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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  D03D
審判 全部申し立て 2項進歩性  D03D
管理番号 1379803
異議申立番号 異議2020-700681  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-12-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-09-09 
確定日 2021-10-01 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6677936号発明「消臭布帛」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6677936号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1-3]について訂正することを認める。 特許第6677936号の請求項1及び2に係る特許を維持する。 特許第6677936号の請求項3についての申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6677936号(以下「本件特許」という。)の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成27年4月27日(優先権主張 平成26年5月29日 日本国)の出願であって、令和2年3月18日にその特許権の設定登録がされ、令和2年4月8日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

令和 2年 9月 9日 :特許異議申立人岡林茂(以下「申立人1」という。)による請求項1?3に係る特許に対する特許異議の申立て
令和 2年10月 8日 :特許異議申立人小園祐子(以下「申立人2」という。)による請求項1?3に係る特許に対する特許異議の申立て
令和 2年12月 1日付け:取消理由通知書
令和 3年 1月25日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出(以下、訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。)
令和 3年 3月 5日 :申立人1による意見書の提出
令和 3年 3月17日 :申立人2による意見書の提出
令和 3年 6月29日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和 3年 8月24日 :特許権者による意見書の提出

第2 訂正の適否
1.訂正の内容
本件訂正請求は、「特許第6677936号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?3について訂正することを求める。」ものであり、本件訂正の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、次のとおりである。
(1)訂正事項1
本件訂正前の請求項1の「前記ポリウレタン弾性糸は、該ポリウレタン弾性糸0.15gに対し繊維評価技術協議会が定めた検知管法に準じて測定したアンモニアガスに対する消臭率が、洗濯処理0回及び10回後共に40%以上であり、」という記載を、
「前記ポリウレタン弾性糸は、層状構造を有するリン酸ジルコニウム、リン酸チタン、トリポリリン酸二水素アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である無機消臭剤を0.5質量%以上10質量%以下の範囲で含有し、該ポリウレタン弾性糸0.15gに対し繊維評価技術協議会が定めた検知管法に準じて測定したアンモニアガスに対する消臭率が、洗濯処理0回及び10回後共に40%以上であり、」と訂正する(請求項1を引用する請求項2も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
本件訂正前の請求項3を削除する。

2.訂正の適否
(1)一群の請求項
本件訂正前の請求項1?3は、請求項2?3が、それぞれ請求項1を直接的又は間接的に引用するものであり、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
(2)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1における「ポリウレタン弾性糸」について、「層状構造を有するリン酸ジルコニウム、リン酸チタン、トリポリリン酸二水素アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である無機消臭剤を0.5量%以上10質量%以下の範囲で含有し、」という要件を直列的に付加するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下「本件特許明細書等」という。)には、以下の記載がある。
「【請求項3】
