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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60H
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60H
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60H
管理番号 1379596
審判番号 不服2019-11703  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-09-05 
確定日 2021-11-10 
事件の表示 特願2017-552086「電気自動車用インテリジェントヒーターシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成28年10月 6日国際公開、WO2016/155667、平成30年 4月26日国内公表、特表2018-511525〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2016年(平成28年)4月1日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2015年4月3日、中華人民共和国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
平成30年 8月20日:拒絶理由通知
平成30年11月22日:意見書、手続補正書
平成31年 4月18日:拒絶査定
令和 1年 9月 5日:審判請求、同時に手続補正書
令和 2年 7月17日:当審による拒絶理由通知
令和 2年10月21日:意見書、手続補正書
令和 3年 2月 5日:当審による(最後の)拒絶理由通知
令和 3年 4月26日:意見書、手続補正書

第2 令和3年4月26日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和3年4月26日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「電熱チップを熱源とする、電気自動車用インテリジェントヒーターシステムであって、前記電気自動車用インテリジェントヒーターシステムは、電熱チップ熱源本体、ECU、安全な蓄熱用恒温恒圧器、クーラントタンク、可変容量形ポンプ及び熱交換器を備え、
前記電熱チップ熱源本体の出口端が安全な蓄熱用恒温恒圧器の入り口端に接続され、安全な蓄熱用恒温恒圧器の出口端が熱交換器の入り口端に接続され、熱交換器の出口端がクーラントタンクの入り口端に接続され、クーラントタンクの出口端が可変容量形ポンプの入り口端に接続され、可変容量形ポンプの出口端が電熱チップ熱源本体の入り口端に接続され、
前記ECUは電熱チップ熱源本体に接続されてそれを制御し、熱交換器は信号出力端子がECUに接続された温度センサが設けられ、
前記電熱チップ熱源本体は、前記ECUが電圧110-410V、電力3-30キロワットのバッテリー電源の正極と負極に接続される場合、表面熱応答が250℃/秒以上であり、表面熱負荷が230W/cm^(2)に達し、遠赤外線高温放射率が95%に達する、ことを特徴とする電気自動車用インテリジェントヒーターシステム。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和2年10月21日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「電熱チップを熱源とする、電気自動車用インテリジェントヒーターシステムであって、前記電気自動車用インテリジェントヒーターシステムは、電熱チップ熱源本体、ECU、安全な蓄熱用恒温恒圧器、クーラントタンク、可変容量形ポンプ及び熱交換器を備え、
前記電熱チップ熱源本体の出口端が安全な蓄熱用恒温恒圧器の入り口端に接続され、安全な蓄熱用恒温恒圧器の出口端が熱交換器の入り口端に接続され、熱交換器の出口端がクーラントタンクの入り口端に接続され、クーラントタンクの出口端が可変容量形ポンプの入り口端に接続され、可変容量形ポンプの出口端が電熱チップ熱源本体の入り口端に接続され、
前記ECUは電熱チップ熱源本体に接続されてそれを制御し、熱交換器は信号出力端子がECUに接続された温度センサが設けられ、
前記電熱チップ熱源本体は、表面熱応答が250℃/秒以上であり、表面熱負荷が230W/cm^(2)に達し、遠赤外線高温放射率が95%に達する、ことを特徴とする電気自動車用インテリジェントヒーターシステム。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「電熱チップ熱源本体」が、「表面熱応答が250℃/秒以上であり、表面熱負荷が230W/cm^(2)に達し、遠赤外線高温放射率が95%に達する」際のECUに接続するバッテリー電源の電圧及び電力について、上記のとおり限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)令和3年2月5日付けの当審による(最後の)拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2013-203254号公報(平成25年10月7日出願公開。以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。
「【0008】
本発明の目的は、温度センサを追加して設けることなく、PTCヒータおよびその周辺の異常高温による損傷を防止できる、電気自動車用空調システムを提供することである。」

