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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  A41B
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  A41B
審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A41B
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A41B
管理番号 1381667
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-02-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-02-10 
確定日 2022-01-24 
異議申立件数
事件の表示 特許第6737571号発明「吸水性樹脂及び吸収性物品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6737571号の請求項に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
1 特許異議申立の経緯
特許第6737571号(請求項の数5。以下、「本件特許」という。)は、平成26年10月31日(優先権主張 2014年7月11日)の出願である特願2014−223724号の一部を平成27年6月17日に新たな特許出願としたものであって、令和2年7月20日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は、令和2年8月12日である。)。
その後、令和3年2月10日に、本件特許の請求項1〜4に係る特許に対して、特許異議申立人である株式会社日本触媒(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。

手続の経緯は以下のとおりである。
令和3年 2月10日 特許異議申立書
同年 6月17日付け 取消理由通知書
同年 8月23日 意見書(特許権者)

2 証拠方法
(1)申立人が提出した証拠方法
申立人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。
・甲第1号証 国際公開第2006/123561号
・甲第2号証 国際公開第2014/038324号
・甲第3号証 特願2014−534248号の出願の審査におけるこの出願の特許出願人である住友精化株式会社が平成29年8月1日に提出した意見書
・甲第4号証 特開平10−265582号公報
・甲第5号証 国際公開第2011/040530号
・甲第6号証 特開2006−176570号公報
・甲第7号証 国際公開第2012/144564号
・甲第8号証 国際公開第2014/079710号(申立人は、甲第8号証の翻訳文として、特表2016−503449号公報も提出している。)
・甲第9号証 株式会社日本触媒 吸水性樹脂研究部 松本智嗣が作成した「実験成績証明書」
(以下、「甲第1号証」〜「甲第9号証」を「甲1」〜「甲9」という。)

(2)特許権者が提出した証拠方法
特許権者が令和3年8月23日に提出した意見書に添付した証拠方法は以下のとおりである。
・乙第1号証 住友精化株式会社 開発研究所 吸水性樹脂グループ 伍賀由伎が作成した「実験報告書」、2021年8月6日
(以下、「乙第1号証」を「乙1」という。)

第2 特許請求の範囲の記載
特許第6737571号の特許請求の範囲の記載は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1〜5に記載される以下のとおりのものである。(以下、請求項1〜5に記載された事項により特定される発明を「本件発明1」〜「本件発明5」といい、まとめて「本件発明」ともいう。また、本件の明細書を「本件明細書」という。)

「【請求項1】
アクリル酸及び/又はその塩を内部架橋剤であるポリグリシジル化合物の存在下、アゾ系化合物が該アゾ系化合物及び過酸化物の使用量全量のうち40質量%以上の割合での該アゾ系化合物と該過酸化物との存在下で重合させ、かつ後架橋剤であるポリグリシジル化合物で後架橋することにより得られる吸水性樹脂であって、
4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水能が16mL/g以上であり、
液体逆戻り量が1.3g以下であり、
当該吸水性樹脂全体の質量に占める150〜850μmの粒子の質量割合が85質量%以上であり、さらに300〜400μmの粒子の質量割合が20質量%以上であり、
当該吸水性樹脂の300〜400μmの粒子を分級して測定したtanδが2.00×10−2以下であり、
下記式(I)で表される吸収容量弾性指数が68000以上である
ことを特徴とする吸水性樹脂(但し、水可溶分が12質量%以下である吸水性樹脂を除く。)。
吸収容量弾性指数=貯蔵弾性率[Pa]×遠心保持率[g/g]・・・(I)
[上記液体逆戻り量の測定方法]
前記吸水性樹脂12gと解砕パルプ(レオニア社製 レイフロック)12gを用い、空気抄造によって均一混合することにより、40cm×12cmの大きさのシート状の吸収体コアを作製する。次に、吸収体コアの上下を、吸収体コアと同じ大きさで、坪量16g/m2の2枚のティッシュッペーパーで挟んだ状態で、全体に196kPaの荷重を30秒間加えてプレスすることにより、吸収体を作製する。さらに、吸収体の上面に、吸収体と同じ大きさで、坪量22g/m2のポリエチレン−ポリプロピレン製エアスルー型多孔質液体透過性シートを配置し、同じ大きさ、同じ坪量のポリエチレン製液体不透過性シートを吸収体の下面に配置して吸収体を挟みつけることにより、吸収性物品(大きさ:40×12cm)とする。
水平の台上に前記吸収性物品を置く。該吸収性物品の中心部に、底面が10cm×10cmのプレートの中心に内径3cmの液投入用シリンダーを具備した質量2kgの測定器具を置くことで、該吸収性物品に荷重をかけた状態とする。次に、80mLの人工尿を該シリンダー内に一度に投入する。次に、該シリンダーをはずし、該吸収性物品をそのままの状態で保存し、1回目の人工尿投入開始から30分後及び60分後にも、1回目と同じ位置に該測定器具を用いて同様の操作を行う。
1回目の人工尿投入開始から120分後、前記吸収性物品上の人工尿投入位置付近に、あらかじめ質量(Wd(g)、約50g)を測定しておいた10cm四方とした濾紙を置き、その上に底面が10cm×10cmの質量5kgの重りを載せる。5分間の荷重後、該濾紙の質量(We(g))を測定し、下記(II)式で表される増加した質量を液体逆戻り量(g)とする。
液体逆戻り量(g)=We−Wd・・・(II)
[上記tanδの測定方法]
先ず、100mL容のビーカーに、生理食塩水49.0gを量り取り、マグネチックスターラーバーを投入し、マグネチックスターラーの上に配置し、マグネチックスターラーを600r/minで回転するように調整する。次に、分級サンプル1.0gを攪拌中のビーカー内に投入し、回転渦が消えて液面が水平になるまで攪拌を続け、50倍膨潤ゲルを調製する。該50倍膨潤ゲルを遠沈管に移し、遠心力が671Gとなるように設定した遠心機に4分間かけて脱気し、測定試料を得る。
次いで、前記測定試料を、動的粘弾性測定装置レオメーターにセットする。サンプルホルダーとして直径60mmのパラレルプレートを用い、プレート間距離を3mm、ゲルの厚みを3000μm、測定温度25℃、周波数ω=0.1〜300rad/秒の範囲、歪み=0.1%strainの条件で貯蔵弾性率と損失弾性率を測定する。このうち、10rad/秒における貯蔵弾性率と損失弾性率の比率(損失弾性率/貯蔵弾性率)をtanδとする。
[上記貯蔵弾性率の測定方法]
先ず、100mL容のビーカーに、生理食塩水49.0gを量り取り、マグネチックスターラーバーを投入し、マグネチックスターラーの上に配置し、マグネチックスターラーを600r/minで回転するように調整する。次に、分級サンプル1.0gを攪拌中のビーカー内に投入し、回転渦が消えて液面が水平になるまで攪拌を続け、50倍膨潤ゲルを調製する。該50倍膨潤ゲルを遠沈管に移し、遠心力が671Gとなるように設定した遠心機に4分間かけて脱気し、測定試料を得る。
次いで、前記測定試料を、動的粘弾性測定装置レオメーターに調製したにセットする。サンプルホルダーとして直径60mmのパラレルプレートを用い、プレート間距離を3mm、ゲルの厚みを3000μm、測定温度25℃、周波数ω=0.1〜300rad/秒の範囲、歪み=0.1%strainの条件で貯蔵弾性率を測定する。このうち、10rad/秒における貯蔵弾性率を上記(I)式に用いる。
[上記遠心保持率の測定方法]
0.9質量%塩化ナトリウム水溶液(生理食塩水)500gを攪拌しながら、吸水性樹脂2.0gを分散させて60分間放置した後、綿袋中に注ぎ、脱水機を用いて遠心力が167Gの条件で1分間脱水し、脱水後の膨潤ゲルを含んだ綿袋の質量Wa(g)を測定する。また、吸水性樹脂を添加せずに同様の操作を行い、綿袋の湿潤時の空質量Wb(g)を測定する。下記(III)式から遠心保持率を算出する。
遠心保持率(g/g)=[Wa−Wb](g)/吸水性樹脂の質量(g)・・・(III)
[上記4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水能の測定方法]
底部に200メッシュのナイロンメッシュが貼着された内径2.0cmの円筒の内部に、0.10gの前記吸水性樹脂を散布した後、該吸水性樹脂上に重りを置き4.14kPaの荷重を加える。直径2mmの穴を有する測定台の該穴上に、該円筒の中心と該穴が一致するように該円筒を置き、該穴と、空気導入口を備え、かつ生理食塩水が入ったビュレットとを導管を介して接続するとともに、該測定台における該導管の先端と、該空気導入口とが同じ高さとなるように配置する。ビュレット及び該空気導入口を開けて該吸水性樹脂の吸水を開始させ、開始から60分経過後における生理食塩水の減少量Wc(mL)を測定し、下記(IV)式から4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水能を算出する。
4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水能(mL/g)=Wc÷0.10(g)・・・(IV)
[上記水可溶分の測定方法]
500mL容のビーカーに、生理食塩水500gを量り取り、マグネチックスターラーバー(8mmφ×30mmのリング無し)を投入し、該マグネチックスターラー(iuchi社製:HS−30D)の上に配置する。引続き該マグネチックスターラーバーを600rpmで回転するように調整し、さらに、該マグネチックスターラーバーの回転により生ずる渦の底部は、該マグネチックスターラーバーの上部近くになるように調整する。
次に、前記吸水性樹脂の粒子2.0gを、前記ビーカー中の渦中央と該ビーカー側面の間に素早く流し込み分散させ、3時間撹拌する。撹拌後の該水性樹脂粒子の分散水を、JIS標準ふるい(目開き75μm)でろ過し、得られたろ液をさらに桐山式ロート(濾紙No.6)を用い吸引ろ過する。
あらかじめ140℃で乾燥して恒量し、室温まで冷却した100ml容のビーカーに得られたろ液を80±0.01g量りとり、内温を140℃設定した熱風乾燥機(ADVANTEC社製)で恒量になるまで乾燥させ、ろ液固形分の質量Wf(g)を測定する。
一方、前記吸水性樹脂の粒子を用いずに上記操作と同様に行い、ブランク質量Wg(g)を測定して、下記(V)式より水可溶分を算出する。
水可溶分(質量%)=[(Wf−Wg)(500/80)]/2×100・・・(V)
【請求項2】
前記アゾ系化合物の使用量が該アゾ系化合物及び前記過酸化物の使用量全量に対し95質量%以下である、請求項1に記載の吸水性樹脂。
【請求項3】
前記内部架橋剤及び前記後架橋剤がエチレングリコールジグリシジルエーテルである、請求項1又は2に記載の吸水性樹脂。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の吸水性樹脂を含む吸収体を用いてなる吸収性物品。
【請求項5】
アクリル酸及び/又はその塩を内部架橋剤であるポリグリシジル化合物の存在下、アゾ系化合物が該アゾ系化合物及び過酸化物の使用量全量のうち40質量%以上の割合での該アゾ系化合物と該過酸化物との存在下で重合させ、かつ後架橋剤であるポリグリシジル化合物で後架橋することにより吸水性樹脂を製造する方法であって、
前記吸水性樹脂は、4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水能が16mL/g以上であり、かつ当該吸水性樹脂全体の質量に占める150〜850μmの粒子の質量割合が85質量%以上であり、さらに300〜400μmの粒子の質量割合が20質量%以上であり、下記式(I)で表される吸収容量弾性指数が68000以上である
ことを特徴とする吸水性樹脂の製造方法。
吸収容量弾性指数=貯蔵弾性率[Pa]×遠心保持率[g/g]・・・(I)
[上記貯蔵弾性率の測定方法]
先ず、100mL容のビーカーに、生理食塩水49.0gを量り取り、マグネチックスターラーバーを投入し、マグネチックスターラーの上に配置し、マグネチックスターラーを600r/minで回転するように調整する。次に、分級サンプル1.0gを攪拌中のビーカー内に投入し、回転渦が消えて液面が水平になるまで攪拌を続け、50倍膨潤ゲルを調製する。該50倍膨潤ゲルを遠沈管に移し、遠心力が671Gとなるように設定した遠心機に4分間かけて脱気し、測定試料を得る。
次いで、前記測定試料を、動的粘弾性測定装置レオメーターにセットする。サンプルホルダーとして直径60mmのパラレルプレートを用い、プレート間距離を3mm、ゲルの厚みを3000μm、測定温度25℃、周波数ω=0.1〜300rad/秒の範囲、歪み=0.1%strainの条件で貯蔵弾性率を測定する。このうち、10rad/秒における貯蔵弾性率を上記(I)式に用いる。
[上記遠心保持率の測定方法]
0.9質量%塩化ナトリウム水溶液(生理食塩水)500gを攪拌しながら、吸水性樹脂2.0gを分散させて60分間放置した後、綿袋中に注ぎ、脱水機を用いて遠心力が167Gの条件で1分間脱水し、脱水後の膨潤ゲルを含んだ綿袋の質量Wa(g)を測定する。また、吸水性樹脂を添加せずに同様の操作を行い、綿袋の湿潤時の空質量Wb(g)を測定する。下記(II)式から遠心保持率を算出する。
遠心保持率(g/g)=[Wa−Wb](g)/吸水性樹脂の質量(g)・・・(II)
[上記4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水能の測定方法]
底部に200メッシュのナイロンメッシュが貼着された内径2.0cmの円筒の内部に、0.10gの前記吸水性樹脂を散布した後、該吸水性樹脂上に重りを置き4.14kPaの荷重を加える。直径2mmの穴を有する測定台の該穴上に、該円筒の中心と該穴が一致するように該円筒を置き、該穴と、空気導入口を備え、かつ生理食塩水が入ったビュレットとを導管を介して接続するとともに、該測定台における該導管の先端と、該空気導入口とが同じ高さとなるように配置する。ビュレット及び該空気導入口を開けて該吸水性樹脂の吸水を開始させ、開始から60分経過後における生理食塩水の減少量Wc(mL)を測定し、下記(III)式から4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水能を算出する。
4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水能(mL/g)=Wc÷0.10(g)・・・(III)」

