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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
管理番号 1379893
異議申立番号 異議2021-700684  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-12-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-07-15 
確定日 2021-11-24 
異議申立件数
事件の表示 特許第6818037号発明「半導体チップの製造方法、キット」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6818037号の請求項1?36に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6818037号の請求項1?36に係る特許についての出願は、2017年(平成29年)9月29日(優先権主張 平成28年9月30日)を国際出願日とする出願であって、令和3年1月4日にその特許権の設定登録がされ、同年1月20日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、同年7月15日に特許異議申立人星正美は、特許異議の申立てを行った。

第2 本件発明
特許第6818037号の請求項1?36の特許に係る発明(以下、それぞれ順に「本件発明1」?「本件発明36」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?36に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
基材上に、絶縁膜を形成する工程1と、
前記絶縁膜上に、パターン状のレジスト膜を形成する工程2と、
前記パターン状のレジスト膜をマスクとして、前記絶縁膜をエッチングして、開口部を有する絶縁膜を形成する工程3と、
前記パターン状のレジスト膜を除去する工程4と、
前記開口部を有する絶縁膜の前記開口部を金属で充填する工程5と、
前記金属が充填された絶縁膜に対して、化学機械研磨を実施する工程6と、を有する半導体チップの製造方法であって、
前記工程1?前記工程6の少なくとも1つの工程において、
Fe原子、Cr原子、Ni原子、及び、Pb原子からなる群から選択される少なくとも1種の金属原子を含む金属不純物、並びに、有機溶剤を含む薬液であって、前記薬液中における、前記金属原子の合計含有量が0.001?100質量pptである薬液を使用する、半導体チップの製造方法であって、
前記工程2が、
前記絶縁膜上に、プリウェット液を塗布する工程2-1と、
前記プリウェット液が塗布された前記絶縁膜上に、レジスト膜形成用組成物を塗布して、塗膜を形成する工程2-2と、
前記塗膜をパターン状に露光して、現像液を用いた現像処理を施し、パターン状のレジスト膜を形成する工程2-3と、を有し、
前記プリウェット液及び前記現像液の、少なくとも前記プリウェット液として、前記薬液が用いられる、半導体チップの製造方法。」
【請求項2】
基材上に、絶縁膜を形成する工程1と、
前記絶縁膜上に、パターン状のレジスト膜を形成する工程2と、
前記パターン状のレジスト膜をマスクとして、前記絶縁膜をエッチングして、開口部を有する絶縁膜を形成する工程3と、
前記パターン状のレジスト膜を除去する工程4と、
前記開口部を有する絶縁膜の前記開口部を金属で充填する工程5と、
前記金属が充填された絶縁膜に対して、化学機械研磨を実施する工程6と、を有する半導体チップの製造方法であって、
前記工程1?前記工程6の少なくとも1つの工程において、
Fe原子、Cr原子、Ni原子、及び、Pb原子からなる群から選択される少なくとも1種の金属原子を含む金属不純物、並びに、有機溶剤を含む薬液であって、前記薬液中における、前記金属原子の合計含有量が0.001?100質量pptである薬液を使用する、半導体チップの製造方法であって、
前記薬液が有機不純物を含み、
前記薬液中における、前記有機不純物の合計含有量が、前記薬液の全質量に対して0.1?5000質量ppmである、半導体チップの製造方法。
【請求項3】
基材上に、絶縁膜を形成する工程1と、
前記絶縁膜上に、パターン状のレジスト膜を形成する工程2と、
前記パターン状のレジスト膜をマスクとして、前記絶縁膜をエッチングして、開口部を有する絶縁膜を形成する工程3と、
前記パターン状のレジスト膜を除去する工程4と、
前記開口部を有する絶縁膜の前記開口部を金属で充填する工程5と、
前記金属が充填された絶縁膜に対して、化学機械研磨を実施する工程6と、を有する半導体チップの製造方法であって、
前記工程1?前記工程6の少なくとも1つの工程において、
Fe原子、Cr原子、Ni原子、及び、Pb原子からなる群から選択される少なくとも1種の金属原子を含む金属不純物、並びに、有機溶剤を含む薬液であって、前記薬液中における、前記金属原子の合計含有量が0.001?100質量pptである薬液を使用する、半導体チップの製造方法であって、
前記薬液が有機不純物を含み、
前記薬液中における、前記有機不純物の合計含有量が、前記薬液の全質量に対して0.1?5000質量ppmであり、
前記有機不純物が、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジイソノニル、アジピン酸ジオクチル、フタル酸ジブチル、エチレンゴム、エチレンプロピレンゴム、及び、5-エチリデン-2-ノルボルネンの付加重合体からなる群より選ばれる1種以上である、半導体チップの製造方法。
【請求項4】
基材上に、絶縁膜を形成する工程1と、
前記絶縁膜上に、パターン状のレジスト膜を形成する工程2と、
前記パターン状のレジスト膜をマスクとして、前記絶縁膜をエッチングして、開口部を有する絶縁膜を形成する工程3と、
前記パターン状のレジスト膜を除去する工程4と、
前記開口部を有する絶縁膜の前記開口部を金属で充填する工程5と、
前記金属が充填された絶縁膜に対して、化学機械研磨を実施する工程6と、を有する半導体チップの製造方法であって、
前記工程1?前記工程6の少なくとも1つの工程において、
Fe原子、Cr原子、Ni原子、及び、Pb原子からなる群から選択される少なくとも1種の金属原子を含む金属不純物、並びに、有機溶剤を含む薬液であって、前記薬液中における、前記金属原子の合計含有量が0.001?100質量pptである薬液を使用する、半導体チップの製造方法であって、
前記薬液が有機不純物を含み、
前記薬液中における、前記有機不純物の合計含有量が、前記薬液の全質量に対して0.1?5000質量ppmであり、
前記有機不純物が、フタル酸ジイソノニル、アジピン酸ジオクチル、エチレンゴム、エチレンプロピレンゴム、及び、5-エチリデン-2-ノルボルネンの付加重合体からなる群より選ばれる1種以上である、半導体チップの製造方法。
【請求項5】
基材上に、絶縁膜を形成する工程1と、
前記絶縁膜上に、パターン状のレジスト膜を形成する工程2と、
前記パターン状のレジスト膜をマスクとして、前記絶縁膜をエッチングして、開口部を有する絶縁膜を形成する工程3と、
前記パターン状のレジスト膜を除去する工程4と、
前記開口部を有する絶縁膜の前記開口部を金属で充填する工程5と、
前記金属が充填された絶縁膜に対して、化学機械研磨を実施する工程6と、を有する半導体チップの製造方法であって、
前記工程1?前記工程6の少なくとも1つの工程において、
Fe原子、Cr原子、Ni原子、及び、Pb原子からなる群から選択される金属原子を含む金属不純物、並びに、有機溶剤を含む薬液であって、前記金属不純物は少なくともPb原子を含み、前記薬液中における、前記金属原子の合計含有量が0.001?100質量pptであり、前記薬液中における、Pb原子の含有量が0.001?50質量pptである薬液を使用する、半導体チップの製造方法。
【請求項6】
基材上に、絶縁膜を形成する工程1と、
前記絶縁膜上に、パターン状のレジスト膜を形成する工程2と、
前記パターン状のレジスト膜をマスクとして、前記絶縁膜をエッチングして、開口部を有する絶縁膜を形成する工程3と、
前記パターン状のレジスト膜を除去する工程4と、
前記開口部を有する絶縁膜の前記開口部を金属で充填する工程5と、
前記金属が充填された絶縁膜に対して、化学機械研磨を実施する工程6と、を有する半導体チップの製造方法であって、
前記工程1?前記工程6の少なくとも1つの工程において、
Fe原子、Cr原子、Ni原子、及び、Pb原子からなる群から選択される少なくとも1種の金属原子を含む金属不純物、並びに、有機溶剤を含む薬液であって、前記薬液中における、前記金属原子の合計含有量が0.001?100質量pptである薬液を使用する、半導体チップの製造方法であって、
前記工程2が、
前記絶縁膜上に、プリウェット液を塗布する工程2-1と、
前記プリウェット液が塗布された前記絶縁膜上に、レジスト膜形成用組成物を塗布して、塗膜を形成する工程2-2と、
前記塗膜をパターン状に露光して、現像液を用いた現像処理を施し、パターン状のレジスト膜を形成する工程2-3と、を有し、
前記レジスト膜形成用組成物が、ネガ型フォトレジスト組成物である、半導体チップの製造方法。
【請求項7】
前記薬液が有機不純物を含み、
前記薬液中における、前記有機不純物の合計含有量が、前記薬液の全質量に対して0.1?5000質量ppmである、請求項1、5、及び、6のいずれか1項に記載の半導体チップの製造方法。
【請求項8】
前記薬液中において、光散乱式液中粒子計数器によって計数される、0.1μm以上のサイズの被計数体の数が100個/mL以下である、請求項1?7のいずれか1項に記載の半導体チップの製造方法。
【請求項9】
前記薬液が水を含み、
前記薬液中における、水の含有量が、前記薬液の全質量に対して0.01?1.0質量%である、請求項1?8のいずれか1項に記載の半導体チップの製造方法。
【請求項10】
前記有機溶剤が、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、乳酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、γ-ブチロラクトン、ジイソアミルエーテル、酢酸ブチル、及び、4-メチル-2-ペンタノールからなる群から選択される、請求項1?9のいずれか1項に記載の半導体チップの製造方法。
