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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  H01R
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01R
管理番号 1379820
異議申立番号 異議2020-700961  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-12-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-12-07 
確定日 2021-10-11 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6709990号発明「保持金具、コネクタ接続体およびコネクタ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6709990号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?8〕について訂正することを認める。 特許第6709990号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6709990号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成28年4月28日に出願され、令和2年5月28日にその特許権の設定登録がされ、令和2年6月17日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、特許異議申立人大隅庸平(以下「特許異議申立人」という。)により、請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てがされた。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和2年12月 7日 特許異議の申立て
令和3年 3月24日付け 取消理由通知
令和3年 5月27日 意見書及び訂正請求書の提出
令和3年 6月 4日付け 訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)
なお、令和3年6月4日付けの通知に対し、特許異議申立人からは何ら応答がなかった。

第2 訂正の適否
1.訂正の内容
令和3年5月27日の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである(下線部は訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の
「コネクタ接続体のハウジングにインサート成形される保持金具であって、一方向に延在する第1のU字状部と、前記一方向と交差する方向に延在し、前記第1のU字状部の前記一方向一方側に配置される第2のU字状部と、前記一方向と交差する方向に延在し、前記第1のU字状部の前記一方向他方側に配置される第3のU字状部と、前記第1のU字状部と前記第2のU字状部とを連結する第1の連結部と、前記第1のU字状部と前記第3のU字状部とを連結する第2の連結部と、を備え、」
との記載を、
「コネクタ接続体のハウジングにインサート成形される保持金具であって、一方向に延在する第1のU字状部と、前記一方向と交差する方向に延在し、前記第1のU字状部の前記一方向一方側に配置される第2のU字状部と、前記一方向と交差する方向に延在し、前記第1のU字状部の前記一方向他方側に配置される第3のU字状部と、前記第1のU字状部と前記第2のU字状部とを連結する第1の連結部と、前記第1のU字状部と前記第3のU字状部とを連結する第2の連結部と、回路基板に固定される固定部と、を備え、」
に訂正する。請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2?8も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1の
「前記第1のU字状部、前記第2のU字状部および前記第3のU字状部が、コネクタ接続体のハウジングの周壁部にインサート成形され、」
との記載を、
「前記第1のU字状部、前記第2のU字状部および前記第3のU字状部が、コネクタ接続体のハウジングの周壁部にインサート成形され、前記固定部は、前記第1のU字状部に連設された第1の固定部を有し、」
に訂正する。請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2?8も同様に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1の
「前記コネクタ接続体を相手側のコネクタ接続体と対向する側が上方を向くように配置した状態で、前記第2のU字状部および前記第3のU字状部は上に凸となるように湾曲しており、前記第1の連結部と前記第2の連結部の少なくとも一部が、前記ハウジングの底面に露出している」
との記載を、
「前記コネクタ接続体を相手側のコネクタ接続体と対向する側が上下方向の上方を向くように配置した状態で、前記第2のU字状部および前記第3のU字状部は上に凸となるように湾曲しており、前記第1の連結部と前記第2の連結部の少なくとも一部が、前記ハウジングの底面に露出し、前記第1のU字状部は、前記一方向と前記上下方向とに交差する交差方向における前記第1のU字状部の一方側と他方側との間で、上に凸となるように湾曲しており、前記第1の連結部および前記第2の連結部は、前記第1のU字状部の前記交差方向一方側における下端と連結し、前記第1の固定部は、前記第1のU字状部の前記交差方向他方側における下端に連設されている」
に訂正する。請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2?8も同様に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4の
「回路基板に固定される固定部をさらに備え、前記固定部は、前記第1のU字状部の近傍に形成された第1の固定部と、前記第2のU字状部の近傍に形成された第2の固定部と、前記第3のU字状部の近傍に形成された第3の固定部と、を有している」
との記載を、
「前記固定部は、さらに、前記第2のU字状部の近傍に形成された第2の固定部と、前記第3のU字状部の近傍に形成された第3の固定部と、を有している」
に訂正する。請求項4の記載を直接又は間接的に引用する請求項5?8も同様に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5の
「前記第1の固定部が前記第1のU字状部に連設され、前記第2の固定部が前記第2のU字状部に連設され、前記第3の固定部が前記第3のU字状部に連設されており、」
との記載を、
「前記第2の固定部が前記第2のU字状部に連設され、前記第3の固定部が前記第3のU字状部に連設されており、」
に訂正する。請求項5の記載を直接又は間接的に引用する請求項6?8も同様に訂正する。
2.一群の請求項
訂正前の請求項1?8について、請求項2?8は請求項1を引用しているものであって、請求項1の訂正に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1?8に対応する訂正後の請求項1?8は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
3.訂正の要件
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明の「保持金具」が「回路基板に固定される固定部」を備えることが付加され限定を付したものであり、特許請求の範囲を減縮するものといえる。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 特許請求の範囲の拡張・変更
訂正事項1は、上記アのとおり、訂正前の請求項1に係る発明を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
ウ 新規事項の有無
訂正前の請求項4には「回路基板に固定される固定部をさらに備え、」と記載されている。
また、願書に添付した明細書には、
「【0021】
一方、ソケット側保持金具34は、ソケットハウジング31の強度を高めるとともに、ソケット側保持金具34が有する固定部を第1の回路基板60に取付固定するために用いられるものである。」
「【0201】
本実施形態では、ソケット側保持金具34は、幅方向(短手方向:一方向)Yに延在する第1の反転U字状部(第1のU字状部)35を備えている。」
「【0210】
さらに、第1の反転U字状部35は、第1の回路基板60の回路パターン61に半田70によって固定される第1の固定部35eを備えている。」
「【0219】
さらに、第2の反転U字状部36は、第1の回路基板60の回路パターン61に半田70によって固定される第2の固定部36eを備えている。」
「【0226】
さらに、第3の反転U字状部37は、第1の回路基板60の回路パターン61に半田70によって固定される第3の固定部37eを備えている。」
と記載され、【図21】、【図22】にはソケット側保持金具34が第1の固定部35e、第2の固定部36e、第3の固定部37eを備えていることが記載されている。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でする訂正であり、よって、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができること
訂正事項1により、請求項1の記載、及び、請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2?8が訂正された。
請求項1は、異議申立の対象であるので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
また、訂正後の請求項1に記載された発明は、後記第5で述べるとおり、取り消すべき理由がないので、請求項2?8に記載された発明も同様の理由では取り消すべき理由はないし、他に取り消すべき理由を発見しないので、独立して特許を受けることができないものではない。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の規定に適合する。
訂正事項2及び3についても同様である。
(2)訂正事項2
ア 訂正の目的
訂正事項2は、訂正事項1により請求項1に係る発明に付加された「固定部」について、「前記固定部は、前記第1のU字状部に連設された第1の固定部を有し」との事項を特定するものであり、特許請求の範囲を減縮するものといえる。
よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 特許請求の範囲の拡張・変更
訂正事項2は、上記アのとおり、訂正前の請求項1に係る発明を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
ウ 新規事項の有無
訂正前の請求項4には「前記固定部は、前記第1のU字状部の近傍に形成された第1の固定部と、」と記載され、訂正前の請求項5には「前記第1の固定部が前記第1のU字状部に連設され、」と記載されている。
また、願書に添付した明細書の段落【0210】及び【図21】、【図22】には、上記(1)ウのとおりの記載がある。
したがって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でする訂正であり、よって、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
(3)訂正事項3
ア 訂正の目的
訂正事項3は、
(ア)訂正前の請求項1に係る発明の「前記コネクタ接続体を相手側のコネクタ接続体と対向する側が上方を向くように配置した状態」を「前記コネクタ接続体を相手側のコネクタ接続体と対向する側が上下方向の上方を向くように配置した状態」とするもので、コネクタ接続体の配置方向を具体的に特定するものであり、
(イ)訂正前の請求項1に係る発明の「第1のU字状部」について、「前記第1のU字状部は、前記一方向と前記上下方向とに交差する交差方向における前記第1のU字状部の一方側と他方側との間で、上に凸となるように湾曲しており、」と特定し、
(ウ)訂正前の請求項1に係る発明の「第1の連結部」及び「第2の連結部」について、「前記第1の連結部および前記第2の連結部は、前記第1のU字状部の前記交差方向一方側における下端と連結し、」と特定し、
(エ)訂正事項1及び2により請求項1に係る発明に付加され特定された「第1の固定部」について、「前記第1の固定部は、前記第1のU字状部の前記交差方向他方側における下端に連設されている」との事項を特定するものである。
以上の事項は、特許請求の範囲を減縮するものといえる。
よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 特許請求の範囲の拡張・変更
訂正事項3は、上記アのとおり、訂正前の請求項1に係る発明を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
ウ 新規事項の有無
(ア)願書に添付した明細書には、
「【0015】
以下では、コネクタ(ヘッダ側ハウジングおよびソケット側ハウジング)の長手方向をX方向、コネクタ(ヘッダ側ハウジングおよびソケット側ハウジング)の幅方向(短手方向)をY方向、図23から図26におけるコネクタの上下方向をZ方向として説明する。また、ソケットおよびヘッダは、図23から図26に示す状態における上側を上下方向上側(表面側)、下側を上下方向下側(裏面側)として説明する。」
と記載され、【図11】にはソケット側保持金具34を備えたソケット(コネクタ接続体)30が、Z方向を上下方向としたとき、上方に向いて配置されていることが記載されている。
(イ)願書に添付した明細書には、
「【0206】
第1の反転U字状部35は、ソケットハウジング31の内面(短手方向壁部31iの内面31v)に沿うように配置される立上り部35aを備えている。この立上り部35aは、ソケットハウジング31の板状壁部31aと短手方向壁部31iとの接合部から立上がり、第1の回路基板60から離れるように延びている。
【0207】
また、第1の反転U字状部35は、立上り部35aの上端に連続する傾斜部35bを備えている。この傾斜部35bは、ソケットハウジング31のテーパ部31eと同様に、内側に向かうにつれて下方(板状壁部31a側)に位置するように傾斜している。
示されている。
【0208】
また、第1の反転U字状部35は、傾斜部35bの上端に連続する円弧状部35cを備えている。円弧状部35cは、傾斜部35bから離れるように突出する湾曲部である。
【0209】
また、第1の反転U字状部35は、円弧状部35cに連続し、立上り部35aにほぼ平行に延びる立下り部35dを備えている。立下り部35dは、短手方向壁部31iの外面31tに沿って延びている。」
と記載され、【図11】、【図21】、【図22】には、第1の反転U字状部(第1のU字状部)35が上に凸となるように湾曲していることが記載されている。
(ウ)願書に添付した明細書には、
「【0233】
連結部38は、立上り部36aの下端の長手方向Xの外側と立上り部35aの下端の幅方向Yの外側とを連結している。」
「【0236】
連結部39は、立上り部37aの下端の長手方向Xの外側と立上り部35aの下端の幅方向Yの外側とを連結している。」
と記載され、【図21】には、連結部38、39が、湾曲した第1の反転U字状部(第1のU字状部)35における2つの下端のうち、長手方向Xの一方の側の下端に連結していることが記載されている。ここで、長手方向Xは第1の反転U字状部(第1のU字状部)35が延在する「一方向」である幅方向Yと交差する方向である。
(エ)願書に添付した明細書には、
「【0230】
そして、第1の固定部35eが第1の反転U字状部35に連設され、第2の固定部36eが第2の反転U字状部36に連設され、第3の固定部37eが第3の反転U字状部37に連設されている。
【0231】
さらに、本実施形態では、第2の反転U字状部36における第2の固定部36eが形成されていない側が第1の反転U字状部35における第1の固定部35eが連設されていない側に連設されている。」
と記載され、【図21】には、第1の反転U字状部(第1のU字状部)35の下端のうち、第2の反転U字状部36との連結部38が設けられていない長手方向Xの他方の側に第1の固定部35eが連接されていることが記載されている。
以上のとおりであるので、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でする訂正であり、よって、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
(4)訂正事項4
ア 訂正の目的
訂正事項4は、訂正事項1により訂正前の請求項4に係る発明の事項を請求項1に係る発明に追加したことに伴い、請求項4の記載と訂正後の請求項1の記載との整合を図るためにする訂正であり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
イ 特許請求の範囲の拡張・変更
訂正事項4は、何ら実質的な内容の変更を伴うものではないから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
ウ 新規事項の有無
訂正事項4は、上記イのとおり、何ら実質的な内容の変更を伴うものではないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でする訂正であり、よって、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
(5)訂正事項5
ア 訂正の目的
訂正事項5は、訂正事項2により訂正前の請求項5に係る発明の事項を請求項1に係る発明に追加したことに伴い、請求項5の記載と訂正後の請求項1の記載との整合を図るためにする訂正であり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
イ 特許請求の範囲の拡張・変更
訂正事項5は、何ら実質的な内容の変更を伴うものではないから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
ウ 新規事項の有無
訂正事項5は、上記イのとおり、何ら実質的な内容の変更を伴うものではないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でする訂正であり、よって、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
4.小括
以上のとおり、訂正事項1?5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に規定する事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項?第7項の規定に適合するものである。
よって、本件訂正により、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正による訂正は認められるから、本件特許の請求項1?8に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は次のとおりである。
「【請求項1】
コネクタ接続体のハウジングにインサート成形される保持金具であって、
一方向に延在する第1のU字状部と、
前記一方向と交差する方向に延在し、前記第1のU字状部の前記一方向一方側に配置される第2のU字状部と、
前記一方向と交差する方向に延在し、前記第1のU字状部の前記一方向他方側に配置される第3のU字状部と、
前記第1のU字状部と前記第2のU字状部とを連結する第1の連結部と、
前記第1のU字状部と前記第3のU字状部とを連結する第2の連結部と、
回路基板に固定される固定部と、
を備え、
前記第1のU字状部、前記第2のU字状部および前記第3のU字状部が、コネクタ接続体のハウジングの周壁部にインサート成形され、
前記固定部は、前記第1のU字状部に連設された第1の固定部を有し、
前記コネクタ接続体を相手側のコネクタ接続体と対向する側が上下方向の上方を向くように配置した状態で、前記第2のU字状部および前記第3のU字状部は上に凸となるように湾曲しており、前記第1の連結部と前記第2の連結部の少なくとも一部が、前記ハウジングの底面に露出し、
前記第1のU字状部は、前記一方向と前記上下方向とに交差する交差方向における前記第1のU字状部の一方側と他方側との間で、上に凸となるように湾曲しており、
前記第1の連結部および前記第2の連結部は、前記第1のU字状部の前記交差方向一方側における下端と連結し、
前記第1の固定部は、前記第1のU字状部の前記交差方向他方側における下端に連設されていることを特徴とする保持金具。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由
当審が令和3年3月24日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

