ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード![]() |
審決分類 |
審判 全部申し立て 特174条1項 C08G 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C08G 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C08G 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08G 審判 全部申し立て 特39条先願 C08G 審判 全部申し立て 2項進歩性 C08G |
---|---|
管理番号 | 1379773 |
異議申立番号 | 異議2020-700806 |
総通号数 | 264 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-12-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-10-19 |
確定日 | 2021-09-10 |
異議申立件数 | 2 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6683873号発明「難燃性ウレタン樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6683873号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?4〕について訂正することを認める。 特許第6683873号の請求項4に係る特許に対する本件の各異議申立てをいずれも却下する。 特許第6683873号の請求項1?3に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6683873号(請求項の数4。以下、「本件特許」という。)は、平成26年1月20日(優先権主張:平成25年1月20日、平成25年9月27日(JP)日本国)を国際出願日とする特許出願(特願2014-557418号)の一部を、平成28年11月24日に新たな出願とした特許出願(特願2016-228416号)の一部を、さらに平成30年2月9日に新たな出願とした特許出願(特願2018-021501号)の一部を、さらに平成31年1月23日に新たな出願とした特許出願(特願2019-009059号)の一部を、さらに令和1年9月11日に新たな出願とした特許出願(特願2019-165521号)に係るものであって、令和2年3月30日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は、令和2年4月22日である。)。 その後、令和2年10月19日に、本件特許の請求項1?4に係る特許に対して、特許異議申立人である笠原基広(以下、「申立人A」という。)から、同じく令和2年10月21日に、本件特許の請求項1?4に係る特許に対して、特許異議申立人である石井豪(以下、「申立人B」という。)から、特許異議の申立てがなされたものである。 上記の各申立ての趣旨からすると、本件特許異議の申立てに係る審理は、特許第6683873号の全請求項が対象となり、特許異議の申立てがなされていない請求項は存しない。 それ以降の手続の経緯は以下のとおりである。 令和3年 2月18日付け 取消理由通知書 同年 4月15日 意見書・訂正請求書(特許権者) 同年 4月22日付け 通知書(申立人A及びB宛て) 同年 6月 1日 意見書(申立人B) 同年 6月 4日 意見書(申立人A) 第2 訂正の適否についての判断 令和3年4月15日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の請求は、特許請求の範囲を、上記訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおりに訂正することを求めるものであり、その内容は、以下のとおりのものである。下線は、訂正箇所を示す。 1.訂正の内容 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1の「少なくとも、ポリイソシアネート化合物、ポリオール化合物、触媒、発泡剤、難燃剤を含む原料を反応させてなるポリウレタンフォームであって、」を、「少なくとも、ポリイソシアネート化合物、ポリオール化合物、触媒、発泡剤、整泡剤、難燃剤を含む原料を反応させてなるポリウレタンフォームであって、」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項3も同様に訂正する。)。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2の「少なくとも、ポリイソシアネート化合物、ポリオール化合物、触媒、発泡剤、難燃剤を含む原料を反応させてなるポリウレタンフォームであって、」を「少なくとも、ポリイソシアネート 化合物、ポリオール化合物、触媒、発泡剤、整泡剤、難燃剤を含む原料を反応させてなるポリウレタンフォームであって、イソシアネートインデックスが120?1000の範囲であり、」に訂正する(請求項2の記載を引用する請求項3も同様に訂正する。)。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項4を削除する。 なお、本件訂正前の請求項3?4は、訂正前の請求項1、2を直接又は間接的に引用するものであるから、本件訂正前の請求項1?4は、一群の請求項であり、本件訂正請求は、一群の請求項〔1?4〕に対して請求されたものである。 2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更 の存否 (1)訂正事項1 訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載されていた、「ポリイソシアネート化合物、ポリオール化合物、触媒、発泡剤、難燃剤を含む原料」について、本件明細書の【0022】?【0023】及び実施例1?76の記載に基づき、「整泡剤」を含む原料に限定するものである。 したがって、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。 (2)訂正事項2 訂正事項2は、訂正前の請求項2に記載されていた、「ポリイソシアネート化合物、ポリオール化合物、触媒、発泡剤、難燃剤を含む原料」について、本件明細書の【0022】?【0023】及び実施例1?76の記載に基づき、「整泡剤」を含む原料に限定するとともに、「ポリオール化合物の水酸基に対するポリイソシアネート化合物のイソシアネート基の当量比を百分率で表」わす「イソシアネートインデックス」を、訂正前の請求項4及び【0045】に記載されていた「120?1000の範囲」にすることで、訂正前の請求項2に記載されていた「ポリイソシアネート化合物」と「ポリオール化合物」の量比を限定するものである。 したがって、訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。 (3)訂正事項3 訂正事項3は、訂正前の請求項4を単に削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。 3.独立特許要件 本件特許異議の申立てがされている請求項1?4(全請求項)については、独立特許要件の検討を要しない。 4.まとめ 以上のとおりであるから、訂正事項1?3による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる目的に適合し、また、同法同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合するから、本件訂正を認める。 第3 訂正後の本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1?4に係る発明(以下、項番に従い、「本件訂正発明1」などといい、これらを総称して、「本件訂正発明」ということがある。また、本件特許の設定登録時の明細書を「本件明細書」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?4に記載された、以下の事項によって特定されるとおりのものである。下線は、訂正箇所を示す。 「【請求項1】 少なくとも、ポリイソシアネート化合物、ポリオール化合物、触媒、発泡剤、整泡剤、難燃剤を含む原料を反応させてなるポリウレタンフォームであって、 前記触媒が三量化触媒を含有し、 前記難燃剤が赤リンを含有し、前記赤リン以外にリン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ素含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤および金属水酸化物からなる群より選ばれる少なくとも一つを含有し、 ISO-5660の試験方法により準拠して、放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに、10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下であり、比重が0.030?0.130の範囲であることを特徴とするポリウレタンフォーム。 【請求項2】 少なくとも、ポリイソシアネート化合物、ポリオール化合物、触媒、発泡剤、整泡剤、難燃剤を含む原料を反応させてなるポリウレタンフォームであって、イソシアネートインデックスが120?1000の範囲であり、 前記触媒が三量化触媒を含有し、 前記難燃剤が赤リンを含有し、前記赤リン以外にリン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ素含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤および金属水酸化物からなる群より選ばれる少なくとも一つを含有し、 ISO-5660の試験方法により準拠して、放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに、20分経過時の総発熱量が12.7MJ/m^(2)以下であり、比重が0.030?0.130の範囲であることを特徴とするポリウレタンフォーム。 【請求項3】 前記難燃剤が、前記ポリイソシアネート化合物およびポリオール化合物からなるウレタン樹脂100重量部を基準として4.5?70重量部の範囲であり、 前記赤リンが、前記ウレタン樹脂100重量部を基準として3?18重量部の範囲であり、 前記赤リンを除く難燃剤が、前記ウレタン樹脂100重量部を基準として1.5?52重量部の範囲である請求項1または2に記載のポリウレタンフォーム。 【請求項4】(削除)」 第4 取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立理由の概要 1.取消理由通知書に記載した取消理由1,2の概要 取消理由通知書に記載した取消理由1、2の概要は、以下に示すとおりである。 (1)取消理由1(サポート要件) 整泡剤を含まない場合を包含する本件訂正前の請求項1?4に係る発明は、当業者が出願時の技術常識に照らして、発明の詳細な説明の記載により、当該発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えるものである。 また、比較例18によると、本件訂正前の請求項2?3に係る発明は、発明特定事項を満たすものであっても、ISO-5660の試験方法により準拠して加熱されたときに必ずしも一定の形状を保つとは認められないから、たとえ当業者であっても、当該発明の課題を解決できることを認識できるとはいえない。 したがって、本件の特許請求の範囲の記載に不備があり、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。 (2)取消理由2(実施可能要件) 本件訂正前の請求項1?4に係る発明において、整泡剤を含まない場合については、本件明細書の記載及び出願時の技術常識を参酌しても、「10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下」、「比重が0.030?0.130の範囲」を満たすポリウレタンフォームを製造することができるのか、当業者といえども理解できるとはいえず、当該発明に係るポリウレタンフォームを製造するためには、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を行うこととなると解される。 したがって、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件訂正前の請求項1?4に係る発明のうち、整泡剤を含まない場合について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえず、発明の詳細な説明の記載に不備があり、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。 2.特許異議申立理由の概要 申立人A、Bが主張する特許異議申立理由は、それぞれ以下のとおりである。 (1)申立人Aの特許異議申立理由 申立人Aは、下記の甲第1?9号証を提示して、同人が提出した本件特許異議申立書(以下、「申立書A」という。)において、本件特許には、以下の特許異議申立理由(以下、「申立理由A-1」?「申立理由A-4」という。)が存すると主張している。 ア.申立理由A-1 本件訂正前の請求項1?4に係る発明は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものでないから、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、本件訂正前の請求項1?4に係る発明についての特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 イ.申立理由A-2 本件訂正前の請求項1、3?4に係る発明は明確でないから、特許法第36条第6項第2号に適合するものではなく、本件訂正前の請求項1、3?4に係る発明についての特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 ウ.申立理由A-3 本件明細書の発明の詳細な説明の記載では、本件訂正前の請求項1、3?4に係る発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないものであって、本件訂正前の請求項1、3?4に係る発明についての特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 エ.申立理由A-4 本件訂正前の請求項1、3?4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は特許法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。 <申立人Aが提出した証拠方法> 申立人Aが、申立書Aに添付した証拠方法は、以下のとおりである。 甲第1号証:中国特許出願公開第102585148号明細書 甲第2号証:建材試験情報、Vol.52、2016年6月、pp.16 ?17、36 甲第3号証:硬質ポリウレタンフォームの火災及び防災に関するQ&A集 第2版、日本ウレタン工業協会 火災問題対策委員会、 2011年5月、pp.1?4、26?28、34?38 甲第4号証:ポリウレタン創製への道-材料から応用まで-、株式会社 シーエムシー出版、2010年9月23日、pp.140? 