【請求項11】
前記工程2が、
前記絶縁膜上に、プリウェット液を塗布する工程2-1と、
前記プリウェット液が塗布された前記絶縁膜上に、レジスト膜形成用組成物を塗布して、塗膜を形成する工程2-2と、
前記塗膜をパターン状に露光して、現像液を用いた現像処理を施し、パターン状のレジスト膜を形成する工程2-3と、を有し、
前記プリウェット液及び前記現像液の少なくとも一方として、前記薬液が用いられる、請求項2?5のいずれか1項に記載の半導体チップの製造方法。
【請求項12】
前記工程2が、
前記絶縁膜上に、プリウェット液を塗布する工程2-1と、
前記プリウェット液が塗布された前記絶縁膜上に、レジスト膜形成用組成物を塗布して、塗膜を形成する工程2-2と、
前記塗膜をパターン状に露光して、現像液を用いた現像処理を施し、パターン状のレジスト膜を形成する工程2-3と、
前記工程2-3の後に、更に、リンス液を用いて前記パターン状のレジスト膜を洗浄する工程2-4と、を有し、
前記リンス液として、前記薬液が用いられる、請求項2?5のいずれか1項に記載の半導体チップの製造方法。
【請求項13】
前記露光が、EUV光によって行われる、請求項1、6、11、及び、12のいずれか1項に記載の半導体チップの製造方法。
【請求項14】
前記パターン状のレジスト膜が、メタルハードマスクである、請求項2?5のいずれか1項に記載の半導体チップの製造方法。
【請求項15】
前記工程1において、物理蒸着法、化学蒸着法、又は、スピンコート法を用いて、ケイ素原子を含む絶縁膜を形成する、請求項1?14のいずれか1項に記載の半導体チップの製造方法。
【請求項16】
前記工程3において、前記絶縁膜のエッチングが、窒素ガス及びハロゲンガスを含むエッチングガスを用いたプラズマエッチングにより実施される、請求項1?15のいずれか1項に記載の半導体チップの製造方法。
【請求項17】
前記工程4において、アルカリ成分及び有機溶剤を含む処理液を用いた処理、又は、酸素アッシングにより、前記パターン状のレジスト膜を除去する、請求項1?16のいずれか1項に記載の半導体チップの製造方法。
【請求項18】
前記工程4において、前記工程3で実施されたエッチングにより生じた不純物を除去する処理が実施される、請求項1?17のいずれか1項に記載の半導体チップの製造方法。
【請求項19】
前記不純物を除去する処理が、ヒドロキシルアミン化合物を含む処理液を用いた洗浄処理によって実施される、請求項18に記載の半導体チップの製造方法。
【請求項20】
前記工程5において、物理蒸着法、化学蒸着法、及び、めっき法のいずれかで、前記開口部を有する絶縁膜の前記開口部を金属で充填する、請求項1?19のいずれか1項に記載の半導体チップの製造方法。
【請求項21】
前記工程5において、前記金属が、Cu、Al、Co、W、Ta、TaN、Ti、TiN、Ru、Mn、又は、それらの合金である、請求項1?20のいずれか1項に記載の半導体チップの製造方法。
【請求項22】
前記工程5が、
前記開口部を有する絶縁膜の前記開口部に、Ta、TaN、Ti、TiN、Ru、Mn、及び、それらの合金からなる群から選択される第1金属を充填する工程5-1と、
前記第1金属が充填された開口部に更に、Cu、Al、Co、W、及び、それらの合金からなる群から選択される第2金属を充填する工程5-2と、を有する、請求項21に記載の半導体チップの製造方法。
【請求項23】
前記工程6が、アミノ酸を含む研磨液を用いて前記化学機械研磨を行う工程6-1を有する、請求項22に記載の半導体チップの製造方法。
【請求項24】
前記工程6が、有機酸を含み、アルカリ性を示す研磨液を用いて前記化学機械研磨を行う工程6-2を有する、請求項22又は23に記載の半導体チップの製造方法。
【請求項25】
前記工程6の後に、前記化学機械研磨が施された絶縁膜に対して、多価カルボン酸を含む洗浄液を用いて洗浄処理を施す工程を有する、請求項1?24のいずれか1項に記載の半導体チップの製造方法。
【請求項26】
前記工程1の前に、基材上にエッチングストッパー層を形成する工程を有する、請求項1?25のいずれか1項に記載の半導体チップの製造方法。
【請求項27】
前記工程1?前記工程6を実施した後、更に、前記工程1?前記工程6の一部又は全部を繰り返し実施する、請求項1?26のいずれか1項に記載の半導体チップの製造方法。
【請求項28】
前記有機不純物が、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジイソノニル、アジピン酸ジオクチル、フタル酸ジブチル、エチレンゴム、エチレンプロピレンゴム、及び、5-エチリデン-2-ノルボルネンの付加重合体からなる群より選ばれる1種以上である、請求項7に記載の半導体チップの製造方法。
【請求項29】
前記プリウェット液及び前記現像液の少なくとも一方として、前記薬液が用いられる、請求項6に記載の半導体チップの製造方法。
【請求項30】
前記工程2-3の後に、更に、リンス液を用いて前記パターン状のレジスト膜を洗浄する工程2-4と、を有し、
前記リンス液として、前記薬液が用いられる、請求項6に記載の半導体チップの製造方法。
【請求項31】
プリウェット液、現像液、リンス液、研磨液、および、レジスト膜形成用組成物からなる群から選択される2種以上を含むキットであって、
前記キットが少なくとも前記プリウェット液を含み、
前記プリウェット液、前記現像液、前記リンス液、前記研磨液、および、前記レジスト膜形成用組成物のいずれも、以下の薬液Xを含む、キット。
薬液X:Fe原子、Cr原子、Ni原子、及び、Pb原子からなる群から選択される少なくとも1種の金属原子を含む金属不純物、並びに、有機溶剤を含む薬液であって、前記薬液中における、前記金属原子の合計含有量が0.001?100質量pptである薬液を含む。
【請求項32】
プリウェット液、現像液、リンス液、研磨液、および、レジスト膜形成用組成物からなる群から選択される2種以上を含むキットであって、
前記プリウェット液、前記現像液、前記リンス液、前記研磨液、および、前記レジスト膜形成用組成物のいずれも、以下の薬液Xを含む、キット。
薬液X:Fe原子、Cr原子、Ni原子、及び、Pb原子からなる群から選択される少なくとも1種の金属原子を含む金属不純物、並びに、有機溶剤を含む薬液であって、前記薬液中における、前記金属原子の合計含有量が0.001?100質量pptである薬液を含み、
前記薬液は有機不純物を含み、
前記薬液中における、前記有機不純物の合計含有量が、前記薬液の全質量に対して0.1?5000質量ppmである。
【請求項33】
プリウェット液、現像液、リンス液、研磨液、および、レジスト膜形成用組成物からなる群から選択される2種以上を含むキットであって、
前記プリウェット液、前記現像液、前記リンス液、前記研磨液、および、前記レジスト膜形成用組成物のいずれも、以下の薬液Xを含む、キット。
薬液X:Fe原子、Cr原子、Ni原子、及び、Pb原子からなる群から選択される少なくとも1種の金属原子を含む金属不純物、並びに、有機溶剤を含む薬液であって、前記薬液中における、前記金属原子の合計含有量が0.001?100質量pptである薬液を含み、
前記薬液が有機不純物を含み、
前記薬液中における、前記有機不純物の合計含有量が、前記薬液の全質量に対して0.1?5000質量ppmであり、
前記有機不純物が、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジイソノニル、アジピン酸ジオクチル、フタル酸ジブチル、エチレンゴム、エチレンプロピレンゴム、及び、5-エチリデン-2-ノルボルネンの付加重合体からなる群より選ばれる1種以上である。
【請求項34】
プリウェット液、現像液、リンス液、研磨液、および、レジスト膜形成用組成物からなる群から選択される2種以上を含むキットであって、
前記プリウェット液、前記現像液、前記リンス液、前記研磨液、および、前記レジスト膜形成用組成物のいずれも、以下の薬液Xを含む、キット。
薬液X:Fe原子、Cr原子、Ni原子、及び、Pb原子からなる群から選択される少なくとも1種の金属原子を含む金属不純物、並びに、有機溶剤を含む薬液であって、前記薬液中における、前記金属原子の合計含有量が0.001?100質量pptである薬液を含み、
前記薬液が有機不純物を含み、
前記薬液中における、前記有機不純物の合計含有量が、前記薬液の全質量に対して0.1?5000質量ppmであり、
前記有機不純物が、フタル酸ジイソノニル、アジピン酸ジオクチル、エチレンゴム、エチレンプロピレンゴム、及び、5-エチリデン-2-ノルボルネンの付加重合体からなる群より選ばれる1種以上である。
【請求項35】
プリウェット液、現像液、リンス液、研磨液、および、レジスト膜形成用組成物からなる群から選択される2種以上を含むキットであって、
前記プリウェット液、前記現像液、前記リンス液、前記研磨液、および、前記レジスト膜形成用組成物のいずれも、以下の薬液Xを含む、キット。
薬液X:Fe原子、Cr原子、Ni原子、及び、Pb原子からなる群から選択される金属原子を含む金属不純物、並びに、有機溶剤を含む薬液であって、前記金属不純物は少なくともPb原子を含み、前記薬液中における、前記金属原子の合計含有量が0.001?100質量pptであり、前記薬液中における、Pb原子の含有量が0.001?50質量pptである薬液を含む。
【請求項36】
プリウェット液、現像液、リンス液、研磨液、および、レジスト膜形成用組成物からなる群から選択される2種以上を含むキットであって、
前記キットが少なくともネガ型フォトレジスト組成物である前記レジスト膜形成用組成物を含み、
前記プリウェット液、前記現像液、前記リンス液、前記研磨液、および、前記レジスト膜形成用組成物のいずれも、以下の薬液Xを含む、キット。
薬液X:Fe原子、Cr原子、Ni原子、及び、Pb原子からなる群から選択される少なくとも1種の金属原子を含む金属不純物、並びに、有機溶剤を含む薬液であって、前記薬液中における、前記金属原子の合計含有量が0.001?100質量pptである薬液を含む。」

