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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A61K
管理番号 1379647
審判番号 無効2021-800002  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-12-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2021-01-04 
確定日 2021-11-08 
事件の表示 上記当事者間の特許第4912492号発明「二酸化炭素含有粘性組成物」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第4912492号(以下「本件特許」という。)に係る発明についての出願は、1998年10月5日(優先権主張 1997年11月7日)を国際出願日とする出願である特願2000-520135号の一部を、平成22年9月6日に新たな出願(特願2010-199412号)としたものであって、平成24年1月27日に特許権の設定登録がなされたものである。
これに対して、請求人は、令和3年1月4日差出の審判請求書により、本件特許の請求項1?7に係る発明についての特許を無効とすることを求めて、本件特許無効審判を請求した。主な手続の経緯は次のとおりである。

令和3年 1月 4日 審判請求書の差出
同年 5月10日 審判事件答弁書の提出
同年 6月 1日付け 審理事項通知書
同年 6月18日 口頭審理陳述要領書(被請求人)の提出
同年 6月19日 口頭審理陳述要領書(請求人)の差出
同年 7月 2日 上申書(被請求人)の提出
同年 7月 9日 口頭審理

第2 本件発明
本件特許の請求項1?7に係る発明(以下、請求項の番号に従い「本件発明1」?「本件発明7」といい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
医薬組成物又は化粧料として使用される二酸化炭素含有粘性組成物を得るためのキットであって、
1)炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と、酸を含有する顆粒剤、細粒剤、又は粉末剤の組み合わせ;
2)酸及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と、炭酸塩を含有する顆粒剤、細粒剤、又は粉末剤の組み合わせ;又は
3)炭酸塩と酸を含有する複合顆粒剤、細粒剤、又は粉末剤と、アルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物の組み合わせ;
からなり、
含水粘性組成物が、二酸化炭素を気泡状で保持できるものであることを特徴とする、
含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させることにより気泡状の二酸化炭素を含有する前記二酸化炭素含有粘性組成物を得ることができるキット。
【請求項2】
得られる二酸化炭素含有粘性組成物が、二酸化炭素を5?90容量%含有するものである、請求項1に記載のキット。
【請求項3】
含水粘性組成物が、含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させた後にメスシリンダーに入れたときの容量を100としたとき、2時間後において50以上の容量を保持できるものである、請求項1又は2に記載のキット。
【請求項4】
含水粘性組成物がアルギン酸ナトリウムを2重量%以上含むものである、請求項1?3のいずれかに記載のキット。
【請求項5】
含有粘性組成物が水を87重量%以上含むものである、請求項1?4のいずれかに記載のキット。
【請求項6】
請求項1?5のいずれかに記載のキットから得ることができる二酸化炭素含有粘性組成物を含む医薬組成物。
【請求項7】
請求項1?5のいずれかに記載のキットから得ることができる二酸化炭素含有粘性組成物を含む化粧料。」

第3 請求人の主張及び証拠方法
請求人が提出した審判請求書及び口頭審理陳述要領書によれば、請求人は、「特許第4912492号発明の特許請求の範囲の請求項1?7に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、本件発明1?7には、以下の無効理由が存在する旨を主張し、証拠方法として以下の甲号証(以下、甲番号に従い「甲1」等という。)を提出している。

(無効理由)
本件発明1?7は、甲1に記載の発明に公知技術等を適用することにより容易に想到できるものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件発明1?7に係る特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とするべきものである。

