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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C09J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09J
管理番号 1381653
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-02-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-10-23 
確定日 2021-11-19 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6688574号発明「ホットメルト接着性樹脂フィルムおよびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6688574号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔2、4−7〕について訂正することを認める。 特許第6688574号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許に係る出願は、平成27年8月6日に特許出願され、令和2年4月8日にその特許権の設定登録がされ(請求項の数、7)、同年同月28日に特許掲載公報が発行された。
同年10月23日に特許異議申立人 松井 伸一(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
その後の手続は、以下のとおりである。
令和3年 4月 6日付 取消理由通知
令和3年 6月10日 意見書(特許権者)の提出、訂正の請求
令和3年 7月15日 意見書(申立人)の提出

第2 本件訂正についての判断
1 訂正事項
令和3年6月10日になされた、訂正の請求(以下「本件訂正」という。)における訂正事項は、次の訂正事項1からなるものである。当審が、訂正箇所に下線を付した。
訂正事項1
特許請求の範囲の請求項2に「前記第1接着剤層および前記第2接着剤層が、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)を90質量部〜99.9質量部と、常温で固体であるフェノールノボラック型エポキシ樹脂(C)を0.1質量部〜10質量部とを含有することを特徴とするホットメルト接着性樹脂フィルム。」と記載されているのを、
「前記第1接着剤層および前記第2接着剤層が、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)を90質量部〜99.9質量部と、常温で固体であるフェノールノボラック型エポキシ樹脂(C)を0.1質量部〜10質量部とを含有し、
前記基材層が、環状オレフィンポリマーまたはメチルペンテンポリマーから形成される層であることを特徴とするホットメルト接着性樹脂フィルム。」と訂正する(請求項2を直接または間接的に引用する請求項4〜7も同様に訂正する。)。
2 一群の請求項について
訂正前の請求項2、4〜7について、請求項4〜7はそれぞれ請求項2を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項2に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項2、4〜7に対応する訂正後の請求項2、4〜7は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
3 訂正の目的要件
訂正事項1は、訂正前には「耐熱性を有する基材層」と特定され、材質が特定されていなかった基材層について、「前記基材層が、環状オレフィンポリマーまたはメチルペンテンポリマーから形成される層である」と材質を限定するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
4 実質上の拡張または変更の有無
前記3の理由から、訂正事項1は、特許請求の範囲を減縮するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
新規事項の追加の有無
(1)本件特許明細書には、以下の記載がある。
ア 「【0020】
基材層11を構成する樹脂としては、十分な耐熱性を有する樹脂であれば特に限定されないが、例えば、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル樹脂;環状オレフィンポリマー(COP)、メチルペンテンポリマー(TPX)等のポリオレフィンポリマー等からなる合成樹脂フィルムが挙げられる。
・・・
基材層11に用いる樹脂としては、PEN、COPまたはTPXが好ましく、COPまたはTPXがより好ましい。」
イ 「【0024】
基材層11を構成する材料が環状オレフィンポリマー(COP)である場合、第1中間層12および第2中間層13を構成する材料は、酸変性ポリプロピレン、メタロセン系ポリエチレンおよびメタロセン系ポリプロピレンからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。すなわち、第1中間層12および第2中間層13を構成する材料としては、ポリプロピレン、メタロセン系ポリエチレンおよびメタロセン系ポリプロピレンからなる群から選択される1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。特に、層間剥離を起こさないようにするために、2種以上を組み合わせることが好ましく、3種以上を含むことがより好ましい。
例えば、第1中間層12および第2中間層13を構成する材料が、酸変性ポリプロピレン、メタロセン系ポリエチレンおよびメタロセン系ポリプロピレンの3成分からなる場合、これら3成分の合計を100質量部としたとき、メタロセン系ポリエチレンの配合量が30質量部〜50質量部、メタロセン系ポリプロピレンの配合量が30質量部〜40質量部であることが好ましく、酸変性ポリプロピレンの配合量が20質量部、メタロセン系ポリエチレンの配合量が50質量部、メタロセン系ポリプロピレンの配合量が30質量部であることが特に好ましい。」
ウ 「【0028】
基材層11を構成する樹脂がメチルペンテンポリマー(TPX)である場合、第1中間層12および第2中間層13が、メチルペンテンポリマー、ポリブテン系エラストマーおよびポリプロピレンからなる群から選択される少なくとも1種からなることが好ましい。すなわち、第1中間層12および第2中間層13を構成する樹脂が、メチルペンテンポリマー、ポリブテン系エラストマーおよびポリプロピレンからなる群から選択される1種を単独で用いたものでもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。特に、層間剥離を起こさないようにするために、3種以上を組み合わせることが好ましい。なお、メチルペンテンポリマーとしては、酸変性メチルペンテンポリマーを用いてもよい。
例えば、第1中間層12および第2中間層13を構成する樹脂が、メチルペンテンポリマー、酸変性メチルペンテンポリマー、ポリブテン系エラストマーおよびポリプロピレンの4成分からなる場合、これら4成分の合計を100質量部としたとき、メチルペンテンポリマーの配合量が10質量部〜70質量部であることが好ましく、20質量部〜50質量部であることがより好ましく、酸変性メチルペンテンポリマーの配合量が0質量部〜50質量部であることが好ましく、0質量部〜30質量部であることがより好ましく、ポリブテン系エラストマーの配合量が5質量部〜40質量部であることが好ましく、10質量部〜30質量部であることがより好ましく、ポリプロピレンの配合量が5質量部〜40質量部であることが好ましく、10質量部〜30質量部であることがより好ましい。
【0029】
メチルペンテンポリマーとしては、例えば、三井化学社製のRT18、MX002、MX004、DX820、DX231、DX310等が挙げられる。
【0030】
ポリブテン系エラストマーとしては、例えば、三井化学社製のBL2491、PB5640M等が挙げられる。
【0031】
ポリプロピレンとしては、マレイン酸変性ポリプロピレン、ランダムポリプロピレンが好適に用いられる。」
(2)前記(1)ア〜ウの各記載から、基材層11を、「環状ポリオレフィンポリマー(COP)」または「メチルペンテンポリマー(TPX)」から選ぶことは、本件特許の願書に添付した明細書から読み取れることである。
(3)したがって、訂正事項1は新規事項を追加するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものといえる。
6 訂正についての小括
以上から、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1項を目的とするものであって、同法120条の5第9項で準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合するものであるから、本件訂正を認める。

