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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
管理番号 1381659
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-02-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-12-03 
確定日 2022-01-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第6703184号発明「樹脂組成物、樹脂成形体及び樹脂成形体の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6703184号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許(特許第6703184号)についての出願は、平成30年3月12日(優先権主張 平成29年3月15日、日本国)を国際出願日とする出願であって、令和2年5月11日にその特許権の設定登録がされたものである(特許掲載公報の発行は同年6月3日)。その特許について、同年12月3日に特許異議申立人中川賢治(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和2年12月 3日 特許異議申立書
令和3年 3月31日付け取消理由通知書
同年 5月28日 上申書(特許権者)
同年 6月28日 面接記録
同年 7月 6日 訂正の請求、意見書(特許権者)
同年 7月26日付け通知書(申立人あて)
同年 8月11日 上申書(申立人)
同年 8月19日付け通知書(申立人あて)
なお、令和3年8月19日付け通知書に対して、申立人から意見書の提出はなかった。

第2 訂正の請求について
1 訂正の内容
令和3年7月6日にした訂正(以下、「本件訂正」という。)の請求の趣旨は、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項7について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は次のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。

訂正前の「下記一般式(1)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種の近赤外線吸収色素と、樹脂と、を混練して樹脂混練物を得る工程と、
得られた樹脂混練物を成形する工程と、
を含む、樹脂成形体の製造方法。」と記載されているものを、
訂正後の「下記一般式(1)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種の近赤外線吸収色素と、樹脂と、を混練して樹脂混練物を得る工程と、
得られた樹脂混練物を成形する工程と、
を含み、
前記近赤外線吸収色素の含有量が、前記樹脂混練物の全量に対して0.3質量%〜5質量%である、樹脂成形体の製造方法。」
に訂正する(以下、「訂正事項」という。)。

2 訂正の適否の判断
(1)訂正の目的、新規事項の追加、実質上の特許請求の範囲の拡張又は変更について
訂正事項は、請求項7に記載の「近赤外線吸収色素」の含有量を、本件明細書の【0021】、【0072】等を基に新たに特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載した事項を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではないし、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

3 まとめ
以上のとおりであるから、訂正事項による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる目的に適合し、また、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するから、本件訂正を認める。

第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1〜7に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種の近赤外線吸収色素と、樹脂と、を含み、
前記近赤外線吸収色素の含有量が、樹脂組成物の全量に対して0.3質量%〜5質量%である樹脂混練物である樹脂組成物。
【化1】

一般式(1)中、R1a及びR1bは、それぞれ独立にアルキル基、アリール基又はヘテロアリール基を表す。
複数のR2及びR3は、それぞれ独立に水素原子又は1価の置換基を表し、R2及びR3のうち少なくとも一つは電子吸引性基である。R2及びR3は互いに結合して環を形成してもよい。複数のR4は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、置換ホウ素、又は金属原子を表し、R4は、R1a、R1b及びR3から選ばれる少なくとも1つと共有結合もしくは配位結合にて結合してもよい。
【請求項2】
前記一般式(1)で表される化合物が、下記一般式(3)で表される化合物である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【化2】

一般式(3)中、複数のR31a及びR31bは、それぞれ独立にアルキル基、アリール基又はヘテロアリール基を表す。
複数のR32は、水素原子又は1価の置換基を表し、R32のうち少なくとも一つは電子吸引性基である。複数のR6及びR7は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、又はヘテロアリール基を表し、R6及びR7は互いに結合して環を形成してもよい。複数のR8及びR9は、それぞれ独立にアルキル基、アルコキシ基、アリール基、又はヘテロアリール基を表す。
複数のXは、それぞれ独立に酸素原子、イオウ原子、−NR−、又はCRR’−を表し、R及びR’は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、又はアリール基を表す。
【請求項3】
前記樹脂が、ポリエステル、ポリアミド、及びポリウレタンから選ばれる少なくとも1種を含む請求項1又は請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
さらに、着色剤を含む請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
下記一般式(1)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種の近赤外線吸収色素と、樹脂と、を含み、前記近赤外線吸収色素の含有量が、樹脂組成物の全量に対して0.3質量%〜5質量%である樹脂混練物である樹脂組成物の硬化体である樹脂成形体。
【化3】

一般式(1)中、R1a及びR1bは、それぞれ独立にアルキル基、アリール基又はヘテロアリール基を表す。
複数のR2及びR3は、それぞれ独立に水素原子又は1価の置換基を表し、R2及びR3のうち少なくとも一つは電子吸引性基である。R2及びR3は互いに結合して環を形成してもよい。複数のR4は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、置換ホウ素、又は金属原子を表し、R4は、R1a、R1b及びR3から選ばれる少なくとも1つと共有結合もしくは配位結合にて結合してもよい。
【請求項6】
合成繊維である請求項5に記載の樹脂成形体。
【請求項7】
下記一般式(1)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種の近赤外線吸収色素と、樹脂と、を混練して樹脂混練物を得る工程と、
得られた樹脂混練物を成形する工程と、
を含み、
前記近赤外線吸収色素の含有量が、前記樹脂混練物の全量に対して0.3質量%〜5質量%である、樹脂成形体の製造方法。
【化4】

一般式(1)中、R1a及びR1bは、それぞれ独立にアルキル基、アリール基又はヘテロアリール基を表す。
複数のR2及びR3は、それぞれ独立に水素原子又は1価の置換基を表し、R2及びR3のうち少なくとも一つは電子吸引性基である。R2及びR3は互いに結合して環を形成してもよい。複数のR4は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、置換ホウ素、又は金属原子を表し、R4は、R1a、R1b及びR3から選ばれる少なくとも1つと共有結合もしくは配位結合にて結合してもよい。」

(以下、請求項1〜7に係る発明を、順に「本件発明1」等といい、本件発明1〜7をまとめて「本件発明」ということがある。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)

第4 異議申立ての理由と当審が通知した取消理由
1 特許異議申立ての理由
本件訂正前の請求項1〜7に係る発明は、下記(1)及び(2)のとおりの理由があるから、本件特許の請求項1〜7に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。証拠方法として、下記(3)の甲第1号証〜甲第6号証(以下、順に「甲1」等という。)を提出する。

(1)申立理由1(新規性
請求項7に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1又は甲2に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項7に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

(2)申立理由2(進歩性
請求項1〜7に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲1に記載された発明及び甲3〜甲6に記載された事項に基づいて、又は、甲2に記載された発明及び甲3〜甲6に記載された事項に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(3)証拠方法
甲1:国際公開第2015/056779号
甲2:国際公開第2015/022977号
甲3:青柳陽子ら、「食品の苦情事例−平成18〜20年度 多摩−」、東京都健康安全研究センター研究年報、2009年、第60号、第221〜226頁
甲4:佐田守弘、「食の安全性について−その3:食品の異物危害とその対策(1)−原材料。環境・作業者由来の異物」、安全工学、2010年、49巻、5号、288〜293頁
甲5:河野澄夫、“食品の異物・危害等に関する非破壊検査の現状と課題”、「フードシステム研究」、2005年、第12巻、第2号、22〜30頁
甲6:「DIC三井金属計測機工株式会社とともに近赤外光を利用した食品中の異物検出システムを開発中食の安全へのニーズに応える新しい技術」、2016年9月13日ニュースリリース、<https://www.dic-global.com/ja/news/2016/products/20161226000000.html>

