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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F16G
管理番号 1381643
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-02-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-08-05 
確定日 2021-10-25 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6640921号発明「Vリブドベルト及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6640921号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜12〕について訂正することを認める。 特許第6640921号の請求項2ないし12に係る特許を維持する。 特許第6640921号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6640921号の請求項1ないし12に係る特許についての出願は、平成30年6月13日(優先権主張 平成29年6月20日)に出願され、令和2年1月7日にその特許権の設定登録がされ、令和2年2月5日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、特許異議申立人村戸良至(以下「特許異議申立人」という。)により、請求項1ないし12に係る特許に対する特許異議の申立てがされた。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和2年 8月 5日 :特許異議申立人による特許異議の申立て
令和2年11月13日付け:取消理由通知書
令和3年 1月 8日 :特許権者による訂正請求書及び意見書の提出
令和3年 3月 5日 :特許異議申立人による意見書の提出
令和3年 5月14日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和3年 7月 2日 :特許権者による訂正請求書及び意見書の提出
令和3年 8月24日 :特許異議申立人による意見書の提出

第2 訂正の請求についての判断
1 訂正の内容
令和3年7月2日の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである(下線部は訂正箇所を示す。)。
なお、特許法第120条の5第7項の規定により、令和3年1月8日の訂正請求書による訂正は取り下げられたものとみなす。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項2に、
「低モジュラス繊維の引張弾性率が20GPa以下である請求項1記載のVリブドベルト」
と記載されているのを、
「4cN/dtex荷重時における中間伸度が1〜3%であり、かつ引張弾性率が50〜100GPaである高伸度アラミド繊維と、引張弾性率が20GPa以下である低モジュラス繊維とを混撚りした撚りコードを含むVリブドベルトであって、
前記撚りコードが、前記高伸度アラミド繊維の無撚糸3本又は前記高伸度アラミド繊維を一方向に撚った高伸度アラミド繊維の下撚り糸3本と、
前記低モジュラス繊維の無撚糸又は前記低モジュラス繊維を一方向に撚った低モジュラス繊維の下撚り糸とを上撚りした撚りコードであるVリブドベルト」に訂正する。請求項2の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3ないし12についても同様に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に、
「高伸度アラミド繊維の割合が、撚りコード中60〜95質量%である請求項1又は2記載のVリブドベルト」
と記載されているのを、
「高伸度アラミド繊維の割合が、撚りコード中60〜95質量%である請求項2記載のVリブドベルト」に訂正する。請求項3の記載を直接的又は間接的に引用する請求項4ないし12についても同様に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に、
「撚りコードが、複数の下撚り糸を上撚りした撚りコード又は複数の無撚糸を撚った撚りコードであり、この撚りコードの下撚り係数が0〜6であり、かつ上撚り係数が2〜6である請求項1〜3のいずれか一項に記載のVリブドベルト」
と記載されているのを、
「撚りコードの下撚り係数が0〜6であり、かつ上撚り係数が2〜6である請求項2又は3記載のVリブドベルト」に訂正する。請求項4を直接的又は間接的に引用する請求項5ないし12についても同様に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に、
「撚りコードがラング撚りである請求項1〜4のいずれか一項に記載のVリブドベルト」
と記載されているのを、
「撚りコードがラング撚りである請求項2〜4のいずれか一項に記載のVリブドベルト」に訂正する。請求項5を直接的又は間接的に引用する請求項6ないし2についても同様に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項9に、
「撚りコードが諸撚りであり、かつ高伸度アラミド繊維の下撚り係数が2以上である請求項1〜4のいずれか一項に記載のVリブドベルト」
と記載されているのを、
「撚りコードが諸撚りであり、かつ高伸度アラミド繊維の下撚り係数が2以上である請求項2〜4のいずれか一項に記載のVリブドベルト」に訂正する。請求項9を直接的又は間接的に引用する請求項10ないし12についても同様に訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項10に、
「摩擦伝動面の少なくとも一部が布帛で被覆されている請求項1〜9のいずれか一項に記載のVリブドベルト」
と記載されているのを、
「摩擦伝動面の少なくとも一部が布帛で被覆されている請求項2〜9のいずれか一項に記載のVリブドベルト」に訂正する。請求項10を直接的又は間接的に引用する請求項11及び12についても同様に訂正する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項11に
「ベルト式ISG駆動を搭載したエンジンに装着される請求項1〜10のいずれか一項に記載のVリブドベルト」
と記載されているのを、
「ベルト式ISG駆動を搭載したエンジンに装着される請求項2〜10のいずれか一項に記載のVリブドベルト」に訂正する。請求項11を引用する請求項12についても同様に訂正する。

(8)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項12に
「前記撚りコードを接着処理して心線を調製する心線調製工程を含む請求項1〜11のいずれか一項に記載のVリブドベルトの製造方法であって、前記心線調製工程において、接着処理の熱処理時にヒートセット延伸率3%以下で熱延伸固定する製造方法」
と記載されているのを、
「前記撚りコードを接着処理して心線を調製する心線調製工程を含む請求項2〜11のいずれか一項に記載のVリブドベルトの製造方法であって、前記心線調製工程において、接着処理の熱処理時にヒートセット延伸率3%以下で熱延伸固定する製造方法」に訂正する。

2 訂正の要件
(1)訂正事項1
訂正事項1は、訂正前の請求項2が請求項1の記載を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項1の記載を引用しないものとし、独立形式請求項へ改めるための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
また、訂正事項1は、訂正前の請求項1において「4cN/dtex荷重時における中間伸度が0.8%以上であり」としていたものを、「0.8%以上」から「1〜3%」に限定することで、「4cN/dtex荷重時における中間伸度」の下限を限定するとともに上限を特定することでその範囲を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
さらに、訂正事項1は、訂正前の請求項1における「撚りコード」を「前記撚りコードが、前記高伸度アラミド繊維の無撚糸3本又は前記高伸度アラミド繊維を一方向に撚った高伸度アラミド繊維の下撚り糸3本と、前記低モジュラス繊維の無撚糸又は前記低モジュラス繊維を一方向に撚った低モジュラス繊維の下撚り糸とを上撚りした撚りコードである」と特定することでその態様を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1による「4cN/dtex荷重時における中間伸度」及び「撚りコード」の限定は、それぞれ、願書に添付した明細書の段落【0013】並びに同【0017】、【0025】、【0027】及び【0029】の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。
さらに、訂正事項1は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。

