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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C08K 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C08K 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C08K 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08K |
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管理番号 | 1379833 |
異議申立番号 | 異議2020-700866 |
総通号数 | 264 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-12-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-11-13 |
確定日 | 2021-10-11 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6694139号発明「ポリオレフィン系樹脂用結晶核剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6694139号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-14〕、15について訂正することを認める。 特許第6694139号の請求項1、4、5、7?15に係る特許を維持する。 特許第6694139号の請求項2、3及び6に係る特許に対する申立を却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6694139号(請求項の数15。以下、「本件特許」という。)は、平成28年7月29日の出願であって、令和2年4月21日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は、令和2年5月13日である。)。 その後、令和2年11月13日に、本件特許の請求項1?15に係る特許に対して、特許異議申立人である山下桂(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。 手続の経緯は以下のとおりである。 令和2年11月13日 特許異議申立書 令和3年 2月25日付け 取消理由通知書 同年 4月 8日 意見書案・訂正案の送付(特許権者) 同年 同月12日 意見書案・訂正案に対する回答 同年 同月28日 意見書・訂正請求書(特許権者) なお、令和3年5月20日に申立人に通知書を通知したが申立人からは応答がなかった。 申立人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。 甲第1号証 特開2002-356586号公報 甲第2号証 米国特許第6673856号明細書 甲第3号証 国際公開第99/18108号 甲第4号証 特開2002-60602号公報 甲第5号証 国際公開2016/088767号 甲第6号証 特開2003-335968号公報 甲第7号証 特開2004-292710号公報 甲第8号証 特開2013-209662号公報 甲第9号証 特開2011-207991号公報 甲第10号証 国際公開98/33851号公報 甲第11号証 特開2012-233149号公報 甲第12号証 特開昭59-162937号公報 甲第13号証 特許第5479100号 以下、「甲第1号証」?「甲第13号証」を「甲1」?「甲13」という。 第2 訂正の適否についての判断 特許権者は、特許法第120条の5第1項の規定により審判長が指定した期間内である令和3年4月28日に訂正請求書を提出し、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項1?15について訂正することを求めた(以下「本件訂正」という。また、本件設定登録時の願書に添付した明細書及び特許請求の範囲を「本件明細書等」という。)。 1 訂正の内容 (1)訂正事項1 訂正前の請求項1に「ポリオレフィン系樹脂用結晶核剤であって、 該結晶核剤が乾式圧縮加工された圧縮物であることを特徴とする結晶核剤。」とあるのを、 「ポリオレフィン系樹脂用結晶核剤であって、 該結晶核剤が乾式圧縮加工された圧縮物であり、 前記結晶核剤が、下記一般式(1)で示されるジアセタール系化合物からなり、 前記結晶核剤のゆるみかさ密度が0.28?0.5g/cm^(3)の範囲であり、且つ、かためかさ密度が0.39?1.0g/cm^(3)の範囲であり、 粉末状であり、安息角が48度以下である ことを特徴とする結晶核剤。 【化1】 [式(1)中、R^(1)及びR^(2)は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のアルキル基、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のアルコキシ基、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のアルコキシカルボニル基又はハロゲン原子を示す。R^(3)は、水素原子、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のアルキル基、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数2?4のアルケニル基又は直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のヒドロキシアルキル基を示す。m及びnは、それぞれ1?5の整数を示す。pは0又は1を示す。2つのR^(1)は互いに結合してそれらが結合するベンゼン環と共にテトラリン環を形成していてもよい。2つのR^(2)基は互いに結合してそれらが結合するベンゼン環と共にテトラリン環を形成していてもよい。]」に訂正する。 (2)訂正事項2 訂正前の請求項2を削除する。 (3)訂正事項3 訂正前の請求項3を削除する。 (4)訂正事項4 訂正前の請求項4に「請求項1?3の何れかに記載の結晶核剤」とあるのを、「請求項1に記載の結晶核剤」に訂正する。 (5)訂正事項5 訂正前の請求項6を削除する。 (6)訂正事項6 訂正前の請求項7に「前記一般式(1)において、R^(1)及びR^(2)が、同一又は異なって、メチル基又はエチル基であり、かつ、R^(3)が水素原子であり、m及びnが1又は2の整数であり、pが1である、請求項6に記載のポリオレフィン系樹脂用結晶核剤。」とあるのを、 「ポリオレフィン系樹脂用結晶核剤であって、 該結晶核剤が乾式圧縮加工された圧縮物であり、 前記結晶核剤が、下記一般式(1)で示されるジアセタール系化合物からなり、下記一般式(1)において、R^(1)及びR^(2)が、同一又は異なって、メチル基又はエチル基であり、かつ、R^(3)が水素原子であり、m及びnが1又は2の整数であり、pが1であり、 前記結晶核剤のゆるみかさ密度が0.28?0.5g/cm^(3)の範囲であり、且つ、かためかさ密度が0.39?1.0g/cm^(3)の範囲であり、 粉末状であり、安息角が48度以下である ことを特徴とする結晶核剤。 【化2】 [式(1)中、R^(1)及びR^(2)は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のアルキル基、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のアルコキシ基、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のアルコキシカルボニル基又はハロゲン原子を示す。R^(3)は、水素原子、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のアルキル基、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数2?4のアルケニル基又は直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のヒドロキシアルキル基を示す。m及びnは、それぞれ1?5の整数を示す。pは0又は1を示す。2つのR^(1)は互いに結合してそれらが結合するベンゼン環と共にテトラリン環を形成していてもよい。2つのR^(2)基は互いに結合してそれらが結合するベンゼン環と共にテトラリン環を形成していてもよい。]」に訂正する。 (7)訂正事項7 訂正前の請求項8に「前記一般式(1)において、R^(1)及びR^(2)が、同一又は異なって、プロピル基又はプロポキシ基であり、かつ、R^(3)がプロピル基又はプロペニル基であり、m及びnが1であり、pが1である、請求項6に記載の結晶核剤。」とあるのを、 「ポリオレフィン系樹脂用結晶核剤であって、 該結晶核剤が乾式圧縮加工された圧縮物であり、 前記結晶核剤が、下記一般式(1)で示されるジアセタール系化合物からなり、下記一般式(1)において、R^(1)及びR^(2)が、同一又は異なって、プロピル基又はプロポキシ基であり、かつ、R^(3)がプロピル基又はプロペニル基であり、m及びnが1であり、pが1であり、 前記結晶核剤のゆるみかさ密度が0.28?0.5g/cm^(3)の範囲であり、且つ、かためかさ密度が0.39?1.0g/cm^(3)の範囲であり、 粉末状であり、安息角が48度以下である ことを特徴とする結晶核剤。 【化3】 [式(1)中、R^(1)及びR^(2)は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のアルキル基、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のアルコキシ基、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のアルコキシカルボニル基又はハロゲン原子を示す。R^(3)は、水素原子、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のアルキル基、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数2?4のアルケニル基又は直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のヒドロキシアルキル基を示す。m及びnは、それぞれ1?5の整数を示す。pは0又は1を示す。2つのR^(1)は互いに結合してそれらが結合するベンゼン環と共にテトラリン環を形成していてもよい。2つのR^(2)基は互いに結合してそれらが結合するベンゼン環と共にテトラリン環を形成していてもよい。]」に訂正する。 (8)訂正事項8 訂正前の請求項9に「請求項1?8の何れかに記載の結晶核剤」とあるのを、「請求項1、4、5、7、8の何れかに記載の結晶核剤」に訂正する。 (9)訂正事項9 訂正前の請求項10に「請求項1?9の何れかに記載の結晶核剤」とあるのを、「請求項1、4、5、7?9の何れかに記載の結晶核剤」に訂正する。 (10)訂正事項10 訂正前の請求項11に「請求項1?10の何れかに記載のポリオレフィン系樹脂用結晶核剤の製造方法であって、」とあるのを、「請求項1、4、5、7?10の何れかに記載のポリオレフィン系樹脂用結晶核剤の製造方法であって、」に訂正する。 (11)訂正事項11 訂正前の請求項13に「ポリオレフィン系樹脂及び請求項1?10の何れかに記載のポリオレフィン系樹脂用結晶核剤を含んでなるポリオレフィン系樹脂組成物」とあるのを、「ポリオレフィン系樹脂及び請求項1、4、5、7?10の何れかに記載のポリオレフィン系樹脂用結晶核剤を含んでなるポリオレフィン系樹脂組成物」に訂正する。 (12)訂正事項12 訂正前の請求項15に「ローラー圧縮法による乾式圧縮加工工程を具備することを特徴とするポリオレフィン系樹脂用結晶核剤の流動性改良方法。」とあるのを、 「ローラー圧縮法による乾式圧縮加工工程を具備し、 ポリオレフィン系樹脂用結晶核剤が、下記一般式(1)で示されるジアセタール系化合物からなり、 前記結晶核剤のゆるみかさ密度が0.28?0.5g/cm^(3)の範囲であり、且つ、かためかさ密度が0.39?1.0g/cm^(3)の範囲であり、 粉末状であり、安息角が48度以下である ことを特徴とするポリオレフィン系樹脂用結晶核剤の流動性改良方法。 【化4】 [式(1)中、R^(1)及びR^(2)は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のアルキル基、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のアルコキシ基、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のアルコキシカルボニル基又はハロゲン原子を示す。R^(3)は、水素原子、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のアルキル基、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数2?4のアルケニル基又は直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のヒドロキシアルキル基を示す。m及びnは、それぞれ1?5の整数を示す。pは0又は1を示す。2つのR^(1)は互いに結合してそれらが結合するベンゼン環と共にテトラリン環を形成していてもよい。2つのR^(2)基は互いに結合してそれらが結合するベンゼン環と共にテトラリン環を形成していてもよい。]」に訂正する。 (13)一群の請求項 訂正事項1?11に係る訂正前の請求項1?14について、請求項2?14はそれぞれ請求項1を直接的又は間接的に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。 よって、本件訂正のうち訂正事項1?11の訂正は、一群の請求項に対してなされたものである。 2 判断 (1)訂正事項1について ア 訂正の目的 訂正事項1による訂正は、訂正前の請求項1における結晶核剤について、「下記一般式(1)で示されるジアセタール系化合物からなり、 前記結晶核剤のゆるみかさ密度が0.28?0.5g/cm^(3)の範囲であり、且つ、かためかさ密度が0.39?1.0g/cm^(3)の範囲であり、 粉末状であり、安息角が48度以下である ことを特徴とする結晶核剤(一般式(1)の記載は省略する。)」と限定する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。 イ 新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更 本件明細書等の特許請求の範囲の請求項2には、結晶核剤のゆるみかさ密度が0.1?0.5g/cm^(3)の範囲であり、且つ、かためかさ密度が0.2?1.0g/cm^(3)の範囲であることが記載され、発明の詳細な説明の段落【0075】以降に記載された実施例のうち、実施例4では、同【0094】に記載された表1をみると、ゆるみかさ密度が0.28g/cm^(3)であること、かためかさ密度が0.39g/cm^(3)であることが記載され、同【0048】には、本発明の結晶核剤の形状は、粉末状でも構わないことが記載され、特許請求の範囲の請求項3には、安息角が48度以下であることが記載され、同請求項6には、結晶核剤が下記一般式(1)で示されるジアセタール系化合物であることが記載されているから、訂正事項1による訂正は本件明細書等の記載した事項の範囲内であるといえ、また、実質上特許請求の範囲の拡張又は変更に当たらないことは明らかである。 (2)訂正事項2、3及び5について ア 訂正の目的 訂正事項2、3及び5による訂正は、訂正前の請求項2、3及び6を削除する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であることは明らかである。 イ 新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更 訂正事項2、3及び5による訂正は、請求項2、3及び6を削除する訂正であるから、本件明細書等の記載した事項の範囲内であるといえ、また、実質上特許請求の範囲の拡張又は変更に当たらないことは明らかである。 (3)訂正事項4、8?11について ア 訂正の目的 訂正事項4、8?11による訂正は、訂正事項2、3及び5による訂正によって訂正前の請求項2、3及び6が削除されたため、引用する請求項から請求項2、3及び6を削除したものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更 訂正事項4、8?11による訂正は、引用する請求項から請求項2、3及び6を削除したものであるから、本件明細書等の記載した事項の範囲内であるといえ、また、実質上特許請求の範囲の拡張又は変更に当たらないことは明らかである。 (4)訂正事項6について ア 訂正の目的 訂正事項6による訂正は、訂正前の請求項7にある他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとする訂正、及び、訂正前の請求項7における結晶核剤について、「前記結晶核剤のゆるみかさ密度が0.28?0.5g/cm^(3)の範囲であり、且つ、かためかさ密度が0.39?1.0g/cm^(3)の範囲であり、 粉末状であり、安息角が48度以下である」と限定する訂正であるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正及び特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。 イ 新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更 訂正事項6による訂正は、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正と、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正については、本件明細書等の記載した事項の範囲内であるといえ、実質上特許請求の範囲の拡張・変更に該当しないことは明らかであり、また、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正については上記「(1)イ」で述べたとおり、本件明細書等の記載した事項の範囲内であるといえ、実質上特許請求の範囲の拡張又は変更に当たらないことは明らかである。 (5)訂正事項7について ア 訂正の目的 訂正事項7による訂正は、訂正前の請求項8にある他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとする訂正、及び、訂正前の請求項8における結晶核剤について、「前記結晶核剤のゆるみかさ密度が0.28?0.5g/cm^(3)の範囲であり、且つ、かためかさ密度が0.39?1.0g/cm^(3)の範囲であり、 粉末状であり、安息角が48度以下である」と限定する訂正であるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正及び特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。 イ 新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更 訂正事項7による訂正は、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正と、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正については、本件明細書等の記載した事項の範囲内であるといえ、実質上特許請求の範囲の拡張・変更に該当しないことは明らかであり、また、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正については上記「(1)イ」で述べたとおり、本件明細書等の記載した事項の範囲内であるといえ、実質上特許請求の範囲の拡張又は変更に当たらないことは明らかである。 (6)訂正事項12について ア 訂正の目的 訂正事項12による訂正は、訂正前の請求項15におけるポリオレフィン系樹脂用結晶核剤について、「下記一般式(1)で示されるジアセタール系化合物からなり、 前記結晶核剤のゆるみかさ密度が0.28?0.5g/cm^(3)の範囲であり、且つ、かためかさ密度が0.39?1.0g/cm^(3)の範囲であり、 粉末状であり、安息角が48度以下である ことを特徴とする結晶核剤(一般式(1)の記載は省略する。)」と限定する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。 イ 新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更 結晶核剤の限定については、上記「(1)イ」で述べたとおり、本件明細書等の記載した事項の範囲内であるといえ、実質上特許請求の範囲の拡張又は変更に当たらないことは明らかである。 (7)まとめ 以上のとおりであるから、訂正事項1?12による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1及び4号に掲げる目的に適合し、また、同法同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合するから、本件訂正を認める。 第3 特許請求の範囲の記載 上記のとおり、本件訂正は認められたので、特許第6694139号の特許請求の範囲の記載は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1?15に記載される以下のとおりのものである。(以下、請求項1?15に記載された事項により特定される発明を「本件発明1」?「本件発明15」といい、まとめて「本件発明」ともいう。また、本件訂正後の明細書を「本件訂正明細書」という。) 「【請求項1】 ポリオレフィン系樹脂用結晶核剤であって、 該結晶核剤が乾式圧縮加工された圧縮物であり、 前記結晶核剤が、下記一般式(1)で示されるジアセタール系化合物からなり、 前記結晶核剤のゆるみかさ密度が0.28?0.5g/cm^(3)の範囲であり、且つ、かためかさ密度が0.39?1.0g/cm^(3)の範囲であり、 粉末状であり、安息角が48度以下である ことを特徴とする結晶核剤。 【化1】 [式(1)中、R^(1)及びR^(2)は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のアルキル基、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のアルコキシ基、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のアルコキシカルボニル基又はハロゲン原子を示す。R^(3)は、水素原子、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のアルキル基、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数2?4のアルケニル基又は直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のヒドロキシアルキル基を示す。m及びnは、それぞれ1?5の整数を示す。pは0又は1を示す。2つのR^(1)は互いに結合してそれらが結合するベンゼン環と共にテトラリン環を形成していてもよい。2つのR^(2)基は互いに結合してそれらが結合するベンゼン環と共にテトラリン環を形成していてもよい。] 