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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01F 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01F 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01F |
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管理番号 | 1380282 |
総通号数 | 1 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2022-01-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-03-17 |
確定日 | 2021-12-09 |
事件の表示 | 特願2018−174002「コイル部品」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 2月14日出願公開、特開2019− 24102〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成27年6月23日に出願した特願2017−248184号の一部を平成30年9月18日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。 平成30年10月 9日 :手続補正書、上申書の提出 平成31年 1月22日付け:拒絶理由通知 平成31年 2月12日 :意見書、手続補正書の提出 令和 1年 6月27日付け:拒絶理由通知(最後の拒絶理由) 令和 1年 8月28日 :意見書、手続補正書の提出 令和 2年 1月22日付け:令和1年8月28日の手続補正についての補正却下の決定、拒絶査定 令和 2年 3月17日 :審判請求書、手続補正書の提出 令和 3年 3月30日付け:当審による拒絶理由通知(最後の拒絶理由通知) 令和 3年 5月25日 :意見書、手続補正書の提出 第2 令和3年5月25日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正却下の決定の結論] 令和3年5月25日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正について (1)本件補正後の特許請求の範囲の記載 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。) 「【請求項1】 複数のワイヤとコアとを備え、 前記コアは、巻芯部と、前記巻芯部の一端に設けられた第1鍔部と、前記巻芯部の他端に設けられた第2鍔部とを有し、 前記複数のワイヤは、ねじられた状態で前記巻芯部に巻回されると共に、前記コアの長軸方向に沿い単位ターン数あたりのねじりピッチが異なった状態で前記巻芯部に巻回され、 隣り合うターンは、互いに、接触している、コイル部品。」 (2)本件補正前の特許請求の範囲の記載 本件補正前の、令和2年3月17日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。 「【請求項1】 複数のワイヤとコアとを備え、 前記コアは、巻芯部と、前記巻芯部の一端に設けられた第1鍔部と、前記巻芯部の他端に設けられた第2鍔部とを有し、 前記複数のワイヤは、ねじられた状態で前記巻芯部に巻回されると共に、前記コアの長軸方向に沿い単位ターン数あたりのねじりピッチが異なった状態で前記巻芯部に巻回されている、コイル部品。」 2 補正の適否 本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「複数のワイヤ」を「巻芯部に巻回」した状態における隣り合うターンの関係について、「隣り合うターンは、互いに、接触している」と限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、出願当初の図面の図6、7から、複数のワイヤを巻芯部に巻回した状態において隣り合うターンが互いに接触している様子を確認することができるから、「隣り合うターンは、互いに、接触している」との構成は、出願当初の図面に記載されたものであり、新規事項を追加するものではなく、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。 そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。 (1)本件補正発明 本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。 (2)引用文献の記載事項 ア 引用文献1、引用発明 (ア)当審による拒絶の理由で引用された特開2014−216525号公報(以下、引用文献1)という。)