143 甲第5号証:特願2016-228416号における平成29年11月8日 付けの拒絶査定の写し 甲第6号証:特願2016-228416号における平成29年10月26 日に提出された手続補正書の写し 甲第7号証:特願2016-228416号における平成30年2月9日 に提出された手続補正書の写し 甲第8号証:特願2014-557418号における平成29年5月16日 に提出された意見書の写し 甲第9号証:申立人による甲第1号証における実施例1、4、6のイソシ アネートインデックスの計算書 (以下、申立人Aが提出した「甲第1号証」?「甲第9号証」を、「甲A1」?「甲A9」という。) (2)申立人Bの特許異議申立理由 申立人Bは、下記の甲第1?10号証を提示して、同人が提出した本件特許異議申立書(以下、「申立書B」という。)において、本件特許には、以下の特許異議申立理由(以下、「申立理由B-1」?「申立理由B-9」という。)が存すると主張している。 ア.申立理由B-1 本件訂正前の請求項1?4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は特許法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。 イ.申立理由B-2 本件訂正前の請求項1?4に係る発明は、甲第3号証に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は特許法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。 ウ.申立理由B-3 本件訂正前の請求項1?4に係る発明は、甲第4号証及び甲第5号証に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は特許法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。 エ.申立理由B-4 本件訂正前の請求項1?4に係る発明は、甲第6号証及び甲第5号証に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は特許法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。 オ.申立理由B-5 本件訂正前の請求項1、3?4に係る発明は、本件特許と出願日が同日である甲7に係る出願(特願2018-21501号)の訂正後の請求項6に記載された発明(甲8)と同一であり、かつ、当該出願に係る発明は特許されており協議を行うことができないから、特許法第39条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本件訂正前の請求項1、3?4に係る発明に係る特許は、特許法第39条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。 カ.申立理由B-6 本件訂正前の請求項1、4に係る発明は、本件特許と出願日が同日である甲9に係る出願(特願2019-9059号)の請求項4に記載された発明と同一であり、かつ、当該出願に係る発明は特許されており協議を行うことができないから、特許法第39条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本件訂正前の請求項1、4に係る発明に係る特許は、特許法第39条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。 キ.申立理由B-7 令和2年1月28日付け手続補正書でした補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないものであって、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないから、本件訂正前の請求項1、4に係る発明に係る特許は特許法第113条第1号の規定により取り消されるべきものである。 ク.申立理由B-8 本件訂正前の請求項1?4に係る発明は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものでないから、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、本件訂正前の請求項1?4に係る発明についての特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 ケ.申立理由B-9 本件訂正前の請求項1?4に係る発明は明確でないから、特許法第36条第6項第2号に適合するものではなく、本件訂正前の請求項1?4に係る発明についての特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 <申立人Bが提出した証拠方法> 申立人Bが、申立書Bに添付した証拠方法は、以下のとおりである。 甲第1号証:オーストラリア公開公報第199959328号 甲第2号証:吉田正友ら、建築基準法に基づく性能評価の概要及び防火材料 ・防耐火構造の性能評価の実際、GBRC、114、2003 、pp.39?46 甲第3号証:中国特許出願公開第102585148号明細書 甲第4号証:特開2008-088355号公報 甲第5号証:特公昭41-013154号公報 甲第6号証:特開2004-050495号公報 甲第7号証:特許第6481058号公報 甲第8号証:異議2019-700724号異議の決定 甲第9号証:特許第6626590号公報 申立人Bが、令和3年6月1日提出の意見書に添付した証拠方法は、以下のとおりである。 甲第10号証:異議2020-700436号異議の決定 (以下、申立人Bが提出した「甲第1号証」?「甲第10号証」を、「甲B1」?「甲B10」という。) 第5 当審の判断 訂正前の請求項4は、本件訂正により、その内容が削除され、申立ての対象を欠くものとなっており、請求項4に対する申立ては、その対象を欠き、不適法なもので、その治癒ができないものであるから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により、請求項4に係る特許に対する各特許異議の申立ては却下すべきものである。 また、以下で述べるように、本件訂正発明1?3に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由1、2、申立人Aによる申立理由A-1?A-4及び申立人Bによる申立理由B-1?B-9によっては、取り消すことができない。 1.取消理由通知書に記載した取消理由1、2の判断 取消理由通知書に記載した取消理由1、2は、上記の第4の1.(1)、(2)で述べたとおり、整泡剤を含まない場合を包含する本件訂正前の請求項1?4に係る発明は、当業者が出願時の技術常識に照らして、発明の詳細な説明の記載により、当該発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えるものであり、また、当該発明に係るポリウレタンフォームを製造するためには、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を行うことになる、というものである。 また、比較例18によると、本件訂正前の請求項2?3に係る発明は、発明特定事項を満たすものであっても、ISO-5660の試験方法により準拠して加熱されたときに必ずしも一定の形状を保つとは認められないから、たとえ当業者であっても、当該発明の課題を解決できることを認識できるとはいえない、というものである。 これに対して、本件訂正により、訂正前の請求項1、2に「整泡剤」が加えられ、比較例18が範囲外となるように、訂正前の請求項4に記載されていた「イソシアネートインデックスが120?1000の範囲」が訂正前の請求項2に加えられたので、訂正後の請求項1?3に係る発明(本件訂正発明1?3)は、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとなり、また、当該発明に係るポリウレタンフォームの製造に、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を要しないものとなった。 したがって、取消理由通知書に記載した取消理由1、2は、本件訂正により解消したので、本件訂正発明1?3に係る特許は、上記の取消理由1、2により取り消すことはできない。 2.取消理由通知において採用しなかった申立人A、Bによる申立理由に ついて (1)申立人Aによる申立理由の検討 ア.申立理由A-1 (ア)サポート要件の考え方 特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(平成17年(行ケ)第10042号大合議判決)。 (イ)申立人Aが主張するサポート要件違反 申立人Aは、請求項1におけるポリウレタンフォームの原料構成、総発熱量及び比重の記載から、ポリウレタンフォームが「加熱されたときに一定の形状を保つ」という効果を奏するものであることを読み取ることができず、本件明細書をみても、10分経過時に「加熱されたときに一定の形状を保つ」ことに関する詳しい説明は一切なく、さらに本件明細書の実施例(表1ないし表8) にも、10分経過時における試験用サンプルの状態に関する記載はないから、本件訂正発明1には、10分経過時に「加熱されたときに一定の形状を保つ」ポリウレタンフォームと、そうではないものの両方が含まれ、後者については発明の詳細な説明に記載したものではないと、主張する。 なお、申立人Aは、訂正前の請求項2に記載されている要件は、発明の課題である「加熱されたときに一定の形状を保つ」ポリウレタンフォームだけではなく、そうではないポリウレタンフォーム(比較例18)も該当し、訂正前の請求項2、3に係る発明は、サポート要件に違反していると主張しているが、当該申立理由は、上記1での検討のとおり、本件訂正により解消された。 (ウ)本件明細書の記載事項 本件明細書の発明の詳細な説明には、次のような記載がある。 「【0021】 本発明の目的は、取り扱いが容易であり、難燃性に優れ、加熱されたときに一定の形状を保つ発泡体を形成することのできる難燃性ウレタン樹脂組成物を提供することにある。」 「【課題を解決するための手段】 【0022】 前記課題を解決するために本発明者らが鋭意検討した結果、ポリイソシアネート化合物、ポリオール化合物、三量化触媒、発泡剤、整泡剤および添加剤を含み、前記添加剤が赤リンを必須成分とする難燃性ウレタン樹脂組成物が、本発明の目的に適うことを見出し、本発明を完成するに至った。… 【発明の効果】 【0032】 本発明によれば、取り扱いが容易であり、難燃性に優れ、加熱されたときに一定の形状を保つ発泡体を与える難燃性ウレタン樹脂組成物を提供することができる。」 「【実施例1】 【0102】 表1に示した配合により、実施例1に係る難燃性ウレタン樹脂組成物を(A)成分?(C)成分の三つに分割して準備した。なお表1?10に示した各成分の詳細は次の通りである。 【0103】 (A)成分:ポリオール化合物 (a)ポリオール化合物 ・A-1:ポリオール1 p-フタル酸ポリエステルポリオール(川崎化成工業社製、製品名: マキシモールRFK-505、水酸基価=250mgKOH/g) ・A-2:ポリオール2 o-フタル酸ポリエステルポリオール(川崎化成工業社製、製品名: マキシモールRDK-142、水酸基価:400mgKOH/g) ・A-3:ポリオール3 o-フタル酸ポリエステルポリオール(川崎化成工業社製、製品名: マキシモールRDK-121、水酸基価:260mgKOH/g) ・A-4:ポリオール4 p-フタル酸ポリエステルポリオール(川崎化成工業社製、製品名: マキシモールRLK-035、水酸基価:150mgKOH/g) ・A-5:ポリオール5 ポリエーテルポリオール(三井化学社製、製品名:アクトコールT- 400、水酸基価:399mgKOH/g) ・A-6:ポリオール6 ポリエーテルポリオール(三井化学社製、製品名:アクトコールT- 700、水酸基価:250mgKOH/g) ・A-7:ポリオール7 ポリエーテルポリオール(三井化学社製、製品名:アクトコールGR84T 、水酸基価:454mgKOH/g) ・A-8:ポリオール8 ポリエーテルポリオール(三井化学社製、製品名:アクトコールSOR 400、水酸基価:397mgKOH/g) (b)整泡剤 ポリアルキレングリコールを含む整泡剤(東レダウコーニング社製、 製品名:SH-193) (c)触媒 [三量化触媒] ・B-1:2-エチルヘキサン酸カリウム(東京化成工業社製、製品コード :P0048) ・B-2:3量化触媒(東ソー社製、製品名:TOYOCAT-TR20) ・B-3:3量化触媒(東栄化工社製、製品名:ヘキサエートカリウム 15%) [ウレタン化触媒] ・ペンタメチルジエチレントリアミン(東ソー社製、製品名:TOYOCA T-DT) (d)発泡剤 ・水 ・HFC-365mfc(1、1、1、3、3-ペンタフルオロブタン、 セントラル硝子社製)HFC-245fa(1、1、1、3、3-ペンタ フルオロプロパン、日本ソルベイ社製)混合比率:HFC-365mfc :HFC-245fa = 7:3(重量比。以下「HFC」という) ・ペンタン 【0104】 (B)成分:イソシアネート化合物(以下、「ポリイソシアネート」という。) MDI(日本ウレタン工業社製、製品名:ミリオネートMR-200)粘度:167mPa・s 【0105】 (C)成分:添加剤 ・C-1:赤リン(燐化学工業社製、製品名:ノーバエクセル140) ・C-2:リン酸二水素アンモニウム(太平化学産業社製) ・C-3:トリス(β?クロロプロピル)ホスフェート(大八化学社製、 製品名:TMCPP、以下「TMCPP」という。) ・C-4:ヘキサブロモベンゼン(マナック社製、製品名:HBB-b、 以下「HBB」という。) ・C-5:ホウ酸亜鉛(早川商事社製、製品名:Firebrake ZB) ・C-6:三酸化アンチモン(日本精鉱社製、製品名:パトックスC) ・C-7:水酸化アルミニウム(アルモリックス社製、製品名:B- 325) ・C-8:リン酸水素二アンモニウム(太平化学産業社製) ・C-9:第一リン酸アルミニウム(太平化学産業社製) ・C-10:第一リン酸ナトリウム(太平化学産業社製) ・C-11:ポリリン酸アンモニウム(クラリアントジャパン社製、 製品名:AP422) ・C-12:含ハロゲン縮合リン酸エステル(大八化学社製、製品名: DAIGUARD-540) ・C-13:非ハロゲン縮合リン酸エステル(大八化学社製、製品名: CR-733S) ・C-14:エチレン-ビス(テトラブロモフタルイミド)(アルベマール 社製、製品名:SAYTEXBT-93、以下「EBTBPI」という。 ) ・C-15:エチレン-ビス(ペンタブロモフェニル)(アルベマール社製、製品名:SAYTEX8010、以下「EBPBP」という。) 【0106】 次に下記の表1の配合に従い、ポリオール化合物の(A)成分および添加剤の(C)成分を1000mLポリプロピレンビーカーにはかりとり、25℃、1分間手混ぜで撹拌した。 撹拌後の(A)成分および(C)成分の混練物に対して(B)成分を加え、ハンドミキサーで約10秒間攪拌し発泡体を作成した。 得られた難燃性ウレタン樹脂組成物は時間の経過と共に流動性を失い、難燃性ウレタン樹脂組成物の発泡体を得た。前記発泡体を下記の基準により評価し、結果を表1に示した。 【0107】 [熱量の測定] 硬化物から10cm×10cm×5cmになるようにコーンカロリーメーター試験用サンプルを切り出し、ISO-5660に準拠し、放射熱強度50kW/m^(2)にて20分間加熱したときの最大発熱速度、総発熱量を測定した。 結果を表1?10に記載した。 