• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張  B65H
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  B65H
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B65H
審判 全部申し立て 判示事項別分類コード:857  B65H
審判 全部申し立て 特許請求の範囲の実質的変更  B65H
審判 全部申し立て (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  B65H
審判 全部申し立て 2項進歩性  B65H
管理番号 1380925
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-01-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-04-30 
確定日 2021-11-02 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6599571号発明「シート状の基材を連続的に加工する印刷装置を備える機械構造物」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6599571号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1ないし16〕について訂正することを認める。 特許第6599571号の請求項2,3,5,7ないし10,12ないし16に係る特許を維持する。 特許第6599571号の請求項1,4,6,11に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6599571号(請求項の数15。以下,「本件特許」という。)に係る出願は,平成29年7月25日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2016年8月10日 ドイツ,2017年3月7日 ドイツ)を国際出願日とする外国語特許出願であって,令和1年10月11日にその特許権の設定登録がされたものである。
同年10月30日に本件特許について特許掲載公報の発行がなされたところ,令和2年4月27日に特許異議申立人(以下,「申立人」という。)より請求項1ないし15に係る特許について本件特許異議の申立てがされ,同年8月4日付けで取消理由が通知され,同年11月5日に特許権者より訂正の請求がされるとともに意見書が提出され,同月30日付けで訂正拒絶理由が通知され,令和3年4月20日付けで取消理由(決定の予告)が通知され,同年8月5日に特許権者より訂正の請求(特許法120条の5第7項の規定により,令和2年11月5日にされた訂正の請求は取り下げられたものとみなす。以下,令和3年8月5日にされた訂正の請求を「本件訂正請求」といい,本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)がされるとともに意見書が提出され,同年9月15日付けで申立人より意見書が提出された。

第2 本件訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求の趣旨は,本件特許の特許請求の範囲を,訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1ないし16について訂正することを求める,というものであるところ,本件訂正は,次の訂正事項からなる(下線は訂正箇所を示す。)。
なお,訂正前の請求項2ないし15は,本件訂正により訂正される請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する形式で記載されたものであるから,訂正前の請求項1ないし15(訂正後の請求項1ないし16)は一群の請求項である。

(1)訂正事項1
請求項1を削除する。

(2)訂正事項2
請求項2の冒頭に,「シート状の基材を連続的に加工する機械構造物であって,複数の様々な加工ステーション(01;02;03;04;06;07;08;09;11;12)を備え,複数の加工ステーション(01;02;03;04;06;07;08;09;11;12)は,それぞれ基材ガイドユニット(24)と基材加工ユニット(26)とを有し,前記加工ステーション(01;02;03;04;06;07;08;09;11;12)のうちの少なくとも1つの加工ステーションは,基材加工ユニット(26)として,それぞれ基材にその都度印刷を行う少なくとも1つのノンインパクト印刷装置(06;37)を有し,少なくとも1つの前記ノンインパクト印刷装置(06;37)を有する該当する前記加工ステーションは,印刷胴(22;38)を有し,各々の前記ノンインパクト印刷装置(06;37)は,それぞれ前記印刷胴(22;38)の周に配置されており,各々の前記印刷胴(22;38)は,それぞれ,3倍胴または4倍胴の大きさに構成されており,各々の前記印刷胴(22;38)は,それぞれ該印刷胴(22;38)の外周面に,周方向で相前後して,それぞれ,3倍胴の大きさの構成ではそれぞれ1つの基材を保持するための3つの区分(51;52;53;54)を有し,または4倍胴の大きさの構成ではそれぞれ1つの基材を保持するための4つの区分(51;52;53;54)を有し,各々の前記印刷胴(22;38)の直前に,それぞれ,2倍胴または3倍胴の大きさに構成された渡しドラム(43)または相応の供給胴(43)が配置されている,かつ/または各々の前記印刷胴(22;38)の直後に,2倍胴または3倍胴の大きさに構成された渡しドラム(44)または相応の搬送胴(44)が配置されている,機械構造物において,該当する前記印刷胴(22;38)に関して,前記印刷胴(22;38)の回転方向において,第1の区分(51;52;53;54)の後方の端部の回転角度位置は,該当する第1の区分(51;52;53;54)の直後に配置された第2の区分(51;52;53;54)の前方の端部に対して相対的に,前記第1の区分(51;52;53;54)において保持されるべき基材の判型に依存して可変に調整可能であり,」という記載を挿入するとともに,請求項2の末尾に「請求項1記載の機械構造物。」とあるのを,「機械構造物。」と訂正する。

(3)訂正事項3
請求項3の冒頭に,「シート状の基材を連続的に加工する機械構造物であって,複数の様々な加工ステーション(01;02;03;04;06;07;08;09;11;12)を備え,複数の加工ステーション(01;02;03;04;06;07;08;09;11;12)は,それぞれ基材ガイドユニット(24)と基材加工ユニット(26)とを有し,前記加工ステーション(01;02;03;04;06;07;08;09;11;12)のうちの少なくとも1つの加工ステーションは,基材加工ユニット(26)として,それぞれ基材にその都度印刷を行う少なくとも1つのノンインパクト印刷装置(06;37)を有し,少なくとも1つの前記ノンインパクト印刷装置(06;37)を有する該当する前記加工ステーションは,印刷胴(22;38)を有し,各々の前記ノンインパクト印刷装置(06;37)は,それぞれ前記印刷胴(22;38)の周に配置されており,各々の前記印刷胴(22;38)は,それぞれ,3倍胴または4倍胴の大きさに構成されており,各々の前記印刷胴(22;38)は,それぞれ該印刷胴(22;38)の外周面に,周方向で相前後して,それぞれ,3倍胴の大きさの構成ではそれぞれ1つの基材を保持するための3つの区分(51;52;53;54)を有し,または4倍胴の大きさの構成ではそれぞれ1つの基材を保持するための4つの区分(51;52;53;54)を有し,各々の前記印刷胴(22;38)の直前に,それぞれ,2倍胴または3倍胴の大きさに構成された渡しドラム(43)または相応の供給胴(43)が配置されている,かつ/または各々の前記印刷胴(22;38)の直後に,2倍胴または3倍胴の大きさに構成された渡しドラム(44)または相応の搬送胴(44)が配置されている,機械構造物において,該当する前記印刷胴(22;38)に関して,前記印刷胴(22;38)の回転方向において,第1の区分(51;52;53;54)の後方の端部の回転角度位置は,該当する第1の区分(51;52;53;54)の直後に配置された第2の区分(51;52;53;54)の前方の端部に対して相対的に,前記第1の区分(51;52;53;54)において保持されるべき基材の判型に依存して可変に調整可能であり,」という記載を挿入するとともに,請求項3の末尾に「請求項1記載の機械構造物。」とあるのを,「機械構造物。」と訂正する。

(4)訂正事項4
請求項4を削除する。

(5)訂正事項5
請求項5の冒頭に,「シート状の基材を連続的に加工する機械構造物であって,複数の様々な加工ステーション(01;02;03;04;06;07;08;09;11;12)を備え,複数の加工ステーション(01;02;03;04;06;07;08;09;11;12)は,それぞれ基材ガイドユニット(24)と基材加工ユニット(26)とを有し,前記加工ステーション(01;02;03;04;06;07;08;09;11;12)のうちの少なくとも1つの加工ステーションは,基材加工ユニット(26)として,それぞれ基材にその都度印刷を行う少なくとも1つのノンインパクト印刷装置(06;37)を有し,少なくとも1つの前記ノンインパクト印刷装置(06;37)を有する該当する前記加工ステーションは,印刷胴(22;38)を有し,各々の前記ノンインパクト印刷装置(06;37)は,それぞれ前記印刷胴(22;38)の周に配置されており,各々の前記印刷胴(22;38)は,それぞれ,3倍胴または4倍胴の大きさに構成されており,各々の前記印刷胴(22;38)は,それぞれ該印刷胴(22;38)の外周面に,周方向で相前後して,それぞれ,3倍胴の大きさの構成ではそれぞれ1つの基材を保持するための3つの区分(51;52;53;54)を有し,または4倍胴の大きさの構成ではそれぞれ1つの基材を保持するための4つの区分(51;52;53;54)を有し,各々の前記印刷胴(22;38)の直前に,それぞれ,2倍胴または3倍胴の大きさに構成された渡しドラム(43)または相応の供給胴(43)が配置されている,かつ/または各々の前記印刷胴(22;38)の直後に,2倍胴または3倍胴の大きさに構成された渡しドラム(44)または相応の搬送胴(44)が配置されている,機械構造物において,該当する前記印刷胴(22;38)に関して,前記印刷胴(22;38)の回転方向において,第1の区分(51;52;53;54)の後方の端部の回転角度位置は,該当する第1の区分(51;52;53;54)の直後に配置された第2の区分(51;52;53;54)の前方の端部に対して相対的に,前記第1の区分(51;52;53;54)において保持されるべき基材の判型に依存して可変に調整可能であり,」という記載を挿入するとともに,請求項5の末尾に「請求項1または2または3または4記載の機械構造物。」とあるのを,「機械構造物。」と訂正する。

(6)訂正事項6
請求項6を削除する。

(7)訂正事項7
請求項7の末尾に「請求項1または2または3または4または5または6記載の機械構造物。」とあるのを,「請求項2または3または5記載の機械構造物。」と訂正する。

(8)訂正事項8
請求項8の末尾に「請求項1または2または3または4または5または6または7記載の機械構造物。」とあるのを,「請求項2または3または5または7記載の機械構造物。」と訂正する。

(9)訂正事項9
請求項9の末尾に「請求項1または2または3または4または5または6または7または8記載の機械構造物。」とあるのを,「請求項2または3または5または7または8記載の機械構造物。」と訂正する。

(10)訂正事項10
請求項10の末尾に「請求項1または2または3または4または5または6または7または8または9記載の機械構造物。」とあるのを,「請求項2または3または5または7または8または9記載の機械構造物。」と訂正する。

(11)訂正事項11
請求項11を削除する。

(12)訂正事項12
請求項12の末尾に「請求項1または2または3または4または5または6または7または8または9または10または11記載の機械構造物。」とあるのを,「請求項2または3または5または7または8または9または10記載の機械構造物。」と訂正する。

(13)訂正事項13
請求項13の末尾に「請求項1または2または3または4または5または6または7または8または9または10または11または12記載の機械構造物。」とあるのを,「請求項2または3または5または7または8または9または10または12記載の機械構造物。」と訂正する。

(14)訂正事項14
請求項14の末尾に「請求項1または2または3または4または5または6または7または8または9または10または11または12または13記載の機械構造物。」とあるのを,「請求項2または3または5または7または8または9または10または12または13記載の機械構造物。」と訂正する。

(15)訂正事項15
請求項15の末尾に「請求項1または2または3または4または5または6または7または8または9または10または11または12または13または14記載の機械構造物。」とあるのを,「請求項2または3または5または7または8または9または10または12または13または14記載の機械構造物。」と訂正する。

(16)訂正事項16
「シート状の基材を連続的に加工する機械構造物であって,複数の様々な加工ステーション(01;02;03;04;06;07;08;09;11;12)を備え,複数の加工ステーション(01;02;03;04;06;07;08;09;11;12)は,それぞれ基材ガイドユニット(24)と基材加工ユニット(26)とを有し,前記加工ステーション(01;02;03;04;06;07;08;09;11;12)のうちの少なくとも1つの加工ステーションは,基材加工ユニット(26)として,それぞれ基材にその都度印刷を行う少なくとも1つのノンインパクト印刷装置(06;37)を有し,少なくとも1つの前記ノンインパクト印刷装置(06;37)を有する該当する前記加工ステーションは,印刷胴(22;38)を有し,各々の前記ノンインパクト印刷装置(06;37)は,それぞれ前記印刷胴(22;38)の周に配置されており,各々の前記印刷胴(22;38)は,それぞれ,3倍胴または4倍胴の大きさに構成されており,各々の前記印刷胴(22;38)は,それぞれ該印刷胴(22;38)の外周面に,周方向で相前後して,それぞれ,3倍胴の大きさの構成ではそれぞれ1つの基材を保持するための3つの区分(51;52;53;54)を有し,または4倍胴の大きさの構成ではそれぞれ1つの基材を保持するための4つの区分(51;52;53;54)を有し,各々の前記印刷胴(22;38)の直前に,それぞれ,2倍胴または3倍胴の大きさに構成された渡しドラム(43)または相応の供給胴(43)が配置されている,かつ/または各々の前記印刷胴(22;38)の直後に,2倍胴または3倍胴の大きさに構成された渡しドラム(44)または相応の搬送胴(44)が配置されている,機械構造物において,該当する前記印刷胴(22;38)に関して,前記印刷胴(22;38)の回転方向において,第1の区分(51;52;53;54)の後方の端部の回転角度位置は,該当する第1の区分(51;52;53;54)の直後に配置された第2の区分(51;52;53;54)の前方の端部に対して相対的に,前記第1の区分(51;52;53;54)において保持されるべき基材の判型に依存して可変に調整可能であり,基材加工ユニット(26)を有する加工ステーションの加工胴の回転軸線と,直後に配置された渡しドラム(44)または直後に配置された搬送胴(44)の回転軸線とを通って延在する直線が,水平線に対して鋭角(α1)を形成し,かつ/または基材加工ユニット(26)を有する加工ステーションの加工胴の回転軸線と,直前に配置された渡しドラム(43)または直前に配置された供給胴(43)の回転軸線とを通って延在する直線が,水平線に対して鋭角(α2)を形成し,水平線は,それぞれ該当する前記渡しドラム(43;44)の回転軸線または該当する前記搬送胴(44)または該当する前記供給胴(43)の回転軸線を通って延在し,後置された前記渡しドラム(44)または後置された前記搬送胴(44)に関して向けられた角度(α1)は,前置された前記渡しドラム(43)または前置された前記供給胴(43)に関して向けられた角度(α2)の1.3倍〜1.7倍の範囲にある,または前置された前記渡しドラム(43)または前置された前記供給胴(43)に関して向けられた角度(α2)の1.5倍であることを特徴とする,機械構造物。」との請求項16を新たに設ける。

2 訂正の目的について
(1)訂正事項1,4,6ないし11,13ないし15について
訂正事項1,4,6は,それぞれ請求項1,4,6を削除する訂正であり,訂正事項7ないし10は,請求項7ないし10について,引用する請求項から請求項1,4,6を削除する訂正であり,訂正事項11は,請求項11を削除する訂正であり,訂正事項13ないし15は,請求項13ないし15について,引用する請求項から請求項1,4,6及び11を削除する訂正であるから,これら訂正事項1,4,6ないし11,13ないし15は,特許法120条の5第2項1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2)訂正事項2,3,5について
訂正事項2及び3は,それぞれ請求項1を引用する形式で記載されていた請求項2及び3を,独立形式の記載に改める訂正であるから,特許法120条の5第2項4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに該当する。
また,訂正事項5は,請求項1ないし4を択一的に引用していた請求項5について,引用する請求項を請求項1のみに減縮するとともに,独立形式の記載に改める訂正であるから,同項1号に掲げる特許請求の範囲の減縮及び同項4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに該当する。

(3)訂正事項12について
訂正事項12は,請求項1ないし11を択一的に引用していた請求項12のうちの請求項2ないし11のいずれかを引用するものを対象として,引用する請求項から請求項4,6,11を削除する訂正であるから,特許法120条の5第2項1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(4)訂正事項16について
訂正事項16は,請求項1ないし11を択一的に引用していた請求項12のうちの請求項1を引用するものを,独立形式の記載に改めて,請求項16とする訂正事項(以下,「訂正事項16−1」という。)と,「角度(α1)」及び「角度(α2)」の関係が,「角度(α1)は・・・角度(α2)の1倍〜2倍の範囲にある,または・・・角度(α2)の1.3倍〜1.7倍の範囲にある,または・・・角度(α2)の1.5倍である」であったものを,「角度(α1)は・・・角度(α2)の1.3倍〜1.7倍の範囲にある,または・・・角度(α2)の1.5倍である」とする訂正事項(以下,「訂正事項16−2」という。)とからなる。
訂正事項16−1は,特許法120条の5第2項4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに該当する。
また,訂正事項16−2は,角度(α2)に対する相対的な角度(α1)の大きさが取り得る範囲を,広い範囲から,当該広い範囲内の範囲であってより狭い範囲に減縮する訂正事項であるから,同項1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

新規事項の追加について
訂正事項1,4,6ないし11,13ないし15は,請求項を削除する訂正,又は引用する請求項から一部の請求項を削除する訂正であるから,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであることは明らかである。
また,訂正事項2及び3は,請求項1の記載を引用する形式で記載された請求項2及び3について,独立形式の記載に改める訂正であって,訂正の前後でその内容に実質的な違いはないから,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。
また,訂正事項5は,請求項1ないし4を択一的に引用していた請求項5について,引用する請求項を請求項1のみに減縮するとともに,独立形式の記載に改める訂正であるから,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであることは明らかである。
また,訂正事項12は,請求項1ないし11を択一的に引用していた請求項12のうちの請求項2ないし11のいずれかを引用するものを対象として,引用する請求項から請求項4,6,11を削除する訂正であるから,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであることは明らかである。
また,訂正後の請求項16に記載された事項は,訂正前の特許請求の範囲の請求項1及び12,並びに訂正前の明細書の【0039】等に記載された事項であるから,訂正事項16は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。
以上のとおりであるから,訂正事項1ないし16は,特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項の規定に適合する。

4 特許請求の範囲の実質拡張・変更について
(1)訂正事項1ないし11,13ないし15について
訂正事項1,4,6ないし11.13ないし15は,請求項を削除する訂正,又は引用する請求項から一部の請求項を削除する訂正であるから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでないことは明らかである。
また,訂正事項2及び3は,請求項1の記載を引用する形式で記載された請求項2及び3について,独立形式の記載に改める訂正であって,訂正の前後でその内容に実質的な違いはないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでない。
また,訂正事項5は,請求項1ないし4を択一的に引用していた請求項5について,引用する請求項を請求項1のみに減縮するとともに,独立形式の記載に改める訂正であるから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでないことは明らかである。
また,訂正事項12は,請求項1ないし11を択一的に引用していた請求項12のうちの請求項2ないし11のいずれかを引用するものを対象として,引用する請求項から請求項4,6,11を削除する訂正であるから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでないことは明らかであり,訂正事項16は,請求項12のうち残余の部分(請求項1の記載を引用するもの)について,独立形式の記載に改めるとともに,角度(α2)に対する相対的な角度(α1)の大きさが取り得る範囲を,広い範囲から,当該広い範囲内の範囲であってより狭い範囲に減縮するものであるから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでない。
以上のとおりであるから,訂正事項1ないし11,13ないし15は,特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項の規定に適合する。

5 訂正単位について
訂正請求書において,特許権者は,訂正後の請求項2,3,5,16について,当該請求項についての訂正が認められる場合には,一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求めている。
ここで,訂正後の請求項7ないし10,12ないし15は,訂正後の請求項2,3,5の記載を引用する形式で記載されているところ,訂正後の請求項2,3,5についての訂正と,当該訂正後の請求項2,3,5の記載を引用する形式で記載された訂正後の請求項7ないし10,12ないし15についての訂正を別の訂正単位とすると,特許請求の範囲の一覧性の欠如が生じることがあるから,訂正後の請求項2,3,5についての訂正を,別の訂正単位として認めることは,特許法120条の5第4項の立法趣旨に反することとなる。
また,訂正後の請求項16は,訂正前の請求項12のうち訂正前の請求項1を引用する部分を請求項12から分離して新たな請求項としたものであって,当該訂正後の請求項16についての訂正は,訂正後の請求項12についての訂正と実質上一つの訂正事項を構成するものとみるのが相当であって,訂正後の請求項16についての訂正と訂正後の請求項12についての訂正を別の訂正単位とすると,特許請求の範囲の一覧性の欠如が生じることがあるから,訂正後の請求項16についての訂正を,別の訂正単位として認めることは,同項の立法趣旨に反することとなる。
以上のとおりであるから,本件訂正については,訂正後の請求項1ないし16についての訂正を一つの訂正単位として取り扱う。

6 小括
前記2ないし4で述べたとおり,訂正事項1ないし16は特許法120条の5第2項ただし書1号及び4号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するので,訂正後の請求項〔1ないし16〕について訂正することを認める。

第3 本件特許の請求項2,3,5,7ないし10,12ないし16に係る発明
前記第2 6で述べたとおり,訂正後の請求項〔1ないし16〕についての訂正が認められるから,本件特許の請求項2,3,5,7ないし10,12ないし16に係る発明(請求項1,4,6,11に係る発明は,本件訂正によって削除された。以下,各請求項に係る発明を「本件特許発明2」,「本件特許発明3」等といい,これらを総称して「本件特許発明」という。)は,それぞれ,本件訂正後の特許請求の範囲の請求項2,3,5,7ないし10,12ないし16に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ,当該請求項2,3,5,7ないし10,12ないし16の記載は,次のとおりである。

