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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  B29C
管理番号 1379881
異議申立番号 異議2021-700263  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-12-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-03-11 
確定日 2021-11-19 
異議申立件数
事件の表示 特許第6758790号発明「発泡成形用の射出成形機のスクリュおよび射出成形機」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6758790号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6758790号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成31年 1月11日を出願日とする出願であって、令和 2年 9月 4日にその特許権の設定登録(請求項の数4)がされ、同年同月23日に特許公報が発行され、その後、その特許に対して、令和 3年 3月11日に特許異議申立人 青木 ゆい(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1)がされ、同年 7月 2日付けで取消理由が通知され、同年 8月24日に特許権者 株式会社日本製鋼所(以下、「特許権者」という。)から意見書が提出され、その後、当審から、同年 9月27日付けで審尋を通知をしたところ、異議申立人は、同年10月11日に回答書を提出したものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明1」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
スクリュの形状によって、その後方から前方にかけて加熱シリンダ内が第1のステージと第2のステージとに区分され、前記第1のステージには樹脂が圧縮されるようになっている第1の圧縮区間が、そして前記第2のステージには樹脂の圧力が低下するようになっている飢餓区間と該飢餓区間の下流において樹脂が圧縮されるようになっている第2の圧縮区間とが形成され、前記飢餓区間において不活性ガスが注入されるようになっている射出成形機のスクリュであって、
前記スクリュにおいて前記第1の圧縮区間には、メインフライトと該メインフライトよりリード角が大きいサブフライトの組合わせからなるバリアフライトが形成され、前記第2のステージには前記飢餓区間とその下流側において2条以上の多条フライトが設けられていることを特徴とする発泡成形用の射出成形機のスクリュ。」

第3 特許異議申立書に記載した申立の理由の概要及び取消理由の概要
1 特許異議申立書に記載した申立の理由の概要
令和 3年 3月11日に異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。

(1)申立理由1(甲第1号証に基づく進歩性)
本件特許発明1は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(2)申立理由2(甲第3号証に基づく進歩性)
本件特許発明1は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(3) 証拠方法
甲第1号証:特許第4640814号公報
甲第2号証:特開2004-098335号公報
甲第3号証:特開2003-117973号公報
なお、証拠の表記は、特許異議申立書の記載に従った。以下、順に「甲1」のようにいう。

2 取消理由の概要
令和 3年 7月 2日付け取消理由通知書に記載した取消理由の概要は次のとおりである。

(1)取消理由1(甲1に基づく進歩性)(上記申立理由1と同旨である。)
本件特許発明1は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(2)取消理由2(甲3に基づく進歩性))(上記申立理由2と同旨である。)
本件特許発明1は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲3に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

第4 取消理由についての当審の判断
当審は、以下に述べるように、本件特許の請求項1に係る特許は、取消理由1及び2によっては、取り消すことはできないと判断する。

1 取消理由1(甲1に基づく進歩性)について
(1)甲1及び甲2に記載された事項
ア 甲1に記載された事項及び甲1発明
(ア)甲1に記載された事項
甲1には、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。

・「【0018】
本発明は、ポンプなどの昇圧設備を必要とせずに低圧で射出成形機のシリンダーへの物理発泡剤注入ができ、金型動作およびスクリューの動きに対応した物理発泡剤の注入が可能であり、かつ金型を高圧に保つことなく射出発泡できる射出発泡方法によって得られる熱可塑性樹脂発泡体を提供することを目的とする。
本発明は、スキン層の平滑性と剛性によって良好な外観を有する熱可塑性樹脂発泡体を提供することを目的とする。
本発明はまた、高発泡の場合、高度に軽量化され、強固な剛性が得られうる熱可塑性樹脂発泡体を提供することを目的とする。」

