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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A21D
審判 全部申し立て 2項進歩性  A21D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A21D
管理番号 1379859
異議申立番号 異議2021-700685  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-12-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-07-15 
確定日 2021-11-06 
異議申立件数
事件の表示 特許第6824660号発明「ドーナツの製造方法、及びそれに用いるドーナツ用ミックス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6824660号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6824660号は平成28年8月10日に出願され、令和3年1月15日に特許権の設定登録がなされ、同年2月3日にその特許公報が発行され、その後、請求項1に係る特許に対して、同年7月15日に特許異議申立人 本間裕美(以下、「申立人」という。)から特許異議の申立てがなされたものである。

第2 本件請求項1に係る発明
本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された以下の事項によって特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
原料粉、及び膨張剤を含むドーナツ用ミックスを含む生地材料を混合してドーナツ生地を調製する工程と、
調製した前記ドーナツ生地を所定の総フライ時間を掛けてフライする工程とを含むもちもちとした食感を有するドーナツを製造する方法であって、
前記フライ工程を、
フライ油を収容した長尺の油槽、及び
前記フライ油の液面に浮くドーナツ生地を上方から押さえて前記フライ油に潜行させた状態で搬送する潜行コンベアを有し、さらに前記フライ油中に沈むドーナツ生地を下方から支持して搬送する生地受けコンベアを有する搬送手段
を備える連続式フライヤーを用いて行ない、
前記ドーナツ生地が、前記フライ油に投入された直後は、フライ油中に沈み、前記フライ油中に沈んでいる間は、前記生地受けコンベアによって搬送され、総フライ時間の9.0?13.0%の時間経過後に前記フライ油の液面に浮上するように、
前記ドーナツ用ミックスの原料粉、及び膨張剤の配合を、
膨張剤の含有率が、前記ドーナツ用ミックスの総質量を基準として0.3?0.7質量%であり、
前記原料粉が、澱粉及び小麦粉を含み、
前記澱粉の含有率が、前記原料粉の総質量を基準として50質量%超であり、
前記澱粉が、α化澱粉を含み、且つアセチル化澱粉、及び/又はヒドロキシプロピル化澱粉を含むように設定とすることを特徴とするドーナツの製造方法。」

第3 異議申立ての理由についての検討
1 申立人の異議申立ての理由について
申立人の異議申立ての理由は、概要以下のとおりである。
甲第1号証:特開2014-14320号公報
甲第2号証:特開平9-299034号公報
甲第3号証:特開2004-201683号公報
甲第4号証:特開2004-24116号公報
甲第5号証:再公表公報第2016/046866号
甲第6号証:特開2015-165777号公報
甲第7号証:特開平10-313787号公報
甲第8号証:瓦家千代子、生活衛生、1985年29巻2号、
111-115
甲第9号証:特開平8-182627号公報
甲第10号証:「ガス連続式フライヤー」、VOL.37、
タニコー株式会社、2000年2月
(以下、甲第1?10号証を「甲1」?「甲10」という。)

・申立ての理由1-1
本件発明は、甲1に記載された発明及び甲2?6及び9に記載された事項から当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
・申立ての理由1-2
本件発明は、甲7に記載された発明及び甲2?6及び9に記載された事項から当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
・申立ての理由2
連続式フライヤーの具体的な構造は一切限定されない本件特許発明の全体がその効果を奏すると当業者は理解できないから、本件特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものである。
よって、本件発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
・申立ての理由3
(1) 膨張剤として「炭酸水素ナトリウム(重曹)、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、塩化アンモニウム」単体がミックス中「0.3?0.7質量%」であることで「浮上開始時間」を「総フライ時間の9.0?13.0%」に設定できると当業者は理解できず、実施例の「アイコクベーキングパウダー 金印」と組成の異なるベーキングパウダーを用いた場合でも、膨張剤の量を「0.3?0.7質量%」であることで、「浮上開始時間が総フライ時間の9.0?13.0%」となると理解できず、
(2) 本件実施例に対してドーナツ種の比重が大きい場合や小さい場合には、それによって、沈下の程度が異なるから、ミックス中「0.3?0.7質量%」の膨張剤を用いても、「浮上開始時間が総フライ時間の9.0?13.0%」に設定できると当業者は理解できないから、
本件発明の詳細な説明は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないものである。
よって、本件発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

