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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A01N
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A01N
管理番号 1379868
異議申立番号 異議2021-700840  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-12-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-08-31 
確定日 2021-11-10 
異議申立件数
事件の表示 特許第6838185号発明「抗ウィルス性基体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6838185号の請求項1ないし12に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6838185号は、2018年10月12日(優先権主張 2017年10月12日(日本)、2018年3月28日(日本)及び2018年9月5日(日本))を国際出願日とする特願2019-519361号の一部を、令和1年7月23日に新たな特許出願とした特願2019-135462号の一部を、令和2年4月24日に新たな特許出願としたものであって、令和3年2月15日に特許権の設定登録がなされ、同年3月3日にその特許公報が発行され、その後、請求項1?12に係る特許に対して、同年8月31日に特許異議申立人 岩部英臣(以下、「申立人」という。)から、特許異議の申立てがなされたものである。

第2 本件請求項1?12に係る発明
本件請求項1?12に係る発明(以下、「本件発明1」等といい、まとめて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?12に記載された以下の事項によって特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
基材表面に、銅化合物及び光重合開始剤を含むバインダの硬化物が固着し、前記銅化合物の少なくとも一部は、前記バインダの硬化物の表面から露出しており、前記光重合開始剤は、アルキルフェノン系の重合開始剤及びベンゾフェノン系の重合開始剤を含み、
前記アルキルフェノン系の重合開始剤と前記ベンゾフェノン系の重合開始剤との比率は、重量比でアルキルフェノン系の重合開始剤/ベンゾフェノン系の重合開始剤=1/1?4/1であることを特徴とする抗ウィルス性基体。
【請求項2】
前記銅化合物の少なくとも一部は、前記バインダの硬化物の表面から、微生物と接触可能な状態で露出している請求項1に記載の抗ウィルス性基体。
【請求項3】
前記バインダの硬化物は、水に不溶性の重合開始剤を含む請求項1又は2に記載の抗ウィルス性基体。
【請求項4】
前記アルキルフェノン系の重合開始剤の濃度がバインダに対して、0.5?3.0wt%、前記ベンゾフェノン系の重合開始剤の濃度がバインダに対して0.5?2.0wt%である請求項1?3のいずれか1項に記載の抗ウィルス性基体。
【請求項5】
前記バインダは、有機バインダ及び無機バインダからなる群から選択される少なくとも1種以上である請求項1?4のいずれか1項に記載の抗ウィルス性基体。
【請求項6】
前記有機バインダは、電磁波硬化型樹脂及び熱硬化型樹脂からなる群から選択される少なくとも1種以上である請求項5に記載の抗ウィルス性基体。
【請求項7】
前記バインダは、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、シリカゾル、アルミナゾル、ジルコニアゾル、チタニアゾル、金属アルコキシド、及び、水ガラスからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1?6のいずれか1項に記載の抗ウィルス性基体。
【請求項8】
前記銅化合物は、X線光電子分光分析法により、925?955eVの範囲にあるCu(I)とCu(II)に相当する結合エネルギーを5分間測定することで算出される、前記銅化合物中に含まれるCu(I)とCu(II)とのイオンの個数の比率(Cu(I)/Cu(II))が0.4?50である請求項1?7のいずれか1項に記載の抗ウィルス性基体。
【請求項9】
前記バインダの硬化物は、基材表面に島状に固着形成されてなるか、基材表面にバインダの硬化物が固着形成された領域とバインダの硬化物が固着形成されていない領域が混在してなる請求項1?8のいずれか1項に記載の抗ウィルス性基体。
【請求項10】
前記バインダの硬化物は、基材表面に膜状に固着形成されてなる請求項1?9のいずれか1項に記載の抗ウィルス性基体。
【請求項11】
前記バインダの硬化物の基材表面に平行な方向の最大幅は、0.1?500μmであり、その厚さの平均値は、0.1?20μmである請求項1?10のいずれか1項に記載の抗ウィルス性基体。
【請求項12】
前記抗ウィルス性基体は、拭き取りの力が加わる用途に使用される請求項1?11のいずれか1項に記載の抗ウィルス性基体。」

第3 異議申立ての理由についての検討
1 申立人の異議申立ての理由について
申立人の異議申立ての理由は、概要以下のとおりである。
甲第1号証:特許第5723097号公報
甲第2号証:国際公開第2016/179058号
甲第3号証:特表2018-520989号公報
甲第4号証:特開2013-105947号公報
甲第5号証:Chemical materials database, Irgacure(登録商標) 500 https://mychem.ir/en/material/irgacure-500/
甲第6号証:特表2009-509023号公報
甲第7号証:国際公開第2010/073738号
甲第8号証:国際公開第2014/141600号
甲第9号証:特開2011-60654号公報
(以下、甲第1?9号証を「甲1」?「甲9」という。)

・申立ての理由1-1
本件発明1?7、9?12は、甲1に記載された発明及び甲5?8に記載された事項から当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明1?7、9?12に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

・申立ての理由1-2
本件発明8は、甲2に記載された発明及び甲5、6に記載された事項から当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

・申立ての理由2-1
本件発明3は、本件発明1を引用するが、本件発明3における「水に不溶性の重合開始剤」と、本件発明1における「光重合開始剤」との関係が不明であるから、本件発明3は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないものである。
よって、本件発明3に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

