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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載  C07C
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  C07C
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C07C
審判 全部無効 2項進歩性  C07C
審判 全部無効 1項2号公然実施  C07C
管理番号 1381844
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-03-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2017-07-18 
確定日 2021-10-29 
訂正明細書 true 
事件の表示 上記当事者間の特許第5734302号発明「ビマトプロストの結晶およびその製造方法と用途」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5734302号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、3〜7、16〜18〕、〔2、19〜22〕、〔8〜15〕について訂正することを認める。 特許第5734302号の請求項1、2、7、8、10〜22に係る発明についての審判請求は、成り立たない。 特許第5734302号の請求項3〜6、9に係る発明についての審判請求を却下する。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5734302号に係る出願(特願2012−535603号)は、2010年7月30日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2009年11月2日 中国(CN))を国際出願日とする出願(出願人:上海天偉生物制薬有限公司(以下、「被請求人」という。)であって、その特許権の設定登録は平成27年4月24日にされ、その後、請求人ケイマン ケミカル カンパニー,インコーポレーテッド(以下、「請求人」という。)から無効審判が請求されたものである。以下、請求以後の経緯を整理して示す。

平成29年 7月18日 無効審判請求及び甲第1〜22号証提出
(請求人)
同年 9月15日 上申書、手続補正書及び甲第23〜26号証提
出(請求人)
平成30年 1月24日 答弁書・訂正請求書及び乙第1〜5号証提出
(被請求人)
同年 3月 7日 手続補正書提出(被請求人)
同年 5月14日 弁駁書及び甲第27〜32号証提出(請求人)
同年 7月 5日付け審理事項通知
同年 8月 3日 上申書提出(請求人)
同日 上申書提出(被請求人)
同年 8月31日 口頭審理陳述要領書及び甲第33〜42号証提
出(請求人)
同日 口頭審理陳述要領書提出(被請求人)
同年 9月14日 第1回口頭審理
同日 上申書及び甲第43〜46号証提出(請求人)
同年10月12日 上申書及び甲第47号証の1〜8提出
(請求人)
同日 上申書提出(被請求人)
同年11月 9日 上申書及び甲第48号証提出(請求人)
同日 上申書提出(被請求人)
同年12月20日付け通知書
平成31年 1月21日 上申書提出(被請求人)
令和 2年 4月23日付け審決の予告
同年 7月30日 上申書・訂正請求書提出(被請求人)
同年11月 9日 弁駁書提出(請求人)

第2 訂正請求による訂正の適否
1 訂正請求の趣旨及び訂正の内容
本件無効審判事件の被請求人より令和2年7月30日に訂正請求された訂正(以下、「本件訂正」という。)の趣旨は、「特許第5734302号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜22について訂正することを求める」ものである。
なお、被請求人より平成30年1月24日に提出された訂正請求は、特許法第134条の2第6項の規定により取り下げられたものとみなす。

(1)一群の請求項、及び、別の訂正単位とする求めについて
訂正前の請求項1〜18について、請求項2〜18は、請求項1を直接的又は間接的に引用するものとなっており、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1〜18に対応する本件訂正の請求項1〜22は、特許法第134条の2第3項に規定する関係を有する一群の請求項である。
また、訂正後の請求項2及び19〜22、並びに、訂正後の請求項8〜15について、被請求人は、当該訂正が認められるときに、それぞれ、一群の請求項の他の請求項とは別の訂正単位として扱われることを求めている。

(2)訂正事項について
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1について「粉末X線回折(XRPD)スペクトルにおいて下述の2θ角:3.2±0.2°、19.9±0.2°、20.8±0.2゜、および22.8±0.2゜に特徴的ピークがある」を、「粉末X線回折(XRPD)スペクトルにおいて下述の2θ角:3.2±0.2°、19.9±0.2°、20.8±0.2゜、および22.8±0.2゜に特徴的ピークがあり、特徴的ピークのうち第一番目に強い特徴的ピークは2θ角:19.9±0.2゜にあり、第二番目に強い特徴的ピークは 2θ角:20.8±0.2゜にある」に訂正する(下線部は訂正箇所である。以下、同様。)。
請求項1の記載を引用する請求項7、16〜18も同様に訂正する。

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2について「粉末X線回折(XRPD)スペクトルにおいてさらに下述の 2θ角:5.5±0.2°、11.4±0.2°、16.7±0.2゜および17.6±0.2゜に特徴的ピークがある、ことを特徴とする請求項1に記載のビマトプロストの結晶型A。」を、「構造が式Iに示されるように、粉末X線回折(XRPD)スペクトルにおいて下述の2θ角:3.2±0.2°、19.9±0.2°、20.8±0.2°、22.8±0.2°、5.5±0.2°、11.4±0.2°、16.7±0.2゜および17.6±0.2゜に特徴的ピークがあり、
前述粉末X線回折(XRPD)スペクトルは図2に示されるとおりである、ビマトプロストの結晶型A。
【化1】

(図2)

」に訂正する。
請求項2の記載を直接的又は間接的に引用する請求項19〜22(訂正前の請求項16〜18に相当)も同様に訂正する。

ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5を削除する。

カ 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6を削除する。

キ 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7について「請求項1〜6のうちのいずれかに記載の」を、「請求項1に記載の」に訂正する。
請求項7の記載を直接的又は間接的に引用する請求項16〜18も同様に訂正する。

ク 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8について「(1)式Iに示される油状物のビマトプロストと、アセトン、ブタノン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸-iso-プロピル、酢酸-t-ブチル、塩化メチレン、およびiso-プロピルアルコールから選ばれる一種の溶媒とを混合し、溶液1を得る工程、
(2)溶液1とペンタン、ヘキサン、ヘプタン、および石油エーテルから選ばれる一種又は一種以上の非極性溶媒とを混合し、溶液2を得る工程、および
(3)溶液2を撹拌し、請求項1〜7のうちのいずれかに記載のビマトプロストの結晶型Aを得る工程、
を含む、ことを特徴とする、請求項1〜7のうちのいずれかに記載のビマトプロストの結晶型Aの製造方法。」を、「構造が式Iに示されるように、粉末X線回折(XRPD)スペクトルにおいて下述の 2θ角:3.2±0.2°、19.9±0.2°、20.8±0.2゜、および22.8±0.2゜に特徴的ピークがある、ビマトプロストの結晶型Aの製造方法であって、
【化1】

(1)式Iに示される油状物のビマトプロストと、アセトン、ブタノン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸-iso-プロピル、酢酸-t-ブチル、塩化メチレン、およびiso-プロピルアルコールから選ばれる一種の溶媒とを混合し、溶液1を得る工程、
(2)溶液1とペンタン、ヘキサン、ヘプタン、および石油エーテルから選ばれる一種又は一種以上の非極性溶媒とを混合し、溶液2を得る工程、および
(3)溶液2を撹拌し、前述ビマトプロストの結晶型Aを得る工程、
を含み、
工程(1)において、前述混合の温度は10〜30℃である、ことを特徴とするビマトプロストの結晶型Aの製造方法。」に訂正する。
請求項8の記載を直接的又は間接的に引用する請求項10〜15も同様に訂正する。

ケ 訂正事項9
特許請求の範囲の請求項9を削除する。

コ 訂正事項10
特許請求の範囲の請求項10について「工程(2)において、」を、「工程(3)において、」に訂正する。

サ 訂正事項11
特許請求の範囲の請求項15について「請求項8〜14のうちのいずれかに記載の製造方法」を、「請求項8、及び10〜14のうちのいずれかに記載の製造方法」に訂正する。
請求項10の記載を直接的又は間接的に引用する請求項15も同様に訂正する。

シ 訂正事項12
特許請求の範囲の請求項16について「請求項1〜7のうちのいずれかに記載のビマトプロストの結晶型A」を、「請求項1又は7に記載のビマトプロストの結晶型A」に訂正する。

ス 訂正事項13
特許請求の範囲の請求項17について「請求項1〜7のうちのいずれかに記載のビマトプロストの結晶型A」を、「請求項1又は7に記載のビマトプロストの結晶型A」に訂正する。

セ 訂正事項14
特許請求の範囲の請求項18について「請求項1〜7のうちのいずれかに記載のビマトプロストの結晶型A」を、「請求項1又は7に記載のビマトプロストの結晶型A」に訂正する。

ソ 訂正事項15
特許請求の範囲の請求項7に「示差走査熱量分析チャート(DSC)において、66.5−70.5℃で最大のピーク値がある、ことを特徴とする請求項1〜6のうちのいずれかに記載のビマトプロストの結晶型A。」とあるうち、請求項2を引用するものについて、「示差走査熱量分析チャート(DSC)において、66.5−70.5℃で最大のピーク値がある、ことを特徴とする請求項2に記載のビマトプロストの結晶型A。」と訂正し、新たに請求項19とする。
請求項19(訂正前の請求項7に相当)の記載を直接的又は間接的に引用する請求項20〜22(訂正前の請求項16〜18に相当)も同様に訂正する。

タ 訂正事項16
特許請求の範囲の請求項16に「請求項1〜7のうちのいずれかに記載のビマトプロストの結晶型Aの、緑内障を治療する薬物の製造のための使用。」とあるうち、請求項2又は7 (訂正後の請求項2又は19)を引用するものについて、「請求項2又は19に記載のビマトプロストの結晶型Aの、緑内障を治療する薬物の製造のための使用。」と訂正し、新たに請求項20とする。

チ 訂正事項17
特許請求の範囲の請求項17に「請求項1〜7のうちのいずれかに記載のビマトプロストの結晶型Aと薬学的に許容される担体とを含む、ことを特徴とする薬物組成物。」とあるうち、請求項2又は7(訂正後の請求項2又は19) を引用するものについて、「請求項2又は19に記載のビマトプロストの結晶型Aと薬学的に許容される担体とを含む、ことを特徴とする薬物組成物。」と訂正し、新たに請求項21とする。

ツ 訂正事項18
特許請求の範囲の請求項18に「請求項1〜7のうちのいずれかに記載のビマトプロストの結晶型Aと薬学的に許容される担体とを混合し、請求項17に記載の薬物組成物を得る工程、を含む、ことを特徴とする請求項17に記載の薬物組成物の製造方法。」とあるうち、請求項2又は7及び17(訂正後の請求項2又は19及び21)を引用するものについて、「請求項2又は19に記載のビマトプロストの結晶型Aと薬学的に許容される担体とを混合し、請求項21に記載の薬物組成物を得る工程、を含む、ことを特徴とする請求項21に記載の薬物組成物の製造方法。」と訂正し、新たに請求項22とする。

2 訂正の適否の判断
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である「粉末X線回折(XRPD)スペクトルにおいて下述の2θ角:3.2±0.2°、19.9±0.2°、20.8±0.2゜、および22.8±0.2゜に特徴的ピーク」について、これらの4つの特徴的ピークのうち、「第一番目に強い特徴的ピークは2θ角:19.9±0.2゜にあり、第二番目に強い特徴的ピークは 2θ角:20.8±0.2゜」にあることを限定するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

イ 新規事項について
訂正事項1は、願書に添付した本件特許明細書段落【0051】の「本発明のビマトプロストの結晶型Aの粉末X線回折(XRPD)スペクトルにおいて2θ反射角でのピークは特別な特徴で、US2009/016359A1で報告された結晶型Bの粉末X線回折(XRPD)スペクトルにおいて2θ 反射角での特徴的ピークとは顕著な違いがある。スペクトルの吸収強度および2θ角の比較では、以下の通りである。・・・(3)結晶型Aにおける19.9±0.2°の最強の特徴的吸収ピークは、・・・(4)結晶型Aにおける20.8±0.2°の第二特徴的吸収ピークは、」との記載、段落【0072】〜【0082】の実施例3〜13において、ビマトプロストの結晶型Aの製造で得られた粉末X線回折(XRPD)スペクトルが図2と一致したとの記載、及び願書に添付した図面の図2の粉末X線回折(XRPD)スペクトルより、「第一番目に強い特徴的ピークは2θ角:19.9±0.2゜」であり、「第二番目に強い特徴的ピークは2θ角:20.8±0.2゜」であることが示されているから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて
上記アで示したとおり特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、発明のカテゴリーや対象などを変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

エ また、請求項1の上記訂正に連動する請求項7、16〜18の訂正も、同様な理由により、特許請求の範囲の限縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内で行われるものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。

(2)訂正事項2
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、本件訂正前の請求項2が訂正前の請求項1を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、訂正前の請求項1を引用しないものとし、独立形式請求項へ改めるための訂正をするとともに、「前述粉末X線回折(XRPD)スペクトルは図2に示されるとおりである」こと及び図2(図2の提示は省略)を加えることにより限定するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」及び、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を、それぞれ目的とするものである。

イ 新規事項について
訂正事項2は、訂正前の請求項2が訂正前の請求項1を引用する記載であったものを独立形式請求項へ改めるとともに、ビマトプロストの結晶型Aの物性として、願書に添付した本件特許明細書段落【0072】〜【0082】の実施例3〜13において、ビマトプロストの結晶型Aの製造で得られた粉末X線回折(XRPD)スペクトルが図2と一致したとの記載、及び願書に添付した図面である図2に基づいて限定したものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて
上記アで示したとおり、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、発明のカテゴリーや対象などを変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

エ また、請求項2の上記訂正に連動する請求項16〜18の訂正も、同様な理由により、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内で行われるものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。

(3)訂正事項3〜6及び9
ア 訂正の目的について
訂正事項3〜6及び9は、訂正前の請求項3〜6及び9を、それぞれ削除するものであり、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を、それぞれ目的とするものである。

イ 新規事項について
訂正事項3〜6及び9は、請求項3〜6及び9を、それぞれ削除するものであり、本件特許明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて
訂正事項3〜6及び9は、請求項3〜6及び9を、それぞれ削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(4)訂正事項7
ア 訂正の目的について
訂正事項7は、訂正前の請求項7が引用する「請求項1〜6」のうち、「請求項1」に限定するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

イ 新規事項について
訂正事項7は、引用する請求項を「請求項1」に限定する訂正であり、本件特許明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて
訂正事項7は、引用する請求項を「請求項1」に限定する訂正であるから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

エ また、請求項7の上記訂正に連動する請求項16〜18の訂正も、同様な理由により、特許請求の範囲の限縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内で行われるものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。

(5)訂正事項8
ア 訂正の目的について
訂正事項8は、本件訂正前の請求項8が訂正前の請求項1〜7を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、訂正前の請求項1〜7を引用しないものとし、訂正前の請求項1を引用する請求項8について、独立形式請求項へ改めるための訂正をするとともに、本件訂正前の請求項8の「(1)式Iに示される油状物のビマトプロストと、アセトン、ブタノン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸-iso-プロピル、酢酸-t-ブチル、塩化メチレン、およびiso-プロピルアルコールから選ばれる一種の溶媒とを混合し、溶液1を得る工程」について、「工程(1)」のビマトプロストと前記溶媒との混合の温度を「10〜30℃」に限定するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」及び、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を、それぞれ目的とするものである。

イ 新規事項について
訂正事項8は、訂正前の請求項8が訂正前の請求項1〜7を引用する記載であったものうち、請求項1を引用するものを独立形式請求項へ改めるとともに、訂正前の請求項9の記載及び本件特許明細書段落【0017】の「工程( 1)において、前述混合の温度は10〜30℃ である」との記載に基づいて限定したものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて
訂正事項8は、上記アで示したとおり、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、発明のカテゴリーや対象などを変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

エ また、請求項8の上記訂正に連動する請求項10〜15の訂正も、同様な理由により、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内で行われるものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。

(6)訂正事項10
ア 訂正の目的について
訂正事項10は、請求項10において工程(2)の表記を工程(3)とする訂正である。
訂正前の請求項10は「工程(2)において、前述撹拌時間は1〜50時間である」と記載されている。しかしながら、請求項10が引用する請求項8の工程(2)には、溶液1と所定の非極性溶媒とを混合し、溶液2を得る工程が記載されており、撹拌についての記載はない。一方、請求項8の工程(3)には「溶液2を撹拌し」との記載がある。そして、請求項10に記載の「前述撹拌時間」は、請求項8に記載の工程(3)の撹拌の時間を意味していると理解できる。また、本件特許明細書には、撹拌時間が1h、5h、10h、25h、40h、50hの実施例が記載され、混合時間について記載されていない。このことから、訂正前の請求項10の「工程(2)において、前述撹拌時間は1〜50時間である」という記載は誤記があるといえ、その誤記は「工程(2)」にあり、「工程(2)」ではなく「工程(3)」とするべきである。
したがって、上記訂正事項10は、特許法第134条の2第1項ただし書第2号に掲げる「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものである。

イ 新規事項について
訂正事項10は、誤記又は誤訳の訂正を目的とするものであり、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて
訂正事項10は、誤記又は誤訳の訂正を目的とするものであるから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

エ また、請求項10の上記訂正に連動する請求項15の訂正も、同様な理由により、誤記又は誤訳の訂正を目的とするものであり、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内で行われるものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。

(7)訂正事項11
ア 訂正の目的について
訂正事項11は、訂正前の請求項15が引用する「請求項8〜14」のうち、「請求項8、及び10〜14」に限定するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

イ 新規事項について
訂正事項11は、引用する請求項を「請求項8、及び10〜14」に限定する訂正であり、本件特許明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて
訂正事項11は、引用する請求項を「請求項8、及び10〜14」に限定する訂正であるから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(8)訂正事項12〜14
ア 訂正の目的について
訂正事項12〜14は、訂正前の請求項16〜18のそれぞれが引用する「請求項1〜7」のうち、「請求項1又は7」に限定するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

イ 新規事項について
訂正事項12〜14は、引用する請求項をそれぞれ「請求項1又は7」に限定する訂正であり、本件特許明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて
訂正事項12〜14は、引用する請求項をそれぞれ「請求項1又は7」に限定する訂正であるから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(9)訂正事項15
ア 訂正の目的について
訂正事項15は、訂正前の請求項7が引用する「請求項1〜6」のうち、「請求項2」に限定し、新たな請求項19とするものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

イ 新規事項について
訂正事項15は、訂正前の請求項7が引用する請求項を「請求項2」に限定し、新たな請求項19とする訂正であり、本件特許明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて
訂正事項15は、訂正前の請求項7が引用する請求項を「請求項2」に限定し、新たな請求項19とする訂正であるから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(10)訂正事項16
ア 訂正の目的について
訂正事項16は、訂正前の請求項16が引用する「請求項1〜7」のうち、「請求項2」又は、「請求項2」を引用する「請求項7」の新たな「請求項19」に限定し、新たな請求項20とするものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

イ 新規事項について
訂正事項16は、訂正前の請求項16が引用する請求項を「請求項2」又は「請求項19」に限定し、新たな請求項20とする訂正であり、本件特許明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて
訂正事項16は、訂正前の請求項16が引用する請求項を「請求項2」又は「請求項19」に限定し、新たな請求項20とする訂正であるから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(11)訂正事項17
ア 訂正の目的について
訂正事項17は、訂正前の請求項17が引用する「請求項1〜7」のうち、「請求項2」又は、「請求項2」を引用する「請求項7」の新たな「請求項19」に限定し、新たな請求項21とするものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

イ 新規事項について
訂正事項17は、訂正前の請求項17が引用する請求項を「請求項2」又は「請求項19」に限定し、新たな請求項21とする訂正であり、本件特許明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて
訂正事項17は、訂正前の請求項17が引用する請求項を「請求項2」又は「請求項19」に限定し、新たな請求項21とする訂正であるから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(12)訂正事項18
ア 訂正の目的について
訂正事項18は、訂正前の請求項18が引用する「請求項1〜7」のうち、「請求項2」又は、「請求項2」を引用する「請求項7」の新たな「請求項19」に限定し、さらに、訂正前の請求項18が引用する請求項17の「請求項2」又は、「請求項2」を引用する「請求項7」の新たな「請求項19」に該当する部分を引用する新たな「請求項21」に限定し、新たな請求項22とするものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

イ 新規事項について
訂正事項18は、訂正前の請求項18が引用する請求項を「請求項2」又は「請求項19」に限定し、さらに、訂正前の請求項18が引用する請求項17の「請求項2」又は「請求項19」に該当する部分を引用する新たな「請求項21」に限定し、新たな請求項22とする訂正であり、本件特許明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて
訂正事項18は、引用する請求項を「請求項2」又は「請求項19」に限定し、さらに、訂正前の請求項18が引用する請求項17の「請求項2」又は「請求項19」に該当する部分を引用する新たな「請求項21」に限定し、新たな請求項22とする訂正であるから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(13)請求人の令和2年11月9日付け弁駁書について
請求人は、令和2年11月9日付け弁駁書第3頁〜第10頁において、上記の本件訂正は新規事項の追加にあたるものであり、本件訂正は認められない旨主張している。
しかしながら、本件訂正は、上記(1)〜(12)で検討したとおりであり、新規事項の追加に該当しないことが明らかであるから、請求人の上記主張は、採用することができない。

(14)まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号、第2号及び第4号に掲げる事項を目的とし、同法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項ないし第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、3〜7、16〜18〕、〔2、19〜22〕、〔8〜15〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正は認められたので、本件特許の請求項1、2、7、8、10〜22に係る発明は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1、2、7、8、10〜22に記載された事項によって特定される以下のとおりのものと認める(以下、「本件発明1」、「本件発明2」、「本件発明7」、「本件発明8」、「本件発明10」〜「本件発明22」のように表記することがある。また、まとめて「本件発明」ということもある。)。
「【請求項1】
構造が式Iに示されるように、粉末X線回折(XRPD)スペクトルにおいて下述の2θ角:3.2±0.2°、19.9±0.2°、20.8±0.2゜、および22.8±0.2゜に特徴的ピークがあり、特徴的ピークのうち第一番目に強い特徴的ピークは2θ角:19.9±0.2゜にあり、第二番目に強い特徴的ピークは2θ角:20.8±0.2゜にある、ビマトプロストの結晶型A。
【化1】

【請求項2】
構造が式Iに示されるように、粉末X線回折(XRPD)スペクトルにおいて下述の2θ角:3.2±0.2°、19.9±0.2°、20.8±0.2°、22.8±0.2°、5.5±0.2°、11.4±0.2°、16.7±0.2゜および17.6±0.2゜に特徴的ピークがあり、
前述粉末X線回折(XRPD)スペクトルは図2に示されるとおりである、ビマトプロストの結晶型A。
【化1】

(図2)

【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】(削除)
【請求項6】(削除)
【請求項7】
示差走査熱量分析チャート(DSC)において、66.5−70.5℃で最大のピークがある、ことを特徴とする請求項1に記載のビマトプロストの結晶型A。
【請求項8】
構造が式Iに示されるように、粉末X線回折(XRPD)スペクトルにおいて下述の2θ角:3.2±0.2°、19.9±0.2°、20.8±0.2゜、および22.8±0.2゜に特徴的ピークがある、ビマトプロストの結晶型Aの製造方法であって、
【化1】

(1)式Iに示される油状物のビマトプロストと、アセトン、ブタノン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸-iso-プロピル、酢酸-t-ブチル、塩化メチレン、およびiso-プロピルアルコールから選ばれる一種の溶媒とを混合し、溶液1を得る工程、
(2)溶液1とペンタン、ヘキサン、ヘプタン、および石油エーテルから選ばれる一種又は一種以上の非極性溶媒とを混合し、溶液2を得る工程、および
(3)溶液2を撹拌し、前述ビマトプロストの結晶型Aを得る工程、
を含み、
工程(1)において、前述混合の温度は10〜30℃である、ことを特徴とするビマトプロストの結晶型Aの製造方法。
【請求項9】(削除)
【請求項10】
工程(3)において、前述撹拌時間は1〜50時間である、ことを特徴とする請求項8に記載の製造方法。
【請求項11】
工程(3)において、前述撹拌温度は−25〜10℃である、ことを特徴とする請求項8に記載の製造方法。
【請求項12】
工程(3)において、前述撹拌の温度は−25℃、−10℃、0℃、5℃、或いは10℃である、ことを特徴とする請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
工程(1)において、前述式Iに示される化合物のビマトプロストと溶媒との混合比率は1:5〜100で、溶液1を得る、ことを特徴とする請求項8に記載の製造方法。
【請求項14】
工程(2)において、溶液1と非極性溶媒との混合比率は0.3〜2:1である、ことを特徴とする請求項8に記載の製造方法。
【請求項15】
工程(1)における前述の油状物のビマトプロストは、式Iに示されるビマトプロストとC1〜C4の直鎖又は分枝のアルキルアルコールであるアルコール系溶媒とを混合した後、溶媒がなくなるまで濃縮することによって得られる、ことを特徴とする請求項8、及び10〜14のうちのいずれかに記載の製造方法。
【請求項16】
請求項1又は7に記載のビマトプロストの結晶型Aの、緑内障を治療する薬物の製造のための使用。
【請求項17】
請求項1又は7に記載のビマトプロストの結晶型Aと薬学的に許容される担体とを含む、ことを特徴とする薬物組成物。
【請求項18】
請求項1又は7に記載のビマトプロストの結晶型Aと薬学的に許容される担体とを混合し、請求項17に記載の薬物組成物を得る工程、を含む、ことを特徴とする請求項17に記載の薬物組成物の製造方法。
【請求項19】
示差走査熱量分析チャート(DSC)において、66.5−70.5℃で最大のピークがある、ことを特徴とする請求項2に記載のビマトプロストの結晶型A。
【請求項20】
請求項2又は19に記載のビマトプロストの結晶型Aの、緑内障を治療する薬物の製造のための使用。
【請求項21】
請求項2又は19に記載のビマトプロストの結晶型Aと薬学的に許容される担体とを含む、ことを特徴とする薬物組成物。
【請求項22】
請求項2又は19に記載のビマトプロストの結晶型Aと薬学的に許容される担体とを混合し、請求項21に記載の薬物組成物を得る工程、
を含む、ことを特徴とする請求項21に記載の薬物組成物の製造方法。」

第4 請求人の主張の要旨及び証拠方法
1 請求人の主張の要旨
請求人は、令和2年11月9日付け弁駁書において
「(1)特許第5734302号の請求項1ないし18に係る発明についての特許を無効とする、審判請求費用は被請求人の負担とする、
または、
(2)特許第5734302号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし22について訂正することを認める、特許第5734302号の請求項1ないし2、請求項7および8、請求項10ないし22に係る発明についての特許を無効とする、審判請求費用は被請求人の負担とする」との審決を求めている。
上記の請求人の主張する要旨(1)は、本件訂正が認められないことを前提とした主張であるが、上記第2のとおり本件訂正は認められたので、その前提を欠く主張であることから、以下、請求人の主張する要旨(2)について検討していく。

2 審判請求書に記載された無効理由
請求人の主張の全趣旨からみて、審判請求書に記載された請求人が主張する無効理由は下記の(無効理由1−1)〜(無効理由5−2)のとおりであり、これについて当事者間に争いはない(口頭審理調書の「請求人欄」の「3」及び「被請求人欄」の「3」)。
また、令和2年11月9日付け請求人の弁駁書において、上記本件訂正により請求の理由を補正する必要が生じた場合に該当するとして審判長が令和3年3月23日付け補正許否の決定により補正を許可した新たな下記(無効理由6−1)〜(6−3)が主張された。
以下の無効理由で対象となる本件発明は、上記第3の訂正後の本件発明に整理し直したものである。

なお、無効理由1−2及び5−3については、請求人により取り下げられた(口頭審理調書の「請求人欄」の「7」及び「10」、「被請求人欄」の「7」)。
また、無効理由3−3における甲第20号証は、甲第18号証に読み替えた(口頭審理調書の「請求人欄」の「9」)。

(無効理由1−1)
本件発明1、2、7、19は、本件特許の優先日前に請求人がビマトプロストのロット番号206767の結晶(本件結晶)を生産し、フナコシ株式会社他3社に輸出及び譲渡することによって公然実施された発明であるから、本件発明1、2、7、19は、特許法第29条第1項第2号の規定に該当し、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

(無効理由2−1)
本件発明8、10〜15は、上記公然実施された発明および甲第18号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものであるから、本件発明8、10〜15は、特許法第29条第2項の規定に該当し、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(無効理由2−2)
本件発明16〜18、20〜22は、上記公然実施された発明、甲第18号証及び甲第20号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものであるから、本件発明16〜18、20〜22は、特許法第29条第2項の規定に該当し、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(無効理由3−1)
本件発明1、2、7、19は、甲第18号証に記載された発明であり、そして甲第18号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものであるから、本件発明1、2、7、19は、特許法第29条第1項第3号および第29条第2項の規定に該当し、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきである。

(無効理由3−2)
本件発明8、10〜14は、甲第18号証に記載された発明であり、そして甲第18号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものであるから、本件発明8、10〜14は、特許法第29条第1項第3号および第29条第2項の規定に該当し、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきである。

(無効理由3−3)
本件発明16〜18、20〜22は、甲第18号証に記載された発明であり、そして甲第18号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものであるから、本件発明16〜18、20〜22は、特許法第29条第1項第3号および第29条第2項の規定に該当し、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきである。

(無効理由4)
本件発明15は、甲第18号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものであるから、本件発明15は、特許法第29条第2項の規定に該当し、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(無効理由5−1)
本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、下記のとおり当業者が本件発明1、2、7、8、10〜22の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないことから、本件特許は、明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
したがって、本件発明1、2、7、8、10〜22に係る特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とされるべきである。
(ア)無効理由5−1−1 X線回折測定方法について
本件特許明細書には、X線回折測定方法の条件を一切記載していない。
したがって、本件発明1、2、7、8、10〜22は、実施可能要件を欠如している。

(イ)無効理由5−1−2 結晶の安定性の測定方法について
本件特許明細書は、段落【0056】において、「結晶型Aは40℃で密封して4日間保存しても顕著な分解がなかったが、結晶型Bは顕著に分解した。」と記載する。
しかしながら、本件特許明細書は、その「密封」についてどのように試験を行ったのか記載していない。
したがって、本件発明1、2、7、8、10〜22は、実施可能要件を欠如している。

(無効理由5−2)
本件発明1、7、8、10〜22は、下記のとおり本件特許に係る出願の発明の詳細な説明に記載されたものでないから、特許法第36条第6項第1号の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
(ア)無効理由5−2−1 X線回折のピークについて
本件発明1においては、X線回折のピークが4つしか特定されていない。また、本件発明4においては、X線回折のピークが3つしか特定されていない。
したがって、当業者は、本件発明1および4の結晶を理解できず、本件発明1、7、8、10〜22は、サポート要件を欠如している。

なお、下記(イ)の無効理由5−2−2は、訂正前の請求項5に係る発明を対象としたものであり、本件訂正により訂正前の請求項5は削除されたが、本件無効審判請求時の請求項5に係る発明に対する無効理由として示しておく。

(イ)無効理由5−2−2 訂正前の請求項5に係る発明のX線回折のピークについて
本件発明1において3.2±0.2°に特徴的ピークがあることが特定されている。そして、本件発明1を引用する本件発明5においては、さらに、3.2±0.1°にピークがあることが特定されている。すなわち、本件発明5においては、3.2±0.2°の範囲に2つのピークがあることが特定されている。
しかしながら、本件特許明細書において、3.2±0.2°の範囲に2つのピークがある結晶型は記載されていない。
したがって、本件発明5およびこれを引用する本件発明7、8、10〜18に記載された発明を当業者は理解できない。

(無効理由6−1)
本件発明1、2、7、16〜22は、下記のとおり本件特許に係る出願の発明が明確に記載されたものでないから、特許法第36条第6項第2号の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
(ア)無効理由6−1−1 強い特徴的ピークについて
本件発明1には、「第一番目に強い特徴的ピーク」および「第二番目に強い特徴的ピーク」と特定されている。
しかしながら、ピークの「強さ」は本件特許明細書に定義されておらず、ピークの「強さ」は、ピークの「高さ」またはピークの「面積の大きさ」のいずれにも解釈できる。
それゆえ、本件発明1の上記記載は不明確である。
本件発明7、16〜18は、本件発明1を直接又は間接的に引用しているので同様である。

(イ)無効理由6−1−2 特徴的ピークと図2の関係について
本件発明2は、「2θ角:3.2±0.2°、19.9±0.2°、20.8±0.2°、22.8±0.2°、5.5±0.2°、11.4±0.2°、16.7±0.2゜および17.6±0.2゜に特徴的ピークがあ」るとする一方で、「前述粉末X線回折(XRPD)スペクトルは図2に示されるとおりである」としており、特徴的ピークと図2とを併記しているが、これら両者の関係が不明である。
本件発明19〜22は、本件発明2を直接又は間接的に引用しているので同様である。

(ウ)無効理由6−1−3 粉末X線回折(XRPD)の分析条件について
a ピーク強度は、粉末X線回折(XRPD)の分析条件の影響を受けることから、粉末X線回折(XRPD)の分析条件を本件発明1、7、16〜18において特定しなければ、結晶を特定することができず、それゆえ本件発明1、7、16〜18は不明確である。

b ピーク強度は、粉末X線回折(XRPD)の分析条件の影響を受けることから、粉末X線回折(XRPD)の分析条件を本件発明2、19〜22において特定しなければ、結晶を特定することができず、それゆえ本件発明2、19〜22は不明確である。

(無効理由6−2)
本件発明1、7、16〜18は、下記のとおり本件特許に係る出願の発明の詳細な説明に記載されたものでないから、特許法第36条第6項第1号の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
(ア)本件発明1は、4つの特徴的ピークが最も強いピークとして特定されておらず、4つの特徴的ピークよりも強いピークを含む実施形態を包含する。その一方で、本件特許明細書には、これら4つの特徴的ピークが最も強い4つのピークとしてのみ記載されいる。
したがって、そして、本件特許明細書の実施例3ないし13の記載からは、これら4つの特徴的ピークよりも強いピークを含む結晶が製造できると当業者が理解することはできない。
また、本件特許明細書の実施例3ないし13の記載からは、式Iで示されたビマトプロストの化学構造と結晶型Aの4つの特徴的ピークとその4つの特徴的ピークの中で第一番目および第二番目に強いピークが特定されているに過ぎないあらゆる結晶が提供できるとは到底考えられず、被請求人は、本件発明1のサポート要件充足性について何ら主張・立証をしていない。
したがって、本件発明1は、サポート要件を欠如している。
本件発明7、16〜18は、本件発明1を直接又は間接的に引用しているので同様である。