・「【0037】
これらの厚みのスキン層を形成するためのコアバックのタイミングは、樹脂の種類、発泡剤の種類、金型温度、樹脂温度により異なるが、例えば二酸化炭素を物理発泡剤として用い、通常のポリプロピレンを用いた場合には、射出完了後から0.5?3秒程度が好ましい。射出完了後からコアバックまでの時間が、短すぎると十分な厚みのスキン層が生成せず、長すぎると樹脂の固化が進行して、コアバックしても十分な発泡倍率が得られない。」

・「【0052】
本発明では、射出成形機スクリューのデザインには何ら制限がない。本発明では、射出成形機スクリューとして、多段圧縮スクリュー、好ましくは二段スクリュー多段圧縮スクリューの使用が推奨される。二段目を攪拌能力には劣るが、溶融樹脂の送り能力に優れた圧縮溝付き(羽付き)スクリューを使用することができる。
【0053】
本発明では、樹脂の送り能力に優れるため、第一段目の圧縮スクリュー部分が終了した次の溝を深くし、樹脂圧を急激に低下させる。この減圧された部分では、溶融樹脂は、飢餓状態となり、樹脂が存在しない空洞が発生し、この空洞部分に、貯蔵圧力よりも減圧した、好ましくは貯蔵圧力に対して80%以下に減圧した物理発泡剤を供給する。
【0054】
図1を参考にし射出発泡成形機を説明する。射出発泡成形機には、射出成形機シリンダー7および射出成形機二段圧縮シリンダー8(当審注:「スクリュー」の誤記と解釈した。)が備えられている。射出成形機シリンダーは、ヒーター12により加熱される。物理発泡剤は、物理発泡剤ボンベ13、発泡剤供給配管14により、ボンベバルブ15、減圧弁16、逆止弁17を経て、物理発泡剤注入孔18からシリンダーに注入される。一段目の圧縮部は9の部分であり、第二段目の圧縮部は10の部分である。」

・「【0056】
それに続いて、11では急激にスクリュー溝が深くなり、スクリュー溝間の容積が膨張し、溶融樹脂の他に気体が注入可能な空間が出来る。これを減圧部分11と呼ぶ。この部分も通常第一段目の圧縮部と同様に第二段目の圧縮部の前方までほぼ均等にスクリュー溝が浅くなるか、一定の領域までスクリュー溝が一定の部分が続いた後、スクリュー溝が浅くなることにより、樹脂が圧縮される。物理発泡剤注入孔は、スクリューが射出方向に最も前進した状態で、第二段目圧縮部の開始部分からスクリュー外径(D)の9倍の長さ(9D)、すなわち、第二段目圧縮部の0?9D部、好ましくは0?3D部に位置するように設けることが好ましい。」

・「【0061】
また、第一段目圧縮部9と第二段目圧縮部10は、樹脂の送り能力、混合能力を考慮し適宜、1条2条または3条にすることが可能である。第一段目、第二段目の圧縮部の溝深さなどのデザインは、上記に記載の範囲であれば、市販のベント付き射出成形機ベント部分の耐圧構造を補強し使用することができる。また、スクリューのみベント付きタイプにし、シリンダーは、通常タイプに物理発泡剤注入孔を設けたものであってもよい。
【0062】
さらに、第一段目圧縮部のスクリュー部において、最後の0.5?2D部をスクリュー間の距離が短い形状にし、スクリューの溝間が完全に溶融樹脂で充満されるように設計したものでは、第一段目圧縮部のスクリューの後方に物理発泡剤が逃げることを防止する効果が大きい。
【0063】
スクリューが 図1及び2の状態から射出方向とは反対方向に後退しだした場合(計量・可塑化工程)、可塑化された樹脂が圧縮部分9から減圧部分11に供給される。供給された溶融樹脂は、物理発泡剤注入孔18より注入された物理発泡剤と適度に混合される。この場合、特に微分散が必要ではなく、溶融樹脂への発泡剤が発泡剤の圧力、樹脂が混練される剪断により巻き込まれた状態でよい。
【0064】
また、溶融樹脂で溝が完全に満たされるスクリュー先端までは、溝の中の未混合物理発泡剤が占める空間の多くは、大きな泡が連結しているかまたは大きい塊となったものであり、お互いに圧力を及ぼし合う距離にある。その部分の物理発泡剤の圧力は、概ね等しく、概ね均等な圧力の物理発泡剤が、溶融樹脂と溝を構成する羽21によって、前方へ輸送されながら、除々に溶融樹脂中に混練分散し、射出発泡時には問題ない程度の物理発泡剤の混合が達成される。さらにスクリューが後退すると、圧縮部10のスクリュー圧縮により、樹脂圧は高まる。」