2 申立ての理由1-1及び1-2について
(1)甲1の記載事項
ア 「【請求項1】
融点30?80℃の固形油脂2?10質量%、融点25℃以下の液状油脂2?10質量%、及び粉末油脂2?10質量%を含むことを特徴とするドーナツ用ミックス。
【請求項2】
さらに、膨張剤0.1?2.0質量%を含む請求項1記載のドーナツ用ミックス。
【請求項3】
前記固形油脂が、ショートニングを含む請求項1又は2記載のドーナツ用ミックス。
【請求項4】
前記液状油脂が、サラダ油を含む前記請求項1?3の何れか一項に記載のドーナツ用ミックス。
【請求項5】
請求項1?4の何れか一項に記載のドーナツ用ミックスを用いて得られるドーナツ。」

イ 「【0001】
本発明は、ドーナツ用ミックスに関し、特に、膨張剤を使用した生地をフライして得られるケーキドーナツ用ミックスとして有用なドーナツ用ミックスに関する。

【0012】
本発明のドーナツ用ミックスによれば、成形生地としたときの保形性に優れるため、所望の外観形状のドーナツが得られ、しかも、そのドーナツはもちもちした食感を有する。」

ウ 「【0019】
本発明のドーナツ用ミックスは、上記の3種類の油脂に加えてさらに、膨張剤0.1?2.0質量%を含むことが好ましい。本発明のドーナツ用ミックスに斯かる特定量の膨張剤を含有させることにより、成形生地としたときの保形性ともちもちした食感との両立をより一層確実に図ることが可能となる。膨張剤の含有量は、本発明のドーナツ用ミックス中、好ましくは0.5?1.5質量%、さらに好ましくは0.5?1.0質量%である。
【0020】
本発明で用いられる膨張剤としては、この種のミックス粉において通常用いられるものを特に制限無く用いることができ、例えば、炭酸水素ナトリウム(重曹)、ベーキングパウダー、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、塩化アンモニウム等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
本発明のドーナツ用ミックスは、通常、上記の3種類の油脂及び必要に応じ膨張剤に加えてさらに、主原料として穀粉類を含む。穀粉類としては、この種のミックス粉において通常用いられるものを特に制限無く用いることができ、例えば、薄力粉、中力粉、強力粉等の小麦粉の他、ライ麦粉、大麦粉、そば粉、米粉、豆粉、コーンフラワー等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。穀粉類の含有量は、本発明のドーナツ用ミックス中、好ましくは1?40質量%、さらに好ましくは5?30質量%である。
【0022】
また、本発明のドーナツ用ミックスは、通常、上記の3種類の油脂及び必要に応じ膨張剤に加えてさらに、主原料として澱粉類を含む。澱粉類としては、この種のミックス粉において通常用いられるものを特に制限無く用いることができ、例えば、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉等の澱粉及びこれらにα化、エーテル化、エステル化、酸化処理等の処理を施した加工澱粉等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。澱粉類の含有量は、本発明のドーナツ用ミックス中、好ましくは20?80質量%、さらに好ましくは30?70質量%である。」