第3 特許異議申立理由及び取消理由の概要
1 取消理由通知の概要
当審が取消理由通知で通知した取消理由の概要は、以下に示すとおりである。
(1)取消理由1
本件明細書の発明の詳細な説明は、概略、下記の点で、当業者が特許請求の範囲の請求項1〜4に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。
よって、請求項1〜4に係る発明の特許は、同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。


本件発明1は、「(但し、水可溶分が12質量%以下である吸水性樹脂を除く。)」ということを発明特定事項として含む吸水性樹脂に係る発明であるが、発明の詳細な説明には、12質量%以下を除く水可溶成分である吸水性樹脂の製造方法は記載されていないし、また、実施例又は比較例で得られた吸水性樹脂の水可溶成分の値は不明であるから、本件発明1である水可溶分が12質量%以下である吸水性樹脂を除く、という特定を満たすための製造方法が記載されているとはいえない。
そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明には、「但し、水可溶分が12質量%以下である吸水性樹脂を除く」ことを満たす吸水性樹脂の製造方法は記載されているとはいえず、また、技術常識もないから、本件発明1の吸水性樹脂を製造するには、当業者であっても過度の試行錯誤を必要とするといえ、発明の詳細な説明には、当業者がその実施をできる程度に明確かつ十分に記載されたとはいえない。

(2)取消理由2
本件特許請求の範囲の請求項1〜4の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、概略、下記の点で発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
よって、請求項1〜4に係る発明の特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

本件明細書の発明の詳細な説明には、実施例又は比較例で得られた吸水性樹脂の水可溶成分の値は記載されておらず、12質量%以下を除く水可溶成分である吸水性樹脂が記載されているとはいえないから、本件発明1が発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。

2 特許異議申立理由の概要
申立人が特許異議申立書でした申立の理由の概要は、以下に示すとおりである。
(1)申立理由1
本件の請求項1〜4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内または外国において頒布された甲5に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
よって、本件の請求項1〜4に係る発明の特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

(2)申立理由2
本件の請求項1〜4に係る発明は、本件特許出願日前に日本国内または外国において頒布された甲1に記載された発明並びに甲2及び甲8に記載された技術的事項に基いて、甲5に記載された発明並びに甲2、甲6及び甲8に記載された技術的事項に基いて、または、甲6に記載された発明並びに甲2、甲7及び甲8に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件の請求項1〜4に係る発明の特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

(3)申立理由3
本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件の特許請求の範囲の請求項1〜4に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。
よって、本件の請求項1〜4に係る発明の特許は、同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

(4)申立理由4
本件の特許請求の範囲の請求項1〜4の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
よって、本件の請求項1〜4に係る発明の特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

(5)申立理由5
本件の特許請求の範囲の請求項1〜4の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、明確とはいえないから、特許法第36条第6項第2号に適合するものでない。
よって、本件の請求項1〜4に係る発明の特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

ここで、上記(3)〜(5)に記載した申立理由3〜5の詳細は、下記「第4 2(2)ウ」にて示すこととする。

第4 当審の判断
当審は、当審が通知した取消理由1及び2並びに申立人がした申立理由1〜5によっては、いずれも、本件発明1〜4に係る特許を取り消すことはできないと判断する。
その理由は以下のとおりである。

1 取消理由について
(1)取消理由1について
取消理由1は、上記「第3 1(1)」で述べたとおりであり、以下再掲する。
ア 取消理由1の概要
本件発明1は、「(但し、水可溶分が12質量%以下である吸水性樹脂を除く。)」ということを発明特定事項として含む吸水性樹脂に係る発明であるが、発明の詳細な説明には、12質量%以下を除く水可溶成分である吸水性樹脂の製造方法は記載されていないし、また、実施例又は比較例で得られた吸水性樹脂の水可溶成分の値は不明であるから、本件発明1である水可溶分が12質量%以下である吸水性樹脂を除く、という特定を満たすための製造方法が記載されているとはいえない。
そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明には、「但し、水可溶分が12質量%以下である吸水性樹脂を除く」ことを満たす吸水性樹脂の製造方法は記載されているとはいえず、また、技術常識もないから、本件発明1の吸水性樹脂を製造するには、当業者であっても過度の試行錯誤を必要とするといえ、発明の詳細な説明には、当業者がその実施をできる程度に明確かつ十分に記載されたとはいえない。

イ 特許権者の意見書での主張
この取消理由1に対して、特許権者は令和3年8月23日に意見書及び乙1(住友精化株式会社 開発研究所 吸水性樹脂グループ 伍賀由伎が作成した「実験報告書」、2021年8月6日)を提出し、概略、以下のように主張する。

甲1の段落[0003]には、「また、後者の吸水性樹脂の保水能を上げる方法では、吸水性樹脂の架橋密度を下げる必要がある。その結果、未架橋成分が増加し、・・・吸液後のぬめり分(水可溶分)が溶出しやすくなる。」と記載され、甲5の段落[0058]には、「水溶液重合では予めアクリル酸を中和してもよく、重合後に中和してもよいが、相反する吸水倍率(CRC)と可溶分の相対的な関係の改善のためには重合中または又は重合後に含水ゲル状重合体の細分化工程を含む。」と記載され、甲6の段落[0004]には、「また、吸水性樹脂の架橋密度を下げると、未架橋成分が増加し、・・・水可溶分が溶出しやすくなる。」と記載されているところ、これらの記載を総合的に勘案すると、吸水性樹脂の保水能や吸水倍率(CRC)は、吸水性樹脂の架橋密度を下げることで増加するが、そうすると未架橋成分が増加することにより水可溶分の量が増えやすくなることが本件特許の出願前に公知であり技術常識であるといえ、当業者であれば、水可溶分を調整する方法について特に明示がなくとも、吸水性樹脂の架橋密度を調整することで水可溶分が12質量%を超える吸水性樹脂が得られると十分に理解できる。
また、本件明細書の段落[0058]には、特定のアゾ系化合物を使用することで高い遠心保持率が得られやすいことが記載されており、遠心保持率は甲1の保水能と同義であるといえることから、アゾ系化合物によって吸水性樹脂の架橋密度を調整できると認識できる。
そして、乙1には、本件明細書に記載の実施例1及び比較例1における水可溶分は、それぞれ、13.4質量%及び9.7質量%であることが示されている。

ウ 判断
乙1には、本件明細書の実施例1及び比較例1に記載されたとおりに吸水性樹脂を製造したことが記載され、そして、これらの吸水性樹脂の水可溶分が、それぞれ、13.4質量%及び9.7質量%であることが記載されていることからすれば、本件明細書に記載された実施例1の吸水性樹脂は、本件発明1で特定される「但し、水可溶分が12質量%以下である吸水性樹脂を除く。」要件を満たすということができる。
また、特許権者は、意見書において、甲1、甲5及び甲6に記載された事項から導いた技術常識を基礎に、本件明細書の記載に従って水可溶分が12質量%を超える吸水性樹脂を製造するための一般的な方法を説明しており、この説明は技術的にみて十分に理解できるものであるといえる。

そうすると、当業者であれば、本件発明1のうち「但し、水可溶分が12質量%以下である吸水性樹脂を除く」ことを満たす吸水性樹脂を製造する方法は、過度の試行錯誤をせずとも実施できるといえ、本件明細書の発明の詳細な説明には、当業者が本件発明1の実施をできる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
よって、取消理由1は理由がない。

(2)取消理由2について
取消理由1は、上記「第3 1(2)」で述べたとおりであり、以下再掲する。
ア 取消理由2の概要
本件明細書の発明の詳細な説明には、実施例又は比較例で得られた吸水性樹脂の水可溶成分の値は記載されておらず、12質量%以下を除く水可溶成分である吸水性樹脂が記載されているとはいえないから、本件発明1が発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。

イ 判断
上記「(1)イ」で述べたように、特許権者は乙1を提出し、本件明細書に記載の実施例1及び比較例1における水可溶分が、それぞれ、13.4質量%及び9.7質量%であることを明らかにした。
そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明には、12質量%以下を除く水可溶成分である吸水性樹脂が記載されているといえ、本件発明1が発明の詳細な説明に記載されていないとはいえない。
よって、取消理由2は理由がない。