2 当審が取消理由通知で通知した理由
本件訂正前の請求項1〜7に係る発明は、下記(1)及び(2)のとおりの理由があるから、本件特許の請求項1〜7に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(1)取消理由1(新規性
請求項7に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項7に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

(2)取消理由2(進歩性
請求項1〜7に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲1に記載された発明並びに引用文献A及びBに記載された事項に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
引用文献A:特開2000−178809号公報
引用文献B:特開2003−155641号公報

第5 当審の判断
当審は、以下に述べるとおり、当審が通知した取消理由1及び2、並びに申立人が申立てた申立理由1及び2のいずれによっても、本件発明1〜7に係る特許を取り消すことはできないと判断する。甲1を主引用文献とする申立理由1及び2は取消理由1及び2と同旨であるから、これらを併せて検討する。

1 取消理由通知書に記載した取消理由(甲1を主引用文献とする取消理由1及び2、並びに申立理由1及び2)について

(1)甲号証等に記載された事項
ア 甲1に記載された事項及び甲1に記載された発明
甲1には、以下の事項が記載されている

(ア)「[請求項1]
近赤外蛍光色素及び樹脂を含有する樹脂組成物であり、
前記近赤外蛍光色素が、
下記一般式(I1)
・・・
下記一般式(I2)
・・・
下記一般式(I3)
[化3]

(式(I3)中、
Rh及びRiは、Rhが結合する窒素原子及びRiが結合する炭素原子と共に、芳香族5員環、芳香族6員環、又は2〜3個の5員環若しくは6員環が縮合してなる縮合芳香環を形成し;
Rj及びRkは、Rjが結合する窒素原子及びRkが結合する炭素原子と共に、芳香族5員環、芳香族6員環、又は2〜3個の5員環若しくは6員環が縮合してなる縮合芳香環を形成し;
Rl、Rm、Rn、及びRoは、互いに独立して、ハロゲン原子、C1-20アルキル基、C1-20アルコキシ基、アリール基、又はヘテロアリール基を表し;
Rp及びRqは、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、C1-20アルキル基、C1-20アルコキシ基、アリール基、又はヘテロアリール基を表し、
Rr及びRsは、互いに独立して、水素原子、又は電子求引性基を表す。)で表される化合物、
・・・
で表される化合物からなる群より選択される1種又は2種以上の化合物であり、
極大蛍光波長が650nm以上であることを特徴とする樹脂組成物。
・・・
[請求項4]
下記一般式(I3−1)〜(I3−6)
[化8]

(式(I3−1)中、
R23、R24、R25、及びR26は、互いに独立して、ハロゲン原子、C1-20アルキル基、C1-20アルコキシ基、アリール基、又はヘテロアリール基を表し;
R27及びR28は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、C1-20アルキル基、C1-20アルコキシ基、アリール基、又はヘテロアリール基を表し;
R29及びR30は、互いに独立して、水素原子、又は電子求引性基を表し;
Y9及びY10は、互いに独立して硫黄原子、酸素原子、窒素原子、又はリン原子を表し;
R31及びR32は、
(p4)互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、C1-20アルキル基、C1-20アルコキシ基、アリール基、又はヘテロアリール基を表す、又は
(p5)R31及びR32は共に、置換基を有していてもよい芳香族5員環又は置換基を有していてもよい芳香族6員環を形成する;
R33及びR34は、
(q4)互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、C1-20アルキル基、C1-20アルコキシ基、アリール基、又はヘテロアリール基を表す、又は
(q5)R33及びR34は共に、置換基を有していてもよい芳香族5員環又は置換基を有していてもよい芳香族6員環を形成する。)
[化9]

(式(I3−2)〜(I3−6)中、R23〜R30は、前記式(I3−1)と同じであり;
X1及びX2は、互いに独立して窒素原子又はリン原子を表し;
R35、R36、R37、及びR38は、
(p6)互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、C1-20アルキル基、C1-20アルコキシ基、アリール基、又はヘテロアリール基を表す、
(p7)R35及びR36は共に、置換基を有していてもよい芳香族5員環又は置換基を有していてもよい芳香族6員環を形成し、R37及びR38は互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、C1-20アルキル基、C1-20アルコキシ基、アリール基、又はヘテロアリール基を表す、
(p8)R36及びR37は共に、置換基を有していてもよい芳香族5員環又は置換基を有していてもよい芳香族6員環を形成し、R35及びR38は互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、C1-20アルキル基、C1-20アルコキシ基、アリール基、又はヘテロアリール基を表す、又は
(p9)R37及びR38は共に、置換基を有していてもよい芳香族5員環又は置換基を有していてもよい芳香族6員環を形成し、R35及びR36は互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、C1-20アルキル基、C1-20アルコキシ基、アリール基、又はヘテロアリール基を表し;
R39、R40、R41、及びR42は、
(q6)互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、C1-20アルキル基、C1-20アルコキシ基、アリール基、又はヘテロアリール基を表す、
(q7)R39及びR40は共に、置換基を有していてもよい芳香族5員環又は置換基を有していてもよい芳香族6員環を形成し、R41及びR42は互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、C1-20アルキル基、C1-20アルコキシ基、アリール基、又はヘテロアリール基を表す、
(q8)R40及びR41は共に、置換基を有していてもよい芳香族5員環又は置換基を有していてもよい芳香族6員環を形成し、R39及びR42は互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、C1-20アルキル基、C1-20アルコキシ基、アリール基、又はヘテロアリール基を表す、又は
(q9)R41及びR42は共に、置換基を有していてもよい芳香族5員環又は置換基を有していてもよい芳香族6員環を形成し、R39及びR40は互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、C1-20アルキル基、C1-20アルコキシ基、アリール基、又はヘテロアリール基を表す。)のいずれかで表される化合物、・・・を含有する、請求項1に記載の樹脂組成物。
・・・
[請求項8]
前記近赤外蛍光色素と前記樹脂とが溶融混練されたものである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
・・・
[請求項11]
請求項1〜10のいずれか一項に記載の樹脂組成物を加工して得られる成形体。」

(イ)「[0003] 皮下などに埋め込まれている医療用インプラントを可視化するためには、皮膚透過性の高い近赤外光での励起が必要であり、さらに当該医療用インプラントから発せられる蛍光も皮膚透過性の高い近赤外領域である必要がある。すなわち、通常、視認性を確保するためには、医療用インプラントに含有されている近赤外蛍光色素自身が近赤外領域で強く光を吸収しなくてはならず、加えて強い蛍光を発する必要がある。このため、医療用インプラントの原料とされる樹脂組成物に含まれる近赤外蛍光色素としては、樹脂中において極大吸収波長が近赤外領域にあることが好ましい。
・・・
[0010]・・・汎用性を鑑みれば、樹脂中に近赤外蛍光色素を混合して分散させるだけで、近赤外蛍光樹脂が製造できることが好ましい。特に熱可塑性樹脂等に分散させる場合は、樹脂と色素を溶融混練する手法が考えられるが、色素の分解点未満の温度で溶融混練を行った場合でも、樹脂や色素の種類及び混練条件によっては、分散不良を起こしてしまったり、色素が分解してしまうなどの原因によって蛍光を発しないことがあり、前記記載の色素が熱可塑性樹脂等に分散できるか否かは色素の熱物性等から予測するのは困難である。
[0011] 本発明の目的は、近赤外蛍光を発し、発光量子収率が高く、さらに製造が比較的容易な樹脂組成物、及び当該樹脂組成物を加工して得られる成形体を提供することである。」