この測定方法は、建築基準法施行令第108条の2に規定される公的機関である建築総合試験所にて、コーンカロリーメーター法による基準に対応するものとして規定された試験法であり、ISO-5660の試験方法に準拠したものである。 【0108】 [膨張の測定] 前記ISO-5660の試験を実施したときに、膨張後の成形体が点火器に接触した場合は×、接触しなかった場合は○として表1?10に記載した。 【0109】 [変形(ヒビ割れ)の測定] 前記ISO-5660の試験を実施したときに、前記試験用サンプルの裏面まで到達する変形が見られた場合は×、裏面まで到達する変形が見られなかった場合は○として表1?10に記載した。 【0110】 [収縮の測定] 前記ISO-5660の試験を実施したときに、前記試験用サンプルの横方向に1cm以上かつ厚み方向に5mm以上の変形が見られた場合は×、変形が見られなかった場合は○として表1?10に記載した。 【0111】 [総合評価] 前記熱量の測定、膨張の測定、変形(ヒビ割れ)の測定および収縮の測定の全ての測定結果が○のものを「OK」、それ以外を「NG」として表1?10に記載した。 【0112】 【表1】 ![]() 」 「【0132】 【表2】 ![]() 」 「【0143】 【表3】 ![]() 」 「【0154】 【表4】 ![]() 」 「【0165】 【表5】 ![]() 」 「【0176】 【表6】 ![]() 」 「【0187】 【表7】 ![]() 」 「【0198】 【表8】 ![]() 」 「【0205】 【表9】 ![]() 」 「【0217】 【表10】 ![]() 」 (エ)本件訂正発明が解決しようとする課題 本件明細書の【0021】によると、本件訂正発明は、取り扱いが容易であり、難燃性に優れ、加熱されたときに一定の形状を保つ発泡体(ポリウレタンフォーム)を提供することを課題にしたものと認められる。 (オ)本件訂正発明1、3がサポート要件を充足するか 本件明細書の実施例1?76(表1?8)には、「ポリイソシアネート化合物、ポリオール化合物、三量化触媒、発泡剤、整泡剤および難燃剤」を含み、難燃剤として、「赤リン」と「リン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ素含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤および金属水酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一つ」を原料としたポリウレタンフォーム(発泡体)を、ISO-5660の試験方法により準拠して、放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに、「10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下」、「20分経過時の総発熱量が12.7MJ/m^(2)以下」となること、かかるポリウレタンフォームは、20分経過時の膨張、変形(ヒビ割れ)及び収縮が、いずれも「○」であり、難燃性に優れ、加熱されたときに一定の形状を保つことが示されている。 これに対し、同比較例1?10(表9)、11(表10)には、三量化触媒、発泡剤、赤リン、赤リン以外の添加剤のいずれかを欠いた組成物を原料とするポリウレタンフォーム、比較例12?17、19?21(表10)には、「10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下」、「20分経過時の総発熱量が12.7MJ/m^(2)以下」を満たさないポリウレタンフォーム、比較例18には、イソシアネートインデックスが「120?1000の範囲」を満たさないポリウレタンフォームが記載され、これらのポリウレタンフォームは、20分加熱時の膨張、変形(ヒビ割れ)及び収縮のいずれかが劣っていたり、発泡不可であったりすることが示されている。 また、本件明細書の記載(【0003】)によれば、アルミノケイ酸塩類を多量に使用しなければ、流動性が確保できるため、取り扱いやすくなると解されるところ、実施例1?76のポリウレタンフォームは、アルミノケイ酸塩類を含むものではないから、取り扱いが容易なものであることは、明らかといえる。 そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明より、本件訂正発明1、3のポリウレタンフォームは、難燃性に優れ、加熱されたときに一定の形状を保ち、取り扱いが容易であることを理解できるから、本件訂正発明1、3は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載より、当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものと認められる。 ここで、申立人Aは、異議申立書の9頁、令和3年6月4日提出の意見書(申立人A)の意見書の2頁において、本件明細書には、10分経過時に「加熱されたときに一定の形状を保つ」ことに関する詳しい説明は一切なく、実施例にも、10分経過時における試験用サンプルの状態に関する記載はないから、本件訂正発明1には、10分経過時に「加熱されたときに一定の形状を保つ」ポリウレタンフォームと、そうではないものの両方が含まれるとして、後者については発明の詳細な説明に記載したものではない旨を主張する。 しかし、本件訂正発明の解決しようとする課題は、上記(エ)のとおり、10分経過時における一定の形状を保つことに限定されるものではないから、申立人Aの主張は、その前提に誤りがあるというべきであり、上記(エ)の課題に照らすと、10分経過時の形状の説明や試験用サンプルの状態に関する記載が、本件明細書の発明の詳細な説明に必ずしも必要であるとは認められないから、そもそも、申立人Aの主張は、理由がない。 もっとも、「膨張、変形(ヒビ割れ)及び収縮」は、経過時間に応じて増大するものと考えられるところ、20分経過時に一定の形状を保っている実施例1?76(表1?8)において、その10分前の10分経過時に一定の形状を保っていなかったことは、通常想定できない。 よって、実施例1?76(表1?8)の記載から、本件訂正発明1のポリウレタンフォームに、10分経過時に「一定の形状を保つ」ことのできないポリウレタンフォームが含まれていることは推認できない。 したがって、本件訂正発明1は、加熱後10分経過後も加熱後20分経過後も、一定の形状を保つものであり、上記課題を解決できるものと認められるから、いずれにしても、申立人Aの主張には理由がない。 (カ)小括 以上のとおり、本件訂正発明1、3は、申立理由A-1により、特許請求の範囲の記載がサポート要件に違反しているとはいえない。 イ.申立理由A-2 (ア)明確性要件の考え方 特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術的常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである(平成28年(行ケ)第10236号事件判決、平成29年(行ケ)第10081号事件判決、令和元年(行ケ)第10173号事件判決等)。 (イ)申立人Aが主張する明確性要件違反 申立人Aは、本件訂正発明1では、ポリウレタンフォームがいかなる構成・性質を有するときに、10分経過時に「加熱されたときに一定の形状を保つ」という発明の効果を奏するポリウレタンフォームが得られるのか特定を要するところ、特定されていないから、特許を受けようとする発明が明確ではない、と主張している。 (ウ)本件訂正発明1、3は明確性要件を充足するか 上記の明確性要件の考え方に照らすと、本件訂正発明1、3に記載されている技術用語は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確なものとは認められないし、「総発熱量」も、測定方法や測定条件が特定され、不明確な点はないから、本件訂正発明1、3は、いずれも明確である。 よって、10分経過時に「加熱されたときに一定の形状を保つ」ポリウレタンフォームに係る構成・性質を、本件訂正発明1において、特定する必要があるとはいえない。 (エ)小括 以上のとおり、本件訂正発明1、3は、申立理由A-2により、特許請求の範囲の記載が明確性要件に違反しているとはいえない。 ウ.申立理由A-3 (ア)実施可能要件の考え方 発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するというためには、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があることを要するものであり(令和2年(行ケ)第10033号事件判決、令和元年(行ケ)第10173号事件判決、平成30年(行ケ)第10043号事件判決)、物の発明について上記実施可能要件を充足するためには、明細書の発明の詳細な説明において、当業者が、明細書の発明の詳細な記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、かつ、使用することができる程度の記載があることを要する(平成27年(行ケ)第10249号事件判決)。 (イ)申立人Aが主張する実施可能要件違反 申立人Aは、本件明細書の実施例1?76には、10分経過時において、試験用サンプルの形状が「加熱されたときに一定の形状を保つ」ケースと、そうでないケースが含まれているが、これらは区別がつかないし、そもそも本件明細書には、10分経過時における「一定の形状」を評価する基準も記載されていないので、発明の詳細な説明の記載は、当業者が発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない旨を主張する。 (ウ)本件訂正発明1、3は実施可能要件を充足するか 本件明細書の実施例には、実施例1?76(表1?8)の難燃性ウレタン樹脂組成物を原料とするポリウレタンフォーム(発泡体)の製造方法が具体的に記載され、【0033】?【0086】には、実施例1?76(表1?8)で使用されているもの以外の原料や配合量等に関する情報も多数掲載されているので、本件訂正発明1、3のポリウレタンフォームは、本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき、当業者が、過度の試行錯誤を要することなく生産できるものと認められる。 また、同実施例には、かかるポリウレタンフォームが、難燃性に優れ、加熱されたときに一定の形状を保つことができることが、比較例を交えた実験結果により説明されているので、本件訂正発明1、3のポリウレタンフォームは、本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき、当業者が、過度の試行錯誤を要することなく使用することができるものと認められる。 上記の実施可能要件の考え方に照らすと、本件明細書の実施例1?76に、10分経過時において、試験用サンプルの形状が一定の形状を保つものとそうでないものが含まれる可能性があること、及び、本件明細書に10分経過時における「一定の形状」を評価する基準が記載されていないことが、上記の本件訂正発明1、3の実施可能要件の判断を左右するとは認められない。 (エ)小括 以上のとおり、本件訂正発明1、3は、申立理由A-3により、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に違反しているとはいえない。 エ.申立理由A-4 (ア)甲A1に記載された発明 甲A1の訳文として、申立人Aが提出した抄訳を用いる。 甲A1の[0046]、[0053]?[0077]の記載のうち、特に、実施例1、4、6に着目すると、甲A1には、以下の発明が記載されていると認められる。 「ポリオール3(無水フタル酸、テレフタル酸とDEGとを重縮合してなる、水酸基価が260mgKOH/gで平均官能価が2のポリオール)5重量%、ポリオール5(トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、テレフタル酸とDEGとを重縮合してなる、水酸基価が250mgKOH/gで平均官能価が3のポリオール)15重量%、ポリオール6(トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートを開始剤として、クロロプロピレンオキシドと開環重合させて得られる、水酸基価が286mgKOH/gで平均官能価が3のポリオール)10重量%、ポリオール7(エチレンジアミンを開始剤としてポリエチレンオキシド/プロピレンオキシドと重合してなる、重量平均分子量が300で、平均官能価が4のポリオール)7重量%、活性水素原子を含む低分子量ポリオール(グリロール)1重量%、反応性難燃剤(FR-130(…テトラブロモビスフェノールAとエチレンオキシド/プロピレンオキシドとの反応生成物を主体とする反応型難燃剤であり、水酸基価は130mgKOH/g)5重量%、固体難燃剤1(RM4-7081(…シリコーン難燃剤)5重量%、固体難燃剤2(HP1250(…赤リン)5重量%、液体有機難燃剤(トリス(2-クロロプロピル)ホスフェート60wt%とトリエチルホスフェート40wt%の混合物)30重量%、 水(蒸留水)1.5重量%、触媒(15wt%のPC5、25wt%のPC8、25wt%のPC46、35wt%のTMR-2、の混合物(PC5、PC8、PC46、TMR-2はいずれも、気体製品及び化学会社製造のアミン類、第4級アンモニウム塩類触媒)4重量%、フォーム安定剤 (B8525(…ポリシロキサン化合物)1.5重量%、発泡剤(HCFC-141b)(…ジクロロフルオロエタン)10重量%、ポリイソシアネート(…PM400、そのNCO含量は 30.9%)135重量%、を含む、高難燃性ポリイソシアヌレートフォーム調製用の原材料を用いて調整されるフォーム密度が78.2kg/m^(3)ポリイソシアヌレートフォーム。」(以下、「甲A1発明1」という。) 「ポリオール2(無水フタル酸とDEGとを重縮合してなる、水酸基価が200mgKOH/gで平均官能価が2のポリオール)25重量%、ポリオール4(テレフタル酸ジメチル、DEG、アジピン酸を原料として、エステル交換反応、重縮合などの反応を実施してなる、水酸基価が250mgKOH/gで平均官能価が2のポリオール)10重量%、ポリオール7(エチレンジアミンを開始剤としてポリエチレンオキシド/プロピレンオキシドと重合してなる、重量平均分子量が300で、平均官能価が4のポリオール)3重量%、反応型難燃剤(FR-130(…テトラブロモビスフェノールAとエチレンオキシド/プロピレンオキシドとの反応生成物を主体とする反応型難燃剤、水酸基価が130mgKOH/g)8重量%、固体難燃剤1(RM4-7081(…シリコーン難燃剤)5重量%、固体難燃剤2(HP1250(…赤リン)10重量%、液体有機難燃剤(トリス(2-クロロプロピル)ホスフェート60wt%とトリエチルホスフェート40wt%の混合物)13重量%、水(蒸留水)2重量%、触媒(15wt%のPC5、25wt%のPC8、25wt%のPC46、35wt%のTMR-2の混合物(PC5、PC8、PC46、TMR-2はいずれも、気体製品及び化学会社製造のアミン類、第4級アンモニウム塩類触媒))3重量%、フォーム安定剤(B8525(…ポリシロキサン化合物)3重量%、発泡剤(HCFC-141b(…ジクロロフルオロエタン)18重量%、ポリイソシアネート(…PM400、そのNCO含量は30.9%)160重量%、を含む、高難燃性ポリイソシアヌレートフォーム調製用の原材料を用いて調整されるフォーム密度が40.5kg/m^(3)のポリイソシアヌレートフォーム。」 (以下、「甲A1発明2」という。) 