【請求項2】削除 【請求項3】削除 【請求項4】 前記乾式圧縮加工が、ローラー圧縮法である請求項1に記載の結晶核剤。 【請求項5】 前記乾式圧縮加工におけるロール圧力が0.1?10MPaの範囲である、請求項4に記載の結晶核剤。 【請求項6】削除 【請求項7】 ポリオレフィン系樹脂用結晶核剤であって、 該結晶核剤が乾式圧縮加工された圧縮物であり、 前記結晶核剤が、下記一般式(1)で示されるジアセタール系化合物からなり、下記一般式(1)において、R^(1)及びR^(2)が、同一又は異なって、メチル基又はエチル基であり、かつ、R^(3)が水素原子であり、m及びnが1又は2の整数であり、pが1であり、 前記結晶核剤のゆるみかさ密度が0.28?0.5g/cm^(3)の範囲であり、且つ、かためかさ密度が0.39?1.0g/cm^(3)の範囲であり、 粉末状であり、安息角が48度以下である ことを特徴とする結晶核剤。 【化2】 [式(1)中、R^(1)及びR^(2)は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のアルキル基、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のアルコキシ基、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のアルコキシカルボニル基又はハロゲン原子を示す。R^(3)は、水素原子、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のアルキル基、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数2?4のアルケニル基又は直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のヒドロキシアルキル基を示す。m及びnは、それぞれ1?5の整数を示す。pは0又は1を示す。2つのR^(1)は互いに結合してそれらが結合するベンゼン環と共にテトラリン環を形成していてもよい。2つのR^(2)基は互いに結合してそれらが結合するベンゼン環と共にテトラリン環を形成していてもよい。] 【請求項8】 ポリオレフィン系樹脂用結晶核剤であって、 該結晶核剤が乾式圧縮加工された圧縮物であり、 前記結晶核剤が、下記一般式(1)で示されるジアセタール系化合物からなり、下記一般式(1)において、R^(1)及びR^(2)が、同一又は異なって、プロピル基又はプロポキシ基であり、かつ、R^(3)がプロピル基又はプロペニル基であり、m及びnが1であり、pが1であり、 前記結晶核剤のゆるみかさ密度が0.28?0.5g/cm^(3)の範囲であり、且つ、かためかさ密度が0.39?1.0g/cm^(3)の範囲であり、 粉末状であり、安息角が48度以下である ことを特徴とする結晶核剤。 【化3】 [式(1)中、R^(1)及びR^(2)は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のアルキル基、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のアルコキシ基、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のアルコキシカルボニル基又はハロゲン原子を示す。R^(3)は、水素原子、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のアルキル基、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数2?4のアルケニル基又は直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のヒドロキシアルキル基を示す。m及びnは、それぞれ1?5の整数を示す。pは0又は1を示す。2つのR^(1)は互いに結合してそれらが結合するベンゼン環と共にテトラリン環を形成していてもよい。2つのR^(2)基は互いに結合してそれらが結合するベンゼン環と共にテトラリン環を形成していてもよい。] 【請求項9】 JIS K0069(1992)に準拠した条件で、ふるい上の二次凝集物を砕かずに行うふるい分け試験において、目開き1mmのJIS試験用ふるい上の残存物の全重量に対する割合が25重量%以下である、請求項1、4、5、7、8の何れかに記載の結晶核剤。 【請求項10】 レーザー回折式粒度分布測定において、粒径15μm以上の粗粒の全体積に対する割合が50体積%以上である、請求項1、4、5、7?9の何れかに記載の結晶核剤。 【請求項11】 請求項1、4、5、7?10の何れかに記載のポリオレフィン系樹脂用結晶核剤の製造方法であって、 ローラー圧縮法による乾式圧縮加工工程を具備することを特徴とする製造方法。 【請求項12】 前記圧縮加工工程におけるロール圧力が、0.1?10MPaの範囲である請求項11に記載の製造方法。 【請求項13】 ポリオレフィン系樹脂及び請求項1、4、5、7?10の何れかに記載のポリオレフィン系樹脂用結晶核剤を含んでなるポリオレフィン系樹脂組成物。 【請求項14】 請求項13に記載にポリオレフィン系樹脂組成物を原料とするポリオレフィン系樹脂成形体。 【請求項15】 ローラー圧縮法による乾式圧縮加工工程を具備し、 ポリオレフィン系樹脂用結晶核剤が、下記一般式(1)で示されるジアセタール系化合物からなり、 前記結晶核剤のゆるみかさ密度が0.28?0.5g/cm^(3)の範囲であり、且つ、かためかさ密度が0.39?1.0g/cm^(3)の範囲であり、 粉末状であり、安息角が48度以下である ことを特徴とするポリオレフィン系樹脂用結晶核剤の流動性改良方法。 【化4】 [式(1)中、R^(1)及びR^(2)は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のアルキル基、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のアルコキシ基、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のアルコキシカルボニル基又はハロゲン原子を示す。R^(3)は、水素原子、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のアルキル基、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数2?4のアルケニル基又は直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のヒドロキシアルキル基を示す。m及びnは、それぞれ1?5の整数を示す。pは0又は1を示す。2つのR^(1)は互いに結合してそれらが結合するベンゼン環と共にテトラリン環を形成していてもよい。2つのR^(2)基は互いに結合してそれらが結合するベンゼン環と共にテトラリン環を形成していてもよい。]」 第4 特許異議申立理由及び取消理由の概要 1 取消理由通知の概要 当審が取消理由通知で通知した取消理由の概要は、以下に示すとおりである。 (1)取消理由1(明確性) 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1?15の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、下記の点で明確とはいえないから、特許法第36条第6項第2号に適合するものでない。 よって、本件訂正前の請求項1?15に係る発明の特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 記 ア 本件訂正前の請求項1の記載のうち、乾式圧縮加工された圧縮物について、乾式圧縮加工の程度が明確でなく、また、乾式圧縮加工の後に粉砕や解砕加工を行ってもよいと解されるため、多義的に解されるので、本件訂正前の請求項1に係る発明の乾式圧縮加工された圧縮物がどのような状態の圧縮物であるのか明確であるとはいえない。 また、本件訂正前の請求項15の記載のうち、乾式圧縮加工工程についても同様に明確でない。 イ 結晶核剤に含まれる成分は、結晶核剤以外の添加剤を含むのか、含まないのかのいずれであるのか明らかでないから、本件訂正前の請求項1の結晶核剤が明確であるとはいえない。 (2)取消理由2(サポート要件) 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1?15の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、下記の点で発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。 よって、本件訂正前の請求項1?15に係る発明の特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 記 ア 本件訂正前の請求項1に係る発明のうち、乾式圧縮加工の程度について、強固で完全な圧縮物である場合や、一部フレーク状のもろい圧縮物の場合には、実施例と同様に流動性に優れるといえるか明らかであるとはいえないし、また、ポリオレフィン系樹脂中での分散性や溶解性は実施例と比較して劣ることは明白であって、当業者であっても本件発明の課題を解決できると認識できない。また、記載がなくとも当業者であれば認識できるという技術常識も存在しない。 イ 本件訂正前の請求項1に係る発明のうち、結晶核剤の種類について、発明の詳細な説明に記載された実施例以外の結晶核剤についても、同様に当業者が本件発明の課題が解決できると認識できるということはできない。また、記載がなくとも当業者であれば認識できるという技術常識も存在しない。 (3)取消理由3(実施可能要件) 本件訂正前の明細書の発明の詳細な説明は、下記の点で、当業者が本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2?14に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。 よって、本件訂正前の請求項2?14に係る発明の特許は、同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 記 ア 本件訂正前の請求項2に係る発明で特定されるかさ密度を有する結晶核剤について、発明の詳細な説明には、その製造方法は記載されているとはいえない。 (4)取消理由4(新規性) 本件訂正前の請求項1、4?7、9?15に係る発明は、本件特許出願前に日本国内または外国において、頒布された甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 よって、本件訂正前の請求項1、4?7、9?15に係る発明の特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。 (5)取消理由5(進歩性) 本件訂正前の請求項1?15に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲1に記載された発明及び甲1、3、5、8、10及び11の記載された技術事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、本件訂正前の請求項1?15に係る発明の特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。 2 特許異議申立理由の概要 申立人が特許異議申立書でした申立の理由の概要は、以下に示すとおりである。 (1)申立理由1(サポート要件) 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1?15の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、概略、下記の点で発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。 