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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G03B
管理番号 1380419
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-01-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-08-21 
確定日 2021-12-15 
事件の表示 特願2018−512143「光学自由形状面を含む投射装置および投射方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 3月 9日国際公開、WO2017/037101、平成30年 9月20日国内公表、特表2018−527620〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2016年(平成28年)8月31日を国際出願日とする外国語特許出願であって(パリ条約による優先権主張、2015年9月4日、ドイツ連邦共和国)、その出願後の手続の経緯の概略は次のとおりである。

平成30年 5月 7日 :国際出願翻訳文の提出
令和 元年 5月 7日付け :拒絶理由通知書
令和 元年11月14日 :手続補正書、意見書の提出
令和 2年 4月 6日付け :拒絶査定(以下「原査定」という。)
(原査定の謄本の送達日:令和2年4月21日)
令和 2年 8月21日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年8月21日に提出された手続補正書による補正を却下する。

[補正の却下の決定の理由]
1 本件補正の概要
令和2年8月21日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)のうち、請求項1についての補正は、以下の(1)に示される本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載を、以下の(2)に示される本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載に補正することを含むものである。下線は、補正箇所を示す。

(1) 本件補正前
「【請求項1】
少なくとも1つの光源(4)および光チャネル(6,6a,6b,6c)のアレイを含む投射装置(2)であって、各光チャネルは、
第1および第2の屈折光学自由形状面(8,8a,8b,10,10a,10b)および投射光学系(12,12a,12b)を備え、
前記第1および第2の屈折光学自由形状面(8,10)は、前記少なくとも1つの光源(4)と前記投射光学系(12)との間に配置され、前記少なくとも第1の光源の光の再分布と光の角度の分布を生じさせて、前記投射光学系の物体平面に位置する物体光パターン(13,13a,13b,13a’,13a’’)を得て、さらに前記物体光パターン(13,13a,13b,13a’,13a’’)によって、前記投射光学系(12)を介した前記投射装置(2)の投射面のケーラー照明を引き起こし、
投射される画像(14)は、前記光チャネルからの光を重ね合わせることによって、前記投射装置(2)の前記投射面に生じる、投射装置(2)。」

(2) 本件補正後
「【請求項1】
投射面に投射される画像を投射するための投射装置(2)であって、前記投射装置は少なくとも1つの光源(4)と光チャネル(6,6a,6b,6c)のアレイとを含み、
それぞれの光チャネルは、
第1および第2の屈折光学自由形状面(8,8a,8b,10,10a,10b)と投射光学系(12,12a,12b)とを備え、
前記第1および第2の屈折光学自由形状面(8,10)は、前記少なくとも1つの光源(4)と前記投射光学系(12)との間に配置され、
前記第2の屈折光学自由形状面(10)は、光伝播方向に対して、前記第1の屈折光学自由形状面(8)の後方に配置され、
前記第1の屈折光学自由形状面(8)は、
第1の光リダイレクション領域への入射光を凝縮して放射照度の向上を達成し、
第2の光リダイレクション領域への入射光を拡幅して放射照度の減少を達成する、
ことによって、光の収束とは別に、光のリダイレクションを達成するように構成され、
前記第2の屈折光学自由形状面(10)は、前記光リダイレクションによって変更された光線の方向を受容しリダイレクトして、前記少なくとも1つの光源が前記放射光学系の入射瞳に収差を含んで結像されるようになっており、
前記第1および第2の屈折光学自由形状面(8,10)は前記少なくとも1つの光源の光再分布と光の角度分布の変化とを生じさせて、前記投射光学系(12)のケーラー照明を得るとともに、投射光学系の物体平面での光分布(13,13a,13b,13b,13a',13a'')を得て、前記光分布は前記投射光学系を介して結像され、前記投射される画像(14)が前記投射光学系からの光の重畳によって前記投射装置(2)の投射面において生じる、投射装置。」

2 本件補正についての当審の判断
(1) 本件補正の目的
本件補正による請求項1の補正は、次の補正事項1〜4の補正内容を含むものである。
(補正事項1)
請求項1の「少なくとも1つの光源(4)および光チャネル(6,6a,6b,6c)のアレイを含む投射装置」を「投射面に投射される画像を投射するための投射装置(2)であって、前記投射装置は少なくとも1つの光源(4)と光チャネル(6,6a,6b,6c)のアレイとを含」むと補正すること。
(補正事項2)
請求項1の「第2の屈折光学自由形状面」の位置について「光伝播方向に対して、前記第1の屈折光学自由形状面(8)の後方に配置され」ることの限定を行うこと。
(補正事項3)
請求項1の「第1および第2の屈折光学自由形状面」が「前記少なくとも第1の光源の光の再分布と光の角度の分布を生じさせて、前記投射光学系の物体平面に位置する物体光パターン(13,13a,13b,13a’,13a’’)を得て、さらに前記物体光パターン(13,13a,13b,13a’,13a’’)によって、前記投射光学系(12)を介した前記投射装置(2)の投射面のケーラー照明を引き起こし」との記載を
「前記第1の屈折光学自由形状面(8)は、
第1の光リダイレクション領域への入射光を凝縮して放射照度の向上を達成し、
第2の光リダイレクション領域への入射光を拡幅して放射照度の減少を達成する、
ことによって、光の収束とは別に、光のリダイレクションを達成するように構成され、
前記第2の屈折光学自由形状面(10)は、前記光リダイレクションによって変更された光線の方向を受容しリダイレクトして、前記少なくとも1つの光源が前記放射光学系の入射瞳に収差を含んで結像されるようになっており、
前記第1および第2の屈折光学自由形状面(8,10)は前記少なくとも1つの光源の光再分布と光の角度分布の変化とを生じさせて、前記投射光学系(12)のケーラー照明を得るとともに、投射光学系の物体平面での光分布(13,13a,13b,13b,13a',13a'')を得て、」と補正することにより、「第1の屈折光学自由形状面(8)」及び「前記第2の屈折光学自由形状面(10)」の作用について限定を行うとともに、物体平面について「投射光学系の物体平面での光分布(13,13a,13b,13b,13a',13a'')を得て、前記光分布は前記投射光学系を介して結像され」と補正すること。
(補正事項4)
請求項1の「投射される画像(14)は、前記光チャネルからの光を重ね合わせることによって、前記投射装置(2)の前記投射面に生じる」を、「前記光分布は前記投射光学系を介して結像され、前記投射される画像(14)が前記投射光学系からの光の重畳によって前記投射装置(2)の投射面において生じる」と補正すること。

本件補正のうち、請求項1の補正は、原査定の理由である特許法36条6項2号違反を解消するための明瞭でない記載の釈明を目的とする補正を含むと同時に、補正事項2と補正事項3による、特許請求の範囲の減縮を行う補正も含んでいると認められる。そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。したがって、本件補正は、特許法17条の2第5項2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものを含む。
そこで、本件補正後における請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するかについて、以下検討を行う。

(2) 本件補正発明
本件補正後の請求項1の「前記第2の屈折光学自由形状面(10)は、前記光リダイレクションによって変更された光線の方向を受容しリダイレクトして、前記少なくとも1つの光源が前記放射投射光学系の入射瞳に収差を含んで結像されるようになっており」という記載における「前記放射光学系」という記載は、「前記投射光学系」の明らかな誤記であると認められるため、本件補正発明は、本件補正後の請求項1に記載された事項(前記1(2)参照)における「前記放射光学系」という記載を「前記投射光学系」と読み替えたものにより特定されるとおりのものである。

