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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A61K
管理番号 1380233
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-01-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2019-08-01 
確定日 2021-12-23 
事件の表示 上記当事者間の特許第4912492号発明「二酸化炭素含有粘性組成物」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第4912492号(以下「本件特許」という。)に係る発明についての出願は、1998年10月5日(優先権主張 1997年11月7日)を国際出願日とする出願である特願2000−520135号の一部を、平成22年9月6日に新たな出願としたものであって、平成24年1月27日に特許権の設定登録がなされたものである。
これに対して、請求人は、令和1年7月31日付け審判請求書(8月1日提出)により、本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜7に係る発明についての特許を無効とすることを求めて、本件特許無効審判を請求した。以後の手続の経緯は次のとおりである。

令和1年 8月 1日 審判請求書及び甲第1〜69号証の提出
同年11月 1日 審判事件答弁書の提出
同年11月26日付け 審理事項通知書
同年12月25日 口頭審理陳述要領書(請求人)及び
甲第70〜71号証の提出
令和2年 1月10日 口頭審理陳述要領書(被請求人)及び
乙第1〜3号証の提出
同年 1月22日 上申書(請求人)の提出
同年 1月27日 口頭審理


第2 本件発明
本件特許の請求項1〜7に係る発明(以下、請求項の番号に従い「本件発明1」〜「本件発明7」といい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
医薬組成物又は化粧料として使用される二酸化炭素含有粘性組成物を得るためのキットであって、
1)炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と、酸を含有する顆粒剤、細粒剤、又は粉末剤の組み合わせ;
2)酸及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と、炭酸塩を含有する顆粒剤、細粒剤、又は粉末剤の組み合わせ;又は
3)炭酸塩と酸を含有する複合顆粒剤、細粒剤、又は粉末剤と、アルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物の組み合わせ;
からなり、
含水粘性組成物が、二酸化炭素を気泡状で保持できるものであることを特徴とする、
含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させることにより気泡状の二酸化炭素を含有する前記二酸化炭素含有粘性組成物を得ることができるキット。
【請求項2】
得られる二酸化炭素含有粘性組成物が、二酸化炭素を5〜90容量%含有するものである、請求項1に記載のキット。
【請求項3】
含水粘性組成物が、含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させた後にメスシリンダーに入れたときの容量を100としたとき、2時間後において50以上の容量を保持できるものである、請求項1又は2に記載のキット。
【請求項4】
含水粘性組成物がアルギン酸ナトリウムを2重量%以上含むものである、請求項1〜3のいずれかに記載のキット。
【請求項5】
含有粘性組成物が水を87重量%以上含むものである、請求項1〜4のいずれかに記載のキット。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のキットから得ることができる二酸化炭素含有粘性組成物を含む医薬組成物。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載のキットから得ることができる二酸化炭素含有粘性組成物を含む化粧料。」


第3 請求人の主張及び証拠方法
請求人が提出した審判請求書、口頭審理陳述要領書及び上申書によれば、請求人は、「特許第4912492号発明の特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、」との審決を求め、本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された発明には、以下の無効理由が存在する旨を主張し、証拠方法として以下の甲号証(以下、甲番号に従い「甲1」等という。)を提出している。

(無効理由)
本件発明1〜7は、甲1に記載の発明に公知技術等を適用することにより容易に想到できるものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とするべきものである。

