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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
管理番号 1379854
異議申立番号 異議2021-700641  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-12-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-07-06 
確定日 2021-10-27 
異議申立件数
事件の表示 特許第6806208号発明「消化管障害を改善する組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6806208号の請求項1?9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6806208号の請求項1?9に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、2015年4月30日(優先権主張 2014年4月30日、日本国)を国際出願日とする特願2016-516417号の一部を令和1年9月18日に新たな特許出願とした特願2019-169749号についてのものであり、令和2年12月8日にその特許権の設定登録がされ、令和3年1月6日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和3年7月6日に特許異議申立人井上 暁彦(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされた。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?9に係る発明は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定される次のとおりのものであると認める。

「【請求項1】
ヒスチジンまたはその塩を有効成分として含有する、運動誘発性の消化管バリア機能低下を改善するための経口組成物。
【請求項2】
更に、バリン、ロイシン、イソロイシンおよびそれらの塩、並びに脂溶性抗酸化剤からなる群より選ばれる少なくとも一つを含有する、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
ヒスチジンまたはその塩、バリンまたはその塩、ロイシンまたはその塩、並びにイソロイシンまたはその塩を有効成分として含有する、請求項2記載の組成物。
【請求項4】
更に、アルギニンまたはその塩を含有する、請求項1?3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
ヒトの1回摂取単位量あたり、有効成分の含有量が0.1?100gである、請求項1?4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
運動開始前に少なくとも1回摂取される、請求項1?5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
運動中または運動終了直後に摂取される、請求項1?5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
運動開始前に少なくとも1回、運動中または運動終了直後にさらに少なくとも1回摂取される、請求項1?5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
請求項1?8のいずれか1項に記載の組成物を含有する、運動誘発性の消化管バリア機能の低下を改善するための食品。」

以下、本件特許の請求項1?9に係る発明を、それぞれ請求項順に「本件発明1」等といい、これらをまとめて「本件発明」ということもある。また、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面を、「本件明細書」という。

第3 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、以下の甲第1号証?甲第11号証(以下、それぞれ、「甲1」等と略記する。)を提出するとともに、特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、以下の申立理由1?2により、請求項1?9に係る本件特許は取り消されるべき旨主張している。

<申立理由1(甲1、甲10又は甲11に記載された発明に基づく新規性欠如)>
本件発明1?2、5?9は、甲1、甲10又は甲11に記載された発明であるし、本件発明3?4は、甲10又は甲11に記載された発明であるから、本件発明1?9は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。
よって、請求項1?9に係る本件特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(以下、甲1、甲10又は甲11に記載された発明に基づく新規性欠如の申立理由を、それぞれ、「申立理由1-1」?「申立理由1-3」という。)

<申立理由2(甲1、甲10又は甲11を主引例とする進歩性欠如)>
本件発明1?9は、甲1、甲10又は甲11に記載された発明、及び本件特許の優先日前の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、請求項1?9に係る本件特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(以下、甲1、甲10又は甲11を主引例とする進歩性欠如の申立理由を、それぞれ、「申立理由2-1」?「申立理由2-3」という。)

<証拠>
・甲1:科研費 科学研究費助成事業(科学研究費補助金)研究成果報告書 平成25年6月3日現在、課題番号:22590710 研究課題名(和文)損傷消化管粘膜上皮における塩基性アミノ酸ヒスチジンの機能性研究 研究代表者 市川 寛
(URL:https://kaken.nii.ac.jp/grant/KAKENHI-PROJECT-22590710/、検索2021年7月5日)
・甲2:「消化管粘膜における生体防御の仕組みとその破綻による粘膜障害 -粘膜は生体防御の司令塔」、東北大学名誉教授 名倉宏、第90回日本病理学会 宿題報告(平成13年度日本病理学賞)、「消化管粘膜における生体防御機能と粘膜障害」、及び、甲2の公表が平成13年になされたことを示す日本病理学会のホームページ(URL:https://pathology.or.jp/jigyou/lectures1962-2011.html、検索2021年7月5日)
・甲3:名倉 宏、“粘膜免疫機構と粘膜障害”,呼吸,1999,Vol.18,No.8,p.817-825
・甲4:G.P.Lambert,“Stress-induced gastrointestinal barrier dysfunction and its inflammatory effects”,Journal of Animal Science,2009,Vol.87,Issue suppl_14,E101-E108
・甲5:Kim van Wijck et al.,“Physiology and pathophysiology of splanchnic hypoperfusion and intestinal injury during exercise:strategies for evaluation and prevention”,Am.J.Physiol. Gastrointest Liver Physiol.,2012,303,G155-G168
・甲6:Micah Zuhl et al.,“Exercise regulation of intestinal tight junction proteins”,Br.J.Sports Med.,2014,Vol.48,p.980-986,[online(2012年11月7日にインターネット上に掲載)(1of9?9of9頁)],<doi:10.1136/bjsports-2012-091585>
・甲7:Kim van Wijck et al.,“Exercise-Induced Splanchnic Hypoperfusion Results in Gut Dysfunction in Healthy Men”,Plos One,2011,Vol.6,Issue7,e22366
・甲8:国際公開第2006/098524号
・甲9:特開2014-9216号公報
・甲10:特開2011-121887号公報
・甲11:国際公開第2012/140132号及びその翻訳としての特表2014-514304号公報

第4 甲号証の記載
本件特許の優先日前に公表された甲1?11には、以下の記載がある。
なお、以下において、下線は合議体が付した。また、参考文献番号の記載は省略した。

1.甲1の記載及び甲1に記載の発明
(1)甲1の記載
(1a)1頁の「研究課題名」欄及び「概要」欄
「研究課題名(和文)損傷消化管粘膜上皮における塩基性アミノ酸ヒスチジンの機能性研究
・・・
研究成果の概要(和文):生体内におけるヒスチジン欠乏状態は、透析を必要とするような糖尿病腎症などの病態を悪化させるのみならず、褥瘡などの創傷治癒の遅延や、非ステロイド抗炎症薬(NSAID)起因性消化管粘膜傷害の原因ともなりうる。本研究は、粘膜上皮修復機序におけるヒスチジンの機能性を明らかにすることを目的としている。ラット小腸上皮細胞による円形上皮欠損モデルを用いて、各種アミノ酸を個別で欠落させた培養液を用い、修復速度の違いを検討したところ、ヒスチジンが欠乏した状態において、小腸粘膜上皮の修復過程に著しい障害をきたすことを見いだした。以上のことは、粘膜上皮修復機序において、必須アミノ酸であるヒスチジンが重要な役割をしていることを示しており、病的状態におけるヒスチジン欠乏が、消化管粘膜障害を増悪させる可能性を示唆している。」

(1b)2頁の「2.研究の目的」の「(2)」及び「3.研究の方法」の欄
「(2)・・・そこで今回、塩基性アミノ酸一種であるヒスチジンに注目し、病的状態を反映すると考えられるヒスチジン低下が粘膜上皮(RIE)の創傷修復に及ぼす影響について検討した。

3.研究の方法
(1)円形上皮欠損の作製:培養したRIEが80?90%コンフルエントになった状態を確認してから作業を始めた。上皮欠損作成の24時間前に、FBSを含んでいない、全アミノ酸添加培地(Full培地)、アミノ酸無添加培地(Zero培地)、各種アミノ酸欠落培地に交換し、・・・培養した。培養後・・・微小吸引によって細胞膜に円形欠損を作成した。その後・・・培地交換を行った。円形欠損作製時を0時間とし、3,6,9,12時間後の欠損部位の面積を解析した。

(2)細胞増殖測定(MTT Assay):培養RIEのコンフルエント確認後・・・細胞を遊離させた。その後、適量のDMEM培地で細胞を・・・回収し、・・・遠心し、上清を除去した後、適量のDMEM培地を加えてよく攪拌した。ヘモサイトメーターで細胞数を数え、9×104個/ml(合議体注:原文ママ)の濃度の細胞液になるようにDMEM培地で調製した。上記の細胞液を96wellプレート(・・・)の1wellにつき100μlずつ加え、インキュベーター内で24時間培養させた。その後、培養液を除去し、PBS(-)で洗浄後、Full培地、Zero培地、ヒスチジン欠落培地((欠落)His培地)を加えた。この時点を0時間として、24時間培養後、細胞増殖測定をした。測定には、Cell Counting Kit-8(同仁化学研究所)反応液(CCK-8溶液)を使用した。反応液を1wellにつき10μl加え、その直後を0分として、15分毎にマイクロプレートリーダー(Wallac 1420 Multilabel/Luminescence Counter)で450nm、560nmの吸光度を測定し、560nmをバックグラウンドとした。さらに、上記と同様の操作で、(欠落)His培地にヒスチジンを添加して、細胞増殖測定を行った。」
なお、上記において「(欠落)His」で「(欠落)」と記載されている部分は、原文では、下記(1c)の図2における左から3番目のバーの下に表記されているとおりの表示である。

(1c)3頁の「4.研究成果」の欄
「4.研究成果
(1)上皮欠損における修復速度の検討:図1は、上皮損傷12時間後の欠損面積率を示している。12時間が経過すると、Full培地に対し、Zero培地、チロシン、ヒスチジン、ロイシンの欠落した培地において、修復が遅延した。


(2)MTT Assay;ヒスチジン欠落培地における培養24時間後の細胞増殖は、Full培地に対し、抑制されていた。ヒスチジン欠落培地へのヒスチジン添加による細胞増殖は、ヒスチジン10μMの添加で、Full培地と同程度の増殖率を示した(図2)。



(2)甲1に記載の発明
上記(1)の(1a)?(1c)の記載、特に、小腸上皮細胞による円形上皮欠損モデルを用いた実験において、ヒスチジンが欠乏した状態で小腸粘膜上皮(RIE)の修復過程の遅延が生じた旨の記載((1a)及び(1c)の4.(1))及び、ヒスチジン欠落培地において小腸粘膜上皮細胞の細胞増殖が、Full培地(合議体注:全アミノ酸添加培地であり、これは、ヒスチジン欠乏のような病的な状態ではなく、健常な状態の条件と認められる。)に対し抑制されていたのが、ヒスチジン添加により回復し、10μMでの細胞増殖率は、Full培地と同程度となった旨の記載によれば((1c)の4.(2)及び図2)、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。
なお、(1c)の図2に「HIS1-500μM(1%Sterilizedwater)」と記載されているとおり、ヒスチジンはヒスチジンを含む組成物の形態で添加されていると認められる。

「ヒスチジン欠落培地における小腸粘膜上皮細胞の培養で生じる細胞増殖率の抑制を回復させることにより、ヒスチジンの欠乏で生じる、小腸粘膜上皮細胞による円形上皮欠損モデルを用いた実験における小腸粘膜上皮の修復過程の遅延を改善する、ヒスチジン含有組成物。」(以下「甲1発明」という。)

なお、申立人が申立書の22頁で記載する甲1発明は、甲1の記載を技術的に正確に反映しているとはいえないので採用していない。

2.甲10の記載及び甲10に記載の発明
(1)甲10の記載
・特許請求の範囲
「【請求項1】
少なくとも1種の含硫アミノ酸と、トリプトファンおよび/またはその誘導体との双方を含有し、
前記含硫アミノ酸の含有量が50.0?140.0mg/gアミノ酸組成物であり、前記トリプトファンおよび/またはその誘導体の含有量が21.0?120.0mg/gアミノ酸組成物であることを特徴とする炎症性腸疾患用アミノ酸組成物。
【請求項2】
前記含硫アミノ酸は、システイン、シスチン、メチオニンおよびN-アセチル-システインのうちの少なくとも1種である請求項1に記載の炎症性腸疾患用アミノ酸組成物。
・・・
【請求項4】
さらに、少なくとも1種の分枝鎖アミノ酸を含有し、該分枝鎖アミノ酸の含有量が170.0?460.0mg/gアミノ酸組成物である請求項1ないし3のいずれかに記載の炎症性腸疾患用アミノ酸組成物。
【請求項5】
前記分枝鎖アミノ酸は、ロイシン、イソロイシンおよびバリンのうちの少なくとも1種である請求項4に記載の炎症性腸疾患用アミノ酸組成物。
【請求項6】
さらに、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジン、プロリンおよびトレオニンからなる群のうちの少なくとも1種を含有する請求項1ないし5のいずれかに記載の炎症性腸疾患用アミノ酸組成物。
【請求項7】
脂肪、糖質、ビタミンおよびミネラルのうちの少なくとも1つの成分を含有する栄養剤である請求項1ないし6のいずれかに記載の炎症性腸疾患用アミノ酸組成物。
【請求項8】
前記栄養剤は、粉末状、液状または半固形状をなしている請求項7に記載の炎症性腸疾患用アミノ酸組成物。」

