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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B08B
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  B08B
審判 全部無効 2項進歩性  B08B
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  B08B
管理番号 1381874
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-03-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2019-02-12 
確定日 2022-02-24 
事件の表示 上記当事者間の特許第5976858号発明「真空洗浄装置および真空洗浄方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 本件特許の経緯
本件特許第5976858号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜5に係る発明についての特許出願(以下、「本件特許出願」という。)は、2012年(平成24年)11月20日を国際出願日(優先権主張 平成23年11月25日)とする特願2013−545937号(以下、「原出願」という。)の一部を平成27年2月6日に新たな特許出願としたものであって、平成28年7月29日に特許権の設定登録(請求項の数5)がされたものである。

そして、平成31年2月12日に請求人高砂工業株式会社(以下、「請求人」という。)より請求項1〜5に係る特許について特許無効審判が請求され、令和元年5月10日付けで被請求人株式会社IHI及び株式会社IHI機械システム(以下、「被請求人ら」という。)より無効審判答弁書が提出された。また、令和元年6月12日付けで審理事項通知書が通知され、同年7月12日付けで請求人及び被請求人らより口頭審理陳述要領書が提出され、同年7月17日付けで再度、審理事項通知書が通知され、同年8月2日付けで請求人及び被請求人らより口頭審理陳述要領書(2)が提出され、同年8月2日に口頭審理が行われ、同年8月23日付けで請求人及び被請求人らより上申書が提出され、さらに、同年9月6日付けで請求人及び被請求人らより上申書(2)が提出された。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1〜5に係る発明(以下、「本件特許発明1」などといい、これらの発明をまとめて「本件特許発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
なお、特許請求の範囲の請求項1〜5において、「A」等の記号による発明特定事項の分説はされていないが、以下の便宜のため、請求人が審判請求書で示した記号をもとに、当審で「A」等の記号を付加した(被請求人らから提出された令和元年7月12日付け口頭審理陳述要領書において、当該記号の付加について、被請求人らも異論はないとしている。)。

「【請求項1】
A:真空ポンプと、
B:石油系溶剤の蒸気を生成する蒸気生成手段と、
C:前記真空ポンプによって減圧され、当該減圧の状態において前記蒸気生成手段から供給される蒸気によってワークを洗浄する洗浄室と、
D:前記真空ポンプによって前記洗浄室とは独立して減圧され、当該減圧の状態が保持される凝縮室と、
E:前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する温度保持手段と、
F:前記凝縮室と前記洗浄室とを連通させ、または、その連通を遮断する開閉バルブと、を備え、
G:前記蒸気を前記洗浄室に供給してワークを洗浄した後、前記開閉バルブによって前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させてワークを乾燥させる
H:ことを特徴とする真空洗浄装置。
【請求項2】
I:前記温度保持手段は、
前記凝縮室の温度を前記石油系溶剤の凝縮点以下に保持することを特徴とする請求項1記載の真空洗浄装置。
【請求項3】
J:前記洗浄室から前記凝縮室に導かれて凝縮した石油系溶剤を、前記凝縮室から前記蒸気生成手段に導く回収手段をさらに備えることを特徴とする請求項2記載の真空洗浄装置。
【請求項4】
K:前記洗浄室に接続され、前記石油系溶剤が貯留されるとともに当該石油系溶剤にワークを浸漬可能な浸漬室をさらに備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の真空洗浄装置。
【請求項5】
L:真空ポンプを用いることにより、ワークが搬入された洗浄室および当該洗浄室に隣接した凝縮室を各々独立して減圧する工程と、
M:石油系溶剤の蒸気を生成し、当該蒸気を減圧下にある前記洗浄室に供給して前記ワークを洗浄する工程と、
N:減圧下にある前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する工程と、
O:前記洗浄室において前記ワークを洗浄した後、開閉バルブを開弁することにより前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させてワークを乾燥させる工程と、
P:を含む真空洗浄方法。」

第3 請求人の主張
1 請求人は、本件特許の請求項1〜5に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人らの負担とする、との審決を求め、以下の無効理由1〜無効理由5を主張している。また、証拠方法として甲第1号証〜甲第47号証(枝番を含む)を提出している(以下、「甲第1号証」については、「甲1」と表記し、「甲第2号証」等についても、同様に表記する。)。
なお、審判請求書等で用いられる「○1(○の中にアラビア数字の1)」は、「○1」と表記し、「○2(○の中にアラビア数字の2)」等についても同様に表記する。

2 無効理由の概要
[無効理由1]
本件特許発明1、2、3、5は、甲10に記載された発明を主引例とし、甲11〜甲14に記載されるような周知技術との組み合わせにより、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その発明に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
本件特許発明4は、甲10に記載された発明を主引例とし、甲11〜甲14に記載されるような周知技術、及び甲13、甲15、甲16の1、甲17に記載されるような周知技術との組み合わせにより、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その発明に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

[無効理由2]
本件特許発明1、2、3、5は、甲19に記載された発明を主引例とし、甲12に記載された技術、及び甲11〜甲14に記載されるような周知技術との組み合わせにより、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その発明に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
本件特許発明4は、甲19に記載された発明を主引例とし、甲12に記載された技術、甲11〜甲14に記載されるような周知技術、及び甲13、甲15、甲16の1、甲17に記載されるような周知技術との組み合わせにより、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その発明に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

[無効理由3]
本件特許出願は特許法第44条第1項の規定に違反するから、その出願日は遡及せず、現実の出願日である平成27年2月6日となる結果、本件特許発明1〜5は原出願が国際公開された甲5に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、その発明に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである、又は甲5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その発明に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

[無効理由4]
本件特許は、本件特許発明1〜5について、発明の詳細な説明の記載が、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないものであり、その発明に係る特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

[無効理由5]
本件特許は、本件特許発明1〜5が発明の詳細な説明に記載したものでないため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものであり、その発明に係る特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

<証拠方法>
提出された証拠は、以下のとおりである。
甲1 特許第5976858号公報
甲2 特願2015−22618の出願書類
甲3 PCT/JP2012/080105の国際出願書類
甲4 PCT/JP2012/080105の国内書面(特願2013−545937)
甲5 国際公開第2013/077336号
甲6 特願2013−545937の特許査定
甲7 特願2015−22618の拒絶理由通知書
甲8 特願2015−22618の手続補正書
甲9 特願2015−22618の意見書
甲10 米国特許第6004403号明細書
甲11 真空洗浄装置について 平成13年10月 中外炉工業株式会社 紙谷 守
甲12 特開平10−57909号公報
甲13 特開平6−220672号公報
甲14 特開2000−51802号公報
甲15 特開2003−236479号公報
甲16の1 真空脱脂洗浄乾燥装置「SKY GATE」カタログ 平成10年2月2日以前 佐藤真空機械工業株式会社
甲16の2 ウィキペディア 郵便番号(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%83%B5%E4%BE%BF%E7%95%AA%E5%8F%B7)
甲17 真空洗浄機と連続真空浸炭炉の開発 平成17年3月 株式会社日本ヘイズ取締役技術部部長 平本 昇
甲18 特開平7−227581号公報
甲19 特開2000−160378号公報
甲20 東京地方裁判所平成29年(ワ)第7207号特許権侵害差止等請求事件の平成30年4月27日付け準備書面(原告その7)
甲21 東京地方裁判所平成29年(ワ)第7207号特許権侵害差止等請求事件の平成29年9月8日付け準備書面(原告その2)
甲22 特許第5695762号公報
甲23 特願2013−545937の平成26年6月5日に提出された手続補正書
甲24 特願2013−545937の早期審査に関する事情説明書
甲25 特願2013−545937の平成26年11月14日に提出された手続補正書
甲26 特願2013−545937の拒絶理由通知書
甲27 特願2013−545937の意見書
甲28 東京地方裁判所平成29年(ワ)第7207号特許権侵害差止等請求事件の平成29年7月18日付け準備書面(原告その1)
甲29 東京地方裁判所平成29年(ワ)第7207号特許権侵害差止等請求事件の平成29年8月29日付け実験報告書
甲30 東京地方裁判所平成29年(ワ)第7207号特許権侵害差止等請求事件の平成30年1月16日付け実験報告書
甲31の1 東京地方裁判所平成29年(ワ)第7207号特許権侵害差止等請求事件の平成29年11月2日付け実験報告書
甲31の2 東京地方裁判所平成29年(ワ)第7207号特許権侵害差止等請求事件の平成29年11月2日付け実験報告書の公正証書
甲32 東京地方裁判所平成29年(ワ)第7207号特許権侵害差止等請求事件の平成30年3月9日付け実験報告書
甲33 東京地方裁判所平成29年(ワ)第7207号特許権侵害差止等請求事件の平成29年9月8日付け準備書面(その3)
甲34 東京地方裁判所平成29年(ワ)第7207号特許権侵害差止等請求事件の平成30年4月24日付け試験報告書
甲35 東京地方裁判所平成29年(ワ)第7207号特許権侵害差止等請求事件の平成30年4月27日付け準備書面(原告その9)
甲36 東京地方裁判所平成29年(ワ)第7207号特許権侵害差止等請求事件の平成30年7月6日付け準備書面(原告その11)
甲37 東京地方裁判所平成29年(ワ)第7207号特許権侵害差止等請求事件の平成30年10月22日付け準備書面(原告その13)
甲38 東京地方裁判所平成29年(ワ)第7207号特許権侵害差止等請求事件の平成29年11月27日付け準備書面(原告らその5)
甲39 取扱説明書TRV406トライパック真空ポンプ 平成26年9月5日 株式会社宇野澤組鐵工所
甲40 取扱説明書多段ルーツ式 真空ポンプ CT4 水冷式型 平成20年6月 株式会社アンレット
甲41 特開平6−15239号公報
甲42 工業加熱 第50巻 第4号(通巻第298号) 第15ページ〜第20ページ 平成25年7月1日 一般社団法人日本工業炉協会
甲43 優秀省エネルギー機器 平成25年度受賞機器の概要 第10ページ〜第13ページ 平成26年2月 一般社団法人日本機械工業連合会
甲44 東京地方裁判所平成29年(ワ)第7207号特許権侵害差止等請求事件の平成29年7月28日付け準備書面
甲45 新版真空技術実務読本 第182ページ〜第185ページ、第190ページ〜第191ページ 平成6年5月20日第1版第1刷発行 株式会社オーム社
甲46 ポンプのデパートCSP ポンプの種類(https://www.cs-pump.co.jp/type/)
甲47 炭化水素系真空洗浄乾燥機 SANVACCY(サンバッキー) カタログ 平成10年2月2日以前 株式会社三社電機製作所

3 具体的な理由
(1)無効理由1(甲10に基づく進歩性欠如)と無効理由2(甲19に基づく進歩性欠如)とに共通する事項について
ア 本件特許発明1の解釈について
(ア)「減圧の状態が保持」及び「低い温度に保持」の「保持」の期間について
構成要件Gには、凝縮室が、ワークの乾燥工程において、減圧の状態が保持され洗浄室よりも低い温度に保持されることが特定されているが、構成要件D及び構成要件Eは、特に減圧又は冷却の時期を特定するものではないから、乾燥工程以外の期間については、「減圧の状態」及び「低い温度」が保持されるか否かについては特定されていない。(令和元年7月12日付け口頭審理陳述要領書第9ページ第17行〜第21行)

本件特許発明1において、「減圧の状態が保持」及び「低い温度に保持」の「保持」の期間は、ワークの乾燥工程の間のみのものも含むと解すべきである。(令和元年8月2日付け口頭審理陳述要領書(2)第4ページ下から11行〜下から9行)

(イ)「連通させてワークを乾燥させる」について
構成要件Gは、ワークの乾燥が「洗浄室と凝縮室とを連通」させた態様で行われることを特定したものにすぎない。さらに、本件特許発明1は、ワークの乾燥工程における洗浄室と真空ポンプとの関係を特定していないのであるから、文言上、ワークの乾燥工程において真空ポンプを用いて凝縮室・洗浄室を減圧するものも含み得る。(令和元年7月12日付け口頭審理陳述要領書第26ページ下から9行〜下から5行)

本件特許発明1の構成要件Gは、ワークを乾燥させる態様を特定したものと解される。「連通させてワークを乾燥させる」という記載自体、構文上、ワークを乾燥させる態様を特定したと一義的に解釈することができるから、発明の詳細な説明を参酌する必要はない。さらに、本件特許発明1は、文言上、ワークの乾燥時に洗浄室が真空ポンプで減圧されるものも含み得るのであるから、「連通させてワークを乾燥させる」の意味が、洗浄室と凝縮室の温度差・圧力差を利用してワークを乾燥させることのみを特定したものであると解釈されるものでもない。(令和元年7月12日付け口頭審理陳述要領書第27ページ下から12行〜下から5行)

(ウ)「前記洗浄室とは独立して減圧され」について
本件特許発明1との対比において、構成要件Dの「前記洗浄室とは独立して減圧され」は、凝縮室と洗浄室の連通・遮断とは関係なく、「時系列的に」凝縮室の減圧が(洗浄工程に入る前の)洗浄室の減圧と「別の工程」で行われることを意味するものとした。以下にその理由を説明する。
i)そもそも本件特許明細書には、構成要件Dの凝縮室が「前記洗浄室とは独立して減圧される」構成について、どのような状態を意味するのか、それによりどのような作用効果が奏されるのかなどの記載は何もない。
本件特許明細書に記載された実施形態を参照すると、本件特許明細書には、第1実施形態と第2実施形態が記載されているが、それらは、いずれも最初の準備工程で「凝縮室を減圧」し、その後、洗浄工程に入る前の減圧工程で「洗浄室を減圧」している。
第1実施形態では、「準備工程」で、洗浄室2との連通が遮断された状態(開閉バルブ20・閉)で真空ポンプ10を駆動して、凝縮室21のみを減圧した後、(洗浄工程に入る前の)「減圧工程」で、真空ポンプ10を駆動して、洗浄室2のみを減圧している(図1、段落【0023】、【0026】)。
第2実施形態では、「準備工程」で洗浄室2と連通した状態(開閉バルブ20・開)で真空ポンプ10を駆動して凝縮室21、洗浄室2、および浸漬室53をまとめて減圧した後、(洗浄工程に入る前の)「減圧工程」で、真空ポンプ10を駆動して、洗浄室2のみを減圧している(図7、段落【0046】、【0047】、【0050】)。
凝縮室の減圧に関する記載は、この2つの実施形態以外ない。このことに照らせば、構成要件Dの「前記洗浄室とは独立して減圧され」は、洗浄室と凝縮室との連通如何にかかわらず、(洗浄工程に入る前の)「減圧工程」における洗浄室の減圧とは「別の工程」で減圧されることを意味するものと解される。すなわち、凝縮室と洗浄室の連通・遮断とは関係なく、「時系列的に」凝縮室の減圧が(洗浄工程に入る前の)洗浄室の減圧と別の工程で行われることを意味する。
ii)他方、甲10の図1を参照すると、室12(洗浄室)はバルブ30を備える配管を介して真空ポンプ26に接続されており、凝縮器34(凝縮室)は真空ポンプ36に接続されている。凝縮器34はバルブ32の開閉により室12と連通・遮断される。
甲10によると、物品20の設置後(洗浄工程に入る前)に、室12は真空ポンプ26により減圧される(7欄20〜24行)。そして、この室12の減圧とは別に(別の工程で)、凝縮器34は真空ポンプ36により減圧される(7欄48〜49行)。
このように、甲10は、凝縮器34が室12の減圧とは「別の工程」で真空ポンプ36で減圧されることを開示している。すなわち、構成要件Dの構成「前記洗浄室とは独立して減圧され」を開示している。そして、真空ポンプで吸引されていれば、減圧された状態は保持されるから、甲10は構成要件Dの「当該減圧の状態が保持される」という構成も開示している。
iii)被請求人らは、東京地方裁判所 平成29年(ワ)第7207号特許権侵害差止等請求事件(以下、「特許権侵害差止等請求事件」と略称する)の平成30年4月27日付け準備書面(原告(本件の被請求人ら)その7)(甲20)の第4ページにおいて、「第2実施形態(洗浄室、凝縮室、浸漬室をまとめて減圧し、その後、洗争室のみを減圧する)は、本件発明2の原出願にかかる発明の実施例であって、本件発明2の実施例ではない。」と主張する(被請求人らの主張における「本件発明2」は、本審判請求書の本件特許発明1に対応している)。
しかし、そのようなことは本件特許明細書には記載されていない。むしろ、本件特許明細書の段落【0053】には、第一実施形態と第二実施形態を説明した後で、「以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明した」とあるように、第二実施形態は、本件発明の好適な実施形態の一つとして記載されている。そして、請求項1の文言上、第二実施形態も本件発明の技術的範囲に含まれるのであるから、本件特許明細書に接した当業者は、当然、第二実施形態も本件発明の実施形態の一つとして認識する。したがって、被請求人らの上記主張は失当である。
仮に、浸漬洗浄するための構成を備える第2実施形態(段落【0041】)が本件発明の実施例ではないならば、浸漬室を備えることを規定する本件特許発明4は、本件特許明細書にサポートされていないことになり、本件特許発明4は発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものになる(特許法第36条第6項第1号違反)。(審判請求書第39ページ第19行〜第41ページ末行)

広辞苑の(当審注:「独立」について)「それだけの力で立っていること」、「単独で存在すること」及び「ひとりだち」の意味を「前記洗浄室とは独立して減圧され」に当て嵌めると、「前記洗浄室とは『それだけの力で立って』減圧され」、「前記洗浄室とは『単独で存在』して減圧され」及び「前記洗浄室とは『ひとりだち』して減圧され」となるから、意味をなさない。「とは独立して」との表現からすれば、「他に束縛または支配されていないこと」を当て嵌めるのが最も近い用法と解されるが、この場合も、「洗浄室とは『束縛または支配』されないで減圧され」ということになり、「束縛または支配」がどのような状態を意味するかは明確ではない。「独立」の用語のみで、一義的に「(凝縮室が洗浄室と)連通していない状態」ということはできない。結局、「前記洗浄室とは独立して減圧され」は、特許請求の範囲の記載からは一義的に解釈することができないから、発明の詳細な説明の記載を参酌して解釈するほかない。
発明の詳細な説明の記載を参酌した場合に、「前記洗浄室とは独立して減圧され」とは、凝縮室と洗浄室との連通・遮断とは関係なく、「時系列的に」凝縮室の減圧が(洗浄工程に入る前の)洗浄室の減圧とは別の工程で行われることを意味する・・・。(令和元年7月12日付け口頭審理陳述要領書第12ページ下から9行〜第13ページ第7行)

イ 本件特許発明5の解釈について
(ア)「減圧下」及び「低い温度」の「保持」の期間について
本件特許の請求項5の記載は、実施の形態において蒸気洗浄工程よりも前に行われている「凝縮室を低い温度にする工程」(構成要件N)が蒸気洗浄工程(構成要件M)よりも後に記載されているから、特許請求の範囲の記載は、各工程の順序を特定したものとは解されない。
そうすると、本件特許発明5においても、凝縮室は、ワークの乾燥工程においては、減圧の状態が保持され、洗浄室よりも低い温度に保持されることは特定されているが、乾燥工程以外の期間については、「減圧の状態」及び「低い温度」が保持されるか否かについては特定されていない。(令和元年7月12日付け口頭審理陳述要領書第10ページ第14行〜第21行)

本件特許発明5においても、『減圧下にある前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持』の『減圧下』及び『低い温度』の『保持』の期間は、ワークの乾燥工程の間のみのものも含むと解すべきである。(令和元年8月2日付け口頭審理陳述要領書(2)第4ページ下から8行〜下から6行)

(イ)「連通させてワークを乾燥させる」について
構成要件Oは、「前記洗浄室において前記ワークを洗浄した後、開閉バルブを開弁することにより前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させてワークを乾燥させる工程と」というものであるから、乾燥の手順として、ワークの洗浄後に、洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させることが特定されているにすぎない。(令和元年7月12日付け口頭審理陳述要領書第35ページ第6行〜第10行)

(ウ)「洗浄室および凝縮室を各々独立して減圧する工程」について
発明の詳細な説明の記載を参酌すると、構成要件Lの「洗浄室および凝縮室を各々独立して減圧する工程」は、凝縮室と洗浄室との連通・遮断とは関係なく、ワークが搬入され洗浄工程に入る前の洗浄室の減圧と、凝縮室の減圧とが、時系列的に別の工程で行われることを意味する。
本件特許明細書の第1実施形態においても、「凝縮室の減圧工程(準備工程:ステップS100)」→「ワークの搬入工程(搬入工程:ステップS200)」→「ワーク搬入後の洗浄室の減圧工程(減圧工程:ステップS300)」が順番に、別工程として行われており、構成要件Lの「洗浄室および凝縮室を各々独立する工程」を「洗浄室の減圧と凝縮室の減圧とを別工程で行う」と解することは、第1実施形態にも合致する。(令和元年7月12日付け口頭審理陳述要領書第30ページ下から13行〜下から4行)

(2)無効理由1(甲10に基づく進歩性欠如)について
ア 本件特許発明1について
(ア)相違点
蒸気洗浄に使用する溶剤が、本件特許発明1は「石油系溶剤」であるのに対して、甲10に記載された発明は「溶剤」である点で相違する。(審判請求書第37ページ第12行〜第14行)

