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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
管理番号 1379857
異議申立番号 異議2021-700584  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-12-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-06-21 
確定日 2021-10-26 
異議申立件数
事件の表示 特許第6813992号発明「固体酸化物形燃料電池とこれに用いる電極材料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6813992号の請求項1?5に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続の経緯
特許第6813992号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?5(以下、それぞれ「本件特許請求項1」等という。)に係る特許についての出願は、平成28年8月29日に出願され、令和2年12月22日にその特許権の設定登録がされ、令和3年1月13日に特許掲載公報が発行され、その後、令和3年6月21日差出で、その請求項1?5(全請求項)に係る特許に対し、特許異議申立人である馬場資博(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。

第2.本件特許発明
本件特許の請求項1?5に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」等といい、これらをまとめて「本件特許発明」ということがある。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件特許明細書」という。)は、それぞれ特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される、次のとおりのものと認める。

「【請求項1】
少なくとも燃料極と固体電解質と空気極とが一体的に備えられた固体酸化物形燃料電池であって、
前記空気極は、一般式:ABO_(3)で表され、AサイトにLaおよびSrの少なくとも一方を含み、BサイトにCoを含むペロブスカイト型酸化物からなる相を主相とし、
前記空気極の断面におけるCo酸化物の面積占有率は1%以下であり、
前記空気極を構成する材料のXRDパターンから算出される前記ペロブスカイト型酸化物の結晶子径が24nm以上であり、
前記空気極の気孔率は10%以上50%以下である、固体酸化物形燃料電池。
【請求項2】
前記空気極を構成する材料の放射光を使用したXRDパターンにおいて、前記ペロブスカイト型酸化物のメインピーク強度I_(A)に対する前記Co酸化物のメインピーク強度I_(B)の比(I_(B)/I_(A))は0.1以下である、請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項3】
前記ペロブスカイト型酸化物は、一般式:La_(1-x)Sr_(x)Co_(1-y)Fe_(y)O_(3);で表され、式中、0≦x≦1,y<1を満たす、請求項1または2に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項4】
前記固体電解質と前記空気極との間に、両者の反応を抑制する反応防止層が介在されている、請求項1?3のいずれか1項に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項5】
前記空気極を構成する材料のXRDパターンから算出される前記ペロブスカイト型酸化物の結晶子径が30nm以上である、請求項1?4のいずれか1項に記載の固体酸化物形燃料電池。」

第3.特許異議の申立ての理由の概要
申立人は、証拠方法として、次の甲第1?6号証(以下、「甲1」等という。)を提出するとともに、甲3の部分訳を提出し、申立ての理由として、以下の申立理由1?3により、本件特許請求項1?5に係る特許は取り消されるべきものである旨を主張している。

甲第1号証:特許第5885877号公報
甲第2号証:特開2013?247006号公報
甲第3号証:Laura Baqu▲e▼ et al.,“Preparation and Characterization of Solid Oxide Fuel Cells Cathode Films”,Mater.Res.Soc.Symp.Proc.,2006, Vol.928,0928-GG16-03
(審決注:甲第3号証の著者名表記にある「▲e▼」は、正確には、フランス語における、「e」に綴り字記号である「アクサン・テギュ」を付した文字である。以下、同様。)
甲第4号証:特開2013-229219号公報
甲第5号証:特開2015-88284号公報
甲第6号証:特開2016-152160号公報

なお、これら各証拠方法が裏付けしようとする後述する申立理由との対応関係は、甲1が申立理由1(サポート要件)のうち申立理由1-5に関するものであり、甲2が申立理由2(実施可能要件)に関するものであり、甲3?6が申立理由3(進歩性)に関するものとなっている。

1.申立理由1(サポート要件) 特許異議申立書3(4)イ(ア) 第6?20頁
本件特許発明1?5については、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
したがって、本件特許の請求項1?5に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

2.申立理由2(実施可能要件) 特許異議申立書3(4)イ(イ) 第20?23頁
本件特許発明1?5については、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。
したがって、本件特許の請求項1?5に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

3.申立理由3(進歩性) 特許異議申立書3(4)ウ及びエ 第24?30頁
本件特許発明1?3は、甲3に記載された発明、並びに甲4及び5に記載された事項に基いて、また、本件特許発明4及び5は、甲3に記載された発明、及び甲4?6に記載された事項に基いて、それぞれ、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件特許の請求項1?5に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

第4.当審の判断
当審は、以下に述べるとおり、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1?5に係る特許を取り消すことはできないと判断した。

1.申立理由1(サポート要件)について
(1)サポート要件についての判断手法
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)本件特許発明に関するサポート要件の判断
上記(1)の判断手法を踏まえ、本件特許発明に関する特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合しているか否かについて検討する。

ア.本件特許発明は、固体酸化物形燃料電池に関するものである。
本件特許明細書【0005】の記載によれば、本件特許発明が解決しようとする課題は、「空気極の劣化が抑制されたSOFCを提供すること」であると認められる。

イ.ここで、本件特許明細書【0006】?【0007】の記載によれば、本件特許発明のような「少なくとも燃料極と固体電解質と空気極とが一体的に備えられた固体酸化物形燃料電池であって、前記空気極は、一般式:ABO_(3)で表され、AサイトにLaおよびSrの少なくとも一方を含み、BサイトにCoを含むペロブスカイト型酸化物からなる相を主相とした固体酸化物形燃料電池。」について、上記「空気極の断面におけるCo酸化物の面積占有率」が「1%以下」と、通常では容易に実現され得ない程度に低く抑えられていることにより、SOFCの運転時に温度および酸素分圧が変化しても、ペロブスカイト型酸化物がより安定化され、分解による空気極の劣化が抑制され、延いては、SOFCの発電特性を長期に亘って安定して高く維持することが把握できるから、上記ア.の課題を解決するためには、このような「空気極の断面におけるCo酸化物の面積占有率」の条件を満たす必要があるといえる。