・発明の詳細な説明
「【0022】
このような炎症性腸疾患用アミノ酸組成物は、例えば、液状、ゲル状、半固形状または粉末状をなす経口または経管用経腸栄養剤のような医薬品栄養剤あるいは食品栄養剤に適用される。」
「【0027】
このような炎症状態の緩和は、含硫アミノ酸およびトリプトファンの双方の含有量を高く設定していることにより、腸管のタイトジャンクションに生じる傷害が効果的に抑制されていることに起因しているものと推察される。
【0028】
含硫アミノ酸としては、システイン、シスチン、メチオニンおよびN-アセチル-システインが挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。このような含硫アミノ酸は、タイトジャンクションの障害抑制に伴い、炎症性腸疾患の急性増悪期や再燃時における炎症状態を確実に緩和させ得ることから特に好適に用いられる。」
「【0032】
さらに、炎症性腸疾患用アミノ酸組成物において、分枝鎖アミノ酸も、その含有量がたん白質のアミノ酸組成よりも高く設定されているのが好ましく、具体的には、分枝鎖アミノ酸の含有量が170.0?460.0mg/gアミノ酸組成物であるのが好ましく、200.0?320.0mg/gアミノ酸組成物であるのがより好ましい。これにより、炎症性腸疾患の急性増悪期や再燃時における炎症状態をより確実に緩和させることができる。
【0033】
分枝鎖アミノ酸としては、ロイシン、イソロイシンおよびバリンが挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。このような分枝鎖アミノ酸は、炎症性腸疾患の急性増悪期や再燃時における炎症状態を確実に緩和させることができる。
【0034】
また、炎症性腸疾患用アミノ酸組成物には、含硫アミノ酸、トリプトファンおよび分枝鎖アミノ酸の他に含まれるアミノ酸として、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジン、プロリンおよびトレオニンからなる群のうちの少なくとも1種が含まれているのが好ましい。これらのアミノ酸は含硫アミノ酸、トリプトファンおよび分枝鎖アミノ酸と同様に、炎症性腸疾患の急性増悪期や再燃時における炎症状態を緩和させる効果をも併せ持つことから、栄養素としてのアミノ酸供給の目的以外にも、炎症状態の緩和にもその機能を発揮することができる。」

・実施例
「【0051】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.炎症性腸疾患用アミノ酸組成物の調製
1-1.標準アミノ酸組成物の調製
標準アミノ酸組成物溶液として細胞培養用 最小培地(Minimum Essential Medium:MEM) を用意し、その溶液に、非必須アミノ酸、グルタミンを添加し、表1に示すようなアミノ酸組成を有するアミノ酸溶液を作製した。
【0052】
【表1】


【0053】
1-2.炎症性腸管疾患用アミノ酸組成物の調製
(サンプルNo.1)
含硫アミノ酸としてのN-アセチル-システイン(NAC)と、トリプトファンとをそれぞれ用意し、標準アミノ酸組成物溶液に添加することにより、1L中の総アミノ酸量に対するアミノ酸量としてN-アセチル-システインが65.22mg/gアミノ酸組成物、トリプトファンが21.04mg/gアミノ酸組成物となるように、サンプルNo.1の炎症性腸管疾患用アミノ酸組成物溶液を調製した。
・・・
【0064】
なお、各サンプルNo.の炎症性腸管疾患用アミノ酸組成物溶液に含まれるアミノ酸組成を表2に示す。
【0065】
【表2】


【0066】
2.Caco-2細胞の培養
2-1.標準アミノ酸組成物中でのCaco-2細胞の培養
Caco-2細胞(ヒト結腸腺癌由来 腸管上皮細胞株)を約2週間培養して単層膜を作成し、このCaco-2細胞を備える単層膜を、図1に示すような2つの空間(管腔側の空間および基底膜側の空間)を有する培養容器の室間(層間)に配置させた後、2つの空間共に標準アミノ酸組成物を充填することにより、Caco-2細胞を標準アミノ酸組成物で置換した。その後、Caco-2細胞を、この容器(標準アミノ酸組成物)中で24時間、37℃、5%CO_(2)の条件で、培養した。
【0067】
2-2.炎症モデルの作成
(実施例1)
2つの空間の双方に、標準アミノ酸組成物に代えてサンプルNo.1の炎症性腸管疾患用アミノ酸組成物を充填した後に、基底膜側の空間の炎症性腸管疾患用アミノ酸組成物にTNF-αを50ng/mLになるように添加した。その後、単層膜に対して、48時間、37℃、5%CO_(2)の条件で、TNF-αを作用させることにより、実施例1の炎症モデルを作成した。
・・・
【0069】
(比較例1?6)
2つの空間の双方に、サンプルNo.1の炎症性腸管疾患用アミノ酸組成物を充填するのに代えて、それぞれ、サンプルNo.7?12の炎症性腸管疾患用アミノ酸組成物を充填した以外は前記実施例1と同様にして、比較例1?6の炎症モデルを作成した。
【0070】
3.評価
各実施例および各比較例で作成した炎症モデルについて、それぞれ、経上皮電気抵抗値(TEER値)を測定した。
【0071】
なお、このTEER値の測定は、単層膜に対してTNF-αを作用させる前(0時間)と、作用させた後(48時間後)とに実施した。
【0072】
また、TEER値の測定は、管腔側の空間と基底膜側の空間とにそれぞれ配置された電極を備えるTEER測定装置(図1参照。)を用いて、単層膜の電気抵抗値を測定することにより行った。
【0073】
以上のようにして測定された、各実施例および各比較例の炎症モデルのTEER値から算出された(48時間後のTEER値/0時間のTEER値)×100(%)の値を表3に示す。
【0074】
【表3】


【0075】
表3から明らかなように、実施例1?6の炎症モデルでは、比較例1?6の炎症モデルと比較して、TEER値が高くなっていることから、TNF-αによって誘導される炎症性サイトカインの産生が抑制され、その結果、炎症性サイトカインの産生に起因する単層膜(Caco-2細胞)のタイトジャンクションに生じる傷害が好適に低減されているものと推察された。このことから、炎症性腸疾患用アミノ酸組成物中において、含硫アミノ酸の含有量が50.0?140.0mg/gアミノ酸組成物であり、かつトリプトファンおよび/またはその誘導体の含有量が21.0?120.0mg/gアミノ酸組成物のように、これらアミノ酸が高濃度で含まれる炎症性腸疾患用アミノ酸組成物では、炎症性腸疾患の急性増悪期や再燃時における炎症状態を緩和させ得ることが判った。特にこのような傾向は、実施例3?6から明らかなように、炎症性腸管疾患用アミノ酸組成物中に、含硫アミノ酸およびトリプトファンおよび/またはその誘導体の他に、さらに170.0?460.0mg/gアミノ酸組成物のように高濃度に分枝鎖アミノ酸が含まれる際に、より顕著に認められることが判った。」

(2)甲10に記載の発明
甲10には、請求項1を引用する請求項6に係る発明として、「少なくとも1種の含硫アミノ酸と、トリプトファンおよび/またはその誘導体との双方を含有し、前記含硫アミノ酸の含有量が50.0?140.0mg/gアミノ酸組成物であり、前記トリプトファンおよび/またはその誘導体の含有量が21.0?120.0mg/gアミノ酸組成物であることを特徴とする炎症性腸疾患用アミノ酸組成物であって、さらに、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジン、プロリンおよびトレオニンからなる群のうちの少なくとも1種を含有する炎症性腸疾患用アミノ酸組成物。」の発明が記載されているところ、甲10には、請求項6に係る発明の具体的態様に係る発明として、甲10の【0065】【表2】にサンプルNo.1として記載されるアミノ酸組成を有するアミノ酸組成物であって、【0066】及び【0067】に記載の以下の炎症モデル作成方法で作成される炎症モデルを使用して、単層膜について測定される経上皮電気抵抗値(TEER値)に基づいて算出される以下の評価試験における測定値が100%の値(【0074】【表3】の実施例1の欄)となる、以下のアミノ酸組成物の発明が記載されているといえる。

「以下のサンプルNo.1のアミノ酸組成からなる、炎症性腸疾患用アミノ酸組成物であって、以下の炎症モデル作成方法により作成された炎症モデルの、以下の評価試験において、経上皮電気抵抗値(TEER値)に基づいて算出される値が100%である、炎症性腸疾患用アミノ酸組成物。
<炎症モデル作成方法>
Caco-2細胞(ヒト結腸腺癌由来 腸管上皮細胞株)から培養作成した単層膜を、管腔側の空間および基底膜側の空間の2つの空間を有する培養容器の室間(層間)に配置させた後、2つの空間共に以下のサンプルNo.1のアミノ酸組成からなる炎症性腸管疾患用アミノ酸組成物を充填し、基底膜側の空間の炎症性腸管疾患用アミノ酸組成物にTNF-αを50ng/mLになるように添加後、単層膜に対して、48時間、37℃、5%CO_(2)の条件で、TNF-αを作用させることにより、炎症モデルを作成した。
<評価試験>
作成した炎症モデルについて、経上皮電気抵抗値(TEER値)を測定した。
TEER値の測定は、単層膜に対してTNF-αを作用させる前(0時間)と、作用させた後(48時間後)の単層膜の電気抵抗値の測定結果に基づいて行い、評価のための値は、
(48時間後のTEER値/0時間のTEER値)×100(%)の値として算出された。
<サンプルNo.1のアミノ酸組成>
アミノ酸組成物1g中に含まれるバリンが44.69mg、ロイシンが50.51mg、イソロイシンが50.51mg、フェニルアラニンが31.09mg、チロシンが50.51mg、トリプトファンが21.04mg、スレオニンが46.63mg、メチオニンが14.57mg、シスチンが30.11mg、N-アセチル-システインが65.22mg、リジンが70.92mg、ヒスチジンが40.80mg、アルギニンが122.40mg、アスパラギン酸が12.92mg、グルタミン酸が14.28mg、アスパラギンが12.82mg、グルタミンが283.66mg、アラニンが8.65mg、グリシンが7.29mg、セリンが10.20mg、プロリンが11.17mg。」
(以下「甲10発明」という。)

なお、申立人は、申立書の23頁において、甲10発明として複数の記載箇所の記載内容の概要を散逸的に指摘しており、このような発明は適切でないことから、上記の甲10発明は合議体が認定した。

3.甲11の記載及び甲11に記載の発明
甲11は、外国語で記載された文献であるので、以下は、申立人が翻訳文として提出した特表2014-514304号公報の記載に基づき合議体が適宜修正した訳文で記載する。

