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審決分類 審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  G06F
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  G06F
審判 一部申し立て 2項進歩性  G06F
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G06F
管理番号 1379781
異議申立番号 異議2021-700045  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-12-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-01-15 
確定日 2021-09-15 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6723082号発明「曲げ加工費見積装置、曲げ加工費見積システムおよびプログラム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6723082号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2、3、4、5について訂正することを認める。 特許第6723082号の請求項3?5に係る特許を維持する。 特許第6723082号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6723082号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成28年6月9日に出願されたものであって、令和2年6月25日にその特許権の設定登録(特許公報発行日 令和2年7月15日)がされた。
その後、令和3年1月15日に特許異議申立人日向ヨシ子により本件特許の請求項1、3?5に対して特許異議の申立てがされた。
そして、その後の経緯は次のとおりである。

令和3年3月12日付け:取消理由通知書
同年5月14日 :訂正請求書、意見書の提出(特許権者)
同年7月 6日 :意見書の提出(特許異議申立人)

第2 訂正の適否についての判断
1 請求の趣旨、訂正の内容
(1)請求の趣旨
令和3年5月14日に特許権者により行われた、願書に添付した特許請求の範囲の訂正(以下、「本件訂正」という。)の請求の趣旨は、特許第6723082号の特許請求の範囲を、本訂正請求書(以下、「本件訂正請求書」という。)に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?5について訂正することを求める、というものである。

(2)訂正の内容
本件訂正の内容は以下ア?オのとおりである。

ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「前記パラメータ抽出部は、前記曲げ加工の曲げ順が隣り合う先の曲げ工程および後の曲げ工程について、前記先の曲げ工程で加工された前記対象物において前記後の曲げ工程の曲げ線がある面の中心を原点とする座標系を定義し、前記曲げ工程属性情報が示す前記先の曲げ工程の曲げ線および前記後の曲げ工程の曲げ線の前記対象物における座標を、前記先の曲げ工程の曲げ線および前記後の曲げ工程の曲げ線の定義した前記座標系における座標に変換し、定義した前記座標系における前記先の曲げ工程の曲げ線の角度と前記後の曲げ工程の曲げ線の角度とが異なる場合は、前記後の曲げ工程で試し曲げ作業が発生すると判定し、定義した前記座標系における前記先の曲げ工程の曲げ線の角度と前記後の曲げ工程の曲げ線の角度とが一致する場合は、前記後の曲げ工程で試し曲げ作業が発生しないと判定する試し曲げ有無判定部を備え、前記付随作業情報は、前記曲げ加工における前記試し曲げ作業の有無を示す情報を含む請求項1に記載の曲げ加工費見積装置。」と記載されているのを、「曲げ加工の対象物の材料の材質、板厚および寸法を含む工程共通属性情報、ならびに、前記曲げ加工の曲げ順、曲げパターン、曲げ角度および曲げ線の前記対象物における座標を含む曲げ工程属性情報を取得する属性情報取得部と、前記曲げ工程属性情報から、曲げ順、曲げパターンおよび曲げ角度で表される前記曲げ加工の主作業を示す主作業情報を抽出し、前記曲げ工程属性情報が示す曲げ線の前記対象物における座標に基づいて、前記曲げ加工の付随作業を示す付随作業情報を生成するパラメータ抽出部と、前記曲げ加工の主作業および前記曲げ加工の付随作業に含まれる作業要素ごとの加工時間を示す見積基準データを記憶する見積基準データ記憶部と、前記見積基準データを参照し、前記工程共通属性情報、前記主作業情報および前記付随作業情報に基づいて、前記曲げ加工にかかる加工時間を算出する加工時間算出部と、単位時間あたりの加工費を示す加工費基準データを記憶する加工費基準データ記憶部と、前記加工費基準データを参照し、前記加工時間算出部が算出した加工時間に基づいて、前記対象物の曲げ加工にかかる加工費を算出する加工費算出部と、を備え、前記パラメータ抽出部は、前記曲げ加工の曲げ順が隣り合う先の曲げ工程および後の曲げ工程について、前記先の曲げ工程で加工された前記対象物において前記後の曲げ工程の曲げ線がある面の中心を原点とする座標系を定義し、前記曲げ工程属性情報が示す前記先の曲げ工程の曲げ線および前記後の曲げ工程の曲げ線の前記対象物における座標を、前記先の曲げ工程の曲げ線および前記後の曲げ工程の曲げ線の定義した前記座標系における座標に変換し、定義した前記座標系における前記先の曲げ工程の曲げ線の角度と前記後の曲げ工程の曲げ線の角度とが異なる場合は、前記後の曲げ工程で試し曲げ作業が発生すると判定し、定義した前記座標系における前記先の曲げ工程の曲げ線の角度と前記後の曲げ工程の曲げ線の角度とが一致する場合は、前記後の曲げ工程で試し曲げ作業が発生しないと判定する試し曲げ有無判定部を備え、前記付随作業情報は、前記曲げ加工における前記試し曲げ作業の有無を示す情報を含む、曲げ加工費見積装置。」に訂正する。

ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「前記パラメータ抽出部は、前記曲げ加工の曲げ順が隣り合う先の曲げ工程および後の曲げ工程について、前記先の曲げ工程で加工された前記対象物において前記後の曲げ工程の曲げ線がある面の中心を原点とする座標系を定義し、前記曲げ工程属性情報が示す前記先の曲げ工程の曲げ線および前記後の曲げ工程の曲げ線の前記対象物における座標を、前記先の曲げ工程の曲げ線および前記後の曲げ工程の曲げ線の定義した前記座標系における座標に変換し、定義した前記座標系における前記先の曲げ工程の曲げ線の作業方向と前記後の曲げ工程の曲げ線の作業方向との差から、前記後の曲げ工程で前記対象物を回転させる回転量を算出する回転量算出部を備え、前記付随作業情報は、前記曲げ加工における前記回転量を示す情報を含む請求項1または2に記載の曲げ加工費見積装置。」と記載されているのを、「曲げ加工の対象物の材料の材質、板厚および寸法を含む工程共通属性情報、ならびに、前記曲げ加工の曲げ順、曲げパターン、曲げ角度および曲げ線の前記対象物における座標を含む曲げ工程属性情報を取得する属性情報取得部と、前記曲げ工程属性情報から、曲げ順、曲げパターンおよび曲げ角度で表される前記曲げ加工の主作業を示す主作業情報を抽出し、前記曲げ工程属性情報が示す曲げ線の前記対象物における座標に基づいて、前記曲げ加工の付随作業を示す付随作業情報を生成するパラメータ抽出部と、前記曲げ加工の主作業および前記曲げ加工の付随作業に含まれる作業要素ごとの加工時間を示す見積基準データを記憶する見積基準データ記憶部と、前記見積基準データを参照し、前記工程共通属性情報、前記主作業情報および前記付随作業情報に基づいて、前記曲げ加工にかかる加工時間を算出する加工時間算出部と、単位時間あたりの加工費を示す加工費基準データを記憶する加工費基準データ記憶部と、前記加工費基準データを参照し、前記加工時間算出部が算出した加工時間に基づいて、前記対象物の曲げ加工にかかる加工費を算出する加工費算出部と、を備え、前記パラメータ抽出部は、前記曲げ加工の曲げ順が隣り合う先の曲げ工程および後の曲げ工程について、前記先の曲げ工程で加工された前記対象物において前記後の曲げ工程の曲げ線がある面の中心を原点とする座標系を定義し、前記曲げ工程属性情報が示す前記先の曲げ工程の曲げ線および前記後の曲げ工程の曲げ線の前記対象物における座標を、前記先の曲げ工程の曲げ線および前記後の曲げ工程の曲げ線の定義した前記座標系における座標に変換し、定義した前記座標系における前記先の曲げ工程の曲げ線の作業方向と前記後の曲げ工程の曲げ線の作業方向との差から、前記後の曲げ工程で前記対象物を回転させる回転量を算出する回転量算出部を備え、前記付随作業情報は、前記曲げ加工における前記回転量を示す情報を含む、曲げ加工費見積装置。」に訂正する。

エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「前記曲げ工程属性情報が示す曲げ線の前記対象物における座標に基づいて、前記曲げ加工の付随作業を示す付随作業情報を生成するパラメータ抽出部」と記載されているのを、「前記曲げ工程属性情報が示す曲げ線の前記対象物における座標および曲げ順に基づいて、前記曲げ加工の付随作業を示す付随作業情報を生成するパラメータ抽出部」に訂正する。また、特許請求の範囲の請求項4に「前記加工費基準データを参照し、前記加工時間算出部が算出した加工時間に基づいて、前記曲げ加工にかかる加工費を算出し、算出した前記加工費を示す加工費情報を前記設計者端末に送信する加工費算出部、を備える曲げ加工費見積システム。」と記載されているのを、「前記加工費基準データを参照し、前記加工時間算出部が算出した加工時間に基づいて、前記曲げ加工にかかる加工費を算出し、算出した前記加工費を示す加工費情報を前記設計者端末に送信する加工費算出部、を備え、前記パラメータ抽出部は、前記曲げ加工の曲げ順が隣り合う先の曲げ工程および後の曲げ工程について、前記先の曲げ工程で加工された前記対象物において前記後の曲げ工程の曲げ線がある面の中心を原点とする座標系を定義し、前記曲げ工程属性情報が示す前記先の曲げ工程の曲げ線および前記後の曲げ工程の曲げ線の前記対象物における座標を、前記先の曲げ工程の曲げ線および前記後の曲げ工程の曲げ線の定義した前記座標系における座標に変換し、定義した前記座標系における前記先の曲げ工程の曲げ線の作業方向と前記後の曲げ工程の曲げ線の作業方向との差から、前記後の曲げ工程で前記対象物を回転させる回転量を算出する回転量算出部を備え、前記付随作業情報は、前記曲げ加工における前記回転量を示す情報を含む、曲げ加工費見積システム。」に訂正する。

オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に「前記曲げ工程属性情報が示す曲げ線の前記対象物における座標に基づいて、前記曲げ加工の付随作業を示す付随作業情報を生成するパラメータ抽出部」と記載されているのを、「前記曲げ工程属性情報が示す曲げ線の前記対象物における座標および曲げ順に基づいて、前記曲げ加工の付随作業を示す付随作業情報を生成するパラメータ抽出部」に訂正する。また、特許請求の範囲の請求項5に「単位時間あたりの加工費を示す加工費基準データを参照し、前記加工時間算出部が算出した加工時間に基づいて、前記曲げ加工にかかる加工費を算出する加工費算出部、として機能させるプログラム。」と記載されているのを「単位時間あたりの加工費を示す加工費基準データを参照し、前記加工時間算出部が算出した加工時間に基づいて、前記曲げ加工にかかる加工費を算出する加工費算出部、として機能させ、前記パラメータ抽出部は、前記曲げ加工の曲げ順が隣り合う先の曲げ工程および後の曲げ工程について、前記先の曲げ工程で加工された前記対象物において前記後の曲げ工程の曲げ線がある面の中心を原点とする座標系を定義し、前記曲げ工程属性情報が示す前記先の曲げ工程の曲げ線および前記後の曲げ工程の曲げ線の前記対象物における座標を、前記先の曲げ工程の曲げ線および前記後の曲げ工程の曲げ線の定義した前記座標系における座標に変換し、定義した前記座標系における前記先の曲げ工程の曲げ線の作業方向と前記後の曲げ工程の曲げ線の作業方向との差から、前記後の曲げ工程で前記対象物を回転させる回転量を算出する回転量算出部を備え、前記付随作業情報は、前記曲げ加工における前記回転量を示す情報を含む、プログラム。」に訂正する。

2 一群の請求項について
訂正前の請求項1?3について、請求項2及び3は、請求項1を直接的又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1?3に対応する訂正後の請求項1?3は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

3 訂正事項1について
(1)訂正の目的
訂正事項1は、請求項1を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の規定に適合するものである。

(2)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1は、請求項1を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

(3)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1は、請求項1を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

(4)独立特許要件
本件特許異議申立事件においては、訂正前の請求項1、3?5について特許異議の申立てがされているから、訂正前の請求項1に係る訂正事項1に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

4 訂正事項2について
(1)訂正の目的について
訂正事項2は、訂正前の請求項2が訂正前の請求項1を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項1の記載を引用しないものとし、独立形式の請求項へ改めるための訂正であるから、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号の規定に適合するものである。

(2)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項2は、独立形式の請求項へ改めることが何ら実質的な内容の変更を伴うものではないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

(3)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項2は、独立形式の請求項へ改めることが何ら実質的な内容の変更を伴うものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

(4)独立特許要件
訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する事項を目的とする訂正であるから、訂正前の請求項2に係る訂正事項2に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

5 訂正事項3について
(1)訂正の目的について
訂正事項3は、訂正前の請求項3が訂正前の請求項1又は2の記載を引用する記載であったものを、請求項2を引用しないものとしたうえで、請求項1を引用するものについて請求項間の引用関係を解消して、請求項1の記載を引用しないものとし、独立形式の請求項へ改めるための訂正であるから、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号の規定に適合するものである。

(2)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項3は、独立形式の請求項へ改めることが何ら実質的な内容の変更を伴うものではないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

(3)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項3は、独立形式の請求項へ改めることが何ら実質的な内容の変更を伴うものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

(4)独立特許要件
訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する事項を目的とする訂正であるから、訂正前の請求項3に係る訂正事項3に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

6 訂正事項4について
(1)訂正の目的について
訂正事項4は、訂正前の請求項4の「前記曲げ工程属性情報が示す曲げ線の前記対象物における座標に基づいて、前記曲げ加工の付随作業を示す付随作業情報を生成するパラメータ抽出部」を「前記曲げ工程属性情報が示す曲げ線の前記対象物における座標および曲げ順に基づいて、前記曲げ加工の付随作業を示す付随作業情報を生成するパラメータ抽出部」と限定するとともに、訂正前の請求項4の「曲げ加工費見積システム」について「前記パラメータ抽出部は、前記曲げ加工の曲げ順が隣り合う先の曲げ工程および後の曲げ工程について、前記先の曲げ工程で加工された前記対象物において前記後の曲げ工程の曲げ線がある面の中心を原点とする座標系を定義し、前記曲げ工程属性情報が示す前記先の曲げ工程の曲げ線および前記後の曲げ工程の曲げ線の前記対象物における座標を、前記先の曲げ工程の曲げ線および前記後の曲げ工程の曲げ線の定義した前記座標系における座標に変換し、定義した前記座標系における前記先の曲げ工程の曲げ線の作業方向と前記後の曲げ工程の曲げ線の作業方向との差から、前記後の曲げ工程で前記対象物を回転させる回転量を算出する回転量算出部を備え、前記付随作業情報は、前記曲げ加工における前記回転量を示す情報を含む」との限定を加えるものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の規定に適合するものである。

(2)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
願書に添付した明細書の【0021】には、パラメータ抽出部13が曲げ工程属性情報に含まれる「曲げ順」、「曲げ線の始点座標(X,Y)」及び「曲げ点の終点座標(X,Y)」の項目に基づいて付随作業情報を生成することが記載されており、また、願書に添付した特許請求の範囲の請求項3には、「前記パラメータ抽出部は、前記曲げ加工の曲げ順が隣り合う先の曲げ工程および後の曲げ工程について、前記先の曲げ工程で加工された前記対象物において前記後の曲げ工程の曲げ線がある面の中心を原点とする座標系を定義し、前記曲げ工程属性情報が示す前記先の曲げ工程の曲げ線および前記後の曲げ工程の曲げ線の前記対象物における座標を、前記先の曲げ工程の曲げ線および前記後の曲げ工程の曲げ線の定義した前記座標系における座標に変換し、定義した前記座標系における前記先の曲げ工程の曲げ線の作業方向と前記後の曲げ工程の曲げ線の作業方向との差から、前記後の曲げ工程で前記対象物を回転させる回転量を算出する回転量算出部を備え、前記付随作業情報は、前記曲げ加工における前記回転量を示す情報を含む」と記載されているから、訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。

(3)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記(1)から明らかなように、訂正事項4は、訂正前の請求項4におけるパラメータ抽出部及び曲げ加工費見積システムをより狭い範囲に限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(4)独立特許要件
本件特許異議申立事件においては、訂正前の請求項1、3?5について特許異議の申立てがされているから、訂正前の請求項4に係る訂正事項4に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

7 訂正事項5について
(1)訂正の目的について
訂正事項5は、訂正前の請求項5の「前記曲げ工程属性情報が示す曲げ線の前記対象物における座標に基づいて、前記曲げ加工の付随作業を示す付随作業情報を生成するパラメータ抽出部」を「前記曲げ工程属性情報が示す曲げ線の前記対象物における座標および曲げ順に基づいて、前記曲げ加工の付随作業を示す付随作業情報を生成するパラメータ抽出部」と限定するとともに、訂正前の請求項5の「プログラム」について「前記パラメータ抽出部は、前記曲げ加工の曲げ順が隣り合う先の曲げ工程および後の曲げ工程について、前記先の曲げ工程で加工された前記対象物において前記後の曲げ工程の曲げ線がある面の中心を原点とする座標系を定義し、前記曲げ工程属性情報が示す前記先の曲げ工程の曲げ線および前記後の曲げ工程の曲げ線の前記対象物における座標を、前記先の曲げ工程の曲げ線および前記後の曲げ工程の曲げ線の定義した前記座標系における座標に変換し、定義した前記座標系における前記先の曲げ工程の曲げ線の作業方向と前記後の曲げ工程の曲げ線の作業方向との差から、前記後の曲げ工程で前記対象物を回転させる回転量を算出する回転量算出部を備え、前記付随作業情報は、前記曲げ加工における前記回転量を示す情報を含む」との限定を加えるものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
したがって、訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の規定に適合するものである。

(2)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
願書に添付した明細書の【0021】には、パラメータ抽出部13が曲げ工程属性情報に含まれる「曲げ順」、「曲げ線の始点座標(X,Y)」及び「曲げ点の終点座標(X,Y)」の項目に基づいて付随作業情報を生成することが記載されており、また、願書に添付した特許請求の範囲の請求項3には、「前記パラメータ抽出部は、前記曲げ加工の曲げ順が隣り合う先の曲げ工程および後の曲げ工程について、前記先の曲げ工程で加工された前記対象物において前記後の曲げ工程の曲げ線がある面の中心を原点とする座標系を定義し、前記曲げ工程属性情報が示す前記先の曲げ工程の曲げ線および前記後の曲げ工程の曲げ線の前記対象物における座標を、前記先の曲げ工程の曲げ線および前記後の曲げ工程の曲げ線の定義した前記座標系における座標に変換し、定義した前記座標系における前記先の曲げ工程の曲げ線の作業方向と前記後の曲げ工程の曲げ線の作業方向との差から、前記後の曲げ工程で前記対象物を回転させる回転量を算出する回転量算出部を備え、前記付随作業情報は、前記曲げ加工における前記回転量を示す情報を含む」と記載されているから、訂正事項5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
したがって、訂正事項5は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。

(3)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記(1)から明らかなように、訂正事項5は、訂正前の請求項5におけるパラメータ抽出部及びプログラムをより狭い範囲に限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項5は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(4)独立特許要件
本件特許異議申立事件においては、訂正前の請求項1、3?5について特許異議の申立てがされているから、訂正前の請求項5に係る訂正事項5に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

8 訂正についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求書による訂正(訂正事項1?5)は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に規定する事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項並びに同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
そして、特許権者は、訂正後の請求項2及び3については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求めているところ、上記3?5のとおり、訂正事項1?3に係る訂正は認められるものであるから、訂正後の請求項1?3について、請求項ごとに訂正することを認める。
したがって、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2、3、4、5について訂正することを認める。

第3 訂正後の発明
令和3年5月14日の本件訂正請求により訂正された本件特許請求の範囲の請求項1?5に係る発明(以下、「本件訂正発明1」?「本件訂正発明5」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲に記載された以下のとおりのものである。
なお、上記第2のとおり、請求項1は、本件訂正請求により削除された。
ここで、本件訂正発明3?本件訂正発明5の各構成には、(A)?(L)の符号を付した。以下、構成A?構成Lという。

〔本件訂正発明1〕【請求項1】
(削除)

