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審決分類 審判 査定不服 (159条1項、163条1項、174条1項で準用) 特許、登録しない。 A61L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61L
管理番号 1379574
審判番号 不服2020-5091  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-04-15 
確定日 2021-11-05 
事件の表示 特願2018-519970「吸着システム及び吸着システムの運転方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 5月11日国際公開、WO2017/077086、平成30年11月22日国内公表、特表2018-534049〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2016年(平成28年)11月4日(優先権主張外国庁受理 2015年(平成27年)11月6日 ドイツ(DE)(2件)、2016年(平成28年)4月1日、ドイツ(DE))を国際出願日とする出願であて、平成31年3月15日付けで拒絶理由が通知され、令和元年9月18日に意見書及び手続補正書が提出され、同年12月23日付けで拒絶査定がなされ、令和2年4月15日に拒絶査定不服の審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年4月30日に手続補正書(方式)が提出されたものである。

第2 令和2年4月15日付け手続補正についての補正の却下の決定
[補正却下の決定の結論]
令和2年4月15日付け手続補正を却下する。
[理由]
1 本件補正の内容
(1)令和2年4月15日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についてするものであって、本件補正前の請求項1は次のアのとおりであり、本件補正後の請求項1は次のイのとおりである。
ア 本件補正前の請求項1
「内部に少なくとも1つの収着剤が静止相として配置されると共に、香気分を添加するために収着剤に、移動相として、作業室を導通させることが可能な香気成分含有流体を当てることが可能な少なくとも1つの作業室(12)を備える、香気成分を富化するための吸着システム(10)であって、
前記少なくとも1つの作業室(12)の全長に対する平均断面厚の比率が最大0.3であり、前記少なくとも1つの作業室(12)の前記全長が少なくとも4.0mであり、前記収着剤が、イオン交換体、正常相、極性結合相及び逆相又はその任意の混合物の群から選択されることを特徴とする吸着システム(10)。」
イ 本件補正後の請求項1
「内部に少なくとも1つの収着剤が静止相として配置されると共に、香気成分を添加するため収着剤に、移動相として、作業室を通過させることが可能な香気成分含有流体を当てることが可能である少なくとも1つの作業室(12)を備える、香気成分を富化するための吸着システム(10)であって、
前記少なくとも」1つの作業室(12)の全長に対する平均断面厚の比率が最大0.3で、前記少なくとも1つの作業室(12)の前記全長が少なくとも4.0mであり、前記収着剤が、イオン交換体、順相、極性結合相及び逆相又はそれら混合物の群から選択され、
前記作業室(12)が分離トレイ(30)によって部分室(32)に分割されており、
前記吸着システム(10)が、少なくとも1つの作業室(12)を所定温度に調節できる少なくとも1つの調節装置(40)を備えており、
前記吸着システム(10)が、前記少なくとも1つの収着剤に前記香気成分含有流体を当て、香気成分を前記収着剤に吸着させる吸着モードと、前記少なくとも1つの収着剤に流体脱着剤を当て、前記吸着された香気成分を香気成分濃縮物として前記脱着剤に脱着させる脱着モードで前記吸着システム(10)を運転するように形成された制御装置を含み、前記制御装置が前記調節装置(40)に結合され、前記脱着モードとは異なり、前記吸着モードではより低温で前記調節装置(40)を運転するように形成されることを特徴とする吸着システム(10)。」
(当審注:「前記少なくとも」1つの作業室(12)」という記載は、「前記少なくとも1つの作業室(12)」の誤記であると認める。)
