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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61F
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61F
管理番号 1381652
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-02-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-10-15 
確定日 2021-11-19 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6681494号発明「吸水性樹脂粒子」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6681494号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1及び2〕について訂正することを認める。 特許第6681494号の請求項1及び2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6681494号(以下、「本件特許」という。)の請求項1及び2に係る特許についての出願は、平成31年3月22日(優先権主張 同年1月30日)の出願であって、令和2年3月25日にその特許権の設定登録(請求項の数2)がされ、同年4月15日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年10月15日に特許異議申立人 株式会社日本触媒(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1及び2)がされ、同年12月18日付けで取消理由が通知され、令和3年2月19日に特許権者から意見書が提出されるとともに訂正請求がされ、同年3月5日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年4月8日に特許異議申立人から意見書が提出され、同年6月11日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年8月10日に特許権者から意見書が提出されるとともに訂正請求がされたものである。
なお、令和3年2月19日にされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
また、すでに特許異議申立人に意見書の提出の機会が与えられており、下記第2 1のとおり、令和3年8月10日にされた訂正請求によって特許請求の範囲が相当程度減縮され、下記第6及び7のとおり、提出された全ての証拠や意見等を踏まえて更に審理を進めたとしても特許を維持すべきとの結論となると合議体は判断したことから、特許異議申立人に再度の意見書の提出の機会は与えない。

第2 訂正の適否について
1 訂正の内容
令和3年8月10日にされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、「10倍膨潤時の人工尿通液速度が1.0g/分以上35.0g/分以下」とあるのを、「10倍膨潤時の人工尿通液速度が1.0g/分以上15.0g/分以下」と訂正する。
併せて、請求項1を引用する請求項2についても、請求項1を訂正したことに伴う訂正をする。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に、「生理食塩水保水量が35〜60g/g」とあるのを、「生理食塩水保水量が35〜41g/g」と訂正する。
併せて、請求項1を引用する請求項2についても、請求項1を訂正したことに伴う訂正をする。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に、「接触角が70度以下」とあるのを、「接触角が33度以上70度以下」と訂正する。
併せて、請求項1を引用する請求項2についても、請求項1を訂正したことに伴う訂正をする。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1に、「である、」とあるのを、「であり、
生理食塩水吸水速度が20〜80秒であり、」と訂正する。
併せて、請求項1を引用する請求項2についても、請求項1を訂正したことに伴う訂正をする。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項1に、「吸水性樹脂粒子。」とあるのを、「4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水量が15ml/g以上23ml/g以下である、
吸水性樹脂粒子。」と訂正する。
併せて、請求項1を引用する請求項2についても、請求項1を訂正したことに伴う訂正をする。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項2に、「4.14kPa荷重下での」とあるのを、「当該吸水性樹脂粒子が、前記架橋重合体を含む重合体粒子と、前記重合体粒子の表面上に配置されたシリカ粒子とを含み、
4.14kPa荷重下での」と訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項2に、「生理食塩水吸水量が15ml/g以上」とあるのを、「生理食塩水吸水量が18ml/g以上23ml/g以下」と訂正する。

2 訂正の目的の適否、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)請求項1についての訂正について
訂正事項1による請求項1についての訂正は、「10倍膨潤時の人工尿通液速度」の数値範囲を狭くするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項2による請求項1についての訂正は、「生理食塩水保水量」の数値範囲を狭くするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項3による請求項1についての訂正は、「接触角」の数値範囲を狭くするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項4による請求項1についての訂正は、「生理食塩水吸水速度」に関する限定を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項5による請求項1についての訂正は、「4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水量」に関する限定を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1ないし5による請求項1についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)請求項2についての訂正について
訂正事項1ないし5による請求項2についての訂正は、請求項1についての訂正と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項6による請求項2についての訂正は、「吸水性樹脂粒子」が、「架橋重合体を含む重合体粒子」と「重合体粒子の表面上に配置されたシリカ粒子」を含むことを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項7による請求項2についての訂正は、「生理食塩水吸水量」の数値範囲を狭くするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1ないし7による請求項2についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 むすび
以上のとおり、訂正事項1ないし7による請求項1及び2についての訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、また、同法同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。

なお、訂正前の請求項1及び2は一群の請求項に該当するものである。そして、請求項1及び2についての訂正は、それらについてされたものであるから、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。

そして、特許異議の申立ては、訂正前の請求項1及び2に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。

したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1及び2〕について訂正することを認める。

第3 本件特許発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1及び2に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
(メタ)アクリル酸及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含むエチレン性不飽和単量体に由来する単量体単位を有する架橋重合体を含む吸水性樹脂粒子であって、(メタ)アクリル酸及びその塩の割合が前記架橋重合体中の単量体単位全量に対して70〜100モル%であり、
10倍膨潤時の人工尿通液速度が1.0g/分以上15.0g/分以下であり、生理食塩水保水量が35〜41g/gであり、かつ以下のi)及びii)の順で行われる試験で測定される接触角が33度以上70度以下であり、
生理食塩水吸水速度が20〜80秒であり、
4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水量が15ml/g以上23ml/g以下である、吸水性樹脂粒子。
i)25℃において、吸水性樹脂粒子からなる層の表面上に、25質量%食塩水の直径3.0±0.1mmに相当する球状液滴を滴下して、当該吸水性樹脂粒子と前記液滴とを接触させる。
ii)前記液滴が前記表面に接触してから、30秒後の時点の前記液滴の接触角を測定する。
【請求項2】
当該吸水性樹脂粒子が、前記架橋重合体を含む重合体粒子と、前記重合体粒子の表面上に配置されたシリカ粒子とを含み、
4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水量が18ml/g以上23ml/g以下である、請求項1に記載の吸水性樹脂粒子。」

第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和2年10月15日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。

1 申立理由1(甲第1ないし7号証のいずれかに基づく新規性
本件特許発明1及び2は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1ないし7号証のいずれかに記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

2 申立理由2(進歩性
本件特許発明1及び2は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の証拠に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
なお、この理由の証拠との対応関係は以下のとおりである。
・申立理由2−1:甲第1号証に基づく進歩性
・申立理由2−2:甲第1号証と甲第4号証の組み合わせに基づく進歩性
・申立理由2−3:甲第1号証と甲第10号証の組み合わせに基づく進歩性
・申立理由2−4:甲第2号証に基づく進歩性
・申立理由2−5:甲第2号証と甲第4号証の組み合わせに基づく進歩性
・申立理由2−6:甲第2号証と甲第10号証の組み合わせに基づく進歩性
・申立理由2−7:甲第3号証に基づく進歩性
・申立理由2−8:甲第4号証に基づく進歩性
・申立理由2−9:甲第4号証と甲第8号証の組み合わせに基づく進歩性
・申立理由2−10:甲第4号証と甲第10号証の組み合わせに基づく進歩性
・申立理由2−11:甲第5号証に基づく進歩性
・申立理由2−12:甲第6号証に基づく進歩性
・申立理由2−13:甲第7号証に基づく進歩性
・申立理由2−14:甲第9号証と甲第4号証の組み合わせに基づく進歩性
・申立理由2−15:甲第9号証と甲第8号証の組み合わせに基づく進歩性
・申立理由2−16:甲第9号証と甲第10号証の組み合わせに基づく進歩性

3 申立理由3(サポート要件)
本件特許の請求項1及び2に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

(1)本件特許の請求項1及び2は、吸水性樹脂粒子の「吸水速度」を何ら規定していない。
したがって、本件特許発明1及び2は、本件特許発明1及び2の課題を解決することができない発明を含むため、本件特許の明細書の記載範囲を越えている。

(2)本件特許の請求項1にて規定される物性値の範囲のうち、生理食塩水保水量を35g/g以上、かつ10倍膨潤時の人工尿通液速度を3.3g/分より大きく35.0g/分以下の範囲内に調整する方法は、本件特許の明細書には開示されていない。
したがって、本件特許の明細書の開示に対して、本件特許発明1及び2の範囲は広すぎると言える。

4 申立理由4(実施可能要件
本件特許の請求項1及び2に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

(1)当業者は、シリカ微粒子を添加した逆相懸濁重合によって、実施例1〜3に記載された吸水性樹脂粒子以外の吸水性樹脂粒子を製造することはできない。また、特に、たとえ本件特許の明細書に水溶液重合の例示(本件特許の明細書の【0023】)があるといっても、本件特許の明細書に製造方法が一切開示されていないため、当業者は、水溶液重合によって本件特許発明1及び2の吸水性樹脂粒子を製造することはできない。
したがって、本件特許の明細書の記載は、当業者が本件特許発明1及び2を実施することができる程度に明確に記載されたものとは言えない。

(2)本件特許の請求項1にて規定される物性値の範囲のうち、生理食塩水保水量を35g/g以上、かつ10倍膨潤時の人工尿通液速度を3.3g/分より大きく35.0g/分以下の範囲内に調整する方法は、本件特許の明細書には開示されていない。
したがって、本件特許の明細書の記載は、当業者が本件特許発明1及び2を実施することができる程度に明確に記載されたものとは言えない。

5 証拠方法
甲第1号証:特開平11−71425号公報
甲第2号証:特開平11−80248号公報
甲第3号証:特開2006−68731号公報
甲第4号証:特開2005−111474号公報
甲第5号証:国際公開第2017/170605号
甲第6号証:国際公開第2018/062539号
甲第7号証;特開平9−124955号公報
甲第8号証:特開2005−97519号公報
甲第9号証:特開2010−241975号公報
甲第10号証:特開2004−261797号公報
甲第11号証:甲第1号証の実施例5の実験成績証明書
甲第12号証:甲第2号証の実施例5の実験成績証明書
甲第13号証:甲第3号証の実施例2の実験成績証明書
甲第14号証:甲第4号証の実施例32の実験成績証明書
甲第15号証:甲第5号証の実施例2の実験成績証明書
甲第16号証:甲第6号証の実施例23の実験成績証明書
甲第17号証:甲第7号証の実施例3の実験成績証明書
甲第18号証:拒絶理由通知書(発送日:令和1年7月30日)に対し、特許権者が令和1年11月28日付けで提出した意見書
参考資料1:Modern Superabsorbent Polymer Technology(1998) p.187-190
参考資料2:甲第5号証の実施例2の再追試結果である実験成績証明書
参考資料3:国際公開第2011/126079号
参考資料4:甲第14号証の接触角のn=5の測定において、接触角が35度のときの写真
なお、参考資料1ないし4は、令和3年4月8日に特許異議申立人から提出された意見書に添付されたものである。また、証拠の表記は、特許異議申立書及び上記意見書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1」又は「参1」のようにいう。

第5 取消理由(決定の予告)の概要
令和3年6月11日付けで通知した取消理由(決定の予告)(以下、「取消理由(決定の予告)」という。)の概要は次のとおりである。

1 取消理由1(甲5に基づく新規性
本件特許発明1は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲5に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
なお、該取消理由1は、取消理由(決定の予告)の通知時に請求項2が削除されていたため、本件特許発明1を対象とするものではあるものの、申立理由1のうち甲5に基づく新規性とおおむね同旨である。

2 取消理由2(甲5に基づく進歩性
本件特許発明1は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲5に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
なお、該取消理由2は、取消理由(決定の予告)の通知時に請求項2が削除されていたため、本件特許発明1を対象とするものではあるものの、申立理由2−11(甲5に基づく進歩性)とおおむね同旨である。

第6 取消理由(決定の予告)についての当審の判断
当審は、取消理由(決定の予告)には以下のとおり理由がないと判断する。
取消理由1及び2はいずれも甲5に基づく理由であるから、併せて検討する。

1 甲5に記載された事項及び甲5発明
(1)甲5に記載された事項
甲5には、「粒子状吸水剤」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。他の文献についても同様。

・「<ダメージ付与後の微粉増加量>
[0293] 吸水剤に下記のペイントシェーカーテストを行い、目開き150μmのJIS標準篩で分級し、テスト前後における150μm以下の粒子径を有する粒子の増加量を測定した。
[0294] [ペイントシェーカーテスト]
ペイントシェーカーテスト(PS−test)とは、直径6cm、高さ11cmのガラス製容器に、直径6mmのガラスビーズ10g、吸水性樹脂30gを入れてペイントシェーカー(東洋製機製作所 製品No.488)に取り付け、800cycle/min(CPM)で30分間、振盪するものであり、装置詳細は特開平9−235378号公報に開示されている。」

・「[0331] [製造例2]
アクリル酸300重量部、48重量%水酸化ナトリウム水溶液100重量部、ポリエチレングリコールジアクリレート(平均n数9)0.61重量部、1.0重量%エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)5ナトリウム水溶液6.5重量部、脱イオン水346.1重量部からなる単量体水溶液(2)を作製した。
[0332] 次に、40℃に調温した上記単量体水溶液(2)を定量ポンプで連続供給した後、更に48重量%水酸化ナトリウム水溶液150.6重量部を連続的にラインミキシングした。尚、この時、中和熱によって単量体水溶液(2)の液温は81℃まで上昇した。
[0333] 更に、4重量%過硫酸ナトリウム水溶液14.6重量部を連続的にラインミキシングした後、両端に堰を備えた平面状の重合ベルトを有する連続重合機に、厚みが10mmとなるように連続的に供給した。その後、重合(重合時間3分間)が連続的に行われ、帯状の含水ゲル(2)を得た。得られた帯状の含水ゲル(2)を重合ベルトの進行方向に対して幅方向に、切断長が300mmとなるように等間隔に連続して切断することで、含水ゲル(2)を得た。含水ゲル(2)は、CRC36.0[g/g]、樹脂固形分48.1重量%であった。」

・「[0351] [実施例1]
(ゲル粉砕)
上記製造例1で得られた含水ゲル(1)を、スクリュー押出機に供給しゲル粉砕した。該スクリュー押出機としては、先端部に直径100mm、孔径9.5mm、孔数40個、開孔率36.1%、厚さ10mmの多孔板が備えられた、スクリュー軸の外径が86mmのミートチョッパーを使用した。該ミートチョッパーのスクリュー軸回転数を130rpmとした状態で、含水ゲル(1)を4640[g/min]、同時に、水蒸気を83[g/min]でそれぞれ供給する。この時のゲル粉砕エネルギー(GGE)は26.9[J/g]、GGE(2)は13.6[J/g]であった。尚、ゲル粉砕前の含水ゲル(1)の温度は80℃であり、ゲル粉砕後の粉砕ゲル、即ち粒子状含水ゲル(1)の温度は85℃に上昇していた。
[0352] 上記ゲル粉砕工程で得られた粒子状含水ゲル(1)は、樹脂固形分49.1重量%、重量平均粒子径(D50)994μm、粒度分布の対数標準偏差(σζ)1.01であった。当該ゲル粉砕工程の条件を表1に、粒子状含水ゲル(1)の物性を表2に示す。
[0353](乾燥)
次に、上記粒子状含水ゲル(1)をゲル粉砕終了後1分以内に通気板上に散布(この時の粒子状含水ゲル(1)の温度は80℃)し、185℃で30分間乾燥を行い、乾燥重合体(1)を得る。熱風の平均風速は通気ベルトの進行方向に対して垂直方向に1.0[m/s]である。尚、熱風の風速は、日本カノマックス株式会社製定温度熱式風速計アネモマスター 6162で測定する。
[0354](粉砕・分級)
次いで、上記乾燥工程で得られた乾燥重合体(1)全量を3段ロールミルに供給して粉砕(粉砕工程)し、その後更に、目開き710μm及び175μmのJIS標準篩で分級することで、不定形破砕状の吸水性樹脂粒子(1)を得る。吸水性樹脂粒子(1)は、重量平均粒子径(D50)348μm、粒度分布の対数標準偏差(σζ)0.32であり、CRC42.1[g/g]、150μm通過粒子(目開き150μmの篩を通過する粒子の割合)0.5重量%である。
[0355](表面処理・添加剤添加)
次に、上記吸水性樹脂粒子(1)100重量部に対して、エチレングリコールジグリシジルエーテル0.025重量部、1,4−ブタンジオール0.4重量部、プロピレングリコール0.6重量部及び脱イオン水3.0重量部からなる(共有結合性)表面架橋剤溶液を均一に混合し、190℃で30分間程度、得られる吸水性樹脂粉末(1)のCRCが35g/gとなるように加熱処理する。その後冷却を行い、上記ペイントシェーカーテストを実施し、製造プロセス相当のダメージを付与した後に、吸水性樹脂粒子100重量部に対して、水1重量部、ジエチレントリアミン5酢酸3ナトリウム0.01重量部からなる水溶液を均一に混合する。60℃で1時間乾燥した後、目開き710μmのJIS標準篩を通過させ、二酸化ケイ素(商品名:アエロジル200、日本アエロジル製)0.4重量部を均一に添加する。こうして、粒子状吸水剤(1)を得た。粒子状吸水剤(1)の諸物性を表3〜6に示す。なお、ペイントシェーカーテスト後の150μm通過粒子増加量は粒子状吸水剤に対して、さらにペイントシェーカーテストを実施した際(おむつなどの吸収体製造時のプロセスダメージを想定したもの)の150μm通過粒子の増加量を示す。」