引用文献1:特開2013-65541号公報
引用文献2:特開2015-99694号公報
引用文献3:特開2006-331679号公報
引用文献1?3は、それぞれ、令和2年12月7日付けの特許異議申立人による特許異議申立書の甲第1、3、2号証である。

第5 当審の判断
1.引用文献
(1)引用文献1に記載の事項、引用発明
引用文献1には図面とともに次の事項が記載されている。
(下線は当審で付したものである。以下同様。)

「【0001】
本発明は、ソケットならびに当該ソケットを用いたコネクタに関する。」

「【0005】
ところで、昨今のコネクタ技術にあっては、搭載される機器の小型化に伴い、コネクタ自体の小型化、薄型化が要望されている。しかしながら、コネクタを小型化、薄型化させようとすると、ソケットとヘッダの嵌合時の感触が悪化したり、ソケットとヘッダの嵌合が安易に解除されてしまったりする恐れがあった。これはコネクタの小型化、薄型化に伴い、ソケット側端子とヘッダ側端子の数が少なくなったり、これら端子同士の接圧が低くなったりすることで、ソケットとヘッダの嵌合力が弱まってしまうためである。
【0006】
そこで、本発明は、小型のコネクタにあっても嵌合時の感触が良好であり、且つソケットとヘッダの嵌合をより外れ難くすることのできるソケットならびに当該ソケットを用いたコネクタを得ることを目的とする。」

「【0018】
図1?図7は、本発明にかかるコネクタ1の一実施形態を示した図であり、本実施形態のコネクタ1は、図3に示すように、相互に嵌合されるソケット10とヘッダ20とを備えている。なお、本実施形態を説明するにあたって、図中X方向をコネクタ1の幅方向、Y方向を長手方向、Z方向を上下方向として説明するものとする。」

「【0039】
図4に示すように、ソケット側保持金具30は所定厚さの金属板をプレス成形することにより形成され、コネクタ1の幅方向Xに延在する側板部31と、側板部31の両端部下側を長手方向Y中央側に向かって略直角に折曲した底板部33とを備えている。そして、底板部33の両端部をコネクタ1の幅方向X両側から外側に突出させることで、取付片部33aが形成されている。
【0040】
また、側板部31は、その側板部31の幅方向X両端部をコネクタ1の長手方向Y中央側に向かって略直角に折曲した延設部32を備えている。そして、この延設部32の延在方向の終着部に、ソケットハウジング11の周壁部13を跨るように略逆U字状に折曲される爪部35が設けられており、この爪部35の先端部35a側に係止穴部37が形成されている。
【0041】
このようなソケット側保持金具30は、ソケットハウジング11の長手方向Y両端部に形成された係合溝部17に装着されて使用される。具体的には、本実施形態では、ソケットハウジング11にソケット側保持金具30が、例えばインサート成形などによって一体成形されるようになっている。なお、係合溝部17は、周壁部13の外壁面13aとソケット側保持金具30の外壁面30aとが略面一の状態となるような掘り深さとなっている。換言すると、周壁部13の外壁面13aにソケット側保持金具30の外壁面30aが略面一の状態で露出するように、ソケットハウジング11にソケット側保持金具30が一体成形されている。また、このとき、ソケットハウジング11の爪部35と対応する位置には、嵌合溝部15に凹部15aが二段状に凹設されていて、その凹部15aに爪部35の先端部35aが嵌め込まれた状態で一体成形されるようになっている。」