第3 本件発明
前記第2で判断したように本件訂正は認められるから、本件請求項1〜7に係る発明(以下「本件発明1」〜「本件発明7」といい、まとめて「本件発明」ということもある。)は、以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
第1接着剤層、第1中間層、耐熱性を有する基材層、第2中間層、第2接着剤層をこの順に積層してなり、
前記第1接着剤層および前記第2接着剤層が酸変性ポリオレフィン樹脂を含み、
前記第1中間層が前記基材層および前記第1接着層に対する接着性を有する層であり、
前記第2中間層が前記基材層および前記第2接着層に対する接着性を有する層であり、
前記第1接着剤層および前記第2接着剤層が、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)を80質量部〜99.9質量部と、オレフィン化合物とエポキシ基含有ビニルモノマーとを含むモノマーを共重合させて得られる主鎖、および、前記主鎖に結合した側鎖を有し、かつ、融点が80℃〜120℃であるエポキシ基含有ポリオレフィン樹脂(B)を0.1質量部〜20質量部を含有することを特徴とするホットメルト接着性樹脂フィルム。
【請求項2】
第1接着剤層、第1中間層、耐熱性を有する基材層、第2中間層、第2接着剤層をこの順に積層してなり、
前記第1接着剤層および前記第2接着剤層が酸変性ポリオレフィン樹脂を含み、
前記第1中間層が前記基材層および前記第1接着層に対する接着性を有する層であり、
前記第2中間層が前記基材層および前記第2接着層に対する接着性を有する層であり、
前記第1接着剤層および前記第2接着剤層が、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)を90質量部〜99.9質量部と、常温で固体であるフェノールノボラック型エポキシ樹脂(C)を0.1質量部〜10質量部とを含有し、
前記基材層が、環状オレフィンポリマーまたはメチルペンテンポリマーから形成される層であることを特徴とするホットメルト接着性樹脂フィルム。
【請求項3】
第1接着剤層、第1中間層、耐熱性を有する基材層、第2中間層、第2接着剤層をこの順に積層してなり、
前記第1接着剤層および前記第2接着剤層が酸変性ポリオレフィン樹脂を含み、
前記第1中間層が前記基材層および前記第1接着層に対する接着性を有する層であり、
前記第2中間層が前記基材層および前記第2接着層に対する接着性を有する層であり、
前記第1接着剤層および前記第2接着剤層が、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)を80質量部〜99.9質量部と、数平均分子量が5万〜25万のオキサゾリン基含有スチレン系樹脂(D)を0.1〜10質量部とを含有することを特徴とするホットメルト接着性樹脂フィルム。
【請求項4】
前記第1中間層および前記第2中間層が、ポリプロピレン、メタロセン系ポリエチレンおよびメタロセン系ポリプロピレンからなる群から選択される少なくとも1種であり、前記基材層の形成材料が、環状オレフィンポリマーを含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のホットメルト接着性樹脂フィルム。
【請求項5】
前記第1中間層および前記第2中間層が、メチルペンテンポリマー、ポリブテン系エラストマーおよびポリプロピレンからなる群から選択される少なくとも1種であり、前記基材層が、メチルペンテンポリマーからなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のホットメルト接着性樹脂フィルム。
【請求項6】
前記基材層は無機フィラーを含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のホットメルト接着性樹脂フィルム。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のホットメルト接着性樹脂フィルムの製造方法であって、
第1接着剤層、第1中間層、耐熱性を有する基材層、第2中間層、第2接着剤層をこの順に積層するように共押出法により製造することを特徴とするホットメルト接着性樹脂フィルムの製造方法。」

第4 令和3年3月31日付け取消理由通知における理由についての判断
1 理由の概要
(1)本件発明2、4〜7は、下記(2)に摘記した、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能になった発明に基づいて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができた発明であるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。したがって、本件発明2、4〜7に係る特許は特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)引用文献の一覧
以下、申立人が提示した甲第1号証及び甲第6〜9号証の引用文献を甲1及び甲6〜9のように略記することがある。
甲1:特開2000−84442号公報(主たる引用例)
甲6:特開2014−218633号公報
甲7:特開2011−11396号公報
甲8:特開平8−190902号公報
甲9:特開平10−138418号公報
2 引用文献の記載事項
(1)甲1の記載事項
甲1には次の記載がある。
ア 「【請求項1】
熱溶融して被接着物に密着される酸変性ポリオレフィン層を有する接着層と、
前記接着層に積層して前記接着層が被接着物に密着した後に剥離される基材フィルムと、を備え、
前記酸変性ポリオレフィン層が粘着性又は感圧性を有することを特徴とする熱接着シート。
・・・
【請求項4】
前記接着層が耐熱性フィルムの両面に酸変性ポリオレフィン層を備えることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1に記載の熱接着シート。
【請求項5】
前記接着層が前記耐熱性フィルムの両面に複数の酸変性ポリオレフィン層を積層して構成されることを特徴とする請求項4に記載の熱接着シート。
・・・」
イ 「【0029】
尚、基材フィルム111及びカバーフィルム115は耐熱性を有する耐熱性樹脂であればよく、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリメチルペンテン(TPX(登録商標))、ポリアセタール(POM)、環状ポリオレフィン、ポリエチレン(PP)等の無延伸または延伸フィルムを用いることができる。尚、ポリエチレンテレフタレートは安価で強度が強いため接着工程での取扱いが容易になるためより望ましい。また、基材フィルム111と接着層112との間又はカバーフィルム115と接着層112との間に公知の剥離剤を設け、基材フィルム111と接着層112との間又はカバーフィルム115と接着層112との間の剥離強度を調整してもよい。」
ウ 「【0042】
[第3実施形態]
次に本発明の第3実施形態を図面を参照して説明する。本実施形態にかかる熱接着シート310は接着層312の構成が異なるのみで、その他の構成は第1実施形態で説明した構成と同一である。図5は本発明の第3実施形態に係る熱接着シート310の層構成を示す断面図である。
【0043】
図5に示すように、第3実施形態に係る熱接着シート310はポリエチレンテレフタレート(PET)から成る基材フィルム111上に接着層312が積層され、接着層312上にカバーフィルム115が積層されている。
【0044】
また、接着層312は、厚さ12μmのポリエチレンナフタレートからなる耐熱性フィルム332の両面にそれぞれ、厚さ44μmの酸変性ポリプロピレン333a、333bが形成され、最外層に厚さ25μmの酸変性ポリエチレン331a、331bが形成されている。」
エ 「【0045】
この構成による熱接着シート310の使用方法は、まず、カバーフィルム115を剥離した後、粘着性又は感圧性を有する酸変性ポリエチレン331aを被接着物上に当接させ、基材フィルム111を接着層312から剥離して接着層312を被接着物上に転移させた後、もう一方の被接着物を接着層312上に圧着する。その後、接着層312を被接着物で挟持した状態で接着層312を熱シールする。これにより、接着層312が溶融して、接着層312が常温に降温され硬化したとき、被接着物同士が接着固定される。
【0046】
このとき、本実施形態にかかる接着層312を構成する酸変性ポリエチレン331aは粘着性又は感圧性を有する。このため、接着層312を熱シールする前、接着層312を被接着物上に当接させたとき、接着層312を被接着物上の所望の位置に酸変性ポリエチレン331aの粘着性又は感圧性を利用して仮着させることができる。これにより、接着層312が所望の位置から僅かにずれた場合、接着層312と基材フィルム111を含む熱接着シート110ごと被接着物から接着層312を引き離し、改めて接着層312を被接着物上の所望の位置に仮着させることができる。そして、この作業を行なうことにより、接着層312の位置あわせを正確に行なうことができる。したがって、接着層312の位置あわせの後、基材フィル111を剥離して接着層312を被接着物上に転移させた後、もう一方の被接着物を接着層312上に圧着し、その後、接着層312を熱シールすることにより、所望の位置に正確に接着層312を転移させて被接着物同士を接着固定することができる。また、酸変性ポリエチレンは残留溶剤がなく耐薬品性、耐水性及び耐油性に優れるため、接着強度を長期間維持することができる。」
