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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C03C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C03C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C03C
管理番号 1379826
異議申立番号 異議2020-701024  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-12-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-12-28 
確定日 2021-10-08 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6714884号発明「高周波デバイス用ガラス基板と高周波デバイス用回路基板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6714884号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?13〕、〔14?26〕について訂正することを認める。 特許第6714884号の請求項1?6、8?26に係る特許を維持する。 特許第6714884号の請求項7に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6714884号(以下、「本件特許」という。)は、2017年(平成29年)8月30日(優先権主張 平成28年9月13日 平成29年3月17日(JP)日本国)を国際出願日とする出願であって、令和2年6月10日にその特許権の設定登録がされ、同年7月1日に特許掲載公報が発行された。その特許についての特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

令和 2年12月28日 :特許異議申立人 高垣 泰志(以下「申立
人」という。)による請求項1?14に係
る特許に対する特許異議の申立て
令和 3年 3月23日付け:取消理由通知
同年 5月25日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提

同年 7月15日 :申立人による意見書の提出

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和3年5月25日提出の訂正請求書における訂正請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)は、次の訂正事項1?10からなる(下線部は訂正箇所を示す。)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1について、
「酸化物基準のモル百分率で、アルカリ金属酸化物を合計含有量として0.001?0.2%の範囲で含有すると共に、前記アルカリ金属酸化物のうちNa_(2)O/(Na_(2)O+K_(2)O)で表されるモル比が0.75?0.99の範囲であり、かつB_(2)O_(3)の含有量が18.5?30%の範囲であり、Al_(2)O_(3)およびB_(2)O_(3)を合計含有量として1?40%の範囲で含有すると共に、Al_(2)O_(3)/(Al_(2)O_(3)+B_(2)O_(3))で表されるモル比が0?0.45の範囲である、SiO_(2)を主成分とするガラス基板であって、
前記ガラス基板の少なくとも1つの主表面の表面粗さが算術平均粗さRaの値として1.5nm以下であり、かつ35GHzにおける誘電正接が0.007以下である、10GHz以上の高周波信号を扱う高周波デバイスに用いられるガラス基板。」
との記載を、
「酸化物基準のモル百分率で、アルカリ金属酸化物を合計含有量として0.001?0.2%の範囲で含有すると共に、前記アルカリ金属酸化物のうちNa_(2)O/(Na_(2)O+K_(2)O)で表されるモル比が0.75?0.99の範囲であり、かつB_(2)O_(3)の含有量が18.5?30%の範囲であり、Al_(2)O_(3)およびB_(2)O_(3)を合計含有量として1?40%の範囲で含有すると共に、Al_(2)O_(3)/(Al_(2)O_(3)+B_(2)O_(3))で表されるモル比が0?0.45の範囲である、SiO_(2)を主成分とするガラス基板であって、
β-OH値が0.05?0.6mm^(-1)の範囲であり、
前記ガラス基板の少なくとも1つの主表面の表面粗さが算術平均粗さRaの値として1.5nm以下であり、かつ35GHzにおける誘電正接が0.007以下である、10GHz以上の高周波信号を扱う高周波デバイスに用いられるガラス基板。」
に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項1、2、3、6、8?13も同様に訂正する。)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4について、
「酸化物基準のモル百分率で、アルカリ金属酸化物を合計含有量として0.001?0.2%の範囲で含有すると共に、前記アルカリ金属酸化物のうちNa_(2)O/(Na_(2)O+K_(2)O)で表されるモル比が0.01?0.99の範囲であり、Fe_(2)O_(3)換算でのFeの含有量が0%超0.012%以下であり、B_(2)O_(3)の含有量が18.5?30%の範囲であり、かつアルカリ土類金属酸化物を合計含有量として0.1?13%の範囲で含有する、SiO_(2)を主成分とするガラス基板であって、
前記ガラス基板の少なくとも1つの主表面の表面粗さが算術平均粗さRaの値として1.5nm以下であり、かつ35GHzにおける誘電正接が0.007以下であり、波長350nmの透過率が50%以上である、10GHz以上の高周波信号を扱う高周波デバイスに用いられるガラス基板。」
との記載を、
「酸化物基準のモル百分率で、アルカリ金属酸化物を合計含有量として0.001?0.2%の範囲で含有すると共に、前記アルカリ金属酸化物のうちNa_(2)O/(Na_(2)O+K_(2)O)で表されるモル比が0.01?0.99の範囲であり、Fe_(2)O_(3)換算でのFeの含有量が0%超0.012%以下であり、B_(2)O_(3)の含有量が18.5?30%の範囲であり、かつアルカリ土類金属酸化物を合計含有量として0.1?13%の範囲で含有する、SiO_(2)を主成分とするガラス基板であって、
β-OH値が0.05?0.6mm^(-1)の範囲であり、
前記ガラス基板の少なくとも1つの主表面の表面粗さが算術平均粗さRaの値として1.5nm以下であり、かつ35GHzにおける誘電正接が0.007以下であり、波長350nmの透過率が50%以上である、10GHz以上の高周波信号を扱う高周波デバイスに用いられるガラス基板。」
に訂正する(請求項4の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5、6、8?13も同様に訂正する。)。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項7を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項8について「請求項1?7のいずれか一項に記載のガラス基板。」との記載を、「請求項1?6のいずれか一項に記載のガラス基板。」に訂正する(請求項8の記載を直接的又は間接的に引用する請求項9?13も同様に訂正する。)。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項9について「請求項1?8のいずれか一項に記載のガラス基板。」との記載を、「請求項1?6、8のいずれか一項に記載のガラス基板。」に訂正する(請求項9の記載を直接的又は間接的に引用する請求項10?13も同様に訂正する。)。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項10について「請求項1?9のいずれか一項に記載のガラス基板。」との記載を、「請求項1?6、8、9のいずれか一項に記載のガラス基板。」に訂正する(請求項10の記載を直接的又は間接的に引用する請求項11?13も同様に訂正する。)。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項11について「請求項1?10のいずれか一項に記載のガラス基板。」との記載を、「請求項1?6、8?10のいずれか一項に記載のガラス基板。」に訂正する(請求項11の記載を直接的又は間接的に引用する請求項12、13も同様に訂正する。)。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項12について「請求項1?11のいずれか一項に記載のガラス基板。」との記載を、「請求項1?6、8?11のいずれか一項に記載のガラス基板。」に訂正する(請求項12の記載を引用する請求項13も同様に訂正する。)。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項13について「請求項1?12のいずれか一項に記載のガラス基板。」との記載を、「請求項1?6、8?12のいずれか一項に記載のガラス基板。」に訂正する。

(10)訂正事項10
ア 訂正事項10-1
特許請求の範囲の請求項14について、
「請求項1?13のいずれか一項に記載のガラス基板と、
前記ガラス基板の前記主表面上に形成された配線層とを具備し、
35GHzにおける伝送損失が1dB/cm以下である、10GHz以上の高周波信号を扱う高周波デバイスに用いられる回路基板。」
との記載を、
「ガラス基板と、
前記ガラス基板の前記主表面上に形成された配線層とを具備し、
前記ガラス基板は、酸化物基準のモル百分率で、アルカリ金属酸化物を合計含有量として0.001?0.2%の範囲で含有すると共に、前記アルカリ金属酸化物のうちNa_(2)O/(Na_(2)O+K_(2)O)で表されるモル比が0.75?0.99の範囲であり、かつB_(2)O_(3)の含有量が18.5?30%の範囲であり、Al_(2)O_(3)およびB_(2)O_(3)を合計含有量として1?40%の範囲で含有すると共に、Al_(2)O_(3)/(Al_(2)O_(3)+B_(2)O_(3))で表されるモル比が0?0.45の範囲である、SiO_(2)を主成分とするガラス基板であって、
前記ガラス基板の少なくとも1つの主表面の表面粗さが算術平均粗さRaの値として1.5nm以下であり、かつ35GHzにおける誘電正接が0.007以下であり、
35GHzにおける伝送損失が1dB/cm以下である、10GHz以上の高周波信号を扱う高周波デバイスに用いられる回路基板。」
に訂正する。