(証拠方法)
甲1:「エキスパートナース MOOK 16
最新!褥瘡治療マニュアル 創面の色に着目した治療法」,
照林社,1993年12月10日,p.22-25,p.72-73
甲2:「人工炭酸泉浴剤による褥創治療について」,総合リハ,
1989年8月,17巻,8号,p.605-609
甲3:「Alginates in Drugs and Cosmetics」,Economic Botany,
1950年10月,Vol.4,Issue 4,p.317-321
甲4:「医学書院 医学大辞典」,株式会社医学書院,
2003年3月1日,p.61,
「アルギン」「アルギン酸」「アルギン酸ナトリウム」の項
甲5:「アルギン酸ナトリウム(アルロイド)の局所止血および
創傷治癒効果」,薬理と治療,
1983年2月,Vol.11,No.2,p.81(401)-87(407)
甲6:「ベスト・イン・ザ・ワールド アルギン酸メーカー・キミカの
挑戦」,日刊工業新聞社,2013年6月25日,p.14-19
甲7:「コラーゲンとアルギン酸ナトリウムを用いた薬物の放出制御」,
病院薬学,1995,Vol.21,No.5,p.384-388
甲8:「アルギン酸ナトリウムの消化管における薬物動態に関する臨床的
研究」,新薬と臨牀,平成4年11月,第41巻,第11号,
p.57(2505)-63(2511)
甲9:「海藻多糖類」,調理科学,1988,Vol.21,No.3,
p.14(154)-18(158)
甲10:「乳酸カルシウムならびにアルギン酸ナトリウムをコーティング
した顆粒からの不溶性ゲル形成を応用した薬物放出制御」,
薬剤学,1999,Vol.59,No.1,p.8-16
甲11:「アズレンスルホン酸ナトリウム含嗽液調製における各種増粘剤
の評価」,病院薬学,1998,Vol.24,No.6,p.687-696
甲12:「癌化学療法時の口内炎に対するプロスタンディン(R)軟膏・
アルロイドG液混合製剤の有効性」,病院薬学,2000,
Vol.26,No.5,p.562-566
(合議体注:(R)は〇の中にR。以下同様。)
甲13:特開昭63-310807号公報
甲14:特開平3-161415号公報
甲15:特開昭63-280799号公報
甲16:特開昭62-294604号公報
甲17:特開昭61-43102号公報
甲18:特開昭61-43101号公報
甲19:特開昭61-40205号公報
甲20:「機能性化粧品の開発」,株式会社シーエムシー,
1990年8月28日初版第1刷 2000年2月10日普及版第1刷,p.324-325
甲21:「Calgitex (Alginate product)gauzeの使用経験」, 基礎と臨床,
1973,Vol.7,No.8,p.288-289
甲22:特開平8-268828号公報
甲23:特開昭63-201109号公報
甲24:「アルギン酸ナトリウムの薬理学的研究(第1報) 消化管粘膜
保護作用について」,薬学雑誌,
1981,Vol.101,No.5,p.452-457
甲25:「可溶性アルギン酸ナトリウムの毒性試験」,
基礎と臨床(R)(合議体注:(R)は〇の中にR。以下同様。),
1992年1月,Vol.26,No.1,p.197-206,Photo.1-5
甲26:特開平3-161427号公報
甲27:「素肌にやさしいゲル化粧品」,株式会社コスモトゥーワン,
平成4年10月21日,p.74-97
甲28:日置正人氏による陳述書(平成30年11月16日付け)
甲29:知的財産高等裁判所 平成30年(ネ)第10041号事件におけ
る証人調書(氏名:日置正人,期日:平成30年12月18日午後2時)
甲30:特開昭62-286922号公報
甲31:特開平6-179614号公報
甲32:「カシー化粧品秋・冬のビューティーセレクション SHIINOMI」,
香椎化学工業株式会社,1992,Vol.49
甲33:「Invitaion to Cathy Cosmetics 会社案内」,
香椎化学工業株式会社,1996
甲34:化粧製造品目追加許可書,厚生大臣,平成3年11月12日,
甲35:特開平7-53324号公報
甲36:「化粧品成分ガイド 第5版」,
フレグランスジャーナル社,2009年2月25日,p.18-21
甲37:特開2000-297008号公報
甲38:特開昭59-13706号公報
甲39:特開平7-168145号公報
甲40:特開平6-336413号公報
甲41:特表平4-501422号公報
甲42:米国特許第2930701号明細書
甲43:特開平8-217631号公報
甲44:「増粘剤」,色材,社団法人色材協会,1993,66(7),
p.434-444
甲45:特開平8-92105号公報
甲46:特開平7-173065号公報
甲47:特開昭61-136534号公報
甲48:特公昭42-6674号公報
甲49:特開昭59-187744号公報
甲50:米国特許第3764707号明細書
甲51:「アルギン酸プロピレングリコールエステルについて」,
農産加工技術研究会誌,1957年8月,第4巻,第4号,
p.136(22)-143(29)
甲52:「工業用水用高分子凝集剤の利用」,高分子,1968,
Vol.17,No.194,p.413-418
甲53:特開平9-206001号公報
甲54:特開昭62-296851号公報
甲55:「生活の界面科学」,三共出版株式会社,
昭和52年1月10日,p.24-29
甲56:「化学辞典」,株式会社東京化学同人,1994年10月1日,p.335
甲57の1:「炭酸浴(炭酸泉)」,人工炭酸泉研究会雑誌,1998年7月,
1巻,1号,p.5-9
甲57の2:甲57の1の書誌事項(国立国会図書館サーチ)
甲58:特開昭58-155041号公報
甲59:「化粧品における水溶性高分子の利用」,高分子,
1972,Vol.21,No.242,p.250-253
甲60:特開昭60-161741号公報
甲61:特開昭56-21667号公報
甲62:特開昭52-102366号公報
甲63:特開昭62-16409号公報
甲64:「胃X線検査用発泡散に関する薬剤学的研究」,病院薬学,
1975,Vol.1,No.1,p.24-26
甲65:特開平6-256193号公報
甲66:特開平6-72857号公報
甲67:特開平8-319228号公報
甲68:米国特許第6071539号明細書
甲69:米国特許第3769224号明細書
甲70:米国特許第5468504号明細書
甲71:米国特許第2999293号明細書
甲72:特開昭63-135317号公報
(以上、審判請求書に添付)

第4 被請求人の主張及び証拠方法
被請求人が提出した審判事件答弁書、口頭審理陳述要領書及び上申書によれば、被請求人は、「本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする」との審決を求め、請求人の主張する無効理由には理由がない旨を主張し、証拠方法として以下の乙号証(以下、乙番号に従い「乙1」等という。)を提出している。

(証拠方法)
乙1:無効2019-800049号の審決
乙2:カルトスタットの添付文書,2017年1月改訂,コバンテックジャパン株式会社
(以上、審判事件答弁書に添付)

乙3:令和2年(行ケ)第10052号判決(令和3年6月29日判決言渡)
(以上、上申書に添付)

第5 主な書証の記載事項
甲1?甲22、乙2には、それぞれ、以下の記載がある(原文が英文の場合には和訳を示す。下線は当審による)。

(1)甲1
・摘示甲1a
「バブ浴(人工炭酸泉浴剤 花王バブ)
【作用機序・効果】
入浴剤バブは重炭酸水素ナトリウム(重曹)を含んでおり、湯に溶かすことにより、炭酸ガスを発生する。この炭酸ガスにより局所の血行を改善し、褥瘡を予防または治療する試みがなされている。すなわち、温泉の効果を応用するものである。
【使用方法】
バブ1個を1/4から1/8の大きさに割る。そのうちの1?数片を約42度の湯(洗面器?バケツ)に溶かす。バブは炭酸ガスを出しながら溶ける(図17)。
バブは無着色、無香料のものがよいが、なかなか手に入らない。その場合、香料入りでもかまわないが、刺激臭が強いので直接湯に鼻を近づけない。
バブが溶けた湯にガーゼやタオルを浸し、それを褥瘡部に当てて温湿布をするか(冷めないように湿布の上からビニールカバーをかぶせ、約42度の湯枕を当てるとよい)、その湯に褥瘡を生じた足を入れて足浴する。ただし、足浴によって感染を引き起こすことがあるので注意が必要である(バケツは個人用とし、また足浴後は創の消毒、洗浄を行う)。
バブ浴は1日1回?数回行う。
バブ浴は褥瘡の治療に用いられるだけでなく、褥瘡や下肢の皮膚潰瘍の予防にも有効である。私たちは、褥瘡のリスクのある患者さんの清拭にバブを溶かした湯を使用している。
また、寒い季節になると、動脈硬化や血管の攣縮により、足先の血行が悪くなりチアノーゼを呈する患者さんがある(特に高齢で閉塞性動脈硬化症や糖尿病を合併している人に多い)(写真50)。このまま放置すると、下肢の皮膚潰瘍(とくに趾先に多い)を生じる場合がある。プロスタンディンなどの血管拡張剤を使用する前に、このバブによる足浴を試みるべきである。有効なことが多い。」(72頁左欄1行?右欄12行)

・摘示甲1b


」(72頁)

・摘示甲1c
「褥瘡の治療法
現在、褥瘡の治療に用いられている方法についてまとめてみた。

1.創部を洗浄する。

2.外用剤を創部局所に使用する。

3.創面を被覆する
ドレッシング材で創面を覆うことにより、創の保護、疼痛軽減、湿潤環境の形成、上皮化の促進をはかる。
1)ポリウレタンフィルム材(準閉鎖性フィルムドレッシング)

