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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1379772
異議申立番号 異議2020-700795  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-12-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-10-15 
確定日 2021-09-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6682178号発明「樹脂組成物及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6682178号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔8-11〕について訂正することを認める。 特許第6682178号の請求項8ないし11に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

1.手続の経緯
本件特許第6682178号(請求項の数11。以下「本件特許」という。)は、平成26年9月30日を出願日とする特許出願(特願2014-201733号)であって、令和2年3月27日に特許権の設定登録がされ、令和2年4月15日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、令和2年10月15日に、本件特許の請求項8?11に係る特許に対して、特許異議申立人小松 一枝、前田 知子(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。

以降の手続の経緯は以下のとおりである。

令和2年12月28日付け 取消理由通知書
令和3年 3月 8日 訂正請求書、意見書(特許権者)
同年 4月12日付け 通知書(訂正請求があった旨の通知)
同年 5月13日 意見書(申立人)

2.証拠方法
(1)申立人が、特許異議申立書に添付した証拠方法は、以下のとおりである。
・甲第1号証:特開2002-60424号公報
・甲第2号証:特開2000-230016号公報
・甲第3号証:特開2007-297585号公報
・甲第4号証:特開2007-297620号公報
・甲第5号証:特開2010-229237号公報
・甲第6号証:特開2008-133462号公報
・甲第7号証:特開2012-25968号公報

(2)申立人が、意見書に添付した証拠方法は、以下のとおりである。
・甲第8号証:特開2008-189886号公報

(以下、上記「甲第1号証」?「甲第8号証」を、それぞれ「甲1」?「甲8」と略す。)

第2 訂正の適否

1.訂正の内容
令和3年3月8日提出の訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は以下のとおりである。(また、本件特許の設定登録時の明細書を「本件明細書」という。)

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項8に「(メタ)アクリル系樹脂と沸点70?150℃の非重合性有機溶媒100?1000ppmと紫外線吸収剤とを含有し、着色度YIが10.0以下であり、かつ、ガラス転移温度が110?170℃であり、前記樹脂組成物1g中、長径20μm以上の異物数が100個以下である樹脂組成物。」と記載されているのを、
「(メタ)アクリル系樹脂と沸点70?150℃の非重合性有機溶媒100?1000ppmと紫外線吸収剤とを含有し、着色度YIが10.0以下であり、かつ、ガラス転移温度が110?170℃であり、メルトフローレートは、240℃、荷重98Nにおいて5g/10分以上、20g/10分以下である樹脂組成物であって、前記樹脂組成物1g中、長径20μm以上の異物数が100個以下である樹脂組成物。」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項9に「(メタ)アクリル系樹脂と沸点70?150℃の非重合性有機溶媒100?1000ppmとを含有し、紫外線吸収剤を含有しておらず、着色度YIが4.0以下であり、かつ、ガラス転移温度が110?170℃であり、前記樹脂組成物1g中、長径20μm以上の異物数が100個以下である樹脂組成物。」と記載されているのを、
「(メタ)アクリル系樹脂と沸点70?150℃の非重合性有機溶媒100?1000ppmとを含有し、紫外線吸収剤を含有しておらず、着色度YIが4.0以下であり、かつ、ガラス転移温度が110?170℃であり、メルトフローレートは、240℃、荷重98Nにおいて5g/10分以上、20g/10分以下である樹脂組成物であって、前記樹脂組成物1g中、長径20μm以上の異物数が100個以下である樹脂組成物。」に訂正する。

(3)一群の請求項について
訂正前の請求項8?11について、請求項10?11は、請求項8又は9を直接又は間接的に引用し、訂正事項1によって訂正される請求項8に連動して訂正される一群の請求項と、訂正事項2によって訂正される請求項9に連動して訂正される一群の請求項とに共通する請求項である。
したがって、請求項8?11は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否の検討
以下の検討において、本件訂正前の請求項8ないし11をそれぞれ項番に従い「旧請求項8」のようにいい、訂正後の請求項8?11をそれぞれ項番に従い「新請求項8」のようにいう。

(1)訂正事項1に係る訂正
訂正事項1に係る訂正では、旧請求項8の「樹脂組成物」について、本件明細書の【0063】の記載に基づき、「メルトフローレートは、240℃、荷重98Nにおいて5g/10分以上、20g/10分以下である」と限定することにより、旧請求項8に対してその特許請求の範囲を減縮して新請求項8としていることから、訂正事項1に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的としており、新規事項の追加に該当しない。また、特許請求の範囲を実質的に減縮するものであることは明らかであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項2に係る訂正
訂正事項2に係る訂正は、旧請求項9の「樹脂組成物」について、本件明細書の【0063】の記載に基づき、「メルトフローレートは、240℃、荷重98Nにおいて5g/10分以上、20g/10分以下である」と限定することにより、旧請求項9に対してその特許請求の範囲を減縮して新請求項9としていることから、訂正事項2に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的としており、新規事項の追加に該当しない。また、特許請求の範囲を実質的に減縮するものであることは明らかであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3.独立特許要件について
本件訂正は、本件特許異議の申立てがされている旧請求項8?11についてするものであるから、いわゆる独立特許要件につき検討することを要しない。

4.訂正に係る検討のまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項8?11について訂正を認める。

第3 本件訂正発明

本件訂正後の請求項8?11に係る発明(以下「本件発明8」?「本件発明11」という。)は、その特許請求の範囲の請求項8?11に記載された事項によって特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項8】
(メタ)アクリル系樹脂と沸点70?150℃の非重合性有機溶媒100?1000ppmと紫外線吸収剤とを含有し、着色度YIが10.0以下であり、かつ、ガラス転移温度が110?170℃であり、メルトフローレートは、240℃、荷重98Nにおいて5g/10分以上、20g/10分以下である樹脂組成物であって、前記樹脂組成物1g中、長径20μm以上の異物数が100個以下である樹脂組成物。
【請求項9】
(メタ)アクリル系樹脂と沸点70?150℃の非重合性有機溶媒100?1000ppmとを含有し、紫外線吸収剤を含有しておらず、着色度YIが4.0以下であり、かつ、ガラス転移温度が110?170℃であり、メルトフローレートは、240℃、荷重98Nにおいて5g/10分以上、20g/10分以下である樹脂組成物であって、前記樹脂組成物1g中、長径20μm以上の異物数が100個以下である樹脂組成物。
【請求項10】
前記(メタ)アクリル系樹脂は、アクリル系モノマーの重合体であって主鎖に環構造を有する樹脂である、請求項8又は9に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
前記主鎖に環構造を有する樹脂が、マレイミド系重合体及び/又はラクトン環系重合体である、請求項10に記載の樹脂組成物。」

第4 取消理由通知による取消理由の概要及び特許異議申立理由の概要

1.取消理由通知による取消理由の概要
当審が取消理由通知で通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。

(1)取消理由A(進歩性)
本件特許の請求項8?11に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲4?7に記載された周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(2)取消理由B(進歩性)
本件特許の請求項8?11に係る発明は、甲2に記載された発明及び甲4?7に記載された周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(3)取消理由C(進歩性)
本件特許の請求項8?10に係る発明は、甲5に記載された発明及び引用文献Aに記載された技術事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(4)取消理由D(進歩性)
本件特許の請求項8?11に係る発明は、甲6に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

2.特許異議申立理由の概要
申立人が特許異議申立書で申立てた申立理由の概要は、以下に示すとおりである。

(1)申立理由1
本件特許の請求項9?11に係る発明は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(2)申立理由2
本件特許の請求項8?11に係る発明は、甲1に記載された発明、及び、甲4?7に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(3)申立理由3
本件特許の請求項9?11に係る発明は、甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(4)申立理由4
本件特許の請求項8、10?11に係る発明は、甲2に記載された発明、及び、甲4?7に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(5)申立理由5
本件特許の請求項9?11に係る発明は、甲3に記載された発明、及び、甲4?7に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

第5 当審の判断

当審は、当審が通知した取消理由A?D及び申立理由1?5によっては、いずれも、本件発明8?11に係る特許を取り消すことはできないと判断する。

その理由は以下のとおりである。

なお、申立理由1、2は、甲1を主引例とする点で取消理由Aと共通しているから、取消理由Aと合わせて検討し、申立理由3、4は、甲2を主引例とする点で取消理由Bと共通しているから、取消理由Bと合わせて検討する。
また、申立理由5については、後記「第6」で述べる。

1.取消理由A及び申立理由1、2(甲1を主引例とする場合)について

(1)甲1に記載された事項
申立人が提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲1には、下記の事項が記載されている。

ア「【請求項1】透明耐熱性樹脂であって、構造単位として、下記一般式(1)で表される環構造単位と、下記一般式(2)で表される環構造単位を併せ持つことを特徴とする透明耐熱性樹脂。一般式(1)を示す。これは、グルタル酸無水物環構造単位である。
【化1】

(式中、R^(3)およびR^(4)は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1?20の有機残基を表す。なお、有機残基には酸素原子を含んでもよい。)
一般式(2)を示す。これは、ラクトン環構造単位である。
【化2】

(式中、R^(2)、R^(5)およびR^(6)は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1?20の有機残基を表す。なお、有機残基には酸素原子を含んでもよい。)」

イ「【0002】
【従来の技術】メタクリル系樹脂は、透明性、表面光沢、耐候性に優れ、また、機械的強度、成形加工性、表面硬度のバランスがとれているため、自動車部品や家電製品、各種工業部品、雑貨等における透明材料や光学関連用途に幅広く使用されている。しかしながら、メタクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は100℃前後であることから、耐熱性が要求される分野での使用は困難である一方で、デザインの自由度、コンパクト化、高性能化などの要請から、光源を樹脂に近接して配置する設計が行われることが多く、より優れた耐熱樹脂が要望されている。」

ウ「【0009】
【発明が解決しようとする課題】このように、従来の技術においては、メタクリル系樹脂(PMMA等)の耐熱性の改良が種々行われてきているが、機械的強度と耐溶剤性(耐薬品性)の両立が困難であった。そこで、本発明の課題は、これら各種物性のバランスに優れた透明耐熱性樹脂を提供する事にある。具体的には、耐熱性や、耐水性や、耐衝撃性等の物性バランスに優れた透明性耐熱性樹脂を提供することである。特に、透明耐熱性樹脂の、機械的強度と耐溶剤性(耐薬品性)の両立を目的としている。また従来公知の透明耐熱性樹脂の成形性も改良することも目的である。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、主鎖にグルタル酸無水物環構造とラクトン環構造を合わせ持つ共重合体が、上記課題を解決できる透明耐熱性樹脂になる事を見出した。より具体的には、MMA等の(メタ)アクリレート系単量体、不飽和酸モノマー(メタクリル酸やアクリル酸等)、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸アルキルエステル(以下RHMAと略す場合がある)を含む単量体成分を重合してなる共重合体を、加熱処理することにより得られた、主鎖にグルタル酸無水物環構造とラクトン環構造を合わせ持つ共重合体が、上記課題を解決できる透明耐熱性樹脂になる事を見出し、本発明を完成させた。一見、耐水性の悪い構造を導入しているかの様であるが、本発明の課題である、各種物性のバランスに優れた透明耐熱性樹脂が得られた。本発明により、透明耐熱性樹脂として、実用性に耐える良好な物性を持つ透明耐熱性樹脂を提供することができるのである。」

エ「【0058】本発明の製造方法により得られる透明性耐熱樹脂中の残存揮発分は、好ましくは1,500ppm以下、より好ましくは1,000ppm以下となる。これよりも多いと、成形時の変質等によって着色したり、発泡したり、シルバーなどの成形不良の原因となる。」

オ「【0083】本発明の透明性耐熱樹脂は、15重量%のクロロホルム溶液中での着色度(YI)が6以下となるものである。該着色度(YI)は、好ましくは3以下、さらに好ましくは2以下、最も好ましくは1以下であるのがよい。本発明の透明性耐熱樹脂の製造方法において縮合環化触媒を用いる場合、前述のように、縮合環化反応の際の触媒として有機リン化合物を用いることによって、得られる樹脂の着色度(YI)を6以下に抑えることができるので好ましい形態である。着色度(YI)が6を越えるような透明性耐熱樹脂は、着色により透明性が損なわれ、本来目的とする用途に使用できない場合がある。」

カ「【0087】本発明の透明性耐熱樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が好ましくは115℃以上、さらに好ましくは125℃以上、さらにより好ましくは135℃以上、最も好ましくは140℃以上である。
【0088】本発明の透明性耐熱樹脂中の残存揮発分は、その総量が、好ましくは1500ppm以下、より好ましくは1000ppm以下となる。これよりも多いと、成形時の変質等によって着色したり、発泡したり、シルバーストリークなどの成形不良の原因となる。
【0089】本発明の透明性耐熱樹脂においては、射出成形により得られる成形品の、ASTM-D-1003に準じた方法で測定された全光線透過率が85%以上、さらに好ましくは88%以上、最も好ましくは90%以上であることが好ましい。全光線透過率は、透明性の目安であり、これが85%未満であると、透明性が低下し、本来目的とする用途に使用できないこととなる。
【0090】本発明の透明性耐熱樹脂においては、射出成形により得られる成形品の、ASTM-D-1003に準じた方法で測定された曇価が5%以下、好ましくは3%以下、さらに好ましくは1%以下であることが好ましい。曇価は、透明性の目安であり、これが5%を越えると、透明性が低下し、本来目的とする用途に使用できないこととなる。なお、この曇価は、後述する透明性耐熱樹脂組成物においても、同様に5%以下であることが好ましい。」

キ「【0095】これら本発明の透明性耐熱樹脂は、上述のように優れた物性を有するので、必要に応じて、酸化防止剤や安定剤、ガラス繊維等の補強材、紫外線吸収剤、難燃剤、帯電防止剤、着色剤などを配合して、透明性耐熱樹脂成形材料としてもよいし、さらにその成形材料を成形して成形品としてもよい。これらの透明性耐熱樹脂成形材料や成形品は、本発明の透明性耐熱樹脂を含んでなるので、優れた物性を有する。」

ク「【0107】本発明の透明性耐熱樹脂は、透明性に優れているので、透明光学レンズ、光学素子(例えば、各種計器類の照明あるいは各種ディスプレイや看板照明等に利用可能な導光体、プラスチック光ファイバー、光拡散性面状成形体等)、OA機器や自動車等の透明部品(例えば、レーザービームプリンター用レンズ、車両用のヘッドランプやフォグランプや信号灯等に用いられるランプレンズ等)などに応用でき、種々の形状を容易に成形できる点で好ましい。さらに、本発明の樹脂もしくは樹脂組成物は、フィルム、シート状の成形品、他の樹脂との積層シート、浴槽用表層樹脂等にも応用できる。」

ケ「【0114】(樹脂の着色度YI)樹脂の着色度YIは、樹脂をクロロホルムに溶かし、15重量%溶液を石英セルに入れ、JIS-K-7103に従い、色差計(日本電色工業社製、装置名:SZ-Σ90)を用いて、透過光で測定した。
【0115】(樹脂の熱分析)樹脂の熱分析は、試料約10mg、昇温速度10℃/min、窒素フロー50cc/minの条件で、TG(リガク社製、装置名:TG-8110)とDSC(リガク社製、装置名:DSC-8230)を用いて行った。なお、ガラス転移温度(Tg)は、ASTM-D-3418に従い、中点法で求めた。
【0116】(樹脂中の揮発分測定)樹脂中に含まれる残存揮発分量は、ガスクロマトグラフィー(島津製作所社製、装置名:GC-14A)を用いて測定して求めた。」

コ「【0122】[参考例1]攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を付した30Lの反応釜に、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル10部、メタクリル酸メチル37.5部、メタクリル酸2.5部、トルエン50部を仕込み、窒素を通じつつ100℃まで昇温した。還流したところで、開始剤としてターシャリーブチルパーオキシイソプロピルカーボネート0.15部を加えて、還流下(約95?110℃)で溶液重合を行い、5時間かけて熟成を行った。重合の反応率は95.2%、重合体中の2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの含有率(重量比)は20.1%、メタクリル酸の含有量(重量比)は5.0%であった。また、この重合体の重量平均分子量は180000であった。
【0123】[実施例1]参考例1で得られた重合体溶液100部に対して37.5部のメチルイソブチルケトン、および、重合体成分1部に対して0.001部のリン酸メチル/リン酸ジメチル混合物(東京化成工業社製)を加え、窒素を通じつつ、還流下(約90?95℃)で5時間、縮合環化反応を行った。得られた反応溶液の一部を取出し、先に記載の方法でダイナミックTGの測定を行ったところ、0.9%の重量減少率を検知した。次いで、上記の縮合環化反応で得られた重合体溶液を、バレル温度255℃、回転数100rpm、減圧度10?300mmHg(13.3?400hPa)、リアベント数1個とフォアベント数4個のベントタイプスクリュー2軸押出機(直径=29.75mm、L/D=30)に、樹脂量換算で2.0Kg/時間の処理速度で導入し、該押出機内で縮合環化反応と脱揮を行い、押し出すことにより、透明なペレットが得られた。このペレットの着色YIは0.7であった。得られたペレットについて、先に先に記載の方法でダイナミックTGの測定を行ったところ、0.2%の重量減少率を検知した。
【0124】また、上記ペレットの重量平均分子量は175000であり、また、熱安定性の指標である5%重量減少温度は363℃であったことから、この樹脂は高温領域での熱安定性に優れていることがわかった。なお、ガラス転移温度は142℃であった。また、上記上記ペレット中の残存揮発分は以下の示す値となった。
メタクリル酸メチル:50ppm
2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル:60ppm
メタクリル酸:30ppm
メタノール:210ppm
トルエン:160ppm
メチルイソブチルケトン:240ppm
このペレットを260℃射出成形することにより、安定的に泡やシルバーストリークの見られない、無色透明(全光線透過率:92.7%、haze:0.6%)の成形品を得た。また、機械的強度として、衝撃強度(アイゾット値)を測定したところ、235N・cm/cm2(24kgf・cm/cm2)であった。また、耐溶剤性に関しては、メタノール、キシレン、トルエンで特に変化は見られなかった。また、樹脂の骨格中にラクトン環構造とグルタル酸無水物環構造があるかどうかは、赤外線吸収スペクトル、^(1)H-NMRおよび、^(13)C-NMRにより確認した。図1の赤外吸収スペクトルのパターンで、1792cm^(-1)付近に見られるカルボニルの吸収は、グルタル酸無水物環構造に由来する特徴的な吸収である。図2の^(1)H-NMRにおいて4.4ppm付近にラクトン環のエーテル酸素に近接するメチレン炭素に結合した水素に由来するピークが、また、図3の^(13)C-NMRからは、70ppm付近にラクトン環のエーテル酸素に近接するメチレン炭素が、そして26ppm付近にもう一方のメチレン炭素が観測されることから、ラクトン環構造とグルタル酸無水物環構造が存在することが明らかである。これらの結果と、次に示す比較例の結果を表1にまとめた。」

