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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G03B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  G03B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G03B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G03B
管理番号 1379801
異議申立番号 異議2020-700975  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-12-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-12-14 
確定日 2021-09-30 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6725029号発明「映像表示透明部材、映像表示システムおよび映像表示方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6725029号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?11〕について訂正することを認める。 特許第6725029号の請求項1?11に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6725029号(以下「本件特許」という。)の請求項1?11に係る特許についての出願は、平成27年6月22日に出願した特願2016-529569号の一部を平成31年4月2日(優先権主張 平成26年6月23日)に新たな特許出願としたものであって、令和2年6月29日にその特許権の設定登録がされ、令和2年7月15日に特許掲載公報が発行された。本件特許の特許請求の範囲に記載された請求項の数は11である。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

令和 2年12月14日 : 特許異議申立人加藤浩志(以下、単に「特許異議申立人」という。)による請求項1?11に係る特許に対する特許異議の申立て
令和 3年 3月31日付け: 取消理由通知書
令和 3年 6月 4日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 3年 7月13日 : 特許異議申立人による意見書の提出

以下、令和3年6月4日に提出された訂正請求書による訂正を「本件訂正」という。


第2 本件訂正の適否
1 本件訂正前の特許請求の範囲の記載
本件訂正前の特許請求の範囲の記載は、以下のとおりである。

「 【請求項1】
第1の面およびこれとは反対側の第2の面を有し、第1の面側の光景を第2の面側の観察者に視認可能に透過し、第2の面側の光景を第1の面側の観察者に視認可能に透過し、かつ第1の面側に設置された投影機から投射された映像光を、第1の面側の観察者に映像として視認可能に表示する反射型の映像表示透明部材であって、
前記第1の面と前記第2の面との間に、
表面に凹凸構造を有する第1の透明層と、
第1の透明層の凹凸構造の面に沿うように形成された、入射した光の一部を透過する反射膜と、
反射膜の表面を覆うように設けられた第2の透明層と、
を有する映像表示部を備え、
前記映像表示部の前記第1の面側に第1の透明基材が、前記映像表示部の前記第2の面側に第2の透明基材が、それぞれ設けられており、
前記透明基材のうち、少なくとも第2の透明基材が、ガラスまたは透明樹脂に光減衰成分が配合されており、前記映像表示透明部材を透過する光の一部を減衰させる光減衰層となっている、映像表示透明部材。
【請求項2】
前記映像表示透明部材の前方ヘーズが、20%以下であり、
前記映像表示透明部材の後方ヘーズが、5%以上であり、
前記前方ヘーズに対する前記後方ヘーズの比率(後方ヘーズ/前方ヘーズ)が、1以上である、請求項1に記載の映像表示透明部材。
【請求項3】
第1の透明層の表面の凹凸構造が、不規則な凹凸構造である、請求項1または2に記載の映像表示透明部材。
【請求項4】
前記光減衰層に偏光依存性を備えた、請求項1?3のいずれか一項に記載の映像表示透明部材。
【請求項5】
前記光減衰層の透過率が70%以下である、請求項1?4のいずれか一項に記載の映像表示透明部材。
【請求項6】
前記光減衰層がグレー(可視光全体に渡って均一(xyY表色系において、0.25≦x≦0.4、0.25≦y≦0.4))である、請求項1?5のいずれか一項に記載の映像表示透明部材。
【請求項7】
前記光減衰層が青味(xyY表色系において、x≦0.33、y≦0.5)を帯びている、請求項1?5のいずれか一項に記載の映像表示透明部材。
【請求項8】
前記光減衰層が緑味(xyY表色系において、y>x、0.33≦y)を帯びている、請求項1?5のいずれか一項に記載の映像表示透明部材。
【請求項9】
光減衰層の面積が、映像表示部の面積と同じか、または映像表示部の面積よりも大きい、請求項1?8のいずれか一項に記載の映像表示透明部材。
【請求項10】
請求項1?9のいずれか一項に記載の映像表示透明部材と、
映像表示透明部材の第1の面側に設置された投影機と、
を備えた、映像表示システム。
【請求項11】
請求項1?9のいずれか一項に記載の映像表示透明部材に、
映像表示透明部材の第1の面側に設置された投影機から映像光を投射し、映像を表示させる、映像表示方法。」

2 本件訂正の内容
本件訂正の内容は、以下のとおりである。

(1) 訂正事項1について
特許請求の範囲の請求項1を次のとおり訂正する。
また、請求項1の記載を引用する請求項2?11も同様に訂正する。
「第1の面およびこれとは反対側の第2の面を有し、第1の面側の光景を第2の面側の観察者に視認可能に透過し、第2の面側の光景を第1の面側の観察者に視認可能に透過し、かつ第1の面側に設置された投影機から投射された映像光を、第1の面側の観察者に映像として視認可能に表示する反射型の映像表示透明部材であって、
前記第1の面と前記第2の面との間に、
表面に凹凸構造を有する第1の透明層と、
第1の透明層の凹凸構造の面に沿うように形成された、入射した光の一部を透過する反射膜と、
反射膜の表面を覆うように設けられた第2の透明層と、
を有する映像表示部を備え、
前記映像表示部の前記第1の面側に第1の透明基材が、前記映像表示部の前記第2の面側に第2の透明基材が、それぞれ設けられており、
前記透明基材のうち、少なくとも第2の透明基材が、ガラスまたは透明樹脂に光減衰成分が配合されており、前記映像表示透明部材を透過する光の一部を減衰させる光減衰層となっており、
前記映像表示透明部材の透過率が3%以上30%以下である、映像表示透明部材。」

(2) 訂正事項2について
特許請求の範囲の請求項3を次のとおり訂正する。
また、請求項3の記載を引用する請求項4?11も同様に訂正する。
「前記第1の透明層の表面の凹凸構造が、不規則な凹凸構造である、請求項1または2に記載の映像表示透明部材。」

(3) 訂正事項3について
特許請求の範囲の請求項4を次のとおり訂正する。
また、請求項4の記載を引用する請求項5?11も同様に訂正する。
「前記光減衰層の前記光減衰成分に偏光依存性を備えた、請求項1?3のいずれか一項に記載の映像表示透明部材。」

(4) 訂正事項4について
特許請求の範囲の請求項5を次のとおり訂正する。
また、請求項5の記載を引用する請求項6?11も同様に訂正する。
「前記光減衰層の透過率が3%以上70%以下である、請求項1?4のいずれか一項に記載の映像表示透明部材。」

(5) 訂正事項5について
特許請求の範囲の請求項9を次のとおり訂正する。
また、請求項9の記載を引用する請求項10、11も同様に訂正する。
「前記光減衰層の面積が、前記映像表示部の面積と同じか、または前記映像表示部の面積よりも大きい、請求項1?8のいずれか一項に記載の映像表示透明部材。」

(6) 一群の請求項について
本件訂正前の請求項1?11は、請求項2?11が、訂正請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるため、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して、請求項2?11も同様に訂正されることになるから、本件訂正前の請求項1?11は、特許法120条の5第4項に規定する「一群の請求項」を構成する。

3 本件訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1について
訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項1において、「前記映像表示透明部材の透過率が3%以上30%以下」という発明特定事項を追加することにより、映像表示透明部材の光学特性を限定するものである。よって、当該訂正事項1は、特許法120条の5第2項ただし書き1号に規定する、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1の「前記映像表示透明部材の透過率が3%以上30%以下」は、明細書の【0050】に記載されており、新規事項を追加するものでなく、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものにも該当しない。
よって、訂正事項1に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条9項で準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
また、当該訂正は、特許異議の申立てがされている請求項1?11について行うものであるから、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する同法126条7項に規定する独立特許要件は課されない。

(2) 訂正事項2について
訂正事項2は、請求項3の「第1の透明層」を「前記第1の透明層」と訂正し、「第1の透明層」が「前記第1の透明層」であることを明確にするものであるから、特許法120条の5第2項ただし書き3号に規定する、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項2は、「第1の透明層」が「前記第1の透明層」であることを明確にするものであるから、新規事項を追加するものでなく、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものにも該当しない。
よって、訂正事項2に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条9項で準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
また、訂正事項2に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書き3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、同条9項で読み替えて準用する同法126条7項に規定する独立特許要件は課されない。

(3) 訂正事項3について
訂正事項3は、請求項4の「前記光減衰層に偏光依存性を備えた」を「前記光減衰層の前記光減衰成分に偏光依存性を備えた」とすることにより、光減衰層において偏光依存性を備える対象を限定するものであるから、当該訂正事項3は、特許法120条の5第2項ただし書き1号に規定する、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項3の「前記光減衰層の前記光減衰成分に偏光依存性を備え」ることは、明細書の【0023】に記載されており、新規事項を追加するものでなく、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものにも該当しない。
よって、訂正事項3に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条9項で準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
また、当該訂正は、特許異議の申立てがされている請求項4?11について行うものであるから、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する同法126条7項に規定する独立特許要件は課されない。

(4) 訂正事項4について
訂正事項4は、請求項5の「前記光減衰層の透過率が70%以下である」を「前記光減衰層の透過率が3%以上70%以下である」とすることにより、光減衰層の透過率の範囲を限定するものであるから、当該訂正事項4は、特許法120条の5第2項ただし書き1号に規定する、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項4の「前記光減衰層の透過率が3%以上70%以下である」ことは、明細書の【0024】に記載されており、新規事項を追加するものでなく、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものにも該当しない。
よって、訂正事項4に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条9項で準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
また、当該訂正は、特許異議の申立てがされている請求項5?11について行うものであるから、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する同法126条7項に規定する独立特許要件は課されない。

(5) 訂正事項5について
訂正事項5は、請求項9の「光減衰層」を「前記光減衰層」と訂正し、「映像表示部」を「前記映像表示部」と訂正することにより、請求項9の「光減衰層」が「前記光減衰層」であり、「映像表示部」が「前記映像表示部」であることを明確にするものであるから、特許法120条の5第2項ただし書き3号に規定する、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項5は、「光減衰層」が「前記光減衰層」であり、「映像表示部」が「前記映像表示部」であることを明確にするものであるから、新規事項を追加するものでなく、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものにも該当しない。
よって、訂正事項5に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条9項で準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
また、訂正事項5に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書き3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、同条9項で読み替えて準用する同法126条7項に規定する独立特許要件は課されない。

4 小括
以上のとおりであるから、前記結論のとおり、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?11〕について訂正することを認める。


第3 本件発明
本件特許の請求項1?11に係る発明(以下、請求項の番号に従って「本件発明1」などという。)は、それぞれ、訂正特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1?11には次のとおり記載されている(下線は、本件訂正により訂正した箇所を示す。)。