2)ハイドロコロイドドレッシング材

3)アルギン酸塩被覆材


●アルギン酸塩が浸出液を吸収するとともに、ゲル化し、湿潤環境を形成する:カルトスタット。
4)特殊ガーゼ類
●抗菌作用を有したり、生体面と固着しないように処理されたガーゼ(メッシュ)…
5)生体成分を使用した被覆材

4.外科的デブリッドマンを行う

5.外科的に創を閉鎖する(皮弁形成術、筋皮弁形成術)

6.理学的療法(主に「浅い褥瘡」に適用する)
1)日光浴、赤外線療法、紫外線療法

2)マッサージ療法

3)乾温風(ドライヤー)療法

4)ハバードタンク療法

5)バブ浴
●人工炭酸泉浴剤であるバブを湯に溶かし、温湿布に用いるか、足浴に使用する。

7.その他

以上のように非常に多くの褥瘡治療法があるが、その中でも外用剤や被覆材による治療が中心となる。」(23頁左欄1行?25頁左欄2行)

(2)甲2
・摘示甲2a
「炭酸泉浴が炭酸ガスの血管拡張作用により皮膚,筋肉の血流を増加させる事は,古くWinternitzら^(2)),Rose^(3))ら以来多くの報告がなされている^(4)),(図1).しかし炭酸泉を日常的に用いる事には種々の困難があったが,炭酸ナトリウム塩とコハク酸の混合錠剤である花王バブ錠(花王株式会社発売)は,場所,時間を問わず炭酸泉入浴を可能にした^(5)).
我々は今回この花王バブによる人工炭酸泉を褥創局所への温湿布あるいは直接足浴として用い,難治性褥創に対し良好な治療成績を得たので報告する.」(605頁左欄12?21行)

・摘示甲2b
「1.温湿布法
仙骨部や大転子部の褥創に対しては,花王バブをとかした溶液による局所温湿布を行った.(1)金槌で適当に砕いた花王バブ10gを42℃の温水1lに溶かした(10g/l).(2)柔らかいタオルまたはガーゼをこの液に浸し,側臥位をとらせて,褥創部に当て,(3)保温と炭酸ガスの拡散防止のためビニール布で覆い,42℃の湯枕を当てて30分間局所の温湿布を行った.
2.足浴法
足趾や踵の褥創に対して用いるもので,花王バブ錠1コ50gをバケツに入れた42℃の温水10lに溶解し(5g/l),褥創部を直接この液に浸して,約30分間足浴を行わせた.

花王バブ5?10g/lから生ずる炭酸ガス濃度はおよそ,1,500?3,000PPMの高濃度であり,pH6.5前後となる^(7)).」(605頁右欄下から7行?606頁左欄15行。合議体注:上記において(1)、(2)、(3)は、それぞれ〇の中に1、2、3である。)

・摘示甲2c
「今回試みた人工炭酸浴剤による局所温湿布や足浴は,42℃という温熱と炭酸ガスによる皮膚,筋血流の増加作用を狙ったものである.」(608頁右欄2?4行)

(3)甲3
「アルギン酸塩は、歯科分野において十分に確立された用途で、医学の分野においても興味深い可能性を提供する。」(317頁左欄11?14行)

「アルギンで作られたゼリーもやけどの治療に推奨されている。」(321頁左欄19?20行)

(4)甲4
「アルギン=アルギン酸ナトリウム

アルギン酸ナトリウム…消化性潰瘍治療薬。アルギン酸の水溶性塩で水に膨潤して徐々に溶け,粘性の高い液となる。」(61頁の「アルギン」「アルギン酸ナトリウム」の項)

(5)甲5
「液状(アルロイド(R))の剤形のアルギン酸ナトリウムは局所止血剤として,各科領域で臨床的に応用されている。」(81(401)頁左欄5?7行)

(6)甲6
「アルギン酸は、増粘剤や安定剤などの食品用途、胃で溶けない錠剤や“落ちない口紅”といった医薬品・化粧品用途、そして繊維の染色加工など、幅広い用途に活用されている。」(19頁6?8行)

(7)甲7
「コラーゲンのみでは臨床に応用できるほどの放出抑制特性が得られなかった^(1)).そこで海藻由来のアルギン酸ナトリウム(以下NaAlgと略す)を添加し,コラーゲンの特性改良を試みた.
NaAlgは褐藻類の細胞壁を構成する多糖類で,溶液は極めて粘稠である.創面に強く付着し出血部位を被覆して止血効果を示すとともに,血小板凝集能を充進させ,フィブリンの形成を促し,止血効果を示す。局所に適用しても,抗原性や刺激性が認められず^(2-6)),種々のケースでDDSの材料として利用されている^(7,8)).」(384頁右欄3行?385頁左欄3行)

(8)甲8
「アルギン酸ナトリウムは褐藻類コンブ属(Laminariaceae)より抽出された高分子物質で,その化学構造はD-mannuronic acidとL-guluronic acidからなる直鎖状copolymerであり,その5%水溶液(AL-Na)は高い粘稠性を有する。薬理作用としては血液凝固系に作用する止血作用があるが,この他に消化管の正常粘膜,胃粘膜に発生したびらん性潰瘍表面に対する優れた付着性により,創傷面を被覆する作用もあり,この結果,高い粘膜保護作用を有するものとされている。」(60頁左欄21?30行)

(9)甲9
「アルギン酸は水に不溶であるが,水酸化,または炭酸アルカリ金属水溶液に易溶で高粘性の塩溶液をつくる…。…
用途には.アルギン酸の高い粘性と種々の金属と特徴あるゲルをつくる性質を利用した製品が多い。食品分野だけに限定するならば.増粘剤,安定剤,懸濁剤,ゼリー形成剤,澱紛老化防止剤,乳化安定剤としての用途に使用されている。」(154頁右欄11?24行)

(10)甲10
「アルギン酸ナトリウム(ALNa)は褐藻類から抽出される天然多糖類であり,食品添加物として繁用されている.ALNaは…不溶性のゲルを形成すると考えられている^(3,4)).」(9頁1?5行)

(11)甲11
「Azはアルプス薬品工業(株)より購入した.増粘剤としてCMCNa(1級,アテスト社)とPANa(パナカヤク,日本化薬)およびアルギン酸ナトリウム(AGNa)(1級,1000cps,アテスト社)を使用した.」(688頁左欄21?24行)