イ 訂正事項10-2
特許請求の範囲の請求項15に、「前記ガラス基板は、酸化物基準のモル百分率で、Fe_(2)O_(3)換算でのFeの含有量が0.012%以下である、請求項14に記載の回路基板。」を追加する。

ウ 訂正事項10-3
特許請求の範囲の請求項16に、「前記ガラス基板は、波長350nmの透過率が50%以上である、請求項14又は15に記載の回路基板。」を追加する。

エ 訂正事項10-4
特許請求の範囲の請求項17に、
「ガラス基板と、
前記ガラス基板の前記主表面上に形成された配線層とを具備し、
前記ガラス基板は、酸化物基準のモル百分率で、アルカリ金属酸化物を合計含有量として0.001?0.2%の範囲で含有すると共に、前記アルカリ金属酸化物のうちNa_(2)O/(Na_(2)O+K_(2)O)で表されるモル比が0.01?0.99の範囲であり、Fe_(2)O_(3)換算でのFeの含有量が0%超0.012%以下であり、B_(2)O_(3)の含有量が18.5?30%の範囲であり、かつアルカリ土類金属酸化物を合計含有量として0.1?13%の範囲で含有する、SiO_(2)を主成分とするガラス基板であって、
前記ガラス基板の少なくとも1つの主表面の表面粗さが算術平均粗さRaの値として1.5nm以下であり、かつ35GHzにおける誘電正接が0.007以下であり、波長350nmの透過率が50%以上であり、
35GHzにおける伝送損失が1dB/cm以下である、10GHz以上の高周波信号を扱う高周波デバイスに用いられる回路基板。」
を追加する。

オ 訂正事項10-5
特許請求の範囲の請求項18に、「前記ガラス基板は、酸化物基準のモル百分率で、Al_(2)O_(3)およびB_(2)O_(3)を合計含有量として1?40%の範囲で含有すると共に、Al_(2)O_(3)/(Al_(2)O_(3)+B_(2)O_(3))で表されるモル比が0?0.45の範囲である、請求項17に記載の回路基板。」を追加する。

カ 訂正事項10-6
特許請求の範囲の請求項19に、「前記ガラス基板は、酸化物基準のモル百分率で、Al_(2)O_(3)の含有量が0?10%の範囲である、請求項14?18のいずれか1項に記載の回路基板。」を追加する。

キ 訂正事項10-7
特許請求の範囲の請求項20に、「前記ガラス基板は、β-OH値が0.05?0.6mm^(-1)の範囲である、請求項14?19のいずれか一項に記載の回路基板。」を追加する。

ク 訂正事項10-8
特許請求の範囲の請求項21に、「前記ガラス基板は、35GHzにおける比誘電率が10以下である、請求項14?20のいずれか一項に記載の回路基板。」を追加する。

ケ 訂正事項10-9
特許請求の範囲の請求項22に、「前記ガラス基板は、50?350℃における平均熱膨張係数が3?15ppm/℃の範囲である、請求項14?21のいずれか一項に記載の回路基板。」を追加する。

コ 訂正事項10-10
特許請求の範囲の請求項23に、「前記ガラス基板は、ヤング率が40GPa以上である、請求項14?22のいずれか一項に記載の回路基板。」を追加する。

サ 訂正事項10-11
特許請求の範囲の請求項24に、「前記ガラス基板は、気孔率が0.1%以下である、請求項14?23のいずれか一項に記載の回路基板。」を追加する。

シ 訂正事項10-12
特許請求の範囲の請求項25に、「前記ガラス基板は、厚さが0.05?1mmの範囲であると共に、基板面積が225?10000cm^(2)の範囲である、請求項14?24のいずれか一項に記載の回路基板。」を追加する。

ス 訂正事項10-13
特許請求の範囲の請求項26に、「前記ガラス基板は、非晶質である、請求項14?25のいずれか一項に記載の回路基板。」を追加する。

(11)一群の請求項及び別の訂正単位とする求めについて
訂正前の請求項1?14は一群の請求項であるところ、本件訂正事項1?10に係る特許請求の範囲の訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、この一群の請求項〔1?14〕を訂正の単位として請求されたものである。
また、特許権者は、訂正後の請求項14?26に係る訂正について、当該訂正が認められるときに、その他の一群の請求項である請求項1?13とは別の訂正単位として扱われることを求めている。

2 訂正要件(訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について)の判断
(1)訂正事項1及び2について
訂正事項1及び2は、それぞれ、本件訂正前の請求項1及び4において「β-OH値が0.05?0.6mm^(-1)の範囲」なる事項を追加して、「ガラス基板」を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、「β-OH値が0.05?0.6mm^(-1)の範囲」なる事項は本件特許に係る明細書の段落【0041】及び本件訂正前の請求項7に記載されているから、訂正事項1及び2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
さらに、訂正事項1及び2は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、また、当該訂正事項により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないとされていた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなるという事情は認められないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項3について
訂正事項3は、本件訂正前の請求項7を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)訂正事項4?9について
訂正事項4?9は、それぞれ、本件訂正前の請求項4?9における選択的引用請求項の一部を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正事項10について
訂正事項10は、本件訂正前の請求項14において、請求項1?13を引用する部分をそれぞれ独立した形に書き下して引用関係を解消し、本件訂正後の請求項14?26とするものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)独立特許要件について
特許異議申立ては、本件訂正前の全ての請求項1?14についてされているので、訂正事項1?10に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

3 小括
以上のとおり、本件訂正請求は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、上記別の訂正単位とする求めに照らし、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?13〕、〔14?26〕について訂正することを認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
本件訂正請求が認められることは前記第2に記載のとおりであるので、本件訂正請求により訂正された請求項1?26に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明26」といい、まとめて「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?26に記載された事項により特定される次のとおりのものである(下線部は訂正箇所を示す。)。