ウ.その一方、本件特許明細書の【発明を実施するための形態】の【0083】における表1には、【0059】?【0069】に記載の例1?9のように用意される電極材料それぞれを【0070】?【0075】に記載の評価用SOFCに用い、【0080】?【0082】に説明される発電特性、劣化率及び接合強度の評価を行った場合において、以下の結果が示されている。



(ただし、ここでの表1は、本件特許明細書における本来の記載を右に90度回転させて記載している。)
そして、かかる表1に開示される例のうち、
(ア)例3?6は、本件特許発明の具体例として、上記イ.の「少なくとも燃料極と固体電解質と空気極とが一体的に備えられた固体酸化物形燃料電池であって、前記空気極は、一般式:ABO_(3)で表され、AサイトにLaおよびSrの少なくとも一方を含み、BサイトにCoを含むペロブスカイト型酸化物からなる相を主相とした固体酸化物形燃料電池。」が、上記「空気極の断面におけるCo酸化物の面積占有率」が「1%以下」との条件と、「空気極を構成する材料のXRDパターンから算出される」「ペロブスカイト型酸化物の結晶子径が24nm以上」との条件を充足し、空気極の劣化が抑制されていることを確認できる一方で、
(イ)例7は、上記イ.の「少なくとも燃料極と固体電解質と空気極とが一体的に備えられた固体酸化物形燃料電池であって、前記空気極は、一般式:ABO_(3)で表され、AサイトにLaおよびSrの少なくとも一方を含み、BサイトにCoを含むペロブスカイト型酸化物からなる相を主相とした固体酸化物形燃料電池。」が、上記「空気極の断面におけるCo酸化物の面積占有率」が「1%以下」との条件までは充足するものの、「空気極を構成する材料のXRDパターンから算出される」「ペロブスカイト型酸化物の結晶子径が24nm以上」との条件を充足していない点において、本件特許発明の具体例とはいえないものとなっており、かかる例の場合には、本件特許明細書【0090】に「空気極の接合強度が低く、空気極と反応防止層との界面において供給ガスのリークが発生したものと考えられる。」と推定されるように、安定した運転が不可能であり、結果として、空気極の劣化が抑制されていることを確認できないものとなっているので、上記ア.の課題が解決されるといえるかどうかが不明といわざるを得ない。
そうすると、たとえ上記イ.の上記条件を充足していたとしても、「空気極を構成する材料のXRDパターンから算出される」「ペロブスカイト型酸化物の結晶子径が24nm以上」との条件が満たされない場合は、上記ア.の課題が解決されるかどうかを確認することができない。

エ.すなわち、本件特許明細書における発明の詳細な説明のこのような記載内容によれば、
「少なくとも燃料極と固体電解質と空気極とが一体的に備えられた固体酸化物形燃料電池であって、
前記空気極は、一般式:ABO_(3)で表され、AサイトにLaおよびSrの少なくとも一方を含み、BサイトにCoを含むペロブスカイト型酸化物からなる相を主相とし、
前記空気極の断面におけるCo酸化物の面積占有率は1%以下であり、
前記空気極を構成する材料のXRDパターンから算出される前記ペロブスカイト型酸化物の結晶子径が24nm以上である、固体酸化物形燃料電池。」
であれば、当業者が本件特許発明の課題を解決できるものとして把握することが可能である。

オ.そうすると、本件特許発明、すなわち、本件特許発明1?5は、上記ア.の課題を解決できるために固体酸化物形燃料電池が備える必要のある条件をすべて備えているから、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件特許発明の課題を解決できると認識する範囲のものである。
したがって、本件特許発明1?5は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号(サポート要件)に適合するものである。

(3)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書3(4)イ(ア)における「i」として本件特許発明の課題の認定について言及した上で、具体的に「iii-i」?「iii-v」として示す理由(以下、それぞれ「申立理由1-1」?「申立理由1-5」という。)を挙げ、本件特許発明が課題を解決できない形態を含み、サポート要件を満たさない旨を主張しているので、以下、これらについて検討する。

ア.本件特許発明の課題(特許異議申立書3(4)イ(ア)iの課題認識)について
(ア)申立人は、本件特許明細書の記載から発明として期待される効果をもとにして、本件特許発明が解決しようとする課題は、「固体酸化物形燃料電池の出力を長期に亘って高く維持する」ことだけでなく、さらに、「空気極と固体電解質層との良好な接合強度を実現し」、かつ、「燃料ガス、空気極、固体電解質層等の界面の割合と適切な強度とを両立させる」ことである旨を主張する。

(イ)しかしながら、上記(2)ア.の「空気極の劣化が抑制されたSOFCを提供すること」(【0005】)と把握される本件特許発明の課題は、固体酸化物形燃料電池(SOFC)の空気極材料としては、ランタンコバルタイト系の酸素イオン-電子混合導電性のペロブスカイト型酸化物が一般に用いられているが、このSOFCについては、例えば10万時間を超える長期の使用が見込まれるものの、発電を繰り返すうちに出力が低下するという慢性的な課題があり、その原因の1つとして、空気極の劣化が指摘されている(【0003】?【0004】)旨の、本件特許明細書に説明される従来技術の問題点を踏まえたものとなっており、申立人が上記(ア)で主張する「空気極と固体電解質層との良好な接合強度を実現し」、かつ、「燃料ガス、空気極、固体電解質層等の界面の割合と適切な強度とを両立させる」ことが、課題を構成する必須の要素であるとまではいえない。

イ.申立理由1-1(特許異議申立書3(4)イ(ア)iii-iの理由)について
(ア)申立人は、表1に示された評価結果に「空気極におけるCo_(3)O_(4)の面積占有率がゼロであったものの、安定した運転を行うことが不可能であった」例7が含まれることを挙げた上で、本件特許発明が「固体酸化物形燃料電池の高出力の長期維持」を実現するとの課題を解決するためには、「前記空気極の断面におけるCo酸化物の面積占有率は1%以下」との特定事項を具備するだけでは足りず、SOFCの運転時にペロブスカイト型酸化物の粒子の角や表面の凹凸が、ペロブスカイト型酸化物の分解反応の起点になると考えられるために、「製造後のSOFCの空気極のペロブスカイト型酸化物の粒子の形態を好適に整える」ことが必須である旨を主張する。