(証拠方法)
甲1:「エキスパートナース MOOK 16
最新!褥瘡治療マニュアル 創面の色に着目した治療法」,
照林社,1993年12月10日,p.72
甲2:日置正人氏による陳述書(平成30年11月16日付け)
甲3:知的財産高等裁判所 平成30年(ネ)第10041号事件における
証人調書(氏名:日置正人,期日:平成30年12月18日午後2時)
甲4:「生活の界面科学」,三共出版株式会社,
昭和52年1月10日,p.24−29
甲5:“化粧品における水溶性高分子の利用”,「高分子」,
1972,Vol.21,No.242,p.250−253
甲6:特開平9−206001号公報
甲7:“Alginates in Drugs and Cosmetics”,「Economic Botany」,
1950年10月,Vol.4,Issue 4,p.317−321
甲8:米国特許第2930701号明細書
甲9:「医学書院 医学大辞典」,株式会社医学書院,
2003年3月1日,p.61
甲10:“アルギン酸ナトリウム(アルロイド)の局所止血および
創傷治癒効果”,「薬理と治療」,
1983年2月,Vol.11,No.2,p.81(401)−87(407)
甲11:“可溶性アルギン酸ナトリウムの毒性試験”,
「基礎と臨床(R)(合議体注:(R)は〇の中にR。以下同様。)」,
1992年1月,Vol.26,No.1,p.197−206,Photo.1-5
甲12:「機能性化粧品の開発」,株式会社シーエムシー,
1990年8月28日初版第1刷 2000年2月10日普及版第1刷,p.324−325
甲13:特開平8−268828号公報
甲14:特開昭62−286922号公報
甲15:特開平6−179614号公報
甲16:「カシー化粧品秋・冬のビューティーセレクション SHIINOMI」,
1992,Vol.49
甲17:「Invitaion to Cathy Cosmetics 会社案内」,1996
甲18:化粧製造品目追加許可書,厚生大臣,平成3年11月12日,
甲19:特開平7−53324号公報
甲20:「化粧品成分ガイド 第5版」,
フレグランスジャーナル社,2009年2月25日,p.18-21
甲21:特開2000−297008号公報
甲22:特開昭59−13706号公報
甲23:特開平7−168145号公報
甲24:特開平6−336413号公報
甲25:特表平4−501422号公報
甲26:「ベスト・イン・ザ・ワールド アルギン酸メーカー・キミカの
挑戦」,日刊工業新聞社,2013年6月25日,p.14−19
甲27:“コラーゲンとアルギン酸ナトリウムを用いた薬物の放出制御”,
「病院薬学」,1995,Vol.21,No.5,p.384−388
甲28:“アルギン酸ナトリウムの消化管における薬物動態に関する臨床的
研究”,「新薬と臨牀」,平成4年11月,第41巻,第11号,
p.57(2505)−63(2511)
甲29:“海藻多糖類”,「調理科学」,1988,Vol.21,No.3,
p.14(154)−18(158)
甲30:“乳酸カルシウムならびにアルギン酸ナトリウムをコーティング
した顆粒からの不溶性ゲル形成を応用した薬物放出制御”,
「薬剤学」,1999,Vol.59,No.1,p.8−16
甲31:“アズレンスルホン酸ナトリウム含嗽液調製における各種増粘剤
の評価”,「病院薬学」,1998,Vol.24,No.6,p.687−696
甲32:特開昭63−201109号公報
甲33:“アルギン酸ナトリウムの薬理学的研究(第1報) 消化管粘膜
保護作用について”,「薬学雑誌」,
1981,Vol.101,No.5,p.452−457
甲34:特開平3−161427号公報
甲35:「素肌にやさしいゲル化粧品」,株式会社コスモトゥーワン,
平成4年10月21日,p.74−97
甲36:特開平8−217631号公報
甲37:“増粘剤”,「色材」,社団法人色材協会,1993,66(7),
p.434−444
甲38:特開平8−92105号公報
甲39:特開平7−173065号公報
甲40:特開昭61−136534号公報
甲41:特公昭42−6674号公報
甲42:特開昭59−187744号公報
甲43:“癌化学療法時の口内炎に対するプロスタンティン(R)軟膏・
アルロイドG液混合製剤の有効性”,「病院薬学」,2000,
Vol.26,No.5,p.562−566
甲44:米国特許第3764707号明細書
甲45:“アルギン酸プロピレングリコールエステルについて”,
「農産加工技術研究會誌」,1957年8月,第4巻,第4号,
p.136(22)−143(29)
甲46:“工業用水用高分子凝集剤の利用”,「高分子」,1968,
Vol.17,No.194,p.413-418
甲47:特開昭62−296851号公報
甲48:特開昭63−310807号公報
甲49:特開平3−161415号公報
甲50:特開昭63−280799号公報
甲51:特開昭62−294604号公報
甲52:特開昭61−43102号公報
甲53:特開昭61−43101号公報
甲54:特開昭61−40205号公報
甲55:「化学辞典」,株式会社東京化学同人,1994年10月1日,p.335
甲56:特開昭58−155041号公報
甲57:特開昭60−161741号公報
甲58:特開昭56−21667号公報
甲59:特開昭52−102366号公報
甲60:特開昭62−16409号公報
甲61:“胃X線検査用発泡散に関する薬剤学的研究”,「病院薬学」,
1975,Vol.1,No.1,p.24−26
甲62:特開平6−256193号公報
甲63:特開平6−72857号公報
甲64:特開平8−319228号公報
甲65:米国特許第6071539号明細書
甲66:米国特許第3769224号明細書
甲67:米国特許第5468504号明細書
甲68:米国特許第2999293号明細書
甲69:特開昭63−135317号公報
(以上、審判請求書に添付。なお、甲13〜69は当業者の技術水準を示すものとして提出)

甲70:“炭酸浴(炭酸泉)”,「人工炭酸泉研究会雑誌」,1998年7月,
1巻,1号,p.5−9
甲71:“人工炭酸泉浴剤による褥創治療について”,「総合リハ」,
1989年8月,17巻,8号,p.605−609
(以上、口頭審理陳述要領書に添付)


第4 被請求人の主張及び証拠方法
被請求人が提出した答弁書及び口頭審理陳述要領書によれば、被請求人は、「本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、」との審決を求め、請求人の主張する無効理由には理由がない旨を主張し、証拠方法として以下の乙号証(以下、乙番号に従い「乙1」等という。)を提出している。