・申立ての理由2-2
本件発明5?7は、本件発明1を引用し、電磁波硬化型樹脂を硬化させるための光重合開始剤を含むものであるが、本件発明5?7のバインダは電磁波硬化型樹脂だけでなく、熱硬化型樹脂、無機バインダまたは無機物であり、本件発明1における光重合開始剤との関係が不明であるから、本件発明5?7は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないものである。
よって、本件発明5?7に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

2 申立ての理由1-1について
(1)甲1の記載事項
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
CuCl、Cu(CH_(3)COO)、CuI、CuBr、Cu_(2)S、CuCN、およびCuSCNからなる群から少なくとも1種類選択される一価の銅化合物の粒子を、ウイルスを不活化する有効成分として含み、
塗膜が形成されたときにその表面から露出している前記一価の銅化合物の粒子によりウイルスが不活化される抗ウイルス性塗料。
【請求項2】
塗料中の不揮発成分の全量に対する前記一価の銅化合物の粒子の含有量が0.1質量%から60質量%である請求項1に記載の抗ウイルス性塗料。
【請求項3】
請求項1または2に記載の抗ウイルス性塗料を塗布乾燥してなることを特徴とする繊維構造体。」

イ 「【背景技術】
【0002】
従来、病院、養護施設等の建物、備品、医療機器等に、菌やウイルスの感染防止のため、抗菌剤、消毒剤、抗ウイルス剤が使用されている。さらに近年、SARS(重症急性呼吸器症候群)やノロウイルス、鳥インフルエンザなどウイルス感染による死者が報告されている。現在、交通の発達やウイルスの突然変異によって、世界中にウイルス感染が広がる「パンデミック(感染爆発)」の危機に直面している。そのため、一般の公共施設のみならず様々な部材に抗ウイルス性能を付与することが望まれている。
【0003】
ここでウイルスは、脂質を含むエンベロープと呼ばれている膜で包まれているウイルスと、エンベロープを持たないウイルスに分類できる。エンベロープはその大部分が脂質からなるため、エタノール、有機溶媒、石けんなどで処理すると容易に破壊することができる。このため、インフルエンザウイルスのようにエンベロープを持つウイルスは不活化(ウイルスの感染力低下または失活)が容易であるのに対し、ノロウイルスなどのエンベロープをもたないウイルスは上記の処理剤への抵抗性が強いと言われている。
【0004】
これらの問題を解決するものとして、有機系抗ウイルス剤は、特定のウイルスに対してしか効果がなく、さらに効果の持続性についても問題があることから、無機系抗ウイルス剤を用いた塗料が報告されている。例えば、カルシウムやマグネシウムの酸化物または水酸化物を含む抗ウイルス成分を含有する塗料(特許文献1)や、無機酸化物に金属イオンを担持した微粒子を含有する塗料(特許文献2)が報告されている。…
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、カルシウムやマグネシウムの酸化物または水酸化物を用いる方法では、抗ウイルス成分の含有量が塗料樹脂成分に対して50質量%以上と多量でないと抗ウイルス性の発現が困難である。このように多量カルシウムやマグネシウムの酸化物または水酸化物に含有させた場合、塗料の塗布乾燥によって形成される塗膜は硬くなり、使用用途が限られる。また、無機酸化物に金属イオンを担持した微粒子を含有する塗料の場合、金属イオンを他の物質と混合することによって安定化させることが必要であるため、その組成物に含まれる銅イオンの割合が制限されてしまう。つまり、金属イオンの安定剤を含むことが必須となるため、組成物設計の自由度が小さい。また、どちらの方法の塗料にしても、エンベロープを持つインフルエンザのみしかその有効性が示されていない。
【0006】
そこで本発明は、上記課題を解決するために、従来よりも短時間で、かつエンベロープの有無にかかわらずウイルスを不活化することができる抗ウイルス性を有する塗料、および、当該塗料が塗布乾燥された部材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、第1の発明は、一価の銅化合物を、ウイルスを不活化する有効成分として含むことを特徴とする抗ウイルス性塗料である。」

ウ 「【0014】
有効成分である一価の銅化合物の種類については特に限定されないが、塩化物、酢酸物、硫化物、ヨウ化物、臭化物、過酸化物、酸化物、水酸化物、シアン化物、チオシアン酸塩、またはそれらの混合物からなることが好ましい。このうち、一価の銅化合物が、CuCl、Cu(CH_(3)COO)、CuI、CuBr、Cu_(2)O、Cu_(2)S、CuOH、CuCN、およびCuSCNからなる群から少なくとも1種類選択されることが一層好適である。」

エ 「【0017】
また、本実施形態の塗料は塗膜形成剤としてバインダー成分を含有するようにしてもよい。バインダー成分とは塗料が固まる基になる成分であり、ビヒクルとも呼ばれる。本実施形態において、特に限定されないが、例えば合成樹脂では、ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、水溶性樹脂、ビニル系樹脂、フッ素樹脂、シリコン樹脂、繊維素系樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂、トルエン樹脂、天然樹脂としては、ひまし油、亜麻仁油、桐油などの乾性油などを用いることができる。」

オ 「【0019】
また、本発明に用いられる抗ウイルス性塗料には、抗ウイルス性成分およびバインダー成分の他に、必要に応じて溶剤、添加剤、顔料を含んでも良い。」

カ 「【0021】
また、添加剤としては、可塑剤、乾燥剤、硬化剤、皮張り防止剤、平坦化剤、たれ防止剤、防カビ剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、熱線吸収剤、潤滑剤、界面活性剤、分散剤、増粘剤、粘性調整剤、安定剤、乾燥調整剤、などがあげられる。さらに、他の抗ウイルス組成物、抗菌組成物、防黴組成物、抗アレルゲン組成物、触媒、反射防止材料、遮熱特性を持つ材料などと混合して使用してもよい。」