「 【請求項1】
第1の面およびこれとは反対側の第2の面を有し、第1の面側の光景を第2の面側の観察者に視認可能に透過し、第2の面側の光景を第1の面側の観察者に視認可能に透過し、かつ第1の面側に設置された投影機から投射された映像光を、第1の面側の観察者に映像として視認可能に表示する反射型の映像表示透明部材であって、
前記第1の面と前記第2の面との間に、
表面に凹凸構造を有する第1の透明層と、
第1の透明層の凹凸構造の面に沿うように形成された、入射した光の一部を透過する反射膜と、
反射膜の表面を覆うように設けられた第2の透明層と、
を有する映像表示部を備え、
前記映像表示部の前記第1の面側に第1の透明基材が、前記映像表示部の前記第2の面側に第2の透明基材が、それぞれ設けられており、
前記透明基材のうち、少なくとも第2の透明基材が、ガラスまたは透明樹脂に光減衰成分が配合されており、前記映像表示透明部材を透過する光の一部を減衰させる光減衰層となっており、
前記映像表示透明部材の透過率が3%以上30%以下である、映像表示透明部材。
【請求項2】
前記映像表示透明部材の前方ヘーズが、20%以下であり、
前記映像表示透明部材の後方ヘーズが、5%以上であり、
前記前方ヘーズに対する前記後方ヘーズの比率(後方ヘーズ/前方ヘーズ)が、1以上である、請求項1に記載の映像表示透明部材。
【請求項3】
前記第1の透明層の表面の凹凸構造が、不規則な凹凸構造である、請求項1または2に記載の映像表示透明部材。
【請求項4】
前記光減衰層の前記光減衰成分に偏光依存性を備えた、請求項1?3のいずれか一項に記載の映像表示透明部材。
【請求項5】
前記光減衰層の透過率が3%以上70%以下である、請求項1?4のいずれか一項に記載の映像表示透明部材。
【請求項6】
前記光減衰層がグレー(可視光全体に渡って均一(xyY表色系において、0.25≦x≦0.4、0.25≦y≦0.4))である、請求項1?5のいずれか一項に記載の映像表示透明部材。
【請求項7】
前記光減衰層が青味(xyY表色系において、x≦0.33、y≦0.5)を帯びている、請求項1?5のいずれか一項に記載の映像表示透明部材。
【請求項8】
前記光減衰層が緑味(xyY表色系において、y>x、0.33≦y)を帯びている、請求項1?5のいずれか一項に記載の映像表示透明部材。
【請求項9】
前記光減衰層の面積が、前記映像表示部の面積と同じか、または前記映像表示部の面積よりも大きい、請求項1?8のいずれか一項に記載の映像表示透明部材。
【請求項10】
請求項1?9のいずれか一項に記載の映像表示透明部材と、
映像表示透明部材の第1の面側に設置された投影機と、
を備えた、映像表示システム。
【請求項11】
請求項1?9のいずれか一項に記載の映像表示透明部材に、
映像表示透明部材の第1の面側に設置された投影機から映像光を投射し、映像を表示させる、映像表示方法。」


第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1?11に係る特許に対して、当審が令和3年3月31日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

(1) 請求項1、9?11に係る発明は、本件特許出願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である下記甲1号証に記載された発明であって、特許法29条1項3号に該当するから、請求項1、9?11に係る特許は、同法29条1項の規定に違反してされたものである。



甲1号証 :特表2010-539525号公報

(2) 請求項1?3、5?11に係る発明は、本件特許出願の優先日前に日本国内において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、本件特許出願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?3、5?11に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。



甲1号証 :特表2010-539525号公報
甲2号証 :特表2014-509963号公報
甲3号証 :特表2005-530627号公報
甲5号証 :特表2002-540445号公報
追加文献 :特開平8-209119号公報

(3) 本件特許は、次のア及びイに示すとおり、特許請求の範囲の記載に不備があるため、請求項4?11に係る特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

ア 請求項4には「前記光減衰層に偏光依存性を備えた、請求項1?3のいずれか一項に記載の映像表示透明部材」と記載されており、この記載では、例えば、甲5号証の【0061】、【0062】、図4に示されているような、反射性偏光要素230の一面側に追加の光吸収要素240を設けたものであって、反射性偏光要素230を通過したある偏光成分を有する光を吸収する光吸収要素240(「光減衰層」に相当)自体に偏光依存性を備えないものも含まれるものとなっている。
しかしながら、本件特許明細書の【0023】には、光減衰成分自体に偏光依存性を持たせるものしか記載されておらず、上述のような、光減衰成分自体に偏光依存性を備えないようなものが含まれる請求項4に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとは認められない。
よって、請求項4に係る発明、および当該請求項4を引用する請求項5?11に係る発明は発明の詳細な説明に記載されたものでない。

イ 請求項5には「前記光減衰層の透過率が70%以下である」と記載されており、透過率が0%の光減衰層を有するものも含まれることになるが、そのような構成が、発明の課題を解決し得ないことは明らかであるから、発明の詳細な説明に記載されたものとは認められない。
よって、請求項5に係る発明、および当該請求項5を引用する請求項6?11に係る発明は発明の詳細な説明に記載されたものでない。

(4) 本件特許は、次に示すとおり、特許請求の範囲の記載に不備があるため、請求項5?11に係る特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

請求項5には「前記光減衰層の透過率が70%以下である」と記載されているが、透過率の下限が示されておらず明らかでない。
よって、請求項5に係る発明、及び当該請求項5を引用する請求項6?11に係る発明は、明確でない。

(5) 本件特許は、次に示すとおり、発明の詳細な説明の記載に不備があるため、請求項2?11に係る特許は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

請求項2には「前記映像表示透明部材の後方ヘーズが、5%以上であり」と記載されており、当該構成に対応する本件特許明細書の【0134】の【表1】には、本願の実施例の例2として、後方ヘーズが6%であることが示されているが、このような後方ヘーズが6%程度の「反射型の映像表示透明部材」を用いた場合に、「映像表示システム」として一般に要求される程度に、映像光が視認可能なものとなるのか明らかでない。

よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項2に係る発明、及び当該請求項2を引用する請求項3?11に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。

2 甲1発明の認定
(1) 甲1号証に記載された事項
本願の優先日前に頒布された刊行物である甲1号証(特表2010-539525号公報)には、以下の事項が記載されている。下線は当審が付与したもので、以下同様とする。

「【請求項6】
前記反射層を少なくとも部分的に透過する光線の量を調節することができる透過性の調節層を更に備えており、前記透過性の調節層が、電気互変性層、光互片変性層、液晶層、またはそれらの組み合わせで構成されていることを特徴とする請求項1記載の埋設された開口数拡大器。」

「【背景技術】
【0001】
背景
車両に、工場でヘッドアップディスプレイ(HUD)が装備される機会が増加している。ヘッドアップディスプレイがより広く利用されており、予防安全性技術が車両により広く搭載されているので、多数の自動車メーカーおよび運転者は、ヘッドアップディスプレイの実装が、運転者の状況認識度を増加させるとともに、高い有用性をもって適応走行制御、衝突回避、夜間視認、車線逸脱警報、および死角検出を含む現在の車両の予防安全性技術を向上させることに気づくであろう。これに加えて、ヘッドアップディスプレイがより広く利用されるにつれて、多くのユーザは、工場出荷時にヘッドアップディスプレイを装備しなかった車両にヘッドアップディスプレイを装備するために、アフターマーケット(修理保守や部品・付属品販売の市場)の利用を選択するであろう。ヘッドアップディスプレイを作成するためには、一般に、発光する画像面をダッシュボードと平行に配置し、そこで発生した光をフロントガラスに反射させて観る者の目に到達させることが行われる。このような発光による画像は、従来のフラットパネルから作成することができる。例えば、液晶ディスプレイ(LCD)、発光ダイオード(LED)を利用したディスプレイ、若しくは有機発光ダイオード(OLED)を利用したディスプレイの如きフラットパネル表示手段から作成することができる。又、代替的に、走査型のレーザービームディスプレイ、デジタルライトプロセッシング(DLP)方式のディスプレイ、または液晶ディスプレイ(LCD)、マイクロ・ディスプレイ、シリコン液晶ディスプレイのような、投影技術を利用した表示手段から作成することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
典型的には、この種の表示手段(ディスプレイ)は、ヘッドアップディスプレイに必要とされる画像の大きさに対応した装置の大きさの要求に取り組んでいる。より大きな視野(FOV)を持つヘッドアップディスプレイを作るには、必要な拡大率を得るために、より大きな表示手段、および/又は嵩張る光学部品が、必要となるからである。しかしながら、一般的に、車内空間は、車両においては非常に付加価値の高いものである。そして車両の中は、より大きな表示手段または光学部品を装備するほどの、充分な広さを備えていないことが多い。」

「【0008】
図1Aを参照して、本発明の一又は二以上の実施形態に対応する、射出瞳拡大器を有した埋設された開口数拡大器の断面図を解説する。実施形態においては、埋設された開口拡大器100は特定の入射光線118を反射するように設計されており、反射される光線120は要求されている広がりを有する出力拡大円錐128(出力されて拡大されたコーン型形状128)に拡大され、反射された画像のより大きな視野(FOV)を提供する。反射される光線120を拡大する特性は、開口数(NA)拡大として参照される。さらにまた、埋設された開口数拡大器100は、特定の透過されるべき光線122および126が、少なくとも部分的に、埋設された開口数拡大器100のいずれか一方の側部を透過して移動することを許容するように構成される。このように、この種の反射と透過の特性を有する埋設された開口数拡大器100は、表示手段(ディスプレイ)がガラス板又は類似のものの表面に配置できるような、種々の用途に利用できる。このときガラス板又は類似の表面枠部材の上に画像が表示されることが好ましいが、ユーザがこのガラス板の上に表示された画像を見ると同時にこのガラス板を透かして向こう側を見ることを許容するために、ガラス板が少なくとも部分的に透過性を備えている(透明である)ことが望ましい。このような利用形態には、例えば車両のヘッドアップディスプレイ(HUD)が含まれる。このようなヘッドアップディスプレイ形態と他の利用形態を、以下で更に詳細に説明する。一以上の実施形態において、埋設された開口数拡大器100によって反射され拡大される入射光線118は、表示手段から発せられる。そして、光線122と光線126とは、環境光および/または他の物体に反射された光であることができる。更にまた、結果的に、環境光126の一部分は、表示手段からの入射光線118とは異なる入射角度で埋設された開口数拡大器100に照射され、通過して移動するよりもむしろ反射される。反射された環境光126は、出力拡大円錐128から外れた方向に向けられ、投射画像の観察者の眼には入らない方向に向けられる。特許請求の範囲に記載された対象は、この事項によって限定されない。
【0009】
一又は二以上の実施形態において、埋設された開口数拡大器100は、光透過性である第一層112を含む。一又は二以上の実施形態では、第一層112はガラス、プラスチック、マイラー(登録商標:ポリエステル製のフィルム)またはそれに類するもの等で製造されており、剛体であるか、または代替的には、埋設された開口数拡大器100を湾曲させたり、要求されている形状または要求されている曲率に加工することが許される程度の柔軟性がある。射出瞳拡大器110は第一層112に隣接して配置され、射出瞳拡大器110は、例えば実施形態においては、マイクロレンズアレイ(MLA)で構成されることができる。射出瞳拡大器110は、例えば、成型液体ポリマーで構成することができ、あるいは他の方法によって形成できる。例えば、射出瞳拡大器110は、ロールエンボス加工法によって第一層112の上に浮き出し加工を行うことができる。一又は二以上の実施形態によっては、射出瞳拡大器110は、ガラス、プラスチックビーズ、マイクロスフィア、ナノスフィア、又はこれらと類似した形状の物体であって、散光器および/またはレンズとして機能することができる物体で構成することができる。射出瞳拡大器110は、調節された角度で射出瞳拡大器110から反射される入射光線を拡大させるように、および/またはスペックル効果を最小とするように、および/または反射される光線120による干渉を抑制するように射出瞳拡大器110を形成する要素のピッチ、半径、および/または間隙を適宜選択することによって得られる光学特性を備えることができる。さらに、射出瞳拡大器110は様々なホログラフィック素子、回折格子および/または反射される光線120を光学的に拡大させることができる他の任意の光学要素を含むことができ、反射角を調節し、および/または干渉パターンを調節することができる。特許請求の範囲に記載された対象は、これらの事項によって限定されない。
【0010】
一又は二以上の実施形態においては、反射層114が射出瞳拡大器110の上に配置され、射出瞳拡大器110の上に反射特性を付与する。反射層114は、望ましい波長での反射特性を有する薄いアルミニウム被膜(コーティング)か、あるいは他の好適な金属の薄い被膜で構成されることができる。このような金属被膜は、約50オングストロームの厚みを有するものとし、一部の光線が反射層114で反射され、一部の光線が反射層114を透過するように構成することができる。この反射体は、反射層114を提供するために、誘電性材料の薄膜または薄板の積層構造とであるか、あるいは誘電性材料と金属との組み合わせであることが可能である。このような構成の反射層114は、広帯域の部分的な反射体であることができる。しかし、請求項に記載された対象の範囲は、この点には限定されない。一又は二以上の実施形態では、反射層114は部分的な反射体であり、反射層に対する全ての入射光線を反射させるものではない。例えば、光線118からの入射光線の約30%は光線120として反射層114で反射され、光線118からの入射光線の約70%は反射されずに反射層114を透過することができる。ただし、請求項に記載された発明の対象の範囲は、この点には限定されない。一又は二以上の実施形態では、反射層114は偏光依存型反射体であり、第一の偏光特性を有した光線118からの反射光線は、拡大光線120として反射層114によって反射され、第二の偏光特性を有する光線118からの入射光線は、反射されずに反射層114を透過する。一又は二以上の実施形態では、反射層114は色彩選択性フィルタで構成されることが可能であり、第一の波長を有する光線118からの入射光線は、拡大光線120として反射層114により反射され、第二の波長を有する光線118からの入射光線は、反射されずに反射層114を透過する。さらにまた、反射層114は、射出瞳拡大器110の第一の領域を第一の偏光材料で構成し、その第一の領域で第一の偏光特性を有する光線を反射し、且つ射出瞳拡大器110の第二の領域を第二の偏光材料で構成し、その第二の領域で第二の偏光特性を有する光線を反射し、結果として二重または多重の表示を得ることができる。同様に、反射層114に一又は二以上の色彩フィルタを使用することで、複数の反射選択性が提供されることができる。このように、反射層114は、一以上の広帯域の反射体、偏光特性を有する被膜、および/または狭帯域の被膜、またはそれらの組み合わせをで構成されることができる。しかしこれらは、反射層114に選択的な反射と透過の特性とを付与するために、どのように反射層が構築されるかを示す単なる例示であって、請求項に記載された発明の対象の範囲を限定するものではない。
【0011】
埋設された開口数拡大器100の構築は、第二層124を、射出瞳拡大器110にエポキシ樹脂116又はこれと類似のものを利用して固定することで、完了することができる。第二層124は第一層112と同一であるか若しくは類似した材料で構成されることができる。一又は二以上の実施形態において、第一層112と第二層124、射出瞳拡大器110、及びエポキシ樹脂は、同一であるか、ほぼ同一である屈折率を有した材料を含み、埋設された開口数拡大器100を貫通して透過する光線122に対して、著しい影響を与えずに、あるいは大きく歪ませることなく透過させ、例えば、光線122が埋設された開口数拡大器100を離れる角度と、光線122が埋設された開口数拡大器100に入射する角度を同一またはほぼ同一となるようにしている。但し、僅かな角度のずれは許容することが可能である。一部の光を拡大させて反射し、一部の光を拡大せずに透過させる埋設された開口数拡大器100のこのような特性は、埋設された開口数拡大器に様々な利用形態における仮想表示(仮想的な表示、バーチャル表示)を提供させる。その一部の例を以下において説明する。」