(証拠方法)
乙1:“人工炭酸浴に関する研究(第1報) 炭酸泉の有効炭酸濃度につい
て”,「日温気物医誌」,1984年5月,第47巻,3・4号,p.123−129
乙2:“人工炭酸泉浴剤の褥創温湿布療法における皮膚温の変化”,
「日温気物医誌」,1990年8月,第53巻,4号,p.195−199
乙3:“炭酸ガス浴の効果的処方の基礎”,「日温気物医誌」,
1983年5月,第46巻,3・4号,p.138−142
(以上、口頭審理陳述要領書に添付)


第5 主な書証の記載事項
甲1〜12、甲71、乙1、乙2には、それぞれ、以下の記載がある(原文が英文の場合には和訳を示す。)。

(1)甲1
・摘示甲1a
「バブ浴(人工炭酸泉浴剤 花王バブ)
【作用機序・効果】
入浴剤バブは重炭酸水素ナトリウム(重曹)を含んでおり、湯に溶かすことにより、炭酸ガスを発生する。この炭酸ガスにより局所の血行を改善し、褥瘡を予防または治療する試みがなされている。すなわち、温泉の効果を応用するものである。
【使用方法】
バブ1個を1/4から1/8の大きさに割る。そのうちの1〜数片を約42度の湯(洗面器〜バケツ)に溶かす。バブは炭酸ガスを出しながら溶ける(図17)。
バブは無着色、無香料のものがよいが、なかなか手に入らない。その場合、香料入りでもかまわないが、刺激臭が強いので直接湯に鼻を近づけない。
バブが溶けた湯にガーゼやタオルを浸し、それを褥瘡部に当てて温湿布をするか(冷めないように湿布の上からビニールカバーをかぶせ、約42度の湯枕を当てるとよい)、その湯に褥瘡を生じた足を入れて足浴する。ただし、足浴によって感染を引き起こすことがあるので注意が必要である(バケツは個人用とし、また足浴後は創の消毒、洗浄を行う)。
バブ浴は1日1回〜数回行う。
バブ浴は褥瘡の治療に用いられるだけでなく、褥瘡や下肢の皮膚潰瘍の予防にも有効である。私たちは、褥瘡のリスクのある患者さんの清拭にバブを溶かした湯を使用している。
また、寒い季節になると、動脈硬化や血管の攣縮により、足先の血行が悪くなりチアノーゼを呈する患者さんがある(特に高齢で閉塞性動脈硬化症や糖尿病を合併している人に多い)(写真50)。このまま放置すると、下肢の皮膚潰瘍(とくに趾先に多い)を生じる場合がある。プロスタンディンなどの血管拡張剤を使用する前に、このバブによる足浴を試みるべきである。有効なことが多い。」(72頁左欄1行〜右欄12行)

・摘示甲1b


」(72頁)

(2)甲2
・摘示甲2a
「平成9年初頭頃、私は、炭酸の効能を調べている過程で、炭酸を用いた床ずれ治療として、花王の『バブ』という炭酸発泡入浴剤を水を張った洗面器に入れ、ガーゼを浸して固く絞らないで床ずれ患部にあてがうという方法が看護の本に記載されているのを見つけました。それを見たときは、炭酸ガスは空気中へと発散するため、いかにも効率が悪いと感じましたが、もしもこの洗面器の水がジェルならば、その中で発泡した炭酸ガスはジェル内に閉じ込めることができるのではないかと思いつきました。そして、私は田中氏に対し、ジェル剤と固形剤を用時に混合し、二酸化炭素を発生させる2剤式の製剤としてはどうかと提案しました。」(3頁10〜17行)

(3)甲3
・摘示甲3a
「この洗面器の中に花王のバブを入れてどんどん泡立てていくわけなんですけれど,有効成分の炭酸ガスがどんどん空中に放散されていきますので,もったいないなと感じたのが最初です。で,その中の洗面器の水がもしかジェルやったらもっともっと濃度を高く保って炭酸ガスを封じこめることができるんじゃないかなと考えたのがきっかけです。」(4頁下から4行〜5頁1行)

(4)甲4
・摘示甲4a
「(3)粘性
安定性のある泡沫においては排液の速度が泡沫の寿命を支配している。・・・またタンパク質を含む液体膜は,タンパク質でできた2枚の表面膜の間に液体が入っているような構造と考えられているが,この液体が流下することによってタンパク質が濃厚になり,粘性が高くなるために泡沫寿命が長くなると考えられている。このように表面の粘性と泡沫寿命との間にはかなりの相関関係がある。」(27頁5〜21行)

(5)甲5
・摘示甲5a
「2-2 増粘剤、ゲル化剤
水溶液の粘度を増加し,時にはゲル化することによって化粧品の使用性や使用感を向上する目的で用いられる。アルギン酸ソーダやメチルセルロース,ポリアクリル酸ソーダ,ポリエチレンオキサイドなどが化粧水やセットローション,コールドウェーブローション,ハンドローションなどに用いられる。」(252頁右欄下から7〜末行)

