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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A47K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A47K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A47K
管理番号 1379828
異議申立番号 異議2020-700876  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-12-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-11-16 
確定日 2021-10-08 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6701499号発明「ペーパータオルのロール体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6701499号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。 特許第6701499号の請求項2に係る特許を維持する。 特許第6701499号の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯

本件特許6701499号(以下「本件特許」という。)に係る特許出願は、平成27年12月24日に特許出願され、令和2年5月11日にその特許権の設定登録がされ、同年同月27日に特許掲載公報が発行されたものであり、その後の特許異議の申立ての経緯は以下のとおりである

令和2年11月16日 特許異議申立人赤松智信(以下「申立人」とい
う。)による請求項1及び2に係る発明の特許
に対する特許異議の申立て
令和3年 3月19日付け 取消理由通知
同年 5月21日 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
同年 7月 5日 申立人による意見書の提出

第2 訂正の適否についての判断

1.訂正の内容
令和3年5月21日提出の訂正請求書(以下「本件訂正請求書」という。)による訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)に係る訂正(以下「本件訂正」という。)は、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1及び2について訂正することを求めるものであり、その内容は以下のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項2に、
「前記ペーパータオルの乾燥時の縦方向引張り強さDMDと乾燥時の横方向引張り強さDCDの幾何平均GMTが、11.0N/25mm以上22.0N/25mm以下である、
請求項1に記載のペーパータオルのロール体。」
と記載されているのを、
「坪量が19.0g/m^(2)以上25.0g/m^(2)以下であり、叩解処理したパルプ繊維に乾燥紙力増強剤及び湿潤紙力増強剤を添加し、抄紙して得られる単一シートを2枚積層したペーパータオルのロール体であって、
前記ペーパータオルの吸水性TWAが170g/m^(2)以上220g/m^(2)以下であり、
単一シートを2枚積層したペーパータオルの一方の表面がエンボス凸部を有し、他方の表面に前記エンボス凸部の裏面で構成されるエンボス凹部を有し、前記エンボス凸部及び前記エンボス凹部を形成するエンボス加工のエンボス面積率が10%以上25%以下、エンボスエッジ率が0.4mm/mm^(2)以上0.5mm/mm^(2)以下であり、
前記ペーパータオルの乾燥時の縦方向引張り強さDMDと乾燥時の横方向引張り強さDCDの幾何平均GMTが、12.0N/25mm以上20.0N/25mm以下であり、
巻長が、20m以上40m以下であり、
巻径が、113mm以上120mm以下であり、
巻き硬さが、10.0mm未満である、
ペーパータオルのロール体。」
と訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(3)訂正事項3
願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の段落【0038】に、
「10mm以上の巻き硬さ」
と記載されているのを、
「10mm未満の巻き硬さ」
と訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否及び一群の請求項
(1)訂正事項1について
ア.訂正の目的の適否
上記訂正事項1に係る訂正は、
(ア)訂正前の請求項2の記載が訂正前の請求項1の記載を引用する記載であったものを、請求項1の記載を引用しないものとするとともに、
訂正前の請求項2について、
(イ)「エンボスエッジ率」の数値範囲を、訂正前の「0.3mm/mm^(2)以上0.6mm/mm^(2)以下」から訂正後の「0.4mm/mm^(2)以上0.5mm/mm^(2)以下」へと縮小し、
(ウ)「ペーパータオルの乾燥時の縦方向引張り強さDMDと乾燥時の横方向引張り強さDCDの幾何平均GMT」の数値範囲を、訂正前の「11.0N/25mm以上22.0N/25mm以下」から訂正後の「12.0N/25mm以上20.0N/25mm以下」へと縮小し、
(エ)「ペーパータオルのロール体」について「巻径が、113mm以上120mm以下であ」ることを限定するものである。
そうすると、訂正事項1のうち上記「(ア)」に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正であり、上記「(イ)ないし(エ)」に係る訂正は、同項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ.新規事項の有無
本件明細書には、上記「ア.(イ)ないし(エ)」の事項について、次の記載がある。
上記「ア.(イ)」の事項について、段落【0021】に「また、各単一シートにおけるエンボスエッジ率は、0.3mm/mm^(2)以上0.6mm/mm^(2)以下であることが好ましく、0.4mm/mm^(2)以上0.5mm/mm^(2)以下であることがより好ましい。エンボスエッジ率を上記の範囲内のものとすることにより、吸水性と、ペーパータオルの強度とがバランスの保たれたものとなる。」と記載されている。
上記「ア.(ウ)」の事項について、段落【0026】に「本発明が適用されるペーパータオルは、JIS P 8113(紙及び板紙 引張り特性の試験方法)に準拠して、幅25mmの試験片について測定される乾燥時の縦方向引張り強さ(DMD;Dry Machine Direction tensile strength)と横方向引張り強さ(DCD;Dry Cross Direction tensile strength)の幾何平均GMT(Geometric Mean Tensile strength)が、好ましくは、11.0N/25mm以上22.0N/25mm以下となり、より好ましくは、12.0N/25mm以上20.0N/25mm以下となる。GMTを上記の範囲内のものとすることにより、不織布シートが、実用に適した適度な破れにくさを有するものとなるとともに、十分な柔らかさを有するものとなる。」と記載されている。
上記「ア.(エ)」の事項について、段落【0035】の【表1】の「巻径(mm)」の行の「実施例1」の欄に「113」、「実施例2」の欄に「119」、「実施例3」の欄に「120」と記載されている。
そうすると、訂正事項1に係る訂正は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下「本件明細書等」という。)に記載した事項を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。

ウ.特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記「ア.(イ)及び(ウ)」の事項はそれぞれ「エンボスエッジ率」及び「ペーパータオルの乾燥時の縦方向引張り強さDMDと乾燥時の横方向引張り強さDCDの幾何平均GMT」の数値範囲を縮小するものであり、上記「ア.(エ)」の事項は「ペーパータオルのロール体」についてその「巻径」を特定するものであるから、訂正事項1に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
上記訂正事項2に係る請求項1についての訂正は、請求項を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)訂正事項3について
本件明細書の段落【0030】に「本発明のペーパータオルのロール体は、巻き硬さを10mm未満とすることが好ましく、4mm以上8mm以下とすることがより好ましい。」と記載され、段落【0038】に「表1から分かるように、巻き硬さを10mm未満とした実施例のペーパータオルのロール体では、ペーパータオルの吸水性が170g/m^(2)以上の良好なものとなり、強度も好適に維持された。」と記載されていることからみて、訂正前の本件明細書の段落【0038】の「10mm以上の巻き硬さ」との記載が「10mm未満の巻き硬さ」の誤記であることは明らかである。
そうすると、上記訂正事項3に係る本件明細書の段落【0038】についての訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記の訂正を目的とするものである。
そして、訂正事項3に係る訂正は、誤記の訂正を目的とするものであるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4)一群の請求項について
訂正前の請求項1及び2は、請求項2が請求項1を引用するものであるから、訂正前の請求項1及び2は一群の請求項である。
そして、上記訂正事項1及び2に係る訂正は、本件訂正前の請求項1及び2に関係する訂正であり、訂正事項3に係る訂正は、上記一群の請求項〔1、2〕に関係する明細書についての訂正であるから、本件訂正請求は一群の請求項ごとにされたものである。

3.小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第2号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲及び明細書のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。

第3 本件訂正特許発明

本件訂正請求により訂正された請求項1及び2に係る発明(以下、それぞれ「本件訂正特許発明1」及び「本件訂正特許発明2」という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
(削除)
【請求項2】
坪量が19.0g/m^(2)以上25.0g/m^(2)以下であり、叩解処理したパルプ繊維に乾燥紙力増強剤及び湿潤紙力増強剤を添加し、抄紙して得られる単一シートを2枚積層したペーパータオルのロール体であって、
前記ペーパータオルの吸水性TWAが170g/m^(2)以上220g/m^(2)以下であり、
単一シートを2枚積層したペーパータオルの一方の表面がエンボス凸部を有し、他方の表面に前記エンボス凸部の裏面で構成されるエンボス凹部を有し、前記エンボス凸部及び前記エンボス凹部を形成するエンボス加工のエンボス面積率が10%以上25%以下、エンボスエッジ率が0.4mm/mm^(2)以上0.5mm/mm^(2)以下であり、
前記ペーパータオルの乾燥時の縦方向引張り強さDMDと乾燥時の横方向引張り強さDCDの幾何平均GMTが、12.0N/25mm以上20.0N/25mm以下であり、
巻長が、20m以上40m以下であり、
巻径が、113mm以上120mm以下であり、
巻き硬さが、10.0mm未満である、
ペーパータオルのロール体。」