(イ)しかしながら、本件特許発明の固体酸化物形燃料電池は、上記(2)エ.に示す固体酸化物形燃料電池の特徴を具備したものであって、申立人の主張する、上記(ア)のような製造後のSOFCの空気極のペロブスカイト型酸化物の粒子の形態を好適に整えることについて特定せずとも、上記(2)ア.の課題を解決できるものであるから、申立人による上記(ア)の主張は採用できない。

ウ.申立理由1-2(特許異議申立書3(4)イ(ア)iii-iiの理由)について
(ア)申立人は、表1に示された評価結果の例1?3の比較により、本件特許発明が「空気極と固体電解質層との良好な接合強度を実現」するとの課題を解決するためには、「前記空気極を構成する材料のXRDパターンから算出される前記ペロブスカイト型酸化物の結晶子径が24nm以上」との特定事項を具備するだけでは足りず、例7のように粒子の表面が滑らかで形状が球形に近いと空気極の焼成の際に粒子間に滑りが生じるなどして接合強度の低下が予想されるために、「製造後のSOFCの空気極のペロブスカイト型酸化物の粒子の形態を好適に整える」ことが必須である旨を主張する。

(イ)しかしながら、申立人による上記(ア)の主張は、空気極の劣化の抑制に関する上記(2)ア.の課題とは別の、上記ア.(ア)のような異なる課題認識に基づくものであるが、このように課題を認識する必要がないことは、上記ア.(イ)のとおりであるから、この主張は前提を欠くものであるし、当該主張で新たに必須のものとして提示される「製造後のSOFCの空気極のペロブスカイト型酸化物の粒子の形態を好適に整える」点を課題解決手段として反映しなければならない特段の事情も見出せない。そして、本件特許発明の固体酸化物形燃料電池は、上記(2)エ.に示す固体酸化物形燃料電池の特徴を具備したものであって、申立人の主張する、上記(ア)のような製造後のSOFCの空気極のペロブスカイト型酸化物の粒子の形態を好適に整えることについて特定せずとも、上記(2)ア.の課題を解決できるものであるから、申立人による上記(ア)の主張は採用できない。

エ.申立理由1-3(特許異議申立書3(4)イ(ア)iii-iiiの理由)について
(ア)申立人は、空気極のペロブスカイト型酸化物の結晶子径や気孔率だけでなく、固体電解質の構成材料やその表面状態に依存することは当業者にとって技術常識であることにも触れ、本件特許発明が「空気極と固体電解質層との良好な接合強度を実現」するとの課題を解決するためには、空気極のペロブスカイト型酸化物の粒子の形態や接合相手の表面状態等が特定される必要がある旨を主張する。

(イ)しかしながら、申立人による上記(ア)の主張は、空気極の劣化の抑制に関する上記(2)ア.の課題とは別の、上記ア.(ア)のような異なる課題認識に基づくものであるが、このように課題を認識する必要がないことは、上記ア.(イ)のとおりであるから、この主張は前提を欠くものであるし、当該主張で新たに特定の必要があるとされる空気極のペロブスカイト型酸化物の粒子の形態や接合相手の表面状態等を課題解決手段として反映しなければならない特段の事情も見出せない。そして、本件特許発明の固体酸化物形燃料電池は、上記(2)エ.に示す固体酸化物形燃料電池の特徴を具備したものであって、申立人の主張する、上記(ア)のような空気極のペロブスカイト型酸化物の粒子の形態や接合相手の表面状態等について特定せずとも、上記(2)ア.の課題を解決できるものであるから、申立人による上記(ア)の主張は採用できない。

オ.申立理由1-4(特許異議申立書3(4)イ(ア)iii-ivの理由)について
(ア)申立人は、本件特許明細書には、例1-例9に関して、気孔率の具体的な数値が特定されておらず、例1-例9のいずれが、「気孔率」に関する本件特許発明の特定事項を具備するのか不明であることを挙げ、本件特許発明により「固体酸化物形燃料電池の高出力の長期維持」と「空気極と固体電解質層との良好な接合強度の実現」と「燃料ガス、空気極、固体電解質層等の界面の割合と適切な強度との両立」を図る課題を解決できる裏付けが本件特許明細書に記載されていない旨を主張する。

(イ)しかしながら、申立人による上記(ア)の主張は、空気極の劣化の抑制に関する上記(2)ア.の課題とは別の、上記ア.(ア)のような異なる課題認識に基づくものであるが、このように課題を認識する必要がないことは、上記ア.(イ)のとおりであるから、この主張は前提を欠くものであるし、本件特許発明のような「気孔率」に関する特定が、申立人の主張する異なる課題を解決するために必要な事項であることを十分理解できるよう、本件特許明細書が記載される必要性も見出せない。また、申立人が気孔率の具体的な数値が特定されていないと指摘をする例1-例9の試験例のうちの例3-例6は、当業者が本件特許発明の課題を解決できると上記(2)エ.で判断した固体酸化物形燃料電池の一連の特徴を兼ね備えたものであって、仮に、本件特許明細書に記載された試験例の結果のみからでは、本件特許発明の気孔率特定の技術的意味を十分に理解できるともいえなかったとしても、上記(2)ア.の課題を解決できることは明らかであるし、上記例3-例6では、動的光散乱法に基づく平均粒子径(Dr)の値が、本件特許明細書【0092】に空気極の気孔率を好適に確保できると説明される「0.1μm?1μm」の範囲に収まっており、空気極の気孔率として、本件特許明細書【0035】に好ましい旨が記載される10%以上50%以下の範囲が実質的に達成される蓋然性も高いといえるので、上記例3-例6を、本件特許発明が課題を解決できることを裏付ける例として認めることにも、特に技術的な矛盾などの妨げとなる事情は見出せず、申立人による上記(ア)の主張は採用できない。