「【0020】
空調システム1は、モータ(図示せず)を駆動源とする電気自動車用の空調システムである。空調システム1は、空調ダクト2と、空調ダクト2を車室内に向けて流れる送風を生成するブロワ3と、空調ダクト2を流れる送風を冷却するためのエバポレータ4と、空調ダクト2を流れる送風を加熱するためのヒータコア5とを備えている。
【0021】
エバポレータ4は、空調ダクト2内に配置されている。エバポレータ4には、冷媒循環路6が接続されている。冷媒循環路6には、電動コンプレッサ7およびコンデンサ8が介装されている。
【0022】
電動コンプレッサ7が駆動されると、電動コンプレッサ7で圧縮された冷媒がコンデンサ8に供給される。コンデンサ8では、その圧縮された冷媒が冷却されることにより、冷媒の液化が進む。コンデンサ8に対して冷媒の流通方向の下流側には、レシーバ(図示せず)およびエキスパンションバルブ(図示せず)が設けられている。コンデンサ8から流出する冷媒は、レシーバに供給される。レシーバでは、気化したままの冷媒と液化した冷媒とが分離される。そして、液化した冷媒のみがレシーバからエキスパンションバルブに送られ、その液化した冷媒がエキスパンションバルブからエバポレータ4に噴射されることにより、エバポレータ4が冷却される。
【0023】
ブロワ3からの送風は、エバポレータ4を通過することによって冷却され、冷風となって、空調ダクト2内を車室内に向けて流れる。
【0024】
ヒータコア5は、空調ダクト2内において、エバポレータ4よりも車室内側に配置されている。ヒータコア5には、温水循環路9が接続されている。温水循環路9には、リザーバタンク10、電動ポンプ11およびPTC( Positive Temperature Coefficient)ヒータ12が介装されている。
【0025】
リザーバタンク10には、水(温水)が貯留されている。電動ポンプ11が駆動されると、リザーバタンク10から水が汲み出されて、その水が温水循環路9を循環する。PTCヒータ12は、電動ポンプ11に対して温水の流通方向の下流側であって、ヒータコア5に対してその流通方向の上流側に配置されている。温水循環路9を循環する水は、PTCヒータ12によって加熱されて温水となり、ヒータコア5に供給される。これにより、ヒータコア5が温水によって加熱される。
【0026】
空調ダクト2内には、エバポレータ4とヒータコア5との間に、エアミックスダンパ13が設けられている。エアミックスダンパ13の位置により、ヒータコア5を通過する送風量とヒータコア5を通過しない送風量とが調整される。ヒータコア5を通過する送風は、ヒータコア5によって加熱される。ヒータコア5を通過した送風とヒータコア5を通過しない送風とが混合されることにより、適当な温度の空調風となり、その空調風が車室内に向けて流れる。
【0027】
空調ダクト2の出口には、デフロスタ吹出口14、フェイス吹出口15およびフット吹出口16が形成されている。デフロスタ吹出口14を通過する空調風は、たとえば、フロントガラスおよびフロントサイドガラスに向けて噴き出される。フェイス吹出口15を通過する空調風は、たとえば、運転席および助手席の上部に向けて噴き出される。フット吹出口16を通過する空調風は、たとえば、運転席および助手席の下方に向けて噴き出される。空調ダクト2内には、デフロスタ吹出口14、フェイス吹出口15およびフット吹出口16をそれぞれ開閉する吹出口切替ダンパ(図示せず)が設けられている。
【0028】
また、空調ダクト2の入口には、空調ダクト2内に車室外の空気を取り込む外気導入と空調ダクト2内に車室内の空気を取り込む内気循環とを切り替えるための吸込口切替ダンパ17が設けられている。
【0029】
そして、空調システム1には、CPUおよびメモリを含む構成のECU(電子制御ユニット)21が備えられている。
【0030】
ECU21には、ブロワ3、電動コンプレッサ7、電動ポンプ11、エアミックスダンパ13および吸込口切替ダンパ17が制御対象として接続されている。また、PTCヒータ12への通電をオン/オフするためのリレー22が制御対象として接続されている。さらに、ECU21には、電動ポンプ11の回転数(実回転数)を検出するための回転数センサ23および温水循環路9からヒータコア5に供給される温水の温度を検出する温度センサ24が接続されている。
【0031】
ECU21は、回転数センサ23によって検出される回転数に基づいて、電動ポンプ11の回転数が目標回転数に一致するように、電動ポンプ11の駆動を制御する。また、ECU21は、温度センサ24によって検出される温度に基づいて、ヒータコア5に供給される温水の温度が目標温度に一致するように、PTCヒータ12への通電が制御される。さらに、ECU21は、回転数センサ23によって検出される回転数および温度センサ24によって検出される温度に基づいて、次に説明するポンプ異常停止処理およびPTCヒータフェイルセーフ処理を実行する。」