よって、本件訂正前の請求項1?15に係る発明の特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 記 ア 本件訂正前の請求項1に係る発明のうち、乾式圧縮加工された圧縮物は、結晶核剤粒子が圧縮により凝集した凝集物と解釈されるところ、発明の詳細な説明の実施例に記載され、課題が解決したことが示されている結晶核剤は、結晶核剤粒子が圧縮により凝集した凝集物ではないから、本件訂正前の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。 イ 本件訂正前の請求項1に係る発明は、結晶核剤以外の添加剤を使用すると解釈されるところ、添加剤を使用する場合には、本件訂正前の請求項1に係る発明の課題を解決できないことは明らかである。 ウ 本件訂正前の請求項1に係る発明のうち、結晶核剤の種類について、発明の詳細な説明に記載された実施例以外の結晶核剤についても、同様に当業者が本件発明の課題が解決できると認識できるということはできない。(取消理由2イと同旨である。) エ 本件訂正前の請求項1に係る発明のうち、乾式圧縮加工された圧縮物は、あらゆる方法および条件で乾式圧縮加工された圧縮物をすべて包含するものであると解釈されるところ、このようなあらゆる方法や条件で乾式圧縮された圧縮物のすべてが、発明の課題を解決できるとはいえない。 オ 本件訂正前の請求項2に係る発明のうち、課題を解決できたことが確認できたのは実施例に記載されたごく一部であるから、本件訂正前の請求項2に係る発明が課題を解決できると認識できるとはいえない。 (2)申立理由2(明確性) 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1?15の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、概略、下記の点で明確とはいえないから、特許法第36条第6項第2号に適合するものでない。 よって、本件訂正前の請求項1?15に係る発明の特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 記 ア 本件訂正前の請求項1に係る発明は、「結晶核剤」という物の発明であるが、「乾式圧縮加工された」というその物の製造方法が記載されている。しかしながら、不可能・非実際的事情が存在するとはいえないから、本件訂正前の請求項1に係る発明は明確でない。 本件訂正前の請求項4及び5に係る発明も同様に明確でない。 (3)申立理由3(実施可能要件) 本件訂正前の明細書の発明の詳細な説明は、概略、下記の点で、当業者が本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2?14に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。 よって、本件訂正前の請求項2?14に係る発明の特許は、同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 記 ア 本件訂正前の請求項2に係る発明で特定されるかさ密度を有する結晶核剤について、発明の詳細な説明には、そのごく一部が具体的に記載されているだけであり、本件訂正前の請求項2に係る発明の製造方法は記載されているとはいえない。(取消理由3アと同旨である。) (4)申立理由4(新規性) 本件訂正前の請求項1?15に係る発明は、本件特許出願前に日本国内または外国において、頒布された下記の甲1、甲2、甲5及び甲7に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 よって、本件訂正前の請求項1?15に係る発明の特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。 (5)申立理由5(進歩性) 本件訂正前の請求項1?15に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲1、甲2、甲5及び甲7に記載された発明及び甲1、2、3、5、8?10の記載された技術事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、本件訂正前の請求項1?15に係る発明の特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。 第5 当審の判断 当審は、本件発明2、3及び6に係る特許については、特許異議申立を却下することとし、また、当審が通知した取消理由1?5及び申立人がした申立理由1?5によっては、いずれも、本件発明1、4、5、7?15に係る特許を取り消すことはできないと判断する。 その理由は以下のとおりである。 1 申立ての却下 上記第2及び第3で示したとおり、請求項2、3及び6は、本件訂正により削除されているので、本件発明2、3及び6に係る特許についての申立てを却下する。 2 取消理由について 以下においては、取消理由について判断するが、取消理由と同旨の申立理由についても併せて判断する。 (1)取消理由1(明確性) ア 取消理由1の「ア」について (ア)取消理由1の「ア」は、本件訂正前の請求項1の記載のうち、乾式圧縮加工された圧縮物について、乾式圧縮加工の程度が明確でなく、また、乾式圧縮加工の後に粉砕や解砕加工を行ってもよいと解されるため、多義的に解されるので、本件発明1の乾式圧縮加工された圧縮物がどのような状態の圧縮物であるのか明確であるとはいえない、というものである。 (イ)判断 本件訂正により、本件発明1に係る結晶核剤が「ゆるみかさ密度が0.28?0.5g/cm^(3)の範囲であり、且つ、かためかさ密度が0.39?1.0g/cm^(3)の範囲」と特定され、また、「粉末状」であることが特定されたので、乾式圧縮加工された圧縮物が明確となった。 よって、取消理由1の「ア」は解消された。 イ 取消理由1の「イ」について (ア)取消理由1の「イ」は、結晶核剤に含まれる成分は、結晶核剤以外の添加剤を含むのか、含まないのかのいずれであるのか明らかでないから、本件訂正前の請求項1の結晶核剤が明確であるとはいえない、というものである。 (イ)判断 本件訂正により、本件発明1に係る結晶核剤が「下記一般式(1)で示されるジアセタール系化合物からなり(一般式(1)の記載は省略する。)」と特定された。また、この記載に関して、令和3年4月28日提出の意見書において、「「ジアセタール系化合物からなる」とは、本件発明の詳細な説明[0006]?[0013]に記載されている通り、「本質的に添加剤を含まない」ことを意味しており、これは、広辞苑に記載の「本質的」の意味、「あるものをそのものとして成り立たせているそれ独自の性質」の通り、添加剤としての性質を発揮しうる態様で含まないことを意味しており、添加剤として機能し得ない程度、例えば、不純物の程度で含まれることが許容されることは本発明の属する分野の技術常識であります。」と説明している。 本件訂正と意見書での説明により、本件発明1の結晶核剤は、一般式(1)で示されるジアセタールからなり、他の添加剤を添加剤としての性質を発揮しうる態様で含まないといえ、これにより、本件発明1に係る結晶核剤は明確であるといえるから、取消理由1の「イ」は解消された。 (2)取消理由2(サポート要件) ア まず、本件発明がサポート要件を満たすか否かを判断する。 (ア)本件発明の課題 本件訂正明細書の発明の詳細な説明の段落【0012】には、本質的に添加剤を使用することなくポリオレフィン系樹脂用結晶核剤の流動性を改良する方法、その方法を含む流動性の改良されたポリオレフィン系樹脂用結晶核剤の製造方法及び該方法により得られた流動性の改良されたポリオレフィン系樹脂用結晶核剤、更にその結晶核剤を含んでなるポリオレフィン系樹脂組成物及びその成形体を提供することを目的とすることが記載され、同【0013】には、本質的に添加剤を使用しなくても、従来問題とされていた樹脂中での分散性や溶解性を大きく損なうことなく、結晶核剤の流動性を著しく改良できることを見出し、本発明を完成するに至ったことが記載され、同【0040】には、本発明のポリオレフィン系樹脂用結晶核剤は、非常に流動性に優れており、生産性の向上などに大きく寄与することができること、また、問題であったポリオレフィン系樹脂中での分散性や溶解性についても実用上問題のないレベルであり、核剤性能を十分に発揮することができること、ポリオレフィン系樹脂成形体の性能や外観等が所望のレベルで得ることができることから、安心して使うことができることが記載されている。 そうすると、これらの記載によれば、本件発明1、4、5、7?10が解決しようとする課題は、本質的に添加剤を使用することなく樹脂中での分散性や溶解性を大きく損なうことなくポリオレフィン系樹脂用結晶核剤の流動性を改良する結晶核剤を提供すること、本件発明11及び12が解決しようとする課題は、本質的に添加剤を使用することなく樹脂中での分散性や溶解性を大きく損なうことなくポリオレフィン系樹脂用結晶核剤の流動性を改良する結晶核剤の製造方法を提供すること、本件発明13が解決しようとする課題は、本質的に添加剤を使用することなく樹脂中での分散性や溶解性を大きく損なうことなくポリオレフィン系樹脂用結晶核剤の流動性を改良する結晶核剤を含む樹脂組成物を提供すること、本件発明14が解決しようとする課題は、本質的に添加剤を使用することなく樹脂中での分散性や溶解性を大きく損なうことなくポリオレフィン系樹脂用結晶核剤の流動性を改良する結晶核剤を含む樹脂成形体を提供すること、本件発明15が解決しようとする課題は、本質的に添加剤を使用することなく樹脂中での分散性や溶解性を大きく損なうことなくポリオレフィン系樹脂用結晶核剤の流動性改良方法を提供することである。 (イ)判断 a 本件発明1について 本件発明1は、上記「第3」で示したとおり、 「ポリオレフィン系樹脂用結晶核剤であって、 該結晶核剤が乾式圧縮加工された圧縮物であり、 前記結晶核剤が、下記一般式(1)で示されるジアセタール系化合物からなり、 前記結晶核剤のゆるみかさ密度が0.28?0.5g/cm^(3)の範囲であり、且つ、かためかさ密度が0.39?1.0g/cm^(3)の範囲であり、 粉末状であり、安息角が48度以下である ことを特徴とする結晶核剤。 (一般式(1)の記載は省略する。)」で特定される発明である。 一方、発明の詳細な説明の段落【0042】には、「本発明に係る乾式圧縮加工は、・・・原料粉末を・・・で圧縮処理のみを行う操作である。従って、本発明の結晶核剤の形状は、一部粗粒化した粉末状・・・の圧縮物であり、従来の圧縮造粒で得られる上記粒状物とは全く異なる性状を示している。」が記載されている。 また、同【0044】には、「本発明の結晶核剤(乾式圧縮加工された圧縮物)は、ゆるめかさ密度が0.1?0.5g/cm^(3)、好ましくは0.15?0.45g/cm^(3)の範囲であり、且つ、かためかさ密度が0.2?1.0g/cm^(3)、好ましくは0.3?0.9g/cm^(3)の範囲であることを特徴としている。一般に、かさ密度は高いほど流動性に優れる傾向にあり、本発明でも従来の製品に比べてかさ密度が大きく増加しており、そのことが流動性の改良に効果をもたらしているものと推測される。」が記載され、同【0045】には、「さらに、本発明の結晶核剤(乾式圧縮加工された圧縮物)は、本発明の目的である流動性の改良の観点より、その安息角が好ましくは48度以下、より好ましくは46度以下であることが推奨される。安息角が48度を超えると十分な流動性が得られ難くなる傾向にある。」が記載されている。 さらに、同【0054】には、「本発明のポリオレフィン系樹脂用結晶核剤の種類は、本発明の効果を奏する限り、特に限定されるものではないが、例えば、ジアセタール系化合物、・・・などが例示される。なかでも、上記ジアセタール系化合物において、本発明の効果が最も顕著である。」が記載され、同【0055】には、本件発明1と同じ一般式(1)で示されるジアセタール化合物が記載されている。 