・「【0072】
本発明で用いる発泡剤としては、通常の物理発泡剤であれば特に問題ない。例えばメタノール、エタノール、プロパン、ブタン、ペンタンなどの低沸点有機溶剤の蒸気;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、フロン、三フッ化窒素などのハロゲン系不活性溶剤の蒸気;二酸化炭素、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、アスタチンなどの不活性ガスが挙げられる。
【0073】
これらの中で、蒸気にする必要が無く、安価で、環境汚染、火災の危険性が極めて少ない二酸化炭素、窒素、アルゴンがもっとも優れている。物理発泡剤の貯蔵方法としては、小規模な生産で有れば、二酸化炭素、窒素などをボンベに入った状態で使用し、射出成形機に減圧弁を通して供給出来る。」

・「【図1】




(イ)甲1発明
甲1に記載された事項を、【0054】、【0056】、【0061】及び図面について整理すると、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

「ヒーター12により加熱される射出成形機シリンダー7内に設けられた発泡体成形用の射出成形機二段圧縮スクリュー8において、当該圧縮スクリュー8は第一段目圧縮部9と、第二段目圧縮部10と、当該圧縮スクリュー8の第一段目圧縮部9が終了した次の溝を深くして樹脂圧を急激に低下させた減圧部分11を有し、当該シリンダー7の当該減圧部分11は、物理発泡剤注入孔18から不活性ガスが供給される部分であり、第一段目圧縮部9と第二段目圧縮部10は、1条2条または3条とすることが可能な発泡体成形用の射出成形機二段圧縮スクリュー8。」

イ 甲2に記載された事項
甲2には、おおむね次の事項が記載されている。

・「【0013】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、従来の問題点を解決した発泡体射出成形用のスクリュを提供することを目的とする。より具体的には、発泡体を成形する射出成形機の構成要素であるスクリュであって、樹脂材料を充分に可塑化する能力が確保され優れた生産性を有し、高圧ガスを溶融樹脂に均一に浸透させ混合させることが出来るとともに、高圧ガスが材料供給部側へ逆流しないように充分なシール性が確保され、尚且つ、全長が抑えられたスクリュを提供することを目的としている。」

・「【0014】
【課題を解決するための手段】研究を重ねた結果、以下に示す手段によって、上記目的を達成し得ることが見出された。即ち、本発明により提供されるスクリュは、熱可塑性樹脂材料にガスを溶解させて金型に射出充填する発泡体成形用のスクリュであって、後端側から、材料供給部、圧縮部、可塑化部からなる第1ゾーンと、ガス供給部、圧縮部、送出部からなる第2ゾーンと、を有してなり、第1ゾーンと第2ゾーンとの間にダブルフライトを有する遷移ゾーンを備え、第1ゾーンの可塑化部で溶融した樹脂材料とガスとを共存させるとともにガスをシールする機能を有することを特徴とする発泡体射出成形用スクリュである。
【0015】遷移ゾーンに設けたダブルフライトによる可塑化ゾーン(第1ゾーン)とガス溶解ゾーン(第2ゾーン)とを振り分ける構造によって、上記従来例にあるような溶融樹脂の通路が狭いという問題は生じず、換言すれば、充分な可塑化能力が確保される。又、メインフライトの間にサブフライトを設けることにより、材料供給側と繋がる溝に存在する可塑化された溶融樹脂はサブフライトの外径とバレル内径との間の隙間(クリアランス)を通過しなければ、ガス供給側と繋がっている溝に流入することが出来ない。このサブフライトの外径とバレル内径とのクリアランスを調整することにより、高圧ガスを遮断し、材料供給部側への逆流を防止する。加えて、遷移ゾーンにおいてはメインフライト間に存在しているサブフライトを挟んでガス供給側と繋がっている溝は深く、溶融樹脂はかなりのスターブ(飢餓)状態になっており、溶融樹脂と高圧ガスが共存するので、溶融樹脂と高圧ガスとの接触面積及び接触時間を、より長く確保出来る。従って、溶融樹脂表面への高圧ガスの浸透に関し、同じ効果を得る条件では、よりスクリュ全長を短くすることが可能である。」