(2)訂正事項2
訂正事項2は、訂正前の請求項1の記載を削除するものであって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
そして、訂正事項2により、訂正前の特許請求の範囲に含まれないとされていた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることになる、という事情は認められない。
したがって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえ、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)訂正事項3及び5ないし9
訂正事項3及び5ないし9は、訂正前の請求項3、5及び9ないし12が請求項1を含む請求項の記載を引用する記載であったものを、記載を引用する請求項から請求項1を削除するものであって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項3及び5ないし9により、訂正前の特許請求の範囲に含まれないとされていた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることになる、という事情は認められない。
したがって、訂正事項3及び5ないし9は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえ、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4)訂正事項4
訂正事項4は、訂正前の請求項4が請求項1を含む請求項の記載を引用する記載であったものを、記載を引用する請求項から請求項1を削除するものであって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項4は、記載を直接又は間接的に引用する請求項2に係る訂正事項1において「撚りコード」を「前記撚りコードが、前記高伸度アラミド繊維の無撚糸3本又は前記高伸度アラミド繊維を一方向に撚った高伸度アラミド繊維の下撚り糸3本と、前記低モジュラス繊維の無撚糸又は前記低モジュラス繊維を一方向に撚った低モジュラス繊維の下撚り糸とを上撚りした撚りコードである」と限定することに伴い不整合となる「撚りコードが、複数の下撚り糸を上撚りした撚りコード又は複数の無撚糸を撚った撚りコードであり」の記載を削除して整合させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項4により、訂正前の特許請求の範囲に含まれないとされていた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることになる、という事情は認められない。
したがって、訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえ、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3 独立特許要件
訂正事項1ないし9は、訂正前の請求項1ないし12に係るものであって、訂正前の請求項1ないし12は特許異議の申立てがされているから、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

4 一群の請求項
訂正前の請求項2ないし12は、請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものであって、請求項1の訂正に伴って訂正されるものである。よって、訂正前の請求項1ないし12は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項を構成する。

5 小括
上記2のとおり、訂正事項1ないし9に係る訂正は、訂正の要件を満たしている。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜12〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
上記第2のとおり本件訂正は認められるから、本件特許の請求項2ないし12に係る発明(以下「本件発明2」ないし「本件発明12」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項2ないし12に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
[本件発明2]
「4cN/dtex荷重時における中間伸度が1〜3%であり、かつ引張弾性率が50〜100GPaである高伸度アラミド繊維と、引張弾性率が20GPa以下である低モジュラス繊維とを混撚りした撚りコードを含むVリブドベルトであって、
前記撚りコードが、前記高伸度アラミド繊維の無撚糸3本又は前記高伸度アラミド繊維を一方向に撚った高伸度アラミド繊維の下撚り糸3本と、
前記低モジュラス繊維の無撚糸又は前記低モジュラス繊維を一方向に撚った低モジュラス繊維の下撚り糸とを上撚りした撚りコードであるVリブドベルト。」
[本件発明3]
「高伸度アラミド繊維の割合が、撚りコード中60〜95質量%である請求項2記載のVリブドベルト。」
[本件発明4]
「撚りコードの下撚り係数が0〜6であり、かつ上撚り係数が2〜6である請求項2又は3記載のVリブドベルト。」
[本件発明5]
「撚りコードがラング撚りである請求項2〜4のいずれか一項に記載のVリブドベルト。」
[本件発明6]
「高伸度アラミド繊維の下撚り係数に対する上撚り係数の比が4〜8である請求項5記載のVリブドベルト。」
[本件発明7]
「高伸度アラミド繊維の下撚り係数に対する上撚り係数の比が5〜7である請求項5又は6記載のVリブドベルト。」
[本件発明8]
「高伸度アラミド繊維の下撚り係数が1以下である請求項5〜7のいずれか一項に記載のVリブドベルト。」
[本件発明9]
「撚りコードが諸撚りであり、かつ高伸度アラミド繊維の下撚り係数が2以上である請求項2〜4のいずれか一項に記載のVリブドベルト。」
[本件発明10]
「摩擦伝動面の少なくとも一部が布帛で被覆されている請求項2〜9のいずれか一項に記載のVリブドベルト。」
[本件発明11]
「ベルト式ISG駆動を搭載したエンジンに装着される請求項2〜10のいずれか一項に記載のVリブドベルト。」
[本件発明12]
「前記撚りコードを接着処理して心線を調製する心線調製工程を含む請求項2〜11のいずれか一項に記載のVリブドベルトの製造方法であって、前記心線調製工程において、接着処理の熱処理時にヒートセット延伸率3%以下で熱延伸固定する製造方法。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
訂正前の請求項1ないし12に係る特許に対して、当審が令和2年11月13日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
1 (新規性)訂正前の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の出願(優先日)前に日本国内において、下記の頒布された刊行物(甲第1号証)に記載された発明であって、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
2 (進歩性)訂正前の請求項1ないし12に係る発明は、本件特許の出願(優先日)前に日本国内又は外国において、下記の頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願(優先日)前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。



<刊行物等(特許異議申立書に添付された甲各号証)>
甲第1号証:国際公開1997/06297号
甲第2号証:「高強力アラミド繊維トワロン○R(当審注:「○R」は○の中にR。以下同様。)」(TEIJINN)
甲第3号証:特開2018−71035号公報
甲第4号証:「A true all-round para-aramid performer.」(TEIJINN)
甲第5号証:「Report 107 / High Performance Polymer Fibres / P.R. Lewis / Rapra Review Reports / Expert overviews covering the science and technology of rubber and plastics」Volume 9, Number 11, 1999 / RAPRA TECHNOLOGY LTD.
甲第6号証:バンドー化学株式会社 R&Dセンター・経営企画部編、「BANDO TECHNICAL REPORT No.8 / バンドー テクニカルレポート」、平成16年2月26日、バンドー化学株式会社 経営企画部
甲第7号証:特開2008−100365号公報
甲第8号証:特開平5−60178号公報
甲第9号証:特開平8−199484号公報