第4 特許異議申立理由の概要及び証拠

1.特許異議申立理由の概要
申立人は、特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、概ね以下の申立理由を主張するとともに、証拠方法として、以下の「2」に示す各甲号証(以下、各甲号証を「甲1」等、各甲号証に係る発明を「甲1発明」等ということがある。)を提出している。

(1)本件特許の請求項1及び2に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」及び「本件特許発明2」という。)は、甲第1号証に記載された発明に基づき、又は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第4号証に記載された事項に基づき、当業者が容易になし得た発明であり、その発明の特許は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明に対してなされたものである(甲第5号証?第7号証を参照のこと)。よって、本件特許発明1?2に係る特許は、特許法第113条第2号により取り消すべきものである。

(2)本件特許は、特許法第36条第6項第1号及び2号、並びに同条第4項第1号に規定する要件を満たさない出願に対してなされたものである(甲第5号証?第7号証を参照のこと)。よって、本件特許発明1?2に係る特許は、特許法第113条第4号により取り消すべきものである。

2.申立書に添付して提出された証拠方法
甲第1号証 特開2010-68972号公報
甲第2号証 特開2013-208298号公報
甲第3号証 特開2014-45808号公報
甲第4号証 米国特許出願公開第2014/0117135号明細書
甲第5号証 「最新 紙加工便覧」、株式会社テックタイムス、
昭和63年8月20日発行、第893?898ページ
甲第6号証 特開昭61-33628号公報
甲第7号証 特開2010-202990号公報

第5 取消理由通知に記載した取消理由の概要

令和3年3月19日付け取消理由通知に記載した取消理由の概要は以下のとおりである。

1.(サポート要件)本件特許の特許請求の範囲の請求項1及び2の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。

2.(進歩性)本件特許の請求項1及び2に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された甲第1号証に記載された発明、及び、甲第2号証ないし甲第4号証に示される周知技術に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであって、取り消されるべきものである。

第6 取消理由通知に記載した取消理由についての当審の判断

1.特許法第36条第6項第1号(サポート要件)
(1)取消理由の概要
取消理由通知に記載した特許法第36条第6項第1号(サポート要件)に係る取消理由の概要は次のとおりである。

ア.訂正前の本件特許の請求項1及び2に係る発明(以下、合わせて「本件特許発明」という。)の課題は、本件明細書の記載からみて「風合い及び吸水量が良好に保たれたペーパータオルのロール体を提供すること」(段落【0004】)であると認められる。

イ.一方、本件明細書の段落【0021】には、「エンボスエッジ率」について、「また、各単一シートにおけるエンボスエッジ率は、0.3mm/mm^(2)以上0.6mm/mm^(2)以下であることが好ましく、0.4mm/mm^(2)以上0.5mm/mm^(2)以下であることがより好ましい。エンボスエッジ率を上記の範囲内のものとすることにより、吸水性と、ペーパータオルの強度とがバランスの保たれたものとなる。」と記載されているものの、当該記載からは、エンボスエッジ率を0.3mm/mm^(2)以上0.6mm/mm^(2)以下の数値範囲とすることにより、どのような作用機序によって「吸水性と、ペーパータオルの強度とがバランスの保たれたものとな」り、本件特許発明の課題が解決されるのかが明らかでない。

ウ.一方、本件明細書の段落【0034】ないし【0038】に記載された実施例を参照すると、【表1】によれば、エンボスエッジ率を0.42mm/mm^(2)としたものについては、本件特許の課題を解決することができると認められるが、それ以外のものについては、本件特許の課題を解決することができるのかが明らかでない。

エ.そうすると、出願時の技術常識に照らしても、本件特許発明の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。

(2)取消理由についての判断
ア.本件訂正により、本件訂正特許発明2の「エンボスエッジ率」の数値範囲は「0.4mm/mm^(2)以上0.5mm/mm^(2)以下」に訂正された。

イ.本件明細書には段落【0033】ないし【0038】に実施例について記載されているところ、その試験結果等をまとめた【表1】は次のものである。



上記【表1】には、実施例のもののエンボスエッジ率が0.42mm/mm^(2)であることが記載されているとともに、段落【0038】には「表1から分かるように、巻き硬さを10mm未満とした実施例のペーパータオルのロール体では、ペーパータオルの吸水性が170g/m^(2)以上の良好なものとなり、強度も好適に維持された。」と記載されている。
また、上記【表1】には、比較例のもののエンボスエッジ率が0.53mm/mm^(2)であり、吸水率(TWA)が153g/m^(2)であることが記載されている。

ウ.そうすると、本件明細書にはエンボスエッジ率が0.42mm/mm^(2)のペーパータオルは吸水性が良好であり強度も好適であることが記載されているといえ、当業者であれば、エンボスエッジ率が0.42mm/mm^(2)に十分近い値とされたペーパータオルは同様に吸水性が良好であり強度も好適であることを理解することができる。

エ.一方、エンボスエッジ率が0.53mm/mm^(2)の比較例においては、吸水率(TWA)が153g/m^(2)であって、上記「イ.」の段落【0038】の記載において「良好」とされる「170g/m^(2)以上」の範囲外であるから、エンボスエッジ率が0.53mm/mm^(2)のペーパータオルは、吸水性が良好とはいえないことを理解することができる。

オ.そして、本件明細書の段落【0021】には、「エンボスエッジ率」について、「また、各単一シートにおけるエンボスエッジ率は、0.3mm/mm^(2)以上0.6mm/mm^(2)以下であることが好ましく、0.4mm/mm^(2)以上0.5mm/mm^(2)以下であることがより好ましい。エンボスエッジ率を上記の範囲内のものとすることにより、吸水性と、ペーパータオルの強度とがバランスの保たれたものとなる。」と記載されているところ、このうち「0.4mm/mm^(2)以上0.5mm/mm^(2)以下」という数値範囲は上記「ウ.及びエ.」の条件に合致するものであるから、当業者は、エンボスエッジ率が当該数値範囲内のペーパータオルであれば「吸水性と、ペーパータオルの強度とがバランスの保たれたものとなる」ことを理解することができるといえる。

カ.そうすると、本件特許の特許請求の範囲の請求項2の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。
なお、本件特許の特許請求の範囲の請求項1は、本件訂正により削除された。

2.特許法第29条第2項(進歩性)
(1)甲号証
ア.甲第1号証
甲第1号証には次の記載がある(下線は当審が付与した。以下同様。)。

(ア)「【請求項1】
パルプ又は古紙配合パルプを叩解して抄紙してなり乾燥紙力増強剤を含む坪量19g/m^(2)以上23g/m^(2)以下の単一シートを2枚重ねたペーパータオルであって、
前記単一シートはそれぞれエンボス加工されて糊付けされ、
保水量が190g/m^(2)以上、GMTが11.3以上であるペーパータオル。
【請求項2】
前記一方の単一シートのエンボス凸部は、前記他の単一シートのエンボス凹部に入り込んだ状態で糊付けされている請求項1記載のペーパータオル。」