(無効理由6−3)
本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、下記のとおり当業者が本件発明1、7、16〜18の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないことから、本件特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
したがって、本件発明1、7、16〜18に係る特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とされるべきである。
(ア)本件発明1は、4つの特徴的ピークが最も強いピークとして特定されておらず、4つの特徴的ピークよりも強いピークを含む実施形態を包含する。その一方で、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、これら4つの特徴的ピークが最も強い4つのピークとしてのみ記載されいる。また、ピークの強度は、粉末X線回折(XRPD)の分析条件を規定する必要があるが、粉末X線回折(XRPD)の分析条件が規定されていないため、当業者は本件発明1を追試することができない。
そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、これら4つの特徴的ピークよりも強いピークを含む結晶が製造できるように記載されていないから、本件発明1は、実施可能要件を欠如している。
本件発明7、16〜18は、本件発明1を直接又は間接的に引用しているので同様である。

3 証拠方法
証拠方法として以下の書証を提出している。
甲第1号証:科学報告書、平成29年6月12日、ブレット ディー.ボブジエン
甲第2号証:宣誓供述書、平成29年7月12日、リビー ペリー
甲第3号証:分析データシート、平成20年5月19日 請求人
甲第4号証:実験ノート、平成20年5月13日〜5月16日、デイブ ディー.サン
甲第5号証:請求人カタログ2006年〜2007年 抜粋、ケイマン ケミカル カンパニー インコーポレイテッド
甲第6号証:請求人カタログ2008年〜2009年 抜粋、ケイマン ケミカル カンパニー インコーポレイテッド
甲第7号証:フナコシ株式会社ホームページ中の会社案内のページ、印刷日2017年7月3日、<>
甲第8号証:フナコシ株式会社ホームページ中のカタログ請求のページ、印刷日2017年7月5日、<>
甲第9号証:フナコシ株式会社ホームページ中のカタログ請求のページからダウンロードされた請求人カタログ 抜粋、印刷日2017年7月13日
甲第10号証:フナコシ株式会社ホームページ中の請求人のビマトプロストを紹介するページ、印刷日2017年7月7日、<>
甲第11号証の1:購入発注書(2009年3月17日)、フナコシ株式会社
甲第11号証の2:航空運送状(2009年3月20日)、株式会社近鉄エクスプレス デトロイトターミナル および商業インボイス(2009年3月19日)、ケイマン ケミカル カンパニー インコーポレイテッド
甲第11号証の3:インボイス(2009年3月20日)、ケイマン ケミカル カンパニー インコーポレイテッド
甲第11号証の4:入金通知書原本(2009年4月15日)、JPモルガンチェース銀行および支払書(2009年4月8日)、フナコシ株式会社
甲第12号証の1:購入発注書(2009年4月7日)、フナコシ株式会社
甲第12号証の2:航空運送状(2009年4月10日)、株式会社近鉄エクスプレス デトロイトターミナル および商業インボイス(2009年4月9日)、ケイマン ケミカル カンパニー インコーポレイテッド
甲第12号証の3:インボイス(2009年4月10日)、ケイマン ケミカル カンパニー インコーポレイテッド
甲第12号証の4:入金通知書原本(2009年5月15日) 、JPモルガンチェース銀行および支払書(2009年5月8日)、フナコシ株式会社
甲第13号証の1:購入発注書(2009年5月12日)、フナコシ株式会社
甲第13号証の2:航空運送状(2009年5月15日)、株式会社近鉄エクスプレス デトロイトターミナル および商業インボイス(2009年5月14日)、ケイマン ケミカル カンパニー インコーポレイテッド
甲第13号証の3:インボイス(2009年5月15日)、ケイマン ケミカル カンパニー インコーポレイテッド
甲第13号証の4:入金通知書原本(2009年6月15日) 、JPモルガンチェース銀行および支払書(2009年6月5日)、フナコシ株式会社
甲第14号証:インボイス(2009年7月17日)、ケイマン ケミカル カンパニー インコーポレイテッドおよび航空運送状(2009年7月18日)ラム インターナショナル
甲第15号証:インボイス(2009年7月24日) 、ケイマン ケミカル カンパニー インコーポレイテッド および購入発注書(2009年7月24日)、AH ダイアグノスティックス
甲第16号証:インボイス(2009年10月16日)、ケイマン ケミカル カンパニー インコーポレイテッド
甲第17号証:米国薬局方 2005年 2513頁〜2514頁、米国薬局方委員会
甲第18号証:米国特許出願公開第2009/163596号明細書
甲第19号証:結晶測定結果対比図
甲第20号証:特表平8−501310号公報
甲第21号証:欧州特許庁からのCommunication(2015年4月30日)
甲第22号証:欧州特許庁からのCommunication(2017年1月4日)
甲第23号証:陳述書(甲第4号証の作成者について)(平成29年9月11日)デイブ ディー.サン
甲第24号証:陳述書(甲第5号証および甲第6号証の発行日について)(平成29年9月11日)ブライアン コンクル
甲第25号証:陳述書(甲第9号証の印刷日について)(平成29年9月15日)請求人代理人 森下夏樹
甲第26号証:陳述書(甲第19号証の作成日および作成者について)(平成29年9月15日)請求人代理人 森下夏樹
甲第27号証:宣誓供述書(2018年5月1日)、リビー ペリー
甲第28号証:ERPデータのプリントアウト、平成30年5月2日、ケイマン ケミカル カンパニー インコーポレイテッド
甲第29号証:宣誓供述書(2018年5月1日)、リビー ペリー
甲第30号証:宣誓供述書(2018年5月1日)、ダナ サンフォード
甲第31号証:宣誓供述書(2018年5月9日)、ブレット ディー.ボブジエン
甲第32号証:宣誓供述書(2018年5月3日)、ブライアン コンクル
甲第33号証:宣誓供述書(平成30年8月15日)、ブレット ディー.ボブジエン
甲第34号証:科学報告書、平成30年8月15日、ブレット ディー.ボブジエン
甲第35号証:科学報告書、平成30年8月15日、ブレット ディー.ボブジエン
甲第36号証:科学報告書、平成30年8月20日、ブレット ディー.ボブジエン
甲第37号証:実験ノート、平成30年8月3日〜8月16日、デイブ ディー.サン
甲第38号証:科学報告書、平成30年8月20日、ブレット ディー.ボブジエン
甲第39号証:実験ノート 平成30年8月6日〜8月10日、フセイン マフムード
甲第40号証:実験ノート 平成19年10月16日、ギリス チャンボニア
甲第41号証:宣誓供述書 平成30年8月30日、シャノン ステーシー
甲第42号証:宣誓供述書 平成30年8月30日、ギリス チャンボニア
甲第43号証:宣誓供述書 平成30年9月6日、シャノン ステーシー
甲第44号証の1:購入発注書(2009年7月1日)カブルSAS
甲第44号証の2:商業インボイス(2009年7月17日)ケイマン ケミカル カンパニー インコーポレイテッド
甲第44号証の3:荷送人輸出申告(2009年7月17日) ラム インターナショナル インク
甲第45号証:CV(履歴書) 平成30年9月1日、ケイマン ケミカル カンパニー インコーポレイテッド
甲第46号証:実験ノート(抜粋) (1)平成18年1月23日(2)平成19年5月17日(3)平成20年4月29日、デイブ ディー.サンおよびギリス チャンボニア
甲第47号証の1:宣誓書(2018年10月5日)、ブルーノ ジョバンニ カサグランデ
甲第47号証の2:荷送人輸出申告(平成21年7月17日)、ラム インターナショナル インク
甲第47号証の3:梱包リスト(2009年7月17日)、ケイマン ケミカル カンパニー インコーポレイテッド
甲第47号証の4:インボイス(2009年7月17日)、ケイマン ケミカル カンパニー インコーポレイテッド
甲第47号証の5:配達メモ(2009年7月20日)、Tacchiグループ
甲第47号証の6:商品発注書(2009年6月30日)、ミラノ大学
甲第47号証の7:送り状(2009年7月21日)、カブルSAS
甲第47号証の8:インボイス(2009年7月21日)カブルSAS
甲第48号証:宣誓供述書、平成30年11月1日、クリストファー ホワイトヘッド

なお、甲第40〜42号証は請求人の平成30年10月12日付け上申書において取下げられた。

第5 被請求人の主張の要旨及び証拠方法
1 被請求人の主張の要旨
被請求人は、「訂正を認める。本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」との審決を求めている(口頭審理調書の「被請求人欄」の「1」)。
そして、被請求人は、請求人が主張する上記無効理由1−1〜5−2は、審判事件答弁書、口頭審理陳述要領書、平成30年8月3日、同年10月12日、同年11月9日、平成31年1月21日付け上申書、及び令和2年7月30日付け上申書において、いずれも理由がない旨の主張をしていると認める。
また、上記無効理由6−1〜6−3については、後述の第7 10〜12で判断したとおりであるから、特許法第134条第2項ただし書の特別の事情があるときに該当すると認められたため、被請求人には、特に、再答弁の機会を与えなかった。

2 証拠方法
証拠方法として以下の書証を提出している。
乙第1号証:医薬品インタビューフォーム「ルミガン点眼液0.03%」ビマトプロスト点眼液(2015年9月改訂第7版)作成日:2015年9月
(http://www.senju.co.jp/medical/products/__icsFiles/afieldfile/2015/07/07/20150721LMG_b.pdf)
乙第2号証:「処方箋医薬品ルミガン点眼液0.03%」ビマトプロスト点眼液(2015年7月改訂第6版)作成日:平成27年7月
(http://www.senju.co.jp/medical/products/__icsFiles/afieldfile/2015/12/01/rm.pdf)
乙第3号証:「化学大辞典」、第41〜42、178、179、181、256、257、265、682、683、843、844、847、848、926〜928、959、976、1998、2000、2126、2143、2191、2320、2321頁、1989年10月20日 株式会社東京化学同人発行
乙第4号証:「第十七改正日本薬局方」通則3〜5頁、平成28年3月7日、厚生労働省
(http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/JP17.pdf)
乙第5号証:General Notices and Requirements Applying to Standards, Tests, Assays, and Other Specifications of the United States Pharmacopeia、10.20.40. Tight Container
(http://archive.wiredvision.co.jp/blog/yamaji/200903/200903121101.html)
乙第6号証:「第十五改正日本薬局方」通則3〜5頁、平成18年3月31日、厚生労働省

なお、乙第5号証は、被請求人の平成30年10月12日付け上申書において取下げられた。

第6 証拠の記載
はじめに、平成30年9月14日に行われた第1回口頭審理及び平成30年10月12日付け上申書において、被請求人は、甲第1号証ないし甲第46号証の成立は不知であると主張している。
また、請求人が平成30年10月12日に提出した甲第47号証の1〜8、同年11月9日に提出した甲第48号証について、被請求人は、同年11月9日付け上申書及び平成31年1月21日付け上申書において、その立証について争う旨主張している。
これまでの被請求人の主張、立証の全趣旨を鑑みても、甲第1号証ないし甲第39号証、甲第43号証ないし甲第48号証に記載された内容について争っていると認められ、これらの文書の成立までも争っているとまでは認められない(明示的に文書の成立を争うこと及びそのための証拠の提出はない)から、上記第4 2に示した無効理由に対する当審の判断をするにあたっては、甲第1号証ないし甲第39号証、甲第43号証ないし甲第48号証の文書の成立が認められたという前提で、第7以降の無効理由について判断することとする。

1 各甲号証には以下の事項が記載されている。
なお、以下、甲第1号証〜甲第39号証、甲第43号証〜甲第48号証をそれぞれ「甲1」〜「甲39」、「甲43」〜「甲48」という。

(1)甲1
甲1には、次の記載がある(原文は英文。訳文で示す。)
(甲1a)「トリクリニック ラブズ
科学報告書

ビマトプロストサンプルのXRPD及びDSC分析
ケイマン ケミカルカンパニー,インコーポレーテッド

スティーブン バレット氏のために作成
2017年6月12日
プロジェクト番号 2016345
報告書番号 R2016288.02

著者(署名)
ブレット ディー.ボブジエン, 研究主幹
2017年6月12日付」(第1頁)

(甲1b)「序論
ケイマンケミカル社は、ビマトプロスト有効活性成分(API)の4つのサンプルをX線粉末回折(XRPD)と示差走査熱量測定(DSC)分析のために提供した。提供されたサンプルの情報が表1に示される。

表1 ビマトプロストサンプル情報およびデータファイル名
ロット番号 ・・・ XRPD ・・・ DSC ・・・
ファイル名 ファイル名
・・・・・・・
0487311・・・RX1−12838・・・DSC2.1377
206767 ・・・RX1−12839・・・DSC2.1378

クライアントの要求により、オリジナルの報告書は表および図の中にロット206767の製造日付を含め、表中のピーク位置を小数点第1位に丸めるように修正された[1]。
結果
提供された4つのサンプルのXRPDパターンが図1から図4に提示される。4つのXRPDパターンのオーバーレイが図5に提示される。4つのロットのピークリストが作成され、表2、4、6、8に提示される。4つのサンプルの各々の最も強いピークリストが、表3、5、7、9に提示される。」(第2頁)

(甲1c)「

」(第9頁)

(甲1d)「

」(第10頁)

(甲1e)「図5から図8(審決注:DSCのグラフは図6から図9の誤記と認められる)に、提供されたサンプルのDSCサーモグラムが示される。40℃から100℃の範囲にわたり提供された4つのビマトプロストサンプルのDSC曲線のオーバーレイが図10に示される」(第11頁)

(甲1f)「リファレンス
1.トリクリニック ラブズが、ビマトプロストサンプルのXRPD及びDSC分析をケイマンケミカルに報告した報告書、R2016288.01、2016年9月2日」(第12頁)

(甲1g)「

」(第16頁)

(甲1h)「

」(第21頁)

(2)甲2
甲2には、次の記載がある(原文は英文。訳文で示す。)。
(甲2a)「リビー・ペリー(化学品質管理のマネージャー)の宣誓供述書

私、リビー・ぺリーは、ここに記載される事項に関する個人的な知識に基づいて本宣誓供述書を作成し、以下のことを述べます:

1.本宣誓供述書を、ロット番号206767が2008年5月14日に製造され、アメリカ合衆国ミシガン州アン アーバーにあるケイマンケミカルカンパニー社の施設に2016年8月の試験日まで保存されていたことを証明するために必要な証拠の裏付けとして提供します。
2.私は現在、アメリカ合衆国 48108 ミシガン、アン アーバー、イースト エルスワース ロード1180に所在するケイマン ケミカル カンパニーの従業員であり、私は1996年9月11日から継続してケイマンケミカル社に雇用されています。
3.ビマトプロスト結晶性固体であるケイマン商品番号16820、ロット番号206767(約100g)は、2008年5月14日に製造され、2008年5月16日に製造化学者であるデビッド サン氏により99.91gがネジで蓋をされた褐色瓶に入れられケイマン品質管理(QC)に提出されました。サンプルを融点および純度について試験できるように、サンプルは約3日間QCにありました。ロットはその後、長期の保存および利用のために2008年5月19日にケイマン在庫管理(IC)へと移されました。ロットは、ネジで蓋をされた褐色瓶に入れられ、一つまたは複数の冷凍庫に−20℃で継続的に保存されました。サンプルを販売するために、2008年5月24日から2014年2月20日の間(両日付を含める)、ロットは21回ICから回収されました。ロットが最後にICから回収されたのは(合計22回の回収となる)、XRPDおよびDSC試験のために当社のCRO(トリクリニック ラブズ)へと2016年8月29日−30日に輸送するためにサンプルが回収されたときでした。ロットが保存冷凍庫から回収される度に、褐色瓶は開けられサンプルを取り出される前に、室温へと温められました。サンプルが取り出された後は、瓶は蓋をされ冷凍庫へと戻されました。ICでの保存の期間中、ロットは冷凍庫間で移された可能性があります。しかしその場合、そのような移動は感知できるほどの温度上昇なしに即時に行われ、無視できるほどの温度上昇および−20℃への下降は数分間の間に起こったはずです。

私は、偽証罪による制裁の下で、上記の事項が真実かつ正確であることを私の知識、情報、および信念の限りにおいて証明します。
宣誓供述人の供述は以上です。

(署名) 日付:2017年7月12日
リビー ペリー

2017年7月12日、私の面前で署名および宣誓された。
スティーブン ディーバレット
公証人
リビングストン郡
アメリカ合衆国ミシガン州
公証の有効期限:2021年12月6日
ウォッシュトナウ郡にて行使」(第1〜2頁)

(3)甲3
甲3には、次の記載がある(原文は英文。訳文で示す。)。
(甲3a)「

」(第1頁)

(4)甲4
甲4には、次の記載がある(原文は英文。訳文で示す。)。
(甲4a)「2008年5月13日

結晶化
Sm:200g(審決注:Smは開始物質を示す。)
Smをアセトン(8体積):1600ml中に溶解した。
MTBE(32体積):7400ml(審決注:MTBEの32体積は、200×32=6400mlの誤記と認められる。)を添加ロートにより室温で一晩で加えた。

2008年5月14日
その反応物を5℃に冷やし、3L用の粗いフリットロートによりろ過し、そしてその固体を300mlのMTBEで2回すすいだ。その固体をオーブンに入れた。

2008年5月15日

(審決注:coはカラム、MLは母液、EAは酢酸エチルを示す。)
HPLCのサンプルを投入した(787−8)
787−7からの断片13,14を結晶化からのMLと混合し、真空中で濃縮した。:100g

2008年5月16日
ビマト(787−8)の純粋結晶を褐色瓶の中に詰め、そしてQCに提出した(787−9)。99.91g
」(第1頁の「5/13/08」の項〜第2頁の「5/16/08」の項の2行目)

(5)甲5
甲5には、次の記載がある(原文は英文。訳文で示す。)。
(甲5a)「ビマトプロスト(登録商標) 16820
[155206−00−1]17−フェニルトリノルプロスタグランジンF2αエチルアミド
MF:C25H37NO4 FW:415.6 純度:97%以上*
結晶性固体 安定性:−20℃で1年以上
要旨:17−フェニルトリノルPGF2αエチルアミドはアラガン社の商品名ビマトプロスト(登録商標)として販売され、眼圧降下薬としての使用が承認されているFシリーズのPG類似体である。849ビマトプロストがラタノプロストのようなPGエステルプロドラッグと類似したプロドラッグであるかどうかには多少の論争がある。未代謝のビマトプロストが弱いFP受容体アゴニストであることを示すいくつかの証拠がある。261いくつかの研究所での研究により、ビマトプロストは対応する遊離酸を得るために眼組織でアミダーゼ酵素活性により変換され、その変換速度は24時間につき約40μg/g角膜組織であることが示されている。851.1468その遊離酸である17−フェニルトリノルPGF2αは、有力なFP受容体アゴニストである。445.644ヒトおよび動物モデルの緑内障において、FP受容体アゴニスト活性は眼内圧下降作用と極めて密接に対応している。

」(133頁、左欄、「BimatoprostTM」の項)

(6)甲6
甲6には、次の記載がある(原文は英文。訳文で示す。)
(甲6a)「ビマトプロスト(登録商標) 16820
[155206−00−1]17−フェニルトリノルPGF2αエチルアミド
MF:C25H37NO4 純度:97%以上*結晶性固体として供給
要旨:眼圧降下薬としての使用が承認されているFシリーズのPG類似体である。その遊離酸である;17−フェニルトリノルPGF2αは、有力なFP受容体アゴニストであり;まつ毛の多毛を引き起こす。

」(56頁、左欄、「BimatoprostTM」の項)

(7)甲7
甲7には、次の記載がある。
(甲7a)「会社案内
私たちフナコシのライフサイエンスの歴史は,今から50年前に遡ります。
事業開始,それは米国で,現社長である船越龍彌が,化学物質を簡単に分析できる薄層クロマトグラフィー用結晶セルロース「アビセルSF」に注目したことが大きな契機でした。時をほぼ同じくしてフナコシが販売したのが、アビセルSFを使用した食用色素検出キットです。当時,食品添加物が社会問題になっていたため,その検査が簡単に行える製品は各方面からの脚光を浴び,高い評価を受けました。
この二つの出来事が,私たちフナコシのライフサイエンスの起源で,日本におけるパイオニアとして記した,確かな第一歩でした。以来,医薬品の専門商社として長年培ってきたノウハウを駆使し,最先端のバイオ技術や海外の情報などを日本に紹介する重要な役割を担い,医薬品工業をはじめ,発酵・食品工業,農・畜産・水産業などの基礎研究・応用研究に欠かせない試薬や機器を手がけてきました。
これらの経験は、自らが一段と飛翔する一助になり,社内に研究室を設立し,大学や企業の研究室と提携しての共同研究と新製品の開発にも積極的に取り組んでいます。また,紫外線を応用した技術にも早くから注目。殺菌水製造装置や各種検査機器,ドライ洗浄装置などを,エレクトロニクス,医薬・化粧品,食品などの分野へと送り出しています。
これらすべてのジャンルを含めて,取扱品目は全部で350万種類以上となり,取り扱うセクションもフナコシ薬品株式会社の化学薬品部門からサイエンス事業部へ,更に1990年7月からはフナコシ株式会社へと受け継がれています。」(第1頁)

(8)甲11の1
甲11の1には、次の記載がある(原文は英文。訳文で示す。)
(甲11の1a)「

」(第1頁)

(9)甲11の2
甲11の2には、次の記載がある(原文は英文。訳文で示す。)。
(甲11の2a)「



」(第1〜2頁)

(10)甲11の3
甲11の3には、次の記載がある(原文は英文。訳文で示す。)。
(甲11の3a)「


」(第2頁)

(11)甲11の4
甲11の4には、次の記載がある(原文は英文。訳文で示す。)。
(甲11の4a)「


」(第1、3頁)

(12)甲12の1
甲12の1には、次の記載がある(原文は英文。訳文で示す。)。
(甲12の1a)「


」(第1〜2頁)

(13)甲12の2
甲12の2には、次の記載がある(原文は英文。訳文で示す。)。
(甲12の2a)「




」(第1〜3頁)

(14)甲12の3
甲12の3には、次の記載がある(原文は英文。訳文で示す。)。
(甲12の3a)「


」(第2〜3頁)

(15)甲12の4
甲12の4には、次の記載がある(原文は英文。訳文で示す。)。
(甲12の4a)「


」(第1、3頁)

(16)甲13の1
甲13の1には、次の記載がある(原文は英文。訳文で示す。)。
(甲13の1a)「

」(第1頁)

(17)甲13の2
甲13の2には、次の記載がある(原文は英文。訳文で示す。)。
(甲13の2a)「



」(第1〜2頁)

(18)甲13の3
甲13の3には、次の記載がある(原文は英文。訳文で示す。)。
(甲13の3a)「



」(第1、3頁)

(19)甲13の4
甲13の4には、次の記載がある(原文は英文。訳文で示す。)。
(甲13の4a)「



」(第1〜3頁)

(20)甲14
甲14には、次の記載がある(原文は英文。訳文で示す。)。
(甲14a)「


」(第1頁)

(甲14b)「


」(第3頁)

(21)甲15
甲15には、次の記載がある(原文は英文。訳文で示す。)。
(甲15a)「


」(第1頁)

(甲15b)「

」(第2頁)

(22)甲16
甲16には、次の記載がある(原文は英文。訳文で示す。)。
(甲16a)「


」(第1頁)

(23)甲17
甲17には、次の記載がある(原文は英文。訳文で示す。)。
(甲17a)「結晶性物質の同定は、既知2物質のために取得されたX線粉末回折パターンを、未知物質のそれらと比較することにより達成され得る。この比較には、強度比(特定のd間隔のピーク強度と、回折パターンの中の最大値の強度との比率)と間隔dが使用される。対照物質(例えば、USPリファレンススタンダード)が入手可能である場合、未知サンプルに対して使用されたものと同じ機器上に同じ条件下で、基本の参照パターンを生成することが好ましい。ほとんどの有機結晶に関しては、回折パターンを、可能な限りゼロ度の近くから40度までの範囲の2つの値を含むように記録することが適切である。サンプルと対照物との一致は、回折角についての回折計の較正された精度内でなければならない(2つの値は典型的には±0.10度まで再現可能であるべきである)。一方で、サンプルと対照物との間の相対強度は大幅に異なり得る。その他の種類のサンプル(例えば、無機塩類)に関しては、走査する2つの領域を40度をはるかに超えて延長する必要性があり得る。通常は、粉末回折ファイル(Powder Diffraction File)2で同定される10個の最も強い反射を走査すれば十分である。」(2514頁右欄32〜50行)

(24)甲18
甲18には、次の記載がある(原文は英文。訳文で示す。)。
(甲18a)「1.ビマトプロストの結晶形態I
・・・・・・・・
6.およそ5.4±0.2、10.9±0.2、11.3±0.2、13.7±0.2、16.6±0.2、17.5±0.2、19.9±0.2、20.7±0.2、および22.7±0.2°2θに呈される特性ピークを有するX線粉末回折パターンを示す、請求項1に記載の結晶形態。
・・・・・・・・
17.ビマトプロストの結晶形態Iを生産するためのプロセスであって、該プロセスは以下のステップ:
a)粗ビマトプロストを、沸点あるいは沸点近くで有機溶媒あるいは有機溶媒と貧溶媒の混合物に溶解するステップ;
b)その熱溶液を冷却するステップ;
c)上澄液から沈殿物を分離するステップ;
d)得られた固体物を真空下低温で乾燥させ、その後30℃から40℃で乾燥させることで、ビマトプロスト結晶形態Iを与えるステップ、
を含む、プロセス。」(特許請求の範囲)

(甲18b)「技術分野
[0002] 本発明は、結晶性ビマトプロストの新規な結晶多形I、その調製方法、および調製における新しい結晶性中間体に関する。この結晶性ビマトプロストの形態Iは、粗製ビマトプロストの精製において、また、ビマトプロストの保存において活性医薬品中間体として使用される。医薬品の製造におけるビマトプロストの物理的形態の使用もまた開示される。

背景技術
[0003] 上昇した眼内圧(IOP)は、最終的に失明をもたらし得る進行性の視神経病である緑内障の病因と関連する主要な危険因子である。プロスタマイド類似物は、上昇した眼内圧と関連する緑内障およびその他の疾患の臨床管理における代表的な有力治療薬である。IOPを低減するために使用される合成プロスタマイド類似物は、(9S,11R,15S)−9,11,15−トリヒドロキシ−17−フェニル−18,19,20−トリノル−5Z,13E−プロスタジエン酸エチルアミド

を含み、これは国際一般名称ビマトプロストとして知られており、開放隅角緑内障および高眼圧症の治療のために現在、商品名ルミガン(登録商標)−0.03%ビマトプロスト点眼液としてアラガン社により販売されている(Drugs Aging,2002,19,231)。
[0004] 米国特許出願公開第2005/209337号明細書はビマトプロストの結晶物理的形態を開示しており、これらを発明者らは形態Aと呼ぶ。この形態は、粉末X線回折、IR DRIFTS(KBr)分光法、DSCおよびTGAにより特徴づけられる。本発明は、ビマトプロストの熱力学的に最も安定した多形である、ビマトプロストの新しい多形形態およびその調製方法を含む。」

(甲18c)「[0011] 図1は、本発明の実施形態に従うビマトプロスト結晶形態Iの、特徴的なX線粉末回折パターンを示す。垂直軸:強度(カウント毎秒);水平軸;2θ(°)。
[0012] 図2は、本発明の実施形態に従うビマトプロスト結晶形態Iの、示差走査熱量測定(DSC)曲線を示す。」

(甲18d)「[0026] 本発明は、任意の物理的形態のビマトプロストを有機溶媒あるいは有機溶媒と貧溶媒の混合物から結晶化することにより、ビマトプロストの他の物理的形態を実質的に含まない結晶形態Iを生産する方法を提供する。好ましくは、その結晶化は以下のステップを含む:
[0027]a)粗ビマトプロストを、沸点あるいは沸点近くで有機溶媒あるいは有機溶媒と貧溶媒の混合物に溶解する;
[0028]b)その熱溶液を冷却する;
[0029]c)上澄液から沈殿物を分離する;
[0030]d)得られた固体を真空下低温で乾燥させ、その後30℃から40℃で乾燥させ、それにより他の物理的形態を実質的に含まないビマトプロスト結晶形態Iを得る。
[0031] 前記有機溶媒は、アルコール類、エステル類、ケトン類、塩素系有機溶媒、およびこれらの混合物からなる群から選択される。前記アルコール類は好ましくは、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、およびこれらの混合物からなる群から選択される。前記エステル類は好ましくは、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、およびこれらの混合物からなる群から選択される。前記ケトン類は好ましくは、アセトン、メチルエチルケトン、イソプロピルアセトン、およびこれらの混合物からなる群から選択される。前記塩素系有機溶媒は好ましくは、ジクロロメタン、クロロホルム、クロロベンゼン、およびこれらの混合物からなる群から選択される。
[0032] 前記貧溶媒は炭化水素類、エーテル類、およびこれらの混合物からなる群から選択される。該貧溶媒は好ましくは飽和炭化水素である。該飽和炭化水素は好ましくは、ペンタン、ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン、およびこれらの混合物からなる群から選択される。該エーテル類は好ましくは、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、MTBE、およびこれらの混合物からなる群から選択される。
[0033] 純粋結晶性有機化合物は、概して限定的な融点範囲を有する。融点は、サンプルが完全に液相である点と定義される。ビマトプロスト結晶形態Iは、62℃から64℃の間の、細管法で決定された特徴的な融点範囲を有する。
[0034] 示差走査熱量測定(DSC)、粉末X線回折(XRPD)および赤外(IR)分光法が新形態を特徴づけるために使用された。
[0035] 形態IのDSC曲線(図2)は、およそ60℃−66℃で融解吸熱を示す。
[0036] ビマトプロスト結晶形態Iはまた、図1に描写されるように、特色のあるX線粉末回折パターンを示す。このパターンは、およそ5.4±0.2、10.9±0.2、11.3±0.2、13.7±0.2、16.6±0.2、17.5±0.2、19.9±0.2、20.7±0.2、および22.7±0.2°2θに呈される特性ピークを有する。
[0037] 結晶形態Iは、図3で描写されるように、臭化カリウムにおける赤外拡散反射スペクトルによって特徴づけられた。結晶形態Iは、図4および図5に描写されるように、臭化カリウムおよびヌジョールにおいて実施された赤外吸収スペクトルによってさらに特徴づけられた。
[0038] ビマトプロスト結晶形態Iは、−70°から+30℃までの間の温度範囲における最も安定した改変型のビマトプロストである。ビマトプロスト結晶形態Iが適当な容器で2℃から8℃の間、および25℃で保存された場合、安定性データは少なくとも6カ月のリテスト期間を裏付ける。
[0039] ビマトプロスト結晶形態Iの重要性は、主として(しかしこれに限られることはない)その熱力学安定性にある。その高まった安定性に加えて、形態Iは、幅広い温度範囲において異なる溶媒を使用する結晶化による調製の可能性により、形態Aに対して利点を示す。例えば、結晶形態Iは、結晶形態Aの再結晶化、粉砕、または再スラリー化により容易に調製され得る。」

(甲18e)「[0072] 本発明はまた、医薬品の製造におけるビマトプロスト結晶形態Iの使用を提供する。本医薬品は2つのステップにより調製される。ビマトプロストを含む組成物の調製;および製薬学的用途(例えば、局所的な眼への使用)に適した単位投与形態の製造である。好ましくは、本組成物は有効成分である治療上有効量のビマトプロスト結晶形態Iを、慣用的な薬学的に許容される賦形剤(例えば、眼に受容可能な賦形剤)と組み合わせることにより調製される。治療上有効量は典型的には液剤で約0.0001〜約5%(w/v)の間、好ましくは約0.001〜約1.0%(w/v)の間である。」

(甲18f)「[0085] 以下の実施例は本発明の方法の例示であり、限定的なものではない。化学合成において通常遭遇しそして当業者に明らかである様々な条件およびパラメーターの他の適切な変更および改変が、本発明の精神および範囲内である。

実施例
実験の詳細
[0086] すべての試薬および溶媒は、他に特定されない限りアルドリッチケミカルカンパニーから購入され、さらなる精製なしで使用された。すべての反応は、アルゴンまたは窒素雰囲気下で提供された。
[0087] LC純度は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)でサンプルを分離し、各ピークの面積率を計算することによって決定された。
・・・・・・・・
[0090] X線粉末回折パターンは、PANALYTICAL(Philips)X’Pert Pro MPD X線粉末回折システム(CuKα放射線、PW3050/60ゴニオメーター、PW3015/20X’Celerator検出器)を使用して当技術分野で公知の方法により得られた。Bragg−Brentanoスキームがビーム集束に使用された。
[0091] 融点は、Buchi B−545キャピラリー融点測定装置を有するオープンキャピラリーチューブ、またはFP−81 HT Melting Point CellおよびFP−90中央処理装置を有するMettler−Toledo FP−900 Thermosystem、またはElectrothermal IA 9300デジタル融点測定装置において決定され、修正されなかった。融点は概してサンプルの純度レベルに依存する。典型的には、ビマトプロスト結晶形態Iは62℃〜64℃の間の融点を有することが発見された。」

(甲18g)「[0138]・・・・・・・
実施例21
ビマトプロスト形態I
[0139]

