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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  F16L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  F16L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F16L
審判 全部申し立て 2項進歩性  F16L
管理番号 1381648
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-02-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-10-05 
確定日 2021-12-01 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6680940号発明「空調ドレン用管、空調ドレン配管及び空調ドレン用管の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許6680940号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし7〕について訂正することを認める。 特許6680940号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許6680940号の請求項1ないし7に係る特許についての出願は、平成29年10月2日(優先権主張平成28年9月30日)を出願日とする特願2017−193113号の一部を令和1年10月21日に新たな特許出願としたものであって、令和2年3月24日に特許権の設定登録がされ、令和2年4月15日に特許掲載公報が発行された。
本件異議申立ての経緯は、次のとおりである。
令和2年10月5日:特許異議申立人 奥村 一正(以下、「異議申立人」という。)による請求項1ないし7に係る特許に対する特許異議の申立て
令和2年12月17日付け:取消理由通知書
令和3年3月4日:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和3年3月12日付け:訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項
令和3年4月14日:異議申立人による意見書の提出
令和3年6月18日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和3年8月26日:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和3年9月3日付け:訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項
令和3年10月6日:異議申立人による意見書の提出

なお、令和3年3月4日に特許権者によりされた訂正請求については、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否について
1 訂正の内容
令和3年8月26日付けの訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次の事項からなる(なお、下線を付した箇所は訂正箇所である。)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「塩化ビニル系樹脂(B)を含む筒状の発泡層と、
前記発泡層の内面に設けられ、塩化ビニル系樹脂(A)を含む非発泡内層と、を備える空調ドレン用管であって、
前記発泡層の独立気泡率が45%以上であり、
前記発泡層と前記非発泡内層との融着強度が1.5MPa以上であり、
前記発泡層の平均気泡径が30μm以上250μm以下である、空調ドレン用管。」とあるのを、

「塩化ビニル系樹脂(B)を含む筒状の発泡層と、
前記発泡層の内面に設けられ、塩化ビニル系樹脂(A)を含む非発泡内層と、を備える空調ドレン用管であって、
前記発泡層の独立気泡率が45%以上95%以下であり、
前記発泡層と前記非発泡内層との融着強度が1.5MPa以上であり、
前記発泡層の平均気泡径(走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した空調ドレン用管の円周方向断面画像上に1800μmの直線を引き、1800μmを直線上の気泡数で割った値を気泡径としたときの気泡径の平均値)が160μm以上250μm以下である、空調ドレン用管。」と訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に、
「前記発泡層の独立気泡率が95%以下である、請求項1に記載の空調ドレン用管。」とあるのを独立形式に改めて、

「塩化ビニル系樹脂(B)を含む筒状の発泡層と、
前記発泡層の内面に設けられ、塩化ビニル系樹脂(A)を含む非発泡内層と、を備える空調ドレン用管であって、
前記発泡層の独立気泡率が45%以上81%以下であり、
前記発泡層と前記非発泡内層との融着強度が1.5MPa以上であり、
前記発泡層の平均気泡径(走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した空調ドレン用管の円周方向断面画像上に1800μmの直線を引き、1800μmを直線上の気泡数で割った値を気泡径としたときの気泡径の平均値)が100μm以上201μm以下である、空調ドレン用管。」と訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、「発泡層の独立気泡率」が「45%以上」であったものを、「45%以上95%以下」と数値範囲を狭めて限定し、「発泡層の平均気泡径」が、「走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した空調ドレン用管の円周方向断面画像上に1800μmの直線を引き、1800μmを直線上の気泡数で割った値を気泡径としたときの気泡径の平均値」によるものであることを限定するとともに、その数値範囲を「30μm以上250μm以下」から「160μm以上250μm以下」と狭めて限定したものである。
したがって、訂正事項1は、特許法120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1は、本件特許明細書の段落【0037】、【0043】【表1】(実施例4の欄)、及び本件特許の特許請求の範囲の請求項2の記載に基づく訂正であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1は、上記アのように訂正前の請求項1の記載をさらに限定するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

(2)訂正事項2
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、訂正前の請求項1を引用する請求項2の記載を独立形式に改めたうえで、「発泡層の独立気泡率」が、「45%以上」かつ「95%以下」であったものを、「45%以上81%以下」と範囲を狭めて限定し、「発泡層の平均気泡径」が、「走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した空調ドレン用管の円周方向断面画像上に1800μmの直線を引き、1800μmを直線上の気泡数で割った値を気泡径としたときの気泡径の平均値」によるものであることを限定するとともに、その数値範囲を「30μm以上250μm以下」から「100μm以上201μm以下」と狭めて限定したものである。
したがって、訂正事項2は、特許法120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮、及び同第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を、当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項2は、本件特許明細書の段落【0037】、【0043】【表1】(実施例3、7及び8の欄)の記載に基づく訂正であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項2は、上記アのように訂正前の請求項2の記載を独立形式に改めたうえで、さらに限定するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

3 一群の請求項について
訂正事項1及び2に係る訂正前の請求項1ないし7について、請求項2ないし7は、それぞれ請求項1を直接または間接的に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
また、訂正前の請求項1ないし7は訂正後の請求項1ないし7にそれぞれ対応する。
したがって、訂正前の請求項1ないし7に対応する訂正後の請求項1ないし7は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

4 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項ないし第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1ないし7〕について訂正することを認める。

第3 取消理由通知の概要
請求項1ないし7に係る特許に対して、当審が特許権者に通知している取消理由通知の概要は次のとおりである。

理由1(進歩性
本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、本件特許の出願(優先日)前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願(優先日)前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

理由2(明確性
本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

理由3(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

理由4(実施可能要件
本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。



<甲号証及び引用文献>
(1)甲第1号証:特開2007−283733号公報
(2)甲第2号証:特開2015−101053号公報
(3)甲第11号証:特開平7−217934号公報
(4)甲第6号証:特開平8−300537号公報
(5)甲第8号証:特開平10−16035号公報
(6)引用文献1:特開2001−79916号公報(当審が引用した文献)
(7)引用文献2:特開2001−38831号公報(当審が引用した文献)
(8)引用文献3:特開2003−221513号公報(当審が引用した文献)
(当審注:以下、「甲第1号証」を「甲1」などという。)

1 理由1について
(1)請求項1
ア 本件特許発明1は、甲1に記載された発明、甲6及び甲8にみられるような周知技術(以下、「周知技術1」という。)、甲6及び甲11の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
イ 本件特許発明1は、甲2に記載された発明、周知技術1、甲6及び甲11の記載事項に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)請求項2
ア 本件特許発明2は、甲1に記載された発明、周知技術1、甲6及び甲11の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
イ 本件特許発明2は、甲2に記載された発明、周知技術1、甲6及び甲11の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)請求項3
ア 本件特許発明3は、甲2に記載された発明、周知技術1、甲1、甲6及び甲8にみられるような周知技術(以下、「周知技術2」という。)、甲6及び甲11の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)請求項4
ア 本件特許発明4は、甲1に記載された発明、周知技術1、引用文献1ないし3にみられるような周知技術(以下、「周知技術3」という。)、甲6及び甲11の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
イ 本件特許発明4は、甲2に記載された発明、周知技術1ないし3、甲6及び甲11の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)請求項5
ア 本件特許発明5は、甲2に記載された発明、周知技術1、甲6及び甲11の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(6)請求項6
ア 本件特許発明6は、甲1に記載された発明、周知技術1、周知技術3、甲11にみられるような周知技術(以下、「周知技術4」という。)、甲6及び甲11の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
イ 本件特許発明6は、甲2に記載された発明、周知技術1ないし4、甲6及び甲11の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(7)請求項7
本件特許発明7は、甲2に記載された発明、周知技術1ないし3、引用文献1ないし3にみられるような周知技術(以下、「周知技術5」という。)、甲6及び甲11の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

2 理由2について
・請求項1ないし7
請求項1に記載された「前記発泡層の平均気泡径が30μm以上250μm以下である」における「平均気泡径」がどのようなものか、その定義が明確でないため、「平均気泡径」は明確に定まるものではない。
したがって、本件特許発明1は明確でない。
このことは、本件特許発明1を引用する本件特許発明2ないし7においても同様である。

3 理由3について
・請求項1ないし7
請求項1に記載された「前記発泡層の平均気泡径が30μm以上250μm以下である」における「平均気泡径」は、本件特許明細書【0037】に記載された「JIS K 6400−1に従い、走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した空調ドレン用管の円周方向断面画像上に1800μm直線を引き、直線上の気泡数で割った値を気泡径とし1画像につき8本の直線、8データの平均値を平均気泡径とした。」という測定法以外の方法で計測された場合のものを文言上併せて含むものである。
したがって、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
このことは、本件特許発明1を引用する本件特許発明2ないし7においても同様である。

4 理由4について
・請求項1ないし7
請求項1に記載された「発泡層の平均気泡径が30μm以上250μm以下である」という事項を実施する方法を、発明の詳細な説明から把握できない。
上記「理由2」で示したとおり、上記事項は明確でないから、作成した発泡層が上記事項に該当するのかを当業者が判断できず、それを実施することができない。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
このことは、本件特許発明1を引用する本件特許発明2ないし7についても同様である。

第4 当審の判断
1 訂正後の請求項1ないし7に係る発明
上記第2における訂正請求により訂正された訂正後の請求項1ないし7に係る発明(以下、「訂正発明1」ないし「訂正発明7」という。)は次のとおりのものである。