前記ポリウレタン弾性糸が無機消臭剤を0.5量%以上10質量%以下の範囲で含有する、請求項1または請求項2に記載の布帛。」
「【0018】
無機消臭剤としては、ジルコニウム、チタン、アルミニウム、カルシウムからなる金属リン酸塩、亜鉛含有シリカなどを用いることができる。中でも、アンモニアに対する消臭性という観点から層状構造を有するリン酸ジルコニウム、リン酸チタン、トリポリリン酸二水素アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましく、特に好ましくはリン酸ジルコニウムである。」
以上の記載によれば、訂正事項1は、新規事項を追加するものではなく、また、発明特定事項を直列的に付加するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(3)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項3を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(4)小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?3〕について訂正することを認める。

第3 本件訂正後の特許発明
上記のとおり本件訂正は認められるから、本件訂正後の請求項1、2に係る発明(以下「本件訂正発明1」等という。)は、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1、2に各々記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
ポリウレタン弾性糸とカチオン可染性ポリエステル繊維とを含み、10cm×10cmの質量が1g以上である布帛であって、前記ポリウレタン弾性糸は、層状構造を有するリン酸ジルコニウム、リン酸チタン、トリポリリン酸二水素アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である無機消臭剤を0.5質量%以上10質量%以下の範囲で含有し、該ポリウレタン弾性糸0.15gに対し繊維評価技術協議会が定めた検知管法に準じて測定したアンモニアガスに対する消臭率が、洗濯処理0回及び10回後共に40%以上であり、前記ポリウレタン弾性糸の布帛中の混率が5質量%以上30質量%以下である、布帛。
【請求項2】
前記カチオン可染性ポリエステル繊維の布帛中の混率が40質量%以上である、請求項1に記載の布帛。
【請求項3】(削除)」

第4 取消理由(決定の予告)の概要
本件訂正発明1、2に対して、当審が令和3年6月29日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)のうち、進歩性に係る理由の要旨は、次のとおりである。
理由(特許法第29条第2項:進歩性)
本件訂正発明1、2は、引用文献1乃至4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

[引用文献等一覧]
引用文献1:特開2013-133562号公報(申立人1提出:甲第3号証)
引用文献2:特開2012-127015号公報(申立人1提出:甲第1号証、申立人2提出:甲第3号証)
引用文献3:特開2006-28453号公報(申立人2提出:甲第2号証)
引用文献4:国際公開第2012/53401号(申立人2提出:甲第4号証)

第5 当審の判断
1.理由(特許法第29条第2項:進歩性)について
(1)引用文献の記載事項(下線は、当審が付した。)
ア.引用文献1
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、消臭性能の安定性に優れるセルロース繊維とポリウレタン繊維との混用布帛に関する。さらに詳しくは、本発明は、加齢臭に対して安定した消臭性能及び洗濯耐久性能を有するとともに、シャリ感のある風合を有し、色の鮮明性、染色堅牢度にも優れるセルロース繊維とポリウレタン繊維との混用布帛に関する。
【背景技術】
【0002】
綿等のセルロース繊維は、衣服に多く使用されているが、近年、衣服の着用時、特に夏場における日常生活の中での快適性を満足するための機能として消臭性能や肌面のベタツキ感解消が求められている。
消臭性能の中でも特に高齢化社会の進行により、中高年の人が発する独特の体臭である加齢臭に対する消臭機能が求められている。一般に、加齢臭とは、アンモニア、酢酸、イソ吉草酸、ノネナールの各臭気成分に起因すると考えられており、加齢臭の消臭には、これら4つの成分を全て除去する機能が必要とされている。」
(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、セルロース繊維とポリウレタン繊維との混用布帛において、加齢臭に対する消臭性能の安定性が高く、消臭性能の洗濯耐久性に優れ、肌面へのベタツキがなくシャリ感のある風合を保持し、色の鮮明性に優れ、染色堅牢度に優れた消臭性布帛、及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意検討し、実験を重ねたところ、セルロース繊維とポリウレタン繊維との消臭布帛において、染色仕上布帛のpHが弱酸性側となるように酸処理を施すことで加齢臭に対して安定した消臭性能が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、以下のとおりのものである。