2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立人がした申立理由について
(1)申立理由1及び2について
申立理由1及び2は、新規性及び進歩性に関するものであるから、併せて検討する。
ア 各甲号証の記載事項及び記載された発明について
(ア)甲1
甲1の請求項1、3、5〜7や段落[0003]、[0006]、[0017]、[0037]〜[0038]、[0048]〜[0064]、[0072]〜[0088]、[0090]、[0092]〜[0093]、[0096]、[0098]〜[0099]及び図1の記載、特に実施例1に着目すると、甲1には以下の発明が記載されていると認められる。
「工程1として、アクリル酸水溶液に、30質量%水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、アクリル酸の75モル%を中和し、さらに、水溶性ラジカル重合開始剤の過硫酸カリウムおよび架橋剤のエチレングリコールジグリシジルエーテルを添加し、1段目重合用の単量体水溶液を調製し、
重合反応を行い、反応混合物を得て、
アクリル酸水溶液に、30質量%水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、アクリル酸の75モル%を中和し、さらに過硫酸カリウムを添加し、2段目重合用の単量体水溶液を調製し、
前記で得られた反応混合物に添加した後、2段目の重合反応を行い、
重合終了後、
工程2として、得られた吸水性樹脂粒子前駆体に、後架橋剤としてエチレングリコールジグリシジルエーテル水溶液を添加して、
第1の後架橋反応を行い、
引続き、後架橋剤としてエチレングリコールジグリシジルエーテル水溶液を添加して、
第2の後架橋反応を行って得た吸水性樹脂粒子であって、
吸水性樹脂粒子が、
4.14kPa荷重下の生理食塩水吸水能が21ml/g、
である吸水性樹脂粒子」(以下「甲1発明」という。)

(イ)甲5
甲5の請求項1、18及び20や段落[0001]、[0047]、[0048]、[0059]、[0062]、[0132]、[0178]、[0183]、[0188]、[0268]、[0270]〜[0273]、[0276]〜[0280]、[0380]〜[0386]、[0404]〜[0405]、[0407]、[0411]の記載、特に実施例2−1を引用して記載した実施例2−2に着目すると、甲5には以下の発明が記載されていると認められる。
「アクリル酸ナトリウム、アクリル酸を含む単量体水溶液に、内部架橋剤として、ポリエチレングリコールジアクリレートを溶解させ、
重合開始剤として過硫酸ナトリウム及びL−アスコルビン酸を添加し、
重合を開始して撹拌下重合を続け、重量平均粒子径が約2mmの含水ゲル状架橋重合体(2−1)を得、
乾燥させ、粉砕し、分級した吸水性樹脂粒子(2−1)を得、
エチレングリコールジグリシジルエーテルを含む表面架橋剤を混合し加熱処理することにより、表面架橋吸水性樹脂粉体(2−1)を得、
粒子状吸水剤前駆体(2−1)とし、シリカを混合することで得られた粒子状吸水剤(2−2)」(以下「甲5発明」という。)

(ウ)甲6
甲6の請求項1、2、6及び8や段落【0007】、【0036】、【0038】、【0043】、【0045】〜【0049】、【0051】、【0076】〜【0104】及び図1の記載、特に実施例1を引用して記載した実施例3に着目すると、甲6には以下の発明が記載されていると認められる。
「アクリル酸水溶液に、30質量%水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、アクリル酸の75モル%を中和し、さらに、水溶性アゾ系重合開始剤の2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩および内部架橋剤のエチレングリコールジグリシジルエーテルを添加し、1段目重合用の単量体水溶液を調製し、重合反応を行った後に、
アクリル酸水溶液に、30質量%水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、アクリル酸の75モル%を中和し、さらに、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩およびエチレングリコールジグリシジルエーテルを添加し、2段目重合用の単量体水溶液を調製し、
前記重合スラリー液に全量添加した後、2段目の重合反応を行い、重合終了後、ゲル状物を得、次いで、後架橋剤としてエチレングリコールジグリシジルエーテルを混合して後架橋反応を行い得た吸水性樹脂粒子であって、吸水性樹脂粒子が、
4.14kPa荷重下の吸水能が23ml/g、
である吸水性樹脂粒子」(以下「甲6発明」という。)

イ 対比・判断
(ア)本件発明1について
a 甲1発明
(a)対比
甲1発明の「吸水性樹脂粒子」は、「工程1」により1段目重合用の単量体水溶液を重合し、2段目重合用の単量体水溶液を重合することにより、吸水性樹脂粒子前駆体を得て、「工程2」により吸水性樹脂粒子前駆体を後架橋することで製造されるところ、「工程1」における1段目及び2段目重合用の単量体水溶液に含まれる「アクリル酸水溶液」に「30質量%水酸化ナトリウム水溶液」を滴下して、「アクリル酸の75モル%を中和し」て得られた化合物は、アクリル酸とアクリル酸ナトリウムであることは明らかであるから、これらは、本件発明1の「アクリル酸及び」「その塩」に相当する。
甲1発明の「工程1」において1段目重合用の単量体水溶液に含まれる「架橋剤のエチレングリコールジグリシジルエーテル」は、本件発明1の「内部架橋剤であるポリグリシジル化合物」に相当することは明らかであり、また、この1段目及び2段目重合用の単量体水溶液に含まれる「過硫酸カリウム」は、本件発明1の「過酸化物」に相当する。
さらに、甲1発明の「工程2」における「後架橋剤」として添加される「エチレングリコールグリシジルエーテル」は、本件発明1の「後架橋剤であるポリグリシジル化合物」に相当する。
加えて、甲1発明の「吸水性樹脂粒子」は、形状が「粒子」と特定された「吸水性樹脂」であるから、これは、本件発明1の「吸水性樹脂」に相当する。
そして、甲1発明の「吸水性樹脂粒子」は、「工程1」として、1段目及び2段目重合用単量体水溶液には、「アクリル酸水溶液」に「30質量%水酸化ナトリウム水溶液」を滴下して、「アクリル酸の75モル%を中和し」て得られた化合物、「過硫酸カリウム」、「架橋剤のエチレングリコールジグリシジルエーテル」が含まれ、「重合反応」を行い、「工程2」として、後架橋剤として「エチレングリコールジグリシジルエーテル」で「後架橋反応を行」うから、これらは、本件発明1の「アクリル酸及び/又はその塩を内部架橋剤であるポリグリシジル化合物の存在下、過酸化物との存在下で重合させ、かつ後架橋剤であるポリグリシジル化合物で後架橋することにより得られる吸水性樹脂」に相当する。
甲1発明の「吸水性樹脂粒子」は、「4.14kPa荷重下の生理食塩水吸水能が21ml/g」であるところ、この測定方法は、甲1の段落[0076]〜[0080]、図1に記載がされ、概略、下部にコックが連結された吸気導入管が連結されたビュレット部、ビュレット部と中央部に直径2mmの穴があいている測定台の間に取り付けられた導管、測定台上に置いた測定部からなる測定装置を用い、0.9質量%食塩水をビュレット上部から入れ、アクリル樹脂製の円筒(内径は20mm)の底部に接着されるナイロンメッシュ(目開きは75μm(200メッシュ)である。)の上に、0.10gの吸水性樹脂粒子を均一に撒布して、吸水性樹脂粒子上に重りを置いて測定部とし、測定部の中心部を測定台の中心部の導管口に一致するように置き、重りは、4.14kPaの荷重を加えることが記載されている。図1をみると、測定台における導管の先端と空気導入孔は同じ高さとなるように配置されているといえ、吸水性樹脂粒子が吸水し始めた時点から60分間経過後のビュレット内の0.9質量%食塩水の減少量(Wc)を読み取り、4.14kPa荷重下の生理食塩水吸水能(ml/g)=Wc÷0.10の式から、吸水性樹脂粒子の4.14kPa荷重下の生理食塩水吸水能を求める旨の記載がされている。そして、これは、本件発明1で特定される「4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水能の測定方法」と同じであるということができるから、甲1発明の「吸水性樹脂粒子」が「4.14kPa荷重下の生理食塩水吸水能が21ml/g」であることは、本件発明1の「4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水能が16mL/g以上であり」に相当する。

そうすると、甲1発明と本件発明1とは、以下の点において一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
「アクリル酸及び/又はその塩を内部架橋剤であるポリグリシジル化合物の存在下、過酸化物との存在下で重合させ、かつ後架橋剤であるポリグリシジル化合物で後架橋することにより得られる吸水性樹脂であって、
4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水能が16mL/g以上である吸水性樹脂(4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水能の測定方法の特定は省略する。)」

<相違点1>
吸水性樹脂が、本件発明1では「アゾ系化合物が該アゾ系化合物及び過酸化物の使用量全量のうち40質量%以上の割合での該アゾ系化合物と該過酸化物との存在下で重合させ」て得られるのに対し、甲1発明では過酸化物である過硫酸カリウムの存在下で重合させて得られる点

<相違点2>
吸水性樹脂が、本件発明1では、
(ii)液体逆戻り量が1.3g以下であり、
(iii)当該吸水性樹脂全体の質量に占める150〜850μmの粒子の質量割合が85質量%以上であり、さらに300〜400μmの粒子の質量割合が20質量%以上であり、
(vi)当該吸水性樹脂の300〜400μmの粒子を分級して測定したtanδが2.00×10−2以下であり、
(v)式(I)
吸収容量弾性指数=貯蔵弾性率[Pa]×遠心保持率[g/g]・・・(I)
で表される吸収容量弾性指数が68000以上であり、
(vi)但し、水可溶分が12質量%以下である吸水性樹脂を除く。
(当審が便宜上(ii)〜(vi)の符号を付した。)と特定されている(具体的な測定方法の特定は省略する。)のに対し、甲1発明では(ii)〜(vi)の物性が明らかでない点

(b)検討
i 吸水性樹脂の技術分野における吸水性樹脂の製造方法と物性の関係について
相違点1及び2を検討する前に、吸水性樹脂の製造方法と物性の関係について検討しておく。
(i)甲1及び甲6の記載
あ 甲1の記載
甲1の[0006]には、発明が解決しようとする課題として、本発明の目的は、高い保水能(吸収容量)、高い加圧下吸水能およびゲル強度を有し、かつ、水可溶分が少ない衛生材料に好適に使用できる吸水性樹脂粒子の製造方法、それにより得られる吸水性樹脂粒子を提供する旨の記載があり、請求の範囲の請求項1に、「水溶性エチレン性不飽和単量体を重合して得られる吸水性樹脂粒子前駆体に、少なくとも2段階で後架橋剤を添加して後架橋反応を行う工程を含むことを特徴とする吸水性樹脂粒子の製造方法。」と記載され、同請求項5には、「生理食塩水保水能が40〜60g/g、4.14kPa加圧下の生理食塩水吸水能が15ml/g以上、ゲル強度が500Pa以上、水可溶分が 15質量%以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法で得られる吸水性樹脂粒子。」と記載されている。
そして、実施例1は、上記請求項1に記載された製造方法の具体例であって、特に、2段階で後架橋剤を添加した場合に、請求項5に記載された物性を全て満足する吸水性樹脂粒子が記載されている。一方、比較例1〜3は、後架橋剤を1段階でしか添加しなかった例であるところ、請求項5に記載された物性のうち一部しか満足しない吸水性樹脂粒子が記載されている。