なお、特許異議の申立ての後に、特許異議申立人は次の甲第10ないし13号証を提出した。
甲第10号証:帝人株式会社のHP(「歴史」の「テイジンの創生」)(URL:https://www.teijin.co.jp/about/history/index03.html)
甲第11号証:平成14年(行ケ)第213号 審決取消請求事件 判決
甲第12号証:平成14年(ワ)第10511号 特許権侵害差止等請求事件 判決
甲第13号証:特許・実用新案審査基準 第II部 第2章 第3節 明確性要件

第5 当審の判断
1 甲第1号証に記載された技術的事項及び発明
(1)甲第1号証の記載
甲第1号証には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審が付した。以下同様。)。

ア 甲第1号証の明細書の3ページ3ないし5行(空行除く)
「One example of a possible construction involves two yarns (e.g., 1500 dtex; Z220) of high modulus being twisted together with one yarn (e.g., 1500 dtex; Z180) of low modulus to form a cord (e.g., S220).(当審和訳:可能な構造の一例は、高モジュラスの2本の糸(例えば、1500dtex; Z220)が、低モジュラスの1本の糸(例えば、1500dtex; Z180)と一緒に撚られてコード(例えば、S220)を形成することを含む。)」

イ 甲第1号証の明細書5ページ下から4ないし3行(空行除く)
「The invention further pertains to a transmission belt reinforced with the cord described above. (当審和訳:本発明はさらに、上記のコードで補強された伝動ベルトに関する。)」

ウ 甲第1号証の明細書8ページ1ないし7行(空行除く)
「EXAMPLE 1 A wrapped wire construction was made of Twaron○R 2100 and Enka Nylon○R 155 HRS of the following linear densities and twist levels (the construction had a thickness of 0.85 mm, the difference in length for 1 m of cord when cabling was 1.042 m of Twaron and 1.06 m of Enka Nylon): (Twaron2100; 1680 dtex xl Zl70 x3 Sl40 + Enka Nylon 155 HRS; 940 dtex Z60)xl S250(当審和訳:実施例1 撚糸構造物は、次の線密度と撚り数のTwaron○R 2100とEnka Nylon○R 155 HRSとで構成されています(構造物の厚さは0.85 mmで、1mのコードのケーブリングの際の長さの違いはTwaronが1.042mでEnka Nylonが1.06mであった。):(Twaron2100; 1680 dtex xl Zl70 x3 Sl40 + Enka Nylon 155 HRS; 940 dtex Z60)xl S250(当審注:Twaron2100の下撚り糸の3本を中撚りした糸1本とEnka Nylon 155 HRSの撚糸1本とを、上撚りした撚りコードを示す。))」

エ 甲第1号証の請求項10(明細書13ページ10ないし11行。空行除く)
「・・・that all yarns take part in the twisting of the cord and the cord contains at least 75 wt.% of the high-modulus yarn.(当審和訳:・・・全ての糸が前記コードの撚りに加わっており、かつ前記コードは少なくとも75質量%の前記高モジュラスの糸を含有している。)」

(2)甲第1号証に記載された技術的事項
ア 上記(1)ア及びイの記載から、甲第1号証には、高モジュラス繊維と低モジュラス繊維との撚糸構造物で補強された伝動ベルトの撚糸構造物において、高モジュラス(トワロン2100)の2本の糸が、低モジュラス(エンカナイロン)の1本の糸と一緒に撚られて混撚りした撚りコードとすることが記載されている。

イ 上記(1)ア、イ及びエの記載から、甲第1号証には、高モジュラス繊維と低モジュラス繊維との撚糸構造物で補強された伝動ベルトの撚糸構造物において、高モジュラスの糸の割合が、撚りコード中少なくとも75質量%であることが記載されている。

(3)甲第1号証に記載された発明
上記(1)アないしエの記載を総合して、特にウの「実施例1」に係るものについて整理すると、甲第1号証には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
[引用発明]
「高モジュラス繊維のTwaron○R 2100と、低モジュラス繊維のEnka Nylon○R 155 HRSとの撚糸構造物で補強された伝動ベルトであって、前記撚糸構造物がTwaron○R 2100の下撚り糸の3本を中撚りした糸1本とEnka Nylon○R 155 HRSの撚糸1本とを、上撚りした撚りコードである伝動ベルト。」

2 甲第2号証に記載された技術的事項
(1)甲第2号証の記載
甲第2号証(当審注:本証は、その作成者「帝人テクノプロダクツ(株)」が2012年10月に消滅している(甲第10号証)から、本件発明の出願の優先日(2017年6月20日)前の発行であるといえる。)の8ページの「トワロングレード一覧表」の「フィラメントヤーン」の表の「フィラメントヤーンNM」に、下から2行目の「2100」の「用途/特長」として「(高伸度、高耐久性グレード)」と記載されている。

(2)甲第2号証に記載された技術的事項
「トワロングレード一覧表」からして、甲第2号証には「Twaron○R 2100」が「高伸度、高耐久性グレード」品である旨が記載されている。

3 甲第3号証に記載された技術的事項
(1)甲第3号証の記載
「【0055】
[原料]
高伸度タイプの単独繰り返し単位のパラ系アラミド繊維:帝人(株)製『Twaron(登録商標)2100』、引張弾性率62GPa、引張強度3100MPa
・・・(略)・・・
有機過酸化物:化薬アクゾ(株)製『パーカドックス14RP』。」

(2)甲第3号証に記載された技術的事項
甲第3号証(当審注:本証の公開日は本件発明の出願の優先日後であるものの、「Twaron(登録商標)2100」に係る特性・物性は、本件発明の出願の優先日から本証の公開日の前後で異なる旨の証拠がないことから、異なるとはいえないので、その特性・物性を参照した。)には、「Twaron(登録商標)2100」が「高伸度タイプのパラ系アラミド繊維」で「引張弾性率62GPa」である旨が記載されている。

4 甲第4号証に記載された技術的事項
(1)甲第4号証の記載
甲第4号証(当審注:本証の公開日は明らかでないものの、後記「Twaron○R」に係る特性・物性は、本件発明の出願の優先日から本証の公開日の前後で異なる旨の証拠がないことから、異なるとはいえないので、その特性・物性を参照した。)の12頁目には、Twaron○Rの伸度に関するグラフが記載されている。