【0009】
[1]セルロース繊維とポリウレタン繊維とを混用した消臭性布帛であって、該布帛のpHは、6.0?6.95であり、洗濯前及び洗濯50回後の、消臭加工繊維製品認定基準におけるアンモニア減少率はいずれも70%以上であり、かつ、ノネナール減少率はいずれも75%以上であることを特徴とする前記消臭性布帛。
・・・
【0012】
[4]前記セルロース繊維と塩基性染料可染型繊維に加え、ポリウレタン繊維がさらに混用されている、前記[1]?[3]のいずれかに記載の消臭性布帛。
【0013】
[5]前記塩基性染料可染型繊維がカチオン染料で染色されている、前記[4]に記載の消臭性布帛。」
(ウ)「【0034】
本発明の消臭性布帛は、セルロース繊維とポリウレタン繊維以外に、塩基性染料可染型繊維が混用されていてもよい。本発明において塩基性染料可染型繊維とは、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート又はポリピロピレンテレフタレート単位を主たる構成成分とし、塩基性染料染着座席成分を共重合したポリエステルからなる繊維である。・・・」
(エ)「【0047】
こうして得られた改質セルロース繊維とポリウレタン繊維からなる混用染色布帛や改質していないセルロース繊維と塩基性染料可染型繊維とポリウレタン繊維とからなる混用染色布帛は、社団法人繊維評価技術協議会が定める消臭加工繊維製品認証基準(2010年4月1日版)に規定されている加齢臭に対する消臭性能に優れる。」
(オ)「【0055】
[実施例1]
・・・
得られた3級窒素化合物含有の共重合ポリウレタン化合物を3部、及び少量の青み剤を含む酸化チタン2部を上記のポリウレタン溶液に加えた後、均一に分散溶解した。この溶液を脱泡し、通常の乾式紡糸法により33dtexのポリウレタン繊維を得た。
・・・
【0056】
・・・
染色後は、90℃で湯洗及び水洗を繰り返し、脱水後、可縫製向上剤、柔軟剤水溶液中にリンゴ酸(酸解離定数;3.460、無機性/有機性値;5.00、分子量:134)を添加し、パッド法にて仕上剤を付与し、乾燥、160℃の熱処理にて仕上げた。この際のリンゴ酸の使用濃度は、仕上布帛のpHが6.5となるように調整した。仕上げた染色布帛の目付は210g/m^(2)、コース密度は110本/インチ、ウエル密度は60本/インチであった。・・・」
(カ)「【0058】
[実施例2]
三菱レイヨン(株)製の塩基性染料可染型ポリエステル繊維(商品名:A.H.Y.)70dtex/48fのPOYを常法により185℃にて仮撚加工を行い、未解撚部分を残し、加工工程中に56dtex/45fのキュプラ(旭化成せんい製ベンベルグ)を挿入し、インターレース混繊し、106dtex/93fの複合糸を得た。
次に、得られた複合糸と実施例1のポリウレタン繊維を用い、常法により28ゲージにて、ベアー天竺丸編地を作製した。この編地中のセルロース繊維の混用率は48%で、塩基性染料可染型繊維の混用率は42%で、ポリウレタン繊維の混用率は10wt%であった。
・・・」
(キ)「【0061】
・・・
染色後は、85℃で湯洗及び水洗を繰り返し、脱水後、可縫製向上剤、柔軟剤水溶液中にクエン酸を添加し、パッド法にて仕上剤を付与し、乾燥、160℃の熱処理にて仕上げた。この際のクエン酸の使用濃度は、仕上布帛のpHが6.5となるように調整した。
仕上げた染色布帛の目付は205g/m^(2)、コース密度は100/インチ、ウエル密度50/インチであった。
・・・」
以上より、特に実施例2に着目して総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。以下同様。)が記載されている。
「三菱レイヨン(株)製の塩基性染料可染型ポリエステル繊維(商品名:A.H.Y.)70dtex/48fのPOYを常法により185℃にて仮撚加工を行い、未解撚部分を残し、加工工程中に56dtex/45fのキュプラ(旭化成せんい製ベンベルグ)を挿入し、インターレース混繊し、106dtex/93fの複合糸とし、得られた複合糸とポリウレタン繊維を用い、常法により28ゲージにて、ベアー天竺丸編地を作製し、この編地中のセルロース繊維の混用率は48%、塩基性染料可染型ポリエステル繊維の混用率は42%、ポリウレタン繊維の混用率は10%であり、仕上げた染色布帛の目付は205g/m^(2)であって、仕上布帛のpHが6.5であり、洗濯前及び洗濯50回後の、社団法人繊維評価技術協議会が定める消臭加工繊維製品認定基準におけるアンモニア減少率が、それぞれ84%、83%である、消臭性布帛。」
イ.引用文献2
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性および消臭性に優れたポリウレタン弾性糸に関するものであり、抗菌性および消臭性を有する布帛を得るのに好適なポリウレタン弾性糸に関する。」
