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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G01R
管理番号 1379789
異議申立番号 異議2019-700581  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-12-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-07-23 
確定日 2021-08-30 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6460079号発明「MI磁気センサ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6460079号の明細書及び特許請求の範囲を、令和3年5月15日に提出された訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1-4]について訂正することを認める。 特許第6460079号の請求項1、3及び4に係る特許を取り消す。 特許第6460079号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6460079号(以下「本件特許」という。)の出願(特願2016-216770)は、特願2015-45224号(出願日:平成27年3月6日)の分割出願として、平成28年11月4日に出願され、平成31年1月11日にその特許権の設定登録がされ、平成31年1月30日に特許掲載公報が発行された。
本件特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和元年 7月23日 :特許異議申立人による特許異議の申立て
(全請求項の請求項1?4に対する申立て)
令和元年12月20日付け:取消理由通知書
令和2年 3月 6日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和2年 7月30日 :特許異議申立人による意見書の提出
令和2年 9月 3日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和2年11月13日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和2年12月25日 :特許異議申立人による意見書の提出
令和3年 3月10日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和3年 5月15日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出

なお、令和3年5月15日に訂正請求書の提出がされたので、令和2年11月13日に提出された訂正請求書による先の訂正の請求及び同年3月6日に提出された訂正請求書による先の訂正の請求は、いずれも、特許法120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなされる。


第2 訂正の適否
1 訂正の内容
(1) 本件訂正の内容の概要
令和3年5月15日にされた訂正の請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、一群の請求項である請求項1?4についての特許請求の範囲の訂正と明細書の訂正に係るものである。
そのうち、特許請求の範囲の訂正は、以下の本件訂正前の特許請求の範囲を以下の本件訂正後の特許請求の範囲のとおり訂正するものである。なお、下線は訂正箇所を示す。

<本件訂正前の特許請求の範囲>
【請求項1】
パルス電流あるいは高周波電流を通電するパルス電流源あるいは高周波電流源と、
前記パルス電流源あるいは高周波電流源からパルス電流あるいは高周波電流が通電されると、周辺の外部磁界に対応する電圧を出力することにより、被検査体中に混入している微小異物を検出するアモルファスワイヤ(捻りを与えている場合を除く)と、
前記パルス電流源あるいは高周波電流源に対して並列に接続され、前記アモルファスワイヤに直流電流を通電する直流電流源とから成るMI(マグネトインピーダンス)磁気センサにおいて、
前記直流電流源から前記アモルファスワイヤにnTレベルのパルスノイズの発生の抑制を可能にする直流電流を通電して、前記アモルファスワイヤに通電される前記パルス電流あるいは高周波電流に対してバイアス電流を重畳させることにより、前記アモルファスワイヤの内部の周回方向における磁化を強制するものは無いフリー状態を避ける
ことを特徴とするMI磁気センサ。
【請求項2】
前記請求項1において、
前記アモルファスワイヤの一方の電極に対して、直流電流源から正または負の直流電流を通電することを特徴とするMI磁気センサ。
【請求項3】
前記請求項1または前記請求項2において、
前記アモルファスワイヤの2つの電極の間に生じる交流電圧に基づいて前記アモルファスワイヤ周辺の外部磁界に対応する磁気信号を検出し電圧として出力することを特徴とするMI磁気センサ。
【請求項4】
前記請求項1または前記請求項2において、
前記アモルファスワイヤの周囲に巻回した検知コイルの2つの電極の間に生じる交流電圧に基づいて、前記アモルファスワイヤ周辺の外部磁界に対応する磁気信号を検出して電圧として出力することを特徴とするMI磁気センサ。」

<本件訂正後の特許請求の範囲>
「【請求項1】
正または負のパルス電流を通電するパルス電流源と、
前記パルス電流源から前記正または負のパルス電流が通電されると、MI効果によって周辺の外部磁界に対応する減衰振動電圧を出力することにより、被検査体中に混入している微小異物を検出電圧として検出するアモルファスワイヤ(捻りを与えている場合を除く)と、
前記パルス電流源に対して並列に接続され、前記アモルファスワイヤに前記パルス電流と同極性の正または負の直流電流を通電する直流電流源と、微小異物の検出電圧を信号処理する信号処理手段とから成るMI(マグネトインピーダンス)磁気センサにおいて、
前記直流電流源から前記アモルファスワイヤに対して、使用するアモルファスワイヤの個々の特性によって断続的に生じるものであって、微小異物の検出電圧と強度レベルが似ている数nT?数十nTレベルのパルスノイズの発生の抑制を可能にする前記正または負の直流電流を通電して、前記アモルファスワイヤに通電される前記正または負のパルス電流に対して前記正または負のバイアス電流を重畳させることにより、前記アモルファスワイヤの内部の周回方向における磁化を偏らせることにより、磁化を強制するものは無いフリー状態を避ける
ことを特徴とするMI磁気センサ。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
前記請求項1において、
前記アモルファスワイヤの2つの電極の間に生じる交流電圧に基づいて前記アモルファスワイヤ周辺の外部磁界に対応する磁気信号を検出し電圧として出力することを特徴とするMI磁気センサ。
【請求項4】
前記請求項1において、
前記アモルファスワイヤの周囲に巻回した検知コイルの2つの電極の間に生じる交流電圧に基づいて、前記アモルファスワイヤ周辺の外部磁界に対応する磁気信号を検出して電圧として出力することを特徴とするMI磁気センサ。」

(2) 本件訂正の内容の分析
本件訂正が特許法の定める要件を充足するか否か検討するために本件訂正の内容を分析すると、本件訂正は、次のとおり、特許請求の範囲の訂正に係る訂正事項1から4と明細書の訂正に係る訂正事項5から6に整理することができる。

ア 訂正事項1
訂正事項1は、以下の訂正事項1-1?訂正事項1-10からなり、訂正事項1-1?1-10については、請求項1の記載を引用する請求項3及び4も同様に訂正するものである。
(ア) 訂正事項1-1
特許請求の範囲の請求項1における
「パルス電流あるいは高周波電流を通電するパルス電流源あるいは高周波電流源と、」
との記載を、
「正または負のパルス電流を通電するパルス電流源と、」
と訂正する。

(イ) 訂正事項1-2
特許請求の範囲の請求項1における
「前記パルス電流源あるいは高周波電流源からパルス電流あるいは高周波電流が通電されると、」
との記載を、
「前記パルス電流源から前記正または負のパルス電流が通電されると、」
と訂正する。

(ウ) 訂正事項1-3
特許請求の範囲の請求項1における
「周辺の外部磁界に対応する電圧を出力することにより、」
との記載を、
「MI効果によって周辺の外部磁界に対応する減衰振動電圧を出力することにより、」
と訂正する。

(エ) 訂正事項1-4
特許請求の範囲の請求項1における
「被検査体中に混入している微小異物を検出するアモルファスワイヤ(捻りを与えている場合を除く)」
との記載を、
「被検査体中に混入している微小異物を検出電圧として検出するアモルファスワイヤ(捻りを与えている場合を除く)」
と訂正する。

(オ) 訂正事項1-5
特許請求の範囲の請求項1における
「前記パルス電流源あるいは高周波電流源に対して並列に接続され、」
との記載を、
「前記パルス電流源に対して並列に接続され、」
と訂正する。

(カ) 訂正事項1-6
特許請求の範囲の請求項1における
「前記アモルファスワイヤに直流電流を通電する直流電流源」
との記載を、
「前記アモルファスワイヤに前記パルス電流と同極性の正または負の直流電流を通電する直流電流源」
と訂正する。

(キ) 訂正事項1-7
特許請求の範囲の請求項1における
「直流電流源とから成るMI(マグネトインピーダンス)磁気センサにおいて、」
との記載を、
「直流電流源と、微小異物の検出電圧を信号処理する信号処理手段とから成るMI(マグネトインピーダンス)磁気センサにおいて、」
と訂正する。

(ク) 訂正事項1-8
特許請求の範囲の請求項1における
「前記直流電流源から前記アモルファスワイヤにnTレベルのパルスノイズの発生の抑制を可能にする」
との記載を、
「前記直流電流源から前記アモルファスワイヤに対して、使用するアモルファスワイヤの個々の特性によって断続的に生じるものであって、微小異物の検出電圧と強度レベルが似ている数nT?数十nTレベルのパルスノイズの発生の抑制を可能にする」
と訂正する。

(ケ) 訂正事項1-9
特許請求の範囲の請求項1における
「直流電流を通電して、前記アモルファスワイヤに通電される前記パルス電流あるいは高周波電流に対してバイアス電流を重畳させることにより、」
との記載を、
「前記正または負の直流電流を通電して、前記アモルファスワイヤに通電される前記正または負のパルス電流に対して前記正または負のバイアス電流を重畳させることにより、」
と訂正する。

(コ) 訂正事項1-10
特許請求の範囲の請求項1における
「前記アモルファスワイヤの内部の周回方向における磁化を強制するものは無いフリー状態を避ける」
との記載を、
「前記アモルファスワイヤの内部の周回方向における磁化を偏らせることにより、磁化を強制するものは無いフリー状態を避ける」
と訂正する。

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3における
「前記請求項1または前記請求項2において、」
との記載を、
「前記請求項1において、」
と訂正する。

エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4における
「前記請求項1または前記請求項2において、」
との記載を、
「前記請求項1において、」
と訂正する。

オ 訂正事項5
訂正事項5は、以下の訂正事項5-1?訂正事項5-10からなる。
(ア) 訂正事項5-1
明細書の段落【0009】における
「パルス電流あるいは高周波電流を通電するパルス電流源あるいは高周波電流源と、」
との記載を、
「正または負のパルス電流を通電するパルス電流源と、」
と訂正する。

(イ) 訂正事項5-2
明細書の段落【0009】における
「前記パルス電流源あるいは高周波電流源からパルス電流あるいは高周波電流が通電されると、」
との記載を、
「前記パルス電流源から前記正または負のパルス電流が通電されると、」
と訂正する。

(ウ) 訂正事項5-3
明細書の段落【0009】における
「周辺の外部磁界に対応する電圧を出力することにより、」
との記載を、
「MI効果によって周辺の外部磁界に対応する減衰振動電圧を出力することにより、」
と訂正する。

(エ) 訂正事項5-4
明細書の段落【0009】における
「被検査体中に混入している微小異物を検出するアモルファスワイヤ(捻りを与えている場合を除く)」
との記載を、
「被検査体中に混入している微小異物を検出電圧として検出するアモルファスワイヤ(捻りを与えている場合を除く)」
と訂正する。

(オ) 訂正事項5-5
明細書の段落【0009】における
「前記パルス電流源あるいは高周波電流源に対して並列に接続され、」
との記載を、
「前記パルス電流源に対して並列に接続され、」
と訂正する。

(カ) 訂正事項5-6
明細書の段落【0009】における
「前記アモルファスワイヤに直流電流を通電する直流電流源」
との記載を、
「前記アモルファスワイヤに前記パルス電流と同極性の正または負の直流電流を通電する直流電流源」
と訂正する。

(キ) 訂正事項5-7
明細書の段落【0009】における
「直流電流源とから成るMI(マグネトインピーダンス)磁気センサにおいて、」
との記載を、
「直流電流源と、微小異物の検出電圧を信号処理する信号処理手段とから成るMI(マグネトインピーダンス)磁気センサにおいて、」
と訂正する。

(ク) 訂正事項5-8
明細書の段落【0009】における
「前記直流電流源から前記アモルファスワイヤにnTレベルのパルスノイズの発生の抑制を可能にする」
との記載を、
「前記直流電流源から前記アモルファスワイヤに対して、使用するアモルファスワイヤの個々の特性によって断続的に生じるものであって、微小異物の検出電圧と強度レベルが似ている数nT?数十nTレベルのパルスノイズの発生の抑制を可能にする」
と訂正する。

(ケ) 訂正事項5-9
明細書の段落【0009】における
「直流電流を通電して、前記アモルファスワイヤに通電される前記パルス電流あるいは高周波電流に対してバイアス電流を重畳させることにより、」
との記載を、
「前記正または負の直流電流を通電して、前記アモルファスワイヤに通電される前記正または負のパルス電流に対して前記正または負のバイアス電流を重畳させることにより、」
と訂正する。

(コ) 訂正事項5-10
明細書の段落【0009】における
「前記アモルファスワイヤの内部の周回方向における磁化を強制するものは無いフリー状態を避ける」
との記載を、
「前記アモルファスワイヤの内部の周回方向における磁化を偏らせることにより、磁化を強制するものは無いフリー状態を避ける」
と訂正する。

カ 訂正事項6
訂正事項6は、以下の訂正事項6-1?訂正事項6-10からなる。
(ア) 訂正事項6-1
明細書の段落【0013】における
「パルス電流あるいは高周波電流を通電するパルス電流源あるいは高周波電流源と、」
との記載を、
「正または負のパルス電流を通電するパルス電流源と、」
と訂正する。

(イ) 訂正事項6-2
明細書の段落【0013】における
「前記パルス電流源あるいは高周波電流源からパルス電流あるいは高周波電流が通電されると、」
との記載を、
「前記パルス電流源から前記正または負のパルス電流が通電されると、」
と訂正する。

(ウ) 訂正事項6-3
明細書の段落【0013】における
「周辺の外部磁界に対応する電圧を出力することにより、」
との記載を、
「MI効果によって周辺の外部磁界に対応する減衰振動電圧を出力することにより、」
と訂正する。

(エ) 訂正事項6-4
明細書の段落【0013】における
「被検査体中に混入している微小異物を検出するアモルファスワイヤ(捻りを与えている場合を除く)」
との記載を、
「被検査体中に混入している微小異物を検出電圧として検出するアモルファスワイヤ(捻りを与えている場合を除く)」
と訂正する。

(オ) 訂正事項6-5
明細書の段落【0013】における
「前記パルス電流源あるいは高周波電流源に対して並列に接続され、」
との記載を、
「前記パルス電流源に対して並列に接続され、」
と訂正する。

(カ) 訂正事項6-6
明細書の段落【0013】における
「前記アモルファスワイヤに直流電流を通電する直流電流源」
との記載を、
「前記アモルファスワイヤに前記パルス電流と同極性の正または負の直流電流を通電する直流電流源」
と訂正する。

(キ) 訂正事項6-7
明細書の段落【0013】における
「直流電流源とから成るMI(マグネトインピーダンス)磁気センサにおいて、」
との記載を、
「直流電流源と、微小異物の検出電圧を信号処理する信号処理手段とから成るMI(マグネトインピーダンス)磁気センサにおいて、」
と訂正する。

(ク) 訂正事項6-8
明細書の段落【0013】における
「前記直流電流源から前記アモルファスワイヤにnTレベルのパルスノイズの発生の抑制を可能にする」
との記載を、
「前記直流電流源から前記アモルファスワイヤに対して、使用するアモルファスワイヤの個々の特性によって断続的に生じるものであって、微小異物の検出電圧と強度レベルが似ている数nT?数十nTレベルのパルスノイズの発生の抑制を可能にする」
と訂正する。