「【0014】
図2を参照しつつ、一又は二以上の実施形態に対応する、車両で利用されるヘッドアップディスプレイシステム又は同種のものの概略図を解説する。図2に示すように、埋設された開口数拡大器100は、仮想表示システム200を提供するように活用される。この仮想表示システム200は、ヘッドアップディスプレイ又は類似した仮想表示が要求される可能性のある、自動車、オートバイ、ボート、ヘリコプタ、飛行機、または任意の車両における、ヘッドアップディスプレイおよび/または仮想的な計器パネル(仮想計器パネル、バーチャル計器パネル)である。一又は二以上の実施形態によっては、埋設された開口数拡大器100は車両のフロントガラス210に隣接して設置され、若しくはガラス上に固定され、またはガラス内に埋め込まれて配置されることが可能である。表示手段212は、車両のダッシュボード214の内部または類似の収容部の中に設置され、或いは固定されることができる。代替的には、表示手段212は、たとえばアフターマーケットでダッシュボードの外部上に設置され、あるいは固定されることができる。表示手段212は、仮想表示を提供するように埋設された開口数拡大器100に画像を投影することができる任意の表示手段を用いることができる。一又は二以上の実施形態によっては、表示手段212は、米国ワシントン州レッドモンド市のマイクロビジョン社から入手できるPicoP(登録商標)レーザー利用プロジェクタを利用することができる。表示手段212から発生され、埋設された開口数拡大器100に照射される光線118は、光線120として反射されるように選択される。光線120は、埋設された開口数拡大器100によって拡大され、光線120がユーザの眼216で検知されるように、表示の出力円錐内に表示手段212からの画像を投影する。このような配置の中で、ユーザの眼が光線120を受け取る位置にあるとき、ユーザは表示手段212で発生される画像を見ることができる。これに加えて、環境光212は、フロントガラス210と埋設された開口数拡大器100とを透過し、ユーザは埋設された開口数拡大器100を通して向こう側を見ることができ、視界の妨害なく車両の運転操作をすることができる。さらに又、図1Aおよび図1Bで図示され説明されているように、観察者側で発生する環境光は、埋設された開口数拡大器100により反射され、出力拡大円錐の外側に導かれ、車両の運転者の眼216あるいは表示手段212によって投影される画像の観察者の眼216からは外れて遠ざかる。しかし、この特徴は請求項に記載された発明の対象の範囲を限定するものではない。」

「【0016】
一又は二以上の実施形態によると、埋設された開口数拡大器100は、仮想計器パネルまたは仮想計器群を提供するために利用することが可能である。例えば、速度計、タコメータ、燃料計、走行距離計、トリップメータ、エンジン温度計、警告灯または指示灯、等々の類の車両の運転操作に関するデータを表示する。ある実施形態によると、このような情報は、環境光122を、埋設された開口数拡大器を透過させることで、ヘッドアップディスプレイ機構の埋設された開口数拡大器100を経由して表示することが可能である。ある実施形態によると、このような表示手段の明暗比(コントラスト)は、埋設された開口数拡大器100を透過する光線122の総量を減少または排除し、埋設された開口数拡大器100に、表示手段212から発せられた光線を実質的に反射させて拡大させる機能を実行させることで、向上させることができる。ある実施形態によると、埋設された開口数拡大器100は選択的な透過特性を有することが可能である。例えば、埋設された開口数拡大器100が車両の乗客の前方に存在し、車両の運転者や操作者の前方には直接的に存在しない場合には、乗客に対して、埋設された開口数拡大器100を経由して表示される映画や他のメディアを見せることができる。埋設された開口数拡大器100は、例えば第一層112を電気互変性(エレクトロクロミック)材料または光互変性(フォトクロミック)材料で構成するか、或いは電気互変性材料または光互変性材料を射出瞳拡大器110と第一層112との間に挿入するかして、電気互変性材料への電圧の印加が埋設された開口数拡大器100の透過性を減少させ、および/または埋設された開口数拡大器100を反射して表示手段212から投影される可視画像のコントラストを増加させることで選択的透過性が付与されることが可能である。例えば可逆性の光互変性材料等の光互変性材料が利用される場合には、表示手段212および/または表示手段222から放射される光線118は、紫外線(UV)波長を有することができる。UV光線118は光互変性材料の透過性を変化させ、その結果表示手段212および/または表示手段222から投影される表示画像のコントラストを増加させる。ある実施形態にでは、別体の埋設された開口数拡大器224をダッシュボード214の内部に設置し、本来の表示手段212または代替的な異なる表示手段222を使用して、埋設された開口数拡大器224に光線118を照射し、反射光線120を拡大し、仮想計器群を表示することによって再構成可能な仮想計器群が実装可能になる。但しこの特徴は請求項に記載された発明の対象の範囲を限定するものではない。」

「【0020】
図5を参照しつつ、一又は二以上の実施形態に対応する、建物または車両の窓に組み合わされて配置される、埋設された開口数拡大器の概略図を解説する。図5の表示システム500は、埋設された開口数拡大器100が、ヘッドアップディスプレイまたは仮想計器パネルに加えて配置されている一又は二以上の代替的な実施形態を示す。壁部510は、壁部510に配置された窓部512を有する建物の壁部、または列車、路面電車、バス、もしくは類似の車両等の、車両の壁部であることができる。壁部510が建物または類似した構造物の一部である場合には、ユーザまたは観察者は、建物の内部または外部に位置することができる。壁部510が車両の一部である場合には、ユーザまたは観察者は、車両の内部または外部に位置することができる。情報処理システム(IHS)218と表示手段212とは、例えば広告または他の店舗情報あるいはビジネス情報を提供するように、窓部512に画像を表示するために利用されることができる。このように、ユーザあるいは観察者は、外部から内部、および/または内部から外部を窓部512を通して見ることができる。従って、表示手段212から放射される光線118は埋設された開口数拡大器100で反射され、拡大された反射光線120を発生させ、ユーザの眼216が表示円錐の内部に位置するときには、ユーザまたは観察者はバーチャル画像を見ることができる。同様に、環境光122は埋設された開口数拡大器100を透過し、ユーザの位置から壁部510の反対側に位置する物体514をユーザは同時的に見ることができる。一又は二以上の実施形態によれば、光線516は、壁部510の光線516の位置と同一側に位置する観察者が窓部512を透視することを妨害するが、同時に光線516の位置とは反対側である壁部510の側に位置する観察者に窓部512を透視させるように利用されることができる。同様に、ここで解説するように、埋設された開口数拡大器100の透過性は、埋設された開口数拡大器に表示される画像の明暗比を調整するために、調整することが可能である。一又は二以上の実施形態によっては、表示システム500はユーザの家庭での娯楽システムの一部として利用できる。埋設された開口数拡大器100に表示手段212により投影されるテレビ番組、デジタルビデオディスク、映画、マルチメディアファイル、写真、スライドショー、プレゼンテーション、等をユーザは見ることができる。これに加えて、表示システム500は、博物館や美術館、劇場、クラブ、マジックショー、等々の文化環境または娯楽環境に配置することができる。一又は二以上の実施形態において、表示システムは、広告掲示板又は他の看板とすることができる。埋設された開口数拡大器100を経由した広告またはメッセージの表示は、広告掲示板または看板を、環境光に対して光透過性を与えて透明とし、景観を損なうことに対する広告掲示板や看板の影響度を減少または最少化することができる。しかし、これらの例は埋設された開口数拡大器100をいかに活用するかの単なる例示であり、これらの特徴は請求項に記載された発明の対象の範囲を限定するものではない。」

【図1A】


【図2】


【0008】、【図1A】から、環境光126は、開口数拡大器100の第二層124に入射して第一層112から出射し、環境光122は、第一層112に入射して第二層124から出射し、表示手段から発せられる入射光線118は、第二層124に入射して、反射層114で反射され、第二層124から出射していることが読み取れる。

【0011】、【図1A】から、エポキシ樹脂116が、反射層114を覆っていることが読み取れる。

(2) 甲1号証に記載された発明の認定
前記(1)を総合すると、甲1号証には、以下の甲1発明が記載されていると認められる。なお、甲1号証の【0014】には、「環境光212は、開口数拡大器100を透過し、ユーザは開口数拡大器100を通して向こう側を見ることができ」と記載されているが、【図2】から、「環境光212」は「環境光122」の誤記であると認められるため、当該誤記を修正して甲1発明を認定した。