〔本件訂正発明2〕【請求項2】
曲げ加工の対象物の材料の材質、板厚および寸法を含む工程共通属性情報、ならびに、前記曲げ加工の曲げ順、曲げパターン、曲げ角度および曲げ線の前記対象物における座標を含む曲げ工程属性情報を取得する属性情報取得部と、
前記曲げ工程属性情報から、曲げ順、曲げパターンおよび曲げ角度で表される前記曲げ加工の主作業を示す主作業情報を抽出し、前記曲げ工程属性情報が示す曲げ線の前記対象物における座標に基づいて、前記曲げ加工の付随作業を示す付随作業情報を生成するパラメータ抽出部と、
前記曲げ加工の主作業および前記曲げ加工の付随作業に含まれる作業要素ごとの加工時間を示す見積基準データを記憶する見積基準データ記憶部と、
前記見積基準データを参照し、前記工程共通属性情報、前記主作業情報および前記付随作業情報に基づいて、前記曲げ加工にかかる加工時間を算出する加工時間算出部と、
単位時間あたりの加工費を示す加工費基準データを記憶する加工費基準データ記憶部と、
前記加工費基準データを参照し、前記加工時間算出部が算出した加工時間に基づいて、前記対象物の曲げ加工にかかる加工費を算出する加工費算出部と、
を備え、
前記パラメータ抽出部は、
前記曲げ加工の曲げ順が隣り合う先の曲げ工程および後の曲げ工程について、前記先の曲げ工程で加工された前記対象物において前記後の曲げ工程の曲げ線がある面の中心を原点とする座標系を定義し、前記曲げ工程属性情報が示す前記先の曲げ工程の曲げ線および前記後の曲げ工程の曲げ線の前記対象物における座標を、前記先の曲げ工程の曲げ線および前記後の曲げ工程の曲げ線の定義した前記座標系における座標に変換し、定義した前記座標系における前記先の曲げ工程の曲げ線の角度と前記後の曲げ工程の曲げ線の角度とが異なる場合は、前記後の曲げ工程で試し曲げ作業が発生すると判定し、定義した前記座標系における前記先の曲げ工程の曲げ線の角度と前記後の曲げ工程の曲げ線の角度とが一致する場合は、前記後の曲げ工程で試し曲げ作業が発生しないと判定する試し曲げ有無判定部を備え、
前記付随作業情報は、前記曲げ加工における前記試し曲げ作業の有無を示す情報を含む、
曲げ加工費見積装置。

〔本件訂正発明3〕【請求項3】
(A1)曲げ加工の対象物の材料の材質、板厚および寸法を含む工程共通属性情報、
(A2)ならびに、前記曲げ加工の曲げ順、曲げパターン、曲げ角度および曲げ線の前記対象物における座標を含む曲げ工程属性情報
(A)を取得する属性情報取得部と、
(B1)前記曲げ工程属性情報から、曲げ順、曲げパターンおよび曲げ角度で表される前記曲げ加工の主作業を示す主作業情報を抽出し、
(B2)前記曲げ工程属性情報が示す曲げ線の前記対象物における座標に基づいて、前記曲げ加工の付随作業を示す付随作業情報を生成する
(B)パラメータ抽出部と、
(C)前記曲げ加工の主作業および前記曲げ加工の付随作業に含まれる作業要素ごとの加工時間を示す見積基準データを記憶する見積基準データ記憶部と、
(D)前記見積基準データを参照し、前記工程共通属性情報、前記主作業情報および前記付随作業情報に基づいて、前記曲げ加工にかかる加工時間を算出する加工時間算出部と、
(E)単位時間あたりの加工費を示す加工費基準データを記憶する加工費基準データ記憶部と、
(F)前記加工費基準データを参照し、前記加工時間算出部が算出した加工時間に基づいて、前記対象物の曲げ加工にかかる加工費を算出する加工費算出部と、
を備え、
(B3)前記パラメータ抽出部は、
前記曲げ加工の曲げ順が隣り合う先の曲げ工程および後の曲げ工程について、前記先の曲げ工程で加工された前記対象物において前記後の曲げ工程の曲げ線がある面の中心を原点とする座標系を定義し、前記曲げ工程属性情報が示す前記先の曲げ工程の曲げ線および前記後の曲げ工程の曲げ線の前記対象物における座標を、前記先の曲げ工程の曲げ線および前記後の曲げ工程の曲げ線の定義した前記座標系における座標に変換し、定義した前記座標系における前記先の曲げ工程の曲げ線の作業方向と前記後の曲げ工程の曲げ線の作業方向との差から、前記後の曲げ工程で前記対象物を回転させる回転量を算出する回転量算出部を備え、
(G)前記付随作業情報は、前記曲げ加工における前記回転量を示す情報を含む、
(H)曲げ加工費見積装置。

〔本件訂正発明4〕【請求項4】
(I)設計者が使用する設計者端末と、曲げ加工費見積装置とで構成される曲げ加工費見積システムであって、
(J)前記設計者端末は、
曲げ加工の対象物の材料の材質、板厚および寸法を含む工程共通属性情報、ならびに、前記曲げ加工の曲げ順、曲げパターン、曲げ角度および曲げ線の前記対象物における座標を含む曲げ工程属性情報が付加された3次元CADデータを前記曲げ加工費見積装置に送信し、
(H+)前記曲げ加工費見積装置は、
(A+)前記設計者端末から、前記3次元CADデータを取得する属性情報取得部、
(B1)前記曲げ工程属性情報から、曲げ順、曲げパターンおよび曲げ角度で表される前記曲げ加工の主作業を示す主作業情報を抽出し、
(B2+)前記曲げ工程属性情報が示す曲げ線の前記対象物における座標および曲げ順に基づいて、前記曲げ加工の付随作業を示す付随作業情報を生成する
(B)パラメータ抽出部、
(C)前記曲げ加工の主作業および前記曲げ加工の付随作業に含まれる作業要素ごとの加工時間を示す見積基準データを記憶する見積基準データ記憶部、
(D)前記見積基準データを参照し、前記工程共通属性情報、前記主作業情報および前記付随作業情報に基づいて、前記曲げ加工にかかる加工時間を算出する加工時間算出部、
(E)単位時間あたりの加工費を示す加工費基準データを記憶する加工費基準データ記憶部、および、
(F+)前記加工費基準データを参照し、前記加工時間算出部が算出した加工時間に基づいて、前記曲げ加工にかかる加工費を算出し、算出した前記加工費を示す加工費情報を前記設計者端末に送信する加工費算出部、
を備え、
(B3)前記パラメータ抽出部は、
前記曲げ加工の曲げ順が隣り合う先の曲げ工程および後の曲げ工程について、前記先の曲げ工程で加工された前記対象物において前記後の曲げ工程の曲げ線がある面の中心を原点とする座標系を定義し、前記曲げ工程属性情報が示す前記先の曲げ工程の曲げ線および前記後の曲げ工程の曲げ線の前記対象物における座標を、前記先の曲げ工程の曲げ線および前記後の曲げ工程の曲げ線の定義した前記座標系における座標に変換し、定義した前記座標系における前記先の曲げ工程の曲げ線の作業方向と前記後の曲げ工程の曲げ線の作業方向との差から、前記後の曲げ工程で前記対象物を回転させる回転量を算出する回転量算出部を備え、
(G)前記付随作業情報は、前記曲げ加工における前記回転量を示す情報を含む、
(K)曲げ加工費見積システム。

〔本件訂正発明5〕【請求項5】
(L)コンピュータを、
(A1)曲げ加工の対象物の材料の材質、板厚および寸法を含む工程共通属性情報、
(A2)ならびに、前記曲げ加工の曲げ順、曲げパターン、曲げ角度および曲げ線の前記対象物における座標を含む曲げ工程属性情報
(A)を取得する属性情報取得部、
(B1)前記曲げ工程属性情報から、曲げ順、曲げパターンおよび曲げ角度で表される前記曲げ加工の主作業を示す主作業情報を抽出し、
(B2+)前記曲げ工程属性情報が示す曲げ線の前記対象物における座標および曲げ順に基づいて、前記曲げ加工の付随作業を示す付随作業情報を生成する
(B)パラメータ抽出部、
(CD-)前記曲げ加工の主作業および前記曲げ加工の付随作業に含まれる作業要素ごとの加工時間を示す見積基準データを参照し、前記工程共通属性情報、前記主作業情報および前記付随作業情報に基づいて、前記曲げ加工にかかる加工時間を算出する加工時間算出部、および、
(EF?)単位時間あたりの加工費を示す加工費基準データを参照し、前記加工時間算出部が算出した加工時間に基づいて、前記曲げ加工にかかる加工費を算出する加工費算出部、
(L)として機能させ、
(B3)前記パラメータ抽出部は、
前記曲げ加工の曲げ順が隣り合う先の曲げ工程および後の曲げ工程について、前記先の曲げ工程で加工された前記対象物において前記後の曲げ工程の曲げ線がある面の中心を原点とする座標系を定義し、前記曲げ工程属性情報が示す前記先の曲げ工程の曲げ線および前記後の曲げ工程の曲げ線の前記対象物における座標を、前記先の曲げ工程の曲げ線および前記後の曲げ工程の曲げ線の定義した前記座標系における座標に変換し、定義した前記座標系における前記先の曲げ工程の曲げ線の作業方向と前記後の曲げ工程の曲げ線の作業方向との差から、前記後の曲げ工程で前記対象物を回転させる回転量を算出する回転量算出部を備え、
(G)前記付随作業情報は、前記曲げ加工における前記回転量を示す情報を含む、
(L)プログラム。

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
令和3年3月12日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

理由1(進歩性) 請求項1、4、5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された技術及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、4、5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

理由2(サポート要件) 請求項1、4、5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、請求項1、4、5に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

理由3(実施可能要件) 発明の詳細な説明の記載は、請求項1、4、5に係る発明を当業者が実施できる程度に記載したものとはいえないから、請求項1、4、5に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

甲第1号証:特開2002-203007号公報
甲第2号証:特公平8-15622号公報
甲第3号証:特開平7-306705号公報
甲第4号証:特開2000-15340号公報

2 甲号証について
2-1 甲第1号証について
(1)甲第1号証の記載事項
甲第1号証には次の記載がある。なお、以降の下線は、強調のために当審で付したものである。

「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、板金加工作業の見積もり作成方法に係り、さらに詳細には、製品製造の受注を受けた時点で製品製造のシミュレーションを行うとともに見積もりを行う板金加工作業の見積もり作成方法に関する。」

「【0011】
【課題を解決するための手段】本発明は、前述のごとき問題に鑑みてなされたもので、板金加工作業の見積もり作成方法にして、曲げ線データとこの曲げ線の加工時間データとを関連付けて記憶する工程、穴データとこの穴の加工時間データとを関連付けて記憶する工程、コンピュータにより三面図に基づいて三次元姿図及びこの三次元姿図を実現する展開図を作成する工程、前記三次元姿図あるいは展開図のデータに基づいて当該製品に含まれる曲げ線及び穴を検出する工程、コンピュータにより、前記特定された曲げ線の加工時間を、前記関連付けデータを参照して、所定の式に基づいて計算する工程、前記特定された製品内の穴の加工時間を前記関連付けデータを参照して、所定の式によって計算する工程、前記曲げ線加工時間および穴加工時間を加工時間メモリに格納する工程、前記加工時間メモリに格納された各部位加工時間を加算し、当該製品を加工するために必要な総加工時間を計算する工程、前記総加工時間を加工時間当たりのコストを考慮して当該製品を加工するための加工コストへ変換する工程を有する板金作業の見積もり作成方法であることが好ましい。」