(ケ) 訂正事項6-9
明細書の段落【0013】における
「直流電流を通電して、前記アモルファスワイヤに通電される前記パルス電流あるいは高周波電流に対してバイアス電流を重畳させることにより、」
との記載を、
「前記正または負の直流電流を通電して、前記アモルファスワイヤに通電される前記正または負のパルス電流に対して前記正または負のバイアス電流を重畳させることにより、」
と訂正する。

(コ) 訂正事項6-10
明細書の段落【0013】における
「前記アモルファスワイヤの内部の周回方向における磁化を強制するものは無いフリー状態を避ける」
との記載を、
「前記アモルファスワイヤの内部の周回方向における磁化を偏らせることにより、磁化を強制するものは無いフリー状態を避ける」
と訂正する。

2 訂正の適法性の判断
(1) 訂正事項1-1、5-1、6-1について
訂正事項1-1は、訂正前の請求項1において、「パルス電流あるいは高周波電流を通電するパルス電流源あるいは高周波電流源と、」と、択一的に記載されていた記載から「高周波電流源」の選択肢を削除して減縮するとともに、「パルス電流」について、「正または負のパルス電流、」と訂正することにより「双極性のパルス電流」を排除して「単極性のパルス電流」に減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許法120条の5第2項ただし書1号に該当する。
そして、当該訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項及び6項に適合する。
訂正事項5-1及び訂正事項6-1は、訂正事項1-1により特許請求の範囲を訂正することに伴い、特許請求の範囲の記載に明細書が整合するように明細書を訂正するものであるから、これらの訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当し、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項及び6項に適合する。

(2) 訂正事項1-2、5-2、6-2について
訂正事項1-2は、訂正事項1-1の訂正に伴って、当該訂正と整合するように特許請求の範囲を訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、特許法120条の5第2項ただし書3号に該当する。
そして、当該訂正は、訂正事項1-1と同様に、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法126条5項及び6項に適合する。
訂正事項5-2及び訂正事項6-2は、訂正事項1-2により特許請求の範囲を訂正することに伴い、特許請求の範囲の記載に明細書が整合するように明細書を訂正するものであるから、これらの訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当し、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項及び6項に適合する。

(3) 訂正事項1-3、5-3、6-3について
訂正事項1-3は、訂正前の請求項1における「周辺の外部磁界に対応する電圧を出力する」との記載を「MI効果によって周辺の外部磁界に対応する減衰振動電圧を出力する」と訂正することにより、出力電圧の種類、属性又は形態を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許法120条の5第2項ただし書1号に該当する。
そして、当該訂正は、明細書の段落【0015】の「前記アモルファスワイヤの2つの電極の間に生じる交流減衰振動電圧に基づいて前記アモルファスワイヤ周辺の外部磁界に対応する磁気信号を検出し電圧として出力する」との記載及び同段落【0019】の「本実施形態のMI磁気センサは、図1(a)ないし(c)に示されるようにアモルファスワイヤ1にパルス電流あるいは高周波電流を通電することにより、アモルファスワイヤ1にMI効果を発現させ、これにより生じる外部磁場すなわちアモルファスワイヤが置かれている周囲の磁場に対応して出力される交流電圧信号を信号処理して、磁気あるいは磁場信号電圧として検出するものである。」との記載に基づくものであって、当該訂正が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項及び6項に適合する。
訂正事項5-3及び訂正事項6-3は、訂正事項1-3により特許請求の範囲を訂正することに伴い、特許請求の範囲の記載に明細書が整合するように明細書を訂正するものであるから、これらの訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当し、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項及び6項に適合する。

(4) 訂正事項1-4、5-4、6-4について
訂正事項1-4は、「被検査体中に混入している微小異物を検出するアモルファスワイヤ(捻りを与えている場合を除く)」との記載を「被検査体中に混入している微小異物を検出電圧として検出するアモルファスワイヤ(捻りを与えている場合を除く)」と訂正することにより、被検査体中に混入している微小異物の検出の態様を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許法120条の5第2項ただし書1号に該当する。
そして、当該訂正は、明細書の段落【0015】の「前記アモルファスワイヤの2つの電極の間に生じる交流減衰振動電圧に基づいて前記アモルファスワイヤ周辺の外部磁界に対応する磁気信号を検出し電圧として出力する」との記載及び同段落【0019】の「本実施形態のMI磁気センサは、図1(a)ないし(c)に示されるようにアモルファスワイヤ1にパルス電流あるいは高周波電流を通電することにより、アモルファスワイヤ1にMI効果を発現させ、これにより生じる外部磁場すなわちアモルファスワイヤが置かれている周囲の磁場に対応して出力される交流電圧信号を信号処理して、磁気あるいは磁場信号電圧として検出するものである。」との記載に基づくものであって、当該訂正が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項及び6項に適合する。
訂正事項5-4及び訂正事項6-4は、訂正事項1-4により特許請求の範囲を訂正することに伴い、特許請求の範囲の記載に明細書が整合するように明細書を訂正するものであるから、これらの訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当し、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項及び6項に適合する。

(5) 訂正事項1-5、5-5、6-5について
訂正事項1-5は、訂正事項1-1の訂正に伴って、当該訂正と整合するように特許請求の範囲を訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、特許法120条の5第2項ただし書3号に該当する。
そして、当該訂正は、訂正事項1-1と同様に、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項及び6項に適合する。
訂正事項5-5及び訂正事項6-5は、訂正事項1-5により特許請求の範囲を訂正することに伴い、特許請求の範囲の記載に明細書が整合するように明細書を訂正するものであるから、これらの訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当し、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項及び6項に適合する。

(6) 訂正事項1-6、5-6、6-6について
訂正事項1-6は、訂正前の請求項1における、「前記アモルファスワイヤに直流電流を通電する直流電流源」との記載を「前記アモルファスワイヤに前記パルス電流と同極性の正または負の直流電流を通電する直流電流源」と訂正することにより、「直流電流」が「パルス電流」と「同極性の正または負の直流電流」であることの限定をするものであるから、特許請求の範囲を減縮することを目的とするものであり、特許法120条の5第2項ただし書1号に該当する。
そして、当該訂正事項は、明細書の段落【0010】の「本発明(請求項2に記載の第2発明)のMI磁気センサは、前記第1発明において、前記アモルファスワイヤの一方の電極に対して、直流電流源から正または負の直流電流を通電するものである。」との記載、段落【0025】の「第1実施形態のMI磁気センサは、図2(a)、(b)に示される様にアモルファスワイヤ1の2つの電極11および12に前記パルスあるいは高周波電流を出力する発振器手段2を接続するとともに、図3に示す直流電流源手段3に対応する正(図2(a)図示)又は負(図2(b)図示)の直流電流を流す電流源33又は34を接続することにより、前記アモルファスワイヤ1に直流電流を流し、これにより右ねじの法則によるアモルファスワイヤ1内部の周回方向に磁化の偏りu(図2(a)図示)又は偏りv(図2(b)図示)を生じさせるものであり、そして、いずれの場合もパルスノイズの発生を抑制するという作用効果を奏するものである。」との記載及び段落【0043】の「前記直流電流電源手段3は、図6(A)に示されるようにマイナス極が接地された正の電源34と、一端が前記アモルファスワイヤ1の他端11に接続され、他端が前記正の電源34のプラス極に接続され、正の電流を流す抵抗器r34とから成り、所定レベルの正の直流電流が前記アモルファスワイヤ1に対して通電印加されるように構成されている。」との記載等から自明の事項である。したがって、訂正事項1-6は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項及び6項に適合する。
訂正事項5-6及び訂正事項6-6は、訂正事項1-6により特許請求の範囲を訂正することに伴い、特許請求の範囲の記載に明細書が整合するように明細書を訂正するものであるから、これらの訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当し、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項及び6項に適合する。

(7) 訂正事項1-7、5-7、6-7について
訂正事項1-7は、「MI(マグネトインピーダンス)磁気センサ」が「微小異物の検出電圧を信号処理する信号処理手段」を備えることの限定をするものであるから、特許請求の範囲を減縮することを目的とするものであり、特許法120条の5第2項ただし書1号に該当する。
そして、当該訂正事項は、段落【0037】の「信号処理手段4は、前記アモルファスワイヤ1の電極12に接続されたダイオードDとコンデンサCおよび抵抗器Rによって構成された検波回路43によって、前記アモルファスワイヤ1の前記電極11と12の間に図5(B)に示されるように前記外部磁場に対応する交流電圧信号Vacが生ずるので、当該交流電圧信号Vacの振幅に相当する磁気信号電圧Vdcに変換され、変換された電圧Vdcは、前記増幅器41により所定の倍率に増幅され、外部磁場に対応する電圧Voとして出力される。」との記載及び段落【0040】の「前記検知コイル13の両端の電極131よび132の間にMI効果により出力された交流電圧信号を信号処理する信号処理手段4とから成るものである。」との記載に基づくものであり、訂正事項1-7が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項及び6項に適合する。
訂正事項5-7及び訂正事項6-7は、訂正事項1-7により特許請求の範囲を訂正することに伴い、特許請求の範囲の記載に明細書が整合するように明細書を訂正するものであるから、これらの訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当し、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項及び6項に適合する。

(8) 訂正事項1-8、5-8、6-8について
訂正事項1-8は、「前記直流電流源から前記アモルファスワイヤにnTレベルのパルスノイズの発生の抑制を可能にする」との記載を「前記直流電流源から前記アモルファスワイヤに対して、使用するアモルファスワイヤの個々の特性によって断続的に生じるものであって、微小異物の検出電圧と強度レベルが似ている数nT?数十nTレベルのパルスノイズの発生の抑制を可能にする」と訂正することにより、発生を抑制する「パルスノイズ」について、その強さのレベルの範囲、微小異物の検出電圧と強度レベルが似ていること及び発生の形態を特定することにより、特許請求の範囲を減縮することを目的とするものであり、特許法120条の5第2項ただし書1号に該当する。
願書に添付した明細書の段落【0003】?【0007】には、次のように記載されている。下線は当審による。
「【0003】
前記MI磁気センサは、地磁気のように5万nTレベルの磁場測定に多くが利用されているが、非常に小型高感度の検出が可能であるため、特に高感度仕様としたMI磁気センサは、たとえば特許文献1に示すように、食品中の鉄系異物検出などにも利用されている。近年、より微小な異物検出の期待が高まり、検出するべき磁場の強さが数nT(T:テスラの10の9乗分の1)あるいはそれ以下のレベルの検出について、より精度良く測定可能とすることに対する要望が高まっている。
【0004】
一方、前記MI磁気センサの中でも特に高感度仕様としたMI磁気センサは、ノイズは数十?数百pT(T:テスラの10の12乗分の1)の低いレベルのランダムノイズであるため、上記の要望を満たすことが十分可能であるが、使用するアモルファスワイヤの個々の特性によっては、これよりも大きい数nT?数十nTに相当するレベルのパルスノイズを断続的に生じることがあった。
【0005】
このノイズは、上述した5万nTレベルの地磁気測定であれば全く問題とはならないが、例えばベルトコンベアで被検査体を移動させながら異物検査をするラインにおいて、食品中に微小異物が混入しているときの磁気信号と比較すると、強度レベルが似ているため、誤った判定をするおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008-134236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そのため微小磁気検出における信頼性を高め、より小さな異物の検査を誤検出なく可能にするという技術的課題を解決するため、本発明者らは、このnTレベルのパルスノイズを生じないようにするか、あるいは問題の無いレベルまで抑制することが必要であるという技術的知見に到達した。」
明細書の上記の記載を参酌すると、パルスノイズが「使用するアモルファスワイヤの個々の特性によって断続的に生じるものであって、微小異物の検出電圧と強度レベルが似ている数nT?数十nTレベルのパルスノイズ」であることは、願書に添付した明細書に記載されているということができる。
したがって、「前記直流電流源から前記アモルファスワイヤに対して、使用するアモルファスワイヤの個々の特性によって断続的に生じるものであって、微小異物の検出電圧と強度レベルが似ている数nT?数十nTレベルのパルスノイズの発生の抑制を可能にする」ことは、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものである。そして、当該訂正事項は、特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。よって、訂正事項1-8は、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項及び6項に適合する。
訂正事項5-8及び訂正事項6-8は、訂正事項1-8により特許請求の範囲を訂正することに伴い、特許請求の範囲の記載に明細書が整合するように明細書を訂正するものであるから、これらの訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当し、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項及び6項に適合する。

(9) 訂正事項1-9、5-9、6-9について
訂正事項1-9は、訂正事項1-1及び訂正事項1-6の訂正に伴って当該訂正と整合するように特許請求の範囲を訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、特許法120条の5第2項ただし書3号に該当する。
そして、当該訂正は、訂正事項1-1及び訂正事項1-6と同様に、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項及び6項に適合する。
訂正事項5-9及び訂正事項6-9は、訂正事項1-9により特許請求の範囲を訂正することに伴い、特許請求の範囲の記載に明細書が整合するように明細書を訂正するものであるから、これらの訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当し、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項及び6項に適合する。

(10) 訂正事項1-10、5-10、6-10について
訂正事項1-10は、「前記アモルファスワイヤの内部の周回方向における磁化を強制するものは無いフリー状態を避ける」との記載を「前記アモルファスワイヤの内部の周回方向における磁化を偏らせることにより、磁化を強制するものは無いフリー状態を避ける」と訂正することにより、「前記アモルファスワイヤの内部の周回方向における磁化を強制するものは無いフリー状態を避ける」ための手段を特定して、特許請求の範囲を減縮するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に該当する。
そして、当該訂正事項は、段落【0008】の「重畳させたバイアス電流を通電することにより、アモルファスワイヤの内部の周回方向における磁化を偏らせることにより、不安定な後述する周回磁化フリー状態(以下、フリー状態と記す。)を回避する」との記載に基づくものであり、訂正事項1-10が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項及び6項に適合する。
訂正事項5-10及び訂正事項6-10は、訂正事項1-10により特許請求の範囲を訂正することに伴い、特許請求の範囲の記載に明細書が整合するように明細書を訂正するものであるから、これらの訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当し、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項及び6項に適合する。

(11) 訂正事項2について
訂正事項2は、特許請求の範囲の請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許法120条の5第2項ただし書1号に該当する。
そして、当該訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項及び6項に適合する。

(12) 訂正事項3について
訂正事項3は、特許請求の範囲の請求項3が請求項2を引用していたところ、当該引用を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許法120条の5第2項ただし書1号に該当する。
そして、当該訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項及び6項に適合する。

(13) 訂正事項4について
訂正事項4は、特許請求の範囲の請求項4が請求項2を引用していたところ、当該引用を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許法120条の5第2項ただし書1号に該当する。
そして、当該訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項及び6項に適合する。

3 訂正の適否についてのまとめ
以上検討のとおり、訂正事項1-1から訂正事項6-10は、いずれも特許法120条の5第2項ただし書1号又は3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、訂正事項1-1から訂正事項6-10は、いずれも特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。そして、特許異議の申立ては、本件訂正前の請求項1から4に対してされているから、訂正を認める要件として、特許法120条の5第9項において読み替えて準用する同法126条7項に規定する独立特許要件は課されない。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲及び明細書を令和3年5月15日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲及び訂正明細書のとおり、訂正後の請求項[1?4]について訂正することを認める。