オ 「【0047】
また、接着層312が被接着物上に転移された後、被接着物間に挟持され熱シールされる際に、接着層312が所定温度で加熱されるとともに、被接着物間において所定圧力で押圧されるが、このとき、接着層312の酸変性ポリエチレン331a、331bが溶融して押出され、酸変性ポリエチレン331a、331bが薄肉することがある。しかし、本実施形態による熱接着シート310は2層の酸変性ポリエチレン331a、331b間に耐熱性フィルムであるポリエチレンナフタレート332が介在されている。この構成により、熱シールされる際の接着層312への加熱及び加圧によって、酸変性ポリエチレン331a、331bが薄肉した場合でも、ポリエチレンナフタレート332が薄肉することなく残る。したがって、熱シールされた接着層312は被接着物の安定的な接着を可能にする。また、ポリエチレンナフタレート332は電気絶縁性、水蒸気バリア性及び酸素ガスバリア性に優れるため、被接着物に仮着し熱シールされるまでの間に被接着物の酸化や空気による汚染によって被接着物が劣化することを防止することができる。これにより、接着層312は被接着物の安定的な接着を可能にする。
【0048】
また、酸変性ポリエチレン331a、331bとポリエチレンナフタレート332の間には、ポリエチレンナフタレート332に対して安定的に接着する酸変性ポリプロピレン333a、333bを配している。これにより、接着層312が被接着物に対して安定的な接着を可能にするとともに、耐熱性フィルム332の両面において、デラミネーションが発生し難い等、接着層312自体の経時的強度も確保することができる。また、酸変性ポリエチレン331a、331bは酸変性ポリプロピレン333a、333bより低温で金属と熱溶着するため、熱シールの温度を低く抑えることができる。」
カ 「【0049】
次に、熱接着シート310を構成する接着層312について詳細に説明する。本発明にかかる接着層312を構成する酸変性ポリオレフィン層は被接着物を接着するために設ける層であり、被接着物の材質により適宜選択して用いる必要があり、本実施形態による酸変性ポリプロピレン、酸変性ポリエチレンに限定されない。例えば、酸変性ポリオレフィン層を構成する樹脂としては、不飽和カルボン酸でグラフト変性したポリオレフィン樹脂、エチレンないしプロピレンとアクリル酸、または、メタクリル酸との共重合体、あるいは、金属架橋ポリオレフィン樹脂等であり、必要に応じてブテン成分、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体、非晶質のエチレン−プロピレン共重合体、プロピレン−α−オレフィン共重合体等を5%以上添加してもよいものである。
【0050】
また、酸変性ポリオレフィン層331aを構成する樹脂に粘着性付与樹脂を含有させることにより、接着層312を構成する酸変性ポリオレフィン層に粘着性又は感圧性を付与することができる。このとき、使用される粘着性付与樹脂としては、例えば、ロジン類(重合ロジン、水添ロジン、ロジンエステル等)、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、クマロンインデン樹脂、石油樹脂などである。」
キ 「【図5】


(2)甲6の記載事項
甲6には次の記載がある。
ア 「【0009】
本発明によれば、金属、ガラス、プラスチックなどの各種の被着体に対して、優れた接着力を有しており、単純な組成からなり、容易に製造可能な接着性樹脂組成物、接着性樹脂成形体、及び接着性樹脂積層体を提供することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、好適な実施の形態に基づき、本発明を説明する。
本発明の接着性樹脂組成物は、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と、エポキシ基を1分子中に2個以上有し、且つ、前記酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の酸官能基と反応する官能基を、1分子中に5個以上有するエポキシ樹脂系化合物(B)とを、必須成分とする。」
イ 「【0011】
〔酸変性ポリオレフィン樹脂(A)〕
本発明で用いられる酸変性ポリオレフィン樹脂(A)は、不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性されたポリオレフィン系樹脂であり、ポリオレフィン系樹脂中にカルボキシル基や無水カルボン酸基を有する。好ましくは、ポリオレフィン系樹脂を、不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性したものである。酸変性ポリオレフィン樹脂における酸変性方法としては、有機過酸化物や脂肪族アゾ化合物などのラジカル重合開始剤の存在下で酸官能基含有モノマーをポリオレフィン樹脂と溶融混練する等のグラフト変性や、酸官能基含有モノマーとオレフィン類との共重合などが挙げられる。
【0012】
前記ポリオレフィン類としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−1−ブテン、ポリイソブチレン、プロピレンとエチレンまたはα−オレフィンとのランダム共重合体、プロピレンとエチレンまたはα−オレフィンとのブロック共重合体などが挙げられる。中でも、ホモポリプロピレン(ホモPP、プロピレン単独重合体)、プロピレン−エチレンのブロック共重合体(ブロックPP)、プロピレン−エチレンのランダム共重合体(ランダムPP)等のポリプロピレン系樹脂が好ましい。特に、ランダムPPが好ましい。
共重合する場合の前記オレフィン類としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン、1−ヘキセン、α−オレフィン等のオレフィン系モノマーが挙げられる。
【0013】
酸官能基含有モノマーとしては、エチレン性二重結合と、カルボン酸基またはカルボン酸無水物基とを、同一分子内に持つ化合物であり、各種の不飽和モノカルボン酸、ジカルボン酸、またはジカルボン酸の酸無水物からなる。
カルボン酸基を有する酸官能基含有モノマー(カルボン酸基含有モノマー)としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、ナジック酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、テトラヒドロフタル酸、エンド−ビシクロ[2.2.1]−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸(エンディック酸)などのα,β−不飽和カルボン酸モノマーが挙げられる。
カルボン酸無水物基を有する酸官能基含有モノマー(カルボン酸無水物基含有モノマー)としては、無水マレイン酸、無水ナジック酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、無水エンディック酸などの不飽和ジカルボン酸無水物モノマーが挙げられる。
これらの酸官能基含有モノマーは、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)において、1種類を用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0014】
酸官能基含有モノマーのうち、より好ましくは、カルボン酸無水物基含有モノマーであり、より好ましくは、無水マレイン酸である。
酸変性に用いた酸官能基含有モノマーの一部が未反応である場合は、接着力への悪影響を抑制するため、未反応の酸官能基含有モノマーを除去したものを、前記酸変性ポリオレフィン樹脂(A)として用いることが好ましい。」
ウ 「【0016】
〔エポキシ樹脂系化合物(B)〕
本発明で用いられるエポキシ樹脂系化合物(B)は、エポキシ基を1分子中に2個以上有し、且つ、前記酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の酸官能基と反応する官能基を、1分子中に5個以上有する化合物である。
前記エポキシ樹脂系化合物(B)としては、ポリヒドロキシポリエーテル、ポリヒドロキシポリエステル、ポリヒドロキシポリカーボネート、ポリヒドロキシポリアミド等の、多数の水酸基を有するポリマーに対する、グリシジル化等のエポキシ化により、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するものとした化合物が挙げられる。その具体例としては、ビスフェノール類とエピクロルヒドリンとを反応させて合成される、フェノキシ樹脂であって、両末端にエポキシ基を有する、下記一般式(1)で表される、エポキシ樹脂系化合物が挙げられる。」