「【0016】図1を参照するに前記見積もりシステム1は、製品の製作を依頼する発注者3と、依頼された製品の製造を行う受注者5と、例えば前記受注者5の業務の一部代行を行うアウトソーシングセンタ7とを備えている。これらは、例えばプロバイダPを介して通信が可能な状態になっている。なお、本例では受注者5が見積りを行う場合について説明ずる。前記受注者5が見積もりシステムを備えていない場合、前記アウトソーシングセンタ7が見積もり業務の代行を行う。
【0017】前記発注者3は発注者CAD/CAMシステム9を備える。CAD/CAMシステム9は製品を設計するCAD/CAM部11と、設計したCAD図面等を格納するCAD/CAMデータファイル13とを備えている。また、製品の設計を紙に行った図面15も所持している。
【0018】前記受注者5は受注者CAD/CAMシステム17を備えている。アウトソーシングセンタ7はアウトソーシングサービスセンタCAD/CAMシステム19を備えている。
【0019】各CAD/CAMシステムは、コンピュータよりなるものであって、例えば図示しないコンピュータ本体(記憶装置も含む)と、表示部3と、入出力装置等とが備えられている。
【0020】前記受注者CAD/CAMシステム17はCAD/CAM部21と、前記CAD/CAM部21で作成等を行った図形データ等を格納するCAD/CAMデータファイル23と、を備えている。CAD/CAMデータは図形として表示部25に表示される。
【0021】前記CAD/CAM部21と、納期・見積もり作成管理部27と入出力部29とはリンク部31により結合されている。これにより、前記納期・見積もり作成管理部27はCAD/CAMデータを読み込み編集等を行うことができる。
【0022】前記納期・見積もり作成管理部27は製品図形編集部33と、加工時間・加工費算出部と35、見積もり・納期作成部37とを備えている。さらに、製品図関連データファイル39と、加工時間・加工費関連データファイル41と、加工関連参照テーブル43と、製造日程データファイル45とを備えている。
【0023】前記製品図形編集部33は三面図抽出部47と、面定義部49と、立体姿図作成部51と、立体姿図分割部53と、展開図作成部55と、試作検証部57と、組図検証部59とを備えている。
【0024】前記三面図抽出部47はCAD/CAMデータファイル23に格納されている製品図のCADデータから三面図の図形データを抽出して製品図関連データファイル39に記憶する。なお、発注者3が送付してきた紙の設計図面(三面図)はCADにより電子図面として作成されCAD/CAMデータファイル23に記憶される。発注者3が電子図面データで送ってくる場合もあるがこの場合は変換処理を行いCAD/CAMデータファイル23に記憶する。
【0025】前記面定義部49は製品図関連データファイル39より三面図の図形データを読み込み例えば製品の正面図、側面図、及び上面図を決定し、さらにこれらの面を合成して曲げ線等を作成する。そして、製品図関連データファイル39に記憶する。これにより、立体モデルを平面図から定義することができる。
【0026】前記立体姿図作成部51は面定義された三面図に、例えば板厚等を付加して立体モデルである立体姿図を作成する。
【0027】前記立体姿図分割図53は、例えば立体姿図に対して分割する稜線に分割するための属性を付加して製品を複数の部品に分割する。そして、分割後にできた部品データを製品図関連データファイル39に記憶する。
【0028】前記展開図作成部55は、複数の部品に分割された各部品を曲げの伸び値等を考慮し展開する。展開された展開図データを製品図関連データファイル39に記憶する。このデータを参照して展開図の面積等を求めることができる。
【0029】試作検証部57は曲げ箇所が含まれている各部品に対して曲げのシミュレーションを行い実際に曲げ加工が可能かどうかを検証する。曲げ工程等が決定したら曲げ工程のデータを部品データに関連づけて製品図関連データファイル39に記憶する。これにより曲げ加工費等を算出することができる。
【0030】前記組図検証部59では複数の部品を組み立てて製品を完成させるため各部品同士の例えば組立、溶接、及び塗装等を検証し結果を製品図関連データファイル39に記憶する。これにより、組立費、溶接費、及び塗装費等が算出できる。
【0031】加工時間・加工費算出部35は、材料費算出部61と、ブランク加工時間算出部63と、ブランク加工費算出部65と、曲げ加工時間算出部67と、曲げ加工費算出部69と、溶接時間算出部71と、溶接費算出部73と、塗装時間算出部75と、塗装費算出部77と、組立費算出部79とを備えている。
【0032】前記材料費算出部61は製品図関連データファイル39より展開図データ等を読み込み、加工関連参照テーブル43から材質の板厚当たりの単価を読み込み材料費を算出する処理部である。材料費は加工時間・加工費関連データファイル41に記憶される。
【0033】前記ブランク加工時間算出部63は部品の展開形状を、例えばレーザ加工、NCタレットパンチプレス加工により外形加工を行ったときに掛かる時間を算出する。そして、この時間のデータを加工時間・加工費関連データファイル41に記憶する。
【0034】前記ブランク加工費算出部65は、ブランク加工時間算出部63で求めた加工時間に加工関連参照テーブルから単位加工時間当たりの費用を参照してブランク加工費を算出して加工時間・加工費関連データファイル43に記憶する。
【0035】前記曲げ加工時間算出部67は展開図に付加されている曲げ線のデータ等を読み込み、加工関連参照テーブル43から標準曲げ時間等を参照して曲げ時間を算出する。曲げ時間は加工時間・加工費データファイル41に記憶される。
【0036】前記曲げ加工費算出部69は曲げ加工時間を読み込み加工関連参照テーブル43から単位時間当たりの曲げ加工費を参照して曲げ加工費を算出する。曲げ加工費のデータは加工時間・加工費用データファイル41に記憶する。」

「【0083】図12を参照して試作品検証の詳細を説明する。試作品検証では展開図1201をどのような金型を使用して、どのような工程で曲げるか等を検討する試作品検証1203を行う。この結果を加工可否によるVA・VE結果1203a、及び作業性・加工方法によるVA・VE結果1203bとしてテキストデータで記憶する。
【0084】展開図毎の曲げ加工費1205に加工枚数1207を乗算し、曲げ段取り費1209と、特型を購入した場合は特型購入費1211を加算した値を算出する。
【0085】詳細には、曲げ加工費1205は曲げ形状別加工時間1213aに曲げ基準単価(単位時間)1213bを乗算する。この計算を展開図に含まれる全ての曲げに対して行い総和を算出する。曲げ段取り費1209は使用金型数1205aに金型交換時間を乗算した値を算出する。
【0086】図13にさらに詳細な曲げ加工費算出方法を示す。展開図1301を読み込み試作品検証を行う。試作品検証された展開図等から曲げ工程1305a、金型形状1305b、曲げ長さ1305c、及び曲げ角度1305d等を読み込む。そして、加工関連参照テーブル43に記憶されている曲げ時間算出テーブル1307、ワークハンドリング時間(単位曲げ長さ)算出テーブル1309、加工機・使用金型・加工方法・材料特性マスタ1311、加工時間算出マスタ1313を参照してCGシミュレーションによる加工時間算出1305を行う。この結果加工時間1317が算出される。前記曲げ時間算出テーブル1307は曲げのパターンを設定するパターン欄1307aと、各曲げのパターンの加工時間を設定する時間欄1307bを含む。前記ワークハンドリング時間(単位曲げ長さ)算出テーブル1309は板厚を設定する板厚欄1309aと、各板厚に対して加工する場合の加工時間を設定する時間欄を含む。
【0087】前記加工時間1317を読み込み、加工関連参照テーブル43に記憶されている加工費(単位時間)テーブル1319を参照して曲げ加工費1321を算出する。前記加工費(単位時間)テーブル1319は加工方法(ベンダー等)を設定する加工欄1319aと、金額を設定する金額欄1319bを含む。」









(2)甲第1号証に記載された技術事項
上記【0011】によれば、加工時間の計算や加工コストへの変換が、コンピュータにより行われるから、上記【0031】の「曲げ加工時間算出部67と、曲げ加工費算出部69」は、各算出プログラムに基づきコンピュータが処理を実行するものである。
したがって、甲第1号証には、コンピュータを曲げ加工時間算出部67と曲げ加工費算出部69として機能させるプログラムが実質的に記載されているといえる。

(3)甲1発明
上記(1)及び(2)から、甲第1号証には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
ここで、甲1発明の各構成には、(a)?(e31)の符号を当審において付した。以下、構成a?構成e31という。
また、各構成の末尾に対応する記載事項の段落番号を付した。
なお、当審において、上記【0022】の「加工時間・加工費算出部と35、」との記載は「加工時間・加工費算出部35と、」の誤記と認めた。

〔甲1発明〕
(a)コンピュータを、納期・見積もり作成管理部27に備えられた加工時間・加工費算出部35における曲げ加工時間算出部67と曲げ加工費算出部69として機能させるプログラムであって、(【0022】、【0031】)
(b)前記曲げ加工時間算出部67は展開図に付加されている曲げ線のデータ等を読み込み、加工関連参照テーブル43から標準曲げ時間等を参照して曲げ時間を算出し、曲げ時間は加工時間・加工費データファイル41に記憶され、(【0035】)
(c)前記曲げ加工費算出部69は曲げ加工時間を読み込み加工関連参照テーブル43から単位時間当たりの曲げ加工費を参照して曲げ加工費を算出し、(【0036】)
(d)詳細には、曲げ加工費1205は曲げ形状別加工時間1213aに曲げ基準単価(単位時間)1213bを乗算し、この計算を展開図に含まれる全ての曲げに対して行い総和を算出し、(【0085】)
(e)さらに詳細な曲げ加工費算出方法として、(【0086】)
(e1)試作品検証された展開図等から曲げ工程1305a、金型形状1305b、曲げ長さ1305c、及び曲げ角度1305d等を読み込み、(【0086】)金型形状としてヘミングを含み、(【図13】)
(e11)試作検証部57において曲げ工程のデータが部品データに関連づけられており、(【0029】)
(e2)加工関連参照テーブル43に記憶されている曲げ時間算出テーブル1307、ワークハンドリング時間(単位曲げ長さ)算出テーブル1309、加工機・使用金型・加工方法・材料特性マスタ1311、加工時間算出マスタ1313を参照してCGシミュレーションによる加工時間算出1305を行い、この結果加工時間1317が算出され、(【0086】)
(e21)前記曲げ時間算出テーブル1307は曲げのパターンを設定するパターン欄1307aと、各曲げのパターンの加工時間を設定する時間欄1307bを含み、(【0086】)パターンとしてヘミングを含み、(【図13】)
(e22)前記ワークハンドリング時間(単位曲げ長さ)算出テーブル1309は板厚を設定する板厚欄1309aと、各板厚に対して加工する場合の加工時間を設定する時間欄を含み、(【0086】)
(e3)前記加工時間1317を読み込み、加工関連参照テーブル43に記憶されている加工費(単位時間)テーブル1319を参照して曲げ加工費1321を算出し、(【0087】)
(e31)前記加工費(単位時間)テーブル1319は加工方法(ベンダー等)を設定する加工欄1319aと、金額を設定する金額欄1319bを含む(【0087】)
(a)プログラム。