い 甲6の記載
甲6の段落【0007】には、発明が解決しようとする課題として、本発明は、高い保水能、荷重下での高い吸水能、優れた吸水速度を持ち、かつ水可溶分が少ない、衛生材料に好適に使用できる吸水性樹脂粒子の製造方法およびそれによって得られる吸水性樹脂粒子を提供する旨の記載があり、請求の範囲の請求項1に、「水溶性エチレン性不飽和単量体を重合させて吸水性樹脂を製造する方法であって、内部架橋剤としての多価グリシジル化合物の存在下、水溶性アゾ系ラジカル重合開始剤を用いて重合を行なった後、得られた吸水性樹脂を後架橋剤で後架橋することを特徴とする吸水性樹脂粒子の製造方法。」と記載され、同請求項8には、「請求項1〜7記載の製造方法で得られる、以下の性能を満たす吸水性樹脂粒子。
生理食塩水の吸水速度:60秒以内
生理食塩水の保水能:40〜60g/g
4.14kPa荷重下の生理食塩水吸水能:15ml/g以上
水可溶分:20質量%以下
質量平均粒子径:200〜600μm」と記載されている。
そして、実施例1は、上記請求項1に記載された製造方法の具体例であって、特に、多価グリシジル化合物として、エチレングリコールジグリシジルエーテルの存在下、水溶性アゾ系ラジカル重合開始剤の具体例である2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩を使用し、後架橋剤としてエチレングリコールジグリシジルエーテルを使用し後架橋反応を行った場合に、請求項8に記載された物性を全て満足する吸水性樹脂粒子が記載されている。一方、比較例1は、水溶性ラジカル重合開始剤として過硫酸カリウムを用いた例、比較例2及び4は、内部架橋剤を用いなかった例、比較例3は、後架橋を行わなかった例であるところ、請求項8に記載された物性のうち一部しか満足しない吸水性樹脂粒子が記載されている。

う 吸水性樹脂の製造方法と物性の関係について
甲1および甲6の記載からみられるように、吸水性樹脂の技術分野においては、特定の製造方法によって特定の物性を有する吸水性樹脂が得られるといえ、吸水性樹脂の製造方法と物性とは強く関係しているといえる。

(ii)本件発明について
本件発明1は、本件明細書の段落【0011】によれば、吸水性能に優れ、吸収体に使用した場合に荷重下での吸収性能を向上させることができる吸水性樹脂を提供することを目的とし、アクリル酸及び/又はその塩を内部架橋剤であるポリグリシジル化合物の存在下、アゾ系化合物が該アゾ系化合物及び過酸化物の使用量全量のうち40質量%以上の割合での該アゾ系化合物と該過酸化物との存在下で重合させ、かつ後架橋剤であるポリグリシジル化合物で後架橋することにより得られる吸水性樹脂であって、
(i)4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水能が16mL/g以上であり、
(ii)液体逆戻り量が1.3g以下であり、
(iii)当該吸水性樹脂全体の質量に占める150〜850μmの粒子の質量割合が85質量%以上であり、さらに300〜400μmの粒子の質量割合が20質量%以上であり、
(iv)当該吸水性樹脂の300〜400μmの粒子を分級して測定したtanδが2.00×10−2以下であり、
(v)吸収容量弾性指数=貯蔵弾性率[Pa]×遠心保持率[g/g]で表される吸収容量弾性指数が68000以上であり、
(vi)但し、水可溶分が12質量%以下である吸水性樹脂を除く。
(当審が便宜上(i)〜(vi)の符号を付した。)と特定される発明(上記物性の具体的な測定方法の特定は省略する。)であるところ、同【0016】によれば、本発明に係る吸収性樹脂は、荷重下での吸水性能に優れ、且つ液体の吸収時に適度な弾性を有するゲルを形成することができるため、当該吸水性樹脂を用いた吸収体を含む吸収性物品は、変形や圧力等により荷重がかかった状態においても経時的な被吸収液の逆戻りを効果的に抑制し、優れた荷重下での吸収性能を発揮させることができることを効果とすることが記載されている。
そして、同【0086】以降の実施例は、本件発明1の具体例であって、特に、アゾ系化合物が該アゾ系化合物及び過酸化物の使用量全量のうち40質量%以上の割合での該アゾ系化合物と該過酸化物との存在下で重合させることにより、本件発明1で特定される物性を全て満足する吸水性樹脂が記載されている。
一方、比較例1〜3では、過酸化物にアゾ系化合物を加えていない例であって、上記相違点2のうち、(ii)、(iv)及び(v)で特定される物性を満たさない例である。

このように、本件発明においても、上記(i)で述べたように、吸水性樹脂の製造方法と物性とは強く関係しているということができる。

ii 判断
上記iで述べたように、吸水性樹脂の技術分野においては、吸水性樹脂の製造方法と物性とは強く関係しているといえるから、吸水性樹脂の製造方法における相違点である相違点1と物性の相違点である相違点2とは、併せて検討することが適切であるといえる。

そこで、まず、製造方法の相違点である相違点1から検討をする。
甲1の段落[0017]には、「水溶性ラジカル重合開始剤の具体例として、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩;tert-ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、過酸化ベンゾイル等の有機過酸化物;過酸化水素;2,2'−アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩等のアゾ化合物等が挙げられる。これらの中では、入手が容易で保存安定性が良好であることから、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過酸化ベンゾイルおよび2,2,−アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩が好ましい。なお、水溶性ラジカル重合開始剤は、亜硫酸塩等と併用してレドックス系重合開始剤として用いることができる。」と記載され、水溶性ラジカル重合開始剤として、2,2'−アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩等のアゾ系化合物が例示の一つとして記載されているが、甲1発明の過硫酸カリウムとアゾ系化合物とを併用することは記載されておらず、さらに、併用する際のアゾ系化合物の使用割合が40質量%以上であることは記載されていない。そして、甲1には、水溶性ラジカル重合開始剤は、亜硫酸塩等と併用してレドックス系重合開始剤として用いることができる、とも記載されており、この記載は、過硫酸カリウムとアゾ系化合物との併用を示唆する記載ではない。

このように、甲1には、吸水性樹脂の製造方法に関して、水溶性ラジカル重合開始剤として、アゾ系化合物の例示はされているものの、過硫酸カリウムに対してアゾ系化合物を40質量%以上併用することを動機づける記載がない。
加えて、甲1には、水溶性ラジカル重合性開始剤の種類によって、特定の物性を有する吸水性樹脂が得られるというような記載はないし、ましてや、過硫酸カリウムに対してアゾ系化合物を40質量%以上併用することにより、吸水性樹脂が物性の相違点である相違点2における物性(ii)〜(vi)を満たすことの記載もない。
この上で、相違点2について検討してみるが、甲1には、発明の目的として、高い保水能(吸収容量)、高い加圧下吸水能、ゲル強度を有し、水可溶分が少ない吸水性樹脂粒子を提供することは記載があるが、甲1発明における吸水性樹脂が、物性の相違点である相違点2における(ii)〜(vi) で示される全ての物性を満足することを動機づける記載があるとはいえない。

また、甲2の明細書の段落[0009]には、発明の課題として、吸水性能に優れ、吸収体に使用した場合に吸収体の保形性を向上させることができる吸水性樹脂を提供することが記載され、請求の範囲の請求項1には、「水溶性エチレン性不飽和単量体を、炭化水素分散媒中で、ラジカル重合開始剤を用いて逆相懸濁重合を行って得られる吸水性樹脂であって、下記(1)〜(3)の特性を備えていることを特徴とする吸水性樹脂:(1)生理食塩水保水能が38g/g以上であること、(2)4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水能が15mL/g以上であること、(3)50倍膨潤時ゲルのtanδが2.10×10-2以上であること。」が記載され、
請求項8には、「吸水性樹脂の製造方法であって、 吸水性樹脂が、下記(1)〜(3)の特性を備えるものであり、(1)生理食塩水保水能が38g/g以上であること、(2)4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水能が15mL/g以上であること、(3)50倍膨潤時ゲルのtanδが2.10×10-2以上であること、 且つ、下記第1工程及び第2工程を含む、炭化水素分散媒中で、ラジカル重合開始剤及び内部架橋剤存在下で水溶性エチレン性不飽和単量体の逆相懸濁重合を行う第1工程、前記第1工程で得られた懸濁重合粒子を後架橋剤によって架橋させる第2工程、ことを特徴とする、吸水性樹脂の製造方法。」が記載されている。
ここで、明細書の段落[0031]には、ラジカル重合開始剤の具体例として、過酸化物やアゾ系化合物が例示されているが、過酸化物とアゾ系化合物とを併用することは記載されていないし、併用する際のアゾ系化合物の使用割合が40質量%以上であることは記載されていない。
そして、実施例には、ラジカル重合開始剤として、過硫酸カリウム又は2,2−アゾビス(2−アミジノプロパン)2塩酸塩を、それぞれ単独で使用した例が記載されているだけである。

このように、甲2には、吸水性樹脂の製造方法に関して、水溶性ラジカル重合開始剤として、アゾ系化合物の例示はされているものの、過硫酸カリウムに対してアゾ系化合物を40質量%以上併用することを動機づける記載はないし、また、甲2には、水溶性ラジカル重合性開始剤の種類によって、特定の物性を有する吸水性樹脂が得られるというような記載はないし、ましてや、過硫酸カリウムに対してアゾ系化合物を40質量%以上併用することにより、吸水性樹脂が物性の相違点である相違点2における物性(ii)〜(vi)を満たすことの記載もない。

さらに、甲8(引用箇所は、翻訳文として提出した特表2016−503449号公報の段落で示す。)の【0006】には、発明の課題として、かさ密度が高く、遠心保持容量(CRC)が高く、21.0g/cm2の荷重下吸収(AUL)が高く、残留モノマーの水準が低く、且つ白色度が改善された、吸水性ポリマー粒子を提供することが記載され、特許請求の範囲の請求項1には、「a) 酸基を有し且つ少なくとも部分的に中和されていることがある少なくとも1つのエチレン性不飽和モノマー、
b) 少なくとも1つの架橋剤、
c1) モノマーa)に対して0.3質量%未満の、少なくとも1つの過硫酸塩、
c2) モノマーa)に対して少なくとも0.05質量%の、少なくとも1つのアゾ開始剤、
d) 随意に、a)で記載されたモノマーと共重合可能な1つまたはそれより多くのエチレン性不飽和モノマー、
e) 随意に1つまたはそれより多くの水溶性ポリマー、および
f)水
を含むモノマー溶液の液滴を、反応領域内で、取り囲む加熱された気相中で重合し、且つ、流動床内で熱により後処理することによる、吸水性ポリマー粒子の製造方法であって、前記反応領域を離れるガスの温度が150℃未満であり、熱による後処理の間の吸水性ポリマー粒子の温度が100℃未満であり、且つ吸水性ポリマー粒子の流動床内での滞留時間が60〜300分間である、前記方法。」が記載され、
請求項15には、「少なくとも0.65g/cm3のかさ密度、少なくとも35g/gの遠心保持容量および少なくとも80のHC60値を有する、吸水性ポリマー粒子。」が記載されている。
このように、甲8には、過酸化物とアゾ系化合物を併用して吸水性ポリマー粒子を製造する方法の発明が記載され、段落【0226】以降に記載された実施例では、過酸化物とアゾ系化合物を併用して用いた具体例が記載されている。

