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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B |
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管理番号 | 1379539 |
審判番号 | 不服2020-8684 |
総通号数 | 264 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-12-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-06-23 |
確定日 | 2021-11-04 |
事件の表示 | 特願2016-112928「レンズ鏡胴及び投影レンズ」拒絶査定不服審判事件〔平成29年12月14日出願公開、特開2017-219631〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成28年6月6日の出願であって、その手続の経緯は次のとおりである。 令和 元年11月27日付け:拒絶理由通知書 令和 2年 1月28日 :意見書・手続補正書 令和 2年 3月30日付け:拒絶査定 令和 2年 6月23日 :審判請求書・手続補正書 令和 3年 3月 5日付け:拒絶理由通知書 令和 3年 4月19日 :意見書・手続補正書 第2 本願発明 本願の請求項1ないし9に係る発明は、令和3年4月19日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。 「【請求項1】 直進溝を有する直進筒及びカム溝を有するカム筒の各々に係合するとともに前記直進筒と前記カム筒とが相対的に回転することで光軸方向に移動する4個以上の玉枠を有するレンズ鏡胴において、 前記4個以上の前記玉枠は、互いに隣接せず、光軸方向の移動方向が同じであって移動距離が最も近い前記玉枠同士で構成される前記玉枠の組を複数含み、 前記組を構成する2個の前記玉枠の間には、当該2個の前記玉枠と光軸方向の移動方向が異なる他の前記組を構成する2個の前記玉枠のうちの1個の前記玉枠が配置され、 前記組を構成する前記玉枠同士を連結した付勢部材を備えることを特徴とするレンズ鏡胴。」 第3 当審における令和3年3月5日付け拒絶理由通知書で通知した拒絶理由 上記拒絶理由は、要旨、次の内容を含むものである。 (進歩性欠如)令和2年6月23日提出の手続補正書により補正された請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の文献に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 〔引用文献〕 1:特開2011-65070号公報 2:実願平1-122702号(実開平3-62308号)のマイクロフィ ルム 第4 当審の判断 当審は、以下のとおり、上記第3の理由(進歩性欠如)によって、本願は拒絶されるべきものであると判断する。 1 引用文献に記載された記載の認定 (1)引用文献1の記載事項及び引用発明 ア 引用文献1の記載事項 当審がした令和3年3月5日付け拒絶理由通知書で引用された、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1(特開2011-65070号公報)には、次の記載がある(下線は当審が付した。以下同じ。)。 (ア)「【技術分野】 【0001】 本発明は、結像光学系及びそれを有する電子撮像装置に関する。 特に、ズーム光学系の高変倍率化、薄型化、高性能化を実現できる有効なレンズ構成とその電子撮像装置の薄型化への応用に関するものである。」 (イ)「【0104】 以下に、本発明にかかる結像光学系及び電子撮像装置の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。 【0105】 次に、本発明の実施例1にかかるズームレンズ(結像光学系)について説明する。図1は本発明の実施例1にかかるズームレンズの無限遠物点合焦時の光学構成を示す光軸に沿う断面図であり、(a)は広角端、(b)は中間焦点距離状態、(c)は望遠端での断面図である。 ・・・(中略)・・・ 【0107】 実施例1のズームレンズは、図1に示すように、物体側より順に、正の屈折力を有する第1レンズ群G1と、負の屈折力を有する第2レンズ群G2と、開口絞りSと、正の屈折力を有する第3レンズ群G3と、正の屈折力を有する第4レンズ群G4と、を有している。