カ.申立理由1-5(特許異議申立書3(4)イ(ア)iii-vの理由)について
(ア)申立人は、ペロブスカイト型酸化物の結晶子径の上限が規定されていない本件特許発明は、例えば、ペロブスカイト型酸化物の結晶子径が空気極の厚みと同程度である形態であるとき、空気極と固体電解質層との剥離が生じやすくなるとして、「空気極と固体電解質層との良好な接合強度を実現」するとの課題を解決するためには、ペロブスカイト型酸化物の結晶子径の上限が特定される必要がある旨を主張する。

(イ)しかしながら、申立人による上記(ア)の主張は、空気極の劣化の抑制に関する上記(2)ア.の課題とは別の、上記ア.(ア)のような異なる課題認識に基づくものであるが、このように課題を認識する必要がないことは、上記ア.(イ)のとおりであるから、この主張は前提を欠くものであるし、当該主張で新たに特定の必要があるとされるペロブスカイト型酸化物の結晶子径の上限を課題解決手段として反映しなければならない特段の事情も見出せない。そして、本件特許発明の固体酸化物形燃料電池は、当業者が本件特許発明の課題を解決できると上記(2)エ.で判断した固体酸化物形燃料電池の一連の特徴を兼ね備えたものであって、申立人の主張する、上記(ア)のようなペロブスカイト型酸化物の結晶子径の上限について特定せずとも、上記(2)ア.の課題を解決できるものであるから、申立人による上記(ア)の主張は採用できない。

(4)申立理由1(サポート要件)に関する判断のまとめ
以上のとおり、上記第3.1.の申立理由1(サポート要件)によっては、本件特許の請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。

2.申立理由2(実施可能要件)について
(1)実施可能要件についての判断手法
物の発明における発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから、物の発明について、発明の詳細な説明の記載が、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである(実施可能要件を満たす)というためには、発明の詳細な説明に、当業者がその物を製造することができ、かつ、その物を使用することができる程度に明確かつ十分に記載されている必要がある。

(2)本件特許発明に関する実施可能要件の判断
上記(1)の判断手法を踏まえ、本件特許発明に関する発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合しているか否かについて検討する。

ア.本件特許発明は、燃料極と固体電解質と一体的に備えられた空気極が、所定の組成、並びに所定の組織及び構造を有する固体酸化物形燃料電池に関するものである。

イ.また、本件特許明細書には、所定の組織及び構造が実現されるように、本件特許発明1?5の所定の組成の空気極をどのように製造するのかという点に関し、以下のような記載がなされている。

(ア)本件特許請求項1記載の「前記空気極の断面におけるCo酸化物の面積占有率は1%以下」との特定事項に関し、【0007】には、当該面積占有率が「通常では容易に実現され得ない程度に低く抑えられている。」ことにより、SOFCの運転時に温度および酸素分圧が変化しても、ペロブスカイト型酸化物がより安定化され、分解による空気極の劣化が抑制され、ひいては、SOFCの発電特性を長期にわたって安定して高く維持することができる旨が記載されている。
なお、本件特許請求項1記載の「空気極の断面におけるCo酸化物の面積占有率」に関し、【0009】には、エネルギー分散型X線分光器(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy:EDX)を用いて空気極の断面について測定(面分析)したコバルト(Co)の定性分析の結果から得られるCo元素マップにおいて、Coが偏析しているCo濃度の高い領域の面積をCo酸化物の面積と見なすことによって算出した値である旨が説明されている。

(イ)また、本件特許請求項2記載の「前記空気極を構成する材料の放射光を使用したXRDパターンにおいて、前記ペロブスカイト型酸化物のメインピーク強度I_(A)に対する前記Co酸化物のメインピーク強度I_(B)の比(I_(B)/I_(A))は0.1以下」との特定事項に関し、【0011】には、このようにSOFCの空気極の構成が制御されていることで、空気極におけるCo酸化物の含有量を極少量とし、SOFCを長期間運転した場合においてペロブスカイト型酸化物の分解を抑制することができ、空気極の劣化を抑制することができる旨が記載されている。

(ウ)上記(ア)の特定事項と上記(イ)の特定事項とは、どちらもCo酸化物の含有量を極めて低く抑えている点において共通しているものと考えられる。
そして、本件特許明細書には、そのようにCo酸化物の含有量を極めて低く抑えるために、【0047】に記載されるように、焼成前のペロブスカイト型酸化物粉末を構成する個々の粒子(以下、単にペロブスカイト粒子という。)の形態を適切に制御することで、焼成によるペロブスカイト型酸化物(ペロブスカイト型酸化物相であり得る)の分解を抑えることが必要であることが示された上で、【0049】には、その具体的な手法として、
a.ペロブスカイト型酸化物粉末の粒度調整に際して、ペロブスカイト型酸化物粉末に対して過剰な圧力を付加せずソフトな粉砕を行うことで、表面に荒れの少ないペロブスカイト粒子、すなわち、破砕面や角の少ないペロブスカイト粒子を形成することと、
b.ペロブスカイト型酸化物相の製造履歴(例えば熱処理温度,組成等)を調整することで、目的の平均粒子径に応じた硬さのペロブスカイト型酸化物相を形成し、ソフトな粉砕により所望の平均粒子径のペロブスカイト型酸化物粉末が形成されるようにすることとが、
それぞれ開示されている。

