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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02C
管理番号 1381305
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-02-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-07-17 
確定日 2022-01-04 
事件の表示 特願2017−201750「コンタクトレンズ」拒絶査定不服審判事件〔平成30年12月 6日出願公開、特開2018−194811〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
(1) 特願2017−201750号(以下「本件出願」という。)は、平成29年10月18日(先の出願に基づく優先権主張 平成29年5月12日)を出願日とする特許出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和2年 1月 7日付け:拒絶理由通知書
令和2年 3月18日 :意見書
令和2年 3月18日 :手続補正書
令和2年 4月22日付け:拒絶理由通知書
令和2年 5月28日 :意見書
令和2年 6月 3日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和2年 7月17日 :審判請求書
令和3年 3月10日付け:拒絶理由通知書
令和3年 4月23日 :意見書
令和3年 4月23日 :手続補正書

2 本願発明
本件出願の請求項1〜請求項3に係る発明は、令和3年4月23日にした手続補正後の特許請求の範囲の請求項1〜請求項3に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「レンズを構成する各面が球面状である一対のレンズの間に、薬剤成分を芯物質とし、当該芯物質が壁材で包まれたマイクロカプセルが配置されるとともに、
前記壁材が、たんぱく質に反応する素材からなり、
前記薬剤成分は、ビタミンA、ビタミンE、ビタミンB6およびビタミンB12のうちの少なくとも1つを含み、目の疲労や目の疲労による充血を回復する有効成分であるコンタクトレンズ。」

3 拒絶の理由
令和3年3月10日付け拒絶理由通知書において当合議体が通知した拒絶の理由は、概略、理由1(実施可能要件)本件出願の発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるということができないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない、理由2(進歩性)本件出願の請求項1〜2に係る発明(令和2年3月18日にした手続補正後のもの)は、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
(引用例一覧)
引用例1:特開平6−273702号公報
引用例2:特表2005−528185号公報
引用例3:特表2012−511395号公報
引用例4:特開昭63−174925号公報
引用例5:Thomas O. Salmon,Dr. Salmon Newsletters World News & Views -Letters From Dr. Salmon, NSU-,2〜3頁,[online],2009年2月16日(作成),CooperVision,[令和3年3月1日検索],インターネット<https://coopervision.jp/sites/coopervision.jp/files/drsalmonnews0903.pdf>
引用例6:登録実用新案第3186407号公報
(当合議体注:引用例1〜引用例3のそれぞれが主引用例であり、また副引用例でもある。引用例4〜引用例6は、周知技術あるいは技術常識を示す文献である。)

第2 当合議体の判断(理由2(進歩性)について)
1 引用例1の記載及び引用発明
(1) 引用例1の記載
令和3年3月10日付け拒絶理由通知書において当合議体が通知した拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)において引用された、特開平6−273702号公報(以下「引用例1」という。)は、先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載がある(当合議体注:下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。)。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】2枚の含水性ソフトコンタクトレンズの間に、シート状に加工された薬物をはさみこんだ 薬物供給能力をもったコンタクトレンズ。
【請求項2】2枚の含水性ソフトコンタクトレンズの代わりに、薬物をはさみこめるような間隙をもった含水性コンタクトレンズを使った請求項1の薬物供給能力をもったコンタクトレンズ。
【請求項3】薬物をはさみこむ代わりに、薬物をコンタクトレンズの素材に接着させた請求項1の薬物供給能力をもったコンタクトレンズ。」