「【請求項1】
酸化物基準のモル百分率で、アルカリ金属酸化物を合計含有量として0.001?0.2%の範囲で含有すると共に、前記アルカリ金属酸化物のうちNa_(2)O/(Na_(2)O+K_(2)O)で表されるモル比が0.75?0.99の範囲であり、かつB_(2)O_(3)の含有量が18.5?30%の範囲であり、Al_(2)O_(3)およびB_(2)O_(3)を合計含有量として1?40%の範囲で含有すると共に、Al_(2)O_(3)/(Al_(2)O_(3)+B_(2)O_(3))で表されるモル比が0?0.45の範囲である、SiO_(2)を主成分とするガラス基板であって、
β-OH値が0.05?0.6mm^(-1)の範囲であり、
前記ガラス基板の少なくとも1つの主表面の表面粗さが算術平均粗さRaの値として1.5nm以下であり、かつ35GHzにおける誘電正接が0.007以下である、10GHz以上の高周波信号を扱う高周波デバイスに用いられるガラス基板。
【請求項2】
酸化物基準のモル百分率で、Fe_(2)O_(3)換算でのFeの含有量が0.012%以下である、請求項1に記載のガラス基板。
【請求項3】
波長350nmの透過率が50%以上である、請求項1又は2に記載のガラス基板。
【請求項4】
酸化物基準のモル百分率で、アルカリ金属酸化物を合計含有量として0.001?0.2%の範囲で含有すると共に、前記アルカリ金属酸化物のうちNa_(2)O/(Na_(2)O+K_(2)O)で表されるモル比が0.01?0.99の範囲であり、Fe_(2)O_(3)換算でのFeの含有量が0%超0.012%以下であり、B_(2)O_(3)の含有量が18.5?30%の範囲であり、かつアルカリ土類金属酸化物を合計含有量として0.1?13%の範囲で含有する、SiO_(2)を主成分とするガラス基板であって、
β-OH値が0.05?0.6mm^(-1)の範囲であり、
前記ガラス基板の少なくとも1つの主表面の表面粗さが算術平均粗さRaの値として1.5nm以下であり、かつ35GHzにおける誘電正接が0.007以下であり、波長350nmの透過率が50%以上である、10GHz以上の高周波信号を扱う高周波デバイスに用いられるガラス基板。
【請求項5】
酸化物基準のモル百分率で、Al_(2)O_(3)およびB_(2)O_(3)を合計含有量として1?40%の範囲で含有すると共に、Al_(2)O_(3)/(Al_(2)O_(3)+B_(2)O_(3))で表されるモル比が0?0.45の範囲である、請求項4に記載のガラス基板。
【請求項6】
酸化物基準のモル百分率で、Al_(2)O_(3)の含有量が0?10%の範囲である、請求項1?5のいずれか1項に記載のガラス基板。
【請求項7】(削除)
【請求項8】
35GHzにおける比誘電率が10以下である、請求項1?6のいずれか一項に記載のガラス基板。
【請求項9】
50?350℃における平均熱膨張係数が3?15ppm/℃の範囲である、請求項1?6、8のいずれか一項に記載のガラス基板。
【請求項10】
ヤング率が40GPa以上である、請求項1?6、8、9のいずれか一項に記載のガラス基板。
【請求項11】
気孔率が0.1%以下である、請求項1?6、8?10のいずれか一項に記載のガラス基板。
【請求項12】
厚さが0.05?1mmの範囲であると共に、基板面積が225?10000cm^(2)の範囲である、請求項1?6、8?11のいずれか一項に記載のガラス基板。
【請求項13】
非晶質である、請求項1?6、8?12のいずれか一項に記載のガラス基板。
【請求項14】
ガラス基板と、
前記ガラス基板の前記主表面上に形成された配線層とを具備し、
前記ガラス基板は、酸化物基準のモル百分率で、アルカリ金属酸化物を合計含有量として0.001?0.2%の範囲で含有すると共に、前記アルカリ金属酸化物のうちNa_(2)O/(Na_(2)O+K_(2)O)で表されるモル比が0.75?0.99の範囲であり、かつB_(2)O_(3)の含有量が18.5?30%の範囲であり、Al_(2)O_(3)およびB_(2)O_(3)を合計含有量として1?40%の範囲で含有すると共に、Al_(2)O_(3)/(Al_(2)O_(3)+B_(2)O_(3))で表されるモル比が0?0.45の範囲である、SiO_(2)を主成分とするガラス基板であって、
前記ガラス基板の少なくとも1つの主表面の表面粗さが算術平均粗さRaの値として1.5nm以下であり、かつ35GHzにおける誘電正接が0.007以下であり、
35GHzにおける伝送損失が1dB/cm以下である、10GHz以上の高周波信号を扱う高周波デバイスに用いられる回路基板。
【請求項15】
前記ガラス基板は、酸化物基準のモル百分率で、Fe_(2)O_(3)換算でのFeの含有量が0.012%以下である、請求項14に記載の回路基板。
【請求項16】
前記ガラス基板は、波長350nmの透過率が50%以上である、請求項14又は15に記載の回路基板。
【請求項17】
ガラス基板と、
前記ガラス基板の前記主表面上に形成された配線層とを具備し、
前記ガラス基板は、酸化物基準のモル百分率で、アルカリ金属酸化物を合計含有量として0.001?0.2%の範囲で含有すると共に、前記アルカリ金属酸化物のうちNa_(2)O/(Na_(2)O+K_(2)O)で表されるモル比が0.01?0.99の範囲であり、Fe_(2)O_(3)換算でのFeの含有量が0%超0.012%以下であり、B_(2)O_(3)の含有量が18.5?30%の範囲であり、かつアルカリ土類金属酸化物を合計含有量として0.1?13%の範囲で含有する、SiO_(2)を主成分とするガラス基板であって、
前記ガラス基板の少なくとも1つの主表面の表面粗さが算術平均粗さRaの値として1.5nm以下であり、かつ35GHzにおける誘電正接が0.007以下であり、波長350nmの透過率が50%以上であり、
35GHzにおける伝送損失が1dB/cm以下である、10GHz以上の高周波信号を扱う高周波デバイスに用いられる回路基板。
【請求項18】
前記ガラス基板は、酸化物基準のモル百分率で、Al_(2)O_(3)およびB_(2)O_(3)を合計含有量として1?40%の範囲で含有すると共に、Al_(2)O_(3)/(Al_(2)O_(3)+B_(2)O_(3))で表されるモル比が0?0.45の範囲である、請求項17に記載の回路基板。
【請求項19】
前記ガラス基板は、酸化物基準のモル百分率で、Al_(2)O_(3)の含有量が0?10%の範囲である、請求項14?18のいずれか1項に記載の回路基板。
【請求項20】
前記ガラス基板は、β-OH値が0.05?0.6mm^(-1)の範囲である、請求項14?19のいずれか一項に記載の回路基板。
【請求項21】
前記ガラス基板は、35GHzにおける比誘電率が10以下である、請求項14?20のいずれか一項に記載の回路基板。
【請求項22】
前記ガラス基板は、50?350℃における平均熱膨張係数が3?15ppm/℃の範囲である、請求項14?21のいずれか一項に記載の回路基板。
【請求項23】
前記ガラス基板は、ヤング率が40GPa以上である、請求項14?22のいずれか一項に記載の回路基板。
【請求項24】
前記ガラス基板は、気孔率が0.1%以下である、請求項14?23のいずれか一項に記載の回路基板。
【請求項25】
前記ガラス基板は、厚さが0.05?1mmの範囲であると共に、基板面積が225?10000cm^(2)の範囲である、請求項14?24のいずれか一項に記載の回路基板。
【請求項26】
前記ガラス基板は、非晶質である、請求項14?25のいずれか一項に記載の回路基板。」

2 取消理由の概要
令和3年3月23日付けの取消理由通知で通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
(1)取消理由1
本件訂正前の請求項1?6、8?11、13に係る発明は、引用文献1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件訂正前の請求項1?6、8?11、13に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

(2)取消理由2
本件訂正前の請求項1?6、8?13に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2及び3に記載の本件特許の優先日当時における技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の請求項1?6、8?13に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

<引用文献等一覧>
引用文献1:国際公開第2015/023525号(甲第1号証)
引用文献2:特表2005-537209号公報(甲第5号証)
引用文献3:特表2008-544942号公報(甲第6号証)

3 取消理由において採用しなかった特許異議申立理由の概要
申立人が主張する特許異議申立理由のうち、上記2の取消理由において採用しなかった特許異議申立理由は、概略、以下のとおりである。
(1)申立理由1
本件訂正前の請求項1?14に係る発明は、甲第1号証?甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の請求項1?14に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(特許異議申立書第6頁第33行?第15頁最終行)。

(2)申立理由2
ア 本件訂正前の請求項1、4、14に係る発明について
本件訂正前の請求項1、4、14には、「10GHz以上の高周波信号を扱う高周波デバイスに用いられる」と記載されているが、当該記載は、下限だけを示すような数値範囲限定であるから、請求項1、4、14に係る発明は、その範囲が明確でない。
したがって、本件訂正前の請求項1、4、14に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(特許異議申立書第16頁第2行?第9行)。

イ 本件訂正前の請求項4に係る発明について
本件訂正前の請求項4には、「Fe_(2)O_(3)換算でのFeの含有量が0%超0.012%以下」と記載されている。
一方、本件特許に係る明細書の段落【0076】には、0.0%は0.05%未満と同義であることが記載されており、この記載から上記「Feの含有量」の下限である「0%超」は、0.05%以上と解されるが、この場合、上記「Feの含有量」の上限である「0.012%以下」よりも大きくなる。
また、上記「Feの含有量」の上限である「0.012%」は、0.05%未満であるから、段落【0076】の記載から0.0%と同義であると解されるが、上記「Feの含有量」の下限である「0%超」より小さくなる。
そうすると、上記の「Fe_(2)O_(3)換算でのFeの含有量が0%超0.012%以下」なる記載によって特定される請求項4に係る発明は、その範囲が明確でない。
したがって、本件訂正前の請求項4に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(特許異議申立書第16頁第10行?第23行)。

<甲号証一覧>
甲第1号証:国際公開第2015/023525号(引用文献1)
甲第2号証:特表2010-508226号公報
甲第3号証:特開昭64-51345号公報
甲第4号証:特開平9-2839号公報
甲第5号証:特表2005-537209号公報(引用文献2)
甲第6号証:特表2008-544942号公報(引用文献3)

