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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G09F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G09F
管理番号 1379555
審判番号 不服2020-17426  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-12-21 
確定日 2021-11-04 
事件の表示 特願2016-153653「フォルダブルディスプレイ用フィルムおよびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 2月 8日出願公開、特開2018- 22062〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は平成28年8月4日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和2年 5月15日付け :拒絶理由通知書
令和2年 6月 5日 :意見書、手続補正書の提出
令和2年 9月23日付け :拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和2年10月20日 :原査定の謄本の送達
令和2年12月21日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 令和2年12月21日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年12月21日にされた手続補正を却下する。

[補正の却下の決定の理由]
1 本件補正の概要
令和2年12月21日にされた特許請求の範囲及び明細書についての補正(以下「本件補正」という。)は、以下の(1)に示される本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載を、以下の(2)に示される本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載に補正することを含むものである。
下線は、補正箇所を示す。

(1) 本件補正前
「【請求項1】
紫外線硬化型アクリル系樹脂を含んだ重合性組成物の硬化フィルムからなるフォルダブルディスプレイ用フィルムにおいて、
前記硬化フィルムの厚みが30μm?200μmであり、
前記紫外線硬化型アクリル系樹脂は、成分(A)ポリイソシアネート化合物(但し、脂環構造を有するものを除く。)と水酸基含有(メタ)アクリレートとを反応させてなる多官能ウレタン(メタ)アクリレートと、成分(B)脂環構造を有する2官能(メタ)アクリレートとを含み、
前記成分(A)の数平均分子量は、200?5000であり、
前記重合性組成物中の成分(A)の含有量が、前記重合性組成物100質量%に対して、10?50質量%であり、成分(B)の含有量が、前記重合性組成物100質量%に対して、10?40質量%であり、
前記重合性組成物中の成分(A)の質量(MA)と成分(B)の質量(MB)との質量比(MA)/(MB)の範囲が、30/70?70/30であり、
前記硬化フィルムの鉛筆硬度は3H?9Hであり、屈曲耐久性はφ10mm以下である、
フォルダブルディスプレイ用フィルム。」

(2) 本件補正後
「【請求項1】
紫外線硬化型アクリル系樹脂を含んだ重合性組成物の硬化フィルムからなるフォルダブルディスプレイ用フィルムにおいて、
前記硬化フィルムの厚みが30μm?100μmであり、
前記紫外線硬化型アクリル系樹脂は、成分(A)ポリイソシアネート化合物(但し、脂環構造を有するものを除く。)と水酸基含有(メタ)アクリレートとを反応させてなる多官能ウレタン(メタ)アクリレートと、成分(B)脂環構造を有する2官能(メタ)アクリレートとを含み、
前記成分(A)の数平均分子量は、200?5000であり、
前記重合性組成物中の成分(A)の含有量が、前記重合性組成物100質量%に対して、10?50質量%であり、成分(B)の含有量が、前記重合性組成物100質量%に対して、10?40質量%であり、
前記重合性組成物中の成分(A)の質量(MA)と成分(B)の質量(MB)との質量比(MA)/(MB)の範囲が、30/70?70/30であり、
前記硬化フィルムの鉛筆硬度は3H?9Hであり、屈曲耐久性はφ2mm以下である、フォルダブルディスプレイ用フィルム。」

2 本件補正についての当審の判断
本件補正は、請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「硬化フィルムの厚み」について、補正前の「30μm?200μm」を「30μm?100μm」に限定するとともに、「屈曲耐久性」について、補正前の「φ10mm以下」を「φ2mm以下」に限定するものである。
そして、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。そうすると、本件補正は、特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明が、同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1) 本件補正発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)は、請求項1に記載された事項(前記1(2)参照)により特定されるとおりのものであると認める。

(2) 引用文献等
ア 引用文献1
(ア) 原査定の拒絶の理由で引用された特開2015-187213号公報(平成27年10月29日出願公開。以下「引用文献1」という。)には、次の記載がある(下線は当審が付した。)。