エ 「【0029】
〔実施例1?14及び比較例1?9〕
融点30?80℃の固形油脂として融点35℃のショートニング、融点25℃以下の液状油脂として融点-5℃のサラダ油、及び粉末油脂としてマジックファット200(ミヨシ油脂(株)製)、並びに膨張剤としてオリエンタルベーキングパウダー(オリエンタル酵母工業(株)製)をそれぞれ下記表1に示す配合割合で含有し、さらに、強力粉6質量%、α化小麦澱粉11質量%、砂糖15質量%、乳化剤1質量%、及びタピオカ澱粉を所定量含有するドーナツ用ミックスをそれぞれ調製した。ドーナツ用ミックスにおけるタピオカ澱粉の含有量は、各実施例及び比較例において、全成分の合計含有量が100質量%となるように適宜調整した。尚、下記表1中、「ミックス原料」の欄における各数値の単位は「質量%」である。また、下記表1では、実施例及び比較例をI?IVの4つのグループに分けているところ、グループIは、ドーナツ用ミックスにおける融点30?80℃の固形油脂の含有量を適宜変化させた例であり、グループIIは、ドーナツ用ミックスにおける融点25℃以下の液状油脂の含有量を適宜変化させた例であり、グループIIIは、ドーナツ用ミックスにおける粉末油脂の含有量を適宜変化させた例であり、グループIVは、ドーナツ用ミックスにおける膨張剤の含有量を適宜変化させた例である。表の見易さの観点から、下記表1では、実施例2を各グループに重複記載している。
【0030】
〔ドーナツの製造〕
こうして得られた各実施例及び比較例のドーナツ用ミックスを用いて、ドーナツを製造した。即ち、市販のミキサー(カントーミキサー製、商品名「HPI-20M)に、ドーナツ用ミックス100質量部を投入し、さらに、サラダ油12質量部を添加し、低速で2分間混合して混合物を得、該混合物に水30質量部、全卵(正味)20質量部、日持ち向上剤(SKフーヅ(株)製、商品名「アセパン」)1質量部をこの順で添加し、中高速で2分間混合して、生地を調製した。この生地の温度を30℃に調節して、ねかし時間(フロアータイム)を10分間とった後、カッター(カッターサイズ50mm)を用いて該生地を複数個の生地に分割し、その分割された複数個の生地をそれぞれ成形して円環状の成形生地とした。各成形生地の質量は65?70gであった。こうして得られた円環状の成形生地を180℃の油(ミヨシ油脂(株)製、商品名「フライメイト」)で3分間フライして、円環状のドーナツを製造した。

【0035】
【表1】



(2)甲1に記載された発明
甲1の実施例の記載からみて、甲1には以下の発明が記載されている。
「ドーナツ用ミックスの原料粉、及び膨張剤の配合を、固形油脂として融点35℃のショートニング、液状油脂として融点-5℃のサラダ油、粉末油脂としてマジックファット200(ミヨシ油脂(株)製)、並びに膨張剤としてオリエンタルベーキングパウダー(オリエンタル酵母工業(株)製)を上記表1に示す配合割合で含有し、さらに、強力粉6質量%、α化小麦澱粉11質量%、砂糖15質量%、乳化剤1質量%、及びタピオカ澱粉を全成分の合計含有量が100質量%となるようにしてドーナツ用ミックスを調製し、
係るドーナツ用ミックス100質量部及びサラダ油12質量部を低速で2分間混合して混合物を得、該混合物に水30質量部、全卵(正味)20質量部、日持ち向上剤1質量部をこの順で添加し、中高速で2分間混合して、生地を調製し、ねかして円環状の成形生地として、係る成形生地を180℃の油で3分間フライしたことを特徴とする、
ドーナツの製造方法。」

(3)対比・判断
ア 甲1発明の「膨張剤」は本件発明の「膨張剤」に相当し、甲1発明の「α化小麦澱粉」あるいはこれと「タピオカ澱粉」とは、それぞれ本件発明の「α化澱粉」あるいは「澱粉」に相当し、甲1発明の「強力粉」は本件発明の「小麦粉」に相当する。
甲1発明の「強力粉」、「α化小麦澱粉」、「タピオカ澱粉」は、本件発明の「原料粉」に相当する。
表1及び「強力粉6質量%、α化小麦澱粉11質量%、砂糖15質量%、乳化剤1質量%、及びタピオカ澱粉を全成分の合計含有量が100質量%となるように調製した」ことから、甲1発明における澱粉の配合量は56?66質量%と計算できる。