4 引用文献、甲号証及び参考文献の記載内容について
(1)引用文献1の記載内容及び引用発明
ア 引用文献1の記載内容
引用文献1には、以下の記載がある(当審注:下線は当審による。「…」は当審による省略を意味する。以下も同様。)。
なお、日本語訳は引用文献1に対応する特表2016-528152号公報の記載による。

(ア)「[0002[ The disclosure relates to glasses that do not contain alkali metals or their oxides. More particularly, the disclosure relates to glasses that either contain low levels of alkali metals and/or alkali metal oxides or are alkali-doped and alkali- free and are formable by down-draw processes such as slot-draw and fusion-draw techniques. …」
(日本語訳:[0002]本開示は、アルカリ金属またはそれらの酸化物を含有しないガラスに関する。より詳しくは、本開示は、低レベルのアルカリ金属および/またはアルカリ金属酸化物を含有するかまたはアルカリドープおよび無アルカリであるかどちらかであり且つスロット延伸および溶融延伸技術などのダウンドロー法によって形成可能であるガラスに関する。…)

(イ)「[0016[ In some embodiments, the glasses described herein are formable by down-draw processes that are known in the art, such as slot-draw and fusion-draw processes. The fusion draw process is an industrial technique that has been used for the large-scale manufacture of thin glass sheets. Compared to other flat glass manufacturing techniques, such as the float or slot draw processes, the fusion draw process yields thin glass sheets with superior flatness and surface quality. As a result, the fusion draw process has become the dominant manufacturing technique in the fabrication of thin glass substrates for liquid crystal displays, as well as for cover glass for personal electronic devices such as notebooks, entertainment devices, tables, laptops, and the like.」
(日本語訳:[0016]いくつかの実施形態において、本明細書に記載されるガラスは、スロット延伸および溶融延伸法(fusion draw process)など、本技術分野に公知のダウンドロー法によって形成可能である。溶融延伸法は、薄いガラス板の大規模製造のために使用されている工業技術である。フロートまたはスロット延伸法などの他の平板ガラス製造技術と比べて、溶融延伸法は、すぐれた平面度および表面の品質を有する薄いガラス板をもたらす。結果として、溶融延伸法は、液晶ディスプレイ用の薄いガラス基板、ならびにノートブック、娯楽機器、テーブル、ラップトップ等のパーソナル電子デバイス用のカバーガラスの製造において有力な製造技術になっている。)

(ウ)第11?13頁表1(Table 1)の試料13?36「







(エ)「[0038[ A method of making the glasses described herein is also provided, the method includes providing a glass melt comprising SiO_(2), B_(2)O_(3), and at least one of Al_(2)O_(3) and P_(2)O_(5), wherein the glass melt is substantially free of alkali metal oxide modifiers, and down-drawing the glass melt to form the glass. In some embodiments, the step of down-drawing the glass comprises slot-drawing the glass melt and, in other embodiments, fusion-drawing the glass melt.」
(日本語訳:[0038]また、本明細書に記載されるガラスを製造する方法が提供される。この方法は、SiO_(2)と、B_(2)O_(3)と、Al_(2)O_(3)およびP_(2)O_(5)の少なくとも1つとを含み、アルカリ金属酸化物改質剤を実質的に含有しないガラス溶融体を提供する工程と、ガラス溶融体をダウンドローしてガラスを形成する工程とを有してなる。いくつかの実施形態において、ガラスをダウンドローする工程は、ガラス溶融体をスロット延伸する工程を含み、他の実施形態において、ガラス溶融体を溶融延伸する工程を含む。)

(オ)「[0040[ Being substantially free of alkali metals, the glasses described herein are suitable for use in thin film transistor (TFT) display applications. …The glasses described herein may also be used in color filter substrates, cover glasses, or touch interfaces in various electronic devices.」
(日本語訳:[0040] 本明細書に記載されるガラスは、アルカリ金属を実質的に含有しないので、薄膜トランジスタ(TFT)ディスプレイ用途に使用するために適している。…また、本明細書に記載されるガラスは、様々な電子デバイスのカラーフィルター基板、カバーガラス、またはタッチインターフェースにおいて使用されてもよい。)

イ 引用文献1に記載された発明
上記ア(イ)?(エ)の記載を、試料32の「ガラス」に注目して整理すると、引用文献1には、以下の発明(以下、「引1発明」という。)が記載されている。

「ガラス組成が、SiO_(2) 60.59モル%、Al_(2)O_(3) 8.16モル%、B_(2)O_(3) 23.43%モル、Na_(2)O 0.03モル%、K_(2)O 0.01モル%、MgO 3.44モル%、CaO 4.09モル%、SrO 0.01モル%、SnO_(2) 0.12モル%、ZrO_(2) 0.10モル%、Fe_(2)O_(3) 0.01モル%であり、ガラス溶融体を溶融延伸(fusion-drawing)する工程により形成された、すぐれた平面度を有するガラス基板。」

(2)引用文献2、引用文献3の記載内容
ア 引用文献2の記載内容
引用文献2には、下記の事項が記載されている。
「【0026】
…フュージョン・プロセスから製造されたガラス基板には、研磨が必要ない。現行のガラス基板の研磨では、原子間力顕微鏡により測定して、約0.5nmより大きい平均表面粗さ(Ra)を有するガラス基板を製造できる。フュージョン・プロセスを用いて本発明により製造されたガラス基板は、原子間力顕微鏡により測定して、約0.5nm未満の平均表面粗さを有する。」

イ 引用文献3の記載内容
引用文献3には、下記の事項が記載されている。
「【0064】
…フュージョンプロセスにより製造されたガラス基板は、研磨が必要ない。現在のガラス基板研磨は、原子間力顕微鏡により測定して、約0.5nm(Ra)より大きい平均表面粗さを持つガラス基板を製造できる。本発明により製造された、フュージョンプロセスを用いたガラス基板は、原子間力顕微鏡により測定して0.5nm未満の平均表面粗さを有する。…」

(3)甲第2号証?甲第4号証の記載内容
ア 甲第2号証の記載内容
甲第2号証には、下記の事項が記載されている。
「【0001】
本発明は低い誘電率を有するグラスファイバーに関し、かつより詳細には低い誘電率及び低い誘電正接を有し、高密度プリント配線板などのための補強材としての使用に適当なグラスファイバーに関する。」

イ 甲第3号証の記載内容
甲第3号証には、下記の事項が記載されている。
「本発明は、誘電率の非常に低いガラス繊維用ガラス組成物、特にプリント配線板の補強用に適した低誘電率ガラス繊維組成物に関する。」(第1頁左下欄第18行?第20行)

ウ 甲第4号証の記載内容
甲第4号証には、下記の事項が記載されている。
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、低誘電率および低誘電正接ガラス繊維に関し、特に低い誘電正接を要求される高密度プリント配線基板を強化するのに用いるに好適な低誘電正接ガラス繊維に関する。」

(4)申立人が令和3年7月15日に意見書と共に提出した参考文献1(特開2015-24959号公報)、参考文献2(特開2016-94339号公報)の記載内容
ア 参考文献1の記載内容
参考文献1には、下記の事項が記載されている。

(ア)「【0012】
ガラス形成工程の最中にガラス中の水分量を低く維持することにより、通常、高溶融温度(溶融温度はここでは、ガラスが200ポアズの粘度を有する温度として定義される)でそれほど効率的ではない他の清澄成分…を、As_(2)O_(3)の代わりに必要であれば使用して、そのガラスをうまく清澄することができることが分かった。このように、ガラス中の水分量を低く維持することにより、本質的にまたは実質的にヒ素を含まない、融点の高いガラス(すなわち、粘度が200ポアズに対応する温度が約1500℃よりも高いガラス)を形成することができる。…これらの方法は、例えば、コーニング社のコード1737のガラスのような、ダウンドロー法を用いて形成されるガラスの形成に特に適している。」