「【請求項2】
シート状の基材を連続的に加工する機械構造物であって,
複数の様々な加工ステーション(01;02;03;04;06;07;08;09;11;12)を備え,
複数の加工ステーション(01;02;03;04;06;07;08;09;11;12)は,それぞれ基材ガイドユニット(24)と基材加工ユニット(26)とを有し,前記加工ステーション(01;02;03;04;06;07;08;09;11;12)のうちの少なくとも1つの加工ステーションは,基材加工ユニット(26)として,それぞれ基材にその都度印刷を行う少なくとも1つのノンインパクト印刷装置(06;37)を有し,少なくとも1つの前記ノンインパクト印刷装置(06;37)を有する該当する前記加工ステーションは,印刷胴(22;38)を有し,各々の前記ノンインパクト印刷装置(06;37)は,それぞれ前記印刷胴(22;38)の周に配置されており,各々の前記印刷胴(22;38)は,それぞれ,3倍胴または4倍胴の大きさに構成されており,各々の前記印刷胴(22;38)は,それぞれ該印刷胴(22;38)の外周面に,周方向で相前後して,それぞれ,3倍胴の大きさの構成ではそれぞれ1つの基材を保持するための3つの区分(51;52;53;54)を有し,または4倍胴の大きさの構成ではそれぞれ1つの基材を保持するための4つの区分(51;52;53;54)を有し,各々の前記印刷胴(22;38)の直前に,それぞれ,2倍胴または3倍胴の大きさに構成された渡しドラム(43)または相応の供給胴(43)が配置されている,かつ/または各々の前記印刷胴(22;38)の直後に,2倍胴または3倍胴の大きさに構成された渡しドラム(44)または相応の搬送胴(44)が配置されている,機械構造物において,
該当する前記印刷胴(22;38)に関して,前記印刷胴(22;38)の回転方向において,第1の区分(51;52;53;54)の後方の端部の回転角度位置は,該当する第1の区分(51;52;53;54)の直後に配置された第2の区分(51;52;53;54)の前方の端部に対して相対的に,前記第1の区分(51;52;53;54)において保持されるべき基材の判型に依存して可変に調整可能であり,
それぞれ,各々の前記印刷胴(22;38)の直前に配置された前記渡しドラム(43)または直前に配置された前記供給胴(43)は,それぞれ,各々の基材が案内される隙間(32)を形成して,該当する前記印刷胴(22;38)の外周面に当接されているまたは少なくとも当接可能であり,該当する前記印刷胴(22;38)と直前に配置された前記渡しドラム(43)または直前に配置された前記供給胴(43)との間に形成された前記隙間(32)の幅は,その都度,各々の基材,特に基材の厚さまたは坪量に依存して調整されることを特徴とする,機械構造物。
【請求項3】
シート状の基材を連続的に加工する機械構造物であって,
複数の様々な加工ステーション(01;02;03;04;06;07;08;09;11;12)を備え,
複数の加工ステーション(01;02;03;04;06;07;08;09;11;12)は,それぞれ基材ガイドユニット(24)と基材加工ユニット(26)とを有し,前記加工ステーション(01;02;03;04;06;07;08;09;11;12)のうちの少なくとも1つの加工ステーションは,基材加工ユニット(26)として,それぞれ基材にその都度印刷を行う少なくとも1つのノンインパクト印刷装置(06;37)を有し,少なくとも1つの前記ノンインパクト印刷装置(06;37)を有する該当する前記加工ステーションは,印刷胴(22;38)を有し,各々の前記ノンインパクト印刷装置(06;37)は,それぞれ前記印刷胴(22;38)の周に配置されており,各々の前記印刷胴(22;38)は,それぞれ,3倍胴または4倍胴の大きさに構成されており,各々の前記印刷胴(22;38)は,それぞれ該印刷胴(22;38)の外周面に,周方向で相前後して,それぞれ,3倍胴の大きさの構成ではそれぞれ1つの基材を保持するための3つの区分(51;52;53;54)を有し,または4倍胴の大きさの構成ではそれぞれ1つの基材を保持するための4つの区分(51;52;53;54)を有し,各々の前記印刷胴(22;38)の直前に,それぞれ,2倍胴または3倍胴の大きさに構成された渡しドラム(43)または相応の供給胴(43)が配置されている,かつ/または各々の前記印刷胴(22;38)の直後に,2倍胴または3倍胴の大きさに構成された渡しドラム(44)または相応の搬送胴(44)が配置されている,機械構造物において,
該当する前記印刷胴(22;38)に関して,前記印刷胴(22;38)の回転方向において,第1の区分(51;52;53;54)の後方の端部の回転角度位置は,該当する第1の区分(51;52;53;54)の直後に配置された第2の区分(51;52;53;54)の前方の端部に対して相対的に,前記第1の区分(51;52;53;54)において保持されるべき基材の判型に依存して可変に調整可能であり,
それぞれ,各々の前記印刷胴(22;38)の直前に配置された前記渡しドラム(43)または直前に配置された前記供給胴(43)は,それぞれ前記渡しドラム(43)または前記供給胴(43)の周に,それぞれ1つの弾性的な上張りを有し,該上張りでもって,前記渡しドラム(43)または前記供給胴(43)は,該当する前記印刷胴(22;38)の外周面に当接されているまたは少なくとも当接可能であることを特徴とする,機械構造物。
【請求項5】
シート状の基材を連続的に加工する機械構造物であって,
複数の様々な加工ステーション(01;02;03;04;06;07;08;09;11;12)を備え,
複数の加工ステーション(01;02;03;04;06;07;08;09;11;12)は,それぞれ基材ガイドユニット(24)と基材加工ユニット(26)とを有し,前記加工ステーション(01;02;03;04;06;07;08;09;11;12)のうちの少なくとも1つの加工ステーションは,基材加工ユニット(26)として,それぞれ基材にその都度印刷を行う少なくとも1つのノンインパクト印刷装置(06;37)を有し,少なくとも1つの前記ノンインパクト印刷装置(06;37)を有する該当する前記加工ステーションは,印刷胴(22;38)を有し,各々の前記ノンインパクト印刷装置(06;37)は,それぞれ前記印刷胴(22;38)の周に配置されており,各々の前記印刷胴(22;38)は,それぞれ,3倍胴または4倍胴の大きさに構成されており,各々の前記印刷胴(22;38)は,それぞれ該印刷胴(22;38)の外周面に,周方向で相前後して,それぞれ,3倍胴の大きさの構成ではそれぞれ1つの基材を保持するための3つの区分(51;52;53;54)を有し,または4倍胴の大きさの構成ではそれぞれ1つの基材を保持するための4つの区分(51;52;53;54)を有し,各々の前記印刷胴(22;38)の直前に,それぞれ,2倍胴または3倍胴の大きさに構成された渡しドラム(43)または相応の供給胴(43)が配置されている,かつ/または各々の前記印刷胴(22;38)の直後に,2倍胴または3倍胴の大きさに構成された渡しドラム(44)または相応の搬送胴(44)が配置されている,機械構造物において,
該当する前記印刷胴(22;38)に関して,前記印刷胴(22;38)の回転方向において,第1の区分(51;52;53;54)の後方の端部の回転角度位置は,該当する第1の区分(51;52;53;54)の直後に配置された第2の区分(51;52;53;54)の前方の端部に対して相対的に,前記第1の区分(51;52;53;54)において保持されるべき基材の判型に依存して可変に調整可能であり,
それぞれ,各々の前記印刷胴(22;38)の直前に配置された前記渡しドラム(43)または直前に配置された前記供給胴(43)は,それぞれ全体が位置変化可能に支持されていることを特徴とする,機械構造物。
【請求項7】
それぞれ,各々の前記印刷胴(22;38)の直前に配置された前記渡しドラム(43)または直前に配置された前記供給胴(43)は,それぞれ蓄えドラムとしてまたは吸着ドラムとして構成されていることを特徴とする,請求項2または3または5記載の機械構造物。
【請求項8】
各々の前記印刷胴(22;38)は,それぞれ吸着胴として構成されており,該当する前記印刷胴(22;38)への吸着空気の供給は,その都度前記印刷胴(22;38)の回転角度位置に依存して切り換えられるまたは少なくとも切換え可能であることを特徴とする,請求項2または3または5または7記載の機械構造物。
【請求項9】
各々の前記区分(51;52;53;54)において,それぞれ前記印刷胴(22;38)の内側から外周面に向けて延在する複数の通路(56)が終端して配置されており,前記通路(56)において,吸着装置により,周辺空気圧に対して負圧が形成されるまたは少なくとも形成可能であり,それぞれ前記区分(51;52;53;54)のうちの1つの区分において終端する複数の通路(56)が,各々の前記区分(51;52;53;54)において前記印刷胴(22;38)の外周面に吸着孔区分を形成し,各々の前記吸着孔区分の大きさは,保持されるべき基材の判型に依存して調整されるまたは少なくとも調整可能であることを特徴とする,請求項2または3または5または7または8記載の機械構造物。
【請求項10】
前記印刷胴(22;38)の回転方向において,各々の前記区分(51;52;53;54)の少なくとも前方の端部にまたは前方の端部にだけ,それぞれ少なくとも1つのサッカ(58)または前記印刷胴(22;38)の軸方向に延在する1つのサッカ(58)列が設けられていることを特徴とする,請求項2または3または5または7または8または9記載の機械構造物。
【請求項12】
基材加工ユニット(26)を有する加工ステーションの加工胴の回転軸線と,直後に配置された渡しドラム(44)または直後に配置された搬送胴(44)の回転軸線とを通って延在する直線が,水平線に対して鋭角(α1)を形成し,かつ/または基材加工ユニット(26)を有する加工ステーションの加工胴の回転軸線と,直前に配置された渡しドラム(43)または直前に配置された供給胴(43)の回転軸線とを通って延在する直線が,水平線に対して鋭角(α2)を形成し,水平線は,それぞれ該当する前記渡しドラム(43;44)の回転軸線または該当する前記搬送胴(44)または該当する前記供給胴(43)の回転軸線を通って延在し,後置された前記渡しドラム(44)または後置された前記搬送胴(44)に関して向けられた角度(α1)は,前置された前記渡しドラム(43)または前置された前記供給胴(43)に関して向けられた角度(α2)の1倍〜2倍の範囲にある,または前置された前記渡しドラム(43)または前置された前記供給胴(43)に関して向けられた角度(α2)の1.3倍〜1.7倍の範囲にある,または前置された前記渡しドラム(43)または前置された前記供給胴(43)に関して向けられた角度(α2)の1.5倍であることを特徴とする,請求項2または3または5または7または8または9または10記載の機械構造物。
【請求項13】
前記加工ステーション(01;02;03;04;06;07;08;09;11;12)は,それぞれモジュールとして構成されており,各々のモジュールは,独立して製作された機械ユニットまたは機能性構成群であり,各々の前記モジュールは,独自のフレーム内に配置されており,隣り合うモジュールは,該モジュールの接合箇所に,略鉛直の接合面を有し,かつ/または前記基材ガイドユニット(24)および前記基材加工ユニット(26)は,該基材ガイドユニット(24)および該基材加工ユニット(26)の接合箇所に,それぞれ略水平の接合面を有することを特徴とする,請求項2または3または5または7または8または9または10または12記載の機械構造物。
【請求項14】
その都度の該当する前記ノンインパクト印刷装置(06;37)により印刷されるべき基材が,該当する前記印刷胴(22;38)上でまたは前記印刷胴(22;38)の直前に配置された前記渡しドラム(43)上でまたは直前に配置された前記供給胴(43)上で,それぞれ前記基材のその都度の伸び姿勢で配置されており,該伸び姿勢とは,基材の後縁が基材の前縁に関して正確な位置に固定された基材の状態を表すことを特徴とする,請求項2または3または5または7または8または9または10または12または13記載の機械構造物。
【請求項15】
前記印刷胴(22;38)の直後に配置された前記渡しドラム(44)または直後に配置された前記搬送胴(44)の下方に,かつ/または前記印刷胴(22;38)の直前に配置された前記渡しドラム(43)または前記印刷胴(22;38)の直前に配置された供給胴(43)の下方に,それぞれ,その都度搬送されるべき基材を支持するために,それぞれガイドプレート(42)を有するコーム型サッカ(33)が配置されており,前記基材は,その都度該当する前記コーム型サッカ(33)の前記ガイドプレート(42)に沿って,該ガイドプレート(42)に擦過して搬送され,前記コーム型サッカ(33)は,少なくとも1つの吸着装置(34)を有し,該吸着装置(34)により,前記ガイドプレート(42)に支持されるべき基材が,該ガイドプレート(42)の方向へ吸着されることを特徴とする,請求項1または2または3または4または5または6または7または8または9または10または11または12または13または14記載の機械構造物。
【請求項16】
シート状の基材を連続的に加工する機械構造物であって,
複数の様々な加工ステーション(01;02;03;04;06;07;08;09;11;12)を備え,
複数の加工ステーション(01;02;03;04;06;07;08;09;11;12)は,それぞれ基材ガイドユニット(24)と基材加工ユニット(26)とを有し,前記加工ステーション(01;02;03;04;06;07;08;09;11;12)のうちの少なくとも1つの加工ステーションは,基材加工ユニット(26)として,それぞれ基材にその都度印刷を行う少なくとも1つのノンインパクト印刷装置(06;37)を有し,少なくとも1つの前記ノンインパクト印刷装置(06;37)を有する該当する前記加工ステーションは,印刷胴(22;38)を有し,各々の前記ノンインパクト印刷装置(06;37)は,それぞれ前記印刷胴(22;38)の周に配置されており,各々の前記印刷胴(22;38)は,それぞれ,3倍胴または4倍胴の大きさに構成されており,各々の前記印刷胴(22;38)は,それぞれ該印刷胴(22;38)の外周面に,周方向で相前後して,それぞれ,3倍胴の大きさの構成ではそれぞれ1つの基材を保持するための3つの区分(51;52;53;54)を有し,または4倍胴の大きさの構成ではそれぞれ1つの基材を保持するための4つの区分(51;52;53;54)を有し,各々の前記印刷胴(22;38)の直前に,それぞれ,2倍胴または3倍胴の大きさに構成された渡しドラム(43)または相応の供給胴(43)が配置されている,かつ/または各々の前記印刷胴(22;38)の直後に,2倍胴または3倍胴の大きさに構成された渡しドラム(44)または相応の搬送胴(44)が配置されている,機械構造物において,
該当する前記印刷胴(22;38)に関して,前記印刷胴(22;38)の回転方向において,第1の区分(51;52;53;54)の後方の端部の回転角度位置は,該当する第1の区分(51;52;53;54)の直後に配置された第2の区分(51;52;53;54)の前方の端部に対して相対的に,前記第1の区分(51;52;53;54)において保持されるべき基材の判型に依存して可変に調整可能であり,
基材加工ユニット(26)を有する加工ステーションの加工胴の回転軸線と,直後に配置された渡しドラム(44)または直後に配置された搬送胴(44)の回転軸線とを通って延在する直線が,水平線に対して鋭角(α1)を形成し,かつ/または基材加工ユニット(26)を有する加工ステーションの加工胴の回転軸線と,直前に配置された渡しドラム(43)または直前に配置された供給胴(43)の回転軸線とを通って延在する直線が,水平線に対して鋭角(α2)を形成し,水平線は,それぞれ該当する前記渡しドラム(43;44)の回転軸線または該当する前記搬送胴(44)または該当する前記供給胴(43)の回転軸線を通って延在し,後置された前記渡しドラム(44)または後置された前記搬送胴(44)に関して向けられた角度(α1)は,前置された前記渡しドラム(43)または前置された前記供給胴(43)に関して向けられた角度(α2)の1.3倍〜1.7倍の範囲にある,または前置された前記渡しドラム(43)または前置された前記供給胴(43)に関して向けられた角度(α2)の1.5倍であることを特徴とする,機械構造物。」

なお,本件特許発明の「基材ガイドユニット」とは,いかなる作用,機能を有するユニットであるのか,特許請求の範囲の記載からは明確に特定することができないが,本件特許明細書の【0051】の「基材ガイドユニット24は,基材を搬送するために,たとえば,1つまたは複数の搬送胴39または1つまたは複数の渡しドラム43;44を有する搬送胴構造物を具備し,この場合,搬送胴39または渡しドラム43;44は,複数倍胴の大きさに,好適には2倍胴または3倍胴の大きさに構成されている。」という記載や,【0052】の「好適な態様では,第1のノンインパクト印刷装置06に,別の基材加工ユニット26を有しない,純粋な搬送モジュールとして構成された基材ガイドユニット24が続く。・・・(中略)・・・別の態様では,択一的にまたは追加的に,第1のノンインパクト印刷装置06に,別の基材加工ユニット26を有しない,純粋な搬送モジュールとして構成された基材ガイドユニット24が前置されている。」という記載等を参酌すると,「基材ガイドユニット」とは,基材を搬送する機能を有するユニットを意味するものと解するのが相当である。

第4 通知された取消理由の概要
令和3年4月20日付けの取消理由通知(決定の予告)により,本件訂正前の請求項1,4,6ないし15(請求項1,6ないし15は特許された時点の請求項1,6ないし15であり,請求項2ないし5は令和2年11月5にされた訂正の請求による訂正後の請求項2ないし5である。なお,請求項2,3,5に対して取消理由は通知されていない。)に係る特許に対して通知された取消理由は,概略次のとおりである。

取消理由1(明確性要件違反):
本件特許の請求項11には,「各々の前記区分(51;52;53;54)の少なくとも前方の端部にまたは前方の端部にだけ,それぞれ1つの歯列(57)が設けられており,」との発明特定事項が記載されているが,当該発明特定事項中の「歯列」とはいかなる作用,機能,構造等を有する部位であるのかが,本件特許明細書の記載や出願時の技術常識を参酌しても,明確に理解できない。
したがって,本件特許の請求項11及び当該請求項11の記載を引用する形式で記載された請求項12ないし15に係る発明は明確でない。
よって,それらに係る特許は,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

取消理由2(進歩性欠如):
本件特許の請求項1,7ないし10,12ないし15に係る発明は,本件特許の優先権主張の日より前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて,本件特許の優先権主張の日より前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,当該請求項1,7ないし10,12ないし15に係る特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものである。

甲1:特開2015−63398号公報
甲7:特開2011−161840号公報
甲9:特許第5068203号公報

取消理由3(サポート要件違反)
本件特許の請求項4には,「それぞれ,各々の前記印刷胴(22;38)の直前に配置された前記渡しドラム(43)または直前に配置された前記供給胴(43)は,それぞれ周方向で位置調整可能な複数の胴面(29)を有する」との発明特定事項が記載されているが,本件明細書の発明の詳細な説明には,印刷胴の直前に配置された渡しドラムの胴面に関して,【0060】に,「図14は,たとえば4倍胴の大きさに構成された印刷胴22;38と,この印刷胴22;38の直前に配置された2倍胴の大きさに構成された,供給ドラムまたは供給胴とも称される渡しドラム43との詳細図であり,・・・(中略)・・・渡しドラム43の,好適には圧縮可能にかつ/または弾性的に構成された胴面29または完全な渡しドラム43の全体が,たとえば,それぞれたとえば偏心ブシュとして構成された偏心軸受31に軸支されていて,ひいては偏心的に位置調整可能である,特に制御ユニットにより遠隔位置調整可能である。・・・(中略)・・・渡しドラム43の胴面29または完全な渡しドラム43の全体の偏心的な位置調整により,好適には同時に,印刷胴22;38の外周面と渡しドラム43の外周面との間の隙間32だけではなく渡しドラム43とその直前に配置された渡し胴39との間の隙間も,特に被印刷物に依存して調整されるまたは少なくとも調整可能である。」との記載があるが,前記胴面が周方向で位置調整可能なことは記載も示唆もされていない。また,当該発明特定事項が,本件特許に係る出願の出願時の技術常識から,自明の事項であると認めることもできない。
したがって,請求項4に係る発明,及び当該請求項4の記載を引用する形式で記載された請求項6ないし15に係る発明は,発明の詳細な説明に記載したものでない。
よって,本件特許の請求項4,6ないし15に係る特許は,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

取消理由4(明確性要件違反)
本件特許の請求項6は,「請求項4を引用する請求項5」を引用する形式で記載されているところ,本件特許の請求項5は,訂正事項5により,他の請求項の記載を引用しない独立形式の請求項に訂正されているから,訂正後の特許請求の範囲において「請求項4を引用する請求項5」は存在しない。
したがって,「請求項4を引用する請求項5」を引用する形式で記載された本件特許の請求項6に係る発明,及び請求項6の記載を引用する形式で記載された請求項7ないし15に係る発明は明確でない。
よって,本件特許の請求項6ないし15に係る特許は,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

第5 通知した取消理由に対する判断
1 取消理由1(明確性要件違反)について
本件訂正により,請求項11は削除された。
また,本件訂正前に,請求項11の記載を引用する形式で記載されていた請求項12ないし15に対応する本件訂正後の請求項12ないし16には,いずれにも,「歯列」なる発明特定事項は記載されていない。
したがって,取消理由1(明確性要件違反)によって,本件特許発明11ないし16についての特許を取り消すことはできない。

2 取消理由2(進歩性欠如)について
令和3年4月20日付けの取消理由通知(決定の予告)において,取消理由2(進歩性欠如)の対象とされた請求項は,本件訂正前の請求項1,7ないし10,12ないし15であるところ,本件訂正により請求項1は削除され,本件訂正前の請求項7ないし10,12ないし15は本件訂正後の請求項7ないし10,12ないし16に対応するから,本件訂正後の請求項7ないし10,12ないし16について判断する。

