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審決分類 審判 一部無効 発明同一  H04W
審判 一部無効 2項進歩性  H04W
管理番号 1380668
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-01-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2020-06-22 
確定日 2021-11-02 
事件の表示 上記当事者間の特許第4932052号発明「チャネル品質インジケータの独立した送信をトリガーする制御チャネルシグナリング」の特許無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許無効審判の請求に係る特許第4932052号(以下,「本件特許」という。)に係る出願(特願2011−219542号)は,2009年(平成21年)4月2日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2008年5月6日 欧州特許庁(EP))を国際出願日とする特願2011−507801号の一部を,平成23年10月3日に新たな特許出願としたものであり,平成24年2月24日にその発明について特許権の設定登録がなされた。
そして,本件特許無効審判に係る手続の経緯は,以下のとおりである。

令和2年 6月22日 審判請求書及び証拠説明書(1)の提出
令和2年 8月12日 手続補正書(方式)の提出[請求人]
令和2年11月12日 答弁書の提出
令和3年 1月 6日付け 審理事項通知書
令和3年 2月17日 口頭審理陳述要領書の提出[被請求人]
令和3年 2月18日 口頭審理陳述要領書の提出[請求人]
令和3年 3月 5日 上申書の提出[請求人]
令和3年 3月18日 口頭審理

第2 当事者の主張
1 請求人
(1)請求の趣旨及び無効理由について
請求人は,審判請求書において「特許第4932052号の特許請求の範囲の請求項8に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」とし,請求人が主張する無効理由は,口頭審理で整理したとおり,以下のとおりのものである。(第1回口頭審理調書参照。)

ア 無効理由1
本件特許の請求項8に係る発明は,本件特許の優先日前の特許出願であって,特許法第41条第1項の規定による優先権の基礎とされ,同法第184条の15第2項の規定により読み替えて適用される同法第41条第3項の規定により,出願公開されたものとみなされる特許出願(特願2007−231154号(甲第1号証,甲第1−1号証))の願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり,しかも,本件特許の発明者がその優先日前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく,また本件出願の時において,その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので,特許法第29条の2の規定により,無効とすべきである。

イ 無効理由2
本件特許の請求項8に係る発明は,本件優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証に記載された発明,甲第6号証及び甲第7号証に記載された周知技術,甲第3号証及び甲第4号証並びに甲第5号証に記載された技術常識に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,無効とすべきである。

(2)請求人が提出した証拠方法
甲第1号証 国際公開第2009/031572号パンフレット
甲第1−1号証 甲第1号証に係る国際特許出願の優先権書類(特願2007−231154号の出願書類を含む)
甲第2号証 3GPP TSG−RAN WG1 #52bis, R1−081682, Shenzhen, China, March 31 − April 4, 2008, Ericsson, Texas Instruments, NTT DoCoMo, Sharp, NEC, Mitsubishi, Refinements on Signalling of CQI/Precoding Information on PDCCH, 2008年4月9日
甲第3号証 3GPP TSG RAN WG1 52bis, R1−081383, Shenzhen, China, March 31 − April 4, 2008, Texas Instruments, CQI Reporting on PUSCH,2008年3月27日
甲第4号証 3GPP TSG RAN WG1 52bis, R1−081370, Shenzhen, China, March 31 − April 4, 2008, Texas Instruments, Coding of Control Information on PUSCH,2008年3月27日
甲第5号証 3GPP TS 36.212 V8.2.0,2008年3月20日
甲第6号証 R1−080556, Outcome of ad hoc discussions on TB size signaling, Discussion Moderator (Ericsson),2008年1月19日
甲第7号証 3GPP TSG RAN1 #52bis, R1−081638, Shenzhen, China, Mar 31−April 4, 2008, Motorola, TBS and MCS Signaling and Tables,2008年4月9日
甲第8号証 www.3gpp.org/ftp/tsg_ran/WG1_RL1/TSGR1_52b/Docs(https://www.3gpp.org/ftp/tsg_ran/WG1_RL1/TSGR1_52b/Docs)(2020年6月11日,請求人代理人作成)
甲第9号証 3GPP Portal Specification#:36.212,versionsのタブ(https://portal.3gpp.org/desktopmodules/Specifications/SpecificationDetails.aspx?specificationId=2426)(2020年6月12日,請求人代理人作成)
甲第10号証 www.3gpp.org/ftp/tsg_ran/wg1_rl1/TSGR1_51b/Docs(http://www.3gpp.org/ftp/tsg_ran/wg1_rl1/TSGR1_51b/Docs)(2020年6月12日,請求人代理人作成)

2 被請求人
(1)答弁の趣旨及び無効理由について
被請求人は,審判事件答弁書において「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」とし,請求人による無効理由1及び2はいずれも妥当性を欠いており,本件特許は無効理由を有していないと主張する。

第3 本件特許発明
本件特許第4932052号の請求項8に係る発明(以下,「本件特許発明」という。)は,特許権の設定登録時の特許請求の範囲の請求項8に記載された事項により特定されるものであるところ,本件特許発明は,以下のとおりのものである。

「【請求項8】
移動端末であって、
変調・符号化方式インデックスと、前記移動端末から基地局への送信に使用されるリソースブロックに関する情報と、非周期的なチャネル品質インジケータ報告の前記基地局への送信をトリガーするチャネル品質インジケータトリガーとを含む制御チャネル信号を、前記基地局から受信する受信部と、
前記チャネル品質インジケータトリガーが設定され、前記制御チャネル信号が、前記変調・符号化方式インデックスの所定の値を示し、かつ、所定のリソースブロック数と等しいかまたは小さい数のリソースブロック数を示す場合に、前記非周期的なチャネル品質インジケータ報告と上り共有チャネル(UL−SCH)を介して送信されるデータとを多重化せずに前記非周期的なチャネル品質インジケータ報告を前記基地局へ送信する送信部と、
を含む移動端末。」

第4 無効理由に対する当審の判断
1 無効理由1について
(1)甲第1号証及び甲第1−1号証の記載事項等
ア 甲第1号証及び甲第1−1号証の記載事項
請求人が提出した甲第1−1号証は,甲第1号証(国際公開第2009/031572号パンフレット)に係る国際特許出願(PCT/JP2008/065848)の優先権書類であって,上記国際特許出願の優先権の基礎とされた特願2007−231154号の出願種類(特許願、特許請求の範囲,明細書、図面、及び要約書)の内容が記載されたものである。

ここで,上記特願2007−231154号の出願日は平成19年(2007年)9月6日であるところ,本件特許の優先日は平成20年(2008年)5月6日であるから,上記特願2007−231154号は,本件特許の優先日前の出願である(以下、上記特願2007−231154号を「先願」という。)。そして,先願は,当該先願を特許法第41条第1項の規定による優先権の基礎とする国際特許出願である甲第1号証が2009年3月12日に国際公開されたことにより,同法第184条の15第2項の規定により読み替えて適用される同法第41条第3項の規定により,出願公開されたものとみなされる。また,本件特許の発明者は,先願の発明をした者と同一ではない。さらに,本件出願の時において,本件特許の出願人は,先願の出願人と同一ではない。

また,先願の願書に最初に添付された特許請求の範囲,明細書及び図面(以下,「先願明細書等」という。)には,以下の記載があり,同様の記載が甲第1号証にもある。(下線は当審で付与した。)

(ア)「【0003】
また、複数のサブキャリアを用いるOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing:直交波周波数分割多重)システムにおける送信パケットのスケジューリングにおいて、移動局装置で下りの各チャネル状態(周波数特性、すなわち、周波数に依存する伝送損失等の特性)を評価し、各チャネル状態を量子化した情報を基地局装置に送信し、基地局装置は送信された情報に基づいて各移動局装置に割り振るサブキャリアを決定するという技術も知られている(下記特許文献1参照)。図5は、従来の基地局装置と移動局装置との通信方法の概要を示す図である。図5(A)はシステム構成例を示す図であり、図5(B)は特性例を示す図である。基地局装置201から受信品質測定に用いる下り回線の下りリンク情報205を受信した移動局装置は、その下りリンク情報に基づいて各チャネルの受信品質(図5(B))を測定し、測定した各チャネルの受信品質を量子化することによって、伝搬路のチャネルプロファイルを作成する。
【0004】
移動局装置203が作成したチャネルプロファイルは、上り回線を用いて、受信品質情報207として移動局装置203から基地局装置201に送信される。基地局装置201は、その受信品質情報207に基づいて、基地局装置201から移動局装置203に対して送信する信号に対して適応変調符号化や周波数選択スケジューリング等の処理を行なう。」(甲第1号証の[0003],[0004])

(イ)「【0018】
(第1の実施の形態)
まず、本発明の第1の実施の形態による移動通信システムについて説明する。本実施の形態による移動通信システムは、基地局装置と移動局装置とを有しており、図5(A)と同様の構成を有する。図1は、本実施の形態による基地局装置の概略構成例を示す機能ブロック図である。図1に示すように、基地局装置Aは、データ制御部1、変調符号化部3、マッピング部5、逆高速フーリエ変換(IFFT)部7、無線送信部11、無線受信部15、高速フーリエ変換(FFT)部17、復調復号化部21、データ抽出部23、送信情報制御部27、アンテナ31、を備えている。送信情報制御部27は、スケジューラ部27a、変調符号制御部27b、周波数選択スケジューラ部27cを含んでいる。」(甲第1号証の[0042])

(ウ)「【0022】
図2は、本発明の第1の実施の形態による移動局装置の概略構成例を示す機能ブロック図である。図2に示すように、移動局装置Bは、データ制御部41、変調符号化部43、マッピング部45、逆高速フーリエ変換(IFFT)部47、無線送信部51、無線受信部53、高速フーリエ変換(FFT)部55、復調復号化部57、データ抽出部61、受信品質情報制御部63、アンテナ65、を備えている。受信品質情報制御部63は、受信品質情報生成部63a、受信品質測定部63b、を備えている。
【0023】
尚、無線受信部53、FFT部55、復調復号化部57、データ抽出部61、および、受信品質情報制御部63は、全体として受信部を構成しており、データ制御部41、変調符号化部43、マッピング部45、逆高速フーリエ変換(IFFT)部47、および、無線送信部51は、全体として送信部を構成する。」(甲第1号証の[0046],[0047])

(エ)「【0028】
移動局装置Bは、基地局装置Aからの下りリンク制御チャネル(以下、PDCCH(Physical Downlink Control Channel))によって指示されたリソース割当てに応じて、PUSCHを使用してデータを送信する。すなわち、この下りリンク制御チャネル(PDCCH)は、上りリンクに対するデータ送信を許可する信号(上りリンクデータ送信許可信号、以下、L1/L2グラント)である。このL1/L2グラントは、例えば、リソース割当て情報(10ビット)、MCS(Modulation and Coding Scheme、変調符号化方式)(2ビット)、トランスポートブロックサイズ(6ビット)、HARQ(Hybrid Automatic Repeat Request、ハイブリッド自動再送要求)リダンダンシーバージョン(2ビット)、復調パイロット信号強度(2ビット)、移動局識別情報C−RNTI(16ビット)により構成される。
【0029】
本発明の第1の実施の形態では、基地局装置Aは、移動局装置Bが、受信品質情報を送信することを許可する受信品質情報送信許可情報を含んだL1/L2グラントに、L1/L2グラントで割り当てられたリソースを使用して受信品質情報のみを送信することを許可する受信品質情報専用送信許可情報を含めて送信し、その信号を受信した移動局装置Bは、L1/L2グラントで割り当てられたリソースを使用して受信品質情報のみを基地局装置Aに送信する。(図3における#slot4、#slot7、#slot12が対応している。)
図3を参照しながら各スロットにおける動作について説明する。
【0030】
#slot2において、移動局装置Bに対して受信品質情報を送信するように指示することを判断した基地局装置Aは、その許可情報(以下、「受信品質情報送信許可情報」と称する。)を、例えば“1”に設定したL1/L2グラントを移動局装置Bに送信する(71)。以下、本発明の実施例では、基地局装置は、例として受信品質情報送信許可情報を1ビットの情報によって表し、受信品質情報を送信することを許可する際には“1”を設定し、受信品質情報を送信しないようにするには“0”を設定してL1/L2グラントを送信することとする。本実施の形態では、説明を分かり易くするためにこのような設定とするが、他の設定方法を用いても勿論良い。この受信品質情報送信許可情報が“1”に設定されたL1/L2グラントを受信した移動局装置Bは、L1/L2グラントによって割り当てられたリソースを使用して受信品質情報を上りリンクデータと同時に基地局装置Aに送信する(72)。」(甲第1号証の[0052]ないし[0054])