そして、同【0075】以降に記載の実施例においては、本件発明1の特定を満たす粉末状の結晶核剤が、上記(ア)で示した本件発明1の解決しようとする課題を解決できることを、具体的なデータと共に記載されている。 そうすると、発明の詳細な説明には、本件発明1の課題が解決できることが当業者に認識できるように記載されているといえ、また、本願出願時の技術常識に基づき発明の詳細な説明に記載や示唆がなくても当業者が課題を解決できると認識できるということができる。 b 本件発明2?14について 本件発明1を直接または間接的に引用し、さらに具体化した本件発明2?14も、上記「a」で述べた理由と同じ理由により、発明の詳細な説明に課題が解決できることが当業者に認識できるように記載されているといえ、また、本願出願時の技術常識に基づき発明の詳細な説明に記載や示唆がなくても当業者が課題を解決できると認識できるということができる。 c 本件発明15について 本件発明15は、「ローラー圧縮法による乾式圧縮加工工程を具備」する「ポリオレフィン系樹脂用結晶核剤の流動性改良方法。」であるところ、結晶核剤は、本件発明1と同じ特定がされる発明である。 そうすると、本件発明15も、上記「a」で述べた理由と同じ理由により、発明の詳細な説明に課題が解決できることが当業者に認識できるように記載されているといえ、また、本願出願時の技術常識に基づき発明の詳細な説明に記載や示唆がなくても当業者が課題を解決できると認識できるということができる。 イ 取消理由2について (ア)取消理由2の「ア」 a 取消理由2の「ア」は、本件訂正前の請求項1に係る発明のうち、乾式圧縮加工の程度について、強固で完全な圧縮物である場合や、一部フレーク状のもろい圧縮物の場合には、実施例と同様に流動性に優れるといえるか明らかであるとはいえないし、また、ポリオレフィン系樹脂中での分散性や溶解性は実施例と比較して劣ることは明白であって、当業者であっても本件発明の課題を解決できると認識できない。また、記載がなくとも当業者であれば認識できるという技術常識も存在しない、というものである。 b 判断 本件訂正により、結晶核剤が「ゆるみかさ密度が0.28?0.5g/cm^(3)の範囲であり、且つ、かためかさ密度が0.39?1.0g/cm^(3)の範囲」と特定され、また、「粉末状」であることが特定されたため、本件発明1には、取消理由2の「ア」で述べた本件発明の課題を解決できないとされた強固で完全な圧縮物である場合や、一部フレーク状のもろい圧縮物の場合を含まなくなった。そして、上記「ア」で述べたように、本件発明1は、発明の詳細な説明にその課題が解決できることが当業者に認識できるように記載されているといえるものである。 よって、取消理由2の「ア」は解消された。 (イ)取消理由2の「イ」(申立理由1の「ウ」) a 取消理由2の「イ」は、本件訂正前の請求項1に係る発明のうち、結晶核剤の種類について、発明の詳細な説明に記載された実施例以外の結晶核剤についても、同様に当業者が本件発明の課題が解決できると認識できるということはできない。また、記載がなくとも当業者であれば認識できるという技術常識も存在しない、というものである。 b 判断 本件訂正により、結晶核剤が「一般式(1)で示されるジアセタール系化合物(一般式(1)の記載は省略する。)」からなることが特定され、また、発明の詳細な説明の段落【0054】には、ジアセタール系化合物が本発明の効果が最も顕著であることが記載され、同【0055】には、本件発明1と同じ一般式(1)で示されるジアセタール化合物が記載されている。そして、上記「ア」で述べたように、本件発明1は、発明の詳細な説明にその課題が解決できることが当業者に認識できるように記載されているといえるものである。 これに対して、申立人は反証等を挙げて主張している訳でもない。 よって、取消理由2の「イ」は解消された。 (3)取消理由3(実施可能要件) ア 取消理由3「ア」について(申立理由3「ア」) (ア)取消理由3の「ア」は、本件訂正前の請求項2に係る発明で特定されるかさ密度を有する結晶核剤について、発明の詳細な説明には、その製造方法は記載されているとはいえない、というものである。 (イ)判断 発明の詳細な説明の段落【0046】及び【0047】には、乾式圧縮加工の方法が記載され、「より精密に圧縮状態をコントロールできるローラー圧縮法が推奨される」ことが記載され、より具体的には、「例えば、ローラー圧縮法では、原料粉末の供給量、ロール間距離、ロール速度、ロール圧力などを調整して、原料粉末を乾式圧縮加工することができる」ことが記載され、「なかでも、ロール圧力が重要であり、好ましくは0.1?10MPaの範囲、より好ましくは1?10MPaの範囲、特に好ましくは3?10MPaの範囲で調整することが推奨される。ロール圧力が0.1MPa未満の場合、流動性改良が不十分である可能性があり、10MPaを超えると分散性が低下する懸念がある。」ことが記載されている。 そして、同【0075】以降に記載の実施例、特に同【0084】以降には、ホソカワミクロン(株)製のロール型圧縮造粒機「コパクティングマシン HMS-25」を用いて、室温下、ロール圧力を5?10MPaの範囲とし、ロール回転速度を20?25Hzの範囲とする条件下で乾式圧縮加工し、場合により解砕することで、ゆるめかさ密度が0.28?0.38g/cm^(3)とし、かためかさ密度が0.39?0.55g/cm^(3)する具体例が記載されている。 これらの発明の詳細な説明の記載をみた当業者であれば、本件出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤をする必要なく、本件発明2に係る結晶核剤を製造することができるといえる。 これに対して、申立人は反証等を挙げて主張している訳でもない。 よって、取消理由3の「ア」は解消された。 (4)取消理由4及び5(新規性及び進歩性) 取消理由4及び5は、甲1を主引用例とした新規性及び進歩性の取消理由である。ここでは、申立理由4及び5における甲1を主引用例とした新規性及び進歩性の理由も併せて判断する。 ア 甲号証の記載事項及び甲号証に記載された発明 甲1の請求項1及び7や段落【0001】、【0063】、【0073】、【0074】、【0083】、【0090】、【0108】以降の実施例のうち、実施例1を引用した実施例5を引用した実施例31に着目すると、甲1には以下の発明が記載されていると認められる。 「Me-DBS(1,3:2,4-ビス-O-(p-メチルベンジリデン)-D-ソルビトール)を96.5重量%、ラウリル硫酸ナトリウムを1.0重量%及びステアリン酸を2.5重量%からなる粉末状ジアセタール組成物を、乾式圧縮ロール造粒機を使用してロール圧力5MPaで幅25cmの板状の圧縮物を得、次に、ハンマーミルを用いて、回転速度1000rpm、スクリーンメッシュの孔径1mmの条件下で解砕した平均粒子径が200μmの板状の圧縮物を破砕した粒状ジアセタール組成物」(以下「甲1発明」という。) イ 対比・判断 (ア)本件発明1について a 対比 甲1発明の「Me-DBS(1,3:2,4-ビス-O-(p-メチルベンジリデン)-D-ソルビトール)」は、本件発明1の一般式(1)において、R^(1)及びR^(2)がメチル基、すなわち炭素数1のアルキル基であり、R^(3)が水素原子であり、m及びnは1であり、pは1である化合物であるから、本件発明1の「一般式(1)で示されるジアセタール系化合物」に相当する。そして、甲1の段落【0001】には、「本発明は、ジアセタール組成物、該組成物を含むポリオレフィン樹脂用核剤、・・・に関する。」と記載され、核剤は結晶核剤であることは明らかであって、甲1発明は、甲1に記載されたジアセタール組成物の具体例であるから、甲1発明のMe-DBS(1,3:2,4-ビス-O-(p-メチルベンジリデン)-D-ソルビトール)を96.5重量%、ラウリル硫酸ナトリウムを1.0重量%及びステアリン酸を2.5重量%からなる「ジアセタール組成物」は、本件発明1の「一般式(1)で示されるジアセタール系化合物からな」る「ポリオレフィン樹脂用結晶核剤」と「一般式(1)で示されるジアセタール系化合物」を含む「ポリオレフィン樹脂用結晶核剤」である限りにおいて一致する。 甲1発明の「粒状ジアセタール組成物」は、ジアセタール組成物を、乾式圧縮ロール造粒機を使用して圧縮物を得、次に、ハンマーミルを用いて解砕したものであり、これは、本件発明1の「乾式圧縮加工された圧縮物」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲1発明とでは、 「ポリオレフィン系樹脂用結晶核剤であって、 該結晶核剤が乾式圧縮加工された圧縮物であり、 前記結晶核剤が、下記一般式(1)で示されるジアセタール系化合物を含む、 ことを特徴とする結晶核剤。(一般式(1)の記載は省略する。)」で一致し、次の点で相違する。 (相違点1)結晶核剤が、本件発明1では、「下記一般式(1)で示されるジアセタール系化合物からなり」としているのに対し、甲1発明では、Me-DBS(1,3:2,4-ビス-O-(p-メチルベンジリデン)-D-ソルビトール)を96.5重量%、ラウリル硫酸ナトリウムを1.0重量%及びステアリン酸を2.5重量%からなるジアセタール組成物である点 (相違点2)結晶核剤が、本件発明1では、「ゆるみかさ密度が0.28?0.5g/cm^(3)の範囲であり、且つ、かためかさ密度が0.39?1.0g/cm^(3)の範囲」であるのに対し、甲1発明では明らかでない点 (相違点3)結晶核剤が、本件発明1では、「粉末状であり、安息角が48度以下である」のに対し、甲1発明では、粒状であり、安息角は明らかでない点 b 判断 (a)相違点1について i まず、相違点1が実質的な相違点か否かについて検討する。 結晶核剤は、本件発明1では、「下記一般式(1)で示されるジアセタール系化合物からなり」としており、これは、上記「(1)イ(イ)」で述べたように、令和3年4月28日提出の意見書において、「「ジアセタール系化合物からなる」とは、本件発明の詳細な説明[0006]?[0013]に記載されている通り、「本質的に添加剤を含まない」ことを意味しており、これは、広辞苑に記載の「本質的」の意味、「あるものをそのものとして成り立たせているそれ独自の性質」の通り、添加剤としての性質を発揮しうる態様で含まないことを意味しており、添加剤として機能し得ない程度、例えば、不純物の程度で含まれることが許容されることは本発明の属する分野の技術常識であります。」と説明し、本件発明1の結晶核剤は、一般式(1)で示されるジアセタールからなり、他の添加剤を添加剤としての性質を発揮しうる態様で含まないといえる。 一方、甲1の発明の詳細な説明の段落【0002】には、従来技術として、ジアセタールは、ポリオレフィン樹脂用の核剤として有用な化合物であるが、強い自己凝集性を有し、高融点であるために均一な溶解または分散させることは容易ではないことが記載され、同【0006】には、発明が解決しようとする課題として、ジアセタールの溶融樹脂への溶解性、分散性及び貯蔵安定性を改良し、透明性に優れたポリオレフィン系樹脂成形体を与え、融点降下性物質の添加量が少ないことが記載され、同【0011】には、アニオン系界面活性剤と脂肪族モノカルボン酸とを併用してジアセタールに分散させると、融点降下性物質の含有量が少量であってもジアセタールの融点降下及び分散性・溶解性を示すことを見出したことが記載されている。 この上で、甲1の特許請求の範囲の請求項1には、概略、(A)一般式(1)で表されるジアセタール、(B)アニオン系界面活性剤及び(C)脂肪族モノカルボン酸からなる粒状又は粉末状ジアセタール組成物が記載され、この粒状ジアセタール組成物の具体例として記載されている実施例31が甲1発明であり、同【0135】の表1には、ジアセタール組成物の均一性に優れ、ポリオレフィンに配合した際にヘイズ値が11%と低く、分散性が0.4個/枚であり、黄色度が12.2という効果が示されている。 甲1の上記記載をみると、甲1発明において、ジアセタール96.5重量%に対し、ラウリル硫酸ナトリウムを1.0重量%及びステアリン酸を2.5重量%含むことは、添加剤としての性質を発揮しうる態様で含んでいるといえ、本件発明1における「ジアセタール系化合物」からなる結晶核剤とは実質的に相違するものであるといえる。 