イ 「【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、含水性ソフトコンタクトレンズの構造内部に薬物を固定することにより、連続的な薬物供給能力をもったコンタクトレンズに関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、眼局所への薬物供給は、点眼によって行われていたが、薬物の供給濃度が時間と共に低下して、十分かつ連続的な薬物供給ができなかった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、その欠点をのぞいて、もっと長時間にわたって、また連続的な薬物供給能力をもつシステムの開発を課題とした。
【0004】
【課題を解決するための手段】薬剤を含水性コンタクトレンズの内部に固定する構造をつくることによって、薬剤が少しずつコンタクトレンズ内の水分(涙液も含む)に溶けだし、長時間にわたって十分な薬物供給をさせることを可能にしようとした。
【0005】
【作用】本発明は、以上のような構成であるから 薬物が直接 角膜や結膜といった繊細な組織に接触することがなく、しかも薬物が水分に溶けだすことを利用しているため、安全に長時間、十分な薬物供給ができる。
【0006】
【実施例】実験的にフルオレセイン(蛍光色素)が含まれている紙片を、既成の高含水のソフトコンタクトレンズ2枚にはさみこみ、発明者が装用してみた。その結果、色素は少しずつ溶け出し、コンタクトレンズ素材に浸透し、結膜嚢内へと広がっていった。薬物の量、固形法を変えることによって、薬物の結膜嚢内濃度および供給時間はコントロールできると思われた。
【0007】
【発明の効果】この発明によって薬物の頻回点眼を強いられていた患者の苦痛や、薬物のつけ忘れを解決することが可能である。また、角膜疾患の角膜保護の目的でソフトコンタクトレンズが使用される場合には、特に有効な薬物供給システムになりうる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明平面図
【符号の説明】
(1)はコンタクトレンズその1
(2)はコンタクトレンズその2
(3)は薬物シート」

ウ 「【図1】



(2) 引用発明
上記(1)アの引用例1の特許請求の範囲の【請求項1】には、「薬物供給能力をもったコンタクトレンズ」の発明(以下「引用発明」という。)として、次のものが記載されている。
「2枚の含水性ソフトコンタクトレンズの間に、シート状に加工された薬物をはさみこんだ、薬物供給能力をもったコンタクトレンズ。」

2 対比
本願発明と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。
(1) 引用発明は、「2枚の含水性ソフトコンタクトレンズの間に」、「薬物をはさみこんだ」「薬物供給能力をもったコンタクトレンズ」である。

(2) 引用発明の上記(1)の構造からみて、引用発明においては、「2枚の含水性ソフトコンタクトレンズ」の「間に」「シート状に加工された薬物」を「はさみこん」で「コンタクトレンズ」が形成される。
そうすると、引用発明の「2枚の含水性ソフトコンタクトレンズ」は、一対のものといえる(当合議体注:広辞苑によれば、「一対」とは、2個で一組となることを意味する。)。
してみると、引用発明の「2枚の含水性ソフトコンタクトレンズ」の各々は、本願発明の「レンズ」に相当し、引用発明の「2枚の含水性ソフトコンタクトレンズ」は、本願発明の「一対のレンズ」に相当する。

(3) 引用発明の「薬物」は、本願発明の「薬剤」に相当する。
また、上記(1)と(2)より、引用発明は、「2枚の含水性ソフトコンタクトレンズ」(「一対のレンズ」)の間に、「薬物」(「薬剤」)が配置されている「薬物供給能力をもったコンタクトレンズ」であるということができる。
そうすると、引用発明の「薬物供給能力をもったコンタクトレンズ」は、本願発明の「コンタクトレンズ」に相当する。また、引用発明と、本願発明は、「一対のレンズの間に」、「薬剤」「が配置される」点で共通する。

3 一致点及び相違点
(1) 一致点
本願発明と引用発明は、次の構成で一致する。
「一対のレンズの間に、薬剤が配置されるコンタクトレンズ。」

(2) 相違点
本願発明と引用発明は、次の点で相違、あるいは一応相違する。
(相違点1)
「一対のレンズ」が、本願発明は、「レンズを構成する各面が球面状である」のに対して、引用発明は、そのようなものであるかどうか一応明らかでない点。

(相違点2)
「配置される」「薬剤」が、本願発明は、「薬剤成分を芯物質とし、当該芯物質が壁材で包まれたマイクロカプセル」であり、「前記壁材が、たんぱく質に反応する素材からなり」、「前記薬剤成分は、ビタミンA、ビタミンE、ビタミンB6およびビタミンB12のうちの少なくとも1つを含み、目の疲労や目の疲労による充血を回復する有効成分である」のに対して、引用発明は、そのようなものではない点。

4 判断
(1) 相違点1について
引用発明は、2枚の含水性ソフトコンタクトレンズの間に、シート状に加工された薬物を挟み込んで、コンタクトレンズとしたものであるところ、(ソフト)コンタクトレンズの前面及び後面の各面は通常球面状である。
そうすると、引用発明の「2枚の含水性ソフトコンタクトレンズ」各々の各面の形状は、球面状となっているということができる。
そうしてみると、上記相違点1は、実質的な相違点を構成しない。あるいは、引用発明において、薬物を挟む2枚の含水性ソフトコンタクトレンズ各々の各面を球面状とすることは、具体化に際しての当業者の設計上のことである。

