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審決分類 |
審判 全部申し立て 発明同一 C23C 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C23C 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C23C 審判 全部申し立て 2項進歩性 C23C |
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管理番号 | 1379809 |
異議申立番号 | 異議2021-700031 |
総通号数 | 264 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-12-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-01-14 |
確定日 | 2021-09-30 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6722006号発明「溶射用材料、溶射皮膜および溶射皮膜付部材」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6722006号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-6〕,〔8-10〕について訂正することを認める。 特許第6722006号の請求項1,4ないし10に係る特許を維持する。 特許第6722006号の請求項2ないし3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6722006号(請求項の数10。以下「本件特許」という。)の請求項1ないし10に係る特許についての出願(特願2016-43941号。以下「本願」という。)は,平成28年 3月 7日(優先権主張 平成27年 5月 8日)の出願であって,令和 2年 6月23日にその特許権の設定の登録がされ,同年 7月15日に特許掲載公報が発行された。 その後,令和 3年 1月14日に,特許異議申立人 青山敬子(以下「申立人」という。)により,すべての請求項に係る特許に対して特許異議の申立てがされ,令和 3年 5月10日付けで取消理由が通知され,同年 7月12日に特許権者により意見書の提出及び訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)がされ,同年 8月23日に申立人により意見書の提出がされたものである。 第2 訂正請求について 1 訂正請求の趣旨,及び,訂正の内容 (1)訂正請求の趣旨 本件訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)は,特許第6722006号の特許請求の範囲を令和 3年 7月12日付の訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1?6,8?10について訂正することを求めるものであり,その内容は以下のとおりである。 (2)訂正の内容 ア 訂正事項1 請求項1において, 本件訂正前の「である、溶射用材料。」を 本件訂正後の「であり、さらに希土類元素ハロゲン化物を含み、前記希土類元素ハロゲン化物が全体の23質量%以下の割合で含まれる、溶射用材料。」に訂正する(下線は訂正箇所を示す。以下同じ。)。 請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2?6も同様に訂正する。 イ 訂正事項2 請求項2を削除する。 ウ 訂正事項3 請求項3を削除する。 エ 訂正事項4 請求項4において, 本件訂正前の「請求項1?3のいずれか1項に記載の」を, 本件訂正後の「請求項1に記載の」に訂正する。 オ 訂正事項5 請求項5において, 本件訂正前の「請求項1?4のいずれか1項に記載の」を, 本件訂正後の「請求項1または4に記載の」と訂正する。 カ 訂正事項6 請求項6において, 本件訂正前の「請求項1?5のいずれか1項に記載の」を, 本件訂正後の「請求項1、4または5に記載の」と訂正する。 キ 訂正事項7 請求項8において, 本件訂正前の「前記希土類元素酸化物」を, 本件訂正後の「希土類元素酸化物」と訂正する。 請求項8を直接又は間接的に引用する請求項9,10も同様に訂正する。 2 訂正の適否について (1)訂正目的・新規事項の有無・特許請求の範囲の拡張又は変更について ア 訂正事項1について 訂正事項1は,請求項1において,「さらに希土類元素ハロゲン化物を含み、前記希土類元素ハロゲン化物が全体の23質量%以下の割合で含まれる」ことを特定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして,上記特定事項は,本件訂正前の請求項2及び本件特許の願書に添付した明細書の段落【0032】の記載を根拠とするものであるから,本件特許の願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり,かつ,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 イ 訂正事項2?6について 訂正事項2は請求項2を削除するものであり,訂正事項3は請求項3を削除するものであり,訂正事項4?6はいずれも,他項を引用する請求項4?6において,削除された請求項2,3の引用を削除するものであるから,いずれも,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり,かつ,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 ウ 訂正事項7について 訂正事項7は,請求項8において,「前記希土類元素酸化物」とあるのを「希土類元素酸化物」とすることにより,明確でないとされた「前記」を削除するものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであることは明らかであって,かつ,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 (2)一群の請求項について ア 本件訂正前の請求項1?6について,請求項2?6はそれぞれ請求項1を直接又は間接的に引用しており,請求項1に連動して訂正されるから,本件訂正前の請求項1?6は一群の請求項である。 