(1)甲11の記載
・CLAIMS
「1. それを必要とする個体における消化管のバリア機能の改善に使用するための、有効量の分枝鎖脂肪酸を含む栄養組成物。
2. 改善される機能が、感染症、敗血症、吸収不良、アレルギー、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群、下痢、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される状態に関連する、請求項1に記載の組成物。
・・・
9. ω-3脂肪酸の供給源をさらに含み、ω-3脂肪酸の供給源が魚油、オキアミ、ω-3脂肪酸を含有する植物性供給源、アマニ、クルミ、藻類、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1?8のいずれか一項に記載の栄養組成物。
・・・
11. デオキシリボ核酸(‘‘DNA’’)のサブユニット、リボ核酸(‘‘RNA’’)のサブユニット、ポリマー型のDNA及びRNA、酵母RNA、並びにそれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1種のヌクレオチドをさらに含む、請求項1?10のいずれか一項に記載の栄養組成物。
・・・
13. フラバノイド、同類のフェノール化合物、ポリフェノール化合物、テルペノイド、アルカロイド、硫黄含有化合物、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される植物栄養素をさらに含む、請求項1?12のいずれか一項に記載の栄養組成物。
・・・
15. タンパク質の供給源をさらに含む、請求項1?14のいずれか一項に記載の栄養組成物。
・・・
20. アラビアガム、アルファグルカン、アラビノガラクタン、ベータグルカン、デキストラン、フラクトオリゴ糖、フコシルラクトース、ガラクトオリゴ糖、ガラクトマンナン、ゲンチオオリゴ糖、グルコオリゴ糖、グアーガム、イヌリン、イソマルトオリゴ糖、ラクトネオテトラオース、ラクトスクロース、ラクツロース、レバン、マルトデキストリン、乳オリゴ糖、部分加水分解グアーガム、ペクチンオリゴ糖、難消化性デンプン、老化デンプン、シアロオリゴ糖、シアリルラクトース、ダイズオリゴ糖、糖アルコール、キシロオリゴ糖、それらの加水分解産物、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるプレバイオティクスをさらに含む、請求項1?19のいずれか一項に記載の栄養組成物。
21. アエロコッカス属、アスペルギルス属、バクテロイデス属、ビフィドバクテリウム属、カンジダ属、クロストリジウム属、デバロマイセス属、エンテロコッカス属、フゾバクテリウム属、ラクトバチルス属、ラクトコッカス属、ロイコノストック属、メリソコッカス属、ミクロコッカス属、ムコール属、オエノコッカス属、ペディオコッカス属、ペニシリウム属、ペプトストレプトコッカス属、ピキア属、プロピオニバクテリウム属、シュードカテヌラータム属、リゾプス属、サッカロマイセス属、スタフィロコッカス属、ストレプトコッカス属、トルロプシス属、ワイセラ属、複製しない微生物、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるプロバイオティクスをさらに含む、請求項1?20のいずれか一項に記載の栄養組成物。
22. アラニン、アルギニン、シトルリン、アスパラギン、アスパルテート、システイン、グルタメート、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、ヒドロキシプロリン、ヒドロキシセリン、ヒドロキシチロシン、ヒドロキシリシン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、タウリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるアミノ酸をさらに含む、請求項1?21のいずれか一項に記載の栄養組成物。
・・・
25. アスタキサンチン、カロテノイド、コエンザイムQ10(‘‘CoQ10’’)、フラボノイド、グルタチオン、ゴジ(クコ)、ヘスペリジン、ラクトウルフベリー、リグナン、ルテイン、リコペン、ポリフェノール、セレン、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンE、ゼアキサンチン、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される抗酸化剤をさらに含む、請求項1?24のいずれか一項に記載の栄養組成物。
26. ビタミンA、ビタミンB1(チアミン)、ビタミンB2(リボフラビン)、ビタミンB3(ナイアシン又はナイアシンアミド)、ビタミンB5(パントテン酸)、ビタミンB6(ピリドキシン、ピリドキサール、又はピリドキサミン、又は塩酸ピリドキシン)、ビタミンB7(ビオチン)、ビタミンB9(葉酸)、及びビタミンB12(種々のコバラミン、一般に、ビタミン補助剤中のシアノコバラミン)、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、K1及びK2(すなわち、MK-4、MK-7)、葉酸、ビオチン、並びにそれらの組み合わせからなる群から選択されるビタミンをさらに含む、請求項1?25のいずれか一項に記載の栄養組成物。
27. ホウ素、カルシウム、クロム、銅、ヨウ素、鉄、マグネシウム、マンガン、モリブデン、ニッケル、リン、カリウム、セレン、ケイ素、スズ、バナジウム、亜鉛、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される無機質をさらに含む、請求項1?26のいずれか一項に記載の栄養組成物。
・・・
29. 経口用栄養補助剤である、又は経管栄養剤である、請求項1?28のいずれか一項に記載の栄養組成物。
・・・。」

・SUMMARY
「[0038]本開示の利点は、分枝鎖脂肪酸(‘‘BCFA’’)を有する改善された栄養組成物を提供することである。
[0039]本開示の別の利点は、消化管のバリア機能を改善させる栄養組成物を提供することである。」

・DETAILED DESCRIPTION
「[0087]感染症(例えば、敗血症)、吸収不良/アレルギー、過敏性腸症候群(IBS)、炎症性腸疾患(‘‘IBD’’)及び下痢(例えば、浸透性及び/又は抗生物質関連を含めた)に応答した消化管のバリア機能も、リン脂質に組み入れられ得るBCFAが投与され、摂取されると改善され得る。リン脂質は、GI粘液の少数部分のみを占めるが、インタクトなバリア機能を維持するために不可欠である。さらに、BCFAは、詳細には、膜貫通タンパク質であるゾンナオクルデン-2(zonna occludens-2)、オクルジン及びクローディン-1のタイトジャンクションアセンブリ(tight junction assembly)を増加させることによって腸透過性を低下させる。そのようなものとして、BCFAを使用して、小腸及び大腸の両方において胃腸管の完全性の維持を支持することができる。」
「[00114]1種又は複数のアミノ酸も栄養組成物中に存在してもよい。アミノ酸の非限定的な例としては、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパルテート、シトルリン、システイン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、ヒドロキシプロリン、ヒドロキシセリン、ヒドロキシチロシン、ヒドロキシリジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、タウリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、又はそれらの組み合わせが挙げられる。」

(2)甲11に記載の発明
甲11には、請求項1を引用する請求項2を引用する請求項22を引用する請求項29に記載の、経口用栄養補助剤である前記栄養組成物の発明として、以下の発明が記載されているといえる。

「それを必要とする個体における消化管のバリア機能の改善に使用するための、有効量の分枝鎖脂肪酸を含む栄養組成物であって、
改善される機能は、感染症、敗血症、吸収不良、アレルギー、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群、下痢、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される状態に関連しており、
前記栄養組成物は、アラニン、アルギニン、シトルリン、アスパラギン、アスパルテート、システイン、グルタメート、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、ヒドロキシプロリン、ヒドロキシセリン、ヒドロキシチロシン、ヒドロキシリシン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、タウリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるアミノ酸をさらに含み、
経口用栄養補助剤である、前記栄養組成物。」
(以下「甲11発明」という。)

なお、申立人が、申立書の24-25頁において、甲11発明として記載する発明は、甲11において推定として記載された部分から認定しており適切でないことから、上記の甲11発明は合議体が認定した。

4.甲2?9の記載並びに甲2?7及び甲8?9、11に開示される周知技術
以下において、甲4?7は、外国語で記載された文献であるので、甲4?7については、申立人が提出した訳文を基礎として合議体が適宜修正した訳文で記載した。

(1)甲2
(2a)1頁の下から5行?最下行
「粘膜表面には微絨毛が形成されて栄養物を吸収する表面積が拡大しましたが、その結果必然的に莫大な量と種類の食物中の抗原や、腸内細菌などの微生物、消化酵素、酸やアルカリなどからの侵襲を受けることになります。しかし消化管粘膜はそれに対応するための特有なバリア機能を獲得してきました。」

(2b)2頁の下から2行?3頁、「●粘膜における生体防御機能の破綻と炎症反応-炎症性腸管障害」の欄
「●粘膜における生体防御機能の破綻と炎症反応-炎症性腸管障害
粘膜における生体防御機構の破綻によって腸管上皮細胞は傷害を受け、欠損し、腸管内の抗原や病原微生物が体の中に容易に侵入することになります。その粘膜固有層では好中球やlgG形質細胞が動員され、炎症反応が引き起こされ、侵入してきた抗原物質などの除去に当たりますが、同時に周囲の粘膜上皮細胞も破壊します(図2)。こうした異常な炎症免疫反応がどのような仕組みで引き起こされるか、まだ不明な点が多くありますが、大腸粘膜を構成する細胞に対する様々な自己免疫反応に関係した機序が考えられています。また、この炎症反応やその伸展に神経内分泌機能の制御機能障害が関与するとされています。

図1


図2


図説明
図1. 健常粘膜における分泌型IgA(S-IgA)による粘膜バリアと細胞性免疫反応による炎症免疫反応の制御(○2-○5)
図2. 炎症性腸管障害における炎症免疫反応(○2-○8)と粘膜構造の破綻、粘膜修復による粘膜バリア機能の回復(○9)」
(合議体注:上記において、「○2」等は原文では○の中に数字が記載されているが、システム上表記できないため上記のように記載した。)

(2)甲3
(3a)818頁の「I.粘膜のバリア機構」の欄
「I.粘膜のバリア機構
すべての動物種の粘膜組織は厚い粘液層によって被覆され,ヒト小腸では厚さ0.4?0.5mmにも及び,生体のinner(wet)surfaceを形成している。粘液層はムチン型糖蛋白を約5%含有する外側の第2層と,糖脂質とリン脂質を主成分とし,細胞膜に直接接する第2層からなり,それぞれの組成は部位によって変化している。一般に粘膜組織を構成する上皮細胞には多数の粘液産生細胞が存在しており,この細胞からの粘液分泌は,腺管管腔から被覆上皮細胞表面への粘液の流れを作り出し,接触する微生物や抗原の排出を促進している。その際,腸管では蠕動運動が,気道では線毛上皮の線毛運動が排出運動に主要な役割を果たしている。この粘液層はさらに粘膜を機械的刺激から保護する潤滑作用を営むとともに,微生物の接着や食物中の未消化の巨大抗原物質の通過を,ムチンの化学的構造の特性により非特異的選択的に阻止している。
この粘液層中には,非特異的な抗菌作用を有するリゾチームやラクトフェリンと,抗原特異的な防御機能を発揮する分泌型免疫グロブリンが含まれ,その代表的なものが分泌型IgA(secretory IgA;S-IgA)である。S-IgAは粘膜固有層に分布している形質細胞から分泌された2量体IgA(dimeric IgA;dIgA)が腸管上皮細胞や気道上皮細胞で産生された分泌成分(secretory component;SC)と,その底側の細胞膜上で結合してS-IgAとなりその細胞内を輸送され,管腔側から粘液層内に放出されたものである。腸管では,SCは腺窩の上皮細胞に,気道粘膜では気管支腺の他に呼吸細気管支のClara細胞(non-ciliated bronchiolarcell)や気管支の非線毛上皮に発現して,S-IgAの輸送を司っている。S-IgAは当然その起源から,粘膜表層のよう々な微生物や食物由来の抗原に対する抗体活性を有しており,また上皮細胞内を輸送中にもその細胞内に取り込まれた抗原にも抗体として作用し,S-IgA抗原複合体として腸管管腔内や気道内に排泄,処理している。
S-IgAは,その免疫グロブリン部分が,抗原との結合基が4個存在する2量体であるため,単量体であるIgGや血清型IgAと比較して抗原結合価や凝集能が高く,またSCが高い親水性を有しているため,他の免疫グロブリンより親水性が高く,また消化酵素や胆汁酸に対しては抵抗性が高い。このようなS-IgAの特性は,消化管をはじめとした粘膜という特殊な環境で機能するのに極めて有効なものであり,粘膜表面にあって抗原特異的に病原微生物や抗原物質の付着を阻止し,排除していることが分る。」

