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審決分類 審判 一部申し立て 4項(134条6項)独立特許用件  B22F
審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B22F
審判 一部申し立て 4号2号請求項の限定的減縮  B22F
審判 一部申し立て 2項進歩性  B22F
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B22F
審判 一部申し立て 5項独立特許用件  B22F
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  B22F
審判 一部申し立て 4項3号特許請求の範囲における誤記の訂正  B22F
審判 一部申し立て 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明  B22F
管理番号 1379806
異議申立番号 異議2020-700680  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-12-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-09-10 
確定日 2021-09-27 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6663079号発明「金被覆銀平板状粒子、金被覆銀平板状粒子分散液及びその製造方法、塗布膜、並びに、反射防止光学部材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6663079号の明細書、特許請求の範囲を、令和3年2月12日付けの訂正請求書に添付された訂正明細書、令和3年5月14日付け手続補正書に添付された補正後の訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-13〕について訂正することを認める。 特許第6663079号の請求項1-5、11に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6663079号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?13に係る特許についての出願(以下、「本願」という。)は、2018年(平成30年)3月6日(優先権主張2017年3月31日、日本国)を国際出願日とする特願2019-509110号であって、令和2年2月17日にその特許権の設定登録がされ、同年3月11日に特許掲載公報が発行され、その後、本件特許について、同年9月10日付けで、特許異議申立人金山愼一(以下、「申立人」という。)により、請求項1?5、11に係る特許について特許異議の申立てがなされ、同年12月14日付けで取消理由が通知され、特許権者から令和3年2月12日に意見書が提出されるとともに、訂正請求書が提出され(以下、「本件訂正請求書」といい、本件訂正請求書による訂正請求を「本件訂正請求」という。)、同年4月12日付けで訂正拒絶理由通知書が通知され、特許権者により同年5月14日に意見書が提出されるとともに、本件訂正請求書に対して手続補正がなされ、申立人により同年7月1日に意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 本件訂正請求書に対する補正の適否
(1)補正の内容
令和3年5月14日になされた手続補正は、本件訂正請求書を補正するものであって、そのうち、「7.請求の理由」「(2)訂正事項」に係る補正は以下のとおりである。

ア 訂正請求書の「7.請求の理由」「(2)訂正事項」の「ア 訂正事項1」に、
「特許請求の範囲の請求項1に「粒子の主平面における金被覆層の平均厚みが0.1nm以上2nm以下であり」と記載されているのを、「粒子の主平面における金被覆層の平均厚みが0.4nm以上2nm以下であり」に訂正し、「粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比が0.02以上」と記載されているのを、「粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比が0.1以上1.4以下」に訂正する。」とあるのを、
「特許請求の範囲の請求項1に「粒子の主平面における金被覆層の平均厚みが0.1nm以上2nm以下であり」と記載されているのを、「粒子の主平面における金被覆層の平均厚みが0.4nm以上2nm以下であり」に訂正し、「粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比が0.02以上」と記載されているのを、「粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比が0.2以上1.4以下」に訂正する。」に補正する。

イ 訂正請求書の「7 請求の理由」「(2)訂正事項」の「イ 訂正事項2」に、
「特許請求の範囲の請求項2に「平均厚みの比が0.02以上」と記載されているのを、「平均厚みの比が0.1以上1.4以下」に訂正する。」とあるのを、
「特許請求の範囲の請求項2に「平均厚みの比が0.02以上」と記載されているのを、「平均厚みの比が0.2以上1.4以下」に訂正する。」に補正する。

ウ なお、前記ア?イの補正に合わせて「訂正特許請求の範囲」も補正後のものが添付されている。

(2)補正の適否
上記(1)ア、イの補正は、請求項1及び請求項2の「粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比」の範囲を減縮する、実質的に審理対象の拡張変更を伴わない補正であるから、訂正請求書の要旨を変更するものには該当しない。
したがって、上記(1)ア、イの補正を認める。

2 訂正請求の趣旨及び訂正の内容
(1)訂正請求の趣旨
令和3年5月14日付け手続補正書により補正された本件訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)は、「特許第6663079号の明細書、及び特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正明細書(以下、単に「訂正明細書」という。)、及び令和3年5月14日付け手続補正書に添付された補正後の訂正特許請求の範囲(以下、単に「補正後の訂正特許請求の範囲」という。)のとおり、訂正後の請求項1?13について訂正することを求める」というものであり、その訂正の内容は、下記(2)のとおりである。なお、当該第2の2では、下線は訂正した箇所を表す。

(2)訂正の内容
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「粒子の主平面における金被覆層の平均厚みが0.1nm以上2nm以下であり」と記載されているのを、「粒子の主平面における金被覆層の平均厚みが0.4nm以上2nm以下であり」に訂正し、「粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比が0.02以上」と記載されているのを、「粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比が0.2以上1.4以下」に訂正する。

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「平均厚みの比が0.02以上」と記載されているのを、「平均厚みの比が0.2以上1.4以下」に訂正する。

ウ 訂正事項3
願書に添付した明細書の段落【0198】の表2において、表中に記載される「実施例1?実施例18」及び「比較例1?比較例6」に関する事項のうち、「実施例7?実施例11」及び「比較例5」に関する事項を削除する。

エ 訂正事項4
願書に添付した明細書の段落【0179】において、「[実施例2?14、比較例5?6]」と記載されているのを、「[実施例2?6、12?14、比較例6]」に訂正し、「分散液B2?B14及び分散液C5?C6」と記載されているのを「分散液B2?B6、B12?B14及び分散液C6」に訂正する。

オ 訂正事項5
願書に添付した明細書の段落【0188】において、「分散液B1?B18、及び分散液C1?C6」と記載されているのを「分散液B1?B6、B12?B18、及び分散液C1?C4、C6」に訂正し、
願書に添付した明細書の段落【0189】において、「分散液B1?B18、及び分散液C1?C6」と記載されているのを「分散液B1?B6、B12?B18、及び分散液C1?C4、C6」に訂正し、
願書に添付した明細書の段落【0192】、【0194】、及び【0195】において、「分散液B1?B18、及び分散液C1?C6」と記載されているのを「分散液B1?B6、B12?B18、及び分散液C1?C4、C6」に訂正し、
願書に添付した明細書の段落【0195】において、「分散液B1?B13(当審注:B13はB18の誤記と認められる。)、及び分散液C1?C6」と記載されているのを「分散液B1?B6、B12?B18、及び分散液C1?C4、C6」に訂正する。

カ 訂正事項6
願書に添付した明細書の段落【0199】において、「実施例1?18で作製した分散液B1?B18」と記載されているのを、「実施例1?6、12?18で作製した分散液B1?B6、B12?B18」に訂正する。

キ 訂正事項7
願書に添付した明細書の段落【0218】の表4において、表中に記載される「実施例19?実施例38」及び「比較例7?比較例9」に関する事項のうち、「実施例25?実施例29」及び「比較例11」に関する事項を削除する。

ク 訂正事項8
願書に添付した明細書の段落【0204】において、「[実施例20?31、36?38、比較例7?12]」と記載されているのを、「[実施例20?24、30?31、36?38、比較例7?10、12]」に訂正し、
「実施例19において、分散液B1に換えて、分散液B2?B14、B17?18及び分散液C1?C6のいずれかの分散液を用いた以外は、実施例19と同様にして、塗布液B2?B13、14?16及び塗布液C1?C6を調製した。」と記載されているのを、「実施例19において、分散液B1に換えて、分散液B2?B6、B12?B16及び分散液C1?C4、C6のいずれかの分散液を用いた以外は、実施例19と同様にして、塗布液B2?B6、B12?B16を調製した。」に訂正し、
「実施例19と同様にして塗布膜B1?B13、18?20及び塗布膜C1?C6を形成した。」と記載されているのを、「実施例19と同様にして塗布膜B1?B6、B12?B13、B18?B20及び塗布膜C1?C4、C6を形成した。」に訂正する。

ケ 訂正事項9
願書に添付した明細書の段落【0218】の表4において、表中に「塗布液No.」と記載されている箇所を「分散液No.」に訂正する。

コ 訂正事項10
願書に添付した明細書の段落【0205】において、「分散液B1に換えて分散液B3を用い、」と記載されているのを、「分散液B1に換えて分散液B6を用い、」に訂正し、
段落【0218】の表4中、実施例32に用いる分散液の表示を「B3」から「B6」に訂正する。

サ 訂正事項11
願書に添付した明細書の段落【0206】において、「実施例19において、特定有機成分1(1-(5-メチルウレイドフェニル)-5-メルカプトテトラゾール)に換えて、」と記載されているのを、「実施例19において、分散液B1に換えて分散液B6を用い、特定有機成分1(1-(5-メチルウレイドフェニル)-5-メルカプトテトラゾール)に換えて、」に訂正し、
段落【0218】の表4中、実施例33、34及び35のそれぞれにおいて、「B3」と記載されている箇所を「B6」に訂正する。

シ 訂正事項12
願書に添付した明細書の段落【0210】において、「塗布膜B1?B20「及び塗布膜C1?C6」と記載され、段落【0215】において、「塗布膜B1?B20及び塗布膜C1?C6」と記載されているのを、いずれも、「塗布膜B1?B6、B12?B20及び塗布膜C1?C4、C6」に訂正する。

ス 訂正事項13
願書に添付した明細書の段落【0221】において、「塗布膜B1?B20」と記載されるのを、「塗布膜B1?B6、B12?B20」に訂正する。

セ 訂正事項14
願書に添付した明細書の段落【0225】において、「実施例16で作製した塗布液B3を、」と記載されるのを、「実施例21で作製した塗布液B3を、」に訂正する。

3 当審の判断
ア 訂正事項1について
(ア)訂正の目的について
訂正事項1に係る訂正は、請求項1に記載の「粒子の主平面における金被覆層の平均厚み」を「0.1nm以上2nm以下」から「0.4nm以上2nm以下」に限定し、かつ、「粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比」を「0.02以上」から「0.2以上1.4以下」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(イ)訂正が、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないかについて
訂正事項1に係る訂正は、請求項1に記載の「粒子の主平面における金被覆層の平均厚み」及び「粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比」を限定するものであるから、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。

(ウ)訂正が願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるかについて
本件特許の明細書には、以下の記載がある。

「【0198】
【表2】



上記【0198】の表2には、「粒子の主平面における金被覆層の平均厚み」である金被覆層の主平面厚み(A)が0.4nmである金被覆銀平板状粒子(実施例1、6)、「粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比」である金被覆層の厚み比[A/B]が0.2である金被覆銀平板状粒子(実施例16)、及び、同[A/B]が1.4である金被覆銀平板状粒子(実施例12)が記載されている。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。

(エ)特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて
訂正事項1に係る訂正は、上記(ア)に示したとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するが、本件は、訂正前の請求項1?5、11のみに対して特許異議の申立てがされているので、訂正事項1について、訂正後の請求項1?5、11に係る発明は特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
一方、特許異議の申立てがされていない請求項6?10、12?13に係る発明は、訂正後の請求項1を間接的に引用する発明であり、請求項1の訂正に連動して訂正がなされているので独立特許要件が課されることになる。
したがって、訂正後の請求項6?10、12?13に係る発明が、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて、検討を行う。

(エ-1)本件訂正後発明
訂正後の請求項6?10、12?13に係る発明は、訂正後の請求項1を間接的に引用する発明であり、訂正後の請求項1に係る発明は、補正後の訂正特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1の記載は以下のとおりのものである。
「銀平板状粒子と金被覆層とを有し、粒子の主平面における金被覆層の平均厚みが0.4nm以上2nm以下であり、かつ粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比が0.2以上1.4以下である、金被覆銀平板状粒子。」

(エ-2)特許法第36条第4項第1号に規定する実施可能要件について
上記2(2)アに記載したとおり、訂正事項1は請求項1の記載の訂正であるから、令和3年4月12日付けの訂正拒絶理由通知書の「第2 訂正の適否についての当審の判断」の「(1)訂正事項1について」の「エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて」の「(イ)特許法第36条第4項第1号に規定する実施可能要件について」(6頁8行?23行)で説明した訂正拒絶理由が解消しているかを検討する。

特許権者は、訂正事項3及び訂正事項7により、本件特許の明細書における実施例及び比較例に関する事項のうち、「実施例7?実施例11」、「比較例5」、「実施例25?実施例29」、「比較例11」に関する事項を削除するとともに、上記訂正拒絶理由通知書に対し、特許権者が手続補正と同時に提出した意見書において、「詳細には、本件特許明細書の段落【0198】に記載される表2において、実施例7と比較例5、実施例8と実施例10、実施例9と実施例11は、錯誤により不適切な実験結果が記載されてしまっていたため、分散液の作製条件が同一となっており、これらの実施例及び比較例の存在は、表2の記載が意図する事項(即ち、分散液の種類とそれにより得られる金被覆銀平板状粒子の形状)に齟齬を来し、表2の記載を不明瞭にするものであることから、表2から実施例7?実施例11及び比較例5に関する事項を削除した。」(3頁)と説明しているから、当該削除の合理的理由を説明していると認められる。
また、本件訂正後の明細書の段落【0169】?【0178】において、訂正後の請求項1に係る発明の金被覆銀平板状粒子の作製方法が詳細に説明されており、段落【0198】の表2に記載の各実施例及び比較例についても、粒子の分散液の作製条件の変動と、得られる金被覆銀平板状粒子における「粒子の主平面における金被覆層の平均厚み」及び「粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比」との相関が示されているといえるから、本件訂正の訂正明細書の発明の詳細な説明は、当業者が訂正後の請求項1に係る発明及びこれを引用する同請求項6?10、12?13に係る発明を実施することができる程度に、明確かつ十分に記載されたものといえる。

(エ-3)特許法第36条第6項第1号に規定するサポート要件について
令和3年4月12日付けの訂正拒絶理由通知書の「第2 訂正の適否についての当審の判断」の「(1)訂正事項1について」の「エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて」の「(ウ)特許法第36条第6項第1号に規定するサポート要件について」(6頁24行?8頁15行)で説明した訂正拒絶理由が解消しているかを検討する。

令和2年12月14日付けの取消理由通知書の「第4 取消理由」の「3 特許法第36条第6項第1号に規定するサポート要件について(職権で採用)」のア?イ(20頁7行?21頁19行)に記載したとおり、本件特許に係る発明が解決しようとする課題(以下単に「課題」という。)は、「所望の粒子形状を保ったまま」「銀平板状粒子の全面(すなわち、粒子の主平面及び端面の全て)に対して均一かつ十分な金被覆」を行って、「酸化耐性に優れた金被覆銀平板状粒子及び金被覆銀平板状粒子を含む分散液」及び「酸化耐性に優れた塗布膜」を提供することであると認められる。
上記課題に対して、訂正後の請求項1では、金被覆銀平板状粒子の「金被覆層」について次のように特定されている。
「粒子の主平面における金被覆層の平均厚みが0.4nm以上2nm以下であり、かつ粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比が0.2以上1.4以下である」

訂正明細書の【0198】の表2において、「粒子の主平面における金被覆層の平均厚み」は「主平面厚み(A)」の欄に、「粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比」は「厚み比[A/B]」の欄に示されている。
表2の実施例1?18のうち、実施例1?6、12、15?18で作製した分散液B1?B6、B12、B15?B18が含む金被覆銀平板状粒子は、「主平面厚み(A)」及び「厚み比[A/B]」の値が両方とも訂正後の請求項1の数値範囲を満たし、該粒子を有する分散液B1?B6、B12、B15?B18は実用上問題ない酸化耐性(評価レベルA、B)を有することが示されている。
(なお、実施例7?11、13?14については、次の理由により除外した。
・実施例7、9?10で作製した分散液B7、B9?B10が含む金被覆銀平板状粒子は、「厚み比[A/B]」の値が訂正後の請求項1の数値範囲を満たさず、訂正事項3により削除されている。
・実施例8、11で作製した分散液B8、B11が含む金被覆銀平板状粒子は、「主平面厚み(A)」及び「厚み比[A/B]」の値が両方とも訂正後の請求項1の数値範囲を満たすが、訂正事項3により削除されている。
・実施例13、14で作製した分散液B13?B14が含む金被覆銀平板状粒子は、「主平面厚み(A)」及び「厚み比[A/B]」の値が両方とも訂正後の請求項1の数値範囲を満たさない。)

ここで、訂正後の請求項1の「粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比」の下限値「0.2」に注目すると、表2の実施例1?6、12、15?18で最も「厚み比[A/B]」の値が小さいのは実施例16でその値は「0.2」であるから、金被覆銀平板状粒子の金被覆層が、「粒子の主平面における金被覆層の平均厚みが0.4nm以上2nm以下であり、かつ粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比」が0.2以上1.4以下の場合には、課題を解決し得ることが確認できる。

したがって、訂正後の請求項1に係る発明は、実施例の記載に基いて課題を解決し得るものであり、本件訂正明細書に開示された発明の範囲を超えるものではなく、発明の詳細な説明に記載されたものである。訂正後の請求項1を直接的又は間接的に引用する訂正後の請求項6?10、12?13に係る発明についても同様である。

なお、令和3年7月1日付けの申立人による意見書の5?13頁の「訂正後の請求項1及びこれを引用する請求項6?10、12?13には、サポート要件違反がある」との主張は、以下の点で採用することができない。

・同意見書の6?7頁の「ア 訂正後の【表2】において、金被覆銀平板状粒子が記載されている唯一の比較例である比較例6は、「粒子の主平面における金被覆層の平均厚みが0.4nm以上2nm以下であり、」及び「粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比が0.2以上1.4以下である、」の双方を満たさないものであること」及び同意見書の7?8頁の「イ 【表2】には、比較例が1つしかなく、しかもその端面厚みが極端な厚みであること」での主張は、訂正後の明細書(【表2】)では、実施例のすべてが「粒子の主平面における金被覆層の平均厚みが0.4nm以上2nm以下であり、」及び「粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比が0.2以上1.4以下である、」の双方を満たし、唯一の比較例であり端面厚みが10.1nmと極端に厚い比較例6は「粒子の主平面における金被覆層の平均厚みが0.4nm以上2nm以下であり、」及び「粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比が0.2以上1.4以下である、」の双方を満たさないものとなった結果、本件明細書の記載からは、「粒子の主平面における金被覆層の平均厚み」や「粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比」が酸化耐性の評価にどのような影響を与えるのかを読み取ることはできないというものである。
しかし、訂正後の請求項1に係る発明は、「粒子の主平面における金被覆層の平均厚みが0.4nm以上2nm以下であり、」及び「粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比が0.2以上1.4以下である、」の双方の特定事項を満たすことで、実用上問題のない酸化耐性を有する金被覆銀平板状粒子を提供する発明であるから、それぞれの特定事項の一方のみを満たすことが酸化耐性に与える影響を読み取る必要があるとは認められない。
よって、この主張は採用できない。

・同意見書の8?10頁の「ウ 厚さの比と酸化耐性の評価の関係が不明であり、しかも、実施例14・比較例6と実施例5・実施例16とでは、厚さの比の増減が酸化耐性の評価に与える影響が異なっていること」での主張は、実施例14・比較例6と実施例5・実施例16とでは、粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比の増減が酸化耐性の評価に与える影響が逆になっていること、実施例14と実施例5は、いずれも粒子の端面における金被覆層の平均厚みが1.0?1.1nmとほぼ同じであるが、粒子の主平面における金被覆層の平均厚み及び酸化耐性の評価は、実施例14は0.11nm、「B」であるのに対し、実施例5は0.6nm、「B」となっており、粒子の主平面における金被覆層の平均厚みを変化させても酸化耐性が向上しない結果となっていることから、粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比が、課題を解決する手段とはなり得ないというものである。
しかし、本件明細書の表2には、「粒子の主平面における金被覆層の平均厚みが0.4nm以上2nm以下であり、」と「粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比が0.2以上1.4以下である、」の双方を満たす実施例では、実用上問題のない酸化耐性である「A」又は「B」を有する金被覆銀平板状粒子が得られているから、一方の特定事項だけでなく双方の特定事項を満たすことが、課題を解決する手段であることがわかり、課題を解決する手段を検討する際に、一方のみの特定事項と酸化耐性が相関していることを示す必要があるとはいえない。
また、本件明細書の【0194】?【0196】の「(3)酸化耐性(耐H_(2)O_(2)性)評価」の記載から、「H_(2)O_(2)の含有量が0質量%の評価用サンプルと3質量%の評価用サンプルとの吸収ピーク強度 AM(Abs.Max)(0%)及びAM(3%)を求め、その強度比:AM(3%)/AM(0%)」が「0.7以上0.9未満」の範囲内であれば酸化耐性の評価は「B」である。すなわち、その強度比には幅があるため、実施例14と実施例5の酸化耐性の評価が同じ「B」であるからといって、強度比が同一であり酸化耐性が向上しない結果になっているとはいうことはできない。
よって、この主張は採用できない。

・同意見書の10頁の「エ 訂正後の請求項1の全範囲において、酸化耐性の評価「B」以上が得られることを本件明細書から理解することはできないこと」での主張は、実施例5と実施例16の「粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比」と酸化耐性の評価を比較することから、「粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比」を増加させることにより、酸化耐性が悪化するということを前提とできるとき、実施例1(主平面の平均厚み:0.4nm、厚み比0.4、酸化耐性「B」)の厚み比を1.4まで増加させると、酸化耐性が「C」まで悪化する可能性があるため、訂正後の請求項1の全範囲(「粒子の主平面における金被覆層の平均厚みが0.4nm以上2nm以下であり、」及び「粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比が0.2以上1.4以下である、」)において、実用上問題のない酸化耐性である「B」以上が得られることを本件明細書から理解することはできないというものである。
しかし、訂正後の請求項1に係る発明は、「粒子の主平面における金被覆層の平均厚みが0.4nm以上2nm以下であり、」及び「粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比が0.2以上1.4以下である、」の双方の特定事項を満たすことで、実用上問題のない酸化耐性を有する金被覆銀平板状粒子を提供する発明であり、一方の特定事項と酸化耐性が相関性を有することは不明であるから、実施例5と実施例16の比較から上記前提が成り立つとは認められない。
また、当該前提が成り立つとしても、実施例1の粒子の主平面における金被覆層の平均厚みはそのままで、粒子の端面における金被覆層の平均厚みだけを1.0nmから0.28nmに減少させる(「粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比」を0.4から1.4に増加させる)ことが可能であるとも認められない。
よって、この主張は採用できない。

・同意見書の10?11頁の「オ 【表2】に記載されていない要因が存在すること」での主張は、実施例7と比較例5、実施例8と実施例10、実施例9と実施例11は、粒子分散液の作製条件が完全に同一であるにもかかわらず、得られた金被覆銀平板状粒子の形状が異なっていることから、表2には、粒子分散液の作製条件や金被覆銀平板状粒子の物性や構造が十分に記載されていない可能性があるので、本件明細書の実施例、比較例の金被覆銀平板状粒子の酸化耐性の評価には、これらの表2に記載されていない金被覆銀平板状粒子の物性や構造等が影響を与えている可能性があるというものである。
しかし、申立人は、表2に記載されていない作製条件及び物性値が存在することについて具体的な根拠を示していないため、そのような作製条件及び物性値が存在し、酸化耐性の評価に影響を与えているとは認められない。
よって、この主張は採用できない。

・同意見書の11?12頁の「カ 金原子の配置に分布があったり、配置構造に差異があったりすることが考えられること」での主張は、金原子の直径は0.288nm(原子半径:1.44Å)である(甲15)のに対し、実施例14や比較例6の粒子の主平面における金被覆層の厚さは0.1nmであり、金原子の直径の約3分の1であることから、実施例14や比較例6では、金原子が粒子の主平面を一様に覆う被膜を形成しているわけではなく、金原子が付着している箇所と付着していない箇所が存在することは明らかであって、その平均の厚みが0.1nmであるとしても、金原子の配置に分布があったり、配置構造に差異があったりすることが想定され、その分布や配置構造の差異が、酸化耐性の評価に影響を与えたことは十分に考えられること、そして、そのような表2には記載されていない金原子の配置の分布や配置構造などの要因を度外視して、訂正後の請求項1の全範囲(「粒子の主平面における金被覆層の平均厚みが0.4nm以上2nm以下であり、」及び「粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比が0.2以上1.4以下である、」)において、実用上問題のない酸化耐性である「B」以上が得られることを本件明細書から理解することはできないというものである。
これに対し、金の原子半径は1.44Åであるから(申立人が同意見書に添付した甲第15号証:岩波理化学辞典第3版増補版、玉虫文一他編、株式会社岩波書店、1986年7月15日第3版増補版第7刷発行の「金」の項を参照)、金原子の直径は1.44×2=2.88Å=0.288nmであり、0.288nmより厚さが小さい金被覆層は、金原子が部分的に配置されていないように分布している可能性は存在する。
しかしながら、本件明細書の表2からは、厚みの平均値が特定事項の数値範囲内であれば、酸化耐性の評価が実用上問題のない程度の金被覆銀平板状粒子といえることがわかるから、金原子の配置の分布や配置構造が酸化耐性の評価に与える影響について考慮する必要があるとは認められない。
よって、この主張は採用できない。

(エ-4)小括
よって、(エ-1)?(エ-3)の検討の結果、訂正後の請求項1を間接的に引用する訂正後の請求項6?10、12?13に係る発明が、特許出願の際に独立して特許を受けることができないとする理由は発見できない。

イ 訂正事項2について
(ア)訂正の目的について
訂正事項2に係る訂正は、請求項2に記載の「粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比」を「0.02以上」から「0.2以上1.4以下」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(イ)訂正が、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないかについて
訂正事項2に係る訂正は、請求項2に記載の「粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比」を限定するものであるから、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。

(ウ)訂正が願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるかについて
上記ア(ウ)と同様に、訂正事項2に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。

(エ)特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて
訂正事項2に係る訂正は、上記(ア)に示したとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するが、本件は、訂正前の請求項1?5、11のみに対して特許異議の申立てがされているので、訂正事項2について、訂正後の請求項2?5、11に係る発明は特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
一方、特許異議の申立てがされていない請求項6?10、12?13に係る発明は、訂正後の請求項2を間接的に引用する発明であり、独立特許要件が課されることになる。
したがって、訂正後の請求項6?10、12?13に係る発明が、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて、検討を行う。

(エ-1)本件訂正後発明
訂正後の請求項6?10、12?13に係る発明は、訂正後の請求項2を間接的に引用する発明であり、訂正後の請求項2に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項2に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項2の記載は以下のとおりのものである。
「主平面における金被覆層の平均厚みが0.7nm以上1.5nm以下であり、かつ粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比が0.2以上1.4以下である、請求項1に記載の金被覆銀平板状粒子。」

(エ-2)特許法第36条第4項第1号に規定する実施可能要件について
上記ア(エ-2)で検討したように、本件特許の明細書の発明の詳細な説明は、当業者が訂正後の請求項2に係る発明及びこれを引用する同請求項6?10、12?13に係る発明を実施することができる程度に、明確かつ十分に記載されたものである。

(エ-3)特許法第36条第6項第1号に規定するサポート要件について
上記ア(エ-3)で検討したように、訂正後の請求項1に係る発明は、本件訂正明細書に開示された発明の範囲を超えるものではなく、発明の詳細な説明に記載されたものである。訂正後の請求項2を直接的又は間接的に引用する訂正後の請求項6?10、12?13に係る発明についても同様である。

よって、(エ-1)?(エ-3)の検討の結果、訂正後の請求項2を間接的に引用する訂正後の請求項6?10、12?13に係る発明は、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものである。

ウ 訂正事項3について
(ア)訂正の目的について
訂正事項3に係る訂正は、明細書の段落【0198】の表2において、実施例7と比較例5、実施例8と実施例10、実施例9と実施例11は、それぞれ、分散液の作製条件が同一となっているにもかかわらず「酸化耐性」及び「粒子生産性」の評価が異なっており、これらの実施例及び比較例の存在は、表2の記載が意図する事項(即ち、分散液の種類とそれにより得られる金被覆銀平板状粒子の形状と効果)に齟齬を来し、表2の記載を不明瞭にするものであるから、表2において実施例7?11及び比較例5に関する事項を削除する訂正であって、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

(イ)訂正が、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないかについて
訂正事項3に係る訂正は、表2から実施例7?11及び比較例5に関する事項を削除する訂正であり、請求項に記載された事項の解釈に影響を与えるものではないから、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。

(ウ)訂正が願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるかについて
訂正事項3に係る訂正は、表2から実施例7?11及び比較例5に関する事項を削除する訂正であり、当該削除により新たな技術事項が明細書中に導入されるものではないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。

(エ)特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて
訂正事項3に係る訂正は、上記(ア)に示したとおり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当するから、訂正事項3について、訂正後の請求項1?13に係る発明は特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

(オ)申立人の主張について
申立人は、令和3年7月1日付けの意見書の4?5頁において、「訂正前の段落【0198】の表2は、実施例7と比較例5、実施例8と実施例10、実施例9と実施例11は、それぞれ粒子分散液の作製条件が完全に同一であるのもかからず、得られた金被覆銀平板状粒子の形状(粒子の主平面における金被覆層の平均厚み(A)、及び、粒子の端面における金被覆層の平均厚み(B)(さらには、粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比(A/B))が異なっており、本件明細書の実施例、比較例の分散液は、【表2】に記載されていない粒子分散液の作製条件を異ならせて作製されたものであり、これらの分散液で得られた金被覆銀平板状粒子も、【表2】に記載されていない物性や構造の点でも、異なっている(金粒子の積層態様等)ことを理解できる内容であった。
ところが、訂正後の段落【0198】の表2では、実施例7?11、比較例5が削除されており(訂正事項3)、本件明細書の実施例、比較例の分散液が、【表2】に記載されていない粒子分散液の作製条件を異ならせて作製されたものであり、これらの分散液で得られた金被覆銀平板状粒子も、【表2】に記載されていない物性や構造の点でも、異なっている(金粒子の積層態様等)ことが覆い隠されている。
よって、訂正事項3は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものではなく、また、新たな技術的事項を導入するものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものでもない。」と主張している。
これに対し、上記アの(エ-3)で記載したとおり、表2には記載されていない製造条件や物性が存在する可能性は否定できないものの、それらが存在するとも認められないから、「本件明細書の実施例、比較例の分散液は、【表2】に記載されていない粒子分散液の作製条件を異ならせて作製されたものであり、これらの分散液で得られた金被覆銀平板状粒子も、【表2】に記載されていない物性や構造の点でも、異なっている(金粒子の積層態様等)」とは認められない。

エ 訂正事項4について
(ア)訂正の目的について
訂正事項4に係る訂正は、上記訂正事項3に係る訂正に伴い、明細書の段落【0179】の記載から、表2において削除された実施例7?11及び比較例5及びこれらに使用された分散液に関する部分を削除して、表2と当該段落の記載との整合を図るための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

(イ)訂正が、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないかについて
訂正事項4に係る訂正は、上記訂正事項3に係る訂正に伴い、明細書の段落【0179】の記載から、表2において削除された実施例7?11及び比較例5に対応する事項を削除するものであり、請求項に記載された事項の解釈に影響を与えるものではないから、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。

(ウ)訂正が願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるかについて
訂正事項4に係る訂正は、上記訂正事項3に係る訂正に伴い、明細書の段落【0179】の記載から、表2中において削除された実施例7?11及び比較例5に対応する事項を削除するものであり、当該削除により新たな技術事項が明細書中に導入されるものではないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。