(イ)相違点の検討
機械部品を真空蒸気洗浄するための洗浄液として石油系溶剤を使用することは、甲11〜甲14に記載されているように、本件特許出願時(当審注:「本件特許の優先日」の意味と解される。)において当業者に周知の事項である。(審判請求書第37ページ下から5行〜下から3行)

より詳しく説明すれば、1995年以前の真空洗浄装置の溶剤には、洗浄力の高いトリクロロエタンが用いられていた。しかしながら、トリクロロエタンはオゾン層破壊物質であるため、「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」により、1996年以降、全面的に使用が禁止された。そこで、トリクロロエタンの代替溶剤として、石油系溶剤が開発され、真空洗浄装置の溶剤として使用されるようになったという経緯がある。
このような経緯をふまえれば、本件特許出願時(2012年(平成24年)11月20日)(当審注:「本件特許の優先日」の意味と解される。)の当業者にとって、真空洗浄装置の洗浄液として石油系溶剤を用いることは、普通に行うことであり、どんなに控え目に見ても通常の創作能力の発揮に過ぎない。(審判請求書第39ページ第4行〜第14行)

(ウ)本件特許発明1がワークを乾燥させる前に凝縮室を減圧し、減圧の保持を行うものに限定的に解釈される場合
甲10に記載された発明の凝縮器34は、室12と連通させる前に真空ポンプ36により減圧されていると解される。(令和元年7月12日付け口頭審理陳述要領書第16ページ第13行〜第14行)

甲10の記載に基づけば、むしろ、洗浄、乾燥、溶剤回収の全てのプロセスで空気を排除していると考えるのが当然であり、乾燥工程で溶剤蒸気が空気と混合しないよう、乾燥工程の前に、凝縮器34は真空ポンプ36により減圧されその状態が保持されていると解される。甲10に記載された発明において、溶剤を導入する前に室12から空気を排除しておくことは、空気と溶剤の混同防止という目的のために凝縮器34を乾燥工程の前に減圧することはない、という理由にはならない。(令和元年7月12日付け口頭審理陳述要領書第17ページ第2行〜第8行)

甲10に記載された発明においては、溶剤と空気との混合をいかなる時にも防止するという観点から、溶剤を導入する前に室12から空気を排除する。ここで、蒸留タンク58は、室12に蒸気を供給するための溶剤を貯蔵するタンクであり、室12から空気を排除した後、バルブ62を開放して室12に溶剤蒸気を流入させる。蒸留タンク58に空気が存在すると、それが蒸気供給時に室12に流入して、事前に室12から空気を排除することの意味がなくなってしまう。したがって、当業者は、蒸留タンク58のパージは、室12から空気を排除する前に行われていると認識する。これと同時に、凝縮器34も真空ポンプ36により吸引されるから、凝縮器34は乾燥工程前に減圧される。(令和元年7月12日付け口頭審理陳述要領書第18ページ下から12行〜下から4行)

甲10の第7欄第1行〜第4行には、「バルブ54、56は、保管タンク38と蒸留タンク58のそれぞれからの空気をパージするのに使用され、大気へ放出される前にこれを炭フィルタ28または類似のフィルタへ送達する。」と記載されている。したがって、蒸留タンク58は、バルブ56、バルブ74、真空ポンプ26、カーボンフィルター28を通るルート(以下、「カーボンフィルタールート」という。)でパージされることもあり得る。
しかし、このカーボンフィルタールートが用いられるのは、蒸留タンク58に溶剤蒸気がほとんどない時に限られる。蒸留タンク58に溶剤が充填され、内部に溶剤蒸気が充満した状態で蒸留タンク58をパージすると、空気と共に溶剤蒸気も放出される。この場合、カーボンフィルター28を通すだけでは溶剤蒸気を除去しきれず、溶剤蒸気が大気に放出されてしまう。したがって、多量の溶剤蒸気が存在する場合には、カーボンフィルタールートを用いるのではなく、溶剤蒸気を凝縮器34に導いて凝縮、排除する「凝縮器ルート」(蒸留タンク58→バルブ56→バルブ78→凝縮器34→真空ポンプ36)を用いてパージする。甲10には明記されていないが、「凝縮器ルート」の場合、液体は保管タンク38に移送されるが、空気などの気体は真空ポンプ36の吐出口から排出されると考えられる。(令和元年7月12日付け口頭審理陳述要領書第18ページ下から3行〜第19ページ第14行)

甲10に記載された発明において、室12は、凝縮器34とは別に真空ポンプ26で減圧できるから、一連の処理が終わり、室12から物品20を取り出す際、凝縮器34にわざわざ空気を導入するはずがない。すなわち、当業者であれば、室12から物品20を取り出す際、バルブ32を閉弁し、凝縮器34の減圧状態を維持すると理解する。したがって、万一、1回目の物品の処理において、前記のような処理が行われないとしても、2回目以降の処理においては、乾燥工程前に凝縮器34は減圧されている。(令和元年7月12日付け口頭審理陳述要領書第19ページ下から11行〜下から4行)

甲10に記載された発明の凝縮器34を、室12と連通させる前に真空ポンプ36により減圧する場合、凝縮器34は室12と連通していない状態で減圧されることになる。したがって、甲10には、凝縮器34が室12と連通していない状態で減圧され(被請求人らが主張する「洗浄室とは独立して減圧され」)、その状態が保持される形態が実質的に開示されている。(令和元年7月12日付け口頭審理陳述要領書第20ページ第7行〜第11行)

甲10に記載された洗浄装置の減圧蒸気洗浄が行われる際の室12と凝縮器34の圧力の関係は以下のとおりである。
○1 洗浄装置が起動されると、溶剤蒸気と空気との混合を防止するため、室12から空気が排除され、減圧状態になった室12に蒸留タンク58から溶剤蒸気が流入して減圧蒸気洗浄が行われる。これにより、室12は、溶剤蒸気の飽和蒸気圧に近い圧力になる(例えば、100℃で400トール(53,329Pa))。
○2 初回の起動時における乾燥工程の開始前には、乾燥工程で溶剤蒸気が空気と混合しないよう、凝縮器34から空気が排除され、凝縮器34は減圧状態にあると解される。
したがって、減圧蒸気洗浄の終了時においては、室12の方が溶剤の飽和蒸気で満たされる分だけ、凝縮器34よりも圧力が高くなる。よって、乾燥のためにバルブ32を開弁する直前における室12と凝縮器34の圧力の大小関係は、「室12>凝縮器34」になる。
なお、甲10には、図1に示されている真空ポンプ26、36を介した経路の全てが説明されているわけではない。しかしながら、当業者は、技術常識に基づいて、甲10に記載された発明の目的、記載内容を総合することにより、乾燥工程で溶剤蒸気が空気と混合しないよう、乾燥工程の前に、凝縮器34は真空ポンプ36により吸引・排気され、減圧状態が保持されていると理解する。
また、1回目の洗浄・乾燥処理が終わり物品20を取り出す際に、室12は一旦大気開放されるが、凝縮器34の減圧状態は保持されると解される。よって、2回目以降の減圧蒸気洗浄においても、乾燥のためにバルブ32を開弁する直前における室12と凝縮器34の圧力の大小関係は、「室12>凝縮器34」になる。(令和元年8月2日付け口頭審理陳述要領書(2)第11ページ第6行〜第12ページ第5行)

(エ)本件特許発明1の「連通させてワーク乾燥させる」がワークの乾燥の手段を特定したものと解釈される場合
本件特許明細書に記載された実施形態において、開閉バルブ20と切換バルブV4を同時に開いて凝縮室21を真空ポンプ10で吸引した時、洗浄室2及び凝縮室21内でどのような現象が生じるのかは定かではないが、真空ポンプ10で吸引する態様の場合には、本件特許発明1は洗浄室と凝縮室との関係において甲10に記載された発明と同じ構成、同じ乾燥工程の態様となるのであるから、洗浄室(室12)から凝縮室(凝縮器34)への蒸気の移動も同じ態様となる。したがって、本件特許発明1の構成要件Gがワークの乾燥の手段を特定したものであると解したとしても、甲10に記載された発明と異なるところはない。(令和元年7月12日付け口頭審理陳述要領書第54ページ第9行〜第16行)

イ 本件特許発明2について
本件特許発明2の構成要件Iにおいては、本件特許発明1の構成要件Eの「温度保持手段」を「前記凝縮室の温度を前記石油系溶剤の凝縮点以下に保持する」ものであると限定している。
この点、甲10に記載された冷却ユニット48(温度保持手段に相当)は、凝縮器34を冷却する。そして、室12から引き出された蒸気は、凝縮器34で凝縮する。このことから、冷却ユニット48は、凝縮器34の温度を溶剤の凝縮点以下に保持するものといえる。したがって、甲10に記載されている溶剤洗浄システムは、本件特許発明2の構成要件Iを備える。以上より、本件特許発明2は進歩性を有しない。(審判請求書第42ページ第6行〜第15行)

ウ 本件特許発明3について
本件特許発明3は、本件特許発明2に対して、「前記洗浄室から前記凝縮室に導かれて凝縮した石油系溶剤を、前記凝縮室から前記蒸気生成手段に導く回収手段をさらに備える」という構成要件Jを付加するものである。甲10に記載された溶剤洗浄システムによると、室12から凝縮器34に導かれて凝縮した溶剤は、真空ポンプ36を介して凝縮器34と保管タンク38とを接続する配管、保管タンク38、バルブ42、72付き配管を通って、凝縮器34から蒸留タンク58に移送される。よって、保管タンク38、真空ポンプ36を介して凝縮器34と保管タンク38とを接続する配管、バルブ42、72付き配管は、本件特許発明3の構成要件Jに相当し、甲10に記載されている溶剤洗浄システムは、本件特許発明3の構成要件Jを備える。以上より、本件特許発明3は進歩性を有しない。(審判請求書第42ページ下から10行〜第43ページ第2行)

エ 本件特許発明4について
(ア)相違点
甲10には、溶剤を蒸気と液体の両方の状態で使用してもよいことや、浸漬洗浄を行う手段を備えてシステムを構成できる旨の記載はあるが、浸漬洗浄を実施するための具体的な構成は記載されていない。(審判請求書第43ページ第7行〜第10行)

(イ)相違点の検討
甲13、甲15、甲16の1及び甲17に記載されているように、蒸気洗浄を行う洗浄室に、浸漬洗浄を行う浸漬室を接続して、蒸気洗浄と浸漬洗浄の両方を行えるようにした洗浄装置は、本件特許出願時(当審注:「本件特許の優先日」の意味と解される。)において周知である。(審判請求書第43ページ第11行〜第13行)

蒸気洗浄に加えて浸漬洗浄を行うという点において、甲10、甲13、甲15、甲16の1及び甲17は共通する。また、周知技術を示す文献のうち、甲13の段落【0010】、【0032】、【0067】、および甲15の段落【0003】には、蒸気洗浄に加えて浸漬洗浄を行うと、洗浄効果が向上することが記載されている。本件特許発明、甲10に記載された発明を含め、洗浄装置において洗浄効果を向上させることは、当然に検討される課題であるから、当該課題のもと、蒸気洗浄に加えて浸漬洗浄を行うという点において、甲10に記載された発明に甲13、甲15、甲16の1及び甲17に記載された事項を組み合わせる動機付けは存在する。
したがって、甲10に記載された溶剤洗浄システムにおいて蒸気洗浄に加えて浸漬洗浄を行う場合に、甲13、甲15、甲16の1及び甲17に記載されている周知の構成に基づいて、洗浄室に浸漬室を接続して配置することは、当業者であれば容易になし得ることである。(審判請求書第44ページ下から9行〜第45ページ第4行)

オ 本件特許発明5について
(ア)相違点
相違点1
本件特許発明5には、「洗浄室に隣接した凝縮室」が記載されているのに対して、甲10に記載されている凝縮器34は、室12に配管を介して接続されている点。
相違点2
本件特許発明5には、「洗浄室と凝縮室とを各々独立して減圧する工程」が記載されているのに対して、甲10には、物品20を洗浄する前に室12を減圧する工程は記載されているが、室12と連通させる前に凝縮器34を減圧する工程は明記されていない点。
相違点3
生成する蒸気が、本件特許発明5は「石油系溶剤の蒸気」であるのに対して、甲10に記載された発明は「溶剤の蒸気」である点。(審判請求書第45ページ下から5行〜第46ページ第9行)

(イ)相違点の検討
相違点1について
甲10に記載された溶剤洗浄システムにおいても、連通時に凝縮器34は真空ポンプ36により減圧され、かつ冷却ユニット48により冷却されている。室12と凝縮器34とは配管を介して接続されているが、配管途中のバルブ32を開けば、真空ポンプ36による吸引に加えて本件発明5と同様に自然現象として、室12から蒸気が凝縮器34に移動する。ここで、室12と凝縮器34とを隣接状態に配置するか、配管を介して離間状態に配置するかということは、室12の蒸気が凝縮器34に移動して凝縮するという現象には関係がない。
洗浄室と凝縮室とを隣接状態に配置するか、配管を介して離間状態に配置するかということは、装置の設置スペースなどを考慮して当業者が通常行う設計事項である。例えば、隣接状態で配置すると、配管が不要になるため装置を小型化できたり、配管抵抗がない分、蒸気の移動がスムーズになることは、当業者であれば容易に考えつくことである。
ちなみに、甲18には、石油系溶剤を用いて金属部品などを真空洗浄、乾燥する真空洗浄・乾燥装置が記載されている。甲18の請求項6、段落【0010】には、甲10と同じく、真空容器(洗浄室)と真空ポンプとの間に凝縮器を配置して、真空容器内で蒸発した石油系溶剤を、当該凝縮器で凝縮、液化して真空容器に戻すことが記載されている。そして、段落【0031】、【0032】、図5には、凝縮器としての冷却器25付き排気管3が、真空容器1に隣接して配置される構成が記載されている。このように、洗浄室と凝縮室とを隣接状態に配置することは、何ら新規な構成ではない。
以上より、洗浄室と凝縮室とを隣接状態で配置することは、当業者がなし得る設計変更に過ぎず、こうすることに特段の困難性は認められない。(審判請求書第47ページ第8行〜第48ページ第5行)

甲10の洗浄装置においては、室12と凝縮器34は配管を介して接続されている。審判請求書においては、「隣接」に関して配管について言及したが、洗浄室と凝縮室との間の配管の有無は、「隣接」とは直接関係しない。装置の小型化や配管抵抗による圧力損失を小さくすることは、洗浄装置一般が課題とするところである。本件特許発明の作用効果を認識しなければそのような動機付けがないというものではない。甲10に記載された発明において室12と凝縮室34をできるだけ近づける(すなわち、隣接させる)ことは当業者にとって容易である。(令和元年8月2日付け口頭審理陳述要領書(2)第10ページ第8行〜第19行)

相違点2について
甲10には、洗浄、乾燥、溶剤回収の一連の工程において、溶剤と空気(非凝縮性ガス)との混合を極力回避する旨の記載がある。すなわち、甲10に記載された密閉回路溶剤洗浄方法においては、密閉されたシステムにおいて、あらゆるプロセスから空気を排除することにより、溶剤の完全回収および再利用を実現している。
したがって、甲10の記載に基づくと、室12から溶剤蒸気を引き出す時(乾燥時)に溶剤蒸気が空気と混合しないよう、予め凝縮器34を真空ポンプ36により減圧し、内部の空気を除去する工程があると考えるのが自然である。仮に、凝縮器34内に空気が存在する状態で乾燥工程を実施すれば、「洗浄作業全体で溶剤と空気との混合物を実質的に排除し、そのため洗浄作業が完了した後に空気から溶剤を分離する困難なステップを排除する」という甲10に記載された発明の目的を達成できない。
また、溶剤回収に関して、甲10の第7欄第51行〜第57行には、「実質的に純粋な蒸気が凝縮器34で凝縮され、再び保管タンク38へ送達され、タンクは、蒸留タンク58内の溶剤が汚染されて除去および処理が行われなければならない時に使用されうる清浄な溶剤のみを貯蔵する。タンク38、56(58の誤記と思われる)内の空気の周期的なパージは、バルブ54、56を通して達成される。」と記載されている。保管タンク38、蒸留タンク58のパージについては、甲10の第7欄第1行〜第3行にも、「バルブ54、56は、保管タンク38と蒸留タンク58のそれぞれからの空気をパージするのに使用され、」と記載されている。図1を参照すると、保管タンク38、蒸留タンク58のパージは、バルブ54、56、さらにはバルブ78、凝縮器34を介して、真空ポンプ36で吸引することにより行われる。
甲10に記載された発明の目的に鑑みれば、明細書中に文言として明記されていないからといって、凝縮器34から空気が排除されていないということにはならない。室12、保管タンク38、蒸留タンク58から空気を排除しているのに、わざわざ凝縮器34だけ空気(非凝縮性ガス)を存在させたままにしておくとは考えられない。また、保管タンク38および蒸留タンク58を、凝縮器34を介して真空ポンプ36で吸引することによりパージするのであるから、その際当然に、凝縮器34もパージ(減圧)されるはずである。
したがって、物品20を搬入した後で室12を真空ポンプ26により減圧するのとは別に、凝縮器34を減圧する工程は、明記こそされていないが、甲10の記載から当然行われていると考えるのが相当である。甲10に記載された溶剤洗浄システムは、真空ポンプを2つ備えており(真空ポンプ26、36)、この構成からも室12と凝縮器34とを別々に減圧可能であるであることがわかる。ちなみに、室12とは別に凝縮器34を減圧状態にするには、バルブ32を閉弁して真空ポンプ36を作動させればよく、当業者であれば容易になし得る事項である。
以上より、本件特許発明5の構成要件Lにおける「洗浄室と凝縮室とを各々独立して減圧する工程」は、甲10に実質的に開示されている。またそうでないとしても、設計事項として当業者において容易に推考できる事項である。よって、当業者であれば、甲10に記載された発明において構成要件Lの工程に想到するのは容易である。(審判請求書第48ページ下から3行〜第50ページ第16行)

相違点3について
本件特許発明1における相違点の検討で説明したように、機械部品を真空蒸気洗浄するための洗浄液として石油系溶剤を使用することは、本件特許出願時(当審注:「本件特許の優先日」の意味と解される。)において当業者に周知であった。また、トリクロロエタンの代替溶剤として、石油系溶剤が開発され、真空洗浄装置の溶剤として使用されるようになったという経緯もある。よって、甲10に記載されている1.1.1トリクロロエタンなどの溶剤に替えて石油系溶剤を用いることは、当業者にとって普通に行うことであり、通常の創作能力の発揮に過ぎない。(審判請求書第50ページ下から9行〜下から2行)

(ウ)本件特許発明5が乾燥工程前に凝縮室を減圧し、減圧下にするものに限定的に解釈される場合
仮に、本件特許発明5が乾燥工程前に事前に凝縮室の減圧を行うものに限定して解釈されるとしても、甲10に記載された発明は、室12と連通させる前に凝縮器34を真空ポンプ36により減圧する工程を有すると解されるから、本件特許発明5の構成要件L、構成要件Nと相違しない。(令和元年7月12日付け口頭審理陳述要領書第31ページ第13行〜第17行)

(3)無効理由2(甲19に基づく進歩性欠如)について
ア 本件特許発明1について
(ア)相違点
相違点1
蒸気洗浄に使用する溶剤が、本件特許発明1は「石油系溶剤」であるのに対して、甲19に記載された発明は「洗浄液」である点。
相違点2
本件特許発明1の凝縮室は「洗浄室とは独立して減圧される」のに対して、甲19に記載された発明は、凝縮器15が蒸気洗浄部3とは独立して減圧される形態が記載されていない点。(審判請求書第62ページ第9行〜第16行)

(イ)相違点の検討
相違点1について
甲12の段落【0002】には、真空洗浄装置の洗浄液として炭化水素溶剤を用いることが記載されている。また、無効理由1(甲10に基づく進歩性欠如)の本件特許発明1における相違点の検討で説明したように、機械部品を真空蒸気洗浄するための洗浄液として石油系溶剤を使用することは、本件特許出願時(当審注:「本件特許の優先日」の意味と解される。)において当業者に周知であった。また、トリクロロエタンの代替溶剤として、石油系溶剤が開発され、真空洗浄装置の溶剤として使用されるようになったという経緯もある。
このような経緯をふまえれば、当業者であれば、1998年(平成10年)11月26日に出願された甲19に記載された洗浄装置で使用する洗浄液は、当然、石油系溶剤であると考える。また、本件出願時(2012年(平成24年)11月20日)(当審注:「本件特許の優先日」の意味と解される。)の当業者にとって、真空洗浄装置の洗浄液として石油系溶剤を用いることは、甲12を適用するまでもなく普通に行うことであり、どんなに控え目に見ても通常の創作能力の発揮に過ぎない。(審判請求書第62ページ下から10行〜第63ページ第5行)

