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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 B32B 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 B32B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 B32B |
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管理番号 | 1379791 |
異議申立番号 | 異議2020-700852 |
総通号数 | 264 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-12-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-11-02 |
確定日 | 2021-09-24 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6693519号発明「加飾用積層体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6693519号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?6〕、7について訂正することを認める。 特許第6693519号の請求項1、2、4、6、7に係る特許を維持する。 特許第6693519号の請求項3、5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6693519号の請求項1?7に係る特許についての出願は、2016年(平成28年)6月13日(優先権主張 平成27年6月15日)を国際出願日とする出願であって、令和2年4月20日にその特許権の設定登録がされ、令和2年5月13日に特許掲載公報が発行された。 本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。 令和 2年11月 2日 :特許異議申立人渡辺陽子(以下「申立人」と いう。)による請求項1?7に係る特許に対 する特許異議の申立て 令和 3年 2月 2日付け:取消理由通知書 令和 3年 4月 6日 :特許権者による訂正請求書及び意見書の提出 令和 3年 5月28日 :申立人による意見書の提出 第2 訂正の適否 1 訂正の内容 上記令和3年4月6日提出の訂正請求書による訂正の請求を、以下「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。 本件訂正の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、次のとおりである。 (1)訂正事項1 本件訂正前の請求項1に記載された 「前記表面保護層が紫外線硬化性樹脂の紫外線硬化により形成された最外層であり、 前記表面保護層のJIS K 5600に基づく引っかき鉛筆硬度がF以上であり」を、 「前記表面保護層が紫外線硬化性樹脂の紫外線硬化により形成された最外層であり、 前記表面保護層の厚さが0.5?20μmであり、 前記表面保護層のJIS K 5600に基づく引っかき鉛筆硬度がF以上であり」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2、4、6も同様に訂正する)。 (2)訂正事項2 本件訂正前の請求項1に記載された 「前記紫外線硬化性樹脂がアクリル系樹脂およびウレタン系樹脂の少なくともいずれか一方であり、 前記表面保護層の120℃における破壊伸び率が50%以上であり」を、 「前記紫外線硬化性樹脂がアクリル系樹脂およびウレタン系樹脂の少なくともいずれか一方であり、 前記紫外線硬化性樹脂の重量平均分子量が2万?300万であり、 前記表面保護層の120℃における破壊伸び率が50%以上であり」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2、4、6も同様に訂正する)。 (3)訂正事項3 本件訂正前の請求項1に記載された 「前記表面保護層の動摩擦係数が1.0以下であることを特徴とする加飾用積層体」を、 「前記表面保護層の動摩擦係数が1.0以下であり、 前記基材層を構成する材料が、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ナイロン、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、液晶ポリマー、ポリテトラフロロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアセタール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ウレタン樹脂から選択されるいずれかであり、 前記基材層の厚さが5?500μmであり、 真空条件下又は減圧条件下での成形に用いられることを特徴とする加飾用積層体」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2、4、6も同様に訂正する)。 (4)訂正事項4 本件訂正前の請求項3を削除する。 (5)訂正事項5 本件訂正前の請求項4に記載された「請求項1?3のいずれか1項に」を、「請求項1または請求項2に」に訂正する(請求項4の記載を引用する請求項6も同様に訂正する)。 (6)訂正事項6 本件訂正前の請求項5を削除する。 (7)訂正事項7 本件訂正前の請求項6に記載された「請求項1?5」を、「請求項1、請求項2および請求項4」に訂正する。 (8)訂正事項8 本件訂正前の請求項7に記載された 「前記表面保護層が紫外線硬化性樹脂の紫外線硬化により形成された最外層であり、 前記表面保護層のJIS K 5600に基づく引っかき鉛筆硬度がF以上であり」を、 「前記表面保護層が紫外線硬化性樹脂の紫外線硬化により形成された最外層であり、 前記表面保護層の厚さが0.5?20μmであり、 前記表面保護層のJIS K 5600に基づく引っかき鉛筆硬度がF以上であり」に訂正する。 (9)訂正事項9 本件訂正前の請求項7に記載された 「前記紫外線硬化性樹脂がアクリル系樹脂およびウレタン系樹脂の少なくともいずれか一方であり、 前記表面保護層の120℃における破壊伸び率が50%以上であり」を、 「前記紫外線硬化性樹脂がアクリル系樹脂およびウレタン系樹脂の少なくともいずれか一方であり、 前記紫外線硬化性樹脂の重量平均分子量が2万?300万であり、 前記表面保護層の120℃における破壊伸び率が50%以上であり」に訂正する。 (10)訂正事項10 本件訂正前の請求項7に記載された 「前記表面保護層の動摩擦係数が1.0以下であることを特徴とする加飾構造体」を、 「前記表面保護層の動摩擦係数が1.0以下であり、 前記基材層を構成する材料が、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ナイロン、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、液晶ポリマー、ポリテトラフロロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアセタール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ウレタン樹脂から選択されるいずれかであり、 前記基材層の厚さが5?500μmであることを特徴とする加飾構造体」に訂正する。 2 一群の請求項について 本件訂正前の請求項1?6について、請求項2?6は、本件訂正前の請求項1の記載を直接的又は間接的に引用するものであって、上記訂正事項1?3によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、本件訂正請求は、一群の請求項〔1?6〕、7について請求されたものである。 3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について ア 訂正の目的について 訂正事項1は、本件訂正前の請求項1の「表面保護層」について厚さを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という)に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項1は、本件特許明細書等の【0026】の記載に基づくものであるから、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内においてするものである。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項1は、本件訂正前の請求項1の発明特定事項をさらに限定するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)訂正事項2について ア 訂正の目的について 訂正事項2は、本件訂正前の請求項1の「紫外線硬化性樹脂」について重量平均分子量を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項2は、本件特許明細書等の【0018】の記載に基づくものであるから、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内においてするものである。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項2は、本件訂正前の請求項1の発明特定事項をさらに限定するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)訂正事項3について ア 訂正の目的について 訂正事項3は、本件訂正前の請求項1の「基材層」について構成する材料及び厚さを限定し、「加飾用積層体」について用途を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項3のうち、「基材層」を構成する材料については本件特許明細書等の【0028】の記載に、「基材層」の厚さについては本件特許明細書等の【0030】の記載に、「加飾用積層体」の用途については本件特許明細書等の【0036】の記載に基づくものであるから、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内においてするものである。