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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G16H
管理番号 1380915
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-01-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-10-13 
確定日 2022-01-05 
事件の表示 特願2019− 82892「認知機能出力システム及びプログラム」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年11月 5日出願公開、特開2020−181307、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,平成31年4月24日を出願日とする出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
令和3年 1月29日付け:拒絶理由通知書
令和3年 4月 2日 :意見書,手続補正書の提出
令和3年 4月15日付け:拒絶理由通知書(最後)
令和3年 6月 9日 :面接記録
令和3年 6月28日 :意見書,補正書の提出
令和3年 7月 7日 :補正の却下の決定,拒絶査定
令和3年10月13日 :審判請求書の提出


第2 原査定の概要

原査定の概要は次のとおりである。
この出願の請求項1〜10に係る発明は,以下の引用文献1〜4に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2017−200572号公報
2.国際公開第2017/145566号(主引用例)
3.特開2016−022310号公報
4.特開2019−016060号公報


第3 本願発明

本願請求項1〜10に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」〜「本願発明10」という。)は,令和3年4月2日に提出された手続補正書でする補正(以下,「本件補正」という。)で補正された特許請求の範囲の請求項1〜10に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1は以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
被検者の睡眠中の生体データを取得する取得手段と,
複数日を単位とする第1の期間に前記取得手段により取得された前記生体データを分析し,第1の分析結果を出力する第1の分析手段と,
複数日を単位とする,前記第1の期間後の第2の期間に前記取得手段により取得された前記生体データを分析し,第2の分析結果を出力する第2の分析手段と,
前記第1の分析結果と前記第2の分析結果とに基づいて,前記第1の期間と前記第2の期間との間における前記被検者の認知機能の変調に関する情報を出力する出力手段と,
を有する認知機能出力システム。」

なお,本願発明2〜10の概要は以下のとおりである。
本願発明2〜9は,本願発明1を減縮した発明である。
本願発明10は,本願発明1に対応するプログラムの発明であり,本願発明1とカテゴリ表現が異なるだけの発明である。


第4 引用文献に記載されている事項

1 引用文献2について
(1)引用文献2に記載されている事項
引用文献2には,次の事項が記載されている。なお,下線は当審が付与した。
「技術分野
[0001] 本発明は,認知症状検出システム,及び,プログラムに関する。
背景技術
[0002] 認知症の症状として,記憶障害,見当識障害,理解力及び判断力の低下,並びに,実行機能の低下などの中核症状が知られている。このような中核症状が元となり,認知症の患者には,患者の性格,及び,周囲環境の影響などに応じて,周辺症状が現れる。周辺症状は,言い換えれば,行動心理症状(BPSD:Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)であり,このような行動理症状が介護者にとって負担になることが多い。」

「[0013] (実施の形態)
[認知症状検出システムの構成]
まず,実施の形態に係る認知症状検出システムの全体構成について説明する。図1は,実施の形態に係る認知症状検出システムの構成を示すブロック図である。
[0014] 認知症状検出システム10は,認知症状特有の行動心理症状の変化を捉え,検出の対象者(以下,ユーザとも記載される)または当該対象者の家族に認知症の兆候を知らせることができるシステムである。認知症状検出システム10は,具体的には,ユーザの認知症の行動心理症状に対応する指標の個人値を特定し,特定された個人値を当該指標の基準値と比較することにより認知症の兆候を検出する。指標の基準値は,活動量の履歴,及び,機器操作情報の履歴に基づいて特定(算出)される。」

「[0017] 図1に示されるように,認知症状検出システム10は,活動量検知装置20と,操作情報取得装置30と,サーバ装置40と,情報端末50とを備える。
[0018] 活動量検知装置20は,ユーザの住居(居住空間)内に設けられる装置である。活動量検知装置20は,ユーザに装着される装置であってもよい。活動量検知装置20は,ユーザの活動量を検知する検知部21を有する。検知部21は,具体的には,焦電センサ(赤外線センサ),ドップラーセンサ,電波センサ,または,ウェアラブル型の活動量計(加速度センサ)などである。また,検知部21は,ユーザの睡眠中の活動量を検知する,マット式または電波式の睡眠センサなどであってもよい。また,活動量検知装置20は,検知専用の装置である必要はない。例えば,活動量検知装置20は,エアコンなどの家電機器であり,検知部21は,家電機器が有するセンサであってもよい。」