(オ)「【0039】
#slot4で、基地局装置Aは受信品質情報専用送信許可情報を“1”に設定したL 1/L2グラントを送信する(75)。この信号を受信した移動局装置Bは、割り当てられたリソースを使用して受信品質情報のみを基地局装置に送信する(76)。#slot7と#slot12においては、移動局装置Bが上りリンクを使用して送信する情報に、上りリンクデータが存在していたとしても、受信品質情報のみを基地局装置Aに送信する。
【0040】
また、L1/L2グラントに含まれる受信品質情報専用送信許可情報は、新たな情報ビットを追加せずに、L1/L2グラントに含まれる他の情報によって表すこともできる。例えば、L1/L2グラントに含まれる上りリンクデータに対するHARQリダンダンシーバージョンの値を全て0に設定、もしくは、上りリンクデータに対するMCSの値を全て0に設定、もしくは、上リンクデータに対するトランスポートブロックサイズを0に設定することによって受信品質情報専用送信許可情報を表すことができる。これらの値が0に設定されているということは、基地局装置からのL1/L2グラントによって、移動局装置から送信する上りリンクデータで何も送信する必要がないことを示している。この信号を受信した移動局装置は、基地局装置からのL1/L2グラントが通常のL1/L2グラントでないことを認識し、受信品質情報のみを基地局装置に送信する。
【0041】
すなわち、図3の#slot4、#slot7、#slot12において、基地局装置Aから上りリンクデータに対するHARQリダンダンシーバージョンの値が全て0に設定、もしくは、上りリンクデータに対するMCSの値が全て0に設定、もしくは上リンクデータに対するトランスポートブロックサイズが0に設定されたL1/L2グラントが送信され、その信号を受信した移動局装置BはL1/L2グラントで割り当てられたリソースを使用して受信品質情報のみを基地局装置Aに送信する。この際、受信品質情報送信許可情報は“1”に設定されている。基地局装置Aから送信されるL1/L2グラントに含まれるどの情報を使用し、また、その情報がどのような設定になっていた場合に、移動局装置Bが受信品質情報のみを送信するかは、事前に仕様等によって決められ、基地局装置A、移動局装置Bの間で既知の情報としておく。このように、受信品質情報専用送信許可情報をL1/L2グラントに含まれる他の情報を使用して表すことにより、L1/L2グラントに受信品質情報専用送信許可情報として新たな情報ビットを追加する必要がなく、L1/L2グラントに含まれる情報量を増加させずに、移動局装置Bから受信品質情報のみを基地局装置Aに送信することができる。」(甲第1号証の[0065]ないし[0067])

(カ)図3として以下の図面が記載されている。


」(甲第1号証の[図3])

イ 甲第1号証及び甲第1−1号証に記載された発明
上記「ア」の記載,及びこの分野における技術常識を考慮すると,次のことがいえる。

(ア)
a 上記「ア」の「(エ)」の段落【0028】の「下りリンク制御チャネル(PDCCH)は、上りリンクに対するデータ送信を許可する信号(上りリンクデータ送信許可信号、以下、L1/L2グラント)である。このL1/L2グラントは、例えば、リソース割当て情報(10ビット)、MCS(Modulation and Coding Scheme、変調符号化方式)(2ビット)、トランスポートブロックサイズ(6ビット)、HARQ(Hybrid Automatic Repeat Request、ハイブリッド自動再送要求)リダンダンシーバージョン(2ビット)、復調パイロット信号強度(2ビット)、移動局識別情報C−RNTI(16ビット)により構成される。」との記載を考慮すれば,「下りリンク制御チャネル」は「L1/L2グラント」であり,「L1/L2グラント」は「リソース割当て情報(10ビット)、MCS(Modulation and Coding Scheme、変調符号化方式)(2ビット)、トランスポートブロックサイズ(6ビット)」を含むものである。してみれば,「下りリンク制御チャネル」は「リソース割当て情報(10ビット)、MCS(Modulation and Coding Scheme、変調符号化方式)(2ビット)、トランスポートブロックサイズ(6ビット)」を含むものといえる。

b 上記「ア」の「(エ)」の段落【0029】の「基地局装置Aは、移動局装置Bが、受信品質情報を送信することを許可する受信品質情報送信許可情報を含んだL1/L2グラント」との記載,及び上記「a」に説示したように,「下りリンク制御チャネル」が「L1/L2グラント」であることを考慮すれば,「下りリンク制御チャネル」は「受信品質情報を送信することを許可する受信品質情報送信許可情報を含」むものといえる。

c 上記「ア」の「(エ)」の段落【0028】の「移動局装置Bは、基地局装置Aからの下りリンク制御チャネル(以下、PDCCH(Physical Downlink Control Channel))によって指示されたリソース割当てに応じて、PUSCHを使用してデータを送信する。」との記載によれば,「移動局装置」は,「PUSCHを使用してデータを送信する」ための「リソース割当て」を指示する「下りリンク制御チャネル」を「基地局装置」から受信していることは明らかである。

d 上記「ア」の「(ウ)」の段落【0022】の「移動局装置Bは、・・・(中略)・・・無線受信部53、高速フーリエ変換(FFT)部55、復調復号化部57、データ抽出部61、受信品質情報制御部63、・・・(中略)・・・を備えている。」,及び段落【0023】の「無線受信部53、FFT部55、復調復号化部57、データ抽出部61、および、受信品質情報制御部63は、全体として受信部を構成しており、」との記載によれば,「移動局装置」は「受信部」を備えているといえる。そして,当該「受信部」で上記「下りリンク制御チャネル」の受信を行っていることは明らかである。

上記「a」ないし「d」によれば,「移動局装置」は,「PUSCHを使用してデータを送信する」ための「リソース割当て」を指示する,「リソース割当て情報(10ビット)、MCS(Modulation and Coding Scheme、変調符号化方式)(2ビット)、トランスポートブロックサイズ(6ビット)」,及び「受信品質情報を送信することを許可する受信品質情報送信許可情報」を含む「下りリンク制御チャネル」を「基地局装置」から受信する「受信部」を備えているといえる。

(イ)
a 上記「ア」の「(オ)」の段落【0041】の「基地局装置Aから・・・(中略)・・・上りリンクデータに対するMCSの値が全て0に設定、もしくは上リンクデータに対するトランスポートブロックサイズが0に設定されたL1/L2グラントが送信され、その信号を受信した移動局装置BはL1/L2グラントで割り当てられたリソースを使用して受信品質情報のみを基地局装置Aに送信する。この際、受信品質情報送信許可情報は“1”に設定されている。」との記載によれば,移動局装置は「上りリンクデータに対するMCSの値が全て0に設定、もしくは上リンクデータに対するトランスポートブロックサイズが0に設定されたL1/L2グラント」を受信した場合,「L1/L2グラントで割り当てられたリソースを使用して受信品質情報のみ」を「基地局装置」に送信するものである。

b 上記「ア」の「(オ)」の段落【0041】の「基地局装置Aから・・・(中略)・・・L1/L2グラントが送信され、その信号を受信した移動局装置BはL1/L2グラントで割り当てられたリソースを使用して受信品質情報のみを基地局装置Aに送信する。この際、受信品質情報送信許可情報は“1”に設定されている。」との記載によれば,「受信品質情報のみ」を「基地局装置」に送信する場合,「L1/L2グラント」には,「“1”に設定され」た「受信品質情報送信許可情報」が含まれるといえる。

c 上記「ア」の「(ウ)」の段落【0022】の「移動局装置Bは、データ制御部41、変調符号化部43、マッピング部45、逆高速フーリエ変換(IFFT)部47、無線送信部51、・・・(中略)・・・を備えている。」,及び同段落【0023】の「データ制御部41、変調符号化部43、マッピング部45、逆高速フーリエ変換(IFFT)部47、および、無線送信部51は、全体として送信部を構成する。」との記載によれば,「移動局装置」は「送信部」を備えているといえる。そして,当該「送信部」で上記「受信品質情報のみ」の送信を行っていることは明らかである。

上記「a」ないし「c」,及び上記(ア)の「a」に説示したとおり,「下りリンク制御チャネル」は「L1/L2グラント」であることを考慮すれば,「移動局装置」は,「“1”に設定され」た「受信品質情報送信許可情報」が含まれ,「上りリンクデータに対するMCSの値が全て0に設定、もしくは上リンクデータに対するトランスポートブロックサイズが0に設定された」「下りリンク制御チャネル」を受信した場合,「下りリンク制御チャネル」で「割り当てられたリソースを使用して受信品質情報のみ」を「基地局装置」に送信する「送信部」を備えているといえる。

(ウ)上記「ア」の(ア)の段落【0003】の「基地局装置201から受信品質測定に用いる下り回線の下りリンク情報205を受信した移動局装置は、その下りリンク情報に基づいて各チャネルの受信品質(図5(B))を測定し、測定した各チャネルの受信品質を量子化することによって、伝搬路のチャネルプロファイルを作成する。」,及び同段落【0004】の「移動局装置203が作成したチャネルプロファイルは、上り回線を用いて、受信品質情報207として移動局装置203から基地局装置201に送信される。基地局装置201は、その受信品質情報207に基づいて、基地局装置201から移動局装置203に対して送信する信号に対して適応変調符号化や周波数選択スケジューリング等の処理を行なう。」との記載によれば,「受信品質情報」は,測定した「チャネルの受信品質を量子化すること」によって作成された「チャネルプロファイル」であって,「基地局装置」から「移動局装置」に対して送信する信号に対して「適応変調符号化や周波数選択スケジューリング等の処理を行なう」ために用いられるものといえる。

したがって,上記(ア)ないし(ウ)を総合すると,先願明細書等には,次の発明(以下,「先願発明」という。)が記載されていると認められる。

「 移動局装置であって,
PUSCHを使用してデータを送信するためのリソース割当てを指示する,リソース割当て情報(10ビット),MCS(Modulation and Coding Scheme、変調符号化方式)(2ビット),トランスポートブロックサイズ(6ビット),及び受信品質情報を送信することを許可する受信品質情報送信許可情報を含む下りリンク制御チャネルを基地局装置から受信する受信部と,
“1”に設定された前記受信品質情報送信許可情報が含まれ,上りリンクデータに対する前記MCSの値が全て0に設定,もしくは上リンクデータに対するトランスポートブロックサイズが0に設定された前記下りリンク制御チャネルを受信した場合,前記下りリンク制御チャネルで割り当てられたリソースを使用して受信品質情報のみを前記基地局装置に送信する送信部と,
を備え,
前記受信品質情報は,測定したチャネルの受信品質を量子化することによって作成されたチャネルプロファイルであって,前記基地局装置から前記移動局装置に対して送信する信号に対して適応変調符号化や周波数選択スケジューリング等の処理を行なうために用いられる,
移動局装置。」

(2)本件特許発明と先願発明との対比
本件特許発明と先願発明を対比する。
ア 先願発明の「移動局装置」は,本件特許発明の「移動端末」に相当する。


(ア)先願発明の「MCS」は「変調符号化方式」である。また,MCSは,通常インデックス値として表現されるものであることが無線通信の分野における技術常識であることを考慮すれば,先願発明の「MCS」は,本件特許発明の「変調・符号化方式インデックス」に相当する。

(イ)先願発明の「基地局装置」は,本件特許発明の「基地局」に相当する。

(ウ)先願発明の「下りリンク制御チャネル」は,「PUSCHを使用してデータを送信するためのリソース割当てを指示する」ものである。ここで,「PUSCH」とは「移動局装置」から「基地局装置」に送信される上りリンク共有チャネルを表していることが,無線通信の分野における技術常識である。してみれば,先願発明の「PUSCHを使用してデータを送信するためのリソース割当て」は,本件特許発明の「移動端末から基地局装置への送信に使用される」情報に含まれる。
そして,先願発明の「下りリンク制御チャネル」には,「リソース割当て情報(10ビット)」,「トランスポートブロックサイズ(6ビット)」といったリソース割当てに関する情報を含むものであるから,本件特許発明の「リソースブロックに関する情報」と,先願発明の「リソース割当て情報(10ビット)」及び「トランスポートブロックサイズ(6ビット)」は,リソース割当てに関する情報である点で共通する。
以上のことから,本件特許発明の「移動端末から基地局への送信に使用されるリソースブロックに関する情報」と先願発明の「PUSCHを使用してデータを送信するためのリソース割当てを指示する」「下りリンク制御チャネル」に含まれる「リソース割当て情報(10ビット)」,「トランスポートブロックサイズ(6ビット)」は,「移動端末から基地局への送信に使用されるリソース割当てに関する情報」である点で共通する。