(イ)「【0012】
(エンボス加工)
単一シートはエンボス加工され、一方の表面にエンボス凸部を有し、反対面にはエンボス凸部の裏側で構成されるエンボス凹部を有している。エンボス加工は公知の方法で行うことができ、例えば、ほぼ相補的な形状の雄(凸)エンボスロールと雌(凹)エンボスロールとがほぼぴったりと噛み合う「マッチした」エンボスロールにより加工してもよい。これに代えて、雄(凸)エンボスロールと雌(凹)エンボスロールの形状が同一でなく、両者が噛み合った際にシートにせん断力を与える、いわゆる「マッチしていない」エンボスロールにより加工してもよい。
各単一シートにおいて、エンボス凸部のエンボス面積率は、5?30%であることが好ましく、14?25%であることが更に好ましい。エンボス面積率が5%未満であると、吸水性が低下し、30%を超えると強度が低下する場合がある。なお、エンボス凸部のエンボス面積率は、シート上に施されたエンボス部の面積を測定し、その面積率として算出することができる。
【0013】
(単一シートの積層)
エンボス加工された2枚の単一シートは、一方の単一シートのエンボス凸部が他の単一シートの所定部位に糊付けされてペーパータオルとなる。
特に、一方の単一シートのエンボス凸部が、他の単一シートのエンボス凹部に入り込んだ状態で糊付けされている(いわゆるネステッド(nested)エンボス)ことが好ましい。ネステッドエンボスとすると、2枚の単一シート間に空間が保持され、吸水性や嵩高さを向上させることができる。
なお、各単一シートの糊付けに用いる糊の濃度を従来より高濃度(例えば、1.5倍以上)とすると、ペーパータオルの強度(特にGMT)が向上するので好ましい。糊付けに用いる糊としては特に制限されないが、例えば、ポリビニルアルコール、澱粉系等が例示される。
【0014】
(ペーパータオルの特性)
以上のようにして得られたペーパータオルは、保水量が190g/m^(2)以上、GMTが11.3以上であり、坪量が少ないにもかかわらず、強度と吸水性に優れている。
保水量(TWA(Total Water Absorbency))は、以下のようにして求める。まず、得られたペーパータオルを76×76mmの正方形の試験片に切断し、乾燥重量(W_(1))を測定する。その後、この試験片を蒸留水中に2分間浸漬した後、試験片の1つの角部が上側の頂部となるようにし、この頂部と隣接する2つの角部とを支持して展伸した状態(RH100%)で吊るし、30分放置後の重量(W_(2))を測定する。(W_(2)-W_(1))の値を算出し、この値をペーパータオル1m^(2)当りに換算したものを保水量(TWA)とする。
【0015】
GMTは、以下のようにして求める。まず、得られたペーパータオルの縦方向(機械方向、MD方向、繊維方向)に沿い、幅25mmの短冊状の試験片Aを切り出す。同様に、縦方向と直角な横方向に沿い、幅25mmの短冊状の試験片Bを切り出す。各試験片の引張強度(単位はN/25mm)を、JIS-P8113(紙及び板紙 引張特性の試験方法)に従って測定する。試験片Aについて得られた「乾燥縦引張強度」と、試験片Bについて得られた「乾燥横引張強度」に対し、GMT=√(乾燥縦引張強度×乾燥横引張強度)によってGMTを算出する。
【0016】
(ペーパータオルのロール体)
上記したペーパータオルを、巻芯の周りに巻回してロール体が得られる。巻芯としては特に制限されず、紙芯等を用いることができる。
本発明のロール体は、625gの荷重下で、ロール体の径の変形量が12mm以下であり、巻長(ロールを展開したときの全長)11.0?12.0m、巻径(ロール体の外径)100?120mmである。変形量が12mmを超えるものは、つぶれやすく、ペーパータオルの強度も低くなる。625gの荷重下で、ロール体の径の変形量が7?9mmであることが好ましい。
ロール体の径の変形量は、図1に示す測定装置10を用いて測定する。測定装置10は、ベース部2と、支持棒4a、4bと、移動錘乗せ板6と、625gの錘8とを備える。2本の支持棒4a、4bは、ベース部2から垂直に立上り、矩形状の移動錘乗せ板6の両端には各支持棒4a、4bの挿通孔が設けられている。そして、ベース部2部上にあって各支持棒4a、4bの間にロール体20を載置し、ロール体2の上から移動錘乗せ板6に各支持棒4a、4bを挿通し、移動錘乗せ板6をロール体2の上面に載せる。この状態での移動錘乗せ板6の高さを初期高さh1とする。さらに移動錘乗せ板6に錘8を乗せると、錘8の重さによって移動錘乗せ板6が各支持棒4a、4bを通して摺動しつつ、ロール体2を変形させて沈み込むので、このときの高さh2を測定し、(h2-h1)をロール体の径の変形量として求める。ここで、加工工程におけるロールのハンドリング性やロール変形等の管理の為に625gの錘が適している。」

(ウ)「【0019】
針葉樹クラフトパルプ(N-BKP)と広葉樹クラフトパルプ(L-BKP)とからなる紙料をリファイナーで叩解処理し、更に乾燥紙力増強剤(カチオン化デンプン)を表1の割合で添加し、さらに湿潤紙力増強剤(ポリアミドエピクロロヒドリン樹脂)を所定量添加し、表1に示す坪量の単一シートをティシュ抄紙機により製造した。
次に、エンボス加工機により、この単一シートにエンボス加工を施した。エンボス凸部の面積率が14.0%又は24.0%となるよう、エンボス加工機のエンボスロールを設定した。シート上に施されたエンボス部の面積を測定して面積率として算出した。
エンボス加工した単一シートのうち、1枚の単一シートのエンボス凸部に水溶性糊(ポリビニルアルコール)を塗布し、このエンボス凸部が、他の単一シートのエンボス凹部に入り込んだ状態(ネステッドエンボス)で糊付けした。糊の原液に所定量の水を加え、表1に示す希釈率で希釈して用いた。このようにして得られた表1に示す各ペーパータオルを、それぞれ実施例1?3とする。
このようにして得られたペーパータオルの幅方向に、所定の切断強度でミシン目を入れ、巻芯の周りに巻回してロール体を得た。なお、ミシン刃の抜き間隔7%のミシン刃を使用した。ここで、抜き間隔とは、ミシン刃の全幅に対する、ミシン刃の切断部分の幅(切断幅)の合計長さの割合をいう。」

(エ)「【0021】
【表1】


(オ)上記「(エ)」の【表1】における実施例1ないし3についての記載から、次のことがいえる。
・単一シートの坪量が19.4g/m^(2)以上22.8g/m^(2)以下である。
・エンボス加工のエンボス面積率が14%以上24%以下である。
・ペーパータオルの強度(GMT)が、11.3N/25mm以上11.5N/25mm以下である。
・ペーパータオルの保水量が190g/m^(2)以上210g/m^(2)以下である。
・ペーパータオルのロール体の径の変形量が8mm以上9mm以下である。

(カ)以上を総合すると、甲第1号証には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。

「針葉樹クラフトパルプと広葉樹クラフトパルプとからなる紙料を叩解処理し、
乾燥紙力増強剤を添加し、さらに湿潤紙力増強剤を添加し、
ティシュ抄紙機により製造し、
エンボス加工を施し、エンボス加工した単一シートのうち、1枚の単一シートのエンボス凸部が、他の単一シートのエンボス凹部に入り込んだ状態(ネステッドエンボス)で糊付けした、
単一シートを2枚重ねたペーパータオルを巻回したロール体であって、
巻長11.0?12.0m、巻径100?120mmであり、
単一シートの坪量が19.4g/m^(2)以上22.8g/m^(2)以下であり、
エンボス加工のエンボス面積率が14%以上24%以下であり、
ペーパータオルの強度(GMT)が、11.3N/25mm以上11.5N/25mm以下であり、
ペーパータオルの保水量が190g/m^(2)以上210g/m^(2)以下であり、
ペーパータオルのロール体の径の変形量が8mm以上9mm以下である
ロール体。」

イ.甲第2号証
甲第2号証には次の記載がある。

(ア)「【請求項1】
2プライの長尺のキッチンペーパーを巻き取ってロール状としたキッチンペーパーロールであって、
2プライを構成する各シートが坪量15?35g/m^(2)のクレープ紙であり、
各シートの長手方向の伸び率の差が3?10%あり、
各シートにエンボスが付与され、
各シートのエンボス凸部の頂部同士が対面して位置されているとともに、その頂部を介して両シートが接着され、
かつ、伸び率の高いシートが外側、伸び率の低いシートが内側となるようにして、巻き取られてロール形態とされている、ことを特徴とするキッチンペーパーロール。
【請求項2】
各シートに、深さ0.2?2.0mm、面積0.5?40mm^(2)のエンボスが、エンボス密度10?500個/cm^(2)で付与されている、請求項1記載のキッチンペーパーロール。
【請求項3】
キッチンペーパーロールは、長尺のキッチンペーパーを管芯に巻き取ったものであり、その直径が90?130mmであり、管芯径が30?50mmであり、キッチンペーパーの巻長さ8.8?30mであり、かつ、裁断用のミシン目線が、キッチンペーパー長手方向に100?300mmの間隔で設けられている、請求項1又は2記載のキッチンペーパーロール。」

(イ)「【0020】
また、キッチンペーパーロールの直径が90?130mmであり、管芯径が30?50mmであり、キッチンペーパーの巻長さ8.8?30mであると、管芯際まで十分にカールの発生が抑制される。さらに、裁断用のミシン目線が、キッチンペーパー長手方向に100?300mmの間隔で設けられていると、裁断後のシートが平坦で使用しやすいものとなる。」

ウ.甲第3号証
甲第3号証には次の記載がある。

(ア)「【0021】
本実施形態に係るキッチンペーパーロール1は、帯状の2枚のクレープ紙が積層されてなる2プライのキッチンペーパー10が、短手方向の紙幅と実質的に同幅の紙管11に巻かれたロール形態をなす。
本発明に係るキッチンペーパーロール1は、その巻き終わり部分が巻き取り部分に接着糊により接着されており、これにより使用開始前に意図せず巻き終わり部分が自由となって巻きほどけないようになっている(接着部分を符号10sで示す)。
なお、キッチンペーパーロール1の寸法等は、必ずしも限定はされないが、好適には、紙管径L1が30?50mm、外径L2が90?130mm、幅L3が100?250mm程度であり、キッチンペーパーの巻長さが8.8?30mである。
また、本形態に係るキッチンペーパー10は、好ましい例として、シート長手方向の所定間隔おきにキッチンペーパーシート幅方向に亘るミシン目線が設けられており、適宜の大きさに裁断し易くなっている。この所定間隔は、48?250mm程度である。」