(12)甲12
「消化性潰瘍改善薬のアルロイドG液の付着性および局所止血作用に着目した.アルロイドGの持つ血液凝固系の止血作用や創傷治癒促進作用および付着性により放射線療法に随伴の口腔粘膜上皮炎で効果が確認されている^(15)).」(566頁6?11行)

(13)甲13
「(1)酸性物質を水に溶解して得られる水溶液を第1剤とし、水溶性高分子及び/又は粘土鉱物と炭酸塩とを常温固型のポリエチレングリコールで被覆した固型物を第2剤とする用時混合型発泡性化粧料。」(1頁左欄「特許請求の範囲」)

「本発明は、炭酸ガスによる血行促進作用によって皮膚を賦活化させる、ガス保留性、経日安定性、官能特性及び皮膚安全性に優れた発泡性化粧料に関する。」(1頁左欄「技術分野」)

「そこで本発明者らは、上記の事情に鑑み鋭意研究した結果、後記特定組成の発泡性化粧料は、2剤型である為経日安定性に優れ、炭酸塩と水溶性高分子をポリエチレングリコールで被覆してなる第2剤と酸性物質である第1剤を用時混合する際に、炭酸ガスの泡が徐々に発生すると共に水溶性高分子及び/又は粘土鉱物の粘性によって安定な泡を生成し、炭酸ガスの保留性が高まる事を見出し、本発明を完成するに至った。」(1頁右欄「発明の開示」)

(14)甲14
「(1)(A)分子内にヘテロ環を有する水溶性非イオン性高分子1種又は2種以上0.01?20重量%、及び
(B)炭酸ガス0.01?10重量%
を含有することを特徴とする薬用化粧料。」(1頁左欄「特許請求の範囲」)

「炭酸ガスを含む従来の薬用化粧料は、水、アルコール類等を主成分とするために、炭酸ガスの保持能力が低く、血行促進効果が得られる時間が短い欠点がある。
また、炭酸ガスを用いたパック剤は、炭酸ガスの保持力に関する検討がなされておらず、炭酸ガス濃度や血行促進効果が不充分であり、例えば、水溶性非イオン性高分子でも、分子内にヘテロ環を有しないポリビニルアルコールを用いた水系の化粧料に炭酸ガスを混合した場合、長時間の保存により離水が起り、系が不安定となり好ましくなかった。また、他の多岐にわたる用途、例えば、毛髪用品(シャンプー、リンス、トリートメント等)や皮膚一般用品(クリーム、ローション、洗浄剤等)への応用が困難であった。
従って、本発明の目的は、炭酸ガスを高濃度で長時間保持することができ、血行促進効果の高い薬用化粧料を提供することにある。」(2頁「発明が解決しようとする課題」)

「上記成分(B)の炭酸ガスは、これが溶解している溶液のpHが酸性の場合にはCO_(2)分子として存在し血行促進作用を示すことから、本発明の薬用化粧料の液性は、pH7以下、特にpH4.5?6.5に調整するのが好ましい。」 (3頁左上欄下から2行?右上欄3行)

「本発明の薬用化粧料は、分子内にヘテロ環を有する水溶性非イオン性高分子を含有し粘性が高いため、炭酸ガスの飛散を著しく防止し、炭酸ガスを高濃度で長時間保持する能力を持ち、そのため、皮膚に作用させた場合、高い血行促進効果を長時間得ることができる。」(4頁左欄下から6?1行)

(15)甲15
「1.炭酸ガス発生成分を必須成分として含有している固形状のボディー用洗浄剤組成物。
2.炭酸ガス発生成分が炭酸ガス発生物質と炭酸ガス発生促進物質とよりなる特許請求の範囲第1項記載のボディー用洗浄剤組成物。」(1頁左欄「特許請求の範囲」)

「本発明は固形のボディー用洗浄剤組成物に関する。
更に詳しくは、発生する炭酸ガスによる血行促進、末梢血管拡張効果による洗い上りのさっばりとした感じを付与することを目的とした固形状のボディー用洗浄剤組成物に関する。」(2頁左上欄3?8行)

「従来の粉末状洗浄剤は水、温水に対し凝集などを起し、必ずしも溶解速度は大きくなく、また粉立ちによる目や鼻の刺戟があり、水面での粉浮き等の現象がある。更に使用時にこぼれ落ちて無駄になったり、微粉末のためにむせる様な感覚を与えたり、また長時間保存した時水分や温気の混入によるケーキングやペースト状化を起し易く、結束として起泡性、洗浄効果などが低下する欠点を有している。
本発明は従来の固形状、液体、または粉末状の洗浄剤の問題点を全て解消し、溶解性、起泡性及び洗浄力が改善され、使用感に優れ、製品の長期保存安定性がよく、使用時に飛散や落ちこぼれがない使用し易いボディー用洗浄剤を提供することを目的とする。
更に本発明は洗浄剤使用時に血行促進、末梢血管拡張効果を発揮し、洗い上りのすがすがしさを有するボディー用洗浄剤を提供することを目的とする。」(2頁左下欄下から5行?右下欄14行)

「炭酸ガス発生物質の添加量は、…5%未満であると炭酸ガスの発生量が少なく、且つその発泡の持続性が低下し、泡が流れ出し、…好ましくない。」(3頁右上欄1?8行)

「その他、本発明の組成物には増泡及び泡の先立ちあるいは後立ちそしてその泡の持続性を調節する制泡剤として、更には使用感の改良及びさっぱりとした感じなどを確保するためガム物質及び/又は水溶性高分子化合物を配合することができる。
具体例としては、…アルギン酸ナトリウム…などが挙げられる。
これらの中で若干増粘性を示すものが好ましい。」(5頁右上欄11行?から左下欄13行)

(16)甲16
「洗浄剤に炭酸ガス発生物質生薑エキス及び水溶性高分子物質が必須成分として配合されていることを特徴とする固形状の新規毛髪用洗浄剤組成物。」(1頁左欄「特許請求の範囲」)

「そこで、本発明は毛髪用洗浄剤に養毛剤の効果を付与し、洗浄剤、養毛育毛剤を複数併用する手間を省く簡便化、及び毛髪用洗浄剤としては余分な各種成分の排除を目的とする。
(問題点を解決するための手段)
本発明者は上記目的を一挙に達成するために、毛髪洗浄時に洗い流されない、つまり頭皮毛髪に選択的に吸着残留残存される薬効成分すなわち生薑エキスとこれに更に血行促進作用、末梢血管拡張作用を有することが知られ、現に臨床的にも炭酸ガス浴としてリハビリテーションなどにも使用されている炭酸ガスとの相乗効果作用に着目し、鋭意研究を重ねた結果、この組合せが驚異的な薬効、即ち養毛、育毛に対し著効を有することが予測できることを見い出し、これを毛髪用洗浄剤に応用し本発明を完成するに至った。」(2頁左下欄11行?右下欄6行)

