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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B29B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B29B
管理番号 1379837
異議申立番号 異議2020-700993  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-12-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-12-21 
確定日 2021-10-13 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6713095号発明「樹脂成形体の製造方法、樹脂成形用ペレットの製造方法及び平滑性を向上する方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6713095号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1ないし5]、[6]、[7]について訂正することを認める。 特許第6713095号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6713095号の請求項1ないし7に係る特許についての出願は、2017年(平成29年)8月9日(優先権主張 平成28年8月12日)を国際出願日とする出願であって、令和2年6月5日にその特許権の設定登録(請求項の数7)がされ、同年6月24日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和2年12月21日 : 特許異議申立人 松井 佳章(以下、「
特許異議申立人」という。)による特許
異議の申立て(対象請求項:全請求項)
令和3年 3月26日付け : 取消理由通知
同年 5月24日 : 特許権者 株式会社TBM
(以下、「特許権者」という。)による
訂正請求及び意見書の提出
同年 5月28日付け : 特許法第120条の5第5項の通知
同年 6月30日 : 特許異議申立人による意見書の提出

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和3年5月24日付けの訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下の(1)ないし(6)のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「熱可塑性樹脂と、表面が改質されていない無機粒子とを含む樹脂組成物のペレットを成形するペレット成形工程」
と記載されているのを、
「熱可塑性樹脂と、表面が改質されていない無機粒子と、滑剤とを含む樹脂組成物のペレットを成形するペレット成形工程」
に訂正する。
請求項1の記載を引用する請求項2ないし5についても同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に、
「・・・である、製造方法。」
と記載されているのを、
「・・・であり、前記樹脂成形体は建材である、製造方法。」
に訂正する。
請求項1の記載を引用する請求項2ないし5も同様に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項6に、
「熱可塑性樹脂と、表面が改質されていない無機粒子とを含む樹脂組成物のペレットを調製するペレット調製工程」
と記載されているのを、
「熱可塑性樹脂と、表面が改質されていない無機粒子と、滑剤とを含む樹脂組成物のペレットを調製するペレット調製工程」
に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6に
「・・・である、製造方法。」
と記載されているのを、
「・・・であり、樹脂成形用ペレットは建材用樹脂成形用ペレットである、製造方法。」
に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項7に
「熱可塑性樹脂と、表面が改質されていない無機粒子とを含む樹脂組成物のペレットを調製するペレット調製工程」
と記載されているのを、
「熱可塑性樹脂と、表面が改質されていない無機粒子と、滑剤とを含む樹脂組成物のペレットを調製するペレット調製工程」
に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7に
「・・・である、方法。」
と記載されているのを、
「・・・であり、前記樹脂成形体は建材である、方法」
に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1のペレット成形工程における「樹脂組成物」について、訂正後の請求項1は、「熱可塑性樹脂と、表面が改質されていない無機粒子と、滑剤とを含む」ことに限定するものである。
したがって、訂正事項1は特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1は、訂正前の請求項1及び本件特許明細書の段落【0030】及び実施例の記載からみて、本件特許の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
さらに、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし5に関する訂正事項1も同様である。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項1の「樹脂成形体」について、訂正後の請求項1は、「前記樹脂成形体は建材である」ことを限定するものである。
したがって、訂正事項2は特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項2は、訂正前の請求項1及び本件特許明細書の段落【0037】の記載からみて、本件特許の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
さらに、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし5に関する訂正事項2も同様である。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項6のペレット調製工程における「樹脂組成物」について、訂正後の請求項6は、「熱可塑性樹脂と、表面が改質されていない無機粒子と、滑剤とを含む」ことに限定するものである。
したがって、訂正事項3は特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項3は、訂正前の請求項6及び本件特許明細書の段落【0030】及び実施例の記載からみて、本件特許の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の請求項6の「樹脂成形用ペレット」について、訂正後の請求項1は、「建材用樹脂成形用ペレット」に限定するものである。
したがって、訂正事項4は特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項4は、訂正前の請求項6及び本件特許明細書の段落【0037】の記載からみて、本件特許の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)訂正事項5について
訂正事項5は、訂正前の請求項7のペレット調製工程における「樹脂組成物」について、訂正後の請求項7は、「熱可塑性樹脂と、表面が改質されていない無機粒子と、滑剤とを含む」ことに限定するものである。
したがって、訂正事項5は特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項5は、訂正前の請求項7及び本件特許明細書の段落【0030】及び実施例の記載からみて、本件特許の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(6)訂正事項6について
訂正事項6は、訂正前の請求項7の「樹脂成形体」について、訂正後の請求項7は、「前記樹脂成形体は建材である」ことを限定するものである。
したがって、訂正事項6は特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項6は、訂正前の請求項7及び本件特許明細書の段落【0037】の記載からみて、本件特許の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 小括
以上のとおりであるから、訂正事項1ないし6は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件訂正は適法なものであり、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1ないし5]、[6]、[7]について訂正することを認める。

第3 本件特許発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、令和3年5月24日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
樹脂成形体の製造方法であって、
熱可塑性樹脂と、表面が改質されていない無機粒子と、滑剤とを含む樹脂組成物のペレットを成形するペレット成形工程と、
前記ペレット成形工程後に、前記ペレットを乾燥する乾燥工程と、
前記乾燥工程後に、前記ペレットから樹脂成形体を成形する樹脂成形体成形工程と、
を有し、
前記ペレット成形工程が、ペレットを乾燥する工程を含まず、
前記乾燥工程後、かつ、樹脂成形体成形工程前の前記ペレットに含まれる水分含有量が、該ペレットに含まれる無機粒子の質量に対して0.55質量%以下であり、
前記樹脂組成物に含まれる無機粒子の含有量が、樹脂組成物の総量に対して40質量%以上であり、
前記樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂の含有量が、樹脂組成物の総量に対して40質量%以下であり、
前記樹脂成形体は建材である、
製造方法。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂がポリオレフィン樹脂を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ポリオレフィン樹脂が、ポリプロピレン又はポリエチレンを含む、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記無機粒子が炭酸カルシウム粒子を含む、請求項1から3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記樹脂成形体成形工程における成形直前のペレットに含まれる水分含有量が、該ペレットに含まれる無機粒子の質量に対して0.55質量%以下である、請求項1から4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
樹脂成形用ペレットの製造方法であって、
熱可塑性樹脂と、表面が改質されていない無機粒子と、滑剤とを含む樹脂組成物のペレットを調製するペレット調製工程と、
前記ペレット調製工程後に、前記ペレットに含まれる水分含有量を、該ペレットに含まれる無機粒子の質量に対して0.55質量%以下となるように調整する水分含有量調整工程と、を有し、
前記ペレット調製工程が、ペレットに含まれる水分含有量を調整する工程を含まず、
前記樹脂組成物に含まれる無機粒子の含有量が、樹脂組成物の総量に対して40質量%以上であり、
前記樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂の含有量が、樹脂組成物の総量に対して40質量%以下であり、
前記樹脂成形用ペレットは建材用樹脂成形用ペレットである、
製造方法。
【請求項7】
樹脂成形体の表面の平滑性を向上する方法であって、
熱可塑性樹脂と、表面が改質されていない無機粒子と、滑剤とを含む樹脂組成物のペレットを調製するペレット調製工程と、
前記ペレット調製工程後に、前記ペレットに含まれる水分含有量を、無機粒子の質量に対して0.55質量%以下となるように調整する水分含有量調整工程と、
前記水分含有量調整工程後のペレットから樹脂成形体を成形する工程と、を有し、
前記ペレット調製工程が、ペレットに含まれる水分含有量を調整する工程を含まず、
前記樹脂組成物に含まれる無機粒子の含有量が、樹脂組成物の総量に対して40質量%以上であり、
前記樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂の含有量が、樹脂組成物の総量に対して40質量%以下であり、
前記樹脂成形体は建材である、
方法。」

