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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1380663
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-01-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-12-28 
確定日 2021-12-01 
事件の表示 特願2017−567164「埋め込み可能な分析物センサと共に使用する経皮的リーダ」拒絶査定不服審判事件〔平成28年12月29日国際公開、WO2016/210415、平成30年 8月16日国内公表、特表2018−522647〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2016年(平成28年)6月27日(パリ条約による優先権主張 2015年6月25日 米国、2015年10月9日 米国)を国際出願日とする出願であって、令和元年10月17日付けで拒絶理由が通知され、令和2年3月19日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年8月26日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)されたところ、同年12月28日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 本願発明について
本願の請求項1〜9に係る発明は、令和2年3月19日付け手続補正により補正された次のとおりのものである。
このうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)については、のちの便宜のため当審にて分説を施した。各構成単位冒頭の「A」などは分説番号であり、以下「構成A」などという。

「 【請求項1】
A リーダ基板と、
B 組織内に埋め込みの深さで埋め込まれたセンサにより放出された光を受信するよう構成され、前記リーダ基板の中央部分に接続された光検出器と、
C 複数のエミッタからのそれぞれのエミッタが前記リーダ基板の周辺部分に接続され、それぞれのエミッタが前記埋め込みの深さで遠方界照明パターンを生成するよう構成され、
D 前記組織により誘発された光の散乱がない場合、前記複数のエミッタの集合的な前記遠方界照明パターンが前記埋め込みの深さで中央の暗い領域を有するように、それぞれのエミッタが互いに他のエミッタから離間された複数のエミッタと、を備える、
E 機器。
【請求項2】
前記組織により誘発された光の散乱がない場合、前記エミッタの遠方に提出された照明パターンが前記埋め込みの深さであらゆる他の前記エミッタの遠方界照明パターンに重ならないように、それぞれのエミッタが互いに他のエミッタから離間された、
請求項1に記載の機器。
【請求項3】
前記組織により誘発された光の散乱がない場合、前記複数のエミッタからのそれぞれのエミッタにより生成された前記遠方界照明パターンが、前記埋め込みの深さで前記センサの長さ未満の直径を有する、請求項1に記載の機器。
【請求項4】
前記リーダ基板が、前記複数のエミッタの周辺の前記リーダ基板の周囲部分に配置された分離部分を有し、前記分離部分は、前記複数のエミッタからの光を前記光検出器に向けて反射するよう構成された、請求項1に記載の機器。
【請求項5】
前記リーダ基板がさらに、前記光検出器と前記複数のエミッタの間に配置され、前記複数のエミッタから放出され、および前記センサに到達する前に組織により散乱された光が前記光検出器に到達するのを減少するよう構成された分離部分を備える、請求項1に記載の機器。
【請求項6】
前記センサが組織内に埋め込まれたとき、前記複数のエミッタが、前記センサの長さ全体を照明するよう集合的に構成された、請求項1に記載の機器。
【請求項7】
前記複数のエミッタのうち少なくとも2つの前記遠方界照明パターンが前記組織内の前記埋め込みの深さで重なるように、前記複数のエミッタが集合的に構成された、請求項1に記載の機器。
【請求項8】
前記埋め込みの深さが2mmから5mmの間である、請求項1に記載の機器。
【請求項9】
前記埋め込みの深さが1mmから10mmの間である、請求項1に記載の機器。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶理由のうち、本願発明に関するものは概略次のとおりである。

1 理由2(委任省令要件)
この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

「請求項1には、「リーダ基板の周辺部分に接続された複数のエミッタのそれぞれのエミッタが組織内のセンサの埋め込みの深さで遠方界照明パターンを生成するよう構成され、前記組織により誘発された光の散乱がない場合、前記複数のエミッタの集合的な前記遠方界照明パターンが前記埋め込みの深さで中央の暗い領域を有するように、それぞれのエミッタが互いに他のエミッタから離間させる」という技術事項が記載されているが、「発明が解決しようとする課題」(従来のリーダと比べて、電力消費量を減少すること、光退色作用を減少すること、及び、信号対ノイズ比を改善すること)(段落[0008]、段落[0019]、段落[0024]等)との関係において、上記技術事項が上記課題の解決にどのような技術的貢献をしているのかが、発明の詳細な説明の記載全体を参酌しても理解できないから(特に「組織により誘発された光の散乱がない」ことを敢えて前提としていること;生体などの組織を光が通る場合には、多少なりとも光の散乱現象が起こると考えられる)、発明の詳細な説明には、当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されているものとは認められない。」

2 理由3(実施可能要件
この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

「請求項1には、「組織内のセンサの埋め込みの深さで遠方界照明パターンを生成するよう構成され、前記組織により誘発された光の散乱がない場合、複数のエミッタの集合的な前記遠方界照明パターンが前記埋め込みの深さで中央の暗い領域を有するように、それぞれのエミッタが互いに他のエミッタから離間させる」との記載があるが、生体などの組織を光が通る場合には、多少なりとも光の散乱現象を起こすと解するのが出願時の技術常識であると認められるところ、発明の詳細な説明を参酌しても、「組織により誘発された光の散乱がない」とした場合について、どのようにして、組織内に埋め込まれたセンサの深さで中央の暗い領域を形成することができるのかが、当業者が実施できる程度に十分に記載されているものとは認められない。
(組織内のセンサへの照射状態は、組織の種類、センサの種類・大きさ・埋め込み深さ、エミッタの相互の離間距離・照射光の波長や強度などが複雑に関係していると認められるところ、発明の詳細な説明の記載や出願時の技術常識等を考慮しても、上記照射状態を実現するために必要な技術内容が十分に開示されているものとは認められない。)」

3 理由4(明確性
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

「請求項1は、「リーダ基板と、組織内に埋め込みの深さで埋め込まれたセンサ
・・・光検出器と・・・エミッタが前記埋め込みの深さで遠方界照明パターンを生成するよう構成され、前記組織により誘発された光の散乱がない場合、・・・複数のエミッタの集合的な前記遠方界照明パターンが前記埋め込みの深さで中央の暗い領域を有するように、それぞれのエミッタが互いに他のエミッタから離間された複数のエミッタ・・・」という記載となっているが、当該記載は以下(a)〜(b)の点で記載が不明確である。
(a)「遠方界照明パターン」及び「集合的な遠方界照明パターン」とあるが、それぞれ、どのような態様の照明(特に「遠方界照明」の意味するところ)のことを指しているのかが曖昧で不明確である。
(b)「組織により誘発された光の散乱がない場合」の意味するところが不明である(生体などの組織を光が通る場合には、多少なりとも光の散乱現象を起こすと考えられる)。」

4 理由5(進歩性
この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である引用文献1または2に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1 米国特許出願公開第2014/0275869号明細書
引用文献2 特表2012−528686号公報