「炭酸ガス源の化合物の添加配合量は、…20%未満だと炭酸ガスの発生量が少なく、且つその発泡の持続性が低下し、…好ましくない。」(3頁右下欄12?18行)

(17)甲17
「1.殺菌剤を含有する化粧料組成物に炭酸ガス又は炭酸ガス発生物質を配合したことを特徴とする化粧料。」(1頁「特許請求の範囲」)

「本発明者らは殺菌剤作用の向上に関し、種々研究をおこなった結果、殺菌剤と血管拡張作用を有することが知られており、臨床的にも炭酸ガス浴としてリハビリテーションなどに使用されている炭酸ガス又はこれを発生せしめる物質とを併用すれば殺菌剤を単独で使用するのと比べて飛躍的にその作用が増大することを見いだし、本発明を完成した。」(1頁右欄下から3行?2頁左上欄5行)

「本発明においては炭酸ガスが化粧料中に溶けて配合されていることが重要であり、この配合量は炭酸ガス濃度が60ppm以上であることが好ましく、これより少ないと充分な皮膚、及び頭皮の不快なにおい、かゆみを防ぐ効果を期待できず、本発明の効果は得られない。」(3頁左下欄下から6?1行)

「本発明の効果をより高めるためには、化粧料の炭酸ガスの滞留時間を長くする必要があり、本発明化粧料を頭髪に付着することなく、頭皮に直接泡状又は液状で塗布し、頭皮上で発泡させるのが好ましい。」(3頁右下欄下から4行?4頁左上欄1行)

(18)甲18
「1.抗脂漏剤を含有する化粧料組成物に炭酸ガス又は炭酸ガス発生物質を配合したことを特徴とする化粧料。」(1頁左欄「特許請求の範囲」)

「本発明者らは抗脂漏剤の作用向上に関し、種々の研究をおこなった結果、抗脂漏剤と血管拡張作用を有することが知られており、臨床的にも炭酸ガス浴としてリハビリテーションなどに使用されている炭酸ガス又はこれを発生せしめる物質とを併用すれば抗脂漏剤単独の使用と比べその抗脂漏作用が飛躍的に向上すること及びこれらを化粧料組成物に配合すれば優れた抗脂漏作用を有する化粧料が得られることを見出し本発明を完成した。」(1頁右欄下から6行?2頁左上欄3行)

「本発明においては炭酸ガスが化粧料中に溶けて配合されていることが重要であり、この配合量は炭酸ガス濃度が60ppm以上であることが好ましく、これより少ないと充分な抗脂漏作用を期待できず、本発明の効果は得られない。」(3頁右上欄末行?左下欄4行)

(19)甲19
「1.抗炎症剤を含有する化粧料組成物に炭酸ガス又は炭酸ガス発生物質を配合したことを特徴とする化粧料。」(1頁左欄「特許請求の範囲」)

「本発明者らは抗炎症剤の皮膚吸収を向上させるべく鋭意研究をおこなっていたところ、血管拡張作用を有することが知られており、また臨床的にも炭酸ガス浴としてリハビリテーションなどに使用されている炭酸ガスと併用すれば抗炎症剤の皮膚吸収が飛躍的に向上することを見出し、本発明を完成した。」(1頁右欄12?18行)

「本発明においては炭酸ガスが化粧料中に溶けて配合されていることが重要であり、この配合量は炭酸ガス濃度が60ppm以上であることが好ましく、これより少ないと充分な清涼感を期待できず、本発明の効果は得られない。」(3頁右上欄13?18行)

(20)甲20
「経皮吸収については,…,昭和60年以降は,リポソームによる経皮吸収促進(…)や多孔性ポリマー(…)による物質の放出制御(…)さらにpH(…),温度(…)等,目的に応じた徐放化技術も見られる。」(325頁下から8?5行)

(21)甲21
「外傷性の止血においては直接ガーゼ等による圧迫止血を行なう場合が屡々で,熱傷など皮膚欠損の大きい創面,挫創,挫滅創,咬創のごとく一次閉鎖の不可能な創部においてはガーゼ交換時におこる創面の損傷,二次出血のため治癒過程の遷延などがあり,これを防止し完全に止血するためのすぐれた止血剤としてアルギン酸ナトリウム塩等が汎用されている。」(288頁左欄3?11行)

(22)甲22
「【請求項1】 炭酸塩5?60重量%と有機酸5?60重量%と発熱物質と泡安定剤とを含有することを特徴とするパック化粧料。」

「【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、これら従来のパック化粧料は、いずれも皮膚上に温感効果を与えることのみを意図したに過ぎないものである。本発明は、単に皮膚に温熱感を与えるに止まらず、使用時に炭酸ガスを発生させ、炭酸ガスが破泡する際に皮膚上に心地良い物理刺激を与え、併せて快適な温感が皮膚上に伝わり、血行促進効果に非常に優れたパック化粧料を提供することを目的とする。」

「【0010】本発明に使用される泡安定剤としては、各種の粉末及び水溶性高分子が挙げられる。…半合成の水溶性高分子としては、例えば、…、アルギン酸ナトリウム、…などが挙げられる。…泡安定剤の粉末および水溶性高分子の配合量は、 0.1?50重量%であり、好ましくは使用性より1?30重量%が適当である。 0.1重量%未満では炭酸ガスの発泡効果が不十分であり、50重量%を越えて配合した場合は発泡効果と発熱効果のバランスが悪くなり、十分な効果が得られない。」

(23)乙2
「高度管理医療機器 二次治癒親水性ゲル化創傷被覆・保護材 … カルトスタット」(表題)

「1.形状及び構造
本品は海藻類を原料とするアルギン酸塩繊維によって製造された創傷被覆材である。」(1/2頁左欄【形状・構造及び原理等】」

「2)本品は、血液又は浸出液を吸収してゲル状に変化するが、血液・浸出液が少量の場合にはゲル化が起こらないこともある。」(1/2頁左欄【使用方法等】)

第6 当審の判断
当審は、本件発明1?7に係る特許は、請求人が主張する無効理由及び提出した証拠方法によっては、無効とすることはできないと判断する。その理由は、以下のとおりである(なお、各書証の記載は、上記第5の摘記参照。)。