・摘示甲5b
「2-6 その他
水溶液高分子が添加されると泡の安定性がよくなるので,シェービングクリーム,バブルバス,シャンプー,ハミガキなどのように泡立ちのよいことが必要な製品には,メチルセルロース,ポリビニルピロリドン,カルボキシメチルセルロースなどが添加される。」(253頁右欄12〜17行)

(6)甲6
・摘示甲6a
「【特許請求の範囲】
【請求項1】発泡成分と増粘多糖類とを含んでなる発泡性ゼリー用粉末であって、該増粘多糖類が、カラギナンとローカストビーンガムとを含有し、かつ、前記発泡成分と増粘多糖類との重量比が、1:0.6〜2に設定されていることを特徴とする発泡性ゼリー用粉末。
【請求項2】カラギナンとローカストビーンガムとを含有する増粘多糖類溶液を35〜55℃に調整したのち、発泡成分と接触させ、該発泡成分の発泡により生成する気泡を、前記増粘多糖類溶液に内包せしめる発泡性ゼリーの製法。」

・摘示甲6b
「【0002】
【従来の技術】一般に、発泡性を有するゼリーとしては、例えば特開平1−222744号公報に記載の清涼性ゲル状食品がある。・・・以上のように、この方法で得られるゲル状食品は、特殊な密閉容器の中で工業的に生産されるものであり、家庭で喫食者が簡便に手作りできるものではない。また、ゲル状食品を長期保存すると、喫食したときに発泡感が弱いか、もしくは全く無くなっている等の問題点がある。
【0003】また、他の方法としては、特開昭62−296851号公報に記載の気泡性食品の製法が挙げられる。・・・この方法では、製造過程においてゲル化材料が加熱されないため、ゲル強度が付与されず、一定の形状を保つゼリーデザートとすることができない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明はこのような事情に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、発泡成分の発泡によって生成した気泡が、ゼリー中に多数内包され、しかもこの気泡中の炭酸ガスが長時間保持され、喫食時に口中で強い発泡感が感じられる発泡性ゼリーを、家庭で簡単に手作りできる発泡性ゼリー用粉末およびこれを用いた発泡性ゼリーの製法を提供するにある。」

・摘示甲6c
「【0020】まず、増粘多糖類を溶液化する。その方法としては、例えば図1(A)に示すように、容器(1)を準備し、この中に水性媒体(2)と増粘多糖類(3)とを入れ、スプーン等の治具(4)を用いる等して適宜攪拌することにより、増粘多糖類(3)を水性媒体(2)に溶解させ、増粘多糖類溶液(5)を得る。
・・・
【0023】次に、増粘多糖類溶液を35〜55℃に調整する。好ましくは40〜50℃に調整するとよい。・・・
【0024】次に、増粘多糖類溶液と発泡成分とを接触させる。その方法としては、例えば図1(C)に示すように、増粘多糖類溶液(5)の上から発泡成分(8)を添加する。このように、予め温度を一定範囲に調整した増粘多糖類溶液(5)中に、発泡成分(8)を添加することにより、適度な粘性を帯びた増粘多糖類溶液の中で、発泡成分が徐々に発泡を開始するので、増粘多糖類溶液が防御壁となって、発泡成分の気泡を外へ逃散させることなくとどめる。その結果、炭酸ガスの気泡が充分に発生し、しかも増粘多糖類溶液内に確実に内包される。」

・摘示甲6d
「【0029】
【発明の効果】以上のように、本発明の発泡性ゼリー用粉末は、特定組成の増粘多糖類と、発泡成分とを特定の比率で用いるので、ゼリー化したときに炭酸ガスの気泡がゼリー中に内包され、気泡が多数内包された清涼感のある外観を有するとともに、喫食時に強い発泡感が体感できる発泡性ゼリーを、家庭で簡単に手作りすることができる。また、得られた発泡性ゼリーを開放系で保存しても、ゼリー強度と気泡と炭酸感とが長時間保持される。また、ゼリーの製造に際し、所定温度範囲に調整した増粘多糖類溶液を発泡成分と接触させているので、発生した気泡がゼリー内に効率よくとどめられる。そのため、ゼリーの調製を開放系で行っても、炭酸ガスが充満した気泡を確実にゼリー内に内包させることができる。・・・」

(7)甲7
・摘示甲7a
「アルギン酸塩は、歯科分野において十分に確立された用途で、医学の分野においても興味深い可能性を提供する。」(317頁左欄11〜14行)

・摘示甲7b
「アルギンで作られたゼリーもやけどの治療に推奨されている。」(321頁左欄19〜20行)

(8)甲8
・摘示甲8a
「最も満足のいく結果を得るためには、かなりの程度まで硬化が起こる前に、水溶性アルギン酸塩が水に完全に溶解することが不可欠である。」(2欄34〜37行)

(9)甲9
・摘示甲9a
「アルギン=アルギン酸ナトリウム
・・・
アルギン酸ナトリウム・・・消化性潰瘍治療薬。アルギン酸の水溶性塩で水に膨潤して徐々に溶け,粘性の高い液となる。」(61頁の「アルギン」「アルギン酸ナトリウム」の項)