(エ)特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて
訂正事項4に係る訂正は、上記(ア)に示したとおり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当するから、訂正事項4について、訂正後の請求項1?13に係る発明は特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

オ 訂正事項5について
(ア)訂正の目的について
訂正事項5に係る訂正は、上記訂正事項3に係る訂正に伴い、明細書の段落【0188】、【0189】、【0192】、【0194】、及び【0195】の記載から、表2において削除された実施例7?11及び比較例5に使用された分散液に関する部分を削除して、表2と当該段落の記載との整合を図るための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

(イ)訂正が、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないかについて
訂正事項5に係る訂正は、上記訂正事項3に係る訂正に伴い、明細書の段落【0188】、【0189】、【0192】、【0194】、及び【0195】の記載から、表2において削除された実施例7?11及び比較例5に対応する事項を削除するものであり、請求項に記載された事項の解釈に影響を与えるものではないから、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。

(ウ)訂正が願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるかについて
訂正事項5に係る訂正は、上記訂正事項3に係る訂正に伴い、明細書の段落【0188】、【0189】、【0192】、【0194】、及び【0195】の記載から、表2において削除された実施例7?11及び比較例5に対応する事項を削除するものであり、当該削除により新たな技術事項が明細書中に導入されるものではないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。

(エ)特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて
訂正事項5に係る訂正は、上記(ア)に示したとおり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当するから、訂正事項5について、訂正後の請求項1?13に係る発明は特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

カ 訂正事項6について
(ア)訂正の目的について
訂正事項6に係る訂正は、上記訂正事項3に係る訂正に伴い、明細書の段落【0199】の記載から、表2において削除された実施例7?11及び比較例5に使用された分散液に関する部分を削除して、表2と当該段落の記載との整合を図るための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

(イ)訂正が、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないかについて
訂正事項6に係る訂正は、上記訂正事項3に係る訂正に伴い、明細書の段落【0199】の記載から、表2において削除された実施例7?11及び比較例5に対応する事項を削除するものであり、請求項に記載された事項の解釈に影響を与えるものではないから、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。

(ウ)訂正が願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるかについて
訂正事項6に係る訂正は、上記訂正事項3に係る訂正に伴い、明細書の段落【0199】の記載から、表2において削除された実施例7?11及び比較例5に対応する事項を削除するものであり、当該削除により新たな技術事項が明細書中に導入されるものではないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。

(エ)特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて
訂正事項6に係る訂正は、上記(ア)に示したとおり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当するから、訂正事項6について、訂正後の請求項1?13に係る発明は特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

キ 訂正事項7について
(ア)訂正の目的について
訂正事項7に係る訂正は、明細書の段落【0218】の表4において、実施例7と比較例5、実施例8と実施例10、実施例9と実施例11において作製した分散液(すなわち、分散液B7?B11、分散液C5)を使用した実施例25?29及び比較例11の存在は、表4の記載が意図する事項(即ち、分散液の種類とそれにより得られる金被覆銀平板状粒子の形状と効果)に齟齬を来すものであるところ、表4から実施例25?29及び比較例11に関する事項を削除する訂正事項7は、上記齟齬を解消するものであるので、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

(イ)訂正が、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないかについて
訂正事項7に係る訂正は、明細書の段落【0218】の表4から実施例25?実施例29及び比較例11に関する事項を削除するものであり、請求項に記載された事項の解釈に影響を与えるものではないから、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。

(ウ)訂正が願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるかについて
訂正事項7に係る訂正は、明細書の段落【0218】の表4から実施例25?実施例29及び比較例11に関する事項を削除するものであり、当該削除により新たな技術事項が明細書中に導入されるものではないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。

(エ)特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて
訂正事項7に係る訂正は、上記(ア)に示したとおり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当するから、訂正事項7について、訂正後の請求項1?13に係る発明は特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

ク 訂正事項8について
(ア)訂正の目的について
訂正事項8に係る訂正は、上記訂正事項7に係る訂正に伴い、明細書の段落【0204】の記載から、表4において削除された実施例25?実施例29及び比較例11に関する分散液、塗布液、塗布膜に関する部分を削除して、表4と当該段落の記載との整合を図るための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

(イ)訂正が、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないかについて
訂正事項8に係る訂正は、上記訂正事項7に係る訂正に伴い、明細書の段落【0204】の記載から、表4において削除された実施例25?実施例29及び比較例11に対応する事項を削除するものであり、請求項に記載された事項の解釈に影響を与えるものではないから、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。

(ウ)訂正が願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるかについて
訂正事項8に係る訂正は、上記訂正事項7に係る訂正に伴い、明細書の段落【0204】の記載から、表4において削除された実施例25?実施例29及び比較例11に対応する事項を削除するものであり、当該削除により新たな技術事項が明細書中に導入されるものではないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。

(エ)特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて
訂正事項8に係る訂正は、上記(ア)に示したとおり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当するから、訂正事項8について、訂正後の請求項1?13に係る発明は特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

ケ 訂正事項9について
(ア)訂正の目的について
訂正事項9に係る訂正は、明細書の段落【0218】の表4において、表中に「塗布液No.」と記載されている箇所を「分散液No.」に訂正するものであり、誤記又は誤訳の訂正を目的とするものに該当する。

(イ)訂正が、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないかについて
訂正事項9に係る訂正は、特許請求の範囲に記載された事項の解釈に影響を与えるものではなく、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。

(ウ)訂正が願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるかについて
表4において「塗布液No.」を表題とする欄は、「使用した粒子分散液」中の一項目であり、この「使用した粒子分散液」中の「錯化剤」、「端面吸着剤」、「Ag濃度」、「Au濃度」の値と、表2に記載される各分散液の「粒子分散液の作製条件」中の「錯化剤」、「端面吸着剤」、「Ag濃度」、「Au濃度」の値は、表4の「塗布液No.」と表2の「分散液No.」が同じ表示のもので一致しているから、表4の「塗布液No.」とある箇所は「分散液No.」と記載すべき誤記であることが明らかである。

(エ)特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて
訂正事項9に係る訂正は、上記アに示したとおり、誤記又は誤訳の訂正を目的とするものに該当するが、本件は、訂正前の請求項1?5、11のみに対して特許異議の申立てがされているので、訂正事項9について、訂正後の請求項1?5、11に係る発明は特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
一方、特許異議の申立てがされていない請求項6?10、12?13に係る発明は、訂正後の請求項1を間接的に引用する発明であり、独立特許要件が課されることになる。
ここで、上記ア(エ)の(エ-2)?(エ-3)で検討したように、本件特許の明細書の発明の詳細な説明は、当業者が訂正後の請求項1に係る発明及びこれを引用する同請求項6?10、12?13に係る発明を実施することができる程度に、明確かつ十分に記載されたものであり、訂正後の請求項1に係る発明及びこれを間接的に引用する同請求項6?10、12?13に係る発明は、本件訂正明細書に開示された発明の範囲を超えるものではなく、発明の詳細な説明に記載されたものであるから、訂正後の請求項1を間接的に引用する訂正後の請求項6?10、12?13に係る発明は、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものである。

コ 訂正事項10について
(ア)訂正の目的について
訂正事項10に係る訂正は、明細書の段落【0205】において、「分散液B1に換えて分散液B3を用い、」と記載されているのを、「分散液B1に換えて分散液B6を用い、」に訂正し、段落【0218】の表4中、実施例32に用いる分散液の表示を「B3」から「B6」に訂正するものであり、誤記又は誤訳の訂正を目的とするものに該当する。

(イ)訂正が、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないかについて
訂正事項10に係る訂正は、特許請求の範囲に記載された事項の解釈に影響を与えるものではなく、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。

(ウ)訂正が願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるかについて
訂正前の本件特許の明細書には、以下のように記載されている。

「【0205】
[実施例32]
実施例19において、分散液B1に換えて分散液B3を用い、かつ特定有機成分1を用いなかった以外は、実施例19と同様にして、塗布液B14を調製した。
次いで、得られた塗布液を用いて、実施例19と同様にして塗布膜B14を形成した。」
「【0218】
【表4】



上記ケ(ウ)で説明したとおり、表4の「塗布液No.」は「分散液No.」の誤記と認められるから、表4には、実施例32において分散液B3を用いること、及び、当該実施例32の「使用した粒子分散液」中の「錯化剤」の「種類」はNaSO_(3)であり、「還元電位[V]」は0.11Vであり、「添加量[mmol/L]」は30mmol/Lであり、「端面吸着剤」の「種類」はCTACであり、「添加量[mmol/L]」は0.46mmol/Lであり、「Ag濃度[mmol/L]」は4.5mmol/Lであり、「Au濃度[mmol/L]」は2.88mmol/Lであることが示されているといえる。
一方、表4によると、分散液B3を用いた実施例21の「使用した粒子分散液」中の「錯化剤」の「種類」はNaSO_(3)であり、「還元電位[V]」は0.11Vであり、「添加量[mmol/L]は15mmol/Lであり、「端面吸着剤」の「種類」はCTACであり、「添加量[mmol/L]」は0.46mmol/Lであり、「Ag濃度[mmol/L]」は4.5mmol/Lであり、「Au濃度[mmol/L]」は2.88mmol/Lであり、分散液B6を用いた実施例24の「使用した粒子分散液」中の「錯化剤」の「種類」はNaSO_(3)であり、「還元電位[V]」は0.11Vであり、「添加量[mmol/L]」は30mmol/Lであり、「端面吸着剤」の「種類」はCTACであり、「添加量[mmol/L]」は0.46mmol/Lであり、「Ag濃度[mmol/L]」は4.5mmol/Lであり、「Au濃度[mmol/L]」は2.88mmol/Lであることから、実施例32で用いるのは分散液B3ではなく、「使用した粒子分散液」中の「錯化剤」の「種類」、「還元電位[V]」及び「添加量[mmol/L]」、「端面吸着剤」の「種類」及び「添加量[mmol/L]」、「Ag濃度[mmol/L]」、「Au濃度[mmol/L]」の全てが同じである分散液B6であることが明らかである。

(エ)特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて
訂正事項10に係る訂正は、上記アに示したとおり、誤記又は誤訳の訂正を目的とするものに該当するが、本件は、訂正前の請求項1?5、11のみに対して特許異議の申立てがされているので、訂正事項10について、訂正後の請求項1?5、11に係る発明は特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
一方、特許異議の申立てがされていない請求項6?10、12?13に係る発明は、訂正後の請求項1を間接的に引用する発明であり、独立特許要件が課されることになる。
ここで、上記ア(エ)の(エ-2)?(エ-3)で検討したように、本件特許の明細書の発明の詳細な説明は、当業者が訂正後の請求項1に係る発明及びこれを引用する同請求項6?10、12?13に係る発明を実施することができる程度に、明確かつ十分に記載されたものであり、訂正後の請求項1に係る発明及びこれを間接的に引用する同請求項6?10、12?13に係る発明は、本件訂正明細書に開示された発明の範囲を超えるものではなく、発明の詳細な説明に記載されたものであるから、訂正後の請求項1を間接的に引用する訂正後の請求項6?10、12?13に係る発明は、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものである。

サ 訂正事項11について
(ア)訂正の目的について
訂正事項11に係る訂正は、明細書の段落【0206】において、「実施例19において、特定有機成分1(1-(5-メチルウレイドフェニル)-5-メルカプトテトラゾール)に換えて、」と記載されているのを、「実施例19において、分散液B1に換えて分散液B6を用い、特定有機成分1(1-(5-メチルウレイドフェニル)-5-メルカプトテトラゾール)に換えて、」に訂正し、段落【0218】の表4中、実施例33、34及び35のそれぞれにおいて、「B3」と記載されている箇所を「B6」に訂正するものであり、誤記又は誤訳の訂正を目的とするものに該当する。

(イ)訂正が、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないかについて
訂正事項11に係る訂正は、特許請求の範囲に記載された事項の解釈に影響を与えるものではなく、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。

(ウ)訂正が願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるかについて
上記ケ(ウ)で説明したとおり、表4の「塗布液No.」は「分散液No.」の誤記と認められるから、表4には、実施例33?35において分散液B3を用いること、及び、当該実施例33?35の「使用した粒子分散液」中の「錯化剤」の「種類」はNaSO_(3)であり、「還元電位[V]」は0.11Vであり、「添加量[mmol/L]」は30mmol/Lであり、「端面吸着剤」の「種類」はCTACであり、「添加量[mmol/L]」は0.46mmol/Lであり、「Ag濃度[mmol/L]」は4.5mmol/Lであり、「Au濃度[mmol/L]」は2.88mmol/Lであることが示されているといえる。
一方、表4によると、分散液B3を用いた実施例21の「使用した粒子分散液」中の「錯化剤」の「種類」はNaSO_(3)であり、「還元電位[V]」は0.11Vであり、「添加量[mmol/L]は15mmol/Lであり、「端面吸着剤」の「種類」はCTACであり、「添加量[mmol/L]」は0.46mmol/Lであり、「Ag濃度[mmol/L]」は4.5mmol/Lであり、「Au濃度[mmol/L]」は2.88mmol/Lであり、分散液B6を用いた実施例24の「使用した粒子分散液」中の「錯化剤」の「種類」はNaSO_(3)であり、「還元電位[V]」は0.11Vであり、「添加量[mmol/L]」は30mmol/Lであり、「端面吸着剤」の「種類」はCTACであり、「添加量[mmol/L]」は0.46mmol/Lであり、「Ag濃度[mmol/L]」は4.5mmol/Lであり、「Au濃度[mmol/L]」は2.88mmol/Lであることから、実施例33?35で用いるのは分散液B3ではなく、「使用した粒子分散液」中の「錯化剤」の「種類」、「還元電位[V]」及び「添加量[mmol/L]」、「端面吸着剤」の「種類」及び「添加量[mmol/L]」、「Ag濃度[mmol/L]」、「Au濃度[mmol/L]」の全てが同じである分散液B6であるといえ、実施例19において、「分散液B1に換えて分散液B6を用い」ていることも明らかである。

(エ)特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて
訂正事項11に係る訂正は、上記アに示したとおり、誤記又は誤訳の訂正を目的とするものに該当するが、本件は、訂正前の請求項1?5、11のみに対して特許異議の申立てがされているので、訂正事項11について、訂正後の請求項1?5、11に係る発明は特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
一方、特許異議の申立てがされていない請求項6?10、12?13に係る発明は、訂正後の請求項1を間接的に引用する発明であり、独立特許要件が課されることになる。
ここで、上記ア(エ)の(エ-2)?(エ-3)で検討したように、本件特許の明細書の発明の詳細な説明は、当業者が訂正後の請求項1に係る発明及びこれを引用する同請求項6?10、12?13に係る発明を実施することができる程度に、明確かつ十分に記載されたものであり、訂正後の請求項1に係る発明及びこれを間接的に引用する同請求項6?10、12?13に係る発明は、本件訂正明細書に開示された発明の範囲を超えるものではなく、発明の詳細な説明に記載されたものであるから、訂正後の請求項1を間接的に引用する訂正後の請求項6?10、12?13に係る発明は、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものである。

シ 訂正事項12について
(ア)訂正の目的について
訂正事項12に係る訂正は、上記訂正事項7に係る訂正に伴い、明細書の段落【0210】及び【0215】の記載から、表4中から削除された実施例25?実施例29及び比較例11に関する塗布膜に関する部分を削除して、表4と当該段落の記載との整合を図るための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

(イ)訂正が、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないかについて
訂正事項12に係る訂正は、上記訂正事項7に係る訂正に伴い、明細書の段落【0210】及び【0215】の記載から、表4中から削除された実施例25?実施例29及び比較例11に対応する事項を削除するものであり、請求項に記載された事項の解釈に影響を与えるものではないから、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。

(ウ)訂正が願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるかについて
訂正事項12に係る訂正は、上記訂正事項7に係る訂正に伴い、明細書の段落【0210】及び【0215】の記載から、表4において削除された実施例25?実施例29及び比較例11に対応する事項を削除するものであり、当該削除により新たな技術事項が明細書中に導入されるものではないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。

(エ)特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて
訂正事項12に係る訂正は、上記(ア)に示したとおり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当するから、訂正事項12について、訂正後の請求項1?13に係る発明は特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

ス 訂正事項13について
(ア)訂正の目的について
訂正事項13に係る訂正は、上記訂正事項7に係る訂正に伴い、明細書の段落【0221】の記載から、表4において削除された実施例25?実施例29に関する塗布膜に関する部分を削除して、表4と当該段落の記載との整合を図るための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

(イ)訂正が、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないかについて
訂正事項13に係る訂正は、上記訂正事項7に係る訂正に伴い、明細書の段落【0221】の記載から、表4において削除された実施例25?実施例29に対応する事項を削除するものであり、請求項に記載された事項の解釈に影響を与えるものではないから、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。

(ウ)訂正が願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるかについて
訂正事項13に係る訂正は、上記訂正事項7に係る訂正に伴い、明細書の段落【0221】の記載から、表4において削除された実施例25?実施例29に対応する事項を削除するものであり、当該削除により新たな技術事項が明細書中に導入されるものではないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。

(エ)特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて
訂正事項13に係る訂正は、上記(ア)に示したとおり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当するから、訂正事項13について、訂正後の請求項1?13に係る発明は特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

セ 訂正事項14について
(ア)訂正の目的について
訂正事項14に係る訂正は、明細書の段落【0225】において、「実施例16で作製した塗布液B3を、」と記載されるのを、「実施例21で作製した塗布液B3を、」に訂正するものであり、誤記又は誤訳の訂正を目的とするものに該当する。

(イ)訂正が、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないかについて
訂正事項14に係る訂正は、特許請求の範囲に記載された事項の解釈に影響を与えるものではなく、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。

(ウ)訂正が願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるかについて
訂正前の本件特許の明細書には、以下のように記載されている(なお、「…」は記載の省略を表し、下線は当審が付したものである。)。

「【0181】
[実施例16]
実施例4において、銀平板状粒子分散液aの調製においてメチルヒドロキノン水溶液を添加する前に、反応容器中の液から33.1Lを抜き取ったこと以外は、実施例4と同様にして分散液B16を得た。」
「【0204】
[実施例20?31、36?38、比較例7?12]
実施例19において、分散液B1に換えて、分散液B2?B14、B17?18及び分散液C1?C6のいずれかの分散液を用いた以外は、実施例19と同様にして、塗布液B2?B13、14?16及び塗布液C1?C6を調製した。
次いで、得られた各塗布液を用いて、実施例19と同様にして塗布膜B1?B13、18?20及び塗布膜C1?C6を形成した。」
「【0222】
[3-1] 反射防止フィルム(反射防止光学部材)の作製
[実施例39]
実施例21で作製した塗布液B3を用いて、以下のとおり反射防止フィルム(反射防止光学部材)を作製した。本実施例で作製した反射防止フィルムは、透明基材/ハードコート層/高屈折率層/金属微粒子含有層(特定平版状粒子を含有する層)/低屈折率層(本開示における誘電体層)からなる構成を有する。

【0223】
1.反射防止フィルムの作製
透明基材である易接着層付PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム(U403、膜厚75μm、東レ(株)製)の一面上に、下記のハードコート層用塗布液を、ワイヤーバーを用いて、乾燥後の平均厚みが4μmになるように塗布し、165℃で2分間加熱乾燥、固化して、ハードコート層を形成した。
【0224】
ハードコート層を形成した上に、下記の高屈折率層用塗布液を、ワイヤーバーを用いて、乾燥後の平均厚みが23nmになるように塗布し、135℃で2分間加熱乾燥、固化して、高屈折率層を形成した。
【0225】
高屈折率層を形成した上に、実施例16で作製した塗布液B3を、ワイヤーバーを用いて、乾燥後の平均厚みが30nmになるように塗布した。その後、130℃で1分間加熱し、乾燥、固化し、特定平板状粒子を含む金属粒子含有層を形成した。
【0226】
形成した金属微粒子含有層の上に、下記の低屈折率層用塗布液を、ワイヤーバーを用いて、乾燥後の平均厚みが70nmになるように塗布し、60℃で1分間加熱乾燥し、酸素濃度0.1%以下となるように窒素パージしながら、メタルハライド(M04-L41)UVランプ(アイグラフィックス製)を用いて、照射量200mJ/cm^(2)の紫外線を照射して塗布膜を硬化させ、低屈折率層(誘電体層)を形成した。
【0227】
以上の工程により、透明基材/ハードコート層/高屈折率層/金属微粒子含有層/低屈折層(誘電体層)からなる構成を有する反射防止フィルムを得た。」

摘記した段落【0181】の記載から、実施例16で作製したのは分散液B16であり、摘記した段落【0204】の記載と上記(10)ウで摘記した【0218】の表4から、実施例21で作製したのは塗布液B3であることがわかる。
さらに、段落【0225】と同様に、実施例39についての段落【0222】の「実施例21で作製した塗布液B3を用いて、」の記載からも、段落【0225】の「実施例16で作製した塗布液B3を、」は「実施例21で作製した塗布液B3を、」の誤記であることは明らかである。

(エ)特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて
訂正事項14に係る訂正は、上記(ア)に示したとおり、誤記又は誤訳の訂正を目的とするものに該当するが、本件は、訂正前の請求項1?5、11のみに対して特許異議の申立てがされているので、訂正事項14について、訂正後の請求項1?5、11に係る発明は特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
一方、特許異議の申立てがされていない請求項6?10、12?13に係る発明は、訂正後の請求項1を間接的に引用する発明であり、独立特許要件が課されることになる。
ここで、上記ア(エ)の(エ-2)?(エ-3)で検討したように、本件特許の明細書の発明の詳細な説明は、当業者が訂正後の請求項1に係る発明及びこれを引用する同請求項6?10、12?13に係る発明を実施することができる程度に、明確かつ十分に記載されたものであり、訂正後の請求項1に係る発明及びこれを間接的に引用する同請求項6?10、12?13に係る発明は、本件訂正明細書に開示された発明の範囲を超えるものではなく、発明の詳細な説明に記載されたものであるから、訂正後の請求項1を間接的に引用する訂正後の請求項6?10、12?13に係る発明は、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものである。

ソ 一群の請求項について
本件訂正前の請求項1?13について、請求項2?13は請求項1を直接又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項1?13は、一群の請求項であるところ、本件訂正請求は、上記一群の請求項についてされたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。

タ 小括
以上のとおりであるから、令和3年2月12日に特許権者によって請求され、同年5月14日に補正された本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第2号、第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項、第6項、第7項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-13〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2で検討したとおり、本件訂正は適法になされたものであるから、本件訂正後の請求項1?5、11に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明5」、「本件発明11」といい、総称して「本件発明」という。)は、令和3年5月14日付け手続補正書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?5、11に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。なお、第3において、下線は訂正された箇所を表す。

「【請求項1】
銀平板状粒子と金被覆層とを有し、粒子の主平面における金被覆層の平均厚みが0.4nm以上2nm以下であり、かつ粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比が0.2以上1.4以下である、金被覆銀平板状粒子。
【請求項2】
主平面における金被覆層の平均厚みが0.7nm以上1.5nm以下であり、かつ粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比が0.2以上1.4以下である、請求項1に記載の金被覆銀平板状粒子。
【請求項3】
アスペクト比が、2?80である請求項1又は請求項2に記載の金被覆銀平板状粒子。
【請求項4】
請求項1?請求項3のいずれか1項に記載の金被覆銀平板状粒子と分散媒体とを含む金被覆銀平板状粒子分散液。
【請求項5】
銀濃度が2mmol/L以上である請求項4に記載の金被覆銀平板状粒子分散液。」
「【請求項11】
請求項1?請求項3のいずれか1項に記載の金被覆銀平板状粒子を含む塗布膜。」

第4 申立理由の概要
1 申立人は、証拠方法として、インターネットから取得された甲第4?6号証を除き、いずれも本願の優先日前に、日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、下記甲第1?14号証を提出して、以下の申立理由1?2により、本件訂正前の請求項1?5、11に係る特許は取り消されるべきものである旨主張している。

(1)申立理由1(新規性進歩性)
ア 申立理由1-1
本件訂正前の請求項1、3?5に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、同発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、取り消されるべきものである(取消理由として不採用)。

イ 申立理由1-2
本件訂正前の請求項1、3?5に係る発明は、甲第3号証(実施例1)に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、同発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、取り消されるべきものである(取消理由として不採用)。

ウ 申立理由1-3
本件訂正前の請求項1、3?5に係る発明は、甲第3号証(実施例11の金被覆銀ナノプレート懸濁液C2)に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、同発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、取り消されるべきものである(取消理由として一部採用)。

(2)申立理由2(進歩性)
ア 申立理由2-1
本件訂正前の請求項2、11に係る発明は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証?甲第14号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、取り消されるべきものである(取消理由として不採用)。

イ 申立理由2-2
本件訂正前の請求項2、11に係る発明は、甲第3号証(実施例1)に記載された発明及び甲第2号証、甲第4号証?甲第14号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、取り消されるべきものである(取消理由として不採用)。

ウ 申立理由2-3
本件訂正前の請求項2、11に係る発明は、甲第3号証(実施例11の金被覆銀ナノプレート懸濁液C2)に記載された発明及び甲第2号証、甲第4号証?甲第14号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、取り消されるべきものである(取消理由として一部採用)。

2 証拠方法
甲第1号証:特許第6663079号公報(本件特許)
甲第2号証:H.LIU外5名,“Core/Shell Nanostructures: Etching-Free Epitaxial Growth of Gold on Silver Nanostructures for High Chemical Stability and Plasmonic Activity”,Advanced Functional Materials, 2015, Vol. 25, p. 5435-5443
甲第3号証:特許第5960374号公報
甲第4号証:Wayback Machineによるアーカイブされたウェブサイト「大日本塗料株式会社 ナノ粒子シリーズ」
(https://www.dnt.co.jp/technology/new-business/particle/)
甲第5号証:Webチラシ「マルチカラー金属ナノ粒子 銀ナノプレート」(https://www.dnt.co.jp/technology/new-business/particle/pdf/silver_nanoplates.pdf)
甲第6号証:Webチラシ「マルチカラー金属ナノ粒子 銀ナノプレート」(https://azscience.jp/pdf/news/recommended/product01/SilverNano-plateOrganicSolvent.pdf)
甲第7号証:小林敏勝、「表面プラズモンによる発色と塗料への展開」、日本画像学会誌、2011、第50巻第6号、p.556-562
甲第8号証:小林敏勝、「貴金属ナノ粒子の塗料用色材への応用」、表面科学、2005、Vol. 26、No.2、p.107-111
甲第9号証:特開2017-119827号公報
甲第10号証:特開2011-252213号公報
甲第11号証:特開2011-219807号公報
甲第12号証:特開2011-221149号公報
甲第13号証:特開2011-253093号公報
甲第14号証:C.GAO外6名, “Highly Stable Silver Nanoplates for Surface Plasmon Resonance Biosensing”, Angew. Chem. Int. Ed., 2012, Vol.51, p. 5629-5633

なお、上記甲第1号証?甲第14号証をそれぞれ「甲1」?「甲14」ということがある。

第5 取消理由の概要
1 甲3を主たる引用文献とする新規性進歩性について(申立理由1-3の一部を採用)
本件訂正前の請求項1、3?5に係る発明は、甲3に記載された発明であるか、甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に想到できたものである。

2 甲3を主たる引用文献とする進歩性について(申立理由2-3の一部を採用)
本件訂正前の請求項2に係る発明は、甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に想到できたものである。また、本件訂正前の請求項11に係る発明は、甲3に記載された発明及び甲6?甲9に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到できたものである。

3 サポート要件について(職権で採用)
本件訂正前の請求項1?5、11に係る発明は、本件明細書に開示された発明の範囲を超えているので、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえない。

4 実施可能要件について(職権で採用)
本件訂正前の明細書の発明の詳細な説明には、本件訂正前の請求項1?5、11に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。

第6 当審の判断
1 取消理由について
(1)取消理由1(甲3を主たる引用文献とする新規性進歩性)、取消理由2(甲3を主たる引用文献とする進歩性)について
ア 甲3に記載された事項と発明
甲3には、以下の事項が記載されている(なお、「…」は記載の省略を表し、下線は当審が付したものである。以下同様。)。

「【特許請求の範囲】
【請求項1】
金被覆銀ナノプレートの懸濁液であって、
0μMより多く50μM以下の水溶性高分子を含み、
pHが10以下であることを特徴とする、懸濁液。
【請求項2】
前記金被覆銀ナノプレート上の金の厚みの平均が、1.0nm以下である、請求項1に記載の懸濁液。…」

「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金で被覆された銀ナノプレート(以下、金被覆銀ナノプレートともいう)の懸濁液に関する。
【背景技術】
【0002】
銀ナノプレートは、光との相互作用(局在表面プラズモン共鳴:LSPR)により光を吸収するため、その懸濁液はナノプレートの形状に応じて色を示すことが知られている。更に、銀ナノプレートの大きさや形状を制御することにより、吸収する光を変化させること、すなわち色を変化させることができることも知られている。
この性質を利用して、銀ナノプレートは、被験物質の検出試薬の標識(例えば、目的タンパク質の検出に用いられる抗体の標識)として用いられている。
一方、銀ナノプレートは酸化により溶解してその形状が変化する。この酸化による銀ナノプレートの形状変化は、意図していた色の変化を引き起こし得る。
そこで、銀ナノプレートを酸化に対して安定化するため、銀ナノプレートの表面を金で被覆することが行われている(特許文献1及び非特許文献1?2)。
また、被験物質に対する特異的結合物質を担持した着色ラテックス粒子の懸濁液を用いた診断薬が知られている。ラテックス粒子径0.02?2μmのポリスチレン粒子などが知られており、有機色素によって赤色や青色に着色されている(特許文献2及び特許文献3)。…」