しかしながら、甲8には、あくまで甲8に記載された、かさ密度が高く、遠心保持容量(CRC)が高く、21.0g/cm2の荷重下吸収(AUL)が高く、残留モノマーの水準が低く、且つ白色度が改善された吸水性ポリマー粒子を提供するために過酸化物とアゾ系化合物とを併用することが記載されているにすぎず、これにより、吸水性樹脂が物性の相違点である相違点2における物性(ii)〜(vi)を満たすことの記載はない。

よって、いくら甲2及び甲8の記載をみても、甲1発明において、相違点1及び2を本件発明1で特定される構成とすることに動機づけがあるとはいえない。

(c)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は甲1に記載された発明並びに甲2及び甲8に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に想到できた発明であるとはいえない。

b 甲5発明
(a)対比
甲5発明の「アクリル酸ナトリウム」及び「アクリル酸」は、本件発明1の「アクリル酸及び」「その塩」に相当する。
甲5発明の「内部架橋剤」である「ポリエチレングリコールジアクリレート」は、本件発明1の内部架橋剤であるポリグリシジル化合物と内部架橋剤である限りにおいて一致し、また、「重合開始剤」としての「過硫酸ナトリウム」は、本件発明1の「過酸化物」に相当する。
また、甲5発明の「エチレングリコールジグリシジルエーテル」を含む表面架橋剤は、本件発明1の「後架橋剤であるポリグリシジル化合物」に相当することは明らかである。
さらに、甲5発明の「粒子状吸水剤」は、形状が「粒子」と特定され樹脂でできた吸収剤であるから、本件発明1の「吸水性樹脂」に相当する。
そして、甲5発明の「粒子状吸収剤」は、「アクリル酸ナトリウム」及び「アクリル酸」を含む単量体水溶液に、内部架橋剤を溶解させ、重合開始剤として「過硫酸ナトリウム」を添加し、重合を開始して含水ゲル状架橋重合体を得、乾燥させ吸水性樹脂粒子を得、これにエチレングリコールジグリシジルエーテルを含む表面架橋剤を混合し加熱処理することにより得られるから、これらは、本件発明1の「アクリル酸及び/又はその塩を内部架橋剤の存在下、過酸化物との存在下で重合させ、かつ後架橋剤であるポリグリシジル化合物で後架橋することにより得られる吸水性樹脂」に相当する。

そうすると、甲5発明と本件発明1とは、以下の点において一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
「アクリル酸及び/又はその塩を内部架橋剤の存在下、過酸化物との存在下で重合させ、かつ後架橋剤であるポリグリシジル化合物で後架橋することにより得られる吸水性樹脂」

<相違点3>
内部架橋剤が、本件発明1では「ポリグリシジル化合物」であるのに対して、甲5発明では「ポリエチレングリコールジアクリレート」である点

<相違点4>
吸水性樹脂が、本件発明1では「アゾ系化合物が該アゾ系化合物及び過酸化物の使用量全量のうち40質量%以上の割合での該アゾ系化合物と該過酸化物との存在下で重合させ」て得られるのに対し、甲5発明では過酸化物である過硫酸ナトリウム及びL−アスコルビン酸の存在下で重合させて得られる点

<相違点5>
吸水性樹脂が、本件発明1では、
(i)4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水能が16mL/g以上であり、
(ii)液体逆戻り量が1.3g以下であり、
(iii)当該吸水性樹脂全体の質量に占める150〜850μmの粒子の質量割合が85質量%以上であり、さらに300〜400μmの粒子の質量割合が20質量%以上であり、
(vi)当該吸水性樹脂の300〜400μmの粒子を分級して測定したtanδが2.00×10−2以下であり、
(v)式(I)
吸収容量弾性指数=貯蔵弾性率[Pa]×遠心保持率[g/g]・・・(I)
で表される吸収容量弾性指数が68000以上であり、
(vi)但し、水可溶分が12質量%以下である吸水性樹脂を除く。
(当審が便宜上(i)〜(vi)の符号を付した。)と特定されている(具体的な測定方法の特定は省略する。)のに対し、甲5発明では(i)〜(vi)の物性が明らかでない点

(b)判断
i 相違点3について
申立人は、本件発明1は甲5発明と相違がない旨を主張するので、まず、相違点3について検討するが、内部架橋剤は甲5発明の粒子状吸水剤を構成する化学物質であることは明らかであって、本件発明1では「ポリグリシジル化合物」であるのに対して、甲5発明では「ポリエチレングリコールジアクリレート」であり、両者はその化学物質が相違するから、本件発明1と甲5発明とは、申立人が提出した甲9(株式会社日本触媒 吸水性樹脂研究部 松本智嗣が作成した「実験成績証明書」(令和3年2月2日作成))において、甲5に記載された実施例2−2の追試した結果である粒子状吸収剤の(i)〜(vi)の物性値をみるまでもなく、この点で実質的に相違することは明らかである。
また、念のため、相違点3の容易想到性について検討するが、甲5の段落[0047]には、内部架橋剤として多数の具体例が記載されており、「ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル」も例示された化合物の一つとして記載されてはいる。しかしながら、甲5に内部架橋剤として記載された多数の具体例から、わざわざポリエチレングリコールジグリシジルエーテルを選択する動機付けがあるとはいえず、また、具体的な粒子状吸収剤である甲5発明において内部架橋剤として用いられるポリエチレングリコールジアクリレートに代えてまで、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルを使用する動機付けがあるとまではいえない。もし仮に、甲5発明においてポリエチレングリコールジアクリレートに代えてポリエチレングリコールジグリシジルエーテルを使用したとしても、内部架橋剤が異なるため甲9に記載された実施例2−2の追試結果を参照することはできないから、相違点5は実質的な相違点となり、また、下記iiで述べるように当業者が容易に想到できるものでもない。

ii 相違点4及び5について
吸水性樹脂の技術分野における吸水性樹脂の製造方法と物性の関係については、上記「a(b)i」で述べたとおり、特定の製造方法によって特定の物性を有する吸水性樹脂が得られるといえ、吸水性樹脂の製造方法と物性とは強く関係しているといえるものであるから、吸水性樹脂の製造方法における相違点である相違点4と物性の相違点である相違点5とは、併せて検討することが適切であるといえる。
そこで、まず、製造方法の相違点である相違点4から検討する。
甲5の段落[0062]には、「単量体水溶液を重合する際には、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩、t−ブチルハイドロパーオキサイド、過酸化水素等のハイドロパーオキサイド、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩等のアゾ化合物、2−ヒドロキシ−1−フェニル−プロパン−1−オン、ベンゾインメチルエーテル等のラジカル重合開始剤と、更に、これらラジカル重合開始剤の分解を促進するL−アスコルビン酸等の還元剤とを併用したレドックス系開始剤等が用いられる。」と記載され、重合開始剤として、2,2'−アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩等のアゾ系化合物が例示の一つとして記載されているが、甲5発明の過硫酸ナトリウムとアゾ系化合物とを併用することは記載されておらず、さらに、併用する際のアゾ系化合物の使用割合が40質量%以上であることは記載されていない。そして、甲5には、ラジカル重合開始剤と還元剤とを併用したレドックス系重合開始剤が記載されており、この記載は、過硫酸ナトリウムとアゾ系化合物との併用を示唆する記載ではない。
このように、甲5には、吸水性樹脂の製造方法に関して、水溶性ラジカル重合開始剤として、アゾ系化合物の例示はされているものの、過硫酸ナトリウムに対してアゾ系化合物を40質量%以上併用することを動機づける記載がない。
加えて、甲5には、水溶性ラジカル重合性開始剤の種類によって、特定の物性を有する吸水性樹脂が得られるというような記載はないし、ましてや、過硫酸ナトリウムに対してアゾ系化合物を40質量%以上併用することにより、吸水性樹脂が物性の相違点である相違点5における物性(i)〜(vi)を満たすことの記載もない。
この上で、相違点5について検討してみるが、甲5には、発明の課題として、優れた吸収性能、優れた経時着色防止性能、臭気がない粒子状吸収剤を提供することは記載されているが、甲5発明における粒子状吸収剤が、物性の相違点である相違点5における(i)〜(vi) で示される全ての物性を満足することを動機づける記載があるとはいえない。
また、申立人が提出した甲9(株式会社日本触媒 吸水性樹脂研究部 松本智嗣が作成した「実験成績証明書」(令和3年2月2日作成))は、本件発明1と内部架橋剤が異なる粒子状吸収剤の物性を示したものであり、内部架橋剤が異なっても粒子状吸収剤の物性が変わらないとする技術常識はないから、甲9に記載された粒子状吸収剤の物性を参照することはできない。

また、相違点4及び5は、上記「a(a)」で述べた相違点1及び2と同様であるところ、甲2及び甲8の記載をみても、甲5発明において、相違点4及び5を本件発明1で特定される構成とすることに動機づけがあるとはいえないことは、上記「a(b)」で述べたとおりである。
さらに、甲6の記載もみてみるが、甲6の【0007】には、発明の課題として、高い保水能、荷重下での高い吸水能、優れた吸水速度を持ち、かつ水可溶分が少ない、衛生材料に好適に使用できる吸水性樹脂粒子の製造方法およびそれによって得られる吸水性樹脂粒子を提供することが記載され、特許請求の範囲の請求項1には、「水溶性エチレン性不飽和単量体を重合させて吸水性樹脂を製造する方法であって、内部架橋剤としての多価グリシジル化合物の存在下、水溶性アゾ系ラジカル重合開始剤を用いて重合を行なった後、得られた吸水性樹脂を後架橋剤で後架橋することを特徴とする吸水性樹脂粒子の製造方法。」が記載され、同請求項8には、「請求項1〜7記載の製造方法で得られる、以下の性能を満たす吸水性樹脂粒子。
生理食塩水の吸水速度:60秒以内
生理食塩水の保水能:40〜60g/g
4.14kPa荷重下の生理食塩水吸水能:15ml/g以上
水可溶分:20質量%以下
質量平均粒子径:200〜600μm」が記載されている。
このように、甲6には、水溶性アゾ系ラジカル重合開始剤を用いて重合することが記載されているだけであり、過酸化物を併用することを動機づける記載はない。