第3 申立理由の概要
特許異議申立人星正美は、主たる証拠として以下の文献1、及び、従たる証拠として以下の文献2ないし文献15を提出し、請求項1、31に係る特許は、文献1?4に基づき、請求項2、32に係る特許は、文献1、5に基づき、請求項3、4、33、34に係る特許は、文献1、5、7に基づき、請求項5、35に係る特許は、文献1、4、5に基づき、請求項6、36に係る特許は、文献1、2、3、5、7に基づき、請求項7、28、29に係る特許は、文献1?5、7に基づき、請求項8?11に係る特許は、文献1?5、7、8に基づき、請求項12に係る特許は、文献1?5、7、9に基づき、請求項13に係る特許は、文献1?5、7に基づき、請求項14に係る特許は、文献1?5、7、10に基づき、請求項15、16、30に係る特許は、文献1?5、7?10に基づき、請求項17?22に係る特許は、文献1?5、7?12に基づき、請求項23、24に係る特許は、文献1?5、7?13に基づき、請求項25に係る特許は、文献1?5、7?14に基づき、請求項26、27に係る特許は、文献1?5、7?15に基づき、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(以下「申立理由1」という。)から、請求項1?36に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。

<証拠一覧>
1.特開2010-219466号公報
2.特開2013-73061号公報
3.特開2014-220301号公報
4.特開2016-73922号公報
5.特開平11-236660号公報
6.特開2002-121160号公報
7.国際公開第2015/190174号
8.特開2008-208048号公報
9.特開2013-46005号公報
10.特開2016-66717号公報
11.特開2012-9513号公報
12.特開2000-150519号公報
13.特開2007-243120号公報
14.特開2009-182225号公報
15.特開2016-43447号公報

第4 文献の記載
1 文献1の記載、引用発明、文献1に記載の技術
(1)文献1の記載(下線は合議体が付加した。以下同じ。)
「【請求項1】
基板上に層間絶縁膜を形成する層間絶縁膜工程と、
前記層間絶縁膜上にポジレジストを塗布するレジスト塗布工程と、
配線パターンを露光する際の露光エネルギーよりも高いエネルギーの光を前記基板の周辺領域に照射し、前記ポジレジストをネガ化させる周辺露光と、前記ポジレジストに前記配線パターンを露光するパターン露光とを行う露光工程と、
前記ネガ化させたポジレジストを残して、前記パターン露光により露光された領域のポジレジストを現像により除去する現像工程と、
前記現像工程後に残った前記ポジレジストをマスクとして、前記層間絶縁膜をエッチングするエッチング工程と、
前記ポジレジストを除去し、前記層間絶縁膜のエッチングされた領域に配線材料を埋め込む埋込工程と、
研磨により前記層間絶縁膜表面を平坦化し前記配線材料の配線層を形成する平坦化工程と、を有することを特徴とする半導体装置の製造方法。」

「【0017】
〔第1の実施の形態〕
第1の実施の形態における半導体装置の製造方法について説明する。本実施の形態は、図2に示すように半導体ウエハ11の周辺領域11aにおいてポジ型のフォトレジストのネガ化させるための周辺露光を行うものである。図3は、本実施の形態における多層配線を有する半導体装置の製造工程図である。
【0018】
最初に、図3(a)に示すように、半導体基板である半導体ウエハ11(例えば、シリコンウエハ)上に第1の層間絶縁膜12を形成する。この第1の層間絶縁膜12は、酸化シリコン等により形成されるものであり、塗布法又は真空成膜法により形成される。
【0019】
次に、図3(b)に示すように、第1の層間絶縁膜12上にポジ型のフォトレジスト13を塗布する。ポジ型のフォトレジス13の塗布は、スピンコーター等により塗布する。ポジ型のレジスト13を塗布した後、半導体ウエハ11の裏面に回り込んだポジ型のレジストを除去するためベベルリンスを必要に応じて行なう。尚、本実施の形態において用いたポジ型のフォトレジスト13は、紫外光により感光する一般的な化学増感型のフォトレジストである。」