「【請求項1】
塩化ビニル系樹脂(B)を含む筒状の発泡層と、
前記発泡層の内面に設けられ、塩化ビニル系樹脂(A)を含む非発泡内層と、を備える空調ドレン用管であって、
前記発泡層の独立気泡率が45%以上95%以下であり、
前記発泡層と前記非発泡内層との融着強度が1.5MPa以上であり、
前記発泡層の平均気泡径(走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した空調ドレン用管の円周方向断面画像上に1800μmの直線を引き、1800μmを直線上の気泡数で割った値を気泡径としたときの気泡径の平均値)が160μm以上250μm以下である、空調ドレン用管。
【請求項2】
塩化ビニル系樹脂(B)を含む筒状の発泡層と、
前記発泡層の内面に設けられ、塩化ビニル系樹脂(A)を含む非発泡内層と、を備える空調ドレン用管であって、
前記発泡層の独立気泡率が45%以上81%以下であり、
前記発泡層と前記非発泡内層との融着強度が1.5MPa以上であり、
前記発泡層の平均気泡径(走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した空調ドレン用管の円周方向断面画像上に1800μmの直線を引き、1800μmを直線上の気泡数で割った値を気泡径としたときの気泡径の平均値)が100μm以上201μm以下である、空調ドレン用管。
【請求項3】
前記発泡層が錫化合物を含む、請求項1または2に記載の空調ドレン用管。
【請求項4】
前記発泡層は、発泡剤として炭化水素を含む、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の空調ドレン用管。
【請求項5】
前記塩化ビニル系樹脂(B)が平均重合度600以上800以下のポリ塩化ビニルである、請求項1ないし4のいずれか一項に記載の空調ドレン用管。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか一項に記載の空調ドレン用管と、管継手とで構成された空調ドレン配管であって、
前記管継手は内部に環状弾性体を備えないことを特徴とする空調ドレン配管。
【請求項7】
請求項1ないし5のいずれか一項に記載の空調ドレン用管の製造方法であって、前記非発泡内層を形成する非発泡層用熱可塑性樹脂組成物を押出機により溶融混練して押出し、
揮発性発泡剤、分解型発泡剤、熱膨張性カプセルから選択されるうちの2種類以上を含む発泡剤があらかじめ配合された発泡層用熱可塑性樹脂組成物を押出機により溶融混練して押出し、
前記非発泡層用熱可塑性樹脂組成物および発泡層用熱可塑性樹脂組成物を金型に注入し、該金型内部で合流させて、未硬化の空調ドレン用管を成形し、
未硬化の空調ドレン用管を冷却して所定寸法に型成形することを特徴とする空調ドレン用管の製造方法。」

2 甲号証及び引用文献について
(1)刊行物に記載された事項
ア 甲1
(ア) 甲1には、以下の事項が記載されている(ただし、「・・・」は、省略を意味する。下線は、理解の一助のために当審が付与した。以下、同様である。)。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニル系樹脂発泡管、その製造装置及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建物配管、埋設管等の結露防止、凍結防止、消音等をはかるためには熱可塑性樹脂発泡体からなる断熱カバー材を建物配管、埋設管等に被着することが行われていたが、この熱可塑性樹脂発泡体からなる断熱カバー材を建物配管、埋設管等に被着するには、現場施工の際に建物管体、埋設管等の外側に被着する工程が必要であり作業性が悪かった。
【0003】
この欠点を改良するため、塩化ビニル系樹脂からなるパイプ本体の外周面に、塩化ビニル系樹脂発泡体からなる被覆層が設けられた複合パイプであって、該被覆層が、発泡された内層部とその外周に形成された実質的に非発泡の表層部とからなり、且つ内層部と表層部とが一体的に形成されてなることを特徴とする複合パイプが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平09−222185号公報
【0004】
しかしながら、上記複合パイプは、内層のパイプ本体を成形した後に、その外側に塩化ビニル系樹脂発泡体を被覆しているため、パイプ本体と塩化ビニル系樹脂発泡体の界面強度が小さく、剥離してしまうという問題があった。又、パイプ本体と塩化ビニル系樹脂発泡体の二層押出となるため、必然的にパイプ本体と塩化ビニル系樹脂発泡体界面に水道(みずみち)が発生し継手との接合の際にパイプ本体と塩化ビニル系樹脂発泡体の界面に水が入り込み、断熱効果や結露防止効果が低下してしまうという問題があった。
・・・
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、上記欠点に鑑み、連続気泡が少なく、均質な気泡を有する塩化ビニル系樹脂発泡層と実質的に非発泡構造の塩化ビニル系樹脂が積層されており、継手等との接合の際に両層の間に水が入り込まない、断熱効果、結露防止効果等に優れた塩化ビニル系樹脂発泡管を提供することにある。
・・・
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1記載の塩化ビニル系樹脂発泡管は、内面スキン層と外面スキン層の間に発泡層が形成されてなる、押出成形された塩化ビニル系樹脂発泡管であって、内面スキン層は厚さ0.05〜0.6mmで実質的に非発泡構造であり、外面スキン層は厚さ0.2〜1.5mmで実質的に非発泡構造であり、又、発泡層の気泡は押出方向に平行な方向に実質的に連通しておらず、押出方向に垂直方向断面の平均セル径が30〜150μmであり、発泡層の発泡倍率は2〜5倍であることを特徴とする。
【0015】
本発明で用いられる塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニルモノマー単独、又は塩化ビニルを主成分とするビニルモノマーを重合させて得られる樹脂及びその塩素化物である。塩化ビニルを主成分とするモノマーとは、50重量%以上の塩化ビニルとこれと共重合可能なビニルモノマーとの混合物を意味し、共重合可能なモノマーとは、通常公知のビニルモノマーであって、例えば、酢酸ビニル、アルキル(メタ)アクリレート、アルキルビニルエーテル、エチレン、フッ化ビニル、マレイミドなどが挙げられ、これらの少なくとも一種が使用できる。上記塩化ビニル系樹脂中のポリ塩化ビニルの重合度及び塩素化度は特に限定されない。
・・・
【0019】
図1は本発明の塩化ビニル系樹脂発泡管の一例を示す断面図である。図中1は内面スキン層であり、2は外面スキン層であり、内面スキン層1と外面スキン層2の間に発泡層3が形成されている。
【0020】
内面スキン層1は厚さ0.05〜0.6mmで実質的に非発泡構造であり、外面スキン層2は厚さ0.2〜1.5mmで実質的に非発泡構造である。内面スキン層1及び外面スキン層2における実質的に非発泡構造とは、完全な無発泡状態のものから、硬度が高く吸水が起こり難くなる、いわゆる低発泡倍率のものを指す。又、内面スキン層1及び外面スキン層2と発泡層3の間には、確実な境界が形成されていなくてもよく、発泡層3から内面スキン層1及び外面スキン層2にかけて発泡倍率が順次変化するような連続構造であってもよい
・・・
【0023】
発泡層3の気泡は、押出方向に平行な方向に連通している場合、継手とパイプ管に水が浸透し、水漏れの問題などが生じるので押出方向に平行な方向に実質的に連通しておらず、押出方向に垂直方向断面の平均セル径が30〜150μmであり、発泡層の発泡倍率は2倍未満であると断熱性能や結露防止性能が低下し、5倍より大きくなると管自体の強度が低下してしまうなどの問題が生じるので2〜5倍である。
【0024】
本発明の塩化ビニル系樹脂発泡管の構成は上述の通りであり、断熱性、結露防止性等が優れており、断熱用途又は結露防止排水用途に好適に使用される。
【0025】
請求項1記載の塩化ビニル系樹脂発泡管は押出成形されるが、押出成形する製造装置としては従来公知の任意の押出機が使用可能である。しかし、上記塩化ビニル系樹脂発泡管は発泡剤として不活性ガスを用いて発泡されるのが好ましいので請求項4記載の製造装置が好ましい。
・・・
【0044】
図2〜4に示した製造装置において、原料ホッパー43からシリンダー41に塩化ビニル系樹脂組成物を供給し、不活性ガス供給装置44から不活性ガスをシリンダー41の中途部に供給しながら、スクリュウー42を回転して塩化ビニル系樹脂組成物を溶融押出する。
【0045】
溶融され不活性ガスが混練された塩化ビニル系樹脂組成物は、樹脂通路53を通って押出金型5から溶融塩化ビニル系樹脂管として押出される。この際に、溶融塩化ビニル系樹脂管は内面冷却部9の縮径部92の周囲で発泡し、溶融塩化ビニル系樹脂発泡管となり、内面冷却部9により溶融塩化ビニル系樹脂発泡管の内径が規制されると共に急冷されて内面スキン層1が形成される。
【0046】
又、溶融塩化ビニル系樹脂発泡管の外面は、外面冷却ランド8により外径が規制されると共に急冷されて外面スキン層3が形成される。こうして得られた塩化ビニル系樹脂発泡管は、フォーミグ61により更に外形が整形されると共に冷却装置6により冷却され、引取り装置7により引取られて塩化ビニル系樹脂発泡管が製造される。
【0047】
鉛系安定剤や錫系安定剤といった異なった種類の安定剤が含まれるリサイクル塩化ビニル系樹脂を用いて塩化ビニル系樹脂発泡管を製造する場合でも、二酸化炭素や窒素等の不活性ガスにより物理的に樹脂を発泡させるので、リサイクル塩化ビニル系樹脂中に含まれる不純物や安定剤種類等の作用を受けて発泡挙動が変化することもなく、均一な発泡成形が可能となる。又、二酸化炭素や窒素等の不活性ガスが塩化ビニル系樹脂に溶解すると、塩化ビニル系樹脂に対して可塑化効果を示すためゲル化し易くなり、均一押出が容易になる。
【発明の効果】
【0048】
本発明の塩化ビニル系樹脂発泡管の構成は上述の通りであり、連続気泡が少なく、均質な気泡を有する塩化ビニル系樹脂発泡層と実質的に非発泡構造の塩化ビニル系樹脂が積層されており、継手等との接合の際に両層の間に水が入り込まず、断熱効果、結露防止効果等が優れている。
・・・
【発明を実施するための最良の形態】
・・・
【0051】
塩化ビニル系樹脂
(1)塩化ビニル系樹脂A;バージンの塩化ビニル樹脂(徳山積水工業社製:商品名「TS1000R」重合度1050)
(2)塩化ビニル系樹脂B;鉛系安定剤が混入された下水用塩化ビニル管のリサイクル塩化ビニル樹脂粉砕品(重合度約1000)。上記下水用塩化ビニル管を粉砕機で粉砕し、φ5mmのスクリーンを通過させたもの。
(3)塩化ビニル系樹脂C;錫系安定剤が混入された水道用塩化ビニル管のリサイクル塩化ビニル樹脂粉砕品(重合度約1000)。上記水道用塩化ビニル管を粉砕機で粉砕し、φ5mmのスクリーンを通過させたもの。
・・・
【0055】
(実施例3)
塩化ビニル系樹脂A100重量部に代えて、塩化ビニル系樹脂A50重量部と塩化ビニル系樹脂C50重量部を使用した以外は実施例1で行ったと同様にして塩化ビニル系樹脂組成物を得、塩化ビニル系樹脂発泡管を得た。
【0056】
(実施例4)
塩化ビニル系樹脂A100重量部に代えて、塩化ビニル系樹脂A40重量部、塩化ビニル系樹脂B30重量部及び塩化ビニル系樹脂C30重量部を使用した以外は実施例1で行ったと同様にして塩化ビニル系樹脂組成物を得、塩化ビニル系樹脂発泡管を得た。
・・・
【0071】
物性測定
得られた塩化ビニル系樹脂発泡管のスキン層の有無、外観及びプレートアウトの状態を観察し、表面硬度、肉厚変動、平均気泡径及び径のばらつき並びに押出方向の連泡の有無を測定し、結果を表1及び2に示した。尚、各物性の測定方法及び評価方法は下記の通りである。
・・・
【0077】
(6)平均気泡径及び径のばらつき
得られた塩化ビニル系樹脂発泡管の断面を、2次電子反射式電子顕微鏡により撮影した断面写真を画像解析により白色部分(樹脂部分)と黒色部分(気泡部分)に二値化を行った。その黒色部分の面積を疑似円表面積とし、そこから気泡径を算出し平均値と気泡径の標準偏差を算出した。算出した気泡径の標準偏差を径のばらつきとした。
【0078】
(7)押出方向の連泡の有無
得られた塩化ビニル系樹脂発泡管の連泡の有無を以下の方法で確認した。管端を赤インク水で浸した状態で、もう一方の管端よりバキュームポンプにより管の肉厚部分のみを減圧する。減圧した状態で、10分間保持したあと、赤インク水で浸した管端から25mの部分で切断し断面に赤インク水の吸収の有無を確認した。
・・・
【0080】
【表1】