「[0027] 図2に示されるように,行動症状のうち,徘徊の兆候については,夜間の活動量に基づいて検出可能である。睡眠障害の兆候については,睡眠中の活動量に基づいて検出可能である。食異常の兆候については,冷蔵庫,電気ポット,及び,電子レンジなどの機器操作情報に基づいて検出可能である。」
「[0029] 次に,サーバ装置40の構成について説明する。サーバ装置40は,ユーザの認知症の程度を判断するための情報処理を行う装置である。サーバ装置40は,例えば,認知症状検出システム10の運用を行う企業などによって管理される。サーバ装置40は,第一通信部41と,情報処理部42と,記憶部43とを有する。
[0030] 第一通信部41は,活動量検知装置20によって検知された活動量を,活動量検知装置20から受信する。また,第一通信部41は,操作情報取得装置30によって取得された機器操作情報を操作情報取得装置30から受信する。また,第一通信部41は,情報処理部42の制御に基づいて,ユーザの認知症の程度を提示するための提示情報を情報端末50の第二通信部51に送信する。
[0031](省略)
[0032] 情報処理部42は,ユーザの認知症の程度を判断するための情報処理,第一通信部41の制御,及び,記憶部43への情報の記憶などを行う。情報処理部42は,具体的には,記憶部43に記憶された活動量の履歴,及び,記憶部43に記憶された機器操作情報の履歴の少なくとも一方を用いて,認知症の行動心理症状に対応する指標の基準値を特定(算出)する。また,情報処理部42は,検知されたユーザの活動量,及び,取得されたユーザの機器操作情報の少なくとも一方を用いて,認知症の行動心理症状に対応する指標のユーザの個人値を特定(算出)する。そして,情報処理部42は,特定された基準値と,特定された個人値とに基づいて,ユーザの認知症の程度を判断する。情報処理部42は,具体的には,プロセッサ,マイクロコンピュータ,または専用回路によって実現される。なお,基準値及び個人値の算出方法の詳細については後述される。」

「[0080] [認知症の程度の別の判断方法]
次に,認知症の程度の別の判断方法について説明する。図18は,認知症の程度の別の判断方法を説明するための例を示す図である。なお,以下の説明では,個人値が大きいほど正常である(認知症の兆候が無い)ことを意味するものとする。
[0081] 例えば,1日ごとに特定された個人値のデータが1カ月分あるとすると,図18に示されるように,1ヶ月分の個人値の経時変化が得られる。
[0082] ここで,情報処理部42は,基準値と個人値とを比較することにより,個人値が認知症の程度が重いことを示す第一期間を特定する。第一期間は,具体的には,例えば,個人値が基準値よりも小さくなる期間である。図18では,第一期間は,期間t1及び期間t2,及び期間t3である。
[0083] 次に,情報処理部42は,所定の第二期間T1に含まれる第一期間の長さに基づいて,第二期間T1におけるユーザの認知症の程度を判断する。第二期間T1に含まれる第一期間の長さは,期間t1及び期間t2の合計である。情報処理部42は,具体的には,第一期間の長さが長いほど,認知症の程度が重いと判断する。所定の第二期間T1と期間の長さが等しい所定の第二期間T2においては,全期間(期間t3)において個人値が基準値よりも小さくなる。したがって,情報処理部42は,第二期間T2においては,第一期間T2よりも認知症の兆候があると判断することができる。
[0084] このように,個人値の経時的な変化に基づいて認知症の程度が判断されれば,認知症の程度が精度よく判断される。
[0085] なお,以上説明したような別の判断方法においては,提示部53によって,図18に示されるような経時変化を示すグラフが提示されてもよい。このとき,提示部53は,ユーザの認知症の程度を,当該程度に応じて異なる態様で提示してもよい。図19は,提示部53によって提示される画像の別の例を示す図である。」

「[0091] [効果等](以下省略)
[0092](省略)
[0093] また,情報処理部42は,個人値が基準値よりも認知症の程度が重いことを示す第一期間を特定し,所定の第二期間に含まれる第一期間の長さに基づいて,第二期間におけるユーザの認知症の程度を判断してもよい。また,提示部53は,ユーザの認知症の程度を,当該程度に応じて異なる態様で提示してもよい。
[0094] このように,個人値の経時的な変化に基づいて認知症の程度が判断されることにより,認知症状検出システム10は,認知症の程度を精度よく判断することができる。
[0095] また,提示部53は,第二期間に含まれる第一期間の長さが所定の長さ以上である場合,警告情報を提示してもよい。」