「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
金被覆銀ナノプレートを標識として用いる検出技術の分野では、被験物質の検出感度を高めることが望まれている。一方、銀ナノプレートの懸濁液は酸化に弱いため、被験物質の検出のために応用できる用途が限られていた。そして、被験物質に対する特異的結合物質を担持した金被覆銀ナノプレートの懸濁液を安定化するために水溶性高分子を添加することがあるが、これを多量に添加すると、該金被覆銀ナノプレートによる被験物質の検出感度が低下する。したがって、本発明は、金被覆銀ナノプレートの安定な懸濁液であって、種々の被験物質の検出のために応用することができ、種々の検出手段に適合させることができ、かつ被験物質の検出感度の高い懸濁液を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、金被覆銀ナノプレートと検出試薬との複合体の形成条件と得られた複合体を用いて行った被験物質検出の結果について鋭意検討したところ、金被覆銀ナノプレートの懸濁液の物性及び組成を特定のものとすることで、該懸濁液の安定性を保持しつつ、被験物質の検出感度も高めることができることを見出した。また、本発明者等は、金被覆銀ナノプレートが、種々の被験物質に対する特異的結合物質を担持することができること、及び、種々の検出手段に適合し得ることも見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、以下に示す懸濁液、該懸濁液を使用して被験物質を検出する方法、及び、該懸濁液を含み該方法に使用するためのキットを提供するものである。
〔1〕金被覆銀ナノプレートの懸濁液であって、
0?50μMの水溶性高分子を含み、
pHが10以下であることを特徴とする、懸濁液。
〔2〕前記金被覆銀ナノプレート上の金の厚みの平均が、1.0nm以下である、前記〔1〕に記載の懸濁液。…
【発明の効果】
【0008】
本発明の金被覆銀ナノプレートの懸濁液は、安定な懸濁液として調製され、種々の被験物質を高い感度で検出するために応用することができ、また、種々の検出手段に応用することができる。したがって、本発明の懸濁液を用いることにより、多様な被験物質の検出において正確な判定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】…
【図10】イムノクロマト試験の手順を示す図である。…
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
本発明の金被覆銀ナノプレート懸濁液は、0?50μMの水溶性高分子を含み、pHが10以下であることを特徴とする。
【0011】
本発明の金被覆銀ナノプレートとは、銀ナノプレート(コア)の表面に金の被覆(シェル)を有するものをいう。
本発明では、被験物質の検出技術分野で着色標識として用いられている銀ナノプレートを特に制限なく用いることができるが、以下に好ましい態様を詳述する。
銀ナノプレートとは、銀から製造されたナノプレート(板)をいう。
銀ナノプレートの主面の最大長さとなる粒子径(円形の場合は直径に相当し、三角形の場合は最大辺の長さに相当する)は、通常10?1000nmであり、10?150nmが好ましい。更に、銀ナノプレートのアスペクト比(粒子径/厚み)は、通常1.5以上であり、可視光領域にLSPRの吸収波長が発現して多色設計が可能な1.5?10が好ましい。近赤外光での検出に用いる場合には、LSPRが800?2000nmで発現するようなアスペクト比(例えば、アスペクト比11で900nm付近にLSPRが発現)のプレート状銀ナノ粒子を用いればよい。…
【0012】
銀ナノプレートの厚さは、プラズモン吸収することができるものであれば特に制限されず、一般的には40nm以下であり、好ましくは5?20nmである。
銀ナノプレートの形状は、プラズモン吸収することができるものであれば特に制限されず、意図する色に応じた形状を採用することができる。具体例としては三角形状、五角形状、六角形状等の多角形状や、角がカーブ状となった円形状等の形状があげられる。…
【0013】
銀ナノプレートの表面を被覆する金の厚さは、銀ナノプレートの発色性能に影響を与えない限り特に制限されないが、厚みの平均が、好ましくは1.0nm以下、より好ましくは0.7nm以下である。金の被覆の厚さが1.0nm以下であると、銀ナノプレートのプラズモン吸収を維持しつつ、銀ナノプレートの酸化を抑制することができる。
金の厚さの下限は、銀ナノプレート表面の金による被覆という目的を達成できるものであれば特に制限されないが、厚みの平均が、好ましくは0.1nm以上又は0.3nmである。なお、本発明における金の厚みの平均とは、高角散乱環状暗視野走査透過顕微鏡法(HAADF-STEM)を用いて測定された、銀ナノプレート表面の金の厚みより算出すれば良い。具体的には、HAADF-STEM像から任意の粒子10個について各粒子の任意の部位10点について、金の厚みを測定した計100点のデータの内、上下10%を除いた80点の平均値を金の厚みの平均とすれば良い。…
【0014】
また、銀ナノプレートが金で被覆されていることは、金被覆銀ナノプレート懸濁液中の金及び銀濃度を測定することによっても確認できる。具体的には、以下の手順に示すように、懸濁液を遠心分離後、上澄み液を除去し、得られた沈殿物を、除去した上澄み液と同量の超純水で再度懸濁する。そして、その懸濁液に王水を添加後、煮沸して、得られた溶液を、ICP発光分析装置を用いて分析する。
1.金被覆銀ナノプレート懸濁液を遠心分離(25,000rpm、2
6,000g)後、上澄み液を除去し、得られた沈殿物を、除去し
た上澄み液と同量の超純水で再度懸濁する。
2.上記工程1で得られた懸濁液に王水を添加後、5分間煮沸して、金
及び銀を王水中へ溶解させる。
3.上記工程2で得られた溶液を、ICP発光分析装置を用いて測定す
る。
なお、各金属の濃度は、任意濃度の標準サンプルを上述と同様に測定することで作成した検量線より算出する。
得られた各金属の濃度から、金と銀の比率が明らかとなり、銀ナノプレート表面が金で被覆されていること、そして、その金の厚さを確認することができる。例えば、三角形の銀ナノプレート上の金の厚さは、以下のようにして算出することができる。
1.ICP発光分析結果(例)
金濃度:銀濃度=1:4
2.銀ナノプレートの体積(形状:正三角形、高さ:30nm、厚さ8n
mの場合)
式:(三角形の面積)×(厚さ)
=(30nm×(30×2÷√3)nm÷2)×8nm
=4157nm^(3)(=4157×10^(-21)cm^(3))
3.銀の比重
10.51g/cm^(3)
4.三角形の銀ナノプレートの質量
式:(三角形の銀ナノプレートの体積)×(銀の比重)
=(4157×10^(-21)cm^(3))×10.51g/cm^(3)
=4.37×10^(-17)g
5.三角形の銀ナノプレートに被覆している金の質量(X)
1:4=X:4.37×10^(-17)g
X=1.09×10^(-17)g
6.金の比重
19.32g/cm^(3)
7.三角形の銀ナノプレートに被覆している金の体積
式:(金の質量)÷(金の比重)
=1.09×10^(-17)g ÷ 19.32g/cm^(3)
=5.64×10^(-19)cm^(3)(=564nm^(3))
8.三角形の銀ナノプレートの表面積
式:(三角形の面積)+(粒子側面の面積)
=(30×(60÷√3)÷2)×2+(8×(60÷√3))×3
=1871nm^(2)
9.三角形の銀ナノプレートに被覆している金の厚さ
式:(三角形の銀ナノプレートに被覆している金の体積)
÷(三角形の銀ナノプレートの表面積)
=564nm^(3)÷1871nm^(2)
=0.30nm(=3.0Å)
このように、ICP発光分析装置を用いた分析の結果、金濃度と銀濃度の比率が1:4であることがわかった場合には、金被覆処理を施した銀ナノプレート(形状:正三角形、高さ:30nm、厚さ8nmの粒子の場合)の表面の金の厚さは、0.30nmであると計算できる。これは、金原子が一層から二層被覆していることを意味している。」

「【0016】
本発明の金被覆銀ナノプレートの懸濁液(以下、本発明の懸濁液ともいう)では、固体の金被覆銀ナノプレートが液体の分散媒中に懸濁している。…
【0017】
本発明の懸濁液の銀含有率は、懸濁液の総質量に対して、好ましくは50質量%以下、より好ましくは1?0.000015質量%、特に好ましくは0.1?0.000015質量%である。懸濁液の銀含有率が50質量%以下であると、分散安定性の向上及び分光特性を利用した生化学試験(例えば、イムノクロマト試験)に用いた時に発色の確認(例えば、イムノクロマト試験の場合、検出ラインの目視確認)が容易なるといった効果が得られる。…」

「【0055】
試験例1
実施例及び比較例の各懸濁液を下記手順のイムノクロマト試験に用いて、試験結果を評価した。
(1)イムノクロマト試験に使用する展開液の作製(金被覆銀ナノプレートへの特異的結合物質の担持(検出試薬の標識))
5mMのPBS(-)緩衝液中における濃度50μg/mLのB型肝炎ウイルス抗原(HBs抗原)に対する抗体(品名:Goat anti HBsAg、製造元:Arista Biologicals,Inc.)(イムノクロマト法における検出抗体)の溶液0.2mLと、金被覆銀ナノプレート懸濁液(懸濁液A1、B1、F1、G1、I1,J1、K1、N1、P1、D1、H1、L1、又はT1)1.8mLを混合し、得られた混合物を室温下で30分間振とうした。次いで、遠心分離(25000rpm、4℃、10分間)を行い、抗体-金被覆銀ナノプレート複合体を沈殿させ、上澄み液1.85mLを除去した。その後、抗体-金被覆銀ナノプレート複合体を、4.9μMのBSAを含有する1.85mLの5mM PBS(-)緩衝液を添加して再分散させ、紫外可視分光光度計 Agilent 8453(アジレント・テクノロジー株式会社製)を使用して消光度(Extinction)2.0になるように調整し、展開液を作製した。…
【0057】
(2)イムノクロマト試験
図10に示す手順により、B型肝炎ウイルス抗原(HBs抗原)を被験物質としたイムノクロマト試験を、抗HBs抗原抗体(捕獲抗体)を直線状(図10の検出ライン)に固定化したイムノクロマト試験紙を用いて行った。
イムノクロマト試験紙はイムノクロマト試験紙の受託作製会社(有限会社バイオデバイステクノロジー)より購入したものを使用した。捕獲抗体を直線状に固定する際、捕獲抗体を5mM PBS(-)緩衝液で濃度1g/mLに調整したものを使用した。
第1展開液(図10(a)で用いる展開液)は、5mMのPBS(-)緩衝液中におけるHBs抗原(品名:HBsAg Protein(Subtype adr)、製造元:Fitzgerald Industries International Inc.)の溶液であった。第1展開液として、HBs抗原の濃度が0.60μM、0.06μM、0.006μM、0.0006μM又は0M(ブランク)の溶液を用意した。
第2展開液は5mMのPBS(-)緩衝液であった。
第3展開液(図10(c)で用いた展開液)は、上述の展開液A1、B1、F1、G1、I1,J1、K1、N1、P1、D1、H1、L1又はT1であった。
【0058】
具体的な試験手順は以下のとおりであった。
イムノクロマト試験紙に、第1展開液15μLを展開させた(図10(a))。第1展開液の展開により、HBs抗原が試験紙の検出ライン上に固定化された捕獲抗体によって捕獲される(図10(b))。
次いで、第2展開液30μLを展開させて、イムノクロマト試験紙上の余剰抗原の洗浄を行った。
最後に、第3展開液60μLを展開させた(図10(c))。第3展開液の展開により、試験紙の検出ライン上で捕獲されたHBs抗原へ検出抗体(抗体-金被覆銀ナノプレート複合体)が結合する(図10(d))。
同一の手順をHBs濃度の異なる各第1展開液を用いて繰り返した。」

「【0063】
実施例11
1.金属微粒子懸濁液の作製
1-1.銀ナノプレートの作製
1-1-1.銀ナノプレートの種粒子の作製
2.5mMのクエン酸ナトリウム水溶液20mLに、0.5g/Lの分子量70,000ポリスチレンスルホン酸水溶液1mLと、10mMの水素化ホウ素ナトリウム水溶液1.2mLとを添加し、次いで、20mL/minで攪拌しながら、0.5mMの硝酸銀水溶液50mLを添加した。得られた溶液をインキュベーター(30℃)中に60分間静置し、銀ナノプレートの種粒子の水懸濁液を作製した。
【0064】
1-1-2.銀ナノプレート懸濁液A2の作製
超純水200mlに、10mMのアスコルビン酸水溶液4.5mLを添加し、上述の銀ナノプレートの種粒子の水懸濁液12mlを添加した。得られた溶液に、0.5mMの硝酸銀水溶液120mLを30mL/minで攪拌しながら添加した。硝酸銀水溶液の添加が終了した4分後に攪拌を停止し、25mMのクエン酸ナトリウム水溶液20mlを添加し、得られた溶液を大気雰囲気下のインキュベーター(30℃)中に100時間静置し、プレート状銀ナノ粒子の水懸濁液である銀ナノプレート懸濁液A2を調製した。」

「【0066】
1-1-4.銀ナノプレート懸濁液C2の作製
上記銀ナノプレートの種粒子の水懸濁液の添加量を12mlから2mlに変更した以外は、銀ナノプレート懸濁液A2の調製と同様にして、プレート状銀ナノ粒子の水懸濁液である銀ナノプレート懸濁液C2を調製した。
【0067】
1-2.金被覆銀ナノプレートの作製
1-2-1.金被覆銀ナノプレート懸濁液A2の作製
上記銀ナノプレート懸濁液A2の120mlに、0.125mMのポリビニルピロリドン(PVP)(分子量:40,000)の水溶液9.1mlを添加し、0.5Mのアスコルビン酸水溶液1.6mlを添加した後、0.42mMの塩化金酸水溶液9.6mlを0.5mL/minで攪拌しながら添加した。得られた溶液をインキュベーター(30℃)中に24時間静置し、金被覆銀ナノプレート懸濁液A2を調製した。
【0068】
金被覆銀ナノプレート懸濁液A2の主要分散媒は水であった。
金被覆銀ナノプレート懸濁液A2に含まれる金被覆銀ナノプレートを走査型電子顕微鏡(SEM)により観察したところ、主面の最大長(粒子径)の平均が18nmの三角形状を含む多角形状、円形状であるプレートの混合物であり、厚さの平均は8nmであった。なお、金被覆銀ナノプレートの主面の最大長(粒子径)の平均は、SEM画像(株式会社日立製作所製の走査電子顕微鏡SU-70で撮影)中の任意の金被覆銀ナノプレート100個の最大長(粒子径)を測定した計100点のデータの内、上下10%を除いた80点の平均値を用いた(後述の金被覆銀ナノプレート懸濁液B2及びCも同様)。そして、金被覆銀ナノプレート懸濁液A2に含まれる金被覆銀ナノプレートにおける金の厚さは、高角散乱環状暗視野走査透過顕微鏡法(HAADF-STEM)によれば、平均0.25nmであった。なお、金の厚みの平均は、HAADF-STEM像から任意の金被覆銀ナノプレート粒子10個について、各粒子の任意の部位10点について、金の厚みを測定した計100点のデータの内、上下10%を除いた80点の平均値を用いた(後述の金被覆銀ナノプレート懸濁液B2及びCも同様)。
また、金被覆銀ナノプレート懸濁液A2における金の濃度は0.056mg/L、銀の濃度は0.226mg/Lであり、以下の計算方法により算出された金の厚さは0.21nmであった。
1.ICP発光分析結果
金濃度:銀濃度=0.056(mg/L):0.226(mg/L)
=1:4.04
2.銀ナノプレートの体積(形状:正三角形、粒子径:18nm、厚さ8
nm)
式:(三角形の面積)×(厚さ)
=(18nm×(18√3/2)nm÷2)×8nm
=1122nm^(3)(=1122×10^(-21)cm^(3))
3.銀の比重
10.51g/cm^(3)
4.三角形の銀ナノプレートの質量
式:(正三角形の銀ナノプレートの体積)×(銀の比重)
=(1122×10^(-21)cm^(3))×10.51g/cm^(3)
=1.18×10^(-17)g
5.三角形の銀ナノプレートに被覆している金の質量(X)
1:4.04=X:1.18×10^(-17)g
X=0.29×10^(-17)g
6.金の比重
19.32g/cm^(3)
7.三角形の銀ナノプレートに被覆している金の体積
式:(金の質量) ÷(金の比重)
=0.29×10^(-17)g ÷ 19.32g/cm^(3)
=1.51×10^(-19)cm^(3)(=151nm^(3))
8.三角形の銀ナノプレートの表面積
式:(三角面の面積)+(粒子側面の面積)
=(18nm×(18√3/2)nm ÷2)×2)
+(8nm×18nm×3)
=713nm^(2)
9.三角形の銀ナノプレートに被覆している金の厚さ
式:(正三角形の銀ナノプレートに被覆している金の体積)
÷(正三角形の銀ナノプレートの表面積)
=151nm^(3)÷713nm^(2)
=0.21nm
なお、金の濃度および銀の濃度は、以下の手順で分析した(後述の金被覆銀ナノプレート懸濁液B2及びCも同様)。
1.0.5mLの金被覆銀ナノプレート懸濁液A2を遠心分離(25,
000rpm、26,000g)後、上澄み液を除去し、得られた
沈殿物を、除去した上澄み液と同量の超純水で再度懸濁した。
2.上記工程1で得られた懸濁液に王水15mLを添加後、5分間煮沸
して、金及び銀を王水中へ溶解させた。
3.上記工程2で得られた溶液を、ICP発光分析装置(株式会社島津
製作所製、ICPS-7510)を用いて測定した。
金被覆銀ナノプレート懸濁液A2におけるポリスチレンスルホン酸の濃度は0.98nMであった。
金被覆銀ナノプレート懸濁液A2におけるPVPの濃度は8.1μMであった。
金被覆銀ナノプレート懸濁液A2のpHは、室温下(20℃)で4.0であった。pH測定は株式会社堀場製作所のtwinpHメータ B-212(ガラス電極法)を用いた(以下、同様)。
金被覆銀ナノプレート懸濁液A2の銀含有率は、懸濁液の総質量に対して0.0016質量%であった。」

「【0071】
1-2-3.金被覆銀ナノプレート懸濁液C2の作製
上記銀ナノプレート懸濁液C2の120mlに、0.125mMのPVP(分子量:40,000)の水溶液9.1mlを添加し、0.5Mのアスコルビン酸水溶液1.6mlを添加した後、0.42mMの塩化金酸水溶液9.6mlを0.5mL/minで攪拌しながら添加した。得られた溶液をインキュベーター(30℃)中に24時間静置し、金被覆銀ナノプレート懸濁液C2を調製した。
【0072】
金被覆銀ナノプレート懸濁液C2の主要分散媒は水であった。
金被覆銀ナノプレート懸濁液C2に含まれる金被覆銀ナノプレートをSEMにより観察したところ、主面の最大長(粒子径)の平均が50nmの三角形状を含む多角形状、円形状であるプレートの混合物であり、厚さの平均は10nmであった。そして、金被覆銀ナノプレート懸濁液B2(当審注:「C2」の誤記と認められる)に含まれる金被覆銀ナノプレートにおける金の厚さの平均は、HAADF-STEMによれば、0.45nmであった。
また、金被覆銀ナノプレート懸濁液C2における金の濃度は0.047mg/L、銀の濃度は0.186mg/Lであり、上述のICP発光分析結果に基づいた計算方法により算出された金の厚さは0.41nmであった。…」

「【図10】



上記請求項1、【0071】?【0072】の記載によれば、甲3には、次の金被覆銀ナノプレートが記載されているものと認められる(以下「甲3発明B」という。)。
「銀ナノプレートとその表面を被覆する金を有する金被覆銀ナノプレートであって、主面の最大長(粒子径)の平均が50nmの三角形状を含む多角形状、円形状であるプレートの混合物であり、厚さの平均は10nmであり、HAADF-STEMによる金の厚さの平均は、0.45nmであり、ICP発光分析結果に基づいた計算方法により算出された金の厚さは0.41nmである、金被覆銀ナノプレート。」
また、上記請求項1、【0016】、【0071】?【0072】の記載によれば、甲3には、次の懸濁液が記載されているものと認められる(以下「甲3発明C」という)。
「甲3発明Bの金被覆銀ナノプレートが分散媒中に懸濁している金被覆銀ナノプレート懸濁液。」

イ 本件発明1と甲3発明Bの対比
甲3発明Bの「銀ナノプレート」、「銀ナノプレート」の「表面を被覆する金」、「金被覆銀ナノプレート」は、本件発明1の「銀平板状粒子」、「金被覆層」、「金被覆銀平板状粒子」に相当するから、本件発明1と甲3発明Bの一致点と相違点は次のとおりとなる。
〈一致点〉
「銀平板状粒子と金被覆層とを有する金被覆銀平板状粒子。」
〈相違点1〉
本件発明1の金被覆銀平板状粒子は、「粒子の主平面における金被覆層の平均厚みが0.4nm以上2nm以下であり、かつ粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比が0.2以上1.4以下である」のに対し、甲3発明Bの金被覆銀ナノプレートは、「主面の最大長(粒子径)の平均が50nmの三角形状を含む多角形状、円形状であるプレートの混合物であり、厚さの平均は10nmであり、HAADF-STEMによる金の厚さの平均は、0.45nmであり、ICP発光分析結果に基づいた計算方法により算出された金の厚さは0.41nmである」ものの、「粒子の主平面における金被覆層の平均厚み」や「粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比」は特定されていない点。

ウ 相違点1についての判断
(ア)一般的に、HAADF-STEMで主平面と端面を有する平板状粒子を観察する際、粒子は端面を底にして垂直に立っている状態ではなく主平面を底とした状態になっていることが多いと考えられる。
よって、甲3発明Bの金被覆銀ナノプレートのHAADF-STEM像は、金被覆銀ナノプレートを主平面側から観察したものと認められる。そして、HAADF-STEM(High-angle Annular Dark Field Scanning TEMのこと)は、試料に電子プローブを走査し、試料を透過した電子のうち高角に散乱したものを環状の検出器で検出し、検出した電子強度をプローブ位置の関数として二次元マッピングする方法であるから、HAADF-STEMを用いて測定された金の厚みとは、上記二次元マッピングから読み取れる厚さ、すなわち、金被覆銀ナノプレートの端面における金の厚みを意味していると解される。また、甲3の【0014】の記載から、ICP発光分析を用いて算出された金の厚みは、金被覆銀ナノプレートの主平面と端面の金被覆層の厚みが一律と仮定したときの金の厚みである。
ここで、甲3の【0068】の「8.」を参考に、甲3発明Bの三角形の最大辺の長さに相当する主面の最大長(粒子径)の平均が50nmで、厚さの平均は10nmである三角形の銀ナノプレートの主平面の面積、端面の面積、全体の表面積を計算すると、以下のとおりとなる。

・主平面の面積(上面及び下面の合計面積)
=(50nm×(50√3/2)nm ÷2)×2)
=2165nm^(2)
・端面の面積(三面の合計面積)
=(10nm×50nm×3)
=1500nm^(2)
・全体の表面積
=(主平面の面積)+(端面の面積)
=2165nm^(2)+1500nm^(2)
=3665nm^(2)

ここで、主平面における金の厚さをX(nm)、端面における金の厚さをY(nm)とすると、三角形の銀ナノプレートに被覆している金の体積は、以下のとおりとなる。

・三角形の銀ナノプレートに被覆している金の体積
主平面の面積×X+端面の面積×Y
=2165nm^(2)×Xnm+1500nm^(2)×Ynm … (式1)

一方、ICP発光分析結果に基づいた計算方法により算出された金の厚さは、0.41nmであるから、三角形の銀ナノプレートに被覆している金の体積は、以下のとおりとなる。

・三角形の銀ナノプレートに被覆している金の体積
全体の表面積×金の厚さ
=3665nm^(2)×0.41nm
=1052.65nm^(3) … (式2)

・上述のとおり、HAADF-STEMを用いて測定された金の厚みとは、金被覆銀ナノプレートの端面における金の厚みを意味していると解されるから、Y=0.45nmと考えることができる。

(イ)したがって、(式1)=(式2)の関係にY=0.45nmを代入するとX=0.174nmとなるから、甲3発明Bの金被覆銀ナノプレートの形状が全て正三角形であると仮定すると、「粒子の主平面における金被覆層の平均厚み」が0.174nmであり、かつ「粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比」が約0.387(=0.174/0.45)と算出され、本件発明1の「粒子の主平面における金被覆層の平均厚みが0.4nm以上2nm以下」であることと相違するから、上記相違点1は実質的な相違点である。

(ウ)相違点1について、甲3の請求項2には、「前記金被覆銀ナノプレート上の金の厚みの平均が、1.0nm以下である、請求項1に記載の懸濁液。」と記載があり、当該数値範囲に関して甲3の【0013】には、「銀ナノプレートの表面を被覆する金の厚さは、銀ナノプレートの発色性能に影響を与えない限り特に制限されないが、厚みの平均が、好ましくは1.0nm以下、より好ましくは0.7nm以下である。金の被覆の厚さが1.0nm以下であると、銀ナノプレートのプラズモン吸収を維持しつつ、銀ナノプレートの酸化を抑制することができる。」と記載されているから、甲3発明Bにおいて、銀ナノプレートの酸化を抑制するため、銀ナノプレートの表面に設ける金被覆層の厚さを上限1.0nmとして増やすことは、当業者であれば容易になし得ることである。

(エ)しかしながら、本件発明1は、「金被覆銀平板状粒子」において、「粒子の主平面における金被覆層の平均厚みが0.4nm以上2nm以下」かつ「粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比が0.2以上1.4以下」とすることによって、「酸化耐性に優れた金被覆銀平板状粒子及び金被覆銀平板状粒子を含む分散液」及び「酸化耐性に優れた塗布膜」を提供することができるという効果を奏するものであり(本件明細書の【0007】参照のこと。)、「粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比」に着目して、「0.2以上1.4以下」という特定の数値範囲とする技術思想について、甲3に記載されていないし、その他の甲号証にも記載されていない。

(オ)したがって、甲3発明Bにおいて、相違点1に係る本件発明1の構成とすること、すなわち、粒子の主平面における金被覆層の平均厚みを上限1.0nmとすること自体は、上記(ウ)で検討したように、甲3の記載に基いて当業者が容易になし得ることであるといえたとしても、金被覆銀平板状粒子の酸化耐性を向上させるために、「粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比」に着目して、「0.2以上1.4以下」という特定の数値範囲とすることは、甲3やその他の甲号証にも記載されていないから、本件発明1は、甲3発明Bと同一ではなく、また、甲3発明Bとその他の甲号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(カ)なお、申立人は、令和3年7月1日付けの意見書16頁?24頁の「第4 無効理由3について」において、本件発明1の「粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比」は、酸化耐性にどのような影響を与えるか不明なパラメータであるから、これを所定の数値範囲に限定することに臨界的異議はなく、これをどのような値とするかは設計事項にすぎない、と主張している。
しかしながら、本件発明1の「粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比」は、「粒子の主平面における金被覆層の平均厚み」と共に所定の数値範囲に限定することで、酸化耐性に優れた金被覆銀平板状粒子及び金被覆銀平板状粒子を含む分散液を提供できることができるものである。そして、上記(オ)で検討したように、主平面と端面の金被覆層の厚みの比に着目し、所定の数値範囲に限定することは、単なる設計事項ということはできないので、上記主張は採用できない。

エ 本件発明2?3、11について
本件発明2?3、11は、本件発明1を引用することにより本件発明1の特定事項を備えているので、上記イ?ウの検討と同様に、甲3発明Bとは、少なくとも相違点1において相違している。したがって、本件発明2?3、11は、甲3発明Bと同一ではない。
また、本件発明2?3、11は、本件発明1と同様に、「粒子の主平面における金被覆層の平均厚み」を「0.4nm以上2nm以下」とすることに加えて、「粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比」を「0.2以上1.4以下」という特定の数値範囲とすることによって、金被覆銀平板状粒子の酸化耐性を向上させることができるという効果を奏するものであるから、本件発明2?3、11は、これら各発明における新たな特定事項について検討するまでもなく、また、甲3発明Bとその他の甲号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

オ 本件発明4と甲3発明Cの対比
本件発明4は、「請求項1?請求項3のいずれか1項に記載の金被覆銀平板状粒子と分散媒体とを含む金被覆銀平板状粒子分散液。」というものである。
甲3発明Cの「銀ナノプレート」、「銀ナノプレート」を被覆する「金」、「金被覆銀ナノプレート」は、本件発明4が引用する本件発明1の「銀平板状粒子」、「金被覆層」、「金被覆銀平板状粒子」に相当し、甲3発明Cの「分散媒」、「金被覆銀ナノプレート懸濁液」は、本件発明4の「分散媒体」、「金被覆銀平板状粒子分散液」に相当するから、本件発明4と甲3発明Cの一致点と相違点は次のとおりとなる。
〈一致点〉
「銀平板状粒子と金被覆層とを有する金被覆銀平板状粒子と分散媒体とを含む金被覆銀平板状粒子分散液。」
〈相違点2〉
本件発明4の金被覆銀平板状粒子は、「粒子の主平面における金被覆層の平均厚みが0.4nm以上2nm以下であり、かつ粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比が0.2以上1.4以下である」のに対し、甲3発明Cの金被覆銀ナノプレートは、「主面の最大長(粒子径)の平均が50nmの三角形状を含む多角形状、円形状であるプレートの混合物であり、厚さの平均は10nmであり、HAADF-STEMによる金の厚さの平均は、0.45nmであり、ICP発光分析結果に基づいた計算方法により算出された金の厚さは0.41nmである」ものの、「粒子の主平面における金被覆層の平均厚み」や「粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比」は特定されていない点。

上記相違点2は、相違点1と実質的に同じ内容であるから、上記ウで検討したのと同様の理由により、相違点2は実質的な相違点であり、また、本件発明4は、相違点2に係る特定事項とすること、すなわち、「金被覆銀平板状粒子」において、「粒子の主平面における金被覆層の平均厚みが0.4nm以上2nm以下」かつ「粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比が0.2以上1.4以下」とすることによって、「酸化耐性に優れた金被覆銀平板状粒子及び金被覆銀平板状粒子を含む分散液」及び「酸化耐性に優れた塗布膜」を提供することができるという効果を奏するものであるから、本件発明4は、甲3発明Cと同一ではなく、また、甲3発明Cとその他の甲号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

カ 本件発明5について
本件発明5は、本件発明4を引用することにより本件発明4の特定事項を備えているので、上記オの検討と同様に、甲3発明Cとは、少なくとも相違点2において相違している。したがって、本件発明5は、甲3発明Cと同一ではない。
また、本件発明5は、本件発明4と同様に、「粒子の主平面における金被覆層の平均厚み」を「0.4nm以上2nm以下」とすることに加えて、「粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比」を「0.2以上1.4以下」という特定の数値範囲として、金被覆銀平板状粒子の酸化耐性を向上させることができるという効果を奏するものであるから、本件発明5は、本件発明5における新たな特定事項について検討するまでもなく、甲3発明Cとその他の甲号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)取消理由3(サポート要件)について
ア 取消理由の概要
訂正前の請求項1に係る発明及びこれを引用する本件訂正前の請求項2?5、11に係る発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、その特許は取り消されるべきものである。

イ 取消理由3の詳細
取消理由3の詳細は以下のとおりである。
(ア)本件発明が解決しようとする課題について、本件明細書には次の記載がある。
「【0002】
可視光に対する反射防止膜、増反射膜、赤外線遮蔽(断熱)膜等の光学部材用途、インク、塗料等の着色剤、被検物質の検出試薬への応用などの種々の目的に応じて、銀、金等の貴金属粒子が用いられている。
また、銀粒子に対しては酸化に対する安定性を向上させるため、粒子表面を金被覆することが行なわれている。
【0003】
例えば、特開2016-109550号公報には、銀ナノプレートが有する表面プラズモン共鳴(SPR)を利用して被検物資の検出試薬の標識などを用途として、銀ナノプレートの表面に金を被覆させた粒子及び水溶性高分子を含み、pH6以下とした懸濁液が開示される。この懸濁液は、凍結や凍結乾燥に対して安定であるとされている。
特許第563608号公報(当審注:「特許第5636208号公報」の誤記と認められる。以下同様。)には、耐光性改良を目的として、銀平板状銀粒子の表面及び表面から2?4原子層まで、銀より貴な金属を10^(-3)原子%?5原子%含有させる技術が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、本発明者の検討によれば、特開2016-109550号公報に記載される技術では、銀平板状粒子の全面(すなわち、粒子の主平面及び端面の全て)に対して均一かつ十分な金被覆が成しえない場合があること、具体的には金の球状粒子や銀平板状粒子に球状粒子が複数付着した形状の粒子が発生してしまう場合があることが判明した。特に、高濃度な銀平板状粒子の分散液に対して金被覆処理が望まれる場合には、特開2016-109550号公報に記載される技術では、そもそも、高濃度な銀平板状粒子の分散液を作製しようとすると、粒子が凝集し沈降してしまい、高濃度な銀平板状粒子の分散液は作製できず、金被覆処理は行えない。
【0005】
また、特許第563608号公報に記載される銀平板状銀粒子に対する金被覆処理は、塩化金酸を用いた銀と金とのガルバニック置換による処理であり、金被覆の際に銀平板状粒子の端部の形状変化を伴うことがあり、所望の粒子形状を保ったまま粒子全面に均一に金被覆がなされない場合がある。このため、粒子全面に対してより均一な金被覆が行える技術が望まれる。
【0006】
銀平板状粒子における不均一な金被覆は、金被覆に要求される酸化耐性の向上を十分に達成しえない。
【0007】
本発明の一実施形態が解決しようとする課題は、酸化耐性に優れた金被覆銀平板状粒子及び金被覆銀平板状粒子を含む分散液を提供することである。…
また、本発明の他の実施形態が解決しようとする課題は、酸化耐性に優れた塗布膜…を提供することである。」