<甲1発明>
「車両のフロントガラス210内に埋め込まれて配置される開口数拡大器100であって、
車両のダッシュボード214の内部に設置されるレーザー利用プロジェクタである表示手段212から発せられる入射光線118を反射するように設計され、表示手段212から発生され、埋設された開口数拡大器100に照射される光線118は、光線120として反射され、光線120がユーザの眼216で検知されるように、表示手段212からの画像が投影され、特定の透過されるべき環境光である光線122および126が、少なくとも部分的に、埋設された開口数拡大器100のいずれか一方の側部を透過して移動することを許容するように構成され、環境光122は、開口数拡大器100を透過し、ユーザは開口数拡大器100を通して向こう側を見ることができ(【0008】、【0014】、【図1A】、【図2】)、
開口数拡大器100は、光透過性である第一層112を含み、前記第一層112に隣接して、マイクロレンズアレイ(MLA)で構成される射出瞳拡大器110が配置され(【0009】)、
部分的な反射体であり、反射層に対する全ての入射光線を反射させるものではない反射層114が、前記射出瞳拡大器110の上に配置されて、射出瞳拡大器110の上に反射特性を付与し(【0010】)、
開口数拡大器100の構築は、第二層124を、射出瞳拡大器110にエポキシ樹脂116を利用して固定することで、完了することができ、前記エポキシ樹脂116は、前記反射層114を覆い、第一層112と第二層124、射出瞳拡大器110、及びエポキシ樹脂116は、開口数拡大器100を貫通して透過する光線122に対して、著しい影響を与えずに、透過させ(【0011】、【図1A】)、
環境光126は、開口数拡大器100の第二層124に入射して第一層112から出射し、環境光122は、第一層112に入射して第二層124から出射し、表示手段212から発せられる入射光線118は、第二層124に入射して、反射層114で反射され、第二層124から出射し(【0008】、【図1A】)、
第一層112を光互変性(フォトクロミック)材料で構成し、表示手段212から放射される光線118は、紫外線(UV)波長を有し、光互変性材料の透過性を変化させ、その結果、透過する光線122の総量を減少または排除して、表示手段212から投影される表示画像のコントラストを増加させる(【0016】)、
開口数拡大器100。」

3 追加文献に記載された事項の認定
本願の優先日前に頒布された刊行物である追加文献(特開平8-209119号公報)には、以下の事項が記載されている。下線は当審が付与した。

「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、フォトクロミック組成物、詳しくは、ナフトピラン系化合物にヒンダードアミン化合物を含有してなる耐光性に優れたフォトクロミック組成物に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】フォトクロミック物質とは、光の照射の有無あるいは光の波長の違いにより発色-消色あるいは変色を繰り返す物質で、現在、紫外線で変色する繊維、サングラスなどに実用化されており、さらに近年、光記録材料、複写材料、印刷感光体、レーザー用感光材料、マスキング材料、自動車・航空機・建材用調光材料、印刷用材料、玩具、化粧品などの幅広い用途が期待されている。
【0003】これまでに種々のフォトクロミック材料が提案されており、特に発色感度および発色濃度に優れているためスピロピラン系化合物およびスピロオキサジン系化合物に関しては、種々提案されているが、これらの化合物の多くは、紫外線の照射によって紫あるいは青色系の発色を生じるものである。
【0004】ところで、現在、微量の塩化銀を含有する無機ガラスが太陽光の照射によって濃いグレイあるいはブラウン系の発色を生じる特性を利用して光変色型のサングラスに実用されているが、このようにサングラスとしての機能を果たすためには、紫あるいは青色系までの光の吸収では不十分であり、黄色近辺までの光を吸収する素材のものが好ましい。」

「【0016】上記ナフトピラン系化合物は、フォトクロミック材料として単独で使用することもできるが、適当な他のフォトクロミック化合物と併用して使用することができる。通常、上記ナフトピラン系化合物は、紫外線の照射によって、黄色あるいは橙赤色を発生するため、紫外線の照射によって青または紫色の発色を生じる化合物などを併用することで、褐色あるいは灰色の発色を生じることができる。」

「【0025】本発明のフォトクロミック組成物は、適当なバインダー樹脂に分散または溶解したものを支持体上に製膜したり、微粉末にして支持体上に塗布したり、あるいは、樹脂により被覆してマイクロカプセルとして使用される。
【0026】本発明のフォトクロミック組成物を製膜して使用する場合の具体的製膜方法としては、例えば、ナフトピラン系化合物およびピペリジン化合物を適当な溶剤に溶解し、バインダー樹脂をこれに加え撹拌する。この混合液をキャスト法、スピンコート法、ブラッシング法、ディップ法、スプレー法などで支持体に塗布し、溶剤を乾燥して製膜する。」

4 当審の判断
(1) 29条1項3号(新規性)、2項(進歩性)について
ア 本件発明1について
(ア) 本件発明1と甲1発明の対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
a 甲1発明の「開口数拡大器100」は、「車両のダッシュボード214の内部に設置されるレーザー利用プロジェクタである表示手段212から発せられる入射光線118を反射」し、「表示手段212からの画像が投影され」るものである。そして、「開口数拡大器100」は、「車両のフロントガラス210内に埋め込まれて配置され」ているから、車両のフロントガラス210と同様に、車両の内側と外側に面を有することは明らかであり、この車両の内側の面及び外側の面が、それぞれ本件発明1の「第1の面」及び「第2の面」に相当する。
また、甲1発明の「ユーザ」は、「表示手段212から発せられる入射光線118」が反射した「光線120」を検知する主体であり、車両のダッシュボード214の内部に設置される「表示手段212」と同様に車両の内側に存在していることになるから、この「ユーザ」は、本件発明1の「第1の面側の観察者」に相当する。
そうすると、甲1発明において、「ユーザ」が「開口数拡大器100を通して」「見ることができ」る「向こう側」は、本件発明1の「第2の面側の光景」に相当するから、甲1発明において「環境光122は、開口数拡大器100を透過し、ユーザは開口数拡大器100を通して向こう側を見ることができ」ることは、本件発明1の「第2の面側の光景を第1の面側の観察者に視認可能に透過」することに相当する。
そして、甲1発明において、「特定の透過されるべき環境光である光線」である「126が、少なくとも部分的に、埋設された開口数拡大器100のいずれか一方の側部を透過して移動することを許容するように構成され」ることは、環境光126が、開口数拡大器100の第二層124に入射して第一層112から出射し、環境光122と逆向きに入射していることを意味するから、本件発明1の「第1の面側の光景を第2の面側の観察者に視認可能に透過」することに相当する。
さらに、甲1発明の「車両のダッシュボード214の内部に設置されるレーザー利用プロジェクタである表示手段212から発せられる入射光線118を反射するように設計され、表示手段212から発生され」「る光線118は、光線120として反射され、光線120がユーザの眼216で検知されるように、表示手段212からの画像を投影」する「開口数拡大器100」は、本件発明1の「第1の面側に設置された投影機から投射された映像光を、第1の面側の観察者に映像として視認可能に表示する反射型の映像表示透明部材」に相当する。
以上の点を総合すると、甲1発明の「車両のダッシュボード214の内部に設置されるレーザー利用プロジェクタである表示手段212から発せられる入射光線118を反射するように設計され、表示手段212から発生され、埋設された開口数拡大器100に照射される光線118は、光線120として反射され、光線120がユーザの眼216で検知されるように、表示手段212からの画像が投影され、特定の透過されるべき環境光である光線122および126が、少なくとも部分的に、埋設された開口数拡大器100のいずれか一方の側部を透過して移動することを許容するように構成され、環境光122は、開口数拡大器100を透過し、ユーザは開口数拡大器100を通して向こう側を見ることができ」る「車両のフロントガラス210内に埋め込まれて配置される開口数拡大器100」は、本件発明1の「第1の面およびこれとは反対側の第2の面を有し、第1の面側の光景を第2の面側の観察者に視認可能に透過し、第2の面側の光景を第1の面側の観察者に視認可能に透過し、かつ第1の面側に設置された投影機から投射された映像光を、第1の面側の観察者に映像として視認可能に表示する反射型の映像表示透明部材」に相当する。

b 甲1発明の「マイクロレンズアレイ(MLA)で構成される射出瞳拡大器110」は、「マイクロレンズアレイ(MLA)」により凹凸構造になっていることから、本件発明1の「表面に凹凸構造を有する第1の透明層」に相当する。
そして、甲1発明の「前記射出瞳拡大器110の上に配置されて、射出瞳拡大器110の上に反射特性を付与」する「部分的な反射体であり、反射層に対する全ての入射光線を反射させるものではない反射層114」は、本件発明1の「第1の透明層の凹凸構造の面に沿うように形成された、入射した光の一部を透過する反射膜」に相当し、甲1発明の「反射層114を覆い」、「開口数拡大器100を貫通して透過する光線122に対して、著しい影響を与えずに、透過させ」る「エポキシ樹脂116」は、本件発明1の「反射膜の表面を覆うように設けられた第2の透明層」に相当する。
また、甲1発明の「射出瞳拡大器110」、「反射層114」及び「エポキシ樹脂116」は、全体として、レーザー利用プロジェクタである表示手段212から発生される光線118を、拡大して光線120として反射し、ユーザの眼216で検知されるようにすることで、前記表示手段212からの画像を投影するものであり、またこれらの構成が、全て車両の内側の面と外側の面の間にあることは明らかであるから、本件発明1の「前記第1の面と前記第2の面との間」の「映像表示部」に相当する。
以上の点を総合すると、甲1発明の「マイクロレンズアレイ(MLA)で構成される射出瞳拡大器110が配置され、部分的な反射体であり、反射層に対する全ての入射光線を反射させるものではない反射層114が、前記射出瞳拡大器110の上に配置されて、射出瞳拡大器110の上に反射特性を付与し」、「エポキシ樹脂116」が「前記反射層114を覆い」、「開口数拡大器100を貫通して透過する光線122に対して、著しい影響を与えずに、透過させ」る構成は、
本件発明1の「前記第1の面と前記第2の面との間に、表面に凹凸構造を有する第1の透明層と、第1の透明層の凹凸構造の面に沿うように形成された、入射した光の一部を透過する反射膜と、反射膜の表面を覆うように設けられた第2の透明層と、を有する映像表示部」に相当する。

c 甲1発明の「第二層124」、「第一層112」は、「開口数拡大器100を貫通して透過する光線122」を「透過させ」ており「透明」であるといえるから、それぞれ本件発明1の「第1の透明基材」、「第2の透明基材」に相当する。
また、「車両のダッシュボード214の内部に設置されるレーザー利用プロジェクタである」「表示手段212から発せられる入射光線118」は、「第二層124に入射して」、「第二層124から出射」するものであるから、甲1発明の「第二層124」が車両の内側(第1の面側)に位置し、「第一層112」が車両の外側(第2の面側)に位置することになる。
よって、甲1発明の「光透過性である第一層112を含み、前記第一層112に隣接して、マイクロレンズアレイ(MLA)で構成され」、「開口数拡大器100の構築は、第二層124を、射出瞳拡大器110にエポキシ樹脂116を利用して固定する」構成は、本件発明1の「前記映像表示部の前記第1の面側に第1の透明基材が、前記映像表示部の前記第2の面側に第2の透明基材が、それぞれ設けられて」いることに相当する。

d 甲1発明の「透過する光線122の総量を減少または排除」する「光互変性(フォトクロミック)材料で構成」した「第一層112」は、本件発明1の「前記映像表示透明部材を透過する光の一部を減衰させる」「光減衰層」に相当する。
よって、甲1発明の「第一層112を光互変性(フォトクロミック)材料で構成し、表示手段212から放射される光線118は、紫外線(UV)波長を有し、光互変性材料の透過性を変化させ、その結果、透過する光線122の総量を減少または排除して、表示手段212から投影される表示画像のコントラストを増加させる」ことと本件発明1の「前記透明基材のうち、少なくとも第2の透明基材が、ガラスまたは透明樹脂に光減衰成分が配合されており、前記映像表示透明部材を透過する光の一部を減衰させる光減衰層となっている」ことは、「前記透明基材のうち、少なくとも第2の透明基材が、前記映像表示透明部材を透過する光の一部を減衰させる光減衰層となっている」点で共通する。

(イ) 一致点及び相違点
上記(ア)を総合すると、本件発明1と甲1発明は、以下の一致点において一致し、以下の相違点1、2において相違する。

<一致点>
第1の面およびこれとは反対側の第2の面を有し、第1の面側の光景を第2 の面側の観察者に視認可能に透過し、第2の面側の光景を第1の面側の観察者に視認可能に透過し、かつ第1の面側に設置された投影機から投射された映像光を、第1の面側の観察者に映像として視認可能に表示する反射型の映像表示透明部材であって、
前記第1の面と前記第2の面との間に、
表面に凹凸構造を有する第1の透明層と、
第1の透明層の凹凸構造の面に沿うように形成された、入射した光の一部を透過する反射膜と、
反射膜の表面を覆うように設けられた第2の透明層と、
を有する映像表示部を備え、
前記映像表示部の前記第1の面側に第1の透明基材が、前記映像表示部の前記第2の面側に第2の透明基材が、それぞれ設けられており、
前記透明基材のうち、少なくとも第2の透明基材が、前記映像表示透明部材を透過する光の一部を減衰させる光減衰層となっている、
映像表示透明部材、である点