(2)本件補正は、補正前の請求項1における発明を特定するために必要な事項である「作業室」及び「吸着システム」について限定するものであって、産業上の利用分野及び解決しようとする課題も補正前と同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号にいう特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。そこで、上記本件補正発明が、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(すなわち、いわゆる独立特許要件を満たすか)について、以下、進歩性(特許法第29条第2項)の観点から検討する。

2 本件補正発明の独立特許要件の検討
(1)引用例
特開昭58-96699号公報(原査定の引用文献2)
(2)引用例の記載
引用例には、「芳香物質を抽出または濃縮する方法」(発明の名称)について、次の記載がある(下線は当審が付与)。
ア 「3.発明の詳細な説明
本発明は芳香物質を水溶液から抽出または濃縮する方法に関する。」
イ 「従って、本発明は芳香物質を水溶液から抽出または濃縮する方法に関し、この方法は水溶液をその表面が有機基で変性されている多孔質吸着剤の床に通し、この床を次いで水溶液の量に比較して少ない量の有機溶剤で溶出することを特徴とする。」
ウ 「これに対し、本発明の方法により、芳香物質を気化濃縮物から直ちに採取でき、抽出液に加えることができる。この手段により凍結乾燥または噴霧乾燥中に蒸発させる必要がある液体の量が極めて少量であり、そしてこの手段により多量のエネルギーが節約できる。しかしながら、さらにまた、噴霧乾燥または凍結乾燥中に生成された濃縮物中に含有されている、従来失われていた、芳香物質をそこから回収できる。
この特性において、本発明による方法により、芳香物質の非常に不均質の混合物のいくつかの成分を抽出できるばかりでなく、また明らかに、その天然組成の成分全体を抽出できることは驚くべきことであり、これは本発明により抽出された生成物の感覚的印象が原材料のものと大きく違わないことから明白である。この事実は驚くべきことに、いくつかが非常に敏感である芳香成分の分解が一部が800m^(2)/gまでの比表面積を有する高度に活性の吸着剤を用いても、吸着剤上で生起しないという結論を導く。」
エ 「大きい効率にもかかわらず、本発明による方法は非常に簡単に実施できる。本方法は吸着剤床を含有し、芳香物質含有水溶液用の導入口および流出口を有する装置を必要とするだけである。この目的には、液クロマトグラフイーで既知のカラムを用いるのが好ましく、その大きさは被処理溶液の量について適当に選択する。この態様では、一般に吸着剤1kg当り約50?1000lの水溶液を処理できるような負荷能力を有する吸着剤を使用するように注意すべきである。」
オ 「明白なように、使用カラムの寸法は吸着剤の必要量により変わる。水溶液はカラムにそれ自体の静水圧下に適用するか、または特に微細な吸着剤を使用することによりカラム抵抗性が比較的高くなる場合に、その流速を高めるように上昇させた圧力下に適用する。100バールおよびそれ以上の圧力を生成できる適当なポンプは相当する高圧液クロマトグラフイー装置で既知である。
本発明に従い使用する吸着剤もまた液クロマトグラフイーで既知である。これらにはその親水性表面が有機シランとの反応により疎水性にされており、その表面全体が化学的に結合した有機基でおおわれている多孔質無機吸着剤、特にシリカゲルがある。使用するシリカゲルは高度に多孔質であり、一般に約100?800m^(2)/gの比表面積を有する。」
カ 「本発明においては、1?24個、好ましくは2?18個の炭素原子を有するアルキル基で変性されているシリカゲルを使用する。水溶液中に含有されている芳香物質はこれらの吸着剤上に選択的に吸着され、水性相からほとんど定量的に除去される。吸着された芳香物質を抽出するためには、水溶液の流れを止め、カラムを少量の有機溶剤で溶出する。芳香物質が定量的に脱着され、有機溶剤中に濃縮された溶液として得られる。脱着には、吸着剤1kg当り約50?100mlの有機溶剤でも十分であるので、この方法で、500,000までの濃縮係数が達成できる。
好適に使用できる有機溶剤は、たとえば低級アルコール、低級ケトン等のような極性があり水溶性の溶剤である。特に好適な溶剤は、特に食品規制に関連した理由で、エタノールである。エタノールは純粋な形で使用できる。しかしながら、芳香エツセンスは芳香物質のスピリット溶液として市販されるのが通常であるので、飲料用スピリットもまたカラムの脱着に直接に使用でき、すぐ使用可能のエツセンスが直ちに得られる。」
キ 「例 1
リンゴジュース1,000lから慣用の方法で熱を適用することにより生成した150lの濃縮物が得られ、850lの凝縮液が生じる。C_(8)アルキルで変性したシリカゲル(粒子寸法0.05mm、表面積約200m^(2)/g)3.5kgを充填した鋼製カラム(長さ400mm、内径100mm)に、6バールの加圧下にポンプ送りする。芳香物質を含有していない水流出液は捨てる。吸着剤上に吸着された芳香物質を飲料用アルコール2lで溶出することにより抽出する。高品質の天然リンゴアロマが得られ、これは直ちに使用できる。