(3)甲4
(4a)E101の「ABSTRACT」の欄
「要約:腸のバリアは、腸細胞膜、タイトジャンクション、分泌粘液、及び、組織マクロファージ等の免疫学的因子によって形成される。当該バリアの機能不全は、異なるタイプのストレス(例、生理学的、病理的、心理的、薬理学的)によって引き起こされ、腸の透過性の増加を招き得る。エンドトキシン(グラム陰性菌の細胞壁の構成成分)に対する透過性の増加は、局所的又は全身的な炎症反応、あるいはその両方を引き起こす。免疫応答は、より深刻な状態を促進し得る。熱中症は、そのような状態の一例である。激しい運動と熱ストレスの状態のもとでは、場合により他のストレスと組み合わされ、腸の血流の減少、腸の粘膜への直接的な熱損傷、又はその両方が、腸のバリア障害及び内毒素血症を引き起こし得る。その結果として生じる炎症反応は、体温調節の変化や多臓器不全に関与していると考えられている。多くのストレス誘発性の腸バリア問題を予防又は軽減するために、あるいは、その両方のために採り得る手段は、環境的、薬学的、又は栄養的アプローチ、あるいは、これらの組合せを含む。」

(4)甲5
(5a)G155のタイトル及び要約の本文
「運動時の内臓の血流量低下と腸管損傷の生理学と病態生理学;評価と予防の戦略」
「身体運動は、人体の適応能力に高い要求を突きつける。激しい身体パフォーマンスは、酸素及び栄養素の需要の変化に応じるため、活動的な筋肉、心肺系及び皮膚への血液供給を増加させる。そのような増大した末梢への血液供給のために必要となる、血流の再分布は、腸への血流を有意に減少させ、血流量低下及び消化管(GI)の機能不全を引き起こす。消化管系が機能不全になると、腹部の苦痛、並びに、体液、電解質、及び栄養素の摂取障害のため、運動のパフォーマンス及びその後の運動後のリカバリーに悪影響を及ぼし得る。さらに、激しい運動は上皮の完全性を損なわせ、バクテリアルトランスロケーション及び炎症を伴う腸の透過性の増加を引き起こし得る。最終的に、これらの作用は運動後のリカバリーを悪化させ、運動トレーニングの習慣を中断させ得る。本総説は、激しい運動に関連した消化管生理学と病態生理学の我々の知見における最近の進歩についての概説を提供する。また、個々のアスリートの消化管運動への影響を判断するための種々の手段について説明する。さらに、予防介入に利用し得る、いくつかの有望な成分について詳細に説明する。」

(5)甲6
(6a)1of9頁目の「ABSTRACT」の欄
「下痢、痙攣、嘔吐、吐き気、胃痛などの消化管障害は、トレーニングや競技中のアスリートによく見られる症状である。これらの症状を引き起こすメカニズムは完全には解明されていない。運動中の熱や酸化ダメージによるストレスで、腸管上皮細胞のタイトジャンクションタンパク質が破壊され、その結果、内腔のエンドトキシンに対する透過性が高まる。エンドトキシンは血流に移行し、全身の免疫反応を引き起こす。タイトジャンクションの完全性は、オクルディンとクローディンというタンパク質のリン酸化の状態によって変化し、運動の種類によっても調節される可能性がある。長時間の運動や高強度の運動は、最終的にタイトジャンクションの機能不全を引き起こす主要なリン酸化酵素の増加につながるが、そのメカニズムは異なっている。この総説の目的は、(1)タイトジャンクション制御の機能と生理を説明すること、(2)長時間及び高強度の運動が胃腸障害につながるタイトジャンクションの透過性に及ぼす影響を論じること、(3)運動中にタイトジャンクションの完全性を高めたり、低下させたりする可能性のある薬剤を検討することである。」

(6b)7of9頁目の「Summary of new findings」の1?8行
「●体温を上昇させる運動(長時間)や高強度の運動は、腸管のタイトジャンクションタンパク質のリン酸化状態を調節し、透過性の破壊と増加を引き起こす。
●透過性の増加は、エンドトキシンの血流への細胞間移動を可能にし、減少した体液吸収や体液分泌、下痢につながる免疫・炎症反応のカスケードを引き起こす。」
なお、上記において「●」は、原文では右向き三角の形であるが、表記できないため上記記載とした。

(6)甲7
(7a)「Abstract」の欄
「背景:内臓の血流低下はよう々な病態でよく見られ、しばしば腸管機能障害につながると考えられている。運動などの生理的状況もまた内臓の血流低下を引き起こすことは知られているが、腹部臓器を犠牲にして流れを再分配することがどのような結果をもたらすかは、まだ明らかにされていない。本研究では、健常な男性の身体運動時における、内臓の血流低下が腸に及ぼす影響並びに血流低下、腸管の傷害及び透過の間の関係に着目した。

方法と結果:健常な男性が最大負荷容量の70%で60分間の自転車運動を行った。内臓の血流低下は胃内圧計を用いて評価した。10分ごとに採取した血液を分析し、腸管上皮損傷パラメータ(腸内脂肪酸結合蛋白(I-FABP)及び回腸胆汁酸結合蛋白(I-BABP))を調べた。腸管透過性の変化は、糖プローブを用いて評価した。さらに、肝臓と腎臓のパラメータを評価した。内臓の血流は運動中に急速に低下し、gap_(g-a)pCO_(2)が-0.85±0.15から0.85±0.42kPaに増加した(p<0.001)。血流低下状態では、血漿中のI-FABP(615±118対309±46pg/ml,p<0.001)とI-BABP(14.30±2.20対5.06±1.27ng/ml,p<0.001)が増加し、血流低下はこの腸管の損傷と有意な相関があった(r_(s)=0.59;p<0.001)。最後に、血漿を分析したところ、運動後に腸管の透過性が亢進しており(p<0.001)、これは腸の損傷と相関していた(r_(s)=0.50;p<0.001)。肝臓のパラメータは上昇したが、腎臓のパラメーターは上昇しなかった。」

(7)甲8
(8a)請求の範囲の請求項10
「10.ヒスチジン、ヒスチジンを含むペプチド、それらの前駆体及びそれらの薬理学的に許容可能な塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有し、ストレスによる腸疾患の予防・改善作用を有するものであることを特徴とし、ストレスによる腸疾患の予防・改善のために用いられる旨の表示を付した飲食品。」

(8)甲9
(9a)特許請求の範囲の請求項1、5及び14
「【請求項1】
ペプチドおよび遊離アミノ酸を含有し、総アミノ酸中、遊離アミノ酸換算量で、L-スレオニン0.2?2.0重量%を含有する組成物。
・・・
【請求項5】
以下(a)および/または(b)である、請求項1?4のいずれか一項記載の組成物:
(a)遊離アミノ酸として、L-スレオニンおよび/またはL-メチオニンを含有しない。
(b)遊離アミノ酸として、グリシン、L-アラニン、L-アスパラギン、L-システイン、L-グルタミン、L-イソロイシン、L一ロイシン、L-フェニルアラニン、L-プロリン、L-セリン、L-トリプトファン、L-チロシン、L-バリン、L-アスパラギン酸、Lーグルタミン酸、L一アルギニン、L-ヒスチジンおよびL-リジンからなる群より選ばれる1種以上のアミノ酸を含有する。
・・・
【請求項14】
請求項1?13のいずれか一項記載の組成物を含有する、食品、サプリメント、医薬、または飼料。」

(9)甲2?7に開示される周知技術1
上記甲2?7によれば、腸等の消化管粘膜は、食物中の抗原や、腸内細菌等の微生物等からの侵襲に対応するために特有なバリア機能を有していること((2a)、(2b)、(3a)及び(4a))、及び、激しい運動や長時間の運動により、腸の血流低下や腸粘膜の熱損傷が生じ、腸管細胞膜、タイトジャンクション、分泌粘液等によって形成される腸管バリア機能の低下が起こり、腸の透過性が増加すること((4a)、(5a)、(6a)、(6b)及び(7a))は、本件特許の優先日前に周知の事項であった。

(10)甲8?9及び11に開示される周知技術2
上記甲8、甲9及び甲11によれば、ヒスチジン等のアミノ酸が食品成分であることは、本件特許の優先日前に周知の事項であった((8a)、(9a)及び甲11の請求項22を引用する請求項29)。

第5 当審の判断
1.申立理由1-1(甲1に基づく新規性欠如)及び申立理由2-1(甲1を主引例とする進歩性欠如)について
(1)本件発明1(申立理由1-1及び申立理由2-1)について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明における「ヒスチジン」は、本件発明1の「ヒスチジンまたはその塩」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
ヒスチジンまたはその塩を含有する組成物。
<相違点1>
ヒスチジンまたはその塩を含有する組成物が、本件発明1では、「経口」用のものであるのに対し、甲1発明では「小腸粘膜上皮細胞による円形上皮欠損モデルを用いた実験」のためのものであって、「経口」用のものではない点。
<相違点2>
ヒスチジンまたはその塩を含有する組成物について、本件発明1では、「運動誘発性の消化管バリア機能低下を改善するため」のものであり、ヒスチジンまたはその塩がそのための「有効成分」であることが特定されているのに対し、甲1発明では、かかる特定はされていない点。

イ 申立理由1-1について
上記のとおり、本件発明1と甲1発明は、相違点1及び相違点2で相違しているところ、これらの相違点が実質的な相違点であることは当業者に明らかである。
よって、本件発明1について、甲1に記載された発明であるということはできない。

ウ 申立理由2-1について
(ア)相違点1について
甲1の「研究成果の概要」に、甲1の実験が、生体内におけるヒスチジン欠乏状態は、糖尿病腎症患者の病態の悪化や、創傷治癒の遅延、非ステロイド抗炎症薬起因性消化管粘膜傷害の原因となり得ることから、粘膜上皮修復機序におけるヒスチジンの機能性を明らかにすることを目的としてなされた旨、ラット小腸上皮細胞による円形上皮欠損モデルを用いた甲1の研究結果が、粘膜上皮修復機序においてヒスチジンが重要な役割をしていることを示し、また、病的状態におけるヒスチジン欠乏が、消化管粘膜障害を増悪させる可能性を示唆している旨が記載され((1a))、甲1の2頁の「2.研究の目的」の「(2)」に、ヒスチジンに注目して、病的状態を反映すると考えられるヒスチジン低下が粘膜上皮(RIE)の創傷修復に及ぼす影響について検討した旨が記載されているとおり((1b))、甲1の実験は、患者の病的状態に対するヒスチジンの影響を検討するためになされたものである。
ここで、細胞を用いた実験のようなインビトロでの実験において良好な薬理試験結果が得られた場合に、生体に投与した場合においても同様の効果が奏されることを期待して生体に投与する組成物を調製し、その効果を検証することが研究開発において通常に行われていることは、本件特許の優先日前の技術常識である。また、ヒスチジン等のアミノ酸が食品成分であることは本件特許の優先日前に周知の事項である(甲8?9及び11に示される「周知技術2」)し、甲1には、ヒスチジンが必須アミノ酸であることが記載され((1a))、甲1の実験の背景に関し、アミノ酸が多様な機能を有する栄養素であり、サプリメント等に応用され、また、アミノ酸を含有する食品が頻繁に市場に出まわるようになっている旨も記載されている(「1.研究開始当初の背景」の「(1)」)。
そうすると、本件特許の優先日前の技術常識及び周知技術に照らし、甲1の記載に接した当業者は、周知のアミノ酸栄養素であり、食品成分としても汎用されているヒスチジンを含有する組成物であって、ヒスチジン欠乏により生じた小腸粘膜上皮細胞の細胞増殖率の抑制を回復させ、小腸粘膜上皮の修復過程の遅延を改善する作用を有する甲1発明のヒスチジン含有組成物を、ヒスチジン欠乏状態により消化管粘膜障害が生じている可能性のある病態を有する患者(実験動物を含む)への影響を確認するべく、食品等の「経口」用の形態とすることを自然に想到するといえる。