(エ)先願発明の「受信品質情報」は,「測定したチャネルの受信品質を量子化することによって作成されたチャネルプロファイルであって,基地局装置から移動局装置に対して送信する信号に対して適応変調符号化や周波数選択スケジューリング等の処理を行なうために用いられる」ものであるから,「チャネルの受信品質」を表す指標,すなわちインジケータといえるものであることが明らかである。そして,先願発明の「受信品質情報」は,基地局装置に送信,すなわち報告されるものであるから,本件特許発明の「チャネル品質インジケータ報告」に相当する。

(オ)先願発明の「受信品質情報送信許可情報」は,「受信品質情報を送信することを許可する」ものであるから,当該「受信品質情報送信許可情報」を含む「下りリンク制御チャネルを受信した場合」,移動局装置が「受信品質情報」を「基地局装置に送信する」ものである。してみれば,先願発明の「受信品質情報送信許可情報」は,「受信品質情報」を「基地局装置に送信する」トリガーとなっていることは明らかである。そして,上記「(エ)」で説示したとおり,先願発明の「受信品質情報」が本件特許発明の「チャネル品質インジケータ報告」に相当することを考慮すれば,先願発明の「受信品質情報を送信することを許可する受信品質情報送信許可情報」は,本件特許発明の「チャネル品質インジケータ報告の基地局への送信をトリガーするチャネル品質インジケータトリガー」に相当する。

(カ)先願発明の「下りリンク制御チャネル」は,チャネル自体を表すものではなく,そこで送られる信号を表していることは明らかであるから,本件特許発明の「制御チャネル信号」に相当する。してみれば,先願発明の「下りリンク制御チャネルを基地局装置から受信する受信部」は,本件特許発明の「制御チャネル信号を、前記基地局から受信する受信部」に相当する。

したがって,上記「(ア)」ないし「(カ)」によれば,本件特許発明の「変調・符号化方式インデックスと、移動端末から基地局への送信に使用されるリソースブロックに関する情報と、非周期的なチャネル品質インジケータ報告の前記基地局への送信をトリガーするチャネル品質インジケータトリガーとを含む制御チャネル信号を、前記基地局から受信する受信部」と,先願発明の「PUSCHを使用してデータを送信するためのリソース割当てを指示する,リソース割当て情報(10ビット),MCS(Modulation and Coding Scheme、変調符号化方式)(2ビット),トランスポートブロックサイズ(6ビット),及び受信品質情報を送信することを許可する受信品質情報送信許可情報を含む下りリンク制御チャネルを基地局装置から受信する受信部」であって,「前記受信品質情報は,測定したチャネルの受信品質を量子化することによって作成されたチャネルプロファイルであって,前記基地局装置から前記移動局装置に対して送信する信号に対して適応変調符号化や周波数選択スケジューリング等の処理を行なうために用いられる」ものであることは,「変調・符号化方式インデックスと、移動端末から基地局への送信に使用されるリソース割当てに関する情報と、チャネル品質インジケータ報告の前記基地局への送信をトリガーするチャネル品質インジケータトリガーとを含む制御チャネル信号を、前記基地局から受信する受信部」である点で共通する。


(ア)上記「イ」の「(オ)」で説示したとおり,先願発明の「受信品質情報を送信することを許可する受信品質情報送信許可情報」は,本件特許発明の「チャネル品質インジケータ報告の基地局への送信をトリガーするチャネル品質インジケータトリガー」に相当するものであるから,先願発明の「“1”に設定された前記受信品質情報送信許可情報が含まれ」る場合が,本件特許発明の「前記チャネル品質インジケータトリガーが設定され」る場合に相当する。

(イ)上記「イ」の「(ア)」で説示したとおり,先願発明の「MCS」が本件特許発明の「変調・符号化インデックス」に相当するものである。そして,先願発明の「MCSの値が全て0」に設定されていることは,本件特許発明の「変調・符号化方式インデックスの所定の値を示」すことに含まれる。してみれば,先願発明において,「下りリンク制御チャネル」が「上りリンクデータに対する前記MCSの値が全て0に設定」されていることは,本件特許発明の「制御チャネル信号が,変調・符号化方式インデックスの所定の値を示し」ている場合に相当する。

(ウ)先願発明は「受信品質情報のみを基地局装置に送信する」ものであるから,「受信品質情報」は,「受信品質情報」以外の他のデータと多重化せずに送信されるものであることは明らかである。ここで,多重化されない上記他のデータには,無線通信の分野において周知である,上り共有チャネル(UL−SCH)を介して送信されるデータも含まれることは明らかであるから,先願発明において「受信品質情報のみを前記基地局装置に送信する」ことは,受信品質情報と上り共有チャネル(UL−SCH)を介して送信されるデータとを多重化せずに,受信品質情報を基地局装置に送信することといえる。
してみれば,本件特許発明の「チャネル品質インジケータ報告と上り共有チャネル(UL−SCH)を介して送信されるデータとを多重化せずに非周期的なチャネル品質インジケータ報告を前記基地局へ送信する送信部」と,先願発明の「受信品質情報のみを基地局装置に送信する送信部」は,「チャネル品質インジケータ報告と上り共有チャネル(UL−SCH)を介して送信されるデータとを多重化せずにチャネル品質インジケータ報告を前記基地局へ送信する送信部」である点で共通する。

したがって,上記「(ア)」ないし「(ウ)」によれば,本件特許発明の「前記チャネル品質インジケータトリガーが設定され、前記制御チャネル信号が、前記変調・符号化方式インデックスの所定の値を示し、かつ、所定のリソースブロック数と等しいかまたは小さい数のリソースブロック数を示す場合に、前記非周期的なチャネル品質インジケータ報告と上り共有チャネル(UL−SCH)を介して送信されるデータとを多重化せずに前記非周期的なチャネル品質インジケータ報告を前記基地局へ送信する送信部」と,先願発明の「“1”に設定された前記受信品質情報送信許可情報が含まれ,上りリンクデータに対する前記MCSの値が全て0に設定,もしくは上リンクデータに対するトランスポートブロックサイズが0に設定された前記下りリンク制御チャネルを受信した場合,前記下りリンク制御チャネルで割り当てられたリソースを使用して受信品質情報のみを前記基地局装置に送信する送信部」とは,「前記チャネル品質インジケータ報告と上り共有チャネル(UL−SCH)を介して送信されるデータとを多重化せずに前記チャネル品質インジケータ報告を前記基地局へ送信する送信部」である点で共通する。

エ 先願発明の「移動局装置」が「送信部」と「受信部」を備えることは,本件特許発明の「移動端末」が「送信部」と「受信部」を含むことに含まれる。

したがって,上記「ア」ないし「エ」を総合すれば,本件特許発明と先願発明は,以下の点で一致し,また相違する。

<一致点>
「 移動端末であって、
変調・符号化方式インデックスと、前記移動端末から基地局への送信に使用されるリソース割当てに関する情報と、チャネル品質インジケータ報告の前記基地局への送信をトリガーするチャネル品質インジケータトリガーとを含む制御チャネル信号を、前記基地局から受信する受信部と、
前記チャネル品質インジケータ報告と上り共有チャネル(UL−SCH)を介して送信されるデータとを多重化せずに前記チャネル品質インジケータ報告を前記基地局へ送信する送信部と、
を含む移動端末。」

<相違点1>
本件特許発明の「チャネル品質インジケータ報告」が「非周期的な」ものであるのに対し,先願発明の「受信品質情報」は非周期的なものであることが特定されていない点。

<相違点2>
本件特許発明は,制御チャネル信号に含まれるリソース割当てに関する情報が「リソースブロックに関する情報」であって,チャネル品質インジケータ報告と上り共有チャネル(UL−SCH)を介して送信されるデータとを多重化せずに前記チャネル品質インジケータ報告を基地局へ送信することが,「チャネル品質インジケータトリガーが設定され、制御チャネル信号が、変調・符号化方式インデックスの所定の値を示し、かつ、所定のリソースブロック数と等しいかまたは小さい数のリソースブロック数を示す場合」に行われるのに対して,先願発明は,下りリンク制御チャネルに含まれるリソース割当てに関する情報が「リソース割当て情報(10ビット)」や「トランスポートブロックサイズ(6ビット)」であって,チャネル品質インジケータ報告と上り共有チャネル(UL−SCH)を介して送信されるデータとを多重化せずに前記チャネル品質インジケータ報告を基地局へ送信することが,「“1”に設定された受信品質情報送信許可情報が含まれ,上りリンクデータに対する前記MCSの値が全て0に設定,もしくは上リンクデータに対するトランスポートブロックサイズが0に設定された前記下りリンク制御チャネルを受信した場合」に行われるものであって,本件特許発明の当該発明特定事項が特定されていない点。

(3)相違点について
ア 当審の判断
(ア)相違点1について
先願発明の「受信品質情報」は,「受信品質情報を送信することを許可する受信品質情報送信許可情報を含む下りリンク制御チャネルを基地局装置から受信」した場合に,「基地局装置に送信する」ものであるから,許可を得た場合に送信される,すなわち非周期的に送信されるものといえる。してみれば,先願発明の「受信品質情報」が非周期的なものであることは明示的には特定されていないものの,実質的に非周期的なものであるといえるから,当該相違点1は実質的な相違点ではない。

(イ)相違点2について
先願発明の「リソース」が,どのようなリソースであるのか特定されていないが,本件特許発明のような「リソースブロック」は,無線通信の分野における周知なリソースである。してみれば,先願発明の「リソース」として周知の「リソースブロック」を用い,先願発明の「リソース割当て情報(10ビット)」として「リソースブロックに関する情報」とすることは,周知技術の付加であって,新たな効果を奏するものではないから,課題解決のための具体化手段における微差である。

一方,先願発明は「“1”に設定された前記受信品質情報送信許可情報が含まれ,上りリンクデータに対する前記MCSの値が全て0に設定,もしくは上リンクデータに対するトランスポートブロックサイズが0に設定された前記下りリンク制御チャネルを受信した場合」に受信品質情報(上記「(2)」の「イ」の「(エ)」で説示したように,本件特許発明の「チャネル品質インジケータ報告」に相当。)のみを前記基地局装置に送信するものである。つまり,先願発明は,「受信品質情報のみを前記基地局装置に送信する」ことが,「下りリンク制御チャネル」に「“1”に設定された前記受信品質情報送信許可情報が含まれ,上りリンクデータに対する前記MCSの値が全て0に設定」された場合に行われるものであって,その際に,「下りリンク制御チャネル」に含まれる,「リソース割当て情報(10ビット)」や「トランスポートブロックサイズ(6ビット)」といった他の情報が所定の数と等しいかまたは小さい数を示すか否かを考慮しないことは明らかである。また,「“1”に設定された前記受信品質情報送信許可情報が含まれ,上りリンクデータに対する前記MCSの値が全て0に設定」された場合に、他情報が所定の数と等しいかまたは小さい数を示すか否かを考慮する必然性はなく、このことが,無線通信の分野における周知技術であるとも,慣用技術であるともいえない。
よって,先願発明において,「受信品質情報のみを前記基地局装置に送信する」ことが,「下りリンク制御チャネル」に「“1”に設定された前記受信品質情報送信許可情報が含まれ,上りリンクデータに対する前記MCSの値が全て0に設定」され,かつ,「下りリンク制御チャネル」に含まれる「リソース割当て情報(10ビット)」が,所定のリソースブロック数と等しいかまたは小さい数のリソースブロック数を示す場合に行われてはおらず,またこのことが,課題解決のための具体化手段における微差とはいえないから,当該相違点2において,本件特許発明と先願発明は同一であるとはいえない。

(ウ)まとめ
上記(ア)及び(イ)で説示したとおり,本件特許発明と先願発明とは相違点があり,当該相違点が課題解決のための具体化手段における微差ともいえないから,本件特許発明は,先願発明と同一であるとはいえない。