(10)甲10
・摘示甲10a
「液状(アルロイド(R))の剤形のアルギン酸ナトリウムは局所止血剤として,各科領域で臨床的に応用されている。」(81(401)頁左欄5〜7行)

(11)甲11
・摘示甲11a
「アルギン酸はこのように有用な性質を持つが,そのナトリウムまたはカリウム塩の水溶液は高い粘性を持ち,水には溶けにくい等の難点を有し,その利用範囲は限られてきた。そこで,著者ら13)は市販アルギン酸ナトリウム(平均分子量:270万)を加圧下に120〜140℃で熱処理して分解することにより,アルギン酸の機能性を保持したまま平均分子量約5万の可溶性アルギン酸ナトリウムを得る方法を確立した。
食品素材として可溶性アルギン酸ナトリウムを利用する場合,その安全性を確立することは重要であり,今回,ラットを用いて単回投与による急性毒性試験および28日間反復投与による亜急性毒性試験を行ったので,その成績について報告する。」(197頁左欄12行〜右欄3行)

・摘示甲11b
「1.使用薬物
実験で使用した可溶性アルギン酸ナトリウムは既報の方法13)で調製した重量平均分子量56,000,多分散度2.1の可溶性アルギン酸(ナトリウム塩:以下,AG-5と略)で,無味無臭の淡黄色細粒である。」(197頁右欄5〜10行)

・摘示甲11c
「以上の結果から,AG-5の毒性は極めて低いことが明らかとなった。」(206頁右欄13〜14行)

(12)甲12
・摘示甲12a
「2.2.9 機能性剤型について
各種有効性物質の機能を発揮する上で,剤型の重要性が着目されるようになり,平成1年は,20件近い特許が公開され,今後ますます増加するものと思われる。機能としては,経皮吸収,物質の放出制御,安定化が挙げられる。
経皮吸収については,・・・目的に応じた徐放化技術も見られる。」(325頁下から12〜5行)

(13)甲71
・摘示甲71a
「炭酸泉浴が炭酸ガスの血管拡張作用により皮膚,筋肉の血流を増加させる事は,古くWinternitzら2),Rose3)ら以来多くの報告がなされている4),(図1).しかし炭酸泉を日常的に用いる事には種々の困難があったが,炭酸ナトリウム塩とコハク酸の混合錠剤である花王バブ錠(花王株式会社発売)は,場所,時間を問わず炭酸泉入浴を可能にした5).
我々は今回この花王バブによる人工炭酸泉を褥創局所への温湿布あるいは直接足浴として用い,難治性褥創に対し良好な治療成績を得たので報告する.」(605頁左欄12〜21行)

・摘示甲71b
「1.温湿布法
仙骨部や大転子部の褥創に対しては,花王バブをとかした溶液による局所温湿布を行った.(1)金槌で適当に砕いた花王バブ10gを42℃の温水1lに溶かした(10g/l).(2)柔らかいタオルまたはガーゼをこの液に浸し,側臥位をとらせて,褥創部に当て,(3)保温と炭酸ガスの拡散防止のためビニール布で覆い,42℃の湯枕を当てて30分間局所の温湿布を行った.
2.足浴法
足趾や踵の褥創に対して用いるもので,花王バブ錠1コ50gをバケツに入れた42℃の温水10lに溶解し(5g/l),褥創部を直接この液に浸して,約30分間足浴を行わせた.
・・・
花王バブ5〜10g/lから生ずる炭酸ガス濃度はおよそ,1,500〜3,000PPMの高濃度であり,pH6.5前後となる7).」(605頁右欄下から7行〜606頁左欄15行。合議体注:上記において(1)、(2)、(3)は、それぞれ〇の中に1、2、3である。)

(14)乙1
・摘示乙1a
「炭酸泉は身体を温める効果のある温泉として古くから知られており,これは含有炭酸ガスの末梢血管拡張作用に基づく循環改善が効果の基礎をなすものと考えられる1〜5)。
・・・
各種の温泉のうちで,炭酸泉は効能のはっきりしているものの一つである。炭酸泉とは泉水1kg中,遊離炭酸1,000mg(1,000ppm)以上を含有するものと規定されており,この濃度での作用の顕著なことはよく知られている。」(124頁左欄2〜15行)

・摘示乙1b
「炭酸ガスは皮膚血管拡張を行い皮膚血流増加作用を示す結果,身体を温め保温効果を示すものである。・・・
今回の実験により炭酸ガス濃度が60ppm以上で皮膚血流増加作用が確認されたことにより,低濃度の炭酸ガスを含む泉浴においても,水道水浴の場合とは異なった温熱効果を生じることが明らかである。」(128頁左欄10〜末行)

