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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B01F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 B01F
管理番号 1379648
審判番号 不服2020-5117  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-04-15 
確定日 2021-12-01 
事件の表示 特願2017- 21714「通電方式によるナノバブル発生装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 8月16日出願公開、特開2018-126690、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年2月8日の出願であって、令和元年7月17日付けで拒絶理由が通知され、同年9月24日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、令和2年1月9日付けで拒絶の査定がなされ、これに対し、同年4月15日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされ、令和3年8月17日付けで当審による拒絶理由通知がされ、令和3年8月20日に手続補正がなされたものである。

第2 本願発明
本願請求項1-3に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明3」という。)は、令和3年8月20日になされた手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-3に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
水その他の溶媒中に、第1の電極棒と、第2の電極棒とを離間して配置し、前記第1の電極棒と前記第2の電極棒間に直流電流を供給する電源を有してなる通電方式によるナノバブル発生装置において、
第1の電極棒がプラチナまたはチタンにプラチナをコーティングした電極棒で陽極側に接続され、前記第2の電極棒がチタンの電極棒で陰極側に接続されて直流電流が供給可能となっており、
前記第2の電極棒は、電気分解前に、チタン表面に酸化チタン皮膜を50nm以上生成してなり、
前記第1および第2の電極棒と並んで、チタン棒からなり液体との接触を検知する接液検出センサーの端子が設けられており、該接液検出センサーにより前記第1および第2の電極棒が液体中であることが検知されると、第1の電極棒に+側の電流が流れ、第2の電極棒に-側の電流が流れて電気分解が行われるようになっていることを特徴とする通電方式によるナノバブル発生装置。
【請求項2】
第1の電極棒の同心円上に、第2の電極棒を等間隔にまたは隙間無く複数並べて配置してなることを特徴とする請求項1に記載の通電方式によるナノバブル発生装置。
【請求項3】
第1電極棒を中心とした円周上に複数の第2電極棒を等間隔に配置してなることを特徴とする請求項1から2のいずれかに記載の通電方式によるナノバブル発生装置。」

第3 原査定及び当審拒絶理由の概要
1 原査定(令和2年1月9日付け拒絶査定)の概要
令和元年9月24日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-3に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2-4に記載された事項に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1.国際公開第2014/148397号
引用文献2.特開2012-81448号公報
引用文献3.特開2002-1338号公報
引用文献4.特開2005-288415号公報

2 当審拒絶理由の概要
令和2年4月15日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-3に係る発明は、請求項1の「電流流れて」との記載、及び請求項3の「請求項1から3のいずれかに記載」との記載が不明確であるため、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

第4 当審の判断
1 原査定の理由(特許法第29条第2項)について
(1)引用文献、引用発明等
ア 引用文献1(国際公開第2014/148397号)
(ア)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、次の事項が記載されている(当審注:下線は当審が付した。以下、同様。)。
a 「[0001] 本発明は、ナノバブル発生装置に関し、特に、通電方式によりナノバブルを生成するナノバブル発生装置に関する。」

b 「[0009] 本発明は、電解質イオン中で通電することにより水は電気分解され気泡が生じる。そして、本発明者等は、この気泡の大きさは、電極間の通電条件を変えることにより、制御出来ることを発見した。したがって、本発明の目的は、かかる原理を用いて構成される簡易構成の通電方式によるナノバブル発生装置を提供することにある。」

c 「[0015] 本発明に従うナノバブル発生装置は、簡易な構造でナノバブルを発生することが可能で有り、発生したナノバブルの殺菌能が確認された。よって、ナノバブル発生装置は、種々の適用が可能である。」

