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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
管理番号 1379887
異議申立番号 異議2021-700788  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-12-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-08-10 
確定日 2021-11-26 
異議申立件数
事件の表示 特許第6828782号発明「蓄電デバイス用組成物、蓄電デバイス電極用スラリー、蓄電デバイス電極、及び蓄電デバイス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6828782号の請求項1?9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6828782号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?9に係る特許についての出願(以下、「本願」という。)は、令和1年9月2日の出願であって、令和3年1月25日に特許権の設定登録がされ、同年2月10日に特許掲載公報が発行され、その後、同年8月10日付けで、請求項1?9(全請求項)に対し、特許異議申立人である安藤宏(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
本件特許の特許請求の範囲の請求項1?9に係る発明(以下、順に「本件発明1」?「本件発明9」といい、これらを総称して「本件発明」という。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
水溶性重合体(A)と、液状媒体(B)と、を含有し、
前記水溶性重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量部としたときに、前記重合体(A)が、
下記構造式(1)で表される繰り返し単位(a1)5?90質量部と、
不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位(a2)5?90質量部と、
(メタ)アクリルアミドに由来する繰り返し単位(a3)5?90質量部と、を含有し、
前記水溶性重合体(A)の、25℃、1気圧における水に対する溶解度が、水100gに対して1g以上である、蓄電デバイス用組成物。
【化1】

【請求項2】
前記水溶性重合体(A)の10質量%水溶液のpH9における粘度が、500?150,000mPa・s/30rpmである、請求項1に記載の蓄電デバイス用組成物。
【請求項3】
前記液状媒体(B)が水である、請求項1または請求項2に記載の蓄電デバイス用組成物。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用組成物と、活物質と、を含有する蓄電デバイス電極用スラリー。
【請求項5】
前記活物質としてケイ素材料を含有する、請求項4に記載の蓄電デバイス電極用スラリー。
【請求項6】
スチレン-ブタジエン共重合体、アクリル系重合体及びフッ素系重合体からなる群より選択される少なくとも1種の重合体をさらに含有する、請求項4または請求項5に記載の蓄電デバイス電極用スラリー。
【請求項7】
増粘剤をさらに含有する、請求項4ないし請求項6のいずれか1項に記載の蓄電デバイス電極用スラリー。
【請求項8】
集電体と、前記集電体の表面上に請求項4ないし請求項7のいずれか一項に記載の蓄電デバイス電極用スラリーが塗布及び乾燥されて形成された活物質層と、を備える蓄電デバイス電極。
【請求項9】
請求項8に記載の蓄電デバイス電極を備える蓄電デバイス。」

第3 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、いずれも本願の出願前に、日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、甲第1?10号証(以下、順に「甲1」?「甲10」という。下記4参照。)を提出して、以下の申立理由1?3により、請求項1?9に係る本件特許を取り消すべきものである旨を主張している。

1 申立理由1(新規性)
本件発明1、3は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、取り消されるべきものである。

2 申立理由2(進歩性欠如)
本件発明1?9は、甲6に記載された発明と、甲7?9に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、取り消されるべきものである。

3 申立理由3(進歩性欠如)
本件発明1?9は、甲10に記載された発明と、甲7?9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、取り消されるべきものである。

4 証拠方法
甲1:国際公開第2015/146787号
甲2:「職場のあんぜんサイト:化学物質:メタクリル酸」
(https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/79-41-4.html)
甲3:「安全衛生情報センター:化学物質:N-メチロールアクリルアミド」
(https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/924-42-5.html)
甲4:「10%ポリビニルアルコール溶液|試薬ダイレクト|林純薬工業」
(https://direct.hpc-j.co.jp/uploads/sample/SDS/D/D2-11.pdf)
甲5:“高分子化学”第16巻 第171号、1959年、第437?440頁
甲6:特開2010-177060号公報
甲7:国際公開第2018/8555号
甲8:特開2019-57487号公報
甲9:特開2015-106488号公報
甲10:特許第6010788号公報

第4 当審の判断
次に述べるように、特許異議申立書(以下、「申立書」という。)に記載した特許異議の申立ての理由によっては本件特許の請求項1?9に係る特許を取り消すことはできない。

1 甲号証の記載及び甲号証に記載された発明

(1)甲1の記載
甲1には、「電気化学素子電極用導電性接着剤組成物及び電気化学素子電極用集電体」(発明の名称)に関して、次の記載がある。(なお、下線は当審が付与し、「…」は記載の省略を表す。以下同様。)。

ア「[0033] 乳化重合時に、さらにアニオン性界面活性剤を使用することが好ましい。アニオン性界面活性剤を使用することにより、重合安定性を向上させることができる。アニオン性界面活性剤としては、乳化重合において従来公知のものが使用できる。アニオン性界面活性剤の具体例としては、…ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム…などの脂肪族スルホン酸塩;などが挙げられる。」

イ「[0098] 以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、これらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例における部および%は、特に断りのない限り重量基準である。…」

ウ「[0102] (実施例1)
(粒子状結着剤の製造)
窒素雰囲気下(窒素気流下)において、攪拌機、温度計、冷却管を装着した反応容器に、イオン交換水、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを加え、60℃まで加熱し、保温した。60℃に達した所で、重合開始剤として過硫酸アンモニウムを加え、N-メチロール基を有するアクリルアミド単量体(N-メチロールアクリルアミド)40部、メタクリル酸リチウム30部及びビニルアルコール30部を、昇温しながら2時間かけて滴下した。
[0103] 滴下後70℃で5時間激しく攪拌し、同温度で保温した。単量体の重合転化率は95%であった。室温(25℃)に冷却後、反応液をろ別した。粒子状結着剤が、水及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムに分散したエマルションを得た。また、この粒子状結着剤の粒子径を測定したところ、130nmであった。
[0104] (接着剤組成物の製造) イオン交換水にノニオン系界面活性剤0.3部を溶かした水溶液へ、導電性カーボンA(グラファイト/アセチレンブラック=50/50、平均粒子径2μm)を18.5部及び導電性カーボンB(グラフェン)を1.2部添加し、ディスパーを使用して1500rpmで15分間撹拌した後、粒子状結着剤を固形分相当で7部添加して、さらにディスパーにて1500rpmで15分間撹拌した。さらにイオン交換水の量が73部となるようにイオン交換水を加え、接着剤組成物を作製した。
[0105] (導電性接着剤層の形成)
アルミニウムからなる集電体用基材に前記導電性接着剤を、キャスト法を用いてロールバーにて20m/分の成形速度で集電体用基材上に塗布し、60℃で1分間、引き続き120℃で2分間乾燥して、厚さ1μmの導電性接着剤層を形成した。これにより集電体用基材上に導電性接着剤層が形成された集電体を得た。
[0106] (電極の作製)
プラネタリーミキサーにコバルト酸リチウム100部…を加えて混合し、正極用の電極活物質層用スラリーを調製した。
[0107] 前記にて導電性接着剤層を形成したアルミニウム集電体に前記正極用の電極活物質層用スラリーを20m/分の成形速度で集電体の導電性接着剤層上に塗布し、120℃で5分間乾燥した後、5cm正方に打ち抜いて、厚さ100μmの電極活物質層を有するリチウムイオン二次電池用の正極を得た。」