なお、以下全ての実施例において、レンズ断面図中、LPFはローパスフィルター、CGはカバーガラス、Iは電子撮像素子の撮像面を示している。 【0108】 第1レンズ群G1は、物体側より順に、物体側に凸面を向けた負メニスカスレンズL1と物体側に凸面を向けた正メニスカスレンズL2と両凸正レンズL3との接合レンズで構成されており、全体で正の屈折力を有している。ここで、物体側に凸面を向けた負メニスカスレンズL1がLC、物体側に凸面を向けた正メニスカスレンズL2がLA、両凸正レンズL3がLBである。 【0109】 第2レンズ群G2は、物体側より順に、両凹負レンズL4と、像側に凸面を向けた正メニスカスレンズL5と両凹負レンズL6との接合レンズと、で構成されており、全体で負の屈折力を有している。 【0110】 第3レンズ群G3は、物体側より順に、両凸正レンズL7と、両凸正レンズL8と両凹負レンズL9との接合レンズと、で構成されており、全体で正の屈折力を有している。 【0111】 第4レンズ群G4は、物体側より順に、両凸正レンズL10で構成されており、全体で正の屈折力を有している。 【0112】 広角端から望遠端へと変倍する際には、第1レンズ群G1は、物体側へ移動する。第2レンズ群G2は像側へ移動する。第3レンズ群G3は物体側へ移動する。第4レンズ群G4は像側へ移動する。明るさ絞りSは、第3レンズ群G3と共に移動する。 【0113】 非球面は、第1レンズ群G1の接合レンズの全4面と、第2レンズ群G2の物体側の両凹負レンズL4の両面及び像側の両凹負レンズL6の像側の面と、第3レンズ群G3の物体側の両凸正レンズL7の両面と、第4レンズ群G4の両凸正レンズL10の両面と、の11面に設けられている。」 (ウ)図1は次のものである。 (エ)上記(イ)及び図1によれば、 第1レンズ群G1、第2レンズ群G2、第3レンズ群G3、第4レンズ群G4は「光軸に沿」(【0105】)って「移動」(【0112】)するものであるところ、 ズームレンズの技術分野において、各レンズ群を光軸方向に移動可能に支持するために、レンズ群を保持するレンズ移動枠を各レンズ群毎に設け、上記レンズ移動枠に設けられたカムフォロワを、一方の筒部材に形成される直進溝と、上記一方の筒部材の内側または外側に嵌合する他方の筒部材に形成されるカム溝とに係合させ、両筒部材を相対的に回転させることで上記レンズ移動枠を光軸方向に移動可能とするカム機構を採用することは例示するまでもなく慣用技術であるから、 この「移動」が、第1レンズ群G1、第2レンズ群G2、第3レンズ群G3及び第4レンズ群G4をそれぞれ保持するレンズ移動枠と、上記レンズ移動枠を光軸方向に移動可能に係合する直進溝を有する直進筒部材と、上記レンズ移動枠と係合するカム溝を有し、上記直進筒部材の内側または外側に嵌合するカム筒部材と、を備えたズームレンズ装置において、上記カム筒部材と上記直進筒部材との相対的な回転によって上記レンズ移動枠が移動するものであることは、引用文献1に記載されているに等しい事項であると認められる。 (オ)図1によれば、第1レンズ群G1と第3レンズ群G3の移動距離は同程度であり、第2レンズ群G2と第4レンズ群G4の移動距離は同程度であることがみてとれる。 イ 引用発明の認定 上記アによれば、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。(なお、引用発明の各構成の根拠箇所を参考として当審で付した。以下同じ。) 「物体側より順に、第1レンズ群G1、第2レンズ群G2、第3レンズ群G3及び第4レンズ群G4を有し、(【0107】) 第1レンズ群G1、第2レンズ群G2、第3レンズ群G3及び第4レンズ群G4をそれぞれ保持するレンズ移動枠と、(上記ア(エ)) 上記レンズ移動枠を光軸方向に移動可能に係合する直進溝を有する直進筒部材と、(同(エ)) 上記レンズ移動枠と係合するカム溝を有し、上記直進筒部材の内側または外側に嵌合するカム筒部材と、(同(エ)) を備えたズームレンズ装置において、(同(エ)) 上記カム筒部材と上記直進筒部材との相対的な回転によって、(同(エ)) 第1レンズ群G1は、物体側へ移動し、第2レンズ群G2は像側へ移動し、第3レンズ群G3は物体側へ移動し、第4レンズ群G4は像側へ移動し、(【0112】) 第1レンズ群G1と第3レンズ群G3の移動距離は同程度であり、第2レンズ群G2と第4レンズ群G4の移動距離は同程度である、(同(オ)) ズームレンズ装置。」 (2)引用文献2の記載事項及び引用文献2に記載された技術的事項 ア 引用文献2の記載事項 当審がした令和3年3月5日付け拒絶理由通知書で引用された、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献2(実願平1-122702号(実開平3-62308号)のマイクロフィルム)には、次の記載がある。 (ア)「【産業上の利用分野】 本考案はレンズ鏡胴に関し,特にレンズ駆動用のカム機構の工作精度を特別に精密にしなくても安定した位置決めを行える様にしたレンズ鏡胴に関する。」(第3頁第12行-同頁第16行) (イ)「【考案が解決しようとする問題点】 さて,上記のレンズ鏡胴はNC工作機による切削加工や樹脂のダイインジェクション成形等によって製造されるが,精密で円滑な位置決めを行うためには前記レンズ移動枠と前記長溝やレンズ駆動カムとの摺動部のガタを最小限に抑止する必要があり,製造方向の如何に関わりなく数十μmオーダーの加工精度が要求され,製造コストが上昇するという問題があった。 【問題点を解決するための手段】 本考案はこの様な問題点に鑑みてなされたものであり,特別に精密な加工を行わなくても円滑で精密な位置決めを行える様にしたレンズ鏡胴を提供することを目的とする。」(第4頁第15行-第5頁第8行)(審決注:「・・・レンズ駆動カムとの摺動部のガダ・・・」は、「・・・レンズ駆動カムとの摺動部のガタ・・・」の明らかな誤記であるので、誤記を正した上で摘記した。) (ウ)「本考案における特徴点として,引っ張りパネ又は圧縮バネは,レンズ移動枠が有するピン部材を長溝の有効カム面に付勢するとともに摺動部分をレンズ駆動カムの有効カム面に向けて付勢するので,長溝やレンズ駆動カムの溝幅の成形精度を特別に高精度で仕上げなくても,レンズ移動枠は円滑で安定した移動を行うことが可能となる。 【実施例】 以下図面を参照して本考案の1実施例を詳細に説明する。 第1図は本考案の1実施例に係るレンズ鏡胴の断面図であり,第2図はこのレンズ鏡胴を外側から見た展開図である。尚,第1図は中心線より上方が可動レンズが後退した状態を,中心線より下方が可動レンズが前進した状態を示している。 1は図外のカメラボディに対して固定された筒状の固定鏡胴であり,固定鏡胴1の先端部には固定レンズL_(1)が固定されている。固定鏡胴1の内周面には箇状の回転鏡胴2が摺動回転自在に内挿されており,回転鏡胴2の中心部には固定レンズL_(3)が固定されている。回転鏡胴2の先端部及び後端部は各々フランジ1a及びストッパリング3により支承されており,回転鏡胴2の固定鏡胴1に対する相対的な前後移動は規制されている。 回転鏡胴2の内周面には可動レンズL_(2)を保持したレンズ移動枠4及び可動レンズL_(4)を保持したレンズ移動枠5が摺動自在に内挿されている。 レンズ移動枠4及び5には各々ピン6及び7が植設されており,ピン6は回転鏡胴2に形成されたレンズ駆動カム2a及び固定鏡胴1に光軸と平行に形成された長溝1bを貫通して先端が固定鏡胴1の外側に突出し,ピン7は回転鏡胴2に形成されたレンズ駆動カム2b及び固定鏡胴1に光軸と平行に形成された長溝1cを貫通して先端が固定鏡胴1の外側に突出している。 本実施例の特徴としてピン6とピン7の先端には引っ張りパネ8が架け渡されている。従って,レンズ移動枠4はレンズ駆動カム2aの光紬後端側のエッジ2cを有効カム面として,この有効カム面2cに向けて圧接される。同様に,レンズ移動枠5はレンズ駆動カム2bの光軸前端側のエッジ2dを有効カム面として,この有効カム面2dに向けて圧接される。 更に,第2図に示す様に,長溝1bと1cは光軸と直交方向にシフトして形成されており,従って,引っ張りバネ8は光軸に対しては平行となっておらずピン6及び7に対して逆方向の旋回力を与える様になっている。その結果,ピン6は長溝1bの長溝1c側のエッジ1dを有効カム面としてこの有効カム面1dに対して圧接され,又,ピン7は長溝1cの長溝1b側のエッジ1eを有効カム面としてこの有効カム面1eに対して圧接されることになる。 次に,第1図および第2図に示す実施例の動作を説明する。 先ず,既述の通り固定鏡胴1は図外のカメラボディに対して固定されており,図外のフォーカシングリングやズーミングリングを操作することによって,或いは,フォーカシングモータやズーミングモータを回転することによって,回転鏡胴2は固定鏡胴1の内周面で固定鏡胴1に対して相対的に回転する。 この様にして回転鏡胴2が回転する時には回転鏡胴2の内周面とレンズ移動枠4・5の外周面との摺動箇所にはレンズ移動枠4・5を回転鏡胴2の回転に伴って回転させる様な摩擦力が発生する。 