<相違点1>
本件発明1では、「前記透明基材のうち、少なくとも第2の透明基材が、ガラスまたは透明樹脂に光減衰成分が配合されて」いるのに対して、甲1発明では、光互変性(フォトクロミック)材料で構成される第一層112が、ガラスまたは透明樹脂に光減衰成分が配合されることにより構成されているかどうか不明な点。

<相違点2>
本件発明1では「映像表示透明部材の透過率が3%以上30%以下である」のに対して、甲1発明では、開口数拡大器100の透過率が不明な点。

(ウ) 相違点についての当審の判断
a 相違点1について
上記相違点1について検討する。
上記追加文献(特開平8-209119号公報)の【0016】、【0025】?【0026】に記載されているように、バインダー樹脂にナフトピラン系化合物などのフォトクロミック材料を分散または溶解させたものを製膜して使用することは、当該技術分野において技術常識であるから、甲1発明における、光互変性(フォトクロミック)材料で構成される第一層112に、フォトクロミック材料をバインダー樹脂に分散または溶解させたものも含まれていることは、当業者にとって自明な事項である。
したがって、上記相違点1は、実質的な相違点ではない。

b 相違点2について
上記相違点2について検討する。
(a) 甲1発明は「車両のフロントガラス210内に埋め込まれて配置される開口数拡大器100」に関するものであるところ、車両のフロントガラス、運転席及び助手席の窓ガラスについては、道路運送車両の保安基準29条3項及び道路運送車両の保安基準の細目を定める告示の3節195条3項により、可視光線透過率が70%以上と定められていることもあり、車両内のヘッドアップディスプレイを用途として甲1号証に開示された甲1発明において、当該用途の下で上記相違点2に係る「映像表示透明部材の透過率が3%以上30%以下」とすることは、当業者の発想にないことである。

(b) また、甲1号証の【0020】には、「表示システム500はユーザの家庭での娯楽システムの一部として利用できる。埋設された開口数拡大器100に表示手段212により投影されるテレビ番組、デジタルビデオディスク、映画、マルチメディアファイル、写真、スライドショー、プレゼンテーション、等をユーザは見ることができる。これに加えて、表示システム500は、博物館や美術館、劇場、クラブ、マジックショー、等々の文化環境または娯楽環境に配置することができる。一又は二以上の実施形態において、表示システムは、広告掲示板又は他の看板とすることができる。埋設された開口数拡大器100を経由した広告またはメッセージの表示は、広告掲示板または看板を、環境光に対して光透過性を与えて透明とし、景観を損なうことに対する広告掲示板や看板の影響度を減少または最少化することができる。」と記載され、開口数拡大器100を、車両のヘッドアップディスプレイ(HUD)以外の用途に用いることについて記載されている。
しかしながら、上記【0020】には、「環境光に対して光透過性を与えて透明とし、景観を損なうことに対する広告掲示板や看板の影響度を減少または最少化することができる」と記載されており、いずれの用途においても、「環境光に対して光透過性を与え」ることを前提とするものであるといえるから、甲1発明において上記相違点2に係る「映像表示透明部材の透過率が3%以上30%以下」とすることは、当業者が採らない発想である。

(c) 上記(a)及び(b)で検討のとおりであるから、甲1発明において、上記相違点2に係る構成とすることは、当業者であっても容易に想到し得たものではない。

(エ) 異議申立人の主張について
異議申立人は、令和3年7月13日に提出された意見書の3?6頁において、「映像表示透明部材の透過率をどの程度とするかは、観察者にとって、映像表示部による映像のコントラストと、映像表示透明部材の向こう側の光景の視認性とをどのようなバランスとするか、当業者が適宜採用視しうる設計的事項である。」と主張し、当該主張の根拠として、甲3(特表2005-530627号公報)、参考資料1(特開2012-3027号公報)及び参考資料2(特開2002-277962号公報)を提示し、透過率30%以下とした事例を挙げている。
しかしながら、提示された文献のいずれも、車両のフロントガラスのような、環境光に対してある程度の光透過性を有することを前提とするものではないから、上記結論を左右するものではない。

(オ) 小括
したがって、本件発明1は、甲1号証に記載された発明でなく、当業者であっても、甲1発明に基づいて容易に発明をすることができたものでもないので、本件発明1に係る特許は、特許法29条1項及び2項の規定に違反してされたものではない。

イ 本件発明2?11について
本件発明2?11も、本件発明1と同様に、上記相違点2に係る構成を備えるものであるから、本件発明1と同様の理由により、本件発明2?11は、甲1号証に記載された発明でなく、当業者であっても、甲1発明に基づいて容易に発明をすることができたものでもないので、本件発明2?11に係る特許は、特許法29条1項及び2項の規定に違反してされたものではない。

(2) 36条6項1号(サポート要件)、6項2号(明確性)について

ア 訂正事項3により訂正された請求項4に記載の「前記光減衰層の前記光減衰成分に偏光依存性を備えた」「映像表示透明部材」について、本件特許明細書の【0023】には、光減衰成分自体に偏光依存性を持たせることが記載されているから、訂正後の請求項4に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものである。

イ 訂正事項4により訂正された請求項5には「前記光減衰層の透過率が3%以上70%以下である」「映像表示透明部材」と記載されており、透過率の下限が特定されているから、訂正後の請求項5に係る発明は明確である。また、例えば、本件発明の課題を解決しないことが明らかな透過率が0%の光減衰層を有するようなものが含まれていないため、課題を解決する手段が反映されており、訂正後の請求項5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものである。

(3) 36条4項1号(実施可能要件)について
請求項2には「前記映像表示透明部材の後方ヘーズが、5%以上であり」と記載されており、当該構成に対応する本件特許明細書の【0134】の【表1】には、本願の実施例の例2として、後方ヘーズが6%であり映像視認性が1であることが示され、【0136】には、映像視認性が1というのは「周囲が暗い場合は良好」であることを意味することが記載されている。
特許権者は、令和3年6月4日に提出した意見書の7頁において、後方ヘーズ値が小さくなれば、映像の輝度が小さくなり、周囲が明るい場合には、映像視認性が劣化するが、周囲が暗い場合は、後方ヘーズが5%以上であれば、映像視認性が良好であると主張し、その証拠として、乙1?3号証を提示しているところ、その内容から、当該主張は妥当なものと認められるから、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項2に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものである。


第5 特許異議申立人が申立てた理由について
1 特許異議申立理由の概要及び証拠方法
(1) 申立理由1(甲1に基づく新規性又は進歩性欠如)
本件発明1、9?11は、甲1号証に記載された発明である、又は、甲1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1、9?11に係る特許は、特許法29条1項又は2項の規定に違反してされたものである。
また、本件発明2?8は、甲1号証に記載された発明及び甲2?8号証に記載の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明2?8に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。

(2) 申立理由2(甲2に基づく進歩性欠如)
本件発明1?11は、甲2号証に記載された発明及び甲4?9号証に記載の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1?11に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。

(3) 記載要件違反
ア 申立理由3-1
(ア) 申立理由3-1-ア
本件発明1は「映像表示透明部材」の発明であるにも拘わらず、投影機との位置関係が特定されており、発明の構成要素が不明確であるから、本件発明1に係る特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
すなわち、本件発明1は「投影機から投射された映像光を、第1の面側の観察者に映像として視認可能に表示する」「少なくとも第2の透明基材が、ガラスまたは透明樹脂に光減衰成分が配合されており、前記映像表示透明部材を透過する光の一部を減衰させる光減衰層となっている」と特定しており、投影機と光減衰層との配置関係が規定されているが、これらの発明特定事項は、「映像表示透明部材」の構成要素として何を特定しているのか不明確である。
同様に、「反射型」とはいかなる構成をもって反射型と特定されるのか不明確である。
本件発明2?9に係る特許についても同様である。

(イ) 申立理由3-1-イ
本件発明2についても、前方ヘーズ及び後方ヘーズがどの方向を前方とし後方としているのか不明確であるから、本件発明2に係る特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
発明の詳細な説明には、前方ヘーズとは両方向の透過光の前方散乱の度合であり、後方ヘーズとは第1の面(投影側)で反射する反射光の後方散乱であると説明されているが(段落15)、本件発明2では前方及び後方がいずれの方向を指すのか特定されておらず、不明確である。
本件発明3?9に係る特許についても同様である。

イ 申立理由3-2
(ア) 申立理由3-2-ア
本件発明1は「少なくとも第2の透明基材が、ガラスまたは透明樹脂に光減衰成分が配合されており」と特定しているが、「少なくとも」は、他のどの層に配合されているのか不明確であるから、本件発明1に係る特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
発明の詳細な説明には、複数層に光減衰成分を配合する例として、第1及び第2の透明部材に光減衰成分を配合する例しか記載されておらず、本件発明1は、出願時の技術常識に照らしても本件発明1の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないから、本件発明1に係る特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
本件発明2?11に係る特許についても同様である。

(イ) 申立理由3-2-イ
光減衰成分を配合すると向こう側の光景の視認性が悪くなるが、本件発明1には、光減衰成分をどの程度配合するのか記載されておらず、向こう側の光景を視認可能にするという発明の課題を達成できない範囲を含んでいるから、本件発明1に係る特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。光減衰成分を複数層に配合させた場合も同様である。
発明の詳細な説明には、光減衰成分を第2の透明基材にどの程度配合させるのかが、当業者が実施し得る程度に記載されていないから、本件発明1に係る特許は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
本件発明2?11に係る特許についても同様である。

ウ 申立理由3-3
(ア) 申立理由3-3-ア
本件発明2は「前記映像表示透明部材の前方ヘーズが、20%以下であり、前記映像表示透明部材の後方ヘーズが、5%以上であり、」と特定しているが、後方ヘーズについて上限が記載されておらず、発明の範囲が不明確であるから、本件発明2に係る特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
本件発明3?11に係る特許についても同様である。

(イ) 申立理由3-3-イ
発明の詳細な説明には、反射型の映像表示透明部材の実施例が1例しか記載されておらず(実施例2)、前方ヘーズは3%、後方ヘーズは6%の例のみである(表1)。よって、当該実施例2の記載のみで、本件発明2の範囲まで拡張しうるとは考えられないから、本件発明2に係る特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
また、「20%以下」、「5%以上」の技術的意味が、当業者が実施できる程度に説明されていないから、本件発明2に係る特許は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
本件発明3?11に係る特許についても同様である。

(ウ) 申立理由3-3-ウ
技術常識からみて、後方ヘーズが6%程度で(実施例2)、反射型の映像表示透明部材として映像光が視認できるとは考えられず、発明の詳細な説明には、後方ヘーズについて、当業者が実施できる程度に記載されているとはいえないから、本件発明2に係る特許は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
本件発明3?11に係る特許についても同様である。


エ 申立理由3-4
本件発明4は「前記光減衰層に偏光依存性を備えた」と特定しているが、発明の詳細な説明には、投影光が主たる偏光方向を備えている場合に、他の偏光方向を有する光を排除することで光景の視認性を上げると説明されており、「投影光が主たる偏光方向を備えている」ことを特定していない本件発明4は、発明の詳細な説明に記載された発明の課題を解決するための手段が反映されていないから(当該特定がない場合は、投影光も半減してしまう)、本件発明4に係る特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。本件発明5?11に係る特許についても同様である。

オ 申立理由3-5
本件発明5は「前記光減衰層の透過率が70%以下である」と特定しているが下限が不明確であり、不明確であるから、本件発明5に係る特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、また、反対側の光景を視認可能にするという課題を達成できない範囲を含んでいるから、本件発明5に係る特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
本件発明6?11に係る特許についても同様である。