「【図1】


「【図2】




【図2】から、【0014】等に記載された「押出方向」が、管軸方向であることは明らかである。
【0077】の「気泡径」及び「径のばらつき」に関する内容と【表1】とから、【0014】及び【表1】に記載された「平均セル径」が、【0077】に記載された「平均気泡径」と同じものを示すことは明らかである。
また、【0077】の記載から、「平均気泡径」は、塩化ビニル系樹脂発泡管の断面を、2次電子反射式電子顕微鏡により撮影した断面写真を画像解析により白色部分(樹脂部分)と黒色部分(気泡部分)に二値化を行い、その黒色部分の面積を疑似円表面積とし、そこから気泡径を算出したものの平均値を算出したことにより求められるものであることが分かる。


(イ) 上記(ア)の記載事項を総合すると、甲1には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「内面スキン層と外面スキン層の間に発泡層が形成されてなる、建物配管に用いる、塩化ビニル系樹脂発泡管であって、
前記内面スキン層は実質的に非発泡構造であり、
前記外面スキン層は実質的に非発泡構造であり、
前記発泡層の気泡は、連続気泡が少なく、均質な気泡を有し、管軸方向に平行な方向に実質的に連通しておらず、
前記発泡層が発泡し発泡管となり、前記発泡管の内径が規制されると共に急冷されて前記内面スキン層が形成され、
前記発泡層の気泡は、塩化ビニル系樹脂発泡管の断面を、2次電子反射式電子顕微鏡により撮影した断面写真を画像解析により白色部分(樹脂部分)と黒色部分(気泡部分)に二値化を行い、その黒色部分の面積を疑似円表面積とし、そこから気泡径を算出したものの平均値を算出することにより求められる管軸方向に垂直方向断面の平均気泡径が30〜150μmである、
塩化ビニル系樹脂発泡管。」

イ 甲2
(ア) 甲2には、以下の事項が記載されている。
「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層成形用金型、多層成形の成形方法および多層管に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、建物配管または埋設管として、種々の多層管が用いられている。また、施工時に、配管の結露、凍結、騒音を防止するため、熱可塑性樹脂発泡体からなる断熱カバー材を当該配管の外側に被着させて多層管として用いていた。
当該作業は、施工時における現場での作業効率低下の原因となり、当該原因を改善すべく種々の配管に対して研究開発が行われている。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のように、種々の多層管を形成することが求められる。しかしながら、多層で形成する場合、当然ながら、層毎の剥離強度が高くなければならない。
しかしながら、発泡性の材料を含んだものを積層する場合、発泡性のガスが内層との間にボイドとして残留し易い。その結果、層間剥離が生じるおそれがある。
【0009】
本発明の目的は、確実な層間強度を有する多層管を成形する多層成形用金型、多層成形の成形方法および多層管を提供することである。
・・・
【発明を実施するための形態】
・・・
【0032】
(多層管の製造装置の概略)
図1および図2は、多層管100の製造装置500の一例を示す模式図であり、図3は、本発明にかかる多層管100の多層成形用金型550の模式的拡大図である。
図1は多層管100の製造装置500の側面視であり、図2は多層管100の製造装置500の平面視である。
【0033】
図1および図2に示すように、製造装置500は、炭酸ボンベ510、定量ポンプ520、第1押出機530、第2押出機540、多層成形用金型550、冷却水槽570、管外面調整装置560、引き取り機580、切断機590および吸引装置600を含む。
【0034】
(多層管100の製造方法)
本実施の形態においては、セルカ発泡が用いられる。なお、本実施の形態においては、第2層220(図4参照)として発泡性の材料を用いることとするが、これに限定されず、非発泡性の材料からなってもよい。
また、本実施の形態においては、セルカ発泡について説明するが、これに限定されず、その他任意の発泡方法を用いてもよい。
【0035】
図1および図2に示すように、第1押出機530においては、非発泡性熱可塑性樹脂組成物である塩化ビニル系樹脂材料が溶融混練され、押し出される。その結果、第1層210(図4参照)が形成される。
【0036】
一方、炭酸ボンベ510から炭酸ガスが、定量ポンプ520を介して、第2押出機540に供給される。第2押出機540では、第2層220(図4参照)を形成するための発泡材および熱可塑性樹脂が溶融混練される。
【0037】
次いで、第1押出機530で形成された第1層210(図4参照)および第2押出機540から溶融混練された材料が多層成形用金型550に注入される。
・・・
【0042】
また、図3に示すように、ガス抜き部610の開口部(下流端)は、第1層210および第2層220の合流位置、または合流位置から上流側に設けられる。
・・・
【0044】
以上により、第2押出機540から溶融混練された材料の発泡ガスを確実に吸引することができる。その結果、第1層210と第2層220との層管強度を高く維持することができる。
【0045】
また、溶融混練された材料が、クロスダイ552から吐出される場合に、サイジングチューブ(フォーミングチューブ;図示省略)に接触するため、温度が急冷され被覆層230(図4参照)が形成される。 このように、本実施の形態においては、サイジングチューブ(図示省略)に接触する側が冷却され、接触しない側は冷却効果が与えられない。
また、第2押出機540から溶融混練された材料の厚みの内側の溶融温度が高く、かつガス抜き部610により、第1層210の外周面と第2層220の内側との剥離強度を高めることができる。
【0046】
なお、第2層220の発泡材料および熱可塑性樹脂が発泡ガスによる発泡が収まるまで充分な圧力をかけながら所定の形状に冷却していくことが好ましい。
【0047】
第1層210、第2層220および被覆層230が形成された多層管100(図4参照)は、管外面調整装置560を通過しつつ、冷却装置570により冷却される。 ここで、管外面調整装置560は、多層管100の最外径を規定するものである。
・・・
【0051】
(多層管の概略)
図4に示すように、多層管100は、主に第1層210、第2層220および被覆層230からなる。 なお、本実施の形態において、第1層210の外周面に第2層220を積層することとしているが、これに限定されず、第1層210および第2層220のさらに外層または内層に、他の層を設けてもよい。そして、他の層との層間にガス抜き部610を設けてもよい。
・・・
【0053】
(第1層)
図4に示す第1層210は、非発泡性の硬質樹脂からなる。具体的には、硬質樹脂は、塩化ビニル系樹脂であってよい。より具体的には、塩化ビニル単量体の単独重合体の他、例えば、塩素化塩化ビニル系樹脂、塩化ビニル単量体と塩化ビニル単量体以外の重合性単量体との共重合体、塩化ビニル系樹脂以外の重合体に塩化ビニル単量体をグラフトさせたグラフト共重合体等が使用される。また、超微粒子のゴム成分を含有させてもよい。
【0054】
第1層210の積層方向の厚み(肉厚)は、0.3mm以上10mm以下の範囲からなる。また、硬度は、90以下(JIS基準)であることが好ましい。また、第1層210の内周面(内側)に任意のコーティング層を設けてもよい。
【0055】
第1層210を形成する材料としては、塩化ビニル系樹脂と適宜添加物とを含む樹脂組成物を用いることができる。樹脂組成物の一例としては、塩化ビニル系樹脂100重量部、鉛系熱安定剤2.0重量部、ポリエチレン系ワックス0.5重量部、アクリル系加工助剤2.0重量部、エステル系ワックス0.7重量部、炭酸カルシウム3.0重量部および顔料0.5重量部をヘンシェルミキサーに供給し、混合して得られた樹脂組成物が挙げられる。
【0056】
なお、第1層210は、上述した塩化ビニル系樹脂に限定されず、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、またこれら樹脂への無機材料高充填材料など、その他任意の樹脂を用いてもよい。 さらに、第1層210の積層方向の厚み(肉厚)は、強度面に支障が生じない場合には、0.3mm未満の厚みであってもよく、施工面に支障が生じない場合には、10mm超過の厚みを有してもよい。
【0057】
(第2層および被覆層)
図4に示す第2層220は、第1層210に積層して形成される。第2層220は、発泡樹脂からなる。第2層220の形成には、発泡剤を分散させた樹脂組成物を用いる。たとえば、第1層210で用いられる樹脂組成物に発泡剤をさらに添加した樹脂組成物を用いることができる。
【0058】
第2層220の製造に用いられる発泡剤としては、熱分解型発泡剤を用いることができる。熱分解型発泡剤としては、例えば、重炭酸ナトリウム、重炭酸アンモニウム、炭酸アンモニウム等の熱分解型無機発泡剤、およびN,N′:ジニトロソテレフタルアミド等のニトロソ化合物、アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、ベンゼンスルホニルヒドラジド、トルエンスルホニルヒドラジド等のスルホニルヒドラジド化合物等の熱分解型有機発泡剤等が挙げられる。これらの熱分解型発泡剤は、単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。
【0059】
発泡剤としては、上述の熱分解型発泡剤の他、溶剤型発泡剤を用いてもよい。溶剤型発泡剤としては、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール類等が挙げられる。これらの溶剤型発泡剤は、単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。
【0060】
さらに、第1層210を形成する樹脂、及び、第2層220を成形する発泡樹脂には、更に必要に応じて、熱安定剤、加工助剤、滑剤、衝撃改質剤、充填剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、顔料等が適宜添加されてもよい。
・・・
【0062】
また、第2層220は、発泡樹脂を分散させつつ、サイジングチューブ(図示せず)による冷却により、第2層220の内側から外側に向けて空隙率が低下(発泡倍率が低下)し、傾斜構造が形成される。
本実施の形態において、第2層220の平均発泡率は、5倍である。
【0063】
なお、第2層220の空隙は、隣接する空隙と連通させないように形成される。また、空隙は、押出方向に垂直方向断面の平均セル径が30μm以上150μm以下の範囲であることが好ましい。
また、第2層220の発泡倍率は2倍未満であると断熱性能または結露防止性能が低下し、6倍より大きくなると多層管100自体の強度が低下してしまうなどの問題が生じるので2倍以上6倍以下の範囲であることが好ましい。
【0064】
以上のように、多層成形用金型550を用いることにより、多層の層間のガスをガス抜き部610により吸引することができるので、多層管100の第1層210および第2層220との層間強度を確実にすることができる。
・・・
【0067】
図4と同じく多層管100は、円筒状で形成した。また、第1層210の厚みは、2mmとし、第2層220の厚みは6mmとし、第2層220の発泡倍率は、5倍に規定した。さらに、多層管100の最外径がφ38mmとなるように成形した。
・・・
【0070】
(第1評価)
第1層210と第2層220との剥離強度の評価は、多層管100および多層管900を軸方向長さ5cmで切断し、オートグラフを用いて第1層210を押し出した。また、それぞれ5個の試験サンプルを用いた。
【0071】
(第2評価)
第1層210と第2層220との層管を通して水が流れるか否かの評価は、多層管100および多層管900を軸方向長さ10cmで切断し、切断された多層管100、900の一端側をそれぞれ赤水につけ、他端側から1.0MPaの負圧を1時間加えて、一端側から他端側へ赤水が出てくるか否か確認した。また、第1評価と同様に、5個の評価サンプルを用いた。
・・・
【0073】
図5に示すように、実施例1における多層管100は、剥離強度が、1.5MPa以上1.9MPa以下の範囲となった。また、第2評価において、赤水が、5個とも一端側から他端側へ流出しなかった。
【0074】
また、図5に示すように、比較例1における多層管900は、剥離強度が0.8MPa以上1.1MPa以下の範囲となった。また、第2評価において、赤水が、5個とも一端側から他端側へ流出した。
【0075】
以上のように、ガス抜き部610を有する多層成形用金型550を用いて成形した多層管100は、従来の多層管900と比較して、剥離強度が平均1.85倍にすることができるとともに、耐久性により層管剥離を防止することができることがわかった。」
「【図3】


