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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G02B
審判 全部申し立て 2項進歩性  G02B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  G02B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G02B
管理番号 1380928
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-01-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-07-30 
確定日 2021-10-19 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6641946号発明「光学バリアフィルム、色変換フィルム及びバックライトユニット」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6641946号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜7〕について訂正することを認める。 特許第6641946号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続等の経緯
特許第6641946号の請求項1〜7に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願(特願2015−237536号)は、平成27年12月4日の出願であって、令和2年1月8日にその特許権の設定登録がされたものである。
本件特許について、令和2年2月5日に特許掲載公報が発行されたところ、その発行の日から6月以内である令和2年7月30日に、特許異議申立人 渡辺陽子(以下「特許異議申立人」という。)から全請求項に対して特許異議の申立てがされた。その後の手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。

令和 2年10月23日付け:取消理由通知書
令和 2年12月25日付け:訂正請求書
令和 2年12月25日付け:意見書(特許権者)
令和 3年 2月16日付け:意見書(特許異議申立人)
令和 3年 3月31日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和 3年 6月 7日付け:訂正請求書(この訂正請求書による訂正の請求を以下「本件訂正請求」という。)
令和 3年 6月 7日付け:意見書(特許権者)
令和 3年 7月19日付け:意見書(特許異議申立人)

本件訂正請求により、令和2年12月25日付けの訂正請求書による訂正の請求は取り下げられたものとみなす(特許法第120条の5第7項)。


第2 本件訂正請求について
1 訂正の趣旨及び訂正の内容
(1)訂正の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、特許第6641946号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜7について訂正することを求める、というものである。

(2)訂正の内容
本件訂正請求において特許権者が求める訂正の内容は、以下のとおりである。なお、下線は当合議体が付したものであり、訂正箇所を示す。

ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「突出した前記微粒子の割合が10%以上であり」とあるのを、「前記微粒子のうち、突出した前記微粒子の割合が10%以上であり」に訂正する(請求項1の記載を引用する、請求項3〜7についても、同様に訂正する。)。

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「前記微粒子の平均粒子径が0.5μm以上10.0μm以下であり、前記微粒子の硬さが、ロックウェルR硬さスケールで100以下である、」とあるのを、「前記微粒子の平均粒子径が0.5μm以上10.0μm以下であり、前記マット層中の前記微粒子の含有量が前記マット層の全量を基準として5〜50質量%であり、前記マット層の厚さが0.5μm〜30μmであり、前記微粒子の硬さが、ロックウェルR硬さスケールで100以下である。」に訂正する(請求項1の記載を引用する、請求項3〜7についても、同様に訂正する。)。

ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2に「前記微粒子の平均粒子径が0.5μm以上10.0μm以下であり、前記微粒子の硬さが、ロックウェルR硬さスケールで100以下である、」とあるのを、「前記微粒子の平均粒子径が0.5μm以上10.0μm以下であり、前記マット層中の前記微粒子の含有量が前記マット層の全量を基準として5〜50質量%であり、前記マット層の厚さが0.5μm〜30μmであり、前記微粒子の硬さが、ロックウェルR硬さスケールで100以下である。」に訂正する(請求項2の記載を引用する、請求項3〜7についても、同様に訂正する。)。

エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項3に「導電性材料を含有する」とあるのを、「導電性材料を含有し、前記微粒子の平均粒子径が6μm以上10.0μm以下であり、前記マット層の厚さが0.5μm〜3μmである」に訂正する(請求項3の記載を引用する、請求項4〜7についても、同様に訂正する。)。

(3)本件訂正請求は、[A]一群の請求項〔1、3〜7〕及び[B]〔2〜7〕ごとに請求されたものであるところ、[A]及び[B]は請求項3〜請求項7を介して一体として特許請求の範囲の全部を形成するように連関している関係にあることから、特許法第120条の5第4項の経済産業省令で定める関係にあるといえる(特許法施行規則第45条の4)。
したがって、本件訂正請求は、[A]及び[B]全体を一群の請求項として請求されたものとして、以下、取り扱うこととする。

2 訂正の適否
(1)訂正事項1について
訂正事項1による訂正は、特許請求の範囲の請求項1に記載された「突出した前記微粒子の割合」が、「前記微粒子のうち、突出した前記微粒子の割合」であることを明らかにする訂正である。そして、この点は、請求項1の記載を引用して記載された請求項3〜請求項7についてみても、同じである。
そうしてみると、訂正事項1による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号(明瞭でない記載の釈明)に掲げる事項を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書の【0020】の記載に基づくものである。そうしてみると、訂正事項1による訂正は、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
加えて、訂正事項1による訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しないことは明らかである。
請求項3〜7についてもみても、同じである。

(2)訂正事項2について
訂正事項2による訂正は、特許請求の範囲の請求項1に記載された「微粒子」及び「マット層」について、「前記マット層中の前記微粒子の含有量が前記マット層の全量を基準として5〜50質量%であり、前記マット層の厚さが0.5μm〜30μmであり、」という限定を付加する訂正である。
したがって、訂正事項2による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項2による訂正は、本件特許の願書に添付した明細書の【0018】及び【0019】の記載に基づくものであるから、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、訂正事項2による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
さらに、訂正事項2による訂正によって、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかであるから、訂正事項2による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。
請求項3〜7についてみても、同じである。

(3)訂正事項3について
訂正事項3による訂正は、特許請求の範囲の請求項2に記載された「微粒子」及び「マット層」について、「前記マット層中の前記微粒子の含有量が前記マット層の全量を基準として5〜50質量%であり、前記マット層の厚さが0.5μm〜30μmであり、」という限定を付加する訂正である。
したがって、訂正事項3による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項3による訂正は、本件特許の願書に添付した明細書の【0018】及び【0019】の記載に基づくものであるから、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、訂正事項3による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
さらに、訂正事項3による訂正によって、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかであるから、訂正事項3による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。
請求項3〜7についてみても、同じである。

(4)訂正事項4について
訂正事項4による訂正は、特許請求の範囲の請求項3に記載された「微粒子」及び「マット層」について、「前記微粒子の平均粒子径が6μm以上10.0μm以下であり、前記マット層の厚さが0.5μm〜3μmである」という限定を付加する訂正である。
したがって、訂正事項4による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項4による訂正は、本件特許の願書に添付した明細書の【0017】、【0018】、【0063】、【0065】及び【0075】の記載に基づくものであるから、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、訂正事項4による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
さらに、訂正事項4による訂正によって、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかであるから、訂正事項4による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。
請求項4〜7についてみても、同じである。

3 訂正についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、全て、特許法120条の5第2項ただし書、同法同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
よって、結論に記載したとおり、特許第6641946号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜7〕について訂正することを認める。

第3 本件特許発明
前記「第2」のとおり、本件訂正請求による訂正は認められた。
したがって、本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜7に係る発明(以下、それぞれ、「本件特許発明1」〜「本件特許発明7」という。)は、本件訂正請求による訂正後の特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
第一フィルム基材及び該第一フィルム基材上に形成されたマット層を含む光学フィルムと、前記光学フィルムの前記第一フィルム基材側の面上に形成されたバリア層と、を備え、
前記マット層は微粒子を含有し、
少なくとも一部の前記微粒子が前記マット層の前記第一フィルム基材と反対側の表面に突出しており、
前記微粒子のうち、突出した前記微粒子の割合が10%以上であり、
前記微粒子の平均粒子径が0.5μm以上10.0μm以下であり、
前記マット層中の前記微粒子の含有量が前記マット層の全量を基準として5〜50質量%であり、
前記マット層の厚さが0.5μm〜30μmであり、
前記微粒子の硬さが、ロックウェルR硬さスケールで100以下である、光学バリアフィルム。