[図18]


[図19]

(2)引用文献2記載された発明
上記(1)から,引用文献2には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

活動量検知装置20と,サーバ装置40と,情報端末50とを備える認知症状検出システム10であって([0017]),
活動量検知装置20は,ユーザの活動量を検知する検知部21を有し,検知部21は,ユーザの睡眠中の活動量を検知する,マット式または電波式の睡眠センサであり([0018]),
サーバ装置40は,第一通信部41と,情報処理部42と,記憶部43とを有し([0029]),
第一通信部41は,活動量検知装置20によって検知された活動量を,活動量検知装置20から受信し([0030]),
情報処理部42は,記憶部43に記憶された活動量の履歴を用いて,認知症の行動心理症状に対応する指標の基準値を特定(算出)し,検知されたユーザの活動量を用いて,認知症の行動心理症状に対応する指標のユーザの個人値を特定(算出)し,特定された基準値と,特定された個人値とに基づいて,ユーザの認知症の程度を判断するものであって([0032]),
1日ごとに特定された個人値のデータが1カ月分あり([0081]),
情報処理部42は,基準値と個人値とを比較することにより,個人値が認知症の程度が重いことを示す第一期間を特定するものであって,第一期間は,個人値が基準値よりも小さくなる期間(t1,t2,t3)であり([0082][図18]),所定の第二期間T1及び所定の期間T2のそれぞれに含まれる第一期間(t1,t2又はt3)の長さに基づいて,所定の第二期間T1及び所定の第二期間T2のそれぞれにおけるユーザの認知症の程度を判断する([0083][図18]),
認知症状検出システム10。

2 引用文献1について
引用文献1には,次の事項が記載されている。
「【0001】
本発明は,認知症の判定等を行う認知症情報出力システム,及び,その認知症情報出力システムを構成する装置で用いられる制御プログラムに関する。」

「【0041】
測定部110では,例えば,体動センサ101を用いて,1分毎に,体動の大きさを0(体動なし等の最小値)から9(最大値)までの10段階の値に区別した,体動の測定結果(体動量)を特定し得る。なお,測定部110は,体動センサ101を備えていなくてもよく,測定部110の外部の体動センサ101から得られる情報に基づいて,体動を測定してもよい。更に,測定部110は,体動センサ101から得られる情報に基づいて,ユーザAがベッド23aに居ることを検知してもよい。
【0042】
取得部120は,制御プログラムを実行するプロセッサ104等により実現され,ユーザAの睡眠時間帯における体動の測定結果を取得する機能を有する。取得部120は,ユーザAの睡眠時間帯を,測定部110により得たユーザAの体動の測定結果に基づいて特定する。睡眠時間帯は,概ね睡眠中の時間帯であり,睡眠時を含み,一時的な非睡眠時(夜間に一時的に目覚めた状態等)を含んでもよい。」

「【0052】
例えば,判定部140は,取得部120で特定された睡眠時間帯に電気機器24aが電源オン状態であると判別部170で判別される日を消し忘れ日として判定してもよい。そして,消し忘れ頻度は,消し忘れ日として判定された日の発生頻度でもよい。」

「【0056】
そして,例えば,判定部140は,消し忘れ頻度が所定基準頻度を超える場合に,ユーザAが軽度認知症等を発症していると判定する。所定基準頻度は,例えば,1週間のうち2日の頻度,1週間以上の期間において10%の頻度,或いは,2日連続する頻度(つまり2日以上の期間において100%の頻度)等である。消し忘れ頻度は,例えば,1週間より長い一定期間Tにおける発生頻度である。軽度認知症等であるか否かをより精度良く判定するためには,一定期間Tが長期(例えば3ヵ月等)であることが有用となる。」