エ.甲第4号証
甲第4号証には次の記載がある(括弧内は当審で作成した仮訳である。)。

(ア)「TECHNICAL FIELD
[0002] The present disclosure relates to the field of absorbent paper products intended for wiping, in particular for domestic use.」(第1ページ左欄第8?11行)
(仮訳:技術分野
[0002]本開示は、特に家庭用の、拭き取りを目的とする吸収性紙製品の分野に関する。)

(イ)「1. A roll of wiping paper(中略)
4. The roll according to claim 1, wherein the sheet has a length of between 8 m and 30 m and the strip forming the sheet is precut along transverse separating lines into successive individual lengths, the number of individual lengths being between 25 and 300 and the length of the individual lengths being between 100 and 300 mm.」(第6ページ左欄第1?22行)
(仮訳:1.拭き取り紙のロール(中略)
4.シートが8mから30mの間の長さを有し、シートを形成する帯が横方向の分離線に沿って連続する個々の長さにプレカットされ、個々の長さの数が25から300の間であり、個々の長さが100から300mmの間である、請求項1に記載のロール。)

(2)本件訂正特許発明2について
ア.対比
本件訂正特許発明2と甲1発明とを対比する。

(ア)甲1発明の「単一シート」、「ペーパータオル」、「エンボス凸部」、「エンボス凹部」及び「ロール体」は、本件訂正特許発明2の「単一シート」、「ペーパータオル」、「エンボス凸部」、「エンボス凹部」及び「ロール体」にそれぞれ相当する。

(イ)甲1発明の「坪量が19.4g/m^(2)以上22.8g/m^(2)以下であり」は、本件訂正特許発明2の「坪量が19.0g/m^(2)以上25.0g/m^(2)以下であり」に相当する。

(ウ)「針葉樹クラフトパルプと広葉樹クラフトパルプとからなる紙料を叩解処理」すれば、当該「紙料」が繊維状となることは明らかであるから、甲1発明の「針葉樹クラフトパルプと広葉樹クラフトパルプとからなる紙料を叩解処理し、乾燥紙力増強剤を添加し、さらに湿潤紙力増強剤を添加し、ティシュ抄紙機により製造し」は、本件訂正特許発明2の「叩解処理したパルプ繊維に乾燥紙力増強剤及び湿潤紙力増強剤を添加し、抄紙して得られる」に相当する。

(エ)甲1発明の「単一シートを2枚重ねたペーパータオルを巻回したロール体」は、本件訂正特許発明2の「単一シートを2枚積層したペーパータオルのロール体」に相当する。

(オ)本件訂正特許発明2の「吸水性TWA」の測定方法について、本件明細書の段落【0025】には、「なお、吸水性は、以下の測定方法に従って求めることができる。まず、ペーパータオルを76mm×76mmの正方形に切断してサンプルを作製し、乾燥重量を測定する。次に、このサンプルを蒸留水中に2分間浸漬した後、水蒸気飽和状態(RH100%)の容器中で、サンプルの1つの角部が上側の頂部となるようにし、この頂部と隣接する2つの角部とを支持して展伸した状態で吊るし、30分放置して水切り後の重量を測定する。そして、測定値をサンプル1m^(2)あたりの吸水性(g/m^(2))に換算する。」と記載されている。
一方、甲1発明の「保水量」は、甲第1号証の段落【0014】(上記「(1)ア.(イ)」参照)記載の方法で測定されるものであるから、本件訂正特許発明2の「吸水性TWA」と甲1発明の「保水量」とは同様の測定方法で測定されることが理解できる。
そうすると、甲1発明の「ペーパータオルの保水量が190g/m^(2)以上210g/m^(2)以下であり」は、本件訂正特許発明2の「前記ペーパータオルの吸水性TWAが170g/m^(2)以上220g/m^(2)以下であり」に相当する。

(カ)甲1発明の「エンボス加工を施し、エンボス加工した単一シートのうち、1枚の単一シートのエンボス凸部が、他の単一シートのエンボス凹部に入り込んだ状態(ネステッドエンボス)で糊付けした」は、本件訂正特許発明2の「単一シートを2枚積層したペーパータオルの一方の表面がエンボス凸部を有し、他方の表面に前記エンボス凸部の裏面で構成されるエンボス凹部を有し」に相当する。

(キ)甲1発明の「エンボス加工のエンボス面積率が14%以上24%以下であり」は、本件訂正特許発明2の「前記エンボス凸部及び前記エンボス凹部を形成するエンボス加工のエンボス面積率が10%以上25%以下」に相当する。

(ク)甲第1号証の段落【0016】に記載された「ロール体の径の変形量」についての記載を踏まえると、甲1発明の「ペーパータオルのロール体の径の変形量が8mm以上9mm以下である」は、本件訂正特許発明2の「巻き硬さが10.0mm未満である」に相当する。

(ケ)そうすると、本件訂正特許発明2と甲1発明とは、
「坪量が19.0g/m^(2)以上25.0g/m^(2)以下であり、叩解処理したパルプ繊維に乾燥紙力増強剤及び湿潤紙力増強剤を添加し、抄紙して得られる単一シートを2枚積層したペーパータオルのロール体であって、
前記ペーパータオルの吸水性TWAが170g/m^(2)以上220g/m^(2)以下であり、
単一シートを2枚積層したペーパータオルの一方の表面がエンボス凸部を有し、他方の表面に前記エンボス凸部の裏面で構成されるエンボス凹部を有し、前記エンボス凸部及び前記エンボス凹部を形成するエンボス加工のエンボス面積率が10%以上25%以下であり、
巻き硬さが10.0mm未満であるペーパータオルのロール体。」
の点で一致し、次の点で相違している。

(相違点1)
エンボスエッジ率が、本件訂正特許発明2においては「0.4mm/mm^(2)以上0.5mm/mm^(2)以下」であるのに対して、甲1発明においてはどのような数値範囲であるか明らかでない点。

(相違点2)
ペーパータオルの乾燥時の縦方向引張り強さDMDと乾燥時の横方向引張り強さDCDの幾何平均GMT(以下「GMT」という。)が、本件訂正特許発明2においては「12.0N/25mm以上20.0N/25mm以下」であるのに対して、甲1発明においては「11.3N/25mm以上11.5N/25mm以下」である点。

(相違点3)
巻長が、本件訂正特許発明2においては「20m以上40m以下」であるのに対して、甲1発明においては「11.0?12.0m」である点。

(相違点4)
巻径が、本件訂正特許発明2においては「113mm以上120mm以下」であるのに対して、甲1発明においては「100?120mm」である点。

イ.判断
事案に鑑み、まず相違点1及び2について検討する。

(ア)相違点1について
甲1発明は「エンボス」について「エンボスエッジ率」のみならず「エンボス面積率」の数値範囲を特定するものであって、「エンボスエッジ率」と「エンボス面積率」とは、ともに「エンボス」の形状、面積、密度等によって変化する点においては共通するものと認められる。
しかしながら、本件明細書によれば「エンボスエッジ率は、単位面積あたりのエンボス凸部の各辺の総計により求められ」(段落【0021】)るところ、例えば、単位面積に特定の形状の1のエンボスを設けた場合と、これと相似で合計面積が等しい複数のエンボスを設けた場合とでは、後者の方がエンボス凸部の各辺総計が大きいことが明らかであるように、エンボス凸部の面積が同一であっても、その形状や大きさによってエンボス凸部の各辺の長さが異なり得るから、本件訂正特許発明2と甲1発明との「エンボス面積率」が一致することを根拠として、両者の「エンボスエッジ率」が一致するということはできない。
また、甲1発明で規定されている「巻長」、「巻径」、「坪量」、「強度(GMT)」、「保水量」及び「ロール体の径の変形量」は、いずれもシート又はペーパータオルについての事項であって、エンボスの性質を直接規定するものではないし、これらの指標がエンボス以外の技術的事項にも応じて変化することは明らかであるから、これらの事項を参酌しても、本件訂正特許発明2と甲1発明との「エンボスエッジ率」が一致するということはできない。
さらに、甲第2号証ないし甲第4号証には、それぞれ上記「(1)イ.ないしエ.」で摘記した事項が記載されているが、これらの事項から、エンボスエッジ率を0.4mm/mm^(2)以上0.5mm/mm^(2)以下とすることが、記載または示唆されているということもできない。
そして、本件訂正特許発明2は「エンボスエッジ率」を所定の数値範囲とすることにより、明細書記載の「吸水性と、ペーパータオルの強度とがバランスの保たれたものとなる」(段落【0021】)という効果を奏するものである。
そうすると、甲1発明において相違点1に係る本件訂正特許発明2の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。