(2)甲第4号証に記載された技術的事項
Twaron○Rの伸度に関するグラフからして、甲第4号証には、高伸度のTwaron○Rの4cN/dtex荷重時における中間伸度は0.99%であり、かつ引張弾性率は62GPaであることが、記載されている。

5 甲第5号証に記載された技術的事項
(1)甲第5号証の記載
甲第5号証の31ページ右欄の「Item 34」の欄
「Item 34
・・・(略)・・・
Twaron 2100 gives improved lifetime characteristics in knitted hoses subjected to high vibration levels, and in transmission belts such as V-belts and timing belts subjected to severe compression and flexural fatigue condition.
・・・(略)・・・(当審和訳:・・・トワロン2100は、高い振動レベルにさらされるニットホース、および厳しい圧縮及び曲げ疲労条件にさらされるVベルトやタイミングベルトなどの伝動ベルトの寿命特性を改善します。・・・)」

(2)甲第5号証に記載された技術的事項
甲第5号証の31ページ右欄の「Item 34」の欄にはトワロン2100は、伝動ベルトに適用される旨が記載されている。

6 甲第6号証に記載された技術的事項
(1)甲第6号証の記載
甲第6号証の7ページ(本文4ページ)左欄の図5には、「心線設計因子」として、「撚糸」に関し「下撚り回数(回/10cm)」として、順に「5」、「10」及び「15」と記載され、また、「上撚り回数(回/10cm)」として、順に「12」、「15」、「18」及び「21」と記載されている。

(2)甲第6号証に記載された技術的事項
甲第6号証の7ページ(本文4ページ)左欄の図5に撚糸に係る心線自体の改良方策について記載されており、これは、特許異議申立書46ページ2〜3行及び表2に記載されているとおり、下撚り係数は0.5〜1.5であり、上撚り係数は2.0〜3.6であることを開示しているから、甲第6号証には、撚りコードの下撚り係数が0〜6であり、かつ上撚り係数が2〜6であることが記載されている。

7 甲第7号証に記載された技術的事項
(1)甲第7号証の記載
ア 「【請求項1】
ベルト内面に凹凸部を有する伝動ベルトの製造方法において、
ジャケットを装着した内型に、伝動ベルト背面となるゴム部材、撚糸コード、伝動ベルト内面となるゴム部材を順次配置して未加硫ベルトスリーブを形成する工程、及びジャケットを膨張させて、該凹凸部に対応した刻印を有する外型に未加硫ベルトスリーブを押圧して加硫し、表面に凹凸部を刻設した加硫ベルトスリーブを形成する工程を含むものであって、
前記撚糸コードとして、アラミド繊維と4cN/dtex荷重時の原糸中間伸度が4〜15%の繊維とをアラミド繊維の重量割合が50〜90%となるよう混撚した撚糸コードを用いることを特徴とした伝動ベルトの製造方法。
【請求項2】
撚糸コードが諸撚り構造であって、アラミド繊維を撚糸した下撚コードと4cN/dtex荷重時の原糸中間伸度が4〜15%の繊維を撚糸した下撚コードとを上撚係数が2.0〜7.0となるよう混撚した撚糸コードである請求項1記載の伝動ベルトの製造方法。」

イ 「【請求項5】
凹凸部がリブ部であって、伝動ベルトがVリブドベルトである請求項1〜4のいずれか1項に記載の伝動ベルトの製造方法。」

ウ 「【0027】
原糸中間伸度が4〜15%の繊維としては、アラミドと比較して低モジュラスな合成繊維が好ましく用いられ、具体的にはポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維などのポリエステル繊維、ナイロン66、ナイロン46などのポリアミド繊維等を挙げることができる。なかでもポリアミド及び/又はポリエチレンテレフタレートが好ましく用いられる。撚糸コードは、好ましくは諸撚り構造であって、アラミド繊維を撚糸した下撚コードと4cN/dtex荷重時の原糸中間伸度が4〜15%の繊維を撚糸した下撚コードとを下記の〔数1〕で定義する上撚係数が2.0〜7.0となるよう混撚すると複合化が充分なものとなる。上撚係数が2.0未満ではコードの屈曲疲労性が悪くなり、一方7.0を超えるとコードモジュラスが低下しすぎてしまうという問題がある。また好ましくは、アラミド繊維からなる下撚コードの下撚係数が2.0〜7.0、4cN/dtex荷重時の原糸中間伸度が4〜15%の繊維からなる下撚コードの下撚係数が2.0〜7.0とすることが望ましい。尚、上撚りと下撚りの間に中撚りを設けることも可能である。また、混撚り以外の複合化としては芯鞘構造による複合化が挙げられる。各繊維どちらを芯、鞘とするかは所望に応じて決めることができる。」

エ 「【0082】
以下に、本発明を具体的な実施例により更に詳細に説明する。
実施例1〜7、比較例1〜3
まず、表1に示すように、1,100dtexのパラ系アラミド繊維、940dtexのナイロン66繊維、1,100dtexのポリエチレンテレフタレート繊維(PET繊維)を各々表1に示す下撚り係数にて撚糸し、各繊維からなる下撚コードを作製した。そして実施例1〜5ではアラミド下撚コードを3本とナイロン下撚コード1本を、実施例6ではアラミド下撚コードを2本とナイロン下撚コード2本を、実施例7ではアラミド下撚コード3本とPET下撚コード1本を、比較例1,2ではアラミド下撚コード3本を、比較例3ではアラミド下撚コードを1本とナイロン下撚コード3本を、それぞれ表1に示す上撚り係数にて諸撚りし、心線となる撚糸コードを準備した。」

オ 段落【0083】に【表1】として、実施例1ないし7、比較例1ないし3について、所定の下撚り係数にて撚糸したこと、及び所定の上撚り係数にて諸撚りし、心線となる撚糸コードとしたことが記載されている。また、表の脚注に実施例1〜5において、その「アラミド」は原糸中間伸度0.6%の帝人プロダクツ社製「トワロン」である旨、及び、その「ナイロン」は原糸中間伸度11%の旭化成せんい社製「レオナ」である旨記載されている。