石油系溶剤を使用する洗浄装置では、空気の混入を忌避することは大前提であり、真空洗浄装置を製造、運転する当業者にとって、危険物として指定されている石油系溶剤を扱う以上、火災などを引き起こさないように真空洗浄装置の安全性を考慮することは当たり前のことである。・・・甲19に記載された洗浄液として石油系溶剤を用いる場合、大気との混合を防止するには、蒸気発生部4と連通させない状態で、蒸気洗浄部3を予めバキュームポンプ14で吸引し排気すればよいのであって、そのためには連通口10を開口する前にバキュームポンプ14を作動させておけばよい。その際には、単に密閉蓋体11の開閉時期とバキュームポンプ14の作動時期を調整するだけで特に装置を改造する必要もない。したがって、甲19に大気との混合を防止する手順が明記されていないことは、甲19に記載された洗浄剤として石油系溶剤を使用できない理由にはならない。(令和元年7月12日付け口頭審理陳述要領書第59ページ下から6行〜第60ページ第13行)

相違点2について
i)甲12には、蒸気洗浄を行う第2実施例として、真空ポンプ5A、5Bと、洗浄槽1(洗浄室)と、減圧槽3(凝縮室)と、を備える真空洗浄装置が記載されており、減圧槽3は洗浄槽1と共に真空ポンプ5Bにより減圧された後、洗浄槽1との連通が遮断され当該減圧状態が保持されること、およびそれとは別工程の、洗浄槽1に被洗浄物WR(ワーク)が搬入された後で、洗浄槽1のみが真空ポンプ5Aにより減圧されることが記載されている(段落【0012】、【0013】、図4、図5)。また、浸漬洗浄を行う第3実施例として、真空ポンプ5と、洗浄槽1(洗浄室)と、減圧槽3(凝縮室)と、を備える真空洗浄装置が記載されており、減圧槽3は洗浄槽1との連通が遮断された状態(VC閉鎖状態)で真空ポンプ5により減圧され当該減圧状態が保持されること、および洗浄槽1に被洗浄物WRが搬入された後で、洗浄槽1のみが真空ポンプ5により減圧されることが記載されている(段落【0015】〜【0017】、図7)。
ii)甲19と甲12には、いずれも機械部品(ワーク)を減圧下で溶剤蒸気により洗浄する洗浄装置に係る発明が記載されており、両者の技術分野は同じである。
甲19の段落【0001】、【0006】、【0007】には、「本発明は、電機部品、機械部品その他の部材に、洗浄及び乾燥処理を施すための洗浄装置に係るもので、各処理を、迅速かつ経済的に行うことが出来るようにしたものである。」、「一つの洗浄槽で蒸気洗浄処理と乾燥処理を行う事を可能とするとともに、無駄な設置スペースを省いて、洗浄装置をコンパクトで経済的に形成しようとするものである。」、「洗浄液やエネルギーの無駄な使用を防止して、経済的な乾燥処理を可能とするものである。」という課題が記載されている。
甲12の段落【0002】には、甲19と同様に、「いずれの真空洗浄装置も、洗浄性能が十分ではないか、或いは装置構成が複雑であるという問題点があった。本発明は、この問題点に着目してなされたものであって、簡易な装置構成でありながら、確実かつ迅速な洗浄動作を実現する真空洗浄装置を提供することを目的とする。」という課題が記載されている。
このように、甲19と甲12とは、技術分野はもちろん、洗浄槽→凝縮器→真空ポンプという装置構成自体が同じであり、装置の簡素化、洗浄処理などの迅速化に関する課題を有するという点でも共通する。
iii)甲12の第2実施例には、真空ポンプ5Bにより減圧槽3および洗浄槽1を減圧した後、開閉弁VC、VB、VGを閉じ、減圧槽3を洗浄槽1とは別に減圧状態に保持しつつ、開閉弁VFを開き洗浄槽1の減圧状態を解除して被洗浄物WRを搬入し、その後に開閉弁VEを開き真空ポンプ5Aにより洗浄槽1を減圧する形態が開示されている。ちなみに、この形態は、本件特許明細書の第二実施形態に記載されている準備工程、搬入工程、減圧工程(本件特許明細書の段落【0047】、【0049】、【0050】)の構成に極めて類似している。また、第3実施例には、浸漬洗浄を行う形態ではあるが、開閉バルブVCを閉じた状態で真空ポンプ5により減圧槽3のみを減圧し、当該減圧状態を保持したまま、洗浄槽1に被洗浄物WRを搬入し、その後に、開閉バルブVEを開いて洗浄槽1のみを真空ポンプ5により減圧する形態が記載されている。ちなみに、この形態は、本件特許明細書の第一実施形態に記載されている準備工程、搬入工程、減圧工程(本件特許明細書の段落【0023】、【0025】、【0026】)の構成に極めて類似している。
甲12に接した当業者は、これらの形態を採用すれば、甲19の洗浄装置において、蒸気洗浄部3のみの減圧または復圧が可能であるという知見を得る。蒸気洗浄部3のみを減圧・復圧できると、減圧時間を短縮でき、コストの削減につながる他、凝縮器15に空気(非凝縮性気体、凝縮を阻害する)が流入する回数を減らすことができるため、凝縮器15の凝縮性能を維持するという点でも有用である。この場合、凝縮器15は自ずと、バキュームポンプ14により蒸気洗浄部3とは独立して減圧され、当該減圧の状態が保持されるものになる。
甲19の洗浄装置に甲12の構成を適用する場合には、蒸気洗浄部3を別途バキュームポンプ14に接続するか(甲12の図7参照)、蒸気洗浄部3に真空ポンプを追加接続すればよく(甲12の図4〜図6参照)、これは当業者であれば容易になし得る事項である。このように、甲12の記載に基づいて、甲19の凝縮器15を、バキュームポンプ14により蒸気洗浄部3とは独立して減圧され、当該減圧の状態が保持される構成にすることは、当業者であれば容易に想到し得る。そして、このように組み合わせても、当業者において各構成を組み合わせたことにより想定できる以上の、特別な効果があるとは認められない。
iv)甲19の段落【0039】には、「上記第1実施例では、蒸気洗浄と乾燥処理を繰り返すうちに、蒸気発生部(4)の洗浄液(7)が減少し、十分な洗浄蒸気を発生できなくなる可能性がある。」と記載されており、洗浄装置において、被洗浄物5(ワーク)の搬入、搬出を繰り返し、被洗浄物5を連続して処理することが想定されている。
連続処理については、甲12に記載された真空洗浄装置においても想定されており、同号証の段落【0014】には、「真空乾燥の処理が完了すれば、真空ポンプ5A、5Bの運転を停止して開閉弁VE、VCを閉じた後、開閉弁VFを開放する。これにより洗浄槽1の減圧状態が解除されるので、洗浄処理を終えた被洗浄物WRを洗浄槽1から取り出すことができる。これ以降は、新たな被洗浄物を洗浄槽1に投入して蒸気洗浄処理を行うか、」と記載されている。
ワークの連続処理は、当業者がごく普通に想定する作業であり、甲12に記載されている形態は、このような連続処理において有用である。すなわち、甲12に記載されているように、減圧槽3を減圧し、当該減圧状態を保持したまま、洗浄槽1を復圧・減圧することができれば、被洗浄物WRを搬入、搬出する度に、減圧槽3を大気圧から減圧する必要がないため、甲19に記載されている「各処理を迅速かつ経済的に行う、エネルギーの無駄な使用を防止する」という課題解決にも合致する。
v)先の「(1)甲10に基づく進歩性欠如」の「(本件発明1との対比)」において説明したように、本件特許明細書には、構成要件Dの凝縮室が「前記洗浄室とは独立して減圧される」構成について、どのような状態を意味するのか、それによりどのような作用効果が奏されるのかなどの記載は何もない。
連続処理に着目すれば、本件特許明細書の段落【0031】には、「ワークWの乾燥が完了したら、開閉バルブ20を閉弁して、洗浄室2と凝縮室21とを遮断する。そして、切換バルブV3を開放して洗浄室2を大気開放し、(中略)ワークWを搬出する。(中略)凝縮室21は、所望の圧力に維持されていることから、以降は、上記ステップS200〜ステップS600を繰り返すことで、次々とワークWを洗浄することができる。」と記載されている。すなわち、本件特許明細書の図2、図8も示されているように、ワークの搬入、搬出を繰り返してワークを連続して処理する場合、凝縮室において1回目の処理の減圧状態を維持しておけば、すなわち、凝縮室を洗浄室とは独立して減圧された状態にしておけば、2回目以降は、凝縮室を減圧する工程(ステップS100)を行うことなく、洗浄室のみを減圧すればよいことがわかる。
このように、凝縮室を「洗浄室とは独立して減圧される」構成にすることに関して、本件特許明細書から読み取れる効果は、ワークを連続処理する際に凝縮室の減圧工程を省略できるということしかない。(審判請求書第63ページ第7行〜第67ページ第5行)

甲19に記載された洗浄装置においては、洗浄工程前に蒸気洗浄部3および蒸気発生部4を連通させて減圧することにより、洗浄蒸気を発生させる。凝縮器15との間を遮断した状態で、蒸気洗浄部3および蒸気発生部4の2室を減圧することができれば、凝縮器15とは別に2室のみを減圧・復圧することができるから、減圧時間を短縮でき、コストの削減につながる。また、被洗浄物5を蒸気洗浄部3に配置する際には蒸気洗浄部3は大気圧になるから、凝縮器15が蒸気洗浄部3から遮断されることにより、凝縮器15に凝縮を阻害する空気が流入する回数を減らすことができ、凝縮器15の凝縮性能を維持するという点でも有用である。
蒸気洗浄前に蒸気洗浄部3および蒸気発生部4の2室を減圧する場合、蒸気洗浄部3の圧力が蒸気洗浄を行うための所定の圧力まで低下すれば、それ以上減圧を続ける必要はない(甲19の第1実施例では、蒸気洗浄中、第1電磁弁17は閉弁されると考えられる)。また、甲19の段落【0031】に「上述の如き洗浄処理で凝縮された凝縮液は、被洗浄物(5)から洗い流された汚物とともに、連通口(10)を介して蒸気発生部(4)側に流下する。」と記載され、段落【0032】に「蒸気発生部(4)内に流下した凝縮液は、蒸留再生使用が可能となり、無駄に消費される事がないので、洗浄液(7)の経済的な使用も可能となる。」と記載されているように、蒸気洗浄中、被洗浄物5に接して凝縮した洗浄液は、蒸気発生部4に流下して再利用されるから、洗浄蒸気を凝縮器15に導く必要はない。このため、凝縮器15との間を遮断して(第1電磁弁17を閉じて)蒸気洗浄を行っても、被請求人らが主張するところの「蒸気は凝縮器(15)で回収されず再利用できない」というデメリットはない。
したがって、甲19の洗浄装置において、蒸気洗浄部3と凝縮器15とを別々に減圧する動機はある。(令和元年7月12日付け口頭審理陳述要領書第61ページ第11行〜第62ページ第6行)

甲12の第2実施例では、
1)まず、減圧槽3が洗浄槽1と共に真空ポンプ5Bにより減圧され、
2)減圧槽3と洗浄槽1との連通が遮断された後(開閉バルブVc閉弁)、
3)洗浄槽1に被洗浄物WR(ワーク)が搬入され、洗浄槽1のみが真空ポンプ5Aにより減圧される。
その後の乾燥工程においては、減圧槽3は洗浄槽1と連通した状態(開閉バルブVc開弁)で真空ポンプ5Bにより減圧されるが、第2実施例では、減圧槽3(凝縮室)の減圧が洗浄工程に入る前の洗浄槽1(洗浄室)の減圧とは別の工程で行われることに違いはない。(令和元年7月12日付け口頭審理陳述要領書第62ページ第11行〜第20行)

(ウ)本件特許発明1がワークを乾燥させる前に凝縮室を減圧し、減圧の保持を行うものに限定的に解釈される場合
甲19には直接の記載はないが、当業者は、当然にバキュームポンプ14の吸気側配管に遮断弁又は逆止弁が設置されていると理解する。バキュームポンプ14の停止時にロータが逆転しないようにされていれば、バキュームポンプ14によって凝縮器15が減圧された後、仮にバキュームポンプ14を停止させたとしても、大気が侵入することはないからその減圧状態は維持される。
なお、真空洗浄装置によっては、装置の稼働中、連続して真空ポンプを運転し続ける場合もあるが、この場合にも、凝縮器15内の減圧状態は維持されることは言うまでもない。(令和元年7月12日付け口頭審理陳述要領書第40ページ第5行〜第13行)

甲19には、蒸気洗浄の工程について詳細な記載はない。したがって、蒸気洗浄部3と凝縮器15の圧力の関係は、蒸気洗浄に関する一般的な技術常識を考慮した上で理解することとなるが、甲19に記載された洗浄装置の減圧蒸気洗浄が行われる際の蒸気洗浄部3と凝縮器15の圧力の関係は概ね以下のとおりと理解できる。
○1 蒸気洗浄部3に被洗浄物5を裁置した後、第1電磁弁17を開弁すると共にバキュームポンプ14を作動させると、蒸気洗浄部3および凝縮器15の両方が減圧される。減圧蒸気洗浄開始時において凝縮器15が減圧状態にある場合(一度蒸気洗浄が行われると、凝縮器15は、前の蒸気洗浄時の減圧状態が維持されている。)は勿論、凝縮器15が大気圧状態にあったとしても、「蒸気洗浄部3→凝縮器15→バキュームポンプ14」なる排気経路においては、配管内の圧力損失により上流側の圧力の方が下流側の圧力よりも高くなるから、蒸気洗浄部3の方が凝縮器15よりも圧力が高くなる。
○2 蒸気洗浄部3の圧力が低下すると、蒸気発生部4で発生した洗浄蒸気が蒸気洗浄部3に流れ込む。洗浄蒸気の一部は大気と共に蒸気洗浄部3から流出するが、凝縮器15で凝縮するので外部には排出されない。凝縮器15では、洗浄蒸気の凝縮による減圧が生じる。この時点でも、蒸気洗浄部3の方が凝縮器15よりも圧力が高い。
○3 蒸気洗浄部3の圧力が蒸気洗浄を行うための所定の圧力まで低下すると第1電磁弁17を閉じる。このとき蒸気洗浄部3の洗浄蒸気が飽和蒸気圧に達していない場合は、ほぼ飽和蒸気圧になるまで蒸気発生部4から洗浄蒸気が流入し続ける。一方、凝縮器15は冷却パイプ9により冷却されているから凝縮器15内の蒸気圧は高まらない。蒸気洗浄部3の方が凝縮器15よりも高温で飽和蒸気圧が高い分、洗浄蒸気の分圧はさらに高くなる。
このように、蒸気洗浄部3の方が凝縮器15よりも圧力が高く、洗浄工程においては、この圧力関係が維持される。したがって、乾燥のために第1電磁弁17を開弁する直前における蒸気洗浄部3と凝縮器15の圧力の大小関係は、「蒸気洗浄部3>凝縮器15」になる。
なお、第1電磁弁17を閉じても、凝縮器15とバキュームポンプ14との間のバルブ、あるいはロータの逆転防止のためにバキュームポンプ14に設けられている遮断弁や逆止弁を閉弁することにより、凝縮器15の減圧状態は保持される。
仮に、洗浄工程中に、第1電磁弁17が開弁したままであるとしても、前記○2の状態の後、さらに蒸気洗浄部3の洗浄蒸気はほぼ飽和蒸気圧になるまで蒸発し続け、この状態が維持されるから、洗浄工程終了時における蒸気洗浄部3の圧力は、凝縮器15の圧力よりも高い。(令和元年8月2日付け口頭審理陳述要領書(2)第12ページ下から7行〜第14ページ第3行)

(エ)本件特許発明1の「連通させてワーク乾燥させる」がワークの乾燥の手段を特定したものと解釈される場合
本件特許発明1においても、乾燥工程において切換バルブV4を開いて凝縮室21を真空ポンプ10で吸引すれば、少なくとも、真空ポンプ10の「吸引による圧力差での移動」により洗浄室2から凝縮室21への蒸気の移動が生ずると考えられる。このような態様において、洗浄室2及び凝縮室21内でどのような現象が生じるのかは定かではないが、真空ポンプ10で吸引する態様の場合には、本件特許発明1は甲19に記載された発明と同じ洗浄装置の構成、同じ乾燥工程の態様となるのであるから、洗浄室(蒸気発生部3)から凝縮室(凝縮器15)への蒸気の移動も同じ態様となる。したがって、本件特許発明1の構成要件Gがワークの乾燥の手段を特定したものであると解したとしても、甲19に記載された発明と異なるところはない。(令和元年7月12日付け口頭審理陳述要領書第57ページ下から14行〜下から5行)

イ 本件特許発明2について
本件特許発明2の構成要件Iにおいては、本件特許発明1の構成要件Eの「温度保持手段」を「前記凝縮室の温度を前記石油系溶剤の凝縮点以下に保持する」ものであると限定している。
この点、甲19に記載された冷却パイプ9(温度保持手段に相当)は、凝縮器15を冷却する。そして、蒸気洗浄部3から引き出された蒸気は、凝縮器15で凝縮する(段落【0026】、段落【0036】)。このことから、冷却パイプ9は、凝縮器15の温度を洗浄液の凝縮点以下に保持するものといえる。したがって、甲19に記載されている洗浄装置は、本件特許発明2の構成要件Iを備える。以上より、本件特許発明2は進歩性を有しない。(審判請求書第67ページ第11行〜第20行)

ウ 本件特許発明3について
本件特許発明3は、本件特許発明2に対して、「前記洗浄室から前記凝縮室に導かれて凝縮した石油系溶剤を、前記凝縮室から前記蒸気生成手段に導く回収手段をさらに備える」という構成要件Jを付加するものである。甲19に記載された洗浄装置によると、蒸気洗浄部3から凝縮器15に導かれて凝縮した洗浄液は、凝縮器15から第2電磁弁35付き配管を通って蒸気発生部4に移送される(段落【0036】)。よって、第2電磁弁35付き配管は、本件特許発明3の構成要件Jに相当し、甲19に記載されている洗浄装置は、本件特許発明3の構成要件Jを備える。以上より、本件特許発明3は進歩性を有しない。(審判請求書第67ページ下から6行〜第68ページ第3行)

エ 本件特許発明4について
(ア)相違点
甲19には、蒸気洗浄部3(洗浄室)に接続される浸漬室は記載されていない。(審判請求書第68ページ第13行〜第14行)

(イ)相違点の検討
無効理由1(甲10に基づく進歩性欠如)の本件特許発明4における相違点の検討で説明したように、蒸気洗浄を行う洗浄室に、浸漬洗浄を行う浸漬室を接続して、蒸気洗浄と浸漬洗浄の両方を行えるようにした洗浄装置は、本件特許出願時(当審注:「本件特許の優先日」の意味と解される。)において周知である。
蒸気洗浄に加えて浸漬洗浄を行うという点において、甲19、甲13、甲15、甲16の1及び甲17は共通する。また、上記文献のうち、甲13および甲15には、甲19と同様に、蒸気洗浄に加えて浸漬洗浄を行うと、洗浄効果が向上することが記載されている。本件特許発明、甲19に記載された発明を含め、洗浄装置において洗浄効果を向上させることは、当然に検討される課題であるから、当該課題のもと、蒸気洗浄に加えて浸漬洗浄を行うという点において、甲19に記載された発明に甲13、甲15、甲16の1及び甲17を組み合わせる動機付けは存在する。
したがって、甲19に記載された洗浄装置において蒸気洗浄に加えて浸漬洗浄を行う場合に、甲13、甲15、甲16の1及び甲17に記載されている周知の構成に基づいて、洗浄室に浸漬室を接続して配置することは、当業者であれば容易になし得ることである。
また、甲15の段落【0009】、【0020】には、「洗浄品質の向上」に加えて、「洗浄装置をコンパクトに構成して設置面積を縮小すると共に、設備費用を廉価にする」という課題が記載されている。そして、第2の形態として、蒸気洗浄・乾燥室41と浸漬槽42とが、中間扉43を挟んで上下に接続されている構成が示されており(段落【0050】、図2)、当該構成により、「左右方向の幅を短縮することができて、設置面積を縮小することができる」ことが記載されている(段落【0070】)。
甲19においても、「洗浄装置をコンパクトで経済的に形成する」という課題が記載されており(段落【0006】)、甲15にはこれと同じ課題が記載されているという点でも、甲19に記載された発明に甲15に記載された事項を組み合わせる動機付けは存在する。そして、甲19の洗浄装置に、甲15に記載された構成を採用すれば、洗浄効果の向上と洗浄装置のコンパクト化を実現できることは、当業者にとって自明である。
以上より、本件特許発明4は、進歩性を有しない本件特許発明1に周知技術である構成要件Kを付加したものに過ぎないから、進歩性を有しない。(審判請求書第68ページ下から13行〜第69ページ下から9行)

オ 本件特許発明5について
(ア)相違点
相違点1
本件特許発明5には、「洗浄室に隣接した凝縮室」が記載されているのに対して、甲19に記載されている凝縮器15は、蒸気洗浄部3に配管を介して接続されている点。
相違点2
本件特許発明5には、「洗浄室と凝縮室とを各々独立して減圧する工程」が記載されているのに対して、甲19には、蒸気洗浄部3および凝縮器15を減圧する工程しか記載されていない点。
相違点3
生成する蒸気が、本件特許発明5は「石油系溶剤の蒸気」であるのに対して、甲19に記載された発明は「溶剤の蒸気」である点。(審判請求書第70ページ第9行〜第20行)