第4 理由2(委任省令違反)及び理由3(実施可能要件違反)について

1 本願特許請求の範囲の記載
上記第2に記載したとおりである。

2 本願明細書の記載事項
本願の国際出願日における国際特許出願の明細書翻訳文(以下単に「本願明細書」という。)及び図面には、次の記載がある。

(1)本願明細書の記載事項

「【0007】
[0007]米国特許公開第2012/0265034号によるセンサとともに、センサが埋め込まれた領域上に外部”リーダ”が位置し、リーダ上の個別の光源が皮膚を通ってセンサへ貫通する特定の波長の光を放出する。特定の波長の光に励起されると、それぞれの励起されたインジケータ分子は次に、より長いより低エネルギー波長の光を発し(放出し)、それらのいくぶんかは皮膚を通って出る。埋め込み可能なセンサと同様にリーダ光源から外れたリーダ内の光検出器は、皮膚を通って出る光に反応して信号を生成し、その振幅は埋め込まれたセンサから発出し皮膚から出る光の量に対応する。インジケータ分子により放出された光の振幅を観察することにより、対象の特定の分析物の濃度を測定可能である。
【0008】
[0008]重要なことは、それぞれの放出点(インジケータ構成要素)が、全ての方向、すなわち点光源として光を発することが可能なことである。従って、埋込物(またはその部分)の励起で、埋込物の発光は全ての方向に発する。しかし、発光が通る組織は、発光を散乱する傾向がある。さらに、検出器により捕捉可能で電流または電圧に変換可能な放出光のみが、有益な信号情報の生成に有効である。放射状に広がり光検出器により捕捉されない放出光全体のあらゆる部分は”無効”であり、対象の分析物の濃度について説得力のある明白な(すなわち正確な)指標を提供する観点からは実際上は無駄になる。結果として、信号対ノイズ比は次善である。
【発明の概要】
【0009】
[0009]本明細書に記載されたいくつかの実施形態は、分散された放射源および光検出器を持つリーダに関する。光検出器は、埋め込まれたセンサにより放出された放射(例えば光)を感知するよう作動可能でありうる。分散された放射源は、光検出器を少なくとも部分的に取り囲むことが可能である。分散された放射源は、皮膚内に励起放射の光子雲を発生させることが可能であり、それは1センチメートル以下の単位の深さで皮膚内に埋め込まれたセンサを実質的に包むことが可能である。結果として、実質的にセンサ全体が分析物の濃度を示すのに使用される。例えば、光子雲はセンサの長さ全体を励起可能であり、センサ励起の持続時間を短縮可能で、それが(例えば個々のインジケータ分子の光退色速度を減少することにより)センサの有用な寿命を延ばし、ならびにセンサに生成された光信号の信号対ノイズ比を向上することが可能である。それはまた、より低電力レベルの放出された励起放射を用いてリーダがうまく作動し、それによってリーダの電池の有用な寿命または電池の再充電間隔を延ばすことが可能にする。
【0010】
[0010]特定の実施形態で、リーダは光検出器上に配置された光学フィルタを有し、例えばセンサからの光が光検出器に到達するのを可能にし、一方で分散された放射源からの光を除くことを可能にしてもよい。例えば、本明細書に記載されたいくつかの実施形態は、米国特許出願公開第2014/0275869号に記載された実施形態の1つまたは複数の機能を有することが可能であり、その開示は全ての内容が参照により本明細書に組み込まれる。分散された放射源に、複数の個別の光源またはエミッタの目的で、例えばLEDを設けてもよく、それは(角度位置に関して)光検出器に対して実質的に均一に離間可能である。本明細書でさらに詳述するように、源内の間隔はそれぞれの源により身体内で生成される光の球が融合または重なる、すなわち後述するようにセンサを包む光子雲を形成するのに十分でありうる。身体の外側では(例えば散乱がない場合)光の球は重ならなくてもよく、および/または完全に重ならなくてもよい。適切に、リーダは皮膚温を測定する温度センサを有し、それは無線でデータを送信するよう構成されるのが望ましい。
【0011】
[0011]いくつかの実施形態では、光検出器を、筐体、支持体プレート、プリント回路基板などのようなリーダ基板の中央部分に接続することが可能である。2つ以上のエミッタを、リーダ基板の周辺部分に接続することが可能である。基板、光検出器、およびエミッタを総称して”リーダ”と呼ぶことができる。それぞれのエミッタは、予め規定されたパターンでエミッタから発する信号(例えば光)を生成可能である。例えば、エミッタからの距離が増加するにつれてそれぞれのエミッタがより多くの断面領域を照明するように、エミッタは光の球体、突出部または円錐を生成可能である。センサが特定の埋め込みの深さで配置されたとき、エミッタの照明パターンおよび基板上の間隔を、センサと相互作用するよう選択、調節または構成することが可能である。例えばいくつかの実施形態では、組織が誘発する散乱がない場合、エミッタからの照明範囲が埋め込みの深さで重ならないように、エミッタを集合的に構成可能である。述べたのと同様に、埋め込みの深さでのエミッタ群の遠方界照明パターンは、光が組織により散乱または反射されないとき、中央の暗いゾーンをもつ環状の形状を形成しうる。リーダが埋め込まれたセンサと併せて使用されるとき、組織は、エミッタにより送信された光を、センサの長さ全体を照明可能な光子雲を生成するよう散乱させることが可能である。
【0012】
[0012]本明細書に記載されたいくつかの実施形態では、1つまたは複数の光学分離部材をリーダ基板に連結可能である。例えば、周囲の光学分離部材は、1つまたは複数のエミッタから放出された光の少なくとも一部をリーダの中央領域に向けて反射するよう作動可能である。例えば、本明細書でさらに詳述するように、光検出器を埋め込まれたセンサおよびエミッタのすぐ上に取り付けることで、エミッタがいくぶんか横方向の距離で離間されるように、リーダを構成可能である。そのためエミッタは、それらの光の一部をセンサを有さない組織の領域に送信することがあり、実際上は光の一部が無駄になる。周囲の光学分離部材は、センサに向けないと無駄になるであろう光の少なくとも一部を反射するよう作動可能である。他の例では、レンズ、導波管、またはあらゆる他の適切な光学構成要素が、エミッタからセンサへの光を集束するよう作動可能である。
【0013】
[0013]本明細書に記載されたいくつかの実施形態は、生物の身体の組織内に埋め込まれた分析物センサ(単に”センサ”とも呼ぶ)の問い合わせ方法に関する。方法は、生物の身体内でセンサ上のインジケータ分子に光化学反応を示させるのに十分な励起放射の光子雲でセンサを実質的に包むことを含みうる。述べたのと同様に、全体の長さおよび/または表面領域の全体、またはその相当の部分をリーダにより放出された放射に曝露可能である。例えば、リーダは2つ以上のエミッタを有することが可能である。それぞれのエミッタは、光を放出することが可能である。それぞれのエミッタを、埋め込みの深さ(例えば埋込物が組織内に埋め込まれた深さ)で予め定義された断面領域を有する遠方界照明パターンを持つ光を放出するよう構成することが可能である。それぞれのエミッタからの照明パターンの断面領域および/または直径は、散乱および/または反射がない場合、センサの表面領域および/または長さ(または他の特性の大きさ)未満であることが可能である。加えてまたは代わりに、散乱および/または反射がない場合、それぞれのエミッタからの照明パターンは少なくとも中央領域において他のいずれのエミッタの照明パターンと重ならなくてもよい。リーダが皮膚に使われるとき、エミッタから放出された光を、中にセンサが埋め込まれた組織により散乱することが可能である。このようにして、そうでなければ重なるであろう、および/またはほかの状態になるであろう光は、センサを照明するのに十分な表面領域を持ち、センサ全体を照明する光子雲内に拡散可能である。エミッタから発する光による照明に応じて、センサは分析物に依存した放出信号を生成可能である。(例えば、エミッタが埋め込み部位から横方向の距離で離間されるように)エミッタ間の中心に位置し埋込物の上に取り付け可能なリーダの光検出器は、放出信号を検出可能である。放出信号は、エミッタから散乱された光により照明される表面領域の全体および/または長さに関連する強度を持つことが可能である。リーダおよび/またはスマートフォンのような計算装置は、光検出器により検出された信号を処理し、対象の分析物の濃度を測定することが可能である。」

「【0019】
[0023]一部のケースで、分散された放射源118のそれぞれを、特定の遠方界放出パターンで光を生じさせるよう構成可能である。例えば、分散された放射源118のそれぞれが特定の深さで特定の断面領域を照明するよう構成されるように、分散された放射源118のそれぞれは、光の球、突出部または円錐を生じさせることが可能である。散乱および/または反射がない場合、いくつかの実施形態では、分散された放射源118のそれぞれは、埋込物より小さい埋込物が埋め込まれた深さ(例えば埋め込みの深さ、およそ2〜5mmであることが可能)で遠方界放出パターンを有してもよい。述べたのと同様に、いくつかの実施形態では、散乱または反射がない場合、放出源はどれも埋め込みの深さで埋込物の全体を照明するのに十分な断面領域および/または特徴的な長さを有しないかもしれない。また、本明細書に記載されたように、いくつかの実施形態では分散された放射源118は直接センサ上に配置されなくてもよい。よっていくつかの実施形態では、散乱または反射がない場合、それぞれの放出源からの遠方界放出パターンは埋込物の中心に位置する必要がない。例えば組織に誘発された散乱、および/または例えば光分離リング124からの反射がある場合、例えば図6に示されおよび関連して記載されるように、分散された放射源118からの遠方界放出パターンは、埋込物を実質的に包む光子雲に融合してもよい。散乱および/または反射がない場合、センサの全体を照明するのに十分大きくない埋め込みの深さで、互いに重ならずおよび/または少なくとも中央領域で重ならない遠方界放出パターンを生成するエミッタの使用は、リーダの電力消費量を減少、および/または光退色作用を減少することが可能である。述べたのと同様に、散乱がない場合、分散された放射源118は埋め込みの深さにおいて暗い中心を有する環状照明パターンを生成してもよい(例えば散乱がない場合、照明パターンの中央は最も明るい照明パターンより少なくとも10%、25%、75%および/またはあらゆる他の適切なパーセンテージ暗くてもよい)。そのような実施形態は、埋込物を十分に照明する組織により誘発される散乱によることが可能で、それは公知のリーダに明暗差を示し、照明電力を増すことにより補正された障害として通常は散乱して見える。」

「【0023】
[0027]一部のケースで、図6で概略的に示されるように、リーダは埋め込まれた分析物センサと相互作用することが可能である。一般に、皮膚に入る光は迅速に(すなわち表面から短距離内で)散乱し、皮膚内に拡散されることが知られる。結果として、いくつかの公知のリーダは励起放射の個別の源を使用し、皮膚内に小さな極度に局在的な放射の”光の球”を生成し、その放射の”光の球”は埋め込まれたセンサの小さな部分のみを励起する。従って、センサ上の1パーセントのインジケータ分子のみが時間内のあらゆる所与の時点で放射により励起されるので、分析者が専念した有意義な測定値を得るよう大規模な測定値の複数サンプル平均を通して充分に正確な読取を得るために、そのような公知のリーダが、より長い時間放射を放出、またはセンサにより多くのパルス読み取りサイクルを行わせることが必要になる。しかし、インジケータ分子個体群が、放射への暴露の連続で励起する放射に反応する能力を徐々におよび最終的に失う(光退色)。十分なインジケータ分子がそれに反応する能力を失ったとき、センサはリーダ内の光検出器により認識できるのに十分に強力な十分な信号対ノイズ比の光信号をもはや放出可能ではなくなり、分析物センサはその有用な寿命を失う。従って、いくつかの公知のリーダに関して、より長い時間励起放射を放出し、よって起こるインジケータ分子に対しより長い時間の光を暴露する必要性は、”読み取る”よう構成された分析物センサの寿命に有害である。
【0024】
[0028]さらになお、いくつかの公知のリーダでは、個別の放射源および光検出器がそれらを支持する回路基板上または光学構体全体の内で並列して位置するので、分析物センサの一部のみが読み取り可能である。この構成の結果として、これらの2つの構成要素は埋め込まれた分析物センサに対してそれらのそれぞれの最適位置に同時に至らされることは不可能で、センサの一部のみが励起放射に励起され、放出された応答放射の一部のみが検出される。従って、(リーダにより感知/検出される光の次善の信号対ノイズ比につながる)この状況を解消するため、公知のリーダ内の放射源は、例えば200ミリワットの照明電力と同量を生み出すため明らかに過電力になる傾向がある。そしてそれが次に、(前述のようにセンサの寿命を減少させるのに加え)リーダの電池の有用な寿命および/または充電間隔を大幅に減少させうる。
【0025】
[0029]対照的に、リーダ100は分散された放射源118を有し、それが光検出器116を少なくとも部分的に取り囲み、およびそれが光検出器116に対して中央に位置する。結果として、分散された放射源118が複数の個別の放射源(例えばLED)から形成される開示された実施形態のような実施形態でさえ、図6に示されるように、それぞれの個別の源の近くの皮膚内で生成された光の”球体”144が、皮膚内の光の散乱により光子”雲”146に融合し、それが実質的にセンサ102を包む。そして、これが次に多数の理由により好都合である。
【0026】
[0030]まず、センサ102が実質的に光子雲146に包まれるので、センサ102全体上のインジケータ分子が分析物濃度表示処理にかかわる。これは、検出された光信号の信号対ノイズ比を著しく向上する。さらに、より多くのインジケータ分子が時間内のあらゆる所与の時点で処理にかかわるので、公知のリーダのケースのようにセンサが長い時間励起される必要がない。結果として、インジケータ分子は公知のリーダに関するケースと同じようには迅速に光退色されない。さらにまた、より多くのインジケータ分子が処理にかかわるので、および放射源がセンサ102に対して分散されるので、個々の源(すなわちLED)は、公知のリーダに関するケースのような高い電力レベルで光を生じるよう駆動される必要がない。
【0027】
[0031]また、分散した様式で放射源を提供することは、光検出器を直接センサの上の中心に位置付け、そこで光検出器は放出された反応光を最大限に感知することが可能である。よって、このようにしても、本明細書に記載されたリーダの構成は、リーダの感度およびそれが取る測定値の正確性を最適化しえる。」