カ 「【0084】
次に各撚糸コードをトルエン90gにPAPI(化成アップジョン社製ポリイソシアネート化合物)10gからなる接着剤でプレディップした後、200°Cに温度設定した乾燥炉に2分間通して乾燥した。続いて表2に示すRFL液からなる接着剤に含浸させ、230°Cで2分間熱処理を行い、この熱処理時にヒートセット延伸率0〜3%で熱延伸固定した。更に表3に示す配合ゴムを固形分濃度10%となるよう希釈したゴム糊に各コードを浸漬させた後、160°Cで4分間熱処理して撚糸コードに接着処理を施した。」

(2)甲第7号証に記載された技術的事項
ア 甲第7号証には、伝動ベルトがVリブドベルトであることが記載されている(【請求項5】)。

イ 甲第7号証には、伝動ベルトであるVリブドベルトの心線の撚りコードが諸撚りであることが記載されている(【請求項1】〜【請求項5】)。

ウ 甲第7号証には、Vリブドベルトの製造方法において、撚りコードを接着処理して心線を調製する心線調製工程を含み、心線調製工程において、接着処理の熱処理時にヒートセット延伸率3%以下で熱延伸固定することが記載されている(【請求項5】、段落【0082】、【0084】)。

エ 甲第7号証には、伝動ベルトであるVリブドベルトの心線の撚りコードの下撚り係数が0〜6であり、かつ上撚り係数が2〜6であることが記載されている(【請求項5】、段落【0083】)。

オ 甲第7号証には、伝動ベルトであるVリブドベルトの心線の高伸度アラミド繊維の下撚り係数を2以上とすることが記載されている(【請求項5】、段落【0027】)。

(3)甲第7号証に記載された発明
上記(1)アないしオの記載を総合して、特にオの「実施例1〜5」に係るものについて整理すると、甲第7号証には次の発明(以下「甲7発明」という。)が記載されていると認められる。
[甲7発明]
「4cN/dtex荷重時の原糸中間伸度0.6%の帝人プロダクツ社製トワロンであるアラミド下撚コードを3本と原糸中間伸度11%の旭化成せんい社製レオナであるナイロン下撚コード1本を、所定の上撚り係数にて諸撚りし、心線となる撚糸コードとしたVリブドベルト。」

8 甲第8号証に記載された技術的事項
(1)甲第8号証の記載
ア 「【請求項1】 ベルト長さ方向に沿って配置された複数の歯ゴムと、心線を埋設した背ゴムとからなる歯付ベルトにおいて、上記心線としてアラミド繊維の原糸を構成するフィラメント群を少なくとも2本以上収束して撚り合わせ、この撚糸をさらに同方向へ追撚りして最終的に撚り数を10〜25回/10cmとし、そしてこれにゴム層を付着させたアラミド繊維コードを用いることを特徴とする歯付ベルト。」

イ 「【0016】これらのコードを表1に示すゴム糊に含浸した後、160°Cで50秒間乾燥させ、200°Cで50秒間ベーキングしてオーバーコート処理を行ってアラミド繊維コードを得た。一方、カバー帆布は緯糸に6.6ナイロンウーリー加工糸を用い、経糸に工業用6.6ナイロンを用いたベルト断面上での厚みが0.25mmの綾織組織のものである。そして、歯ゴムと背ゴムは表2からなる水素化ニトリルゴム組成物を用いた。」

(2)甲第8号証に記載された技術的事項
ア 甲第8号証には、歯付ベルトのアラミド繊維の撚りコードがラング撚りであることが記載されている(【請求項1】)。

イ 甲第8号証には、摩擦伝動面の少なくとも一部が布帛で被覆されているとすることが記載されている(段落【0016】)。

9 甲第9号証に記載された技術的事項
(1)甲第9号証の記載
ア 「【請求項1】 アラミド繊維を0.2≦K≦1(K=(T×D1/2 )/2874,K;撚係数、T;回/mで表される撚数、D;単糸繊度)の範囲内で加撚処理し、ついで、この下撚コードを複数本併せて、下撚コードと同じ方向に1≦K≦5の範囲内で加撚処理したのち、エポキシ基を2個以上含むポリエポキシド化合物を含む加圧処理剤中を通過させ、100〜150℃で0.5〜5分間乾燥し、ついで150〜260℃で0.5〜5分間熱処理した後、レゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)を含む処理剤で処理し、80〜150℃で0.5〜5分間乾燥し、150〜260℃で0.5〜5分間熱処理して硬化させることを特徴とするアラミド繊維の処理方法。」

イ 「【0005】
【発明の目的】本発明は以上の事情を背景としてなされたものであり、その目的は、従来の技術における課題を解消した動力伝達ベルトを得るためのアラミド繊維の処理方法、すなわち、ベルト成形時にベルト端面に露出するアラミド繊維の単糸のホツレを防止し、疲労性を低下させない処理方法を提供することにある。」

(2)甲第9号証に記載された技術的事項
甲第9号証には、動力伝達ベルトを得るためのアラミド繊維の撚りコードがラング撚りであることが記載されている(【請求項1】、段落【0005】)。

10 甲第10号証に記載された事項
帝人テクノプロダクツ株式会社が、平成24年10月に消滅したことが記載されている。

11 甲第11号証に記載された事項
平成14年(行ケ)第213号審決取消請求事件の判決において、請求項における数値の有効数字の解釈について記載されている。

12 甲第12号証に記載された事項
平成14年(ワ)第10551号特許権侵害差止等請求事件の判決において、請求項における数値の有効数字の解釈について記載されている。