エ「[請求項1] 導電性カーボン、粒子状結着剤、及び水を含み、
前記粒子状結着剤が(メタ)アクリルアミド単量体及び(メタ)アクリル酸塩単量体に由来する構成単位を含む重合体であることを特徴とする電気化学素子電極用導電性接着剤組成物。
[請求項2] 前記粒子状結着剤が、(メタ)アクリルアミド単量体5?70重量部及び(メタ)アクリル酸塩単量体1?50重量部を含む単量体混合物(但し、単量体成分の合計を100重量部とする)を重合して得られるものである請求項1に記載の電気化学素子電極用導電性接着剤組成物。

[請求項4] 前記粒子状結着剤が、ビニルアルコール、スチレンまたは(メタ)アクリロニトリルのいずれか1種類以上を含む単量体成分をさらに10?50重量部含む単量体混合物(但し、単量体成分の合計を100重量部とする)を重合して得られるものである請求項1?3のいずれかに記載の電気化学素子電極用導電性接着剤組成物。」

(2)甲1に記載された発明

ア 上記(1)エに摘記したとおり、甲1において、粒子状結着剤は所定の構成単位を含む重合体であるから、上記(1)ウに摘記した甲1の実施例1の「粒子状結着剤」([0102]?[0103])も重合体であるといえる。

イ 甲1の上記実施例1の「粒子状結着剤が水等に分散したエマルション」([0102]?[0103])について、その後どのように用いられるかを確認すると、上記(1)ウに摘記したとおり、まず、所定の水溶液に対し、粒子状結着剤を固形分相当で7部添加して、接着剤組成物が作製されており([0104])、上記接着剤組成物は、所定の基材上に所定の条件で塗布及び乾燥され、導電性接着剤層となっており([0105])、そして、上記導電性接着剤層上に所定の電極活物質層を形成すること等により、リチウムイオン二次電池用の正極を得ている([0106]?([0107]))。

ウ したがって、上記「粒子状結着剤が水等に分散したエマルション」は、最終製品であるリチウムイオン二次電池の製造に、少なくとも、その一部が用いられているといえ、その意味で、「リチウムイオン二次電池用」であるといえる。

エ 甲1の記載事項及び上記ア?ウを総合勘案し、特に、実施例1の「粒子状結着剤が水等に分散したエマルション」に着目すると、甲1には次の発明が記載されていると認められる。

「窒素雰囲気下において、攪拌機、温度計、冷却管を装着した反応容器に、イオン交換水、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを加え、60℃まで加熱し、保温し、60℃に達した所で、重合開始剤として過硫酸アンモニウムを加え、N-メチロールアクリルアミド単量体40重量部、メタクリル酸リチウム30重量部及びビニルアルコール30重量部を、昇温しながら2時間かけて滴下し、滴下後70℃で5時間激しく攪拌し、同温度で保温した後に、25℃に冷却後、反応液をろ別することによって得られた重合体である粒子状結着剤が、水及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムに分散した、リチウムイオン二次電池用エマルション。」(以下、「甲1発明」という。)

(3)甲2の記載
甲2には、「メタクリル酸」に関して、次の記載がある。

ア「9.物理的及び化学的性質

溶解度 水:89g/L(20℃)(HSDB(2017))」

(4)甲3の記載
甲3には、「N-メチロールアクリルアミド」に関して、次の記載がある。

ア「9.物理的及び化学的性質

溶解度 6.53E+005mg/L:SRC(Access on Jul.2010)」

(5)甲4の記載
甲4には、「10%ポリビニルアルコール溶液」に関して、次の記載がある。

ア「9.物理的及び化学的性質

溶解度 水に易溶。エタノールに不溶。」

(6)甲5の記載
甲5には、「アクリルアミドと酢酸ビニルの共重合」に関して、次の記載がある。

ア「3.結果と考察
3.1 共重合反応性比
種々の濃度組成でアクリルアミド(M_(1))と酢酸ビニル(M_(2))の共重合を行ない,窒素量の測定により共重合体組成を計算した結果を第1表に示す。」(第438頁左欄第21?25行)

イ「

」(第438頁左欄)

ウ「このようにして得られた組成の異なるアクリルアミド-酢酸ビニル共重合体はいずれも水溶性である。」(第439頁左欄第22?23行)

(7)甲6の記載
甲6には、「電池負極用バインダー組成物」(発明の名称)に関して、次の記載がある。

ア「【請求項1】
OH基を持つ水溶性高分子に、カルボキシル基を有するアニオン性単量体が必須として含まれる水溶性単量体(混合物)をグラフト(共)重合させることで得られるリチウムイオン二次電池負極用バインダー組成物。
【請求項2】
前記OH基を持つ水溶性高分子と、カルボキシル基を有するアニオン性単量体が必須として含まれる水溶性単量体(混合物)の質量比が、5:95?95:5であることを特徴とする請求項1のリチウムイオン二次電池負極用バインダー組成物。」

イ「【0012】
本発明の電池負極用バインダー組成物は、OH基を持つ水溶性高分子に、カルボキシル基を有するアニオン性単量体が必須として含まれる水溶性単量体(混合物)をグラフト(共)重合させることで得られる。
【0013】
本発明で用いるOH基を持つ水溶性高分子のうち、合成高分子としては、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリヒドロキシエチルメタアクリレート等を用いることができるが、特にポリビニルアルコールが好ましい。

【0017】
カルボキシル基を有するアニオン性単量体の例としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等が挙げられ、特にアクリル酸とイタコン酸が好ましい。これらのアニオン性単量体のうち、一種、もしくは複数種用いてもよい。これらは、未中和、部分中和、全中和のいずれの中和状態を用いることもできる。
【0018】
本発明のリチウムイオン二次電池負極用バインダー組成物は、グラフト(共)重合させる場合、カルボキシル基を有するアニオン性単量体の他、非イオン性単量体を共重合することができる。そのような非イオン性単量体の例としては、(メタ)アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリルアミド、ビニルピロリドン、ビニルホルムアミド、ビニルアセトアミド等が挙げられ、重合反応の容易さからアクリルアミドが最も好ましい。これらの水溶性単量体のうち、一種もしくは複数種用いてもよい。
【0019】
アニオン性単量体と、それと共重合する水溶性単量体とのモル比は、100:0?51:49の範囲である。しかしながら、本発明のバインダー組成物中にアニオン性単量体由来のカルボキシル基が少なすぎると、集電体に対する負極活物質の結着性が低下する。そのため、100:0?70:30が好ましい。さらにより好ましくは100:0?90:10である。」

ウ「【0024】
本発明のグラフト(共)重合体を用いて負極薄膜を作成するには、負極活物質、バインダー、溶媒を混錬しスラリーを作成する過程、次いで得られたスラリーを集電体上に塗布し乾燥する過程が必要となる。このとき用いる負極活物質の具体例としては、ハードカーボン、フッ化カーボン、グラファイト、天然黒鉛、メソフェーズカーボンマイクロビーズ(MCMB)、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維などの炭素質材料;ポリアセンなどの導電性高分子;Li_(3)Nなどのチッ化リチウム化合物;リチウム金属、リチウム合金などのリチウム系金属;SiB_(4、)SiB_(6、)Mg_(2)Si、Mg_(2)Sn、Ni_(2)Si、TiSi_(2、)MoSi_(2、)CoSi_(2、)NiSi_(2、)CaSi_(2)
、CrSi_(2、)Cu_(5)Si、FeSi_(2、)MnSi_(2、)NbSi_(2、)TaSi_(2、)VSi_(2)、WSi_(2、)ZnSi_(2、)SiC、Si_(3)
N_(4)、Si_(2)N_(2)O、SiO_(a)(0<a≦2)、SnO_(b)(0<b≦2)、SnSiO_(3、)LiSiOあるいはLiSnOなどのケイ素またはスズの化合物、及びケイ素またはスズの単体;…などが例示される。」