1 甲1に記載された発明
甲1には、人工炭酸泉浴剤である花王バブを用いたバブ浴は、褥瘡の治療だけでなく予防にも有効であることが記載され、入浴剤バブは、重炭酸水素ナトリウム(当審注:炭酸水素ナトリウムの誤記と認める。)(重曹)を含んでおり、湯に溶かすことにより炭酸ガスを発生し、この炭酸ガスにより局所の血行を改善することが記載されている(摘示甲1a)。
また、甲1には、バブ浴は、約42度の湯を入れた洗面器やバケツに入浴剤バブを割ったバブ片を1?数個入れ、完全に溶けるまで待ってから、それを足浴に用いたり、ガーゼやタオルを浸したものを褥瘡部に当てて温湿布をするものであることが記載されている(摘示甲1a、甲1b)。
そして、「入浴剤バブを割ったバブ片」は、「入浴剤バブを割った剤」と言い換えることができ、また、入浴剤バブを割ったバブ片を湯に完全に溶かした「もの」は、湯とそれに溶けたバブ片という複数の成分を含むことから、「組成物」であるといえる。
そうすると、上記「剤」は、「組成物」を得るための「剤」であり、当該「組成物」は、褥瘡を治療又は予防するために使用される「組成物」であって、かつ、入浴剤バブを割った剤を湯に完全に溶かした「組成物」であるといえる。
以上から、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「褥瘡を治療又は予防するために使用される組成物を得るための剤であって、
炭酸水素ナトリウムを含み、湯に溶かして炭酸ガスを発生させるものである入浴剤バブを割った剤であり、
前記組成物は、前記入浴剤バブを割った剤を湯に完全に溶かした組成物である、剤。」

なお、「バブ」は登録商標であるが、本審決においては「バブ」の後ろに個別に「(R)」を記載することを省略する。

2 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「炭酸水素ナトリウム」、「炭酸ガス」は、それぞれ本件発明1の「炭酸塩」、「二酸化炭素」に相当する。
甲1発明の「褥瘡を治療又は予防するために使用される組成物」は、本件発明1の「医薬組成物又は化粧料」のうちの「医薬組成物」に相当する。
甲1発明の「入浴剤バブを割った剤を湯に完全に溶かした組成物」は、炭酸ガスにより局所の血行を改善するものであり、炭酸ガス、すなわち二酸化炭素を含有する組成物であると解されるから、甲1発明の「入浴剤バブを割った剤を湯に完全に溶かした組成物」と本件発明1の「二酸化炭素含有粘性組成物」とは、「二酸化炭素含有組成物」である限りにおいて一致する。
甲1発明の「炭酸水素ナトリウムを含み、」「湯に溶かして炭酸ガスを発生させるものである」「剤」と、本件発明1の「炭酸塩」を含む「二酸化炭素含有」「組成物を得るためのキット」とは、「炭酸塩を含むもの」であり、また、「二酸化炭素含有組成物を得るためのもの」である限りにおいて一致する。
そして、「入浴剤バブ」には酸が含まれていること及び炭酸塩と酸が反応して炭酸ガスが発生することは技術常識であると認められる(必要ならば摘示甲2a、2b参照)。
そうすると、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

【一致点】
「医薬組成物又は化粧料として使用される二酸化炭素含有組成物を得るためのものであって、炭酸塩及び酸を含むもの。」
【相違点1】
「二酸化炭素含有組成物」が、本件発明1においては、「粘性」を有するものであるのに対し、甲1発明においては、「入浴剤バブを割った剤を湯に完全に溶かした組成物」であり、粘性の特定がない点。
【相違点2】
「炭酸塩及び酸を含むもの」が、本件発明1においては、「1)炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と、酸を含有する顆粒剤、細粒剤、又は粉末剤の組み合わせ;2)酸及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と、炭酸塩を含有する顆粒剤、細粒剤、又は粉末剤の組み合わせ;又は3)炭酸塩と酸を含有する複合顆粒剤、細粒剤、又は粉末剤と、アルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物の組み合わせ;からなり、含水粘性組成物が、二酸化炭素を気泡状で保持できるものであることを特徴とする、含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させることにより気泡状の二酸化炭素を含有する前記二酸化炭素含有粘性組成物を得ることができるキット」であるのに対し、甲1発明においては、「炭酸水素ナトリウム及び酸を含み、湯に溶かして炭酸ガスを発生させるものである入浴剤バブを割った剤」である点。

(2)判断
ア 相違点1について
(ア)本件発明1における二酸化炭素含有組成物は「粘性」を有するものであるところ、本件発明1は、「皮膚粘膜疾患もしくは皮膚粘膜障害に伴う痒みに有効な製剤とそれを用いる治療及び予防方法を提供すること」(本件明細書の段落【0004】)及び「皮膚や毛髪などの美容上の問題及び部分肥満に有効な製剤とそれを用いる予防及び治療方法を提供すること」(本件明細書の段落【0005】)を目的とするものであり、本件明細書の段落【0017】に「該組成物に二酸化炭素を気泡状で保持させ」、「二酸化炭素を皮下組織等に十分量供給できる程度に二酸化炭素の気泡を保持できる。」及び「該組成物は、二酸化炭素を気泡状で保持するためのものであれば特に限定されず」との記載があること、段落【0032】に「二酸化炭素が気泡状で保持される二酸化炭素含有粘性組成物」との記載があること、段落【0033】に「炭酸塩の増粘剤含有顆粒(細粒、粉末)剤等及び酸の増粘剤含有顆粒(細粒、粉末)剤等は各々炭酸塩及び酸の徐放性製剤とすることにより、更に持続性を増強することも可能である。」との記載があること、段落【0055】に「本発明の二酸化炭素含有粘性組成物は、数分程度皮膚または粘膜に適用し、すぐに拭き取ってもかゆみ、各種皮膚粘膜疾患もしくは皮膚粘膜障害の治療や予防、あるいは美容に有効であるが、通常5分以上皮膚粘膜もしくは損傷皮膚組織等に適用する。特に褥創治療などでは24時間以上の連続適用が可能であり、看護等の省力化にも非常に有効である。」との記載があることを踏まえると、本件発明1の二酸化炭素含有粘組成物における「粘性」とは、二酸化炭素を気泡状で相応の時間にわたり保持できる程度の粘性を意味するものと解される。