13 甲第13号証に記載された的事項
特許・実用新案審査基準の明確性要件において、商標を請求項で用いた場合の扱いについて記載されている。

14 本件発明2について
(1) 対比
本件発明2と引用発明とを対比する。

まず、引用発明の「Twaron○R 2100」について検討する。
甲第2号証には、「Twaron○R2100」が「高伸度、高耐久性グレード」品である旨が記載されている(2(2))。
また、甲第3号証には、「Twaron(登録商標)2100」が「高伸度タイプのパラ系アラミド繊維」であって「引張弾性率62GPa」である旨が記載されている(3(2))。
さらに、甲第4号証には、高伸度のTwaron○Rの4cN/dtex荷重時における中間伸度は0.99%であり、かつ引張弾性率は62GPaであることが、記載されている(4(2))。
なお、甲第5号証には、トワロン2100が、伝動ベルトに適用される旨が記載されている(5(2))。
これらのことからすると、引用発明における「高モジュラス繊維のTwaron○R 2100」は、「4cN/dtex荷重時における中間伸度が0.99%であり、かつ引張弾性率が62GPaである高伸度アラミド繊維」ということができるから、結局、本件発明2の「4cN/dtex荷重時における中間伸度が1〜3%であり、かつ引張弾性率が50〜100GPaである高伸度アラミド繊維」との関係において、「4cN/dtex荷重時における中間伸度が所定の値であり、かつ引張弾性率が62GPaである高伸度アラミド繊維」の限りにおいて一致している。

次に、引用発明の「Enka Nylon○R 155 HRS」はナイロン繊維にあたるところ、ナイロン繊維の引張弾性率は一般的に小さく、斯界の技術常識からしてその引張弾性率は20GPa以下であるといえる。
そうすると、引用発明の「低モジュラス繊維のEnka Nylon○R 155 HRS」は本件発明2の「引張弾性率が20GPa以下である低モジュラス繊維」に相当する。

以上のことからすると、本件発明2の「4cN/dtex荷重時における中間伸度が1〜3%であり、かつ引張弾性率が50〜100GPaである高伸度アラミド繊維と、引張弾性率が20GPa以下である低モジュラス繊維とを混撚りした撚りコード」と引用発明の「高モジュラス繊維のTwaron○R 2100と、低モジュラス繊維のEnka Nylon○R 155 HRSとの撚糸構造物」とは、「4cN/dtex荷重時における中間伸度が所定の値であり、かつ引張弾性率が62GPaである高伸度アラミド繊維と、引張弾性率が20GPa以下である低モジュラス繊維とを混撚りした撚りコード」の限りにおいて一致する。

そして、本件発明2の「(混撚りした撚りコード)を含むVリブドベルト」と引用発明の「(撚糸構造物)で補強された伝動ベルト」とは、「(混撚りした撚りコード)を含む伝動ベルト」の限りにおいて一致している。

さらに、本件発明2の「前記撚りコードが、前記高伸度アラミド繊維の無撚糸3本又は前記高伸度アラミド繊維を一方向に撚った高伸度アラミド繊維の下撚り糸3本と、前記低モジュラス繊維の無撚糸又は前記低モジュラス繊維を一方向に撚った低モジュラス繊維の下撚り糸とを上撚りした撚りコードである」ことと、引用発明の「前記撚糸構造物がTwaron○R 2100の下撚り糸の3本を中撚りした糸1本とEnka Nylon○R 155 HRSの撚糸1本とを、上撚りした撚りコードである」こととは、「前記撚りコードが、所定の撚りコードである」限りにおいて一致している。

そうすると、両者の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「4cN/dtex荷重時における中間伸度が所定の値であり、かつ引張弾性率が62GPaである高伸度アラミド繊維と、引張弾性率が20GPa以下である低モジュラス繊維とを混撚りした撚りコードを含む伝動ベルトであって、
前記撚りコードが、所定の撚りコードである伝動ベルト。」

<相違点1>
「伝動ベルト」に関し、本件発明2は、「Vリブドベルト」であるのに対し、引用発明は、「伝動ベルト」である点。

<相違点2>
「4cN/dtex荷重時における中間伸度が所定の値」及び「所定の撚りコード」に関し、本件発明2は、「4cN/dtex荷重時における中間伸度が1〜3%」及び「前記撚りコードが、前記高伸度アラミド繊維の無撚糸3本又は前記高伸度アラミド繊維を一方向に撚った高伸度アラミド繊維の下撚り糸3本と、前記低モジュラス繊維の無撚糸又は前記低モジュラス繊維を一方向に撚った低モジュラス繊維の下撚り糸とを上撚りした撚りコードである」のに対し、引用発明では、「4cN/dtex荷重時における中間伸度が0.99%」及び「前記撚糸構造物がTwaron○R 2100の下撚り糸の3本を中撚りした糸1本とEnka Nylon○R 155 HRSの撚糸1本とを、上撚りした撚りコードである」点。

(2) 判断
まず、相違点1について判断する。
甲第7号証には、伝動ベルトがVリブドベルトであることが記載されている(7(2)ア)。
また、伝動ベルトとしてのVリブドベルトはよく知られていることである。
そして、本件発明2において、伝動ベルトとしてVリブドベルトに限定したことに基づく顕著な効果は認められないから。
そうすると、引用発明において、その伝動ベルトとしてVリブドベルトを採用することで、上記相違点1に係る本件発明2の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