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項3は、本件訂正前の請求項1の発明特定事項をさらに限定するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (4)訂正事項4、6について 訂正事項4、6は、それぞれ本件訂正前の請求項3、5を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (5)訂正事項5について 訂正事項5は、訂正事項4に伴い、請求項の引用関係の整合を図るために、削除された請求項3を引用しないものとするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。 また、訂正事項5は、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (6)訂正事項7について 訂正事項7は、訂正事項4、6に伴い、請求項の引用関係の整合を図るために、削除された請求項3、5を引用しないものとするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。 また、訂正事項7は、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (7)訂正事項8について ア 訂正の目的について 訂正事項8は、本件訂正前の請求項7の「表面保護層」について厚さを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項8は、本件特許明細書等の【0026】の記載に基づくものであるから、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内においてするものである。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項8は、本件訂正前の請求項7の発明特定事項をさらに限定するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (8)訂正事項9について ア 訂正の目的について 訂正事項9は、本件訂正前の請求項7の「紫外線硬化性樹脂」について重量平均分子量を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項9は、本件特許明細書等の【0018】の記載に基づくものであるから、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内においてするものである。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項9は、本件訂正前の請求項7の発明特定事項をさらに限定するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (9)訂正事項10について ア 訂正の目的について 訂正事項10は、本件訂正前の請求項7の「基材層」について構成する材料及び厚さを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項10のうち、「基材層」を構成する材料については本件特許明細書等の【0028】の記載に、「基材層」の厚さについては本件特許明細書等の【0030】の記載に基づくものであるから、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内においてするものである。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項10は、本件訂正前の請求項7の発明特定事項をさらに限定するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 4 小括 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項並びに第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕、7について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 上記第2のとおり本件訂正が認められたことから、本件特許の請求項1、2、4、6、7に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1、2、4、6、7に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「【請求項1】 少なくとも、基材層と、表面保護層とを有し、3次元被覆成形法に用いる加飾用積層体であって、 前記表面保護層が紫外線硬化性樹脂の紫外線硬化により形成された最外層であり、 前記表面保護層の厚さが0.5?20μmであり、 前記表面保護層のJIS K 5600に基づく引っかき鉛筆硬度がF以上であり、 前記表面保護層はシリコーン系レべリング剤を含有し、 前記紫外線硬化性樹脂がアクリル系樹脂およびウレタン系樹脂の少なくともいずれか一方であり、 前記紫外線硬化性樹脂の重量平均分子量が2万?300万であり、 前記表面保護層の120℃における破壊伸び率が50%以上であり、 前記表面保護層のヘイズが5%以下であり、 前記表面保護層の動摩擦係数が1.0以下であり、 前記基材層を構成する材料が、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ナイロン、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、液晶ポリマー、ポリテトラフロロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアセタール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ウレタン樹脂から選択されるいずれかであり、 前記基材層の厚さが5?500μmであり、 真空条件下又は減圧条件下での成形に用いられることを特徴とする加飾用積層体。 【請求項2】 前記表面保護層はキシレンの接触角が20°以上70°以下であることを特徴とする請求項1に記載の加飾用積層体。 【請求項3】 (削除) 【請求項4】 前記積層体が、前記基材層の前記表面保護層と反対面に、粘着層及びセパレーター層をこの順に有する、請求項1または請求項2に記載の加飾用積層体。 【請求項5】 (削除) 【請求項6】 前記積層体が、自動車部材、電子機器又は建材に用いられる請求項1、請求項2および請求項4のいずれか1項に記載の加飾用積層体。 【請求項7】 加飾用積層体が粘着層を介して被着体に貼着されてなり、3次元被覆成形法によって積層された加飾構造体であって、 前記加飾用積層体が、少なくとも、基材層と、表面保護層とを有し、 前記表面保護層が紫外線硬化性樹脂の紫外線硬化により形成された最外層であり、 前記表面保護層の厚さが0.5?20μmであり、 前記表面保護層のJIS K 5600に基づく引っかき鉛筆硬度がF以上であり、 前記表面保護層はシリコーン系レべリング剤を含有し、 前記紫外線硬化性樹脂がアクリル系樹脂およびウレタン系樹脂の少なくともいずれか一方であり、 前記紫外線硬化性樹脂の重量平均分子量が2万?300万であり、 前記表面保護層の120℃における破壊伸び率が50%以上であり、 前記表面保護層のヘイズが5%以下であり、 前記表面保護層の動摩擦係数が1.0以下であり、 前記基材層を構成する材料が、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ナイロン、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、液晶ポリマー、ポリテトラフロロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアセタール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ウレタン樹脂から選択されるいずれかであり、 前記基材層の厚さが5?500μmであることを特徴とする加飾構造体。」 第4 取消理由通知書に記載した取消理由について 1 取消理由の要旨 本件訂正前の請求項1?7に係る特許に対して、当審が令和3年2月2日付け取消理由通知書により特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 取消理由1(サポート要件) 本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 ・請求項1では、「少なくとも、基材層と、表面保護層とを有し」と特定されているものの、表面保護層の厚さ、基材層の材料、厚さ、また、基材層と表面保護層のほかにどのような構成物を有しているのかが特定されていないため、本件特許の請求項1に係る発明により、上記課題を解決し得ると認識することができない。 取消理由2(明確性) 本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 ・請求項1に記載された「破壊伸び率」の用語の意味内容を理解することができない。 取消理由3(実施可能要件) 本件特許は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 (1)本件特許の請求項1、7に記載された「表面保護層の120℃における破壊伸び率が50%以上」であることがどのように測定されるものであるのか理解できない。 (2)請求項1?7における「表面保護層」について、次の点が理解できない。 ア 「表面保護層」中に、紫外線硬化性樹脂組成物に含まれる、アクリルアクリレート及び/又はウレタンアクリレートと、トルエンと、酢酸エチルと、光開始剤と、シリコーン系レベリング剤がどのような割合、状態で含有されているのか イ どのような条件にすることで、「120℃における破壊伸び率が50%以上」とできるのか ウ 「レベリング剤の増配」、「紫外線硬化樹脂の選定」をどのようにすることで、「キシレンの接触角」を「20°以上70°以下」とできるのか 取消理由4(進歩性) 本件特許の請求項1?7に係る発明は、引用文献1に記載された発明又は引用文献2に記載された発明、及び周知の技術的事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 [引用文献等一覧] 引用文献1:特開2011-148964号公報(甲第1号証。以下「甲1」という。他も同様) 引用文献2:特開2014-69523号公報(甲2) 引用文献3:特開2010-143095号公報(甲3) 引用文献4:特開2015-392号公報(甲4) 引用文献5:特表2013-543807号公報(甲5) 引用文献6:特開2011-225679号公報(甲6) 引用文献7:特開2014-104687号公報(甲7) 引用文献8:特開2005-194363号公報(甲8) 引用文献9:特開2003-268300号公報(甲9) 引用文献10:特開2011-140170号公報(甲10) 2 当審の判断 (1)取消理由1(サポート要件)について ア 本件特許の発明が解決しようとする課題は、「優れた成形性を有しながら、硬度及び耐薬品性等の物理的特性において優れた加飾用積層体、及びその加飾用積層体を被着体に積層させることによって得られる加飾成形体を提供すること」(【0007】)である。 