[0140] エステル2[9.0g、22.4mmol、3.5%(HPLCによる)の5−トランス異性体を含む]、70%EtNH2水溶液(40mL,503mmol)およびMeOH(45mL)の混合物を密閉フラスコ中24℃〜27℃で72時間撹拌し、そして真空下濃縮した。残留物はEtOAc(100mL)と水(60mL)との間で分けられた。これらの相を分離し、水性のものをEtOAc(30mL)で抽出し、そして合わせた有機物を10%NaHCO3(2×30mL)およびブラインで洗浄し、Na2SO4で乾燥し、ろ過してそして真空下で濃縮して、8.0g(86%)の粗製ビマトプロストを与え、これは、3.5%(HPLCによる)の5−トランス異性体1bを含んでいた。粗製ビマトプロストは、以下の手順でEtOAc(27mL)とMTBE(54mL)の混合物から結晶化された:粗製ビマトプロストを沸点あるいは沸点近くで溶解し、この熱溶液を室温まで冷却した。追加のMTBE(40mL)を足し、その混合物を0℃から5℃で2時間撹拌した。沈殿物をろ過し、冷たいMTBE(2×20mL)とともにフィルターに流し、真空下で0〜5℃で1時間、室温で0.5時間、そして30〜40℃で2時間乾燥させた。これにより、HPLCで98%の純度、1%未満の5−トランス異性体1bを有する白色固体としてビマトプロスト結晶形態Iを7.5g(80%)得た。ビマトプロスト(7.5g)は以下の手順でEtOAc(75mL)から結晶化された。ビマトプロストを沸点あるいは沸点近くで溶解し、熱溶液を室温へと冷却し、その混合物を室温で1時間そして0〜5℃で2時間保存した。沈殿物をろ過し、真空下で0〜5℃で1時間、室温で0.5時間、そして30〜40℃で2時間乾燥させた。これにより、HPLCで99%純度、0.6%の5−トランス異性体1b、NMT0.1%の15R−異性体1a、およびNMT0.1%の15−ケト−ビマトプロスト1c;mp64−66℃。;[α]D20+36°(c1、MeOH)を有する白色粉末として、ビマトプロスト結晶形態Iを6.7g(90%回収)得た。
[0141] ビマトプロスト結晶形態IのX線粉末回折パターンは、およそ5.4、6.2、10.9、11.3、13.7、16.6、17.5、18.3、18.6、18.9、19.4、19.7、19.9、20.7、20.9、21.6、22.7および28.2°2θに呈される特性ピークを有する。
・・・・・・・・
[0145] ビマトプロストの結晶形態Iは、上記するように、また図1〜5に図示されるように、粉末X線回折法、DSC、IR DRIFTS(KBr)、IR(KBr)およびIR(ヌジョール)分光法により特徴づけられた。」

(甲18h)「[0153]
・・・・・・・・
実施例30
ビマトプロストの結晶形態I
[0154] 油状ビマトプロスト(米国特許第5,352,708号明細書に従って調製された;1.0g)とエーテル(20mL)の混合物を沸点あるいは沸点近くで0.5時間撹拌して、徐々に0〜5℃へと冷却した。沈殿物をろ過し、真空下で0〜5℃で1時間、室温で0.5時間、そして30〜40℃で2時間乾燥させた。これにより、白色固体としてのビマトプロスト結晶形態Iを0.94g(94%回収)得た。」

(甲18i)「

」(図1)

(甲18j)「

」(図2)

(25)甲19
甲19には、次の記載がある。
(甲19a)「

」(第1頁)

(26)甲20
甲20には、次の記載がある。
(甲20a)「【特許請求の範囲】
1.高眼圧を処置する方法であって、式I:

[式中、点線を付した結合は、一重結合、またはシスもしくはトランス配置であり得る二重結合を表し;Aは炭素原子数2〜6のアルキレンまたはアルケニレン基であって、1個またはそれ以上のヒドロキシ、オキソ、アルキルオキシまたはアルキルカルボキシ基で置換されていてもよく;Bは炭素原子数3〜7のシクロアルキル基であるか、またはヒドロカルビルアリールおよびヘテロアリール基(ヘテロ原子は窒素、酸素およびイオウ原子から成る群から選択する)から成る群から選択するアリール基であり;Xはハロ、ヒドリル、ヒドロキシル、ニトロ、アミノ、アミド、アジド、オキシム、シアノ、チオール、アルコキシおよびチオエーテル基から成る群から選択する基であり;R1およびR2のうちの一方は=O、−OHもしくは−O(CO)R6で、他方は−OHもしくは−O(CO)R6であるか、またはR1は=OでR2はHであり;R6は炭素原子数1〜約20の飽和もしくは不飽和非環式炭化水素基、または−(CH2)mR7であり;mは0〜10であり、R7は炭素原子数3〜7のシクロアルキル基、またはヒドロカルビルアリールもしくはヘテロアリール(前記と同様)である。]
で示される化合物または薬学的に許容し得るその塩の高眼圧処置有効量を眼に適用することを含んで成る方法。」

(甲20b)「 他の態様においては、本発明は、心血管、肺−呼吸器、胃腸、生殖器およびアレルギー疾患、ショック並びに高眼圧を処置する方法であって、式IV:

[式中、記号および置換基は前記と同意義である。]
で示される化合物の処置有効量を薬剤担体と共に含有する薬剤組成物を患者に投与することを含んで成る方法に関する。」(第28頁第13行〜第29頁第1行)

(27)甲21
甲21には、次の記載がある(原文は英文。訳文で示す。)。
(甲21a)「1 第三者による情報提供
欧州特許条約第115条に準じて2014年12月20に受理された第三者による情報提供;特に文献D1(US 2009/0163596 A)は以下に示す理由にあるように、特許請求された主題の特許性に疑問を投げ掛ける。よって、文献D1は手続きにおいて考慮され(ガイドラインE−V,3)、この番号付けは残りの手続きの間変わることはない。この第三者による情報提供への返答として、出願人により作成され2015年3月10日に受理されたコメントは、以下のコミュニケーションにおいて考慮に入れられる。

新規性
文献D1(US 2009/0163596 A1)は、結晶性ビマトプロスト形態IのX線粉末回折パターン(XRPD)を開示する(図1および2,段落[0011]および[0012]を参照)。D1はまた、ビマトプロスト形態Iの示差走査熱量測定(DSC)曲線を開示する。
このD1の図1における形態Iと本願の図2における形態Aの厳密な比較は、形態Iと形態AのXRPDパターンが、XRPD技術の許容誤差内で同一であることを示す。0.2°の許容誤差を考慮に入れた場合、すべてのピークがスペクトル内の同一の場所に位置する。2つのスペクトルのピーク間の相対強度は、実質的に同じである。ピーク出現におけるわずかな違いは、2つのスペクトルの異なる分解能の結果であると考えられ得る。本願の図2に示される形態Aのい回折パターンの角度3.2°2θにおける特徴的なピークは、D1の図1には開示されていない。この不足したピークの理由は、D1の図1における2θの目盛りが5°2θからしか始まっていないことである。D1の図1における形態IのXRPDスペクトルはそれゆえ0°から5°2θの間にあるピークについての情報を何ら含まない。それゆえ、2つのスペクトルの0°から5°2θの間のピークを比較することは不可能であり、回折角3.2+/−0.2°2θにおける特徴的なピークの不在に基づく新規性は認められない。

請求項2−6におけるその他の技術的特徴、すなわち、追加の特徴的なピークも、D1の図1に開示されている。

請求項7−9に関して、審査部はD1の図2におけるDSCと本願の図3におけるDSCが非常に類似しているという意見を有している。DSC技術はサンプル内の不純物に対して非常に敏感であり、それゆえ当業者はこれらのDSCグラフが許容誤差内において同じであるということを理解する。D1の図3および本願の図4におけるIRスペクトルは同じ化合物においてとられている。IRスペクトルが同じであるように見えることに驚きはない。IRの技術が通常同じ化合物の2つの結晶形態を区別することに適しておらず、特にこれらのIRスペクトルが異なる機械でとられる場合には適していないことは、当業者に知られている。D1の図3および本願の図4のIRスペクトルの間のわずかな違いはそれゆえ、同じ化合物の異なる結晶形態の証拠とはならない。

請求項1−9の発明と、請求項18−20における薬を調製するためのその使用は、D1により新規性を有さない(欧州特許条約第52条(1)および第54条)。

請求項10および12−15の発明もまた、D1に開示されている(段落[0027]−[0032]および請求項18−23参照)。

進歩性
請求項10−17の調製方法は、ビマトプロストが油として、またそれが溶解される溶媒とともに混合される点においてD1と異なる。従属請求項11−17においては結晶化法に関連するその他の特徴(例えば、混合温度、混合比)が定義され、それぞれはD1に開示されていない。

しかしながら、かかる特徴による効果は示されていない。

本願の解決すべき課題は、公知のビマトプロスト形態Aの調製のための代替的な方法を提供することである。

D1を基点に技術常識を勘案することで、当業者は自身の創作能力を必要とすることなく、請求項10−17の結晶化方法を実行できる。請求項10−17の解決法は、当業者が慣例の実験を行うことにより、どのように使用するのかを知ることにもなるものである。そのゆえ、請求項10−17を差別化する特徴に関連する効果がないので、これらの請求項の解決法は容易になし得、請求項10−17に進歩性があると考えることはできない(欧州特許条約第52条(1)および第56条)。」(第3頁−第5頁)

(28)甲22
甲22には、次の記載がある(原文は英文。訳文で示す。)。
(甲22a)「 審査部は、2015年4月30日付け通知に説明した理由により、請求項1−9および18−20に新規性が認められず、そして請求項10−17に進歩性が認められないという見解を維持する。

出願人は、0°から5°2θの間にあるスペクトルデータの不在は吸収ピークが存在しなかったことを示唆し、これは当業者であれば知っていることであると返答した。審査部は、これに同意せず、0°から5°2θの間のデータが欠けていることには他の理由があるのではないかという意見を有する。いずれにせよ、2つのスペクトルの他のすべてのピークは同じ位置にある。よって、審査部は、他のすべてのピークが一致する中で、欠けているデータに基づいて新規性を認めることはできない。出願人は、D1のビマトプロスト形態Iのサンプルを所有しているので、(例2で調製されている形態Bを参照)、0°から5°の間の2θデータを含むD1の最も近い先行技術形態のXRPDを提出することが可能であるかもしれない。

4日後の安定性に関して、審査部は、サンプル内のさまざまな不純物が低減した安定性の原因となることを知っている。同じ議論が、D1の形態Iのビマトプロストと本願のビマトプロストAとの間の融点のわずかな違いにも当てはまる。少量の不純物が融点に大きな影響を与え得る。」(第3頁)

(29)甲23
甲23には、次の記載がある(原文は英文。訳文で示す。)。
(甲23a)「特許庁審判長殿
陳述書

私、デイブ ディー.サン、48108 ミシガン,アン アーバー,イースト エルズワース ロード 1180に事務所住所を有するケイマン ケミカル カンパニー、インコーポレーテッドの化学製造部門アソシエイト科学者IIは、ここに宣誓して以下のことを述べます:

1.私は、ケイマンケミカルカンパニーラボノート第787号と題するラボノート(この抜粋が無効審判第2017−800096号の甲第4号証として特許庁に提出されました)の著者/所有者/管理者です。
2.ケイマンケミカルカンパニーラボノート第787号と題するラボノートは、仕事を記載しておりそしてその開示はケイマンケミカルの私によって行われました。この仕事は、2008年5月13日〜2008年5月16日の間に行われました。
3.このラボノートは、2008年5月13日〜2008年5月16日の間に、ビマトプロストの結晶が製造されそして褐色瓶の中に詰められそしてQC(787−9)に提出されたことを記載しています。
4.「(787−9)」は暫定的な識別番号であり、これはまた、実験室での分析のために「DS−787−9」とも記載されます。
5.私は、当該ラボノートが、会社のラボノート条件および規則を遵守しかつそれに従って規則的に行われた業務の過程において保管されたことを確認します。
私は、当該ラボノートを、それを私が所有していた2008年4月29日〜2014年8月4日の間、私の実験室および事務所に保持しそして保管しました。2014年8月4日から現在まで、ケイマンケミカルカンパニーの技術情報部門において、ケイマンラボノートポリシーに従ってアクセスを制限されて保管されております。

私は、ここに行う私の知識の供述のすべてが真実であることおよび供述のすべてが、正しいと考えられる情報および信念において作成されたことをここに宣誓します。
以上

(署名)
氏名:デイブ ティー.サン
役職:化学製造部門アソシエイト科学者II
日付:2017年9月11日
」(第1〜2頁)

(30)甲24
甲24には、次の記載がある(原文は英文。訳文で示す。)。
(甲24a)「特許庁審判長殿
陳述書

私、ブライアン コンクル、48108 ミシガン,アン アーバー,イースト エルズワース ロード 1180に事務所住所を有するケイマン ケミカル カンパニー,インコーポレーテッド(以下「ケイマン」と記載します)の販売およびマーケティングの副社長は、ここに宣誓して以下のことを述べます:
1.私は、ケイマンの公的業務文献、パンフレットおよび文書、カタログについて責任を有します(あらゆる他の関連する詳細は、刊行物およびそのような公的に利用可能なケイマン文献の保管に関連する責任を概説します。 2.ケイマンは、ケイマンケミカル一般カタログ、2006−2007版と題する文献(この抜粋が無効審判第2017−800096号の甲第5号証として特許庁に提出されました)(以下、「ケイマンカタログ2006−2007」と記載します)の作成者でした。この文献は、2005年6月17日に発行され、そしてケイマンの接触者、顧客および公認された代理店に、個人的な手渡し、郵送または貨物運送代理店により公然頒布されました。ケイマンカタログ2006−2007は、2006年〜2007年に販売されたケイマンの製品を記載しています。
3.ケイマンは、ケイマンケミカル一般カタログ、2008−2009版と題する文献(この抜粋が無効審判第2017−800096号の甲第6号証として特許庁に提出されました)(以下、「ケイマンカタログ2008−2009」と記載します)の作成者でした。この文献は、2008年3月13日に発行され、そしてケイマンの接触者、顧客および公認された代理店に、個人的な手渡し、郵送または貨物運送代理店により公然頒布されました。ケイマンカタログ2008−2009は、2008年〜2009年に販売されたケイマンの製品を記載しています。
4.ケイマンカタログ2006−2007および2008−2009は、ケイマンがビマトプロストの結晶をカタログ番号ビマトプロストエチルアミド(アイテム番号16820)で販売しそしてビマトプロスト遊離酸(アイテム番号16810)を販売したことを記載しています。

私は、ここに行う私の知識の供述のすべてが真実であることおよび供述のすべてが、正しいと考えられる情報および信念において作成されたことをここに宣誓します。
以上

(署名)
氏名:ブライアン コンクル
役職:販売およびマーケティング副社長
日付:2017年9月11日
」(第1〜2頁)

(31)甲27
甲27には、次の記載がある(原文は英文。訳文で示す。)。
(甲27a)「リビー ペリー(化学品質管理のマネージャー)の宣誓供述書

私、リビー ペリーは、ここに記載される事項に関する個人的な知識に基づいて本宣誓供述書を作成し、以下のことを述べます:

1.本宣誓供述書を、ロット番号206767が2008年5月14日に製造され、アメリカ合衆国ミシガン州アン アーバーにあるケイマンケミカルカンパニー社(以下、「ケイマンケミカル社」)の施設に2016年8月の試験日まで保存されていたことを証明するために必要な証拠の裏付けとして提供します。
2.私は、現在、アメリカ合衆国 48108 ミシガン、アン アーバー、イースト エルスワース ロード1180に所在するケイマン ケミカル カンパニーの従業員であり、私は、1996年9月11日から継続してケイマンケミカル社に雇用されています。
3.ビマトプロスト結晶性固体であるケイマン商品番号16820、ロット番号206767(約100g)は、2008年5月14日に製造され、2008年5月16日に製造化学者であるデイビット サン氏により99.91gがネジで蓋をされた褐色瓶に入れられケイマン品質管理(QC)に提出されました。サンプルを融点および純度について試験できるように、サンプルは約3日間QCにありました。ロットはその後、長期の保存及び利用のために2008年5月19日にケイマン在庫管理(IC)へと移されました。
4.ケイマンケミカル社で定法として、合成された結晶性ビマトプロスト製品のバッチが化学者によって製造され、長期の保存および利用のためにICへと移されるとき、合成された製品のサンプルは、ネジで蓋をされた褐色瓶に入れられ、QC/在庫管理エリアに所在する−20℃冷凍庫で保存され、製造が開始されると、当社ERPによって作成されたバッチ番号が割り当てられます。バッチ番号に関するあらゆる取引が当社ERPによって記録されます。
5.常用試験の目的のために、試験に必要とされる量が、バルク容器から抜き取られます。
6.品質管理に続いて、結晶性ビマトプロスト製品の各ロット番号は、バッチ分割物へと小分けされます。バッチ番号の後の「−X]は、バッチ分割事象を指しています。この「−X]により、バルク容器から移された日付、構成および量の内部追跡が可能となります。これらの分割物はその後、特定の注文をかなえるために使用されます。結晶性ビマトプロスト製品の販売を記録する各インボイスは、ERPを用いて、特定のバッチ番号を参照することになります。

私は、偽証罪による制裁の下で、上記の事項が真実かつ正確であることを私の知識、情報、および信念の限りにおいて証明します。
宣誓供述人の供述は以上です。

(署名) 日付:2018年5月1日
リビー ペリー
」(第1頁〜第2頁5行)

(32)甲28
甲28には、次の記載がある(原文は英文。訳文で示す。)。
(甲28a)「



」(第1〜3頁)

(33)甲29
甲29には、次の記載がある(原文は英文。訳文で示す。)。
(甲29a)「リビー ペリー(化学品質管理のマネージャー)の宣誓供述書

私、リビー ペリーは、ここに記載される事項に関する個人的な知識に基づいて本宣誓供述書を作成し、以下のことを述べます:

1.本宣誓供述書を、ロット番号206767が2008年5月14日に製造され、アメリカ合衆国ミシガン州アン アーバーにあるケイマンケミカルカンパニー社(以下、「ケイマンケミカル社」)の施設に2016年8月の試験日まで保存されていたことを証明するために必要な証拠の裏付けとして提供します。
2.私は、現在、アメリカ合衆国 48108 ミシガン、アン アーバー、イースト エルスワース ロード1180に所在するケイマン ケミカル カンパニーの従業員であり、私は、1996年9月11日から継続してケイマンケミカル社に雇用されています。
3.ビマトプロスト結晶性固体であるケイマン商品番号16820、ロット番号206767(約100g)は、2008年5月14日に製造され、2008年5月16日に製造化学者であるデイビット サン氏により99.91gがネジで蓋をされた褐色瓶に入れられケイマン品質管理(QC)に提出されました。サンプルを融点および純度について試験できるように、サンプルは約3日間QCにありました。ロットはその後、長期の保存及び利用のために2008年5月19日にケイマン在庫管理(IC)へと移されました。
4.長期の保存および利用のために2008年5月19日にケイマン在庫管理(IC)へと移されたビマトプロスト結晶性固体、ロット番号206767は、以下の情報を識別するために、ネジで蓋をされた褐色瓶にラベルが貼付されました:
a.合成された製品の化学名
b.商品番号
c.バッチ番号
d.保存温度

私は、偽証罪による制裁の下で、上記の事項が真実かつ正確であることを私の知識、情報、および信念の限りにおいて証明します。
宣誓供述人の供述は以上です。

(署名) 日付:2018年5月1日
リビー ペリー
」(第1頁〜第2頁2行)

(34)甲30
甲30には、次の記載がある(原文は英文。訳文で示す。)。
(甲30a)「ダナ サンフォード(カタログ制作部長)の宣誓供述書

私、ダナ サンフォードは、ここに記載される事項に関する個人的な知識に基づいて本宣誓供述書を作成し、以下のことを述べます:

1.本宣誓供述書を、甲第2号証に提供される証拠の裏付けとして提供し、結晶性ビマトプロスト ロット番号206767がケイマンケミカルカンパニー社(以下、「ケイマンケミカル社」)で製造および保管されていたときのリビー ペリー氏(以下、ペリー氏)の職務を提供します。
2.私は、現在、アメリカ合衆国 48108 ミシガン、アン アーバー、イースト エルスワース ロード1180に所在するケイマン ケミカル カンパニーの従業員であり、私は、1999年3月10日から継続してケイマンケミカル社に雇用されています。
3.ペリー氏は、1996年9月11日にケイマンケミカル社に雇用され、化学QC責任者としてケイマンケミカル社での職を開始しました。ペリー氏は本質的に、ビマトプロスト結晶性固体、ロット番号206767を含む、化学QCによって試験されるあらゆる製品の品質管理評価に関与しました。化学QC管理者に加えて、リビー氏はまた、在庫管理も監督しており、リビー氏は、製品が評価のために化学QC部門に提供されたときに、ビマトプロスト結晶性固体、ロット番号206767の取り扱いおよび保管に責任を有していまいた。
4.ビマトプロスト結晶性固体、ロット番号206767は、2008年5月14日に合成され、2008年5月19日に長期の保存および利用のためにケイマン在庫管理(IC)へと移されました。ペリー氏は、そのIC試験と、ケイマン社の冷凍庫でのその後の保存に責任を有していました。彼女は、化学QC、在庫管理および発送とともに、2008年5月19日から、XRPD及びDSCの試験のためのCRO(トリクリニック ラブズ)での試験に利用された2016年8月29−30日まで、製品の取り出し、利用および保管に責任を負っていました。リビー氏は、あらゆる時点においてビマトプロスト結晶性固体、ロット番号206767を利用でき、当社の冷凍庫内のビマトプロスト結晶性固体、ロット番号206767の保存条件、抜き取られた量および位置を記録したERPを維持することに責任を有していました。

私は、偽証罪による制裁の下で、上記の事項が真実かつ正確であることを私の知識、情報、および信念の限りにおいて証明します。
宣誓供述人の供述は以上です。

(署名) 日付:2018年5月1日
ダナ サンフォード
」(第1頁〜第2頁5行)

(35)甲33
甲33には、次の記載がある(原文は英文。訳文で示す。)。
(甲33a)「ブレット ディー.ボブジエン(トリクリニック ラボラトリーズのサイエンティフィック ディレクター)の第二宣誓供述書

私、ブレット ディー.ボブジエンは、法的能力を有する成人であり、本宣誓供述書において以下のことを述べます。

1.私は、ケイマン ケミカル インコーポレイテッド(「ケイマンケミカル社」)から提供された結晶性ビマトプロストのサンプルについて、XRPDおよび示差走査熱測定(「DSC」)分析を行うために、XRPD分析における広範囲にわたる経験を有する、サイエンティフィックディレクターおよび分析化学研究者としてケイマンケミカル社に雇われました。ケイマンケミカル社から私に提供されたサンプルには、バッチ/ロット番号0487311として識別される結晶性ビマトプロストサンプル、および、バッチ/ロット番号206767として識別される結晶性ビマトプロストサンプルが含まれていました。
ケイマン社はまた、以下:
a.異なるバッチ/ロット番号を有する結晶性ビマトプロストサンプルが、同じ結晶形態を有する結晶性物質を含むかどうか;そして
b.バッチ/ロット番号206767として識別される結晶性ビマトプロストサンプルが2016年8月31日にこのサンプルのXRPD分析を私が実施したときに、2008年のその製造からその結晶構造の転移または変化を受け、異なるXRPD分析パターンを生じたかどうか
を決定するために、得られたXRPDおよびDSCデータ、すなわち、各サンプルからのXRPD分析パターンおよびDSCサーモグラムを分析することを私に委託しました。
2.私は、得られたXRPDおよびDSCデータ、すなわち、バッチ/ロット番号0487311として識別される結晶性ビマトプロストサンプルおよびバッチ/ロット番号206767として識別される結晶性ビマトプロストサンプルの各々からのXRPD分析パターンおよびDSCサーモグラムに関して、二つの報告書を作成しました。2016年9月2日、第一報告書(R2016288.01)をケイマンケミカル社に提出しました。第一報告書は、マイクロソフト(登録商標)ワードコンピュータープログラムを使用して作成され、それから内容の変更を防止するためにPDFとして保存されました。作成された報告書には、私の電子署名を含む画像ファイルを使用して、電子署名がなされました。第一報告書のコピーは、本宣誓供述書とともに、証拠として提出されています(審決注:甲第34号証として提出しています。)。2017年6月12日に作成された第二報告書(R2016288.02、本無効審判に甲第1号証として提出)は、マイクロソフト(登録商標)ワードコンピュータープログラムを使用して作成され、それから内容の変更を防止するためにPDFとして保存されました。作成された報告書には、私の電子署名を含む画像ファイルを使用して、電子署名がなされました。
3.第一報告書と第二報告書との間の相違は、第一報告書におけるXRPD 2θ値が有効数字二桁で報告されたという点にあります。第二報告書におけるXRPD 2θ値は、第一報告書と同じでしたが、有効数字一桁に補正されました。この補正は、バッチ/ロット番号0487311およびバッチ/ロット番号206767の結晶性ビマトプロストのXRPD 2θ値を、有効数字一桁で提供される、日本国特許第5734302号の請求項1〜17において請求される結晶性ビマトプロスト形態AのXRPD 2θ値と直接比較することを可能にするためです。
4.私はさらに以下のことを述べます:トリクリニックラブズの報告書(項目1〜3で上記された第一報告書および第二報告書を含む)について、トリクリニックラブズの標準的な業務によれば、研究プロジェクトとされる業務に関してクライアントに完成した報告書を送る際、報告書の作成者の電子署名を提供するのが通例です。トリクリニックラブズからクライアントに提供される報告書に電子署名を添えることによって、電子署名は、同じ報告書において元の署名がインクで書かれていた場合と同様の効力を有します。提供された報告書は私が作成したものであるということを立証し、かつその報告書に含まれるデータおよび結論を確認するために、私は、両報告書上の私の電子署名の下にインクでの署名を記しています(審決注:甲第34号証および甲第35号証の表紙をご参照下さい)。
5.私は、さらに、本宣誓供述書において行った陳述が全て、私の知る限り、真実であり、かつ、情報および信念に基づいて行った陳述が全て真実であると確信されるものであることを宣誓いたします。更に、これらの陳述は、故意に虚偽の陳述等を行った場合、合衆国法典第18編第1001条に基づき、罰金ないし禁固刑あるいはその両方により処罰されること、また、このような故意による虚偽の陳述が、本出願またはそれに対して発行されるあらゆる特許の有効性に問題を生ずる可能性があることを理解しておこなったものであることを宣誓いたします。

日付:2018年8月15日 ブレット ディー.ボブジエン
」(第1頁〜第3頁2行)

(36)甲34
甲34には、次の記載がある(原文は英文。訳文で示す。表8及び図9は原文ママ)。
(甲34a)「トリクリニック ラブズ
科学報告書

ビマトプロストサンプルのXRPD及びDSC分析
ケイマン ケミカルカンパニー,インコーポレーテッド

スティーブン バレット氏のために作成
2016年9月2日
プロジェクト番号 2016345
報告書番号 R2016288.01

(署名) 2018年8月15日付
著者(署名) 2016年9月2日付
ブレット ディー.ボブジエン,研究主幹 日付
」(1頁)

(甲34b)「序論
ケイマンケミカル社は、ビマトプロスト有効活性成分(API)の4つのサンプルをX線粉末回折(XRPD)と示差走査熱量測定(DSC)分析のために提供した。提供されたサンプルの情報が表1に示される。

表1 ビマトプロストサンプル情報およびデータファイル名
ロット番号 ・・・ XRPD ・・・ DSC ・・・
ファイル名 ファイル名
・・・・・・・
0487311・・・RX1−12838・・・DSC2.1377
206767 ・・・RX1−12839・・・DSC2.1378

結果
提供された4つのサンプルのXRPDパターンが図1から図4に提示される。4つのXRPDパターンのオーバーレイが図5に提示される。4つのロットのピークリストが作成され、表2、4、6、8に提示される。4つのサンプルの各々の最も強いピークリストが、表3、5、7、9に提示される。」(2頁)

(甲34c)「

」(表8 ビマトプロスト ロット206767のXRPDピークリスト
番号 位置(°2θ) d(Å) 高さ(cps) 相対高さ)(第9頁)

(甲34d)「

」(表9 ビマトプロスト ロット206767の最も強いピークのリスト
番号 位置(°2θ) d(Å) 高さ(cps) 相対高さ)(第10頁)

(甲34e)「図5から図8(審決注:DSCのグラフは図6から図9の誤記と認められる)に、提供されたサンプルのDSCサーモグラムが示される。提供された4つのビマトプロストサンプルの40℃から100℃の範囲にわたるDSC曲線のオーバーレイが図10に示される」(第11頁)

(甲34f)「

」(図4 ビマトプロスト ロット206767のXRPDパターン
位置(°2θ)強度(cps) 相対高さ)(第16頁)

(甲34g)「

」(図9 ビマトプロスト ロット206767のDSCサーモグラム
サンプル:TCL5172 DSC ファイル:・・・・・DSC2.1378
サイズ:1.2990mg オペレーター:・・・・
方法:Ramp 実行日:2016年8月31日 11:52
機器:・・・・・
)(第21頁)

(37)甲38
甲38には、次の記載がある(原文は英文。訳文で示す。)
(甲38a)「トリクリニック ラブズ
科学報告書

ビマトプロスト ロット番号0538435のXRPDおよびDSC分析
ケイマン ケミカルカンパニー,インコーポレーテッドのために

2018年8月20日
トリクリニック ラブズ プロジェクト番号 2018170
トリクリニック ラブス 報告書番号 R2018367.01
・・・・・・・・
著者(署名) 2018年8月20日付
ブレット ディー.ボブジエン,研究主幹 日付 」(第1頁)

(甲38b)「序論
ケイマンケミカルカンパニーは、2018年8月14日にビマトプロスト結晶性固体ロット番号0538435の1つのサンプルをX線粉末回折(XRPD)および示差走査熱量(DSC)分析のために提出した。ロット番号0538435は、2018年8月10日にケイマンケミカルカンパニーによって合成された。提供されたサンプルの情報は、表1に示される。

表1.ビマトプロストサンプル情報及びデータファイル名

ケイマンケミカル トリクリニック XRPD ページ DSC ページ
ロット番号 サンプル番号 ファイル名 番号 ファイル名 番号
0538435 TLC8847 RX1-19723 7 DSC2.3182 8

結果
提供されたビマトプロスト結晶性固体ロット番号0538435のXRPDパターンは、図1に提示される。ビマトプロスト結晶性固体ロット番号0538435のピークリストが作成され、表2に提示される。ビマトプロスト結晶性固体ロット番号0538435の最も強いピークリストが、表3に提示される。」(第3頁)

(甲38c)「

」(第4頁)

(甲38d)「


ビマトプロスト結晶性固体ロット0538435のDSCサームグラムは、図3に示される。DSC結果の要旨が表10に提示される。

表10.DSC結果

ケイマンケミカル トリクリニック DSC DSC結果a
ロット番号 サンプル番号 ファイル名
0538435 TLC8847 DSC2.3182 Endo.@~67℃(s)
s.Endo.=吸熱;s=シャープ
」(第5頁)

(甲38e)「

」(第7頁)

(甲38f)「

」(第8頁)

(38)甲39
甲39には、次の記載がある(原文は英文。訳文で示す。)
(甲39a)「ケイマン ケミカル カンパニー
安全性・記録課
ノート番号:1808 1808v.2 8.6.18v.2
フセイン マフムード :に対して発行
ミシェル リーデセル :によって発行
署名:
日付: 2018年8月10日 」(第2頁)

(甲39b)「006 2018年8月6日 ビマトプロストの合成
BI68616/0538435
目的:表題化合物(ビマトプロスト)を合成すること


試薬 Mwt 量 mmol eq ロット#
ビマトプロストメチル 402.5 9.0g 22.4 1 HM_1720_122_1
エステル
EtNH2(70%水溶液) 45.08 40mL Aldrich/10024135/0317199
MeoH 45mL

9:10AM ビマトプロストメチルエステルを、40mlのEtNH2(70
%水溶液)とともに、圧力瓶中のMeOH(45mL)中に置いた
。瓶を密封し、混合物を25℃で攪拌した(瓶を25℃のオイルバ
スに置いた)。

2018年8月7日
9:10AM 攪拌を継続 オイルバス温度は25.1℃
2018年8月8日
9:10AM 攪拌を継続 オイルバス温度は25.0℃
2018年8月9日
9:10AM 反応混合物を真空中で濃縮した。残渣をEtOAc(100mL)
および水(60mL)の間で分けた。
相を分離した。
水層をEtOAc(30mL)で抽出した。
有機層を合わせ、10% NaHCO3溶液(2×30mL)と
、続いてブライン(40mL)で洗浄した。有機溶液を
007頁に続く
フセイン マフムード 2018年8月9日
スティーブン ディー.バレット 2018年8月10日」(第7頁)

(甲39c)「 007
006頁から
Na2S04で乾燥させた。
混合物をろ過して固体を除去した。
ろ液を真空中で濃縮し、8.3gの、粗製ビマトプロストの薄いオ
レンジ色の油状物を得た。 HM_1808_7
EtOAc(27mL)およびMTBE(54mL)を粗製物に添
加し、約60℃に加熱して溶解させた。
12:27PM 温かい溶液を、RT(審決注:RT=室温)まで冷却した。
12:58PM 溶液は26℃。MTBE(54mL)を約2分にわたって添加し
た。
フラスコをアイスバスに置いた。
1:08PM 内部温度は4.9℃
3:10PM 混合物のろ過を行い、固体を、冷MTBE(2×20mL)で洗浄
した。
3:19PM 固体を真空下0〜5℃(アイスバス)で乾燥させた。
4:20PM アイスバスを除去し、真空下での乾燥を継続した。
4:50PM フラスコを35℃のウォーターバス中に置き、真空中で乾燥させ
た。フラスコを時折振盪した。
6:55PM 6.41gの白色固体が得られた。

2018年8月10日
6.35gの固体を65℃でEtOAc(64mL)に溶解させた

ビマトプロストの溶液をRTまで冷却した。
8:49AM 内部温度は24.7℃。白色固体を粉砕した。
混合物を攪拌した。
008頁に続く
フセイン マフムード 2018年8月10日
スティーブン ディー.バレット 2018年8月10日」(第8頁)