次に、相違点2について判断する。ここで、本件発明2は発明が解決しようとする課題の一つとして、「Vリブドベルトの心線」に係る「撚糸コードの伸び」を挙げている(願書に添付した明細書の段落【0003】、【0004】、【0006】等参照。)ところ、心線の性質である伸びは、繊維自体の性質とその撚りコードとに係るものといえる。
事案に鑑み、まず「所定の撚りコード」について検討する。
甲第1号証には、高モジュラス繊維と低モジュラス繊維との撚糸構造物で補強された伝動ベルトの撚糸構造物において、上記1(2)アのとおり、「高モジュラスの2本の糸が、低モジュラスの1本の糸と一緒に撚られて混撚りした撚りコードとすること」が記載されている。したがって、「撚りコードが、高伸度アラミド繊維の無撚糸2本又は前記高伸度アラミド繊維を一方向に撚った高伸度アラミド繊維の下撚り糸2本と、低モジュラス繊維の無撚糸又は前記低モジュラス繊維を一方向に撚った低モジュラス繊維の下撚り糸とを上撚りした撚りコードとすること」が記載されているとしても、「撚りコードが、高伸度アラミド繊維の無撚糸3本又は前記高伸度アラミド繊維を一方向に撚った高伸度アラミド繊維の下撚り糸3本と、低モジュラス繊維の無撚糸又は前記低モジュラス繊維を一方向に撚った低モジュラス繊維の下撚り糸とを上撚りした撚りコードとすること」が記載されているわけではない。そうすると、仮に、引用発明をして「高モジュラスの2本の糸が、低モジュラスの1本の糸と一緒に撚られて混撚りした撚りコードとすること」を当業者が容易に想到し得たことといえるとしても、更に変更を伴う、「撚りコードが、高伸度アラミド繊維の無撚糸3本又は前記高伸度アラミド繊維を一方向に撚った高伸度アラミド繊維の下撚り糸3本と、低モジュラス繊維の無撚糸又は前記低モジュラス繊維を一方向に撚った低モジュラス繊維の下撚り糸とを上撚りした撚りコードとすること」まで、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
また、甲第7号証には、上記7(3)のとおり、「4cN/dtex荷重時の原糸中間伸度0.6%の帝人プロダクツ社製トワロンであるアラミドの下撚コードを3本と原糸中間伸度11%の旭化成せんい社製レオナであるナイロン下撚コード1本を、所定の上撚り係数にて諸撚りし、心線となる撚糸コードとしたVリブドベルト。」(甲7発明)が記載されているから、「所定の撚りコード」に関し、「撚りコードが、アラミド繊維の無撚糸3本又は前記アラミド繊維の下撚り糸3本と、低モジュラス繊維のナイロンの無撚糸又は前記低モジュラス繊維のナイロンの下撚り糸とを上撚りした撚りコードとすること」が記載されている。しかしながら、心線の性質は、繊維とその撚りコードとに係るものであって、両者の相乗的なものといえることからすると、甲7発明のアラミドの4cN/dtex荷重時の原糸中間伸度が0.6%であって、引用発明の「4cN/dtex荷重時における中間伸度が0.99%であり、かつ引張弾性率が62GPaである高伸度アラミド繊維」とは異なるから、甲7発明の撚りコードのみを引用発明に適用することは、甲7発明の構成を恣意的に取捨選択するものといわざるを得ず、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。なお、同様に、甲7発明の撚りコードをそのままにして、その4cN/dtex荷重時の原糸中間伸度が0.6%であるアラミドのみを本件発明2の構成の「4cN/dtex荷重時における中間伸度が1〜3%であり、かつ引張弾性率が50〜100GPaである高伸度アラミド繊維」とすることも、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
さらに、本件発明2の「Vリブドベルト」において、「4cN/dtex荷重時における中間伸度が1〜3%であり、かつ引張弾性率が50〜100GPaである高伸度アラミド繊維と、引張弾性率が20GPa以下である低モジュラス繊維とを混撚りした撚りコード」であって、「前記撚りコードが、前記高伸度アラミド繊維の無撚糸3本又は前記高伸度アラミド繊維を一方向に撚った高伸度アラミド繊維の下撚り糸3本と、前記低モジュラス繊維の無撚糸又は前記低モジュラス繊維を一方向に撚った低モジュラス繊維の下撚り糸とを上撚りした撚りコードである」ことは、甲第1ないし13号証のいずれにも記載されていない。また、他に相違点2に係る本件発明の構成を示す証拠もない。そして、本件発明2はその「高伸度アラミド繊維」と「低モジュラス繊維」との「撚りコード」に係る構成により、その願書に添付した明細書の段落【0010】に記載された「モールド型付工法での製造時に心線のピッチの乱れや損傷を抑制でき、かつ動的張力の高い用途に使用しても耐発音性や耐久性も維持できる」との効果を奏するものである。

そうすると、「4cN/dtex荷重時における中間伸度が所定の値」について検討するまでもなく、引用発明をして、上記相違点2に係る本件発明2の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。

ウ 小括
以上によれば、本件発明2は、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、引用発明及び甲第1ないし13号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

15 本件発明3ないし12について
本件発明3ないし12は、少なくとも本件発明2に係る構成を含む発明であるから、上記のとおり本件発明2について検討したのと同様に、本件発明3は甲第1号証に記載された発明ではなく、また、本件発明3ないし12は、引用発明及び甲第1ないし13号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

16 特許異議申立人の意見について
特許異議申立人は、本件訂正により限定された「前記撚りコードが、前記高伸度アラミド繊維の無撚糸3本又は前記高伸度アラミド繊維を一方向に撚った高伸度アラミド繊維の下撚り糸3本と、前記低モジュラス繊維の無撚糸又は前記低モジュラス繊維を一方向に撚った低モジュラス繊維の下撚り糸とを上撚りした撚りコードである」との事項は、甲第7号証に記載されているように設計事項又は周知技術であるから、引用発明において、当該構成に至ることは格別の困難さはない旨主張する(令和3年8月24日提出の特許異議申立人の意見書15ないし17頁の「ア.構成要件E”に関する申立人の意見」参照。)。しかしながら、上記特許異議申立人の主張は、上記14(2)に記載したとおり、心線の性質は、繊維自体の性質とその撚りコードとに係るものであって、両者の相乗的なものといえることからすると、甲7発明の撚りコードのみを引用発明に適用することは、甲7発明の構成を恣意的に取捨選択するものといわざるを得ないという理由で、採用できない。

17 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1) 特許異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の特許請求の範囲に関し、請求項1ないし12に係る発明は、甲第7号証に記載された発明及び甲第1ないし9号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである旨を主張する(申立理由2:特許異議申立書51頁8行ないし54頁下から2行、等参照。)。
しかしながら、上記14(2)に記載したとおり、心線の性質は、繊維とその撚りコードとに係るものであって、両者の相乗的なものといえることからすると、甲7発明の撚りコードをそのままにして、その4cN/dtex荷重時の原糸中間伸度が0.6%であるアラミドのみを本件発明2の構成の「4cN/dtex荷重時における中間伸度が1〜3%であり、かつ引張弾性率が50〜100GPaである高伸度アラミド繊維」とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえないという理由で、上記特許異議申立人の主張は採用できない。