第3 本件特許発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められるものであるから、本件特許の請求項1、3及び4に係る発明(以下、請求項の番号に従って「本件特許発明1」などという。)は、それぞれ、令和3年5月15日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1、3及び4に記載された事項により特定されるとおりのものである(前記第2の1(1)の「<本件訂正後の特許請求の範囲>」を参照)。


第4 取消理由の概要
訂正前の請求項1、3及び4に係る特許に対して、当審が令和3年3月10日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
なお、この取消理由は、令和2年11月13日に提出された訂正請求書により訂正された特許請求の範囲及び明細書について通知したものである。

<取消理由>
請求項1、3及び4に係る発明は、特許法44条2項の規定により本件特許の出願日とみなされる平成27年3月6日より前に頒布された下記の引用文献に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

1.引用文献2:特許3645116号公報
(特許異議申立人より令和2年12月25日に提出された意見書に添付された参考資料9)
2.甲3号証:特開2008-134236号公報
3.引用文献3:L. G. C. Meloほか, "Optimization of the magnetic noise and sensitivity of giant magnetoimpedance sensors", Journal of Applied Physics, 2008, Vol. 103, 033903
(特許異議申立人より令和2年12月25日に提出された意見書に添付された参考資料10)
4.引用文献4:Lehui Dingほか,“Equivalent Magnetic Noise Limit of Low-Cost GMI Magnetometer”IEEE Sensors Journal, 2009, Vol. 9, No. 2, p.159-168
(特許異議申立人より令和2年12月25日に提出された意見書に添付された参考資料6)
5.引用文献5:T. Uchiyama et al., "Noise Characterization of coil Detection type Magnetic Field Sensor Utilizing Pulse Excitation Amorphous Wire Magneto-Impedance Element", Journal of the Magnetics Society of Japan, 2010, Vol. 34, No. 4, p.533-536
(特許異議申立人より令和2年7月30日に提出された意見書に添付された参考資料3)
6.引用文献1:特開2000-30921号公報
(令和元年12月20日付け取消理由通知書及び令和2年9月3日付け取消理由通知書(決定の予告)において引用した引用文献1)


第5 引用文献等に記載された技術事項
1 引用文献2について
(1) 引用文献2に記載された技術事項
引用文献2には、次の事項が記載されている。(下線は、当審が付した。)
「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、微小磁界を温度安定性が高く、かつ、高感度・高速応答で検出する磁気インピーダンス効果マイクロ磁気センサに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来の高感度磁気センサとしては、フラックスゲートセンサ及び既に本願発明者によって提案されている磁気インピーダンス効果マイクロ磁気センサ(MIセンサ)がある(例えば、特開平9-133742号公報、特開平9-329655号公報参照)。
【0003】
フラックスゲートセンサは、アポロ計画で月磁気検出に用いられたことで有名な高感度磁界センサであるが、ヘッドの長さ方向に交流磁界で励振することによるヘッド端部の反磁界の影響を避けるため、ヘッドの長さを、20?30mmに設定して、ヘッドの中央部の磁束変化の外部磁界に対する敏感性を利用して、マイクロガウスの高分解能を実現している。
【0004】
この原理的欠点のため、フラックスゲートセンサでは、ヘッドのマイクロ寸法化は不可能であり、ヘッド端部の磁界検出感度が低いため磁気記録のヘッドや、高密度着磁体の表面局所磁界を検出するロータリーエンコーダ用ヘッドなどには適用できない。専ら、一様磁界に対してのみ高感度である。応答速度は、コイルによる大振幅励磁のため数kHzが一般的であり、数十kHz以上の磁界を検出することは困難である。さらに、この大振幅励磁のため、消費電力は10VA以上であり、携帯性には難がある。
【0005】
一方、MIセンサは、ヘッドの磁性体に高周波電流またはパルス電流を通電して表皮効果を発生させることにより、そのインピーダンスが外部磁界で敏感に変化することを原理としており、反磁界を生じないため、ヘッドを1mm以下のマイクロ寸法に短く設定してもマイクロガウスの磁界検出分解能を発揮し、MHzの高速応答も容易であり、さらに、パルス電流励磁・パルス磁界バイアス方式MIセンサの消費電力は10mW程度であるので、携帯性に富んでいる。
【0006】
表1に、フラックスゲートセンサとMIセンサの基本性能の比較を示す。
【0007】
【表1】

このように、MIセンサはマイクロ寸法ヘッド、高感度、高速応答、低消費電力の4つの長所をすべて兼備する超高性能マイクロ磁気センサであるため、電磁波センサ、電磁波信号解析器、地磁気方位センサ、ハンディ地磁気センサ、車速センサ、加速度センサなどへの実用化が急速に拡大している。」

「【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来のMIセンサは、検波用にショットキーバリアダイオードなどの高周波用ダイオードを使用しているため、例えば、自動車分野などへの応用に際して、センサの環境温度が大幅に変動する環境下では直流出力電圧が変動するという、温度特性の不安定性が解決すべき課題であることが判明した。
【0009】
また、これまでのMIセンサでは、ヘッドにバイアス磁界を印加してリニア磁界センサを構成するため、消費電力が比較的大きくなる場合が多かった。
【0010】
本発明は、上記問題点を除去し、温度特性の安定化を図るとともに、消費電力を減少させることができる磁気インピーダンス効果マイクロ磁気センサを提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕磁気インピーダンス効果マイクロ磁気センサにおいて、パルス通電電流で周回方向に励磁される高透磁率磁性体ヘッドと、この高透磁率磁性体ヘッドの周回方向に巻回されたコイルと、このコイルの誘起電圧の第1パルスを検出する電子スイッチとを具備するようにしたものである。
【0012】
〔2〕上記〔1〕記載の磁気インピーダンス効果マイクロ磁気センサにおいて、前記高透磁率磁性体ヘッドはアモルファス磁性体を用いた磁性体ヘッドであることを特徴とする。
【0013】
〔3〕上記〔2〕記載の磁気インピーダンス効果マイクロ磁気センサにおいて、前記アモルファス磁性体ヘッドはアモルファスワイヤであることを特徴とする。
【0014】
〔4〕上記〔1〕、〔2〕又は〔3〕記載の磁気インピーダンス効果マイクロ磁気センサにおいて、前記高透磁率磁性体ヘッドは、周回方向に磁気異方性を持つヘッドであることを特徴とする。
【0015】
〔5〕上記〔1〕記載の磁気インピーダンス効果マイクロ磁気センサにおいて、前記パルス通電電流は、前記高透磁率磁性体ヘッドに表皮効果を生じさせ、磁気インピーダンス効果を発生させるようにしたものである。
【0016】
〔6〕上記〔1〕記載の磁気インピーダンス効果マイクロ磁気センサにおいて、前記電子スイッチに接続されるアンプからのセンサ出力電圧に比例した電流を印加させ、外部磁界H_(ex)を相殺する負帰還磁界を発生する帰還コイルとを具備するようにしたものである。」

「【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0018】
まず、本発明の第1実施例について説明する。
【0019】
図1は本発明の第1実施例を示す磁気インピーダンス効果マイクロ磁気センサ(MI)センサ回路の構成図である。
【0020】
この図において、1は0磁歪アモルファスワイヤ、2はMI素子、3はQ_(1),Q_(2),Q_(3),Q_(4),Q_(5),Q_(6)(例えば、74AC04)のC-MOSインバータとCR微分回路からなる電源回路、4はアナログスイッチ(例えば、74HC4066)、5は0磁歪アモルファスワイヤ1の周回方向に巻回されたコイル、6はアンプ(例えば、AD524)、7は帰還コイル、R_(1)は510kΩ、R_(2)は3kΩ、R_(3)は200kΩ、R_(4)は1Ω、R_(5)は5.1kΩ、R_(6)は2kΩ、R_(7)は2kΩ、R_(8)は3kΩ、C_(1),C_(2),C_(3),C_(4)は100pFである。
【0021】
この図に示すように、この実施例の磁気インピーダンス効果マイクロ磁気センサ(MIセンサ)回路は、2mm長、30μm径の0磁歪アモルファスワイヤ1の両端に半田付けで電極を形成したMI素子2をヘッドとし、CMOSマルチバイブレータとCR微分回路からなる電源回路3で発生させた立ち上がり時間約5nsのパルス電流をMI素子2に印加し、このMI素子2の周回方向に巻回された40ターンのコイル5の誘起電圧を検出するように構成している。
【0022】
上記0磁歪アモルファスワイヤ1は、厳密にはわずかに負の磁歪(-10^(-7))を持ち、張力アニールによって円周方向に異方性が誘導されているワイヤである。したがって、ワイヤ長さ方向の外部磁界H_(ex)が0の場合は、ワイヤ1の通電パルス電流による磁束の変化は円周方向のみであって、ワイヤ1の周回方向に巻回されたコイル5との鎖交磁束が0であり、このコイル5の誘起電圧は0である。
【0023】
外部磁界H_(ex)が印加されると、ワイヤ1の磁化ベクトルがワイヤ軸方向に傾斜し、通電パルス電流による円周方向の磁界によって磁化ベクトルが円周方向に回転する。この時の磁束変化のワイヤ軸方向成分がコイル5と鎖交し、コイル5に誘起電圧が発生する。このコイル5の誘起電圧の符号は外部磁界H_(ex)の符号と逆になる。ワイヤ1は表皮効果のため磁壁の移動が抑制され、磁化ベクトルの回転のみが生じる。この磁化動作のため、この回路構成におけるコイル5の誘起電圧は、従来のようにバイアス磁界を印加することなく、外部磁界H_(ex)に比例した電圧となり、リニア磁界センサの特性を表す。
【0024】
しかし、急峻なパルス電流による鎖交磁束の急激な変化のため、誘起電圧波形は純粋なパルス電圧波形でなく、コイル5の浮遊容量によるLC振動波形となる。この振動波形の第1パルス波形のみが外部磁界H_(ex)に比例して高感度に変化するため、高感度磁界センサを構成するためには、第1のパルス波形のみを抽出する必要がある。ここでは、アナログスイッチ4によって、第1のパルス波形のみを抽出する。
【0025】
図2は、縦軸をコイル誘起電圧の第1のパルスの高さをピークホールドした値E_(out)、横軸を印加磁界H_(ex)とした実験結果を示す。|H_(ex)|を0から約1.2Oeまで増加させると、E_(out)はH_(ex)に比例して増加し、|H_(ex)|>1.2OeまではE_(out)が減少している。
【0026】
このアナログスイッチ4のトリガパルスは、ワイヤ通電パルスより進み位相にする必要があり、ワイヤ通電パルスは2個のインバータ(Q_(3),Q_(4))を通して約10ns遅らせるようにしている。
【0027】
このコイル5の誘起パルス電圧の第1パルスの高さはピークホールド回路(R_(5),C_(4))で直流電圧に変換され、アンプ6でセンサ出力電圧となる。センサ出力電圧に比例した電流は、帰還コイル7に印加されて、外部磁界H_(ex)を相殺する負帰還磁界を発生する。
【0028】
この負帰還効果によって、図3に示すように、直線性の良いヒステリシスのない磁界センサ特性が得られる。
【0029】
図4は本発明の第1実施例の磁気インピーダンス効果マイクロ磁気センサの出力電圧の温度特性を示す図であり、縦軸にセンサ出力電圧のドリフト率(%)、横軸に温度(℃)を示している。
【0030】
この図において、aは従来のショットキーバリアダイオードを用いた単ヘッドのMIセンサの特性を、bは本発明の第1実施例の磁気インピーダンス効果マイクロ磁気センサによるコイル電圧検出形単ヘッドMIセンサの温度特性の測定結果を示している。
【0031】
センサ全体を電気炉に設置し、温度を室温から80℃まで上昇させた場合の、0電圧の変化であり、本発明のMIセンサでは、フルスケール電圧に対する0電圧の発生率が従来のMIセンサの約1/5に減少していることが分かる。」

「【図1】



(2) 引用文献2に記載された発明の認定
上記事項から、引用文献2には、次の発明(以下「文献2発明」という。)が記載されていると認められる。

<文献2発明>
磁気インピーダンス効果マイクロ磁気センサであって(【0001】)、
下記図1の構成図に示される、磁気インピーダンス効果マイクロ磁気センサ(MI)センサ回路を有し(【0019】)、
図1において、1は0磁歪アモルファスワイヤ、2はMI素子、3はQ_(1),Q_(2),Q_(3),Q_(4),Q_(5),Q_(6)のC-MOSインバータとCR微分回路からなる電源回路、4はアナログスイッチ、5は0磁歪アモルファスワイヤ1の周回方向に巻回されたコイル、6はアンプ、7は帰還コイル、R_(1)は510kΩ、R_(2)は3kΩ、R_(3)は200kΩ、R_(4)は1Ω、R_(5)は5.1kΩ、R_(6)は2kΩ、R_(7)は2kΩ、R_(8)は3kΩ、C_(1),C_(2),C_(3),C_(4)は100pFであり(【0020】)、
CMOSマルチバイブレータとCR微分回路からなる電源回路3で発生させた立ち上がり時間約5nsのパルス電流をMI素子2に印加し、このMI素子2の周回方向に巻回された40ターンのコイル5の誘起電圧を検出するように構成しており(【0021】)、
上記0磁歪アモルファスワイヤ1は、厳密にはわずかに負の磁歪(-10^(-7))を持ち、張力アニールによって円周方向に異方性が誘導されているワイヤであって、ワイヤ長さ方向の外部磁界H_(ex)が0の場合は、ワイヤ1の通電パルス電流による磁束の変化は円周方向のみであって、ワイヤ1の周回方向に巻回されたコイル5との鎖交磁束が0であり、このコイル5の誘起電圧は0であり(【0022】)、
外部磁界H_(ex)が印加されると、ワイヤ1の磁化ベクトルがワイヤ軸方向に傾斜し、通電パルス電流による円周方向の磁界によって磁化ベクトルが円周方向に回転し、この時の磁束変化のワイヤ軸方向成分がコイル5と鎖交し、コイル5に誘起電圧が発生し、ワイヤ1は表皮効果のため磁壁の移動が抑制され、磁化ベクトルの回転のみが生じ、この磁化動作のため、この回路構成におけるコイル5の誘起電圧は、バイアス磁界を印加することなく、外部磁界H_(ex)に比例した電圧となり(【0023】)、
急峻なパルス電流による鎖交磁束の急激な変化のため、誘起電圧波形は純粋なパルス電圧波形でなく、コイル5の浮遊容量によるLC振動波形となり、この振動波形の第1パルス波形のみが外部磁界Hexに比例して高感度に変化するから、高感度磁界センサを構成するため、アナログスイッチ4によって、第1のパルス波形のみを抽出するものであり(【0024】)、
このコイル5の誘起パルス電圧の第1パルスの高さはピークホールド回路(R_(5),C_(4))で直流電圧に変換され、アンプ6でセンサ出力電圧となる(【0027】)、
磁気インピーダンス効果マイクロ磁気センサ(【0001】)。
図1