(イ)相違点の検討
相違点1について
甲19に記載された洗浄装置においても、連通時に凝縮器15はバキュームポンプ14により減圧され、かつ冷却パイプ9により冷却されている。蒸気洗浄部3と凝縮器15とは配管を介して接続されているが、配管途中の第1電磁弁17を開けば、バキュームポンプ14による吸引に加えて本件特許発明5と同様に自然現象として、蒸気洗浄部3から蒸気が凝縮器15に移動する。ここで、蒸気洗浄部3と凝縮器15とを隣接状態に配置するか、配管を介して離間状態に配置するかということは、蒸気洗浄部3の蒸気が凝縮器15に移動して凝縮するという現象には関係がない。
洗浄室と凝縮室とを隣接状態に配置するか、配管を介して離間状態に配置するかということは、装置の設置スペースなどを考慮して当業者が通常行う設計事項である。例えば、隣接状態で配置すると、配管が不要になるため装置を小型化できたり、配管抵抗がない分、蒸気の移動がスムーズになることは、当業者であれば容易に考えつくことである。
上述したように、甲18には、石油系溶剤を用いて金属部品などを真空洗浄、乾燥する真空洗浄・乾燥装置が記載されている。甲18の請求項6、段落【0010】には、甲19と同じく、真空容器(洗浄室)と真空ポンプとの間に凝縮器を配置して、真空容器内で蒸発した石油系溶剤を、当該凝縮器で凝縮、液化して真空容器に戻すことが記載されている。そして、段落【0031】、【0032】、図5には、凝縮器としての冷却器25付き排気管3が、真空容器1に隣接して配置される構成が記載されている。このように、洗浄室と凝縮室とを隣接状態に配置することは、何ら新規な構成ではない。
以上より、洗浄室と凝縮室とを隣接状態で配置することは、当業者がなし得る設計変更に過ぎず、こうすることに特段の困難性は認められない。(審判請求書第71ページ下から9行〜第72ページ下から10行)

甲19の洗浄装置においても、蒸気洗浄部3と凝縮器15は配管を介して接続されている。審判請求書においては、「隣接」に関して配管について言及したが、洗浄室と凝縮室との間の配管の有無は、「隣接」とは直接関係しない。装置の小型化や配管抵抗による圧力損失を小さくすることは、洗浄装置一般が課題とするところである。本件特許発明の作用効果を認識しなければそのような動機付けがないというものではない。甲19に記載された発明において蒸気洗浄部3と凝縮室15をできるだけ近づける(すなわち、隣接させる)ことは当業者にとって容易である。(令和元年8月2日付け口頭審理陳述要領書(2)第10ページ第9行〜第19行)

相違点2について
i)甲12には、蒸気洗浄を行う第2実施例として、真空ポンプ5Bにより減圧槽3および洗浄槽1を減圧する工程と、洗浄槽1と減圧槽3とを遮断した状態で洗浄槽1に被洗浄物WR(ワーク)を搬入した後、真空ポンプ5Aにより洗浄槽1を減圧する工程が記載されている(段落【0012】、【0013】、図4、図5)。
また、浸漬洗浄を行う形態ではあるが、第3実施例として、減圧槽3を洗浄槽1との連通が遮断された状態(VC閉鎖状態)で真空ポンプ5により減圧する工程と、洗浄槽1に被洗浄物WRを搬入した後、洗浄槽1のみを真空ポンプ5により減圧する工程が記載されている(段落【0015】〜【0017】、図7)。
上述したように、甲12の第2実施例の工程は、本件発明の第二実施形態に記載されている準備工程、搬入工程、減圧工程(本件特許明細書の段落【0047】、【0049】、【0050】)に極めて類似している。甲12の第3実施例の工程は、本件発明の第一実施形態に記載されている準備工程、搬入工程、減圧工程(本件特許明細書の段落【0023】、【0025】、【0026】)に極めて類似している。
甲12の第2実施例および第3実施例に各々記載されている2つの減圧工程は、いずれも、構成要件Lの「洗浄室と凝縮室とを各々独立して減圧する工程」に相当する。
ii)本件特許発明1の「相違点2の検討」において説明したように、甲19と甲12には、いずれも機械部品(ワーク)を減圧下で溶剤蒸気により洗浄する装置および方法に係る発明が記載されている。甲19と甲12とは、技術分野はもちろん、洗浄槽→凝縮器→真空ポンプという装置構成自体が同じであり、装置の簡素化、洗浄処理などの迅速化に関する課題を有するという点でも共通する。
iii)甲12に接した当業者は、甲12に記載された工程を採用すれば、甲19の洗浄装置において、蒸気洗浄部3のみの減圧または復圧が可能であるという知見を得る。蒸気洗浄部3のみを減圧・復圧できると、減圧時間を短縮でき、コストの削減につながる他、凝縮器15に空気が流入する回数を減らすことができるため、凝縮器15の凝縮性能を維持するという点でも有用である。また、甲12に記載されている工程は、ワークの搬入、搬出を繰り返し、ワークを連続して処理する場合に有用である。すなわち、甲12に記載されているように、減圧槽3を減圧し、当該減圧状態を保持したまま、洗浄槽1を復圧・減圧することができれば、被洗浄物WRを搬入、搬出する度に、減圧槽3を大気圧から減圧する必要がないため、甲19に記載されている「各処理を迅速かつ経済的に行う、エネルギーの無駄な使用を防止する」という課題解決にも合致する。
iv)甲12の工程を適用する場合には、蒸気洗浄部3を別途バキュームポンプ14に接続するか(甲12の図7参照)、蒸気洗浄部3に真空ポンプを追加接続すればよく(甲12の図4〜図6参照)、これは当業者であれば容易になし得る事項である。このように、甲12の記載に基づいて、甲19の蒸気洗浄部3および凝縮器15を各々独立して減圧することは、当業者であれば容易に想到し得る。そして、このように組み合わせても、当業者において各構成を組み合わせたことにより想定できる以上の、特別な効果があるとは認められない。(審判請求書第72ページ下から8行〜第74ページ第12行)

相違点3について
本件特許発明1の「相違点1の検討」において説明したように、真空洗浄装置の洗浄液として石油系溶剤を用いることは、甲12に記載された発明を適用するまでもなく普通に行うことであり、どんなに控え目に見ても通常の創作能力の発揮に過ぎない。(審判請求書第74ページ第14行〜第17行)

(ウ)本件特許発明5が乾燥工程前に凝縮室を減圧し、減圧下にするものに限定的に解釈される場合
仮に、本件特許発明5が乾燥工程前に事前に凝縮室の減圧を行うものに限定的に解釈されるとしても、甲19に記載された発明は、蒸気洗浄部3と連通させる前に凝縮器15をバキュームポンプ14により減圧し、その減圧状態を維持する工程を有するから、本件特許発明5の構成要件Lと相違しない。(令和元年7月12日付け口頭審理陳述要領書第48ページ第8行〜第12行)

(4)無効理由3(分割要件違反にともなう新規性進歩性欠如)について
ア 分割要件について
原出願の分割直前明細書等から導かれる技術的事項は、
「洗浄室と凝縮室とを隣接状態に設け(要件○1)、ワークの乾燥工程において、真空ポンプを用いることなく(要件○2)、凝縮室と洗浄室とを連通させることのみによりワークを乾燥させる技術(要件○3)」
である。
他方、本件出願の明細書等から導かれる技術的事項は、
「ワークの乾燥工程において、少なくとも凝縮室と洗浄室とを連通させることによりワークを乾燥させる技術」
である。
2つの技術的事項を対比すると、本件特許出願の明細書等から導かれる技術的事項からは、原出願の分割直前明細書等から導かれる技術的事項の要件○1〜○3が全て削除されている。
要件○1〜○3は、発明の課題(ワークの乾燥に要する時間を短縮して全体の処理能力を向上する(段落【0006】))を解決するために必要不可欠な要件であることは明確である。
これに対して、本件出願の明細書等から導かれる技術的事項には、「洗浄室と凝縮室とを離間状態に設けること」や、「乾燥工程において凝縮室と洗浄室との連通に加えて真空ポンプを使用すること」がいずれも含まれうる。
すなわち、本件出願の明細書等には、原出願の分割直前明細書等には開示されていない、「洗浄室と凝縮室とを離間状態に設ける」、「乾燥工程において凝縮室と洗浄室との連通に加えて真空ポンプを使用する」という新たな技術的事項が導入されている。(審判請求書第89ページ第13行〜第90ページ第11行)

新規性進歩性違反について
新規性について、本件出願の出願日(現実の出願日)は平成27年2月6日であり、本件特許発明は「ワークの乾燥工程において、少なくとも凝縮室と洗浄室とを連通させることによりワークを乾燥させる技術」に関する発明である。
他方、原出願の国際公開日は平成25年5月30日であり、原出願の国際公開公報(甲5)には「ワークの乾燥工程において、真空ポンプを用いることなく凝縮室と洗浄室とを連通させることのみによりワークを乾燥させる技術」が開示されている。
本件特許発明には、「ワークの乾燥工程において、真空ポンプを用いながら凝縮室と洗浄室とを連通させることによりワークを乾燥させる技術」(後述するようにこれは出願時(当審注:「本件特許の優先日」の意味と解される。)の技術常識である)のみならず、「ワークの乾燥工程において、真空ポンプを用いることなく凝縮室と洗浄室とを連通させることのみによりワークを乾燥させる技術」も含まれる。
このように、本件特許発明は、甲5に開示された発明の上位概念に相当する。よって、新規性について、本件発明は、甲5に開示された発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。
進歩性について、本件特許発明は、甲5に開示された発明に基づいて当業者が容易に発明可能であるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。(審判請求書第92ページ第4行〜下から5行)

(5)無効理由4(実施可能要件)について
ア 洗浄室から凝縮室への蒸気移動のメカニズム(作用)について
段落【0029】の記載から、乾燥工程の開始時に、洗浄室2と凝縮室21との間に温度差があることは理解できる。しかしながら、段落【0029】末尾と、段落【0030】冒頭と、の繋がりが理解できない。段落【0030】冒頭の「したがって」はその前の段落【0029】の記載を受けていると考えられるが、洗浄室2と凝縮室21との間の温度差により、何故、蒸気が洗浄室2から凝縮室21に移動するのか、本件特許明細書にはそのメカニズムが開示されていない。このため、当業者は、「洗浄室を凝縮室と連通させるだけで何故ワークが乾燥するのか」理解することができない。
なお、蒸気移動のメカニズムについて、被請求人らは、特許権侵害差止等請求事件の平成29年7月18日付け準備書面(原告その1)(甲28)の第9ページ10行〜11行において、「そのため、凝縮室と洗浄室とを連通させることで、高温の洗浄液及び蒸気は極めて短時間で低温の凝縮室に移動する(圧力差があるため)。」と主張する(下線付記)。
しかしながら、本件特許明細書には、凝縮室と洗浄室との圧力差に関する記載は見当たらない。このように、本件特許明細書には、洗浄室と凝縮室とを連通させた際の蒸気移動のメカニズムが一切開示されていない。(審判請求書第99ページ下から5行〜第100ページ第12行)

本件特許発明の解決すべき課題は、「本発明は、ワークの乾燥に要する時間を短縮して全体の処理能力を向上することができる真空洗浄装置および真空洗浄方法を提供することを目的とする。」(段落【0006】)とされているのであるから、「凝縮による圧力差での蒸気の移動」が、従来の真空ポンプの「吸引による圧力差での蒸気の移動」よりも、速いことを説明しなければならない。
しかしながら、洗浄室からの蒸気の移動速度を定量的に説明する記載は、段落【0032】〜【0038】以外には一切ない。(令和元年7月12日付け口頭審理陳述要領書第66ページ下から10行〜下から2行)

イ 本件特許明細書に記載された真空乾燥実験について
本件特許明細書には、真空乾燥実験の実験条件がほとんど開示されていない。例えば、段落【0025】に洗浄室2に搬入する際のワークWの温度(常温(15〜40℃程度))が、段落【0027】には洗浄室2に供給される蒸気の温度(70〜150℃)が、段落【0029】には乾燥工程開始時における洗浄室2の温度(70〜150℃)および凝縮室21の温度(5〜50℃)が、段落【0032】にはワークWの質量(150kg)が、段落【0035】には洗浄室2内に載置された石油系溶剤の容量(70cc)およびワークWの質量(150kg)が、そして段落【0032】および段落【0040】には実施例の乾燥工程において真空ポンプ10を使用しないことが、各々開示されている。
ところが、その他の実験条件は一切開示されていない。
本件特許発明の課題(ワークの乾燥に要する時間を短縮して全体の処理能力を向上する(段落【0006】))を解決するためには、洗浄室2を迅速に減圧する必要がある。並びに、洗浄室2から蒸気を迅速に排気し、当該蒸気を凝縮室21にて凝縮させる必要がある。
このため、減圧能力や凝縮能力に関する実験条件は、極めて重要である。重要な実験条件としては、具体的には、洗浄室2の容積(容積が大きいほど蒸気の量が多い)、凝縮室21の容積(容積が大きいほど収容できる蒸気の量が多い)、凝縮室21の伝熱面積(伝熱面積が大きいほど蒸気が凝縮しやすい)、凝縮室21の熱吸収量(熱吸収量が大きいほど蒸気が凝縮しやすい)、凝縮室21の熱吸収量と蒸気量との比(熱吸収量に対して蒸気量が少ないほど蒸気が凝縮しやすい)などが挙げられる。しかしながら、これらの実験条件は、本件特許明細書には一切開示されていない。このように、本件特許明細書における真空乾燥実験の実験条件は、開示不足である。(審判請求書第100ページ下から8行〜第101ページ第16行)

ウ 出願時の技術常識について
本件特許出願時(当審注:「本件特許の優先日」の意味と解される。)においては、「ワーク乾燥時に、真空ポンプを用いて洗浄室を真空引きすることにより、蒸気を移動させること」が技術常識であったことが判る。
このため、真空ポンプを用いて蒸気を移動する知見しか有しない当業者は、出願時(当審注:「本件特許の優先日」の意味と解される。)の技術常識を参酌しても、本件特許明細書記載の蒸気移動のメカニズムを理解することはできない。並びに、当業者は、出願時(当審注:「本件特許の優先日」の意味と解される。)の技術常識を参酌しても、本件特許明細書の真空乾燥実験を理解することはできない。(審判請求書第102ページ第9行〜第15行)

エ 請求人の行った再現実験について
甲33の第10ページの図は、本件特許の図面における図5(比較例)および図6(実施例)の洗浄室の圧力変化に、再現実験の結果(再現例○4)を追記したものである。
同図に示すように、本件特許明細書の図6の実施例(B)の場合、乾燥工程開始から44秒で、280Paに到達している。また、本件特許明細書の図5の比較例(A)の場合、乾燥工程開始から508秒で、320Paに到達している。
これに対して、再現例○4の場合、乾燥工程開始から600秒で、ようやく516.4Pa(この圧力値は、前述のピラニ真空計の圧力−出力電圧特性に基づく換算値である)に到達したに止まった。このように、再現例○4の場合、実施例(B)のように280Paに到達することも、比較例(A)のように320Paに到達するも、できなかった。
このように、実施例のみならず比較例に対しても、再現例は、最高減圧レベルが劣っていた。並びに、実施例のみならず比較例に対しても、再現例は、最高減圧レベルに到達する時間が長かった。
以上説明したように、再現実験では、本件特許発明を再現することができず、本件特許発明の課題を解決することもできなかった。(審判請求書第105ページ下から3行〜第106ページ下から7行)

オ 被請求人らの行った再現実験について
○1被請求人らは、上記甲29〜甲32に対抗するために、特許権侵害差止等請求事件において、本件特許明細書の真空乾燥実験の再現実験を行った。甲34は、再現実験報告書である。
甲34においては試験1〜3(連通のみ乾燥)が再現例(本件特許明細書の実施例の再現例)であり、上述の甲29の再現例○4、甲30の実験IV、甲31の1の実験番号II、甲32の実験VIに対応している。甲34の第2ページに示すように、試験1〜3を行った真空洗浄装置は、特許実施品であるIWV−34Cである。
なお、試験1〜3の相違点は、初期排気(洗浄室にワークを搬入した直後の真空ポンプによる洗浄室の排気)後の洗浄室圧力である。すなわち、洗浄工程、乾燥工程前の洗浄室圧力である。試験1の初期排気後の洗浄室の圧力は0hPa、試験2の同圧力は1hPa、試験3の同圧力は2hPaである。
甲34の第10ページの図1に示すように、試験1〜3はいずれも特許実施品を用いた再現例であるにもかかわらず、その実験結果には大きな差異が認められた。具体的には、甲34の第12ページに示すように、試験1(初期排気後の洗浄室の圧力=0hPa)の場合、急速な減圧が確認できた。しかしながら、試験2(初期排気後の洗浄室の圧力=1hPa)、試験3(初期排気後の洗浄室の圧力=2hPa)の場合、急速な減圧は確認できず、甲30の実験IVと同等の結果が得られた。
このように、本件特許明細書の実施例を被請求人ら自らが(しかも特許実施品を用いて)再現しようとしても、初期排気後の洗浄室の圧力を0hPaに設定しなければ、再現することはできなかった。
○2甲34の実験結果について、被請求人らは、特許権侵害差止等請求事件の平成30年4月27日付け準備書面(原告その9)(甲35)の第12ページにおいて、「初期排気において洗浄室を充分に排気しておかないと、非凝縮性気体(空気)が洗浄室に残留するため、その後の乾燥工程において急速な減圧が生じない」旨主張している。
しかしながら、この被請求人らの主張に対応する記載は、本件特許明細書には見当たらない。すなわち、甲34で明らかになった、
「初期排気後の洗浄室から非凝縮性気体を0hPaまで排除しておかないと、乾燥工程においてワークを迅速に乾燥させることができず、本件特許発明を再現することができない」との知見(実験条件)は、本件特許発明の再現には必要不可欠と思われるものの、本件特許明細書には一切開示されていない。
なお、本件特許明細書の段落【0026】には、洗浄室の圧力について「10kPa以下」と記載されているが、本件特許明細書には当該圧力の内訳(この圧力中、どの程度を非凝縮性気体の分圧が占めているのか)に関する記載はない。仮に、「10kPa(=100hPa)以下」が非凝縮性気体の圧力と関係あるとしても、被請求人らの主張する「0hPa」からはあまりにかけ離れている。
○3加えて、被請求人らは、特許権侵害差止等請求事件の平成30年7月6日付け準備書面(原告その11)(甲36)において、本件特許明細書の「比較例の再現例」である試験5(甲36の第3ページ、甲34の第4ページによると、被請求人らが生産設備として従来から実際に使用している従来技術機HWBV−3Vを使用)について、
a) 試験5の初期排気後の洗浄室圧力は、42hPa(>>0hPa)であるものの(甲36の第3ページ10行目)、
b) 試験5は、真空ポンプでの乾燥なので、空気(非凝縮性気体)の残留の有無は圧力変化のカーブ(甲34の第11ページの図2参照)にはほとんど影響を与えない(甲36の第3ページ下部注釈)、
と述べている。
このことから、本件特許出願時(当審注:「本件特許の優先日」の意味と解される。)においては、真空ポンプで洗浄室を真空引きして洗浄室内部の気体(蒸気や非凝縮性気体)を吸引していたので、初期排気後の洗浄室における非凝縮性気体の残留量(例えば、試験5の42hPa)に着目する必要はなく(そもそも着目する動機すら存在しない)、
「初期排気後の洗浄室から非凝縮性気体を0hPaまで排除しておかないと、乾燥工程においてワークを迅速に乾燥させることができない」
との知見は、本件特許出願時(当審注:「本件特許の優先日」の意味と解される。)における技術常識ではなかったことが明らかである。
なお、被請求人らは、特許権侵害差止等請求事件の平成30年10月22日付け準備書面(原告その13)(甲37)の26ページ13〜17行において、「請求人の再現実験報告書で被請求人が問題視しているのは、乾燥工程中の凝縮室の非凝縮性ガスの存在である」とも述べているが、
「乾燥工程中の凝縮室から非凝縮性気体を排除しておかないと、ワークを迅速に乾燥させることができない」
との知見は、本件特許明細書には一切開示されていない。(審判請求書第107ページ下から3行〜第110ページ第9行)