(イ)上記記載から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
a 引用文献1に記載された技術は、PTCヒータを熱源とする電気自動車用空調システムであることがわかる(【0001】)。
b 電気自動車用空調システム1は、PTCヒータ12、ECU21、リザーバタンク10、電動ポンプ11及びヒータコア5を備えていることがわかる(【0024】【0029】【図1】)。
c PTCヒータ12の出口端がヒータコア5の入り口端に接続され、ヒータコア5の出口端がリザーバタンク10の入り口端に接続され、リザーバタンク10の出口端が電動ポンプ11の入り口端に接続され、電動ポンプ11の出口端がPTCヒータ12の入り口端に接続されていることがわかる(【0024】【0025】【図1】)。
d ECU21はPTCヒータ12に接続されてそれを制御し、ヒータコア5は信号出力端子がECU21に接続された温度センサ24が設けられていることがわかる(【0030】【0031】【図1】)。

(ウ)上記(ア)、(イ)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「PTCヒータ12を熱源とする、電気自動車用空調システム1であって、
前記電気自動車用空調システム1は、PTCヒータ12、ECU21、リザーバタンク10、電動ポンプ11及びヒータコア5を備え、
前記PTCヒータ12の出口端がヒータコア5の入り口端に接続され、ヒータコア5の出口端がリザーバタンク10の入り口端に接続され、リザーバタンク10の出口端が電動ポンプ11の入り口端に接続され、電動ポンプ11の出口端がPTCヒータ12の入り口端に接続され、
前記ECU21はPTCヒータ12に接続されてそれを制御し、ヒータコア5は信号出力端子がECU21に接続された温度センサ24が設けられた電気自動車用空調システム1。」

イ 引用文献2
(ア)同じく令和3年2月5日付けの当審による(最後の)拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開平7-94260号公報(以下「引用文献2」という。)には、次の記載がある。
「【0041】また、上記実施例では基板に形成するPTC抵抗発熱体の材料はチタン酸バリウム(BaTiO_(3))に酸化イットリウム(Y_(2)O_(3))などの希土類酸化物、酸化ネオジウム(Nd_(4)O_(7))、酸化アンチモン(Sb_(2)O_(3))などの少なくとも一種を添加したものなどで形成しても差支えなく、発熱温度やそれぞれ使用するヒータの状況に応じて適宜選べばよく、基板上に形成した帯状の抵抗発熱体は1本に限らず複数本形成してあってもよい。」

(イ)上記記載から、引用文献2には、次の技術(以下、「引用文献2に記載された技術」という。)が記載されていると認められる。
「PTC抵抗発熱体の材料としてチタン酸バリウム(BaTiO_(3))等を用いる技術。」

ウ 引用文献3
(ア)同じく令和3年2月5日付けの当審による(最後の)拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開平10-309933号公報(以下「引用文献3」という。)には、次の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、内燃機関(エンジン)の冷却水を保温貯蔵する蓄熱タンクを有する車両用暖房装置に関するもので、後述するHV車両に適用して有効である。」
「【0023】また、イグニッションスイッチ(図示せず)が投入され(ON状態となり)、HV車両が走行可能状態にあるときに、水温センサ15の検出値により冷却水の温度が所定温度(本実施形態では50℃)以下である判定されたときには、ヒータ14に通電し、流入回路10bを流通する冷却水を加熱する。ところで、蓄熱タンク9の冷却水下流側には、車室内の暖房手段をなすヒータコア16が設けられ、このヒータコア16で加熱された温風は、ダクト(図示せず)を介して、送風機17によって車室内に送風される。また、ヒータコア16の冷却水流入側には、ヒータコア16に流れ込む冷却水回路18の開閉を行う電磁弁19が設けられている。この電磁弁19は、夏場等の暖房未使用時に、ヒータコア16からの輻射熱を抑制するために、冷却水回路18を閉じるように制御される。」