サ「【0129】
【表1】



シ「【0135】
【発明の効果】以上説明した様に、本発明の透明耐熱性樹脂は、グルタル酸無水物環構造単位とラクトン環構造単位を持つ透明耐熱性樹脂であり、透明であり、耐熱性及び熱安定性等のバランスに優れた、新規な透明性耐熱樹脂を提供する事である。さらに機械的強度あるいは耐溶剤性及び耐薬品性に優れた、特定の環構造とメタクリル酸メチル構造単位(MMA構造単位)を持つ新規な透明耐熱性樹脂である。また、特に、自動車関連の部品や家電用部品や製品などは、ガソリン、ワックス、芳香剤、洗浄剤などの有機系化合物等と接触する機会が多く、耐溶剤性や耐薬品性も要望される用途向けの成形品に適応する。また、得られた透明性耐熱性樹脂は、光学特性も優れているので、一般のカバー等の光学用途や、自動車用ヘッドランプレンズやレンズにも適している。また、ディスク基板やレーザーピックアップレンズ等の光学素子等の用途にも使用可能である。」

(2)甲1に記載された発明
甲1の実施例1には、参考例1で得られた重合体溶液を縮合環化反応と脱揮を行い、ペレットを得ることが記載されている。そうすると、甲1の実施例1には、下記の発明が記載されているといえる。

「2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル10部、メタクリル酸メチル37.5部、メタクリル酸2.5部、トルエン50部を仕込み、窒素を通じつつ100℃まで昇温し、還流したところで、開始剤としてターシャリーブチルパーオキシイソプロピルカーボネート0.15部を加えて、還流下(約95?110℃)で溶液重合を行って得られた、
2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの含有率(重量比)は20.1%、メタクリル酸の含有量(重量比)は5.0%、重量平均分子量は180000である重合体溶液100部に対して、
37.5部のメチルイソブチルケトン、および、重合体成分1部に対して0.001部のリン酸メチル/リン酸ジメチル混合物(東京化成工業社製)を加え、窒素を通じつつ、還流下(約90?95℃)で5時間、縮合環化反応を行い、
得られた重合体溶液を、バレル温度255℃、回転数100rpm、減圧度10?300mmHg(13.3?400hPa)、リアベント数1個とフォアベント数4個のベントタイプスクリュー2軸押出機(直径=29.75mm、L/D=30)に、樹脂量換算で2.0Kg/時間の処理速度で導入し、該押出機内で縮合環化反応と脱揮を行い、押し出すことにより得られた透明なペレットであって、
重量平均分子量は175000、5%重量減少温度は363℃、ガラス転移温度は142℃、ペレットの着色YIは0.7、ペレット中の残存揮発分は以下の値であるペレット。

メタクリル酸メチル:50ppm
2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル:60ppm
メタクリル酸:30ppm
メタノール:210ppm
トルエン:160ppm
メチルイソブチルケトン:240ppm」(以下「甲1発明」という。)

(3)甲4に記載された事項
申立人が提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲4には、下記の事項が記載されている。

ア「【請求項1】
ガラス転移温度が120℃以上200℃以下のアクリル系樹脂であって、
15重量%クロロホルム溶液中でのYIが5以下であり、
粒径20μm以上の異物量がアクリル系樹脂1gあたり100個以下であることを特徴とするアクリル系樹脂。」

イ「【背景技術】
【0002】
ポリメタクリル酸メチル(PMMA)に代表されるアクリル系樹脂は、光学性能に優れ、高い光線透過率や低複屈折率、低位相差の光学等方材料として各種光学用材料への適応がなされている。しかし近年、液晶表示装置やプラズマディスプレイ、有機EL表示装置等のフラットディスプレイや赤外線センサー、光導波路等の進歩に伴い、光学用アクリル系樹脂の光学特性に対する要請が高まってきている。光学用アクリル系樹脂に要求される特性は、YIが低いこと、異物量が少ないことが挙げられる。」

ウ「【0005】
しかしながら、上記混練法は、一旦、押出機によりアクリル系樹脂を得た後、添加剤と混合するための押出機を用いて混練する必要がある。つまり、一度押出機からアクリル系樹脂を取り出すため、当該アクリル系樹脂が外環境の酸素と接触する。また、このとき、アクリル系樹脂の熱履歴が多くなる。この結果、上記酸素との接触により、炭化物および過酸化物ラジカルの発生によるポリマーゲルが形成されやすく、この炭化物およびポリマーゲルが異物として混入するという欠点がある。また、上記酸素との接触および熱履歴により、アクリル系樹脂が黄変するという欠点がある。
【0006】
したがって、特に光学フィルム等に用いるアクリル系樹脂にとっては、これらの欠点により、要求される光学特性を満たすことができないという問題点が生じている。
【0007】
また、上記サイドフィード法による添加剤の添加方法に係る先行技術では、離型剤の添加量の調節が容易になるという効果(特許文献1参照)、得られる樹脂の熱履歴を軽減させることが可能になるという効果(特許文献2および特許文献3参照)、添加剤の分散効率が向上するという効果(特許文献4参照)、正確な量で添加剤を添加するための装置の改良(特許文献5参照)が開示されているのみである。
【0008】
したがって、従来、サイドフィード法を採用する場合において、YIおよび異物量の低減を目的とする従来技術は見当たらない。
【0009】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、YIが低く、ポリマーゲル等の異物量が少ない、各種光学用材料として好適なアクリル系樹脂、該組成物およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討を行った。該検討の過程において、添加剤を混入するために別の押出機を用いるのではなく、重合または脱揮を行った押出機内で添加剤を混入することにより、ポリマーゲル等の異物量が低くなり、さらにYIも低くなるということを見出して、本発明を完成するに至った。」

エ「【0124】
(ポリマーフィルター)
上記押出機の出口部分にはポリマーフィルターを備えても良い。本実施形態によれば、上記ポリマーフィルターを用いて、アクリル系樹脂、該組成物を濾過精製することにより、ポリマーゲル等の異物の除去が可能であり、異物量をより少なくしたアクリル系樹脂、該組成物の製造が可能となる。ポリマーフィルターは特に限定されるものではなく、例えば、パックディスクフィルター、円筒状フィルター、キャンドル状フィルター等が挙げられるが、ケーシング内に多数枚のリーフディスク型フィルターを配したポリマーフィルターが好ましい。」

オ「【実施例】
【0130】
〔実施例1〕
攪拌装置(マックスブレンド翼)、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた重合用反応器(SUS-316製)内を窒素で置換した。
【0131】
次に、メタクリル酸メチル40重量部に対して、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル10重量部、トルエン50重量部、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイト0.025重量部を重合用反応器に仕込んだ。
【0132】
その後、窒素を通じつつ重合用反応器内を100℃まで昇温した。酸素濃度が100ppm以下であることを確認した後、重合開始剤としてt-アミルパーオキシイソノナノエート0.05重量部を加え、その後直ちに、t-アミルパーオキシナノエート0.1重量部を2時間かけて滴下投入した。
【0133】
重合用反応器内の温度100℃以上を保持した状態で、滴下終了から4時間、重合を継続した。
【0134】
得られた重合体溶液にリン酸2-エチルヘキシル0.05重量部を加え、環化縮合反応を行った。環化縮合反応によりメタノールが生成するため、還流温度が低下するが、80℃以上を保つようにして2時間、環化縮合反応を行った。このときの反応率は、メタクリル酸メチルが97.4%、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルが98.2%であり、分子量が169000、分子量分布が2.8であった。
【0135】
得られたラクトン化重合体溶液は、押出機外の酸素に触れることなく、重合用反応器から、配管、ギアポンプを通じて、下流部分にサイドフィードを有する二軸押出機に導入した。なお、ラクトン化重合体溶液を、上記配管、ギアポンプを通じる過程で、多管式熱交換機からなる加熱機により240℃に昇温した。
【0136】
二軸押出機では、樹脂換算で15kg/hrとなるように、得られたラクトン化重合体溶液を脱揮機に供給し、バレル温度250℃、回転数100rpm、減圧度13.3?400hPaで脱揮処理した。
【0137】
その後、二軸押出機の下流部分に備えられたサイドフィードにより、1.65kg/hrの供給速度でAS樹脂ペレット(旭化成ケミカルズ株式会社製、アクリロニトリル-スチレン樹脂、製品名:スタイラックAS783)、および、7.5g/hrの供給速度で酸化防止剤を添加し、アクリル系樹脂組成物(A)のペレットを得た。
【0138】
〔実施例2〕
上記二軸押出機の出口部分に、リーフディスク型ポリマーフィルター(長瀬産業 濾過精度5μ)を備えていること以外は、実施例1と同様の条件で重合、脱揮を行い、アクリル系樹脂組成物(B)のペレットを得た。
【0139】
〔製造例1(グラフト重合体ゴムの製造)〕
冷却器と攪拌機とを備えた重合容器に、脱イオン水710部、ラウリル硫酸ナトリウム1.5部を投入して溶解し、内温を70℃に昇温した。そして、SFS0.93部、硫酸第一鉄0.001部、EDTA0.003部、脱イオン水20部の混合液を上記重合容器中に一括投入し、重合容器内を窒素ガスで十分置換した。
【0140】
モノマー混合液(M-1)(BA7.10部、St2.86部、BDMA0.02部、AMA0.02部)と重合開始剤溶液(PBH0.13部、脱イオン水10.0部)とを上記重合容器中に一括添加し、60分間重合反応を行った。
【0141】
続いて、モノマー混合液(M-2)(BA63.90部、St25.20部、AMA0.9部)と重合開始剤溶液(PBH0.246部、脱イオン水20.0部)とを別々に90分間かけて連続滴下しながら重合を行った。滴下終了後、さらに60分間重合を継続させた。これにより、有機微粒子のコア・シェル構造のコアとなる部分を得た。
【0142】
続いて、モノマー混合液(M-3)(St73.0部、AN27.0部)と重合開始剤溶液(PBH0.27部、脱イオン水20.0部)とを別々に100分間かけて連続滴下しながら重合を行った。滴下終了後、内温を80℃に昇温して120分間重合を継続させた。次に、内温が40℃になるまで冷却した後に300メッシュの金網を通過させて有機微粒子の乳化重合液を得た。
【0143】
得られた有機微粒子の乳化重合液を塩化カルシウムで塩析、凝固し、さらに水洗、乾燥して、粉体状のグラフト重合体ゴム(平均粒子径0.105μm、ゴム部のガラス転移温度-23℃)を得た。
【0144】
本製造例1では、下記の略語を用いた。
SFS :ソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート
EDTA:エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム
BA :アクリル酸ブチル
St :スチレン
BDMA:ジメタクリル酸1,4-ブタンジオール
AMA :メタクリル酸アリル
PBH :ターシャリーブチルハイドロパーオキサイド
AN :アクリロニトリル
〔実施例3〕
上記サイドフィードから、上記AS樹脂の代わりに、製造例1で製造したアクリル系のグラフト重合体ゴムを3.75kg/hrの供給速度で添加すること以外は実施例2と同様の条件で重合、脱揮を行い、アクリル系樹脂組成物(C)のペレットを得た。
【0145】
〔実施例4〕
サイドフィードから上記AS樹脂および上記酸化防止剤に加えて、酢酸亜鉛を6g/hrの供給速度で添加すること以外は実施例2と同様の条件で重合、脱揮を行い、アクリル系樹脂組成物(D)のペレットを得た。
・・・
【0151】
〔パーティクルカウンター法による異物数の測定〕
アクリル系樹脂組成物(A)ないし(G)のペレット1gを清浄な溶剤に溶解して、パーティクルカウンター(パマス社製、製品名:SUSS-C16 HCB-LD-50AC)により測定した。
【0152】
〔目視法による異物数の測定〕
アクリル系樹脂組成物(A)ないし(G)のペレット30gをガラス製シャーレに隙間無く詰めて、エタノールを満たした上で、×10倍の顕微鏡で観察した。得られた値を1gあたりに換算した。なお、50以上の数値の場合は、目視法では計量できなかった。
【0153】
〔YIの測定〕
YIは、アクリル系樹脂組成物(A)ないし(G)のペレットを、15重量%となるようにクロロホルムに溶解した上で、色差計(日本電色工業株式会社製、製品名:NDH-1001DP)により測定した。
【0154】
〔残留メタクリル酸メチルの測定〕
アクリル系樹脂組成物(A)ないし(G)に残存するメタクリル酸メチルは、ガスクロマトグラフ(株式会社島津製作所製、製品名:GC-14A、キャピラリーカラム:ULBON HR-IL50mm×ID0.25mm、BF0.25mm)を用いて測定した。
【0155】
〔ガラス転移温度(Tg)の測定〕
樹脂や組成物、ゴム成分の熱分析は、試料約10mg、昇温速度10℃/min、窒素フロー50cc/minの条件で、DSC(株式会社リガク製、製品名:DSC-8230)を用いて行った。なお、ガラス転移温度(Tg)は、ASTM-D-3418に従い、中点法で求めた。
・・・
【0166】
【表1】



(4)甲7に記載された事項
申立人が提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲7には、下記の事項が記載されている。

ア「【請求項1】
1グラムあたりに含まれる粒子径20μm以上の異物が100個以下であることを特徴とするガラス転移温度が110℃を超えるアクリル系樹脂組成物のペレット。
【請求項2】
残存揮発分の総量が2000ppm以下であることを特徴とする請求項1に記載のアクリル系樹脂組成物のペレット。
【請求項3】
光学用途で用いられることを特徴とする請求項1または2に記載のアクリル系樹脂組成物のペレット。
【請求項4】
ガラス転移温度が110℃を超えるアクリル系樹脂を、濾過精度が10μm以下で、内部の温度が260℃以上、310℃以下の範囲内のポリマーフィルタを備えた押出し機を用い、剪断速度が100/secにおける樹脂溶融粘度が800Pa・sec以下となる条件で濾過精製する工程を包含し、上記濾過精製する工程後に、上記押出し機の先端部に備えたダイスを通過後のストランドを冷却水で冷却し、切断機で上記ストランドをカットすることを特徴とするアクリル系樹脂組成物のペレットの製造方法。」

イ「【背景技術】
【0002】
メタクリル系樹脂や環状ポリオレフィン樹脂などの主鎖に芳香族環を有しない熱可塑性樹脂は、透明性が高く、複屈折率が低いなど優れた光学特性を示すことが知られている。特にメタクリル系樹脂は、表面光沢や耐光性に優れ、しかも機械的強度、成型加工性、表面硬度のバランスに優れているため、自動車や家電製品などにおける光学関連用途に幅広く用いられている。
【0003】
上記熱可塑性樹脂は、重合反応中に発生するゲルや、製造過程で混入する汚染物質などの様々な異物を含むため、これら異物を除去する必要がある。異物を除去する方法としては、例えば、200?600メッシュのスクリーンメッシュで濾過を行う方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9-263614号公報(1997年10月7日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の構成では、異物の除去が不十分であるという問題を生じる。
【0006】
具体的には、上記特許文献1に記載の方法では、粒子径が80μm以上の異物を1個/m^(2)以下にすることはできるが、光学用途で用いるためには粒子径が80μm未満の異物も極めて少ない量に低減する必要がある。」

ウ「【0141】
上記押出し機2内の熱可塑性樹脂は、押出し機内での加熱せん断に加えて、高濾過精度を有するフィルタ部での加熱せん断も加わるため、熱可塑性樹脂組成物中に残存する揮発性物質や、分解により生じる揮発性物質の影響で工程中での成形材料の発泡や着色等の不具合が生じ易く、また、成形品中に残存揮発物が多く含まれ易くなる。このため、上記押出し機2にベント3を設けることにより、より安定した生産が可能となり、かつ得られる成形材料中における含有揮発物量が抑制される。熱可塑性樹脂としてアクリル系樹脂を用いる場合には、アクリル系樹脂は解重合を起こし易いため、上記押出し機2にベント3を設けることがより好ましい。また、ベントは複数設けてもよい(図示せず)。
・・・
【0145】
また、「透明プラスチック成型材料グレード便覧」(合成樹脂工業新聞社、1988年版)の234?237頁には、各社のアクリル樹脂グレードの記載があるが、射出成型での標準成型温度は180?270℃の範囲内であり、最も高い温度で270℃である。1サイクルの時間が短く、熱履歴を受ける時間が短い射出成型であっても、通常270℃までしか温度を上げない。つまり、本実施の形態に係る熱可塑性樹脂組成物の製造方法では、従来の条件と比較して非常に高い温度で押出し成型を行う。これにより、後述するポリマーフィルタで濾過を行うことが可能となり、異物を低減することができる。言い換えれば、従来では、押出し成型および濾過時の温度を低く設定していたため、濾過をする樹脂の粘度が高くなり、濾過精度が10μm以下であるポリマーフィルタでは濾過を行うことができなかった。
【0146】
上記押出し機2内における熱可塑性樹脂組成物の粘度は、剪断速度が100/secにおける樹脂溶融粘度が800Pa・sec以下であることが好ましく、700Pa・sec以下であることがより好ましく、600Pa・sec以下であることが特に好ましい。
【0147】
(III)ポリマーフィルタ
上記ポリマーフィルタ4としては、濾過精度が1μm以上10μm以下の範囲内であることが好ましく、1μm以上5μm以下の範囲内であることがより好ましく、1μm以上3μm以下の範囲内であることが更に好ましい。濾過精度が1μm未満であると、濾過滞留時間が長くなり、生産効率が低下するため好ましくない。また、濾過滞留時間が長くなると、熱可塑性樹脂などが熱劣化し易くなるため、異物の増加を招く恐れがある。また、濾過精度が10μmを超えると、異物が混入し易くなるため好ましくない。
【0148】
上記ポリマーフィルタ4は、上記範囲内の濾過精度を有するポリマーフィルタであれば特には限定されず、従来公知のポリマーフィルタを使用することができる。上記ポリマーフィルタ4としては、例えば、リーフディスクタイプのポリマーフィルタ、パックディスクフィルタ、円筒型フィルタ、キャンドル状フィルタなどが挙げられる。これらの中では、濾過面積が広く、高粘度の樹脂を濾過した場合でも圧力損失が少ないため、リーフディスクタイプのポリマーフィルタがより好ましい。
【0149】
上記ポリマーフィルタ4がリーフディスクタイプのポリマーフィルタである場合、フィルタとしては、金属繊維不織布を焼結した材料からなるもの、金属粉末を焼結した材料からなるもの、金網を数枚積層したものなどが挙げられる。これらの中では、金属繊維不織布を焼結した材料からなるものがより好ましい。
【0150】
上記ポリマーフィルタ4における時間当たりの樹脂処理量に対する濾過面積は、処理量に応じて適宜選択されるため、特には限定されず、例えば、0.001?0.15m^(2)/(kg/h)とすることができる。
【0151】
上記ポリマーフィルタ4での濾過において、ポリマーフィルタ4内部の温度(熱可塑性樹脂組成物の温度)は、260℃以上であることが好ましく、270℃以上であることがより好ましい。また、310℃以下であることが好ましく、300℃以下であることがより好ましく、290℃以下であることが更に好ましい。
【0152】
上記ポリマーフィルタ4での濾過時における、熱可塑性樹脂組成物の粘度(剪断速度100/sで測定した場合)は、上述した押出し機2内における熱可塑性樹脂組成物の粘度と同じ範囲内であることが好ましい。
【0153】
上記ポリマーフィルタ4による濾過時における熱可塑性樹脂組成物の滞留時間は、20分以下が好ましく、10分以下がより好ましく、5分以下が更に好ましい。また、上記ポリマーフィルタ4での濾過時におけるフィルタの入口圧は、例えば3?15MPaの範囲内、フィルタの出口圧は、例えば0.3?10MPaの範囲内とすることができる。また、フィルタにおける圧力損失は、1?15MPaの範囲内であることが好ましい。圧力損失が1MPa未満では、溶融した熱可塑性樹脂組成物がポリマーフィルタ4を通過する流路に偏りが生じ易く、濾過後の熱可塑性樹脂組成物の品質の低下が起こる傾向がある。逆に、圧力損失が15MPaを超えると、フィルタの破損が起こり易くなる。
【0154】
尚、ポリマーフィルタ4で濾過を行う前に、熱可塑性樹脂などの原料1は、予め別のフィルタで処理を行うことがより好ましい。これにより、ポリマーフィルタで4の濾過で除去すべき異物の量が減るため、より短時間でポリマーフィルタ4による濾過を行うことができる。また、ポリマーフィルタ4による濾過時間が短縮できるだけではなく、異物をより効率よく取り除くことができるため、得られた熱可塑性樹脂組成物の異物の量はより低減される。」