イ 請求人の主張について
上記(2)で挙げた上記相違点2に関し,以下のとおり主張する。

「本件発明の構成要件Cの「所定のリソースブロック数と等しいかまたは小さい数のリソースブロック数を示す場合」について、無線通信の分野においてリソースブロックの数に上限があることは例示するまでもない本件特許の優先日前の技術常識である。したがって、L1/L2グラントがリソースブロックの上限数と等しいかまたは小さい数のリソースブロック数を示す場合に上記受信品質情報が送信されることは、甲1に記載されているに等しい事項である。」(審判請求書の「7.」の「(5)」の「(5−1)」の「(5−1−1)」,令和2年8月12日付け手続補正書(方式)に添付された「審判請求書の『7.請求の理由』」の第18頁第2行目ないし同第7行目)

「L1/L2グラントがリソースブロックの上限数と等しいかまたは小さい数のリソースブロック数を示す場合に上記受信品質情報が送信されることは甲第1号証に記載されているに等しい事項と認定したものである。また、審判請求書の「(5−1−2)本件発明と先行技術発明との対比及び検討」において相違点はない旨、結論付けている。」(口頭審理陳述要領書の「5−2.」の「5−2−2.」の「5−2−2−1.」,第5頁第16行目ないし同第20行目)

「甲第1号証では上述の通り、有限のリソースブロック数の中からリソースブロック数が選択されるのであり、その上で、受信品質情報送信許可情報が“1”に設定され、L1/L2グラントに含まれるMCSの値が全て0を示す場合に、非周期的な受信品質情報と上りリンクデータとを多重化せずに非周期的な受信品質情報が基地局装置Aへ送信されることが実質的に開示されている。」(口頭審理陳述要領書の「5−2.」の「5−2−2.」の「5−2−2−1.」,第7頁下から第4行目ないし第8頁第2行目)

また,上記主張における「リソースブロックの上限数」について,以下のとおり主張する。

「リソースブロック数に上限があることは、甲第1号証においてリソース割当て情報が10ビットで表され、10ビットの範囲で表される情報が有限であることから、技術常識を参照するまでもなく甲第1号証の記載のみからも明らかである。これに対して、被請求人は、リソースブロックは時間方向に無限に存在すると主張するが、甲第1号証の10ビットの値によって時間方向に無限の範囲をカバーすることは不可能であるから、当該主張は甲第1号証の開示範囲とは無関係な主張でしかなく失当である。」(口頭審理陳述要領書の「5−2.」の「5−2−2.」の「5−2−2−1.」,第5頁下から第2行目ないし第6頁第5行目)

「被請求人は、CQI報告はリソースブロックの上限数とは無関係に送信されるというが、本件特許明細書の段落0040には、「非周期的なCQI報告のサイズおよびメッセージフォーマットは、RRC(無線リソース制御プロトコル)によって指定される」と記載されており、端末が送信すべき非周期的なCQI報告のサイズは、RRCメッセージで基地局より指定されるものである。このとき、指定されたサイズを有するCQI報告を送信するためには、それを収容可能な数のリソースブロックが基地局により割り当てられていなければならないので、少なくともリソースブロックの上限数はCQI報告を収容可能な大きさ以上でなければならず、両者は全く無関係とは言えない。」(口頭審理陳述要領書の「5−2.」の「5−2−2.」の「5−2−2−1.」,第6頁第13行目ないし同第21行目)

さらに,上記主張における「リソースブロックの上限数」が,本件特許発明の「所定のリソースブロック数」に含まれるか否かについて,以下のとおり主張する。

「被請求人は常に真になる値を限定として含むことは無意味であるというが、そのような請求項の記載としたのは特許権者である被請求人の方であって、請求人は請求項の記載に従って特許発明が包含しうる技術的範囲において無効理由を述べているに過ぎない(例えば、「所定のリソースブロック数」がL1/L2グラントにより示すことのできるリソースブロックの上限数に等しい場合も特許発明の技術的範囲に包含されている。)。
そもそも「所定のリソースブロック数」に「上限数」が含まれないという被請求人の主張は本件特許の請求項8(以下、単に「請求項8」ともいう。)の記載に基づいておらず、以下に具体的に述べるように、特許請求の範囲の記載に基づかない主張をしているのは被請求人の方である。
請求項8の「所定のリソースブロック数と等しいかまたは小さい数のリソースブロック数を示す場合」の記載において、「所定のリソースブロック数」がいくつであるかを特定する要素は存在しない。仮に上限数が除外されるというのであれば、請求項8のどの記載に基づいて除外されるのかを主張されたい。
「所定のリソースブロック数と等しいかまたは小さい数のリソースブロック数を示す場合」の記載は、「リソースブロックに関する情報」が「所定のリソースブロック数」以下であることを示せばよいところ、所定のリソース数がいくつであるかが特定されていない(任意の数を取り得る)のであるから、甲第1号証のリソースブロック情報がなんらかのリソースブロック数を示せば、当該リソースブロック数は必然的に所定のリソースブロック数以下になる。そして、甲第1号証においては、10ビットでリソース割当て情報が表されるのであるから、少なくとも取り得るリソースブロック数は有限であり、その上限数より大きい数にはなりえない。よって、甲第1号証は、この上限数よりも少ない数のリソースブロック数の使用を実質的に開示するものである。」(口頭審理陳述要領書の「5.」の「5−2.」の「5−2−2−1.」,第6頁第31行目ないし第7頁第23行目)

「請求項8には「所定のリソースブロック数」としか書かれておらず、上限数を含む何らかのリソースブロック数を積極的に除外する根拠となる記載が存在しないのであるから、「所定のリソースブロック数」をいずれかの数のうち「リソースブロックの上限数」と置き換えることに何ら支障はないはずである。被請求人は当該置き換えができない主張するのであれば、その根拠を請求項の文言を明示して説明すべきである。
被請求人の上記主張は、「所定のリソースブロック数」が、リソースブロック数の上限数を含まないと限定的に解釈できる合理的理由を、請求項8の記載に基づいて示せていないのであるから失当である。

また、被請求人は、答弁書の6頁の「(3−3)本件特許が無効でない理由」において、「所定のリソースブロック数」の技術的意義を説明しているが、当該説明は、請求項の文言に裏付けを得ていないものであり到底受け入れられるものではない。
そもそも請求項はおろか明細書においても「所定のリソースブロック数」がリソースブロック数の上限数、或いは、その他の数を含まないとの定義はない。「所定」とは「任意」の意味でもあるから、定義されていない以上は任意の値を取り得るものとしか解釈できない。なお、明細書においてリソースブロック数の例示として、段落0096には以下の記載がある。
「表8から明らかであるように、CQIトリガー信号がシグナリン
グされ、RVが1に設定されており(MCSインデックス値29に
対応する)、割り当てられるリソースブロック数が10に等しいか
それより小さい場合にのみ、CQIのみの送信が端末によってトリ
ガーされる。割り当てられるリソースブロック数が10より大きい
場合、たとえCQIトリガー信号がシグナリングされても、端末は
CQIのみを送信するのではなく、例えば、値1を有する冗長バー
ジョンパラメータを使用して、多重化されたデータとともにCQI
報告を送信する。」

ここでは「所定のリソースブロック数」の具体例として「10」が挙げられているが、その直前の段落0094には、以下のように記載されている。

「以下では、表8を参照することによって、説明を目的として一例
を提示する。この例においては、上述したようにRVパラメータを
1として選択する。この例では10個のリソースブロックが選択さ
れているが、これは例示を目的とするのみであり、任意の別の値を
代わりに選択することができる。」

即ち、本件特許明細書において所定のリソースブロック数として「10」の値そのものに特別な意味が有るわけではなく、任意の別の値と置き換え可能なのである。このように「所定のリソースブロック数」が任意の値を取り得ることは明細書の記載からも裏付けられている。」(口頭審理陳述要領書の「5.」の「5−2.」の「5−2−2−1.」,第8頁第10行目ないし第9頁第14行目)

「「リソースブロックの上限数」なるものが被請求人の言うようにCQI報告をデータと多重化して送信するか否かを判定するための閾値としての機能を果たすことができないとしても、それはクレーム文言がそのような機能し得ない範囲を含みうるということであって、それを理由に当該範囲がクレーム範囲から除外されることも無い。
また、本件特許発明においてCQI報告のみを送信するかどうかはリソースブロックの数のみに基づいて判断されるものではなく、チャネル品質インジケータトリガーが設定されているかどうか、及び、制御チャネル信号が、変調・符号化方式インデックスの所定の値を示すかどうかも考慮されるのであるから、CQI報告がデータと多重化して送信される場合が皆無となるわけではない。
このように請求人は請求項8の文言が特定しうる特許発明の範囲に基づいて無効理由を主張しているのに対し、被請求人の反論は請求項8の文言とは切り離されたところで行われており、失当というほかない。」(口頭審理陳述要領書の「5.」の「5−2.」の「5−2−2−1.」,第9頁第27行目ないし第10頁第8行目)

さらに,口頭審理において,請求人は,本件特許発明における「所定のリソースブロック数と等しいかまたは小さい数のリソースブロック数を示す場合」との発明特定事項の解釈について,「所定のリソースブロック数と等しいかまたは小さい数のリソースブロック数を示す場合」は択一的な記載であるから,一方の条件を満たせば,特許法第29条の2の規定により無効とすべきであると主張する。(令和3年3月18日付け第1回口頭審理調書の「陳述の要領」の「請求人」の「4」)

そこで,請求人の上記主張について検討する。
まず,請求人の主張する「リソースブロックの上限数」について,及び請求人の主張する「リソースブロックの上限数」が,本件特許発明の「所定のリソースブロック数」に含まれるか否かについて検討する。
請求人の主張するように,リソースブロックの数に上限があることは,本件特許の優先日前において,無線通信の分野における技術常識といえる。また,先願発明の「リソース割当て情報(10ビット)」は10ビットであるから,当該情報において割り当てられるリソースが有限であり,上限があることは,請求人の主張のとおりである。しかしながら,先願発明は「リソース割当て情報(10ビット)」により割り当てられた「リソース」を用いることは特定されているといえるが,請求人の主張するような「リソースブロック」を用いるものとしては特定されていない。
一方,上記「ア」の「(イ)」に説示したとおり,「リソースブロック」は,無線通信の分野における周知なリソースであるから,先願発明の「リソース」として「リソースブロック」を用いることは,課題解決のための具体化手段における微差といえる。そうした場合,本件特許発明の「所定のリソースブロック数」における「所定」とは「定まっていること。定めてあること。」(株式会社岩波書店 広辞苑第六版)であるから,「所定」の「数」とは,その数が定めてあれば,どのような値であっても含まれる。したがって,請求人の主張する「リソースブロックの上限数」は,本件特許発明の「所定のリソースブロック数」に含まれるといえる。

また,請求人の主張する「所定のリソースブロック数と等しいかまたは小さい数のリソースブロック数を示す場合」は択一的な記載であるから,一方の条件を満たせば,特許法第29条の2の規定により,無効とすべきである点について検討する。
上記「ア」の「(イ)」で説示したとおり,先願発明においては,「受信品質情報のみを前記基地局装置に送信する」ことが,「下りリンク制御チャネル」に「“1”に設定された前記受信品質情報送信許可情報が含まれ,上りリンクデータに対する前記MCSの値が全て0に設定」された場合に行われるものであって,その際に,「下りリンク制御チャネル」に含まれる,「リソース割当て情報(10ビット)」や「トランスポートブロックサイズ(6ビット)」といった他の情報が所定の数と等しいかまたは小さい数を示すか否かを考慮しないものである。そして,「受信品質情報のみを前記基地局装置に送信する」にあたり,「下りリンク制御チャネル」に「“1”に設定された前記受信品質情報送信許可情報が含まれ,上りリンクデータに対する前記MCSの値が全て0に設定」された場合に加え,上記下りリンク制御チャネルに含まれる「リソース割当て情報(10ビット)」や「トランスポートブロックサイズ(6ビット)」といった他の情報が所定の数と等しいかまたは小さい数を示すか否かを考慮する必然性はなく,このことが無線通信の分野における周知技術とも,慣用技術ともいえない。
したがって,先願発明においては,「受信品質情報のみを前記基地局装置に送信する」ことが,「下りリンク制御チャネル」に「“1”に設定された前記受信品質情報送信許可情報が含まれ,上りリンクデータに対する前記MCSの値が全て0に設定」された場合であって,かつ,「下りリンク制御チャネル」が「所定のリソースブロック数と等しいかまたは小さい数のリソースブロック数を示す場合」に行われるものではない。
よって、本件特許の請求項8に係る発明の発明特定事項である「前記チャネル品質インジケータトリガーが設定され、前記制御チャネル信号が、前記変調・符号化方式インデックスの所定の値を示し、かつ、所定のリソースブロック数と等しいかまたは小さい数のリソースブロック数を示す場合」は甲1に記載されているに等しい事項とはいえない。
そうすると,先願発明には,請求人の主張する「下りリンク制御チャネル」が「所定のリソースブロック数と等しいかまたは小さい数のリソースブロック数を示す場合」が択一的な記載であるか否かにかかわらず,本件特許発明と先願発明が同一であるとはいえない。