しかしながら,レンズ移動枠4に植設されたピン6は固定鏡胴1の長溝1bの有効カム面1dに向けた押圧力を引っ張りバネ8から受けているので,ピン6が有効カム面1dに当接した状態で回転を規制されるとともに,旋回方向のガタも抑止される。同様に,レンズ移動枠5に植設されたピン7は固定鏡胴1の長溝1cの有効カム面1eに向けた押圧力を引っ張りバネ8から受けているので,ピン7が有効カム面1eに当接した状態で回転を規制されるとともに,旋回方向のガタも抑止される。 従って,レンズ移動枠4及び5は回転鏡胴2に形成されたレンズ駆動カム2a及び2bに各々従動して光軸方向の前後に移動することになる。 この時レンズ移動枠4はスプリング8の付勢力によってレンズ駆動カム2aの有効カム面2cに圧接されて光軸方向のガタが抑止され,同様にレンズ移動枠5はスプリング8の付勢力によってレンズ駆動カム2bの有効カム面2dに圧接されて光軸方向のガタが抑止される。 そして,このレンズ移動枠4及びレンズ移動枠5が各々レンズ駆動カム2a及び2bの有効カム面2c及び2dに圧接されてよって光軸方向のガタが抑止されるとともに,ピン6及び7が各々長溝1b及び1cの有効カム面1d及び1eに圧接されて旋回方向のガタが抑止されるという本実施例の作用はレンズ移動枠4及び5が前進する場合にも後退する場合にも当てはまることはいうまでもない。」(第7頁第2行-第11頁第16行)(審決注:「第1図とよび第2図」は、「第1図および第2図」の明らかな誤記であるので、誤記を正した上で摘記した。) (エ)第1図は次のものである。 (オ)第2図は次のものである。 イ 引用文献2に記載された技術的事項の認定 上記アによれば、引用文献2には、 「可動レンズL_(2)、L_(4)をそれぞれ保持し、各々ピン6及び7が植設されたレンズ移動枠4、5と(第8頁第6行-同頁第10行)、 光軸と平行に形成された長溝1b、1cを有する固定鏡胴1と(第8頁第11行-同頁第12行、第8頁第14行-同頁第15行)、 レンズ駆動カム2a、2bが形成され、固定鏡胴1の内周面に摺動回転自在に内挿された回転鏡胴2と(第8頁第10行-同頁第11行、第8頁第13行-同頁第14行、第7頁第19行-第8頁第1行)、 を備えたレンズ鏡胴において(第7頁第12行)、 回転鏡胴2は固定鏡胴1の内周面で固定鏡胴1に対して相対的に回転し、ピン6とピン7との間に引っ張りバネ8を架け渡されており、レンズ移動枠4及びレンズ移動枠5が各々レンズ駆動カム2a及び2bの有効カム面2c及び2dに圧接されて、ピン6及び7が各々長溝1b及び1cの有効カム面1d及び1eに圧接されて(第10頁第1行-同頁第3行、第8頁第17行-同頁第18行、第11頁第8行-同頁第13行)、 上記レンズ移動枠4、5のガタを抑止し(第11頁第8行-同頁第13行)、 このガタを抑止する作用は、レンズ移動枠4及び5が前進または後退する場合にも当てはまる。(第11頁第14行-同頁第15行)」 との技術的事項が記載されている。(なお、引用文献2に記載された技術的事項の各構成の根拠箇所を参考として当審で付した。) 2 引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づく進歩性欠如 (1)本願発明と引用発明との対比 ア 本願発明の「直進溝を有する直進筒及びカム溝を有するカム筒の各々に係合するとともに前記直進筒と前記カム筒とが相対的に回転することで光軸方向に移動する4個以上の玉枠を有するレンズ鏡胴において、」との特定事項について (ア)引用発明の「直進溝」は、本願発明の「直進溝」に相当し、引用発明の「直進溝を有する『直進筒部材』」は、本願発明の「直進溝を有する『直進筒』」に相当する。また、引用発明の「カム溝」は、本願発明の「カム溝」に相当し、引用発明の「カム溝を有」する「カム筒部材」は、本願発明の「カム溝を有する『カム筒』」に相当する。そして、引用発明の「レンズ移動枠」は、「直進溝」に「光軸方向に移動可能に係合」されているから、本願発明の「光軸方向に移動」する「玉枠」に相当する。 さらに、引用発明の「ズームレンズ装置」は、4個以上の「レンズ移動枠」である「第1レンズ群G1、第2レンズ群G2、第3レンズ群G3及び第4レンズ群G4をそれぞれ保持するレンズ移動枠」であって、それぞれが「直進筒部材」及び「カム筒部材」に「係合」し、「カム筒部材と直進筒部材との相対的な回転によって」「光軸方向に移動」する「レンズ移動枠」を備えたものである。 