(2) 相違点2について
ア 引用発明は、「眼局所へ」、「もっと長時間にわたって、また連続的な薬物供給能力をもつシステムの開発を課題」(【0002】、【0003】)とし、「薬剤を含水性コンタクトレンズの内部に固定する構造をつくることによって、薬剤が少しずつコンタクトレンズ内の水分(涙液も含む)に溶けだし、長時間にわたって十分な薬物供給をさせることを可能」(【0004】)とするものである。
また、引用発明は、「薬物が直接」「角膜や結膜といった繊細な組織に接触することがなく、しかも薬物が水分に溶けだすことを利用しているため、安全に長時間、十分な薬物供給ができる」(【0005】)との作用を有し、「薬物」が「少しずつ溶け出し、コンタクトレンズ素材に浸透し、結膜嚢内へと広が」り、「薬物の量、固形法を変えることによって、薬物の結膜嚢内濃度および供給時間はコントロールできる」(【0006】)との効果を有するものと理解できる。

イ ここで、薬剤(薬物)の放出・供給を制御し、長時間にわたり安全に薬剤(薬物)を供給するドラッグデリバリーシステム(DDS)技術として、当審拒絶理由において引用された、特表2005−528185号公報(以下「引用例2」という。)の請求項1、7、8、9、【0001】、【0017】〜【0022】、図1等には、「眼科医薬製剤をナノ粒子中にカプセル化(encapsulation)し、薬剤を含むナノ粒子(drug-laden nanoparticles)をコンタクトレンズのマトリックス中に分散させ」、「コンタクトレンズを装用」した場合に、「薬剤が粒子から拡散し、レンズのマトリックスを通って移動」することにより、「レンズ後方の涙液膜(POLTF)すなわち角膜とレンズとの間にトラップされている薄い涙液膜中に」薬剤を供給する技術が記載されている。また、引用例2には、当該技術においては、「薬剤分子は粒子及びレンズマトリックスを通ってゆっくり拡散するので、薬剤を加えたコンタクトレンズは薬剤を長時間連続して提供することができる」(【0020】)ことも記載されている。
加えて、引用例2の【0023】には、上記のように薬剤をゆっくりと拡散させるナノ粒子・ナノカプセルの形式として、例えば、生分解性材料、リポソーム、PEG(ポリエチレングリコール)、キトサン、ゼラチン等など種々の材料が開示されている。また、当審拒絶理由において例示した特表2007−518690号公報の【0027】に、「薬物は、眼の表面からの摩擦及び涙によりリポソームカプセルが分解するにつれて時間をかけてゆっくり放出される。」、「リポソームは涙によって分解することが知られている。」と記載されているように、リポソームのカプセルを涙により分解させることにより、薬剤を徐々に放出することは、先の出願前に周知の技術である(当合議体注:例えば、特表2015−505315号公報の【0079】に、「1つ以上のMHCクラスIIα1ドメインを含むリポソームは、滴剤の形態又は水性基剤クリームの形態として局所的に適用することができる、又は眼内で注入することができる。局所適用のための製剤では、リポソーム・カプセル剤が眼表面からの損傷及び涙により分解するとともに、MHCクラスIIα1ドメインはゆっくり経時的に放出される。」、あるいは、国際公開第2017/062974号の22頁11〜15行に、「The neuroprotective compound bound with liposomes may be applied topically, either in the form of drops or as an aqueous based cream, or may be injected intraocularly.」、「In a formulation for topical application, the drug is slowly released overtime as the liposome capsule degrades due to wear and tear from the eye surface.」(日本語訳:「リポソームと結合した神経保護化合物は、液滴の形態で又は水性クリームとして局所的に適用されてもよく、又は、眼内に注入されてもよい。」、「局所適用のための製剤では、薬物は、磨耗及び眼表面からの涙によりリポソームカプセルが分解するに従い、時間の経過に伴いゆっくり放出される。」)と記載されている。)。
さらに、コンタクトレンズ(内)に薬剤を含ませ、眼に薬剤を供給するDDS技術において、薬剤として、眼の疲労や炎症を抑制するものとして知られる、ビタミンA、ビタミンE、ビタミンB6あるいはビタミンB12などのビタミンを用いることは、先の出願前に周知のことである(当合議体注:例えば、特開2014−74044号公報の【0025】〜【0027】(特に、【0027】の「コンタクトレンズ装用による眼の疲労、炎症抑制の点から、ビタミン又はその誘導体」「を配合することが好ましい」こと)、(原査定の拒絶の理由において引用された)特表2005−531512号公報の【0019】〜【0021】、【0042】、【0044】(特に、【0044】の「薬物」として「ビタミン」が挙げられること)、特表2010−508902号公報の【0084】、【0093】(特に、【0093】の「眼の中の疾病を予防するか、または眼の疾病の症状を緩和することができる」「ポリマーマトリックス内に組み込まれる生物活性剤」として、「ビタミン(例えば、B5、A、B6など」が挙げられること)、特開2013−190789号公報の【0050】(特に、「目の栄養物」に関して、「コンタクトレンズ」の動的流体ゾーンを利用して、ビタミンA、D、及びEを送達すること)、あるいは特表2013−533517号公報の【0059】、【0069】(特に、【0069】の「SiHyコンタクトレンズ調合物」に含まれる「眼の病気を予防し、眼の病気の症状を軽減することができる」「生物活性剤」の例として、「ビタミン類(例えば、B5、A、B6など)が含まれる」こと)等を参照。更に言うと、市販の目薬(点眼薬)に含まれるビタミンA、ビタミンE、ビタミンB6及びビタミンB12などのビタミンが、眼の疲労や炎症を抑制する効能を有することは技術常識である。)。