【請求項2】
第一フィルム基材及び該第一フィルム基材上に形成されたマット層を含む光学フィルムと、第二フィルム基材及びバリア層を含むバリア複合層と、を備え、
前記バリア複合層は、前記光学フィルムの前記第一フィルム基材側の面上に形成されており、
前記マット層は微粒子を含有し、
少なくとも一部の前記微粒子が前記マット層の前記第一フィルム基材と反対側の表面に突出しており、
前記微粒子の平均粒子径が0.5μm以上10.0μm以下であり、
前記マット層中の前記微粒子の含有量が前記マット層の全量を基準として5〜50質量%であり、
前記マット層の厚さが0.5μm〜30μmであり、
前記微粒子の硬さが、ロックウェルR硬さスケールで100以下である、光学バリアフィルム。

【請求項3】
前記マット層はさらに、四級アンモニウム塩化合物、導電性高分子、及び金属酸化物からなる群より選択される少なくとも1種の導電性材料を含有し、
前記微粒子の平均粒子径が6μm以上10.0μm以下であり、
前記マット層の厚さが0.5μm〜3μmである、請求項1又は2に記載の光学バリアフィルム。

【請求項4】
前記マット層の表面抵抗率が1.0×1013Ω/□以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の光学バリアフィルム。

【請求項5】
前記バリア層は、SiOx(1.0≦x≦2.0)で表されるシリコン酸化物からなる無機蒸着薄膜層を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の光学バリアフィルム。

【請求項6】
色変換層と、該色変換層を挟むように配置された二つの保護フィルムと、を備え、
前記二つの保護フィルムの少なくとも一方が、請求項1〜5のいずれか一項に記載の光学バリアフィルムであり、
前記光学バリアフィルムは、前記マット層が前記色変換層と反対側を向くように配置されている色変換フィルム。

【請求項7】
光源と、導光板と、該導光板上に配置された請求項6に記載の色変換フィルムと、を備え、
前記色変換フィルムは、前記マット層が前記導光板と接するように配置されている、バックライトユニット。」


第4 取消しの理由の概要
当合議体は、令和3年3月31日付け取消理由通知(決定の予告)において、令和2年12月25日付け訂正請求書により訂正された本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜7に係る発明に対し、概略、以下のとおりの取消理由を通知した。

理由1:(明確性要件)本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が、明確であるということができないから、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。

理由2:(サポート要件)本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が、発明の詳細な説明に記載したものであるということができないから、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。

理由3:(実施可能要件)本件特許は、発明の詳細な説明の記載が、本件特許の請求項1〜請求項7に係る発明について、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるということができないから、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。

理由4:(進歩性)本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜7に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明及び周知の技術に基づいて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜7に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
甲1:国際公開第2015/152396号
甲2:特開2009−244509号公報
甲4:国際公開第2015/063948号
甲5:特開2003−92018号公報
(当合議体注:甲1は、主引用例であり、甲2、甲4及び甲5は、周知技術を示す文献である。)

第5 当合議体の判断
1 令和3年3月31日付け取消理由通知(決定の予告)の「理由1:(明確性要件)」について
(1)本件特許発明1は、「前記微粒子の硬さが、ロックウェルR硬さスケールで100以下である」という構成を具備する。
ここで、ロックウェルR硬さ試験は、直径12.7mmの球圧子を用いてくぼみ深さを測定することにより行われる。他方、本件特許発明1の「微粒子」は、「平均粒子径が0.5μm以上10.0μm以下」であるから、当該「微粒子」の「ロックウェルR硬さ」を上記測定方法で測定することは困難であることは経験則に照らして明らかである。
そうしてみると、本件特許発明1の「前記微粒子の硬さが、ロックウェルR硬さスケールで100以下である」における「微粒子」の「ロックウェルR硬さ」が、「微粒子」ではなく、これを構成する材料の硬さを意味することは自然な理解といえ、具体的な材料のロックウェルR硬さスケールでの値は試験により一義的に確認できるものであるといえる。
さらに、本件特許の明細書の実施例2〜実施例4、比較例1及び比較例3(【0064】〜【0067】、【0069】及び【0075】【表1】)には、粒子が「ウレタン系微粒子」という同一の名称で特定されるにとどまり、材料の相違についての言及がないものであっても、その硬さが、ロックウェルR硬さスケールで異なることが記載されている(実施例2〜実施例4及び比較例3のウレタン系微粒子の硬さは100であるが、比較例1のウレタン系微粒子の硬さは110である。)。この点について、乙第1号証(「プラスチック・機能性高分子材料辞典」、プラスチック・機能性高分子材料辞典編集委員会、2004年2月20日)の508頁等に記載されているように、ウレタン系樹脂は、ウレタン系の様々な樹脂を包括する総称であって、それぞれある程度硬さが異なることは、本件特許の出願時の技術常識であったと認められる。以上によれば、、当業者であれば、本件特許の上記実施例2〜実施例4及び比較例3のウレタン系微粒子と比較例1のウレタン系微粒子は、ロックウェルR硬さスケールが異なるウレタン系樹脂を材料として用いたものであることを直ちに理解することができるといえる。
そうしてみると、当業者であれば、「ロックウェルR硬さスケールで100以下である」という構成によって特定される「微粒子」と、他の「微粒子」とを区別することは可能であり、本件特許発明1は明確であるといえる。本件特許発明2〜本件特許発明7についても同様である。
以上のとおりであるから、本件特許の特許請求の範囲の記載は特許法36条6項2号に規定する要件を満たしている。

(2)特許異議申立人の主張について
ア 特許異議申立人は、令和3年7月19日付け意見書において、「発明の詳細な説明には、依然として、実施例1〜4、比較例1、3の微粒子がウレタン系微粒子であって平均粒子径が異なることしか記載されておらず、「ウレタン樹脂によってその硬さが異なる」ことは出願当初に意図されていなかったことは明らかである。」と主張している。
しかしながら、上記(1)で述べたとおりである。
したがって、特許異議申立人の上記主張は、認められない。

イ 特許異議申立人は、令和3年7月19日付け意見書において、「訂正発明1は、「前記微粒子の平均粒子径が0.5μm以上10.0μm以下であり、」「前記マット層の厚さが0.5μm〜30μmであり、」と特定し」、「例えば、マット層の厚さが0.5μmで粒子径が10.0μmの場合を包含するよう記載しているが、微粒子の密度が所定以上の場合、マット層の技術的意味はなくなるから、発明が不明確である。」と主張している。
上記主張の意味するところは必ずしも明確ではないが、本件特許発明は、微粒子の密度について何ら特定されていない発明であり、そのことを根拠にマット層の技術的意味がないとはいえない。或いは、マット層の厚さと粒子径が上記関係を満たすような場合を想定したとしても、傷付きを防止するという機能に対しては不利に働くとしても、本来のマット層の機能(ブロッキングの抑制)という機能に対してはむしろ好ましいといえる。
したがって、特許異議申立人の上記主張は、認められない。