「【0027】
次に、図3(d)に示すように、ポジ型のフォトレジスト13に対してパターン露光を行なう。パターン露光において照射される露光エネルギーは26mJ/cm^(2)である。このパターン露光には、ArF又はKrF等のエキシマレーザーを光源とするステッパー又はスキャナー等の露光装置が用いられる。ステッパー又はスキャナー等の露光装置による露光では、レチクルに形成されたパターンを半導体ウエハ11よりも小さな領域ごとに、半導体ウエハ11上におけるポジ型のフォトレジスト13を順次露光するものである。このようなステッパー又はスキャナー等の露光装置による露光は、ステップアンドリピートにより露光を行うものである。このようにステップアンドリピートにより露光を行った場合には、半導体ウエハ11の周辺部においては、上記の露光される小さな領域は、半導体ウエハ11上からはみ出してしまう。しかしながら、前述のとおり周辺露光を行なうことにより、半導体ウエハ11の周辺部分においてはポジ型のレジスト13がネガ化しており、現像液への溶解速度が低いため、パターン露光によりレジストパターンが形成されることはない。
【0028】
次に、図3(e)に示すように、現像液による現像を行なう。これにより、パターン露光の際に光が照射されなかった領域及び周辺露光がされた半導体ウエハ11の周辺領域(ネガ化領域13a)において、ポジ型のレジスト13が残りレジストパターン13bが形成される。
【0029】
次に、図3(f)に示すように、第1の層間絶縁膜12のエッチングを行なう。具体的には、レジストパターン13bをマスクとして、RIE(反応性イオンエッチング)等により、第1の層間絶縁膜12のエッチングを行なう。この際、半導体ウエハ11の周辺領域では、レジストパターン13bが存在しているため、周辺領域における第1の層間絶縁膜12はエッチングされることはない。尚、RIE等によるエッチングの後、レジストパターン13bを除去する。
【0030】
次に、図3(g)に示すように、第1の層間絶縁膜12がエッチングされた領域に、配線材料となるCuをメッキにより埋込み、その後、CMP等により平坦化を行なうことにより、第1の配線層14を形成する。この際、半導体ウエハ11の周辺領域においても第1の層間絶縁膜12が形成されているため、CMP等による加工において、半導体ウエハ11の周辺領域近傍における第1の配線層14が過剰に削られることはない。
【0031】
次に、図3(h)に示すように、第2の層間絶縁膜15を形成する。第2の層間絶縁膜15の形成方法は、第1の層間絶縁膜12の形成方法と同様である。
【0032】
次に、図3(i)に示すように、第1の配線層14と同様の形成方法により、第2の層間絶縁層15をエッチングし第2の配線層16を形成する。この際、半導体ウエハ11の周辺領域においては、第1の層間絶縁膜12が形成されているため、半導体ウエハ11の周辺領域の近傍における第1の配線層14は、過剰には削られることはない。従って、第1の配線層14と第2の配線層16との間において異常放電等が生じることはない。また、半導体ウエハ11の周辺領域においては、第1の層間絶縁膜12及び第2の層間絶縁膜15が形成されているため、露光装置においてフォーカシングを行なう際のオートフォーカス動作においても、正確にフォーカス位置を検出することができる。
【0033】
以上より、本実施の形態における半導体装置の製造方法においては、別途半導体ウエハの周辺領域にレジストパターンを形成する必要がないため、製造工程を増やすことなく、多層配線を有する半導体素子を高い歩留まりで製造することができる。
【0034】
尚、上記図3(a)から図3(g)に記載された工程を繰り返し行なうことにより、更に配線を多層形成することも可能である。」

図3は、以下のとおりのものである。


(2)引用発明
そうすると、文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「基板上に層間絶縁膜を形成する層間絶縁膜工程と、
前記層間絶縁膜上にポジレジストを塗布するレジスト塗布工程と、
露光工程と、
露光された領域のポジレジストを現像液による現像により除去する現像工程と、
前記現像工程後に残った前記ポジレジストをマスクとして、前記層間絶縁膜をエッチングするエッチング工程と、
前記ポジレジストを除去し、前記層間絶縁膜のエッチングされた領域に配線材料となるCuを埋め込む埋込工程と、
CMP等による研磨により前記層間絶縁膜表面を平坦化し前記配線材料の配線層を形成する平坦化工程と、を有する半導体装置の製造方法であって、
前記現像工程により、レジストパターンが形成される、半導体装置の製造方法。」

2 文献4の記載
文献4には、次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、有機溶剤の精製装置、特に半導体素子等を含む半導体装置の製造工程における微細加工に用いられるレジスト材料およびその関連材料(以後レジスト関連材料と呼ぶ)に使用される有機溶剤の精製装置に関する。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、レジスト関連材料中の金属不純物を低減すべく、レジスト関連材料に使用される有機溶剤中の金属不純物を十分に除去することができる有機溶剤の精製装置を提供することを目的とする。」

「【発明を実施するための形態】
【0020】
上述のように、従来、パターン形成プロセスで使用されるレジスト関連材料中の金属不純物がドライエッチング後の欠陥を引き起こし、これが半導体装置製造工程における歩留まりの低下の原因となると言われていた。
【0021】
そこで本発明者らは、ドライエッチング後の欠陥の原因であるレジスト関連材料中に含まれる金属不純物を除去するため鋭意調査したところ、レジスト関連材料に使用される有機溶剤中の金属不純物を低減させることが効果的であることを見出した。有機溶剤中の金属不純物を減らす方法として、一般的には蒸留精製が知られている。しかしながら、・・・
【0032】
本発明の精製装置で精製する有機溶剤としては、特に限定されず、例えば、一般的にレジスト関連材料に使用されているもの、即ち、レジスト材料やレジスト下層膜材料で使用されているポリマー、酸発生剤、架橋剤、その他添加剤等が溶解するものを挙げることができる。・・・
【0035】
上記のレジスト材料やレジスト下層膜材料としては、パターニング工程で使用される感光性フォトレジスト膜形成用組成物、有機レジスト下層膜形成用組成物、ケイ素含有レジスト下層膜形成用組成物、有機平坦化膜形成用組成物などのドライエッチングに対してエッチング耐性を示す塗布膜を形成できる材料を例示できる。一方、レジスト関連材料として、液浸リソグラフィー工程で使用されるような保護膜形成用組成物、上記の塗布膜を形成する際に事前に基板をプリウエットして塗布性を改善するために使用される有機溶剤、上記の塗布膜をウエハーに塗布した後ウエハーの端面や裏面に付着した余分な塗布液を洗浄除去する有機溶剤、配管を洗浄する際に使用される洗浄用有機溶剤、有機溶剤現像工程で使用される有機現像液などを例示できる。」

「【実施例】
【0041】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの記載によって限定されるものではない。なお、実施例及び比較例において、有機溶剤中の金属不純物の含有量の測定、及び塗布欠陥数の測定は、以下のように行った。
【0042】
〔金属不純物の含有量の測定〕
有機溶剤中の金属不純物の含有量は、アジレント・テクノロジー社製7700sで測定した。
【0043】
〔塗布欠陥数の測定〕
・・・
【0044】
(実施例1)
・・・
【0045】
次に、有機溶剤として、電子材料グレードのプロピレングリコールモノメチルアセテート(以後、PGMEAとする)をタンク2に180L仕込み、少量サンプリングして、精製前の金属不純物の含有量の測定と塗布欠陥数の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0046】
次に、ポンプ1を稼働させ、PGMEAがタンク2、金属イオン吸着手段4、フィルター5A、フィルター5B、タンク2の順番で流通するようにバルブ6A、6Bをセットして、40L/時の速度で10時間循環させ、精製を行った。得られたPGMEA中の金属不純物の含有量及び塗布欠陥数の測定結果を表1に示す。
【0047】


【0048】
表1に示されるように、本発明の有機溶剤の精製装置によって、PGMEA中の金属不純物を3ppt以下まで除去することができた。また、本発明の有機溶剤の精製装置を使用すると、塗布欠陥数が減少することが分かった。
【0049】
(実施例2?12)
PGMEAの代わりに、有機溶剤として、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)、プロピレングリコールモノエチルエーテル(PGE)、プロピレングリコールモノプロピルエーテル(PGP)、乳酸エチル(EL)、メトキシプロピオン酸メチル(MMP)、シクロペンタノン(CP)、シクロヘキサノン(CH)、ガンマブチロラクトン(GBL)、ジイソアミルエーテル(DAE)、酢酸ブチル(BA)、及び4-メチル-2-ペンタノール(4MP)を用い、実施例1と同じ条件でそれぞれ精製を行った。得られた有機溶剤中の金属不純物の含有量及び塗布欠陥数の測定結果を表2に示す。
【0050】