には、「コモンモードチョークコイル」について、図面とともに次の事項が記載されている。(なお、下線は当審により付与したものである。) 「【0001】 本発明は、電磁ノイズの対策などに使われる電子部品であるコモンモードチョークコイルの技術に関するものである。」 「【0019】 図1ないし図3に示すように、コモンモードチョークコイル1は、第1信号電線2と、第2信号電線3と、磁性体コア4と、バーコア5と、4つの電極6,7,8,9とを備えている。本実施の形態におけるコモンモードチョークコイル1は、チップ状の電子部品であり、信号を伝送するときのコモンモードにおけるノイズを除去するための電子部品として構成されている。 【0020】 磁性体コア4は、例えば、フェライトなどの磁性体材料で構成された部材である。本実施の形態における磁性体コア4は、当該磁性体材料によって一体成形された部材(一体構造物)であるが、例えば、複数の部品を組み合わせる構造であってもよい。磁性体コア4には、略円筒形状の部分を構成する中芯部40と、略直方体形状の部分を構成する顎部41,42とが形成されている。 【0021】 磁性体コア4の中芯部40は、円筒の中心軸がX軸方向と略平行となるように配置されている。言い換えれば、中芯部40は、磁性体コア4において、X軸方向に沿って延びる向きに配置されている。図1および図2に示すように、中芯部40の円筒側面には、第1信号電線2と第2信号電線3とが互いに縒り合わされた状態で巻き回されている。」 「【0023】 磁性体コア4の顎部41は、X軸方向に沿って延びる中芯部40の(−X)側端部に形成される部分である。顎部41の2本の突起部の先端部には、XY平面に略平行となるように、それぞれ薄板状の電極6および電極8が取り付けられている。本実施の形態では、電極6が(−Y)側に配置されており、電極8が(+Y)側に配置されている。また、顎部41において、電極6と電極8とは、互いに接することなく絶縁されている。 【0024】 磁性体コア4の顎部42は、X軸方向に沿って延びる中芯部40の(+X)側端部に形成される部分である。顎部42の2本の突起部の先端部には、XY平面に略平行となるように、それぞれ薄板状の電極7および電極9が取り付けられている。本実施の形態では、電極7が(−Y)側に配置されており、電極9が(+Y)側に配置されている。また、顎部42において、電極7と電極9とは、互いに接することなく絶縁されている。 【0025】 図1および図2に示すように、第1信号電線2と第2信号電線3とは、磁性体コア4に巻き回される部分(巻線を形成する部分)において、互いに縒り合わされた状態となっている。より詳細には、当該部分において、第1信号電線2と第2信号電線3とが縒り合わされる回数は2以上である。また、第1信号電線2および第2信号電線3は、磁性体コア4に直巻きされている。」 「【0027】 なお、巻線としての第1信号電線2および第2信号電線3は、互いに略同一の長さであることが好ましい。例えば、第1信号電線2を直線状に配置し、これに第2信号電線2を螺旋状に巻き付けると、第1信号電線2の巻線としての長さと第2信号電線3の巻線としての長さとが異なる状態となるため好ましくない。また、浮遊容量の位置による乱れ(不均一)を抑制するためには、単位長さ当たりの縒り数が均等になるように縒ることが好ましい。逆に、浮遊容量において位置による乱れが生じる場合には、単位長さ当たりの縒り数を調整して、浮遊容量が均等になるように構成してもよい。」 「【0048】 本実施の形態におけるコモンモードチョークコイル1は、従来のバイファイラー巻きのコモンモードチョークコイルに比べて浮遊容量が1/2ないし1/3程度にまで低下することから、巻き数を増やして線の長さを延ばし、同程度の浮遊容量で、2の2乗倍(4倍)から3の2乗倍(9倍)程度のコモンモードインピーダンスとすることができる。また、この場合の結合係数も高く、結合係数の低下による信号品質の低下も抑制されている。したがって、本実施の形態におけるコモンモードチョークコイル1を用いれば、高速伝送においても、有効なノイズ対策が可能となる。」 「図1 」 「図2 」 (イ)上記記載から、引用文献1には次の技術事項が記載されているものと認められる。 a 段落【0001】によれば、引用文献1に記載された技術は、コモンモードチョークコイルに関するものである。 b 段落【0019】には、第1信号電線2と第2信号電線3と磁性体コア4とを備えたコモンモードチョークコイル1が記載されている。 c 段落【0020】によれば、磁性体コア4には、略円筒形状の部分を構成する中芯部40と、略直方体形状の部分を構成する顎部41、42とが形成されている。 また、段落【0023】、【0024】によれば、「顎部41は、X軸方向に沿って延びる中芯部40の(−X)側端部に形成される部分」であり、「顎部42は、X軸方向に沿って延びる中芯部40の(+X)側端部に形成される部分」である。 