(15)乙2
・摘示乙2a
「これら難治性の褥創に対して人工炭酸泉浴剤による褥創治療の試みについても報告1)2)がある。その際,人工炭酸泉浴剤の作用として,末梢血管拡張作用に伴う血流増加による熱エネルギーの運搬と保持,酸素・栄養補給,代謝老廃物の除去など褥創治療にとって有益な作用があるといわれている3)。
・・・
そこで,炭酸水素ナトリウム,炭酸ナトリウム,コハク酸の混合錠剤である人工炭酸泉浴剤・花王バブ錠(R)(1錠5g、花王石鹸株式会社発売)を用いその治療効果に対する観察を行ない,さらに皮膚温の経時的変化を測定することによりその作用機序および治療上の留意点について興味ある知見を得たので考察を加え報告する。
・・・
人工炭酸泉浴剤による褥創治療として田中らの方法1)を少し変えた局所湿布法を行なった(Fig.1)。先ず,市販の花王バブ1/10コ5gを50℃の温水250mlに溶かし,その中に20cm四方の厚く層にしたガーゼをひたす。そのガーゼを褥創部に当て保温と炭酸ガスの拡散防止のためビニールを当てその上に42℃のホットバックをバスタオルで包んでのせ,30分間保温する。」(196頁左欄7行〜右欄5行)


第6 当合議体の判断
当合議体は、本件発明1〜7についての特許は、請求人が主張する無効理由及び提出した証拠方法によっては、無効とすることはできない、と判断する。その理由は、以下のとおりである。

1 甲1に記載された発明
甲1には、人工炭酸泉浴剤である花王バブを用いたバブ浴は、褥瘡の治療だけでなく予防にも有効であることが記載され、入浴剤バブは、重炭酸水素ナトリウム(合議体注:炭酸水素ナトリウムの誤記と認める。)(重曹)を含んでおり、湯に溶かすことにより炭酸ガスを発生し、この炭酸ガスにより局所の血行を改善することが記載されている(摘示甲1a)。
また、甲1には、バブ浴は、約42度の湯を入れた洗面器やバケツに入浴剤バブを割ったバブ片を1〜数個入れ、完全に溶けるまで待ってから、それを足浴に用いたり、ガーゼやタオルを浸したものを褥瘡部に当てて温湿布をするものであることが記載されている(摘示甲1a、甲1b)。
そして、「入浴剤バブを割ったバブ片」は、「入浴剤バブを割った剤」と言い換えることができ、また、入浴剤バブを割ったバブ片を湯に完全に溶かした「もの」は、湯とそれに溶けたバブ片という複数の成分を含むことから、「組成物」であるといえる。
そうすると、上記「剤」は、「組成物」を得るための「剤」であり、当該「組成物」は、褥瘡を治療又は予防するために使用される「組成物」であって、かつ、入浴剤バブを割った剤を湯に完全に溶かした「組成物」であるといえる。
以上から、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「褥瘡を治療又は予防するために使用される組成物を得るための剤であって、
炭酸水素ナトリウムを含み、湯に溶かして炭酸ガスを発生させるものである入浴剤バブを割った剤であり、
前記組成物は、前記入浴剤バブを割った剤を湯に完全に溶かした組成物である、剤。」

なお、「バブ」は登録商標であるが、本審決においては「バブ」の後ろに個別に「(R)」を記載することを省略する。

2 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「炭酸水素ナトリウム」、「炭酸ガス」は、それぞれ本件発明1の「炭酸塩」、「二酸化炭素」に相当する。
また、甲1発明の「褥瘡を治療又は予防するために使用される組成物」は、本件発明1の「医薬組成物又は化粧料」のうちの「医薬組成物」に相当する。
さらに、甲1発明の「入浴剤バブを割った剤を湯に完全に溶かした組成物」は、炭酸ガスにより局所の血行を改善するものであり、炭酸ガス、すなわち二酸化炭素を含有する組成物であると解されるから、甲1発明の「入浴剤バブを割った剤を湯に完全に溶かした組成物」と本件発明1の「二酸化炭素含有粘性組成物」とは、「二酸化炭素含有組成物」である限りにおいて一致する。
そして、甲1発明の「炭酸水素ナトリウムを含み、」「湯に溶かして炭酸ガスを発生させるものである」「剤」と、本件発明1の「炭酸塩」を含む「二酸化炭素含有」「組成物を得るためのキット」とは、「炭酸塩を含むもの」であり、また、「二酸化炭素含有組成物を得るためのもの」である限りにおいて一致する。
そうすると、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

【一致点】
「医薬組成物又は化粧料として使用される二酸化炭素含有組成物を得るためのものであって、炭酸塩を含むもの。」
【相違点1】
「二酸化炭素含有組成物」が、本件発明1においては、「粘性」を有するものであるのに対し、甲1発明においては、「入浴剤バブを割った剤を湯に完全に溶かした組成物」であり、粘性の特定がない点。
【相違点2】
「炭酸塩を含むもの」が、本件発明1においては、「1)炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と、酸を含有する顆粒剤、細粒剤、又は粉末剤の組み合わせ;2)酸及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と、炭酸塩を含有する顆粒剤、細粒剤、又は粉末剤の組み合わせ;又は3)炭酸塩と酸を含有する複合顆粒剤、細粒剤、又は粉末剤と、アルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物の組み合わせ;からなり、
含水粘性組成物が、二酸化炭素を気泡状で保持できるものであることを特徴とする、含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させることにより気泡状の二酸化炭素を含有する前記二酸化炭素含有粘性組成物を得ることができるキット」であるのに対し、甲1発明においては、「炭酸水素ナトリウムを含み、湯に溶かして炭酸ガスを発生させるものである入浴剤バブを割った剤」である点。