イ 本件訂正前の請求項8?10について,請求項9,10はそれぞれ,請求項8を直接又は間接的に引用しており,請求項8に連動して訂正されるから,本件訂正前の請求項8?10は一群の請求項である。 ウ 上記ア,イのとおり,本件訂正請求は,上記一群の請求項〔1?6〕,〔8?10〕についてされたものであるから,特許法第120条の5第4項の規定に適合する。 そして,本件訂正は,請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく,特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから,本件訂正請求は,訂正後の請求項〔1?6〕,〔8?10〕を訂正単位として訂正の請求をするものである。 (3)独立特許要件について 本件特許に対しては,訂正前のすべての請求項1?10について特許異議の申立てがされているので,特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する第126条第7項の規定は適用されない。 3 訂正請求についてのまとめ 以上のとおり,令和 3年 7月12日に特許権者が行った本件訂正請求による本件訂正は,特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に規定する事項を目的とするものであり,かつ,同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第5項,第6項の規定に適合するので,訂正後の請求項〔1?6〕,〔8?10〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2のとおり,本件訂正は適法なものであるから,本件特許の請求項1?10に係る発明(以下,各々「本件発明1」?「本件発明10」という。)は,訂正特許請求の範囲に記載された事項により特定される,次のとおりのものである。 「【請求項1】 構成元素として希土類元素(RE)、酸素(O)およびハロゲン元素(X)を含む希土類元素オキシハロゲン化物(RE-O-X)を含む溶射用材料であって、 前記希土類元素オキシハロゲン化物における、前記希土類元素に対する前記ハロゲン元素のモル比(X/RE)は1.3以上1.39以下であり、 さらに希土類元素ハロゲン化物を含み、 前記希土類元素ハロゲン化物が全体の23質量%以下の割合で含まれる、溶射用材料。 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 (削除) 【請求項4】 希土類元素酸化物を実質的に含まない、請求項1に記載の溶射用材料。 【請求項5】 前記希土類元素がイットリウムであり、前記ハロゲン元素がフッ素であり、前記希土類元素オキシハロゲン化物がイットリウムオキシフッ化物である、請求項1または4に記載の溶射用材料。 【請求項6】 請求項1、4または5に記載の溶射用材料を基材の表面に溶射して、溶射皮膜を形成する方法。 【請求項7】 構成元素として希土類元素(RE)、酸素(O)およびハロゲン元素(X)を含む希土類元素オキシハロゲン化物(RE-O-X)を含み、 当該希土類元素オキシハロゲン化物は、前記希土類元素に対する前記ハロゲン元素のモル比(X/RE)が1.1以上の希土類元素オキシハロゲン化物と、前記希土類元素に対する前記ハロゲン元素のモル比(X/RE)が1の希土類オキシハロゲン化物とを含む、溶射皮膜。 【請求項8】 希土類元素酸化物を実質的に含まない、請求項7に記載の溶射皮膜。 【請求項9】 前記希土類元素がイットリウムであり、前記ハロゲン元素がフッ素であり、前記希土類元素オキシハロゲン化物がイットリウムオキシフッ化物である、請求項7または8に記載の溶射皮膜。 【請求項10】 基材の表面に、請求項7?9のいずれか1項に記載の溶射皮膜が備えられている、溶射皮膜付部材。」 第4 申立理由および取消理由の概要 申立人は,本件訂正前の請求項1ないし10に係る特許は下記1?5の理由により取り消されるべきものである旨主張し,証拠方法として下記6の甲第1号証ないし甲第4号証を提示した。 このうち,当審は,申立理由2(拡大先願)の一部,同3(実施可能要件)の一部及び同5(明確性)を採用し,各々,取消理由A,同B及び同Cとして通知した。 1 申立理由1(進歩性) 本件訂正前の請求項1ないし10に係る発明は,甲第1号証に記載された発明に基いて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その発明についての特許は,特許法第113条第2号に該当し,取り消されるべきものである。 2 申立理由2(拡大先願)(取消理由Aとして一部採用) (1)本件訂正前の請求項1,3ないし10に係る発明は,本願の出願日前の特許出願であって,その出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた甲第2号証に係る特許出願の願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり,しかも,本願の発明者が上記特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく,また,本願の出願時において,本願の出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので,特許法第29条の2の規定に違反して特許されたものであるから,その発明についての特許は,特許法第113条第2号に該当し,取り消されるべきものである。 (2)本件訂正前の請求項1,3ないし10に係る発明は,本願の出願日前の特許出願であって,その出願後に国際公開がされた甲第3号証に係る日本語特許出願の優先基礎出願である,特願2015-24627号(平成27年 2月10日出願)の明細書,請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり,しかも,本願の発明者が上記特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく,また本願の出願時において,本願の出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので,特許法第29条の2の規定に違反して特許されたものであるから,その発明についての特許は,特許法第113条第2号に該当し,取り消されるべきものである。 3 申立理由3(実施可能要件)(取消理由Bとして一部採用) 本件訂正前の請求項1ないし10に係る発明について,発明の詳細な説明の記載は,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえず,本件特許は,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから,特許法第113条第4号に該当し,取り消されるべきものである。 4 申立理由4(サポート要件) 本件訂正前の請求項1ないし10に係る発明は発明の詳細な説明に記載されたものとはいえず,本件特許は,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから,特許法第113条第4号に該当し,取り消されるべきものである。 5 申立理由5(明確性)(取消理由Cとして採用) 本件訂正前の請求項8ないし10に係る発明について、特許請求の範囲の記載は特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず,本件特許は,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから,特許法第113条第4号に該当し,取り消されるべきものである。 6 引用文献等(以下,各々「甲1」?「甲4」という。) 甲第1号証:国際公開第2014/002580号 甲第2号証:特開2016-156046号公報 甲第3号証:国際公開第2016/129457号 甲第4号証:特開2014-40634号公報 第5 当審の判断 当審は,本件訂正請求を認めることにより,当審による取消理由はいずれも解消し,また,申立人による申立理由のいずれによっても,本件特許を取り消すことはできないと判断する。 1 申立理由1(進歩性)について (1)甲1に記載された発明 甲1は「溶射材料及びその製造方法」(発明の名称)に関するものであって,その記載(段落[0012],[0018],[0044],[0050],[0058],[0060],[0063]表3,請求項1),特に請求項1,段落[0060]の記載によると,次の各発明が記載されているといえる。 「イットリウムのオキシフッ化物(YOF)を含む顆粒を有する溶射材料。」(以下「甲1発明」という。) 「甲1発明に係る溶射材料を用いて、基材の表面にプラズマ溶射を行う方法。」(以下「甲1方法発明」という。) 「イットリウムのオキシフッ化物(YOF)を含む顆粒を有する溶射材料を、プラズマ溶射により溶射して得られた溶射膜。」(以下「甲1溶射膜発明」という。) 「甲1溶射膜発明に係る溶射膜が備えられている、部材。」(以下「甲1部材発明」という。) (2)本件発明1との対比 ア 対比 本件発明1(上記第3)と甲1発明(上記(1))とを対比すると,後者の「イットリウムのオキシフッ化物(YOF)を含む顆粒を有する溶射材料」は,前者の「構成元素として希土類元素(RE)、酸素(O)およびハロゲン元素(X)を含む希土類元素オキシハロゲン化物(RE-O-X)を含む溶射用材料」に相当する。 そうすると,両者は, 「構成元素として希土類元素(RE)、酸素(O)およびハロゲン元素(X)を含む希土類元素オキシハロゲン化物(RE-O-X)を含む溶射用材料」 において一致し,次の相違点1-1,1-2において相違する。 (相違点1-1) 溶射用材料を構成する「希土類元素オキシハロゲン化物」について,本件発明1は「前記希土類元素に対する前記ハロゲン元素のモル比(X/RE)は1.3以上1.39以下」であるのに対し,甲1発明は上記特定がされていない点。 (相違点1-2) 溶射用材料について,本件発明1は「さらに希土類元素ハロゲン化物を含み、前記希土類元素ハロゲン化物が全体の23質量%以下の割合で含まれる」のに対し,甲1発明は上記特定がされていない点。 イ 検討 上記相違点1-1について検討すると,甲1には,甲1発明におけるイットリウムのオキシフッ化物(YOF)として「モル比がY:O:F=1:1:1である化合物及び1:1:1以外の化合物の両方を挙げることができる。前記のモル比が1:1:1以外の化合物の例としては、Y_(5)O_(4)F_(7)、Y_(7)O_(6)F_(9)等を挙げることができる。」(段落[0012])と記載され,実施例ではYOFが示されている。 しかしながら,YOF(モル比F/Y=1),Y_(5)O_(4)F_(7)(モル比F/Y=1.4),Y_(7)O_(6)F_(9)(モル比F/Y=1.29)のいずれも,「前記希土類元素に対する前記ハロゲン元素のモル比(X/RE)は1.3以上1.39以下」には該当せず,甲1発明におけるイットリウムのオキシフッ化物について,イットリウムに対するフッ素のモル比(F/Y)を1.3以上1.39以下の範囲に特定することの動機付けは見いだせない。 ウ 小括 よって,相違点1-2について検討するまでもなく,本件発明1は,甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)本件発明4?6との対比 ア 本件発明4,5に係る発明は,本件発明1をさらに技術的に特定したものであるから,甲1発明と対比すると,少なくとも,上記(2)アと同様の相違点を有する。 