d 「[0018] 図1は、本発明に従う通電方式によるナノバブル発生装置の適用実施例の概略構成を示す図である。図1に示す例は、本発明のナノバブル発生装置をポット容器に組み込んで、例えばうがい水の製造器として構成したものである。
[0019] 蓋付きの注ぎ口を有するポット容器2内に、本発明のナノバブル発生装置1が固定して組み込まれている。ポット容器2内に、電解質イオン水3、例えば、通常の水道水を満たす。
[0020] ナノバブル発生装置1にはAC100V電源を直流に変換するAC/DCコンバータ10が接続されている。
[0021] 図2は、かかるポット容器2内に組み込まれている本発明に従う通電方式によるナノバブル発生装置の構成例である。
[0022] 2種類の異なる導電棒12、13が交互に平行に配列され、複数の導電棒12の端部が、一端側で、共通電極14に接続されている。一方、複数の導電棒13の端部が、反対側端部で共通電極15に接続されている。共通電極14、15側は、それぞれ絶縁性支持体11L、11Rにより固定されている。
[0023] 電極となる導電棒12、13として白金、金、チタンなど身体に優しい金属が使用できる。また浄水の目的ではアルミ、ステンレス等多様な金属が使用できる。特に、銅は殺菌性が強い金属と考えられる。この様な金属の特性から目的に応じた電極材料の選択が可能である。
・・・
[0025] さらに、実施例としては、陽極(+)側に接続される導電棒12としてチタンの金属棒を使用し、陰極(-)側に接続される導電棒13として白金の金属棒を使用している。導電棒13が白金のみであると高価であるので、チタンの金属棒の表面に白金をコーティングしたものであっても良い。また、上記の通り、チタンと白金の代わりに、アルミおよびステンレス金属等アレルギーを考慮した電極であれば、いずれにも代替が可能である。
[0026] また、陽極(+)側と陰極(-)側の対応を相互に入れ替えても作動可能である。
[0027] さらに、絶縁性支持体11Rの部分で、AC/DCコンバータ10の出力が、導電棒12側に陽極(+)側電極、導電棒13側に陰極(-)側電極が対応する様に接続される。
[0028] AC/DCコンバータ10は、例としてAC100V電源をDC12V、0.2Aの電圧に変換する。
[0029] この様な構成で、2種類の異なる導電棒12、13が交互に平行に配列された状態のナノバブル発生装置1を電解質イオン水中に配置し、直流電流を供給する。これにより、電解質イオン水が電気分解されて気泡が発生する。」

e 「[0031] [ナノバブル水のバブル形態観察及び分布状況]
ここで、上記の図2の構成のナノバブル発生装置1を用いて、電解質イオン水によりナノバブル水を生成した。電極棒として、1mm径のチタン電極棒と白金電極棒を用い、平行する電極棒間の間隔を1mmとした。チタン電極棒を陽極、白金棒を陰極に対応させて直流電流(DC12V、0.2A)を供給した。
[0032]ファイバー光学動的光散乱光度計(大塚電子八王子研究所パーティクルカウンタ)を用いて測定した。サンプルは、ナノバブル発生装置1で20分間バブルを発生後、5、15、30、45、60分経過後におけるバブル形状を観察測定した。その後のバブルの存在は、ペン型赤色レーザー発光器により肉眼で確認した。」

f 「[0037] そして、マイクロバブルは1時間程度掛けて次第に浮き上がり消失する。はじける前のバブルに火を近づけると小さく引火して破裂する。したがって、バブルは、水素ガスのバブルと考えられる。
・・・
[0039] 結果として、200nm?400nmのナノバブル水は発生15?30分が最も高く、しだいに密度を下げて行く傾向が窺えた。したがって、使用目的によっては、短時間で使い切ることが望ましいと考えられる。
[0040] [ナノバブル水の殺菌能]
次に、上記のとおり、作業時間を考慮して、散乱強度分布としてナノバブル密度が最も高かったバブル発生後20分経過時のナノバブル水を使用して、その殺菌能比較試験を行った。」

g 「[0043] 本発明にしたがうナノバブル発生装置の原理は、通電方式によるナノバブル発生方式であり、電解質を含む水の電気分解を原理とする。」

h 「[図1]

[図2]