(甲39d)「008 007頁から
9:50AM 反応フラスコをアイスバス中に置いた。
9:58AM 内部温度は4.9℃。
混合物を<5℃で攪拌した。
11:59AM 沈殿をろ過した。
12:11PM 固体を高真空下で乾燥させ、その間フラスコは、0→5℃(実際
のバス温度 0.2℃)のアイスバス中に置いた。
1:11PM アイスバスを除去し、乾燥を継続した。
1:33PM フラスコを35℃のウォーターバス中に置いた。
3:35PM 5.25gの産物が得られた。
133mgはXRDのために提出される。
75mgは、融点のために提出される。
4.67gは、N2下で瓶に入れられ、−20℃で保管される。
分析データが今後収集され、提示される。

フセイン マフムード 2018年8月10日
スティーブン ティー.バレット 2018年8月14日」(第9頁)

(39)甲43
甲43には、次の記載がある(原文は英文。訳文で示す。)。
(甲43a)「シャノン ステイシー(品質・規定部門の副部長)の宣誓供述書

私、シャノン ステイシーは、ここに記載される事項に関する個人的な知識に基づいて、本宣誓供述書を作成し、以下のことを述べます:

1.本宣誓供述書は、ロット206767からの結晶性ビマトプロストのサンプルがケイマン品質管理から移動させられ、評価のためにトリクリニック ラブズに送られたことを立証するために必要な証拠の裏付けとして、提供されるものです。
2.私は、米国、ミシガン州48108、アン アーバー、イースト エルスワース ロード、1180に所在するケイマンケミカル社に現在勤務している社員です。私は、1994年5月9日からケイマンケミカル社で継続的に雇用されています。
3.私は、米国ミシガン州のアン アーバーにあるミシガン大学から授与された、化学分野での理学の学士号を有しています。
4.私は1994年から1996年まで、品質管理専門家として雇用されていました。品質管理専門家としての雇用期間が終了した後、私は、1996年に品質管理マネージャーに昇進し、二年間品質管理マネージャーを務めました。品質管理マネージャーとして、私は、販売のための出荷前に研究化学物質の全検査をレビューし、承認する責任を負っていました。また、私は、顧客のために作成された製品情報を技術的に監査していました。私の業務には、重要な製品情報を追跡・維持するためのプロセスを開発すること、およびケイマンケミカル社の情報技術部と協働してカスタム化されたオラクルデータベースにデータを統合することも含まれていました。加えて、私は、バルク状態、補充、取り寄せ注文に関して、出荷された化合物(ビマトプロストを含む)の在庫管理の責任も負っていました。私は、2004年1月から品質・規定部門の副部長を務めています。品質・規定部門の副部長として、私は、米国内に所在するケイマンケミカル社の施設のために、他の責任の中でも、適正製造基準(GMP)の方針および実務、安全性の方針および実務、ならびに規制遵守の方針および実務を実行する責任を負っています。
5.ビマトプロスト結晶性固体、ケイマンアイテム番号16820、ロット206767(約100g、以下、「ビマトプロスト」といいます。)は、2008年5月14日に製造され、2008年5月16日に製造化学者であるデイビット サン氏により99.91gがネジで蓋をされた褐色瓶に入れられケイマン品質管理(QC)に提出されました。サンプルを融点および純度について試験できるように、サンプルは約3日間QCにありました。ロットはその後、長期の保存及び利用のために2008年5月19日にケイマン在庫管理(IC)へと移されました。
6.甲第28号証に記載されるように、ICに保管されていたビマトプロストのいくつかのサンプルは、2008年5月から最も最近では2015年7月までに、移動させられ、様々な顧客に販売されました。
7.21回目の回収すなわちスプリット21(206767−21)の作成に続いて、ERPは、ネジで蓋された褐色瓶を空だと記録しました。ERPが褐色瓶を空であると記録したということは、これ以上この褐色瓶からロット番号206767のビマトプロスト結晶の出荷ができないこと、およびロット番号206767として指定された空の褐色瓶は、もはやICの管理下にないことを意味します。しかしながらこの褐色瓶の内側にはロット番号206767のビマトプロストの残留物が付着しておりました。当該残留物は販売を満足する製品として出荷できませんでした。しかしながら、品質管理のために同一ロットでXRPD試験を行う必要が生じ得ることから、依然として当該残留物であるロット番号206767のビマトプロスト結晶が保持され、−20℃で保存されました。そのため、2014年に当該褐色瓶をICの−20℃の冷凍庫からケイマンケミカル社の別の−20℃の冷凍庫に移動しました。
8.当社のERPデータベースは、ICに保管されている瓶からの試薬の回収を記録することになっているため、2016年8月29日から30日までのトリクリニックラブズへの輸送のための22回目の回収は、ERPに記録されませんでした。22回目の回収は、ICの−20℃の冷凍庫からではなく、ICおよびQCに隣接する研究所の中にあるケイマンケミカル社の別の−20℃の冷凍庫から当該褐色瓶が取り出されたためです。なお、この点2017年7月12日付けのリビー ペリー氏の宣誓供述書には22回目の回収がICから取り出されたとの記載がありますが、これはロット番号206767のビマトプロスト結晶が入っている褐色瓶がもともとICにあったため誤ってこのように記載したものと考えられます。
9.ロット番号206767に由来するビマトプロストのサンプルは、現在の品質管理マネージャーであるリビー ペリー氏の管理の下にある別の冷凍庫に移動された褐色瓶から取り出され、2016年8月29日から30日の間にXRPDおよびDSC試験のためにトリクリニックラブズに送られました。その試験結果は、2017年6月12日付けのトリクリニックラブズの科学報告書(審決注:甲第1号証に対応します)に記載されています。

私は、偽証罪による罰則を承知のうえで、自身の有する知識、情報、および信念の限り、上記の内容が真実であることを宣誓いたします。
宣誓供述人の供述は以上です。

(署名) 日付:2018年9月6日
シャノン ステイシー
」(第1頁〜第3頁5行)

(40)甲44の1
甲44の1には、次の記載がある(原文は英文。訳文で示す。)。
(甲44の1a)「購入発注書
(右側上部)
カブルs.a.s
イタリア (Mi)20043 アルコレ
ヴィアフォルラニーニ,52

FAX 2009年7月16日に送信

(左側上部)
宛先:ケイマン ケミカル カンパニー

購入発注番号:0000118
日付 2009年7月1日

(中段)
カタログ番号 製品 N/サイズ 数量
・・・・・・・・・・・・・
16820−1 ビマトプロスト 1MG NR 1.00
当社参照 440
」(第1頁)

(41)甲44の2
甲44の2には、次の記載がある(原文は英文。訳文で示す。)。
(甲44の2a)「(左側上部)
ケイマン ケミカル カンパニー インコーポレイテッド

請求先:
カブル SAS ディ カサグランデ

(中央上部)
商業インボイス
インボイス番号 SO431693−1
インボイス日付 2009年7月17日
ページ 3ページ中1ページ目
販売発注書 SO431693
購入発注書 0000118
支払いの方法 前払い
請求口座 6125
荷渡し方 BST

送り先:
カブル SAS
ブルーノカサグランデ
ヴィアフォルラニーニ,52
通知 タッチ グループ
20043 アルコレ

(中段)
商品番号 構成 バッチ番号 テキスト 数量・・・
16820 1mg 206767−4 ビマトプロスト 1.00・・・
」(第1頁)

(42)甲44の3
甲44の3には、次の記載がある(原文は英文。訳文で示す。)。
(甲44の3a)「(上部中央)
荷送人輸出申告

(上部左側)
荷送人(名称および住所、郵便番号を含む)
ケイマン ケミカル

最終的な荷受人 カブル SAS

運送代理人
ラム インターナショナル インコーポレイテッド

(上部右側)
日付 2009年7月17日
荷送人の参照番号 SO431693
■空路 □海路 によって輸送
申告された運搬価格 金額 $3182.20
」(第1頁)

(43)甲46
甲46には、次の記載がある(原文は英文。訳文で示す。)。
(甲46a)「

」(ラボノート支給データブック #0001)(第1頁)

(甲46b)「


(ラボノート番号 確認者氏名 巻 支給日 回収日 支給者
・・・・・・・
553 デイブ サン 1 2006年1月23日 2009年7月29日 KC
・・・・・・・
)(第3頁)

(甲46c)「

」( 787 デイブ サン 2 KC 2008年4月29日)
(第5頁)

(44)甲47の1
甲47の1には、次の記載がある(原文は英文。訳文で示す。)。
(甲47の1a)「関係各位

カブルSASは、ケイマンケミカル社よりカタログ番号16820 ビマトプロスト1mg ロット番号206767−4を1バイアル購入(購入発注番号118)したことを宣誓します。
購入品は、発送されました:2009年7月17日付け梱包リスト PS054287番、および、2009年7月17日付けインボイス 00431126番。
当社は、2009年7月20日に小包を受け取りました。Tacchiグループの書類の日付は2009年7月20日です。
製品の注文を受けました:ミラノ大学よりVAT番号03064870151、2009年6月30日付け発注番号732917番。
製品は、公共団体に販売されました:研究用途だけのための製品です。配送の際には、データシートを含めました。当社書類:2009年7月21日付け669番。
インボイスが発行されました:2009年7月21日付けインボイス番号550番:価格78ユーロ 17%割引=64.74ユーロ。
ECプロジェクトのためであることから、VATは適用されませんでした(DPR 633/72 Titolo VI°e modificazioni successive)。

書類を添付します。
敬具
ブルーノ ジョヴァンニ カサグランデ
専務取締役
カブルSAS
(署名)
(スタンプ)
」(第1頁)

(45)甲47の2
甲47の2には、次の記載がある(原文は英文。訳文で示す。)。
(甲47の2a)「(1枚目、上部中央)
荷送人輸出申告

(1枚目、上段左側)
荷送人(名称および住所、郵便番号を含む)
ケイマン ケミカル

最終的な荷受人 カブルSAS

運送代理人
ラム インターナショナル インコーポレイテッド

(1枚目、上段右側)
日付 2009年7月17日
荷送人の照会番号 SO431693
■空路 □海路 によって輸送

申告された運搬価格 金額 $3182.20

(1枚目、下段)
外観上良好な状態にて受領した。」(第1頁)

(46)甲47の3
甲47の3には、次の記載がある(原文は英文。訳文で示す。)。
(甲47の3a)「

」(第1頁)

(47)甲47の4
甲47の4には、次の記載がある(原文は英文。訳文で示す。)。
(甲47の4a)「

」(第1頁)

(48)甲47の5
甲47の5には、次の記載がある(原文は英文。訳文で示す。)。
(甲47の5a)「

」(第1頁)

(49)甲47の6
甲47の6には、次の記載がある(原文は英文。訳文で示す。)。
(甲47の6a)「 ミラノ、2009年6月30日
(日付)
商品発注 732917
ミラノ大学
宛先
カブル SAS
ヴィア フォルラニーニ,52
20043 アルコレ(MB)

(表)
数量 説明 単価 総額
1 ビマトプロスト 1mg(品番 16820) 78.00 78.00
」(第1頁)

(50)甲47の7
甲47の7には、次の記載がある(原文は英文。訳文で示す。)。
(甲47の7a)「

」(第1頁)

(51)甲47の8
甲47の8には、次の記載がある(原文は英文。訳文で示す。)。
(甲47の8a)「

」(第1頁)

(52)甲48
甲48には、次の記載がある(原文は英文。訳文で示す。)。
(甲48a)「特許庁審判合議体審判長殿

クリストファー・ホワイトヘッドの宣誓書

博士、MBA、並びに米国 ミシガン州 アンア−バー ヒューロンパークウェイ 1600に事務所を置く Mekanistic Therapeutics,LLCの共同創業者及び最高経営責任者である私、クリストファー・ホワイトヘッドは、本書に含まれる内容についての個人的知識に基づいて、本宣誓供述書において以下のことを述べます。

1.私は、2000年にレンセラー工科大学で有機化学の分野で博士号を取得しました。また、2009年にミシガンキャンパス、アンアーバー、ミシガン大学、ロス・スクール・オブ・ビジネスで経営学の修士号を取得しました。
2.私は、製薬産業において20年近く働いており、役職は、Pfizer,Inc.での科学者長、ProNai Therapeutics,Inc.での研究戦略監督、及びミシガン大学放射線医学科での化学員専門家を含みます。
3.私は、ケイマンケミカルインコーポレイテッドの従業員ではなく、私の会社は、ケイマンケミカルインコーポレイテッドと提携もしていません。また、私は、無効審判第2017−80096号(注:無効審判第2017−800096号の誤記と認める)を裏付けるこの宣誓書を提供するに当たり、いかなる支払いも提供されておりません。
4.私は、ケイマンケミカルカンパニーインコーポレイテッドによって提供される甲第4号証、甲第37号証、甲第18号証、及び甲第39号証に記載のビマトプロストの結晶形態を合成する合成過程並びにビマトプロストの結晶形態の合成に関する再現された実験を確認しました。
a.甲第4号証は、ビマトプロストの結晶形態を合成するためにケイマンケミカルインコーポレイテッドに雇用された化学者デイビット ディー.サン博士(「サン氏」)によって実施された実験手順が記載されている2008年5月13日から2008年5月16日までのラボノート記載事項のコピーを提供します。
b.甲第37号証は、甲第4号証に記載されているビマトプロストの結晶形態を合成するためにサン氏によって実施された実験手順が記載されている2018年8月3日から2018年8月13日までのラボノート記載事項のコピーを提供します。
c.甲第18号証は、米国特許出願第11/896,002号の公報である、米国特許出願公開第2009/0163596号公報です。この米国公報には、ビマトプロストの結晶形態、即ち、形態Iを合成する方法が記載されています。
d.甲第39号証は、甲第18号証、即ち、米国特許出願公開第2009/0163596号公報に示される過程に従ったビマトプロストの結晶形態を生成するための合成方法を再現するためにフセイン マフムード博士(「マフムード氏」)によって進められた実験手順が記載されている2018年8月6日から2018年8月10日までのラボノート記載事項のコピーを提供します。
5.私は、被請求人の2018年10月12日付けの上申書の英訳(「被請求人の上申書」)を確認しました。
6.私は、Triclinic Labsによって準備された甲38号証に示されるビマトプロストロット番号0538435のXRPD及びDSC分析を確認しました。ビマトプロストロット番号0538435は、甲第39号証に記載されている実験過程に従ってケイマンケミカルの化学者フセイン マフムード(「マフムード氏」)によって得られた結晶ビマトプロスト製品です。」(第1頁〜第2頁)

(甲48b)「甲第18号証及び甲第39号証に記載の合成過程で観察された実験相違点:

7.甲第18号証の実施例21には、この甲第18号証におけるビマトプロストの最も熱力学的に安定した多形として特徴付けられたビマトプロストの結晶形態Iを生成するための合成方法が記載されています(1頁段落【0005】参照)。
8.甲第39号証において、化学者マフムードは、彼の実験を記載しており、その実験において、彼は、甲第18号証の実施例21に示される手順に従って結晶ビマトプロスト形態Iを生成するための合成方法を再現しています。
9.逸脱1:甲第18号証の段落【0140】(実施例21)に示される第1の結晶化工程の間、粗ビマトプロスト、EtOAc及びMTBEの混合物が、摂氏0〜5度で2時間攪拌されました。甲第39号証は、粗ビマトプロスト、EtOAc及びMTBEの混合物が摂氏4.9度の温度の氷槽に2時間維持されたことを示しています。しかしながら、マフムード氏は、彼が甲第18号証の合成方法を再現していたときに混合物が撹拌条件下で氷槽において冷却されたかどうかは明示していません。従って、甲第39号証に記載の合成方法からのあり得る第1の逸脱は、粗ビマトプロスト、EtOAc及びMTBEの混合物が、摂氏0〜5度に冷却されその温度で定められた期間維持される第1の結晶化工程の間、撹拌がないことです。全ての反応物、温度及び時間条件が忠実に再現されたことは、注目すべきです。
10.マフムード氏によって実施された第1の結晶化工程においてなされた、このあり得る逸脱は、最終ビマトプロスト製品の結晶形態に影響又は別様に作用を与えるはずがなく、その理由は、第1の結晶化工程から生成された固体ビマトプロストは、最終結晶ビマトプロスト製品の結晶構造を作る第2の結晶化工程を受けるからです。
a.ビマトプロストの第1の結晶形態は、(i)粗ビマトプロストがEtOAc及びMTBE中にこの溶媒系に対する沸点又は沸点に近いところで溶解され、(ii)生成された溶液を放冷し、それによって、ビマトプロストの第1の結晶形態が沈殿する、第1の結晶化工程の完了で生成されます。
b.ビマトプロストの第1の結晶形態は、次に、第2の結晶化工程の対象となり、第2の結晶化工程において、ビマトプロストの第1の結晶形態は、溶液の沸点又は沸点に近いところでEtOAc中に溶解されます。ビマトプロストの第1の結晶形態が熱せられたEtOAc中に溶解されるとき、ビマトプロストの結晶構造は、完全に破壊されます。
c.溶解されたビマトプロスト及びEtOAcの熱せられた溶液が冷却されると同時に、ビマトプロスト固体が冷却溶液から沈殿するときにビマトプロストの新しい結晶構造が新たに生成されます。この第2の結晶化工程が、独占的に固体ビマトプロストの最終結晶構造に作用を与え、固体ビマトプロストの最終結晶構造を作るのです。従って、ビマトプロストの第1の固体形態を作る第1の結晶化工程における撹拌の有無は、ビマトプロスト最終固体形態の結晶構造に作用を与えるはずがありません。
d.甲第39号証に記載の第1の結晶化工程と甲第18号証においてマフムード氏によって実施された合成方法との間のあり得る逸脱が、ビマトプロストの最終結晶構造に作用を与えるはずがなく、結晶ビマトプロストの最終製品の結晶形態に影響を与えるはずがありません。従って、EtOAc、MTBE及び粗ビマトプロストが撹拌されたか否か、即ち、第1の結晶化における逸脱の正味の効果は、ビマトプロスト製品の最終結晶形態に対しては重要でない事項であり、その理由は、ビマトプロスト製品の最終結晶形態に関して結果を左右するより重要な結晶化工程(第2の結晶化工程)が存在するからです。
11.逸脱2:甲第18号証の段落【0140】に示される第2の結晶化工程において、第1の結晶化工程の間に生成されたビマトプロストの結晶形態は、沸点または沸点に近いところでEtOAc中に溶解され、溶液は、室温まで1時間冷却され、摂氏0〜5度で2時間保持されました。甲第18号証は、混合物が何らかの撹拌条件下で冷却されるかどうかは明示しておりません。マフムード氏がこの第2の結晶化工程を再現したとき、彼は、沸点または沸点に近いところで定められた量のEtOAcにおいて第1の結晶化工程からの第1の結晶ビマトプロストを溶解し、溶液を室温まで冷却させ、反応槽における白い固体の沈殿を観察しました。沈殿物とEtOAcとの混合物は、甲第18号証によって定められた温度及び期間で冷却される間、撹拌されました。マフムード氏が第2の結晶化工程の間に実施した撹拌は(即ち、一旦沈殿物が形成され溶液が冷却すると)、甲第18号証に記載の合成方法からのあり得る逸脱です。
12.マフムード氏によって実施された第2の結晶化工程におけるこのあり得る逸脱は、最終ビマトプロスト製品の結晶形態に影響又は別様に作用を与えておらず、その理由は、マフムード氏の最終結晶ビマトプロスト製品の結晶形態は、甲第38号証に記載のXRPDおよびDSC分析方法を使用してTriclinic Labsによって分析され、マフムード氏の最終結晶製品は、甲第18号証における結晶ビマトプロスト形態Iと同じ結晶構造であると判明したからです。

a.マフムードの最終結晶ビマトプロスト製品の結晶構造は、Triclinic Labsによって分析され、XRPDパターン及びDSCスキャンは、甲第18号証の結晶ビマトプロスト形態IのXRPDパターン及びDSCスキャンと一致しました。これらのXRPD及びDSCスキャンは、以下で再現されています。」(第6頁〜第9頁)

(甲48c)「

」(第10頁)

(甲48d)「

」(第11頁)

(甲48e)「 b.マフムード氏の最終結晶ビマトプロスト製品の結晶構造が甲第18号証において特徴付けられる結晶ビマトプロスト形態Iの結晶構造と一致することが確認されたので、第2の結晶化工程の間のビマトプロストとEtOAcとの混合物の撹拌は、マフムード氏のビマトプロスト製品の最終結晶構造に作用又は影響を与えなかったことになります。
c.この結果は、完全に予想されたものであって、その理由は、甲第18号証の段落【0004】において結晶ビマトプロスト形態Iはビマトプロストの最も熱力学的に安定した多形として特徴付けられているからです。ビマトプロストの最も安定した多形である結晶ビマトプロスト形態Iは、この化合物に関して最も低いエネルギー状態の結晶構造を有します。この結晶構造は、反応混合物が冷却されている間にマフムード氏が実施した撹拌によって変化するものではなく、その理由は、最も低いエネルギー構造の結晶構造からの任意の他のエネルギー結晶構造(即ち、必然的により高いエネルギー結晶構造)へのそのような変化は、この変換を引き起こすために最も低いエネルギー結晶構造に対して追加のエネルギーが印加されることを必要とするからです。マフムード氏の反応混合物の冷却の間の反応混合物の撹拌は、この化合物の別の安定性のより低い結晶形態の生成に必要である、結晶ビマトプロストに対するエネルギーの正味の増加を供給しません。
d.甲第18号証に記載の第2の結晶化工程と甲第39号証に記載のマフムード氏によって実施された合成方法との間のあり得る逸脱は、XRPD及びDSC分析によって確認されるように、ビマトプロストの最終結晶構造に作用を与えませんでした。更に、この逸脱、即ち、反応混合物の冷却の間の撹拌は、最も低いエネルギー状態、即ち、結晶ビマトプロスト形態Iから結晶構造に変化を引き起こすのに必要である反応混合物に供給されるエネルギーにおける正味の増加及び別のより高いエネルギー結晶構造をもたらすことはありません。従って、この逸脱は、甲第39号証においてマフムード氏によって合成された最終結晶ビマトプロスト製品の結晶構造に影響を与えませんでした。

私は、偽証の罰則を承知の上で、上記が、私の知識、情報および信念の限りで、真実であることを宣誓いたします。

宣誓人の供述は以上です。

(署名) 日付:2018年11月1日
クリストファー・ホワイトヘッド

2018年11月1日
私の面前で署名および宣誓されました。

(署名)
公証人
ウェイン郡
ミシガン州
公証の有効期限:2023年9月6日 サンドラ シャルホーブ
ウォシュトノ−郡にて作成 公証人 ミシガン州
ウェイン郡
公証の有効期限:2023年9月6日
ウォシュトノー郡にて作成
」(第12頁〜第13頁)

2 各乙号証には以下の事項が記載されている。
なお、以下、乙第1号証〜乙第4号証及び乙第6号証をそれぞれ「乙1」〜「乙4」及び「乙6」という。

(1)乙1
乙1には、次の記載がある。
(乙1a)「II.名称に関する項目
1.販売名
(1)和 名
ルミガン点眼液0.03%
(2)洋 名
LUMIGAN OPHTHALMIC SOLUTION 0.03%
(3)名称の由来
ビマトプロスト点眼液の米国(アラガン社)での販売名「Lumigan」に由来。

2.一般名
(1)和 名(命名法)
ビマトプロスト(JAN)
(2)洋 名(命名法)
Bimatoprost(JAN)
(3)ステム(stem)
prostaglandin類: ̄prost

3.構造式又は示性式
・・・・・・・

4.分子式及び分子量
分子式:C25H37NO4
分子量:415.57」(第3頁1〜20行)

(乙1b)「

」(第6頁上の表)

(2)乙2
乙2には、次の記載がある。
(乙2a)「貯 法:室温保存
使用期限:製造後3年(使用期限内であっても、開栓後は速やかに使用すること。)」(添付文書第1頁左上3〜5行)

(乙2b)「プロスタマイド誘導体
緑内障・高眼圧症治療剤
*処方箋医薬品注) ルミガンR(上付きRは、○の中にRで、以下、同様)点眼液0.03%
LUMIGANR OPHTHALMIC SOLUTION 0.03%
ビマトプロスト点眼液 *注)注意−医師等の処方箋により使用すること」(添付文書第1頁の表題)

(3)乙3
乙3には、次の記載がある。
(乙3a)「 アセトン[acetone]・・・・・・
沸点 56.1〜56.5℃」(第41頁右欄)

(乙3b)「 イソブチルアルコール[isobutyl alcohol]・・・・・・
沸点 107.89℃」(第178頁右欄)

(乙3c)「 イソブチルメチルケトン[isobutyl methyl ketone]・・・・・・・
沸点 117℃」(第179頁左欄)

(乙3d)「 イソプロピルアセトン[isopropylacetone]=イソブチルメチルケトン
・・・・・・・
イソプロピルアルコール[isopropyl alcohol]=イソプロパノール・・・・・・・
沸点 82.4℃」(第181頁左欄)

(乙3e)「 エタノール[ethanol]=エチルアルコール・・・・・・
沸点 78.325℃」(第256頁右欄〜第257頁左欄)

(乙3f)「 エチルメチルケトン[ethyl methyl ketone]=2−ブタノン(2-butanone),メチルエチルケトン(methyl ethyl ketone,MEK)・・・・・・・
沸点 79.6℃」(第265頁右欄)

(乙3g)「 クロロベンゼン[chlorobenzene]・・・・・・・
沸点 132℃」(第682頁右欄)

(乙3h)「 クロロホルム[chloroform]・・・・・・・
沸点 61.15℃」(第683頁右欄)

(乙3i)「 酢酸イソプロピル[isopropyl acetate]・・・・・・・
沸点 88.2℃」(第843頁左欄)

(乙3j)「 酢酸エチル[ethyl acetate]・・・・・・・
沸点 77.11℃」(第843頁右欄)

(乙3k)「 酢酸ブチル[butyl acetate]・・・・・・・
沸点 125〜126℃・・・・・・・
・・・・・・・
酢酸t−ブチル[t-butyl acetate]・・・・・・・
沸点 97.8℃」(第847頁左欄)

(乙3l)「 酢酸メチル[methyl acetate]・・・・・・・
沸点 56.9℃」(第848頁左欄)

(乙3m)「 ジイソプロピルエーテル[diisopropyl ether]・・・・・・・
沸点 68.27℃」(第926頁左欄)

(乙3n)「 ジエチルエーテル[diethyl ether]・・・・・・・
沸点 34.481℃」(第927頁右欄)

(乙3o)「 シクロヘキサン[cyclohexane]・・・・・・・
沸点 80.7℃」(第959頁左欄)

(乙3p)「 ジクロロメタン[dichloromethane]=塩化メチレン・・・・・・・
沸点 39.95℃」(第976頁右欄)

(乙3q)「 ブチルアルコール[butyl alcohol]=ブタノール・・・・・・・
沸点 117.9℃・・・・・・・
・・・・・・・
t−ブチルアルコール[t-butyl alcohol]・・・・・・・
沸点 82.45℃」(第1998頁左欄)

(乙3r)「 t−ブチルメチルエーテル[t-butyl methyl ether]=メチルt−ブチルエーテル・・・・・・・
沸点 54〜55℃」(第2000頁右欄)

(乙3s)「 ヘキサン[hexane]・・・・・・・
沸点 69℃」(第2126頁左〜右欄)

(乙3t)「 ヘプタン[heptane]・・・・・・・
沸点 98.4℃」(第2143頁左欄)

(乙3u)「 ペンタン[pentane]・・・・・・・
沸点 36℃」(第2191頁右欄)

(乙3v)「メタノール[methanol]=メチルアルコール・・・・・・・
沸点 64.65℃」(第2320頁右欄)

(4)乙4
乙4には、次の記載がある。
(乙4a)「44 密封容器とは,通常の取扱い,運搬又は保管状態において,気体の侵入しない容器をいう.」(通則第5頁)

(5)乙6
乙6には、次の記載がある。
(乙6a)「40 密封容器とは,通常の取扱い,運搬又は保管状態において,気体の侵入しない容器をいう.」(通則第5頁)

第7 無効理由に対する当審の判断
当審は、以下のとおり、本件発明1、2、7、8、10〜22には、無効理由1−1〜無効理由6−3の無効理由がないものと判断する。

1 無効理由1−1について
無効理由1−1を検討するにあたり、はじめに、請求人が提出した各甲号証から、本件特許の優先日前に請求人がビマトプロストのロット番号206767の結晶(本件結晶)を生産し、フナコシ株式会社他3社に輸出及び譲渡することによって公然実施された発明が認定することができるといえるか否かについて検討する。

(1)本件特許の優先日前である平成20年5月14日に請求人がビマトプロストのロット番号206767の結晶を生産したことについて

ア 甲4は、デイブ ディー.サン氏が作成者である実験ノートであり、2008年5月13日に

(以下、上記化学構造式を「ビマトプロスト」ともいう。)
Sm:200gをアセトン(8体積):1600ml中に溶解し、MTBE(32体積):6400mlを添加ロートにより室温、一晩で加えたこと、同年5月14日にその反応物を5℃に冷やし、ろ過し、固体を得て、その固体をオーブンで乾燥し、同年5月15にHPLCで分析し、同年5月16日に純粋結晶(99.91g)を褐色瓶に詰め、QCに出したこと(787−9)が記載されている。

イ 甲23は、ケイマン ケミカル カンパニー、インコーポレーテッドの化学製造部門アソシエイト科学者IIであるデイブ ディー.サン氏の陳述書であり、そこには、(イ−1)サン氏がケイマンケミカルカンパニーラボノート第787号と題するラボノート(この抜粋が無効審判第2017−800096号の甲第4号証として特許庁に提出)の著者/所有者/管理者であること、(イ−2)ケイマンケミカルカンパニーラボノート第787号と題するラボノートが、2008年5月13日〜2008年5月16日の間にサン氏により行われた業務を記載していること、(イ−3)当該ラボノートに2008年5月13日〜2008年5月16日の間に、ビマトプロストの結晶が製造され、褐色瓶の中に詰められ、QC(787−9)に提出されたこと、(イ−4)「(787−9)」は暫定的な識別番号であり、実験室での分析のために「DS−787−9」とも記載されること、(イ−5)当該ラボノートが会社のラボノート条件および規則を遵守し、かつそれに従って規則的に行われた業務の過程において保管されたものであること、及び該ラボノートをサン氏が2008年4月29日〜2014年8月4日の間、実験室および事務所で保持、保管したこと、その後、2014年8月4日から現在まで、ケイマンケミカルカンパニーの技術情報部門において、ケイマンラボノートポリシーに従ってアクセスを制限されて保管されていることが記載されている。

ウ 甲46は、ケイマン ケミカル カンパニー、インコーポレーテッドのラボノート管理簿であり、その証拠の第3頁には、2006年1月23日にデイブ サン氏がラボノート番号553号を1冊目として受領したこと、証拠の第5頁には、2008年4月29日にデイブ サン氏がラボノート番号787号を2冊目として受領したことが記載されている。

エ 甲3は、商品番号:16820、ロット番号:206767 QCテスト番号:8447、調製方法:Enol−ML(DS−787−9)から、精製方法:結晶化、純度:>97%のビマトプロストについて純度、IR、質量、融点、TLCを測定した分析データシートであり、その分析が2008年5月19日にエス.パリッシュ氏により行われ、エル.ペリー氏により承認されたことが記載されている。
なお、化学分析の分野において、IRは赤外線分光分析、TLCは薄層クロマトグラフを示すことは当業者における技術常識である。

オ 甲2は、ケイマンケミカルカンパニー、インコーポレイテッドの化学品質管理のマネージャーであるリビー・ペリー氏の宣誓供述書であり、そこには、(オ−1)ロット番号206767が2008年5月14日に製造され、アメリカ合衆国ミシガン州アン アーバーにあるケイマンケミカルカンパニー、インコーポレイテッドの施設に2016年8月の試験日まで保存されていたこと、(オ−2)ビマトプロスト結晶性固体であるケイマン商品番号16820、ロット番号206767(約100g)が、2008年5月14日に製造され、2008年5月16日に製造化学者であるデビッド サン氏により99.91gがネジで蓋をされた褐色瓶に入れられケイマン品質管理(QC)に提出され、サンプルを融点および純度について試験し(サンプルは約3日間QCにあった)、2008年5月19日にケイマン在庫管理(IC)へと移されたこと、(オ−3)当該ロットが褐色瓶に入れられ、−20℃の冷凍庫で継続的に保存され、サンプルを販売するために、2008年5月24日から2014年2月20日の間、ロットは21回ICから回収され、22回目の回収(審決注:甲43によると、22回目の回収はICの−20℃の冷凍庫からではなく、ICおよびQCに隣接する研究所の中にあるケイマンケミカルカンパニー、インコーポレイテッドの別の−20℃の冷凍庫から当該褐色瓶が取り出されていることを示している。)が、XRPDおよびDSC分析のためにCRO(トリクリニック ラブズ)へ2016年8月29日−30日に輸送するためにサンプルが回収されたときであったこと、(オ−4)ロットが保存冷凍庫から回収される度に、褐色瓶は開けられサンプルを取り出される前に、室温へと温められ、サンプルが取り出された後、瓶は冷凍庫へと戻され、ICでの保存の期間中、ロットは冷凍庫間で移された可能性があるが温度上昇は無視できる程度であることが、それぞれ記載されている。

カ 上記ア〜オで認定することができる事実
(ア)デイブ ディー.サン氏について
デイブ ディー.サン氏(以下、「サン氏」という)は、上記イによれば、ケイマン ケミカル カンパニー、インコーポレーテッド(以下、「ケイマンケミカル社」という。)の化学製造部門アソシエイト科学者IIであり、上記ウによれば、2006年1月23日にラボノート番号553号を1冊目として、2008年4月29日にラボノート番号787号を2冊目として、それぞれ受領したことから、少なくとも、サン氏は、2006年1月23日にはケイマンケミカル社に化学製造部門アソシエイト科学者として雇用され実験等の実施に従事していたといえ、化合物を扱う知識は十分持っていたと認められる。
また、サン氏の名称について、上記ウでは「デイブ サン氏」、上記オでは「デビッド サン氏」と表示されているが、上記ア〜オに記載されている事実から見て、いずれもサン氏を表す名称であるとした場合に、それぞれの証拠の記載内容に何ら矛盾がなく、それぞれ整合しており、同一人物と認めることができるから、以後「デイブ ディー.サン氏」、「デイブ サン氏」及び「デビッド サン氏」等の名称は、まとめて「サン氏」の名称を使用する。