エ「【0198】
本発明に係る熱可塑性樹脂組成物、特に、耐熱性アクリル系樹脂組成物は、透明性や耐熱性に優れているのみならず、低着色性、機械的強度、成型加工性などの所望の特性を備えると共に、異物数が少ない。このため、光学用途などに幅広く使用することができ、特に光学材料に関連する分野で好適に用いることができる。」

(5)甲5、甲6に記載された事項
申立人が提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲5、甲6に記載された事項については、それぞれ、後記3.(1)、後記4.(1)を参照のこと。

(6)本件発明9について
事案に鑑みて、本件発明9から検討する。
ア.甲1発明との対比
本件発明9と甲1発明を対比する。
甲1発明の「重合体」は、「2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル10部、メタクリル酸メチル37.5部、メタクリル酸2.5部」と(メタ)アクリル系モノマーを共重合したものであるから、本件明細書の【0021】の記載から見て、本件発明9における「(メタ)アクリル系樹脂」に相当する。
また、甲1発明のペレット中の残存揮発分が
「メタクリル酸メチル:50ppm
2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル:60ppm
メタクリル酸:30ppm
メタノール:210ppm
トルエン:160ppm
メチルイソブチルケトン:240ppm」
であり、このうち、まず、メタノール、トルエン、メチルイソブチルケトンが「非重合性有機溶媒」に相当するといえる。さらに、メタノールの沸点が64.7℃、トルエンの沸点110.6℃、メチルイソブチルケトンの沸点が116℃であるから、「沸点70?150℃の非重合性有機溶媒」の量は、トルエンとメチルイソブチルケトンの量をあわせた400ppmであるといえる。そうすると、甲1発明の「トルエン:160ppm、メチルイソブチルケトン:240ppm」は、本件発明9に係る「沸点70?150℃の非重合性有機溶媒100?1000ppm」に相当するといえる。
また、甲1発明における「ペレット」は、実施例1の記載からみて、紫外線吸収剤を使用していないから、本件発明9に係る「紫外線吸収剤を含有しておらず」を満足するといえる。
さらに、甲1発明における「ペレット」の「着色YI」は「0.7」であり、甲1発明の「ペレット」の着色YIの測定法(【0114】)は本件明細書の【0070】の測定方法と同じであるから、本件発明9に係る「黄色度YIが4.0以下」を満たすといえる。
また、甲1発明のペレットのガラス転移温度が142℃であるから、本件発明9に係る「ガラス転移温度が110?170℃」を満たすといえる。

そうすると、本件発明9と甲1発明は、下記の点で一致し、下記の点で相違する。

一致点:「(メタ)アクリル系樹脂と沸点70?150℃の非重合性有機溶媒100?1000ppmとを含有し、紫外線吸収剤を含有しておらず、着色度YIが4.0以下であり、かつ、ガラス転移温度が110?170℃である樹脂組成物」

相違点1A:本件発明9では、「樹脂組成物1g中、長径20μm以上の異物数が100個以下」であるのに対し、甲1発明では、そのような特定がない点。

相違点1B:本件発明9では、樹脂組成物の「メルトフローレートは、240℃、荷重98Nにおいて5g/10分以上、20g/10分以下」であるのに対し、甲1発明では、メルトフローレートが特定されていない点。

イ.判断
相違点1Aについて検討する。

本件発明は、樹脂組成物(目的物)中に有機溶媒が敢えて一定量残存するよう制御した上で、減圧下、加熱による有機溶媒の除去工程およびポリマーフィルタによる濾過工程を経て樹脂組成物を得ると、残存する有機溶媒が重合された樹脂に対して可塑剤の様に作用するため、有機溶媒除去工程やポリマーフィルタ濾過工程における樹脂の剪断劣化の抑制に寄与することができ、低着色で且つ異物の少ない樹脂組成物を提供することができるというものである(【0003】、【0004】、【0006】【0007】)。
したがって、本件明細書によれば、例えば、濾過を行うことにより、異物を低減することができ、本件発明9における「樹脂組成物1g中、長径20μm以上の異物数が100個以下」の樹脂が得られるものといえる。
また、本件発明は、有機溶媒を留出除去した後、ポリマーフィルタを用いた濾過により異物を除去しようとした場合、得られる樹脂に着色が生じることがあったという従来の課題に対して(【0003】、【0004】)、上記のとおり、有機溶媒を一定量残存するように制御することで、濾過してもなお、低着色である樹脂組成物を提供しようとするものである。

一方、濾過により異物を除去する工程が甲1には記載されておらず、他に、甲1発明における異物数が100個以下であることを推認すべき記載も見当たらない。
そうすると、相違点1Aは実質的な相違点であり、本件発明9は、甲1に記載された発明であるとはいえない。

次に相違点1Aの容易想到性について検討する。
甲1には、透明性耐熱樹脂の残存揮発分が1500ppmよりも多いと、成形時の変質等によって着色したり、発泡したり、シルバーなどの成形不良の原因となること(【0058】)は記載されているものの、濾過をして異物を除去してもなお、低着色の組成物を得ること、そのための有機溶媒を残留させるという具体的な構成が記載されていない。

また、濾過により異物を低減できることは、甲4の【請求項1】、【0002】、【0124】、甲5の【請求項11】、【0003】、【0005】、【0031】、甲6の【請求項4】、【0002】、【0015】、甲7の【請求項1】、【0006】、【0145】?【0154】に記載されるように、本件出願時に周知の技術事項であったとしても、甲4?甲7をみても、濾過をして異物を除去してもなお、低着色の組成物を得るために、有機溶媒を一定量残留させるよう制御することが、本件出願時に少なくとも公知であったとはいえない。

してみると、甲1の記載事項、及び、甲4?甲7に示される事項をみても、甲1発明において、低着色を維持しながら、「沸点70?150℃の非重合性有機溶媒100?1000ppm」を含有する樹脂組成物を濾過して、「樹脂組成物1g中、長径20μm以上の異物数が100個以下」となるまで異物を低減することを動機付けられない。
よって、甲1発明において、相違点1Aを容易に想到することができたとはいえない。

したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明9は、甲1発明、及び、甲4?7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ.本件発明9の効果について
本件明細書の【0018】には、「樹脂組成物中に非重合性有機溶媒を敢えて一定量残存させるので、(メタ)アクリル系樹脂を含む低着色で且つ異物の少ない樹脂組成物を提供できる」という効果を奏することが記載され、請求項9には、「低着色」の指標として「着色度YIが4.0以下」であり、「異物の少ない」樹脂組成物の指標として「樹脂組成物1g中、長径20μm以上の異物数が100個以下である」樹脂組成物を提供することが記載され、本件明細書の実施例3、4において、比較例3、4に比して、有機溶媒を100?1000ppm含有した状態で濾過することで、異物数を100個以下と低減しても、着色度YIを4.0以下に抑制できるという効果が具体的なデータとともに確認されている。
一方、甲1には、着色度YIが4.0以下である低着色で、且つ、異物数が100個以下である樹脂組成物を提供できることは記載されていない。
また、甲4?甲7にも、甲1発明に、甲4?7に記載された事項を適用した際に、異物数を100個以下としても、着色度YIを4.0以下に抑制できるという効果を予測できるような記載があるとはいえない。
してみると、本件発明9の効果は、甲1、甲4?甲7の記載から当業者が予測し得る事項であるとはいえない。

エ.申立人の主張について
(ア)主張の内容
申立人は、令和3年5月13日提出の意見書で、概略、フィルター濾過する方法であっても、異物が少なく、かつ、樹脂の着色が抑制されるアクリル系樹脂が得られる効果は、期待できると、以下の点から、主張している。

a.特許権者が主張するのは、押出機からペレットを作製した後に、再度押出機を用いて濾過する方法であり、取消理由に記載された押出機の出口付近にフィルターを適用する場合とは異なる。
(当審注:押出機からペレットを作製した後に、再度押出機を用いて濾過する方法と比べ、押出機の出口付近にフィルターを適用する場合は、熱履歴の回数が少ないから、濾過しても着色しないと主張していると解される。)

b.甲4の2軸押出機の出口部分にフィルターを備えた例(実施例2)と備えていない例(実施例1)を比較すると、フィルターを備えた例においてYI値が低くなることが記載されているから、甲4の記載から、押出機の出口部分にフィルターを設けて濾過をすると、異物は少なくなり、且つYI値が低下する効果が期待できるものといえる。

c.甲5には、光学材料として有用であることが記載されているから(【0014】)、光学材料に有用な、異物が少なく樹脂の着色が抑制されたアクリル系樹脂が得られる効果は、当然、期待できるものといえる。

d.甲6には、ポリマーフィルタを用いた耐熱アクリル樹脂の濾過方法が記載され、異物数が少なく着色度YIが低いペレットが得られることが記載されている(【0115】、実施例1)。
そうすると、甲6の記載からは、樹脂ペレットをポリマーフィルターで濾過する方法により、耐熱アクリル樹脂の異物数を少なくし、着色度を低くできる効果が期待できるといえる。

e.甲7には、1グラムあたりに含まれる粒子径20μm以上の異物が100個以下であり、残存揮発分の総量が2000ppm以下であるアクリル系樹脂組成物のペレット(請求項1、2)、及び、組成物の製造方法として、ポリマーフィルタを備えた押出機を用いる方法(請求項4)が記載され、実施例でもポリマーフィルター処理を行っている。
甲7に記載の熱可塑性樹脂組成物は、透明性や低着色性の特性を備え、光学用途に使用できると記載されている(【0198】)から、濾過する方法により異物数が少なく、低着色性であり、残存揮発分の総量が2000ppm以下である熱可塑性樹脂組成物が得られる効果が期待できるといえる。

(イ)検討
上記主張について検討する。
まず、上記イで述べたとおり、本件発明は、有機溶媒を一定量残存するように制御することで、濾過してもなお、低着色である樹脂組成物を提供しようとするものであり、甲1、及び、上記いずれの甲号証にも濾過をして異物を除去してもなお、低着色の組成物を得るために、有機溶媒を一定量残留させるよう制御すること記載されていないから、甲1の記載事項、及び、甲4?甲7に示される事項をみても、甲1発明において、低着色を維持しながら、「沸点70?150℃の非重合性有機溶媒100?1000ppm」を含有する樹脂組成物を濾過して、「樹脂組成物1g中、長径20μm以上の異物数が100個以下」となるまで異物を低減することを動機付けられるものではない。

そして、申立人の上記(ア)の主張は、効果に関するものであるから、この点、念のため、検討する。

・上記aの点について
押出機の出口付近にフィルターを適用する場合は、押出機からペレットを作製した後に、再度押出機を用いて濾過する方法を用いる場合と比べて、熱履歴の回数が少ないから、着色度が抑えられるかもしれない。しかしながら、本件明細書の【0002】?【0005】、【0007】に記載されるように、ポリマーフィルタ濾過工程において、樹脂の剪断劣化が生じることがあるから、押出機の出口付近にフィルターを適用する場合であっても、異物数を100個以下まで低減したときに、着色度YIを4.0以下とすることができるとする根拠が示されているわけではない。

・上記bの主張(甲4)について
甲4において、フィルタの有無のみに着目し、実施例1と実施例2を対比すれば、フィルタがあることによりYI値が低下すると解することができるかもしれない。
しかしながら、甲4の実施例1、2は、透明耐熱性樹脂にAS樹脂と酸化防止剤である特定の添加剤を混合した場合の結果であり、同じく甲4の実施例として記載される実施例3や4では、他の添加剤を配合すると、YI値が大きくなることが示されているから、他の添加剤を用いる場合やそもそも添加剤を用いない場合に、同様のYI値の低下が見られるかは不明である。また、甲4の【0005】?【0010】には、添加剤を配合する際に、サイドフィーダ法を用いて添加剤を配合するとYIが低くなることが記載されているのであって、添加剤を配合しない甲1発明においても、押出機の出口付近にポリマーフィルタを用いるとYIが低くなることが示されているのではない。
したがって、甲4の実施例1、2の記載から、甲1発明において、押出機の出口付近にフィルターを適用すると、異物を100個以下としながら、着色度YIを4.0以下とすることができる効果を予測することができたとはいえない。

・上記cの主張(甲5)について
甲5には、光学材料として有用であることは記載されているものの(【0014】)、着色度(YI)はどの程度の値を目指しているのか明らかでないし、また、甲5には、溶媒を追加して、低粘度化して溶液濾過した後に、任意に溶融濾過する態様が記載されているといえるが(【特許請求の範囲】、【0031】)、特に後段の溶融濾過において、どの程度の着色度となるのかは記載されていないから、たとえ甲5に光学材料として有用であると記載されていても、この記載をもって、甲1発明にポリマーフィルターの溶融濾過を適用して異物数を100個以下とし、かつ、濾過後の樹脂の着色度が4.0以下となるよう抑制される効果が得られると当業者が予測できたとはいえない。

・上記dの主張(甲6)について
甲6の実施例2(ポリマーフィルターあり)と比較例2(ポリマーフィルターなし)の比較から、ポリマーフィルタを備えると、着色物量が減るものの、着色度(YI)が大きくなってしまうことが示されているから、甲6にいくら着色度YIが小さい実施例が記載されていたとしても(例えば実施例1、2)、甲1発明にポリマーフィルターの濾過を適用して異物数を100個以下まで低減したときに、濾過後の樹脂の着色度YIが4.0以下の範囲で抑制されるという効果が得られると当業者が予測できたとはいえない。

・上記eの主張(甲7)について
甲7の【0198】には、低着色性と記載されるが、具体的にどの程度の着色度を有する樹脂組成物が得られるのかは明らかでないから、甲7の記載から、甲1発明にポリマーフィルターの濾過を適用して異物数を100個以下となるまで低減したときに、濾過後の樹脂の着色度YIが4.0以下となるよう抑制される効果が得られると当業者が予測できたとはいえない。
また、甲7の【0141】、【0147】には、押出機内での加熱せん断に加えて、高濾過精度を有するフィルタ部での加熱せん断も加わるため、熱可塑性樹脂組成物中に残存する揮発性物質や、分解により生じる揮発性物質の影響で工程中の成形材料の発泡や着色等の不具合が生じ易いこと、ポリマーフィルタ中の滞留時間が長くなると、熱可塑性樹脂などの熱劣化し易くなるため、異物の増加を招く恐れがあることが記載され、むしろ、甲7には、濾過により着色のおそれがあることが記載されているといえる。

よって、上記いずれの甲号証をみても、甲1発明において、濾過によって異物数を100個以下となるまで低減しても、樹脂の着色度YIを4.0以下とできる予測できるような記載があるとはいえないから、申立人が上記aで主張しているように、たとえ押出機の出口付近にフィルターを適用する場合であっても、異物数を100個以下となるまで低減したときに、着色度YIを4.0以下とすることができる効果を当業者が予測することができたとはいえない。
よって、申立人の上記主張を採用できない。

オ.小括
以上のとおりであるから、本件発明9は、甲1に記載された発明ではないし、また、甲1に記載された発明、及び、甲4?甲7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(7)本件発明8について
ア.甲1発明との対比
本件発明8と甲1発明を対比すると、本件発明8は、紫外線吸収剤を含有する点、YIの上限が異なる点以外は、本件発明9と同じであるから、これらの点以外については、上記(6)で述べたとおりである。
そうすると、本件発明8と甲1発明とは、下記の点で一致し、下記の点で相違する。

一致点:「(メタ)アクリル系樹脂と沸点70?150℃の非重合性有機溶媒100?1000ppmとを含有し、着色度YIが10.0以下であり、かつ、ガラス転移温度が110?170℃である樹脂組成物」

相違点1C:本件発明8では、紫外線吸収剤を含有するのに対し、甲1発明では、紫外線吸収剤を含有しない点。

相違点1D:本件発明8では、「樹脂組成物1g中、長径20μm以上の異物数が100個以下」であるのに対し、甲1発明では、そのような特定がない点。

相違点1E:本件発明8では、樹脂組成物の「メルトフローレートは、240℃、荷重98Nにおいて5g/10分以上、20g/10分以下」であるのに対し、甲1発明では、メルトフローレートが特定されていない点。

イ.判断
事案に鑑み、相違点1Dから検討する。
相違点1Dは、上記相違点1Aと同じであるから、上記(6)イで検討したのと同様に、甲1発明において、相違点1Dを容易に想到することができたとはいえない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明8は、甲1発明、及び、甲4?甲7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ.本件発明8の効果について
本件明細書の【0018】には、「樹脂組成物中に非重合性有機溶媒を敢えて一定量残存させるので、(メタ)アクリル系樹脂を含む低着色で且つ異物の少ない樹脂組成物を提供できる」という効果を奏することが記載され、請求項8には、紫外線吸収剤を含有し、「低着色」の指標として「着色度YIが10.0以下」であり、「異物の少ない」樹脂組成物の指標として「樹脂組成物1g中、長径20μm以上の異物数が100個以下である」樹脂組成物を提供することが記載され、本件明細書の実施例1、2において、比較例1、2に比して、紫外線吸収剤を含有する場合であっても、有機溶媒を100?1000ppm含有した状態で濾過することで、異物数を100個以下と低減しても、着色度YIを10.0以下に抑制できるという効果が具体的なデータとともに確認されている。
一方、甲1には、紫外線吸収剤を含有し、かつ、着色度YIが10.0以下である低着色で、さらに異物数が100個以下である樹脂組成物を提供できることは記載されていない。
また、甲4?甲7にも、甲1発明に、紫外線吸収剤を含有し、甲4?甲7に記載された事項を適用した際に、異物数を100個以下としても、着色度YIを10.0以下に抑制できるという効果を予測できるような記載があるとはいえない。
してみると、本件発明8の効果は、甲1、甲4?甲7の記載から当業者が予測し得る事項であるとはいえない。

エ.小括
よって、本件発明8は、甲1に記載された発明、及び、甲4?甲7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(8)本件発明10?11について
本件発明10は、本件発明8または9を直接引用し、「(メタ)アクリル系樹脂」を「アクリル系モノマーの重合体であって主鎖に環構造を有する樹脂」に限定するものであり、本件発明11は、本件発明10を直接引用し、「主鎖に環構造を有する樹脂」を「マレイミド系重合体及び/又はラクトン環系重合体」に限定するものである。
そして、上記(6)、(7)で述べたとおり、本件発明9が、甲1に記載された発明ではなく、また、本件発明8及び9が、甲1に記載された発明、及び、甲4?甲7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでないことから、本件発明10及び11も同様に、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明、及び、甲4?甲7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(9)取消理由A及び申立理由1、2の検討のまとめ
以上のとおりであるから、本件発明9?11は、甲1に記載された発明ではないし、また、本件発明8?11は、甲1に記載された発明、及び、甲4?甲7に記載された事項ないしは周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
よって、取消理由A及び申立理由1、2は、理由がない。