エ「【0029】
(合成例1)
攪拌機、還流冷却管、単量体滴下口、および窒素導入管を備えた4つ口500mlセパラブルフラスコに脱イオン水150.87g、60%アクリル酸水溶液7.0g、ギ酸ナトリウム0.40gを加え、均一な混合溶液とした。攪拌しながらポリビニルアルコール(重合度300)20.00gを加え、窒素導入管より窒素を導入し、恒温水槽により70℃に内部温度を調整した。窒素導入30分後、10%2、2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩化水素化物1.00gを添加し重合を開始させた。一方で、ギ酸ナトリウム0.40gに60%アクリル酸水溶液26.33gを加え、混合液を調整した。この混合液を、反応開始直後から5時間かけて系内に滴下しながら重合を行った。5時間後再度10%2、2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩化水素化物1.00gを添加し、さらに17時間重合を継続し反応を終了した。GPC-MALSにて分子量測定を行ったところ、重量平均分子量30万を示した。これをグラフト共重合体1とする。」

オ「【実施例1】
【0032】
上記グラフト共重合体1(濃度20wt%)をバインダーとして25重量部、天然黒鉛(LF-18A)を負極活物質として95重量部の割合で混合し、更に水を加えてスラリー中の全固形分が25%になるまで水を加えて十分攪拌し、負極電極用スラリーを得た。…
【0038】
これらの結果から、OH基を持つ水溶性高分子に、カルボキシル基を有するアニオン性単量体を主成分とする水溶性単量体をグラフト(共)重合させることで得られる電池負極用バインダー組成物(合成例1・2)は、負極薄膜作成時に負極活物質をスラリー中に均一に分散させ、負極活物質と集電体との高い結着性を誘起し、且つ可撓性の優れた負極薄膜を提供可能な電池負極用バインダー組成物であることがわかった。」

(8)甲6に記載された発明
上記(7)オに摘記した甲6の【0038】の記載を考慮すると、甲6の上記実施例1(【0032】)の「負極電極用スラリー」が「電池負極電極用スラリー」であることは自明であり、甲6の記載事項を総合勘案し、特に、上記合成例1のグラフト共重合体を混合した実施例1の「電池負極電極用スラリー」に着目すると、甲6には次の発明が記載されていると認められる。

「攪拌機、還流冷却管、単量体滴下口、および窒素導入管を備えた4つ口500mlセパラブルフラスコに脱イオン水150.87g、60%アクリル酸水溶液7.0g、ギ酸ナトリウム0.40gを加え、均一な混合溶液とした。攪拌しながらポリビニルアルコール(重合度300)20.00gを加え、窒素導入管より窒素を導入し、恒温水槽により70℃に内部温度を調整した。窒素導入30分後、10%2、2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩化水素化物1.00gを添加し重合を開始させ、一方で、ギ酸ナトリウム0.40gに60%アクリル酸水溶液26.33gを加え、混合液を調整して得た混合液を、反応開始直後から5時間かけて系内に滴下しながら重合を行い、5時間後再度10%2、2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩化水素化物1.00gを添加し、さらに17時間重合を継続し反応を終了することによって得られたグラフト共重合体(濃度20wt%)をバインダーとして25重量部、天然黒鉛(LF-18A)を負極活物質として95重量部の割合で混合し、更に水を加えてスラリー中の全固形分が25%になるまで水を加えて十分攪拌することにより製造された電池負極電極用スラリー。」(以下、「甲6発明」という。)

(9)甲7の記載
甲7には、「非水系二次電池電極用バインダー組成物、非水系二次電池電極用スラリー組成物、非水系二次電池用電極および非水系二次電池」(発明の名称)に関して、次の記載がある。

ア「[0016] また、本発明の非水系二次電池電極用バインダー組成物は、前記重合体Xの、温度20℃における溶解度が1g/100g-H_(2)O以上であることが好ましい。重合体Xの水に対する溶解度が上記下限以上であれば、例えば、水を溶媒または分散媒としたスラリー組成物を容易に調製することができ、当該スラリー組成物を用いて作製した電極が、電極活物質およびバインダー組成物の混合性に優れた均一な構造体を有する傾向になるからである。そして、均一な構造体を有する電極では電子抵抗が局所的に高まることなく均一に低下し、当該電極を備える二次電池を充電した際にリチウム等の金属の析出を抑制することができるからである。…」

イ「[0033]-含有割合-
そして、重合体Xは、全単量体単位100質量%中、(メタ)アクリルアミド単量体単位を10質量%以上60質量%以下の割合で含有する必要がある。また、(メタ)アクリルアミド単量体単位の含有割合は、15質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましい。重合体X中の(メタ)アクリルアミド単量体単位の含有割合が上記下限以上であれば、バインダー組成物を含むスラリー組成物中で電極活物質および導電材などの成分が良好に分散され、スラリー組成物の粘度安定性が優れるからである。また、重合体X中の(メタ)アクリルアミド単量体単位の含有割合が上記上限以下であれば、バインダー組成物を含むスラリー組成物の粘度が低下し過ぎることを抑制してスラリー組成物に優れた粘度安定性を発揮させ、スラリー組成物の保存安定性および電極合材層の形成時における取扱性を良好にすることができるからである。更に、重合体X中の(メタ)アクリルアミド単量体単位の含有割合が上記範囲内であれば、重合体Xを容易に調製することができるからである。」

ウ「[0053] そして、粒子状重合体としては、特に限定されることなく、例えば、共役ジエン系重合体、アクリル系重合体、不飽和カルボン酸系重合体などの任意の重合体を用いることができる。」

エ「[0069]<その他の成分>
また、本発明の非水系二次電池電極用バインダー組成物は、上述した成分の他に、補強材、レベリング剤、粘度調整剤、電解液添加剤等の任意のその他の成分を含有していてもよい。…」

オ「[0108]<粒子状重合体を含む水分散液の調製>
撹拌機付き5MPa耐圧容器に、芳香族ビニル単量体としてのスチレン65部、脂肪族共役ジエン単量体としての1,3-ブタジエン35部、カルボキシル基含有単量体としてのイタコン酸2部、ヒドロキシル基含有単量体としての2-ヒドロキシエチルアクリレート1部、分子量調整剤としてのt-ドデシルメルカプタン0.3部、乳化剤としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム5部、溶媒としてのイオン交換水150部、および、重合開始剤としての過硫酸カリウム1部を投入し、十分に撹拌した後、温度55℃に加温して重合を開始した。単量体消費量が95.0%になった時点で冷却し、反応を停止した。こうして得られた重合体を含んだ水分散体に、5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pHを8に調整した。その後、加熱減圧蒸留によって未反応単量体の除去を行った。さらにその後、温度30℃以下まで冷却することにより、カルボキシル基およびヒドロキシル基を有する粒子状重合体としてのスチレン-ブタジエン系共重合体を含む水分散液を得た。
[0109]<バインダー組成物およびスラリー組成物の調製>
本実施例では、以下の通り、スラリー組成物の調製に先立ってバインダー組成物を予め調製することなく、水溶性重合体および粒子状重合体を含有するバインダー組成物を含むスラリー組成物を調製した。即ち、バインダー組成物およびスラリー組成物を同一工程内で調製した。
即ち、プラネタリーミキサーに、負極活物質としての人造黒鉛(理論容量:360mAh/g)98部と、上述で得られた水溶性重合体を含む水溶液(固形分濃度:4.5%)を固形分相当で1部とを投入した。さらに、イオン交換水にて固形分濃度が60%となるように希釈し、その後、回転速度45rpmで60分混練した。その後、上述で得られた粒子状重合体を含む水分散液(固形分濃度:40%)を固形分相当で1部投入し、回転速度40rpmで40分混練した。そして、粘度が1100±100mPa・s(B型粘度計、25℃、12rpmで測定)となるようにイオン交換水を加えることにより、リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物を調製した。…」