エ 「【0017】
【化1】

【0018】
一般式(1)において、置換基R,R’としては、各々独立して、水素原子またはメチル基、エチル基等のアルキル基が挙げられる。また、整数pは、1分子中に有する水酸基の個数(水酸基数)に等しい。この場合、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の酸官能基と反応する官能基は、p個の水酸基と両端の2個のエポキシ基である。酸官能基と反応する官能基を1分子中に5個以上とするためには、p+2≧5であることが好ましい。・・・」
オ 「【0021】
また、本発明で用いられるエポキシ樹脂系化合物(B)としては、酸官能基と反応する官能基がエポキシ基のみであり、該エポキシ基を1分子中に5個以上有している化合物が挙げられる。このような化合物の具体例としてはフェノールノボラックとエピクロルヒドリンを反応させて合成される、フェノールノボラックエポキシ樹脂、O−クレゾールノボラックとエピクロルヒドリンとを反応させて合成される、クレゾールノボラック樹脂など、分子鎖にエポキシ基を5個以上有する、エポキシ樹脂系化合物が挙げられる。また、このようなエポキシ樹脂の市販品としては、例えば、ビスフェノールA型ノボラックエポキシ樹脂として、三菱化学株式会社製の商品名:jER157S70、DIC株式会社の商品名:EPICLON N−865、N−885、クレゾールノボラックエポキシ樹脂として、DIC株式会社の商品名:EPICLON N−670、N−673、N−680、N−690、N−695、フェノールノボラックエポキシ樹脂として、DIC株式会社の商品名:N−770、N−775等が挙げられる。」
カ 「【0023】
本発明の接着性樹脂組成物は、前記酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の酸官能基と、前記エポキシ樹脂系化合物(B)の官能基(エポキシ基、水酸基)が、被着体に対する接着性官能基として機能することにより、金属、ガラス、プラスチックなどの各種の被着体に対して、優れた接着力を有する。
接着性樹脂組成物の固形分100重量部中に、前記エポキシ樹脂系化合物(B)は、1〜15重量部の範囲内で含有することが好ましい。前記酸変性ポリオレフィン樹脂(A)のポリオレフィン部分による、極性の低いプラスチックに対する親和力と、前記接着性官能基による、金属やガラスなどの異種材料に対する親和力とが、好適なバランスを有するものとなり、金属やガラスなどの異種材料と接着するときに加えて、ポリオレフィン等の、極性の低いプラスチックと接着するときにも、優れた接着力を有する。
前記酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の酸官能基と、前記エポキシ樹脂系化合物(B)の官能基(エポキシ基、水酸基)とが、加熱によって容易に反応するので、他にこれらの官能基と反応し得る硬化剤等を配合する必要はない。」
キ 「【0035】
〔接着性樹脂積層体〕
本発明の接着性樹脂積層体は、基材の少なくとも片面に、本発明の接着性樹脂組成物からなる接着性樹脂層が積層されてなるものである。前記接着性樹脂層が、基材の片面または両面に設けられることにより、前記接着性樹脂層を用いて、被着体と接着することができる。基材としては、基材自体に接着性を有する必要はなく、前記接着性樹脂層と接着可能なものが好ましい。上述の被着体として例示したものと同様に、金属、ガラス、プラスチックなどの各種の基材が挙げられる。
【0036】
本発明の接着性樹脂積層体は、前記酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と、前記エポキシ樹脂系化合物(B)とを必須成分とする接着性樹脂組成物を溶融混練し、押出成形により、前記接着性樹脂層を成形する方法(1工程)で、製造することが可能である。
基材が、熱可塑性樹脂からなる場合は、接着性樹脂組成物の押出成形を、共押出法により行うことが可能である。また、接着性樹脂組成物の押出成形を、押出ラミネート法によって行うことも、可能である。」
ク 「【0039】
(接着性樹脂フィルム)
表1に示す組成により、各実施例及び比較例の接着性樹脂フィルムを製造した。接着性樹脂フィルムの製造は、まず酸変性ポリオレフィン樹脂、エポキシ基含有樹脂とエラストマー樹脂を溶融混練後、押出成形により所定の厚さのフィルム状に成形する方法により実施した。
【0040】
(接着強度の評価方法)
JIS Z 1526に準じて、各種の被着体に対する、接着性樹脂フィルムのヒートシール部の接着強度を、引張速度300mm/分、幅15mmにて測定した。
ヒートシール条件は、140℃、160℃、180℃のうちのいずれかの温度において、圧力0.2MPaで3秒間または7秒間、加熱及び加圧するものである。
被着体の厚みは、アルミ板、銅/ニッケルメッキ板、ガラス板、SUS板では、200μmである。また、コロナ処理ナイロンフィルムでは、25μmである。
被着体が、アルミ板、銅/ニッケルメッキ板、ガラス板、または、コロナ処理ナイロンフィルムである場合は、ヒートシール時間を3秒間とした。また、被着体が、SUS板(SUS:ステンレス鋼の一種)である場合は、ヒートシール時間を7秒間とした。
【0041】
【表1】

【0042】
表1に、フィルム樹脂の組成(単位:質量%)を示す。
なお、表1において用いた略語の意味は、次のとおりである。
「MAH−PP」・・・無水マレイン酸変性ポリプロピレン(ρ=0.896g/cm3、Tm=140℃、MFR=7.0)
「エポキシ基含有樹脂(1)」・・・フェノキシ樹脂の「YP−55U」(ビスフェノールA型、重量平均分子量40000〜45000、新日鐡化学株式会社製、商品名)(1分子中の官能基の数は、水酸基が推定140〜160個、エポキシ基が2個)
「エラストマー樹脂」・・・エポキシ変性スチレンブタジエン共重合体の「エポフレンドAT501」(スチレンブタジエンブロック共重合体のエポキシ化合物、ダイセル化学工業株式会社製、商品名)
「エポキシ基含有樹脂(2)」・・・エポキシ樹脂の「エピコート1010」(ビスフェノールA型、重量平均分子量5500、三菱化学株式会社製、商品名)(1分子中の官能基の数は、水酸基が推定17個、エポキシ基が2個)
「エポキシ基含有樹脂(3)」・・・エポキシ樹脂の「エピコート1001」(ビスフェノールA型、重量平均分子量900、三菱化学株式会社製、商品名)(1分子中の官能基の数は、水酸基が推定2個、エポキシ基が2個)
「エポキシ基含有樹脂(4)」・・・エポキシ樹脂の「jER157S70」(ビスフェノールA型ノボラック型、重量平均分子量900、三菱化学株式会社製、商品名)(1分子中の官能基の数は、エポキシ基が推定6個、水酸基は0個)
【0043】
【表2】
(当審注:摘記は省略する。)
【0044】
【表3】
(当審注:摘記は省略する。)
【0045】
【表4】
(当審注:摘記は省略する。)
【0046】
【表5】
(当審注:摘記は省略する。)
【0047】
【表6】
(当審注:摘記は省略する。)」
(3)甲7の記載事項
甲7には次の記載がある。
ア 「【請求項1】
少なくとも熱接着層、合成樹脂からなる保護層、及び剥離層を有することを特徴とする熱接着性剥離フィルム。
【請求項2】
前記熱接着層が、下記(A)〜(C)の何れか1種又は2種以上を組み合わせてなることを特徴とする請求項1に記載の熱接着性剥離フィルム。
(A)シングルサイト触媒を用いて重合されたエチレン・α−オレフィン共重合体
(B)エチレン・酢酸ビニル共重合体
(C)エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体
【請求項3】
前記合成樹脂からなる保護層を形成する合成樹脂がポリプロピレン及び/又はプロピレン・α−オレフィン共重合体であることを特徴とする請求項1又は2記載の熱接着性剥離フィルム。
【請求項4】
前記熱接着層と前記合成樹脂からなる保護層の間にポリエチレンを主成分とする中間層を有することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の熱接着性剥離フィルム。」
イ 「【0044】
また、本発明の中間層12としては必要に応じて設けるものであるので特に制約はないが、ポリオレフィンを主成分とするものが好ましく挙げられ、具体的にはポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンとエチレン以外の他のα−オレフィンとの共重合体を使用することができる。α−オレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン等の炭素数3〜12程度のオレフィンを用いることができ、共重合量は、0〜30重量%、好ましくは0〜20重量%程度である。従って、線状低密度ポリエチレンもまた好ましい材料である。また、(A)のシングルサイト触媒を用いて重合されたエチレン・α−オレフィン共重合体も好ましい材料である。ただし、熱接着層11のエチレン・α−オレフィン共重合体よりもα−オレフィンの含量の少ないものを用いるのが好ましく、より好ましいものは、高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレン、シングルサイト触媒を用いて重合されたエチレン・α−オレフィン共重合体、線状低密度ポリエチレン、ポリプロピレンあるいはこれらの混合物である。」