イ 加えて、「係るドーナツ用ミックス100質量部及びサラダ油12質量部を低速で2分間混合して混合物を得、該混合物に水30質量部、全卵(正味)20質量部、日持ち向上剤1質量部をこの順で添加し、中高速で2分間混合して、生地を調製し、ねかして円環状の成形生地として、係る成形生地を180℃の油で3分間フライした」は、本件発明でいう「原料粉、及び膨張剤を含むドーナツ用ミックスを含む生地材料を混合してドーナツ生地を調製する工程」及び「調製した前記ドーナツ生地を所定の総フライ時間を掛けてフライする工程」に相当する。
そして、製造されたドーナツは「もちもちした食感を有する」(【0012】)ものと認められる。

ウ 以上のことから、本件発明と甲1発明とは、以下の点で相違する。
相違点1:
本件発明は
「フライ工程を、
フライ油を収容した長尺の油槽、及び
前記フライ油の液面に浮くドーナツ生地を上方から押さえて前記フライ油に潜行させた状態で搬送する潜行コンベアを有し、さらに前記フライ油中に沈むドーナツ生地を下方から支持して搬送する生地受けコンベアを有する搬送手段
を備える連続式フライヤーを用いて行ない、」
「前記ドーナツ生地が、前記フライ油に投入された直後は、フライ油中に沈み、前記フライ油中に沈んでいる間は、前記生地受けコンベアによって搬送され、総フライ時間の9.0?13.0%の時間経過後に前記フライ油の液面に浮上するように」しているのに対し、
甲1発明はこれらのことが行われているのか明らかでない点。

エ 上記相違点について検討する。
本件発明は、「ドーナツの製造において、連続式フライヤーを用いる潜行フライが行なわれていない理由としては、連続式フライヤーにおいて、ドーナツ生地を潜行させながら搬送するための条件の適正化が困難であったためと考えられる」(本件明細書【0005】)ことから、「連続式フライヤーを用いる潜行フライを安定的に行なうことができるドーナツの製造方法、及びそのドーナツの製造方法に用いるドーナツ用ミックスを提供する」(同【0006】)ために、「その生地の挙動の制御を、生地を調製するためのドーナツ用ミックスの配合によって行なうことができることを見出し(た)」(同【0007】)ものであり、「連続式フライヤーを用いる潜行フライ」を行うことを前提とする。
これに対し、甲1には、そもそもフライヤーに関する記載はなく、甲1発明は「連続式フライヤーを用いる潜行フライ」により実施しうるものであるのか明らかでない。そして、他の甲各号証を参照しても、甲1発明に係るドーナツ用の「成形生地」を用いてドーナツを製造するに、「連続式フライヤーを用いる潜行フライ」によって製造することを想起し得ない。
このため、本件発明は、甲1発明及びその余の甲各号証に記載された技術事項から容易に発明することができたものとはいえない。

(4)甲7の記載事項
ア 「【請求項1】 タピオカ澱粉または加工タピオカ澱粉の単独または混合した材料を主材料として含む材料粉を加水、混合、成形した生地をフライし、フライ後の吸油率が1?10%(重量)とすることを特徴とした餅様フライ食品の製造方法。
【請求項2】 主材料にチーズを混合することとし、吸油率を1.5?5%(重量)としたことを特徴とする請求項1記載の餅様フライ食品の製造方法。
【請求項3】 タピオカ澱粉または加工タピオカ澱粉の単独または混合した材料を主材料として含む材料粉を加水、混合、成形し、該生地を冷凍したことを特徴とする請求項1記載の製造に用いる餅様フライ食品用冷凍生地。
【請求項4】 主材料にチーズを混合したことを特徴とする請求項3記載の餅様フライ食品用冷凍生地。
【請求項5】 タピオカ澱粉または加工タピオカ澱粉の単独または混合した材料を主材料として含む材料粉に、小麦粉等、ベーキングパウダー、乳化剤、その他必要な材料を混合したことを特徴とする請求項1記載の製造に用いる餅様フライ食品用プレミックス粉。
【請求項6】 主材料にチーズを加入することを特徴とした請求項5記載の餅様フライ食品用プレミックス粉。」

イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、糯米を使用することなく、餅様フライ食品を製造することを目的とした餅様フライ食品の製造方法及びフライ食品用冷凍生地並びにフライ食品用プレミックス粉に関するものである。