(3) 引用文献
ア 引用文献2
(ア) 引用文献2の記載
原査定の拒絶の理由において引用された特表2012−530263号公報(平成24年11月29日公表。以下「引用文献2」という。)には、次の事項が記載されている。下線は当審が付した。

「【0011】
本発明によれば、少なくとも1つの光源と、規則的に配置された複数の光チャネルとを備える投射型表示装置を提供する。複数の光チャネルは、それぞれに1つのオブジェクト構造が結像される少なくとも1つの対物レンズ、及び少なくとも1つの対物レンズに割り当てられる少なくとも1つの投影レンズを含む。割り当てられたオブジェクト構造から投影レンズまでの距離は、およそ投影レンズの焦点距離に対応し、割り当てられた対物レンズから結像されるべきオブジェクト構造までの距離は、割り当てられた投影レンズによってケーラー照明を構成できるような距離に設定される。個々の投影を重ね合わせることにより、実画像又は虚像の画像の全体が、スクリーン上に生成される。」

「【0025】
超薄型アレイ投射型表示装置は、非常に薄型であり且つ高輝度の投影システムを提供する新たな光学コンセプトであり、一例として、実施形態を参照して、以下に説明する(図1及び図2)。提案された構成では、規則的に配置され、同一の構造をそれぞれ結像させる複数の対物レンズと、複数の投影レンズとを含む。光源(1)は、対物レンズアレイ(2)を照明し、対物レンズアレイは、複数のイメージング構造(3)に隣接して設けられている。投影されるべきオブジェクトはそれぞれ、投影レンズアレイ(4)に配置された複数のレンズの焦点距離に位置している。オブジェクトからの投影レンズの距離と比較して、対物レンズは、対応するオブジェクトにより近接して配置されており、投影レンズのケーラー照明を確実にしている。投影レンズアレイは、複数の個々の像を全て重ね合わせることにより、スクリーン(5)に画像を映し出す。」

「【0030】
ケーラー照明を伴う投影レンズの投影画像を重ね合わせることにより、システムは、投影像及び光源の均質化を達成しているが、従来の1チャネルの投射型システムの場合は、付加的な手段を必要とする。
【0031】
光源の最大の開口角は、対物レンズの受光角を上回るべきではなく、投影レンズの射出瞳が完全に照明されるので、上回ってしまうと、実像に隣接する画像に干渉が生じ得る。
照明としては、例えば、適応した結合構造を有する透過型表示装置のリア照明(米国特許出願公開第2008/0310160号明細書)と同様な非常に平坦なユニットを用いてもよい。プロジェクタアレイの外側に位置する投影要素はそれぞれ、中央に位置する投影チャネルと比較した場合に、ソースのテレセントリック放射特性によって受光角が制限される。更なる巨視的な対物レンズ、例えば、薄型のフレネルレンズ(6)を用いて、このテレセントリック性の効果を取り除いてもよく、これにより、投影画像全体の輝度を上げることができる(図4)。好適な導光要素、例えば、集光器(7)を、対物レンズアレイの一部として設けることにより、対物レンズ間の死角を隠すことができ、充足率を大幅に向上させることができる(図5)。
【0032】
アレイ上で連続的に可変なパラメータ(例えば、アレイ上で複数の投影レンズに異なる焦点距離を設定可能、又は楕円レンズを形成することにより接線方向及び矢状方向に異なる焦点距離を設定可能)を有するレンズアレイを使用することにより、外側に位置する投影レンズの焦点のずれ及び非点収差を修正することができる。チャネルそれぞれの歪み、及びイメージングチャネル全ての重ね合わせの歪み両方の効果を抑制するために、チャネル各々に対して、イメージング構造にプリディストーション(予め設定された歪み)を付与することも可能である。
【0033】
焦点距離の短いマイクロレンズの使用は、伝送可能な情報に制限を伴う。表示可能な画像解像度は、光収差の重ね合わせ及び回折効果によって制限を受ける。投影画像をセグメント化し、規定された視野領域を、アレイ投射表示装置内の制約された配列で、個々の投射要素(8−11)のグループに割り当てることにより、送信される情報を全体として増加させることが可能である(図6/図7)。
【0034】
3つのアレイの投影ディスプレイを混合することにより、フルカラーでの投影が可能であり、3つのアレイの各々が、同一のオブジェクト構造(12−14)の形態で、投影すべき画像の原色部分を表現する(図8/図9)。この手法は、ミクロン単位のRGBのサブピクセルを有するカラー構造と比較して、技術的により単純であるという点で区別され、数100μmの領域のチャネルそれぞれに、十分大きなカラーフィルター構造(15−17)が割り当てられる。通常のカラー順次ピコプロジェクタ(上述参照)と比較して、運動面に投射を行う場合に発生する色の干渉効果が生じない。さらに、従来の1チャネルの投影システムが複数の色消しレンズを使用した複数の投影レンズを有する場合と比較して、チャネルについての色不良の修正を行える可能性が存在し、これにより、投影レンズシステムを大幅に簡素化できると考えられる。
【0035】
可変ピッチで配置された同一画像のアレイを画像コンテンツとして表示するデジタル画像装置によって、オブジェクト構造が生成される場合、投射型表示装置は、動画像コンテンツを表示可能となる。画像装置における個々の画像の電子的オフセットにより、機械的な構成要素を使用することなく投影距離を制御することができる(上記の投影距離Dの式を参照)。スクリーンからの距離の測定を組み合わせることによって、投影距離を、制御回路内で電子的に追跡することができる。」

「図1




「図3



「図8



「図9



(イ) 引用文献2における誤訳について
前記【0011】の「複数の光チャネルは、それぞれに1つのオブジェクト構造が結像される少なくとも1つの対物レンズ、及び少なくとも1つの対物レンズに割り当てられる少なくとも1つの投影レンズを含む。」」及び前記【0025】の「提案された構成では、規則的に配置され、同一の構造をそれぞれ結像させる複数の対物レンズ、及び少なくとも1つの対物レンズに割り当てられる少なくとも1つの投影レンズを含む。」の各記載は、それぞれ「対物レンズ」に「オブジェクト構造」が結像される及び「オブジェクト構造」が「対物レンズ」によって結像されることを意味するような記載ぶりであるが、図1、図3、図8、図9及び段落【0025】〜【0035】の記載を参酌すれば明らかなとおり、「オブジェクト構造(イメージング構造(3))」は「投影レンズ」により「スクリーン5」に結像されるのであるから、当該箇所に翻訳に伴う誤記が含まれていることは、当業者には明らかである。
したがって、当業者は、引用文献2の原文である国際公開2010/145784号において対応する記載(以下「引用文献2原文」という。)を参酌することが期待されるところ、当該記載箇所に対応する引用文献2原文及び当審により修正した翻訳は、それぞれ次のa及びbのとおりである。なお、翻訳は、当審により、引用文献2原文の「a」のウムラウト文字は「ae」、エスツェット文字は「ss」と表記(大文字も同様に表記した。)した。