(2)判断
ア 相違点1について
(ア)本件特許の願書に添付した明細書には、「本発明でいう『含水粘性組成物』とは、水に溶解した、又は水で膨潤させた増粘剤の1種又は2種以上を含む組成物である。該組成物に二酸化炭素を気泡状で保持させ、皮膚粘膜又は損傷皮膚組織等に適用した場合、二酸化炭素を皮膚組織等に十分量供給できる程度に二酸化炭素の気泡を保持できる。」(【0017】)、及び、「本発明は二酸化炭素が気泡状で保持される二酸化炭素含有粘性組成物が形成される組合せであれば、これらの組合せに限定されるものではない。」(【0032】)と記載されていることからすれば、含水粘性組成物と二酸化炭素含有粘性組成物とは、いずれも、粘性を有することにより二酸化炭素を気泡状で保持できるものといえる。
そうすると、相違点1に係る本件発明1の二酸化炭素含有粘性組成物における「粘性」とは、二酸化炭素を気泡状で保持できる程度の粘性を意味すると解される。

(イ)甲1は、人工炭酸泉浴剤の入浴剤バブを湯に溶かした「バブ浴」を用いた褥瘡の治療又は予防に関する文献である。
甲1には、洗面器やバケツにおいて、入浴剤バブを割ったバブ片1〜数個を溶かした約42度の湯に、褥瘡を生じた足を入れて足浴したり、ガーゼやタオルを浸してそれを褥瘡部に当てて温湿布をし、入浴剤バブを湯に溶かして発生した炭酸ガスにより、局所の血行を改善し褥瘡を治療又は予防するものであり、温泉の効果を応用するものであることが記載されている(摘示甲1a、甲1b)。
この「温泉の効果」とは、古くから知られる炭酸泉の効果、すなわち炭酸泉に含まれる炭酸ガスの末梢血管拡張作用に基づく循環改善効果(合議体注:血行改善効果と同義。摘示甲71a、乙1a、乙1b、乙2a)と、湯の温熱作用による血行改善効果の両方を含むものと解される。
甲1には、甲1発明の「入浴剤バブを割った剤を湯に完全に溶かした組成物」に含まれる炭酸ガスの濃度に関して記載されていないが、甲1発明が、組成物中に含まれる炭酸ガスの血行改善効果と、湯の温熱作用による血行改善効果を利用して、褥瘡の治療又は予防を図ろうとするものであることを踏まえると、甲1発明の当該組成物中には、当然、血行改善効果が期待できる濃度で炭酸ガスが存在していると考えるのが相当である。
そうしてみると、甲1発明において、当該組成物中の炭酸ガス濃度が褥瘡の治療又は予防に不十分であり、バブを湯に完全に溶かす際や使用時に拡散する炭酸ガスを極力保持する必要があるとの課題が認識できるとはいえない。
また、甲1と同様に入浴剤バブを用いた褥瘡治療についての文献である甲71及び乙2には、温湿布する際に、保温と炭酸ガスの拡散防止のためにビニールを当てることが記載されているが(摘示甲71b、乙2a)、入浴剤バブを溶かした湯を特定の態様で用いる場合に、別の部材を用いることで炭酸ガスの保持を図るものにすぎず、入浴剤バブを溶かした湯自体に、炭酸ガスを保持するための手段を採用することは記載も示唆もない。
さらに、甲4〜甲12のいずれにも、甲1発明の当該組成物において、炭酸ガスを保持するための手段を採用するという課題があることを認めるに足る記載も示唆も見出せない。
そうすると、甲1発明の当該組成物において、炭酸ガスを保持するための手段を採用するという課題が認識できるとはいえないから、その課題を解決する手段である、炭酸ガスを、すなわち二酸化炭素を気泡状で保持できる程度の粘性を付与することは、当業者が容易に想到することができるものではない。

(ウ)また、甲1発明の「入浴剤バブを割った剤を湯に完全に溶かした組成物」に、二酸化炭素を気泡状で保持できる程度の粘性を付与すれば、足浴や温湿布とするに当たり使用感が大きく変化してしまい、人工炭酸泉であるバブ浴の概念とかけ離れたものとなることは明らかである。
したがって、甲1発明の「入浴剤バブを割った剤を湯に完全に溶かした組成物」に、二酸化炭素を気泡状で保持できる程度の粘性を付与することには、阻害要因がある。