本件特許明細書には、一貫して、非凝縮性ガスに関する記載はない。本件特許明細書の段落【0023】には、準備工程:ステップS100において凝縮室21の圧力について「10kPa以下」に減圧する旨の記載がある。また、段落【0026】には、減圧工程:ステップS300において洗浄室2を凝縮室21と同じ10kPa以下に減圧する旨の記載があり、段落【0031】には、搬出工程:ステップS600において切換バルブV3を開弁して洗浄室2を大気開放し、洗浄室2を大気圧まで開放する旨の記載があるから、減圧工程:ステップS300では、洗浄室2を通常の大気(空気からなり、空気は非凝縮性ガスである。)を大気圧から10kPa以下に減圧するものと解される。これらの記載は、洗浄室2及び凝縮室21内の非凝縮性気体の圧力を示唆するものであるが、これらの記載から、洗浄室2及び凝縮室21内の非凝縮性ガスの圧力を示唆するものであるが、これらの記載から、洗浄室2及び凝縮室21内の非凝縮性ガスの圧力を0hPaにしなければならないとは理解することはできない。
加えて、本件特許明細書の段落【0040】には、「そのため、特殊仕様ではない一般的な真空ポンプを採用することが可能となり、装置全体のコストを低減することができる」(下線付記)と記載されており、この記載から「非凝縮性ガスを排除可能な(0hPaを達成可能な)高性能かつ高価な真空ポンプ」が本件特許明細書から除外されていることが理解できる。
仮に、非凝縮性ガスが凝縮を阻害すること自体が技術常識であったとしても、真空洗浄装置において凝縮室21で洗浄蒸気を凝縮させるのに必要な非凝縮性ガスの許容値(凝縮室21に残留していても、蒸気の凝縮を阻害しない非凝縮性ガス量)までは技術常識ではない。このため、本件特許明細書に接した当業者が、仮に、本件特許明細書の記載から「本件特許発明の乾燥が、洗浄蒸気の「凝縮による圧力差での蒸気の移動」による乾燥であること」を理解したとしても、本件特許明細書の「10kPa」から甲34の10ページ図1や12ページに示す「0hPa」という許容値に辿り着くには、過度の試行錯誤が必要になる。よって、被請求人らの主張は失当である。(令和元年7月12日付け口頭審理陳述要領書第69ページ下から9行〜第70ページ第17行)

(6)無効理由5(サポート要件)について
ア 文言上、「ワークの乾燥に真空ポンプを用いる形態」が含まれ得る点
本件特許発明の課題を解決するために、本件特許明細書の真空乾燥実験の場合、段落【0029】〜【0030】、【0032】〜【0040】に示すように、従来の真空洗浄装置のように真空ポンプを用いることなく、凝縮室と洗浄室とを連通させることのみによって、洗浄室を迅速に減圧し、ワークを乾燥させている。
しかしながら、本件特許発明1の構成要件Gには、
構成要件G:「前記蒸気を前記洗浄室に供給してワークを洗浄した後、前記開閉バルブによって前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させてワークを乾燥させる」
としか記載されていない。
同様に、本件特許発明5の構成要件Oには、
構成要件O:「前記洗浄室において前記ワークを洗浄した後、開閉バルブを開弁することにより前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させてワークを乾燥させる工程と、」
としか記載されていない。
構成要件G、Oに記載されているのは「ワークの乾燥工程において、少なくとも凝縮室と洗浄室とを連通させることによりワークを乾燥させる技術」であり、文言上「ワークの乾燥に真空ポンプを用いる形態」が含まれうることになっている。(審判請求書第117ページ第8行〜末行)

イ 真空ポンプの併用が許容されるかについて
本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された実施形態においては、乾燥工程において、凝縮室21と真空ポンプ10との間の切換バルブV4は閉じていると解されるから(段落【0023】〜【0031】の真空洗浄装置1の処理工程には、乾燥工程において切換バルブV4が閉じているとの直接の記載はない。しかしながら、段落【0040】には、「第1実施形態の真空洗浄装置1によれば、洗浄室2に蒸気がない減圧工程でのみ真空ポンプを用いる。」と記載されているから、乾燥工程においては、切換バルブV4は閉じていると解される)、洗浄室2と凝縮室21とは外部から独立した閉じた系となっている。発明の実施の形態には、凝縮室21と真空ポンプ10との間の切換バルブV4が乾燥工程において閉じた発明しか記載されていない。
本件特許発明は、乾燥工程における凝縮室と真空ポンプとの関係が特定されていないから、発明の詳細な説明に記載されたものではない。(令和元年7月12日付け口頭審理陳述要領書第72ページ下から15行〜下から4行)

本件特許発明は、実施形態として開示された発明の、乾燥工程における凝縮室と真空ポンプとの間の限定(切換バルブV4を閉じる)を削除し、その結果、乾燥工程において真空ポンプによる洗浄蒸気の吸引を許容する発明としたものと理解できる。
本件特許明細書に記載された実施形態における洗浄室2から凝縮室21への洗浄蒸気の移動は、「凝縮による圧力差での移動」であると理解されるとしても、「凝縮による圧力差での移動」は、洗浄室2と凝縮室21が外部から独立した系において生ずるものである。実施形態の乾燥工程において、凝縮室21と真空ポンプ10との間の切換バルブV4が閉じていることは、「凝縮による圧力差での移動」による洗浄蒸気の移動に必要不可欠なものとして特定されたものと理解される。
本件特許明細書には、乾燥工程において「凝縮による圧力差での移動」以外の洗浄蒸気の移動手段については従来技術を除けば記載がない。そして、本件特許明細書には、段落【0005】に【発明が解決しようとする課題】として、「上記特許文献1の真空洗浄装置によれば、乾燥工程において、蒸気洗浄・乾燥室を真空ポンプで真空引きして減圧している。このとき、蒸発によって100倍以上の体積に気化した気体を、従来のメカニカルな回転駆動式真空ポンプで排気乾燥するのは容易ではない。また、乾燥性を高めるために更に減圧すれば、さらに気体が膨張して排気時間がかかる。そのため、この従来の乾燥方法による乾燥工程には長時間を要する。すなわち、安定した洗浄品質かつ生産性を高める乾燥工程において、その時間の短縮化が望まれている。」と記載されているのであるから、実施形態として記載された発明は、真空ポンプの吸引による乾燥手段に代わる新たな乾燥手段として記載されているものである。
この実施形態において、乾燥工程における態様として、凝縮室21と真空ポンプ10との間の関係が特定されないと、乾燥工程において、洗浄室2が真空ポンプ10により吸引される態様が含まれることとなる。この態様は、真空ポンプを用いないという本件特許発明の目的に反することとなるから、このような態様が含まれると本件特許明細書の記載に矛盾が生ずることとなる。実施形態の構成のうち、本件特許発明の目的を達成するための構成の一部である「凝縮室21と真空ポンプ10の間を閉鎖した態様で乾燥を行う」構成を欠如させてまで、真空ポンプを用いて洗浄室からの洗浄蒸気の排出を行う乾燥手段を許容することが、本件特許明細書に示唆されているということはできない。本件特許明細書に、「乾燥工程において、真空ポンプ10により凝縮室21を吸引してもよい。」等特段の記載がない以上、真空ポンプの吸引による乾燥には課題があるとされているのであるから、当業者は、敢えて凝縮室と真空ポンプを連結し、従来技術と同様の乾燥手段を併用することを許容することが記載されているに等しいとは理解し得ない。(令和元年7月12日付け口頭審理陳述要領書第72ページ末行〜第74ページ第5行)

ウ 凝縮室の熱吸収量について
本件特許明細書に記載されているように「凝縮室と洗浄室とを連通させることのみによって、洗浄室を迅速に減圧し、ワークを乾燥させる」ためには、非常に熱吸収量の大きい凝縮室が必要になると考えられる。しかしながら、構成要件G、Oには「凝縮室の熱吸収量」に関する記載はない。結果、文言上「非常に熱吸収量の小さい凝縮室を用いる形態(つまり、洗浄室を迅速に減圧できない形態)」まで、本件特許発明の技術的範囲に含まれうることになっている。(審判請求書第118ページ第1行〜第7行)

エ 「ワークを乾燥させる」(構成要件G、O)の語義について
構成要件G、Oによると、「開閉バルブを開弁することにより洗浄室と凝縮室とを連通させても、ワークが乾燥しない形態」は、構成要件G、Oには該当しないことになる。このため、「ワークを乾燥させる」の意味内容は極めて重要である。しかしながら、本件特許明細書には、構成要件G、Oの「ワークを乾燥させる」の語義に関する記載がない。
本件特許明細書の段落【0033】〜【0034】、【0036】〜【0038】によると、洗浄室の圧力が最高減圧レベルに到達したことをもってワークが乾燥したと判断しているようであるが、本件特許明細書からは、「ワークが乾燥したこと」と「洗浄室の圧力が最高減圧レベルに到達したこと」とが、どのように関係しているのか不明である。
この点について、被請求人らは、甲28の第13ページ11行〜18行において、「44秒経過時点において圧力が一定になるのは(最高減圧レベルに到達するのは)蒸気の移動が終了したから(すなわち、乾燥が終了したから)」(である)と主張している(この主張は、本件特許明細書の記載に基づくものではない)。
また、被請求人らは、同事件の平成29年11月27日付け準備書面(原告らその5)(甲38)の第7ページ〜第9ページにおいて、「最高減圧レベルは飽和蒸気圧である」旨、縷々主張している(この主張も、本件特許明細書の記載に基づくものではない)。
ここで、本件特許明細書の段落【0032】〜【0038】、図3〜6によると、本件特許発明の実施例(図4、6)においても、真空ポンプを用いる比較例(図3、5)においても、一様に、洗浄室の圧力は最高減圧レベルに到達している。
しかしながら、実施例(図4、6)の場合は洗浄室と凝縮室とを連通させることのみにより洗浄室を減圧しワークを乾燥させているのに対して、比較例(図3、5)の場合は、真空ポンプを用いて洗浄室を減圧しワークを乾燥させている。このように、洗浄室を減圧するメカニズムは、実施例(図4、6)と比較例(図3、5)とで全く相違している。
このため、当然のことながら、「最高減圧レベル」の意味内容も、実施例(図4、6)と比較例(図3、5)とで相違していると考えられる。特に、比較例(図3、5)の場合、飽和蒸気圧ではなく、単純に、真空ポンプの性能により最高減圧レベルが決まると考えられる(勿論、本件特許明細書にはこのような記載はない)。
よって、「最高減圧レベルは(画一的に)飽和蒸気圧である」という、被請求人らの上記主張は失当である。
このように、構成要件G、Oの「ワークを乾燥させる」の語義に関する被請求人らの主張は一貫性がなく、このこと自体、本件特許明細書に構成要件G、Oの「ワークを乾燥させる」の語義に関する明確な記載がないことを裏付けている。(審判請求書第118ページ第14行〜第120ページ第4行)

第4 被請求人らの主張
1 被請求人らは、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めている。また、証拠方法として乙第1号証〜乙第8号証を提出している(以下、「乙第1号証」については、「乙1」と表記し、「乙第2号証」等についても、同様に表記する。)。
なお、無効審判答弁書等で用いられる「○1(○の中にアラビア数字の1)」は、「○1」と表記し、「○2(○の中にアラビア数字の2)」等についても同様に表記する。

<証拠方法>
提出された証拠は、以下のとおりである。
乙1 親切な物理I基礎編 第178ページ〜第181ページ、第198ページ〜第201ページ 昭和54年3月1日第6版発行 株式会社正林書院
乙2 理化学辞典 第4版 第306ページ〜第307ページ 昭和62年10月12日 株式会社岩波書店
乙3 東京地方裁判所平成29年(ワ)第7207号特許権侵害差止等請求事件の平成29年9月8日付け準備書面(その2)
乙4 特許第6067823号公報
乙5 特開2014−166637号公報
乙6 基礎伝熱工学 第130ページ〜第133ページ 平成3年12月25日 共立出版株式会社
乙7 伝熱工学 第104ページ〜第107ページ 昭和57年8月20日 森北出版株式会社
乙8 東京地方裁判所平成29年(ワ)第7207号特許権侵害差止等請求事件の平成29年10月20日付け事実報告書

2 具体的な主張
(1)本件特許発明の乾燥のメカニズム
本件特許発明は、洗浄室とは別に凝縮室を設け、乾燥前に凝縮室を洗浄室より低温・低圧にしておき、乾燥時に両室を「連通」させ、凝縮室で蒸気を凝縮することにより、ワークを乾燥させる技術である。(無効審判答弁書第7ページ第7行〜第9行)

従来技術の乾燥は、真空ポンプの吸引力による減圧によって、洗浄室の圧力を下げて洗浄液を気化し、発生した蒸気を真空ポンプの吸引力によって吸い込む技術であった。これに対し、本件特許発明は、洗浄室と凝縮室の温度差・圧力差を利用し、両者を「連通」させ、蒸気を凝縮室で凝縮させることで、ワークを乾燥させる技術であり、これにより急速な乾燥を実現したものである。したがって、両発明は全く異なる技術である。
しかるところ、主引例である甲10に記載された発明も甲19に記載された発明も、従来技術である真空ポンプによる乾燥技術であるから、これらに基づき、本件特許発明の進歩性を否定することはできない。(無効審判答弁書第12ページ第2行〜第10行)

仮に凝縮室の圧力が洗浄室の圧力と同等ないし凝縮室の方が高圧であるとすれば、洗浄室の蒸気は凝縮室の圧力に押し返されてなかなか凝縮室内に入り込めないから、蒸気が凝縮室に入り凝縮されワークが乾燥するまでに多大な時間を要する。
これに対し、本件特許発明は本件特許明細書【図4】が示すような急速な乾燥を実現しているから、連通前に凝縮室が洗浄室より低圧となっていることは明らかであり、そのことは、急速乾燥を規定する構成要件G、Oに示されている。また、本件特許明細書からすれば、無効審判答弁書第7ページ以下記載の乾燥メカニズムについて理解可能であり、当該メカニズムに照らせば、本件特許発明が圧力差を設けていることはより明らかである。(令和元年7月12日付け口頭審理陳述要領書第6ページ第14行〜第22行)

(2)無効理由1(甲10に基づく進歩性欠如)と無効理由2(甲19に基づく進歩性欠如)とに共通する事項について
ア 本件特許発明1の解釈について
(ア)「減圧の状態が保持」及び「低い温度に保持」の「保持」の期間について
まず、クレームについて、本件特許発明1の構成要件Gは「前記洗浄室を『当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室』と連通させて」であり、低温に保持されている凝縮室と洗浄室とを連通させているから、連通前に予め低温保持が行われていることは明らかである。
また、構成要件Gの「前記凝縮室」は構成要件D「前記真空ポンプによって前記洗浄室とは独立して減圧され、当該減圧の状態が保持される凝縮室」を指すから、凝縮室は連通(構成要件G)の前に減圧保持工程(構成要件D)を経ている。(令和元年8月2日付け口頭審理陳述要領書(2)第3ページ第20行〜第4ページ第1行)

次に、本件特許明細書の記載について、請求人も指摘するとおり(請求人の令和元年7月12日付け口頭審理陳述要領書第8ページ以下)、明細書の実施形態では、準備工程から乾燥工程に至るまで一貫して減圧状態・低温が「保持」されている(【0023】〜【0031】)。
また、本件特許明細書からは、被請求人らが無効審判答弁書において説明した乾燥メカニズム(高温高圧の洗浄室と低温低圧の凝縮室を連通させて、急速乾燥を実現する)が明確に理解できるところ(無効審判答弁書第7ページ以下)、このメカニズムからしても乾燥前に減圧状態・低温を保持しておくことが必要である。
以上のとおり、クレーム、明細書によれば、凝縮室は乾燥前に予め減圧状態・低温で「保持」されている。(令和元年8月2日付け口頭審理陳述要領書(2)第4ページ第9行〜第17行)

(イ)「連通させてワークを乾燥させる」について
そもそも、「連通させてワークを乾燥させる」という請求項の文言自体から、「連通」が「乾燥」の手段であること(連通させることによって乾燥が生じること)は十分に理解できる。また、発明の要旨認定の場面でも、特許請求の範囲の記載が一義的に明確とは言えないときは明細書の記載を参酌すべきことは当然であるところ、本件特許明細書【0029】【0030】や図4などから、本件特許発明では「連通」によって「乾燥」させていることが明らかである。したがって、構成要件Gは、洗浄室と凝縮室とを連通させることで両者の温度差・圧力差を利用してワークを乾燥させることを意味していると解釈される。(無効審判答弁書第15ページ第8行〜第15行)

(ウ)「前記洗浄室とは独立して減圧され」について
請求人は、本件特許明細書の第1実施形態と第2実施形態を根拠に、「前記洗浄室とは独立して減圧され」とは、凝縮室と洗浄室の連通・遮断とは関係なく、「時系列的に」凝縮室の減圧が(洗浄工程に入る前の)洗浄室の減圧とは別の工程で行われることを意味すると述べる。
しかしながら、「独立」の意味は「○1それだけの力で立っていること。・・○3単独で存在すること。他に束縛または支配されないこと。ひとりだち。・・」(広辞苑第6版)などであるから、「洗浄室とは独立して減圧され」が、凝縮室と洗浄室が物理的に独立している状態、すなわち、凝縮室が洗浄室と連通していない状態で、洗浄室とは異なる圧力に減圧されるとの意味であることは一義的に明らかである。
また、本件特許明細書は、【0023】で凝縮室のみを減圧する第1実施形態の準備工程を開示しており、「独立して減圧され」はこの第1実施形態の準備工程を指している。
他方、請求人が指摘する第2実施形態(洗浄室、凝縮室、浸漬室がまとめて一緒に減圧した後、別途、洗浄室のみを減圧する形態)は、本件特許発明の原出願に係る発明の実施例であり、本件特許発明の実施例ではない。この点、請求人は、浸漬室を有する第2実施形態が本件の実施例でないとすれば、浸漬室を備える本件特許発明4は明細書にサポートされていないことになると主張するが、被請求人らが述べているのは、本件特許発明との関係において、実施例2の減圧工程は含まれないということであって、浸漬室の有無について述べているのではない。
以上のとおり、「洗浄室とは独立して減圧され」は、凝縮室が洗浄室と連通していない状態で減圧されるという意味である。(無効審判答弁書第17ページ第5行〜第26行)

例えば、本件特許明細書の実施形態1のように、○1準備工程(凝縮室の減圧と冷却)→○2搬入工程→○3減圧工程(洗浄室の減圧)→○4洗浄工程→○5乾燥工程→○6搬出工程の順で処理を行う場合(【0023】〜【0031】)、凝縮室を洗浄室とは別に独立減圧することができれば、○1準備工程の際に、凝縮室のみを減圧することができ、無駄に洗浄室を凝縮室と一緒に減圧する必要がないため(洗浄室は、その後○2搬入工程で大気に開放するので、○1での減圧は無駄になる)、その分、費用・エネルギー・時間を削減できる。
また、凝縮室を独立減圧することができれば、洗浄室で洗浄している合間に凝縮室のみを減圧して乾燥に備えることができるなど、工程の順や、バルブの開閉、真空ポンプの稼働などを、所望の操作手順に従い自由に設定することができる。
更に、洗浄室の独立減圧の効果として、連続処理の2回目以降は、準備工程(凝縮室の減圧と冷却)の工程を省略して、搬入工程から開始することができるところ(【0031】【図2】)、洗浄室を凝縮室と独立して減圧することができれば、減圧工程(洗浄室の減圧)において、一緒に凝縮室を減圧する必要がないので、その分、費用・エネルギー・時間を削減できる。(令和元年7月12日付け口頭審理陳述要領書第9ページ第10行〜第24行)

イ 本件特許発明5の解釈について
(ア)「減圧下」及び「低い温度」の「保持」の期間について
構成要件L(凝縮室の減圧)を経た上で最終的に構成要件O「連通による乾燥工程」が実現されることを規定しているから、構成要件L(凝縮室の減圧)がこの「連通による乾燥」に向けた手順(準備工程)であることは、請求項5の文脈からして明らかである。また、本件特許明細書からは、本件特許発明の乾燥メカニズムが明らかであり、そのメカニズムによれば、構成要件Lの減圧工程が連通乾燥の準備工程であることはより明白である。(令和元年7月12日付け口頭審理陳述要領書第8ページ第4行〜第9行)

構成要件Oは「前記洗浄室を『当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室』と連通させて」であるから、構成要件Oの前に構成要件Nの冷却工程を経ており、構成要件Nは「減圧下にある前記凝縮室」であるから、構成要件Nの前に構成要件Lの減圧工程を経ている(構成要件L→N→Oの順)。(令和元年8月2日付け口頭審理陳述要領書(2)第4ページ第2行〜第6行)

(3)無効理由1(甲10に基づく進歩性欠如)について
ア 本件特許発明1について
(ア)相違点
蒸気洗浄に使用する溶剤についての相違点1のみならず、以下の2点でも相違する。
相違点2:凝縮室、独立減圧、減圧状態保持
本件特許発明1は、「真空ポンプによって前記洗浄室とは独立して減圧され、当該減圧の状態が保持される凝縮室」(構成要件D)を有するが、甲10に記載された発明の熱交換器34は、真空ポンプ36によって減圧されるものの、「凝縮室」には該当せず、「前記洗浄室とは独立して減圧され」、「減圧の状態が保持」との構成もない点。
相違点3:連通による乾燥、前記凝縮室
本件特許発明1が「前記開閉バルブによって前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させてワークを乾燥させる」(構成要件G)のに対し、甲10に記載された発明は真空ポンプの吸引により乾燥させているから「連通させてワークを乾燥させる」との構成がなく、また、熱交換器34は乾燥工程前に減圧されていないから「前記凝縮室」に該当しない点。(無効審判答弁書第13ページ第16行〜第14ページ第3行)

(イ)相違点の検討
少なくとも、相違点2や3は、本件特許出願時(当審注:「本件特許の優先日」の意味と解される。)において容易想到ではないから、無効理由1は成り立たない。(無効審判答弁書第14ページ第5行〜第6行)