よって、いくら甲6の記載をみても、甲5発明において、相違点4及び5を本件発明1で特定される構成とすることに動機づけがあるとはいえない。

(c)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は甲5に記載された発明であるとも、甲5に記載された発明並びに甲2、甲6及び甲8に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に想到できた発明であるともいえない。

c 甲6発明
(a)対比
甲6発明の「吸水性樹脂粒子」は、1段目重合用の単量体水溶液を重合し、2段目重合用の単量体水溶液を重合することにより、ゲル状物を得て、後架橋することで製造されるところ、甲6発明の1段目及び2段目重合用の単量体水溶液に含まれる「アクリル酸水溶液」に「30質量%水酸化ナトリウム水溶液」を滴下して、「アクリル酸の75モル%を中和し」て得られた化合物は、アクリル酸とアクリル酸ナトリウムであることは明らかであるから、これらは、本件発明1の「アクリル酸及び」「その塩」に相当する。
甲6発明の1段目及び2段目重合用の単量体水溶液に含まれる「内部架橋剤のエチレングリコールジグリシジルエーテル」は、本件発明1の内部架橋剤であるポリグリシジル化合物に相当することは明らかであり、また、この1段目及び2段目重合用の単量体水溶液に含まれる「2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩」は、本件発明1の「アゾ系化合物」に相当する。
さらに、上記「後架橋剤」としての「エチレングリコールジグリシジルエーテル」は、本件発明1の「後架橋」に用いる「ポリグリシジル化合物」に相当する。
加えて、甲6発明の「吸水性樹脂粒子」は、形状が「粒子」と特定された「吸水性樹脂」であるから、これは、本件発明1の「吸水性樹脂」に相当する。
そして、甲6発明の「吸水性樹脂粒子」は、1段目及び2段目重合用の単量体水溶液を「重合反応」させ、次いで「後架橋剤」として「エチレングリコールジグリシジルエーテル」を添加して後架橋反応を行い製造されるものであるから、これらは、本件発明1の「アクリル酸及び/又はその塩を内部架橋剤であるポリグリシジル化合物の存在下、アゾ系化合物との存在下で重合させ、かつ後架橋剤であるポリグリシジル化合物で後架橋することにより得られる吸水性樹脂」に相当する。
甲6発明の「吸水性樹脂粒子」は、「4.14kPa荷重下の生理食塩水吸水能が23ml/g」であるところ、この測定方法は、甲6の段落【0084】〜【0089】、図1に記載がされ、概略、下部にコックが連結された吸気導入管が連結されたビュレット部、ビュレット部と中央部に直径2ミリの穴があいている測定台の間に取り付けられた導管、測定台上に置いた測定部からなる測定装置を用い、生理食塩水をビュレット上部から入れ、円筒(内径は2.0cm)の底部に接着されるナイロンメッシュ(目開きは75μm(200メッシュ)である。)の上に、0.1gの吸水性樹脂粒子を均一に撒布して、吸水性樹脂粒子上に重りを置いて測定部とし、測定部の中心部を測定台の中心部の導管口に一致するように置き、重りは、4.14kPaの荷重を加えることが記載されている。図1をみると、測定台における導管の先端と空気導入孔は同じ高さとなるように配置されているといえ、吸水性樹脂粒子が吸水し始めた時点から60分間経過後のビュレット内の生理食塩水の減少量(Wc)を読み取り、4.14kPa荷重下の生理食塩水吸水能(ml/g)=Wc÷0.10の式から、吸水性樹脂粒子の4.14kPa荷重下の生理食塩水吸水能を求める旨の記載がされている。そして、これは、本件発明1で特定される「4.14kPa荷重下での生理食塩水吸収能の測定方法」と同じであるということができるから、甲6発明の「吸水性樹脂粒子」が「4.14kPa荷重下の生理食塩水吸水能が23ml/g」であることは、本件発明1の「4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水能が16mL/g以上であり」に相当する。

そうすると、甲6発明と本件発明1とは、以下の点において一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
「アクリル酸及び/又はその塩を内部架橋剤であるポリグリシジル化合物の存在下、アゾ系化合物との存在下で重合させ、かつ後架橋剤であるポリグリシジル化合物で後架橋することにより得られる吸水性樹脂であって、
4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水能が16mL/g以上である吸水性樹脂(4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水能の測定方法の特定は省略する。)」

<相違点6>
吸水性樹脂が、本件発明1では「アゾ系化合物が該アゾ系化合物及び過酸化物の使用量全量のうち40質量%以上の割合での該アゾ系化合物と該過酸化物との存在下で重合させ」て得られるのに対し、甲6発明ではアゾ系化合物である2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩の存在下で重合させて得られる点

<相違点7>
吸水性樹脂が、本件発明1では、
(ii)液体逆戻り量が1.3g以下であり、
(iii)当該吸水性樹脂全体の質量に占める150〜850μmの粒子の質量割合が85質量%以上であり、さらに300〜400μmの粒子の質量割合が20質量%以上であり、
(vi)当該吸水性樹脂の300〜400μmの粒子を分級して測定したtanδが2.00×10−2以下であり、
(v)式(I)
吸収容量弾性指数=貯蔵弾性率[Pa]×遠心保持率[g/g]・・・(I)
で表される吸収容量弾性指数が68000以上であり、
(vi)但し、水可溶分が12質量%以下である吸水性樹脂を除く。
(当審が便宜上(ii)〜(vi)の符号を付した。)と特定されている(具体的な測定方法の特定は省略する。)のに対し、甲6発明では(ii)〜(vi)の物性が明らかでない点

(b)判断
吸水性樹脂の技術分野における吸水性樹脂の製造方法と物性の関係については、上記「a(b)i」で述べたとおり、特定の製造方法によって特定の物性を有する吸水性樹脂が得られるといえ、吸水性樹脂の製造方法と物性とは強く関係しているといえるものであるから、吸水性樹脂の製造方法における相違点である相違点6と物性の相違点である相違点7とは、併せて検討することが適切であるといえる。
そこで、まず、製造方法の相違点である相違点6から検討をする。
甲6の段落【0007】には、発明が解決しようとする課題として、本発明は、高い保水能、荷重下での高い吸水能、優れた吸水速度を持ち、かつ水可溶分が少ない、衛生材料に好適に使用できる吸水性樹脂粒子の製造方法およびそれによって得られる吸水性樹脂粒子を提供する旨の記載がされ、請求の範囲の請求項1に、「水溶性エチレン性不飽和単量体を重合させて吸水性樹脂を製造する方法であって、内部架橋剤としての多価グリシジル化合物の存在下、水溶性アゾ系ラジカル重合開始剤を用いて重合を行なった後、得られた吸水性樹脂を後架橋剤で後架橋することを特徴とする吸水性樹脂粒子の製造方法。」と記載され、甲6にはラジカル重合性開始剤としては、アゾ系の化合物が例示されているだけである。一方、比較例1には、水溶性ラジカル重合開始剤として過硫酸カリウムを用いた例が記載され、請求項8に記載された物性のうち一部しか満足しない吸水性樹脂が記載されているが、あくまで甲6に記載された水溶性アゾ系ラジカル重合開始剤の比較例である。
このように、甲6には、水溶性アゾ系ラジカル重合開始剤を用いて製造して得られた吸水性樹脂が記載されているだけであり、水溶性ラジカル重合開始剤として過硫酸カリウム等の過酸化物をさらに使用し、アゾ系化合物を40質量%以上とすることを動機づける記載がない。
加えて、甲6は、水溶性アゾ系ラジカル重合性開始剤を使用することで、甲6の請求項8に記載された物性を有する吸水性樹脂が得られることが理解され、ラジカル重合性開始剤として、さらに過硫酸カリウムを使用してアゾ系化合物を40質量%以上とすることにより、吸水性樹脂が物性の相違点である相違点7における物性(ii)〜(vi)を満たすことの記載もない。
この上で、相違点7について検討してみるが、甲6には、発明の目的として、高い保水能、荷重下での高い吸水能、優れた吸水速度を持ち、かつ水可溶分が少ない、衛生材料に好適に使用できる吸水性樹脂粒子を提供することは記載があるが、甲6発明における吸水性樹脂が、物性の相違点である相違点7における(ii)〜(vi) で示される全ての物性と満足することを動機づける記載があるとはいえない。

また、甲2には、上記「a(b)ii」で述べたとおり、ラジカル重合開始剤として過酸化物の例示はあるものの、過酸化物とアゾ系化合物とを併用することは記載されていないし、併用する際のアゾ系化合物の使用割合が40質量%以上であることは記載されていない。そして、実施例には、ラジカル重合開始剤として、過硫酸カリウム又は2,2−アゾビス(2−アミジノプロパン)2塩酸塩を、それぞれ単独で使用した例が記載されているだけである。ましてや、過硫酸カリウムに対してアゾ系化合物を40質量%以上併用することを動機づける記載はないし、また、甲2には、水溶性ラジカル重合性開始剤の種類によって、特定の物性を有する吸水性樹脂が得られるというような記載はないし、ましてや、過硫酸カリウムに対してアゾ系化合物を40質量%以上併用することにより、吸水性樹脂が物性の相違点である相違点2における物性(ii)〜(vi)を満たすことの記載もない。
さらに、甲8には、上記「a(b)ii」で述べたとおり、過酸化物とアゾ系化合物を併用して吸水性ポリマー粒子を製造する方法の発明が記載され、段落【0226】以降に記載された実施例では、過酸化物とアゾ系化合物を併用して用いた具体例が記載されているものの、あくまで甲8に記載された、かさ密度が高く、遠心保持容量(CRC)が高く、21.0g/cm2の荷重下吸収(AUL)が高く、残留モノマーの水準が低く、且つ白色度が改善された吸水性ポリマー粒子を提供するために過酸化物とアゾ系化合物とを併用することが記載されているにすぎず、これにより、吸水性樹脂が物性の相違点である相違点2における物性(ii)〜(vi)を満たすことの記載はない。
加えて、甲7の記載もみてみるが、甲7の[0010]には、発明の課題として、吸水時に生じるゲルブロッキング現象を抑制して液浸透速度の低下を防ぐことができる高いゲル強度を有し、且つ優れた保水能を同時に保持した、衛生材料等に好適に使用できる新規な吸水性樹脂を提供することと記載され、請求の範囲の請求項1には、「下記(1)及び(2)の条件を満足する吸水性樹脂:(1)生理食塩水保水能が40g/g以上であること、(2)30倍膨潤時のゲル強度a、40倍膨潤時のゲル強度b、及び50倍膨潤時のゲル強度cの総和で表される総ゲル強度が5500Pa以上であること、但し、30倍膨潤時のゲル強度aとは、ゲルと生理食塩水の合計質量がゲルの質量の30倍となるようにゲルに生理食塩水を加えて膨潤させた際のゲル強度であり、40倍膨潤時のゲル強度bとは、ゲルと生理食塩水の合計質量がゲルの質量の40倍となるようにゲルに生理食塩水を加えて膨潤させた際のゲル強度であり、50倍膨潤時のゲル強度cとは、ゲルと生理食塩水の合計質量が、ゲルの質量の50倍となるようにゲルに生理食塩水を加えて膨潤させた際のゲル強度である。」が記載されている。
ここで、この吸水性樹脂を製造するに当たり使用するラジカル重合開始剤の具体例としては、[0036]に、過酸化物やアゾ系化合物が例示されているが、過酸化物とアゾ系化合物とを併用することは記載されていないし、併用する際のアゾ系化合物の使用割合が40質量%以上であることは記載されていない。
そして、実施例は、ラジカル重合開始剤として、2,2−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩を単独で使用した例である。