(イ)相違点2について
甲1発明におけるGMTの数値範囲は「11.3N/25mm以上11.5N/25mm以下」であって、本件訂正特許発明2における「12.0N/25mm以上20.0N/25mm以下」とは重複しない。
また、甲第1号証の【請求項1】には「GMTが11.3以上である」との記載もあるが、GMTの当該数値範囲は本件訂正特許発明2における数値範囲を包含するものであるから、本件訂正特許発明2の上位概念が開示されているにとどまる。そうすると、上記事項が記載されていることを以て、甲第1号証に相違点2に係る本件訂正特許発明2の発明特定事項が記載されているとすることもできない。
そして、本件訂正特許発明2は「GMT」を所定の数値範囲とすることにより、明細書記載の「不織布シートが、実用に適した適度な破れにくさを有するものとなるとともに、十分な柔らかさを有するものとなる」(段落【0026】)という効果を奏するものである。
そうすると、甲1発明において相違点2に係る本件訂正特許発明2の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。

(ウ)小括
相違点1及び2については以上のとおりであるから、その余の相違点について検討するまでもなく、本件訂正特許発明2は、甲第1号証に記載された発明、及び、甲第2号証ないし甲第4号証に示される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
なお、本件特許の特許請求の範囲の請求項1は、本件訂正により削除された。

第7 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由についての当審の判断

1.特許法第36条第6項第1号(サポート要件)、同条同項第2号(明確性要件)及び同条第4項第1号(実施可能要件)について
(1)申立人の主張の概要
申立人は、申立書及び令和3年7月5日提出の意見書(以下、単に「意見書」という。)において、特許法第36条第6項第1号(サポート要件)、同条同項第2号(明確性要件)及び同条第4項第1号(実施可能要件)について、概略、次のとおり主張している。
なお、本件訂正により、本件特許の特許請求の範囲の請求項1は削除され、同請求項2は訂正されているところ、申立書における訂正前の請求項1及び2についての申立人の主張は、本件訂正後も維持されているものと認められるから、以下では本件訂正特許発明2に対する主張として検討する。

ア.エンボス面積率の一義性について
エンボスは立体的なものであり、平面視した際の面積は、凸部のどの高さにおけるものかにより違いが生じるし、エンボスは、エンボス型に完全に追随した形に形成されるわけではなく、エンボス凸部の頂面の面積、底面の面積も一義的には決まらないから、エンボス凸部の面積は一義的には決まらず、エンボス凸部の面積に基づくエンボス面積率も一義的には決まらない。
よって、本件訂正特許発明2は不明確であり、当業者は本件訂正特許発明2を実施できない。
(申立書第22ページ第14行?第23ページ第14行、意見書第4ページ第4行?第5ページ第23行)

イ.エンボスエッジ率の一義性について
エンボスは立体的なものであり、平面視した際のエッジの長さは、凸部のどの高さにおけるものかにより違いが生じるし、エンボスは、エンボス型に完全に追随した形に形成されるわけではなく、エンボス凸部の頂面のエッジの位置、底面のエッジの位置も一義的には決まらないから、エンボス凸部のエッジの長さは一義的には決まらず、エンボス凸部のエッジの長さに基づくエンボスエッジ率も一義的には決まらない。
よって、本件訂正特許発明2は不明確であり、当業者は本件訂正特許発明2を実施できない。
(申立書第23ページ第15行?第24ページ第14行、意見書第4ページ第4行?第5ページ第23行)

ウ.エンボスエッジ率による効果について
(ア)エンボスには多様な形状が存在するにも関わらず、本件特許の効果を奏するエンボスエッジ率の範囲が、あらゆる形状のエンボスにおいて、同一であると理解するとはできないから、当業者は、あらゆる形状のエンボスにおいて、エンボスエッジ率を所定の範囲とすることにより本件特許発明の効果を奏すると理解することができず、本件訂正特許発明2は、「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えており、サポート要件を満たさない(申立書第24ページ第15行?第25ページ第2行)。

(イ)訂正後の請求項2において、エンボスの平面形状は、矩形にとどまらず、円形、正方形、菱形、楕円形、多角形等も許容されているが、エンボス面積率、エンボスエッジ率の適切な範囲が、エンボス平面の具体的な形状により異なることは自明であり、当業者は、訂正後の請求項2で許容されているあらゆる形状のエンボスにおいて、エンボス面積率とエンボスエッジ率を訂正後の請求項2で規定される範囲とすることにより本件特許発明の効果を奏すると理解することができない。
すなわち、本件訂正特許発明2は、発明の詳細な説明に記載された発明の課題を解決するための手段が反映されておらず、サポート要件を満たしていない。
(意見書第3ページ第4行?第4ページ第3行)

エ.エンボスエッジ率の調整方法について
当業者は、エンボスを平面視した際の形状、エンボス一個あたりの面積、単位面積あたりのエンボスの個数の各々をどのように調整して、所定のエンボスエッジ率の範囲とすればよいのかを、理解することができず、エンボスエッジ率の調整方法を理解できないので、本件訂正特許発明2を実施できない。
(申立書第25ページ第3?14行)

オ.巻き硬さについて
本件明細書の実施例1?3によれば、巻き硬さの数値が小さいほど、すなわち、ロール体が硬い程、巻長を長くしやすい一方、吸水性TWAは低下しやすく、反対に、巻き硬さの数値が大きいほど、すなわち、ロール体が柔らかい程、吸水性TWAを高めやすい一方、巻長を長くしにくいことが理解できる。
してみると、巻き硬さが実施例1の5.8mmより大きい場合にも、巻長を20m以上にできるとは理解できないし、巻き硬さが実施例3より小さい場合にも、TWAを170g/m^(2)以上にできるとは理解できないから、当業者は、巻き硬さの数値範囲の全範囲において、本件特許発明の効果を奏すると理解することができず、本件訂正特許発明2は、「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えており、サポート要件を満たさない。
(申立書第25ページ第15行?第26ページ第8行)

カ.エンボスの形状、コア外径及び巻密度について
訂正後の請求項2では、エンボスの形状、コア外径、巻密度について規定されていない。
したがって、本件訂正特許発明2は、発明の詳細な説明に記載された発明の課題を解決するための手段が反映されておらず、サポート要件を満たしていない。
(意見書第2ページ第2行?第3ページ第3行)

(2)当審の判断
ア.エンボス面積率及びエンボスエッジ率の一義性について
例えば、甲第1号証(上記「第5 2.(1)ア.(イ)」参照)にエンボス面積率について、甲第2号証(上記「第5 2.(1)イ.(ア)」参照)にエンボスの面積について、甲第6号証(第3ページ右上欄第13?16行)に凹みの長さ及び間隔について、甲第7号証(段落【0040】)にエンボスの天部の面積について、それぞれ具体的な値が記載されていることからすれば、エンボスの面積や長さは本件特許の属する技術分野において従来一般に用いられている指標であり、その測定方法は当業者にとって自明な事項であると認められる。
そうすると、エンボスの面積やエッジの位置等が一義的に決まらないとする申立人の主張には理由がない。

イ.エンボスエッジ率による効果について
本件訂正特許発明2は「エンボス面積率」及び「エンボスエッジ率」を所定の数値範囲とすることにより、本件明細書に記載の「吸水性と、ペーパータオルの強度とがバランスの保たれたものとなる」(段落【0020】、【0021】)という効果を奏するものであるところ、本件訂正特許発明2は、強度に関して「ペーパータオルの強度(GMT)が、12N/25mm以上20N/25mm以下であ」ること、吸水性に関して「ペーパータオルの保水量が170g/m^(2)以上220g/m^(2)以下であ」ることを発明特定事項としているから、「エンボス面積率」及び「エンボスエッジ率」の所定の数値範囲を満たすもののうち、「強度(GMT)」及び「保水量」の所定の数値範囲をも満たすもののみを対象とするものであって、「エンボス面積率」及び「エンボスエッジ率」の所定の数値範囲を満たすものすべてを包含するものではない。そして、「強度(GMT)」及び「保水量」の数値範囲を満たすものは、所定の吸水性及び強度を兼ね備えるものであるから、明細書記載の上記の効果を奏することは明らかである。
また、申立人は、エンボス面積率、エンボスエッジ率の適切な範囲が、エンボス平面の具体的な形状により異なることについて、自明である旨主張するにとどまり、なぜ異なるといえるのかについて具体的な理由を示していない。
そうすると、本件訂正特許発明2は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではなく、発明の詳細な説明に記載された発明の課題を解決するための手段が反映されているから、申立人の主張には理由がない。