2.取消理由B及び申立理由3、4(甲2を主引例とする場合)について

(1)甲2に記載された事項
申立人が提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲2には、下記の事項が記載されている。

ア「【請求項1】分子鎖中に水酸基とエステル基を有する重合体を脱アルコール反応させることにより耐熱性を有する透明性樹脂を得る方法において、前記脱アルコール反応を溶剤の存在下で行い、且つ、前記脱アルコール反応の際に、脱揮工程を併用することを特徴とする、透明性耐熱樹脂の製造方法。
・・・
【請求項6】分子鎖中に水酸基とエステル基を有する重合体を脱アルコール反応させることにより得られる透明性耐熱樹脂において、ダイナミックTG測定における、150?300℃の間での重量減少率から求めた脱アルコール反応率が90%以上であることを特徴とする、透明性耐熱樹脂。」

イ「【0005】そこで、本発明の課題は、脱アルコール反応率が高く、また、得られる樹脂の残存揮発分も少なく、従って、成形品中に泡やシルバーが入ることを抑制することができ、さらに射出成形などの溶融賦形も容易で、工業的生産に適し、効率の良い、透明性耐熱樹脂の製造方法と透明性耐熱樹脂およびその用途を提供することにある。」

ウ「【0026】本発明における脱アルコール反応が終了した時点の、ダイナミックTG測定における、150?300℃の間での重量減少率から求めた脱アルコール反応率は90%以上が好ましく、より好ましくは95%以上であり、さらにより好ましくは97%以上である。本発明の製造方法により得られる透明性耐熱樹脂中の残存揮発分は、好ましくは1500ppm以下、より好ましくは1000ppm以下となる。これよりも多いと、成形時の変質等によって着色したり、発泡したり、シルバーなどの成形不良の原因となる。」

エ「【0047】したがって、本発明の透明性耐熱樹脂は、(a)高い耐熱性を有し、(b)優れた透明性を持ち、(c)成形品中の泡やシルバーを抑制できる、従来の透明性耐熱樹脂の持つ欠点を克服した新規な樹脂である。
(透明性耐熱樹脂成形材料)本発明の透明性耐熱樹脂は、必要に応じて、ヒンダードフェノール系、リン系、イオウ系の酸化防止剤や安定剤、ガラス繊維あるいは炭素繊維などの補強材、フェニルサリチレート、2-(2´-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-ヒドロキシベンゾフェノンなどの紫外線吸収剤、トリス(ジブロムプロピル)ホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリアリルホスフェート、四臭化エチレン、酸化アンチモン、ジンクボレートなどの難燃剤、アニオン系、カチオン系、非イオン系、両性系の界面活性剤などの帯電防止剤、および、無機顔料、有機顔料、染料などの着色剤などを配合して透明性耐熱樹脂成形材料としてもよい。前記透明性耐熱樹脂成形材料中、本発明の透明性耐熱樹脂の含有量は、好ましくは10?100重量%、さらに好ましくは30?100重量%、最も好ましくは50?100重量%である。
(成形品)本発明の透明性耐熱樹脂を含む透明性耐熱樹脂成形材料を用いた成形品は、150?350℃で成形するのが好ましく、より好ましくは200?300℃であるが、耐熱性などの樹脂の性質に応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。成形方法としては特に限定されず、射出成形、ブロー成形、押出成形などが挙げられる。本発明の透明性耐熱樹脂は、透明性に優れており、透明光学レンズ、光学素子、OA機器や自動車等の透明部品などに応用でき、また、種々の形状を容易に成形できる点で好ましい。さらに、本発明の樹脂は透明性を有しているので、フィルム、シート状の成形品にも応用できる。」

オ「【0053】なお、この脱アルコール反応率は、脱揮工程を同時に併用する脱アルコール反応の前にあらかじめ脱アルコール反応をおこなう場合に、重合体の反応状態を規定する上で重要な指標となる。
(重量平均分子量)重合体の重量平均分子量は、GPC(東ソー社製GPCシステム)のポリスチレン換算により求めた。
(樹脂の着色度YI)樹脂の着色度YIは、樹脂をクロロホルムに溶かし、15%溶液を石英セルに入れ、色差計(日本電色工業社製、装置名:SZ-Σ90)を用いて測定した。
(樹脂の熱分析)樹脂の熱分析は、試料約10mg、昇温速度10℃/min、窒素フロー50cc/minの条件で、TG(リガク社製、装置名:TG-8110)とDSC(リガク社製、装置名:DSC-8230)を用いて行った。
(樹脂中の揮発分測定)樹脂中に含まれる残存揮発分量は、ガスクロマトグラフィー(島津製作所社製、装置名:GC-14A)を用いて測定して求めた。
(成形品の透明度)成形品の透明度の指標として、全光線透過率を、ASTMD1003に従って、濁度計(日本電色工業社製、装置名:NDH-1001DP)を用いて測定した。
(樹脂中のラクトン環の確認)樹脂の骨格中にラクトン環があるかどうかは、赤外線吸収スペクトルおよび^(13)C-NMRにより確認した。なお、赤外線吸収スペクトルは、FTS-45赤外分光光度計(BIO-RAD製)を用い、^(13)C-NMRは、FT-NMR UNITY plus400(Varian製)を用いて測定を行った。
[参考例1]攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管および滴下ポンプを付した30Lの反応釜に、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル5部、メタクリル酸メチル20部、トルエン25部を仕込み、窒素を通じつつ100℃まで昇温した。そして、開始剤としてターシャリーブチルパーオキシイソプロピルカーボネート0.075部を加えると同時に、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル5部、メタクリル酸メチル20部、トルエン25部、開始剤0.075部からなる溶液を3時間半かけて滴下しながら100?110℃で溶液重合を行い、さらに1時間半かけて熟成を行った。重合の反応率は91.8%で、重合体中の2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル単位比率は20.0%であった。また、この重合体の重量平均分子量は130000であった。・・・」

カ「【0058】
・・・
[実施例3]参考例1で得られた重合体溶液を、オートクレーブに入れ、200℃まで昇温し、加圧下で10時間加熱を行い、脱アルコール反応を行った。
【0059】得られた反応溶液の一部を取り出し、先に記載の方法で脱アルコール反応率を求めたところ、脱アルコール反応率は87.7%であった(ダイナミックTG法の測定で、0.68%の重量減少を検知)。上記の脱アルコール反応で得られた重合体溶液を、バレル温度250℃、回転数100rpm、減圧度10?300mmHg、リアベント数1個とフォアベント数4個のベントタイプスクリュー2軸押出機(Φ=29.75mm、L/D=30)に、樹脂量換算で2.0kg/時間の処理速度で導入し、該押出機内で脱アルコール反応を完結させつつ脱揮処理を行い、押し出すことにより、透明なペレットが得られた。このペレットの着色度YIは2.2であった。
【0060】得られたペレットについて、先に記載の方法で脱アルコール反応率を求めたところ、脱アルコール反応率は98.0%であった(ダイナミックTG法の測定で、0.11%の重量減少を検知し、この方法で求めたラクトン環構造の占める割合は19.6重量%であった)。また、上記ペレットの重量平均分子量は99000であり、また、耐熱性の指標である5%重量減少温度は368℃であったことから、このペレットは高温領域での熱安定性に優れていることがわかった。なお、ガラス転移温度は130℃であった。
【0061】また、上記ペレット中の残存揮発分は以下に示す値となった。
メタクリル酸メチル:90ppm
2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル:80ppm
メタノール:270ppm
トルエン:180ppm
このペレットを250℃で射出成形することにより、安定的に泡やシルバーが入らない、無色透明(全光線透過率:90.1%)の成形品を得た。成形品中には泡は見られず、また、射出成形機内で樹脂を250℃で5分間滞留させた後に射出成形しても、成形品には泡は見られなかった。
[実施例4]参考例1で得られた重合体溶液を、(実施例1の2軸押出機の代わりに)熱交換器に通して250℃まで昇温し、そのまま減圧度150mmHgの脱揮槽に導入し、脱アルコール反応と脱揮を同時に行い、ギアポンプで樹脂量換算で1kg/時間の処理速度で抜き出し、透明な樹脂を得た。この樹脂の着色度YIは2.1であった。
【0062】得られた樹脂について、先に記載の方法で脱アルコール反応率を求めたところ、脱アルコール反応率は95.3%であった(ダイナミックTG法の測定で、0.26%の重量減少を検知し、この方法で求めたラクトン環構造の占める割合は19.1重量%であった)。また、上記樹脂の重量平均分子量は90000であった。
【0063】また、上記樹脂について、耐熱性の指標である5%重量減少温度は363℃であったことから、この樹脂は高温領域での熱安定性に優れていることがわかった。なお、ガラス転移温度は126℃であった。また、上記樹脂中の残存揮発分は以下に示す値となった。
メタクリル酸メチル:520ppm
2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル:100ppm
メタノール:380ppm
トルエン:330ppm
この樹脂を用いて、250℃で射出成形することにより、泡やシルバーの見られない無色透明(全光線透過率:90.1%)の成形品を得た。
・・・」

(2)甲2に記載された発明
甲2の実施例3には、参考例1で得られた重合体溶液を用いて、脱アルコール反応と脱揮処理を行い、押し出すことによりペレットを得ることが記載されている。そうすると、甲2の実施例3に着目すると、下記の発明が記載されているといえる。

「2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル5部、メタクリル酸メチル20部、トルエン25部を仕込み、窒素を通じつつ100℃まで昇温し、開始剤としてターシャリーブチルパーオキシイソプロピルカーボネート0.075部を加えると同時に、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル5部、メタクリル酸メチル20部、トルエン25部、開始剤0.075部からなる溶液を3時間半かけて滴下しながら100?110℃で溶液重合を行い、さらに1時間半かけて熟成を行い、重合の反応率は91.8%で、重合体中の2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル単位比率は20.0%であり、重量平均分子量は130000である重合体の溶液を
オートクレーブに入れ、200℃まで昇温し、加圧下で10時間加熱を行い、脱アルコール反応を行い、得られた重合体溶液を、
バレル温度250℃、回転数100rpm、減圧度10?300mmHg、リアベント数1個とフォアベント数4個のベントタイプスクリュー2軸押出機(Φ=29.75mm、L/D=30)に、樹脂量換算で2.0kg/時間の処理速度で導入し、該押出機内で脱アルコール反応を完結させつつ脱揮処理を行い、押し出すことにより得られた透明なペレットであって、
該ペレットの着色度YIは2.2、脱アルコール反応率は98.0%(ダイナミックTG法の測定で、0.11%の重量減少を検知し、この方法で求めたラクトン環構造の占める割合は19.6重量%であった)、重量平均分子量は99000、5%重量減少温度は368℃、ガラス転移温度は130℃、ペレット中の残存揮発分は以下の値であるペレット。

メタクリル酸メチル:90ppm
2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル:80ppm
メタノール:270ppm
トルエン:180ppm」(以下、「甲2発明1」という。)

甲2の実施例4には、同様に、参考例1で得られた重合体溶液を用いることが記載されているから、甲2の実施例4に着目すると、下記の発明が記載されているといえる。

「2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル5部、メタクリル酸メチル20部、トルエン25部を仕込み、窒素を通じつつ100℃まで昇温し、開始剤としてターシャリーブチルパーオキシイソプロピルカーボネート0.075部を加えると同時に、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル5部、メタクリル酸メチル20部、トルエン25部、開始剤0.075部からなる溶液を3時間半かけて滴下しながら100?110℃で溶液重合を行い、さらに1時間半かけて熟成を行い、重合の反応率は91.8%で、重合体中の2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル単位比率は20.0%であり、重量平均分子量は130000である重合体の溶液を
熱交換器に通して250℃まで昇温し、そのまま減圧度150mmHgの脱揮槽に導入し、脱アルコール反応と脱揮を同時に行い、ギアポンプで樹脂量換算で1kg/時間の処理速度で抜き出し得られた透明な樹脂であって、
樹脂の着色度YIは2.1、脱アルコール反応率は95.3%(ダイナミックT法の測定で、0.26%の重量減少を検知し、この方法で求めたラクトン環構造の占める割合は19.1重量%であった)、重量平均分子量は90000、5%重量減少温度は363℃、ガラス転移温度は126℃、樹脂中の残存揮発分は以下の値である樹脂。

メタクリル酸メチル:520ppm
2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル:100ppm
メタノール:380ppm
トルエン:330ppm」(以下「甲2発明2」という。)

(3)甲4?7に記載された事項
申立人が提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲4に記載された事項については前記1.(3)を、甲5に記載された事項については後記3.(1)を、甲6に記載された事項については後記4.(1)を、甲7に記載された事項については前記1.(4)を参照のこと。

(4)本件発明9について
事案に鑑みて本件発明9から検討する。

ア.甲2発明1?2との対比
本件発明9と甲2発明1?2をまとめて対比する。
甲2発明1?2における「重合体」は、「2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル5部、メタクリル酸メチル20部」、さらに「2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル5部、メタクリル酸メチル20部」を添加して共重合したものであるから、本件明細書の【0021】の記載から見て、本件発明9の「(メタ)アクリル系樹脂」に相当する。
また、甲2発明1における残存揮発分は、
「メタクリル酸メチル:90ppm
2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル:80ppm
メタノール:270ppm
トルエン:180ppm」
であり、甲2発明2における残存揮発分は、
「メタクリル酸メチル:520ppm
2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル:100ppm
メタノール:380ppm
トルエン:330ppm」
であるが、このうち、まず、メタノール、トルエンが「非重合性有機溶媒」に相当し、メタノールの沸点が64.7℃、トルエンの沸点が110.6℃であるから、「沸点が70?150℃である非重合性有機溶媒」の量は、トルエンの量であるといえる。そうすると、甲2発明1の「トルエン:180ppm」、甲2発明2の「トルエン:330ppm」はそれぞれ、本件発明9に係る「沸点70?150℃の非重合性有機溶媒100?1000ppm」に相当するといえる。
また、甲2発明1における「ペレット」、甲2発明2における「樹脂」は、それぞれ、甲2の実施例3、4の記載からみて、紫外線吸収剤を使用していないから、本件発明9の「紫外線吸収剤を含有しておらず」を満足しているといえる。
さらに、甲2に記載の着色度YIの測定方法(【0053】)と本件明細書の【0070】に記載の測定方法は同様の測定方法であるから、甲2発明1における「ペレット」、甲2発明2における「樹脂」の着色YI(それぞれ2.2、2.1)は、それぞれ、本件発明9に係る「着色度YIが4.0以下」を満たすといえる。
また、甲2発明1における「ペレット」、甲2発明2における「樹脂」のガラス転移温度はそれぞれ130℃、126℃であるから、本件発明9に係る「ガラス転移温度が110?170℃」を満たすといえる。

そうすると、本件発明9と甲2発明1?2は、下記の点で一致し、下記の点で相違する。

一致点:「(メタ)アクリル系樹脂と沸点70?150℃の非重合性有機溶媒100?1000ppmとを含有し、紫外線吸収剤を含有しておらず、着色度YIが4.0以下であり、かつ、ガラス転移温度が110?170℃である樹脂組成物」

相違点2A:本件発明9では、「樹脂組成物1g中、長径20μm以上の異物数が100個以下」であるのに対し、甲2発明1?2では、そのような特定がない点。

相違点2B:本件発明9では、樹脂組成物の「メルトフローレートは、240℃、荷重98Nにおいて5g/10分以上、20g/10分以下」であるのに対し、甲2発明1?2では、メルトフローレートが特定されていない点。

イ.判断
相違点2Aについて検討する。
上記1.(6)イで述べたように、本件発明9における「樹脂組成物1g中、長径20μm以上の異物数が100個以下」を満たすには、例えば濾過を行うものといえる。
また、本件発明は、有機溶媒を留出除去した後、ポリマーフィルタを用いた濾過により異物を除去しようとした場合、得られる樹脂に着色が生じることがあったという従来の課題に対して、上記のとおり、有機溶媒を一定量残存するように制御することで、濾過してもなお、低着色である樹脂組成物を提供しようとするものである。

一方、甲2発明1?2には、濾過により異物を除去する工程が記載されておらず、他に、甲2発明1?2における異物数が100個以下であることを推認すべき記載も見当たらない。
そうすると、相違点2Aは実質的な相違点であり、本件発明9は、甲2に記載された発明であるとはいえない。

次に、相違点2Aの容易想到性について検討する。
甲2には、透明性耐熱樹脂の残存揮発分が1500ppmよりも多いと、成形時の変質等によって着色したり、発泡したり、シルバーなどの成形不良の原因となること(【0026】)は記載されているものの、濾過をして異物を除去してもなお、低着色の組成物を得ること、そのための有機溶媒を残留させるという具体的な構成が記載されていない。

また、濾過により異物を低減できることは、上記1.(6)イで述べたように、本件出願時に周知の技術事項であったとしても、甲4?7の記載を見ても、濾過をして異物を除去してもなお、低着色の組成物を得るために、有機溶媒を一定量残留させるよう制御することが、本件出願時に少なくとも公知であったとはいえない。

してみると、甲2の記載事項、及び、甲4?甲7に示される事項を見ても、甲2発明1?2において、低着色を維持しながら、「沸点70?150℃の非重合性有機溶媒100?1000ppm」を含有する樹脂組成物を濾過して、「樹脂組成物1g中、長径20μm以上の異物数が100個以下」となるまで異物を低減することを動機付けられない。
よって、甲2発明1?2において、相違点2Aを容易に想到することができたとはいえない。

したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明9は、甲2発明1?2、及び、甲4?7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ.本件発明9の効果について
上記1(6)ウで検討したとおり、本件明細書の【0018】には、「樹脂組成物中に非重合性有機溶媒を敢えて一定量残存させるので、(メタ)アクリル系樹脂を含む低着色で且つ異物の少ない樹脂組成物を提供できる」という効果を奏することが記載され、請求項9には、「低着色」の指標として「着色度YIが4.0以下」であり、「異物の少ない」樹脂組成物の指標として「樹脂組成物1g中、長径20μm以上の異物数が100個以下である」樹脂組成物を提供することが記載され、本件明細書の実施例3、4において、比較例3、4に比して、有機溶媒を100?1000ppm含有した状態で濾過することで、異物数を100個以下と低減しても、着色度YIを4.0以下に抑制できるという効果が具体的なデータとともに確認されている。
一方、甲2には、着色度YIが4.0以下までの低着色で、且つ、異物数が100個以下の樹脂組成物を提供できることは記載されていない。
また、甲4?甲7にも、甲2発明1?2に、甲4?甲7に記載された事項を適用した際に、異物数を100個以下としても、着色度YIを4.0以下に抑制できるという効果を予測できるような記載があるとはいえない。
してみると、本件発明の効果は、甲2、甲4?甲7の記載から当業者が予測し得る事項であるとはいえない。

エ.申立人の主張について
申立人は、令和3年5月13日提出の意見書で、上記1.(6)エ(ア)と同様に、概略、本件発明9における濾過後の樹脂の着色の抑制は、異質な効果であるとはいえず、当業者が出願時の技術水準から予測することができた効果であると主張しているもものの、上記ウで述べたとおり、甲2、甲4?甲7をみても、ポリマーフィルターの濾過を適用して、異物数を100個以下まで低減しても、着色度YIが4.0以下と抑制される効果が得られると予測することができないから、申立人の主張を採用することができない。