よって、相違点1は実質的な相違点である。 ii 次に、相違点1の容易想到性について検討する。 上記iで述べたとおり、甲1には、段落【0006】に記載された、ジアセタールの溶融樹脂への溶解性、分散性及び貯蔵安定性を改良し、透明性に優れたポリオレフィン系樹脂成形体を与え、融点降下性物質の添加量が少ない、という課題を解決するために、その特許請求の範囲の請求項1に、概略、(A)一般式(1)で表されるジアセタール、(B)アニオン系界面活性剤及び(C)脂肪族モノカルボン酸からなる粒状又は粉末状ジアセタール組成物が記載され、その具体例として、実施例31として、甲1発明が記載されているといえる。そうすると、甲1発明であるジアセタール組成物において、あえて(B)アニオン系界面活性剤及び(C)脂肪族モノカルボン酸を除く動機づけがあるとはいえないから、相違点1は、当業者であっても容易になし得たとはいえない。 c まとめ そうすると、相違点2及び3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明及び甲1に記載された技術的事項から当業者が容易に想到できた発明でもない。 (イ)本件発明4、5、7?14について 本件発明4、5、7?14は、本件発明1を引用して具体化した発明であるから、上記(ア)で述べた理由と同じ理由により、本件発明4、5、7?14は、甲1に記載された発明ではなく、また、本件発明4、5、7?14は、甲1に記載された発明及び甲1に記載された技術的事項から当業者が容易に想到できた発明でもない。 (ウ)本件発明15について 本件発明15は、「ローラー圧縮法による乾式圧縮加工工程を具備」する「ポリオレフィン系樹脂用結晶核剤の流動性改良方法。」であるところ、結晶核剤は、本件発明1と同じ特定がされる発明である。 そうすると、本件発明15も、上記(ア)で述べた理由と同じ理由により、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明及び甲1に記載された技術的事項から当業者が容易に想到できた発明でもない。 ウ 小括 以上のとおりであるので、取消理由4及び5並びに甲1を主引用例とする申立理由4及び5は理由がない。 3 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立人がした申立理由について (1)申立理由1(サポート要件) ア 申立理由1の「ア」について (ア)申立理由1の「ア」は、本件訂正前の請求項1に係る発明のうち、乾式圧縮加工された圧縮物は、結晶核剤粒子が圧縮により凝集した凝集物と解釈されるところ、発明の詳細な説明の実施例に記載され、課題が解決したことが示されている結晶核剤は、結晶核剤粒子が圧縮により凝集した凝集物ではないから、本件訂正前の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない、というものである。 (イ)判断 本件訂正により、結晶核剤が「ゆるみかさ密度が0.28?0.5g/cm^(3)の範囲であり、且つ、かためかさ密度が0.39?1.0g/cm^(3)の範囲」と特定され、また、「粉末状」であることが特定された。この発明が、サポート要件を満足することは、上記2(2)(イ)aで述べたとおりである。 よって、申立理由1の「ア」は理由がない。 イ 申立理由1の「イ」について (ア)申立理由1の「イ」は、本件訂正前の請求項1に係る発明は、結晶核剤以外の添加剤を使用すると解釈されるところ、添加剤を使用する場合には、本件訂正前の請求項1に係る発明の課題を解決できないことは明らかである、というものである。 (イ)判断 上記2(2)イ(イ)で述べたように、本件訂正により、本件発明1に係る結晶核剤は一般式(1)で示されるジアセタール系化合物からなり、仮に他の添加剤を含んでいたとしても不純物程度であり、他の添加剤を添加剤としての性質を発揮しうる態様で含まないといえるから、本件発明1は、上記主張の前提である本件発明の結晶核剤は結晶核剤以外の添加剤を使用すると解釈されるものではない。 よって、申立理由1の「イ」は理由がない。 ウ 申立理由1の「エ」及び「オ」について (ア)申立理由1の「エ」は、本件訂正前の請求項1に係る発明のうち、乾式圧縮加工された圧縮物は、あらゆる方法および条件で乾式圧縮加工された圧縮物をすべて包含するものであると解釈されるところ、このようなあらゆる方法や条件で乾式圧縮された圧縮物のすべてが、発明の課題を解決できるとはいえない、というものであり、また、申立理由1の「オ」は、本件訂正前の請求項2に係る発明のうち、課題を解決できたことが確認できたのは実施例に記載されたごく一部であるから、本件訂正前の請求項2に係る発明が課題を解決できると認識できるとはいえない、というものである。 (イ)判断 本件訂正により、本件発明1は、上記「第3」で示したとおり 「ポリオレフィン系樹脂用結晶核剤であって、 該結晶核剤が乾式圧縮加工された圧縮物であり、 前記結晶核剤が、下記一般式(1)で示されるジアセタール系化合物からなり、 前記結晶核剤のゆるみかさ密度が0.28?0.5g/cm^(3)の範囲であり、且つ、かためかさ密度が0.39?1.0g/cm^(3)の範囲であり、 粉末状であり、安息角が48度以下である ことを特徴とする結晶核剤。(一般式(1)の記載は省略する。)」で特定される発明である。 そして、この発明が、サポート要件を満足することは、上記2(2)(イ)aで述べたとおりである。 これに対し、申立人は、具体的な証拠を挙げてサポートされていないことを主張するわけでもない。 よって、申立理由1の「エ」及び「オ」は理由がない。 (2)申立理由2(明確性) ア 申立理由2の「ア」は、本件訂正前の請求項1に係る発明は、「結晶核剤」という物の発明であるが、「乾式圧縮加工された」というその物の製造方法が記載されている。しかしながら、不可能・非実際的事情が存在するとはいえないから、本件訂正前の請求項1に係る発明は明確でない、また、本件訂正前の請求項4及び5に係る発明も同様に明確でない、というものである。 イ 判断 本件訂正により、本件発明1は、上記「第3」で示したとおり 「ポリオレフィン系樹脂用結晶核剤であって、 該結晶核剤が乾式圧縮加工された圧縮物であり、 前記結晶核剤が、下記一般式(1)で示されるジアセタール系化合物からなり、 前記結晶核剤のゆるみかさ密度が0.28?0.5g/cm^(3)の範囲であり、且つ、かためかさ密度が0.39?1.0g/cm^(3)の範囲であり、 粉末状であり、安息角が48度以下である ことを特徴とする結晶核剤。(一般式(1)の記載は省略する。)」で特定される発明である。 上記したとおり、本件発明1の結晶核剤は、一般式(1)で示されるジアセタール系化合物からなること、ゆるみかさ密度が0.28?0.5g/cm^(3)の範囲であり、且つ、かためかさ密度が0.39?1.0g/cm^(3)の範囲であること、粉末状であること、安息角が48度以下であることが特定され明確であるといえ、「乾式圧縮加工された」というその物の製造方法が記載されていても何ら不明確であるものではない。 これに対し、申立人は、特許請求の範囲に「乾式圧縮加工された」というその物の製造方法が記載されていることにより結晶核剤が明確でないとする具体的な理由を主張するわけでもない。 よって、申立理由2の「ア」は理由がない。 (4)申立理由4及び5(新規性及び進歩性) ア 甲号証の記載事項及び甲号証に記載された発明 (ア)甲2 甲2の記載事項を申立人が提出した翻訳文に従ってみていき、甲2に記載された発明を認定する。 甲2の請求項1やカラム1の7?9行、同21?24行、カラム4の31?37行、カラム8の60?65行、カラム8の66行?カラム9の4行、特に、カラム10の6?28行に記載の実施例1に着目すると、甲2には以下の発明が記載されていると認められる。 「1,3-2,4-ジ(4-メチルベンジリデン)ソルビトール、および、アルジトールジアセタールの重量に対して11重量%のグリセロール、ソルビトール、ペンタエリスリトールおよびビタミンEの一つを周囲温度で「ロボットクーペ」型のミキサーに導入し、周囲温度で5分間混合した後、得られた組成物を、トリプルローラー圧縮機中で冷間圧縮操作に供し、非常に大幅に改善された流動挙動および非常に有意に増加した通気濃度、すなわち約330?340g/l(ソルビトールまたはペンタエリスリトールで得られる)?約370g/l(グリセリンまたはビタミンEで得られる)を有するアルジトールアセタール粉末」(以下「甲2発明」という。) (イ)甲5 甲5の請求項1、5、9?12や段落[0018]、[0022]、特に、[0023]以降の実施例のうち、実施例1を引用した実施例2を引用した比較例3に着目すると、甲5には以下の発明が記載されていると認められる。 「樹脂用添加剤として結晶化核剤[ミリケン社製のノニトール系核剤ミラードNX8000J]100質量部に、湿潤剤としてカルシウムステアレート10質量部をヘンシェルミキサーに投入混合してウェット化された混合物を得て、この混合物を乾式造粒機[フロイントターボ社製、ローラーコンバクター]に投入して、直径1mmの湿潤した顆粒化物を製造し、この顆粒化物を箱形乾燥機にて90℃で8時間乾燥して製造された、安息角が40°である顆粒状樹脂用添加剤」(以下「甲5発明」という。) (ウ)甲7 甲7の請求項1や段落【0001】、【0003】、【0049】、特に、【0053】以降の実施例のうち、製造実施例1を引用した比較製造例1に着目すると、甲7には以下の発明が記載されていると認められる。 「2,2’-メチレンビス(4,6-ジ第三ブチルフェニル)ホスフェートのナトリウム塩:10質量部、トリス(2,4-ジ第三ブチルフェニル)ホスファイト:10質量部、ステアリン酸カルシウム:8質量部の配合により、ローラーコンパクター(ターボ工業株式会社製WP160×60型)、ギャップ1.5mm、フィード速度100rpmで製造した直径2?3.0mmの板状顆粒」(以下「甲7発明」という。) イ 対比・判断 (ア)本件発明1について a 甲2発明との対比・判断 (a)対比 甲2発明の「1,3-2,4-ジ(4-メチルベンジリデン)ソルビトール」は、本件発明1の一般式(1)において、R^(1)及びR^(2)がメチル基、すなわち炭素数1のアルキル基であり、R^(3)が水素原子であり、m及びnは1であり、pは1である化合物であるから、本件発明1の「一般式(1)で示されるジアセタール系化合物」に相当する。そして、甲2のカラム1の7?9行には、「アジトールアセタールは、添加剤として、特にポリオレフィンの・・・核剤として使用されうることがよく知られている」と記載され、核剤は結晶核剤であることは明らかであって、甲2発明は、甲2の請求項1に記載されたアジトールアセタール組成物の具体例であるから、甲2発明の「1,3-2,4-ジ(4-メチルベンジリデン)ソルビトール、および、アルジトールジアセタールの重量に対して11重量%のグリセロール、ソルビトール、ペンタエリスリトールおよびビタミンEの一つ」から「得られた組成物」から製造された「アルジトールアセタール粉末」は、本件発明1の「一般式(1)で示されるジアセタール系化合物からな」る「ポリオレフィン樹脂用結晶核剤」と「一般式(1)で示されるジアセタール系化合物」を含む「ポリオレフィン樹脂用結晶核剤」である限りにおいて一致する。 甲2発明の「アルジトールアセタール粉末」は、「1,3-2,4-ジ(4-メチルベンジリデン)ソルビトール、および、アルジトールジアセタールの重量に対して11重量%のグリセロール、ソルビトール、ペンタエリスリトールおよびビタミンEの一つ」から「得られた組成物」を「冷間圧縮操作に供し」て製造されるから、これは、本件発明1の「乾式圧縮加工された圧縮物」であり、「粉末状」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲2発明とでは、 「ポリオレフィン系樹脂用結晶核剤であって、 該結晶核剤が乾式圧縮加工された圧縮物であり、 前記結晶核剤が、下記一般式(1)で示されるジアセタール系化合物を含む、 粉末状であることを特徴とする結晶核剤。