(イ)引用文献1の上記記載によれば、次のことがいえる。
上記(ア)dの[0018]に記載される「通電方式によるナノバブル発生装置」の適用実施例として、同[0025]には、「陽極(+)側に接続される導電棒12としてチタンの金属棒を使用し、陰極(-)側に接続される導電棒13として白金の金属棒を使用」すること、同[0029]には、「導電棒12(当審注:チタンの金属棒)、13(当審注:白金の金属棒)が交互に平行に配列された状態のナノバブル発生装置1を電解質イオン水中に配置」すること、上記(ア)eの[0031]には、「チタン電極棒(当審注:チタンの金属棒)を陽極、白金棒(当審注:白金の金属棒)を陰極に対応させて直流電流(DC12V、0.2A)を供給」することが記載されているから、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「陽極(+)側に接続される導電棒としてチタンの金属棒を使用し、陰極(-)側に接続される導電棒として白金の金属棒を使用し、チタンの金属棒、白金の金属棒が交互に平行に配列された状態のナノバブル発生装置を電解質イオン水中に配置し、チタンの金属棒を陽極、白金の金属棒を陰極に対応させて直流電流(DC12V、0.2A)を供給する通電方式によるナノバブル発生装置。」

イ 引用文献2(特開2012-81448号公報)
(ア)原査定に引用された引用文献2には、次の事項が記載されている。
a 「【請求項1】
アノード、カソード、第三電極、および前記カソードと前記第三電極の間に直流電圧を印加可能な直流電源を有する殺菌水製造装置であって、前記アノードが貴金属、その酸化物またはそれらの組み合わせで被覆されたチタンから構成され、前記カソードおよび前記第三電極がチタンから構成される、殺菌水製造装置。
【請求項2】
前記アノードが白金被覆チタンから構成される、請求項1に記載の殺菌水製造装置。
・・・
【請求項5】
前記カソードの表面に酸化チタン被膜が予め形成されている、請求項1?4のいずれか一項に記載の殺菌水製造装置。」

b 「【0001】
本発明は、塩素イオン含有水を電気分解することにより、次亜塩素酸を含有する殺菌水を生成するための、殺菌水製造装置および殺菌水の製造方法に関する。」

c 「【0007】
水道水などに塩化ナトリウムなどを添加して調製された塩素イオン含有水は、一般に、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属のイオンや、水中に溶解したイオン状シリカなどの成分も含む。このような塩素イオン含有水を用いて長期間連続して電気分解を行うと、アルカリ土類金属イオン、イオン状シリカなどの成分が、スケールとしてカソード表面に析出し付着して次第に電流が流れなくなる。その結果、殺菌水製造装置の電気分解能力が低下して、次亜塩素酸の生成量が低下するなどの問題があった。
【0008】
上記問題を回避または解決するために、水道水の代わりに純水を使用する、あるいは軟水器を使用して水道水を軟水化するなどの方法が採用されている。しかし、これらの方法を使用すると、純水の製造コストや軟水器の使用に伴うランニングコストが発生してしまう。また、アノードとカソードの間に逆の極性の電圧を印加して、カソードに付着したスケールを剥離することも行われている。この方法によれば、初期の段階ではスケールが完全に剥離して電気分解性能を維持できるが、スケール剥離を繰り返し行うにつれて、剥離しきれないスケールがカソード表面に残留する。その結果、カソード表面の抵抗が高くなり、スケールを剥離するためにより高い電圧が必要となる。そのような高電圧でスケール剥離を行うと、電極表面の白金被覆(例えば白金めっきなど)にピンホールが空く、白金被覆が剥離する、などの問題が生じる場合があった。そのため、このような方法を使用する場合、高価な白金被覆チタン板から構成される電極を定期的に交換しなければならなかった。
・・・
【0010】
本発明は、長期間にわたって安定的に殺菌水を製造することができ、殺菌水製造装置自体を安価にすることができ、殺菌水の製造に伴うランニングコスト、特に電極に関係するランニングコストを低減することが可能な、殺菌水製造装置を提供することを目的とする。また、本発明は、上記殺菌水製造装置を用いた殺菌水の製造方法を提供することを目的とする。」

d 「【0022】
本発明の殺菌水製造装置においては、貴金属、その酸化物またはそれらの組み合わせで被覆されたチタン電極をアノードのみに使用し、チタン電極をカソードと第三電極に使用する。カソード表面にスケールが付着したら、第三電極とカソードに通電することによって、カソード表面の酸化被膜の絶縁破壊を起こし、カソード表面に付着したスケールを破壊された酸化被膜と一緒に剥離することができる。
【0023】
したがって、本発明によれば、純水や軟水器を使用しなくても、カソード表面を電気分解に適した状態に維持することができ、次亜塩素酸を効率よく生成することができる。また、カソード表面のスケール除去に際して、アノードに電気的ストレスを与える必要がないことから、長期間安定してアノードを使用できる。また、高価な貴金属、その酸化物またはそれらの組み合わせで被覆されたチタン電極はアノードのみに使用すればよく、カソードと第三電極を安価なチタン電極とすることができるため、より安価な殺菌水製造装置を提供することができる。さらに、電極の消耗に伴う定期的な電極交換は、安価なチタン電極を用いたカソードおよび第三電極について行うだけでよいため、長期間電気分解を行ったときのランニングコストも低減できる。」