「【0033】また、蓄熱タンク9で保温貯蔵された冷却水を暖房に用いるので、ヒータコア16に供給される冷却水温度が安定しているので、車室内に吹き出す空気の温度変化を抑制することができる。また、ヒータ14は、流入回路10bとバイパス回路10aとの分岐部である流量制御弁11の冷却水流れ下流側の流入回路10bに配設されているので、流量制御弁11より冷却水流れ上流側にヒータ14を配設した場合に比べて、より高
温の冷却水を蓄熱タンク9に供給することができる。」





(イ)上記記載から、引用文献3には、次の技術(以下、「引用文献3に記載された技術」という。)が記載されていると認められる。
「ヒータ14で加熱した冷却水を、ヒータ14とヒータコア16間に接続した蓄熱タンク9で保温貯蔵し、ヒータコア16に供給して暖房を行う車両用暖房装置に関する技術。」

エ 引用文献4
(ア)同じく令和3年2月5日付けの当審による(最後の)拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特表2008-508664号公報(以下「引用文献4」という。)には、次の記載がある。
「【0016】
当発明と伝統の電熱素子は比較して多くの性能の上の優位を持つ:PTCシックフィルムの電気回路制御の電熱素子の俗称は自動的な温度制限電熱体(あるいは自動恒温電熱体)で、それが発熱する過程中で加熱される体系の実際的な温度に基づいて自動的に出力パワー を調節する、保温と温度の制御といった目的を実現して、付加的な設備をいらない、1種類の知能の材料で、とてもよい発展の見込みを持つ。
【0017】
1、パワーの密度が大きい。PTCシックフィルムの電気回路の電熱素子のパワーの密度は普通は40?60W /cm^(2)で、強制的冷却の条件下で、そのパワーの密度は200W/cm^(2)にも達して、家庭用電熱の器具の中での合金の電熱の材料の 10倍近くで、大きいパワーの密度は同じ パワーのシックフィルムの電気回路の電熱素子がより小さい外形の寸法を持つほか、低い電圧でスタートすることができるが独特な特徴である。
【0018】
2、反応スピードが速い。シックフィルムの電気回路の電熱素子起動速度はとても速く、テ ストによると、抵抗のフィルムの表面の加熱のスピードは200?300℃/sに達することができて、これは電熱の合金の素子にとっては達成できないのである。このような優位はシックフィルム電気回路の電熱素子を速い加熱の器具に応用させることができて、例えば電気 ヒーター、電気湯沸器と低電圧の電器、例えば12V、24V、48Vなど。」

「【0031】
当発明PTCシックフィルムの電気回路の可制御の電熱素子はPTCシリーズのパーストの 調合のシックフィルムの電気回路の電熱素子を指すので、1種の正の温度の係数の半導体の発熱素子で、それはチタン酸バリウム(BaTiO3)のシリーズの化合物に属して、そして微量の希土類元素を混ぜて、シックフィルムの電気回路の製造技術を採用して、シンターしてきたのである。・・・(以下省略)・・・」

(イ)上記記載から、引用文献4には、次の技術(以下、「引用文献4に記載された技術」という。)が記載されていると認められる。
「チタン酸バリウム等からなるPTC電熱素子であれば、そのパワーの密度は200W/cm^(2)にも達し、表面の加熱のスピードは200?300℃/sに達することができるという技術。」