・「[0356] [実施例2]
実施例1と以下に示す操作以外は同様の操作を行う。含水ゲル(1)のかわりに上記製造例2で得られた含水ゲル(2)を用いる。スクリュー押出機の先端部の多孔板の孔径を8mmに変更する。この時のゲル粉砕エネルギー(GGE)は31.9[J/g]、GGE(2)は17.5[J/g]であった。尚、ゲル粉砕前の含水ゲル(2)の温度は80℃であり、ゲル粉砕後の粉砕ゲル、即ち粒子状含水ゲル(2)の温度は84℃に上昇していた。
[0357] 上記ゲル粉砕工程で得られた粒子状含水ゲル(2)は、樹脂固形分47.5重量%、重量平均粒子径(D50)860μm、粒度分布の対数標準偏差(σζ)0.95であった。当該ゲル粉砕工程の条件を表1に、粒子状含水ゲル(2)の物性を表2に示す。
[0358] 次いで、実施例1と同様の乾燥・粉砕・分級操作を行い、不定形破砕状の吸水性樹脂粒子(2)を得る。吸水性樹脂粒子(2)は、重量平均粒子径(D50)355μm、粒度分布の対数標準偏差(σζ)0.32であり、CRC48.2[g/g]、150μm通過粒子(目開き150μmの篩を通過する粒子の割合)0.4重量%である。
[0359] 次に、上記吸水性樹脂粒子(2)100重量部に対して、エチレングリコールジグリシジルエーテル0.025重量部、エチレンカーボネート0.4重量部、プロピレングリコール0.6重量部及び脱イオン水3.0重量部からなる(共有結合性)表面架橋剤溶液を均一に混合し、190℃で30分間程度、得られる吸水性樹脂粉末(2)のCRCが38g/gとなるように加熱処理する。その後、実施例1と同様の操作を行う。こうして、粒子状吸水剤(2)を得た。粒子状吸水剤(2)の諸物性を表3〜6に示す。」

(2)甲5発明
甲5に記載された事項を、特に実施例2に関して整理すると、甲5には次の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されていると認める。

<甲5発明>
「アクリル酸300重量部、48重量%水酸化ナトリウム水溶液100重量部、ポリエチレングリコールジアクリレート(平均n数9)0.61重量部、1.0重量%エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)5ナトリウム水溶液6.5重量部、脱イオン水346.1重量部からなる単量体水溶液(2)を作製し、次に、40℃に調温した上記単量体水溶液(2)を定量ポンプで連続供給した後、更に48重量%水酸化ナトリウム水溶液150.6重量部を連続的にラインミキシングし、更に、4重量%過硫酸ナトリウム水溶液14.6重量部を連続的にラインミキシングした後、両端に堰を備えた平面状の重合ベルトを有する連続重合機に、厚みが10mmとなるように連続的に供給し、その後、重合(重合時間3分間)が連続的に行われ、得られた帯状の含水ゲル(2)を重合ベルトの進行方向に対して幅方向に、切断長が300mmとなるように等間隔に連続して切断することで、含水ゲル(2)を得、上記含水ゲル(2)を、スクリュー押出機に供給しゲル粉砕し、該スクリュー押出機としては、先端部に直径100mm、孔径8mm、孔数40個、開孔率36.1%、厚さ10mmの多孔板が備えられた、スクリュー軸の外径が86mmのミートチョッパーを使用し、該ミートチョッパーのスクリュー軸回転数を130rpmとした状態で、含水ゲル(2)を4640[g/min]、同時に、水蒸気を83[g/min]でそれぞれ供給し、この時のゲル粉砕エネルギー(GGE)は31.9[J/g]、GGE(2)は17.5[J/g]であり、上記ゲル粉砕工程で得られた粒子状含水ゲル(2)をゲル粉砕終了後1分以内に通気板上に散布(この時の粒子状含水ゲル(2)の温度は80℃)し、185℃で30分間乾燥を行い、乾燥重合体(2)を得、熱風の平均風速は通気ベルトの進行方向に対して垂直方向に1.0[m/s]であり、次いで、上記乾燥工程で得られた乾燥重合体(1)全量を3段ロールミルに供給して粉砕(粉砕工程)し、その後更に、目開き710μm及び175μmのJIS標準篩で分級することで、不定形破砕状の吸水性樹脂粒子(2)を得、次に、上記吸水性樹脂粒子(2)100重量部に対して、エチレングリコールジグリシジルエーテル0.025重量部、エチレンカーボネート0.4重量部、プロピレングリコール0.6重量部及び脱イオン水3.0重量部からなる(共有結合性)表面架橋剤溶液を均一に混合し、190℃で30分間程度、得られる吸水性樹脂粉末(2)のCRCが38g/gとなるように加熱処理し、その後冷却を行い、ペイントシェーカーテストを実施し、製造プロセス相当のダメージを付与した後に、吸水性樹脂粒子100重量部に対して、水1重量部、ジエチレントリアミン5酢酸3ナトリウム0.01重量部からなる水溶液を均一に混合し、60℃で1時間乾燥した後、目開き710μmのJIS標準篩を通過させ、二酸化ケイ素(商品名:アエロジル200、日本アエロジル製)0.4重量部を均一に添加して得た粒子状吸水剤(2)。」

2 本件特許発明1について
(1)対比
本件特許発明1と甲5発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「(メタ)アクリル酸及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含むエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を有する架橋重合体を含む吸水性樹脂粒子であって、(メタ)アクリル酸及びその塩の割合が前記架橋重合体中の単量体単位全量に対して70〜100モル%である、吸水性樹脂粒子。」

そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点5>
本件特許発明1においては、「10倍膨潤時の人工尿通液速度が1.0g/分以上15.0g/分以下であり、生理食塩水保水量が35〜41g/gであり、かつ以下のi)及びii)の順で行われる試験で測定される接触角が33度以上70度以下であり、
生理食塩水吸水速度が20〜80秒であり、
4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水量が15ml/g以上23ml/g以下である」(当審注:i)及びii)は、次のとおり。以下同様。
i)25℃において、吸水性樹脂粒子からなる層の表面上に、25質量%食塩水の直径3.0±0.1mmに相当する球状液滴を滴下して、当該吸水性樹脂粒子と前記液滴とを接触させる。
ii)前記液滴が前記表面に接触してから、30秒後の時点の前記液滴の接触角を測定する。)と特定されているのに対し、甲5発明においては、そのようには特定されていない点。

(2)判断
そこで、相違点5について検討する。
参2(甲5の実施例2の再追試結果である実験成績証明書)によると、甲5発明における「生理食塩水保水量」は「42.5g/g」であり、「35〜41g/g」であるという条件を満たしていない。
したがって、甲5発明は、相違点5に係る本件特許発明1の発明特定事項を有しているといえず、相違点5は実質的な相違点である。
そして、甲5には、甲5発明において、「生理食塩水保水量」に着目して、その値を調整する動機付けとなる記載はなく、他の証拠にもそのような記載はないから、甲5発明において、「生理食塩水保水量」を「35〜41g/g」の範囲内として、相違点5に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1は「衛生用品として使用された際に、吸水後により素早くさらっとした感触が得られる吸水性樹脂が提供される」(本件特許の明細書の【0009】参照。)という甲5発明及び他の証拠に記載された事項からみて格別顕著な効果を奏するものである。

(3)まとめ
したがって、本件特許発明1は甲5発明であるとはいえないし、また、甲5発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

3 本件特許発明2について
本件特許発明2は、請求項1を引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、甲5発明であるとはいえないし、また、甲5発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

4 取消理由(決定の予告)についてのむすび
したがって、本件特許発明1及び2は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、また、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないので、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、同法第113条第2号に該当しないので、取消理由(決定の予告)によっては取り消すことはできない。

第6 取消理由(決定の予告)に採用しなかった特許異議の申立ての理由について
取消理由(決定の予告)に採用しなかった特許異議の申立ての理由は、申立理由1(甲1ないし7のいずれかに基づく新規性)のうち甲1ないし4、6及び7のいずれかに基づく新規性、申立理由2(進歩性)のうち申立理由2−1ないし2−10及び2−12ないし2−16、申立理由3(サポート要件)並びに申立理由4(実施可能要件)である。
以下、検討する。

1 申立理由1(甲1ないし7のいずれかに基づく新規性)のうち甲1ないし4、6及び7のいずれかに基づく新規性並びに申立理由2(進歩性)のうち2−1ないし2−10及び2−12ないし2−16について
(1)申立理由1のうち甲1に基づく新規性並びに申立理由2−1(甲1に基づく進歩性)、申立理由2−2(甲1と甲4の組み合わせに基づく進歩性)及び申立理由2−3(甲1と甲10の組み合わせに基づく進歩性)について
ア 甲1に記載された事項及び甲1発明
(ア)甲1に記載された事項
甲1には、「吸水剤の製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。

・「【0033】上記の吸収体に生理食塩水40gを加え1分後に、キッチンタオル10枚を4つ折りにしたものを上面トップシートの上に置き10kgの荷重を1分間かけることによりトップシートを通過しキッチンタオルへ移行する戻り量を調べた。
[参考例1]攪拌機、還流冷却器、温度計、窒素ガス導入管および滴下ろうとを付した2000mlの四つ口セパラブルフラスコにシクロヘキサン800gを取り、分散剤としてソルビタンモノステアレート3.0gを加え溶解させ、窒素ガスを吹き込んで溶存酸素を追い出した。
【0034】別に、フラスコ中で、アクリル酸ナトリウム141g、アクリル酸36g、およびポリエチレングリコールジアクリレート(n=8)0.478g、イオン交換水413gよりなる単量体水溶液を調製し、窒素ガスを吹き込んで水溶液内に溶存する溶存酸素を追い出した。次いで、このフラスコ内の単量体水溶液に過硫酸ナトリウムの10%水溶液1.0gを加えた後全量を上記セパラブルフラスコに加えて、230rpmで攪拌することにより分散させた。その後、浴温を60℃に昇温して重合反応を開始させ、2時間この温度に保持して重合を完了した。重合終了後共沸脱水により大部分の水を留去して、重合体のシクロヘキサン懸濁液を得、ろ過により含水率20%の樹脂を得た。さらに80℃で減圧乾燥を行うことにより含水率5%の吸水性樹脂(1)を得た。吸水性樹脂(1)の平均粒径は110μmであった。」

・「【0038】上記親水化処理を行った吸水性樹脂100重量部に、エチレングリコールジグリシジルエーテル0.1重量部と、水3重量部と、イソプロピルアルコール1重量部からなる表面架橋剤を混合した。上記の混合物を150℃で60分間加熱処理することにより本発明の吸水剤(4)を得た。この吸水剤(4)の吸収倍率、加圧下の吸収倍率、吸水速度、戻り量の結果を表1に記載した。
[比較例2]親水化処理を行わない吸水性樹脂(2)を用いて実施例4と同様の表面架橋処理を行い比較用吸水剤(2)を得た。この比較用吸水剤(2)の吸収倍率、加圧下の吸収倍率、吸水速度、戻り量の結果を表1に記載した。
[参考例3]参考例1においてソルビタンモノステアレートに代えてエチルセルロースを用いた他は同様の操作を行い含水率4%の吸水性樹脂(3)を得た。吸水性樹脂(3)の平均粒径は250μmであった。
[実施例5]上記吸水性樹脂(3)10gを70℃に加熱したシクロヘキサン500mlに加え、1時間攪拌した後ろ過、乾燥することにより親水化処理を行った。
【0039】上記親水化処理を行った吸水性樹脂100重量部に、エチレングリコールジグリシジルエーテル0.1重量部と、水3重量部と、イソプロピルアルコール1重量部からなる表面架橋剤を混合した。上記の混合物を150℃で60分間加熱処理することにより本発明の吸水剤(5)を得た。この吸水剤(5)の吸収倍率、加圧下の吸収倍率、吸水速度、戻り量の結果を表1に記載した。」

(イ)甲1発明
甲1に記載された事項を、特に実施例5に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

<甲1発明>
「攪拌機、還流冷却器、温度計、窒素ガス導入管および滴下ろうとを付した2000mlの四つ口セパラブルフラスコにシクロヘキサン800gを取り、分散剤としてエチルセルロース3.0gを加え溶解させ、窒素ガスを吹き込んで溶存酸素を追い出し、別に、フラスコ中で、アクリル酸ナトリウム141g、アクリル酸36g、およびポリエチレングリコールジアクリレート(n=8)0.478g、イオン交換水413gよりなる単量体水溶液を調製し、窒素ガスを吹き込んで水溶液内に溶存する溶存酸素を追い出し、次いで、このフラスコ内の単量体水溶液に過硫酸ナトリウムの10%水溶液1.0gを加えた後全量を上記セパラブルフラスコに加えて、230rpmで攪拌することにより分散させ、その後、浴温を60℃に昇温して重合反応を開始させ、2時間この温度に保持して重合を完了し、重合終了後共沸脱水により大部分の水を留去して、重合体のシクロヘキサン懸濁液を得、ろ過により含水率20%の樹脂を得、さらに80℃で減圧乾燥を行うことにより得た含水率4%の吸水性樹脂10gを70℃に加熱したシクロヘキサン500mlに加え、1時間攪拌した後ろ過、乾燥することにより親水化処理を行い、上記親水化処理を行った吸水性樹脂100重量部に、エチレングリコールジグリシジルエーテル0.1重量部と、水3重量部と、イソプロピルアルコール1重量部からなる表面架橋剤を混合し、上記の混合物を150℃で60分間加熱処理することにより得た吸水剤(5)。」

イ 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「(メタ)アクリル酸及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含むエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を有する架橋重合体を含む吸水性樹脂粒子であって、(メタ)アクリル酸及びその塩の割合が前記架橋重合体中の単量体単位全量に対して70〜100モル%である、吸水性樹脂粒子。」

そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点1>
本件特許発明1においては、「10倍膨潤時の人工尿通液速度が1.0g/分以上15.0g/分以下であり、生理食塩水保水量が35〜41g/gであり、かつ以下のi)及びii)の順で行われる試験で測定される接触角が33度以上70度以下であり、
生理食塩水吸水速度が20〜80秒であり、
4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水量が15ml/g以上23ml/g以下である」と特定されているのに対し、甲1発明においては、そのようには特定されていない点。

(イ)判断
そこで、相違点1について検討する。
甲1には、甲1発明が相違点1に係る発明特定事項を有することを示す記載はない。
特許異申立人は、甲1発明が相違点1に係る発明特定事項を有する証拠として、甲11(甲1の実施例5の実験成績証明書)を提示しているが、甲11では、内部架橋剤として、甲1の実施例5で使用された「ポリエチレングリコールジアクリレート(n=8)」ではなく、「ポリエチレングリコールジアクリレート(n=9)」を使用している。
したがって、甲11は甲1の実施例5を正確に追試したものであるとはいえない。
よって、甲11は採用できない。
仮に、甲11が採用できたとしても、甲11によると、甲1発明における「10倍膨潤時の人工尿通液速度」及び「4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水量」はそれぞれ「16.1g/分」及び「26ml/g」であり、「1.0g/分以上15.0g/分以下」及び「15ml/g以上23ml/g以下」であるという条件を満たしていない。
そうすると、甲1発明が相違点1に係る発明特定事項を有しているとはいえず、相違点1は実質的な相違点である。
そして、甲1には、甲1発明において、「10倍膨潤時の人工尿通液速度」、「生理食塩水保水量」、「i)及びii)の順で行われる試験で測定される接触角」、「生理食塩水吸水速度」及び「4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水量」に着目して、それらを調整する動機付けとなる記載はなく、甲4及び10を含め他の証拠にもそのような記載はないから、甲1発明において、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
また、本件特許発明1は「衛生用品として使用された際に、吸水後により素早くさらっとした感触が得られる吸水性樹脂が提供される」という甲1発明並びに甲4及び10を含め他の証拠に記載された事項からみて格別顕著な効果を奏するものである。