(4)無効理由1についてのまとめ
以上のとおりであるから,本件特許の請求項8に係る発明は,甲第1号証及び甲第1−1号証に含まれる特許出願である特願2007−231154号に記載された発明と同一であるとはいえないから,特許法第29条の2の規定により,無効とすることはできない。

2 無効理由2について
(1)甲第2号証の記載事項,及び甲第2号証に記載された発明
ア 甲第2号証の記載事項
請求人が提出した甲第2号証である3GPP TSG−RAN WG1 #52bis, R1−081682, Shenzhen, China, March 31 − April 4, 2008, Ericsson, Texas Instruments, NTT DoCoMo, Sharp, NEC, Mitsubishi, Refinements on Signalling of CQI/Precoding Information on PDCCH(当審仮訳:PDCCH上でのCQI/プリコーディング情報のシグナリングの改善)は,甲第8号証であるwww.3gpp.org/ftp/tsg_ran/WG1_RL1/TSGR1_52b/dDocs(https://www.3gpp.org/ftp/tsg_ran/WG1_RL1/TSGR1_52b/dDocs)(2020年6月11日,請求人代理人作成)に示されるように,2008年4月9日に3GPPの公開ファイルサーバにアップロードされ,上記URLで示されるリンクから,電気通信回線を通じて公衆に利用可能となっていたものといえる。
そして,甲第2号証には,以下の記載がある。(下線は当審で付与した。)

「This contribution proposes refinements of the signaling of CQI and precoder related information on PDCCH in order to reduce signaling overhead and provide efficient support of rank override.

2. Proposed Refinements
Reserve one entry in TBS table, denoted “0” [7][8]. Used for assisting in encoding of precoder information as well as for aperiodic CQI reporting functionality as listed below.

・2.1. PDCCH Format 0
An aperiodic CQI report is requested by setting the CQI bit to 1. If in addition TBS=0, the request corresponds to a CQI-only report.」(第1頁第23行目ないし同30行目)
(当審仮訳:
この寄書は、シグナリングオーバーヘッドを低減し、ランクオーバーライドの効率的なサポートを提供するための、PDCCH上でのCQIおよびプリコーダ関連情報シグナリングの改善を提案する。

2.提案される改善
TBSテーブルにおいて、「0」と表されるひとつのエントリを確保する[7][8]。以下にリストされるように、プリコーダ情報の符号化を助けるために用いられると共に、非周期的CQI報告機能のために用いられる。

・2.1.PDCCHフォーマット0
CQIビットを1にセットすることで非周期的CQI報告が要求される。加えて、TBS=0であれば、その要求はCQI−only報告に対応する。)

イ 甲第2号証に記載された発明
上記「ア」の「2.1.PDCCHフォーマット0」の「CQIビットを1にセットすることで非周期的CQI報告が要求される。加えて、TBS=0であれば、その要求はCQI−only報告に対応する。」との記載によれば,甲第2号証には,次の発明(以下,「甲第2号証発明」という。)が記載されていると認められる。

「PDCCHフォーマット0において,非周期的CQI報告を要求するCQIビットが1にセットされ,TBS=0であれば,CQI−only報告が要求されること。」

(2)甲第3号証及び甲第4号証の記載事項,並びに甲第3号証及び甲第4号証に記載された技術的事項
ア 甲第3号証の記載事項
請求人が提出した甲第3号証である3GPP TSG RAN WG1 52bis, R1−081383, Shenzhen, China, March 31 − April 4, 2008, Texas Instruments, CQI Reporting on PUSCH(当審仮訳:PUSCH上でのCQI報告)は,甲第8号証であるwww.3gpp.org/ftp/tsg_ran/WG1_RL1/TSGR1_52b/dDocs(https://www.3gpp.org/ftp/tsg_ran/WG1_RL1/TSGR1_52b/dDocs)(2020年6月11日,請求人代理人作成)に示されるように,2008年3月27日には,3GPPの公開ファイルサーバにアップロードされ,上記URLで示されるリンクから,電気通信回線を通じて公衆に利用可能となっていたものといえる。
そして,甲第3号証には,以下の記載がある。(下線は当審で付与した。)

「3. Aperiodic Reporting Mechanism on PUSCH
It was decided that an aperiodic CQI reporting is triggered via a 1-bit trigger field in the UL grant (Format 0 DCI) as a part of the grant for data transmission on PUSCH. However, it was decided in RAN1#51bis that an aperiodic CQI report can be triggered by the eNB without any UL data grant [4]. That is, the aperiodic CQI report can be transmitted on PUSCH without any companion data transmission. This raises several issues:
■DCI format for CQI-only triggering:
○One solution is to use the existing Format 0 for CQI
triggering. However, there are several fields in Format 0
that are not needed for CQI-only “grant” such as the
HARQ-related fields. Hence, a shorter DCI format can be
justified as long as it does not increase the number of UE
blind decodes. This is acceptable if a special shorter
format is defined for D-BCH grant/RACH response/paging and
the grant for CQI-only trigger fits in this shorter
format.
○If no additional format is defined for D-BCH grant/RACH
response/paging, Format 0 shall be used.」(第2頁第1行目ないし同14行目)
(当審仮訳:
3.PUSCH上での非周期的報告メカニズム
PUSCH上でのデータ伝送用のグラントの一部として、ULグラント(フォーマット0DCI)内の1ビットのトリガーフィールドを介して、非周期的CQI報告がトリガーされることが決定された。しかしながら、非周期的CQI報告がeNBによってULデータグラントなしでトリガー可能であることが、RAN1#51ビスにおいて決定された[4]。すなわち、非周期的CQI報告は,PUSCH上で,データ伝送を何ら伴うこと無しに、伝送されうる。これはいくつかの問題を生じさせる:
■CQI−onlyトリガー用のDCIフォーマット:
○ひとつの解は,CQIトリガー用の既存のフォーマット0を用いるこ
とである。しかしながら、フォーマット0には,HARQ関連フィー
ルドなどのようにCQI−only「グラント」には必要の無いフィ
ールドがいくつかある。したがって、UEブラインド復号の数を増や
さない限りにおいて、より短いDCIフォーマットが正当化されう
る。これはD−BCHグラント/RACH応答/ページングについて
特別なより短いフォーマットが定義され、CQI−onlyトリガー
用のグラントがこのより短いフォーマットにフィットする場合に、
許容可能である。
○D−BCHグラント/RACH応答/ページングについて追加的なフ
ォーマットが定義されない場合、フォーマット0が用いられなければ
ならない。)

イ 甲第4号証の記載事項
請求人が提出した甲第4号証である3GPP TSG RAN WG1 52bis, R1−081370, Shenzhen, China, March 31 − April 4, 2008, Texas Instruments, Coding of Control Information on PUSCH(当審仮訳:PUSCH上での制御情報の符号化)は,甲第8号証であるwww.3gpp.org/ftp/tsg_ran/WG1_RL1/TSGR1_52b/dDocs(https://www.3gpp.org/ftp/tsg_ran/WG1_RL1/TSGR1_52b/dDocs)(2020年6月11日,請求人代理人作成)に示されるように,2008年3月27日には,3GPPの公開ファイルサーバにアップロードされ,上記URLで示されるリンクから,電気通信回線を通じて公衆に利用可能となっていたものといえる。
そして,甲第4号証には,以下の記載がある。(下線は当審で付与した。)

(ア)「4. MCS for Control Information
It was decided that an aperiodic CQI reporting is triggered via a 1-bit trigger field in the UL grant (Format 0 DCI) as a part of the grant for data transmission on PUSCH. However, it was decided in RAN1#51bis that an aperiodic CQI report can be triggered by the eNB without any UL data grant [4]. That is, the aperiodic CQI report can be transmitted on PUSCH without any companion data transmission. This raises several issues:
■DCI format for CQI-only triggering:
○One solution is to use the existing Format 0 for CQI
triggering. However, there are several fields in Format 0
that are not needed for CQI-only “grant” such as the
HARQ-related fields. Hence, a shorter DCI format can be
justified as long as it does not increase the number of UE
blind decodes. This is acceptable if a special shorter
format is defined for D-BCH grant/RACH response/paging and
the grant for CQI-only trigger fits in this shorter
format.
○If no additional format is defined for D-BCH grant/RACH
response/paging, Format 0 shall be used.」(第2頁下から第6行目ないし第3頁第8行目)
(当審仮訳:
4.制御情報用のMCS
PUSCH上でのデータ伝送用のグラントの一部として、ULグラント(フォーマット0DCI)内の1ビットのトリガーフィールドを介して、非周期的CQI報告がトリガーされることが決定された。しかしながら、非周期的CQI報告がeNBによってULデータグラントなしでトリガー可能であることが、RAN1#51ビスにおいて決定された[4]。すなわち、非周期的CQI報告は,PUSCH上で,データ伝送を何ら伴うこと無しに、伝送されうる。これはいくつかの問題を生じさせる:
■CQI−onlyトリガー用のDCIフォーマット:
○ひとつの解は,CQIトリガー用の既存のフォーマット0を用いるこ
とである。しかしながら、フォーマット0には,HARQ関連フィー
ルドなどのようにCQI−only「グラント」には必要の無いフィ
ールドがいくつかある。したがって、UEブラインド復号の数を増や
さない限りにおいて、より短いDCIフォーマットが正当化されう
る。これはD−BCHグラント/RACH応答/ページングについて
特別なより短いフォーマットが定義され、CQI−onlyトリガー
用のグラントがこのより短いフォーマットにフィットする場合に、
許容可能である。
○D−BCHグラント/RACH応答/ページングについて追加的なフ
ォーマットが定義されない場合、フォーマット0が用いられなければ
ならない。)

(イ)「Assuming the use of QPSK rate 1/3, the resulting overhead of each reporting mode is given in Table 2 in terms of the required number of QPSK-modulated symbols. The use of 16-bit CRC is included in the calculation.

Table 2. CQI (+PMI when applicable) overhead for PUSCH-based reporting assuming QPSK rate 1/3 (no. symbols)


Notice that for most reporting modes, the CQI+PMI report can be contained within 1 to 2 RBs (=72 modulation symbols) for 20MHz bandwidth.」(第3頁下から第4行目ないし第4頁第2行目)
(当審仮訳:
QPSKレート1/3の使用を仮定すると、結果として得られる各報告モードのオーバヘッドは、テーブル2に、要求されるQPSK変調シンボルの数で与えられる。計算には16ビットCRCの使用が含まれる。
・・・(中略)・・・
ほとんどの報告モードについて、CQI+PMI報告は、20MHz帯域幅について、1から2RB(=72変調シンボル)内に含まれうることに注意する。)

ウ 甲第3号証及び甲第4号証に記載された技術的事項
上記「イ」及び「(ア)」の「非周期的CQI報告がeNBによってULデータグラントなしでトリガー可能であることが、RAN1#51ビスにおいて決定された[4]。すなわち,非周期的CQI報告は,PUSCH上で、データ伝送を何ら伴うこと無しに、伝送されうる。これはいくつかの問題を生じさせる:
■CQI−onlyトリガー用のDCIフォーマット:
○ひとつの解は、CQIトリガー用の既存のフォーマット0を用いるこ
とである。」との記載によれば,甲第3号証及び甲第4号証のいずれにも,次の技術的事項(以下,「技術的事項1」という。)が記載されていると認められる。

「PUSCH上で,データ伝送を何ら伴うこと無しに,伝送される非周期的CQI報告のためのCQI−only用トリガーとして既存のDCIフォーマット0を用いる。」

また,上記「イ」の「(イ)」の「CQI+PMI報告は、20MHz帯域幅について、1から2RB(=72変調シンボル)内に含まれうる」との記載によれば,甲第4号証には,次の技術的事項(以下,「技術的事項2」という。)が記載されていると認められる。