e 「【0027】
図1は、本発明の一実施態様による殺菌水製造装置の概略図である。殺菌水製造装置10は、アノード(陽極)20と、カソード(陰極)30と、第三電極40とを有しており、アノード20、カソード30および第三電極40が、極性切替装置(不図示)を備えた直流電源50に接続されている。
【0028】
アノード20は、貴金属、その酸化物またはそれらの組み合わせで被覆されたチタンから構成される電極である。・・・触媒性能が高いことから、アノード20は、白金被覆チタンであることが好ましい。
【0029】
カソード30および第三電極40は、チタンから構成される電極である。カソード30および第三電極40は、電極表面に酸化被膜(酸化チタン被膜)を有してもよいが、他の種類の金属で被覆されていない。ある実施態様では、例えば、チタン電極を約400?600℃で約10分?1時間加熱処理することよって、電極表面に酸化チタン被膜が予め形成される。カソード30の表面に酸化チタン被膜が予め形成されていると、殺菌水の製造中にアノード20とカソード30の間に印加される直流電圧が若干高くなるが、塩素イオン含有水の電気分解に必要な電流を流しつつ、カソード30の表面に付着するスケールの量を効果的に減少させることができる。酸化チタン被膜の厚さは、一般に約1nm以上、約130nm以下であり、約5nm以上、約100nm以下であることが好ましい。」

f 「【0035】
塩素イオン含有水は、給水ポンプ82によって給水ライン80から電解槽60の内部に供給される。アノード20およびカソード30の周囲に、アノード20とカソード30の間で導通があるように塩素イオン含有水が配置されたら、図3aに示すように、直流電源50によってアノード側に正電圧を印加しカソード側に負電圧を印加すると、塩素イオン含有水の電気分解が起こり、次亜塩素酸を含有する殺菌水が生成する。電気分解に使用される直流電圧および電極の単位面積当たりの電流密度は、一般に、約0.5V以上、約20V以下、および約0.5A/m^(2)以上、約50A/m^(2)以下である。
【0036】
塩素イオン含有水を電気分解したときに、アノード側では塩素イオンが塩素となり、その塩素が水と反応して次亜塩素酸と塩酸が生じる。一方、例えば塩素イオン含有水を一定濃度の塩化ナトリウム水溶液とした場合、カソード側ではナトリウムイオンと水の反応で水酸化ナトリウムと水素ガスが生じる。このとき、次亜塩素酸の量は水中のpHによって変化する。
アノード側:2Cl^(-)→Cl_(2)+2e^(-)
Cl_(2)+H_(2)O→HClO+HCl
カソード側:2Na^(+)+2H_(2)O+2e^(-)→2NaOH+H_(2)↑


g 「【図1】



(イ)引用文献2の上記記載によれば、次のことがいえる。
a 上記(ア)bの【0001】、同dの【0022】、同eの【0027】、同gの【図1】等の記載によれば、引用文献2には、塩素イオン含有水を電気分解することにより、次亜塩素酸を含有する殺菌水を生成するための、殺菌水製造装置であって、アノード(陽極)20と、カソード(陰極)30と、第三電極40とを有し、アノード20、カソード30および第三電極40が、極性切替装置を備えた直流電源50に接続し、カソード30表面にスケールが付着したら、第三電極40とカソード30に通電することによって、カソード30表面の酸化被膜の絶縁破壊を起こし、カソード30表面に付着したスケールを破壊された酸化被膜と一緒に剥離する殺菌水製造装置が記載されている。

b 【0028】、【0029】の記載によれば、アノード20は、白金被覆チタンから構成される電極であり、カソード30は、表面に予め約1nm以上、約130nm以下の酸化チタン被膜が形成されたチタンから構成される電極である。また、第三電極40は、チタン又は表面に酸化チタン被膜を有するチタンから構成される電極である。