(ウ)まとめ
したがって、本件特許発明1は甲1発明であるとはいえないし、また、甲1発明並びに甲4及び10を含め他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

ウ 本件特許発明2について
本件特許発明2は、請求項1を引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、甲1発明であるとはいえないし、また、甲1発明並びに甲4及び10を含め他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

エ 申立理由1のうち甲1に基づく新規性並びに申立理由2−1、2−2及び2−3についてのむすび
したがって、本件特許発明1及び2は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、また、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないので、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、同法第113条第2号に該当しないので、申立理由1のうち甲1に基づく新規性並びに申立理由2−1、2−2及び2−3によっては取り消すことはできない。

(2)申立理由1のうち甲2に基づく新規性並びに申立理由2−4(甲2に基づく進歩性)、申立理由2−5(甲2と甲4の組み合わせに基づく進歩性)及び申立理由2−6(甲2と甲10の組み合わせに基づく進歩性)について
ア 甲2に記載された事項及び甲2発明
(ア)甲2に記載された事項
甲2には、「吸水剤の製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。

・「【0035】上記の吸収体に生理食塩水40gを加え1分後に、キッチンタオル10枚を4つ折りにしたものを上面トップシートの上に置き10kgの荷重を1分間かけることによりトップシートを通過しキッチンタオルへ移行する戻り量を調べた。
[参考例1]攪拌機、還流冷却器、温度計、窒素ガス導入管および滴下ろうとを付した2000mlの四つ口セパラブルフラスコにシクロヘキサン800gを取り、分散剤としてソルビタンモノステアレート3.0gを加え溶解させ、窒素ガスを吹き込んで溶存酸素を追い出した。
【0036】別に、フラスコ中で、アクリル酸ナトリウム141g、アクリル酸36g、およびポリエチレングリコールジアクリレート(n=8)0.478g、イオン交換水413gよりなる単量体水溶液を調製し、窒素ガスを吹き込んで水溶液内に溶存する溶存酸素を追い出した。次いで、このフラスコ内の単量体水溶液に過硫酸ナトリウムの10%水溶液1.0gを加えた後全量を上記セパラブルフラスコに加えて、230rpmで攪拌することにより分散させた。その後、浴温を60℃に昇温して重合反応を開始させ、2時間この温度に保持して重合を完了した。重合終了後共沸脱水により大部分の水を留去して、重合体のシクロヘキサン懸濁液を得、ろ過により含水率20%の樹脂を得た。さらに80℃で減圧乾燥を行うことにより含水率5%の吸水性樹脂(1)を得た。吸水性樹脂(1)の平均粒径は110μmであった。
・・・(略)・・・
[参考例3]参考例1においてソルビタンモノステアレートに代えてエチルセルロースを用いた他は同様の操作を行い含水率4%の吸水性樹脂(3)を得た。吸水性樹脂(3)の平均粒径は250μmであった。
[実施例5]上記吸水性樹脂(3)100重量部に、エチレングリコールジグリシジルエーテル0.1重量部と、水3重量部と、イソプロピルアルコール1重量部からなる表面架橋剤を混合した。上記の混合物を150℃で60分間加熱処理した。その後得られた含水率1%の表面架橋された樹脂10gを70℃に加熱したシクロヘキサン500ml中に加え、1時間攪拌した後ろ過、乾燥することにより親水化処理を行い本発明の吸水剤(5)を得た。この吸水剤(5)の吸収倍率、加圧下の吸収倍率、吸水速度、戻り量の結果を表1に記載した。」

(イ)甲2発明
甲2に記載された事項を、特に実施例5に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認める。

<甲2発明>
「攪拌機、還流冷却器、温度計、窒素ガス導入管および滴下ろうとを付した2000mlの四つ口セパラブルフラスコにシクロヘキサン800gを取り、分散剤としてエチルセルロース3.0gを加え溶解させ、窒素ガスを吹き込んで溶存酸素を追い出し、別に、フラスコ中で、アクリル酸ナトリウム141g、アクリル酸36g、およびポリエチレングリコールジアクリレート(n=8)0.478g、イオン交換水413gよりなる単量体水溶液を調製し、窒素ガスを吹き込んで水溶液内に溶存する溶存酸素を追い出し、次いで、このフラスコ内の単量体水溶液に過硫酸ナトリウムの10%水溶液1.0gを加えた後全量を上記セパラブルフラスコに加えて、230rpmで攪拌することにより分散させ、その後、浴温を60℃に昇温して重合反応を開始させ、2時間この温度に保持して重合を完了し、重合終了後共沸脱水により大部分の水を留去して、重合体のシクロヘキサン懸濁液を得、ろ過により含水率20%の樹脂を得、さらに80℃で減圧乾燥を行うことにより含水率4%の吸水性樹脂を得、上記吸水性樹脂100重量部に、エチレングリコールジグリシジルエーテル0.1重量部と、水3重量部と、イソプロピルアルコール1重量部からなる表面架橋剤を混合し、上記の混合物を150℃で60分間加熱処理し、その後得られた含水率1%の表面架橋された樹脂10gを70℃に加熱したシクロヘキサン500ml中に加え、1時間攪拌した後ろ過、乾燥することにより親水化処理を行い得た吸水剤。」

イ 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と甲2発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「(メタ)アクリル酸及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含むエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を有する架橋重合体を含む吸水性樹脂粒子であって、(メタ)アクリル酸及びその塩の割合が前記架橋重合体中の単量体単位全量に対して70〜100モル%である、吸水性樹脂粒子。」

そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点2>
本件特許発明1においては、「10倍膨潤時の人工尿通液速度が1.0g/分以上15.0g/分以下であり、生理食塩水保水量が35〜41g/gであり、かつ以下のi)及びii)の順で行われる試験で測定される接触角が33度以上70度以下であり、
生理食塩水吸水速度が20〜80秒であり、
4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水量が15ml/g以上23ml/g以下である」と特定されているのに対し、甲2発明においては、そのようには特定されていない点。

(イ)判断
そこで、相違点2について検討する。
甲2には、甲2発明が相違点2に係る発明特定事項を有することを示す記載はない。
特許異申立人は、甲2発明が相違点2に係る発明特定事項を有する証拠として、甲12(甲2の実施例5の実験成績証明書)を提示しているが、甲12では、内部架橋剤として、甲2の実施例5で使用された「ポリエチレングリコールジアクリレート(n=8)」ではなく、「ポリエチレングリコールジアクリレート(n=9)」を使用している。
したがって、甲12は甲2の実施例5を正確に追試したものであるとはいえない。
よって、甲12は採用できない。
仮に、甲12が採用できたとしても、甲12によると、甲2発明における「4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水量」は「25ml/g」であり、「15ml/g以上23ml/g以下」であるという条件を満たしていない。
そうすると、甲2発明が相違点2に係る発明特定事項を有しているとはいえず、相違点2は実質的な相違点である。
そして、甲2には、甲2発明において、「10倍膨潤時の人工尿通液速度」、「生理食塩水保水量」、「i)及びii)の順で行われる試験で測定される接触角」、「生理食塩水吸水速度」及び「4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水量」に着目して、それらを調整する動機付けとなる記載はなく、甲4及び10を含め他の証拠にもそのような記載はないから、甲2発明において、相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
また、本件特許発明1は「衛生用品として使用された際に、吸水後により素早くさらっとした感触が得られる吸水性樹脂が提供される」という甲2発明並びに甲4及び10を含め他の証拠に記載された事項からみて格別顕著な効果を奏するものである。

(ウ)まとめ
したがって、本件特許発明1は甲2発明であるとはいえないし、また、甲2発明並びに甲4及び10を含め他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

ウ 本件特許発明2について
本件特許発明2は、請求項1を引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、甲2発明であるとはいえないし、また、甲2発明並びに甲4及び10を含め他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

エ 申立理由1のうち甲2に基づく新規性並びに申立理由2−4、2−5及び2−6についてのむすび
したがって、本件特許発明1及び2は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、また、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないので、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、同法第113条第2号に該当しないので、申立理由1のうち甲2に基づく新規性並びに申立理由2−4、2−5及び2−6によっては取り消すことはできない。

(3)申立理由1のうち甲3に基づく新規性及び申立理由2−7(甲3に基づく進歩性)について
ア 甲3に記載された事項及び甲3発明
(ア)甲3に記載された事項
甲3には、「吸水性樹脂を主成分とする粒子状吸水剤、その製造方法及び吸水性物品」に関して、おおむね次の事項が記載されている。

・「【0148】
[アクリル酸の製造例1]
市販のアクリル酸(アクリル酸ダイマー2000ppm、酢酸500ppm、プロピオン酸500ppm含有)を、無堰多孔板50段を有する高沸点不純物分離塔の塔底に供給して、還流比を1として蒸留し、マレイン酸やアクリル酸からなる二量体(アクリル酸ダイマー)等の除去後、さらに晶析を行なうことで、アクリル酸(アクリル酸ダイマー20ppm、酢酸50ppm、プロピオン酸50ppm含有)を得た。」

・「【0151】
[実施例1]
攪拌機、還流冷却機、温度計、窒素ガス導入管及び滴下漏斗を付した2Lの四つ口セパラブルフラスコにシクロヘキサン1.0Lをとり、分散剤としてのショ糖脂肪酸エステル(第一工業薬品株式会社製、DK−エステルF−50、HLB=6)3.8gを加えて溶解させ、窒素ガスを吹き込んで溶存酸素を追い出した。フラスコ中に、製造例1のアクリル酸の中和物であるアクリル酸ナトリウム84.6g、製造例1のアクリル酸21.6g及びN,N’−メチレンビスアクリルアミド0.016gをイオン交換水197gに溶解し、さらにヒドロキシエチルセルロース(ダイセル化学工業株式会社製、HEC−ダイセルEP−850)0.4gを溶解させ、モノマー濃度35質量%のモノマー水溶液を調製した。このモノマー水溶液に過硫酸カリウム0.15gを加えて溶解させた後、窒素ガスを吹き込んで水溶液内に溶存する酸素を追い出した。次いでこのフラスコ内のモノマー水溶液を上記セパラブルフラスコに加えて攪拌することにより分散させた。その後、浴温を60℃に昇温して重合反応を開始させた後、2時間この温度に保持して重合を完了した。重合終了後、シクロヘキサンとの共沸脱水により含水ゲル中の水を留去した後、ろ過し、80℃で減圧乾燥し、球状のポリマー粉体を得た。得られたポリマー粉体の含水率は、5.6%であった。
【0152】
上記ポリマー100質量部に、プロピレングリコール0.5質量部と、エチレングリコールジグリシジルエーテル0.03質量部と、1,4−ブタンジオール0.3質量部と、水2.7質量部とからなる表面架橋剤3.53質量部とを混合した。上記の混合物を210℃で45分間加熱処理した。表面架橋後さらに、水3質量部を添加して60℃で30分密閉して加熱し、850μmで分級することで造粒された粒子状吸水剤(1)を得た。得られた粒子状吸水剤(1)の無加圧下吸収倍率、1.9kPaでの加圧下吸収倍率、粒度分布、質量平均粒子径(D50)、対数標準偏差(σζ)及び粒子径150μm未満の質量百分率、水可溶分、耐尿性評価、吸収速度、吸湿ブロッキング率、揮発性有機溶媒、及び180℃での3時間加熱後の残存モノマーの含有量が表1及び表2に示される。」

・「【0155】
[実施例2]
実施例1で得られた粒子状吸水剤(1)100質量部に微粒子状の二酸化ケイ素(日本アエロジル株式会社製、アエロジル200(1次粒子の平均粒子径12nm))0.3質量部を添加・混合(ドライブレンド)して、粒子状吸水剤(2)を得た。得られた粒子状吸水剤(2)を実施例1と同様に評価した結果が、表1及び表2に示される。」

(イ)甲3発明
甲3に記載された事項を、特に実施例2に関して整理すると、甲3には次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認める。

<甲3発明>
「市販のアクリル酸(アクリル酸ダイマー2000ppm、酢酸500ppm、プロピオン酸500ppm含有)を、無堰多孔板50段を有する高沸点不純物分離塔の塔底に供給して、還流比を1として蒸留し、マレイン酸やアクリル酸からなる二量体(アクリル酸ダイマー)等の除去後、さらに晶析を行なうことで、アクリル酸(アクリル酸ダイマー20ppm、酢酸50ppm、プロピオン酸50ppm含有)を得、攪拌機、還流冷却機、温度計、窒素ガス導入管及び滴下漏斗を付した2Lの四つ口セパラブルフラスコにシクロヘキサン1.0Lをとり、分散剤としてのショ糖脂肪酸エステル(第一工業薬品株式会社製、DK−エステルF−50、HLB=6)3.8gを加えて溶解させ、窒素ガスを吹き込んで溶存酸素を追い出し、フラスコ中に、上記アクリル酸の中和物であるアクリル酸ナトリウム84.6g、上記アクリル酸21.6g及びN,N’−メチレンビスアクリルアミド0.016gをイオン交換水197gに溶解し、さらにヒドロキシエチルセルロース(ダイセル化学工業株式会社製、HEC−ダイセルEP−850)0.4gを溶解させ、モノマー濃度35質量%のモノマー水溶液を調製し、このモノマー水溶液に過硫酸カリウム0.15gを加えて溶解させた後、窒素ガスを吹き込んで水溶液内に溶存する酸素を追い出し、次いでこのフラスコ内のモノマー水溶液を上記セパラブルフラスコに加えて攪拌することにより分散させ、その後、浴温を60℃に昇温して重合反応を開始させた後、2時間この温度に保持して重合を完了し、重合終了後、シクロヘキサンとの共沸脱水により含水ゲル中の水を留去した後、ろ過し、80℃で減圧乾燥し、球状のポリマー粉体を得、得られたポリマー粉体100質量部に、プロピレングリコール0.5質量部と、エチレングリコールジグリシジルエーテル0.03質量部と、1,4−ブタンジオール0.3質量部と、水2.7質量部とからなる表面架橋剤3.53質量部とを混合し、上記の混合物を210℃で45分間加熱処理し、表面架橋後さらに、水3質量部を添加して60℃で30分密閉して加熱し、850μmで分級することで造粒された粒子状吸水剤(1)を得、この粒子状吸水剤(1)100質量部に微粒子状の二酸化ケイ素(日本アエロジル株式会社製、アエロジル200(1次粒子の平均粒子径12nm))0.3質量部を添加・混合(ドライブレンド)して、得た粒子状吸水剤(2)。」

イ 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と甲3発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「(メタ)アクリル酸及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含むエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を有する架橋重合体を含む吸水性樹脂粒子であって、(メタ)アクリル酸及びその塩の割合が前記架橋重合体中の単量体単位全量に対して70〜100モル%である、吸水性樹脂粒子。」

そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点3>
本件特許発明1においては、「10倍膨潤時の人工尿通液速度が1.0g/分以上15.0g/分以下であり、生理食塩水保水量が35〜41g/gであり、かつ以下のi)及びii)の順で行われる試験で測定される接触角が33度以上70度以下であり、
生理食塩水吸水速度が20〜80秒であり、
4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水量が15ml/g以上23ml/g以下である」と特定されているのに対し、甲3発明においては、そのようには特定されていない点。