「CQI+PMI報告は、1から2RB(=72変調シンボル)内に含まれうる。」

(3)甲第5号証の記載事項,及び甲第5号証に記載された技術的事項
ア 甲第5号証の記載事項
請求人が提出した甲第5号証である3GPP TS 36.212 V8.2.0は,甲第9号証である3GPP Portal Specification#:36.212,versionsのタブ(https://portal.3gpp.org/desktopmodules/Specifications/SpecificationDetails.aspx?specificationId=2426)(2020年6月12日,請求人代理人作成)に示されるように,2008年3月20日には,3GPPの公開ファイルサーバにアップロードされ,上記URLで示されるリンクから,電気通信回線を通じて公衆に利用可能となっていたものといえる。
そして,甲第5号証には,以下の記載がある。(下線は当審で付与した。)

「5.3.3 Downlink control information
・・・(中略)・・・
5.3.3.1 DCI formats
5.3.3.1.1 Format 0
DCI format 0 is used for the transmission of UL-SCH assignments.
The following information is transmitted by means of the DCI format 0:
- Flag for format0/format1A differentiation − 1 bit
- Hopping flag − 1 bit
- Resource block assignment and hopping resource allocation −

bits
- For PUSCH hopping:
- NUL_hop bits are used to obtain the value of

as
indicated in subclause [8.4] of [3]
-

bits provide the resource
allocation of the first slot in the UL subframe
- For non-hopping PUSCH:
-

bits provide the resource allocation of the first slot in the UL subframe
- Modulation and coding scheme and redundancy version − 5 bits
- New data indicator − 1 bit
- TPC command for scheduled PUSCH − 2 bits
- [Cyclic shift for DM RS − 3 bits]

- UL index (this field just applies to TDD operation)
- CQI request − 1 bit」(第32頁第16行ないし第34頁第1行)
(当審仮訳:
5.3.3 ダウンリンク制御情報」
・・・(中略)・・・
5.3.3.1 DCIフォーマット
5.3.3.1.1 フォーマット0
DCIフォーマット0は、UL−SCH割り当ての伝送のために用いられる。
DCIフォーマット0によって以下の情報が送信される:
−フォーマット0/フォーマット1Aの別のためのフラグ−1ビット
−ホッピングフラグ−1ビット
−リソースブロック割り当ておよびホッピングリソース割り当て−

ビット
−PUSCHホッピングについて:
−NUL_hopビットを用いることで、[3]のサブクローズ[8.4
]に示されるように、

の値を得る。


ビットはULサブフレームの最初の
スロットのリソース割り当てを提供する。
−ホッピングしないPUSCHについて:


ビットはULサブフレームの最初のスロッ
トのリソース割り当てを提供する。
−変調および符号化スキームおよび冗長バージョン−5ビット
−新たなデータインジケータ−1ビット
−スケジュールされたPUSCH用のTPCコマンド−2ビット
−[DM RS用のサイクリックシフト−3ビット]

−ULインデクス(このフィールドはTDDオペレーションにのみ適用さ
れる)
−CQI要求−1ビット)

イ 甲第5号証に記載された技術的事項
上記「ア」の「DCIフォーマット0によって以下の情報が送信される:
・・・(中略)・・・
−リソースブロック割り当ておよびホッピングリソース割り当て−

ビット
・・・(中略)・・・
−変調および符号化スキームおよび冗長バージョン−5ビット
・・・(中略)・・・
−CQI要求−1ビット」との記載によれば,甲第5号証には,次の技術的事項(以下,「技術的事項3」という。)が記載されていると認められる。

「DCIフォーマット0には,リソースブロック割り当てに関する情報,変調および符号化スキームおよび冗長バージョンに関する情報,CQI要求に関する情報が含まれる。」

(4)甲第6号証の記載事項,及び甲第6号証に記載された技術的事項
ア 甲第6号証の記載事項
請求人が提出した甲第6号証であるR1−080556, Outcome of ad hoc discussions on TB size signaling(当審仮訳:TBサイズシグナリングに関するアドホックな議論の結果), Discussion Moderator (Ericsson)は,www.3gpp.org/ftp/tsg_ran/wg1_rl1/TSGR1_51b/Docs(http://www.3gpp.org/ftp/tsg_ran/wg1_rl1/TSGR1_51b/Docs)(2020年6月12日,請求人代理人作成)に示されるように,2008年1月19日には3GPPの公開ファイルサーバにアップロードされ,上記URLで示されるリンクから,電気通信回線を通じて公衆に利用可能となっていたものといえる。
そして,甲第6号証には,以下の記載がある。(下線は当審で付与した。)

「Signaling of TB size

■RB alloc + MCS ⇒ TB size
- Supported MCSs include those used in CQI reporting
- Handling of retransmissions and error cases?
■Solved if NDI is used
- TB size computed from MCS assuming
■3 OFDM symbol control
■2 antennas
■No sync signals, no PBCH, normal CP
- CQI reporting TB sizes should match the TB sizes possible
to signal
- Rate matching used to handle differences in #control
symbols, #antennas, i.e., single table of TB sizes」(第2スライド第1行目ないし同第12行目)
(当審仮訳:
TBサイズのシグナリング

■RB割り当て+MCS⇒TBサイズ
−サポートされるMCSはCQI報告で使用されるMCSを含む
−再送およびエラーケースの取り扱い?
■NDIが使用される場合には解決
−TBサイズは以下を仮定してMCSから算出される
■3OFDMシンボル制御
■2アンテナ
■同期信号無し、PBCH無し、通常CP
−CQI報告のTBサイズはシグナリング可能なTBサイズにマッチすべきである
−制御シンボル数、アンテナ数の違いを扱うためにレートマッチングが用いられる、すなわち、TBサイズの単一のテーブル)

イ 甲第6号証の記載事項
上記「ア」の「TBサイズのシグナリング

■RB割り当て+MCS⇒TBサイズ」との記載によれば,甲第6号証には,次の技術的事項(以下,「技術的事項4」という。)が記載されていると認められる。

「TBサイズのシグナリングに関し,RB割り当て+MCSからTBサイズが把握される。」

(5)甲第7号証の記載事項,及び甲第7号証に記載された技術的事項
ア 甲第7号証の記載事項
請求人が提出した甲第7号証である3GPP TSG RAN1 #52bis, R1−081638, Shenzhen, China, Mar 31−April 4, 2008, Motorola, TBS and MCS Signaling and Tables(当審仮訳:TBS及びMCSシグナリング及びテーブル)は,甲第8号証であるwww.3gpp.org/ftp/tsg_ran/WG1_RL1/TSGR1_52b/dDocs(https://www.3gpp.org/ftp/tsg_ran/WG1_RL1/TSGR1_52b/dDocs)(2020年6月11日,請求人代理人作成)に示されるように,2008年4月9日には3GPPの公開ファイルサーバにアップロードされ,上記URLで示されるリンクから,電気通信回線を通じて公衆に利用可能となっていたものといえる。
そして,甲第7号証には,以下の記載がある。(下線は当審で付与した。)

「1. Introduction
In Seville, some progress was made on the transport block size signaling R1-080556 [1]. It was agreed that the RB allocation and the MCS can be explicitly signaled and the transport block size is inferred from the MCS and RB allocation.A 5-bit MCS field with three states reserved for implicit modulation order and TBS signaling for retransmissions.」(第1頁第8行目ないし同第12行目)
(当審仮訳:
1.イントロダクション
セビリアにおいて、トランスポートブロックサイズシグナリングについていくらかの進歩がなされたR1−080556[1]。RB割り当ておよびMCSが明示的にシグナリングされ、かつ、トランスポートブロックサイズがMCSおよびRB割り当てから推定されることが合意された。5ビットのMCSフィールドは、再送用の暗黙的な変調次数およびTBSシグナリングのために予約された3つの状態を伴う。)

イ 甲第7号証に記載された技術的事項
上記「ア」の「RB割り当ておよびMCSが明示的にシグナリングされ、かつ、トランスポートブロックサイズがMCSおよびRB割り当てから推定される」との記載によれば,甲第7号証には,次の技術的事項(以下,「技術的事項5」という。)が記載されていると認められる。

「RB割り当ておよびMCSが明示的にシグナリングされ,トランスポートブロックサイズがMCSおよびRB割り当てから推定される。」

(6)本件特許発明と甲第2号証発明との対比
本件特許発明と甲第2号証発明を対比する。
ア 甲第2号証発明は,「PDCCHフォーマット0」で「CQI−only報告が要求される」ものである。ここで,PDCCHフォーマット0は,PDCCH,すなわちPhysical Downlink Control CHannel(物理下りリンク制御チャネル)で送信される信号であって,基地局から移動端末に対して送信される制御チャネル信号を表すことが無線通信の分野における技術常識である。してみれば,甲第2号証発明において「CQI−only報告が要求される」対象は「移動端末」といえる。よって,本件特許発明と甲第2号証発明は,「移動端末」に関する発明である点で共通する。


(ア)甲第2号証発明の「非周期的CQI報告」における「CQI」が,Channel Quality Indicatorの略であり,チャネル品質インジケータを表すことは,無線通信の分野における技術常識である。してみれば,甲第2号証発明の「非周期的CQI報告」は,本件特許発明の「非周期的なチャネル品質インジケータ報告」に相当する。

(イ)甲第2号証発明は,「PDCCHフォーマット0」に含まれる「CQIビットが1にセットされ」ることで「非周期的CQI報告を要求する」ものであるから,「CQIビットが1にセットされ」ることで,「非周期的CQI報告」がトリガーされるものといえる。してみれば,甲第2号証発明の「非周期的CQI報告を要求するCQIビット」は,本件特許発明の「チャネル品質インジケータトリガー」に相当する。
そして,「CQI報告」は,基地局から移動端末に対して要求がなされ,移動端末から要求元の基地局へ報告(送信)することが無線通信の分野における技術常識であること,及び上記「(ア)」で説示したように,甲第2号証発明の「非周期的CQI報告」が本件特許発明の「非周期的なチャネル品質インジケータ報告」に相当することを考慮すれば,甲第2号証発明の「非周期的CQI報告を要求するCQIビット」は,本件特許発明の「非周期的なチャネル品質インジケータ報告の基地局への送信をトリガーするチャネル品質インジケータトリガー」に相当する。

(ウ)上記「ア」で説示したとおり,甲第2号証発明の「PDCCHフォーマット0」は,基地局から移動端末に送信される制御チャネル信号を表すことが無線通信の分野において技術常識であるから,本件特許発明の「制御チャネル信号」に含まれる。
そして,甲第2号証発明の「PDCCHフォーマット0」に「非周期的CQI報告を要求するCQIビットが1にセットされ」るものであるから,「PDCCHフォーマット0」は「非周期的CQI報告を要求するCQIビット」を含むものである。してみれば,甲第2号証の「非周期的CQI報告を要求するCQIビット」を含む「PDCCHフォーマット0」は,本件特許発明の「チャネル品質インジケータトリガーを含む制御チャネル信号」に含まれる。

(エ)上記「ア」で説示したとおり,甲2号証発明において「PDCCHフォーマット0」で「CQI−only報告が要求される」対象は「移動端末」といえ,「PDCCHフォーマット0」は基地局から移動端末に対して送信されることが無線通信の分野における周知技術であることから,甲2号証発明においては,移動端末が「PDCCHフォーマット0」を基地局から受信するといえる。そして,当該「PDCCHフォーマット0」を受信するための受信部を,移動端末が含んでいることは自明である。よって,本件特許発明と甲第2号証発明は,「制御チャネル信号を、基地局から受信する受信部」を含む点で共通する。

上記「(ア)」ないし「(エ)」を総合すれば,本件特許発明と甲第2号証発明は,「移動端末」が「非周期的なチャネル品質インジケータ報告の基地局への送信をトリガーするチャネル品質インジケータトリガーを含む制御チャネル信号を、前記基地局から受信する受信部」を含む点で共通する。


(ア)上記「イ」の「(イ)」に説示したとおり,甲第2号証発明の「非周期的CQI報告を要求するCQIビット」は,本件特許発明の「非周期的なチャネル品質インジケータ報告の基地局への送信をトリガーするチャネル品質インジケータトリガー」に相当するものであり,「CQIビットが1にセットされ」ることで,「非周期的CQI報告」がトリガーされるものといえる。してみれば,甲第2号証発明の「非周期的CQI報告を要求するCQIビットが1にセットされ」ることは,本件特許発明の「前記チャネル品質インジケータトリガーが設定され」ることに相当する。