a 段落【0011】の「複数の光チャネルは、それぞれに1つのオブジェクト構造が結像される少なくとも1つの対物レンズ、及び少なくとも1つの対物レンズに割り当てられる少なくとも1つの投影レンズを含む。」の記載に対応する、引用文献2原文の部分と当審により修正した翻訳は、次のとおりである。
<引用文献2原文の対応する記載>
「Erfindungsgemaess wird ein Projektionsdisplay mit mindestens einer Lichtquelle und regelmaessig angeordneten optischen Kanaelen bereitgestellt, wobei die optischen Kanaele mindestens eine Feldlinse aufweisen, der jeweils eine abzubildende Objektstruktur sowie mindestens eine Projektionslinse zugeordnet ist.」(明細書3頁26〜31行)
<当審により修正した翻訳>
「複数の光チャネルは、少なくとも1つの対物レンズを有し、結像されるべきオブジェクト構造と少なくとも一つの投影レンズがそれぞれに割り当てられる。」

b 【0025】記載の「提案された構成では、規則的に配置され、同一の構造をそれぞれ結像させる複数の対物レンズと、複数の投影レンズとを含む。」に対応する、引用文献2原文の部分と当審により修正した翻訳は、次のとおりである。
<引用文献2原文の対応する記載>
「Die vorgeschlagene Anordnung besteht aus einer regelmaessigen Anordnung mehrerer Feldlinsen, abzubildender identischer Strukturen und Projektionslinsen.」(明細書7頁6〜9行)
<当審により修正した翻訳>
「提案された構成は、複数の、対物レンズ、結像される同一の構造及び投影レンズからなる規則的な配置を含む。」

(ウ) 引用発明の認定
上記(イ)の誤訳についての検討結果を踏まえつつ前記(ア)の摘記事項を総合すると、引用文献2には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

[引用発明]
「 少なくとも1つの光源と、規則的に配置された複数の光チャネルとを有する投射型表示装置であって(【0011】)、
複数の光チャネルは、少なくとも1つの対物レンズを有し、結像されるべきオブジェクト構造と少なくとも一つの投影レンズがそれぞれに割り当てられ(【0011】、図3)、
光源は、対物レンズアレイを照明し、対物レンズアレイは、複数のイメージング構造に隣接して設けられ、投影されるべきオブジェクトはそれぞれ、投影レンズアレイに配置された複数のレンズの焦点距離に位置し、オブジェクトからの投影レンズの距離と比較して、対物レンズは、対応するオブジェクトにより近接して配置されており、投影レンズのケーラー照明を確実にしており(【0025】、図3)、
個々の投影を重ね合わせて、実画像又は虚像の全体画像を、スクリーン上に生成する投射型表示装置(【0011】)。」

イ 引用文献4
当審が新たに引用する特開2008−26793号公報(平成20年2月7日公開。以下「引用文献4」という。)には、次の事項が記載されている。下線は当審が付した。

「【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、様々な従来の技術開発によって得られた光ビームは照度の一様性が未だに十分満足のいく結果ではなく、画面の輝度を均一にするためには照度の一様性をさらに改善する手段が必要とされている。
【0015】
そこで、本発明では、光源ユニットからの照明光束を画像生成用の光変調ユニットに集光照射させる集光光学系に自由曲面を有する光学素子を用いた画像投影装置を提供することを目的とする。」

「【0027】
本実施形態では、LED等の固体発光素子を2次元的に配列した光源ユニットを使った画像投影装置で、光源からの光束を効率よく利用し、プロジェクタの小型化に寄与する照明光学系を提供することを目的とする。」

「【0052】
図2は、本実施形態における集光光学系に自由曲面レンズを用いた一例の図を示す。
自由曲面による集光性の効果を、透過型レンズを用いた例で図2を用いて説明する。図2に示すように、屈折面に自由曲面を用いた集光レンズでは、各発光点からの光束7が、それぞれ屈折する部分の屈折方向を自在に設定することが可能となる。これにより、複数の光源1からの照明光束7を、投影レンズ4のほぼ一点に集光させることができる。図3は、本実施形態における集光光学系に自由曲面反射鏡を用いた一例の図を示す。つまりは、図2を斜視図で表したのが図3で、多くの光源1が2次元的に配列された光源ユニット2からの照明光束が一点に集まり、小さな光源像3を形成する。」

「【0054】
以上に説明した通り、本実施形態では、プロジェクタの照明系に自由曲面を使った集光素子(レンズや反射鏡)を用いることで、比較的に大きな広がりを持つ光源ユニットの照明光束を小さな点に集光させることができる。これにより、小型で、電力消費が少く、かつ十分な明るさを持った画像投影装置を提供することが可能となる。」

「【0057】
本実施形態では、照明系の集光素子に自由曲面を用いることで、光源ユニット5からの照明光束を、投影レンズ4の中において、ほぼ1点に集光できる。これによって、投影光学系の小径化や短小化が図れる他に、照明系の性能を落とすことなく集光素子(レンズや反射鏡など)に強いパワー(収束力)を持たせることも可能で、投影装置の小型化に大いに寄与できる。また、より少ない点数の集光素子で従来方式と同等の集光性能が得られるため、低コスト化も十分に期待できる。」

「【0065】
本実施形態では、図5に示すように、それぞれに自由曲面を有する凹面鏡8aと凸面鏡8bを用いている。凸レンズや凹面鏡などの正のパワー(収束力)を持つ光学素子と、凹レンズや凸面鏡などの負のパワー(発散力)を持つ光学素子を組み合わせた光学系では、正パワーの光学素子のみで構成された光学系に比べ、射出光束がより平行に近い状態となる。」

「【0075】
図9は、本実施形態における集光光学系に少なくとも1枚の自由曲面を有する正レンズ(凸レンズ)と、少なくとも1枚の自由曲面を有する負レンズ(凹レンズ)を用いた一例の図を示す。光源ユニット2の各光源1から発光された照明光束は、自由曲面を有する正レンズ6aと自由曲面を有する負レンズ6bで反射(当審注:「屈折」の明らかな誤記である。)された後、光変調ユニット7(当審注:「光変調ユニット5」の明らかな誤記である。)を照射し、投影レンズ4中のほぼ一点に集光され、小さな光源像3を形成する。正レンズと負レンズを組み合わせた構成の照明光学系では、正レンズのみの構成に比べ、照明光束がより平行に近い光束が射出される。この例でも、図2の例に比べ、光源像3がより遠くに形成されている。
【0076】
本実施形態では、集光素子として、それぞれに自由曲面を有する正レンズと負レンズを用いている。反射鏡を用いた例でも説明したように、レンズの製造で一般的に使われる硝材は、異なる光の波長に対する屈折率が変化し、その結果として色収差が発生する。1枚のレンズだけ、または2枚以上の正レンズのみでは、この色収差を無くすことはできない。しかし、波長特性(色分散)の異なる硝材の正レンズと負レンズを組み合わせることで色収差を補正できることは広く知られている。
【0077】
本実施形態では、正レンズと負レンズを組み合わせることで色収差を補正し、さらに図5に示した構成と同様に、より平行に近い光束が射出させることが可能となる。」

「図2



「図9


引用文献4の記載事項(【0014】、【0015】、【0027】、【0052】、【0075】)から、次の技術事項が認定できる。

「LED等の固体発光素子を2次元的に配列した光源ユニットを使った画像投影装置で、照度の一様性をさらに改善するため、光源からの光束を効率よく利用し、プロジェクタの小型化に寄与する照明光学系として、
光源ユニット2の各光源1から発光された照明光束が自由曲面を有する正レンズ6aと自由曲面を有する負レンズ6bで屈折された後、光変調ユニット5を照射し、投影レンズ4中のほぼ一点に集光され、小さな光源像3を形成するように構成すること。」