「【図4】



【0037】に記載された「第1押出機530で形成された第1層210(図4参照)および第2押出機540から溶融混練された材料が多層成形用金型550に注入され」たものが、多層成形用金型550内部で合流して、未硬化の多層管100が成形されることは、【0042】及び【図3】から明らかである。
【0067】の記載から、第1層210の厚みは2mmである。

(イ) 上記(ア)の記載事項を総合すると、甲2には、以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「建物配管として用いる多層管100であって、
前記多層管100は、第1層210、第2層220および被覆層230からなり、
前記第1層210は、塩化ビニル系樹脂材料により形成された非発泡性の硬質樹脂からなり、
前記第2層220は、前記第1層210の外周面に積層され、
前記第2層220は、塩化ビニル系樹脂材料(前記第1層210で用いられる樹脂組成物)に発泡剤をさらに添加した樹脂組成物を用いた発泡樹脂からなり、
前記第2層220の空隙は、隣接する空隙と連通させないように形成され、
前記第1層210と前記第2層220との剥離強度は、1.5MPa以上1.9MPa以下であり、
前記第1層210の厚みは2mmであり、
前記第2層220の空隙は、平均セル径が30μm以上150μm以下である、
多層管110。」

ウ 甲11
(ア) 甲11には、以下の事項が記載されている。
「【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、例えば、空調機からの排水のために建物の壁面内に配置される排水用の配管と、その配管に使用される排水管及び排水管用管継手に関する。
・・・
【0004】本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、作業性及び経済性にすぐれた排水管、排水管用管継手、及び排水用配管を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するための請求項1記載の本発明の排水管は、平均発泡倍率が2〜7倍の独立気泡型の発泡塩化ビニル樹脂によって構成されており、該発泡塩化ビニル樹脂の内周面に0.2〜0.5mmの厚さのスキン層が設けられているとともに、この発泡塩化ビニル樹脂の外周面に、0.2〜1.0mmの厚さのスキン層が設けられているものである。
・・・
【0014】
【実施例】以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
〔実施例1:請求項1記載の発明の実施例〕図1は、本発明の排水管の一例を示す断面図である。図1に示す本発明排水管10は、平均発泡倍率が2〜7倍の発泡塩化ビニル樹脂(PVC)11によって構成されている。この排水管10は、内周面および外周面を加熱することにより、内周側および外周側のスキン層12および13がそれぞれ形成されている。内周面のスキン層12は、厚さが0.2〜0.5mm程度になっており、外周面のスキン層13は、厚さが0.2〜1.0mm程度になっている。
【0015】内周面及び外周面のスキン層12、13は、叙上のように、発泡塩化ビニル樹脂(PVC)11の内外周面を加熱により形成してもよく、発泡性塩化ビニル樹脂を押し出す際に内外周面を急冷することによって発泡を抑制することにより形成してもよく、いずれにしてもスキン層12、13は或る程度は発泡されていて完全な非発泡ではない。発泡塩化ビニル樹脂11は、端面から内部に水が浸透しないように、独立気泡型が使用される。
【0016】〔実施例2:請求項2記載の発明の実施例〕図2は、本発明の排水管の他の一例を示す断面図である。図2に示す本発明排水管10は、図1に示す排水管10と同様に平均発泡倍率が2〜7倍の発泡塩化ビニル樹脂11と内周面の非発泡の塩化ビニル樹脂層14によって構成されている。この排水管10は、その外周面を加熱することにより、外周側のスキン層13が形成されている。内周面の非発泡の塩化ビニル樹脂層14は、厚さが0.2〜2.0mm程度になっており、外周面のスキン層13は、厚さが0.2〜1.0mm程度になっている。
【0017】内周面の非発泡の塩化ビニル樹脂層14は発泡塩化ビニル樹脂11を押し出す際に非発泡の塩化ビニル樹脂を同時押出することにより積層してもよく、一旦押出成形した、これらの2管11、14を積層するようにしてもよい。
・・・
【0027】〔実施例6:請求項5、6記載の発明の実施例〕図7は、本発明排水用配管の一例を示す概略図である。図7に示す本発明排水用配管においては、このような排水管および管継手は、例えば、空調機40からの排水を通流させるために、建物の壁面内に接続配管されている。この排水用配管は、上述した排水管10および排水管用管継手30によって壁面内に鉛直に配管された排水立て配管51と、排水立て配管51の管継手30に水平状態で接続された排水横配管52とによって構成されている。排水横配管52も、図1に示す排水管および図3に示す排水管用管継手30とにより構成されている。排水横配管52の管継手30には、空調機40のドレインパン41に接続された排水管10が接続されている。
・・・
【0030】排水管10、各管継手20および30は、それぞれ独立気泡型の発泡塩化ビニル樹脂が使用されているが、気泡は実際には、或る程度は連続した状態になっている場合がある。このために、発泡塩化ビニル樹脂の端面から水が浸透する恐れがある。このために、排水管10と管継手20および30との接合に樹脂含有量が多い接着剤を使用すれば、発泡塩化ビニル樹脂内への水の浸透を抑制することができる。或いは、排水管の端面及び管継手の端面を加熱してスキン層を形成してもよく、また、各端面を被覆するコアー部材を装着したり、端面を気泡が露出しないような状態に変形させてもよい。」
「【図1】