ウ 引用発明(「薬物供給能力をもったコンタクトレンズ」)は、上記アで示した技術思想に基づくものである。そうすると、引用発明の具体化にあたり、当業者は、引用発明の技術に関連する、上記イで述べた、薬剤をリポソームカプセルで包んで薬剤の放出・供給を制御するDDS技術や、コンタクトレンズに、薬剤として、眼の疲労や炎症を抑制するビタミンA、ビタミンE、ビタミンB6あるいはビタミンB12等のビタミンを含ませて眼に薬剤を供給するDDS技術を参考にすることができる。
してみると、上記イで述べた、引用例2に記載された技術や、先の出願前に周知のDDS技術に基づき、引用発明において、「2枚の含水性ソフトコンタクトレンズの間に」「配置される」「薬物」を、「シート状に加工された」構成から、「薬物」成分(「薬剤成分」)を芯物質とし、当該芯物質がリポソームからなる壁材で包まれたマイクロカプセルの構成に置き換えることにより、涙によりリポソームカプセル(「マイクロカプセル」)が分解されて「薬物」成分が少しずつ放出されるようにするとともに、その「薬物」成分(「薬剤成分」)を、ビタミンA、ビタミンE、ビタミンB6及びビタミンB12などを含む、目の疲労や目の疲労による充血を回復する有効成分とすることは、当業者が容易になし得たことである。ここで、涙により分解されるリポソームが「(涙を構成する)タンパク質に反応する素材」であることは、当業者において明らかである。また、引用例2に記載の技術や上記の周知のDDS技術を引用発明に適用するにあたり、薬剤のマイクロカプセル(リポソームカプセル等)の直径、製造方法及び薬剤放出性制御技術や薬剤の用量等について、引用例2の【0014】、【0021】〜【0023】、【0032】、【0037】、【0043】、【0061】、【0063】、図面等に記載のナノ粒子を用いたDDS技術や、特開2009−7378号公報の(【0022】、【0028】〜【0032】、実施例等)、特表2001−514209号公報(【0013】、【0014】、実施例1、実施例3等)、特表平8−501709号公(121頁17〜25行等)等に例として記載されているような、先の出願前によく知られているDDS技術あるいは技術常識を、コンタクトレンズへの涙、薬剤の浸透性、透過性やビタミンの用量等を考慮しつつ、当業者は参考にすることができる。

(3) 本願発明の効果について
ア 本願発明の効果について、本件出願明細書の【0007】には、「本発明のコンタクトレンズによれば、コンタクトレンズを装着している眼球に薬剤成分を摂取することが容易に可能になる。」との記載がある。