c 以上、上記a及びbによると、引用文献2には、
「直流電源50に接続されている、アノードと、カソードと、第三電極とを有する、塩素イオン含有水を電気分解することにより、次亜塩素酸を含有する殺菌水を生成し、カソード表面にスケールが付着したら、第三電極とカソードに通電することによって、カソード表面の酸化被膜の絶縁破壊を起こし、カソード表面に付着したスケールを破壊された酸化被膜と一緒に剥離する殺菌水製造装置において、アノードが白金被覆チタンから構成される電極であり、カソードが表面に予め約1nm以上、約130nm以下の酸化チタン被膜が形成されたチタンから構成される電極であり、第三電極がチタン又は表面に酸化チタン被膜を有するチタンから構成される電極である」という技術事項が記載されている。

ウ 引用文献3(特開2002-1338号公報)
(ア)原査定に引用された引用文献3には、次の事項が記載されている。
a 「【0074】
ここで、電気分解部88の構成について説明する。電気分解部88は、前述のように、吸着浄化処理の終了したプール水に対し、所定の直流電圧を印加して、隔膜(イオン膜)を用いる電気分解を行うものであるが、ここで用いる電極の形状などについては、以下のような点に配慮することが好ましい。
【0075】
すなわち、電気分解の効率を向上させるための電極の配置にも留意することが好ましい。例えば、図5(a)に示すような、一対の平板状の電極を対峙させた場合に比較して、同(b)に示すような、一対の同心円状の電極を対峙させた場合,同(c)に示すような、複数の円筒状の電極を対峙させた場合などでは、同一容積の処理槽内で単位時間に処理可能な処理対象水の量が大幅に増加する。」

b 「【図5】(c)



(イ)以上の記載によると、引用文献3には「それぞれが複数の円筒状の電極からなる一対の同心円状の電極を配置した、直流電圧が印加される電気分解部」という技術事項が記載されている。

エ 引用文献4(特開2005-288415号公報)
(ア)原査定に引用された引用文献4には、次の事項が記載されている。
a 「【0012】
本発明に係る水の殺菌方法および装置の好ましい実施の形態を、添付図面に従って詳細に説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る水の殺菌装置の説明図である。図1において、殺菌装置10は、電極ユニット12と電源ユニット14とから構成してある。電極ユニット12は、実施形態の場合、平面視で六角形状に形成してあって、1つの第1印加電極16と複数の第2印加電極18と複数の浮遊電極20とを有する。これらの各電極16、18、20は、詳細を後述するように、円柱状に形成してある。
【0013】
第1印加電極16は、電極ユニット12の中心部に配置してある。また、複数の第2印加電極18は、電極ユニット12の外周縁部において六角形の各片に沿って配置してある。」

b 「【図1】



(イ)以上の記載によると、引用文献4には「第1印加電極を中心に第2印加電極を六角形の各片に沿って配置してある水の殺菌装置の電極ユニット」という技術事項が記載されている。

(2)対比・判断
ア 本願発明1について
(ア)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
a 引用発明の「電解質イオン水」は、上記(1)ア(ア)dの[0019]の「電解質イオン水3、例えば、通常の水道水」の記載によれば、本願発明1の「水その他の溶媒」に相当する。

b 引用発明の「陽極(+)側に接続される」「チタンの金属棒」及び「陰極(-)側に接続される」「白金の金属棒」は、それぞれ本願発明1の「第1の電極棒」及び「第2の電極棒」に相当し、引用発明の「陽極(+)側に接続される導電棒としてチタンの金属棒を使用し、陰極(-)側に接続される導電棒として白金の金属棒を使用し」、「チタンの金属棒を陽極、白金の金属棒を陰極に対応させて直流電流(DC12V、0.2A)を供給する」ことは、本願発明1の「第1の電極棒が」「陽極側に接続され、前記第2の電極棒が」「陰極側に接続されて直流電流が供給可能となって」いることに相当する。