(イ)判断
そこで、相違点3について検討する。
甲13(甲3の実施例2の実験成績証明書)によると、甲3発明における「4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水量」は「26ml/g」であり、「15ml/g以上23ml/g以下」であるという条件を満たしていない。
したがって、甲3発明は、相違点3に係る本件特許発明1の発明特定事項を有しているといえず、相違点3は実質的な相違点である。
そして、甲3には、甲3発明において、「4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水量」に着目して、その値を調整する動機付けとなる記載はなく、他の証拠にもそのような記載はないから、甲3発明において、「4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水量」を「15ml/g以上23ml/g以下」の範囲内として、相違点3に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
また、本件特許発明1は「衛生用品として使用された際に、吸水後により素早くさらっとした感触が得られる吸水性樹脂が提供される」という甲3発明及び他の証拠に記載された事項からみて格別顕著な効果を奏するものである。

なお、特許異議申立人は、令和3年4月8日に提出された意見書において、甲3の【0099】に「本発明の吸水剤は、0.90質量%塩化ナトリウム水溶液に対する1.9kPa加圧下(荷重下)での加圧下吸収倍率が、好ましくは20g/g以上、・・・(略)・・・である。・・・(略)・・・なお、上限は特に問わないが、製造の困難によるコストアップから60g/g程度で十分である場合もある。」と記載されており、0.90質量%塩化ナトリウム水溶液に対する1.9kPa加圧下(荷重下)での加圧下吸収倍率が20g/g以上60g/g以下は、本件特許発明1における「15ml/g以上23ml/g以下」であるという条件と重なる蓋然性が高い旨主張するが、甲3発明が「15ml/g以上23ml/g以下」であるという条件を満たさないことは、上記のとおりであるから、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
また、特許異議申立人は、上記意見書において、本件特許発明1において、「4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水量」を「15ml/g以上23ml/g以下」とすることに臨界的意義は認められないから、甲3発明において、「4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水量」を「15ml/g以上23ml/g以下」とすることは、当業者が通常の創作能力の発揮により適宜行い得る旨主張するが、「4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水量」を「15ml/g以上23ml/g以下」とすることに臨界的意義がないとしても、甲3及び他の証拠に、甲3発明において、「4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水量」に着目して、その値を調整する動機付けとなる記載はないことは、上記のとおりであるから、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

(ウ)まとめ
したがって、本件特許発明1は甲3発明であるとはいえないし、また、甲3発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

ウ 本件特許発明2について
本件特許発明2は、請求項1を引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、甲3発明であるとはいえないし、また、甲3発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

エ 申立理由1のうち甲3に基づく新規性及び申立理由2−7についてのむすび
したがって、本件特許発明1及び2は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、また、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないので、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、同法第113条第2号に該当しないので、申立理由1のうち甲3に基づく新規性及び申立理由2−7によっては取り消すことはできない。

(4)申立理由1のうち甲4に基づく新規性並びに申立理由2−8(甲4に基づく進歩性)、申立理由2−9(甲4と甲8の組み合わせに基づく進歩性)及び申立理由2−10(甲4と甲10の組み合わせに基づく進歩性)について
ア 甲4に記載された事項及び甲4発明
(ア)甲4に記載された事項
甲4には、「吸水剤およびその製法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。

・「【0248】
(実施例15)
断熱材である発泡スチロールで覆われた内径80mm、容量1リットルのポリプロピレン製容器に、アクリル酸192.2g、ポリエチレングリコールジアクリレート(分子量523)2.79g、およびジエチレントリアミン5酢酸・5ナトリウム0.01gを混合した溶液(A)と、48.5重量%NaOH水溶液156.8gと40℃に調温したイオン交換水239.3gを混合した溶液(B)を、マグネチックスターラーで攪拌しながら(A)に(B)を開放系で一気に加え混合した。中和熱と溶解熱で液温が約100℃まで上昇した単量体水溶液(単量体濃度39重量%、中和率71.3モル%が得られた。さらに、この単量体水溶液に3重量%の過硫酸ナトリウム水溶液8.89gを加え、数秒攪拌した後すぐに、ホットプレート(NEO HOTPLATE H1−1000(株)井内盛栄堂製)により表面温度を100℃まで加熱された、内面にテフロン(登録商標)を貼り付けた底面250×250mmのステンレス製バット型容器中に開放系で注いだ。
【0249】
単量体水溶液がバットに注がれて間もなく重合は開始した。水蒸気を発生し上下左右に膨張発泡しながら重合は進行し、その後、底面よりもやや大きなサイズにまで収縮した。この膨張収縮は約1分以内に終了し、3分間重合容器中に保持した後、含水重合体を取り出した。
【0250】
この細分化された含水重合体を50メッシュの金網上に広げ、180℃で40min間熱風乾燥を行い、乾燥物をロールミルを用いて粉砕し、さらに目開き600μmのJIS標準篩で分級することにより、重量平均粒子径325μm、対数標準偏差(σζ)0.35の不定形破砕状の吸水性樹脂を得た。得られた吸水性樹脂のCRCsは31.4g/g、ゲル層膨潤圧は40.1kdyne/cm2であった。その他の諸物性を表12、13に示した。
【0251】
得られた吸水性樹脂粒子100重量部にエチレンカーボネート0.4重量部、プロピレングリコール1重量部、純水3重量部の混合液からなる表面架橋剤を混合した後、混合物を190℃で35分間加熱処理した。さらに、その粒子を目開き600μmのJIS標準篩を通過するまで解砕し、表面が架橋された吸水性樹脂を得た。得られた吸水剤(15)の諸物性を表12に示した。」

・「【0270】
(実施例20)
実施例15に記載の方法においてポリエチレングリコールジアクリレートを0.05モル%に変更した以外は同様の操作を行い、重量平均粒子径323μm、対数標準偏差(σζ)0.37の不定形破砕状の吸水性樹脂を得た。得られた吸水性樹脂のCRCsは43.5g/g、ゲル層膨潤圧は35.1kdyne/cm2であった。その他の諸物性を表12、13に示した。
【0271】
得られた吸水性樹脂100重量部に1,4−ブタンジオール0.5重量部、プロピレングリコール0.5重量部、純水4重量部の混合液からなる表面架橋剤を混合した後、混合物を200℃で35分間加熱処理した。さらに、その粒子を目開き600μmのJIS標準篩を通過するまで解砕し、表面が架橋された吸水性樹脂を得た。得られた吸水剤(20)の諸物性を表12に示した。」

・「【0282】
(実施例32)
実施例20で得られた吸水剤(20)100重量部に、ReolosilQS−20(親水性アモルファスシリカ、TOKUYAMA社製)0.3重量部を均一に混合し、吸水剤を得た。得られた吸水剤の諸物性を表14、15に示した。」

・「【0296】
【表14】



(イ)甲4発明
甲4に記載された事項を、特に実施例32に関して整理すると、甲4には次の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されていると認める。

<甲4発明>
「断熱材である発泡スチロールで覆われた内径80mm、容量1リットルのポリプロピレン製容器に、アクリル酸192.2g、ポリエチレングリコールジアクリレート(分子量523)0.05モル%(アクリル酸に対する量比から0.70g)、およびジエチレントリアミン5酢酸・5ナトリウム0.01gを混合した溶液(A)と、48.5重量%NaOH水溶液156.8gと40℃に調温したイオン交換水239.3gを混合した溶液(B)を、マグネチックスターラーで攪拌しながら(A)に(B)を開放系で一気に加え混合し、中和熱と溶解熱で液温が約100℃まで上昇した単量体水溶液(単量体濃度39重量%、中和率71.3モル%)が得られ、さらに、この単量体水溶液に3重量%の過硫酸ナトリウム水溶液8.89gを加え、数秒攪拌した後すぐに、ホットプレート(NEO HOTPLATE H1−1000(株)井内盛栄堂製)により表面温度を100℃まで加熱された、内面にテフロン(登録商標)を貼り付けた底面250×250mmのステンレス製バット型容器中に開放系で注ぎ、単量体水溶液がバットに注がれて間もなく重合は開始し、水蒸気を発生し上下左右に膨張発泡しながら重合は進行し、その後、底面よりもやや大きなサイズにまで収縮し、この膨張収縮は約1分以内に終了し、3分間重合容器中に保持した後、含水重合体を取り出し、この細分化された含水重合体を50メッシュの金網上に広げ、180℃で40min間熱風乾燥を行い、乾燥物をロールミルを用いて粉砕し、さらに目開き600μmのJIS標準篩で分級することにより、重量平均粒子径323μm、対数標準偏差(σζ)0.37の不定形破砕状の吸水性樹脂を得、得られた吸水性樹脂粒子100重量部に1,4−ブタンジオール0.5重量部、プロピレングリコール0.5重量部、純水4重量部の混合液からなる表面架橋剤を混合した後、混合物を190℃で35分間加熱処理し、さらに、その粒子を目開き600μmのJIS標準篩を通過するまで解砕し、表面が架橋された吸水性樹脂を得、この吸水剤100重量部に、ReolosilQS−20(親水性アモルファスシリカ、TOKUYAMA社製)0.3重量部を均一に混合し、得た吸水剤。」

イ 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と甲4発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「(メタ)アクリル酸及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含むエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を有する架橋重合体を含む吸水性樹脂粒子であって、(メタ)アクリル酸及びその塩の割合が前記架橋重合体中の単量体単位全量に対して70〜100モル%である、吸水性樹脂粒子。」

そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点4>
本件特許発明1においては、「10倍膨潤時の人工尿通液速度が1.0g/分以上15.0g/分以下であり、生理食塩水保水量が35〜41g/gであり、かつ以下のi)及びii)の順で行われる試験で測定される接触角が33度以上70度以下であり、
生理食塩水吸水速度が20〜80秒であり、
4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水量が15ml/g以上23ml/g以下である」と特定されているのに対し、甲4発明においては、そのようには特定されていない点。

(イ)判断
そこで、相違点4について検討する。
甲14(甲4の実施例32の実験成績証明書)によると、甲4発明における「10倍膨潤時の人工尿通液速度」及び「i)及びii)の順で行われる試験で測定される接触角」は、それぞれ「15.7g/分」及び「32度」であり、「1.0g/分以上15.0g/分以下」及び「33度以上70度以下」であるという条件を満たしていない。
したがって、甲4発明は、相違点4に係る本件特許発明1の発明特定事項を有しているといえず、相違点4は実質的な相違点である。
そして、甲4には、甲4発明において、「10倍膨潤時の人工尿通液速度」及び「i)及びii)の順で行われる試験で測定される接触角」に着目して、それらの値を調整する動機付けとなる記載はなく、甲8及び10を含め他の証拠にもそのような記載はないから、甲4発明において、「10倍膨潤時の人工尿通液速度」及び「i)及びii)の順で行われる試験で測定される接触角」を「1.0g/分以上15.0g/分以下」及び「33度以上70度以下」の範囲内として、相違点4に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
また、本件特許発明1は「衛生用品として使用された際に、吸水後により素早くさらっとした感触が得られる吸水性樹脂が提供される」という甲4発明並びに甲8及び10を含め他の証拠に記載された事項からみて格別顕著な効果を奏するものである。

なお、特許異議申立人は、令和3年4月8日に提出された意見書において、甲4発明の「10倍膨潤時の人工尿通液速度」及び「i)及びii)の順で行われる試験で測定される接触角」を、本件特許発明1において規定される範囲内に制御することは、当業者であれば容易に想到することができる旨主張するが、上記のとおり、甲4発明において、「10倍膨潤時の人工尿通液速度」及び「i)及びii)の順で行われる試験で測定される接触角」を「1.0g/分以上15.0g/分以下」及び「33度以上70度以下」の範囲内とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえないから、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

(ウ)まとめ
したがって、本件特許発明1は甲4発明であるとはいえないし、また、甲4発明並びに甲8及び10を含め他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

ウ 本件特許発明2について
本件特許発明2は、請求項1を引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、甲4発明であるとはいえないし、また、甲4発明並びに甲8及び10を含め他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

エ 申立理由1のうち甲4に基づく新規性並びに申立理由2−8、申立理由2−9及び申立理由2−10についてのむすび
したがって、本件特許発明1及び2は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、また、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないので、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、同法第113条第2号に該当しないので、申立理由1のうち甲4に基づく新規性並びに申立理由2−8、申立理由2−9及び申立理由2−10によっては取り消すことはできない。

(5)申立理由1のうち甲6に基づく新規性及び申立理由2−12(甲6に基づく進歩性)について
ア 甲6に記載された事項及び甲6発明
(ア)甲6に記載された事項
甲6には、「吸水性樹脂組成物」に関して、おおむね次の事項が記載されている。

・「[0347] 〔製造例2〕
容量2Lのポリプロピレン製容器に、アクリル酸441.0g、内部架橋剤としてポリエチレングリコールジアクリレート(分子量523)0.768g(カルボキシル基含有不飽和単量体に対して0.024モル%)、1.0質量%のジエチレントリアミン5酢酸・3ナトリウム(DTPA・3Na)水溶液2.70g、48.5質量%の水酸化ナトリウム水溶液181.69g、および脱イオン水(イオン交換水)366.44gを投入し混合させて、単量体水溶液(a2’)を作製した。
[0348] 次に、前記単量体水溶液(a2’)を攪拌しながら冷却した。液温が39.5℃となった時点で、40℃に調温した48.5質量%の水酸化ナトリウム水溶液189.76gを加え、混合することで単量体水溶液(a2)を作製した。このとき、該単量体水溶液(a2)の作製直後の温度は、2段目の中和熱によって79.8℃まで上昇した。
[0349] 次に、攪拌状態の前記単量体水溶液(a2)に4.5質量%の過硫酸ナトリウム水溶液17.68gを加えた後、直ちにステンレス製バット型容器(底面340mm×340mm、高さ25mm、内面;テフロン(登録商標)コーティング)に大気開放系で注いだ。なお、2段目の中和開始から前記バット型容器に単量体水溶液(a2)を注ぎ込むまでの時間は、55秒間とし、前記バット型容器はホットプレート(NEO HOTPLATE HI−1000/株式会社井内盛栄堂社)を用いて、表面温度が40℃となるまで加熱した。
[0350] 前記単量体水溶液(a2)がバット型容器に注がれてから58秒経過後に、重合反応が開始した。前記重合反応は、生成する重合体が水蒸気を発生しながら四方八方に膨脹発泡して進行した後、バット型容器よりも若干大きなサイズまで収縮した。重合反応の開始から3分経過後に、含水ゲル(2)を取り出した。なお、これら一連の操作は、大気開放系で行った。
[0351] 前記重合反応で得られた含水ゲル(2)を、ミートチョッパー(HL−3225N、プレート孔径:10.0mm/レマコ株式会社)を用いてゲル粉砕し、粒子状の含水ゲル(2)とした。
[0352] 前記含水ゲル(2)の投入量は230g/minであり、前記含水ゲル(2)の投入と並行して、90℃に調温した脱イオン水を50g/minで添加しながらゲル粉砕を行った。
[0353] 前記操作で得られた粒子状の含水ゲル(2)を、目開き850μmのステンレス製の金網上に広げ、180℃で30分間、熱風を通気させることで乾燥した。続いて、乾燥処理で得られた乾燥重合体(2)をロールミル(WML型ロール粉砕機/有限会社井ノ口技研社)を用いて粉砕した後、目開き710μmおよび45μmのJIS標準篩で分級することにより、粒径710〜45μmの不定形破砕状の吸水性樹脂粒子(A2)を得た。吸水性樹脂粒子(A2)の遠心分離機保持容量(CRC)は48.3g/g、溶出可溶分量は24.6質量%であった。」

・「[0354] 〔実施例1〕
製造例1で得た、不定形粒子状の吸水性樹脂粒子(A1)(粒径:850〜150μm)100質量部に、エチレンカーボネート0.385質量部、プロピレングリコール0.644質量部、純水2.6質量部、および濃度10質量%のポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート溶液0.01質量部(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレートとして0.001質量部)を混合してなる表面処理剤溶液を均一に混合した。その後、混合物を200℃に加熱されたパドルミキサー中で加熱処理した。混合物の平均滞留時間は約50分であった。加熱物を冷却して、目開き850μmと150μmのJIS標準篩で分級することにより、表面架橋された吸水性樹脂粒子(1)を得た。なお、850μm篩上にあった表面架橋後の吸水性樹脂粒子(粒径850μmを超える凝集粒子)は850μm篩を通過するまで解砕した。
[0355] 次いで、表面架橋された吸水性樹脂粒子(1)100質量部に対し、純水1.0質量部およびジエチレントリアミン5酢酸・3ナトリウム(DTPA・3Na)0.01質量部を混合してなる溶液を、均一に混合した。その後、無風条件下、60℃で45分間加熱処理した後、850μmを超える凝集粒子は目開き850μmのJIS標準篩を通過するまで解砕し、850μm通過物の粒子状吸水性樹脂組成物(1)を得た。」