(1)引用例
ア 甲1
(ア)甲1の記載
甲1は,本件特許の最先の優先権主張の日(2016年8月10日。以下,「本件優先日」という。)より前である平成27年4月9日に,電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであるところ,当該甲1には,次の記載がある。

a 「【0001】
本発明は,搬送体及びこの搬送体を備える画像形成装置に係り,特に,円筒部の外周面に形成された複数の溝部からエアを吸引することで記録媒体を吸着させて搬送する搬送体及びこの搬送体を備える画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
枚葉状の記録媒体を搬送ドラムで搬送するインクジェット記録装置では,インクジェットヘッドを損傷させないために,記録媒体を浮きなく搬送ドラムに密着させて搬送させる必要がある。そこで,搬送ドラムで記録媒体を吸着して搬送することが行われている。
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
搬送ドラムで記録媒体を吸着搬送する場合,厚みが0.2mm以上,特に0.3mm以上の記録媒体は,コシが強い,すなわち,剛性が高いため,搬送ドラムの曲率に沿い難く,記録媒体の後端部が搬送ドラムから剥離しやすい。
【0007】
したがって,コシの強い,すなわち,剛性の高い記録媒体を吸着穴によるドラム搬送により密着搬送する場合,記録媒体の後端部を剥離なく吸着搬送させるためには,記録媒体の後端部への高い吸着圧力が必要である。
【0008】
また,複数種類の記録媒体のサイズに対応するために,最大サイズに合わせて多数の吸着穴を設け,多数の吸着穴を共通のポンプで吸引する場合には,小さいサイズの記録媒体を使用するときには開放となる吸着穴が存在してしまい,開放となった吸着穴からエアもれが起こり,吸着圧力の不足による記録媒体の固定不良を招いてしまう。
・・・(中略)・・・
【0010】
本発明は,このような事情に鑑みてなされたもので,記録媒体のサイズに依らず,記録媒体を搬送体に密着させるために十分な吸着圧力を記録媒体に付与することができ,記録媒体の後端部の搬送体からの剥離を防止することができる搬送体及びこの搬送体を備える画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は前記目的を達成するために,回転して記録媒体を搬送する搬送体であって,記録媒体の搬送面となる外周面を有する円筒部と,円筒部の外周面に形成された複数の溝部と,円筒部の軸方向に延び,円筒部の外周部に周方向に沿って形成され,溝部と連通する複数の空気通路と,複数の空気通路に接続された真空室と,真空室と複数の空気通路との間にそれぞれ設けられた複数の開閉バルブと,真空室に接続され,空気を吸引する吸引ポンプと,を有する搬送体を提供する。
【0012】
軸方向に延びる溝部と連通する空気通路を設け,複数の空気通路に開閉バルブをそれぞれ設けるようにしたので,記録媒体の搬送方向長さによって吸着領域を切り替えることができる。そして,記録媒体のサイズに従って開閉バルブの開閉を行うことで,記録媒体のサイズに依らず高い吸着圧力を付与することができるので,記録媒体の後端部の剥離を防止することができる。
・・・(中略)・・・
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば,記録媒体のサイズに依らず,記録媒体を搬送体に密着させるために十分な吸着圧力を記録媒体に付与することができ,記録媒体の後端部の搬送体からの剥離を防止することができる搬送体及びこの搬送体を備える画像形成装置を提供することができる。」

b 「【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明が適用されたインクジェット記録装置の全体構成を示す概略図
・・・(中略)・・・
【図3】本発明に係る搬送体の実施形態の斜視図
【図4】本発明に係る搬送体の長溝と貫通孔を示す断面図
【図5】本発明に係る搬送体の実施形態を上から見た概略図」

c 「【発明を実施するための形態】
【0030】
以下,添付図面に従って本発明に係るインクジェット記録装置の好ましい実施の形態について詳説する。
【0031】
《全体構成》
図1は,本発明に係る搬送体が組み込まれたインクジェット記録装置の全体構成を示す概略図である。
【0032】
同図に示すインクジェット記録装置10は,枚葉の用紙Pに水性インク(水を溶媒に含むインク)を用いてインクジェット方式で画像を記録する記録装置である。インクジェット記録装置10は,用紙Pを給紙する給紙部20と,用紙Pの記録面に所定の処理液を付与する処理液付与部30と,を備える。また,インクジェット記録装置10は,用紙Pの記録面にシアン(C),マゼンタ(M),イエロ(Y),クロ(K)の各色のインク滴をインクジェットヘッドで打滴して,カラー画像を描画する画像記録部40を備える。さらに,インクジェット記録装置10は,用紙Pに打滴されたインク滴を乾燥させるインク乾燥部50と,用紙Pに記録された画像を定着させる定着部60と,用紙Pを回収する回収部70と,を備える。
【0033】
処理液付与部30,画像記録部40,インク乾燥部50,及び,定着部60の各部には,それぞれ用紙Pの搬送手段として,処理液付与ドラム31,画像記録ドラム41,インク乾燥ドラム51,及び,定着ドラム61が備えられている。用紙Pは,この処理液付与ドラム31,画像記録ドラム41,インク乾燥ドラム51,及び,定着ドラム61によって,処理液付与部30,画像記録部40,インク乾燥部50,及び,定着部60の各部を搬送される。すなわち,処理液付与ドラム31,画像記録ドラム41,インク乾燥ドラム51,及び,定着ドラム61は,搬送ドラムとして機能する。
【0034】
処理液付与ドラム31,画像記録ドラム41,インク乾燥ドラム51,及び,定着ドラム61は,用紙幅に対応して形成されており,図示しないモータに駆動されて回転(図1において,反時計回りに回転)する。処理液付与ドラム31,画像記録ドラム41,インク乾燥ドラム51,及び,定着ドラム61の周面には,それぞれ,グリッパGが備えられており,用紙Pは,このグリッパGに先端部を把持されて搬送される。本例では,処理液付与ドラム31,画像記録ドラム41,インク乾燥ドラム51,及び,定着ドラム61の周面には,2箇所(180°間隔)にグリッパGが備えられており,1回転で2枚の用紙Pを搬送できるように構成されている。
【0035】
また,処理液付与ドラム31,画像記録ドラム41,インク乾燥ドラム51,及び,定着ドラム61の周面には,多数の吸着穴が形成されており,用紙Pは,この吸着穴から裏面(記録面の反対側の面)を真空吸着されて,処理液付与ドラム31,画像記録ドラム41,インク乾燥ドラム51,及び,定着ドラム61の各々の外周面上に保持される。
【0036】
処理液付与部30と画像記録部40の間,画像記録部40とインク乾燥部50の間,インク乾燥部50と定着部60の間には,それぞれ渡し胴80,90,100が配置されている。用紙Pは,この渡し胴80,90,100によって,各部の間を搬送される。
【0037】
各渡し胴80,90,100は,枠体で構成された渡し胴本体81,91,101と,その渡し胴本体81,91,101に備えられたグリッパGとで構成されている。渡し胴本体81,91,101は,用紙幅に対応して形成されており,図示しないモータに駆動されて回転する(図1において,時計回りに回転)。これにより,グリッパGが同一円周上を回転する。用紙Pは,このグリッパGに先端部を把持されて搬送される。なお,本例では,一対のグリッパGが回転軸を挟んで対称位置に配置されており,1回転で2枚の用紙を保持して搬送できるように構成されている。
【0038】
各渡し胴80,90,100の下部には,用紙Pの搬送経路に沿って円弧状のガイド板83,93,103が配設されている。渡し胴80,90,100によって搬送される用紙Pは,このガイド板83,93,103に裏面(記録面の反対側の面)をガイドされながら搬送される。
【0039】
また,各渡し胴80,90,100の内部には,渡し胴80によって搬送される用紙Pに向けて熱風を吹き出すドライヤ84,94,104が配置されている。各渡し胴80,90,100によって搬送される用紙Pは,その搬送過程でドライヤ84,94,104から吹き出された熱風が記録面に吹き当てられる。
【0040】
給紙部20から給紙された用紙Pは,処理液付与部30の搬送ドラムである処理液付与ドラム31に受け渡され,処理液付与ドラム31から渡し胴80を介して画像記録部40の搬送ドラムである画像記録ドラム41に受け渡される。そして,画像記録ドラム41から渡し胴90を介してインク乾燥部50の搬送ドラムであるインク乾燥ドラム51に受け渡され,インク乾燥ドラム51から渡し胴100を介して定着部60の搬送ドラムである定着ドラム61に受け渡される。そして,定着ドラム61から回収部70へと受け渡される。この一連の搬送過程で用紙Pは,所要の処理が施されて,記録面に画像が形成される。」

d 「【0042】
以下,本実施の形態のインクジェット記録装置10の各部の構成について詳説する。
【0043】
<給紙部>
給紙部20は,給紙装置21と,給紙トレイ22と,渡し胴23とを備えており,枚葉の用紙Pを処理液付与部30に1枚ずつ連続的に給紙する。
【0044】
給紙装置21は,図示しないマガジンにスタックされた用紙Pを上側から順に1枚ずつ給紙トレイ22に給紙する。
【0045】
給紙トレイ22は,給紙装置21から給紙された用紙Pを渡し胴23に向けて送り出す。
【0046】
渡し胴23は,給紙トレイ22から送り出された用紙Pを受け取り,所定の搬送経路に沿って搬送して,処理液付与部30の処理液付与ドラム31に受け渡す。
・・・(中略)・・・
【0053】
<画像記録部>
画像記録部40は,用紙Pの記録面にC,M,Y,Kの各色のインク滴を打滴して,用紙Pの記録面にカラー画像を描画する。この画像記録部40は,用紙Pを搬送する搬送ドラムとしての画像記録ドラム41と,画像記録ドラム41によって搬送される用紙Pの記録面を押圧して,用紙Pの裏面を画像記録ドラム41の周面に密着させる用紙押さえローラ42と,用紙PにC,M,Y,Kの各色のインク滴を吐出するインクジェットヘッド44C,44M,44Y,44Kとを備える。
【0054】
画像記録ドラム41は,渡し胴80から用紙Pを受け取り,回転して用紙Pを搬送する。この際,上記のように,用紙Pは画像記録ドラム41の外周面に吸着保持されて搬送される。したがって,用紙Pは,この画像記録ドラム41の外周面によって画される円弧状の面(渡し胴80から用紙Pを受け取り,渡し胴90に用紙Pを受け渡すまでの領域)である搬送面上に設定される搬送経路を搬送される。なお,搬送経路は,画像記録ドラム41の中央を通り,用紙Pの幅に対応して設定される。
【0055】
用紙押さえローラ42は,画像記録ドラム41の用紙受取位置(渡し胴80から用紙Pを受け取る位置)の近傍に設置されており,図示しない押圧機構によって押圧力が付与されて,画像記録ドラム41の周面に押圧当接されている。渡し胴80から画像記録ドラム41に受け渡された用紙Pは,この用紙押さえローラ42を通過することによりニップされ,裏面が画像記録ドラム41の外周面に密着される。
【0056】
4台のインクジェットヘッド44C,44M,44Y,44Kは,用紙Pの搬送経路に沿って一定の間隔で配置されている。このインクジェットヘッド44C,44M,44Y,44Kは,用紙幅に対応したラインヘッドで構成されており,そのノズル面に形成されたノズル列から,画像記録ドラム41に向けて対応する色のインク滴を吐出する。
【0057】
以上のように構成された画像記録部40によれば,用紙Pは画像記録ドラム41によって所定の搬送経路を搬送される。渡し胴80から画像記録ドラム41に受け渡された用紙Pは,まず,用紙押さえローラ42でニップされて,画像記録ドラム41の外周面に密着される。次いで,各インクジェットヘッド44C,44M,44Y,44KからC,M,Y,Kの各色のインク滴が記録面に打滴されて,記録面にカラー画像が描画される。
・・・(中略)・・・
【0075】
《制御系》
図2は,本実施の形態のインクジェット記録装置10の制御系の概略構成を示すブロック図である。
【0076】
同図に示すように,インクジェット記録装置10は,システムコントローラ200,通信部201,画像メモリ202,搬送制御部203,給紙制御部204,処理液付与制御部205,画像記録制御部206,インク乾燥制御部207,定着制御部208,回収制御部209,操作部210,表示部211等を備えている。
【0077】
システムコントローラ200は,インクジェット記録装置10の各部を統括制御する制御手段として機能するとともに,各種演算処理を行う演算手段として機能する。このシステムコントローラ200は,CPU(CentralProcessingUnit),ROM(ReadOnlyMemory),RAM(RandomAccessMemory)等を備えており,所定の制御プログラムに従って動作する。ROMには,このシステムコントローラ200が,実行する制御プログラムや制御に必要な各種データが格納されている。
・・・(中略)・・・
【0107】
《搬送体》
次に,本発明の実施の形態に係る搬送体(搬送ドラム)について説明する。
【0108】
図1に示したように,インクジェット記録装置10において,処理液付与部30,画像記録部40,インク乾燥部50,定着部60では,それぞれ用紙Pの搬送体として,処理液付与ドラム31,画像記録ドラム41,インク乾燥ドラム51,及び,定着ドラム61が用いられているが,本発明の実施の形態に係る搬送体を画像記録部40の画像記録ドラム41に適用させて説明する。なお,画像記録部40の画像記録ドラム41は,インクジェットヘッドを損傷させないために,用紙Pをその外周面に浮きなく密着させて搬送させる必要があるので,本発明の実施の形態に係る搬送体は特に有効である。
【0109】
画像記録ドラム41には回転軸(不図示)が備えられており,該回転軸には円筒状のドラム(円筒部)85が固定されている。このドラム85の両端部は,図3に示すように,側板86,88によって閉塞され,側板86,88の中心部を回転軸(不図示)が貫通している。
【0110】
ドラム85の外周面には,側面視にて略台形形状を成す切込部98が180°間隔でドラム85の回転軸方向(以下,単に軸方向という)に沿って形成されている。搬送される用紙の先端部が,この切込部98に設けられたグリッパ(保持部)Gに保持されることで,用紙は移動規制され,ドラム85上で位置決めされる。なお,図3のドラム85の外周面は,切込部98によって分割される2つの領域を有する。ドラム85は,この2つの領域の各々に1枚の用紙Pを保持させることにより,1回転で2枚の用紙を保持して搬送できるように構成されている。
【0111】
また,ドラム85の外周面には,ドラム85の周方向に沿って延びる楕円形の長溝92がドラム85の軸方向に沿って複数形成されており,長溝92の中央部には,図4に示すように,丸孔92Aが形成されている。また,長溝92は,ドラム85の周方向で互い違いとなるように配置されている。即ち,長溝92と丸孔92Aにより溝部が円筒部の外周面に形成されている。
【0112】
さらに,ドラム85には,略円柱状の貫通孔(空気通路)96がドラム85の外周部に周方向に沿って複数形成されている。貫通孔96からは,ドラム85の半径方向に沿って,丸孔92Aが設けられ,丸孔92Aを介して,貫通孔96が長溝92と連通している。
【0113】
軸方向に延びる複数の貫通孔96の一方の通路口は側板88で塞がれているが,他方の通路口は側板86を貫通し,それぞれ管106を介して真空室108に接続されている。
【0114】
また,真空室108は管102を介して吸引ポンプ105に接続されている(図5〜7を参照)。
【0115】
そして,本実施形態では,軸方向に延びる複数の貫通孔96に接続される管102には,開閉バルブ110がそれぞれ備えられている。
【0116】
図5は,上記のように構成された画像記録ドラム41によって用紙Pが吸着搬送されている状態を,ドラム85の外周面側から見た概略図である。なお,図5は,吸着搬送されている用紙Pの後端部140が見える状態のドラム85を示している。
【0117】
図5に示すように,用紙Pのサイズが小さいと,画像記録ドラム41において搬送される用紙Pの外側にも長溝92(溝部)が多数存在する。こういう場合,用紙Pの外側の長溝92から空気が漏れてしまい,用紙Pへ十分な吸着圧力が付与されず,用紙の後端部140が剥離してしまう問題が生じる。特に,上記の通り2枚の用紙を保持して搬送できるように構成されている画像記録ドラム41においては,用紙を連続的に搬送している場合は良いが,複数枚の用紙において最終の用紙を搬送する際には,上記の通り,ドラム85の外周面の,切込部98によって分割される2つの領域の一方の領域には用紙が存在しなくなるため,用紙を吸着するための圧力が十分でないという問題が生じ易い。また,用紙の厚みが0.2mm以上,特に0.3mm以上のコシのある用紙では,後端部140が剥離してしまうことが起こり易い。
【0118】
そこで,本実施形態では,用紙Pの存在しない用紙Pの後端部140よりも後方の領域の長溝92(溝部)は吸引しないように,開閉バルブ110の開閉制御を行うようにしている。
【0119】
特に,上記の通り,2枚の用紙を保持して搬送できるように構成されている画像記録ドラム41においては,連続して複数枚の用紙に画像を形成する場合に,最終の用紙が後端部までドラム85の外周面に吸着された状態において,用紙を吸着していない外周面の領域に形成された溝部と連通する空気通路の開閉バルブを全て閉じるようにする。
【0120】
図5の画像記録ドラム41において,用紙Pの後端部140よりも後方の領域の長溝92(溝部)に連通する空気通路96n-2,96n-3に接続する開閉バルブ110n-2,110n-3は閉じる。そして,開閉バルブ110n-2,110n-3以外の用紙Pが存在する領域の長溝92(溝部)に連通する空気通路96に接続する開閉バルブ110は,用紙Pを吸引するために開くようにする。
【0121】
用紙のサイズ(搬送方向長さ)によって開閉バルブの開閉を切り替える制御は,図2に示したシステムコントローラ200で行うことが好ましい。用紙のサイズの判断は,操作者が操作部210に入力した用紙サイズの情報に依っても良いし,インクジェット記録装置10に設けられたセンサー(不図示)によって用紙のサイズを判断しても良い。また,グリッパ(保持部)G(図1,図3参照)がドラム85に備えられていれば,用紙の先端部の位置が決まっているので,開閉バルブの開閉を切り替える制御がより容易となる。
【0122】
以上のように本実施形態に係る画像記録ドラム41を制御することで,用紙のサイズが小さい場合でも,高い吸着圧力を用紙Pに付与することができるので,用紙Pの後端部140がドラム85から剥離することを防止することができる。なお,本実施形態では,2枚の用紙を保持して搬送できる構成について説明したが,用紙は2枚に限ることはなく,3枚以上の用紙をドラム85により保持しながら搬送してもよい。」

e 「【図1】

・・・(中略)・・・
【図3】

【図4】

【図5】



(イ)甲1の記載から把握される発明
技術的にみて,甲1の【0111】等に記載された「長溝92」及び「丸孔92A」からなる「溝部」が,【0035】等に記載された「吸着穴」のことを指していることは明らかであるから,前記(ア)aないしeにおいて摘記した甲1の記載から,次の発明が記載されていることを把握することができる。