c 引用発明の「チタンの金属棒、白金の金属棒が交互に平行に配列された状態のナノバブル発生装置を電解質イオン水中に配置し、チタンの金属棒を陽極、白金の金属棒を陰極に対応させて直流電流(DC12V、0.2A)を供給する」において、「チタンの金属棒、白金の金属棒が交互に平行に配列された状態」とは、チタンの金属棒と、白金の金属棒とが離間して配置された状態であることは明らかであり、「ナノバブル発生装置を電解質イオン水中に配置」するということは、電解質イオン水中にチタンの金属棒、白金の金属棒が配置されていることが明らかであり、また、「チタンの金属棒を陽極、白金の金属棒を陰極に対応させて直流電流(DC12V、0.2A)を供給する」とは、チタンの金属棒と白金の金属棒の間に直流電流を供給する電源があることは明らかであるから、引用発明の「チタンの金属棒、白金の金属棒が交互に平行に配列された状態のナノバブル発生装置を電解質イオン水中に配置し、チタンの金属棒を陽極、白金の金属棒を陰極に対応させて直流電流(DC12V、0.2A)を供給する通電方式によるナノバブル発生装置」は、本願発明1の「水その他の溶媒中に、第1の電極棒と、第2の電極棒とを離間して配置し、前記第1の電極棒と前記第2の電極棒間に直流電流を供給する電源を有してなる通電方式によるナノバブル発生装置」に相当する。

d そうすると、本願発明1と引用発明との一致点・相違点は次のとおりである。

[一致点]
「水その他の溶媒中に、第1の電極棒と、第2の電極棒とを離間して配置し、前記第1の電極棒と前記第2の電極棒間に直流電流を供給する電源を有してなる通電方式によるナノバブル発生装置において、
第1の電極棒が陽極側に接続され、前記第2の電極棒が陰極側に接続されて直流電流が供給可能となっている、
ナノバブル発生装置。」

[相違点1]
本願発明1では、第1の電極棒が「プラチナまたはチタンにプラチナをコーティングした電極棒」であり、前記第2の電極棒が「チタンの電極棒」であり、前記第2の電極棒は、「電気分解前に、チタン表面に酸化チタン皮膜を50nm以上生成」してなるのに対し、引用発明では、第1の電極がチタンの金属棒であり、第2の電極が白金の金属棒である点。

[相違点2]
本願発明1では、「前記第1および第2の電極棒と並んで、チタン棒からなり液体との接触を検知する接液検出センサーの端子が設けられており、該接液検出センサーにより前記第1および第2の電極棒が液体中であることが検知されると、第1の電極棒に+側の電流が流れ、第2の電極棒に-側の電流流れて電気分解が行われるようになっている」のに対し、引用発明では、接液検出センサーを有しているのか明らかでない点。