「【0011】
本発明は、表面硬度が非常に高く、且つ、適度なフレキシブル性を示す、十分な硬度と柔軟性とを兼ね備えた樹脂成形体、及びそれを用いた積層体を提供することを目的とする。」
「【0025】
1.樹脂成形体
本発明の樹脂成形体は、(A)ポリイソシアネート化合物(但し、脂環構造を有するものを除く。)と、水酸基含有(メタ)アクリレートとを反応させてなる多官能ウレタン(メタ)アクリレート、及び、(B)脂環構造を有する2官能(メタ)アクリレートを含有する重合性組成物が硬化してなる樹脂成形体である。」
「【0029】
すなわち、本発明の樹脂成形体は、上述の構成であるので、表面硬度が際立って優れると同時に、優れた柔軟性を示すという特性を兼ね備えた樹脂成形体である。このような特性を兼ね備えた樹脂成形体は、特にタッチパネルやフレキシブルディスプレイ等の分野等で求められており、タッチパネル基板等に有用である。」
「【0049】
成分(A)の数平均分子量は、200?5000であることが好ましい。より好ましくは400?3000、更に好ましくは500?2500である。数平均分子量が200未満であると、硬化収縮が増大し、複屈折が発生しやすくなるおそれにある。数平均分子量が5000を超えると、架橋性が低下し、耐熱性が不十分となるおそれがある。
【0050】
樹脂成形体を形成するための重合性組成物中の成分(A)の含有量は特に限定されないが、重合性組成物100質量%に対して、10?50質量%であることが好ましく、10?30質量%であることがより好ましい。成分(A)の含有量が多過ぎると、樹脂成形体の表面硬度が高くなり過ぎ、脆くなるおそれがある。成分(A)の含有量が少な過ぎると、樹脂成形体の表面硬度が十分でないおそれがある。」
「【0059】
樹脂成形体を形成するための重合性組成物中の成分(B)の含有量は特に限定されないが、重合性組成物100質量%に対して、10?40質量%であることが好ましく、10?20質量%であることがより好ましい。成分(B)の含有量が多過ぎると、樹脂成形体の表面硬度が低くなり過ぎ、表面硬度が十分でないおそれがある。成分(B)の含有量が少な過ぎると、表面硬度が高くなり過ぎ、脆くなってしまうおそれがある。
【0060】
前記重合性組成物中の成分(A)の質量(MA)と成分(B)の質量(MB)との質量比(MA)/(MB)の範囲は、30/70?70/30であることが好ましい。成分(A)の質量比が30未満であると、表面硬度や耐衝撃性などの機械特性に劣るおそれがあり、成分(A)の質量比が70を超えると、吸水率が増加するおそれがある。上記質量比のより好ましい範囲は、40/60?60/40であり、更に好ましい範囲は、45/55?55/45である。」
「【0076】
樹脂成形体のフレキシブル性は、φ14以下が好ましく、φ12以下がより好ましい。フレキシブル性の評価が低過ぎると、樹脂成形体をフレキシブルディスプレイ等に用いた場合にひびや割れを生じてしまうおそれがあり、フレキシブル性の評価が高過ぎると、樹脂成形体が、タッチパネル等に用いるのに十分な表面硬度を示さないおそれがある。
【0077】
上記フレキシブル性は、JIS K5600-5-1に準じて屈曲試験器で測定することができる。」
「【0092】
図1は、上記製造方法の(1)重合体組成物調製工程、(2)重合体組成物塗布工程、(3)ウエットラミネート処理工程、及び(4)硬化工程の一例を示した模式図である。図1において、上記製造方法は、製造装置100により行われる。製造装置100は、重合体組成物を入れるためのトレイ102と、軸方向を並行に(紙面に垂直な方向に沿って)互いに所定間隔で対向配置されたバックアップローラ103とロールナイフ104、ローラ105A、105B、及びUV照射装置107とで構成される。」