・「[0356] 〔実施例2〕吸水性樹脂の変更
実施例1において、製造例2で得た不定形粒子状の吸水性樹脂粒子(A2)(粒径:710〜45μm)100質量部を使用したこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、表面架橋された吸水性樹脂粒子(2)、および850μm通過物の粒子状吸水性樹脂組成物(2)を得た。」

・「[0376] 〔実施例23〕多価金属塩の添加
実施例2において、さらに、実施例2で得られた吸水性樹脂組成物(2)に、硫酸アルミニウム27.5質量%水溶液(酸化アルミニウム換算で8質量%)0.53質量部、乳酸ナトリウム60質量%水溶液0.16質量部、およびプロピレングリコール0.01質量部からなる混合液を添加した。得られた混合物を、無風条件下、60℃にて1時間乾燥させた後、目開き850μmのJIS標準篩を通過するまで解砕して、850μm通過物の粒子状吸水性樹脂組成物(23)を得た。」

(イ)甲6発明
甲6に記載された事項を、特に実施例23に関して整理すると、甲6には次の発明(以下、「甲6発明」という。)が記載されていると認める。

<甲6発明>
「容量2Lのポリプロピレン製容器に、アクリル酸441.0g、内部架橋剤としてポリエチレングリコールジアクリレート(分子量523)0.768g(カルボキシル基含有不飽和単量体に対して0.024モル%)、1.0質量%のジエチレントリアミン5酢酸・3ナトリウム(DTPA・3Na)水溶液2.70g、48.5質量%の水酸化ナトリウム水溶液181.69g、および脱イオン水(イオン交換水)366.44gを投入し混合させて、単量体水溶液(a2’)を作製し、次に、前記単量体水溶液(a2’)を攪拌しながら冷却し、液温が39.5℃となった時点で、40℃に調温した48.5質量%の水酸化ナトリウム水溶液189.76gを加え、混合することで単量体水溶液(a2)を作製し、このとき、該単量体水溶液(a2)の作製直後の温度は、2段目の中和熱によって79.8℃まで上昇し、次に、攪拌状態の前記単量体水溶液(a2)に4.5質量%の過硫酸ナトリウム水溶液17.68gを加えた後、直ちにステンレス製バット型容器(底面340mm×340mm、高さ25mm、内面;テフロン(登録商標)コーティング)に大気開放系で注ぎ、なお、2段目の中和開始から前記バット型容器に単量体水溶液(a2)を注ぎ込むまでの時間は、55秒間とし、前記バット型容器はホットプレート(NEO HOTPLATE HI−1000/株式会社井内盛栄堂社)を用いて、表面温度が40℃となるまで加熱し、前記単量体水溶液(a2)がバット型容器に注がれてから58秒経過後に、重合反応が開始し、前記重合反応は、生成する重合体が水蒸気を発生しながら四方八方に膨脹発泡して進行した後、バット型容器よりも若干大きなサイズまで収縮し、重合反応の開始から3分経過後に、含水ゲル(2)を取り出し、なお、これら一連の操作は、大気開放系で行い、前記重合反応で得られた含水ゲル(2)を、ミートチョッパー(HL−3225N、プレート孔径:10.0mm/レマコム株式会社)を用いてゲル粉砕し、粒子状の含水ゲル(2)とし、前記含水ゲル(2)の投入量は230g/minであり、前記含水ゲル(2)の投入と並行して、90℃に調温した脱イオン水を50g/minで添加しながらゲル粉砕を行い、前記操作で得られた粒子状の含水ゲル(2)を、目開き850μmのステンレス製の金網上に広げ、180℃で30分間、熱風を通気させることで乾燥し、続いて、乾燥処理で得られた乾燥重合体(2)をロールミル(WML型ロール粉砕機/有限会社井ノ口技研社)を用いて粉砕した後、目開き710μmおよび45μmのJIS標準篩で分級することにより、粒径710〜45μmの不定形破砕状の吸水性樹脂粒子(A2)を得、得た不定形粒子状の吸水性樹脂粒子(A2)100質量部に、エチレンカーボネート0.385質量部、プロピレングリコール0.644質量部、純水2.6質量部、および濃度10質量%のポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート溶液0.01質量部(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレートとして0.001質量部)を混合してなる表面処理剤溶液を均一に混合し、その後、混合物を200℃に加熱されたパドルミキサー中で加熱処理し、混合物の平均滞留時間は約50分であり、加熱物を冷却して、目開き850μmと150μmのJIS標準篩で分級することにより、表面架橋された吸水性樹脂粒子(1)を得、なお、850μm篩上にあった表面架橋後の吸水性樹脂粒子(粒径850μmを超える凝集粒子)は850μm篩を通過するまで解砕し、次いで、表面架橋された吸水性樹脂粒子(1)100質量部に対し、純水1.0質量部およびジエチレントリアミン5酢酸・3ナトリウム(DTPA・3Na)0.01質量部を混合してなる溶液を、均一に混合し、その後、無風条件下、60℃で45分間加熱処理した後、850μmを超える凝集粒子は目開き850μmのJIS標準篩を通過するまで解砕し、850μm通過物の粒子状吸水性樹脂組成物(2)を得、得た吸水性樹脂組成物(2)に、硫酸アルミニウム27.5質量%水溶液(酸化アルミニウム換算で8質量%)0.53質量部、乳酸ナトリウム60質量%水溶液0.16質量部、およびプロピレングリコール0.01質量部からなる混合液を添加し、得られた混合物を、無風条件下、60℃にて1時間乾燥させた後、目開き850μmのJIS標準篩を通過するまで解砕して、得た850μm通過物の粒子状吸水性樹脂組成物(23)。」

イ 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と甲6発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「(メタ)アクリル酸及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含むエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を有する架橋重合体を含む吸水性樹脂粒子であって、(メタ)アクリル酸及びその塩の割合が前記架橋重合体中の単量体単位全量に対して70〜100モル%である、吸水性樹脂粒子。」

そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点6>
本件特許発明1においては、「10倍膨潤時の人工尿通液速度が1.0g/分以上15.0g/分以下であり、生理食塩水保水量が35〜41g/gであり、かつ以下のi)及びii)の順で行われる試験で測定される接触角が33度以上70度以下であり、
生理食塩水吸水速度が20〜80秒であり、
4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水量が15ml/g以上23ml/g以下である」と特定されているのに対し、甲6発明においては、そのようには特定されていない点。

(イ)判断
そこで、相違点6について検討する。
甲16(甲6の実施例23の実験成績証明書)によると、甲6発明における「10倍膨潤時の人工尿通液速度」及び「生理食塩水吸水速度」はそれぞれ「15.8g/分」及び「83秒」であり、「1.0g/分以上15.0g/分以下」及び「20〜80秒」であるという条件を満たしていない。
したがって、甲6発明は、相違点6に係る本件特許発明1の発明特定事項を有しているといえず、相違点6は実質的な相違点である。
そして、甲6には、甲6発明において、「10倍膨潤時の人工尿通液速度」及び「生理食塩水吸水速度」に着目して、それらの値を調整する動機付けとなる記載はなく、他の証拠にもそのような記載はないから、甲6発明において、「10倍膨潤時の人工尿通液速度」及び「生理食塩水吸水速度」をそれぞれ「1.0g/分以上15.0g/分以下」及び「20〜80秒」の範囲内として、相違点6に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
また、本件特許発明1は「衛生用品として使用された際に、吸水後により素早くさらっとした感触が得られる吸水性樹脂が提供される」という甲6発明及び他の証拠に記載された事項からみて格別顕著な効果を奏するものである。

なお、特許異議申立人は、令和3年4月8日に提出された意見書において、甲6発明は本件特許発明1における「生理食塩水保水量」、「i)及びii)の順で行われる試験で測定される接触角」及び「4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水量」の要件を充足する蓋然性が高く、「10倍膨潤時の人工尿通液速度」及び「生理食塩水吸水速度」を、本件特許発明1において規定される範囲内に制御することは、当業者であれば容易に想到することができる旨主張するが、上記のとおり、甲6発明における「10倍膨潤時の人工尿通液速度」及び「生理食塩水吸水速度」をそれぞれ「1.0g/分以上15.0g/分以下」及び「20〜80秒」であるという条件を満たしておらず、また、甲6発明において、「10倍膨潤時の人工尿通液速度」及び「生理食塩水吸水速度」をそれぞれ「1.0g/分以上15.0g/分以下」及び「20〜80秒」の範囲内とすることは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえないから、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

(ウ)まとめ
したがって、本件特許発明1は甲6発明であるとはいえないし、また、甲6発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

ウ 本件特許発明2について
本件特許発明2は、請求項1を引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、甲6発明であるとはいえないし、また、甲6発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

エ 申立理由1のうち甲6に基づく新規性及び申立理由2−12についてのむすび
したがって、本件特許発明1及び2は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、また、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないので、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、同法第113条第2号に該当しないので、申立理由1のうち甲6に基づく新規性及び申立理由2−12によっては取り消すことはできない。

(6)申立理由1のうち甲7に基づく新規性及び申立理由2−13(甲7に基づく進歩性)について
ア 甲7に記載された事項及び甲7発明
(ア)甲7に記載された事項
甲7には、「吸収剤組成物および吸収体、並びに、吸収体を含む吸収物品」に関して、おおむね次の事項が記載されている。

・「【0100】〔実施例1〕中和率75モル%のアクリル酸ナトリウム(親水性不飽和単量体)39重量%水溶液5,500gに、内部架橋剤としてのトリメチロールプロパントリアクリレート3.59gを溶解させて反応液とした。次に、この反応液を、窒素ガス雰囲気下で30分間脱気した。次いで、シグマ型羽根を2本有する内容積10Lのジャケット付きステンレス製双腕型ニーダーに蓋を取り付けて形成した反応器に、上記の反応液を供給し、反応液を30℃に保ちながら系を窒素ガス置換した。」

・「【0108】〔実施例3〕アクリル酸20重量%水溶液5,500gに、内部架橋剤としてのN,N’−メチレンビスアクリルアミド2.35gを溶解させて反応液とした。次に、この反応液を、窒素ガス雰囲気下で30分間脱気した。次いで、実施例1の反応器と同様の反応器に、上記の反応液を供給し、反応液を30℃に保ちながら系を窒素ガス置換した。
【0109】続いて、反応液を攪拌しながら、過硫酸アンモニウム1.5gおよびL−アスコルビン酸0.07gを添加したところ、およそ1分後に重合が開始した。そして、30℃〜80℃で重合を行い、重合を開始してから60分後に、中和剤である炭酸ナトリウム606.7gを加えて攪拌し、中和した。その後、反応を終了して含水ゲル状重合体を取り出した。
【0110】得られた含水ゲル状重合体は、中和率が75モル%であり、その径が約5mmに細分化されていた。この細分化された含水ゲル状重合体を50メッシュの金網上に広げ、150℃で90分間熱風乾燥した。次いで、乾燥物を振動ミルを用いて粉砕し、さらに20メッシュの金網で分級することにより、平均粒子径が390μmで、しかも、粒子径が106μm未満の粒子の割合が4重量%の不定形破砕状の吸水性樹脂前駆体を得た。
【0111】得られた吸水性樹脂前駆体100重量部に、第一表面架橋剤としてのプロピレングリコール〔SP値:δ=12.6(cal/cm3)1/2〕0.75重量部と、第二表面架橋剤としてのプロピレングリコールジグリシジルエーテル〔SP値:δ=10.1(cal/cm3 )1/2 〕0.05重量部と、水3重量部と、エチルアルコール0.75重量部とからなる表面架橋剤溶液を混合した。上記の混合物を195℃で40分間加熱処理することにより、吸水性樹脂を得た。得られた吸水性樹脂の平均粒子径は390μmであり、粒子径が106μm未満の粒子の割合は3重量%であった。
【0112】次に、上記の吸水性樹脂100gに、水不溶性無機粉体としての微粒子状の親水性二酸化ケイ素(商品名・レオロシールQS−20;徳山曹達株式会社(現・株式会社トクヤマ)製)0.3gを添加・混合することにより、本発明にかかる吸収剤組成物を得た。」

(イ)甲7発明
甲7に記載された事項を、特に実施例3に関して整理すると、甲7には次の発明(以下、「甲7発明」という。)が記載されていると認める。

<甲7発明>
「アクリル酸20重量%水溶液5,500gに、内部架橋剤としてのN,N’−メチレンビスアクリルアミド2.35gを溶解させて反応液とし、次に、この反応液を、窒素ガス雰囲気下で30分間脱気し、次いで、シグマ型羽根を2本有する内容積10Lのジャケット付きステンレス製双腕型ニーダーに蓋を取り付けて形成した反応器に、上記の反応液を供給し、反応液を30℃に保ちながら系を窒素ガス置換し、続いて、反応液を攪拌しながら、過硫酸アンモニウム1.5gおよびL−アスコルビン酸0.07gを添加したところ、およそ1分後に重合が開始し、そして、30℃〜80℃で重合を行い、重合を開始してから60分後に、中和剤である炭酸ナトリウム606.7gを加えて攪拌し、中和し、その後、反応を終了して含水ゲル状重合体を取り出し、得られた含水ゲル状重合体は、中和率が75モル%であり、その径が約5mmに細分化されており、この細分化された含水ゲル状重合体を50メッシュの金網上に広げ、150℃で90分間熱風乾燥し、次いで、乾燥物を振動ミルを用いて粉砕し、さらに20メッシュの金網で分級することにより、平均粒子径が390μmで、しかも、粒子径が106μm未満の粒子の割合が4重量%の不定形破砕状の吸水性樹脂前駆体を得、得られた吸水性樹脂前駆体100重量部に、第一表面架橋剤としてのプロピレングリコール〔SP値:δ=12.6(cal/cm3)1/2〕0.75重量部と、第二表面架橋剤としてのプロピレングリコールジグリシジルエーテル〔SP値:δ=10.1(cal/cm3 )1/2 〕0.05重量部と、水3重量部と、エチルアルコール0.75重量部とからなる表面架橋剤溶液を混合し、上記の混合物を195℃で40分間加熱処理することにより、吸水性樹脂を得、次に、上記の吸水性樹脂100gに、水不溶性無機粉体としての微粒子状の親水性二酸化ケイ素(商品名・レオロシールQS−20;徳山曹達株式会社(現・株式会社トクヤマ)製)0.3gを添加・混合することにより、得た吸収剤組成物。」

イ 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と甲7発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「(メタ)アクリル酸及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含むエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を有する架橋重合体を含む吸水性樹脂粒子であって、(メタ)アクリル酸及びその塩の割合が前記架橋重合体中の単量体単位全量に対して70〜100モル%である、吸水性樹脂粒子。」

そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点7>
本件特許発明1においては、「10倍膨潤時の人工尿通液速度が1.0g/分以上15.0g/分以下であり、生理食塩水保水量が35〜41g/gであり、かつ以下のi)及びii)の順で行われる試験で測定される接触角が33度以上70度以下であり、
生理食塩水吸水速度が20〜80秒であり、
4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水量が15ml/g以上23ml/g以下である」と特定されているのに対し、甲7発明においては、そのようには特定されていない点。

(イ)判断
そこで、相違点7について検討する。
甲17(甲7の実施例3の実験成績証明書)によると、甲7発明における「i)及びii)の順で行われる試験で測定される接触角」は「32度」であり、「33度以上70度以下」であるという条件を満たしていない。
したがって、甲7発明は、相違点7に係る本件特許発明1の発明特定事項を有しているといえず、相違点7は実質的な相違点である。
そして、甲7には、甲7発明において、「i)及びii)の順で行われる試験で測定される接触角」に着目して、その値を調整する動機付けとなる記載はなく、他の証拠にもそのような記載はないから、甲7発明において、「i)及びii)の順で行われる試験で測定される接触角」を「33度以上70度以下」の範囲内として、相違点7に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
また、本件特許発明1は「衛生用品として使用された際に、吸水後により素早くさらっとした感触が得られる吸水性樹脂が提供される」という甲7発明及び他の証拠に記載された事項からみて格別顕著な効果を奏するものである。