3 文献5の記載
文献5には、次の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、金属不純物の混入を極端に嫌う、半導体製造、液晶製造等の電子産業用に使用される高純度のイソプロピルアルコール(IPA)を収納保持する収納容器に関する。詳しくは、長期保存した場合における、高純度IPAに対する全金属溶出量を10pg/ml(ppt)以下に抑えることが可能な収納容器である。
【0002】
【従来の技術】従来、電子産業用に使用されてきたIPAの収納容器は、数リットルの小容器では、ガラス、プラスチック製が、十リットル以上の中大容器では、強度的な安全面も加味してステンレス鋼が一般的である。
【0003】ところで、電子産業、特に半導体産業では形式パターン寸法の微細化、基板の大口径化の急激な技術革新に伴って、使用する薬品の量が増大するのみでなく益々高純度の品質が要求され、IPAも例外ではない。電子産業ではIPAは各種基板の洗浄、乾燥用途に高純度のものが大量に使用されている。ここでは、通常ステンレス鋼に代表される金属容器に充填され、供給され、容器から適宜導出されて使用される。従って、極めて純度の高いIPAを長期に亘って金属不純物の溶出のない状態で維持収納できる容器が望まれている。」

「【0033】
【実施例】・・・
【0035】実施例1
SUS304ステンレス鋼製の缶径250mm、長さ650mm、底部及び開口部の曲率125mmのIPA収納容器を製作し、電解研磨、ストライクニッケル処理後、硫酸ニッケルを主成分とするメッキ浴中で電解電流密度4A/dm^(2)の条件で電解メッキし、厚みが20μmのメッキ層が表面に形成されたIPA収納容器を得た。尚、電解解研磨は燐酸-硫酸の混酸中で電流密度5A/dm^(2)の条件で行った。ストライクニッケル処理は、塩化ニッケルと塩酸液中で電流密度10A/dm^(2)の条件で行った。得られた高純度IPAIPA収納容器の内表面であるメッキ層を分析すると、ニッケル純度99.99%以上、鉄、クローム、銅の含有量は100ppm以下であった。次に大気中で400℃3時間加熱酸化処理を行い厚みが300オングストロームのニッケル酸化層を得た。ついで、抵抗率18MΩ・cm以上の超純水で精密洗浄、次に、抵抗率1000MΩ・cm以上の高純度IPAで精密洗浄を行った。ついで、このIPA収納容器に高純度IPA(純度99.99%以上)を満たし、温度50℃で6ヶ月間保持した後、IPA収納容器内のIPAに溶出した金属イオンを分析した。結果を表1に示した。」

「【0039】



第5 対比・判断
1 申立理由1(特許法第29条第2項の規定違反)
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と引用発明とを対比する。

(ア)引用発明の「基板」、「層間絶縁膜」、「層間絶縁膜工程」は、それぞれ本件発明1の「基材」、「絶縁膜」、「工程1」に相当するから、本件発明1と引用発明とは、「基材上に、絶縁膜を形成する工程1」を有する点で一致する。

(イ)本件発明1における「前記絶縁膜上に、パターン状のレジスト膜を形成する工程2」、「前記工程2が、前記絶縁膜上に、プリウェット液を塗布する工程2-1と、前記プリウェット液が塗布された前記絶縁膜上に、レジスト膜形成用組成物を塗布して、塗膜を形成する工程2-2と、前記塗膜をパターン状に露光して、現像液を用いた現像処理を施し、パターン状のレジスト膜を形成する工程2-3と、を有し」と、引用発明における「前記層間絶縁膜上にポジレジストを塗布するレジスト塗布工程と、露光工程と、露光された領域のポジレジストを現像液による現像により除去する現像工程」、「前記現像工程により、レジストパターンが形成され」とを対比する。
引用発明における「レジストパターン」は、本件発明1における「パターン状のレジスト膜」に相当するから、本件発明1と引用発明とは、「前記絶縁膜上に、パターン状のレジスト膜を形成する工程2」を有する点で一致する。
また、引用発明における「ポジレジスト」は、本件発明1における「レジスト膜形成用組成物」に相当するから、本件発明1と引用発明とは、「前記工程2が、前記絶縁膜上に、レジスト膜形成用組成物を塗布して、塗膜を形成する工程2-2と、前記塗膜をパターン状に露光して、現像液を用いた現像処理を施し、パターン状のレジスト膜を形成する工程2-3と、を有」する点で共通する。

(ウ)本件発明1における「前記パターン状のレジスト膜をマスクとして、前記絶縁膜をエッチングして、開口部を有する絶縁膜を形成する工程3」と、引用発明における「前記現像工程後に残った前記ポジレジストをマスクとして、前記層間絶縁膜をエッチングするエッチング工程」とを対比する。
引用発明において、「前記現像工程後に残った前記ポジレジスト」は「前記現像工程」により形成された「レジストパターン」であり、また、引用発明は、「前記層間絶縁膜のエッチングされた領域に配線材料となるCuを埋め込む埋込工程」を有するから、エッチング後の当該層間絶縁膜は開口部を有しているといえる。
したがって、本件発明1と引用発明とは、「前記パターン状のレジスト膜をマスクとして、前記絶縁膜をエッチングして、開口部を有する絶縁膜を形成する工程3」を有する点で一致する。

(エ)引用発明における「前記ポジレジストを除去し、前記層間絶縁膜のエッチングされた領域に配線材料となるCuを埋め込む埋込工程」は、本件発明1における「前記パターン状のレジスト膜を除去する工程4」と「前記開口部を有する絶縁膜の前記開口部を金属で充填する工程5」に相当する。

(オ)引用発明における「CMP等による研磨により前記層間絶縁膜表面を平坦化し前記配線材料の配線層を形成する平坦化工程」は、本件発明1における「前記金属が充填された絶縁膜に対して、化学機械研磨を実施する工程6」に相当する。

(カ)引用発明の「半導体装置」は、本件発明1の「半導体チップ」に相当する。

(キ)以上をまとめると、本件発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。
<一致点>
「基材上に、絶縁膜を形成する工程1と、
前記絶縁膜上に、パターン状のレジスト膜を形成する工程2と、
前記パターン状のレジスト膜をマスクとして、前記絶縁膜をエッチングして、開口部を有する絶縁膜を形成する工程3と、
前記パターン状のレジスト膜を除去する工程4と、
前記開口部を有する絶縁膜の前記開口部を金属で充填する工程5と、
前記金属が充填された絶縁膜に対して、化学機械研磨を実施する工程6と、を有する半導体チップの製造方法であって、
前記工程2が、
前記絶縁膜上に、レジスト膜形成用組成物を塗布して、塗膜を形成する工程2-2と、
前記塗膜をパターン状に露光して、現像液を用いた現像処理を施し、パターン状のレジスト膜を形成する工程2-3と、を有する、半導体チップの製造方法。」

<相違点>
<相違点1>
本件発明1は、「前記工程1?前記工程6の少なくとも1つの工程において、Fe原子、Cr原子、Ni原子、及び、Pb原子からなる群から選択される少なくとも1種の金属原子を含む金属不純物、並びに、有機溶剤を含む薬液であって、前記薬液中における、前記金属原子の合計含有量が0.001?100質量pptである薬液を使用する、半導体チップの製造方法」であるのに対し、引用発明は、その点が不明である点。