イ 発明の詳細な説明には、上記発明が解決しようとする課題に関して、次のように記載されている。 「【0015】 (表面保護層11) 表面保護層11は、加飾用積層体の最外層を構成する層であり、従って、加飾される被着体の最表面を構成することになる層である。特に、自動車内外装部品等の強度が求められる部材が被着体である場合には、表面保護層11は、傷のつきにくさ及び強度等を有していることが望ましい。すなわち、表面保護層11は、耐擦傷性を有する樹脂層又はいわゆるハードコート層であることが好ましい。表面保護層は、鉛筆硬度がF以上であることが好ましく、H以上であることがより好ましく、2H以上であることがさらに好ましい。 【0016】 表面保護層11は、紫外線硬化性樹脂により形成される。・・・ 【0017】 紫外線硬化性樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂、ウレタン系樹脂、オレフィン系樹脂、エステル系樹脂等が挙げられるが、取扱い及び加工のし易さから、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、及びエポキシ系樹脂が好ましい。・・・ 【0018】 紫外線硬化性樹脂の重量平均分子量は、2万?300万であることが好ましく、3万?100万であることがより好ましく、5万?20万であることが特に好ましい。紫外線硬化性樹脂の重量平均分子量を上記の好ましい範囲内とすることにより、真空条件下又は減圧条件下での成形(TOM成形)時に、被着体に対する追従性をさらに高めることができ、複雑な形状の被着体を加飾することが可能になる。・・・ ・・・ 【0020】 レベリング剤としては、例えば、フッ素系レベリング剤、シリコーン系レベリング剤、又は、アクリル系レベリング剤を好ましく使用することができる。これらの中でも、シリコーン系レベリング剤及び/又はフッソ系レベリング剤が特に好ましい。・・・ 【0021】 表面保護層11の120℃における破壊伸び率が50%以上である。破壊伸び率が上記範囲内であることにより、複雑な形状を有する被着体に対しても、本発明の加飾用積層体が良好な追従性を発揮することができる。・・・ 【0022】 表面保護層11のヘイズは5%以下である。表面保護層11のヘイズが上記範囲内であることにより、基材層の色彩及び質感を加飾用積層体の外観として見せることができ、貼着させる被着体の意匠性を自在にコントロールすることができる。・・・ 【0023】 表面保護層11の動摩擦係数は1.0以下である。動摩擦係数が上記範囲内であることにより、外気及び汚れに暴露される厳しい環境で用いられても充分な表面保護効果を発揮することができる。・・・ ・・・ 【0026】 表面保護層11の厚さは、0.5?20μmであることが好ましく、1.0?15μmであることがより好ましく、2.0?10μmであることがさらに好ましい。表面保護層11の厚さが上記範囲内であることにより、成形性及び剛性等の物理的特性がバランスよく達成される。 【0027】 (基材層) 基材層10は、表面保護層11及び粘着層12を形成して保持するための、いわゆる基材として機能する層である。また、基材層10は、加飾用積層体の外観に意匠性を与えるための加飾層としての機能を有していてもよい。・・・ 【0028】 基材層10を構成する層(加飾層及び透明樹脂層)の材料は、例えば、プラスチックであることが好ましい。プラスチックとしては、例えば、ABS樹脂(アクリロニトリル、ブタジエン、及び、スチレンの共重合体)、AS樹脂(アクリロニトニル、スチレンの共重合体)、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ナイロン、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、液晶ポリマー、ポリテトラフロロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアセタール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ウレタン樹脂等が好ましい。これらの中でも、ABS樹脂又はアクリル系樹脂がより好ましい。加飾層は、これらの樹脂にカーボン(グラファイト)等が配合された有色の層であってもよい。 ・・・ 【0030】 基材層10の厚さは、例えば、5?500μmであることが好ましく、10?400μmであることがより好ましく、20?300μmであることがさらに好ましく、30?250μmであることが特に好ましい。基材層10の厚さが上記の好ましい範囲内であることにより、成形性と剛性等の物理的特性とのバランスがさらに優れることとなる。 【0031】 本発明の加飾用積層体は、基材層の表面保護層と反対面に、粘着層及びセパレーターをこの順に有することが好ましい。以下に粘着層及びセパレーターの好ましい形態を説明する。」 ウ 上記イの記載から、発明の詳細な説明には、「紫外線硬化性樹脂の重量平均分子量は、2万?300万」(【0018】)であり、「表面保護層11の120℃における破壊伸び率が50%以上」(【0021】)であることで、優れた成形性を有するものとすること、「表面保護層は、鉛筆硬度がF以上であること」(【0015】)であり、「表面保護層11の動摩擦係数は1.0以下」(【0023】)であることで、物理的特性において優れたものとすること、また、「表面保護層11の厚さは、0.5?20μm」(【0026】)であり、「基材層10の厚さは、例えば、5?500μm」(【0030】)であることで、成形性及び物理的特性がバランスよく達成されることが記載されている。 エ そうすると、本件発明1により、上記の発明が解決しようとする課題を解決し得ると認識できるものといえる。 よって、本件発明1、2、4、6、7は、発明の詳細な説明に記載したものである。 (2)取消理由2(明確性)について 本件発明1の「前記表面保護層の120℃における破壊伸び率が50%以上であり」の記載について、表面保護層が、120℃において破壊に至るまでの伸び率を意味することが理解できるから、本件発明1の記載から特許を受けようとする発明が明確に把握できる。 この点に関して、発明の詳細な説明には、次のような記載がある。 「(成形性評価試験) 上記実施例及び比較例の積層体の表面保護層について、TOM成形機(布施真空株式会社製、NGF成形機)を用いて、120℃下において積層体長手方向及び幅方向の延伸倍率が50%以上になる条件で成形し、成形体を得た。上記成形体について、以下の評価基準に従い成形性を評価した。 ○:積層体の最大延伸部(積層体長手方向及び幅方向の延伸倍率50%以上)にて、積層体の表面保護層の破壊が見られなかった。 △:積層体の最大延伸部(積層体長手方向及び幅方向の延伸倍率50%以上)にて、積層体の表面保護層の破壊が一部見られたが、実用上の問題は無い。 ×:積層体の最大延伸部(積層体長手方向及び幅方向の延伸倍率50%以上)にて、積層体の表面保護層の破壊が見られた。」(【0055】) 当該記載から、「表面保護層の120℃における破壊伸び率が50%以上」は、TOM成形機を用いて、120℃下において積層体の最大延伸部(積層体長手方向及び幅方向)の延伸倍率が50%以上になる条件で成形したときに、積層体の表面保護層の破壊が見られないことを意味することが理解できる。 そうすると、本件発明1の上記記載から理解される意味と、発明の詳細な説明に記載された内容とは整合性が取れている。 同様に、本件発明7についても、その記載から特許を受けようとする発明が明確に把握できる。 よって、本件発明1、2、4、6、7は明確である。 (3)取消理由3(実施可能要件)について ア 本件発明1、7における「表面保護層の120℃における破壊伸び率が50%以上」であることについて 上記(2)で示したように、TOM成形機を用いて、120℃下において積層体の最大延伸部(積層体長手方向及び幅方向)の延伸倍率が50%以上になる条件で成形することによって測定できることが理解できる。 イ 本件発明1、2、7における「表面保護層」について (ア)トルエンと、酢酸エチル等の溶剤は塗工後の工程で揮発すること、及び光開始剤は紫外線の照射によって分解して、揮発性の分解物はほとんど残らないことは技術常識であるから、「表面保護層」中には、紫外線硬化性樹脂組成物に含まれる成分のうち、アクリルアクリレート及び/又はウレタンアクリレートが架橋されたもの、光開始剤の残存物、レベリング剤が分散して存在することが理解できる。 (イ)紫外線硬化樹脂の成形性に関して、発明の詳細な説明には、「紫外線硬化性樹脂の重量平均分子量は、2万?300万であることが好ましく、・・・紫外線硬化性樹脂の重量平均分子量を上記の好ましい範囲内とすることにより、真空条件下又は減圧条件下での成形(TOM成形)時に、被着体に対する追従性をさらに高めることができ、複雑な形状の被着体を加飾することが可能になる」(【0018】)、「表面保護層11の厚さは、0.5?20μmであることが好ましく、・・・表面保護層11の厚さが上記範囲内であることにより、成形性及び剛性等の物理的特性がバランスよく達成される。」(【0026】)と記載されている。 また、発明の詳細な説明の【0050】<比較例2>、【0051】<比較例3>、【0063】の記載を参照すると、紫外線硬化性樹脂の重量平均分子量が破壊伸び率に影響することが理解できる。 そうすると、紫外線硬化性樹脂の重量平均分子量及び表面保護層の厚さを最適化することにより、「表面保護層の120℃における破壊伸び率が50%以上」とすることができる。 (ウ)「キシレンの接触角」に関して、発明の詳細な説明には、「表面保護層11はキシレンの接触角が20°以上70°以下であることが好ましい。・・・レベリング剤の増配又は紫外線硬化樹脂の選定により、表面保護層のキシレンの接触角を上記範囲内とすることができる。」(【0024】)と記載されている。 また、発明の詳細な説明の【0052】<比較例4>、【0053】<比較例5>、【0058】、【0063】の記載を参照すると、耐キシレン性が「×」、すなわち、キシレンを滴下し、拭き取ったあとの表面の面感が「大きく変化」となるような場合には、「レベリング剤の増配」による「キシレンの接触角」の調整ができないことが理解できる。 そうすると、耐キシレン性が「〇」、すなわち、キシレンを滴下し、拭き取ったあとの表面の面感が「変化無し」となるようにしたうえで、レベリング剤の増配又は紫外線硬化樹脂の選定により、「キシレンの接触角が20°以上70°以下」とすることができる。 ウ 小括 よって、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1、2、4、6、7を実施できる程度に記載されたものである。 (4)取消理由4(進歩性)について ア 引用文献の記載事項 (ア)引用文献1には、次の記載がある。 