(イ)「【0016】
ガラスの水分量またはβ-OH値は、様々な方法で減少させることができる。例えば、単にバッチ材料を適切に選択することにより、ガラス中の水分をある程度調節することができる。さらに、ハロゲン化物材料のような乾燥剤を加えることにより、水分を減少させても差し支えない。…」

(ウ)「【0028】
ここに記載されている方法は、幅広い様々なガラス、特に、それらの形成領域に白金を用いたダウンドロー製造法により形成されたガラスに適用できる。本発明をコーニング社のコード1737のガラスに適用する例が、下記の表Iを参照して、以下に示されている。これらのガラスは、この種の製品の商業的製造に典型的に使用されているオーバーフローダウンドロー溶融装置と同様の研究所規模の連続溶融装置内で調製した。この実験溶融装置では、白金/ロジウム合金耐火性金属供給システムが用いられ、ここでは、溶融ガラスが白金合金と接触する。表Iの実施例4は、市販されているコーニング社のコード1737のガラスに密接に対応し、得られたガラス中に約0.4モルパーセントが存在するような量のヒ素を用いて清澄した。実施例1、2、および3は、減少した水分量がこれらの条件に与える影響を示している。ガラスのβ-OH値が減少するにつれ、ガラス中の気体状混在物(混在物/ポンド)も減少する。…
【0029】
表Iは、本発明を説明する、酸化物基準重量部で表した、β-OHレベルが変更された類似のガラス組成物を列記している。個々の成分の合計がほぼ100であるので、全ての実際的な目的のために、列記した値が重量パーセントを表すものと考えてもよい。表IAは、酸化物基準のモルパーセントで表した同一のガラス組成を列記している。…」

(エ)「【0032】
【表1】


【0033】
【表2】



イ 参考文献2の記載内容
参考文献2には、下記の事項が記載されている。

(ア)「【0071】
また、ガラスの水分量を示すβ-OH値は、その値が小さいほどTgおよび歪点が高くなる傾向にある。他方、β-OH値が大きいほど、熔融温度を低下させる傾向にある。Tgおよび歪点の上昇と熔解性の向上を両立するために、β-OH値は、0.05?0.40mm^(-1)とすることが好ましく、0.10?0.35mm^(-1)がより好ましく、0.10?0.30mm^(-1)がさらに好ましく、0.10?0.25mm^(-1)がさらに好ましい。β-OH値は、原料の選択により調整することができる。例えば、含水量の高い原料(例えば水酸化物原料)を選択したり、塩化物等のガラス中の水分量を減少させる原料の含有量を調整したりすることで、β-OH値を増減させることができる。また、ガラス熔解に用いるガス燃焼加熱(酸素燃焼加熱)と電気加熱(直接通電加熱)の比率を調整することでβ-OH値を調整することができる。さらに、炉内雰囲気中の水分量を増加させたり、熔解時に熔融ガラスに対して水蒸気をバブリングしたりすることで、β-OH値を増加させることができる。…」

(イ)「【0101】
【表1-1】



(ウ)「【0104】
(実施例1-25)
実施例1-4に示す組成となるよう調合したガラス原料を、耐火煉瓦製の熔解槽と白金合金製の清澄槽(調整槽)を備えた連続熔解装置を用いて、1560?1640℃で熔解し、1620?1670℃で清澄し、1440?1530℃で攪拌した後にオーバーフローダウンドロー法により厚さ0.7mmの薄板状に成形し、TgからTg-100℃の温度範囲内において、100℃/分の平均速度で冷却を行い、液晶ディスプレイ用(または有機ELディスプレイ用)ガラス基板を得た。なお、前記記載の各特性については、得られたガラス基板を用いて測定した。なお、基板状では測定出来ない特性(密度、歪点、膨張係数およびTg)に関しては、前記試料作製方法に準じて、前記ガラス基板を再熔融し、試料ガラスを作製して、特性を測定した。
【0105】
上記のように得られた実施例1-25のガラス基板の熔融温度は1610℃、β-OH値は0.20mm^(-1)で、Tgは754℃、歪点は697℃、熱収縮率は51ppmであり、他の特性は実施例1-4と同等であった。このように、実施例1-25のガラス基板は、720℃以上のTgと、1680℃以下の熔融温度とを有しており、高いTgおよび歪点と、良好な熔解性とが実現されていた。さらに、熱収縮率および失透温度も、本発明の第1のガラス基板の条件を満たしていた。なお、実施例1-25のガラス基板は、実施例1-4よりもβ-OH値が0.1mm^(-1)程度大きいため、実施例1-4と比較するとTgは2?3℃低くなるが、十分に高いTgを実現できている。したがって、実施例1-25で得られたガラス基板は、p-Si・TFTが適用されるディスプレイにも用いることが可能な、優れた特性を備えたガラス基板であるといえる。」

(5)当審が本件特許の優先日当時の技術常識を示すために引用する引用文献4(特開2014-224025号公報)の記載内容
引用文献4には、下記の事項が記載されている。
「【0028】
ガラスのβOHを高める方法は、特に限定されるものではないが、好ましくは熔融工程において、熔融ガラス中の水分量を高める操作が挙げられる。ここで、熔融ガラス中の水分量を高める操作としては、例えば、熔融雰囲気に水蒸気を付加する処理や、熔融物内に水蒸気を含むガスをバブリングする処理等が挙げられる。
【0029】
通常、これらの方法によれば、ガラス中に水を導入することができ、βOHを高めることができるが、その向上率はガラス組成によって異なる。これは、ガラス組成によってガラス中への水の取り込み易さが異なるためである。
【0030】
水を取り込みやすいガラス組成の場合、上記のようなβOHを高める処理を行うことで、ガラスのβOHを大幅に向上させることができる。しかし、水を取り込みにくいガラス組成の場合、同じ条件の処理を行っても、水を取り込みやすい組成のガラスと同程度までガラスのβOHの値を高めることは難しく、得られるガラスのβOHは低くなる。
【0031】
また、水を取り込みやすいガラス組成の場合、通常の製造方法により作製されたガラスであっても、熔融雰囲気(大気雰囲気)中の水分を積極的に取り込むため、水を取り込みにくいガラス組成に比べて、βOHの値が高くなる。
【0032】
このように、ガラス中への水の取り込み易さは、ガラス組成によって違いがある。…」

5 当審の判断
(1)取消理由1、取消理由2について
ア 本件発明1について
本件発明1と引1発明とを対比すると、引1発明の「SiO_(2) 60.59モル%」の「ガラス基板」は、本件発明1の「SiO_(2)を主成分とするガラス基板」に相当する。
そうすると、両発明は、「SiO_(2)を主成分とするガラス基板」である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)本件発明1は、「酸化物基準のモル百分率で、アルカリ金属酸化物を合計含有量として0.001?0.2%の範囲で含有すると共に、前記アルカリ金属酸化物のうちNa_(2)O/(Na_(2)O+K_(2)O)で表されるモル比が0.75?0.99の範囲であり、かつB_(2)O_(3)の含有量が18.5?30%の範囲であり、Al_(2)O_(3)およびB_(2)O_(3)を合計含有量として1?40%の範囲で含有すると共に、Al_(2)O_(3)/(Al_(2)O_(3)+B_(2)O_(3))で表されるモル比が0?0.45の範囲である」のに対し、引1発明は「ガラス組成が、SiO_(2) 60.59モル%、Al_(2)O_(3) 8.16モル%、B_(2)O_(3) 23.43%モル、Na_(2)O 0.03モル%、K_(2)O 0.01モル%、MgO 3.44モル%、CaO 4.09モル%、SrO 0.01モル%、SnO_(2) 0.12モル%、ZrO_(2) 0.10モル%、Fe_(2)O_(3) 0.01モル%」である点。

(相違点2)本件発明1は、「少なくとも1つの主表面の表面粗さが算術平均粗さRaの値として1.5nm以下」である「ガラス基板」であるのに対し、引1発明は、「ガラス溶融体を溶融延伸(fusion-drawing)する工程により形成された、すぐれた平面度を有するガラス基板」である点。