(4)甲8の記載事項
甲8には次の記載がある。
ア 「【請求項1】 一対の端子板間に介在する電池要素を、前記端子板の周縁部において封口するための封口材用フィルムであって、前記一対の端子板に対して熱接着させるための両外層側の熱接着性ポリオレフィン層と、これらの熱接着性ポリオレフィン層間に介在し、かつ充填剤を含むポリオレフィン中間層とで構成された少なくとも3層構造を有する薄型電池の封口材用フィルム。」
イ 「【請求項9】 中間層の充填剤が、タルク、マイカ、炭酸カルシウムまたはガラス繊維である請求項1記載の封口材用フィルム。
【請求項10】 充填剤の含有量が、中間層全体の5〜50重量%である請求項1記載の封口材用フィルム。」
(5)甲9の記載事項
甲9には次の記載がある。
「【0030】本発明において多層ホットメルトフィルムの製法は特に限定的ではなく共押出法、押出ラミネート法、ドライラミネート法など従来積層フィルムを製造するために一般的に採用されている任意の方法が使用でき、特に限定的でない。」
3 甲1発明の認定
前記2(1)ウ〜キに摘記した甲1の実施形態3に係る熱接着性シートに注目すると、「厚さ12μmのポリエチレンナフタレートからなる耐熱性フィルム332の両面にそれぞれ、厚さ44μmの酸変性ポリプロピレン333a、333bが形成され、最外層に厚さ25μmの酸変性ポリエチレン331a、331bが形成」されているものであって、前記2(1)キの図5を参照すると、次の発明(以下「甲1発明」という。)が認定できる。
「酸変性ポリエチレン331a、酸変性ポリプロピレン333a、ポリエチレンナフタレートからなる耐熱性フィルム332、酸変性ポリプロピレン333b、酸変性ポリエチレン331aをこの順に積層した熱接着性シート。」
4 当審の判断
(1)本件発明2との対比
本件発明2と甲1発明とを対比する。
ア 甲1発明における「酸変性ポリエチレン331a」の層、「酸変性ポリエチレン331b」の層は、本件発明2における「第1接着剤層」、「第2接着剤層」にそれぞれ相当する。
イ 甲1発明における「酸変性ポリプロピレン333a」の層、「酸変性ポリプロピレン333b」の層は、本件発明2における「第1中間層」、「第2中間層」にそれぞれ相当する。
ウ 甲1発明における「ポリエチレンナフタレートからなる耐熱性フィルム332」は、本件発明2における「耐熱性を有する基材層」を充足する。
エ 甲1発明における「酸変性ポリプロピレン333a、333b」は、前記2(1)オに摘記した段落0048に記載されるように「酸変性ポリエチレン331a、331bとポリエチレンナフタレート332の間には、ポリエチレンナフタレート332に対して安定的に接着する酸変性ポリプロピレン333a、333b」とされており、また、ポリエチレンとポリプロピレンとは、共にポリオレフィンであって、化学構造が近いことから、熱接着性シートにおいて接着性を有するものであることは技術常識であるから、甲1発明における「酸変性ポリプロピレン333a」は、ポリエチレンナフタレートからなる耐熱性フィルム332及び酸変性ポリエチレン331aに接着性を有するものである。
オ 前記エと同様に、甲1発明における「酸変性ポリプロピレン333b」は、ポリエチレンナフタレートからなる耐熱性フィルム332及び酸変性ポリエチレン331bに接着性を有するものである。
カ 甲1発明における「熱接着性シート」は、本件発明2の「ホットメルト接着性樹脂フィルム」に相当する。
(2)一致点・相違点
ア 一致点
以上から、本件発明2と甲1発明とは次の点で一致する。
「第1接着剤層、第1中間層、耐熱性を有する基材層、第2中間層、第2接着剤層をこの順に積層してなり、
前記第1接着剤層および前記第2接着剤層が酸変性ポリオレフィン樹脂を含み、
前記第1中間層が前記基材層および前記第1接着層に対する接着性を有する層であり、
前記第2中間層が前記基材層および前記第2接着層に対する接着性を有する層であ」る
「ホットメルト接着性樹脂フィルム」である点。
イ 相違点
本件発明2と甲1発明との相違点は、次のとおりである。
(ア)相違点2−1
第1接着剤層および第2接着剤層について、本件発明2においては、「酸変性ポリオレフィン樹脂(A)を90質量部〜99.9質量部と、常温で固体であるフェノールノボラック型エポキシ樹脂(C)を0.1質量部〜10質量部とを含有する」のに対して、甲1発明においては、「酸変性ポリエチレン」からなる点。
(イ)相違点2−2
耐熱性を有する基材層について、本件発明2においては、「環状ポリオレフィンポリマーまたはメチルペンテンポリマーから形成される層」であるのに対して、甲1発明においては、「ポリエチレンナフタレート」から形成される層である点。
(3)相違点についての判断
事案に鑑み、相違点2−2について検討する。
ア 後記イ〜オの理由により、甲1発明におけるポリエチレンナフタレートを「環状ポリオレフィンポリマーまたはメチルペンテンポリマーから形成される層」に置き換えることが容易になし得るこということはできないと当審は判断する。
イ 本件発明2でいうところの、基材層と第1中間層及び基材層と第2中間層とは、良好な接着特性を有することが必要である。
ウ 仮に、甲1発明のポリエチレンナフタレートを、「環状ポリオレフィンポリマーまたはメチルペンテンポリマー」に置き換えたとすると、甲1発明における「酸変性ポリプロピレン333a、333b」が「環状ポリオレフィンポリマーまたはメチルペンテンポリマー」と良好な接着性を有するとはいえないから、これらも置き換える必要がある。
エ そして、「環状ポリオレフィンポリマーまたはメチルペンテンポリマー」と良好な接着性を有する第1中間層と第2中間層をどのように選択するかが、本件出願前に知られていたことを示す証拠はない。
オ この点、前記第2、5(1)イに摘記した本件特許明細書の段落【0024】及び同ウの段落【0028】には、それぞれ、基材層が環状オレフィンポリマーである場合とメチルペンテンポリマーである場合の第1中間層12及び第2中間層13に好ましい例について記載されている。これらの技術が本件出願前に公知であるということはできない。
カ 以上から、本件発明2は、甲1発明及び各甲号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
(4)申立人の主張に対して
ア 申立人は、前記2(1)イに摘記した甲1の段落【0029】に基材フィルム111に用いる樹脂として、ポリメチルペンテン及び環状ポリオレフィンが、ポリエステルナフタレートと同様の耐熱性樹脂として記載されている旨主張する。
イ 甲1における「基材フィルム111」は、接着時には剥離されるフィルムであって、本件発明2における「基材層」に相当するものではないから、申立人の主張は採用できない。
ウ そして、前記(3)で検討したように、甲1発明のポリエチレンナフタレート層を単に置き換えることにより、甲1発明の酸変性ポリプロピレン333a、333bについても置き換えが必要となるから、相違点2−2について、当業者が容易に想到しうることはいえない。
(5)本件発明2を引用する本件発明4〜7について
本件発明4〜7のうち、本件発明2を引用する発明は、本件発明2を包含し、さらに特定事項を加えたものであるから、本件発明2と同様に甲1発明及び各甲号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。

第5 取消理由に採用しなかった異議申立理由についての判断
1 理由の概要
特許異議申立の理由の中で、取消理由通知に採用しなかった部分は以下のとおりである。
(1)進歩性欠如
ア 本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明4〜7は、下記イに摘記した、本件出願前日本国内または外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能になった発明に基づいて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができた発明であるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。したがって、本件発明1、4〜7に係る特許は特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
イ 引用文献の一覧
甲1:特開2000−84442号公報(主たる引用例)
甲2:特開2010−260998号公報
甲3:特開2013−91702号公報
甲4:特開2004−237543号公報
甲5:特開2015−105345号公報
(2)記載要件違背
明確性要件違背
本件発明1の「前記主鎖に結合した側鎖を有し」という特定事項において、側鎖の構造が明らかでないから、その記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たさない。
イ サポート要件及び実施可能要件違背