「【0063】
認知症判定装置100aは,体動センサ101を用いて測定部110によりユーザAの体動を測定する(ステップS11)。そして,認知症判定装置100aは,取得部120で体動の測定結果(体動量)を取得し睡眠時間帯を日毎に特定する(ステップS12)。認知症判定装置100aの判別部170は,電気機器24aが電源オン状態であるか否かを時刻毎に判別する(ステップS13)。
【0064】
そして,認知症判定装置100aの判定部140は,過去一定期間における消し忘れ頻度が閾値(所定基準頻度)を超えるか否かを判別する(ステップS14)。消し忘れ頻度は,ステップS12で特定された睡眠時間帯に電気機器24aが電源オン状態であるとステップS13で判別される日の発生頻度である。過去一定期間は,例えば1週間等である。過去一定期間は,最初に電気機器24aを消し忘れた日から現在まででもよい。」


3 引用文献3について
引用文献3には,次の事項が記載されている。
「【0028】
一般的に,睡眠波形60には,深い睡眠,レム睡眠,覚醒(中途覚醒および早期覚醒を含む)などの睡眠状態を表わす波形部位(黒く塗りつぶされたピーク部位)が現れる。この睡眠波形60に対して,体動波形65(体動が大きい部位が山部として表われる)が重ね合わせられ,これにより,例えば,レム睡眠時に大きい体動が現れるレム睡眠時行動障害や,中途覚醒時に大きい体動が現れる夜間せん妄などを確認することができる。また,生体データ検出センサ4の生体信号から周期性四肢運動障害や無呼吸障害などを確認することができる。なお,本実施形態では,監視カメラ6から取得される画像データによって,体動レベルをより明確に把握することができ,例えば,体動変化の大きさ,離床,具体的な行動等を確認することができる。
【0029】
上述したように,認知症をもたらす脳萎縮等の症状よりも20年以上前から脳にタンパク質(タウタンパク質およびアミロイドβタンパク質)が付着し,このタンパク質の付着が脳血流に微小な変化をもたらして,それが睡眠時に様々な障害を引き起こすことから,認知症リスク判定装置30は,睡眠データ生成装置10で生成された被検者Aの睡眠データを,データベース50に記憶されている各認知症の基準データ(各認知症に特有な睡眠データ)と比較することで,被検者Aに将来生じ得る認知症のリスクを判定することが可能となる。
【0030】
ここで,認知症を発症した患者から得られる睡眠データについては,認知症の種類に応じて以下のような特徴が見出される。
【0031】
アルツハイマー型認知症(AD)の場合,睡眠してから目覚めるまでの間に亘って,無呼吸障害・周期性四肢運動障害等が認められる。このため,被検者から得られた睡眠データに,睡眠時間の全体に亘ってこのような無呼吸障害・周期性四肢運動障害等が認められれば,それはADと推定される。なお,睡眠中のある一定時間のみ,或いは,周期性なくそのような症状が認められた場合等,それはADのリスクに該当しないと判定することも可能である(閾値によって区別される)。
【0032】
レビー小体型認知症(LBD)の場合,睡眠中にレム睡眠状態となったときに,大きな行動を引き起こす(行動障害)ことが認められる。例えば,レム睡眠時に,急に起き上がったり,暴力的な行動を伴ったり,離床する等の行動を引き起こすことが認められる。このような行動障害については,体動データによって把握することができ,被検者から得られた睡眠データに,レム睡眠状態と重なってこのような行動障害が認められれば,それはLBDと推定される。なお,レム睡眠状態であっても体動の度合いが小さい場合,体動変化の時間が短い場合等,それはLBDのリスクに該当しないと判定することも可能である(閾値によって区別される)。
【0033】
前頭側頭型認知症(FTD)の場合,睡眠したあとに早期覚醒することが認められる。この早期覚醒は,睡眠してから所定の時間内に覚醒してしまうことであり,一旦覚醒すると,それ以後は,ずっと覚醒した状態となる。このため,被検者から得られた睡眠データに,早期覚醒が認められれば,それはFTDと推定される。なお,早期覚醒が認められても,その後,再び眠りに入ったような場合,或いは,ある程度の睡眠時間が得られた後に覚醒状態となった場合等,それはFTDのリスクに該当しないと判定することも可能である(閾値によって区別される)。
【0034】
上記した被検者から得られる睡眠データについては,併せて画像データと重ねることによって,より確実に各認知症のリスクを判定することが可能となる。」