「【図2】


「【図7】



(イ) 上記(ア)の記載事項を総合すると、甲11には、以下の事項(以下、「甲11記載事項」という。)が記載されていると認められる。
「独立気泡型の発泡塩化ビニル樹脂11によって構成されており、
該発泡塩化ビニル樹脂11の内周面にスキン層12が設けられているとともに、この発泡塩化ビニル樹脂11の外周面に、スキン層13が設けられ、
空調機40からの排水を通流させるために、建物の壁面内に接続配管されている、排水管10。」

エ 甲6
甲6には、以下の事項が記載されている。
「【0024】
・・・また、強度の観点からは独立気泡率は高い程好ましいが、製法上の制約から、独立気泡率の上限は、一般に、ポリ塩化ビニル系樹脂の場合は90%程度、ポリオレフィン系樹脂の場合は95%程度とされる。
・・・
【0059】
【表2】


【0060】
・・・発泡性熱可塑性樹脂として、ポリ塩化ビニルに下記の〔表3〕の配合を行ったものを用いた。配合は、スーパーミキサーを用いて樹脂温度が100°Cになるまで行った。
【0061】
【表3】



オ 甲8
甲8には、以下の事項が記載されている。
「【0042】(実施例)以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。
実施例
図1及び図2に示すフォーミング装置を用いて、図5及び図6を参照して説明した工程により、管状熱可塑性樹脂発泡体の成形を行った。塩化ビニル(平均重合度600)100重量部に対して、錫系安定剤2重量部、熱分解型無機発泡剤2重量部、エステル系内滑剤、ポリエチレンワックス系外滑剤2重量部、顔料1重量部を配合した発泡性塩化ビニル系樹脂組成物を調製し、併せて押出機6のシリンダー温度を140〜180℃に設定した。」

カ 引用文献1
引用文献1には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】 熱可塑性樹脂の押出成形または射出成形による発泡成形方法において、熱可塑性樹脂原料に熱膨張性マイクロカプセルと発泡剤とを混合し、押出成形または射出成形により発泡成形することを特徴とする熱可塑性樹脂の発泡成形方法。
・・・
【0011】この熱可塑性樹脂の発泡成形方法によれば、熱膨張性マイクロカプセルの殻の溶融温度を熱可塑性樹脂原料の溶融温度より20℃以上80℃以下の高い温度にするようにしており、マイクロカプセルを破壊すること無く、一層良好な発泡状態にでき、各気泡が細かく均一で、表面の荒れもなく、しかも発泡剤による発泡と併せて大きな発泡倍率にできるようになる。
【0012】ここで、熱可塑性樹脂とは、・・・塩化ビニル系、・・・などをあげることができ、・・・
【0017】マイクロカプセルに内包する液体または気体としては、マイクロカプセルの軟化点以下の温度でガスになって膨張するもので、例えばプロパン、プロピレン、ブテン、ノルマルブタン、イソブタン、イソペンタン、ネオペンタン、ノルマルペンタン、ヘキサン、ペプタン、石油エーテル、メタンのハロゲン化物、例えば塩化メチル、メチレンクロリド、CCl3 F、CCl2 F2 などのクロロフルオロカーボン、テトラメチルシラン、トリメチルエチルシランなどのテトラアルキルシランなどの低沸点液体のほか、加熱により熱分解してガス状になるAIBNなどの化合物を用いる。
【0018】発泡剤としては、通常の熱可塑性樹脂の発泡成形に用いられる発泡剤が使用され、化学発泡剤と物理発泡剤のいずれでも使用することができ、例えばアゾジカーボンアミドなどの化学発泡剤や常温で気体のガス、例えばN2 、CO2 、ペンタン、ブタン等をそのままの状態で、または液化し押出し機内に注入する方法や、常温で液体のガス、例えばフロン等を注入しガス化させる方法で用いられる。」

キ 引用文献2
引用文献2には、以下の事項が記載されている。
「【0006】次に、樹脂層1に用いられる樹脂の具体例としては、・・・塩化ビニル、・・・などが挙げられる・・・
【0007】また、これら樹脂には、粉体、発泡剤または導電性微粒子などが含まれてもよい。・・・
【0008】発泡剤は、化学発泡剤、物理発泡剤、熱膨張性マイクロカプセルなどが用いられる。化学発泡剤の具体例は、アゾ化合物、ニトロソ化合物、ヒドラジン誘導体、セミカルバジド化合物、アジド化合物、トリアゾール化合物などの有機系熱分解型発泡剤、イソシアネート化合物などの有機系反応型発泡剤、重炭酸塩、炭酸塩、亜硫酸塩、水素化物などの無機系熱分解型発泡剤、重炭酸ナトリウム+酸、過酸化水素+イースト菌、亜鉛粉末+酸などの無機系反応型発泡剤などが挙げられる。物理発泡剤の具体例は、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ジクロルエタン、ジクロルメタン、フロン、空気、炭酸ガス、窒素ガスなどが挙げられる。熱膨張性マイクロカプセルの具体例は、イソブタン、ペンタン、石油エーテル、ヘキサンなどの低沸点炭化水素を芯物質とし、塩化ビニルデン、アクリロニトリル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルなどの共重合体からなる熱可塑性樹脂をシェルとしたマイクロカプセルなどが挙げられ、特に限定されない。これら発泡剤は、1種または2種以上添加してもよい。」

ク 引用文献3
引用文献3には、以下の事項が記載されている。
「【0006】樹脂は、樹脂構造物を形成するためのものであり、弾性を有さない熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂や、弾性を有する弾性樹脂(含むゴム)が採用できる。熱可塑性樹脂としては、・・・ポリ塩化ビニル、・・・等が挙げられ・・・
【0007】弾性樹脂は、・・・その具体例としては、・・・塩化ビニル樹脂、・・・などが挙げられる・・・
【0009】樹脂構造体には・・・発泡剤などが含まれてもよい。・・・
【0011】発泡剤は、化学発泡剤、物理発泡剤、熱膨張性マイクロカプセルなどが用いられる。化学発泡剤の具体例は、アゾ化合物、ニトロソ化合物、ヒドラジン誘導体、セミカルバジド化合物、アジド化合物、トリアゾール化合物などの有機系熱分解型発泡剤、イソシアネート化合物などの有機系反応型発泡剤、重炭酸塩、炭酸塩、亜硫酸塩、水素化物などの無機系熱分解型発泡剤、重炭酸ナトリウム+酸、過酸化水素+イースト菌、亜鉛粉末+酸などの無機系反応型発泡剤などが挙げられる。物理発泡剤の具体例は、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ジクロルエタン、ジクロルメタン、フロン、空気、炭酸ガス、窒素ガスなどが挙げられる。熱膨張性マイクロカプセルの具体例は、イソブタン、ペンタン、石油エーテル、ヘキサンなどの低沸点炭化水素を芯物質とし、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルなどの共重合体からなる熱可塑性樹脂を壁物質としたマイクロカプセルなどが挙げられ、特に限定されない。これら発泡剤は、1種または2種以上添加してもよい。」

3 理由1(特許法第29条第2項)について
(1)訂正発明1について(その1)
ア 訂正発明1と甲1発明とを対比する。
(ア) 甲1発明の「内面スキン層と外面スキン層の間に発泡層が形成されてなる、」「塩化ビニル系樹脂発泡管」について、当該「発泡層」は、図1等からみて、筒状(管状)であることが明らかである。そうすると、甲1発明の当該「発泡層」は、訂正発明1の「塩化ビニル系樹脂(B)を含む筒状の発泡層」に相当する。

(イ) 甲1発明の「内面スキン層と外面スキン層の間に発泡層が形成されてなる、」「塩化ビニル系樹脂発泡管」について、当該「内面スキン層」は、訂正発明1の「前記発泡層の内面に設けられ、塩化ビニル系樹脂(A)を含む非発泡内層」に相当する。

(ウ) 甲1発明の「建物配管に用いる」、「塩化ビニル系樹脂発泡管」は、訂正発明1の「空調ドレン用管」と、「管」である限りにおいて一致する。

(エ) したがって、訂正発明1と甲1発明とは、
「塩化ビニル系樹脂(B)を含む筒状の発泡層と、
前記発泡層の内面に設けられ、塩化ビニル系樹脂(A)を含む非発泡内層と、を備える管。」である点において一致し、以下の点で相違する。

[相違点A−1]
「管」に関して、訂正発明1においては、「空調ドレン用管」であるのに対し、甲1発明においては、「建物配管に用いる」「管」である点。

[相違点A−2]
訂正発明1においては、「前記発泡層の独立気泡率が45%以上95%以下であ」るのに対し、甲1発明においては、「前記発泡層の気泡は、連続気泡が少なく、均質な気泡を有し、管軸方向に平行な方向に実質的に連通して」いないものの、発泡層の独立気泡率の具体的数値については不明である点。

[相違点A−3]
訂正発明1においては、「前記発泡層と前記非発泡内層との融着強度が1.5MPa以上であ」るのに対し、甲1発明においては、「前記発泡層が発泡し発泡管となり、前記発泡管の内径が規制されると共に急冷されて前記内面スキン層が形成され」るというものの、発泡層と内面スキン層との融着強度の具体的数値については不明である点。

[相違点A−4]
訂正発明1においては、「前記発泡層の平均気泡径(走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した空調ドレン用管の円周方向断面画像上に1800μmの直線を引き、1800μmを直線上の気泡数で割った値を気泡径としたときの気泡径の平均値)が160μm以上250μm以下である」のに対して、甲1発明においては、「塩化ビニル系樹脂発泡管の断面を、2次電子反射式電子顕微鏡により撮影した断面写真を画像解析により白色部分(樹脂部分)と黒色部分(気泡部分)に二値化を行い、その黒色部分の面積を疑似円表面積とし、そこから気泡径を算出したものの平均値を算出することにより求められる管軸方向に垂直方向断面の平均気泡径が30〜150μmである」点。