(エ)また、本件特許請求項1記載の「前記空気極を構成する材料のXRDパターンから算出される前記ペロブスカイト型酸化物の結晶子径が24nm以上」との特定事項、及び本件特許請求項5記載の前記空気極を構成する材料のXRDパターンから算出される前記ペロブスカイト型酸化物の結晶子径が30nm以上」との特定事項に関し、【0015】には、結晶成長が促進された状態であり、原料の調整あるいは空気極の焼成の際に十分に加熱されているため、固体電解質層との接合が良好であり得る旨の記載があり、【0043】には、空気極の気孔率が比較的好適に実現されるとともに、ペロブスカイト型酸化物相の状態をより好適に維持することができる旨が記載されている。
なお、本件特許請求項1記載のペロブスカイト型酸化物の結晶子径の範囲の下限である「24nm」は、【0015】記載のペロブスカイト型酸化物の結晶子径の範囲の下限である「22nm」とは異なる数値となっているものの、【0083】の表1記載の例5における結晶子径が「24nm」であるから、本件特許明細書にも対応記載が存在する数値である。

(オ)また、本件特許請求項1記載の「前記空気極の気孔率は10%以上50%以下」との特定事項に関し、【0035】には、電気化学反応が行われる燃料ガス、固体電解質層、空気極等による3相界面の割合と適切な強度とを両立する旨が記載されており、【0017】には、空気極を構成するペロブスカイト型酸化物粒子は、上記気孔率を実現するため、小さすぎる粒子の含有が抑制されている結果、空気極と固体電解質との好適な接合が実現できる旨が記載されている。
なお、【0015】に記載されるように、原料の調整あるいは空気極の焼成の際に十分に加熱して結晶成長を促し、結晶子径を一定以上に大きくすること(上記(エ))のほか、【0051】に、電極を多孔質構造に形成するために電極材料に配合される材料として記載される造孔材を使用することも、このような気孔率を実現するにあたって寄与する要素と判断される。

(カ)さらに、1.(2)ウ.でも述べたように、【0083】の表1には、【0059】?【0069】に記載の例1?9のように用意される電極材料それぞれを【0070】?【0075】に記載の評価用SOFCに用い、【0080】?【0082】に説明される発電特性、劣化率及び接合強度の評価を行った結果が示されており、また、発明者が作成した電極材料の製法に関し、【0059】?【0068】に記載の例1?7(このうち例3?6については、上記表1に、1.(2)ア.に示す本件特許発明の課題を解決するといえる結果が示されている。)には、固相法または液相法のいずれかを用いているかということ、大気雰囲気中においてどのような温度で焼成しているかということ、そして、どのような径のビーズを用いたビーズミルによる粉砕をしているかということが、それぞれ開示されている。そして、このうちのビーズミルによる粉砕に関しては、【0084】に、LSCF粉末がある所定の粒径に近づくと、それ以上粉砕が進行しなくなるソフトな粉砕を行うものであり、ビーズミルの大きさ等を調整することで、粉砕の際にLSCFに加わる圧力を制御できることが説明されている。

ウ.そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に触れた当業者は、上記イ.(ウ)?(オ)で触れたような製造条件が空気極の組織及び構造に与える影響を考慮しつつ、上記イ.(カ)の例1?7に記載された大気雰囲気中での焼成温度や粉砕時のビーズミルのビーズ径なども参考にすることによって、どのようにすれば本件特許発明1?5を実施できるかを見いだすために、ソフトな粉砕の最適条件やペロブスカイト型酸化物相の製造履歴(例えば熱処理温度,組成等)の最適条件を探すにあたり、多少の試行錯誤は行わざるを得ない可能性こそあるものの、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤、複雑高度な実験等までは行うことなく、本件特許発明1?5の所定の組織及び構造が実現された所定の組成の空気極を備える固体酸化物形燃料電池を製造し、使用することができると考えられる。また、本件特許発明1?5の「空気極の断面におけるCo酸化物の面積占有率」に関しても、上記イ.(ア)のなお書きで触れた【0009】記載の算出方法により特定できることに、特段の疑義はない。
以上のとおりであるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件特許発明1?5を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されており、実施可能要件を満たすものである。

(3)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書3(4)イ(イ)において、具体的にi及びiiとして示す理由(以下、それぞれ「申立理由2-1」及び「申立理由2-2」という。)を挙げ、本件特許明細書の発明の詳細な説明が、当業者が本件特許発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないため、実施可能要件を満たさない旨を主張しているので、以下、これらについて検討する。

ア.申立理由2-1(特許異議申立書3(4)イ(イ)iとして示す理由)について
(ア)申立人は、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「ソフトな粉砕」「ソフトな範囲」について具体的な圧力や強度等の値について一切記載されていないため、「通常では容易に実現され得ない程度にCo酸化物の面積占有率が低く抑えられた空気極」を製造できるとはいえない旨を主張する。

(イ)しかしながら、申立人による上記(ア)の主張で言及されている、本件特許発明1?5を実施するために必要な「ソフトな粉砕」とは、本件特許明細書【0084】に、LSCF粉末がある所定の粒径に近づくと、それ以上粉砕が進行しなくなるものとして説明されるとおりの手法を意味しており、当業者であれば、ビーズミルにおけるビーズの径などを変えることで粉砕時の圧力を適切に調整することにより、それ以上粉砕が進行しない「ソフトな粉砕」(ソフトな範囲)の条件を見つけることについて、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤、複雑高度な実験等までは行うことなく、実施することが可能であると考えられる。
そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明1?5の「通常では容易に実現され得ない程度にCo酸化物の面積占有率が低く抑えられた空気極」を製造し、使用することができるという意味において、これら発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるから、申立人による上記(ア)の主張は採用できない。