「枚葉の用紙Pに水性インクを用いてインクジェット方式で画像を記録するインクジェット記録装置10であって,
用紙Pを給紙する給紙部20と,用紙Pの記録面にインク中の色材を凝集させる機能を有する処理液を付与する処理液付与部30と,用紙Pの記録面に各色のインク滴をインクジェットヘッド44C,44M,44Y,44Kで打滴して,カラー画像を描画する画像記録部40と,用紙Pに打滴されたインク滴を乾燥させるインク乾燥部50と,用紙Pに記録された画像を定着させる定着部60と,用紙Pを回収する回収部70と,インクジェット記録装置10の各部を統括制御する制御手段として機能するとともに各種演算処理を行う演算手段として機能するシステムコントローラ200とを備え,
前記処理液付与部30,前記画像記録部40,前記インク乾燥部50,及び,前記定着部60の各部には,それぞれ用紙Pの搬送手段として,処理液付与ドラム31,画像記録ドラム41,インク乾燥ドラム51,及び,定着ドラム61が備えられ,当該処理液付与ドラム31,画像記録ドラム41,インク乾燥ドラム51,及び,定着ドラム61は,用紙幅に対応して形成され,その周面には,それぞれ,用紙Pの先端部を保持するグリッパGが180°間隔で2箇所に備えられ,1回転で2枚の用紙Pを搬送できるように構成されているとともに,多数の吸着穴が形成され,用紙Pをこの吸着穴から真空吸着して,各々の外周面上に保持するよう構成され,
前記給紙部20は,マガジンにスタックされた用紙Pを上側から順に1枚ずつ給紙する給紙装置21と,用紙Pを前記処理液付与部30の前記処理液付与ドラム31に受け渡す渡し胴23とを備え,
前記処理液付与部30と前記画像記録部40の間,前記画像記録部40と前記インク乾燥部50の間,前記インク乾燥部50と前記定着部60の間には,それぞれ渡し胴80,90,100が配置され,前記各渡し胴80,90,100は,枠体で構成された渡し胴本体81,91,101と,その渡し胴本体81,91,101に,回転軸を挟んで対称位置に配置された一対のグリッパGとで構成され,前記渡し胴本体81,91,101は,用紙幅に対応して形成され,1回転で2枚の用紙を保持して搬送できるように構成されており,前記渡し胴80,90,100の下部には,用紙Pの搬送経路に沿って円弧状のガイド板83,93,103が配設され,前記渡し胴80,90,100の内部には,搬送される用紙Pに向けて熱風を吹き出すドライヤ84,94,104が配置され,前記渡し胴80,90,100によって搬送される用紙Pは,前記ガイド板83,93,103に記録面の反対側の面をガイドされながら搬送され,その搬送過程で前記ドライヤ84,94,104から吹き出された熱風が記録面に吹き当てられるよう構成され,
前記画像記録ドラム41の周面に形成された多数の吸着穴は,それぞれ周方向に沿って延びる楕円形の長溝92と当該長溝92の中央部に形成された丸孔92Aからなる溝部であり,軸方向に沿って複数形成され,周方向で互い違いとなるように配置され,それぞれが開閉バルブ110を備える複数の貫通孔96のいずれかを介して,吸引ポンプ105に接続された真空室108に接続されており,用紙Pは,この画像記録ドラム41の外周面によって画される円弧状の面(渡し胴80から用紙Pを受け取り,渡し胴90に用紙Pを受け渡すまでの領域)である搬送面上に設定される搬送経路を,前記画像記録ドラム41の外周面に吸着保持されて搬送され,
前記画像記録部40の前記インクジェットヘッド44C,44M,44Y,44Kは,用紙Pの搬送経路に沿って一定の間隔で配置され,それぞれのノズル面に形成されたノズル列から,前記画像記録ドラム41に向けて対応する色のインク滴を吐出する,用紙幅に対応したラインヘッドで構成され,
前記給紙部20から給紙された用紙Pは,前記処理液付与ドラム31に受け渡され,前記処理液付与ドラム31から前記渡し胴80を介して前記画像記録ドラム41に受け渡され,前記画像記録ドラム41から前記渡し胴90を介して前記インク乾燥ドラム51に受け渡され,前記インク乾燥ドラム51から前記渡し胴100を介して前記定着ドラム61に受け渡され,前記定着ドラム61から前記回収部70へと受け渡され,この一連の搬送過程で用紙Pに,所要の処理が施されて,記録面に画像が形成されるよう構成されており,
前記システムコントローラ200は,前記画像記録ドラム41によって用紙Pが吸着搬送されているとき,操作者が入力した用紙サイズの情報又はインクジェット記録装置10に設けられたセンサーによって検出された用紙サイズに基づいて,用紙Pの後端部140よりも後方の領域の溝部は吸引せずに用紙Pを吸引するために,当該溝部と連通する前記貫通孔96の前記開閉バルブ110を全て閉じ,用紙Pが存在する領域の溝部と連通する前記貫通孔96の前記開閉バルブ110を開くように制御するよう構成されている,
インクジェット記録装置10。」(以下,「甲1発明」という。)

イ 甲7
(ア)甲7の記載
甲7は,本件優先日より前である平成23年8月25日に頒布された刊行物であるところ,当該甲7には,次の記載がある。

a 「【発明を実施するための形態】
【0044】
以下,添付図面に従って本発明に係る画像記録装置の好ましい実施の形態について詳説する。
【0045】
《全体構成》
図1は,本発明が適用されたインクジェット印刷機の全体構成を示す概略図である。
【0046】
同図に示すインクジェット印刷機10は,枚葉紙(汎用の印刷用紙)に水性インクを用いてインクジェット方式で印刷する印刷機であり,用紙Pを給紙する給紙部20と,用紙Pの印刷面に所定の処理液を付与する処理液付与部30と,用紙Pの印刷面にシアン(C),マゼンタ(M),イエロ(Y),クロ(K)の各色のインク滴をインクジェットヘッドで打滴して,カラー画像を記録する画像記録部40と,用紙Pに打滴されたインク滴を乾燥させるインク乾燥部50と,用紙Pに記録された画像を定着させる定着部60と,用紙Pを回収する回収部70を備えて構成されている。
【0047】
処理液付与部30,画像記録部40,インク乾燥部50,定着部60の各部には,それぞれ用紙Pの搬送手段として,搬送ドラム31,41,51,61が備えられている。用紙Pは,この搬送ドラム31,41,51,61によって,処理液付与部30,画像記録部40,インク乾燥部50,定着部60の各部を搬送される。
【0048】
各搬送ドラム31,41,51,61には,周面にグリッパGが備えられている。用紙Pは,このグリッパGに先端部を把持されて搬送される。本例では,周面の2箇所にグリッパGが備えられており,1回転で2枚の用紙を搬送できるように構成されている。
【0049】
また,各搬送ドラム31,41,51,61の周面には,多数の吸着穴が形成されている。用紙Pは,この吸着穴から裏面を真空吸着されて,各搬送ドラム31,41,51,61の外周面上に保持される。
【0050】
各搬送ドラム31,41,51,61は,図示しないモータに駆動されて一定方向(反時計回りの方向)に回転する。
【0051】
処理液付与部30と画像記録部40の間,画像記録部40とインク乾燥部50の間,インク乾燥部50と定着部60の間には,それぞれ渡し胴80,90,100が配置されている。用紙Pは,この渡し胴80,90,100によって,各部の間を搬送される。」

b 「【図1】



(イ)甲7の記載から把握される技術事項
甲7の図1(前記(ア)bを参照。)から,搬送ドラム41の回転軸線と,当該搬送ドラム41の直後に配置された渡し胴90の回転軸線とを通って延在する直線と,水平線とのなす角度が鋭角であり,前記搬送ドラム41の回転軸線と,当該搬送ドラム41の直前に配置された渡し胴80の回転軸線とを通って延在する直線と,水平線とのなす角度が鋭角であり,両角度が等しいことを看取できるから,前記(ア)a及びbで摘記した甲7の記載から,次の技術事項が把握される。

「画像記録部40における用紙Pの搬送手段である搬送ドラム41の回転軸線と,当該搬送ドラム41の直後に配置された渡し胴90の回転軸線とを通って延在する直線と,水平線とのなす角度を鋭角にし,前記搬送ドラム41の回転軸線と,当該搬送ドラム41の直前に配置された渡し胴80の回転軸線とを通って延在する直線と,水平線とのなす角度を鋭角にし,両角度を等しい値にしたインクジェット印刷機10。」(以下,「甲7技術事項」という。)

ウ 甲9
(ア)甲9の記載
甲9は,本件優先日より前である平成24年11月7日に頒布された刊行物であるところ,当該甲9には,次の記載がある。

a 「【技術分野】
【0001】
本発明は,インクジェット記録装置,インクジェット記録方法に係り,記録媒体上に付与されたインクや処理液の溶媒の乾燥や浸透を促進させ,特に,100℃以上の沸点をもつ高沸点溶媒の記録媒体への浸透を促進させるインクジェット記録装置,インクジェット記録方法に関する。
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
・・・(中略)・・・
【0006】
ここで,記録媒体にインクジェット記録ヘッドで画像を形成する場合には,処理液に含まれる非水系溶媒(水分以外の溶媒)が記録媒体上に残存した状態で,インクを打滴すると記録媒体上でインク中の色材が流動し,画像ムラが発生して画像の品質低下のおそれがある。また,シアン(C),マゼンダ(M),イエロー(Y),黒(K)などの複数色のインクを付与して画像を形成するときには,混色が発生して画像の品質低下のおそれがある。
【0007】
さらに,インクに含まれる非水系溶媒が記録媒体上に残存した状態で,画像の定着を行なうと定着性が低下して画像の品質低下のおそれがある。特に,非水系溶媒の浸透速度が遅く,浸透量の小さい記録媒体(印刷用塗工紙など)を使用する場合には,定着性が低下して画像の品質低下のおそれがある。
【0008】
その一方で,描画ドラム上においてインクヘッドの下流側に乾燥および硬化の手段を配置すると,描画ドラムが加熱され,インクヘッドのメニスカスが乾燥および硬化して,インクヘッドの不吐出を生ずるおそれがある。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので,記録媒体上に付与された処理液やインクに含まれる非水系溶媒の浸透を促進させることにより,画像の品質の向上を図るインクジェット記録装置,インクジェット記録方法を提供すること,目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために,本発明のインクジェット記録装置は,インクを吐出して記録媒体に画像を記録するインクジェットヘッドを備えたインクジェット記録装置において,記録媒体を搬送する搬送手段と,前記搬送手段にて搬送される前記記録媒体の記録面に液体を付与する液体付与手段と,前記液体付与手段により記録面に前記液体が付与された前記記録媒体の先端を保持して該記録媒体を回転移動させる中間搬送体と,前記中間搬送体により回転移動する前記記録媒体の非記録面を案内する搬送ガイドと,前記中間搬送体により回転移動する前記記録媒体の記録面と非記録面に圧力差を付与する圧力付与手段を有すること,を特徴とする。
【0011】
かかる態様によれば,液体付与手段により付与された記録媒体の記録面の液体の非水系溶媒の浸透を促進させることができる。ここで,非水系溶媒とは,水分以外の溶媒をいう。
・・・(中略)・・・
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば,記録媒体上に付与された処理液やインクに含まれる非水系溶媒の浸透を促進させることにより,画像の品質の向上を図ることができる。」

b 「【0103】
<第1実施形態>
〔インクジェット記録装置の全体構成〕
まず,本発明の画像形成装置の一実施形態であるインクジェット記録装置について,全体構成を説明する。ここでは,処理液が非水系溶媒のうち100℃以上の沸点をもつ高沸点溶媒を含む場合について説明する。なお,非水系溶媒とは,水分以外の溶媒をいう。
【0104】
図1は,第1実施形態のインクジェット記録装置の概略構成図である。図1に示すように,本実施形態のインクジェット記録装置1は,記録媒体に直接的に画像を形成する直接描画方式の一形態として,ドラムが構成されたドラム直描方式のインクジェット記録装置である。
【0105】
インクジェット記録装置1は,記録媒体22の搬送方向の上流側から順に,記録媒体22(枚葉紙)を供給する給紙部10と,記録媒体22の記録面に対して処理液を付与し乾燥させる処理液付与部12と,記録媒体22の記録面に色インクを付与して画像形成を行う描画部14と,色インクの溶媒を乾燥させる乾燥部16と,画像を堅牢化する定着部18と,画像が形成された記録媒体22を搬送して排出する排出部20とから主に構成される。このように,インクジェット記録装置1は,各部に各画像形成プロセスを配置させた構成になっている。そして,処理液付与部12と描画部14の間には第1中間搬送部24が,描画部14と乾燥部16の間には第2中間搬送部26が,乾燥部16と定着部18の間には第3中間搬送部28が配置される。
・・・(中略)・・・
【0183】
〔中間搬送部〕
次に,各中間搬送部の構造について説明する。
【0184】
第1中間搬送部24は,記録媒体22を処理液付与部12の処理液ドラム54から描画部14の描画ドラム70へ搬送するための搬送手段である。第2中間搬送部26は,記録媒体22を描画部14の描画ドラム70から乾燥部16の乾燥ドラム76へ搬送するための搬送手段である。第3中間搬送部28は,記録媒体22を乾燥部16の乾燥ドラム76から定着部18の定着ドラム84へ搬送するための搬送手段である。
【0185】
第1中間搬送部24,第2中間搬送部26,第3中間搬送部28の構造は共通しているので,これらを代表して第1中間搬送部24について説明する。
【0186】
図13は,処理液付与部12と第1中間搬送部24の図である。
【0187】
図13に示すように,第1中間搬送部24は,大きく分けて中間搬送体30と搬送ガイド32から構成される。
【0188】
中間搬送体30は,処理液付与部12の処理液ドラム54から受け取った記録媒体22の先端を保持して回転移動させて,描画ドラム70に記録媒体22を受け渡す手段である。そして,図13に示すように,記録媒体22の先端を保持するための爪形状の保持手段34を有している。本実施形態では,2つの保持手段34が中間搬送体30の両端部に備えられているが,保持手段34の数はこれに限らない。
【0189】
図14は,第1中間搬送部の断面図であり,図14(b)は図14(a)のA−A断面図である。
【0190】
中間搬送体30は,図14(b)に示すように,搬送される記録媒体22の幅方向(搬送方向に垂直な方向)に間隔を空けて固設されたフレーム31,33にベアリング35,37を介して回転可能に設けられている。
【0191】
また,図14(a)と図14(b)に示すように,中間搬送体30の表面には記録媒体22の記録面に対して送風を送り出すための複数の送風口36が形成されている。そして,送風口36は,送風を送り出す送風手段としてのブロワ38に接続されている。なお,一例として,ブロワ38から送り出される送風を,温度が70℃の温風とし,風量を1m3/分に設定することも考えられる。また,複数の送風口36から記録媒体22の記録面に対して,送風を垂直に送出させることが望ましい。
・・・(中略)・・・
【0193】
また,搬送ガイド32は,図4に示すように,中間搬送体30に近接配置されている。そして,搬送ガイド32は,円弧形状に形成され,記録媒体22の記録面の反対面(以下,非記録面という)にバックテンションを作用させながら記録媒体22の回転移動を案内する。具体的には,搬送ガイド32は,中間搬送体30の保持手段34が円軌跡を描く位置に対峙し,記録媒体22の搬送を案内するガイド面30aを備え,記録媒体22の回転方向と逆方向の力を作用させるバックテンション付与手段を備える。
【0194】
また,ガイド面30aは,記録媒体22を支持し案内する複数の支持部44を備える。
【0195】
このような構成を有する中間搬送体30と搬送ガイド32のもと,記録媒体22は,先端を中間搬送体30の保持手段34により保持されて回転移動する一方,非記録面を搬送ガイド32のガイド面30aの吸引孔42を通してポンプ43により負圧吸引される。そのため,記録媒体22は,非記録面を負圧吸引されつつ支持部44に支持されながら案内されて回転移動する。その後,中間搬送体30の保持手段34から描画ドラム70の保持手段73へ受け渡される。
【0196】
本発明の第1中間搬送部24においては,中間搬送体30が記録媒体22の先端を保持して記録媒体22を回転移動させる際に,搬送ガイド32の吸引孔42からの吸引により,記録媒体22の非記録面を吸引するので,記録媒体22の記録面に付与された処理液に含まれる高沸点溶媒が記録媒体22に浸透する。そのため,後工程の描画部14において,インク液滴が吐出される際に,記録媒体22の表面に高沸点溶媒が存在しないので,インク液滴中の色材が流動せず,画像の品質が向上する。
【0197】
なお,記録媒体22の非記録面を吸引する際に,ポンプ43により吸引孔42から付与する負圧を,制御系の負圧制御部147(図12参照)により,記録媒体22の厚みおよび記録媒体22の空隙率,記録媒体22の種類などの記録媒体22の仕様のうち,少なくとも1つに応じて可変するように制御してもよい。記録媒体22への溶媒の浸透を促進させるために,具体的には,記録媒体22の厚みが大きいほど,ポンプ43により吸引孔42から付与する負圧を大きくする。また,記録媒体22の空隙率が小さいほど,ポンプ43により吸引孔42から付与する負圧を大きくする。
【0198】
また,中間搬送体30の送風口36から記録媒体22の処理液が付与された記録面に送風を送り出すことにより,記録媒体22の記録面に付与された処理液中の高沸点溶媒の記録媒体22への浸透が促進される。さらに,中間搬送体30の送風口36から記録媒体22の処理液が付与された記録面に温風を送り出すことにより,処理液中の高沸点溶媒を低粘化し記録媒体22への浸透を促進させるとともに,処理液中の残留水分を乾燥させる。」

c 「【0204】
〔画像形成方法〕
本発明のインクジェット記録装置を用いた画像形成方法について説明する。図16はインクジェット記録装置を用いた画像形成方法を示す模式図である。
【0205】
図16(a)に示すように,処理液61を処理液塗布装置56により処理液ドラム54に密着保持された記録媒体22上に,均一な膜厚で塗布する。
【0206】
次に,温風噴出しノズル58,IRヒータ60を用いて,図16(b)に示すように,記録媒体22の処理液61中の水分を乾燥させて,固体状または半固体状の凝集処理液層61´を形成し,酸63を析出させる。このように,処理液61中の水分を乾燥させて凝集処理液層61´を形成することにより,記録媒体22のカールを防止できる。
・・・(中略)・・・
【0209】
次に,第1中間搬送部24において,搬送ガイド32の吸引孔42から記録媒体22の非記録面に負圧を付与し,かつ,中間搬送体30の送風口36から記録媒体22の記録面に送風を送出させる。これにより,図16(c)に示すように,処理液61中の高沸点溶媒65が記録媒体22に浸透し,記録媒体22の表面に存在しなくなり,酸63が表面に析出する。
【0210】
なお,中間搬送体30の送風口36から記録媒体22の記録面に温風を送出させれば,処理液61中の高沸点溶媒65が低粘化され記録媒体22への浸透が促進されるとともに,処理液61中に残留しうる水分を乾燥させることができる。また,送風制御部143により,記録媒体22の記録面に付与された高沸点溶媒の量に応じて送風口36から送出する送風の温度を制御すれば,高沸点溶媒を低粘化して記録媒体22への浸透が促進される。
・・・(中略)・・・
【0214】
次に,インクヘッド72C,72M,72Y,72Kから,図16(d)に示すように,記録媒体22に対してインク67が吐出される。
【0215】
ここで,インク67が吐出される際に,記録媒体22の表面に高沸点溶媒65が存在しないので,インク67中の色材が流動せず,画像の品質が向上する。
【0216】
次に,第2中間搬送部26において,中間搬送体30の送風口36から記録媒体22の記録面へ温風を送出させると,図16(e)に示すように,インク67中の水分が乾燥するとともに,インク67中の高沸点溶媒65が低粘化され記録媒体22への浸透が促進される。インク67中の高沸点溶媒65とは,水分以外の溶媒である非水系溶媒であって,100℃以上の沸点を持つ溶媒である。
【0217】
ここで,描画ドラム70上においては,乾燥によるインクヘッド72C,72M,72Y,72Kの不吐出を防ぐため,インク67中の水分が乾燥させる手段を有さない。そこで,第2中間搬送部26において,インク67中の水分を乾燥させておく。このように,インク67中の水分を乾燥させることにより,記録媒体22のカールや画像品質の劣化を防止できる。
【0218】
また,第2中間搬送部26において,搬送ガイド32の吸引孔42から記録媒体22の非記録面に負圧を付与させる。これにより,図16(e)に示すように,インク67中の高沸点溶媒65が記録媒体22に浸透していく。
【0219】
また,中間搬送体30の送風口36から記録媒体22の記録面へ温風を送出させることにより,インク液滴67中の高沸点溶媒65が低粘化され記録媒体22への浸透がさらに促進される。また,送風制御部143により,記録媒体22の記録面に付与された高沸点溶媒の量に応じて送風口36から送出する送風の温度を制御すれば,高沸点溶媒を低粘化して記録媒体22への浸透が促進される。
・・・(中略)・・・
【0223】
次に,第1IRヒータ78,温風噴出しノズル80,第2IRヒータ82を用いて,図16(f)に示すように,記録媒体22のインク67の水分を乾燥させる。ここで,第2中間搬送部26において,予めインク67中の水分を乾燥させておいたため,乾燥ドラム76上にてほぼ全てのインク67中の水分を乾燥させ切ることができる。」

d 「【図面の簡単な説明】
【0255】
【図1】第1実施形態のインクジェット記録装置の全体構成図
・・・(中略)・・・
【図13】処理液付与部と第1中間搬送部の図
【図14】第1中間搬送部の断面図
・・・(中略)・・・
【図16】画像形成方法の説明図
・・・(中略)・・・
【図1】

【図13】処理液付与部と第1中間搬送部の図

【図14】第1中間搬送部の断面図

・・・(中略)・・・
【図16】画像形成方法の説明図



(イ)甲9の記載から把握される技術事項
前記(ア)aないしdで摘記した甲9の記載から,次の技術事項を把握することができる。

「記録媒体22の記録面に対して処理液を付与し乾燥させる処理液付与部12と,記録媒体22の記録面に色インクを付与して画像形成を行う描画部14と,色インクの溶媒を乾燥させる乾燥部16とを有するインクジェット記録装置1において,
記録媒体22を処理液付与部12から描画部14へ搬送するための搬送手段である第1中間搬送部24及び記録媒体22を描画部14から乾燥部16へ搬送するための搬送手段である第2中間搬送部26を,記録媒体22の先端を保持するための爪形状の保持手段34を有するとともに,表面に記録媒体22の記録面に対して温風を送り出すための複数の送風口36が形成された中間搬送体30と,記録媒体22の搬送を案内するガイド面30aを備えるとともに,記録媒体22の非記録面をガイド面30aの吸引孔42を通してポンプ43により負圧吸引するよう構成された搬送ガイド32から構成することによって,記録媒体22の記録面に付与された処理液に含まれる高沸点溶媒及びインク67中の高沸点溶媒65の記録媒体22への浸透を促進し,画像の品質を向上させることができること。」(以下,「甲9技術事項」という。)

(2)本件特許発明7について
以下,便宜上,本件特許発明7のうち,請求項2の記載を引用する形式で記載された請求項7に係る発明を「本件特許発明7−1」といい,請求項3の記載を引用する形式で記載された請求項7に係る発明を「本件特許発明7−2」といい,請求項5の記載を引用する形式で記載された請求項7に係る発明を「本件特許発明7−3」とい,それぞれに分けて判断する。