(4) 証拠方法
特許異議申立人は、上記理由1及び2の主張を裏付ける証拠として、次の甲1?9号証を提出した。
ア 甲1号証 :特表2010-539525号公報
イ 甲2号証 :特表2014-509963号公報
ウ 甲3号証 :特表2005-530627号公報
エ 甲4号証 :特開2007-219258号公報
オ 甲5号証 :特表2002-540445号公報
カ 甲6号証 :特表2005-526283号公報
キ 甲7号証 :特開2004-85659号公報
ク 甲8号証 :特開平10-62870号公報
ケ 甲9号証 :特開2014-13369号公報

2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
上記1において示した特許異議申立理由のうち、申立理由1、申立理由3-3-ウ及び申立理由3-5以外の理由については、令和3年3月31日付け取消理由通知において採用していない。
取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由についての当審の判断は、以下の(1)及び(2)のとおりである。

(1) 甲号証に記載された発明の認定等
ア 甲2発明の認定
(ア) 甲2号証に記載された事項
甲2号証には、以下の事項が記載されている。

「【0025】
本発明の1つの態様によれば、層状部材の拡散反射特性は、放射が入射した側の複数の方向に放射の大部分を反射するのに利用される。この高い拡散反射を得る一方でそれと同時に、層状部材を通した明瞭な視界を有する、すなわち、層状部材は、層状部材の正透過特性のため半透明である。こうした高い拡散反射を有する透明な層状部材は、例えば、ディスプレイスクリーン又はプロジェクションスクリーン向けの適用を満たす。
【0026】
特に、こうした高い拡散反射を有する層状部材は、ヘッドアップディスプレイ(HUD)システムで使用できる。既知の様式において、特に、飛行機コックピット、列車のみならず、今日では、個人の自動車(乗用車、トラックなど)でも使用されているHUDシステムは、ドライバー又は同乗者に向かって反射されるグレージング、一般的に自動車のフロントガラスに映し出された情報を表示することを可能にする。これらのシステムは、ドライバーが自動車の前方視界から目を逸らす必要なしにドライバーに情報提供することを可能するので、それは安全性の大幅な増強を可能にする。ドライバーは、虚像がグレージングの後ろの一定の距離に位置していると認識する。」

「【0068】
図1に示された層状部材1は、2つの外層2及び4を含み、そしてそれは、実質的に同じ屈折率n2、n4を有する透明誘電体材料から構成される。それぞれの外層2又は4は、層状部材の外側に向いた平坦な主表面、それぞれ2A又は4A、及び層状部材の内部に向いた凹凸のある主表面、それぞれ2B又は4Bを有する。
【0069】
層状部材1の平坦な外側表面2Aと4Aは、各表面2Aと4Aにおける放射の正透過を可能にする、すなわち、外層内への放射の入口又は外層からの放射の出口は放射の方向を変更することがない。
【0070】
内部表面2Bと4Bの凹凸は互いに相補的である。図1ではっきり分かるように、凹凸のある表面2Bと4Bは、互いに向き合うように配置され、ここで、立体配置において、それらの凹凸は厳密に平行である。層状部材1はまた、凹凸のある表面2Bと4Bの間に接触した状態で差し込まれた中心層3を含む。
【0071】
図2に示した変形態様において、中心層3は単層であり、かつ、外層2と4のものと異なる屈折率n3を有する金属又は誘電体のいずれかである透明材料から構成されている。図3の変形態様において、中心層3は、数個の層3_(1)、3_(2)、…、3_(k)の透明な積み重ねによって形成され、ここで、層3_(1)?3_(k)の少なくとも1つが、外層2と4のものと異なる屈折率を有する金属層又は誘電体層である。好ましくは、少なくとも、積み重ねの端に位置する2つの層3_(1)と3_(k)のそれぞれは、外層2と4のものと異なる屈折率n3_(1)又はn3_(k)を有する金属層又は誘電体である。」

「【0078】
図1は、放射の進路を例示していて、そしてそれは外層2の側面の層状部材1に入射する。入射光線R_(i)は、所定の入射角θで外層2に到達する。図1に示したとおり、入射光線R_(i)は、外層2と中心層3の間の接触表面S_(0)に達するとき、金属面によって、又は、それぞれ図2の変形態様では外層2と中心層3の間、そして、図3の変形態様では外層2と層3_(1)の間のこの接触表面の屈折率の差のために反射される。接触表面S_(0)には凹凸があるので、反射は複数の方向R_(r)に起こる。そのため、層状部材1による放射の反射は拡散する。
【0079】
入射する放射の一部もまた、中心層3で屈折する。図2の変形態様において、接触表面S_(0)とS_(1)は、互いに平行であり、そしてそれは、スネル?デカルトの法則に従って、n2.sin(θ)=n4.sin(θ’)(式中、θは外層2から始まる中心層3の放射の入射角であり、そしてθ’は中心層3から始まる外層4の放射の屈折角である)を含意している。図3の変形態様において、接触表面S_(0)、S_(1)、…、S_(k)はすべて互いに平行なので、スネル?デカルトの法則に由来する関係n2.sin(θ)=n4.sin(θ’)は証明されたままである。したがって、前記2つの変形態様において、2つの外層の屈折率n2とn4は、互いに実質的に等しいので、層状部材によって透過される光線R_(t)は、層状部材のそれらの入射角θと等しい透過角θ’で透過される。そのため、層状部材1による放射の透過は正透過である。
【0080】
同様の様式により、前記2つの変形態様において、外層4の側面の層状部材1に入射する放射は、先と同じ理由で、層状部材によって拡散様式で反射され、そして正透過様式で透過される。」

「【0097】
図7で例示した方法において、層状部材1は、200?300μm程度の総厚がある軟質膜である。この層状部材の外層2は、その2つの主表面が平坦である、ポリマー材料でできた軟質膜2_(1)、及び膜2_(1)の一方の平坦な主表面に対して適用される、UV照射の作用下で光架橋性及び/又は光重合性である材料でできた層2_(2)の重ね合わせによって形成される。
【0098】
一例として、膜2_(1)は100μmの厚みを有するポリエチレンテレフタラート(PET)膜であり、そして、層2_(2)は約10μmの厚みを有するJSR Corporation社によって販売されているKZ6661タイプのUV硬化性樹脂の層である。膜2_(1)と層2_(2)は、550nmにて1.65程度の実質的に同じ屈折率を有する。硬化状態において、樹脂層2_(2)は、PETとの良好な接着性を有する。
【0099】
樹脂層2_(2)は、膜2_(1)の反対側のその表面2Bに導入されるべき凹凸形成を可能にする粘性で膜2_(1)に適用される。図7で例示したように、表面2Bの凹凸形成は、その表面に、層2_(2)で形成されるべきものに相補的な凹凸を有するロール9を使用することで行うことができる。凹凸が形成されるとすぐに、重ね合わされた膜2_(1)と樹脂層2_(2)に、図7の矢印によって示される、UV照射を照射し、そしてそれが、その凹凸形成、及び膜2_(1)と樹脂層2_(2)の組み立てを伴った樹脂層2_(2)の固形化を可能にする。
【0100】
次いで、外層2とは異なる屈折率を有する中心層3が、マグネトロンスパッタリングによって凹凸を付けた表面2Bに沿って堆積される。この中心層は、先に記載したように、単層であってもよいし、層の積み重ねによって形成されてもよい。それは、例えば、50nm程度の厚みがあり、かつ、550nmにて2.45の屈折率を有するTiO_(2)の層であってもよい。
【0101】
次いで、100μmの厚みを有する第2のPET膜が、層状部材1の第2の外層4を形成するために中心層3に堆積される。この第2の外層4は、PETのガラス転移温度での圧縮及び/又は加熱によって外層2の反対側の中心層3の凹凸のある表面3Bに沿うようにされる。」

「【0107】
また、図7で例示した軟質膜の形態での層状部材の接着を改善するために、ポリマーの積層中間層を、中心層3と第2のポリマー膜4の間に挿入することもできるが、ここで、この積層中間層は、外層を形成する膜2及び4と実質的に同じ屈折率を有している。この場合、図6の実施例と同様の様式により、第2の外層は、積層中間層と第2のポリマー膜の重ね合わせによって形成され、そしてそれは、中心層3で前もってコーティングされた第1の外層2に(積層構造に適用される、少なくともポリマーの積層中間層のガラス転移温度での圧縮及び/又は加熱である)従来の積層方法によって接着される。」

「【図1】



「【図2】



「【図7】



(イ) 甲2号証に記載された発明の認定
前記(ア)を総合すると、甲2号証には、以下の甲2発明が記載されているものと認められる。

<甲2発明>
「ドライバー又は同乗者に向かって反射されるグレージング、一般的に自動車のフロントガラスに映し出された情報を表示することを可能にし、ドライバーが自動車の前方視界から目を逸らす必要なしにドライバーに情報提供することを可能にするヘッドアップディスプレイ(HUD)システムで使用できる層状部材1であって(【0026】)、
層状部材1は、2つの外層2及び4を含み、それぞれの外層2又は4は、層状部材の外側に向いた平坦な主表面、それぞれ2A又は4A、及び層状部材の内部に向いた凹凸のある主表面、それぞれ2B又は4Bを有し(【0068】)、
層状部材1の平坦な外側表面2Aと4Aは、各表面2Aと4Aにおける放射の正透過を可能にし(【0069】)、
層状部材1はまた、凹凸のある表面2Bと4Bの間に接触した状態で差し込まれた中心層3を含み(【0070】)、当該中心層3は、マグネトロンスパッタリングによって凹凸を付けた表面2Bに沿って堆積され(【0100】)、
所定の入射角θで外層2に到達する入射光線R_(i)は、外層2と中心層3の間の接触表面S_(0)に達するとき、この接触表面の屈折率の差のために反射され(【0078】)、
入射する放射の一部もまた、中心層3で屈折し、層状部材によって透過される光線R_(t)は、層状部材のそれらの入射角θと等しい透過角θ’で透過され(【0079】)、
同様の様式により、外層4の側面の層状部材1に入射する放射は、層状部材によって拡散様式で反射され、そして正透過様式で透過され(【0080】)、
この層状部材の外層2は、その2つの主表面が平坦である軟質膜2_(1)及び層2_(2)の重ね合わせによって形成され(【0097】)、
ポリマーの積層中間層を、中心層3と第2のポリマー膜4の間に挿入することもでき、この場合、第2の外層は、積層中間層と第2のポリマー膜の重ね合わせによって形成される(【0107】)、
層状部材1。」

イ 甲7?9号証に記載された事項と周知技術の認定
(ア) 甲7号証に記載された事項
甲7号証には、以下の事項が記載されている。

「【0023】
図6は、スクリーン17の断面を模式的に示す図であり、同図において171はフレネルレンズシート、172は光線拡散手段、173はND(ニュートラルデンシティ)着色フィルム、LC2はスクリーンを通過した投写光線、Leは外来光線である。スクリーン17はフレネルレンズシート171、拡散手段172、およびND着色フィルム173を順に重ね合わせて構成され、いずれも柔軟で巻き取り可能な特性を有する。投写光線LCはまずフレネルレンズシート171により進行方向を曲げられスクリーン面にほぼ垂直な向きの光線となって、光線拡散手段172に進み、ここで水平、垂直方向に拡散され、更にND着色フィルム173を通過して光線LC2となり、使用者の方向に進む。」

「【0025】
スクリーン17に到達した外来光線は、ND着色フィルム173を通過し、拡散手段172で反射され、再度ND着色フィルム173を通過してからその一部が使用者に達する。ND着色フィルム173の光線透過率が例えば70%であれば、外来光線Leは、ND着色フィルム173を2回通過するのでその反射強度は、49%(0.7×0.7=0.49)に減少する。一方、投写光線はND着色フィルム173を1回だけ通過するのでその強度は70%に減少する。即ち、ND着色フィルム173は外来光線の影響を低減させる機能を有し、ND着色フィルムが無い場合と比較して明室でのコントラストは約1.43倍(70/49≒1.43)に改善される。拡散手段172は、例えばレンチキュラーレンズから構成してもよく、その場合には、投写光線の拡散の度合いを水平方向と垂直方向で独立に設定することが可能となる。」