【0005】
【発明により解決すべき課題】前記従来の製餅に際しては、多大の機械装置の設備用面積及び長い加工時間を必要とするなどの問題点があった。
【0006】また前記タピオカ澱粉を用いる発明においても相当多量の糯米を用いる為に、製餅に際しては、蒸煮及び餅搗を必須要件としているので、機械装置、設備面積及び長い加工時間を必要とする問題点があった。
【0007】更にタピオカ澱粉を主材料とする前記食品中、ドーナツの製造については、餅様でないことは勿論、含油量については記載されていないので、特殊膨脹剤を使用する品質の異なる食品と認められた。」

ウ 「【0013】この発明においては、従来から知られている加工タピオカ澱粉(エーテル化、エステル化、酸化、架橋)が使用できる。更にエーテル化タピオカ澱粉はモチモチさを出すのに有効であり、架橋タピオカ澱粉はサク味を出すので、エーテル化タピオカ澱粉を主体とし、これに架橋タピオカ澱粉を組み合わせた澱粉、あるいはエーテル化処理を主体として、これに架橋処理を併用して行ったタピオカ澱粉を使用することが好ましい。」

エ 「【0017】この発明の標準的材料配合は次の通りである。
【0018】
配合材料
A 加工タピオカ澱粉(またはタピオカ澱粉) 100に対し
小麦粉 50? 80%
ベーキングパウダー 0.5? 4%
乳化剤 0.5? 4%
糖類 0.1?100%
B チーズ(またはクリームチーズ) 10? 60%
油脂 8? 20%
水 40?160%
糖類 0.1?100%
【0019】前記材料配合例においては、A材料を予め混合し、ついでミキサーに予め混合したA及びBを投入して1?5分間ミキシングする。
【0020】前記において、加水量、油脂量等の含量により、流動的でべたつきのある生地の場合は、生地の成形にドーナツ生地用のデポジッターを用いる。この場合、デポジッターからフライヤーに直接生地を落とし込み、170?190℃で2?5分間フライする方が良い場合もある。
【0021】ドーナツ生地様のデポジッターには、例えばベルショウー社製の「Fカッター」があり、使用する「プランジャーカッター」は「フレンチクルーラー用」を用いると、できた製品は火ぶくれが起こらず、保形性が良い。

【0023】前記製品は、いずれの製法によっても独特のモチモチ感を有し、例えば磯辺焼や、安倍川餅風のトッピングをすると、糯米から作ったものと殆ど見分けがつかない位の外観と食感を有する。また、食塩、糖類、その他の調味料を配合することで味付けが自然にできると共に、糖類、油脂、乳化剤、チーズ、クリームチーズは食品の老化を遅らせる効果があり、糯米から作ったものより柔らかい食感が長持ちする。」

オ 「【0030】
【実施例3】
安倍川餅風ドーナツの製造法
配合材料
A 加工タピオカ澱粉 100%
小麦粉 70
クリームチーズパウダー 20
ベーキングパウダー 2
食塩 1
乳化剤 1
B 水 130
油脂 70
ミキシング 原材料Aを予め混合しておく。
ミキサーに原材料A及びBを投入し、3分間ミキシングする。
成形 ベルショー社製Fカッター(ドーナツ生地デポシッター)で生
地をカッティングし、生地を直接フライヤーに落とし込む。
ブランジャーカッターは径13/4インチのフレンチクルーラ
ー用を用いる。
フライ 180℃で片面75秒(反転式)
トッピング きな粉砂糖をまぶす。
【0031】出来上がった製品は、フレンチクルーラードーナツの形をしているが、風味、食感は安倍川餅と同様で、翌日も食感のモチモチ感が持続する。この場合に、生地の吸油率は、2%(重量)であった。