(ウ)「[0146]前記(I3−1)で表される化合物としては、R23、R24、R25、及びR26が共にハロゲン原子、無置換のフェニル基、又はC1-10アルキル基若しくはC1-10アルコキシ基で置換されたフェニル基であり;R27及びR28が共に水素原子、無置換のフェニル基、又はC1-20アルキル基若しくはC1-20アルコキシ基で置換されたフェニル基であり;R29及びR30が共にトリフルオロメチル基、ニトロ基、シアノ基、又はフェニル基であり;Y9及びY10が共に硫黄原子又は酸素原子であり;R31及びR32が互いに独立して水素原子若しくはC1-20アルキル基である、又はR31及びR32が共に置換基を有していてもよいフェニル基を形成し;R33及びR34が互いに独立して水素原子若しくはC1-20アルキル基である、又はR33及びR34が共に置換基を有していてもよいフェニル基を形成する化合物が好ましく、R23、R24、R25、及びR26が共にハロゲン原子又は無置換のフェニル基であり;R27及びR28が共に無置換のフェニル基、又は直鎖状若しくは分岐鎖状のC1-20アルコキシ基で置換されたフェニル基であり;R29及びR30が共にトリフルオロメチル基、ニトロ基、又はシアノ基であり;Y9及びY10が共に硫黄原子又は酸素原子であり;R31及びR32が互いに独立して水素原子若しくはC1-20アルキル基である、又はR31及びR32が共に無置換のフェニル基若しくはC1-10アルキル基で置換されたフェニル基を形成し;R33及びR34が互いに独立して水素原子若しくはC1-20アルキル基である、又はR33及びR34が共に無置換のフェニル基若しくはC1-10アルキル基で置換されたフェニル基を形成する化合物は、発光効率が高く、樹脂に対する相溶性が優れるため、より好ましい。」

イ 引用文献Aに記載された事項
引用文献Aには、以下の事項が記載されている。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 衣服を構成する布帛の少なくとも一部を、赤外線吸収特性を有する赤外線吸収繊維素材を少なくともその一部に使用した赤外線吸収布帛によって縫製したことを特徴とし、赤外線撮影時に衣服の透けを防止した赤外線吸収衣服。
【請求項2】 赤外線吸収繊維素材が繊維中または繊維の表面に赤外線吸収材を混練または付着した構造になることを特徴とする請求項1記載の赤外線吸収衣服。」

(イ)「【0008】上記赤外線吸収特性を有するフィラメントは次のようにして実施することができる。赤外線吸収剤を合成樹脂繊維素材に混練し、これを細く引いてフィラメントを構成し、繊維断面中に赤外線吸収剤の微細粉末を存在させるか、合成樹脂繊維素材を細く引いてフィラメントを構成する過程で赤外線吸収剤の微細粉末を該フィラメントの表面に付着させるか、更には、合成樹脂繊維素材を細く引いたフィラメントを糸に束ねるに際してその過程で赤外線吸収剤の微細粉末を該糸の表面に付着させることによって実施することができる。」

ウ 引用文献Bに記載された事項
引用文献Bには、以下の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】 赤外線吸収剤を含有したポリマーを溶融紡糸することによって得られる繊維からなる布帛であって、マンセル体系色相において、明度が2.5以下、彩度が1.0以下であり、波長域800nm〜1200nmの赤外線反射率が20〜50%の範囲内であることを特徴とする赤外線吸収繊維からなる布帛。」

(2)甲1に記載された発明
甲1には、請求項1を引用する請求項8に記載の樹脂組成物、並びに、請求項1及び請求項8を引用する請求項11に係る成形体に着目すると、以下の発明が記載されているといえる。

「近赤外蛍光色素及び樹脂を含有する樹脂組成物であり、
前記近赤外蛍光色素が、
下記一般式(I3)
[化3]

(式(I3)中、
Rh及びRiは、Rhが結合する窒素原子及びRiが結合する炭素原子と共に、
芳香族5員環、芳香族6員環、又は2〜3個の5員環若しくは6員環が縮合してなる縮合芳香環を形成し;
Rj及びRkは、Rjが結合する窒素原子及びRkが結合する炭素原子と共に、
芳香族5員環、芳香族6員環、又は2〜3個の5員環若しくは6員環が縮合してなる縮合芳香環を形成し;
Rl、Rm、Rn、及びRoは、互いに独立して、ハロゲン原子、C1-20アルキル基、C1-20アルコキシ基、アリール基、又はヘテロアリール基を表し;
Rp及びRqは、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、C1-20アルキル基、C1-20アルコキシ基、アリール基、又はヘテロアリール基を表し、
Rr及びRsは、互いに独立して、水素原子、又は電子求引性基を表す。)で表される化合物であり、
極大蛍光波長が650nm以上である樹脂組成物であって、
前記近赤外蛍光色素と前記樹脂とが溶融混練されたものである樹脂組成物」(以下、「甲1発明1a」という。)

「近赤外蛍光色素及び樹脂を含有する樹脂組成物であり、
前記近赤外蛍光色素が、一般式(I3)(当審注:一般式(I3)とそれに用いられる記号の説明は省略)で表される化合物であり、
極大蛍光波長が650nm以上である樹脂組成物であって、
前記近赤外蛍光色素と前記樹脂とが溶融混練されたものである樹脂組成物を加工して得られる成形体」(以下、「甲1発明1b」という。)

「近赤外蛍光色素及び樹脂を含有する樹脂組成物であり、
前記近赤外蛍光色素が、一般式(I3)(当審注:一般式(I3)とそれに用いられる記号の説明は省略)で表される化合物であり、
極大蛍光波長が650nm以上である樹脂組成物であって、
前記近赤外蛍光色素と前記樹脂とが溶融混練されたものである樹脂組成物を得て、上記樹脂組成物を成形体に加工する、成形体の製造方法」(以下、「甲1発明1c」という。)

また、甲1には、請求項1及び請求項4を引用する請求項8に係る樹脂組成物に着目すると、以下の発明が記載されているといえる。

「近赤外蛍光色素及び樹脂を含有する樹脂組成物であり、
前記近赤外蛍光色素が、下記一般式(I3−1)

(式(I3−1)中、
R23、R24、R25、及びR26は、互いに独立して、ハロゲン原子、C1-20アルキル基、C1-20アルコキシ基、アリール基、又はヘテロアリール基を表し

R27及びR28は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、C1-20アルキル基、C1-20アルコキシ基、アリール基、又はヘテロアリール基を表し;
R29及びR30は、互いに独立して、水素原子、又は電子求引性基を表し;
Y9及びY10は、互いに独立して硫黄原子、酸素原子、窒素原子、又はリン原子を表し;
R31及びR32は、
(p4)互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、C1-20アルキル基、C1-20アルコキシ基、アリール基、又はヘテロアリール基を表す、又は
(p5)R31及びR32は共に、置換基を有していてもよい芳香族5員環又は置換基を有していてもよい芳香族6員環を形成する;
R33及びR34は、
(q4)互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、C1-20アルキル基、C1-20アルコキシ基、アリール基、又はヘテロアリール基を表す、又は
(q5)R33及びR34は共に、置換基を有していてもよい芳香族5員環又は置換基を有していてもよい芳香族6員環を形成する。)
で表される化合物であり、
極大蛍光波長が650nm以上である樹脂組成物であって、
前記近赤外蛍光色素と前記樹脂とが溶融混練されたものである樹脂組成物」(以下、「甲1発明2a」という。)