カ「[0112]<リチウムイオン二次電池の製造>
単層のポリプロピレン製セパレータ、上記の負極および正極を用いて、捲回セル(放電容量520mAh相当)を作製し、アルミ包材内に配置した。その後、電解液として濃度1.0MのLiPF_(6)溶液(溶媒:エチレンカーボネート(EC)/エチルメチルカーボネート(EMC)=3/7(体積比)の混合溶媒、添加剤:ビニレンカーボネート2体積%(溶媒比)含有)を充填した。さらに、アルミ包材の開口を密封するために、温度150℃のヒートシールをしてアルミ包材を閉口し、リチウムイオン二次電池を製造した。…」

キ「[請求項1] 水溶性重合体を含むバインダー組成物であって、
前記水溶性重合体は、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位を1質量%以上50質量%以下、(メタ)アクリルアミド単量体単位を10質量%以上60質量%以下、およびヒドロキシル基含有ビニル単量体単位を5質量%以上89質量%以下含有する重合体Xを含む、非水系二次電池電極用バインダー組成物。」

(10)甲8の記載
甲8には、「リチウムイオン電池用バインダー水溶液、リチウムイオン電池用スラリー及びその製造方法、リチウムイオン電池用電極、リチウムイオン電池用セパレータ、リチウムイオン電池用セパレータ/電極積層体、並びにリチウムイオン電池」(発明の名称)に関して、次の記載がある。

ア「【請求項1】
アミド基を有する水溶性ポリマー(A)、並びに
トリヒドロキシシリル化合物、及び/又はテトラヒドロキシシリル化合物であるヒドロキシシリル化合物(A1)を含む、リチウムイオン電池用バインダー水溶液。」

イ「【0037】
水溶性ポリマー(A)100質量%中に含まれる(メタ)アクリルアミド基含有化合物(a)に由来する構成単位の割合の上限は、100、90、80、70、60、50、45質量%等が例示され、下限は、90、80、70、60、50、45、40質量%等が例示される。1つの実施形態において、水溶性ポリマー(A)100質量%中に含まれる(メタ)アクリルアミド基含有化合物(a)に由来する構成単位の割合は、40?100質量%が好ましく、45?100質量%がより好ましく、50?100質量%が特に好ましい。(メタ)アクリルアミド基含有化合物(a)に由来する構成単位が(A)成分に特定の量含まれることにより、電極活物質、フィラー、セラミック微粒子等の分散性が良好となり、均一な層(電極活物質層やセラミック微粒子層等)の製造が可能となるため構造欠陥がなくなり、良好な充放電特性を示す。さらに(メタ)アクリルアミド基含有化合物に由来する構成単位が(A)成分に特定の量含まれることにより、ポリマーの耐酸化性、耐還元性が良好となるため、高電圧時の劣化が抑制され良好な充放電耐久特性を示す。」

ウ「【0176】
【表1】

・AM:アクリルアミド(三菱ケミカル株式会社製 「50%アクリルアミド」)
・ATBS:アクリルアミドt-ブチルスルホン酸(東亞合成株式会社製 「ATBS」)
・NMAM:N-メチロールアクリルアミド(東京化成工業株式会社製)
・AA:アクリル酸(大阪有機化学工業株式会社製 「80%アクリル酸」)
・AN:アクリロニトリル(三菱ケミカル株式会社株式会社製 「アクリロニトリル」)
・HEMA:メタクリル酸2-ヒドロキシエチル(東京化成工業株式会社製)
・HEA:アクリル酸-2-ヒドロキシエチル(大阪有機化学工業株式会社製 「ヒドロキシエチルアクリレート)
・SMAS:メタリルスルホン酸ナトリウム」

エ「【0183】
実施例2-1
(2)リチウムイオン電池用スラリーの製造
市販の自転公転ミキサー(製品名「あわとり練太郎」、シンキー(株)製)を用い、上記ミキサー専用の容器に、実施例1-1の水溶液を固形分換算で7部と、D50が5μmのシリコン粒子を46.5質量部と、天然黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製 製品名「Z-5F」)を46.5質量部とを混合した。そこにイオン交換水を固形分濃度40%となるように加えて、当該容器を前記ミキサーにセットした。次いで、2000rpmで10分間混練後、1分間脱泡を行い、リチウムイオン電池用スラリーを得た。」

(11)甲9の記載
甲9には、「蓄電デバイス負極用スラリーおよび蓄電デバイス負極、蓄電デバイス正極用スラリーおよび蓄電デバイス正極、ならびに蓄電デバイス」(発明の名称)に関して、次の記載がある。

ア「【請求項1】
(メタ)アクリルアミドに由来する繰り返し単位を含有する水溶性重合体(A)と、
平均粒子径が3?15μmの活物質(B1)と、
液状媒体(C)と、
を含むことを特徴とする、蓄電デバイス負極用スラリー。」

イ「【0025】
本発明における「水溶性重合体」とは、1気圧、23℃における水1gへの溶解度が0.01g以上である重合体のことをいう。本発明における「水不溶性重合体」とは、1気圧、23℃における水1gへの溶解度が0.01g未満である重合体のことをいう。」

ウ「【0096】
4.1.実施例1
4.1.1.水溶性重合体(A)の合成
(1)水溶性重合体(A)を含む水溶液の調製
容量7Lのセパラブルフラスコの内部を十分に窒素置換した後、水1050質量部を仕込み、内温70℃に昇温し、次いで過硫酸ナトリウム0.3質量部を投入した。次いで、水110質量部、アクリルアミド80質量部、アクリル酸10質量部、アクリル酸エチル10質量部の混合液を1時間かけて滴下し、70℃±3℃で2時間反応を行い、さらに90℃±3℃で2時間反応を行った。その後、冷却し、20wt%水酸化ナトリウム水溶液でpH7に調節することにより、水溶性重合体(A)を8wt%含有する水溶液を得た。このようにして得られた水溶性重合体(A)を8wt%含有する水溶液を蓄電デバイス用バインダー組成物S1とした。蓄電デバイス用バインダー組成物S1を25℃に調整し、BM型粘度計を用いて粘度を測定したところ3000mPa・sであった。」