「ポリオール5(トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、テレフタル酸とDEGとを重縮合してなる、水酸基価が250mgKOH/gで平均官能価が3のポリオール)38重量%、ポリオール6(トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートを開始剤として、クロロプロピレンオキシドと開環重合して調製される、水酸基価が286mgKOH/gで平均官能価が3のポリオール)14重量%、ポリオール7(エチレンジアミンを開始剤としてポリエチレンオキシド/プロピレンオキシドと重合してなる、重量平均分子量が300で、平均官能価が4のポリオール)2重量%、反応型難燃剤(FR-130(…テトラブロモビスフェノールAとエチレンオキシド/プロピレンオキシドとの反応生成物を主体とする反応型難燃剤であり、水酸基価は130mgKOH/g)6重量%、固体難燃剤2(HP1250(…赤リン)3重量%、液体有機難燃剤(トリス(2-クロロプロピル)ホスフェート60wt%とトリエチルホスフェート40wt%の混合物)18重量%、水(蒸留水)0.3重量%、触媒(15wt%のPC5、25wt%のPC8、25wt%のPC46、35wt%のTMR-2の混合物(PC5、PC8、PC46、TMR-2はいずれも、気体製品・化学会社製造のアミン類、第4級アンモニウム塩類触媒))1.5重量%、フォーム安定剤(B8525(…ポリシロキサン化合物)2重量%、発泡剤(HCFC-141b(…ジクロロフルオロエタン)15.2重量%、ポリイソシアネート(…PM400、そのNCO含量は30.9%)170重量%、を含む、高難燃性ポリイソシアヌレートフォーム調製用の原材料を用いて調整されるフォーム密度が56.9kg/m^(3)のポリイソシアヌレートフォーム。」 (以下、「甲A1発明3」という。) (イ)本件訂正発明1の進歩性の判断 a.対比 本件訂正発明1と甲A1発明1?3とをまとめて対比する。 甲A1発明1?3の「ポリオール2」?「ポリオール7」は、いずれも、本件訂正発明1における「ポリオール化合物」に相当する。 甲A1発明1?3の「ポリイソシアネート」は、本件訂正発明1における「イソシアネート化合物」に相当する。 甲A1発明1?3の「触媒」は、「アミン類、第4級アンモニウム塩類」であるところ、本件明細書の【0046】?【0047】及び【0049】?【0050】の記載に照らすと、甲A1発明1?3の「アミン類」、「第4級アンモニウム塩類」は、本件訂正発明1の「触媒」、「三量化触媒」にそれぞれ相当する。 甲A1発明1?3の「水」、「発泡剤」は、本件明細書の【0052】の記載から、本件訂正発明1における「発泡剤」に相当する。 甲A1発明1?3の「フォーム安定剤」は、本件訂正発明1の「整泡剤」に相当する。 甲A1発明1?3の「固体難燃剤2」は「赤リン」を含むものであるから、本件訂正発明1の「赤リン」である「難燃剤」に相当する。 甲A1発明1?3の「液体有機難燃剤」は、「トリス(2-クロロプロピル)ホスフェート60wt%とトリエチルホスフェート40wt%の混合物」であり、本件訂正発明1の「赤リン以外」の「難燃剤」である「リン酸エステル」に相当する。 甲A1発明1?3のフォーム密度は「40.5kg/m^(3)」?「78.2kg/m^(3)」であり、g/cm^(3)に換算すると、0.0405?0.0782になるから、本件訂正発明1の比重である「0.030?0.130」と一致する。 そうすると、本件訂正発明1と甲A1発明1?3は、 「少なくとも、ポリイソシアネート化合物、ポリオール化合物、触媒、発泡剤、整泡剤、難燃剤を含む原料を反応させてなるポリウレタンフォームであって、 前記触媒が三量化触媒を含有し、 前記難燃剤が赤リンを含有し、前記赤リン以外にリン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ素含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤および金属水酸化物からなる群より選ばれる少なくとも一つを含有する、比重が0.030?0.130の範囲であることを特徴とするポリウレタンフォーム。 」で一致し、 本件訂正発明1では、ポリウレタンフォームが「ISO-5660の試験方法により準拠して、放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに、10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下」であるのに対して、 甲A1発明1?3では、ISO-5660の試験方法により準拠した、ポリウレタンフォームの10分経過時の総発熱量が特定されていない点(相違点1) で相違している。 b.相違点1の検討 甲A1発明1?3は、固体難燃剤2(赤リン)及び液体有機難燃剤を含むものであり、一定程度の難燃性を備えたものと解されるが、本件明細書の表10の比較例14?15、17?18、21には、赤リン(C1)とTMCPP(トリス(β?クロロプロピル)ホスフェート)(C3)を併用した場合でも、「7.8MJ/m^(2)以下」にならない処方が記載されているので、甲A1発明1?3の配合成分、配合量より、相違点1で挙げた本件訂正発明1の特定事項が得られることは推認できない。 なお、甲A1の10頁の表には、「600s内総熱量放出量(MJ)という項目があり、測定試験標準を「GB/T20284-2006」とした数値として、実施例1に「8」、実施例4に「9」、実施例6に「5」という数値が記載されているが、甲A8の表1によると、「ISO-5660」と「GB/T20284-2006」は、加熱条件、判定基準が大きく異なっており、加熱条件に着目すれば、「ISO-5660」の方が「GB/T20284-2006」よりも厳しい条件が採用されていると認められるので、いずれにしても、甲A1発明1?3のポリウレタンフォームが、「ISO-5660の試験方法により準拠して、放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに、10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下」を示すことは推認できない。 また、甲A2(第16頁右欄「2.方法」)、甲A3(第28頁「表1」)には、建築防火材料用難燃性試験基準に関し、準不燃材料では、コーンカロリメーター試験(ISO 5660-1 at 50KW/m^(2))で、「≦8MJ/m^(2) and ≦200kw/m^(2)」(加熱時間10分)あること、不燃材料では、同試験で、「≦8MJ/m^(2) and ≦200kw/m^(2)」(加熱時間20分)であることが記載され、甲A6(第142頁第5行?第6行)には、建築基準法の法改正にともない、防火材料性能試験(難燃・準不燃・不燃材料)も国際的標準化(ISO-5660:コーンカロリーメーター)されたことが記載されている。 しかし、甲A1発明1?3において、どの配合成分に着目し、どの程度配合量を変更することにより、甲A2、甲A3に記載される建築防火材料用難燃性試験基準に適合することができるのか、その目安となるような記載は、甲A1や他の証拠に何ら見当たらない。 また、本件訂正発明は、取り扱いが容易であり、難燃性に優れ、加熱されたときに一定の形状を保つ発泡体(ポリウレタンフォーム)を提供することを課題にしたものであるところ(2(1)ア(エ))、甲A1の10頁の表には、「-30℃48時間寸法安定性」、「70℃48時間寸法安定性」についての記載はあるものの、「ISO-5660の試験方法により準拠して、放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに、10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下」である要件を満たすポリウレタンフォームが、おしなべて「加熱されたときに一定の形状を保つ」ことができることを窺わせる記載は、甲A1や他の証拠に何ら存在しない。 そうすると、甲A1発明1?3において、相違点1として挙げた本件訂正発明1の発明特定事項を採用することが、当業者に容易に想到し得たということはできないうえ、本件訂正発明1が「加熱されたときに一定の形状を保つ」という効果が奏することも、当業者が予測し得る範囲のものとは認められない。 c.小括 以上のとおり、本件訂正発明1は、甲A1に記載された発明とはいえず、甲A1に記載された発明と甲A2?甲A4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 (イ)本件訂正発明3の進歩性の判断 本件訂正発明3は、本件訂正発明1を引用するものであるから、本件訂正発明1と同様に、甲A1発明1?3とは、相違点1で相違するが、相違点1として挙げた本件訂正発明1の発明特定事項は、当業者が容易になし得たものとはいえない。 したがって、本件訂正発明3は、甲A1に記載された発明とはいえず、甲A1に記載された発明と甲A2?甲A4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 オ.申立人Aによる申立理由の検討のまとめ 以上のとおり、本件訂正発明1、3に係る特許は、申立人Aによる申立理由A-1?A-4により取り消すことはできない。 (2)申立人Bによる申立理由の検討 ア.申立理由B-1 (ア)甲B1に記載された発明 甲B1の訳文として、申立人Bが提出した訳文を用いる。 甲B1の請求項1、3、19、25、28?32と表3に記載された密度に着目すると、甲B1には、以下の発明が記載されていると認められる。 「耐火難燃性フォームの製造に使用する、ポリオール成分(A)とポリイソシアネート成分(B)との反応性2成分ポリウレタンフォーム組成物において、39.5?92.2wt%のポリエステルアルコール(ポリオール)、三量化触媒を含有する0.6?4.0wt%の触媒、0.2?1.4wt%の化学発泡剤、6.5?32.5wt%の物理発泡剤、0.1?1.0wt%の整泡剤、0.5?22.5wt%の赤リン、0?3.4wt%のポリリン酸アンモニウム塩、0?5.0wt%のホスフェート、ボレート、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の酸化物、水酸化物などの無機難燃添加剤、0?3.4wt%のリン酸エステルなどの有機難燃添加剤を含有するポリオール成分(A)と、78.9?99.9 wt%の有機ポリイソシアネート、0.1?21.lwt%の物理発泡剤を含有するポリイソシアネート成分(B)とであって、ポリオール成分(A)の水酸基に対するポリイソシアネート成分(B)のイソシアネート基の比が1.4?3.0である、これらの成分を反応させてなる、密度75kg/m^(3)のポリウレタンフォーム。」 (以下、「甲B1発明1」という。) また、甲B1の請求項1、3、表1に記載されたA1)、A2)、A5)、A6)、A9)、A10)、A11)、表2に記載されたB1)、表3に記載された密度に着目すると、申立人Bが主張するように、甲B1には、以下の発明が記載されていると認められる。 「耐火難燃性フォームの製造に使用する、ポリオール成分(A)とポリイソシアネート成分(B)との反応性2成分ポリウレタンフォーム組成物において、54.4wt%(48.9+3.8+1.4+0.3)のポリオール、0.2?1.4wt%の化学発泡剤、6.5?32.5wt%の物理発泡剤、0.1?1.0wt%の整泡剤、7.6wt%の赤リン、3.2wt%のポリリン酸アンモニウム塩、7.0wt%のトリクロロプロピルホスフェート及び5.4wt%のトリエチルホスフェートを含有するポリオール成分(A)と、88.2wt%の有機ポリイソシアネートを含有するポリイソシアネート成分(B)とであって、ポリオール成分(A)の水酸基に対するポリイソシアネート成分(B)のイソシアネート基の比が1.4?3.0である、これらの成分を反応させてなる、密度75kg/m^(3)のポリウレタンフォーム。」(以下、「甲B1発明2」という。) (イ)本件訂正発明1の進歩性の判断 a.対比 本件訂正発明1と甲B1発明1?2とをまとめて対比する。 甲B1発明1?2の「ポリオール」、「有機ポリイソシアネート」は、それぞれ、本件訂正発明1における「ポリオール化合物」、「イソシアネート化合物」に相当する。 甲B1発明1?2の「三量化触媒」を含有する「触媒」は、本件訂正発明1の「三量化触媒」、「触媒」にそれぞれ相当する。 甲B1発明1?2の「化学発泡剤」及び「物理発泡剤」は、本件訂正発明1の「発泡剤」に相当する。 甲B1発明1の「ポリリン酸アンモニウム塩」、「ホスフェート、ボレート、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の酸化物、水酸化物などの無機難燃添加剤」、「リン酸エステルなどの有機難燃添加剤」、甲B1発明2の「ポリリン酸アンモニウム塩」、「トリクロロプロピルホスフェート」及び「トリエチルホスフェート」は、本件訂正発明1の「赤リン以外」の「難燃剤」である「リン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ素含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤および金属水酸化物からなる群より選ばれる少なくとも一つ」に相当する。 甲B1発明1?2の「密度75kg/m^(3)」は、g/cm^(3)に換算すると、「0.075」になるから、本件訂正発明1の比重である「0.030?0.130」と一致する。 そうすると、本件訂正発明1と甲B1発明1?2は、 「少なくとも、ポリイソシアネート化合物、ポリオール化合物、触媒、発泡剤、整泡剤、難燃剤を含む原料を反応させてなるポリウレタンフォームであって、 前記触媒が三量化触媒を含有し、 前記難燃剤が赤リンを含有し、前記赤リン以外にリン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ素含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤および金属水酸化物からなる群より選ばれる少なくとも一つを含有する、比重が0.030?0.130の範囲であることを特徴とするポリウレタンフォーム。」で一致し、 本件訂正発明1では、ポリウレタンフォームが「ISO-5660の試験方法により準拠して、放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに、10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下」であるのに対して、 甲B1発明1?2では、ISO-5660の試験方法により準拠した、ポリウレタンフォームの10分経過時の総発熱量が特定されていない点(相違点4) で相違している。 b.相違点4の検討 甲B1発明1?2は、赤リンと、ポリリン酸アンモニウム塩、トリクロロプロピルホスフェート及びトリエチルホスフェート等とを併用した組成物であるから、一定程度の難燃性を備えたものと解されるが、本件明細書の表10の比較例14?15、17?18、21には、赤リン(C1)とTMCPP(トリス(β?クロロプロピル)ホスフェート)(C3)を併用した場合でも、「7.8MJ/m^(2)以下」にならない処方が記載されているので、甲B1発明1?2の配合成分、配合量より、相違点4で挙げた本件訂正発明1の特定事項が得られることは推認できない。 また、甲B2(42頁右欄下から12行?42頁左欄6行)には、「発熱性試験(ISO 5660-1)」に準拠する試験法では「試険体…を水平に置き、その上方からコーン型の電気ヒーターにより50kW/m^(2)の輻射加熱(フラッシュオーバ一時の輻射強度に近い値)を与え、電気スパークの口火により着火させ、燃焼性を発熱量により判定する(試験時間20、10、5分間)。発熱量は燃焼ガス分析による酸素消費量から求められる。また、試験体の亀裂や溶融について目視により評価する。[判定基準:総発熱量8MJ/m^(2)以下。