キ 「【0023】
本実施形態の抗ウイルス性を有する塗料は、塗布乾燥されることにより、繊維構造体、フィルムやシートのほか、成形体などの様々な形態の表面に一価の銅化合物を含む塗膜が形成された態様とすることができる。本発明の塗料は、公知の方法、例えば、浸漬法、スプレー法、ロールコーター法、バーコーター法、スピンコート法、グラビア印刷法、オフセット印刷法、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法などの方法で無機基材や有機基材へコーティングすることにより、基材上に塗膜を形成することができる。また、必要に応じて、加熱乾燥などによる溶剤除去や、再加熱、赤外線、紫外線、電子線、γ線などの照射により塗膜を固化させてもよい。なお、本明細書において、乾燥とは、熱を加えて積極的に乾燥させる場合や、自然乾燥させる場合が含まれる。」

ク 「【0027】
これらの抗ウイルス性を有する一価の銅化合物を含む塗膜が形成されたシートやフィルムは壁紙や窓、天井、車両用シート、ドア、ブラインド、椅子、ソファー、床材、ウイルスを扱う設備や電車や車などの内装材、病院内などのビル用内装材など、様々な分野に利用できる。
【0028】
さらにまた、本実施形態の抗ウイルス性を有する塗料が塗布乾燥される部材としては、パネルや、建装材、内装材といった成形体とすることもできる。例えば、ABSやポリカーボネート、ナイロン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアセタール、ポリエステルなどの高分子からなる成形体が挙げられる。金属の場合では、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム、真鍮、ステンレス、チタニウムなどが挙げられる。金属表面には予め電気めっきや無電解めっきなどにより金属の薄膜や塗装、印刷などが施されてあっても良い。筆記具や手すり、吊革、電話機、玩具、ドアノブなどに、本発明の一価の銅化合物を含む塗膜を形成すると、ウイルス感染者が使用した後のそれらの製品や部材に触れても健常者が感染する、といった状況を防ぐことができる。」

ケ 「【0038】
(実施例1)
ポリビニルアルコール(純正化学(株)製、化学用、重合度1500)を加熱しながらイオン交換水に溶解させた。その後、不揮発成分(ポリビニルアルコール+塩化銅(I)粉末)5.0gの量に対して10質量%(0.5g)となるように塩化銅(I)粉末(和光純薬工業株式会社製 和光一級)を加え、更にポリビニルアルコールと塩化銅(I)粉末の加算量が全重量の5.0質量%となるようにイオン交換水を添加した。次に、ビーズミルを用いて塩化銅(I)を平均粒径379nmに粉砕し、実施例1の抗ウイルス性塗料とした。なおここでいう平均粒径とは、体積平均粒子径のことをいう。さらにこの実施例1の抗ウイルス性塗料を、コロナ処理で親水化した厚さ125μmのポリエステルフィルム(東レ(株)製、ルミラー)にバーコーターを用いて塗工し、室温で一晩乾燥させた。」

コ 「【0043】
(実施例6)
1液型アクリル樹脂塗料(大橋化学工業(株)製、ネオポリナールNo.500)は重量比1:1になるように常温にてシンナーに溶解させた。その後、不揮発成分(アクリル樹脂塗料+塩化銅(I)粉末)5.0gに対して70質量%(3.5g)となるように、ジェットミルで平均粒子径5μmに粉砕した塩化銅(I)粉末を加えた。次に、ホモジナイザーを用いて分散し、実施例6の抗ウイルス性塗料とした。さらにこの実施例6の抗ウイルス性塗料を、厚さ1mmの塩化ビニル板(住友ベークライト(株)社製)にバーコーターを用いて塗工し、70℃で30分乾燥させた。」

サ 「【0045】
(実施例8)
塗料を特殊ポリエステル樹脂塗料(大橋化学工業(株)製、ファスタイトNo.140(N))とし、塩化銅(I)粉末を不揮発成分(特殊ポリエステル樹脂塗料+塩化銅(I)粉末)5.0gに対して60質量%(3.0g)とした以外には、実施例6と同様の条件で実施例8の抗ウイルス性塗料を調製し、当該実施例8の塗料を実施例6の場合と同様の方法で塗布乾燥した塩化ビニル板を作成した。」

シ 「【0060】
(インフルエンザウイルスに対する抗ウイルス性評価)
次に、インフルエンザウイルス(A/北九州/159/93(H3N2)株)に対する抗ウイルス性を評価した。まず各サンプル(5cm×5cm)をプラスチックシャーレにいれ、作用ウイルス0.1 mlを添加し、室温で60分間作用させた。このとき試験品の上面をPPフィルム(4cm×4cm)で覆うことで、ウイルス液と試験品の接触面積を一定にし、試験を行った。60分間作用させたのち、20mg/mlのブイヨン蛋白液1.9mlを添加し、全体量を2.0mlとした後、ピペッティングによりウイルスを洗い出した。さらに、MEM培地を使って10倍段階希釈を行い、コンフルエントMDCK細胞に0.1ml接種した。90分間のウイルス吸着後、0.7%寒天培地を重層し、48時間、34℃、5%CO_(2)インキュベータにて培養後、ホルマリン固定、メチレンブルー染色を行い形成されたプラック数をカウントして、ウイルスの感染価(PFU/0.1ml,Log10);(PFU:plaque-forming units)を算出し、コントロールにおけるウイルス感染価と比較し、ウイルス活性を比較した。」