「【図6】



(イ) 甲8号証に記載された事項
甲8号証には、以下の事項が記載されている。

「【0015】【発明の実施の形態】(第1実施形態)以下、図面などを参照して、本発明の実施の形態について説明する。図1は、本発明による反射型スクリーンの第1実施形態を示す図、図2は、第1実施形態に係る反射型スクリーンのサーキュラーフレネルレンズ形状を示した図である。第1実施形態の反射型スクリーン10は、ベース部11と、反射部12などとから構成されている。ベース部11は、アクリル,ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレートなどの樹脂のシート又はフィルムからなる光透過性のある部分である。このベース部11には、透過率80%になるようなグレー等の染料、顔料等で着色(ティント)が施されている。」

「【0019】第1の実施形態の反射型スクリーン10によれば、図3に示すように、光源20からの映像光Eは、下方から入射して、観察者30側へ出射されるが、外光Aは、上方から入射するために、サーキュラーフレネルレンズ形状の反射面12aにより下方に反射され、ベース部11の観察側面で全反射して、反射面12aとベース部11の表面側面との間で反射を繰り返しながら着色されたベース部11に吸収され減衰する。また、映像光Eの映り込みFは、観察側面に形成されたマット形状14により防止される。」

「【図3】



(ウ) 甲9号証に記載された事項
甲9号証には、以下の事項が記載されている。

「【0076】
図5は他の変形例にかかるスクリーン100”の層構成を示す図で、図2に相当する図である。スクリーン100”は、接着層113と基材層114との間に光吸収層121を備えている。他の部位についてはスクリーン100と同じである。
光吸収層121は、ここを透過する光の一部を吸収し、他を透過する機能を有する層であり、いわゆるNDフィルタが配置された層である。基材層114と光吸収層121とは不図示の接着剤等により接着されている。また、光吸収層121は所定の色を吸収する層であってもよい。これにより色調の調整が可能である。
【0077】
光吸収層121により次のような効果を奏する。すなわち、スクリーン100”の背面側からスクリーン100”を通過して観察者に達する光L102は、光吸収層121を1回透過して観察者に至る。従って若干明るさは低下するが、背面側の観察は十分に可能とされている。一方、観察者側からスクリーン100”に照射される外光である光L104は、パネル111と接着層113との界面で反射され、観察者側に戻る。従って、光L104は観察者側に戻るまでに光吸収層121を2回透過することになり、光が吸収される程度が大きい。これにより効率よくコントラストを向上させることができる。
なお、映写機からの映像光L101は光吸収層121を透過することがないので、スクリーン100と同様にして明るい映像を観察者に提供することができる。」

「【図5】



(エ) 周知技術の認定
上記(ア)?(ウ)の摘記箇所の記載に例示されるように、次の事項は、周知技術であると認める。

<周知技術>
「スクリーンの観察者側に光減衰層を設け、前記観察者側から前記スクリーンに照射される外光を前記光減衰層で減衰させ、前記外光の影響を低減させることで、映像光のコントラストを向上させること。」

(2) 当審の判断
ア 申立理由2(甲2に基づく進歩性欠如)について
(ア) 本件発明1について
a 本件発明1と甲2発明の対比
本件発明1と甲2発明を対比する。
(a) 甲2発明の「層状部材1」は、「2つの外層2及び4を含み、それぞれの外層2又は4は、層状部材の外側に向いた平坦な主表面、それぞれ2A又は4A」を有しており、この層状部材の外側に向いた平坦な主表面2A及び4Aが、本件発明1の「第1の面」及び「第2の面」に相当する。
また、甲2発明の「層状部材1」は、「自動車のフロントガラスに映し出された情報を表示することを可能にし、ドライバーが自動車の前方視界から目を逸らす必要なしにドライバーに情報提供することを可能にするヘッドアップディスプレイ(HUD)システム」に使用するものであり、外層2又は4に入射する光線は、層状部材によって拡散様式で反射され、そして正透過様式で透過されるものであるから、本件発明1の「第1の面側の光景を第2の面側の観察者に視認可能に透過し、第2の面側の光景を第1の面側の観察者に視認可能に透過し、かつ第1の面側に設置された投影機から投射された映像光を、第1の面側の観察者に映像として視認可能に表示する反射型の映像表示透明部材」に相当する。
以上の点を総合すると、甲2発明の「ドライバー又は同乗者に向かって反射されるグレージング、一般的に自動車のフロントガラスに映し出された情報を表示することを可能にし、ドライバーが自動車の前方視界から目を逸らす必要なしにドライバーに情報提供することを可能にするヘッドアップディスプレイ(HUD)システムで使用できる層状部材1」は、本件発明1の「第1の面およびこれとは反対側の第2の面を有し、第1の面側の光景を第2の面側の観察者に視認可能に透過し、第2の面側の光景を第1の面側の観察者に視認可能に透過し、かつ第1の面側に設置された投影機から投射された映像光を、第1の面側の観察者に映像として視認可能に表示する反射型の映像表示透明部材」に相当する。

(b) 甲2発明の「層状部材1」は、「2つの外層2及び4を含み、それぞれの外層2又は4は、層状部材の外側に向いた平坦な主表面、それぞれ2A又は4A、及び層状部材の内部に向いた凹凸のある主表面、それぞれ2B又は4Bを有し」、「この層状部材の外層2は、その2つの主表面が平坦である軟質膜2_(1)及び層2_(2)の重ね合わせによって形成され」、「ポリマーの積層中間層を、中心層3と第2のポリマー膜4の間に挿入することもでき、この場合、第2の外層は、積層中間層と第2のポリマー膜の重ね合わせによって形成され」、「層状部材1はまた、凹凸のある表面2Bと4Bの間に接触した状態で差し込まれた中心層3を含」むものである。
そして、甲2発明の「外層2」を形成する「層2_(2)」は、入射光線を透過する「層状部材1」の一部を構成するとともに、「層状部材の内部に向いた凹凸のある主表面2B」を有するものであるから、本件発明1の「表面に凹凸構造を有する第1の透明層」に相当する。
また、甲2発明の「凹凸のある表面2Bと4Bの間に接触した状態で差し込まれた中心層3」は、外層2と中心層3の間の接触表面の屈折率の差により入射光線を反射させるとともに、その一部を中心層3で屈折し透過させるものであり、かつ「凹凸を付けた表面2Bに沿って堆積され」、その厚さから「膜」といえるものであるから、本件発明1の「第1の透明層の凹凸構造の面に沿うように形成された、入射した光の一部を透過する反射膜」に相当する。
さらに、甲2発明の「第2の外層」、すなわち外層4を形成する「積層中間層」は、「中心層3と第2のポリマー膜4の間に挿入」されるものであり、入射光線を透過する「層状部材1」の一部を構成するとともに、「層状部材の内部に向いた凹凸のある主表面4B」を有するものであるから、本件発明1の「反射膜の表面を覆うように設けられた第2の透明層」に相当する。
そして、甲1発明の「層状部材1」は、ヘッドアップディスプレイ(HUD)システムに使用されるものであり、「外層2と中心層3の間の接触表面の屈折率の差」、すなわち「層2_(2)」と「中心層3」の間の接触表面の屈折率の差で、映像を反射させるものであるから、甲2発明の「層2_(2)」、「中心層3」及び「積層中間層」は、本件発明1の「映像表示部」に相当する。
以上の点を総合すると、甲2発明の「層2_(2)」、「中心層3」及び「積層中間層」は、本件発明1の「前記第1の面と前記第2の面との間に、表面に凹凸構造を有する第1の透明層と、第1の透明層の凹凸構造の面に沿うように形成された、入射した光の一部を透過する反射膜と、反射膜の表面を覆うように設けられた第2の透明層と、を有する映像表示部」に相当する。

(c) 甲2発明の「外層2」を形成する「軟質膜2_(1)」は、入射光線を透過する「層状部材1」の一部を構成するとともに、層状部材の外側に向いた平坦な主表面2Aを有するものであるから、本件発明1の「第1の透明基材」に相当する。
また、外層4を形成する「第2のポリマー膜4」は、入射光線を透過する「層状部材1」の一部を構成するとともに、層状部材の外側に向いた平坦な主表面4Aを有するものであるから、本件発明1の「第2の透明基材」に相当する。
そして、上記aで検討したとおり、甲2発明の層状部材の外側に向いた平坦な主表面2A及び4Aが、本件発明1の「第1の面」及び「第2の面」に相当する。
よって、甲2発明の、「軟質膜2_(1)」及び「層2_(2)」が重ね合わせられることで外層2が形成され、「積層中間層」及び「第2のポリマー膜4」が重ね合わせられることで外層4が形成されることは、本件発明1の「前記映像表示部の前記第1の面側に第1の透明基材が、前記映像表示部の前記第2の面側に第2の透明基材が、それぞれ設けられて」いることに相当する。

b 一致点及び相違点
上記aを総合すると、本件発明1と甲2発明は、以下の一致点において一致し、以下の相違点1、2において相違する。

<一致点>
第1の面およびこれとは反対側の第2の面を有し、第1の面側の光景を第2の面側の観察者に視認可能に透過し、第2の面側の光景を第1の面側の観察者に視認可能に透過し、かつ第1の面側に設置された投影機から投射された映像光を、第1の面側の観察者に映像として視認可能に表示する反射型の映像表示透明部材であって、
前記第1の面と前記第2の面との間に、
表面に凹凸構造を有する第1の透明層と、
第1の透明層の凹凸構造の面に沿うように形成された、入射した光の一部を透過する反射膜と、
反射膜の表面を覆うように設けられた第2の透明層と、
を有する映像表示部を備え、
前記映像表示部の前記第1の面側に第1の透明基材が、前記映像表示部の前記第2の面側に第2の透明基材が、それぞれ設けられている、
映像表示透明部材、である点。

<相違点1>
本件発明1では、「第1の面側に設置された投影機から投射された映像光を、第1の面側の観察者に映像として視認可能に表示する反射型の映像表示透明部材」において、少なくとも第1の面とは反対側の第2の面側に設けられた「第2の透明基材が、ガラスまたは透明樹脂に光減衰成分が配合されており、前記映像表示透明部材を透過する光の一部を減衰させる光減衰層となって」いるのに対して、甲2発明では、そのような構成を備えていない点。

<相違点2>
本件発明1では、「映像表示透明部材の透過率が3%以上30%以下である」のに対して、甲2発明では、層状部材1の透過率が不明な点。

c 相違点についての当審の判断
(a) 相違点1について
前記2(2)の「エ 周知技術の認定」で示したとおり、スクリーンの観察者側に光減衰層を設け、前記観察者側から前記スクリーンに照射される外光を前記光減衰層で減衰させ、前記外光の影響を低減させることで、映像光のコントラストを向上させることは、本願優先日前に周知の技術である。
しかしながら、当該周知技術は光減衰層を映像光の観察者側に設けて、観察者側の外光の影響を低減するものであるから、甲2発明に当該周知技術を適用したとしても、層状部材1に映し出された情報を観察するドライバー側の面に光減衰層を設けることになり、上記相違点1に係る「第1の面側に設置された投影機から投射された映像光を、第1の面側の観察者に映像として視認可能に表示する反射型の映像表示透明部材」において、少なくとも第1の面とは反対側の第2の面側に設けられた「第2の透明基材が、ガラスまたは透明樹脂に光減衰成分が配合されており、前記映像表示透明部材を透過する光の一部を減衰させる光減衰層となって」いる構成にならないことは明らかである。
よって、甲2発明に周知技術を適用することが容易だとしても、上記相違点1に係る構成とすることは、当業者であっても容易に想到し得たものではない。