(3)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明1aを対比する。
(ア)本件発明1の「近赤外線吸収色素」について
甲1発明1aの一般式(I3)で表される化合物と、本件発明1の一般式(1)で表される化合物は、いずれも2つのピロール環が縮合した構造を基本骨格とする点で一致する。
また、甲1発明1aの「近赤外蛍光色素」は、「近赤外蛍光色素自体が近赤外領域で強く光を吸収しなくてはならず、加えて強い蛍光を発する必要がある」(甲1の[0003])ものであり、近赤外領域の光を吸収する色素であるから、本件発明1の「近赤外線吸収色素」に相当する。

(イ)本件発明1における「樹脂混練物」について
甲1発明1aにおける「前記近赤外蛍光色素と前記樹脂とが溶融混練されたものである樹脂組成物」は、本件発明1における「近赤外線吸収色素と、樹脂と、を含」む「樹脂混練物である樹脂組成物」に相当する。

(ウ)一致点及び相違点
上記(ア)及び(イ)で述べたことから、本件発明1と甲1発明1aとは、
「2つのピロール環が縮合した構造を基本骨格とする化合物から選ばれる少なくとも1種の近赤外線吸収色素と、樹脂と、を含み、
樹脂混練物である樹脂組成物。」の点で一致し、次の点で相違する。

相違点1a:本件発明1は、「近赤外線吸収色素の含有量が、樹脂組成物の全量に対して0.3質量%〜5質量%である」のに対して、甲1発明1aは、「近赤外蛍光色素」の含有量が特定されていない点

相違点1b:上記化合物の置換基が、本件発明1は、「下記一般式(1)」である
「【化1】

」において、
「一般式(1)中、R1a及びR1bは、それぞれ独立にアルキル基、アリール基又はヘテロアリール基を表す。
複数のR2及びR3は、それぞれ独立に水素原子又は1価の置換基を表し、R2及びR3のうち少なくとも一つは電子吸引性基である。R2及びR3は互いに結合して環を形成してもよい。複数のR4は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、置換ホウ素、又は金属原子を表し、R4は、R1a、R1b及びR3から選ばれる少なくとも1つと共有結合もしくは配位結合にて結合してもよい。」のに対して、
甲1発明1aは、「下記一般式(I3)」である
「[化3]

」において、
「(式(I3)中、
Rh及びRiは、Rhが結合する窒素原子及びRiが結合する炭素原子と共に、
芳香族5員環、芳香族6員環、又は2〜3個の5員環若しくは6員環が縮合してなる縮合芳香環を形成し;
Rj及びRkは、Rjが結合する窒素原子及びRkが結合する炭素原子と共に、
芳香族5員環、芳香族6員環、又は2〜3個の5員環若しくは6員環が縮合してなる縮合芳香環を形成し;
Rl、Rm、Rn、及びRoは、互いに独立して、ハロゲン原子、C1-20アルキル基、C1-20アルコキシ基、アリール基、又はヘテロアリール基を表し;
Rp及びRqは、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、C1-20アルキル基、C1-20アルコキシ基、アリール基、又はヘテロアリール基を表し、
Rr及びRsは、互いに独立して、水素原子、又は電子求引性基を表す。)で表される」ものである点

イ 相違点の検討
相違点1aについて検討する。
甲1には、甲1発明1aにおける「近赤外蛍光色素」の含有量に関して、「蛍光強度とその検出感度の観点からは0.0001質量%以上が好ましく、濃度消光や蛍光の再吸収による検出感度の観点からは1質量%以下が好ましく」と記載されており([0184])、樹脂組成物中の近赤外蛍光色素の含有量が0.0001〜1質量%であることが示されている。
一方、甲1には、一般式(I3)で表される化合物の具体例である色素B(実施例4、8、14〜17)、色素F(実施例9及び18)、色素G(実施例10)及び色素H(実施例11)を用いた実施例が記載されているが、いずれも樹脂100gに対して多くても5mg、すなわち樹脂組成物の全量に対して約0.005質量%の量で添加したものであり、上記0.0001〜1質量%の上限である1質量%付近の含有量の具体例は示されていない。そして、上記[0184]に記載されるとおり、色素の含有量が1質量%付近では濃度消光や蛍光の再吸収が懸念されることから、一般式(I3)で表される上記色素F等を使用する場合においては、0.005質量%の具体例を根拠に、本件発明1の「近赤外吸収色素」の含有量の下限であって上記0.005質量%の60倍に相当する0.3質量%の付近の含有量である場合に、近赤外蛍光色素として作用効果を奏することを直ちには理解することはできず、甲1発明1aにおいて、近赤外蛍光色素の含有量を樹脂組成物の全量に対して0.3質量%付近にすることが動機付けられるとはいえない。
そして、甲3(223頁右欄23〜25行)、甲4(292頁右欄3〜6行)、甲5(23頁右欄13〜17行)及び甲6(第4〜5段落)の記載を見ても、甲1発明1aにおいて、近赤外蛍光色素の含有量を、樹脂組成物の全量に対して0.3質量%〜5質量%にすることを動機付ける記載は見当たらない。
そうすると、甲1発明1aにおいて、「近赤外線吸収色素の含有量が、樹脂組成物の全量に対して0.3質量%〜5質量%である」とすることを当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

ウ 小括
したがって、本件発明1は、相違点1bについて検討するまでもなく、甲1に記載された発明並びに甲1及び甲3〜甲6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件発明2について
ア 本件発明2
本件発明2は本件発明1を引用するものであり、これを独立形式で記載すると、以下のようになる。
「下記一般式(3)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種の近赤外線吸収色素と、樹脂と、を含み、
前記近赤外線吸収色素の含有量が、樹脂組成物の全量に対して0.3質量%〜5質量%である樹脂混練物である樹脂組成物。
【化2】

一般式(3)中、複数のR31a及びR31bは、それぞれ独立にアルキル基、アリール基又はヘテロアリール基を表す。
複数のR32は、水素原子又は1価の置換基を表し、R32のうち少なくとも一つは電子吸引性基である。複数のR6及びR7は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、又はヘテロアリール基を表し、R6及びR7は互いに結合して環を形成してもよい。複数のR8及びR9は、それぞれ独立にアルキル基、アルコキシ基、アリール基、又はヘテロアリール基を表す。
複数のXは、それぞれ独立に酸素原子、イオウ原子、−NR−、又はCRR’−を表し、R及びR’は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、又はアリール基を表す。」

イ 対比
本件発明2と甲1発明2aを対比する。
(ア)本件発明2の「近赤外線吸収色素」について
甲1発明2aの一般式(I3−1)で表される化合物と、本件発明2の一般式(3)で表される化合物は、いずれも2つのピロール環が縮合した構造を基本骨格とする点で一致する。
また、甲1発明2aの「近赤外蛍光色素」は、「近赤外蛍光色素自体が近赤外領域で強く光を吸収しなくてはならず、加えて強い蛍光を発する必要がある」(甲1の[0003])ものであり、近赤外領域の光を吸収する色素であるから、本件発明2の「近赤外線吸収色素」に相当する。