オ.小括
以上のとおりであるから、本件発明9は、甲2に記載された発明ではなく、また、甲2に記載された発明、及び、甲4?甲7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)本件発明8について
ア.甲2発明1?2との対比
本件発明8と甲2発明1?2を対比すると、本件発明8は、紫外線吸収剤を含有する点、YIの上限が異なる点以外は、本件発明9と同じであるから、これらの点以外については、上記(4)で述べたとおりである。
そうすると、下記の点で一致し、下記の点で相違する。

一致点:「(メタ)アクリル系樹脂と沸点70?150℃の非重合性有機溶媒100?1000ppmとを含有し、着色度YIが10.0以下であり、かつ、ガラス転移温度が110?170℃である樹脂組成物」

相違点2C:本件発明8では、紫外線吸収剤を含有するのに対し、甲2発明1?2では、紫外線吸収剤を含有しない点。

相違点2D:本件発明8では、「樹脂組成物1g中、長径20μm以上の異物数が100個以下」であるのに対し、甲2発明1?2では、そのような特定がない点。

相違点2E:本件発明8では、樹脂組成物の「メルトフローレートは、240℃、荷重98Nにおいて5g/10分以上、20g/10分以下」であるのに対し、甲2発明1?2では、メルトフローレートが特定されていない点。

イ.判断
事案に鑑み、相違点2Dから検討する。
相違点2Dは、上記相違点2Aと同じであるから、上記(4)イで述べたとおり、甲2発明1?2において、相違点2Dを容易に想到し得たものとはいえない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明8は、甲2発明1?2、及び、甲4?甲7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ.本件発明8の効果について
上記1(7)ウで検討したとおり、本件明細書の【0018】には、「樹脂組成物中に非重合性有機溶媒を敢えて一定量残存させるので、(メタ)アクリル系樹脂を含む低着色で且つ異物の少ない樹脂組成物を提供できる」という効果を奏することが記載され、請求項8には、紫外線吸収剤を含有し、「低着色」の指標として「着色度YIが10.0以下」であり、「異物の少ない」樹脂組成物の指標として「樹脂組成物1g中、長径20μm以上の異物数が100個以下である」樹脂組成物を提供することが記載され、本件明細書の実施例1、2において、比較例1、2に比して、紫外線吸収剤を含有する場合であっても、有機溶媒を100?1000ppm含有した状態で濾過することで、異物数を100個以下と低減しても、着色度YIを10.0以下に抑制できるという効果が具体的なデータとともに確認されている。
一方、甲2には、紫外線吸収剤を含有し、かつ、着色度YIが10.0以下である低着色で、さらに異物数が100個以下である樹脂組成物を提供できることは記載されていない。
また、甲4?甲7にも、甲2発明1?2に、紫外線吸収剤を含有し、甲4?甲7に記載された事項を適用した際に、異物数を100個以下としても、着色度YIを10.0以下に抑制できるという効果を予測できるような記載があるとはいえない。
してみると、本件発明8の効果は、甲2、甲4?甲7の記載から当業者が予測し得る事項であるとはいえない。

エ.小括
よって、本件発明8は、甲2に記載された発明、及び、甲4?甲7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(6)本件発明10?11について
本件発明10は、本件発明8または9を直接引用し、「(メタ)アクリル系樹脂」を「アクリル系モノマーの重合体であって主鎖に環構造を有する樹脂」に限定するものであり、本件発明11は、本件発明10を直接引用し、「主鎖に環構造を有する樹脂」を「マレイミド系重合体及び/又はラクトン環系重合体」に限定するものである。
そして、上記(4)、(5)で述べたとおり、本件発明9が、甲2発明1?2ではなく、また、本件発明8及び9が、甲2発明1?2、及び、甲4?甲7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでないことから、本件発明10及び11も同様に、甲2発明1?2ではなく、また、甲2発明1?2、及び、甲4?甲7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、本件発明10?11は、甲2に記載された発明ではなく、また、甲2に記載された発明、及び、甲4?甲7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(7)取消理由B及び申立理由3、4の検討のまとめ
以上のとおりであるから、本件発明9?11は、甲2に記載された発明ではないし、また、本件発明8?11は、甲2に記載された発明、及び、甲4?甲7に記載された事項ないしは周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
よって、取消理由B及び申立理由3、4は、理由がない。


3.取消理由C(甲5を主引例とする場合)について

(1)甲5に記載された事項
申立人が提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲5には、下記の事項が記載されている。

ア「【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(I)?(IV)の工程を含むことを特徴とするアクリル系樹脂の製造方法。
(I)アクリル系樹脂を溶融押出で製造する工程、
(II)工程(I)で得られた樹脂を有機溶媒に溶解する工程、
(III)工程(II)で得られたアクリル系樹脂溶液を濾過する工程、
(IV)工程(III)で得られたアクリル系樹脂溶液から有機溶媒を脱揮する工程
【請求項2】
アクリル系樹脂が溶融押出によって製造されることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
工程(II)で得られるアクリル系樹脂溶液の樹脂濃度を20重量%?90重量%とすることを特徴とする請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
工程(II)において、攪拌槽または押出機を使用することを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
工程(III)において、濾過機としてリーフディスク型フィルター、カートリッジ型フィルター及びフィルタープレスからなる群から選ばれる少なくとも1つを使用することを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
工程(IV)において、溶媒を脱揮する装置として薄膜蒸発機及び/または二軸押出機を使用することを特徴とする請求項1?5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
工程(IV)において、溶媒を脱揮した後にリーフディスク型フィルターで再度樹脂の濾過を行うことを特徴とする請求項1?6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
工程(II)における有機溶媒がトルエン、メチルエチルケトン及び塩化メチレンからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1?7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
アクリル系樹脂は、下記一般式(1)
【化1】

(式中、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素または炭素数1?8のアルキル基であり、R3は、炭素数1?18のアルキル基、炭素数3?12のシクロアルキル基、または炭素数5?15の芳香環を含む置換基である。)で表される単位と、下記一般式(2)
【化2】

(式中、R4およびR5は、それぞれ独立して、水素または炭素数1?8のアルキル基であり、R6は、炭素数1?18のアルキル基、炭素数3?12のシクロアルキル基、または炭素数5?15の芳香環を含む置換基である。)で表される単位と、を含むことを特徴とする請求項1?8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
上記アクリル系樹脂は、下記一般式(3)
【化3】

(式中、R7は、水素または炭素数1?8のアルキル基であり、R8は、炭素数6?10のアリール基である。)で表される単位をさらに含むことを特徴とする請求項1?9のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
アクリル系樹脂100gに対して、粒子径10μm以上の固形異物が35個以下であるアクリル系樹脂組成物。」

イ「【0003】
上記アクリル系樹脂は、重合中に副生するゲルや製造過程で混入する埃などの異物を含有するため、これらを除去する必要がある。異物除去する方法としては、溶融ポリマーをフィルターを用いて濾過を行う方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-274187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
最近の液晶ディスプレイなどの大型化を鑑みると、更なる異物の除去レベルを向上させる必要性が見込まれ、フィルターの濾過精度が高い、即ち目開きのより小さいフィルターによる濾過を行う必要がある。例えば、特許文献1記載の濾過方法では、溶融樹脂の濾過を実施する為に樹脂の溶融粘度による制約を受け、濾過精度が3μm以下のフィルターによる濾過を実施しようとすると、処理量が低下して生産性が低下する為に改善の余地があった。また、生産量が180kg/Hr以上の生産を行う場合は、上記処理量低下のために、非常に高額な濾過設備を導入する必要があった。そのため、処理量を増大させることが可能であり、かつ、精度の高い異物濾過を実施する方法が求められていた。
本発明は、上記課題を解決する為に異物除去レベルを向上させ、異物が少ないアクリル系樹脂組成物およびその最適な製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、溶融押出しで製造したアクリル系樹脂を有機溶媒に溶解して低粘度化することで、高額な濾過設備を使用せずとも、処理量の増加及び異物低減を達成できる方法を見出した。つまり、濾過精度の高い、即ち目開きのより小さいフィルターによる精密濾過を行い、異物を除去したアクリル系樹脂溶液から有機溶媒を脱揮することで本発明を完成するに到った。
・・・
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、溶融押出で製造したアクリル系樹脂を有機溶媒に溶解して低粘度化することで精密濾過を行い、異物を除去したアクリル系樹脂溶液から有機溶媒を脱揮することにより、異物の少ないアクリル系樹脂を製造する方法を提供できる。また、本発明によれば、光学材料や耐熱性材料として有用なアクリル系樹脂、特にメタクリル系樹脂組成物を提供できる。」

ウ「【0031】
工程(IV)において、溶媒を脱揮した後に5μm以下の濾過精度を有するリーフディスク型フィルター(図1、2、(10))で再度樹脂の濾過を行ってもよい。リーフディスク型フィルターは、5μm以下の濾過精度を有するフィルターを使用することがより好ましい。二軸押出機ではスクリューとバレルの接触等による磨耗による金属粉が発生する場合があり、薄膜蒸発機では樹脂の掻き取り用翼が作用しない部分やシャフトに付着した樹脂が劣化して異物となることがある為、脱揮後のアクリル系樹脂に混入する恐れがある。従って、高粘性樹脂濾過用のリーフディスク型フィルターを用いて再度樹脂を濾過することが好ましい。フィルターの前には樹脂を昇圧する為のギアポンプ(図1、2、(9))を設置した方が好ましい。フィルターエレメントはステンレス製のファイバータイプ、パウダータイプ、或いはそれらの複合タイプを使用するのが好ましい。」

エ「【0033】
工程(II)における有機溶媒は、樹脂と相溶して低粘度化が達成できるものであれば特に制限はないが、中でもトルエン、メチルエチルケトン及び塩化メチレンからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。有機溶媒は単独で使用しても、混合溶媒として複数の溶媒種を用いてもよい。」

オ「【0044】
尚、グルタルイミド単位は、特開2008-273140号等の公報に記載の公知の方法で、溶融押出反応によって形成する事が可能である。」

カ「【実施例】
【0055】
本発明を実施例に基づき、更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、以下の実施例及び比較例で測定した異物数や残存溶媒量の測定方法は次の通りである。
【0056】
<異物数の測定>
得られたペレット10gを200gの塩化メチレンに溶解し、パーティクルカウンター(Hach Ultra Analytics社 HIAC/ROYCO Model 8000A)を用いて測定した。尚、粒子径が10μm以上のものを異物としてカウントした。
【0057】
<残存溶媒量の測定>
アクリル系樹脂中に残存する溶媒量は、ガスクロマトグラフィー(島津製作所製、GC-2010)を用いて測定した。
【0058】
(製造例1)
タンデム型反応押出機を用いて製造を実施した(図1及び2の(1)、(2)に相当)。具体的には、タンデム型反応押出機は、特開2008-273140記載の装置であり、特開2008-273140記載の実施例1と同様な方法で実施した。原料としては、メタクリル酸メチル-スチレン共重合体(スチレン含量11%)を用いて、モノメチルアミンでイミド化を実施した。
【0059】
得られたイミド化MS樹脂中の一般式(1):一般式(2):一般式(3)の重量比は73:19:8であった。
【0060】
(実施例1)
装置としては、図1に示すものと同等なものを使用した。製造例1で得られた樹脂を、工程(II)の100L攪拌槽(アンカー翼と二枚パドル翼を装備)で樹脂濃度が30重量%となる様にトルエンで溶解した。この際の溶解温度は60℃で、攪拌回転数は200rpm、溶解時間は2時間とした。
【0061】
得られた樹脂溶液を工程(III)の濾過精度1μmのステンレス製カートリッジ型フィルターで濾過した(図1の(7)に相当)。この際の濾過温度は60℃で、工程(II)の100L攪拌槽を窒素で0.5MPaGに加圧して濾過を行った。
【0062】
濾過後の樹脂溶液を工程(IV)の薄膜蒸発機(伝熱面積0.16m^(2))へフィードし、蒸発操作を行った。この際の蒸発温度は270℃で、供給量32.6kg/Hr、回転数100rpm、真空度3.3×10^(3)PaABSで実施し、蒸発後の樹脂はギアポンプで2.6MPaGに昇圧し、濾過精度3μmのリーフディスク型フィルターで濾過した(図1の(10))。フィルターを出た樹脂はストランドダイから押し出され、冷却ベルトで冷却した後に、ペレタイザーでカッティングしペレットとした。得られたペレット中の異物数と残存溶剤量を測定した結果を表1に示す。また、単位面積あたりの処理量も併せて表1に示す。
【0063】
(実施例2)
工程(III)における濾過機(図1の(7)に相当)を濾過精度3μmのステンレス製カートリッジ型フィルターとした以外は、実施例1と同条件の操作を行った。得られたペレット中の異物数と残存溶剤量を測定した結果を表1に示す。また、単位面積あたりの処理量も併せて表1に示す。
・・・
【0065】
(実施例4)
アクリル系樹脂濃度を20重量%とし、樹脂の溶解温度を80℃、濾過機(図1(7)に相当)として濾過精度0.5μmのPTFE製カートリッジ型フィルターを使用して濾過温度を80℃、濾過圧を0.3MPaGとし、薄膜蒸発機を2段直列に連結して1段目の蒸発条件を240℃、真空度52.8×10^(3)PaABS、2段目の蒸発条件を270℃、真空度3.3×10^(3)PaABSとした以外は、実施例1と同様の操作を実施した。得られたペレット中の異物数と残存溶剤量を測定した結果を表1に示す。また、単位面積あたりの処理量も併せて表1に示す。
・・・
【0067】
(実施例6)
装置としては、図2に示すものと同等なものを使用した。製造例1で得られた樹脂を、工程(II)の二軸押出機(φ30mm、L/D=20)で樹脂濃度が75重量%となる様にトルエンで溶解した。この際の溶解温度は240℃で、スクリュー回転数は200rpmとした。
【0068】
得られた樹脂溶液を工程(III)の濾過精度1μmのステンレス製カートリッジ型フィルター(図2の(7)に相当)で濾過した。この際の濾過温度は240℃で、ギアポンプにて0.5MPaGに加圧して濾過を行った。
【0069】
濾過後の樹脂溶液を工程(IV)の二軸押出機(φ26mm、L/D=40)へフィードし、蒸発操作を行った。この際の蒸発温度は270℃で、供給量20kg/Hr、回転数250rpm、真空度1.3×10^(3)PaABSで実施し、蒸発後の樹脂はギアポンプで2.6MPaGに昇圧し、濾過精度3μmのリーフディスク型フィルター(図2の(10)に相当)で濾過した。フィルターを出た樹脂はストランドダイから押し出され、冷却ベルトで冷却した後に、ペレタイザーでカッティングしペレットとした。得られたペレット中の異物数と残存溶剤量を測定した結果を表1に示す。また、単位面積あたりの処理量も併せて表1に示す。
【0070】
(実施例7)
工程(III)における濾過機(図2の(7)に相当)を濾過精度3μmのステンレス製カートリッジ型フィルターとした以外は、実施例6と同条件の操作を行った。得られたペレット中の異物数と残存溶剤量を測定した結果を表1に示す。また、単位面積あたりの処理量も併せて表1に示す。
【0071】
(実施例8)
工程(III)における濾過機(図2の(7)に相当)を濾過精度1μmのリーフディスク型フィルターとし、ギアポンプで1.5MPaGに加圧した以外は、実施例6と同条件の操作を行った。得られたペレット中の異物数と残存溶剤量を測定した結果を表1に示す。また、単位面積あたりの処理量も併せて表1に示す。
【0072】
(実施例9)
アクリル系樹脂濃度を90重量%とし、濾過温度を270℃、ギアポンプで2MPaGに加圧した以外は、実施例8と同様の操作を実施した。得られたペレット中の異物数と残存溶剤量を測定した結果を表1に示す。また、単位面積あたりの処理量も併せて表1に示す。」

キ「【0076】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明に係るアクリル系樹脂組成物、特にメタクリル系樹脂組成物は、低光弾性や低透湿性の特徴を有し、更に機械的強度や成型性、表面硬度のバランスが優れていると共に、異物数が少ないため、液晶ディスプレイなどの光学関連用途などに幅広く使用することができる。」

(2)甲5に記載された発明
甲5の実施例1に着目すると、【請求項9】、【請求項10】より、一般式(1)はグルタルイミド単位、一般式(2)はメタクリル酸メチル単位、一般式(3)はスチレン単位を表しているから、以下の発明が記載されているといえる。

「原料としては、メタクリル酸メチル-スチレン共重合体(スチレン含量11%)を用いて、モノメチルアミンでイミド化を実施して得られたイミド化MS樹脂であって、
当該イミド化MS中の一般式(1)(グルタルイミド単位):一般式(2)(メタクリル酸メチル単位):一般式(3)(スチレン単位)の重量比は73:19:8である樹脂を、
工程(II)の100L攪拌槽(アンカー翼と二枚パドル翼を装備)で樹脂濃度が30重量%となる様にトルエンで溶解し(溶解温度は60℃で、攪拌回転数は200rpm、溶解時間は2時間)、
得られた樹脂溶液を工程(III)の濾過精度1μmのステンレス製カートリッジ型フィルターで濾過し、
濾過後の樹脂溶液を工程(IV)の薄膜蒸発機(伝熱面積0.16m^(2))へフィードし、蒸発操作を行い(蒸発温度は270℃で、供給量32.6kg/Hr、回転数100rpm、真空度3.3×10^(3)PaABSで実施)、蒸発後の樹脂はギアポンプで2.6MPaGに昇圧し、濾過精度3μmのリーフディスク型フィルターで濾過し、フィルターを出た樹脂をストランドダイから押し出し、冷却ベルトで冷却した後に、ペレタイザーでカッティングしたペレットであって、
得られたペレット中の異物数が1個であり、
残存溶媒量が283ppmであるペレット」(以下「甲5発明」という。)

(3)引用文献Aに記載された事項
当審が職権調査で発見した、本件特許に係る出願の出願日前に頒布された刊行物である特開2007-9191号公報(以下「引用文献A」という。)には、以下の事項が記載されている。

ア「【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される繰り返し単位と、下記一般式(2)で表される繰り返し単位を含有するイミド樹脂であり、当該イミド樹脂の黄色度の値が2以下であり、かつガラス転移温度が110℃以上であることを特徴とするイミド樹脂。
【化1】

(ここで、R^(1)およびR^(2)は、それぞれ独立に、水素または炭素数1?8のアルキル基を示し、R^(3)は、水素、炭素数1?18のアルキル基、炭素数3?12のシクロアルキル基、または炭素数5?15の芳香環を含む置換基を示す。)
【化2】


(ここで、R^(4)およびR^(5)は、それぞれ独立に、水素または炭素数1?8のアルキル基を示し、R^(6)は、炭素数1?18のアルキル基、炭素数3?12のシクロアルキル基、または炭素数5?15の芳香環を含む置換基を示す。)
【請求項2】
更に一般式(3)で表される繰り返し単位を含有することを特徴とする請求項1記載のイミド樹脂。
【化3】