ス 「【0064】
【表3】

【0065】
以上の結果より、本発明の抗ウイルス塗料及び部材は、エンベロープを持たないネコカリシウイルスに対して、5分という短時間で10質量%で99.9999%以下、0.1質量%でも99.9%以下という高い抗ウイルス効果が認められた。さらにエンベロープを持つインフルエンザウイルスに対しては、60分後には、40質量%で99.995%以下、20質量%で99.98%以下という高い抗ウイルス効果が認められた。また本発明の抗ウイルス性塗料の塗膜を形成させたサンプルは、いずれも膜がはがれたものはなく、膜強度についても充分な結果となった。」

(2)甲1に記載された発明
上記(1)アの請求項1を引用する請求項3の記載からみて、甲1には以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「CuCl、Cu(CH_(3)COO)、CuI、CuBr、Cu_(2)S、CuCN、およびCuSCNからなる群から少なくとも1種類選択される一価の銅化合物の粒子を、ウイルスを不活化する有効成分として含み、
塗膜が形成されたときにその表面から露出している前記一価の銅化合物の粒子によりウイルスが不活化される抗ウイルス性塗料を塗布乾燥してなることを特徴とする繊維構造体。」

(3)本件発明1
ア 本件発明1と甲1発明の対比
甲1発明の「CuCl、Cu(CH_(3)COO)、CuI、CuBr、Cu_(2)S、CuCN、およびCuSCNからなる群から少なくとも1種類選択される一価の銅化合物の粒子」は、本件発明1の「銅化合物」に相当するものと認められる。
また、甲1発明の「塗膜が形成されたときにその表面から露出している前記一価の銅化合物の粒子によりウイルスが不活化される抗ウイルス性塗料を塗布乾燥してなることを特徴とする繊維構造体」は、表面に抗ウイルス性塗料を塗布乾燥してなることにより、塗料が固化した塗膜が形成されて固着した繊維構造体であるといえるから、本件発明1の「基材表面に、銅化合物を含むバインダの硬化物が固着し、前記銅化合物の少なくとも一部は、前記バインダの硬化物の表面から露出して」いる「抗ウィルス性基体」に相当するものと認められる。

そうすると、本件発明1と甲1発明とは、「基材表面に、銅化合物を含むバインダの硬化物が固着し、前記銅化合物の少なくとも一部は、前記バインダの硬化物の表面から露出している、抗ウィルス基体」で一致し、以下の点で相違する。

相違点:本件発明1のバインダの硬化物は、「光重合開始剤を含」み、「前記光重合開始剤は、アルキルフェノン系の重合開始剤及びベンゾフェノン系の重合開始剤を含み、前記アルキルフェノン系の重合開始剤と前記ベンゾフェノン系の重合開始剤との比率は、重量比でアルキルフェノン系の重合開始剤/ベンゾフェノン系の重合開始剤=1/1?4/1であることを特徴とする」のに対し、甲1発明の塗料が固化した塗膜は光重合開始剤を含むのか明らかでない点。

イ 判断
(ア)甲1には、抗ウイルス性塗料は塗膜形成剤としてバインダー成分を含有するようにしてもよいこと、合成樹脂ではポリエステル樹脂、アクリル樹脂、天然樹脂としてはひまし油、亜麻仁油等などの乾性油を用いることができること(上記(1)エ)、必要に応じて添加剤を含んでも良いこと(上記(1)オ)、添加剤としては硬化剤などがあげられること(上記(1)カ)が記載されているが、実施例の抗ウイルス性塗料は、ポリビニルアルコールを含む塗料(上記(1)ケ)、1液型アクリル樹脂塗料(上記(1)コ)、ポリエステル樹脂塗料(上記(1)サ)である。
そして、甲1には、必要に応じて抗ウイルス性塗料が含んでもよい重合開始剤についての例示はなく、仮に塗膜形成のために重合開始剤の使用が黙示されているとしても、アルキルフェノン系の重合開始剤及びベンゾフェノン系の重合開始剤を含む光重合開始剤を選択し、さらにアルキルフェノン系の重合開始剤及びベンゾフェノン系の重合開始剤を特定の比率に調整する動機付けを見いだすことはできず、その余の甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が適宜なし得るということもできない。
また、本件発明1は、光重合開始剤を含むことにより、銅化合物を還元させることができるため、銅の抗ウィルス活性を高くするという格別の効果を奏すると認められる。
よって、本件発明1は、甲1に記載された発明及びその余の甲号証に記載された事項から当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(イ)申立人は、申立ての理由1-1において、以下のとおり主張する。
「甲第1号証には、塗料に紫外線などを照射して塗膜を固化させることが記載されていることから(段落【0023】)、光重合開始剤を用いることは、甲第1号証に開示されているに等しいか、甲第1号証から容易に想到できる。ここで、甲第4号証には、可視光線や紫外線や赤外線等による光(電磁波)硬化性の樹脂として、アクリレートが記載されており(段落【0015】)、アクリレート樹脂について、UV光で硬化させたい場合には、重合開始剤が必要であることが記載されている(段落【0027】)。
してみれば、甲1発明において、紫外線などの照射によって固化される塗料に光重合開始剤を含めることは、甲第1号証に記載された事項であるか、甲第1号証から容易に想到することができた事項である。」
甲1には、塗膜形成剤であるバインダー成分としてポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂などの合成樹脂を用いることができること(上記(1)エ)、紫外線などの照射により塗膜を固化させること(上記(1)キ)は記載されているが、甲1には、【0023】のみならずいずれの箇所にも、特定の光重合開始剤を用いることは明示されていない。
そして、甲1には塗膜形成剤であるバインダー成分として多数の合成樹脂が列挙されているところ、甲1発明の抗ウイルス性塗料に、光重合開始剤を介して紫外線などの照射により塗膜を固化させる塗膜形成剤を採用したところで、甲4やその余の甲各号証の記載を参照しても、さらに何ら例示のないアルキルフェノン系の重合開始剤及びベンゾフェノン系の重合開始剤を特定の比率で含む光重合開始剤を採用する動機付けを見いだすことはできず、また、本件発明1によって奏される上記の効果を予測することはできない。
よって、申立人の主張は採用できない。