(イ)本件発明2における「樹脂混練物」について
甲1発明2aにおける「前記近赤外蛍光色素と前記樹脂とが溶融混練されたものである樹脂組成物」は、本件発明2における「近赤外線吸収色素と、樹脂と、を含」む「樹脂混練物である樹脂組成物」に相当する。

(ウ)一致点及び相違点
そうすると、本件発明2と甲1発明2aとは、
「2つのピロール環が縮合した構造を基本骨格とする化合物から選ばれる少なくとも1種の少なくとも1種の近赤外線吸収色素と、樹脂と、を含み、
樹脂混練物である樹脂組成物。」の点で一致し、次の点で相違する。

相違点1c:本件発明2は、「前記近赤外線吸収色素の含有量が、樹脂組成物の全量に対して0.3質量%〜5質量%である」のに対して、甲1発明2aは、「近赤外蛍光色素」の含有量が特定されていない点

相違点1d:上記化合物の置換基が、
本件発明2は、「下記一般式(3)」である


」において、
「一般式(3)中、複数のR31a及びR31bは、それぞれ独立にアルキル基、アリール基又はヘテロアリール基を表す。
複数のR32は、水素原子又は1価の置換基を表し、R32のうち少なくとも一つは電子吸引性基である。複数のR6及びR7は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、又はヘテロアリール基を表し、R6及びR7は互いに結合して環を形成してもよい。複数のR8及びR9は、それぞれ独立にアルキル基、アルコキシ基、アリール基、又はヘテロアリール基を表す。
複数のXは、それぞれ独立に酸素原子、イオウ原子、−NR−、又はCRR’−を表し、R及びR’は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、又はアリール基を表す。」のに対して、
甲1発明2aは、「下記一般式(I3−1)」である
「[化8]

において、
「式(I3−1)中、
R23、R24、R25、及びR26は、互いに独立して、ハロゲン原子、C1-20アルキル基、C1-20アルコキシ基、アリール基、又はヘテロアリール基を表し;
R27及びR28は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、C1-20アルキル基、C1-20アルコキシ基、アリール基、又はヘテロアリール基を表し;
R29及びR30は、互いに独立して、水素原子、又は電子求引性基を表し;
Y9及びY10は、互いに独立して硫黄原子、酸素原子、窒素原子、又はリン原子を表し;
R31及びR32は、
(p4)互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、C1-20アルキル基、C1-20アルコキシ基、アリール基、又はヘテロアリール基を表す、又は
(p5)R31及びR32は共に、置換基を有していてもよい芳香族5員環又は置換基を有していてもよい芳香族6員環を形成する;
R33及びR34は、
(q4)互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、C1-20アルキル基、C1-20アルコキシ基、アリール基、又はヘテロアリール基を表す、又は
(q5)R33及びR34は共に、置換基を有していてもよい芳香族5員環又は置換基を有していてもよい芳香族6員環を形成する。)
で表される」点

ウ 相違点の検討
相違点1cは、相違点1aと同内容の相違点であり、本件発明1において上記(3)イで述べたのと同じ理由により、甲1発明2aにおいて、甲1及び甲3〜甲6の記載を見ても、近赤外蛍光色素の含有量を、樹脂組成物の全量に対して0.3質量%〜5質量%にすることが動機付けられないから、「近赤外線吸収色素の含有量が、樹脂組成物の全量に対して0.3質量%〜5質量%である」とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。

エ 小括
したがって、本件発明2は、相違点1dについて検討するまでもなく、甲1に記載された発明並びに甲1及び甲3〜甲6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)本件発明3及び4について
本件発明3及び4は、本件発明1又は2を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明3及び4と甲1発明1a又は甲1発明2aをそれぞれ対比すると、少なくとも相違点1a又は相違点1cで相違している。
そして、上記(3)イにおいて検討したとおり、甲3〜甲6の記載を見ても、甲1発明1a又は甲1発明2aにおいて、近赤外蛍光色素の含有量を、樹脂組成物の全量に対して0.3質量%〜5質量%にすることが動機付けられるとはいえないから、本件発明1について上記(3)イで述べたのと同じ理由により、又は、本件発明2について上記(4)ウで述べたのと同じ理由により、本件発明3及び4は、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(6)本件発明5及び6について
本件発明5は、本件発明1に係る樹脂組成物の硬化体である樹脂成形体であり、本件発明6は本件発明5において合成繊維である樹脂成形体である。

ア 対比
上記(3)アにおける検討を踏まえて、本件発明5及び6と甲1発明1bを対比すると、「2つのピロール環が縮合した構造を基本骨格とする化合物から選ばれる少なくとも1種の近赤外線吸収色素と、樹脂と、を含み、
樹脂混練物である樹脂組成物の硬化体である樹脂成形体。」の点で一致し、次の点で相違する。

相違点1e:本件発明5は、「前記近赤外線吸収色素の含有量が、樹脂組成物の全量に対して0.3質量%〜5質量%である」のに対して、甲1発明1bは、「近赤外蛍光色素」の含有量が特定されていない点

相違点1f:上記化合物の置換基が、
本件発明5は、「下記一般式(1)」である
「【化3】

」において、
「一般式(1)中、R1a及びR1bは、それぞれ独立にアルキル基、アリール基又はヘテロアリール基を表す。
複数のR2及びR3は、それぞれ独立に水素原子又は1価の置換基を表し、R2及びR3のうち少なくとも一つは電子吸引性基である。R2及びR3は互いに結合して環を形成してもよい。複数のR4は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、置換ホウ素、又は金属原子を表し、R4は、R1a、R1b及びR3から選ばれる少なくとも1つと共有結合もしくは配位結合にて結合してもよい。」のに対して、
甲1発明1bは、「下記一般式(I3)」である
「[化3]

」において、
「(式(I3)中、
Rh及びRiは、Rhが結合する窒素原子及びRiが結合する炭素原子と共に、
芳香族5員環、芳香族6員環、又は2〜3個の5員環若しくは6員環が縮合してなる縮合芳香環を形成し;
Rj及びRkは、Rjが結合する窒素原子及びRkが結合する炭素原子と共に、
芳香族5員環、芳香族6員環、又は2〜3個の5員環若しくは6員環が縮合してなる縮合芳香環を形成し;
Rl、Rm、Rn、及びRoは、互いに独立して、ハロゲン原子、C1-20アルキル基、C1-20アルコキシ基、アリール基、又はヘテロアリール基を表し;
Rp及びRqは、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、C1-20アルキル基、C1-20アルコキシ基、アリール基、又はヘテロアリール基を表し、
Rr及びRsは、互いに独立して、水素原子、又は電子求引性基を表す。)で表される」ものである点

イ 相違点の検討
相違点1eは、相違点1aと同内容の相違点であるから、本件発明5は、相違点1fについて検討するまでもなく、本件発明1について上記(3)イで述べたのと同じ理由により、甲1に記載された発明、甲1及び甲3〜甲6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件発明6についても、本件発明5と同じ理由により、甲1、甲3〜甲6、及び引用文献A及びB(上記(1)イ及びウ)に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(7)本件発明7について
本件発明7は樹脂成形体の製造方法であり、本件訂正により訂正されたものである。