同様の方法で、その他のフルーツジュースの濃縮で生成する凝縮液から、芳香物質を抽出できる。」
(3)引用例に記載された発明(引用発明)
引用例には、吸着剤床を含有し、芳香物質含有水溶液用の導入口及び流出口を有する装置を用いた芳香物質を水溶液から抽出または濃縮する方法が記載されている(上記(1)エ)
そして、「例1」(同キ)では、「吸着剤床」は、「吸着剤」である「C_(8)アルキルで変性したシリカゲル(粒子寸法0.05mm、表面積約200m^(2)/g)3.5kg」を充填した「鋼製カラム(長さ400mm、内径100mm)」であり、「芳香物質含有水溶液」は、リンゴジュースの凝縮液であることは明らかであるから、引用例には、「例1」の装置として、次の発明が記載されていると認められる。
「吸着剤床を含有し、芳香物質を水溶液から抽出または濃縮する方法に用いられる、芳香物質含有水溶液用の導入口及び流出口を有する装置であって、
吸着剤床は、吸着剤であるC_(8)アルキルで変性したシリカゲル(粒子寸法0.05mm、表面積約200m^(2)/g)3.5kgを充填した鋼製カラム(長さ400mm、内径100mm)であり、
芳香物質含有水溶液は、リンゴジュースの凝縮液であり、
前記鋼製カラムに、リンゴジュースの凝縮液の850lを6バールの加圧下にポンプ送りし、
吸着剤上に吸着された芳香物質を飲料用アルコール2lで溶出することにより抽出して、天然リンゴアロマを得る装置。」
(4)対比・判断
本件補正発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「芳香物質」及び「飲料用アルコール」は、本件補正発明の「香気成分」及び「流体脱着剤」にそれぞれ相当する。
イ 引用発明の「天然リンゴアロマ」は、リンゴジュースの芳香成分が富化・濃縮されたものであることは明らかであるから、本件補正発明の「香気成分濃縮物」に相当し、引用発明の「装置」は、本件補正発明の「香気成分を富化するための吸着システム(10)」に相当する。
ウ 引用発明の「吸着剤」及び「C_(8)アルキルで変性したシリカゲル」は、本件補正発明の「香気成分を添加するため収着剤」及び「イオン交換体、順相、極性結合相及び逆相又はそれら混合物の群から選択され」たものにそれぞれ相当し、しかも、引用発明の「吸着剤」は「鋼製カラム」に「充填した」ものであるから、本件補正発明の「静止相」にも相当し、該「充填した」構成は、本件補正発明の「内部に少なくとも1つの収着剤が静止相として配置される」構成に相当する。
エ 引用発明の「リンゴジュースの凝縮液」は、本件補正発明の「香気成分含有流体」に相当し、しかも、「鋼製カラムに」「ポンプ送り」されるものであるから、本件補正発明の「移動相」にも相当する。
オ 引用発明の「鋼製カラム」は、本件補正発明の「移動相として、作業室を通過させることが可能な香気成分含有流体を当てることが可能である少なくとも1つの作業室(12)」に相当する。
カ 引用発明の「鋼製カラム」の「長さ」及び「内径」は、本件補正発明の「作業室(12)」の「全長」及び「平均断面厚」にそれぞれ相当する。
キ 引用発明の「鋼製カラムに、リンゴジュースの凝縮液の850lを6バールの加圧下にポンプ送り」する構成においては、「リンゴジュース」の「芳香成分」が「吸着剤」に当たって吸着されるから、該構成は、本件補正発明の「少なくとも1つの収着剤に前記香気成分含有流体を当て、香気成分を前記収着剤に吸着させる吸着モード」に相当する。
ク 引用発明の「吸着剤上に吸着された芳香物質を飲料用アルコール2lで溶出することにより抽出する」構成は、本件補正発明の「少なくとも1つの収着剤に流体脱着剤を当て、前記吸着された香気成分を香気成分濃縮物として前記脱着剤に脱着させる脱着モード」に相当する。

そうすると、本件補正発明と引用発明とは、
「内部に少なくとも1つの収着剤が静止相として配置されると共に、香気成分を添加するため収着剤に、移動相として、作業室を通過させることが可能な香気成分含有流体を当てることが可能である少なくとも1つの作業室(12)を備える、香気成分を富化するための吸着システム(10)であって、
前記収着剤が、イオン交換体、順相、極性結合相及び逆相又はそれら混合物の群から選択され、