(イ)甲第2号証発明は「PDCCHフォーマット0において,非周期的CQI報告を要求するCQIビットが1にセットされ」る場合に,「CQI−only報告が要求される」ものである。ここで,「CQI−only報告」は,「非周期的CQI報告を要求するCQIビットが1にセットされ」る場合に「要求される」ものであるから,「非周期的CQI報告」の一種であることは明らかでる。そして,上記「イ」の「(ア)」で説示したように,「CQI」が,Channel Quality Indicatorの略であり,チャネル品質インジケータを表すことが無線通信の分野における技術常識であることを考慮すれば,甲第2号証発明の「CQI−only報告」は,本件特許発明の「非周期的なチャネル品質インジケータ報告」に含まれる。

(ウ)上記「イ」の「(イ)」に説示したとおり,「CQI報告」は,基地局から移動端末に対して要求がなされ,移動端末から要求元の基地局へ報告(送信)することが無線通信の分野における技術常識であることを考慮すれば,甲第2号証の「CQI−only報告」は,移動端末が,基地局へ送信するものといえる。そして,「CQI−only報告」を送信するための送信部を,移動端末が含んでいることは自明である。
そして,上記「(イ)」で説示したとおり,甲第2号証発明の「CQI−only報告」は,本件特許発明の「非周期的なチャネル品質インジケータ報告」に含まれるものであるから,本件特許発明と甲第2号証発明は,「非周期的なチャネル品質インジケータ報告を基地局へ送信する送信部」を含む点で共通する。

上記「(ア)」ないし「(ウ)」を総合すれば,本件特許発明と甲第2号証発明とは,「移動端末」が「チャネル品質インジケータトリガーが設定される場合に、非周期的なチャネル品質インジケータ報告を前記基地局へ送信する送信部」を含む点で共通する。

したがって,上記「ア」ないし「ウ」を総合すれば,本件特許発明と甲第2号証発明は,以下の点で一致し,また相違する。

<一致点>
「 移動端末であって、
非周期的なチャネル品質インジケータ報告の基地局への送信をトリガーするチャネル品質インジケータトリガーを含む制御チャネル信号を、前記基地局から受信する受信部と、
前記チャネル品質インジケータトリガーが設定される場合に、非周期的なチャネル品質インジケータ報告を前記基地局へ送信する送信部と、
を含む移動端末。」

<相違点1>
「制御チャネル信号」が,本件特許発明では「チャネル品質インジケータトリガー」に加え,「変調・符号化方式インデックスと、前記移動端末から基地局への送信に使用されるリソースブロックに関する情報」を含むのに対して,甲第2号証発明では「非周期的CQI報告を要求するCQIビット」以外に,どのような情報が含まれているか,特定されていない点。

<相違点2>
「非周期的なチャネル品質インジケータ報告」が,本件特許発明では「前記チャネル品質インジケータトリガーが設定され」ることに加え,「前記制御チャネル信号が、前記変調・符号化方式インデックスの所定の値を示し、かつ、所定のリソースブロック数と等しいかまたは小さい数のリソースブロック数を示す場合に、前記非周期的なチャネル品質インジケータ報告と上り共有チャネル(UL−SCH)を介して送信されるデータとを多重化せずに」送信されるものであるのに対し,甲第2号証発明では「非周期的CQI報告を要求するCQIビットが1にセットされ」ることに加え,「TBS=0」の場合に,「CQI−only報告」が要求されるものであって,上記発明特定事項が特定されていない点。

(7)相違点について
ア 当審の判断
(ア)相違点1について
上記「(3)」の「イ」で説示したように,甲第5号証には「DCIフォーマット0には,リソースブロック割り当てに関する情報,変調および符号化スキームおよび冗長バージョンに関する情報,CQI要求に関する情報が含まれる。」という技術的事項3が記載されている。ここで,甲第5号証は,3GPPという無線通信の分野における標準化プロジェクトが作成した標準規格文書であるから,当該分野における技術常識といえる。
したがって,当該技術的事項3を考慮すれば,甲第2号証発明の「PDCCHフォーマット0」は「CQIビット」に加え,変調および符号化スキームに関する情報,リソースブロック割り当てに関する情報を含むものといえる。そして,PDCCHフォーマット0が,上りリンクグラントに用いられることは無線通信の分野における技術常識であるから,当該「PDCCHフォーマット0」に含まれる「リソースブロック割り当てに関する情報」は,上りリンク,すなわち移動端末から基地局への送信に使用されるものといえる。
してみれば,甲第2号証発明の「PDCCHフォーマット0」に含まれる「変調および符号化スキームに関する情報」,「リソースブロック割り当てに関する情報」は,それぞれ本件特許発明の「変調・符号化方式インデックス」,「移動端末から基地局への送信に使用されるリソースブロックに関する情報」に相当する。
したがって,当該相違点1は,本件特許発明と甲第2号証発明の間の実質的な相違点ではない。

(イ)相違点2について
甲第2号証発明は,「非周期的CQI報告を要求するCQIビットが1にセットされ」ることに加え,「TBS=0」の場合に,「CQI−only報告」が要求されるものであり,当該要求を受けた場合,「CQI−only報告」を送信することは明らかである。
上記「CQI−only報告」については,上記「(2)」の「ウ」で説示したような「PUSCH上で,データ伝送を何ら伴うこと無しに,伝送される非周期的CQI報告のためのCQI−only用トリガーとして既存のDCIフォーマット0を用いる。」との技術的事項1を考慮すれば,上記「CQI−only報告」が「PUSCH上で,データ伝送を何ら伴うこと無しに,伝送される非周期的CQI報告」を表しているといえる。ここで,「PUSCH」は,Physical Uplink Shared CHannel(物理上りリンク共有チャネル)を表すことが技術常識であるから,本件特許発明の「上り共有チャネル」に含まれ,前記「PUSCH上で」伝送される「データ」は,本件特許発明の「上り共有チャネル(UL−SCH)を介して送信されるデータ」に含まれる。
そして,「CQI−only報告」が「データ伝送を何ら伴うこと無しに,伝送される非周期的CQI報告」である以上,「CQI−only報告」が行われる際,「PUSCH」上で「データ伝送を何ら伴うこと無しに,伝送される非周期的CQI報告」以外の他の「データ伝送」が存在しないから,「非周期的CQI報告」は「PUSCH」上で伝送される他の「データ」と多重化せずに送信されていることは自明である。してみれば,甲第2号証発明の「CQI−only報告」が要求されることで,「CQI−only報告」を送信することは,本件特許発明の「非周期的なチャネル品質インジケータ報告と上り共有チャネル(UL−SCH)を介して送信されるデータとを多重化せずに」送信されることに含まれる。

また,甲第2号証発明において,「TBS=0」であることがどのように伝えられるかが明確には特定されていない。そこで,まず「非周期的CQI報告を要求するCQIビットが1にセットされ」るのと同様に,「PDCCHフォーマット0」に「TBS=0」がセットされるものとした場合について,以下検討する。この場合,「TBS=0」が明示的に示されるところ,当該指示を他の情報から推定する必然性はない。したがって,甲第2号証発明において,「変調・符号化方式インデックス」や「所定のリソースブロック数」といった情報に基づいて「非周期的なチャネル品質インジケータ報告」を送信することは,当業者であっても,容易に想到し得たものとはいえない。
次に,「PDCCHフォーマット0」に「TBS=0」がセットされないものとした場合について,以下検討する。この場合,甲第2号証発明において「CQI−only報告が要求される」ためには,「TBS=0」であることを,他の情報により把握する必要がある。
ここで,上記「(3)」の「イ」に説示したとおり,甲第5号証には「DCIフォーマット0には,リソースブロック割り当てに関する情報,変調および符号化スキームおよび冗長バージョンに関する情報,CQI要求に関する情報が含まれる。」という技術的事項3が記載されている。また,上記「(4)」の「イ」に説示したように,甲第6号証には「TBサイズのシグナリングに関し,RB割り当て+MCSからTBサイズが把握される。」という技術的事項4が記載され,上記「(5)」の「イ」に説示したように,甲第7号証には「RB割り当ておよびMCSが明示的にシグナリングされ,トランスポートブロックサイズがMCSおよびRB割り当てから推定される。」という技術的事項5が記載されている。当該技術的事項4及び技術的事項5によれば,トランスポートブロックサイズは,シグナリングされたMCS及びRB割り当てから推定することができるといえる。
上記技術的事項3を考慮すれば,甲第2号証発明における「PDCCHフォーマット0」は「リソースブロック割り当てに関する情報」,「変調および符号化スキーム」に関する情報を含むものといえ,また上記技術的事項4及び技術的事項5から導き出される,トランスポートブロックサイズ(TBS)が,シグナリングされたMCS及びRB割り当てから推定することができるという技術的事項を考慮すれば,甲第2号証発明において,「PDCCHフォーマット0」によりシグナリングされた「変調および符号化スキーム」に関する情報(本件特許発明の「変調・符号化方式インデックス」に相当。)及び「リソースブロック割り当てに関する情報」(本件特許発明の「リソースブロックに関する情報」に相当。)から,「TBS」を推定することは,当業者であれば,容易に想到し得たことといえる。
しかしながら,甲第2号証発明において,「TBS=0」であることを,「PDCCHフォーマット0」によりシグナリングされた「変調および符号化スキーム」に関する情報が「所定の値を示し」,かつ,「リソースブロック割り当てに関する情報」が「所定のリソースブロック数と等しいかまたは小さい数のリソースブロック数を示す」場合として把握することは,上記技術的事項4又は技術的事項5に記載されておらず,また甲第2号証発明に上記技術的事項4及び技術的事項5を適用しても,当業者が容易に想到し得たとはいえない。

(ウ)まとめ
上記(ア)及び(イ)で説示したとおり,本件特許発明は,当業者といえども,甲第2号証発明,及び甲第3号証ないし甲第7号証に記載された技術的事項に基づいて,容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 請求人の主張について
上記(6)で挙げた上記相違点1に関し,以下のとおり主張する。

「甲2は、PDCCHフォーマット0のCQIビットを1にセットすることで非周期的CQI報告を要求することを開示する。PDCCHフォーマット0が、変調および符号化スキームを示す5ビットの情報と、PUSCHで使用されるリソースブロック割り当てに関する情報と、を含むことは、甲5にも例示されるとおり、本件特許の優先日前の技術常識であった。
したがって、甲2には、変調および符号化スキームを示す5ビットの情報と、PUSCHで使用されるリソースブロック割り当てに関する情報と、非周期的CQI報告の基地局への送信をトリガーするCQIビットとを含むPDCCHフォーマット0の信号を、基地局から受信する受信部が開示されている。」(審判請求書の「7.」の「(5)」の「(5−2)」の「(5−2−1)」,令和2年8月12日付けの手続補正書(方式)に添付された「審判請求書の『7.請求の理由』」の第26頁第5行目ないし同第13行目)

また,上記(6)で挙げた上記相違点2に関し,以下のとおり主張する。

「甲2は、PDCCHフォーマット0のCQIビットを1にセットし、さらにTBS=0であれば、非周期的CQI報告のなかでもCQI−only報告を要求することを開示する。CQI−only報告は、非周期的CQI報告と上り共有チャネルを介して送信されるデータとを多重化せずに非周期的CQI報告を基地局へ送信することを意味することは、甲3、甲4にも例示されるとおり、本件特許の優先日前の技術常識であった。
したがって、甲2には、CQIビットが1にセットされ、TBS=0の場合に、非周期的CQI報告と上り共有チャネルを介して送信されるデータとを多重化せずに非周期的CQI報告を基地局へ送信する送信部が開示されている。」(審判請求書の「7.」の「(5)」の「(5−2)」の「(5−2−1)」,令和2年8月12日付けの手続補正書(方式)に添付された「審判請求書の『7.請求の理由』」の第26頁第15行目ないし同第23行目)