「【請求項1】 基材フィルムの少なくとも一方の面に塗布液を塗布硬化させてなるハードコート層を有する成型用ハードコートフィルムであって、 前記塗布液が、3以上の官能基を有する電離放射線硬化型化合物と、1および/または2官能の電離放射線硬化型化合物とを少なくとも含み、 前記塗布液に含まれる電離放射線硬化型化合物中の1および/または2官能の電離放射線硬化型化合物の含有量が5質量%以上95質量%以下であり、 かつ、下記(A)または(B)式を満足することを特徴とする成型用ハードコートフィルム。 Y≧?340X+41940 (X≦90)・・・(A) Y≧1.4X^(2) (X>90)・・・(B) (ここで、Xはフィルムの縦(X1)、横(X2)及び縦方向に対し時計回りに45°方向(X3)及び135°方向(X4)の軸における伸度の最小値であり、X=Min(X1,X2,X3,X4)で示される。また、Yは4方向の軸の伸度から計算される面積であり、Y=√2/2×(X1X2+X2X3+X3X4+X4X1)で示される。)」 「【技術分野】 【0001】 本発明は、成型による歪みが小さく、表面硬度、耐擦傷性が優れていて、かつ、成型性にも優れる成型用ハードコートフィルムに関するものである。」 「【0010】 本発明の目的は、上記課題を解決するためになされたものであり、すなわち、成型前に成型用フィルムにハードコート層を加工、積層させることで、生産性、品質の安定性を向上に寄与することができ、かつ、成型による歪みが小さく、表面硬度、耐擦傷性と成型時の変形に追随可能な成型性の両方を兼ね備える成型用ハードコートフィルムを提供することにある。」 「【0016】 基材フィルムは成型性を有することを特徴とする。ここで成型性とは、金型成型や圧空成型、真空成型などの成型加工により成型体を形成しうることをいう。具体的には成型によって局部的に伸長された部分において、部分的に高い応力が発生した際にも基材フィルムが破断せずに成型体を形成可能なフィルム応力特性を有するものである。特に、印刷による意匠を施した場合など、精密な成型性が要求させる場合は、成型による歪みの小さいものが好ましい。」 【0035】 成型用ハードコートフィルムを、例えばハードコート層を積層しない面に印刷加工を施す場合は、基材フィルムの全光線透過率が80%以上で、かつヘーズが5%以下であることが好ましい。基材フィルムの透明性に劣る場合には、印刷層をハードコート層側から見た際の視認性が低下する。 「【0104】 (成型体) 本発明の成型用ハードコートフィルムは、真空成型、圧空成型、金型成型、プレス成型、ラミネート成型、インモールド成型、絞り成型、折り曲げ成型、延伸成型などの成型方法を用いて成型する成型用材料として好適である。本発明の成型用ハードコートフィルムを用いて成型した場合、成型時の変形にハードコート層が追随しクラックが発生せず、かつ、表面硬度、耐擦傷性を維持することができる。」 「【0108】 (1)伸度 得られた成型用ハードコートフィルムから長さ10mm、幅150mmの短冊状の試料片に切り出した。フィルム試料片の実温が160℃の環境下で、外観を目視観察しながら、フィルム両端を把持して試験速度250mm/分で引張り、ハードコート層にクラック、または白化が発生した時のフィルムの長さを測定した。 試験前のフィルム試料片長をa、試験後のフィルム試料片長をbとしたとき、下記式により伸度を算出した。 伸度(%)=(b-a)×100/a ここで伸度が10%以上のものを成型性に優れているとし、30%以上のものを特に成型性に優れていると判断した。 【0109】 (2)鉛筆硬度 得られた成型用ハードコートフィルムのハードコート層の鉛筆硬度をJIS-K5600に準拠して測定した。圧こん(痕)は目視で判定した。 ここで鉛筆硬度がH以上のものを優れた表面硬度があるものとし、2H以上であるものを特に優れた表面硬度があるものと判断した。」 「【0116】 (9)フィルムの伸度 フィルムの縦方向、横方向、及び縦方向から45°及び135°の軸方向に幅10mm,長さ100mmのサンプルを切り取り、フィルム試験片を引張試験機(ORIENTEC社製、テンシロンRTC-125A)にセットし、温度23℃、湿度65%RHの環境下において、標線間距離を40mm、チャック間距離を60mmとして、引っ張り速度200mm/minで実施する。フィルムの破断伸度は、破断時の標線間距離Lを40で割り%で表す。測定機は島津製作所製オートグラフAGS-1kNGを用いた。 【0117】 (実施例1) 基材として、平均粒径0.7μmのシリカを0.07wt%含有したポリエチレンテレフタレート(A)([η]=0.60)を水分率が10ppm以下となる様に乾燥した後、押出機に仕込み、285℃の温度で溶融しT型ダイスから樹脂シートを押し出して、未延伸シートを得た。この未延伸シートを縦方向に延伸温度92℃で3.5倍延伸した。さらに、縦延伸フィルム上に下記の中間塗布層用塗布液Aを乾燥後の塗布量が0.5g/m^(2) となる様に両面に塗布し、風速10m/秒、120℃の熱風下で20秒通過させて、中間塗布層を形成させた。さらに、その後、幅方向に延伸温度160℃で3.8倍で延伸した。二軸延伸後、240℃で熱処理を行い、次いで緩和率2%で緩和処理を行ない、25μmのフィルムを得た。 ・・・ 【0119】 次に、下記の塗布液Aをワイヤーバーを用いて塗布硬化後のハードコート層の厚みが2μmになるように塗布し、温度80℃の熱風で60秒乾燥し、出力120W/cmの高圧水銀灯下20cmの位置(積算光量300mJ/cm^(2))で8m/minのスピードで通過させて成型用ハードコートフィルムを得た。フィルム取り位置(基材ミルロールの中央部を0%、端部を100%とした場合のフィルム幅方向におけるフィルムの採取位置)90%のものを採取し、フィルム伸度・成型加工性の評価を行なった。 (塗布液A) 下記の材料を下記に示す質量比で混合し、30分以上攪拌して溶解させた。次いで、公称ろ過精度が1μmのフィルターを用いて未溶解物を除去して、塗布液Aを作成した。 ・メチルエチルケトン 64.48質量% ・ペンタエリスリトールトリアクリレート 11.45質量% (新中村化学製、NKエステル A-TMM-3LM-N、官能基数3) ・トリプロピレングリコールジアクリレート 5.73質量% (新中村化学製、NKエステル APG-200、官能基数2) ・ジメチルアミノエチルメタクリレート 5.72質量% (共栄社化学製、ライトエステルDM、官能基数1) ・シリカ微粒子 11.45質量% (日産化学工業製、MEK-ST-L、固形分比率:30%、平均粒子径:50nm) ・光重合開始剤 1.14質量% (チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製イルガキュア184) ・シリコーン系界面活性剤 0.03質量% (東レ・ダウコーニング製、DC57)」 「【0127】 (実施例5) 実施例1において、ハードコート層を形成する塗布液を下記の塗布液Eに変更すること以外は実施例1と同様にして、成型用ハードコートフィルムを得た。 (塗布液E) ・メチルエチルケトン 64.48質量% ・ペンタエリスリトールトリアクリレート 1.15質量% (新中村化学製、NKエステル A-TMM-3LM-N、官能基数3) ・トリプロピレングリコールジアクリレート 0.58質量% (新中村化学製、NKエステル APG-200、官能基数2) ・ジメチルアミノエチルメタクリレート 21.17質量% (共栄社化学製、ライトエステルDM、官能基数1) ・シリカ微粒子 11.45質量% (日産化学工業製、MEK-ST-L、固形分比率:30%、平均粒子径:50nm) ・光重合開始剤 1.14質量% (チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製イルガキュア184) ・シリコーン系界面活性剤 0.03質量% (東レ・ダウコーニング製、DC57) 【0128】 得られた成型用ハードコートフィルムは成型性、表面硬度、耐擦傷性、着色の程度ともに良好で、成型用ハードコートフィルムとして良好であった。また、得られた成型用ハードコートフィルムより成型した成型体の表面硬度も良好であった。得られた結果を表1に示す。」 「【0178】 【表1】 ![]() 」 (イ)以上を総合すると、引用文献1には、特に実施例5に着目すると、次の「引用発明1」が記載されている。 「基材フィルムの一方の面に塗布液を塗布硬化させてなるハードコート層を有する成型用ハードコートフィルムであって、 ハードコート層が、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、シリコーン系界面活性剤を含む塗布液(塗布液E)を塗布し、水銀灯下で硬化させたものであり、 成型後のハードコート層の厚みが1.1μmであり、 JIS-K5600に準拠して測定したハードコート層の鉛筆硬度がHであり、 成型用ハードコートフィルムから切り出したフィルム試料片の実温が160℃の環境下、温度23℃、湿度65%RHの環境下において、伸度が79%であり、 基材フィルムが、ポリエチレンテレフタレートの樹脂シートを二軸延伸した、25μmのフィルムであり、 真空成型、圧空成型、金型成型、プレス成型、ラミネート成型、インモールド成型、絞り成型、折り曲げ成型、延伸成型などの成型方法を用いて成型される成型用ハードコートフィルム。」 (ウ)引用文献2には、次の記載がある。 「【請求項1】 基材フィルム上に、ハードコート層を設けた成型用ハードコートフィルムにおいて、該ハードコート層が、樹脂及び平均粒子径5?50nmの無機酸化物微粒子を含有することを特徴とする成型用ハードコートフィルム。」 「【技術分野】 【0001】 本発明はインモールド成型やインサート成型または真空成型法による樹脂成型品に用いられる成型用ハードコートフィルムに関する。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0006】 成型用ハードコートフィルムが様々な分野に利用されるようになるに伴い、3次元成型に追従する十分な伸長性(伸ばされてもハードコート層にクラック等が入らないこと)の他、表面硬度(鉛筆硬度、耐擦傷性)も要求される容易なってきている。しかしながら、成型用ハードコートフィルムのハードコート層に使用される伸長性の高い樹脂は柔らかいため十分な表面硬度が発現せず、表面硬度に優れる樹脂は硬いため十分な伸長性は発現しないといったように、表面硬度と伸長性とトレードオフの関係にある。 【0007】 そこで、本発明は伸長性(成型性)と表面硬度(鉛筆硬度、耐擦傷性)の特性を向上させた成型用ハードコートフィルムを提供することを目的とする。」 「【0011】 図1は加飾層を設けた成型用ハードコートフィルムAの一実施の形態を示す層構成の断面図である。 【0012】 図1に示す本発明の成型用積層ハードコートフィルムAにおいては、基材フィルム2上に、ハードコート層1を設けており、さらに裏面に印刷層3、着色・接着フィルム4を設けた構成となっている。」 