ここで、「中芯部40の(−X)側端部」と「中芯部40の(+X)側端部」は、図1、2からも明らかなように、中芯部40の一端と他端となる部分であるから、同段落【0023】、【0024】及び図1、2より、顎部41と顎部42が中芯部40の一端と他端に形成されることを読み取ることができる。 d 段落【0021】、【0025】から、第1信号電線2と第2信号電線3が、互いに縒り合わされた状態で中芯部40の円筒側面に巻き回されていることを読み取ることができる。また、図1及び図2から、第1信号電線2と第2信号電線3が、磁性体コア4の長軸方向に沿って中芯部40に巻き回されることを見て取ることができる。 e 段落【0027】には、浮遊容量において位置による乱れが生じる場合には、単位長さ当たりの縒り数を調整して、浮遊容量が均等になるように構成することが記載されている。 (ウ)上記aないしeから、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「第1信号電線2と第2信号電線3と磁性体コア4とを備えたコモンモー ドチョークコイル1であって、 磁性体コア4は、略円筒形状の部分を構成する中芯部40と、中芯部40の一端に形成された顎部41と、中芯部40の他端に形成された顎部42とを有し、 第1信号電線2と第2信号電線3は、互いに縒り合わされた状態で中芯部40の円筒側面に巻き回されると共に、磁性体コア4の長軸方向に沿って中芯部40に巻き回されており、 浮遊容量において位置による乱れが生じる場合には、単位長さ当たりの縒り数を調整して、浮遊容量が均等になるように構成する、コモンモードチョークコイル1。」 (3)引用発明との対比 ア 本件補正発明と引用発明とを対比すると次のことがいえる。 (ア)信号電線はワイヤの一種といえるから、引用発明の「第1信号電線2と第2信号電線3」は、本件補正発明の「複数のワイヤ」に相当する。また、引用発明の「磁性体コア」は、本件補正発明の「コア」に相当する。そして、引用発明の「コモンモードチョークコイル1」は、本件補正発明の「コイル部品」に相当する。 したがって、引用発明の「第1信号電線2および第2信号電線3と磁性体コア4とを備えたコモンモードチョークコイル1」は、本件補正発明の「複数のワイヤとコアとを備え」た「コイル部品」に相当する。 (イ)引用発明の「中芯部40」は、磁性体コア4における略円筒形状の部分であって、第1信号電線2と第2信号電線3とが巻き回される部分であるので、本件補正発明の「巻芯部」に相当する。また、引用発明の「中芯部40の一端に形成された顎部41」と「中芯部40の他端に形成された顎部42」は、本件補正発明の「前記巻芯部の一端に設けられた第1顎部」と「前記巻芯部の他端に設けられた第2顎部」にそれぞれ相当する。 したがって、引用発明の「磁性体コア4」が「略円筒形状の部分を構成する中芯部40と、中芯部40の一端に形成された顎部41と、中芯部40の他端に形成された顎部42とを有」することは、本件補正発明の「前記コア」が「巻芯部と、前記巻芯部の一端に設けられた第1顎部と、前記巻芯部の他端に設けられた第2顎部とを有」することに相当する。 (ウ)複数の信号電線が縒り合わされた状態であることと、複数の信号電線がねじられた状態であることは、同じ状態を表すから、引用発明の「第1信号電線2と第2信号電線3」が「互いに縒り合わされた状態で中芯部40の円筒側面に巻き回される」ことは、本件補正発明の「前記複数のワイヤ」が「ねじられた状態で前記巻芯部に巻回される」ことに相当する。 また、引用発明の「第1信号電線2と第2信号電線3」が「磁性体コア4の長軸方向に沿って中芯部40に巻き回されて」いることは、本件補正発明の「複数のワイヤ」が「前記コアの長軸方向に沿い」、「前記巻芯部に巻回されている」ことに相当する。 (エ)引用発明の「浮遊容量において位置による乱れが生じる場合には、単位長さ当たりの縒り数を調整して、浮遊容量が均等になるように構成する」ことについて検討する。 引用文献1の段落【0027】の「浮遊容量の位置による乱れ(不均一)を抑制するためには、単位長さ当たりの縒り数が均等になるように縒ることが好ましい。逆に、浮遊容量において位置による乱れが生じる場合には、単位長さ当たりの縒り数を調整して、浮遊容量が均等になるように構成してもよい。」との記載を勘案すると、引用発明の「浮遊容量が均等になるように構成する」とは、一のコモンモードチョークコイル1内における各位置の浮遊容量が均等になるように構成することを意味するものである。 ここで、引用発明の「第1信号電線2と第2信号電線3」は「磁性体コア4の長軸方向に沿って中芯部40に巻き回され」るから、第1信号電線2と第2信号電線3が中芯部40に巻き回されることで形成されるターンも磁性体コア4の長軸方向に沿うものとなる。 してみると、引用発明の「浮遊容量において位置による乱れが生じる場合」に「単位長さ当たりの縒り数を調整して、浮遊容量が均等になるように構成」したものは、磁性体コア4の長軸方向に沿って形成される複数のターンの中に、浮遊容量の乱れが生ずる位置に巻き回され単位長さ当たりの縒り数が調整された部分を含むターンと、単位長さ当たりの縒り数が調整された部分を含まないターンが存在することとなる。 