<相違点2>
工程2について、本件発明1は、「前記工程2が、前記絶縁膜上に、プリウェット液を塗布する工程2-1」を有し、「レジスト膜形成用組成物を塗布して、塗膜を形成する工程2-2」は、「前記プリウェット液が塗布された前記絶縁膜上」に、レジスト膜形成用組成物を塗布するのに対し、引用発明における「レジスト塗布工程」は、プリウェット液を塗布する工程を有するものでなく、本件発明1の上記のようなものではない点。

<相違点3>
本件発明1は、「前記プリウェット液及び前記現像液の、少なくとも前記プリウェット液として、前記薬液が用いられる」のに対し、引用発明は、そのようなものではない点。

イ 判断
以下、上記相違点について検討する。

(ア)相違点1について
上記第4の2のとおり、文献4の段落【0032】、【0035】には、「精製装置で精製する有機溶剤として、プリウェット工程で使用される有機溶剤(プリウェット液)、余分な塗布液を洗浄除去する有機溶剤、有機現像液が例示される。」という技術的事項が開示されている。
また、文献4の表1、表2には、精製後の有機溶剤中における、Cr、Fe、Ni等の金属不純物の含有量の測定結果が示されており、精製後の金属含有量は、いずれも3ppt以下である。
そうすると、文献4には、本件発明1における「前記工程1?前記工程6の少なくとも1つの工程において、Fe原子、Cr原子、Ni原子、及び、Pb原子からなる群から選択される少なくとも1種の金属原子を含む金属不純物、並びに、有機溶剤を含む薬液」は記載されているといえるものの、有機溶剤中のPb含有量の測定結果が示されておらず、Pb含有量が不明であるから、文献4において、「Fe原子、Cr原子、Ni原子、及び、Pb原子の合計含有量」という4種類の金属原子の合計含有量の数値範囲は不明である。
また、文献2、3、5?15にも、「Fe原子、Cr原子、Ni原子、及び、Pb原子の合計含有量」という4種類の金属原子の合計含有量の数値範囲は記載されていない。
したがって、文献2?15を参照しても、引用発明において、「Fe原子、Cr原子、Ni原子、及び、Pb原子の合計含有量」という4種類の金属原子の合計含有量を所定の数値範囲とする動機付けはない。
よって、当業者といえども、引用発明において、文献2?15に記載された技術的事項に基づき、相違点1に係る本件発明1における「前記薬液中における、前記金属原子の合計含有量が0.001?100質量pptである薬液を使用する」という構成を容易に想到することはできない。

(イ)以上のとおりであるから、相違点2?15について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明及び文献2?15に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人星正美は、特許異議申立書41ページ23行?42ページ3行「3.(6)(6.1)」の「(要件1H:薬液中の金属不純物)」において、「甲第4号証には、Pb含有量に関する記載はありません。しかし、同証は有機溶剤の精製装置を提供し、各種金属不純物を極微量まで低減することを目的とするものであり、Pb量に関する記載はないとしても、PbもFe、Cr、Ni等と同程度以下にまで低減されたものであると解されます。したがって、 甲第4号証の有機溶剤におけるPb量は最大でもFe やCr、Niと同程度と考えることに不合理性はありません。むしろPbのみが90pptを超える量で含まれると解することが不合理です。したがって、甲第4号証の実施例の有機溶剤におけるFe、Cr、Ni及びPbの合計含有量は0.001?100質量pptの範囲にあると見積もることに合理性があります。」と主張する。
しかしながら、上記(ア)で検討したとおり、文献4(甲第4号証)には、有機溶剤中のPb含有量の測定結果が示されておらず、Pb含有量が不明であるから、「Fe原子、Cr原子、Ni原子、及び、Pb原子の合計含有量」という4種類の金属原子の合計含有量の数値範囲は不明である。
また、「PbもFe、Cr、Ni等と同程度以下にまで低減されたものであると解されます。」との推定を裏付ける具体的な証拠が示されておらず、文献4の有機溶剤におけるFe、Cr、Ni及びPbの合計含有量を見積もることに合理性はない。
よって、特許異議申立人の当該主張を採用することはできない。

(2)本件発明2?4について
ア 対比
本件発明2?4それぞれと引用発明とを対比する。
本件発明2?4は、いずれも、本件発明1の「基材上に、絶縁膜を形成する工程1と、前記絶縁膜上に、パターン状のレジスト膜を形成する工程2と、前記パターン状のレジスト膜をマスクとして、前記絶縁膜をエッチングして、開口部を有する絶縁膜を形成する工程3と、前記パターン状のレジスト膜を除去する工程4と、前記開口部を有する絶縁膜の前記開口部を金属で充填する工程5と、前記金属が充填された絶縁膜に対して、化学機械研磨を実施する工程6と、を有する半導体チップの製造方法」と同一の構成、及び本件発明1の「前記工程1?前記工程6の少なくとも1つの工程において、Fe原子、Cr原子、Ni原子、及び、Pb原子からなる群から選択される少なくとも1種の金属原子を含む金属不純物、並びに、有機溶剤を含む薬液であって、前記薬液中における、前記金属原子の合計含有量が0.001?100質量pptである薬液を使用する、半導体チップの製造方法」と同一の構成、並びに「前記薬液が有機不純物を含み、前記薬液中における、前記有機不純物の合計含有量が、前記薬液の全質量に対して0.1?5000質量ppmである」という構成を、少なくとも備えるものである。

したがって、本件発明2?4と引用発明との間には、少なくとも次の一致点と相違点があるといえる。
<一致点>
「基材上に、絶縁膜を形成する工程1と、
前記絶縁膜上に、パターン状のレジスト膜を形成する工程2と、
前記パターン状のレジスト膜をマスクとして、前記絶縁膜をエッチングして、開口部を有する絶縁膜を形成する工程3と、
前記パターン状のレジスト膜を除去する工程4と、
前記開口部を有する絶縁膜の前記開口部を金属で充填する工程5と、
前記金属が充填された絶縁膜に対して、化学機械研磨を実施する工程6と、を有する半導体チップの製造方法であって、
前記工程2が、
前記絶縁膜上に、レジスト膜形成用組成物を塗布して、塗膜を形成する工程2-2と、
前記塗膜をパターン状に露光して、現像液を用いた現像処理を施し、パターン状のレジスト膜を形成する工程2-3と、を有する、半導体チップの製造方法。」

<相違点>
<相違点A>
本件発明2?4は、「前記工程1?前記工程6の少なくとも1つの工程において、Fe原子、Cr原子、Ni原子、及び、Pb原子からなる群から選択される少なくとも1種の金属原子を含む金属不純物、並びに、有機溶剤を含む薬液であって、前記薬液中における、前記金属原子の合計含有量が0.001?100質量pptである薬液を使用する、半導体チップの製造方法」であるのに対し、引用発明は、その点が不明である点。

<相違点B>
本件発明2?4は、「前記薬液が有機不純物を含み、前記薬液中における、前記有機不純物の合計含有量が、前記薬液の全質量に対して0.1?5000質量ppmである」のに対し、引用発明は、その点が不明である点。

イ 判断
以下、上記相違点について検討する。

(ア)相違点Aについて
上記第4の3のとおり、文献5の段落【0001】、【0003】には、「半導体製造において、基板の洗浄、乾燥に使用される高純度のイソプロピルアルコール(IPA)。」という技術的事項が開示されている。
また、文献5の表1には、6ヶ月保持後における、IPA収納容器内のIPAに溶出した、Fe、Cr、Ni、Cuの金属イオンを分析した結果が示されており、実施例1のこれらの金属イオン濃度は、それぞれ順に4、2、1、1pptである。
しかしながら、文献5には、本件発明1における「前記工程1?前記工程6の少なくとも1つの工程において、Fe原子、Cr原子、Ni原子、及び、Pb原子からなる群から選択される少なくとも1種の金属原子を含む金属不純物、並びに、有機溶剤を含む薬液」は記載されているものの、有機溶剤中のPb含有量の測定結果が示されておらず、Pb含有量が不明であるから、文献5において、「Fe原子、Cr原子、Ni原子、及び、Pb原子の合計含有量」という4種類の金属原子の合計含有量の数値範囲は不明である。
文献2?4、6?15にも、「Fe原子、Cr原子、Ni原子、及び、Pb原子の合計含有量」という4種類の金属原子の合計含有量の数値範囲は記載されていない。
したがって、文献2?15を参照しても、引用発明において、「Fe原子、Cr原子、Ni原子、及び、Pb原子の合計含有量」という4種類の金属原子の合計含有量を所定の数値範囲とする動機付けはない。
よって、当業者といえども、引用発明において、文献2?15に記載された技術的事項に基づき、相違点Aに係る本件発明2?15における「前記薬液中における、前記金属原子の合計含有量が0.001?100質量pptである薬液を使用する」という構成を容易に想到することはできない。