(イ)上記(ア)の記載によれば、本件発明が解決しようとする課題(以下単に「課題」という。)は、「所望の粒子形状を保ったまま」「銀平板状粒子の全面(すなわち、粒子の主平面及び端面の全て)に対して均一かつ十分な金被覆」を行って、「酸化耐性に優れた金被覆銀平板状粒子及び金被覆銀平板状粒子を含む分散液」及び「酸化耐性に優れた塗布膜」を提供することであると認められる。

(ウ)上記課題に対して、訂正前の請求項1に係る発明では「粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比」が下限値のみで規定されており、上限値が規定されていないため、訂正前の請求項1に係る発明の「金被覆銀平板状粒子」は、「粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比」が非常に大きい場合も含み得るものである。

(エ)そして、訂正前の請求項1に係る発明の金被覆銀平板状粒子の「金被覆層」について、訂正前の本件明細書には次の記載がある。
「【0025】
特定平板状粒子は、粒子の主平面における金被覆層の平均厚みが0.1nm以上2nm以下であり、かつ粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する主平面における金被覆層の厚みの比が0.02以上である。酸化耐性及び平板状粒子の光学的特性保持の観点からは、特定平板状粒子は、粒子の主平面における金被覆層の平均厚みが0.7nm以上1.5nm以下であり、かつ粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する主平面における金被覆層の厚みの比が0.02以上であることが、より好ましい。」

「【0027】
金被覆層の平均厚みは、粒子断面方向のHAADF-STEM(High-angle Annular Dark Field Scanning TEM)像を撮影し、その撮影画像中で輝度の高い金被覆層の厚みを、主平面及び端面のそれぞれについて、1粒子中5点をImageJ(アメリカ国立衛生研究所(NIH:National Institutes of Health)により提供)などの画像解析ツールによって測定し、計20個の粒子について得られた主平面及び端面それぞれの厚みを算術平均することで得られる。
【0028】
粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する主平面における金被覆層の厚みの比は0.02以上であり、0.1以上が好ましく、0.3以上がより好ましい。上記厚みの比の上限は、特に限定されないが、10以下であることが好ましい。 金被覆層の厚みの比が0.02以上であると優れた酸化耐性が発揮される。
【0029】
上記の厚みの比は、粒子の主平面における金被覆の平均厚み(A)を、粒子の端面における金被覆の平均厚み(B)で除して算出した値(A/B)である。」

「【0060】
本開示の製造方法は、従来は困難であった銀平板状粒子の端面においても均一な金被覆層を形成でき、かつ分散液の生産性も高い。さらに、本開示の製造方法により、銀濃度の高い分散液を製造することができる。」

「【0082】
?銀平板状粒子の端面吸着剤?
本開示の製造方法においては、銀平板状粒子製造工程の後であって、金被覆処理工程の前に、銀平板状粒子製造工程により得た銀平板状粒子分散液に、銀平板状粒子の端面吸着剤を添加することが好ましい。端面吸着剤を用いることにより、後述する金被覆処理工程において、銀平板状粒子の端面における金被覆層の形成を促進しうることから、銀平板状粒子の主平面及び端面の双方に、より均一な金被覆層を形成することができる。
【0083】
端面吸着剤とは、銀平板状粒子の端面に生じる{111}面に対して選択的に吸着性することで、端面における金被覆層の形成性向上に寄与する化合物を意味する。より詳細には、本開示における銀平板状粒子は、{111}面を主平面とし、端面は{111}面と{100}面との交互層として構成される平板状粒子であることから、端面吸着剤は、銀平板状粒子の端面における{111}面に対して選択的に吸着性することで、端面における金被覆層の形成性向上に寄与する。
【0084】
図2に、主平面({111}面)及び端面({111}面と{100}面との交互層)で構成される銀平板状粒子の概略について、六角形状を有する銀平板状粒子の一例を用いて示す。図2に示すように、本例の六角形状を有する銀平板状粒子は、六角形状の2つの主平面が{111}面で構成され(すなわち、図中に現れていない側の主平面も{111}面である。)、2つの主平面間を繋ぐ端面に{111}面と{100}面とが交互層として現れる構成を有している。なお、図2に示される銀平板状粒子は、本開示における銀平板状粒子の一例であり、本開示における銀平板状粒子は、図2に示される特定の形状に限定されない。なお、銀平板状粒子における結晶面に関しては、文献「Adv.Func.Mater.2008.18. 2005-2016」の記載も参照される。
【0085】
端面吸着剤としては、例えば、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(CTAB)、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(CTAC)、水酸化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(CTAOH)、ポリビニルピロリドン(PVP)等が挙げられる。(各化合物名に付随する括弧内は略称である。) これらの端面吸着剤はアミン構造を有しており、このアミン構造を介して銀平板状粒子の端面における{111}面に端面吸着剤が選択に吸着することで、端面における金被覆層の形成性が向上すると考えている。」

「【0092】
?特定錯化剤?
金被覆処理液は、金イオンとの形成錯体の還元電位が0.5V以下となる錯化剤(特定錯化剤)を少なくとも1種含む。特定錯化剤としては、金イオンとの形成錯体の還元電位が0.5V以下となる化合物であれば特に限定されない。特定錯化剤の使用は、金還元の還元電位を下げること、すなわち、金被覆処理において、ゆっくりと金を還元させることができ、均一な金被覆に寄与する。」

「【実施例】
【0168】
以下に実施例を挙げて本発明の一実施形態を更に具体的に説明する。本発明の範囲は、以下に示す具体例に限定されるものではない。なお、特に断りの無い限り、「%」及び「部」は質量基準である。
【0169】
[1-1] 金被覆銀平板状粒子(特定平板状粒子)及びこれを含む分散液の作製
[実施例1]
(1)銀平板状粒子分散液aの作製
NTKR-4製の反応容器(日本金属工業(株)製)にイオン交換水13Lを計量し、SUS316L製のシャフトにNTKR-4製のプロペラ4枚及びNTKR-4製のパドル4枚を取り付けたアジターを備えるチャンバーを用いて撹拌しながら、10g/Lのクエン酸三ナトリウム(無水物)水溶液1.0Lを添加して35℃に保温した。8.0g/Lのポリスチレンスルホン酸水溶液0.68Lを添加し、更に0.04Nの水酸化ナトリウム水溶液を用いて23g/Lに調製した水素化ホウ素ナトリウム水溶液0.041Lを添加した。0.10g/Lの硝酸銀水溶液13Lを5.0L/minで添加した。
【0170】
反応容器に、10g/Lのクエン酸三ナトリウム(無水物)水溶液1.0Lとイオン交換水11Lを添加して、更に80g/Lのヒドロキノンスルホン酸カリウム水溶液0.68Lを添加した。撹拌を800rpm(rotations per minute、以下同じ。)に上げて、0.10g/Lの硝酸銀水溶液8.1Lを0.95L/minで添加した後、30℃に降温した。
【0171】
さらに反応容器に、44g/Lのメチルヒドロキノン水溶液8.0Lを添加し、次いで、後述する40℃のゼラチン水溶液を全量添加した。撹拌を1200rpmに上げて、さらに反応容器に、後述する亜硫酸銀白色沈殿物混合液を全量添加した。
【0172】
調製液のpH変化が止まった段階で、さらに反応容器に、1mol/LのNaOH水溶液5.0Lを0.33L/minで添加した。その後、さらに反応容器に、2.0g/Lの1-(メタスルホフェニル)-5-メルカプトテトラゾールナトリウム水溶液(NaOHとクエン酸(無水物)とを用いてpH=7.0±1.0に調節して溶解した)0.18Lを添加し、更に70g/Lの1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン(NaOHで水溶液をアルカリ性に調節して溶解した)0.078Lを添加した。
このようにして銀平板状粒子分散液aを調製した。
銀平板状粒子分散液aが含む銀平板状粒子は、平均厚みが8.3nm、平均粒子径(平均円相当径)が121.2nmの平板状粒子であり、アスペクト比は14.6であった。測定方法は、既述のとおりである。
【0173】
?ゼラチン水溶液の調製?
SUS316L製の溶解タンクにイオン交換水16.7Lを計量した。SUS316L製のアジターで低速撹拌を行いながら、脱イオン処理を施したアルカリ処理牛骨ゼラチン(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)重量平均分子量:20万)1.4kgを添加した。更に、この溶解タンクに、脱イオン処理、蛋白質分解酵素処理、及び過酸化水素を用いた酸化処理を施したアルカリ処理牛骨ゼラチン(GPC重量平均分子量:2.1万)0.91kgを添加した。その後40℃に昇温し、ゼラチンの膨潤と溶解を同時に行って完全に溶解させた。
【0174】
?亜硫酸銀白色沈殿物混合液の調製?
SUS316L製の溶解タンクにイオン交換水8.2Lを計量し、100g/Lの硝酸銀水溶液8.2Lを添加した。SUS316L製のアジターで高速撹拌を行いながら、この溶解タンクに、140g/Lの亜硫酸ナトリウム水溶液2.7Lを短時間で添加して、亜硫酸銀の白色沈澱物を含む混合液を調製した。この亜硫酸銀白色沈殿物混合液は、使用する直前に調製した。
【0175】
(2)端面吸着剤の添加
次いで、上記で得た銀平板状粒子分散液a 130.4gに対し、50mMの塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(CTAC)13.6gを添加し、銀平板状粒子分散液Aを得た。
【0176】
(3)金被覆処理(特定平板状粒子を含む分散液の作製)
水 266.3g、0.5mol/Lアスコルビン酸(還元剤) 177g、及び、下記の金還元液B1 608gを、反応容器に順次添加し、5分間攪拌した後、1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を用いて、pHを10以上となるように調整して、金被覆処理液B1を得た。
次いで、この反応容器内の金被覆処理液B1に、上記で得た銀平板状粒子分散液A(銀濃度:0.5質量%≒46mmol/L)144gを添加し、60℃で4時間攪拌した。
以上により、銀平板状粒子を金被覆した特定平板状粒子を含む分散液(分散液b)を得た。
【0177】
?金還元液の調製?
容器に、水 18.2g、0.012mol/Lの塩化金酸4水和物(水溶性金化合物) 353.6g、0.2mol/Lの水酸化ナトリウム(pH調整剤) 15.6g、及び、0.1mol/Lのチオ硫酸ナトリウム(錯化剤) 220.6gを、軽く撹拌しながら順次添加し、金還元液B1を得た。
【0178】
(4)脱塩処理及び再分散処理
上記で得た特定平板状粒子を含む分散液bを遠沈管に800g採取して、1mol/LのNaOHおよび0.5mol/Lの硫酸のうち少なくとも一方を用いて25℃でpH=9.2±0.2に調整した。遠心分離機(日立工機(株)製himacCR22GIII、アングルローターR9A)を用いて、35℃に設定して9000rpmで60分間の遠心分離操作を行った後、上澄液を784g捨てた。沈殿した銀平板状粒子に0.2mmol/LのNaOH水溶液を加えて合計400gとし、撹拌棒を用いて手撹拌して粗分散液にした。これと同様の操作で24本分の粗分散液を調製して合計9600gとし、SUS316L製のタンクに添加して混合した。更に、このタンクに、界面活性剤であるPluronic31R1(BASF社製)の10g/L溶液(メタノール:イオン交換水=1:1(体積比)の混合液で希釈)を10mL添加した。プライミクス(株)製オートミクサー20型(撹拌部はホモミクサーMARKII)を用いて、タンク中の粗分散液と界面活性剤の混合物に9000rpmで120分間のバッチ式分散処理を施した。分散中の液温は50℃に保った。分散後、25℃に降温してから、プロファイルIIフィルター(日本ポール(株)製、製品型式MCY1001Y030H13)を用いてシングルパスの濾過を行った。
このようにして、特定平板状粒子を含む分散液bに脱塩処理及び再分散処理を施し、特定平板状粒子を含む完成品である分散液B1を得た。
分散液B1に含まれる特定平板状粒子は、平均厚みが9.1nm、平均厚みが(平均円相当径)が123.2nmの平板状粒子であり、アスペクト比は13.5であり、変動係数は19.6%であった。測定方法は、既述のとおりである。
【0179】
[実施例2?14、比較例5?6]
実施例1において、錯体化剤の種類及び量、端面吸着剤の量、銀平板状粒子分散液Aの量、及び塩化金酸4水和物の量を調整して、下記表2に記載の錯体化剤の種類及び量、端面吸着剤の量、銀濃度及び金濃度となるようにした以外は、実施例1と同様にして、分散液B2?B14及び分散液C5?C6を得た。
【0180】
[実施例15]
実施例4において、銀平板状粒子分散液aの調製において加える亜硫酸銀白色沈殿物混合液の調製の際、100g/Lの硝酸銀水溶液の添加量を2.7Lとしたことに加え、錯体化剤の種類及び量、端面吸着剤の量、銀平板状粒子分散液Aの量、及び塩化金酸4水和物の量を調整して、下記表2に記載の錯体化剤の種類及び量、端面吸着剤の量、銀濃度及び金濃度となるようにした以外は、実施例4と同様にして分散液B15を得た。
【0181】
[実施例16]
実施例4において、銀平板状粒子分散液aの調製においてメチルヒドロキノン水溶液を添加する前に、反応容器中の液から33.1Lを抜き取ったこと以外は、実施例4と同様にして分散液B16を得た。
【0182】
[実施例17]
実施例4において、金被覆処理液の調製において、水 266.3gの代わりに、水136.3g、およびpH緩衝材として5質量%のグリシン水溶液を130g用いたこと以外は、実施例4と同様にして分散液B17を得た。
【0183】
[実施例18]
実施例4において、銀平板状粒子分散液と、金被覆処理液を混合する際に、以下のマイクロミキサーを用いたこと以外は、実施例4と同様にして分散液B18を得た。
具体的には、銀平板状粒子分散液と、金被覆処理液を、富士テクノ社製プランジャーポンプで、それぞれ8mL/min、32mL/minで送液し、EYELA社製T字型リアクター(内径0.5mm)を用いて混合した。各プランジャーポンプとリアクターは、長さ500mm、内径2mmのテフロン(登録商標)チューブで連結し、リアクターから受け容器までは長さ200mm、内径2mmのテフロン(登録商標)チューブで連結した。また、水浴を用いてリアクターを60℃に加熱した。回収した液は、60℃で4時間攪拌した。
【0184】
[比較例1]
特開2016-109550号公報の段落番号0032及び0033に記載の方法に順じ、銀濃度を、銀平板状粒子分散液aと同じ46mmol/Lとするために、各材料の添加量を260倍とし、銀平板状粒子を作製しようとしたところ、沈殿物が生じ、銀平板粒子が作製できなかった。この結果は、銀濃度が高いため、クエン酸ナトリウムの分散力では、十分に粒子の保護コロイド性が発現しなかったためであると推定した。
このため、比較例1については、金被覆処理も実施できなかった。
【0185】
[比較例2]
実施例1において調製した銀平板状粒子分散液aに対して、端面端面吸着剤の添加及び金被覆処理を行なわずに、「(4)脱塩処理及び再分散処理」と同様の処理を行なった以外は、実施例1と同様にして作製した銀平板状粒子の分散液を分散液C2として用いた。
【0186】
[比較例3]
実施例1において錯化剤を用いなかった以外は、実施例1と同様にして、金被覆銀平板状粒子分散液である分散液C3を得た。
【0187】
[比較例4]
実施例1において、錯化剤をヨウ化カリウムに変更した以外は、実施例1と同様にしてて、金被覆銀平板状粒子分散液である分散液C4を得た。
【0188】
上記にて得た分散液B1?B18、及び分散液C1?C6について、金被覆処理に用いた錯化剤の種類、金との形成錯体の還元電位(V)、分散液中の量(mmol/L)、分散液中の銀濃度(mmol/L)、及び、分散液中の金濃度(mmol/L)を、表2に示す。なお、比較例3の欄に記載の錯化剤種「-(Cl)」は、塩化金酸4水和物に由来するリガンドを示している。
【0189】
[1-2] 測定及び評価(I)
(1)金被覆状態の確認
分散液B1?B18及び分散液C1?C6に含まれる金被覆銀平板状粒子について、走査型電子顕微鏡(SEM、超高分解能電界放出形走査電子顕微鏡:S-5200、(株)日立ハイテクノロジーズ製)を用いて確認した。結果を表2に示す。
【0190】
また、図8には、実施例7で得られた金被覆銀平板状粒子における平坦な金被覆層の形成状態を示す。図8は、実施例7で得られた金被覆銀平板状粒子に対するエネルギー分散型X線分析(EDS)の測定結果に基づき作製された図である。図8中、(a)は銀平板状粒子101を単独で示し、(b)は金被覆層102を単独で示し、(c)は銀平板状粒子101の表面全体に金被覆層102が存在する金被覆銀平板状粒子100を示す。
【0191】
金被覆状態の確認結果が「平坦」であった他の金被覆銀平板状粒子についても、実施例7で得られた金被覆銀平板状粒子と同様の金被覆状態であった。
【0192】
(2)金被覆層の平均厚み及び厚み比の測定
分散液B1?B18及び分散液C1?C6に含まれる金被覆銀平板状粒子について、主平面の平均厚み(A)及び端面の平均厚み(B)を測定し、厚み比(A/B)を算出した。厚みの測定方法の詳細は、以下の通りである。結果を表1(当審注:「表2」の誤記と認められる。)に示す。
【0193】
(測定方法)
粒子断面方向のHAADF-STEM(High-angle Annular Dark Field Scanning TEM)像を撮影し、その撮影画像中で輝度の高い金被覆層の厚みを、主平面及び端面のそれぞれについて、1粒子中5点を画像解析ツールとしてImageJを用いて測定し、計20個の粒子の厚みを算術平均することで、主平面の平均厚み(A)、端面の平均厚み(B)、及び厚み比A/Bをそれぞれ算出した。
【0194】
(3)酸化耐性(耐H_(2)O_(2)性)評価
分散液B1?B18及び分散液C1?C6の酸化耐性(耐H_(2)O_(2)性)について、以下の評価方法及び評価基準により評価した。評価レベルA又はBが実用上問題ない酸化耐性であると評価する。結果を表2に示す。
【0195】
(評価方法)
H_(2)O_(2)の含有量が、0質量%の液、及び、3質量%の液を、それぞれ4mLづつ計19個に小分けし、そこに分散液B1?B18及び分散液C1?C6の各分散液を、20μLづつ添加して、評価用サンプルを調製した。
各評価用サンプルを2hr経過させた後、各評価用サンプルの液分光吸収を分光機(U-4000形分光光度計 日立ハイテクノロジーズ社製)にて測定した。
分散液B1?B13及び分散液C1?C6のそれぞれについて、H_(2)O_(2)の含有量が0質量%の評価用サンプルと3質量%の評価用サンプルとの吸収ピーク強度 AM(Abs.Max)(0%)及びAM(3%)を求め、その強度比:AM(3%)/AM(0%)から、下記評価基準A?Eに基づいて、酸化耐性(耐H_(2)O_(2)性)を判定した。
【0196】
(評価基準)
A:強度比が0.9以上1.0以下
B:強度比が0.7以上0.9未満
C:強度比が0.5以上0.7未満
D:強度比が0.3以上0.5未満
E:強度比が0以上0.3未満
【0197】
3.粒子生産性の評価
得られた各分散液について、銀濃度(mmol/L)を分散液の作製時間(hr)で割ることにより、粒子の生産性(mmol/L・hr)を求めた。評価基準は以下のとおりである。この評価に優れるほど、短時間に高濃度の金被覆銀平板状粒子を含む分散液が得られ、生産性が高い。
結果を表2に示す。
(評価基準)
A:生産性が、2.5mmol/L・hr以上
B:生産性が、0.5mmol/L・hr以上2.5mmol/L・hr未満
C:生産性が、0.5mmol/L・hr未満

【0198】
【表2】

【0199】
表2に示すように、実施例1?18で作製した分散液B1?B18が含む特定平板状粒子は、いずれも、粒子の主平面における金被覆層の平均厚みが0.1nm以上2nm以下であり、かつ粒子の端面における金被覆層の平均厚み(B)に対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚み(A)の比(A/B)が0.02以上であることが確認された。これらの分散液は、いずれも優れた酸化耐性(耐H_(2)O_(2)性)を示すことが分かる。」

(オ)訂正前の本件明細書の【0198】の【表2】には、実施例1?12、14?18で作製した分散液B1?B12、B14?B18が含む金被覆銀平板状粒子は、粒子の主平面における金被覆層の平均厚みである「主平面厚み(A)」が0.1nm以上2nm以下であり、かつ粒子の端面における金被覆層の平均厚みである「端面厚み(B)」に対する「主平面厚み(A)」の比である「厚み比[A/B]」が0.1以上1.6以下であり、該粒子を有する分散液B1?B12、B14?B18は実用上問題ない酸化耐性(評価レベルA、B)を有することが示されている。
したがって、金被覆銀平板状粒子の金被覆層が、「粒子の主平面における金被覆層の平均厚みが0.1nm以上2nm以下であり、かつ粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比」が0.1以上1.6以下の場合には、上記イに記載した課題を解決し得ることが確認できる。

(カ)そこで、金被覆銀平板状粒子の金被覆層が、「粒子の主平面における金被覆層の平均厚みが0.1nm以上2nm以下であり、かつ粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比」が実施例の上記数値範囲0.1以上1.6以下を超える場合でも、上記課題が解決し得るかについて検討する。
金被覆銀平板状粒子の金被覆層において、「粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比」が実施例の数値を超えて非常に大きい、仮に100であるとき、粒子の主平面における金被覆層の平均厚みが、粒子の端面における金被覆層の平均厚みの100倍になるから、金被覆によって銀平板状粒子の粒子形状は大きく変化する。この場合、金被覆前の銀平板状粒子の粒子形状を保ったまま、銀平板状粒子の全面(粒子の主平面と端面の全て)に対して均一な金被覆がされているといえるのか不明であり、均一な金被覆の結果である酸化耐性も不明である。
なお、訂正前の本件明細書の【0028】には、「粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比」の上限値について、「特に限定されないが、10以下であることが好ましい。」との記載があるが、上限値を10以下に設定する理由は説明されておらず課題との関係は不明である。
したがって、金被覆銀平板状粒子の金被覆層が、「粒子の主平面における金被覆層の平均厚みが0.1nm以上2nm以下であり、かつ粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比」が実施例の数値範囲0.1以上1.6以下を超える場合には、酸化耐性が優れたものになるということはできない。

(キ)以上の検討から、金被覆銀平板状粒子の金被覆層が、「粒子の主平面における金被覆層の平均厚みが0.1nm以上2nm以下であり、かつ粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比」が0.1以上1.6以下である実施例の記載に基づいて、金被覆銀平板状粒子の金被覆層が、「粒子の主平面における金被覆層の平均厚みが0.1nm以上2nm以下であり、かつ粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比」が非常に大きい訂正前の請求項1に係る発明の場合にまで、上記課題を解決し得るということはできない。
よって、訂正前の請求項1に係る発明及びこれを引用する訂正前の請求項2?5、11に係る発明は、本件明細書に開示された発明の範囲を超えているので、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえない。
よって、訂正前の請求項1に係る発明及びこれを引用する本件訂正前の請求項2?5、11に係る発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、その特許は取り消されるべきものである。

ウ 判断
(ア)本件訂正によって、本件発明1は、金被覆銀平板状粒子の「金被覆層」について、「粒子の主平面における金被覆層の平均厚みが0.4nm以上2nm以下であり、かつ粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比が0.2以上1.4以下である」と特定されたことにより、「粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比」の上限値が規定され、「0.2以上1.4以下」とされたため、本件発明1の「金被覆銀平板状粒子」は、「粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比」が非常に大きい場合は含まないものとなった。

(イ)そして、本件訂正によって、本件明細書の上記エで摘記した記載のうち、【0179】、【0188】、【0189】、【0192】、【0194】、【0195】、【0198】、【0199】は、下記のように訂正された。

「【0179】
[実施例2?6、12?14、比較例6]
実施例1において、錯体化剤の種類及び量、端面吸着剤の量、銀平板状粒子分散液Aの量、及び塩化金酸4水和物の量を調整して、下記表2に記載の錯体化剤の種類及び量、端面吸着剤の量、銀濃度及び金濃度となるようにした以外は、実施例1と同様にして、分散液B2?B6、B12?B14及び分散液C6を得た。」

「【0188】
上記にて得た分散液B1?B6、B12?B18、及び分散液C1?C4、C6について、金被覆処理に用いた錯化剤の種類、金との形成錯体の還元電位(V)、分散液中の量(mmol/L)、分散液中の銀濃度(mmol/L)、及び、分散液中の金濃度(mmol/L)を、表2に示す。なお、比較例3の欄に記載の錯化剤種「-(Cl)」は、塩化金酸4水和物に由来するリガンドを示している。
【0189】
[1-2] 測定及び評価(I)
(1)金被覆状態の確認
分散液B1?B6、B12?B18及び分散液C1?C4、C6に含まれる金被覆銀平板状粒子について、走査型電子顕微鏡(SEM、超高分解能電界放出形走査電子顕微鏡:S-5200、(株)日立ハイテクノロジーズ製)を用いて確認した。結果を表2に示す。」

「【0192】
(2)金被覆層の平均厚み及び厚み比の測定
分散液B1?B6、B12?B18及び分散液C1?C4、C6に含まれる金被覆銀平板状粒子について、主平面の平均厚み(A)及び端面の平均厚み(B)を測定し、厚み比(A/B)を算出した。厚みの測定方法の詳細は、以下の通りである。結果を表1(当審注:「表2」の誤記と認められる。)に示す。」

「【0194】
(3)酸化耐性(耐H_(2)O_(2)性)評価
分散液B1?B6、B12?B18及び分散液C1?C4、C6の酸化耐性(耐H_(2)O_(2)性)について、以下の評価方法及び評価基準により評価した。評価レベルA又はBが実用上問題ない酸化耐性であると評価する。結果を表2に示す。
【0195】
(評価方法)
H_(2)O_(2)の含有量が、0質量%の液、及び、3質量%の液を、それぞれ4mLづつ計19個に小分けし、そこに分散液B1?B6、B12?B18及び分散液C1?C4、C6の各分散液を、20μLづつ添加して、評価用サンプルを調製した。
各評価用サンプルを2hr経過させた後、各評価用サンプルの液分光吸収を分光機(U-4000形分光光度計 日立ハイテクノロジーズ社製)にて測定した。
分散液B1?B6、B12?B18及び分散液C1?C4、C6のそれぞれについて、H_(2)O_(2)の含有量が0質量%の評価用サンプルと3質量%の評価用サンプルとの吸収ピーク強度 AM(Abs.Max)(0%)及びAM(3%)を求め、その強度比:AM(3%)/AM(0%)から、下記評価基準A?Eに基づいて、酸化耐性(耐H_(2)O_(2)性)を判定した。」

「【0198】
【表2】

【0199】
表2に示すように、実施例1?6、12?18で作製した分散液B1?B6、B12?B18が含む特定平板状粒子は、いずれも、粒子の主平面における金被覆層の平均厚みが0.1nm以上2nm以下であり、かつ粒子の端面における金被覆層の平均厚み(B)に対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚み(A)の比(A/B)が0.02以上であることが確認された。これらの分散液は、いずれも優れた酸化耐性(耐H_(2)O_(2)性)を示すことが分かる。」

(ウ)訂正後の本件明細書の【0198】の【表2】において、「粒子の主平面における金被覆層の平均厚み」は「主平面厚み(A)」、「粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比」は「厚み比[A/B]」の欄に示されている。
そして、同【表2】に記載の実施例1?6、12?18のうち、実施例1?6、12、15?18で作製した分散液B1?B6、B12、B15?B18が含む金被覆銀平板状粒子は、「主平面厚み(A)」及び「厚み比[A/B]」の値が両方とも本件発明1の数値範囲を満たし、該粒子を有する分散液B1?B6、B12、B15?B18は実用上問題ない酸化耐性(評価レベルA、B)を有することが示されている。
(なお、実施例13?14については、下記理由により除外した。
・実施例13で作製した分散液B13が含む金被覆銀平板状粒子は、「主平面厚み(A)」及び「厚み比[A/B]」の値が両方とも本件発明1の数値範囲を満たさない。
・実施例14で作製した分散液B14が含む金被覆銀平板状粒子は、「主平面厚み(A)」の値が本件発明1の数値範囲を満たさない。)
ここで、表2の実施例1?6、12、15?18の「主平面厚み(A)」及び「厚み比[A/B]」の値から、金被覆銀平板状粒子の金被覆層が、「粒子の主平面における金被覆層の平均厚みが0.4nm以上2nm以下であり、かつ粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比」が0.2以上1.4以下の場合には、課題を解決し得ることが確認できる。

(エ)上記(ア)で説明したとおり、本件訂正によって「粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比」の上限値が規定され、「0.2以上1.4以下」とされたため、本件発明1は、「粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比」が上記カに記載の数値範囲である金被覆銀平板状粒子に限定された。