(ウ)甲10に記載された発明の凝縮器の減圧状態の保持について
甲10には、凝縮器34を乾燥工程の前に減圧するとの記載はないから、上記請求人の主張は甲10に基づかない独自の解釈に過ぎない。
また、甲10に記載された発明は確かに、空気と溶剤の混同防止を目的としてはいるが、その目的を、・・・、溶剤を導入する前に室12(洗浄室)から空気を排除しておくことで実現している。
このように、甲10に記載された発明は、空気と溶剤の混同防止という目的を、溶剤を導入する前に室12から空気を排除しておく方法で実現しているのであって、乾燥工程前に熱交換器34を独立して排気することは一切開示されていない。(無効審判答弁書第18ページ第20行〜第19ページ第16行)

空気がパージされるのはタンク38、58だけであり、凝縮室34ではないし、「周期的なパージ」というだけで、乾燥工程前であることは記載されていない。(無効審判答弁書第19ページ第23行〜第25行)

請求人の主張の根拠は、
○1溶剤と空気の混同防止という甲10に記載された発明の目的に照らせば、乾燥前に凝縮器34は真空ポンプ36により減圧され、その状態が保持されていると考えられる。
○2蒸留タンク58をパージするルートは「蒸留タンク58→バルブ56→バルブ78→凝縮器34→真空ポンプ36(→液体は保管タンク38へ、気体は真空ポンプ36の吐出口から排出される)」であるから、間の凝縮器34は自ずと減圧されるはずである。
○3連続処理において、2回目以降の処理に際し凝縮器34にわざわざ空気を導入するはずがないから、少なくとも2回目以降は凝縮器34の減圧状態は維持されているはずである。
というものであるが、いずれも甲10には一切記載がなく、請求人による独自の見解に過ぎない。
そもそも、甲10の説明はあまりにも不十分であるうえ、図面に記載された真空ポンプ自体が理解しがたい構造になっているため、甲10に基づいて、そこに記載されていない真空ポンプの動作を想定することには無理がある。
すなわち、真空ポンプは1つの吸入口と1つの出口を有するのが通常であるが、以下のとおり、甲10の図1では、真空ポンプ26には1つの吸入口と2つの出口が記載され(青矢印)、真空ポンプ36には2つの吸入口と吸入口か出口か不明な部分が1つ記載されており(赤矢印・赤線)、図面として正確性を欠いていると思われる。
このような図面に基づき、かつ、発明の詳細な説明にもパージに関する詳細な説明がない中で、蒸留タンク58のパージルートや、凝縮器34の減圧の有無を確定し得ないことは明らかである。(令和元年8月2日付け口頭審理陳述要領書(2)第5ページ第15行〜第6ページ第15行)

上述のとおり、甲10の記載はあまりにも不明確であって、甲10に明記のない「バルブ32の開放直前における室12と凝縮器34の圧力の大小関係」を認定することは困難である(令和元年8月2日付け口頭審理陳述要領書(2)第7ページ第5行〜第7行)

イ 本件特許発明5について
(ア)相違点
請求人の主張する相違点1〜3に加え、以下の点でも相違する。
相違点4:凝縮室の減圧工程
本件特許発明5が「真空ポンプを用いることにより、ワークが搬入された洗浄室および当該洗浄室に隣接した凝縮室を各々独立して減圧する工程」(構成要件L)を有するのに対し、甲10に記載された発明は「凝縮室」を有さず、「連通による乾燥」の準備としての「真空ポンプを用いることにより、…凝縮室を減圧する工程」を有しない点。
相違点5:凝縮室の冷却工程
本件特許発明5が「減圧下にある前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する工程」(構成要件N)を有するのに対し、甲10に記載された発明は「連通による乾燥」の準備行為である当該工程を有しない点。
相違点6:連通による乾燥工程
本件特許発明5が「前記洗浄室において前記ワークを洗浄した後、開閉バルブを開弁することにより前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させてワークを乾燥させる工程」(構成要件O)を有するのに対し、甲10に記載された発明は当該工程を有しない点。(無効審判答弁書第23ページ第2行〜第19行)

(イ)相違点の検討
真空ポンプで乾燥させる甲10に記載された発明には、そもそも、連通乾燥のための部材である「凝縮室」を設ける動機がないから、当然ながら、「凝縮室」を設けた上でそれと洗浄室を隣接させる相違点1の構成を採用する動機もない(なお、請求人が審判請求書で指摘する甲18も、真空ポンプ乾燥であり、「凝縮室」ではなく凝縮器を有するに過ぎない。)。また、本件特許発明1の箇所で述べたとおり、相違点2(独立減圧)は容易想到ではない。更に、真空ポンプ乾燥の甲10発明において、「連通による乾燥」の工程や、そのための「凝縮室」と準備工程を採用する動機はないから、相違点4〜6も全て容易想到ではない。(無効審判答弁書第23ページ第21行〜第28行)

例えば、洗浄室と凝縮室とが隣接させずに管で連通されている場合には、洗浄室と凝縮室とが隣接して設けられている場合と比較して、蒸気の移動に時間がかかるため、できるだけ両者を隣接させた方が好ましいことは、凝縮によって急速な乾燥を生じさせるという本件発明の作用効果を考えれば自明なことである。これが本件発明における「隣接」の作用効果であるが、一方、主引例である甲10に記載された発明のように、真空ポンプで排気を行い、凝縮器は温度制御・溶剤回収のために設けるという構成を考えた場合には、凝縮器は真空ポンプの前に設けられていれば足り、特段、洗浄室と凝縮器とを隣接させる意味はなく、そのような構成を採用すべき動機づけはない。(令和元年7月12日付け口頭審理陳述要領書第8ページ第22行〜第9ページ第5行)

請求人は、甲10に記載された発明には、装置の小型化や配管抵抗による圧力損失の減少化のために、洗浄室と凝縮室を近づける動機があると主張する。しかしながら、小型化のためには、両室を近づける以外にも多様な構造が考えられ、特に同構造を選択する理由はない。また、配管による圧力損失があっても、いずれも蒸気が凝縮器で回収される以上、温度制御・溶剤回収・溶剤再利用という甲10に記載された発明の目的は十分に達成されているから、凝縮による洗浄室の急速な減圧を意図しない甲10に記載された発明において、圧力損失が生じることは問題にはならない。以上のとおり、甲10に記載された発明には、洗浄室と凝縮室を近づける動機はない。(令和元年9月6日付け上申書(2)第4ページ第9行〜第16行)

(4)無効理由2(甲19に基づく進歩性欠如)について
ア 本件特許発明1について
(ア)相違点
蒸気洗浄に使用する溶剤についての相違点1、及び独立減圧についての相違点2のみならず、以下の2点でも相違する。
相違点3:凝縮室、独立減圧、減圧状態保持
本件特許発明1は、「真空ポンプによって減圧され、当該減圧の状態が保持される凝縮室」(構成要件D)を有するが、甲19に記載された発明の凝縮器15は、バキュームポンプ14によって減圧されるものの、「凝縮室」には該当せず、「減圧の状態が保持」されることもない点。
相違点4:連通による乾燥
本件特許発明1が「前記開閉バルブによって前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させてワークを乾燥させる」(構成要件G)のに対し、甲19に記載された発明は真空ポンプの吸引により乾燥させる点。(無効審判答弁書第25ページ第11行〜第22行)

(イ)相違点の検討
相違点1〜4はいずれも、本件特許出願時(当審注:「本件特許の優先日」の意味と解される。)において容易想到ではないから、無効理由2は成り立たない。(無効審判答弁書第25ページ第24行〜第25行)

甲19は、請求人が引用する減圧蒸気洗浄(【0030】)と、大気圧蒸気洗浄(【0028】【0029】)の2種類の洗浄方法を開示するが、どちらも、洗浄中に、大気と加熱された洗浄剤の蒸気が混合する方法である。このような中で、洗浄剤として石油系溶剤を使用してしまうと、引火のおそれがあり極めて危険である。したがって、甲19に記載された発明に対し、石油系溶剤を使用することはあり得ない(甲19は、大気と混合しても安全なフロン系溶剤等を使用しているはずである。)。(無効審判答弁書第26ページ第1行〜第7行)

○1甲19に記載された「大気圧蒸気洗浄」「減圧蒸気洗浄」は共に、洗浄時に空気と溶剤が混同する方法であるから(無効審判答弁書第26ページ)、当時、石油系溶剤が既知であろうが、甲19が非石油系溶剤を前提としていることは否定の余地がない(むしろ、石油系溶剤が既知である中、敢えて空気と溶剤を混同させて洗浄する甲19に記載された発明は、石油系溶剤を積極的に排除しているとさえいえる。)。
そして、○2このような甲19に記載された発明に関し、洗浄方法を根本的に変更し、甲19に記載されてもない運転方法を検討して、石油系溶剤を導入すべき動機はない。(令和元年8月2日付け口頭審理陳述要領書(2)第8ページ第21行〜第27行)

(ウ)甲19に記載された発明の凝縮器の減圧状態の保持について
甲19の【0026】【0030】には、洗浄前に、凝縮器(15)が蒸気洗浄部(3)と共にバキュームポンプ(14)で吸引・減圧されることは示しているが、凝縮器(15)の減圧状態がその後も保持されることは一切記載されていない。
したがって、「減圧の状態が保持される」(構成要件D)の点は相違点である(なお、請求人は、侵害訴訟(係属中)では、「減圧の状態が保持」を相違点として認定していた(乙3、26ページ【相違点2】))。
そして、甲19に記載された発明では、乾燥時に、蒸気洗浄部(3)をバキュームポンプ(14)で吸引・減圧するから、洗浄室の蒸気は、わざわざ凝縮器(15)を乾燥前に減圧状態で保持しておかなくても、真空ポンプに吸引されて当然に凝縮器(15)内を通過することになるため、事前の凝縮器15の減圧状態保持は不要である。
したがって、甲19に記載された発明に関し「減圧の状態が保持」との構成は容易想到ではない。(無効審判答弁書第28ページ第28行〜第29ページ第11行)

甲19には遮断弁・逆止弁の記載は一切なく、・・・請求人の完全な創作である。実際、請求人が指摘する甲39、40は、甲39、40の真空ポンプでは遮断弁・逆止弁を要することを示すに過ぎず、真空ポンプが一般に弁を要することは示していない。また、遮断弁・逆止弁にも色々な仕様があるから、仮に、甲19に記載された発明が遮断弁・逆止弁を備えていたとしても、必ずしも減圧状態が保持されるとは限らない。
そもそも、甲19の記載は明確とはいえず、乾燥前の真空ポンプの稼働状況や第1電磁弁17の開閉すら不明なのであって、まして、請求人のように架空の遮断弁・逆止弁によって減圧状態が保持されていると解することはできない。(令和元年8月2日付け口頭審理陳述要領書(2)第7ページ第15行〜第24行)

甲19に記載された発明の減圧蒸気洗浄の乾燥工程は様々な態様が考えられるのであり、例えば、○1洗浄中・洗浄後・乾燥中を通じ真空ポンプは稼働したままで、第1電磁弁17は開弁したままなのだとすれば、「第1電磁弁17の開弁直前」というタイミング自体が存在しないということになる。
また、逆に、○2洗浄後、一旦、真空ポンプを停止し、かつ第1電磁弁17を閉弁しているとすれば、凝縮器15は大気圧に戻る。一方、減圧蒸気洗浄によって、洗浄中に蒸気洗浄部3は減圧されているから、蒸気洗浄部3は大気圧より低圧になっている。したがって、この場合には、第1電磁弁17の開弁直前には、凝縮器15の方が蒸気洗浄部3よりも高圧になっている。
このように、甲19の記載からは上記大小関係を確定することは困難である。(令和元年8月2日付け口頭審理陳述要領書(2)第8ページ第3行〜第13行)

イ 本件特許発明4について
本件特許発明4は、本件特許発明1に対して浸漬洗浄を行うための「浸漬室」(構成要件K)を付加するものである。この点、甲19に記載された発明の目的の1つは、請求人も指摘するとおり、「コンパクト」な洗浄機を得ることであり(甲19【0006】)、そのために、甲19に記載された発明は「一つの洗浄槽で蒸気洗浄処理と乾燥処理を行う」(1室で洗浄も乾燥も行う)構成を採用している。更に、請求人が指摘する実施例8は浸漬洗浄工程を追加しているが、浸漬洗浄も洗浄室3内で行われており、洗浄室3の1室で浸漬洗浄、蒸気洗浄、乾燥の3工程全てを行うことで、「コンパクト」な洗浄機を実現している。このような実施例8に対し、別途、浸漬室を追加すると装置サイズが大きくなり、「コンパクト」を実現できなくなるから、甲19の実施例8に浸漬室を追加することには阻害要因がある。したがって、この点においても、本件特許発明4に対する無効理由2は成り立たない。(無効審判答弁書第32ページ第7行〜第17行)

ウ 本件特許発明5について
(ア)相違点
請求人の主張する相違点1〜3に加え、以下の点でも相違する。
相違点4:凝縮室の減圧工程
本件特許発明5が「真空ポンプを用いることにより、ワークが搬入された洗浄室および当該洗浄室に隣接した凝縮室を各々独立して減圧する工程」(構成要件L)を有するのに対し、甲19に記載された発明は、バキュームポンプ(14)でワークが搬入された洗浄室を減圧する工程は有するが、「凝縮室」が存在せず、また、「連通による乾燥」の準備としての「真空ポンプを用いることにより、…凝縮室を減圧する工程」を有しない点。
相違点5:凝縮室の冷却工程
本件特許発明5が「減圧下にある前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する工程」(構成要件N)を有するのに対し、甲19に記載された発明は「連通による乾燥」の準備工程である当該工程を有しない点。
相違点6:連通による乾燥工程
本件特許発明5が「前記洗浄室において前記ワークを洗浄した後、開閉バルブを開弁することにより前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させてワークを乾燥させる工程」(構成要件O)を有するのに対し、甲19に記載された発明は当該工程を有しない点。(無効審判答弁書第34ページ第4行〜第22行)

(イ)相違点の検討
真空ポンプで乾燥させる甲19に記載された発明には、そもそも、連通乾燥のための部材である「凝縮室」を設ける動機がないから、当然ながら、「凝縮室」を設けた上でそれと洗浄室を隣接させる相違点1の構成を採用する動機もない。また、本件特許発明1に関して述べたとおり、相違点1(洗浄室に隣接した凝縮室)、相違点2(独立減圧)、相違点3(石油系溶剤)を、甲19に記載された発明に採用する動機はない。更に、真空ポンプで乾燥させる甲19に記載された発明において、「連通による乾燥」の工程や、そのための「凝縮室」と準備工程を採用する動機はないから、相違点4〜6を想到することは容易ではない。(無効審判答弁書第34ページ第24行〜第35ページ第3行)

請求人は、甲19に記載された発明には、装置の小型化や配管抵抗による圧力損失の減少化のために、洗浄室と凝縮室を近づける動機があると主張する。しかしながら、小型化のためには、両室を近づける以外にも多様な構造が考えられ、特に同構造を選択する理由はない。また、配管による圧力損失があっても、いずれも蒸気が凝縮器で回収される以上、温度制御・溶剤回収・溶剤再利用という甲19に記載された発明の目的は十分に達成されているから、凝縮による洗浄室の急速な減圧を意図しない甲19に記載された発明において、圧力損失が生じることは問題にはならない。以上のとおり、甲19に記載された発明には、洗浄室と凝縮室を近づける動機はない。(令和元年9月6日付け上申書(2)第4ページ第9行〜第16行)

(5)無効理由3(分割要件違反にともなう新規性進歩性欠如)について
ア 分割要件について
甲22の【0023】【0029】【0030】(甲1(本件特許明細書)の【0023】【0029】【0030】と同一記載である)には、凝縮室を洗浄室よりも低温・低圧にしておき、乾燥時に両室を連通させると、蒸気が急速に凝縮室へ移動して凝縮し、これに伴い洗浄室の液体溶剤が次々に蒸気となり、その蒸気が凝縮室へ移動し続け、乾燥するという、本件発明と同様の技術が開示されている。
このような甲22の記載に接した当業者であれば、乾燥メカニズムに関し、隣接状態が必須であるとは理解しない(要件○1は要件ではない)。(無効審判答弁書第35ページ第20行〜第36ページ第1行)

請求人は、要件○2、○3(真空ポンプを用いず、凝縮室と洗浄室とを連通させることのみでワークを乾燥させる)の根拠として甲22の各記載を指摘するが、甲22の乾燥メカニズム(【0023】【0029】【0030】)は本件特許発明と同一であるから、当業者は、本件特許発明と同様に、甲22の乾燥に関しても真空ポンプの併用は排除されていないと理解する。
また、請求人は、甲22【請求項1】【請求項5】の「真空ポンプを用いることなく」の記載を強調するが、当該記載は、甲22の請求項1、2の発明が当該形態であることを示すに過ぎない。
更に、請求人は、要件○2、○3の根拠として、甲25(2回目の手続補正書)も指摘するが、甲25は、引用文献1、2を回避するために、請求項1、5に「真空ポンプを用いることなく開閉バルブを開弁して洗浄室と凝縮室とを連通させることによってワークを乾燥させること」を追加して限定したに過ぎないから、甲22(明細書等)に開示された技術事項が当該態様に限定されると解する余地はない。
以上のとおり、甲22に記載された技術事項は、要件○1〜○3を要件としていないから、本件特許権につき分割要件違反は成り立たず、分割要件違反に基づく新規性進歩性欠如の主張には理由がない。(無効審判答弁書第37ページ第25行〜第38ページ第15行)

(6)無効理由4(実施可能要件)について
ア 洗浄室から凝縮室への蒸気移動のメカニズムについて
蒸気移動のメカニズムは、本書第2の「(2)本件発明の乾燥技術」で詳述したとおりであり、要旨は以下のとおりである。・・・。
○1 洗浄後、洗浄室は高温の蒸気が充満し飽和蒸気圧になっている。洗浄室とは別に凝縮室を設け、乾燥前に、凝縮室を洗浄室よりも低温、低圧にしておく(←圧力差と温度差を作る) (構成要件D、E、L、M、N、【0018】、【0023】、【0027】、【0029】)
○2 その後、洗浄室と凝縮室を連通させると、洗浄室に充満していた蒸気は洗浄室より低圧の凝縮室に急速に移動する(【0030】)
○3 移動した蒸気は冷却された凝縮室で急激に凝縮される。
→洗浄室と凝縮室の圧力差により、蒸気は凝縮室へ移動・凝縮を続け、洗浄室の圧力が下がる
→洗浄室の圧力が下がると、沸点が低下するため液体が更に蒸気になり、凝縮室へ移動する。
○4 上記○3が継続し、洗浄室から凝縮室へ蒸気が継続的に移動・凝縮することで、ワークが乾燥する (【0018】、【0023】、【0029】、【0030】) (無効審判答弁書第39ページ第6行〜第24行)

請求人が本件の蒸気移動のメカニズムを理解していることは、請求人の特許出願(乙4)に示されている。
すなわち、乙4の従来技術を説明した【0003】には、「この点、特許文献1には、真空ポンプを用いない真空洗浄装置が開示されている。同文献記載の真空洗浄装置は、洗浄室と凝縮室と真空弁とを備えている。真空弁は、洗浄室と凝縮室との間に介装されている。同文献の真空洗浄装置においては、真空弁を一気に開き、洗浄後のワークが配置された洗浄室を、予め減圧され、かつ低い温度に保持された凝縮室に、連通させることにより、ワークを乾燥させている。すなわち、真空弁を開くと、洗浄室の蒸気が凝縮室に流入する。蒸気は、凝縮室で凝縮し、液化する。この際、液化した洗浄液は凝縮室で冷却され低温になる。この際の蒸気圧は280Paとなる。このため、凝縮室と連通する洗浄室も、圧力が釣り合って280Paまで減圧される。したがって、ワークに付着した洗浄液、および蒸気圧280Pa以上の油分は、蒸発する。よって、ワークを乾燥させることができる。」(下線付加)とあり、上記で被請求人らが説明したメカニズムがそのまま説明されている。そして、ここでの「特許文献1」は特開2014−166637号公報(乙5)であり、本件特許発明の原出願(特願2013−545937)からの別の分割出願であって、明細書の内容は本件特許明細書と実質的に同一である。
これによれば、請求人は本件特許明細書に基づきメカニズムを十分に理解できているのであり、同じく当業者であれば十分に理解可能である。(無効審判答弁書第39ページ第27行〜第40ページ第17行)

構成要件Dにおいて、凝縮室は洗浄前に真空ポンプによって減圧され、当該減圧の状態が保持されていること、構成要件Gにおいて、減圧された凝縮室と洗浄室とを連通させることで現に乾燥が生じることから、連通前に凝縮室と洗浄室に圧力差があることは明らかである。まして、本件特許明細書の記載を踏まえれば、この点は一義的に明白であり、これ以外の解釈をする余地はない。(無効審判答弁書第40ページ第22行〜第26行)

イ 本件特許明細書に記載された真空乾燥実験について
本件特許発明は、洗浄室と凝縮室に圧力差・温度差を設けて乾燥させる技術であるから、そのような圧力差・温度差があれば足り、容積や伝熱面積等の具体的な条件は当業者が適宜設定すれば足りるため、本件特許明細書に開示する必要はない。(無効審判答弁書第43ページ第2行〜第5行)