ウ 引用文献5
当審が新たに引用する特開2009−217060号公報(平成21年9月24日公開。以下「引用文献5」という。)には、次の事項が記載されている。下線は当審が付した。

「【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
表示素子と、
光軸周りの少なくとも一部の回転角での屈折力が他の回転角での屈折力と異なり、前記光源からの光を集光して前記表示素子に照射する集光レンズ群と、
前記表示素子に形成される像を投影する投影レンズ群と、を有するプロジェクタ装置。
【請求項2】
前記集光レンズ群の少なくとも一面は、
光軸を通り前記表示素子の表示面に垂直な面内で、光軸周りの回転角により決定される前記表示素子の表示範囲とほぼ一致する集光範囲となるように定義した曲線を、前記垂直な面を前記光軸周りに回転させることにより連続的に変化させてできる自由曲面で構成される請求項1に記載のプロジェクタ装置。」

「【0014】
このような構成のプロジェクタ装置10において、光源1の発光部1aから放射された照明光は、第1及び第2集光レンズ2,3で集光された後、第1の偏光板4を透過して偏光され、さらに、偏光ビームスプリッタ5の透過・反射面5aを透過して表示素子6の表示面6aに照射される。そして、この表示素子6の表示面6aで反射した光線は、偏光ビームスプリッタ5に入射して透過・反射面5aで反射され、第2の偏光板7で偏光された後、第1及び第2投影レンズ8,9により表示面6aの実像が投影面に拡大投影される。
【0015】
ここで、表示素子6の表示面6aは図3に示すように矩形形状をしている。そのため、光源1から放射された照明光を、効率よくこの表示素子6の表示面6aに照射するためには、第1及び第2集光レンズ2,3において、光源1から円錐状に放射された照明光の輪郭形状を、表示素子6(表示面6a)と同一の輪郭形状で且つほぼ同じ大きさに変換する必要がある。そのため、このプロジェクタ装置10においては、第1及び第2集光レンズ2,3のうち、最も光源1側の面、すなわち、第1集光レンズ2の光源1側の面2aを、光軸に周りの回転角により異なる屈折力(パワー)を有する自由曲面として形成している。この自由曲面2aにより、光源1から放射された照明光を、照度が均一になるようにするとともに、輪郭形状を表示素子6の表示面6aの輪郭形状と相似となる矩形形状に変換し、集光レンズ群2,3の他のレンズ面でさらに集光させて、表示面6aと略同一形状・略同一大きさとして照射するように構成されている。
【0016】
具体的には、光軸を切るとともに、発光部1a、自由曲面2a及び表示面6aと交差する仮想平面を考え、発光部1aのうち、この仮想平面と交差する領域から放射された照明光を、自由曲面2aのうち、仮想平面と交差する領域で集光し、表示面6aのうち、仮想平面と交差する領域に照明するように他のレンズ面のパワーを考慮して自由曲面2aを決定する。そして、この仮想平面を光軸に対して所定の角度ずつ回転させ、各回転角毎に自由曲面2aを決定する。この光軸周りの回転角θは、表示素子6の表示面6aの長辺方向をx軸とし、短辺方向をy軸とし、光軸方向をz軸とすると、この表示面6aの長辺方向(x軸方向)はθ=0°となり、短辺方向(y軸方向)はθ=90°となる。そして、例えば、長辺と短辺の比が4:3の表示面6aを有する表示素子6の場合、この表示面6aの対角方向はθ=36.87°となる。
【0017】
このような座標系により、第1集光レンズ2の自由曲面2aを定義すると、次の非球面式(1)により決定される。なお、この式(1)において、uは光軸に垂直な方向の高さを示し、zは高さuにおける各非球面(自由曲面)の頂点の接平面から各非球面(自由曲面)までの光軸に沿った距離(サグ量)を示し、R、k、Cn(n=4,6,8,10)は非球面係数を示している。」

「【0022】
このように、集光レンズ群(第1集光レンズ2及び第2集光レンズ3)の少なくとも何れかの面を自由曲面とし、光源1から円錐状に放射される照明光の輪郭形状を表示素子6と同じ矩形形状に変換するとともに、照度が均一化するように構成することにより、光源1から放射された光の損失を少なくして照明光として利用することができるため、輝度の小さい光源1を用いることができ、この光源1で消費される電力を少なくすることができる。さらに、光源1から放射される光の損失を少なくすることにより、このプロジェクタ装置10の発熱を抑えることができる。そのため、このプロジェクタ装置10を小型化することが可能となる。なお、この自由曲面2aを集光レンズ群2,3に設けることにより、集光レンズ群2,3の機能うち、自由曲面2aには照明光の輪郭形状の変形機能と照度の均一化機能を分担させ、集光機能は集光レンズ群2,3の他の面に分担させることができるので、自由曲面2aの設計の自由度を向上させることができるとともに、その設計も容易に行うことができる。」

「図1



引用文献5の記載事項(【特許請求の範囲】【請求項1】、【請求項2】、【0022】)から、次の技術事項が認定できる。
「光源1の発光部1aから放射された照明光が、第1及び第2集光レンズ2,3で集光された後、表示素子6の表示面6aに照射され、この表示素子6の表示面6aで反射した光線が、第1及び第2投影レンズ8,9により投影面に拡大投影されるプロジェクタにおいて、第1集光レンズ2及び第2集光レンズ3からなる集合レンズ群の少なくとも一面を自由曲面とし、光源1から円錐状に放射される照明光の輪郭形状を表示素子6と同じ矩形形状に変換するとともに、照度が均一化するように構成することにより、光源1から放射された光の損失を少なくして照明光として利用することができること。」

エ 引用文献6
当審が新たに引用する「相川敏哉,”4.ディジタルカメラ内蔵型プロジェクタの光学技術”, 映像情報メディア学会誌, 2011年, Vol.65, No.3 p.278-281」(以下「引用文献6」という。)には、次の事項が記載されている。下線は当審が付した。

「2010年商品化モデルを例に取って説明する.本製品は,ディジタルカメラとプロジェクタを一体にした製品である.内部構成は,ディジタルカメラの基本要素である撮影レンズ,リチャージャブルバッテリーの間にプロジェクタユニットが配置され,同ユニットの上側にはフラッシュ発光部が,バッテリー上側にはフラッシュ用コンデンサが,プロジェクタ光源部上側にはレンズバリア機構,下側には三脚座をそれぞれ配置されている(図3).
プロジェクタユニット(図4)はその体積が約9ccと,一般的なデータプロジェクタと比較すると,大幅に小型化している.加えて,撮影レンズ形状の凹に合わせ込み略L字型とし,プロジェクタユニットとカメラの構成要素を隙間なく実装することで,一般的なコンパクトディジタルカメラと同等の製品サイズを実現している.」(278頁左欄20行〜右欄2行)