ア 本件特許発明7−1について
(ア)対比
本件特許発明7−1と甲1発明を対比する。
a 技術的にみて,甲1発明の「枚葉の用紙P」,「インクジェット記録装置10」,「渡し胴23,80,90,100」,「処理液付与部30,画像記録部40,インク乾燥部50及び定着部60」,「インクジェットヘッド44C,44M,44Y,44K」,「渡し胴80」及び「画像記録ドラム41」が,本件特許発明7−1の「シート状の基材」,「機械構造物」,「基材ガイドユニット」,「基材加工ユニット」,「ノンインパクト印刷装置」,「渡しドラムまたは相応の供給胴」及び「印刷胴」にそれぞれ対応する。
b 甲1発明の「インクジェット記録装置10」(本件特許発明7の「機械構造物」に対応する。以下,「(ア)対比」欄において,「」で囲まれた甲1発明の構成に付した()中の文言は,当該甲1発明の構成に対応する本件特許発明7−1の発明特定事項を表す。)は,マガジンにスタックされた「枚葉の用紙P」(シート状の基材)に対して,処理液の付与,画像の記録,インクの乾燥及び画像の定着という加工を連続的に行う機械構造物といえるから,甲1発明の「インクジェット記録装置10」と本件特許発明7−1の「機械構造物」は,「シート状の基材を連続的に加工する機械構造物」である点で一致する。
c 甲1発明の「渡し胴23,80,90,100」(基材ガイドユニット)は,いずれも,「用紙P」(基材)を搬送する機能を有しているから,甲1発明の「渡し胴23,80,90,100」と本件特許発明7−1の「基材ガイドユニット」は,基材を搬送する部材(以下,便宜上「基材搬送部」という。)である点で共通する。
また,甲1発明の「処理液付与部30,画像記録部40,インク乾燥部50及び定着部60」(基材加工ユニット)は,それぞれ,「用紙P」(基材)に対して,処理液の付与,カラー画像の描画,インク滴の乾燥及び画像の定着という加工を施す部材であるから,本件特許発明7−1の「基材加工ユニット」と,基材に加工を施す部材(以下,便宜上「基材加工部」という。)である点で共通する。
そして,甲1発明の渡し胴23,80,90,100は,処理液付与部30の処理液付与ドラム31,画像記録部40の画像記録ドラム41,インク乾燥部50のインク乾燥ドラム51,定着部60の定着ドラム61にそれぞれ用紙Pを受け渡す機能を有するものであるところ,処理液付与部30に用紙Pを受け渡す「渡し胴23」(基材ガイドユニット)及び「処理液付与部30」(基材加工ユニット),画像記録部40に用紙Pを受け渡す「渡し胴80」(基材ガイドユニット)及び「画像記録部40」(基材加工ユニット),インク乾燥部50に用紙Pを受け渡す「渡し胴90」(基材ガイドユニット)及び「インク乾燥部50」(基材加工ユニット),定着部60に用紙Pを受け渡す「渡し胴100」(基材ガイドユニット)及び「定着部60」(基材加工ユニット)を,それぞれ「基材搬送部」と「基材加工部」とを有する「加工ステーション」ということができる。
したがって,本件特許発明7−1と甲1発明は,「複数の様々な加工ステーションを備え,複数の加工ステーションは,それぞれ基材搬送部と基材加工部とを有」する点で共通する。
d 甲1発明の「渡し胴80及び画像記録部40」(加工ステーション)は,「基材加工部」として,「用紙P」(基材)の記録面に各色のインク滴を「インクジェットヘッド44C,44M,44Y,44K」(ノンインパクト印刷装置)で打滴して,カラー画像を描画する「画像記録部40」を有しているから,「基材加工部」として,「用紙P」(基材)にその都度印刷を行う「ノンインパクト印刷装置」を有する「加工ステーション」であるといえる。
したがって,本件特許発明7−1と甲1発明は,「加工ステーションのうちの少なくとも1つの加工ステーションは,基材加工部として,それぞれ基材にその都度印刷を行う少なくとも1つのノンインパクト印刷装置を有」する点で共通する。
e 甲1発明の「渡し胴80及び画像記録部40」(加工ステーション)は,「画像記録ドラム41」(印刷胴)を有している。
また,甲1発明の「インクジェットヘッド44C,44M,44Y,44K」(ノンインパクト印刷装置)は,「用紙P」(基材)の搬送経路に沿って一定の間隔で配置され,それぞれのノズル面に形成されたノズル列から,「画像記録ドラム41」(印刷胴)に向けて対応する色のインク滴を吐出するものであるから,「画像記録ドラム41」(印刷胴)の周に配置されている。
したがって,本件特許発明7−1と甲1発明は,「少なくとも1つのノンインパクト印刷装置を有する該当する加工ステーションは,印刷胴を有し,各々の前記ノンインパクト印刷装置は,それぞれ前記印刷胴の周に配置されて」いる点で一致する。
f 甲1発明の「画像記録ドラム41」(印刷胴)は,2箇所に「用紙P」(基材)の先端部を保持するグリッパGが備えられ,1回転で2枚の「用紙P」(基材)を搬送できるように構成されているから,2倍胴の大きさである。
また,甲1発明では,「画像記録ドラム41」(印刷胴)の周面に形成された多数の溝部のうち,用紙Pが存在する領域のものと連通する空気通路96の開閉バルブ110が開き,「用紙P」(基材)を吸引するよう構成されているところ,当該「用紙Pが存在する領域」が,本件特許発明7−1の「1つの基材を保持するための」「区分」に相当する。
そして,甲1発明の「画像記録ドラム41」(印刷胴)は,1回転で2枚の「用紙P」(基材)を搬送できるように構成されたものであるから,その外周面には,「用紙Pが存在する領域」(区分)が2つ存在する。
したがって,本件特許発明7−1の「印刷胴」と甲1発明の「画像記録ドラム41」は,「2倍胴ないし4倍胴の大きさに構成されており」,その「外周面に,周方向で相前後して,それぞれ1つの基材を保持するための2つないし4つの区分を有」する点で共通するといえる。
g 甲1発明の「画像記録ドラム41」(印刷胴)の直前には,「渡し胴80」(渡しドラムまたは相応の供給胴)が存在するところ,当該「渡し胴80」(渡しドラムまたは相応の供給胴)は,一対のグリッパGが回転軸を挟んで対称位置に配置され,1回転で2枚の用紙を保持して搬送できるように構成されたものであるから,「2倍胴」である。
したがって,甲1発明は,「各々の印刷胴の直前に,それぞれ,2倍胴または3倍胴の大きさに構成された渡しドラムまたは相応の供給胴が配置されている,かつ/または各々の前記印刷胴の直後に,2倍胴または3倍胴の大きさに構成された渡しドラムまたは相応の搬送胴が配置されている」という本件特許発明7−1の発明特定事項に相当する構成を具備している。
h 甲1発明の「画像記録ドラム41」(印刷胴)は,1回転で2枚の用紙Pを搬送できるように構成されたものであり,かつ,用紙サイズに基づいて,用紙Pの後端部140よりも後方の領域の溝部は吸引しないように,当該溝部と連通する空気通路96の開閉バルブ110を全て閉じ,用紙Pを吸引するために,「用紙Pが存在する領域」(区分)の溝部と連通する空気通路96の開閉バルブ110を開くよう構成されているから,「画像記録ドラム41」(印刷胴)の外周面に2つ存在する「用紙Pが存在する領域」(区分)の後端部の回転角度位置が,直後に位置する「用紙Pが存在する領域」(区分)の前端部に対して相対的に,保持されるべき「用紙P」(基材)の「サイズ」(判型)に応じて調整可能であるといえる。
したがって,本件特許発明7−1と甲1発明は,「該当する印刷胴に関して,前記印刷胴の回転方向において,第1の区分の後方の端部の回転角度位置は,該当する第1の区分の直後に配置された第2の区分の前方の端部に対して相対的に,前記第1の区分において保持されるべき基材の判型に依存して可変に調整可能である」点で一致する。
i 甲1発明の「画像記録ドラム41」の直前に配置された「渡し胴80」は,枠体で構成された渡し胴本体81と,その渡し胴本体81に備えられたグリッパGとで構成され,前記渡し胴本体81は,用紙幅に対応して形成され,一対のグリッパGが回転軸を挟んで対称位置に配置され,1回転で2枚の用紙を保持して搬送できるように構成されているから,「蓄えドラム」である。
したがって,甲1発明は,本件特許発明7の「それぞれ,各々の前記印刷胴の直前に配置された前記渡しドラムまたは直前に配置された前記供給胴は,それぞれ蓄えドラムとしてまたは吸着ドラムとして構成されている」との発明特定事項に相当する構成を具備している。
j 前記aないしiに照らせば,本件特許発明7−1と甲1発明は,
「シート状の基材を連続的に加工する機械構造物であって,
複数の様々な加工ステーションを備え,
複数の加工ステーションはそれぞれ基材搬送部と基材加工部とを有し,前記加工ステーションのうちの少なくとも1つの加工ステーションは,基材加工部として,それぞれ基材にその都度印刷を行う少なくとも1つのノンインパクト印刷装置を有し,少なくとも1つの前記ノンインパクト印刷装置を有する該当する前記加工ステーションは,印刷胴を有し,各々の前記ノンインパクト印刷装置は,それぞれ前記印刷胴の周に配置されており,各々の前記印刷胴は,それぞれ,2倍胴ないし4倍胴の大きさに構成されており,各々の前記印刷胴は,それぞれ該印刷胴の外周面に,周方向で相前後して,それぞれ1つの基材を保持するための2つないし4つの区分を有し,各々の前記印刷胴の直前に,それぞれ,2倍胴または3倍胴の大きさに構成された渡しドラムまたは相応の供給胴が配置されている,かつ/または各々の前記印刷胴の直後に,2倍胴または3倍胴の大きさに構成された渡しドラムまたは相応の搬送胴が配置されている,機械構造物において,
該当する前記印刷胴に関して,前記印刷胴の回転方向において,第1の区分の後方の端部の回転角度位置は,該当する第1の区分の直後に配置された第2の区分の前方の端部に対して相対的に,前記第1の区分において保持されるべき基材の判型に依存して可変に調整可能であり,
それぞれ,各々の前記印刷胴(22;38)の直前に配置された前記渡しドラム(43)または直前に配置された前記供給胴(43)は,それぞれ蓄えドラムとしてまたは吸着ドラムとして構成されている,機械構造物。」である点で一致し,次の点で相違する。

相違点1:
複数の加工ステーションが有する「基材搬送部」及び「基材加工部」が,
本件特許発明7−1では,「基材ガイドユニット」及び「基材加工ユニット」であるのに対して,
甲1発明では,「渡し胴23,80,90,100」及び「処理液付与部30,画像記録部40,インク乾燥部50及び定着部60」であって,これら「渡し胴23,80,90,100」及び「処理液付与部30,画像記録部40,インク乾燥部50及び定着部60」がそれぞれユニットであることは特定されていない点。

相違点2:
本件特許発明7−1の「印刷胴」は,それぞれ,3倍胴または4倍胴の大きさであり,その外周面に設けられた区分が,3つまたは4つであるのに対して,
甲1発明の「画像記録ドラム41」は,2倍胴の大きさであり,その外周面に設けられた区分は,2つである点。

相違点3−1:
本件特許発明7−1では,それぞれ,各々の印刷胴(22;38)の直前に配置された渡しドラム(43)または直前に配置された供給胴(43)は,それぞれ,各々の基材が案内される隙間(32)を形成して,該当する印刷胴(22;38)の外周面に当接されているまたは少なくとも当接可能であり,該当する印刷胴(22;38)と直前に配置された渡しドラム(43)または直前に配置された供給胴(43)との間に形成された隙間(32)の幅は,その都度,各々の基材,特に基材の厚さまたは坪量に依存して調整されるのに対して,
甲1発明は,そのような構成を有していない点。

(イ)相違点1について
交換し易くする等のために,各種部材をユニットとして構成するのは,常套手段である。
そして,甲1発明においても,渡し胴23,80,90,100,処理液付与部30,画像記録部40,インク乾燥部50,定着部60等の各部材が交換し易いほうが,ユーザの利便性等が向上することは明らかであるから,甲1発明において,これら各部材をユニットとして構成すること,すなわち,相違点1に係る本件特許発明7−1の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,当業者が適宜なし得たことである。

(ウ)相違点2について
甲1の【0122】(前記(1)ア(ア)dを参照。)には,「画像記録ドラム41」について,「なお,本実施形態では,2枚の用紙を保持して搬送できる構成について説明したが,用紙は2枚に限ることはなく,3枚以上の用紙をドラム85により保持しながら搬送してもよい。」と記載されている。
したがって,甲1発明において,当該教示にしたがって,2倍胴である「画像記録ドラム41」を,3倍胴又は4倍胴のものに変更すること,すなわち,相違点2に係る本件特許発明7−1の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,当業者が容易になし得たことである。

(エ)相違点3−1について
a 令和3年4月20日付けの取消理由通知(決定の予告)において取消理由2(進歩性欠如)で引用した甲1,甲7,甲9のいずれにも,ノンインパクト印刷装置における印刷胴と,当該印刷胴の直前に配置された渡しドラム又は供給胴との間に,印刷媒体が案内される隙間を形成し,当該隙間の幅を,印刷媒体の厚さや秤量等に応じて調整することは,記載も示唆もされていない。
また,前述した隙間の調整技術が,本件特許の優先権主張の日より前に,当業者において知られていたことを示す証拠も見当たらない。
したがって,甲1発明において,相違点3−1に係る本件特許発明7−1の発明特定事項に相当する構成を採用することは,当業者といえども,容易に想到し得たこととはいえない。

b なお,申立人は,甲1発明において,相違点3−1に係る本件特許発明2の発明特定事項に相当する構成を採用することは,甲5(特許第3501844号公報)に記載された事項に基づいて,当業者が容易に想到し得たことである旨主張するので,以下で判断する。

(a) 甲5は,本件優先日より前である平成16年3月2日に日本国内において頒布された刊行物であるところ,当該甲5には,次の記載がある。

「【請求項1】 互いに周面を離間させて配設され共に周面に切欠きを有する版胴および印刷胴と,これら両胴間に配設され周面に切欠きを有するゴム胴と,前記ゴム胴を,前記版胴に圧接させかつ紙を介して前記印刷胴に圧接させる胴入れ位置と前記版胴および前記印刷胴から離間させる胴抜き位置との間で移動させる駆動装置とを備えた胴着脱装置において,
紙厚データが入力される紙厚データ入力手段と,印刷機の運転速度を検出する速度検出手段と,印刷機の回転位相を検出する位相検出手段とを備え,前記駆動装置の駆動源を電動機とし,紙厚データをもとにして設定された電動機の動作量および電動機の加速・減速の割合と印刷機の運転速度とに基づいて演算し,この紙厚データに対応した前記電動機の動作量と加速・減速を含む速度曲線からなる動作パターンを求めると共に,印刷機の回転位相に基づいて前記電動機を動作させ,胴入れ時には,前記ゴム胴と前記版胴,前記ゴム胴と前記印刷胴の互いの切欠きを対接させ,互いの切欠きが対接する範囲内で胴入れを行い,胴抜き時には,前記ゴム胴と前記印刷胴,前記ゴム胴と前記版胴の互いの切欠きを対接させ,互いの切欠きが対接する範囲内で胴抜きを行うように,求めた動作パターンにしたがって前記電動機の動作量および速度を制御する制御装置を設けたことを特徴とする胴着脱装置。」
「【0007】
【実施例】以下,本発明の実施例を図に基づいて説明する。・・・(中略)・・・
【0008】これらの図において,オフセット輪転印刷機は,印刷用の版が装着された版胴2と,印刷作業中はこの版胴2に対接しブランケットが周面に装着されたゴム胴3と,印刷作業中はこのゴム胴3を対接させる印刷胴としての圧胴4とを備えており,これらの胴2,3,4のうち,版胴2と圧胴4との両端軸は印刷ユニット5に設けられた左右のフレーム6に図示しない軸受を介して回転自在に軸支されている。また,ゴム胴3の両端軸7は,左右のフレーム6に嵌着された後述する偏心軸受8に回転自在に軸支されている。
・・・(中略)・・・
【0012】また,胴入れ状態を示す図3において,版胴2の軸芯Pとゴム胴3の軸芯Bとは,適正な印圧が加わるような芯間距離を隔てて位置しており,また,ゴム胴3の軸芯Bと圧胴4の軸芯Iとは,印刷用紙25の厚みtを考慮した上で適切な印圧が加わるような芯間距離を隔てて位置している。
【0013】印刷作業が終了して胴抜きされると,ゴム胴3の軸芯Bは,偏心軸受8の軸芯Fを中心に回動して図中B2で示す位置へ移動する。この結果,版胴2の軸芯Pとゴム胴3の軸芯B2との芯間距離が拡がって,隙間S1ができる。同様にゴム胴3の軸芯B2と圧胴4の軸芯Iとの芯間距離も拡がり,隙間Sができて胴抜き状態となる。印刷作業を再開する場合には,ゴム胴3の軸芯B2が偏心軸受8の軸芯Fを中心に図3の時計方向へ回動して胴入れ状態となる。
【0014】印刷用紙25の厚みtが変更されたときには,後述する紙厚データ入力装置32からの紙厚データに基づき,適切な印圧が加わるようにゴム胴3の軸芯がBからB1へ移動する。この結果ゴム胴3と圧胴4との間には,図中t1で示す間隙ができ,変更された紙厚に対応した印圧が得られる。印刷作業が終了した場合には,前述したようにゴム胴3の軸芯は,B1からB2へ移動して胴抜き状態になるように構成されている。」
「【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係る胴着脱装置の側面図である。
・・・(中略)・・・
【図3】 本発明に係る胴着脱装置において,偏心軸受の回動によるゴム胴の軸心の移動を説明するために示す概要側面図
・・・(中略)・・・
【図1】

・・・(中略)・・・
【図3】



(b) 前記(a)で摘記した甲5の記載から,甲5には,次の技術事項が記載されていると認められる。

「印刷用の版が装着された版胴2と,印刷作業中はこの版胴2に対接しブランケットが周面に装着されたゴム胴3と,印刷作業中はこのゴム胴3を対接させる印刷胴としての圧胴4とを備えたオフセット輪転印刷機において,
版胴2の軸芯Pとゴム胴3の軸芯Bとは,適正な印圧が加わるような芯間距離を隔てて位置し,ゴム胴3の軸芯Bと圧胴4の軸芯Iとは,印刷用紙25の厚みtを考慮した上で適切な印圧が加わるような芯間距離を隔てて位置し,
印刷用紙25の厚みtが変更されたときには,ゴム胴3と圧胴4との間に,変更された紙厚に対応した印圧が得られる間隙ができるような位置に,ゴム胴3の軸芯を移動させる技術。」(以下,「甲5技術事項」という。)

(c) 甲1発明の「画像記録ドラム41」は,用紙Pの搬送手段として機能する部材であって,その周面には,用紙Pの先端部を保持するグリッパGが180°間隔で2箇所に備えられ,当該画像記録ドラム41上に保持された用紙Pに対して,インクジェットヘッド44C,44M,44Y,44Kによりインク滴が吐出されるものである。また,甲1発明の「渡し胴80」は,前記「画像記録ドラム41」に対して用紙Pを受け渡す機能を有する部材である。
これに対して,甲5技術事項の「ゴム胴3」は,「圧胴4」との間で印刷用紙25を挟み込み,周面に装着されたブランケット上に版胴2から移されたインキを,前記印刷用紙25に移す機能を有する部材である。また,甲5技術事項の「圧胴4」は,「ゴム胴3」との間で印刷用紙25を挟み込む部材であって,印刷用紙25を「ゴム胴3」に受け渡す機能はない。
そうすると,甲1発明の「画像記録ドラム41」及び「渡し胴80」と,甲5記載技術の「ゴム胴3」及び「圧胴4」は,全く異なる機能を有する部材であるというほかないのであって,甲5に,印刷用紙25の紙厚に応じてゴム胴3と圧胴4の間の間隙を調整する甲5記載技術が記載されているからといって,当該甲5の記載に接した当業者は,甲1発明の「画像記録ドラム41」及び「渡し胴80」に,当該甲5記載技術を適用しようと動機付けられることはないというべきである。
したがって,申立人の主張は採用できない。

(オ)小活
本件特許発明7−1は,甲1発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでない。

イ 本件特許発明7−2について
(ア)対比
本件特許発明7−2と甲1発明を対比すると,前記ア(ア)jで述べた相違点1及び2に加えて次の点で相違し,その余の点で一致する。

相違点3−2:
本件特許発明7−2では,それぞれ,各々の印刷胴(22;38)の直前に配置された渡しドラム(43)または直前に配置された供給胴(43)は,それぞれ渡しドラム(43)または供給胴(43)の周に,それぞれ1つの弾性的な上張りを有し,該上張りでもって,渡しドラム(43)または供給胴(43)は,該当する印刷胴(22;38)の外周面に当接されているまたは少なくとも当接可能であるのに対して,
甲1発明では,画像記録ドラム41の直前に配置された渡し胴80の周に,弾性的な上張りを有することは特定されておらず,したがって,弾性的な上張りでもって,渡し胴80が,画像記録ドラム41の外周面に当接されている又は少なくとも当接可能であるとはいえない点。