2 甲3号証について
(1) 甲3号証に記載された事項
甲3号証には、次の事項が記載されている。(下線は、当審が付した。)
「【技術分野】
【0001】
本発明は磁気検出器の高感度化および微小鉄片などの異物検出技術に関する。
【背景技術】
【0002】
食品工場あるいは衣料品工場などの製品検査工程において、製品の中に混入する微小な鉄製の異物を検査する必要がある。この異物検査の手段として、製品中の微小な異物が有するわずかな磁気がコンベアで搬送されるとき、その周辺に微弱な磁場変動が生じるのを磁気センサを利用した磁気検出装置で検出することが一般的に知られている。
【0003】
しかし、上記鉄片のような微小物体が発する磁場は地磁気と異なって、局部的であるため、フラックスゲート磁気センサのような体積の大きなセンサでは空間分解能が低いので検出が困難である。一方、磁気インピーダンスセンサ素子(以下、MI素子という。)からなるMI磁気センサは非常に小型であるため空間分解能が高く、微小物体の検出に適している。
ここで、MI素子は、感磁体であるアモルファスワイヤにパルス電流または高周波電流を印加したときに上記アモルファスワイヤの周囲に巻回した検出コイルに周辺の磁場に対応する電圧を出力するものである。
【0004】
一方、例えば、0.2mm前後の大きさの異物を見つけるためには、所定の距離離れたところから磁気検出装置は地磁気の影響を排除しつつ、さらに地磁気の数千分の一程度に相当する100μG(マイクロガウス)あるいはそれ以下の磁気変動を検出する必要がある。」

(2) 技術常識アの認定
上記(1)に摘記した技術事項も踏まえると、次の事項は、技術常識であると認められる(以下「技術常識ア」という。)。
「磁気検出装置による異物検査において、0.2mm前後の大きさの異物を見つけるためには、地磁気の数千分の一程度に相当する100μG(マイクロガウス)(=10nT(ナノテスラ))あるいはそれ以下の磁気変動を検出する必要があること。」

3 引用文献3に記載された技術事項
引用文献3には、次の事項が記載されている。(下線は、当審が付した。日本語訳は当審で作成した。)
(4頁右欄下から17行目-下から5行目)
「 Let us compare the predictions of sensitivity and noise with experimental results for a GMI magnetometer. The samples studied were as-cast, melt-extracted, 1.9 cm long magnetic amorphous wires with diameter of ?36 μm and composition Co_(80.89)Fe_(4.38)Si_(8.69)B_(1.52)Nb_(4.52) (wt. %). The material parameters, such as magnetization saturation, anisotropy field, damping constant, gyromagnetic ratio, and conductivity, correspond to those used in the numerical simulations of the preceding sections. The magnetometer employed a pulse current of ?10 mA (rms) and frequency of 14 MHz. The conditioning electronics used in the GMI noise measurements are discussed elsewhere.^(10) All measurements were carried out at room temperature.」
(感度及びノイズの予測をGMI磁力計の実験結果と比較する。研究されたサンプルは、約36μmの径及び組成Co_(80.89)Fe_(4.38)Si_(8.69)B_(1.52)Nb_(4.52)(wt. %)を有する、鋳造されたままの、溶融抽出された、長さ1.9cmの磁性アモルファスワイヤであった。磁化飽和、異方性磁界、減衰定数、磁気回転比、及び伝導率などの材料パラメータは、前節の数値シミュレーションで使用されたものに対応する。磁力計は、約10mA(rms)のパルス電流及び14MHzの周波数を使用した。GMIノイズ測定に使用される調整電子機器は、他の箇所で説明される。^(10)全ての測定は室温で実行された。)

(4頁右欄下から5行目-5頁左欄7行目)
「 Figure 4(a) shows the maximum normalize sensitivity modulus, |Λ|^(max), at 14 MHz, as a function of dc bias current flowing through the wire calculated for easy axis angles of θ_(k)=75°, 80°, 85°. Figure 4(b) presents the experimental result on the maximum sensitivity, S^(max). The theoretical predictions scale relatively well with the experimental curve and the effect of the dc bias current on the sensitivity is satisfactory explained by the model. With the parameters used in the calculation, the low bias current plateau (i_(dc) < 1 mA), for θ_(k)=80°, correspond to a theoretical maximum sensitivity of S^(max)=15 kV/T.」
(図4(a)は、θ_(k)=75°、80°、85°の容易軸角度について計算された、14MHzでの最大正規化感度係数Λmaxを、ワイヤを通って流れるdcバイアス電流の関数として示す。図4(b)は、最大感度S^(max)に関する実験結果を示す。理論的予測は、実験曲線と比較的よく一致し、感度に対するdcバイアス電流の効果は、モデルによって十分に説明される。計算に用いたパラメータでは、θ_(k)=80°の場合の低バイアス電流プラトー(i_(dc)<1mA)は、S^(max)=15kV/Tの理論的最大感度に対応する。)

(図4)




(5頁右欄9-34行)
「 Although we have treated the problem as the fluctuations of the rigid magnetization of a single domain, it is expected that the fluctuations of domain walls, when a domain structure is present, will contribute significantly to the magnetic noise. This would be particularly critical in regions of high sensitivity, where the effective internal field is low. It is therefore possible that our neglect of domain wall dynamics led to an underestimation of the magnetic noise in such situations. It is also expected that a dc bias current, as included in the present model, could lead to a decrease of the magnetic noise if it is sufficiently high to set the magnetic structure into a single domain state.」
(数式1)=

( 我々は、問題を単一ドメインの堅牢な磁化の揺らぎとして扱ってきたが、磁区構造が存在する場合、複数の磁壁の揺らぎが磁気ノイズに大きく寄与することが予想される。これは、有効内部磁場が低い、高感度の領域において特に重要である。したがって、我々は、磁壁ダイナミクスを無視したため、このような状況での磁気ノイズを過小評価した可能性がある。また、本モデルに含まれるような直流バイアス電流は、磁気構造を単一領域の状態にするのに十分に高い場合、磁気ノイズの減少をもたらし得ることが予想される。)

4 引用文献4に記載された技術事項
(162頁右欄下から10行目-163頁左欄2行)
「 III. OSCILLATOR NOISE MODEL BEFORE DETECTION
Fig. 3 shows the details of the widely used GMI magnetometer design [5] presented in Fig. 1. The sensor is driven by a high-frequency current source. Capacitances (C_(3), C_(4)) are used in order to filter the low-frequency current noise sources and allows for the control of the DC current bias through the R_(4) resistor. This dc current is used to reduce the intrinsic GMI noise [7]. The useful signal is detected by a standard peak detector, which consists of a diode with an RC shunt (we usually use the intrinsic capacitance C_(5) of the resistance R_(6) in order to get an optimal time constant), and amplified by an instrumentation amplifier (INA118), also set to control the offset of the response.」
(III.検出前の発振器ノイズモデル
図3は、図1で示された、広く用いられるGMI磁力計の設計の詳細を示す[5]。センサは、高周波電流源によって駆動される。キャパシタンス(C_(3), C_(4))は、低周波電流ノイズ源をフィルタリングするために使用され、R_(4)抵抗を通る直流電流バイアスの制御を可能にする。この直流電流は、内部GMIノイズを低減するために使用される[7]。有用な信号は、RCシャントを有するダイオードからなる標準的なピーク検出器によって検出され(最適な時定数を得るために抵抗R_(6)の内部キャパシタンスC_(5)を通常使用する)、応答のオフセットを制御するように設定された計装用増幅器(INA118)によって増幅される。)

(図3)
「Fig. 3



5 引用文献5に記載された技術事項
引用文献5には、次の事項が記載されている。(下線は、当審が付した。)

(533頁右欄下から3行目-534頁左欄8行)
「 本実験で使用した,パルス励磁MI素子を用いたコイル検出型磁界センサの基本回路をFig.1に示す.方形波発振回路により得られる電圧波形を狭いパルス幅の正パルス電圧に変換するために微分回路をR1とC1により構成している.微分回路により整形されたパルス電圧はC-MOSインバーターを介すことにより電流に変換され,パルス幅τおよびパルス間隔Tのパルス列電流としてアモルファスワイヤヘ通電される.通電電流の立ち上がりが早いパルス励磁によりアモルファスワイヤには強い表皮効果が生ずる.コイルに誘導されるパルス電圧V_(p)はアナログスイッチによる同期整流回路により,直流的な出力電圧E_(dc)に変換される.」

(Fig. 1)




(535頁右欄1行-536頁左欄15行)
「3.2 ノイズ特性
アモファスワイヤヘの通電電流の繰り返し周波数f(=l/T)およびパルス幅τを変化させ,出力電圧ノイズとの関係を調べた.Fig.6はパルス幅τ=10 nsを一定として,繰り返し周波数のみを変化させたときの出力電圧ノイズの時系列波形であり,Tが1.5 μsより小さいときに出カノイズの振幅が明らかに減少していることが分かる.
これまで報告されている数 mm程度の長さのMI素子の磁界検出分解能とMI素子を用いたコイル検出型磁界センサの磁界検出分解能を比較するため,2 mm長で80ターンの検出素子に対してパルス通電波形のデューティ比を最適化した場合のノイズスペクトル密度の測定結果をFig.7に示す.この図より40 Hzから500 Hzにおけるrmsノイズのスペクトル値はほぼ一定で10 pT/Hz^(l/2)と評価される.周波数に対して一定なホワイトノイズのスペクトル値B_(n)^(*)が磁界センサの本質的な磁界検出分解能を決める.
MI素子の磁気ノイズについて検討するため素子の直流動作点とセンサ出カノイズの関係を調べた.Fig.8は2 mm長素子のホワイトノイズの値B_(n)^(*)のデューティ比(=τ/T)に対する依存性を測定した結果である.デューティ比が0.001以下の非常に小さい場合のB_(n)^(*)の値は以前に報告されている数 mm長アモルファスワイヤを用いた磁気インピーダンスセンサの磁界検出分解能1OO pTに対応する^(6)).一方デューティ比を最適化したときの値はデューティ比が非常に小さい場合の値の十分の一程度となる.パルス幅τ,および繰り返し周波数f =l/Tとしたときパルス列電流のフーリエ級数は次の式で与えられる.

ここでI_(p)は正パルス電流のピーク値である.この実験での値I_(p)= 150 mAを用いてパルス列通電によって生ずる実効的な直流電流の値I =I_(p)(τ/T)を求めると1.5 mAとなる.このIにより円固方向の直流磁界H_(φ) =I/2πrが生ずると考えるとrをワイヤ半径としてその値は16 A/m(約0.2 Oe)と算出される.この磁界の値は零磁歪のCoFeSiBの張カアニールワイヤ(3 kg/mm^(2)張力下520℃アニールワイヤ)の異方性磁界H_(k)の大きさにほぼ一致する^(7)).通電時の磁壁移動による磁気的なノイズは,ワイヤ円周方向の磁区(バンブー磁区)構造が円周方向の直流バイアス磁界により消滅すると仮定すれば生じない.この実験で得られたデューティ比制御による磁気ノイズ低減のメカニズムは,直流電流バイアスにより円周方向の静的な磁化特性が飽和に近い状態に保たれた結果として説明できる可能性がある.しかし,アモルファスワイヤをパルス励磁した場合の,動的磁化過程について直接的な観察実験が行われていないため,動的な磁区観察法などによりノイズ低減のメカニズムを検証する必要がある.デューティ比が0.01を超えると再びセンサ出カノイズが増加する傾向は,アモルファスワイヤ内部の磁化ベクトルの熱的な揺らぎが増加するためと考察される.」

(Fig. 6, Fig. 7, Fig. 8)




6 引用文献6について
Cai, Chang Meiほか, Improved pulse carrier MI effect by flash anneal of amorphous wires and FM wireless CMOS IC torque sensor, IEEE transactions on magnetics, 2001, Vol. 37, No. 4, p. 2038-2041.(特許異議申立人より令和2年12月25日に提出された意見書に添付された参考資料8。以下「引用文献6」という。)には、次の事項が記載されている。(日本語訳は当審で作成した。)

Fig.1


Fig. 1 MI effect of a 30 μm diameter FeCoSiB amorphous wire in (a) and pulse magnetization circuit using CMOS inverter IC in (b).」
(図1 図1(a)は直径30μmのFeCoSiBアモルファスワイヤのMI効果、(b)はCMOSインバータICを用いたパルス磁化回路。)

2038頁左欄下から2行目から2039頁左上欄5行
「 Fig. l(a) illustrates measured results of the MI effect in an almost zero-magnetostrictive amorphous wire (FeCoSiB, λ= -10^(-7), annealed at 475°, 15 s under a tension of 4 kg /mm^(2)) of 30 μm diameter and 6 mm length magnetized with a pulse current generated from a CMOS inverter multivibrator (Q_(1), Q_(2)), a differentiating circuit of R_(d) and C_(d) and a pulse reforming CMOS inverter Q_(3) as illustrated in Fig. 1(b).」
(図1(a)は、CMOSインバータマルチバイブレータ(Q_(1、) Q_(2))と、R_(d)とC_(d)の微分回路と、図1(b)に示されたパルス整形CMOSインバータQ_(1)とから生成されたパルス電流で磁化された30μm径、6mm長の略0磁歪アモルファスワイヤ(FeCoSiB、λ=-10^(-7)、475℃、15秒、4kg/mm^(2)の張力下でアニール)におけるMI効果の測定結果を示す。)

7 引用文献1について
(1) 引用文献1に記載された技術事項
引用文献1には、次の事項が記載されている。(下線は、当審が付した。)

「なお、MI効果の評価は図4に示す回路を用いて行った。図4の回路は、この発明の非晶質細線(4)、高周波電源(5)、直流電源(6)、抵抗(7)からなっており、非晶質細線(4)に交流電流Iac及び直流電流Idcを重畳させた電流を通電した際に、非晶質細線(4)の両端に発生する電圧(振幅)Ewが外部磁界Hexに対し検出できるようになっている。」(【0021】)

引用文献1には、次の図4が示されている。

【図4】


(2) 技術常識イの認定
上記(1)の摘記事項も踏まえると、次の事項は技術常識であると認められる(以下「技術常識イ」という。)。
「アモルファスワイヤを用いたMI効果による外部磁場の検出は、アモルファスワイヤの両端に発生する電圧の計測によって検出できること。」