このように、甲7には、吸水性樹脂の製造方法に関して、水溶性ラジカル重合開始剤として、過酸化物及びアゾ系化合物の例示はされているものの、過酸化物とアゾ系化合物を40質量%以上併用することを動機づける記載がないし、また、甲7には、水溶性ラジカル重合性開始剤の種類によって、特定の物性を有する吸水性樹脂が得られるというような記載はないし、ましてや、過酸化物とアゾ系化合物を40質量%以上併用することにより、吸水性樹脂が物性の相違点である相違点7における物性(ii)〜(vi)を満たすことの記載もない。

よって、いくら甲7の記載をみても、甲6発明において、相違点6及び7を本件発明1で特定される構成とすることに動機づけがあるとはいえない。

(c)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は甲6に記載された発明並びに甲2、甲7及び甲8に記載された技術的事項に基いてから当業者が容易に想到できた発明であるとはいえない。

(イ)本件発明2〜4について
本件発明2〜3は、本件発明1を引用してさらに限定した発明であり、本件発明4は、本件発明1を引用して吸水性物品とした発明であるから、上記(ア)で述べた理由と同じ理由により、本件発明2〜4は、甲5に記載された発明とも、甲1、5及び6に記載された発明から当業者が容易に想到できた発明であるともいえない。

ウ 申立理由1及び2のまとめ
以上のとおりであるから、申立理由1及び2によっては本件発明1〜4に係る特許を取り消すことはできない。

(2)申立理由3〜5について
申立理由3〜5は、本件明細書の記載不備に関するものであるから、以下では申立人の主張に沿って併せて検討する。

ア 判断の前提
(ア)実施可能要件について
特許法第36条第4項は、「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において、「経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載したものであること。」と規定している。
特許法第36条第4項第1号は、発明の詳細な説明のいわゆる実施可能要件を規定したものであって、物の発明では、その物を作り、かつ、その物を使用する具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか、そのような記載が無い場合には、明細書及び図面の記載及び出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を作り、その物を使用することができる程度にその発明が記載されていなければならないと解される。

(イ)サポート要件について
特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(ウ)明確性について
特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。

以下では、これらの観点に立って、本件の判断をする。

イ サポート要件について
申立人の主張について検討する前に、本件発明がサポート要件を満たすか否かについて検討しておく。
(ア)本件発明の課題
本件発明の課題は、発明の詳細な説明の段落【0011】及び本件明細書全体の記載からみて、吸収性能に優れ、吸収体に使用した場合に荷重下での吸収性能を向上させることができる吸収性樹脂を提供することであると認める。

(イ)本件発明がサポート要件を満足するか否かについて
本件発明1は、上記「第2」で示したとおり、
「アクリル酸及び/又はその塩を内部架橋剤であるポリグリシジル化合物の存在下、アゾ系化合物が該アゾ系化合物及び過酸化物の使用量全量のうち40質量%以上の割合での該アゾ系化合物と該過酸化物との存在下で重合させ、かつ後架橋剤であるポリグリシジル化合物で後架橋することにより得られる吸水性樹脂であって、
(i)4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水能が16mL/g以上であり、
(ii)液体逆戻り量が1.3g以下であり、
(iii)当該吸水性樹脂全体の質量に占める150〜850μmの粒子の質量割合が85質量%以上であり、さらに300〜400μmの粒子の質量割合が20質量%以上であり、
(iv)当該吸水性樹脂の300〜400μmの粒子を分級して測定したtanδが2.00×10−2以下であり、
(v)吸収容量弾性指数=貯蔵弾性率[Pa]×遠心保持率[g/g]で表される吸収容量弾性指数が68000以上であり、
(vi)但し、水可溶分が12質量%以下である吸水性樹脂を除く。
(当審が便宜上(i)〜(vi)の符号を付した。)(上記物性の具体的な測定方法の特定は省略する。)」で特定される発明である。

この本件発明1の技術的な内容について検討すると、本件発明1における(i)の特定は、荷重下での生理食塩水の吸収が高いことを示していることは明らかであり、また、(v)の特定は、本件明細書の段落【0024】によれば、吸収容量弾性指数がより高い吸水性樹脂であれば、それに用いられた吸収性物品の荷重下での吸収性能(浸透速度、液体逆戻り量等)がより優れることが記載され、この(v)の特定により、(ii)の特定である液体逆戻り量が1.3g以下であることを示すものであるといえる。さらに、(iv)の特定は、同【0031】によれば、ゲルブロッキング現象の抑制ができることが示され、これは、吸収能が高いことを意味するといえる。
このように、上記した本件発明の物性の特定は、本件発明の課題に関する特定であるといえるところ、加えて、発明の詳細な説明の段落【0021】には、吸水性樹脂の粒度分布は、全体の割合に占める150〜850μmの粒子の質量割合が85質量%以上であり、90質量%以上であることがより好ましいこと、全体の割合に占める300〜400μmの粒子の質量割合が20質量%以上であり、25質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましいことが記載され、そして、同【0045】には、内部架橋剤の中でも、ポリグリシジル化合物を用いることが好ましいと記載され、同【0061】には、アゾ系化合物及び過酸化物の使用量割合としては、アゾ系化合物がアゾ系化合物及び過酸化物の使用量全量のうち40質量%以上である割合とすることが好ましいと記載され、同【0070】には、後架橋剤の中でも、ポリグリシジル化合物が特に好ましいと記載されている。
そして、同【0086】以降に記載の実施例においては、本件発明1の特定を満たす吸水性樹脂が、上記(ア)で示した本件発明1の解決しようとする課題を解決できることを、具体的なデータと共に記載している。

そうすると、発明の詳細な説明には、本件発明1が本件発明1の課題が解決できることが当業者に認識できるように記載されているといえ、また、本願出願時の技術常識に基づき当業者が課題を解決できると認識できるということができる。

ウ 申立人の主張に対する判断
(ア)本件発明1において、遠心保持率の絶対値が規定されていない点について
a 申立人の主張
本件発明1では、「吸収容量弾性指数=貯蔵弾性率[Pa]×遠心保持率[g/g]が68000以上であること、および、「液体逆戻り量が1.3 g以下」であることが規定される一方、個々の「遠心保持率(g/g)」および「貯蔵弾性率(Pa)」の絶対値は本件発明1では規定されてない。
ここで、本件明細書の実施例1〜4の吸水性樹脂(遠心保持率=42〜49g/gで、吸収容量弾性指数≧68000)と、比較例3(遠心保持率=3lg/g(実施例の吸水性樹脂より遠心保持率が25〜37%減少)で、吸収容量弾性指数=66030(本件発明1と比較して約3%不足))との効果の差異は、「吸収容量弾性指数≧68000」による課題解決上の効果ではなく、単に、比較例3の低い遠心保持率(3lg/g)に由来する液体逆戻り量(g)および遅い浸透速度であることは自明であって、吸水性樹脂が低い遠心保持率かつ高い貯蔵弾性率あって、吸収容量弾性指数が68000以上であっても低い遠心保持率では本件発明の課題は解決できるとは理解できず、本件発明の課題を解決するには、一定以上の遠心保持率が必須であることは自明であるといえ、よって、遠心保持率の絶対値を規定していない本件発明1〜4は、本件発明の課題を解決するための必須の要件が欠如している、というものである。

b 判断
まず、貯蔵弾性率について検討するが、本件明細書の段落【0025】には、「「貯蔵弾性率」とは、吸水性樹脂の300〜400μmの分級サンプルを、生理食塩水により50倍膨潤させて作製した膨潤ゲルを、動的粘弾性測定装置を用いて測定した数値をいう。この貯蔵弾性率は、ゲルの応力に対するひずみの比、つまりゲルの保形性(変形のしにくさ)を示す指標となる。」と記載され、同【0032】には、貯蔵弾性率は1000Pa以上であることが好ましく、10000Pa以下であることが好ましいと記載されている。
次に、遠心保持率について検討するが、同【0026】には、「「遠心保持率」とは、吸水性樹脂サンプルを生理食塩水により60分間攪拌下に膨潤(吸収)させ、さらに167Gの遠心力で1分間かけて脱水した後、その吸水性樹脂が自重の何倍の膨潤倍率を保持できるかを示したパラメータである。」と記載され、同【0033】には、遠心保持率が30g/g以上であることが好ましく、60g/g以下程度であることが好ましいと記載されている。
このように、「貯蔵安定率」及び「遠心保持率」は、下限が設定されていなくとも、吸水性樹脂の分野では、一定以上の値となることはそもそも当業者にとって自明なことであり、上記で記載したとおり本件明細書には、その具体的な値の範囲が記載されている。
そして、上記イ(イ)で述べたように、本件発明1は、本件明細書の記載及び技術常識に基づき当業者が本件発明の課題を解決できると認識できるといえるものである。

よって、申立人の上記主張は採用することはできない。

(イ)本件発明1がプロダクトバイプロセスクレームであることについて
a 申立人の主張
本件発明1は、「アクリル酸及び/又はその塩を内部架橋剤であるポリグリシジル化合物の存在下、アゾ系化合物が該アゾ系化合物及び過酸化物の使用量全量のうち40質量%以上の割合での該アゾ系化合物と該過酸化物との存在下で重合させ、かつ後架橋剤であるポリグリシジル化合物で後架橋することにより得られる吸水性樹脂」と規定しており、本件発明1は、いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームに相当するが、不可能・非実際的事情が存在するとはいえないから、本件発明1は不明確である、というものである。

b 判断
本件発明1は、上記「第2」で示したとおりの記載により特定される吸水性樹脂に係る発明であり、(i)〜(vi)の物性により特定される吸水性樹脂であることからすれば、本件発明1は、申立人がいうような製造方法による特定はあるものの、(i)〜(vi)の物性により特定される吸水性樹脂として明確であるといえ、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。

(ウ)本件発明1において、アゾ系化合物の使用量の上限を規定していない点について
a 申立人の主張
本件発明1では、アゾ系化合物の割合の上限を規定していないから、アゾ系化合物が100質量%(または99.99999質量%)の場合も本件発明1に含まれるが、特許権者が平成31年3月19日に提出した意見書での主張からすれば、その上限を規定すべきであるから、本件発明1〜4は不明確であり、また、本件発明1〜4は発明の詳細な説明に記載されていない、というものである。

b 判断
請求項1には、「アクリル酸及び/又はその塩を・・・アゾ系化合物が該アゾ系化合物及び過酸化物の使用量全量のうち40質量%以上の割合での該アゾ系化合物と該過酸化物との存在下で重合させ」と記載されているから、アゾ系化合物と該過酸化物とを併用することは明らかであり明確である。
また、本件明細書の段落【0060】には、アゾ系化合物及び過酸化物の使用量は、水溶性エチレン性不飽和単量体1モルに対して、0.00005モル以上であることが好ましく、0.005モル以下であることが好ましい旨の記載がされ、同【0061】には、アゾ系化合物の使用割合は95質量%以下であることが好ましいことが記載され、アゾ系化合物:過酸化物の質量比範囲は、8:12〜19:1であることが好ましいことが記載されている。
これらの記載をみれば、アゾ系化合物の使用量の上限は一定程度の範囲で存在するといえ、そして、アゾ系化合物と過酸化物を併用することにより本件発明1の課題を解決できると認識できることは、上記イ(イ)で述べたとおりである。
一方、申立人は、アゾ系化合物の割合の上限を規定していないと本件発明の課題が解決できないことについて、客観的なデータを示した上で主張している訳でもない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。