「【0055】
さらにまた、本実施形態では、ソケット側保持金具30は、ソケットハウジング11の周壁部13を跨るように略逆U字状に折曲される爪部35を備えており、この爪部35に係止穴部(係止部)37が形成されている。そのため、ソケット側保持金具30をソケットハウジング11に取り付ける際に、略逆U字状の爪部35をソケットハウジング11の周壁部13に上側から嵌着させることで、剛性を高めてこれらを強固に取り付けることができるようになる。また、爪部35を備えることで、係止片部42と対向するように係止穴部(係止部)37を容易に形成することができる。」

「【0064】
図8(a)、(b)は、第1変形例にかかるソケット側保持金具30Aを示した図である。本変形例が上記実施形態と主に異なる点は、係止穴部(係止部)37が形成された爪部35を、ソケット側保持金具30Aの底板部33側から立ち上げたことにある。
【0065】
具体的には、本変形例の底板部33は、図示せぬ第1の回路基板に半田付けされる取付片部33aに加えて、底板部33をコネクタ1の長手方向Y中央側に向かって延設した延長部33bを備えている。そして、この延長部33bの延在方向の終着部に、ソケットハウジング11の周壁部13を跨るように略逆U字状に立ち上がる爪部35を形成し、この爪部35の基端部35b側に係止穴部(係止部)37を設けている。
【0066】
以上の構成の本変形例にあっても、上記実施形態と同様の作用効果を得ることができる。すなわち、ソケット10とヘッダ20とを嵌合させる際には、係止片部42の復元力を利用して係止片部42を係止穴部(係止部)37に嵌着させることができるので、嵌合時の感触を良好にできる。また、ソケット10とヘッダ20とが抜去方向へ移動しようとした際には、係止片部42と係止穴部(係止部)37とが係止されるので、これらソケット10とヘッダ20の嵌合をより外れ難くすることができる。」

引用文献1の段落【0039】に記載された「コネクタ1の幅方向X」及び「長手方向」は、コネクタ1がソケット10とヘッダ20とから構成されているので(段落【0018】、【図3】参照。)、「ソケット10の幅方向X」及び「長手方向Y」に等しいといえる。
引用文献1の段落【0041】の「ソケットハウジング11にソケット側保持金具30が、例えばインサート成形などによって一体成形されるようになっている。」との記載及び段落【0065】の「ソケットハウジング11の周壁部13を跨るように略逆U字状に立ち上がる爪部35を形成し」との記載からみて、【図8】に示される「第1変形例」の爪部35、35は、ソケットハウジング11の周壁部13にインサート成形されていると認められる。
引用文献1の【図1】及び【図4】は、ソケット10をヘッダ20と対向する側が上下方向の上方を向くように配置した状態を示しているといえ、当該状態で略逆U字状の爪部35、35は上に凸となるように湾曲していることを看取しうる。
引用文献1の【図8】から、底板部33及び延長部33bはソケットハウジング11の底面に露出していることを看取しうる。

以上を踏まえると、引用文献1には、【図8】に示される「第1変形例」に関して、上記記載事項及び【図1】?【図4】、【図8】の記載からみて、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
〔引用発明〕
「ソケット10のソケットハウジング11にインサート成形によって一体成形されるソケット保持金具30Aであって、
ソケット10の幅方向Xに延在する側板部31と、
前記側板部31の両端部下側をソケット10の長手方向Y中央側に向かって略直角に折曲した底板部33と、
前記底板部33を延設した延長部33bの延在方向の終着部に、ソケットハウジング11の周壁部13を跨るように略逆U字状に立ち上がる爪部35、35と、
前記底板部33の両端部を幅方向X両側から外側に突出させることで形成された、回路基板に半田付けされる取付片部33aと、
を備え、
前記側板部31、前記爪部35、35が、ソケット10のソケットハウジング11の周壁部13にインサート成形され、
前記ソケット10をヘッダ20と対向する側が上下方向の上方を向くように配置した状態で、前記略逆U字状の爪部35、35は上に凸となるように湾曲しており、前記底板部33及び前記延長部33bは、ソケットハウジング11の底面に露出しているソケット保持金具30A。」

(2)引用文献2に記載の事項
引用文献2には図面(【図6】)とともに次の事項が記載されている。

「【0001】
本発明はプラグコネクタと着脱可能なリセプタクルコネクタ及びその製造方法に関する。」

「【0024】
左右一対のリセ側固定金具37は前後対称な形状である。各リセ側固定金具37は金属板をプレス成形したものであり、その表面には金や錫などによってメッキが施してある。リセ側固定金具37は、前後方向に延びる短手側固定部38と、短手側固定部38の両端部から左右方向に延びる長手側固定部39と、短手側固定部38及び長手側固定部39の外周縁部からそれぞれ略下向きに延びる短手側テール片40及び長手側テール片41と、短手側固定部38及び長手側固定部39の内周縁部からそれぞれ略下向きに延びる固定突片42及び弾性接触片43と、を具備している。弾性接触片43の断面形状は矩形であり(図13参照)、弾性接触片43の内面には係止凹部44が凹設してある。また固定突片42の短手側固定部38側の端部はR面42aにより構成してあり、一対の弾性接触片43の長手側固定部39側の端部はR面43aにより構成してある。
【0025】
リセプタクルインシュレータ50は、共に金属製の上型UM(成形型)と下型DM(成形型)(図12参照)を利用したインサート成形により一対のリセ側固定金具37と一体化したものである。・・・(後略)・・・」