4 引用文献4について
引用文献4には,次の事項が記載されている。

「【0001】
本発明は,ユーザの動作に基づく判定を行う技術に関する。」

「【0025】
図3は認知症予防システム1が実現する機能構成を表す。サーバ装置10は,動作指示部101と,動作情報取得部102と,認知症関連判定部103と,周辺音取得部104と,ユーザ識別部105と,固有情報記憶部106と,音出力指示部107とを備える。ホームルータ20は,音出力部201と,周辺音録音部202と,周辺音送信部203とを備える。第1ユーザ端末30は,動作情報検出部301と,動作情報送信部302とを備える。第2ユーザ端末40は,判定結果要求部401と,判定結果表示部402とを備える。
【0026】【0027】(省略)
【0028】
サーバ装置10は,認知症予防システム1において登録された対象ユーザに割り当てられたユーザID(以下「登録ID」という)と,その対象ユーザに対応付けて登録された出力先の情報(本実施例では固定電話機3の電話番号)とを対応付けて記憶している。動作指示部101は,それらの登録された出力先に対して指示情報を出力する。対象ユーザ及び出力先の登録は例えば支援ユーザ又は対象ユーザ等によって行われる。
【0029】
動作指示部101は,本実施例では,所定の間隔で手拍子を行う第1動作と,所定の歌を歌わせる第2動作と,所定の回数だけ第1ユーザ端末30を振る第3動作のうちのいずれかの動作を指示する。第1動作が指示された場合,例えば「1秒間隔で10回手拍子をしてください」という指示音声が出力される。対象ユーザがこの指示に従い第1動作を行うと,手拍子の音が発せられることになる。」

「【0031】
第1ユーザ端末30の動作情報検出部301は,人の動作を示す動作情報を検出する機能である。第1ユーザ端末30は,このように動作情報を検出する検出用端末であり,本発明の「第2端末」の一例である。例えば対象ユーザが第1動作を行った場合,動作情報検出部301は,所定の間隔で発せられる手拍子の音をマイクロフォンで収集し,その音を示す情報を動作情報として検出する。また,対象ユーザが第2動作を行った場合,動作情報検出部301は,対象ユーザの歌唱音声をマイクロフォンで収集し,その歌唱音声を示す情報を動作情報として検出する。」

「【0036】
サーバ装置10の動作情報取得部102は,動作情報検出部301を備える第1ユーザ端末30から送信されてきた動作情報及び登録IDを,その登録IDが示す対象ユーザ,すなわち動作指示部101からの指示を受けて動作を行った対象ユーザについての動作情報として取得する。動作情報取得部102は本発明の「動作取得部」の一例である。
【0037】
動作情報取得部102は,取得した動作情報及び登録IDを認知症関連判定部103に供給する。認知症関連判定部103には,動作指示部101からも,対象ユーザへの動作の指示内容と,対象ユーザの登録IDとが供給される。認知症関連判定部103は,動作指示部101による動作の指示の内容と,動作情報取得部102により取得された動作情報とを比較して,対象ユーザについての認知症に関連する判定を行う。
【0038】(省略)
【0039】
認知症関連判定部103は,具体的には,指示された動作と動作情報が示す動作の結果との差分に基づいて上記判定を行う。認知症関連判定部103は,第1動作(所定の間隔での手拍子)が行われた場合であれば,対象ユーザによって行われた手拍子の間隔と所定の間隔との差分を合計した時間に応じて判定を行う。認知症関連判定部103は,例えば差分の合計時間と症状の状況とを次のように対応付けた第1判定テーブルを記憶しておき,それを用いて判定を行う。
【0040】
図4は第1判定テーブルの例を表す。図4(a)の第1判定テーブルでは,「T1未満」,「T1以上T2未満」及び「T2以上」(T1<T2)という差分の合計時間に,「なし」,「軽微」及び「要注意」という症状の度合い(症状の状況の一例)が対応付けられている。認知症関連判定部103は,指示の内容と動作情報とを比較して差分の合計時間を算出し,算出した合計時間に第1判定テーブルで対応付けられている症状の度合いを,対象ユーザの症状の度合いとして判定する。」

「【0044】
なお,認知症関連判定部103は,供給された動作の指示の内容及び動作情報を供給された日時情報とともに記憶しておき,過去の比較結果にも基づいて判定を行ってもよい。例えば第1動作が行われた場合であれば,認知症関連判定部103は,過去の所定の期間(例えば1年間)に行われた手拍子の間隔と所定の間隔との差分を合計した時間の平均値を算出し,算出した平均値及び新たに行われた第1動作による差分の合計時間の関係と,症状の進み具合(症状の状況の一例)とを対応付けた判定テーブルを用いて判定を行う。」