「【0098】
ローラ105A、105Bはともに同様の構成を持つローラであって、バックアップローラ103とロールナイフ104よりも狭い間隙で近接配置されており、これによって重合体組成物層の厚みを調節できるようになっている。なお、前記ロールナイフ104で十分前記厚み調節を行える場合等は、ローラ105A、105Bで再度厚み調整を行わなくてもよい。なお、バックアップローラ103とロールナイフ104との間、及び、ローラ105Aと105Bとの間の各隙間は、形成するフィルムの厚みに合わせ、数μm以上、数百μm以下の範囲で調整できる。
【0099】
図1において、UV照射装置107により紫外線が照射される。UV照射装置107を用いて、上記重合体組成物層10Xを形成する重合体組成物を紫外線照射により硬化させて、フィルム状の樹脂成形体10Cを得ることができる。UV照射装置107に用いられるUVランプとしては特に限定されず、市販されているもの(例えばアイグラフィックス株式会社製空冷水銀ランプ)を利用することができる。紫外線照射の条件は、硬化させる重合体組成物の粘度等の条件によって適宜調節することが必要である。」
「【0117】
ラミネートフィルムに、紫外線硬化装置(フュージョンUVシステムズ・ジャパン株式会社製 商品名:CV-110Q-G)を用いて積算照射量1597mJ/cm2の紫外線を照射し、重合性組成物を硬化させた後、両面のPETフィルムを剥離して、厚みが258μの樹脂成形体を調製した。
【0118】実施例2
成分(A)として、1、6?ヘキサンジイソシアネートの3量体150gと、ペンタエリスリトールトリアクリレート775gとを反応させた多官能ウレタン(メタ)アクリレートを用いた以外は実施例1と同様にして、厚みが262μの樹脂成形体を調製した。」
「【0127】
【表1】

【0128】
表1の結果から明らかな通り、(A)ポリイソシアネート化合物(但し、脂環構造を有するものを除く。)と、水酸基含有(メタ)アクリレートとを反応させてなる多官能ウレタン(メタ)アクリレート、及び、(B)脂環構造を有する2官能(メタ)アクリレートを含有する重合性組成物を硬化させて得られた実施例1及び2の樹脂成形体は、上述の成分(A)及び成分(B)を用い、特に、成分(A)を構成するポリイソシアネート化合物として、脂環構造を有しないポリイソシアネート化合物を用いているので、鉛筆硬度が9Hであり、非常に高い硬度を示した。鉛筆硬度試験において、9Hは最も高い評価であることから、実施例1及び2の樹脂成形体の鉛筆硬度の高さは際立って優れており、鉛筆硬度が7Hである比較例1とは顕著な差があることが分かる。」
「【図1】



(イ) 上記(ア)から、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「表面硬度が際立って優れると同時に、優れた柔軟性を示すという特性を兼ね備え、特にタッチパネルやフレキシブルディスプレイ等の分野等で求められる樹脂成形体であって、紫外線照射により硬化させて得られるフィルム状の樹脂成形体において、(【0029】、【0099】)
製造装置100において、重合体組成物層の厚みを調節できるようになっている調節ローラ105Aと105Bとの間の各隙間は、形成するフィルムの厚みに合わせ、数μm以上、数百μm以下の範囲で調整され、(【0092】、【0098】、図1)
前記樹脂成形体は、(A)ポリイソシアネート化合物(但し、脂環構造を有するものを除く。)と、水酸基含有(メタ)アクリレートとを反応させてなる多官能ウレタン(メタ)アクリレート、及び、(B)脂環構造を有する2官能(メタ)アクリレートを含有する重合性組成物が硬化してなる樹脂成形体であり、(【0025】)
前記成分(A)の数平均分子量は、200?5000であることが好ましく、(【0049】)
前記重合性組成物中の成分(A)の含有量は、前記重合性組成物100質量%に対して、10?50質量%であることが好ましく、(【0050】)
前記重合性組成物中の成分(B)の含有量は、前記重合性組成物100質量%に対して、10?40質量%であることが好ましく、(、【0059】)
前記重合性組成物中の成分(A)の質量(MA)と成分(B)の質量(MB)との質量比(MA)/(MB)の範囲は、30/70?70/30であることが好ましく、(【0060】)
前記樹脂成形体の鉛筆硬度は9Hであり、(【0127】、【0128】)
JIS K5600?5?1に準じて屈曲試験器で測定することができるフレキシブル性はφ12以下が好ましい、(【0076】、【0077】)、
フレキシブルディスプレイに有用であるフィルム状の樹脂成形体。」