(イ)相違点2について
腸等の消化管粘膜はバリア機能を有していること、及び、激しい運動や長時間の運動により腸の血流低下及び腸管細胞膜、タイトジャンクション、分泌粘液等によって形成される腸管バリア機能の低下が起こり、腸の透過性が増加することは、本件特許の優先日前に周知の事項である(甲2?7に示される上記「周知技術1」)し、本件明細書の【0013】、【0017】及び【0018】には、「運動誘発性の消化管バリア機能低下」とは、運動による消化管への血液の供給の減少や体温の上昇により消化管の上皮細胞間のバリアが破綻して、消化管の透過性が亢進して異物等が消化管を通じて体内に侵入しやすい状態である旨が記載されている。(なお、下線は合議体が付した。)
しかしながら、これら甲2?7を含め、申立人が提出したいずれの証拠を参酌しても、「運動誘発性の消化管バリア機能低下」の状態が、甲1に記載される、小腸粘膜上皮細胞の増殖の抑制や小腸粘膜上皮細胞の修復過程の遅延を引き起こす「ヒスチジンの欠乏で生じる」状態と同じ状態であることは示されていないし、また、ヒスチジン欠乏による細胞増殖率の抑制を回復させる作用のある甲1発明のヒスチジン含有組成物が、「運動誘発性の消化管バリア機能低下の改善のため」にも有効であり、当該ヒスチジン含有組成物の投与により「運動誘発性の消化管バリア機能低下の改善」が行えることが、本件特許の優先日前に既知であったとも解されない。
そうすると、申立人が提出したいずれの証拠からも、当業者は、甲1発明を相違点2に係る本件発明1の構成を備えたものとすることを動機付けられるとはいえない。

(ウ)本件発明1の効果について
本件明細書の実施例1には、ヒスチジンを経口で投与することにより「運動誘発性の消化管バリア機能低下」の改善が行えたことを示す結果が記載されており、この効果は、甲1をはじめ申立人が提出したいずれの証拠の記載からも、当業者が予測できない効果である。

(エ)したがって、本件発明1は、甲1発明並びに甲2?9及び11に示される本件特許の優先日前の周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

エ 申立人の主張について
申立人は、申立理由1-1及び2-1に関し、申立書の22頁の項目(ウ-1)において、運動により消化管バリア機能が低下することは当業者にはよく知られており(例えば、甲4?7)、当業者であれば、甲1に記載された粘膜上皮の修復バリア機能改善のためのヒスチジンを、運動により消化管バリア機能が低下した場合についても有効であることを期待して適用することを容易に検討し得たといえるし、また、ヒスチジンを運動により消化管バリア機能が低下した場合に適用した場合に有効であることを、困難なく予想し得たといえる旨主張する。
しかしながら、「運動誘発性の消化管バリア機能低下」の状態が、甲1に記載される、小腸粘膜上皮細胞の増殖の抑制や小腸粘膜上皮細胞の修復過程の遅延を引き起こす「ヒスチジンの欠乏で生じる」状態と同じ状態であることは申立人の提出したいずれの証拠にも示されておらず、ヒスチジン欠乏による細胞増殖率の抑制を回復させる作用のある甲1発明のヒスチジン含有組成物が、「運動誘発性の消化管バリア機能低下の改善のため」にも有効であり、当該ヒスチジン含有組成物の投与により「運動誘発性の消化管バリア機能低下の改善」が行えることが、本件特許の優先日前に既知であったとも解されないことは、上記ウ(イ)で記載したとおりであるから、上記申立人の主張は採用できない。

オ 小括
以上のとおりであるから、本件発明1についての申立理由1-1及び2-1には理由がない。

(2)本件発明2、5?8(申立理由1-1及び申立理由2-1)について
ア 本件発明2は、本件発明1において、組成物が「更に、バリン、ロイシン、イソロイシンおよびそれらの塩、並びに脂溶性抗酸化剤からなる群より選ばれる少なくとも一つを含有する」点を限定した発明であり、本件発明3は、本件発明2において、組成物が「ヒスチジンまたはその塩、バリンまたはその塩、ロイシンまたはその塩、並びにイソロイシンまたはその塩を有効成分として含有する」点を限定した発明であり、本件発明4は、本件発明1?3において、組成物が「更に、アルギニンまたはその塩を含有する」点を限定した発明であり、本件発明5は、本件発明1?4において、組成物が「ヒトの1回摂取単位量あたり、有効成分の含有量が0.1?100gである」点を限定した発明であり、本件発明6?8は、それぞれ、本件発明1?5において、組成物が「運動開始前に少なくとも1回摂取される」点、「運動中または運動終了直後に摂取される」点、「運動開始前に少なくとも1回、運動中または運動終了直後にさらに少なくとも1回摂取される」点を限定した発明である。

イ そして、本件発明2、5?8と甲1発明を対比すると、両者は、少なくとも、上記(1)アで記載した相違点1及び2で相違しているし、上記(1)イで記載したとおり、相違点1及び2は、実質的な相違点である。
そうすると、本件発明2、5?8について、甲1に記載された発明であるということはできない。

ウ 本件発明2?8と甲1発明とは、少なくとも、上記(1)アで記載した相違点1及び2で相違しているところ、上記(1)ウ(イ)で説示したとおり、申立人が提出したいずれの証拠からも、当業者は、甲1発明を相違点2に係る本件発明2?8の構成を備えたものとすることを動機付けられるとはいえない。
一方、本件明細書には、本件発明の効果に関し、上記(1)ウ(ウ)で記載した点が記載されるほか、実施例4に、ヒスチジンとアルギニン(いずれも塩酸塩)を併用することで、ヒスチジン単独よりも「運動誘発性の消化管バリア機能低下」の改善(緩和)効果が高まることが、実施例9に、ヒスチジン(塩酸塩)と脂溶性抗酸化剤(クロロゲン酸)を併用することで、それらを単独で投与する場合よりも「運動誘発性の消化管バリア機能低下」の改善(緩和)効果が高まることが記載されているし、また、実施例2によれば、L-ロイシン、L-イソロイシン、L-バリン=2:1:1からなる分岐鎖アミノ酸自体も「運動誘発性の消化管バリア機能低下」の改善効果を有する。
そして、これら本件明細書の記載から、当業者は、本件発明2?8の組成物はいずれも、「運動誘発性の消化管バリア機能低下」の改善効果を有することが理解できるところ、当該効果は当業者が甲1をはじめ、申立人が提出したいずれの証拠の記載からも予測できない効果である。

そうすると、他の相違点について検討するまでもなく、少なくとも相違点2で相違する本件発明2?8は、上記(1)ウ(イ)及び(ウ)で説示し、また、本件発明2?8の効果に関し、さらに上述したと同様の理由によって、甲1発明並びに甲2?9及び11に示される本件特許の優先日前の周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

エ 小括
以上のとおりであるから、本件発明2、5?8についての申立理由1-1及び本件発明2?8についての申立理由2-1は理由がない。

(3)本件発明9(申立理由1-1及び申立理由2-1)について
ア 対比
本件発明9は、「請求項1?8のいずれか1項に記載の組成物を含有する、運動誘発性の消化管バリア機能の低下を改善するための食品。」の発明であるところ、請求項1を引用する本件発明9を請求項1を引用しない独立形式で記載すると、以下のとおりとなる。

「ヒスチジンまたはその塩を有効成分として含有する、運動誘発性の消化管バリア機能低下を改善するための経口組成物を含有する、運動誘発性の消化管バリア機能の低下を改善するための食品。」

そして、上記(1)アにおける本件発明1と甲1発明との対比を踏まえて、本件発明9と甲1発明を対比すると、両者は、上記(1)アで記載したとおりの以下の一致点で一致し、以下の相違点3で相違する。
<一致点>
ヒスチジンまたはその塩を含有する組成物。
<相違点3>
本件発明9は「ヒスチジンまたはその塩を含有する組成物」を含有する「運動誘発性の消化管バリア機能の低下を改善するための食品」(以下「構成3-1」という。)の発明であり、また、食品中に含有される「ヒスチジンまたはその塩を含有する組成物」について、「ヒスチジンまたはその塩を有効成分として含有する、運動誘発性の消化管バリア機能低下を改善するための経口組成物」(以下「構成3-2」という。)であることが特定されているのに対し、甲1発明の(ヒスチジンまたはその塩を含有する組成物である)「ヒスチジン含有組成物」は「小腸粘膜上皮細胞による円形上皮欠損モデルを用いた実験のための組成物」であって構成3-1及び構成3-2の特定を備えたものではない点。

イ 申立理由1-1について
上記のとおり、本件発明9と甲1発明は、相違点3で相違しているところ、少なくとも、相違点3のうちの構成3-1に関する相違部分、つまり、本件発明9が「運動誘発性の消化管バリア機能の低下を改善するための食品」の発明であるのに対し、甲1発明が「小腸粘膜上皮細胞による円形上皮欠損モデルを用いた実験のための組成物」である点が実質的な相違点であることは明らかである。
そうすると、本件発明9について、甲1発明であるということはできない。

ウ 申立理由2-1について
(ア)上記(1)ウ(ア)で記載したとおり、本件特許の優先日前の技術常識及び周知技術に照らし、甲1の記載に接した当業者は、周知のアミノ酸栄養素であり、食品成分としても汎用されているヒスチジンを含有する組成物であって、ヒスチジン欠乏により生じた小腸粘膜上皮細胞の細胞増殖率の抑制を回復させ、小腸粘膜上皮の修復過程の遅延を改善する作用を有する甲1発明のヒスチジン含有組成物を、ヒスチジン欠乏状態により消化管粘膜障害が生じている可能性のある病態を有する患者(実験動物を含む)への影響を確認するべく、食品の形態とすることを自然に想到するといえる。
しかしながら、上記(1)ウ(イ)で記載したとおり、甲2?7を含め、申立人が提出したいずれの証拠を参酌しても、「運動誘発性の消化管バリア機能低下」の状態が、甲1に記載される、小腸粘膜上皮細胞の増殖の抑制や小腸粘膜上皮細胞の修復過程の遅延を引き起こす「ヒスチジンの欠乏で生じる」状態と同じ状態であることは示されていないし、また、ヒスチジン欠乏による細胞増殖率の抑制を回復させる作用のある甲1発明のヒスチジン含有組成物が、「運動誘発性の消化管バリア機能低下改善のため」にも有効であり、当該ヒスチジン含有組成物の投与により「運動誘発性の消化管バリア機能低下の改善」が行えることが、本件特許の優先日前に既知であったとも解されない。
そうすると、甲1発明の組成物を食品の形態とすることを当業者が自然に想到する場合であっても、当業者は、申立人が提出したいずれの証拠からも、甲1発明の組成物を、「運動誘発性の消化管バリア機能低下を改善するため」のものとし、甲1発明を相違点3に係る本件発明9の構成3-1を備えたものとすることを動機付けられるとはいえない。

(イ)本件発明9の効果について
一方、本件明細書の実施例1には、ヒスチジンを経口で投与することにより「運動誘発性の消化管バリア機能低下の改善」が行えたことを示す結果が記載されており、この効果は、甲1をはじめ申立人が提出したいずれの証拠の記載からも、当業者が予測できない効果である。

(ウ)したがって、本件発明9は、甲1発明並びに甲2?9及び11に示される本件特許の優先日前の周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

エ 小括
以上のとおりであるから、本件発明9についての申立理由1-1及び申立理由2-1は理由がない。

2.申立理由1-2(甲10に基づく新規性欠如)及び申立理由2-2(甲10を主引例とする進歩性欠如)について
(1)本件発明1(申立理由1-2及び申立理由2-2)について
ア 対比
本件発明1と甲10発明とを対比すると、甲10発明のアミノ酸組成物は、「サンプルNo.1のアミノ酸組成」中に「ヒスチジン」を含むから、これは、本件発明1の「ヒスチジンまたはその塩を含有する組成物」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲10発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
ヒスチジンまたはその塩を含有する組成物。
<相違点1’>
ヒスチジンまたはその塩を含有する組成物が、本件発明1では、「経口」用のものであるのに対し、甲10発明では、「炎症モデル作成方法により作成された炎症モデルの<評価試験>において評価するためのものであって、「経口」用のものではない点。
<相違点2’>
ヒスチジンまたはその塩を含有する組成物について、本件発明1では、「運動誘発性の消化管バリア機能低下を改善するため」のものであり、ヒスチジンまたはその塩がそのための「有効成分」であることが特定されているのに対し、甲10発明では、かかる特定はされていない点。