前記吸着システム(10)が、前記少なくとも1つの収着剤に前記香気成分含有流体を当て、香気成分を前記収着剤に吸着させる吸着モードと、前記少なくとも1つの収着剤に流体脱着剤を当て、前記吸着された香気成分を香気成分濃縮物として前記脱着剤に脱着させる脱着モードとを備えた吸着システム(10)。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。
(相違点1)
本件補正発明では、「少なくとも1つの作業室(12)の全長に対する平均断面厚の比率が最大0.3で、前記少なくとも1つの作業室(12)の前記全長が少なくとも4.0mであ」るのに対し、引用発明の鋼製カラムは、長さ400mm(0.4m)、内径100mm(0.1m)であり、長さに対する内径の比率は、0.25(=0.1/0.4)である点。
(相違点2)
本件補正発明では、「作業室(12)が分離トレイ(30)によって部分室(32)に分割されて」いるのに対し、引用発明では、鋼製カラムは、そのようなものではない点。
(相違点3)
本件補正発明では、「吸着システム(10)が、少なくとも1つの作業室(12)を所定温度に調節できる少なくとも1つの調節装置(40)を備えて」いるのに対し、引用発明では、そのようなものを備えていない点。
(相違点4)
本件補正発明では、(吸着モードと脱着モードで)「吸着システム(10)を運転するように形成された制御装置を含み、前記制御装置が前記調節装置(40)に結合され、前記脱着モードとは異なり、前記吸着モードではより低温で前記調節装置(40)を運転するように形成されること」が特定されているのに対し、引用発明は、そのようなものを備えていない点。

ここで、相違点について検討する。
(相違点1、2について)
引用例には、「明白なように、使用カラムの寸法は吸着剤の必要量により変わる。」(上記(1)オ)及び「一般に吸着剤1kg当り約50?1000lの水溶液を処理できるような負荷能力を有する吸着剤を使用するように注意すべきである。」(同エ)と記載されているように、引用発明の鋼製カラムの長さや内径は、必要とされる吸着剤の必要量によって変わるものであって、吸着剤の必要量は、処理する水溶液(リンゴジュースの凝縮液)の量に比例するものであることが理解される。
そして、引用発明では処理する水溶液(凝縮液)は850lであるところ、引用発明のようなリンゴジュースを扱うものにおいては、処理する水溶液(凝縮液)の量は850lにとどまるものではなく、恒常的に大量の水溶液(凝縮液)を処理する必要があるものと解される。
そのような場合、吸着剤(C_(8)アルキルで変性したシリカゲル(粒子寸法0.05mm、表面積約200m^(2)/g))の量を可能な限り増やすことが行われるといえる。
一方、大量の吸着剤を充填したカラムとして、上記相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項を満たすものは周知である(たとえば、特開2008-143776号公報(以下、「周知例1」という。)には、「転換炉1から流出した生成ガスとして表1に示す成分を有する生成ガスを用いた。また、塔径1600mmφ、充填高さ10000mmhの吸着塔(第2実施態様では前段活性炭充填層8Aおよび後段活性炭充填層8B)を用いた。」(【0046】)と記載され、「少なくとも1つの作業室(吸着塔)の全長(充填高さ10000mm)に対する平均断面厚(塔径1600mmφ)の比率が最大0.3(0.16)で、前記少なくとも1つの作業室(12)の前記全長が少なくとも4.0mであ」るものが記載されている)。
また、上記周知例1に「吸着塔(第2実施態様では前段活性炭充填層8Aおよび後段活性炭充填層8B)を用いた」と記載されているように、吸着塔が比較的大きなものにおいては、吸着剤の充填層を分割して配置することは周知であり、また、吸着塔を分割せずに吸着塔の内部において吸着剤をトレイを用いて分割して配置することも周知である(たとえば、特開2011-17077号公報(以下、「周知例2」という。)には、「図7に示されるように、ガスの流れが蛇行状になるように、ガスの入口から出口方向にかけて、切欠部が左右交互になるように精製装置の筒状部材内の側面に8段設けた。吸着剤としてフッ化ナトリウムをトレイ型容器にそれぞれ80g充填した(8段で総量640g)また、筒状部材外周に設けられたヒーターによって筒状部材内の温度を100℃と調整した。)。」(【0131】)と記載され、トレイ型容器に吸着剤を充填したものを複数段配置し、各段ごとに部分室を形成することが記載されていると認められる)。
そうすると、引用発明において、上記相違点1、2に係る本件補正発明の発明特定事項を備えることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(相違点3、4について)
原査定で引用された引用文献3(特開平10-151182号公報)には、次の記載が認められる(下線は当審が付与した。)。