(オ)したがって、本件発明1は、上記課題を解決し得るものであるということができるので、上記アに記載したサポート要件に係る取消理由は解消した。

(3)取消理由4(実施可能要件)について
ア 取消理由4の内容は以下のとおりである。
本件訂正前の請求項1に係る発明は、「粒子の主平面における金被覆層の平均厚みが0.1nm以上2nm以下であり、かつ粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比が0.02以上」との発明特定事項を含む金被覆銀平板状粒子である。
本件訂正前の本件明細書の【0179】の記載から、実施例2?14、比較例5?6は、実施例1において、錯化剤の種類及び量、端面吸着剤の量、銀平板状粒子分散液Aの量、及び塩化金酸4水和物の量を調整して、表2に記載の錯化剤の種類及び量、端面吸着剤の量、銀濃度及び金濃度となるようにした以外は、実施例1と同様の方法で、分散液B2?B14及び分散液C5?C6を得たものと認められる。
そして、表2より、実施例7?11、比較例5?6は、錯化剤としてNaSO_(3)、錯化剤の添加量を15mmol/L、端面吸着剤の種類をCTAC、銀濃度を4.5mmol/L、金濃度を2.28mmol/Lとし、端面吸着剤の量のみが異なる作製条件で粒子分散液を製造したものである。なかでも、実施例7と比較例5は、端面吸着剤の量がどちらも0mmol/Lで、表2に記載の粒子分散液の作製条件は完全に同一であるが、実施例7では、本件訂正前の請求項1に係る発明の規定を満たし実用上問題ない酸化耐性の金被覆銀平板状粒子が得られるのに対し、比較例5では、本件訂正前の請求項1に係る発明の規定を満たさず、酸化耐性に問題がある金被覆銀平板状粒子が得られている。また、実施例8と実施例10、実施例9と実施例11も、粒子分散液の作製条件が完全に同一にもかかわらず、得られた金被覆銀平板状粒子の形状(粒子の主平面における金被覆層の平均厚み、及び、粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比)が異なっている。さらに、本件訂正前の本件明細書の【0082】?【0083】において説明される端面吸着剤の添加効果も表2から確認できず、本件明細書の実施例から本件訂正前の請求項1に係る発明の金被覆銀平板状粒子を製造するために必要な条件を把握することができない。
したがって、本件訂正前の本件明細書の発明の詳細な説明には、本件訂正前の請求項1に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。
また、上記本件訂正前の請求項1に係る発明を直接又は間接的に引用する本件訂正前の請求項2?5、11に係る発明についても同様である。
よって、本件訂正前の請求項1に係る発明及びこれを直接又は間接的に引用する本件訂正前の請求項2?5、11に係る発明は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、その特許は取り消されるべきものである。

イ 本件訂正によって、本件明細書における実施例及び比較例に関する事項のうち、上記アの取消理由の根拠であった「実施例7?実施例11」、「比較例5」、「実施例25?実施例29」、「比較例11」に関する事項が削除された。また、特許権者は、令和3年5月14日に提出した意見書の3頁において、「実施例7と比較例5、実施例8と実施例10、実施例9と実施例11は、錯誤により不適切な実験結果が記載されてしまっていたため、分散液の作製条件が同一となっており、これらの実施例及び比較例の存在は、表2の記載が意図する事項(即ち、分散液の種類とそれにより得られる金被覆銀平板状粒子の形状)に齟齬を来し、表2の記載を不明瞭にするものであることから、表2から実施例7?実施例11及び比較例5に関する事項を削除した。」と記載して、当該削除の合理的理由を説明したため、上記アの取消理由は解消した。

ウ 本件発明の実施可能要件について、申立人は、令和3年7月1日付けの意見書の13?16頁において、
(ア)訂正により削除されたとはいえ、実施例7と比較例5、実施例8と実施例10、実施例9と実施例11は、それぞれ粒子分散液の作製条件が完全に同一であるにもかかわらず、得られた金被覆銀平板状粒子の形状(粒子の主平面における金被覆層の平均厚み(A)、及び、粒子の端面における金被覆層の平均厚み(B)(さらには、粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比(A/B))が異なっているのであるから、本件明細書の実施例、比較例の分散液は、【表2】に記載されていない粒子分散液の作製条件を異ならせて作製されたものであることは明らかであり、本件明細書にその開示がないことに照らせば、実施可能要件違反があるというべきである、
(イ)主平面の金被覆層の厚みを測定する方法について、本件明細書には、
「【0193】
(測定方法)
粒子断面方向のHAADF-STEM(High-angle Annular Dark Field Scanning TEM)像を撮影し、その撮影画像中で輝度の高い金被覆層の厚みを、主平面及び端面のそれぞれについて、1粒子中5点を画像解析ツールとしてImageJを用いて測定し、計20個の粒子の厚みを算術平均することで、主平面の平均厚み(A)、端面の平均厚み(B)、及び厚み比A/Bをそれぞれ算出した。」
として、HAADF-STEM像を用いた測定方法が記載されているものの、本件発明の金被覆銀平板状粒子のようなアスペクト比の高い平板状粒子を自然に端面を底にして垂直に立たせることは困難であるため、主平面の金被覆層の平均厚みを測定することは一般的な技術範囲を超えた「当業者が想定し得ない特別な方法」によってなされたと考えられるから、本件明細書は記載が不足しており、実施可能要件違反があるというべきである、
と主張しているので、これらの主張について検討する。

エ 上記イのとおり、申立人の(ア)の主張の根拠である実施例7?実施例11及び比較例5は、合理的理由に基づいて本件訂正により削除され、上記第2の3ア(エ-3)において検討したとおり、表2に記載されていない作製条件及び物性値が存在することについて具体的な根拠も申立人により提示されていないから、本件発明において【表2】に記載されていない粒子分散液の作製条件が存在すると認めることはできない。

オ さらに、本件発明の金被覆銀平板状粒子のようなアスペクト比の高い平板状粒子であっても、端面を底にして垂直に立った状態であり、主平面の金被覆層の厚みが測定できる粒子が全く存在しないとはいえないから、本件明細書の【0193】に記載された測定方法に基いて、主平面の金被覆層の平均厚みを算出することは、当業者であれば通常なし得ることと認められるので、申立人の上記ウの主張は採用できない。

(4)小括
したがって、取消理由1?4はすべて解消された。

2 取消理由として採用しなかった申立理由について
上記「第4 申立理由の概要」に記載した申立理由のうち、取消理由として採用しなかったものは、申立理由1-1(甲2を主たる引用文献とする新規性進歩性)、申立理由1-2(甲3の実施例1を主たる引用文献とする新規性進歩性)、申立理由2-1(甲2を主たる引用文献とする進歩性)、申立理由2-2(甲3の実施例1を主たる引用文献とする進歩性)である。

(1)申立理由1-1(甲2を主たる引用文献とする新規性進歩性)及び申立理由2-1(甲2を主たる引用文献とする進歩性)について
ア 甲2に記載された事項と発明
甲2には、「Core/Shell Nanostructures: Etching-Free Epitaxial Growth of Gold on Silver Nanostructures for High Chemical Stability and Plasmonic Activity(当審訳:高い化学的安定性とプラズモン活性のための、銀ナノ構造上での金のエッチングなしのエピタキシャル成長)」(論文の名称)に関して、次の記載がある。



」(5436頁右欄4行?5437頁左欄28行)
(当審訳:2. 結果と考察
2.1. Ag@Auコア/シェルナノ結晶のプラズモニック特性の理論的研究
この研究では、Agコアと厚いAuシェルを備えたAg@Auコア/シェルナノ結晶が、対応するAuのプラズモニック特性と 同等であり、ナノ結晶がAgのようなプラズモニック特性を提供するために高い異方性が重要であると推論した。ナノ結晶が、バンド間遷移の領域からスペクトルの長波長ヘシフトした LSPRバンドによるAgのようなプラズモン特性を実現するには、高い異方性が重要である。Ag@Auコア/シェルナノ結晶のプラズモニック特性、特にナノプレートの優れたプラズモニック特性を評価するために、FEMを使用して、理論的観点からナノ結晶の消光効率と局所電場分布をシミュレーションした(図1)。
結果(図lb、d)は、Ag@Auコア/シェルナノプレートのプラズモニック性特が純粋なAuナノプレートのプラズモニック特性と同等であることを最初に確認した。これは、ナノ結晶の消光効率と局所電場増強の両方が非常に近いためである。Ag@Auコア/シェルナノプレートは、誘電体コアの材料が異なるため、純粋なAuに比べてLSPRバンドのレッドシフトを示し、Agコアが全体的なプラズモン特性にわずかに影響を与える可能性があることを示した。したがって、Ag@Auコア/シェルナノプレートは、Auの厚いシェルが表面に成長した場合、純粋なAuナノプレートと同等のプラズモニック特性となる。
Ag@Auコア/シェルナノ結晶の異方性に依存するプラズモニック特性の調査では、Agナノスフィアが等方性形状の典型的なプラズモニックナノ粒子として選択され、波長410nmで強いLSPR バンドを示した(図1a)。しかし、対応するAg@Auコア/シェルのLSPRバンドは、波長 510nmで大幅に減衰した強度を示した。さらに、Ag@Auコア/シェルナノスフィアは、それぞれの共嗚波長において、Agナノスフィアと比較して、近接して電界強度が劇的に低下した(図1c)。したがって、等方性Ag@Auコア/シェルナノ結晶は、LSPRとバンド間遷移のカップリングにより、Agの対応するナノ結晶よりもプラズモン特性がはるかに劣っているといえる。明らかに対照的に、Ag@Auコア/シェルナノプレートは、600nm以上の波長でみられるようなAgナノプレートとほぼ同じ強度のLSPRバンドを示し(図1b)、驚くべきことに異方性Ag@Auナノ構造が事実上AgのLSPRを維持できることを示唆している。Ag@Auコア/シェルナノプレートの近くの電場は、Agナノプレートの電場に比べて弱くなったが、有意ではない(図1d)。したがって、Ag@Auコア/シェルナノ結晶のプラズモニック特性は、形状の異方性に大きく依存し、異方性のAg@Auコア/シェルナノプレートは、顕著なプラズモニック特性と安定性を組み合わせた利点を持っている。)



」(5436頁)
(当審訳:図1. FEMでシミュレーションしたAg@Auコア/シェルナノ構造のプラズモニック特性
a) Agナノスフィアと比較したAg@AuナノスフィアのLSPR消光特性
b) AgおよびAuナノプレートと比較したAg@AuナノプレートのLSPR消光特性。
Ag、Au、およびAg@Auナノ結晶の全体的なサイズは各比較で同じだが、Auシェルの厚さはすべてのAg@Auコア/シェルナノ構造で8nmに固定されていた。挿人図は、Ag@Auコア/シェルナノ構造の形状モデルを概略的に示している。長さの単位:nm。
c) それぞれの共鳴波長で照射されたAgおよびAg@Auナノスフィアの近傍における電界強度の分布。
d) それぞれの共鳴波長で照射されたAg、Ag@Au、およびAuナノプレートの近傍における電界強度の分布。)



」(5438頁右欄下から27行?下から7行)
(当審訳:Agナノプレート上のAuのエピタキシャル成長の速度が位置選択性を示したことは注目すべきである(図3e)。シェル厚さが増加するAg@Auコア/シェルナノプレートの成長中間体がTEMで観察され、コーナーファセット(角面)よりもAgナノプレートの側面で優先的にAuが成長することが明らかに示された。典型的なエピタキシャル成長後、Au層の厚さは、Agナノプレートの側面で約8nmと測定されたが、角と基部面ではわずか約2nmであった。このように亜硫酸塩は、ナノ結晶の{111}面に限定してキャッピング剤として機能し、Auの成長を抑制しながら、{100}面の大部分を占めるAgナノプレートの側面でのAuの急速な成長を促進する一方で、角および通常は{111}面で構成される基本面でのAuの成長を抑制した。その結果、Ag@Auコア/シェルナノプレートは、切頭三角形のナノプレートとして得られた。Ag@Auコア/シェルナノプレートの他のいくつかの形状はTEMで時折観察でき、これらの角では、Auの大幅な成長が見られる。これは、ナノプレート上でのAuの大幅な成長に加えて、角に{100}面の大きな割合を占めるナノプレートが異なる結晶構造を持つことが原因である可能性が考えられる。)



」(5441頁右欄下から11行?5442頁左欄15行)
(当審訳:4. 実験セクション
銀ナノプレート(シード)の合成:銀ナノプレートは、マーキンと協働者により報告された手順に微修正を加えたものに従って合成を行った。典型的には、0.2mLの硝酸銀(O.lM)、12mLのクエン酸三ナトリウム(0.75M)及び0.48mLの過酸化水素水(O.lM)を200mLの水に溶解した。次に、1.2mLのNaBH_(4)(0.1M)を激しく撹拌された溶液中に投入する。30分後、得られた液は、さらなる精製を行わずに、銀ナノプレートの貯蔵液として使用される。
金の成長液の調製:4.72mLの水の中に、40μLの塩化金酸(0.25M)、240μLの水酸化ナトリウム(0.2M)、そして、3.00mLの亜硫酸ナトリウム(O.OlM)が順次加えられる。使用前に、溶液は一晩静かに放置する。
切頂三角形状のAg@Auコア/シェルナノプレートの合成:典型的な合成では、銀ナノプレートは、40mLの貯蔵液から遠心分離され、2mLの水の中で再分散される。2.55mLの水、lmLのPVP(5wt%、Mw 40000)、200μLのL-AA(0.5M)、200μLの水酸化ナトリウム(0.5M)、50μLの亜硫酸ナトリウム(O.lM)及び4mLの金の成長液をガラス小瓶で混合することにより溶液が調製され、銀ナノプレートの溶液と混合すると、シードの成長が始まる。そして、30℃で12時間静かな状態で反応が進む。最後に、Ag@Auナノプレートは遠心分離により集められ、水で洗われる。特筆すべきことは、反応時間は、反応温度を60℃に上げることにより、1時間まで大幅に短縮することができ、大量生産のためのAg@Auナノプレートの迅速な合成を促進する。(図S8、サポート情報))

イ 当審の判断
上記アの記載によれば、甲2には、次の金被覆銀ナノプレートが記載されているものと認められる(以下、「甲2発明」という。)。
「AgナノプレートのコアとAu層のシェルを有する、Ag@Auコア/シェルナノプレート。」

本件発明1と甲2発明を対比する。
甲2発明の「Agナノプレートのコア」、「Au層のシェル」、「Ag@Auコア/シェルナノプレート」は、本件発明1の「銀平板状粒子」、「金被覆層」、「金被覆銀平板状粒子」に相当するから、本件発明1と甲2発明は、「銀平板状粒子と金被覆層とを有する金被覆銀平板状粒子。」である点で一致しているが、甲2発明の「Ag@Auコア/シェルナノプレート」は、「粒子の主平面における金被覆層の平均厚み」や「粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比」が特定されていない点で本件発明1と相違している(以下、「相違点3」という)。

相違点3について検討する。
甲2には、金被覆銀平板状粒子の酸化耐性を向上させるために、「粒子の主平面における金被覆層の平均厚み」及び「粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比」を特定の数値範囲とすることについて、記載も示唆もされていない。特に、上記目的のために、「粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比」に着目して、「0.2以上1.4以下」という特定の数値範囲とすることは、甲2やその他の甲号証にも記載されていないから、甲2発明において、相違点3に係る本件発明1の構成とすることは、動機付けがなく、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。
したがって、本件発明1は甲2発明と同一ではないし、甲2発明とその他の甲号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本件発明1を引用することによって、本件発明1の特定事項を備えている、本件発明2?5、11についても、同様の理由で、甲2発明と同一ではないし、甲2発明とその他の甲号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 申立人の主張
申立人は、意見書の2?3頁において、「甲第2号証の図1はシミュレーションの結果ではあるものの、具体的な寸法を有する銀ナノプレートが具体的な厚さを有することが記載されており、しかも、金被覆銀ナノプレートに関して、4. Experimental Sectionでは金被覆の手法が明確に記載されており、2. Result and Discussionでは多くの電子顕微鏡像を列挙し、金被覆銀ナノプレートが調製されたことが記載されている。このことから、シミュレーションの図表は単なる想像のレベルのものではなく、金被覆銀ナノプレートに係る技術思想として具体化されたものであって、本件発明に対する公知発明としての適格を有する」と主張している。
しかしながら、甲2の図1はシミュレーションの結果であって、実際に図1のbに記載の厚さの金被覆を有する銀ナノプレートが形成されているとはいえない。また、シミュレーションの結果を実際に製造したものと比較してシミュレーションの再現性が検証されているわけでもない。そのため、製造方法が記載されているからといって、図1のbに記載された金被覆を有する銀ナノプレートを、甲2に記載された発明として認定することはできないから、申立人の主張は採用できない。

(2)申立理由1-2(甲3の実施例1を主たる引用文献とする新規性進歩性)及び申立理由2-2(甲3の実施例1を主たる引用文献とする進歩性)について
ア 甲3に記載された事項と発明
甲3には、上記1(1)アに摘記した記載に加えて、次の記載がある。
「【実施例】
【0033】
実施例1
(1)銀ナノプレートの種粒子の作製
2.5mMのクエン酸ナトリウム水溶液20mLに、0.5g/Lの分子量70,000ポリスチレンスルホン酸水溶液1mLと、10mMの水素化ホウ素ナトリウム水溶液1.2mLとを添加し、次いで、20mL/minで攪拌しながら、0.5mMの硝酸銀水溶液50mLを添加した。得られた溶液をインキュベーター(30℃)中で60分間静置し、銀ナノプレートの種粒子の水懸濁液を作製した。作製した水懸濁液(原液)の光学特性を図3に示す。光学特性の測定は、株式会社島津製作所製の紫外可視近赤外分光光度計MPC3100UV-3100PCを用い、光路長:1cm及び測定波長:190-1300nmの条件下で行われた。最大吸収を示す波長は球状銀ナノ粒子のLSPRである396nm(消光度3.3)であった。なお、本発明の消光度とは懸濁液を分光光度計で測定した際の吸光度の値である。また、SEM観察写真を図4に示す。SEM観察写真の解析には株式会社日立製作所製の走査電子顕微鏡SU-70を用いた。粒子径は主に3nm以上、10nm未満のプレート状粒子であった。
【0034】
(2)銀ナノプレートの作製(マゼンタ)
超純水200mLに、10mMのアスコルビン酸水溶液4.5mLを添加し、更に(1)で作製した銀ナノプレート種粒子水懸濁液4mLを添加した。得られた溶液に、0.5mMの硝酸銀水溶液120mLを30mL/minで攪拌しながら添加した。硝酸銀水溶液の添加が終了した4分後に攪拌を停止し、25mMのクエン酸ナトリウム水溶液20mLを添加し、得られた溶液を大気雰囲気下のインキュベーター(30℃)中で100時間静置し、銀ナノプレートの水懸濁液aを作製した。調製した懸濁液を超純水で4倍容に希釈した水懸濁液の光学特性を図5に示す。最大吸収を示す波長は526nm(消光度1.1)であった。光学特性の測定は、株式会社島津製作所製の紫外可視近赤外分光光度計MPC3100UV-3100PCを用い、光路長:1cm及び測定波長:190-1300nmの条件下で行われた。水懸濁液a中の銀ナノプレートをSEMにより観察したところ、銀ナノプレートの平均粒子径は31nmであり、平均厚さは8nmでアスペクト比は3.8であった。SEM観察写真の解析には株式会社日立製作所製の走査電子顕微鏡SU-70を用いた。
【0035】
(3)金被覆銀ナノプレートの作製
(2)で作製した銀ナノプレート水懸濁液120mLに、0.125mMのポリビニルピロリドン(PVP)(分子量:40,000)の水溶液9.1mLを添加し、0.5Mのアスコルビン酸水溶液1.6mLを添加した後、0.14mMの塩化金酸水溶液9.6mLを0.5mL/minで攪拌しながら添加した。得られた溶液をインキュベーター(30℃)中に24時間静置し、銀ナノプレートの表面が金で被覆された金被覆銀ナノプレートの水懸濁液(以下、懸濁液A1)を作製した。
懸濁液A1の主要分散媒は水であった。
懸濁液A1に含まれる金被覆銀ナノプレートは、主面の最大長(粒子径)の平均が31nmの三角形状を含む多角形状、円形状であるプレートの混合物であり、厚さの平均は8nmであった。また、懸濁液A1に含まれる金被覆銀ナノプレートにおける金の厚さの平均は0.30nmであった。
懸濁液A1におけるポリスチレンスルホン酸(本発明における水溶性高分子に該当)の濃度は0.98nMであった。
懸濁液A1におけるPVP(本発明における水溶性高分子に該当)の濃度は8.1μMであった。なお、金の厚みの平均は、HAADF-STEM像から任意の金被覆ナノプレート粒子10個について、各粒子の任意の部位10点について、金の厚みを測定した計100点のデータの内、上下10%を除いた80点の平均値を用いた…」

上記請求項1、【0035】の記載によれば、甲3には、次の金被覆銀ナノプレートが記載されているものと認められる(以下「甲3発明A」という。)。
「銀ナノプレートとその表面を被覆する金を有する金被覆銀ナノプレートであって、主面の最大長(粒子径)の平均が31nmの三角形状を含む多角形状、円形状であるプレートの混合物であり、厚さの平均は8nmであり、HAADF-STEMによる金の厚さの平均は、0.30nmである、金被覆銀ナノプレート。」

イ 本件発明1と甲3発明Aの対比
甲3発明Aの「銀ナノプレート」、「銀ナノプレート」の「表面を被覆する金」、「金被覆銀ナノプレート」は、本件発明1の「銀平板状粒子」、「金被覆層」、「金被覆銀平板状粒子」に相当するから、本件発明1と甲3発明Aの一致点と相違点は次のとおりとなる。
〈一致点〉
「銀平板状粒子と金被覆層とを有する金被覆銀平板状粒子。」
〈相違点4〉
本件発明1の金被覆銀平板状粒子は、「粒子の主平面における金被覆層の平均厚みが0.4nm以上2nm以下であり、かつ粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比が0.2以上1.4以下である」のに対し、甲3発明Aの「金被覆銀ナノプレート」は、「主面の最大長(粒子径)の平均が31nmの三角形状を含む多角形状、円形状であるプレートの混合物であり、厚さの平均は8nmであり、HAADF-STEMによる金の厚さの平均は、0.30nmである」ものの、「粒子の主平面における金被覆層の平均厚み」や「粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比」は特定されていない点。

ウ 相違点4についての判断
上記1(1)ウ(ア)で検討したとおり、甲3のHAADF-STEMを用いて測定された金の厚みとは、金被覆銀ナノプレートの端面における金の厚みを意味していると解されるから、甲3発明Aの「粒子の端面における金被覆層の平均厚み」は0.30nmといえるものの、甲3発明Aにおいて、「粒子の主平面における金被覆層の平均厚み」や「粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比」は不明であるから、上記相違点4は実質的な相違点である。
そして、甲3には、金被覆銀平板状粒子の酸化耐性を向上させるために、「粒子の主平面における金被覆層の平均厚み」及び「粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比」を特定の数値範囲とすることについて、記載も示唆もされていない。特に、上記目的のために、「粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比」に着目して、「0.2以上1.4以下」という特定の数値範囲とすることは、甲3やその他の甲号証にも記載されていないから、甲3発明Aにおいて、相違点4に係る本件発明1の構成とすることは、動機付けがなく、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。
したがって、本件発明1は甲3発明Aと同一ではないし、甲3発明Aとその他の甲号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本件発明1を引用することによって、本件発明1の特定事項を備えている、本件発明2?5、11についても、同様の理由で、甲3発明Aと同一ではないし、甲3発明Aとその他の甲号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

3 意見書の主張について
申立人により提出された令和3年7月1日付けの意見書の主張は、以下のとおり採用できないものである。
(ア)「(1) 申立理由1-1、申立理由1-2について」(2?3頁)の主張については、上記2(1)を参照されたい。
(イ)「第2 訂正について」「1 訂正事項3は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものではなく、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものでもないこと」(4?5頁)の主張については、上記第2の3ウ(オ)を参照されたい。
(ウ)「第2 訂正について」「2 独立特許要件を満たさないこと」(5?13頁)の主張については、上記第2の3ア(エ-3)を参照されたい。
(エ)「第3 実施可能要件について」(13?16頁)の主張については、上記1(3)ウ?オを参照されたい。
(オ)「第4 無効理由3について」(16?24頁)の主張については、上記1(1)ウ(カ)を参照されたい。