「【0028】
以上構造のリセプタクルコネクタ35は、回路基板34と平行(略平行も含む)な板材である回路基板70(リジッド基板。リセ側回路基板)の実装面に形成された回路パターン(図示略)に対して各リセプタクルコンタクト60のテール片61をはんだ付けし、さらに当該実装面に形成された接地パターンに対して各リセ側固定金具37の短手側テール片40及び長手側テール片41の下端部をはんだ付けすることにより、回路基板70に対して固定(実装)する(図1参照)(所謂ストレート(ST)接続)。回路基板70の実装面にはリセプタクルコネクタ35とは別の電子部品(例えば、CPU、コントローラー、メモリ等)が実装してある。」

(3)引用文献3に記載の事項
引用文献3には図面(【図13】?【図15】)とともに次の事項が記載されている。

「【0001】
本発明は、プラグコネクタと、プラグコネクタに嵌合するレセプタクルコネクタに関する。」

「【0066】
図13は、プラグコネクタとレセプタクルコネクタとの実施例2を示している。図14は、プラグコネクタとレセプタクルコネクタとの嵌合状態を示している。
・・・(中略)・・・
【0068】
図13及び図14を参照して、レセプタクルコネクタ201は、図2に示したレセプタクルコネクタと同様な導電性のレセプタクルコンタクト111と、レセプタクルコンタクト111を保持している絶縁性のレセプタクルハウジング121とを有している。」
・・・(中略)・・・
「【0070】
第1レセプタクル外壁部131,132のレセプタクル嵌合面131a,132a及び第1レセプタクル内壁面131b,132bには、レセプタクル嵌合面131a,132a及び第1レセプタクル内壁面131b,132bを覆う金属製のレセプタクル部材241,242が配設されている。レセプタクル部材241,242は、これらが同じ形状となっている。
【0071】
レセプタクル部材241,242は、レセプタクルハウジング121に保持されており、レセプタクル部材241,242の表面がレセプタクル嵌合面131a,132a及び第1レセプタクル内壁面131b,132bの表面と略同一面になるようにレセプタクルハウジング121にモールドインによって一体に保持されている。
【0072】
図15にも示すように、一方のレセプタクル部材241は、第1レセプタクル壁部131の第1レセプタクル内壁面131bに対応する平板形状の第1レセプタクル板部241aと、第1レセプタクル板部241aの一辺からレセプタクル嵌合面131a及び第1レセプタクル外壁面131cに対応するように略逆U字状に曲げられている第2レセプタクル板部241bとを有する。
【0073】
また、一方のレセプタクル部材241は、ピッチ方向Aを直交する方向における一対の辺のそれぞれから第2レセプタクル板部241bとは逆方向で略直角に曲げられている一対の第3レセプタクル板部241cと、第1レセプタクル板部241aの下辺から第2レセプタクル板部241bとは逆方向で略直角に曲げられているレセプタクル連結板部241fと、レセプタクル連結板部241fからピッチ方向Aを直交する方向へ延びている一対のレセプタクル半田付け部241dとを有している。
【0074】
第2レセプタクル板部241bの先端部分241jは、第1レセプタクル外壁面131cと同一面になるようにして配設される。一対の第3レセプタクル板部241cは、レセプタクルハウジング121をモールドイン成型する際に第2レセプタクル壁部134,135(図2を参照)に埋め込まれることによってレセプタクル部材41が保持される。レセプタクル半田付け部241dは、レセプタクルコンタクト111のレセプタクル端子部111cと同じ方向へ延びており、図示しない基板に半田によって接続される。
【0075】
さらに、図15にも示すように、他方のレセプタクル部材242は、第1レセプタクル壁部132の第1レセプタクル内壁面132bに対応する平板形状の第1レセプタクル板部242aと、第1レセプタクル板部242aの一辺からレセプタクル嵌合面132a及び第1レセプタクル外壁面132cに対応するように略逆U字状に曲げられている第2レセプタクル板部242bとを有する。
【0076】
また、他方のレセプタクル部材242は、ピッチ方向Aを直交する方向における一対の辺のそれぞれから第2レセプタクル板部242bとは逆方向で略直角に曲げられている一対の第3レセプタクル板部242cと、第1レセプタクル板部242aの下辺から第2レセプタクル板部242bとは逆方向で略直角に曲げられているレセプタクル連結板部242fと、レセプタクル連結板部242fからピッチ方向Aを直交する方向へ延びている一対のレセプタクル半田付け部242dとを有している。
【0077】
第2レセプタクル板部242bの先端部分242jは、第1レセプタクル外壁面132cと同一面になるようにして配設される。一対の第3レセプタクル板部241cは、レセプタクルハウジング121をモールドイン成型する際に第2レセプタクル壁部134,135(図2を参照)に埋め込まれることによってレセプタクル部材241が保持される。レセプタクル半田付け部242dは、レセプタクルコンタクト111のレセプタクル端子部111cと同じ方向へ延びており、図示しない基板に半田によって接続される。」