イ 引用文献2
同じく原査定に引用された特開2012-166480号公報(平成24年9月6日出願公開。以下「引用文献2」という。)には、次の記載がある(下線は当審が付した。)。

「【0021】
透明基材層4は、電離放射線硬化型の樹脂、中でもアクリル系樹脂が架橋されて硬化した材料からなる層であり、有機高分子セグメント及び無機セグメントを構成要素とする有機?無機共重合体で形成されていることが好ましい。透明基材層4の厚みは特に限定はないが、耐久性、可撓性などを勘案して、20?500μmが好ましく、50?300μmがより好ましく、100?250μmがさらに好ましい。」

ウ 引用文献3
特開2007-86771号公報(平成19年4月5日出願公開。以下「引用文献3」という。)には、次の記載がある(下線は当審で付した。)。

「【0001】
本発明は、フレキシブルディスプレイの前面基板、背面基板として使用可能なフレキシブルディスプレイ用電極基板およびそれを用いた折り曲げ可能なディスプレイに関する。」

「【0050】
[屈曲性]
折り曲げ可能なディスプレイでは、内接円直径が3mm以下で繰り返し曲げられることが好ましい。細く曲げられないディスプレイでは、曲げた後のディスプレイが厚みを持つため好ましくない。折り曲げ可能な内接円直径は小さいほどよく、より好適には2mmであり、さらに好ましくは直径1mmである。」

(3) 対比
ア 本件補正発明と引用発明を対比する。
(ア) 引用発明において「「フィルム状の樹脂成形体」は「紫外線照射により硬化させて得られる」ものであることも踏まえると、引用発明における「(A)ポリイソシアネート化合物(但し、脂環構造を有するものを除く。)と、水酸基含有(メタ)アクリレートとを反応させてなる多官能ウレタン(メタ)アクリレート、及び、(B)脂環構造を有する2官能(メタ)アクリレートを含有する重合性組成物が硬化してなる樹脂成形体」は、本件補正発明における「紫外線硬化型アクリル系樹脂を含んだ重合性組成物の硬化フィルム」に相当する。
そうすると、「紫外線硬化型アクリル系樹脂を含んだ重合性組成物の硬化フィルムからなるフォルダブルディスプレイ用フィルム」の発明である本件補正発明と「特にタッチパネルやフレキシブルディスプレイ等の分野等で求められるフィルム状の樹脂成形体」の発明である引用発明は、「紫外線硬化型アクリル系樹脂を含んだ重合性組成物の硬化フィルムからなる折り曲げ可能なディスプレイ用フィルム」の発明である点で共通する。

(イ) 引用発明において「前記樹脂成形体は、(A)ポリイソシアネート化合物(但し、脂環構造を有するものを除く。)と、水酸基含有(メタ)アクリレートとを反応させてなる多官能ウレタン(メタ)アクリレート、及び、(B)脂環構造を有する2官能(メタ)アクリレートを含有する重合性組成物が硬化してなる樹脂成形体であ」ることは、本件補正発明における「前記紫外線硬化型アクリル系樹脂は、成分(A)ポリイソシアネート化合物(但し、脂環構造を有するものを除く。)と水酸基含有(メタ)アクリレートとを反応させてなる多官能ウレタン(メタ)アクリレートと、成分(B)脂環構造を有する2官能(メタ)アクリレートとを含」むことに相当する。

(ウ) 引用発明において「前記成分(A)の数平均分子量は、200?5000であることが好まし」いことは、本件補正発明において「前記成分(A)の数平均分子量は、200?5000であ」ることに相当する。

(エ) 引用発明において「前記重合性組成物中の成分(A)の含有量は、前記重合性組成物100質量%に対して、10?50質量%であることが好ましく」、「前記重合性組成物中の成分(B)の含有量は、前記重合性組成物100質量%に対して、10?40質量%であることが好まし」いことは、本件補正発明において「前記重合性組成物中の成分(A)の含有量が、前記重合性組成物100質量%に対して、10?50質量%であり、成分(B)の含有量が、前記重合性組成物100質量%に対して、10?40質量%であ」ることに相当する。