よって、引用発明の「ズームレンズ装置」は、本願発明の「直進溝を有する直進筒及びカム溝を有するカム筒の各々に係合するとともに前記直進筒と前記カム筒とが相対的に回転することで光軸方向に移動する4個以上の玉枠を有する」ものといえるとともに、「レンズ鏡胴」に相当する。 (イ)したがって、引用発明は、本願発明の上記特定事項を備える。 イ 本願発明の「前記4個以上の前記玉枠は、互いに隣接せず、光軸方向の移動方向が同じであって移動距離が最も近い前記玉枠同士で構成される前記玉枠の組を複数含み、」との特定事項について (ア)引用発明の「レンズ移動枠」(本願発明の「玉枠」に相当。)は「第1レンズ群G1、第2レンズ群G2、第3レンズ群G3及び第4レンズ群G4をそれぞれ保持する」ものであるから、上記ア(ア)で説示したとおり、その個数は4つである(以下、各レンズ群を保持するレンズ移動枠を、それぞれ、「レンズ移動枠1」などという。)。 そして、引用発明は、「第1レンズ群G1は、物体側へ移動し、第2レンズ群G2は像側へ移動し、第3レンズ群G3は物体側へ移動し、第4レンズ群G4は像側へ移動」するから、「第1レンズ群G1」を保持するレンズ移動枠1と「第3レンズ群G3」を保持するレンズ移動枠3は、互いに隣接せず、「光軸方向」の「物体側へ移動」するものであって、その「移動距離は同程度であ」り、また、「第2レンズ群G2」を保持するレンズ移動枠2と「第4レンズ群G4」を保持するレンズ移動枠4は、互いに隣接せず、「光軸方向」の「像側へ移動」するものであって、その「移動距離は同程度である」。 そうすると、引用発明のレンズ移動枠1とレンズ移動枠3は、本願発明の「光軸方向の移動方向が同じであって移動距離が最も近い」「玉枠同士」に相当し、引用発明のレンズ移動枠2とレンズ移動枠4は、本願発明の「光軸方向の移動方向が同じであって移動距離が最も近い」「玉枠同士」に相当するといえる。 (イ)上記(ア)によれば、引用発明のレンズ移動枠1とレンズ移動枠3からなる組と、レンズ移動枠2とレンズ移動枠4からなる組は、それぞれ、本願発明の「玉枠の組」に相当する。 (ウ)したがって、引用発明は、本願発明の上記特定事項を備える。 ウ 本願発明の「前記組を構成する2個の前記玉枠の間には、当該2個の前記玉枠と光軸方向の移動方向が異なる他の前記組を構成する2個の前記玉枠のうちの1個の前記玉枠が配置され、」との特定事項について (ア)引用発明では、「物体側へ移動」するレンズ移動枠1とレンズ移動枠3の間には、「像側へ移動」し、かつ、レンズ移動枠4と組を形成するレンズ移動枠2が配置されている。 また、引用発明では、「像側へ移動」するレンズ移動枠2とレンズ移動枠4の間には、「物体移動」し、かつ、レンズ移動枠1と組を形成するレンズ移動枠3が配置されている。 (イ)したがって、引用発明は、本願発明の上記特定事項を備える。 エ 本願発明の「前記組を構成する前記玉枠同士を連結した付勢部材を備えることを特徴とするレンズ鏡胴。」との特定事項について (ア)引用発明は、本願発明で特定される「前記組を構成する前記玉枠同士を連結した付勢部材」を備えない。 (イ)したがって、引用発明は、上記特定事項のうち「レンズ鏡胴」との特定事項を備える。 (2)一致点及び相違点の認定 上記(1)によれば、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。 [一致点] 「直進溝を有する直進筒及びカム溝を有するカム筒の各々に係合するとともに前記直進筒と前記カム筒とが相対的に回転することで光軸方向に移動する4個以上の玉枠を有するレンズ鏡胴において、 前記4個以上の前記玉枠は、互いに隣接せず、光軸方向の移動方向が同じであって移動距離が最も近い前記玉枠同士で構成される前記玉枠の組を複数含み、 前記組を構成する2個の前記玉枠の間には、当該2個の前記玉枠と光軸方向の移動方向が異なる他の前記組を構成する2個の前記玉枠のうちの1個の前記玉枠が配置される、 レンズ鏡胴。」 [相違点] 本願発明においては、「前記組を構成する前記玉枠同士を連結した付勢部材を備える」のに対し、 引用発明においては、そのような構成を備えない点。 (3)相違点に対する判断 ア 上記相違点を検討するにあたり、まず引用発明について検討する。 ズームレンズの技術分野においては、各移動レンズ群を高精度に移動させることが当然に求められるのであり、引用文献1に記載されたズームレンズにおいてもそれが変わることはない。 そして、引用発明は、上記1(1)イのとおり、移動レンズ群の移動機構として例示するまでもなく慣用技術のカム機構を考慮して認定されたものであるところ、実施に当たり、カム機構を構成する直進溝とカム溝に対する「レンズ移動枠」のガタツキが高精度な移動の妨げになることは明らかである。 