ウ 特許異議申立人は、令和3年7月19日付け意見書において、「訂正発明1、3は、マット層の厚さが0.5μmで平均粒子径が10.0μmの場合を包含しているが、その場合、微粒子含有量とは何を意味するのか、塗布液における含有量を指すのか、乾燥後の含有量を指すのか不明確である。」と主張している。
しかしながら、本件特許発明1には、「前記マット層中の前記微粒子の含有量が前記マット層の全量を基準として5〜50質量%であり」と記載されており、その文言からみて、微粒子の含有量は、マット層の乾燥後の含有量を意味していることは明らかである。
したがって、特許異議申立人の上記主張は、認められない。

エ 特許異議申立人は、令和3年7月19日付け意見書において、微粒子含有量の上限の技術的意味は、微粒子の突出割合を固定し他部材の傷付きを防止することと解され、他方、訂正発明1、3は、全微粒子がその体積の大部分で突出する(マット層の厚さが0.5μmで平均粒子径が10μmの場合)という、傷付きを防止できない場合を包含しているから、微粒子径及びマット層の厚さの数値範囲と微粒子含有量の数値範囲は互いに矛盾するものを含んでいると主張している。
しかしながら、他部材の傷付きが防止できるか否かは、微粒子の硬さ等の要因によっても変化し、微粒子径及びマット層の厚さと微粒子含有量の範囲のみで決まるのではないから、必ずしも両者の数値範囲が矛盾することにはならない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は、認められない。

2 令和3年3月31日付け取消理由通知(決定の予告)の「理由2(サポート要件)」について
(1) 本件特許発明1の、発明が解決しようとする課題は、本件特許の明細書の【0004】の記載からみて、「他の部材とのブロッキングを抑制しつつ、マット層及び他の部材の傷付きを抑制することが可能な光学バリアフィルムを提供すること」にある。ここで、本件訂正請求によって、本件特許発明1は、「前記マット層は微粒子を含有し、少なくとも一部の前記微粒子が前記マット層の前記第一フィルム基材と反対側の表面に突出しており」、「前記微粒子のうち、突出した前記微粒子の割合が10%以上であり」、「前記微粒子の平均粒子径が0.5μm以上10.0μm以下であり」、「前記マット層中の前記微粒子の含有量が前記マット層の全量を基準として5〜50質量%であり」、「前記マット層の厚さが0.5μm〜30μmであり」という、ブロッキングを抑制するという効果を奏するための基本的な構成を具備するに到った。そして、これらの構成が、微粒子をマット層表面から所定量突出させて粗面(凹凸)を形成し、当該微粒子の(面積)密度を所定量は確保することで、本件特許発明の光バリアフィルムが、本件特許発明の上記課題を解決することができることはもはや明らかである。
本件特許発明2〜本件特許発明7についても同様である。
したがって、本件特許の特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に規定する要件を満たしている。

(2)特許異議申立人の主張について
ア 特許異議申立人は、令和3年7月19日付け意見書において、「依然として、「突出高さ」「突出した微粒子の密度」について特定しておらず、他の部材とのブロッキングを抑制できないものを包含している。」と主張している。
しかしながら、上記(1)で述べたとおりであるから、特許異議申立人の上記主張は、認められない。

イ 特許異議申立人は、令和3年7月19日付け意見書において、訂正発明1、3は、「例えば、マット層の厚さが0.5μmで平均粒子径が10.0μmの場合を包含している。他方で、発明の詳細な説明には、マット層の厚さが3μmの例で評価したことしか記載されておらず(実施例1〜4、比較例1〜4、表1)、訂正発明1、3の範囲まで、発明の詳細な説明に記載された発明を拡張又は一般化できるとは考えられない。」、「技術常識からみて、マット層の厚さが0.5μmで平均粒子径が10.0μmの場合、微粒子が脱落し、使用に耐えないものと考えられる。」と主張している。
しかしながら、本件特許明細書の【0018】の記載に接した当業者であれば、マット層の厚みを、本件特許発明1の範囲まで拡張ないし一般化できると考えられる。また、微粒子が脱落するか否かは、マット層のバインダー樹脂の材料との間の密着性等の他の要因によっても影響を受けることは技術常識であるから、マット層の厚さが0.5μmで平均粒子径が10.0μmの場合に、すべからく、使用に耐えないものとなるとまではいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は、認められない。

ウ 特許異議申立人は、令和3年7月19日付け意見書において、微粒子の面積密度の簡単な計算をして、マット層の厚さが0.5μm、微粒子の平均粒子径が10.0μmの場合の微粒子の配置では、発明の課題であるブロッキング抑制及び他部材の傷付き抑制のいずれもが達成しうるとは考えられず、訂正発明1は、発明の課題を達成しえない範囲を含んでいることは明らかであると主張している。
しかしながら、上記(1)で述べたとおり、マット層の厚さが0.5μm、微粒子の平均粒子径が10.0μmの場合であっても、マット層が設けられていない場合と比べると、多少なりとも他の部材とのブロッキングを抑制できるものと考えられる。
また、マット層の厚さが0.5μm、平均粒子径が10.0μmの場合の微粒子の配置が、上記の異議申立人の計算のとおりに、面積密度が小さいものであったとしても、他部材の傷付きを防止できるという課題を解決できないとはいえない(むしろ微粒子の面積密度が小さい方が、他部材の傷付きを抑制しやすいものと考えられる。)。
したがって、特許異議申立人の上記主張は、認められない。

3 令和3年3月31日付け取消理由通知(決定の予告)の「理由3(実施可能要件)」について
(1) 本件特許発明1は、「前記微粒子の平均粒子径が0.5μm以上10.0μm以下であり」、「前記マット層中の前記微粒子の含有量が前記マット層の全量を基準として5〜50質量%であり」、「前記マット層の厚さが0.5μm〜30μmであり」という構成を具備し、この構成を満たす実施例として、本件特許の明細書の【0062】〜【0070】及び【0075】【表1】に、微粒子の平均粒子径が、2、3、6、10μm、マット層中の前記微粒子の含有量がマット層の全量を基準として10/(100+10+8.5+2.0)=8.3質量%、マット層の厚さが3μmであるマット層で、傷付け防止性とアンチブロッキング性が認められる実施例1〜実施例4が開示されている。
また、本件特許発明1の「前記微粒子のうち、突出した前記微粒子の割合が10%以上であ」る構成については、本件特許の明細書の実施例3や実施例4は、マット層の厚さが3μmで、微粒子の平均粒子径が6μm、10μmであるから、突出した微粒子の割合は少なくとも10%以上であると考えられる。さらに、当業者であれば、本件特許の明細書の記載及び出願時の技術常識に基づいて、微粒子の粒子径や含有量、マット層の厚さ等を適宜調整して、突出した微粒子の割合を10%以上とすることができると認められる。
そうしてみると、本件特許発明について、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえる。
本件特許発明2〜本件特許発明7についても同様である。
したがって、本件特許は、発明の詳細な説明の記載が、本件特許発明1〜本件特許発明7について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるということができるから、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしている。