第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由及び取消理由の概要
1 特許異議申立書に記載した申立理由の概要
令和2年12月21日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書に記載した申立理由の概要は次のとおりである。
(1)申立理由1(甲第1号証を主引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)申立理由2(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし7についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
主張は、以下の通り。
「本件特許の審査過程おいて、「無機粒子」を「表面が改質されていない無機粒子」と補正するとともに、該無機粒子を使用することにより表面の平滑性が良好な樹脂成形品を得られるペレットが提供されるという有利な効果が奏される旨主張しており(令和1年10月9日付け意見書・補正書)、この要件は本件特許発明1の特許性に関係する重要な要件である。
しかし、本件特許の実施例で使用されている無機粒子である炭酸カルシウム(白石カルシウム株式会社製、ライトンS4) は脂肪酸で表面処理された炭酸カルシウムであり(甲7参照)、また、本件特許明細書の発明の詳細な説明の実施例以外の記載にも上記効果を裏付ける記載もないことから、特許権者が主張する本件特許発明1の効果は本件特許明細書からは確認することができない。」
(3)証拠方法
特許異議申立書に添付して以下の証拠が提出された。
・甲第1号証:特開2016-31856号公報
・甲第2号証:特開2013-10931号公報
・甲第3号証:「押出成形」136-144頁、1983年2月15日、(株)プラスチック・エージ発行
・甲第4号証:「初歩のプラスチック成型加工」60-61頁、65頁、 1982年1月15日、(株)工業調査会発行
・甲第5号証:特開平11-189667号公報
・甲第6号証:特開2001-151947号公報
・甲第7号証:「ライトンシリーズ」備北粉化工業(株)カタログ
なお、証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1」のようにいう。

2 取消理由通知に記載した取消理由の概要
当審が令和3年3月26日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりであり、特許異議申立書に記載した申立理由1を含むものである。
(1)取消理由1(甲1を主引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった上記の甲1に記載された発明に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