(12)甲10の記載
甲10には、「リチウムイオン二次電池用電極およびそれを用いたリチウムイオン二次電池」(発明の名称)に関して、次の記載がある。

ア「【請求項3】
ビニルアルコール系重合体ブロックを有するブロック共重合体と活物質とを含む活物質層が集電体表面に形成されてなるリチウムイオン二次電池用電極であって、前記ブロック共重合体が、アクリル酸単位、アクリル酸塩単位、アクリル酸エステル単位、メタクリル酸単位、メタクリル酸塩単位およびメタクリル酸エステル単位からなる群より選ばれる少なくとも1種の構成単位を含む重合体ブロックをさらに有する、リチウムイオン二次電池用電極。」

イ「【0019】
上記のブロック共重合体は、充放電特性やサイクル特性に一層優れる電池を与えることができ、また、電極や電池の生産性もより向上することから、アクリル酸単位、アクリル酸塩単位、アクリル酸エステル単位、メタクリル酸単位、メタクリル酸塩単位およびメタクリル酸エステル単位からなる群より選ばれる少なくとも1種の構成単位を含む重合体ブロック[以下、「(メタ)アクリル系重合体ブロック」と称することがある]をさらに有することが好ましい。

【0022】
上記のビニルアルコール系重合体ブロックは、ビニルアルコール単位を含む重合体ブロックである限り、その構造に特に制限はなく、例えば、酢酸ビニルに代表されるビニルエステルを重合して得られるビニルエステル系重合体を酸性物質またはアルカリ性物質の存在下にけん化して得られる重合体[以下、「重合体(a1)」と称することがある]に相当する重合体ブロックが挙げられる。
【0023】
上記のビニルエステル系重合体は、ビニルエステルの単独重合体であってもよいが、ビニルエステルとそれ以外の他のモノマーとが共重合した共重合体であってもよい。当該他のモノマーとしては、例えば、…アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、ジアセトンメタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類…などが挙げられ、ビニルエステル系重合体はこれらの他のモノマーの1種または2種以上に由来する構成単位を含むことができる。ビニルエステル系重合体を構成する全構成単位に対する上記他のモノマーに由来する構成単位の割合は、当該他のモノマーの種類にもよるが、60モル%以下であることが好ましく、30モル%以下であることがより好ましく、15モル%以下であることがさらに好ましい。

【0045】
電池用電極が負極に用いられる場合の活物質(負極活物質)としては、リチウムを吸蔵および放出可能な材料が挙げられ、具体的には、黒鉛、非晶質炭素、炭素繊維、コークス、活性炭等の炭素材料;リチウム、シリコン、すず、銀等の金属、これらの金属の酸化物またはこれらの金属の合金などが挙げられる。負極活物質は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。負極活物質は、リチウムイオン二次電池の用途に用いる場合に、サイクル特性や放電容量がより優れたものとなることから、炭素材料を含むことが好ましく、黒鉛を含むことが特に好ましい。」

ウ「【0061】
[製造例1]
ポリビニルアルコール-(b)-ポリアクリル酸共重合体(重合体A)の製造
…固形分13質量%のポリビニルアルコール-(b)-ポリアクリル酸共重合体(重合体A)の水溶液を得た。得られた水溶液の一部を乾燥した後、重水に溶解し、270MHzでの^(1)H-NMR測定を行った結果、[ビニルアルコール系重合体ブロックの質量]/[(メタ)アクリル系重合体ブロックの質量]で示される質量割合は100/18であった。上記の重合体Aの水溶液にさらにイオン交換水を添加し、固形分が8質量%となるように調整した。

【0068】
[実施例1]
電池用電極の作製
活物質として天然黒鉛(平均粒子経3μm)と、結着剤を含む水溶液として製造例1で調製した重合体Aの水溶液(固形分8質量%)とを、天然黒鉛95質量部に対し重合体Aが5質量部となるように混合し、さらにイオン交換水を適量添加して、活物質スラリーを調製した。次に、集電体としてニッケルメッシュ(線径0.1mm、目開き0.154mm)の一方の表面に、上記の活物質スラリーをドクターブレード法で塗布して乾燥し、集電体表面に活物質層を形成した電池用電極を作製した。活物質層の厚さは60μmであった。

【0070】
評価用二極式ビーカー型リチウムイオン二次電池の作製
上記で作製した電池用電極の対極としてリチウム金属箔(厚さ200μmのリチウム金属箔を5枚重ねたもの)を帯状に切り抜いた。リード線5が接続された電池用電極2、対極3を、電池用電極の活物質層と対極が対向するように配置して、電解質組成物4に活物質層が完全に浸漬するようにし、図1にその概略図を示すような評価用二極式ビーカー型リチウムイオン二次電池1を作製した。」

(13)甲10に記載された発明
上記(12)ウに摘記した甲10の【0068】の記載等を考慮すると、甲10の製造例1(【0061】)で調整した「重合体Aの水溶液(固形分8質量%)」が「電池用」であることは自明であり、甲10の記載事項を総合勘案し、特に、上記製造例1の「重合体Aの水溶液(固形分8質量%)」に着目すると、甲10には次の発明が記載されていると認められる。

「[ビニルアルコール系重合体ブロックの質量]/[(メタ)アクリル系重合体ブロックの質量]で示される質量割合が100/18である、ポリビニルアルコール-(b)-ポリアクリル酸共重合体(重合体A)の水溶液にさらにイオン交換水を添加し、固形分が8質量%となるように調整した電池用水溶液」(以下、「甲10発明」という。)

2 申立理由1(新規性)について

(1)本件発明1について

ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。

(ア)示性式で表すと、甲1発明の上記重合体の原料である「メタクリル酸リチウム」は「CH_(2)=C(CH_(3))-COOLi」であるから、重合後において、上記「メタクリル酸リチウム」に由来する繰り返し単位は、「-CH_(2)-CR(COOR’)-」を含む構造であるといえる(当審注;「R」は、炭化水素基を示し、R’は水素または1価の基を示すものである。以下同様。)。
一方で、示性式で表すと、本件発明1の「不飽和カルボン酸」は、「CH_(2)=CH-COOH」(アクリル酸)、「CH_(2)=C(CH_(3))-COOH」(メタクリル酸)、「CH_(2)=C(COOH)-CH_(2)-COOH」(イタコン酸)を含むものであるから、重合後において、「不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位(a2)」も、「-CH_(2)-CR(COOR’)-」を含む構造であるといえる。

(イ)上記(ア)のとおり、甲1発明の上記「メタクリル酸リチウムに由来する繰り返し単位」と、本件発明1の「不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位(a2)」とは、重合後の構造として、「-CH_(2)-CR(COOR’)-」が共通する。また、「メタクリル酸リチウム」は、「メタクリル酸由来」であるともいえる。
そうすると、甲1発明の上記重合体の原料である「メタクリル酸リチウム」が重合後に形成する繰り返し単位は、本件発明1の「不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位(a2)」に相当する。

(ウ)甲1発明の上記重合体の原料である「N-メチロールアクリルアミド」は、(メタ)アクリルアミドの下位概念に該当するから、本件発明1の「(メタ)アクリルアミド」に相当する。
そうすると、甲1発明の上記重合体の原料である「N-メチロールアクリルアミド」が重合後に形成する繰り返し単位は、本件発明1の「(メタ)アクリルアミドに由来する繰り返し単位(a3)」に相当する。

(エ)ここで、本件発明1には、「前記水溶性重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量部としたときに、前記重合体(A)が、
下記構造式(1)で表される繰り返し単位(a1)5?90質量部と、…」と特定されているが、上記「5?90質量部」は、本件明細書の記載(例えば、【0133】、【0155】)からして、上記繰り返し単位(a1)の原料の質量部を意味するといえる。
本件発明1の「不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位(a2)5?90質量部」及び「(メタ)アクリルアミドに由来する繰り返し単位(a3)5?90質量部」についても同様である。