なお、特許異議申立人は、令和3年4月8日に提出された意見書において、甲7発明は本件特許発明1における「10倍膨潤時の人工尿通液速度」、「生理食塩水吸水速度」及び「4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水量」の要件を充足する蓋然性が高く、「i)及びii)の順で行われる試験で測定される接触角」を、本件特許発明1において規定される範囲内に制御することは、当業者であれば容易に想到することができる旨主張するが、上記のとおり、甲7発明において、「i)及びii)の順で行われる試験で測定される接触角」を「33度以上70度以下」とすることは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえないから、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

(ウ)まとめ
したがって、本件特許発明1は甲7発明であるとはいえないし、また、甲7発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

ウ 本件特許発明2について
本件特許発明2は、請求項1を引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、甲7発明であるとはいえないし、また、甲7発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

エ 申立理由1のうち甲7に基づく新規性及び申立理由2−13についてのむすび
したがって、本件特許発明1及び2は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、また、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないので、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、同法第113条第2号に該当しないので、申立理由1のうち甲7に基づく新規性及び申立理由2−13によっては取り消すことはできない。

(7)申立理由2−14(甲9と甲4の組み合わせに基づく進歩性)、申立理由2−15(甲9と甲8の組み合わせに基づく進歩性)及び申立理由2−16(甲9と甲10の組み合わせに基づく進歩性)について
ア 甲9に記載された事項及び甲9発明
(ア)甲9に記載された事項
甲9には、「吸水性樹脂粒子、これを含む吸収体及び吸収性物品」に関して、おおむね次の記載がある。

・「【0096】
<吸収性樹脂粒子と生理食塩水との接触角の測定法>
水平な台の上に置いた内径8.5cm、高さ1.2cmのプラスチック製のシャーレに粒度を調整(粒子径500〜710μmの粒子が20重量%、粒子径300〜500μmの粒子が55重量%、粒子径150〜300μmの粒子が25重量%)した吸収性樹脂粒子をシャーレから粒子があふれる程度に流し入れる。次に、底面が平らな棒を用いて、シャーレの上辺に沿ってすり切ることにより、シャーレの上辺に吸収性樹脂粒子で形成された水平な表面を作製する。この吸収性樹脂粒子の水平な表面の中心部にスポイトを用いて、生理食塩水を一滴(約0.02g)滴下する。吸収性樹脂粒子と生理食塩水が接触した時間から計時を開始し、0.2秒後の吸収性樹脂粒子の水平な表面と生理食塩水との接触角を接触角とする。なお、接触角の測定は、吸収性樹脂粒子の水平な表面の中心部に生理食塩水を滴下する様子をこの水平な表面の延長面状に設置したビデオにより側面から撮影したビデオの画像を用いて行う。なお接触角はθ/2法を用いて決定する。また、滴下した液滴が吸収性樹脂に吸収され0.2秒後に水平な表面上に液滴が存在しなければ、接触角は0°とする。
なお、θ/2法とは、公知の方法であり、液滴の左右端点のいずれか一方と液滴の頂点とを結ぶ直線と、水平な表面との成す角の角度をθ/2とし、そのθ/2の値を2倍したものを接触角とし接触角を求める方法である。
なお、測定は25±2℃、湿度50±10%の室内でおこなう。」

・「【0110】
<実施例1>
水溶性ビニルモノマー(a1−1){アクリル酸、三菱化学株式会社製、純度100%}155部(2.15モル部)、架橋剤(b1){ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、ダイソ−株式会社製}0.6225部(0.0024モル部)及び脱イオン水340.27部を攪拌・混合しながら3℃に保った。この混合物中に窒素を流入して溶存酸素量を1ppm以下とした後、1%過酸化水素水溶液0.62部、2%アスコルビン酸水溶液1.1625部及び2%の2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−プロピオンアミド]水溶液2.325部を添加・混合して重合を開始させた。混合物の温度が90℃に達した後、90±2℃で約5時間重合することにより含水ゲル(1)を得た。
次にこの含水ゲル(1)502.27部をミンチ機(ROYAL社製12VR−400K)で細断しながら48.5%水酸化ナトリウム水溶液128.42部を添加して混合し、引き続き疎水性物質(C−1){トスパール120(不定形シリコーン樹脂微粉末、体積平均粒径2μm)}1.9部を添加して混合し、細断ゲル(2)を得た。さらに細断ゲル(2)を通気型バンド乾燥機{150℃、風速2m/秒}で乾燥し、乾燥体を得た。乾燥体をジューサーミキサー(Oster社製OSTERIZER BLENDER)にて粉砕した後、目開き150及び710μmのふるいを用いて150〜710μmの粒度に調整することにより、乾燥体粒子を得た。この乾燥体粒子100部を高速攪拌(細川ミクロン製高速攪拌タービュライザー:回転数2000rpm)しながらエチレングリコールジグリシジルエーテルの2%水/メタノール混合溶液(水/メタノールの重量比=70/30)の5部をスプレー噴霧しながら加えて混合し、150℃で30分間静置して表面架橋することにより、乾燥樹脂粒子を得た。この乾燥樹脂粒子に、疎水性物質(C−2){ステアリン酸、粒子径約1mm}0.01部を添加してベンチ式ニーダー(HITACHI社製PNV−1)を用いて80℃で30分撹拌させることにより、吸収性樹脂粒子(1)を得た。吸収性樹脂粒子(1)の重量平均粒子径は400μmであり、見掛け密度は0.58g/mlであった。また、吸収性樹脂粒子の生理食塩水との接触角は30°であった。」

(イ)甲9発明
甲9に記載された事項を、特に実施例1に関して整理すると、甲9には次の発明(以下、「甲9発明」という。)が記載されていると認める。

<甲9発明>
「水溶性ビニルモノマー(a1−1){アクリル酸、三菱化学株式会社製、純度100%}155部(2.15モル部)、架橋剤(b1){ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、ダイソ−株式会社製}0.6225部(0.0024モル部)及び脱イオン水340.27部を攪拌・混合しながら3℃に保ち、この混合物中に窒素を流入して溶存酸素量を1ppm以下とした後、1%過酸化水素水溶液0.62部、2%アスコルビン酸水溶液1.1625部及び2%の2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−プロピオンアミド]水溶液2.325部を添加・混合して重合を開始し、混合物の温度が90℃に達した後、90±2℃で約5時間重合することにより含水ゲル(1)を得、次にこの含水ゲル(1)502.27部をミンチ機(ROYAL社製12VR−400K)で細断しながら48.5%水酸化ナトリウム水溶液128.42部を添加して混合し、引き続き疎水性物質(C−1){トスパール120(不定形シリコーン樹脂微粉末、体積平均粒径2μm)}1.9部を添加して混合し、細断ゲル(2)を得、さらに細断ゲル(2)を通気型バンド乾燥機{150℃、風速2m/秒}で乾燥し、乾燥体を得、乾燥体をジューサーミキサー(Oster社製OSTERIZER BLENDER)にて粉砕した後、目開き150及び710μmのふるいを用いて150〜710μmの粒度に調整することにより、乾燥体粒子を得、この乾燥体粒子100部を高速攪拌(細川ミクロン製高速攪拌タービュライザー:回転数2000rpm)しながらエチレングリコールジグリシジルエーテルの2%水/メタノール混合溶液(水/メタノールの重量比=70/30)の5部をスプレー噴霧しながら加えて混合し、150℃で30分間静置して表面架橋することにより、乾燥樹脂粒子を得、この乾燥樹脂粒子に、疎水性物質(C−2){ステアリン酸、粒子径約1mm}0.01部を添加してベンチ式ニーダー(HITACHI社製PNV−1)を用いて80℃で30分撹拌させることにより、得た吸収性樹脂粒子の生理食塩水との接触角は30°である吸収性樹脂粒子(1)。」

イ 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲9発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「(メタ)アクリル酸及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含むエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を有する架橋重合体を含む吸水性樹脂粒子であって、(メタ)アクリル酸及びその塩の割合が前記架橋重合体中の単量体単位全量に対して70〜100モル%である、吸水性樹脂粒子。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点9>
本件特許発明1においては、「10倍膨潤時の人工尿通液速度が1.0g/分以上15.0g/分以下であり、生理食塩水保水量が35〜41g/gであり、かつ以下のi)及びii)の順で行われる試験で測定される接触角が33度以上70度以下であり、
生理食塩水吸水速度が20〜80秒であり、
4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水量が15ml/g以上23ml/g以下である」と特定されているのに対し、甲9発明においては、そのようには特定されていない点。

(イ)判断
そこで、相違点9について検討する。
甲9には、「10倍膨潤時の人工尿通液速度」、「生理食塩水保水量」、「生理食塩水吸水速度」及び「4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水量」に関する記載はない。
また、甲9の記載事項(【0096】)によると、甲9における「接触角」の測定方法は、本件特許発明1における「i)及びii)の順で行われる試験で測定される接触角」の測定方法とは異なるから、甲9には、「i)及びii)の順で行われる試験で測定される接触角」に関する記載もない。
そうすると、甲9には、甲9発明において、「10倍膨潤時の人工尿通液速度」、「生理食塩水保水量」、「i)及びii)の順で行われる試験で測定される接触角」、「生理食塩水吸水速度」及び「4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水量」に着目して、それらの値を調整する動機付けとなる記載はなく、甲4及び10を含め他の証拠にもそのような記載はないから、甲9発明において、相違点9に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
また、本件特許発明1は「衛生用品として使用された際に、吸水後により素早くさらっとした感触が得られる吸水性樹脂が提供される」という甲9発明並びに甲4及び10を含め他の証拠に記載された事項からみて格別顕著な効果を奏するものである。

(ウ)まとめ
したがって、本件特許発明1は甲9発明並びに甲4及び10を含め他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

ウ 本件特許発明2について
本件特許発明2は、請求項1を引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、甲9発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

エ 申立理由2−14、2−15及び2−16についてのむすび
したがって、本件特許発明1及び2は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないので、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、同法第113条第2号に該当しないので、申立理由2−14、2−15及び2−16によっては取り消すことはできない。

2 申立理由3(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。

(2)特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は、上記第3のとおりである。

(3)発明の詳細な説明の記載
本件特許の発明の詳細の記載は次のとおりである。

・「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
おむつ等の吸収性物品は、肌に直接触れて使用されるものであるため、液を吸収した後の吸収性物品の表面に水分が留まらず、素早く乾燥してさらっとした感触になることが好ましい。しかしながら、このような性質を十分に有する吸収性物品をもたらす吸水性樹脂粒子は得られていない。
【0005】
本発明は、衛生用品として使用された際に、吸水後により素早くさらっとした感触を得られる吸水性樹脂粒子を提供することを目的とする。」

・「【発明の効果】
【0009】
本発明により、衛生用品として使用された際に、吸水後により素早くさらっとした感触を得られる吸水性樹脂粒子を提供される。」

・「【0012】
本明細書において、「アクリル」及び「メタクリル」を合わせて「(メタ)アクリル」と表記する。「アクリレート」及び「メタクリレート」も同様に「(メタ)アクリレート」と表記する。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値と任意に組み合わせることができる。本明細書に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。「水溶性」とは、25℃において水に5質量%以上の溶解性を示すことをいう。本明細書に例示する材料は、単独で用いられてもよく、2種以上を組み合わせて用いられてもよい。組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0013】
本実施形態に係る吸水性樹脂粒子は、10倍膨潤時の人工尿通液速度が1.0g/分以上である。10倍膨潤時の人工尿通液速度は、本発明の効果をより高める観点から、1.5g/分以上、2.0g/分以上、又は3.0g/分以上であってよい。10倍膨潤時の人工尿通液速度は、35.0g/分以下であってよく、30.0g/分以下であることが好ましい。また、10倍膨潤時の人工尿通液速度は、20.0g/分以下、15.0g/分以下、又は12.5g/分以下であってもよい。10倍膨潤時の人工尿通液速度は、後述する実施例に記載の方法で測定される値として定義される。なお、本明細書において、人工尿は、0.780質量%の塩化ナトリウム、0.022質量%の塩化カルシウム、及び0.038質量%の硫酸マグネシウム、及び0.002質量%の青色一号と、水とからなる水溶液である。
【0014】
本実施形態に係る吸水性樹脂粒子は、下のi)及びii)の順で行われる試験で測定される接触角が70度以下である。
i)25℃において、吸水性樹脂粒子からなる層の表面上に、25質量%食塩水の直径3.0±0.1mmに相当する球状液滴を滴下して、当該吸水性樹脂粒子と上記液滴とを接触させる。
ii)上記液滴が上記表面に接触してから、30秒後の時点の上記液滴の接触角を測定する。
【0015】
接触角は、本発明の効果をより高める観点から、65度以下、55度以下、又は45度以下であってよい。また、接触角は、0度以上であっても、0度を超えてもよく、10度以上、又は20度以上であってよい。接触角は30度以上であることが好ましい。
【0016】
接触角は、JIS R 3257(1999)「基盤ガラス表面のぬれ性試験方法」に準じて測定される値であり、具体的には、後述する実施例に記載の方法により測定される。
【0017】
本実施形態に係る吸水性樹脂粒子は、10倍膨潤時の人工尿通液速度及び上記接触角が所定範囲内であることによって、衛生用品として用いた際に、吸水後の水の引き込みが速く、吸収性物品の表面において早期にさらっとした乾いた感触を得ることができる。本実施形態に係る吸水性樹脂粒子は、粒子表面の親水性が十分に高く、ぬれ性に優れるため、粒子内部への水の引き込み力に優れる。
【0018】
本実施形態に係る吸水性樹脂粒子は、生理食塩水に対する高い吸水能を有することができる。本実施形態に係る吸水性樹脂粒子の生理食塩水の保水量は、例えば、20〜60g/g、25〜55g/g、25〜50g/g、25〜45g/g、30〜45g/g、又は32〜42g/gであってよい。生理食塩水の保水量は、後述する実施例に記載の方法によって測定される。
【0019】
本実施形態に係る吸水性樹脂粒子の4.14kPa(0.6psi)荷重下での生理食塩水吸水量(荷重下吸水量)は、例えば、15ml/g以上であってよく、18ml/g以上、又は20ml/g以上であってもよい。4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水量は、例えば、35ml/g以下、又は30ml/g以下であってもよい。4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水量は、後述する実施例に記載の方法によって測定される。」

・「【0021】
本実施形態に係る吸水性樹脂粒子の生理食塩水吸水速度は、例えば20〜80秒であってよく、25〜70秒、又は30〜60秒であってもよい。生理食塩水吸水速度は、次の方法によって測定する。25℃±1℃に調節した室内で、100ml容ビーカー内に入れた生理食塩水50±0.1gを恒温水槽にて25±0.2℃の温度に調整したのち、マグネチックスターラーバー(8mmφ×30mm、リング無し)で600rpmに攪拌して渦を発生させる。吸水性樹脂粒子2.0±0.002gを、上記生理食塩水中に一度に添加し、吸水性樹脂粒子の添加後から、渦が消失し液面が平坦になるまでの時間(秒)を測定し、当該時間を吸水性樹脂粒子の生理食塩水吸水速度とする。」