第5 当審の判断
1 取消理由1(甲1を主引用文献とする進歩性)について
(1)主な証拠に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項及び甲1発明
(ア)甲1に記載された事項
甲1には、「ポリプロピレン微多孔性膜及びその製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。他の文献についても同様。
・「【請求項1】
実質上ホモポリプロピレン樹脂のみからなり溶融指数が1?5g/10分である樹脂成分と、無機微粒子充填剤とのブレンドからなり、このブレンド中における無機微粒子充填剤の含量が31?60重量%であり、空隙率が30%以上、最大細孔径が1μm以下、ガーレ通気度が20?250(秒/100mL)、引張強度が500g/cm^(2)以上であり、非積層膜を非緊張状態で150℃にて30分間加熱した場合の熱収縮率が、帯状シートの送り方向(MD方向)及び幅方向(TD方向)のいずれにおいても、10%以下であることを特徴とする電池セパレータ用のポリプロピレン微多孔性膜。
【請求項2】
実質上ホモポリプロピレン樹脂のみからなる樹脂成分と、無機微粒子充填剤とのブレンドからなり、このブレンド中における無機微粒子充填剤の含量が31?60重量%または35?60重量%である樹脂組成物を、シート状に成形してから、(1)得られたシートを84?114℃にて、6?9倍の縦延伸(MD方向の延伸)、または部分的な破断が生じる伸びの60?95%の伸びだけの縦延伸を行った後、(2) 140?165℃にて1.5?2.8倍の横延伸(TD方向の延伸)、または、部分的な破断が生じる伸びの25?90%の伸びだけの横延伸を行い、(3) 次いで幅方向に0?25%収縮緩和させ、(4) この後、帯状シートの送り方向(MD方向)及び幅方向(TD方向)のいずれにおいても寸法変化を防ぐように固定した状態にて163?167℃の温度、またはホモポリプロピレン樹脂原料の融点よりも高い温度で加熱することにより、熱固定を行うことを特徴とするポリプロピレン微多孔性膜の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法により、電池セパレータとしてのポリプロピレン微多孔性膜を製造する方法。
【請求項4】
横延伸の倍率、及び、収縮緩和の比率の少なくとも一方を調整することにより、ガーレ通気度について、電池セパレータの具体的な要求に応じて、20?250(秒/100mL)の範囲内の特定の値に設定することを特徴とする、請求項3に記載の電池セパレータとしてのポリプロピレン微多孔性膜の製造方法。」
・「【0001】
本発明は、ポリプロピレン微多孔性膜及びその製造方法に関するもので、引張強度が高く、高温時の寸法安定性に優れ、電池用分離膜(セパレータ)に好適な微多孔性膜及びその製造方法に関するものである。」
・「【0011】
本発明は、ポリプロピレン微多孔性膜及びその製造方法に関するもので、本発明者らは鋭意研鑽した結果、特定の限定された製造方法を提供することによって、機械的強度に優れ、なおかつ、例えば150℃といった高温下での寸法安定性(低熱収縮率)に優れた二次電池用分離膜に最適なポリプロピレン微多孔性膜及びその製造方法を提供するものである。
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、電池の安全性向上のために、より高温時での寸法安定性及び低熱収縮率を付与したポリプロピレン微多孔性膜及びその製造方法を提供することにある。また、特には、二次電池組込みの捲回作業時のトラブル発生や、さらなる物性改良のためのセラミック粒子コーティングなどのトラブル防御等が必要になるといった諸問題を解消するため、同時に、ある程度の高い機械的強度を有するものを提供することにある。」
・「【0019】
本発明で用いる無機微粒子充填剤は、好ましくは、炭酸カルシウム(CaCO_(3))である。しかし、シリカ(SiO_(2))、炭酸マグネシウム、アルミナ、マイカ、カオリンなど各種の無機微粒子充填剤も使用可能である。無機微粒子充填剤の粒子の平均サイズ(電子顕微鏡観察に基づく重量平均粒径)が、好ましくは0.01?0.8μm、より好ましくは0.01?0.6μm、0.01?0.4μmである。平均粒径が0.01μm未満では微粒子充填剤が凝集しやすく、また、この範囲を超える場合には、延伸開口時に作られる孔の粒径が大きくなりすぎて電解液の短絡を起こしてしまうおそれがあるので、好ましくない。また、無機微粒子充填剤の表面は、樹脂との親和性を高めるべく、適宜、ステアリン酸などの脂肪酸またはその塩などによって予め処理しておくことが望ましい。表面処理には、樹脂酸やその塩、またはシランカップリング剤を用いることもできる。」
・「【0020】
無機微粒子充填剤の配合量は、ホモポリプロピレン樹脂と無機微粒子充填剤との合計重量に対し、31?65重量%、好ましくは35?65重量%、特に好ましくは35?60重量%である。すなわち、2者のブレンド中における無機微粒子充填剤の含量が、特に好ましくは35?60重量%である。無機微粒子充填剤の含量が、上記より低いと、イオンが通過できるように表側の面から裏面へと連通する微孔の生成が不充分となりうる。また、無機微粒子充填剤の含量が上記の範囲より高いと、ポリプロピレン微多孔性膜の強度が不十分となりうる。イオン透過性を高く取るべく微多孔性膜の空隙率を高くするためには、無機微粒子充填剤の含量を、例えば50?60重量%とすることができる。また、強度を特に大きくするためには、無機微粒子充填剤の含量を、50重量%未満とすることができ、例えば40?45重量%または35?40重量%もしくは31?40重量%とすることができる。このように強度を大きくすべく、無機微粒子充填剤の含量を高くした場合にも、空隙率を30%以上に保つことができる。」
・「【0021】
無機微粒子充填剤は、ホモポリプロピレン樹脂に、溶融状態で練り込むことができる。例えば、混合槽の底部に高速回転する2枚羽根ブレードを供えた混合・攪拌装置に、ホモポリプロピレン樹脂の粉末またはペレットと、無機微粒子充填剤とを所定配合比率で仕込んで混合し、この排出口から2軸混練・押出機へと連続的に送られるようにすることができる。そして、この2軸混練・押出機から、直接、または一旦ペレットとした後に、Tダイ押出し成形、インフレーション成形等、通常採用される方法で未延伸シートを得ることができる。未延伸シートの厚みは、例えば50?200μmである。」
・「【0038】
以下に、実施例の製造方法に用いる装置構成及び製造条件について説明する。
【0039】
ホモポリプロピレン樹脂のペレットと、微粒子充填剤との混合・分散には、カップ状容器の底部に2枚羽根ブレード及び排出口を備えた(株)カワタ(KAWATA)の高速流動混合機「スーパーミキサー SMV-20B」を用い、1000以上1500rpmの回転下に5分間混合を行った。混合の後、直ちに排出口から、東芝機械(株)製の同方向回転式の二軸混練押出機「TEM-41S」Sへと直接仕込み、ダイの温度が220?230℃でペレットを得た。上記ペレットは、加熱乾燥により脱気した後、同一の二軸混練押出機を用いたTダイ押出し成形により、厚さ100μmの未延伸シート15を得た。」
・「【0052】
以下に、具体的な実施例及び比較例について説明する。
(実施例1)
上述の市販ホモポリプロピレン樹脂(「YUHWA POLYPRO 5014-PD」、MI=3.5(g/10分))65重量%と、上述の表面処理された合成炭酸カルシウム微粒子充填剤(白石工業(株)製ビスコライト‐OS)35重量%との混合物をシート成形し、該シートを100℃で8倍ほど縦延伸(MD延伸)し、次いで2倍の横延伸(TD延伸)を行った。この後、該延伸シートを緊張状態で熱固定した。熱固定のためには、第2の加熱ロール31Bのロール面温度を167℃に保つとともに、第1及び第3の加熱ロール31A,31Cのロール面温度を、164?165℃に保った。」
・・・
【0054】
(実施例2)
ホモポリプロピレン45重量%、充填剤55重量%とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。」

(イ)甲1発明
甲1に記載された事項を、実施例2に関して整理すると、甲1には、未延伸シート又はペレットの製造方法として、次の発明が記載されていると認める。
「ホモポリプロピレン樹脂(「YUHWA POLYPRO 5014-PD」、MI=3.5(g/10分)) のペレット45重量%と、表面処理された合成炭酸カルシウム微粒子充填剤(白石工業(株)製ビスコライト‐OS)55重量%とを、カップ状容器の底部に2枚羽根ブレード及び排出口を備えた(株)カワタ(KAWATA)の高速流動混合機「スーパーミキサー SMV-20B」を用い、1000以上1500rpmの回転下に5分間混合を行った後、直ちに排出口から、東芝機械(株)製の同方向回転式の二軸混練押出機「TEM-41S」Sへと直接仕込み、ダイの温度が220?230℃でペレットを得、加熱乾燥により脱気した後、同一の二軸混練押出機を用いたTダイ押出し成形により、厚さ100μmの未延伸シート15を製造する方法。」(以下、「甲1ア発明」という。)
「ホモポリプロピレン樹脂(「YUHWA POLYPRO 5014-PD」、MI=3.5(g/10分))のペレット45重量%と、表面処理された合成炭酸カルシウム微粒子充填剤(白石工業(株)製ビスコライト‐OS)55重量%とを、カップ状容器の底部に2枚羽根ブレード及び排出口を備えた(株)カワタ(KAWATA)の高速流動混合機「スーパーミキサー SMV-20B」を用い、1000以上1500rpmの回転下に5分間混合を行った後、直ちに排出口から、東芝機械(株)製の同方向回転式の二軸混練押出機「TEM-41S」Sへと直接仕込み、ダイの温度が220?230℃でペレットを得、加熱乾燥により脱気するペレットの製造方法。」(以下、「甲1イ発明」という。)