・「【0021】本発明においては、遷移ゾーンにおけるサブフライト数は、2?4であることが好ましい。ここで、サブフライト数について説明する。サブフライト数とは、サブフライトを有する領域(長さ)をサブフライト部のピッチで除した数値である。又、一般的にサブフライト部のピッチはメインフライト部のピッチより大きな値となるため、サブフライト形成部分の長さをメインフライトのピッチで除した数値より小さくなる。本発明では、サブフライト部のフライト部長さ(フライト頂部の展開長さ)を長く出来るので、同じガスシール能力を確保した条件では溶融樹脂がのり越えるための隙間(サブフライト外径とバレル内径とのクリアランス)を大きく出来る。このようにして、ガスシール性を確保しつつ、可塑化能力を確保出来ることになる。遷移ゾーンにおけるサブフライトの山数が2未満であると、ガスシール能力が低下するので好ましくない。又、遷移ゾーンにおけるサブフライトの山数が4より多くても、ガスシール性、溶融樹脂表面への高圧ガスの浸透性に関し大きな向上は見られなく、又、スクリュ全長が長くなるのでコスト面で不利である。」

・「【0023】図2(a)は、本発明のスクリュの側面を示す模式図であり、図2(b)は図2(a)における本発明の特徴部分を拡大した図である。本発明に係るスクリュ10は、2ゾーン構造を呈し、熱可塑性樹脂材料にガスを溶解させて金型に射出充填する発泡体成形用のスクリュである。スクリュ10は、後端側から、材料供給部11、圧縮部12、可塑化部13からなる第1ゾーンと、ガス供給部14、圧縮部22、送出部15からなる第2ゾーンと、を有している。」

・「【0024】そして、第1ゾーンと第2ゾーンとの間には、メインフライト19とサブフライト29とからなるダブルフライトを有する遷移ゾーン16を備えている。尚、スクリュ10においてサブフライト29の山数は例えば3である。又、メインフライト19は、遷移ゾーン16以外では通常のフライトとして備わるものである(以下、メインフライトを単にフライトともいう)。」

・「【図2】



(2)対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。

甲1発明の「発泡体成形用の射出成形機二段圧縮スクリュー8」は本件特許発明1の「発泡成形用の射出成形機のスクリュ」に相当し、甲1発明の「ヒーター12により加熱される射出成形機シリンダー7」は本件特許発明1の「加熱シリンダ」に相当する。
そして、甲1発明の「第一段目圧縮部9」は、その名称から第1の圧縮区間を有することは明らかであるから、本件特許発明1の「第1のステージ」に相当する。また、甲1発明の「減圧部分11」は、その部分に樹脂が存在しない空間が発生するものであり、樹脂の圧力が低下しているといえるから、本件特許発明1の「飢餓区間」に相当する。
そして、甲1発明の「第二段目圧縮部10」も、その名称から第2の圧縮区間を有することは明らかであり、さらに該「第二段目圧縮部10」は「減圧部分11」を含むから、甲1発明の「第二段目圧縮部10」は本願特許発明1の「第2のステージ」に相当する。

したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
スクリュの形状によって、その後方から前方にかけて加熱シリンダ内が第1のステージと第2のステージとに区分され、前記第1のステージには樹脂が圧縮されるようになっている第1の圧縮区間が、そして前記第2のステージには樹脂の圧力が低下するようになっている飢餓区間と該飢餓区間の下流において樹脂が圧縮されるようになっている第2の圧縮区間とが形成され、前記飢餓区間において不活性ガスが注入されるようになっている発泡成形用の射出成形機のスクリュ。

そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点1>
第1の圧縮区間における「スクリュ」に関し、本件特許発明1は「メインフライトと該メインフライトよりリード角が大きいサブフライトの組合わせからなるバリアフライトが形成され」と特定されているのに対し、甲1発明はそのような特定事項を有しない点。
<相違点2>
第2のステージにおける「スクリュ」に関し、本件特許発明1は「前記飢餓区間とその下流側において2条以上の多条フライトが設けられている」のに対し、甲1発明は「1条2条または3条とすることが可能」であるとされている点。

(3)判断
相違点1及び相違点2について判断する。
まず、相違点2について検討すると、甲1には、スクリュ運転時における不活性ガスの逆流を防止することが記載されており、スクリュー間の距離を短い形状にし、スクリューの溝間が完全に溶融樹脂で充満されるように設計したものでは、スクリューの後方に物理発泡剤が逃げることを防止する効果が大きい旨が示唆されている(甲1の【0062】など。)。
そうすると、甲1発明において、不活性ガスの逆流防止のために、2条または3条のフライトを採用することに一応の動機付けがあると認められる。
次に、相違点1について検討すると、甲2には、第1ステージ、第2ステージを有する発泡成形用の射出成型機のスクリュにおいて、第1ステージに含まれ、ガス供給部の上流に、メインフライトとサブフライトとからなるバリアフライトを設ける構成が記載されているといえ、上記構成とすることによって、高圧ガスの材料供給部への逆流が防止されることが記載されている。
ここで、甲1にはスクリュ運転時における不活性ガスの逆流を防止することが記載されていることから(甲1の【0062】など。)、甲1発明において、不活性ガスの逆流防止のために、甲2に記載される上記バリアフライトを適用し、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることには、一応の動機付けがあると認められる。
そこで、本件特許発明1が奏する効果の検討をするに、本件特許発明1は、バリアフライトと多条スクリュとを組み合わせることにより、スクリュの回転停止時に不活性ガスの逆流を実質的に完全に防止できるという効果を奏するものである(本件特許明細書【0009】など)。
しかしながら、上記効果は甲1及び甲2には記載されておらず、スクリュ運転時とスクリュ停止時とでは、加熱シリンダ内部の樹脂及び不活性ガスの圧力分布は異なり、加熱シリンダ内部でのそれらの挙動も異なるものであるから、上記効果は甲1発明及び甲2の記載事項から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。

したがって、本件特許発明1は、甲1発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

(4)異議申立人の主張について
令和 3年10月11日に異議申立人により提出された回答書において、以下の観点1及び観点2(a)に基づいて意見を述べている。

<観点1>
令和 3年 8月24日に特許権者により提出された意見書において主張するようなバリアフライト及び多条フライトにおける樹脂圧力と不活性ガスの逆流防止効果に関する開示、示唆は、本件明細書にはない。

<観点2(a)>
甲1のスクリュの上流にガスの逆流防止を目的として甲2を適用することは、当業者であれば容易に類推できることから、目的は違っても対象特許のスクリュは進歩性を有さない。
さらに、甲1のスクリュの減圧部分(多条フライト)の上流にガスの逆流防止を目的として甲2を適用したスクリュにおいて、スクリュの減圧部分(多条フライト)に、スクリュ回転停止時における溶融樹脂の逆流の抑制効果が発生し、甲2のバリアフライトにおけるシール効果が高めることは、甲1のスクリュの減圧部分(多条フライト)の上流にガスの逆流防止を目的として甲2を適用することによってなされたスクリュ形状が有する蓋然的効果といえるから、本件特許発明1は甲1発明に甲2を適用することによって容易になし得るものであって、進歩性を有さない。