(相違点3)本件発明1は、「35GHzにおける誘電正接が0.007以下」なる発明特定事項を備えるものであるのに対し、引1発明は、当該発明特定事項を備えていない点。

(相違点4)本件発明1は、「10GHz以上の高周波信号を扱う高周波デバイスに用いられる」なる発明特定事項を備えるものであるのに対し、引1発明は、当該発明特定事項を備えていない点。

(相違点5)本件発明1は、「β-OH値が0.05?0.6mm^(-1)の範囲」である「ガラス基板」であるのに対し、引1発明は、当該発明特定事項を備えていない点。

事案に鑑み、相違点5について検討する。
参考文献1(上記4(4)ア(イ))、参考文献2(上記4(4)イ(ア))、引用文献4(上記4(5))に記載されるように、β-OH値は、原料の選択やガラス溶解時の雰囲気等の製造条件やガラス組成に起因するガラス中への水の取り込み易さに依存することが本件特許の優先日当時の技術常識である。
一方、引用文献1には、原料の選択やガラス溶解時の雰囲気等の製造条件が十分に記載されていないから、引1発明のガラス基板が、参考文献1に記載のガラスや参考文献2に記載のガラス基板と同等の製造条件で製造されたものとすることには証拠がない。
また、引1発明のガラス基板と参考文献1に記載のガラス(上記4(4)ア(ウ)、(エ)の実施例4)や参考文献2に記載のガラス基板(上記4(4)イ(イ)、(ウ)の実施例1-25)とはガラス組成が異なるから、両者がガラス中への水の取り込み易さに関して同等であるとする証拠もない。
そうすると、引用文献1に記載されたガラスが参考文献1、2に記載されたガラスと同等のβ-OHを有するものであることを示す証拠はなく、参考文献1、2に記載されたガラスが「β-OH値が0.05?0.6mm^(-1)の範囲」のものであっても、引1発明のガラス基板が「β-OH値が0.05?0.6mm^(-1)の範囲」を満たすとまでは言うことができないから、相違点5は実質的なものである。
次に、相違点5に係る本件発明1の特定事項の容易想到性について検討すると、本件発明1は本件特許に係る明細書【0041】に記載されるように、低誘電損失性をさらに向上させるために、「β-OH値が0.05?0.6mm^(-1)の範囲」とするものであるところ、参考文献1、2を含めて、このような技術事項を示す証拠はない。
また、引1発明のガラス基板は、低誘電損失性が必要とされるものでもないから、引1発明において、引用文献2及び3に記載の本件特許の優先日当時における技術常識及び参考文献1、2に記載された技術事項を考慮しても、「β-OH値が0.05?0.6mm^(-1)の範囲」を満たすようにして、低誘電損失性をさらに向上させることは当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、引用文献1に記載された発明ではなく、また、引用文献1に記載された発明及び引用文献2及び3に記載の本件特許の優先日当時における技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明4について
本件発明4と引1発明とを対比すると、引1発明の「SiO_(2) 60.59モル%」の「ガラス基板」は、本件発明1の「SiO_(2)を主成分とするガラス基板」に相当する。
そうすると、両発明は、「SiO_(2)を主成分とするガラス基板」である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1’)本件発明4は、「酸化物基準のモル百分率で、アルカリ金属酸化物を合計含有量として0.001?0.2%の範囲で含有すると共に、前記アルカリ金属酸化物のうちNa_(2)O/(Na_(2)O+K_(2)O)で表されるモル比が0.01?0.99の範囲であり、Fe_(2)O_(3)換算でのFeの含有量が0%超0.012%以下であり、B_(2)O_(3)の含有量が18.5?30%の範囲であり、かつアルカリ土類金属酸化物を合計含有量として0.1?13%の範囲で含有する」のに対し、引1発明は「ガラス組成が、SiO_(2) 60.59モル%、Al_(2)O_(3) 8.16モル%、B_(2)O_(3) 23.43%モル、Na_(2)O 0.03モル%、K_(2)O 0.01モル%、MgO 3.44モル%、CaO 4.09モル%、SrO 0.01モル%、SnO_(2) 0.12モル%、ZrO_(2) 0.10モル%、Fe_(2)O_(3) 0.01モル%」である点。

(相違点2’)本件発明4は、「少なくとも1つの主表面の表面粗さが算術平均粗さRaの値として1.5nm以下」である「ガラス基板」であるのに対し、引1発明は、「ガラス溶融体を溶融延伸(fusion-drawing)する工程により形成された、すぐれた平面度を有するガラス基板」である点。

(相違点3’)本件発明4は、「35GHzにおける誘電正接が0.007以下」なる発明特定事項を備えるものであるのに対し、引1発明は、当該発明特定事項を備えていない点。

(相違点4’)本件発明4は、「10GHz以上の高周波信号を扱う高周波デバイスに用いられる」なる発明特定事項を備えるものであるのに対し、引1発明は、当該発明特定事項を備えていない点。

(相違点5’)本件発明4は、「β-OH値が0.05?0.6mm^(-1)の範囲」である「ガラス基板」であるのに対し、引1発明は、当該発明特定事項を備えていない点。

(相違点6)本件発明4は、「波長350nmの透過率が50%以上である」なる発明特定事項を備えるものであるのに対し、引1発明は、当該発明特定事項を備えていない点。

事案に鑑み、相違点5’について検討する。
相違点5’は相違点5と同様であるので、上記アと同様に判断されるから、相違点5’は実質的なものであって、引1発明において、引用文献2及び3に記載の本件特許の優先日当時における技術常識及び参考文献1、2に記載された技術事項を考慮しても、「β-OH値が0.05?0.6mm^(-1)の範囲」を満たすようにして、低誘電損失性をさらに向上させることは当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、引用文献1に記載された発明ではなく、また、引用文献1に記載された発明及び引用文献2及び3に記載の本件特許の優先日当時における技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件発明2、3、5、6、8?13について
請求項2、3、5、6、8?13は請求項1又は請求項4を引用するものであるから、本件発明2、3、5、6、8?13は本件発明1又は本件発明4と事情は同じである。
よって、本件発明2、3、5、6、8?13は、引用文献1に記載された発明ではなく、また、引用文献1に記載された発明及び引用文献2及び3に記載の本件特許の優先日当時における技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 本件発明14について
上記アと同様に、本件発明14と引1発明とを対比すると、両発明は、「SiO_(2)を主成分とするガラス基板」である点で一致し、「ガラス基板」に関して上記相違点1?3と同様の点で相違する他、次の点で相違する。

(相違点7)本件発明14は、「ガラス基板と、前記ガラス基板の前記主表面上に形成された配線層とを具備し」ており、「35GHzにおける伝送損失が1dB/cm以下である、10GHz以上の高周波信号を扱う高周波デバイスに用いられる回路基板」であるのに対し、引1発明は、当該発明特定事項を備えていない点。

事案に鑑み、相違点7について検討する。
まず、引用文献1の段落[0040]には、「タッチインターフェイス」という記載があり(上記4(1)ア(オ))、タッチインターフェイスにはガラス基板の表面に電極を形成するものもあることから、これが「回路基板」と解されるとしても、「タッチインターフェイス」が「10GHz以上の高周波信号を扱う高周波デバイスに用いられる回路基板」であるとする証拠はないから、相違点7は実質的なものである。
次に、相違点7に係る本件発明14の特定事項の容易想到性について検討すると、引用文献1には、引1発明のガラス基板が高周波信号の誘電損失が低減されたものであることを示す記載はなく、これを「10GHz以上の高周波信号を扱う高周波デバイスに用いられる回路基板」に適用とする動機付けは生じることがないから、引用文献2及び3に記載の本件特許の優先日当時における技術常識を考慮しても、引1発明のガラス基板を「10GHz以上の高周波信号を扱う高周波デバイスに用いられる回路基板」に適用することは当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明14は、引用文献1に記載された発明ではなく、また、引用文献1に記載された発明及び引用文献2及び3に記載の本件特許の優先日当時における技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ 本件発明17について
上記イと同様に、本件発明17と引1発明とを対比すると、両発明は、「SiO_(2)を主成分とするガラス基板」である点で一致し、「ガラス基板」に関して相違点1’?3’、6と同様の点で相違する他、次の点で相違する。