イ 申立理由1-2についての判断
上記のとおり、本件発明1と甲10発明は、相違点1’及び相違点2’で相違しているところ、これらの相違点が実質的な相違点であることは当業者に明らかである。
よって、本件発明1について、甲10に記載された発明であるということはできない。

ウ 申立理由2-2について
(ア)相違点1’について
甲10の【0022】に、「炎症性腸疾患用アミノ酸組成物は、例えば、液状、ゲル状、半固形状または粉末状をなす経口または経管用経腸栄養剤のような医薬品栄養剤あるいは食品栄養剤に適用される。」と記載されているとおり、甲10には、甲10発明の炎症性腸疾患用アミノ酸組成物を、食品栄養剤のような経口栄養剤として適用するものとすることが示唆されているから、当業者は、甲10発明の炎症性腸疾患用アミノ酸組成物を食品栄養剤のような経口栄養剤とすることを自然に想到するといえる。

(イ)相違点2’について
a 甲10の【0075】に、「表3から明らかなように、実施例1・・・の炎症モデルでは、比較例1?6の炎症モデルと比較して、TEER値が高くなっていることから、TNF-αによって誘導される炎症性サイトカインの産生が抑制され、その結果、炎症性サイトカインの産生に起因する単層膜(Caco-2細胞)のタイトジャンクションに生じる傷害が好適に低減されているものと推察された。このことから、・・・含硫アミノ酸の含有量が50.0?140.0mg/gアミノ酸組成物であり、かつトリプトファンおよび/またはその誘導体の含有量が21.0?120.0mg/gアミノ酸組成物のように、これらアミノ酸が高濃度で含まれる炎症性腸疾患用アミノ酸組成物では、炎症性腸疾患の急性増悪期や再燃時における炎症状態を緩和させ得ることが判った。」と記載されているとおり、甲10発明は、TNF-αを作用させることで作成された炎症モデルにおいて測定された腸管上皮細胞単層膜の経上皮電気抵抗値(TEER値)に基づき算出される評価値に基づく評価試験において、単層膜に対してTNF-αを作用させる前(0時間)と、作用させた後(48時間後)の単層膜の電気抵抗値から、
((TNF-αを作用させて)48時間後のTEER値/(TNF-αを作用させる前である)0時間でのTEER値)×100(%)
で算出される評価値が100%であったとの結果から、サンプルNo.1の所定の含硫アミノ酸等を含むアミノ酸組成からなるアミノ酸組成物が、炎症性腸疾患の改善に有用であると認識できたことに基づく発明である。
つまり、【0075】の記載から明らかなとおり、甲10には、甲10発明のサンプルNo.1のアミノ酸組成からなるアミノ酸組成物が、TNF-αによって誘導される炎症性サイトカインの産生に起因する単層膜のタイトジャンクションに生じる傷害が好適に低減されている可能性に基づいて、炎症性腸疾患の改善に有用であることが推察されている。(下線は、合議体が付した。以下同様である。)

b 一方、本件明細書の【0017】に、「TNF-αの有意な上昇は確認できないが、消化管障害が起きている場合、その消化管障害は運動誘発性であると判別し得る。」と記載され、また、【0018】に、「本発明において「運動誘発性の消化管バリア機能低下」とは、運動(特に、激しい運動)に伴って発現する消化管バリア機能の低下をいう。「運動誘発性の消化管バリア機能低下」は、運動による体温上昇や血流低下が主要因だと考えられている。一方、・・・炎症性腸疾患は炎症に起因するものであり、これらと運動誘発性の消化管バリア機能の低下とは、メカニズムや状態において異なると考えられる。」と記載されるとおり、本件発明1の「運動誘発性の消化管バリア機能低下」は、甲10発明の炎症モデルのようにTNF-αにより引き起こされる炎症(消化管障害)とは異なる状態であると解される。
このことは、第4の4.(9)に、周知技術1として記載した、激しい運動や長時間の運動により、腸の血流低下や腸粘膜の熱損傷が生じ、タイトジャンクション等によって形成される腸管バリア機能の低下が起こり、腸の透過性が増加することが本件特許の優先日前に周知であることとも整合する。

c さらに、申立人が提出した他のいずれの証拠からも、「TNF-αの作用により引き起こされる炎症」に基づく単層膜のタイトジャンクションの低下と、「運動誘発性」のタイトジャンクションの低下が同じ現象であって、TNF-αにより引き起こされる炎症に基づく単層膜のタイトジャンクションの低下を改善できる組成物であれば、「運動誘発性」のタイトジャンクションの低下(消化管バリア機能低下)も改善できることが本件特許の優先日前の既知の知見であったことは示されていないし、そのような本件特許の優先日前の技術常識があったとも解されない。

d そうすると、(含硫アミノ酸等と共に)ヒスチジンを含む甲10発明の組成物により、TNF-αにより引き起こされる炎症に基づく単層膜のタイトジャンクションに生じる傷害を低減できるとの甲10の【0075】に記載の推察が、仮に、事実である場合であっても、当業者は、甲10発明の組成物が「運動誘発性の消化管バリア機能低下」の改善のために有用であることを理解することはできないのであるから、当業者は、甲10発明の組成物を、「運動誘発性の消化管バリア機能低下」の改善のためのものとすることを動機付けられるとはいえない。

e 以上のとおりであるから、当業者は、甲10発明を相違点2’に係る本件発明1の構成を備えたものとすることを動機付けられるとはいえない。

(ウ)本件発明1の効果について
上記1.(1)ウ(ウ)で記載したとおり、本件明細書の実施例1には、ヒスチジンを経口で投与することにより「運動誘発性の消化管バリア機能低下」の改善が行えたことを示す結果が記載されている。そして、この効果は、甲10をはじめ、申立人が提出したいずれの証拠の記載からも当業者が予測できない効果である。

(エ)したがって、本件発明1は、甲10発明及び甲2?7に示される本件特許の優先日前の周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

エ 申立人の主張について
申立人は、申立理由1-2及び2-2に関し、申立書の23?24頁の項目(ウ-2)において、主に以下の(i)(ii)の主張をする。
(i)腸管バリア機能は、腸管細胞膜、タイトジャンクション、分泌粘液等によって形成されており(甲4)、タイトジャンクションに生じる傷害が好適に低減される甲10発明の組成物が、バリア機能の低下の改善効果があることは明らかである一方、本件明細書の【0002】にも記載のように、運動誘発性であってもバリア機能の低下が重篤になれば臓器に細菌の移行が起き炎症が誘発されることは十分に起こり得るし、甲4の記載からも激しい運動の結果、炎症反応が生じうることが分かる。本件明細書の【0018】には、運動誘発性の消化管バリア機能の低下が炎症に起因する場合とはメカニズムや状態において異なると考えられる旨が述べられているが、運動誘発性であってもバリア機能の低下が重篤になれば炎症は、連動しておこる可能性が高く、運動誘発性の消化管バリア機能の低下と炎症性腸疾患を区別することはできないと考えられる。
(ii)激しい運動により腸管バリア機能が低下することは周知といえ、当業者であれば、甲10に記載されたタイトジャンクションに生じる傷害が好適に低減される剤により消化管バリア機能低下の改善が為し得るものと期待して、運動誘発性の消化管バリア機能低下の改善にも適用することは容易であるといえる。

まず、主張(i)に関し検討する。
甲10の【0002】に、「クローン病または潰瘍性大腸炎を代表とする炎症性腸疾患・・・は、病因が未だ特定されておらず、難治性特定疾患として指定されている。また、かかる炎症性腸疾患は複数の要因が推定されているものの、現在、その一つとして炎症の発症部位である腸管上皮から組織内部へ特定の腸内細菌や食餌抗原が侵入し、過剰な炎症反応が引き起こされるとするメカニズムが指摘されている。」と記載されているとおり、甲10発明の「炎症性腸疾患」は、腸管上皮から組織内部へ細菌等が侵入し、過剰な炎症反応が引き起こされている状態であると解される。一方、上記ウ(イ)で記載したとおり、本件明細書の【0018】によれば、本件発明1の「運動誘発性の消化管バリア機能低下」は、運動による体温上昇や血流低下が主要因だと考えられる。
そして、「運動誘発性の消化管バリア機能低下」によって、結果として炎症反応が生じたとしても、健康な者が運動したことによって生じた炎症状態と、クローン病や潰瘍性大腸炎を代表とする炎症性腸疾患における炎症状態とは異なる状態であり、治療対象の状態として区別できると当業者が理解するのは、極めて自然なことである。

また、激しい運動や長時間の運動により、タイトジャンクション等によって形成される腸管バリア機能が低下して、腸の透過性が増加する段階である、本件発明1の「運動誘発性の消化管バリア機能低下」状態と、細菌等が侵入してTNF-αの作用に基づく炎症が起きた段階である甲10発明の「炎症性腸疾患」状態が異なる段階であることは、以下の甲4及び6の記載からも認識できる。
・甲4「当該バリアの機能不全は、異なるタイプのストレス(例、生理学的、病理的、心理的、薬理学的)によって引き起こされ、腸の透過性の増加を招き得る。エンドトキシン(グラム陰性菌の細胞壁の構成成分)に対する透過性の増加は、局所的又は全身的な炎症反応、あるいはその両方を引き起こす。・・・激しい運動と熱ストレスの状態のもとでは、場合により他のストレスと組み合わされ、腸の血流の減少、腸の粘膜への直接的な熱損傷、又はその両方が、腸のバリア障害及び内毒素血症を引き起こし得る。その結果として生じる炎症反応は、体温調節の変化や多臓器不全に関与していると考えられている。」
・甲6「下痢、痙攣、嘔吐、吐き気、胃痛などの消化管障害は、トレーニングや競技中のアスリートによく見られる症状である。これらの症状を引き起こすメカニズムは完全には解明されていない。運動中の熱や酸化ダメージによるストレスで、腸管上皮細胞のタイトジャンクションタンパク質が破壊され、その結果、内腔のエンドトキシンに対する透過性が高まる。エンドトキシンは血流に移行し、全身の免疫反応を引き起こす。」

以上のとおり、本件発明1の「運動誘発性の消化管バリア機能低下」状態と、甲10発明の「炎症性腸疾患」状態は異なる段階であると認識でき、当業者は、運動誘発性の消化管バリア機能の低下と炎症性腸疾患とを区別ができるといえるから、上記申立人の主張(i)は採用できない。

主張(ii)に関しても、激しい運動により腸管バリア機能が低下することは周知といえるが、上記ウ(イ)で記載したとおり、申立人が提出したいずれの証拠からも、「TNF-αの作用により引き起こされる炎症」に基づく単層膜のタイトジャンクションの低下と、「運動誘発性」のタイトジャンクションの低下が同じ現象であって、TNF-αにより引き起こされる炎症に基づく単層膜のタイトジャンクションの低下を改善できる組成物であれば、「運動誘発性」のタイトジャンクションの低下も改善できることが本件特許の優先日前の既知の知見であったことは示されていないし、そのような本件特許の優先日前の技術常識があったとも解されないのであるから、上記申立人の主張(ii)も採用できない。

オ 小括
以上のとおりであるから、本件発明1についての申立理由1-2及び2-2には理由がない。

(2)本件発明2?8(申立理由1-2及び申立理由2-2)について
ア 本件発明2?8は、上記1.(2)で記載したとおり、本件発明1等をさらに限定した発明である。

イ そして、本件発明2?8と甲10発明を対比すると、両者は、少なくとも、上記(1)アで記載した相違点1’及び2’で相違しているし、上記(1)イで記載したとおり、相違点1’及び2’は、実質的な相違点である。
そうすると、本件発明2?8について、甲10に記載された発明であるということはできない。