そうすると、当業者であれば、引用発明において「レンズ移動枠」のガタツキを抑止するという課題を認識できると認められる。 イ 他方、引用文献2には、上記1(2)イに認定したとおりの引用文献2に記載された技術的事項が記載されているところ、当該技術的事項も、カム機構に係るものであって、しかも、レンズ移動枠のガタツキを抑止するものであるといえるから、引用発明における上記課題(上記ア)の解決に資するものである。 ウ そうすると、引用発明において、引用文献2に記載された技術的事項を採用することは当業者であれば容易に想到し得ることである。 その際、引用発明の4つの「レンズ移動枠」に対してどのように引っ張りバネを架け渡すのかは、当業者が実施に当たり当然に選択すべき事項であるところ、 引用文献2に記載された技術的事項においては、引っ張りバネが架け渡されているレンズ群として、可動レンズL_(2)とL_(4)(すなわち、光軸方向に沿って並んだ第2群と第4群)が選択されているとともに、レンズ移動枠4、5の「ガタを抑止する作用は、レンズ移動枠4及び5が前進する場合にも後退する場合にも当てはまる」ことから、両方のレンズ移動枠が前進または後退する場合が当然に想定されていると解されることに加え、ガタツキを抑止する観点からは、移動の際に相対的な距離の変動が小さく、引っ張りバネによる安定した付勢力を付与できるレンズ枠同士が好ましいと考えられることも踏まえれば、 引用発明におけるレンズ移動枠1ないし4に対して、レンズ移動枠1とレンズ移動枠3の組、及び、レンズ移動枠2とレンズ移動枠4の組を選択して、引っ張りバネを架け渡すことに困難はない。 (4)本願発明の効果について 上記相違点に係る本願発明の奏する効果は、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項の奏する作用効果から予測される範囲内のものに過ぎず、格別顕著なものということはできない。 (5)審判請求人の主張について ア 審判請求人は、令和3年4月19日提出の意見書において、 「引用文献1は、諸収差が良好に補正された結像光学系の実現を課題として掲げており、本願請求項1に対して課題に共通性がありません。また、構造上についても、引用文献1から本願請求項1に到達する動機付けや示唆等がありません。」と主張する。 しかしながら、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づく進歩性欠如の判断は、上記(3)にて説示したとおりである。 イ 審判請求人は、同意見書において、本願発明により、「ズーミング動作時の、玉枠の近くに設けられた部品(例えば可変絞り、電装部品等)との干渉の防止や、光学収差の補正が可能」となるとの効果を主張する。 しかしながら、上記「干渉の防止や、光学収差の補正」との効果は、本願の明細書及び図面に記載されていないことである。 また、それを措くとしても、これらの効果は、本願発明における「前記4個以上の前記玉枠は、互いに隣接せず、光軸方向の移動方向が同じであって移動距離が最も近い前記玉枠同士で構成される前記玉枠の組を複数含み、」かつ「前記組を構成する2個の前記玉枠の間には、当該2個の前記玉枠と光軸方向の移動方向が異なる他の前記組を構成する2個の前記玉枠のうちの1個の前記玉枠が配置され」るとの特定事項により奏する効果と解されるが、上記2(1)ウで説示したとおり、当該構成は引用発明が備えるものであるから、格別顕著な効果とはいえない。 ウ よって、審判請求人の主張は採用できない。 (6)進歩性欠如についてのまとめ したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第5 むすび 以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2021-08-30 |
結審通知日 | 2021-08-31 |
審決日 | 2021-09-14 |
出願番号 | 特願2016-112928(P2016-112928) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(G02B)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 藏田 敦之 |
特許庁審判長 |
山村 浩 |
特許庁審判官 |
野村 伸雄 井上 徹 |
発明の名称 | レンズ鏡胴及び投影レンズ |
代理人 | 特許業務法人 佐野特許事務所 |