(2)特許異議申立人の主張について
ア 特許異議申立人は、令和3年7月19日付け意見書において、「ブロッキング抑制という課題達成のためには、突出高さや、突出微粒子の密度等が影響要因になると考えられるが、本件特許明細書には、これらについて何も記載されておらず、訂正発明1で特定された「突出した微粒子の割合」とブロッキング抑制効果との関係が表1に示されておらず、訂正発明1について当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえない(取消理由通知の判断どおり。)。」、「特に、微粒子の殆どがマット層から著しく突出する場合、当該微粒子による凹凸構造が傷付き防止性、アンチブロッキング性に大きな影響を与えると考えられるが、突出した微粒子の間隔、高さ、表面粗さ等が一切説明されていない。」と主張している。
しかしながら、上記(1)で述べたとおり、本件特許の明細書の実施例1〜実施例4には、本件特許発明1の構成の範囲内のものが、傷付き防止性やアンチブロッキング性に優れていることが開示されているのであるから、本件特許発明1について当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
したがって、特許異議申立人の上記主張は、認められない。

イ 特許異議申立人は、令和3年7月19日付け意見書において、「例えば、マット層の厚さが0.5μmで粒子径が10.0μmの場合を包含するよう記載しているが、他方で、マット層厚に対して平均粒子径が大きい、例えば比較例3(ウレタン樹脂)では傷付き防止性が「C」となっており、例えば、マット層の厚さが0.5μmで粒子径が10.0μmの場合について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。」と主張している。しかしながら、本件特許の明細書には、微粒子の平均粒子径が本件特許発明の上限値(10μm)である実施例4(ウレタン樹脂)では、傷付け防止性が「A」であることが開示されており、比較例3の記載から直ちに、本件特許の明細書の発明の詳細な説明が、本件特許発明1について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるということができないとまではいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は、認められない。

4 令和3年3月31日付け取消理由通知(決定の予告)の「理由4:(進歩性)」について
(1)甲1の記載
取消しの理由で引用された甲1(国際公開第2015/152396号)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当合議体が付した。

ア 「技術分野
[0001] 本発明は、波長変換シート、バックライトユニット及び蛍光体用保護フィルムに関する。
…省略…
背景技術
[0002] 液晶ディスプレイは、表示のために液晶組成物が使用された表示装置である。
…省略…
[0004] ところで、近年国外のベンチャー企業を中心として、量子ドットを用いたナノサイズの蛍光体が製品化されている。
…省略…
[0006] 量子ドットは幅広い励起スペクトルを示し量子効率が高いため、LED下方変換用蛍光体(LED波長変換用蛍光体)として使用することができる。…省略…量子ドットによるバックライトを用いたディスプレイでは、従来の液晶TVより厚みや消費電力、コスト、製造プロセスなどを増やすことなく、色調が向上し、人が識別できる色の65%まで表現可能になる。
…省略…
発明が解決しようとする課題
[0013] しかしながら、特許文献1を参考に既存のバリアフィルムで、量子ドットを封止したディスプレイを作製したところ、白色LEDの輝度が直ぐに低下してしまうという問題があった。
…省略…
[0015] 本発明はかかる事情を鑑みてなされたものであり、干渉縞の発生および光源からの光のばらつきの抑制が可能な波長変換シートおよびそれを備えたバックライトユニットを提供すること、蛍光体用の保護フィルムとして、バリア性に優れた蛍光体用保護フィルムを提供すること、及び量子ドットの性能を最大限に発揮することが可能な波長変換シートおよびバックライトユニットを提供することを課題とする。」

