管理センタのホストコンピュータに送信するステップを備えるといえるものであることから、本願発明1でいう「情報端末の制御方法」に相当する。

よって、上記(ア)ないし(ウ)によれば、本願発明1と引用発明とは、
「情報端末の制御方法であって、
前記情報端末の通信器であり(電動移動体に搭載される)蓄電装置と近距離無線通信する通信器である第1通信器を介して、(前記蓄電装置に設けられた検出器により検出された)前記蓄電装置の状態を示す情報を取得するステップと、
前記蓄電装置の状態を示す情報を、前記情報端末の通信器でありサーバ装置と通信する通信器である第2通信器を介して、前記サーバ装置に送信するステップとを備える、
情報端末の制御方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点]
第1通信器を介して蓄電装置の状態を示す情報を取得するステップが、本願発明1では「電動移動体に搭載される蓄電装置において、前記蓄電装置に設けられた検出器により検出された前記蓄電装置の状態を示す情報から前記情報端末の使用者が前記電動移動体を利用したと判定」されると行われる旨特定するのに対し、引用発明では、自己の車両が稼働状態の場合において、ユーザが無線通信端末に予めセットされている特定の番号を押すことにより、組電池システムとのワイヤレス通信が自動的にスタンバイし、中央情報管理センタを呼び出して接続が確立すると行われるものである点。

イ.相違点についての判断
上記相違点は結局のところ、引用発明では、無線通信端末が残存容量に関するデータを取得するタイミングが「ユーザ」において「無線通信端末に予めセットされている特定の番号を押」したときであり、データ取得のタイミングを「ユーザ」が定めているのに対し、本願発明1では、情報端末が蓄電装置の状態を示す情報を取得するタイミングが「蓄電装置」において「蓄電装置に設けられた検出器により検出された前記蓄電装置の状態を示す情報から情報端末の使用者が電動移動体を利用したと判定」したときであり、情報取得のタイミングを「蓄電装置」が定めていることの相違であるといえる。
これに対して、周知技術を示す文献として引用された引用文献2(特に段落【0010】を参照)、引用文献3(特に段落【0025】を参照)、引用文献4(特に段落【0008】を参照)及び引用文献5(特に3頁左下欄16行?同頁右下欄2行を参照)には、電気で動作する機器(装置)において、それが動作中であるか否かを機器(装置)に供給される電流値に基づいて判定(判断)する技術が記載されているにすぎず、情報端末による情報の取得のタイミングに関する技術については記載も示唆もなく、電動移動体に搭載された「蓄電装置」において「電動移動体」が利用されたかを判定(判断)する技術についてさえ記載がないことから、これら引用文献2ないし5に記載された周知技術をたとえ引用発明に対して適用できたとしても、電気で動作する機器(装置)である「電動移動体」において、当該電動移動体が動作中であるか否かを供給される電流値に基づいて判定する構成が導き出されるだけであって、相違点に係る構成まで導き出すことはできない。
なお、相違点に係る構成については、他の証拠も発見しない。

ウ.まとめ
したがって、本願発明1は、引用発明及び周知技術(引用文献2ないし5に記載された技術)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(2-2)本願発明2ないし6について
請求項2ないし6は、請求項1を引用する請求項であって、請求項2ないし6に係る各発明は、相違点に係る発明特定事項を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、引用発明及び周知技術(引用文献2ないし5に記載された技術)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2-3)本願発明7について
本願発明7は、「方法の発明」である本願発明1に対応する「物の発明」であり、相違点に係る発明特定事項を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、引用発明及び周知技術(引用文献2ないし5に記載された技術)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

第5 むすび

以上のとおり、本願の請求項1ないし7に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術(引用文献2ないし5に記載された技術)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2021-10-27 
出願番号 特願2016-134388(P2016-134388)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01M)
P 1 8・ 537- WY (H01M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 星野 昌幸永井 啓司  
特許庁審判長 清水 稔
特許庁審判官 井上 信一
山本 章裕
発明の名称 情報端末の制御方法及び情報端末  
代理人 道坂 伸一  
代理人 寺谷 英作  
代理人 新居 広守  

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