ア 対比
上記(3)アにおける検討を踏まえて、本件発明7と甲1発明1cを対比すると、両者は「2つのピロール環が縮合した構造を基本骨格とする化合物から選ばれる少なくとも1種の近赤外線吸収色素と、樹脂と、を混練して樹脂混練物を得る工程と、
得られた樹脂混練物を成形する工程と、
を含む樹脂成形体の製造方法。」の点で一致し、次の点で相違する。

相違点1g:本件発明7は、「前記近赤外線吸収色素の含有量が、樹脂組成物の全量に対して0.3質量%〜5質量%である」のに対して、甲1発明1cは、「近赤外蛍光色素」の含有量が特定されていない点

相違点1h:上記化合物の置換基が、
本件発明7は、「下記一般式(1)」である
「【化4】

」において、
「一般式(1)中、R1a及びR1bは、それぞれ独立にアルキル基、アリール基又はヘテロアリール基を表す。
複数のR2及びR3は、それぞれ独立に水素原子又は1価の置換基を表し、R2及びR3のうち少なくとも一つは電子吸引性基である。R2及びR3は互いに結合して環を形成してもよい。複数のR4は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、置換ホウ素、又は金属原子を表し、R4は、R1a、R1b及びR3から選ばれる少なくとも1つと共有結合もしくは配位結合にて結合してもよい。」のに対して、
甲1発明1cは、「下記一般式(I3)」である
「[化3]

」において、
「(式(I3)中、
Rh及びRiは、Rhが結合する窒素原子及びRiが結合する炭素原子と共に、
芳香族5員環、芳香族6員環、又は2〜3個の5員環若しくは6員環が縮合してなる縮合芳香環を形成し;
Rj及びRkは、Rjが結合する窒素原子及びRkが結合する炭素原子と共に、
芳香族5員環、芳香族6員環、又は2〜3個の5員環若しくは6員環が縮合してなる縮合芳香環を形成し;
Rl、Rm、Rn、及びRoは、互いに独立して、ハロゲン原子、C1-20アルキル基、C1-20アルコキシ基、アリール基、又はヘテロアリール基を表し;
Rp及びRqは、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、C1-20アルキル基、C1-20アルコキシ基、アリール基、又はヘテロアリール基を表し、
Rr及びRsは、互いに独立して、水素原子、又は電子求引性基を表す。)で表される」ものである点

イ 相違点の検討
相違点1gは、相違点1aと同内容の相違点であるから、本件発明7は、相違点1hについて検討するまでもなく、本件発明7は甲1に記載された発明ではないし、本件発明1について上記(3)イで述べたのと同じ理由により、甲1に記載された発明、甲1、甲3〜甲6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(8)小括
以上のとおりであるから、本件発明7は、甲1に記載された発明でないし、本件発明1〜7は、甲1に記載された発明、甲1、甲3〜6並びに引用文献A及びBに記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立書に記載した申立理由(甲2を主引用文献とする申立理由1及び2)について
(1)甲2に記載された事項及び甲2に記載された発明
甲2には、請求項1〜3及び請求項8(樹脂組成物)、請求項18(成形体)、[0014]〜[0017](解決しようとする課題)、[0210]〜[0211](近赤外線蛍光材料の含有量)、[0220](近赤外線蛍光材料と樹脂との溶融混練)、[0256]、[0263]、[0269]、[0275]、[0309]〜[0320]、[0324]〜[0328]、[0332]〜[0337](以上、実施例)の記載があり、請求項1及び2を引用する請求項3に記載の樹脂組成物、請求項1〜3を引用する請求項18に記載の成形体に着目すると、以下の発明が記載されているといえる。

「発光物質、放射線不透過性物質、及び樹脂を含有する樹脂組成物であり、
前記発光物質が近赤外蛍光材料であり、
前記近赤外蛍光材料が、
下記一般式(II3)
[化3]

(式(II3)中、
Rh及びRiは、Rhが結合する窒素原子及びRiが結合する炭素原子と共に、芳香族5員環、芳香族6員環、又は2〜3個の5員環若しくは6員環が縮合してなる縮合芳香環を形成し;
Rj及びRkは、Rjが結合する窒素原子及びRkが結合する炭素原子と共に、芳香族5員環、芳香族6員環、又は2〜3個の5員環若しくは6員環が縮合してなる縮合芳香環を形成し;
Rl、Rm、Rn、及びRoは、互いに独立して、ハロゲン原子、C1-20アルキル基、C1-20アルコキシ基、アリール基、又はヘテロアリール基を表し;
Rp及びRqは、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、C1-20アルキル基、C1-20アルコキシ基、アリール基、又はヘテロアリール基を表し、
Rr及びRsは、互いに独立して、水素原子、又は電子求引性基を表す。)で表される化合物であり、
極大蛍光波長が650nm以上である樹脂組成物」(以下、「甲2発明1a」という。)

「発光物質、放射線不透過性物質、及び樹脂を含有する樹脂組成物であり、
前記発光物質が近赤外蛍光材料であり、
前記近赤外蛍光材料が、
一般式(II3)(当審注:一般式(II3)とそれに用いられる記号の説明は省略)で表される化合物であり、
極大蛍光波長が650nm以上である樹脂組成物を加工して得られる成形体」(以下、「甲2発明1b」という。)

「甲2発明1bの成形体の製造方法」(以下、「甲2発明1c」という。)

また、甲2には、請求項1〜3を引用する請求項8に記載の樹脂組成物に着目すると、以下の発明が記載されているといえる。

「発光物質、放射線不透過性物質、及び樹脂を含有する樹脂組成物であり、
前記発光物質が近赤外蛍光材料であり、
前記近赤外蛍光材料が、
一般式(II3)(当審注:一般式(II3)とそれに用いられる記号の説明は省略する。)で表される化合物であり、
極大蛍光波長が650nm以上である樹脂組成物であって、
下記一般式(II3−1)
[化15]

(式(II3−1)中、
R23、R24、R25、及びR26は、互いに独立して、ハロゲン原子、C1-20アルキル基、C1-20アルコキシ基、アリール基、又はヘテロアリール基を表し;
R27及びR28は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、C1-20アルキル基、C1-20アルコキシ基、アリール基、又はヘテロアリール基を表し;
R29及びR30は、互いに独立して、水素原子、又は電子求引性基を表し;
Y9及びY10は、互いに独立して硫黄原子、酸素原子、窒素原子、又はリン原子を表し;
R31及びR32は、
(p4)互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、C1-20アルキル基、C1-20アルコキシ基、アリール基、又はヘテロアリール基を表す、又は
(p5)R31及びR32は共に、置換基を有していてもよい芳香族5員環又は置換基を有していてもよい芳香族6員環を形成する;
R33及びR34は、
(q4)互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、C1-20アルキル基、C1-20アルコキシ基、アリール基、又はヘテロアリール基を表す、又は
(q5)R33及びR34は共に、置換基を有していてもよい芳香族5員環又は置換基を有していてもよい芳香族6員環を形成する。]
で表される化合物を含有する、樹脂組成物」(以下、「甲2発明2a」という。)