(4)本件発明2?7、9?12
本件発明2?7、9?12は、本件発明1をさらに限定するものである。
したがって、本件発明1が甲1に記載された発明及びその余の甲号証に記載された事項から当業者が容易に発明することができたものとはいえないことに鑑みると、本件発明2?7、9?12も甲1に記載された発明及びその余の甲各号証に記載された事項から当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(5)まとめ
よって、申立ての理由1-1には、理由がない。

3 申立ての理由1-2について
(1)甲2の記載事項(当審注:記載事項は、申立人が甲2の翻訳文として提出した甲3を参照した当審による翻訳文で示す。)
ア 「請求の範囲
1. 担体;及び
複数の銅含有粒子、並びに、ZnPT及びトラロピリルのいずれか一方又は両方を含むコ-バイオサイド
を含む材料であって、
1ガロンの担体ごとの前記銅含有粒子(g)、並びに、ZnPT及びトラロピリルのいずれか一方又は両方(g)の割合が、約0.005?約12の範囲内である、
材料。
2. 前記ZnPT及びトラロピリルのいずれか一方又は両方が、前記担体の約150mg/ガロン?担体の約40g/ガロンの範囲内で存在することを特徴とする、請求項1に記載の材料。

4.前記銅含有粒子が、銅含有ガラス及び亜酸化銅のいずれか一方又は両方を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の材料。」

イ 「背景技術

[0003] バイオサイドは、通常、ペイント塗料及び他の担体に加えられ、微生物の攻撃からそれらの物質の完全性を守り、乾燥フィルム中での菌類及び藻類の成長を防止する。一般に市販されるバイオサイドは、ジンクピリチオンである。ジンクピリチオン(ZnPT)は、トリブチルスズの代替物として防汚塗料において銅(Cu)と共に広く用いられる。乾燥フィルム殺菌剤のためのZnPTの典型的な使用レベルは、約1質量%である;しかしながら、銅と組み合わせると、ZnPTは、1?100ppm(μg/L)の濃度範囲で殺藻作用を示した。
[0004] 別の一般に市販されるバイオサイドは、トラロピリル(Tralopyril)(4-ブロモ-2-(4-クロロフェニル)-5-(トリフルオロメチル)-1H-ピロール-3-カルボニトリル)である。トラロピリルは、船体又は他の海洋構造物上に塗布される防汚コーティングにおいて使用される防汚剤である;しかしながら、細菌に対するその作用は、十分ではない。
[0005] そのような乾燥フィルム殺菌作用を、より低い濃度の銅及び/又はより低い濃度のZnPT(例えば、15mg/GalのZnPT)、トラロピリル又はそれらの組合せを使用して維持することが必要とされる。
概要
[0006] 本開示のさまざまな態様は、菌類のような微生物に関して相乗効果を示す抗菌性材料に関する。1つ以上の実施の形態において、この材料は、コ-バイオサイドの銅イオン、並びに、ZnPT及びトラロピリルのいずれか一方を含む。いくつかの実施の形態において、銅イオンは、銅含有粒子の形態で存在する。適切な銅含有粒子は、銅含有ガラス及び亜酸化銅のいずれか一方又は両方を含んでもよい。1つ以上の実施の形態において、銅含有粒子は、酸化状態を維持するための追加の処理又は工程なしで、連続的な態様でCu^(1+)イオンを放出する。既知の銅材料及びZnPTのみでは、菌類の阻害を示さなかったことに留意すべきである。理論によって束縛されるものではないが、そのような相乗効果は、CuとのZnPTのトランスキレート化によるCuPTの形成に一部原因がある。CuPTは、海洋生物にとってZnPTよりも毒性であることが示されており、本明細書に記載される実施の形態は、CuPTが菌類に対して同じ効果を有しうることを示す。
[0007] 第1の態様は、担体、複数の銅イオン又は銅含有粒子を含むコーバイオサイド、並びにZnPT及びトラロピリルのいずれか一方又は両方を含む材料に関する。担体は、ポリマー、モノマー、結合剤又は溶媒を含んでもよい。いくつかの実施の形態において、担体は塗料である。いくつかの例において、担体のガロンごとの銅含有粒子(g)と担体のガロンごとのZnPT(g)及びトラロピリル(g)のいずれか一方との割合は、約0.005?約12の範囲内である。いくつかの実施の形態において、ZnPTは、担体の約150mg/ガロン(?担体の約40g/ガロンの範囲内で存在する。材料は、過度のZnPTを含んでもよく、したがってZnを含んでもよい。
[0008] 銅含有粒子は、銅含有ガラス粒子及び/又は亜酸化銅粒子として存在してもよい。銅含有粒子は、約20g/ガロン以下の量で存在してもよい。」