ウ 出願時の技術常識について
本件のメカニズムは、請求項・明細書の記載および当業者のごく基礎的な技術常識から理解可能である。(無効審判答弁書第43ページ第12行〜第13行)

エ 請求人の行った再現実験について
再現例の効果を評価するには、同じ請求人製品を用いた、「真空ポンプのみ乾燥」(従来技術)と「連通のみ乾燥」(本件特許発明の再現例)とを比較する必要があるから、その比較がない以上、再現例が本件効果を有しないことは何ら立証されていない。
更に、ある発明を実施するにあたり、敢えて効果を確認しにくい条件の設定をすれば、十分な効果が得られない場合があることは当たり前のことに過ぎないから、請求人が失敗した実験を行ったことは、なんら本件特許発明の記載不備と結びつくものではない。したがって、請求人の主張はその前提において、失当である。(無効審判答弁書第43ページ第21行〜第28行)

オ 被請求人らの行った再現実験について
請求人の実験について、被請求人らにおいて、請求人製品を用いて種々の実験を行うことは事実上、困難である。そこで、被請求人らは、被請求人製品(本件特許発明実施品)を用いて、乾燥工程の前に洗浄室を十分に排気したうえで洗浄室と凝縮室を連通させる実験と、意図的に洗浄室に空気を残存させた実験を行った(甲34)。
その結果が、下図(甲34の図1)であり、○1初期条件として洗浄室を十分に排気したうえで、洗浄室と凝縮室との間に十分な圧力差・温度差を設ければ、連通させるだけで急速な減圧が行われた(【試験1】0hPaまで初期排気)。一方、○2洗浄室の初期排気を不十分にした条件では、○1のような急速な減圧は生じなかった(【試験2】1hPa残存。【試験3】2hPa残存)。
このように、【試験2】【試験3】で急速減圧が生じなかった理由は、洗浄室に残存した空気(非凝縮性ガス)が、洗浄室と凝縮室を連通させた際、凝縮室へ移動し、蒸気の凝縮を阻害したからである。むろん、こうした現象は、乾燥工程中に凝縮室に空気が存在していれば生じるから、乾燥前に洗浄室に空気が残存した【試験2】【試験3】のような場合だけでなく、乾燥前に凝縮室に空気が残存した場合や、乾燥工程中に外部から洗浄室や凝縮室へ空気が侵入した場合にも、同様に生じる。
そして、上図のとおり、請求人の再現例(赤線)は、【試験2】、【試験3】と同様の圧力変化を示しているから、当該再現例では、排気を不十分にしたか、外部からの空気の侵入などにより、乾燥工程中に凝縮室に空気が存在していた可能性が高い。
以上のとおり、甲29等は敢えて効果が出にくい条件を設定したに過ぎない可能性が高く、その信用性は皆無である。(無効審判答弁書第44ページ第9行〜第45ページ第16行)

甲34は、本件特許発明の実施品であっても、空気を残すなど、敢えて発明の効果が出にくい条件設定をすれば減圧は緩やかとなり、請求人の実験もそのような条件設定でなされた可能性があるから信用性がないということを示すに過ぎない。また、非凝縮性ガスを排除すれば凝縮効率は向上するから(乙6、7)、本件の乾燥メカニズムが「凝縮による乾燥」であることを理解する当業者にとって、非凝縮性ガスを乾燥前・乾燥時に排除することは適宜設計すれば足りる設計事項である。(無効審判答弁書第48ページ第3行〜第9行)

本件特許発明が規定する石油系溶剤を用いた真空洗浄装置とは、(その乾燥方法にはかかわらず、その洗浄中に)洗浄室の大気を十分に排気しておく装置であり、構成要件C、Lで洗浄室を減圧しているのは、このことを規定するものである。
ただし、仮に、乾燥前の洗浄室に空気が残存していたとすれば、連通乾燥させる前に凝縮室を十分に減圧していたとしても、洗浄室との連通により、洗浄室に残存していた空気が凝縮室に移動し、凝縮を阻害することになるため、この意味においては、洗浄室を初期排気するとの事項は、構成要件Cや構成要件Lの洗浄室の減圧と無関係とまではいえないが、上記のとおり、洗浄室の空気を十分に排除することは、連通による乾燥を行うか否かに関わりなく、真空洗浄装置の本来の目的である洗浄を行うために、当然に行う事項である。(令和元年7月12日付け口頭審理陳述要領書第12ページ第19行〜第13ページ第3行)

洗浄室の減圧について、令和元年7月12日付け口頭審理陳述要領書第12ページ以下で説明したとおり、洗浄室を減圧する主目的は非凝縮性気体(空気)と石油系溶剤の混同による引火・爆発回避であるから、減圧の程度は当該目的に沿って当業者において適宜設定することになる。また、凝縮室の減圧の程度は、明細書に基づき本件乾燥メカニズム(圧力差・温度差を利用)を理解する当業者において、当該メカニズムに沿った乾燥が実現できるように適宜設定すべきものである。したがって、必ずしも0hPaまで減圧する必要は無い。
なお、この場合において、当業者が所望の減圧状態を得ることは、使用するポンプに応じて適宜設定できることであるから、その実現に過度の試行錯誤を要するものでもない。(令和元年8月2日付け口頭審理陳述要領書(2)第9ページ第21行〜第10ページ第2行)

(7)無効理由5(サポート要件)について
ア 真空ポンプの併用が許容されるかについて
分割要件の箇所で甲22(本件特許出願の分割直前明細書等)に関して述べたのと同様に、真空ポンプを使うか否かはそもそも本件特許発明の対象外の事情であるから、本件特許明細書に真空ポンプを付加的に用いることが記載されていないとしても、記載不備の問題とは無関係である。また、本件特許明細書が開示する乾燥のメカニズムでは、洗浄室と凝縮室に圧力差・温度差を設けていれば蒸気移動・凝縮・乾燥が生じ、真空ポンプの併用はこの「凝縮による乾燥」を阻害しないから、当業者は真空ポンプの併用が排除されていないと当然に理解する。(無効審判答弁書第49ページ第17行〜第23行)

イ 凝縮室の熱吸収量について
請求人の言う「非常に熱吸収量の小さい」の意義が不明であるが、いずれにせよ、本件特許明細書は凝縮による乾燥を開示しているから、具体的な熱吸収量といった詳細は、当業者が洗浄室や凝縮室の容積などを踏まえ、所望の乾燥速度、乾燥の程度が生じるように適宜設定すれば足りる。したがって、本件特許明細書に熱吸収量の記載がないことは、サポート要件違反の理由にならない。(無効審判答弁書第50ページ第6行〜第10行)

ウ 「ワークを乾燥させる」(構成要件G、O)の語義について
どの程度の乾燥をさせるかは当業者が適宜設定すべき事項であるから、当該構成要件に関しサポート要件違反など生じる余地がない。また、最高減圧レベルと乾燥との関係が不明といってみたところ、そもそも、記載不備の理由になっていない。(無効審判答弁書第50ページ第17行〜第20行)

乾燥と最高減圧レベルの関係は本件特許明細書に接した当業者にとって明らかであるし、いずれにせよ、上記のとおり、乾燥の程度としてどのレベルを求めるかは、それを使用する当業者が適宜設定すべき問題であるから、それに応じて、適宜、温度・圧力(請求人が言う「最高減圧レベル」)を設定すれば足り、通常は、本件特許明細書の実施例に記載された280Pa程度まで減圧していれば十分である。(無効審判答弁書第50ページ第26行〜第51ページ第3行)

第5 当審の判断
1 本件特許発明の解釈
(1)本件特許発明1の解釈について
請求人は、本件特許発明1における、「減圧の状態が保持」及び「低い温度に保持」の「保持」の期間は、ワークの乾燥工程の間のみのものも含むと解すべきである旨、本件特許発明1の「連通させてワークを乾燥させる」とは、ワークの乾燥が「洗浄室と凝縮室とを連通」させた態様で行われることを特定したものにすぎず、文言上、ワークの乾燥工程において真空ポンプを用いて凝縮室・洗浄室を減圧するものも含み得る旨、及び本件特許発明1の「洗浄室とは独立して減圧され」る凝縮室とは、凝縮室と洗浄室との連通・遮断とは関係なく、「時系列的に」凝縮室の減圧が洗浄室の減圧とは別の工程で行われることを意味する旨、主張している。
これに対して、被請求人らは、構成要件Gの「前記凝縮室」は構成要件Dの「前記真空ポンプによって減圧され、当該減圧の状態が保持される凝縮室」を指すから、凝縮室は連通(構成要件G)の前に減圧保持工程(構成要件D)を経ている旨、構成要件Gは、洗浄室と凝縮室とを連通させることで両者の温度差・圧力差を利用してワークを乾燥させることを意味している旨、及び「洗浄室とは独立して減圧され」は、凝縮室が洗浄室と連通していない状態で減圧されるという意味である旨、主張している。
そこで、以下、本件特許発明1をどのように解釈するべきかについて検討する。

ア 「減圧の状態が保持」等の「保持」の期間、及び「連通させてワークを乾燥させる」について
(ア)特許請求の範囲の記載に基づく解釈
本件特許発明1は、以下の構成要件D、E、Gを備えている。
「D:前記真空ポンプによって前記洗浄室とは独立して減圧され、当該減圧の状態が保持される凝縮室と、」
「E:前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する温度保持手段と、」
「G:前記蒸気を前記洗浄室に供給してワークを洗浄した後、前記開閉バルブによって前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させてワークを乾燥させる」
ここで、本件特許発明1の「前記蒸気を前記洗浄室に供給してワークを洗浄した後、前記開閉バルブによって前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させてワークを乾燥させる」(構成要件G)という発明特定事項において、当該洗浄室よりも低い温度に保持された「前記凝縮室」とは、洗浄室よりも低い温度に保持されたものであるから、構成要件Eにおいて前記された「前記洗浄室よりも低い温度に保持」された「前記凝縮室」であるといえる。
また、「前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する温度保持手段」(構成要件E)という発明特定事項における「前記凝縮室」とは、構成要件Dとして前記された「前記真空ポンプによって前記洗浄室とは独立して減圧され、当該減圧の状態が保持される凝縮室」であるといえる。
これらを総合すると、本件特許発明1における凝縮室は、「前記真空ポンプによって前記洗浄室とは独立して減圧され、当該減圧の状態が保持され」(構成要件D)、「前記洗浄室よりも低い温度に保持」(構成要件E)され、「前記開閉バルブによって前記洗浄室」「と連通させてワークを乾燥させる」(構成要件G)ものであって、凝縮室に対して、このような順で処理が行われるものと解される。
そして、凝縮室に対して、前記のような順で処理が行われることからみて、本件特許発明1の構成要件Gにおいて、洗浄室を前記凝縮室と「連通させてワークを乾燥させる」とは、「前記真空ポンプによって前記洗浄室とは独立して減圧され、当該減圧の状態が保持され」(構成要件D)、「前記洗浄室よりも低い温度に保持」(構成要件E)された凝縮室と洗浄室とを、開閉バルブによって連通させることによりワークの乾燥を生じさせることを意味していると解される。
そうすると、本件特許発明1は、凝縮室が、開閉バルブによって洗浄室と連通される前に減圧の状態に保持され、洗浄室よりも低い温度に保持され、洗浄室を前記凝縮室と連通させることによりワークの乾燥を生じさせるものと解釈するのが妥当である。

(イ)発明の詳細な説明の記載との関係
本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0005】、【0006】によると、本件特許発明が解決しようとする課題は、乾燥工程において、蒸気洗浄・乾燥室を真空ポンプで真空引きして減圧する従来の真空洗浄装置及び真空洗浄方法では、乾燥工程に長時間を要するところ、ワークの乾燥に要する時間を短縮して全体の処理能力を向上することができる真空洗浄装置及び真空洗浄方法を提供するというものであり、その課題を解決するために、発明の詳細な説明の段落【0023】〜【0031】には、準備工程で減圧され、減圧状態で洗浄室2よりも低い温度に保持された凝縮室21と、搬入工程でワークWが搬入され、減圧工程及び蒸気洗浄工程を経て高温の蒸気が充満された洗浄室2とを、乾燥工程において、開閉バルブ20を開弁して連通させることによって、洗浄室2内に充満している蒸気が凝縮室21に移動して凝縮し、ワークWを乾燥させるという真空洗浄装置の一連の処理工程が記載されている。
そうすると、前記(ア)に記述した、本件特許発明1の解釈(凝縮室が、開閉バルブによって洗浄室と連通される前に減圧の状態に保持され、洗浄室よりも低い温度に保持され、洗浄室を前記凝縮室と連通させることによりワークの乾燥を生じさせるもの)は、この発明の詳細な説明の記載とも整合するものである。

(ウ)請求人の主張について
請求人は、前述したとおり、本件特許発明1における、「減圧の状態が保持」及び「低い温度に保持」の「保持」の期間は、ワークの乾燥工程の間のみのものも含むと解すべきであり、「連通させてワークを乾燥させる」とは、ワークの乾燥が「洗浄室と凝縮室とを連通」させた態様で行われることを特定したものにすぎず、文言上、ワークの乾燥工程において真空ポンプを用いて凝縮室・洗浄室を減圧するものも含み得ると主張している。
しかしながら、本件特許発明1は、前記(ア)に示すように解釈されるから、請求人の主張は失当である。また、請求人のこの主張によると、真空ポンプによりワークを乾燥させるものも、ワークの乾燥工程の間、真空ポンプによって、凝縮室の減圧の状態が保持されており、また、この乾燥は「洗浄室と凝縮室とを連通」させた態様(状態)で行われるのだから、本件特許発明1に含まれるということであるが、このように本件特許発明1を解釈した場合、本件特許発明1が、本件特許明細書に従来技術として記載されている、乾燥工程において、蒸気洗浄・乾燥室を真空ポンプで真空引きして減圧するものを含むことになり、前述した本件特許発明が解決しようとする課題を解決できないものとなる。
すると、請求人の主張する本件特許発明1の解釈は、不自然な解釈といわざるを得ない。
したがって、請求人の主張は採用できない。

イ 「洗浄室とは独立して減圧され」る凝縮室について
(ア)特許請求の範囲の記載に基づく解釈
本件特許発明1の「前記真空ポンプによって前記洗浄室とは独立して減圧され、当該減圧の状態が保持される凝縮室」(構成要件D)という発明特定事項における「前記洗浄室とは独立して減圧され」る凝縮室という意味を解釈するために、「独立」という用語の意味を検討すると、広辞苑第六版には、「独立」について、「○1それだけの力で立っていること。○2個人が一家を構え、生計を立て、私権行使の能力を有すること。「―して店を構える」○3単独で存在すること。他に束縛または支配されないこと。ひとりだち。特に、一国または団体が、その権限行使の能力を完全に有すること。「司法の―」」と記載されており、「独立」とは、他に束縛または支配されないことという意味を備えている。
この点を踏まえると、本件特許発明1における「前記洗浄室とは独立して減圧され」る凝縮室とは、構成要件Cとして前記された「前記真空ポンプによって減圧され、当該減圧の状態において前記蒸気生成手段から供給される蒸気によってワークを洗浄する洗浄室」から束縛、又は支配されない状態で減圧される凝縮室、つまり、洗浄室とは関係なく減圧される凝縮室を意味していると解釈するのが妥当である。

(イ)発明の詳細な説明との関係
本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0018】には、「洗浄室2には、開閉手段である開閉バルブ20を介して、凝縮室21が接続されている。」と記載されており、また、段落【0023】には、第1実施形態における準備工程において、「開閉バルブ20および切換バルブV1〜V3を閉弁するとともに、切換バルブV4を開弁して真空ポンプ10を駆動する。これにより、凝縮室21を真空引きして、この凝縮室21の内部を10kPa以下に減圧する。」と記載されており、洗浄室2には、開閉バルブ20を介して凝縮室21が接続され、開閉バルブ20を閉弁した状態で、凝縮室21を減圧しているから、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、凝縮室21が、洗浄室2とは関係なく減圧されることが記載されているといえる。
そうすると、前記(ア)に記述した、本件特許発明1の解釈(洗浄室とは関係なく減圧される凝縮室)は、この発明の詳細な説明の記載とも整合するものである。

(ウ)請求人の主張について
請求人は、発明の詳細な説明の第1実施形態に加え、第2実施形態を参酌すると、「洗浄室とは独立して減圧され」る凝縮室とは、凝縮室と洗浄室との連通・遮断とは関係なく、「時系列的に」凝縮室の減圧が洗浄室の減圧とは別工程で行われることを意味する旨、主張している。
しかしながら、「洗浄室とは独立して減圧され」る凝縮室は、「独立」という用語の意味を考慮すると、前記(ア)に示すように解釈され、当該解釈は、前記(イ)に示すように、発明の詳細な説明の第1実施形態の記載と整合するものである。
ここで、発明の詳細な説明の段落【0047】には、第2実施形態における準備工程において、「そして、中間扉54を開放するとともに開閉バルブ20を開弁し、浸漬室53および凝縮室21を洗浄室2に連通させる。次に、切換バルブV2を開弁して真空ポンプ10を駆動し、洗浄室2、浸漬室53および凝縮室21を真空引きにより10kPa以下に減圧する。」と記載されており、開閉バルブ20を開弁し、凝縮室21を洗浄室2に連通させてから、洗浄室2および凝縮室21を真空引きしており、凝縮室21を、洗浄室2とは関係なく減圧していないから、当該第2実施形態は、本件特許発明1の実施形態とはいえない。

したがって、請求人の主張は採用できない。

(2)本件特許発明5の解釈について
請求人は、本件特許発明5における、「減圧下にある前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持」の「減圧下」及び「低い温度」の「保持」の期間は、ワークの乾燥工程の間のみのものも含むと解すべきである旨、本件特許発明5の「連通させてワークを乾燥させる」とは、乾燥の手順として、ワークの洗浄後に、洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させることが特定されているにすぎない旨、及び本件特許発明5の「洗浄室および凝縮室を各々独立して減圧する工程」は、凝縮室と洗浄室との連通・遮断とは関係なく、ワークが搬入され洗浄工程に入る前の洗浄室の減圧と、凝縮室の減圧とが、時系列的に別の工程で行われることを意味する旨、主張している。
これに対して、被請求人らは、本件特許発明1の解釈についてした主張に加え、本件特許発明5において、構成要件L(凝縮室の減圧)を経た上で最終的に構成要件O「連通による乾燥工程」が実現されることを規定しているから、構成要件L(凝縮室の減圧)がこの「連通による乾燥」に向けた手順(準備工程)であることは、請求項5の文脈からして明らかである旨、主張している。
そこで、以下、本件特許発明5をどのように解釈するべきかについて検討する。

ア 「減圧下」等の「保持」の期間、及び「連通させてワークを乾燥させる」について
(ア)特許請求の範囲の記載に基づく解釈
本件特許発明5は、以下の構成要件L、N、Oを備えている。
「L:真空ポンプを用いることにより、ワークが搬入された洗浄室および当該洗浄室に隣接した凝縮室を各々独立して減圧する工程と、」
「N:減圧下にある前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する工程と、
「O:前記洗浄室において前記ワークを洗浄した後、開閉バルブを開弁することにより前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させてワークを乾燥させる工程と、」
ここで、本件特許発明5のワークを乾燥させる工程(構成要件O)は、「前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させ」るものであるから、このワークを乾燥させる工程(構成要件O)の前に、凝縮室は洗浄室よりも低い温度に保持されているといえる。すると、「減圧下にある前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する工程」(構成要件N)は、ワークを乾燥させる工程(構成要件O)の前に実行されるものといえる。
また、「減圧下にある前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する工程」(構成要件N)は、「減圧下にある前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する」ものであるから、この低い温度に保持する工程(構成要件N)の前に、凝縮室は減圧下にされているといえる。すると、凝縮室を減圧する工程(構成要件L)は、減圧下にある前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する工程(構成要件N)の前に実行されるものといえる。
これらを総合すると、本件特許発明5において、凝縮室に関する各工程(構成要件L,N,O)は、凝縮室を減圧する工程(構成要件L)、減圧下にある前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する工程(構成要件N)、前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させてワークを乾燥させる工程(構成要件O)の順に実行されるものと解される。
そして、凝縮室に関する各工程が、前記のような順で実行されることからみて、本件特許発明5の構成要件Oにおいて、洗浄室を前記凝縮室と「連通させてワークを乾燥させる」とは、減圧下とされ、洗浄室よりも低い温度に保持された凝縮室と洗浄室とを、開閉バルブによって連通させることによりワークの乾燥を生じさせることを意味していると解される。
そうすると、本件特許発明5は、凝縮室が、開閉バルブによって洗浄室と連通される前に減圧下とされ、洗浄室よりも低い温度に保持され、洗浄室を前記凝縮室と連通させることによりワークの乾燥を生じさせるものと解釈するのが妥当である。