(3)引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の、「電気自動車用空調システム」は、本件補正発明の「電気自動車用インテリジェントヒーターシステム」に相当する。
(イ)引用発明の「PTCヒータ12」は、本件補正発明の「電熱チップ」又は「電熱チップ熱源本体」に相当する。
(ウ)引用発明の「ECU21」は、本件補正発明の「ECU」に相当する。
(エ)本件補正発明の「クーラントタンク」は、エンジンを冷却するために熱媒体を貯留するタンクではなく、電気自動車のヒータシステムの熱媒体を貯留するものである(本願明細書【0034】)ので、熱媒体である水を貯留する引用発明の「リザーバタンク10」は、本件補正発明の「クーラントタンク」に相当する。
(オ)引用発明の「電動ポンプ11」と本件補正発明の「可変容量形ポンプ」は、「ポンプ」という限りにおいて共通する。
(カ)引用発明の「ヒータコア5」は、ヒータコア5を通過する送風を加熱するものである(【0026】)ので、その機能を考慮すると、引用発明の「ヒータコア5」は、本件補正発明の「熱交換器」に相当する。
(キ)上記(イ)及び(カ)から、引用発明の「前記PTCヒータ12の出口端がヒータコア5の入り口端に接続され、」と本件補正発明の「前記電熱チップ熱源本体の出口端が安全な蓄熱用恒温恒圧器の入り口端に接続され、安全な蓄熱用恒温恒圧器の出口端が熱交換器の入り口端に接続され、」は、「前記電熱チップ熱源本体の出口端が熱交換器の入り口端に接続され」という限りにおいて共通する。

イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
【一致点】
「電熱チップを熱源とする、電気自動車用インテリジェントヒーターシステムであって、
前記電気自動車用インテリジェントヒーターシステムは、電熱チップ熱源本体、ECU、クーラントタンク、ポンプ及び熱交換器を備え、
前記電熱チップ熱源本体の出口端が熱交換器の入り口端に接続され、熱交換器の出口端がクーラントタンクの入り口端に接続され、クーラントタンクの出口端がポンプの入り口端に接続され、ポンプの出口端が電熱チップ熱源本体の入り口端に接続され、
前記ECUは電熱チップ熱源本体に接続されてそれを制御し、熱交換器は信号出力端子がECUに接続された温度センサが設けられた電気自動車用インテリジェントヒーターシステム」

【相違点1】
「前記電熱チップ熱源本体の出口端が熱交換器の入り口端に接続され、」について、本件補正発明は、電熱チップ熱源本体と熱交換器の間に「安全な蓄熱用恒温恒圧器」が接続されて、「前記電熱チップ熱源本体の出口端が安全な蓄熱用恒温恒圧器の入り口端に接続され、安全な蓄熱用恒温恒圧器の出口端が熱交換器の入り口端に接続され、」ているのに対し、引用発明は、そのような「安全な蓄熱用恒温恒圧器」を備えていない点。
【相違点2】
「ポンプ」について、本件補正発明は、「可変容量形ポンプ」であるのに対し、引用発明は、「電動ポンプ」であるが、可変容量形であるか否か不明な点。
【相違点3】
「電熱チップ熱源本体」について、本件補正発明は、「ECUが電圧110-410V、電力3-30キロワットのバッテリー電源の正極と負極に接続される場合、表面熱応答が250℃/秒以上であり、表面熱負荷が230W/cm^(2)に達し、遠赤外線高温放射率が95%に達する」のに対し、引用発明は、当該構成について特定されていない点。

(4)判断
以下、相違点について検討する。
ア 相違点1について
引用文献3には、上記(2)ウ(イ)のとおり、ヒータ14で加熱した冷却水を、ヒータ14とヒータコア16間に接続した蓄熱タンク9で保温貯蔵し、ヒータコア16に供給して暖房を行う車両用暖房装置に関する技術(引用文献3に記載された技術)が記載されている。
また、一般的に蓄熱タンクにおいて、温度センサ及び圧力センサを取り付けて温度及び圧力をある値に保つ(恒温恒圧)ように管理することは周知技術(国際公開第2012/042639号の[0025]ないし[0028]参照。以下、「周知技術1」という。)である。
そして、引用発明と、引用文献3に記載された技術とは、いずれも、車両用暖房装置である点で共通するものであり、さらに電気発熱体で加熱した熱媒体である水をヒータコアに供給して暖房を行うものである点においても共通するのであるから、引用発明において、引用文献3に記載された技術を採用し、その際に上記周知技術1に基づいて、上記相違点1に係る本件補正発明の如く構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