2.対比・判断
(1)対比
本件発明と引用発明とを対比する。
後者の「ソケット10」及び「ソケットハウジング11」は、前者の「コネクタ接続体」及び「ハウジング」に相当する。
後者の「ソケットハウジング11にインサート成形によって一体成形される」ことは、前者の「ハウジングにインサート成形される」ことに相当する。
後者の「ソケット保持金具30A」は、前者の「保持金具」に相当する。
後者の「ソケット10の幅方向X」は、前者の「一方向」に相当し、後者の「ソケット10の長手方向Y」は、前者の「一方向と交差する方向」に相当する。
後者のソケット10の幅方向Xに延在する「側板部31」は、前者の一方向に延在する「第1のU字状部」と、「板状部」である限りにおいて一致する。
後者の「爪部35、35」は、ソケット10の長手方向Y中央側に向かって略直角に折曲した底板部33を延設した延長部33bの延在方向の終着部に設けられるものであるので、長手方向Yに延在しているものといえ、前者の「一方向と交差する方向に延在し」た「第2のU字状部」及び「第3のU字状部」にそれぞれ相当する。
後者の「側板部31の両端部」は、前者の「第1のU字状部の一方向一方側」及び「第1のU字状部の一方向他方側」と、「板状部の一方向一方側」及び「板状部の一方向他方側」である限りにおいて一致し、後者の「側板部31の両端部下側をソケット10の長手方向Y中央側に向かって略直角に折曲した」構成は、前者の「第1のU字状部の一方向一方側に配置される」構成及び「第1のU字状部の一方向他方側に配置される」構成と、「板状部の一方向一方側に配置される」構成及び「板状部の一方向他方側に配置される」構成である限りにおいて一致する。
後者の「底板部33」及び底板部33を延設した「延長部33b」は、側板部31と爪部35、35とを連結するものといえるので、前者の「第1のU字状部と第2のU字状部とを連結する第1の連結部」及び「第1のU字状部と第3のU字状部とを連結する第2の連結部」と、「板状部と第2のU字状部とを連結する第1の連結部」及び「板状部と第3のU字状部とを連結する第2の連結部」である限りにおいて一致する。
後者の「回路基板に半田付けされる取付片部33a」は、前者の「回路基板に固定される固定部」に相当する。
後者の「ヘッダ20」は、前者の「相手側のコネクタ接続体」に相当する。
後者の「側板部31、爪部35、35が、ソケット10のソケットハウジング11の周壁部13にインサート成形され」ることは、前者の「第1のU字状部、第2のU字状部および第3のU字状部が、コネクタ接続体のハウジングの周壁部にインサート成形され」ることと、「板状部、第2のU字状部および第3のU字状部が、コネクタ接続体のハウジングの周壁部にインサート成形され」る限りにおいて一致する。
後者の「ソケット10をヘッダ20と対向する側が上下方向の上方を向くように配置した状態」は、前者の「コネクタ接続体を相手側のコネクタ接続体と対向する側が上方を向くように配置した状態」に相当し、後者の「略逆U字状の爪部35、35は上に凸となるように湾曲して」いることは、前者の「第2のU字状部および第3のU字状部は上に凸となるように湾曲して」いることに相当する。
後者の「底板部33及び延長部33bは、ソケットハウジング11の底面に露出している」ことは、前者の「第1の連結部と第2の連結部の少なくとも一部が、ハウジングの底面に露出している」ことに相当する。
そうすると、両者の一致点、相違点は次のとおりである。
〔一致点〕
「コネクタ接続体のハウジングにインサート成形される保持金具であって、
一方向に延在する板状部と、
前記一方向と交差する方向に延在し、前記板状部の前記一方向一方側に配置される第2のU字状部と、
前記一方向と交差する方向に延在し、前記板状部の前記一方向他方側に配置される第3のU字状部と、
前記板状部と前記第2のU字状部とを連結する第1の連結部と、
前記板状部と前記第3のU字状部とを連結する第2の連結部と、
回路基板に固定される固定部と、
を備え、
前記板状部、前記第2のU字状部および前記第3のU字状部が、コネクタ接続体のハウジングの周壁部にインサート成形され、
前記コネクタ接続体を相手側のコネクタ接続体と対向する側が上下方向の上方を向くように配置した状態で、前記第2のU字状部および前記第3のU字状部は上に凸となるように湾曲しており、前記第1の連結部と前記第2の連結部の少なくとも一部が、前記ハウジングの底面に露出している保持金具。」
〔相違点1〕
「板状部」に関して、本件発明は「第1のU字状部」であり、「第1のU字状部は、一方向と上下方向とに交差する交差方向における第1のU字状部の一方側と他方側との間で、上に凸となるように湾曲して」いるのに対して、引用発明は「側板部31」であり、U字状の部分を備えるものではない点。
〔相違点2〕
「回路基板に固定される固定部」に関して、本件発明は、「固定部は、第1のU字状部に連設された第1の固定部を有し」、「第1の固定部は、第1のU字状部の交差方向他方側における下端に連設されている」ものであるのに対して、引用発明は、底板部33から突出して形成された取付片部33aである点。
〔相違点3〕
本件発明は、「第1の連結部および第2の連結部は、第1のU字状部の交差方向一方側における下端と連結し」ているのに対して、引用発明は、底板部33及び延長部33bが側板部31の両端部下側を折曲し延設したものである点。