イ しかしながら、「コンタクトレンズを装着している眼球に薬剤成分を摂取することが容易に可能になる」との効果は、上記((1)及び)(2)で述べた(相違点1及び)相違点2に係る設計変更を施してなる引用発明も奏することである。あるいは、引用例1及び引用例2に記載の技術、あるいは上記(2)イで述べた先の出願前に周知のDDS技術に基づき、当業者が予測する効果である。

(4) 令和3年4月23日付け意見書における請求人の主張について
ア 令和3年4月23日付け意見書の「3.拒絶理由(新規性進歩性)について」「(3−3)本願発明1と引用文献との対比」において、請求人は、「理由2(進歩性)」について、「本願発明1では、上述の通り、薬剤成分は、ビタミンA、ビタミンE、ビタミンB6およびビタミンB12のうちの少なくとも1つを含み、目の疲労や目の疲労による充血を回復する有効成分である構造となっているのに対し・・・略・・・、引用文献1〜6ではそのような構成となっていません。」、「従いまして、本願発明1は、新規性を有するとともに進歩性を有しますので、特許法第29条第1項及び第2項の規定に該当するものではないと思料いたします。」と主張する。

イ しかしながら、上記(1)〜(3)で述べたとおりであるから、請求人の上記主張を採用することはできない。

5 小括
以上のとおりであるから、本願発明は、引用例1及び引用例2に記載された発明及び先の出願前に周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

6 補足1(理由1(実施可能要件)について)
上述のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、理由1(実施可能要件)について判断を示すまでもなく、本件出願は拒絶すべきものである。
したがって、理由1(実施可能要件)については判断をしない。

7 補足2
令和3年4月23日付けの手続補正書により、発明の詳細な説明の【0012】、【0015】、【0016】及び【0017】の記載が補正(変更)された。しかしながら、【0012】、【0015】、【0016】及び【0017】についてした補正は、本件出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものということができず、新規事項を追加する補正である。
具体的には、上記補正により、発明の詳細な説明において記載されることとなった、「色素部分として疎水性リポソームカプセルをソフトコンタクトの原材料液に懸濁混合」し、「製造されたレンズを2枚用いて、中に色素部分を挟み込む形で、この懸濁溶液を凹型モールドへプリント転写する」(【0012】)とのこと、「マイクロカプセルはソフトコンタクトレンズのフロントカーブ表面から好ましくは数nm〜数十nmに位置することにより、マイクロカプセルが涙液中の油脂と接触することが可能となり、マイクロカプセルが溶解し内包した薬剤が放出される」(【0012】)とのこと、「マイクロカプセル内の薬剤の濃度と射出量により、レンズ1枚当たりのマイクロカプセルの量は制御可能であり、眼への効果と副作用リスクを考慮して、レンズ1枚当たり10〜40μgが好ましい」(【0012】)とのこと、「マイクロカプセルの粒子径は、数マイクロメートルから数千マイクロメートルであり、通常、カラーコンタクトレンズに使用する顔料は数μm〜数十nmであることと、マイクロカプセルの形状安定性とを考慮して、マイクロカプセルは数μm〜数百nmが好ましい」(【0015】)とのこと、「疎水性リポソームは水に溶けず、耐熱性を持つため、壁材には疎水性リポソームを用いた場合、パッキング、滅菌時においては溶解することがない」(【0016】)とのこと、「芯物質には眼への効果と副作用リスクを考慮してビタミンA:0.001〜0.005%ビタミンE:0.001〜0.01%、ビタミンB6:0.01〜0.1%、ビタミンB12:0.001〜0.05%の水溶液が好ましい」(【0017】)とのこと、及び、「芯物質は、眼への効果と副作用リスクを考慮して、装用してから8時間と浸透させるように、DDSにより算出したカプセルの壁厚を数十nm〜数nmに設定するのが好ましい」(【0017】)とのことは、いずれも当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものということができない。

第3 むすび
本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2021-09-30 
結審通知日 2021-10-05 
審決日 2021-11-05 
出願番号 P2017-201750
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02C)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 榎本 吉孝
特許庁審判官 下村 一石
河原 正
発明の名称 コンタクトレンズ  
代理人 小木 智彦  

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