(2)図面の記載事項

図6は次のとおりである。




3 委任省令違反について

(1)満たすべき要件について
審査基準によれば、委任省令要件についての判断基準は以下のとおりである。
委任省令要件が規定されている趣旨は、発明の技術上の意義を明らかにし、審査、調査等に役立てるというものである。
ア ここで、あえて記載を求めると発明の技術上の意義についての正確な理解をむしろ妨げることになるような発明と認められる場合には、課題及びその解決手段が記載されなくても差し支えなく、また、発明の属する技術分野について、既存の技術分野が想定されていない場合には、請求項に係る発明の属する新規な技術分野が記載されていれば足りる。
イ しかし、前記アに該当しない場合には、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて、請求項に係る発明の属する技術分野の理解又は課題及びその解決手段の理解をすることができない出願については、委任省令要件違反となる。

(2)本願が委任省令要件に違反すること
ア 本願明細書によれば、本願発明の課題は、皮膚内に埋め込まれたセンサの全体を実質的にリーダの励起放射によって包み込む(例えば励起放射の光子雲がセンサの長さ全体を励起する)ことで、実質的にセンサ全体が分析物の濃度を示すのに使用されるようにし(【0009】、【0011】、【0013】、【0025】、【0029】)、公知のリーダにおける、センサを部分的に照射することによる長時間の励起放射への暴露がもたらすセンサの光退色やリーダの電池寿命減少を低減する(【0023】、【0024】)ことにあると解される。

イ そして、本願明細書では、上記課題の前提となる従来技術の問題点として、公知のリーダではセンサのごく一部にしか励起放射が照射されないため、平均を通じて正確な測定値を得るために、複数回のパルス(照射・)読み取りを繰り返すか長時間の連続照射を行う必要があり、センサへの長時間の励起放射が光退色をもたらすこと(【0023】)、個別の放射源及び光検出器すべてがセンサに対し最適に位置合わせされないために、やはりセンサの一部のみが励起されることになって、S/N比改善のため放射源の電力が過多になること(【0024】)、が挙げられている。

ウ 一方、本願明細書によれば、上記課題の解決手段は、センサが埋め込まれた組織による散乱および/または反射がない場合、センサの全体を照明するのに十分大きくないセンサの埋め込みの深さで、放射源(エミッタ)が互いに重ならずおよび/または少なくとも中央領域で重ならない遠方界放出パターンを生成すること(【0019】)であると解され、これは本願発明の構成Dの特定事項である「組織により誘発された光の散乱がない場合、前記複数のエミッタの集合的な前記遠方界照明パターンが前記埋め込みの深さで中央の暗い領域を有するように、それぞれのエミッタが互いに他のエミッタから離間され」ることに対応する。

エ しかし、上記主として2つの課題(光退色と電池寿命減少)及びその前提である、センサのごく一部しか放射源によって励起照射されないことと、センサの埋め込みの深さで、放射源(エミッタ)が互いに重ならずおよび/または少なくとも中央領域で重ならない遠方界放出パターンを生成することとは、出願時の技術常識に基づいて、発明の課題とその解決手段との実質的な関係を理解することができず、発明の技術上の意義が不明である。以下詳説する。

オ 上記ウ記載の課題の解決手段によれば、複数のエミッタ(放射源)はリーダ上で一定の距離離隔して配置され、しかも、該各エミッタからの照射光の合成パターン(遠方界照明パターン)は、少なくとも組織による散乱および/または反射がない場合では、組織埋込時のセンサの距離において、「中央の暗い領域を有する」即ち各エミッタの中央部分にあたるセンサ位置に照射が弱いまたは照射がない領域を形成することに尽きるのであり、組織による散乱および/または反射が「ある」状態において、前記センサ位置にエミッタの光を行き渡らせるための何らの手段も伴わない。

カ さらに、エミッタの配向・配光等の放射特性に関する何らの手段も伴わない。
また、本願発明が想定するリーダとセンサとの距離は2〜5mm(【0019】)と、ごく短距離である。
さらに、本願発明では、リーダの幅(エミッタの間隔)に対し、組織内に埋め込まれるセンサの幅が小さい例が少なくとも想定されていることが図6から看取される。

キ そうすると、センサの全幅より大きな距離離隔された複数のエミッタが、組織による散乱・反射がない条件下で、2〜5mmとごく浅い場合が想定されるセンサの深さ距離で、前記複数のエミッタの中央部分に暗い領域を形成するという課題解決手段は、そこに組織内での散乱等による寄与が全く見積もられていない以上、センサの両端部にエミッタからの照射光が偏在するという結果を回避できているということはできない、つまり、上記イに挙げた本願発明の問題点を解消するものであるということはできない。そればかりか、むしろ、センサ周縁部へのエミッタ放射光の偏在を助長するものであるとさえいえる。

ク また、上記カのとおり当該手段が個々のエミッタに関する配向・配光等の特定も伴わない以上、上記のとおり【0023】に記載された、「一般に、皮膚に入る光は迅速に(すなわち表面から短距離内で)散乱し、皮膚内に拡散されることが知られる。結果として、いくつかの公知のリーダは励起放射の個別の源を使用し、皮膚内に小さな極度に局在的な放射の”光の球”を生成し、その放射の”光の球”は埋め込まれたセンサの小さな部分のみを励起する。」との機序を回避することができるともいえない。

ケ さらに、上記(1)で挙げた本願発明の課題は、エミッタにより送信された光が、組織により、センサの長さ全体を照明可能な光子雲(以下「光子雲場」という。)を生成するべく散乱されるようにすることも含む。
一般に、人体組織のような高散乱体に入射した光は吸収と共にほぼ等方な散乱を受け、そのような組織へ入出射する光の光路分布は、少なくとも組織の構造や光学特性、光の波長・配光・配向、光源と検出器との距離、といった各要素の関数となることが技術常識である。
このことに照らせば、前記光子雲場の生成という課題の実現(解決)には、上記本願明細書にいう課題の解決手段に加え、少なくとも前記各要素が関係すること、そして、該各要素相互間の調整に関する手段を含まない上記課題の解決手段のみでは、当該課題の解決に結びつかないことが、技術常識に照らし明らかであるといえる。

コ 加えて、課題の解決手段にいう「中央の暗い領域」とは、【0019】の記載によれば、「例えば散乱がない場合、照明パターンの中央は最も明るい照明パターンより少なくとも10%、25%、75%および/またはあらゆる他の適切なパーセンテージ暗くてもよい」とされる。
エミッタには具体例としてLEDなど点光源が含まれ(【0025】)、点光源の場合は一般に光量が光源からの距離の自乗に反比例することから、センサのような平面を照射した場合、照射領域中央で強く中央からの距離のほぼ自乗に反比例して減光する同心円状の光量分布を呈することになる。
このため、離隔した複数の点光源エミッタからセンサの平面状表面に光を途中での散乱なく照射した場合、均一の光量分布とすることは事実上不可能であるところ、前記「中央の暗い領域」の減光度の具体例に含まれる「10%」は、前記点光源の場合に想定される光量分布に照らせば、ほぼ均一に照射されている場合にあたるといえる。
一方で、前記減光度の具体例には75%が含まれ、「またはあらゆる他の適切なパーセンテージ」とされることから、全く照射されない(100%)場合も、逆に10%未満の減光度の場合も含まれるといえる。
そうすると、本願の課題の解決手段において、散乱のない場合にエミッタがセンサ上に形成する「中央の暗い領域」は、ほぼ無減光(均一照射)に近い状態から、ほとんど光が当たらない状態までを幅広く含むことになる。
しかし、この減光度に関する大きな振れ幅が、他のいかなる要素に基づいてどのように選択・決定されるものであるのかについては本願明細書中に開示がない。
そして、「中央の暗い領域」が含む前記極めて幅広い程度範囲の中では、例えば減光度が10%かそれ未満のほぼ均一光となる場合において、組織の散乱が加わった場合、センサ中央部分で過剰な照射となりうることや、逆に75%やそれ以上の減光度である場合に、組織の散乱を受けてもセンサ中央部の照射が十分な光量に達せず、結果として光退色及び電力消費過多という課題が解決しない場合がありうることは容易に想定できる。
よって、前記「中央の暗い領域」を形成するという課題解決手段と、上記光子雲場を形成することとがどのように結びつくのかや、それらと上記課題との関係、すなわち、前記幅広い程度範囲において、についても、物理法則や技術常識を考慮してもなお不明であるといえる。