イ.申立理由2-2(特許異議申立書3(4)イ(イ)iiとして示す理由)について
(ア)申立人は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0009】には、本件特許発明1?5で特定される「Co酸化物の面積占有率」について、「エネルギー分散型X線分光器(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy:EDX)を用いて空気極の断面について測定(面分析)したコバルト(Co)の定性分析の結果から得られるCo元素マップに基づき算出した値を採用する」との記載、及び「Co元素マップにおいては、ペロブスカイト型酸化物相からなる領域と、Co酸化物からなる領域とで、Coの濃度が異なる。通常、Co元素マップにおいてCoが偏析している領域(すなわちCo濃度の高い領域)は、Co酸化物からなる領域に一致する。したがって、Co元素マップにおいてCoが偏析している領域の面積を、Co酸化物の面積と見なすことができる。」との記載が、それぞれなされていることを挙げる一方、甲2には、LSCF(一般式:(La_(1-x)Sr_(x))(Co_(y)Fe_(1-y))O_(3-δ)(ただし、xは0.1≦x≦0.5を満たす実数であり、yは0.1≦y≦0.5を満たす実数であり、δは電荷中性条件を満たすように定まる値である。)で示されるペロブスカイト型の酸化物粒子:【0008】)とLSTF(一般式:(La_(1-x)Sr_(x))(Ti_(y)Fe_(1-y))O_(3-δ)(ただし、xは0.1≦x≦0.5を満たす実数であり、yは0.1≦y≦0.5を満たす実数であり、δは電荷中性条件を満たすように定まる値である。)で示されるペロブスカイト型の酸化物粒子:【0008】)とにメカノケミカル処理を施した複合粒子に対し、エネルギー分散型X線分光分析(EDX)を行い、コバルトとチタンの分布状態をマッピングしたところ、比較例1ではLSCFやLSTFが部分的に凝集し、均一に分散されていないことがわかった旨のことが記載されている(【0069】及び【0070】)ことを挙げ、本件特許明細書記載のCo濃度の高い領域は、Co酸化物ではなく、LSCFが偏析している領域である可能性があると主張する。すなわち、本件特許明細書記載のCo元素マップにおいて抽出されたCo濃度の高い領域は、Co酸化物からなる領域なのか、LSCFからなる領域なのかを区別することはできず、本件特許発明1?5における「前記空気極の断面におけるCo酸化物の面積占有率は1%以下」との特定事項を具備する形態を製造できたか否かの判断ができない旨を主張する。

(イ)しかしながら、本件特許発明1?5の「Co酸化物の面積占有率」を算出するために行われる本件特許明細書に記載のエネルギー分散型X線分光分析(EDX)は、「一般式:ABO_(3)で表され、AサイトにLaおよびSrの少なくとも一方を含み、BサイトにCoを含むペロブスカイト型酸化物からなる相を主相」としている空気極の断面において、かかる主相のCoもバックグラウンドとして検出される中で、第2相として自然発生的に存在(【0007】)する「Co酸化物」のCo濃度が高く検出されることを以て、かかる「Co酸化物の面積占有率」を割り出すための測定内容であることは、【0009】の記載内容から明らかである一方、申立人による上記(ア)の主張で取り上げられた、甲2に記載されたエネルギー分散型X線分光分析(EDX)は、LSCFとLSTFとにメカノケミカル処理を施した複合粒子において、専らLSCFとLSTFとの相互の分散度合いを確認するために行われるものであって、本件特許発明1?5のような「Co酸化物の面積占有率」を算出するための分光分析とは全く異なる観点で解析が行われるものであるから、甲2は、本件特許明細書記載のCo元素マップにおいて抽出されたCo濃度の高い領域が、Co酸化物からなる領域なのか、LSCFからなる領域なのかを区別することができないとまでいえるような、実施可能要件充足性に疑義を生じる根拠とはならず、甲2の記載事項により、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0009】に記載された本件特許発明1?5の「前記空気極の断面におけるCo酸化物の面積占有率は1%以下」なる状態が実現していることを確認するための測定方法の信ぴょう性が損なわれるものではない。
そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明1?5の「前記空気極の断面におけるCo酸化物の面積占有率は1%以下」なる状態が実現しているか否かを確認し、これを製造し、使用することができるという意味において、これら発明の実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるから、申立人による上記(ア)の主張は採用できない。

(4)申立理由2(実施可能要件)に関する判断のまとめ
以上のとおり、上記第3.2.の申立理由2(実施可能要件)によっては、本件特許の請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。

3.申立理由3(進歩性)について
(1)甲3に記載された発明
本件特許の出願前に外国において頒布された刊行物である甲3(Laura Baqu▲e▼ et al.,“Preparation and Characterization of Solid Oxide Fuel Cells Cathode Films”,Mater.Res.Soc.Symp.Proc.,2006, Vol.928,0928-GG16-03)は、「固体酸化物形燃料電池のカソードフィルムの調製と特性評価」(標題)に関する文献であり、要約のとおり、「組成La_(0.4)Sr_(0.6)Co_(0.8)F_(0.2)O_(3-δ)を有するペロブスカイト酸化物コバルタイトを、酢酸ベースのゲル経路によって調製した。次いで、通常の電解質である酸化セリウムガドリニウム(CGO)のような多孔質セラミック基板上に、スプレー、スピンコーティングおよび浸漬コーティングによってカソードを堆積させた。層の構造および形態を、それぞれXRDおよびSEMによって特徴付けた。電気的特性は、複素インピーダンス測定によって特徴付けられた。構造的特徴と電気的特性との間の相関が議論される。」旨(申立人提出の部分訳ではなく、甲3の原文を当審が翻訳した内容により認定。)の内容が記載されている。すなわち、甲3においては、通常の電解質である酸化セリウムガドリニウム(CGO)のような多孔質セラミック基板上に、スプレー、スピンコーティングおよび浸漬コーティングによって固体酸化物形燃料電池のカソードフィルムに相当する膜を形成し、その特性評価を行うことは記載されているものの、かかるカソードフィルムを有する固体酸化物形燃料電池自体を作製することまでは記載されていない。
そして、そのことと併せて、甲3の原文における、特に第1頁下から第10?9行、第2頁第5?14行、第3頁第1行及び表1の記載にも着目すると、甲3には、以下の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。

<甲3発明>
電解質である酸化セリウムガドリニウム(CGO)に対して、スプレー、スピンコーティング又は浸漬コーティングで形成された場合のXRDパターンによって決定された結晶子径が、それぞれ250nm、40nm、50nmである、組成La_(0.4)Sr_(0.6)Co_(0.8)F_(0.2)O_(3-δ)を有するペロブスカイト酸化物コバルタイトからなる固体酸化物形燃料電池の多孔質のカソードフィルム。