「5.1 照明光学系
LED光源からの光束は,2枚の集光レンズを用いて反射型液晶を集光照明している.反射型液晶の画面は,写真サイズに合わせてアスペクト比を4:3としているが,LED光源は全方位対称に発光するため,一般的な回転対称のコンデンサレンズで集光すると,反射型液晶上では円形に集光し,矩形の液晶画面から外れた光束は,投映光として利用できないことになる.このため,プロジェクタでは2枚の集光レンズを自由曲面のコンデンサレンズで構成し,反射型液晶の画面アスペクト比に合わせ矩形状に集光することで,照明光利用効率を向上させている.
(1)自由曲面のコンデンサレンズ
自由曲面のコンデンサレンズは,光軸周りの回転角θによりレンズパワーが異なっているレンズである.図5は各画面方向での集光光線図で,上段は画面短辺方向,中断は画面長辺方向,下段は画面対角方向を示している.各画面方向での画面サイズに合わせて,レンズパワーを変えることにより,集光効率の向上と照明の均一性を両立させている.レンズパワーは画面短辺方向で最大,画面対角方向で最小となり,反射型液晶上では矩形状に集光することになる.
図6は,反射型液晶の画面に集光する光束の照度分布図を示している.左は一般的な回転対称のコンデンサレンズで集光した場合,右は自由曲面のコンデンサレンズを用いて集光した場合の照度分布である.回転対称のコンデンサレンズで集光した場合は,反射型液晶の画面外に光束が逃げてしまうが,自由曲面のコンデンサレンズで集光した場合は,画面アスペクト比に合わせて矩形状に集光できるため,LED光源からの光束を無駄なく利用できる.その結果,少ない消費電力でも十分な投映明るさを確保できる.」(279頁右欄下から6行〜280頁右欄6行)

「図3



「図4



「図5



「図6




引用文献6の記載事項(278頁左欄20行〜右欄2行、279頁右欄下から6行〜280頁右欄6行)から、次の技術事項が認定できる。
「プロジェクタにおいて、2枚の集光レンズを自由曲面のコンデンサレンズで構成し、
前記コンデンサレンズは、各画面方向での画面サイズに合わせて、レンズパワーを変えることにより、集光効率の向上と照明の均一性を両立させており、自由曲面のコンデンサレンズで集光すると、画面アスペクト比に合わせて矩形状に集光できるため,LED光源からの光束を無駄なく利用でき、少ない消費電力でも十分な投映明るさを確保できること」

オ 引用文献7
当審が新たに引用する「坂本 努,外2名,”家庭用40型液晶プロジェクション テレビ用光学系”, 東芝レビュー, 1997年, Vol.52, No.6 p.15-18」(以下「引用文献7」という。参考:本文献のURLは、「https://www.global.toshiba/content/dam/toshiba/migration/corp/techReviewAssets/tech/review/1997/06/52_06pdf/a05.pdf」)には、次の事項が記載されている。下線は当審が付した。

「 液晶プロジェクションテレビの照明系では液晶パネル上で輝度が均一であり,投影レンズの入射瞳(ひとみ)で照明光束がけられないことが必要である。
液晶プロジェクションテレビの照明方式は,大別してクリティカル照明系(図3)とケーラー照明系(図4)がある。クリティカル照明系は,光源の像を液晶パネルの近傍に結像させる照明方法である。この方法は簡単で低価格にできるが,光源そのもののむらが液晶パネル上での照明むらとなり輝度均一性が悪いため,液晶プロジェクションテレビ用照明系には適当ではない。ケーラー照明系は,光源の像を投写レンズの瞳上に結像する方法である。この方法は光源にむらがあっても投写されたスクリーン上ではむらが少ないことが特長である。」(16頁左欄下から2行〜右欄11行)

「図4



カ 周知技術・技術常識の認定
(ア) 前記オの引用文献7の記載事項から明らかなように、次の技術事項は、当業者にとって技術常識であったと認められる(以下「技術常識1」という。)。

<技術常識1>
「ケーラー照明は、光源の像を投写レンズの瞳上に結像するものであり、光源にむらがあっても投写されたスクリーン上ではむらが少なく、輝度の均一性が高いことが特長であること。」

(イ) 前記ウの引用文献5の記載事項(【0022】)、及び、前記エの引用文献6の記載事項(279頁右欄下から6行〜280頁右欄6行)から明らかなように、次の技術事項は、当業者にとって技術常識であったと認められる(以下「技術常識2」という。)。

<技術常識2>
「屈折面に自由曲面を用いたレンズを用いて、光の輪郭形状を矩形形状に変換することにより、照明光の利用効率の向上と照明光の均一化が可能であること。」

(ウ) 屈折面に自由曲面を用いたレンズを用いて、光の輪郭形状を矩形形状に変換することにより、照明光の利用効率効率の向上と照明の均一化が可能であるという技術常識(技術常識2)を踏まえると、引用文献4の記載事項(【0014】、【0015】、【0027】、【0052】、【0075】)、及び、引用文献5の記載事項(【特許請求の範囲】【請求項1】、【請求項2】、【0022】)に例示されるように、次の技術は周知技術であると認められる。

<周知技術>
「プロジェクタの光源側の照明光学系を構成する2枚のレンズの表面形状を自由曲面として、光源からの光を高い利用率で均一に照明する技術。」

(4) 対比
本件補正発明と引用発明を対比する。

ア 引用発明の「スクリーン」は、画像が投射される面を有しているから、本件補正発明の「投射面」に相当する。

イ 引用発明の「投射型表示装置」は、「個々の投影を重ね合わせて、実画像又は虚像の全体画像を、スクリーン上に生成する」から、本件補正発明の「投射面に投射される画像を投射するための投射装置」に相当する。

ウ 引用発明の「少なくとも1つの光源」は、本件補正発明の「少なくとも1つの光源」に相当する。

エ 引用発明の「少なくとも1つの投影レンズ」は、本件補正発明の「投射光学系」に相当する。

オ 引用発明の「対物レンズ」は、光を屈折させる面を当然に有している。そして、「光源は、対物レンズアレイを照明し、対物レンズアレイは、複数のイメージング構造に隣接して設けられ、投影されるべきオブジェクトはそれぞれ、投影レンズアレイに配置された複数のレンズの焦点距離に位置し、オブジェクトからの投影レンズの距離と比較して、対物レンズは、対応するオブジェクトにより近接して配置されており、投影レンズのケーラー照明を確実にして」いる配置関係からみて、「対物レンズ」は「光源」と「投影レンズ」との間に配置される。
よって、本件補正発明の「第1および第2の屈折光学自由形状面」と、引用発明の「対物レンズ」の光を屈折させる面は、「屈折光学面」であって、「少なくとも1つの光源と投射光学系との間に配置され」る点で共通する。

カ 引用発明の「規則的に配置された複数の光チャネル」は、「少なくとも1つの対物レンズを有し、結像されるべきオブジェクト構造と少なくとも一つの投影レンズがそれぞれに割り当てられ」ているから、本件補正発明の「光チャネルのアレイ」と、引用発明の「規則的に配置された複数の光チャネル」は、「光チャネルのアレイ」であって、「それぞれの光チャネルは、屈折光学面と投射光学系とを備え」る点で一致する。

キ 引用発明の「光源は、対物レンズアレイを照明し、対物レンズアレイは、複数のイメージング構造に隣接して設けられ、投影されるべきオブジェクトはそれぞれ、投影レンズアレイに配置された複数のレンズの焦点距離に位置し、オブジェクトからの投影レンズの距離と比較して、対物レンズは、対応するオブジェクトにより近接して配置されており、投影レンズのケーラー照明を確実にして」いることは、「対物レンズ」のレンズの機能からみて、「レンズの各位置での光の入射角度に応じた屈折により「光源」からの光の分布を変化させ」るものであることは明らかであるから、本件補正発明の「前記少なくとも1つの光源の光再分布と光の角度分布の変化とを生じさせて、前記投射光学系(12)のケーラー照明を得る」ことに相当する。
したがって、本件補正発明の「前記第1および第2の屈折光学自由形状面(8,10)は前記少なくとも1つの光源の光再分布と光の角度分布の変化とを生じさせて、前記投射光学系(12)のケーラー照明を得る」ことと、引用発明の「光源は、対物レンズアレイを照明し、対物レンズアレイは、複数のイメージング構造に隣接して設けられ、投影されるべきオブジェクトはそれぞれ、投影レンズアレイに配置された複数のレンズの焦点距離に位置し、オブジェクトからの投影レンズの距離と比較して、対物レンズは、対応するオブジェクトにより近接して配置されており、投影レンズのケーラー照明を確実にして」いることは、「屈折光学面は少なくとも1つの光源の光の分布の変化を生じさせて、投影光学系のケーラー照明を得る」ことで一致する。