8 乙2号証について
毛利佳年雄監修「新しい磁気センサとその応用」(トリケップス2013)(以下「乙2号証」という。)には、次の事項が記載されている。

25頁24行-37行




32頁-34頁





第6 当審の判断
1 本件特許発明1について
(1) 対比
ア 本件特許発明1と文献2発明の対比分析
本件特許発明1と文献2発明を対比する。
(ア) 文献2発明における「磁気インピーダンス効果マイクロ磁気センサ」は、本件特許発明1における「MI磁気センサ」に相当する。したがって、本件特許発明1と文献2発明は、「MI磁気センサ」の点で共通する。
(イ) 技術常識でもある、引用文献6の摘記箇所(前記第5の6参照)及び乙2号証の摘記箇所(前記第5の8参照)の記載も参酌すると、文献2発明において、「図1の構成図に示される、磁気インピーダンス効果マイクロ磁気センサ(MI)センサ回路」における0磁歪アモルファスワイヤ1に通電する回路が、「双極性のパルス電流源」ではなく「正のパルス電流源」であり、「CMOSマルチバイブレータとCR微分回路からなる電源回路3で発生させた立ち上がり時間約5nsのパルス電流」が「正のパルス電流」であることは、当業者には明らかである。
したがって、本件特許発明1と文献2発明は、「正または負のパルス電流を通電するパルス電流源」を備える点で共通する。
(ウ) 文献2発明における「厳密にはわずかに負の磁歪(-10^(-7))を持ち、張力アニールによって円周方向に異方性が誘導されている」「0磁歪アモルファスワイヤ1」は、本件特許発明1における「アモルファスワイヤ(捻りを与えている場合を除く)」に相当する。
文献2発明においては、「外部磁界H_(ex)が印加されると、ワイヤ1の磁化ベクトルがワイヤ軸方向に傾斜し、通電パルス電流による円周方向の磁界によって磁化ベクトルが円周方向に回転し、この時の磁束変化のワイヤ軸方向成分がコイル5と鎖交し、コイル5に誘起電圧が発生し、ワイヤ1は表皮効果のため磁壁の移動が抑制され、磁化ベクトルの回転のみが生じ、この磁化動作のため、この回路構成におけるコイル5の誘起電圧は、バイアス磁界を印加することなく、外部磁界H_(ex)に比例した電圧とな」るものであるから、「パルス電流源からパルス電流が通電されると、周辺の外部磁界に対応する電圧を出力することにより、外部磁場を検出する」ものであるということができる。そして、この出力される電圧は、「急峻なパルス電流による鎖交磁束の急激な変化のため、誘起電圧波形は純粋なパルス電圧波形でなく、コイル5の浮遊容量によるLC振動波形とな」るものであるところ、当該電圧を出力する回路中に抵抗もあることは技術常識であり、さらに、「この振動波形の第1パルス波形のみが外部磁界H_(ex)に比例して高感度に変化する」ものであるから、出力される「検出電圧」が「減衰振動電圧」であることは自明である。また、引用発明は、「磁気インピーダンス効果マイクロ磁気センサ」であるから、出力が「MI効果による」ものであることは明らかである
以上を踏まえると、本件特許発明1と文献2発明は、「前記パルス電流源から前記正または負のパルス電流が通電されると、MI効果によって周辺の外部磁界に対応する減衰振動電圧を出力することにより、外部磁場を検出電圧として検出するアモルファスワイヤ(捻りを与えている場合を除く)」を備える点で共通する。

(エ) 文献2発明は、「振動波形の第1パルス波形のみが外部磁界Hexに比例して高感度に変化するから、高感度磁界センサを構成するため、アナログスイッチ4によって、第1のパルス波形のみを抽出するものであり」、「このコイル5の誘起パルス電圧の第1パルスの高さはピークホールド回路(R5,C4)で直流電圧に変換され、アンプ6でセンサ出力電圧となる」から、文献2発明と本件特許発明1は、「検出電圧を信号処理する信号処理手段」を備えている点で共通する。

イ 本件特許発明1と文献2発明の一致点及び相違点
上記アの検討を総合すると、本件特許発明1と文献2発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。

〔一致点〕
「 正または負のパルス電流源と、
前記パルス電流源から前記正または負のパルス電流が通電されると、MI効果によって周辺の外部磁界に対応する減衰振動電圧を出力することにより、外部磁場を検出電圧として検出するアモルファスワイヤ(捻りを与えている場合を除く)と、
検出電圧を信号処理する信号処理手段とから成る、
MI(マグネトインピーダンス)磁気センサ。」

[相違点]
<相違点1>
検出電圧により、本件特許発明1のアモルファスワイヤは、「被検査体中に混入している微小異物を検出する」のに対して、文献2発明は、単に外部磁場を検出するものである点。

<相違点2>
本件特許発明1は、
「前記パルス電流源に対して並列に接続され、前記アモルファスワイヤに前記パルス電流と同極性の正または負の直流電流を通電する直流電流源」を備え、
「前記直流電流源から前記アモルファスワイヤに対して、使用するアモルファスワイヤの個々の特性によって断続的に生じるものであって、微小異物の検出電圧と強度レベルが似ている数nT?数十nTレベルのパルスノイズの発生の抑制を可能にする前記正または負の直流電流を通電して、前記アモルファスワイヤに通電される前記正または負のパルス電流に対して前記正または負のバイアス電流を重畳させることにより、前記アモルファスワイヤの内部の周回方向における磁化を偏らせることにより、磁化を強制するものは無いフリー状態を避ける」
のに対して、
文献2発明は、このような構成を備えていない点。

(2) 判断
ア 相違点1について
甲3号証には、段落【0001】に「本発明は磁気検出器の高感度化および微小鉄片などの異物検出技術に関する。」と記載され、段落【0002】に「食品工場あるいは衣料品工場などの製品検査工程において、製品の中に混入する微小な鉄製の異物を検査する必要がある。この異物検査の手段として、製品中の微小な異物が有するわずかな磁気がコンベアで搬送されるとき、その周辺に微弱な磁場変動が生じるのを磁気センサを利用した磁気検出装置で検出することが一般的に知られている。」と記載され、段落【0003】に「磁気インピーダンスセンサ素子(以下、MI素子という。)からなるMI磁気センサは非常に小型であるため空間分解能が高く、微小物体の検出に適している。」と記載されているように、MI磁気センサの検出電圧を利用して磁気検出装置による微小異物検査を行うことは、当業者にとっては自明のアイデアにすぎない。
したがって、文献2発明において、アモルファスワイヤの周辺の外部磁界に対応する検出電圧を、被検査体中に混入している微小異物の検出に用いることは、発想の飛躍を認めることはできない。

イ 相違点2について
(ア) パルス電流と同極性の直流電流を通電する直流電流源を備える点
a 前記第5の2(2)の「技術常識アの認定」において認定したように、「磁気検出装置による異物検査において、0.2mm前後の大きさの異物を見つけるためには、地磁気の数千分の一程度に相当する100μG(マイクロガウス)あるいはそれ以下の磁気変動を検出する必要があること。」は、技術常識である。したがって、文献2発明を被検査体中に混入している微小異物の検出に用いる際に、100μG(=10nT)以下の磁気変動を検出できるようにして、例えば、被検査体中に混入している微小の異物検出できるようにすることは、当業者にとっては自明の課題である。
b 前記第5の3において示したように、引用文献3においては、パルス励磁アモルファスワイヤ磁気インピーダンス素子における理論予測と実験結果の比較に対する考察として、磁区構造が存在する場合、複数の磁壁の揺らぎが磁気ノイズに大きく寄与することが予想されるとし、高感度の領域において特に重要であるとしている。そして、直流バイアス電流は、磁気構造を単一領域の状態にするのに十分に高い場合、磁気ノイズの減少をもたらし得ることが予想されるとしており、パルス励磁アモルファスワイヤ磁気インピーダンス素子において、ノイズ低減のために、直流バイアス電流を備えようにすることが示唆されている。
そして、前記第5の4に示したように、引用文献4には、内部GMIノイズの低減のために、パルス励磁アモルファスワイヤ磁気インピーダンス素子において、直流バイアス電流を重畳したものが記載されている(引用文献4に記載されたものがパルス励磁である点については、後記エ(オ)「特許権者の主張5」を参照)。
c してみれば、ノイズを低減して、100μG(=10nT)以下の磁気変動を検出できるようにして、被検査体中に混入している微小の異物検出できるようにするために、パルス電流源に対して並列に接続され、アモルファスワイヤにパルス電流と同極性の正の直流電流を通電する直流電流源を備えるようにすることは、当業者が当然に想到し得たものと認められる。

(イ) 数nT?数十nTレベルのパルスノイズの発生の抑制を可能にする点
a 上記(ア)cの、直流バイアス電流を採用する際、実験的に、ノイズの測定をしつつ、バイアス電流の値を最適化することは、当業者にとっては、通常の創作能力の発揮にすぎない。
b 本件特許発明1は、「使用するアモルファスワイヤの個々の特性によって断続的に生じるものであって、微小異物の検出電圧と強度レベルが似ている数nT?数十nTレベルのパルスノイズの発生の抑制を可能」にしているところ、それを可能にする手段は、「パルス電流源に対して並列に接続され」た「直流電流源」から「アモルファスワイヤに直流電流を通電」して「前記正または負のパルス電流に対して、これと同極性の正または負のバイアス電流を重畳」することである。
c してみれば、想定されるノイズが「使用するアモルファスワイヤの個々の特性によって断続的に生じる数nT?数十nTレベルのパルスノイズ」であるか否かに関わらず、「微小異物の検出電圧と強度レベル」と比べて大きさがほぼ同程度のノイズを低減することにより10nT以下の磁気変動を検出できるようにして微小の異物検出に供するようにするために、実験的に直流バイアス電流を最適化することは、前記自明の課題を達成するための直流バイアス電流の最適化の結果の自然な流れであるから、「前記直流電流源から前記アモルファスワイヤに対して、使用するアモルファスワイヤの個々の特性によって断続的に生じるものであって、微小異物の検出電圧と強度レベルが似ている数nT?数十nTレベルのパルスノイズの発生の抑制を可能にする正の直流電流を通電」することは、当業者が通常の創作活動の一環として、自然な流れとして到達し得たものであると認められる。
d また、本件特許の図面の図7及び図8には、時間スケールの記載がないため、「使用するアモルファスワイヤの個々の特性によって断続的に生じる数nT?数十nTレベルのパルスノイズ」が、どの程度の時間間隔で生じるものであるかは把握することができない。
e 以上を考慮するに、「使用するアモルファスワイヤの個々の特性によって断続的に生じるものであって、微小異物の検出電圧と強度レベルが似ている数nT?数十nTレベルのパルスノイズの発生の抑制を可能にする」点は、格別なものであるとは認められない。

(ウ) 前記アモルファスワイヤの内部の周回方向における磁化を偏らせることにより、磁化を強制するものは無いフリー状態を避ける点
a 本件特許発明1の構成のうち、「前記アモルファスワイヤの内部の周回方向における磁化を偏らせることにより、磁化を強制するものは無いフリー状態を避ける」ことは、「前記パルス電流源に対して並列に接続され、前記アモルファスワイヤに前記パルス電流と同極性の正または負の直流電流を通電する直流電流源」を備え、「前記直流電流源から前記アモルファスワイヤに対して、使用するアモルファスワイヤの個々の特性によって断続的に生じるものであって、微小異物の検出電圧と強度レベルが似ている数nT?数十nTレベルのパルスノイズの発生の抑制を可能にする前記正または負の直流電流を通電した」ことの作用を記載しているにすぎない。
b してみれば、文献2発明をベースとして、これに直流バイアスを重畳するという手段を適用して最適化した場合にも、当然に、「アモルファスワイヤの内部の周回方向における磁化を強制するものは無いフリー状態を避ける」ということになったと認められる。
c また、引用文献3の「我々は、問題を単一ドメインの堅牢な磁化の揺らぎとして扱ってきたが、磁区構造が存在する場合、複数の磁壁の揺らぎが磁気ノイズに大きく寄与することが予想される。これは、有効内部磁場が低い、高感度の領域において特に重要である。したがって、我々は、磁壁ダイナミクスを無視したため、このような状況での磁気ノイズを過小評価した可能性がある。また、本モデルに含まれるような直流バイアス電流は、磁気構造を単一領域の状態にするのに十分に高い場合、磁気ノイズの減少をもたらし得ることが予想される。」との記載(前記第5の3参照)及び引用文献5の「通電時の磁壁移動による磁気的なノイズは,ワイヤ円周方向の磁区(バンブー磁区)構造が円周方向の直流バイアス磁界により消滅すると仮定すれば生じない.この実験で得られたデューティ比制御による磁気ノイズ低減のメカニズムは,直流電流バイアスにより円周方向の静的な磁化特性が飽和に近い状態に保たれた結果として説明できる可能性がある」との記載(前記第5の5参照)から、十分大きな直流バイアス電流を重畳した状態において、「前記アモルファスワイヤの内部の周回方向における磁化を偏らせることにより、磁化を強制するものは無いフリー状態を避ける」ようになったことは、当業者が推測できることでもある。
d したがって、「前記アモルファスワイヤの内部の周回方向における磁化を偏らせることにより、磁化を強制するものは無いフリー状態を避ける」点は、格別なものであるとは認められない。

(エ) 相違点2についての小括
上記(ア)?(ウ)に検討のとおり、相違点2は、文献2発明を基礎として、「ノイズを低減して、100μG(=10nT)以下の磁気変動を検出できるようにして、被検査体中に混入している微小の異物検出できるようにする」という当業者に自明な課題解決のために、当業者にとって自明な、「パルス電流源に対して並列に接続され、アモルファスワイヤにパルス電流と同極性の正の直流電流を通電する直流電流源を備えるようにすること」を適用して、実験的に、ノイズの測定をしつつ、バイアス電流の値を最適化することにより、当業者が、発想の飛躍を要することなく自然な流れとして到達し得たものと認められるから、格別なものとは認められない。

ウ 本件発明1の作用効果について
「パルスノイズ」という概念により、使用するアモルファスワイヤの個々の特性によって生じるノイズを認識すること自体は、当業者にとって認識が困難であり、学問として意義のあることであったとしても、本件特許発明1の構成とパルスノイズが低減された状態は、当業者が、文献2発明、引用文献3?5に記載した事項、技術常識アに基づき、実験的に好適化する結果として、自然な流れとして到達できたものであると認められる。
したがって、本件特許発明1の効果について、本件特許発明1の想到容易性の評価を覆すほどの、格別顕著性を認めることはできない。

エ 特許権者の主張について
特許権者の、令和3年5月15日提出の意見書における主張について以下検討する。

(ア) 特許権者の主張1について
a 特許権者の主張1の内容
特許権者は、次の主張をしている。
本件特許発明1は、パルス電流源から正または負のパルス電流を通電するものであるが、文献2発明は、急峻なパルス電流の文言はあるが極性についての明言はないので、正または負のパルス電流が通電されると断定することはできないのであるから、「パルス電流源から前記正または負のパルス電流が通電されると、周辺の外部磁界に対応する減衰振動電圧を出力することにより、外部磁場を検出するアモルファスワイヤ(捻りを与えている場合を除く)」を備える点で共通するものであるとはいえない。

b 主張1についての検討
前記(1)ア(イ)で説示したとおり、引用文献6の摘記箇所(前記第5の6参照)及び乙2号証の摘記箇所(前記第5の8参照)の記載も参酌すると、文献2発明において、「図1の構成図に示される、磁気インピーダンス効果マイクロ磁気センサ(MI)センサ回路」における0磁歪アモルファスワイヤ1に通電する回路が、「双極性のパルス電流源」ではなく「正のパルス電流源」であり、「CMOSマルチバイブレータとCR微分回路からなる電源回路3で発生させた立ち上がり時間約5nsのパルス電流」が正のパルス電流であることは、当業者には明らかである。したがって、特許権者の主張1は、採用することができない。