ウ.エンボスエッジ率の調整方法について
本件明細書には「エンボスエッジ率」について、「エンボスエッジ率は、単位面積あたりのエンボス凸部の各辺の総計により求められ、図1を参照すれば、(a×2+b×2)×n/(A×B)により計算される。」(段落【0021】)と記載されており、図1は次のものである。



そうすると、当業者はエンボス凸部の形状や辺の長さを調整することによって、エンボスエッジ率が調整可能であることを理解でき、本件訂正特許発明2を実施することが可能であるから、申立人の主張には理由がない。

エ.巻き硬さについて
本件訂正特許発明2は「巻き硬さ」を所定の数値範囲とすることにより、本件明細書に記載の「本発明のペーパータオルのロール体は、叩解処理したパルプ繊維に乾燥紙力増強剤及び湿潤紙力増強剤を添加し、抄紙して得られる単一シートを積層したペーパータオルを所定の巻き硬さで巻回しているので、巻長を増大させつつも、風合い及び吸水量が良好に保たれたペーパータオルのロール体を提供することができる。」(段落【0010】)、及び、「本発明のペーパータオルのロール体から得られるペーパータオルは、叩解処理したパルプ繊維を抄紙して得られるものであり、かつ所定の巻き硬さで巻回されたものであるので、良好な吸水性を有している。」(段落【0024】)という効果を奏するものである。
そして、本件訂正特許発明2は、強度に関して「ペーパータオルの強度(GMT)が、12N/25mm以上20N/25mm以下であ」ること、吸水性に関して「ペーパータオルの保水量が170g/m^(2)以上220g/m^(2)以下であ」ることを発明特定事項としているから、「巻き硬さ」の所定の数値範囲を満たすもののうち、「強度(GMT)」及び「保水量」の所定の数値範囲をも満たすもののみを対象とするものであって、「巻き硬さ」の所定の数値範囲を満たすものすべてを包含するものではない。そして、「強度(GMT)」及び「保水量」の所定の数値範囲を満たすものは、所定の吸水性及び強度を兼ね備えたものであるから、明細書記載の上記の効果を奏することは明らかである。
そうすると、本件訂正特許発明2は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではないから、申立人の主張には理由がない。

オ.エンボスの形状、コア外径及び巻密度について
本件明細書の記載からみて、本件訂正特許発明2が解決しようとする課題は「巻長を増大させつつも、風合い及び吸水量が良好に保たれたペーパータオルのロール体を提供すること」(段落【0010】)、及び、「吸水性と、ペーパータオルの強度とがバランスの保たれたものとなる」(段落【0020】、【0021】)ことであり、当該課題を解決するための手段は、「叩解処理したパルプ繊維に乾燥紙力増強剤及び湿潤紙力増強剤を添加し、抄紙して得られる単一シートを積層したペーパータオルを所定の巻き硬さで巻回している」(段落【0010】)こと、「エンボス面積率を上記(当審注:段落【0020】にはエンボス面積率が「10%以上25%以下であること」が記載されている。)の範囲内のものとすること」(段落【0020】)、及び、「エンボスエッジ率を上記(当審注:段落【0021】にはエンボスエッジ率が「0.4mm/mm^(2)以上0.5mm/mm^(2)以下であること」が記載されている。)の範囲内のものとすること」(段落【0021】)であって、エンボスの形状、コア外径及び巻密度は、発明の詳細な説明に記載された発明の課題を解決するための手段であるとは認められない。
そうすると、本件訂正特許発明2には、発明の詳細な説明に記載された発明の課題を解決するための手段が反映されているといえるから、申立人の主張には理由がない。

2.特許法第29条第2項(進歩性)
特許法第29条第2項(進歩性)については、上記「第6 2.」で検討したとおりであるところ、申立人の申立書及び意見書における主張のうち、相違点1及び2に係るものであって、上記「第6 2.」で検討していない次の「(1)」の点について、以下、検討する。
なお、上記「1.」と同様、以下では、申立書における訂正前の請求項1及び2についての申立人の主張を、本件訂正特許発明2に対する主張とみなして検討する。

(1)申立人の主張の概要
ア.本件訂正特許発明2において、エンボスエッジ率を特定の範囲としたことによる効果の差は認められず、また、甲第5号証ないし甲第7号証を参照すると、本件訂正特許発明2におけるエンボスエッジ率は不明確であり、当業者が一義的に理解することができず、本件訂正特許発明2におけるエンボスエッジ率と、本件訂正特許発明2の効果との間に因果関係が存在することを理解できず、本件訂正特許発明2のエッジ率を満たすために、エンボスの形状、個数等をどのように設定すべきか理解できないから、エンボスエッジ率に係る構成は技術的意義を有さず、当業者が適宜設定できる設計事項に過ぎない。
(申立書第20ページ下から2行?第21ページ最下行、第22ページ第8?13行)

イ.本件訂正特許発明2は、数値化した課題と、従来公知の坪量等の数値範囲に、エンボスエッジ率なる新規のパラメータを組み合わせただけの発明であるところ、エンボスエッジ率は不明確であり、かつエンボスの形状等が特定されない状況でエンボスエッジ率を特定する意義は見いだせず、単なる設計事項である。
(意見書第8ページ下から3行?第9ページ第18行)

(2)当審の判断
本件訂正特許発明2においてエンボスエッジ率を特定の範囲としたことによる効果については、上記「第6 2.(2)イ.(ア)」で検討したとおりであり、その余の記載不備に関連する主張については上記「1.」で検討したとおりであるから、エンボスエッジ率に係る構成は、技術的意義を有さず、当業者が適宜設定できる設計事項に過ぎない旨の申立人の主張には理由がない。
そして、相違点1及び2については上記「第6 2.(2)イ.」のとおりであるから、甲第5号証ないし甲第7号証を考慮しても、本件訂正特許発明2は、甲第1号証に記載された発明、及び、甲第2号証ないし甲第4号証に示される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
なお、本件特許の特許請求の範囲の請求項1は、本件訂正により削除された。