サ 以上のとおりであるから、本願明細書の記載をもって、発明の課題とその解決手段との実質的な関係を理解することができるということはできない。

シ そして、本願が上記(1)アに該当するとの事情も認められない。

ス したがって、本願は、発明が解決しようとする課題や、その解決手段などの、「当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項」が、理解できるように記載されているとはいえないから、発明の詳細な説明の記載は、特許法36条4項1号で委任する経済産業省令(特許法施行規則24条の2)で定めるところにより記載されたものとはいえない。

実施可能要件違反について

(1)満たすべき要件について
審査基準によれば、実施可能要件の判断基準は以下のとおりである。
特許法36条4項1号の要件を充足するためには、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があることを要する。

(2)本願が実施可能要件に違反すること

ア 本願発明において、リーダ基板の複数のエミッタに対しては、構成Cとして「複数のエミッタからのそれぞれのエミッタが前記リーダ基板の周辺部分に接続され、それぞれのエミッタが前記埋め込みの深さで遠方界照明パターンを生成するよう構成され」ることが、構成Dとして「前記組織により誘発された光の散乱がない場合、前記複数のエミッタの集合的な前記遠方界照明パターンが前記埋め込みの深さで中央の暗い領域を有するように、それぞれのエミッタが互いに他のエミッタから離間され」ることが、それぞれ特定されている。

イ ここで、上記構成C、Dの各特定事項を含む課題解決手段と本願発明の課題との実質的な関係が当業者にとって理解できず、委任省令に違反することは、前項3で説示したとおりである。

ウ まず、本願明細書においては、そもそも構成Dの「中央の暗い領域」を形成するための手段について、例えば【0013】に「それぞれのエミッタからの照明パターンの断面領域および/または直径は、散乱および/または反射がない場合、センサの表面領域および/または長さ(または他の特性の大きさ)未満であることが可能である。」などと記載される程度にとどまり、エミッタを離間させること以外に、具体的手段について開示がない。
のみならず、【0012】には、「光の一部をセンサを有さない組織の領域に送信することがあり、実際上は光の一部が無駄になる」という、上記本願発明の課題と共通する課題の下で、「例えば、周囲の光学分離部材は、1つまたは複数のエミッタから放出された光の少なくとも一部をリーダの中央領域に向けて反射するよう作動可能である。」、及び「他の例では、レンズ、導波管、またはあらゆる他の適切な光学構成要素が、エミッタからセンサへの光を集束するよう作動可能である。」と、逆にセンサ(リーダ)中央部へ向けてエミッタの光を集光する構成を採用することについての言及もある。
そして、複数の離隔したエミッタ間の照射光量分布は、各エミッタの配向・配光・光軸方向、照射対象との間の他の光路調整光学系如何によって決定されることは技術常識であるところ、単にエミッタ間を離隔させるだけでは、エミッタの配光によっては中央部で光の重なりを生じて相対的光度が増すこともありうるのであり、「中央の暗い領域」としての上記3で説示した幅広い減光幅の範囲のそれぞれを、同じく上記で示した2〜5mmというリーダ・センサ間隔において実現させるための具体的構成にたどりつくためには、当業者において過度な試行錯誤を要するといえる。

エ(ア)次いで、本願明細書の【0025】、【0026】の記載によれば、本願発明(明細書に記載された課題の解決手段)が上記課題を解決するといえるためには、リーダ基板周辺部において光検出器を取り囲んで配置される複数のエミッタ(構成C)により送信された光が、組織により、センサの長さ全体を照明可能な前記光子雲場を生成するよう散乱されること、すなわち、構成Cにおける「遠方界照明」がそのような光子雲場を形成することを要する。
本願発明のエミッタは同時に構成Dの要件も備えるから、結果として、本願発明の課題解決手段は、それが本願発明の課題を解決するもの、該課題と関係するものといえるためには、それぞれのエミッタが互いに他のエミッタから離間された複数のエミッタが、組織により誘発された光の散乱がない場合、前記複数のエミッタの集合的な前記遠方界照明パターンが前記埋め込みの深さで中央の暗い領域を有するものであり(構成D;以下「中央暗部要件」という。)、且つ、組織により誘発された光の散乱がある場合には、複数のエミッタからのそれぞれのエミッタが前記リーダ基板の周辺部分に接続され、それぞれのエミッタが前記埋め込みの深さで(協働して)、センサの長さ全体を照明可能な前記光子雲場を形成する遠方界照明パターンを生成する(構成C、【0025】、【0026】)こと(以下「光子雲場要件」という。)を要するといえる。

(イ)ただし、構成Cの(組織照射時の)「遠方界照明パターン」なる用語について、その具体的な定義は請求項1において明らかでないし、本願明細書にも開示がない。もちろん、上記(ア)の「光子雲場」を意味するとの説明も見いだせない。
そして、構成Cの文言上、「遠方界照明パターン」は「それぞれのエミッタ」が「生成」するものであり、しかも、「複数のエミッタ」の点灯方式については特段の特定はないから、個々のエミッタが独立して生成する照明パターンも少なくとも含まれ、構成Dとの対照から、組織内のセンサに対して個々のエミッタにより独立して(または協働して)生成される任意の照明パターンを指し、単に「照明パターン」と称する場合と変わりないと解されるにすぎない。(この点で上記3のとおり本願は委任省令違反であるし、本願発明はサポート要件を充足しないともいえる。後者の点は次項第5の2の「付言」参照。)

オ 仮に、複数のエミッタからの放射光が、組織により誘発された光の散乱がない場合にセンサ中央の暗い領域を有するようにすることが実施可能要件を充足するとしても、上記エ(ア)のとおり、構成Cの「遠方界照明パターン」が、複数のエミッタが協働して「センサの長さ全体を照明可能な前記光子雲場を形成する」ことのみを指すと限定解釈すべきであると、本願明細書及び図面の記載全体を通じた解釈からいえるとすれば、以下のとおり、上記光子雲場要件を充足するための条件について本願明細書に開示はなく、該条件の発見には当業者にとって過度の試行錯誤を要する点で、本願発明は実施可能要件を満たさない。以下詳説する。

(ア)本願発明の利用形態からは、対象組織、センサとリーダ基板(エミッタ間隔)との組み合わせ、エミッタの諸元、センサの深さの各変数について特段の数値・程度範囲の定めがないから、それぞれについて幅広い多様性が想定される。

(イ)一方、生体組織内に該組織外から光を照射した場合の組織内での散乱・反射には、a)皮膚内及び皮膚下の層序など組織の層構造、b)該各層の吸収特性(色)や散乱特性などの光学的性質、及びc)入射光の諸元(各エミッタの入射方向・広がりを含む配光、及び波長など)、の各変数が少なくとも関係することが技術常識である。

(ウ)例えば、センサの深さが非常に浅く、センサ深さまでの組織がエミッタ光に対し低光散乱性または高光吸収性であり、エミッタからの光がリード基板の外方を指向する配光の狭い光であるような場合には、組織による光散乱の効果を加味してもセンサ中央部にエミッタの光が届かない場合がありうることが容易に想定できることからみても、上記中央暗部要件を満たすエミッタ及びリード基板が、前記各変数のあらゆる組み合わせについて無条件に上記光子雲場要件を満たすものでないことは明らかである。

(エ)そうすると、上記中央暗部要件を満たすリーダ基板(エミッタ)が上記光子雲場要件を満たすためには、上記(ア)(イ)の各変数相互になんらかの関係性(条件)が必要であるということになるが、本願発明にその定めはなく、本願明細書にも当該条件について何らの具体的な開示もない。また、上記各変数の多様性からみて、前記条件の発見が当業者にとって自明なものではないことも明らかである。

(オ)さらに、センサは皮膚表面下の光学的に不透明な組織内に埋設されるものであるし、しかも本願発明の実施状態では、センサの上部皮膚表面はリード基板で覆われていることになるから、実施状態でセンサ上で上記光子雲場要件が満たされているかを確かめることは困難であると考えられるところ、そのための方法について本願明細書に開示はなく、それが当業者にとって自明であるともいえない。

(カ)また、構成Dに係る「中央暗部要件」について本願明細書では、「例えば散乱がない場合、照明パターンの中央は最も明るい照明パターンより少なくとも10%、25%、75%および/またはあらゆる他の適切なパーセンテージ暗くてもよい」(【0019】)とされる一方で、構成Cと関連しうる「光子雲場要件」については、その客観的な基準が本願明細書中に開示されていない。よって、仮に構成Cが「光子雲場要件」の満足を要求するとのみ解されるとしても、「組織により誘発された散乱」がある場合に、例えばセンサ中央部の光量が「最も明るい照明パターン」と比べどの程度であれば「光子雲場要件」を満たすのか、など、達成すべき組織内での照明パターンの目安が不明である。

(キ)以上のとおりであるから、仮に構成Cの「遠方界照明パターン」が「光子雲場要件」を満足する照明パターンのみに限定解釈され、本願発明が,構成Dの中央暗部要件を満たしつつ、構成Cの遠方界照明パターンを実現、即ち、上記多様性をもって組織内に埋設されたセンサに対し、上記光子雲場要件を満たすようにするための、そもそもの「光子雲場要件」の具体的基準や、それを満たすための具体的なリード基板及びそこに取り付けられた各エミッタについての条件づけについて、本願明細書には何らの具体的な開示はなく、その試行錯誤による実現を考えても、上記のとおり、光子雲場要件の実現状態を確認する術さえ開示もなく自明でもない。