イ 「発明を実施するための形態
[0045] 以下、本発明の一実施形態に係る波長変換シート、波長変換シートを構成する蛍光体用保護フィルム、及び波長変換シートを含むバックライトユニットについて、図面を用いて詳細に説明する。
…省略…
[0046]<第1の実施形態>
先ず、本発明の第1の実施形態に係る波長変換シート1について説明する。図1は、波長変換シート1の構成を模式的に示す断面図である。
図1に示すように、波長変換シート1は、量子ドットを用いた蛍光体層(蛍光体)2と、蛍光体層2の一方の面2a側に設けられた第1のバリアフィルム(バリアフィルム)3と、蛍光体層2の他方の面2b側に設けられた第2のバリアフィルム4と、を備えている。より具体的には、蛍光体層2の両方の面2a、2b上が直接または封止樹脂層5(図1では不図示。図5参照)を介して第1及び第2のバリアフィルム3、4によって覆われている。これによって、第1及び第2のバリアフィルム3、4の間に蛍光体層2が包み込まれた(すなわち、封止された)構造となっている。
…省略…
[0051](第1のバリアフィルム)
第1のバリアフィルム3は、基材6と、バリア層7と、コーティング層8と、を有している。そして、波長変換シート1では、図1に示すように、第1のバリアフィルム3は、基材6の一方の面6aが蛍光体層2の一方の面2aと対向して(接着して)配置されておいる。また、基材6の他方の面6b上に、バリア層7とコーティング層8とがこの順に積層されている。
…省略…
[0053] バリア層7は、無機薄膜層9とガスバリア性被覆層10とを含んでいる。そして、図1に示すように、バリア層7は、基材6の一方の面(片面)6b上に無機薄膜層9が積層されるとともに、無機薄膜層9の上にガスバリア性被覆層10が積層されて構成されている。
[0054] 無機薄膜層(無機酸化物薄膜層)9の材料としては、特に限定されないが、例えば、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化マグネシウムあるいはそれらの混合物を用いることができる。これらの中でも、バリア性、生産性の観点から、酸化アルミニウム又は酸化珪素を用いることが望ましい。さらに、水蒸気バリア性の面から、酸化珪素を用いることが特に望ましい。
…省略…
[0061] コーティング層8は、図1に示すように、バインダー樹脂層11と、微粒子12と、を含んで構成されている。微粒子12は、バインダー樹脂層11の表面から微粒子12の一部が露出するように埋め込まれる。それにより、コーティング層8の表面には微細な凹凸が生じることとなる。このようにコーティング層8を第1のバリアフィルム3の表面、すなわち、波長変換シート1の表面に設けることにより、ニュートンリングの発生を防止することができる。
[0062] バインダー樹脂層11としては、具体的には、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化型樹脂を使用することができる。
…省略…
[0066] バインダー樹脂層11の厚さ(膜厚)は、0.1〜20μmの範囲内とすることが好ましく、0.3〜10μmの範囲内にすることが特に好ましい。ここで、バインダー樹脂層11の膜厚が0.1μm未満であると、膜厚が薄すぎるために均一な膜が得られない場合や、光学的機能を十分に果たすことができない場合が生じるために好ましくない。一方、膜厚が20μmを越える場合は、コーティング層8の表面へ微粒子12が表出せず、凹凸付与効果が得られないおそれがある、また透明性の低下や少しでも薄膜化するディスプレイのトレンドにあわないため好ましくない。
[0067] 微粒子12としては、具体的には、例えば、有機粒子、無機粒子を使用することができる。これらのうち、いずれか一種類のみを用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。
[0068] 有機粒子としては、球状アクリル樹脂微粉末や、四フッ化エチレン樹脂微粉末、架橋ポリスチレン樹脂微粉末、ポリウレタン樹脂微粉末、ポリエチレン樹脂微粉末、ベンゾグアナミン樹脂微粉末、シリコーン樹脂微粉末、エポキシ樹脂微粉末等が挙げられる。
無機粒子としては、シリカ粒子、やジルコニア粒子等が挙げられる。
[0069] また、微粒子12の平均一次粒径は、0.5〜30μmであることが好ましい。
…省略…
[0081]<第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態に係る波長変換シート21にについて、図2を用いて説明する。波長変換シート21は、第1の実施形態に係る波長変換シート1と比較して、第1のバリアフィルムの構成のみが異なる。したがって、本実施形態に係る波長変換シート21については、第1の実施形態に係る波長変換シート1と同一の構成部分については同じ符号を付すると共に説明を省略する。
[0082] 図2に示すように、波長変換シート21は、蛍光体層(蛍光体)2と、蛍光体層2の一方の面2a側に設けられた第1のバリアフィルム(バリアフィルム)23と、蛍光体層2の他方の面2b側に設けられた第2のバリアフィルム4と、を備えている。より具体的には、蛍光体層2の両方の面2a、2b上に直接または封止樹脂層5(図2では不図示。図5参照)を介して第1のバリアフィルム23及び第2のバリアフィルム4がそれぞれ積層されている。これによって、第1のバリアフィルム23及び第2のバリアフィルム4の間に蛍光体層2が包み込まれた(すなわち、封止された)構造となっている。
[0083](第1のバリアフィルム)
第1のバリアフィルム23は、基材6と、バリア層7と、コーティング層8と、を有している。そして、図2に示すように、第1のバリアフィルム23では、蛍光体層2の一方の面2aと対向する基材6の一方の面6a上にバリア層7が積層されている。また、基材6の他方の面6b上にコーティング層8が積層されている。すなわち、第1のバリアフィルム23のバリア層7(ガスバリア性被覆層10)が、蛍光体層2と対向して(接して)設けられている点、及び蛍光体層2と反対側の面6b上にコーティング層8が設けられている点で、本実施形態の第1のバリアフィルム23と第1実施形態の第1のバリアフィルム3とは異なっている。
…省略…
[0085]<第3の実施形態>
次に、本発明の第3の実施形態に係る波長変換シート31について、図3を用いて説明する。本実施形態では、第1及び第2の実施形態に係る波長変換シート1、21とは第1のバリアフィルムの構成のみが異なる。
…省略…
[0087](第1のバリアフィルム)
第1のバリアフィルム33は、第1及び第2の基材6A、6Bと、バリア層7と、コーティング層8と、を有している。そして、図3に示すように、第1のバリアフィルム33では、第1の基材6Aの一方の面6aが蛍光体層2の一方の面2aと対向して(接して)配置されている、また、第1の基材6Aの他方の面6b上に、バリア層7と第2の基材6Bとがこの順に積層されている。すなわち、第1の基材6Aの他方の面6bと、第2の基材6Bの一方の面6cとの間にバリア層7が挟み込まれている。ここで、本実施形態では、バリア層7の無機薄膜層9が基材6Aと接しており、ガスバリア性被覆層10が基材6Bに接している。さらに、第2の基材6Bの他方の面6d上にコーティング層8が積層されている。すなわち、蛍光体層2と対向して(接して)第1の基材6Aが設けられており、この第1の基材6A上にバリア層7、第2の基材6B及びコーティング層8が積層されて設けられている点で、本実施形態の第1のバリアフィルム33と、第1及び第2実施形態の第1のバリアフィルム3、23とは構成が異なっている。
…省略…
[0089]<第4の実施形態>
次に、本発明の第4の実施形態に係る波長変換シート41について、図4を用いて説明する。波長変換シート41は、第2の実施形態の波長変換シート21の構成に対して、第1及び第2のバリアフィルムの構成が異なる。
…省略…
[0091](第1のバリアフィルム)
第1のバリアフィルム43は、基材6と、第1及び第2のバリア層7A、7Bと、コーティング層8と、を有している。
図4に示すように、第1のバリアフィルム43では、蛍光体層2の一方の面2aと対向する基材6の一方の面6a上に第1のバリア層7Aと、第2のバリア層7Bと、がこの順に積層されている。第1のバリア層7Aは、第1無機薄膜層9Aと第1ガスバリア性被覆層10Aとからなり、基材6の一方の面6a上にこの順に積層されている。第2のバリア層7Bは、第2無機薄膜層9Bと第2ガスバリア性被覆層10Bとからなり、第1のバリア層7Aの第1ガスバリア性被覆層10A上にこの順に積層されている。なお、本実施形態では、蛍光体層2の一方の面2aと第2ガスバリア性被覆層10Bとが接している。
基材6の他方の面6b上にはコーティング層8が積層されている。
すなわち、第1のバリアフィルム43は、蛍光体層2と対向する側に第1及び第2のバリア層7A、7Bの積層体が設けられており、蛍光体層2と反対側の面6b上にコーティング層8が設けられている点で、本実施形態に係る第1のバリアフィルム43と、第2実施形態に係る第1のバリアフィルム23とは構成が異なっている。
[0092](第2のバリアフィルム)
第2のバリアフィルム44は、基材6と第1及び第2のバリア層7A、7Bとを有しており、コーティング層8を有しない点で、第1のバリアフィルム43と構成が異なっている。
図4に示すように、第2のバリアフィルム44は、基材6の一方の面6aが蛍光体層2の他方の面2bと対向して配置されている。そして、この基材6の一方の面6a上に、第1のバリア層7Aと、第2のバリア層7Bと、がこの順に積層されている。第1のバリア層7Aは、第1無機薄膜層9Aと第1ガスバリア性被覆層10Aとからなり、基材6の一方の面6a上にこの順に積層されている。第2のバリア層7Bは、第2無機薄膜層9Bと第2ガスバリア性被覆層10Bとからなり、第1のバリア層7Aの第1ガスバリア性被覆層10A上にこの順に積層されている。なお、本実施形態では、蛍光体層2の他方の面2bと第2ガスバリア性被覆層10Bとが接している。
すなわち、第2のバリアフィルム44は、蛍光体層2と対向する側に第1及び第2のバリア層7A、7Bの積層体が設けられており、蛍光体層2と反対側の面6b上にはコーティング層8が設けられていない点で、第2のバリアフィルム44と、第1のバリアフィルム43とは異なっている。なお、基材6及び第1及び第2のバリア層7A、7Bの構成については、第1のバリアフィルム43と同じ構成を用いることができる。
…省略…
[0094]<第5の実施形態>
本発明の第5の実施形態に係る波長変換シート61について説明する。図6は、波長変換シート61の構成を模式的に示す断面図である。ここで、本実施形態の波長変換シート1は、量子ドットを用いた蛍光体を含んでおり、LED波長変換用蛍光体として、バックライトユニットに用いることができる。
…省略…
[0095] 図6に示すように、本実施形態の波長変換シート61は、量子ドットを用いた蛍光体を含む蛍光体層(波長変換層ともいう)2と、蛍光体層2の一方の面2a側および他方の面2b側にそれぞれ設けられた蛍光体用保護フィルム13と、を備えている。より具体的には、蛍光体層2の両方の面2a、2b上が直接または封止樹脂層5(図6では不図示。図7及び8参照)を介して蛍光体用保護フィルム13によって覆われている。これによって、蛍光体用保護フィルム13の間に蛍光体層2が包み込まれた(すなわち、封止された)構造となっている。
…省略…
[0121]<第6の実施形態>
次に、本発明の第6の実施形態に係る波長変換シート71について、図7を用いて説明する。本実施形態では、第5の実施形態の波長変換シート61とは、蛍光体用保護フィルムの構成のみが異なる。
…省略…
[0123](蛍光体用保護フィルム)
本実施形態の蛍光体用保護フィルム73は、第1の基材6とバリア層7とを有するバリアフィルム15と、プラスチックフィルム(第2の基材)16と、接着層17と、コーティング層18と、を有している。そして、第1の基材6の一方の面6a上に設けられたバリア層7とプラスチックフィルム16とが接着層17を介して対向するように積層されている。換言すると、蛍光体用保護フィルム73は、第1の基材6と第2の基材(プラスチックフィルム)16との間にバリア層7を挟み込むように、バリアフィルム15とプラスチックフィルム16とが積層されたラミネートフィルムである。
[0124] そして、図7に示すように、それぞれの蛍光体用保護フィルム73では、バリアフィルム15の第1の基材6側の面15b(6b)が蛍光体層2と接するように積層される。
…省略…
[0125] より具体的には、波長変換シート71において、蛍光体用保護フィルム73は、バリアフィルム15の、第1の基材6のバリア層7が設けられた面6aと反対側の面6bが、蛍光体層2の一方の面2aと対向するように配置されている。また、プラスチックフィルム16のバリア層7と対向する側の面16aと反対側の面16b上にコーティング層18が積層されている。すなわち、本実施形態においてもコーティング層18は、蛍光体用保護フィルム73の表面に設けられているとともに、波長変換シート71の表面となるように設けられている。
[0126] 以上説明したように、本実施形態の71によれば、上述した第5実施形態の波長変換シート61と同様の効果を得ることができる。
…省略…
[0132] また、例えば、上述の第5及び第6の実施形態の波長変換シート61、71の構成及び蛍光体用保護フィルム13、73の構成は一例であり、これに限定されない。
[0133] 具体的には、上述の第5及び第6の実施形態の蛍光体用保護フィルム13、73では、1つのバリア層7が第1の基材6とプラスチックフィルム16との間に設けられている構成について説明したが、これに限定されない。例えば、図8に示すように、第1無機薄膜層9Aと第1ガスバリア性被覆層10Aとからなる第1のバリア層7Aと、第2無機薄膜層9Bと第2ガスバリア性被覆層10Bとからなる第2のバリア層7Bと、が積層された構成の蛍光体用保護フィルム83であってもよい。
…省略…
[0136] 更にまた、上述した第5及び第6実施形態の波長変換シート61、71では、蛍光体層2を蛍光体用保護フィルム13(73)で直接封止する構成を説明したが、これに限定されない。例えば、図9に示すように、蛍光体層2とは別に、蛍光体層2を覆い、封止する封止樹脂層5を設ける構成としても良い。蛍光体用保護フィルム13の間に封止樹脂層5を設けて蛍光体層2を封止する構成とすることにより、より高いバリア性を有する波長変換シート91を提供することができる。
[0137]<バックライトユニット>
[0138] 上記実施形態に係る波長変換シートを用いて、液晶ディスプレイなどに適用されるバックライトユニットを提供することができる。上述の実施形態に係る波長変換シート1(21、31、41、51、61、71、81、91)を搭載したバックライトユニット100の一例を図10に示す。
バックライトユニット100は、LED(発光ダイオード)光源101と、導光板102と、波長変換シート1とを備える。LED光源は、導光板の側面に設置されさらに、図では省略されているが、反射板や、拡散板、プリズムシートなどを備えていても良い。
[0139] LED光源101は、導光板102の側端面に設置され、導光板102上(光の進行方向)に波長変換シート1が配置される。LED光源101の内部には、発光色が青色のLED素子が複数個設けられている。このLED素子は、紫LED、又は紫よりもさらに低波長のLEDであってもよい。LED光源101は、導光板102側面に向かって光を照射する。上記実施形態に係る波長変換シートを用いたバックライトユニットの場合、導光板102から照射された光Lは、波長変換シート中の蛍光体層に入射し、波長が変換された光L´になる。
[0140] 導光板102は、LED光源101から照射された光を効率的に導くものであり、公知の材料が使用される。導光板102としては、例えば、アクリル、ポリカーボネート、及びシクロオレフィンフィルム等が使用される。導光板102は、例えば、シルク印刷方式、射出成型や押出成型などの成型方式、インクジェット方式などにより形成することができる。導光板102の厚さは、例えば、100〜1000μmである。また導光板102には、LED光源101から出射された光を波長変換シート側に反射させるための反射板や微細パターンを設けることができる。」