(b) 相違点2について
甲2発明は、甲1発明と同様、車両のヘッドアップディスプレイ(HUD)システムに関するものであるから、前記第4の3(1)アの「(ウ) 相違点についての当審の判断」において検討したのと同じ理由により、甲2発明においても、上記相違点2に係る「映像表示透明部材の透過率が3%以上30%以下」とすることは、当業者の発想にないというべきである。
よって、甲2発明において、上記相違点2に係る構成とすることは、当業者であっても容易に想到し得たものではない。

d 本件発明1の甲2発明に対する進歩性の判断のまとめ
したがって、本件発明1は、当業者であっても、甲2発明及び周知技術に基づいて、容易に発明できたものではないので、本件発明1に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものではない。

(イ) 本件発明2?11について
本件発明2?11も、本件発明1と同様に、上記相違点1、2に係る構成を備えるものであるから、本件発明1と同様の理由により、本件発明2?11に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものではない。

(ウ) 小括
以上のとおり、申立理由2は理由がない。

イ 取消理由通知書で採用しなかった申立理由3(記載要件違反)について
(ア) 申立理由3-1について
a 申立理由3-1-アについて
本件発明1は、「第1の面およびこれとは反対側の第2の面を有し」、「第1の面側に設置された投影機から投射された映像光を、第1の面側の観察者に映像として視認可能に表示する反射型の映像表示透明部材」において、第2の面側に設けられた「第2の透明基材が、ガラスまたは透明樹脂に光減衰成分が配合されており、前記映像表示透明部材を透過する光の一部を減衰させる光減衰層となって」いるものであり、要するに、投影機に設置されることが意図された第1の面側と反対側の第2の面側の第2の透明部材に光減衰成分が配合されたものである。
そして、本件発明1は、「映像表示透明部材」の発明であるところ、「映像表示透明部材」に含まれない「投影機」を用いて、「映像表示透明部材」の構成を特定するものであるが、これは「映像表示透明部材」の第1の面側の構成が第2の面側の構成と比較して、投影機から投射された映像光を反射して映像として視認可能とするのに、より適した構成であることを意味しており、「映像表示透明部材」の物の発明としての構成を特定するものであるから明確である。
同様に、「反射型の映像表示透明部材」の「反射型」についても、これは、映像表示透明部材の第1の面側の構成が、映像光を反射して映像として視認可能とするのに適した構成であることを特定するものであるから明確である。
よって、申立理由3-1-アは、理由がなく、請求項1に記載された発明、及び当該請求項1を引用する請求項2?11に係る発明は明確である。

b 申立理由3-1-イについて
本件発明2の「前記映像表示透明部材の前方ヘーズが、20%以下であり、 前記映像表示透明部材の後方ヘーズが、5%以上であり、前記前方ヘーズに対する前記後方ヘーズの比率(後方ヘーズ/前方ヘーズ)が、1以上である」について、本願明細書の段落【0015】に、「『前方ヘーズ』とは、第1の面側から第2の面側に透過する透過光、または第2の面側から第1の面側に透過する透過光のうち、前方散乱によって、入射光から0.044rad(2.5°)以上それた透過光の百分率を意味する。すなわち、JIS K 7136:2000(ISO 14782:1999)に記載された方法によって測定される、通常のヘーズである。『後方ヘーズ』とは、第1の面において反射する反射光のうち、散乱によって、正反射光から0.044rad(2.5°)以上それた反射光の百分率を意味する。」と定義されており、「第1の面」、「第2の面」については、上記aのとおり明確であるから、本件発明2の構成(前方ヘーズの前方及び後方ヘーズの後方がどの方向を指すのか)は明確である。
よって、申立理由3-1-イは、理由がなく、請求項2に記載された発明、及び当該請求項2を引用する請求項3?11に係る発明は明確である。

(イ) 申立理由3-2について
a 申立理由3-2-アについて
請求項1に記載の「前記透明基材のうち、少なくとも第2の透明基材が、ガラスまたは透明樹脂に光減衰成分が配合されており」における、「少なくとも」は、「前記透明基材のうち」という語句とともに解釈して、「前記透明基材」に含まれる第1の透明基材及び第2の透明基材のうち、少なくとも第2の透明基材という意味であることは明確である。
また、「第2の透明部材」以外の透明層に光減衰成分が含まれていたとしても、「観察者の視認性を向上させる」という課題が解決されなくなるものではないから、請求項1に記載の「前記透明基材のうち、少なくとも第2の透明基材が、ガラスまたは透明樹脂に光減衰成分が配合されて」いる構成は、課題を解決し得るものであり、発明の詳細な説明に記載されている。
よって、請求項1に記載された発明、及び当該請求項1を引用する請求項2?11に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されているものであり、明確である。

b 申立理由3-2-イについて
本件発明1の「第2の透明基材が、ガラスまたは透明樹脂に光減衰成分が配合されており、前記映像表示透明部材を透過する光の一部を減衰させる光減衰層となって」いる構成について、光減衰成分の配合量が具体的に特定されていないものの、「映像表示透明部材の透過率が3%以上」とされているから、「向こう側の光景を視認可能にする」という発明の課題を解決し得るものであることは明らかである。
よって、申立理由3-2-イは理由がなく、請求項1に記載された発明、及び当該請求項1を引用する請求項2?11に係る発明は、課題を解決し得るものである。

(ウ) 申立理由3-3について
a 申立理由3-3-アについて
請求項2においては「前記映像表示透明部材の後方ヘーズが、5%以上」であり、「後方ヘーズ」の上限が特定されていないが、上限の明示がなくても、前記映像表示透明部材の後方ヘーズが満たすべき数値範囲は明確である。
よって、申立理由3-3-アは理由がなく、請求項2に記載された発明、及び当該請求項2を引用する請求項3?11に係る発明は明確である。

b 申立理由3-3-イについて
前方ヘーズが大きくなりすぎると、曇りガラスに近くなって、向こう側の光景の視認性が悪くなるから、前方ヘーズが十分に小さい値であるべきことは明らかであり、後方ヘーズについては、値が大きくなれば反射型のスクリーンとしてより機能することは明らかである。したがって、「前記映像表示透明部材の前方ヘーズが、20%以下であり、前記映像表示透明部材の後方ヘーズが、5%以上」としたことの技術的意義は明らかであるから、発明の詳細な説明は、本件発明2について、経済産業省令で定めるところにより、当業者がその技術上の意義を理解することができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。
本件発明2の「前記映像表示透明部材の前方ヘーズが、20%以下であり」、「前記映像表示透明部材の後方ヘーズが、5%以上であ」ることは、前記のとおり、向こう側の光景が視認できること及び反射型のスクリーンとして機能すべきことを単に前方ヘーズと後方ヘーズを用いて数値で表現したものにすぎない。したがって、本願明細書の段落【0134】、【表1】に、前方ヘーズが3%、後方ヘーズが6%の映像表示透明部材の評価結果しか記載されていないとしても、観察者から見て透明部材の向こう側の光景の解像度が上がり、視認性にすぐれた反射型の映像表示透明部材を提供するという課題の解決において、本件発明2の範囲まで拡張しえないものでないことは明らかである。
よって、申立理由3-3-イは理由がなく、請求項2に記載された発明、及び当該請求項2を引用する請求項3?11に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであり、発明の詳細な説明は、当業者が請求項2に係る発明、及び当該請求項2の記載を引用する請求項3?11に発明について、経済産業省令で定めるところにより、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。

(エ) 申立理由3-4について
光減衰層の光減衰成分が偏光依存性を備えることの効果としては、本願明細書の段落【0023】に次のように記載されている。
「また、第2の透明基材20は偏光依存性を備えていてもよい。たとえば、投影機からの映像光Lに含まれる光量のうち、多くの光が持つ偏光方向と第2の透明基材20がより多く減衰させる側の偏光方向を揃える。これにより、高い透過率を備えながらも効率よく映像光Lを吸収し、観察者Yの光景の視認性を向上させることができる。」
上記記載からも明らかなとおり、光減衰層の光減衰成分が偏光依存性を備えるものは、その方向がどのような方向であれ、より多く減衰させる側の偏光方向と揃った方向に、映像光Lの偏光の偏りがある投影機に適した特性を有するものであることは明らかであるから、その方向を特定する必要はない。
よって、申立理由3-4は理由がなく、請求項4に記載された発明、及び当該請求項4を引用する請求項5?11に係る発明は、課題を解決し得るものであり、発明の詳細な説明に記載されたものである。


第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知で通知した取消理由及び特許異議申立書で申し立てられた特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1?11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1?11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。




 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の面およびこれとは反対側の第2の面を有し、第1の面側の光景を第2の面側の観察者に視認可能に透過し、第2の面側の光景を第1の面側の観察者に視認可能に透過し、かつ第1の面側に設置された投影機から投射された映像光を、第1の面側の観察者に映像として視認可能に表示する反射型の映像表示透明部材であって、
前記第1の面と前記第2の面との間に、
表面に凹凸構造を有する第1の透明層と、
第1の透明層の凹凸構造の面に沿うように形成された、入射した光の一部を透過する反射膜と、
反射膜の表面を覆うように設けられた第2の透明層と、
を有する映像表示部を備え、
前記映像表示部の前記第1の面側に第1の透明基材が、前記映像表示部の前記第2の面側に第2の透明基材が、それぞれ設けられており、
前記透明基材のうち、少なくとも第2の透明基材が、ガラスまたは透明樹脂に光減衰成分が配合されており、前記映像表示透明部材を透過する光の一部を減衰させる光減衰層となっており、
前記映像表示透明部材の透過率が3%以上30%以下である、映像表示透明部材。
【請求項2】
前記映像表示透明部材の前方ヘーズが、20%以下であり、
前記映像表示透明部材の後方ヘーズが、5%以上であり、
前記前方ヘーズに対する前記後方ヘーズの比率(後方ヘーズ/前方ヘーズ)が、1以上である、請求項1に記載の映像表示透明部材。
【請求項3】
前記第1の透明層の表面の凹凸構造が、不規則な凹凸構造である、請求項1または2に記載の映像表示透明部材。
【請求項4】
前記光減衰層の前記光減衰成分に偏光依存性を備えた、請求項1?3のいずれか一項に記載の映像表示透明部材。
【請求項5】
前記光減衰層の透過率が3%以上70%以下である、請求項1?4のいずれか一項に記載の映像表示透明部材。
【請求項6】
前記光減衰層がグレー(可視光全体に渡って均一(xyY表色系において、0.25≦x≦0.4、0.25≦y≦0.4))である、請求項1?5のいずれか一項に記載の映像表示透明部材。
【請求項7】
前記光減衰層が青味(xyY表色系において、x≦0.33、y≦0.5)を帯びている、請求項1?5のいずれか一項に記載の映像表示透明部材。
【請求項8】
前記光減衰層が緑味(xyY表色系において、y>x、0.33≦y)を帯びている、請求項1?5のいずれか一項に記載の映像表示透明部材。
【請求項9】
前記光減衰層の面積が、前記映像表示部の面積と同じか、または前記映像表示部の面積よりも大きい、請求項1?8のいずれか一項に記載の映像表示透明部材。
【請求項10】
請求項1?9のいずれか一項に記載の映像表示透明部材と、
映像表示透明部材の第1の面側に設置された投影機と、
を備えた、映像表示システム。
【請求項11】
請求項1?9のいずれか一項に記載の映像表示透明部材に、
映像表示透明部材の第1の面側に設置された投影機から映像光を投射し、映像を表示させる、映像表示方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-09-16 
出願番号 特願2019-70788(P2019-70788)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (G03B)
P 1 651・ 537- YAA (G03B)
P 1 651・ 113- YAA (G03B)
P 1 651・ 536- YAA (G03B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 佐野 浩樹  
特許庁審判長 岡田 吉美
特許庁審判官 濱本 禎広
濱野 隆
登録日 2020-06-29 
登録番号 特許第6725029号(P6725029)
権利者 AGC株式会社
発明の名称 映像表示透明部材、映像表示システムおよび映像表示方法  
代理人 特許業務法人 志賀国際特許事務所  
代理人 特許業務法人志賀国際特許事務所  

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