そして,上記(2)イでの検討と同様の理由により,本件発明4,5は,甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 イ 本件発明6は,本件発明1,4,5に係る溶射用材料を基材の表面に適用して,溶射皮膜を形成する方法であるから,甲1方法発明(甲1発明に係る溶射材料を用いて、基材の表面にプラズマ溶射を行う方法)と対比すると,少なくとも,上記(2)アと同様の相違点を有する。 そして,上記(2)イでの検討と同様の理由により,本件発明6は,甲1方法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)本件発明7との対比 ア 対比 本件発明7(上記第3)と甲1溶射膜発明(上記(1))とを対比すると,後者の「溶射膜」は,「イットリウムのオキシフッ化物(YOF)を含む」「溶射用材料」を溶射して得られたものであるから,前者の「構成元素として希土類元素(RE)、酸素(O)およびハロゲン元素(X)を含む希土類元素オキシハロゲン化物(RE-O-X)を含」む「溶射皮膜」に相当する。 そうすると,両者は, 「構成元素として希土類元素(RE)、酸素(O)およびハロゲン元素(X)を含む希土類元素オキシハロゲン化物(RE-O-X)を含む、溶射皮膜。」 において一致し,次の相違点1-3において相違する。 (相違点1-3) 溶射皮膜を構成する希土類元素オキシハロゲン化物について,本件発明7は「前記希土類元素に対する前記ハロゲン元素のモル比(X/RE)が1.1以上の希土類元素オキシハロゲン化物と、前記希土類元素に対する前記ハロゲン元素のモル比(X/RE)が1の希土類元素オキシハロゲン化物とを含む」のに対し,甲1溶射膜発明は上記特定がされていない点。 イ 検討 上記相違点1-3について検討すると,甲1には,溶射材料を溶射して得られた溶射膜の化学組成については,記載も示唆もされておらず,甲1溶射膜発明を構成するイットリウムオキシフッ化物について,イットリウムに対するフッ素のモル比(F/Y)が1.1以上のものと1のものとを含むように特定することの動機付けは見いだせない。 ウ 小括 よって,本件発明7は,甲1溶射膜発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (5)本件発明8?10との対比 ア 本件発明8,9に係る発明は,本件発明7をさらに技術的に特定したものであるから,甲1溶射膜発明と対比すると,少なくとも,上記(4)アと同様の相違点を有する。 そして,上記(4)イでの検討と同様の理由により,イットリウムに対するフッ素のモル比(F/Y)が1.1以上のものと1のものとを含むように特定することの動機付けは見いだせず,本件発明8,9は,甲1溶射膜発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 イ 本件発明10は,本件発明7?9に係る溶射皮膜が備えられている,溶射皮膜付部材であるから,甲1部材発明(甲1溶射膜発明に係る溶射膜が備えられている部材)と対比すると,少なくとも,上記(4)アと同様の相違点を有する。 そして,上記(4)イでの検討と同様の理由により,イットリウムに対するフッ素のモル比(F/Y)が1.1以上のものと1のものとを含むように特定することの動機付けは見いだせず,本件発明10は,甲1部材発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (6)申立理由1(進歩性)についてのまとめ 以上のとおり,本件特許の請求項1,4ないし10に係る発明は,甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから,同発明に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。 2 申立理由2(拡大先願)(取消理由Aとして一部採用)について (1)甲2を根拠とする場合(取消理由A) ア 甲2に記載された発明 甲2は「溶射用粉末」(発明の名称)に関するものであって,その記載(段落【0015】,【0030】,【0033】,【0034】,【0041】,【0042】,【0047】,【0054】,【0059】【表1】),特に段落【0033】,【0034】,【0042】の記載によると,次の各発明が記載されているといえる。 「ハロゲン元素と希土類元素とを含む組成の溶射用粉末であって、セラミック材料として、YOF,Y_(5)O_(4)F_(7),Y_(6)O_(5)F_(8),Y_(7)O_(6)F_(9),Y_(17)O_(14)F_(23),YOCl,YOBr,YOFCl,YOBrCl,LaOF,PrOF,NdOF,SmOF,GdOF等の希土類元素オキシハロゲン化物を含む、溶射用粉末。」(以下「甲2発明」という。) 「甲2発明に係る溶射用粉末を、各種の溶射法により溶射して、各種の基材に溶射皮膜を形成する方法。」(以下「甲2方法発明」という。) 「甲2発明に係る溶射用粉末を、各種の溶射法により溶射して形成される、溶射皮膜。」(以下「甲2皮膜発明」という。) 「甲2皮膜発明に係る溶射皮膜が備えられている、部材。」(以下「甲2部材発明」という。) イ 本件発明1との対比 本件発明1(上記第3)と甲2発明(上記ア)とを対比すると,後者の「希土類元素オキシハロゲン化物」及び「溶射用粉末」は,各々,前者の「希土類元素オキシハロゲン化物」及び「溶射用材料」に相当する。 そして,後者の「希土類元素オキシハロゲン化物」のうち「Y_(6)O_(5)F_(8)」及び「Y_(17)O_(14)F_(23)」については,希土類元素に対するハロゲン元素のモル比が,各々,「1.33」及び「1.35」であり,前者の「前記希土類元素に対する前記ハロゲン元素のモル比(X/RE)は1.3以上1.39以下」に包含される。 そうすると,両者は, 「構成元素として希土類元素(RE)、酸素(O)およびハロゲン元素(X)を含む希土類元素オキシハロゲン化物(RE-O-X)を含む溶射用材料であって、 前記希土類元素オキシハロゲン化物における、前記希土類元素に対する前記ハロゲン元素のモル比(X/RE)は1.3以上1.39以下である、溶射用材料」 において一致するものの,本件発明1は「さらに希土類元素ハロゲン化物を含み、前記希土類元素ハロゲン化物が全体の23質量%以下の割合で含まれる」のに対し,甲2発明は当該特定事項が明らかでない点で相違する。