(一般式(1)の記載は省略する。)」で一致し、次の点で相違する。 (相違点4)結晶核剤が、本件発明1では、「下記一般式(1)で示されるジアセタール系化合物からなり」としているのに対し、甲2発明では、1,3-2,4-ジ(4-メチルベンジリデン)ソルビトール、および、アルジトールジアセタールの重量に対して11重量%のグリセロール、ソルビトール、ペンタエリスリトールおよびビタミンEの一つから得られた組成物である点 (相違点5)結晶核剤が、本件発明1では、「ゆるみかさ密度が0.28?0.5g/cm^(3)の範囲であり、且つ、かためかさ密度が0.39?1.0g/cm^(3)の範囲」であるのに対し、甲2発明では明らかでない点 (相違点6)結晶核剤が、本件発明1では、「安息角が48度以下である」のに対し、甲2発明では、安息角は明らかでない点 (b)判断 i まず、相違点4が実質的な相違点か否かについて検討する。 上記2(4)イ(ア)b(a)iで述べたとおり、本件発明1の結晶核剤は、一般式(1)で示されるジアセタールからなり、他の添加剤を添加剤としての性質を発揮しうる態様で含まないといえる。 一方、甲2のカラム1の32?39行には、アルジトールアセタールの工業的仕様に関連する主な欠点の1つは、これらの生成物の挙動が悪いことに関連し、これは、非常に粉末状で非常に粘着性のある特性による、という旨の記載がされ、同カラム4の16?24行には、発明の目的及び概要として、アルジトールアセールの流動挙動および/または安定性の改善を可能にする方法を提供する旨の記載がされ、カラム4の30?37行及び請求項1には、概略、改善された流動挙動および/または改善された安定性を有するアルジトールアセタールの組成物であって、アルジトールアセタールと、トコフェロール及びその誘導体、ポリオール及びそれらの非脂肪誘導体を含む少なくとも1つの添加剤を含む組成物が記載されている。 そして、この請求項1の組成物の具体例として記載されている実施例1が甲2発明であり、自由流動性挙動を有することが記載されている。 甲2の上記記載をみると、甲2発明において、1,3-2,4-ジ(4-メチルベンジリデン)ソルビトールに対し、11重量%のグリセロール、ソルビトール、ペンタエリスリトールおよびビタミンEの一つを含むことは、添加剤としての性質を発揮しうる態様で含んでいるといえ、本件発明1における「ジアセタール系化合物」からなる結晶核剤とは実質的に相違するものであるといえる。 よって、相違点4は実質的な相違点である。 ii 次に、相違点4の容易想到性について検討する。 上記iで述べたとおり、甲2のカラム1の32?39行には、アルジトールアセタールの工業的仕様に関連する主な欠点の1つは、これらの生成物の挙動が悪いことに関連し、これは、非常に粉末状で非常に粘着性のある特性による、という技術課題のもと、その請求項1に、概略、改善された流動挙動および/または改善された安定性を有するアルジトールアセタールの組成物であって、アルジトールアセタールと、トコフェロール及びその誘導体、ポリオール及びそれらの非脂肪誘導体を含む少なくとも1つの添加剤を含む組成物が記載され、その具体例として、実施例1として、甲2発明が記載されているといえる。そうすると、甲2発明であるアルジトールアセタール粉末に含まれるグリセロール、ソルビトール、ペンタエリスリトールおよびビタミンEの一つを除く動機付けがあるとはいえないから、相違点4は、当業者であっても容易になし得たとはいえない。 (c)まとめ そうすると、相違点5及び6について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2に記載された発明ではなく、また、甲2に記載された発明及び甲2に記載された技術的事項から当業者が容易に想到できた発明でもない。 (イ)本件発明4、5、7?14について 本件発明4、5、7?14は、本件発明1を引用して具体化した発明であるから、上記(ア)で述べた理由と同じ理由により、本件発明4、5、7?14は、甲2に記載された発明ではなく、また、本件発明4、5、7?14は、甲2に記載された発明及び甲2に記載された技術的事項から当業者が容易に想到できた発明でもない。 (ウ)本件発明15について 本件発明15は、「ローラー圧縮法による乾式圧縮加工工程を具備」する「ポリオレフィン系樹脂用結晶核剤の流動性改良方法。」であるところ、結晶核剤は、本件発明1と同じ特定がされる発明である。 そうすると、本件発明15も、上記(ア)で述べた理由と同じ理由により、甲2に記載された発明ではなく、また、甲2に記載された発明及び甲2に記載された技術的事項から当業者が容易に想到できた発明でもない。 b 甲5発明との対比・判断 (a)対比 甲5発明の「結晶化核剤」は結晶核剤であることは明らかであって、甲5の特許請求の範囲の請求項9には、熱可塑性樹脂に添加すること、同請求項11には、熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂であることが記載されているから、甲5発明の「樹脂用添加剤」は、本件発明1のポリオレフィン系樹脂用結晶核剤に相当する。 甲5発明の「結晶化核剤[ミリケン社製のノニトール系核剤ミラードNX8000J]100質量部に、湿潤剤としてカルシウムステアレート10質量部を」「混合し」た「混合物」を「乾式造粒機[フロイントターボ社製、ローラーコンバクター]に投入して」製造した「顆粒化物」は、本件発明1の「乾式圧縮加工された圧縮物」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲5発明とでは、 「ポリオレフィン系樹脂用結晶核剤であって、 該結晶核剤が乾式圧縮加工された圧縮物であることを特徴とする結晶核剤。」で一致し、次の点で相違する。 (相違点7)結晶核剤が、本件発明1では、「下記一般式(1)で示されるジアセタール系化合物からなり(一般式(1)の記載は省略する。)」としているのに対し、甲5発明では、結晶化核剤[ミリケン社製のノニトール系核剤ミラードNX8000J]100質量部に、湿潤剤としてカルシウムステアレート10質量部からなる混合物である点 (相違点8)結晶核剤が、本件発明1では、「ゆるみかさ密度が0.28?0.5g/cm^(3)の範囲であり、且つ、かためかさ密度が0.39?1.0g/cm^(3)の範囲」であるのに対し、甲5発明では明らかでない点 (相違点9)結晶核剤が、本件発明1では、「粉末状であり、安息角が48度以下である」のに対し、甲5発明では、顆粒状であり、安息角は明らかでない点 (b)判断 i まず、相違点7が実質的な相違点か否かについて検討する。 上記2(4)イ(ア)b(a)iで述べたとおり、本件発明1の結晶核剤は、一般式(1)で示されるジアセタールからなり、他の添加剤を添加剤としての性質を発揮しうる態様で含まないといえる。 一方、甲5の[0003]には、樹脂に配合する添加剤は、粉末状であると浮遊粉塵による作業環境の悪化や定量的に供給することが困難であることが記載され、[0004]には、顆粒状とする際の課題が記載され、[0006]には、樹脂用添加剤を特定の製造方法によって顆粒状樹脂用添加剤とすることにより効率よく樹脂組成物が得られることが記載され、[0008]及び請求の範囲の請求項1には、樹脂用添加剤に水及び湿潤剤を添加しウェット化物とし、造粒機により顆粒化して顆粒化物とし、乾燥させる、顆粒状樹脂用添加剤の製造方法が記載されている。 そして、この請求項1の組成物の具体例として記載されている実施例2に対して、水を使用せず、湿潤剤としてカルシウムステアレート10質量部を加えて混合物を得て、この混合物を乾式造粒機で顆粒状樹脂用添加剤とした比較例3が甲5発明であり、実施例2と対比すると、凝集物が多数あり透明性が良好でないことが記載されている。 甲5の上記記載をみると、甲5発明において、湿潤剤としてカルシウムステアレートを含むことは、添加剤としての性質を発揮しうる態様で含んでいるといえ、本件発明1における「ジアセタール系化合物」からなる結晶核剤とは実質的に相違するものであるといえる。 よって、相違点7は実質的な相違点である。 ii 次に、相違点7の容易想到性について検討する。 上記iで述べたとおり、甲5の請求項1には、樹脂用添加剤に水及び湿潤剤を添加しウェット化物とし、造粒機により顆粒化して顆粒化物とし、乾燥させる顆粒状樹脂用添加剤の製造方法が記載され、その具体例として記載される実施例2において、水を使用せず、湿潤剤としてカルシウムステアレート10質量部を加えて混合物を得て、この混合物を乾式造粒機で顆粒状樹脂用添加剤とした比較例3が甲5発明であり、この甲5発明において、湿潤剤としてのカルシウムステアレートを除く動機付けがあるとはいえないから、相違点7は、当業者であっても容易になし得たとはいえない。 (c)まとめ そうすると、相違点8及び9について検討するまでもなく、本件発明1は、甲5に記載された発明ではなく、また、甲5に記載された発明及び甲5に記載された技術的事項から当業者が容易に想到できた発明でもない。 (イ)本件発明4、5、7?14について 本件発明4、5、7?14は、本件発明1を引用して具体化した発明であるから、上記(ア)で述べた理由と同じ理由により、本件発明4、5、7?14は、甲5に記載された発明ではなく、また、本件発明4、5、7?14は、甲5に記載された発明及び甲5に記載された技術的事項から当業者が容易に想到できた発明でもない。 (ウ)本件発明15について 本件発明15は、「ローラー圧縮法による乾式圧縮加工工程を具備」する「ポリオレフィン系樹脂用結晶核剤の流動性改良方法。」であるところ、結晶核剤は、本件発明1と同じ特定がされる発明である。 そうすると、本件発明15も、上記(ア)で述べた理由と同じ理由により、甲5に記載された発明ではなく、また、甲5に記載された発明及び甲5に記載された技術的事項から当業者が容易に想到できた発明でもない。 c 甲7発明との対比・判断 (a)対比 甲7発明の「板状顆粒」に含まれる2,2’-メチレンビス(4,6-ジ第三ブチルフェニル)ホスフェートのナトリウム塩は、甲7の段落【0013】?【0024】をみるとポリオレフィン用結晶核剤であるといえるから、甲7発明の「板状顆粒」は、本件発明1のポリオレフィン系樹脂用結晶核剤に相当する。 甲7発明の「2,2’-メチレンビス(4,6-ジ第三ブチルフェニル)ホスフェートのナトリウム塩:10質量部、トリス(2,4-ジ第三ブチルフェニル)ホスファイト:10質量部、ステアリン酸カルシウム:8質量部の配合」を「ローラーコンパクター」を用いて製造した「板状顆粒」は、ローラーコンパクターが乾式圧縮加工するための装置であることは明らかであるから、本件発明1の「乾式圧縮加工された圧縮物」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲7発明とでは、 「ポリオレフィン系樹脂用結晶核剤であって、 該結晶核剤が乾式圧縮加工された圧縮物であることを特徴とする結晶核剤。」で一致し、次の点で相違する。 (相違点10)結晶核剤が、本件発明1では、「下記一般式(1)で示されるジアセタール系化合物からなり(一般式(1)の記載は省略する。)」としているのに対し、甲7発明では、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ第三ブチルフェニル)ホスフェートのナトリウム塩:10質量部、トリス(2,4-ジ第三ブチルフェニル)ホスファイト:10質量部、ステアリン酸カルシウム:8質量部からなる混合物である点 (相違点11)結晶核剤が、本件発明1では、「ゆるみかさ密度が0.28?0.5g/cm^(3)の範囲であり、且つ、かためかさ密度が0.39?1.0g/cm^(3)の範囲」であるのに対し、甲7発明では明らかでない点 (相違点12)結晶核剤が、本件発明1では、「粉末状であり、安息角が48度以下である」のに対し、甲7発明では、板状顆粒であり、安息角は明らかでない点 (b)判断 i まず、相違点10が実質的な相違点か否かについて検討するが、甲7発明で配合される化合物は、本件発明1で特定される一般式(1)で示されるジアセタール化合物ではない。 