そこで、上記観点1及び観点2(a)について以下検討する。

観点1について、本件明細書の【0009】に記載されるように、バリアフライトにおいて形成されるシールによって、10分間程度であればスクリュの回転を停止しても、第1ステージにおける不活性ガスの逆流が実質的に完全に防止されることが記載されている。
さらに、多条フライトは逆流防止効果も高く、不活性ガスの浸透により粘度が小さくなっている樹脂であっても、第2ステージにおける逆流が防止されることが記載されており、ここで言う「逆流防止効果」とは、「スクリュの回転を停止」した際の「不活性ガスの逆流」を防止する効果と解される。
そうすると、本件明細書の【0009】の記載を見れば、バリアフライト及び多条フライトにおける樹脂圧力と不活性ガスの逆流防止効果に関する開示、示唆はあるといえ、異議申立人のこの観点での主張は採用できない。

次に、観点2(a)について、上記相違点1の判断において述べたように、甲1及び甲2には、相違点1に係る本件特許発明1の事項を採用することの動機付けはなく、本件特許発明1の相違点1に係る事項を採用することの効果、すなわち、スクリュの回転停止時に実質的に完全に不活性ガスの逆流が防止されるという効果も甲1及び甲2の記載事項からは予測し得ない。
そして、甲1及び甲2並びに上記回答書に例示された参考資料1(特開平8-1738号公報)及び参考資料2(特開2015-168079号公報)に記載される事項は、スクリュ回転時におけるバリア性について触れるに留まり、「スクリュの回転を停止」した際の「不活性ガスの逆流」について具体的に示すものでもないから、異議申立人のこの観点の主張は採用できない。

(5)取消理由1についてのまとめ
したがって、本件特許発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1に係る特許は、同法第113条第2号に該当するものではなく、取消理由1によっては取り消すことはできない。


2 取消理由2(甲3に基づく進歩性)について
(1)甲1及び甲3に記載された事項
ア 甲1に記載された事項
甲1に記載された事項は、上記1(1)ア(ア)において述べたとおりである。

イ 甲3に記載された事項及び甲3発明
(ア)甲3に記載された事項
甲3には、おおむね次の事項が記載されている。

・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ガスまたは液状ガスを高圧状態で溶融樹脂に溶解させ、溶融樹脂を金型のキャビティ内に送り出してガス発泡させるために用いられる樹脂可塑化スクリュに関する。」

・「【0006】本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、減圧室への未溶融樹脂の流出を阻止することにより、溶融樹脂の流れに対して減圧室よりも下流側で、ガス状物質が効率よく溶融樹脂に分散・溶解することができる樹脂可塑化スクリュを提供することを目的とする。」

・「【0014】減圧室26では、ガス供給源10からガス若しくは液状ガスであるCO_(2)が供給され、高圧力の下で、ガス状物質は溶融樹脂5bに分散・溶解(浸透)する。・・・」

・「【0015】次に、本発明における第2の実施の形態について図面を参照しながら説明する。本実施の形態は、第1の実施の形態のスクリュの第1ステージにバリヤスクリュを採用し、第1の実施の形態のミキシングと組み合わせた例である。図7は、射出成形装置の樹脂を溶融させる樹脂可塑化スクリュとしての射出成形機1と、この射出成形機1により溶融した樹脂が射出される成形金型2を示す。図8に実施例2の射出成形機1のスクリュ7を示す。回転軸18は、基端側から先端側に向かって、樹脂5の供給部19、第1ステージ20、減圧部21、第2ステージ22及びミキシング部23から構成されている。供給部19は樹脂5を供給するスペースを得るように溝底径を小径としてフライト溝が深くなるように形成し、第1ステージ20の先端側に向かうに連れて徐々に拡径し、第1ステージ20の先端側で均一径の大径部が形成されている。図8に示すように、第1ステージ20では、スクリュ7の螺旋を形成するフライト24のピッチp間にフライト24の高さよりも低い突状のバリヤフライト25が形成されている。バリヤフライト25は、フライト24の基端側でフライト24の先端側の壁面からフライト24の基端側の壁面にわたって、かつフライト24の複数ピッチp間にわたって線条に形成されている。図9は、スクリュ7のピッチp間を平面に展開した図であり、この展開した状態ではバリヤフライト25が複数ピッチp間を一直線上に延在しているのが分かる。なお、この第1ステージ20以外の領域では、従来例と同様にバリヤフライト25は形成していない。」