ウ また、上記(1)ウ(イ)で説示したとおり、申立人が提出したいずれの証拠からも、当業者は、甲10発明を相違点2’に係る本件発明2?8の構成を備えたものとすることを動機付けられるとはいえない。
一方、本件明細書には、本件発明の効果に関し、上記(1)ウ(ウ)で記載した点が記載されるほか、実施例2、4、9に上記1.(2)ウに記載したとおりの記載がある。
そして、これら本件明細書の実施例の記載から、当業者は、本件発明2?8の組成物はいずれも、「運動誘発性の消化管バリア機能低下」の改善効果を有することが理解できるところ、当該効果は、甲10をはじめ申立人が提出したいずれの証拠の記載からも、当業者が予測できない効果である。

そうすると、他の相違点について検討するまでもなく、少なくとも相違点2’で相違する本件発明2?8は、上記(1)ウ(イ)及び(ウ)で説示し、また、本件発明2?8の効果に関し、さらに上述したと同様の理由によって、甲10発明及び甲2?7に示される本件特許の優先日前の周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

エ 小括
以上のとおりであるから、本件発明2?8についての申立理由1-2及び申立理由2-2は理由がない。

(3)本件発明9(申立理由1-2及び申立理由2-2)について
ア 対比
上記1.(3)アで記載したとおり、請求項1を引用する本件発明9を、請求項1を引用しない独立形式で記載すると、以下のとおりとなる。
「ヒスチジンまたはその塩を有効成分として含有する、運動誘発性の消化管バリア機能低下を改善するための経口組成物を含有する、運動誘発性の消化管バリア機能の低下を改善するための食品。」

そして、上記(1)アにおける本件発明1と甲10発明との対比を踏まえて、本件発明9と甲10発明を対比すると、両者は、上記(1)アで記載したとおりの以下の一致点で一致し、以下の相違点3’で相違する。
<一致点>
ヒスチジンまたはその塩を含有する組成物。
<相違点3’>
本件発明9は「ヒスチジンまたはその塩を含有する組成物」を含有する「運動誘発性の消化管バリア機能の低下を改善するための食品」(以下「構成3’-1」という。)の発明であり、また、食品中に含有される「ヒスチジンまたはその塩を含有する組成物」について、「ヒスチジンまたはその塩を有効成分として含有する、運動誘発性の消化管バリア機能低下を改善するための経口組成物」(以下「構成3’-2」という。)であることが特定されているのに対し、甲10発明の(ヒスチジンまたはその塩を含有する組成物である)「炎症性腸疾患用アミノ酸組成物」は「炎症モデルを用いた評価試験のための組成物」であって構成3’-1及び構成3’-2の特定を備えたものではない点。

イ 申立理由1-2について
上記のとおり、本件発明9と甲10発明は、相違点3’で相違しているところ、少なくとも、相違点3’のうちの構成3’-1に関する相違部分、つまり、本件発明9が「(運動誘発性の消化管バリア機能の低下を改善するための)食品」の発明であるのに対し、甲10発明が「炎症モデルを用いた評価試験のための組成物」である点が実質的な相違点であることは明らかである。
そうすると、相違点3’で甲10発明と異なる本件発明9について、甲10に記載された発明であるということはできない。

ウ 申立理由2-2について
(ア)上記(1)ウ(ア)で記載したとおり、甲10発明の炎症性腸疾患用アミノ酸組成物を、食品栄養剤のような経口栄養剤(つまり、食品の形態)とすることは、当業者が容易になし得たことである。
しかしながら、上記(1)ウ(イ)で記載したとおり、申立人が提出したいずれの証拠を参酌しても、当業者は、甲10発明の組成物が「運動誘発性の消化管バリア機能低下」の改善のために有用であることを理解することはできず、当業者は、甲10発明の組成物を、「運動誘発性の消化管バリア機能低下」の改善のための食品とすることを動機付けられるとはいえないし、また、甲10発明において、組成物中に含まれる多数の成分から「ヒスチジン」に着目し、ヒスチジンを「運動誘発性の消化管バリア機能低下」の改善のための「有効成分」とすることも動機付けられるとはいえない。
そうすると、甲10発明の組成物を食品の形態とすることを当業者が容易になし得る場合であっても、当業者は、申立人が提出したいずれの証拠からも、これを、「運動誘発性の消化管バリア機能低下を改善するため」のものとし、甲10発明を相違点3’に係る本件発明9の構成を備えたものとすることを動機付けられるとはいえない。

(イ)本件発明9の効果について
本件明細書の実施例1には、ヒスチジンを経口で投与することにより「運動誘発性の消化管バリア機能低下の改善」が行えたことを示す結果が記載されており、この効果は、甲10をはじめ申立人が提出したいずれの証拠の記載からも、当業者が予測できない効果である。

(ウ)したがって、本件発明9は、甲10発明及び甲2?7に示される本件特許の優先日前の周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

エ 小括
以上のとおりであるから、本件発明9についての申立理由1-2及び申立理由2-2は理由がない。

3.申立理由1-3(甲11に基づく新規性欠如)及び申立理由2-3(甲11を主引例とする進歩性欠如)について
(1)本件発明1(申立理由1-3及び申立理由2-3)について
ア 対比
本件発明1と甲11発明とを対比する。
(ア)甲11発明の栄養組成物は「ヒスチジン」を含むから、これは、本件発明1の「ヒスチジンまたはその塩を含有する組成物」に相当する。
(イ)甲11発明の栄養組成物は「有効量の分枝鎖脂肪酸を含む」ものであるから、「分枝鎖脂肪酸」が有効成分として含まれていることは明らかである。
(ウ)本件発明1の、「運動誘発性の消化管バリア機能低下を改善するための経口組成物」と、甲11発明の、「それを必要とする個体における消化管のバリア機能の改善に使用するための」ものであって、「改善される機能は、感染症、敗血症、吸収不良、アレルギー、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群、下痢、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される状態に関連」するものである「経口用栄養補助剤」である「栄養組成物」とは、「消化管バリア機能低下を改善するための経口組成物」である限りにおいて、一致する。

そうすると、本件発明1と甲11発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
ヒスチジンまたはその塩を含有する消化管バリア機能低下を改善するための経口組成物。
<相違点1’’>
ヒスチジンまたはその塩を含有する経口組成物により改善される「消化管バリア機能低下」が、本件発明1では、「運動誘発性」の消化管バリア機能低下であり、また、ヒスチジンまたはその塩がその「有効成分」とされているのに対し、甲11発明では、「感染症、敗血症、吸収不良、アレルギー、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群、下痢、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される状態に関連」する消化管のバリア機能(低下)の改善であり、その有効成分は分枝鎖脂肪酸であって、ヒスチジンは、栄養組成物に含まれるアミノ酸として列記される中の1成分である点。

イ 申立理由1-3についての判断
上記のとおり、本件発明1と甲11発明は、相違点1’’で相違しているところ、以下のウ(ア)での検討から明らかなとおり、相違点1’’は実質的な相違点である。
よって、本件発明1について、甲11に記載された発明であるということはできない。

ウ 申立理由2-3について
(ア)相違点1’’について
a 本件明細書の【0018】に、「本発明において「運動誘発性の消化管バリア機能低下」とは、運動(特に、激しい運動)に伴って発現する消化管バリア機能の低下をいう。「運動誘発性の消化管バリア機能低下」は、運動による体温上昇や血流低下が主要因だと考えられている。一方、・・・炎症性腸疾患は炎症に起因するものであり、これらと運動誘発性の消化管バリア機能の低下とは、メカニズムや状態において異なると考えられる。」と記載され、また、【0020】に、「運動誘発性のバリア機能低下の「改善」とは、運動時に運動誘発性の消化管バリア機能の低下を有意に抑制すること、運動誘発性の消化管バリア機能の低下に伴う運動時または運動後の吐き気や消化能力の低下を有意に抑制すること、運動後の食欲低下を有意に抑制すること、腸内細菌や細菌由来の毒素の体内への侵入を防ぎ体調悪化を緩和することをいう。」と記載されるとおり、本件発明1の「運動誘発性」の消化管バリア機能低下は、運動(特に、激しい運動)に伴って発現し、運動による体温上昇や血流低下等が主要因であると考えられ、細菌等の異物が体内に侵入した結果引き起こされる体調悪化や、炎症に起因する炎症性腸疾患は、本件発明1の「運動誘発性」の消化管バリア機能の低下とは異なる状態であると解される。
一方、甲11には、甲11発明の組成物が「運動誘発性」のバリア機能低下の改善に有用であり、「運動誘発性」のバリア機能低下の改善に適用できることは記載されていない。また、甲11発明の消化管バリア機能の低下は、「感染症、敗血症、アレルギー」等の細菌由来の毒素等の異物が体内に侵入して引き起こされる疾患や「炎症性腸疾患、過敏性腸症候群」等の炎症性腸疾患に関連するものであるから、本件明細書の上記記載によれば、甲11発明の消化管バリア機能の低下状態は、本件発明1の「運動誘発性」の消化管障害とは異なる状態であると解されるし、この理解は、上記2.(1)ウ(イ)bで指摘した周知技術1とも整合するものである。
さらに、他の証拠を参酌しても、甲11発明の「感染症、敗血症、吸収不良、アレルギー、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群、下痢、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される状態に関連する消化管バリア機能低下」と、「運動誘発性」の消化管バリア機能低下が同じ状態であって、「感染症、敗血症、吸収不良、アレルギー、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群、下痢、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される状態に関連する消化管バリア機能低下」の改善に有用な組成物であれば、「運動誘発性」のバリア機能低下の改善にも有効であることが本件特許の優先日前の既知の知見であったことは示されていないし、そのような本件特許の優先日前の技術常識があったとも解されない。

b 甲11の[0087]には「・・・BCFA(合議体注:これは、[0082]に記載のとおり「分枝鎖脂肪酸」である。)は、詳細には、膜貫通タンパク質であるゾンナオクルデン-2(zonna occludens-2)、オクルジン及びクローディン-1のタイトジャンクションアセンブリ(tight junction assembly)を増加させることによって腸透過性を低下させる。そのようなものとして、BCFAを使用して、小腸及び大腸の両方において胃腸管の完全性の維持を支持することができる。」と記載されている。
ここで、仮に、甲4?7に示される、激しい運動や長時間の運動により、タイトジャンクション等によって形成される腸管バリア機能の低下が起こり、腸の透過性が増加するとの周知技術1の知見を踏まえた当業者が、分枝鎖脂肪酸(BCFA)を含む甲11発明の組成物が、タイトジャンクションアセンブリを増加させることによって腸透過性を低下させる作用に基づいて、「運動誘発性」のバリア機能低下の改善に有効である可能性を推認し、甲11発明の組成物を「運動誘発性」のバリア機能低下の改善のために適用することを想起し得た場合であっても、その場合の有効成分は「分枝鎖脂肪酸」であって、「ヒスチジン」ではない。
そして、甲11及び他のいずれの証拠の記載を参酌しても、ヒスチジンが「運動誘発性」のバリア機能低下の改善に有効であることについての記載や示唆はなく、逆に、ヒスチジンは甲11発明において、栄養組成物に含ませるアミノ酸成分として列記される多数のアミノ酸の1つに過ぎないし、甲11には、甲11発明の組成物に含有させることが可能な成分として、アミノ酸以外に、ω-3脂肪酸(請求項9)、ヌクレオチド(請求項11)、植物栄養素(請求項13)、タンパク質(請求項15)、プレバイオティクス(請求項20)、抗酸化剤(請求項25)、ビタミン(請求項26)、無機質(請求項27)といった多岐にわたる成分が記載されており、かかる甲11の記載に接した当業者が、多岐にわたる成分の中からアミノ酸に着目し、さらに、多数列記されるアミノ酸からヒスチジンに着目してその薬理活性を確認し、「運動誘発性」のバリア機能低下の改善のための「有効成分」とすることまでが容易であるとは到底いえない。
加えて、甲11には、「感染症、敗血症、吸収不良、アレルギー、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群、下痢、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される状態に関連する消化管バリア機能低下」の改善作用についてすら、その薬理効果が奏されることを示す薬理試験結果は一切記載されていない。