(オ)甲1発明の上記重合体の原料であるビニルアルコール、メタクリル酸リチウム、N-メチロールアクリルアミド単量体が、重合後に、それぞれ、繰り返し単位となることは自明であって、甲1発明のビニルアルコールの「30重量部」、メタクリル酸リチウムの「30重量部」、N-メチロールアクリルアミド単量体の「40重量部」は、合計すると100(=30+30+40)重量部である。
そして、上記(エ)の観点も考慮すると、いずれも甲1発明の上記重合体の原料であるビニルアルコールの「30重量部」、メタクリル酸リチウムの「30重量部」及びN-メチロールアクリルアミド単量体の「40重量部」は、それぞれ、本件発明1における(a1)?(a3)の繰り返し単位の各「5?90質量部」の数値範囲内であるといえる(なお、甲1発明における「重量部」と本件発明1における「質量部」は同視できる。)。

(カ)よって、甲1発明の「重合体」と本件発明1の「水溶性重合体(A)」とは上記(ア)?(オ)の限りにおいて共通する重合体である。

(キ)甲1発明の「ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム」はアニオン性界面活性剤であるから([0033])、「水及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム」すなわち、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが溶解した水は、液状の媒体であることが自明であり、本件発明1の「液状媒体(B)」に相当する。

(ク)甲1発明の「リチウムイオン二次電池用エマルション」は、「リチウムイオン二次電池」が「蓄電デバイス」の下位概念に該当し、上記1(2)エのとおり、上記「エマルション」が重合体、水等を構成成分とする「組成物」であるから、本件発明1の「蓄電デバイス用組成物」に相当する。

(ケ)以上によれば、本件発明1と甲1発明とは、
「重合体(A)と、液状媒体(B)と、を含有し、
前記重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量部としたときに、前記重合体(A)が、
飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位(a2)5?90質量部と、
(メタ)アクリルアミドに由来する繰り返し単位(a3)5?90質量部と、を含有する蓄電デバイス用組成物」の点で一致し、以下の点で相違する。

・相違点1
「重合体(A)」が、本件発明1では、「水溶性重合体(A)」であって、「25℃、1気圧における水に対する溶解度が、水100gに対して1g以上である」のに対して、甲1発明では、「窒素雰囲気下において、攪拌機、温度計、冷却管を装着した反応容器に、イオン交換水、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを加え、60℃まで加熱し、保温し、60℃に達した所で、重合開始剤として過硫酸アンモニウムを加え、N-メチロールアクリルアミド単量体40重量部、メタクリル酸リチウム30重量部及びビニルアルコール30重量部を、昇温しながら2時間かけて滴下し、滴下後70℃で5時間激しく攪拌し、同温度で保温した後に、25℃に冷却後、反応液をろ別することによって得られた」重合体であって、「水及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムに分散した粒子状結着剤」であるものの、水溶性であるかどうか不明であり、25℃、1気圧における水に対する溶解度も不明である点。

・相違点2
「重合体(A)」が、本件発明1では、「構造式(1)で表される繰り返し単位(a1)」を「5?90質量部」含有するのに対して、甲1発明では、重合体の原料として、「ビニルアルコール」を30質量部含有するものの、「構造式(1)で表される繰り返し単位(a1)」を含有しているかどうか不明である点。

イ 相違点1の検討
事案に鑑み、まず、相違点1について検討する。

(ア)検討
甲1発明の上記重合体は、「水及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムに分散した粒子状結着剤」であり、上記1(1)ウに摘記した甲1の[0103]に記載されているとおり、粒子径を測定することができる程度に分散しているのであるから、水等に対し「分散」して存在しており、明らかに「水溶性」ではない。
また、上記1(3)?(6)に摘記した箇所を含め甲2?5の記載事項を確認しても、甲1発明の上記重合体が「水溶性」であるといえる根拠となる記載は見あたらない。
よって、相違点1は実質的な相違点である。

(イ)予備的見解
仮に甲1発明の上記重合体が、全く水に溶けないものではないとしても、甲1?5には、上記重合体の「25℃、1気圧における水に対する溶解度」が記載も示唆もされておらず、甲1?5の記載から、上記重合体が25℃、1気圧における水にどの程度溶解するかを定量的に予測することもできず、甲1発明の上記重合体について「25℃、1気圧における水に対する溶解度が、水100gに対して1g以上である」とはいえない。
よって、いずれにせよ相違点1は実質的な相違点である。

(ウ)相違点1に関する申立人の主張について

a 申立人の主張の要旨

(a)申立人は、申立書の第24頁第3?5行において、「一般に、共重合体の水溶性は、当該共重合体を構成する単量体単位の水溶性に影響を受けることから甲2?4に示されたような、水溶性の高い繰り返し単位のみからなる甲1発明における粒子状結着材(当審注;「粒子状結着材」は「粒子状結着剤」の誤記であると認定した。)は、水溶性を呈し得るといえる。」との旨を主張する(以下、「甲2?4を根拠とする主張」という。)。

(b)また、申立人は、申立書の第24頁第6?10行において、「さらに、甲5に示されたように、少なくとも、アクリルアミド-酢酸ビニル共重合体は、広い組成範囲において水溶性を呈し得るものであり、ここに水溶性に富むもう一種の単位(メタクリル酸単位)が組入れられた場合においても、上記した、本件発明1における水溶性の条件を満たす程度の水溶性を呈し得るといえる。」との旨を主張する(以下、「甲5を根拠とする主張」という。)。

b 甲2?4を根拠とする主張について

(a)上記1(2)エのとおり、甲1発明の上記重合体は、N-メチロールアクリルアミド単量体40重量部、メタクリル酸リチウム30重量部、ビニルアルコール30重量部等を反応させた重合体である。また、甲2?4に、上記1(3)?(5)に摘記したとおり、それぞれ、メタクリル酸、N-メチロールアクリルアミド、10%ポリビニルアルコールの溶解度がそれぞれ記載されている。

(b)しかしながら、仮に申立人の主張するように、「一般に、共重合体の水溶性は、当該共重合体を構成する単量体単位の水溶性に影響を受けるといえる」としても、以下のとおり甲1発明の重合体(粒子状結着剤)が「水溶性である」とまではいえない。
すなわち、例えば、水溶性の高い繰り返し単位のみからなる重合体であっても、「水溶性」にならない場合もあるので(本件明細書の【0144】?【0145】、【0156】に記載されている比較例6等)、水溶性の高い繰り返し単位のみからなる重合体であれば、必ず水溶性になるとまではいえない。

(c)よって、申立人の甲2?4を根拠とする主張は採用することができない。

c 甲5を根拠とする主張について

(a)申立人が、仮想的に、アクリルアミド-酢酸ビニル共重合体に、もう一種の単位としてメタクリル酸単位が組入れられてできるとされる重合体は、以下(b)のとおり、甲1発明の上記重合体と異なる構造になるといえ、構造が異なれば性質が同じになるかどうかは不明であるので、上記アクリルアミド-酢酸ビニル共重合体に、もう一種の単位としてメタクリル酸単位が組入れられてできるとされる重合体が、水溶性であるか否かは、甲1発明の上記重合体が水溶性であるか否かの判断を左右しない。
よって、申立人の甲5を根拠とする主張は採用することができない。