(ク)よって、本願明細書は、当業者が発明を実施できるように明確に記載されていないことになる。
また、試行錯誤によって実施することを試みるとしても、上記のとおり変数の組み合わせは多様であり、実施状態を確認すること自体も困難であることからみて、必要となる試行錯誤は当業者にとって過度なものであるといえ、当業者にそのような過度の追試を強いる本願明細書の開示をもって、特許に値するものということはできない。

5 まとめ
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明に、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他の当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されておらず、当業者がその発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があるものとは認められないため、本件出願について特許法36条4項1号及び同法施行規則24条の2に違反する。

第5 理由4(明確性)について

明確性要件違反について

ア 上記第4の4(2)エで説示したとおり、構成Cの「遠方界照明パターン」は組織内のセンサ深度における照明パターンであり、構成Dの「遠方界照明パターン」は「組織により誘発された光の散乱がない場合」即ち組織外における照明パターンであって、両者が同一であることはあり得ないところ、同じ「遠方界照明パターン」なる用語が用いられており、これでは、構成C、Dにおける照明パターンが同一のものであることになる点で、請求項1における照明パターンについての発明特定事項に技術的な不備があるということができ、本願発明は不明確である。

イ また、仮に構成Cの「遠方界照明パターン」が光子雲場要件を満たすものと解することができるとしても、そもそも構成Dの「中央暗部要件」は、上記第4の4(2)コに説示したとおり、センサ中央部の減光度が10%またはそれ以下というほぼ均一光の条件から、75%またはそれ以上の範囲の極度の暗部を呈する要件まで含むものであるところ、これら幅広い減光度範囲を含む中央暗部要件に対し、構成Cの光子雲場要件がセンサに対しどの程度の照明パターン(光量分布)を要求するものであるかについて、本願明細書に何らの目安の開示もない。
エミッタから組織に入射した光は高度の散乱と吸収を受けることから、センサ中央部での減光度が構成Dで規定される組織外での照明パターンに比べ大きくなるか小さくなるかは一概に言えないし、同じ本願発明実施品であっても、センサの深さや対象組織の部位・対象者によっても前記減光度の程度が変化しうることが明らかである。
そして、本願明細書中においてこのことについての何らの具体的な目安の開示もない。
そうすると、構成Cの「遠方界照明パターン」を満たす程度範囲が不明であり、組織内のセンサ上でどのような照明パターンを示せば本願発明に抵触するのかについて、第三者が客観的に判断することはできないといえる。
よって、特許請求の範囲の記載、本願明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術的常識を基礎としても、請求項1記載は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるといえる。

ウ 以上のとおりであるから、本願発明は不明確であり、本願出願について、特許法36条6項2号に違反する。

2 付言
査定理由には含まれないが、上記1で説示したとおり構成C、Dにおいて照明パターンが同一であるとも解釈しうること、及び、仮に前記各構成において異なる照明パターンであると解せるとしても、構成Cの組織内での「遠方界照明パターン」について、請求項1において特段の特定がなく、上記本願発明の作用効果「光子雲場要件」を満たさない照明パターンも文言上含む点で任意性があり、そうすると、本願発明は、当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえないから、サポート要件に適合するとはいえない。(本付言は審決の理由を構成しない。)

第6 理由5(進歩性)について

1 引用文献1の記載事項
本願優先日前に公知となった上記引用文献1の明細書及び図面には次の記載がある。

(1)明細書の記載事項

「[0028]FIG. 1 shows a schematic side view of an optical detection device 10 for monitoring an implanted sensor or implant 12, according to a first embodiment of the invention. The implant 12 is embedded in tissue of a mammalian body (・・・). The implant 12 is typically embedded under a surface of skin 14. The implant 12 is embedded at a first depth under the surface of the skin 14, which is preferably a sufficient depth to position the implant in the subcutaneous tissue (e.g., in the range of 1 to 5 mm under the surface of the skin 14). In some embodiments, the implant 12 is embedded in the tissue at a depth greater than or equal to 2 mm under the surface of the skin 14, and in other embodiments the implant 12 is embedded in the tissue at a depth greater than or equal to 4 mm under the surface of the skin.」
(当審訳:「[0028]図1は、移植されたセンサまたはインプラント12をモニタするための光検出装置10の概略的な側面図であって、本発明の第1の実施の形態を表している。インプラント12は、哺乳類の体(・・・)の組織内に埋め込まれている。インプラント12は、典型的には、皮膚14の表面下に埋設されている。インプラント12は、皮膚14の表面、インプラントを配置するための皮下組織(例えば、皮膚14の表面下に1mm〜5mmの範囲にある)の十分な深さであることが好ましい第1の深さに埋め込まれている。いくつかの実施形態では、インプラント12は、皮膚14の表面の下に2mm以上の深さで組織内に埋め込まれており、他の実施形態では、インプラント12は、皮膚の表面下4mmより大きいかまたはそれに等しい深さで組織内に埋め込まれている。」)

[0029]The implant 12 is capable of emitting, in response to excitation light within an excitation wavelength range, at least one analyte-dependent optical signal within an emission wavelength range. The analyte may comprise, for example, glucose or other analytes in the body of the individual. Suitable optical signals include, but are not limited, to luminescent, luminescent, bioluminescent, phosphorescent, autoluminescence, and diffuse reflectance signals. In preferred embodiments, the implant 12 contains one or more luminescent dyes whose luminescence emission intensity varies in dependence upon the amount or presence of target analyte in the body of the individual.」
(当審訳:「[0029]インプラント12は、放出波長範囲内では、励起波長領域内の励起光に応答して、少なくとも1つの検体に依存する光学的信号を提供する。被分析物は、個体の身体中の、例えば、グルコースまたは他の分析物でもよい。適当な光学シグナルには、蛍光、生物発光、リン光、発光、および拡散反射光が挙げられるが、これらに限定されるものではない。好ましい実施形態では、インプラント12は、ルミネッセンス発光強度は、個体の身体中の標的分析物の量または存在に応じて変化する1つ又はそれ以上の蛍光色素を含む。」)

「[0030]A first light source 16 is arranged to transmit first excitation light within the excitation wavelength range from the surface of the skin 14 to the implant 12. A second light source 18 is arranged to transmit second excitation light from the surface of the skin 14 into the tissue 15. The second excitation light is preferably within the emission wavelength range of the analyte-dependent luminescent signal (e.g., the emission peak).
Suitable light sources include, without limitation, lasers, semi-conductor lasers, light emitting diodes (LEDs), organic LEDs.」
(当審訳:「[0030]第1の光源16は、皮膚14の表面から励起波長領域内の第1の励起光をインプラント12まで伝達するように構成される。第2の光源18は、第2励起光を皮膚14の表面から組織15の中へ伝達するように構成される。第2の励起光は、好ましくは、分析物に依存した発光シグナル(例えば、発光ピーク)の放出波長範囲内にある。
適切な光源としては、限定されないが、レーザー、半導体レーザー、発光ダイオード(LED)、有機LEDが挙げられる。」)

[0031]At least one detector, and more preferably at least two detectors 20, 22 are arranged with the light sources 16, 18. The first detector 20 is positioned to measure, in response to the first excitation light from the first light source 16, a first optical signal (e.g., the intensity of light) emitted at the surface of the skin 14 within the emission wavelength range. The detector 20 is also arranged to measure, in response to the second excitation light, a second optical signal emitted from the tissue 15 through the surface of the skin 14 within the emission wavelength range. Suitable detectors include, without limitation, photodiodes or CCDs. Although multiple detectors are preferred for some embodiments, one could use a single universal detector. The detectors 20, 22 are preferably filtered (e.g., dichroic filters or other suitable filters) to measure the optical signals emitted within respective wavelength ranges.
・・・.」
(当審訳:「[0031]少なくとも1つの検出器、より好ましくは少なくとも2台の検出器20、22は、光源16、18が配置されている。第1の検出器20は、第1の光源16からの第1の励起光に応答して、放射波長範囲内の皮膚14の表面で放出された第1の光信号(例えば、光の強度)を測定するように配置されている。検出器20はまた、第2励起光に応答して、組織15からの放射(emission)波長範囲で皮膚14の表面から射出された第2の光信号を測定するために配置されている。適切な検出器は、限定されないが、フォトダイオード又はCCDを含む。いくつかの実施形態のために好ましい複数の検出器が、1つ1つの普遍的な検出器を使用することができる。検出器20、22は、好ましくはフィルタ(例えば、ダイクロイックフィルタ又は他の適切なフィルタ)のそれぞれの波長範囲内で放射された光信号を測定する。・・・。」