(イ)相違点1及び2について
前記ア(イ)及び(ウ)で述べたのと同様の理由で,甲1発明において,相違点1及び2に係る本件特許発明7−2の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,当業者が容易になし得たことである。

(ウ)相違点3−2について
a 令和3年4月20日付けの取消理由通知(決定の予告)において取消理由2(進歩性欠如)で引用した甲1,甲7,甲9のいずれにも,ノンインパクト印刷装置における印刷胴の直前に配置された渡しドラム又は供給胴について,その周に弾性的な上張りを設け,当該上張りでもって印刷胴に当接している又は当接可能であるよう構成することは,記載も示唆もされていない。
また,前述した上張りに係る技術が,本件特許の優先権主張の日より前に,当業者において知られていたことを示す証拠も見当たらない。
したがって,甲1発明において,相違点3−2に係る本件特許発明7−2の発明特定事項に相当する構成を採用することは,当業者といえども,容易に想到し得たこととはいえない。

b なお,申立人は,甲1発明において,相違点3−2に係る本件特許発明7−2の発明特定事項に相当する構成を採用することは,甲6(欧州特許第1440351号明細書)に記載された事項に基づいて,当業者が容易に想到し得たことである旨主張するので,以下に判断する。

(a) 甲6は,本件優先日より前である2009年4月1日に外国において頒布された刊行物であるところ,当該甲6には,次の記載がある。


・・・(中略)・・・


(日本語訳)
「【0025】 図18で明示的に覆われた切り欠きは,基材の変形例を示している。さらなる発明の詳細は,図19で示され,それによると,例えばシリンダーは,可撓性材料で覆われる。基材の変形を最小限に抑えて,必要な沈み込みを可能にするために,粘着性のあるゴムブランケットを使用する。通常,インクジェットヘッドはおよそ基材から0.8ないし1mmの位置に調整されている。くわえ詰めの厚みが2ないし3mmの場合,この柔軟な層により,印刷基材の変形を最小限に抑えて1ないし2.2mmの沈み込みが可能になる。変形はとにかく非印刷ゾーン,いわゆるくわえ爪のエッジで発生するため,余分な無駄が発生しない。さらに,可撓性層の圧縮性効果のために,弾性要素が使用されることが考えられる。」
・・・(中略)・・・
【0063】 図19は,粘着性のあるゴムブランケットで覆われた搬送シリンダーを示している。可撓性材料の特性により,印刷基材の変形を最小限に抑えながら,くわえ爪を最大限沈めることができる。」




(b) 甲6の【0025】及び【0063】に記載された「シリンダー」及び「搬送シリンダー」が同じ部材のことを指しているのは明らかであり,【0025】の「通常,インクジェットヘッドはおよそ基材から0.8ないし1mmの位置に調整されている。」との記載から,「搬送シリンダー」が,インクジェットヘッドに対向して設けられることが把握できるから,前記(a)で摘記した甲6の記載から,甲6には,次の技術事項が記載されていると認められる。

「インクジェットヘッドに対向して設けられ,印刷基材をくわえるくわえ爪を有する搬送シリンダーであって,
粘着性のあるゴムブランケットで覆われた搬送シリンダー。」(以下,「甲6技術事項」という。)

(c) 甲1発明の「画像記録ドラム41」は,用紙Pの搬送手段として機能する部材であって,その周面には,用紙Pの先端部を保持するグリッパGが180°間隔で2箇所に備えられ,当該画像記録ドラム41上に保持された用紙Pに対して,インクジェットヘッド44C,44M,44Y,44Kによりインク滴が吐出されるものである。また,甲1発明の「渡し胴80」は,前記「画像記録ドラム41」に対して用紙Pを受け渡す機能を有する部材である。
これに対して,甲6技術事項の「搬送シリンダー」は,インクジェットヘッドに対向して設けられ,印刷基材をくわえるくわえ爪を有する部材である。
そうすると,甲1発明において,甲6技術事項の「搬送シリンダー」に対応する部材は,「画像記録ドラム41」であるから,甲1発明に,甲6技術事項を適用すると,「画像記録ドラム41」を,粘着性のあるゴムブランケットで覆われたものとすることになり,「渡し胴80」を,粘着性のあるゴムブランケットで覆われたものとすることにはならない。
したがって,甲1発明において,甲6技術事項を適用したとしても,相違点3−2に係る本件特許発明7−2の発明特定事項には至らないというほかない。
したがって,申立人の主張は採用できない。

(エ)小活
本件特許発明7−2は,甲1発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでない。

ウ 本件特許発明7−3について
(ア)対比
本件特許発明7−3と甲1発明を対比すると,前記ア(a)jで述べた相違点1及び2に加えて次の点で相違し,その余の点で一致する。

相違点3−3:
本件特許発明7−3では,それぞれ,各々の印刷胴(22;38)の直前に配置された渡しドラム(43)または直前に配置された供給胴(43)は,それぞれ全体が位置変化可能に支持されているのに対して,
甲1発明では,画像記録ドラム41の直前に配置された渡し胴80が,位置変化可能に支持されることは特定されていない点。

(イ)相違点1及び2について
前記ア(イ)及び(ウ)で述べたのと同様の理由で,甲1発明において,相違点1及び2に係る本件特許発明7−3の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,当業者が容易になし得たことである。

(ウ)相違点3−3について
a 令和3年4月20日付けの取消理由通知(決定の予告)において取消理由2(進歩性欠如)で引用した甲1,甲7,甲9のいずれにも,ノンインパクト印刷装置における印刷胴の直前に配置された渡しドラム又は供給胴について,全体が位置変化可能に支持されていることは,記載も示唆もされていない。
また,前述した渡しドラム又は供給胴の位置変化に係る技術が,本件特許の優先権主張の日より前に,当業者において知られていたことを示す証拠も見当たらない。
したがって,甲1発明において,相違点3−3に係る本件特許発明7−3の発明特定事項に相当する構成を採用することは,当業者といえども,容易に想到し得たこととはいえない。

b なお,申立人は,甲1発明において,相違点3−3に係る本件特許発明7−3の発明特定事項に相当する構成を採用することは,甲5に記載された事項に基づいて,当業者が容易に想到し得たことである旨主張するが,前記ア(エ)b(c)で述べたように,甲1発明の「画像記録ドラム41」及び「渡し胴80」と,甲5記載技術の「ゴム胴3」及び「圧胴4」は,全く異なる機能を有する部材であるから,甲5に,印刷用紙25の紙厚に応じてゴム胴3の軸心を移動させる甲5記載技術が記載されているからといって,当該甲5の記載に接した当業者は,甲1発明の「画像記録ドラム41」及び「渡し胴80」に,当該甲5記載技術を適用しようと動機付けられることはないというべきである。
したがって,申立人の主張は採用できない。

(エ)小活
本件特許発明7−3は,甲1発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(3)本件特許発明8について
本件特許発明8と甲1発明を対比すると,甲1発明の「画像記録ドラム41」は吸着胴であるから,両者は,前記(2)ア(ア)jで述べた相違点1及び相違点2に加えて,前記(2)ア(a)jで述べた相違点3−1,前記(2)イ(ア)で述べた相違点3−2,及び前記(2)ウ(ア)で述べた相違点3−3のうちのいずれかで相違し,その余の点で一致する。
そして,前記(2)ア(エ),前記(2)イ(ウ),及び前記(2)ウ(ウ)で述べたのと同様の理由で,甲1発明において,相違点3−1,相違点3−2又は相違点3−3に係る本件特許発明8の発明特定事項に相当する構成を採用することは,当業者といえども,容易に想到し得たこととはいえない。
したがって,本件特許発明8は,甲1発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(4)本件特許発明9について
本件特許発明8と甲1発明を対比すると,甲1発明の「溝部」及び「吸引ポンプ105」が,本件特許発明9の「印刷胴の内側から外周面に向けて延在する複数の通路」及び「吸着装置」に相当し,甲1発明では,操作者が入力した用紙サイズの情報又はインクジェット記録装置10に設けられたセンサーによって検出された用紙サイズに基づいて,用紙Pの後端部140よりも後方の領域の溝部は吸引せずに用紙Pを吸引するために,当該溝部と連通する空気通路96の開閉バルブ110を全て閉じ,用紙Pが存在する領域の溝部と連通する前記空気通路96の前記開閉バルブ110を開くよう構成されているから,「各々の区分において,それぞれ印刷胴の内側から外周面に向けて延在する複数の通路が終端して配置されており,前記通路において,吸着装置により,周辺空気圧に対して負圧が形成されるまたは少なくとも形成可能であり,それぞれ前記区分のうちの1つの区分において終端する複数の通路が,各々の前記区分において前記印刷胴の外周面に吸着孔区分を形成し,各々の前記吸着孔区分の大きさは,保持されるべき基材の判型に依存して調整されるまたは少なくとも調整可能である」との本件特許発明9の発明特定事項に相当する構成を具備している。
したがって,本件特許発明8と甲1発明は,前記(2)ア(ア)jで述べた相違点1及び2に加えて,前記(2)ア(a)jで述べた相違点3−1,前記(2)イ(ア)で述べた相違点3−2,及び前記(2)ウ(ア)で述べた相違点3−3のうちのいずれかで相違し,その余の点で一致する。
そして,前記(2)ア(エ),前記(2)イ(ウ),及び前記(2)ウ(ウ)で述べたのと同様の理由で,甲1発明において,相違点3−1,3−2又は3−3に係る本件特許発明9の発明特定事項に相当する構成を採用することは,当業者といえども,容易に想到し得たこととはいえない。
したがって,本件特許発明9は,甲1発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(5)本件特許発明10について
ア 対比
本件特許発明10と甲1発明を対比すると,両者は,前記(2)ア(ア)jで述べた相違点1及び2と,前記(2)ア(a)jで述べた相違点3−1,前記(2)イ(ア)で述べた相違点3−2,及び前記(2)ウ(ア)で述べた相違点3−3のうちのいずれかに加えて,次の点でも相違し,その余の点で一致する。

相違点4:
本件特許発明10では,「印刷胴」の回転方向において,各々の区分の少なくとも前方の端部にまたは前方の端部にだけ,それぞれ少なくとも1つのサッカまたは前記印刷胴の軸方向に延在する1つのサッカ列が設けられているのに対して,
甲1発明では,「画像記録ドラム41」の回転方向において,用紙Pの前方の端部は,グリッパGにより保持されるよう構成されており,用紙Pを真空吸着する溝部は設けられていない点。

イ 相違点1及び2について
前記(2)ア(イ)及び(ウ)で述べたのと同様の理由で,甲1発明において,相違点1及び2に係る本件特許発明10の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,当業者が容易になし得たことである。

ウ 相違点3−1ないし3−3について
前記(2)ア(エ),前記(2)イ(ウ),及び前記(2)ウ(ウ)で述べたのと同様の理由で,甲1発明において,相違点3−1,3−2又は3−3に係る本件特許発明10の発明特定事項に相当する構成を採用することは,当業者といえども,容易に想到し得たこととはいえない。

エ 相違点4について
例えば特開昭63−114652号公報(3ページ左下欄下から4行ないし右下欄14行,4ページ右上欄下から5行ないし左下欄15行等を参照。),特開平9−174812号公報(【0011】ないし【0013】,【0018】等を参照。),特開2002−292956号公報(【0009】等を参照。)等にみられるように,用紙の先端を保持する保持装置として,サック(吸引装置)を用いる技術は,本件優先日より前に周知技術(以下,「第1周知技術」という。)である。
甲1発明においては,用紙Pの先端部をグリッパGによって保持するよう構成されているが,当該グリッパGに代えて,前記第1周知技術のサックを用いることは,当業者が容易になし得たことである。

オ 小活
本件特許発明10は,甲1発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(6)本件特許発明12について
ア 対比
本件特許発明12と甲1発明を対比すると,両者は,前記(2)ア(ア)jで述べた相違点1及び2と,前記(2)ア(a)jで述べた相違点3−1,前記(2)イ(ア)で述べた相違点3−2,及び前記(2)ウ(ア)で述べた相違点3−3のうちのいずれかに加えて,次の点でも相違し,又は前記(2)ア(ア)jで述べた相違点1及び2と,前記(2)ア(a)jで述べた相違点3−1,前記(2)イ(ア)で述べた相違点3−2,及び前記(2)ウ(ア)で述べた相違点3−3のうちのいずれかと,前記5(ア)で述べた相違点4に加えて,次の点でも相違し,その余の点で一致する。

相違点5:
本件特許発明12では,基材加工ユニットを有する加工ステーションの加工胴の回転軸線と,直後に配置された渡しドラムまたは直後に配置された搬送胴の回転軸線とを通って延在する直線が,水平線に対して鋭角(α1)を形成し,かつ/または基材加工ユニットを有する加工ステーションの加工胴の回転軸線と,直前に配置された渡しドラムまたは直前に配置された供給胴の回転軸線とを通って延在する直線が,水平線に対して鋭角(α2)を形成し,水平線は,それぞれ該当する前記渡しドラムの回転軸線または該当する前記搬送胴または該当する前記供給胴の回転軸線を通って延在し,後置された前記渡しドラムまたは後置された前記搬送胴に関して向けられた角度(α1)は,前置された前記渡しドラムまたは前置された前記供給胴に関して向けられた角度(α2)の1倍〜2倍の範囲にある,または前置された前記渡しドラムまたは前置された前記供給胴に関して向けられた角度(α2)の1.3倍〜1.7倍の範囲にある,または前置された前記渡しドラムまたは前置された前記供給胴に関して向けられた角度(α2)の1.5倍であるのに対して,
甲1発明では,そのような構成を有することが特定されていない点。

イ 相違点1及び2について
前記(2)ア(イ)及び(ウ)で述べたのと同様の理由で,甲1発明において,相違点1及び2に係る本件特許発明12の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,当業者が容易になし得たことである。

ウ 相違点3−1ないし3−3について
前記(2)ア(エ),前記(2)イ(ウ),及び前記(2)ウ(ウ)で述べたのと同様の理由で,甲1発明において,相違点3−1,3−2又は3−3に係る本件特許発明12の発明特定事項に相当する構成を採用することは,当業者といえども,容易に想到し得たこととはいえない。

エ 相違点4について
前記5(エ)で述べたのと同様の理由で,甲1発明において,相違点4に係る本件特許発明12の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,当業者が容易になし得たことである。

オ 相違点5について
前記(1)イ(イ)で認定したように,甲7には,「画像記録部40における用紙Pの搬送手段である搬送ドラム41の回転軸線と,当該搬送ドラム41の直後に配置された渡し胴90の回転軸線とを通って延在する直線と,水平線とのなす角度を鋭角にし,前記搬送ドラム41の回転軸線と,当該搬送ドラム41の直前に配置された渡し胴80の回転軸線とを通って延在する直線と,水平線とのなす角度を鋭角にし,両角度を等しい値にしたインクジェット印刷機10。」(甲7技術事項)が記載されていると認められるところ,甲1発明において,画像記録ドラム41,渡し胴80,90の位置関係を,甲7技術事項のように設定することは,当業者が適宜なし得たことである。
そして,当該構成の変更を行った甲1発明では,画像記録ドラム41の回転軸線と,当該画像記録ドラム41の直後に配置された渡し胴90の回転軸線とを通って延在する直線と,水平線とのなす角度α1と,前記画像記録ドラム41の回転軸線と,当該画像記録ドラム41の直前に配置された渡し胴80の回転軸線とを通って延在する直線と,水平線とのなす角度α2が,ともに鋭角であり,α1はα2の1倍であるから,相違点5に係る本件特許発明12の発明特定事項に相当する構成を具備することとなる。
したがって,甲1発明において,相違点5に係る本件特許発明12の発明特定事項に相当する構成を採用することは,甲7技術事項に基づいて,当業者が適宜なし得たことである。

カ 小活
本件特許発明12は,甲1発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(7)本件特許発明13について
ア 対比
本件特許発明13と甲1発明を対比すると,両者は,前記(2)ア(ア)jで述べた相違点1及び2と,前記(2)ア(a)jで述べた相違点3−1,前記(2)イ(ア)で述べた相違点3−2,及び前記(2)ウ(ア)で述べた相違点3−3のうちのいずれかに加えて,次の点でも相違し,又は前記(2)ア(ア)jで述べた相違点1及び2と,前記(2)ア(a)jで述べた相違点3−1,前記(2)イ(ア)で述べた相違点3−2,及び前記(2)ウ(ア)で述べた相違点3−3のうちのいずれかと,前記5(ア)で述べた相違点4に加えて,次の点でも相違し,又は前記(2)ア(ア)jで述べた相違点1及び2と,前記(2)ア(a)jで述べた相違点3−1,前記(2)イ(ア)で述べた相違点3−2,及び前記(2)ウ(ア)で述べた相違点3−3のうちのいずれかと,前記5(ア)で述べた相違点4と,前記6(ア)で述べた相違点5に加えて,次の点でも相違し,その余の点で一致する。

相違点6:
本件特許発明13では,加工ステーションは,それぞれモジュールとして構成されており,各々のモジュールは,独立して製作された機械ユニットまたは機能性構成群であり,各々の前記モジュールは,独自のフレーム内に配置されており,隣り合うモジュールは,該モジュールの接合箇所に,略鉛直の接合面を有し,かつ/または基材ガイドユニットおよび基材加工ユニットは,該基材ガイドユニットおよび該基材加工ユニットの接合箇所に,それぞれ略水平の接合面を有するのに対して,
甲1発明では,そのような構成を有することが特定されていない点。

イ 相違点1及び2について
前記(2)ア(イ)及び(ウ)で述べたのと同様の理由で,甲1発明において,相違点1及び2に係る本件特許発明13の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,当業者が容易になし得たことである。

ウ 相違点3−1ないし3−3について
前記(2)ア(エ),前記(2)イ(ウ),及び前記(2)ウ(ウ)で述べたのと同様の理由で,甲1発明において,相違点3−1,3−2又は3−3に係る本件特許発明13の発明特定事項に相当する構成を採用することは,当業者といえども,容易に想到し得たこととはいえない。

エ 相違点4について
前記5(エ)で述べたのと同様の理由で,甲1発明において,相違点4に係る本件特許発明13の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,当業者が容易になし得たことである。

オ 相違点5について
前記6(オ)で述べたのと同様の理由で,甲1発明において,相違点5に係る本件特許発明13の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,当業者が容易になし得たことである。

カ 相違点6について
例えば特開平9−207413号公報(特に【0024】,図2ないし図5等を参照。),特開2004−94301号公報(特に【0058】,図2等を参照。),特開2006−154817号公報(特に【0002】,図2等を参照。)等にみられるように,印刷装置において,各部をモジュール化し,各モジュールの鉛直面にてモジュール同士を接合するよう構成し,モジュールの組み合わせを変更することで,印刷装置の構成の変更を容易にする技術は,本件優先日より前に周知技術(以下,「第2周知技術」という。)であるところ,甲1発明に前記第2周知技術を適用し,処理液付与部30,画像記録部40,インク乾燥部50及び定着部60をそれぞれ鉛直の接合面を有する独立したモジュールとして構成すること,すなわち,相違点6に係る本件特許発明13の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,当業者が容易になし得たことである。