(b)上記アクリルアミド-酢酸ビニル共重合体に、もう一種の単位としてメタクリル酸単位が組入れられてできるとされる重合体と、甲1発明の上記重合体(すなわち、その構造は、N-メチロールアクリルアミド単量体に由来する繰り返し単位部分と、メタクリル酸リチウムに由来する繰り返し単位部分と、ビニルアルコールに由来する繰り返し単位部分とを含むといえる。)とは、以下(b-1)?(b-2)の点で構造が異なる。

(b-1)前者の「酢酸ビニル」に由来する繰り返し単位部分は、後者の「ビニルアルコール」に由来する繰り返し部分とは、「ビニル」に由来する部分で共通するものの、「ビニル」に由来する部分以外は構造が異なる。
すなわち、「ビニル」の部分以外が、前者は、酢酸基であるのに対し、後者は、水酸基である点で、両者は構造が異なる。

(b-2)前者の「メタクリル酸」に由来する繰り返し単位部分は、後者の「メタクリル酸リチウム」に由来する繰り返し部分とは、リチウムの有無で構造が異なる。

ウ 小括
以上から、本件発明1は、相違点2について検討するまでもなく、甲1発明と相違点1の点で相違するので、甲1発明ではない。

(2)本件発明3について
本件発明3は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであり、少なくとも、甲1発明と、相違点1と同じ相違点で相違しているといえる。
上記(1)で述べたとおり、相違点1は実質的な相違点である以上、本件発明3についても、同様に、甲1発明ではない。

(3)まとめ
以上から、本件発明1、3は、甲1発明であるとはいえない
したがって、申立理由1(新規性)によっては請求項1、3に係る特許を取り消すことはできない。

3 申立理由2(進歩性)について

(1)本件発明1について

ア 対比
本件発明1と甲6発明とを対比する。

(ア)甲6発明の上記グラフト共重合体の原料である「ポリビニルアルコール」は、その構造からして、重合後に、本件発明1の構造式(1)で表される繰り返し単位(a1)と同じ構造を形成することは自明である。
そうすると、甲6発明の上記「ポリビニルアルコール」が重合後に形成する繰り返し単位は、本件発明1の「構造式(1)で表される繰り返し単位(a1)」に相当する。

(イ)甲6発明の上記グラフト共重合体の原料である「60%アクリル酸水溶液」に含まれる「アクリル酸」は、本件発明1の「不飽和カルボン酸」の下位概念に該当するから、本件発明1の「不飽和カルボン酸」に相当する。
そうすると、甲6発明の上記「アクリル酸」が重合後に形成する繰り返し単位は、本件発明1の「不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位(a2)」に相当する。

(ウ)ここで、本件発明1には、「前記水溶性重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量部としたときに、前記重合体(A)が、
下記構造式(1)で表される繰り返し単位(a1)5?90質量部と、…」と特定されているが、上記「5?90質量部」は、本件明細書の記載(例えば、【0133】、【0155】)からして、上記繰り返し単位(a1)の原料の質量部を意味するといえる。
本件発明1の「不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位(a2)5?90質量部」及び「(メタ)アクリルアミドに由来する繰り返し単位(a3)5?90質量部」についても同様である。

(エ)甲6発明のグラフト共重合体の原料である、ポリビニルアルコール、アクリル酸が、重合後にそれぞれ繰り返し単位となることは自明であって、甲6発明のポリビニルアルコールの「20.00g」、アクリル酸の「20g(≒7.0g×60%+26.33g×60%)」は、合計すると40(=20.00+20)gであるから、上記合計「40g」を100質量部として換算すると、上記ポリビニルアルコールは、「50質量部」(=100質量部×20g/40g)であって、上記アクリル酸は、「50質量部」(=100質量部×20g/40g)であるといえる。

(オ)そして、上記(ウ)の観点も考慮すると、甲6発明における上記(エ)で算出したポリビニルアルコールの「50質量部」、アクリル酸の「50質量部」は、それぞれ、本件発明1における上記(a1)?(a2)の繰り返し単位の各「5?90質量部」の数値範囲内である。

(カ)よって、甲6発明の「グラフト共重合体」と本件発明1の「水溶性重合体(A)」とは上記(ア)?(オ)の限りにおいて共通する重合体である。

(キ)甲6発明の「水」は、液状の媒体であることが自明であり、本件発明1の「液状媒体(B)」に相当する。

(ク)甲6発明の「電池負極電極用スラリー」は、「電池負極電極」が「蓄電デバイス」の下位概念に該当し、上記1(8)のとおり、上記「スラリー」がグラフト共重合体、水等を構成成分とする「組成物」であるから、本件発明1の「蓄電デバイス用組成物」に相当する。

(ケ)以上によれば、本件発明1と甲6発明とは、
「重合体(A)と、液状媒体(B)と、を含有し、
前記重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量部としたときに、前記重合体(A)が、
下記構造式(1)で表される繰り返し単位(a1)5?90質量部と、
不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位(a2)5?90質量部と、を含有する蓄電デバイス用組成物
【化1】

」の点で一致し、以下の点で相違する。

・相違点3
「重合体(A)」が、本件発明1では、「(メタ)アクリルアミドに由来する繰り返し単位(a3)」を「5?90質量部」含有するのに対して、甲6発明では、「(メタ)アクリルアミドに由来する繰り返し単位(a3)」を含有していない点。

・相違点4
「重合体(A)」が、本件発明1では、「水溶性」であって、「25℃、1気圧における水に対する溶解度が、水100gに対して1g以上である」のに対して、甲6発明では、水溶性であるかどうか不明であり、25℃、1気圧における水に対する溶解度も不明である点。

イ 相違点3及び4の検討
相違点3及び4について検討する。

(ア)検討

a 上記1(7)イに摘記したとおり、甲6には、リチウムイオン二次電池負極用バインダー組成物を、グラフト(共)重合させる場合、カルボキシル基を有するアニオン性単量体の他、非イオン性単量体を共重合することができ、そのような非イオン性単量体の例としては、重合反応の容易さからアクリルアミドが最も好ましい旨(【0018】)、アニオン性単量体と、それと共重合する水溶性単量体とのモル比は、100:0?51:49の範囲である旨(【0019】)が示唆されている。

b しかしながら、仮に、甲6発明において、上記示唆から、上記グラフト共重合体に非イオン性単量体としてアクリルアミドを上記モル比の範囲で、更に共重合させる動機があるとしても、それにより形成されるグラフト共重合体(以下、便宜的に「グラフト共重合体b」という。)は、以下(a)?(c)のとおり、必ず「水溶性」になるとまではいえず、また、「25℃、1気圧における水に対する溶解度が、水100gに対して1g以上である」ともいえない。

(a)上記グラフト共重合体bは、ポリビニルアルコール、アクリル酸、アクリルアミドを重合したものであって、これらを、それぞれ、重合体の繰り返し単位とするものである。
上記1(7)イに摘記した甲6の【0012】?【0013】から、上記
ポリビニルアルコールは、OH基を持つ水溶性高分子として、甲6の【0012】、【0016】?【0017】から、上記アクリル酸は、カルボキシル基を有するアニオン性単量体を必須として含む水溶性単量体として、甲6の【0018】?【0019】から、上記アクリルアミドは、水溶性単量体として、それぞれグラフト共重合されたものである。