(2)判断
相違点2及び3は、相違点1に係る構成を前提としたものであるので、相違点1?3を一体として、本件発明の「保持金具」の構造としうるか否かを検討する。

引用文献2には、リセプタクルコネクタ35に関して、
(ア)リセ側固定金具37をリセプタクルインシュレータ50にインサート成形により一体化すること(段落【0025】参照。)、
(イ)リセ側固定金具37は、前後方向に延びる短手側固定部38と、短手側固定部38の両端部から左右方向に延びる長手側固定部39と、短手側固定部38及び長手側固定部39の外周縁部からそれぞれ略下向きに延びる短手側テール片40及び長手側テール片41と、短手側固定部38及び長手側固定部39の内周縁部からそれぞれ略下向きに延びる固定突片42及び弾性接触片43と、を具備していること(段落【0024】、【図6】参照。)、
(ウ)リセ側固定金具37の短手側テール片40の下端部を回路基板70にはんだ付けすること(段落【0028】参照)、
が記載されている。
引用文献2に記載された「リセプタクルインシュレータ50」はリセプタクルコネクタ35のハウジングと認められ、「リセ側固定金具37」において、「短手側固定部38」は、その外周縁部から略下向きに延び、下端部を回路基板70にはんだ付けする「短手側テール片40」と、内周縁部から略下向きに延びる「固定突片42」とともに逆U字を形成しているといえ、「長手側固定部39」は、その外周縁部から略下向きに延びる「長手側テール片41」と、内周縁部から略下向きに延びる「弾性接触片43」とともに逆U字を形成しているといえ、「長手側固定部39」は「短手側固定部38の両端部から左右方向に延びる」ものであり、前記の逆U字の頂部から延びるものといえる。
要するに、引用文献2には、「リセプタクルコネクタ35のハウジングであるリセプタクルインシュレータ50の三辺に、インサート成形により一体化されるリセ側固定金具37であって、前後方向に延びる逆U字状部の左右方向一方の下端部に回路基板70にはんだ付けする部分を有し、当該逆U字状部の頂部の前後方向両端から左右方向に延びる2つの逆U字状部を備えたリセ側固定金具37」が記載されているといえる。
引用発明においては、側板部31の両端部下側を折曲した底板部33を延ばして爪部35、35及び取付片部33aが形成されるものであるので、側板部31に引用文献2に記載のリセ側固定金具37の前後方向に延びる逆U字状の形状を適用し、側板部31を延ばして逆U字状としても、延ばした先の端部に取付片部33a(本件発明の固定部に相当。)を設けることは想到し得ず、相違点2及び3に係る本件発明の構成のように、U字状部の一方側の下端に固定部を設け、他方側の下端に連結部を設ける構成とはならない。
また、引用発明のソケット保持金具30A及び引用文献2に記載のリセ側固定金具37は、それぞれ一体不可分の機能物と認められ、引用発明のソケット保持金具30Aを、引用文献2に記載のリセ側固定金具37にそのまま置換したとしても、リセ側固定金具37は前後方向に延びる逆U字状部の頂部から、左右方向に逆U字状部が延びるものであるので、相違点3に係る本件発明の「第1の連結部および第2の連結部は、第1のU字状部の交差方向一方側における下端と連結し」との構成とすることはできない。

引用文献3には、【実施例2】として(段落【0066】?【0077】及び【図13】?【図15】参照。)、
(ア)レセプタクルコネクタ201のレセプタクルハウジング121にモールドインによって一体に保持されるレセプタクル部材241、242において、
(イ)レセプタクルハウジング121の短手方向に延びる第1レセプタクル板部241a、242aと、第1レセプタクル板部241a、242aの上辺から略逆U字状に曲げて形成された第2レセプタクル板部241b、242bとを有し、
(ウ)第1レセプタクル板部241a、242aの下辺から第2レセプタクル板部241b、242bとは逆方向で略直角に曲げられているレセプタクル連結板部241f、242fと、レセプタクル連結板部241f、242fからピッチ方向Aを直交する方向(短手方向)へ延びている一対のレセプタクル半田付け部241d、242dとを有し、
(エ)第2レセプタクル板部241b、242bの先端部分241j、242jは、第1レセプタクル外壁面131c、132cと同一面になるようにして配設される、
ことが記載されている。
以上のとおりであるので、引用文献3には、「レセプタクルコネクタにインサート成形により一体化するレセプタクル部材241、242において、そのハウジングの短手方向に沿った第1レセプタクル板部241a、242aの上辺を周壁に沿って逆U字状とし、逆U字状の一方の下辺から短手方向に延びて一対のレセプタクル半田付け部を形成し、逆U字状の他方の下辺はレセプタクルコネクタ201の外壁面と同一面とすること」が記載されている。
引用発明においては、側板部31の両端部下側を折曲した底板部33を延ばして爪部35、35及び取付片部33aが形成されるものであるので、側板部31に引用文献3に記載のレセプタクル部材241、242のハウジングの短手方向に沿った第1レセプタクル板部241a、242aの逆U字状の形状を適用し、側板部31を延ばして逆U字状としても、延ばした先の端部に取付片部33a(本件発明の固定部に相当。)を設けることは想到し得ず、相違点2及び3に係る本件発明の構成のように、U字状部の一方側の下端に固定部を設け、他方側の下端に連結部を設ける構成とはならない。
また、引用発明のソケット保持金具30A及び引用文献3に記載のレセプタクル部材241、242は、それぞれ一体不可分の機能物と認められ、引用発明のソケット金具30Aを、引用文献3に記載のレセプタクル部材241、242にそのまま置換したとしても、その先端部分241j、242jは半田付け部を有しないから、相違点3に係る本件発明の「第1の連結部および第2の連結部は、第1のU字状部の交差方向一方側における下端と連結し」との構成とすることはできない。

また、特許異議申立書に添付した甲第4号証(特開2014-239001号公報)、甲第5号証(特開2015-207557号公報)及び甲第6号証(特開2016-51630号公報)のいずれにも、相違点1?3に係る本件発明の構成は示唆されていない。
他に、相違点1?3に係る本件発明の構成を示す証拠もない。

そして、本件特許の明細書の段落【0239】には、相違点1?3に係る本件発明の構成により、コネクタ接続体のハウジングにインサート成形される保持金具(ソケット側保持金具34)が変形し難くなるとの作用効果を奏することが記載されている。