(2) 特許異議申立人は、特許異議申立書において、概ね、訂正前の特許請求の範囲の請求項1に記載の(ア)「中間伸度」に上限が設けられていない点、(イ)「低モジュラス繊維の引張弾性率」は伸びを確保する例の「20GPa以下」との特定もなく、それを確保することができないものまで含む点、(ウ)「Vリブドベルト」はものの発明であってモールド型付工法の効果に関係なく、願書に添付した明細書の段落【0010】の効果の、課題解決手段が反映されていない点、及び、(エ)走行寿命が「撚り数」に大きく依存するところ、実施例と比較例とは「撚り数」と「撚り方」とが異なっており、その影響が不明であって、「撚り数」等を特定しない発明は、発明の詳細な説明に記載された事項から認識される課題解決認識範囲を超えている点、で、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たさない旨、主張する(申立理由3:特許異議申立書54頁末行ないし56頁下から7行、等参照。)。
しかしながら、特許法第36条第6項第1号の要件は、発明が解決しようとする課題との関係において判断されるところ、本件の【発明が解決しようとする課題】は、願書に添付した明細書の段落【0003】及び【0006】に記載されたとおり、「剛直なアラミド繊維に対して、ポリエステル繊維やポリアミド繊維などの中間伸度が比較的大きい繊維を混撚」りした「Vリブドベルト」に比して「モールド型付工法での製造時に心線のピッチの乱れや損傷を抑制でき、かつ動的張力の高い用途に使用しても耐発音性や耐久性にも優れるVリブドベルト」を提供することであるといえる。そして、その課題解決手段は同段落【0007】に記載された「Vリブドベルトの心線を形成するための撚りコードとして、4cN/dtex荷重時における中間伸度が0.8%以上であり、かつ引張弾性率が50〜100GPaである高伸度アラミド繊維と、この高伸度アラミド繊維よりも引張弾性率が低い低モジュラス繊維とを混撚りすること」とされている。このことは、「剛直なアラミド繊維」に比して所定の「高伸度アラミド繊維」を採用することで課題が解決できるものと当業者が認識するといえる。そして、同段落【0096】の【表5】及び段落【0096】及び【0097】の実施例と比較例の評価結果の記載から、特に、「中間伸度」が0.6%の比較例(上記「剛直なアラミド繊維」として例示されているものに相当する。甲第7号証の段落【0083】の【表1】の脚注を参照。)に比して0.9%及び1.0%の実施例が「モールド型付工法での製造時に心線のピッチの乱れや損傷を抑制でき、かつ動的張力の高い用途に使用しても耐発音性や耐久性にも優れるVリブドベルト」を提供できることを当業者は認識できる。
そうすると、(ア)「Vリブドベルト」に用いられる「高伸度アラミド繊維」の「中間伸度」は、その下限が特定されれば上記課題が解決できることを当業者は認識できるし(なお、本件訂正により、「3%」の上限が特定されている。)、(イ)「低モジュラス繊維の引張弾性率」が「高伸度アラミド繊維よりも低い」ことで、上記課題が解決できることを当業者は認識できるし(なお、本件訂正により、「20GPa以下」と特定されている。)、(ウ)ものの発明である「Vリブドベルト」はモールド型付工法の効果に関係ないとしても、特定の「Vリブドベルト」を提供するという上記課題が解決できることを当業者は認識できるし、及び、(エ)「撚り数」等が「走行寿命」に影響することは技術常識であるとしても、本件の発明が解決しようとする課題や課題解決認識範囲は上記のとおりであることからすれば、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たさないとはいえず、特許異議申立人のかかる主張は、採用することができない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、請求項2ないし12に係る特許を取り消すことはできない。さらに、他に請求項2ないし12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項1に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議の申立てについて、請求項1に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
4cN/dtex荷重時における中間伸度が1〜3%であり、かつ引張弾性率が50〜100GPaである高伸度アラミド繊維と、引張弾性率が20GPa以下である低モジュラス繊維とを混撚りした撚りコードを含むVリブドベルトであって、
前記撚りコードが、前記高伸度アラミド繊維の無撚糸3本又は前記高伸度アラミド繊維を一方向に撚った高伸度アラミド繊維の下撚り糸3本と、
前記低モジュラス繊維の無撚糸又は前記低モジュラス繊維を一方向に撚った低モジュラス繊維の下撚り糸とを上撚りした撚りコードであるVリブドベルト。
【請求項3】
高伸度アラミド繊維の割合が、撚りコード中60〜95質量%である請求項2記載のVリブドベルト。
【請求項4】
撚りコードの下撚り係数が0〜6であり、かつ上撚り係数が2〜6である請求項2又は3記載のVリブドベルト。
【請求項5】
撚りコードがラング撚りである請求項2〜4のいずれか一項に記載のVリブドベルト。
【請求項6】
高伸度アラミド繊維の下撚り係数に対する上撚り係数の比が4〜8である請求項5記載のVリブドベルト。
【請求項7】
高伸度アラミド繊維の下撚り係数に対する上撚り係数の比が5〜7である請求項5又は6記載のVリブドベルト。
【請求項8】
高伸度アラミド繊維の下撚り係数が1以下である請求項5〜7のいずれか一項に記載のVリブドベルト。
【請求項9】
撚りコードが諸撚りであり、かつ高伸度アラミド繊維の下撚り係数が2以上である請求項2〜4のいずれか一項に記載のVリブドベルト。
【請求項10】
摩擦伝動面の少なくとも一部が布帛で被覆されている請求項2〜9のいずれか一項に記載のVリブドベルト。
【請求項11】
ベルト式ISG駆動を搭載したエンジンに装着される請求項2〜10のいずれか一項に記載のVリブドベルト。
【請求項12】
前記撚りコードを接着処理して心線を調製する心線調製工程を含む請求項2〜11のいずれか一項に記載のVリブドベルトの製造方法であって、前記心線調製工程において、接着処理の熱処理時にヒートセット延伸率3%以下で熱延伸固定する製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-10-13 
出願番号 P2018-112540
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (F16G)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 平田 信勝
特許庁審判官 内田 博之
田村 嘉章
登録日 2020-01-07 
登録番号 6640921
権利者 三ツ星ベルト株式会社
発明の名称 Vリブドベルト及びその製造方法  
代理人 阪中 浩  
代理人 鍬田 充生  
代理人 鍬田 充生  
代理人 阪中 浩  

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