発熱速度が10秒以上継続して200KW/面を超えないこと。防火上有害な裏面まで達する亀裂及び穴がないこと。]」が記載されている。 しかし、甲B1発明1?2において、どの配合成分に着目し、どの程度配合量を変更することで、甲B2に記載される発熱性試験(ISO 5660-1)に適合することができるのか、その目安となるような記載は、甲B1や他の証拠に何ら見当たらない。 また、本件訂正発明は、取り扱いが容易であり、難燃性に優れ、加熱されたときに一定の形状を保つ発泡体(ポリウレタンフォーム)を提供することを課題にしたものであるところ(2(1)ア(エ))、甲B1には、「従来のポリウレタンフォームとは対照的に、本発明の2成分ポリウレタンフォーム組成物から製造されたフォームは、フォームが250℃から450℃の範囲の温度に加熱された場合、フォームの滴下または流動を示さない。このフォームで閉じられた解放箇所は、閉じられたままである。」(32頁19行?33頁3行)と記載されるだけで、「ISO-5660の試験方法により準拠して、放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに、10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下」である要件を満たすポリウレタンフォームが、おしなべて「加熱されたときに一定の形状を保つ」ことができることを窺わせる記載は、甲B1や他の証拠に何ら存在しない。 そうすると、甲B1発明1?2において、相違点4として挙げた本件訂正発明1の発明特定事項を採用することが、当業者に容易に想到し得たということはできないうえ、本件訂正発明1が「加熱されたときに一定の形状を保つ」という効果を奏することも、当業者が予測し得る範囲のものとは認められない。 c.申立人Bの効果に関する主張 申立人Bは、令和3年6月1日に提出の意見書(申立人B)の6頁?7頁において、「本件特許発明の効果は、結局のところポリウレタンフォームの耐熱特性を述べたに過ぎず、建築基準法の性能要件を満たすものであれば当然に奏される効果であって、何ら顕著なものではない。」、「かかる事項は、本件明細書における総発熱量が2?7MJ/m^(2)程度の実施例では膨張、変形、収縮は良好であり、総発熱量の高い比較例では膨張、変形、収縮のいずれかに難があることからも優に認定できるし、特に本件明細書でいう「変形」についての効果は、建築基準法の性能要件そのものである。」、「比較例の結果は信頼性が著しく低く、信頼性が著しく低い比較例が散見されることからみて、他の比較例の結果が正しいと信じるに足る根拠がない。よって、少なくとも比較例の結果が正しく評価されているとは認識できないので、本件明細書における実施例の奏する効果についても疑義が生じる。」、と主張している。 しかるところ、建築基準法の性能要件を満たすポリウレタンフォームであれば、おしなべて、本件明細書の【0108】?【0110】に記載された試験の全てについて良好な結果を示すことを裏付ける客観的証拠は、何ら提示されていないし、申立人Bによる推論や評価より、本件明細書の比較例の結果が著しく信頼性を欠いていると判断することはできない。 したがって、申立人Bの主張は、理由がない。 d.小括 以上のとおり、本件訂正発明1は、甲B1に記載された発明とはいえず、甲B1に記載された発明と甲B2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 (ウ)本件訂正発明2の進歩性の判断 本件訂正発明2と甲B1発明1?2とを、上記(イ)aの検討を踏まえて対比すると、甲B1発明1?2は、ポリオール成分(A)の水酸基に対するポリイソシアネート成分(B)のイソシアネート基の比が1.4?3.0、すなわちイソシアネートインデックスが140?300であるから、本件訂正発明2と甲B1発明1?2は、本件訂正発明1と甲B1発明1?2の一致点に挙げた上記の発明特定事項に加え、イソシアネートインデックスにおいても一致している。 本件訂正発明2では、ポリウレタンフォームが「ISO-5660の試験方法により準拠して、放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに、20分経過時の総発熱量が12.7MJ/m^(2)以下」であるのに対して、甲A1発明1?3では、ISO-5660の試験方法により準拠した、ポリウレタンフォームの20分経過時の総発熱量が特定されていない点(相違点5)で相違している。 しかし、本件訂正発明1で判断した場合と同様に、甲B1発明1?2のポリウレタンフォームが、「ISO-5660の試験方法により準拠して、放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに、20分経過時の総発熱量が12.7MJ/m^(2)以下」を示すことは推認できない。 そして、甲B2の記載事項を併せ見ても、相違点5として挙げた本件訂正発明2の発明特定事項を採用することが、当業者に容易に想到し得たということはできないうえ、本件訂正発明2が「加熱されたときに一定の形状を保つ」という効果が奏することも、当業者が予測し得る範囲のものとは認められない。 したがって、本件訂正発明2は、甲B1に記載された発明とはいえず、甲B1に記載された発明と甲B2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 (エ)本件訂正発明3の進歩性の判断 本件訂正発明3は、本件訂正発明1、2を、引用するものであるから、本件訂正発明1、2と同様に、甲B1発明1?2とは、相違点4?5で相違し、相違点4?5として挙げた本件訂正発明1、2の発明特定事項は、上記のとおり、当業者が容易になし得たものではない。 したがって、本件訂正発明3は、甲B1に記載された発明とはいえず、甲B1に記載された発明と甲B2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 イ.申立理由B-2 (ア)甲B3に記載された発明 甲B3は、甲A1と同じ文献である。 甲B3の[0011]?[0020]、[0051]、表3の泡密度に着目すると、甲B3には、甲A1発明1?3とは異なる、以下の発明が記載されていると認められる。 「ポリオールを30?60%、反応性難燃剤を3?35%、赤リンを含む固体難燃剤を1?15%、リン酸エステル等の液体有機難燃剤を0?30%、三量化触媒を含む触媒を1?4%、水+物理発泡剤を10.2?27%で含有する配合材料とポリイソシアネートを、イソシアネートインデックス300?600で反応させた、密度が39.8?78.2kg/m^(3)である高難燃性ポリイソシアヌレートフォーム。」(以下、「甲B3発明1」という。) また、上記の甲B3の記載事項に加え、実施例4において、ポリイソシアネートとポリオールの合計100重量部を基準として、難燃剤が18重量部(赤リンが5重量部、赤リンを除く難燃剤が13重量部)で配合されていることに着目すると、甲B3には、以下の発明が記載されていると認められる。 「ポリオールを30?60%、反応性難燃剤を3?35%、赤リンを含む固体難燃剤を1?15%、リン酸エステル等の液体有機難燃剤を0?30%、三量化触媒を含む触媒を1?4%、水+物理発泡剤を10.2?27%で含有する配合材料とポリイソシアネートを、イソシアネートインデックス300?600で反応させた、密度が39.8?78.2kg/m^(3)であり、ポリイソシアネートとポリオールの合計100重量部を基準として、難燃剤全体が18重量部、赤リンが5重量部、赤リンを除く難燃剤が13重量部で配合されている、高難燃性ポリイソシアヌレートフォーム。」 (以下、「甲B3発明2」という。) (イ)本件訂正発明1の進歩性の判断 a.対比 本件訂正発明1と甲B3発明1?2とをまとめて対比すると、本件訂正発明1と甲B3発明1?2は、本件訂正発明1と甲A1発明1?3との検討で記載したとおりの一致点を有し、相違点1と同じ以下の相違点を有するものと認められる(2(1)エ(イ)a)。 本件訂正発明1では、ポリウレタンフォームが「ISO-5660の試験方法により準拠して、放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに、10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下」であるのに対して、 甲B3発明1?2では、ISO-5660の試験方法により準拠した、ポリウレタンフォームの10分経過時の総発熱量が特定されていない点(相違点6) b.相違点6の検討 本件訂正発明1と甲A1発明1?3との検討で説示したものと同様に(2(1)エ(イ)b)、甲B3発明1?2の配合成分、配合量からは、相違点1で挙げた本件訂正発明1の特定事項が得られることは推認できないし、甲B2に、上記のとおりの「発熱性試験(ISO 5660-1)」に関する記載があったとしても(2(2)ア(イ)b)、甲B3発明1?2において、どの配合成分に着目し、どの程度配合量を変更することで、甲B2に記載される発熱性試験(ISO 5660-1)に適合することができるのか、その目安となるような記載は、甲B3や他の証拠に何ら見当たらない。 また、本件訂正発明は、取り扱いが容易であり、難燃性に優れ、加熱されたときに一定の形状を保つ発泡体(ポリウレタンフォーム)を提供することを課題にしたものであるところ(2(1)ア(エ))、甲B3の10頁の表には、「-30℃48時間寸法安定性」、「70℃48時間寸法安定性」についての記載はあるものの、「ISO-5660の試験方法により準拠して、放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに、10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下」である要件をポリウレタンフォームが満たすと、おしなべて「加熱されたときに一定の形状を保つ」ことができることを窺わせる記載は、甲B3や他の証拠に何ら存在しない。 そうすると、甲B3発明1?2において、相違点6として挙げた本件訂正発明1の発明特定事項を採用することが、当業者に容易に想到し得たということはできないうえ、本件訂正発明1が「加熱されたときに一定の形状を保つ」という効果が奏することも、当業者が予測し得る範囲のものとは認められない。 c.小括 以上のとおり、本件訂正発明1は、甲B3に記載された発明とはいえず、甲B3に記載された発明と甲B2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 (ウ)本件訂正発明2の進歩性の判断 本件訂正発明2と甲B3発明1、2を上記(イ)aでの検討を踏まえて対比すると、甲B3発明1?2のイソシアネートインデックスは、300?600であるから、本件訂正発明2と甲B3発明1?2は、本件訂正発明1と甲B3発明1?2の一致点となる発明特定事項に加え、イソシアネートインデックスにおいても一致している。 本件訂正発明2では、ポリウレタンフォームが「ISO-5660の試験方法により準拠して、放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに、20分経過時の総発熱量が12.7MJ/m^(2)以下」であるのに対して、甲B1発明1?2では、ISO-5660の試験方法により準拠した、ポリウレタンフォームの20分経過時の総発熱量が特定されていない点(相違点7)で相違している。 しかし、本件訂正発明1で判断した場合と同様に、甲B3発明1?2のポリウレタンフォームが、「ISO-5660の試験方法により準拠して、放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに、20分経過時の総発熱量が12.7MJ/m^(2)以下」を示すことは推認できない。 そして、甲B2の記載事項を併せ見ても、相違点7として挙げた本件訂正発明2の発明特定事項を採用することが、当業者に容易に想到し得たということはできないうえ、本件訂正発明2が「加熱されたときに一定の形状を保つ」という効果を奏することも、当業者が予測し得る範囲のものとは認められない。 したがって、本件訂正発明2は、甲B3に記載された発明とはいえず、甲B3に記載された発明と甲B2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 (エ)本件訂正発明3の進歩性の判断 本件訂正発明3は、本件訂正発明1、2を、引用するものであるから、本件訂正発明1、2と同様に、甲B3発明1?2とは、相違点6?7で相違し、相違点6?7として挙げた本件訂正発明1、2の発明特定事項は、上記のとおり、当業者が容易になし得たものではない。 したがって、本件訂正発明3は、甲B3に記載された発明とはいえず、甲B3に記載された発明と甲B2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 ウ.申立理由B-3 (ア)甲B4に記載された発明 甲B4の請求項2に記載された事項に、【0011】に記載された、硬質ポリウレタンフォームのフリー発泡フォームの密度である「30?70kg/m^(3)」、【0014】に記載された、ポリオール組成物とポリイソシアネート化合物との反応におけるNCO/OH当量比である「2.7?5.5」、【0025】に記載された「整泡剤」、【0029】に記載された「難燃剤」である「トリス(β-クロロプロピル)ホスフェート(TMCPP)」、表1に記載されたコーンカロリー試験(【0037】によると、ISO-5660に準拠し、放射熱強度50kW/m^(2 )にて20分間加熱したときの最大発熱速度(発熱速度)、総発熱量を測定する。)の総発熱量である「0.9」?「7.2」MJ/m^(2)を勘案すると、甲B4には、以下の発明が記載されていると認められる。 「ポリオール化合物、発泡剤、三量化促進触媒とウレタン化促進第三級アミン触媒とからなる触媒、整泡剤、及び、難燃剤としてトリス(β-クロロプロピル)ホスフェート(TMCPP)を含むポリオール組成物とポリイソシアネート化合物とを、 NCO/OH当量比2.7?5.5で混合 ・反応させて製造した、密度が30?70kg/m^(3)であり、ISO-5660に準拠し、放射熱強度50kW/m^(2)にて20分間加熱したときの総発熱量が0.9?7.2MJ/m^(2)の硬質ポリウレタンフォーム。」 (以下、「甲B4発明」という。) (イ)本件訂正発明1の進歩性の判断 a.対比 本件訂正発明1と甲B4発明を対比する。 甲B4発明の「ポリオール化合物」、「ポリイソシアネート化合物」は、いずれも、本件訂正発明1の「ポリオール化合物」、「イソシアネート化合物」に相当する。 甲B4発明の「三量化促進触媒とウレタン化促進第三級アミン触媒とからなる触媒」は、本件訂正発明1の「三量化触媒」を含む「触媒」に相当する。 甲B4発明の「トリス(β-クロロプロピル)ホスフェート(TMCPP)」は、本件訂正発明1の「赤リン以外」の「難燃剤」である「リン酸エステル」に相当する。 甲B4発明の密度が、「30?70kg/m^(3)」は、g/cm^(3)に換算すると、0.030?0.070になるから、本件訂正発明1の比重である「0.030?0.130」と一致する。 そうすると、本件訂正発明1と甲B4発明は、 「少なくとも、ポリイソシアネート化合物、ポリオール化合物、触媒、発泡剤、整泡剤、難燃剤を含む原料を反応させてなるポリウレタンフォームであって、 前記触媒が三量化触媒を含有し、 前記難燃剤が、リン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ素含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤および金属水酸化物からなる群より選ばれる少なくとも一つを含有する、比重が0.030?0.130の範囲であることを特徴とするポリウレタンフォーム。 