また、甲1に記載された事項を、実施例2、段落【0012】及び【0015】から整理すると、甲1には、樹脂成形体の性能向上方法に関し、次の発明が記載されていると認める。
「ホモポリプロピレン樹脂(「YUHWA POLYPRO 5014-PD」、MI=3.5(g/10分)) のペレット45重量%と、表面処理された合成炭酸カルシウム微粒子充填剤(白石工業(株)製ビスコライト‐OS)55重量%とを、カップ状容器の底部に2枚羽根ブレード及び排出口を備えた(株)カワタ(KAWATA)の高速流動混合機「スーパーミキサー SMV-20B」を用い、1000以上1500rpmの回転下に5分間混合を行った後、直ちに排出口から、東芝機械(株)製の同方向回転式の二軸混練押出機「TEM-41S」Sへと直接仕込み、ダイの温度が220?230℃でペレットを得、加熱乾燥により脱気した後、同一の二軸混練押出機を用いたTダイ押出し成形により、厚さ100μmの未延伸シート15を製造し、該シートを100℃で8倍ほど縦延伸(MD延伸)し、次いで2倍の横延伸(TD延伸)を行った後、該延伸シートを緊張状態で熱固定(熱固定のために、第2の加熱ロールのロール面温度を167℃に保つとともに、第1及び第3の加熱ロールのロール面温度を、164?165℃に保った。)により、シートの高温時での寸法安定性及び機械的強度を向上する方法。」(以下、「甲1ウ発明」という。)

(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1ア発明を対比する。
甲1ア発明の「ホモポリプロピレン樹脂(「YUHWA POLYPRO 5014-PD」、MI=3.5(g/10分))」、「表面処理された合成炭酸カルシウム微粒子充填剤(白石工業(株)製ビスコライト‐OS)」、「未延伸シート15」は、それぞれ本件特許発明1の「熱可塑性樹脂」、「無機粒子」、「樹脂成形体」に相当する。そして、甲1ア発明の「表面処理された合成炭酸カルシウム微粒子充填剤(白石工業(株)製ビスコライト‐OS)」は55重量%であるから、本件特許発明1の「樹脂組成物に含まれる無機粒子の含有量が、樹脂組成物の総量に対して40質量%以上」である事項を満足する。
また、甲1ア発明の「ダイの温度が220?230℃でペレットを得」る工程、当該工程の後に「加熱乾燥により脱気」する工程、当該工程後に「同一の二軸混練押出機を用いたTダイ押出し成形により、厚さ100μmの未延伸シート15を製造する」工程は、それぞれ本件特許発明1の「ペレット成形工程」、「前記ペレット成形工程後に、前記ペレットを乾燥する乾燥工程」、「前記乾燥工程後に、前記ペレットから樹脂成形体を成形する樹脂成形体成形工程」に相当する。
そうすると、両者は以下の点で一致し、以下の点で相違又は一応相違する。
<一致点>
樹脂成形体の製造方法であって、
熱可塑性樹脂と、無機粒子とを含む樹脂組成物のペレットを成形するペレット成形工程と、
前記ペレット成形工程後に、前記ペレットを乾燥する乾燥工程と、
前記乾燥工程後に、前記ペレットから樹脂成形体を成形する樹脂成形体成形工程と、を有し、
前記樹脂組成物に含まれる無機粒子の含有量が、樹脂組成物の総量に対して40質量%以上である、製造方法。
<相違点1-1>
無機粒子について、本件特許発明1が「表面が改質されていない」と特定されているのに対し、甲1ア発明においては「表面処理された」と特定されている点。
<相違点1-2>
本件特許発明1が「ペレット成形工程が、ペレットを乾燥する工程を含まず」と特定されているのに対し、甲1ア発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点1-3>
本件特許発明1が「前記乾燥工程後、かつ、樹脂成形体成形工程前の前記ペレットに含まれる水分含有量が、該ペレットに含まれる無機粒子の質量に対して0.55質量%以下であり」と特定されているのに対し、甲1ア発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点1-4>
樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂の含有量について、本件特許発明1が「40質量%以下」と特定されているのに対し、甲1ア発明は、「45重量%」と特定されている点。
<相違点1-5>
樹脂組成物の組成について、本件特許発明1が「滑剤」を含むと特定されているのに対し、甲1ア発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点1-6>
樹脂成形体の用途について、本件特許発明1が「建材」と特定されているのに対し、甲1ア発明においては、そのようには特定されていない点。

そこで、上記相違点について検討する。
事案に鑑み、<相違点1-5>及び<相違点1-6>から併せて検討する。
甲1は、機械的強度に優れ、なおかつ、例えば150℃といった高温下での寸法安定性(低熱収縮率)に優れた二次電池用分離膜に最適なポリプロピレン微多孔性膜及びその製造方法を提供する事項について記載されている文献であり、甲1ア発明の樹脂成形体である未延伸シート15は、その後、二軸延伸工程を経て、二次電池用分離膜に最適なポリプロピレン微多孔性膜となるものである。そうすると、機械的強度に優れ、なおかつ、寸法安定性に優れる「二次電池用分離膜」を提供することしか意図していない甲1ア発明について、「二次電池用分離膜」と求められる性質や性能が全く異なる用途である「建材」に転用することと共に、「二次電池用分離膜」に求められない表面平滑性を向上させるために、樹脂組成物に「滑剤」を含有させる動機付けは甲1にはなく、また他の証拠にもないし、加えて、微多孔性膜に係る甲1ア発明の課題あるいは作用効果からみて、表面平滑性を課題とする本件特許発明1とすることには阻害要因があるともいえる。
したがって、本件特許発明1は、他の相違点について検討するまでもなく、甲1ア発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件特許発明2ないし5について
本件特許発明2ないし5はいずれも、直接又は間接的に請求項1を引用する発明であり、本件特許発明1の特定事項を全て有するものである。
そして、上記アのとおり、本件特許発明1は、甲1ア発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明2ないし5も同様に、甲1ア発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件特許発明6について
本件特許発明6と甲1イ発明を対比するに、甲1イ発明の「ホモポリプロピレン樹脂(「YUHWA POLYPRO 5014-PD」、MI=3.5(g/10分))のペレット45重量%と、表面処理された合成炭酸カルシウム微粒子充填剤(白石工業(株)製ビスコライト‐OS)55重量%とを、カップ状容器の底部に2枚羽根ブレード及び排出口を備えた(株)カワタ(KAWATA)の高速流動混合機「スーパーミキサー SMV-20B」を用い、1000以上1500rpmの回転下に5分間混合を行」う工程は、本件特許発明6の「熱可塑性樹脂と、無機粒子とを含む樹脂組成物のペレットを調製するペレット調製工程」に相当する。また、甲1イ発明の「ペレットを得、加熱乾燥により脱気」する工程は、本件特許発明6における水分含有量調整工程も乾燥を行っていることから、「ペレット調製工程に、水分含有量を、調整する水分含有量調整工程」に相当する。
そうすると、両者は以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
樹脂成形用ペレットの製造方法であって、
熱可塑性樹脂と、表面が改質されていない無機粒子とを含む樹脂組成物のペレットを調製するペレット調製工程と、
前記ペレット調製工程後に、前記ペレットに含まれる水分含有量を調整する水分含有量調整工程と、
前記樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂の含有量が、樹脂組成物の総量に対して40質量%以下である、
製造方法。
<相違点6-1>
無機粒子について、本件特許発明6が「表面が改質されていない」と特定されているのに対し、甲1イ発明においては「表面処理された」と特定されている点。
<相違点6-2>
本件特許発明6が「ペレット調製工程が、ペレットに含まれる水分含有量を調整する工程を含まず」と特定されているのに対し、甲1イ発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点6-3>
水分含有量調整工程で調整するペレットに含まれる水分含有量について、本件特許発明6が「無機粒子の質量に対して0.55質量%以下」と特定されているのに対し、甲1イ発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点6-4>
樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂の含有量について、本件特許発明6が「40質量%以下」と特定されているのに対し、甲1イ発明は、「45重量%」と特定されている点。
<相違点6-5>
樹脂組成物の組成について、本件特許発明6が「滑剤」を含むと特定されているのに対し、甲1イ発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点6-6>
樹脂成形用ペレットの用途について、本件特許発明6が「建材」と特定されているのに対し、甲1イ発明においては、そのようには特定されていない点。