(イ)甲1の記載のうち、【作用機序・効果】欄の記載や、【使用方法】における約42度の湯を用いる旨の記載等を踏まえると、甲1の【作用機序・効果】欄に記載の甲1発明が利用する「温泉の効果」とは、古くから知られる炭酸泉の効果、すなわち、炭酸泉に含まれる炭酸ガスの血管拡張作用及び湯の温熱作用の双方による血行改善作用を含むものと解される(摘示甲2a、甲2c)。
そして、上記の点に加え、甲1の図17に「バケツにバブ片を1?数個入れ、完全に溶けるまで待つ」との説明が記載されていることを踏まえると、甲1発明の「入浴剤バブを割った剤を湯に完全に溶かした組成物」について、甲1発明における上記の湯の温度やバブ片の個数等は、バブ片が完全に溶けた状態で、なお一定の温度にある水分中に血管拡張作用が期待できる濃度の炭酸ガスを含有させた状態とすることを企図したものと認められるところであって、甲1発明の当該組成物に、二酸化炭素がなお「気泡」の状態で存しているものとは解されない。
そうすると、甲1に接した当業者が、甲1発明に「二酸化炭素を気泡状で相応の時間にわたり保持する」という課題があると認識するとはいえない。

(ウ)そして、甲2?甲22の何れにも、甲1発明に「二酸化炭素を気泡状で相応の時間にわたり保持する」という課題があることを当業者が認識するに足りる記載も示唆も見いだせない。

(エ)したがって、甲1発明に「二酸化炭素を気泡状で相応の時間にわたり保持する」という課題があると当業者が認識できない以上、甲1発明の「入浴剤バブを割った剤を湯に完全に溶かした組成物」において、当該課題を解決するために「粘性」を付与する動機付けがあるとはいえない。

(オ)上記(ア)?(エ)によれば、甲1発明における「入浴剤バブを割った剤を湯に完全に溶かした組成物」に、二酸化炭素を気泡状で相応の時間にわたり保持する粘性を付与して、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項とすることを、当業者が容易に想到することができたとはいえない。

イ 相違点2について
相違点2は、相違点1の「二酸化炭素含有組成物」を「粘性」を有するものとするための具体的な組成に関するものであるから、甲1発明において、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項とすることを当業者が容易に想到することができたとはいえない以上、相違点2に係る本件発明1の発明特定事項とすることも、当業者が容易に想到することができたとはいえない。

(3)小括
以上によれば、本件発明1は、甲1に記載された発明に甲1?甲22等の公知技術等を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

3 本件発明2?7について
本件発明2?5は、本件発明1の全ての発明特定事項を含むものであり、本件発明6及び7は、本件発明1?5のいずれかから得ることができる二酸化炭素含有粘性組成物を含む「医薬組成物」又は「化粧料」に係るものである。
そうすると、本件発明2?7は、いずれも本件発明1の全ての発明特定事項又はそれらに対応する事項を含むものであるから、本件発明2?7についても、上記2で本件発明1について説示したものと同様の理由により、甲1に記載された発明に甲1?甲22等の公知技術等を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

4 請求人の主張について
(1)請求人は、医療分野においては、アルギン酸ナトリウムにより粘性を持たされた水溶液を利用するという「本件技術」は慣用技術であり(甲3?甲12)、慣用技術であることのみを根拠として動機付けが肯定され、同技術を甲1発明に適用することについて、動機付けは不要であるから、本件技術を甲1発明に適用することの容易性は認められる旨を主張する(審判請求書13?17頁「5-1-1」「5-1-2(1)」)。
また、仮に、本件技術が慣用技術に当たらないとしても、医療又は化粧料の分野において、気泡状の二酸化炭素の発生の持続性の向上という課題は当業者にとって周知なものであり(甲13?甲20)、当該課題の解決のために、アルギン酸ナトリウム水溶液を用いるという本件技術を適用することが公知又は周知であったから(甲15)、甲1発明にアルギン酸ナトリウム水溶液を用いるという本件技術を適用する動機付けが認められるといえる旨を主張する(審判請求書17?24頁「5-1-2(2)」)。

しかしながら、甲3?甲12には、やけどの治療に用いられるゼリー(甲3)等のアルギン酸ナトリウムの粘性を付与する性質を利用した医療分野における技術が記載されているものの、粘性と二酸化炭素との関連については記載も示唆もされていないのであるから、甲1発明と、甲3?甲12に示された「本件技術」との間には、医療分野における技術であるという以上の関連性は見いだせないから、本件技術が慣用技術であるというだけでは、本件技術を甲1発明に適用することが容易であるとはいえない。
また、本件発明が、甲1発明から容易に想到できたか否かを考えるに当たっては、あくまで甲1の記載に接する当業者が甲1発明からどのような課題を認識できるかを考えることが必要であって、甲1発明に「二酸化炭素を気泡状で相応の時間にわたり保持する」という課題があると当業者が認識するとはいえないし、当該課題を解決するために「粘性」を付与する動機付けがあるともいえないことは、上記2(2)アに説示したとおりである。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

(2)a 請求人は、上記(1)で主張した動機付けを基礎付ける事情(i)として、甲1の以下の記載は、バブ浴において、複合顆粒剤を添加する水溶液を、単なるお湯から増粘剤としてアルギン酸ナトリウムが添加された粘性組成物に置換することを示唆するものである旨を主張する(審判請求書21?22頁の「i.甲1の記載に基づく示唆」)。
・甲1には、「バブが溶けた湯にガーゼやタオルを浸し、それを褥瘡部に当てて温湿布する」という記載があること(摘示甲1a)、
・甲1には、「3.創面を被覆する」の項においてアルギン酸ナトリウムをガーゼに塗布する挿絵があること(摘示甲1c)、
・甲1には、「4)特殊ガーゼ類」の項において、「抗菌作用を有したり、生体面と固着しないように処理されたガーゼ(メッシュ)」で褥瘡を被覆する方法が記載され(摘示甲1c)、ガーゼが生体面と固着しないようにする手段としてアルギン酸ナトリウムなどの粘性組成物をガーゼに染み込ませ、その面を患部に当てることは周知技術であったこと(甲21)、
・甲1には、「5)バブ浴」の記載があること(摘示甲1c)。