(イ)ビマトプロストの結晶の生産について
上記ア〜オに示したとおり、甲23及び甲46の記載から、サン氏は、2008年4月29日にラボノート番号787号のラボノートを受領し(上記ウ)、2008年5月13日〜2008年5月16日の間にビマトプロストの結晶を製造し、その結晶が褐色瓶に詰められ、識別番号が787−9又はDS−787−9としてQC(品質管理)に送られたこと(上記イ(イ−1)〜(イ−4))を認めることができる。
そして、甲4は、実験ノートであり、ビマトプロストの具体的な結晶の製造工程として、2008年5月13日にビマトプロスト(化学構造式)Sm:200gをアセトン(8体積):1600ml中に溶解し、MTBE(32体積):6400mlを添加ロートにより室温、一晩で加えたこと、同年5月14日にその反応物を5℃に冷やし、ろ過し、固体を得て、その固体をオーブンで乾燥したことが記載され、結晶(99.91g)を褐色瓶に詰め、QCに787−9として出したことが記載されており(上記ア)、甲4のみでは誰が所有するノートであるのか明らかではないが、甲4に記載された事項と甲23及び甲46で陳述されている事項とは整合しており何ら矛盾するものではないことから、甲4は、サン氏の実験ノートと推認することができる。
さらに、甲3は、QCにおいて分析された分析データシートであり、そこには、分析したビマトプロストに商品番号:16820、ロット番号:206767 QCテスト番号:8447、DS−787−9等の識別番号が付与されており、分析が2008年5月19日に行われたこと(上記エ)、また、QCのマネージャーであるリビー・ペリー氏の宣誓供述書である甲2には、ビマトプロスト結晶性固体であるケイマン商品番号16820、ロット番号206767(約100g)が、2008年5月14日に製造され、2008年5月16日に製造化学者であるサン氏により99.91gがネジで蓋をされた褐色瓶に入れられケイマン品質管理(QC)に提出され、サンプルを融点および純度について試験し(サンプルは約3日間QCにあった)、2008年5月19日にケイマン在庫管理(IC)へと移されたとの供述(上記オ(オ−2))とも整合している。
加えて、上記(ア)のとおり、サン氏は化合物を扱う知識は十分持っていたと認められる。

(ウ)認定することができる事実
そうすると、甲4、甲23及び甲46並びに甲3及び甲2に記載された事項から、以下の事実を認定することができる。

事実1:サン氏は、ケイマンケミカル社の化学製造部門において、2008年5月13日にビマトプロスト200gをアセトン(8体積):1600ml中に溶解し、MTBE(32体積):6400mlを室温で一晩で加え、2008年5月14日にその反応物を5℃で冷やし、ろ過、乾燥して結晶を製造し、2008年5月16日に褐色瓶に当該結晶99.91gを詰め、識別番号DS−787−9を付与したものを2008年5月16日に品質管理部門に送ったこと(甲4、甲23、甲46及び甲2。なお、下線は当審による。以下、同様である。)。

事実2:品質管理部門では、当該ビマトプロストの結晶(識別番号DS−787−9)をエス.パリッシュ氏が分析し、エル.ペリー氏が承認した分析データシートを2008年5月19日に作成したこと、当該分析データシートには、当該ビマトプロストの結晶(識別番号DS−787−9)に商品番号:16820、ロット番号:206767 QCテスト番号:8447を付与すると共に、その分析結果(HPLCカラムによる純度、IR、質量、融点、TLC)が記載されていること。

(2)甲1のビマトプロストのロット番号206767のXRPD分析におけるピークリストについて

次に、上記(1)の事実1及び事実2を踏まえ、このロット番号206767であるビマトプロストの結晶は、その後、どのように保存され、どのように分析され、甲1のXRPD分析におけるピークリストとして得られたかについて検討する。

○ビマトプロストのロット番号206767の結晶の保存について

ア 甲27は、ケイマンケミカル社の化学品質管理マネージャーであるリビー ペリー氏の2018年5月1日付けの宣誓供述書である。そこには、ビマトプロスト結晶性固体であるケイマン商品番号16820、ロット番号206767(約100g)のサンプルが2008年5月14日に製造され、2008年5月16日に製造化学者であるサン氏により99.91gがネジで蓋をされた褐色瓶に入れられケイマンケミカル社の品質管理部門(QC)に提出されたこと、そのサンプルが融点および純度について試験できるよう3日間品質管理部門にあったこと、2008年5月19日にそのサンプルがケイマンケミカル社の在庫管理部門(IC)へ長期の保存及び利用のため移されたこと、在庫管理部門にサンプルが移されるとき、そのサンプルがネジで蓋をされた褐色瓶に入れられ、品質管理/在庫管理エリアにある−20℃の冷凍庫に保存されること、製造が開始されるとERPによってバッチ番号が割り当てられ、バッチ番号に関するあらゆる取引がERPによって記録されること、結晶性ビマトプロスト製品の各ロット番号はバッチ分割物へと小分けされること、バッチ番号の最後の「−X]がバッチ分割事象を示していること、バッチ番号の「−X]により、バルク容器から移された日付、構成及び量の内部追跡が可能になること、これらの分割物は、その後、特定の注文に応えるために使用され、結晶性ビマトプロスト製品の販売を記録する各インボイスは、ERPの使用により特定のバッチ番号で参照されることが、それぞれ記載されている。

イ 甲28は、ケイマンケミカル社のERPデータであり、そこには、注文番号、顧客、名称、E−メール、商品番号、商品名、構成、サイズ、バッチ番号、出荷日、リスト価格、単価の各項目が示され、ビマトプロスト(17−フェニルトリノルプロスタグランジンF2αエチルアミド)の取引状況が示されており、バッチ番号「206767−1」の出荷日が2008年7月23日、バッチ番号「206767−2」の出荷日が2008年10月30日、バッチ番号「206767−3」の出荷日が2008年10月30日、バッチ番号「206767−4」の出荷日が2009年1月26日、同年2月2日、同年4月10日、同年5月4日、同年7月17日、同年7月24日、同年10月16日、バッチ番号「206767−5」の出荷日が2009年7月30日、同年10月1日、同年12月4日、2010年2月12日、同年7月30日、同年8月26日、同年9月27日、バッチ番号「206767−6」の出荷日が2009年1月27日、同年2月20日、同年3月20日、同年4月10日、同年5月15日、バッチ番号「206767−7」の出荷日が2011年4月5日、同年5月2日、同年5月9日、同年6月17日、同年10月31日、2012年3月5日、2013年10月11日、2015年7月15日、バッチ番号「206767−8」の出荷日が2009年2月3日、バッチ番号「206767−9」の出荷日が2009年7月24日、バッチ番号「206767−10」の出荷日が2013年7月8日、同年11月7日、同年11月14日、バッチ番号「206767−11」の出荷日が2013年7月2日、バッチ番号「206767−12」の出荷日が2013年6月4日、バッチ番号「206767−13」の出荷日が2013年10月10日、バッチ番号「206767−14」の出荷日が2013年10月15日、バッチ番号「206767−15」の出荷日が2013年12月17日、バッチ番号「206767−16」の出荷日が2014年9月8日、同年11月7日、バッチ番号「206767−17」の出荷日が2014年1月7日、同年1月9日、バッチ番号「206767−18」の出荷日が2014年7月1日、バッチ番号「206767−19」の出荷日が2014年1月28日、同年7月15日、同年9月12日、同年10月21日、バッチ番号「206767−20」の出荷日が2014年1月31日、バッチ番号「206767−21」の出荷日が2014年2月20日であることが、それぞれ記載されている。

ウ 甲29は、ケイマンケミカル社の化学品質管理マネージャーであるリビー ペリー氏の2018年5月1日付けの宣誓供述書である。そこには、甲27と重複した記載以外に、2008年5月19日にケイマン在庫管理(IC)へ長期の保存及び利用のため移されたビマトプロストの結晶性固体、ロット番号206767に、情報を識別するため「合成された製品の化学名」、「商品番号」、「バッチ番号」、「保存温度」がネジで蓋をされた褐色瓶にラベルで貼付されたことが記載されている。

エ 甲30は、ケイマンケミカル社のカタログ制作部長であるダナ サンフォード氏の2018年5月1日付けの宣誓供述書である。そこには、リビー ペリー氏が2008年5月19日からXRPD及びDSCの試験のためのCRO(トリクリニック ラブズ)での試験のために利用した2016年8月29−30日まで、化学品質管理の管理者に加え、在庫管理も監督しており、製品の発送、取り出し、利用および保存を行っていたこと、リビー ペリー氏が全期間、ビマトプロストの結晶性固体、ロット番号206767を利用でき、会社の冷凍庫内のビマトプロストの結晶性固体、ロット番号206767の保存条件、抜き取られた量及び会社の冷凍庫における位置を記録したERPを維持することに責任を負っていたことが、それぞれ記載されている。

オ 甲43は、ケイマンケミカル社の品質・規定部門の副部長であるシャノン ステイシー氏の2018年9月6日付けの宣誓供述書である。そこには、ビマトプロスト結晶性固体、ケイマンアイテム番号16820、ロット206767(約100g)が2008年5月14日に製造され、2008年5月16日にビマトプロスト結晶性固体99.91gが製造化学者であるデビット サン氏によりネジで蓋をされた褐色瓶に入れられ、ケイマン品質管理に提出され、約3日間経過後の2008年5月19日にケイマン在庫管理へ移されたこと、在庫管理に保管されていたビマトプロストのいくつかのサンプルは、甲28に記載されているように2008年5月から最も最近では2015年7月まで移動させられ、様々な顧客に販売されたこと、スプリット21(206767−21)の作成によって、ERPは、前記褐色瓶が空になったことを記録し、在庫管理の管理下には置かれなくなったが、品質管理のため同一ロットのXRPD試験が必要になるかもしれないことから当該褐色瓶の内側に付着しているビマトプロストを保持することとし、2014年に品質管理(IC)の−20℃の冷凍庫から、ICおよびQCに隣接する研究所の中にあるケイマンケミカル社の別の−20℃の冷凍庫に当該褐色瓶を移動したこと、2016年8月29日から30日までトリクリニックラブズへ輸送のため−20℃の冷凍庫から22回目に当たる回収が行われたが、ERPには記録されていないことが、それぞれ記載されている。

カ 甲2には、上記(1)オに示した事項が記載されている。

キ 認定することができる事実
(ア)甲29及び甲30によると、リビー ペリー氏は、ケイマンケミカル社の化学品管理マネージャ−であり、2008年5月19日からXRPD及びDSCの試験のためのCRO(トリクリニック ラブズ)での試験のために利用した2016年8月29−30日まで、化学品質管理の管理者に加え、在庫管理も監督しており、製品の発送、取り出し、利用および保存を行っていたこと、リビー ペリー氏が全期間、ビマトプロストの結晶性固体、ロット番号206767を利用でき、会社の冷凍庫内のビマトプロストの結晶性固体、ロット番号206767の保存条件、抜き取られた量及び会社の冷凍庫における位置を記録したERPを維持することに責任を負っていたことを理解できる。この点は、甲27及び甲29のリビー ペリー氏の宣誓供述書とも整合している。

(イ)また、甲27〜甲29及び甲43によると、品質管理部門に送られた上記ビマトプロストのロット番号206767の結晶は2008年5月19日に在庫管理部門(IC)へ長期の保存および利用のために送られたこと(甲27)、その際、サンプルが製造時に詰められた褐色瓶に入れられた状態で品質管理/在庫管理エリアにある−20℃の冷凍庫に保存されること(甲27)、そして、保存の記録はERPによって管理されること(甲27)、ERPに記録される際には、取引毎にロット番号の後ろに「−X]のバッチ番号を付し、小分けされ、バッチ番号に関するあらゆる取引に記載されること(甲27)、ERPのデータ(甲28)には、バッチ番号「206767−1」(出荷日:2008年7月23日)からバッチ番号「206767−21」(出荷日:2014年2月20日)が記録されていること、甲43によると、上記ビマトプロストのロット番号206767の結晶は、スプリット21(206767−21)の作成によって、ERPではサンプルの褐色瓶が空になり、在庫管理の管理下には置かれなくなったが、2014年に品質管理の−20℃の冷凍庫からケイマンケミカル社の別の−20℃の冷凍庫に当該褐色瓶を移動したこと、2016年8月29日から30日までトリクリニックラブズへ輸送のため、別の−20℃の冷凍庫から22回目の回収が行われた(それはERPに記録されていない)こと、が記載されており、これらのことから、ケイマンケミカル社における上記ビマトプロストのロット番号206767の結晶が、品質管理部門へ送られ、在庫管理においてどのように保存され、最終的に、CRO(トリクリニック ラブズ)において2016年8月29〜30日にXRPD及びDSCの試験をするまでの、一連の保存状態を合理的に理解できるものであり、これらの甲27〜30及び甲43に記載された事項には、矛盾がなく、整合がとれているといえる。

(ウ)甲2でリビー ペリー氏が宣誓供述している事項、特に、2008年5月19日にケイマン在庫管理(IC)に提出された以降から2016年8月29日〜30にサンプルがCRO(トリクリニック ラブズ)へ輸送された事項に関し、上記(ア)及び(イ)で指摘した事項は一貫性があると認められる。

(エ)認定することができる事実
そうすると、甲27〜30及び甲43、並びに甲2に記載された事項から、以下の事実を認定することができる。

事実3:リビー ペリー氏は、ケイマンケミカル社の化学品管理マネージャ−であり、在庫管理も監督する立場であったこと、2008年5月19日からXRPD及びDSCの試験のためのCRO(トリクリニック ラブズ)での試験のために利用した2016年8月29〜30日までの全期間、ビマトプロストのロット番号206767の結晶について、保存条件、抜き取られた量及び会社の冷凍庫における位置を記録したERPを維持することに責任を負っていたこと。

事実4:ビマトプロストのロット番号206767の結晶は、2008年5月19日にケイマン在庫管理(IC)へ、ネジで蓋をされた褐色瓶に入れられ、−20℃の冷凍庫に保存されたこと、サンプル(結晶)を販売する際には、サンプルを冷凍庫から出し入れし、小分けした分割物にバッチ番号(206767−X)が付与され、バッチ番号に関する取引はE
RPにより記録されたこと、バッチ番号は206767−1〜206767−21まで記録されたこと、バッチ番号206767−21作成時にサンプルの褐色瓶は空になり、ケイマンケミカル社の別の−20℃の冷凍庫で保管されたこと、サンプルの褐色瓶は、2016年8月29日〜30日にCRO(トリクリニック ラブズ)で分析するために輸送するまで、サンプルの褐色瓶が保管されていたこと。

○ビマトプロストのロット番号206767の結晶のXRPD分析について

そこで、上記の事実3及び事実4を踏まえ、甲1の科学報告書は、上記の保管された当該ビマトプロストのロット番号206767の結晶をXRPD及びDSC分析したものであるか否かについて検討する。

ク 甲1は、上記(甲1a)及び(甲1b)よりトリクリニック ラブズがケイマンケミカル社から依頼されたビマトプロストの4つのサンプルのX線粉末回折(XRPD)と示差走査熱量測定(DSC)分析をした2017年6月12日付け報告書(作成者はブレット ディー.ボブジエン氏、研究主幹)であり、当該4つのサンプルには、それぞれロット番号がふられ、その中の一つに「ロット番号206767」のサンプルがあること、上記(甲1c)に表8としてビマトプロストのロット番号206767(2008年5月14日製造)のXRPDピークリスト(ピーク数は55個)、上記(甲1g)に図4としてビマトプロストのロット番号206767(2008年5月14日製造)のXRPDパターン、上記(甲1h)に図9としてビマトプロストのロット番号206767(2008年5月14日製造)のDSCサーモグラムが、それぞれ記載されている。
また、上記(甲1b)の表1の下には、「クライアントの要求により、オリジナルの報告書は表及び図の中にロット206767の製造日付を含め、表中のピーク位置を小数点第1位に丸めるように修正された[1]」が、上記(甲1f)には、リファレンスとして「1.トリクリニック ラブズが、ビマトプロストサンプルのXRPD及びDSC分析をケイマンケミカルに報告した報告書、R2016288.01、2016年9月2日」がそれぞれ記載されている。

ケ 甲33は、トリクリニック ラブズのサイエンティフィック ディレクターであるブレット ディー.ボブジエン氏の2018年8月15日付けの第二宣誓供述書である。そこには、ケイマンケミカル社から提供された結晶性ビマトプロストのサンプルの中にバッチ/ロット番号206767のサンプルが含まれていたこと、2016年8月31日にボブジエン氏が当該サンプルのXRPD及びDSC分析を実施したこと、2016年9月2日に第一報告書(R2016288.01)をケイマンケミカル社に提出したこと、第一報告書は電子署名と共にPDFとして保存されたこと、2017年6月12日に第二報告書(R2016288.02)を作成し、電子署名と共にPDFとして保存されたこと、第一報告書と第二報告書の相違は、XRPDにおける2θ値について、第一報告書が有効数字二桁であるのに対して、第二報告書が有効数字一桁である点で、その理由は、日本国特許第5734302号の請求項1〜17に係る結晶性ビマトプロスト形態AのXRPD 2θ値と直接比較するためであることが、それぞれ記載されている。

コ 甲34は、上記(甲34a)及び(甲34b)よりトリクリニック ラブズがケイマンケミカル社から依頼されたビマトプロストの4つのサンプルのX線粉末回折(XRPD)と示差走査熱量測定(DSC)分析をした2016年9月2日付け報告書(作成者はブレット ディー.ボブジエン氏、研究主幹)であり、当該4つのサンプルには、それぞれロット番号がふられ、その中の一つに「ロット番号206767」のサンプルがあること、上記(甲34c)に表8としてビマトプロストのロット番号206767のXRPDピークリスト(ピーク数は55個、ピーク位置は、小数点第2位まで表示)、上記(甲34d)に表9としてビマトプロストのロット番号206767の最も強いピークのリスト(ピーク数は15個、ピーク位置は、小数点第2位まで表示)、上記(甲34f)に図4としてビマトプロストのロット番号206767のXRPDパターン、上記(甲34g)に図9としてビマトプロストのロット番号206767のDSCサーモグラムが、それぞれ記載されている。

サ 上記ク〜コで認定することができる事実
(ア)甲1、甲34は、いずれもトリクリニック ラブズのブレット ディー.ボブジエン氏により作成された科学報告書である。甲33のブレット ディー.ボブジエン氏の第二宣誓供述書によると、甲1と甲34の関係は、2016年9月2日に甲34が第一報告書(R2016288.01)として作成され、ケイマンケミカル社に提出したものであり、2017年6月12日に甲1が第二報告書(R2016288.02)として、第一報告書におけるXRPDの2θ値を小数点以下の有効数字二桁から有効数字一桁に変更したことを供述している。
甲1の上記(甲1a)には、報告書番号R2016288.02の記載が認められ、甲1の上記(甲1b)及び(甲1f)には、クライアントの要求によりオリジナルの報告書(リファレンスより2016年9月2日のR2016288.01と認められる)における表中のピーク位置を小数点第1位に丸めるように修正したこと、上記(甲1c)には、表8にビマトプロストのロット206767のXRPDピークリストが表示されて、その位置(°2θ)の欄には、小数点以下の有効数字一桁の2θ値が55個あること、上記(甲1g)には、図4にビマトプロストのロット206767のXRPDパターンがあり、上記(甲1h)には、図9にビマトプロストのロット206767のDSCサーモグラムとその実行日が2016年8月31日であることが、それぞれ記載されている。

(イ)次に、甲34の上記(甲34a)には、報告書番号R2016288.01の記載が認められ、上記(甲34c)のTable8(表8)にビマトプロストのロット206767のXRPDピークリストが表示されて、その位置(°2θ)の欄には、小数点以下の有効数字二桁の2θ値が55個あること、上記(甲34f)には、Figure4(図4)にビマトプロストのロット206767のXRPDパターンがあり、上記(甲34g)には、Figure9(図9)にビマトプロストのロット206767のDSCサーモグラムとその実行日が2016年8月31日であることが、それぞれ記載されている。
上記甲1及び甲34の報告書では、いずれも、ビマトプロストのロット206767のXRPDピークリスト、XRPDパターン及びDSCサーモグラムを示しており、これらのデータは、甲34のビマトプロストのロット206767のXRPDピークリストにおける2θ値の小数点以下の有効数字二桁であるか、甲1のビマトプロストのロット206767のXRPDピークリストにおける2θ値の小数点以下の有効数字一桁であるのかの違いのみで、値としては同じものを示しているといえ、他のXRPDパターン及びDSCサーモグラムも一致している。
これらのことから、ビマトプロストのロット206767の結晶は、2016年8月31日にDSCサーモグラム、XRPDパターンの測定が行われ、2016年9月2日にトリクリニック ラブズのブレット ディー.ボブジエン氏により最初の科学報告書(甲34)が作成され、ケイマンケミカル社に提出された。次に、ケイマンケミカル社の要望により甲34を基礎として、ビマトプロストのロット206767の結晶のXRPDピークリストの2θ値を小数点以下の有効数字二桁から小数点以下の有効数字一桁に丸めた値にしたブレット ディー.ボブジエン氏により二つ目の科学報告書(甲1)が作成されたといえる。この点は、甲33でブレット ディー.ボブジエン氏が供述している事項と、甲1に記載されている内容と何ら矛盾することなく、整合している。

(ウ)認定することができる事実
そうすると、上記事実1〜4並びに、上記甲33、甲1及び甲34に記載された事項から、以下の事実を認めることができる。

事実5:甲1に記載されたビマトプロストのロット206767の結晶のXRPD分析及びDSCサーモグラムの結果は、上記事実1〜4から認定することができるビマトプロストのロット206767の結晶を分析したものであり、2016年8月31日にDSCサーモグラム、XRPDパターンの測定が行われ、その結果をまとめた科学報告書が2016年9月2日にトリクリニック ラブズのブレット ディー.ボブジエン氏により作成され、ケイマンケミカル社に提出された。その後、ケイマンケミカル社の要望により、2016年9月2日付け科学報告書を基礎として、ビマトプロストのロット206767の結晶のXRPDピークリストの2θ値を小数点以下の有効数字二桁から小数点以下の有効数字一桁に丸めた値にした二つ目の科学報告書(甲1)がブレット ディー.ボブジエン氏により作成され、ケイマンケミカル社に提出された。
その際のビマトプロストのロット206767の結晶のXRPDピークリストの2θ値(表8)及びDSCサーモグラム(図9)は、以下のとおりである。



(3)ビマトプロストのロット番号206767の結晶が、フナコシ株式会社他3社に輸出及び譲渡されたことについて

ビマトプロストのロット206767の結晶は、上記事実1〜5から、2008年5月14日に製造されたと認められることから、さらに、ケイマンケミカル社がビマトプロストのロット206767の結晶を、フナコシ株式会社他3社に輸出及び譲渡したことについて、以下のとおり検討する。

○フナコシ株式会社について
ア 甲11の1は、購入発注書であり、そこには、購入発注書番号30150667で、ケイマンケミカル社がフナコシ株式会社(甲7によれば、日本の試薬販売会社と認められる。)から、2009年3月17日に供給者カタログ番号16820、製品名「プロスタグランジンF2αエチルアミド,17−フェニルトリノル−<ビマトプロスト」、単位サイズ「5mg」、数量「1」、単価(US$)「177.33」、金額「177.33」で発注されたことが記載されている(1頁)。

甲11の2は、実施日2009年3月20日の近鉄エクスプレス(USA)発行の航空運送状であり、そこには、荷送人ケイマンケミカル社、荷受人フナコシ株式会社で、取り扱い情報の欄に「Ref−Shpr・・・・422001−1・・・」が記載され(1頁)、添付のケイマンケミカル社がフナコシ株式会社を請求先とする商業インボイスに、インボイス番号SO422001−1、インボイス日付2009年3月19日、販売注文SO422001、購入発注書30150667、支払い条件正味30、請求口座6290、荷渡し方法KWE、また、商品番号16820の欄に構成「5mg」、バッチ番号「206767−6」、テキスト「ビマトプロスト」、数量「1.00」、単価「177.33」、正味金額「177.33」であることが記載されている(2頁)。

甲11の3は、ケイマンケミカル社がフナコシ株式会社を請求先とするインボイスであり、そこには、販売注文SO422001、インボイス番号00421721、インボイス日付2009年3月20日、購入発注書30150667、支払い正味30日、クレジットカードタイプ、請求口座6290、荷渡し方法KWE、また、商品番号16820の欄に構成「5mg」、バッチ番号「206767−6」、製品名「ビマトプロスト」、数量「1.00」、単価「177.33」、金額「177.33」であることが記載されている(2頁)。

甲11の4は、2009年04月15日付けJPモルガン・チェース銀行発行の入金通知書原本であり、そこには、フナコシ株式会社が2009年4月15日を決済日としてケイマンケミカル社に送金したこと(1頁)、請求額のインボイス日付「2009年3月20日」、インボイス番号「00421721」、発注書番号「30150667」、金額US$「5,123.73」であることが記載されている(3頁)。

イ 甲12の1は、購入発注書であり、そこには、購入発注書番号30151389で、ケイマンケミカル社がフナコシ株式会社から、2009年4月7日に供給者カタログ番号16820、製品名「プロスタグランジンF2αエチルアミド,17−フェニルトリノル−<ビマトプロスト」、単位サイズ「1mg」、数量「1」、単価(US$)「39.33」、金額「39.33」(1頁)と、同日に供給者カタログ番号16820、製品名「プロスタグランジンF2αエチルアミド,17−フェニルトリノル−<ビマトプロスト」、単位サイズ「5mg」、数量「1」、単価(US$)「177.33」、金額「177.33」(2頁)であることが記載されている。

甲12の2は、実施日2009年4月10日の近鉄エクスプレス(USA)発行の航空運送状であり、そこには、荷送人ケイマンケミカル社、荷受人フナコシ株式会社で、取り扱い情報の欄に「Ref−Shpr・・・・423663−1・・・」が記載され(1頁)、添付のケイマンケミカル社がフナコシ株式会社を請求先とする商業インボイスに、インボイス番号SO423663−1、インボイス日付2009年4月9日、販売注文SO423663、購入発注書30151389、支払い条件正味30、請求口座6290、荷渡し方法KWE、また、商品番号16820の欄に構成「1mg」、バッチ番号「206767−4」、テキスト「ビマトプロスト」、数量「1.00」、単価「39.33」、正味金額「39.33」(2頁)と、インボイス番号〜荷渡し方法の内容が同じで、商品番号16820の欄に構成「5mg」、バッチ番号「206767−6」、テキスト「ビマトプロスト」、数量「1.00」、単価「177.33」、正味金額「177.33」(3頁)であることが記載されている。

甲12の3は、ケイマンケミカル社がフナコシ株式会社を請求先とするインボイスであり、そこには、販売注文SO423663、インボイス番号00423381、インボイス日付2009年4月10日、購入発注書30151389、支払い正味30日、クレジットカードタイプ、請求口座6290、荷渡し方法KWE、商品番号16820の欄に構成「1mg」、バッチ番号「206767−4」、テキスト「ビマトプロスト」、数量「1.00」、単価「39.33」、正味金額「39.33」(2頁)と、インボイス番号〜荷渡し方法の内容が同じで、商品番号16820の欄に構成「5mg」、バッチ番号「206767−6」、製品名「ビマトプロスト」、数量「1.00」、単価「177.33」、金額「177.33」(3頁)であることが記載されている。

甲12の4は、2009年05月15日付けJPモルガン・チェース銀行発行の入金通知書原本であり、そこには、フナコシ株式会社が2009年5月15日を決済日としてケイマンケミカル社に送金したこと(1頁)、インボイス日付「2009年4月10日」、インボイス番号「00423381」、発注書番号「30151389」、金額US$「15,130.32」(3頁)であることが記載されている。

ウ 甲13の1は、購入発注書であり、そこには、購入発注書番号30152569で、ケイマンケミカル社がフナコシ株式会社から、2009年5月12日に供給者カタログ番号16820、製品名「プロスタグランジンF2αエチルアミド,17−フェニルトリノル−<ビマトプロスト」、単位サイズ「5mg」、数量「1」、単価(US$)「177.33」、金額「177.33」であることが記載されている(1頁)。

甲13の2は、実施日2009年5月15日の近鉄エクスプレス(USA)発行の航空運送状であり、そこには、荷送人ケイマンケミカル社、荷受人フナコシ株式会社で、取り扱い情報の欄に「Ref−Shpr・・・・426346−1・・・」が記載され(1頁)、添付のケイマンケミカル社がフナコシ株式会社を請求先とする商業インボイスに、インボイス番号SO426346−1、インボイス日付2009年5月14日、販売注文SO426346、購入発注書30152569、支払い条件正味30、請求口座6290、荷渡し方法KWE、また、商品番号16820の欄に構成「5mg」、バッチ番号「206767−6」、テキスト「ビマトプロスト」、数量「1.00」、単価「177.33」、正味金額「177.33」であることが記載されている(2頁)。

甲13の3は、ケイマンケミカル社がフナコシ株式会社を請求先とするインボイスであり、そこには、販売注文SO426346、インボイス番号00426037、インボイス日付2009年5月15日、購入発注書30152569、支払い正味30日、クレジットカードタイプ、請求口座6290、荷渡し方法KWE、また、商品番号16820の欄に構成「5mg」、バッチ番号「206767−6」、製品名「ビマトプロスト」、数量「1.00」、単価「177.33」、金額「177.33」であることが記載されている(3頁)。

甲13の4は、2009年06月15日付けJPモルガン・チェース銀行発行の入金通知書原本であり、そこには、フナコシ株式会社が2009年6月15日を決済日としてケイマンケミカル社に送金したこと(1頁)、請求額のインボイス日付「2009年5月15日」、インボイス番号「00426037」、発注書番号「30152569」、金額US$「11,947.16」であることが記載されている(3頁)。

エ 認定することができる事実
(ア)甲11の1〜甲11の4は、2009年3月17日にケイマンケミカル社がフナコシ株式会社から受けた購入発注書(カタログ番号16820、ビマトプロスト 単位サイズ:5mg 数量:1)(甲11の1)に対して、同月20日付けのケイマンケミカル社からフナコシ株式会社へのインボイス(請求書)(甲11の3)、同月20日にケイマンケミカル社が近鉄エクスプレス(USA)の航空便でフナコシ株式会社に送付(輸出)した送り状(甲11の2)、同年4月15日付けのフナコシ株式会社がケイマンケミカル社に支払ったことを示すJPモルガン・チェース銀行の入金通知書(甲11の4)であり、いずれも、購入発注書番号30150667、販売注文SO422001、ビマトプロストのバッチ番号206767−6などが共通した一連の取引を示すものと認められる。

(イ)甲12の1〜甲12の4は、2009年4月7日にケイマンケミカル社がフナコシ株式会社から受けた購入発注書(カタログ番号16820、ビマトプロスト 単位サイズ:1mgと5mg 各数量:1)(甲12の1)に対して、同月10日付けのケイマンケミカル社からフナコシ株式会社へのインボイス(請求書)(甲12の3)、同月10日にケイマンケミカル社が近鉄エクスプレス(USA)の航空便でフナコシ株式会社に送付(輸出)した送り状(甲12の2)、同年5月15日付けのフナコシ株式会社がケイマンケミカル社に支払ったことを示すJPモルガン・チェース銀行の入金通知書(甲12の4)であり、いずれも、購入発注書番号30151389、販売注文SO423663、ビマトプロストのバッチ番号206767−4(1mg)、バッチ番号206767−6(5mg)などが共通した一連の取引を示すものと認められる。

(ウ)甲13の1〜甲13の4は、2009年5月12日にケイマンケミカル社がフナコシ株式会社から受けた購入発注書(カタログ番号16820、ビマトプロスト 単位サイズ:5mg 数量:1)(甲13の1)に対して、同月15日付けのケイマンケミカル社からフナコシ株式会社へのインボイス(請求書)(甲13の3)、同月15日にケイマンケミカル社が近鉄エクスプレス(USA)の航空便でフナコシ株式会社に送付(輸出)した送り状(甲13の2)、同年6月15日付けのフナコシ株式会社がケイマンケミカル社に支払ったことを示すJPモルガン・チェース銀行の入金通知書(甲13の4)であり、いずれも、購入発注書番号30152569、販売注文SO426346、ビマトプロストのバッチ番号206767−6などが共通した一連の取引を示ものと認められる。

(エ)上記(ア)〜(ウ)における一連の取引について、甲28には、販売注文(SO422001(甲11の1〜甲11の4)、SO423663(甲12の1〜甲12の4)、SO426346(甲13の1〜甲13の4))、顧客名、商品名、数量、バッチ番号、出荷日の一致する記載が認められることから、上記(ア)〜(ウ)の一連の取引は、甲28の記載からもその取引が矛盾なく行われているといえ、それぞれの記載との整合が認められる。

(オ)認定することができる事実
そうすると、甲11の1〜甲11の4、甲12の1〜甲12の4及び甲13の1〜甲13の4並びに甲28に記載された事項から、以下の事実を認定することができる。

事実6:ケイマンケミカル社は、フナコシ株式会社から2009年3月17日、4月7日、5月12日の3回に渡り、カタログ番号16820のビマトプロストの発注を受け、2009年3月20日、4月10日、5月15日にビマトプロスト5mg(バッチ番号206767−6)、1mg(バッチ番号206767−4)と5mg(バッチ番号206767−6)、5mg(バッチ番号206767−6)を近鉄エクスプレス(USA)の航空便でフナコシ株式会社に送付し、フナコシ株式会社は、2009年4月15日、5月15日、6月15日にケイマンケミカル社にそれぞれのビマトプロストの代金を支払ったこと。