ク 本件補正発明の「投射光学系の物体平面での光分布(13,13a,13b,13b,13a',13a'')を得て、前記光分布は前記投射光学系を介して結像され、前記投射される画像(14)が前記投射光学系からの光の重畳によって前記投射装置(2)の投射面において生じる」ことと、引用発明の「個々の投影を重ね合わせて、実画像又は虚像の全体画像を、スクリーン上に生成する」ことは、「光の分布は前記投射光学系を介して結像され、投射される画像が前記投射光学系からの光の重畳によって前記投射装置の投射面において生じる」ことで一致する。

ケ 上記アからクの検討結果を総合すると、本件補正発明と引用発明は、以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違する。

[一致点]
「投射面に投射される画像を投射するための投射装置であって、前記投射装置は少なくとも1つの光源と光チャネルのアレイとを含み、
それぞれの光チャネルは、
屈折光学面と投射光学系とを備え、
前記屈折光学面は、前記少なくとも1つの光源と前記投射光学系との間に配置され、
前記屈折光学面は前記少なくとも1つの光源の光の分布の変化を生じさせて、前記投射光学系のケーラー照明を得るとともに、前記光分布は前記投射光学系を介して結像され、前記投射される画像が前記投射光学系からの光の重畳によって前記投射装置の投射面において生じる、投射装置。」

[相違点]
「屈折光学面」について、
本件補正発明は、「第1および第2の屈折光学自由形状面」を含み、
「第2の屈折光学自由形状面は、光伝播方向に対して、第1の屈折光学自由形状面の後方に配置され」、
「第1の屈折光学自由形状面」が、
「第1の光リダイレクション領域への入射光を凝縮して放射照度の向上を達成し、
第2の光リダイレクション領域への入射光を拡幅して放射照度の減少を達成する、
ことによって、光の収束とは別に、光のリダイレクションを達成するように構成され」、
「第2の屈折光学自由形状面」が、
「前記光リダイレクションによって変更された光線の方向を受容しリダイレクトして、前記少なくとも1つの光源が前記投射光学系の入射瞳に収差を含んで結像されるようになって」おり、それに伴い、
「前記第1および第2の屈折光学自由形状面は前記少なくとも1つの光源の光再分布と光の角度分布の変化とを生じさせて、前記投射光学系のケーラー照明を得るとともに、投射光学系の物体平面での光分布を得て、前記光分布は前記投射光学系を介して結像され」ているのに対して、
引用発明の「対物レンズ」は、投影レンズのケーラー照明を確実にするものであるものの、自由形状面(自由曲面)ではない点。

(5) 判断
ア ケーラー照明光学系における二つの自由曲面レンズの採用について
引用発明は、「光源は、対物レンズアレイを照明し、対物レンズアレイは、複数のイメージング構造に隣接して設けられ、投影されるべきオブジェクトはそれぞれ、投影レンズアレイに配置された複数のレンズの焦点距離に位置し、オブジェクトからの投影レンズの距離と比較して、対物レンズは、対応するオブジェクトにより近接して配置されており、投影レンズのケーラー照明を確実にして」」いるから、ケーラー照明をなす光学系を有している。
そのため、技術常識(前記技術常識1)からみて光源にむらがあっても投写されたスクリーン上ではむらが少ない特長も有している。
さらに、引用文献2の段落【0031】を参酌すると、「プロジェクタアレイの外側に位置する投影要素はそれぞれ、中央に位置する投影チャネルと比較した場合に、ソースのテレセントリック放射特性によって受光角が制限される。更なる巨視的な対物レンズ、例えば、薄型のフレネルレンズ(6)を用いて、このテレセントリック性の効果を取り除いてもよく、これにより、投影画像全体の輝度を上げることができる(図4)。好適な導光要素、例えば、集光器(7)を、対物レンズアレイの一部として設けることにより、対物レンズ間の死角を隠すことができ、充足率を大幅に向上させることができる(図5)」と記載されているように、引用文献2には、投影画像全体の輝度を上げるため、すなわち、光源からの光を効率良く利用するために、対物レンズに、それぞれの対物レンズから見てその光軸に対する回転対称性のない他の光学系を追加することが記載されていることからみて、引用文献2には、照明光の主光線を偏向することにより光源からの光をさらに効率良く利用しようということが示唆されているということができる。
そして、レンズ光学系において、自由形状面を導入することにより、自由度が向上し、光の制御の自由度が向上することは、証明を要するまでもない基本的知識であるところ、プロジェクタの技術分野においても、プロジェクタの光源側の照明光学系を構成する二つのレンズの表面形状を自由曲面として、光源からの光を高い利用率で均一に照明する技術は周知の技術であり(前記周知技術)、また屈折面に自由曲面を用いたレンズでは、光束が入射する箇所におけるそれぞれの曲面形状に応じて屈折方向を自在に設定したり、光の輪郭形状を矩形形状に変換することにより、照明光の利用効率の向上と照明の均一化が可能であることが技術常識である(前記技術常識2)ことに鑑みると、ケーラー照明をなす引用発明の対物レンズを、光源からの光を均一にして効率よく利用するために、レンズ面として、二つの自由曲面形状を有する光学系で構成することは、当業者にとっては自明の選択肢である設計的事項にすぎず、容易に想到し得たことである。

イ 自由曲面形状の二つのレンズ面に係るその他の特定事項について
(ア) 自由曲面形状の二つのレンズ面に係るその他の特定事項の分説
自由曲面形状の二つのレンズ面に係るその他の特定事項について、次のようにa〜cの三つの点に分説して検討する。
a (分説事項1)
「第1の屈折光学自由形状面」が、
「第1の光リダイレクション領域への入射光を凝縮して放射照度の向上を達成し、
第2の光リダイレクション領域への入射光を拡幅して放射照度の減少を達成する、
ことによって、光の収束とは別に、光のリダイレクションを達成するように構成され」ること。

b (分説事項2)
「第2の屈折光学自由形状面」が、
「前記光リダイレクションによって変更された光線の方向を受容しリダイレクトして、前記少なくとも1つの光源が前記投射光学系の入射瞳に収差を含んで結像されるようになって」いること。

c (分説事項3)
「前記第1および第2の屈折光学自由形状面は前記少なくとも1つの光源の光再分布と光の角度分布の変化とを生じさせて、前記投射光学系のケーラー照明を得るとともに、投射光学系の物体平面での光分布を得て、前記光分布は前記投射光学系を介して結像され」ていること。

(イ) 分説事項1について
a 本願明細書の記載
前記相違点に係る本件補正発明の構成に関して、「第1の屈折光学自由形状面」が「第1の光リダイレクション領域への入射光を凝縮して放射照度の向上を達成し、第2の光リダイレクション領域への入射光を拡幅して放射照度の減少を達成する、ことによって、光の収束とは別に、光のリダイレクションを達成するように構成され」、「第2の屈折光学自由形状面」が「前記光リダイレクションによって変更された光線の方向を受容しリダイレクトして、前記少なくとも1つの光源が前記投射光学系の入射瞳に収差を含んで結像されるようになって」いるという点は、本願明細書には明記されていないものの、この点に関して発明の詳細な説明には、次の記載がある。下線は当審が付加した。