そこで、上記相違点について検討する。
事案に鑑み、<相違点6-5>及び<相違点6-6>から併せて検討するに、上記アで検討したのと同様、機械的強度に優れ、なおかつ、寸法安定性に優れる「二次電池用分離膜」を提供することしか意図していない甲1イ発明において、「二次電池用分離膜」と求められる性質や性能が全く異なる用途である「建材」に転用することと共に、「二次電池用分離膜」に求められない表面平滑性を向上させるために、樹脂組成物に「滑剤」を含有させる動機付けは甲1にはなく、また他の証拠にもないし、加えて甲1イ発明の課題あるいは作用効果からみて阻害要因があるともいえる。
したがって、本件特許発明6は、他の相違点について検討するまでもなく、甲1イ発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 本件特許発明7について
本件特許発明7と甲1ウ発明を対比するに、甲1ウ発明の「ホモポリプロピレン樹脂(「YUHWA POLYPRO 5014-PD」、MI=3.5(g/10分))のペレット45重量%と、表面処理された合成炭酸カルシウム微粒子充填剤(白石工業(株)製ビスコライト‐OS)55重量%とを、カップ状容器の底部に2枚羽根ブレード及び排出口を備えた(株)カワタ(KAWATA)の高速流動混合機「スーパーミキサー SMV-20B」を用い、1000以上1500rpmの回転下に5分間混合を行」う工程は、本件特許発明7の「熱可塑性樹脂と、無機粒子とを含む樹脂組成物のペレットを調製するペレット調製工程」に相当する。また、甲1ウ発明の「ペレットを得、加熱乾燥により脱気」する工程は、本件特許発明7における水分含有量調整工程も乾燥を行っていることから、「ペレット調製工程後に、水分含有量を調整する水分含有量調整工程」に相当する。さらに、甲1ウ発明の「同一の二軸混練押出機を用いたTダイ押出し成形により、厚さ100μmの未延伸シート15を製造する」工程は、本件特許発明7の「ペレットから樹脂成形体を成形する樹脂成形体を成形する工程」に相当する。
そうすると、両者は以下の点で一致し、以下の点で相違又は一応相違する。
<一致点>
樹脂成形体のある性能を向上する方法であって、
熱可塑性樹脂と、無機粒子とを含む樹脂組成物のペレットを調製するペレット調製工程と、
前記ペレット調製工程後に、水分含有量を調整する水分含有量調整工程と、
前記水分含有量調整工程後のペレットから樹脂成形体を成形する工程と、を有し、
前記樹脂組成物に含まれる無機粒子の含有量が、樹脂組成物の総量に対して40質量%以上である、方法。
<相違点7-1>
無機粒子について、本件特許発明7が「表面が改質されていない」と特定されているのに対し、甲1ウ発明においては「表面処理された」と特定されている点。
<相違点7-2>
本件特許発明7が「ペレット調製工程が、ペレットに含まれる水分含有量を調整する工程を含まず」と特定されているのに対し、甲1ウ発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点7-3>
水分含有量調整工程で調整するペレットに含まれる水分含有量について、本件特許発明7が「無機粒子の質量に対して0.55質量%以下」と特定されているのに対し、甲1ウ発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点7-4>
樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂の含有量について、本件特許発明7が「40質量%以下」と特定されているのに対し、甲1ウ発明は、「45重量%」と特定されている点。
<相違点7-5>
樹脂成形体の向上させる性能について、本件特許発明7が「平滑性」と特定されているのに対し、甲1ウ発明は「高温時での寸法安定性及び機械的強度」である点。
<相違点7-6>
樹脂組成物の組成について、本件特許発明7が「滑剤」を含むと特定されているのに対し、甲1ウ発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点7-7>
樹脂成形体の用途について、本件特許発明7が「建材」と特定されているのに対し、甲1ウ発明においては、そのようには特定されていない点。

そこで、上記相違点について検討する。
事案に鑑み、<相違点7-5>ないし<相違点7-7>から併せて検討するに、上記アで述べたのと同様、機械的強度に優れ、なおかつ、寸法安定性に優れる「二次電池用分離膜」を提供することしか意図していない甲1ウ発明について、「二次電池用分離膜」と求められる性質や性能が全く異なる用途である「建材」に転用すると共に、甲1の「二次電池用分離膜」に求められない表面「平滑性」を向上させるために、樹脂組成物に「滑剤」を含有させる動機付けは甲1にはなく、また他の証拠にもないし、加えて甲1ウ発明の課題あるいは作用効果からみて阻害要因があるともいえる。
したがって、本件特許発明7は、他の相違点について検討するまでもなく、甲1ウ発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、令和3年6月30日に提出された意見書において、以下の主張をしている。
「本件特許発明1、6、7は、いずれも「物の発明」ではなく「製造方法の発明」であり、該訂正によっても製造工程における限定と解釈される「方法としての差異」が生じるものではなく、製造方法としての実質的な要件が新たに付加されるものではない。
そうすると、本件特許発明1、6、7においては、訂正2によっても実質的な考慮すべき差異はなく、該訂正2は、本件特許発明1、6、7における容易性の判断に影響を与えるものではない。
仮に、表現上形式的な差異があるとしても、「建材」に限らず樹脂成形体に表面平滑性が要求されることは一般的なことであり、甲1ア発明も当然同様の性質、性能を有する未延伸シート成形体の製造方法である。
したがって、樹脂成形体が「建材」であるとの訂正によって、樹脂成形体の性質、性能等にも差異が生じるものではなく、この点からも製造方法における実質的な訂正であるとは言えないので、単に樹脂成形体が「建材」であるとすること又は「樹脂成形用ペレット」が「建材用」であるとすることは当業者が適宜選択し得る程度のことである。」