イ 判断
[相違点A−1、A−2、A−4について]
訂正発明1は、「空調ドレン用管」の発泡層において、平均気泡径を断熱性が確保できる範囲とするとともに、気泡が完全な(100%)独立気泡でなくても水が発泡層の奥深くまで浸透するのを防止できる独立発泡率の範囲とすることにより、空調ドレン用管の断熱性を確保しつつも、端部からの発泡層への水の浸透を防止できるようにする(本件特許明細書段落【0006】、【0024】の記載を参照。)という課題を解決するものであるから、相違点A−1、A−2、A−4を併せて検討する。
そうすると、上記課題に着目して、発泡層の独立気泡率と平均気泡径とを関連付けた「発泡層の独立気泡率が45%以上95%以下」であって、かつ「前記発泡層の平均気泡径(走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した空調ドレン用管の円周方向断面画像上に1800μmの直線を引き、1800μmを直線上の気泡数で割った値を気泡径としたときの気泡径の平均値)が160μm以上250μm以下である」「空調ドレン用管」は、甲6、甲8、甲11及び引用例1ないし3に記載されたものではない。
また、甲6、甲8、甲11及び引用例1ないし3には、上記課題を解決するべく、「発泡層の独立気泡率が45%以上95%以下」とすることと、特定の「前記発泡層の平均気泡径(走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した空調ドレン用管の円周方向断面画像上に1800μmの直線を引き、1800μmを直線上の気泡数で割った値を気泡径としたときの気泡径の平均値)が160μm以上250μm以下」とすることとを関連づける記載もない。
よって、上記相違点A−3について検討するまでもなく、訂正発明1は、甲1発明、甲6、甲8、甲11及び引用例1ないし3の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
また、他の甲号証においても、上記[相違点A−1、A−2、A−4]を併せたものに係る訂正発明1の構成について開示するものではない。

(2)訂正発明1について(その2)
ア 対比
訂正発明1と甲2発明とを対比する。
(ア) 甲2発明の「前記多層管100は、第1層210、第2層220および被覆層230からなり、」から、当該「第2層220」は、筒状(管状)であることが明らかである。
そうすると、甲2発明の「塩化ビニル系樹脂材料(前記第1層210で用いられる樹脂組成物)に発泡剤をさらに添加した樹脂組成物を用いた発泡樹脂からな」る「第2層220」は、訂正発明1の「塩化ビニル系樹脂(B)を含む筒状の発泡層」に相当する。

(イ) 甲2発明の「前記第2層220は、前記第1層210の外周面に積層され」から、第1層210が第2層220(発泡樹脂からなる)の内面に設けられていることが明らかであるから、甲2発明の「塩化ビニル系樹脂材料により形成された非発泡性の硬質樹脂からな」る「第1層210」は、訂正発明1の「前記発泡層の内面に設けられ、塩化ビニル系樹脂(A)を含む非発泡内層」に相当する。

(ウ) 甲2発明の「建物配管として用いる多層管100」は、訂正発明1の「空調ドレン用管」と、「管」である限りにおいて一致する。

(エ) したがって、本件特許発明1と甲2発明とは、
「塩化ビニル系樹脂(B)を含む筒状の発泡層と、
前記発泡層の内面に設けられ、塩化ビニル系樹脂(A)を含む非発泡内層と、を備える管。」
である点において一致し、以下の点で相違する。

[相違点B−1]
「管」に関して、訂正発明1においては、「空調ドレン用管」であるのに対し、甲2発明においては、「建物配管に用いる」「管」である点。

[相違点B−2]
訂正発明1においては、「前記発泡層の独立気泡率が45%以上95%以下であ」るのに対し、甲2発明においては、「前記第2層220の空隙は、隣接する空隙と連通させないように形成され」ているものの、第2層220の独立気泡率の具体的数値については不明である点。

[相違点B−3]
訂正発明1においては、「前記発泡層と前記非発泡内層との融着強度が1.5MPa以上であ」るのに対し、甲2発明においては、「前記第1層210と前記第2層220との剥離強度は、1.5MPa以上1.9MPa以下であ」る点。

[相違点B−4]
訂正発明1においては、「前記発泡層の平均気泡径(走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した空調ドレン用管の円周方向断面画像上に1800μmの直線を引き、1800μmを直線上の気泡数で割った値を気泡径としたときの気泡径の平均値)が160μm以上250μm以下である」のに対して、甲2発明においては、「第2層220の空隙は、平均セル径が30μm以上150μm以下である」であるが、平均セル径をどのような測定方法により測定したかは不明な点。

イ 判断
[相違点B−1、B−2、B−4について]
訂正発明1は、「空調ドレン用管」の発泡層において、平均気泡径を断熱性が確保できる範囲とするとともに、気泡が完全な(100%)独立気泡でなくても水が発泡層の奥深くまで浸透するのを防止できる独立発泡率の範囲とすることにより、空調ドレン用管の断熱性を確保しつつも、端部からの発泡層への水の浸透を防止できるようにするという課題(本件特許明細書段落【0006】、【0024】の記載を参照。)を解決するものであるから、相違点B−1、B−2、B−4を併せて検討する。
そうすると、上記課題に着目して、発泡層の独立気泡率と平均気泡径とを関連付けた「発泡層の独立気泡率が45%以上95%以下」であって、かつ「前記発泡層の平均気泡径(走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した空調ドレン用管の円周方向断面画像上に1800μmの直線を引き、1800μmを直線上の気泡数で割った値を気泡径としたときの気泡径の平均値)が160μm以上250μm以下である」「空調ドレン用管」は、甲6、甲8、甲11及び引用例1ないし3に記載されたものではない。
また、甲6、甲8、甲11及び引用例1ないし3には、上記課題を解決するべく、「発泡層の独立気泡率が45%以上95%以下」とすることと、、特定の「前記発泡層の平均気泡径(走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した空調ドレン用管の円周方向断面画像上に1800μmの直線を引き、1800μmを直線上の気泡数で割った値を気泡径としたときの気泡径の平均値)が160μm以上250μm以下」とすることとを関連づける記載もない。
よって、上記相違点B−3について検討するまでもなく、訂正発明1は、甲2発明、甲6、甲8、甲11及び引用例1ないし3の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
また、他の甲号証においても、上記[相違点B−1、B−2、B−4]を併せたものに係る訂正発明1の構成について開示するものではない。

(3)訂正発明2について(その1)
ア 訂正発明2と甲1発明とを対比する。
(ア) 甲1発明の「内面スキン層と外面スキン層の間に発泡層が形成されてなる、」「塩化ビニル系樹脂発泡管」について、当該「発泡層」は、図1等からみて、筒状(管状)であることが明らかである。そうすると、甲1発明の当該「発泡層」は、訂正発明2の「塩化ビニル系樹脂(B)を含む筒状の発泡層」に相当する。

(イ) 甲1発明の「内面スキン層と外面スキン層の間に発泡層が形成されてなる、」「塩化ビニル系樹脂発泡管」について、当該「内面スキン層」は、訂正発明2の「前記発泡層の内面に設けられ、塩化ビニル系樹脂(A)を含む非発泡内層」に相当する。

(ウ) 甲1発明の「建物配管に用いる」、「塩化ビニル系樹脂発泡管」は、訂正発明2の「空調ドレン用管」と、「管」である限りにおいて一致する。

(エ) したがって、訂正発明2と甲1発明とは、
「塩化ビニル系樹脂(B)を含む筒状の発泡層と、
前記発泡層の内面に設けられ、塩化ビニル系樹脂(A)を含む非発泡内層と、を備える管。」である点において一致し、以下の点で相違する。

[相違点A−5]
「管」に関して、訂正発明2においては、「空調ドレン用管」であるのに対し、甲1発明においては、「建物配管に用いる」「管」である点。

[相違点A−6]
訂正発明2においては、「前記発泡層の独立気泡率が45%以上81%以下であ」るのに対し、甲1発明においては、「前記発泡層の気泡は、連続気泡が少なく、均質な気泡を有し、管軸方向に平行な方向に実質的に連通して」いないものの、発泡層の独立気泡率の具体的数値については不明である点。

[相違点A−7]
訂正発明2においては、「前記発泡層と前記非発泡内層との融着強度が1.5MPa以上であ」るのに対し、甲1発明においては、「前記発泡層が発泡し発泡管となり、前記発泡管の内径が規制されると共に急冷されて前記内面スキン層が形成され」るというものの、発泡層と内面スキン層との融着強度の具体的数値については不明である点。

[相違点A−8]
訂正発明2においては、「前記発泡層の平均気泡径(走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した空調ドレン用管の円周方向断面画像上に1800μmの直線を引き、1800μmを直線上の気泡数で割った値を気泡径としたときの気泡径の平均値)が100μm以上201μm以下である」のに対して、甲1発明においては、「塩化ビニル系樹脂発泡管の断面を、2次電子反射式電子顕微鏡により撮影した断面写真を画像解析により白色部分(樹脂部分)と黒色部分(気泡部分)に二値化を行い、その黒色部分の面積を疑似円表面積とし、そこから気泡径を算出したものの平均値を算出することにより求められる管軸方向に垂直方向断面の平均気泡径が30〜150μmである」点。