(ここで、R^(7)は、水素または炭素数1?8のアルキル基を示し、R^(8)は、炭素数6?10のアリール基を示す。)
【請求項3】
配向複屈折が0?0.1×10^(-3)である、請求項1?2に記載のイミド樹脂。
【請求項4】
不活性ガス雰囲気下で、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂100重量部に対して、一級アミン40重量部以下の割合で処理する方法により得られる、請求項1?3に記載のイミド樹脂。
【請求項5】
請求項4に記載のイミド樹脂の製造方法。
【請求項6】
請求項1?4に記載のイミド樹脂を主成分とする光学用樹脂組成物。
【請求項7】
請求項6記載の光学用樹脂組成物からなる成形体。」

イ「【技術分野】
【0001】
本発明は、着色性が改善されたイミド樹脂、またはこれを含有する光学用樹脂組成物、成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器はますます小型化し、ノートパソコン、携帯電話、携帯情報端末に代表されるように、軽量・コンパクトという特長を生かし、多様な用途で用いられるようになってきている。一方、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイなどのフラットパネルディスプレイの分野では画面の大型化に伴う重量増を抑制することも要求されている。
【0003】
上述のような電子機器をはじめとする、透明性が要求される用途においては、従来ガラスが使用されていた部材を透明性が良好な樹脂へ置き換える流れが進んでいる。
【0004】
ポリメタクリル酸メチルを代表とする種々の透明樹脂は、ガラスと比較して成形性、加工性が良好で、割れにくい、さらに軽量、安価という特徴などから、液晶ディスプレイや光ディスク、ピックアップレンズなどへの展開が検討され、一部実用化されている。
【0005】
自動車用ヘッドランプカバーや液晶ディスプレイ用部材など、用途の拡大に従って、透明樹脂は透明性に加え、耐熱性も求められるようになっている。ポリメタクリル酸メチルやポリスチレンは透明性が良好であり、価格も比較的安価である特徴を有しているものの、耐熱性が低いため、このような用途においては適用範囲が制限される。
【0006】
そのためポリメタクリル酸メチルの耐熱性を改善する方法として、ポリメチルメタクリレートに一級アミンを処理して、イミド化することで耐熱性を向上させるという技術が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。これらのポリメタクリル酸メチル等に一級アミンを処理して得られるイミド樹脂は透明性や耐熱性が良好であり、各種用途、例えば光学用途などで有効に使用できる可能性がある。
【0007】
しかし、これら公報に記載されている方法において得られるイミド樹脂は、着色抑制効果は十分ではなく、近年のより高度な無色性の要求を満たすものではなかった。
【0008】
従って、高い耐熱性と無色透明性が両立された熱可塑性樹脂が求められていた。
・・・
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明は、上記課題を鑑みて成されたものであって、着色性が改善された、透明でポリメタクリル酸メチルに比べ耐熱性が優れたイミド樹脂を提供することを目的とする。」

ウ「【0043】
本発明のイミド樹脂中の、一般式(1)で表されるグルタルイミド単位の含有量は、例えばR^(3)の構造にも依存するが、イミド樹脂の10重量%以上が好ましい。グルタルイミド単位の好ましい含有量は、15重量%から90重量%であり、より好ましくは20?80重量%である。グルタルイミド単位の割合がこの範囲より小さい場合、得られるイミド樹脂の耐熱性が不足したり、透明性が損なわれることがある。また、この範囲を超えると黄色度が悪くなる他、得られる成形体の機械的強度は極端に脆くなり、また、透明性が損なわれることがある。」

エ「【0052】
本発明のイミド樹脂を得るには、不活性ガス雰囲気下で(メタ)アクリル酸エステル系樹脂をイミド化剤で処理することが好ましい。酸素存在下でイミド化剤との処理を行うと、黄色度が悪化する傾向が見られるため、十分に系内を窒素などの不活性ガスで置換することが好ましい。
【0053】
イミド化剤の添加量は、必要な物性を発現するためのイミド化率によって決定されるが、得られるイミド樹脂の黄色度を2以下にするためには、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂100重量部に対して、40重量部以下の割合が好ましく、30重量部以下がより好ましい。用いるイミド化剤の添加量が40重量部より多い場合には、イミド樹脂の黄色度が高くなる傾向が見られるため、無色透明な樹脂を得ることができないことがある。
【0054】
本発明のイミド樹脂を得るには、不活性ガス雰囲気下でイミド化剤と処理することが可能な装置であることが好ましく、例えば、押出機などを用いてもよくバッチ式反応槽(圧力容器)などを用いてもよい。
【0055】
本発明のイミド樹脂の製造方法を押出機にて行う場合には、各種押出機が使用可能であるが、例えば単軸押出機、二軸押出機あるいは多軸押出機等が使用可能である。特に、原料ポリマーに対するイミド化剤の混合を促進できる押出機として二軸押出機が好ましい。」

オ「【0061】
イミド化剤によりイミド化する際には、一般に用いられる触媒、酸化防止剤、熱安定剤、可塑剤、滑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、着色剤、収縮防止剤などを本発明の目的が損なわれない範囲で添加してもよい。」

カ「【表1】



(4)本件発明9について
事案に鑑みて、本件発明9から検討する。

ア.甲5発明との対比
本件発明9と甲5発明を対比する。
甲5発明の「イミド化MS樹脂」は、一般式(1)(グルタルイミド単位):一般式(2)(メタクリル酸メチル単位):一般式(3)(スチレン単位)の重量比は73:19:8で共重合している重合体であるから、メタクリル酸メチルを共重合しており、本件明細書の【0021】の記載からみて、本件発明9の「(メタ)アクリル系樹脂」に相当する。
また、甲5発明における「残存溶媒量が283ppm」について、甲5の請求項1には、「アクリル系樹脂の製造方法」として、「(I)アクリル系樹脂を溶融押出で製造する工程、
(II)工程(I)で得られた樹脂を有機溶媒に溶解する工程、
(III)工程(II)で得られたアクリル系樹脂溶液を濾過する工程、
(IV)工程(III)で得られたアクリル系樹脂溶液から有機溶媒を脱揮する工程」を含むことが記載され、工程(II)で用いられる有機溶媒として、甲5の【0033】には、トルエン、メチルエチルケトン及び塩化メチレンが挙げられている。そして、甲5の実施例1には、製造例1で得られた樹脂を、トルエンで溶解し、濾過を行った後、蒸発操作を行い、濾過精製を行い、ペレットとし、得られたペレット中の異物数と残存溶剤量を測定していることから、甲5発明における「残存溶剤量」は、残存トルエン量を示しているものといえる。そうすると、トルエンは、上記1.(6)アで述べたように、本件発明9に係る「沸点70?150℃の非重合性有機溶媒」に相当するから、甲5発明における「残存溶媒量が283ppm」は、残存トルエン量が283ppmと同義であり、本件発明9における「沸点70?150℃の非重合性有機溶媒100?1000ppm」を満たすといえる。
さらに、甲5発明では、実施例1の記載からみて、紫外線吸収剤を使用していないから、本件発明9における「紫外線吸収剤を含有しておらず」を満たすといえる。

そうすると、本件発明9と甲5発明は、下記の点で一致し、下記の点で相違する。

一致点:「(メタ)アクリル系樹脂と沸点70?150℃の非重合性有機溶媒100?1000ppmとを含有し、紫外線吸収剤を含有していない樹脂組成物。」

相違点5A:本件発明9では、「着色度YIが4.0以下」であるのに対し、甲5発明では、そのような特定がない点。

相違点5B:本件発明9では、「ガラス転移温度が110?170℃」であるのに対し、甲5発明のガラス転移温度が明らかでない点。

相違点5C:本件発明9では、「樹脂組成物1g中、長径20μm以上の異物数が100個以下」であるのに対し、甲5発明では、得られたペレット10gを200gの塩化メチレンに溶解し、パーティクルカウンターを用いて測定した際の粒子径10μm以上の異物が、1個である点。

相違点5D:本件発明9では、樹脂組成物の「メルトフローレートは、240℃、荷重98Nにおいて5g/10分以上、20g/10分以下」であるのに対し、甲5発明では、メルトフローレートが特定されていない点。

イ.判断
相違点5Aについて検討する。

甲5には、最近の液晶ディスプレイなどの大型化を鑑みると、更なる異物の除去レベルを向上する必要性が見込まれ、フィルターの濾過精度が高い、即ち目開きのより小さいフィルターによる濾過を行う必要があるものの、樹脂の溶融粘度による制約を受け、濾過精度が小さいフィルターによる濾過を実施しようとすると、処理量が低下して生産性が低下するとの課題があり、溶融押出しで製造したアクリル系樹脂を有機溶媒に溶解して低粘度化すること、つまり、濾過精度の高い、すなわち目開きのより小さいフィルターによる精密濾過を行い、異物を除去したアクリル系樹脂溶液から有機溶媒を脱揮することにより、高額な濾過設備を使用せずとも、処理量の増加及び異物低減を達成できる方法を見出したことが記載されている(【0005】、【0006】)。

さらに、甲5には、追加の工程として、溶媒脱揮した後に5μm以下の濾過精度を有するリーフディスク型フィルターで再度樹脂の濾過を行ってもよく、これによって二軸押出機ではスクリューとバレルの接触等による摩耗による金属粉が発生する場合があり、薄膜蒸発機では樹脂の掻き取り用翼が作用しない部分やシャフトに付着した樹脂が劣化して異物となることがある為、脱揮後のアクリル系樹脂に混入する恐れがあるから、高粘性樹脂濾過用のリーフディスク型フィルターを用いて再度樹脂を濾過することが好ましいと記載されている(【0031】)。

しかしながら、甲5には、着色度に関して、何ら記載されていない。

一方、引用文献Aには、ポリメタクリル酸メチルを一級アミンで処理してイミド化する際に、不活性ガス雰囲気下で行うと、着色性を改善でき、着色度を2以下とすることができることが記載されている(【特許請求の範囲】、【0001】、【0009】、【0052】?【0055】より)。

ここで、甲5発明における「ペレット」は、(A)「樹脂溶液を工程(III)の濾過精度1μmのステンレス製カートリッジ型フィルターで濾過」する工程、(B)「濾過後の樹脂溶液を工程(IV)の薄膜蒸発機(伝熱面積0.16m^(2))へフィードし、蒸発操作を行い(蒸発温度は270℃で、供給量32.6kg/Hr、回転数100rpm、真空度3.3×10^(3)PaABSで実施)、蒸発後の樹脂」を得る工程、(C)「蒸発後の樹脂はギアポンプで2.6MPaGに昇圧し、濾過精度3μmのリーフディスク型フィルターで濾過」する工程の3つの工程(以下、順に、「工程(A)」?「工程(C)」という。)を経てペレット化されるものであるが、工程(C)において、残存トルエン量が283ppmであることから、本件明細書の教示に基づけば、残存トルエン量が少ない場合と比べて、着色が抑えられる可能性はあるものの、工程(A)、工程(B)で、どの程度着色しているのかが甲5から明らかでない。

そうすると、甲5発明において、いくら引用文献Aに記載の方法で得られた低着色の樹脂を用いても、甲5発明における上記工程(A)?(C)を経て得られたペレットの着色度YIが「4.0以下」であるかは不明であるから、甲5発明において、引用文献Aの教示を組み合わせても相違点5Aに至るとはいえない。

したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明9は、甲5発明、及び、引用文献Aに記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ.本件発明9の効果について
上記1(6)ウで検討したとおり、本件明細書の【0018】には、「樹脂組成物中に非重合性有機溶媒を敢えて一定量残存させるので、(メタ)アクリル系樹脂を含む低着色で且つ異物の少ない樹脂組成物を提供できる」という効果を奏することが記載され、請求項9には、「低着色」の指標として「着色度YIが4.0以下」であり、「異物の少ない」樹脂組成物の指標として「樹脂組成物1g中、長径20μm以上の異物数が100個以下である」樹脂組成物を提供することが記載され、本件明細書の実施例3、4において、比較例3、4に比して、有機溶媒を100?1000ppm含有した状態で濾過することで、異物数100個以下と低減しても、着色度YIを4.0以下に抑制できるという効果が具体的なデータとともに確認されている。
一方、甲5には、着色度YIが4.0以下までの低着色で且つ異物数が100個以下の樹脂組成物を提供できることは記載されていない。
また、引用文献Aにも、着色度YIが4.0以下までの低着色で且つ異物数が100個以下の樹脂組成物を提供できることは記載されていない。
してみると、本件発明9の効果は、甲5及び引用文献Aの記載から当業者が予測し得る事項であるとはいえない。

エ.申立人の主張について
(ア)主張の内容
申立人は、令和3年5月13日提出の意見書で、上記1(6)エで述べた効果の点に加えて、概略、引用文献Aに記載された「黄色度の値が2以下」を甲5発明に適用する際に、阻害要因がないとして、具体的には、以下のとおり、主張している。

甲5には、アクリル系樹脂組成物が光学関連用途に幅広く使用できることが記載され(【0077】)、光学用途において、着色を少なくすることは、当然に求められる特性であり、引用文献Aに記載の「黄色度の値が2以下」を甲5発明に適用しても、甲5発明がその目的に反したり、機能しなくなるものではないし、甲5には、引用文献Aに記載の「黄色度の値が2以下」を排斥する記載はない。

(イ)検討
上記主張について検討するに、申立人の主張するとおり、引用文献Aに記載の「黄色度の値が2以下」を甲5発明に適用することを排斥する記載はないかもしれない。
しかしながら、上記イで述べたように、引用文献Aに記載されるのは、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂を一級アミンで処理する際に着色性を改善することまでであり、濾過を行った後の着色性を改善することは記載されていない。
したがって、甲5発明において、引用文献Aに記載の方法で得られた低着色の樹脂を用いると、引用文献Aに記載の方法により得られた樹脂を用いない場合と比べて低着色になることは理解できるものの、上記イで述べたように、甲5発明の工程(A)?(C)、特に工程(A)、(B)でどの程度着色するのかが明らかでなく、甲5発明における上記工程(A)?(C)を経て得られたペレットの着色度YIが「4.0以下」であるかは不明であるから、甲5発明において、引用文献Aの教示を組み合わせても、相違点5Aに至るとはいえない。
よって、引用文献Aに記載された事項を適用しても、着色度YIが4.0以下となるとはいえない。

オ.小括
よって、本件発明9は、甲5に記載された発明、及び、引用文献Aに記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)本件発明8について
ア.甲5発明との対比
本件発明8と甲5発明を対比すると、紫外線吸収剤を含有する点、YIの上限が異なる点以外は、本件発明9と同じであるから、これらの点以外については、上記(4)で述べたとおりである。
そうすると、本件発明8と甲5発明は、以下の点で一致し、以下の点で相違する。

一致点:「(メタ)アクリル系樹脂と沸点70?150℃の非重合性有機溶媒100?1000ppmとを含有する樹脂組成物。」

相違点5E:本件発明8では、「ガラス転移温度が110?170℃」であるのに対し、甲5発明のガラス転移温度が明らかでない点。

相違点5F:本件発明8では、「樹脂組成物1g中、長径20μm以上の異物数が100個以下」であるのに対し、甲5発明では、得られたペレット10gを200gの塩化メチレンに溶解し、パーティクルカウンターを用いて測定した際の粒子径10μm以上の異物が、1個である点。

相違点5G:本件発明8では、紫外線吸収剤を含有しているのに対し、甲5発明では、紫外線吸収剤を含有していない点。

相違点5H:本件発明8では、「着色度YIが10.0以下」であるのに対し、甲5発明では、そのような特定がない点。

相違点5I:本件発明8では、樹脂組成物の「メルトフローレートは、240℃、荷重98Nにおいて5g/10分以上、20g/10分以下」であるのに対し、甲5発明では、メルトフローレートが特定されていない点

イ.判断
事案に鑑み、相違点5Hから検討する。
相違点5Hと上記相違点5Aは、着色度に関する規定である点で共通しているから、相違点5Aに関して上記(4)イで述べたのと同様に、甲5発明において、引用文献Aの記載と組み合わせても、相違点5Hに至るとはいえない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明8は、甲5発明、及び、引用文献Aに記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ.本件発明8の効果について
上記1(7)ウで検討したとおり、本件明細書の【0018】には、「樹脂組成物中に非重合性有機溶媒を敢えて一定量残存させるので、(メタ)アクリル系樹脂を含む低着色で且つ異物の少ない樹脂組成物を提供できる」という効果を奏することが記載され、請求項8には、紫外線吸収剤を含有する場合であっても、「低着色」の指標として「着色度YIが10.0以下」であり、「異物の少ない」樹脂組成物の指標として「樹脂組成物1g中、長径20μm以上の異物数が100個以下である」樹脂組成物を提供することが記載され、本件明細書の実施例1、2において、比較例1、2に比して、紫外線吸収剤を含有する場合であっても、有機溶媒を100?1000ppm含有した状態で濾過することで、異物数100個以下と低減しても、着色度YIを10.0以下に抑制できるという効果が具体的なデータとともに確認されている。
一方、甲5には、紫外線吸収剤を含有する場合であっても、着色度YIが10.0以下までの低着色で且つ異物数が100個以下の樹脂組成物を提供できることは記載されていない。
また、引用文献Aにも、紫外線吸収剤を含有する場合であっても、着色度YIが10.0以下までの低着色で且つ異物数が100個以下の樹脂組成物を提供できることは記載されていない。
してみると、本件発明8の効果は、甲5及び引用文献Aの記載から当業者が予測し得る事項であるとはいえない。

エ.小括
よって、本件発明8は、甲5に記載された発明、及び、引用文献Aに記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(6)本件発明10について
本件発明10は、本件発明8または9を直接引用し、「(メタ)アクリル系樹脂」を「アクリル系モノマーの重合体であって主鎖に環構造を有する樹脂」に限定するものである。
上記(4)、(5)で述べたとおり、本件発明8及び9が、甲5発明、及び、引用文献Aに記載された事項に基づき当業者が容易に発明をすることができたものではないことから、本件発明10も同様に、甲5発明、及び、引用文献Aに記載された事項に基づき当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、本件発明10は、甲5に記載された発明、及び、引用文献Aに記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはえいない。

同様に、本件発明8?10は、甲5の実施例2、6?9に記載された発明、及び、引用文献Aに記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(7)取消理由Cの検討のまとめ
以上のとおりであるから、本件発明8?10は、甲5に記載された発明、及び、引用文献Aに記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
よって、取消理由Cは、理由がない。


4.取消理由D(甲6を主引例とする場合)について

(1)甲6に記載された事項
申立人が提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲6には、下記の事項が記載されている。

ア「【請求項1】
ハウジングと、センターポールと、濾過精度が15μm以下であるリーフディスクフィルターと、リーフディスクフィルター上流に位置する押さえディスクと、押さえディスクをセンターポールに固定するボルトを有するキャップとを備えるポリマーフィルターを用いた耐熱アクリル樹脂の濾過方法であり、
上記ポリマーフィルターは、上記センターポールと上記押さえディスクとのクリアランスにシールリングを備えていることを特徴とする耐熱アクリル樹脂の濾過方法。
【請求項2】
上記耐熱アクリル樹脂が、下記一般式(1)
【化1】

(式中、R^(1)、R^(2)及びR^(3)は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1?20の有機残基を表す。尚、有機残基は、酸素原子を含んでいてもよい。)
で示されるラクトン環構造を有することを特徴とする請求項1に記載の耐熱アクリル樹脂の濾過方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の耐熱アクリル樹脂の濾過方法により耐熱アクリル樹脂を濾過する工程を含むことを特徴とする耐熱アクリル樹脂の製造方法。
【請求項4】
20μm以上の異物が100個/100g以下であり、着色劣化物が質量換算で30ppm以下であることを特徴とする耐熱アクリル樹脂。」