(イ) 特許権者の主張2
a 特許権者の主張2の内容
特許権者は、次の主張をしている。
引用文献3における磁気構造を単一領域の状態にするための直流電流源からの直流バイアス電流は十分高いものであるのに対し、本件特許発明1における直流電流源からの直流バイアス電流は、磁化フリー状態を回避するためのものであるため、微弱な電流で十分であり、両者は電流値の大小において全く異なるものである。

b 主張1についての検討
本件特許明細書の段落【0054】?【0056】及び【図9】を参酌すると、第2実施例において使用したアモルファスワイヤの直径は10μmであり、アモルファスワイヤに6mA以上の直流電流を通電すると、パルスノイズの大きさはほぼゼロになることが記載されている。
他方、引用文献3においては、(4頁右欄下から17行目-下から5行目参照)アモルファスワイヤは、直径36μmであることが記載されている。そして、FIG. 4(b)を参照すると、実験による直流バイアス電流としては、数mAのものが記載されており、プロットされた点のうち、一番大きい値の方から読み取ると、50mA、25mA、20mA、10mA程度のものが記載されている。
ここで、引用文献3のものは、直径が36μmであり、本件特許の第2実施例の直径10μmに比較して、3.6倍もあるところ、直線電流が作る磁場の大きさは電流の大きさに比例し中心からの距離に反比例することも考慮すると、前記一番大きい値の方から4つの値は、直径が10μmのものに換算すれば、50/3.6=13.9mA、25/3.6=6.9mA、20/3.6=5.6mA、10/3.6=2.8mAの値におおむね相当するから、これらは、6mAと大差ない値である。したがって、本件特許発明と引用文献3に記載のものにおける直流バイアス電流は電流値の大小において全く異なるものであるとの、特許権者の主張は採用することができない。

(ウ) 特許権者の主張3
a 特許権者の主張3の内容
特許権者は、次の主張をしている。
引用文献3におけるこの考察は、磁壁ダイナミックスを無視して解析を進めた研究者が、実験事実の一端も示さずに予測を述べたにすぎないものであり、いかなるレベルの磁気ノイズを対象にしてどの程度の減少をもたらし得るのかも特定しておらず、微小異物の検出電圧と強度レベルが似ている数nT?数十nTレベルの断涜的なパルスノイズの発生を抑制する本件特許発明1に対して信頼度の高い示唆および動機を与えるものとは到底いうことができない。

b 主張3についての検討
引用文献3における考察は、実験結果に基づいたものであるから、「実験事実の一端も示さずに予測を述べたにすぎないものであり」との特許権者の主張は採用することができない。また、実験的に試してみようとするのに十分な示唆であるから、「信頼度の高い示唆および動機を与えるものとは到底いうことができない」との特許権者の主張も採用することができない。

(エ) 特許権者の主張4
a 特許権者の主張4の内容
特許権者は、次の主張をしている。
新たに乙1号証として追加した文献「新しい磁気センサとその応用」の25ページの見出し(2)ピコテスラ分解能の超高感度マイクロ磁気センサの記述において、パルス駆動のMIセンサについて「MIセンサは表皮効果によってアモルファスワイヤの内心部の磁化変化を使用しないため、内部磁気雑音の発生が極めて小さい。また、パルス磁気インピーダンス効果は、一方向パルス列通電で動作するため、パルス列の平均磁界(直流バイアス磁界)によりワイヤ円周方向が単磁区状態になり、磁壁が存在せずバルクハウゼン雑音が発生しない。」と記述している。
引用文献3において取り上げている磁気ノイズは、複数の磁壁の揺らぎに由来するノイズとしているが、本件特許発明1のMI磁気センサは、正または負のパルス電流をアモルファスワイヤに印加するものであるから、アモルフアスワイヤの円周方向が単磁区状態(単一領域の状態)になり磁壁が存在せず、上述した乙第1号証に記載のとおり磁壁に由来するノイズはそもそも発生しないのであり、かかる磁壁由来のノイズを抑制できている状況であっても、なおその発生を抑制することができないノイズであって、使用するアモルファスワイヤの個々の特性によって断続的に生じるものであって、微小異物の検出電圧と強度レベルが似ている数nT?数十nTレベルの断続的なパルスノイズの発生を抑制する発明であるから、注目するノイズの種類が全く異なるため、技術的に参考になるものではない。
そもそも前記乙第1号証の引用箇所における記載のとおり、一方向パルス列通電により印加するMI磁気センサにおいては、引用文献3に示されている直流バイアス電流をさらに印加するまでもなく、磁壁由来の磁気ノイズの発生は抑制されているものであるから、本件発明者等が問題になると認識したような新規な断続的に発生するパルスノイズを抑制するという技術的課題を認識していない当業者は、あえて回路を複雑にして、引用文献3に示されている直流バイアス手段を付加する必要性を感じ無いのであるから、直流バイアス手段を付する動機がないのである。

b 主張4についての検討
乙1号証は、「パルス磁気インピーダンス効果は、一方向パルス列通電で動作するため、パルス列の平均磁界(直流バイアス磁界)によりワイヤ円周方向が単磁区状態になり、磁壁が存在せずバルクハウゼン雑音が発生しない。」と記述しているが、これは、「単磁区状態」になると磁壁移動に由来するバルクハウゼン雑音が発生しないような理想状態が実現できることを述べているのにとどまり、「正または負のパルス電流が通電される」「MI磁気センサ」であるとしても、上述のような理想状態が実現されていることを保証するものではない。
他方、引用文献3は、「直流バイアス電流」が「磁気構造を単一領域の状態にするのに十分に高い場合」には、「磁気ノイズの減少」が期待できる旨予想しているから、実際には、「単磁区状態」のような理想状態にはないことを裏付けており、その方がむしろ当業者の常識的な理解であるというべきである。
すなわち、乙第1号証の上記記載を根拠とした特許権者の主張(本件特許発明1のMI磁気センサでは、磁壁に由来するノイズはそもそも発生しないという主張)は、引用文献3に示された当業者にとっての常識的な理解に反するものであって、このような主張は採用することができない。

(オ) 特許権者の主張5
a 特許権者の主張5の内容
特許権者は、次の主張をしている。
審判官は、「引用文献4には、内部GMIノイズの低減のために、パルス励磁アモルファスワイヤ磁気インピーダンス素子において、直流バイアス電流を重畳したものが記載されている。」と認定している。審判官は、「パルス励磁」という文言を使っているが、引用文献4においては高周波電流(driven by a highfrequency current source, driven by an alternating current) と記述しており、パルスという文字は見つけることができない。

b 主張5についての検討
前記第5の6の引用文献6の摘記箇所及び前記第5の8の乙2号証の摘記箇所の記載も参酌すると、引用文献4におけるアモルファスワイヤに通電する回路が、「双極性のパルス電流源」ではなく「正のパルス電流源」であることは、当業者には明らかである。したがって、特許権者の主張5は、採用することができない。

(カ) 特許権者の主張6
審判官は、本件特許の図面の図7及び図8には、時間スケールの記載がないので、本件特許発明1が対象とする断続的なパルスノイズの時間間隔がどの程度のものであるのか把握することができないと認定しているが、食品のような被検査体中に混入している微小異物によっては、一日中検出しても異物が検出されないこともある。このような異物検査において、その間に直流バイアス電流が重畳されていない場合には、パルスノイズが出現する時刻が定まらないので、たまたまアモルファスワイヤが磁化フリー状態になった時に断続的なパルスノイズが発生すると異物として誤検知されることになる。時間間隔で表したり、把握することは不可能であるため、誤検知を回避するために断続的なパルスノイズの発生を抑制する必要があるのであり、時間間隔を問題にすること自体、引用文献のアモルファスワイヤの磁壁由来の磁気ノイズを前提にした認定であると言わざるを得ないものである。

b 主張6についての検討
特許権者は、意見書において、「本件特許発明は、被検査体に混入している微小異物を検出するもので、使用するアモルファスワイヤの個々の特性によって、数nT?数+nTに相当するレベルのパルスノイズを断続的に生じるため、被査体中に混入している微小異物の磁気信号と、強度レベルが似ているためパルスノイズを微小異物として誤検知するおそれがあるため、nTレベルのパルスノイズを生じないようにするか、あるいは問題のないレベルまで抑制する必要があるという本件発明者の技術的知見に基づくものである。」と主張しているように、本件特許発明1は、断続的に生じるパルスノイズを認識し、それを抑制することに技術的な意義があることを主張するものであるところ、技術の公開の代償として特許権を付与するという特許制度の趣旨に鑑みれば、当該パルスノイズに関する情報は、極めて重要な情報であるのであるから、従来機構が知られているノイズとの違いを認識するための情報を開示することが重要であり、図7及び図8には、当然に時間スケールを記載すべきものであるというべきである。したがって、当該情報が不要であることを前提とする特許権者の主張は、到底採用できるものではない。

オ 本件特許発明1の進歩性のまとめ
以上検討のとおりであるから、本件特許発明1は文献2発明、引用文献3?6に記載された事項及び技術常識アに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。

2 本件特許発明3について
前記第5の7(2)の「技術常識イの認定」で説示したように、「アモルファスワイヤを用いたMI効果による外部磁場の検出は、アモルファスワイヤの両端に発生する電圧の計測によって検出できること」は技術常識である。
してみると、文献2発明において、「コイル5の誘起電圧を検出する」構成と「前記アモルファスワイヤの2つの電極の間に生じる交流電圧に基づいて、前記アモルファスワイヤ周辺の外部磁界に対応する磁気信号を検出して電圧として出力する」構成が置換可能であることは、当業者にとっては自明であると認められる。
したがって、本件特許発明3は、文献2発明、引用文献3?6に記載された事項、技術常識ア及び技術常識イに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明3に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。

3 本件特許発明4について
文献2発明の「磁歪アモルファスワイヤ1の周回方向に巻回されたコイル5」は、本件特許発明4の「前記アモルファスワイヤの周囲に巻回した検知コイル」に相当する。
「LC振動波形」となる、出力される電圧は、「交流電圧」である。
文献2発明においては、「外部磁界H_(ex)が印加されると、ワイヤ1の磁化ベクトルがワイヤ軸方向に傾斜し、通電パルス電流による円周方向の磁界によって磁化ベクトルが円周方向に回転し、この時の磁束変化のワイヤ軸方向成分がコイル5と鎖交し、コイル5に誘起電圧が発生し、ワイヤ1は表皮効果のため磁壁の移動が抑制され、磁化ベクトルの回転のみが生じ、この磁化動作のため、この回路構成におけるコイル5の誘起電圧は、バイアス磁界を印加することなく、外部磁界H_(ex)に比例した電圧とな」るのであるから、文献2発明は、アモルファスワイヤ周辺の外部磁界に対応する磁気信号を検出して電圧として出力するものであるということができる。
以上の点を踏まえると、文献2発明と本件特許発明4は、「前記アモルファスワイヤの周囲に巻回した検知コイルの2つの電極の間に生じる交流電圧に基づいて、前記アモルファスワイヤ周辺の外部磁界に対応する磁気信号を検出して電圧として出力する」点で共通しているということができ、請求項4において特定した事項は、文献2発明も備えている。
そうすると、本件特許発明4と文献2発明の相違点は、本件特許発明1と文献2発明の相違点(前記1(1)イ参照)と同じである。
してみれば、本件特許発明1と同様に、本件特許発明4も、文献2発明、引用文献3?6に記載された技術事項及び技術常識アに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明4に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。