(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、繰り返し洗濯後の抗菌性および消臭性に優れたポリウレタン弾性糸を提供することを目的とする。」
(ウ)「【0030】
本発明においては、以上のような基本構成を有するポリウレタンからなるポリウレタン弾性糸に、金属リン酸塩を含有させることで、ポリウレタン弾性糸が元来保有している酢酸ガス、ノネナールガス、イソ吉草酸ガスに対する消臭性を阻害することなく、アンモニアガスに対しても消臭性を向上させることが可能となる。また、同時に、4級アンモニウム塩系抗菌剤をポリウレタン弾性糸に含有させることで繰り返し洗濯後においても優れた抗菌性を保有させることが可能となる。
【0031】
金属リン酸塩としては、ジルコニウム、チタン、アルミニウム、カルシウムからなる金属リン酸塩などを用いることができる。中でも、アンモニアに対する消臭性という観点から層状構造を有するリン酸ジルコニウム、リン酸チタン、トリポリリン酸二水素アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0032】
また、リン酸ジルコニウムなどの金属リン酸塩は、アンモニアに対する消臭性という観点から銀イオンや銅イオンといった金属イオンを担持していない物が好ましい。
【0033】
リン酸ジルコニウムなどの金属リン酸塩の含有量は、ポリウレタン弾性糸全重量に対して1重量%以上10重量%以下の範囲である。リン酸ジルコニウムの含有量が1重量%未満だと、布帛とした際に十分なアンモニアガスの消臭性が得られにくくなるので、好ましくない。より好ましくは1.5重量%以上である。一方、含有量が10重量%を越えると、伸縮特性の悪化やコスト面で好ましくない。より好ましくは7.0重量%以下である。アンモニアガスに対する消臭性と物性面、コスト面というバランスを考慮すると、1.5重量%以上5.0重量%以下の範囲が特に好ましい。」
(エ)「【0064】
[消臭性]
消臭試験は、消臭加工繊維製品認証基準(制定者:社団法人繊維評価技術協議会 製品認証部、制定日:平成14年9月1日)に準拠し、以下のように機器試験により臭気成分の消臭性評価を行なった。なお、社団法人繊維評価技術協議会で、該機器分析試験による各臭気成分の減少率について「消臭効果有り」とする合格基準を、表1に示す。
(検知管法)
1.サンプル(10c m×10cm)をテドラーバッグに入れる。
2.表1に示す所定量の試験ガスを注入し、2時間後の残存ガス濃度(ppm)を成分対応検知管(ガステック社製)で測定する。尚ガス充填量は3L、希釈ガスは乾燥空気または窒素ガスとする。
【0065】
【表1】


ウ.引用文献3
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性及び消臭性に優れ、かつ耐変色に優れたポリウレタン弾性体に関するものであり、特に該ポリウレタン弾性体を用いた弾性繊維に関する。」
(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような状況下なされたものであり、抗菌性及び消臭性に優れ、かつ耐変色に優れたポリウレタン弾性体を提供すること、及び該ポリウレタン弾性体からなるポリウレタン弾性繊維を提供することを課題とする。」
(ウ)「【0043】
次に、本発明に用いられるBの消臭剤(以下、消臭剤Bともいう)のリン酸ジルコニウムは、ジルコニウムの酸化物、水和物、またはイットリウム・スカンジウム・稀土類元素との添加物における、非晶質または結晶質の中から選択される微粒子である。消臭剤Bは、体臭のアンモニア・トリメチルアミン等の塩基性ガスを消臭する能力が高い。」
(エ)「【0050】
また、本発明に用いられる抗菌剤Aの含有量は、要求される抗菌力等を考慮することにより決定されるとよい。例えば、ポリウレタンの固形分に対し、抗菌剤Aを0.1?5.0質量%含有させるとよい。含有量が0.1質量%未満では、十分な抗菌性が得られず、また、5.0質量%を超えると、コストが高くなったり製品の物性が低下しやすいなどの問題が生じるからである。 ・・・」
(オ)「【0078】
B.機器評価(検知管法)
1.サンプル(10cm×10cm)をテドラーバッグに入れる。
2.下記表2に示す所定量の試験ガスを注入し、2時間後の残存ガス濃度を成分対応検知管(ガステック社製)で測定する。尚ガス充填量は3L、希釈ガスは乾燥空気または窒素ガスとする。
3.サンプルを用いずに同様の評価を行い、空試験とする。
4.評価は下記の式に従って、残存ガス濃度の減少率を算出し、消臭率として表記した。
5.該機器分析試験について、社団法人繊維評価技術協議会では、臭気成分の減少率が70%以上の時消臭効果有りと認めるレベルである。」
エ.引用文献4
(ア)「[0001] 本発明は、抗菌性および消臭性に優れ、かつ耐変色性に優れたポリウレタン弾性糸に関するものであり、抗菌性および消臭性を有する布帛を得るのに好適なポリウレタン弾性糸およびその製造方法に関する。」
(イ)「[0010] 本発明は、抗菌性および消臭性に優れ、かつ耐変色性に優れたポリウレタン弾性糸およびその製造方法を提供することを目的とする。」