そして,この点は,甲2には記載されておらず,また,出願時の技術常識を考慮しても,甲2が当然に備えている事項でもないので,実質的な相違点である。 よって,本件発明1は,甲2発明と同一であるとはいえない。 ウ 本件発明4?6との対比 (ア)本件発明4,5は,本件発明1をさらに技術的に特定したものであるから,甲2発明と対比すると,少なくとも,上記イで検討した相違点を有する。 そして,上記イで検討したのと同様の理由により,本件発明4,5は,甲2発明と同一であるとはいえない。 (イ)本件発明6は,本件発明1,4,5に係る溶射用材料を基材の表面に適用して,溶射皮膜を形成する方法であるから,甲2方法発明(甲2発明に係る溶射用粉末を、各種の溶射法により溶射して、各種の基材に溶射皮膜を形成する方法)と対比すると,少なくとも,上記イと同様の相違点を有する。 そして,上記イでの検討と同様の理由により,本件発明6は,甲2方法発明と同一であるとはいえない。 エ 本件発明7との対比 本件発明7(上記第3)と甲2皮膜発明(上記ア)とを対比すると,後者の「溶射皮膜」は,「甲2発明に係る溶射用粉末」すなわち「YOF,Y_(5)O_(4)F_(7),Y_(6)O_(5)F_(8),Y_(7)O_(6)F_(9),Y_(17)O_(14)F_(23),YOCl,YOBr,YOFCl,YOBrCl,LaOF,PrOF,NdOF,SmOF,GdOF等の希土類元素オキシハロゲン化物」を溶射して得られたものであるから,前者の「構成元素として希土類元素(RE)、酸素(O)およびハロゲン元素(X)を含む希土類元素オキシハロゲン化物(RE-O-X)を含」む「溶射皮膜」に相当する。 そうすると,両者は, 「構成元素として希土類元素(RE)、酸素(O)およびハロゲン元素(X)を含む希土類元素オキシハロゲン化物(RE-O-X)を含む、溶射皮膜」 において一致するものの,溶射皮膜を構成する希土類元素オキシハロゲン化物について,本件発明7は「前記希土類元素に対する前記ハロゲン元素のモル比(X/RE)が1.1以上の希土類元素オキシハロゲン化物と、前記希土類元素に対する前記ハロゲン元素のモル比(X/RE)が1の希土類元素オキシハロゲン化物とを含む」のに対し,甲2皮膜発明は当該特定事項が明らかでない点において相違する。そして,この点は,甲2には記載されておらず,また,出願時の技術常識を考慮しても,甲2が当然に備えている事項でもないので,実質的な相違点である。 よって,本件発明7は,甲2皮膜発明と同一であるとはいえない。 オ 本件発明8?10について (ア)本件発明8,9に係る発明は,本件発明7をさらに技術的に特定したものであるから,甲2皮膜発明と対比すると,少なくとも,上記エと同様の相違点を有する。 そして,上記エでの検討と同様の理由により,甲2皮膜発明と同一であるとはいえない。 (イ)本件発明10は,本件発明7?9に係る溶射皮膜が備えられている,溶射皮膜付部材であるから,甲2部材発明(甲2皮膜発明に係る溶射皮膜が備えられている、部材)と対比すると,少なくとも,上記エと同様の相違点を有する。 そして,上記エでの検討と同様の理由により,本件発明10は,甲2部材発明と同一であるとはいえない。 (2)甲3を根拠とする場合 ア 甲3に記載された発明 甲3は「成膜用粉末及び成膜用材料」(発明の名称)に関するものであって,その記載(段落[0002],[0012],[0014],[0041],[0059],[0066],[0095][表2],[0096][表2A]?[0099][表3A])によると,次の各発明が記載されているといえる。 「プラズマ溶射に用いられる成膜用粉末であって、希土類元素(Ln)、酸素(O)、フッ素(F)からなる化合物である、希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)として、YOF、Y_(5)O_(4)F_(7)、Y_(7)O_(6)F_(9)、Y_(4)O_(6)F_(9)等を含む、成膜用粉末。」(以下「甲3発明」という。) 「エッチング装置の内部を、甲3発明に係る成膜用粉末を用いて、プラズマ溶射によってコーティングする方法。」(以下「甲3方法発明」という。) 「甲3発明に係る成膜用粉末を、プラズマ溶射により溶射してエッチング装置の内部に形成される、溶射膜。」(以下「甲3溶射膜発明」という。) 「甲3溶射膜発明に係る溶射膜がエッチング装置の内部に形成されている、エッチング装置。」(以下「甲3装置発明」という。) イ 本件発明1との対比 本件発明1(上記第3)と甲3発明(上記ア)とを対比すると,後者の「希土類元素オキシハロゲン化物」及び「成膜用粉末」は,各々,前者の「希土類元素オキシハロゲン化物」及び「溶射用材料」に相当する。 そして,後者の「希土類元素オキシハロゲン化物」のうち「Y_(6)O_(5)F_(8)」及び「Y_(17)O_(14)F_(23)」については,希土類元素に対するハロゲン元素のモル比が,各々,「1.33」及び「1.35」であり,前者の「前記希土類元素に対する前記ハロゲン元素のモル比(X/RE)は1.3以上1.39以下」に包含される。 そうすると,両者は, 「構成元素として希土類元素(RE)、酸素(O)およびハロゲン元素(X)を含む希土類元素オキシハロゲン化物(RE-O-X)を含む溶射用材料であって、 前記希土類元素オキシハロゲン化物における、前記希土類元素に対する前記ハロゲン元素のモル比(X/RE)は1.3以上1.39以下である、溶射用材料」 において一致するものの,本件発明1は「さらに希土類元素ハロゲン化物を含み、前記希土類元素ハロゲン化物が全体の23質量%以下の割合で含まれる」のに対し,甲3発明は「希土類元素オキシハロゲン化物を含む」ものの,希土類元素ハロゲン化物を実質的に含まないものである点で相違する。そして,この点は,甲3には記載されておらず,また,出願時の技術常識を考慮しても,甲3が当然に備えている事項でもないので,実質的な相違点である。 よって,本件発明1は,甲3発明と同一であるとはいえない。 ウ 本件発明4?6との対比 (ア)本件発明4,5は,本件発明1をさらに技術的に特定したものであるから,甲3発明と対比すると,少なくとも,上記イで検討した相違点を有する。 