「【0052】
なお,過去の比較結果にも基づいた判定が行われた場合,判定結果表示部402は,最新の動作情報に基づく比較結果をスコア(例えば第1動作であれば手拍子の間隔と所定の間隔との差分の合計時間が小さいほど高くなるスコア)として表示し,それに加えて判定結果を表示してもよい。判定結果表示部402は,例えば「本日のAさんの動作は80点でした。過去1年間の動作から,改善傾向にあると判定しました。」等のセリフを表す吹き出し画像を表示する。」

5 令和3年7月7日付けの補正の却下の決定で引用された引用文献5について
令和3年7月7日付けの補正の却下の決定で引用された引用文献5(特開2019−13375号公報)には,次の事項が記載されている。

「【0015】
図10に示されるように,睡眠検査装置100は,容易に持ち運びできるように構成されたものであればよく,例えば,データ処理部を備えた非接触・非拘束の睡眠検査マット101を利用することができる(具体的には,パラマウントベッド株式会社製の「眠りスキャン;登録商標」を利用することができる)。この睡眠検査装置100は,図示のように,ベッドのマットレス105の下で,睡眠する被検者200の胸部領域に敷設して使用されるものであり,睡眠検査マット101内に設置されているセンサ(圧力センサ)が,睡眠中の被検者200の睡眠状態を検出することが可能である(たとえば,入眠不調/中途覚醒/早期覚醒,睡眠位相後退,周期的体動,ノンレム比率減少,呼吸異常,心拍異常などを含む被検者が睡眠障害を引き起こしているか否かを検知することが可能である)。
【0016】
このような睡眠検査装置100は,スイッチをON状態にして,所定期間(たとえば1週間程度)ベッドのマットレスの下に敷設したままにしておくことで,被検者がベッドに入ったこと,離床したこと,及び,被検者の睡眠中における体動や呼吸状態などを検出することが可能となっている。すなわち,睡眠検査装置100は,ベッドのマットレス105の下で敷設された期間中,被検者の睡眠状況を連続して検出することができるため,その睡眠データを分析することによって,被検者の通常の睡眠を妨げることなく,睡眠状況を把握することができ,それにより,脳機能疾病の鑑別に寄与し得る。
【0017】
たとえば,図2に示すように,睡眠検査装置100のデータから,睡眠時の無呼吸のあり/なしがわかるとともに,不眠を引き起こしている原因(不眠原因)と結果(不眠現象)がわかる。
【0018】
具体的には,睡眠時に無呼吸があると,その人は睡眠時において,過活動,周期性体動を含めた異常な活動が生じており,上記した脳機能疾病を患っていれば,このような異常な活動が生じている。ただし,不眠の原因となる異常な活動の中には,排泄系の疾患に伴うもの(たとえば膀胱に関する疾病など),口腔系の疾患に伴うもの(たとえば口腔神経症など),分泌系の疾患に伴うもの(たとえば甲状腺,糖尿病など),呼吸器系の疾患に伴うもの(たとえば喘息,慢性の肺疾患など),循環器系の疾患に伴うもの(たとえば高血圧,心不全など),消化器系の疾患に伴うもの(たとえば便秘,下痢など),神経・関節系の疾患に伴うもの(たとえばリュウマチなど),皮膚の疾患に伴うもの(たとえばかゆみなど)が挙げられるが,睡眠検査装置100のデータからでは,これら個々に該当するものであるか否かまでは特定できない。このため,被検者に対しては,その人の検査時における体調や疾病履歴などの健康状態について事前問診(入力)することにより,得られた睡眠データ上,睡眠時に異常な活動をしている被検者の中から,脳機能疾病以外の原因によって異常な活動をしている被検者を除外することができる。
【0019】
また,睡眠検査装置100から得られるデータにより,不眠現象(結果)を把握することができる。例えば,睡眠潜時が長い(なかなか寝付けない),中途覚醒,早期覚醒,睡眠位相のずれ(睡眠時間は適切なものの,睡眠している時間が通常とは大きく異なる),睡眠効率の良し悪し,ノンレム比率の高低,客観的・主観的な睡眠不足,過眠などが把握できる。
【0020】
そして,このような睡眠に関するデータを,多数の被検者から得て検証したところ,ある程度,脳機能疾病があるかないかを把握することが可能であることが分かった。具体的には,不眠現象(結果)でみると,アルツハイマー型認知症では,特に,睡眠位相のずれと睡眠潜時が長い,という特徴が大きく,うつでは,特に,睡眠潜時が長く,中途覚醒する,という特徴が大きく,統合失調症では,特に,中途覚醒し,ノンレム睡眠比率が低下する,という特徴が大きく出ることが分かった。また,睡眠時過活動(不眠原因)を検証したところ,レビー小体型認知症では,特に,レム睡眠時行動障害を引き起こすと共に,周期性四肢運動障害を引き起こす,という特徴が大きく出ることが分かった。
【0021】
この結果,図3で示すように,睡眠検査装置100から得られる睡眠データから,不眠原因(睡眠時過活動;周期性体動など)があり,かつ,睡眠時無呼吸が生じていれば,それはレビー小体型認知症の可能性があり,また,不眠現象があり,かつ,睡眠時無呼吸が生じていれば,それはアルツハイマー型認知症,うつ,統合失調症の可能性が疑われる。したがって,睡眠検査装置100を用いたスクリーニング検査から得られる睡眠データによって,脳機能疾病の蓋然性が高い被検者を,予め仕分けすることが可能となる。また,このような睡眠データを取得することで,眠りに関する効果的な治療や処方の方針を立て易くなる。
この場合,睡眠時無呼吸症状がなければ,それは呼吸器や循環器などの疾病であること,及び,ストレス等による原発性不眠であることが予測される。」