○カブル SASについて
オ 甲14の(甲14a)は、ケイマンケミカル社がカブル SASを請求先とするインボイス(写し)であり、そこには、販売注文SO431693、インボイス番号00431126、インボイス日付2009年7月17日、購入発注書0000118、支払い前払い、クレジットカードタイプ、請求口座6125、荷渡し方法BST、そして、商品番号16820の欄に構成「1mg」、バッチ番号「206767−4」、製品名「ビマトプロスト」、数量「1.00」、単価「39.90」、正味金額「39.90」であることが記載されている(1頁)。
また、甲14の(甲14b)は、実施日2009年7月18日のラム インターナショナル発行の航空運送状であり、そこには、荷送人ケイマンケミカル社、荷受人カブル SASで、アカウント情報の欄に「SHP REF :SO431693−1」であることが記載されている(3頁)。

カ 甲44の1は、2009年7月16日にカブルs.a.sがケイマンケミカル社に送信した購入発注書であり、そこには、2009年7月1日の購入発注番号0000118に基づいて、カタログ番号16820−1、製品名「ビマトプロスト」 単位サイズ「1MG」、数量「1」であることが記載されている(1頁)。

甲44の2は、ケイマンケミカル社がカブル SASを請求先とする商業インボイスであり、そこには、販売発注書SO431693、インボイス番号SO431693−1、インボイス日付2009年7月17日、購入発注書0000118、支払い前払い、請求口座6125、荷渡し方法BST、また、商品番号16820の欄に構成「1mg」、バッチ番号「206767−4」、製品名「ビマトプロスト」、数量「1.00」であることが記載されている(1頁)。

甲44の3は、2009年7月17日付けの運送代理人ラム インターナショナル インコーポレイテッド発行の荷送人輸出申告であり、そこには、荷送人ケイマンケミカル社、荷受人カブル SASで、荷送人の参照番号として「SO431693」で空路により輸送することが記載されている(1頁)。

キ 甲47の1は、カブル SASの専務取締役であるブルーノ ジョヴァンニ カサグランデ氏からの宣誓書であり、そこには、2009年6月30日に発注番号732917としてミラノ大学からカブル SASにビマトプロスト 1mg 製品の注文を受けたこと、2009年7月17日に、購入品は、梱包リスト(PS054287)、インボイス(00431126)に基づき発送されたこと、2009年7月20日に小包を受け取ったこと、2009年7月21日に、製品が公共団体に販売された際に、インボイス(550)が発行されたことが、それぞれ記載されている。

甲47の2は、上記甲44の3と同じ証拠である。

甲47の3は、出荷日が2009年7月17日の上記甲47の1でケイマンケミカル社からカブル SASを送り先とする梱包リスト(PS054287)であり、そこには、「商品番号16820」の「ビマトプロスト」、「1mg」、「バッチ番号206767−4」、「販売発注書SO431693」であることが記載されている。

甲47の4は、2009年7月17日付けのインボイス番号00431126のインボイスであり、そこには、「販売発注書SO431693」、「購入発注書0000118」であること、「商品番号16820」の「ビマトプロスト」、「1mg」、「バッチ番号206767−4」であることが記載されている。

甲47の5は、2009年7月20日付け配達メモで輸出者:ケイマンケミカル社、輸入者:カブル SASであり、そこには、「インボイス番号00431126」であることが記載されている。

甲47の6は、2009年6月30日付けのミラノ大学からカブル SASに宛てた商品発注書であり、そこには、「発注番号732917」、「品名16820」の「ビマトプロスト」、「1mg」を注文したことが記載されている。

甲47の7は、2009年7月21日付けのカブル SASからミラノ大学リサーチセンターを受取人とした送り状であり、そこには、2009年6月30日の「注文番号732917」に対する「商品コード004CA16820−1」、「ビマトプロスト」、「1mg(ロット番号206767−4)」であることが記載されている。

甲47の8は、2009年7月21日付けのカブル SASからミラノ大学リサーチセンター宛てのインボイス(インボイス番号0000550)であり、そこには、2009年6月30日の「注文番号732917」に対する「商品コード004CA16820−1」、「ビマトプロスト」、「1mg」であることが記載されている。

ク 認定することができる事実
(ア)甲14は、2009年7月17日付けのケイマンケミカル社がカブル SASを請求先とするインボイス(写し)で、販売注文SO431693、インボイス番号00431126、購入発注書0000118、商品番号16820のビマトプロスト 1mg バッチ番号206767−4であり、2009年7月18日付けラム インターナショナル発行の航空運送状に荷送人ケイマンケミカル社、荷受人カブル SASで、アカウント情報としてSO431693−1が記載されている。
そして、甲44の1〜甲44の3は、2009年7月16日にカブルs.a.sがケイマンケミカル社に送信した購入発注書で、2009年7月1日の購入発注番号0000118に基づいて、カタログ番号16820−1のビマトプロスト 1mgを発注(甲44の1)し、2009年7月17日付けのケイマンケミカル社がカブル SASを請求先とする商業インボイスで、販売発注書SO431693、インボイス番号SO431693−1、購入発注書0000118、商品番号16820のビマトプロスト 1mg バッチ番号206767−4を(甲44の2)、2009年7月17日付けの運送代理人ラム インターナショナル インコーポレイテッド発行の荷送人輸出申告で、ケイマンケミカル社からカブル SASを受取人としてSO431693のものを空路で輸送すること(甲44の3)が、それぞれ記載されている。
さらに、甲47の1〜甲47の8は、カブル SASの専務取締役であるブルーノ ジョヴァンニ カサグランデ氏からの宣誓書において(甲47の1)、2009年6月30日に発注番号732917としてミラノ大学からカブル SASにビマトプロスト 1mg 製品の注文を受けたこと(甲47の6)、2009年7月17日に、購入品は、梱包リスト(甲47の3)、インボイス(甲47の4)に基づき発送されたこと、2009年7月20日に小包を受け取ったこと(甲47の5)、2009年7月21日に、製品が公共団体に販売された際に、インボイス(550)が発行されたこと(甲47の7及び甲47の8)が、それぞれ記載されている。
これらの記載事項において、いずれもカブル SASは、ミラノ大学からの発注に基づき、ケイマンケミカル社にカタログ番号16820のビマトプロスト 1mgを発注し、ケイマンケミカル社はビマトプロスト 1mg バッチ番号206767−4をカブル SAS宛で発送し、カブル SASは、それを受け取り、ミラノ大学に送り届けており、いずれも発注番号732917、購入発注番号0000118、販売発注書SO431693等の共通した番号により一連の取引が行われていると認められる。

(イ)上記(ア)における一連の取引について、甲28には、販売注文SO431693(甲14、甲44の2、甲44の3、甲47の3、甲47の4)、顧客名、商品名、数量、バッチ番号、出荷日の一致する記載が認められることから、上記(ア)の一連の取引は、甲28の記載からもその取引が矛盾なく行われているといえ、それぞれの記載との整合が認められる。

(ウ)認定することができる事実
そうすると、甲14、甲44の1〜甲44の3及び甲47の1〜甲47の8並びに甲28に記載された事項から、以下の事実を認定することができる。

事実7:ケイマンケミカル社は、ミラノ大学からの2009年6月30日付け注文に基づくカブル SASから2009年7月16日のカタログ番号16820のビマトプロスト 1mgの発注を受け、2009年7月17日にビマトプロスト1mg(バッチ番号206767−4)をラム インターナショナルの航空便でカブル SASに送付し、カブル SASは、それを2009年7月21日にミラノ大学へ送付したこと。

○AH ダイアグノスティックス及びSPI−BIOについて
ケ 甲15の(甲15a)は、ケイマンケミカル社がAH ダイアグノスティックスを請求先とするインボイス(写し)であり、そこには、販売注文SO432373、インボイス番号00431702、インボイス日付2009年7月24日、購入発注書18397、支払い正味30日、クレジットカードタイプ、請求口座3267、荷渡し方法FXPIC、そして、商品番号16820の欄に構成「1mg」、バッチ番号「206767−4」、製品名「ビマトプロスト」、数量「1.00」、単価「35.34」、正味金額「35.34」であることが記載されている(1頁)。
また、甲15の(甲15b)は、AH ダイアグノスティックスからケイマンケミカル社宛ての購入発注番号18397、発注日2009年7月24日、カタログ番号16820−1、製品「ビマトプロスト」、数量「1」、価格「35.34」、合計「35.34」であることが記載されている(2頁)。

コ 甲16は、ケイマンケミカル社がSPI−BIOを請求先とするインボイス(写し)であり、そこには、販売注文SO438792、インボイス番号00438046、インボイス日付2009年10月16日、購入発注書CF09000269、支払い正味90日、クレジットカードタイプ、請求口座6795、荷渡し方法KWE、そして、商品番号16820の欄に構成「1mg」、バッチ番号「206767−4」、製品名「ビマトプロスト」、数量「1.00」、単価「33.63」、金額「33.63」であることが記載されている(1頁)。

サ 上記ケ〜コで認定することができる事実
(ア)甲15は、2009年7月24日付けのケイマンケミカル社がAH ダイアグノスティックスを請求先とするインボイス(写し)であり、販売注文SO432373、インボイス番号00431702、購入発注書18397、とともに、商品番号16820のビマトプロスト 1mg、バッチ番号206767−4であること、同日付けのAH ダイアグノスティックスからケイマンケミカル社宛ての購入発注番号18397であり、カタログ番号16820−1のビマトプロストを発注したことが認められる。

(イ)甲16は、2009年10月16日付けのケイマンケミカル社がSPI−BIOを請求先とするインボイス(写し)で、販売注文SO438792、インボイス番号00438046、購入発注書CF09000269、とともに商品番号16820のビマトプロスト 1mg、バッチ番号206767−4であることが記載されている。

(ウ)上記(ア)における事項について、甲28には、販売注文(SO432373)、顧客名、商品名、数量、バッチ番号、出荷日の一致する記載が認められる。
しかしながら、上記(イ)における事項について、甲28には、販売注文(SO438792)、商品名、数量、バッチ番号、出荷日(2009年10月16日)等は一致するが、顧客名がバーティンテクノロジーズとなっており、名称が相違している。
そうすると、甲15は、甲28との整合が認められるが、甲16は、甲28との整合がなく、他に証拠もないことから、甲16は採用することができない。

(エ)認定することができる事実
そうすると、甲15及び甲28に記載された事項から、以下の事実を認定することができる。

事実8:ケイマンケミカル社は、AH ダイアグノスティックスから2009年7月24日にカタログ番号16820のビマトプロスト 1mgの発注を受け、同日付けで2009年7月24日にビマトプロスト1mg(バッチ番号206767−4)の出荷を行ったこと。

シ 小括
そうすると、上記事実8からは、ケイマンケミカル社がAH ダイアグノスティックスから、発注を受け、ビマトプロストを出荷したことまでは認めることができるが、それをAH ダイアグノスティックスに輸出及び譲渡したことまでは認めることができない。
一方、上記事実6からは、ケイマンケミカル社がフナコシ株式会社に2009年3月20日、4月10日、5月15日にビマトプロスト5mg(バッチ番号206767−6)、1mg(バッチ番号206767−4)と5mg(バッチ番号206767−6)、5mg(バッチ番号206767−6)を近鉄エクスプレス(USA)の航空便で送付し、その代金を支払ったことが認められ、上記事実7からは、ケイマンケミカル社がカブル SASに2009年7月17日にビマトプロスト1mg(バッチ番号206767−4)をラム インターナショナルの航空便で送付したことが認められる。
そして、上記バッチ番号206767−4とバッチ番号206767−6のビマトプロストは、ロット番号206767のビマトプロストの褐色瓶から取り出されたものであることも、上記(1)の事実1、事実2、上記(2)の事実3〜事実5から明らかであるといえるから、以下の事実を認定することができる。

事実9:ケイマンケミカル社は、カタログ番号16820、ロット番号206767のビマトプロストの結晶を、2009年3月20日、4月10日、5月15日にフナコシ株式会社へ、2009年7月17日にカブル SASへそれぞれ輸出及び譲渡したこと。

(4)公然実施された発明について
上記(1)〜(3)で検討したとおり、上記事実1〜5及び上記事実9から、以下の公然実施された発明(以下、「公然実施発明1」という。)を認めることができる。

「ケイマンケミカル社の化学製造部門において、2008年5月14日に製造された

(ビマトプロスト)のロット番号206767の結晶であって、当該結晶は、2008年5月16日に褐色瓶に詰められた後、ケイマンケミカル社の品質管理部門に送られ、2008年5月19日からケイマン在庫管理(IC)で−20℃の冷凍庫で保管されていた当該結晶の一部を、2009年3月20日、4月10日、5月15日にフナコシ株式会社へ、2009年7月17日にカブル SASへそれぞれ輸出及び譲渡し、当該結晶のXRPDピークリスト及びDSCサーモグラフは、下記の表8及び図9のとおりであるビマトプロストのロット番号206767の結晶。




また、ビマトプロストのロット番号206767の結晶の製造方法として、以下の公然実施された発明(以下、「公然実施発明2」という。)を認めることができる。

「ケイマンケミカル社の化学製造部門において、2008年5月14日に製造された

(ビマトプロスト)のロット番号206767の結晶の製造方法であって、当該結晶は、2008年5月16日に褐色瓶に詰められた後、ケイマンケミカル社の品質管理部門に送られ、2008年5月19日からケイマン在庫管理(IC)で−20℃の冷凍庫で保管されていた当該結晶の一部を、2009年3月20日、4月10日、5月15日にフナコシ株式会社へ、2009年7月17日にカブル SASへそれぞれ輸出及び譲渡し、当該結晶のXRPDピークリスト及びDSCサーモグラフは、下記の表8及び図9のとおりであるビマトプロストのロット番号206767の結晶であり、当該結晶は、ビマトプロスト200gをアセトン(8体積):1600ml中に溶解し、MTBE(32体積):6400mlを室温、一晩で加え、2008年5月14日にその反応物を5℃で冷やし、ろ過、乾燥したことにより得られた当該結晶の製造方法。





上記のとおり、請求人が提出した各甲号証から、上記公然実施発明1及び公然実施発明2を認定することができたので、以下、本件特許の各発明と対比・検討する。

(5)本件発明1と公然実施発明1との対比
公然実施時期について
公然実施発明1は、上記(4)に示したとおり、ケイマンケミカル社の化学製造部門において、2008年5月14日にビマトプロストのロット番号206767の結晶が製造され、当該結晶が2009年3月20日、4月10日、5月15日にフナコシ株式会社に、2009年7月17日にカブル SASに、それぞれ輸出及び譲渡されていることから、遅くとも2009年7月17日時点で、公然実施されていたといえる。
この公然実施時期は、本件発明1に係る出願の優先日である2009年11月2日より前であると認められる。

イ 対比
(ア)公然実施発明1のビマトプロストの化学構造式は、

であり、本件発明1に示される式Iの構造

と同じ化学構造式であり、この点で両者に差異はない。

(イ)公然実施発明1のビマトプロストの結晶のXRPDピークリストは、本件発明1の本件特許明細書段落【0048】〜【0051】に記載されているように粉末X線回折による2θ角のピークリストであるから、本件発明1の「粉末X線回折(XRPD)スペクトルにおいて下述の2θ角」に相当する。

(ウ)公然実施発明1のビマトプロストの結晶のXRPDピークリストには、合計55個のXRPDスペクトルの特徴的ピークである2θ角が示されており、その中には、1番目に3.2°、26番目に19.8°、29番目に20.7°、33番目に22.8°のピークである2θ角があることが示されている。
一方、本件発明1は、XRPDスペクトルのピークとして3.2±0.2°、19.9±0.2°、20.8±0.2°、および22.8±0.2°の4個のピークである2θ角を特定している。これらのピークである2θ角は、いずれも±0.2°の範囲で誤差を許容する特定となっている。
そこで、それぞれのピークについて検討すると、公然実施発明1の1番目の3.2°のピークは、本件発明1の1番目の3.2±0.2°のピークと一致している。
公然実施発明1の26番目の19.8°のピークは、本件発明1の2番目の19.9±0.2°のピークである19.9より−0.1°ずれているが、本件発明1の当該ピークは、±0.2°の範囲で誤差を許容しており、公然実施発明1の26番目のピークは、−0.1°で誤差範囲内であるから、本件発明1の19.9±0.2°に含まれる。
公然実施発明1の29番目の20.7°のピークは、本件発明1の3番目の20.8±0.2°のピークである20.8より−0.1°ずれているが、本件発明1の当該ピークは、±0.2°の範囲で誤差を許容しており、公然実施発明1の29番目のピークは、−0.1°で誤差範囲内であるから、本件発明1の20.8±0.2°に含まれる。
公然実施発明1の33番目の22.8°のピークは、本件発明1の4番目の22.8±0.2°のピークと一致している。

(エ)公然実施発明1における第一番目に強いピークは、表8から28番目の20.3°のピーク(100(%))であり、第二番目に強いピークは、29番目の20.7°のピーク(52.6(%))である。公然実施発明1の第一番目に強いピークである28番目の20.3°のピークは、本件発明1における±0.2°の範囲の誤差を考慮しても本件発明1の4つの特徴的ピークに含まれないピークであり、第1番目に強いピークが異なっている。
そうすると、本件発明1と公然実施発明1とは、上記(ア)〜(ウ)の点で一致し、以下の点で実質的に相違する。

相違点1:本件発明1は、特徴的ピークのうち第一番目に強い特徴的ピークは2θ角:19.9±0.2゜にあり、第二番目に強い特徴的ピークは 2θ角:20.8±0.2゜にあるのに対して、公然実施発明1は、第一番目に強いピークが28番目の20.3°、第二番目に強いピークが29番目の20.7°である点

(オ)小括
そうすると、本件発明1と公然実施発明1との間には、上記相違点1が存在することから、本件発明1は、公然実施をされた発明であるとはいえない。

(6)本件発明2と公然実施発明1との対比
ア 対比
(ア)公然実施発明1のビマトプロストの化学構造式(化学構造式省略)は、本件発明2に示される式Iの構造(化学構造式省略)と同じ化学構造式であり、この点で両者に差異はない。

(イ)公然実施発明1のビマトプロストの結晶のXRPDピークリストは、本件発明2の本件特許明細書段落【0048】〜【0051】に記載されているように粉末X線回折による2θ角のピークリストであるから、本件発明2の「粉末X線回折(XRPD)スペクトルにおいて下述の2θ角」に相当する。

(ウ)公然実施発明1のビマトプロストの結晶のXRPDピークリストには、合計55個のXRPDスペクトルの特徴的ピークである2θ角が示されており、その中には、1番目に3.2°、3番目に5.5°、11番目に11.4°、20番目に16.7°、21番目に17.6°26番目に19.8°、29番目に20.7°、33番目に22.8°のピークである2θ角があることが示されている。
一方、本件発明2は、XRPDスペクトルのピークとして3.2±0.2°、19.9±0.2°、20.8±0.2°、22.8±0.2°、5.5±0.2°、11.4±0.2°、16.7±0.2°および17.6±0.2°の8個のピークである2θ角を特定している。これらのピークである2θ角は、いずれも±0.2°の範囲で誤差を許容する特定となっている。
そこで、それぞれのピークについて検討すると、公然実施発明1の1番目の3.2°のピークは、本件発明2の1番目の3.2±0.2°のピークと一致している。
公然実施発明1の26番目の19.8°のピークは、本件発明2の2番目の19.9±0.2°のピークである19.9より−0.1°ずれているが、本件発明2の当該ピークは、±0.2°の範囲で誤差を許容しており、公然実施発明1の26番目のピークは、−0.1°で誤差範囲内であるから、本件発明2の19.9±0.2°に含まれる。
公然実施発明1の29番目の20.7°のピークは、本件発明2の3番目の20.8±0.2°のピークである20.8より−0.1°ずれているが、本件発明2の当該ピークは、±0.2°の範囲で誤差を許容しており、公然実施発明1の29番目のピークは、−0.1°で誤差範囲内であるから、本件発明2の20.8±0.2°に含まれる。
公然実施発明1の33番目の22.8°のピークは、本件発明2の4番目の22.8±0.2°のピークと一致している。
公然実施発明1の3番目の5.5°のピークは、本件発明2の5番目の5.5±0.2°のピークと一致している。
公然実施発明1の11番目の11.4°のピークは、本件発明2の6番目の11.4±0.2°のピークと一致している。
公然実施発明1の20番目の16.7°のピークは、本件発明2の7番目の16.7±0.2°のピークと一致している。
公然実施発明1の21番目の17.6°のピークは、本件発明2の8番目の17.6±0.2°のピークと一致している。

(エ)そうすると、本件発明2と公然実施発明1とは、上記(ア)〜(ウ)の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点2:本件発明2は、「粉末X線回折(XRPD)スペクトルは図2に示されるとおりである」とし、以下の図2「

」を示して特定しているのに対して、公然実施発明1は、表8に示されるXRPDピークリスト(表8は省略)である点

(オ)相違点2について
公然実施発明1の表8は、上記甲1の(甲1c)に記載されたものであり、このXRPDピークリストに対応するXRPDパターン(XRPDスペクトル)は、上記甲1の(甲1g)に記載されたものである。
そうすると、本件発明2の図2の粉末X線回折(XRPD)スペクトルと公然実施発明1の表8に対応するXRPDパターン(XRPDスペクトル)は、スペクトルのピークや高さが一致しておらず、同一のXRPDスペクトルとは認められないから、相違点2は、実質的な相違点である。

(カ)小括
そうすると、本件発明2と公然実施発明1との間には、上記相違点2が存在することから、本件発明2は、公然実施をされた発明であるとはいえない。

(7)本件発明7と公然実施発明1との対比
本件発明7は、本件発明1を引用し、「示差走査熱量分析チャート(DSC)において、66.5−70.5℃で最大のピーク値」であることを特定している。
しかしながら、本件発明7は、本件発明1を引用しており、本件発明1は、上記(5)で検討したとおり、公然実施をされた発明であるとはいえないから、本件発明1を引用する本件発明7は、本件発明1と同様に、公然実施をされた発明であるとはいえない。

(8)本件発明19と公然実施発明1との対比
本件発明19は、本件発明2を引用し、「示差走査熱量分析チャート(DSC)において、66.5−70.5℃で最大のピーク値」であることを特定している。
しかしながら、本件発明19は、本件発明2を引用しており、本件発明2は、上記(6)で検討したとおり、公然実施をされた発明であるとはいえないから、本件発明2を引用する本件発明19は、本件発明2と同様に、公然実施をされた発明であるとはいえない。

(9)まとめ
上記のとおりであるから、本件発明1、2、7、19は、本件特許の出願前に日本国又は外国において公然実施をされた発明ではなく、特許法第29条第1項第2号の規定に該当しないから、本件発明1、2、7、19に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当せず、無効とすべきものではない。

2 無効理由2−1について
(1)本件発明8と公然実施発明2との対比
公然実施発明2の「ビマトプロスト200gをアセトン(8体積):1600ml中に溶解し」は、本件発明8の「式Iに示される・・・ビマトプロストと、アセトン、ブタノン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸-iso-プロピル、酢酸-t-ブチル、塩化メチレン、およびiso-プロピルアルコールから選ばれる一種の溶媒とを混合し、溶液1を得る工程」に相当する。
公然実施発明2の「ケイマンケミカル社の化学製造部門において、2008年5月14日に製造されたビマトプロストのロット番号206767の結晶の製造方法であって、当該結晶は、2008年5月16日に褐色瓶に詰められた後、ケイマンケミカル社の品質管理部門に送られ、2008年5月19日からケイマン在庫管理(IC)で−20℃の冷凍庫で保管されていた当該結晶の一部を、2009年3月20日、4月10日、5月15日にフナコシ株式会社へ、2009年7月17日にカブル SASへそれぞれ輸出及び譲渡し、当該結晶のXRPDピークリスト及びDSCサーモグラフは、下記の表8及び図9のとおりであるビマトプロストのロット番号206767の結晶であり」は、本件発明8の「構造が式Iに示されるように、粉末X線回折(XRPD)スペクトルにおいて下述の2θ角:3.2±0.2°、19.9±0.2°、20.8±0.2゜、および22.8±0.2゜に特徴的ピークがある、ビマトプロストの結晶型Aの製造方法
【化1】
(化学構造式省略)
」である限りにおいて共通している。
そうすると、本件発明8と公然実施発明2とは、「構造が式Iに示されるように、粉末X線回折(XRPD)スペクトルにおいて下述の2θ角:3.2±0.2°、19.9±0.2°、20.8±0.2゜、および22.8±0.2゜に特徴的ピークがある、ビマトプロストの結晶の製造方法であって
【化1】(化学構造式省略)
(1)式Iに示されるビマトプロストと、溶媒とを混合し、溶液1を得る工程を含む、ことを特徴とするビマトプロストの結晶の製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違している。

相違点3:(1)の工程について、本件発明8は、溶液と混合するビマトプロストの性状が「油状物」であること及び、混合の温度を「10〜30℃」と特定しているのに対して、公然実施発明2は溶液と混合するビマトプロストの性状及び混合温度について特定されていない点

相違点4:(2)の工程において、本件発明8は、「溶液1とペンタン、ヘキサン、ヘプタン、および石油エーテルから選ばれる一種又は一種以上の非極性溶媒とを混合し、溶液2を得る」のに対して、公然実施発明2は、「MTBE(32体積):6400mlを室温で一晩で加え」ている点

相違点5:(3)の工程において、本件発明8は、「溶液2を撹拌し、前述のビマトプロストの結晶型Aを得る」のに対して、公然実施発明2は、「その反応物を5℃で冷やし、ろ過、乾燥したことにより得られた」ものである点

イ 相違点3〜相違点5について
相違点3〜相違点5は、化合物の結晶化を行う場合、対象となる化合物から結晶を得るための一連の操作を特定したものであるから、以下、相違点3〜5について、まとめて検討する。
甲18には、上記(甲18d)より、ビマトプロストの結晶形態Iを生産する方法として、「a)粗ビマトプロストを、沸点あるいは沸点近くで有機溶媒あるいは有機溶媒と貧溶媒の混合物に溶解する;
b)その熱溶液を冷却する;
c)上澄液から沈殿物を分離する;
d)得られた固体を真空下低温で乾燥させ、その後30℃から40℃で乾燥させ、それにより他の物理的形態を実質的に含まないビマトプロスト結晶形態Iを得る」こと、有機溶媒としては、具体的に「前記有機溶媒は、アルコール類、エステル類、ケトン類、塩素系有機溶媒、およびこれらの混合物からなる群から選択される。・・・・前記ケトン類は好ましくは、アセトン、メチルエチルケトン、イソプロピルアセトン、およびこれらの混合物からなる群から選択される」こと、貧溶媒としては、具体的に「炭化水素類、エーテル類、およびこれらの混合物からなる群から選択される。・・・・好ましくは飽和炭化水素である。該飽和炭化水素は好ましくは、ペンタン、ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン、およびこれらの混合物からなる群から選択される。該エーテル類は好ましくは、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、MTBE、およびこれらの混合物からなる群から選択される」こと、上記(甲18g)より、実施例21に「粗製ビマトプロストは、以下の手順でEtOAc(27mL)とMTBE(54mL)の混合物から結晶化された:粗製ビマトプロストを沸点あるいは沸点近くで溶解し、この熱溶液を室温まで冷却した。追加のMTBE(40mL)を足し、その混合物を0℃から5℃で2時間撹拌した。沈殿物をろ過し、冷たいMTBE(2×20mL)とともにフィルターに流し、真空下で0〜5℃で1時間、室温で0.5時間、そして30〜40℃で2時間乾燥させた。これにより、HPLCで98%の純度、1%未満の5−トランス異性体1bを有する白色固体としてビマトプロスト結晶形態Iを7.5g(80%)得た。ビマトプロスト(7.5g)は以下の手順でEtOAc(75mL)から結晶化された。ビマトプロストを沸点あるいは沸点近くで溶解し、熱溶液を室温へと冷却し、その混合物を室温で1時間そして0〜5℃で2時間保存した。沈殿物をろ過し、真空下で0〜5℃で1時間、室温で0.5時間、そして30〜40℃で2時間乾燥させた」こと、上記(甲18h)より、実施例30に「油状ビマトプロスト(米国特許第5,352,708号明細書にしたがって調製された;1.0g)とエーテル(20mL)の混合物を沸点あるいは沸点近くで0.5時間撹拌して、徐々に0〜5℃へと冷却した。沈殿物をろ過し、真空下で0〜5℃で1時間、室温で0.5時間、そして30〜40℃で2時間乾燥させた。これにより、白色固体としてのビマトプロスト結晶形態Iを0.94g(94%回収)得た」ことがそれぞれ記載されている。
これらの記載を総合すると、甲18に記載されたビマトプロストの結晶形態Iを生産する方法は、a)粗ビマトプロストを、沸点あるいは沸点近くで有機溶媒あるいは有機溶媒と貧溶媒の混合物に溶解し、b)その熱溶液を冷却し、c)上澄液から沈殿物を分離し、d)得られた固体を真空下低温で乾燥させ、その後30℃から40℃で乾燥させ、ビマトプロスト結晶形態Iを得る方法が記載されており、その際、有機溶媒としては、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、イソプロピルアセトンなど)、貧溶媒としては、飽和炭化水素(ペンタン、ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサンなど)やエーテル類(ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、MTBEなど)を使用できることであるといえる。
有機溶媒としてのケトン類の沸点は、上記乙3によると、アセトン56.1〜56.5℃(上記(乙3a))、メチルエチルケトン79.6℃(上記(乙3f))、イソプロピルアセトン 117℃(上記(乙3c)および(乙3d))であることから、甲18のビマトプロストの結晶形態Iを生産する方法における粗ビマトプロストを溶解する温度は、56.1℃〜117℃のあるいはその近傍であること、粗ビマトプロストは、油状物の場合もあること(上記(甲18h))と認められる。

相違点3〜5における、ビマトプロストの結晶化の一連の操作について、特に相違点3の「混合の温度」について、甲18では、有機溶媒の温度を沸点あるいは沸点近く、少なくともアセトンの場合、56.1℃前後まで加熱し、粗ビマトプロストを溶解し、貧溶媒と混合し、冷却した後、結晶を得ている。また、他の例示された有機溶媒についてもアセトンよりも高い沸点を有するものが示されていることから、甲18の記載からは、相違点3における「混合の温度」として本件発明8の「10〜30℃」の範囲を選択する動機付けがないと言わざるを得ない。
そうすると、結晶化の技術分野において、結晶化における各工程の違いが結晶の析出に影響を与えることが技術常識であることから、この相違点3がビマトプロストの結晶化の一連の操作において、以後の結晶化に影響を与えるものと認められる。
したがって、本件発明8は、相違点4〜5について検討するまでもなく、公然実施発明2および甲18に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(2)本件発明10〜15について
本件発明10〜15は、いずれも、本件発明8を直接あるいは間接的に引用し、さらに、本件発明10は、「工程(3)において、前述撹拌時間は1〜50時間である」ことを、本件発明11は、「工程(3)において、前述撹拌温度は−25〜10℃である」ことを、本件発明12は、「工程(3)において、前述撹拌の温度は−25℃、−10℃、0℃、5℃、或いは10℃である」ことを、本件発明13は、「工程(1)において、前述式Iに示される化合物のビマトプロストと溶媒との混合比率は1:5〜100で、溶液1を得る」ことを、本件発明14は、「工程(2)において、溶液1と非極性溶媒との混合比率は0.3〜2:1である」ことを、本件発明15は、「工程(1)における前述の油状物のビマトプロストは、式Iに示されるビマトプロストとC1〜C4の直鎖又は分枝のアルキルアルコールであるアルコール系溶媒とを混合した後、溶媒がなくなるまで濃縮することによって得られる」ことを、それぞれ特定している。
しかしながら、上記(1)において検討したとおり、本件発明8は、公然実施発明2および甲18に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものとはいえないから、本件発明8を直接あるいは間接的に引用し、さらに、工程(1)〜(3)を特定している本件発明10〜15は、本件発明8と同様に、公然実施発明2および甲18に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(3)まとめ
本件発明8、10〜15は、公然実施発明2及び甲18に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものではなく、特許法第29条第2項の規定に該当しないから、本件発明8、10〜15に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当せず、無効とすべきものではない。

3 無効理由2−2について
(1)本件発明16と公然実施発明1との対比
ア 本件発明16は、請求項1を直接あるいは間接的に引用し、さらに、「緑内障を治療する薬物の製造のための使用」であることを特定している。
本件発明16と公然実施発明1とを対比すると、請求項1に記載のビマトプロストの結晶型A(本件発明1)と公然実施発明1には、上記1 無効理由1−1の(5)で検討したとおりの本件発明1の相違点1が存在し、さらに、以下の点で相違している。

相違点6:本件発明16は、さらに、当該ビマトプロストの結晶型Aについて「緑内障を治療する薬物の製造のための使用」と特定しているのに対して、公然実施発明1には、前記特定がなされていない点

イ 相違点1及び6について
相違点6について、確かに、甲18には、上記(甲18b)より、上昇した眼内圧(IOP)は、最終的に失明をもたらし得る進行性の視神経病である緑内障の病因と関連する主要な危険因子であり、プロスタマイド類似物は、上昇した眼内圧と関連する緑内障およびその他の疾患の臨床管理における代表的な有力治療薬であること、IOPを低減するために使用される合成プロスタマイド類似物は、(9S,11R,15S)−9,11,15−トリヒドロキシ−17−フェニル−18,19,20−トリノル−5Z,13E−プロスタジエン酸エチルアミドであり、当該化合物は、一般名称ビマトプロストとして知られており、開放隅角緑内障および高眼圧症の治療のために現在、商品名ルミガン(登録商標)−0.03%ビマトプロスト点眼液としてアラガン社により販売されている(Drugs Aging,2002,19,231)こと、上記(甲18e)より、医薬品の製造におけるビマトプロスト結晶形態Iの使用を提供することが、記載されている。
また、甲20には、上記(甲20a)および(甲20b)より、ビマトプロストを含む化合物の高眼圧処置有効量を眼に適用することを含んで成る方法が記載されている(なお、高眼圧処置が緑内障を対象としていることは、当業者に周知である。)。
しかしながら、上記相違点1は、実質的な相違点であり、この相違点を動機付ける記載が公然実施発明1や甲18、甲20等に何ら記載されていない以上、公然実施発明1の結晶に甲18及び甲20に記載された発明を組み合わせたとしても、本件発明16は、当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(2)本件発明17と公然実施発明1との対比
ア 本件発明17は、請求項1を直接あるいは間接的に引用し、さらに、「薬学的に許容される担体とを含む、ことを特徴とする薬物組成物」であることを特定している。
本件発明17と公然実施発明1とを対比すると、請求項1に記載のビマトプロストの結晶型A(本件発明1)と公然実施発明1には、上記1 無効理由1−1の(5)で検討したとおりの本件発明1の相違点1が存在し、さらに、以下の点で相違している。