(相違点7’)本件発明17は、「ガラス基板と、前記ガラス基板の前記主表面上に形成された配線層とを具備し」ており、「35GHzにおける伝送損失が1dB/cm以下である、10GHz以上の高周波信号を扱う高周波デバイスに用いられる回路基板」であるのに対し、引1発明は、当該発明特定事項を備えていない点。

事案に鑑み、相違点7’について検討する。
相違点7’は相違点7と同様であるので、上記エと同様に判断されるから、相違点7’は実質的なものであって、引用文献2及び3に記載の本件特許の優先日当時における技術常識を考慮しても、引1発明のガラス基板を「10GHz以上の高周波信号を扱う高周波デバイスに用いられる回路基板」に適用とすることは当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明17は、引用文献1に記載された発明ではなく、また、引用文献1に記載された発明及び引用文献2及び3に記載の本件特許の優先日当時における技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

カ 本件発明15、16、18?26について
請求項15、16、18?26は請求項14又は17を引用するものであるから、本件発明15、16、18?26は本件発明14又は17と事情は同じである。
よって、本件発明15、16、18?26は、引用文献1に記載された発明ではなく、また、引用文献1に記載された発明及び引用文献2及び3に記載の本件特許の優先日当時における技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

キ 小活
以上のとおりであるから、取消理由1、取消理由2に理由はない。

(2)申立理由1について
ア 本件発明1、4について
甲第2号証?甲第4号証には、β-OH値について記載されていないから、これらの証拠を考慮しても、上記(1)ア及びイの判断に影響しない。
したがって、引1発明において、甲第2号証?甲第4号証に記載された技術事項を考慮しても、「β-OH値が0.05?0.6mm^(-1)の範囲」を満たすようにして、低誘電損失性をさらに向上させることは当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
よって、本件発明1、4は、引用文献1(甲第1号証)、甲第2号証?甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2、3、5、6、8?13について
請求項2、3、5、6、8?13は請求項1又は請求項4を引用するものであるから、本件発明2、3、5、6、8?13は本件発明1又は本件発明4と事情は同じである。
よって、本件発明2、3、5、6、8?13は、引用文献1(甲第1号証)、甲第2号証?甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件発明14、17について
甲第2号証?甲第4号証(上記4(3))には、それぞれ、ガラス繊維の発明が記載されており、回路基板について記載されていないから、これらの証拠を考慮しても、上記(1)エ及びオの判断に影響しない。
したがって、甲第2号証?甲第4号証に記載された技術事項を考慮しても、引1発明のガラス基板を「10GHz以上の高周波信号を扱う高周波デバイスに用いられる回路基板」に適用とすることは当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
よって、本件発明14、17は、引用文献1(甲第1号証)、甲第2号証?甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 本件発明15、16、18?26について
請求項15、16、18?26は請求項14又は17を引用するものであるから、本件発明15、16、18?26は本件発明14又は17と事情は同じである。
よって、本件発明15、16、18?26は、引用文献1(甲第1号証)、甲第2号証?甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ 小活
以上のとおりであるから、申立理由1に理由はない。

(3)申立理由2について
ア 本件発明1、4、14について
請求項1、4、14には、「10GHz以上の高周波信号を扱う高周波デバイスに用いられる」と記載されており、当該記載は、下限だけを示すような数値範囲限定であるものの、「高周波デバイス」で扱われる「高周波信号」には、本件特許の優先日当時の技術常識から一定の上限が存在することを考慮すれば、このような記載がある結果、本件発明1、4、14は、その範囲が不明確になっているとはいえない。

イ 本件発明4について
本件特許に係る明細書の段落【0076】には、「表1における組成において、(0.0)は、成分含有量が0.05%未満であることを示す。」と記載されているが、この記載は「表1における組成」において適用されるものであって、表1において「0.0」と記載された値は、実際の数値の小数点第二位を四捨五入した結果、「0.0」となる値であると解するのが妥当である。
したがって、「表1における組成」ではない請求項4の「Fe_(2)O_(3)換算でのFeの含有量が0%超0.012%以下」なる記載において、「0.0」%ではなく「0%」とされる下限や「0.012%」とされる小数点第三位まで規定される小数で特定された下限に対して、段落【0076】の上記記載を適用することは合理的ではない。
そうすると、請求項4の「Fe_(2)O_(3)換算でのFeの含有量が0%超0.012%以下」なる記載は、その文言どおりに解すればよいから、本件発明4は、その範囲が不明確になっているとはいえない。

ウ 小活
以上のとおりであるから、申立理由2に理由はない。

(4)申立人の主張について
申立人が令和3年7月15日提出の意見書においてする主張については以下のとおり、採用することができない。

ア 本件発明1?6、8?13について
(ア)申立人は、本件特許に係る明細書の段落【0082】、【0091】には、例4として従来のソーダライムガラス基板のβ-OH値が「0.19mm^(-1)」であることが記載されており、例5として従来の無アルカリガラス基板のβ-OH値が「0.28mm^(-1)」であるが記載されているから、「β-OH値が0.05?0.6mm^(-1)の範囲」であることは、従来のガラス基板が備える一般的なβ-OH値を規定しているに過ぎない旨を主張する。
しかしながら、参考文献1(上記4(4)ア(イ))、参考文献2(上記4(4)イ(ア))、引用文献4(上記4(5))に記載されるように、β-OH値は、原料の選択やガラス溶解時の雰囲気等の製造条件やガラス組成に起因するガラス中への水の取り込み易さに依存することが本件特許の優先日当時の技術常識である。
したがって、例4、例5を根拠にしても、従来のガラス基板がその製造条件や組成によらず、常に「β-OH値が0.05?0.6mm^(-1)の範囲」であると言うことはできない。

(イ)申立人は、本件特許に係る明細書の段落【0041】の記載を根拠に通常のガラス製造を行った場合には、ガラス基板のβ-OH値は、0.05mm^(-1)以上になり、引用文献1には、特殊なガラス製造を行うことも記載されていないから、引1発明のガラス基板の「β-OH値が0.05?0.6mm^(-1)の範囲」に含まれる旨を主張する。
しかしながら、この主張において、通常のガラス製造で製造したガラス基板のβ-OH値が、0.6mm^(-1)以下になることを示す証拠はないから、必ずしも、引1発明のガラス基板の「β-OH値が0.05?0.6mm^(-1)の範囲」に含まれるとはいえない。

(ウ)申立人は、参考文献1、参考文献2の記載を根拠にして、市販品を含む従来の一般的なオーバーフローダウンドロー法で成形されたガラス基板のβ-OH値が、0.05?0.6mm^(-1)の範囲に含まれることが明らかである旨を主張する。
しかしながら、上記5(1)アで検討したとおり、参考文献1、参考文献2の記載を根拠にしても、市販品を含む従来の一般的なオーバーフローダウンドロー法で成形されたガラス基板がその製造条件や組成によらず、常に「β-OH値が0.05?0.6mm^(-1)の範囲」のものであると言うことはできない。