「[0032]In the operation of device 10, an analyte-dependent luminescent signal emitted from the implant 12 is corrected for diffuse reflectance and/or autofluorescence. The light source 16 is activated to transmit first excitation light within the excitation wavelength range from the surface of the skin 14 to the implant 12. The first detector 20 measures, in response to the first excitation light, a first optical signal emitted from the tissue 15 at the surface of the skin 14 within the emission wavelength range, as represented by a first light path 24 from the light source 16 to the implant 12 to the first detector 20. The light path 24 provides the primary analyte-dependent optical signal. The second light source 18 is activated to transmit second excitation light from the surface of the skin 14 to a second depth in the tissue 15 under the surface of the skin 14. The second excitation light is substantially within the emission wavelength range (e.g., the emission peak) of the analyte-dependent luminescent signal. The first detector 20 measures, in response to the second excitation light, a second optical signal emitted from the tissue 15 through the surface of the skin 14 within the emission wavelength range, as represented by a second light path 26.」
(当審訳:「[0032]装置10の動作において、インプラント12から放出された分析物依存発光信号は、拡散反射率および/または自己蛍光について補正される。光源16が作動され、励起波長領域内の第1の励起光が皮膚14の表面からするインプラント12まで伝達する。光源16からインプラント12へ、そして第1の検出器20に到る第1の光路24によって表されるように、第1の検出器20は、第1の励起光に応答して、皮膚14の表面の組織15から出射する第1の放射光の波長範囲内の第1の光信号を測定する。光路24は、一次分析物に依存する光学信号を提供する。第2の光源18が作動されると、第2の励起光を皮膚表面14から皮膚表面14の下の第2の深さまで伝達する。第2の励起光は、実質的に分析物に依存した発光シグナルの発光の波長範囲(例えば、発光ピーク)である。第1検出器20は、放出光の波長範囲内において、第2の光路26によって表されるように、皮膚14の表面を介して、組織15から出射された第2の光信号を第2の励起光に応答して測定する。」)

「[0033]The second optical signal may be used as a reference signal to correct the primary analyte-dependent optical signal for diffuse reflectance or scattering of light in the tissue 15. In some embodiments, the second depth to which the light path 26 extends below the surface of the skin 14 may be substantially equal to the first depth at which the implant 12 is embedded (e.g., in the subcutaneous tissue at a depth of 1 to 5 mm under the surface of the skin 14). In some embodiments, the light path 26 for the second optical signal extends to a depth greater than or equal to 2 mm under the surface of the skin 14, and in other embodiments the light path 26 for the second optical signal extends to a depth greater than or equal to 4 mm under the surface of the skin.」
(当審訳:「[0033]第2の光信号は、組織15内での光の拡散反射又は散乱のための一次分析物依存性の信号を補正するための基準信号として使用することができる。いくつかの実施形態において、光路26が皮膚14の下方で延在する第2の深さは、インプラント12が埋め込まれている(例えば、皮膚14の表面で1〜5mmの深さにおいて皮下組織内)第1の深さに実質的に等しくてもよい。いくつかの実施形態では、第2の光信号の光路26が皮膚14の表面下に2mmかそれ以上の深さまで延在し、他の実施形態では、第2の光信号のための光路26が皮膚表面下4mmに等しいかより大きい深さまで延在している。」)

「[0039]FIG. 2 shows another embodiment of an optical detection device 30 for monitoring an implant 12. In this embodiment, the implant 12 is further capable of emitting, in response to excitation light within a second excitation wavelength range (that may share or overlap the first emission wavelength range) at least one analyte-independent optical signal within a second emission wavelength range. The implant 12 preferably contains an analyteindependent luminescence dye that functions to control for non-analyte physical or chemical effects on a reporter dye (e.g., photo bleaching or pH).・・・.」
(当審訳:「[0039]図2は、インプラント12をモニタするための光検出装置30の別の実施形態を表している。この実施形態では、インプラント12は、第2の波長範囲内の少なくとも1つの被分析物に依存しない光信号を発生し、第2の励起波長範囲(第1波長範囲を共有するか、または重なっていてもよい)内の励起光に応答することができる。インプラント12は、好ましくは、リポーター色素(例えば、光漂白又はpH)に基づいて、非分析物の物理的または化学的な効果を制御するために機能する分析物に依存しない発光染料を含有する。・・・。」)

「[0040]The second embodiment differs from the first embodiment described above in that the device 30 includes a third light source 40 for transmitting excitation light into the tissue 15 through the surface of the skin 14. In the operation of device 30, an analyte-dependent luminescent signal emitted from the implant 12 is corrected using three reference signals. The first light source 32 is activated to transmit excitation light within a first excitation wavelength range from the surface of the skin 14, through the tissue 15, to the implant 12. The first detector 34 measures, in response to the first excitation light, a first optical signal emitted from the tissue 15 at the surface of the skin 14 within a first emission wavelength range, as represented by a first light path 42 from the first light source 32, to the implant 12, and to the first detector 34. This first optical signal is the primary analyte-dependent optical signal.」
(当審訳:「[0040]第2実施形態は、前述の第1の実施形態と異なる点は、デバイス30が皮膚14の表面を通って組織15内に励起光を透過させるための第3の光源40を含む。装置30の動作において、インプラント12から放出された分析物依存発光信号は、3つの基準信号を用いて補正される。第1の光源32が動作すると、第1の励起波長領域内の励起光を組織15を通って、皮膚14の表面からインプラント12まで伝達する。第1の検出器34は、第1の励起光に応答して、第1の光源32から、インプラント12へ、そして検出器34に伝達される第1の光路42で表されるように、皮膚14の表面に組織15から出射される第1の放射波長範囲内の第1の光信号を測定する。この第1の光信号は、一次分析物に依存する光学信号である。」)

「[0041]The second light source 38 is activated to transmit second excitation light from the surface of the skin 14 to a second depth in the tissue 15. The second excitation light is preferably within the first emission wavelength range (e.g., the emission peak) of the primary analytedependent optical signal. The first detector 34 measures, in response to the second excitation light, a second optical signal emitted from the tissue 15 at the surface of the skin 14 within the emission wavelength range, as represented by a second light path 44. The second optical signal may be used to correct for diffuse reflectance or scattering of light in the tissue 15 between the implant 12 and the surface of the skin 14. In some embodiments, the depth of the second light path 44 may be substantially equal to the first depth at which the implant 12 is embedded (preferably in the subcutaneous tissue 1 to 5 mm under the surface of the skin 14). In some embodiments, the light path 44 for the second optical signal extends to a depth greater than or equal to 2 mm under the surface of the skin 14, and in other embodiments the light path 44 for the second optical signal extends to a depth greater than or equal to 4 mm under the surface of the skin.」
(当審訳:「[0041]第2の光源38は、皮膚14の表面から第2の励起光を伝達し、組織15内の第2の深さまで伝達する。第2の励起光は、一次分析物に依存する光学信号の第1の波長範囲(例えば、発光ピーク)であることが好ましい。第1検出器34は、第2の光路44によって表されるように、放出波長範囲内において皮膚14の表面で組織15から出射された第2光信号を第2の励起光に応答して測定する。第2の光信号は、インプラント12と組織15及び皮膚14の表面における光の拡散反射又は散乱を補正するために使用することができる。いくつかの実施形態では、第2の光路44の深さは、インプラント12が埋め込まれている第1の深さ(好ましくは、皮膚14の表面下の皮下組織内の1〜5mm)に実質的に等しくてもよい。いくつかの実施形態では、第2の光信号の光路44が皮膚14の表面下に2mm以上の深さまで延在し、他の実施形態では、第2の光信号のための光路44が皮膚表面下4mmに等しいかより大きい深さまで延在している。」)

[0042]Next, the light source 38 is activated to transmit third excitation light in the second excitation wavelength range from the surface of the skin 14 to the implant 12. The second detector 36 measures, in response to the third excitation light, a third optical signal emitted from the tissue 15 at the surface of the skin 14 within the second emission wavelength range, as represented by a third light path 46. In this embodiment, the third optical signal is the analyteindependent luminescent signal.
Next, the third light source 40 is activated to transmit fourth excitation light from the surface of the skin 14 into the tissue 15. The fourth excitation light is preferably within the emission wavelength range of the analyte-independent luminescent signal. The detector 36 measures, in response to the fourth excitation light, a fourth optical signal emitted from the tissue 15 at the surface of the skin 14 within this emission wavelength range, as represented by a fourth light path 48.・・・」
(当審訳:「[0042]次に、光源38が作動され、第2の励起波長域の第3の励起光を、皮膚14の表面からインプラント12に伝達する。第2の検出器36は、第3の励起光に応答して、第3の光経路46によって表されるように、組織15からの第2の発光波長領域の第3の光信号を、皮膚14の表面において測定する。この実施形態では、第3の光信号は、分析物に依存しない発光信号である。
次に、第3の光源40は皮膚の表面14から組織15へと第4の励起光を伝達させる。第4の励起光は、分析物に依存しない発光性シグナルの放出波長範囲内にあることが好ましい。検出器36は、この発光波長範囲内において、第4の光路48によって表されるように、皮膚14の表面で組織15から出射された第4光信号を第4の励起光に応答して測定する。少なくとも1つの補正された信号値は、測定された光学信号に基づいて計算される。・・・。」)

「[0058] Tissue optical heterogeneity in some cases may be significant. Thus, it may be advantageous to utilize a single light source and a single detector to assure that every color passes through the same optical pathway through the tissue. In one embodiment, a light source can be positioned with a set of moveable filters between the light source and the surface of the skin. Similarly a single photodetector can be utilized in place of separate discrete detector elements. The detector may be used to detect different colors by using moveable or changeable filters to enable multiple wavelengths to be measured.・・・.」
(当審訳:「[0058]いくつかの場合において、組織の光学的不均一性は、重要であり得る。このように、全ての色は、組織を通る光路と同じ光路を通ることを確実にするために、単一の光源及び単一の検出器を利用することが有利である。一実施形態では、光源は、光源の間に移動可能なフィルタ及び皮膚の表面のセットで配置することができる。同様に、単一の光検出器は、複数の個別の検出器要素の代わりに使用することができる。検出器は、複数の波長を測定することを可能にするために移動可能な、または変更可能なフィルタを用いて異なる色を検出するために使用することができる。・・・。」)