そうすると、当業者は、甲11を含めたいずれの証拠を参酌しても、甲11発明の組成物を、ヒスチジンまたはその塩を運動誘発性の消化管バリア機能低下の改善のための「有効成分」として含む、「運動誘発性」の消化管バリア機能低下を改善するための経口組成物とし、甲11発明を相違点1’’に係る本件発明1の構成を備えたものとすることを動機付けられるとはいえない。

(イ)本件発明1の効果について
上記1.(1)ウ(ウ)で記載したとおり、本件明細書の実施例1には、ヒスチジンを経口で投与することにより「運動誘発性」の消化管バリア機能低下の改善が行えたことを示す結果が記載されている。そして、この効果は、甲11をはじめ申立人が提出したいずれの証拠の記載からも、当業者が予測できない効果である。

(ウ)したがって、本件発明1は、甲11発明及び甲2?7に示される本件特許の優先日前の周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

エ 申立人の主張について
申立人は、申立理由1-3及び2-3に関し、申立書の24?25頁の項目(ウ-3)において、激しい運動により腸管バリア機能が低下することは周知であり、当業者は、甲11でいう消化管のバリア機能の改善が望ましい対象に、激しい運動により、腸管バリア機能が低下した状態の者が含まれることを当然に想到し、甲11に記載された経口栄養補助剤の用途に運動誘発性の消化管バリア機能低下の改善が含まれると理解するといえるし、また、甲11に記載の剤を、運動により腸管バリア機能が低下し、消化管の透過性が増した場合についても有効であることを期待して適用するといえる旨主張する。
しかしながら、甲11には、甲11発明の組成物を投与する対象に、激しい運動により腸管バリア機能が低下した状態の者が含まれることは記載されていない。むしろ、上記ウ(ア)で記載したとおり、甲11発明の組成物は、「感染症、敗血症、吸収不良、アレルギー、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群、下痢、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される状態に関連」する消化管バリア機能低下の改善のためのものであって、「運動誘発性」の消化管障害とは異なる状態であると解される炎症性腸疾患等に起因する消化管障害を対象としているし、甲11発明で特定される各種状態に関連する消化管バリア機能低下(前者)と、「運動誘発性」の消化管バリア機能低下(後者)が同じ状態であって、前者の改善に有用な組成物であれば、後者の改善にも有効であることが本件特許の優先日前に技術常識であったとも解されない。そうすると、甲11の消化管のバリア機能の改善が望ましい対象に、激しい運動により腸管バリア機能が低下した状態の者が含まれ、甲11に記載された経口栄養補助剤の用途に「運動誘発性」の消化管バリア機能低下の改善が含まれると理解できるとはいえないし、当業者が、甲11発明の組成物を、「運動誘発性」の腸管バリア機能低下により消化管の透過性が増した場合についても有効であることを期待して適用するともいえない。
また、申立人が提出したいずれの証拠にも、「ヒスチジン」が「運動誘発性」のバリア機能低下の改善に有効であることは示されていないし、当業者が甲11の記載に基づいて多岐にわたる成分の中から「ヒスチジン」に着目して有効成分とすることが容易とはいえず、当業者は、甲11発明を、ヒスチジンまたはその塩を「運動誘発性」の消化管バリア機能低下の改善のための「有効成分」として含む本件発明1の組成物とすることを動機付けられるとはいえないことも、上記ウ(ア)で記載したとおりである。
よって、申立人の主張はいずれも採用できない。

オ 小括
以上のとおりであるから、本件発明1についての申立理由1-3及び2-3には理由がない。

(2)本件発明2?8(申立理由1-3及び申立理由2-3)について
ア 本件発明2?8は、上記1.(2)で記載したとおり、本件発明1等をさらに限定した発明である。

イ そして、本件発明2?8と甲11発明を対比すると、両者は、少なくとも、上記(1)アで記載した相違点1’’で相違しているし、上記(1)イで記載したとおり、相違点1’’は、実質的な相違点である。
よって、本件発明2?8について、甲11に記載された発明であるということはできない。

ウ 本件発明2?8と甲11発明とは、少なくとも、上記(1)アで記載した相違点1’’で相違しているところ、上記(1)ウ(ア)で説示したとおり、申立人が提出したいずれの証拠からも、当業者は、甲11発明を相違点1’’に係る本件発明2?8の構成を備えたものとすることを動機付けられるとはいえない。
一方、本件明細書には、本件発明2?8の効果に関し、上記(1)ウ(イ)で記載した点が記載されるほか、実施例2、4、9に上記1.(2)ウに記載したとおりの記載がある。
そして、これら本件明細書の実施例の記載から、当業者は、本件発明2?8の組成物はいずれも、「運動誘発性の消化管バリア機能低下」の改善効果を有することが理解できるところ、当該効果は、甲11をはじめ申立人が提出したいずれの証拠の記載からも、当業者が予測できない効果である。

そうすると、他の相違点について検討するまでもなく、少なくとも相違点1’’で相違する本件発明2?8は、上記(1)ウ(ア)及び(イ)で説示し、また、本件発明2?8の効果に関し、さらに上述したと同様の理由によって、甲11発明及び甲2?7に示される本件特許の優先日前の周知技術等に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

エ 小括
以上のとおりであるから、本件発明2?8についての申立理由1-3及び申立理由2-3は理由がない。

(3)本件発明9(申立理由1-3及び申立理由2-3)について
ア 対比
(ア)上記1.(3)アで記載したとおり、請求項1を引用する本件発明9を、請求項1を引用しない独立形式で記載すると、以下のとおりとなる。
「ヒスチジンまたはその塩を有効成分として含有する、運動誘発性の消化管バリア機能低下を改善するための経口組成物を含有する、運動誘発性の消化管バリア機能の低下を改善するための食品。」
(イ)そして、上記(1)アにおける本件発明1と甲11発明との対比を踏まえて、本件発明9と甲11発明を対比すると、甲11発明の組成物は、「有効量の分枝鎖脂肪酸を含む」ものであって、甲11発明の組成物の有効成分が分枝鎖脂肪酸であることは明らかであるし、甲11発明の「経口用栄養補助剤である、前記栄養組成物」は本件発明9の「食品」に相当するといえるから、両者は、以下の一致点で一致し、以下の相違点2’’で相違する。
<一致点>
ヒスチジンまたはその塩を含有する、消化管バリア機能低下を改善するための組成物を含有する、消化管バリア機能低下を改善するための食品。
<相違点2’’>
本件発明9は(ヒスチジンまたはその塩を含有する組成物を含有する)「運動誘発性の消化管バリア機能の低下を改善するための食品」(以下「構成2’’-1」という。)の発明であり、また、食品中に含有される「ヒスチジンまたはその塩を含有する消化管バリア機能低下を改善するための組成物」について、「ヒスチジンまたはその塩を有効成分として含有する、運動誘発性の消化管バリア機能低下を改善するための経口組成物」(以下「構成2’’-2」という。)であることが特定されているのに対し、甲11発明は、(ヒスチジンまたはその塩を含有する)「それを必要とする個体における消化管のバリア機能の改善に使用するための経口用栄養補助剤である栄養組成物」であって、「改善される機能は、感染症、敗血症、吸収不良、アレルギー、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群、下痢、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される状態に関連」するものであり、構成2’’-1及び構成2’’-2の特定はされていない点。(なお、下線は相違部分である。)

イ 申立理由1-3について
上記のとおり、本件発明9と甲11発明は、相違点2’’で相違しているところ、少なくとも、相違点2’’のうちの構成2’’-1の用途に関する相違部分、つまり、本件発明9が「運動誘発性」の消化管バリア機能低下を改善するための食品の発明であるのに対し、甲11発明が、「改善される機能は、感染症、敗血症、吸収不良、アレルギー、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群、下痢、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される状態に関連する」消化管のバリア機能の改善に使用するための組成物の発明である点は、上記(1)ウ(ア)における相違点1’’についての検討の説示から明らかなとおり、実質的な相違点である。
そうすると、相違点2’’で甲11発明と異なる本件発明9について、甲11に記載された発明であるということはできない。

ウ 申立理由2-3について
(ア)上記(1)ウ(ア)で記載したとおり、申立人が提出したいずれの証拠を参酌しても、当業者は、甲11発明の組成物が「運動誘発性」の消化管バリア機能低下の改善のために有用であることを理解することはできず、当業者は、甲11発明の組成物を、「運動誘発性」の消化管バリア機能低下の改善のためのものとすることを動機付けられるとはいえないし、また、甲11発明において、組成物中に含まれる多数の成分から「ヒスチジン」に着目し、ヒスチジンを「運動誘発性」の消化管バリア機能低下の改善のための「有効成分」として含有するものとすることも動機付けられるとはいえない。
そして、上記(1)ウ(ア)における相違点1’’についての検討で説示したとおり、本件明細書の記載から、本件発明9の「運動誘発性」の消化管バリア機能低下の状態と、甲11発明の炎症性腸疾患等に関連する消化管バリア機能の低下状態は、異なる状態であると解されるし、この理解は甲4?7の記載とも整合するものである。
さらに、申立人が提出したいずれの証拠にも、甲11発明の「感染症、敗血症、吸収不良、アレルギー、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群、下痢、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される状態に関連する消化管バリア機能低下」と、「運動誘発性」の消化管バリア機能低下が同じ状態であって、「感染症、敗血症、吸収不良、アレルギー、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群、下痢、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される状態に関連する消化管バリア機能低下」の改善に有用な組成物であれば、「運動誘発性」のバリア機能低下の改善にも有効であることが本件特許の優先日前の既知の知見であったことは示されていないし、そのような本件特許の優先日前の技術常識があったとも解されない。
加えて、仮に、甲11の[0087]の記載に基づいて、甲4?7に示される周知技術1の知見を踏まえた当業者が、分枝鎖脂肪酸(BCFA)を含む甲11発明の組成物が、「運動誘発性」のバリア機能低下の改善に有効であると推認し、甲11発明の組成物を「運動誘発性」のバリア機能低下の改善のために適用することを想起し得た場合であっても、当業者が「運動誘発性」の消化管バリア機能低下の改善に有効であることが既知ではなく、多岐にわたる含有成分として列記される中の一成分に過ぎないヒスチジンに着目して、その薬理活性を確認し、これを、「運動誘発性」のバリア機能低下の改善のための「有効成分」とし、これを含有する「運動誘発性の消化管バリア機能低下の改善のための食品」とすることが当業者にとって容易であるとは到底いえないことは、既に上記(1)ウ(ア)で説示したと同様である。
そうすると、当業者は、甲11発明を相違点2’’に係る本件発明9の構成を備えたものとすることを動機付けられるとはいえない。

(イ)本件発明9の効果について
本件明細書の実施例1には、ヒスチジンを経口で投与することにより「運動誘発性の消化管バリア機能低下の改善」が行えたことを示す結果が記載されており、この効果は、甲11をはじめ申立人が提出したいずれの証拠の記載からも、当業者が予測できない効果である。

(ウ)したがって、本件発明9は、甲11発明及び甲2?7に示される本件特許の優先日前の周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

エ 小括
以上のとおりであるから、本件発明9についての申立理由1-3及び申立理由2-3には理由がない。

第6 むすび
以上のとおり、申立理由1-1?1-3及び申立理由2-1?2-3にはいずれも理由がなく、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2021-10-12 
出願番号 特願2019-169749(P2019-169749)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A61K)
P 1 651・ 113- Y (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 山村 祥子  
特許庁審判長 藤原 浩子
特許庁審判官 渕野 留香
鳥居 福代
登録日 2020-12-08 
登録番号 特許第6806208号(P6806208)
権利者 味の素株式会社
発明の名称 消化管障害を改善する組成物  
代理人 高島 一  
代理人 鎌田 光宜  
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