「【0018】 これらの中でも、伸長性の点から好ましい樹脂は、ポリエチレンテレフタレートフィルム(以下PETフィルムと略す)にハードコート層を塗膜厚1μm以上10μm以内で塗工した後、幅15mm×長さ150mmの試験片を製作し、温度25℃、湿度50%RHの環境下で当該試験片を引張速度50mm/分にて引張った際に、ハードコート層にクラックが入るまでの伸び率が70%以上(JIS K5600-5-4)以上を有する、電離放射線型硬化樹脂である。また、表面硬度の点から好ましい樹脂は鉛筆硬度2H以上を有する電離放射線硬化型樹脂である。」 「【0026】 [実施例1] <塗料調製> ウレタンアクリレート系紫外線硬化性樹脂「RC29-047(商品名)」(固形分75%、DIC製)40部とウレタンアクリレート系紫外線硬化性樹脂「8BR-500(商品名)」(固形分37%、大成ファインケミカル製)50部とウレタンアクリレート系紫外線硬化性樹脂「UN904(商品名)」(固形分100%、根上工業製)10部を主剤とし、イルガキュア184(光重合開始剤、BASF製)5部と、ヒンダードアミン系化合物「TINUVIN 770DF(商品名)」(BASF製)0.5部と、ヒドロキシフェニルトリアジン系化合物「TINUVIN479(商品名)」(BASF製)0.5部と、レベリング剤RS75(フッ素系レベリング剤、DIC(株)社製)0.3部とアルミニウムを主成分とした微粒子「NANOBYK-3601(商品名)」(平均粒径40nm、ビックケミー製)を対固形3%を酢酸ブチル/n-プロピルアルコール=50/50(wt%)で紫外線硬化性樹脂の塗料中の固形分濃度が20%となるまで希釈し十分攪拌してハードコート層塗料を調製した。 【0027】 <ハードコートフィルム作製> 伸び試験用として厚さ125μmの二軸延伸易成型PETフィルム「ルミラーU463(商品名)」(東レ製)の一方の面に上記塗料をバーコーターで塗工し、80℃で1分間熱風乾燥した後、紫外線光量300mJ/m^(2)で硬化させた。得られた塗膜の厚さは5μmであった。・・・」 「【0041】 (4)鉛筆硬度 JIS K5600に示される試験法により鉛筆硬度を測定した。 【0042】 【表1】 ![]() 」 (エ)引用文献2には、特に実施例1に着目すると、次の「引用発明2」が記載されている。 「基材フィルム上に、ハードコート層を設け、真空成型法に利用される成型用ハードコートフィルムであって、 ハードコート層は、電離放射線硬化型樹脂に紫外線を照射することによって硬化され、 ハードコート層は、5μmであり、 ハードコート層のJIS K 5600に示される試験法により測定された鉛筆硬度がHであり、 ハードコート層にレベリング剤RS75(フッ素系レベリング剤、DIC(株)社製)が添加され、 電離放射線硬化型樹脂が、ウレタンアクリレート系紫外線硬化性樹脂「RC29-047(商品名)」(固形分75%、DIC製)とウレタンアクリレート系紫外線硬化性樹脂「8BR-500(商品名)」(固形分37%、大成ファインケミカル製)とウレタンアクリレート系紫外線硬化性樹脂「UN904(商品名)」(固形分100%、根上工業製)であり、 ハードコート層の温度25℃、湿度50%RHの環境下での伸び率が78.9%であり、 ハードコート層のヘイズ値が0.4であり、 基材フィルムが、厚さ125μmの二軸延伸易成型PETフィルムである成型用ハードコートフィルム。」 (オ)引用文献3には、次の記載がある。 「【請求項1】 光硬化性樹脂組成物層(A)および基材フィルム層(B)を少なくとも有する光硬化性フィルムであって、 該光硬化性樹脂組成物層(A)は、 重量平均分子量が100000?150000であり、ガラス転移温度が70?100℃である、アクリル樹脂(a)、 光重合性多官能モノマー(b)、および 光重合開始剤(c) を含み、 但し該アクリル樹脂(a)は、(メタ)アクリロイル基を有さないことを条件とし、および 該アクリル樹脂(a)および該光重合性多官能モノマー(b)の重量比(a)/(b)は83/17?52/48である、 光硬化性フィルム。」 「【請求項6】 請求項1?4いずれかに記載の光硬化性フィルムを、光硬化性樹脂組成物層(A)が金型の内壁面と対面するように配置し挿入する、光硬化性フィルム挿入工程、 金型を閉じて溶融樹脂を金型内に射出し、次いで射出した樹脂を固化させることにより、光硬化性フィルムが表面に配置された成形品を形成する、成形品形成工程、および 得られた成形品に活性エネルギー線を照射し、成形品表面の光硬化性樹脂組成物層(A)を硬化させる、硬化工程、 を包含する、請求項1?4いずれかに記載の光硬化性フィルムを用いる成形品の製造方法。」 「【発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は、光硬化性フィルムおよびこれを用いた成形品の製造方法に関する。より詳しくは、本発明は、表面粘着性が低減されており保存安定性および印刷適合性などに優れ、かつ、成形性にも優れる光硬化性フィルム、およびこの光硬化性フィルムを用いた、表面硬度・耐擦傷性に優れる成形品の製造方法に関する。 【背景技術】 【0002】 成形物を加飾する方法の1つとして、加飾層を有するフィルムを成形物表面に設ける方法が挙げられる。このような加飾成形品の成型方法としては、例えば、 ・・・ ・加飾層を有するフィルムを、成形物の表面に設ける方法であって、チャンバーボックス内の減圧および加圧によって、加飾層を有するフィルムを成形物表面に被覆する方法(3次元加飾工法、TOM(Three dimension Overlay Method)工法などと言われる)、 などが挙げられる。このような方法によって、意匠性に優れる加飾成形品を得ることができる。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0007】 本発明は上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、成形品に対する形状追従性に優れ、かつ、良好な表面硬度を有する成形品を得ることができ、さらに表面粘着性が低減されており保存性および印刷適合性などに優れる、光硬化性フィルムを提供することにある。」 「【0028】 本発明において、アクリル樹脂(a)の重量平均分子量は、100000?150000である。この重量平均分子量は、100000?130000であるのがより好ましい。なお本明細書における重量平均分子量は、ポリスチレン換算による重量平均分子量を意味する。アクリル樹脂(a)の重量平均分子量が上記範囲であることによって、アクリル樹脂(a)が含まれる光硬化性樹脂組成物層(A)が光硬化前の状態であっても、表面粘着性が低く良好に保存することができ、さらに光硬化性樹脂組成物層(A)が光硬化前の状態であっても印刷などの加工を行うことができることとなるという利点がある。さらに、アクリル樹脂(a)の重量平均分子量が上記範囲であることによって、光硬化性樹脂組成物層(A)を光硬化することによって得られるハードコート層の耐磨耗性および耐擦傷性が高いレベルで維持されることとなるという利点もある。」 (カ)引用文献7には、次の記載がある。 「【請求項1】 ガラス転移温度が150℃以上の環状オレフィン樹脂からなる基材フィルムの少なくとも一方の表面に、重量平均分子量が10000以上50000以下、かつ二重結合当量が200eq/g以上400eq/g以下のアクリル樹脂を含む傷つき防止層塗工液を硬化させてなる傷つき防止層を有する傷つき防止層付フィルムであって、 前記傷つき防止層付フィルムが耐折れ性試験でのISO耐折れ回数が400回以上で、♯0000スチールウールで、表面を荷重100g/cm2で10往復した際の傷が0本以下であることを特徴とする傷つき防止層付フィルム。」 「【背景技術】 【0002】 環状オレフィン樹脂からなるフィルム(以下、環状オレフィンフィルムということもある)は、高い透明性を有し、低吸水性を備えているため、タッチパネルの導電性フィルムの基材としての使用が検討されている。しかし、環状オレフィン樹脂からなるフィルムを導電性フィルムとして用いる場合、環状オレフィン樹脂からなるフィルムの表面硬度が一般的に軟らかい為、フィルム上に導電層を積層する工程において、表面に傷が入ってしまい、表示装置として使用する場合に問題となる場合があった。特にガラス転移温度が高い環状オレフィン樹脂からなるフィルムの場合にはその問題が顕著であった。その問題を解決する為に基材両面に耐擦傷性に優れた比較的低分子量のアクリレートを用いたハードコート層を形成するという検討(特許文献1)や、基材上に弾性率が異なる2層のハードコート層を積層し、表面硬度と屈曲性能が高いハードコートフィルムの検討(特許文献2)がされている。しかし、ハードコート層の硬度が高すぎる為に脆弱性が大きくなる場合もあり、ITO積層工程での破断現象やフィルム打ち抜き後の端部にクラックが発生するという問題があった。 【発明が解決しようとする課題】 【0004】 本発明の目的は、環状オレフィン樹脂からなる基材フィルムの少なくとも一方の表面に傷つき防止層を有する傷つき防止層付フィルムにおいて、耐擦傷性にも優れると共に、屈曲性、フィルム打ち抜き時の耐久性にも優れる傷つき防止層付フィルム、およびその製造方法を提供することにある。」 「【0023】 アクリル樹脂の重量平均分子量は10000以上、好ましくは12000以上、さらに好ましくは15000以上であり、重量平均分子量の上限は50000以下、好ましくは40000以下、さらに好ましくは30000以下である。アクリル樹脂の重量平均分子量が低いと クラックが入りやすいという問題があり、重量平均分子量が高いと 表面硬度が弱くなるという問題がある。本発明のアクリル樹脂の二重結合当量は、200eq/g以上、好ましくは210eq/g以上、さらに好ましくは220g/eq以上であり、400g/eq以下、好ましくは350g/eq以下、さらに好ましくは300g/eq以下である。二重結合当量が低いとクラックが入りやすいという問題があり、高いと表面硬度が弱くなるという問題がある。」 (キ)令和3年5月28日に申立人が提出した意見書に添付した特開2014-144625号公報(以下「参考文献1」という。)には、次の記載がある。 「【請求項1】 転写後に紫外線で硬化させるタイプの加飾用転写フィルムにおいて、 支持フィルムの一方の表面上に、離型層、ハードコート層、プライマー層、加飾印刷層、接着層を、この順に形成してなる加飾用転写フィルムであって、 前記ハードコート層の組成は、重量平均分子量4万以上10万以下の水酸基を含有するアクリルアクリレート樹脂及び紫外線開始剤と、平均粒子径が10nm以上100nm以下であるシリカ粒子と、平均粒子径が1μm以上10μm以下であるポリテトラフルオロエチレンパウダーと、を少なくとも含むタックフリーの紫外線硬化型組成物であり、 前記プライマー層の組成は、アクリルポリオール及びポリイソシアネートと、水酸基を含有する塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂と、を少なくとも含む2液硬化型樹脂であることを特徴とする加飾用転写フィルム。」 