2-2 甲第2号証について
(1)甲第2号証の記載事項
甲第2号証には次の記載がある。

「〔発明の目的〕
(産業上の利用分野)
この発明は、例えばプレスブレーキのような折曲げ機におけるワークのタクトタイム決定装置に関する。
(従来の技術)
例えばプレスブレーキのような折曲げ機では、ワークの折曲げ加工に先立って最終形状までの折曲げ加工にどれ位の時間がかかるのかそのタクトタイムを予測し、工程管理に利用する必要がある。
そのために従来は、このような折曲げ機におけるタクトタイムの決定は作業者が各折曲げ工程におけるゲージング時間、曲げ所要時間、プルバック時間、反転時間等を考慮し、自から決定してNC装置に入力していた。
ところが、このように作業者が判断して自から入力するのでは、作業者に負担がかかるため、NC装置側が自動的にタクトタイムを決定することが望まれていた。
(発明が解決しようとする問題点)
上記のように、従来からタクトタイムの自動決定装置が望まれていた。
この発明はこのような従来の問題に鑑みてなされたもので、折曲げ機のNC装置が必要な入力情報を演算し、自動的にタクトタイムを決定することができるタクトタイム決定装置を提供することを目的とする。」(1頁左欄15行?2頁左欄6行)

「このような折曲げ機1に対するタクトタイム決定装置の実施例を第3図及第4図に示してある。このタクト決定装置は、ワークの最終加工形状、寸法、金型情報、曲げ順序等の必要情報の入力手段43を備えている。この入力手段43は、NC装置側のデータを読込むと共に、最大曲げ長さ、ワーク重量、展開長さ等を計算する(ステップ61,62)。そしてこの入力手段43により与えられる必要情報は、時間要素演算手段45、反転演算手段47に与えられる。
時間要素演算手段45は、入力手段43からの最大曲げ長さ、ワーク重量、ワークの展開長さ等の情報を基にしてバックゲージ25のゲージング時間、プルバック時間を算出する。続いて反転判定手段47は、1つの曲げ加工から次回の曲げ加工に移行する際のワークの反転方法を決定する(ステップ64)。この反転方法の判定は、第5図に示すフローに基づいて行なわれる。
ワークWに対する反転方法は、第6図(a)に示す表裏反転、同図(b)に示す表裏反転かつ180°水平反転、および同図(c)に示す180°水平反転の3つのものがある。そしてこれらのいずれかの反転であることが判定された場合、第7図(a)?(c)に示すように反転マークを生成するのである。
この反転方法の判定フローを説明すると、まず現在の曲げ点p3における角度の符号と次回の曲げ点p4における角度の符号とを調べる(ステップ71)。
続いて現在の曲げ点p3と次回の曲げ点p4とにおける角度の符号が同じかどうか判断する(ステップ72)。ここで、角度の符号が同じであれば、ワークWは同一の向きに曲げ加工が行なわれるものと判断する。そしてこのように、同じ向きに曲げ加工が行なわれる反転方法は、第6図(c)に示した180°水平反転か、あるいは反転なしかのどちらかである。従って、以下、反転なしか、あるいは180°水平反転か、どちらであるかを判定するためにステップ73以下のフローに移行する。
ステップ72において、現在の曲げ点p3と次回の曲げ点p4との間で曲げ角度の符号が異なる場合、現在の曲げ加工と次回の曲げ加工とでは表裏逆の折曲げ加工が行なわれるものと判断でき、単なる表裏反転か、あるいは表裏反転と共に180°水平反転させるか、どちらかであるかを以下のステップによって判断する。
前記ステップ72において曲げ点の角度符号が同じと判断された場合、続いて現在の突き当て点p2と曲げ点p3との数値の差を調べ、続いて次回の曲げ加工時の突き当て点(第6図(c)の場合にはp5、p4)の数値の差を調べる(ステップ73,74)。
上記のステップ73における差とステップ74における差との符号が同一の場合、ワークWの前後を入替えるものではないため、反転する必要はなく、反転マークを生成しない(ステップ75,76)。
ステップ75において、ステップ73,74における数値の差の符号が異なっている場合、次回の曲げ加工においてはワークの前後を反転させるものと判断でき、180°水平反転するものと判断される(ステップ77)。
上記ステップ72における次回の曲げ点の折曲げ角度が現在の曲げ点の折曲げ角度の符号と異なる場合、ワークWは少なくともその表裏が反転されるものであり、ステップ78においてまず現在の突き当て点p2と曲げ点p3の数値の差を調べ、続いてステップ79において次回の折曲げ加工における突き当て点と曲げ点との数値の差を調べる。
このようにしてステップ78,79において求められた差の符号を調べる(ステップ80)。
このステップ80において符号が同一である場合、ワークWの前後は入替えられないものと判断でき、ワークWは単に表裏反転されるだけであると決定される(ステップ81)。
ステップ80において符号が異なっている場合、ワークWの前後も入替えられるものと判断でき、この場合には表裏反転と共に180°水平反転されるものと判断される(ステップ82)。
このようにして新たな曲げ加工に移行する場合のワークの反転方法が決定された後、第4図に示すフローチャートに戻り、反転方法毎に対応する反転時間を計算すると共にその新たな曲げ加工におけるゲージング時間、曲げ所要時間、プルバック時間を加算して1つの曲げ工程における所要時間を算出する(ステップ65?68)。
こうして、工程所要時間演算手段49において算出された各曲げ工程における所要時間は、タクトタイム加算時間51において順次加算されていく(ステップ69)。
こうして、順次ワークの曲げ工程における所要時間が全曲げ点について加算されて行き、最終的に全曲げ工程におけるタクトタイムが求められる(ステップ70)。」(2頁右欄39行?3頁右欄20行)





(2)甲2技術
上記(1)の記載事項から、甲第2号証には、以下の技術(以下、「甲2技術」という。)が記載されている。
なお、当審において、上記「反転演算手段47」との記載は「反転判定手段47」の誤記と認めた。

〔甲2技術〕
プレスブレーキのような折曲げ機のNC装置が必要な入力情報を演算し、自動的にタクトタイムを決定することができるタクトタイム決定装置であって、
ワークの最終加工形状、寸法、金型情報、曲げ順序等の必要情報の入力手段43を備え、この入力手段43は、NC装置側のデータを読込むと共に、最大曲げ長さ、ワーク重量、展開長さ等を計算し、そしてこの入力手段43により与えられる必要情報は、時間要素演算手段45、反転判定手段47に与えられ、
反転判定手段47は、1つの曲げ加工から次回の曲げ加工に移行する際のワークの反転方法を決定し、
この反転方法の判定フローは、現在の突き当て点p2と曲げ点p3との数値の差と次回の曲げ加工時の突き当て点(第6図(c)の場合にはp5、p4)の数値の差の符号が異なっている場合、180°水平反転するものと判断されるステップを含み、
このようにして新たな曲げ加工に移行する場合のワークの反転方法が決定された後、反転方法毎に対応する反転時間を計算すると共にその新たな曲げ加工におけるゲージング時間、曲げ所要時間、プルバック時間を加算して1つの曲げ工程における所要時間を算出し、
こうして、順次ワークの曲げ工程における所要時間が全曲げ点について加算されて行き、最終的に全曲げ工程におけるタクトタイムが求められる
タクトタイム決定装置。

2-3 甲第3号証について
(1)甲第3号証の記載事項
甲第3号証には次の記載がある。

「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ロボットにより加工ワークが把握されて位置決め移動される毎に、加工ワークを曲げ加工する曲げ加工機におけるロボットの教示装置に関する。」

「【0035】(1)加工ワークの情報を、
(a)加工ワークの座標系の曲げ線の位置及び姿勢
(b)曲げ角度
(c)曲げ順序
等の座標値と加工方法(角度、順序)で構成されたデータで定義する。」

(2)甲3技術
上記(1)の記載事項から、甲第3号証には、以下の技術(以下、「甲3技術」という。)が記載されている。

〔甲3技術〕
加工ワークを曲げ加工する曲げ加工機において、
加工ワークの情報を、
(a)加工ワークの座標系の曲げ線の位置及び姿勢
(b)曲げ角度
(c)曲げ順序
等の座標値と加工方法(角度、順序)で構成されたデータで定義する技術。

2-4 甲第4号証について
(1)甲第4号証の記載事項
甲第4号証には次の記載がある。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は曲げ加工方法、特にプレスブレーキにおいて、ワーク姿勢変更動作(マテハン)情報をランプ等で分かり易く表示することにより、作業者がワークを突当に当てる場合の姿勢変更を簡単に確認でき、作業の円滑な進行を図り、加工効率を向上させるようにした曲げ加工方法及びその装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来より、プレスブレーキ(図1)により複雑な形状の曲げ加工をする場合は、よく知られているように、ワークWをどのような姿勢で突当13に当てたらよいかが問題となる。
【0003】例えば、プレスブレーキの作業者が初心者の場合、ステップベンド等の複雑な曲げ加工でも、次工程でどの金型を使用するかは、バックゲージ装置がワークを位置決めすれば、ある程度分かる。
【0004】しかし、ワークを突当13(図1)に当てる場合の該ワークの姿勢については、初心者は特に分かりにくい。
【0005】例えば、「大トンボ」、「回転」、「小トンボ」(図6)等といった曲げ加工特有の用語だけで指示されても、初心者は、それぞれワークをどのような姿勢で変更して突当に当てたらよいかは、皆目分からないことがある。
【0006】このワーク姿勢変更動作は、ワークをハンドリングすることであり、マテリアルハンドリング(マテハン)と称されており、このマテハンを作業者に指示するために、従来より種々の方式が試みられている。」