・「【0024】
エチレン性不飽和単量体は水溶性であることが好ましく、例えば、(メタ)アクリル酸及びその塩、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及びその塩、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。エチレン性不飽和単量体がアミノ基を含有する場合には、当該アミノ基は4級化されていてもよい。上記単量体が有するカルボキシル基及びアミノ基等の官能基は、後述する表面架橋工程において架橋が可能な官能基として機能しうる。これらのエチレン性不飽和単量体は、単独で用いられてもよく、2種以上を組み合わせて用いられてもよい。
【0025】
これらの中でも、工業的に入手が容易という観点から、エチレン性不飽和単量体は、(メタ)アクリル酸及びその塩、アクリルアミド、メタクリルアミド並びにN,N−ジメチルアクリルアミドからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含むことが好ましく、(メタ)アクリル酸及びその塩、並びにアクリルアミドからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含むことがより好ましい。吸水特性をより高める観点から、エチレン性不飽和単量体は、(メタ)アクリル酸及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含むことが更に好ましい。
【0026】
単量体としては、上記のエチレン性不飽和単量体以外の単量体が一部使用されてもよい。このような単量体は、例えば、上記エチレン性不飽和単量体を含む水溶液に混合して用いることができる。エチレン性不飽和単量体の使用量は、単量体全量に対し70〜100モル%であることが好ましい。中でも(メタ)アクリル酸及びその塩が、単量体全量に対し70〜100モル%であることがより好ましい。」

・「【実施例】
【0081】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0082】
<吸水性樹脂粒子の製造>
[実施例1]
還流冷却器、滴下ロート、窒素ガス導入管、及び、攪拌機として、翼径5cmの4枚傾斜パドル翼を2段で有する攪拌翼を備えた内径11cm、2L容の丸底円筒型セパラブルフラスコを準備した。このフラスコに、炭化水素分散媒としてn−ヘプタン293gをとり、高分子系分散剤として無水マレイン酸変性エチレン・プロピレン共重合体(三井化学株式会社、ハイワックス1105A)0.736gを添加した。フラスコ内の反応液を攪拌しつつ80℃まで昇温して高分子系分散剤を溶解した。その後、反応液を50℃まで冷却した。
【0083】
一方、内容積300mlのビーカーに、エチレン性不飽和単量体として80.5質量%のアクリル酸水溶液92.0g(1.03モル)をとり、外部より冷却しつつ、20.9質量%の水酸化ナトリウム水溶液147.7gを滴下して75モル%の中和を行った後、増粘剤としてヒドロキシルエチルセルロース0.092g(住友精化株式会社、HEC AW−15F)、ラジカル重合開始剤として2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)2塩酸塩0.092g(0.339ミリモル)、及び過硫酸カリウム0.018g(0.068ミリモル)、内部架橋剤としてエチレングリコールジグリシジルエーテル0.010g(0.057ミリモル)を加えて溶解し、第1段目の水性液を調製した。
【0084】
調製した水性液を上記セパラブルフラスコ内の反応液に添加して10分間攪拌した。次いで、n−ヘプタン6.62gに界面活性剤としてショ糖ステアリン酸エステル(HLB:3、三菱化学フーズ株式会社、リョートーシュガーエステルS−370)0.736gを加熱溶解した界面活性剤溶液を、反応液に更に添加して、撹拌機の回転数を550rpmとして攪拌しながら系内を窒素で十分に置換した。その後、フラスコを70℃の水浴に浸漬して昇温し、重合を60分間行うことにより、第1段目の重合スラリー液を得た。
【0085】
一方、別の内容積500mlのビーカーにエチレン性不飽和単量体として80.5質量%のアクリル酸水溶液128.8g(1.43モル)をとり、外部より冷却しつつ、27質量%の水酸化ナトリウム水溶液159.0gを滴下して75モル%の中和を行った。その後、ラジカル重合開始剤として2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)2塩酸塩0.129g(0.475ミリモル)、及び過硫酸カリウム0.026g(0.095ミリモル)を加えて溶解し、第2段目の水性液を調製した。
【0086】
撹拌機の回転数を1000rpmとして撹拌しながら、上記のセパラブルフラスコ系内を25℃に冷却した。次いで、上記第2段目の水性液の全量を、上記セパラブルフラスコ内の第1段目の重合スラリー液に添加して、系内を窒素で30分間置換した。その後、再度、フラスコを70℃の水浴に浸漬して昇温し、重合反応を60分間行った。その後、重合後架橋のための架橋剤として2質量%のエチレングリコールジグリシジルエーテル水溶液0.580g(0.067ミリモル)を添加し、含水ゲル状重合体を得た。
【0087】
第2段目の重合後の含水ゲル状重合体を含む反応液に、45質量%のジエチレントリアミン5酢酸5ナトリウム水溶液0.265gを攪拌下で添加した。その後、125℃に設定した油浴にフラスコを浸漬し、n−ヘプタンと水との共沸蒸留により、n−ヘプタンを還流しながら、238.5gの水を系外へ抜き出した。その後、フラスコに表面架橋剤として2質量%のエチレングリコールジグリシジルエーテル水溶液4.42g(0.507ミリモル)を添加し、83℃で2時間保持した。
【0088】
その後、n−ヘプタンを125℃にて蒸発させて乾燥させることによって、重合体粒子(乾燥品)を得た。この重合体粒子を目開き850μmの篩に通過させ、重合体粒子の質量に対して0.2質量%の非晶質シリカ(オリエンタルシリカズコーポレーション、トクシールNP−S)を重合体粒子と混合し、非晶質シリカを含む吸水性樹脂粒子を232.1g得た。該吸水性樹脂粒子の中位粒子径は396μm、生理食塩水の吸水速度は39秒であった。内部架橋剤量に対する外部架橋剤量の比(架橋比率)は、10.1であった。なお、内部架橋剤量は、1回又は2回添加される内部架橋剤の合計量(ミリモル)であり、外部架橋剤量は、重合後架橋剤量と表面架橋剤量との合計量(ミリモル)である。
【0089】
[実施例2]
重合体粒子(乾燥品)に対する非晶質シリカの混合量を2.0質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、吸水性樹脂粒子236.3gを得た。該吸水性樹脂粒子の中位粒子径は393μm、生理食塩水の吸水速度は38秒であった。架橋比率は10.1であった。
【0090】
[実施例3]
第1段目の水性液の調製において、ラジカル重合開始剤としての過硫酸カリウムの量を0.0736g(0.272ミリモル)に変更したこと、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)2塩酸塩を加えなかったこと、第2段目の水性液の調製において、ラジカル重合開始剤としての過硫酸カリウムの量を0.090g(0.334ミリモル)に変更したこと、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)2塩酸塩を加えなかったこと、第2段目重合後の含水ゲル状重合体を含む反応液において、共沸蒸留により系外へ抜き出す水の量を247.9gに変更したこと、及び、重合体粒子に対する非晶質シリカの混合量を0.5質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、吸水性樹脂粒子231.0gを得た。該吸水性樹脂粒子の中位粒子径は355μm、生理食塩水の吸水速度は37秒であった。架橋比率は10.1であった。
【0091】
[参考例1]
第1段目の水性液の調製において、ラジカル重合開始剤としての過硫酸カリウムの量を0.0736g(0.272ミリモル)に変更したこと、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)2塩酸塩を加えなかったこと、第2段目の水性液の調製において、ラジカル重合開始剤としての過硫酸カリウムの量を0.090g(0.334ミリモル)に変更したこと、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)2塩酸塩を加えなかったこと、第2段目の重合後の含水ゲル状重合体を含む反応液において、共沸蒸留により系外へ抜き出す水の量を239.7gに変更したこと、及び、重合体粒子対する非晶質シリカの混合量を0.5質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、吸水性樹脂粒子229.2gを得た。該吸水性樹脂粒子の中位粒子径は377μm、生理食塩水の吸水速度は40秒であった。架橋比率は10.1であった。
【0092】
[参考例2]
第1段目の水性液の調製において、内部架橋剤としてのエチレングリコールジグリシジルエーテルの量を0.0046g(0.026ミリモル)に変更したこと、第2段目の重合後の含水ゲル状重合体を含む反応液において、共沸蒸留により系外へ抜き出す水の量を219.2gに変更したこと、及び、表面架橋剤としての2質量%のエチレングリコールジグリシジルエーテル水溶液の量を6.62g(0.761ミリモル)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、吸水性樹脂粒子229.6gを得た。該吸水性樹脂粒子の中位粒子径は356μm、生理食塩水の吸水速度は56秒であった。架橋比率は31.8であった。
【0093】
[比較例1]
第1段目の水性液の調製において、内部架橋剤としてのエチレングリコールジグリシジルエーテルの量を0.0046g(0.026ミリモル)に変更したこと、第2段目の水性液の調製において、内部架橋剤としてのエチレングリコールジグリシジルエーテルを0.0116g(0.067ミリモル)添加したしたこと、重合後架橋のための架橋剤を添加しなかったこと、及び、第2段目の重合後の含水ゲル状重合体を含む反応液において、共沸蒸留により系外へ抜き出す水の量を234.2gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、吸水性樹脂粒子229.6gを得た。該吸水性樹脂粒子の中位粒子径は355μm、生理食塩水の吸水速度は48秒であった。架橋比率は5.5であった。
【0094】
[比較例2]
第1段目の水性液の調製において、内部架橋剤としてのエチレングリコールジグリシジルエーテルの量を0.0368g(0.211ミリモル)に変更したこと、第2段目の水性液の調製において、内部架橋剤としてのエチレングリコールジグリシジルエーテルの量を0.0515g(0.296ミリモル)に変更したこと、重合後架橋のための架橋剤を添加しなかったこと、及び、第2段目の重合後の含水ゲル状重合体において、共沸蒸留により抜き出す水の量を286.9gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、吸水性樹脂粒子222.2gを得た。該粒子の中位粒子径は396μm、生理食塩水の吸水速度は67秒であった。架橋比率は1.0であった。
【0095】
[比較例3]
還流冷却器、滴下ロート、窒素ガス導入管、及び、攪拌機として、翼径5cmの4枚傾斜パドル翼を2段で有する攪拌翼を備えた内径11cm、2L容の丸底円筒型セパラブルフラスコを準備した。このフラスコに、炭化水素分散媒としてシクロヘキサン281gをとり、エチルセルロース(Ashland製、Aqualon N100)0.564gを添加し、攪拌機の回転数を700rpmとして攪拌しながら、系内に窒素ガスを吹き込んで溶存酸素を追い出し、フラスコを80℃の水浴に浸漬して75℃まで昇温した。
【0096】
一方、内容積300mlのビーカーに、エチレン性不飽和単量体として100%アクリル酸92.0g(1.28モル)をとり、外部より冷却しつつ、27質量%水酸化ナトリウム水溶液142.0gを滴下して、75モル%の中和を行った後、ラジカル重合開始剤として過硫酸カリウム0.184g(0.681ミリモル)を水14.8gに溶解させたものを添加溶解した後、窒素ガスを吹き込み水溶液内に残存する酸素を除去し、単量体水溶液を調製した。
【0097】
調製した単量体水溶液を、上記のセパラブルフラスコ系内にチューブポンプを用いて1時間かけて滴下し、重合反応を行った。重合後、攪拌機の回転数を1000rpmとして攪拌しながら、125℃に設定した油浴にフラスコを浸漬し、シクロヘキサンと水との共沸蒸留により、シクロヘキサンを還流しながら、107.2gの水を系外へ抜き出した。
【0098】
その後、フラスコに表面架橋剤としてポリグリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセ化成工業株式会社製、デナコールEX−512)0.036g(0.176ミリモル)を水3.61gに溶解・添加し、油浴で加熱しながら75〜80℃で1時間反応させた。反応後すぐに、シクロヘキサン相を目開き38μm篩で濾別して除き、吸水性樹脂含水物を得た。
【0099】
この吸水性樹脂含水物を90℃設定の減圧乾燥機で0.006MPaに加熱減圧下で乾燥させ、重合体粒子を得た。これらを850μmの目開きの篩に通過させ、重合体粒子(乾燥品)の質量に対して0.5質量%の非晶質シリカ(オリエンタルシリカズコーポレーション、トクシールNP−S)を重合体粒子に混合し、非晶質シリカを含む吸水性樹脂粒子105.1gを得た。該吸水性樹脂粒子の中位粒子径は310μm、生理食塩水の吸水速度は78秒であった。内部架橋剤を使用しなかったため架橋比率は算出できなかった。
【0100】
得られた吸水性樹脂粒子について、以下の方法により、接触角、10倍膨潤時の人工尿通液速度、荷重下での生理食塩水吸水量、生理食塩水保水量、中位粒子径、表面乾燥指数、及び吸水速度を評価した。
【0101】
<接触角の測定>
接触角の測定は温度25℃、相対湿度60±10%の環境下で行なった。ガラス製プレパラート(25mm×75mm)に両面テープ(ニチバン製内スタック:10mm×75mm)を添付し、粘着面が露出したものを用意した。まず、上記プレパラートに添付された両面テープ上に吸水性樹脂粒子2.0gを均一に散布した。その後、プレパラートを垂直に立てて、余剰の吸水性樹脂粒子を除き、測定用サンプルを調製した。
【0102】
接触角計(協和界面科学製:Face s−150)は、上下方向に可動な試料載置用ステージと、その上部に設置されたシリンジ部と、ステージを水平に観察できるスコープ部からなっている。接触角の測定は、このような接触角計を用いて以下の手順で行った。
まず、上記シリンジ(容量1ml)の鉛直下のステージ部に測定用サンプルを載置した。接触角計のスコープを用いて、25質量%食塩水の直径3mmの球状液滴をシリンジ先端部に調製した。当該球状液滴の直径は±0.1mmまで許容した。ステージを上方に動かし、調製した液滴をサンプルの表面が平滑な場所に、接触させた(その時点をt=0(秒)とする)。t=30(秒)の時点での上記食塩水液滴と両面テープ表面との接触面における左右端点と頂点を結ぶ直線の両面テープ表面に対する角度を、接触角計のレンズで読み取り、その角度をθ/2とした。これを2倍することによって接触角θを求めた。測定は5回繰り返し、平均した値を、その吸水性樹脂粒子の接触角とした。なお、角度の読み取り方法は、JIS R 3257(1999)「基盤ガラス表面のぬれ性試験方法」に準拠している。結果を表1に示す。
【0103】
<人工尿の調製>
イオン交換水に、下記のとおりに無機塩が存在するように配合して溶解させたものに、更に少量の青色1号を配合して人工尿(試験液)を調製した。下記の濃度は、人工尿の全質量を基準とする濃度である。
人工尿組成
NaCl:0.780質量%
CaCl2:0.022質量%
MgSO4:0.038質量%
青色一号:0.002質量%
【0104】
<10倍膨潤時の人工尿通液速度の測定>
(a)測定装置の設置
測定装置として、図2に概略構成を示したものを用いた。測定部は、ナイロンメッシュシート(250メッシュ)64が接着された、内径19mm、外径25mm、高さ120mmで、約30gの重さを有するアクリル樹脂製の円筒状容器(A)61と、同様のナイロンメッシュシート63が接着された、内径26mm、外径40mm、高さ140mmのアクリル樹脂製円筒状容器(B)62と膨潤させた吸水性樹脂粒子10aとから形成され、円筒状容器(B)は円筒状容器(A)の内部を上下に抵抗無く動くことができる。シャーレ66は、内径が約70mmの大きさを有している。
【0105】
(b)通液速度の測定
測定は、約25℃の室温で行った。円筒状容器(B)62に、吸水性樹脂粒子0.20gを均一に入れ、上部から円筒状容器(A)61を挿入し、測定部を形成した。人工尿1.8g入れた内径30mmのシャーレに、測定部のメッシュ側を浸漬して10分間膨潤させ、吸水性樹脂粒子を10倍膨潤させた。
【0106】
空のシャーレ66上に、乾燥した目開き1.4mm(100mm×100mm)の金網67を載置した状態で質量(Wa)を測定した。次に、金網67の中心部に膨潤させた吸水性樹脂粒子10aを含む測定部を載置した。次いで、円筒状容器(A)61の上部から人工尿20gを添加すると同時にストップウォッチをスタートさせた。人工尿投入から30秒後、吸水性樹脂粒子10aを含む測定部を金網67上から外し、投入から30秒間(0.5分間)が経過するまでに、膨潤させた吸水性樹脂粒子10aを通過して流出した人工尿65を含むシャーレ66と金網67の合計質量(Wb)を測定し、人工尿通液速度(g/分)を、以下の式により求めた。結果を表1に示す。
人工尿通液速度(g/分)=(Wb−Wa)/0.5
【0107】
<4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水量の測定>
4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水量(荷重下吸水量)は、図3に概略を示す測定装置を用いて測定した。測定は、1種の吸水性樹脂粒子について2回行い、平均値を求めた。測定装置は、ビュレット部1、クランプ3、導管5、架台11、測定台13、及び測定台13上に置かれた測定部4を備えている。ビュレット部1は、目盛が記載されたビュレット管21と、ビュレット管21の上部の開口を密栓するゴム栓23と、ビュレット管21の下部の先端に連結されたコック22と、ビュレット管21の下部に連結された空気導入管25及びコック24とを有する。ビュレット部1はクランプ3で固定されている。平板状の測定台13は、その中央部に形成された直径2mmの貫通孔13aを有しており、高さが可変の架台11によって支持されている。測定台13の貫通孔13aとビュレット部1のコック22とが導管5によって連結されている。導管5の内径は6mmである。
【0108】
測定部4は、プレキシグラス製の円筒31、円筒31の一方の開口部に接着されたポリアミドメッシュ32、及び円筒31内で上下方向に可動な重り33を有している。円筒31は、ポリアミドメッシュ32を介して、測定台13上に載置されている。円筒31の内径は20mmである。ポリアミドメッシュ32の目開きは、75μm(200メッシュ)である。重り33は、直径19mm、質量119.6gであり、後記するようにポリアミドメッシュ32上に均一に配置された吸水性樹脂粒子10aに対して4.14kPa(0.6psi)の荷重を加えることができる。
【0109】
図3に示す測定装置による4.14kPa荷重下の生理食塩水吸水能の測定は、25℃の室内で行なった。まず、ビュレット部1のコック22及びコック24を閉め、25℃に調節された0.9質量%生理食塩水をビュレット管21上部の開口からビュレット管21に入れた。次に、ゴム栓23でビュレット管21の上部開口を密栓した後、コック22及びコック24を開けた。気泡が入らないよう導管5内部を0.9質量%食塩水50で満たした。貫通孔13a内に到達した0.9質量%食塩水の水面の高さが、測定台13の上面の高さと同じになるように、測定台13の高さを調整した。調整後、ビュレット管21内の0.9質量%食塩水50の水面の高さをビュレット管21の目盛で読み取り、その位置をゼロ点(0秒時点の読み値)とした。
【0110】
測定部4では、円筒31内のポリアミドメッシュ32上に0.10gの吸水性樹脂粒子10aを均一に配置し、吸水性樹脂粒子10a上に重り33を配置し、円筒31を、その中心部が測定台13中心部の導管口に一致するように設置した。吸水性樹脂粒子10aが導管5からの生理食塩水を吸水し始めた時から60分後のビュレット管21内の生理食塩水の減少量(すなわち、吸水性樹脂粒子10aが吸水した生理食塩水量)Wc(ml)を読み取り、以下の式により吸水性樹脂粒子10aの4.14kPa荷重下の生理食塩水吸水能を算出した。結果を表1に示す。
4.14kPa荷重下の生理食塩水吸水能(ml/g)=Wc(ml)/吸水性樹脂粒子の質量(g)
【0111】
<生理食塩水保水量の測定>
吸水性樹脂粒子2.0gを量り取った綿袋(メンブロード60番、横100mm×縦200mm)を500ml容のビーカー内に設置した。吸水性樹脂粒子の入った綿袋中に0.9質量%塩化ナトリウム水溶液(生理食塩水)500gをママコができないように一度に注ぎ込み、綿袋の上部を輪ゴムで縛り、30分静置させることで吸水性樹脂粒子を膨潤させた。30分経過後の綿袋を、遠心力が167Gとなるよう設定した脱水機(株式会社コクサン製、品番:H−122)を用いて1分間脱水し、脱水後の膨潤ゲルを含んだ綿袋の質量Wd(g)を測定した。吸水性樹脂粒子を添加せずに同様の操作を行い、綿袋の湿潤時の空質量We(g)を測定し、以下の式から生理食塩水保水量を算出した。結果を表1に示す。
生理食塩水保水量(g/g)=[Wd−We]/2.0」