第7 まとめ
以上のとおりであるから、本件補正による補正及び本件訂正請求による訂正は適法なものである。
そして、特許異議申立書に記載した申立理由、及び取消理由通知書に記載した取消理由によっては、本件訂正後の請求項1?5、11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件訂正後の請求項1?5、11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
金被覆銀平板状粒子、金被覆銀平板状粒子分散液及びその製造方法、塗布膜、並びに、反射防止光学部材
【技術分野】
【0001】
本開示は、金被覆銀平板状粒子、金被覆銀平板状粒子分散液及びその製造方法、塗布膜、並びに、反射防止光学部材に関する。
【背景技術】
【0002】
可視光に対する反射防止膜、増反射膜、赤外線遮蔽(断熱)膜等の光学部材用途、インク、塗料等の着色剤、被検物質の検出試薬への応用などの種々の目的に応じて、銀、金等の貴金属粒子が用いられている。
また、銀粒子に対しては酸化に対する安定性を向上させるため、粒子表面を金被覆することが行なわれている。
【0003】
例えば、特開2016-109550号公報には、銀ナノプレートが有する表面プラズモン共鳴(SPR)を利用して被検物資の検出試薬の標識などを用途として、銀ナノプレートの表面に金を被覆させた粒子及び水溶性高分子を含み、pH6以下とした懸濁液が開示される。この懸濁液は、凍結や凍結乾燥に対して安定であるとされている。
特許第563608号公報には、耐光性改良を目的として、銀平板状銀粒子の表面及び表面から2?4原子層まで、銀より貴な金属を10^(-3)原子%?5原子%含有させる技術が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、本発明者の検討によれば、特開2016-109550号公報に記載される技術では、銀平板状粒子の全面(すなわち、粒子の主平面及び端面の全て)に対して均一かつ十分な金被覆が成しえない場合があること、具体的には金の球状粒子や銀平板状粒子に球状粒子が複数付着した形状の粒子が発生してしまう場合があることが判明した。特に、高濃度な銀平板状粒子の分散液に対して金被覆処理が望まれる場合には、特開2016-109550号公報に記載される技術では、そもそも、高濃度な銀平板状粒子の分散液を作製しようとすると、粒子が凝集し沈降してしまい、高濃度な銀平板状粒子の分散液は作製できず、金被覆処理は行えない。
【0005】
また、特許第563608号公報に記載される銀平板状銀粒子に対する金被覆処理は、塩化金酸を用いた銀と金とのガルバニック置換による処理であり、金被覆の際に銀平板状粒子の端部の形状変化を伴うことがあり、所望の粒子形状を保ったまま粒子全面に均一に金被覆がなされない場合がある。このため、粒子全面に対してより均一な金被覆が行える技術が望まれる。
【0006】
銀平板状粒子における不均一な金被覆は、金被覆に要求される酸化耐性の向上を十分に達成しえない。
【0007】
本発明の一実施形態が解決しようとする課題は、酸化耐性に優れた金被覆銀平板状粒子及び金被覆銀平板状粒子を含む分散液を提供することである。
本発明の他の実施形態が解決しようとする課題は、酸化耐性に優れた金被覆銀平板状粒子含む分散液を高い生産性で製造しうる製造方法を提供することである。
また、本発明の他の実施形態が解決しようとする課題は、酸化耐性に優れた塗布膜、及び、この塗布膜を用いた酸化耐性に優れた反射防止光学部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 銀平板状粒子と金被覆層とを有し、粒子の主平面における金被覆層の平均厚みが0.1nm以上2nm以下であり、かつ粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比が0.02以上である、金被覆銀平板状粒子。
<2> 主平面における金被覆層の平均厚みが0.7nm以上1.5nm以下であり、かつ粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比が0.02以上である、<1>に記載の金被覆銀平板状粒子。
<3> アスペクト比が、2?80である<1>又は<2>に記載の金被覆銀平板状粒子。
【0009】
<4> <1>?<3>のいずれか1つに記載の金被覆銀平板状粒子と分散媒体とを含む金被覆銀平板状粒子分散液。
<5> 銀濃度が2mmol/L以上である<4>に記載の金被覆銀平板状粒子分散液。
<6> 更に、銀イオンとの溶解度積pKspが14以上であり、かつ還元電位が700mV未満である有機成分を含む<4>又は<5>に記載の金被覆銀平板状粒子分散液。
【0010】
<7> 銀平板状粒子製造工程と金被覆処理工程と有し、<4>?<6>のいずれか1つに記載の金被覆銀平板状粒子分散液を得る製造方法であり、銀平板状粒子製造工程は、水、銀塩、分散剤及び還元剤を含む混合液を作製する工程と、混合液を作製する工程で得た混合液中に、固体状態の他の銀塩を混在させる工程と、を含み、銀平板状粒子分散液を得る工程であり、かつ、金被覆処理工程は、水、金塩、及び金イオンとの形成錯体の還元電位が0.5V以下となる錯化剤を含む金被覆処理液と、銀平板状粒子製造工程で得た銀平板状粒子分散液と、を混合して、金被覆銀平板状粒子分散液を得る工程である、金被覆銀平板状粒子分散液の製造方法。
【0011】
<8> 金被覆処理工程の前において、銀平板状粒子製造工程により得た銀平板状粒子分散液に、銀平板状粒子の端面吸着剤を添加する<7>に記載の金被覆銀平板状粒子分散液の製造方法。
<9> 金被覆処理工程において、金塩の添加量に対する金イオンとの形成錯体の還元電位が0.5V以下となる錯化剤の添加量は、mol比率で、2.5以上10以下の範囲となる量である、<7>又は<8>に記載の金被覆銀平板状粒子分散液の製造方法。
<10> 金被覆処理工程の後に、金被覆銀平板状粒子分散液に、銀イオンとの溶解度積pKspが14以上であり、かつ還元電位が700mV未満である有機成分を添加する、<7>?<9>のいずれか1つに記載の金被覆銀平板状粒子分散液の製造方法。
【0012】
<11> <1>?<3>のいずれか1項に記載の金被覆銀平板状粒子を含む塗布膜。
<12> 更に、銀イオンとの溶解度積pKspが14以上であり、かつ還元電位が700mV未満である有機成分を含む、<11>に記載の塗布膜。
<13> 可視光の入射光の反射を防止する反射防止光学部材であり、
透明基材と、<11>又は<12>に記載の塗布膜である金属微粒子含有層と、誘電体層とをこの順に積層してなる積層構造を有し、金被覆銀平板状粒子の主平面が、金属微粒子含有層の表面に対して0°?30°の範囲で面配向し、金属微粒子含有層中において、複数の金被覆銀平板状粒子は導電路を形成することなく配置され、誘電体層の厚みが、入射光が誘電体層の表面側から積層構造へ入射する場合の誘電体層の表面における反射光を、誘電体層と金属微粒子含有層との界面における反射光と干渉させて打ち消すことができる厚みである、反射防止光学部材。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一実施形態によれば、酸化耐性に優れた金被覆銀平板状粒子及び金被覆銀平板状粒子を含む分散液を提供することができる。
本発明の他の実施形態によれば、酸化耐性に優れた金被覆銀平板状粒子含む分散液を高い生産性で製造しうる製造方法を提供することができる。
また、本発明の他の実施形態によれば、酸化耐性に優れた塗布膜、及び、この塗布膜を用いた反射防止光学部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1A】金被覆銀平板状粒子の形状の一例を示す概略図である。
【図1B】金被覆銀平板状粒子の他の形状の一例を示す概略図である。
【図2】銀平板状粒子における主平面({111}面)及び端面({111}面と{100}面との交互層)の構成例を示す概略図である。
【図3】反射防止光学部材の実施形態の一例を示す概略図である。
【図4】反射防止光学部材において、金被覆銀平板状粒子を含む金属微粒子含有層の存在状態を示した概略断面図であって、金被覆銀平板状粒子を含む金属微粒子含有層(基材の平面とも平行)と特定平板状粒子の主平面(円相当径Dを決定する面)とのなす角度(θ)を説明する図である。
【図5A】金属微粒子含有層における金被覆銀平板状粒子の分布状態(100%孤立)を示す図である。
【図5B】金属微粒子含有層における金被覆銀平板状粒子の分布状態(50%孤立)を示す図である。
【図5C】金属微粒子含有層における金被覆銀平板状粒子の分布状態(10%孤立)を示す図である。
【図5D】金属微粒子含有層における金被覆銀平板状粒子の分布状態(2%孤立)を示す図である
【図6】本開示の反射防止光学部材において、金被覆銀平板状粒子を含む金属微粒子含有層の存在状態の一例を示した概略断面図である。
【図7】本開示の反射防止光学部材において、金被覆銀平板状粒子を含む金属微粒子含有層の存在状態の他の一例を示した概略断面図である。
【図8】実施例7で得られた金被覆銀平板状粒子における金被覆層の形成状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示の内容について詳細に説明する。
以下に記載する説明は、本開示の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本開示はそのような実施態様に限定されるものではない。
【0016】
本開示において、「?」を用いて示された数値範囲は、「?」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0017】
また、本開示において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に相当する物質が複数存在する場合は、特に断らない限り、組成物中に存在する複数の物質の合計量を意味する。
【0018】
本開示において、好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0019】
[金被覆平板状粒子及び金被覆平板状粒子分散液]
本開示の金被覆銀平板状粒子は、銀平板状粒子と金被覆層を有し、粒子の主平面における金被覆の平均厚みが0.1nm以上2nm以下であり、かつ粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比が0.02以上である。本開示の金被覆銀平板状粒子は銀平板状粒子を金被覆処理して、その表面に金被覆銀層を形成した粒子である。
また、本開示の金被覆銀平板状粒子分散液は、上記の金被覆銀平板状粒子と分散媒体とを含む分散液である。
【0020】
以下では、本開示の金被覆銀平板状粒子は、適宜「特定平板状粒子」と称し、本開示の金被覆銀平板状粒子分散液は、適宜「特定粒子分散液」と称して説明する。
【0021】
(特定平板状粒子)
本開示の特定平板状粒子は、銀平板状粒子と金被覆層とを有し、粒子の主平面における金被覆層の平均厚みを0.1nm以上2nm以下とし、かつ粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比を0.02以上としたことにより、従来に比して優れた酸化耐性を発揮しうる。
【0022】
ここで、粒子が「平板状」であるとは、粒子の形状が、対向する2つの主平面と、2つの主平面間を繋ぐ端面と、を有することを意味する。平板状粒子の「主平面」とは、平板状粒子の厚み方向に垂直な1組の平行な面を意味する。
【0023】
なお、本明細書における「酸化耐性」は、液体中における酸化耐性、及び、空気中における酸化耐性(例えば、耐オゾン性、耐二酸化窒素性、組成物中に含まれる他組成物に起因し、紫外線や高温高湿条件により促進される酸化耐性)の両方を包含する。
【0024】
特定平板状粒子は、銀平板状粒子に金被覆処理を行なって金被覆層を形成した粒子であり、金被覆層を有することは、例えば、オージェ光電子分光法(Auger Electron Spectroscopy:AES)、X線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy:XPS)、エネルギー分散型X線分光法(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy:EDS)、飛行時間型二次イオン質量分析法(Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry:TOF-SIMS)等により検出することができる。
【0025】
特定平板状粒子は、粒子の主平面における金被覆層の平均厚みが0.1nm以上2nm以下であり、かつ粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する主平面における金被覆層の厚みの比が0.02以上である。酸化耐性及び平板状粒子の光学的特性保持の観点からは、特定平板状粒子は、粒子の主平面における金被覆層の平均厚みが0.7nm以上1.5nm以下であり、かつ粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する主平面における金被覆層の厚みの比が0.02以上であることが、より好ましい。
【0026】
金被覆層の粒子主平面における平均厚みは、0.1nm以上2nm以下であり、0.4nm以上1.8nm以下が好ましく、0.7nm以上1.5nm以下が更に好ましい。
【0027】
金被覆層の平均厚みは、粒子断面方向のHAADF-STEM(High-angle Annular Dark Field Scanning TEM)像を撮影し、その撮影画像中で輝度の高い金被覆層の厚みを、主平面及び端面のそれぞれについて、1粒子中5点をImageJ(アメリカ国立衛生研究所(NIH:National Institutes of Health)により提供)などの画像解析ツールによって測定し、計20個の粒子について得られた主平面及び端面それぞれの厚みを算術平均することで得られる。
【0028】
粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する主平面における金被覆層の厚みの比は0.02以上であり、0.1以上が好ましく、0.3以上がより好ましい。上記厚みの比の上限は、特に限定されないが、10以下であることが好ましい。
金被覆層の厚みの比が0.02以上であると優れた酸化耐性が発揮される。
【0029】
上記の厚みの比は、粒子の主平面における金被覆の平均厚み(A)を、粒子の端面における金被覆の平均厚み(B)で除して算出した値(A/B)である。
【0030】
特定平板状粒子は、後述する本開示の金被覆銀平板状粒子分散液の製造方法を用い、銀平板状粒子製造工程にて銀平板状粒子分散液を得て、次いで、得られた銀平板状粒子分散液に対して金被覆処理工程にて金被覆処理を行って得たものであることが好ましい。
【0031】
以下、平板状粒子である、本開示に係る特定平板状粒子の形状等について説明する。
【0032】
<形状>
平板状粒子の形状は、平板状であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。特定平板状粒子の形状は、金被覆前の銀平板状粒子の形状を反映する。
【0033】
平板状粒子の形状としては、例えば、三角形状、四角形状、六角形状、八角形状、円形状などの形状を有する粒子が挙げられる。中でも、可視光透過率が高い点で、六角形状以上の多角形状及び円形状であることがより好ましい。
【0034】
円形状の平板状粒子としては、透過型電子顕微鏡(TEM)で、平板状粒子を主平面の上方から観察した際に、角が無く、丸い形状であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0035】
六角形状の平板状粒子としては、透過型電子顕微鏡(TEM)で、状粒子を主平面の上方から観察した際に、六角形状であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、六角形状は、角が鋭角のものでも、鈍っているものでもよいが、可視光域の吸収を軽減し得る点で、角が鈍っているものであることが好ましい。角の鈍りの程度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0036】
<平均粒子径(平均円相当径)及び変動係数>
平板状粒子において、平均円相当径とは、透過型電子顕微鏡(TEM)で平板状粒子を観察して得た像から任意に選んだ個数の粒子の主平面の直径(最大長さ)の平均値を意味する。
円相当径は、個々の平板状粒子の投影面積と等しい面積を有する円の直径で表される。個々の特定平板状粒子の投影面積は、電子顕微鏡写真上での面積を測定し、撮影倍率で補正する公知の方法により得ることができる。
本明細書における平板状粒子の平均粒子径(平均円相当径)は、200個の平板状粒子の円相当径Dの粒径分布(粒度分布)が得られ、算術平均を計算することにより得られる。平板状粒子の粒度分布における変動係数は、粒度分布における標準偏差を前述の平均粒子径(平均円相当径))で割った値(%)として求めることができる。
【0037】
特定平板状粒子の平均円相当径としては、10nm?5,000nmが好ましく、30nm?1,000nmがより好ましい。
【0038】
特定平板状粒子の粒度分布における変動係数は、30%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。
【0039】
特定平板状粒子の粒度分布における変動係数は、例えば、平均粒子径の算出に用いた200個の平板状粒子の粒子径の分布範囲をプロットし、粒度分布の標準偏差を求め、主平面直径(最大長さ)の平均値(平均粒子径)で割った値(%)である
【0040】
<粒子の平均厚み>
平板状粒子の厚みは、平板状粒子の主平面間距離に相当し、例えば、図1A及び図1Bにaとして示す距離である。
平板状粒子の厚みは、原子間力顕微鏡(AFM)により測定することができる。
AFMによる平均粒子厚みの測定方法としては、例えば、ガラス基板に平板状粒子を含有する粒子分散液を滴下し、乾燥させて、粒子1個の厚みを測定する方法などが挙げられる。
【0041】
特定平板状粒子の平均厚みは、3nm?50nmが好ましく、4nm?40nmより好ましく、5nm?35nmが特に好ましい。
【0042】
<アスペクト比>
平板状粒子において、アスペクト比とは、平板状粒子の平均粒子径を平板状粒子の平均粒子厚みで除算した値を意味する。例えば、平板状粒子が円形状である場合、アスペクト比は、図1Aに示す直径Dを厚みaで除算した値(D/a)である。平板状粒子が六角形状である場合、アスペクト比は、図1Bに示すように六角形状の平板状粒子の平面の面積を同面積の円で近似したときの直径D(円相当径D)を厚みaで除算した値(D/a)である。
【0043】
特定平板状粒子のアスペクト比は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
特定平板状粒子のアスペクト比は、2?80であることが好ましく、4?60がより好ましく、10?40がさらに好ましい。
また、金被覆性及び平板状粒子の光学的特性保持の観点からは、金被覆される前の銀平板状粒子のアスペクト比は、2?80であることが好ましく、4?60がより好ましく、10?40さらに好ましい。
【0044】
(特定粒子分散液)
本開示の金被覆銀平板状粒子分散液(特定粒子分散液)は、上記の特定平板状粒子と分散媒体とを含む分散液である。
【0045】
特定粒子分散液が含む特定平板状粒子については、特定平板状粒子に関して既述した事項と同一の事項が適用される。
【0046】
特定粒子分散液が含む分散媒体としては、特定平板状粒子(分散質)を分散可能な液状成分(媒体)であればよく、水及びその他の水性成分を含むことが好ましい。
【0047】
特定粒子分散液は、特定平板状粒子の製造工程が終了した後において特定平板状粒子が分散したままの状態の液であってもよいし、製造後に単離した特定平板状粒子を任意の分散媒体に分散させた液であってもよい。
【0048】
特定粒子分散液の銀濃度は、2mmol/L以上であることが好ましく、3mmol/L?1000mmol/Lがより好ましく、4mmol/L?500mmol/Lが更に好ましい。特定粒子分散液の銀濃度が2mmol/L以上であると、特定粒子分散液の生産性をより高くでき、例えば、塗膜化する際に他の組成物と特定粒子分散液とを混合する場合の総固形分濃度を制限しない傾向となる。また、特定粒子分散液の銀濃度が高すぎない(例えば1000mmol/L以下)ことで、特定粒子分散液の粘度の上昇が抑制され、ハンドリング性、秤量精度などを低下させず、粒子の分散性安定性を維持できる傾向にある。
【0049】
特定粒子分散液の銀濃度は、誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma、略称:ICP)発光分光分析法により測定することができる。
【0050】
特定粒子分散液には、特定平板状粒子の他、目的に応じて選択した種々の他の成分を含有させてもよい。
【0051】
酸化耐性をより向上させる観点からは、特定粒子分散液は、銀イオンとの溶解度積pKspが14以上であり、かつ還元電位が700mV未満である有機成分(以下、特定有機成分」とも称する。)を含むことが好ましい。
【0052】
特定有機成分の銀イオンとの溶解度積Kspは「坂口喜堅・菊池真一,日本写真学会誌,13,126,(1951)」と「A.Pailliofet and J.Pouradier,Bull.Soc.chim.France,1982,I-445(1982)」を参照して測定した値である。なお、pKsp=-log_(10)Kspである。
特定有機成分の還元電位は「電気化学測定法」(1984年,藤嶋昭ら著)pp.150-167に記載のサイクリックボルタメトリー測定を参照して測定した値である。
【0053】
特定有機成分としては、例えば、1-フェニル-1H-テトラゾール-5-チオール、5-アミノ-1,3,4-チアジアゾール-2-チオール、5-フェニル1,3,4-オキアジアゾール-2-チオール、1-(5-メチルウレイドフェニル)-5-メルカプトテトラゾール、N-(3-(5-メルカプト-1H-テトラゾール-1-イル)フェニル)-3-(メチル(ピロリジン-1-イル)アミノプロパンアミド)等が挙げられる。
【0054】
特定粒子分散液に、特定有機成分を含有させる場合の添加量としては、酸化耐性の向上及び粒子の凝集抑制の観点から、特定粒子分散液中の銀の質量に対して、1質量%?65質量%が好ましく、5質量%?39質量%がより好ましく、7質量%?26質量%が更に好ましい。
【0055】
特定粒子分散液は、目的に応じて選択した他の成分を、さらに含有させてもよい。他の成分の例としては、高分子化合物、界面活性剤、金属酸化物粒子等の無機粒子、各種の水溶性溶媒、酸化防止剤、硫化防止剤、腐食防止剤、粘度調整剤、防腐剤などが挙げられる。
【0056】
また、特定粒子分散液の好適な製造方法の一態様は、後述する金被覆平板状粒子分散液の製造方法であり、この製造方法により得られた分散液において、特定平板状粒子と共に含まれる成分は、本開示の特定粒子分散液が含有しうる成分の一態様である。
【0057】
以上説明した、本開示の特定平板状粒子及びその分散液の適用用途は特に限定されず、例えば、反射防止膜、増反射膜、赤外線遮蔽膜等の光学部材、遮熱シート、断熱シート等の建築用部材、インク、塗料等の着色剤又は装飾剤、被検物質の検出試薬、抗菌剤などの種々の用途が挙げられる。
【0058】
[金被覆平板状粒子分散液の製造方法]
本開示の金被覆銀平板状粒子の製造方法は、銀平板状粒子製造工程と金被覆処理工程と有し、上記の特定粒子分散液を得る製造方法であり、銀平板状粒子製造工程は、水、銀塩、分散剤及び還元剤を含む混合液を作製する工程と、混合液を作製する工程で得た混合液中に、固体状態の他の銀塩を混在させる工程と、を含み、銀平板状粒子分散液を得る工程であり、かつ、金被覆処理工程は、水、金、及び金との形成錯体の還元電位が0.5V以下となる錯化剤を含む金被覆処理液を、銀平板状粒子分散液に添加して、金被覆銀平板状粒子分散液を得る工程である。
【0059】
本開示の製造方法は、銀平板状粒子製造工程及び金被覆処理工程以外の他の工程を有していてもよい。他の工程としては、遠心分離及び再分散工程、限外濾過工程、溶剤置換工程、乾燥濃縮工程等が挙げられる。
【0060】
本開示の製造方法は、従来は困難であった銀平板状粒子の端面においても均一な金被覆層を形成でき、かつ分散液の生産性も高い。さらに、本開示の製造方法により、銀濃度の高い分散液を製造することができる。
【0061】
(銀平板状粒子製造工程)
銀平板状粒子製造工程は、少なくとも、水、銀塩、分散剤及び還元剤を含む混合液を作製する工程(以下、混合液作製工程と称する。)と、混合液作製工程で得た混合液中に、固体状態の他の銀塩を混在させる工程(以下、混在工程と称する。)と、を含み、銀平板状粒子分散液を得る工程である。
【0062】
<混合液作製工程>
混合液作製工程は、水中に、銀塩、分散剤及び還元剤を含む混合液を作製する工程である。
混合液作製工程において、水中の銀塩に由来する銀イオンが還元剤により還元されて、核となる銀粒子が形成され、成長する。
混合液作製工程において、(i)水に分散剤及び還元剤を添加した水溶液を作製し、該水溶液に所定の割合で銀塩水溶液を添加する、(ii)水に分散剤及び銀塩を添加した水溶液を作製し、該水溶液に所定の割合で還元剤水溶液を添加する、又は、(iii)水に分散剤を添加した水溶液を作製し、この水溶液に所定の割合で銀塩水溶液及び還元剤水溶液を添加する、ことにより銀粒子を得ることが好ましい。
【0063】
?混合液の溶媒?
混合液の溶媒としては、水を含む溶媒であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、水を70質量%以上含む溶媒が好ましく、水を90%以上含む溶媒であることがより好ましい。水以外の溶媒としては、メタノール、エタノール等のアルコール類、ポリエチレングリコール(PEG)などのグリコール類、アセトニトリル、アセトン等が挙げられる。
【0064】
?混合液作製工程で使用する銀塩?
混合液作製工程で使用する銀塩としては、水に溶解するものである限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。銀塩としては、例えば、硝酸銀、過塩素酸銀、等が挙げられる。これらの銀塩は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
混合液における銀塩の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、混合液100質量部に対して、0.0001質量部?10質量部が好ましく、0.0005質量部?1質量部がより好ましく、0.001質量部?0.1質量部が特に好ましい。
【0065】
混合液作製工程における混合液の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0℃?100℃が好ましく、20℃?70℃がより好ましく、30℃?60℃が特に好ましい。
【0066】
混合液の温度が、0℃以上であると、溶液が固まり難く、100℃以下であると、銀粒子の粒子サイズが揃い易くなる。一方、混合液の温度が、上記の特に好ましい範囲内であると、粒子サイズの均一性の点で有利である。
【0067】
<混在工程>
混在工程は、混合液作製工程で作製した混合液中に、固体状態の他の銀塩を混在させる工程である。すなわち、混在工程において、少なくとも1回以上、他の銀塩が固体状態で存在する。
【0068】
ここで、混合液中に「混在させる」とは、混合液の外で生成された固体状態の他の銀塩が、混合液に添加されて混合液中に混在することのみならず、固体状態の他の銀塩が、混合液中で生成して、混合液中に混在することも含む。
他の銀塩が「固体状態」であるとは、他の銀塩における銀イオンの濃度と、他の銀塩におけるリガンドの濃度との積が、銀イオンとリガンドとの溶解度積(Ksp)よりも大きく、水に溶解しないことを意味する。
混在工程では、混合液作製工程で作製された混合液に、水、分散剤、還元剤、銀塩、リガンド及びpH調整剤の少なくとも1種が、任意の量、タイミング、又は混合比で添加されて、銀粒子が成長する。
混在工程を経ることにより、所定の形状の銀平板状粒子を簡便に製造することができる。
【0069】
他の銀塩を固体状態で存在させるために、銀塩を含む銀塩含有水溶液と、銀塩含有水溶液における銀イオンと結合して固体状態の他の銀塩(銀塩固体物)を生成するリガンドを含むリガンド含有水溶液との混合により生成された他の銀塩(銀塩固体物)の分散液を混合液(反応釜)に添加してもよく、リガンド含有水溶液を混合液(反応釜)に添加した後、銀塩含有水溶液を混合液(反応釜)に添加し、混合液(反応釜)中で他の銀塩(銀塩固体物)を生成してもよく、混合液(反応釜)に他の銀塩(銀塩固体物)粉末を添加してもよく、混合液(反応釜)に他の銀塩(銀塩固体物)粉末の水分散液を添加してもよい。
これらの中でも、固体状態の他の銀塩(銀塩固体物)の分散液を添加する態様、すなわち、銀塩含有水溶液とリガンド含有水溶液との混合により生成された他の銀塩(銀塩固体物)の分散液を混合液(反応釜)に添加する態様、混合液(反応釜)に他の銀塩(銀塩固体物)粉末の水分散液を添加する態様、が好ましい。
【0070】
混在工程において、添加された他の銀塩(銀塩固体物)から銀イオンが放出され、銀イオンが還元剤により還元されることにより、混合液作製工程で生成された銀粒子が成長する。混在工程の最後には、添加された他の銀塩(銀塩固体物)がなくなっていることが好ましい。
【0071】
混合液中に溶解している銀イオンの濃度は、リガンドとの溶解度積で決められる。よって、混合液中に、高濃度で銀塩が含まれていても、混合液中に溶解している銀イオン濃度が低ければ、ゆっくりと還元反応が進み、銀イオン濃度分布が少ない状態で反応を行うことができる。
【0072】
混在工程における混合液の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0℃?100℃が好ましく、20℃?70℃がより好ましく、30℃?60℃が特に好ましい。
混合液の温度が、0℃以上であると、溶液が固まり難く、100℃以下であると、銀粒子の粒子サイズが揃い易くなる。一方、混合液の温度が、上記の特に好ましい範囲内であると、粒子サイズの均一性の点で有利である。
【0073】
?固体状態の他の銀塩?
固体状態の他の銀塩としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、亜硫酸銀、塩化銀、酸化銀、等が挙げられる。
固体状態の他の銀塩(銀塩固体物)の濃度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1mmol/L?10,000mmol/Lが好ましく、2mmol/L?5,000mmol/Lがより好ましく、5mmol/L?2,000mmol/Lが特に好ましい。
濃度が、1mmol/L以上であると、固体状態が良好に維持され、10,000mmol/L以下であると、銀粒子の粒子サイズが揃い易くなる。一方、濃度が上記の特に好ましい範囲内であると、粒子サイズの均一性及び生産性の点で有利である。
銀塩固体物は、沈殿していてもよく、分散していてもよい。
【0074】
固体状態の銀塩の溶解度積としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10^(-30)以上10^(-3)以下が好ましく、10^(-20)以上10^(-5)以下がより好ましく、10^(-15)以上10^(-5)以下が特に好ましい。
溶解度積(Ksp)が、10^(-30)以上であると(pKspが30を超えると)、難溶性の銀塩固体物が生成し難くなり、還元反応が進行し易い、10^(-3)以下であると(pKspが3未満であると)、銀塩固体物を得るために、リガンドの添加量を抑制できる傾向となる。
【0075】
?リガンド?
リガンドとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Cl^(-)、Br^(-)、I^(-)、CN^(-)、SCN^(-)、SeCN^(-)、SO_(3)^(2-)、S^(2-)、OH^(-)、CrO_(4)^(2-)、CH_(3)COO^(-)、PO_(4)^(3-)、CO_(3)^(2-)、シュウ酸、ベンゾトリアゾール、ベンゾイミダゾール、ジメチルジチオカルバミド酸、等が挙げられる。
下記の表1に、各リガンドと銀イオンとのpKspを示す(pKsp=-log(Ksp))。
【0076】
【表1】