ウ 「産業上の利用可能性
[0176] 本発明の波長変換シートを用いることにより、信頼性も備えた優れた高精細ディスプレイを製造することが可能である。
[0177] また、本発明の、バリア層を挟み込むようにバリアフィルムとプラスチックフィルムとを積層したラミネートフィルムを有する蛍光体用保護フィルム、この蛍光体用保護フィルムによって蛍光体層を被覆した波長変換シート、及びこの波長変換シートを使用したバックライトユニットを用いることにより、優れた高精細ディスプレイを製造することが可能である。」

エ 図1


オ 図2


カ 図3


キ 図4


ク 図6


ケ 図7


コ 図8


サ 図9


(2)引用発明
ア 甲1発明1
甲1の図1及びその説明([0046]〜[0080])には、「第1の実施形態」の「波長変換シート1」として、次の発明が記載されている(以下「甲1発明1」という。)。
「 量子ドットを用いた蛍光体層2と、蛍光体層2の一方の面2a側に設けられた第1のバリアフィルム3と、蛍光体層2の他方の面2b側に設けられた第2のバリアフィルム4とを備えた波長変換シート1であって、
第1のバリアフィルム3は、基材6の一方の面6aが蛍光体層2の一方の面2aと対向して配置されており、基材6の他方の面6b上に、バリア層7とコーティング層8とがこの順に積層されており、
バリア層7は、基材6の一方の面6b上に無機薄膜層9が積層されるとともに、無機薄膜層9の上にガスバリア性被覆層10が積層されて構成され、
コーティング層8は、バインダー樹脂層11と、微粒子12とを含んで構成され、微粒子12は、バインダー樹脂層11の表面から微粒子12の一部が露出するように埋め込まれ、コーティング層8の表面には微細な凹凸が生じ、ニュートンリングの発生を防止することができ、
微粒子12としては、有機粒子、無機粒子を使用することができ、微粒子12の平均一次粒径は、0.5〜30μmであり、
バインダー樹脂層11の厚さ(膜厚)は、0.3〜10μmの範囲内である、
波長変換シート1。」

イ 甲1発明2
甲1の図2及びその説明([0081]〜[0084])には、「第1の実施形態に係る波長変換シート1と比較して、第1のバリアフィルムの構成のみが異なる」([0081])「波長変換シート21」として、次の発明が記載されている(以下「甲1発明2」という。)。
「 量子ドットを用いた蛍光体層2と、蛍光体層2の一方の面2a側に設けられた第1のバリアフィルム23と、蛍光体層2の他方の面2b側に設けられた第2のバリアフィルム4とを備えた波長変換シート21であって、
第1のバリアフィルム23は、蛍光体層2の一方の面2aと対向する基材6の一方の面6a上にバリア層7が積層され、基材6の他方の面6b上にコーティング層8が積層されており、
バリア層7は、基材6の一方の面6b上に無機薄膜層9が積層されるとともに、無機薄膜層9の上にガスバリア性被覆層10が積層されて構成され、
コーティング層8は、バインダー樹脂層11と、微粒子12とを含んで構成され、微粒子12は、バインダー樹脂層11の表面から微粒子12の一部が露出するように埋め込まれ、コーティング層8の表面には微細な凹凸が生じ、ニュートンリングの発生を防止することができ、
微粒子12としては、有機粒子、無機粒子を使用することができ、微粒子12の平均一次粒径は、0.5〜30μmであり、
バインダー樹脂層11の厚さ(膜厚)は、0.3〜10μmの範囲内である、
波長変換シート21。」