」で一致し、 本件訂正発明1では、ポリウレタンフォームが「赤リン」を含有しているのに対して、 甲B4発明では、「赤リン」を含有していない点(相違点8)、 本件訂正発明1では、「ISO-5660の試験方法により準拠して、放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに、10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下」であるのに対して、 甲B4では、「ISO-5660に準拠し、放射熱強度50kW/m^(2 )にて20分間加熱したときの総発熱量が0.9?7.2MJ/m^(2)」である点(相違点9) で相違している。 b.相違点8、9の検討 甲B5には、「実際赤燐の使用下に製造されたポリウレタン泡化物質はなお僅かな表面燃焼性を有するが、これは少量のハロゲン含有化合物の添加によって完全に抑制され、その結果泡化物質はこの場合自己消火性となる。特別な実施態様によれば、元素状赤燐と一緒にハロゲン含有化合物が泡化物質中に組入れられ、それによって燐/ハロゲンの組合せによる相乗効果が利用される。火焔の作用を受けると前述の方法で処理された泡化物質は非常に密で堅い固着性の外皮を形成し、この外皮によってその下にある泡化物質が火焔によって更に侵されることのない様に保護される。すぐれた火焔防護を働くこの効果は従来慣用の燐含有耐焔剤の場合には殆んど認められない。…この赤燐は、所望される火焔防護の程度に従い、全泡化性混合物の重量に対し0.5%?20%の量で使用される。」こと(第2頁左欄5?20行)、「ハロゲン含有化合物としては種々の化学構造の物質を使用することが出来る。この場合ハロゲン含有化合物は無機のものでも有機のものでもよい。」こと(2頁左欄33?36行)、「本発明の意味に於けるハロゲン含有有機化合物なる概念は分子中にハロゲンの他に燐原子をも含有する如き有機化合物をも含むことを了解すべきことは勿論である。この様な化合物としては例えばトリス-(2-クロルエチル)-フオスフアート、 トリス-(2、3-ジブロムプロピル)-フオスフアート、更にエピクロルヒドリンと燐酸との附加生成物が挙げられる。ハロゲン含有物質は、火焔防護の所望度に適応した量で使用され、一般には得られた泡化物質が0.5?30% 、しかし好ましくは1?5のハロゲンを含有する様にする。」(2頁右欄2?13行)ことが記載されている。 しかし、甲B4には、「好適な難燃剤としては、ハロゲン含有化合物、有機リン酸エステル類、水酸化アルミニウム等の金属化合物が例示される。これら有機リン酸エステルの使用が好ましい。」(【0029】)、「上記の難燃剤の中でも特に有機リン酸エステルは、ポリオール組成物の粘度低下効果も有するので好ましい。…有機リン酸エステル類の添加量はポリオール化合物の合計100重量部に対して40重量部以下であり、5?40重量部であることが好ましい。」(【0030】)との記載があり、実施例、比較例を見ても、TMCPPをポリオール組成物の10重量部で用いた処方が記載されているに止まっている。 しかも、甲B4に記載された発明は、「ペンタンと水を発泡剤とし、低い熱伝導率とコーンカロリー試験による不燃性規格をクリアする不燃性を有する硬質ポリウレタンフォームを形成することができるポリオール組成物を使用した硬質ポリウレタンフォーム(イソシアヌレートフォーム)」の提供を目的としたものであるところ(【0006】)、甲B5に記載された「燐/ハロゲンの組合せによる相乗効果」により、泡化物質が「非常に密で堅い固着性の外皮を形成し、この外皮によってその下にある泡化物質が火焔によって更に侵されることのない様に保護される」という効果が期待されるとしても、甲B4に記載も示唆もない赤リンを、TMCPPと併用すること、更に、その併用により、既にTMCPPだけで達成されているコーンカロリー試験による不燃性に係る効果を更に向上させることを当業者が期待するとはいえない。 そうすると、甲B4発明において、相違点8として挙げた本件訂正発明1の発明特定事項を当業者が容易に動機付けられたとは認められない。 加えて、本件明細書の表10の比較例14?15、17?18、21には、赤リン(C1)とTMCPP(トリス(β?クロロプロピル)ホスフェート)(C3)を併用した場合でも、「7.8MJ/m^(2)以下」にならない処方が記載されているから、甲B4発明において、TMCPPと赤リンの併用を容易に想到し得たとしても、相違点9として挙げた、本件訂正発明1の発明特定事項に到達することは、当業者といえども容易になし得るものとは認められない。 更に、本件訂正発明は、取り扱いが容易であり、難燃性に優れ、加熱されたときに一定の形状を保つ発泡体(ポリウレタンフォーム)を提供することを課題にしたものであるところ(2(1)ア(エ))、TMCPPと赤リンを併用することで、おしなべて「加熱されたときに一定の形状を保つ」ことができることを窺わせる記載は、甲B5や他の証拠に何ら存在しないから、甲B4発明において、相違点8、9として挙げた本件訂正発明1の発明特定事項を採用することで、「加熱されたときに一定の形状を保つ」という効果を奏することを当業者に容易に予見し得たとは認められない。 c.小括 以上のとおり、本件訂正発明1は、甲B4に記載された発明と甲B5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (ウ)本件訂正発明2の進歩性の判断 本件訂正発明2と甲B4発明を上記(イ)aでの検討を踏まえて対比すると、甲B4発明の「NCO/OH当量比2.7?5.5」であり、イソシアネートインデックスは、「270?550」であるから、本件訂正発明2のイソシアネートインデックスである「120?1000の範囲」と一致している。 そうすると、本件訂正発明2と甲B4発明は、 「少なくとも、ポリイソシアネート化合物、ポリオール化合物、触媒、発泡剤、整泡剤、難燃剤を含む原料を反応させてなるポリウレタンフォームであって、イソシアネートインデックスが120?1000の範囲であり、 前記触媒が三量化触媒を含有し、 前記難燃剤がリン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ素含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤および金属水酸化物からなる群より選ばれる少なくとも一つを含有し、 ISO-5660の試験方法により準拠して、放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに、20分経過時の総発熱量が12.7MJ/m^(2)以下であり、比重が0.030?0.130の範囲であることを特徴とするポリウレタンフォーム。」で一致し、 本件訂正発明2では、ポリウレタンフォームが「赤リン」を含有しているのに対して、 甲B4発明では、「赤リン」を含有していない点(相違点10)で相違する。 しかしながら、甲B4に記載も示唆もされていない赤リンを、TMCPPと併用すること、更に、その併用により、既にTMCPPだけで達成されているコーンカロリー試験による不燃性に係る効果を更に向上させることを当業者が期待するとはいえないから、甲B4発明において、相違点10として挙げた、本件発明2の発明特定事項を、当業者が容易に動機付けられるとはいえない。 加えて、TMCPPと赤リンを併用することで、おしなべて「加熱されたときに一定の形状を保つ」ことができることを窺わせる記載は、甲B5や他の証拠に何ら存在しないので、甲B4発明において、相違点10で挙げた本件訂正発明2の発明特定事項を採用することで、「加熱されたときに一定の形状を保つ」という効果を奏することが、当業者に容易に予見し得たということはできない。 したがって、本件訂正発明2は、甲B4に記載された発明と甲B5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (エ)本件訂正発明3の進歩性の判断 本件訂正発明3は、本件訂正発明1、2を、引用するものであるから、本件訂正発明1、2と同様に、甲B4発明とは、相違点8?10で相違し、相違点8?10として挙げた本件訂正発明1、2の発明特定事項は、上記のとおり、当業者が容易になし得たものではない。 したがって、本件訂正発明3は、甲B4に記載された発明と甲B5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 ウ.申立理由B-4 (ア)甲B6に記載された発明 甲B6の請求項1に記載された事項に、【0017】に記載された「ウレタン化反応触媒」、「イソシアヌレート結合生成を促進する触媒」、【0021】に記載された「整泡剤」、【0023】、表1に記載された「有機リン酸エステル類」、「TMCPP」、【0031】に記載された「イソシアネートインデックス」、【0060】?【0070】に記載された「発熱性試験(コーンカロリメータ)での20分間の総発熱量」、を勘案すると、甲B6には、以下の発明が記載されていると認められる。 「イソシアネートとポリオールを、イソシアヌレート結合生成を促進する触媒とウレタン化反応触媒、整泡剤、難燃剤としてハロゲン含有化合物及び有機リン酸エステル類であるTMCPP(トリス(β-クロロプロピル)ホスフェート)、発泡剤の存在下、イソシアネートインデックス250?500となる条件で反応させて成形される、発熱量50kW/m^(2)による発熱性試験(コーンカロリメータ)での20分間の総発熱量が0.8?4.0MJ/m^(2)であり、裏面まで貫通する亀裂および穴の発生が無かったポリウレタンフォーム成形体。」(以下、「甲B6発明」という。) (イ)本件訂正発明1の進歩性の判断 a.対比 本件訂正発明1と甲B6発明を対比する。 甲B6発明の「イソシアネート」、「ポリオール」、本件訂正発明1の「イソシアネート化合物」、「ポリオール化合物」、それぞれ相当する。 甲B6発明の「イソシアヌレート結合生成を促進する触媒とウレタン化反応触媒」は、本件訂正発明1の「三量化触媒」を含む「触媒」に相当する。 甲B6発明の「有機リン酸エステル類であるTMCPP(トリス(β-クロロプロピル)ホスフェート)」は、本件訂正発明1の「赤リン以外」の「難燃剤」である「リン酸エステル」に相当する。 そうすると、本件訂正発明1と甲B6発明は、 「少なくとも、ポリイソシアネート化合物、ポリオール化合物、触媒、発泡剤、整泡剤、難燃剤を含む原料を反応させてなるポリウレタンフォームであって、 前記触媒が三量化触媒を含有し、 前記難燃剤が、リン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ素含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤および金属水酸化物からなる群より選ばれる少なくとも一つを含有する、ポリウレタンフォーム。」で一致し、 本件訂正発明1では、ポリウレタンフォームが「赤リン」を含有しているのに対して、 甲B6発明では、「赤リン」を含有していない点(相違点11)、 本件訂正発明1では、「ISO-5660の試験方法により準拠して、放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに、10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下」であるのに対して、 甲B6発明では、「発熱量50kW/m^(2)による発熱性試験(コーンカロリメータ)での20分間の総発熱量が0.8?4.0MJ/m^(2)」である点(相違点12)、 本件訂正発明1では、ポリウレタンフォームの比重が「0.030?0.130の範囲である」のに対して、 甲B6発明では、比重が特定されていない点(相違点13) で相違している。 b.相違点11、12の検討 甲B5には、上記のとおりの記載事項(2(2)ウ(イ)b)があるところ、甲B6には、「難燃剤としては、ハロゲン含有化合物、有機リン酸エステル類、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム等の金属化合物メタロセン類、金属アセチルアセトネート類、8-オキシキノリン金属錯体類、ジメチルグリオキシム金属錯体類等が例示される。」(【0023】)との記載があり、表1を見ても、TMCPPを、ポリオール組成物139重量部に対して10重量部で用いた処方が記載されているに止まっている。 しかも、甲B6発明において、甲B5に記載された「燐/ハロゲンの組合せによる相乗効果」により、泡化物質が「非常に密で堅い固着性の外皮を形成し、この外皮によってその下にある泡化物質が火焔によって更に侵されることのない様に保護される」という効果が期待されるとしても、甲B6に記載も示唆もされていない赤リンを、TMCPPと併用すること、更に、その併用により、既にTMCPPだけで達成されている発熱性試験による不燃性に係る効果を更に向上させることを当業者が期待するとはいえない。 そうすると、甲B6発明において、相違点11として挙げた、本件訂正発明1の発明特定事項を当業者が容易に動機付けられるとは認められない。 加えて、本件明細書の表10の比較例14?15、17?18、21には、赤リン(C1)とTMCPP(トリス(β?クロロプロピル)ホスフェート)(C3)を併用した場合でも、「7.8MJ/m^(2)以下」にならない処方が記載されているから、甲B6発明において、TMCPPと赤リンの併用を容易に想到し得たとしても、相違点12として挙げた、本件訂正発明1の発明特定事項に到達することは、当業者といえども容易になし得るものとは認められない。 更に、本件訂正発明は、取り扱いが容易であり、難燃性に優れ、加熱されたときに一定の形状を保つ発泡体(ポリウレタンフォーム)を提供することを課題にしたものであるところ(2(1)ア(エ))、TMCPPと赤リンを併用することで、おしなべて「加熱されたときに一定の形状を保つ」ことができることを窺わせる記載は、甲B5や他の証拠に何ら存在しないから、甲B6発明において、相違点11、12として挙げた本件訂正発明1の発明特定事項を採用することで、「加熱されたときに一定の形状を保つ」という効果を奏することを当業者に容易に予測し得たとは認められない。 c.小括 以上のとおり、本件訂正発明1は、相違点13について検討するまでもなく、甲B4に記載された発明と甲B5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (ウ)本件訂正発明2の進歩性の判断 本件訂正発明2と甲B6発明を上記(イ)aでの検討を踏まえて対比すると、甲B6発明のイソシアネートインデックスは、「250?500」であるから、本件訂正発明2のイソシアネートインデックスである「120?1000の範囲」と一致している。 そうすると、本件訂正発明2と甲B6発明は、 「少なくとも、ポリイソシアネート化合物、ポリオール化合物、触媒、発泡剤、整泡剤、難燃剤を含む原料を反応させてなるポリウレタンフォームであって、イソシアネートインデックスが120?1000の範囲であり、 前記触媒が三量化触媒を含有し、 前記難燃剤がリン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ素含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤および金属水酸化物からなる群より選ばれる少なくとも一つを含有し、 放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに、20分経過時の総発熱量が12.7MJ/m^(2)以下であるポリウレタンフォーム。」