・「【0016】減圧部21には減圧室26が形成され、減圧室26は第1ステージ20と第2ステージ22の間に対応させてシリンダ4とスクリュ7の間に設けられている。この減圧室26に連通してガス供給源10が接続され、減圧室26のスペースを得るためスクリュ7のその部分では溝底径が小径に形成される一方、フライト溝の深さは大きくなっている。減圧室26の先端側にある第2ステージ22では、徐々に溝底径が拡径されその先端側で均一径の大径部が形成されており、さらにその先端側には、ガス状物質を分散するミキシング部23が設けられている。ミキシング部の構成は上記第1の実施の形態とほぼ同じであるので説明を略すが、図11のDに示すように、リテナシート31にステップランド32が設けてあり、ミキシングチェックリング127とリテナシートの潤滑性を向上させている。」

・「【図7】



・「【図8】



・「【図9】



(イ)甲3発明
甲3に記載された事項を、【0014】ないし【0016】及び図面につして整理すると、甲3には、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認める。

「基端側から先端側に向かって、樹脂5の供給部19、第1ステージ20、減圧部21、第2ステージ22から構成されているガスまたは液状ガスを高圧状態で溶融樹脂に溶解させ、溶融樹脂を金型のキャビティ内に送り出してガス発泡させるために用いられる射出成形装置の樹脂可塑化スクリュ7において、供給部19は樹脂5を供給するスペースを得るように溝底径を小径としてフライト溝が深くなるように形成し、第1ステージ20の先端側に向かうに連れて徐々に拡径し、第1ステージ20では、スクリュ7の螺旋を形成するフライト24のピッチp間にフライト24の高さよりも低い突状のバリヤフライト25が形成されてなり、減圧部21には減圧室26が形成され、減圧室26では、ガス供給源10からガス若しくは液状ガスであるCO_(2)が供給され、減圧室26のスペースを得るためスクリュ7のその部分では溝底径が小径に形成される一方、フライト溝の深さは大きくなっており、減圧室26の先端側にある第2ステージ22では、徐々に溝底径が拡径されその先端側で均一径の大径部が形成されてなる樹脂可塑化スクリュ7。」

(2)対比
本件特許発明1と甲3発明を対比する。
甲3発明の「第1ステージ20」は「第1ステージ20の先端側に向かうに連れて徐々に拡径し」た区間を有し、該区間において樹脂5の圧縮が行われるから、甲3発明の「第1ステージ20」は本件特許発明1の「第1の圧縮区間」が形成された「第1のステージ」に相当する。また、甲3発明の「減圧部21」は、その部分で樹脂の圧力が低下しているといえるから、本件特許発明1の「飢餓区間」に相当する。また、甲3発明の「第2ステージ22」は「減圧部21」及び「徐々に溝底径が拡径されその先端側で均一径の大径部が形成されてなる」区間を有するものであるから、甲3発明の「第2のステージ22」は本件発明1の「第2のステージ」に相当する。また、甲3発明の「減圧室26では、ガス供給源10からガス若しくは液状ガスであるCO_(2)が供給」は本件特許発明1の「飢餓区間において不活性ガスが注入される」に相当する。
そして、甲3発明の「スクリュ7の螺旋を形成するフライト24のピッチp間にフライト24の高さよりも低い突状のバリヤフライト25」は図9からバリヤフライト25のリード角がフライト24より大きいことが読み取れるから、甲3発明の「フライト24」は本件特許発明1の「メインフライト」に相当し、甲3発明の「バリアフライト25」は本件特許発明1の「サブフライト」に相当する。

したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
スクリュの形状によって、その後方から前方にかけて加熱シリンダ内が第1のステージと第2のステージとに区分され、前記第1のステージには樹脂が圧縮されるようになっている第1の圧縮区間が、そして前記第2のステージには樹脂の圧力が低下するようになっている飢餓区間と該飢餓区間の下流において樹脂が圧縮されるようになっている第2の圧縮区間とが形成され、前記飢餓区間において不活性ガスが注入されるようになっている射出成形機のスクリュであって、前記スクリュにおいて前記第1の圧縮区間には、メインフライトと該メインフライトよりリード角が大きいサブフライトの組合わせからなるバリアフライトが形成されている発泡成形用の射出成形機のスクリュ。

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点3>
第2のステージにおける「スクリュ」に関して、本件特許発明1においては「前記飢餓区間とその下流側において2条以上の多条フライトが設けられている」のに対し、甲3発明においてはそのような特定事項を有しない点。

(3)判断
そこで、上記相違点3について判断する。
甲1には「第一段目圧縮部9と第二段目圧縮部10は、樹脂の送り能力、混合能力を考慮し適宜、1条2条または3条にすることが可能であ」ることが記載されており(上記1(1)ア(ア)の段落【0061】)、そして、「第一段目圧縮部のスクリュー部において、最後の0.5?2D部をスクリュー間の距離が短い形状にし、スクリューの溝間が完全に溶融樹脂で充満されるように設計したものでは、第一段目圧縮部のスクリューの後方に物理発泡剤が逃げることを防止する効果が大きい」ことが示唆されている(同段落【0062】)。
しかしながら、甲1には、不活性ガスの逆流を防止するために2条以上の多条フライトを設けることは直接的に記載されていないし、甲3にもそのような記載はないので、甲3発明において不活性ガスの逆流を防止するために甲1に記載された2条または3条のフライト構造を採用し、相違点3に係る本件特許発明1の事項とすることの動機付けはない。
よって、甲3発明において、甲1に記載の技術的事項を適用し、相違点3に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

・本件特許発明1が奏する効果の検討
本件特許発明1は、バリアフライトと多条スクリュとを組み合わせることにより、スクリュの回転停止時に不活性ガスの逆流を実質的に完全に防止できるという効果を奏するものである(本件特許明細書【0009】など)。
このため、たとえ仮に甲3発明に甲1に記載された多条スクリュを採用し得たとしても、本件特許発明1の上記の効果については甲3及び甲1には記載されておらず、上記1(3)で述べたのと同様に、上記効果は甲3発明及び甲1の記載事項から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。

以上より、本件特許発明1は、甲3発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

(4)異議申立人の主張について
令和 3年10月11日に異議申立人により提出された回答書において、観点1及び観点2(b)に基づいて意見を述べている。
そして、観点1については、上記1(4)において述べたとおりであり、観点2(b)についても、上記1(4)の観点2(a)において検討したものと同様の理由で、異議申立人のこれらの観点の主張は採用できない。

(5)取消理由2についてのまとめ
したがって、本件特許発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1に係る特許は、同法第113条第2号に該当するものではなく、取消理由2によっては取り消すことはできない。

第5 結語
上記第4のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立理由によっては、本件特許の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2021-11-10 
出願番号 特願2019-3848(P2019-3848)
審決分類 P 1 652・ 121- Y (B29C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 飛彈 浩一  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 相田 元
細井 龍史
登録日 2020-09-04 
登録番号 特許第6758790号(P6758790)
権利者 株式会社日本製鋼所
発明の名称 発泡成形用の射出成形機のスクリュおよび射出成形機  
代理人 杉谷 裕通  
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