(2)本件特許発明1について
ア.対比
本件特許発明1と甲3発明とを対比する。
(ア)甲3発明における「電解質である酸化セリウムガドリニウム(CGO)」、「固体酸化物形燃料電池の多孔質のカソードフィルム」、「組成La_(0.4)Sr_(0.6)Co_(0.8)F_(0.2)O_(3-δ)を有するペロブスカイト酸化物コバルタイト」は、それぞれ本件特許発明1の「固体電解質」、「空気極」、「一般式:ABO_(3)で表され、AサイトにLaおよびSrの少なくとも一方を含み、BサイトにCoを含むペロブスカイト型酸化物」
に相当する。

(イ)また、甲3発明において、「組成La_(0.4)Sr_(0.6)Co_(0.8)F_(0.2)O_(3-δ)を有するペロブスカイト酸化物コバルタイトからなる固体酸化物形燃料電池の多孔質のカソードフィルム」が「スプレー、スピンコーティング又は浸漬コーティングで形成された場合のXRDパターンによって決定された結晶子径が、それぞれ250nm、40nm、50nm、250nmである」ことは、本件特許発明1の「前記空気極を構成する材料のXRDパターンから算出される前記ペロブスカイト型酸化物の結晶子径が24nm以上であ」ることに相当する。

(ウ)また、甲3発明において、「電解質である酸化セリウムガドリニウム(CGO)」に対して、スプレー、スピンコーティング又は浸漬コーティングで「組成La_(0.4)Sr_(0.6)Co_(0.8)F_(0.2)O_(3-δ)を有するペロブスカイト酸化物コバルタイトからなる固体酸化物形燃料電池の多孔質のカソードフィルム」を形成することは、少なくとも固体電解質と空気極とが一体的に備えられた構造がもたらされる点と、一般式:ABO_(3)で表され、AサイトにLaおよびSrの少なくとも一方を含み、BサイトにCoを含むペロブスカイト型酸化物からなる相を主相となる空気極がもたらされる点において、本件特許発明1と共通する。

(エ)そうすると、本件特許発明1と甲3発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。
<一致点>
固体電解質と空気極とが一体的に備えられた構造であって、
前記空気極は、一般式:ABO_(3)で表され、AサイトにLaおよびSrの少なくとも一方を含み、BサイトにCoを含むペロブスカイト型酸化物からなる相を主相とし、
前記空気極を構成する材料のXRDパターンから算出される前記ペロブスカイト型酸化物の結晶子径が24nm以上である構造。

<相違点1>
本件特許発明1は、「少なくとも燃料極と固体電解質と空気極とが一体的に備えられた固体酸化物形燃料電池」に係るものであるのに対し、甲3発明は、固体電解質と空気極とが一体的に備えられた構造に係るものではあるものの、さらに燃料極をも一体的に備える構造の固体酸化物形燃料電池に係るものではない点。

<相違点2>
本件特許発明1では、「空気極の断面におけるCo酸化物の面積占有率は1%以下」であるのに対し、甲3発明において、多孔質のカソードフィルムの断面におけるCo酸化物の面積占有率は不明である点。

<相違点3>
本件特許発明1では、「空気極の気孔率は10%以上50%以下」であるのに対し、甲3発明において、そのような範囲の多孔質のカソードフィルムの気孔率は開示されていない点。

イ.相違点の検討
事案に鑑み、相違点2について検討する。

(ア)まず、相違点2が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
a.本件特許請求項1記載の「空気極の断面におけるCo酸化物の面積占有率」は、上記2.(2)イ.(ア)のなお書きで述べたとおり、本件特許明細書【0009】に説明されるように、エネルギー分散型X線分光器(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy:EDX)を用いて空気極の断面について測定(面分析)したコバルト(Co)の定性分析の結果から得られるCo元素マップにおいて、Coが偏析しているCo濃度の高い領域の面積をCo酸化物の面積と見なすことによって算出した値であるが、甲3には、そのような面積占有率の求め方について、何ら記載されていない。

b.また、甲3には、組成La_(0.4)Sr_(0.6)Co_(0.8)F_(0.2)O_(3-δ)を有するペロブスカイト酸化物コバルタイトからなる固体酸化物形燃料電池の多孔質のカソードフィルムがCo酸化物をどの程度含むかということについて、何ら着目した記載はなされていない。