(イ)相違点についての判断
以下、まず相違点1について検討する。

引用発明は、上記(1)ア(ア)bに記載されるように「電解質イオン中で通電することにより水は電気分解され気泡が生じる。そして、本発明者等は、この気泡の大きさは、電極間の通電条件を変えることにより、制御出来ることを発見した」ことに基づき、「かかる原理を用いて構成される簡易構成の通電方式によるナノバブル発生装置を提供すること」を発明の課題としているといえる。そして、具体的な実施例では、電極棒として、1mm径のチタン電極棒と白金電極棒を用い、平行する電極棒間の間隔を1mmとし、チタン電極棒を陽極、白金棒を陰極に対応させて直流電流(DC12V、0.2A)を供給するナノバルブ発生装置を用い(同eの[0031])、ナノバブル発生装置1で20分間バブルを発生後、5、15、30、45、60分経過後におけるバブル形状を観察測定し(同eの[0032])、200nm?400nmのナノバブル水は発生15?30分が最も高く、しだいに密度を下げて行く傾向が窺えたとし(同fの[0039])、次に、散乱強度分布としてナノバブル密度が最も高かったバブル発生後20分経過時のナノバブル水を使用して、その殺菌能比較試験を行っている(同fの[0040])ように、引用文献1では、専らナノバブル水自体の性状や特性の検討が行われ、特段、ナノバブルの発生との関係で、電極材料の検討を行うといった検討はなされていない。そうすると、引用文献1に、電極材料について、「目的に応じた電極材料の選択が可能である」(同dの[0023])、「導電棒13が白金のみであると高価であるので、チタンの金属棒の表面に白金をコーティングしたものであっても良い。また、上記の通り、チタンと白金の代わりに、アルミおよびステンレス金属等アレルギーを考慮した電極であれば、いずれにも代替が可能である。」(同dの[0025])、「陽極(+)側と陰極(-)側の対応を相互に入れ替えても作動可能である」(同dの[0026])の記載があるとしても、引用発明には、ナノバブルの発生との関係で、電極材料の検討を行い、第1の電極棒を「プラチナまたはチタンにプラチナをコーティングした電極棒」とし、第2の電極棒を「チタンの電極棒」であり、「電気分解前に、チタン表面に酸化チタン皮膜を50nm以上生成」したものを採用する動機付けがあるとはいえない。
一方、引用文献2には「直流電源50に接続されている、アノードと、カソードと、第三電極とを有する、塩素イオン含有水を電気分解することにより、次亜塩素酸を含有する殺菌水を生成し、カソード表面にスケールが付着したら、第三電極とカソードに通電することによって、カソード表面の酸化被膜の絶縁破壊を起こし、カソード表面に付着したスケールを破壊された酸化被膜と一緒に剥離する殺菌水製造装置において、アノードが白金被覆チタンから構成される電極であり、カソードが表面に予め約1nm以上、約130nm以下の酸化チタン被膜が形成されたチタンから構成される電極であり、第三電極がチタン又は表面に酸化チタン被膜を有するチタンから構成される電極である」という技術事項が記載されている。
ここで、上記技術事項において、上記(1)イ(ア)cの【0007】、【0008】の記載によれば、水道水などに塩化ナトリウムなどを添加して調製された塩素イオン含有水を、長期間連続して電気分解を行うと、スケールがカソード表面に析出し付着し電流が流れなくなることに対し、アノードとカソードの間に逆の極性の電圧を印加して、カソードに付着したスケールを剥離する場合には、電極表面の高価な白金被覆に損傷が生じるという問題があったのに対し、同dの【0022】、【0023】の記載によれば、カソード表面にスケールが付着したら、第三電極とカソードに通電し、カソード表面の酸化被膜の絶縁破壊を起こし、カソード表面に付着したスケールを破壊された酸化被膜と一緒に剥離することにより、カソード表面のスケール除去に際して、アノードに電気的ストレスを与える必要がないことから、高価な貴金属で被覆されたチタン電極はアノードのみに使用すればよく、カソードと第三電極を安価なチタン電極とすることができることが理解できる。
そうすると、上記技術事項における「殺菌水製造装置において、アノードが白金被覆チタンから構成される電極であり、カソードが表面に予め約1nm以上、約130nm以下の酸化チタン被膜が形成されたチタンから構成される電極であり、第三電極がチタン又は表面に酸化チタン被膜を有するチタンから構成される電極である」との点は、「直流電源50に接続されている、アノードと、カソードと、第三電極とを有する、塩素イオン含有水を電気分解することにより、次亜塩素酸を含有する殺菌水を生成し、カソード表面にスケールが付着したら、第三電極とカソードに通電することによって、カソード表面の酸化被膜の絶縁破壊を起こし、カソード表面に付着したスケールを破壊された酸化被膜と一緒に剥離する殺菌水製造装置」を前提として、実現できたものであるということができるから、引用文献2の上記技術事項を考慮したとしても、「直流電源50に接続されている、アノードと、カソードと、第三電極とを有する、塩素イオン含有水を電気分解することにより、次亜塩素酸を含有する殺菌水を生成し、カソード表面にスケールが付着したら、第三電極とカソードに通電することによって、カソード表面の酸化被膜の絶縁破壊を起こし、カソード表面に付着したスケールを破壊された酸化被膜と一緒に剥離する」ものではない引用発明に、引用文献2の上記技術事項の「アノードが白金被覆チタンから構成される電極であり、カソードが表面に予め約1nm以上、約130nm以下の酸化チタン被膜が形成されたチタンから構成される電極であり、第三電極がチタン又は表面に酸化チタン被膜を有するチタンから構成される電極である」との点を適用する動機付けはない。
また、引用発明は、通常の水道水が例示される電解質イオン水(上記(1)ア(ア)dの[0019])中で通電することにより水を電気分解しナノバブルを発生させるナノバブル発生装置に関するものである。また、同fの[0037]の記載によれば、引用発明においては水素ガスのバブルが発生している。他方、引用文献2の技術事項は、塩素イオン含有水を電気分解することにより、次亜塩素酸を含有する殺菌水を得ることを意図するものであると共に、引用文献2の上記(1)イ(ア)fの【0036】の記載によれば、塩素イオン含有水を電気分解することにより、次亜塩素酸を含有する殺菌水を生成する殺菌水製造装置において、水素ガスは発生するものの、この水素ガスがナノバブルの状態であるかは明らかでない。ここで、引用文献1の上記(1)ア(ア)bの[0009]の記載によれば、水の電気分解により生じる気泡の大きさは、電極間の通電条件により影響されるものであり、そして、電極の材料等の選択は電極間の通電条件に影響を与えることを考慮すると、次亜塩素酸を含有する殺菌水を生成する殺菌水製造装置の電極であって、ナノバブルを発生しているのかも明らかでない引用文献2の技術事項における電極を、引用発明に適用したとしても直ちにナノバブルを発生する電極になると当業者であっても理解することができるとはいえないから、この観点においても、引用発明に、引用文献2の上記技術事項の「アノードが白金被覆チタンから構成される電極であり、カソードが表面に予め約1nm以上、約130nm以下の酸化チタン被膜が形成されたチタンから構成される電極であり、第三電極がチタン又は表面に酸化チタン被膜を有するチタンから構成される電極である」との点を適用する動機付けはない。
さらに、引用文献3、引用文献4は、いずれも、上記相違点1に係る構成を開示するものではない。
そうすると、引用発明及び、拒絶査定において引用された引用文献2-4に記載された技術事項に基づいて、当業者が上記相違点1に係る構成を容易に想到し得たということはできない。