イ 判断
[相違点A−5、A−6、A−8について]
訂正発明2は、「空調ドレン用管」の発泡層において、平均気泡径を断熱性が確保できる範囲とするとともに、気泡が完全な(100%)独立気泡でなくても水が発泡層の奥深くまで浸透するのを防止できる独立発泡率の範囲とすることにより、空調ドレン用管の断熱性を確保しつつも、端部からの発泡層への水の浸透を防止できるという課題(本件特許明細書段落【0006】、【0024】の記載を参照。)を解決するものであるから、相違点A−5、A−6、A−8を併せて検討する。
そうすると、上記課題に着目して、発泡層の独立気泡率と平均気泡径とを関連付けた「発泡層の独立気泡率が45%以上81%以下」であって、かつ「前記発泡層の平均気泡径(走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した空調ドレン用管の円周方向断面画像上に1800μmの直線を引き、1800μmを直線上の気泡数で割った値を気泡径としたときの気泡径の平均値)が100μm以上201μm以下である」「空調ドレン用管」は、甲6、甲8、甲11及び引用例1ないし3に記載されたものではない。
また、甲6、甲8、甲11及び引用例1ないし3には、上記課題を解決するべく、「発泡層の独立気泡率が45%以上81%以下」とすることと、特定の「前記発泡層の平均気泡径(走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した空調ドレン用管の円周方向断面画像上に1800μmの直線を引き、1800μmを直線上の気泡数で割った値を気泡径としたときの気泡径の平均値)が100μm以上201μm以下」とすることとを関連づける記載もない。
よって、上記相違点A−7について検討するまでもなく、訂正発明2は、甲1発明、甲6、甲8、甲11及び引用例1ないし3の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
また、他の甲号証においても、上記[相違点A−5、A−6、A−8]を併せたものに係る訂正発明2の構成について開示するものではない。

(4)訂正発明2について(その2)
ア 対比
訂正発明2と甲2発明とを対比する。
(ア) 甲2発明の「前記多層管100は、第1層210、第2層220および被覆層230からなり、」から、当該「第2層220」は、筒状(管状)であることが明らかである。
そうすると、甲2発明の「塩化ビニル系樹脂材料(前記第1層210で用いられる樹脂組成物)に発泡剤をさらに添加した樹脂組成物を用いた発泡樹脂からな」る「第2層220」は、訂正発明2の「塩化ビニル系樹脂(B)を含む筒状の発泡層」に相当する。

(イ) 甲2発明の「前記第2層220は、前記第1層210の外周面に積層され」から、第1層210が第2層220(発泡樹脂からなる)の内面に設けられていることが明らかであるから、甲2発明の「塩化ビニル系樹脂材料により形成された非発泡性の硬質樹脂からな」る「第1層210」は、訂正発明2の「前記発泡層の内面に設けられ、塩化ビニル系樹脂(A)を含む非発泡内層」に相当する。

(ウ) 甲2発明の「建物配管として用いる多層管100」は、訂正発明2の「空調ドレン用管」と、「管」である限りにおいて一致する。

(エ) したがって、訂正発明2と甲2発明とは、
「塩化ビニル系樹脂(B)を含む筒状の発泡層と、
前記発泡層の内面に設けられ、塩化ビニル系樹脂(A)を含む非発泡内層と、を備える管。」
である点において一致し、以下の点で相違する。

[相違点B−5]
「管」に関して、訂正発明2においては、「空調ドレン用管」であるのに対し、甲2発明においては、「建物配管に用いる」「管」である点。

[相違点B−6]
訂正発明2においては、「前記発泡層の独立気泡率が45%以上81%以下であ」るのに対し、甲2発明においては、「前記第2層220の空隙は、隣接する空隙と連通させないように形成され」ているものの、第2層220の独立気泡率の具体的数値については不明である点。

[相違点B−7]
訂正発明2においては、「前記発泡層と前記非発泡内層との融着強度が1.5MPa以上であ」るのに対し、甲2発明においては、「前記第1層210と前記第2層220との剥離強度は、1.5MPa以上1.9MPa以下であ」る点。

[相違点B−8]
訂正発明2においては、「前記発泡層の平均気泡径(走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した空調ドレン用管の円周方向断面画像上に1800μmの直線を引き、1800μmを直線上の気泡数で割った値を気泡径としたときの気泡径の平均値)が100μm以上201μm以下である」のに対して、甲2発明においては、「第2層220の空隙は、平均セル径が30μm以上150μm以下である」であって、平均セル径をどのような方法で測定したものによるかは不明な点。

イ 判断
[相違点B−5、B−6、B−8について]
訂正発明2は、「空調ドレン用管」の発泡層において、平均気泡径を断熱性が確保できる範囲とするとともに、気泡が完全な(100%)独立気泡でなくても水が発泡層の奥深くまで浸透するのを防止できる独立発泡率の範囲とすることにより、空調ドレン用管の断熱性を確保しつつも、端部からの発泡層への水の浸透を防止できるという課題(本件特許明細書段落【0006】、【0024】の記載を参照。)を解決するものであるから、相違点B−5、B−6、B−8を併せて検討する。
そうすると、上記課題に着目して、発泡層の独立気泡率と平均気泡径とを関連付けた「発泡層の独立気泡率が45%以上81%以下」であって、かつ「前記発泡層の平均気泡径(走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した空調ドレン用管の円周方向断面画像上に1800μmの直線を引き、1800μmを直線上の気泡数で割った値を気泡径としたときの気泡径の平均値)が100μm以上201μm以下である」「空調ドレン用管」は、甲6、甲8、甲11及び引用例1ないし3に記載されたものではない。
また、甲6、甲8、甲11及び引用例1ないし3には、上記課題を解決するべく、「発泡層の独立気泡率が45%以上81%以下」とすることと、特定の「前記発泡層の平均気泡径(走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した空調ドレン用管の円周方向断面画像上に1800μmの直線を引き、1800μmを直線上の気泡数で割った値を気泡径としたときの気泡径の平均値)が100μm以上201μm以下」とすることとを関連づける記載もない。
よって、上記相違点B−7について検討するまでもなく、訂正発明2は、甲2発明、甲6、甲8、甲11及び引用例1ないし3の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
また、他の甲号証においても、上記[相違点B−5、B−6、B−8]を併せたものに係る訂正発明2の構成について開示するものではない。

(5)訂正発明3ないし7
訂正発明3ないし7は、訂正発明1または2を直接あるいは間接的に引用するものであって、訂正発明1または2の発明特定事項を置き換えることなく、すべて含むものである。
そうすると、訂正発明1、2が上記(1)ないし(4)に示したとおり、甲1発明、甲6、甲8、甲11及び引用例1ないし3の記載事項、あるいは、甲2発明、甲6、甲8、甲11及び引用例1ないし3の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、訂正発明3ないし7についても同様に、甲1発明、甲6、甲8、甲11及び引用例1ないし3の記載事項、あるいは、甲2発明、甲6、甲8、甲11及び引用例1ないし3の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
また、他の甲号証においても、上記(1)ないし(4)と同様に、訂正発明1または2を直接あるいは間接的に引用する訂正発明3ないし7の構成を開示するものではない。

4 理由2(明確性)について
・訂正後の請求項1ないし7
訂正により、請求項1及び2に記載された「平均気泡径」は、「走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した空調ドレン用管の円周方向断面画像上に1800μmの直線を引き、1800μmを直線上の気泡数で割った値を気泡径としたときの気泡径の平均値」であることが明らかになった。
この場合、走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した空調ドレン用管の円周方向断面画像において、例えば、管状発泡体の外周と内周とで気泡径が異なる場合や、ボイド(周囲の気泡径に対して、特異な大きさを有する気泡)が存在する場合などを想定すると、発泡層における気泡径の平均値を求めるという以上、円周方向断面画像上に1800μmの直線を引く際に、ボイドなどの特異な気泡径を有する部分を避けて引くのは技術常識(特許権者が令和3年8月26日に提出した意見書に添付した乙1号証(特許第3813062号公報の第8ページ第35ないし38行の記載参照。))であり、また、請求項1及び2に記載の、「空調ドレン用管の円周方向断面画像」において、上記1800μmの直線を、比較的小さい気泡や比較的大きい気泡径が集まった箇所のみに引くことは、気泡の平均値を求めるという目的に反するので、当業者であれば避けるものと認められる。
そうすると、訂正後の請求項1及び2における「平均気泡径」は、「走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した空調ドレン用管の円周方向断面画像上に1800μmの直線を引き、1800μmを直線上の気泡数で割った値を気泡径としたときの気泡径の平均値」であることが明らかになり、上記1800μmの直線をどのように引くかについても、上記気泡径の平均値を求めるという観点での技術常識を踏まえたものとなるから、訂正後の請求項1、2の記載は明確である。
また、訂正後の請求項1、2を引用する訂正後の請求項3ないし7の記載においても同様である。
したがって、訂正発明1ないし7は明確である。

5 理由3(サポート要件)について
・訂正後の請求項1ないし7
訂正により、請求項1、2に記載された「平均気泡径」は、「走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した空調ドレン用管の円周方向断面画像上に1800μmの直線を引き、1800μmを直線上の気泡数で割った値を気泡径としたときの気泡径の平均値」であるものとなり、訂正後の請求項1、2の記載における「前記発泡層の平均気泡径」は、本件特許明細書に記載(段落【0037】)のものとなった。
したがって、訂正発明1、2は、発明の詳細な説明の記載を超えてされたものであるとはいえない。
また、訂正発明1、2を引用する訂正発明3ないし7においても同様である。

6 理由4(実施可能要件)について
・訂正後の請求項1ないし7
訂正後の請求項1、2における「平均気泡径」については、「走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した空調ドレン用管の円周方向断面画像上に1800μmの直線を引き、1800μmを直線上の気泡数で割った値を気泡径としたときの気泡径の平均値」であり、本件特許明細書段落【0037】には、「[平均気泡径の測定]JIS K 6400−1に従い、走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した空調ドレン用管の円周方向断面画像上に1800μm直線を引き、直線上の気泡数で割った値を気泡径とし1画像につき8本の直線、8データの平均値を平均気泡径とした。」と、気泡径の算出方法について記載されているところ、上記「4 理由2(明確性)について」において記載したとおり、上記1800μmの直線の引き方について、気泡径の平均値を求めるという観点での技術常識を踏まえると、ボイドなどの特異な気泡径を有する部分や、発泡層の円周方向断面画像の全体からみて、比較的小さい気泡や比較的大きい気泡のみが集まって気泡径において偏りが生じた箇所を避けて引くことは当業者にとって明らかであるから、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が訂正発明1、2を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではないとはいえない。
訂正発明1、2を引用する訂正発明3ないし7についても同様である。