ウ 「[0018] 本明細書において用いられる場合、「抗菌性」なる用語は、細菌、ウイルス及び/又は菌類を含む微生物を死滅させる又はその成長を阻害する材料又は材料表面を意味する。本明細書において用いられるこの用語は、材料又は材料表面がそのような科の全ての種の微生物を死滅させる又はその成長を阻害することを意味するのではなく、そのような科から1つ以上の種の微生物を死滅させる又はその成長を阻害することを意味する。」

エ 「[0024] 1つ以上の実施の形態において、材料は、ウイルスを評価するための修正されたJIS Z 2801(2000)試験条件(以下、「ウイルス用修正JIS Z 2801」)下で、マウスノロウイルス(Murine Norovirus)の濃度の2対数減少以上(例えば、4対数減少以上、又は5対数減少以上)を示し得る。ウイルス用修正JIS Z 2801(2000)試験は、本明細書にさらに詳細に記載される。」

オ 「[0031] 銅含有ガラスの1つ以上の実施の形態は、Cu種を含む。1つ以上の別の実施の形態では、Cu種は、Cu^(1+)、Cu^(0)、及び/又はCu^(2+)を含みうる。Cu種の総量は約10質量%以上であってよい。しかしながら、以下により詳細に議論されるように、Cu^(2+)量は最小限であるか、銅含有ガラスがCu^(2+)を実質的に含まないようにCu^(2+)量を減少させる。Cu^(1+)イオンは、銅含有ガラスの表面及び/又は全体の上または中に存在してもよい。いくつかの実施の形態では、Cu^(1+)イオンは、銅含有ガラスのガラス網目及び/又はガラスマトリックスの中に存在する。Cu^(1+)イオンがガラス網目中に存在する場合、Cu^(1+)イオンはガラス網目中の原子に原子的に結合する。Cu^(1+)イオンがガラスマトリックス中に存在する場合、Cu^(1+)イオンは、ガラスマトリックス中に分散するCu^(1+)結晶の形態で存在しうる。」

カ 「[0038] 本発明のガラス組成物中の銅含有酸化物は、得られるガラス中に存在するCu^(1+)イオンを形成する。銅は、本発明のガラス組成物及び/又は本発明のガラス組成物を含むガラスの中にCu^(0)、Cu^(1+)、及びCu^(2+)を含むさまざまの形態で存在しうる。Cu^(0)又はCu^(1+)の形態の銅は、抗菌活性を提供する。しかしながら、抗菌銅のこれらの状態の形成及び維持は困難であり、多くの場合、既知のガラス組成物中では、所望のCu^(0)又はCu^(1+)イオンの代わりにCu^(2+)イオンが形成される。」

キ 「[0057] いくつかの実施の形態では、銅含有ガラスは、約70質量%以上のCu^(1+)、及び約30質量%以下のCu^(2+)を含みうる。Cu^(2+)イオンは、黒銅鉱形態中、及び/又はさらにはガラス中(すなわち、結晶相としてではなく)に存在しうる。」

ク 「[0059] いくつかの実施の形態では、銅含有ガラスは、Cu^(2+)よりも多い量のCu^(1+)及び/又はCu^(0)を示しうる。例えば、ガラス中のCu^(1+)、Cu^(2+)、及びCu^(0)の総量に基づくと、Cu^(1+)及びCu^(0)を合わせたパーセント値は、約50%?約99.9%、約50%?約99%、約50%?約95%、約50%?約90%、約55%?約99.9%、約60%?約99.9%、約65%?約99.9%、約70%?約99.9%、約75%?約99.9%、約80%?約99.9%、約85%?約99.9%、約90%?約99.9%、約95%?約99.9%の範囲内、並びにそれらの間の全ての範囲内及び部分的範囲内となりうる。Cu^(1+)、Cu^(2+)、及びCu^(0)の相対量は、当該技術分野において既知のX線フォトルミネッセンス分光法(XPS)技術を用いて特定することができる。…」

ケ 「[0062] 銅含有ガラスは、シートとして提供してもよく、又は、粒子状(中空又は固体でもよい)、繊維状などの別の形状を有してもよい。1つ以上の実施の形態では、銅含有ガラスは、表面と、約5ナノメートル(nm)以下の深さで表面から銅含有ガラス中に伸長する表面部分とを含む。表面部分は、複数の銅イオンを含んでもよく、複数の銅イオンの少なくとも75%がCu^(1+)イオンを含む。例えば、場合によっては、表面部分中の複数の銅イオンの少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、少なくとも約99%または少なくとも約99.9%がCu^(1+)イオンを含む。いくつかの実施の形態では、表面部分中の複数の銅イオンの25%以下(例えば、20%以下、15%以下、12%以下、10%以下、又は8%以下)がCu^(2+)イオンを含む。例えば、場合によっては、表面部分中の複数の銅イオンの20%以下、15%以下、10%以下、5%以下、2%以下、1%以下、0.5%以下、又は0.01%以下がCu^(2+)イオンを含む。いくつかの実施の形態では、銅含有ガラス中のCu^(1+)イオンの表面濃度が制御される。場合によっては、約4ppm以上のCu^(1+)イオン濃度を銅含有ガラスの表面上で提供することができる。」