第7 むすび
以上のとおり、本件特許発明1、3及び4に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであるから、同法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
請求項2は訂正により削除されたことにより、請求項2に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものを対象とすることになったので、特許法120条の8第1項で準用する同法135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
MI磁気センサ
【技術分野】
【0001】
本発明は、アモルファスワイヤにパルス電流あるいは高周波電流を通電し、前記アモルファスワイヤ周辺の外部磁界に対応する電圧を出力するMI(マグネトインピーダンス)磁気センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
高感度の磁気センサとして、アモルファスワイヤを感磁体とするMI磁気センサ(マグネトインピーダンス磁気センサ)がある。
【0003】
前記MI磁気センサは、地磁気のように5万nTレベルの磁場測定に多くが利用されているが、非常に小型高感度の検出が可能であるため、特に高感度仕様としたMI磁気センサは、たとえば特許文献1に示すように、食品中の鉄系異物検出などにも利用されている。
近年、より微小な異物検出の期待が高まり、検出するべき磁場の強さが数nT(T:テスラの10の9乗分の1)あるいはそれ以下のレベルの検出について、より精度良く測定可能とすることに対する要望が高まっている。
【0004】
一方、前記MI磁気センサの中でも特に高感度仕様としたMI磁気センサは、ノイズは数十?数百pT(T:テスラの10の12乗分の1)の低いレベルのランダムノイズであるため、上記の要望を満たすことが十分可能であるが、使用するアモルファスワイヤの個々の特性によっては、これよりも大きい数nT?数十nTに相当するレベルのパルスノイズを断続的に生じることがあった。
【0005】
このノイズは、上述した5万nTレベルの地磁気測定であれば全く問題とはならないが、例えばベルトコンベアで被検査体を移動させながら異物検査をするラインにおいて、食品中に微小異物が混入しているときの磁気信号と比較すると、強度レベルが似ているため、誤った判定をするおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008-134236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そのため微小磁気検出における信頼性を高め、より小さな異物の検査を誤検出なく可能にするという技術的課題を解決するため、本発明者らは、このnTレベルのパルスノイズを生じないようにするか、あるいは問題の無いレベルまで抑制することが必要であるという技術的知見に到達した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記技術的課題を解決するために、アモルファスワイヤにパルス電流あるいは高周波電流を通電し、前記アモルファスワイヤ周辺の外部磁界に対応する電圧を出力するMI磁気センサにおいて、前記アモルファスワイヤにnTレベルのパルスノイズの発生の抑制を可能にする直流電流を通電して、前記アモルファスワイヤに通電される前記パルス電流あるいは高周波電流に対してバイアス電流を重畳させるという本発明の第1の技術的思想に着眼するとともに、上記重畳させたバイアス電流を通電することにより、アモルファスワイヤの内部の周回方向における磁化を偏らせることにより、不安定な後述する周回磁化フリー状態(以下、フリー状態と記す。)を回避するという本発明の第2の技術的思想に着眼した。
【0009】
以上の結果得られた本発明(請求項1に記載の第1発明)のMI磁気センサは、
正または負のパルス電流を通電するパルス電流源と、
前記パルス電流源から前記正または負のパルス電流が通電されると、MI効果によって周辺の外部磁界に対応する減衰振動電圧を出力することにより、被検査体中に混入している微小異物を検出電圧として検出するアモルファスワイヤ(捻りを与えている場合を除く)と、
前記パルス電流源に対して並列に接続され、前記アモルファスワイヤに前記パルス電流と同極性の正または負の直流電流を通電する直流電流源と、微小異物の検出電圧を信号処理する信号処理手段とから成るMI(マグネトインピーダンス)磁気センサにおいて、
前記直流電流源から前記アモルファスワイヤに対して、使用するアモルファスワイヤの個々の特性によって断続的に生じるものであって、微小異物の検出電圧と強度レベルが似ている数nT?数十nTレベルのパルスノイズの発生の抑制を可能にする前記正または負の直流電流を通電して、前記アモルファスワイヤに通電される前記正または負のパルス電流に対して前記正または負のバイアス電流を重畳させることにより、前記アモルファスワイヤの内部の周回方向における磁化を偏らせることにより、磁化を強制するものは無いフリー状態を避ける
ことを特徴とするものである。
【0010】
本発明(請求項2に記載の第2発明)のMI磁気センサは、
前記第1発明において、
前記アモルファスワイヤの一方の電極に対して、直流電流源から正または負の直流電流を通電するものである。
【0011】
本発明(請求項3に記載の第3発明)のMI磁気センサは、
前記第1発明または前記第2発明において、
前記アモルファスワイヤの2つの電極の間に生じる交流電圧に基づいて前記アモルファスワイヤ周辺の外部磁界に対応する磁気信号を検出し電圧として出力するものである。
【0012】
本発明(請求項4に記載の第4発明)のMI磁気センサは、
前記第1発明または前記第2発明において、
前記アモルファスワイヤの周囲に巻回した検知コイルの2つの電極の間に生じる交流電圧に基づいて、前記アモルファスワイヤ周辺の外部磁界に対応する磁気信号を検出して電圧として出力するものである。
【発明の効果】
【0013】
上記構成より成る第1発明のMI磁気センサは、正または負のパルス電流を通電するパルス電流源と、
前記パルス電流源から前記正または負のパルス電流が通電されると、MI効果によって周辺の外部磁界に対応する減衰振動電圧を出力することにより、被検査体中に混入している微小異物を検出電圧として検出するアモルファスワイヤ(捻りを与えている場合を除く)と、
前記パルス電流源に対して並列に接続され、前記アモルファスワイヤに前記パルス電流と同極性の正または負の直流電流を通電する直流電流源と、微小異物の検出電圧を信号処理する信号処理手段とから成るMI(マグネトインピーダンス)磁気センサにおいて、
前記直流電流源から前記アモルファスワイヤに対して、使用するアモルファスワイヤの個々の特性によって断続的に生じるものであって、微小異物の検出電圧と強度レベルが似ている数nT?数十nTレベルのパルスノイズの発生の抑制を可能にする前記正または負の直流電流を通電して、前記アモルファスワイヤに通電される前記正または負のパルス電流に対して前記正または負のバイアス電流を重畳させることにより、前記アモルファスワイヤの内部の周回方向における磁化を偏らせることにより、磁化を強制するものは無いフリー状態を避けることによって、前記nTレベルのパルスノイズの発生を抑制し、実用的には前記パルスノイズの影響を実質的にゼロと等価にすることにより、高感度な磁気検出を可能にするとともに、前記被検査体中に混入している微小異物の検査を誤検出なく可能にするという効果を奏する。
【0014】
上記構成より成る第2発明のMI磁気センサは、前記第1発明において、前記アモルファスワイヤの一方の電極に対して、直流電流源から正または負の直流電流を通電することにより、一方を電極を介して前記アモルファスワイヤに対して正または負の直流電流が、前記アモルファスワイヤに通電される前記パルス電流あるいは高周波電流に対して重畳されることから、前記アモルファスワイヤに対して通電がゼロになるフリー状態を避けることによって、前記nTレベルのパルスノイズの発生を抑制し、実用的にはパルスノイズの影響を実質的にゼロと等価にすることにより、高感度な磁気検出を可能にするという効果を奏する。
【0015】
上記構成より成る第3発明のMI磁気センサは、前記第1発明または前記第2発明において、前記アモルファスワイヤの2つの電極の間に生じる交流減衰振動電圧に基づいて前記アモルファスワイヤ周辺の外部磁界に対応する磁気信号を検出し電圧として出力するので、出力された電圧の振幅に相当する磁気信号電圧に変換されるため、高感度な磁気検出を可能にするとともに、前記nTレベルのパルスノイズの発生を抑制し、実用的にはパルスノイズの影響を実質的にゼロと等価にするという効果を奏する。
【0016】
上記構成より成る第4発明のMI磁気センサは、前記第1発明または前記第2発明において、前記アモルファスワイヤの周囲に巻回した検知コイルの2つの電極の間に生じる交流電圧に基づいて、前記アモルファスワイヤ周辺の外部磁界に対応する磁気信号を検出して電圧として出力するので、出力された電圧の振幅に相当する磁気信号電圧に変換されるので、前記第3発明に比べて、より高感度な磁気検出を可能にするとともに、前記nTレベルのパルスノイズの発生を抑制し、実用的にはパルスノイズの影響を実質的にゼロと等価にするという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】
本発明の実施形態のMI磁気センサにおけるアモルファスワイヤに正または負のパルス電流が通電された時または電流が通電されていない時におけるアモルファスワイヤ内部の周方向における磁化の状態を説明するための説明図である。
【図2】
本発明の第1実施形態のMI磁気センサにおいて、正または負の直流電流をアモルファスワイヤの一方の電極に通電する例の要部を示す要部ブロック回路図である。
【図3】
本発明の第2実施形態のMI磁気センサにおいて、外部磁界に対応する交流電圧に基づいて信号処理する要部を示す要部ブロック図である。
【図4】
本発明の第3実施形態のMI磁気センサにおいて、アモルファスワイヤの周囲に巻回した検出コイルから出力される交流電圧に基づいて信号処理する要部を示す要部ブロック図である。
【図5】
本発明の第1実施例のMI磁気センサの詳細を示す詳細回路図およびアモルファスワイヤの2つの電極の間に生ずる交流電圧の振幅が外部磁場に対応することを示す線図である。
【図6】
本発明の第2実施例のMI磁気センサの詳細を示す詳細回路図およびアモルファスワイヤに通電するパルス電流、検知コイルによって検出された交流電圧およびサンプルホールド回路のスイッチをオンにするパルスをそれぞれ示す線図である。
【図7】
比較例におけるアモルファスワイヤのフリー状態に基因するパルスノイズを示す線図である。
【図8】
本第2実施例における直流電流を重畳させることによるパルスノイズ抑制効果を確認した結果を示す線図である。
【図9】
本第2実施例における直流電流とパルスノイズの大きさの関係を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の最良の実施の形態について、実施形態および実施例に基づき、図面を用いて説明する。
【実施形態】
【0019】
本実施形態のMI磁気センサは、図1(a)ないし(c)に示されるようにアモルファスワイヤ1にパルス電流あるいは高周波電流を通電することにより、アモルファスワイヤ1にMI効果を発現させ、これにより生じる外部磁場すなわちアモルファスワイヤが置かれている周囲の磁場に対応して出力される交流電圧信号を信号処理して、磁気あるいは磁場信号電圧として検出するものである。
【0020】
すなわちMI磁気センサは、たとえば図1(a)に示されるように電流源2によりアモルファスワイヤ1に正のパルス電流あるいは高周波電流iを流すと、アンペアの右ねじの法則によって前記アモルファスワイヤ1の内部の周回方向に磁化uが生じ、これにともなうMI効果によって前記外部磁場Heに付勢されたアモルファスワイヤ1の内部の磁化wの大きさに対応する交流電圧信号が生ずるものである。この交流電圧信号は、前記外部磁場Heの磁気情報を含んでいるので、磁気検出が出来るのである。
【0021】
一方図1(b)に示されるようにアモルファスワイヤ1に負のパルス電流あるいは高周波電流-iを流すと、アンペアの右ねじの法則によって、アモルファスワイヤ1の内部の周回方向に磁化vが生じるが、前記周回方向の磁化uと方向が逆になるだけで、これにともなうMI効果による磁気検出の過程は上述の図1(a)に示したものと同じである。
【0022】
さらに図1(c)に示されるように電流源2からのパルス電流または高周波電流が通電されなくてゼロのときには、周回方向に磁化を強制するものは無いので、前記磁化u、vは同量と考えられ、原則的にはいずれかの方向に偏ることは無く、フリーの状態である。
【0023】
本実施形態は前記アモルファスワイヤ1に通電(駆動)するパルス電流あるいは高周波電流に重畳させて直流バイアス電流を流し、アモルファスワイヤ1の内部の周回方向における磁化を偏らせて、上述したフリーの状態を避け、パルスノイズの発生を抑制し、実用的には実質的にゼロと等価に出来ることを実験的に確認したものである。
【0024】
本実施形態における実験的な確認において、前記アモルファスワイヤへの通電が解除され、通電電流がゼロである場合は前記アモルファスワイヤの周方向の磁化u、vは同量であり、いずれかの方向に偏ることは無い不安定なフリーの状態と考えられるが、温度および応力の変化等により前記アモルファスワイヤの一部において部分的に前記磁化u、vが同量で無い部分が瞬間的に生ずることが考えられ、そのためパルスノズルが発生するのではないかと考えることも可能である。すなわち前記アモルファスワイヤに対して通電される電流の向きに応じて、原則的には周方向の磁化u、vの向きが変化するのであるが、時には一部において、磁化の向きが部分的に変化しないまたは戻らない状態がランダムに発生することに起因するのではないかと考えることもできる。
【実施形態1】
【0025】
第1実施形態のMI磁気センサは、図2(a)、(b)に示される様にアモルファスワイヤ1の2つの電極11および12に前記パルスあるいは高周波電流を出力する発振器手段2を接続するとともに、図3に示す直流電流源手段3に対応する正(図2(a)図示)又は負(図2(b)図示)の直流電流を流す電流源33又は34を接続することにより、前記アモルファスワイヤ1に直流電流を流し、これにより右ねじの法則によるアモルファスワイヤ1内部の周回方向に磁化の偏りu(図2(a)図示)又は偏りv(図2(b)図示)を生じさせるものであり、そして、いずれの場合もパルスノイズの発生を抑制するという作用効果を奏するものである。
【実施形態2】
【0026】
第2実施形態のMI磁気センサは、前記第1実施形態において、図3に示されるように前記MI効果により交流電圧信号が生じるアモルファスワイヤ1の両端すなわち一方の電極11ともう一方の電極12と信号処理手段4の2つの入力端を接続するものである。
【0027】
第2実施形態のMI磁気センサは、前記発振器手段2から通電されるパルスあるいは高周波電流により、前記アモルファスワイヤにMI効果を発現させるとともに、前記アモルファスワイヤ1に直流電流を流すことにより、右ねじの法則によるアモルファスワイヤ1の内部の周方向の磁化に偏りを生じさせることにより、前記アモルファスワイヤの両端の電極との間に生じる前記外部磁場に対応する交流電圧信号中に、パルスノイズが発生することを抑制した結果、例えば微小異物検出のような数nTレベルの磁気変動を正確に測定可能にするという作用効果を奏するものである。
【実施形態3】
【0028】
第3実施形態のMI磁気センサは、前記第1実施形態において、図4に示されるようにアモルファスワイヤ1の周囲に検知コイル13を巻回し、検知コイル13の両端すなわち一方の電極131ともう一方の電極132と信号処理手段4の2つの入力端をそれぞれ接続するものである。
【0029】
第3実施形態のMI磁気センサは、上記構成により、前記発振器手段2から通電されるパルスあるいは高周波電流により、前記アモルファスワイヤにMI効果を発現させるとともに、前記アモルファスワイヤ1に直流電流を流すことにより、右ねじの法則によるアモルファスワイヤ1の内部の周方向の磁化に偏りを生じさせることにより、前記検知コイルの2つの電極の間に前記MI効果により生じる交流電圧信号中に、パルスノイズが発生することを抑制した結果、例えば微小異物検出のような数nTレベルの磁気変動を正確に測定可能にするという作用効果を奏するものである。
【実施例1】
【0030】
第1実施例のMI磁気センサは、前記第1および第2実施形態に基づくもので、図5(A)に示されるようにアモルファスワイヤ1に正弦波を印加する正弦波発振器21と、アモルファスワイヤ1に重畳電流として直流電流を印加する直流電流電源手段3と、前記正弦波発振器21からの正弦波が印加され、MI効果を発現するアモルファスワイヤ1と、該アモルファスワイヤ1の2つの電極間にMI効果により出力された交流電圧信号を信号処理する信号処理手段4とからなるものである。
【0031】
前記アモルファスワイヤ1は、FeCoSiB系合金より成り、前記正弦波発振器21による正弦波の印加に基づき、図5(B)に示されるようにMI(マグネトインピーダンス)効果によりアモルファスワイヤの周囲の外部磁場に対応する振幅を有する交流電圧信号Vacを両端の電極11および12より出力するように構成されている。
【0032】