第5 取消理由通知で採用しなかった異議申立理由について
1 特許法第29条第1項第3号新規性
異議申立人は特許異議申立書において、本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、甲1または甲2に記載された発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に基いて特許を受けることができないと主張している(異議申立書16ページ下から2行ないし17ページ24行、18ページ12行ないし19ページ7行、20ページ下から2行ないし21ページ3行、21ページ9行ないし14行を参照。)。
しかし、
(1)訂正発明1と甲1発明とは、[相違点A−1]ないし[相違点A−4]
(2)訂正発明1と甲2発明とは、[相違点B−1]ないし[相違点B−4]
(3)訂正発明2と甲1発明とは、[相違点A−5]ないし[相違点A−8]
(4)訂正発明2と甲2発明とは、[相違点B−5]ないし[相違点B−8]
においてそれぞれ相違し、上記相違点はそれぞれ実質的なものであるから、訂正発明1、訂正発明2は、甲1発明または甲2発明と同一であるとはいえない。
また、訂正発明3は、訂正発明1または2を引用するものであるから、上記(1)ないし(4)におけるそれぞれの相違点を有するものであり、甲1発明又は甲2発明と同一であるとはいえない。
したがって、訂正発明1ないし3は、甲1または甲2に記載された発明と同一ではなく、特許法第29条第1項第3号の規定に基いて特許を受けることができないとはいえない。

2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)、同法第36条第4項第1号実施可能要件
異議申立人は、特許異議申立書において、「本件特許の請求項1では、発泡層が含む樹脂として塩化ビニル系樹脂が規定されているだけであり、本件特許発明1には、塩化ビニル系樹脂をあらゆる含有量で含有する場合は、塩化ビニル樹脂以外のあらゆる樹脂をあらゆる含有量で含む場合が包含される。一方、本件特許の明細書の実施例においては、発泡層として塩化ビニル系樹脂と共にアクリル系高分子化合物を12〜40部含む発泡層を形成した場合のみが開示され(表1)、比較例6においては、独立気泡率が60%、平均気泡率が170μmである一方、融着強度が1.4MPaであり、満水試験が「○」であるものの、発泡層のアクリル系高分子化合物の含有量が多いため、外力に柔軟に追従できず、偏平試験でひびが生じたことも記載されている(表2、段落[0045])。
したがって、発泡層への水の浸透を容易に防止できる空調ドレン管を提供するという本件特許発明の技術的課題を解決するために本件特許発明においてアクリル系高分子化合物の含有量が大きく寄与しているといえるものの、本件請求項1には発泡層がアクリル樹脂を含まない場合や、アクリル系高分子化合物0部超12部未満、40部超含む場合が包含されており、そのような場合にまで上記技術的課題が解決できるとはいえない。」(特許異議申立書25ページ下から2行ないし26ページ14行)と主張している。
上記主張について検討すると、本件特許明細書段落【0043】、【0044】における【表1】、【表2】を参照すると、実施例1ないし8、及び比較例1ないし6はいずれも塩化ビニル系樹脂を含むものである点で共通している。
そして、アクリル系高分子化合物の含有量は、実施例1ないし8においては、12ないし40部であって、上記特許異議申立書における主張における比較例6においては、アクリル系高分子化合物の含有量は52部であるものの、独立気泡率は60%、平均気泡径は170μmであって、それぞれ訂正発明1、2で特定された数値範囲内であり、満水試験の結果は「○」であることからみて、発泡層への水の浸透を容易に防止できるという課題を解決するものといえる。
そうすると、満水試験の結果が「○」となり、発泡層への水の浸透を容易に防止できるという課題は、アクリル系高分子化合物の含有量によるものというよりかは、むしろ独立気泡率、及び平均気泡径が訂正発明1、2において特定された数値範囲内にあることにより解決できるものであるから、訂正発明1、2においてアクリル系高分子化合物の含有量が特定されていないことをもって技術的課題が解決できないとまではいえず、また、本件特許の明細書は、当業者が、本件特許発明を実施できる程度に記載されたものではないということはできない。

第6 意見書における申立人の主張について
1 申立人は、令和3年10月6日提出の意見書において、以下の点について概略主張している。

(1)本件特許明細書の実施例における満水試験の水位の減少高さが20mm未満であることについて、本件特許明細書からは格別な技術的意義を見出すことはできないから、満水試験の水位の減少高さが20mm未満であることを根拠に導き出された、訂正発明1、2における「発泡層の独立気泡率」及び「平均気泡径」に関してそれぞれ特定された数値範囲を定めたことによる格別な作用効果があるとはいえない。

(2)訂正発明1、2において特定された「平均気泡径」に関して、大きすぎる気泡や小さすぎる気泡を除外し、大部分の気泡径を占める箇所を画像から判断して計測した場合においても、訂正発明1、2において規定される平均気泡径の測定方法では、大きなバラツキが生じるから、訂正発明1、2における「平均気泡径」は明確でない。

2 申立人の上記主張について検討する。
(1)主張1(1)について
満水試験の水位の減少高さが20mm未満であることは、いいかえると、発泡層への水の浸透を防止できるという課題を解決するにあたって、管の端部における発泡層から水が浸透し難いというための指標を示したものであって、その指標をもとに、「発泡層の独立気泡率」及び「平均気泡径」の数値範囲を定めたのであるから、その範囲を境界として、所望の条件を満たすものとして、訂正発明1、2における「発泡層の独立気泡率」及び「平均気泡径」の数値範囲を定めたことによる格別な作用効果があるといえる。

(2)主張1(2)について
上記「第4 4ないし6」において判断したとおり、訂正後の請求項1及び2における「平均気泡径」については、「走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した空調ドレン用管の円周方向断面画像上に1800μmの直線を引き、1800μmを直線上の気泡数で割った値を気泡径としたときの気泡径の平均値」であり、1800μmの直線の引き方について、気泡径の平均値を求めるという観点での技術常識を踏まえると、ボイドなどの特異な気泡径を有する部分や、発泡層の円周方向断面画像の全体からみて、比較的小さい気泡や比較的大きい気泡のみが集まって気泡径において偏りが生じた箇所を避けて引くことは当業者にとって明らかである。
そして、1800μmの直線の引き方によって多少の測定誤差は予測されるものの、そのように測定した「平均気泡径」という意味において明確である。

第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル系樹脂(B)を含む筒状の発泡層と、
前記発泡層の内面に設けられ、塩化ビニル系樹脂(A)を含む非発泡内層と、を備える空調ドレン用管であって、
前記発泡層の独立気泡率が45%以上95%以下であり、
前記発泡層と前記非発泡内層との融着強度が1.5MPa以上であり、
前記発泡層の平均気泡径(走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した空調ドレン用管の円周方向断面画像上に1800μmの直線を引き、1800μmを直線上の気泡数で割った値を気泡径としたときの気泡径の平均値)が160μm以上250μm以下である、空調ドレン用管。
【請求項2】
塩化ビニル系樹脂(B)を含む筒状の発泡層と、
前記発泡層の内面に設けられ、塩化ビニル系樹脂(A)を含む非発泡内層と、を備える空調ドレン用管であって、
前記発泡層の独立気泡率が45%以上81%以下であり、
前記発泡層と前記非発泡内層との融着強度が1.5MPa以上であり、
前記発泡層の平均気泡径(走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した空調ドレン用管の円周方向断面画像上に1800μmの直線を引き、1800μmを直線上の気泡数で割った値を気泡径としたときの気泡径の平均値)が100μm以上201μm以下である、空調ドレン用管。
【請求項3】
前記発泡層が錫化合物を含む、請求項1または2に記載の空調ドレン用管。
【請求項4】
前記発泡層は、発泡剤として炭化水素を含む、請求項1ないし3のいずれか一項に記載空調ドレン用管。
【請求項5】
前記塩化ビニル系樹脂(B)が平均重合度600以上800以下のポリ塩化ビニルである、請求項1ないし4のいずれか一項に記載の空調ドレン用管。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか一項に記載の空調ドレン用管と、管継手とで構成された空調ドレン配管であって、
前記管継手は内部に環状弾性体を備えないことを特徴とする空調ドレン配管。
【請求項7】
請求項1ないし5のいずれか一項に記載の空調ドレン用管の製造方法であって、
前記非発泡内層を形成する非発泡層用熱可塑性樹脂組成物を押出機により溶融混練して押出し、
揮発既発泡剤、分解型発泡剤、熱膨張性カプセルから選択されるうちの2種類以上を含む発泡剤があらかじめ配合された発泡層用熱可塑性樹脂組成物を押出機により溶融混練して押出し、
前記非発泡層用熱可塑性樹脂組成物および発泡層用熱可塑性樹脂組成物を金型に注入し、該金型内部で合流させて、未硬化の空調ドレン用管を成形し、
未硬化の空調ドレン用管を冷却して所定寸法に型成形することを特徴とする空調ドレン用管の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照
異議決定日 2021-11-19 
出願番号 P2019-192098
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (F16L)
P 1 651・ 537- YAA (F16L)
P 1 651・ 536- YAA (F16L)
P 1 651・ 113- YAA (F16L)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 山崎 勝司
特許庁審判官 松下 聡
槙原 進
登録日 2020-03-24 
登録番号 6680940
権利者 積水化学工業株式会社
発明の名称 空調ドレン用管、空調ドレン配管及び空調ドレン用管の製造方法  
代理人 川越 雄一郎  
代理人 山口 洋  
代理人 川越 雄一郎  
代理人 山口 洋  
代理人 大槻 真紀子  
代理人 西澤 和純  
代理人 大槻 真紀子  
代理人 西澤 和純  

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