イ「【技術分野】
【0001】
本発明耐熱アクリル樹脂の溶融濾過方法に関し、より詳しくは光学用途に用いられる異物、劣化物の少ない耐熱アクリル樹脂の溶融濾過方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PMMAに代表されるアクリル系樹脂は、光学性能に優れ、高い光線透過率や低複屈折率、低位相差の光学等方材料として各種光学材料への適応が成されていた。しかし近年、液晶表示装置やプラズマディスプレイ、有機EL表示装置等のフラットディスプレイや赤外線センサー、光導波路等の進歩に伴い、光学用透明高分子材料の異物低減に対する要請が高まっている。
・・・
【0005】
しかしながら、アクリル系樹脂は溶融粘度が高い上に耐熱性が低いため、特に多大な熱履歴を受け易い。また、濾過圧力が高くなる15μm以下の濾過精度を有するポリマーフィルターを適用する場合では、必然的に樹脂温度を上げて溶融粘度を下げなければならず、解重合や主鎖切断等により発泡や樹脂劣化が生じる。」

ウ「【0014】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、外観や物性に優れた耐熱アクリル樹脂、並びに当該耐熱アクリル樹脂を安定して提供し得る濾過方法及び製造方法を実現することにある。
【0015】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った。その結果、アクリル系樹脂を15μm以下の濾過精度を有するポリマーフィルターを用いて溶融濾過する際に、アクリル系樹脂として耐熱アクリル樹脂を用い、特定の構造を有するポリマーフィルターで濾過する事により、濾過製品中への気泡や異物、樹脂劣化物の混入を防ぐ事が可能である事を見出し、本発明を完成するに至った。」

エ「【0049】
ラクトン環含有重合体は、15質量%のクロロホルム溶液中での着色度(YI)が10以下となるものが好ましく、より好ましくは6以下、更に好ましくは3以下、最も好ましくは1以下である。着色度(YI)が10を越えると、着色により透明性が損なわれ、本来目的とする用途に使用できない場合がある。」

オ「【0051】
ラクトン環含有重合体は、それに含まれる残存揮発分の総量が、好ましくは5,000ppm以下、より好ましくは2,000ppm以下である。残存揮発分の総量が5,000ppmよりも多いと、成形時の変質等によって着色したり、発泡したり、シルバーストリーク等の成形不良の原因となる。
【0052】
〔その他の熱可塑性樹脂や添加剤〕
上記耐熱アクリル樹脂は、押出し成形品の耐熱性や光学的性質、機械的物性を損なわない範囲で、その他の熱可塑性樹脂や添加剤を含んでもよい。・・・
【0056】
上記添加剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系、リン系、イオウ系等の酸化防止剤;耐光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤等の安定剤;ガラス繊維、炭素繊維等の補強材;フェニルサリチレート、(2,2’-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-ヒドロキシベンゾフェノン等の紫外線吸収剤;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリアリルホスフェート、酸化アンチモン等の難燃剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤等の帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料等の着色剤;有機フィラーや無機フィラー;樹脂改質剤;有機充填剤や無機充填剤;可塑剤;滑剤;帯電防止剤;難燃剤;等が挙げられる。」

カ「【0087】
また、本実施の形態に係る濾過方法にて濾過された耐熱アクリル樹脂は例えば3mm厚の成形体とした場合のヘイズ値が3以下、更に好ましくは2以下、最も好ましくは1以下である。また、15質量%クロロホルム溶液とした場合の着色度(YI)が10以下、好ましくは6以下、更に好ましくは3以下、最も好ましくは1以下である。」

キ「【実施例】
・・・
【0098】
<樹脂の熱分析>
樹脂の熱分析は、試料約10mg、昇温速度10℃/min、窒素フロー50cc/minの条件で、DSC((株)リガク社製、装置名:DSC-8230)を用いて行った。尚、ガラス転移温度(Tg)は、ASTM-D-3418に従い、中点法で求めた。
【0099】
<メルトフローレート>
メルトフローレートは、JIS-K7210に基づき、試験温度240℃、荷重10kgで測定した。
【0100】
<MMA残揮成分の定量>
ペレットをジメチルアセトアミドに溶解して10質量%溶液を作製し、炭酸ジフェニルを内部標準物質としてガスクロマトグラフィーにて定量した。
【0101】
<イエローインデックス(YI)>
成型品を15質量%となるようにクロロホルムに溶解させた溶液を石英セルに入れ、JIS K-7103に準拠し、色差計(日本電色工業社製、製品名;SZ-Σ90)を用いて、透過光で測定した。
【0102】
<溶融粘度>
十分に乾燥したペレットをボーリンインストルメンツ社製キャピラリーレオメーターRH10を用いて測定した。
【0103】
<異物数>
成形品を20質量%となるように、精製されたクロロホルム溶液に溶解し、直径47mm、濾過精度1μのテフロン(登録商標)フィルターで吸引を行い、テフロン(登録商標)フィルター上に残存する異物を顕微鏡下目視で計測した。尚、20μm以上の異物とは、異物の最も大きな径が20μm以上である異物を意味するものである。
【0104】
<着色劣化物含有量(平均着色物量)>
Optical Control Systems社製ペレット検査システムを用い、ペレット10kg中の着色異物を計測した。感度は50μm以上の着色物を検知できるように調整を行い、以下のように着色物の含有量を求めた。即ち、検出された着色物を球状と仮定し、画像より得られる長直径と短直径との平均から体積を求め、その体積と樹脂密度との積から10kg中に含まれる総着色物質量を算出した。
【0105】
尚、測定条件については、当該着色物が顕微鏡下による目視観察で認知されるか確認を行い測定感度を設定した。
【0106】
〔製造例1〕
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を付した1m^(3)の反応釜に、136kgのメタクリル酸メチル(MMA)、34kgの2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)、166kgのトルエンを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温し、還流したところで、開始剤として187gのターシャリーアミルパーオキシイソノナノエート(アトフィナ吉富製、商品名:ルパゾール570)を添加すると同時に、374gの開始剤と3.6kgのトルエンとからなる溶液とを2時間かけて滴下しながら、還流下(約105?110℃)で溶液重合を行い、更に4時間かけて熟成を行った。
【0107】
得られた重合体溶液に、170gのリン酸ステアリル/リン酸ジステアリル混合物(堺化学製、商品名:Phoslex A-18)を加え、還流下(約90?110℃)で5時間、環化縮合反応を行った。次いで、上記環化縮合反応で得られた重合体溶液を、バレル温度250℃、回転数150rpm、減圧度13.3?400hPa(10?300mmHg)、リアベント数1個、フォアベント数4個のベントタイプスクリュー二軸押出し機(φ=42mm、L/D=42)に、樹脂量換算で13kg/hの処理速度で導入し、該押出し機内で環化縮合反応と脱揮を行い、押出すことにより、透明なペレットを得た。
【0108】
得られたペレットをダイナミックTGで測定したところ0.15質量%の質量減少を検知した。また、このラクトン環含有重合体は重量平均分子量が147,000、メルトフローレートが11.0g/10min、ガラス転移温度が130℃、また270℃、せん断速度100(/s)における粘度は470Pa・sであった。
・・・
【0115】
〔実施例1〕
クラス1万のクリーンルーム内にて、センターポールと押さえディスクとのクリアランスにシールリングを有するポリマーフィルター(濾過精度5μ、濾過面積1.5m^(2))を設置したφ50mm、L/D=36を有するベント付き単軸押出し機を用いて、製造例1で得られた耐熱アクリル樹脂ペレットを400ppmの酢酸亜鉛と共に91kg/hの処理速度で溶融混錬、脱揮処理すると同時に濾過処理を行い、押出されたストランドを、オルガノ製1μフィルターで処理された水中で固化させることによりペレット(1A)を1t作製した。この時シリンダー及びフィルターの設定温度は押し出されたストランドの樹脂温度が280℃となるように適宜調整し、ポリマーフィルター入口での圧力は10.0MPaを示した。尚、本実施例では連続的に1t以上生産が可能であった。
【0116】
目視による確認ではストランドの押出し状態は安定しており、得られたペレット(1A)のMFRは14g/10min、MMAの残揮量は420ppm、15質量%クロロホルム溶液とした場合の着色度(YI)は0.5であった。また、100kg毎に採取したサンプルを用いた20μm以上の平均異物数は13個、ペレット検査システムにより算出された平均着色物量は0ppmであった。
【0117】
尚、終了後にポリマーフィルターを解体したところ、樹脂の滞留した痕跡は認められなかった。得られた結果を表1に示す。
【0118】
【表1】

【0119】
〔実施例2〕
製造例1で得られた耐熱アクリル樹脂ペレット90部、AS樹脂(旭化成ケミカルズ社製、商品名:スタイラックAS783)10部、酢酸亜鉛400ppmのドライブレンド物を用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、ペレット(2A)を1t作製した。この時、ポリマーフィルター入口での圧力は10.0MPaを示した。尚、本実施例では連続的に1t以上生産が可能であった。
【0120】
目視による確認ではストランドの押出し状態は安定しており、得られたペレット(2A)のMFRは14g/10min、MMAの残揮量は440ppm、15質量%クロロホルム溶液とした場合の着色度(YI)は3.7であった。また、100kg毎に採取したサンプルより計測された20μm以上の平均異物数は17個、ペレット検査システムにより算出された平均着色物量は0ppmであった。
【0121】
尚、終了後にポリマーフィルターを解体したところ、樹脂の滞留した痕跡は認められなかった。得られた結果を表1に示す。
・・・
【0128】
〔比較例2〕
ポリマーフィルターを使用しなかったこと以外は実施例2と同様に行った。この時、押出し機出口の圧力は3MPaを示した。尚、本比較例では連続的に1t以上生産が可能であった。
【0129】
目視による確認ではストランドの押出し状態は安定しており、得られたペレット(2B)のMFRは12g/10min、MMAの残揮量は330ppm、15質量%クロロホルム溶液とした場合の着色度(YI)は0.2であった。また、100kg毎に採取したサンプルより計測された20μm以上の平均異物数は350個、ペレット検査システムにより算出された平均着色物量は0.3ppmであった。得られた結果を表1に示す。」

ク「【0146】
本発明に係る耐熱アクリル樹脂の濾過方法では、上記センターポールと上記押さえディスクとのクリアランスにシールリングを備えているポリマーフィルターを用いる。このため、外観や物性に優れた耐熱アクリル樹脂を製造することができ、このような耐熱アクリル樹脂は、特に光学材料に関連する分野で好適に用いることができる。」

(2)甲6に記載された発明
甲6の実施例1には、製造例1で得られた耐熱アクリル樹脂ペレットを、溶融混錬、脱揮処理すると同時に濾過処理し、ペレット化することが記載されている。また、甲6の【表1】にはペレット中の樹脂原料の質量部が記載されている。そうすると、甲6の実施例1に着目すると、下記の発明が記載されているといえる。

「136kgのメタクリル酸メチル(MMA)、34kgの2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)、166kgのトルエンを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温し、還流したところで、開始剤として187gのターシャリーアミルパーオキシイソノナノエート(アトフィナ吉富製、商品名:ルパゾール570)を添加すると同時に、374gの開始剤と3.6kgのトルエンとからなる溶液とを2時間かけて滴下しながら、還流下(約105?110℃)で溶液重合を行い、更に4時間かけて熟成を行い、
得られた重合体溶液に、170gのリン酸ステアリル/リン酸ジステアリル混合物(堺化学製、商品名:Phoslex A-18)を加え、還流下(約90?110℃)で5時間、環化縮合反応を行い、
上記環化縮合反応で得られた重合体溶液を、バレル温度250℃、回転数150rpm、減圧度13.3?400hPa(10?300mmHg)、リアベント数1個、フォアベント数4個のベントタイプスクリュー二軸押出し機(φ=42mm、L/D=42)に、樹脂量換算で13kg/hの処理速度で導入し、該押出し機内で環化縮合反応と脱揮を行い、押出すことにより、重量平均分子量が147,000、メルトフローレートが11.0g/10min、ガラス転移温度が130℃、270℃、せん断速度100(/s)における粘度は470Pa・sであるペレットを得て、
クラス1万のクリーンルーム内にて、センターポールと押さえディスクとのクリアランスにシールリングを有するポリマーフィルター(濾過精度5μ、濾過面積1.5m^(2))を設置したφ50mm、L/D=36を有するベント付き単軸押出し機を用いて、上記ペレット100質量部を400ppmの酢酸亜鉛と共に91kg/hの処理速度で溶融混錬、脱揮処理すると同時に濾過処理を行い、押出されたストランドを、オルガノ製1μフィルターで処理された水中で固化させることにより作製されたペレット(1A)であって、
上記ペレット(1A)のMFRは14g/10min、MMAの残揮量は420ppm、15質量%クロロホルム溶液とした場合の着色度(YI)は0.5、100kg毎に採取したサンプルを用いた20μm以上の平均異物数は13個/100g、ペレット検査システムにより算出された平均着色物量は0ppmであるペレット(1A)」(以下「甲6発明1」という。)

また、甲6の実施例2には、製造例1で得られた耐熱アクリル樹脂ペレットをAS樹脂等とブレンドして、ペレット(2A)を作製することが記載されているから、甲6の実施例2に着目すると、以下の発明が記載されているといえる。

「136kgのメタクリル酸メチル(MMA)、34kgの2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)、166kgのトルエンを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温し、還流したところで、開始剤として187gのターシャリーアミルパーオキシイソノナノエート(アトフィナ吉富製、商品名:ルパゾール570)を添加すると同時に、374gの開始剤と3.6kgのトルエンとからなる溶液とを2時間かけて滴下しながら、還流下(約105?110℃)で溶液重合を行い、更に4時間かけて熟成を行い、
得られた重合体溶液に、170gのリン酸ステアリル/リン酸ジステアリル混合物(堺化学製、商品名:Phoslex A-18)を加え、還流下(約90?110℃)で5時間、環化縮合反応を行い、
上記環化縮合反応で得られた重合体溶液を、バレル温度250℃、回転数150rpm、減圧度13.3?400hPa(10?300mmHg)、リアベント数1個、フォアベント数4個のベントタイプスクリュー二軸押出し機(φ=42mm、L/D=42)に、樹脂量換算で13kg/hの処理速度で導入し、該押出し機内で環化縮合反応と脱揮を行い、押出すことにより、重量平均分子量が147,000、メルトフローレートが11.0g/10min、ガラス転移温度が130℃、また270℃、せん断速度100(/s)における粘度は470Pa・sであるペレットを得て、
クラス1万のクリーンルーム内にて、センターポールと押さえディスクとのクリアランスにシールリングを有するポリマーフィルター(濾過精度5μ、濾過面積1.5m^(2))を設置したφ50mm、L/D=36を有するベント付き単軸押出し機を用いて、上記ペレットを90部、AS樹脂(旭化成ケミカルズ社製、商品名:スタイラックAS783)10部、酢酸亜鉛400ppmのドライブレンド物を91kg/hの処理速度で溶融混錬、脱揮処理すると同時に濾過処理を行い、押出されたストランドを、オルガノ製1μフィルターで処理された水中で固化させることにより作製されたペレット(2A)であって、
上記ペレット(2A)のMFRは14g/10min、MMAの残揮量は440ppm、15質量%クロロホルム溶液とした場合の着色度(YI)は3.7、100kg毎に採取したサンプルより計測された20μm以上の平均異物数は17個/100g、ペレット検査システムにより算出された平均着色物量は0ppmであるペレット(2A)」(以下「甲6発明2」という。)

(3)本件発明9について
事案に鑑みて、本件発明9から検討する。

ア.甲6発明1?2との対比
本件発明9と甲6発明1?2をまとめて対比する。
甲6発明1?2における「重合体」は、「136kgのメタクリル酸メチル(MMA)、34kgの2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)」を共重合している共重合体であるから、本件明細書の【0021】の記載からみて、本件発明9における「(メタ)アクリル系樹脂」に相当する。
また、甲6発明1?2における「ペレット」は、実施例1、2の記載からみて、紫外線吸収剤を使用していないから、本件発明9における「紫外線吸収剤を含有しておらず」との点を満足しているといえる。
さらに、甲6発明1?2における「ペレット」の「着色度(YI)」は、「0.5」、「3.7」であり、甲6の「イエローインデックス(YI)」の測定方法(【0101】)と本件明細書の【0070】の測定方法は同じであるから、本件発明9における「着色度YIが4.0以下」を満足するといえる。
また、甲6発明1?2における「ペレット」のガラス転移温度は130℃であるから、本件発明9に係る「ガラス転移温度が110?170℃」を満足するといえる。
また、甲6発明1?2における「ペレット」のMFRはそれぞれ、14g/10minであり、甲6の【0099】には、JIS-K7210(試験温度240℃、荷重10kg)に基づき測定したことが記載されているから、本件発明9における「メルトフローレートは、240℃、荷重98Nにおいて5g/10分以上、20g/10分以下」との範囲を満足している。

そうすると、本件発明9と甲6発明1?2は、下記の点で一致し、下記の点で相違する。

一致点:「(メタ)アクリル系樹脂を含有し、紫外線吸収剤を含有しておらず、着色度YIが4.0以下であり、かつ、ガラス転移温度が110?170℃であり、メルトフローレートは、240℃、荷重98Nにおいて5g/10分以上、20g/10分以下である、樹脂組成物。」

相違点6A:本件発明9では、「沸点70?150℃の非重合性有機溶媒100?1000ppm」であるのに対し、甲6発明1?2では、沸点70?150℃の非重合性有機溶媒の含有量が特定されていない点。

相違点6B:本件発明9では、「樹脂組成物1g中、長径20μm以上の異物数が100個以下」であるのに対し、甲6発明1?2では、20μm以上の平均異物数がそれぞれ13個/100g、17個/100gである点。

イ.判断
相違点6Aについて検討する。
本件発明は、樹脂組成物(目的物)中に有機溶媒が敢えて一定量残存するよう制御した上で、減圧下、加熱による有機溶媒の除去工程およびポリマーフィルタによる濾過工程を経て樹脂組成物を得ると、残存する有機溶媒が重合された樹脂に対して可塑剤の様に作用するため、有機溶媒除去工程やポリマーフィルタ濾過工程における樹脂の剪断劣化の抑制に寄与することができ、低着色で且つ異物の少ない樹脂組成物を提供することができるというものである(【0003】、【0004】、【0006】【0007】)。
したがって、本件発明は、有機溶媒を留出除去した後、ポリマーフィルタを用いた濾過により異物を除去しようとした場合、得られる樹脂に着色が生じることがあったという従来の課題に対して(【0003】、【0004】)、上記のとおり、有機溶媒を一定量残存するように制御することで、濾過してもなお、低着色である樹脂組成物を提供しようとするものである。

一方、甲6の【0051】には、「ラクトン環含有重合体は、それに含まれる残存揮発分の総量が、好ましくは5,000ppm以下、より好ましくは2,000ppm以下である。残存揮発分の総量が5,000ppmよりも多いと、成形時の変質等によって着色したり、発泡したり、シルバーストリーク等の成形不良の原因となる」と記載されているものの、甲6の製造例1(【0106】?【0108】)には、トルエンを用いて溶液重合すること、環化縮合反応と脱揮を行い、ペレットを得ることが記載され、また、甲6発明1には、同じく揮発成分であるMMAが残揮量420ppmで残存していること、甲6発明2には、MMAが残揮量440ppmで残存していることが記載されているものの、「沸点70?150℃の非重合性有機溶媒」である「トルエン」の残揮量は明らかでないから、相違点6Aは、実質的な相違点である。