「【発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は、成形転写性及び優れた表面保護性能を有する成形同時加飾転写フィルムに関する。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0012】 本発明では、成形同時加飾において、射出成形における成形性能を満足し、表面保護性能に優れる加飾用転写箔フィルムの提供することを課題とする。」 「【0032】 第1の方法の場合、タックフリーでかつ射出成形時に樹脂が流れないようにするには、重量平均分子量4万以上でかつ、ガラス転移温度が60℃以上であるアクリロイル基やメタクリロイル基を含有するアクリル樹脂(アクリルアクリレート)が好ましい。重量平均分子量が4万未満の場合、タックフリー性が十分でなく、上塗り性に問題がある他、成形時にウォッシュアウトが発生しやすい。また、重量平均分子量が10万を超える場合、ラジカル反応性が低くなり、架橋時の硬度が上がらないことがある。」 イ 引用発明1を主引用発明とした場合について (ア)本件発明1について a 対比 本件発明1と引用発明1とを対比する。 引用発明1の「基材フィルム」、「ハードコート層」、「JIS-K5600に準拠して測定したハードコート層の鉛筆硬度」は、それぞれ本件発明1の「基材層」、「表面保護層」、「表面保護層のJIS K 5600に基づく引っかき鉛筆硬度」に相当する。 引用発明1の「基材フィルムの一方の面に塗布液を塗布硬化させてなるハードコート層を有する」ことは、本件発明1の「少なくとも、基材層と、表面保護層とを有」することに相当する。 引用発明1の「成型後のハードコート層の厚みが1.1μmで」あることは、本件発明1の「前記表面保護層の厚さが0.5?20μmで」あることに相当する。 引用発明1の「基材フィルムが、ポリエチレンテレフタレートの樹脂シートを二軸延伸した、25μmのフィルムである」ことは、「前記基材層を構成する材料が、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ナイロン、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、液晶ポリマー、ポリテトラフロロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアセタール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ウレタン樹脂から選択されるいずれかであり、前記基材層の厚さが5?500μmで」あることに相当する。 引用文献1において、ハードコート層の外側に層を設けることが記載されておらず、また、「成型用ハードコートフィルムのハードコート層の鉛筆硬度」(【0109】)を測定したものが、成型用ハードコートフィルムの「表面硬度」とされており、引用発明1の「ハードコート層」は「最外層」であるから、引用発明1の「基材フィルムの一方の面に塗布液を塗布硬化させてなるハードコート層を有」し、「ハードコート層が、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、シリコーン系界面活性剤を含む塗布液(塗布液E)を塗布し、水銀灯下で硬化させたもので」あることは、本件発明1の「前記表面保護層が紫外線硬化性樹脂の紫外線硬化により形成された最外層」であり、「前記紫外線硬化性樹脂がアクリル系樹脂およびウレタン系樹脂の少なくともいずれか一方で」あることに相当する。 引用発明1の「成型用ハードコートフィルム」と本件発明1の「加飾用積層体」とは、「積層体」の限りで一致する。 引用発明1の「ハードコート層」が、「シリコーン系界面活性剤を含む塗布液(塗布液E)を塗布し、水銀灯下で硬化させた」ことと、本件発明1の「前記表面保護層はシリコーン系レベリング剤を含有」することとは、「表面保護層はシリコーン系添加剤を含有」する限りで一致する。 引用発明1の「真空成型、圧空成型、金型成型、プレス成型、ラミネート成型、インモールド成型、絞り成型、折り曲げ成型、延伸成型などの成型方法を用いて成型される」ことと、本件発明1の「真空条件下又は減圧条件下での成形に用いられる」こととは、「成形に用いられる」限りで一致する。 したがって、本件発明1と引用発明1とは、次の点で一致し、相違する。 [一致点] 「少なくとも、基材層と、表面保護層とを有する積層体であって、 前記表面保護層が紫外線硬化性樹脂の紫外線硬化により形成された最外層であり、 前記表面保護層の厚さが0.5?20μmであり、 前記表面保護層のJIS K 5600に基づく引っかき鉛筆硬度がF以上であり、 前記表面保護層はシリコーン系添加剤を含有し、 前記紫外線硬化性樹脂がアクリル系樹脂およびウレタン系樹脂の少なくともいずれか一方であり、 前記基材層を構成する材料が、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ナイロン、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、液晶ポリマー、ポリテトラフロロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアセタール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ウレタン樹脂から選択されるいずれかであり、 前記基材層の厚さが5?500μmであり、 成形に用いられる積層体。」 [相違点1] 「成形に用いられる」ことに関して、本件発明1は「3次元被覆成形法に用いる」もので、「真空条件下又は減圧条件下での成形に用いられる」のに対し、引用発明1は3次元被覆成形に用いるものであるか否か不明であり、「真空成型、圧空成型、金型成型、プレス成型、ラミネート成型、インモールド成型、絞り成型、折り曲げ成型、延伸成型などの成型方法を用いて成型される」ものである点。 [相違点2] 「積層体」に関して、本件発明1は「加飾用積層体」であるのに対して、引用発明1は「成型用ハードコートフィルム」である点。 [相違点3] 「表面保護層はシリコーン系添加剤を含有」することに関して、本件発明1は「前記表面保護層はシリコーン系レベリング剤を含有」するのに対して、引用発明1は「ハードコート層」が、「シリコーン系界面活性剤を含む塗布液(塗布液E)を塗布し、水銀灯下で硬化させた」ものである点。 [相違点4] 本件発明1は「前記紫外線硬化性樹脂の重量平均分子量が2万?300万で」あるのに対し、引用発明1は「ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート」の重量分子量が不明である点。 [相違点5] 本件発明1は「前記表面保護層の120℃における破壊伸び率が50%以上で」あるのに対し、引用発明1は、「成型用ハードコートフィルムから切り出したフィルム試験片の実温が160℃の環境下、温度23℃、湿度65%RHの環境下において、伸度が79%である」点。 [相違点6] 本件発明1は「前記表面保護層のヘイズが5%以下で」あるのに対し、引用発明1はその点不明である点。 [相違点7] 本件発明1は「前記表面保護層の動摩擦係数が1.0以下で」あるのに対し、引用発明1はその点不明である点。 b 判断 まず、相違点4について検討する。 上記ア(オ)を参照すると、引用文献3には、光硬化性樹脂組成物層が、重量平均分子量が100000?150000であるアクリル樹脂を含む加飾用の光硬化性フィルム(以下「引用文献3記載事項)が記載されている。 しかしながら、引用文献3の【請求項6】に記載されているように、引用文献3に記載された光硬化性フィルムは、成形品を形成した後に、成形品表面の光硬化性樹脂組成物層を硬化させるものであって、光硬化性樹脂組成物層は、成型時の変形に追随して変形するものではない。 そうすると、「成型時の変形に追随可能な成型性」(引用文献1の【0010】)が求められる引用発明1の「ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート」の重量分子量として、引用文献3記載事項を適用する動機付けはない。 上記ア(カ)を参照すると、引用文献7には、重量平均分子量が10000以上50000以下のアクリル樹脂を含む傷つき防止層塗工液を硬化させてなる傷つき防止層を有する傷つき防止層付フィルム(以下「引用文献7記載事項」という。)が記載されている。 引用文献7には、「傷つき防止層付フィルム」がどのように用いられるかについて明記はないが、同文献の【0002】を参照すると、タッチパネルのような導電性フィルムの表面に形成されるハードコート層として用いられるものであり、引用文献7記載事項の傷つき防止層付フィルムを、成型時の変形に追随して変形させることを伺わせる記載はない。 そうすると、「成型時の変形に追随可能な成型性」(引用文献1の【0010】)が求められる引用発明1の「ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート」の重量分子量として、引用文献7記載事項を適用する動機付けはない。 上記ア(キ)を参照すると、参考文献1には、ハードコート層の組成は、重量平均分子量4万以上10万以下の水酸基を含有するアクリルアクリレート樹脂を含むタックフリーの紫外線硬化型組成物である、転写後に紫外線で硬化させるタイプの加飾用転写フィルム(以下「参考文献1記載事項」という。)が記載されている。 しかしながら、参考文献1記載事項は、転写後に紫外線で硬化させるタイプの加飾用転写フィルムであって、成型時の変形に追随して変形するものではない。 そうすると、「成型時の変形に追随可能な成型性」(引用文献1の【0010】)が求められる引用発明1の「ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート」の重量分子量として、参考文献1記載事項を適用する動機付けはない。 また、3次元被覆成形法に用いる加飾用積層体において、「紫外線硬化性樹脂の重量平均分子量が2万?300万」とする点については、引用文献1?10及び参考文献1に記載されておらず、また出願前において周知技術であるともいえない。 したがって、引用発明1において、相違点4に係る本件発明1の構成とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 よって、相違点1?3、5?7を検討するまでもなく、本件発明1は、当業者が引用発明1に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 c 申立人の主張について 上記相違点4に関して、令和3年5月28日提出の意見書において、申立人は、紫外線硬化性樹脂の重量平均分子量が2万から300万であるとの事項は、引用文献3、7及び参考文献1に記載されているように、普通に用いられている数値であり、相違点4に係る特定事項は、当業者が普通に採用する設計事項にすぎない旨主張している(令和3年5月28日提出の意見書17ページ16?22行)と主張している。 