で一致し、 本件訂正発明2では、ポリウレタンフォームが「赤リン」を含有しているのに対して、 甲B6発明では、「赤リン」を含有していない点(相違点13)、 本件訂正発明2では、ポリウレタンフォームの比重が「0.030?0.130の範囲である」のに対して、 甲B6発明では、比重が特定されていない点(相違点14)、 本件訂正発明2では、発熱性試験(コーンカロリメータ)がISO-5660の試験方法に準拠したものであるのに対して、 甲B6発明では、ISO-5660の試験方法に準拠したものか否か特定されていない点(相違点15)で相違する。 しかしながら、甲B6に記載も示唆もされていない赤リンを、TMCPPと併用すること、更に、その併用により、既にTMCPPだけで達成されている発熱性試験による不燃性に係る効果を更に向上させることを当業者が期待するとはいえないから、甲B6発明において、相違点13として挙げた、本件発明2の発明特定事項を当業者が容易に動機付けられるとはいえない。 加えて、TMCPPと赤リンを併用することで、おしなべて「加熱されたときに一定の形状を保つ」ことができることを窺わせる記載は、甲B5や他の証拠に何ら存在しないので、甲B6発明において、相違点13として挙げた本件訂正発明2の発明特定事項を採用することで、「加熱されたときに一定の形状を保つ」という効果を奏することが、当業者に容易に予測し得たということはできない。 したがって、本件訂正発明2は、甲B6に記載された発明と甲B5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (エ)本件訂正発明3の進歩性の判断 本件訂正発明3は、本件訂正発明1、2を、引用するものであるから、本件訂正発明1、2と同様に、甲B4発明とは、相違点11?15で相違し、特に、相違点11?13として挙げた本件訂正発明1、2の発明特定事項は、上記のとおり、当業者が容易になし得たものではない。 したがって、本件訂正発明3は、甲B6に記載された発明と甲B5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 エ.申立理由B-5 (ア)特願2018-021501号の請求項1?6に係る発明 特許法第44条第2項の規定が適用されることにより、本件特許の出願日と同日に出願されたものとみなされる特願2018-021501号(特許第6481058号)(以下、「同日出願1」という。)の請求項1?6に係る発明(以下、項番に従い、「同日出願1発明1」?「同日出願1発明6」という。)は、甲B8(異議2019-700724号異議の決定)によると、以下のとおりのものと認められる。 「【請求項1】 難燃性ウレタン樹脂組成物であって、ポリイソシアネート化合物、ポリオール化合物、三量化触媒、発泡剤、整泡剤および難燃剤を含み、 前記難燃剤が、赤リンを必須成分とし、前記赤リン以外にリン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ素含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤および金属水酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一つを含有し、 前記難燃性ウレタン樹脂組成物からなる発泡体を、ISO-5660の試験方法により準拠して、放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに、10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下であることを特徴とする、難燃性ウレタン樹脂組成物。 【請求項2】 前記難燃性ウレタン樹脂組成物からなる発泡体を、ISO-5660の試験方法により準拠して、放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに、10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下であり、20分経過時の総発熱量が12.7MJ/m^(2)以下である、ことを特徴とする請求項1に記載の難燃性ウレタン樹脂組成物。 【請求項3】 (削除) 【請求項4】 前記難燃剤が、前記ポリイソシアネート化合物および前記ポリオール化合物からなるウレタン樹脂100重量部を基準として4.5?70重量部の範囲であり、前記赤リンが、前記ウレタン樹脂100重量部を基準として3?18重量部の範囲であり、 前記赤リンを除く難燃剤が、前記ウレタン樹脂100重量部を基準として1.5?52重量部の範囲である、請求項1又は2のいずれかに記載の難燃性ウレタン樹脂組成物。 【請求項5】 前記ウレタン樹脂のイソシアネートインデックスが120?1000の範囲である、請求項1、2、4のいずれかに記載の難燃性ウレタン樹脂組成物。 【請求項6】 請求項1、2、4、5のいずれかに記載の難燃性ウレタン樹脂組成物から形成されてなることを特徴とする発泡体。」 (イ)本件訂正発明1の検討 本件訂正発明1と同日出願1発明1を引用する同日出願1発明6を対比すると、 本件訂正発明1では、ポリウレタンフォームの比重が0.030?0.130の範囲であるのに対して、同日出願1発明6では、ポリウレタンフォームの比重が特定されていない点(相違点16) で、両者は少なくとも相違している。 しかし、同日出願1発明1の配合成分を含有する組成物から生成するポリウレタンフォームの比重が、常に「0.030?0.130の範囲」を示すとは限られないから、「0.030?0.130の範囲」の比重を有する難燃性ポリウレタンフォームが、複数知られていたとしても(甲B1,甲B3、甲B4)、相違点16は、本件訂正発明1と同日出願1発明6を区別する実質的な相違点というべきである。 したがって、本件訂正発明1と同日出願1発明6が、同一の発明であるとは認められない。 (ウ)本件訂正発明3の検討 本件訂正発明3は、本件訂正発明1を引用するものであるから、本件訂正発明1と同様の理由により、本件訂正発明3と同日出願1発明1、2、4、5を引用する同日出願1発明6は、同一の発明であるとは認められない。 エ.申立理由B-6 (ア)特願2019-9059号の請求項1?5に係る発明 特許法第44条第2項の規定が適用されることにより、本件特許の出願日と同日に出願されたものとみなされる特願2019-9059号(特許第6626590号)(以下、「同日出願2」という。)の請求項1?5に係る発明(以下、項番に従い、「同日出願2発明1」?「同日出願2発明5」という。)は、甲B10(異議2020-700436号異議の決定)によると、以下のとおりのものと認められる。 「【請求項1】 ISO-5660の試験方法により準拠して、放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに、10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下であるポリウレタンフォームを得るために用いられるポリオール組成物であって、 前記ポリオール組成物は、ポリオール化合物、三量化触媒、発泡剤、整泡剤及び難燃剤を含み、前記難燃剤が、赤リンを含有し、前記赤リン以外にリン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ素含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤および金属水酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一つを含有することを特徴とするポリオール組成物。 【請求項2】 ISO-5660の試験方法により準拠して、放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに、10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下であり、20分経過時の総発熱量が12.7MJ/m^(2)以下であるポリウレタンフォームを得るために用いられるポリオール組成物であって、 前記ポリオール組成物は、ポリオール化合物、三量化触媒、発泡剤、整泡剤及び難燃剤を含み、前記難燃剤が、赤リンを含有し、前記赤リン以外にリン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ素含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤および金属水酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一つを含有することを特徴とするポリオール組成物。 【請求項3】 請求項1又は2に記載のポリオール組成物を含む第1液と、ポリイソシアネート化合物を含む第2液と、を含むことを特徴とする2液型のポリウレタン樹脂組成物。 【請求項4】 請求項3に記載のポリウレタン樹脂組成物から生成されてなることを特徴とするポリウレタンフォーム。 【請求項5】 請求項1又は2に記載のポリオール組成物と、ポリイソシアネート化合物と、を用いてポリウレタンフォームを製造することを特徴とするポリウレタンフォームの製造方法。」 (イ)本件訂正発明1の検討 本件訂正発明1と同日出願2発明1、3を引用する同日出願2発明4を対比すると、 本件訂正発明1では、ポリウレタンフォームの比重が0.030?0.130の範囲であるのに対して、 同日出願1発明4では、ポリウレタンフォームの比重が特定されていない点(相違点17) で、両者は少なくとも相違している。 しかし、同日出願2発明1、3の配合成分を含有する組成物から生成するポリウレタンフォームの比重が、常に「0.030?0.130の範囲」を示すとは限られないので、「0.030?0.130の範囲」の比重を有する難燃性ポリウレタンフォームが、複数知られていたとしても(甲B1,甲B3、甲B4)、相違点17は、本件訂正発明1と同日出願2発明4とを区別する実質的な相違点というべきである。 したがって、本件訂正発明1と同日出願2発明4が、同一の発明であるとは認められない。 オ.申立理由B-7 (ア)申立人Bの主張 申立人Bは、令和2年1月28日に提出された手続補正書により、請求項1に「ISO-5660の試験方法により準拠して、放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに、10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下であり、」という発明特定事項、請求項2に「ISO-5660の試験方法により準拠して、放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに、20分経過時の総発熱量が12.7MJ/m^(2)以下であり、」という発明特定事項が加えられたが、「特定の実施例の総発熱量に基づき、かかる実施例の記載内容を拡張ないし一般化して、原料の種類も配合量も不特定である請求項に係るポリウレタンフォームの総発熱量の範囲を導入した点において、上記の補正は新たな技術的事項を導入するものである。」と主張する(新規主張1)。 申立人Bは、上記の手続補正書により、請求項1及び2に、「前記難燃剤が赤リンを含有し、前記赤リン以外にリン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ素含有難燃剤、 アンチモン含有難燃剤および金属水酸化物からなる群より選ばれる少なくとも一つを含有し、」という発明特定事項が加えられたが、【0056】、【0059】において、添加剤に過ぎなかった「リン酸エステル」及び「金属水酸化物」を難燃剤としている点において、上記の補正は、新たな技術的事項を導入するものである。」と主張する(新規主張2)。 なお、申立人Bは、上記の手続補正書により、請求項1及び2において、整泡剤についての規定を削除した補正は、新たな技術的事項を導入すると主張をしているが、当該申立理由は、本件訂正により、請求項1及び2において、「整泡剤」を含むことが明記されたので、解消された。 (イ)新規主張1の検討 本件特許の願書に最初に添付した明細書には、「ポリイソシアネート化合物,ポリオール化合物,三量化触媒,発泡剤,整泡剤および添加剤を含み,前記添加剤が赤リンを必須成分とする難燃性ウレタン樹脂組成物」(【0022】),「前記添加剤は,赤リンを必須成分とし,赤リン以外に,リン酸エステル,リン酸塩含有難燃剤,臭素含有難燃剤,ホウ素含有難燃剤,アンチモン含有難燃剤および金属水酸化物からなる群より選ばれる少なくとも一つを組み合わせてなる。」(【0056】),「硬化物から10cm×10cm×5cmになるようにコーンカロリーメーター試験用サンプルを切り出し,ISO-5660に準拠し,放射熱強度50kW/m^(2)にて20分間加熱したときの最大発熱速度,総発熱量を測定した。」(【0107】)との記載があり,また、表2には実施例15として,「総発熱量(MJ/m^(2)):10分経過時」が「7.8」であるもの、表5には、実施例50として、「総発熱量(MJ/m^(2)):20分経過時」が「12.7」であるものが記載され,その他の実施例をみると,原料の種類や配合量を、実施例15、50とは異なるものに変更した場合でも、「7.8以下」(10分経過時)、「12.7以下」(20分経過時)を満たすポリウレタンフォームが調製されている。 そうすると、請求項1、2に、10分経過時の総発熱量の上限値、20分経過時の総発熱量の上限値を加えることが、上記の明細書に新たな技術的事項を導入するものには当たらない。 (ウ)新規主張2の検討 甲B3の請求項9?10、甲B4の【0028】?【0029】、甲B6の【0023】によると、本件特許の出願日当時、有機リン酸エステル類や水酸化アルミニウム等の金属化合物を難燃剤として用いることは、技術常識であったと認められる。 そして、本件特許の願書に最初に添付した明細書においては、「リン酸エステル」及び「金属水酸化物」は、他の難燃剤と同様に、難燃性を示す赤リンと併用するものとして、説明がされているので(【0056】)、請求項1及び2において、「リン酸エステル」及び「金属水酸化物」を難燃剤の一つとして位置づけることが、上記の明細書に新たな技術的事項を導入することにはならない。 (エ)小括 以上のとおり、令和2年1月28日に提出された手続補正は、本件特許の願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内で行われたものと認められる。 カ.申立理由B-8 (ア)申立人Bの主張 申立人Bは、「請求項に、総発熱量の範囲に関する規定がある点、10分経過時の総発熱量が2.0MJ/m^(2)よりも低いポリウレタンフォームや20分経過時の総発熱量が4.2MJ/m^(2)よりも低いポリウレタンフォームまでもが規定されている点、何ら具体的な原料化合物への限定もなく、配合量の規定もない原料を反応させてなるポリウレタンフォームすべてに対する総発熱量の規定がある点において、本件特許発明1及び本件特許発明2は、明細書の発明の詳細な説明に記載したものではない。」とし、それを補足するものとして、令和3年6月1日に提出の意見書(申立人B)の42頁?43頁において、「総発熱量が8MJ/m^(2)を超える範囲までも規定する点において、本件特許発明2及び本件特許発明3はサポート要件を満足しない。」、と主張する(サポート主張1)。 申立人Bは、「本件明細書には「リン酸エステル」及び「金属水酸化物」が難燃剤であることは記載されていない。また、化学構造が限定されていないあらゆる「リン酸エステル」や「金属水酸化物」が難燃剤として機能することが技術常識であるともいえない(例えば、トリドデシルホスフェートのような長鎖アルキルを有するリン酸エステルが難燃性であるとはいえない)。したがって、請求項に、リン酸エステルが難燃剤である旨、及び、金属水酸化物が難燃剤である旨を規定する点において、本件特許発明1及び本件特許発明2は明細書の発明の詳細な説明に記載したものではない。」