相違点7:本件発明17は、さらに、当該ビマトプロストの結晶型Aと「薬学的に許容される担体」とを含む「薬物組成物」であるのに対して、公然実施発明1には、薬学的に許容される担体及び薬物組成物とすることが特定されていない点

イ 相違点1及び相違点7について
相違点7について、確かに、甲18には、上記(1)アで摘示した事項に加え、さらに、(甲18e)より、ビマトプロストを含む組成物の調製;および製薬学的用途(例えば、局所的な眼への使用)に適した単位投与形態の製造であること、本組成物は有効成分である治療上有効量のビマトプロスト結晶形態Iを、慣用的な薬学的に許容される賦形剤(例えば、眼に受容可能な賦形剤)と組み合わせることにより調製されることが、記載されている。
しかしながら、上記相違点1は、実質的な相違点であり、この相違点を動機付ける記載が公然実施発明1や甲18、甲20等に何ら記載されていない以上、公然実施発明1の結晶に甲18及び甲20に記載された発明を組み合わせたとしても、本件発明17は、当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(3)本件発明18と公然実施発明1との対比
ア 本件発明18は、請求項1を直接あるいは間接的に引用し、さらに、「薬学的に許容される担体とを混合し、請求項17に記載の薬物組成物を得る工程、を含む、ことを特徴とする請求項17に記載の薬物組成物の製造方法」であることを特定している。
本件発明18と公然実施発明1とを対比すると、上記(2)アで指摘した相違点1及び相違点7に加え、以下の点で相違している。

相違点8:本件発明18は、さらに、当該ビマトプロストの結晶型Aに「薬学的に許容される担体とを混合し、請求項17に記載の薬物組成物を得る工程」を含む「薬物組成物の製造方法」であるのに対して、公然実施発明1には、前記工程及び薬物組成物の製造方法が特定されていない点

イ 相違点1、相違点7及び相違点8について
上記(2)イで検討したとおり、本件発明18が引用している本件発明17は、公然実施発明1の結晶に甲18及び甲20に記載された発明を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明できたものとはいえない。
また、相違点8は、相違点7における構成を単に製造方法の表現に改めたものにしたにすぎない。
したがって、本件発明17を引用する本件発明18は、公然実施発明1、甲18及び甲20に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(4)本件発明20と公然実施発明1との対比
ア 本件発明20は、請求項2を直接あるいは間接的に引用し、さらに、「緑内障を治療する薬物の製造のための使用」であることを特定している。
本件発明20と公然実施発明1とを対比すると、請求項2に記載のビマトプロストの結晶型A(本件発明2)と公然実施発明1には、上記1 無効理由1−1の(6)で検討したとおりの本件発明2の相違点2が存在し、さらに、以下の点で相違している。

相違点9:本件発明20は、さらに、当該ビマトプロストの結晶型Aについて「緑内障を治療する薬物の製造のための使用」と特定しているのに対して、公然実施発明1には、前記特定がなされていない点

イ 相違点2及び9について
相違点9は、上記(1)アの相違点6と同じであり、また、甲18及び甲20には、上記(1)イで指摘したことが記載されている。
しかしながら、上記相違点2は、実質的な相違点であり、この相違点を動機付ける記載が公然実施発明1や甲18、甲20等に何ら記載されていない以上、公然実施発明1の結晶に甲18及び甲20に記載された発明を組み合わせたとしても、本件発明20は、当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(5)本件発明21と公然実施発明1との対比
ア 本件発明21は、請求項2を直接あるいは間接的に引用し、さらに、「薬学的に許容される担体とを含む、ことを特徴とする薬物組成物」であることを特定している。
本件発明21と公然実施発明1とを対比すると、請求項2に記載のビマトプロストの結晶型A(本件発明2)と公然実施発明1には、上記1 無効理由1−1の(6)で検討したとおりの本件発明2の相違点2が存在し、さらに、以下の点で相違している。

相違点10:本件発明21は、さらに、当該ビマトプロストの結晶型Aと「薬学的に許容される担体」とを含む「薬物組成物」であるのに対して、公然実施発明1には、薬学的に許容される担体及び薬物組成物とすることが特定されていない点

イ 相違点2及び相違点10について
相違点10は、上記(2)アの相違点7と同じであり、また、甲18及び甲20には、上記(2)イで摘示したことが記載されている。
しかしながら、上記相違点2は、実質的な相違点であり、この相違点を動機付ける記載が公然実施発明1や甲18、甲20等に何ら記載されていない以上、公然実施発明1の結晶に甲18及び甲20に記載された発明を組み合わせたとしても、本件発明21は、当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(6)本件発明22と公然実施発明1との対比
ア 本件発明22は、請求項2を直接あるいは間接的に引用し、さらに、「薬学的に許容される担体とを混合し、請求項21に記載の薬物組成物を得る工程、を含む、ことを特徴とする請求項21に記載の薬物組成物の製造方法」であることを特定している。
本件発明22と公然実施発明1とを対比すると、上記(5)アで指摘した相違点2及び相違点10に加え、以下の点で相違している。

相違点11:本件発明22は、さらに、当該ビマトプロストの結晶型Aに「薬学的に許容される担体とを混合し、請求項21に記載の薬物組成物を得る工程」を含む「薬物組成物の製造方法」であるのに対して、公然実施発明1には、前記工程及び薬物組成物の製造方法が特定されていない点

イ 相違点2、相違点10及び相違点11について
上記(5)イで検討したとおり、本件発明22が引用している本件発明21は、公然実施発明1の結晶に甲18及び甲20に記載された発明を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明できたものとはいえない。
また、相違点11は、相違点10における構成を単に製造方法の表現に改めたものにしたにすぎない。
したがって、本件発明21を引用する本件発明22は、公然実施発明1、甲18及び甲20に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(7)まとめ
上記のとおり、本件発明16〜18、20〜22は、公然実施発明1並びに甲18及び甲20に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではないから、本件発明16〜18、20〜22に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当せず、無効とすべきものではない。

4 無効理由3−1について
(1)甲18に記載された発明について
甲18には、上記(甲18a)の請求項1及び6から、「5.4±0.2、10.9±0.2、11.3±0.2、13.7±0.2、16.6±0.2、17.5±0.2、19.9±0.2、20.7±0.2および22.7±0.2°2θに呈される特性ピークを有するビマトプロストの結晶形態I。」が記載されており、(甲18d)の[0036]、(甲18f)の[0090]の記載から上記の特性ピークはX線粉末回折システムにより測定されたパターンであることが理解できる。
また、甲18の上記(甲18g)には、実施例21として、ビマトプロストの結晶形態Iを具体的に得ている。
そうすると、甲18には、「X線粉末回折システムにより測定された、5.4±0.2、10.9±0.2、11.3±0.2、13.7±0.2、16.6±0.2、17.5±0.2、19.9±0.2、20.7±0.2および22.7±0.2°2θに呈される特性ピークを有するビマトプロストの結晶形態I。」の発明(以下、「甲18発明1」という。)が記載されていると認められる。

(2)本件発明1と甲18発明1との対比・判断
ア 本件発明1と甲18発明1とを対比
甲18発明1の「ビマトプロストの結晶」は、上記第6 1(24)の(甲18g)に示されているように化学構造式

(審決注:式中の「Bn」は、ベンジル基、「Et」は、エチル基を示す。)であることが明らかであるから、本件発明1の「構造が式Iに示されるように、・・・・ビマトプロストの結晶」及び、
「【化1】

」に相当する。
甲18発明1の「X線粉末回折システムにより測定された・・・・特性ピークを有する」は、本件発明1の「粉末X線回折(XRPD)スペクトルにおいて・・・・に特徴的ピークがある」に相当し、甲18発明1の特定ピークのうち「19.9±0.2、20.7±0.2および22.7±0.2°2θ」は、本件発明1の「2θ角:19.9±0.2°、20.8±0.2°、および22.8±0.2」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲18発明1とは、「構造が式Iに示されるように、粉末X線回折(XRPD)スペクトルにおいて下述の2θ角:19.9±0.2°、20.8±0.2°、および22.8±0.2°に特徴的ピークがある、ビマトプロストの結晶」であり、「【化1】
(化学構造式省略)
」の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点12:本件発明1は、2θ角:3.2±0.2°に特徴的ピークがあるのに対し、甲18発明1には、その特徴的ピークが特定されていない点

相違点13:甲18発明1は、さらに「5.4±0.2、10.9±0.2、11.3±0.2、13.7±0.2、16.6±0.2、17.5±0.2」の2θに呈される特性ピークを有することを特定しているのに対して、本件発明1は、特に他に特徴的ピークを特定していない点

相違点14:本件発明1は、特徴的ピークのうち第一番目に強い特徴的ピークは2θ角:19.9±0.2゜にあり、第二番目に強い特徴的ピークは 2θ角:20.8±0.2゜にあるのに対して、甲18発明1には、そのような特定がされていない点

新規性進歩性に対する判断
相違点12について検討する。
甲18には、結晶形態Iの粉末X線回折(XRPD)スペクトルとして図1((甲18i))が示されているが、その図には5〜35の範囲の2θ角が記載されており、5より小さい2θ角については何ら示されていない。
そうすると、甲18には、2θ角:3.2に特徴的ピークがあることが記載されていないことから、この点は実質的な相違点となる。
また、この点について、当業者が容易に発明できたものとも認められない。

上記のとおり、相違点12は実質的な相違点であり、また、甲18の記載から当業者が容易に発明できたものとはいえないから、相違点13及び相違点14について検討するまでもなく、本件発明1は、甲18に記載された発明、及び甲18に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものとはいえない。

ウ 請求人の主張について
(ア)請求人は、平成29年7月18日付け審判請求書第51頁〜第52頁、平成30年5月14日付け弁駁書第13頁〜18頁、平成30年8月3日付け上申書第3頁〜第4頁において、甲18に記載のビマトプロストの結晶構造について、甲19、甲21及び甲22の記載を根拠に本件発明1は、甲18に記載された発明であることを主張している。
また、請求人は、平成30年8月31日付け口頭審理陳述要領書第11頁〜第13頁、平成30年11月9日付け上申書第7頁〜第8頁において、甲18に記載のビマトプロストの結晶構造について、甲38、甲39及び甲48の記載を根拠に本件発明1は、甲18に記載された発明であることを主張している。

(イ)甲19、甲21及び甲22の記載を根拠とする主張について
甲19、甲21及び甲22は、いずれも欧州特許庁における審査に関する資料と認められる。そして、甲19、甲21及び甲22では、ビマトプロストの結晶形態について、本件特許に対応する欧州特許出願と甲18との対比で検討がなされている。しかしながら、いずれも、ビマトプロストの2θ角:3.2に特徴的ピークがないことを前提に新規性進歩性の判断を行っている。加えて、特許制度は、属地主義を採用していることから、日本において欧州特許庁の判断に何ら拘束されることはない。
したがって、請求人の当該主張を採用することはできない。

(ウ)甲38、甲39及び甲48の記載を根拠とする主張について
甲39は、ケイマンケミカル社の実験ノートで、2018年8月6日から同年8月10日にかけて行われたビマトプロストメチルエステルからビマトプロストを合成し、その結晶化を行ったものである(BI68616/0538435)。この実験は、甲18の再現実験として行われており、得られた結晶は、トリクリニックラブズにおいて、XRPD及びDSCが測定され、甲38の科学報告書において当該ビマトプロスト結晶(ロット番号0538435)のXRPDピークリスト及びDSCサーモグラムが示されている。
また、甲48は、甲39における再現実験、甲38のXRPD及びDSC分析の妥当性についてのクリストファー・ホワイトヘッド氏の宣誓供述書である。

そこで、甲39が甲18の再現実験といえるか否かについて検討する。
甲39では、ロット番号:HM_1720_122_1で示されるビマトプロストメチルエステルを原料として、甲18の段落[0140]に記載された手順(記載されている反応条件、溶媒及び試薬の量、反応温度等)で行われていると認められる。しかしながら、甲18と甲39に記載された結晶の手順は、以下の点で相違している。
<相違点a>
粗製ビマトプロスト、EtOAc、MTBEの混合物を0℃〜5℃で冷却することでビマトプロスト結晶を得る場合(第1の結晶化工程)、甲18では2時間攪拌しているのに対して、甲39では、単にアイスバスに置いたと記載されるのみで、撹拌の有無及び時間が不明である点
<相違点b>
ビマトプロスト結晶、EtOAc、MTBEの混合物を0℃〜5℃で冷却することでビマトプロスト結晶を得る場合(第2の結晶化工程)、甲18では2時間保存したのに対して、甲39では、アイスバスに置き、5℃より低い温度で撹拌したことが記載されているが、その時間が不明である点
<相違点c>
ビマトプロストが得られた各段階(粗製ビマトプロスト、第1の結晶化工程、第2の結晶化工程)において、甲18では、ビマトプロスト中に含まれる不純物である5−トランス異性体1b、15R−異性体1a、15−ケト−ビマトプロスト1cの存在について記載しているが、甲39では何ら記載がない点

相違点a、相違点bについて、結晶を析出させる場合には、撹拌あるいは静置するか、冷却する際も冷却温度および時間等が、結晶化に影響を与えることは技術常識である。
また、相違点cについても、忠実な再現実験であることを確認する意味でも測定されるべき点と認められる。
そうすると、上記甲39に記載された再現実験が甲18の段落[0140]に記載された実施例21の再現実験であるとまではいえないから、甲39は、甲18の再現実験とは認められない。
請求人は、甲48を示して、少なくとも相違点aおよび相違点bについて逸脱が許される範囲であることを述べている。
しかしながら、そもそも条件を変えなければならない理由が何ら説明されていない状況において、例え、その逸脱が化学的に許される場合であったとしても、それが、再現実験の条件として適切であることまで証明されているわけでもなく、結果として忠実な再現実験であるとまではいえないから、甲38及び甲48の記載によって、上記判断が影響されることはない。
なお、甲38と甲39には、共通するロット番号0538435が認められるから、甲38は、甲39で得られたビマトプロスト結晶を分析したものと認められるとしても、甲38のDSC分析の結果は、上記(甲38f)に記載されているようにピーク温度66.97℃であり、甲18に記載されたmp(融点)64−66℃の範囲外であることからも、甲18の再現実験とは認められない点に留意されたい。
したがって、請求人の当該主張を採用することはできない。

エ 小括
上記のとおり、本件発明1は、甲18に記載された発明ではなく、そして甲18に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものでもない。

(3)本件発明2と甲18発明1との対比・判断
ア 本件発明2と甲18発明1とを対比
甲18発明1の「ビマトプロストの結晶」は、上記第6 1(24)の(甲18g)に示されているように化学構造式(化学構造式省略)は、本件発明2の「構造が式Iに示されるように、・・・・ビマトプロストの結晶A」及び、「【化1】(化学構造式省略)」に相当する。
甲18発明1の「X線粉末回折システムにより測定された・・・・特性ピークを有する」は、本件発明2の「粉末X線回折(XRPD)スペクトルにおいて・・・・に特徴的ピークがある」に相当し、甲18発明1の特定ピークのうち「5.4±0.2、11.3±0.2、16.6±0.2、17.5±0.2、19.9±0.2、20.7±0.2および22.7±0.2°2θ」は、本件発明2の「2θ角:19.9±0.2°、20.8±0.2°、22.8±0.2°、5.5±0.2°、11.4±0.2°、16.7±0.2゜および17.6±0.2゜」に相当する。
そうすると、本件発明2と甲18発明1とは、「構造が式Iに示されるように、粉末X線回折(XRPD)スペクトルにおいて下述の2θ角:19.9±0.2°、20.8±0.2°、22.8±0.2°、5.5±0.2°、11.4±0.2°、16.7±0.2゜および17.6±0.2゜に特徴的ピークがある、ビマトプロストの結晶」であり、「【化1】(化学構造式省略)」の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点15:本件発明2は、2θ角:3.2±0.2°に特徴的ピークがあるのに対して、甲18発明1には、その特徴的ピークが特定されていない点

相違点16:甲18発明1は、さらに「10.9±0.2、13.7±0.2」の2θに呈される特性ピークを有することを特定しているのに対して、本件発明2は、特に他に特徴的ピークを特定していない点

相違点17:本件発明2は、「粉末X線回折(XRPD)スペクトルは図2に示されるとおりである」とし、以下の図2「

」を示して特定しているのに対して、甲18発明1は、そのような特定がされていない点

新規性進歩性に対する判断
相違点15について検討する。
甲18には、結晶形態Iの粉末X線回折(XRPD)スペクトルとして図1((甲18i))が示されているが、その図には5〜35の範囲の2θ角が記載されており、5より小さい2θ角については何ら示されていない。
そうすると、甲18には、2θ角:3.2に特徴的ピークがあることが記載されていないことから、この点は実質的な相違点となる。
また、この点について、当業者が容易に発明できたものとも認められない。

上記のとおり、相違点15は実質的な相違点であり、また、甲18の記載から当業者が容易に発明できたものとはいえないから、相違点16及び相違点17について検討するまでもなく、本件発明1は、甲18に記載された発明、及び甲18に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(4)本件発明7について
本件発明7は、本件発明1を直接的に引用し、さらに、示差走査熱量分析チャート(DSC)のピーク値を特定したものである。
しかしながら、本件発明7は、本件発明1と同様に2θ角:3.2に特徴的ピークがあるものであり、その点は、上記(2)で検討したとおりである。
したがって、本件発明7は、本件発明1と同様に、甲18に記載された発明ではなく、そして甲18に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(5)本件発明19について
本件発明19は、本件発明2を直接的に引用し、さらに、示差走査熱量分析チャート(DSC)のピーク値を特定したものである。
しかしながら、本件発明19は、本件発明2と同様に2θ角:3.2に特徴的ピークがあるものであり、その点は、上記(3)で検討したとおりである。
したがって、本件発明19は、本件発明2と同様に、甲18に記載された発明ではなく、そして甲18に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(6)まとめ
本件発明1、2、7、19は、甲18に記載された発明ではなく、甲18に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものとはいえないから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当せず、また、特許法第29条第2項に違反するものではなく、無効とすべきものではない。

5 無効理由3−2について
(1)甲18に記載された発明について
甲18には、前記4(1)に示した甲18発明1を製造するに当たり、上記(甲18a)の請求項17より、「ビマトプロストの結晶形態Iを生産するためのプロセスであって、該プロセスは以下のステップ:
a)粗ビマトプロストを、沸点あるいは沸点近くで有機溶媒あるいは有機溶媒と貧溶媒の混合物に溶解するステップ;
b)その熱溶液を冷却するステップ;
c)上澄液から沈殿物を分離するステップ;
d)得られた固体物を真空下低温で乾燥させ、その後30℃から40℃で乾燥させることで、ビマトプロスト結晶形態Iを与えるステップ、
を含む、プロセス。」が記載されている。
また、甲18の上記(甲18d)には、有機溶媒として、段落[0031]に、「アルコール類、エステル類、ケトン類、塩素系有機溶媒、およびこれらの混合物からなる群から選択される」こと、前記アルコール類として、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、t−ブタノールなどが選択されること、前記エステル類として、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチルなどが選択されること。前記ケトン類としてアセトン、メチルエチルケトン、イソプロピルアセトンなどが選択されること、前記塩素系有機溶媒としてジクロロメタン、クロロホルム、クロロベンゼンなどが選択されること、貧溶媒として、段落[0032]に、「炭化水素類、エーテル類、およびこれらの混合物からなる群から選択される」こと、飽和炭化水素として、ペンタン、ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサンなどが選択されること、エーテル類として、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、MTBEなどが選択されることがそれぞれ記載されている。
そして、甲18の上記(甲18g)の実施例21には、「粗製ビマトプロストをEtOAc(酢酸エチル)とMTBEの混合物に沸点又は沸点近くで溶解し、追加のMTBEを足し、その混合物を0℃から5℃で撹拌し、沈殿物をろ過し、冷たいMTBEとともにフィルターに流し、乾燥させ得たビマトプロスト結晶形態IをEtOAcから結晶化するビマトプロスト結晶形態Iを得たことが記載されている。
そうすると、甲18には、「甲18発明1のビマトプロストの結晶形態Iを生産するためのプロセスであって、該プロセスは以下のステップ:
a)粗ビマトプロストを、沸点あるいは沸点近くで有機溶媒あるいは有機溶媒と貧溶媒の混合物に溶解するステップ;
b)その熱溶液を冷却するステップ;
c)上澄液から沈殿物を分離するステップ;
d)得られた固体物を真空下低温で乾燥させ、その後30℃から40℃で乾燥させることで、ビマトプロスト結晶形態Iを与えるステップ、
を含む、プロセス。」の発明(以下、「甲18発明2」という。)が記載されていると認められる。

(2)本件発明8と甲18発明2との対比・判断
ア 本件発明8と甲18発明2とを対比
甲18発明2の「粗ビマトプロスト」は、本件発明8の「式Iに示される油状物のビマトプロスト」に相当する。
甲18発明2の「粗ビマトプロスト」を「有機溶媒」の混合物に溶解するステップは、本件発明8の「(1)式Iに示されるビマトプロスト」と「溶媒とを混合し、溶液1を得る工程」に相当する。
甲18発明2の「甲18発明1のビマトプロストの結晶形態Iを生産するためのプロセス」は、本件発明8の「構造が式Iに示されるように、粉末X線回折(XRPD)スペクトルにおいて下述の2θ角:19.9±0.2°、20.8±0.2゜、および22.8±0.2゜に特徴的ピークがある、ビマトプロストの結晶型Aの製造方法
【化1】(化学構造式省略)」である限りにおいて共通している。

そうすると、本件発明8と甲18発明2とは、「構造が式Iに示されるように、粉末X線回折(XRPD)スペクトルにおいて下述の2θ角:19.9±0.2°、20.8±0.2゜、および22.8±0.2゜に特徴的ピークがある、ビマトプロストの結晶の製造方法であって
【化1】(化学構造式省略)
(1)式Iに示されるビマトプロストと、溶媒とを混合し、溶液1を得る工程を含む、ことを特徴とするビマトプロストの結晶の製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違している。

相違点18:本件発明8では、「溶液1とペンタン、ヘキサン、ヘプタン、および石油エーテルから選ばれる一種又は一種以上の非極性溶媒とを混合し、溶液2を得る工程を含むのに対して、甲18発明2は、そのような特定がない点。

相違点19:(1)の工程において、本件発明8では、混合の温度が10〜30℃であるのに対して、甲18発明2では、沸点又は沸点近くである点。

相違点20:本件発明8は、(1)の工程において、溶液と混合するビマトプロストの性状が「油状物」であるのに対して、甲18発明2は、「粗ビマトプロスト」である点

相違点21:溶媒について、本件発明8は、「アセトン、ブタノン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸-iso-プロピル、酢酸-t-ブチル、塩化メチレン、およびiso-プロピルアルコールから選ばれる一種」と特定されているのに対して、甲18発明2は、特に特定されていない点

加えて、製造するビマトプロストの結晶については、上記4(2)で示した相違点12及び相違点13を有している点

イ 相違点18、相違点19および相違点20について検討する。
甲18発明2は、ビマトプロストと溶媒を、沸点あるいは沸点近くで混合して溶解させ、その溶液を冷却して、結晶を得る当業者によく知られた通常の再結晶化方法である。
しかしながら、本件発明8では、ビマトプロストの油状物をあえて、10〜30℃という溶媒の沸点よりも低い温度で混合したのち、いわゆる貧溶媒といわれる非極性溶媒を添加し再結晶を行っていることから、結晶化のための条件は異なっており、相違点18〜相違点20は、実質的な相違点である。
また、甲18には、甲18発明2に代表される通常の再結晶化方法が記載されているにとどまり、甲18発明2において、ビマトプロストの油状物を10〜30℃の範囲で混合することは、甲18に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものとは認められない。
さらに、得られたビマトプロストの結晶は、上記のとおり相違点12〜相違点13を有しており、この相違点12については、上記4(2)で検討したとおりである。
したがって、本件発明8は、相違点21及び相違点13について検討するまでもなく、甲18に記載された発明ではなく、甲18に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(3)本件発明10〜14について
本件発明10〜14は、いずれも、本件発明8を直接あるいは間接的に引用し、さらに、本件発明10は、「工程(3)において、前述撹拌時間は1〜50時間である」ことを、本件発明11は、「工程(3)において、前述撹拌温度は−25〜10℃である」ことを、本件発明12は、「工程(3)において、前述撹拌の温度は−25℃、−10℃、0℃、5℃、或いは10℃である」ことを、本件発明13は、「工程(1)において、前述式Iに示される化合物のビマトプロストと溶媒との混合比率は1:5〜100で、溶液1を得る」ことを、本件発明14は、「工程(2)において、溶液1と非極性溶媒との混合比率は0.3〜2:1である」ことを、それぞれ特定している。
しかしながら、上記(2)において検討したとおり、本件発明8は、甲18に記載された発明ではなく、甲18に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものでもないから、本件発明8を直接あるいは間接的に引用し、さらに、工程(1)〜(3)を特定している本件発明10〜14は、本件発明8と同様に、甲18に記載された発明ではなく、甲18に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(4)まとめ
本件発明8、10〜14は、甲18に記載された発明ではなく、甲18に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものではないことから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当せず、また、特許法第29条第2項に違反するものではなく、本件発明8、10〜14に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当せず、無効とすべきものではない。

6 無効理由3−3について
(1)本件発明16について
ア 本件発明16は、本件発明1を直接あるいは間接的に引用し、さらに、「緑内障を治療する薬物の製造のための使用」であることを特定している。
しかしながら、上記4(2)で検討したとおり、本件発明1は、甲18に記載された発明ではなく、甲18に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものでもない。
そうすると、甲18の上記(甲18b)に「緑内障を治療する薬物」であることが記載されていたとしても、本件発明16は、本件発明1と同様に、甲18に記載された発明ではなく、甲18に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(2)本件発明17について
ア 本件発明17は、本件発明1を直接あるいは間接的に引用し、さらに、「薬学的に許容される担体とを含む、ことを特徴とする薬物組成物」であることを特定している。
しかしながら、上記4(2)で検討したとおり、本件発明1は、甲18に記載された発明ではなく、甲18に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものとはいえない。
そうすると、甲18の上記(甲18e)にビマトプロストを含む組成物の調製;および製薬学的用途(例えば、局所的な眼への使用)に適した単位投与形態の製造であること、本組成物は有効成分である治療上有効量のビマトプロスト結晶形態Iを、慣用的な薬学的に許容される賦形剤(例えば、眼に受容可能な賦形剤)と組み合わせることにより調製されることが記載されていたとしても、本件発明17は、本件発明1と同様に、甲18に記載された発明ではなく、甲18に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(3)本件発明18について
ア 本件発明18は、本件発明1を直接あるいは間接的に引用し、さらに、「薬学的に許容される担体とを混合し、請求項17に記載の薬物組成物を得る工程、を含む、ことを特徴とする請求項17に記載の薬物組成物の製造方法」であることを特定している。
しかしながら、上記4(2)で検討したとおり、本件発明1は、甲18に記載された発明ではなく、甲18に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものとはいえない。
そうすると、甲18には、上記(1)及び(2)で指摘した事項が記載されていたとしても、本件発明18は、本件発明1と同様に、甲18に記載された発明ではなく、甲18に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(4)本件発明20について
ア 本件発明20は、本件発明2を直接あるいは間接的に引用し、さらに、「緑内障を治療する薬物の製造のための使用」であることを特定している。
しかしながら、上記4(3)で検討したとおり、本件発明2は、甲18に記載された発明ではなく、甲18に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものとはいえない。
そうすると、甲18の上記(甲18b)に「緑内障を治療する薬物」であることが記載されていたとしても、本件発明20は、本件発明2と同様に、甲18に記載された発明ではなく、甲18に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(5)本件発明21について
ア 本件発明21は、本件発明2を直接あるいは間接的に引用し、さらに、「薬学的に許容される担体とを含む、ことを特徴とする薬物組成物」であることを特定している。
しかしながら、上記4(3)で検討したとおり、本件発明2は、甲18に記載された発明ではなく、甲18に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものとはいえない。
そうすると、甲18の上記(甲18e)にビマトプロストを含む組成物の調製;および製薬学的用途(例えば、局所的な眼への使用)に適した単位投与形態の製造であること、本組成物は有効成分である治療上有効量のビマトプロスト結晶形態Iを、慣用的な薬学的に許容される賦形剤(例えば、眼に受容可能な賦形剤)と組み合わせることにより調製されることが記載されていたとしても、本件発明21は、本件発明2と同様に、甲18に記載された発明ではなく、甲18に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(6)本件発明22について
ア 本件発明22は、本件発明2を直接あるいは間接的に引用し、さらに、「薬学的に許容される担体とを混合し、請求項21に記載の薬物組成物を得る工程、を含む、ことを特徴とする請求項21に記載の薬物組成物の製造方法」であることを特定している。
しかしながら、上記4(3)で検討したとおり、本件発明2は、甲18に記載された発明ではなく、甲18に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものとはいえない。
そうすると、甲18には、上記(1)及び(2)で指摘した事項が記載されていたとしても、本件発明22は、本件発明2と同様に、甲18に記載された発明ではなく、甲18に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(7)まとめ
上記のとおり、本件発明16〜18、20〜22は、甲18に記載された発明ではなく、甲18に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものではないことから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当せず、また、特許法第29条第2項に違反するものではなく、本件発明16〜18、20〜22に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当せず、無効とすべきものではない。

7 無効理由4について
(1)本件発明15について
本件発明15は、本件発明8及び10〜14を直接あるいは間接的に引用し、さらに、「工程(1)における前述の油状物のビマトプロストは、式Iに示されるビマトプロストとC1〜C4の直鎖又は分枝のアルキルアルコールであるアルコール系溶媒とを混合した後、溶媒がなくなるまで濃縮することによって得られる」ことを特定している。
しかしながら、上記5において検討したとおり、本件発明8、10〜14は、甲18に記載された発明ではなく、甲18に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものでもないから、本件発明8を直接あるいは間接的に引用し、さらに、工程(1)を特定している本件発明15は、本件発明8、10〜14と同様に、甲18に記載された発明ではなく、甲18に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(2)まとめ
本件発明15は、甲18に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものではないことから、特許法第29条第2項に違反するものではなく、本件発明15に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当せず、無効とすべきものではない。

8 無効理由5−1について
(1)実施可能要件の解釈について
特許法第36条第4項は、「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。」と規定している。特許法第36条第4項第1号は、明細書のいわゆる実施可能要件を規定したものであって、当該実施可能要件における「実施」には、物の発明の場合、特許法第2条第3項第1号に規定する「その物の生産、使用等をする行為」が含まれ、発明の詳細な説明の記載が、物の発明について実施可能要件を満たすためには、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)がその物の生産、使用をすることができる程度のものである必要がある。
当審は、以下この観点に立って、判断をする。

(2)無効理由5−1−1 X線回折測定方法について
ア 本件特許の発明の詳細な説明の記載
(ア1)「【0002】
PGF2a類似物である(Z)-7-[(1R,2R,3R,5S)-3,5-ジヒドロキシ-2-[(E,3S)-3-ヒドロキシ-5-フェニルペント-1-エニル]シクロペンチル]-N-エチルヘプト-5-エンアミド(Bimatoprost、ビマトプロスト)は既に、他の眼圧降下剤に耐えられない或いは感度が充分ではない開放隅角緑内障および高眼圧症の患者の眼内圧を降下させるために用いられている。同時に、美容の面でもその応用が期待されている。なかでは、US2007282006A1では、ビマトプロストが睫毛と髪の増加促進作用を有すること、かつWO2007111806A2では、ビマトプロストがダイエット作用を有することが報告された。この化合物の合成方法について、US7166730B2、US7157590B2、WO2005058812などの特許では詳細に報告されたが、当該化合物の結晶型に関する研究や報告が少なく、US2009/016359A1(当審注:正しい番号は「US2009/0163596A1」であり、本件無効事件の甲18である)だけで一つの結晶型(結晶型Bと呼ぶ。図1を参照)が公開され、その粉末X線回折(XRPD)スペクトルにおいて下述の2θ角:5.4、6.2、10.9、11.3、13.7、16.6、17.5、18.3、18.6、18.9、19.4、19.7、19.9、20.7、20.9、21.6、22.7および28.2に特徴的ピークがある。」

(ア2)「【0048】
「粉末X線回折」は、「X線多晶回折(XRPD)」とも呼ばれ、現在結晶構造(すなわち結晶型)を測定する場合よく使われる試験方法である。粉末X線回折装置を用いて、X線が結晶を透過するとき一連の回折スペクトルが生じ、そのスペクトルにおいて回折線およびその強度はそれぞれある構造の原子団で決められるため、結晶の具体的な結晶型構造が確定できる。
【0049】
結晶の粉末X線回折を測定する方法は、本分野では既知である。例えば、Bruker D8 Advanced型の粉末X線回折装置を使用し、2°/分の走査速度で、銅輻射ターゲットでスペクトルを得る。」

イ 判断
本件特許の発明の詳細な説明には、上記(ア2)より「結晶の粉末X線回折を測定する方法は、本分野では既知である」こと、例示として、「Bruker D8 Advanced型の粉末X線回折装置を使用し、2°/分の走査速度で、銅輻射ターゲットでスペクトルを得る」ことが記載されている。
上記「結晶の粉末X線回折を測定する方法は、本分野では既知である」点については、例えば、上記(ア1)に従来技術としてビマトプロストに関する数多くの文献が例示されている中の一つに「US2009/163596A1」(甲18)が記載され、そこには粉末X線回折(XRPD)スペクトルを得ていることが示されている。そして、甲18には、上記(甲18f)より「[0090] X線粉末回折パターンは、PANALYTICAL(Philips)X’Pert Pro MPD X線粉末回折システム(CuKα放射線、PW3050/60ゴニオメーター、PW3015/20X’Celerator検出器)を使用して当技術分野で公知の方法により得られた。Bragg−Brentanoスキームがビーム集束に使用された。」と記載されているように、当該技術分野においてX線回折測定方法は、当業者に広く認識されている既知の方法であるといえる。
そして、本件特許の発明の詳細な説明には、具体的にX線回折を測定するための「Bruker D8 Advanced型の粉末X線回折装置」、測定する際の走査速度が「2°/分」であること、放射線源である「銅輻射ターゲット」を用いてスペクトルを得ることが記載されているのであるから、本件特許の発明の詳細な説明に接した当業者は、過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、X線回折スペクトルを測定することができると認められる。
よって、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1、2、7、8、10〜22の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえる。