第5 当審の判断

1 本願発明1について
(1)対比
ア 引用発明の「ユーザ」は,本願発明1の「被検者」に相当する。引用発明の「睡眠中の活動量」と,本願発明1の「睡眠中の生体データ」,「睡眠中のデータ」で共通する。また,引用発明の「睡眠中の活動を検知する,マット式または電波式の睡眠センサ」は,本願発明1の「被検者の睡眠中の生体データを取得する取得手段」と,「被検者の睡眠中のデータを取得する取得手段」で共通する。

イ 引用発明は,「1カ月分」の「1日ごとに特定された個人値のデータ」を用いて,ユーザの認知症の程度を判断するものであるから,判断の対象となる,所定の第二期間である「T1」及び「T2」は,それぞれ,本願発明1の「複数日を単位とする第1の期間」及び「複数日を単位とする,第1の期間後の第2の期間」に相当する。

ウ 引用発明において,「個人値」は,「検知されたユーザの活動量」を用いて算出されたものであって,引用発明の「個人値が基準値よりも小さくなる期間」である「第一期間」を特定し,「所定の第二期間(T1,T2)に含まれる第一期間(t1,t2,t3)の長さに基づいて,第二期間(T1,T2)におけるユーザの認知症の程度を判断」して得られるものは,本願発明1の「分析結果」に相当し,引用発明において,T1及びT2において,このようにして得られるものは,後述する相違点は別にして,本願発明1の「第1の分析結果」及び「第2の分析結果」に相当する。

エ 上記イ,ウを考慮すると,引用発明の「所定の第二期間T1」「に含まれる第一期間」であるt1,t2「の長さに基づいて,所定の第二期間T1」「におけるユーザの認知症の程度を判断」する「情報処理装置42」は,本願発明1の「複数日を単位とする第1の期間に前記取得手段により取得された前記生体データを分析し,第1の分析結果を出力する第1の分析手段」と,「複数日を単位とする第1の期間に前記取得手段により取得された前記睡眠中のデータを分析し,第1の分析結果を出力する第1の分析手段」で共通する。
また,引用発明の「所定の第二期間T2」「に含まれる第一期間」であるt3「の長さに基づいて,」「所定の第二期間T2」「におけるユーザの認知症の程度を判断」する「情報処理装置42」は,本願発明1の「数日を単位とする,前記第1の期間後の第2の期間に前記取得手段により取得された前記生体データを分析し,第2の分析結果を出力する第2の分析手段」と,「数日を単位とする,前記第1の期間後の第2の期間に前記取得手段により取得された前記睡眠中のデータを分析し,第2の分析結果を出力する第2の分析手段」で共通する。