第8 むすび

以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び申立人が申し立てた特許異議申立理由及び証拠によっては、本件訂正特許発明2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件訂正特許発明2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件特許の特許請求の範囲の請求項1は、本件訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議申立てについて、請求項1に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ペーパータオルのロール体
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻長を増大させたペーパータオルのロール体に関する。
【背景技術】
【0002】
ペーパータオルは、水分や油分の拭き取りや汚れ落とし等の用途で、各家庭の台所や飲食店の厨房等で幅広く使用されている(例えば、特許文献1参照)。ここで、ペーパータオルの使用頻度が高い場合、ペーパータオルをペーパータオル用ホルダに掛け替える頻度が高くなり、使用者の手間となることがあった。ペーパータオルの掛け替えの頻度を低減しようとする場合、1ロールあたりの巻長を増やすことが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-068972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、巻長を増やすことにより、ペーパータオルの風合いや吸水量が低下することが知られており、従来の技術では、巻長の増加と、ペーパータオルの風合い及び吸水量の維持を両立することは困難であった。したがって、本発明は、巻長を増大させたペーパータオルのロール体であって、風合い及び吸水量が良好に保たれたペーパータオルのロール体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意研究を行った。その結果、叩解処理したパルプ繊維に乾燥紙力増強剤及び湿潤紙力増強剤を添加し、抄紙して得られる単一シートを2枚積層したペーパータオルを、所定の巻き硬さで20m以上40m以下巻回することにより、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0006】
(1)本発明の第1の態様は、坪量が19.0g/m^(2)以上25.0g/m^(2)以下である単一シートを2枚積層したペーパータオルのロール体であって、前記ペーパータオルの吸水性TWAが170g/m^(2)以上220g/m^(2)以下であり、巻長が20m以上40m以下であるペーパータオルのロール体である。
【0007】
(2)本発明の第2の態様は、(1)に記載のペーパータオルのロール体であって、前記ペーパータオルの乾燥時の縦方向引張り強さDMDと乾燥時の横方向引張り強さDCDの幾何平均GMTが、11.0N/25mm以上22.0N/25mm以下であることを特徴とするものである。
【0008】
(3)本発明の第3の態様は、(1)又は(2)に記載のペーパータオルのロール体であって、単一シートを2枚積層したペーパータオルの一方の表面がエンボス凸部を有し、他方の表面に前記エンボス凸部の裏面で構成されるエンボス凹部を有することを特徴とするものである。
【0009】
(4)本発明の第4の態様は、(3)に記載のペーパータオルのロール体であって、前記エンボス凸部及び前記エンボス凹部を形成するエンボス加工のエンボス面積率が10%以上25%以下、エンボスエッジ率が0.3mm/mm^(2)以上0.6mm/mm^(2)以下であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のペーパータオルのロール体は、叩解処理したパルプ繊維に乾燥紙力増強剤及び湿潤紙力増強剤を添加し、抄紙して得られる単一シートを積層したペーパータオルを所定の巻き硬さで巻回しているので、巻長を増大させつつも、風合い及び吸水量が良好に保たれたペーパータオルのロール体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のペーパータオルのエンボス形状を示す図面である。
【図2】ペーパータオルのロール体の巻き硬さの測定装置を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について、図面を参照して詳細に説明する。
<ペーパータオルのロール体>
本発明のペーパータオルのロール体は、所定の坪量の単一シートを2枚積層したペーパータオルを、所定の巻き硬さで、20m以上40m以下に亘って巻回したものである。これにより、本発明のペーパータオルのロール体に巻回されるペーパータオルは優れた吸水性を維持可能なものとなる。
【0013】
[単一シート]
ペーパータオルに用いる単一シートは、パルプ繊維をリファイナー等により叩解処理したものを抄紙してなる。原料パルプ繊維に叩解処理を施すことにより、パルプ繊維が毛羽立ち、ペーパータオルの風合いが良好なものとなるとともに、単一シートの強度を向上させることができる。しかしながら、叩解処理を施しただけでは単一シートの紙厚が低下して吸水性も低下するため、抄紙時に乾燥紙力増強剤及び湿潤紙力増強剤を内添することにより、強度と吸水性とをともに向上させることができる。これにより、JIS P 8124に準拠して測定される単一シートの坪量を19g/m^(2)以上25g/m^(2)以下の範囲内のものとすることができる。
【0014】
(パルプ繊維)
パルプ繊維は、典型的には針葉樹や広葉樹から製造される木材パルプ繊維であり、例えば、パルプ繊維を漂白精製処理した晒パルプ繊維である針葉樹晒クラフトパルプ繊維(NBKP)、広葉樹晒クラフトパルプ繊維(LBKP)、及びこれらの混合物を用いることができる。これらの中でも、針葉樹晒クラフトパルプ繊維をより高配合とすることにより、紙力及び吸水性をより向上させることができる。
【0015】
なお、単一シートの調製にあたっては、本発明の目的を損なわない範囲で、木材パルプ繊維のほかにも他の繊維を適宜配合することができる。そのような他の繊維としては、例えば、砕木パルプ繊維(GP)等のメカニカルパルプ繊維;亜硫酸パルプ繊維等の化学パルプ繊維;薬品処理と機械処理を併用して得られたセミケミカルパルプ繊維;ケナフ、コットンリンター、麻等の非木材パルプ繊維;古紙パルプ繊維等を挙げることができる。
【0016】
(乾燥紙力増強剤及び湿潤紙力増強剤)
本発明において使用可能な乾燥紙力増強剤としては、カチオン化でんぷん、ポリアクリルアミド、カルボキシメチルセルロース等を挙げることができる。また、本発明において使用可能な湿潤紙力増強剤としてはポリアミドエピクロロヒドリン樹脂やメラミン樹脂等を挙げることができる。乾燥紙力増強剤及び湿潤紙力増強剤の添加量は、パルプ繊維100質量部あたり、1.0質量部以上5.0質量部以下とすることが好ましい。
【0017】
(クレープ率)
本発明においては、抄紙した単一シートの乾燥の際のクレープ率が20%以上であることが好ましい。クレープ率を20%以上とすることにより、単一シートの強度と吸水性を向上させることができる。なお、クレープ率(%)は、{(ドライヤースピード)-(リールスピード)}/(ドライヤースピード)×100で計算される。ここで、リールスピードとはロールへの巻き取り速度を意味する。
【0018】
[ペーパータオル]
本発明のペーパータオルのロール体を構成するペーパータオルは、上記の単一シートを2枚積層したものであり、ペーパータオルの一方の表面がエンボス凸部を有し、他方の表面に上記のエンボス凸部の裏面で構成されるエンボス凹部を有している。
【0019】
(エンボス加工)
ペーパータオルにエンボス加工を施すにあたっては、まず、単一シートにエンボス加工を施し、単一シートの一方の表面にエンボス凸部を、反対面にはエンボス凸部の裏側で構成されるエンボス凹部を形成する。エンボス加工は公知の方法で行うことができ、例えば、ほぼ相補的な形状の雄(凸)エンボスロールと雌(凹)エンボスロールとが噛み合う「マッチした」エンボスロールにより加工してもよいし、雄(凸)エンボスロールと雌(凹)エンボスロールの形状が同一でなく、両者が噛み合った際にシートにせん断力を与える、いわゆる「マッチしていない」エンボスロールにより加工してもよい。
【0020】
各単一シートにおけるエンボス凸部のエンボス面積率は、10%以上25%以下であることが好ましく、14%以上20%以下であることがより好ましい。エンボス面積率を上記の範囲内のものとすることにより、吸水性と、ペーパータオルの強度とがバランスの保たれたものとなる。なお、上記のエンボス凸部のエンボス面積率は、シート上に施されたエンボス部の面積(図1のSn=a×b×n;nはエンボスパターンの総数)を測定し、その面積率(Sn/(A×B))として算出することができる。
【0021】
また、各単一シートにおけるエンボスエッジ率は、0.3mm/mm^(2)以上0.6mm/mm^(2)以下であることが好ましく、0.4mm/mm^(2)以上0.5mm/mm^(2)以下であることがより好ましい。エンボスエッジ率を上記の範囲内のものとすることにより、吸水性と、ペーパータオルの強度とがバランスの保たれたものとなる。なお、上記のエンボスエッジ率は、単位面積あたりのエンボス凸部の各辺の総計により求められ、図1を参照すれば、(a×2+b×2)×n/(A×B)により計算される。
【0022】
(単一シートの積層)
エンボス加工が施された2枚の単一シートは、一方の単一シートのエンボス凸部を他の単一シートの所定部位に糊付け、ペーパータオルとなる。本発明において、ペーパータオルのエンボスパターンは、一方の単一シートのエンボス凸部が、他方の単一シートのエンボス凹部に入り込んだ状態で糊付けされている、いわゆるネステッドエンボスであることが好ましい。ネステッドエンボスとすることにより、2枚の単一シートの間に空間が保持され、ペーパータオルの吸水性や嵩高さを向上させることができる。
【0023】
なお、本発明においては、各単一シートの糊付けに用いる糊の濃度を従来のものよりも高濃度(例えば、1.5倍以上)とすることが好ましく、これにより、ペーパータオルの強度(特にGMT)が向上することが知られている。糊付けに用いる糊としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリビニルアルコールや澱粉系糊等を挙げることができる。
【0024】
(吸水性)
本発明のペーパータオルのロール体から得られるペーパータオルは、叩解処理したパルプ繊維を抄紙して得られるものであり、かつ所定の巻き硬さで巻回されたものであるので、良好な吸水性を有している。ペーパータオルの吸水性(TWA:TotalWaterAbsorbency)は、170g/m^(2)以上220g/m^(2)以下であり、180g/m^(2)以上200g/m^(2)以下であることが好ましい。ペーパータオルのこのような吸水性は、20mを超える巻長のペーパータオルのロール体では、従来実現できないものであったが、本発明の方法を採用した場合には、20mを超える巻長であり、上記のような吸水性を有するペーパータオルのロール体が実現可能なものとなる。
【0025】
なお、吸水性は、以下の測定方法に従って求めることができる。まず、ペーパータオルを76mm×76mmの正方形に切断してサンプルを作製し、乾燥重量を測定する。次に、このサンプルを蒸留水中に2分間浸漬した後、水蒸気飽和状態(RH100%)の容器中で、サンプルの1つの角部が上側の頂部となるようにし、この頂部と隣接する2つの角部とを支持して展伸した状態で吊るし、30分放置して水切り後の重量を測定する。そして、測定値をサンプル1m^(2)あたりの吸水性(g/m^(2))に換算する。
【0026】
(引張り強さ)
本発明が適用されるペーパータオルは、JIS P 8113(紙及び板紙引張り特性の試験方法)に準拠して、幅25mmの試験片について測定される乾燥時の縦方向引張り強さ(DMD;Dry Machine Direction tensile strength)と横方向引張り強さ(DCD;Dry Cross Direction tensile strength)の幾何平均GMT(Geometric Mean Tensile strength)が、好ましくは、11.0N/25mm以上22.0N/25mm以下となり、より好ましくは、12.0N/25mm以上20.0N/25mm以下となる。GMTを上記の範囲内のものとすることにより、不織布シートが、実用に適した適度な破れにくさを有するものとなるとともに、十分な柔らかさを有するものとなる。
【0027】
[ペーパータオルのロール体]
以上に説明したペーパータオルは、巻芯の周りに20m以上40m以下巻回することにより、ペーパータオルのロール体となる。なお、この際、ロールワインダーの速度を、150m/min以上200m/minに設定することで、皺のない安定した巻き取りを行うことができる。巻芯としては特に限定されるものではなく、紙芯等の任意の巻芯を用いることができる。巻芯に巻き取った長幅のペーパータオルのロール体は、ログソーにより所定幅に切断される。
【0028】
(巻密度)
本発明のペーパータオルのロール体は、巻密度を0.50m/cm^(2)以上0.80m/cm^(2)以下とすることが好ましい。巻密度は、ペーパータオルの紙質の影響を受け、巻き取り工程におけるロールワインダーの張力、及びエンボスロールのニップ圧力により調整することができる。巻密度を上記のように設定することにより、20mを超える巻長のペーパータオルのロール体であっても、巻き皺やロール変形の発生を防止することができるとともに、ペーパータオルの吸水性を良好に維持することもできる。
【0029】
ここで、巻密度は、(巻長×単一シート数)/(ロール断面積)によって算出することができる。ペーパータオルのロール体のロール断面積を求めるにあたっては、ロール体の外径部分の断面積から、巻芯部分の断面積を差し引けばよい。
【0030】
(巻き硬さ)
本発明のペーパータオルのロール体は、巻き硬さを10mm未満とすることが好ましく、4mm以上8mm以下とすることがより好ましい。巻き硬さは、ペーパータオルの紙質の影響を受け、巻き取り工程におけるロールワインダーの張力、及びエンボスロールのニップ圧力により調整することができる。巻き硬さを上記のように設定することにより、20mを超える巻長のペーパータオルのロール体であっても、巻き皺やロール変形の発生を防止することができるとともに、ペーパータオルの吸水性を良好に維持することができる。
【0031】
なお、この巻き硬さは、本発明のペーパータオルのロール体に625gの荷重を掛けた際のペーパータオルのロール体の変形量として規定することができ、この巻き硬さは、図2に示す測定装置10を用いて測定される。測定装置10は、ベース部2と、支持棒4a,4bと、移動錘乗せ板6と、625gの錘8とを備える。2本の支持棒4a,4bは、ベース部2から垂直に立ち上り、矩形状の移動錘乗せ板6の両端には各支持棒4a,4bへの挿通孔が設けられている。そして、ベース部2上、各支持棒4a,4bの間にペーパータオルのロール体20を載置し、ペーパータオルのロール体20の上から移動錘乗せ板6に各支持棒4a,4bを挿通し、移動錘乗せ板6をロール体20の上面に載せる。この状態での移動錘乗せ板6の高さを初期高さh_(1)とする。さらに移動錘乗せ板6に錘8を乗せると、錘8の重さによって移動錘乗せ板6が各支持棒4a,4bを通して摺動しつつ、ロール体20を変形させて沈み込むので、このときの高さh_(2)を測定し、(h_(2)-h_(1))をロール体の径の変形量として求める。
【0032】
ペーパータオルのロール体を構成するペーパータオルには、ロール体の軸方向に沿ってミシン目が形成されていてもよい。この場合、ミシン目の切断強度を11.8N/100mm以上21.6N/100mm以下とすると、ペーパータオルを取り出しやすくなる。ミシン目の切断強度を調整するには、ミシン刃の抜き間隔(ミシン目の切断幅)を調整すればよい。ミシン目の切断強度は、引張試験機の2個のつかみ具間の中央にペーパータオルのミシン目が位置するようにして引張試験を行い、切断強度を測定し、100mm幅の値に換算して求めればよい。
【実施例】
【0033】
以下、本発明について実施例を挙げて詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0034】
<実施例1から3、比較例1>
針葉樹晒クラフトパルプ繊維(NBKP)と広葉樹晒クラフトパルプ繊維(LBKP)との混合物をリファイナーで叩解処理し、パルプ繊維100質量部あたり、乾燥紙力増強剤(カチオン化デンプン)を1.6質量部、湿潤紙力増強剤(ポリアミドエピクロロヒドリン樹脂)を3.7質量部添加し、表1に示す坪量の単一シートをティシュ抄紙機により製造した。次に、エンボス加工機により、この単一シートにエンボス加工を施し、エンボス面積率が14.0%又は12.0%、エンボスエッジ率が0.42mm/mm^(2)又は0.53mm/mm^(2)となるようにエンボス凸部を形成した。
【0035】
エンボス加工した単一シートのうち、1枚の単一シートのエンボス凸部に水溶性糊(ポリビニルアルコール)を塗布し、このエンボス凸部が、他の単一シートのエンボス凹部に入り込んだ状態(ネステッドエンボス)で糊付けした。このようにして得られたペーパータオルを、所定の巻長、巻密度、巻き硬さとなるように巻芯に巻回し、幅206mmのペーパータオルのロール体を得た。なお、ペーパータオルの幅方向には、所定の切断強度でミシン目を入れたが、ミシン目のタイカット比は1:10(ボンド:切断幅)とした。結果を表1に示す。
【表1】