【0077】
なお、混合液作製工程から混在工程まで、同じ容器で連続して製造してもよく、途中で他の容器に移し替えて製造してもよい。
混在工程は、複数の工程に分割されていてもよい。
【0078】
固体状態の他の銀塩を混在させた混合液における銀濃度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、2mmol/L超が好ましく、10mmol/L超がより好ましい。
銀濃度が、2mmol/Lを超えると、生産性がより向上する。一方、銀濃度が上記のより好ましい範囲内であると、生産性の点で有利である。
なお、「銀濃度」とは、混合液中の銀イオンと、析出した銀とを両方足した銀の濃度値である。また、この銀濃度は、混在工程時において固体状態の他の銀塩を混在させた混合液における銀の濃度であって、混在工程後に実施される遠心分離、限外濾過、などによって濃厚化したときの濃度ではない。
【0079】
?混合液作製工程及び混在工程で使用する分散剤?
混在工程で使用する分散剤としては、水に溶解するものである限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ゼラチン、クエン酸ナトリウム、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン、ポリカルボン酸、ポリアクリル酸などが挙げられる。これらの分散剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0080】
中でも、凝集防止の点で、ゼラチン等の高分子分散剤を含むことが好ましい。
分散剤を、2種以上を含む場合、分散剤におけるゼラチン等の高分子分散剤の含有量が1質量%以上であることが好ましい。ゼラチン等の高分子分散剤の含有量が1質量%未満であると、分散性が低下し、凝集してしまうことがある。
分散剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、全銀塩100質量部に対して、0.00001質量部?10,000質量部が好ましく、0.0001質量部?5,000質量部がより好ましく、0.001質量部?1,000質量部が特に好ましい。
分散剤の含有量が、0.00001質量部以上であると、凝集を抑制し易く、10,000質量部以下であると、銀粒子の粒子サイズが揃い易い。一方、分散剤の含有量が、上記の特に好ましい範囲内であると、凝集防止の点で有利である。
【0081】
?混合液作製工程及び混在工程で使用する還元剤?
還元剤としては、水に溶解するものである限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、ハイドロ(ヒドロ)キノンスルホン酸又はその塩、アスコルビン酸又はその塩、ジメチルアミノボラン、などが挙げられる。これらの還元剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
還元剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、混合液100質量部に対して、0.0001質量部?100質量部が好ましく、0.0005質量部?50質量部がより好ましく、0.001質量部?10質量部が特に好ましい。
還元剤の含有量が、0.0001質量部以上であると、還元反応が進み易く、100質量部以下であると、銀粒子の粒子サイズが揃い易い。一方、還元剤の含有量が上記の特に好ましい範囲内であると、平板化率及び銀粒子のサイズ分布の点で有利である。
【0082】
?銀平板状粒子の端面吸着剤?
本開示の製造方法においては、銀平板状粒子製造工程の後であって、金被覆処理工程の前に、銀平板状粒子製造工程により得た銀平板状粒子分散液に、銀平板状粒子の端面吸着剤を添加することが好ましい。端面吸着剤を用いることにより、後述する金被覆処理工程において、銀平板状粒子の端面における金被覆層の形成を促進しうることから、銀平板状粒子の主平面及び端面の双方に、より均一な金被覆層を形成することができる。
【0083】
端面吸着剤とは、銀平板状粒子の端面に生じる{111}面に対して選択的に吸着性することで、端面における金被覆層の形成性向上に寄与する化合物を意味する。より詳細には、本開示における銀平板状粒子は、{111}面を主平面とし、端面は{111}面と{100}面との交互層として構成される平板状粒子であることから、端面吸着剤は、銀平板状粒子の端面における{111}面に対して選択的に吸着性することで、端面における金被覆層の形成性向上に寄与する。
【0084】
図2に、主平面({111}面)及び端面({111}面と{100}面との交互層)で構成される銀平板状粒子の概略について、六角形状を有する銀平板状粒子の一例を用いて示す。図2に示すように、本例の六角形状を有する銀平板状粒子は、六角形状の2つの主平面が{111}面で構成され(すなわち、図中に現れていない側の主平面も{111}面である。)、2つの主平面間を繋ぐ端面に{111}面と{100}面とが交互層として現れる構成を有している。なお、図2に示される銀平板状粒子は、本開示における銀平板状粒子の一例であり、本開示における銀平板状粒子は、図2に示される特定の形状に限定されない。なお、銀平板状粒子における結晶面に関しては、文献「Adv.Func.Mater.2008.18.2005-2016」の記載も参照される。
【0085】
端面吸着剤としては、例えば、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(CTAB)、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(CTAC)、水酸化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(CTAOH)、ポリビニルピロリドン(PVP)等が挙げられる。(各化合物名に付随する括弧内は略称である。)
これらの端面吸着剤はアミン構造を有しており、このアミン構造を介して銀平板状粒子の端面における{111}面に端面吸着剤が選択に吸着することで、端面における金被覆層の形成性が向上すると考えている。
【0086】
銀平板状粒子分散液に対する端面吸着剤の添加量としては、粒子端面への吸着性の観点から、銀濃度に対するmol比で、1mol%?50mol%となる量が好ましく、より好ましくは4mol%?30mol%であり、さらに好ましくは6mol%?20mol%である。
【0087】
端面吸着剤は、後述の金被覆処理工程において、金被覆処理液と混合する前に、銀平板状粒子製造工程により得た銀平板状粒子分散液に添加されることが好ましいが、金被覆処理工程に用いる所定の金被覆処理液に別途添加してもよい。
【0088】
(金被覆処理工程)
金被覆処理工程は、水、金塩、及び金イオンとの形成錯体の還元電位が0.5V以下となる錯化剤(以下、「特定錯化剤」とも称する。)を含む金被覆処理液(以下、単に「金被覆処理液」とも称する。)に、上記の銀平板状粒子製造工程により得られた銀平板状粒子分散液を混合して、特定平板状粒子の分散液を得る工程である。
【0089】
<金被覆処理液>
金被覆処理液は、水、金塩、及び特定錯化剤を含み、還元剤、pH緩衝剤及びpH調整剤を含むことが好ましく、更に、錯体安定化剤、分散剤等の他の成分を含んでいてもよい。
【0090】
?金塩?
金被覆処理液が含む金塩としては、水溶性金塩化合物の少なくとも1種であることが好ましい。水溶性金塩化合物はとしては、例えば、シアン化金(I)カリウム、シアン化金(II)カリウム、亜硫酸金(I)ナトリウム、塩化金(III)酸ナトリウム、塩化金(III)酸カリウム等が挙げられ、安定性、供給性、価格の観点からは、塩化金(III)酸ナトリウムが特に好ましい。
【0091】
金被覆処理液における金塩の添加量は、銀濃度に対する金のmol比で、金被覆層の形成性の観点から、1mol%?200mol%が好ましく、5mol%?150mol%がより好ましく、10mol%?100mol%がさらに好ましい。
水溶性金塩化合物は、金被覆処理液における金の添加量が上記の範囲になるように用いることが好ましい。
【0092】
?特定錯化剤?
金被覆処理液は、金イオンとの形成錯体の還元電位が0.5V以下となる錯化剤(特定錯化剤)を少なくとも1種含む。特定錯化剤としては、金イオンとの形成錯体の還元電位が0.5V以下となる化合物であれば特に限定されない。特定錯化剤の使用は、金還元の還元電位を下げること、すなわち、金被覆処理において、ゆっくりと金を還元させることができ、均一な金被覆に寄与する。
【0093】
特定錯化剤を用いることで形成される、還元電位(E_(0) vs NHE、以下同じ。)が0.5V以下の金錯体の例としては、Au(CN)^(2-)(E_(0)=-0.60)、Au(CyS)^(3-)(E_(0)=-0.14)、Au(SO_(3))_(2)^(3-)(E_(0)=0.11)、Au(S_(2)O_(3))_(2)^(3-)(E_(0)=0.15)、Au(th)_(2)^(+)(E_(0)=0.38)、Au(OH)_(2)^(-)(E_(0)=0.40)等が挙げられる。(ここで、thはチオ尿素イオンを示し、CySはシステインイオンを示す。)特定錯化剤としては、このような金錯体を生成させる化合物を用いればよい。
【0094】
特定錯化剤としては、例えば、シアン塩(シアン化ナトリウム、シアン化カリウム、シアン化アンモウム等)、チオ硫酸、チオ硫酸塩(チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム、チオ硫酸アンモニウム等)、亜硫酸塩(亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸アンモニウム等)、チオ尿素等が挙げられる。これらの中でも、錯体安定性及び環境負荷の観点からは、亜硫酸ナトリウム又はチオ硫酸ナトリウムが好ましい。
【0095】
金被覆処理液において、金の添加量に対する特定錯化剤の添加量としては、均一な金被覆層の形成性、錯体安定性の観点から、金に対するmol比率で、2.5以上10以下の範囲となる量であることが好ましく、より好ましくは3.5以上8以下である。
【0096】
金及び特定錯化剤は、予め、水、水溶性金化合物及び特定錯化剤を含む混合液(以下、「金還元液」とも称する。)を調製し、この金還元液を用いて金被覆処理液を調製することで、金被覆処理液に含まれることが好ましい。金還元液は、更に、他の成分(例えば、pH調整剤、錯体安定化剤、分散剤等を含んでいてもよい。
【0097】
?水?
金被覆処理液は、水を主溶媒として含む。ここで、主溶媒とは、金被覆処理液中における含有量が60質量%以上となる溶媒を意味する。
金被覆処理液における水の含有量に特に制限はないが、80質量%以上含まれることが好ましく、90質量%?99.9質量%がよりが好ましい。
金被覆処理液は、水以外の溶媒を含んでいてもよい。
【0098】
?還元剤?
金被覆処理液は、還元剤の少なくとも1種を含むことが好ましい。
還元剤としては、金被覆処理に適用可能であり、水に溶解する還元剤であれば、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。
還元剤としては、例えば、アスコルビン酸又はその塩、水素化ホウ素ナトリウム、ハイドロ(ヒドロ)キノンスルホン酸又はその塩、ジメチルアミノボラン等が挙げられる。
【0099】
金被覆処理液における還元剤の含有量としては、金濃度に対するmol比で、5mmol/L?100mmol/Lが好ましく、10mmol/L?50mmol/Lがよりが好ましく、20mmol/L?40mmol/Lが更に好ましい。
【0100】
?その他の成分?
金被覆処理液は、水、金塩、及び特定錯化剤以外のその他の成分を含んでもよい。
その他の成分の例としては、グリシン、アラニン等のアミノ酸;N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)グリシン、N-シクロヘキシル-2-ヒドロキシ-3-アミノプロパンスルホン酸、N-シクロヘキシル-2-アミノエタンスルホン酸等のグッド緩衝剤などの酸解離定数が8以上のpH緩衝剤;水酸化ナトリウム等のpH調整剤;錯体安定化剤;分散剤;等が挙げられ、これらの成分の1種又は2種以上を任意に選択して用いることができる。
【0101】
?金被覆処理液の調製?
金被覆処理液の調製は、金被覆処理液に含まれる各成分を混合して調製すればよい。
好ましくは、予め、水、水溶性金塩化合物及び特定錯化剤を含む混合液(金還元液)を調製し、この金還元液と、水、還元剤、及びその他の任意成分と、を混合して、金被覆処理液を調製する態様である。
還元剤等の金還元液以外の成分は、そのまま用いてもよいし、水等の任意の溶媒に溶解した溶液の形態に調製してから用いてもよい。
【0102】
金被覆処理液の調製に適用される混合方法は、特に限定されず、攪拌等の公知の混合方法を用いればよい。
【0103】
金被覆処理液のpHは5.5以上であることが好ましく、金被覆処理液が高pHであると金被覆処理がより安定する傾向がある。このため、金被覆処理液は、pH調整剤を用いて、例えばpH10以上に調整されることが好ましい。また、pH緩衝剤を用いて、調整したpHが反応に伴い変化することを抑制してもよい。
【0104】
?金被覆処理?
金被覆処理工程における金被覆処理は、金被覆処理液と、銀平板状粒子製造工程で得た銀平板状粒子分散液と、を混合することにより行なう。銀平板状粒子製造工程で得た銀平板状粒子分散液に対して、本開示に係る金被覆処理液を用いて金被覆処理を行なうことで、銀平板状粒子の主平面及び端面の双方に均一な金被覆層が形成される。
【0105】
金被覆処理液と銀平板状粒子分散液との混合態様は、特に限定されず、金被覆処理液と銀平板状粒子分散液とを一度に混合してもよく、金被覆処理液に銀平板状粒子分散液を少しずつ添加しながら混合してもよく、銀平板状粒子分散液に金被覆処理液を少しずつ添加しながら混合してもよい。混合は、任意の攪拌手段を用いて攪拌しながら行なうことが好ましい。
【0106】
金被覆性の観点からは、金被覆処理液に銀平板状粒子分散液を一度に混合する態様が好ましい。
【0107】
金被覆処理液に銀平板状粒子分散液を一度に混合する具体的な混合手段としては、特に限定されず、一般的なバッチ式混合機を用いてもよいし、マイクロミキサーを用いてもよい。市販されているマイクロミキサーとしては、例えば、インターディジタルチャンネル構造体を備えるマイクロミキサー、インスティチュート・フュール・マイクロテクニック・マインツ(IMM)社製「シングルミキサー」及び「キャタピラーミキサー」;ミクログラス社製「ミクログラスリアクター」;CPCシステムス社製「サイトス」;(株)山武製「YM-1型ミキサー及びYM-2型ミキサー」;(株)島津ジーエルシー製「ミキシングティー及びティー(T字型コネクタ、Y字型コネクタ)」;マイクロ化学技研(株)製「IMTチップリアクター」;東レエンジニアリング(株)製「マイクロ・ハイ・ミキサー」;中心衝突型ミキサー(K-M型)等が挙げられ、いずれも本開示の特定平板状粒子の製造に使用することができる。
【0108】
混合する際の金被覆処理液の液温度としては、10℃?80℃程度が好ましい。また、銀平板状粒子分散液の液温度としては、25℃?80℃程度が好ましい。
金被覆処理液に銀平板状粒子分散液を混合した後の混合液は、加熱処理することが好ましい。加熱温度としては、25℃?80℃が好ましく、30℃?70℃がより好ましい。加熱時間としては、0.5hr?8hrが好ましく、1hr?6hrがより好ましい。
加熱処理は任意の攪拌手段を用いて攪拌しながら行なうことが好ましい。
【0109】
金被覆処理工程を経て得られた特定平板状粒子の分散液は、そのまま使用に供してもよいし、更に、目的に応じた他の成分を添加してから使用に供してもよい。
【0110】
酸化耐性をより向上させる観点からは、金被覆処理工程の後に、金被覆銀平板状粒子分散液に、銀イオンとの溶解度積pKspが14以上であり、かつ還元電位が700mV未満である有機成分(特定有機成分)を添加することが好ましい。
特定有機成分及び分散液における含有量の詳細は、本開示の特定粒子分散液の説明において既述した事項と同一の事項が適用される。
【0111】
[塗布膜]
本開示の塗布膜は、既述した本開示の特定平板状粒子を含む塗布膜であり、本開示の特定平板状粒子を含むことから優れた酸化耐性を奏する。
【0112】
本開示の塗布膜は、特定平板状粒子を含み、かつ塗布形成された膜であれば、特に限定されないが、好ましい形成態様は、本開示の特定粒子分散液に、所望とする塗布膜の用途及び性状によって選択した成分を含有させて調製した塗布液により形成する態様である。
【0113】
本開示の塗布膜は、酸化耐性に優れた特定平板状粒子が膜中に分散されていることにより、耐オゾン性などの優れた耐久性を発揮する。このため、本開示の塗布膜は、屋外用途などの耐候性を要求される部材にも好ましく適用される。
【0114】
本開示の塗布膜は、銀イオンとの溶解度積pKspが14以上であり、かつ還元電位が700mV未満である有機成分(特定有機成分)を含むことが好ましい。すなわち、本開示の塗布膜は、特定有機成分を含む塗布液により形成されることが好ましい。
特定有機成分の詳細は、本開示の特定粒子分散液の説明にて既述した事項と同一の事項が適用される。
塗布膜における特定有機成分の含有量としては、酸化耐性及び特定平板状粒子の凝集抑制の観点から、特定粒子分散液中の銀の質量に対して、1質量%?65質量%が好ましく、5質量%?39質量%がより好ましく、7質量%?26質量%が更に好ましい。
【0115】
塗布膜形成用の塗布液は、特定粒子分散液、特定有機成分の他、所望とする塗布膜に用いうる他の成分を用いて調製することが好ましい。他の成分の例としては、合成高分子、天然高分子など高分子化合物、金属酸化物粒子等の無機粒子、界面活性剤、水、アルコール、グリコール等の溶媒、酸化防止剤、硫化防止剤、腐食防止剤、粘度調整剤、防腐剤などが挙げられ、塗布膜の用途に応じて適宜選択すればよい。
【0116】
塗布方法としては、公知の塗布方法が適用でき、例えば、ディップコーター、ダイコーター、スリットコーター、バーコーター、グラビアコーター等による塗布方法、ラングミュア・プロジェット膜(LB膜)法、自己組織化法、スプレー塗布などの塗布方法が挙げられる。
【0117】
塗布膜の厚み、性状等については、塗布膜の用途に応じて適宜設定すればよい。
例えば、反射防止光学部材に適用した場合の厚み、透過率などの各性状については、後述する本開示の反射防止光学部材の項にて説明する事項とすることができる。
【0118】
[反射防止光学部材]
本開示の反射防止光学部材は、可視光の入射光の反射を防止する反射防止光学部材であり、透明基材と、本開示の塗布膜である金属微粒子含有層と、誘電体層とをこの順に積層してなる積層構造を有し、金被覆銀平板状粒子の主平面が、金属微粒子含有層の表面に対して0°?30°の範囲で面配向し、金属微粒子含有層中において、複数の金被覆銀平板状粒子は導電路を形成することなく配置され、誘電体層の厚みが、入射光が誘電体層の表面側から積層構造へ入射する場合の誘電体層の表面における反射光を、誘電体層と金属微粒子含有層と界面における反射光と干渉させて打ち消すことができる厚みである、反射防止光学部材である。
【0119】
以下、本開示の反射防止光学部材の実施形態について、図面を参照しながら説明する。参照する図面は、反射防止光学部材の一例を示すが、本開示の反射防止光学部材は、これに限定されるものではない。各図面において同一の符号を用いて示される構成要素は、同一の構成要素であることを意味する。
【0120】
図3は、本開示の反射防止光学部材の一実施形態である反射防止光学部材1の構成を示す断面模式図である。図3に示すように、反射防止光学部材1は、所定波長の入射光の反射を防止する、所定の媒質中で用いられる反射防止光学部材であって、媒質の屈折率n_(0)より大きい第1の屈折率n_(1)を有する透明基材10と、複数の金被覆銀平板状粒子(特定平板状粒子)20を含有する金属微粒子含有層12と、媒質の屈折率n_(0)より大きい第2の屈折率n_(2)を有する誘電体層14とをこの順に積層してなる積層構造を有している。
【0121】
金属微粒子含有層12中に含まれる複数の特定平板状粒子20の主平面が、金属微粒子含有層の表面に対して0°?30°の範囲で面配向しており、図3に示すように、金属微粒子含有層12において、複数の特定平板状粒子20が導電路を形成することなく配置されている。
また、誘電体層14の厚み14aは、入射光が誘電体層14の表面側から積層構造へ入射する場合の誘電体層14の表面における反射光L_(R1)が、誘電体層14と金属微粒子含有層12との界面における反射光L_(R2)と干渉して打ち消される厚みである。
【0122】
本開示の反射防止光学部材は、反射防止機能を付与したい窓ガラスや、液晶ディスプレイ等の表面に貼付されて用いられる反射防止フィルム(フィルム状の反射防止光学部材)であってもよいし、表面に反射防止光学機能が付与されてなるレンズ等であってもよい。
【0123】
所定の媒質とは、反射防止光学部材が用いられる空間を満たす媒質であり、空気(n_(0)=1)、水(n_(0)=1.33)等、概ね1.4以下である。しかしながら、反射防止光学部材の用途により所定の媒質は異なるものであり、本開示において、この所定の媒質は何ら限定されるものではない。従って、各層の屈折率は使用用途(使用空間の媒質)によって適宜設定される。
【0124】
所定波長の入射光とは、反射を防止したい波長の光であり、目的に応じて任意に設定することができるが、例えば、液晶ディスプレイ等の反射防止に用いる場合には、目の視感度のある可視光(380nm?780nm)とする。
また、反射防止効果としては、例えば、液晶ディスプレイ等の反射防止に用いる場合には、反射率0.5%以下の波長域が100nm以上の範囲に亘っていることが好ましい。
以下、本開示の光学部材の各要素についてより詳細に説明する。
【0125】
<透明基材>
透明基材10としては、所定の媒質の屈折率n_(0)より大きい第1の屈折率n_(1)を有する所定波長の入射光に対し光学的に透明なものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、反射防止をしたい波長が可視光域である場合には。透明基材としては、可視光線透過率が70%以上のもの、好ましくは80%以上のもの、反射防止をしたい波長が近赤外域である場合には、近赤外線域の透過率が高いものを用いればよい。
【0126】
第1の屈折率n_(1)は所定の媒質の屈折率n_(0)より大きければよいが、屈折率差が大きいほど、透明基材に光が入射する際の反射は大きくなり、反射防止の必要性が高まることから、屈折率差は所定の媒質の屈折率の12%以上、特には20%以上である場合に、より本開示の反射防止光学部材の構成において効果的である。特に所定の媒質が空気でありn_(0)=1である場合には、屈折率差が大きくなることから、本開示の反射防止光学部材の構成において効果的である。また、透明基材の屈折率としては、1.8未満であることが好ましい。
【0127】
透明基材10としては、その形状、構造、大きさ、材料などについては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
透明基材の形状としては、例えば、フィルム状、平板状などが挙げられる。透明基材の構造は、単層構造であってもよいし、積層構造であってもよく、大きさは、用途に応じて定めればよい。
透明基材の材料としては、例えば、ガラス、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ4-メチルペンテン-1、ポリブテン-1等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリエーテルサルフォン系樹脂、ポリエチレンサルファイド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、セルロースアセテート等のセルロース系樹脂などからなるフィルム又はこれらの積層フィルムが挙げられる。これらの中でも、特にトリアセチルセルロース(TAC)フィルム、又はポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムが好適である。
【0128】
透明基材10が平板状あるいはフィルム状である場合、その厚みに、特に制限はなく、反射防止の使用目的に応じて適宜選択することができる。フィルム状である場合、通常は10μm?500μm程度である。透明基材10の厚みは10μm?100μmであることが好ましく、20μm?75μmであることがより好ましく、35μm?75μmであることが特に好ましい。透明基材10の厚みが厚いほど、接着故障が起き難くなる傾向にある。また、透明基材10の厚みが薄いほど、反射防止膜として建材や自動車の窓ガラスに貼り合わせる際、材料としての腰が強過ぎず、施工し易くなる傾向にある。更に、透明基材10が十分に薄いほど、透過率が増加し、原材料費を抑制できる傾向にある。
【0129】
<金属微粒子含有層>
金属微粒子含有層12は、既述の本開示の塗布膜を金属微粒子含有層に適用して構成したものであり、特定平板状粒子及びその他の成分を含有して構成される。
金属微粒子含有層12は、バインダ28中に複数の特定平板状粒子20が含有されてなる層である。金属微粒子含有層12においては、特定平板状粒子は、平面視において、層中にランダム(すなわち、非周期的に)に配置されている。
【0130】
特定平板状粒子20としては、特定平板状粒子に関して既述した事項と同一の事項が適用される。
【0131】
上述の角度θが0°?30°の範囲で面配向している特定平板状粒子20は、金属微粒子含有層12に含有される特定平板状粒子20の60個数%以上であることが好ましく、70個数%以上であることがより好ましく、90個数%以上であることが更に好ましい。
金属微粒子含有層12は、本開示の反射防止光学部材の効果を損なわない限りにおいて、特定平板状粒子20以外の金属微粒子を含有してもよいが、金属微粒子含有層12に含まれる複数の金属微粒子の総数の60個数%以上が、特定平板状粒子20であり、65個数%以上、さらには70個数%以上が、特定平板状粒子20であることが好ましい。特定平板状粒子20の割合が、60個数%以上であると、酸化耐性をより確保できる傾向となる。
【0132】
また、特定平板状粒子20は、金属微粒子含有層12の一方の表面に偏析されていることが好ましい。
【0133】
?面配向?
金属微粒子含有層12中において、特定平板状粒子20の主面は金属微粒子含有層12の表面に対して0°?30°の範囲で面配向している。すなわち、図4において、金属微粒子含有層12の表面と、特定平板状粒子20の主平面(円相当径Dを決める面)又は主平面の延長線とのなす角度(±θ)が0°?30°である。角度(±θ)が0°?20°の範囲で面配向していることがより好ましく、0°?10°の範囲で面配向していることが特に好ましい。反射防止光学部材の断面を観察した際、特定平板状粒子20は、図4に示す傾角(±θ)が小さい状態で配向していることがより好ましい。θが±30°を超えると、反射防止光学部材における可視光線の吸収が増加してしまう傾向がある。
【0134】
また、上述の角度θが0°?±30°の範囲で面配向している特定平板状粒子20が、全特定平板状粒子20の50個数%以上であることが好ましく、70個数%以上であることがより好ましく、90個数%以上であることがさらに好ましい。
【0135】
金属微粒子含有層の一方の表面に対して特定平板状粒子の主平面が面配向しているかどうかは、例えば、適当な断面切片を作製し、この切片における金属微粒子含有層及び特定平板状粒子を観察して評価する方法を採ることができる。具体的には、ミクロトーム、集束イオンビーム(FIB)を用いて反射防止光学部材の断面サンプル又は断面切片サンプルを作製し、これを、各種顕微鏡(例えば、電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)等)を用いて観察して得た画像から評価する方法などが挙げられる。
【0136】
上述の通り作製した断面サンプルまたは断面切片サンプルの観察方法としては、サンプルにおいて金属微粒子含有層の一方の表面に対して特定平板状粒子の主平面が面配向しているかどうかを確認し得るものであれば、特に制限はないが、例えば、FE-SEM、TEMなどを用いる方法が挙げられる。断面サンプルの場合は、FE-SEMにより、断面切片サンプルの場合は、TEMにより観察を行ってもよい。FE-SEMで評価する場合は、特定平板状粒子の形状と傾角(図4中の±θ)が明瞭に判断できる空間分解能を有することが好ましい。
【0137】
特定平板状粒子20の分布状態としては、複数の特定平板状粒子により導電路が形成されていなければ特に制限はない。
図5A?図5Dは、金属微粒子含有層12における特定平板状粒子20の分布状態を模式的に示した平面図である。図中白抜き部分が特定平板状粒子20である。図5Aでは複数の特定平板状粒子20が面方向において全て(100%)孤立して分布されている。図5Bは複数の特定平板状粒子20のうち50%が孤立し、他の50%が隣接粒子と接触して部分的な連結状態24で分布している状態を示す。図5Cは複数の特定平板状粒子20のうち10%のみが孤立して存在し、他は隣接粒子と接触して部分的な連結状態24で分布している状態を示す。図5Aに示すように、特定平板状粒子20は互いに孤立していることが最も好ましいが、10%以上が孤立して配置されていれば十分に反射防止効果を得ることができる。他方、図5Dは複数の特定平板状粒子20のうち2%のみが孤立した場合の特定平板状粒子の分布を示すものであり、図5Dにおいては、画像中の一端から他端へ特定平板状粒子20が連結して導電路26が形成されている。このように導電路26が形成されると、特定平板状粒子による可視光域波長の吸収率が上昇し、反射率も増加する。従って、本開示の反射防止用部材においては、図5A?図5Cに示すように、少なくとも特定平板状粒子20により導電路が形成されてない状態である。
【0138】
なお、導電路形成の有無についてはSEMで観察した2.5μm×2.5μmの領域において、領域の一端から対向する他端まで、特定平板状粒子が連続して繋がっている場合に導電路が形成されているとし、途中で特定平板状粒子が離れている場合には導電路が形成されていないと判断するものとする。
【0139】
?金属微粒子含有層の厚み、粒子の存在範囲?
図6及び図7は、本開示の反射防止光学部材において、特定平板状粒子20の金属微粒子含有層28における存在状態を示した概略断面図である。
【0140】
本開示の反射防止光学部材において金属微粒子含有層12の厚みdは、塗布厚みを下げるほど、特定平板状粒子の面配向の角度範囲が0°に近づきやすくなり、可視光線の吸収を減らすことができることから100nm以下であることが好ましく、3?50nmであることがより好ましく、5nm?40nmであることが特に好ましい。
【0141】
金属微粒子含有層12の塗布膜厚みdが特定平板状粒子の平均円相当径Dに対し、d>D/2の場合、特定平板状粒子の80個数%以上が、金属微粒子含有層の表面からd/2の範囲に存在することが好ましく、d/3の範囲に存在することがより好ましく、特定平板状粒子の60個数%以上が金属微粒子含有層の一方の表面に露出していることが更に好ましい。特定平板状粒子が金属微粒子含有層の表面からd/2の範囲に存在するとは、特定平板状粒子の少なくとも一部が金属微粒子含有層の表面からd/2の範囲に含まれていることを意味する。
図6は、金属微粒子含有層の厚みdがd>D/2である場合を表した模式図であり、特に特定平板状粒子の80個数%以上がfの範囲に含まれており、f<d/2であることを表した図である。
【0142】
また、特定平板状粒子が金属微粒子含有層の一方の表面に露出しているとは、特定平板状粒子の一方の表面の一部が、誘電体層との界面位置となっていることを意味する。図7は特定平板状粒子の一方の表面が誘電体層との界面に一致している場合を示す図である。
【0143】
ここで、金属微粒子含有層中の特定平板状粒子の存在分布は、例えば、反射防止光学部材断面をSEM観察した画像より測定することができる。
【0144】
本開示の反射防止光学部材では、金属微粒子含有層の厚みdは、特定平板状粒子の平均円相当径Dに対し、d<D/2の場合が好ましく、より好ましくはd<D/4であり、d<D/8がさらに好ましい。金属微粒子含有層の塗布厚みを下げるほど、特定平板状粒子の面配向の角度範囲が0°に近づきやすくなり、可視光線の吸収を減らすことができるため好ましい。
【0145】
金属微粒子含有層における特定平板状粒子のプラズモン共鳴波長λは、所定の波長である反射防止したい波長より長波である限り制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、熱線を遮蔽等の観点からは、700nm?2,500nmであることが好ましい。
【0146】
?ヘイズ値(透明性)?
金属微粒子含有層12は、へイズ値(%)が、0.1%?10.0%が好ましく、0.1%?5%がより好ましく、0.1%?3%がさらに好ましい。
ヘイズ値は、ヘイズメーター(NDH-5000、日本電色工業株式会社製)を用いて測定した値である。
【0147】
?特定平板状粒子の面積率?
反射防止光学部材を上から見た時の基材の面積X(金属微粒子含有層に対して垂直方向から見たときの金属微粒子含有層の全投影面積X)に対する特定平板状粒子の面積の合計値Yの割合である面積率〔(Y/X)×100〕としては、5%以上が好ましく、10%以上70%未満がより好ましい。面積率が、5%以上であれば十分な反射防止効果が得られる。面積率が70%未満であれば、導電路が形成せず、可視光の吸収と反射を抑制して透過率の低下を抑制することができる。
【0148】
広い波長域で低反射率とするために、面積率は特定平板状粒子の厚みTと誘電体層の屈折率n_(2)に応じて最適な値とすることが好ましい。金属微粒子が全て特定平板状粒子であり、所定の媒質が空気(n_(0)=1)である場合について検討する。例えば、特定平板状粒子の厚みが4nm、誘電体層の屈折率が1.4の時には、面積率は40%以上70%未満が好ましく、50%以上65%未満がより好ましい。また、例えば特定平板状粒子の厚みが8nm、誘電体層の屈折率が1.4である場合には、面積率は5%以上、40%未満が好ましく、6%以上30%未満がより好ましい。また、例えば、特定平板状粒子の厚みが18nm、誘電体層の屈折率が1.4である場合には、面積率は5%以上30%未満が好ましく、5%以上25%未満がより好ましい。
【0149】
ここで、面積率は、例えば反射防止光学部材を上からSEM観察で得られた画像や、AFM(原子間力顕微鏡)観察で得られた画像を画像処理することにより測定することができる。
【0150】
?粒子の配列?
金属微粒子含有層における特定平板状粒子の配列は均一であることが好ましい。ここで言う配列の均一とは、各粒子に対する最近接粒子までの距離(最近接粒子間距離)を粒子の中心間距離で数値化した際、各々の粒子の最近接粒子間距離の変動係数(=標準偏差÷平均値)が小さいことを指す。最近接粒子間距離の変動係数は小さいほど好ましく、好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下、理想的には0%である。最近接粒子間距離の変動係数が大きい場合には、金属微粒子含有層内で特定平板状粒子の粗密や粒子間の凝集が生じ、ヘイズが悪化する傾向がある。最近接粒子間距離は金属微粒子含有層塗布面をSEMなどで観察することにより測定が可能である。
【0151】
また、金属微粒子含有層と誘電体層との境界は同様にSEMなどで観察して決定することができ、金属微粒子含有層の厚みdを決定することができる。なお、金属微粒子含有層に含まれるポリマーと同じ種類のポリマーを用いて、金属微粒子含有層の上に誘電体層を形成する場合であっても、通常はSEM観察した画像によって金属微粒子含有層との境界を判別できることができ、金属微粒子含有層の厚みdを決定することができる。なお、境界が明確でない場合には、最も基材から離れて位置されている平板状粒子の表面を境界とみなす。
【0152】
?バインダ?
金属微粒子含有層12におけるバインダ28は、ポリマーを含むことが好ましく、透明ポリマーを含むことがより好ましい。ポリマーとしては、例えば、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリアクリレート樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、(飽和)ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ゼラチンやセルロース等の天然高分子等の高分子などが挙げられる。その中でも、主ポリマーがポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、(飽和)ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂であることが好ましく、ポリエステル樹脂およびポリウレタン樹脂であることが特定平板状粒子の80個数%以上を金属微粒子含有層の表面からd/2の範囲に存在させやすい観点からより好ましい。
【0153】
ポリエステル樹脂の中でも、飽和ポリエステル樹脂であることが二重結合を含まないために優れた耐候性を付与できる観点からより特に好ましい。また、分子末端に水酸基またはカルボキシル基を持つことが、水溶性・水分散性の硬化剤等で硬化させることで、高い硬度、耐久性及び耐熱性を得られる観点から、より好ましい。
【0154】
ポリマーとしては、商業的に入手できるものを好ましく用いることもでき、例えば、互応化学工業(株)製の水溶性ポリエステル樹脂である、プラスコートZ-687などを挙げることができる。
また、本明細書中、金属微粒子含有層に含まれる主ポリマーとは、金属微粒子含有層に含まれるポリマーの50質量%以上を占めるポリマー成分のことを意味する。
【0155】
金属微粒子含有層に含まれる特定平板状粒子に対するポリエステル樹脂及びポリウレタン樹脂の含有量は、1質量%?10000質量%であることが好ましく、10質量%?1000質量%であることがより好ましく、20質量%?500質量%であることが特に好ましい。
バインダの屈折率nは、1.4?1.7であることが好ましい。
【0156】
?特定有機成分?
金属微粒子含有層12は、既述の銀イオンとの溶解度積pKspが14以上であり、かつ還元電位が700mV未満である有機成分(特定有機成分)を含むことが好ましい。
特定有機成分の詳細は、本開示の特定粒子分散液の説明にて既述した事項と同一の事項が適用される。
【0157】
?他の添加剤?
金属微粒子含有層12は、他の添加剤を含有していてよく、例えば、酸化防止剤、界面活性剤、金属酸化物粒子等の無機粒子、各種の水溶性溶媒、硫化防止剤、腐食防止剤、粘度調整剤、防腐剤などが例示される。
【0158】
<誘電体層>
誘電体層14の厚み14aは、既述の通り、誘電体層14の表面からの入射光の誘電体層14における反射光L_(R1)が、入射光Lの金属微粒子含有層12における反射光L_(R2)と干渉して打ち消される厚みである。ここで、「反射光L_(R1)が、入射光Lの金属微粒子含有層12における反射光L_(R2)と干渉して打ち消される」とは、反射光L_(R1)と反射光L_(R2)とが互いに干渉して全体としての反射光を低減することを意味し、完全に反射光がなくなる場合に限定されるものではない。
誘電体層14は、低屈折率層として構成してもよい。
【0159】
誘電体層14の厚み14aは400nm以下であることが好ましく、誘電体層の厚みは、所定波長をλとしたとき光路長λ/4以下の厚みであることがより好ましい。
原理的には誘電体層14の厚みとしては、光路長λ/8が最適であるが、金属微粒子含有層の条件によって、λ/16?λ/4程度の範囲で最適値は変化するため、層構成に応じて適宜設定すればよい。
誘電体層14は、所定の媒質の屈折率より大きい第2の屈折率を有するものであればその構成材料は特に制限されない。例えば、バインダ、マット剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤及び界面活性剤を含有し、更に必要に応じてその他の成分を含有してなる。バインダとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂、メラミン系樹脂、ウレタン系樹脂、アルキド系樹脂、フッ素系樹脂等の熱硬化型又は光硬化型樹脂などが挙げられる。
【0160】
?その他の層及びその他の成分?
本開示の反射防止光学部材は、上記各層以外の他の層を備えていてもよい。他の層としては、赤外線吸収化合物含有層、赤外線吸収化合物含有層、粘着剤層、ハードコート層、紫外線吸収剤が含まれている層などが挙げられる。
本開示の反射防止光学部材は、反射防止能の向上の観点から、高屈折率層を更に有していてもよい。
また、本開示の反射防止光学部材は、熱線を遮蔽等の観点から、少なくとも1種の金属酸化物粒子を含有していてもよい。
【0161】
その他の層及びその他の成分としては、例えば、特開2015-129909号公報の段落0075?段落0080に記載の、粘着剤層、ハードコート層、バックコート層、紫外線吸収剤が含まれている層、金属酸化物粒子に関する事項が、本開示の反射防止光学部材においても同様に適用することができる。
【0162】
本開示の反射防止光学部材の一態様として、金属微粒子含有層、誘電体層、ハードコート層、及び粘着層を有する反射防止光学部材を例に、各層の形成方法について説明する。
【0163】
-1.金属微粒子含有層の形成方法-
金属微粒子含有層12の形成方法は、本開示の塗布膜が金属微粒子含有層として形成されるものであれば、特に制限はない。例えば、透明基材の表面上に、本開示の特定分散液及びその他の任意成分を用いて調製した塗布液を、ディップコーター、ダイコーター、スリットコーター、バーコーター、グラビアコーター等により塗布する方法、ラングミュア・プロジェット膜(LB膜)法、自己組織化法、スプレー塗布などの方法で面配向させる方法が挙げられる。
【0164】
なお、面配向を促進するために、特定平板状粒子を含む塗布液を塗布後、カレンダーローラー、ラミローラーなどの圧着ローラーを通してもよい。
【0165】
-2.誘電体層の形成方法-
誘電体層14は、塗布により形成することが好ましい。このときの塗布方法としては、特に限定はなく、公知の方法を用いることができ、例えば、紫外線吸収剤を含有する分散液を、ディップコーター、ダイコーター、スリットコーター、バーコーター、グラビアコータ一等により塗布する方法などが挙げられる。
【0166】
-3.ハードコート層の形成方法-
ハードコート層は、塗布により形成することが好ましい。このときの塗布方法としては、特に限定はなく、公知の方法を用いることができ、例えば、紫外線吸収剤を含有する分散液を、ディップコーター、ダイコーター、スリットコーター、バーコーター、グラビアコーター等により塗布する方法などが挙げられる。
【0167】
-4.粘着層の形成方法-
粘着層は、塗布により形成することが好ましい。例えば、透明基材、金属微粒子含有層、紫外線吸収層などの下層の表面上に積層することができる。このときの塗布方法としては、特に限定はなく、公知の方法を用いることができる。
粘着剤を予め離型フィルム上に塗工及び乾燥させたフィルムを作製しておいて、当該フィルムの粘着剤面と本発明の反射防止構造表面とをラミネートすることにより、ドライな状態のままの粘着剤層を積層することが可能である。このときのラミネートの方法としては、特に限定はなく、公知の方法を用いることができる。
【実施例】
【0168】
以下に実施例を挙げて本発明の一実施形態を更に具体的に説明する。本発明の範囲は、以下に示す具体例に限定されるものではない。なお、特に断りの無い限り、「%」及び「部」は質量基準である。
【0169】
[1-1] 金被覆銀平板状粒子(特定平板状粒子)及びこれを含む分散液の作製
[実施例1]
(1)銀平板状粒子分散液aの作製
NTKR-4製の反応容器(日本金属工業(株)製)にイオン交換水13Lを計量し、SUS316L製のシャフトにNTKR-4製のプロペラ4枚及びNTKR-4製のパドル4枚を取り付けたアジターを備えるチャンバーを用いて撹拌しながら、10g/Lのクエン酸三ナトリウム(無水物)水溶液1.0Lを添加して35℃に保温した。8.0g/Lのポリスチレンスルホン酸水溶液0.68Lを添加し、更に0.04Nの水酸化ナトリウム水溶液を用いて23g/Lに調製した水素化ホウ素ナトリウム水溶液0.041Lを添加した。0.10g/Lの硝酸銀水溶液13Lを5.0L/minで添加した。
【0170】
反応容器に、10g/Lのクエン酸三ナトリウム(無水物)水溶液1.0Lとイオン交換水11Lを添加して、更に80g/Lのヒドロキノンスルホン酸カリウム水溶液0.68Lを添加した。撹拌を800rpm(rotations per minute、以下同じ。)に上げて、0.10g/Lの硝酸銀水溶液8.1Lを0.95L/minで添加した後、30℃に降温した。
【0171】
さらに反応容器に、44g/Lのメチルヒドロキノン水溶液8.0Lを添加し、次いで、後述する40℃のゼラチン水溶液を全量添加した。撹拌を1200rpmに上げて、さらに反応容器に、後述する亜硫酸銀白色沈殿物混合液を全量添加した。
【0172】
調製液のpH変化が止まった段階で、さらに反応容器に、1mol/LのNaOH水溶液5.0Lを0.33L/minで添加した。その後、さらに反応容器に、2.0g/Lの1-(メタスルホフェニル)-5-メルカプトテトラゾールナトリウム水溶液(NaOHとクエン酸(無水物)とを用いてpH=7.0±1.0に調節して溶解した)0.18Lを添加し、更に70g/Lの1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン(NaOHで水溶液をアルカリ性に調節して溶解した)0.078Lを添加した。
このようにして銀平板状粒子分散液aを調製した。
銀平板状粒子分散液aが含む銀平板状粒子は、平均厚みが8.3nm、平均粒子径(平均円相当径)が121.2nmの平板状粒子であり、アスペクト比は14.6であった。測定方法は、既述のとおりである。
【0173】
?ゼラチン水溶液の調製?
SUS316L製の溶解タンクにイオン交換水16.7Lを計量した。SUS316L製のアジターで低速撹拌を行いながら、脱イオン処理を施したアルカリ処理牛骨ゼラチン(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)重量平均分子量:20万)1.4kgを添加した。更に、この溶解タンクに、脱イオン処理、蛋白質分解酵素処理、及び過酸化水素を用いた酸化処理を施したアルカリ処理牛骨ゼラチン(GPC重量平均分子量:2.1万)0.91kgを添加した。その後40℃に昇温し、ゼラチンの膨潤と溶解を同時に行って完全に溶解させた。
【0174】
?亜硫酸銀白色沈殿物混合液の調製?
SUS316L製の溶解タンクにイオン交換水8.2Lを計量し、100g/Lの硝酸銀水溶液8.2Lを添加した。SUS316L製のアジターで高速撹拌を行いながら、この溶解タンクに、140g/Lの亜硫酸ナトリウム水溶液2.7Lを短時間で添加して、亜硫酸銀の白色沈澱物を含む混合液を調製した。この亜硫酸銀白色沈殿物混合液は、使用する直前に調製した。
【0175】
(2)端面吸着剤の添加
次いで、上記で得た銀平板状粒子分散液a 130.4gに対し、50mMの塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(CTAC)13.6gを添加し、銀平板状粒子分散液Aを得た。
【0176】
(3)金被覆処理(特定平板状粒子を含む分散液の作製)
水 266.3g、0.5mol/Lアスコルビン酸(還元剤) 177g、及び、下記の金還元液B1 608gを、反応容器に順次添加し、5分間攪拌した後、1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を用いて、pHを10以上となるように調整して、金被覆処理液B1を得た。
次いで、この反応容器内の金被覆処理液B1に、上記で得た銀平板状粒子分散液A(銀濃度:0.5質量%≒46mmol/L)144gを添加し、60℃で4時間攪拌した。
以上により、銀平板状粒子を金被覆した特定平板状粒子を含む分散液(分散液b)を得た。
【0177】
?金還元液の調製?
容器に、水 18.2g、0.012mol/Lの塩化金酸4水和物(水溶性金化合物) 353.6g、0.2mol/Lの水酸化ナトリウム(pH調整剤) 15.6g、及び、0.1mol/Lのチオ硫酸ナトリウム(錯化剤) 220.6gを、軽く撹拌しながら順次添加し、金還元液B1を得た。
【0178】
(4)脱塩処理及び再分散処理
上記で得た特定平板状粒子を含む分散液bを遠沈管に800g採取して、1mol/LのNaOHおよび0.5mol/Lの硫酸のうち少なくとも一方を用いて25℃でpH=9.2±0.2に調整した。遠心分離機(日立工機(株)製himacCR22GIII、アングルローターR9A)を用いて、35℃に設定して9000rpmで60分間の遠心分離操作を行った後、上澄液を784g捨てた。沈殿した銀平板状粒子に0.2mmol/LのNaOH水溶液を加えて合計400gとし、撹拌棒を用いて手撹拌して粗分散液にした。これと同様の操作で24本分の粗分散液を調製して合計9600gとし、SUS316L製のタンクに添加して混合した。更に、このタンクに、界面活性剤であるPluronic31R1(BASF社製)の10g/L溶液(メタノール:イオン交換水=1:1(体積比)の混合液で希釈)を10mL添加した。プライミクス(株)製オートミクサー20型(撹拌部はホモミクサーMARKII)を用いて、タンク中の粗分散液と界面活性剤の混合物に9000rpmで120分間のバッチ式分散処理を施した。分散中の液温は50℃に保った。分散後、25℃に降温してから、プロファイルIIフィルター(日本ポール(株)製、製品型式MCY1001Y030H13)を用いてシングルパスの濾過を行った。
このようにして、特定平板状粒子を含む分散液bに脱塩処理及び再分散処理を施し、特定平板状粒子を含む完成品である分散液B1を得た。
分散液B1に含まれる特定平板状粒子は、平均厚みが9.1nm、平均厚みが(平均円相当径)が123.2nmの平板状粒子であり、アスペクト比は13.5であり、変動係数は19.6%であった。測定方法は、既述のとおりである。
【0179】
[実施例2?6、12?14、比較例6]
実施例1において、錯体化剤の種類及び量、端面吸着剤の量、銀平板状粒子分散液Aの量、及び塩化金酸4水和物の量を調整して、下記表2に記載の錯体化剤の種類及び量、端面吸着剤の量、銀濃度及び金濃度となるようにした以外は、実施例1と同様にして、分散液B2?B6、B12?B14及び分散液C6を得た。
【0180】
[実施例15]
実施例4において、銀平板状粒子分散液aの調製において加える亜硫酸銀白色沈殿物混合液の調製の際、100g/Lの硝酸銀水溶液の添加量を2.7Lとしたことに加え、錯体化剤の種類及び量、端面吸着剤の量、銀平板状粒子分散液Aの量、及び塩化金酸4水和物の量を調整して、下記表2に記載の錯体化剤の種類及び量、端面吸着剤の量、銀濃度及び金濃度となるようにした以外は、実施例4と同様にして分散液B15を得た。
【0181】
[実施例16]
実施例4において、銀平板状粒子分散液aの調製においてメチルヒドロキノン水溶液を添加する前に、反応容器中の液から33.1Lを抜き取ったこと以外は、実施例4と同様にして分散液B16を得た。
【0182】
[実施例17]
実施例4において、金被覆処理液の調製において、水 266.3gの代わりに、水136.3g、およびpH緩衝材として5質量%のグリシン水溶液を130g用いたこと以外は、実施例4と同様にして分散液B17を得た。
【0183】
[実施例18]
実施例4において、銀平板状粒子分散液と、金被覆処理液を混合する際に、以下のマイクロミキサーを用いたこと以外は、実施例4と同様にして分散液B18を得た。
具体的には、銀平板状粒子分散液と、金被覆処理液を、富士テクノ社製プランジャーポンプで、それぞれ8mL/min、32mL/minで送液し、EYELA社製T字型リアクター(内径0.5mm)を用いて混合した。各プランジャーポンプとリアクターは、長さ500mm、内径2mmのテフロン(登録商標)チューブで連結し、リアクターから受け容器までは長さ200mm、内径2mmのテフロン(登録商標)チューブで連結した。また、水浴を用いてリアクターを60℃に加熱した。回収した液は、60℃で4時間攪拌した。
【0184】
[比較例1]
特開2016-109550号公報の段落番号0032及び0033に記載の方法に順じ、銀濃度を、銀平板状粒子分散液aと同じ46mmol/Lとするために、各材料の添加量を260倍とし、銀平板状粒子を作製しようとしたところ、沈殿物が生じ、銀平板粒子が作製できなかった。この結果は、銀濃度が高いため、クエン酸ナトリウムの分散力では、十分に粒子の保護コロイド性が発現しなかったためであると推定した。
このため、比較例1については、金被覆処理も実施できなかった。
【0185】
[比較例2]
実施例1において調製した銀平板状粒子分散液aに対して、端面端面吸着剤の添加及び金被覆処理を行なわずに、「(4)脱塩処理及び再分散処理」と同様の処理を行なった以外は、実施例1と同様にして作製した銀平板状粒子の分散液を分散液C2として用いた。
【0186】
[比較例3]
実施例1において錯化剤を用いなかった以外は、実施例1と同様にして、金被覆銀平板状粒子分散液である分散液C3を得た。
【0187】
[比較例4]
実施例1において、錯化剤をヨウ化カリウムに変更した以外は、実施例1と同様にしてて、金被覆銀平板状粒子分散液である分散液C4を得た。
【0188】
上記にて得た分散液B1?B6、B12?B18、及び分散液C1?C4、C6について、金被覆処理に用いた錯化剤の種類、金との形成錯体の還元電位(V)、分散液中の量(mmol/L)、分散液中の銀濃度(mmol/L)、及び、分散液中の金濃度(mmol/L)を、表2に示す。なお、比較例3の欄に記載の錯化剤種「-(Cl)」は、塩化金酸4水和物に由来するリガンドを示している。
【0189】
[1-2] 測定及び評価(I)
(1)金被覆状態の確認
分散液B1?B6、B12?B18、及び分散液C1?C4、C6に含まれる金被覆銀平板状粒子について、走査型電子顕微鏡(SEM、超高分解能電界放出形走査電子顕微鏡:S-5200、(株)日立ハイテクノロジーズ製)を用いて確認した。結果を表2に示す。
【0190】
また、図8には、実施例7で得られた金被覆銀平板状粒子における平坦な金被覆層の形成状態を示す。図8は、実施例7で得られた金被覆銀平板状粒子に対するエネルギー分散型X線分析(EDS)の測定結果に基づき作製された図である。図8中、(a)は銀平板状粒子101を単独で示し、(b)は金被覆層102を単独で示し、(c)は銀平板状粒子101の表面全体に金被覆層102が存在する金被覆銀平板状粒子100を示す。
【0191】
金被覆状態の確認結果が「平坦」であった他の金被覆銀平板状粒子についても、実施例7で得られた金被覆銀平板状粒子と同様の金被覆状態であった。
【0192】
(2)金被覆層の平均厚み及び厚み比の測定
分散液B1?B6、B12?B18及び分散液C1?C4、C6に含まれる金被覆銀平板状粒子について、主平面の平均厚み(A)及び端面の平均厚み(B)を測定し、厚み比(A/B)を算出した。厚みの測定方法の詳細は、以下の通りである。結果を表1に示す。
【0193】
(測定方法)
粒子断面方向のHAADF-STEM(High-angle Annular Dark Field Scanning TEM)像を撮影し、その撮影画像中で輝度の高い金被覆層の厚みを、主平面及び端面のそれぞれについて、1粒子中5点を画像解析ツールとしてImageJを用いて測定し、計20個の粒子の厚みを算術平均することで、主平面の平均厚み(A)、端面の平均厚み(B)、及び厚み比A/Bをそれぞれ算出した。
【0194】
(3)酸化耐性(耐H_(2)O_(2)性)評価
分散液B1?B6、B12?B18及び分散液C1?C4、C6の酸化耐性(耐H_(2)O_(2)性)について、以下の評価方法及び評価基準により評価した。評価レベルA又はBが実用上問題ない酸化耐性であると評価する。結果を表2に示す。
【0195】
(評価方法)
H_(2)O_(2)の含有量が、0質量%の液、及び、3質量%の液を、それぞれ4mLづつ計19個に小分けし、そこに分散液B1?B6、B12?B18及び分散液C1?C4、C6の各分散液を、20μLづつ添加して、評価用サンプルを調製した。
各評価用サンプルを2hr経過させた後、各評価用サンプルの液分光吸収を分光機(U-4000形分光光度計 日立ハイテクノロジーズ社製)にて測定した。
分散液B1?B6、B12?B18及び分散液C1?C4、C6のそれぞれについて、H_(2)O_(2)の含有量が0質量%の評価用サンプルと3質量%の評価用サンプルとの吸収ピーク強度 AM(Abs.Max)(0%)及びAM(3%)を求め、その強度比:AM(3%)/AM(0%)から、下記評価基準A?Eに基づいて、酸化耐性(耐H_(2)O_(2)性)を判定した。
【0196】
(評価基準)
A:強度比が0.9以上1.0以下
B:強度比が0.7以上0.9未満
C:強度比が0.5以上0.7未満
D:強度比が0.3以上0.5未満
E:強度比が0以上0.3未満
【0197】
3.粒子生産性の評価
得られた各分散液について、銀濃度(mmol/L)を分散液の作製時間(hr)で割ることにより、粒子の生産性(mmol/L・hr)を求めた。評価基準は以下のとおりである。この評価に優れるほど、短時間に高濃度の金被覆銀平板状粒子を含む分散液が得られ、生産性が高い。
結果を表2に示す。
(評価基準)
A:生産性が、2.5mmol/L・hr以上
B:生産性が、0.5mmol/L・hr以上2.5mmol/L・hr未満
C:生産性が、0.5mmol/L・hr未満
【0198】
【表2】