ウ 甲1発明3〜甲1発明9
同様に、甲1の図3、図4及び図6〜図9及びその説明には、「波長変換シート31」、「波長変換シート41」及び「波長変換シート61」〜「波長変換シート91」の発明が記載されている(以下、それぞれ「甲1発明3」、「甲1発明4」及び「甲1発明6」〜「甲1発明9」という。)。

エ 甲1発明
甲1発明1〜甲1発明9を総称して、甲1発明という場合がある。

(3)対比
本件特許発明1と甲1発明2を対比する。
ア 光学フィルム
甲1発明2の「第1のバリアフィルム23は、蛍光体層2の一方の面2aと対向する基材6の一方の面6a上にバリア層7が積層され、基材6の他方の面6b上にコーティング層8が積層されて」いる。また、甲1発明2の「コーティング層8は、バインダー樹脂層11と、微粒子12とを含んで構成され、微粒子12は、バインダー樹脂層11の表面から微粒子12の一部が露出するように埋め込まれ、コーティング層8の表面には微細な凹凸が生じ、ニュートンリングの発生を防止することができ」る。
ここで、甲1発明2の「基材6」は、「第1のバリアフィルム23」の基材であるから、フィルム状の基材といえる。また、甲1発明2の「コーティング層8」は、その構成及び形状からみて、本件特許の明細書の【0016】でいうマット層に該当する。そして、甲1発明2の「基材6」及び「コーティング層8」の積層関係は上記のとおりである。
そうしてみると、甲1発明2の「基材6」は、本件特許発明1の「第一フィルム基材」に相当する。また、甲1発明2の「コーティング層8」は、本件特許発明1の「該第一フィルム基材上に形成された」とされる「マット層」に相当する。そして、上記対比結果から、甲1発明2の「第1のバリアフィルム23」のうち、「基材6」と「コーティング層8」を併せたものは、本件特許発明1の「第一フィルム基材及び該第一フィルム基材上に形成されたマット層を含む」とされる「光学フィルム」に相当するといえる。

イ 光学バリアフィルム
甲1発明2の「第1のバリアフィルム23」は、前記アで述べた構成のものである。
また、甲1発明2の「バリア層7」は、その文言から理解される機能のものであるとともに、「基材6」と前記アで述べたとおりの積層関係にある。
そうしてみると、甲1発明2の「バリア層7」は、本件特許発明1の「前記光学フィルムの前記第一フィルム基材側の面上に形成された」とされる「バリア層」に相当する。そして、上記対比結果から、甲1発明2の「第1のバリアフィルム23」は、本件特許発明1の「第一フィルム基材及び該第一フィルム基材上に形成されたマット層を含む光学フィルムと、前記光学フィルムの前記第一フィルム基材側の面上に形成されたバリア層と、を備え」とされる「光学バリアフィルム」に相当するといえる。

ウ 微粒子
甲1発明2の「コーティング層8」は、前記アで述べた構成のものである。
ここで、甲1発明2の「コーティング層8」に含まれる、「微粒子12は、バインダー樹脂層11の表面から微粒子12の一部が露出するように埋め込まれ、コーティング層8の表面には微細な凹凸が生じ」ていることから、その少なくとも一部は「コーティング層8」の「基材6」と反対側の表面から突出しているといえる。
そうしてみると、甲1発明2の「微粒子12」は、本件特許発明1の「微粒子」に相当する。また、甲1発明2の「第1のバリアフィルム23」は、本件特許発明1の「光学バリアフィルム」における、「前記マット層は微粒子を含有し」及び「少なくとも一部の前記微粒子が前記マット層の前記第一フィルム基材と反対側の表面に突出しており」という要件を満たす。

(4)一致点及び相違点
ア 一致点
本件特許発明1と甲1発明2は、次の構成で一致する。
「 第一フィルム基材及び該第一フィルム基材上に形成されたマット層を含む光学フィルムと、前記光学フィルムの前記第一フィルム基材側の面上に形成されたバリア層と、を備え、
前記マット層は微粒子を含有し、
少なくとも一部の前記微粒子が前記マット層の前記第一フィルム基材と反対側の表面に突出している、
光学バリアフィルム。」

イ 相違点
本件特許発明1と甲1発明2は、以下の点で相違する、又は一応相違する。
(相違点1)
本件特許発明1は、「微粒子のうち、突出した前記微粒子の割合が10%以上であり」という要件を満たすものであるのに対して、甲1発明2は、「バインダー樹脂層11の表面から微粒子12の一部が露出するように埋め込まれ」てはいるものの、突出した微粒子の割合は、一応、不明である点。

(相違点2)
「微粒子」が、本件特許発明1は、「平均粒子径が0.5μm以上10.0μm以下であ」るのに対して、甲1発明2は、「平均一次粒径」が「0.5〜30μmである」点。

(相違点3)
「マット層中の」「微粒子の含有量」が、本件特許発明1は、「マット層の全量を基準として5〜50質量%であ」るのに対して、甲1発明2は、不明である点。

(相違点4)
「マット層の厚さ」が、本件特許発明1は、「0.5μm〜30μmであ」るのに対して、甲1発明2は、「バインダー樹脂層11の厚さ(膜厚)」が、「0.3〜10μmの範囲内」であると特定されるにとどまり、「コーティング層」の厚さは明らかでない点。

(相違点5)
「微粒子」が、本件特許発明1は、「硬さが、ロックウェルR硬さスケールで100以下である」のに対して、甲1発明2は、「有機粒子、無機粒子」であるとされるにとどまり、硬さが特定されていない点。

(5)判断
事案に鑑み、相違点5について検討する。
甲1の[0061]の記載によれば、甲1発明2の「コーティング層8は、「バインダー樹脂層11の表面から微粒子12の一部が露出するように埋め込」むことにより、「コーティング層8の表面に」「微細な凹凸が生じ、ニュートンリングの発生を防止する」ためのものと理解される。そうすると、「コーティング層8」の上記役割から、甲1には、甲1発明2の「波長変換シート21」の「コーティング層8」の上に他の部材が重ねられることまでは想定されているといえる。(当合議体注:甲1の[0137]〜[0140]の記載及びバックライトユニットに関する技術常識からも理解できる事項である。)しかしながら、前記微細な凹凸によって前記他の部材が傷付くという課題は甲1には、記載も示唆もない。したがって、甲1発明2において、「微粒子12」の硬さを、「ロックウェルR硬さスケールで100以下」と柔らかくして他の部材の傷付きを抑制するという動機は見いだせない。
また、仮に甲1発明2において、コーティング層8の表面の凹凸による他の部材の傷付きを防止する動機が見いだせた(自明の課題)であったとしても、甲2の【0010】〜【0015】等、甲4の【0024】等、甲5の【0006】、【0008】及び【0011】〜【0013】等に開示されているものは、バックライトの導光板に反射シートが接触するで導光板が傷付くのを防止するために、反射シートの表面に、微粒子をバインダーに含有させて表面を凹凸にした層を設け、その微粒子を軟質の材料とする技術である。ここで、波長変換シートと反射シートとは、導光板に隣接して配置される光学部材である点で共通する。しかしながら、前者は光透過性の光学部材であり、後者は光反射性の光学部材であるから、光学部材表面の凹凸を付与する手段として、採用し得る手段(微粒子等)には互いに異なる特性(光透過率、ヘーズ等)が要求されることは技術常識である。そうしてみると、甲1発明2において、「波長変換シート21」による他の部材の傷付きを防止するという課題を解決するに際して、当業者が、敢えて反射シートに関する上記周知技術の採用を試みることが容易であるとはいいがたい。
したがって、たとえ当業者であっても、甲1発明2及び上記周知技術に基づいて、相違点5に係る本件特許発明1の構成に到ることが容易であるということはできない。
なお、甲1発明2に替えて、甲1発明3、甲1発明4及び甲1発明6〜甲1発明9に基づいて検討しても、判断は同様である。