(オ) 引用発明において「前記重合性組成物中の成分(A)の質量(MA)と成分(B)の質量(MB)との質量比(MA)/(MB)の範囲は、30/70?70/30であることが好まし」いことは、本件補正発明において「前記重合性組成物中の成分(A)の質量(MA)と成分(B)の質量(MB)との質量比(MA)/(MB)の範囲が、30/70?70/30であ」ることに相当する。

(カ) 引用発明において「樹脂成形体の鉛筆硬度は9Hであ」ることは、本件補正発明において「前記硬化フィルムの鉛筆硬度は3H?9Hであ」ことに相当する。

イ 前記アの結果をまとめると、本件補正発明と引用発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「 紫外線硬化型アクリル系樹脂を含んだ重合性組成物の硬化フィルムからなる折り曲げ可能なディスプレイ用フィルムにおいて、
前記紫外線硬化型アクリル系樹脂は、成分(A)ポリイソシアネート化合物(但し、脂環構造を有するものを除く。)と水酸基含有(メタ)アクリレートとを反応させてなる多官能ウレタン(メタ)アクリレートと、成分(B)脂環構造を有する2官能(メタ)アクリレートとを含み、
前記成分(A)の数平均分子量は、200?5000であり、
前記重合性組成物中の成分(A)の含有量が、前記重合性組成物100質量%に対して、10?50質量%であり、成分(B)の含有量が、前記重合性組成物100質量%に対して、10?40質量%であり、
前記重合性組成物中の成分(A)の質量(MA)と成分(B)の質量(MB)との質量比(MA)/(MB)の範囲が、30/70?70/30であり、
前記硬化フィルムの鉛筆硬度は3H?9Hである、折り曲げ可能なフィルム。」

<相違点>
<相違点1>
本件補正発明は「フォルダブルディスプレイ用フィルム」であるのに対して、引用発明は「フレキシブルディスプレイに有用であるフィルム状の樹脂成形体」である点。

<相違点2>
本件補正発明の硬化フィルムの厚みは「30μm?100μm」であるのに対して、引用発明においてはそのような厚さの特定はなく、引用文献1に記載された実施例での樹脂成形体の厚みは258μ、262μ(【0117】、【0118】)である点。

<相違点3>
本件補正発明の硬化フィルムの屈曲耐久性は「φ2mm以下」であるのに対して、引用発明においては「JIS K5600?5?1に準じて屈曲試験器で測定することができるフレキシブル性はφ12以下が好ましい」としている点。

(4) 判断
ア 相違点1について
前記(2)ウで示した引用文献3の記載において、「フレキシブルディスプレイ」の「折り曲げ可能な内接円直径は小さいほどよく、より好適には2mmであり、さらに好ましくは直径1mmである。」とされていることからも明らかなように、技術常識を踏まえれば、通常「フレキシブルディスプレイ」とは折り畳み可能なディスプレイである「フォルダブルディスプレイ」を含む概念として理解されるべきものであるといえる。また、引用発明の「フレキシブルディスプレイ」において「フォルダブルディスプレイ」が除外されているとする理由もない。
したがって、相違点1は実質的な相違点ではない。