(ア)本件発明1〜3の「酸変性ポリオレフィン樹脂」として、具体的に効果が実証されているのは、実施例における「無水マレイン酸変性ポリプロピレン(融点140℃)」の1種でしかないから、本件発明1〜7は、実施例の開示に比べ、広範過ぎる発明となっている。
(イ)本件発明1の「エポキシ基含有ポリオレフィン樹脂」として、具体的に効果が実証されているのは、実施例における「モディパーA4100(エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体と、ポリスチレンとのグラフト重合体」の1種でしかないから、本件発明1、4〜7は、実施例の開示に比べ、広範過ぎる発明となっている。
(ウ)本件発明2の「フェノールノボラック型エポキシ樹脂」として、具体的に効果が実証されているのは、実施例における「jER157S70(ビスフェノールA構造を有するフェノールノボラック型エポキシ樹脂)」の1種でしかないから、本件発明2、4〜7は、実施例の開示に比べ、広範過ぎる発明となっている。
(エ)本件発明3の「オキサゾリン基含有スチレン系樹脂」として、具体的に効果が実証されているのは、実施例における「エポクロス RPS−1005(スチレンと2−イソプロペニル−2−オキサゾリンとを共重合させて得られた樹脂」の1種でしかないから、本件発明3〜7は、実施例の開示に比べ、広範過ぎる発明となっている。
2 当審の判断
(1)記載要件について
明確性要件について
申立人は、本件発明1の「側鎖」の構造が明らかでないと主張するが、高分子において「主鎖」及び「側鎖」という技術用語は明確であり、本件発明1の「側鎖」とは、側鎖として「鎖」と呼べる長さのある化学構造を特定していると解される。本件発明1の記載が、明確性要件を欠くということはできない。
イ サポート要件について
(ア)申立人は、本件発明1〜3の「酸変性ポリオレフィン樹脂」について実施例に比べて広範であり、課題が解決できないものも含まれていると主張していると解されるが、具体的に「酸変性ポリオレフィン樹脂」に属するどのような樹脂を使用した場合に本件発明の課題が解決できないかを示しておらず、根拠がない主張である。申立人の主張は理由がない。
(イ)申立人は、本件発明1の「エポキシ基含有ポリオレフィン樹脂」について実施例に比べて広範であり、課題が解決できないものも含まれていると主張していると解されるが、前記(ア)と同様に申立人の主張は理由がない。
(ウ)申立人は、本件発明2の「フェノールノボラック型エポキシ樹脂」について実施例に比べて広範であり、課題が解決できないものも含まれていると主張していると解されるが、前記(ア)と同様に申立人の主張は理由がない。
(エ)申立人は、本件発明3の「オキサゾリン基含有スチレン系樹脂」について実施例に比べて広範であり、課題が解決できないものも含まれていると主張していると解されるが、前記(ア)と同様に申立人の主張は理由がない。
(2)進歩性について
ア 甲2には次の記載がある。
(ア)「【0007】
本発明者らは、上述の現状に鑑み、鋭意検討した結果、エポキシ基含有変性ポリオレフィン樹脂と酸変性ポリオレフィン樹脂とを混合することにより、優れた接着性能が発現することを見いだし、本発明を完成するに至った。」
(イ)「【0008】
1) (A)ポリオレフィン樹脂をエポキシ基含有ビニル単量体で溶融グラフト変性して得られるエポキシ基含有変性ポリオレフィン樹脂1〜99重量部、および(B)ポリオレフィン樹脂をα、β-不飽和カルボン酸又はその無水物単量体で溶融グラフト変性して得られる酸変性ポリオレフィン樹脂99〜1重量部〔ただし(A)+(B)=100重量部〕からなる接着性樹脂組成物。
【0009】
2) (A)エポキシ基含有変性ポリオレフィン樹脂が、(a-1)ポリオレフィン樹脂に対して、ラジカル重合開始剤存在下、(a−2)エポキシ基含有ビニル単量体および(a−3)芳香族ビニル単量体を溶融混練して得られ、該(a−2)エポキシ基含有ビニル単量体の添加量が、(a−1)ポリオレフィン樹脂と(a−2)エポキシ基含有ビニル単量体と(a−3)芳香族ビニル単量体の合計重量に対し、0.1〜50重量%の範囲である1)記載の接着性樹脂組成物。
【0010】
3) (B)酸変性ポリオレフィン樹脂が、(b-1)ポリオレフィン樹脂に対して、ラジカル重合開始剤存在下、(b−2)α、β−不飽和カルボン酸またはその酸無水物単量体および(b−3)芳香族ビニル単量体を溶融混練して得られ、該(b−2)α、β−不飽和カルボン酸またはその酸無水物単量体の添加量が、(b−1)ポリオレフィン樹脂と(b−2)α、β−不飽和カルボン酸またはその酸無水物単量体と(b−3)芳香族ビニル単量体の合計重量に対し、0.01〜50重量%の範囲である1)または2)記載の接着性樹脂組成物。
【0011】
4) 前記ポリオレフィン樹脂が、プロピレン単位が過半量であるポリプロピレン系樹脂である、1)〜3)いずれかに記載の接着性樹脂組成物。
【0012】
5) ポリオレフィン樹脂を変性して得られる、前記(A)エポキシ基含有変性ポリオレフィン樹脂および前記(B)酸変性ポリオレフィン樹脂の少なくともひとつにおいて、ポリオレフィン樹脂がエチレン成分を0.01〜45重量%含むエチレン−プロピレンコポリマーである、1)〜4)いずれかに記載の接着性樹脂組成物。
【0013】
6) (b−2)α、β−不飽和カルボン酸またはその酸無水物単量体が無水マレイン酸である、3)〜5)いずれかに記載の接着性樹脂組成物。
【0014】
7) (A)エポキシ基含有変性ポリオレフィン樹脂が、(a-1)ポリオレフィン系樹脂とラジカル重合開始剤を溶融混練した後、次いで(a−3)エポキシ基含有ビニル単量体、(a−4)芳香族ビニル単量体を加え溶融混練して得られることを特徴とする2)〜6)のいずれかに記載の接着性樹脂組成物。
【0015】
8) (B)酸変性ポリオレフィン樹脂が、(b-1)ポリオレフィン樹脂とラジカル重合開始剤、および(b−2)α、β−不飽和カルボン酸またはその酸無水物単量体を溶融混練した後、次いで(b−3)芳香族ビニル単量体を加え溶融混練して得られることを特徴とする3)〜7)のいずれかに記載の接着性樹脂組成物。
【0016】
9) 1)〜8)のいずれかに記載の接着性樹脂組成物100重量部に対して、プロピレン単位が過半量であるポリプロピレン樹脂0.1〜100重量部を含有する接着性ポリオレフィン系樹脂組成物。
【0017】
10) 1)〜9)のいずれかに記載の接着性樹脂組成物からなり、熱溶着性を有するシート状またはフィルム状成形体。」
(ウ)「【0026】
また、極性基を有する非芳香属性ビニル単量体と相溶し易い点で、極性基が導入されたポリオレフィン樹脂を、変性に用いるポリプロピレン、エチレンープロピレン共重合体に混合して使用してもよい。極性基が導入されたポリオレフィン樹脂の具体例としては、エチレン/塩化ビニル共重合体、エチレン/塩化ビニリデン共重合体、エチレン/アクリロニトリル共重合体、エチレン/メタクリロニトリル共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体、エチレン/アクリルアミド共重合体、エチレン/メタクリルアミド共重合体、エチレン/アクリル酸共重合体、エチレン/メタクリル酸共重合体、エチレン/マレイン酸共重合体、エチレン/アクリル酸メチル共重合体、エチレン/アクリル酸エチル共重合体、エチレン/アクリル酸イソプロピル共重合体、エチレン/アクリル酸ブチル共重合体、エチレン/アクリル酸イソブチル共重合体、エチレン/アクリル酸2−エチルヘキシル共重合体、エチレン/メタクリル酸メチル共重合体、エチレン/メタクリル酸エチル共重合体、エチレン/メタクリル酸イソプロピル共重合体、エチレン/メタクリル酸ブチル共重合体、エチレン/メタクリル酸イソブチル共重合体、エチレン/メタクリル酸2−エチルヘキシル共重合体、エチレン/無水マレイン酸共重合体、エチレン/アクリル酸エチル/無水マレイン酸共重合体、エチレン/アクリル酸金属塩共重合体、エチレン/メタクリル酸金属塩共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体、又はその鹸化物、エチレン/プロピオン酸ビニル共重合体、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体エチレン/アクリル酸エチル/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/酢酸ビニル/メタクリル酸グリシジル共重合体などのエチレンまたはα−オレフィン/ビニル単量体共重合体などの極性基含有エチレン共重合体;塩素化ポリプロピレン、塩素化ポリエチレンなどの塩素化ポリオレフィンなどが挙げられる。これらの極性基導入ポリオレフィン樹脂は単独で使用しても、複数を組み合わせて使用してもよい。」
(エ)「【0042】
<<接着性樹脂組成物について>>
本発明の接着性樹脂組成物において(A)エポキシ基含有変性ポリオレフィンと(B)酸変性ポリオレフィンの配合比は、(A)エポキシ基含有変性ポリオレフィン1〜99重量部、および(B)酸変性ポリオレフィン99〜1重量部(ただし、[(A)+(B)は合計100重量部]である。接着性能の向上効果を十分得るためには、(A)成分が(B)成分よりも多い方が好ましく、具体的には(A)成分60〜95重量部、(B)成分40〜5重量部の範囲内であることが好ましく、(A)成分70〜85重量部(B)成分30〜15重量部であることがさらに好ましい(ただし、(A)+(B)は合計100重量部)。」