(3)無効理由5−1−2 結晶の安定性の測定方法について
ア 本件特許の発明の詳細な説明の記載
(ア3)「【0056】
本発明のビマトプロストの結晶型Aは特定の安定性を有し、保存に有利である。発明者らは安定性試験で本発明の方法で製造した結晶型Aと従来技術による結晶型Bの安定性を比較した。データによると、結晶型Aは40℃で密封して4日間保存しても顕著な分解がなかったが、結晶型Bは顕著に分解した。その分解物は化合物IIおよび化合物IIIである。これは、本発明の方法で製造した結晶型Aは、安定性が従来技術で製造した結晶型Bより優れたことを証明した。」

(ア4)「【実施例14】
【0083】
安定性の比較
実施例4で製造したビマトプロスト結晶Aサンプル(0.8g、HPLC純度99.7%)を取って等量の4つに分け、それぞれ40℃で密封して1日、2日、3日および4日置いた後、サンプルを取って分析したところ、HPLC純度はそれぞれ99.7%、99.7%、99.7%および99.7%であった。一方、実施例2で製造したビマトプロスト結晶Bサンプル(0.8g、HPLC純度99.6%)を取って等量の4つに分け、それぞれ40℃で密封して1日、2日、3日および4日置いた後、サンプルを取って分析したところ、HPLC純度はそれぞれ99.4%、99.2%、99.1%および98.7%であった。上述のデータは、本発明の結晶型Aは従来技術で製造した結晶型Bよりも安定していることを証明した。」

イ 判断
本件特許の発明の詳細な説明には、上記(ア3)よりビマトプロストの結晶の安定について、結晶型A(本件発明)と結晶型B(従来技術)の安定性を「40℃で密封して4日間保存」との条件で測定したことが記載され、上記(ア4)では、実施例14として具体的に安定性の試験を行っている。
確かに、上記(ア3)及び(ア4)には、密封容器などについての明示的な記載はない。しかしながら、例えば、日本の公定書である日本薬局方の通則である乙6には、上記(乙6a)より「40 密封容器とは,通常の取扱い,運搬又は保管状態において,気体の侵入しない容器をいう。」というように記載されており、当業者は、乙6の記載を当然の前提として、密封するためには、密封することができる容器を用い、そこに保管状態とすることを理解することができるというべきである。
そうすると、本件特許の発明の詳細な説明に記載された上記(ア3)及び(ア4)の記載に接した当業者は、密封することができる容器にそれぞれ結晶型A(本件発明)と結晶型B(従来技術)を別々に入れ、密封した上で40℃で容器を4日間保存したと理解することが自然であり、合理的な理解であるといえる。

ウ 請求人の主張について
請求人は、平成30年5月14日付け弁駁書(第18〜19頁)等で安定性試験において湿度条件等の条件が記載されておらず、結晶の安定性の測定方法を再現することができず、実施可能要件を満たさない旨主張する。
しかしながら、本件特許の発明の詳細な説明に記載された結晶の安定性の測定方法は、上記イで検討したとおりであるから、当該請求人の主張は採用することができない。

エ 小括
よって、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1、2、7、8、10〜22の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえる。

(4)まとめ
したがって、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、上記のとおり当業者が本件発明1、2、7、8、10〜22の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであり、本件特許は、明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしている特許出願についてされたものである。
よって、本件発明1、2、7、8、10〜22に係る特許は、特許法第123条第1項第4号に該当せず、無効とすることはできない。

9 無効理由5−2について
(1)サポート要件について
特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものとされている。
当審は、以下この観点に立って、判断する。

(2)無効理由5−2−1 X線回折のピークについて
ア 本件特許の発明の詳細な説明の記載
本件特許の発明の詳細な説明には、上記8(2)ア(ア1)及び(ア2)並びに上記8(3)ア(ア3)及び(ア4)で摘示した事項が記載されている。さらに、以下の事項が記載されている。

(ア5)「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、新規なビマトプロストの結晶を提供することにある。
【0006】
また、本発明の目的は、前述新規なビマトプロストの結晶の製造方法を提供することにある。
【0007】
さらに、本発明の目的は、前述新規なビマトプロストの結晶の用途を提供することにある。
【0008】
本発明の第四の目的は、新規なビマトプロストの結晶を含む薬物組成物を提供することにある。」

(ア6)「【0050】
本発明のビマトプロストの結晶型Aは特定の結晶の様態を持ち、粉末X線回折(XRPD)スペクトルにおいて特定の特徴的ピークを有する。具体的に、本発明のビマトプロストの結晶型Aの粉末X線回折(XRPD)スペクトルにおいて下述の2θ角:3.2±0.2°、19.9±0.2°、20.8±0.2°、および22.8±0.2°に特徴的ピークがある。一つの好ましい実施形態では、そのスペクトルにおいてさらに下述の2θ角:5.5±0.2°、11.4±0.2°、16.7±0.2°および17.6±0.2°に特徴的ピークがある。もう一つの好ましい実施形態では、そのスペクトルにおいてさらに下述の2θ角:6.3±0.2°、8.3±0.2°、9.5±0.2°、10.9±0.2°、12.6±0.2°、13.8±0.2°、18.4±0.2°、19.0±0.2°、21.7±0.2°、23.9±0.2°、26.2±0.2°、27.7±0.2°、28.3±0.2°、30.4±0.2°、32.4±0.2°、35.3±0.2°に特徴的ピークがある。より好ましくは、前述ビマトプロストの結晶型Aは図2と基本的に一致する粉末X線回折(XRPD)スペクトルを有する。
【0051】
本発明のビマトプロストの結晶型Aの粉末X線回折(XRPD)スペクトルにおいて2θ反射角でのピークは特別な特徴で、US2009/016359A1で報告された結晶型Bの粉末X線回折(XRPD)スペクトルにおいて2θ反射角での特徴的ピークとは顕著な違いがある。スペクトルの吸収強度および2θ角の比較では、以下の通りである。(1)本発明で製造した結晶型Aに中等強度の3.2±0.2°の特徴的吸収ピークがあるが、US2009/016359A1で報告された結晶型Bにはその吸収ピークがない。(2)結晶型Aにおける5.5±0.2°の特徴的な吸収強度は中等吸収強度であるが、結晶型Bでは最強の特徴的吸収ピークである。(3)結晶型Aにおける19.9±0.2°の最強の特徴的吸収ピークは、結晶型Bでは第二特徴的吸収強度の19.4±0.2°、19.7±0.2°および19.9±0.2°の三つに分かれる。(4)結晶型Aにおける20.8±0.2°の第二特徴的吸収ピークは、結晶型Bでは第三特徴的吸収強度の20.7±0.2°および20.9±0.2°の二つに分かれる。(5)結晶型Aにおける16.7±0.2°和17.6±0.2°の低強度特徴的吸収ピークは、結晶型Bではいずれも多重ピークに分かれる。(6)結晶型Aにおける30.4±0.2°、32.4±0.2°および35.3±0.2°の低強度特徴的吸収ピークは、結晶型Bではそのような吸収が示されない。」

(ア7)「【0072】
ビマトプロストの結晶型Aの製造
100mlのナスフラスコに実施例2で得たビマトプロストの結晶型B(0.50g)およびメタノール(5ml)を入れ、10℃で溶解させ、さらに10℃で溶媒がなくなるまで減圧濃縮して油状物のビマトプロストを得た後、アセトン(50ml)を入れ、10℃で加熱して溶解させ、この温度でn-ヘキサン(25ml)を滴下し、-25℃で1h撹拌し、ろ過し、-25℃のアセトンとn-ヘキサン(2:1)で2〜3回洗浄し、乾燥して結晶固体0.46gを得た。粉末X線回折スペクトルは図2と一致し、示差走査熱量分析チャート(DSC)は図3と一致し、赤外スペクトルは図4と一致した。(収率:92%)
【実施例4】
【0073】
ビマトプロストの結晶型Aの製造
50mlのナスフラスコに油状物のビマトプロスト(0.50g)と酢酸メチル(25ml)を入れ、30℃で加熱して溶解させ、この温度でn-ヘキサン(25ml)を滴下し、磁気撹拌の条件で-10℃に冷却し、この温度で続けて5h撹拌し、ろ過し、-10℃の酢酸メチルとn-ヘキサン(1:1)で2〜3回洗浄し、乾燥して結晶固体0.47gを得た。粉末X線回折スペクトルは図2と一致し、示差走査熱量分析チャート(DSC)は図3と一致し、赤外スペクトルは図4と一致した。(収率:94%)
【実施例5】
【0074】
ビマトプロストの結晶型Aの製造
10mlのナスフラスコに油状物のビマトプロスト(0.30g)と塩化メチレン(3ml)を入れ、30℃で加熱して溶解させ、磁気撹拌の条件で30℃でn-ヘキサン(6ml)を滴下した後、0℃に冷却し、撹拌を5h続け、ろ過し、0℃の塩化メチレンとn-ヘキサン(1:2)で2〜3回洗浄し、乾燥して結晶固体0.27gを得た。粉末X線回折スペクトルは図2と一致し、示差走査熱量分析チャート(DSC)は図3と一致し、赤外スペクトルは図4と一致した。(収率:90%)
【実施例6】
【0075】
ビマトプロストの結晶型Aの製造
10mlのナスフラスコに実施例2で得たビマトプロストの結晶型B(0.20g)およびエタノール(4ml)を入れ、30℃で溶解させ、さらに30℃で溶媒がなくなるまで減圧濃縮して油状物のビマトプロストを得た後、iso-プロピルアルコール(2ml)を入れ、30℃で加熱して溶解させ、磁気撹拌で30℃でn-ヘキサン(6ml)を滴下し、0℃で50h撹拌し、ろ過し、0℃のiso-プロピルアルコールとn-ヘキサン(1:3)で2〜3回洗浄し、乾燥して結晶固体0.18gを得た。粉末X線回折スペクトルは図2と一致し、示差走査熱量分析チャート(DSC)は図3と一致し、赤外スペクトルは図4と一致した。(収率:90%)
【実施例7】
【0076】
ビマトプロストの結晶型Aの製造
50mlのナスフラスコに実施例2で得たビマトプロストの結晶型B(0.50g)およびメタノール(5ml)を入れ、30℃で溶解させ、さらに30℃で溶媒がなくなるまで減圧濃縮して油状物のビマトプロストを得た後、アセトン(20ml)を入れ、25℃で加熱して溶解させ、磁気撹拌で25℃でn-ヘプタン(10ml)を滴下し、10℃で25h撹拌し、ろ過し、10℃のアセトンとn-ヘプタン(1:1)で2〜3回洗浄し、乾燥して結晶固体0.48gを得た。粉末X線回折スペクトルは図2と一致し、示差走査熱量分析チャート(DSC)は図3と一致し、赤外スペクトルは図4と一致した。(収率:96%)
【実施例8】
【0077】
ビマトプロストの結晶型Aの製造
50mlのナスフラスコに実施例2で得たビマトプロストの結晶型B(0.20g)およびiso-プロピルアルコール(10ml)を入れ、30℃で溶解させ、さらに30℃で溶媒がなくなるまで減圧濃縮して油状物のビマトプロストを得た後、酢酸-iso-プロピル(30℃)を入れ、30℃で加熱して溶解させ、磁気撹拌で30℃で石油エーテル(10ml)を滴下し、5℃で40h撹拌し、ろ過し、5℃の酢酸-iso-プロピルと石油エーテル(1:2)で2〜3回洗浄し、乾燥して結晶固体0.19gを得た。粉末X線回折スペクトルは図2と一致し、示差走査熱量分析チャート(DSC)は図3と一致し、赤外スペクトルは図4と一致した。(収率:95%)
【実施例9】
【0078】
ビマトプロストの結晶型Aの製造
100mlのナスフラスコに実施例2で得たビマトプロストの結晶型B(0.50g)およびiso-プロピルアルコール(25ml)を入れ、30℃で溶解させ、さらに30℃で溶媒がなくなるまで減圧濃縮して油状物のビマトプロストを得た後、塩化メチレン(20ml)を入れ、30℃で加熱して溶解させ、磁気撹拌で30℃で石油エーテル(60ml)を滴下し、10℃に冷却し、この温度で撹拌を10h続け、ろ過し、10℃の塩化メチレンと石油エーテル(1:3)で2〜3回洗浄し、乾燥して結晶固体0.48gを得た。粉末X線回折スペクトルは図2と一致し、示差走査熱量分析チャート(DSC)は図3と一致し、赤外スペクトルは図4と一致した。(収率:96%)
【実施例10】
【0079】
ビマトプロストの結晶型Aの製造
50mlのナスフラスコに油状物のビマトプロスト(0.20g)およびiso-プロピルアルコール(1ml)を入れ、30℃で溶解させ、この温度で石油エーテル(3ml)を滴下し、-25℃で1h撹拌し、ろ過し、-25℃のiso-プロピルアルコールと石油エーテル(1:3)の混合液で2〜3回洗浄し、乾燥して結晶固体0.19gを得た。粉末X線回折スペクトルは図2と一致し、示差走査熱量分析チャート(DSC)は図3と一致し、赤外スペクトルは図4と一致した。(収率:95%)
【実施例11】
【0080】
ビマトプロストの結晶型Aの製造
100mlのナスフラスコに実施例2で得たビマトプロストの結晶型B(0.50g)およびエタノール(10ml)を入れ、30℃で溶解させ、さらに30℃で溶媒がなくなるまで減圧濃縮して油状物のビマトプロストを得た後、アセトン(50ml)を入れ、20℃で加熱して溶解させ、この温度でn-ヘキサン(25ml)を滴下し、0℃で10h撹拌し、ろ過し、0℃のアセトンとn-ヘキサン(2:1)の混合液で2〜3回洗浄し、乾燥して結晶固体0.46gを得た。粉末X線回折スペクトルは図2と一致し、示差走査熱量分析チャート(DSC)は図3と一致し、赤外スペクトルは図4と一致した。(収率:92%)
【実施例12】
【0081】
ビマトプロストの結晶型Aの製造
50mlのナスフラスコに実施例2で得たビマトプロストの結晶型B(0.20g)およびメタノール(1ml)を入れ、30℃で溶解させ、さらに溶媒がなくなるまで減圧濃縮して油状物のビマトプロストを得た後、塩化メチレン(5ml)を入れ、30℃で加熱して溶解させ、この温度でn-ヘキサン(2.5ml)を滴下し、冷却して10℃で25h撹拌し、ろ過し、10℃の塩化メチレンとn-ヘキサン(2:1)の混合液で2〜3回洗浄し、乾燥して結晶固体0.18gを得た。粉末X線回折スペクトルは図2と一致し、示差走査熱量分析チャート(DSC)は図3と一致し、赤外スペクトルは図4と一致した。(収率:90%)
【実施例13】
【0082】
ビマトプロストの結晶型Aの製造
50mlのナスフラスコに油状物のビマトプロスト(0.50g)およびiso-プロピルアルコール(5ml)を入れ、30℃で溶解させ、この温度でn-ヘキサン(15ml)を滴下し、5℃で40h撹拌し、ろ過し、5℃のiso-プロピルアルコールとn-ヘキサン(1:3)の混合液で2〜3回洗浄し、乾燥してビマトプロストサンプルの結晶固体0.45gを得た。粉末X線回折スペクトルは図2と一致し、示差走査熱量分析チャート(DSC)は図3と一致し、赤外スペクトルは図4と一致した。(収率:90%)」

(ア8)「【図2】



イ 本件発明1、7、8、10〜18は、上記第3 本件発明に記載されたとおりのものである。

ウ 本件発明の課題について
本件特許の発明の詳細な説明(上記(ア1)〜(ア8))の記載からみて、本件発明1及び7の課題は、新規なビマトプロストの結晶を提供することにあり、本件発明8、10〜15の課題は、新規なビマトプロストの結晶の製造方法を提供することにあり、本件発明16の課題は、新規なビマトプロストの結晶の緑内障治療への用途を提供することにあり、本件発明17の課題は、新規なビマトプロストの結晶を含む薬物組成物を提供することにあり、本件発明18の課題は、新規なビマトプロストの結晶を含む薬物組成物の製造方法を提供することにあるものと認める。

エ 判断
本件特許の発明の詳細な説明には、上記(ア7)及び(ア8)より実施例3〜13においてビマトプロストの結晶型Aを製造し、その粉末X線回折スペクトルが、図2と一致することが記載されている。
そして、図2には、ビマトプロストの結晶型Aの24本のピークが記載されている(上記(ア8))。
一方、上記(ア1)には、従来技術である甲18に記載された結晶型Bのと粉末X線回折(XRPD)スペクトルが2θ角:5.4、6.2、10.9、11.3、13.7、16.6、17.5、18.3、18.6、18.9、19.4、19.7、19.9、20.7、20.9、21.6、22.7および28.2に特徴的ピークがあると記載されている。
そうすると、本件発明1及び7の発明の課題は、新規なビマトプロストの結晶の提供であるから、少なくとも、従来技術である結晶型Bのと粉末X線回折(XRPD)スペクトルとの差が認識できるピークが示されている場合、当業者はビマトプロストの結晶型Aが従来技術である結晶型Bと異なることを認識することができると理解するのが自然であり、合理的であるといえる。
そして、上記(ア6)には、「3.2±0.2°」が結晶型Aにおける中等強度の特徴的吸収ピークであること、「19.9±0.2°」が結晶型Aにおける最強の特徴的吸収ピークであること、「20.8±0.2°」が結晶型Aにおける第二特徴的吸収ピークであることがそれぞれ記載されており、そのことは、上記(ア8)の図2からも支持されており、他にも多くの特徴的ピークが示されている。
そうであれば、これらの本件特許の発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、例えば、本件発明1のように4本の特徴的ピーク及び第一番目及び第二番目に強い特徴的ピークが示されている場合、従来知られた結晶である結晶型Bとは異なる結晶であることを理解できるといえ、そして、従来技術である結晶型Bとの関係において、その結晶は異なる結晶、すなわち、新規な結晶といえるから、本件発明1は、本件発明1の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであると認められる。
そして、本件発明7、16〜18は、いずれも本件発明1を直接あるいは間接的に引用しており、本件発明1と同様に、本件発明7、16〜18についても、それぞれの発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであると認められる。
また、本件発明8、10〜15についても、いずれも本件発明1で特定している4本の特徴的ピークを有するものであるから、本件発明1と同様に、本件発明8、10〜15についても、それぞれの発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであると認められる。

したがって、本件発明1、7、8、10〜18は、サポート要件を満たしており、特許請求の範囲の記載は、発明の詳細な説明に記載したものである。

(3)無効理由5−2−2 本件発明5のX線回折のピークについて
本件発明5は、上記第2で検討したとおり、本件訂正により削除されたので、無効理由5−2−2の対象となる本件発明5が存在しないものとなった。
したがって、この理由は検討を要さないものである。

(4)まとめ
したがって、本件特許の請求項1、7、8、10〜18に係る発明は、本件特許に係る出願の発明の詳細な説明に記載されたものであり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているものであり、その特許は、特許法第123条第1項第4号に該当せず、無効とすることはできない。

10 無効理由6−1について
(1)明確性要件の解釈について
特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第2号において「特許を受けようとする発明が明確であること。」と規定している。同号がこのように規定された趣旨は、仮に、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合、特許が付与された発明の技術的範囲が不明確となり、第三者の不利益が不当に害されることがあり得るので、そのような不都合な結果を防止することにある。そして、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけでなく、願書に添付した明細書の記載および図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきであるとされている。
当審は、以下この観点に立って、判断する。

(2)無効理由6−1−1 強い特徴的ピークについて
ア 本件発明1は、上記第3に記載されたとおりである。

イ 本件特許の発明の詳細な説明の記載
本件特許の発明の詳細な説明には、上記8(2)ア(ア2)、並びに上記9(2)ア(ア6)〜(ア8)で摘示した事項が記載されている。

ウ 判断
本件発明1は、上記アのとおりであり、そこには、ビマトプロストの結晶型Aの特徴として、「粉末X線回折(XRPD)スペクトル」で4つの特徴的ピークがあり、この特徴的ピークのうち、「第一番目に強い特徴的ピークは2θ角:19.9±0.2゜にあり、第二番目に強い特徴的ピークは 2θ角:20.8±0.2゜にある」と記載されている。
この特徴的ピークについて、本件特許の発明の詳細な説明には、上記(ア2)より既知の測定方法である「粉末X線回折(XRPD)スペクトル」で測定したものであり、上記(ア6)よりビマトプロストの結晶型Aが、図2と基本的に一致すること、上記(ア7)より本件特許明細書の実施例3〜13のビマトプロストの結晶型Aを製造し、測定した粉末X線回折(XRPD)スペクトルは、図2と一致したことから、図2の記載に基づき、その中から特徴的ピークを抽出したものと理解できる。
そして、本件特許の発明の詳細な説明には、上記(ア6)より「粉末X線回折(XRPD)スペクトル」の吸収強度及び2θ角の比較について、「(3)結晶型Aにおける19.9±0.2°の最強の特徴的吸収ピークは、結晶型Bでは第二特徴的吸収強度の19.4±0.2°、19.7±0.2°および19.9±0.2°の三つに分かれる。(4)結晶型Aにおける20.8±0.2°の第二特徴的吸収ピークは、結晶型Bでは第三特徴的吸収強度の20.7±0.2°および20.9±0.2°の二つに分かれる。」と記載されており、この記載と図2(上記(ア8))の「粉末X線回折(XRPD)スペクトル」の強度とは一致している。
そうすると、本件発明1の記載は、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとまではいえない。
また、本件発明1を直接又は間接的に引用している本件発明7、16〜18についても同様である。

(3)無効理由6−1−2 特徴的ピークと図2の関係について
上記(2)ウで述べたとおり、本件特許の発明の詳細な説明から、特徴的ピークと図2の関係は理解できるから、本件発明2の記載は、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとまではいえない。
また、本件発明2を直接又は間接的に引用している本件発明19〜22についても同様である。

(4)無効理由6−1−3 粉末X線回折(XRPD)の分析条件について
aについて、上記(2)ウで述べたとおり、「粉末X線回折(XRPD)スペクトル」は、上記(ア2)より既知の測定方法で測定できること、また、測定するための装置、走査速度、銅輻射ターゲットについて記載されており、また、得られた結果が図2として記載されているのであるから、本件発明1の記載は、分析条件が特定されていないからといって、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとまではいえない。
また、本件発明1を直接又は間接的に引用している本件発明7、16〜18についても同様である。

また、bについても、上記aと同様に、本件発明2の記載は、分析条件が特定されていないからといって、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとまではいえない。
また、本件発明2を直接又は間接的に引用している本件発明19〜22についても同様である。

(5)まとめ
したがって、本件特許の請求項1、2、7、16〜22に係る発明は、明確に記載されたものであり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしているものであり、その特許は、特許法第123条第1項第4号に該当せず、無効とすることはできない。

11 無効理由6−2について
(1)サポート要件について
上記9(1)に記載したとおりである

(2)本件特許の発明の詳細な説明の記載
本件特許の発明の詳細な説明には、上記8(2)ア(ア1)〜(ア2)、上記8(3)ア(ア3)〜(ア4)及び上記9(2)ア(ア5)〜(ア8)で摘示した事項が記載されている。

(3)本件発明1、7、16〜18は、上記第3 本件発明に記載されたとおりのものである。

(4)本件発明の課題について
本件特許の発明の詳細な説明(上記(ア1)〜(ア8))の記載からみて、本件発明1及び7の課題は、新規なビマトプロストの結晶を提供することにあり、本件発明16の課題は、新規なビマトプロストの結晶の緑内障治療への用途を提供することにあり、本件発明17の課題は、新規なビマトプロストの結晶を含む薬物組成物を提供することにあり、本件発明18の課題は、新規なビマトプロストの結晶を含む薬物組成物の製造方法を提供することにあるものと認める。

(5)判断
ア 上記9(2)エ 判断で記載したとおり、本件発明1及び7は、新規なビマトプロストの結晶の提供であるから、少なくとも、従来技術である結晶型Bのと粉末X線回折(XRPD)スペクトルとの差が認識できるピークが示されている場合、当業者はビマトプロストの結晶型Aが従来技術である結晶型Bと異なることを認識することができると理解するのが自然であり、合理的であるといえる。
そして、上記(ア6)には、「3.2±0.2°」が結晶型Aにおける中等強度の特徴的吸収ピークであること、「19.9±0.2°」が結晶型Aにおける最強の特徴的吸収ピークであること、「20.8±0.2°」が結晶型Aにおける第二特徴的吸収ピークであることがそれぞれ記載されており、そのことは、上記(ア8)の図2からも支持されており、他にも多くの特徴的ピークが示されている。
そうであれば、これらの本件特許の発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、例えば、本件発明1のように4本の特徴的ピークが示されている場合、従来知られた結晶である結晶型Bとは異なる結晶であることを理解できるといえ、そして、従来技術である結晶型Bとの関係において、その結晶は異なる結晶、すなわち、新規な結晶といえるから、本件発明1は、本件発明1の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであると認められる。
そして、本件発明7、16〜18は、いずれも本件発明1を直接あるいは間接的に引用しており、本件発明1と同様に、本件発明7、16〜18についても、それぞれの発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであると認められる。

イ 請求人は、令和2年11月9日付け弁駁書において、4つの特徴的ピークよりも強いピークを含む実施形態を包含し、これら4つの特徴的ピークとその4つの特徴的ピークの中で第一番目及び第二番目に強いピークが特定されているに過ぎないあらゆる結晶が提供できるとはサポートされていない旨主張している。
しかしながら、本件発明1、7、16〜18がサポート要件を満たしていることは上記アで検討したとおりであり、請求人の上記主張は採用することができない。

(6)まとめ
したがって、本件特許の請求項1、7、16〜18に係る発明は、本件特許に係る出願の発明の詳細な説明に記載されたものであり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているものであり、その特許は、特許法第123条第1項第4号に該当せず、無効とすることはできない。

12 無効理由6−3について
(1)実施可能要件について
上記8に記載したとおりである。

(2)本件特許の発明の詳細な説明の記載
本件特許の発明の詳細な説明には、上記8(2)ア(ア1)〜(ア2)、上記8(3)ア(ア3)〜(ア4)及び上記9(2)ア(ア5)〜(ア8)で摘示した事項が記載されている。

(3)判断
本件特許の発明の詳細な説明には、上記(ア7)及び(ア8)より実施例3〜13においてビマトプロストの結晶型Aを製造し、その粉末X線回折スペクトルが、図2と一致することが記載されている。
図2には、ビマトプロストの結晶型Aの24本のピークが記載されており(上記(ア8))、その中には、本件発明1の4つの特徴的ピーク及びその強度が明らかに示されている。
また、「粉末X線回折(XRPD)スペクトル」は、上記(ア2)より既知の測定方法で測定できること、測定するための装置、走査速度、銅輻射ターゲットについて記載されており、得られた結果が図2として記載されているのであるから、粉末X線回折(XRPD)の分析条件が規定されていないからといって当業者が追試をすることができないとまではいえない。
そうすると、本件特許の発明の詳細な説明に記載された上記(ア2)、(ア7)及び(ア8)の記載に接した当業者は、過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要はなく、本件発明1のビマトプロストの結晶型Aを製造することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえる。
また、本件発明1を直接又は間接的に引用している本件発明7、16〜18についても同様である。

(4)まとめ
したがって、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、上記のとおり当業者が本件発明1、7、16〜18の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであり、本件特許は、明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしている特許出願についてされたものである。
よって、本件発明1、7、16〜18に係る特許は、特許法第123条第1項第4号に該当せず、無効とすることはできない。

第8 むすび
本件発明1、2、7、8、10〜22は、無効理由1−1〜無効理由6−3のいずれについて理由がないので、本件発明1、2、7、8、10〜22についての特許は、無効とすることはできない。
請求項3〜6及び9は、訂正により存在しないこととなったため、請求項3〜6及び9に係る発明についての特許に対する無効審判請求は不適法な請求であり、その補正をすることができないものであるから、特許法第135条の規定により却下する。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とする。

よって、結論のとおり審決する。

 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。

審判長 佐藤 健史
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造が式Iに示されるように、粉末X線回折(XRPD)スペクトルにおいて下述の2θ角:3.2±0.2°、19.9±0.2゜、20.8±0.2゜、および22.8±0.2゜に特徴的ピークがあり、特徴的ピークのうち第一番目に強い特徴的ピークは2θ角:19.9±0.2゜にあり、第二番目に強い特徴的ピークは2θ角:20.8±0.2゜にある、ビマトプロストの結晶型A。
【化1】

【請求項2】
構造が式Iに示されるように、粉末X線回折(XRPD)スペクトルにおいて下述の2θ角:3.2±0.2°、19.9±0.2゜、20.8±0.2°、22.8±0.2゜、5.5±0.2°、11.4±0.2゜、16.7±0.2°および17.6±0.2゜に特徴的ピークがあり、
前述粉末X線回折(XRPD)スペクトルは図2に示されるとおりである、ビマトプロストの結晶型A。
【化1】

(図2)

【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】(削除)
【請求項6】(削除)
【請求項7】
示差走査熱量分析チャート(DSC)において、66.5−70.5℃で最大のピーク値かある、ことを特徴とする請求項1に記載のビマトプロストの結晶型A。
【請求項8】
構造が式Iに示されるように、粉末X線回折(XRPD)スペクトルにおいて下述の2θ角:3.2±0.2゜、19.9±0.2゜、20.8±0.2°、および22.8±0.2°に特徴的ピークがある、ビマトプロストの結晶型Aの製造方法であって、
【化1】


(1)式Iに示される油状物のビマトプロストと、アセトン、ブタノン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸−iso−プロピル、酢酸−t−ブチル、塩化メチレン、およびiso−プロピルアルコールから選ばれる一種の溶媒とを混合し、溶液1を得る工程、
(2)溶液1とペンタン、ヘキサン、ヘプタン、および石油エーテルから選ばれる一種又は一種以上の非極性溶媒とを混合し、溶液2を得る工程、および
(3)溶液2を撹拌し、前述ビマトプロストの結晶型Aを得る工程、
を含み、
工程(1)において、前述混合の温度は10〜30℃である、ことを特徴とするビマトプロストの結晶型Aの製造方法。
【請求項9】(削除)
【請求項10】
工程(3)において、前述撹拌時間は1〜50時間である、ことを特徴とする請求項8に記載の製造方法。
【請求項11】
工程(3)において、前述撹拌温度は−25〜10℃である、ことを特徴とする請求項8に記載の製造方法。
【請求項12】
工程(3)において、前述撹拌の温度は−25℃、−10℃、0℃、5℃、或いは10℃である、ことを特徴とする請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
工程(1)において、前述式Iに示される化合物のビマトプロストと溶媒との混合比率は1:5〜100で、溶液1を得る、ことを特徴とする請求項8に記載の製造方法。
【請求項14】
工程(2)において、溶液1と非極性溶媒との混合比率は0.3〜2:1である、ことを特徴とする請求項8に記載の製造方法。
【請求項15】
工程(1)における前述の油状物のビマトプロストは、式Iに示されるビマトプロストとC1〜C4の直鎖又は分枝のアルキルアルコールであるアルコール系溶媒とを混合した後、溶媒がなくなるまで濃縮することによって得られる、ことを特徴とする請求項8、及び10〜14のうちのいずれかに記載の製造方法。
【請求項16】
請求項1又は7に記載のビマトプロストの結晶型Aの、緑内障を治療する薬物の製造のための使用。
【請求項17】
請求項1又は7に記載のビマトプロストの結晶型Aと薬学的に許容される担体とを含む、ことを特徴とする薬物組成物。
【請求項18】
請求項1又は7に記載のビマトプロストの結晶型Aと薬学的に許容される担体とを混合し、請求項17に記載の薬物組成物を得る工程、
を含む、ことを特徴とする請求項17に記載の薬物組成物の製造方法。
【請求項19】
示差走査熱量分析チャート(DSC)において、66.5−70.5℃で最大のピーク値がある、ことを特徴とする請求項2に記載のビマトプロストの結晶型A。
【請求項20】
請求項2又は19に記載のビマトプロストの結晶型Aの、緑内障を治療する薬物の製造のための使用。
【請求項21】
請求項2又は19に記載のビマトプロストの結晶型Aと薬学的に許容される担体とを含む、ことを特徴とする薬物組成物。
【請求項22】
請求項2又は19に記載のビマトプロストの結晶型Aと薬学的に許容される担体とを混合し、請求項21に記載の薬物組成物を得る工程、
を含む、ことを特徴とする請求項21に記載の薬物組成物の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照
審理終結日 2021-05-31 
結審通知日 2021-06-03 
審決日 2021-06-21 
出願番号 P2012-535603
審決分類 P 1 113・ 113- YAA (C07C)
P 1 113・ 537- YAA (C07C)
P 1 113・ 536- YAA (C07C)
P 1 113・ 112- YAA (C07C)
P 1 113・ 121- YAA (C07C)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 佐藤 健史
特許庁審判官 佐々木 秀次
大熊 幸治
登録日 2015-04-24 
登録番号 5734302
発明の名称 ビマトプロストの結晶およびその製造方法と用途  
代理人 名古屋国際特許業務法人  
代理人 森下 夏樹  
代理人 山本 秀策  
代理人 福永 聡  
復代理人 向野 颯馬  
代理人 長谷部 真久  
代理人 山本 健策  
代理人 名古屋国際特許業務法人  
代理人 石川 大輔  
復代理人 三坂 和也  

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