キ 小活
本件特許発明13は,甲1発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(8)本件特許発明14について
本件特許発明14と甲1発明を対比すると,甲1発明では,「画像記録ドラム41」により用紙Pを吸着搬送しているところ,請求項14に記載された「基材のその都度の伸び姿勢で配置されており」とは,本件特許明細書の【0065】の「各々の基材は,この蓄えドラムまたは吸着ドラムにより既に伸ばされて,特に吸着胴として構成された加工胴,特に印刷胴22;38へ引き渡される。この場合,各々の基材は,印刷胴22;38へ引き渡される前に既に伸長状態となる。」という記載を参酌すると,少なくとも,吸着胴により吸着されて搬送されることを包含しているものと解するのが相当であるから,甲1発明では,用紙Pが,「画像記録ドラム41」上で,用紙Pの「その都度の伸び姿勢で配置されている」といえる。
したがって,甲1発明は,「その都度の該当するノンインパクト印刷装置により印刷されるべき基材が,該当する印刷胴上でまたは前記印刷胴の直前に配置された渡しドラム上でまたは直前に配置された供給胴上で,それぞれ前記基材のその都度の伸び姿勢で配置されており,該伸び姿勢とは,基材の後縁が基材の前縁に関して正確な位置に固定された基材の状態を表す」という本件特許発明14の発明特定事項に相当する構成を具備している。
よって,本件特許発明14と甲1発明は,前記(2)ア(ア)jで述べた相違点1及び2と,前記(2)ア(a)jで述べた相違点3−1,前記(2)イ(ア)で述べた相違点3−2,及び前記(2)ウ(ア)で述べた相違点3−3のうちのいずれかで相違し,又は前記(2)ア(ア)jで述べた相違点1及び2と,前記(2)ア(a)jで述べた相違点3−1,前記(2)イ(ア)で述べた相違点3−2,及び前記(2)ウ(ア)で述べた相違点3−3のうちのいずれかと,前記5(ア)で述べた相違点4で相違し,又は前記(2)ア(ア)jで述べた相違点1及び2と,前記(2)ア(a)jで述べた相違点3−1,前記(2)イ(ア)で述べた相違点3−2,及び前記(2)ウ(ア)で述べた相違点3−3のうちのいずれかと,前記5(ア)で述べた相違点4と,前記6(ア)で述べた相違点5で相違し,又は前記(2)ア(ア)jで述べた相違点1及び2と,前記(2)ア(a)jで述べた相違点3−1,前記(2)イ(ア)で述べた相違点3−2,及び前記(2)ウ(ア)で述べた相違点3−3のうちのいずれかと,前記5(ア)で述べた相違点4と,前記6(ア)で述べた相違点5と,前記7(ア)で述べた相違点6で相違し,その余の点で一致する。
そして,前記(2)ア(エ),前記(2)イ(ウ),及び前記(2)ウ(ウ)で述べたのと同様の理由で,甲1発明において,相違点3−1,3−2又は3−3に係る本件特許発明14の発明特定事項に相当する構成を採用することは,当業者といえども,容易に想到し得たこととはいえない。
したがって,本件特許発明14は,甲1発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(9)本件特許発明15について
ア 対比
本件特許発明15と甲1発明を対比すると,両者は,前記(2)ア(ア)jで述べた相違点1及び2と,前記(2)ア(a)jで述べた相違点3−1,前記(2)イ(ア)で述べた相違点3−2,及び前記(2)ウ(ア)で述べた相違点3−3のうちのいずれかに加えて,次の点でも相違し,又は前記(2)ア(ア)jで述べた相違点1及び2と,前記(2)ア(a)jで述べた相違点3−1,前記(2)イ(ア)で述べた相違点3−2,及び前記(2)ウ(ア)で述べた相違点3−3のうちのいずれかと,前記5(ア)で述べた相違点4に加えて,次の点でも相違し,又は前記(2)ア(ア)jで述べた相違点1及び2と,前記(2)ア(a)jで述べた相違点3−1,前記(2)イ(ア)で述べた相違点3−2,及び前記(2)ウ(ア)で述べた相違点3−3のうちのいずれかと,前記5(ア)で述べた相違点4と,前記6(ア)で述べた相違点5に加えて,次の点でも相違し,又は前記(2)ア(ア)jで述べた相違点1及び2と,前記(2)ア(a)jで述べた相違点3−1,前記(2)イ(ア)で述べた相違点3−2,及び前記(2)ウ(ア)で述べた相違点3−3のうちのいずれかと,前記5(ア)で述べた相違点4と,前記6(ア)で述べた相違点5と,前記7(ア)で述べた相違点6に加えて,次の点でも相違し,その余の点で一致する。

相違点7:
本件特許発明15では,印刷胴の直後に配置された渡しドラムまたは直後に配置された搬送胴の下方に,かつ/または前記印刷胴の直前に配置された渡しドラムまたは前記印刷胴の直前に配置された供給胴の下方に,それぞれ,その都度搬送されるべき基材を支持するために,それぞれガイドプレートを有するコーム型サッカが配置されており,前記基材は,その都度該当する前記コーム型サッカの前記ガイドプレートに沿って,該ガイドプレートに擦過して搬送され,前記コーム型サッカは,少なくとも1つの吸着装置を有し,該吸着装置により,前記ガイドプレートに支持されるべき基材が,該ガイドプレートの方向へ吸着されるのに対して,
甲1発明では,画像記録ドラム41の直後に配置された渡し胴90及び画像記録ドラム41の直前に配置された渡し胴80の下部には,円弧状のガイド板93及び83が配設されているものの,本件特許発明15のようなコーム型サッカが配置されてはいない点。

イ 相違点1及び2について
前記(2)ア(イ)及び(ウ)で述べたのと同様の理由で,甲1発明において,相違点1及び2に係る本件特許発明15の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,当業者が容易になし得たことである。

ウ 相違点3−1ないし3−3について
前記(2)ア(エ),前記(2)イ(ウ),及び前記(2)ウ(ウ)で述べたのと同様の理由で,甲1発明において,相違点3−1,3−2又は3−3に係る本件特許発明15の発明特定事項に相当する構成を採用することは,当業者といえども,容易に想到し得たこととはいえない。

エ 相違点4について
前記5(エ)で述べたのと同様の理由で,甲1発明において,相違点4に係る本件特許発明15の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,当業者が容易になし得たことである。

オ 相違点5について
前記6(オ)で述べたのと同様の理由で,甲1発明において,相違点5に係る本件特許発明15の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,当業者が容易になし得たことである。

カ 相違点6について
前記7(カ)で述べたのと同様の理由で,甲1発明において,相違点6に係る本件特許発明15の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,当業者が容易になし得たことである。

キ 相違点7について
前記(1)ウ(イ)で認定したように,甲9には,「記録媒体22の記録面に対して処理液を付与し乾燥させる処理液付与部12と,記録媒体22の記録面に色インクを付与して画像形成を行う描画部14と,色インクの溶媒を乾燥させる乾燥部16とを有するインクジェット記録装置1において,
記録媒体22を処理液付与部12から描画部14へ搬送するための搬送手段である第1中間搬送部24及び記録媒体22を描画部14から乾燥部16へ搬送するための搬送手段である第2中間搬送部26を,記録媒体22の先端を保持するための爪形状の保持手段34を有するとともに,表面に記録媒体22の記録面に対して温風を送り出すための複数の送風口36が形成された中間搬送体30と,記録媒体22の搬送を案内するガイド面30aを備えるとともに,記録媒体22の非記録面をガイド面30aの吸引孔42を通してポンプ43により負圧吸引するよう構成された搬送ガイド32から構成することによって,記録媒体22の記録面に付与された処理液に含まれる高沸点溶媒及びインク67中の高沸点溶媒65の記録媒体22への浸透を促進し,画像の品質を向上させることができること。」(甲9技術事項)が記載されているところ,甲1発明においても,処理液付与部30により付与される処理液中の高沸点溶媒やインク中の高沸点溶媒の用紙Pへの浸透が促進されたほうが好ましいことは当業者に自明であるから,渡し胴80,90の下部に配設された円弧状のガイド板83,93に代えて,甲9に記載された技術の搬送ガイド32を採用し,用紙Pの非記録面をする渡し胴80,90,100によって搬送される用紙Pが,前記搬送ガイド32によって記録面の反対側の面を負圧吸引されながら搬送され,その搬送過程でドライヤ84,94,104から吹き出された熱風が記録面に吹き当てられるような構成にすることは,当業者が容易になし得たことである。
また,ガイドの形状をコーム型とすることは,本件優先日前に,例示するまでもなく,周知の技術(以下,「第3周知技術」という。)である。
したがって,甲1発明において,相違点7に係る本件特許発明15の発明特定事項に相当する構成を採用することは,甲9技術事項及び第3周知技術に基づいて,当業者が容易になし得たことである。

ク 小活
本件特許発明15は,甲1発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(10)本件特許発明16について
ア 対比
本件特許発明16と甲1発明を対比すると,両者は,前記(2)ア(ア)jで述べた相違点1及び2に加えて,次の点でも相違し,その余の点で一致する。

相違点8:
本件特許発明16では,基材加工ユニットを有する加工ステーションの加工胴の回転軸線と,直後に配置された渡しドラムまたは直後に配置された搬送胴の回転軸線とを通って延在する直線が,水平線に対して鋭角(α1)を形成し,かつ/または基材加工ユニットを有する加工ステーションの加工胴の回転軸線と,直前に配置された渡しドラムまたは直前に配置された供給胴の回転軸線とを通って延在する直線が,水平線に対して鋭角(α2)を形成し,水平線は,それぞれ該当する前記渡しドラムの回転軸線または該当する前記搬送胴または該当する前記供給胴の回転軸線を通って延在し,後置された前記渡しドラムまたは後置された前記搬送胴に関して向けられた角度(α1)は,前置された前記渡しドラムまたは前置された前記供給胴に関して向けられた角度(α2)の1.3倍〜1.7倍の範囲にある,または前置された前記渡しドラムまたは前置された前記供給胴に関して向けられた角度(α2)の1.5倍であるのに対して,
甲1発明では,そのような構成を有することが特定されていない点。

イ 相違点1及び2について
前記(2)ア(イ)及び(ウ)で述べたのと同様の理由で,甲1発明において,相違点1及び2に係る本件特許発明15の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,当業者が容易になし得たことである。

ウ 相違点8について
a 前記(1)イ(イ)で認定したように,甲7には,「画像記録部40における用紙Pの搬送手段である搬送ドラム41の回転軸線と,当該搬送ドラム41の直後に配置された渡し胴90の回転軸線とを通って延在する直線と,水平線とのなす角度を鋭角にし,前記搬送ドラム41の回転軸線と,当該搬送ドラム41の直前に配置された渡し胴80の回転軸線とを通って延在する直線と,水平線とのなす角度を鋭角にし,両角度を等しい値にしたインクジェット印刷機10。」(甲7技術事項)が記載されていると認められるところ,前記(6)オで述べたように,甲1発明において,画像記録ドラム41,渡し胴80,90の位置関係を,甲7技術事項のように設定することは,当業者が適宜なし得たことと認められる。
しかしながら,当該構成の変更を行った甲1発明では,画像記録ドラム41の回転軸線と,当該画像記録ドラム41の直後に配置された渡し胴90の回転軸線とを通って延在する直線と,水平線とのなす角度α1と,前記画像記録ドラム41の回転軸線と,当該画像記録ドラム41の直前に配置された渡し胴80の回転軸線とを通って延在する直線と,水平線とのなす角度α2に関して,α1はα2の1倍となるのであって,相違点8に係る本件特許発明16の発明特定事項に相当する構成を具備するものにはならない。
また,インクジェット印刷装置の分野において,画像記録ドラムと,直前に配置された渡し胴又は搬送胴と,直後に配置された渡し胴又は搬送胴の位置関係を,角度α1が,角度α2の1.3倍〜1.7倍の範囲となるよう配置することが,本件特許の優先権主張の日より前に当業者に知られていたことを示す証拠も見当たらない。
したがって,甲1発明において,相違点8に係る本件特許発明16の発明特定事項に相当する構成を採用することは,当業者といえども,容易に想到し得たこととはいえない。

b 申立人は,令和3年9月15日付け意見書において,甲8(特許第2559043号公報)の第5図に,圧胴10の回転軸線と渡し胴11,12の回転軸線を通る直線が水平線と成す角度が一定でないオフセット印刷機が図示されていることから,圧胴と渡し胴を適切に配置することは,印刷機において古くから行われている通常の設計事項の範囲である旨主張する。
甲8の第5図は,次のとおりである。
(イメージ挿入)
甲8には,圧胴10の回転軸線と渡し胴11,12の回転軸線を通る直線が水平線と成す角度が一定でないことの明記はない。そして,特許文献における図面は,あくまでも,当該特許文献に係る発明を技術内容を説明する便宜のために描かれるものにすぎず,設計図面に要求されるような正確性をもって描かれているとは限らない。そうすると,甲8に接した当業者が,その第5図から,角度α1と角度α2をそれぞれ別個の適切な値とする技術思想を読み取ることはできないといわざるを得ない。
また,仮に,申立人のいうように,甲8の第5図から,当業者が,角度α1と角度α2をそれぞれ別個の適切な値とする技術思想を読み取ることができるのだとしても,甲8の第5図からは,圧胴10の直前の渡し胴と,直後の渡し胴の径が異なる場合(直前の渡し胴が渡し胴12であり,直後の渡し胴が渡し胴11である場合)に,角度α1と角度α2が異なる角度になるような配置とし,直前直後の渡し胴の径が同一である場合(直前直後の渡し胴がいずれも渡し胴12である場合。第5図において右から3番目の圧胴10。)には,角度α1と角度α2が同一となるような配置とすることが読み取れるのであって,画像記録ドラム41の直前直後の渡し胴80,90の径が同一である甲1発明に,当該甲8の第5図から読み取れる技術思想を適用しようとすると,角度α1と角度α2が同一となるように配置されることとなる。
したがって,甲1発明に,甲8から読み取れる技術思想を適用しても,相違点8に係る本件特許発明16の発明特定事項に相当する構成には至らない。
そして,本件特許発明16が,相違点8に係る発明特定事項を採用することによって,印刷位置までの経路が短く,印刷後の経路が長いため,印刷の見当保持という観点で有利であるとともに,印刷されたばかりの基材のインクが,直後に配置された渡し胴又は搬送胴を汚すことを抑制するという効果を奏することは,たとえ本件特許明細書に記載がなくとも,当業者が理解できることであるから,相違点8に係る本件特許発明16の発明特定事項が単なる設計事項であると認めることはできない。
以上のとおりであるから,申立人の主張は採用できない。

3 取消理由3(サポート要件違反)について
本件訂正により,請求項4は削除された。
また,本件訂正前に,請求項4の記載を引用する形式で記載されていた請求項6ないし15に対応する本件訂正後の請求項7ないし10,12ないし16(請求項6及び11は削除された。)には,いずれにも,渡しドラム又は供給胴の胴面が周方向で位置調整可能である旨の発明特定事項は記載されていない。
したがって,取消理由3(サポート要件違反)によって,本件特許発明7ないし10,12ないし16についての特許を取り消すことはできない。

4 取消理由4(明確性要件違反)について
本件訂正により,請求項6は削除された。
また,本件訂正前に,請求項6の記載を引用する形式で記載されていた請求項7ないし15に対応する本件訂正後の請求項7ないし10,12ないし16(請求項11は削除された。)には,いずれにも,「請求項4を引用する請求項5」なる発明特定事項は記載されていない。
したがって,取消理由4(明確性要件違反)によって,本件特許発明7ないし10,12ないし16についての特許を取り消すことはできない。

第6 採用しなかった申立理由について
1 採用しなかった申立理由の概要
申立人は,特許異議申立書において,次の申立理由を主張している。

申立理由1(サポート要件違反):
本件明細書の【0019】を参酌すれば,発明が解決しようとする課題は「オフセット印刷法,フレキソ印刷法,スクリーン印刷法などで印刷する印刷装置と,ノンインパクト印刷装置とが生産時にその都度生産にとって最適な速度で使用される機械構造物を提供すること」と認められ,この課題を解決するための手段として,【0037】に記載された,ノンインパクト印刷装置に前置きされた加工ステーションにおいてシートを搬送する搬送速度は第1の搬送速度で,ノンインパクト印刷装置においてシートを搬送する搬送速度は,第1の搬送速度より低い第2の搬送速度であり,ノンインパクト印刷装置に後置きされた加工ステーションにおいてシートを搬送する速度は,第2の搬送速度か,第1の搬送速度に相当する第3の搬送速度である,との構成を採用したものと認められるにもかかわらず,請求項1には,前記課題を解決するための手段が反映されていないから,請求項1に係る発明は,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。

申立理由2(明確性要件違反):
本件明細書の【0037】には,第2の搬送速度に対して第1の搬送速度を適用する際(オフセット印刷装置からノンインパクト印刷装置へシートを引き渡す際)にはシートの間隔が低減されることが記載されており,当該構成は搬送速度を変える際に必須な構成であるが,請求項1には記載されておらず,請求項1に係る発明において,シートの受け渡しをどのように実現するか不明確であるから,請求項1に係る発明は,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。

申立理由3(明確性要件違反):
請求項1には,印刷胴(22;38)に関して,印刷胴(22;38)の回転方向において,第1の区分(51;52;53;54)の後方の端部の回転角度位置は,該当する第1の区分(51;52;53;54)の直後に配置された第2の区分(51;52;53;54)の前方の端部に対して相対的に,前記第1の区分(51;52;53;54)において保持されるべき基材の判型に依存して可変に調整可能であると記載されているが,当該調整について,どのような構成で何のために調整するのか,明細書中には記載されていない。「判型に依存して可変に調整可能」な構成が,判型(シートサイズ)に応じて吸引エリアを調整するものだったとしても,それをどのような構成で実施するのかは明細書中に記載されておらず,不明確であるから,請求項1に係る発明は,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。

申立理由4(進歩性欠如):
請求項2,5に係る発明は,甲1ないし甲5に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,請求項3に係る発明は,甲1ないし甲4,甲6に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,それらの特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
甲1:取消理由2における甲1
甲2:特許第6066155号公報
甲3:特許第6224919号公報
甲4:実用新案登録第3202703号公報
甲5:特許第3501844号公報
甲6:欧州特許第1440351号明細書

2 申立理由1(サポート要件違反)について
本件訂正により請求項1は削除されているが,申立理由1(サポート要件違反)についての主張を,請求項1ばかりでなく,全請求項についてのものと解して,以下に,申立理由1(サポート要件違反)を令和3年4月20日付けの取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった理由を示す。

本件明細書の発明の詳細な説明の【0016】の記載によれば,本件特許発明が解決しようとする課題は,「複数のシート状の基材を連続的に加工する機械構造物を提供すること」と解するのが相当である。
そして,本件特許発明は,「シート状の基材を連続的に加工する機械構造物であって,複数の様々な加工ステーション(01;02;03;04;06;07;08;09;11;12)を備え,複数の加工ステーション(01;02;03;04;06;07;08;09;11;12)は,それぞれ基材ガイドユニット(24)と基材加工ユニット(26)とを有し,」なる発明特定事項を具備することによって,前記課題を解決することができるものと認められる。
申立人が指摘する【0019】には,「さらに,記述の解決手段は,ハイブリッド方式の,シート状の基材を加工する機械構造物に,好適にはハイブリッド方式の印刷機に使用可能である。このハイブリッド方式の印刷機は,従来慣用の,たとえばオフセット印刷法で,またはフレキソ印刷法で,またはスクリーン印刷法で印刷する印刷装置または特に塗工部の被覆装置の高い生産性を,様々に,フレキシブルでそれぞれ変更可能な印刷像を印刷するたとえばインクジェットプリンタとして構成された少なくとも1つのノンインパクト印刷装置と組み合わせて利用し,この場合,従来慣用の印刷装置または被覆装置だけではなくノンインパクト印刷装置も,生産進行時に,インラインで,その都度生産にとって最適な作業速度で使用される。」と記載されているが,当該記載は,本件特許発明を,オフセット印刷法,フレキソ印刷法又はスクリーン印刷法で印刷する印刷装置(又は被覆装置)とノンインパクト印刷装置とを組み合わせたハイブリッド方式の印刷機に適用できること,及び,当該ハイブリッド方式の印刷機において,各印刷装置を最適な作業速度で動作させることができることを説明しているにすぎないものと解され,当該【0019】の記載が,本件特許発明が解決しようとする課題を説明する記載であると認めることはできない。
以上のとおりであるから,ハイブリッド方式の印刷機において,各印刷装置を最適な作業速度で動作させることが発明の課題であるとして,当該課題を解決するための手段が各請求項に反映されていないことを根拠に,サポート要件違反をいう申立人の主張は,発明の課題を誤って認識したものであり,これを採用することはできない。

3 申立理由2(明確性要件違反)について
本件訂正により請求項1は削除されているが,申立理由2(明確性要件違反)についての主張を,請求項1ばかりでなく,全請求項についてのものと解して,以下に,申立理由2(明確性要件違反)を令和3年4月20日付けの取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった理由を示す。

本件特許の各請求項には,異なる搬送速度でシートを引き渡す旨の発明特定事項は記載されていないから,異なる搬送速度でのシートの受け渡しをどのように実現するのか不明確であるとの申立人が主張する理由で,本件特許発明が明確でないとすることはできない。
なお,仮に,申立理由2に係る申立人の主張が,課題を解決するために必須の構成が各請求項に反映されていないとの趣旨であるとしても,前記2で述べたように,本件特許発明が解決しようとする課題は,「複数のシート状の基材を連続的に加工する機械構造物を提供すること」と解されるのであって,異なる搬送速度でシートを引き渡すことが,課題を解決するために必須の構成であるとは認められないから,当該主張を採用することはできない。

4 申立理由3(明確性要件違反)について
本件訂正により請求項1は削除されているが,申立理由3(明確性要件違反)についての主張を,請求項1ばかりでなく,全請求項についてのものと解して,以下に,申立理由3(明確性要件違反)を令和3年4月20日付けの取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった理由を示す。