(b)上記(a)のとおり、上記グラフト共重合体bのグラフト共重合に用いる上記繰り返し単位の各原料は、いずれも水溶性であるといえるものの、上記2イ(ウ)bの検討と同様に検討すると、水溶性の繰り返し単位のみからなる重合体であれば、必ず水溶性になるとまではいえず、上記グラフト共重合体bが水溶性であるとはいえない。
甲6の他の記載内容を確認しても、上記グラフト共重合体bが「水溶性」であるといえる程の根拠は見あたらない。

(c)更に、甲7?9の他の記載内容を確認しても、甲7?9に開示されている各重合体は、いずれも、上記グラフト共重合体bと構造が、少なくとも一部異なっており、上記グラフト共重合体bと異なる構造の重合体が「水溶性」であることをもって、上記グラフト共重合体bが「水溶性」であるとはいえない。
よって、甲7?9には、上記グラフト共重合体bが「水溶性」であるといえる程の根拠や、上記グラフト共重合体bの「25℃、1気圧における水に対する溶解度」が記載も示唆もされておらず、甲7?9の記載から、上記グラフト共重合体bが25℃、1気圧における水にどの程度溶解するかを定量的に予測することもできず、上記グラフト共重合体bについて「25℃、1気圧における水に対する溶解度が、水100gに対して1g以上である」ともいえない。

(d)また、甲6?9のいずれの甲号証を参照しても、甲6発明において、グラフト共重合体について「25℃、1気圧における水に対する溶解度が、水100gに対して1g以上」とすることを動機付ける記載を見出すことができない。

ウ 小括
したがって、本件発明1は、甲6発明、甲7?9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件発明2?9について
本件発明2?9は、いずれも本件発明1の発明特定事項を全て含むものであり、少なくとも、甲6発明と、相違点3及び4と同じ相違点で相違しているといえる。
上記(1)で述べたとおり、甲6発明において相違点3及び4に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たことであるといえず、本件発明1が、甲6発明及び甲7?9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明2?9についても、同様に、甲6発明、甲7?9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)まとめ
以上から、本件発明1?9は、甲6発明及び甲7?9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない
したがって、申立理由2(進歩性)によっては請求項1?9に係る特許を取り消すことはできない。

4 申立理由3(進歩性)について

(1)本件発明1について

ア 対比
本件発明1と甲10発明とを対比する。

(ア)甲10発明の「ビニルアルコール系重合体ブロック」は、上記1(12)イに摘記した甲10の【0022】に記載されているとおり、ビニルアルコール単位を含む重合体ブロックを意味しており、ビニルアルコール単位を構造式で表すと、本件発明1の構造式(1)と同じになることは自明であるから、本件発明1の「構造式(1)で表される繰り返し単位(a1)」に相当する。

(イ)甲10発明の「(メタ)アクリル系重合体ブロック」は、上記1(12)イに摘記した甲10の【0019】に記載されているとおり、アクリル酸単位等からなる群より選ばれる少なくとも1種の構成単位を含む重合体ブロックを意味しており、「アクリル酸」は、「不飽和カルボン酸」の下位概念に該当するので、本件発明1の「不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位(a2)」に相当する。

(ウ)上記1(13)のとおり、甲10発明の重合体Aにおいて、[ビニルアルコール系重合体ブロックの質量]/[(メタ)アクリル系重合体ブロックの質量]で示される質量割合は、100/18である。

(エ)上記(ウ)の質量割合を、上記重合体A中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量部として換算すると、ビニルアルコール系重合体ブロックは、85質量部(≒100/(100+18))であり、(メタ)アクリル系重合体ブロックは、15質量部(≒18/(100+18))であるといえる。

(オ)上記(ウ)?(エ)から算出した、甲10発明におけるビニルアルコール系重合体ブロックの「85質量部」、(メタ)アクリル系重合体ブロックの「15質量部」は、それぞれ、本件発明1における(a1)?(a2)の繰り返し単位の各「5?90質量部」の数値範囲内である。

(カ)よって、甲10発明の「重合体A」と本件発明1の「水溶性重合体(A)」とは上記(ア)?(オ)の限りにおいて共通する重合体である。

(キ)甲10発明の「イオン交換水」は、液状の媒体であることが自明であり、本件発明1の「液状媒体(B)」に相当する。

(ク)甲10発明の「電池用水溶液」は、「電池」が「蓄電デバイス」の下位概念に該当し、上記1(13)のとおり、上記「水溶液」が重合体A、イオン交換水等を構成成分とする「組成物」であるから、本件発明1の「蓄電デバイス用組成物」に相当する。

(ケ)以上によれば、本件発明1と甲10発明とは、
「重合体(A)と、液状媒体(B)と、を含有し、
前記重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量部としたときに、前記重合体(A)が、
下記構造式(1)で表される繰り返し単位(a1)5?90質量部と、
不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位(a2)5?90質量部と、を含有する蓄電デバイス用組成物
【化1】

」の点で一致し、以下の点で相違する。

・相違点5
「重合体(A)」が、本件発明1では、「(メタ)アクリルアミドに由来する繰り返し単位(a3)」を「5?90質量部」含有するのに対して、甲10発明では、「(メタ)アクリルアミドに由来する繰り返し単位(a3)」を含有していない点。

・相違点6
「重合体(A)」が、本件発明1では、「水溶性」であって、「25℃、1気圧における水に対する溶解度が、水100gに対して1g以上である」のに対して、甲10発明では、水溶性であるかどうか不明であり、25℃、1気圧における水に対する溶解度も不明である点。

イ 相違点5及び6の検討
相違点5及び6について検討する。
上記3(1)イの検討と同様に検討すると、同様の理由によって、仮に、甲10発明において、上記重合体Aにアクリルアミドを所定の割合で、更に重合させる動機が何らかあるとしても、それにより形成される重合体が必ず「水溶性」になるとまではいえず、また、「25℃、1気圧における水に対する溶解度が、水100gに対して1g以上である」ともいえない。
また、甲7?10のいずれの甲号証を参照しても、甲10発明において、重合体について「25℃、1気圧における水に対する溶解度が、水100gに対して1g以上」とすることを動機付ける記載を見出すことができない。

ウ 小括
したがって、本件発明1は、甲10発明、甲7?9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件発明2?9について
本件発明2?9は、いずれも本件発明1の発明特定事項を全て含むものであり、少なくとも、甲10発明と、相違点5及び6と同じ相違点で相違しているといえる。
上記(1)で述べたとおり、甲10発明において相違点5及び6に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たことであるといえず、本件発明1が、甲10発明及び甲7?9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明2?9についても、同様に、甲10発明、甲7?9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)まとめ
以上から、本件発明1?9は、甲10発明及び甲7?9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない
したがって、申立理由3(進歩性)によっては請求項1?9に係る特許を取り消すことはできない。

第5 結び
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-11-12 
出願番号 特願2019-159402(P2019-159402)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (H01M)
P 1 651・ 121- Y (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 藤原 敬士  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 井上 猛
祢屋 健太郎
登録日 2021-01-25 
登録番号 特許第6828782号(P6828782)
権利者 JSR株式会社
発明の名称 蓄電デバイス用組成物、蓄電デバイス電極用スラリー、蓄電デバイス電極、及び蓄電デバイス  
代理人 松本 充史  
代理人 布施 行夫  
代理人 大渕 美千栄  
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