(オ)「【0045】
また、本発明の接着性樹脂組成物は、添加剤としてポリオレフィン樹脂に添加しても、接着性を向上することができる。」
(カ)「【0047】
本発明の接着性樹脂組成物とポリオレフィン樹脂を混合する際に、その混合量は特に限定はないが、ポリオレフィン樹脂100重量部に対し、0.1〜100重量部、更には0.1〜70重量部を含有させることが好ましい。より好ましくは0.1〜50重量部であり、更に好ましくは0.1〜20重量部である。多すぎるとポリオレフィン樹脂本来の機械特性が低下し、また経済的な課題が生じてくる場合がある。
【0048】
<<シートまたはフィルム状成形体について>>
本発明の接着性樹脂組成物は、熱溶着性を有するシート状またはフィルム状成形体にすることができる。また、ポリオレフィン樹脂に本発明の接着性樹脂組成物を添加してなる樹脂組成物も、熱溶着性を有するシート状またはフィルム状成形体にすることができる。本発明でいう熱溶着性とは、熱で溶けて被着体と接合する性質のことである。本発明のシートまたはフィルム状成形体とは、成形体の厚みとしては3μmから3mmが例示でき、好ましくは10μm〜2mmであり、シートあるいはフィルムとして利用することができるものである。」
イ 甲3には、次の記載がある。
「【0021】
本発明の接着性樹脂組成物は、前記酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の酸官能基と、前記エポキシ樹脂系化合物(B)のエポキシ基や水酸基が、被着体に対する接着性官能基として機能することにより、金属、ガラス、プラスチックなどの各種の被着体に対して、優れた接着力を有する。
接着性樹脂組成物の固形分100重量部中に、前記エポキシ樹脂系化合物(B)は、1〜15重量部の範囲内で含有することが好ましい。前記酸変性ポリオレフィン樹脂(A)のポリオレフィン部分による、極性の低いプラスチックに対する親和力と、前記接着性官能基による、金属やガラスなどの異種材料に対する親和力とが、好適なバランスを有するものとなり、金属やガラスなどの異種材料と接着するときに加えて、ポリオレフィン等の、極性の低いプラスチックと接着するときにも、優れた接着力を有する。
前記酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の酸官能基と、前記エポキシ樹脂系化合物(B)の水酸基とが、加熱によって容易に反応するので、他にこれらの官能基と反応し得る硬化剤等を配合する必要はない。」
ウ 甲4には次の記載がある。
(ア)「【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上述の目的で研究した結果、極性樹脂樹脂//ポリオレフィン積層体の接着樹脂層として実績のあるカルボキシル変性ポリオレフィンに比較的少量のエポキシ化ポリオレフィンを配合することにより、最も接着性の乏しい脂肪族ポリエステル樹脂//ポリオレフィン層間接着においても良好な接着強度を発現する接着樹脂組成物が得られることを見出して、本発明に到達したものである。」
(イ)「【0021】
(接着樹脂)
本発明の多層樹脂構造体において、脂肪族ポリエステル樹脂層と他の熱可塑性樹脂層との間に挿入される接着樹脂層は、主成分としてのカルボキシル変性ポリオレフィンに、少量のエポキシ化ポリオレフィンを配合することにより得られる。
【0022】
<カルボキシル変性ポリオレフィン>
カルボキシル変性ポリオレフィンは、先のポリオレフィンで挙げた如きポリオレフィンと不飽和カルボン酸またはその無水物の両者をグラフト重合条件に付すことによって得られるものである。ここで、不飽和カルボン酸またはその無水物としては、アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、ハイミツク酸又は、これらの無水物、特に無水マイレン酸、アクリル酸を用いることが好ましい。第3級炭素の位置に無水マイレン酸が付加した無定形1,2−ポリブタジエンを用いてもよい。」
(ウ)「【0026】
<エポキシ化ポリオレフィン>
エポキシ化ポリオレフィンとは、ポリオレフィンをメタクリル酸グリシジル等のエポキシ基含有単量体で変性して、エポキシ基を導入したポリオレフィンである。エポキシ基の導入は、共重合体及びグラフト法のいずれでもよい。また、上記エポキシ基含有単量体と、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、酢酸ビニル等のビニル系単量体とを併用してもよい。
【0027】
市販品の例としては、日本石油化学株式会社製「レクスパールRA3150」、住友化学株式会社製「ボンドファースト2C,E,B」等の名で市販されるエチレン−グリシジル酸メタクリル(GMA)共重合体が挙げられる。エポキシ基含有単量体による変性率(共重合体中の含有率)は、3〜20重量%程度である。
【0028】
本発明においては、上記カルボキシル変性ポリオレフィン100重量部に対しエポキシ化ポリオレフィン0.5〜25重量部を配分した接着樹脂組成物が好ましい。0.5重量部未満では、脂肪族ポリエステル樹脂層との接着強度改善効果が乏しくなる。また25重量部を超えると、溶融加工中の樹脂の熱安定性が乏しくなり、あるいはボイルもしくはレトルト処理後の接着強度が低下し易い。
【0029】
特に5〜10重量部が好ましい。また接着樹脂中のエポキシ基含有単量体重合物の含量が0.06〜3重量%、特に0.6〜1.2重量%の範囲となることが好ましい。」
(エ)「【0051】
<エポキシ化ポリオレフィン>
・ポリ(GMA(グリシジルメタクリレート)−エチレン)共重合体(GMA含量12%)である住友化学社製「ボンドファーストE」(Tm=103℃、MFR=3)を用いた。」
エ 甲5には次の記載がある。
(ア)「【請求項1】
(A)極性官能基で変性された重合体、
(B)ブチラール樹脂、
(C)オレフィン系重合体、および
(D)粘着付与樹脂
を含むホットメルト接着剤。」
(イ)「【0049】
極性官能基で変性されたオレフィン系重合体として、市販品を用いることができる。例えば、住友化学社製のボンドファースト7M、日本油脂社製のモディパーA4100、ダウ・ケミカル社製のアフィニティGA1000R、アルケマ社製のボンダインHX8210、デュポン社製のフサボンド N525等が挙げられる。」
オ 甲1発明の認定
甲1発明の認定は、前記第4、3と同じであるが、再掲する。
「酸変性ポリエチレン331a、酸変性ポリプロピレン333a、ポリエチレンナフタレートからなる耐熱性フィルム332、酸変性ポリプロピレン333b、酸変性ポリエチレン331aをこの順に積層した熱接着性シート。」
カ 本件発明1との対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
(ア)甲1発明における「酸変性ポリエチレン331a」の層、「酸変性ポリエチレン331b」の層は、本件発明1における「第1接着剤層」、「第2接着剤層」にそれぞれ相当する。
(イ)甲1発明における「酸変性ポリプロピレン333a」の層、「酸変性ポリプロピレン333b」の層は、本件発明1における「第1中間層」、「第2中間層」にそれぞれ相当する。
(ウ)甲1発明における「ポリエチレンナフタレートからなる耐熱性フィルム332」は、本件発明1における「耐熱性を有する基材層」を充足する。
(エ)甲1発明における「酸変性ポリプロピレン333a、333b」は、前記2(1)オに摘記した段落0048に記載されるように「酸変性ポリエチレン331a、331bとポリエチレンナフタレート332の間には、ポリエチレンナフタレート332に対して安定的に接着する酸変性ポリプロピレン333a、333b」とされており、また、ポリエチレンとポリプロピレンとは、共にポリオレフィンであって、化学構造が近いことから、熱接着性シートにおいて接着性を有するものであることは技術常識であるから、甲1発明における「酸変性ポリプロピレン333a」は、ポリエチレンナフタレートからなる耐熱性フィルム332及び酸変性ポリエチレン331aに接着性を有するものである。
(オ)前記エと同様に、甲1発明における「酸変性ポリプロピレン333b」は、ポリエチレンナフタレートからなる耐熱性フィルム332及び酸変性ポリエチレン331bに接着性を有するものである。
(カ)甲1発明における「熱接着性シート」は、本件発明1の「ホットメルト接着性樹脂フィルム」に相当する。
(キ)一致点・相違点
以上から、本件発明1と甲1発明の一致点・相違点は次のとおりである。
a 一致点
「第1接着剤層、第1中間層、耐熱性を有する基材層、第2中間層、第2接着剤層をこの順に積層してなり、
前記第1接着剤層および前記第2接着剤層が酸変性ポリオレフィン樹脂を含み、
前記第1中間層が前記基材層および前記第1接着層に対する接着性を有する層であり、
前記第2中間層が前記基材層および前記第2接着層に対する接着性を有する層であ」る「ホットメルト接着性樹脂フィルム」である点。
b 相違点1−1