各請求項に係る発明は,「各々の前記印刷胴(22;38)は,それぞれ該印刷胴(22;38)の外周面に,周方向で相前後して,それぞれ,3倍胴の大きさの構成ではそれぞれ1つの基材を保持するための3つの区分(51;52;53;54)を有し,または4倍胴の大きさの構成ではそれぞれ1つの基材を保持するための4つの区分(51;52;53;54)を有し,」との発明特定事項を有することから,「区分」とは,印刷胴の外周面における基材を保持するための領域であって,当該領域は各印刷胴に対して3つ又は4つ設けられているものと解される。
そうすると,各請求項に係る発明が有する「該当する前記印刷胴(22;38)に関して,前記印刷胴(22;38)の回転方向において,第1の区分(51;52;53;54)の後方の端部の回転角度位置は,該当する第1の区分(51;52;53;54)の直後に配置された第2の区分(51;52;53;54)の前方の端部に対して相対的に,前記第1の区分(51;52;53;54)において保持されるべき基材の判型に依存して可変に調整可能である」との発明特定事項は,印刷胴の外周面における「基材を保持するための領域」(以下,「第1領域」という。)の後方端部の位置が,当該第1領域の直後の「基材を保持するための領域」(以下,「第2領域」という。)の前方端部の位置に対して,基材の判型に応じて相対的に調整することが可能であることを特定していると解されるのであって,その意味は明確であるといわざるを得ない。
なお,申立人は,前記発明特定事項が,どのような構成で何のために調整するのか,明細書中には記載されていないことを,明確性要件違反の根拠として主張するが,どのような構成で何のために調整するのかが明細書に記載されているか否かは,明確性要件に適合するのか否かとは無関係である。
また,そのことを措くとしても,本件明細書の【0062】には,「図15〜図18は,それぞれ吸着胴,特に面状の吸着胴としての,加工胴,特に印刷胴22;38の構成を例示している。・・・(中略)・・・各々の吸着孔区分において,吸着胴の外周面に載置している基材は,大面積で吸着され,これにより保持される。各々の吸着孔区分の大きさは,たとえば保持されるべき基材の判型に依存して調整されるまたは少なくとも調整可能である。」と記載され,【0064】には,「吸着胴は,それぞれ,各々の区分51;52;53;54の,吸着胴の回転方向で後方の端部が,大きさを変えて,吸着胴の外周面に保持されるべき基材の長さに適合可能であるように構成されてよい。・・・(中略)・・・吸着胴の特に好適な態様によれば,各々の区分51;52;53;54の,吸着胴の回転方向で前方の端部に,それぞれグリッパおよび/またはサッカ58が配置されており,これに対して各々の区分51;52;53;54の,吸着胴の回転方向で後方の端部に,それぞれサッカ58が配置されており,吸着胴に関して,吸着胴の回転方向で該当する第1の区分51;52;53;54の直後に配置された第2の区分51;52;53;54の前方の端部に対して相対的な,第1の区分51;52;53;54の後方の端部の回転角度位置は,第1の区分51;52;53;54において保持されるべき基材の判型に依存して,好適にはこの吸着胴の回転経過中にも,たとえば吸着胴の外周面の部分の機械的な位置調整により可変に調整されるまたは少なくとも調整可能である。」と記載されているところ,これらの記載から,前記発明特定事項における第1領域の後方端部の位置の調整が,第1領域の回転方向における長さを,第1領域において保持する基材の判型(サイズ)に合致させることを目的として行われることを把握することができる。また,前記調整のための具体的な構成は,本件明細書には記載されていないものの,基材のサイズに応じて,基材を保持する領域のサイズを調整する技術は,甲1のほか,申立人が提出した甲2(特許第6066155号公報),甲4(実用新案登録第3202703号公報)等に示されるように,本件特許に係る出願の出願前に周知技術であったと認められるから,本件特許の各請求項及び前記本件明細書の記載に接した当業者は,前記発明特定事項がどのような構成のものであるのかを直ちに理解できるものと認められる。
したがって,申立人の主張は採用できない。

5 申立理由4(進歩性欠如)について
(1)請求項2に対して
本件特許発明2と甲1発明を対比すると,両者は,前記第5 2(2)ア(ア)jで述べた相違点1,2,3−1で相違し,その余の点で一致する。
そして,前記第5 2(2)ア(エ)で述べたのと同様の理由で,甲1発明において,相違点3−1に係る本件特許発明2の発明特定事項に相当する構成を採用することは,当業者といえども,容易に想到し得たこととはいえない。
したがって,本件特許発明2は,甲1発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(2)請求項3に対して
本件特許発明3と甲1発明を対比すると,両者は,前記第5 2(2)ア(ア)jで述べた相違点1及び2と,前記第5 2(2)イ(ア)で述べた相違点3−2で相違し,その余の点で一致する。
そして,前記第5 2(2)イ(ウ)で述べたのと同様の理由で,甲1発明において,相違点3−2に係る本件特許発明3の発明特定事項に相当する構成を採用することは,当業者といえども,容易に想到し得たこととはいえない。
したがって,本件特許発明3は,甲1発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(3)請求項5に対して
本件特許発明5と甲1発明を対比すると,両者は,前記第5 2(2)ア(ア)jで述べた相違点1及び2と,前記第5 2(2)ウ(ア)で述べた相違点3−3で相違し,その余の点で一致する。
そして,前記第5 2(2)ウ(ウ)で述べたのと同様の理由で,甲1発明において,相違点3−3に係る本件特許発明5の発明特定事項に相当する構成を採用することは,当業者といえども,容易に想到し得たこととはいえない。
したがって,本件特許発明5は,甲1発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでない。

第7 むすび
取消理由通知書に記載された取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては,請求項2,3,5,7ないし10,12ないし16に係る特許を取り消すことはできない。さらに,他に請求項2,3,5,7ないし10,12ないし16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また,請求項1,4,6,11は,本件訂正によって削除されたため,これらの特許についての,特許異議の申立ての対象は,存在しないものとなった。したがって,請求項1,4,6,11に係る特許についての特許異議の申立ては,特許法120条の8第1項で準用する同法135条の規定により却下する。
よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】
シート状の基材を連続的に加工する機械構造物であって、
複数の様々な加工ステーション(01;02;03;04;06;07;08;09;11;12)を備え、
複数の加工ステーション(01;02;03;04;06;07;08;09;11;12)は、それぞれ基材ガイドユニット(24)と基材加工ユニット(26)とを有し、前記加工ステーション(01;02;03;04;06;07;08;09;11;12)のうちの少なくとも1つの加工ステーションは、基材加工ユニット(26)として、それぞれ基材にその都度印刷を行う少なくとも1つのノンインパクト印刷装置(06;37)を有し、少なくとも1つの前記ノンインパクト印刷装置(06;37)を有する該当する前記加工ステーションは、印刷胴(22;38)を有し、各々の前記ノンインパクト印刷装置(06;37)は、それぞれ前記印刷胴(22;38)の周に配置されており、各々の前記印刷胴(22;38)は、それぞれ、3倍胴または4倍胴の大きさに構成されており、各々の前記印刷胴(22;38)は、それぞれ該印刷胴(22;38)の外周面に、周方向で相前後して、それぞれ、3倍胴の大きさの構成ではそれぞれ1つの基材を保持するための3つの区分(51;52;53;54)を有し、または4倍胴の大きさの構成ではそれぞれ1つの基材を保持するための4つの区分(51;52;53;54)を有し、各々の前記印刷胴(22;38)の直前に、それぞれ、2倍胴または3倍胴の大きさに構成された渡しドラム(43)または相応の供給胴(43)が配置されている、かつ/または各々の前記印刷胴(22;38)の直後に、2倍胴または3倍胴の大きさに構成された渡しドラム(44)または相応の搬送胴(44)が配置されている、機械構造物において、
該当する前記印刷胴(22;38)に関して、前記印刷胴(22;38)の回転方向において、第1の区分(51;52;53;54)の後方の端部の回転角度位置は、該当する第1の区分(51;52;53;54)の直後に配置された第2の区分(51;52;53;54)の前方の端部に対して相対的に、前記第1の区分(51;52;53;54)において保持されるべき基材の判型に依存して可変に調整可能であり、
それぞれ、各々の前記印刷胴(22;38)の直前に配置された前記渡しドラム(43)または直前に配置された前記供給胴(43)は、それぞれ、各々の基材が案内される隙間(32)を形成して、該当する前記印刷胴(22;38)の外周面に当接されているまたは少なくとも当接可能であり、該当する前記印刷胴(22;38)と直前に配置された前記渡しドラム(43)または直前に配置された前記供給胴(43)との間に形成された前記隙間(32)の幅は、その都度、各々の基材、特に基材の厚さまたは坪量に依存して調整されることを特徴とする、機械構造物。
【請求項3】
シート状の基材を連続的に加工する機械構造物であって、
複数の様々な加工ステーション(01;02;03;04;06;07;08;09;11;12)を備え、
複数の加工ステーション(01;02;03;04;06;07;08;09;11;12)は、それぞれ基材ガイドユニット(24)と基材加工ユニット(26)とを有し、前記加工ステーション(01;02;03;04;06;07;08;09;11;12)のうちの少なくとも1つの加工ステーションは、基材加工ユニット(26)として、それぞれ基材にその都度印刷を行う少なくとも1つのノンインパクト印刷装置(06;37)を有し、少なくとも1つの前記ノンインパクト印刷装置(06;37)を有する該当する前記加工ステーションは、印刷胴(22;38)を有し、各々の前記ノンインパクト印刷装置(06;37)は、それぞれ前記印刷胴(22;38)の周に配置されており、各々の前記印刷胴(22;38)は、それぞれ、3倍胴または4倍胴の大きさに構成されており、各々の前記印刷胴(22;38)は、それぞれ該印刷胴(22;38)の外周面に、周方向で相前後して、それぞれ、3倍胴の大きさの構成ではそれぞれ1つの基材を保持するための3つの区分(51;52;53;54)を有し、または4倍胴の大きさの構成ではそれぞれ1つの基材を保持するための4つの区分(51;52;53;54)を有し、各々の前記印刷胴(22;38)の直前に、それぞれ、2倍胴または3倍胴の大きさに構成された渡しドラム(43)または相応の供給胴(43)が配置されている、かつ/または各々の前記印刷胴(22;38)の直後に、2倍胴または3倍胴の大きさに構成された渡しドラム(44)または相応の搬送胴(44)が配置されている、機械構造物において、
該当する前記印刷胴(22;38)に関して、前記印刷胴(22;38)の回転方向において、第1の区分(51;52;53;54)の後方の端部の回転角度位置は、該当する第1の区分(51;52;53;54)の直後に配置された第2の区分(51;52;53;54)の前方の端部に対して相対的に、前記第1の区分(51;52;53;54)において保持されるべき基材の判型に依存して可変に調整可能であり、
それぞれ、各々の前記印刷胴(22;38)の直前に配置された前記渡しドラム(43)または直前に配置された前記供給胴(43)は、それぞれ前記渡しドラム(43)または前記供給胴(43)の周に、それぞれ1つの弾性的な上張りを有し、該上張りでもって、前記渡しドラム(43)または前記供給胴(43)は、該当する前記印刷胴(22;38)の外周面に当接されているまたは少なくとも当接可能であることを特徴とする、機械構造物。
【請求項4】(削除)
【請求項5】
シート状の基材を連続的に加工する機械構造物であって、
複数の様々な加工ステーション(01;02;03;04;06;07;08;09;11;12)を備え、
複数の加工ステーション(01;02;03;04;06;07;08;09;11;12)は、それぞれ基材ガイドユニット(24)と基材加工ユニット(26)とを有し、前記加工ステーション(01;02;03;04;06;07;08;09;11;12)のうちの少なくとも1つの加工ステーションは、基材加工ユニット(26)として、それぞれ基材にその都度印刷を行う少なくとも1つのノンインパクト印刷装置(06;37)を有し、少なくとも1つの前記ノンインパクト印刷装置(06;37)を有する該当する前記加工ステーションは、印刷胴(22;38)を有し、各々の前記ノンインパクト印刷装置(06;37)は、それぞれ前記印刷胴(22;38)の周に配置されており、各々の前記印刷胴(22;38)は、それぞれ、3倍胴または4倍胴の大きさに構成されており、各々の前記印刷胴(22;38)は、それぞれ該印刷胴(22;38)の外周面に、周方向で相前後して、それぞれ、3倍胴の大きさの構成ではそれぞれ1つの基材を保持するための3つの区分(51;52;53;54)を有し、または4倍胴の大きさの構成ではそれぞれ1つの基材を保持するための4つの区分(51;52;53;54)を有し、各々の前記印刷胴(22;38)の直前に、それぞれ、2倍胴または3倍胴の大きさに構成された渡しドラム(43)または相応の供給胴(43)が配置されている、かつ/または各々の前記印刷胴(22;38)の直後に、2倍胴または3倍胴の大きさに構成された渡しドラム(44)または相応の搬送胴(44)が配置されている、機械構造物において、
該当する前記印刷胴(22;38)に関して、前記印刷胴(22;38)の回転方向において、第1の区分(51;52;53;54)の後方の端部の回転角度位置は、該当する第1の区分(51;52;53;54)の直後に配置された第2の区分(51;52;53;54)の前方の端部に対して相対的に、前記第1の区分(51;52;53;54)において保持されるべき基材の判型に依存して可変に調整可能であり、
それぞれ、各々の前記印刷胴(22;38)の直前に配置された前記渡しドラム(43)または直前に配置された前記供給胴(43)は、それぞれ全体が位置変化可能に支持されていることを特徴とする、機械構造物。
【請求項6】(削除)
【請求項7】
それぞれ、各々の前記印刷胴(22;38)の直前に配置された前記渡しドラム(43)または直前に配置された前記供給胴(43)は、それぞれ蓄えドラムとしてまたは吸着ドラムとして構成されていることを特徴とする、請求項2または3または5記載の機械構造物。
【請求項8】
各々の前記印刷胴(22;38)は、それぞれ吸着胴として構成されており、該当する前記印刷胴(22;38)への吸着空気の供給は、その都度前記印刷胴(22;38)の回転角度位置に依存して切り換えられるまたは少なくとも切換え可能であることを特徴とする、請求項2または3または5または7記載の機械構造物。
【請求項9】
各々の前記区分(51;52;53;54)において、それぞれ前記印刷胴(22;38)の内側から外周面に向けて延在する複数の通路(56)が終端して配置されており、前記通路(56)において、吸着装置により、周辺空気圧に対して負圧が形成されるまたは少なくとも形成可能であり、それぞれ前記区分(51;52;53;54)のうちの1つの区分において終端する複数の通路(56)が、各々の前記区分(51;52;53;54)において前記印刷胴(22;38)の外周面に吸着孔区分を形成し、各々の前記吸着孔区分の大きさは、保持されるべき基材の判型に依存して調整されるまたは少なくとも調整可能であることを特徴とする、請求項2または3または5または7または8記載の機械構造物。
【請求項10】
前記印刷胴(22;38)の回転方向において、各々の前記区分(51;52;53;54)の少なくとも前方の端部にまたは前方の端部にだけ、それぞれ少なくとも1つのサッカ(58)または前記印刷胴(22;38)の軸方向に延在する1つのサッカ(58)列が設けられていることを特徴とする、請求項2または3または5または7または8または9記載の機械構造物。
【請求項11】(削除)
【請求項12】
基材加工ユニット(26)を有する加工ステーションの加工胴の回転軸線と、直後に配置された渡しドラム(44)または直後に配置された搬送胴(44)の回転軸線とを通って延在する直線が、水平線に対して鋭角(α1)を形成し、かつ/または基材加工ユニット(26)を有する加工ステーションの加工胴の回転軸線と、直前に配置された渡しドラム(43)または直前に配置された供給胴(43)の回転軸線とを通って延在する直線が、水平線に対して鋭角(α2)を形成し、水平線は、それぞれ該当する前記渡しドラム(43;44)の回転軸線または該当する前記搬送胴(44)または該当する前記供給胴(43)の回転軸線を通って延在し、後置された前記渡しドラム(44)または後置された前記搬送胴(44)に関して向けられた角度(α1)は、前置された前記渡しドラム(43)または前置された前記供給胴(43)に関して向けられた角度(α2)の1倍〜2倍の範囲にある、または前置された前記渡しドラム(43)または前置された前記供給胴(43)に関して向けられた角度(α2)の1.3倍〜1.7倍の範囲にある、または前置された前記渡しドラム(43)または前置された前記供給胴(43)に関して向けられた角度(α2)の1.5倍であることを特徴とする、請求項2または3または5または7または8または9または10記載の機械構造物。
【請求項13】
前記加工ステーション(01;02;03;04;06;07;08;09;11;12)は、それぞれモジュールとして構成されており、各々のモジュールは、独立して製作された機械ユニットまたは機能性構成群であり、各々の前記モジュールは、独自のフレーム内に配置されており、隣り合うモジュールは、該モジュールの接合箇所に、略鉛直の接合面を有し、かつ/または前記基材ガイドユニット(24)および前記基材加工ユニット(26)は、該基材ガイドユニット(24)および該基材加工ユニット(26)の接合箇所に、それぞれ略水平の接合面を有することを特徴とする、請求項2または3または5または7または8または9または10または12記載の機械構造物。
【請求項14】
その都度の該当する前記ノンインパクト印刷装置(06;37)により印刷されるべき基材が、該当する前記印刷胴(22;38)上でまたは前記印刷胴(22;38)の直前に配置された前記渡しドラム(43)上でまたは直前に配置された前記供給胴(43)上で、それぞれ前記基材のその都度の伸び姿勢で配置されており、該伸び姿勢とは、基材の後縁が基材の前縁に関して正確な位置に固定された基材の状態を表すことを特徴とする、請求項2または3または5または7または8または9または10または12または13記載の機械構造物。
【請求項15】
前記印刷胴(22;38)の直後に配置された前記渡しドラム(44)または直後に配置された前記搬送胴(44)の下方に、かつ/または前記印刷胴(22;38)の直前に配置された前記渡しドラム(43)または前記印刷胴(22;38)の直前に配置された供給胴(43)の下方に、それぞれ、その都度搬送されるべき基材を支持するために、それぞれガイドプレート(42)を有するコーム型サッカ(33)が配置されており、前記基材は、その都度該当する前記コーム型サッカ(33)の前記ガイドプレート(42)に沿って、該ガイドプレート(42)に擦過して搬送され、前記コーム型サッカ(33)は、少なくとも1つの吸着装置(34)を有し、該吸着装置(34)により、前記ガイドプレート(42)に支持されるべき基材が、該ガイドプレート(42)の方向へ吸着されることを特徴とする、請求項2または3または5または7または8または9または10または12または13または14記載の機械構造物。
【請求項16】
シート状の基材を連続的に加工する機械構造物であって、
複数の様々な加工ステーション(01;02;03;04;06;07;08;09;11:12)を備え、
複数の加工ステーション(01;02;03;04;06;07;08;09;11;12)は、それぞれ基材ガイドユニット(24)と基材加工ユニット(26)とを有し、前記加工ステーション(01;02;03;04;06;07;08;09;11;12)のうちの少なくとも1つの加工ステーションは、基材加工ユニット(26)として、それぞれ基材にその都度印刷を行う少なくとも1つのノンインパクト印刷装置(06;37)を有し、少なくとも1つの前記ノンインパクト印刷装置(06;37)を有する該当する前記加工ステーションは、印刷胴(22;38)を有し、各々の前記ノンインパクト印刷装置(06;37)は、それぞれ前記印刷胴(22;38)の周に配置されており、各々の前記印刷胴(22;38)は、それぞれ、3倍胴または4倍胴の大きさに構成されており、各々の前記印刷胴(22;38)は、それぞれ該印刷胴(22;38)の外周面に、周方向で相前後して、それぞれ、3倍胴の大きさの構成ではそれぞれ1つの基材を保持するための3つの区分(51;52;53;54)を有し、または4倍胴の大きさの構成ではそれぞれ1つの基材を保持するための4つの区分(51;52;53;54)を有し、各々の前記印刷胴(22;38)の直前に、それぞれ、2倍胴または3倍胴の大きさに構成された渡しドラム(43)または相応の供給胴(43)が配置されている、かつ/または各々の前記印刷胴(22;38)の直後に、2倍胴または3倍胴の大きさに構成された渡しドラム(44)または相応の搬送胴(44)が配置されている、機械構造物において、
該当する前記印刷胴(22;38)に関して、前記印刷胴(22;38)の回転方向において、第1の区分(51;52;53;54)の後方の端部の回転角度位置は、該当する第1の区分(51;52;53;54)の直後に配置された第2の区分(51;52;53;54)の前方の端部に対して相対的に、前記第1の区分(51;52;53;54)において保持されるべき基材の判型に依存して可変に調整可能であり、
基材加工ユニット(26)を有する加工ステーションの加工胴の回転軸線と、直後に配置された渡しドラム(44)または直後に配置された搬送胴(44)の回転軸線とを通って延在する直線が、水平線に対して鋭角(α1)を形成し、かつ/または基材加工ユニット(26)を有する加工ステーションの加工胴の回転軸線と、直前に配置された渡しドラム(43)または直前に配置された供給胴(43)の回転軸線とを通って延在する直線が、水平線に対して鋭角(α2)を形成し、水平線は、それぞれ該当する前記渡しドラム(43;44)の回転軸線または該当する前記搬送胴(44)または該当する前記供給胴(43)の回転軸線を通って延在し、後置された前記渡しドラム(44)または後置された前記搬送胴(44)に関して向けられた角度(α1)は、前置された前記渡しドラム(43)または前置された前記供給胴(43)に関して向けられた角度(α2)の1.3倍〜1.7倍の範囲にある、または前置された前記渡しドラム(43)または前置された前記供給胴(43)に関して向けられた角度(α2)の1.5倍であることを特徴とする、機械構造物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-10-20 
出願番号 P2018-568883
審決分類 P 1 651・ 855- YAA (B65H)
P 1 651・ 851- YAA (B65H)
P 1 651・ 121- YAA (B65H)
P 1 651・ 857- YAA (B65H)
P 1 651・ 537- YAA (B65H)
P 1 651・ 841- YAA (B65H)
P 1 651・ 854- YAA (B65H)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 藤田 年彦
特許庁審判官 清水 康司
吉村 尚
登録日 2019-10-11 
登録番号 6599571
権利者 ケーニッヒ ウント バウアー アー・ゲー
発明の名称 シート状の基材を連続的に加工する印刷装置を備える機械構造物  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 森田 拓  
代理人 前川 純一  
代理人 二宮 浩康  
代理人 前川 純一  
代理人 二宮 浩康  
代理人 森田 拓  
代理人 上島 類  
代理人 上島 類  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