【0033】
【実施例5】実施例3と同様の安倍川餅風ドーナツをミックス粉を用いて製造する方法を説明する。
【0034】
(1)プレミックス粉の製造法
配合材料
A 加工タピオカ澱粉(またはタピオカ澱粉) 100%
小麦粉 70
クリームチーズパウダー 20
ベーキングパウダー 2
食塩 1
乳化剤 1
B 油脂 70
ミキシング 配合Aをミキサーにて3分間ミキシングする。
ついで配合Bを加え、4分間ミキシングする。
【0035】(2)製品製造方法
ミキシング ミックス粉、水を下記の比率で3分間ミキシングする。
【0036】
ミックス粉 264%
水 130%
【0037】以下は実施例3と同様に行なう。
【0038】出来あがった製品は実施例3と同様に、良好な製品であった。」

カ 「【0052】
【発明の効果】この発明によれば、タピオカ澱粉または加工タピオカ澱粉の単独または混合を主材料として通常の要領により生地を製造し、これをフライすると共に、製品の吸油率を制限したので、小麦粉を主成分とする食品と同様に、蒸煮、餅搗工程を経ることなく、手軽に餅様食品を得ることができる効果がある。また材料及び製造方法の特性上、餅より老化の遅い餅様食品である。
【0053】更に冷凍生地ができると共に、プレミックス粉ができるので、流通を容易にし、餅を製造する時の設備は一切不用になり、家庭でも良質の製品が容易に出来る効果がある。」

(5)甲7に記載された発明
甲7の実施例3及び5の記載からみて、甲7には以下の発明が記載されている。なお、本件明細書との対比から、実施例3及び5における原材料Aが本件発明のドーナツ用ミックスに相当するものと解し、各成分の配合比(%)は、甲7明細書の記載からみて、全て重量%と解した。また、「クリームチーズパウダー」は「ドーナツ用ミックス」の成分に含まれるか否か不明であるため、含まれるものと含まれないもの双方から記載された発明を認定した。
「ドーナツ用ミックスの原料粉、及びベーキングパウダーの配合を、
ベーキングパウダーの含有率が、前記ドーナツ用ミックスの総重量を基準として2/174又は2/194であり、
前記原料粉が、澱粉及び小麦粉を含み、
前記澱粉の含有率が、前記原料粉の総重量174又は194に対して100であり、
前記澱粉が、加工タピオカ澱粉又はタピオカ澱粉を含むように設定し、
このドーナツ用ミックスに、水130及び油脂70を加えてミキシングして生地を作成し、ドーナツ生地デポシッターで生地をカッティングし、生地を直接フライヤーに落とし込み、反転式にて180℃で片面75秒フライすることを特徴とするドーナツの製造方法。」

(6)対比・判断
ア 甲7発明の「ベーキングパウダー」は本件発明の「膨張剤」に相当し、甲7発明の「加工タピオカ澱粉」あるいは「タピオカ澱粉」は、本件発明の「澱粉」に相当し、甲7発明の「小麦粉」は本件発明の「小麦粉」に相当する。
甲1発明の「小麦粉」、「加工タピオカ澱粉」、「タピオカ澱粉」は、本件発明の「原料粉」に相当する。
澱粉の含有率が、原料粉の総重量174又は194に対して100であることから、甲7発明における澱粉の配合量は57.5又は51.5重量%と計算できる。また、重量%は質量%と等価と見なしうる。

イ 加えて、「このドーナツ用ミックスに、水130及び油脂70を加えてミキシングして生地を作成し、ドーナツ生地デポシッターで生地をカッティングし、生地を直接フライヤーに落とし込み、反転式にて180℃で片面75秒フライする」は、本件発明でいう「原料粉、及び膨張剤を含むドーナツ用ミックスを含む生地材料を混合してドーナツ生地を調製する工程」及び「調製した前記ドーナツ生地を所定の総フライ時間を掛けてフライする工程」に相当する。
そして、製造されたドーナツは「食感のモチモチ感」(【0031】)を有するものである。