オ 引用発明の「認知症状検出システム10」は,後述する相違点は別にして,本願発明1の「認知機能出力システム」に相当する。

カ 以上より,本願発明1と引用発明とは,次の点で,一致及び相違する。

<一致点>
被検者の睡眠中のデータを取得する取得手段と,
複数日を単位とする第1の期間に前記取得手段により取得された前記睡眠中のデータを分析し,第1の分析結果を出力する第1の分析手段と,
数日を単位とする,前記第1の期間後の第2の期間に前記取得手段により取得された前記睡眠中のデータを分析し,第2の分析結果を出力する第2の分析手段と,
を有する認知機能出力システム。

<相違点>
(相違点1)
睡眠中のデータが,本願発明1は,「睡眠中の生体データ」であり,この睡眠中の生体データを分析し,「第1の分析結果」及び「第2の分析結果」を出力するのに対し,引用発明は,睡眠中の活動量である点。

(相違点2)
本願発明1は,「前記第1の分析結果と前記第2の分析結果とに基づいて,前記第1の期間と前記第2の期間との間における前記被検者の認知機能の変調に関する情報を出力する出力手段」を有するのに対し,引用発明は,「前記第1の分析結果と前記第2の分析結果とに基づいて,前記第1の期間と前記第2の期間との間における前記被検者の認知機能の変調に関する情報を出力する出力手段」を有していない点。

(2)相違点の判断
事案にかんがみ,相違点2から検討をする。
引用文献4には,認知症関連の判定を行うために,所定の間隔で手拍子を行う第1動作を行わせ,手拍子をマイクロフォンで収集し,その音を示す情報を動作情報として検出し,動作指示内容(第1の動作)と取得された動作情報を比較することで認知症の判断を行い,また,過去の比較結果に基づいて判定を行うこと(過去の所定の期間(例えば1年間)に行われた手拍子の間隔と所定の間隔との差分を合計した時間の平均値を算出し,算出した平均値及び新たに行われた第1動作による差分の合計時間の関係)という,技術的事項が記載されている。
しかしながら,引用文献2には,第二期間T1,T2のそれぞれの期間において,認知症の程度を判断することが記載されるのみであるから,引用発明において,引用文献4に記載された技術的事項を適用しようとする動機があるとはいえない。
また,引用文献1,引用文献3及び引用文献5にも「前記第1の分析結果と前記第2の分析結果とに基づいて,前記第1の期間と前記第2の期間との間における前記被検者の認知機能の変調に関する情報を出力する出力手段」は記載されていない。
よって,引用発明並びに引用文献1,3,4及び5の記載された技術的事項に基づき,当業者であっても,上記相違点2の構成を容易に想到することはできない。
そして,上記相違点2の構成とすることで,1日の睡眠時間帯毎に取得される被検者の睡眠中の体動に関する情報と基準データとの比較により被検者の認知機能を判定する場合に比べ,被検者の特性に応じた認知機能の変調をより正確に予測できる(本願明細書【0008】)という特有の効果を奏するものである。

(3)小括
上記(2)のとおりであるから,上記相違点1について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても,引用発明並びに引用文献1,3,4及び5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2 本願発明2〜9について
本願発明2〜9は,本願発明1を減縮した発明であって,「前記第1の分析結果と前記第2の分析結果とに基づいて,前記第1の期間と前記第2の期間との間における前記被検者の認知機能の変調に関する情報を出力する出力手段」と同一の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明並びに引用文献1,3,4及び5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3 本願発明10について
本願発明10は,本願発明1に対応するプログラムの発明であり,本願発明1の「前記第1の分析結果と前記第2の分析結果とに基づいて,前記第1の期間と前記第2の期間との間における前記被検者の認知機能の変調に関する情報を出力する出力手段」に対応する機能を備えるものであるから,本願発明1と同様の理由により,当業者であっても,引用発明並びに引用文献1,3,4及び5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。


第6 むすび

以上のとおり,本願発明1〜10は,引用発明並びに引用文献1,3,4及び5に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではないから,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。

 
審決日 2021-12-16 
出願番号 P2019-082892
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G16H)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 渡邊 聡
特許庁審判官 松田 直也
関口 明紀
発明の名称 認知機能出力システム及びプログラム  
代理人 尾形 文雄  
代理人 古部 次郎  
代理人 尾形 文雄  
代理人 古部 次郎  

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