「【請求項1】 甘蔗汁、および甘蔗由来の製糖蜜、から選ばれた原料をカラムクロマトグラフィーで処理して得られる消臭物質であって、前記原料を、固定担体として合成吸着剤を充填されたカラムに通液し、該合成吸着剤に吸着された成分を、水、メタノール、エタノールおよびこれらの混合物から選ばれる溶媒で溶出することによって得られる画分であることを特徴とする消臭物質。
(中略)
【請求項6】 前記カラムクロマトグラフィーでの処理を、
原料の固形分に対して0.01?5倍湿潤体積量の無置換基型の芳香族系樹脂を充填したカラムに、カラム温度60?97℃にて原料を通液した後、カラムに吸着された成分を、カラム温度20?40℃にて50/50?60/40(体積/体積)エタノール‐水混合溶媒で溶出させることによって行い、かつ該エタノール‐水混合溶媒での溶出開始時点から集めた溶出液の量が前記樹脂の4倍湿潤体積量以内に溶出する画分である請求項1記載の消臭物質。」、及び、
「【0036】実施例1
(1)消臭物質の分離
原糖製造工場の製糖工程にて得られた甘蔗汁(タイ国産、固形分18.8%)600リットルを、ジュースヒーターで80℃に加温し、管型限外濾過(ダイセル化学工業(株)製、MH?25型、有効膜面積2m^(2)×3本、分画分子量10万)で濾過処理した。合成吸着剤(SP?850;商品名、三菱化学(株)製)15リットルを、ウォータージャケット付きのカラム(カラムサイズ:内径17.0cm、高さ100cm)に充填し、これに前記の甘蔗汁濾過処理物を、流速30リットル/時間(SV=2(時間^(-1)))の速度で通液した。なお甘蔗汁通過中は、ウォータージャケットには、80℃の水を常に循環させた。次に、45リットルの蒸留水を、流速30リットル/時間でカラムに通液して洗浄した。次いで、55%エタノール水溶液(エタノール/水=55/45(体積/体積))45リットルを、流速30リットル/時間(SV=2(時間^(-1)))にてカラムに通液して、合成吸着剤に吸着した成分を溶出させた。なお溶出溶媒通過中は、ウォータージャケットには、25℃の水を常に循環させた。カラムから溶出した画分を、濃縮機にて約20倍濃度に減圧濃縮した後、1晩凍結乾燥して、茶褐色の粉末(I)655gを得た。」
また、上記周知例2には、「筒状部材外周に設けられたヒーターによって筒状部材内の温度を100℃と調整した」という記載もある。
これらの記載から明らかなように、吸着と脱着を行う場合、吸着や脱着を行う際に、カラム(作業室)に設けたウオータージャケットやヒーター等を用いて、吸着剤の温度を制御することは周知であるといえる。
そして、その際の温度は、吸着する対象の特性に応じて決められるものであるところ、引用発明においてはリンゴジュースは芳香物質であり、高温において揮発しやすいものであることは明らかであるから、吸着時は脱着時より低温が望ましいことは明らかである。
そして、ヒーター等の制御に、制御装置や調節装置を用いることも明らかであるから、引用発明において、上記相違点3、4に係る本件補正発明の発明特定事項を備えることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(本件補正発明の効果について)
本件補正発明と引用発明とは、いずれも香気成分の富化を可能とするという作用効果の点において差異があるものではなく、本件補正発明が引用発明に比較して、格別顕著な作用効果を奏するものとはいえない。
また、本件補正発明は、上記相違点1?4に係る発明特定事項を備えるものの、次のような理由から、格別顕著な作用効果を奏するものとはいえない。
(相違点1に係る発明特定事項について)
吸着される香気成分がどのようなものとなるかは、収着剤(吸着剤)の種類、充填量、脱着剤の種類、吸着・脱着の際の温度等に依存することは明らかであり、それらが特定されない本件補正発明において、作業室の「全長」や全長に対する「平均断面厚」の比率が特定されたからといって、吸着される香気成分や量について、引用発明と比較して、格別な相違が生じるものではない。
(相違点2に係る発明特定事項について)
複数の「部分室(32)」においてどの程度の圧力低下が生じるかは、それらを分割する「分離トレイ(30)」の圧力低下をもたらす特性(大きさや流体透過率等)によって定まるものであり、それが特定されない本件補正発明においては、「作業室(12)が分離トレイ(30)によって部分室(32)に分割されて」いるからといって、直ちに所望の圧力低下がもたらされるものとはいえない。
そうすると、相違点2に係る発明特定事項によって、引用発明と比較して、格別な相違が生じるものではない。
(相違点3、4に係る発明特定事項について)