また、「単位長さ当たりの縒り数を調整」すると、単位長さ当たりの縒りの間隔、即ち、ねじりのピッチについても同時に調整されるから、浮遊容量の乱れが生ずる位置に巻き回され単位長さ当たりの縒り数が調整された部分を含むターンと含まないターンでは、単位ターン数当たりのねじりのピッチが異なった状態となる。 そうすると、引用発明において「浮遊容量において位置による乱れが生じる場合」に「単位長さ当たりの縒り数を調整して、浮遊容量が均等になるように構成」したものは、本件補正発明の「前記コアの長軸方向に沿い単位ターン数当たりのねじりピッチが異なった状態で前記巻芯部に巻回され」ることに相当する構成を有していると認められる。 (オ)本件補正発明では、「隣り合うターンは、互いに、接触している」のに対して、引用発明にはその旨の特定がない点で相違する。 イ したがって上記(ア)ないし(オ)によれば、本件補正発明と引用発明は、以下の点で一致ないし相違する。 (一致点) 「複数のワイヤとコアとを備え、 前記コアは、巻芯部と、前記巻芯部の一端に設けられた第1鍔部と、前記巻芯部の他端に設けられた第2鍔部とを有し、 前記複数のワイヤは、ねじられた状態で前記巻芯部に巻回されると共に、前記コアの長軸方向に沿い単位ターン数あたりのねじりピッチが異なった状態で前記巻芯部に巻回されている、コイル部品。」 (相違点) 本件補正発明では、「隣り合うターンは、互いに、接触している」のに対して、引用発明にはその旨の特定がない点。 (4)判断 上記相違点について判断する。 ア 引用文献1の段落【0048】の「コモンモードチョークコイル1は」、「巻き数を増やして線の長さを延ばし、同程度の浮遊容量で、2の2乗倍(4倍)から3の2乗倍(9倍)程度のコモンモードインピーダンスとすることができる。」との記載から、引用発明の「コモンモードチョークコイル1」は、高いコモンモードインピーダンスを得るために巻数を増やして線の長さを延ばすように構成したものであることがわかる。 ここで、「複数のワイヤがねじられた状態でコアに巻回されるものにおいて、隣り合うターンが互いに接触している」構成は、例えば、特開2014−207368号公報(図1Aないし図1Cを参照)や特開平10−50542号公報(段落【0033】及び図10を参照)に記載されるように周知(以下、周知の構成」という。)であるところ、このように隣り合うターンが互いに接触するように巻回する場合には、巻数を増やして線の長さを延ばせることは明らかである。 そして、引用発明の「コモンモードチョークコイル1」は、「第1信号電線2と第2信号電線3」を「互いに縒り合わされた状態で中芯部40の円筒側面に巻き回」すものであり、上記周知の構成とは「複数のワイヤをねじられた状態でコアに巻回する」点で共通するから、引用発明において、巻数を増やして線の長さを延ばすために、上記周知の構成を採用して「隣り合うターンが互いに接触する」よう構成して、上記相違点に係る構成を為すことは当業者が容易になし得たことである。 イ そして、上記相違点を勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。 ウ 請求人の主張について (ア)請求人は、令和3年5月25日に提出された意見書において、概略次の主張をしている。 a 「引用文献1では、図1、2に『隣り合うターンは互いに離隔している』ことが開示されており、本願請求項1の『隣り合うターンは、互いに、接触している』という構成とは、相違します。」 b 「引用発明の上記『浮遊容量において位置による乱れが生じる場合には、単位長さ当たりの縒り数を調整して、浮遊容量が均等になるように構成する』とは、『磁性体コア4の長軸方向に沿った各位置において浮遊容量が不均一となる位置が生じる場合には、単位長さ当たりの縒り数を調整して中芯部40に巻回することによって、浮遊容量が均等になるように構成する』ことでなく、『信号電線2,3の延在(走行)方向の各位置において浮遊容量が不均一となる位置が生じる場合には、単位長さ当たりの縒り数を調整して中芯部40に巻回することによって、浮遊容量が均等になるように構成する』ことを意味すると解するのが相当であると考えられます。そうすると、引用発明の『浮遊容量において位置による乱れが生じる場合には、単位長さ当たりの縒り数を調整して、浮遊容量が均等になるように構成する』ことは、『ワイヤの延在(走行)方向に沿い単位長さ当たりのねじりピッチが異なった状態で巻芯部に巻回されている』に相当し、本願発明の『前記コアの長軸方向に沿い単位ターン数当たりのねじりピッチが異なった状態で前記巻芯部に巻回されている』に相当しません。つまり、引用文献1では、『ワイヤの延在(走行)方向に沿い単位長さ当たりのねじりピッチが異なる』ことを示唆しており、本願請求項1の『コアの長軸方向に沿い単位ターン数当たりのねじりピッチが異なる』という構成とは相違します。