よって、相違点10は実質的な相違点である。 ii 次に、相違点10の容易想到性について検討するが、甲7には、本件発明1で特定される一般式(1)で示されるジアセタール化合物が記載も示唆もされていない。 よって、相違点10は、当業者であっても容易になし得たとはいえない。 (c)まとめ そうすると、相違点11及び12について検討するまでもなく、本件発明1は、甲7に記載された発明ではなく、また、甲7に記載された発明及び甲7に記載された技術的事項から当業者が容易に想到できた発明でもない。 (イ)本件発明4、5、7?14について 本件発明4、5、7?14は、本件発明1を引用して具体化した発明であるから、上記(ア)で述べた理由と同じ理由により、本件発明4、5、7?14は、甲7に記載された発明ではなく、また、本件発明4、5、7?14は、甲7に記載された発明及び甲7に記載された技術的事項から当業者が容易に想到できた発明でもない。 (ウ)本件発明15について 本件発明15は、「ローラー圧縮法による乾式圧縮加工工程を具備」する「ポリオレフィン系樹脂用結晶核剤の流動性改良方法。」であるところ、結晶核剤は、本件発明1と同じ特定がされる発明である。 そうすると、本件発明15も、上記(ア)で述べた理由と同じ理由により、甲7に記載された発明ではなく、また、甲7に記載された発明及び甲7に記載された技術的事項から当業者が容易に想到できた発明でもない。 ウ 小括 以上のとおりであるので、甲2、甲5及び甲7を主引用例とする申立理由4及び5は理由がない。 第6 むすび 特許第6694139号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?14〕、15について訂正することを認める。 本件発明2、3及び6に係る特許に対する申立は、特許法第120条の8で準用する同法第135条の規定により却下する。 当審が通知した取消理由及び特許異議申立人がした申立理由によっては、本件発明1、4、5、7?15に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1、4、5、7?15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 ポリオレフィン系樹脂用結晶核剤であって、 該結晶核剤が乾式圧縮加工された圧縮物であり、 前記結晶核剤が、下記一般式(1)で示されるジアセタール系化合物からなり、 前記結晶核剤のゆるみかさ密度が0.28?0.5g/cm^(3)の範囲であり、且つ、かためかさ密度が0.39?1.0g/cm^(3)の範囲であり、 粉末状であり、安息角が48度以下である ことを特徴とする結晶核剤。 【化1】 [式(1)中、R^(1)及びR^(2)は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のアルキル基、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のアルコキシ基、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のアルコキシカルボニル基又はハロゲン原子を示す。R^(3)は、水素原子、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のアルキル基、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数2?4のアルケニル基又は直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のヒドロキシアルキル基を示す。m及びnは、それぞれ1?5の整数を示す。pは0又は1を示す。2つのR^(1)は互いに結合してそれらが結合するベンゼン環と共にテトラリン環を形成していてもよい。2つのR^(2)基は互いに結合してそれらが結合するベンゼン環と共にテトラリン環を形成していてもよい。] 【請求項2】削除 【請求項3】削除 【請求項4】 前記乾式圧縮加工が、ローラー圧縮法である請求項1に記載の結晶核剤。 【請求項5】 前記乾式圧縮加工におけるロール圧力が0.1?10MPaの範囲である、請求項4に記載の結晶核剤。 【請求項6】削除 【請求項7】 ポリオレフィン系樹脂用結晶核剤であって、 該結晶核剤が乾式圧縮加工された圧縮物であり、 前記結晶核剤が、下記一般式(1)で示されるジアセタール系化合物からなり、下記一般式(1)において、R^(1)及びR^(2)が、同一又は異なって、メチル基又はエチル基であり、かつ、R^(3)が水素原子であり、m及びnが1又は2の整数であり、pが1であり、 前記結晶核剤のゆるみかさ密度が0.28?0.5g/cm^(3)の範囲であり、且つ、かためかさ密度が0.39?1.0g/cm^(3)の範囲であり、 粉末状であり、安息角が48度以下である ことを特徴とする結晶核剤。 【化2】 [式(1)中、R^(1)及びR^(2)は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のアルキル基、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のアルコキシ基、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のアルコキシカルボニル基又はハロゲン原子を示す。R^(3)は、水素原子、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のアルキル基、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数2?4のアルケニル基又は直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のヒドロキシアルキル基を示す。m及びnは、それぞれ1?5の整数を示す。pは0又は1を示す。2つのR^(1)は互いに結合してそれらが結合するベンゼン環と共にテトラリン環を形成していてもよい。2つのR^(2)基は互いに結合してそれらが結合するベンゼン環と共にテトラリン環を形成していてもよい。] 【請求項8】 ポリオレフィン系樹脂用結晶核剤であって、 該結晶核剤が乾式圧縮加工された圧縮物であり、 前記結晶核剤が、下記一般式(1)で示されるジアセタール系化合物からなり、下記一般式(1)において、R^(1)及びR^(2)が、同一又は異なって、プロピル基又はプロポキシ基であり、かつ、R^(3)がプロピル基又はプロペニル基であり、m及びnが1であり、pが1であり、 前記結晶核剤のゆるみかさ密度が0.28?0.5g/cm^(3)の範囲であり、且つ、かためかさ密度が0.39?1.0g/cm^(3)の範囲であり、 粉末状であり、安息角が48度以下である ことを特徴とする結晶核剤。 【化3】 [式(1)中、R^(1)及びR^(2)は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のアルキル基、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のアルコキシ基、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のアルコキシカルボニル基又はハロゲン原子を示す。R^(3)は、水素原子、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のアルキル基、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数2?4のアルケニル基又は直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のヒドロキシアルキル基を示す。m及びnは、それぞれ1?5の整数を示す。pは0又は1を示す。2つのR^(1)は互いに結合してそれらが結合するベンゼン環と共にテトラリン環を形成していてもよい。2つのR^(2)基は互いに結合してそれらが結合するベンゼン環と共にテトラリン環を形成していてもよい。] 【請求項9】 JIS K0069(1992)に準拠した条件で、ふるい上の二次凝集物を砕かずに行うふるい分け試験において、目開き1mmのJIS試験用ふるい上の残存物の全重量に対する割合が25重量%以下である、請求項1、4、5、7、8の何れかに記載の結晶核剤。 【請求項10】 レーザー回折式粒度分布測定において、粒径15μm以上の粗粒の全体積に対する割合が50体積%以上である、請求項1、4、5、7?9の何れかに記載の結晶核剤。 【請求項11】 請求項1、4、5、7?10の何れかに記載のポリオレフィン系樹脂用結晶核剤の製造方法であって、 ローラー圧縮法による乾式圧縮加工工程を具備することを特徴とする製造方法。 【請求項12】 前記圧縮加工工程におけるロール圧力が、0.1?10MPaの範囲である請求項11に記載の製造方法。 【請求項13】 ポリオレフィン系樹脂及び請求項1、4、5、7?10の何れかに記載のポリオレフィン系樹脂用結晶核剤を含んでなるポリオレフィン系樹脂組成物。 【請求項14】 請求項13に記載にポリオレフィン系樹脂組成物を原料とするポリオレフィン系樹脂成形体。 【請求項15】 ローラー圧縮法による乾式圧縮加工工程を具備し、 ポリオレフィン系樹脂用結晶核剤が、下記一般式(1)で示されるジアセタール系化合物からなり、 前記結晶核剤のゆるみかさ密度が0.28?0.5g/cm^(3)の範囲であり、且つ、かためかさ密度が0.39?1.0g/cm^(3)の範囲であり、 粉末状であり、安息角が48度以下である ことを特徴とするポリオレフィン系樹脂用結晶核剤の流動性改良方法。 【化4】 [式(1)中、R^(1)及びR^(2)は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のアルキル基、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のアルコキシ基、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のアルコキシカルボニル基又はハロゲン原子を示す。R^(3)は、水素原子、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のアルキル基、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数2?4のアルケニル基又は直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1?4のヒドロキシアルキル基を示す。m及びnは、それぞれ1?5の整数を示す。pは0又は1を示す。2つのR^(1)は互いに結合してそれらが結合するベンゼン環と共にテトラリン環を形成していてもよい。2つのR^(2)基は互いに結合してそれらが結合するベンゼン環と共にテトラリン環を形成していてもよい。] |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2021-09-30 |
出願番号 | 特願2016-149528(P2016-149528) |
審決分類 |
P
1
651・
536-
YAA
(C08K)
P 1 651・ 537- YAA (C08K) P 1 651・ 113- YAA (C08K) P 1 651・ 121- YAA (C08K) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 小森 勇 |
特許庁審判長 |
杉江 渉 |
特許庁審判官 |
佐藤 玲奈 佐藤 健史 |
登録日 | 2020-04-21 |
登録番号 | 特許第6694139号(P6694139) |
権利者 | 新日本理化株式会社 |
発明の名称 | ポリオレフィン系樹脂用結晶核剤 |
代理人 | 特許業務法人安富国際特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人 安富国際特許事務所 |