そこで、上記主張について検討する。
訂正により付加された発明特定事項は、「物」の発明、「方法」の発明、「物を生産する方法」の発明の如何によらず、実質的な要件が新たに付加されたものと認められることから、本件特許発明の新規性及び進歩性の判断に影響を与えるものである。
そして、上記(2)アないしエで示したように、甲1ア発明ないし甲1ウ発明が指向する用途は、「二次電池用分離膜」であるから、たとえ「建材」自体が、「樹脂成形体」の用途として周知のものであったとしても、「二次電池用分離膜」と求められる性質や性能が全く異なる用途である「建材」に転用することは阻害要因があると言わざるを得ない。
よって、特許異議申立人の上記主張は失当である。

(4)取消理由1についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし7は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、取消理由2によっては取り消すことはできない。

2 取消理由通知において採用しなかった申立理由2(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の
範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載さ
れた発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記
載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであ
るか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照
らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検
討して判断すべきものである。

(2)本件特許請求の範囲の記載
本件特許請求の範囲の記載は、上記「第3 本件特許発明」に記載のとおりである。

(3)本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載
・「【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形体の製造方法、樹脂成形用ペレットの製造方法及び平滑性を向上する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、樹脂成形体の製造方法としては、加工しやすいように樹脂組成物をペレットにし、その後成形する方法が多く採用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、熱可塑性樹脂と60重量%?82重量%の無機粒子とを含むペレットをTダイにより押出成形してシート状に成形する工程を有する樹脂成形体の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-10931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のように無機粒子を多量に含む樹脂組成物のペレットを成形した場合、表面の平滑性が失われやすいという問題がある。
【0006】
本発明は以上の実情に鑑みてなされたものであり、表面の平滑性が良好な樹脂成形体の製造方法を提供することを目的とする。本発明は、樹脂成形用ペレットの製造方法を提供することを目的とする。本発明は、樹脂成形体の表面の平滑性を向上する方法を提供することを目的とする。」
「【0007】
本発明者らは、ペレットに含まれる水分含有量を少なくすることで、無機粒子を多く含むにもかかわらず樹脂成形体の表面が平滑になりやすいことを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のようなものを提供することを目的とする。」
「【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、表面の平滑性が良好な樹脂成形体を得ることができる。」
「【0017】
<樹脂成形体の製造方法>
本発明は、熱可塑性樹脂と無機粒子とを含む樹脂組成物のペレットを成形する成形工程を有し、ペレットに含まれる水分含有量が、該ペレットに含まれる無機粒子の質量に対して0.55質量%以下であり、樹脂組成物に含まれる無機粒子の含有量が、樹脂組成物の総量に対して30質量%以上である、樹脂成形体の製造方法である。
【0018】
ペレット中に無機粒子が含まれたまま成形する場合、多量に無機粒子が含まれると、その無機粒子に含まれる水分が蒸発しながら成形され、得られた成形体の表面の平滑性が失われると考えられる。これに対し、本発明によると、ペレットに含まれる水分含有量が、該ペレットに含まれる無機粒子の質量に対して0.55質量%以下とすることで、成形中に水分の蒸発が生じにくくなり、その結果、表面の平滑性が良好な樹脂成形体を得ることができるものと推測される。
【0019】
(成形工程)
本発明における成形工程は、熱可塑性樹脂と無機粒子とを含む樹脂組成物のペレットを成形する成形工程である。また、該ペレットに含まれる水分含有量が、該ペレットに含まれる無機粒子の質量に対して0.55質量%以下であり、樹脂組成物に含まれる無機粒子の含有量が、樹脂組成物の総量に対して30質量%以上である。
【0020】
本発明におけるペレットは、熱可塑性樹脂と無機粒子とを含む樹脂組成物から構成される。該ペレットに含まれる水分含有量は、ペレットに含まれる無機粒子の質量に対して0.55質量%以下であれば特に限定されないが、より良好な平滑性を得られることから、0.52質量%以下であることが好ましく、0.50質量%以下であることがより好ましく、0.48質量%以下であることがさらに好ましく、0.45質量%以下であることがさらに一層好ましく、0.42質量%以下であることがなお好ましく、0.37質量%以下であることが特に好ましく、水分を含まないことが特に好ましい。また、該ペレットに含まれる水分含有量は、ペレットに含まれる無機粒子の質量に対して0.01質量%以上であってもよい。特に、上記範囲内の無機粒子中の水分含有量は、成形直前(例えば、成形機にペレットを投入する直前)であることが好ましい。」
「【0024】
ペレットを構成する樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂の含有量は、無機粒子や他の成分の量に応じて適宜設定してもよいが、無機粒子が多量に含まれることで相対的な量が少なくなっても、良好な平滑性の樹脂成形体が得られることから、樹脂組成物の総量に対して60質量%未満であることが好ましく、50質量%未満であることがなお好ましく、45質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることがさらに好ましい。また、樹脂成形体の平滑性がより良好となることから、熱可塑性樹脂の含有量は、樹脂組成物の総量に対して20質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましい。」
「【0029】
樹脂組成物に含まれる無機粒子の種類は、特に限定されないが、例えば、炭酸カルシウム、酸化チタン、シリカ、クレー、タルク、カオリン、水酸化アルミニウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、マイカ、酸化亜鉛、ドロマイト、ガラス繊維、中空ガラス等が挙げられる。これらのうち、炭酸カルシウムを用いることが好ましい。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、樹脂組成物中の無機粒子の分散性を高めるために、無機粒子の表面をあらかじめ常法に従い改質しておいてもよい。