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲2発明1aを対比すると、甲2発明1aは、放射線不透過性物質を含有すること、及び、近赤外蛍光材料と樹脂とが溶融混練されたものであるかが明らかでないこと以外は、甲1発明1aと同じ発明であるから、甲1発明1aについて上記1(3)ア(ウ)で述べたのと同様に、本件発明1と甲2発明1aとは、「2つのピロール環が縮合した構造を基本骨格とする化合物から選ばれる少なくとも1種の近赤外線吸収色素と、樹脂と、を含む樹脂組成物。」の点で一致し、次の点で相違する。

相違点2a:本件発明1は、「前記近赤外線吸収色素の含有量が、樹脂組成物の全量に対して0.3質量%〜5質量%である」のに対して、甲2発明1aは、「近赤外蛍光色素」の含有量が特定されていない点

相違点2b:上記化合物の置換基が、
本件発明1は、「下記一般式(1)」である
「【化1】

」において、
「一般式(1)中、R1a及びR1bは、それぞれ独立にアルキル基、アリール基又はヘテロアリール基を表す。
複数のR2及びR3は、それぞれ独立に水素原子又は1価の置換基を表し、R2及びR3のうち少なくとも一つは電子吸引性基である。R2及びR3は互いに結合して環を形成してもよい。複数のR4は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、置換ホウ素、又は金属原子を表し、R4は、R1a、R1b及びR3から選ばれる少なくとも1つと共有結合もしくは配位結合にて結合してもよい。」のに対して、
甲2発明1aは、「下記一般式(II3)」である
「[化3]

」において、
「(式(II3)中、
Rh及びRiは、Rhが結合する窒素原子及びRiが結合する炭素原子と共に、
芳香族5員環、芳香族6員環、又は2〜3個の5員環若しくは6員環が縮合してなる縮合芳香環を形成し;
Rj及びRkは、Rjが結合する窒素原子及びRkが結合する炭素原子と共に、
芳香族5員環、芳香族6員環、又は2〜3個の5員環若しくは6員環が縮合してなる縮合芳香環を形成し;
Rl、Rm、Rn、及びRoは、互いに独立して、ハロゲン原子、C1-20アルキル基、C1-20アルコキシ基、アリール基、又はヘテロアリール基を表し;
Rp及びRqは、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、C1-20アルキル基、C1-20アルコキシ基、アリール基、又はヘテロアリール基を表し、
Rr及びRsは、互いに独立して、水素原子、又は電子求引性基を表す。)で表される」ものである点

相違点2c:本件発明1は「樹脂混練物である」のに対して、甲2発明1aは樹脂混練物であるか明らかでない点

イ 相違点の検討
相違点2aについて検討する。
甲2には、甲2発明1aにおける「近赤外蛍光材料」の含有量に関して、「蛍光強度とその検出感度の観点からは0.0001質量%以上が好ましく、濃度消光や蛍光の再吸収による検出感度の観点からは1質量%以下が好ましく」と記載されており([0211])、樹脂組成物中の近赤外蛍光色素の含有量が0.0001〜1質量%であることが示されている。
一方、甲2には、一般式(II3)で表される化合物の具体例である色素B(実施例6、15、16及び19)、色素C(実施例7〜9、17及び18)、色素D(実施例10)及び色素E(実施例11)を用いた実施例が記載されているが、いずれの実施例においても、「近赤外蛍光材料」の含有量は、樹脂組成物の全量に対して多くても0.04質量%であり、上記0.0001〜1質量%の上限である1質量%付近の含有量の具体例は示されていない。そして、上記[0211]に記載されるとおり、色素の含有量が1質量%付近では濃度消光や蛍光の再吸収が懸念されることから、一般式(II3)で表される上記色素B等を使用する場合においては、0.04質量%の具体例を根拠に、本件発明1の「近赤外吸収色素」の含有量の下限である0.3質量%の付近にすることが動機付けられるとはいえない。
そして、甲3〜甲6の記載を見ても、甲2発明1aにおいて、近赤外蛍光材料の含有量を、樹脂組成物の全量に対して0.3質量%〜5質量%にすることを動機付ける記載は見当たらない。
そうすると、甲2発明1aにおいて、「近赤外線吸収色素の含有量が、樹脂組成物の全量に対して0.3質量%〜5質量%である」とすることを当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

ウ 小括
したがって、本件発明1は、相違点2b及び2cについて検討するまでもなく、甲2に記載された発明及び甲2〜甲6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明2について
ア 対比
本件発明2と甲2発明2aを対比すると、両者は「2つのピロール環が縮合した構造を基本骨格とする化合物から選ばれる少なくとも1種の近赤外線吸収色素と、樹脂と、を含む樹脂組成物。」の点で一致し、次の点で相違する。

相違点2d:本件発明2は、「前記近赤外線吸収色素の含有量が、樹脂組成物の全量に対して0.3質量%〜5質量%である」のに対して、甲2発明2aは、「近赤外蛍光色素」の含有量が特定されていない点

相違点2e:上記化合物の置換基が、
本件発明2は、「下記一般式(3)」である
「【化2】

」において、
「一般式(3)中、複数のR31a及びR31bは、それぞれ独立にアルキル基、アリール基又はヘテロアリール基を表す。
複数のR32は、水素原子又は1価の置換基を表し、R32のうち少なくとも一つは電子吸引性基である。複数のR6及びR7は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、又はヘテロアリール基を表し、R6及びR7は互いに結合して環を形成してもよい。複数のR8及びR9は、それぞれ独立にアルキル基、アルコキシ基、アリール基、又はヘテロアリール基を表す。
複数のXは、それぞれ独立に酸素原子、イオウ原子、−NR−、又はCRR’−を表し、R及びR’は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、又はアリール基を表す。」のに対して、
甲2発明2aは、「下記一般式(II3−1)」である
「[化15]

」において、
「式(II3−1)中、
R23、R24、R25、及びR26は、互いに独立して、ハロゲン原子、C1-20アルキル基、C1-20アルコキシ基、アリール基、又はヘテロアリール基を表し;
R27及びR28は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、C1-20アルキル基、C1-20アルコキシ基、アリール基、又はヘテロアリール基を表し;
R29及びR30は、互いに独立して、水素原子、又は電子求引性基を表し;
Y9及びY10は、互いに独立して硫黄原子、酸素原子、窒素原子、又はリン原子を表し;
R31及びR32は、
(p4)互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、C1-20アルキル基、C1-20アルコキシ基、アリール基、又はヘテロアリール基を表す、又は
(p5)R31及びR32は共に、置換基を有していてもよい芳香族5員環又は置換基を有していてもよい芳香族6員環を形成する;
R33及びR34は、
(q4)互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、C1-20アルキル基、C1-20アルコキシ基、アリール基、又はヘテロアリール基を表す、又は
(q5)R33及びR34は共に、置換基を有していてもよい芳香族5員環又は置換基を有していてもよい芳香族6員環を形成する。)
で表される」点

相違点2f:本件発明2は「樹脂混練物である」のに対して、甲2発明2aは樹脂混練物であるか明らかでない点

イ 相違点の検討
相違点2dは、相違点2aと同内容の相違点であり、本件発明1において上記(2)イで述べたのと同じ理由により、甲2発明2aにおいて、甲3〜甲6の記載を見ても、近赤外蛍光色素の含有量を、樹脂組成物の全量に対して0.3質量%〜5質量%にすることが動機付けられないから、「近赤外線吸収色素の含有量が、樹脂組成物の全量に対して0.3質量%〜5質量%である」とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。