しかしながら、上記bで述べたとおり、引用文献3、7及び参考文献1を参照しても、引用発明1の「ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート」の重量分子量として、参考文献1記載事項を適用する動機付けはない。 したがって、申立人の上記主張を採用することはできない。 (イ)本件発明2、4、6について 本件発明2、4、6は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記(ア)で検討したのと同じ理由により、当業者が引用発明1に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (ウ)本件発明7について 本件発明7は、相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を含むものであるから、上記(ア)で検討したのと同じ理由により、当業者が引用発明1に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 ウ 引用発明2を主引用発明とした場合について (ア)本件発明1について a 対比 本件発明1と引用発明2とを対比する。 引用発明2の「基材フィルム」、「ハードコート層」、「電離放射線硬化型樹脂」である「ウレタンアクリレート系紫外線硬化性樹脂「RC29-047(商品名)」(固形分75%、DIC製)とウレタンアクリレート系紫外線硬化性樹脂「8BR-500(商品名)」(固形分37%、大成ファインケミカル製)とウレタンアクリレート系紫外線硬化性樹脂「UN904(商品名)」(固形分100%、根上工業製)」は、それぞれ本件発明1の「基材層」、「表面保護層」、「ウレタン系樹脂」に相当する。 引用発明2の「基材フィルム上に、ハードコート層を設け」たことは、本件発明1の「少なくとも、基材層と、表面保護層とを有」することに相当する。 引用文献2の「成型用ハードコートフィルムが様々な分野に利用されるようになるに伴い、3次元成型に追従する十分な伸長性(伸ばされてもハードコート層にクラック等が入らないこと)の他、表面硬度(鉛筆硬度、耐擦傷性)も要求される容易なってきている。」(【0006】)、及び「本発明によれば、本発明は伸張性…の特性を向上させた成型用ハードコートフィルムを提供することができる。」(【0009】)の記載を参照すると、引用発明2の「真空成型法に利用される」ことは、本件発明1の「3次元被覆成形法に用いる」こと、及び「真空条件下又は減圧条件下での成形に用いられる」ことに相当する。 引用発明2の「電離放射線硬化型樹脂に紫外線を照射することによって硬化され」ることは、本件発明1の「紫外線硬化性樹脂の紫外線硬化により形成された」ことに相当する。 引用文献2において、「成型用ハードコートフィルム」は「表面硬度(鉛筆硬度、耐擦傷性)」が要求されるものである(【0006】)ことから、引用発明2の「ハードコート層」は「最外層」である。 引用発明2の「JIS K 5600に示される試験法により測定された鉛筆硬度」は本件発明1の「表面保護層のJIS K 5600に基づく引っかき鉛筆硬度」に相当し、引用発明2の「鉛筆硬度がH」は本件発明1の「鉛筆硬度がF以上」の範囲内である。 引用発明2の「ヘイズ値」は本件発明1の「ヘイズ」に相当し、引用発明2の「0.4」は本件発明1の「5%以下」の範囲内である。 引用発明2の「成型用ハードコートフィルム」と本件発明1の「加飾用積層体」とは、「積層体」の限りで一致する。 引用発明2の「基材フィルムが、厚さ125μmの二軸延伸易成型PETフィルムである」ことは本件発明1の「前記基材層を構成する材料が、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ナイロン、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、液晶ポリマー、ポリテトラフロロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアセタール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ウレタン樹脂から選択されるいずれかであり、前記基材層の厚さが5?500μmで」あることに相当する。 引用発明2の「レベリング剤RS75(フッ素系レベリング剤、DIC(株)社製)が添加され」ることと本件発明1の「シリコーン系レベリング剤を含有す」ることとは、「レベリング剤を含有す」ることである限りで一致する。 したがって、本件発明1と引用発明2とは、次の点で一致し、相違する。 [一致点] 「少なくとも、基材層と、表面保護層とを有し、3次元被覆成形法に用いる積層体であって、 前記表面保護層が紫外線硬化性樹脂の紫外線硬化により形成された最外層であり、 前記表面保護層の厚さが0.5?20μmであり、 前記表面保護層のJIS K 5600に基づく引っかき鉛筆硬度がF以上であり、 前記表面保護層はレベリング剤を含有し、 前記紫外線硬化性樹脂がアクリル系樹脂およびウレタン系樹脂の少なくともいずれか一方であり、 前記表面保護層のヘイズが5%以下であり、 前記基材層を構成する材料が、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ナイロン、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、液晶ポリマー、ポリテトラフロロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアセタール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ウレタン樹脂から選択されるいずれかであり、 前記基材層の厚さが5?500μmであり、 真空条件下又は減圧条件下での成形に用いられる積層体。」 [相違点8] 「積層体」に関して、本件発明1は「加飾用積層体」であるのに対して、引用発明2は「成型用ハードコートフィルム」である点。 [相違点9] 「レベリング剤を含有」することについて、本件発明1は「シリコーン系レベリング剤を含有」するのに対して、引用発明2は「レベリング剤RS75(フッ素系レベリング剤、DIC(株)社製)が添加され」たものである点。 [相違点10] 本件発明1は「前記紫外線硬化性樹脂の重量平均分子量が2万?300万で」あるのに対して、引用発明2は「電離放射線硬化型樹脂」の重量平均分子量が不明である点。 [相違点11] 本件発明1は「前記表面保護層の120℃における破壊伸び率が50%以上で」あるのに対し、引用発明2は、「ハードコート層の温度25℃、湿度50%RHの環境下での伸び率が78.9%で」ある点。 [相違点12] 本件発明1は「前記表面保護層の動摩擦係数が1.0以下であ」るのに対し、引用発明2はその点不明である点。 b 判断 まず、相違点10について検討する。 引用発明2は、「3次元成型に追従する十分な伸長性(伸ばされてもハードコート層にクラック等が入らないこと)の他、表面硬度(鉛筆硬度、耐擦傷性)も要求される」(引用文献2の【0006】)ようになってきていることころ、「伸長性(成型性)と表面硬度(鉛筆硬度、耐擦傷性)の特性を向上させ」(引用文献2の【0007】)るものである。 そうすると、上記イ(ア)bで相違点4について検討したのと同様の理由により、引用発明2において、相違点10に係る本件発明1の構成とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 よって、相違点8、9、11、12を検討するまでもなく、本件発明1は、当業者が引用発明2に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (イ)本件発明2、4、6について 本件発明2、4、6は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記(ア)で検討したのと同じ理由により、当業者が引用発明2に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (ウ)本件発明7について 本件発明7は、相違点10に係る本件発明1の発明特定事項を含むものであるから、上記(ア)で検討したのと同じ理由により、当業者が引用発明2に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 エ 小括 以上のとおりであるから、本件発明1、2、4、6、7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。 第5 取消理由通知に採用しなかった特許異議申立理由について 1 サポート要件に係る申立理由について (1)申立人は、本件特許の請求項1は、次のア?エの点で発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない旨主張する。 ア 酢酸エチル及び光開始剤を特定していない。 イ シリコーン系レベリング剤の含有量を特定していない。 ウ 加飾用積層体が基材層と表面保護層の2層のみであることを特定していない。 エ アクリル系樹脂及びウレタン系樹脂の材料及び含有量を特定していない。 (2)しかし、上記ア?エの申立人の主張は、いずれも採用できない。 ア 酢酸エチル及び光開始剤を特定していない点について 発明の詳細な説明の【0040】?【0063】に記載された実施例を参照すると、本件発明1?7における「表面保護層」は、アクリルアクリレート及び/又はウレタンアクリレートと、トルエンと、酢酸エチルと、光開始剤と、シリコーン系レベリング剤とを含む紫外線硬化性樹脂組成物(UV1、4?7)を硬化させることにより形成されるものである。 紫外線硬化性樹脂組成物のうち、「酢酸エチル」については表面保護層の形成中に揮発するため、「加飾構造体」にはほとんど残っておらず、「光開始剤」については表面保護層の形成中に、分解、揮発するため、「加飾構造体」には光開始剤の未反応物、不揮発性の分解物が存在するものの、これらは発明の課題を解決するための手段ではない。 イ シリコーン系レベリング剤の含有量を特定していない点について 申立人は、申立書において、「シリコーン系レベリング剤が4%を超える比較例6は、ヘイズが5パーセントを超えており、シリコーン系レベリング剤の含有量を特定しない本件第1発明は、・・・発明の課題を解決するための構成が特定されていない」(43ページ10?14行)と主張している。 しかしながら、「ヘイズが5パーセントを超えて」いる「比較例6」は、「シリコーン系レベリング剤」の含有量によらず、本件発明1ではないことは明らかであり、申立人の上記主張は当たらない。 ウ 加飾用積層体が基材層と表面保護層の2層のみであることを特定していない点について 発明の詳細な説明には、「基材層10は、表面保護層11及び粘着層12を形成して保持するための、いわゆる基材として機能する層である。