(イ)以上のとおりであるから、相違点B及び相違点A、B以外の他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2?4は、引用発明及び文献2?15に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人星正美は、特許異議申立書46ページ5行?47ページ4行「3.(6)(6.2)」の「(要件2H:薬液中の金属不純物)」において、「甲第5号証[0001][0003]には、半導体製造において、基板の洗浄、乾燥に使用される高純度のイソプロピルアルコ ール(IPA)が開示されています。したがって、甲第5号証のIPA溶液を甲1発明の半導体製造プロセスに使用することに困難性はありません。甲第5号証の表1に示されているように、同証のIPA溶液には、・・・したがって、混入のおそれのある金属はFe、Cr、Ni、Cu等であり、多量のPbが混入されることは考えられず、Pb含有量は評価していません。このため、甲第5号証のIPA溶液に混入するPb量は極微量であり、Fe等よりも遥かに少ないとみて間違いはありません。よって、「Pbの濃度」を考慮したとしても、甲第5号証のIPA溶液において、Pb量は高くともFeと同程度以下であり、たとえば実施例1においては、Pb量は4ppt程度以下である蓋然性が極めて高いといえます。したがって、甲第5号証の実施例1におけるPb含有量は高くとも4ppt程度であり、実施例2では高くとも5ppt程度であると考えられます。したがって、甲第5号証のIPA溶液は、Fe、Cr、Ni及びPbの合計含有量も100質量ppt以下であることも明らかです。」と主張する。
しかしながら、上記(ア)で検討したとおり、文献5(甲第5号証)には、有機溶剤中のPb含有量の測定結果が示されておらず、Pb含有量が不明であるから、「Fe原子、Cr原子、Ni原子、及び、Pb原子の合計含有量」という4種類の金属原子の合計含有量の数値範囲は不明である。
また、「したがって、混入のおそれのある金属はFe、Cr、Ni、Cu等であり、多量のPbが混入されることは考えられず、Pb含有量は評価していません。このため、甲第5号証のIPA溶液に混入するPb量は極微量であり、Fe等よりも遥かに少ないとみて間違いはありません。」と推論する裏付けとなる具体的な証拠が示されておらず、文献5の有機溶剤におけるFe、Cr、Ni及びPbの合計含有量を見積もることに合理性はない。
よって、特許異議申立人の当該主張を採用することはできない。

(3)本件発明5について
ア 対比
本件発明5と引用発明とを対比する。
本件発明5は、本件発明1の「基材上に、絶縁膜を形成する工程1と、前記絶縁膜上に、パターン状のレジスト膜を形成する工程2と、前記パターン状のレジスト膜をマスクとして、前記絶縁膜をエッチングして、開口部を有する絶縁膜を形成する工程3と、前記パターン状のレジスト膜を除去する工程4と、前記開口部を有する絶縁膜の前記開口部を金属で充填する工程5と、前記金属が充填された絶縁膜に対して、化学機械研磨を実施する工程6と、を有する半導体チップの製造方法」と同一の構成、及び「前記工程1?前記工程6の少なくとも1つの工程において、Fe原子、Cr原子、Ni原子、及び、Pb原子からなる群から選択される少なくとも1種の金属原子を含む金属不純物、並びに、有機溶剤を含む薬液であって、前記金属不純物は少なくともPb原子を含み、前記薬液中における、前記金属原子の合計含有量が0.001?100質量pptである薬液を使用する、半導体チップの製造方法」という構成、並びに「前記薬液中における、Pb原子の含有量が0.001?50質量pptである薬液を使用する」という構成を備えるものである。

したがって、本件発明5と引用発明との間には、少なくとも次の一致点と相違点があるといえる。
<一致点>
「基材上に、絶縁膜を形成する工程1と、
前記絶縁膜上に、パターン状のレジスト膜を形成する工程2と、
前記パターン状のレジスト膜をマスクとして、前記絶縁膜をエッチングして、開口部を有する絶縁膜を形成する工程3と、
前記パターン状のレジスト膜を除去する工程4と、
前記開口部を有する絶縁膜の前記開口部を金属で充填する工程5と、
前記金属が充填された絶縁膜に対して、化学機械研磨を実施する工程6と、を有する半導体チップの製造方法であって、
前記工程2が、
前記絶縁膜上に、レジスト膜形成用組成物を塗布して、塗膜を形成する工程2-2と、
前記塗膜をパターン状に露光して、現像液を用いた現像処理を施し、パターン状のレジスト膜を形成する工程2-3と、を有する、半導体チップの製造方法。」

<相違点>
<相違点ア>
本件発明5は、「前記工程1?前記工程6の少なくとも1つの工程において、Fe原子、Cr原子、Ni原子、及び、Pb原子からなる群から選択される少なくとも1種の金属原子を含む金属不純物、並びに、有機溶剤を含む薬液であって、前記金属不純物は少なくともPb原子を含み、前記薬液中における、前記金属原子の合計含有量が0.001?100質量pptである薬液を使用する、半導体チップの製造方法」であるのに対し、引用発明は、その点が不明である点。

<相違点イ>
本件発明5は、「前記薬液中における、Pb原子の含有量が0.001?50質量pptである薬液を使用する」のに対し、引用発明は、その点が不明である点。

イ 判断
以下、上記相違点について検討する。

(ア)相違点アについて
上記第4の3のとおり、文献5の段落【0001】、【0003】には、「半導体製造において、基板の洗浄、乾燥に使用される高純度のイソプロピルアルコール(IPA)。」という技術的事項が開示されている。
また、文献5の表1には、6ヶ月保持後における、IPA収納容器内のIPAに溶出した、Fe、Cr、Ni、Cuの金属イオンを分析した結果が示されており、実施例1のこれらの金属イオン濃度は、それぞれ順に4、2、1、1pptである。
しかしながら、文献5には、本件発明1における「前記工程1?前記工程6の少なくとも1つの工程において、Fe原子、Cr原子、Ni原子、及び、Pb原子からなる群から選択される少なくとも1種の金属原子を含む金属不純物、並びに、有機溶剤を含む薬液」は記載されているものの、有機溶剤中のPb含有量の測定結果が示されておらず、Pb含有量が不明であるから、文献5において、「Fe原子、Cr原子、Ni原子、及び、Pb原子の合計含有量」という4種類の金属原子の合計含有量の数値範囲は不明である。
文献2?4、6?15にも、「Fe原子、Cr原子、Ni原子、及び、Pb原子の合計含有量」という4種類の金属原子の合計含有量の数値範囲は記載されていない。
したがって、文献2?15を参照しても、引用発明において、「Fe原子、Cr原子、Ni原子、及び、Pb原子の合計含有量」という4種類の金属原子の合計含有量を所定の数値範囲とする動機付けはない。
よって、当業者といえども、引用発明において、文献2?15に記載された技術的事項に基づき、相違点アに係る本件発明5における「前記薬液中における、前記金属原子の合計含有量が0.001?100質量pptである薬液を使用する」という構成を容易に想到することはできない。