第1接着剤層および第2接着剤層について、本件発明1においては、「酸変性ポリオレフィン樹脂(A)を80質量部〜99.9質量部と、オレフィン化合物とエポキシ基含有ビニルモノマーとを含むモノマーを共重合させて得られる主鎖、および、前記主鎖に結合した側鎖を有し、かつ、融点が80℃〜120℃であるエポキシ基含有ポリオレフィン樹脂(B)を0.1質量部〜20質量部を含有する」のに対して、甲1発明においては、「酸変性ポリエチレン」からなる点。
キ 相違点についての検討
(ア)前記ア(ア)〜(カ)に摘記した甲2には、(A)エポキシ基含有変性ポリオレフィンと(B)酸変性ポリオレフィンを配合することが記載されているが、「オレフィン化合物とエポキシ基含有ビニルモノマーとを含むモノマーを共重合させて得られる主鎖、および、前記主鎖に結合した側鎖を有し、かつ、融点が80℃〜120℃であるエポキシ基含有ポリオレフィン樹脂」については記載も示唆もされていない。
(イ)前記イに摘記した甲3、前記ウ(ア)〜(エ)に摘記した甲4についても、同様に「オレフィン化合物とエポキシ基含有ビニルモノマーとを含むモノマーを共重合させて得られる主鎖、および、前記主鎖に結合した側鎖を有し、かつ、融点が80℃〜120℃であるエポキシ基含有ポリオレフィン樹脂」については記載も示唆もされていない。
(ウ)前記エ(イ)に摘記した甲5の段落【0049】には、「極性官能基で変性されたオレフィン系重合体」の例として、「日本油脂社製のモディパーA4100」が記載されており、これは、本件明細書の段落【0096】に接着剤成分(B)として記載されているものではあるが、甲5の記載から、本件発明のように酸変性ポリオレフィン樹脂とともに用いることが記載されているわけではない。したがって、相違点1−1は当業者が容易に想到しうるものではない。
(エ)そうすると、相違点1−1が当業者にとって容易に想到しうることということはできない。
(オ)申立人の主張に対して
a 申立人は、特許異議申立書の23頁において、甲2のエチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体等におけるグリシジル基から形成されるグラフト鎖が「側鎖」に相当すると主張する。
しかしながら、甲2には、グリシジル基から側鎖を伸ばすことは何ら記載されていないから、申立人の主張は理由がない。
b 申立人は、特許異議申立書の25頁において、グラフト反応を利用して主鎖に側鎖を導入することは周知技術であるから、甲4における「エポキシ化ポリオレフィン」に側鎖を持たせることは容易であると主張する。
しかしながら、前記したように相違点1−1が甲4に記載されていないことには変わりがない。申立人の主張は理由がない。
ク そうすると、本件発明1は、甲1発明及び甲2〜5に記載された事項によって当業者が容易に発明することができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえない。
ケ 本件発明1を引用する本件発明4〜7について
本件発明4〜7(本件発明1を引用する発明)は、本件発明1の発明特定事項を全て包含し、更に発明特定事項を追加するものであるから、本件発明1と同様に1発明及び甲2〜5に記載された事項によって当業者が容易に発明することができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえない。
3 小括
以上のとおり、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明4〜7は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえないから、特許法第113条第2号の規定により取り消すことはできない。

第6 むすび
1 前記第2において検討したように、本件訂正は認められる。
2 当審からの取消理由通知に記載した理由及び申立人が特許異議申立書において主張した理由によっては、本件発明1〜7に係る特許を取り消すべきということはできない。
3 また、他に本件発明1〜7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
4 よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1接着剤層、第1中間層、耐熱性を有する基材層、第2中間層、第2接着剤層をこの順に積層してなり、
前記第1接着剤層および前記第2接着剤層が酸変性ポリオレフィン樹脂を含み、
前記第1中間層が前記基材層および前記第1接着層に対する接着性を有する層であり、
前記第2中間層が前記基材層および前記第2接着層に対する接着性を有する層であり、
前記第1接着剤層および前記第2接着剤層が、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)を80質量部〜99.9質量部と、オレフィン化合物とエポキシ基含有ビニルモノマーとを含むモノマーを共重合させて得られる主鎖、および、前記主鎖に結合した側鎖を有し、かつ、融点が80℃〜120℃であるエポキシ基含有ポリオレフィン樹脂(B)を0.1質量部〜20質量部を含有することを特徴とするホットメルト接着性樹脂フィルム。
【請求項2】
第1接着剤層、第1中間層、耐熱性を有する基材層、第2中間層、第2接着剤層をこの順に積層してなり、
前記第1接着剤層および前記第2接着剤層が酸変性ポリオレフィン樹脂を含み、
前記第1中間層が前記基材層および前記第1接着層に対する接着性を有する層であり、
前記第2中間層が前記基材層および前記第2接着層に対する接着性を有する層であり、
前記第1接着剤層および前記第2接着剤層が、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)を90質量部〜99.9質量部と、常温で固体であるフェノールノボラック型エポキシ樹脂(C)を0.1質量部〜10質量部とを含有し、
前記基材層が、環状オレフィンポリマーまたはメチルペンテンポリマーから形成される層であることを特徴とするホットメルト接着性樹脂フィルム。
【請求項3】
第1接着剤層、第1中間層、耐熱性を有する基材層、第2中間層、第2接着剤層をこの順に積層してなり、
前記第1接着剤層および前記第2接着剤層が酸変性ポリオレフィン樹脂を含み、
前記第1中間層が前記基材層および前記第1接着層に対する接着性を有する層であり、
前記第2中間層が前記基材層および前記第2接着層に対する接着性を有する層であり、
前記第1接着剤層および前記第2接着剤層が、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)を80質量部〜99.9質量部と、数平均分子量が5万〜25万のオキサゾリン基含有スチレン系樹脂(D)を0.1〜10質量部とを含有することを特徴とするホットメルト接着性樹脂フィルム。
【請求項4】
前記第1中間層および前記第2中間層が、ポリプロピレン、メタロセン系ポリエチレンおよびメタロセン系ポリプロピレンからなる群から選択される少なくとも1種であり、前記基材層の形成材料が、環状オレフィンポリマーを含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のホットメルト接着性樹脂フィルム。
【請求項5】
前記第1中間層および前記第2中間層が、メチルペンテンポリマー、ポリブテン系エラストマーおよびポリプロピレンからなる群から選択される少なくとも1種であり、前記基材層が、メチルペンテンポリマーからなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のホットメルト接着性樹脂フィルム。
【請求項6】
前記基材層は無機フィラーを含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のホットメルト接着性樹脂フィルム。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のホットメルト接着性樹脂フィルムの製造方法であって、
第1接着剤層、第1中間層、耐熱性を有する基材層、第2中間層、第2接着剤層をこの順に積層するように共押出法により製造することを特徴とするホットメルト接着性樹脂フィルムの製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-11-11 
出願番号 P2015-156366
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C09J)
P 1 651・ 121- YAA (C09J)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 川端 修
特許庁審判官 木村 敏康
門前 浩一
登録日 2020-04-08 
登録番号 6688574
権利者 藤森工業株式会社
発明の名称 ホットメルト接着性樹脂フィルムおよびその製造方法  
代理人 貞廣 知行  
代理人 大浪 一徳  
代理人 田▲崎▼ 聡  
代理人 大浪 一徳  
代理人 貞廣 知行  
代理人 田▲崎▼ 聡  
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