前記アモルファスワイヤに前記MI効果を発現させるためのパルス電流または高周波電流を通電印加する発振器手段2は、正弦波電流を出力する正弦波発振器21によって構成され、図5(A)に示されるように前記アモルファスワイヤ1の一端の電極11に接続され前記アモルファスワイヤ1に通電する電流を調整するための電流調整用の抵抗器r21を介して、前記アモルファスワイヤ1に正弦波を通電するように構成されている。
【0033】
前記直流電流電源手段3は、図5(A)に示されるようにプラス極が接地された負の電源33と、一端が前記アモルファスワイヤ1の一端の電極11に接続され、他端が前記負の電源33のマイナス極に接続され、負の電流を前記アモルファスワイヤ1に流す際の電流調整用の抵抗器r33とから成り、所定レベルの負の直流電流が前記アモルファスワイヤ1の前記一端の電極11に対して通電印加されるように構成されている。
【0034】
前記信号処理手段4は、図5(A)に示されるようにカソードが前記アモルファスワイヤ1の一端の電極11に接続されたダイオードDと、該ダイオードDのアノードに一端が接続されるとともに他端が接地されたコンデンサCと、前記ダイオードDのアノードに一端が接続されるとともに他端が接地された抵抗Rとによって形成される検波回路43によって構成され、前記アモルファスワイヤ1によって出力された正弦波の交流電圧信号をその振幅に対応する電圧に変換する回路である。
前記アモルファスワイヤ1の両端の電極11と12の間には、図5(B)に示されるように振幅が前記アモルファスワイヤ1が置かれた外部磁場に対応する正弦波の交流電圧信号Vacが出力され、該交流電圧信号Vacの振幅に相当する磁気信号電圧Vdcに変換される。
そして、該検波回路43によって変換された抵抗Rの両端の直流電圧を所定の倍率で増幅し、外部磁場に相当する電圧Voとして出力する増幅器41を備えている。
【0035】
上記構成より成る第1実施例のMI磁気センサは、前記発振器手段2を構成する前記正弦波発振器21によって、前記抵抗器r21を介して、前記アモルファスワイヤ1に対して正弦波が通電印加されるとともに、前記直流電流電源手段3を構成する前記負の電源33によって、前記抵抗器r33を介して前記アモルファスワイヤ1の前記電極11、12に対して通電印加される。
【0036】
前記アモルファスワイヤ1は、前記正弦波発振器21によって正弦波が印加されるので前記MI効果が発現され、両極11、12の間には、図5(B)に示されるような振幅がアモルファスワイヤ1が置かれた周囲の外部磁場に対応する正弦波の交流電圧信号Vacが生ずる。
【0037】
信号処理手段4は、前記アモルファスワイヤ1の電極12に接続されたダイオードDとコンデンサCおよび抵抗器Rによって構成された検波回路43によって、前記アモルファスワイヤ1の前記電極11と12の間に図5(B)に示されるように前記外部磁場に対応する交流電圧信号Vacが生ずるので、当該交流電圧信号Vacの振幅に相当する磁気信号電圧Vdcに変換され、変換された電圧Vdcは、前記増幅器41により所定の倍率に増幅され、外部磁場に対応する電圧Voとして出力される。
【0038】
本第1実施例のMI磁気センサは、上述したようにアモルファスワイヤ1に対して前記負の電源33から負の直流電流を通電して、アモルファスワイヤの内部に磁化を偏らせることにより、高感度の磁気検出を困難にするパルスノイズの発生を抑制し実質上パルスノイズの無い高感度な磁気検出が可能になるという効果を奏する。
【0039】
また本第1実施例のMI磁気センサは、パルスノイズの発生の抑制により、ランダムノイズ以上であって、かつ前記パルスノイズ以下のレベルの微小磁気検出が可能であるという作用効果を奏する。
【実施例2】
【0040】
本第2実施例のMI磁気センサは、前記第1および第3実施形態に基づくもので、前記アモルファスワイヤのMI効果により生じる交流電圧を該アモルファスワイヤの周囲に巻回した検知コイル13によって検出する点が、前記第1実施例との相異点であり、図6(A)に示されるように両端の電極11および12の間にMI(マグネトインピーダンス)効果を発現するとともに、検知コイル13を備えたアモルファスワイヤ1と、該アモルファスワイヤ1にパルス電流を通電印加するパルス発振器22と、前記アモルファスワイヤ1に対して重畳電流として正の直流電流を印加する直流電流電源手段3と、前記検知コイル13の両端の電極131よび132の間にMI効果により出力された交流電圧信号を信号処理する信号処理手段4とから成るものである。
【0041】
前記アモルファスワイヤ1は、FeCoSiB系合金より成り、図6(B)に示されるようにMI効果によりアモルファスワイヤの周囲の外部磁場に対応する振幅を有する交流電圧信号Vacを前記アモルファスワイヤ1の周囲に巻回された検知コイル13の両端の電極131,132より出力するように構成されている。
【0042】
前記アモルファスワイヤに前記MI効果を発現させるためのパルス電流を通電印加する発振器手段2は、パルス電流P1およびP2を出力するパルス発生器22によって構成され、図6(A)に示されるように前記アモルファスワイヤ1の他端11に接続され前記アモルファスワイヤ1に通電する電流を調整するための電流調整用の抵抗器r22を介して、前記アモルファスワイヤ1にパルス電流を通電するように構成されている。前記パルス電流P1およびP2は、図6(B)の(a)および(b)に示されるように所定の電圧で所定時間オン状態になり、立ち上がり時間に一定の差があるとともに所定の繰り返し時間Tに設定されている。
【0043】
前記直流電流電源手段3は、図6(A)に示されるようにマイナス極が接地された正の電源34と、一端が前記アモルファスワイヤ1の他端11に接続され、他端が前記正の電源34のプラス極に接続され、正の電流を流す抵抗器r34とから成り、所定レベルの正の直流電流が前記アモルファスワイヤ1に対して通電印加されるように構成されている。
【0044】
前記信号処理手段4は、図6(A)に示されるように一端が前記アモルファスワイヤ1の周囲に巻回された検知コイルの一端132に接続されたアナログスイッチSWと、該アナログスイッチSWの他端に一端が接続されるとともに他端が接地されたホールドコンデンサChとによって形成されるサンプルホールド回路44によって構成され、前記検知コイル13によって出力された前記所定の時間Tで繰り返す交流電圧信号Vmをその振幅に対応する電圧に変換する回路である。前記検知コイル13の両端の両電極131と132の間には、図6(B)の(b)に示されるように振幅が前記アモルファスワイヤ1が置かれた外部磁場に対応する正弦波の交流電圧信号Vmが出力されており、サンプルホールドされた該交流電圧信号Vmの振幅に相当する磁気信号電圧Vhに変換される。該サンプルホールド回路44によって変換された直流電圧が所定の倍率で増幅され、外部磁場に相当する電圧Voとして出力する高入力インピーダンスの増幅器42を備えている。
【0045】
上記構成より成る第2実施例のMI磁気センサは、前記発振器手段2を構成する前記パルス発振器22によって、前記抵抗器r22を介して、前記アモルファスワイヤ1に対して図6(B)の(a)に示されるパルス電流P1が通電印加されるとともに、前記直流電流電源手段3を構成する前記正の電源34によって、前記抵抗器r34を介して前記アモルファスワイヤ1の前記電極11に対して通電印加される。
【0046】
前記アモルファスワイヤ1は、前記電極11を介して前記パルス発振器22によってパルス電流が印加されるので、前記MI効果が発現され、前記検知コイル13の両極131、132の間には、図6(B)に示されるような振幅がアモルファスワイヤ1が置かれた周囲の外部磁場に対応する前記所定の時間Tで繰り返す交流電圧信号Vmとして生ずる。
【0047】
前記アモルファスワイヤ1の電極11および12には直流電流源手段3として抵抗器r34と正の電源34からなる正の電流源回路が接続されており、これにより前記アモルファスワイヤ1に正の直流電流iが流れるので、アモルファスワイヤ1の内部の周回方向に磁化の偏りuを生じ、その結果微小磁場の検出を困難にするパルスノイズの発生が抑制され、高精度の磁気検出が可能になる。
【0048】
さらに前記アモルファスワイヤ1は、一方の電極11を介して前記発振器手段2として2つの出力端子を備えるパルス発生器22の一方の出力端子に接続され、所定の電圧および所定のオン(ON)時間、所定の繰り返し時間TのパルスP1が抵抗器r22を介して印加されることにより、繰り返し時間Tの周期でMI効果が繰り返されることになる。
【0049】
すなわち、前記アモルファスワイヤ1の周囲に巻回された前記検知コイル13の2つの電極131,132間には、前記所定の時間Tで繰り返すMI効果による交流電圧Vmが誘起される。この交流電圧Vmは、減衰振動であり、その大きさは前記アモルファスワイヤ1が置かれた外部磁場に対応する。
このMI効果による減衰振動は、図6(B)の(b)に示されるように上記パルスP1の立ち上がり時と立ち下がり時に生じるが、本第2実施例においては、一例として立ち上がり時の減衰振動にもとづいて信号処理する例を示す。
【0050】
前記信号処理手段4において、前記アナログスイッチSWの制御端子には前記パルス発生器22のもう一方の出力端子が接続されており、図6(B)に示されるようにパルスP2がオン期間のみ前記アナログスイッチSWが「閉」すなわち導通状態になるので、前記検知コイル13の両方の電極131および132間に現れる減衰振動である交流電圧Vmが、前記アナログスイッチSWにおける「閉」の期間のみ前記ホールドコンデンサChに伝えられる。
【0051】
そして、前記パルスP2がパルス幅に対応してオンの状態を保つ時間は、前記交流電圧Vmの周期(周波数の逆数)に比べてきわめて短いので、前記交流電圧Vmの瞬時値、たとえばピーク電圧をサンプルホールドコンデンサChに電圧としてサンプルホールドする。また前記パルスP1とP2は、一定の位相差で同期しているので、所定の時間Tで繰り返される交流電圧は、毎回所定のタイミングでサンプルホールドされることになる。
【0052】
前記交流電圧Vmの大きさは、前記のごとく前記アモルファスワイヤ1が置かれた外部磁場の強さに対応しているので、ここで前記交流電圧Vmのサンプルホールドした瞬時値Vhも外部磁場の強さに対応している。
そして、前記増幅器42は、前記サンプルホールドされた電圧Vhを所定の倍率で増幅し、磁気信号電圧Voとして出力するものである。
【0053】
本第2実施例のMI磁気センサは、前記したごとく前記アモルファスワイヤ1に対して直流電流を通電印加しているので、アモルファスワイヤ1の内部に磁化の偏りを生じさせることにより、微小磁場変動の正確な測定を困難にするパルスノイズの発生を抑制して、実質上パルスノイズの無い磁気の検出が実現可能になるという作用効果を奏する。
【0054】
更に、本第2実施例のMI磁気センサにおいて磁化の偏りによりノイズの発生が抑制された効果を確認するために実験を行った結果について以下に示す。
本実験では、外部から侵入する地磁気成分や地磁気以外の磁場成分の影響によって実験結果に影響が出ないようにするために、パーマロイ製の3重シールドボックス内にMI磁気センサを設置して、実験を行った。これにより、外部磁場を原因とする磁気センサの出力をほぼ完全に0とすることができる。なお、使用したMI磁気センサのアモルファスワイヤの直径は10μm、長さは1mmである。以下に、その結果を説明する。
【0055】
直流電流がゼロで、通電されていない比較例の場合には、縦軸にパルスノイズの振幅(nT)をとり横軸に時間(t)をとった図7に示されるように複数回のパルスノイズの発生がみられ、最大で3nT相当の出力に相当するパルスノイズの発生が見られた。上述した通り、本実験は、外部磁場の影響を完全に排除する条件で実験していることから、このパルスノイズは、実際に3nTの磁場が生じていないにもかかわらず出力されたもので、このような出力の存在は、精度低下の大きな原因となる。しかし、前記アモルファスワイヤ11に6mAの直流電流を通電すると、図7と同一スケールで縦軸にパルスノイズの振幅(nT)をとり横軸に時間(t)をとった図8に示したように上記比較例におけるパルスノイズが、無くなり、実質的には数百pTすなわち±0.5nT相当のランダムノイズのみになることが確認できた。なお、図7と図8の縦軸は同じスケールで記載したものである。また図7および図8には、直流電流の値の推移もあわせて記載した。
【0056】
図9は、前記アモルファスワイヤ1に対して、通電印加されるパルス電流の重畳電流として通電する直流電流を変化させて制御されたパルスノイズの最大の大きさとの関係について、縦軸にパルスノイズの大きさをとり、横軸に直流電流をとった線図である。図9から明らかなように、本第2実施例の条件では直流電流5mAまではパルスノイズの振幅が略放物線に沿って低下し、直流電流6mA以上ではパルスノイズの大きさは、ほぼゼロに収束することが確認できた。但し、パルスノイズを抑制可能な直流電流の絶対値は、アモルファスワイヤ1および検出コイル13の仕様等で変化すると考えられるため、上記の仕様に応じて、適切な大きさの直流電流が重畳されるように設定すればよいと考えられる。
以上の結果より、本第2実施例のMI磁気センサは、数nT相当のパルスノイズの発生を抑制することができ、数nTあるいはそれ以下のレベルの磁気検出を行う際の測定精度を大きく向上させるという作用効果を奏する。
【0057】
以上説明した通り、本第2実施例のMI磁気センサでは、前記パルス発生器22によって前記アモルファスワイヤ1に対してパルス電流を印加する際に適切な大きさの直流電流を重畳させることにより、パルスノイズを抑制することができるため、ランダムノイズ以上であって、抑制前のパルスノイズ以下の出力を誤検出なく検出可能にするという効果を奏する。
【0058】
上述の実施例は、説明のために例示したもので、本発明としてはそれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲、発明の詳細な説明および図面の記載から当業者が認識することができる本発明の技術的思想に反しない限り、変更および付加が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、地磁気のような比較的大きな磁気測定にも勿論利用が可能であるが、マグマ活動、地震予知、太陽放射などの研究装置の磁気検出、理化学研究における高精度磁気測定装置、磁気障害計測装置などの高精度磁気検出、食品内異物検出、セキュリティーゲートならびに磁気カードなどの磁気パターンの読み取り、紙幣の磁気パターンの検査等のうち特にnTレベルの微小磁場の変化を見落とすことなく検出しなければならない用途に適用する場合に、効果的に利用できる。
【符号の説明】
【0060】
1 アモルファスワイヤ
2 発振器手段
4 信号処理手段
13 検知コイル
22 パルス発生器
34 正の電源
42 増幅器
44 サンプルホールド回路
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正または負のパルス電流を通電するパルス電流源と、
前記パルス電流源から前記正または負のパルス電流が通電されると、MI効果によって周辺の外部磁界に対応する減衰振動電圧を出力することにより、被検査体中に混入している微小異物を検出電圧として検出するアモルファスワイヤ(捻りを与えている場合を除く)と、
前記パルス電流源に対して並列に接続され、前記アモルファスワイヤに前記パルス電流と同極性の正または負の直流電流を通電する直流電流源と、微小異物の検出電圧を信号処理する信号処理手段とから成るMI(マグネトインピーダンス)磁気センサにおいて、
前記直流電流源から前記アモルファスワイヤに対して、使用するアモルファスワイヤの個々の特性によって断続的に生じるものであって、微小異物の検出電圧と強度レベルが似ている数nT?数十nTレベルのパルスノイズの発生の抑制を可能にする前記正または負の直流電流を通電して、前記アモルファスワイヤに通電される前記正または負のパルス電流に対して前記正または負のバイアス電流を重畳させることにより、前記アモルファスワイヤの内部の周回方向における磁化を偏らせることにより、磁化を強制するものは無いフリー状態を避ける
ことを特徴とするMI磁気センサ。
【請求項2】 (削除)
【請求項3】
前記請求項1において、
前記アモルファスワイヤの2つの電極の間に生じる交流電圧に基づいて前記アモルファスワイヤ周辺の外部磁界に対応する磁気信号を検出し電圧として出力することを特徴とするMI磁気センサ。
【請求項4】
前記請求項1において、
前記アモルファスワイヤの周囲に巻回した検知コイルの2つの電極の間に生じる交流電圧に基づいて、前記アモルファスワイヤ周辺の外部磁界に対応する磁気信号を検出して電圧として出力することを特徴とするMI磁気センサ。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-07-19 
出願番号 特願2016-216770(P2016-216770)
審決分類 P 1 651・ 121- ZAA (G01R)
最終処分 取消  
前審関与審査官 名取 乾治  
特許庁審判長 中塚 直樹
特許庁審判官 濱野 隆
岡田 吉美
登録日 2019-01-11 
登録番号 特許第6460079号(P6460079)
権利者 愛知製鋼株式会社
発明の名称 MI磁気センサ  
代理人 平井 安雄  
代理人 ▲高▼橋 克彦  
代理人 ▲高▼橋 克彦  

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