言い換えると、引用文献1では、むしろ、同一ターンにおいてねじりピッチが異なることを示唆しており、本願請求項1の隣り合うターンにおいてねじりピッチが異なることを示唆していません。したがって、引用文献1では、本願請求項1の『複数のワイヤは、コアの長軸方向に沿い単位ターン数あたりのねじりピッチが異なった状態で巻芯部に巻回されている』構成とは、相違します。」 (イ)そこで、請求人の上記a及びbの主張について検討する。 a 上記主張aについて 上記アにおいて説示したとおり、複数のワイヤがねじられた状態でコアに巻回されるものにおいて、隣り合うターンが互いに接触している構成は周知であるから、引用発明に当該周知の構成を採用して「隣り合うターンが互いに接触する」よう構成することは当業者が容易になし得たことである。 よって、請求人の上記aの主張は採用できない。 b 上記主張bについて 上記「(3)ア(エ)」において説示したとおり、引用発明の「第1信号電線2と第2信号電線3」は「磁性体コア4の長軸方向に沿って中芯部40に巻き回され」るから、第1信号電線2と第2信号電線3の延在(走行)方向は磁性体コア4の長軸方向に沿うものであり、また、第1信号電線2と第2信号電線3が中芯部40に巻き回されることで形成されるターンも磁性体コア4の長軸方向に沿うものとなる。 ここで、請求人が主張するとおりに「信号電線2,3の延在(走行)方向の各位置において浮遊容量が不均一となる位置が生じる場合」に「単位長さ当たりの縒り数を調整して中芯部40に巻回する」と、浮遊容量が不均一となる位置において単位長さ当たりの縒り数が調整されて中芯部40に巻回された部分を含むターンと、そのような部分を含まないターンが存在することになるところ、これら2つのターンの単位ターン数当たりのねじりのピッチが異なることは明らかであるから、引用発明は、「前記コアの長軸方向に沿い単位ターン数当たりのねじりピッチが異なった状態で前記巻芯部に巻回されている」ことに相当する構成を有するものである。 また、請求人は、「引用文献1では、むしろ、同一ターンにおいてねじりピッチが異なることを示唆しており」と主張するが、引用文献1には、同一ターンにおいてねじりピッチが異なる旨の記載も示唆もないから、当該主張は引用文献1の記載に基づくものでない。 よって、請求人の上記bの主張は採用できない。 c 上記a及びbによれば、請求人の意見書における主張はいずれも採用することができない。 エ したがって、本件補正発明は、引用発明及び周知の構成に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3 本件補正についてのむすび よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 令和3年5月25日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、令和2年3月17日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記「第2[理由]1(2)」に記載のとおりのものである。 2 当審による拒絶の理由通知の概要 当審による拒絶の理由は、次のとおりである。 1.(新規性)この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 2.(進歩性)この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 引用文献1:特開2014−216525号公報 3 引用文献、引用発明 引用文献1の記載事項及び引用発明は、上記「第2」[理由]の「2(2)」に記載したとおりである。 4 対比・判断 本願発明は、上記「第2[理由]2」で検討した本件補正発明から、「隣り合うターンは、互いに、接触している」という限定事項を省いたもの、即ち、上記「第2[理由]2(3)」で認定した(相違点)に係る構成を省いたものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項は、上記「第2[理由]2(3)」において検討したとおり、引用発明と全て一致し相違するところがないから、本願発明は、引用文献1に記載された発明である。 第4 むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法29条1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。 |
審理終結日 | 2021-09-30 |
結審通知日 | 2021-10-05 |
審決日 | 2021-10-19 |
出願番号 | P2018-174002 |
審決分類 |
P
1
8・
575-
WZ
(H01F)
P 1 8・ 113- WZ (H01F) P 1 8・ 121- WZ (H01F) |
最終処分 | 02 不成立 |
特許庁審判長 |
酒井 朋広 |
特許庁審判官 |
永井 啓司 山田 正文 |
発明の名称 | コイル部品 |
代理人 | 山尾 憲人 |
代理人 | 吉田 環 |