コ 「[0071] 1つ以上の実施の形態では、本明細書に記載の銅含有ガラス及び/又は材料は、浸出液に曝露又は接触すると銅イオンを浸出する。1つ以上の実施の形態では、銅含有ガラスは、水を含む浸出液に曝露すると銅イオンのみを浸出する。
[0072] 1つ以上の実施の形態では、本明細書に記載の銅含有ガラス及び/又は物品は、調整可能な抗菌活性放出を有することができる。ガラス及び/又は材料の抗菌活性は、抗菌性ガラスと水などの浸出液との間の接触によって生じ得、浸出液によって、Cu^(1+)イオンが銅含有ガラスから放出される。この作用は水溶性と記載することができ、この水溶性を調整することでCu^(1+)イオンの放出を制御することができる。」

サ 「[0082] 1つ以上の実施の形態において、担体としては、本明細書に記載のようなポリマー、モノマー、結合剤、溶媒、又はそれらの組合せを挙げることができる。特定の実施の形態において、担体は、表面(内表面又は外表面を含みうる)への塗布のために使用される塗料である。
[0083] 本明細書に記載される実施の形態に使用されるポリマーとしては、熱可塑性ポリマー、ポリオレフィン、硬化ポリマー、紫外線又はUV硬化ポリマー、ポリマーエマルジョン、溶剤系ポリマー、及びそれらの組合せを挙げることができる。…」

シ 「[0086] 本明細書に記載のように、本明細書に記載の銅含有ガラスを担体と組み合わせた後、その組合せ又は生じた材料を所望の物品に形成する又は表面に塗布することができる。材料が塗料を含む場合、塗料は層として表面に塗布してもよい。本明細書に記載の材料を使用して形成しうるそのような物品の例としては、電子デバイスの筐体(例えば、携帯電話、スマートフォン、タブレット、ビデオプレーヤー、情報端末装置、ラップトップコンピュータなど)、建築構造(例えば、カウンタートップまたは壁)、器具(例えば、クックトップ、冷蔵庫、および食器洗浄機の扉など)、情報表示装置(例えば、ホワイトボード)、及び自動車部品(例えば、ダッシュボードパネル、フロントガラス、窓部品など)が挙げられる。」

ス 「実施例
[0091] 以下の実施例によってさまざまの実施の形態がさらに明らかとなるであろう。
実施例1
[0092] ASTM 5590の下で菌類成長の制御を評価するために、例1A?1Fを調製した。例1A?1Fは、表1に示される組成物を含んだ。例1B?1Fで使用される銅含有ガラス粒子は、45モル%のSiO_(2)、35モル%のCuO、7.5モル%のK_(2)O、7.5モル%のB_(2)O_(3)、及び5モル%のP_(2)O_(5)の組成を含んだ。
[0093]

[0094] 例1A-1Fの塗料を、同じ紙基板上に塗布し、当該菌類の懸濁液と直接接触させることにより、A.pullulans(かび)又はA.niger/A.funiculosum(白かび)に暴露した。摂取された試料を、30℃/飽和湿度で密封された湿潤環境に配置し、28日間インキュベートした。抗菌能力を、塗料上の菌類の成長の割合の視覚評価により特定してもよい。観察された成長の割合に基づいて、数値スコアを各物質に割り当てる:0=成長なし、1=わずかな成長(10%未満)、2=小成長(10?30%)、3=中成長(30?60%)、4=大成長(60%?完全被覆)。表2は、3週間後の結果を示す。
[0095]

[0096] 表2に示されるように、ZnPT及び銅イオンの両方を含む塗料は、優れた能力を示した。」

(2)甲2に記載された発明
上記(1)スの記載からみて、甲2には以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。
「基板表面に、銅含有ガラス、ZnPT及び対照塗料Aを含む塗料から形成された塗膜が固着した、A.pullulansに対する抗菌性基板。」

(3)本件発明8
ア 本件発明8と甲2発明の対比
上記(1)スの記載からみて、甲2発明の「銅含有ガラス」はCuOを含むものであるから、本件発明8の「銅化合物」に相当し、甲2発明の「基板表面に、銅含有ガラス、及びZnPT及び対照塗料Aを含む塗料から形成された塗膜が固着した、A.pullulansに対する抗菌性基板」は、本件発明8の「基材表面に、銅化合物を含むバインダの硬化物が固着し」た「基体」に相当すると認められる。

そうすると、本件発明8と甲2発明とは、「基材表面に、銅化合物を含むバインダの硬化物が固着し」た「基体」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:本件発明8のバインダの硬化物は、「光重合開始剤を含」み、「前記光重合開始剤は、アルキルフェノン系の重合開始剤及びベンゾフェノン系の重合開始剤を含み、前記アルキルフェノン系の重合開始剤と前記ベンゾフェノン系の重合開始剤との比率は、重量比でアルキルフェノン系の重合開始剤/ベンゾフェノン系の重合開始剤=1/1?4/1であることを特徴とする」のに対し、甲2発明の塗料から形成された塗膜は、光重合開始剤を含むのか明らかでない点。

相違点2:本件発明8の銅化合物は、「少なくとも一部は、前記バインダの硬化物の表面から露出して」いるのに対し、甲2発明のCuOを含む銅含有ガラスは、塗料から形成された塗膜の表面から露出しているか明らかでない点。

相違点3:本件発明8の銅化合物は、「X線光電子分光分析法により、925?955eVの範囲にあるCu(I)とCu(II)に相当する結合エネルギーを5分間測定することで算出される、前記銅化合物中に含まれるCu(I)とCu(II)とのイオンの個数の比率(Cu(I)/Cu(II))が0.4?50である」のに対し、甲2発明のCuOを含む銅含有ガラスは、(Cu(I)/Cu(II))が明らかでない点。