イ 相違点2及び3について
前記相違点2と相違点3は技術的に関係しているから、併せて検討する。
樹脂材料からなるフィルム状成形体について、その表面硬度とフレキシブル性の間にはトレードオフの関係が存在すること、及び、フィルム状成形体の厚さを変更することによってフレキシブル性の度合いを調整することができることは、本願出願前に当業者にとっての技術常識である(引用文献1の段落【0076】の記載事項「フレキシブル性の評価が低過ぎると、樹脂成形体をフレキシブルディスプレイ等に用いた場合にひびや割れを生じてしまうおそれがあり、フレキシブル性の評価が高過ぎると、樹脂成形体が、タッチパネル等に用いるのに十分な表面硬度を示さないおそれがある。」、及び、引用文献2の段落【0021】の記載事項「透明基材層4の厚みは特に限定はないが、耐久性、可撓性などを勘案して・・・」を参照。)。
そうすると、引用発明において、上記技術常識を踏まえて、「フィルム状の樹脂成形体」の具体的な用途に応じて所望の表面硬度とフレキシブル性を実現するために、適切な厚さを選択することは、当業者が当然に実施すべき工程の一つにすぎないといえる。
また、屈曲耐久性が高いほど望ましことは技術常識であるところ、引用文献3の【0050】において、「折り曲げ可能なディスプレイでは、内接円直径が3mm以下で繰り返し曲げられることが好ましい。細く曲げられないディスプレイでは、曲げた後のディスプレイが厚みを持つため好ましくない。折り曲げ可能な内接円直径は小さいほどよく、より好適には2mmであり、さらに好ましくは直径1mmである。」と記載されていことからも明らかなように、「φ2mm以下」という屈曲耐久性を有することが望ましいことも、技術常識である。
また、引用発明において「製造装置100において、重合体組成物層の厚みを調節できるようになっている調節ローラ105Aと105Bとの間の各隙間は、形成するフィルムの厚みに合わせ、数μm以上、数百μm以下の範囲で調整され」るという記載があるところ、「30μm?100μm」の数値範囲は、前記記載の範囲に含まれるものである。
以上の点を考慮すると、「φ2mm以下」という屈曲耐久性の値を示すようにするために、厚みを薄くするように調整して、「30μm?100μm」という厚さに設定することは、当業者が通常検討すべき事項の範囲内のものであるといえる。
したがって、引用発明及び技術常識に基づいて、前記相違点2及び3に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者にとっては通常の創作能力の発揮にすぎず、格別なものではない。

ウ 請求人の主張について
審判請求人は、審判請求書において「ここで、フィルムの厚みを薄くすれば、その分柔軟性が高まり、屈曲耐久性が向上するとともに、強度の低下が起こります。これについて引用文献1は、『フレキシブル性の評価が高過ぎると、樹脂成形体が、タッチパネル等に用いるのに十分な表面硬度を示さないおそれがある。』と明確に開示しています。そして、屈曲耐久性(フレキシブル性)がφ2mmというのは、マンドレル試験での最高評価です。したがって、引用文献1に触れた当業者は、フレキシブル性が最高評価であるφ2mmは、フレキシブル性の評価が高過ぎると評価します。このため、このようなフレキシブル性が得られるまでに厚みを薄くしすぎることはありません。」と主張している。
しかしながら、審判請求人の指摘する引用文献1の段落【0076】の記載は、フィルム状の樹脂成形体においてフレキシブル性と表面硬度の間にはトレードオフの関係が存在するという一般的な性質を説明する記載にすぎず、引用発明において「φ2mm」の屈曲耐久性を実現する樹脂成形体の厚さを選択することを妨げる記載であるとは認められない。
よって、上記主張を採用することはできない。

エ 効果について
前記相違点1?3を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する効果は、引用発明及び技術常識から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著な効果を認めることはできない。

オ 小括
したがって、本件補正発明は、引用発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができたものではない。

(5) 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
したがって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は前記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1?8に係る発明は、令和2年6月5日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は前記第2の1(1)に示した記載により特定されるとおりのものである。

2 原査定における拒絶の理由の概要
原査定における拒絶の理由のうち、本願発明についての理由は、本願発明は、以下の引用文献1-2に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2015-187213号公報
引用文献2:特開2012-166480号公報

3 引用文献の記載事項
引用文献1-2に記載された事項及び引用発明は、前記第2の2(2)ア及びイのとおりである。

4 判断
本願発明は、前記第2の2で検討した本件補正発明と比較して、「硬化フィルムの厚み」及び「屈曲耐久性」の数値限定の範囲が広いものである。
ここで、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに「硬化フィルムの厚み」及び「屈曲耐久性」の数値限定の範囲を減縮した本件補正発明が、前記第2の2において説示したとおり、引用発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明し得たものであるから、本願発明も同様に、引用発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。


第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶するべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2021-08-27 
結審通知日 2021-08-31 
審決日 2021-09-15 
出願番号 特願2016-153653(P2016-153653)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G09F)
P 1 8・ 575- Z (G09F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小野 博之  
特許庁審判長 岡田 吉美
特許庁審判官 中塚 直樹
濱野 隆
発明の名称 フォルダブルディスプレイ用フィルムおよびその製造方法  
代理人 大前 要  
代理人 安藤 康浩  

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