(2)甲4技術
上記(1)の記載事項から、甲第4号証には、以下の技術(以下、「甲4技術」という。)が記載されている。

〔甲4技術〕
プレスブレーキにより複雑な形状の曲げ加工をする場合において、ワーク姿勢変更動作であるワークをハンドリングすることとして、「回転」を行う技術。

3 当審の判断
3-1 特許法第29条第2項について
(1)本件訂正発明5について
ア 対比
本件訂正発明5と甲1発明とを対比する。

(ア)構成A1について
構成eの「曲げ加工費算出方法」における構成e2の「加工時間算出」において、「加工機・使用金型・加工方法・材料特性マスタ1311」、及び、構成e22の「板厚」が設定された「ワークハンドリング時間(単位曲げ長さ)算出テーブル1309」が参照されていることから、甲1発明は、当該算出処理のために、構成A1の「曲げ加工の対象物の材料の材質」及び「板厚」に相当する情報が読み込まれるものといえる。また、前記両情報は、曲げ加工の対象物自体の情報であって、各曲げ工程に共通する情報であるから、「工程共通属性情報」に含まれるといえる。
しかしながら、前記「工程共通属性情報」について、本件訂正発明5は「曲げ加工の対象物の」「寸法」を含むのに対し、甲1発明は当該情報を含むことが特定されていない点で、両者は相違する。

(イ)構成A2について
構成e1の「試作品検証された展開図等」における「曲げ工程1305a、金型形状1305b、曲げ長さ1305c、及び曲げ角度1305d等」は、構成e11の試作検証部57において部品データに関連づけられた「曲げ工程のデータ」に対応しており、構成A2の「曲げ工程属性情報」に相当する。
構成e1の「曲げ工程1305a」及び「曲げ角度1305d」は、構成A2の「曲げ加工の曲げ順」及び「曲げ角度」にそれぞれ相当する。また、曲げ加工において、曲げパターンとしてのヘミングに対応する形状の金型としてのヘミングが用いられていることから、構成e1の「金型形状1305b」の情報は、構成A2の「曲げパターン」の情報に相当するといえる。
しかしながら、上記「曲げ工程属性情報」が、本件訂正発明5では「曲げ線の対象物における座標」を含むものであるのに対し、甲1発明では当該座標を含むものではない点で、両者は相違する。

(ウ)構成Aについて
甲1発明は、構成eの曲げ加工費の算出の際に、上記(ア)及び(イ)で示した情報が読み込まれるから、構成Aの「(情報)を取得する属性情報取得部」に相当する構成を備えているといえる。

(エ)構成B1、B2+、Bについて
構成e2の「加工時間」の算出は、「曲げ時間算出テーブル1307、ワークハンドリング時間(単位曲げ長さ)算出テーブル1309、加工機・使用金型・加工方法・材料特性マスタ1311、加工時間算出マスタ1313を参照してCGシミュレーションによ」ってなされるものである。ここで、前記「曲げ時間算出テーブル1307」は、「各曲げのパターンの加工時間」が「曲げのパターン」に対応して設定されているもの(構成e21)であり、当該「各曲げのパターンの加工」は、「曲げのパターン」への加工作業、すなわち対象物を曲げる作業であるから、構成B1の「曲げ加工の主作業」に相当するといえる。
また、前記「ワークハンドリング時間(単位曲げ長さ)算出テーブル1309」は、「各板厚に対して加工する場合の加工時間」が「板厚」に対応して設定されているもの(構成e22)であって、前記「各板厚に対して加工する場合の加工時間」は、「(単位曲げ長さ)」との記載から「曲げ長さ」に比例するといえる。
ここで、前記「ワークハンドリング時間」(「各板厚に対して加工する場合の加工時間」)は、上記「曲げのパターンの加工」(曲げ加工の主作業)に要する時間とともに、構成eの「曲げ加工費算出」における構成e2の「加工時間算出」の際に「加工時間」として含まれることから、前記「ワークハンドリング」は、曲げ加工の作業に含まれ、かつ曲げ加工それ自体ではないといえ、構成B2の「曲げ加工の付随作業」に相当するといえる。

そして、構成e2の「加工時間」の算出において、「曲げのパターン」が設定された「曲げ時間算出テーブル1307」(構成e21)を参照して「加工時間算出を行」う処理に必要とされる曲げ加工の対象物についての各曲げのパターンが、「曲げ工程1305a」、「金型形状1305b」及び「曲げ角度1305d」の情報から特定される。

そうすると、甲1発明には、当該テーブルを参照する処理のために、上記(イ)に示された情報(曲げ工程属性情報)から、「曲げ工程1305a」、「金型形状1305b」及び「曲げ角度1305d」の情報を当該処理の対象として抽出する構成が備わっているといえ、当該情報は構成B1の「主作業情報」に対応し、当該構成は、「前記曲げ工程属性情報から、曲げ順、曲げパターンおよび曲げ角度で表される前記曲げ加工の主作業を示す主作業情報を抽出」する「パラメータ抽出部」である点で、構成B1、構成Bと共通する。

また、構成e2の「加工時間」の算出において、「ワークハンドリング時間(単位曲げ長さ)算出テーブル1309」を参照する処理に各工程の「曲げ長さ」の情報が必要とされるから、上記(イ)に示された情報(曲げ工程属性情報)から「曲げ工程1305a」及び「曲げ長さ1305c」の情報を当該処理の対象として抽出する構成が備わっているといえ、当該情報は構成B2+の「付随作業情報」に相当し、当該構成は、「前記曲げ工程属性情報が示す」「曲げ順」により「前記曲げ加工の付随作業を示す付随作業情報を」取得する「パラメータ抽出部」である点で、構成B2+、構成Bと共通する。
しかしながら、構成B2+は「前記曲げ工程属性情報が示す曲げ線の前記対象物における座標」を備えるものであり、上記(イ)と同様の相違点が存在する。したがって、付随作業情報を取得するパラメータ抽出部が、本件訂正発明5では「前記曲げ工程属性情報が示す曲げ線の対象物における座標および曲げ順に基づいて生成」するものであるのに対し、甲1発明では曲げ工程1305a及び曲げ長さ1305cの情報を抽出することにより取得するものである点で、両者は相違する。

(オ)構成CD-について
構成e21の「各曲げのパターンの加工時間」が設定された「曲げ時間算出テーブル1307」、及び、構成e22の「ワークハンドリング時間」(「各板厚に対して加工する場合の加工時間」)が設定された「ワークハンドリング時間(単位曲げ長さ)算出テーブル1309」が記憶されている、構成e2の「加工関連参照テーブル43」におけるデータは、構成CD-の「前記曲げ加工の主作業および前記曲げ加工の付随作業に含まれる作業要素ごとの加工時間を示す見積基準データ」に相当する。
そして、構成a、bの「曲げ加工時間算出部67」は、構成e2において「加工関連参照テーブル43に記憶されている曲げ時間算出テーブル1307、ワークハンドリング時間(単位曲げ長さ)算出テーブル1309、加工機・使用金型・加工方法・材料特性マスタ1311、加工時間算出マスタ1313を参照してCGシミュレーションによる加工時間算出1305を行い、この結果加工時間1317が算出され」るものであるから、構成CD-の「前記曲げ加工の主作業および前記曲げ加工の付随作業に含まれる作業要素ごとの加工時間を示す見積基準データを参照し、前記工程共通属性情報、前記主作業情報および前記付随作業情報に基づいて、前記曲げ加工にかかる加工時間を算出する加工時間算出部」に相当する。

(カ)構成EF-について
構成e3の「加工費(単位時間)テーブル1319」は、構成EF-の「単位時間あたりの加工費を示す加工費基準データ」に相当する。
そして、構成a、cの「曲げ加工費算出部69」は、構成e3において「加工時間1317を読み込み、加工関連参照テーブル43に記憶されている加工費(単位時間)テーブル1319を参照して曲げ加工費1321を算出」するものであるから、構成EF-の「単位時間あたりの加工費を示す加工費基準データを参照し、前記加工時間算出部が算出した加工時間に基づいて、前記対象物の曲げ加工にかかる加工費を算出する加工費算出部」に相当する。

(キ)構成B3について
上記(エ)のとおり、甲1発明は、パラメータ抽出部を備える点で、本件訂正発明5と共通する。
しかしながら、パラメータ抽出部が、本件訂正発明5では「前記曲げ加工の曲げ順が隣り合う先の曲げ工程および後の曲げ工程について、前記先の曲げ工程で加工された前記対象物において前記後の曲げ工程の曲げ線がある面の中心を原点とする座標系を定義し、前記曲げ工程属性情報が示す前記先の曲げ工程の曲げ線および前記後の曲げ工程の曲げ線の前記対象物における座標を、前記先の曲げ工程の曲げ線および前記後の曲げ工程の曲げ線の定義した前記座標系における座標に変換し、定義した前記座標系における前記先の曲げ工程の曲げ線の作業方向と前記後の曲げ工程の曲げ線の作業方向との差から、前記後の曲げ工程で前記対象物を回転させる回転量を算出する回転量算出部を備え」というものであるのに対し、甲1発明では当該構成が特定されていない点で、両者は相違する。

(ク)構成Gについて
上記(エ)のとおり、甲1発明は、付随作業情報を備える点で、本件訂正発明5と共通する。
しかしながら、付随作業情報が、本件訂正発明5では「前記曲げ加工における前記回転量を示す情報を含む」ものであるのに対し、甲1発明では当該特定がなされていない点で、両者は相違する。

(ケ)構成Lについて
上記(ウ)?(カ)のとおり、本件訂正発明5と甲1発明は、「属性情報取得部、」「パラメータ抽出部、」「加工時間算出部、」「加工費算出部、」を備える点で共通するから、本件訂正発明5のプログラムと甲1発明のプログラムは、「コンピュータを、」「属性情報取得部、」「パラメータ抽出部、」「加工時間算出部、」「加工費算出部、」「として機能させ」る「プログラム」である点で共通する。
しかしながら、上記「属性情報取得部」及び「パラメータ抽出部」について、本件補正発明5と甲1発明は、上記(ア)、(イ)、(エ)のとおりの相違点を有する。