ウ 小括
したがって、本件発明2は、相違点2e及び2fについて検討するまでもなく、甲2に記載された発明及び甲2〜甲6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件発明3及び4について
本件発明3及び4は、本件発明1又は2を直接又は間接的に引用するものであり、上記(2)アにおける検討を踏まえて、本件発明3及び4と甲2発明1a又は甲2発明2aをそれぞれ対比すると、少なくとも相違点2a又は相違点2dで相違しているから、本件発明1について上記(2)イで述べたのと同じ理由により、又は、本件発明2について上記(3)イで述べたのと同じ理由により、甲2に記載された発明及び甲2〜甲6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)本件発明5及び6について
本件発明5は、本件発明1に係る樹脂組成物の硬化体である樹脂成形体であり、本件発明6は本件発明5において合成繊維である樹脂成形体である。

ア 対比
上記(2)アにおける検討を踏まえて、本件発明5と甲2発明1bを対比すると、本件発明5と甲2発明1bとは、「2つのピロール環が縮合した構造を基本骨格とする化合物から選ばれる少なくとも1種の近赤外線吸収色素と、樹脂と、を含む樹脂組成物の硬化体である樹脂成形体。」の点で一致し、次の点で相違する。

相違点2g:本件発明5は、「前記近赤外線吸収色素の含有量が、樹脂組成物の全量に対して0.3質量%〜5質量%である」のに対して、甲2発明1bは、「近赤外蛍光材料」の含有量が特定されていない点

相違点2h:上記化合物の置換基が、
本件発明5は、「下記一般式(1)」である
「【化3】

」において、
「一般式(1)中、R1a及びR1bは、それぞれ独立にアルキル基、アリール基又はヘテロアリール基を表す。
複数のR2及びR3は、それぞれ独立に水素原子又は1価の置換基を表し、R2及びR3のうち少なくとも一つは電子吸引性基である。R2及びR3は互いに結合して環を形成してもよい。複数のR4は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、置換ホウ素、又は金属原子を表し、R4は、R1a、R1b及びR3から選ばれる少なくとも1つと共有結合もしくは配位結合にて結合してもよい。」のに対して、
甲2発明1aは、「下記一般式(II3)」である
「[化3]

」において、
「(式(II3)中、
Rh及びRiは、Rhが結合する窒素原子及びRiが結合する炭素原子と共に、
芳香族5員環、芳香族6員環、又は2〜3個の5員環若しくは6員環が縮合してなる縮合芳香環を形成し;
Rj及びRkは、Rjが結合する窒素原子及びRkが結合する炭素原子と共に、
芳香族5員環、芳香族6員環、又は2〜3個の5員環若しくは6員環が縮合してなる縮合芳香環を形成し;
Rl、Rm、Rn、及びRoは、互いに独立して、ハロゲン原子、C1-20アルキル基、C1-20アルコキシ基、アリール基、又はヘテロアリール基を表し;
Rp及びRqは、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、C1-20アルキル基、C1-20アルコキシ基、アリール基、又はヘテロアリール基を表し、
Rr及びRsは、互いに独立して、水素原子、又は電子求引性基を表す。)で表される」ものである点

相違点2i:「樹脂組成物」が、本件発明5では「樹脂混練物である」のに対して、甲2発明1aでは樹脂混練物であるか明らかでない点

イ 相違点の検討
相違点2gについて検討すると、相違点2gは、本件発明1と甲2発明1aの相違点2aと同内容の相違点であり、相違点2aについて上記(2)イで検討したのと同じ理由により、甲2に記載された発明、甲2〜甲6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件発明6についても、本件発明5と同じ理由により、甲2に記載された発明、甲2〜甲6並びに引用文献A及びB(上記(1)イ及びウ)に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(6)本件発明7について
本件発明7は本件発明5に係る樹脂成形体の製造方法である。

ア 対比
上記(2)アにおける検討を踏まえて、本件発明7と甲2発明1cを対比すると、両者は「2つのピロール環が縮合した構造を基本骨格とする化合物から選ばれる少なくとも1種の近赤外線吸収色素と、樹脂と、を含む樹脂組成物を得る工程と、
得られた樹脂組成物を成形する工程と、
を含む樹脂成形体の製造方法。」の点で一致し、次の点で相違する。

相違点2j:本件発明7は、「前記近赤外線吸収色素の含有量が、樹脂組成物の全量に対して0.3質量%〜5質量%である」のに対して、甲2発明1cは、「近赤外蛍光色素」の含有量が特定されていない点

相違点2k:上記化合物の置換基が、
本件発明7は、「下記一般式(1)」である
「【化4】

」において、
「一般式(1)中、R1a及びR1bは、それぞれ独立にアルキル基、アリール基又はヘテロアリール基を表す。
複数のR2及びR3は、それぞれ独立に水素原子又は1価の置換基を表し、R2及びR3のうち少なくとも一つは電子吸引性基である。R2及びR3は互いに結合して環を形成してもよい。複数のR4は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、置換ホウ素、又は金属原子を表し、R4は、R1a、R1b及びR3から選ばれる少なくとも1つと共有結合もしくは配位結合にて結合してもよい。」のに対して、
甲2発明1cは、「下記一般式(II3)」である
「[化3]

」において、
「(式(II3)中、
Rh及びRiは、Rhが結合する窒素原子及びRiが結合する炭素原子と共に、
芳香族5員環、芳香族6員環、又は2〜3個の5員環若しくは6員環が縮合してなる縮合芳香環を形成し;
Rj及びRkは、Rjが結合する窒素原子及びRkが結合する炭素原子と共に、
芳香族5員環、芳香族6員環、又は2〜3個の5員環若しくは6員環が縮合してなる縮合芳香環を形成し;
Rl、Rm、Rn、及びRoは、互いに独立して、ハロゲン原子、C1-20アルキル基、C1-20アルコキシ基、アリール基、又はヘテロアリール基を表し;
Rp及びRqは、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、C1-20アルキル基、C1-20アルコキシ基、アリール基、又はヘテロアリール基を表し、
Rr及びRsは、互いに独立して、水素原子、又は電子求引性基を表す。)で表される」ものである点

相違点2l:樹脂組成物が、本件発明7では「樹脂混練物である」のに対して、甲2発明1cでは樹脂混練物であるか明らかでない点

イ 相違点の検討
相違点2jは、相違点2aと同内容の相違点であるから、本件発明7は、相違点2k及び2lについて検討するまでもなく、甲2に記載された発明ではないし、相違点2aについて上記(2)イで述べたのと同じ理由により、甲2に記載された発明、甲2〜甲6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 まとめ
以上のとおり、本件発明7は、甲1又は甲2に記載された発明でないし、本件発明1〜7は、甲1に記載された発明、甲3〜甲6並びに引用文献A及びBに記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないし、甲2に記載された発明、及び、甲3〜甲6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、当審が通知した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立理由によっては、本件特許の請求項1〜7に係る特許を取り消すことはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、請求項1〜7に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件発明1〜7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-12-28 
出願番号 P2019-506020
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C08L)
P 1 651・ 113- Y (C08L)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 杉江 渉
特許庁審判官 土橋 敬介
近野 光知
登録日 2020-05-11 
登録番号 6703184
権利者 富士フイルム株式会社
発明の名称 樹脂組成物、樹脂成形体及び樹脂成形体の製造方法  
代理人 特許業務法人太陽国際特許事務所  

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