【0030】
なお、上述したペレットを構成する樹脂組成物においては、上述した無機粒子、熱可塑性樹脂以外にも、補助剤として、発泡剤、色剤、滑剤、カップリング剤、流動性改良材、分散剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、安定剤、帯電防止剤等を配合してもよい。」
「【0033】
(ペレット調製工程)
本発明は、上記の成形工程において成形されるペレットを調製する工程をさらに有してもよい。
【0034】
ペレットの調製は、上記の成形工程で述べたペレットが調製されるように、つまり、ペレットに含まれる水分含有量が、最終的に該ペレットに含まれる無機粒子の質量に対して0.55質量%以下となるように行われる。
【0035】
例えば、上記の熱可塑性樹脂と無機粒子と任意成分とを混練、溶融して樹脂組成物を調製し、この樹脂組成物を冷却することでペレットを調製することができるが、これらの工程、特に樹脂組成物を冷却する工程で、無機粒子が多量に水分を含むようになる。そのため、樹脂組成物の調製後の冷却工程の後に、例えば、乾燥することで、ペレット中の無機粒子の水分含有量を下方に調整することができる。具体的に、溶融後の冷却を水冷により行った場合、特にペレット中の無機粒子が水分を多く含むため、乾燥時間を多くとる必要がある。また、溶融後の冷却を空冷により行った場合においても、ペレット中の無機粒子が空気中の水分を含んでしまうため、乾燥が必要な場合がある。乾燥の時間、温度は、乾燥前のペレット中の無機粒子の水分含有量に応じて、適宜設定することができる。」
「【0037】
(用途)
本発明の方法により製造される樹脂成形体の用途としては、特に、平滑性が求められる用途に適しており、具体的には、建材(床、柱、ウッドデッキ、ベンチ等)等が好適である。」
「【0039】
<樹脂成形用ペレットの方法>
本発明は、樹脂成形用ペレットの製造方法であって、熱可塑性樹脂と無機粒子とを含む樹脂組成物のペレットを調製する工程と、ペレットに含まれる水分含有量を、該ペレットに含まれる無機粒子の質量に対して0.55質量%以下となるように調整する工程と、を有し、樹脂組成物に含まれる無機粒子の含有量が、樹脂組成物の総量に対して30質量%以上である、製造方法を包含する。
【0040】
樹脂組成物のペレットを調製する工程は、上述の本発明の樹脂成形体の製造方法におけるペレット調製工程と同様の方法により行うことができる。また、ペレット中の無機粒子の水分含有量の調整は、上述のとおり、乾燥の時間、温度を、乾燥前のペレット中の無機粒子の水分含有量に応じて、適宜設定することができる。樹脂成形用ペレットは、特に、平滑性が求められる樹脂成形用ペレット(建材用樹脂成形用ペレット等)に適している。
【0041】
また、本発明は、上記で述べた、熱可塑性樹脂と無機粒子とを含む樹脂組成物のペレットであって、ペレットに含まれる水分含有量が、該ペレットに含まれる無機粒子の質量に対して0.55質量%以下であり、樹脂組成物に含まれる無機粒子の含有量が、樹脂組成物の総量に対して30質量%以上であるペレットを包含する。該ペレットは、樹脂成形に用いることができ、特に、平滑性が求められる樹脂成形体(建材用樹脂成形等)に適している。
【0042】
<平滑性を向上する方法>
本発明は、樹脂成形体の表面の平滑性を向上する方法であって、熱可塑性樹脂と無機粒子とを含む樹脂組成物のペレットにおいて水分含有量を、無機粒子の質量に対して0.55質量%以下となるように調整する工程と、調整後のペレットを成形する工程と、を有する方法を包含する。本発明において、ペレット、水分含量の調整、成形等は、上述のものと同様のものを用いることができる。」
「【実施例】
【0043】
<樹脂成形体の製造方法>
(実施例1)
ポリプロピレン(日本ポリプロ製 EA9)40重量部、炭酸カルシウム(白石カルシウム株式会社製、ライトンS4)60重量部、滑剤(ステアリン酸マグネシウム)0.5重量部の質量比で、同方向回転ニ軸混錬押し出し機(HK-25D φ25mm L/D=41(株式会社パーカーコーポレーション製)により、190℃の条件で混練し(樹脂温度の実測値:220℃?230℃)、水冷と空冷(ベルトコンベア使用)により冷却し、その後乾燥を行って、直径2mm、長さ4mmの円筒状ペレットを作製した。乾燥は、東京理科器械(株)製の送風乾燥機NDO-420を用いて、110℃で12時間の条件で行った。
【0044】
得られたペレットについて、赤外線水分計(FD-660(株式会社ケット科学研究所製)、湿度50%温度23℃の雰囲気下)により測定した。水分量は、105℃で水分を蒸発させ、蒸発前後の質量変化により水分量を算出し、平衡状態となったときの値を水分含有量とした。使用したペレットの試料量は5g?10gの範囲とした。測定の結果、実施例1におけるペレットにおいては、ポリプロピレンと炭酸カルシウムとの合計質量に対する水分含有量が0.22%であり、ペレットに含まれる無機粒子の質量に対する水分含有量は0.37%であった。
【0045】
得られたペレットについて、ラボプラ押出成形装置((株)東洋精機製作所製、φ20mm L/D=25)により、シート状に押出成形し(φ20mm L/D=25)、5mmの実施例1に係る樹脂成形体を製造した。
【0046】
(実施例2)
実施例1のポリプロピレンと炭酸カルシウムとの質量比を、30重量部:70重量部に変更した点以外は、実施例1と同様の条件により、ペレットの作製、ペレット中の水分含有量の測定、ペレットについての成形を行い、5mmのシート状の実施例2に係る樹脂成形体を製造した。実施例2におけるペレットにおいて、ポリプロピレンと炭酸カルシウムとの合計質量に対する水分含有量は0.26%であり、ペレットに含まれる無機粒子の質量に対する水分含有量は0.37%であった。
【0047】
(比較例1)
実施例1において、ペレットを乾燥しなかった点以外は、実施例1と同様の条件により、ペレットの作製、ペレット中の水分含有量の測定、得られたペレットについての成形を行い、5mmのシート状の比較例1に係る樹脂成形体を製造した。比較例1におけるペレットにおいて、ポリプロピレンと炭酸カルシウムとの合計質量に対する水分含有量は0.40%であり、ペレットに含まれる無機粒子の質量に対する水分含有量は0.67%であった。
【0048】
(比較例2)
実施例2において、ペレットを乾燥しなかった点以外は、実施例2と同様の条件により、ペレットの作製、ペレット中の水分含有量の測定、得られたペレットについての成形を行い、5mmのシート状の比較例2に係る樹脂成形体を製造した。比較例2におけるペレットにおいて、ポリプロピレンと炭酸カルシウムとの合計質量に対する水分含有量は0.42%であり、ペレットに含まれる無機粒子の質量に対する水分含有量は0.60%であった。
【0049】
<平滑性の評価>
実施例1、2、比較例1、2に係る成形体について、平滑性の評価を行った。その結果を以下の表1に示す。表1中、「〇」は表面に凹凸がみられず、平滑性が良好であったことを示し、「×」は、流れ方向に沿った深さ300ミクロンのシワが多数あったことを示す。
【0050】
【表1】


【0051】
表1に示すように、実施例1、2においては平滑性が良好であったのに対し、比較例1、2においては流れ方向に沿った深さ300ミクロンのシワが多数あり、平滑性が良好でなかったことが確認された。」