(コ)一致点及び相違点
上記(ア)?(ケ)から、本件訂正発明5と甲1発明との間の一致点及び相違点は、以下のとおりである。

〔一致点〕
(L)コンピュータを、
(A1’)曲げ加工の対象物の材料の材質、板厚を含む工程共通属性情報、
(A2’)ならびに、前記曲げ加工の曲げ順、曲げパターン、曲げ角度を含む曲げ工程属性情報
(A)を取得する属性情報取得部、
(B1)前記曲げ工程属性情報から、曲げ順、曲げパターンおよび曲げ角度で表される前記曲げ加工の主作業を示す主作業情報を抽出し、
(B2+’)前記曲げ工程属性情報が示す曲げ順により前記曲げ加工の付随作業を示す付随作業情報を取得する
(B)パラメータ抽出部、
(CD-)前記曲げ加工の主作業および前記曲げ加工の付随作業に含まれる作業要素ごとの加工時間を示す見積基準データを参照し、前記工程共通属性情報、前記主作業情報および前記付随作業情報に基づいて、前記曲げ加工にかかる加工時間を算出する加工時間算出部、および、
(EF-)単位時間あたりの加工費を示す加工費基準データを参照し、前記加工時間算出部が算出した加工時間に基づいて、前記曲げ加工にかかる加工費を算出する加工費算出部、
(L)として機能させるプログラム。

〔相違点1〕
「工程共通属性情報」について、本件訂正発明5は「曲げ加工の対象物の」「寸法」を含むのに対し、甲1発明は当該情報を含むことが特定されていない点。

〔相違点2〕
「曲げ工程属性情報」が、本件訂正発明5では「曲げ線の対象物における座標」を含むものであるのに対し、甲1発明では当該座標を含むものではない点。

〔相違点3〕
付随作業情報を取得するパラメータ抽出部が、本件訂正発明5では、「前記曲げ工程属性情報が示す曲げ線の前記対象物における座標および曲げ線に基づいて生成」するものであるのに対し、甲1発明では曲げ工程1305a及び曲げ長さ1305cの情報を抽出することにより取得するものである点。

〔相違点4〕
パラメータ抽出部が、本件訂正発明5では「前記曲げ加工の曲げ順が隣り合う先の曲げ工程および後の曲げ工程について、前記先の曲げ工程で加工された前記対象物において前記後の曲げ工程の曲げ線がある面の中心を原点とする座標系を定義し、前記曲げ工程属性情報が示す前記先の曲げ工程の曲げ線および前記後の曲げ工程の曲げ線の前記対象物における座標を、前記先の曲げ工程の曲げ線および前記後の曲げ工程の曲げ線の定義した前記座標系における座標に変換し、定義した前記座標系における前記先の曲げ工程の曲げ線の作業方向と前記後の曲げ工程の曲げ線の作業方向との差から、前記後の曲げ工程で前記対象物を回転させる回転量を算出する回転量算出部を備え」というものであるのに対し、甲1発明では当該構成が特定されていない点。

〔相違点5〕
付随作業情報が、本件訂正発明5では「前記曲げ加工における前記回転量を示す情報を含む」ものであるのに対し、甲1発明では当該特定がなされていない点。

イ 判断
上記相違点について検討する。

(ア)相違点1について
曲げ加工における各種作業には作業時間が曲げ加工の対象物の寸法に依存する(すなわち、寸法が大きいほど作業時間が長い)ものがあることは、当業者に周知の事項と認められる。したがって、甲1発明において、曲げ加工にかかる加工時間を算出する際に用いられる工程共通属性情報に曲げ加工の対象物の寸法を含めることは、当業者であれば容易に想到しうることである。

また、上記作業の一例として、曲げ加工において、ワーク姿勢変更動作であるワークをハンドリングすることとして、「回転」を行うことは、甲4技術のように当業者に周知であり、甲1発明のワークハンドリングに「回転」も含めることは、当業者であれば容易に想到しうることである。そして、曲げ対象物であるワークの回転に要する時間が、その大きさに依存する(すなわち、ワークが大きいほど回転に長い時間を要する)ことは加工技術の分野における技術常識と認められるから、甲1発明のワークハンドリングに「回転」も含めることに伴い、ワークハンドリング時間を算出する際に用いられる工程共通属性情報に曲げ加工の対象物の寸法を含めることは、当業者が必要とする算出精度等に応じて適宜なし得ることである。

(イ)相違点2、3、5について
甲2技術は、曲げ工程におけるタクトタイムを決定する装置において、ワークの反転時間の計算に必要なワークの反転方法を「現在の突き当て点と曲げ点との数値の差と次回の曲げ加工時の突き当て点の数値の差の符号が異なっている場合、180°水平反転するものと判断されるステップ」によって決定するものである。
そして、上記(ア)のとおり、曲げ加工において、ワーク姿勢変更動作であるワークをハンドリングすることとして、回転を行うことは、甲4技術のように当業者に周知であるから、甲1発明のワークハンドリング時間の算出に、回転である「180°水平反転」に係る甲2技術のものを含めることは、当業者が容易に想到しうることである。当該「180°水平反転」は、構成Gの「不随作業情報」に含まれる「曲げ加工における回転量を示す情報」に相当する。
ここで、甲2技術における180°水平反転は、ワークにおける曲げ点と突き当て点の位置関係に基づき決定されるものであり、点の位置関係を得るために当該ワークにおける曲げ点の位置に係る情報としてワークにおける座標を用いることは、当業者が適宜なし得ることである。
すると、甲1発明のワークハンドリング時間の算出において、ワークハンドリングとして当該180°水平反転も含めた構成が、各曲げ工程順に対応するワークにおける座標の情報も取得し、当該座標に基づいてワークの180°水平反転を決定し、ワークハンドリング時間(単位曲げ長さ)算出テーブル1309と同様の180°水平反転に対応するワークハンドリング時間を記憶しておき、当該対応関係も参照してワークハンドリング時間を算出する構成となることは明らかである。
ここで、上記各曲げ工程順に対応するワークにおける座標、及び、当該座標に基づきワークの180°水平反転を決定することは、本件訂正発明5の「曲げ線の対象物における座標」、及び、「曲げ工程属性情報が示す曲げ線の対象物における座標および曲げ順に基づいて、曲げ加工の付随作業を示す付随作業情報を生成する」ことに相当する。
以上から、甲1発明において、相違点2、相違点3及び相違点5に係る本件訂正発明5の構成を採用することは、甲2技術及び周知技術に基づき当業者が容易に想到し得ることである。

(ウ)相違点4について
上記(イ)のとおり、甲1発明のワークハンドリング時間の算出に、回転である「180°水平反転」に係る甲2技術のものを含めることは、当業者が容易に想到しうることである。
しかしながら、甲2技術の「現在の突き当て点p2と曲げ点p3との数値の差と次回の曲げ加工時の突き当て点(第6図(c)の場合にはp5、p4)の数値の差の符号が異なっている場合、180°水平反転するものと判断されるステップ」で用いられる曲げに係る情報は、曲げ点の位置のみであって、曲げ線の作業方向は用いられていない。
また、対象物の回転量を曲げ線の作業方向を用いて算出することは、甲第1?4号証のいずれにも記載も示唆もされていない。
したがって、甲1発明において、対象物の回転量を曲げ線の作業方向を用いて算出すること、すなわち、本件訂正発明5の相違点4に係る構成を採用することは、当業者が容易に想到し得るとはいえない。

なお、この点について、特許異議申立人は、令和3年7月6日付け意見書において、「甲第2号証の実施例に記載された突き当て点と曲げ点との数値の差からなるベクトルは、曲げ工程の曲げ線の作業方向の法線にあたるから、角度を求める際にどちらを採用するかも単なる技術的設計事項にすぎない。」などの主張を行っている。
しかしながら、上記2-2のとおり、甲2技術は、「現在の突き当て点p2と曲げ点p3との数値の差と次回の曲げ加工時の突き当て点(第6図(c)の場合にはp5、p4)の数値の差の符号が異なっている場合、180°水平反転するものと判断される」というものであって、前記「数値の差」は、符号を特定するための数値にすぎず、「突き当て点と曲げ点との数値の差からなるベクトル」に基づいた上記主張は、甲第2号証の記載に基づいたものとは認められないから、これを採用することはできない。

(エ)本件訂正発明5についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正発明5は、甲第1号証?甲第4号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件訂正発明4について
本件訂正発明4は、本件訂正発明5と同様に構成Gを備えており、甲第1号証に記載された発明との間に相違点4と同様の相違点を有するから、上記(1)で示したとおり、甲第1号証?甲第4号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

3-2 特許法第36条第6項第1号について
令和3年3月12日付けで通知した特許法第36条第6項第1号についての取消理由は、付随作業情報を「曲げ順」に基づかずに生成する構成を含む本件訂正前の請求項4及び請求項5に係る発明が、発明の詳細な説明に記載したものではないというものである。
これに対し、本件訂正の訂正事項4及び訂正事項5は、「前記曲げ工程属性情報が示す曲げ線の前記対象物における座標および曲げ順に基づいて、前記曲げ加工の付随作業を示す付随作業情報を生成するパラメータ抽出部」と訂正することによって「曲げ順」を特定するものであり、本件訂正発明4及び本件訂正発明5は、付随作業情報を「曲げ順」に基づかずに生成する構成を含まなくなった。
したがって、請求項4及び請求項5の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定された要件を満たしている。

3-3 特許法第36条第4項第1号について
令和3年3月12日付けで通知した特許法第36条第4項第1号についての取消理由は、発明の詳細な説明の記載では、「曲げ順」に基づかずに生成される付随作業情報及び当該情報により示される付随作業がどのようなものか不明であるから、当該付随作業情報に係る構成を備えた本件訂正前の請求項4及び請求項5に係る発明は当業者が実施可能なものではないというものである。
これに対し、本件訂正の訂正事項4及び訂正事項5は、「前記曲げ工程属性情報が示す曲げ線の前記対象物における座標および曲げ順に基づいて、前記曲げ加工の付随作業を示す付随作業情報を生成するパラメータ抽出部」と訂正することによって「曲げ順」を特定するものであり、本件訂正発明4及び本件訂正発明5は、付随作業情報を「曲げ順」に基づかずに生成する構成を含まなくなった。
したがって、発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定された要件を満たしている。

第5 取消理由において記載しなかった特許異議申立理由について
1 特許法第29条第1項について
上記第4の1の取消理由の他に、特許異議申立人は、本件特許の請求項4及び請求項5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と同一である(特許法第29条第1項)との申立てを行っている。
しかしながら、上記第4の3-1(1)ア(コ)及び3-1(2)のとおり、本件訂正発明4及び本件訂正発明5は、甲第1号証に記載された発明との間に相違点を有するから、甲第1号証に記載された発明ということはできない。