そして,上記イで検討したのと同様の理由により,本件発明4,5は,甲3発明と同一であるとはいえない。 (イ)本件発明6は,本件発明1,4,5に係る溶射用材料を基材の表面に適用して,溶射皮膜を形成する方法であるから,甲3方法発明(エッチング装置の内部を、甲3発明に係る成膜用粉末を用いて、溶射によってコーティングする方法)と対比すると,少なくとも,上記イと同様の相違点を有する。 そして,上記イでの検討と同様の理由により,本件発明6は,甲3方法発明と同一であるとはいえない。 エ 本件発明7との対比 本件発明7(上記第3)と甲3溶射膜発明(上記ア)とを対比すると,後者の「溶射皮膜」は,「甲3発明に係る溶射用粉末」すなわち「希土類元素のオキシフッ化物(Ln-O-F)として、YOF、Y_(5)O_(4)F_(7)、Y_(7)O_(6)F_(9)、Y_(4)O_(6)F_(9)等」を溶射して得られたものであるから,前者の「構成元素として希土類元素(RE)、酸素(O)およびハロゲン元素(X)を含む希土類元素オキシハロゲン化物(RE-O-X)を含」む「溶射皮膜」に相当する。 そうすると,両者は, 「構成元素として希土類元素(RE)、酸素(O)およびハロゲン元素(X)を含む希土類元素オキシハロゲン化物(RE-O-X)を含む、溶射皮膜」 において一致するものの,溶射皮膜を構成する希土類元素オキシハロゲン化物について,本件発明7は「前記希土類元素に対する前記ハロゲン元素のモル比(X/RE)が1.1以上の希土類元素オキシハロゲン化物と、前記希土類元素に対する前記ハロゲン元素のモル比(X/RE)が1の希土類元素オキシハロゲン化物とを含む」のに対し,甲3溶射膜発明は当該特定事項が明らかでない点において相違する。そして,この点は,甲3には記載されておらず,また,出願時の技術常識を考慮しても,甲3が当然に備えている事項でもないので,実質的な相違点である。 よって,本件発明7は,甲3溶射膜発明と同一であるとはいえない。 オ 本件発明8?10との対比 (ア)本件発明8,9に係る発明は,本件発明7をさらに技術的に特定したものであるから,甲3溶射膜発明と対比すると,少なくとも,上記エと同様の相違点を有する。 そして,上記エでの検討と同様の理由により,甲3溶射膜発明と同一であるとはいえない。 (イ)本件発明10は,本件発明7?9に係る溶射皮膜が備えられている,溶射皮膜付部材であるから,甲3装置発明(甲3溶射膜発明に係る溶射膜がエッチング装置の内部に形成されている、エッチング装置)と対比すると,少なくとも,上記エと同様の相違点を有する。 そして,上記エでの検討と同様の理由により,本件発明10は,甲3装置発明と同一であるとはいえない。 (3)申立理由2(拡大先願)(取消理由Aとして一部採用)についてのまとめ 以上のとおり,本件特許の請求項1,4ないし10に係る発明は,甲2及び甲3に係る出願の願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であるとはいえないから,同発明に係る特許は,特許法第29条の2の規定に違反してされたものではない。 3 申立理由3(実施可能要件)(取消理由Bとして一部採用)について (1)発明の詳細な説明の記載 ア 本願の願書に添付した明細書(以下,「本件特許明細書」という。)の発明の詳細な説明の実施例には,次の記載がある。 (ア)溶射用材料に関する実施形態1(段落【0047】?【0054】,表1)として,いずれも希土類元素がイットリウム,ハロゲンがフッ素であり,モル比(X/RE)が1,XRD検出相がYF_(3)及びYOFであるNo.3及び4,同じくモル比(X/RE)が1,XRD検出相がYOFであるNo.5,同じくモル比(X/RE)が1.29,XRD検出相がY_(7)O_(6)F_(9)であるNo.6,同じくモル比(X/RE)が1.33,XRD検出相がY_(6)O_(5)F_(8)であるNo.7,同じくモル比(X/RE)が1.40,XRD検出相がY_(5)O_(4)F_(7)であるNo.8が示され,No.3,4の溶射用材料によりイットリウムオキシフッ化物とフッ化イットリウムとの混合相が得られ,また,No.7の溶射用材料によりモル比が所定範囲内のものが得られたことが確認されたと説明されている(段落【0054】)。 (イ)溶射皮膜に関する実施形態2(段落【0055】?【0076】,表2)として,上記No.3?8の溶射用材料をプラズマ溶射法により溶射することで,溶射皮膜付部材を作製したところ,溶射皮膜のXRD検出相が,YOF及びY_(2)O_(3)であるNo.3?5,同じくYOF及びY_(7)O_(6)F_(9)であるNo.6,同じくYOF及びY_(6)O_(5)F_(8)であるNo.7,同じくYOF及びY_(5)O_(4)F_(7)であるNo.8が示され,このうち,No.3?5の溶射皮膜は,Y_(2)O_(3)量の減少と共にパーティクル発生数が低減したこと,また,No.6?8の溶射皮膜は,実質的にイットリウムオキシフッ化物のみからなり,パーティクル発生数が極めて少量に抑えられることが確認されたと説明されている(段落【0057】表2,【0071】,【0073】,【0074】?【0076】)。 (2)検討 ア 実施例の記載について (ア)溶射用材料に関する実施形態1(上記(1)ア(ア))によると,No.7は,本件特許の請求項1に特定されるモル比(X/RE)は満たすものの,さらに希土類元素ハロゲン化物を含むものではない。しかしながら,発明の詳細な説明には,溶射用材料に含まれる希土類元素ハロゲン化物は,希土類元素酸化物よりもさらに耐プラズマエロージョン性に優れるので,全体の23質量%以下の割合で含有することができることも説明されている(段落【0032】)。そして,このことは,溶射皮膜に関する実施形態2(上記(1)ア(イ))に摘示した,溶射材料の結晶相が10%YF_(3)及び90%YOFからなるもの(No.4)から得た溶射皮膜と,溶射材料の結晶相がYOFのみからなるもの(No.5)から得た溶射皮膜とを比較して,パーティクル発生数に悪影響を与えていないことからも理解することができる(段落【0057】表2)。 (イ)そうすると,当業者は,発明の詳細な説明の記載に基いて,溶射用材料としてモル比(X/RE)が1.3以上1.39以下である希土類元素オキシハロゲン化物を用いることに加え,希土類元素ハロゲン化物を全体の23質量%以下の割合で含むことや,当該溶射材料から,モル比(X/RE)が1.33である希土類元素オキシハロゲン化物と,モル比(X/RE)が1である希土類元素オキシハロゲン化物を含む溶射被膜を作製することができるものと認められる。 イ 溶射用材料の製造について (ア)発明の詳細な説明には,本件特許の請求項1,4,5に記載の溶射用材料(引用する請求項6について同様。)の製造方法として,「粉末状のイットリウム含有化合物およびフッ素含有化合物を適宜混合して焼成することで、No.3?8の粉末状の溶射用材料を得た」(段落【0047】)ことが示されている。 (イ)これに対して,特許権者が提示した乙第1号証(新原皓一「希土類化合物の結晶化学的研究」大阪大学博士論文(昭和49年)6頁下8?5行及び7頁9?26行,以下「乙1」という。)によれば,希土類オキシフッ化物の製造の出発物質にLnF_(3)とLn_(2)O_(3)を選び,固相反応によってオキシフッ化物を製造する方法を利用することにより,生成物の組成決定は容易であることが,本願の出願当時における技術常識であったことが認められるから,当業者は,上記の技術常識を勘案して,希土類元素フッ化物及び希土類元素酸化物を原料とする固相反応により,本件特許の請求項1,4?6に記載の溶射用材料を得ることができるものと認められる。 ウ 申立人の主張について (ア)申立人は令和 3年8月23日付け意見書において,No.7の溶射用材料は,希土類元素オキシハロゲン化物のみからなるものであり,希土類元素ハロゲン化物を含まず,請求項1の構成要件を満たさない溶射用材料であること,また,発明の詳細な説明の段落【0047】には,酸化イットリウムの粉末およびフッ化イットリウムの粉末を混合して焼成することで「溶射用材料」を得たと記載されているのであって「イットリウムオキシフッ化物」を得たとは記載されておらず,希土類元素オキシフッ化物に希土類元素ハロゲン化物を混合して得た「溶射用材料」についても一切記載がないこと,したがって,上記乙1の技術常識を考慮したとしても,請求項1,4?6に記載の溶射用材料も,請求項7?10に記載の溶射皮膜も,実施可能ではない旨主張する(上記意見書3?4頁)。 (イ)しかしながら,請求項1,4?6に記載の溶射用材料,及び,請求項7?10に記載の溶射皮膜について,上記ア(イ)のとおり,当業者は,No.7以外のものも,発明の詳細な説明の記載を参照することにより作製することができ,また,上記イ(イ)のとおり,上記乙1の技術常識を考慮すれば,請求項1,4?6に記載の溶射用材料を得ることができるものであるところ,申立人は,当該判断を覆すに足りる十分な根拠を示していない。よって,申立人の主張は採用できない。 (3)取消理由3(実施可能要件)(取消理由Bとして一部採用)についてのまとめ 以上のとおり,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者が請求項1,4ないし10に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるから,その発明についての特許は,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものではない。 4 申立理由4(サポート要件)について (1)発明の詳細な説明の記載 ア 発明の詳細な説明に記載された,発明が解決しようとする課題は,耐プラズマエロージョン性がさらに向上されるとともに,気孔率が低く硬度などの特性に優れた溶射皮膜を形成し得る溶射用材料を提供すること,また,この溶射用材料を用いて形成される溶射皮膜および溶射皮膜付部材を提供することである(段落【0006】)。 イ そして,溶射皮膜に関する実施形態2(段落【0055】?【0076】,表2)として,上記No.3?8の溶射用材料をプラズマ溶射法により溶射することで,溶射皮膜付部材を作製したところ,溶射皮膜のXRD検出相が,YOF及びY_(2)O_(3)であるNo.3?5,同じくYOF及びY_(7)O_(6)F_(9)であるNo.6,同じくYOF及びY_(6)O_(5)F_(8)であるNo.7,同じくYOF及びY_(5)O_(4)F_(7)であるNo.8のうち,No.3?5の溶射皮膜は,Y_(2)O_(3)量の減少と共にパーティクル発生数が低減したこと,また,No.6?8の溶射皮膜は,実質的にイットリウムオキシフッ化物のみからなり,パーティクル発生数が極めて少量に抑えられることが確認されたと説明されている(段落【0071】,【0073】,【0074】?【0076】)。 (2)検討 ア 以上によれば,発明の詳細な説明には,溶射用材料としてモル比(X/RE)が1.3以上1.39以下である希土類元素オキシハロゲン化物を用いることに加え,希土類元素ハロゲン化物を全体の23質量%以下の割合で含むことや,当該溶射材料から,モル比(X/RE)が1.33である希土類元素オキシハロゲン化物と,モル比(X/RE)が1である希土類元素オキシハロゲン化物を含む溶射被膜を作製することができること,及び,作製した溶射皮膜はパーティクル発生数が低減し,耐プラズマエロージョン性に優れることが開示されているといえる。 よって,請求項1,4?10に係る発明は,発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを認識できるように記載された範囲を超えて特許請求しようとするものではない。 イ 申立人の主張について (ア)申立人は令和 3年8月23日付け意見書において,本件特許明細書全体の記載から,希土類元素に対するハロゲン元素のモル比(X/RE)が1.3以上1.39以下である希土類元素オキシハロゲン化物を含む溶射材料で,課題を解決し得る溶射用材料として確認できるのは,希土類元素に対するハロゲン元素のモル比(X/RE)が1.3以上1.39以下である希土類元素オキシハロゲン化物「のみ」からなる溶射用材料であり,この溶射用材料は,希土類元素ハロゲン化物を含んでいないものである旨主張する(上記意見書5?6頁)。 (イ)しかしながら,請求項1,4?6に記載の溶射用材料,及び,請求項7?10に記載の溶射皮膜について,上記アのとおり,当業者は,No.7だけでなく,発明の詳細な説明のその他の記載を参照することにより,希土類ハロゲン化物を含むものについても課題が解決できることを認識できるところ,申立人は,当該判断を覆すに足りる十分な根拠を示していない。よって,申立人の主張は採用できない。 (3)申立理由4(サポート要件)についてのまとめ 以上のとおり,本件特許の請求項1,4ないし10に係る発明は,発明の詳細に記載されたものであるといえるから,その発明についての特許は,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものではない。 5 申立理由5(明確性)(取消理由Cとして採用)について (1)申立理由5(取消理由C)の概要 本件訂正前の請求項8には「前記希土類元素酸化物を実質的に含まない、請求項7に記載の溶射被膜。」が記載されているのに対し,請求項8が引用する請求項7には「構成元素として希土類元素(RE)、酸素(O)およびハロゲン元素(X)を含む希土類元素オキシハロゲン化物(RE-O-X)を含み、当該希土類元素オキシハロゲン化物は、前記希土類元素に対する前記ハロゲン元素のモル比(X/RE)が1.1以上の希土類元素オキシハロゲン化物と、前記希土類元素に対する前記ハロゲン元素のモル比(X/RE)が1の希土類オキシハロゲン化物とを含む、溶射被膜。」が記載されているところ,「希土類元素酸化物」は記載されていないため,本件訂正前の請求項8における「前記希土類元素酸化物」の意味が明確でないものとなっていた。 (2)検討 本件訂正により請求項8における「前記」が削除され,「前記希土類元素酸化物」の意味が明確でない点は解消したことにより,申立理由5(取消理由C)は解消した。請求項8を引用する請求項9,10についても同様である。 (3)申立理由5(明確性)(取消理由Cとして採用)についてのまとめ 以上のとおり,本件特許の請求項8ないし10に係る発明について,特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が明確であるから,その発明についての特許は,特許法第36条第6項第2号の規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものではない。 第6 むすび 以上のとおり,申立人による申立理由,及び,当審による取消理由によっては,本件特許の請求項1,4ないし10に係る特許を取り消すことはできない。また,外に請求項1,4ないし10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 また,本件特許の請求項2ないし3については,本件訂正請求により削除されたから,特許異議の申立ての対象となる請求項が存在しない。 よって,結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 構成元素として希土類元素(RE)、酸素(O)およびハロゲン元素(X)を含む希土類元素オキシハロゲン化物(RE-O-X)を含む溶射用材料であって、 前記希土類元素オキシハロゲン化物における、前記希土類元素に対する前記ハロゲン元素のモル比(X/RE)は1.3以上1.39以下であり、 さらに希土類元素ハロゲン化物を含み、 前記希土類元素ハロゲン化物が全体の23質量%以下の割合で含まれる、溶射用材料。 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 (削除) 【請求項4】 希土類元素酸化物を実質的に含まない、請求項1に記載の溶射用材料。 【請求項5】 前記希土類元素がイットリウムであり、前記ハロゲン元素がフッ素であり、前記希土類元素オキシハロゲン化物がイットリウムオキシフッ化物である、請求項1または4に記載の溶射用材料。 【請求項6】 請求項1、4または5に記載の溶射用材料を基材の表面に溶射して、溶射皮膜を形成する方法。 【請求項7】 構成元素として希土類元素(RE)、酸素(O)およびハロゲン元素(X)を含む希土類元素オキシハロゲン化物(RE-O-X)を含み、 当該希土類元素オキシハロゲン化物は、前記希土類元素に対する前記ハロゲン元素のモル比(X/RE)が1.1以上の希土類元素オキシハロゲン化物と、前記希土類元素に対する前記ハロゲン元素のモル比(X/RE)が1の希土類元素オキシハロゲン化物とを含む、溶射皮膜。 【請求項8】 希土類元素酸化物を実質的に含まない、請求項7に記載の溶射皮膜。 【請求項9】 前記希土類元素がイットリウムであり、前記ハロゲン元素がフッ素であり、前記希土類元素オキシハロゲン化物がイットリウムオキシフッ化物である、請求項7または8に記載の溶射皮膜。 【請求項10】 基材の表面に、請求項7?9のいずれか1項に記載の溶射皮膜が備えられている、溶射皮膜付部材。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2021-09-21 |
出願番号 | 特願2016-43941(P2016-43941) |
審決分類 |
P
1
651・
536-
YAA
(C23C)
P 1 651・ 161- YAA (C23C) P 1 651・ 537- YAA (C23C) P 1 651・ 121- YAA (C23C) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 萩原 周治 |
特許庁審判長 |
粟野 正明 |
特許庁審判官 |
平塚 政宏 磯部 香 |
登録日 | 2020-06-23 |
登録番号 | 特許第6722006号(P6722006) |
権利者 | 東京エレクトロン株式会社 株式会社フジミインコーポレーテッド |
発明の名称 | 溶射用材料、溶射皮膜および溶射皮膜付部材 |
代理人 | 大井 道子 |
代理人 | 安部 誠 |
代理人 | 安部 誠 |
代理人 | 谷 征史 |
代理人 | 安部 誠 |
代理人 | 大井 道子 |
代理人 | 大井 道子 |
代理人 | 谷 征史 |
代理人 | 谷 征史 |