(2)図面の記載事項

ア Fig.1(図1)は次のとおりである。




イ 図2(Fig.2)は次のとおりである。




(3)認定事項

ア 図1からは、光検出装置10の左端部近傍に第1の光源16が、同右端部近傍に第2の光源18を、離間した前記各光源の中間部であって装置10の中央部近傍に第1の検出器20を備え、第1の光源16からの光路42はインプラント12表面の図上左端部を照射し、インプラント12表面左端の該照射部位から出射された光が、インプラント12の中央部近傍上方の皮膚表面上にある第1の検出器20に受光されること、第2の光源18からの出射光光路26は、インプラント12表面右端近傍の組織内を通って第1の検出器20に受光されること、を看取できる。

イ 図2からは、インプラント12の直上皮膚表面に位置する光検出装置30はその左端部近傍に第1の光源32を、同右端部側に第2の光源38及び同右端部近傍に第3の光源を相互に離隔して備え、第1光源と第2・第3光源との中間部であって光検出装置30の中央部近傍位置する第1の検出器34及び第2の検出器36を備え、該各検出器の下方組織内にインプラント12が位置し、第1の光源32から出射された光の光路42は、光源から右下に向かって進行し、インプラント12上面左端部近傍を照射し、そこからの出射光は右上に向かって進行し、光検出装置30の中央部左寄りの第1の検出器34に受光され、第2の光源38からの出射光は、光源から左下に進行し、光路46に沿ってインプラント12の上面右端近傍を照射し、そこからの出射光が左上方へ向かって進行し、光検出装置30の中央部右寄り第2の検出器36に受光され、第3の光源40からの出射光はインプラント12の深度まで達せずに組織内を経て第2の検出器36に到達していることを看取できる。

ウ 図1、図2から、光検出装置10、30は側面視板状の装置であることが看取できる。

エ 図2から、第2の光源38の出射光の一部が組織を介して第1の検出器34に達する光路44は、該光源から光路46とほぼ平行する左下方へ出射した後、第2の光源38と第1の検出器34とを結び、インプラント12上面中央部上方で最も深くなる下に凸な弓状の曲線を呈することを看取できる。

(4)引用発明の認定
以上の引用文献1における記載事項・認定事項から、該文献には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているといえる(各構成単位冒頭の「a」などは分説記号であり、以下、当該各構成単位を「構成a」などという。また、構成単位末尾の括弧内は、認定の根拠となった引用文献の段落や認定事項を示す。以下同様。)。

「a 側面視板状の光検出装置30と、([0039]、認定事項(3)ウ)
b 皮下組織内の1〜5mmの深さに埋め込まれ、グルコースなど組織中の被分析物の量に依存して蛍光、生物発光、リン光、発光、および拡散反射光などの光学的信号が変化するインプラント12から放出された分析物依存発光信号を検出する、光検出装置30の中央部近傍に位置する第1及び第2の検出器34・36、([0028]、[0029]、[0033]、[0040]、図2、認定事項(3)イ)
c 前記光検出装置30には、左端部近傍及び右端部側にそれぞれ、LEDまたは半導体レーザなどからなる光源32・38を配置し、該各光源は、例えば光検出装置30左端部近傍の第1の光源32から出射された光の光路42はインプラント12の上面左端部近傍を照射し、光検出装置30右端部側の第2の光源38からの出射光は光路46に沿ってインプラント12の上面右端近傍を照射し、また、第2の光源38からの出射光の一部は、第2の光源38と第1の検出器34とを結び、インプラント12上面中央部上方で最も深くなる、下に凸な弓状の曲線を呈し、インプラント12が埋め込まれている深さと同等の深さに達する光路44に沿って第1の検出器34に達するように構成され、
各検出器は、
([0040]〜[0042]、図2、認定事項(3)イ、エ)
d 光検出装置30において、上記2つの光源32・38は、第1・第2の光検出装置34・36を挟んで光検出装置30の端部近傍・端部側に配置される、(図2、認定事項(3)イ)
e 光検出装置30。」

2 周知技術を示す文献の記載事項

(1)周知文献1の記載事項
本願優先日前に公知となった文献である特開2014−132992号公報(以下「周知文献1」という。)には次の記載がある。

「【0007】
一方、引用文献3のように、検知対象の背面から光を照射して検知部位を透過した前方散乱光を基に血管検知を行う方法(以下、「透過型血管検知」と呼ぶ)では、上述したように、生体内組織は強い前方散乱成分を持つ異方性媒体のため、光は前方に伝達されやすい性質を持つ。従って、検知対象の背面から光を照射することで、より深くに位置する血管を検知することが可能となる。しかし、透過型血管検知は皮下浅い血管と深い血管を共に検知するために、一見して両者を弁別することはできないという問題がある。」

(2)周知文献2の記載事項
本願優先日前に公知となった文献である特開2013−70822号公報(以下「周知文献2」という。)には次の記載がある。

「【0109】
ここで、gは非等方性パラメータである。gは散乱の方向性を示す指標である。gは−1から1の間の値をとり、1の場合は完全な前方散乱、−1の場合は完全な後方散乱を示す。また、0の場合は等方散乱を示し、任意の時刻における等価散乱係数と散乱係数とが等しくなる。
【0110】
生体組織内で起こる散乱はg=0.9の強い前方散乱であるが、組織内で何度も散乱を繰り返すことで、結果的には見かけ上、等方散乱に似た状態が観測される。・・・。」


3 本願発明と引用発明1との対比
本願発明と引用発明1とを対比する。

(1)構成A、Bについて
ア 構成bの「皮下組織」、「皮下組織内の1〜5mmの深さ」はそれぞれ、構成Bの「組織」、「埋込の深さ」に相当する。

イ また、構成bの「皮下組織内の1〜5mmの深さに埋め込まれ、グルコースなど組織中の被分析物の量に依存して蛍光、生物発光、リン光、発光、および拡散反射光などの光学的信号が変化するインプラント12」は、構成Bの「組織内に埋め込まれたセンサ」に相当する。

ウ また、構成bの「第1及び第2の検出器34・36」は「インプラント12から放出された分析物依存発光信号を検出する」ものであるから、構成Bの「センサにより放出された光を受信するよう構成され」た「光検出器」に相当し、前記「第1及び第2の検出器34・36」が位置する構成a、bの「側面視板状の光検出装置30」は、構成A、Bの「リーダ基板」に相当する。

(2)構成Cについて
ア 構成cの「LEDまたは半導体レーザなどからなる光源32・38」は構成Cの「複数のエミッタ」に相当する。

イ また、構成cで前記「光源32・38」が「前記光検出装置30」すなわち「側面視板状」の「光検出装置30」の「左端部近傍及び右端部側にそれぞれ・・・配置」されることは、構成Cの「それぞれのエミッタが前記リーダ基板の周辺部分に接続され」ることに相当する。

ウ また、構成cの「インプラント12の上面」は、構成bで特定される「皮下組織内の1〜5mmの深さに埋め込まれ」た「インプラント12」の上面であるから、その位置は「皮下組織内の1〜5mmの深さ」に位置することになるため、構成Cの「埋め込み深さ」に相当するといえる。

エ また、構成cの「各光源は、例えば光検出装置30左端部近傍の第1の光源32から出射された光の光路42はインプラント12上面左端部近傍を照射し、光検出装置30右端部側の第2の光源38からの出射光は光路46に沿ってインプラント12の上面右端近傍を照射するように構成され」ることは、光検出装置30の異なる位置から異なる光源により前記照射を行うのであるから、該各光源からの前記各光路に沿った光が少なくともインプラント12上に照射されることが明らかである。

オ また、構成cでは「第2の光源38からの出射光の一部は、第2の光源38と第1の検出器34とを結び、インプラント12上面中央部上方で最も深くなる、下に凸な弓状の曲線を呈し、インプラント12が埋め込まれている深さと同等の深さに達する光路44に沿って第1の検出器34に達する」のであり、当該光路の光の一部もインプラント12上面の中央部近傍を照射することが明らかである。

カ そうすると、構成cでは、上記イ、エで説示したとおり、各光源からの光路42、46、44に沿った光がインプラント12上面を照射すると理解でき、このことは、構成Cの「それぞれのエミッタが前記埋め込みの深さで遠方界照明パターンを生成する」ことに相当するといえる。

キ ところで、構成Cの「遠方界照明パターン」については、特段の定義が本願明細書中になく、前提が組織内外で異なる構成Dにも同名の要素が存在することから、単なる「照明パターン」と同等の一般名詞と解するほかないところ、上記ア〜カはその前提の下での引用発明1との対比を示したものである。
しかし、上記第4、第5で説示したとおり、委任省令や明確性要件の観点から、構成Cの「遠方界照明パターン」は上記「光子雲場要件」を満たすもののみ指す、との限定解釈をすべきであるとの主張を許す余地がある。
この場合は、引用発明1に複数の光源の光が「光子雲場要件」を満たすことについて言及がない点で、本願発明と引用発明1とは相違することになる。

(3)構成Dについて
構成dで、「上記2つの光源32・38は、第1・第2の光検出装置34・36を挟んで光検出装置30の端部近傍・端部側に配置される」ことは、構成Dの「それぞれのエミッタが互いに他のエミッタから離間された」ことに相当する。

(4)構成Eについて
構成Eの「機器」は、「リーダ基板」、「複数のエミッタ」、「光検出器」からなる本願発明の装置の総称であるから、構成aの「光検出装置30」がこれに相当するといえる。

(5)一致点・相違点
以上のとおりであるから、本願発明と引用発明1とは下記アの点で一致し、イ、ウの点で相違する。

ア 一致点

「A リーダ基板と、
B 組織内に埋め込みの深さで埋め込まれたセンサにより放出された光を受信するよう構成され、前記リーダ基板の中央部分に接続された光検出器と、
C’ 複数のエミッタからのそれぞれのエミッタが前記リーダ基板の周辺部分に接続され、それぞれのエミッタが前記埋め込みの深さで照明パターンを生成するよう構成され、
D’それぞれのエミッタが互いに他のエミッタから離間された複数のエミッタと、を備える、
E 機器。」