2 特許法第29条第2項について
上記第4の1の取消理由の他に、特許異議申立人は、本件特許の請求項3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである(特許法第29条第2項)との申立てを行っている。
しかしながら、本件訂正発明3は、構成B3を備え、甲第1号証に記載された発明との間に上記相違点4と同等の相違点を有するものであるから、上記第4の3-1(1)イ(ウ)のとおり、甲第1号証?甲第4号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、令和3年3月12日付けで特許権者に通知した取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件訂正請求により訂正された訂正後の請求項3?5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件訂正請求により訂正された訂正後の請求項3?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

請求項1に係る発明は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、請求項1に係る特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。

よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
曲げ加工の対象物の材料の材質、板厚および寸法を含む工程共通属性情報、ならびに、前記曲げ加工の曲げ順、曲げパターン、曲げ角度および曲げ線の前記対象物における座標を含む曲げ工程属性情報を取得する属性情報取得部と、
前記曲げ工程属性情報から、曲げ順、曲げパターンおよび曲げ角度で表される前記曲げ加工の主作業を示す主作業情報を抽出し、前記曲げ工程属性情報が示す曲げ線の前記対象物における座標に基づいて、前記曲げ加工の付随作業を示す付随作業情報を生成するパラメータ抽出部と、
前記曲げ加工の主作業および前記曲げ加工の付随作業に含まれる作業要素ごとの加工時間を示す見積基準データを記憶する見積基準データ記憶部と、
前記見積基準データを参照し、前記工程共通属性情報、前記主作業情報および前記付随作業情報に基づいて、前記曲げ加工にかかる加工時間を算出する加工時間算出部と、
単位時間あたりの加工費を示す加工費基準データを記憶する加工費基準データ記憶部と、
前記加工費基準データを参照し、前記加工時間算出部が算出した加工時間に基づいて、前記対象物の曲げ加工にかかる加工費を算出する加工費算出部と、
を備え、
前記パラメータ抽出部は、
前記曲げ加工の曲げ順が隣り合う先の曲げ工程および後の曲げ工程について、前記先の曲げ工程で加工された前記対象物において前記後の曲げ工程の曲げ線がある面の中心を原点とする座標系を定義し、前記曲げ工程属性情報が示す前記先の曲げ工程の曲げ線および前記後の曲げ工程の曲げ線の前記対象物における座標を、前記先の曲げ工程の曲げ線および前記後の曲げ工程の曲げ線の定義した前記座標系における座標に変換し、定義した前記座標系における前記先の曲げ工程の曲げ線の角度と前記後の曲げ工程の曲げ線の角度とが異なる場合は、前記後の曲げ工程で試し曲げ作業が発生すると判定し、定義した前記座標系における前記先の曲げ工程の曲げ線の角度と前記後の曲げ工程の曲げ線の角度とが一致する場合は、前記後の曲げ工程で試し曲げ作業が発生しないと判定する試し曲げ有無判定部を備え、
前記付随作業情報は、前記曲げ加工における前記試し曲げ作業の有無を示す情報を含む、
曲げ加工費見積装置。
【請求項3】
曲げ加工の対象物の材料の材質、板厚および寸法を含む工程共通属性情報、ならびに、前記曲げ加工の曲げ順、曲げパターン、曲げ角度および曲げ線の前記対象物における座標を含む曲げ工程属性情報を取得する属性情報取得部と、
前記曲げ工程属性情報から、曲げ順、曲げパターンおよび曲げ角度で表される前記曲げ加工の主作業を示す主作業情報を抽出し、前記曲げ工程属性情報が示す曲げ線の前記対象物における座標に基づいて、前記曲げ加工の付随作業を示す付随作業情報を生成するパラメータ抽出部と、
前記曲げ加工の主作業および前記曲げ加工の付随作業に含まれる作業要素ごとの加工時間を示す見積基準データを記憶する見積基準データ記憶部と、
前記見積基準データを参照し、前記工程共通属性情報、前記主作業情報および前記付随作業情報に基づいて、前記曲げ加工にかかる加工時間を算出する加工時間算出部と、
単位時間あたりの加工費を示す加工費基準データを記憶する加工費基準データ記憶部と、
前記加工費基準データを参照し、前記加工時間算出部が算出した加工時間に基づいて、前記対象物の曲げ加工にかかる加工費を算出する加工費算出部と、
を備え、
前記パラメータ抽出部は、
前記曲げ加工の曲げ順が隣り合う先の曲げ工程および後の曲げ工程について、前記先の曲げ工程で加工された前記対象物において前記後の曲げ工程の曲げ線がある面の中心を原点とする座標系を定義し、前記曲げ工程属性情報が示す前記先の曲げ工程の曲げ線および前記後の曲げ工程の曲げ線の前記対象物における座標を、前記先の曲げ工程の曲げ線および前記後の曲げ工程の曲げ線の定義した前記座標系における座標に変換し、定義した前記座標系における前記先の曲げ工程の曲げ線の作業方向と前記後の曲げ工程の曲げ線の作業方向との差から、前記後の曲げ工程で前記対象物を回転させる回転量を算出する回転量算出部を備え、
前記付随作業情報は、前記曲げ加工における前記回転量を示す情報を含む、
曲げ加工費見積装置。
【請求項4】
設計者が使用する設計者端末と、曲げ加工費見積装置とで構成される曲げ加工費見積システムであって、
前記設計者端末は、
曲げ加工の対象物の材料の材質、板厚および寸法を含む工程共通属性情報、ならびに、前記曲げ加工の曲げ順、曲げパターン、曲げ角度および曲げ線の前記対象物における座標を含む曲げ工程属性情報が付加された3次元CADデータを前記曲げ加工費見積装置に送信し、
前記曲げ加工費見積装置は、
前記設計者端末から、前記3次元CADデータを取得する属性情報取得部、
前記曲げ工程属性情報から、曲げ順、曲げパターンおよび曲げ角度で表される前記曲げ加工の主作業を示す主作業情報を抽出し、前記曲げ工程属性情報が示す曲げ線の前記対象物における座標および曲げ順に基づいて、前記曲げ加工の付随作業を示す付随作業情報を生成するパラメータ抽出部、
前記曲げ加工の主作業および前記曲げ加工の付随作業に含まれる作業要素ごとの加工時間を示す見積基準データを記憶する見積基準データ記憶部、
前記見積基準データを参照し、前記工程共通属性情報、前記主作業情報および前記付随作業情報に基づいて、前記曲げ加工にかかる加工時間を算出する加工時間算出部、
単位時間あたりの加工費を示す加工費基準データを記憶する加工費基準データ記憶部、および、
前記加工費基準データを参照し、前記加工時間算出部が算出した加工時間に基づいて、前記曲げ加工にかかる加工費を算出し、算出した前記加工費を示す加工費情報を前記設計者端末に送信する加工費算出部、
を備え、
前記パラメータ抽出部は、
前記曲げ加工の曲げ順が隣り合う先の曲げ工程および後の曲げ工程について、前記先の曲げ工程で加工された前記対象物において前記後の曲げ工程の曲げ線がある面の中心を原点とする座標系を定義し、前記曲げ工程属性情報が示す前記先の曲げ工程の曲げ線および前記後の曲げ工程の曲げ線の前記対象物における座標を、前記先の曲げ工程の曲げ線および前記後の曲げ工程の曲げ線の定義した前記座標系における座標に変換し、定義した前記座標系における前記先の曲げ工程の曲げ線の作業方向と前記後の曲げ工程の曲げ線の作業方向との差から、前記後の曲げ工程で前記対象物を回転させる回転量を算出する回転量算出部を備え、
前記付随作業情報は、前記曲げ加工における前記回転量を示す情報を含む、
曲げ加工費見積システム。
【請求項5】
コンピュータを、
曲げ加工の対象物の材料の材質、板厚および寸法を含む工程共通属性情報、ならびに、前記曲げ加工の曲げ順、曲げパターン、曲げ角度および曲げ線の前記対象物における座標を含む曲げ工程属性情報を取得する属性情報取得部、
前記曲げ工程属性情報から、曲げ順、曲げパターンおよび曲げ角度で表される前記曲げ加工の主作業を示す主作業情報を抽出し、前記曲げ工程属性情報が示す曲げ線の前記対象物における座標および曲げ順に基づいて、前記曲げ加工の付随作業を示す付随作業情報を生成するパラメータ抽出部、
前記曲げ加工の主作業および前記曲げ加工の付随作業に含まれる作業要素ごとの加工時間を示す見積基準データを参照し、前記工程共通属性情報、前記主作業情報および前記付随作業情報に基づいて、前記曲げ加工にかかる加工時間を算出する加工時間算出部、および、
単位時間あたりの加工費を示す加工費基準データを参照し、前記加工時間算出部が算出した加工時間に基づいて、前記曲げ加工にかかる加工費を算出する加工費算出部、
として機能させ、
前記パラメータ抽出部は、
前記曲げ加工の曲げ順が隣り合う先の曲げ工程および後の曲げ工程について、前記先の曲げ工程で加工された前記対象物において前記後の曲げ工程の曲げ線がある面の中心を原点とする座標系を定義し、前記曲げ工程属性情報が示す前記先の曲げ工程の曲げ線および前記後の曲げ工程の曲げ線の前記対象物における座標を、前記先の曲げ工程の曲げ線および前記後の曲げ工程の曲げ線の定義した前記座標系における座標に変換し、定義した前記座標系における前記先の曲げ工程の曲げ線の作業方向と前記後の曲げ工程の曲げ線の作業方向との差から、前記後の曲げ工程で前記対象物を回転させる回転量を算出する回転量算出部を備え、
前記付随作業情報は、前記曲げ加工における前記回転量を示す情報を含む、
プログラム。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-09-03 
出願番号 特願2016-115678(P2016-115678)
審決分類 P 1 652・ 113- YAA (G06F)
P 1 652・ 537- YAA (G06F)
P 1 652・ 536- YAA (G06F)
P 1 652・ 121- YAA (G06F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 田中 幸雄  
特許庁審判長 千葉 輝久
特許庁審判官 川崎 優
樫本 剛
登録日 2020-06-25 
登録番号 特許第6723082号(P6723082)
権利者 三菱電機株式会社
発明の名称 曲げ加工費見積装置、曲げ加工費見積システムおよびプログラム  
代理人 八島 耕司  
代理人 美恵 英樹  
代理人 木村 満  
代理人 美恵 英樹  
代理人 木村 満  
代理人 八島 耕司  

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