【0199】
表2に示すように、実施例1?6、12?18で作製した分散液B1?B6、B12?B18が含む特定平板状粒子は、いずれも、粒子の主平面における金被覆層の平均厚みが0.1nm以上2nm以下であり、かつ粒子の端面における金被覆層の平均厚み(B)に対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚み(A)の比(A/B)が0.02以上であることが確認された。これらの分散液は、いずれも優れた酸化耐性(耐H_(2)O_(2)性)を示すことが分かる。
【0200】
さらに、表2には、銀濃度を高くすることによって、優れた酸化耐性を有する特定平板状粒子を高い生産性で製造できることが示されており(例えば、実施例2?実施例4を参照)、本開示の製造方法は、酸化耐性(耐H_(2)O_(2)性)と粒子生産性との両立も可能な製造方法であることも分かる。
【0201】
[2-1] 塗布膜の作製
[実施例19]
<塗布液B1の調製>
下記表3に示す組成1にて、塗布液B1を調製した。
【0202】
【表3】

【0203】
<塗布膜の形成>
透明基材である易接着層付PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム(U403、膜厚75μm、東レ(株)製)の表面上に、塗布液B1を、ワイヤーバーを用いて、乾燥後の平均厚みが30nmになるように塗布した。その後、130℃で1分間加熱し、乾燥、固化し、塗布膜B1を形成した。
【0204】
[実施例20?24、30?31、36?38、比較例7?10、12]
実施例19において、分散液B1に換えて、分散液B2?B6、B12?B16及び分散液C1?C4、C6のいずれかの分散液を用いた以外は、実施例19と同様にして、塗布液B2?B6、B12?B16を調製した。
次いで、得られた各塗布液を用いて、実施例19と同様にして塗布膜B1?B6、B12?B13、B18?B20及び塗布膜C1?C4、C6を形成した。
【0205】
[実施例32]
実施例19において、分散液B1に換えて分散液B6を用い、かつ特定有機成分1を用いなかった以外は、実施例19と同様にして、塗布液B14を調製した。
次いで、得られた塗布液を用いて、実施例19と同様にして塗布膜B14を形成した。
【0206】
[実施例33?35]
実施例19において、分散液B1に換えて分散液B6を用い、特定有機成分1(1-(5-メチルウレイドフェニル)-5-メルカプトテトラゾール)に換えて、下記表4に示す有機成分2?4のいずれかを添加した以外は、実施例19と同様にして、塗布液B15?B17を調製した。
次いで、得られた各塗布液を用いて、実施例19と同様にして、塗布膜B15?B17を形成した。
【0207】
[2-2] 測定及び評価(II)
上記にて作製した塗布膜について、以下に示す測定及び評価を行った。
【0208】
(1)有機成分の還元電位値(mV)の測定
特定有機成分1及び有機成分2?4の還元電位値(mV)は、「電気化学測定法」(1984年,藤嶋昭ら著)pp.150-167に記載のサイクリックボルタメトリー測定を参照して測定した。測定値を表4に示す。
【0209】
(2)有機成分のpKsp値測定
特定有機成分1及び有機成分2?4の銀イオンとの溶解度積Kspは、「坂口喜堅・菊池真一,日本写真学会誌,13,126,(1951)」と「a.pailliofet and j.pouradier,bull.soc.chim.france,1982,i-445(1982)」を参照して測定した。なお、pKsp=-log_(10)Kspである。測定値を表4に示す。
【0210】
(3)酸化耐性(耐オゾン性)評価
塗布膜B1?B6、B12?B20及び塗布膜C1?C4、C6の酸化耐性(耐オゾン性)について、以下の評価方法及び評価基準により評価した。評価レベルA又はBが実用上問題ない酸化耐性であると評価する。結果を表4に示す。
【0211】
(評価方法)
3mm厚の青板ガラスに、実施例及び比較例にて形成した各塗布膜を、透明基材が青板ガラス側となるようにして粘着フィルム(PD-S1:パナック(株)製)を介して貼り合わせたサンプルを2セット作製した。
そのうちの1セットの各サンプルの塗布膜について、下記の表面反射率の測定方法により平均反射率(曝露試験前)を算出した。なお、ここでは、青板ガラスの塗布膜の貼付面と反対の面に黒インキを塗って反射率を測定した。
【0212】
-表面反射率の測定方法-
実施例及び比較例の各塗布膜について、塗布膜の貼付面とは逆の面(透明基材の裏面)に黒インキ(シャチハタ製 Artline_KR-20_black)を塗り、裏面の可視光領域の反射を除き、紫外可視近赤外分光計(V560、日本分光(株)製)を用い、塗布膜側から光を入射角5°で入射した際の正反射測定を実施した。
【0213】
他方の1セットの各サンプルを、腐食試験機GS-FD(スガ試験機(株)製)において、40℃80%RH、オゾン濃度10ppmの環境下に120時間曝露した。
この曝露後の各サンプルの反射防止フィルムについて、上記と同様にして表面反射率の測定を行って平均反射率(曝露試験後)を算出した。
上記のようにして得た曝露試験前の平均反射率と曝露試験後の平均反射率との差を求め、下記の基準で評価した。結果は表4に示す。
【0214】
(評価基準)
A:差が0.2%以下
B:差が0.2%超0.4%以下
C:差が0.4%超0.6%以下
D:差が0.6%超1.0%以下
E:差が2.0%超
【0215】
(4)ヘイズ値(%)の測定
塗布膜B1?B6、B12?B20及び塗布膜C1?C4、C6のヘイズ値を、ヘイズメーター(NDH-5000、日本電色工業株式会社製)を用いて測定した。
なお、反射防止光学部材用途においては、ヘイズ値(%)が0.1%?3%であることが好ましい。
【0216】
(5)面配向(°)の測定
面配向(°)は、既述の方法により測定した。測定方法は以下の通りである。結果は表4に示す。
なお、本開示の反射防止光学部材が構成される場合においては、特定平板状粒子の主平面は、塗布膜(金属微粒子含有層)の表面に対して0°?30°の範囲で面配向される。
【0217】
(測定条件)
各実施例及び比較例の塗布膜について、集束イオンビーム(FEI社製Nova200型FIB-SEM複合機)を用いて断面切片サンプルを作製した。
得られた各断面切片サンプルについて、日立ハイテクノロジー社製HD2300型STEM装置を用いて観察して画像を得た。
得られた画像を用いて、透明基材と塗布膜との境界から0°を決め、計30個の粒子の面配向角度を算術平均することで面配向(°)の値を得た。
【0218】
【表4】

【0219】
表4に示す特定有機成分1及び有機成分2?4の詳細を、下記表5に示す。
【0220】
【表5】

【0221】
表4に示すように、実施例で作製した塗布膜B1?B6、B12?B20は、いずれも優れた酸化耐性(耐オゾン性)を示すことが分かる。
また、実施例の分散液を作製した製造方法によれば、特定平板状子を高濃度で含む分散液を高い生産性で製造できることが分かる。
また、実施例で作製した塗布膜B1?B6、B12?B20が示すヘイズ値及び面配向の値は、いずれも、塗布膜を反射防止光学部材に適用した場合において、優れた反射防止能に寄与する特性である。従って、実施例で作製した塗布膜を用いて、反射防止能及び耐酸化性の両方に優れた反射防止光学部材を構成できることが分かる。
【0222】
[3-1] 反射防止フィルム(反射防止光学部材)の作製
[実施例39]
実施例21で作製した塗布液B3を用いて、以下のとおり反射防止フィルム(反射防止光学部材)を作製した。本実施例で作製した反射防止フィルムは、透明基材/ハードコート層/高屈折率層/金属微粒子含有層(特定平版状粒子を含有する層)/低屈折率層(本開示における誘電体層)からなる構成を有する。
なお、以下に示す反射防止光学部材の作製に用いた、ハードコート層用塗布液、高屈折率層用塗布液、及び低屈折層用塗布液の各塗布液の詳細は、反射防止光学部材の作製の説明の後に示す。
【0223】
1.反射防止フィルムの作製
透明基材である易接着層付PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム(U403、膜厚75μm、東レ(株)製)の一面上に、下記のハードコート層用塗布液を、ワイヤーバーを用いて、乾燥後の平均厚みが4μmになるように塗布し、165℃で2分間加熱乾燥、固化して、ハードコート層を形成した。
【0224】
ハードコート層を形成した上に、下記の高屈折率層用塗布液を、ワイヤーバーを用いて、乾燥後の平均厚みが23nmになるように塗布し、135℃で2分間加熱乾燥、固化して、高屈折率層を形成した。
【0225】
高屈折率層を形成した上に、実施例21で作製した塗布液B3を、ワイヤーバーを用いて、乾燥後の平均厚みが30nmになるように塗布した。その後、130℃で1分間加熱し、乾燥、固化し、特定平板状粒子を含む金属粒子含有層を形成した。
【0226】
形成した金属微粒子含有層の上に、下記の低屈折率層用塗布液を、ワイヤーバーを用いて、乾燥後の平均厚みが70nmになるように塗布し、60℃で1分間加熱乾燥し、酸素濃度0.1%以下となるように窒素パージしながら、メタルハライド(M04-L41)UVランプ(アイグラフィックス製)を用いて、照射量200mJ/cm^(2)の紫外線を照射して塗布膜を硬化させ、低屈折率層(誘電体層)を形成した。
【0227】
以上の工程により、透明基材/ハードコート層/高屈折率層/金属微粒子含有層/低屈折層(誘電体層)からなる構成を有する反射防止フィルムを得た。
【0228】
2.ハードコート層用塗布液、高屈折率層用の塗布液、及び低屈折率層用塗布液の調製
(1)ハードコート層用塗布液の調製
下記表6に示す組成Aを混合して、ハードコート層形成用塗布液を調製した。
【表6】

【0229】
(2)高屈折率層用塗布液の調製
下記表7に示す組成Bを混合して、高屈折率層用塗布液を調製した。
【表7】

【0230】
(3)低屈折率層用塗布液の調製
下記表8に示す組成Cを混合して、低屈折率層用塗布液を調製した。
【表8】

【化1】

【0231】
[3-1] 測定及び評価(III)
(1)ヘイズ値(%)の測定
上記にて形成した金属微粒子含有層のヘイズ値を、ヘイズメーター(NDH-5000、日本電色工業株式会社製)を用いて測定したところ、0.6%であった。
このヘイズ値は、反射防止フィルムが備える金属微粒子層として好適なヘイズ値(0.1%?3%)の範囲内である。
【0232】
(2)表面反射率の測定及び評価
上記にて得られた反射防止フィルムの表面反射率を、下の評価方法及び評価基準により評価した。結果は、評価レベルA(0.5%未満)であり、本実施例の反射防止フィルムは、優れた反射防止能を有することが確認された。
【0233】
(評価方法)
反射防止フィルムの低屈折率層とは逆の面(透明基材の裏面)に黒インキ(シャチハタ製 Artline_KR-20_black)を塗り、裏面の可視光領域の反射を除き、紫外可視近赤外分光計(V560、日本分光製)を用い、低屈折率層側から光を入射角5°で入射した際の正反射測定を実施した。波長450nmから650nmにおける反射率を測定して平均値(以下において「平均反射率」という。)を算出し、以下の基準で評価した。
【0234】
(評価基準)
A:0.5%未満
B:0.5%以上、1.0%未満
C:1.0%以上、2.0%未満
D:2.0%以上
【0235】
(3)酸化耐性(耐オゾン性)評価
上記にて得られた反射防止フィルムの酸化耐性(耐オゾン性)について、既述の「[2-2] 測定及び評価(II) (3)酸化耐性(耐オゾン性)評価」と同様にして評価した。結果は、評価レベルA(差が0.2%以下)であり、本実施例の反射防止フィルムは、優れた酸化耐性を有することが確認された。
【符号の説明】
【0236】
D 粒子の主平面の円相当径
a 粒子の厚み
1 反射防止光学部材
10 透明基材
12 金属微粒子含有層
14 誘電体層
14a 誘電体層の厚み
d 金属微粒子含有層の厚み
20 金被覆銀平板状粒子
24 粒子の部分的な連結状態
26 導電路
28 バインダ
θ 金属微粒子含有層と金被覆銀平板状粒子の主平面とがなす角度
f 80個数%以上の金被覆銀平板状粒子が含まれる範囲
100 金被覆銀平板状粒子
101 銀平板状粒子
102 金被覆層
【0237】
2017年3月31日に出願された日本国特許出願2017-071849の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀平板状粒子と金被覆層とを有し、粒子の主平面における金被覆層の平均厚みが0.4nm以上2nm以下であり、かつ粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比が0.2以上1.4以下である、金被覆銀平板状粒子。
【請求項2】
主平面における金被覆層の平均厚みが0.7nm以上1.5nm以下であり、かつ粒子の端面における金被覆層の平均厚みに対する粒子の主平面における金被覆層の平均厚みの比が0.2以上1.4以下である、請求項1に記載の金被覆銀平板状粒子。
【請求項3】
アスペクト比が、2?80である請求項1又は請求項2に記載の金被覆銀平板状粒子。
【請求項4】
請求項1?請求項3のいずれか1項に記載の金被覆銀平板状粒子と分散媒体とを含む金被覆銀平板状粒子分散液。
【請求項5】
銀濃度が2mmol/L以上である請求項4に記載の金被覆銀平板状粒子分散液。
【請求項6】
更に、銀イオンとの溶解度積pKspが14以上であり、かつ還元電位が700mV未満である有機成分を含む請求項4又は請求項5に記載の金被覆銀平板状粒子分散液。
【請求項7】
銀平板状粒子製造工程と金被覆処理工程とを有し、請求項4?請求項6のいずれか1項に記載の金被覆銀平板状粒子分散液を得る製造方法であり、
銀平板状粒子製造工程は、水、銀塩、分散剤及び還元剤を含む混合液を作製する工程と、混合液を作製する工程で得た混合液中に、固体状態の他の銀塩を混在させる工程と、を含み、銀平板状粒子分散液を得る工程であり、かつ、
金被覆処理工程は、水、金塩、及び金イオンとの形成錯体の還元電位が0.5V以下となる錯化剤を含む金被覆処理液と、銀平板状粒子製造工程で得た銀平板状粒子分散液と、を混合して、金被覆銀平板状粒子分散液を得る工程である、
金被覆銀平板状粒子分散液の製造方法。
【請求項8】
金被覆処理工程の前において、銀平板状粒子製造工程により得た銀平板状粒子分散液に、銀平板状粒子の端面吸着剤を添加する、請求項7に記載の金被覆銀平板状粒子分散液の製造方法。
【請求項9】
金被覆処理工程において、金塩の添加量に対する金イオンとの形成錯体の還元電位が0.5V以下となる錯化剤の添加量は、mol比率で、2.5以上10以下の範囲となる量である、請求項7又は請求項8に記載の金被覆銀平板状粒子分散液の製造方法。
【請求項10】
金被覆処理工程の後に、金被覆銀平板状粒子分散液に、銀イオンとの溶解度積pKspが14以上であり、かつ還元電位が700mV未満である有機成分を添加する、請求項7?請求項9のいずれか1項に記載の金被覆銀平板状粒子分散液の製造方法。
【請求項11】
請求項1?請求項3のいずれか1項に記載の金被覆銀平板状粒子を含む塗布膜。
【請求項12】
更に、銀イオンとの溶解度積pKspが14以上であり、かつ還元電位が700mV未満である有機成分を含む、請求項11に記載の塗布膜。
【請求項13】
可視光の入射光の反射を防止する反射防止光学部材であり、透明基材と、請求項11又は請求項12に記載の塗布膜である金属微粒子含有層と、誘電体層とをこの順に積層してなる積層構造を有し、金被覆銀平板状粒子の主平面が、金属微粒子含有層の表面に対して0°?30°の範囲で面配向し、金属微粒子含有層中において、複数の金被覆銀平板状粒子は導電路を形成することなく配置され、誘電体層の厚みが、入射光が誘電体層の表面側から積層構造へ入射する場合の誘電体層の表面における反射光を、誘電体層と金属微粒子含有層との界面における反射光と干渉させて打ち消すことができる厚みである、反射防止光学部材。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-09-13 
出願番号 特願2019-509110(P2019-509110)
審決分類 P 1 652・ 113- YAA (B22F)
P 1 652・ 121- YAA (B22F)
P 1 652・ 574- YAA (B22F)
P 1 652・ 572- YAA (B22F)
P 1 652・ 575- YAA (B22F)
P 1 652・ 536- YAA (B22F)
P 1 652・ 573- YAA (B22F)
P 1 652・ 856- YAA (B22F)
P 1 652・ 537- YAA (B22F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中西 哲也  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 平塚 政宏
磯部 香
登録日 2020-02-17 
登録番号 特許第6663079号(P6663079)
権利者 富士フイルム株式会社
発明の名称 金被覆銀平板状粒子、金被覆銀平板状粒子分散液及びその製造方法、塗布膜、並びに、反射防止光学部材  
代理人 特許業務法人太陽国際特許事務所  
代理人 特許業務法人太陽国際特許事務所  

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