イ 相違点2について
一般的にポンプにおいて、流量を変化させるために可変容量形ポンプを用いることは周知技術(以下、「周知技術2」という。)であるので、引用発明における電動ポンプ11の代わりに、必要とされる熱輸送量に応じる等のために周知技術2である可変容量形ポンプを採用し、上記相違点2に係る本件補正発明の如く構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

ウ 相違点3について
チタン酸バリウムからなるPTC抵抗発熱体は引用文献2,4に記載され、さらに、引用文献4において、チタン酸バリウム等からなるPTC電熱素子であれば、そのパワーの密度は200W/cm^(2)にも達し、表面の加熱のスピードは200?300℃/sに達することができるという技術が記載されている。また、チタン酸バリウム等からなるPTC電熱素子は通常高い遠赤外線放射率(93%以上)を有することも知られている(例えば、特開2011-106690号公報の【0019】【0020】)(以下、「一般的に知られた事項」という。)。
また、本件補正発明の「表面熱応答が250℃/秒以上であり、表面熱負荷が230W/cm^(2)に達し、遠赤外線高温放射率が95%に達する」というそれぞれの数値限定の内と外のそれぞれの効果について量的に顕著な差異が認められないのであるから、当該数値限定に臨界的意義は認められない。
そうすると、上記数値限定は、引用文献2,4に記載された技術及び一般的に知られた事項に基づいて、当業者が最適化又は好適化したものに過ぎず、当業者が容易に想到し得たことである。
さらに、本件補正発明の「ECUが電圧110-410V、電力3-30キロワットのバッテリー電源の正極と負極に接続される場合」という数値限定についても、一般的な電圧、電力の範囲に関する限定であって臨界的意義は何ら認められない。また、引用発明においても電源を有することは明らかであり、その接続箇所をECUとすることは当業者が適宜選択しうる事項である。
以上から、引用発明において、引用文献2,4に記載された技術及び一般的に知られた事項に基づいて、上記相違点3に係る本件補正発明の如く構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

エ そして、これらの相違点1ないし3を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明、引用文献2ないし4に記載された技術、周知技術1及び2、及び一般的に知られた事項の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

オ したがって、本件補正発明は、引用発明、引用文献2ないし4に記載された技術、周知技術1及び2、及び一般的に知られた事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
令和3年4月26日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和2年10月21日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 令和3年2月5日付けの当審による(最後の)拒絶の理由
令和3年2月5日付けの当審による(最後の)拒絶の理由の理由2は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2ないし4に記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2013-203254号公報
引用文献2:特開平7-94260号公報
引用文献3:特開平10-309933号公報
引用文献4:特表2008-508664号公報

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1ないし4及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「前記ECUが電圧110-410V、電力3-30キロワットのバッテリー電源の正極と負極に接続される場合、」に係る限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、引用発明、引用文献2ないし4に記載された技術、周知技術1及び2、及び一般的に知られた事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明、引用文献2ないし4に記載された技術、周知技術1及び2、及び一般的に知られた事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2021-06-03 
結審通知日 2021-06-08 
審決日 2021-06-24 
出願番号 特願2017-552086(P2017-552086)
審決分類 P 1 8・ 575- WZ (B60H)
P 1 8・ 572- WZ (B60H)
P 1 8・ 121- WZ (B60H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 五十嵐 康弘  
特許庁審判長 松下 聡
特許庁審判官 林 茂樹
槙原 進
発明の名称 電気自動車用インテリジェントヒーターシステム  
代理人 奥野 彰彦  
代理人 伊藤 寛之  
代理人 伊藤 寛之  
代理人 SK特許業務法人  
代理人 奥野 彰彦  
代理人 SK特許業務法人  
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