「甲6および甲7に例示されるとおり、本件特許の優先日前、リソースブロック割り当ておよびMCSによりTBSを暗黙的にシグナリングすることは周知であったし、そのようにすることが当業者の間で合意されていた。したがって、甲2発明におけるTBS=0のシグナリングに暗黙的な手法、すなわち、所定のMCSの値および所定のリソースブロック割り当てにTBS=0を対応付けて基地局、移動端末の双方が記憶しておき、移動端末において、受信したMCSが当該所定の値を示し、かつ、受信したリソースブロック割り当てが当該所定の割り当てを示す場合に、TBS=0であると解釈する手法を採用することは、当業者が容易に想到し得た事項である。リソースブロック割り当てが所定の割り当てを示す場合、割り当てられたリソースブロック数は所定の割り当てから定まる所定の数となる。
以上より、本件特許の優先日前の周知技術に照らし、上記相違点は当業者が容易に想到し得た事項である。」(審判請求書の「7.」の「(5)」の「(5−2)」の「(5−2−2)」,令和2年8月12日付けの手続補正書(方式)に添付された「審判請求書の『7.請求の理由』」の第28頁第12行目ないし同第24行目)

「被請求人は、甲第6号証及び甲第7号証に開示される技術はCQI報告の送信制御には用いられないとするが、CQI報告の送信制御は甲第2号証において行われるものであり、請求人はTBSの通知をリソースブロック割り当ておよびMCSによりシグナリングすることについて甲第6号証及び甲第7号証を引用したものであり、被請求人は甲第6号証及び甲第7号証の引用の目的を正確に理解しておらず、その主張は失当である。」(口頭審理陳述要領書の「5.」の「5−2.」の「5−2−2−2.」,第12頁第11行目ないし同第16行目)

「甲第2号証におけるTBS=0のシグナリングに、甲第6号証および甲第7号証に例示されるリソースブロック割り当ておよびMCSによりTBSを暗黙的にシグナリングする技術を適用し、所定のMCSの値および所定のリソースブロック割り当てにTBS=0を対応付けて基地局、移動端末の双方が記憶しておき、移動端末において、受信したMCSが当該所定の値を示し、かつ、受信したリソースブロック割り当てが当該所定の割り当てを示す場合に、TBS=0であると解釈して、CQIビットが1にセットされている場合は、非周期的CQI報告と上り共有チャネルを介して送信されるデータとを多重化せずに非周期的CQI報告を基地局へ送信することができる。
当該構成において、CQIビットが1にセットされ、MCSが当該所定の値を示し、かつ、受信したリソースブロック割り当てが当該所定の割り当てを示す場合は、構成要件Cの「前記チャネル品質インジケータトリガーが設定され、前記制御チャネル信号が、前記変調・符号化方式インデックスの所定の値を示し、かつ、所定のリソースブロック数と等しいリソースブロック数を示す場合」に該当するものである。」(口頭審理陳述要領書の「5.」の「5−2.」の「5−2−2−2.」,第12頁下から第4行目ないし第13頁第11行目)

そして,本件特許発明における「所定のリソースブロック数と等しいかまたは小さい数のリソースブロック数を示す場合」に,「所定のリソースブロック数と等しい数のリソースブロック数を示す場合」が含まれるか否かについて,以下のとおり,主張する。

「所定のリソースブロック数と等しい数のリソースブロック数を示す」場合は必ず「所定のリソースブロック数と等しいかまたは小さい数のリソースブロック数を示す」という条件が充たされるので、上記の議論により本件発明の進歩性は十分に否定される。」(審判請求書の「7.」の「(5)」の「(5−2)」の「(5−2−2)」,令和2年8月12日付けの手続補正書(方式)に添付された「審判請求書の『7.請求の理由』」の第29頁第4行目ないし同第7行目)

「被請求人は、「所定の数」なるものはCQI報告をデータとして多重化して送信するか否かを判定するための閾値としての機能を果たさない、と主張するが、請求項8には「所定のリソースブロック数と等しいかまたは小さい数のリソースブロック数を示す場合に、」と記載されており、「等しいかまたは小さい数」は択一的な記載であるから、いずれか一方の条件を満たせば当該構成に一致するものである。
よって、「所定の数」に一致する場合だけCQI報告をデータと多重化せずに送信する場合であっても、本件特許発明の範囲に含まれるものである。」(口頭審理陳述要領書の「5.」の「5−2.」の「5−2−2−2.」,第11頁第10行目ないし同第17行目)

さらに,本件特許発明における「所定のリソースブロック数と等しいかまたは小さい数のリソースブロック数を示す場合」が「所定のリソースブロック数より小さい数のリソースブロック数を示す場合」について,以下のとおり主張する。

「以下では念のため、前記チャネル品質インジケータトリガーが設定され、前記制御チャネル信号が、前記変調・符号化方式インデックスの所定の値を示し、かつ、所定のリソースブロック数より小さい数のリソースブロック数を示す場合に、前記非周期的なチャネル品質インジケータ報告と上り共有チャネル(UL−SCH)を介して送信されるデータとを多重化せずに前記非周期的なチャネル品質インジケータ報告を前記基地局へ送信するよう構成することもまた、当業者にとって容易であることを説明する。
まず、無線通信の分野においてリソースブロックの数に上限があることは例示するまでもない本件特許の優先日前の技術常識である。したがって、TBS=0に対応するリソースブロックの所定の割り当てにおけるリソースブロックの数を当該上限数より小さく設定することは、当業者が適宜なし得る設計的事項である。
次に、甲4にも記載されるとおり、PUSCH上のCQIは1〜2リソースブロックを占める、比較的小さなデータ量の情報である。リソースの有効活用は無線通信の分野における普遍的な課題であるから、CQI−only報告に割り当てるリソースブロックの数を、そのデータ量に応じた小さな数とすることは、当業者の通常の創作能力の発揮である。」(審判請求書の「7.」の「(5)」の「(5−2)」の「(5−2−2)」,令和2年8月12日付けの手続補正書(方式)に添付された「審判請求書の『7.請求の理由』」の第29頁第7行目ないし同第23行目)

また,甲第2号証発明に,甲第3号証ないし甲第7号証に記載された技術的事項を適用する動機付けについて,以下のとおり主張する。

「甲第2号証、甲第6号証、及び甲第7号証は3GPPの文献であり、同一の技術分野に属する文献であり、かつ、いずれの文献もTBSについて述べている点で組み合わせの動機づけが否定される理由がない。また、甲第6号証、甲第7号証については、リソースブロック割り当ておよびMCSによりTBSを暗黙的にシグナリングする点について引用しているのであって、CQI報告のみ送信がされることはそもそも甲第2号証に記載されているのであるから、甲第6号証、甲第7号証が記載している必要はないと考える。」(口頭審理陳述要領書の「5.」の「5−2.」の「5−2−2−2.」,第11頁下から第4行目ないし第12頁第3行目)

そこで,請求人の上記主張について検討する。
まず,上記(6)で挙げた上記相違点1に関する主張について検討する。
上記相違点(1)は,上記「ア」の「(ア)」で説示したとおりであるから,請求人の主張するとおり,本件補正発明と甲第2号証発明の間の実質的な相違点ではない。

次に,上記(6)で挙げた上記相違点2に関する主張について検討する。
まず,本件特許発明における「所定のリソースブロック数と等しいかまたは小さい数のリソースブロック数を示す場合」に,「所定のリソースブロック数と等しい数のリソースブロック数を示す場合」が含まれるかことは明らかである。
また,「所定のリソースブロック数と等しいかまたは小さい数のリソースブロック数を示す場合」が「所定のリソースブロック数より小さい数のリソースブロック数を示す場合」であることについて,検討する。
まず,本件特許の優先日前において,無線通信の分野においてリソースブロックの数に上限があることが技術常識であることは,請求人の主張するとおりである。また,上記「(2)」の「ウ」で説示した甲第4号証に示される技術的事項2のように,CQI+PMI報告が1から2リソースブロック内に含まれるようなものであり,CQIは比較的小さなデータ量の情報であることも,請求人の主張のとおりである。
そして,上記「ア」の「(イ)」で説示したように,甲第2号証発明の「PDCCHフォーマット0」が「変調および符号化スキームに関する情報」及び「リソースブロック割り当てに関する情報」を含むものといえることを考慮すれば,甲第2号証発明において,「PDCCHフォーマット0」に含まれる「リソースブロック割り当てに関する情報」として,CQIのような小さなデータ量の情報である場合,そのデータに応じた,上限より小さな数のリソースブロック数とすることは,当業者の通常の創作能力の発揮といえる。この点も,請求人の主張のとおりである。
しかしながら,上述したとおり,甲第2号証発明において,CQI−only報告が要求され,これを送信するのは,「TBS=0」の場合であって,当該「TBS=0」の場合,「変調および符号化スキーム」に関する情報がどのような値を示し,「リソースブロック割り当てに関する情報」がどのような「リソースブロック数」を示すのかについて,甲第2号証発明では示されていない。
一方,上記技術的事項4及び技術的事項5によって示される,TBSがシグナリングされたMCS及びRB割り当てから推定するという技術的事項を,甲第2号証発明に適用することで,「PDCCHフォーマット0」によりシグナリングされた「変調および符号化スキーム」に関する情報(本件特許発明の「変調・符号化方式インデックス」に相当。)及び「リソースブロック割り当てに関する情報」(本件特許発明の「リソースブロックに関する情報」に相当。)から,「TBS」を推定することは,当業者であれば,容易に想到し得たことといえる。
しかしながら,そうであっても,「TBS=0」であることを,「PDCCHフォーマット0」によりシグナリングされた「変調および符号化スキーム」に関する情報が「所定の値を示し」,かつ,「リソースブロック割り当てに関する情報」が「所定のリソースブロック数と等しいかまたは小さい数のリソースブロック数を示す」場合として把握することは,上記技術的事項4又は技術的事項5に含まれておらず,また甲第2号証発明に上記技術的事項4及び技術的事項5を適用しても,当業者が容易に想到し得たとはいえない。
してみれば,本件特許発明における「所定のリソースブロック数と等しいかまたは小さい数のリソースブロック数を示す場合」が「所定のリソースブロック数より小さい数のリソースブロック数を示す場合」であるかどうかに関わらず,甲第2号証発明に上記技術的事項3ないし技術的事項5を適用しても,本件特許発明のような「前記チャネル品質インジケータトリガーが設定され、前記制御チャネル信号が、前記変調・符号化方式インデックスの所定の値を示し、かつ、所定のリソースブロック数と等しいかまたは小さい数のリソースブロック数を示す場合」に,CQI−only報告を基地局装置に送信することを導き出すことはできない。

さらに,甲第2号証発明に,甲第3号証ないし甲第7号証に記載された技術的事項を適用する動機付けについて,検討する。
請求人の主張するとおり,甲第2号証、甲第6号証及び甲第7号証は3GPPの文献であり、3GPPで標準化される無線通信の技術分野に属するものといえるから,甲第2号証発明と,甲第6号証及び甲第7号証に記載された技術的事項との間には,動機付けとなり得る技術分野の関連性があるといえる。
しかしながら,例え,甲第2号証発明に,甲第6号証及び甲第7号証に記載された技術的事項4及び技術的事項5を適用したとしても,上述したように,甲第2号証発明における「TBS=0」であることを「前記制御チャネル信号が、前記変調・符号化方式インデックスの所定の値を示し、かつ、所定のリソースブロック数と等しいかまたは小さい数のリソースブロック数を示す場合」とすることは,当業者であっても,容易に想到し得たとはいえない。

(8)無効理由2についてのまとめ
以上のとおりであるから,本件特許の請求項8に係る発明は,当業者といえども,甲第2号証に記載された発明,及び甲第3号証ないし甲第7号証に記載された技術的事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから,特許法第29条第2項の規定により,無効とすることはできない。

第5 むすび
以上のとおり,請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては,本件特許の請求項8に係る発明を無効とすることはできない。
審判に関する費用については,特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人の負担とする。
よって,結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは,この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は,その日数を附加します。)以内に,この審決に係る相手方当事者を被告として,提起することができます。

審判長 中木 努
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2021-05-26 
結審通知日 2021-05-31 
審決日 2021-06-23 
出願番号 P2011-219542
審決分類 P 1 123・ 121- Y (H04W)
P 1 123・ 161- Y (H04W)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 中木 努
特許庁審判官 廣川 浩
國分 直樹
登録日 2012-02-24 
登録番号 4932052
発明の名称 チャネル品質インジケータの独立した送信をトリガーする制御チャネルシグナリング  
代理人 大塚 康徳  
代理人 辰川 肇  
代理人 平田 憲人  
代理人 小野寺 良文  
代理人 大塚 康弘  
代理人 岡田 宏樹  
代理人 渡邉 峻  
代理人 特許業務法人鷲田国際特許事務所  

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