イ 本件発明14?26について
申立人は、引用文献1の段落[0040](上記4(1)ア(オ))にガラス基板がタッチインターフェイスに使用されることが記載されていることを根拠にして、本件発明14?26が進歩性を有しない旨を主張する。
しかしながら、上記5(1)エで検討したとおり、段落[0040]の記載を考慮しても、引1発明のガラス基板を「10GHz以上の高周波信号を扱う高周波デバイスに用いられる回路基板」に適用とすることは当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、請求項1?6、8?26に係る特許は、特許異議申立書に記載された申立理由、及び、取消理由に記載した取消理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1?6、8?26に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件訂正請求により、請求項7は削除されたため、請求項7に係る特許についての特許異議の申立ては、その対象となる特許が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項で準用する同法135条の規定により、その申立てを却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物基準のモル百分率で、アルカリ金属酸化物を合計含有量として0.001?0.2%の範囲で含有すると共に、前記アルカリ金属酸化物のうちNa_(2)O/(Na_(2)O+K_(2)O)で表されるモル比が0.75?0.99の範囲であり、かつB_(2)O_(3)の含有量が18.5?30%の範囲であり、Al_(2)O_(3)およびB_(2)O_(3)を合計含有量として1?40%の範囲で含有すると共に、Al_(2)O_(3)/(Al_(2)O_(3)+B_(2)O_(3))で表されるモル比が0?0.45の範囲である、SiO_(2)を主成分とするガラス基板であって、
β-OH値が0.05?0.6mm^(-1)の範囲であり、
前記ガラス基板の少なくとも1つの主表面の表面粗さが算術平均粗さRaの値として1.5nm以下であり、かつ35GHzにおける誘電正接が0.007以下である、10GHz以上の高周波信号を扱う高周波デバイスに用いられるガラス基板。
【請求項2】
酸化物基準のモル百分率で、Fe_(2)O_(3)換算でのFeの含有量が0.012%以下である、請求項1に記載のガラス基板。
【請求項3】
波長350nmの透過率が50%以上である、請求項1又は2に記載のガラス基板。
【請求項4】
酸化物基準のモル百分率で、アルカリ金属酸化物を合計含有量として0.001?0.2%の範囲で含有すると共に、前記アルカリ金属酸化物のうちNa_(2)O/(Na_(2)O+K_(2)O)で表されるモル比が0.01?0.99の範囲であり、Fe_(2)O_(3)換算でのFeの含有量が0%超0.012%以下であり、B_(2)O_(3)の含有量が18.5?30%の範囲であり、かつアルカリ土類金属酸化物を合計含有量として0.1?13%の範囲で含有する、SiO_(2)を主成分とするガラス基板であって、
β-OH値が0.05?0.6mm^(-1)の範囲であり、
前記ガラス基板の少なくとも1つの主表面の表面粗さが算術平均粗さRaの値として1.5nm以下であり、かつ35GHzにおける誘電正接が0.007以下であり、波長350nmの透過率が50%以上である、10GHz以上の高周波信号を扱う高周波デバイスに用いられるガラス基板。
【請求項5】
酸化物基準のモル百分率で、Al_(2)O_(3)およびB_(2)O_(3)を合計含有量として1?40%の範囲で含有すると共に、Al_(2)O_(3)/(Al_(2)O_(3)+B_(2)O_(3))で表されるモル比が0?0.45の範囲である、請求項4に記載のガラス基板。
【請求項6】
酸化物基準のモル百分率で、Al_(2)O_(3)の含有量が0?10%の範囲である、請求項1?5のいずれか1項に記載のガラス基板。
【請求項7】(削除)
【請求項8】
35GHzにおける比誘電率が10以下である、請求項1?6のいずれか一項に記載のガラス基板。
【請求項9】
50?350℃における平均熱膨張係数が3?15ppm/℃の範囲である、請求項1?6、8のいずれか一項に記載のガラス基板。
【請求項10】
ヤング率が40GPa以上である、請求項1?6、8、9のいずれか一項に記載のガラス基板。
【請求項11】
気孔率が0.1%以下である、請求項1?6、8?10のいずれか一項に記載のガラス基板。
【請求項12】
厚さが0.05?1mmの範囲であると共に、基板面積が225?10000cm^(2)の範囲である、請求項1?6、8?11のいずれか一項に記載のガラス基板。
【請求項13】
非晶質である、請求項1?6、8?12のいずれか一項に記載のガラス基板。
【請求項14】
ガラス基板と、
前記ガラス基板の前記主表面上に形成された配線層とを具備し、
前記ガラス基板は、酸化物基準のモル百分率で、アルカリ金属酸化物を合計含有量として0.001?0.2%の範囲で含有すると共に、前記アルカリ金属酸化物のうちNa_(2)O/(Na_(2)O+K_(2)O)で表されるモル比が0.75?0.99の範囲であり、かつB_(2)O_(3)の含有量が18.5?30%の範囲であり、Al_(2)O_(3)およびB_(2)O_(3)を合計含有量として1?40%の範囲で含有すると共に、Al_(2)O_(3)/(Al_(2)O_(3)+B_(2)O_(3))で表されるモル比が0?0.45の範囲である、SiO_(2)を主成分とするガラス基板であって、
前記ガラス基板の少なくとも1つの主表面の表面粗さが算術平均粗さRaの値として1.5nm以下であり、かつ35GHzにおける誘電正接が0.007以下であり、
35GHzにおける伝送損失が1dB/cm以下である、10GHz以上の高周波信号を扱う高周波デバイスに用いられる回路基板。
【請求項15】
前記ガラス基板は、酸化物基準のモル百分率で、Fe_(2)O_(3)換算でのFeの含有量が0.012%以下である、請求項14に記載の回路基板。
【請求項16】
前記ガラス基板は、波長350nmの透過率が50%以上である、請求項14又は15に記載の回路基板。
【請求項17】
ガラス基板と、
前記ガラス基板の前記主表面上に形成された配線層とを具備し、
前記ガラス基板は、酸化物基準のモル百分率で、アルカリ金属酸化物を合計含有量として0.001?0.2%の範囲で含有すると共に、前記アルカリ金属酸化物のうちNa_(2)O/(Na_(2)O+K_(2)O)で表されるモル比が0.01?0.99の範囲であり、Fe_(2)O_(3)換算でのFeの含有量が0%超0.012%以下であり、B_(2)O_(3)の含有量が18.5?30%の範囲であり、かつアルカリ土類金属酸化物を合計含有量として0.1?13%の範囲で含有する、SiO_(2)を主成分とするガラス基板であって、
前記ガラス基板の少なくとも1つの主表面の表面粗さが算術平均粗さRaの値として1.5nm以下であり、かつ35GHzにおける誘電正接が0.007以下であり、波長350nmの透過率が50%以上であり、
35GHzにおける伝送損失が1dB/cm以下である、10GHz以上の高周波信号を扱う高周波デバイスに用いられる回路基板。
【請求項18】
前記ガラス基板は、酸化物基準のモル百分率で、Al_(2)O_(3)およびB_(2)O_(3)を合計含有量として1?40%の範囲で含有すると共に、Al_(2)O_(3)/(Al_(2)O_(3)+B_(2)O_(3))で表されるモル比が0?0.45の範囲である、請求項17に記載の回路基板。
【請求項19】
前記ガラス基板は、酸化物基準のモル百分率で、Al_(2)O_(3)の含有量が0?10%の範囲である、請求項14?18のいずれか一項に記載の回路基板。
【請求項20】
前記ガラス基板は、β-OH値が0.05?0.6mm^(-1)の範囲である、請求項14?19のいずれか一項に記載の回路基板。
【請求項21】
前記ガラス基板は、35GHzにおける比誘電率が10以下である、請求項14?20のいずれか一項に記載の回路基板。
【請求項22】
前記ガラス基板は、50?350℃における平均熱膨張係数が3?15ppm/℃の範囲である、請求項14?21のいずれか一項に記載の回路基板。
【請求項23】
前記ガラス基板は、ヤング率が40GPa以上である、請求項14?22のいずれか一項に記載の回路基板。
【請求項24】
前記ガラス基板は、気孔率が0.1%以下である、請求項14?23のいずれか一項に記載の回路基板。
【請求項25】
前記ガラス基板は、厚さが0.05?1mmの範囲であると共に、基板面積が225?10000cm^(2)の範囲である、請求項14?24のいずれか一項に記載の回路基板。
【請求項26】
前記ガラス基板は、非晶質である、請求項14?25のいずれか一項に記載の回路基板。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-09-28 
出願番号 特願2018-539619(P2018-539619)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C03C)
P 1 651・ 113- YAA (C03C)
P 1 651・ 121- YAA (C03C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 宮崎 大輔  
特許庁審判長 宮澤 尚之
特許庁審判官 伊藤 真明
金 公彦
登録日 2020-06-10 
登録番号 特許第6714884号(P6714884)
権利者 AGC株式会社
発明の名称 高周波デバイス用ガラス基板と高周波デバイス用回路基板  
代理人 特許業務法人栄光特許事務所  
代理人 特許業務法人栄光特許事務所  

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