(イ)以上のとおりであるから、相違点イ及び相違点ア、イ以外の他の相違点について検討するまでもなく、本件発明5は、引用発明及び文献2?15に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人星正美は、特許異議申立書49ページ18?23行目「3.(6)(6.5)」において、「本件特許発明5の(要件5A)?(要件5H)は、前記本件特許発明1の(要件1A)?(要件1H)と同一であり、甲第1号証および甲第4号証の記載に基づいて当業者が容易に想到しうるものです。また、(要件5A)?(要件5H) は、前記本件特許発明2の(要件2A)?(要件2H)と同一であり、甲第1号証および甲第5号証の記載に基づいて当業者が容易に想到しうるものです。」と主張する。
したがって、上記(1)イ(ウ)及び上記(2)イ(ウ)に示した理由と同様な理由で、特許異議申立人の要件5Hについての当該主張を採用することはできない。

(4)本件発明6について
ア 対比
本件発明6と引用発明とを対比する。
本件発明6は、本件発明1の「基材上に、絶縁膜を形成する工程1と、前記絶縁膜上に、パターン状のレジスト膜を形成する工程2と、前記パターン状のレジスト膜をマスクとして、前記絶縁膜をエッチングして、開口部を有する絶縁膜を形成する工程3と、前記パターン状のレジスト膜を除去する工程4と、前記開口部を有する絶縁膜の前記開口部を金属で充填する工程5と、前記金属が充填された絶縁膜に対して、化学機械研磨を実施する工程6と、を有する半導体チップの製造方法」と同一の構成、及び本件発明1の「前記工程1?前記工程6の少なくとも1つの工程において、Fe原子、Cr原子、Ni原子、及び、Pb原子からなる群から選択される少なくとも1種の金属原子を含む金属不純物、並びに、有機溶剤を含む薬液であって、前記薬液中における、前記金属原子の合計含有量が0.001?100質量pptである薬液を使用する、半導体チップの製造方法」と同一の構成を、少なくとも備えるものである。

したがって、本件発明6と引用発明との間には、少なくとも次の一致点と相違点があるといえる。
<一致点>
「基材上に、絶縁膜を形成する工程1と、
前記絶縁膜上に、パターン状のレジスト膜を形成する工程2と、
前記パターン状のレジスト膜をマスクとして、前記絶縁膜をエッチングして、開口部を有する絶縁膜を形成する工程3と、
前記パターン状のレジスト膜を除去する工程4と、
前記開口部を有する絶縁膜の前記開口部を金属で充填する工程5と、
前記金属が充填された絶縁膜に対して、化学機械研磨を実施する工程6と、を有する半導体チップの製造方法であって、
前記工程2が、
前記絶縁膜上に、レジスト膜形成用組成物を塗布して、塗膜を形成する工程2-2と、
前記塗膜をパターン状に露光して、現像液を用いた現像処理を施し、パターン状のレジスト膜を形成する工程2-3と、を有する、半導体チップの製造方法。」

<相違点>
<相違点a>
本件発明6は、「前記工程1?前記工程6の少なくとも1つの工程において、Fe原子、Cr原子、Ni原子、及び、Pb原子からなる群から選択される少なくとも1種の金属原子を含む金属不純物、並びに、有機溶剤を含む薬液であって、前記薬液中における、前記金属原子の合計含有量が0.001?100質量pptである薬液を使用する、半導体チップの製造方法」であるのに対し、引用発明は、その点が不明である点。

イ 判断
以下、上記相違点について検討する。

(ア)相違点aについて
上記第4の3のとおり、文献5の段落【0001】、【0003】には、「半導体製造において、基板の洗浄、乾燥に使用される高純度のイソプロピルアルコール(IPA)。」という技術的事項が開示されている。
また、文献5の表1には、6ヶ月保持後における、IPA収納容器内のIPAに溶出した、Fe、Cr、Ni、Cuの金属イオンを分析した結果が示されており、実施例1のこれらの金属イオン濃度は、それぞれ順に4、2、1、1pptである。
したがって、文献5には、本件発明1における「前記工程1?前記工程6の少なくとも1つの工程において、Fe原子、Cr原子、Ni原子、及び、Pb原子からなる群から選択される少なくとも1種の金属原子を含む金属不純物、並びに、有機溶剤を含む薬液」は記載されているものの、有機溶剤中のPb含有量の測定結果が示されておらず、Pb含有量が不明であるから、文献5において、「Fe原子、Cr原子、Ni原子、及び、Pb原子の合計含有量」という4種類の金属原子の合計含有量の数値範囲は不明である。
文献2?4、6?15にも、「Fe原子、Cr原子、Ni原子、及び、Pb原子の合計含有量」という4種類の金属原子の合計含有量の数値範囲は記載されていない。
したがって、文献2?15を参照しても、引用発明において、「Fe原子、Cr原子、Ni原子、及び、Pb原子の合計含有量」という4種類の金属原子の合計含有量を所定の数値範囲とする動機付けがない。
よって、当業者といえども、引用発明において、文献2?15に記載された技術的事項に基づき、相違点aに係る本件発明6における「前記薬液中における、前記金属原子の合計含有量が0.001?100質量pptである薬液を使用する」という構成を容易に想到することはできない。

(イ)以上のとおりであるから、相違点a及び相違点a以外の他の相違点について検討するまでもなく、本件発明6は、引用発明及び文献2?15に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人星正美は、特許異議申立書50ページ19?21行目「3.(6)(6.6)」において、「本件特許発明6の(要件6A)?(要件6J)は、前記本件特許発明1の(要件1A)?(要件1J)と同一であり、甲第1号証?甲第4号証の記載に基づいて当業者が容易に想到しうるものです。」と主張する。
したがって、上記(1)イ(ウ)に示した理由と同様な理由で、特許異議申立人の要件6Hについての当該主張を採用することはできない。

(5)本件発明7?30について
本件発明7?30は、本件発明1ないし本件発明6のいずれかに対して、更に技術的事項を追加して、限定した発明である。
そして、文献8?15にも、「Fe原子、Cr原子、Ni原子、及び、Pb原子の合計含有量」という4種類の金属原子の合計含有量の数値範囲は記載されていない。
したがって、上記(1)?(4)に示した理由と同様の理由により、本件発明7?30は、引用発明及び文献2?15に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(6)本件発明31?36について
本件発明31?36は、それぞれ本件発明1?6の方法で特定されている薬液を、「キット」として特定したものであるところ、本件発明31?34、36は、いずれも「薬液X:Fe原子、Cr原子、Ni原子、及び、Pb原子からなる群から選択される少なくとも1種の金属原子を含む金属不純物、並びに、有機溶剤を含む薬液であって、前記薬液中における、前記金属原子の合計含有量が0.001?100質量pptである薬液を含む(含み)」という構成(以下、本件発明31?34、36について、それぞれ「要件31H」?「要件34H」、「要件36H」という。)を含み、本件発明35は、「薬液X:Fe原子、Cr原子、Ni原子、及び、Pb原子からなる群から選択される金属原子を含む金属不純物、並びに、有機溶剤を含む薬液であって、前記金属不純物は少なくともPb原子を含み、前記薬液中における、前記金属原子の合計含有量が0.001?100質量pptであり、前記薬液中における、Pb原子の含有量が0.001?50質量pptである薬液を含む」という構成(以下「要件35H」という。)を、少なくとも備えるものである。
(要件31H)は、有機溶剤が含む薬液についての上記(1)ア(キ)における相違点1に係る構成に対応し、(要件32H)?(要件34H)は、上記(2)アにおける相違点Aに係る構成に対応し、(要件35H)は、上記(3)アにおける相違点アに係る構成に対応し、(要件36H)は、上記(4)アにおける相違点aに係る構成に対応する。
したがって、上記(1)?(4)に示した理由と同様の理由により、本件発明31?36は、引用発明及び文献2?15に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(7)まとめ
以上のとおりであり、請求項1?36に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえず、申立理由1によって取り消すことはできない。

第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?36に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?36に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2021-11-12 
出願番号 特願2018-542914(P2018-542914)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 正山 旭  
特許庁審判長 河本 充雄
特許庁審判官 恩田 春香
小川 将之
登録日 2021-01-04 
登録番号 特許第6818037号(P6818037)
権利者 富士フイルム株式会社
発明の名称 半導体チップの製造方法、キット  
代理人 伊東 秀明  
代理人 三橋 史生  

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