(4)判断
発明の詳細な説明の段落【0005】及び【0006】によると、本件特許発明1ないし5の解決しようとする課題、本件特許発明6の解決しようとする課題及び本件特許発明7の解決しようとする課題は、それぞれ「表面の平滑性が良好な樹脂成形体の製造方法を提供すること」、「表面の平滑性が良好な樹脂成形体を得るための樹脂成形用ペレットの製造方法を提供すること」及び「樹脂成形体の表面の平滑性を向上する方法を提供すること」(以下、総称して「本件特許発明の課題」という。)である。
一方、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、段落【0007】に「本発明者らは、ペレットに含まれる水分含有量を少なくすることで、無機粒子を多く含むにもかかわらず樹脂成形体の表面が平滑になりやすいことを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のようなものを提供することを目的とする。」、段落【0018】に「ペレット中に無機粒子が含まれたまま成形する場合、多量に無機粒子が含まれると、その無機粒子に含まれる水分が蒸発しながら成形され、得られた成形体の表面の平滑性が失われると考えられる。これに対し、本発明によると、ペレットに含まれる水分含有量が、該ペレットに含まれる無機粒子の質量に対して0.55質量%以下とすることで、成形中に水分の蒸発が生じにくくなり、その結果、表面の平滑性が良好な樹脂成形体を得ることができるものと推測される。」、段落【0020】に「本発明におけるペレットは、熱可塑性樹脂と無機粒子とを含む樹脂組成物から構成される。該ペレットに含まれる水分含有量は、ペレットに含まれる無機粒子の質量に対して0.55質量%以下であれば特に限定されない」と記載されている。
また、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【実施例】において、ペレットに含まれる無機粒子の質量に対する水分含有量が0.37%である実施例1及び2においては、平滑性の評価が「○」(表面に凹凸がみられず、平滑性が良好であった)となって本件特許発明の課題が解決されているのに対し、当該水分含有量がそれぞれ0.67%、0.60%である比較例1及び2においては、「×」(流れ方向に沿った深さ300ミクロンのシワが多数あった)となって本件特許発明の課題が解決できていないことが示されている。
そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の上記記載から、当業者は「ペレットに含まれる水分含有量が、該ペレットに含まれる無機粒子の質量に対して0.55質量%以下」とする特定事項を有すれば、本件特許発明の課題を解決できると認識する。
そして、本件特許発明1ないし5、本件特許発明6及び本件特許発明7は上記特定事項を有するものであるから、本件特許発明1ないし5、本件特許発明6及び本件特許発明7は、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識するものである。
したがって、本件特許発明1ないし7は、本件特許の明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるというべきであり、本件特許は、サポート要件を満足する。

(5)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、上記第4 1(2)の主張をしている。
しかしながら、上記(4)で示したように、「ペレットに含まれる水分含有量が、該ペレットに含まれる無機粒子の質量に対して0.55質量%以下」とする特定事項を有すれば、本件特許発明の課題を解決できると認識するものであって、無機粒子の表面改質の有無によって、本件特許発明の課題の解決度合いが左右されるものではない。
よって、特許異議申立人の上記主張は失当である。

(6)申立理由2についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、申立理由2によっては取り消すことはできない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成形体の製造方法であって、
熱可塑性樹脂と、表面が改質されていない無機粒子と、滑剤とを含む樹脂組成物のペレットを成形するペレット成形工程と、
前記ペレット成形工程後に、前記ペレットを乾燥する乾燥工程と、
前記乾燥工程後に、前記ペレットから樹脂成形体を成形する樹脂成形体成形工程と、
を有し、
前記ペレット成形工程が、ペレットを乾燥する工程を含まず、
前記乾燥工程後、かつ、樹脂成形体成形工程前の前記ペレットに含まれる水分含有量が、該ペレットに含まれる無機粒子の質量に対して0.55質量%以下であり、
前記樹脂組成物に含まれる無機粒子の含有量が、樹脂組成物の総量に対して40質量%以上であり、
前記樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂の含有量が、樹脂組成物の総量に対して40質量%以下であり、
前記樹脂成形体は建材である、
製造方法。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂がポリオレフィン樹脂を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ポリオレフィン樹脂が、ポリプロピレン又はポリエチレンを含む、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記無機粒子が炭酸カルシウム粒子を含む、請求項1から3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記樹脂成形体成形工程における成形直前のペレットに含まれる水分含有量が、該ペレットに含まれる無機粒子の質量に対して0.55質量%以下である、請求項1から4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
樹脂成形用ペレットの製造方法であって、
熱可塑性樹脂と、表面が改質されていない無機粒子と、滑剤とを含む樹脂組成物のペレットを調製するペレット調製工程と、
前記ペレット調製工程後に、前記ペレットに含まれる水分含有量を、該ペレットに含まれる無機粒子の質量に対して0.55質量%以下となるように調整する水分含有量調整工程と、を有し、
前記ペレット調製工程が、ペレットに含まれる水分含有量を調整する工程を含まず、
前記樹脂組成物に含まれる無機粒子の含有量が、樹脂組成物の総量に対して40質量%以上であり、
前記樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂の含有量が、樹脂組成物の総量に対して40質量%以下であり、
前記樹脂成形用ペレットは建材用樹脂成形用ペレットである、
製造方法。
【請求項7】
樹脂成形体の表面の平滑性を向上する方法であって、
熱可塑性樹脂と、表面が改質されていない無機粒子と、滑剤とを含む樹脂組成物のペレットを調製するペレット調製工程と、
前記ペレット調製工程後に、前記ペレットに含まれる水分含有量を、無機粒子の質量に対して0.55質量%以下となるように調整する水分含有量調整工程と、
前記水分含有量調整工程後のペレットから樹脂成形体を成形する工程と、を有し、
前記ペレット調製工程が、ペレットに含まれる水分含有量を調整する工程を含まず、
前記樹脂組成物に含まれる無機粒子の含有量が、樹脂組成物の総量に対して40質量%以上であり、
前記樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂の含有量が、樹脂組成物の総量に対して40質量%以下であり、
前記樹脂成形体は建材である、
方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-09-24 
出願番号 特願2018-533529(P2018-533529)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (B29B)
P 1 651・ 537- YAA (B29B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 神田 和輝小山 祐樹  
特許庁審判長 大島 祥吾
特許庁審判官 細井 龍史
大畑 通隆
登録日 2020-06-05 
登録番号 特許第6713095号(P6713095)
権利者 株式会社TBM
発明の名称 樹脂成形体の製造方法、樹脂成形用ペレットの製造方法及び平滑性を向上する方法  
代理人 正林 真之  
代理人 林 一好  
代理人 林 一好  
代理人 新山 雄一  
代理人 正林 真之  
代理人 新山 雄一  

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