そして、甲6には、アクリル系樹脂は溶融粘度が高い上に耐熱性が低いため、特に多大な熱履歴を受け易いこと、また、濾過圧力が高くなる15μm以下の濾過精度を有するポリマーフィルタを適用する場合では、必然的に樹脂温度を上げて溶融粘度を下げなければならず、解重合や主鎖切断等により発泡や樹脂劣化が生じるから、アクリル系樹脂をポリマーフィルターを用いて濾過することは困難であり、また、ポリマーフィルターは樹脂滞留が生じ易い構造のため、アクリル系樹脂ではその滞留部での熱劣化が一層促進し、着色劣化物や気泡が製品に混入する問題があったことから、外観や物性に優れた耐熱アクリル樹脂を提供し得る濾過方法、製造方法を実現することを課題としており、このため、特定の構造を有するポリマーフィルターを用いて濾過することが記載されている(【特許請求の範囲】、【0005】、【0014】)。

すなわち、甲6発明は、濾過に用いるポリマーフィルターの構造を工夫することにより、得られる樹脂の着色を防止するものであって、本願発明のように「沸点70?150℃の非重合性溶媒」を敢えて一定量残存させることで着色防止を図るものではない。

また、上記1.(6)イで述べたように、濾過により異物を低減できることは、本件出願時に周知の技術事項であったとしても、濾過をして異物を除去してもなお、低着色の組成物を得るために、有機溶媒を一定量残留させるよう制御することが、本件出願時に少なくとも公知であったとはいえない。

してみると、甲6の記載事項をみても、甲6発明において、濾過時に低着色を維持するため、樹脂組成物が「沸点70?150℃の非重合性有機溶媒100?1000ppm」を含有するよう制御することは、動機付けられない。
よって、甲6発明1?2において、相違点6Aを容易に想到することができたとはいえない。

したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明9は、甲6発明1?2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ.本件発明9の効果について
本件明細書の【0018】には、「樹脂組成物中に非重合性有機溶媒を敢えて一定量残存させるので、(メタ)アクリル系樹脂を含む低着色で且つ異物の少ない樹脂組成物を提供できる」という効果を奏することが記載され、請求項9には、「沸点70?150℃の非重合性有機溶媒」を「100?1000ppm」とし、「低着色」の指標として「着色度YIが4.0以下」であり、「異物の少ない」樹脂組成物の指標として「樹脂組成物1g中、長径20μm以上の異物数が100個以下である」樹脂組成物を提供することが記載され、本件明細書の実施例3、4において、比較例3、4に比して、有機溶媒を100?1000ppm含有した状態で濾過することで、異物数を100個以下と低減しても、着色度YIを4.0以下に抑制できるという効果が具体的なデータとともに確認されている。
一方、甲6には、沸点70?150℃の非重合性有機溶媒100?1000ppmとすることは記載されていないから、これによって、異物数を低減しつつ、かつ、着色度YIを低減できるという上記効果を予測することができない。
してみると、本件発明9の効果は、甲6の記載から当業者が予測し得る事項であるとはいえない。

エ.申立人の主張について
(ア)主張の内容
申立人は、令和3年5月13日提出の意見書で、概略、特許権者が令和3年3月8日提出の意見書において、甲6は、製造例1のMFRよりも、実施例1のMFRが大きくなっており、これは、2回目の脱揮と濾過精製が行われているため、ポリマー分解によるものであり、残留MMAの量も実施例1が比較的大きいこともこれを支持しており、2回目の脱揮が行われていることから樹脂中の残存溶媒量が100ppmを大きく下回ることが明白であると主張しているのに対し、
・MFRの増加は、実施例1で用いた酢酸亜鉛の影響によるものであって、分子量低下によるものではないこと、
・残留MMAの増加量はわずかに過ぎないから、残留MMAの増加によって、残存溶媒量が100ppmを大幅に下回るといえるほどのポリマーの分解や分子量の低下が起きていることの根拠を示せていないこと
・甲6の実施例1の着色度(YI)は0.5であることから、濾過工程後のペレットにはある程度有機溶媒が残存していると考えられること
から、樹脂中の残存溶媒量が100ppmを大きく下回ることが明白であるとはいえないと主張している。

(イ)検討
申立人は、酢酸亜鉛によってMFRが増加したと主張しているものの、400ppm程度の酢酸亜鉛によってMFRが増加するという根拠を具体的に示しているわけではないから、上記主張の根拠がない。
一方、甲6の【0005】、【0015】の記載から、MFRが増加したことの理由としては、解重合や主鎖切断によるものと理解することができるから、特許権者の主張には理由がある。
したがって、MFRの増加は、ポリマーの分解や分子量の低下によるものではないとの申立人の主張は採用できず、樹脂中の残存溶媒量が100ppmを大きく下回ることが明白でないとはいえないから、上記主張を採用できない。
また、申立人は、樹脂中の残存溶媒量が100ppmを大きく下回ることが明白でないと主張するものの、甲6発明の樹脂中の残存溶媒量が「100?1000ppm」の範囲に入り、相違点6Aは一致点であるとの主張や相違点6Aを容易に想到し得るとする具体的な根拠を示しているわけではない。
よって、上記イで述べたとおり、相違点6Aを容易に想到することができない。

オ.小括
以上のとおりであるから、本件発明9は、甲6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件発明8について
ア.甲6発明1?2との対比
本件発明8と甲6発明1?2を対比すると、本件発明8は、紫外線吸収剤を含有する点、YIの上限が異なる点以外は、本件発明9と同じであるから、これらの点以外については、上記(3)で述べたとおりである。
また、甲6発明1?2の着色度(YI)(それぞれ0.5、3.7)は、本件発明8に係る「着色度YIが10.0以下」を満足するといえる。
そうすると、本件発明8と甲6発明1?2は、下記の点で一致し、下記の点で相違する。

一致点:「(メタ)アクリル系樹脂を含有し、着色度YIが10.0以下であり、ガラス転移温度が110?170℃であり、メルトフローレートは、240℃、荷重98Nにおいて5g/10分以上、20g/10分以下である、樹脂組成物。」

相違点6C:本件発明8では、「樹脂組成物1g中、長径20μm以上の異物数が100個以下」であるのに対し、甲6発明1?2では、20μm以上の平均異物数がそれぞれ13個/100g、17個/100gである点。

相違点6D:本件発明8では、「沸点70?150℃の非重合性有機溶媒100?1000ppm」であるのに対し、甲6発明1?2では、沸点70?150℃の非重合性有機溶媒の含有量が特定されていない点。

相違点6E:本件発明8では、紫外線吸収剤を含有するのに対し、甲6発明1?2では、紫外線吸収剤を含有しない点。

イ.判断
事案に鑑み、まず、相違点6Dについて検討する。
相違点6Dは、上記相違点6Aと同じであり、上記(3)イにおいて述べたとおり、甲6発明1?2において、残存有機溶媒の量を調節して、相違点6Dを容易に想到することができたとはいえない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明8は、甲6発明1?2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない

ウ.本件発明8の効果について
本件明細書の【0018】には、「樹脂組成物中に非重合性有機溶媒を敢えて一定量残存させるので、(メタ)アクリル系樹脂を含む低着色で且つ異物の少ない樹脂組成物を提供できる」という効果を奏することが記載され、請求項8には、紫外線吸収剤を含有する場合であっても、「沸点70?150℃の非重合性有機溶媒」を「100?1000ppm」とし、「低着色」の指標として「着色度YIが10.0以下」であり、「異物の少ない」樹脂組成物の指標として「樹脂組成物1g中、長径20μm以上の異物数が100個以下である」樹脂組成物を提供することが記載され、本件明細書の実施例1、2において、比較例1、2に比して、紫外線吸収剤を含有する場合であっても、有機溶媒を100?1000ppm含有した状態で濾過することで、異物数を100個以下と低減しても、着色度YIを10.0以下に抑制できるという効果が具体的なデータとともに確認されている。
一方、甲6には、沸点70?150℃の非重合性有機溶媒100?1000ppmとすることは記載されていないから、これによって、異物数を低減し、かつ、着色度YIを低減できるという効果を予測することができない。
してみると、本件発明8の効果は、甲6の記載から当業者が予測し得る事項であるとはいえない。

エ.小括
よって、本件発明8は、甲6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)本件発明10?11について
本件発明10は、本件発明8または9を直接引用し、「(メタ)アクリル系樹脂」を「アクリル系モノマーの重合体であって主鎖に環構造を有する樹脂」に限定するものであり、本件発明11は、本件発明10を直接引用し、「主鎖に環構造を有する樹脂」を「マレイミド系重合体及び/又はラクトン環系重合体」に限定するものである。

上記(3)、(4)で述べたとおり、本件発明8?9が、甲6発明1?2に基づき当業者が容易に発明をすることができたものではないことからすると、本件発明10?11も同様に、甲6発明1?2に基づき当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、本件発明10?11は、甲6に記載された発明、及び、甲6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(6)取消理由Dの検討のまとめ
以上のとおりであるから、本件発明8?11は、甲6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第6 取消理由通知において採用しなかった申立理由

申立理由1?4は、上記第5で検討したので、ここでは申立理由5のみを検討する。

1.申立理由5(甲3を主引用例とする進歩性)について

(1)甲3に記載された事項及び甲3に記載された発明
甲3の実施例4に着目すると、【0115】にペレットの製造方法が記載され、【0119】の【表1】には、その物性が記載されているから、以下の発明が記載されている。

「攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を付した30L反応釜に、13.25部のメタクリル酸メチル(MMA)、6.25部のN-シクロへキシルマレイミド(CHMI)、2.5部の2-〔2’-ヒドロキシ-5’-メタクリロイルオキシ〕エチルフェニル〕-2H-ベンゾトリアゾール(大塚製薬社製、商品名:RUVA-93)、25部のトルエンを仕込み、これに窒素を通じつつ、100℃まで昇温させ、還流したところで、開始剤として0.015部のt-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート(化薬アクゾ社製、商品名:カヤカルボンBIC-75)を添加し、
続いて、上記反応槽に対し、15.75部のメタクリル酸メチル、6.25部のN-シクロへキシルマレイミド、6部のスチレン、25部のトルエン、0.081部のt-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートの混合物を予め窒素ガスでバブリングしておき、3.5時間かけて滴下し、還流下(約110℃)で溶液重合を行い、さらに3.5時間かけて熟成を行い、
この重合液をバレル温度240℃にてコントロールした2軸押出し機に供給し、ペントロより真空脱揮し、押し出されたストランドをペレット化して得られた、ガラス転移温度135℃、揮発分430ppm、YIが1.8である透明なペレット(4A)」(以下、「甲3発明」という。)

(2)本件発明9について
事案に鑑み、まず、本件発明9と対比する。

ア.甲3発明との対比
甲3発明は、メタクリル酸メチル(MMA)、N-シクロへキシルマレイミド(CHMI)、2-〔2’-ヒドロキシ-5’-メタクリロイルオキシ〕エチルフェニル〕-2H-ベンゾトリアゾール、スチレンを重合して得られる熱可塑性樹脂からなるペレットであるから、本件明細書の【0021】の記載からみて、甲3発明における「ペレット」に含まれる熱可塑性樹脂は、本件発明9における「(メタ)アクリル系樹脂」に相当する。
また、甲3発明は、重合成分に紫外線吸収能を有する2-〔2’-ヒドロキシ-5’-メタクリロイルオキシ〕エチルフェニル〕-2H-ベンゾトリアゾールに由来する骨格を有しているものの、紫外線吸収剤を含有していない。
さらに、甲3発明における「ペレット」のYIが1.8であり、甲3発明のペレットのYIの測定法(【0109】)と本件明細書の【0070】の測定方法は同じであるから、本件発明9に係る「着色度YIが4.0以下」を満たすといえる。
また、甲3発明における「ペレット」のガラス転移温度135℃であるから、本件発明9における「ガラス転移温度が110?170℃」なる範囲を満たす。

そうすると、本件発明9と甲3発明は、以下の点で一致し、以下の点で相違する。

一致点:「(メタ)アクリル系樹脂を含有し、紫外線吸収剤を含有しておらず、着色度YIが4.0以下であり、かつ、ガラス転移温度が110?170℃である樹脂組成物」

相違点3A:本件発明9では、「沸点70?150℃の非重合性有機溶媒」を「100?1000ppm」を含有するのに対し、甲3発明では、揮発分が430ppmであることは記載されるものの、その内訳が不明である点。

相違点3B:本件発明9では、「樹脂組成物1g中、長径20μm以上の異物数が100個以下」であるのに対し、甲3発明では、そのような特定がない点。

相違点3C:本件発明9では、樹脂組成物の「メルトフローレートは、240℃、荷重98Nにおいて5g/10分以上、20g/10分以下」であるのに対し、甲3発明では、メルトフローレートが特定されていない点。

イ.判断
事案に鑑み、相違点3Bから検討するに、上記第5 1.(6)イで述べたとおり、本件発明9における、「樹脂組成物1g中、長径20μm以上の異物数が100個以下」を満たすには、例えば濾過を行うものといえる。
また、本件発明は、有機溶媒を留出除去した後、ポリマーフィルタを用いた濾過により異物を除去しようとした場合、得られる樹脂に着色が生じることがあったという従来の課題に対して、上記第5 1.(6)イのとおり、有機溶媒を一定量残存するように制御することで、濾過してもなお、低着色である樹脂組成物を提供しようとするものである。

一方、甲3には、非晶性熱可塑性樹脂は、残存揮発分が5000ppmを超えると形成時の変質等によって、着色したり、揮発したり、シルバーストリーク等の成形不良の原因となる(【0013】)と記載されているものの、濾過をして異物を除去してもなお、低着色の組成物を得ること、そのための有機溶媒を残留させるという具体的な構成が記載されていない。

また、濾過により異物を低減できることは、上記第5 1.(6)イで述べたように、本件出願時に周知の技術事項であったとしても、濾過をして異物を除去してもなお、低着色の組成物を得るために、有機溶媒を一定量残留させるよう制御することが、本件出願時に少なくとも公知であったとはいえない。
してみると、甲3発明において、相違点3Bを容易に想到することができたとはいえない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明9は、甲3発明、及び、甲4?7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ.申立人の主張について
特許異議申立書の中で申立人は、概略、次のように主張している。

甲3発明の属する優れた光学特性を有することが求められる光学材料として好適に用いられる非晶性熱可塑性樹脂の分野において、異物数を低減するという課題は、本件の出願時に当業者にとって自明な課題であり、甲3発明において、異物数を低減するという自明な課題を解決する技術手段として、甲3発明の属する技術分野の甲4、6、7に記載の技術手段を適用し、異物数を100個以下とすることは、当業者が適宜なし得たことである。

この主張について検討するに、甲3発明において、異物数を低減するという課題を解決するために、甲4、6、7に記載の技術手段を適用したとしても、上記イで述べたとおり、甲3、4、6、7には、濾過をして異物を除去してもなお、低着色の組成物を得るために、有機溶媒を一定量残留させるよう制御することは記載されていないから、甲3発明において、甲4、6、7から想起されるのは、濾過により異物を除去することまでであり、低着色を維持しながら、濾過をすることを想起することができたとはいえない。
よって、申立人の上記主張を採用できない。

エ.小括
以上のとおりであるから、本件発明9は、甲3に記載された発明、及び、甲4?7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件発明10?11について
本件発明10?11のうち、本件発明9を直接又は間接的に引用する部分について、申立人は、申立理由5を申立てているから、この点について検討する。
上記(2)で述べたように、本件発明9は、甲3に記載された発明、及び、甲4?7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、同様に、本件発明9を直接又は間接的に引用する本件発明10?11も、甲3に記載された発明、及び、甲4?7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)申立理由5の検討のまとめ
以上のとおりであるから、本件発明9?11は、甲3に記載された発明、及び、甲4?7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、申立理由5は、理由がない。

第7 むすび

以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立理由によっては、本件請求項8?11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項8?11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
沸点が70?150℃である非重合性有機溶媒を含む溶液中で(メタ)アクリル系樹脂を重合し、
3個以上のベントが設けられ、最上流にあるベントが600hPa?1000hPaの減圧度に制御され、2番目に上流にあるベントが200hPa?500hPaの減圧度に制御され、上記以外のベントが10hPa?180hPaの減圧度に制御された二軸押出機中で、前記(メタ)アクリル系樹脂含有溶液を減圧下加熱して前記非重合性有機溶媒を除去して(メタ)アクリル系樹脂含有樹脂組成物を調製し、
得られた樹脂組成物を濾過精度が10μm以下のポリマーフィルタで濾過して、
ガラス転移温度110?170℃、前記有機溶媒含有量が100?1000ppm(質量基準)の樹脂組成物を製造する方法。
【請求項2】
前記減圧下加熱による非重合性有機溶媒の除去工程の前、途中又は該工程の後であって前記ポリマーフィルタ濾過工程の前の少なくともいずれかの段階で、非重合性有機溶媒または水を加える請求項1に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記ポリマーフィルタによる濾過工程では、温度260?330℃で(メタ)アクリル系樹脂含有樹脂組成物を濾過する、請求項1又は2に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
前記非重合性有機溶媒が芳香族炭化水素系溶媒である、請求項1?3のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
前記(メタ)アクリル系樹脂が、アクリル系モノマーの重合体であって主鎖に環構造を有する樹脂である、請求項1?4のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
前記主鎖に環構造を有する樹脂が、マレイミド系重合体及び/又はラクトン環系重合体である、請求項5に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
他の樹脂としてスチレン系樹脂を含む、請求項1?6のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
(メタ)アクリル系樹脂と沸点70?150℃の非重合性有機溶媒100?1000ppmと紫外線吸収剤とを含有し、着色度YIが10.0以下であり、かつ、ガラス転移温度が110?170℃であり、メルトフローレートは、240℃、荷重98Nにおいて5g/10分以上、20g/10分以下である樹脂組成物であって、前記樹脂組成物1g中、長径20μm以上の異物数が100個以下である樹脂組成物。
【請求項9】
(メタ)アクリル系樹脂と沸点70?150℃の非重合性有機溶媒100?1000ppmとを含有し、紫外線吸収剤を含有しておらず、着色度YIが4.0以下であり、かつ、ガラス転移温度が110?170℃であり、メルトフローレートは、240℃、荷重98Nにおいて5g/10分以上、20g/10分以下である樹脂組成物であって、前記樹脂組成物1g中、長径20μm以上の異物数が100個以下である樹脂組成物。
【請求項10】
前記(メタ)アクリル系樹脂は、アクリル系モノマーの重合体であって主鎖に環構造を有する樹脂である、請求項8又は9に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
前記主鎖に環構造を有する樹脂が、マレイミド系重合体及び/又はラクトン環系重合体である、請求項10に記載の樹脂組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-09-02 
出願番号 特願2014-201733(P2014-201733)
審決分類 P 1 652・ 121- YAA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 三宅 澄也安田 周史藤井 勲  
特許庁審判長 近野 光知
特許庁審判官 佐藤 玲奈
杉江 渉
登録日 2020-03-27 
登録番号 特許第6682178号(P6682178)
権利者 株式会社日本触媒
発明の名称 樹脂組成物及びその製造方法  
代理人 特許業務法人アスフィ国際特許事務所  
代理人 特許業務法人アスフィ国際特許事務所  

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