「【0015】
本発明の基礎を成すアイデアは、光チャネルに配置された2つの屈折光学自由形状面によって、光の再分配および光源の光の角度分布の変化を得るためにケーラー照明を使用しており、投射光学系を用いて投射像に表現することができる物体光パターンを生成する。物体光パターンは、実物と仮想の両方であってもよい。入射光は、コリメートされても発散してもよい。換言すれば、物体光パターンは、投射光学系が光分布を用いて画像を投射するように投射光学系内に光分布を生じさせることができる。屈折光学自由形状面を用いることにより、少なくとも完全に反射防止された面で、投射された像または照明ターゲットへの光入力パワーの完全な伝達が可能になる。したがって、全体的な光出力の損失を低減することができ、より明るく、より強く照明された画像を投射または結像することができる。すなわち、ターゲットまたは像面に対する放射照度が増加する。放射照度および強度という用語は、その後、同義語として使用され、両方の用語は、コリメートされた光およびコリメートされていない光または発散光の両方に関連する。特に、強度という用語は、専らコリメートされた光に限定されない。」

「【0043】
図3は、3つの屈折表面及び開口構造20aの効果に分解された単一チャネル6a(ここではチャネル傾斜なし)の機能のモードを示す。コリメートされた光源から放射される光16aは、第1の屈折自由形状面8aに入射する。ここで、この自由形状面は、(光学基板の出射側のような)光学素子22の出射側に配置されている。この自由形状面は、光の再分配によって空間的強度パターンまたは照明パターンを生成する。すなわち、その結果がターゲット分布に対応する強度変調された光分布となるように、光は屈折的に適切に再指向される。理想的な場合(フレネル損失を無視する場合)、これは100%の効率で行われる。図3aにおいて、この光分布14a'は、直線状のコリメートされた入射光および傾斜しコリメートされた入射光の両方について、第1の自由形状面のすぐ後ろで検出されたものである(上部のグレースケール画像を参照)。検出器位置24は、第1の自由形状面のすぐ後ろの太線で示されている。光分布は、元々光軸上で理想的にコリメートされた入射光が自由形状の後ろにあるビーム角度スペクトルを示すように(図3aの左側参照、対応するビーム方向変化によって行われる。光の再分配とは別に、第1の自由形状面は、光軸に対して傾斜した入射光が排他的に同じ光チャネルの第2の自由形状面に入射し、クロストークがなくなると自由形状領域が生じるために、さらに、常に、一般的な光収束を生成しなければならない。しかしながら、強度変調または透過変調された光分布がチャネルに設けられた投射レンズ上に完全に当たるという単一の自由形式によって保証することはできない。これは図3aの右側の図に示されている。しかしながら、光軸に対してより強く傾斜したコリメートされた入射光は、最終的に投射レンズ12aのために設けられた空間領域の外側に部分的に位置する。これは図3aの右側の図に示されている。結果として、投影レンズレットの領域におけるクロストークは、クロストークがない自由形状領域をもたらすために、入射角スペクトルが強く制限されている場合にのみ回避することができる。」

「【0059】



「【0071】
換言すれば、第1の屈折光学自由形状面8は、空間光再分布および/ または光源によって照射される光ビームのビーム角の制御を行うように実施することができる。代替的にまたは追加的に、第2の屈折光学自由形状面は、ケーラー照明に従って収束的に投射光学系12に光ビームを導くように構成することができ、第1および第2の屈折光学自由形状面は、互いに影響を及ぼす。」

b 分説事項1についての判断
前記【0059】及び【0071】の記載からみて、
「第1の屈折光学自由形状面」が、「第1の光リダイレクション領域への入射光を凝縮して放射照度の向上を達成し、第2の光リダイレクション領域への入射光を拡幅して放射照度の減少を達成する、ことによって、光の収束とは別に、光のリダイレクションを達成するように構成され」ることは、「第1の屈折光学自由形状面」が、領域ごとに、光を収束させる正のパワー、光を発散させる負のパワーを有する自由曲面レンズであるという、きわめて当たり前のことを特定したものにすぎない。したがって、分説事項1は格別のものではない。

(ウ) 分説事項2について
屈折方向を自在に設定することにより光源の光再分布を生じさせ、光の輪郭形状を矩形形状に変換、すなわち、光の角度分布を変化させることも明らかである。
また、二つのレンズ面を配置した場合、光伝搬方向に対して後方のレンズ面は、前方のレンズ面からの光を受けてレンズ面の屈折によりリダイレクション(再分配)を行うことは自明であり、レンズ設計において、ザイデルの5収差を完全になくすことは不可能であるから、光源が前記投射光学系の入射瞳に収差を含んで結像されることは自明のことである。加えて、ケーラー照明を用いたプロジェクタにおいて光源の像を投写レンズの瞳上に結像することは技術常識(技術常識1)であるから、「第2の屈折光学自由形状面」が、「前記光リダイレクションによって変更された光線の方向を受容しリダイレクトして、前記少なくとも1つの光源が前記投射光学系の入射瞳に収差を含んで結像されるようになって」いる点は、上記自明な事項や技術常識を記述したものにすぎない。したがって、分説事項2は格別のものではない。

(エ) 分説事項3について
「前記第1および第2の屈折光学自由形状面は前記少なくとも1つの光源の光再分布と光の角度分布の変化とを生じさせて」いることについては、自明のことを記述しているにすぎず、ケーラー照明を有する光学系では「前記投射光学系のケーラー照明を得るとともに、投射光学系の物体平面での光分布を得て、前記光分布は前記投射光学系を介して結像され」ことは、ケーラー照明を用いたプロジェクタにおいて光源の像を投写レンズの瞳上に結像することは技術常識であり(技術常識1)、自明のことにすぎないから、引用発明において、二つの自由形状面を有する光学系を導入した際に、一致点として認定した点に変更される点はなく、分説事項3も格別のものではない。

(オ) 分説事項1〜3についての小括
前記(イ)〜(エ)において検討したとおり、相違点のうち、分説事項1から分説事項3の、二つの自由曲面レンズ(「第1の屈折光学自由形状面」及び「第2の屈折光学自由形状面」)に係る特定事項については、引用発明の対物レンズに、二つの自由曲面形状を有する光学系で構成することを導入して設計変更した際に、光軸回転対称性のある、球面レンズや非球面レンズよりも設計の自由度が高い自由曲面形状のレンズの光学的作用に基づき当業者が必然的に設計し得る程度のものにすぎない。