上述したように、引用発明において吸着時は脱着時より低温が望ましいことは明らかであり、本件補正発明においては具体的な温度が特定されるものではなく、どのように温度を変化させるかも特定されていないのであるから、「吸着システム(10)が、少なくとも1つの作業室(12)を所定温度に調節できる少なくとも1つの調節装置(40)を備えて」「吸着システム(10)を運転するように形成された制御装置を含み、前記制御装置が前記調節装置(40)に結合され、前記脱着モードとは異なり、前記吸着モードではより低温で前記調節装置(40)を運転するように形成される」からといって、本件補正発明は、当業者が予測し得ない格別顕著な作用効果を奏するものではない。
(請求人の主張について)
請求人は、上記相違点1?4に係る発明特定事項による相乗効果を主張しているものの、上述したように、本件補正発明においては、上記相違点1?4に係る発明特定事項相互に有機的な関連があるものではなく、相乗効果を奏するものとは認めることができず、請求人の主張は採用することができない。

(まとめ)
以上のとおり、本件補正発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法126条第7項の規定に違反するから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
上記第2のとおり、本件補正は却下されたので、本願発明は、令和元年9月18日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?59に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その請求項1は、上記第2 1(1)アのとおりである(以下、「本願発明」という。)。

2 原査定の拒絶の理由は、「平成31年3月15日付け拒絶理由通知書に記載した理由3」であって、要するに、この出願の請求項1?59に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献(1.特開昭55-88806号公報、2.特開昭58-096699号公報(上記「引用例」)、3.特開平10-151182号公報、4.国際公開第2015/104357号、5.特開昭63-304973号公報)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

3 対比・判断
本願発明は、実質的に、前記「第2」で検討した本件補正発明から、「前記作業室(12)が分離トレイ(30)によって部分室(32)に分割されており、前記吸着システム(10)が、少なくとも1つの作業室(12)を所定温度に調節できる少なくとも1つの調節装置(40)を備えており、前記吸着システム(10)が、前記少なくとも1つの収着剤に前記香気成分含有流体を当て、香気成分を前記収着剤に吸着させる吸着モードと、前記少なくとも1つの収着剤に流体脱着剤を当て、前記吸着された香気成分を香気成分濃縮物として前記脱着剤に脱着させる脱着モードで前記吸着システム(10)を運転するように形成された制御装置を含み、前記制御装置が前記調節装置(40)に結合され、前記脱着モードとは異なり、前記吸着モードではより低温で前記調節装置(40)を運転するように形成される」点を削除したものである。
そうすると、実質的に本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに上記の点によって限定したものに相当する本件補正発明が、上記第2に記載したとおり、上記引用例に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、当該引用例に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであることは明らかである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2021-06-09 
結審通知日 2021-06-10 
審決日 2021-06-23 
出願番号 特願2018-519970(P2018-519970)
審決分類 P 1 8・ 56- Z (A61L)
P 1 8・ 121- Z (A61L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松井 一泰  
特許庁審判長 天野 斉
特許庁審判官 小出 輝
川端 修
発明の名称 吸着システム及び吸着システムの運転方法  
代理人 伊藤 研一  

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