そして、本願発明1は、本願明細書に記載された、チタンの導電棒側が陽極で、プラチナの導電棒側が陰極になっていると、陽極側に接続したチタンの導電棒には、チタン表面に酸化チタン皮膜が忽ちのうちに生成してしまい絶縁されるので、直流電流が流れないのに対し、プラチナからなる第1の電極棒を陽極とし、チタンからなる第2の電極棒を陰極とし、直流電流を流して電気分解することで、ナノバブルを生成することができる(【0002】、【0006】)、予め、第2の電極棒2のチタンの表面には酸化チタン被膜が生成され、この酸化チタン被膜は、半導体特性を発現し、第1の電極棒1に対してカソードとなるので、第2の電極棒2を陰極とすることで第1の電極棒1との間で通電が可能となる(【0018】)、上記酸化チタン被膜は、耐食性が高く長寿命であり、光触媒機能や超親水性を有して水に馴染みやすいので、電気分解により生じた水素気泡をより小さくナノバブルとして発生させることになる(【0019】)という作用効果を奏するものであるが、これらの効果は、引用発明、拒絶査定において引用された引用文献2-4に記載された技術的事項から予測できるものでもない。

(ウ)小括
以上により、当業者が上記相違点1に係る構成を容易に想到し得たとはいえないのであるから、相違点2を検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明及び拒絶査定において引用された引用文献2-4に記載された技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本願発明2、3について
本願発明2、3は、本願発明1を引用し、さらに減縮した発明であり、上記相違点1に係る構成を備えるものであるから、本願発明1と同様に、当業者であっても、引用発明及び拒絶査定において引用された引用文献2-4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 当審拒絶理由(特許法第36条第6項第2号)について
令和3年8月20日の手続補正により、請求項1の「電流流れて」との記載が「電流が流れて」に補正され、また、請求項3の「請求項1から3」との記載が「請求項1から2」に補正されたことにより、請求項1-3に係る発明が明確になった。
よって、請求項1-3の記載は、明確である。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の拒絶理由及び当審の拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-11-16 
出願番号 特願2017-21714(P2017-21714)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B01F)
P 1 8・ 537- WY (B01F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 中村 泰三  
特許庁審判長 原 賢一
特許庁審判官 金 公彦
大光 太朗
発明の名称 通電方式によるナノバブル発生装置  
代理人 西 良久  

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