ウ 相違点の想到容易性についての小括
上記ア及びイにおいて検討したとおり、ケーラー照明をなす引用発明の対物レンズを、光源からの光を均一にして効率よく利用するために、二つの自由曲面形状のレンズ面を導入して、相違点に係る本件補正発明の構成を有するようにすることは、当業者にとって自明の設計上の事項であって、格別のものではない。
そして、本件補正発明の奏する効果についても、引用発明、周知技術及び技術常識から当業者が予測可能な範囲内のものにすぎず、格別顕著なものであるということはできない。
したがって、本件補正発明は、引用発明、周知技術及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(6) 請求人の主張について
ア 請求人の主張
請求人は、審判請求書の「3.本願発明が特許されるべき理由」の「(4)進歩性について」において、次の主張をしている。
(主張)
「新たな請求項1の最終段落には、「前記第1および第2の屈折光学自由形状面(8,10)は前記少なくとも1つの光源の光再分布と光の角度分布の変化とを生じさせて、前記投射光学系(12)のケーラー照明を得るとともに、投射光学系の物体平面での光分布(13,13a,13b,13b,13a',13a'')を得て、前記光分布は前記投射光学系を介して結像され、前記投射される画像(14)が前記投射光学系からの光の重畳によって前記投射装置(2)の投射面において生じる」と記載しております。
この記載は従前の請求項6に由来しております。重要な点は、この請求項が「自由形状面」と本願発明に対して引用された引用文献1ないし3におけるすべての面とを区別していることであり、この相違を「自由形状面」という言葉で包摂しようとしたものであります。このように、この請求項の「効果」とは、「自由形状面」という表現および請求項1の他の段落で元々表そうとしたものと同じであります。ただし、この段落では、自由形状面がどのようにして、ケーラー照明を達成するのと同時に、物体平面で光分布を生成するという目的を達成するのかを、明らかにしております。」(審判請求書の18頁16行〜19頁2行)

イ 主張の検討・判断
前記主張について検討すると、引用発明はケーラー照明を得るものであり、各チャネルの投影レンズからの個々の投影を重ね合わせて、全体画像を、スクリーン上に生成するものであり、これらの点は相違点ではない。
そして、自由曲面形状のレンズが、光の屈折方向を自在に設定したり、光の輪郭形状を矩形形状に変換することできることは、技術常識である。
よって、前記(5)アで説示したとおり、引用発明の対物レンズを二つの自由曲面形状のレンズ面を有する光学系とすることは当業者であれば容易に想到し得たことであるから、請求人の上記主張は格別のものではなく、採用することはできない。

(7) 小括
以上検討のとおり、本件補正発明は、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないから、本件補正は、同法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反する。
したがって、本件補正は、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、前記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記第2において説示したとおり却下されたので、本願の請求項1〜18に係る発明は、令和元年11月14日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1〜18に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記第2の1(1)に記載された事項により特定されるとおりのものである。

2 原査定における拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由のうち、本願発明についての理由は、次の理由1及び理由2である

理由1.この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

理由2.本願発明は、下記の引用文献1及び引用文献3に記載された発明に基づいて、又は、引用文献2及び引用文献3に記載された発明に基づいて、本願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。


1.国際公開第2014/180991号
2.特表2012−530263号公報
3.特開2013−190514号公報(周知技術を示す文献)

3 引用文献に記載された事項
前記引用文献2には、前記第2の2(3)ア(ウ)[引用発明]において認定したとおりの「引用発明」が記載されていると認められる。

4 対比
前記第2の2(4)ア〜クを参考に本願発明と引用発明を対比する。

ア 引用発明の「投射装置」、「少なくとも1つの光源」、及び、「少なくとも1つの投影レンズ」は、各々本願発明の「投射装置」、「少なくとも1つの光源」、及び、「投射光学系」に相当する。

イ 本願発明の「第1および第2の屈折光学自由形状面」と、引用発明の「対物レンズ」の光を屈折させる面は、「屈折光学面」であって、「少なくとも1つの光源と投射光学系との間に配置され」る点で共通する。

ウ 本願発明の「光チャネルのアレイ」と、引用発明の「規則的に配置された複数の光チャネル」は、「光チャネルのアレイ」であって、「それぞれの光チャネルは、屈折光学面と投射光学系とを備え」る点で一致する。

エ 本願発明の「前記第1および第2の屈折光学自由形状面(8,10)」が「前記少なくとも第1の光源の光の再分布と光の角度の分布を生じさせて、前記投射光学系の物体平面に位置する物体光パターン(13,13a,13b,13a’,13a’’)を得て、さらに前記物体光パターン(13,13a,13b,13a’,13a’’)によって、前記投射光学系(12)を介した前記投射装置(2)の投射面のケーラー照明を引き起こ」すことと、引用発明の「光源は、対物レンズアレイを照明し、対物レンズアレイは、複数のイメージング構造に隣接して設けられ、投影されるべきオブジェクトはそれぞれ、投影レンズアレイに配置された複数のレンズの焦点距離に位置し、オブジェクトからの投影レンズの距離と比較して、対物レンズは、対応するオブジェクトにより近接して配置されており、投影レンズのケーラー照明を確実にして」いることは、
「前記少なくとも第1の光源の光の再分布と光の角度の分布を生じさせ、さらに投射光学系を介した投射装置の投射面のケーラー照明を引き起こ」ことで一致する。

オ 本願発明の「投射される画像(14)は、前記光チャネルからの光を重ね合わせることによって、前記投射装置(2)の前記投射面に生じる」ことと、
引用発明の「個々の投影を重ね合わせて、実画像又は虚像の全体画像を、スクリーン上に生成する」ことは、
「投射される画像は、前記光チャネルからの光を重ね合わせることによって、前記投射装置の前記投射面に生じる」点で一致する。

上記アからオの対比により、本願発明と引用発明とは、以下の一致点で一致し、以下の相違点Aで相違する。

[一致点]
「少なくとも1つの光源および光チャネルのアレイを含む投射装置であって、各光チャネルは、
屈折光学面および投射光学系を備え、
前記屈折光学面は、前記少なくとも1つの光源と前記投射光学系との間に配置され、前記少なくとも第1の光源の光の再分布と光の角度の分布を生じさせ、さらに前記投射光学系を介した前記投射装置の投射面のケーラー照明を引き起こし、
投射される画像は、前記光チャネルからの光を重ね合わせることによって、前記投射装置の前記投射面に生じる、投射装置。」

[相違点A]
「屈折光学面」が、
本願発明は、「第1および第2の屈折光学自由形状面」であり、
「前記第1および第2の屈折光学自由形状面」が、「前記少なくとも第1の光源の光の再分布と光の角度の分布を生じさせて、前記投射光学系の物体平面に位置する物体光パターンを得て、さらに前記物体光パターンによって、前記投射光学系を介した前記投射装置の投射面のケーラー照明を引き起こし」いるのに対し、
引用発明の「対物レンズ」は投影光学系を介した投写装置の投写面のケーラー照明を引き起こすものであるものの、自由形状面(自由曲面)ではない点。

5 判断
前記第2の2(5)アにおいて説示した点を踏まえると、引用発明の対物レンズを、光源からの光を均一にして効率よく利用するために、二つの自由曲面形状のレンズ面を有する光学系で構成することは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
そして、ケーラー照明の技術常識(前記技術常識1)からみて、引用発明の投影レンズの瞳上に結像されることは当然のことであるから、引用発明の対物レンズを、光源からの光を均一にして効率よく利用するために、二つの自由曲面形状のレンズ面を有する光学系で構成して、相違点Aに係る本件補正発明の構成のようにすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
そして、本願発明には、当業者の予測を超える、格別顕著な効果の存在を認めることはできない。
したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 岡田 吉美
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2021-07-08 
結審通知日 2021-07-13 
審決日 2021-07-29 
出願番号 P2018-512143
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G03B)
P 1 8・ 575- Z (G03B)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 岡田 吉美
特許庁審判官 濱野 隆
居島 一仁
発明の名称 光学自由形状面を含む投射装置および投射方法  
代理人 岡田 全啓  

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