、と主張する(サポート主張2)。 なお、申立人Bは、「整泡剤を必須の成分として規定しない点において、本件特許発明1及び本件特許発明2は、明細書の発明の詳細な説明に記載したものではない。」と主張するが、当該申立理由は、本件訂正により、請求項1及び2において、「整泡剤」を含むことが明記されたので、解消された。 (イ)サポート主張1の検討 本件明細書の【0021】によると、本件訂正発明1?3が、解決しようとする課題は、取り扱いが容易であり、難燃性に優れ、加熱されたときに一定の形状を保つ発泡体(ポリウレタンフォーム)を提供することにあると認められる。 一方、本件明細書の実施例1?76(表1?8)には、「ポリイソシアネート化合物、ポリオール化合物、三量化触媒、発泡剤、整泡剤および難燃剤」を含み、難燃剤として、「赤リン」と「リン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ素含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤および金属水酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一つ」を原料としたポリウレタンフォーム(発泡体)を、ISO-5660の試験方法により準拠して、放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに、「10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下」、「20分経過時の総発熱量が12.7MJ/m^(2)以下」となること、かかるポリウレタンフォームは、20分経過時の膨張、変形(ヒビ割れ)及び収縮が、いずれも「○」であり、難燃性に優れ、加熱されたときに一定の形状を保つことが示されている。 これに対し、同比較例1?10(表9)、11(表10)には、三量化触媒、発泡剤、赤リン、赤リン以外の添加剤のいずれかを欠いた組成物を原料とするポリウレタンフォーム、比較例12?17、19?21(表10)には、「10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下」及び「20分経過時の総発熱量が12.7MJ/m^(2)以下」を満たさないポリウレタンフォーム、比較例18には、イソシアネートインデックスが「120?1000の範囲」を満たさないポリウレタンフォームが記載され、これらのポリウレタンフォームは、20分加熱時の膨張、変形(ヒビ割れ)及び収縮のいずれかが劣っていたり、発泡不可であったりすることが示されている。 また、本件明細書の記載(【0003】)によれば、アルミノケイ酸塩類を多量に使用しなければ、流動性が確保できるため、取り扱いやすくなると解されるところ、実施例1?76のポリウレタンフォームは、アルミノケイ酸塩類を含むものではないから、取り扱いやすいものであることは、明らかといえる。 そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明より、本件訂正発明1?3のポリウレタンフォームは、難燃性に優れ、加熱されたときに一定の形状を保ち、取り扱いが容易であることを理解できるから、本件訂正発明1?3は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載より、当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものと認められる。 申立人Bは、本件訂正発明1?3が、実施例1?76(表1?8)に記載のない「10分経過時の総発熱量が2.0MJ/m^(2)よりも低いポリウレタンフォーム」や「20分経過時の総発熱量が4.2MJ/m^(2)よりも低いポリウレタンフォーム」を含む点、実施例1?76(表1?8)とは異なる原料、配合量のポリウレタンフォームを含む点を主張するが、本件訂正発明1?3を、実施例に基づき限定解釈すべき特別の理由は見いだせないし、実施例1?76(表1?8)と比較例1?21(表9、10)を併せ見ると、上記のとおり、本件訂正発明1?3の発明特定事項により、本件訂正発明の課題が解決できることを当業者は認識できる。 また、申立人Bは、令和3年6月1日提出の意見書(申立人B)の42頁において、本件訂正発明2、3が、建築基準法における防火材料の性能要件である総発熱量が8MJ/m^(2)を超える範囲までも規定する点を主張するが、本件訂正発明2、3の発明特定事項を備えるポリウレタンフォームに、少なからず、総発熱量が8MJ/m^(2)を超えるポリウレタンフォームが存在することを示す客観的証拠は何ら提示されてないし、更に、本件訂正発明2、3の発明特定事項を備えるポリウレタンフォームであっても、本件訂正発明の課題が解決できないことを示す具体的根拠を伴う説明も何ら提示されていない。 したがって、以上の点が、本件訂正発明1?3のサポート要件の判断を左右するものとは認められないので、いずれにしても、サポート主張1は、理由がない。 (ウ)サポート主張2の検討 本件特許の出願日当時、有機リン酸エステル類や水酸化アルミニウム等の金属化合物は、周知の難燃剤であったと認められるし(2(2)オ(ウ))、本件明細書の【0056】では、「リン酸エステル」及び「金属水酸化物」は、他の難燃剤と同様に、難燃性を示す赤リンと併用するものとして説明がされている。 そうすると、本件明細書に「リン酸エステル」及び「金属水酸化物」が難燃剤であることの明記がなくても、リン酸エステル、金属水酸化物を難燃剤の一つとして扱っている訂正後の請求項1、2の記載と本件明細書の発明の詳細な説明の記載に矛盾や抵触があるとは認められない。 また、難燃剤として機能し得ないリン酸エステルが存在したとしても、上記の本件訂正発明1?3のサポート要件の判断を左右するものとは認められない。 したがって、サポート主張2は、理由がない。 (エ)小括 以上のとおり、本件訂正発明1?3は、申立理由B-8により、特許請求の範囲の記載がサポート要件に違反しているとはいえない。 キ.申立理由B-9 (ア)申立人Bの主張 申立人Bは、本件訂正発明1及び本件訂正発明2における「リン酸塩含有難燃剤」、 「臭素含有難燃剤」、 「ホウ素含有難燃剤」、 「アンチモン含有難燃剤」の客観的な外縁が明確とはいえず、「三量化触媒」についても、如何なる触媒が該当し、如何なる触媒であれば該当しないのかが、当業者といえども明確に把握できないから、本件訂正発明1及び本件訂正発明2は明確ではない、と主張する(明確主張1)。 申立人Bは、本件訂正発明3における、「ポリイソシアネート化合物およびポリオール化合物からなるウレタン樹脂」について、ポリイソシアネート化合物およびポリオール化合物からなるものは、単に2つの原料を意味しているに過ぎないから、上記のウレタン樹脂の定義には技術的な矛盾がある、と主張する(明確主張2)。 申立人Bは、本件明細書の表10における比較例19及び比較例20のウレタン樹脂の内部には泡が全く分散していないとは考えられないので、本件訂正発明1?4に記載された「ポリウレタンフォーム」すなわち「ポリウレタン発泡体」は、どの程度の泡を内部に含むものを意味しているのかが客観的に明確とはいえず、その結果、本件訂正発明1?3の権利範囲が不明確となっている、と主張する(明確主張3)。 申立人Bは、物の発明についての請求項にその物の製造方法が記載されている点において、本件訂正発明1?3は明確でない、と主張する(明確主張4)。 (イ)明確主張1の検討 特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術的常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである(平成28年(行ケ)第10236号事件判決、平成29年(行ケ)第10081号事件判決、令和元年(行ケ)第10173号事件判決等)。 しかるところ、「リン酸塩」、 「臭素含有」化合物、 「ホウ素含有」化合物、「アンチモン含有」化合物の具体例や使用量は、本件明細書の【0065】?【0083】で説明されているし、これらの化合物が難燃性を示すことも、例えば、甲B3の請求項9、[0045]、甲B4の【0028】、甲B5の2頁左欄下から11行?右欄9行、甲B6の【0023】に示されるように、本件特許の出願日における技術常識であるから、上記化合物の中に難燃性を示さない化合物が存在するからといって、これらの技術用語が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確なものであるとは認められない。 また、「三量化触媒」の具体例は、本件明細書の【0050】で説明されているところ、甲B4の【0026】、甲B6の【0017】にも「三量化触媒」に関する記載があるので、「三量化触媒」が意図している具体的な化合物は、当業者に自明の事項である。 よって、ウレタン化反応とイソシアヌレート環形成反応を併せ持つ触媒が存在しても、「三量化触媒」と認定されるだけのことであり、そのことにより、第三者に不測の不利益を及ぼすとはいえない。 そうすると、上記の技術用語を含む、本件訂正発明1、2は、明確である。 (ウ)明確主張2の検討 本件明細書の【0033】には、「ウレタン樹脂は、主剤としてのポリイソシアネート化合物と硬化剤としてのポリオール化合物とからなる」との記載があり、請求項3の記載は、ウレタン樹脂の主剤が、上記の両化合物であることを示したものと解されるから、本件の請求項3の「ウレタン樹脂」の定義に技術的な矛盾があり、本件の請求項3の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとは認められない。 よって、「ポリイソシアネート化合物およびポリオール化合物からなるウレタン樹脂」という文言があっても、本件訂正発明3は明確である。 (エ)明確主張3の検討 本件明細書の【0052】?【0053】には、発泡剤の具体例、使用量が記載されており、また、甲B1、甲B4、甲B6の特許請求の範囲をみてもわかるように、「ポリウレタンフォーム」、「発泡剤」という技術用語は、当該技術分野においてごく一般的なものとして理解されているから、本件明細書に、どの程度の泡を内部に含むかについての定義がされていなくても、「ポリウレタンフォーム」、「発泡剤」の技術用語が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確なものであるとは認められない。 よって、本件訂正発明1?3が、「ポリウレタンフォーム」、「発泡剤」の技術用語を含んでいても、本件訂正発明1?3は明確であり、比較例19及び比較例20の実験結果は、当該判断を左右するものではない。 (オ)明確主張4の検討 本件訂正発明1、2は、「…原料を反応させてなる」の文言を含むものであるが、上記のとおり「ポリウレタンフォーム」という技術用語は、当該技術分野においてごく一般的なものとして理解されており、上記の反応が、「ポリイソシアネート化合物」と「ポリオール化合物」との反応を意味し、当該反応から、如何なる化学構造のフォーム(発泡体)が得られるかについても、当業者には自明であるから、本件訂正発明1?3に、上記の文言があることで、本件訂正発明1?3の「ポリウレタンフォーム」が、物として不明確になるとは認められない。 よって、「…原料を反応させてなる」の文言を含んでいても、本件訂正発明1?2,及び、本件訂正発明1?2を引用する本件訂正発明3は、明確である。 (カ)小括 以上のとおり、本件訂正発明1?3は、申立理由B-9により、特許請求の範囲の記載が明確性要件に違反しているとはいえない。 ク.申立人Bによる申立理由の検討のまとめ 以上のとおり、本件訂正発明1?3に係る特許は、申立人Bによる申立理由B-1?B-9により取り消すことはできない。 第6 むすび 以上のとおり、本件訂正については、適法であるから、これを認める。 本件特許の請求項4に対する各特許異議の申立ては、不適法なものであるから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである。 本件特許の請求項1?3に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 少なくとも、ポリイソシアネート化合物、ポリオール化合物、触媒、発泡剤、整泡剤、難燃剤を含む原料を反応させてなるポリウレタンフォームであって、 前記触媒が三量化触媒を含有し、 前記難燃剤が赤リンを含有し、前記赤リン以外にリン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ素含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤および金属水酸化物からなる群より選ばれる少なくとも一つを含有し、 ISO-5660の試験方法により準拠して、放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに、10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下であり、 比重が0.030?0.130の範囲であることを特徴とするポリウレタンフォーム。 【請求項2】 少なくとも、ポリイソシアネート化合物、ポリオール化合物、触媒、発泡剤、整泡剤、難燃剤を含む原料を反応させてなるポリウレタンフォームであって、 イソシアネートインデックスが120?1000の範囲であり、 前記触媒が三量化触媒を含有し、 前記難燃剤が赤リンを含有し、前記赤リン以外にリン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ素含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤および金属水酸化物からなる群より選ばれる少なくとも一つを含有し、 ISO-5660の試験方法により準拠して、放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに、20分経過時の総発熱量が12.7MJ/m^(2)以下であり、 比重が0.030?0.130の範囲であることを特徴とするポリウレタンフォーム。 【請求項3】 前記難燃剤が、前記ポリイソシアネート化合物およびポリオール化合物からなるウレタン樹脂100重量部を基準として4.5?70重量部の範囲であり、 前記赤リンが、前記ウレタン樹脂100重量部を基準として3?18重量部の範囲であり、 前記赤リンを除く難燃剤が、前記ウレタン樹脂100重量部を基準として1.5?52重量部の範囲である請求項1または2に記載のポリウレタンフォーム。 【請求項4】(削除) |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2021-09-02 |
出願番号 | 特願2019-165521(P2019-165521) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(C08G)
P 1 651・ 55- YAA (C08G) P 1 651・ 537- YAA (C08G) P 1 651・ 4- YAA (C08G) P 1 651・ 113- YAA (C08G) P 1 651・ 536- YAA (C08G) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 三原 健治 |
特許庁審判長 |
近野 光知 |
特許庁審判官 |
杉江 渉 福井 悟 |
登録日 | 2020-03-30 |
登録番号 | 特許第6683873号(P6683873) |
権利者 | 積水化学工業株式会社 |
発明の名称 | 難燃性ウレタン樹脂組成物 |
代理人 | 田口 昌浩 |
代理人 | 虎山 滋郎 |
代理人 | 虎山 滋郎 |
代理人 | 田口 昌浩 |