よって、本件発明は、引用文献1?3及び甲第4?6号証に記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)「(ウ)特許取消理由3」(特許異議申立書36頁13?26行)について
特許異議申立人は特許異議申立書において、請求項1に係る発明は甲第1号証に記載された発明と甲第2?6号証に開示された周知技術もしくは少なくとも公知技術とに基いて、当業者が容易に発明をすることができた旨主張している。
しかしながら、甲第2?6号証には、上記2.(2)ア?ウで述べたとおり、相違点1?3に係る本件発明の「保持金具」全体の構成が記載も示唆もされていない。
よって、本件発明は、甲第1号証に記載された発明と甲第2?6号証に開示された周知技術もしくは少なくとも公知技術とに基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(2)「(エ)特許取消理由4」(特許異議申立書36頁27行?37頁12行)について
特許異議申立人は特許異議申立書において、請求項1の「コネクタ接続体のハウジングにインサート成形される保持金具」、「コネクタ接続体のハウジングの周壁部にインサート成形され」との記載は、製造方法である「インサート成形」によって物の発明が特定されており、プロダクト・バイ・プロセス・クレームに該当し、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない旨主張している。
しかしながら、請求項1は「保持金具」の発明であり、請求項1の上記の記載は、保持金具がハウジングにインサート成形されることを特定するものであり、保持金具がインサート成形で製造されることを意味するものではなく、物の発明を製造方法で特定するものではない。請求項1全体の記載として、インサート成形される保持金具の「構造」を特定していることは十分に理解できる。
よって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たすものである。
(3)「(オ)特許取消理由5」(特許異議申立書37頁13行?38頁19行)について
特許異議申立人は特許異議申立書において、請求項1の「前記第1のU字状部と前記第2のU字状部とを連結する第1の連結部」、「前記第1のU字状部と前記第3のU字状部とを連結する第2の連結部」及び「前記第1の連結部と前記第2の連結部の少なくとも一部が、前記ハウジングの底面に露出し」との記載は、第3のU字状部が第1の連結部と連結されていない構成、または、第2のU字状部が第2の連結部と連結されていない構成を含み、前者の構成では、第3のU字状部及び第1の連結部は、ハウジングを上下方向で挟み込むことができず、後者の構成では、第2のU字状部及び第2の連結部(当審注;特許異議申立書38頁10行の「第3の連結部」及び11行の「第1の連結部」は「第2の連結部」の誤記と認める。)はハウジングを上下方向で挟み込むことができないことから、特許権者が審査段階で提出した令和2年3月9日の意見書で主張している作用効果を奏せず、請求項1に係る発明は、本件特許の明細書の段落【0005】に記載された課題を解決することができず、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない旨主張している。
しかしながら、請求項1の記載からは、第3のU字状部と第2の連結部とでハウジングを上下方向で挟み付ける構成となり、また、第2のU字状部と第1の連結部とでハウジングを上下方向で挟み付ける構成となることが理解でき、上記意見書で主張する作用効果により、本件特許の明細書に記載の課題を解決すると理解できる。
よって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。

第6 むすび
したがって、請求項1に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コネクタ接続体のハウジングにインサート成形される保持金具であって、
一方向に延在する第1のU字状部と、
前記一方向と交差する方向に延在し、前記第1のU字状部の前記一方向一方側に配置される第2のU字状部と、
前記一方向と交差する方向に延在し、前記第1のU字状部の前記一方向他方側に配置される第3のU字状部と、
前記第1のU字状部と前記第2のU字状部とを連結する第1の連結部と、
前記第1のU字状部と前記第3のU字状部とを連結する第2の連結部と、
回路基板に固定される固定部と、
を備え、
前記第1のU字状部、前記第2のU字状部および前記第3のU字状部が、コネクタ接続体のハウジングの周壁部にインサート成形され、
前記固定部は、前記第1のU字状部に連設された第1の固定部を有し、
前記コネクタ接続体を相手側のコネクタ接続体と対向する側が上下方向の上方を向くように配置した状態で、前記第2のU字状部および前記第3のU字状部は上に凸となるように湾曲しており、前記第1の連結部と前記第2の連結部の少なくとも一部が、前記ハウジングの底面に露出し、
前記第1のU字状部は、前記一方向と前記上下方向とに交差する交差方向における前記第1のU字状部の一方側と他方側との間で、上に凸となるように湾曲しており、
前記第1の連結部および前記第2の連結部は、前記第1のU字状部の前記交差方向一方側における下端と連結し、
前記第1の固定部は、前記第1のU字状部の前記交差方向他方側における下端に連設されていることを特徴とする保持金具。
【請求項2】
前記第1のU字状部、前記第2のU字状部および前記第3のU字状部が、前記周壁部の内面側に露出していることを特徴とする請求項1に記載の保持金具。
【請求項3】
前記第1のU字状部、前記第2のU字状部および前記第3のU字状部が、前記周壁部の内面側から外面側にかけて露出していることを特徴とする請求項2に記載の保持金具。
【請求項4】
前記固定部は、さらに、前記第2のU字状部の近傍に形成された第2の固定部と、前記第3のU字状部の近傍に形成された第3の固定部と、を有していることを特徴とする請求項1?3のうちいずれか1項に記載の保持金具。
【請求項5】
前記第2の固定部が前記第2のU字状部に連設され、前記第3の固定部が前記第3のU字状部に連設されており、
前記第2のU字状部における前記第2の固定部が形成されていない側が前記第1のU字状部における前記第1の固定部が連設されていない側に連設されるとともに、前記第3のU字状部における前記第3の固定部が形成されていない側が前記第1のU字状部における前記第1の固定部が連設されていない側に連設されていることを特徴とする請求項4に記載の保持金具。
【請求項6】
前記第1のU字状部、前記第2のU字状部および前記第3のU字状部が、前記コネクタ接続体の相手側の部材に設けられた金具に電気的に接続されることを特徴とする請求項1?5のうちいずれか1項に記載の保持金具。
【請求項7】
請求項1?6のうちいずれか1項に記載の保持金具を備えることを特徴とするコネクタ接続体。
【請求項8】
一対のコネクタ接続体を備えるコネクタであって、
請求項7に記載のコネクタ接続体を、少なくとも一方のコネクタ接続体に用いたことを特徴とするコネクタ。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-09-29 
出願番号 特願2016-91929(P2016-91929)
審決分類 P 1 652・ 537- YAA (H01R)
P 1 652・ 121- YAA (H01R)
最終処分 維持  
前審関与審査官 高橋 学  
特許庁審判長 田村 嘉章
特許庁審判官 平田 信勝
杉山 健一
登録日 2020-05-28 
登録番号 特許第6709990号(P6709990)
権利者 パナソニックIPマネジメント株式会社
発明の名称 保持金具、コネクタ接続体およびコネクタ  
代理人 森 太士  
代理人 伊藤 正和  
代理人 伊藤 正和  
代理人 森 太士  
代理人 松本 隆芳  
代理人 細川 覚  
代理人 松本 隆芳  
代理人 細川 覚  

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