(ウ)「[0030] 本発明においては、以上のような基本構成を有するポリウレタンからなるポリウレタン弾性糸に、金属リン酸塩を含有させることで、ポリウレタン弾性糸が元来保有している酢酸ガス、ノネナールガス、イソ吉草酸ガスに対する消臭性を阻害することなく、アンモニアガスに対しても消臭性を向上させることが可能となる。また、同時に、分子量120以下のモノアミン化合物をポリウレタン弾性糸に含有させ、ポリウレタン弾性糸からの放散量が100μg/m^(2)以上、好ましくは100μg/m^(2)以上500μg/m^(2)以下となるようにすることで、優れた抗菌性を保有させることが可能となる。
[0031] 本発明における金属リン酸塩は、消臭性という観点から、層状構造を有するリン酸ジルコニウムやリン酸チタン等の4価金属の酸性リン酸塩、および、トリポリリン酸二水素アルミニウム等が好ましい。より好ましくは、リン酸ジルコニウムである。これらは、単独で使用しても良いし、2種以上を混合しても良い。
[0032] 金属リン酸塩の含有量は、ポリウレタン弾性糸全重量に対して0.5重量%以上10重量%以下の範囲であることが好ましい。金属リン酸塩の含有量が0.5重量%未満だと、布帛とした際に十分なアンモニアガスの消臭性が得られにくくなるので、好ましくない。より好ましくは1.0重量%以上である。一方、含有量が10重量%を越えると、伸縮特性の悪化やコスト面で好ましくない。より好ましくは7.0重量%以下である。アンモニアガスに対する消臭性と物性面、コスト面というバランスを考慮すると、1.5重量%以上5.0重量%以下の範囲が特に好ましい。」
(エ)「[0075][消臭性]
消臭試験は、消臭加工繊維製品認証基準(制定者:社団法人繊維評価技術協議会 製品認証部、制定日:平成14年9月1日)に準拠し、以下のように機器試験により臭気成分の消臭性評価を行なった。なお、社団法人繊維評価技術協議会で、該機器分析試験による各臭気成分の減少率について「消臭効果有り」とする合格基準を、表1に示す。
(検知管法)
1.サンプル(10cm×10cm)をテドラーバッグに入れる。
2.表1に示す所定量の試験ガスを注入し、2時間後の残存ガス濃度(ppm)を成分対応検知管(ガステック社製)で測定する。尚ガス充填量は3L、希釈ガスは乾燥空気または窒素ガスとする。」
(2)本件訂正発明1について
ア.本件訂正発明1と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「ポリウレタン繊維」は本件訂正発明1の「ポリウレタン弾性糸」に相当し、以下同様に、「塩基性染料可染型ポリエステル繊維」は「カチオン可染性ポリエステル繊維」に、「布帛」は「布帛」にそれぞれ相当する。
引用発明1の「目付は205g/m^(2)」を、10cm×10cmの質量に換算すると2.05gとなるから、本件訂正発明1の「10cm×10cmの質量が1g以上である」に相当する。
引用発明1のポリウレタン繊維の混用率は10%であるから、本件訂正発明1の「前記ポリウレタン弾性糸の布帛中の混率が5質量%以上30質量%以下である」に相当する。
イ.そうすると、本件訂正発明1と引用発明1は、以下の点で一致し、相違する。
<一致点>
「ポリウレタン弾性糸とカチオン可染性ポリエステル繊維とを含み、10cm×10cmの質量が1g以上である布帛であって、前記ポリウレタン弾性糸の布帛中の混率が5質量%以上30質量%以下である布帛。」
<相違点1>
本件訂正発明1は、「ポリウレタン弾性糸は、層状構造を有するリン酸ジルコニウム、リン酸チタン、トリポリリン酸二水素アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である無機消臭剤を0.5質量%以上10質量%以下の範囲で含有」されているのに対し、引用発明1は、ポリウレタン繊維に無機消臭剤を含むか特定されていない点。
<相違点2>
本件訂正発明1は、「該ポリウレタン弾性糸0.15gに対し繊維評価技術協議会が定めた検知管法に準じて測定したアンモニアガスに対する消臭率が、洗濯処理0回及び10回後共に40%以上であ」るのに対し、引用発明1は、「洗濯前及び洗濯50回後の、社団法人繊維評価技術協議会が定める消臭加工繊維製品認定基準におけるアンモニア減少率が、それぞれ84%、83%」である点。
ウ.<相違点1>について検討する。
引用発明1は、上記1.(1)ア.(イ)に記載のとおり、「セルロース繊維とポリウレタン繊維との混用布帛において、加齢臭に対する消臭性能の安定性が高く、消臭性能の洗濯耐久性に優れ、肌面へのベタツキがなくシャリ感のある風合を保持し、色の鮮明性に優れ、染色堅牢度に優れた消臭性布帛、及びその製造方法を提供する」ことを課題とし、染色仕上布帛のpHが弱酸性側となるように酸処理を施すことで加齢臭に対して安定した消臭性能が得られることを見出したものであるが、消臭性の更なる向上を図るためとしても、引用文献2?4の無機消臭剤を引用発明1の布帛に追加すると、布帛のpHを弱酸性側になるように処理する引用発明1の布帛のpHのバランスが崩れる可能性があるから、層状構造を有するリン酸ジルコニウム、リン酸チタン、トリポリリン酸二水素アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である無機消臭剤を、0.5質量%以上10質量%以下の範囲で含有させることには動機付けがなく、阻害事由となる可能性もある。