(エ)上記(ア)〜(ウ)によれば、甲1発明の「入浴剤バブを割った剤を湯に完全に溶かした組成物」に、二酸化炭素を気泡状で保持できる程度の粘性を付与して、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。

イ 相違点2について
相違点2は、相違点1の「二酸化炭素含有組成物」を「粘性」を有するものとするための具体的な組成に関するものであるから、甲1発明において、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を採用することを当業者が容易に想到することができたとはいえない以上、相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を採用することも、当業者が容易に想到することができたとはいえない。

ウ 小括
したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明に公知技術等(甲4〜12)を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

3 本件発明2〜7について
本件発明2〜5は、本件発明1の全ての発明特定事項を含むものであり、本件発明6、7は、本件発明1〜5のいずれかから得ることができる二酸化炭素含有粘性組成物を含む「医薬組成物」又は「化粧料」に係るものである。
そうすると、本件発明2〜7は、いずれも本件発明1の全ての発明特定事項又はそれらに対応する事項を含むものであるから、上記2で本件発明1について説示したものと同様の理由により、甲1に記載された発明に公知技術等(甲4〜12)を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

4 請求人の主張について
(1)請求人は、二酸化炭素が空気中に拡散せず、患部に長く接した方が皮膚における二酸化炭素の吸収効率を高め、褥瘡やかゆみなどの治療効果が高くなることは周知であるから、甲1発明に接した当業者は、甲1発明の課題として二酸化炭素が空中に拡散するため効率が悪いことを認識でき、よって、二酸化炭素を空中に拡散させない方法を模索する動機付けがある旨を主張する(審判請求書9頁11〜15行)。
しかしながら、上記2(2)ア(イ)に説示したように、甲1発明の「入浴剤バブを割った剤を湯に完全に溶かした組成物」中には、血行改善効果が期待できる濃度で炭酸ガス(二酸化炭素)が存在していると考えるのが相当であるから、甲1発明において、二酸化炭素が空中に拡散するため効率が悪いと認識するとはいえず、二酸化炭素を空中に拡散させない方法を模索する動機付けがあるともいえない。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

(2)請求人は、別件訴訟における、本件発明の発明者とされている日置氏の陳述書(甲2)及び証人調書(甲3)によれば、日置氏が、本件発明1を着想したきっかけとして、バブを用いた文献(甲1)を挙げ、甲1から二酸化炭素がもったいないと感じ、ジェルであれば炭酸ガスを封じ込めることができるのではないかと着想したと述べており、当業者における課題の認識は、日置氏が述べる発明の経緯にも合致する旨を主張する(審判請求書9頁16〜末行)。
しかしながら、日置氏が述べる発明の経緯は、本件優先日当時の一般的な当業者における認識を示すものとはいえないから、本件発明の進歩性判断の基礎とすることはできない。

(3)請求人は、二酸化炭素を含む空気が大気中に拡散してしまう問題に対して、水溶液にポリマー等を溶かした含水粘性組成物(ジェル)により二酸化炭素を封じ込める技術が公知であり(甲6)、一般にも、気泡膜を形成する媒質の粘性が増大すると気泡の安定性を高め気泡の寿命を高めることが古くから知られていたこと(甲4、甲5)、また、アルギン酸ナトリウムは幅広い産業分野において有用性がある増粘剤として利用されており(甲7)、アルギン酸ナトリウムは水に溶解するのに時間がかかるため事前に水に溶解させることが望ましいことは技術常識であること(甲8、甲9)、アルギン酸ナトリウム水溶液が古くから慣用され(甲10)、アルギン酸ナトリウムは安全であることが周知であった(甲11)ことを挙げて、甲1発明において、水をアルギン酸ナトリウムを含む含水粘性組成物(ジェル)に置き換えることは、当業者にとって容易である旨を主張する(審判請求書10頁1行〜12頁3行)。
しかしながら、請求人が提示する甲4〜11の記載を考慮しても、甲1発明の「入浴剤バブを割った剤を湯に完全に溶かした組成物」に「粘性」を付与することを、当業者が容易に想到することができたとはいえないことは、上記2(2)アに説示したとおりである。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

5 まとめ
以上によれば、本件発明1〜7は、甲1に記載された発明に公知技術等(甲4〜12)を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたとはいえず、本件発明1〜7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、特許法第123条第1項第2号に該当しない。


第7 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1〜7に係る特許は、請求人が主張する無効理由及び提出した証拠方法によっては、無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2020-03-12 
結審通知日 2020-03-18 
審決日 2020-04-02 
出願番号 P2010-199412
審決分類 P 1 113・ 121- Y (A61K)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 滝口 尚良
特許庁審判官 穴吹 智子
藤原 浩子
登録日 2012-01-27 
登録番号 4912492
発明の名称 二酸化炭素含有粘性組成物  
代理人 田中 順也  
代理人 柴田 和彦  
代理人 山田 威一郎  
代理人 水谷 馨也  
代理人 迫田 恭子  
代理人 高橋 淳  

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