ウ 以上のことから、本件発明と甲7発明とは、以下の点で相違する。
相違点2:
本件発明は
「フライ工程を、
フライ油を収容した長尺の油槽、及び
前記フライ油の液面に浮くドーナツ生地を上方から押さえて前記フライ油に潜行させた状態で搬送する潜行コンベアを有し、さらに前記フライ油中に沈むドーナツ生地を下方から支持して搬送する生地受けコンベアを有する搬送手段
を備える連続式フライヤーを用いて行ない、」
「前記ドーナツ生地が、前記フライ油に投入された直後は、フライ油中に沈み、前記フライ油中に沈んでいる間は、前記生地受けコンベアによって搬送され、総フライ時間の9.0?13.0%の時間経過後に前記フライ油の液面に浮上するように」しているのに対し、
甲7発明は「反転式」でフライするものであり、上記のことが行われているのか明らかでない点。

エ 上記相違点について検討する。
本件発明における「連続式フライヤーを用いる潜行フライ」の採用については、上記(3)エで示したとおりである。
そして、甲7には、ドーナツのフライ工程に関し「反転式」との記載に留まるものであり、「連続式フライヤーを用いる潜行フライ」により実施しうるものであるのか明らかでない。そして、他の甲各号証を参照しても、甲7発明に係る「ドーナツ生地」を用いてドーナツを製造するに、「連続式フライヤーを用いる潜行フライ」によって製造することを想起し得ない。
このため、本件発明は、甲7発明及びその余の甲各号証に記載された技術事項から容易に発明することができたものとはいえない。

(7)まとめ
よって、申立ての理由1-1及び1-2には、共に理由がない。

3 申立ての理由2について
(1)申立人の主張
申立人は、申立ての理由2について、以下のとおり主張する。
「仮に特許権者が本件特許発明についてミックス中の膨張剤が0.3?0.7質量%であり浮上開始時間が総フライ時間の9.0?13.0%であることによる甲1又は甲7等の先行技術文献に対する有利な効果を主張するのであれば、それは本件特許発明で用いる連続式フライヤーが本件明細書の図1のように下部コンベアが短い特殊な構造を有するためにすぎず、連続式フライヤーの具体的な構造は一切限定されない本件特許発明の全体が当該効果を奏すると当業者は理解できない。」

(2)検討
上記主張は「仮に特許権者が本件特許発明についてミックス中の膨張剤が0.3?0.7質量%であり浮上開始時間が総フライ時間の9.0?13.0%であることによる甲1又は甲7等の先行技術文献に対する有利な効果を主張するのであれば」との仮定に基づくものであるが、一応検討する。
本件発明は、「ドーナツの製造において、連続式フライヤーを用いる潜行フライが行なわれていない理由としては、連続式フライヤーにおいて、ドーナツ生地を潜行させながら搬送するための条件の適正化が困難であったためと考えられる」(本件明細書【0005】)ことから、「連続式フライヤーを用いる潜行フライを安定的に行なうことができるドーナツの製造方法、及びそのドーナツの製造方法に用いるドーナツ用ミックスを提供する」(同【0006】)ために、「その生地の挙動の制御を、生地を調製するためのドーナツ用ミックスの配合によって行なうことができることを見出し(た)」(同【0007】)ものであり、「連続式フライヤーを用いる」際の上記困難であった点を、ドーナツ用ミックスの配合によって解決することを目的とするものである。
このため、本件発明の詳細な説明からみて、具体的な構造に関わらず連続式フライヤーを用いた本件発明は、本件発明の課題を解決することが当業者において理解できるといえる。

(3)まとめ
よって、申立ての理由2には理由がない。

4 申立ての理由3について
(1)申立人の主張
ア 申立人は以下のとおり主張する。(主張その1)
「本件明細書の実施例をみても、「炭酸水素ナトリウム(重曹)、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、塩化アンモニウム」を用いた場合、有効成分化学種が異なったり、重曹中の膨張剤中の量が異なったり、酸性成分を有しないということになるから、「炭酸水素ナトリウム(重曹)、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、塩化アンモニウム」単体がミックス中「0.3?0.7質量%」であることで「浮上開始時間」を「総フライ時間の9.0?13.0%」に設定できると当業者は理解できない。」
「「アイコクベーキングパウダー 金印」と組成の異なるベーキングパウダーを用いた場合でも、膨張剤の量を「0.3?0.7質量%」であることで、「浮上開始時間が総フライ時間の9.0?13.0%」となると理解できない。」