(エ)本件発明1において、「4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水能が16mL/g以上であり」と規定しているだけであり、上限を規定していない点について
a 申立人の主張
本件発明1では、「4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水能」の上限が規定されていないが、実施例1〜4では、その範囲が「18〜24mL/g」であり、例えば、50mLの場合に、本件発明の課題が解決できるかは不明である、というものである。

b 判断
吸水性樹脂の技術分野において、4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水能が大きければ大きいほど望ましいことは明らかである一方で、無限に大きい値を取り得るものではないことも明らかであり、これは技術常識であるといえるところ、この点に関し、本件明細書の段落【0028】には、4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水能が50mL/g以下であることが好ましいことが記載されている。
そうすると、本件発明1において、4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水能の上限が特定されていないとしても、技術常識を勘案すれば、本件発明1は、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できるといえるものであるといえる。
一方、申立人は、4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水能」の上限を規定していないと本件発明の課題が解決できないことについて、客観的なデータを示した上で主張している訳でもない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。

(オ)本件発明1において、「液体逆戻り量」の下限が規定されていない点について
a 申立人の主張
本件発明1では、「液体逆戻り量」の下限が特定されていないが、実施例1〜3では、その範囲が「0.4〜1.3g」であり、例えば、液体逆戻り量が0gであるときに本件発明の課題が解決できるかは不明である、というものである。

b 判断
本件発明1は、「液体逆戻り量が1.3g以下であり」と特定されており、液体逆戻り量の値が小さいことを特定したものであるところ、本件明細書の段落【0016】には、発明の効果として、液の逆戻りを効果的に抑制することが記載され、また、同【0106】には、液体逆戻り量が小さいほど吸水性物品として好ましいことが記載されていることからすれば、液体逆戻り量の値が小さければ小さいほど本件発明の課題は解決できることは自明であるといえる。
よって、申立人の上記主張は採用できない。

(カ)実施例3における液体逆戻り量の「1.0g」という値が疑わしいことについて
a 申立人の主張
本件特許の基礎出願の明細書では、実施例3の液体逆戻り量の値は1.5gであるところ、本件明細書では1.0gと記載され、その記載が疑わしく、仮に、1.5gであるとすると、本件発明を満たさない例となる、というものである。

b 判断
本件明細書には、実施例3における液体逆戻り量の値が1.5gであることについて、疑問を生じさせる記載はなく、実施例3における液体逆戻り量の値」の値が誤りであるという技術的及び合理的な理由を見いだすことはできない。
一方、申立人は、本件明細書実施例3における液体逆戻り量の値が疑わしいと述べるにとどまり、この記載に誤りがあることを、客観的なデータと共に主張する訳でもない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。

(キ)本件発明1において、300〜400μmの粒子のtanδのみを規定している点について
a 申立人の主張
本件発明1では、「吸水性樹脂全体の質量に占める150〜850μmの粒子の質量割合が85質量%以上であり、吸水性樹脂の300〜400μmの粒子を分級して測定したtanδが2.00×10−2以下であり」と規定しているところ、吸水性樹脂の300〜400μmの粒子の質量割合が20質量%であるとき、この規定は吸水性樹脂全体の特定を表すとは考えられないから、300〜400μmではない粒子径である吸水性樹脂のtanδを規定してない本件発明1〜4は発明の詳細な説明に記載されていない、というものである。

b 判断
確かに、「吸水性樹脂の300〜400μmの粒子を分級し」たものは「吸収性樹脂」の全体ではないものの、本件明細書の実施例では、「吸水性樹脂の300〜400μmの粒子を分級して測定したtanδが2.00×10−2以下であり」という特定を満たす実施例の「吸収性樹脂」は、これを満たさない比較例の「吸収性樹脂」に比べて、課題を解決できたことが具体的なデータと共に記載されている。
そして、上記イ(イ)で述べたように、本件発明1は、本件明細書の記載及び技術常識に基づき当業者が本件発明の課題を解決できると認識できるといえるものである。
一方、申立人は、吸水性樹脂の300〜400μmの粒子を分級したtanδの規定では、本件発明の課題を解決できないことを、客観的なデータと共に主張する訳でもない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。

(ク)本件発明1において、tanδの下限を規定していない点について
a 申立人の主張
本件発明1では、「吸水性樹脂の300〜400μmの粒子を分級して測定したtanδが2.00×10−2以下」と規定され、その下限が規定されていないが、実施例1〜4では、その範囲が「1.43×10−2〜1.67×10−2」であり、例えば、この値が0である場合に、本件発明の課題が解決できるかは不明であり、また、この値が0であることは理論的にあり得ず、本件発明1は、理論的にあり得ない数値を包含している、というものである。

b 判断
確かに、本件発明1では、「吸水性樹脂の300〜400μmの粒子を分級して測定したtanδが2.00×10−2以下」と規定され、その下限が規定されておらず、一見、0の場合も含むといえなくもないが、本件明細書の段落【0031】には、吸水性樹脂の300〜400μmの粒子を分級して測定したtanδが1.00×10−2以上であることが好ましいことが記載されている。また、吸水性樹脂は、tanδが0となることは理論的にあり得ないことは技術常識であるから、上記tanδの下限の特定がなくとも本件明細書の記載及び技術常識に基づき当業者が本件発明の課題を解決できると認識できるといえるものである。
一方、申立人は、吸水性樹脂の300〜400μmの粒子を分級して測定したtanδの下限を規定していないと、本件発明の課題を解決できない場合があることを客観的なデータと共に主張する訳でもない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。

(ケ)本件発明1において、式(I)吸収容量弾性指数=貯蔵弾性率[Pa]×遠心保持率[g/g]・・・(I)で表される吸収容量弾性指数の上限が規定されていない点について
a 申立人の主張
本件発明1では、上記吸収容量弾性指数が68000以上と規定しているだけであり、その上限が規定されていないが、実施例1〜4では、「73920〜82810」であり、例えば、90000の場合に、本件発明の課題が解決できるかは不明である、というものである。

b 判断
上記「吸収容量弾性指数」は、「貯蔵弾性率」と「遠心保持率」を乗じたものであり、吸水性樹脂の技術分野においてこの値が大きいほど望ましいことは、段落【0024】の記載からみても技術常識である。また、上記段落には、さらにこの値が200000以下であることが好ましいことが記載されている。
一方、申立人は、上記吸収容量弾性指数の上限を規定していないと、本件発明の課題を解決できないことを、客観的なデータと共に主張する訳でもない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。

(コ)本件発明1において、但し、水可溶分が12質量%以下である吸水性樹脂を除く点について
この主張は、上記「第3 1(1)及び(2)」と同旨であり、上記「第4 1(1)及び(2)」で述べた理由により、申立人の主張は採用できない。

(サ)本件発明1のうち[上記tanδの測定方法]における分級サンプルについて
a 申立人の主張
本件発明1のうち[上記tanδの測定方法]においては、分級手段の規定がないから、分級サンプルという用語は不明確である、というものである。

b 判断
本件明細書の段落【0096】には、貯蔵弾性率、損失弾性率、及びtanδの測定方法として、「測定する吸水性樹脂として、目開き400μmの篩を通過し、目開き300μmの篩上に保持されるものに調整し、」と記載されているから、本件発明1のうち[上記tanδの測定方法]における分級サンプルは明確である。
よって、申立人の上記主張は採用できない。

(シ)本件発明1のうち[上記tanδの測定方法]における50倍膨潤ゲルについて
a 申立人の主張
本件発明1のうち[上記tanδの測定方法]においては、50倍膨潤ゲルの定義(や含水ゲルから余剰水のろ過の有無)を規定していないから、50倍膨潤ゲルのという用語は不明確であり、また、遠心保持率が5g/gの吸水性樹脂は、50倍膨潤ゲルは得られず、さらに、遠心保持率の低い吸水性樹脂は、tanδ及び貯蔵弾性率が大きく変化することは自明であるから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されていない、というものである。

b 判断
請求項1には、[上記tanδの測定方法]として「先ず、100mL容のビーカーに、生理食塩水49.0gを量り取り、マグネチックスターラーバーを投入し、マグネチックスターラーの上に配置し、マグネチックスターラーを600r/minで回転するように調整する。次に、分級サンプル1.0gを攪拌中のビーカー内に投入し、回転渦が消えて液面が水平になるまで攪拌を続け、50倍膨潤ゲルを調製する。該50倍膨潤ゲルを遠沈管に移し、遠心力が671Gとなるように設定した遠心機に4分間かけて脱気し、測定試料を得る。」と記載され、この試料のtanδを測定するのであるから、50倍膨潤ゲルは明確である。
また、サポート要件に関する申立人の主張は、自説の推論に基づきサポート要件を満たさないというものであって、客観的なデータを示して主張している訳でもない。
よって、申立人の上記主張は採用することはできない。

(ス)本件発明1のうち[上記貯蔵弾性率の測定方法]における分級サンプルについて
a 申立人の主張
本件発明1のうち[上記貯蔵弾性率の測定方法]においては、分級手段の規定がないから、分級サンプルという用語は不明確である、というものである。

b 判断
上記(サ)bで述べたように、分級サンプルは明確である。
よって、申立人の上記主張は採用できない。

(セ)本件発明1のうち[上記貯蔵弾性率の測定方法]における50倍膨潤ゲルについて
a 申立人の主張
本件発明1のうち[上記貯蔵弾性率の測定方法]においては、50倍膨潤ゲルの定義を規定していないから、50倍膨潤ゲルのという用語は不明確である、というものである。

b 判断
上記(シ)bで述べたように、50倍膨潤ゲルは明確である。
よって、申立人の上記主張は採用できない。

(ソ)本件発明1において、[上記水可溶分の測定方法]について
a 申立人の主張
本件発明1のうち[上記貯蔵弾性率の測定方法]においては、「撹拌後の該水性樹脂粒子の分散液」と規定されているが、その前には「水性樹脂粒子」という記載はないから、上記「該水性樹脂」という記載は不明確である、というものである。

b 判断
請求項1の[上記水可溶分の測定方法]の記載全体をみると、申立人が指摘した「撹拌後の該水性樹脂粒子の分散液」という記載は、「撹拌後の該吸水性樹脂粒子の分散液」の誤記であることは明らかである。
そうすると、この記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとまではいえない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、特許異議申立人がした申立理由1〜5によっては、本件発明1〜4に係る特許を取り消すことはできない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、当審が通知した取消理由及び特許異議申立人がした申立理由によっては、本件発明1〜4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1〜4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-01-13 
出願番号 P2015-122358
審決分類 P 1 652・ 113- Y (A41B)
P 1 652・ 121- Y (A41B)
P 1 652・ 536- Y (A41B)
P 1 652・ 537- Y (A41B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 杉江 渉
特許庁審判官 佐藤 健史
土橋 敬介
登録日 2020-07-20 
登録番号 6737571
権利者 住友精化株式会社
発明の名称 吸水性樹脂及び吸収性物品  
代理人 関口 正夫  
代理人 鎌田 久男  
代理人 特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK  
代理人 仲野 孝雅  
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