また、基材層10は、加飾用積層体の外観に意匠性を与えるための加飾層としての機能を有していてもよい。基材層10は、複数の層で構成されていてもよく、例えば、色彩を有する加飾層と透明樹脂層とが積層されてなる2層構造(図示されていない)を有していてもよい。この場合、本発明の加飾用積層体は、表面保護層、透明樹脂層、加飾層、粘着層、セパレーターとをこの順に有することが好ましい。更に、表面保護層、透明樹脂層、加飾層、接着層あるいは粘着層、熱可塑性樹脂、粘着層、セパレーターとをこの順に有しても良い。また、基材層10を構成する樹脂層は、意匠性等を付与することを目的として、金属蒸着されたものであってもよい。」(【0027】)と記載されているとおり、基材層と表面保護層の2層以外の層も含み得るものである。 エ アクリル系樹脂及びウレタン系樹脂の材料及び含有量を特定していない点について 申立人は、申立書において、「発明の詳細な説明には、アクリルアクリレートが30%、アクリルアクリレートが15%でウレタンアクリレートが15%、又はウレタンアクリレートが30%の実施例しかなく、アクリルアクリレートが60%では発明の課題を満足しないから(比較例2)、アクリル系樹脂及びウレタン系樹脂の材料及び含有量を特定していない本件第1発明は、・・・発明の課題を解決するための構成が特定されていない」(43ページ下から2行?44ページ5行)と主張している。 発明の詳細な説明には、「紫外線硬化性樹脂の重量平均分子量は、2万?300万であることが好ましく、3万?100万であることがより好ましく、5万?20万であることが特に好ましい。紫外線硬化性樹脂の重量平均分子量を上記の好ましい範囲内とすることにより、真空条件下又は減圧条件下での成形(TOM成形)時に、被着体に対する追従性をさらに高めることができ、複雑な形状の被着体を加飾することが可能になる。」(【0018】)と記載されており、「紫外線硬化性樹脂の重量平均分子量」は成形性に影響を与えるものである。 しかし、比較例2は、「重量平均分子量:15000」の「アクリルアクリレート」を用いた比較例であり、本件発明1の「重量平均分子量が2万?300万」の数値範囲に含まれていないものであるから、申立人の上記主張は当たらない。 2 明確性に係る申立理由について (1)申立人は、本件特許の請求項1は、次のア?ウの点で不明確であり、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない旨主張する。 ア 本件訂正前の請求項1の「表面保護層の動摩擦係数が1.0以下」の記載において、摩擦する相手の対象物が不明確である。 イ 本件訂正前の請求項1の「前記表面保護層が紫外線硬化性樹脂の紫外線硬化により形成された最外層であり」との特定は、製造方法によって物を特定しており、不明確である。 ウ 本件訂正前の請求項2の「キシレンの接触角」は、懸滴量等の測定方法が定義されておらず不明確である。 (2)しかし、上記ア?ウの申立人の主張は、いずれも採用できない。 ア 本件訂正前の請求項1の「表面保護層の動摩擦係数が1.0以下」の記載において、摩擦する相手の対象物が不明確である点について 「動摩擦係数」について、発明の詳細な説明には、「「JIS K 7125:1999 プラスチック-フィルム及びシート-摩擦係数試験方法」に準じ、・・・測定」(【0056】)と記載されており、JIS規格により定められた定義を有し、また、当該JIS規格で定められた試験、測定方法によって定量的に決定できるものであるから、「動摩擦係数」の記載は明確である。 イ 本件訂正前の請求項1の「前記表面保護層が紫外線硬化性樹脂の紫外線硬化により形成された最外層であり」との特定は、製造方法によって物を特定しており、不明確である点について 当該記載から、「表面保護層」が「紫外線硬化性樹脂の紫外線硬化により形成され」たものであることを意味しているものと解釈できるため、本件発明1を明確に把握できる。 ウ 本件訂正前の請求項2の「キシレンの接触角」は、懸滴量等の測定方法が定義されておらず不明確である点について 「キシレンの接触角」について、発明の詳細な説明には、「(接触角評価試験) 上記実施例及び比較例の各積層体において、長さ40mm×幅15mmの矩形に切り出すことによってサンプルを得た。自動接触角計(協和界面科学(株)社製、DM501)とキシレンを用いて、積層体の表面保護層の接触角を測定した。なお、各サンプルについて5回ずつ測定を行い、その平均値を得た。その平均値で評価を行った。」(【0057】)と記載されており、その測定方法が明確になるように記載されている。 3 実施可能要件に係る申立理由について (1)本件特許は、発明の詳細な説明の記載が、次のア、イの点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない旨主張する。 ア 比較例6は含有量の合計が101%となっている。 イ 本件訂正前の請求項2の「キシレンの接触角」は、懸滴量等の測定方法が説明されていない。 (2)しかし、上記ア、イの申立人の主張は、いずれも採用できない。 ア 比較例6は含有量の合計が101%となっている点について 比較例6に記載された「30:56.5:8.5:1:5」は「紫外線硬化性樹脂組成物」の「質量比」であるから、その合計が100である必要はない。 イ 本件訂正前の請求項2の「キシレンの接触角」は、懸滴量等の測定方法が説明されていない点について 懸滴量が多いと、液体事態の重さで濡れ広がりやすくなり、少ないと吐出する針先から離れにくくなることは技術常識であるから、懸滴量を適切な範囲のものとするなど、当業者であれば、適した測定条件を設定することによって「キシレンの接触角」を測定できる。 第6 むすび 以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由、及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件発明1、2、4、6、7に係る特許を取り消すことはできない。さらに、他に本件発明1、2、4、6、7に係る特許を取り消すべき理由は発見しない。 また、請求項3、5に係る特許は、本件訂正により削除されたため、申立人による請求項3、5に係る特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 少なくとも、基材層と、表面保護層とを有し、3次元被覆成形法に用いる加飾用積層体であって、 前記表面保護層が紫外線硬化性樹脂の紫外線硬化により形成された最外層であり、 前記表面保護層の厚さが0.5?20μmであり、 前記表面保護層のJIS K 5600に基づく引っかき鉛筆硬度がF以上であり、 前記表面保護層はシリコーン系レベリング剤を含有し、 前記紫外線硬化性樹脂がアクリル系樹脂およびウレタン系樹脂の少なくともいずれか一方であり、 前記紫外線硬化性樹脂の重量平均分子量が2万?300万であり、 前記表面保護層の120℃における破壊伸び率が50%以上であり、 前記表面保護層のヘイズが5%以下であり、 前記表面保護層の動摩擦係数が1.0以下であり、 前記基材層を構成する材料が、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ナイロン、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、液晶ポリマー、ポリテトラフロロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアセタール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ウレタン樹脂から選択されるいずれかであり、 前記基材層の厚さが5?500μmであり、 真空条件下又は減圧条件下での成形に用いられることを特徴とする加飾用積層体。 【請求項2】 前記表面保護層はキシレンの接触角が20°以上70°以下であることを特徴とする請求項1に記載の加飾用積層体。 【請求項3】 (削除) 【請求項4】 前記積層体が、前記基材層の前記表面保護層と反対面に、粘着層及びセパレーター層をこの順に有する、請求項1または請求項2に記載の加飾用積層体。 【請求項5】 (削除) 【請求項6】 前記積層体が、自動車部材、電子機器又は建材に用いられる請求項1、請求項2および請求項4のいずれか1項に記載の加飾用積層体。 【請求項7】 加飾用積層体が粘着層を介して被着体に貼着されてなり、3次元被覆成形法によって積層された加飾構造体であって、 前記加飾用積層体が、少なくとも、基材層と、表面保護層とを有し、 前記表面保護層が紫外線硬化性樹脂の紫外線硬化により形成された最外層であり、 前記表面保護層の厚さが0.5?20μmであり、 前記表面保護層のJIS K 5600に基づく引っかき鉛筆硬度がF以上であり、 前記表面保護層はシリコーン系レベリング剤を含有し、 前記紫外線硬化性樹脂がアクリル系樹脂およびウレタン系樹脂の少なくともいずれか一方であり、 前記紫外線硬化性樹脂の重量平均分子量が2万?300万であり、 前記表面保護層の120℃における破壊伸び率が50%以上であり、 前記表面保護層のヘイズが5%以下であり、 前記表面保護層の動摩擦係数が1.0以下であり、 前記基材層を構成する材料が、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ナイロン、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、液晶ポリマー、ポリテトラフロロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアセタール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ウレタン樹脂から選択されるいずれかであり、 前記基材層の厚さが5?500μmであることを特徴とする加飾構造体。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2021-09-10 |
出願番号 | 特願2017-524134(P2017-524134) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(B32B)
P 1 651・ 536- YAA (B32B) P 1 651・ 121- YAA (B32B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 相田 元 |
特許庁審判長 |
井上 茂夫 |
特許庁審判官 |
矢澤 周一郎 藤井 眞吾 |
登録日 | 2020-04-20 |
登録番号 | 特許第6693519号(P6693519) |
権利者 | 王子ホールディングス株式会社 |
発明の名称 | 加飾用積層体 |
代理人 | 特許業務法人磯野国際特許商標事務所 |
代理人 | 特許業務法人磯野国際特許商標事務所 |