よって、引用発明1に引用文献2?4に記載の周知の技術を適用し、引用発明1のポリウレタン繊維に、層状構造を有するリン酸ジルコニウム、リン酸チタン、トリポリリン酸二水素アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である無機消臭剤を、0.5質量%以上10質量%以下の範囲で含有させることは、当業者にとって容易であるとはいえない。
エ.よって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、引用発明1及び引用文献2?4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件訂正発明2について
本件訂正発明2は、本件訂正発明1の発明特定事項を全て含み、更に限定するものであるから、本件訂正発明1と同様の理由から、引用発明1及び引用文献2?4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 取消理由としなかった申立理由について
1.申立人の主張する申立理由のうち、取消理由(決定の予告)としなかった理由
(1)申立人1、2が提出した証拠
なお、申立人1が提出した甲第1号証を「甲1-1」、申立人2が提出した甲第1号証を「甲2-1」等という。
<申立人1>
甲1-1:特開2012-127015号公報
甲1-2:特開2014-40681号公報
甲1-3:特開2013-133562号公報
甲1-4:特開2004-130395号公報
甲1-5:国際公開第2013/133195号
<申立人2>
甲2-1:トリノクールCF(登録商標)の商品カタログ
甲2-2:特開2006-28453号公報
甲2-3:特開2012-127015号公報
甲2-4:国際公開第2012/53401号
甲2-5:特開2015-38261号公報
甲2-6:特開2012-184531号公報
甲2-7:特開2014-9411号公報
甲2-8:本件特許の意見書
甲2-9:本件特許の審判請求書
甲2-10:国際公開第2012/176648号
甲2-11:特開平6-64112号公報
甲2-12:実開平6-37380号公報
甲2-13:実開平6-79786号公報

(2)申立人1の主張する特許法第29条第2項に係る理由
ア.本件特許の請求項1?3に係る発明は、甲1-2、甲1-1及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。
イ.本件特許の請求項1?3に係る発明は、甲1-3、甲1-1及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。
(3)申立人2の主張する特許法第29条第1項第1号?第3号に係る理由
本件特許の請求項1?2に係る発明は、甲2-1に記載された発明である。
(4)申立人2の主張する特許法第29条第2項に係る理由
ア.本件特許の請求項1?2に係る発明は、甲2-1に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。
イ.本件特許の請求項1?3に係る発明は、甲2-1、甲2-2、甲2-3及び甲2-4に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。
ウ.本件特許の請求項1に係る発明は、甲2-6、甲2-2、甲2-3及び甲2-4に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。
エ.本件特許の請求項1に係る発明は、甲2-2及び甲2-7に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。
オ.本件特許の請求項1に係る発明は、甲2-10、甲2-2、甲2-3及び甲2-4に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。
(5)申立人2の主張する特許法第36条第6項第1号に係る理由
本件特許掲載公報の発明の詳細な説明には、リン酸ジルコニウム、トリポリリン酸二水素アルミニウム、または、二酸化ケイ素と酸化亜鉛からなる複合鉱物を用いた例しか開示されておらず、それら特定の無機消臭剤以外の場合でも、本件特許発明1が解決しようとする課題を解決できると当業者が認識できるような記載となっていないため、サポート要件を満たさない。

2.上記主張についての検討
(1)上記1.(2)ア.について
申立人1は、「甲1発明のポリウレタン弾性糸を、甲1発明と共通する用途が想定されている甲2号証に記載された生地の材料として用いることは、当業者が容易に想到できたことである。」(特許異議申立書第7頁)と主張するが、甲1-2に記載された発明(以下、「甲1-2発明」等という。)は、「常圧環境下でカチオン染料に対して濃色性を示し、堅牢度特性が良好であって伸縮性に優れ、更には熱伝導性や吸湿性を付加した生地や、該生地がカチオン染料によって染色され審美性に優れた布地、加えて染色かつ熱処理加工がなされた加工布を提供する」(段落【0007】)ことを課題とするものであって、甲1-1発明における消臭性という課題と異なるものであ