【0036】
<評価>
[厚さ]
ペーパータオルの厚さはシックネスゲージ(尾崎製作所製、ダイヤルシックネスゲージ「PEACOCK」)を用いて測定した。測定荷重3.7kPa、測定子直径30mmで、測定子と測定台の間に試料(ペーパータオル10枚)を置き、測定子を1秒間に1mm以下の速度で下ろしたときのゲージを読み取った。測定は10回繰り返して得られた数値を平均した。
【0037】
[タブ強度]
ペーパータオルのタブ強度はテンシロン万能試験機を用いて測定した。測定手順は、以下のとおりとした。ロールの中巻きまでシートを取り除いた後、ロールより連続9シートを採取し、タブが連続6ヶ所(2シート+2シート+2シート+1シート除去+2シート+2シート+2シート)とれるように3インチの型刃で打ち抜いた。作成した試料はテンシロン万能試験機にセットし、200mm/minのスピードで引張り、ミシン目から破断するまで引張強度を測定した。6回測定し、平均値を算出した。
【0038】
表1から分かるように、巻き硬さを10mm未満とした実施例のペーパータオルのロール体では、ペーパータオルの吸水性が170g/m^(2)以上の良好なものとなり、強度も好適に維持された。また、実施例のペーパータオルでは、10mm未満の巻き硬さ、0.5m/cm^(2)以上0.80m/cm^(2)以下の巻密度と対応して、ロール体に巻き皺やロール変形が生じなかった一方で、比較例のペーパータオルではロール体に巻き皺やロール変形が生じたことが確認された。ペーパータオルのロール体がロール変形を生じにくいことで、ペーパータオルホルダーへの掛け替え時にも装填しやすいものとなった。
【符号の説明】
【0039】
10 測定装置
2 ベース部
20 ロール体
4a,4b 支持棒
6 移動錘乗せ板
8 錘
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
坪量が19.0g/m^(2)以上25.0g/m^(2)以下であり、叩解処理したパルプ繊維に乾燥紙力増強剤及び湿潤紙力増強剤を添加し、抄紙して得られる単一シートを2枚積層したペーパータオルのロール体であって、
前記ペーパータオルの吸水性TWAが170g/m^(2)以上220g/m^(2)以下であり、
単一シートを2枚積層したペーパータオルの一方の表面がエンボス凸部を有し、他方の表面に前記エンボス凸部の裏面で構成されるエンボス凹部を有し、前記エンボス凸部及び前記エンボス凹部を形成するエンボス加工のエンボス面積率が10%以上25%以下、エンボスエッジ率が0.4mm/mm^(2)以上0.5mm/mm^(2)以下であり、
前記ペーパータオルの乾燥時の縦方向引張り強さDMDと乾燥時の横方向引張り強さDCDの幾何平均GMTが、12.0N/25mm以上20.0N/25mm以下であり、
巻長が、20m以上40m以下であり、
巻径が、113mm以上120mm以下であり、
巻き硬さが、10.0mm未満である、
ペーパータオルのロール体。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-09-27 
出願番号 特願2015-251212(P2015-251212)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (A47K)
P 1 651・ 536- YAA (A47K)
P 1 651・ 537- YAA (A47K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 舟木 淳  
特許庁審判長 住田 秀弘
特許庁審判官 土屋 真理子
森次 顕
登録日 2020-05-11 
登録番号 特許第6701499号(P6701499)
権利者 日本製紙クレシア株式会社
発明の名称 ペーパータオルのロール体  
代理人 特許業務法人坂本国際特許商標事務所  
代理人 特許業務法人坂本国際特許商標事務所  

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