・「【0115】
<コルネオメーター測定>
[吸収性物品の作製]
気流型混合装置(有限会社オーテック社製、パッドフォーマー)を用いて、吸水性樹脂粒子13.3g及び粉砕パルプ12.9gを空気抄造によって均一混合することにより、40cm×12cmの大きさのシート状の吸収体を作製した。次に、当該吸収体と同じ大きさを有する坪量16g/m2の2枚のティッシュッペーパーをコアラップとして吸収体の上下を挟んだ状態で全体に588kPaの荷重を30秒間加えてプレスすることにより積層体を得た。さらに、上記吸収体と同じ大きさを有する坪量22g/m2のポリエチレン−ポリプロピレン製のエアスルー型多孔質液体透過性シートを上記積層体の上面に配置し、さらに、上記吸収体と同じ大きさを有するポリエチレン製液体不透過性シートを、エアスルー型多孔質液体透過性シートとは反対側の面に貼り付けることにより、吸収性物品を作製した。
【0116】
[コルネオメーター測定]
コルネオメーター測定は、静電容量測定法に基づき物体表面の水分量を測定する方法である。静電容量測定法では、水の誘電率とその他の物質の誘電率とが有意な差を有することを利用して水分量を測定することができる。コルネオメーター測定では0から120までの指数で水分量が表される。
【0117】
200mlメスシリンダーに0.9質量%生理食塩水(25℃)160mlを用意し、内径3cmの開口部を有する液投入用シリンダーを用いて吸収性物品の中心に投入した。投入した瞬間を0分とした。コルネオメーター(Courage+Khazaka社製、CM825)を用いて所定時間後の水分量指数を測定した。具体的には、コルネオメーター付属の測定用プローブ(49mm2)を吸収性物品の中心部に押し当て、生理食塩水投入後から1分及び1.5分経過時における吸収性物品表面の水分量指数を一定の力(1N±10%)で測定した。測定は25±1℃、相対湿度50±5%の環境下で行った。
【0118】
なお、吸収性物品のコルネオメーター測定において、吸収性物品の測定箇所を指で触ると、水分量指数が100を超える場合は指が濡れ、水分量指数が50〜60程度であると、指は濡れないが、少し水分を感じ、水分量指数が10以下であると、水分を全く感じなかった。
【0119】
得られた測定値から、以下の式により表面乾燥指数を算出した。当該指数は、投入した生理食塩水が1分間である程度吸収性物品内部へ浸透した後の30秒間に、どれだけ素早くその表面がさらっと乾くか、という指標であり、数値が低いほどより好ましい。結果を表2に示す。実施例の吸水性樹脂粒子を用いた吸収性物品は、表面乾燥指数が十分に低いことが示された。
表面乾燥指数=(液投入1.5分後の水分量指数/液投入1分後の水分量指数)×100」

・「【0120】
【表1】

【0121】
【表2】



・「【図2】



・「【図3】



(4)サポート要件の判断
発明の詳細な説明の【0004】及び【0005】によると、本件特許発明1及び2の解決しようとする課題は、「衛生用品として使用された際に、吸水後により素早くさらっとした感触を得られる吸水性樹脂粒子を提供すること」(以下、「発明の課題」という。)である。

そして、上記(3)のとおり、発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
・「吸水性樹脂粒子」の原料に関して、「エチレン性不飽和単量体は、(メタ)アクリル酸及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含むことが更に好ましい。」(【0025】)及び「中でも(メタ)アクリル酸及びその塩が、単量体全量に対し70〜100モル%であることがより好ましい。」(【0026】)と記載されている。
・「吸水性樹脂粒子」の「10倍膨潤時の人工尿通液速度」に関して、「本実施形態に係る吸水性樹脂粒子は、10倍膨潤時の人工尿通液速度が1.0g/分以上である。・・・(略)・・・10倍膨潤時の人工尿通液速度は、35.0g/分以下であってよく」(【0013】)と記載され、「吸水性樹脂粒子」の「i)及びii)の順で行われる試験で測定される接触角」に関して、「本実施形態に係る吸水性樹脂粒子は、下のi)及びii)の順で行われる試験で測定される接触角が70度以下である。」(【0014】)と記載され、それらによる効果として、「10倍膨潤時の人工尿通液速度及び上記接触角が所定範囲内であることによって、衛生用品として用いた際に、吸水後の水の引き込みが速く、吸収性物品の表面において早期にさらっとした乾いた感触を得ることができる。」(【0017】)と記載されている。
・「吸水性樹脂粒子」の「生理食塩水吸水速度」に関して、「本実施形態に係る吸水性樹脂粒子の生理食塩水吸水速度は、例えば20〜80秒であってよく」(【0021】)と記載されている。
さらに、発明の詳細な説明には、「10倍膨潤時の人工尿通液速度」、「i)及びii)の順で行われる試験で測定される接触角」及び「生理食塩水吸水速度」が、それぞれ、「3.3g/分」、「61度」及び「39秒」である実施例1、「3.0g/分」、「28度」及び「38秒」である実施例2、「1.6g/分」、「33度」及び「37秒」である実施例3、「12.3g/分」、「44度」及び「40秒」である参考例1及び「31.0g/分」、「64度」及び「56秒」である参考例2において、吸収性物品の「表面乾燥指数」が十分に低いことを確認する記載がある。

そうすると、発明の詳細な説明の記載から、当業者は、「(メタ)アクリル酸及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含むエチレン性不飽和単量体に由来する単量体単位を有する架橋重合体を含む吸水性樹脂粒子であって、(メタ)アクリル酸及びその塩の割合が前記架橋重合体中の単量体単位全量に対して70〜100モル%であり、10倍膨潤時の人工尿通液速度が1.0g/分以上35.0g/分以下であり、以下のi)及びii)の順で行われる試験で測定される接触角が70度以下であり、生理食塩水吸水速度は、20〜80秒である、吸水性樹脂粒子。」は、発明の課題を解決できると認識できる
そして、本件特許発明1は、該吸水性樹脂粒子をさらに限定したものである。
したがって、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえる。
また、本件特許発明2についても同様である。
よって、本件特許発明1及び2に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。

なお、特許異議申立人は、上記第4 3(1)及び(2)のとおり主張する。
そこで検討する。
本件特許発明1及び2において、「吸水性樹脂粒子」の「生理食塩水吸水速度」は「20〜80秒」である旨規定されている。
また、生理食塩水保水量を35以上、かつ10倍膨潤時の人工尿通液速度を3.3より大きく35以下の範囲内に調整する方法が、本件特許の明細書に開示されているかどうかは、サポート要件とは関係がない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

また、特許異議申立人は、令和3年4月8日に提出された意見書において、本件特許の発明の詳細な説明において、発明の課題が解決されていることが示されている吸水性樹脂粒子の吸水速度は、参考例を考慮に入れた場合であっても、37〜56秒であるから、当業者は「吸水速度が20秒〜80秒」の全範囲において発明の課題が解決することができない旨主張するが、上記のとおり、当業者は、発明の詳細な説明の【0021】の記載並びに実施例及び参考例に関する記載から、「吸水速度」に関しては「20秒〜80秒」の範囲で発明の課題を解決できると認識できるので、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

(5)申立理由3についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由3によっては取り消すことはできない。

3 申立理由4(実施可能要件)について
(1)実施可能要件の判断基準
本件特許発明1及び2は物の発明であるところ、物の発明の実施とは、その物の生産及び使用等をする行為であるから、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明において、当業者が、発明の詳細な記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。
そこで、検討する。

(2)発明の詳細な説明の記載
本件特許の発明の詳細の記載は上記2(3)のとおりである。

(3)実施可能要件の判断
本件特許の発明の詳細な説明には、本件特許発明1の各発明特定事項について具体的に記載されており、また、本件特許発明1の実施形態に係る吸水性樹脂粒子を得るための単量体、ラジカル重合開始剤、界面活性剤、高分子系分散剤、炭化水素分散媒、内部架橋剤、後架橋剤、表面架橋剤及び無機粒子等の原材料並びに重合方法についても具体的に記載されている。
そして、本件特許の発明の詳細な説明には、実施例1及び3として本件特許発明1の実施例が記載されている。
そうすると、当業者は、発明の詳細な説明の記載に基づき、本件特許発明1の吸水性樹脂粒子を製造できるといえる。
したがって、発明の詳細な説明において、当業者が、発明の詳細な記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1を生産し、使用することができる程度の記載があるといえる。
また、本件特許発明2についても同様であり、発明の詳細な説明において、当業者が、発明の詳細な記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明2を生産し、使用することができる程度の記載があるといえる。

なお、特許異議申立人は、上記第4 4(1)及び(2)のとおり主張する。
そこで、検討する。
上記のとおり、発明の詳細な説明において、当業者が、発明の詳細な記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1及び2を生産し、使用することができる程度の記載があるといえるし、シリカ微粒子を添加した逆相懸濁重合によって、実施例1及び3に記載された吸水性樹脂粒子以外の吸水性樹脂粒子を製造できない、又は、水溶液重合では、本件特許発明1及び2で特定されるような吸水性樹脂粒子を製造できないという技術常識があるわけではないから、当業者であれば、シリカ微粒子を添加した逆相懸濁重合によって、実施例1及び3に記載された吸水性樹脂粒子以外の吸水性樹脂粒子を、過度の試行錯誤を要することなく、製造することはできるし、水溶液重合によって本件特許発明1及び2の吸水性樹脂粒子を、過度の試行錯誤を要することなく、製造することはできるといえる。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

また、特許異議申立人は、令和3年4月8日に提出された意見書において、本件特許の発明の詳細な説明には、吸水性樹脂粒子の接触角を本件特許発明1にて規定される範囲に制御するための指針となる事項は開示されていないので、当業者であっても、本件特許の発明の詳細な説明の記載に基づいて、吸水性樹脂粒子の接触角を本件特許発明1にて規定される範囲に制御することはできない旨主張するが、上記のとおり、当業者は、発明の詳細な説明の記載に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1の吸水性樹脂粒子を製造できるといえるので、特許異議申立人の上記主張は採用できない。そもそも、本件特許発明1における「i)及びii)の順で行われる試験で測定される接触角」の規定は、特許異議の申立て時からあったものであるから、該主張は、特許異議の申立て時にできたものであって、本件訂正によって主張する必要が生じたものではないので、この点からも採用できない。

(4)申立理由4についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由4によっては取り消すことはできない。

第8 結語
上記第6及び7のとおり、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、取消理由(決定の予告)及び特許異議申立人が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含むエチレン性不飽和単量体に由来する単量体単位を有する架橋重合体を含む吸水性樹脂粒子であって、(メタ)アクリル酸及びその塩の割合が前記架橋重合体中の単量体単位全量に対して70〜100モル%であり、
10倍膨潤時の人工尿通液速度が1.0g/分以上15.0g/分以下であり、生理食塩水保水量が35〜41g/gであり、かつ以下のi)及びii)の順で行われる試験で測定される接触角が33度以上70度以下であり、
生理食塩水吸水速度が20〜80秒であり、
4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水量が15ml/g以上23ml/g以下である、吸水性樹脂粒子。
i)25℃において、吸水性樹脂粒子からなる層の表面上に、25質量%食塩水の直径3.0±0.1mmに相当する球状液滴を滴下して、当該吸水性樹脂粒子と前記液滴とを接触させる。
ii)前記液滴が前記表面に接触してから、30秒後の時点の前記液滴の接触角を測定する。
【請求項2】
当該吸水性樹脂粒子が、前記架橋重合体を含む重合体粒子と、前記重合体粒子の表面上に配置されたシリカ粒子とを含み、
4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水量が18ml/g以上23ml/g以下である、請求項1に記載の吸水性樹脂粒子。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-11-11 
出願番号 P2019-055281
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (A61F)
P 1 651・ 536- YAA (A61F)
P 1 651・ 121- YAA (A61F)
P 1 651・ 537- YAA (A61F)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 細井 龍史
特許庁審判官 岩本 昌大
加藤 友也
登録日 2020-03-25 
登録番号 6681494
権利者 住友精化株式会社
発明の名称 吸水性樹脂粒子  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK  
代理人 吉川 絵美  
代理人 沖田 英樹  
代理人 清水 義憲  
代理人 清水 義憲  
代理人 吉住 和之  
代理人 吉住 和之  
代理人 沖田 英樹  
代理人 吉川 絵美  

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