しかし、甲1の上記挿絵について、チューブから押し出される物質が何かは記載されておらず、上記挿絵の下に記載された「カルトスタット」は、海藻類を原料とするアルギン酸塩繊維によって製造された創傷被覆材であり、血液又は浸出液を吸収してゲル状に変化するものであると解されるから(乙2)、上記挿絵は、アルギン酸ナトリウムをガーゼに塗布するものとは解されない。
また、甲21には、止血剤としてアルギン酸ナトリウム塩等が汎用されていると記載されているだけで、アルギン酸ナトリウムが「ガーゼが生体面と固着しないようにする手段」であるとは記載されていないから、甲21の記載を検討しても、甲1の「4)特殊ガーゼ類」の「抗菌作用を有したり、生体面と固着しないように処理されたガーゼ(メッシュ)」が、アルギン酸ナトリウムなどの粘性組成物をガーゼに染み込ませたものと理解することはできない。
さらに、甲1の上記挿絵、及び、「4)特殊ガーゼ類」についての記載は、いずれも「3.創面を被覆する」の項の記載であるのに対し、甲1の上記「5)バブ浴」の記載は、「6.理学的療法(主に「浅い褥瘡」に適用する)」の項の記載であるから、甲1の記載に接した当業者が、それぞれ異なる治療法に係る記載を、請求人が主張するように関連付けて理解するとはいえない。
そうすると、甲1に「バブが溶けた湯にガーゼやタオルを浸し、それを褥瘡部に当てて温湿布する」という記載があるとしても、そのガーゼを浸す「バブが溶けた湯」をアルギン酸ナトリウムが添加された粘性組成物に置換することが示唆されるとはいえない。
したがって、請求人の上記主張は、採用できない。

b 請求人は、アルギン酸ナトリウムは増粘剤であるためゲルとしても用いられるものであり、これを甲1の上記挿絵のようにガーゼに塗布して用いることは容易に思いつく、むしろ、カルトスタット等以外の方法でのアルギン酸ナトリウムの利用を思いつく旨を主張する(口頭審理陳述要領書18頁14?20行)。

しかしながら、請求人の上記主張には何ら根拠が示されておらず採用できない。

(3)請求人は、上記(1)で主張した動機付けを基礎付ける事情(ii)?(v)として、
(ii)甲1発明も本件技術も、技術分野(医療分野及び化粧料分野)は共通していること、
(iii)甲1発明の課題は、当業者において自明な課題である気泡状の二酸化炭素の経皮吸収の持続化であり、本件技術を基礎付ける文献には、気泡状の二酸化炭素の持続性の研究についてのものも多数認められるから、甲1発明と本件技術の課題は共通すること、
(iv)甲1発明は、酸と炭酸塩を用いて気泡状の二酸化炭素を発生させる作用を有するところ、本件技術についても、二酸化炭素の発生との作用を有するものが認められる(甲22)こと、
(v)アルギン酸ナトリウムが肌に対する高い安全性を有していることが周知の事項であるから(甲24?甲27)、増粘剤として何を選択するかを決める場合、アルギン酸ナトリウムが選択されることに、阻害要因はないこと
を指摘する(審判請求書22頁「ii.技術分野の共通性」?23頁「v.阻害要因が存在しないこと」)。

しかし、上記2(2)ア(イ)(ウ)に説示したとおり、甲1発明に「気泡状の二酸化炭素の経皮吸収の持続化」との課題があると当業者が認識するとはいえないから、上記(iii)の事情は採用できないし、上記(ii)、(iv)、(v)の事情を考慮しても、上記2の当審の判断には影響しない。

(4)請求人は、上記(1)で主張した動機付けを基礎付ける事情(vi)として、本件発明の発明者とされる日置氏が、甲1から二酸化炭素がもったいないと感じ、ジェルであれば炭酸ガスを封じ込めることができるのではないかと着想したことは(甲28、甲29)、本件発明の課題に直面した当業者が、格別の努力を要せず予想できたことを裏付けている旨を主張する(審判請求書22?24頁「vi.日置氏の供述」)。

しかしながら、日置氏が述べる本件発明に至る経緯は、本件発明を思いつくきっかけとなった出来事について述べたものにすぎないから、上記2の当審の判断には影響しない。

(5)請求人は、相違点1とされる点は相違点2に包含されたものであるから、相違点1をあたかも独立したものとする相違点の認定は誤りである旨を主張する(口頭審理陳述要領書3?4頁「1-2」)。

しかしながら、相違点1は、「二酸化炭素含有粘性組成物」についての相違点であり、相違点2は、当該組成物を得るための「キット」についての相違点である。
これらを異なる相違点として認定したことにより、特段不適切な点は見いだせないし、相違点1と2を一つの相違点として認定しても、容易想到性の判断に影響しない。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

(6)請求人は、甲1には、「湯」の温熱作用についての言及は一切なく、甲1発明がバブの投入対象を「お湯」と記載しているのは、バブという製品がそもそも入浴剤であり、お湯に加えられることが通常であるからであると考えるべきであり、また、ヘンリーの法則によれば温度が低く溶解する炭酸ガスの濃度が高い方が好ましいのは当然であることから、甲1の記載から、湯の温熱作用が「褥瘡治療に不可欠」などとはいえない旨を主張する(口頭審理陳述要領書8?9頁「3-3-2」)。

しかしながら、甲1には、「冷めないように湿布の上からビニールカバーをかぶせ、約42度の湯枕を当てるとよい」(摘示甲1a)と記載されていることからも、湯の温熱作用も甲1における褥瘡治療に不可欠なものと理解するのが自然である。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

(7)請求人は、審判請求書の別紙に記載した「当業者の技術水準」は、本文に加えて、本件の進歩性判断において総合的に考慮されるべき当業者の技術水準である旨を主張する(口頭審理陳述要領書20頁「3-7-5」)。

しかしながら、審判請求書には、本件発明1?7の容易想到性において、別紙に記載された各甲号証の記載事項が、具体的どのように影響するかについて何ら記載されていないのであるから、別紙に記載された各甲号証の記載事項は、審判請求人の主張する無効理由を具体的に構成するものとはいえない。
仮に、別紙に記載された各甲号証のうち、本件優先日前に頒布された各甲号証の記載事項を、本件優先日当時の技術水準として考慮しても、上記当審の判断には影響しない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1?7に係る特許は、請求人が主張する無効理由及び提出した証拠方法によっては、無効とすることはできない。
審判費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2021-08-24 
結審通知日 2021-08-27 
審決日 2021-09-28 
出願番号 特願2010-199412(P2010-199412)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩下 直人  
特許庁審判長 原田 隆興
特許庁審判官 藤原 浩子
穴吹 智子
登録日 2012-01-27 
登録番号 特許第4912492号(P4912492)
発明の名称 二酸化炭素含有粘性組成物  
代理人 山田 威一郎  
代理人 迫田 恭子  
代理人 宮川 利彰  
代理人 田中 順也  
代理人 高橋 淳  
代理人 柴田 和彦  
代理人 水谷 馨也  

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