相違点4:本件発明8の基体は、「抗ウイルス性基体」であるのに対し、甲2発明の基板は、「A.pullulansに対する抗菌性基板」である点。

イ 判断
(ア)上記相違点1について検討する。
甲2には、実施例で使用されている「対照塗料A」について、具体的な組成が記載されていない。
そして、塗料を構成するポリマーあるいはモノマーが確定しない甲2発明において、「光重合開始剤」を要する「バインダ」を採用し、アルキルフェノン系の重合開始剤及びベンゾフェノン系の重合開始剤を含む光重合開始剤を採用し、さらにアルキルフェノン系の重合開始剤及びベンゾフェノン系の重合開始剤を特定の比率に調整することは当業者が容易になし得たものとはいえない。甲2全体の記載及びその余の甲各号証を参照しても同様である。
また、本件発明8は、光重合開始剤を含むことにより、銅化合物を還元させることができるため、銅の抗ウィルス活性を高くするという格別の効果を奏すると認められる。
よって、相違点2?4について検討するまでもなく、本件発明8は甲2に記載された発明及びその余の甲号証に記載された事項から当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(イ)申立人は、申立ての理由1-2において、以下のとおり主張する。
「甲第2号証(甲第3号証)には、担体のポリマーとして、紫外線又はUV硬化ポリマーを用いることが記載されていることから(段落【0080】,【0081】)、光重合開始剤を用いることは、甲第2号証に開示されているに等しいか、甲第2号証から容易に想到できる。ここで、甲第4号証には、可視光線や紫外線や赤外線等による光(電磁波)硬化性の樹脂として、アクリレートが記載されており(段落【0015】)、アクリレート樹脂について、UV光で硬化させたい場合には、重合開始剤が必要であることが記載されている(段落【0027】)。
してみれば、甲2発明において、紫外線又はUV硬化ポリマーの担体を含む塗料に光重合開始剤を含めることは、甲第2号証に記載された事項であるか、甲第2号証から容易に想到することができた事項である。」
甲2には、紫外線又はUV硬化ポリマーを用いることは記載されているが(上記(1)サ)、対照塗料Aの具体的な組成が明らかでなく、甲2に列挙された多数のポリマー(上記(1)サ)から、甲2発明の対照塗料Aとして紫外線又はUV硬化ポリマーのような「光重合開始剤」を要すると解される材料を採用し、甲4やその余の甲各号証の記載を参照しても、さらに何ら例示のないアルキルフェノン系の重合開始剤及びベンゾフェノン系の重合開始剤を特定の比率で含む光重合開始剤を採用する動機付けを見いだすことはできず、また、本件発明8によって奏される上記の効果を予測することはできない。
よって、申立人の主張は採用できない。

(4)まとめ
よって、申立ての理由1-2には、理由がない。

3 申立ての理由2-1について
(1)判断
本件発明3は、本件発明1を引用するから、本件発明3の「水に不溶性の重合開始剤」は、本件発明1の「光重合開始剤」をさらに特定するものである。
そして、本件明細書には、「水に不溶性の重合開始剤」は、水に触れても溶出しないため、樹脂硬化物を劣化させることがなく、銅化合物の脱離を招かないことが記載されているから(【0023】)、本件発明3の「水に不溶性の重合開始剤」との記載は明確である。
したがって、本件発明3について、特許請求の範囲の記載が不明確であるとはいえず、本件発明3は明確である。

(2)まとめ
よって、申立ての理由2-1には、理由がない。

4 申立ての理由2-2について
(1)判断
本件発明5?7は、光重合開始剤を含む本件発明1を引用し、「前記バインダは、有機バインダ及び無機バインダからなる群から選択される少なくとも1種以上である」こと、「前記有機バインダは、電磁波硬化型樹脂及び熱硬化型樹脂からなる群から選択される少なくとも1種以上である」こと、「前記バインダは、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂…金属アルコキシド、及び、水ガラスからなる群から選択される少なくとも1種である」ことをそれぞれ特定するものである。
本件明細書には、光重合開始剤で紫外線硬化樹脂液を硬化させたことの他に、光重合開始剤は、ラジカルやイオンを発生させ、その際に銅化合物を還元させることができるため、銅の抗ウィルス作用を高くすることができることが記載されているから(【0022】)、本件発明において、光重合開始剤は銅化合物の還元のためにも用いられるものである。
そうすると、本件発明5?7において、バインダが無機バインダまたは熱硬化性樹脂である場合、光重合開始剤は銅化合物の還元のためのものであるから、両者の関係に不明はない。
したがって、本件発明5?7について、特許請求の範囲の記載が不明確であるとはいえず、本件発明5?7は明確である。

(2)まとめ
よって、申立ての理由2-2には、理由がない。

5 まとめ
以上のことから、申立人が主張する申立ての理由にはいずれも理由がなく、これらの申立ての理由によっては本件発明に係る特許を取り消すことはできない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、異議申立ての理由によっては、本件請求項1?12に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に当該特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2021-10-29 
出願番号 特願2020-77707(P2020-77707)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A01N)
P 1 651・ 537- Y (A01N)
最終処分 維持  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 小堀 麻子
関 美祝
登録日 2021-02-15 
登録番号 特許第6838185号(P6838185)
権利者 イビデン株式会社
発明の名称 抗ウィルス性基体  
代理人 特許業務法人 安富国際特許事務所  
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