イ 相違点1(構成C)
本願発明は構成Cにおいては複数のエミッタが埋込の深さで「遠方界照明パターン」を生成するが、これが上記「光子雲場要件」を意味するものとのみ限定解釈される場合、引用発明1では、複数の光源が埋め込み深さ、即ちインプラント上で生成する照明パターンが「光子雲場要件」を満たすものとは特定されない点。

ウ 相違点2(構成D)
本願発明は、「前記組織により誘発された光の散乱がない場合、前記複数のエミッタの集合的な前記遠方界照明パターンが前記埋め込みの深さで中央の暗い領域を有する」ものであるのに対し、引用発明1の光源が組織により誘発された光の散乱がない場合に生成する照明パターンがどのようなものであるか不明である点。

(6)相違点2について
事情に鑑み、相違点2から先に検討する。

ア 引用発明1において、インプラント12が各光源からの光に対して呈する信号は、構成bで認定される「蛍光、生物発光、リン光、発光、および拡散反射光」のいずれかである。

イ これらのうち少なくとも蛍光および拡散反射光は、技術常識によれば、光源光が照射している状態で光源光(照射される光)の強度に応じて生じるものであるとともに、蛍光や拡散反射光の発生箇所と検出器との距離に応じて検出強度は弱くなる性質のものである。

ウ この点、1(3)イの図2に関する看取事項によれば、引用文献1から、「第1の光源32から出射された光の光路42は、光源から右下に向かって進行し、インプラント12上面左端部近傍を照射し、そこからの出射光は右上に向かって進行し、光検出装置30の中央部左寄りの第1の検出器34に受光され、第2の光源38からの出射光は、光源から左下に進行し、光路46に沿ってインプラント12の上面右端近傍を照射し、そこからの出射光が左上方へ向かって進行し、光検出装置30の中央部右寄り第2の検出器36に受光され」ること、すなわち、光源32、38からの光のうち、インプラントを介して検出器へ向かう光路は、それぞれインプラント12の各端部を指向し、V字型に切り返して光検出装置30の該各端部よりの検出器で受光されるように、インプラントの両端に偏在することを読み取ることができる。

エ そして、前記のとおり蛍光または拡散反射光を検出信号とする場合には、前記図2と同様の光源・インプラント・検出器からなる光学系の配置において、該図の看取事項に反し、光路42や46を、インプラントの中央部で切り返すようにすれば、光源とインプラントの入射点との距離も、該入射点と検出器との距離も、図2の場合よりも長くなってしまうこととなり、上記イの検出信号の性質に照らし、そのような各光路を想定することは不合理であるといえる。

オ 同様に、各光源32、38からの光がほぼ180度にわたるような高配光である場合は、技術常識からみて相対的に高効率な光路と考えられる光路42、46とは異なる方向に大部分の光束が向かうこととなるから、該各光路を狭い配光で指向した場合に比べて光源光の信号光に対する効率が悪化することを当業者であれば容易に想定することができるといえるのであり、引用文献1に接した当業者が、図2において、敢えて光路42、46を、図示以外の方向への光も多く含む高配光な光源光で実現することを選択することには、合理性も動機付けも欠くといえる。

カ また、引用文献1の図2において、第2の光源38は組織内を経て検出器34に向かう光路44に沿う光も出射することが示されるが、上記看取事項1(3)エにも説示したとおり、光源38を出射する際の光路は光路44、46でほぼ平行である。このことも、上記オの、光源32、38を高配光なものとする動機を欠くとの判断と矛盾しない。

キ 以上のとおりであるから、引用発明1において、第1・第2の光源(32、38)からインプラント12へ出射される光として、インプラント12の両端部に偏在して指向するものを選択することは、当業者にとって技術常識やそれに基づく合理性の検討に基づき、容易になされることといえる。
そして、前記両光源からの光がインプラント12の両端部近傍に偏在して照射されるのであれば、それらがインプラント中央部を照射する光量は相対的に小さくなることが自明である。
よって、引用発明1において、相違点2の構成とすることは、引用文献1の記載事項及び技術常識に基づいて、当業者が容易になし得たことである。

(7)相違点1について
構成Cの「遠方界照明パターン」が上記「光子雲場要件」を意味するものとのみ限定解釈される場合、両発明は上記相違点1を有する。この場合について以下検討する。

ア 実質的な相違点でないこと
本願発明の構成Cにおける「遠方界照明パターン」なる用語について明細書中に特段の定義はなく、前提条件が異なる構成Dにおいても同じ用語が混用されていることからみても、単なる「照明パターン」との一般名詞としての意味を備えるのみと解すべきことから、構成Cは、複数のエミッタがそれぞれ埋め込み深さで(何らかの)照明パターンを生成する、ことを特定したものと理解され、この点で本願発明と引用発明1とに相違がないことは、上記2(2)で説示したとおりである。

イ 上記限定解釈の下での相違点1の検討
(ア)引用発明1において、第1・第2の光源(32、38)からインプラント12へ出射される光として、インプラント12の両端部に偏在して指向するものを選択することが、当業者にとって技術常識やそれに基づく合理性の検討に基づき、容易になされることといえる点は、上記(6)で説示したとおりである。
(イ)ここで、一般に人体などの生体内組織が、光に対し強い前方散乱成分を持つ散乱体でありつつ、生体内で散乱を繰り返すことで見かけ上等方散乱に似た散乱特性を呈することは、本願発明の構成Dでも「組織に誘発された光の散乱」が特定され、また、上記周知文献1、2にも記載されるとおりの技術常識である。
(ウ)そうすると、引用発明1において、光源32、38からインプラント両端部を指向して光路42、46に沿って出射された光束は、生体組織内で該各光路に沿って前方散乱によりインプラント両端部を指向しつつも、光路側方への散乱を受けることになるから、組織に誘発された散乱がない場合に比べて、インプラント中央部付近に達する散乱光の比率が増加することは明らかである。
(エ)このことは、上記1(3)エの看取事項及び[0041]の記載事項、すなわち、引用文献1の図2において、第2の光源38からインプラント右端部への光路46とほぼ平行に出射した光は、組織内を、インプラントの埋め込み深さまで達した後、第1の検出器34に向かう光路44で進行する成分も有することと、光路44を進行する成分の一部はインプラントの中央部を照射しうる点で、矛盾しない。
(オ)また、引用文献1には、第1の光源32は第1の励起光を、第2の光源38は第3の励起光をそれぞれ照射し、第1の検出器34は第1の励起光により励起された、一次分析物に依存する第1の放射波長範囲内の第1の光信号を検出し、第2の検出器36は第3の励起光により励起された、分析物に依存しない第2の発光波長領域の第3の光信号を検出する実施例が記載されている。([0040]、[0042])
(カ)しかし、引用文献1にはまた、複数の検出器がそれぞれフィルタを固定的にまたは切り替え可能に備えて、それぞれ異なる波長範囲内の光信号を測定する例も記載されているから([0031]、[0058])、第1・第2の光源を同時点灯した状態で第1・第2の検出器によって同時的に個々の波長範囲内の光信号を測定することが可能であることは当業者にとって自明であり、仮に(オ)の実施例によるとしても、引用文献1に記載された事項の範囲内で、前記各光源を同時に点灯して「光子雲場要件」を満たすようにすることは当業者が容易に想到することができたといえる。
(キ)以上のとおりであるから、構成Cの「遠方界照明パターン」が上記のとおり限定解釈すべきものであるとしても、引用発明1において、引用文献1の記載事項の範囲及び技術常識に基づいて相違点1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

(8)効果について
本願明細書において、本願発明の効果としてエミッタの電力消費の減少や、センサの光退色の軽減に言及している(【0019】、【0026】)。
しかし、本願発明と効果との因果関係を理解することができず、効果を得るための具体的な条件も不明であることは、上記第4の3(委任省令要件)、4(実施可能要件)で説示したとおりである。
また、前記効果には、本願発明に特定されたセンサ上の光量分布のみならず、少なくとも、センサ上の光量の総量及びエミッタからセンサ以外に向かう光量も大きく関係することが明らかであるところ、本願発明はこれらを特定する構成を備えない。
よって、本願発明により、本願明細書に記載された効果が得られるということはできず、仮に当該効果が得られる場合があるとしても、それが格別顕著なものであるということはできない。

(9)請求人の主張について
請求人は理由5に関し、審判請求書の請求の理由において、「機器を皮膚表面に取り付ける前の状態において、あえてセンサの埋め込みの深さに相当する位置において中央の暗い領域を有する遠方界照明パターンを形成するように複数のエミッタを配置ないし構成することは到底設計事項といえるような発想ではない。また、本発明は、このようにすることによって上述したように顕著な効果を発揮するものである。」と主張する。
しかし、「中央の暗い領域」を有する遠方界照明については、相違点2(構成D)に関し上記(6)で説示したとおりであるし、顕著な効果については上記(8)のとおりである。よって、請求人の前記主張は採用できない。

4 小括
したがって、上記3において検討したように、本願発明は、引用発明1及び引用文献1の記載事項並びに技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第7 むすび
以上のとおり、本願は、発明の詳細な説明の記載について特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
また、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって、請求項1以外の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。


 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 三崎 仁
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2021-07-01 
結審通知日 2021-07-02 
審決日 2021-07-19 
出願番号 P2017-567164
審決分類 P 1 8・ 537- Z (A61B)
P 1 8・ 536- Z (A61B)
P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 樋口 宗彦
蔵田 真彦
発明の名称 埋め込み可能な分析物センサと共に使用する経皮的リーダ  
代理人 内藤 和彦  
代理人 江口 昭彦  
代理人 大貫 敏史  
代理人 稲葉 良幸  

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