(6)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は,令和3年7月19日付け意見書において、「訂正発明1が微粒子の硬さを特定することに技術的意味があるかのように述べているが、訂正発明1は、「他の部材」とその関係を特定していない単なる「光学バリアフィルム」であるから、動機付けを論ずるまでもなく、甲1及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到しえた発明である」と主張している。
しかしながら、本件特許発明1は「波長変換シート」の発明であるから、「他の部材」に隣接配置して使用に供されることが予定されたものであって、その場合に当該他の部材の傷付きを抑制できるという技術的意義を有するものである。したがって、本件特許発明において微粒子の硬さが特定されている点は、単なる設計変更ということはできない。
以上のとおりであるから、特許異議申立人の上記主張は、認められない。

(7) 小括
以上のとおりであるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、たとえ当業者であっても、甲1に記載された発明及び周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということができない。

(8)本件特許発明2について
本件特許発明2と甲1発明3を対比すると、本件特許発明1の場合と同じ相違点が見いだされ、また、その判断も、本件特許発明1の場合と同様である。
甲1発明3に替えて、甲1発明6〜甲1発明9に基づいて検討しても、同様である。
したがって、本件特許発明2は、本件特許発明1と同じ理由により、たとえ当業者であっても、甲1に記載された発明及び周知の技術に基づいて容易に発明をすることができたということができない。

(9)本件特許発明3〜7について
本件特許発明3〜7は、本件特許発明1、2の構成を全て具備するものであるから、本件特許発明3〜7も、本件特許発明1、2と同じ理由により、当業者であっても、甲1に記載された発明及び周知の技術に基づいて容易に発明をすることができたということができない。


第6 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議の申立ての理由について
1 特許異議の申立ての理由の概要
特許異議の申立ての理由は、概略、[A]理由1(新規性)について、本件特許の特許請求の範囲の請求項1、2、6、7に係る発明は、甲1に記載された発明である、[B]理由2(進歩性)について、本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜7に係る発明は、甲1及び周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである、[C]理由3(明確性要件)について、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない、[D]理由4(サポート要件)について、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない、[E]理由5(実施可能要件)本件特許は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない、というものである。

2 理由1(新規性)について
上記「第5」4(4)で示したとおりの相違点があるから、特許異議の申立ての理由1(新規性)を採用することはできない。

3 理由2(進歩性)について
取消理由通知においては甲第6号証、甲第7号証、甲第9号証を用いなかったが、上記「第5」4(5)で示したとおりであるから、特許異議の申立ての理由2(進歩性)を採用することはできない。

4 理由3(明確性要件)、理由4(サポート要件)、理由5(実施可能要件)について
上記「第5」1〜3で示したとおりであるから、特許異議申立人が主張する、特許異議の申立ての理由3(明確性要件)、理由4(サポート要件)及び理由5(実施可能要件)はいずれも採用することができない。


第7 むすび
本件特許1〜7は、取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消しの理由及び特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件特許1〜7を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一フィルム基材及び該第一フィルム基材上に形成されたマット層を含む光学フィルムと、前記光学フィルムの前記第一フィルム基材側の面上に形成されたバリア層と、を備え、
前記マット層は微粒子を含有し、
少なくとも一部の前記微粒子が前記マット層の前記第一フィルム基材と反対側の表面に突出しており、
前記微粒子のうち、突出した前記微粒子の割合が10%以上であり、
前記微粒子の平均粒子径が0.5μm以上10.0μm以下であり、
前記マット層中の前記微粒子の含有量が前記マット層の全量を基準として5〜50質量%であり、
前記マット層の厚さが0.5μm〜30μmであり、
前記微粒子の硬さが、ロックウェルR硬さスケールで100以下である、光学バリアフィルム。
【請求項2】
第一フィルム基材及び該第一フィルム基材上に形成されたマット層を含む光学フィルムと、第二フィルム基材及びバリア層を含むバリア複合層と、を備え、
前記バリア複合層は、前記光学フィルムの前記第一フィルム基材側の面上に形成されており、
前記マット層は微粒子を含有し、
少なくとも一部の前記微粒子が前記マット層の前記第一フィルム基材と反対側の表面に突出しており、
前記微粒子の平均粒子径が0.5μm以上10.0μm以下であり、
前記マット層中の前記微粒子の含有量が前記マット層の全量を基準として5〜50質量%であり、
前記マット層の厚さが0.5μm〜30μmであり、
前記微粒子の硬さが、ロックウェルR硬さスケールで100以下である、光学バリアフィルム。
【請求項3】
前記マット層はさらに、四級アンモニウム塩化合物、導電性高分子、及び金属酸化物からなる群より選択される少なくとも1種の導電性材料を含有し、
前記微粒子の平均粒子径が6μm以上10.0μm以下であり、
前記マット層の厚さが0.5μm〜3μmである、請求項1又は2に記載の光学バリアフィルム。
【請求項4】
前記マット層の表面抵抗率が1.0×1013Ω/□以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の光学バリアフィルム。
【請求項5】
前記バリア層は、SiOx(1.0≦x≦2.0)で表されるシリコン酸化物からなる無機蒸着薄膜層を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の光学バリアフィルム。
【請求項6】
色変換層と、該色変換層を挟むように配置された二つの保護フィルムと、を備え、
前記二つの保護フィルムの少なくとも一方が、請求項1〜5のいずれか一項に記載の光学バリアフィルムであり、
前記光学バリアフィルムは、前記マット層が前記色変換層と反対側を向くように配置されている色変換フィルム。
【請求項7】
光源と、導光板と、該導光板上に配置された請求項6に記載の色変換フィルムと、を備え、
前記色変換フィルムは、前記マット層が前記導光板と接するように配置されている、バックライトユニット。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-10-01 
出願番号 P2015-237536
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (G02B)
P 1 651・ 113- YAA (G02B)
P 1 651・ 536- YAA (G02B)
P 1 651・ 121- YAA (G02B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 関根 洋之
井亀 諭
登録日 2020-01-08 
登録番号 6641946
権利者 凸版印刷株式会社
発明の名称 光学バリアフィルム、色変換フィルム及びバックライトユニット  
代理人 ▲高▼木 邦夫  
代理人 ▲高▼木 邦夫  
代理人 鈴木 洋平  
代理人 黒木 義樹  
代理人 黒木 義樹  
代理人 吉住 和之  
代理人 鈴木 洋平  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 吉住 和之  

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