c.ここで、甲3の第3頁第7?10行には、第4頁図3に示されるX線回折パターンに関し、LSCFペロブスカイト相(R-3c空間群)およびCe_(0.1)Gd_(0.9)O_(2-δ)蛍石相 (Fm3m空間群)に対応する反射のみが現れたことが記載されており、Co酸化物に対応する反射が検出されたとも記載されていないことから、一見すると、甲3に記載された固体酸化物形燃料電池の多孔質のカソードフィルムにCo酸化物が全く含まれないと解される余地はある。
しかしながら、本件特許発明1の「前記空気極の断面におけるCo酸化物の面積占有率は1%以下」との特定事項は、本件特許明細書【0083】の表1から、市販品を用いた例8及び例9では達成されない水準のCo酸化物の面積占有率であることが理解されるとおり、上記2.(2)イ.(ア)で述べたとおり、当該面積占有率が「通常では容易に実現され得ない程度に低く抑えられている。」ことにより実現される(【0007】)ものであって、上記2.(2)イ.(ウ)で述べたように、焼成前のペロブスカイト粒子の形態を適切に制御することで、焼成によるペロブスカイト型酸化物(ペロブスカイト型酸化物相であり得る)の分解を抑える(【0047】)ために、
(a)ペロブスカイト型酸化物粉末の粒度調整に際して、ペロブスカイト型酸化物粉末に対して過剰な圧力を付加せずソフトな粉砕を行うことで、表面に荒れの少ないペロブスカイト粒子、すなわち、破砕面や角の少ないペロブスカイト粒子を形成したり(【0049】)、
(b)ペロブスカイト型酸化物相の製造履歴(例えば熱処理温度,組成等)を調整することで、目的の平均粒子径に応じた硬さのペロブスカイト型酸化物相を形成し、ソフトな粉砕により所望の平均粒子径のペロブスカイト型酸化物粉末が形成されるようにしたり(【0049】)
という工夫を経て達成されるものであるのに対し、そのように、焼成によるペロブスカイト型酸化物(ペロブスカイト型酸化物相であり得る)の分解を抑えるために、焼成前のペロブスカイト粒子の形態を適切に制御する具体的手法は、甲3に記載も示唆もされていないから、本件特許請求項1記載の「空気極の断面におけるCo酸化物の面積占有率」が達成される蓋然性は低い。
また、上述した甲3の第3頁第7?10行に示されるX線回折パターンによる検出は、上記b.のようにカソードフィルムがCo酸化物をどの程度含むかということについて、何ら着目しない状況において行われているものであるし、上記a.で述べたような本件特許明細書に説明される「空気極の断面におけるCo酸化物の面積占有率」の求め方(【0009】)により、「Co酸化物の面積占有率」を確認しているものでもないから、甲3記載のX線回折パターンによる検出により、本件特許請求項1記載の「前記空気極の断面におけるCo酸化物の面積占有率は1%以下」なる状態と、同様といえる状態が確認されているともいえない。
さらに、本件出願時の技術常識によっても、甲3発明において、当然に「空気極の断面におけるCo酸化物の面積占有率は1%以下」になっているともいえない。

d.以上のとおりであるから、相違点2は実質的な相違点である。

(イ)次に、相違点2の容易想到性について検討する。
a.本件特許明細書には、本件特許発明1における「空気極の断面におけるCo酸化物の面積占有率は1%以下」との相違点2に係る特定事項について、上記1.(2)イ.で述べたように、通常では容易に実現され得ない程度に低く抑えられていることにより、SOFCの運転時に温度および酸素分圧が変化しても、ペロブスカイト型酸化物がより安定化され、分解による空気極の劣化が抑制され、延いては、SOFCの発電特性を長期に亘って安定して高く維持すること(【0007】)、すなわち、これによって上記1.(2)ア.の「空気極の劣化が抑制されたSOFCを提供すること」という課題(【0005】)も解決できる技術思想が示されている。

b.しかしながら、甲3には、Co酸化物の面積占有率を、このように通常では容易に実現され得ない程度に低く抑えることにより、分解による空気極の劣化を抑制する技術思想は開示されておらず、すなわち、甲3発明において、本件特許発明1のように「空気極の断面におけるCo酸化物の面積占有率は1%以下」とすることを動機付ける記載は見当たらない。
また、甲4?6にも、甲3発明において、本件特許発明1のように「空気極の断面におけるCo酸化物の面積占有率は1%以下」とすることを動機付ける記載は見当たらない。
そうすると、甲3発明において、本件特許発明1のように「空気極の断面におけるCo酸化物の面積占有率は1%以下」とすることは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。

ウ.小括
そうすると、相違点1及び3について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲3に記載された発明及び甲4?6に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものといえない。

エ.申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書3(4)エ(ア)ivのb)において、相違点2に関し、「カソードの作製において、Co酸化物は添加されておらず、かつ、図3に示すカソードのX線回折パターンでは、LSCFおよびCGOのみが検出され、Co酸化物は検出されていない。」とし、「本件特許発明1の「空気極の断面におけるCo酸化物の面積占有率は1%以下である」には、甲3発明のように、Co酸化物が積極的に添加されずに作製され、X線回折パターンでCo酸化物が検出されない一般的な空気極を包含している。」と主張する。
しかしながら、「前記空気極は、一般式:ABO_(3)で表され、AサイトにLaおよびSrの少なくとも一方を含み、BサイトにCoを含むペロブスカイト型酸化物からなる相を主相とし、」とされる本件特許発明1のように、AサイトにLaおよびSrの少なくとも一方を含み、BサイトにCoを含むペロブスカイト型酸化物からなる相を主として構成する空気極において、Co酸化物は、特に添加せずとも、第2相として自然発生的に存在するものであることは、本件特許明細書【0007】の説明から明らかであるし、「図3に示すカソードのX線回折パターンでは、LSCFおよびCGOのみが検出され、Co酸化物は検出されていない」と主張されている点についても、上記イ.(ア)c.で検討したとおりであるから、甲3に記載された事項として、本件特許請求項1記載の「前記空気極の断面におけるCo酸化物の面積占有率は1%以下」なる状態と、同様といえる状態が確認されているとはいえない。
よって、申立人のかかる主張は、上記ア.?ウ.の判断を左右するものでなく、採用できない。

(3)本件特許発明2?5について
本件特許発明2?5は、本件特許発明1を直接又は間接的に引用するものであるが、上記(2)で述べたとおり、本件特許発明1が、甲3に記載された発明及び甲4?6に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件特許発明2?5についても同様に、甲3に記載された発明及び甲4?6に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)申立理由3(進歩性)に関する判断のまとめ
したがって、上記第3.3.の申立理由3(進歩性)によっては、本件特許の請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。

第5.むすび
以上のとおり、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由のいずれによっても、本件特許の請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-10-14 
出願番号 特願2016-166993(P2016-166993)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (H01M)
P 1 651・ 121- Y (H01M)
P 1 651・ 537- Y (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 高木 康晴  
特許庁審判長 粟野 正明
特許庁審判官 増山 慎也
市川 篤
登録日 2020-12-22 
登録番号 特許第6813992号(P6813992)
権利者 アイシン精機株式会社 株式会社ノリタケカンパニーリミテド
発明の名称 固体酸化物形燃料電池とこれに用いる電極材料  
代理人 安部 誠  
代理人 福富 俊輔  
代理人 福富 俊輔  
代理人 安部 誠  
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