イ また、申立人は以下のとおり主張する(主張その2)
「沈下の程度は生地の浮上挙動に影響するところ、包餡がなされているなどドーナツ種の比重が大きい場合や、逆に生地比重が実施例よりも大幅に低い場合には、それによって、沈下の程度が異なるから、ミックス中「0.3?0.7質量%」の膨張剤を用いても、「浮上開始時間が総フライ時間の9.0?13.0%」に設定できると当業者は理解できない。」

(2)検討
ア 主張その1について検討する
本件明細書【0017】には以下のように、本件発明の実施において好ましい膨張剤についての記載がある。
「膨張剤としては、ドーナツの製造に適していれば、特に制限はない。特にベーキングパウダーを用いることが好ましい。ベーキングパウダーは、一般に、基材として炭酸水素ナトリウム、酸性剤として、酒石酸水素カリウム、第一リン酸カルシウム、第二リン酸カルシウム、酒石酸、焼ミョウバン、フマル酸、フマル酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、グルコノデルタラクトン等を含み、さらに賦形剤として澱粉、穀粉、セルロース等を含むものである。ベーキングパウダーとしては、速効タイプ、中間・持続タイプ、遅効タイプがあり、いずれのタイプを用いてもよく、1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。浮上開始時間の制御をし易い点で、中間・持続タイプを用いることが好ましい。ベーキングパウダーとしては、例えば、アイコクベーキングパウダー 金印(株式会社アイコク製)(中間・持続タイプ)、アイコクベーキングパウダー 白(株式会社アイコク製)(中間・持続タイプ)、トップ BP アルフリー(奥野製薬工業株式会社製)(中間・持続タイプ)、トップふくらし粉AK(奥野製薬工業株式会社製)(速効タイプ)、アイコクベーキングパウダー Fアップ(株式会社アイコク製)(遅効タイプ)等を用いることができる。」
実施例では、これら好ましい膨張剤のうち「アイコクベーキングパウダー 金印(株式会社アイコク製)」を使用すると、本件発明の所望の作用効果を発揮することが確認されている。そうすると、当業者は上記【0017】に記載された膨張剤群は、本件発明の所望の作用効果を発揮するものと理解できる。そして、これら膨張剤群のいずれかが本件発明の所望の作用効果を発揮し得ないと解される根拠を見いだすことができない。

イ 次に、主張その2について検討する。
申立人が主張するような、沈下の程度が異なることによって、「浮上開始時間が総フライ時間の9.0?13.0%」を満たさなくなる理由が明らかでない。また、本件発明は「浮上開始時間が総フライ時間の9.0?13.0%の時間経過後に…フライ油の液面に浮上するように」膨張剤の配合量を調整するものであり、膨張剤の含有率を「ドーナツ用ミックスの総質量を基準として0.3?0.7質量%」としても上記浮上開始時間の規定を満たし得ないと解される根拠を見いだすことができない。

ウ したがって、本件発明の詳細な説明の記載からみて、膨張剤の量を「0.3?0.7質量%」とすることで「浮上開始時間が総フライ時間の9.0?13.0%」となると理解できるから、この点において、本件発明の詳細な説明は、当業者が本件発明を実施可能な程度に明確に記載されているものといえる。

(3)まとめ
よって、申立ての理由3には理由がない。

5 まとめ
以上のことから、申立人が主張する申立ての理由にはいずれも理由がなく、これらの申立の理由によっては本件発明に係る特許を取り消すことはできない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、異議申立ての理由によっては、本件請求項1に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に当該特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-10-25 
出願番号 特願2016-157256(P2016-157256)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A21D)
P 1 651・ 536- Y (A21D)
P 1 651・ 537- Y (A21D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 堂畑 厚志高森 ひとみ  
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 吉岡 沙織
大熊 幸治
登録日 2021-01-15 
登録番号 特許第6824660号(P6824660)
権利者 昭和産業株式会社
発明の名称 ドーナツの製造方法、及びそれに用いるドーナツ用ミックス  
代理人 野村 悟郎  

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