り、この甲1-1発明に甲1-2に記載された事項を適用する動機付けはないから、上記申立人1の主張は採用できない。
(2)上記1.(2)イ.について
甲1-1発明は、ポリウレタン弾性糸とカチオン可染性ポリエステル繊維とを含む布帛におけるポリウレタン弾性糸の消臭率を調整するものではなく、ポリウレタン弾性糸自体の消臭率を調整するものであり、一方、甲1-3発明は、ポリウレタン弾性糸とカチオン可染性ポリエステル繊維とを含む布帛の消臭率を調整するものであるが、ポリウレタン弾性糸とカチオン可染性ポリエステル繊維とを含む布帛中のポリウレタン弾性糸のみの消臭率を調整することは甲1-3に記載も示唆もなく、また、甲1-3発明において、ポリウレタン弾性糸自体の消臭率を調整する動機付けはないから、上記申立人1の主張は採用できない。
(3)上記1.(3)について
甲2-1には、ポリウレタン弾性糸について、「ポリウレタン弾性糸0.15gに対し繊維評価技術協議会が定めた検知管法に準じて測定したアンモニアガスに対する消臭率が、洗濯処理0回及び10回後共に40%以上」である点が記載も示唆もないから、甲2-1発明は本件特許の請求項1?2に係る発明ではない。
よって、上記申立人2の主張は採用できない。
(4)上記1.(4)ア.?オ.について
甲2-1、甲2-6、甲2-2及び甲2-10には、ポリウレタン弾性糸を、「ポリウレタン弾性糸0.15gに対し繊維評価技術協議会が定めた検知管法に準じて測定したアンモニアガスに対する消臭率が、洗濯処理0回及び10回後共に40%以上」とする点が記載も示唆もないから、本件特許の請求項1?3に係る発明は、甲2-1、甲2-6、甲2-2及び甲2-10に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、上記申立人2の主張は採用できない。
(5)上記1.(5)について
請求項1に、無機消臭剤として、「層状構造を有するリン酸ジルコニウム、リン酸チタン、トリポリリン酸二水素アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である無機消臭剤」が限定されたから、特許法第36条第6項第1号に係る申立理由は解消した。

第7 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正発明1、2に係る特許は、申立人の主張する申立理由、取消理由通知及び取消理由通知(決定の予告)の取消理由によって取り消すことができず、また、他に本件訂正発明1、2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件訂正発明3は本件訂正により削除されたため、申立人による特許異議の申立てについて、請求項3に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなった。
よって、本件訂正発明3に係る特許異議の申立ては不適法であって、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。



 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン弾性糸とカチオン可染性ポリエステル繊維とを含み、10cm×10cmの質量が1g以上である布帛であって、前記ポリウレタン弾性糸は、層状構造を有するリン酸ジルコニウム、リン酸チタン、トリポリリン酸二水素アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である無機消臭剤を0.5質量%以上10質量%以下の範囲で含有し、該ポリウレタン弾性糸0.15gに対し繊維評価技術協議会が定めた検知管法に準じて測定したアンモニアガスに対する消臭率が、洗濯処理0回及び10回後共に40%以上であり、前記ポリウレタン弾性糸の布帛中の混率が5質量%以上30質量%以下である、布帛。
【請求項2】
前記カチオン可染性ポリエステル繊維の布帛中の混率が40質量%以上である、請求項1に記載の布帛。
【請求項3】(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-09-21 
出願番号 特願2015-90171(P2015-90171)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (D03D)
P 1 651・ 121- YAA (D03D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 堀内 建吾  
特許庁審判長 井上 茂夫
特許庁審判官 久保 克彦
村山 達也
登録日 2020-03-18 
登録番号 特許第6677936号(P6677936)
権利者 東レ・オペロンテックス株式会社
発明の名称 消臭布帛  
代理人 福岡 満  
代理人 特許業務法人太陽国際特許事務所  
代理人 一條 力  
代理人 福岡 満  
代理人 一條 力  
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