(イ)発明の詳細な説明の記載との関係
前記(1)ア(イ)に示したように、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、乾燥工程において、蒸気洗浄・乾燥室を真空ポンプで真空引きして減圧する従来の真空洗浄装置及び真空洗浄方法では、乾燥工程に長時間を要するところ、ワークの乾燥に要する時間を短縮して全体の処理能力を向上することができる真空洗浄装置及び真空洗浄方法を提供するという課題を解決するために、準備工程で減圧され、減圧状態で洗浄室2よりも低い温度に保持された凝縮室21と、搬入工程でワークWが搬入され、減圧工程及び蒸気洗浄工程を経て高温の蒸気が充満された洗浄室2とを、乾燥工程において、開閉バルブ20を開弁して連通させることによって、洗浄室2内に充満している蒸気が凝縮室21に移動して凝縮し、ワークWを乾燥させるという真空洗浄装置の一連の処理工程が記載されている。
そうすると、前記(ア)に記述した、本件特許発明5の解釈(凝縮室が、開閉バルブによって洗浄室と連通される前に減圧下とされ、洗浄室よりも低い温度に保持され、洗浄室を前記凝縮室と連通させることによりワークの乾燥を生じさせるもの)は、この発明の詳細な説明の記載とも整合するものである。

(ウ)請求人の主張について
a 請求人は、前述したとおり、本件特許発明5における、「減圧下にある前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持」の「減圧下」及び「低い温度」の「保持」の期間は、ワークの乾燥工程の間のみのものも含むと解すべきであり、「連通させてワークを乾燥させる」とは、乾燥の手順として、ワークの洗浄後に、洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させることが特定されているにすぎないものと主張している。
しかしながら、本件特許発明5は、前記(ア)に示すように解釈されるから、請求人の主張は失当である。また、請求人のこの主張によると、真空ポンプによりワークを乾燥させるものも、ワークの乾燥工程の間、真空ポンプによって、凝縮室が減圧下とされており、また、洗浄室は凝縮室と連通しているのだから、本件特許発明5に含まれるということであるが、このように本件特許発明5を解釈した場合、本件特許発明5が、本件特許明細書に従来技術として記載されている、乾燥工程において、蒸気洗浄・乾燥室を真空ポンプで真空引きして減圧するものを含むことになり、前述した本件特許発明が解決しようとする課題を解決できないものとなる。
すると、請求人の主張する本件特許発明5の解釈は、不自然な解釈といわざるを得ない。

b 請求人は、本件特許の請求項5の記載は、実施形態において蒸気洗浄工程よりも前に行われている「凝縮室を低い温度にする工程」(構成要件N)が蒸気洗浄工程(構成要件M)よりも後に記載されているし、実施形態において「凝縮室の減圧」→「ワークの搬入」→「ワーク搬入後の洗浄室の減圧」という工程をまとめて「ワークが搬入された洗浄室および凝縮室を減圧する工程」(構成要件L)として記載されているから、特許請求の範囲の記載は、各工程の順序を特定したものとは解されない旨、主張している。
本件特許発明5の末尾は、「を含む真空洗浄方法」となっているから、必ずしも各工程の実行順が特定されるものではないが、前記(ア)で検討したように、凝縮室に関する各工程(構成要件L,N,O)は、構成要件L、構成要件N、構成要件Oの順に実行されるものと解される。

したがって、請求人の主張はいずれも採用できない。

イ 「洗浄室および・・・凝縮室を各々独立して減圧する工程」について
(ア)特許請求の範囲の記載に基づく解釈
本件特許発明5の「真空ポンプを用いることにより、ワークが搬入された洗浄室および当該洗浄室に隣接した凝縮室を各々独立して減圧する工程」(構成要件L)という発明特定事項における「洗浄室および・・・凝縮室を各々独立して減圧する工程」という意味を解釈するために、「独立」という用語の意味を検討すると、前記(1)イ(ア)に記述したように、「独立」とは、他に束縛または支配されないことという意味を備えている。
この点を踏まえると、本件特許発明5における「洗浄室および・・・凝縮室を各々独立して減圧する工程」とは、洗浄室及び凝縮室を各々、束縛、又は支配されない状態で減圧する工程、つまり、洗浄室と凝縮室とを、各々関係なく減圧する工程を意味していると解釈するのが妥当である。

(イ)発明の詳細な説明との関係
前記(1)イ(イ)に示したように、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、凝縮室21が、洗浄室2とは関係なく減圧されることが記載されているといえる。
さらに、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0025】、【0026】には、第1実施形態における搬入工程及び減圧工程において、「(搬入工程:ステップS200)真空洗浄装置1によってワークWの洗浄を行う際には、まず、開閉扉4を開放し、開口3aから洗浄室2にワークWを搬入して載置部5に載置する。このとき、開閉バルブ20は閉弁したままであり、凝縮室21が減圧状態に維持されている。そして、ワークWの搬入が完了したら、開閉扉4を閉じて洗浄室2を密閉状態にする。このとき、ワークWの温度は、常温(15〜40℃程度)となっている。」、「(減圧工程:ステップS300)次に、真空ポンプ10を駆動して、真空引きにより洗浄室2を凝縮室21と同じ10kPa以下に減圧する。」と記載されており、搬入工程において、開閉バルブ20を閉弁したままの密閉状態にある洗浄室2を、続く減圧工程で減圧しているから、洗浄室2が、凝縮室21とは関係なく減圧されているといえる。
以上から、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、洗浄室2と凝縮室21とを、各々関係なく減圧する工程が記載されているといえる。
そうすると、前記(ア)に記述した、本件特許発明5の解釈(洗浄室と凝縮室とを、各々関係なく減圧する工程)は、この発明の詳細な説明の記載とも整合するものである。

(ウ)請求人の主張について
請求人は、発明の詳細な説明の第1実施形態に加え、第2実施形態を参酌すると、「洗浄室および凝縮室を各々独立して減圧する工程」とは、凝縮室と洗浄室との連通・遮断とは関係なく、ワークが搬入され洗浄工程に入る前の洗浄室の減圧と、凝縮室の減圧とが、時系列的に別の工程で行われることを意味する旨、主張している。
しかしながら、「洗浄室および・・・凝縮室を各々独立して減圧する工程」は、「独立」という用語の意味を考慮すると、前記(ア)に示すように解釈され、当該解釈は、前記(イ)に示すように、発明の詳細な説明の第1実施形態の記載と整合するものである。
ここで、発明の詳細な説明の段落【0047】には、第2実施形態における準備工程において、「そして、中間扉54を開放するとともに開閉バルブ20を開弁し、浸漬室53および凝縮室21を洗浄室2に連通させる。次に、切換バルブV2を開弁して真空ポンプ10を駆動し、洗浄室2、浸漬室53および凝縮室21を真空引きにより10kPa以下に減圧する。」と記載されており、開閉バルブ20を開弁し、凝縮室21を洗浄室2に連通させてから、洗浄室2および凝縮室21を真空引きしており、洗浄室2と凝縮室21とを、各々関係なく減圧していないから、当該第2実施形態は、本件特許発明5の実施形態とはいえない。

したがって、請求人の主張は採用できない。

2 無効理由3について
事案に鑑み、無効理由3から検討する。
(1)分割要件
本件特許出願は、前記第1に示したように、原出願の一部を新たな特許出願としたものであって、また、原出願について特許をすべき旨の査定の謄本の送達があった日から30日以内にされたものである。
したがって、本件特許出願の分割が適法になされたと認められるための要件(以下、「分割要件」という。)として、少なくとも、本件特許明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件特許明細書等」という。)に記載された事項が、原出願の分割直前の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「分割直前明細書等」という。)に記載された事項の範囲内であるという要件が満たされる必要がある。
請求人の主張は、前記要件を満たさない結果、分割要件を満たさないというものであるから、本件特許明細書等に記載された事項が原出願の分割直前明細書等に記載された事項の範囲内であるか否かについて検討する。

ア 本件特許明細書等に記載された事項のうち原出願の分割直前明細書等に記載された事項の範囲内であるかを検討すべき事項
原出願の分割直前の特許請求の範囲(甲22)には、
「【請求項1】
石油系溶剤の蒸気を生成する蒸気生成手段と、
前記蒸気生成手段から供給される蒸気によって減圧下でワークを洗浄可能な洗浄室と、
前記洗浄室に隣接し、減圧状態に保持される凝縮室と、
前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する温度保持手段と、
前記凝縮室と前記洗浄室とを連通させ、または、その連通を遮断する開閉バルブと、を備え、
前記ワークの洗浄後において、真空ポンプを用いることなく前記開閉バルブによって前記凝縮室と前記洗浄室とを連通させることによって前記ワークを乾燥させることを特徴とする真空洗浄装置。
【請求項2】
前記温度保持手段は、
前記凝縮室の温度を前記石油系溶剤の凝縮点以下に保持することを特徴とする請求項1記載の真空洗浄装置。
【請求項3】
前記洗浄室から前記凝縮室に導かれて凝縮した石油系溶剤を、前記凝縮室から前記蒸気生成手段に導く回収手段をさらに備えることを特徴とする請求項2記載の真空洗浄装置。
【請求項4】
前記洗浄室に接続され、前記石油系溶剤が貯留されるとともに当該石油系溶剤にワークを浸漬可能な浸漬室をさらに備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の真空洗浄装置。
【請求項5】
ワークが搬入された洗浄室および当該洗浄室に隣接した凝縮室を減圧する工程と、
石油系溶剤の蒸気を生成し、当該蒸気を減圧下にある前記洗浄室に供給して前記ワークを洗浄する工程と、
減圧下にある前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する工程と、
前記洗浄室における前記ワークの洗浄後、真空ポンプを用いることなく開閉バルブを開弁して前記洗浄室と前記凝縮室とを連通させることによって前記ワークを乾燥させる工程と、を含む真空洗浄方法。」
と記載されているところ、本件特許の特許請求の範囲の請求項1には、凝縮室が「洗浄室に隣接」する旨の限定が付されおらず、また、同じく請求項1及び請求項5には、「真空ポンプを用いることなく」ワークを乾燥させる旨の限定が付されていない点等で、本件特許の特許請求の範囲の記載は、原出願の分割直前の特許請求の範囲の記載と異なっている。
また、本件特許明細書及び図面に記載された事項と、原出願の分割直前の明細書及び図面に記載された事項とを比較すると、両者は、特許請求の範囲の記載と対応する【課題を解決するための手段】の記載(本件特許明細書の段落【0007】〜【0011】、原出願の分割直前の明細書の段落【0007】〜【0011】)は異なるものの、それ以外の【発明が解決しようとする課題】、【発明の効果】、【発明を実施するための形態】等の記載は共通している(なお、原出願の分割直前の明細書の段落【0025】に記載された「載置部8」は、「載置部5」の誤記と認められるから、本件特許明細書の段落【0025】に記載された「載置部5」と実質的に共通している。)。
そこで、本件特許の特許請求の範囲、及び明細書の【課題を解決するための手段】に記載された、凝縮室が「洗浄室に隣接」するという限定を含まない発明、及び「真空ポンプを用いることなく」という限定を含まない発明が原出願の分割直前明細書等に記載された事項の範囲内であるか否かを検討する。

イ 凝縮室が「洗浄室に隣接」するという限定を含まない発明について
原出願の分割直前の特許請求の範囲、及び明細書の【課題を解決するための手段】(段落【0007】〜【0011】)には、凝縮室が「洗浄室に隣接」するという限定が付された発明が記載されているが、原出願の分割直前明細書等には、洗浄室2と凝縮室21との配置関係について、段落【0018】に「そして、洗浄室2には、開閉手段である開閉バルブ20を介して、凝縮室21が接続されている。開閉バルブ20を開弁すると、洗浄室2と凝縮室21とが連通し、開閉バルブ20を閉弁すると、洗浄室2と凝縮室21との連通が遮断される。この凝縮室21も、洗浄室2と同様に、配管9から分岐する分岐管25を介して真空ポンプ10に接続されており、減圧状態を保持することが可能である。また、この凝縮室21には、熱交換器等からなる温度保持装置22(温度保持手段)が設けられており、凝縮室21内の温度が洗浄室2内の温度よりも低い一定温度(5℃〜50℃、より好ましくは15℃〜約25℃)に保持することが可能である。」と記載され、洗浄室2に、開閉手段である開閉バルブ20を介して、凝縮室21を接続する旨が記載されているものの、凝縮室21が洗浄室2に「隣接」しているという直接的な文言は記載されていないし、この「隣接」していることによる技術的な意義についても何ら記載されていない。
一方、原出願の分割直前の明細書の発明の詳細な説明には、段落【0023】〜【0031】に、準備工程で減圧され、減圧状態で洗浄室2よりも低い温度に保持された凝縮室21と、搬入工程でワークWが搬入され、減圧工程及び蒸気洗浄工程を経て高温の蒸気が充満された洗浄室2とを、乾燥工程において、開閉バルブ20を開弁して連通させることによって、洗浄室2内に充満している蒸気が凝縮室21に移動して凝縮し、ワークWを乾燥させる技術(以下、「凝縮乾燥技術」という。)が記載されている。
そして、前述したように凝縮室が「洗浄室に隣接」するという事項について、原出願の分割直前明細書等には、何ら技術的な意義が記載されていないのだから、原出願の分割直前明細書等に接した当業者が、前記凝縮乾燥技術に関する記載に触れた際、凝縮室が「洗浄室に隣接」するという事項を、前記凝縮乾燥技術を実現する上で、必須の事項として把握するとは考えられない。
そうすると、本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜請求項4、及び明細書の【課題を解決するための手段】に記載された発明は、凝縮室が「洗浄室に隣接」するという限定を含まない発明であるところ、このような発明は、原出願の分割直前明細書等に前記凝縮乾燥技術として記載されたものといえるから、原出願の分割直前明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるとはいえない。

ウ 「真空ポンプを用いることなく」という限定を含まない発明について
原出願の分割直前の特許請求の範囲、及び明細書の【課題を解決するための手段】(段落【0007】〜【0011】)には、「真空ポンプを用いることなく」という限定が付された発明が記載されているが、前記イに示したように、原出願の分割直前の明細書の発明の詳細な説明には、段落【0023】〜【0031】に、前記凝縮乾燥技術が記載されており、この前記凝縮乾燥技術に関する記載において、蒸気洗浄工程後の乾燥工程で真空ポンプを用いることについては、何ら言及されていない。
そして、原出願の分割直前明細書等に接した当業者が、前記凝縮乾燥技術に関する記載に触れた際、前述したように、蒸気洗浄工程後の乾燥工程で真空ポンプを用いることについて、何ら言及されていないのだから、ワークの洗浄後に真空ポンプを用いることについて、何ら特定しない発明を把握することは、当然、可能である。
そうすると、本件特許の特許請求の範囲、及び明細書の【課題を解決するための手段】に記載された発明は、「真空ポンプを用いることなく」という限定を含まない発明であるところ、このような発明は、原出願の分割直前明細書等に前記凝縮乾燥技術として記載されたものといえるから、原出願の分割直前明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるとはいえない。

エ 請求人の主張について
請求人は、原出願の分割直前明細書等から導かれる技術的事項は、「洗浄室と凝縮室とを隣接状態に設け(要件○1)、ワークの乾燥工程において、真空ポンプを用いることなく(要件○2)、凝縮室と洗浄室とを連通させることのみによりワークを乾燥させる技術(要件○3)」であり、要件○1〜○3は、発明の課題(ワークの乾燥に要する時間を短縮して全体の処理能力を向上する(段落【0006】))を解決するために必要不可欠な要件である旨、主張しているが、前記イに示したように、要件○1は必須の事項とはいえず、また、前記ウに示したように、原出願の分割直前明細書等に接した当業者は、要件○2について特定しない発明を把握できるものである。さらに、要件○3についても、前記ウで要件○2について示したように、原出願の分割直前明細書等に接した当業者は、前記凝縮乾燥技術に関する記載から、洗浄後のワークの乾燥への真空ポンプ等、他の乾燥手段の寄与について、何ら特定しない発明を把握可能であるから、要件○3について特定しない発明も把握可能といえる。そうすると、要件○1〜○3を必要不可欠な要件として、特許請求の範囲で特定する必要はないといえる。

したがって、請求人の主張は採用できない。

オ まとめ
したがって、本件特許明細書等に記載された事項は、原出願の分割直前明細書等に記載された事項の範囲内のものである。
その他、本件特許出願が、分割要件を満たさない理由は見当たらず、本件特許出願は分割要件を満たさないものとはいえない。

(2)新規性進歩性
以上のとおり、本件特許出願は、分割要件を満たすものであるから、特許法第44条第2項の規定により、本件特許出願は、原出願の時にしたものとみなされるので、本件特許出願の出願日は、平成24年11月20日(優先権主張 平成23年11月25日)である。
そうすると、原出願の公開公報である甲5は、2013年(平成25年)5月30日に国際公開されたものであるから、本件特許出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったとはいえない。
したがって、甲5に記載された発明は、特許法第29条第1項第3号に掲げる発明に該当せず、無効理由3は理由がない。

3 甲号証の記載事項
(1)甲10
ア 甲10に記載された事項
請求人が無効理由1に係る証拠として提出した、本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲10には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審で付加した。以下、同様。)。
なお、[]内に示した翻訳は、請求人が甲10に添付した翻訳を参考にした当審の翻訳であり、被請求人らは、令和元年7月12日付け口頭審理陳述要領書において、甲10に添付した翻訳については、異論はないとしている。

(ア)「This invention relates to an improved cleaningsystem, and more particularly to a closed solvent cleaning method and systemwhich virtually eliminates the mixture of the solvent with air throughout thecleaning operation. Eliminating air from the cleaning process and the solventrecovery and solvent cleaning process allows complete recovery of the vapors byconventional condensing thereby controlling emissions to the surroundings.
BACKGROUND OF INVENTION
Cleaning operations are becoming more and more ofa burden on industry because of the ever-stricter environmental requirementsfor disposition of compounds used in the cleaning operations and resultingeffluents. Cleaning operations effected include those involving clothing, rugsand furnishings, as well as those of a more industrial nature such as involvingthe cleaning and degreasing of metals, ceramics, plastics and other materials.Solvent cleaning processes, those using a solvent to degrease and clean, arethe most prevalent. There are two types of solvent cleaning processes: open andclosed. Open systems are still the most commonly used, but their appeal isshrinking with increasing demands of environmental safety. Open systems includesuch approaches as solvent vapor degreasing, solvent ultrasonic cleaning, coldor hot solvent dipped and solvent spray systems. These systems suffer from anumber of shortcomings, among the most important of which are the contaminationof the environment and the cost of constantly replenishing the non-recoverablesolvent. In addition, the cost of equipment to contain the vapor and toproperly dispose of the vapor and liquid waste is becoming more and moreformidable.」(第1欄第14行〜第45行)
[本発明は、改良型洗浄システムに、詳しくは、洗浄作業全体を通して溶剤と空気との混合物を実質的に排除する密閉溶剤洗浄方法およびシステムに関する。洗浄プロセスと溶剤回収および溶剤洗浄プロセスから空気を排除することで、従来の凝縮による蒸気の完全な回収を可能にし、周囲への排出物の制御をする。
【発明の背景】
洗浄作業に使用される化合物とその結果生じる廃液の処分についてのますます厳しくなる環境要件のため、洗浄作業は業界のさらなる負担となりつつある。実施される洗浄作業は、衣類、敷物、および家具に関わるものに加えて、金属、セラミック、プラスチック、および他の材料の洗浄および脱脂に関わるものなど、より工業的な性質のものを含む。脱脂および洗浄に溶剤を使用するものである溶剤洗浄プロセスは、最も普及している。溶剤洗浄プロセスには二つのタイプ、つまり開放型と密閉型とがある。開放システムは依然として最も一般的に使用されているが、環境安全性についての要求の高まりとともにその訴求力は低下している。開放システムは、溶剤蒸気脱脂、溶剤超音波洗浄、低温または高温溶剤浸漬、および溶剤噴霧のシステムのようなアプローチを含む。これらのシステムには幾つかの短所が見られ、そのうち最も重要なのは、環境の汚染と、回収不能な溶剤を常に補充する際のコストである。加えて、蒸気を収容して蒸気および液体廃棄物を適切に処分する設備のコストがますます膨大になっている。]

(イ)「It is a further object of this invention toprovide such an improved closed circuit solvent cleaning system and methodwhich employs the solvent in either vapor or liquid form or both.」(第2欄第42行〜第45行)
[蒸気と液体のいずれかの形または両方の溶剤を使用するような改良型密閉回路溶剤洗浄システムおよび方法を提供することが、本発明のさらなる目的である。]

(ウ)「It is a further object of this invention providesuch an improved closed circuit solvent cleaning system and method whichvirtually eliminates mixture of the solvent with air throughout the cleaningoperation and therefore eliminates the difficult step of separating the solventfrom the air after the cleaning operation is completed.」(第3欄第18行〜第23行)
[洗浄作業全体で溶剤と空気との混合物を実質的に排除し、そのため洗浄作業が完了した後に空気から溶剤を分離する困難なステップを排除するこのような改良型密閉回路溶剤洗浄システムおよび方法を提供することが、本発明のさらなる目的である。]

(エ)「This invention features and may suitablycomprise, consist of, or consist essentially of a closed circuit solventcleaning method comprising the steps of placing the object to be cleaned in achamber and subjecting the chamber to a negative gauge pressure to remove airand other non-condensible gases.」(第3欄第49行〜第54行)
[本発明は、洗浄対象の物体を室に載置して負のゲージ圧を室に加え、空気と他の非凝縮ガスを除去するステップを包含する密閉回路溶剤洗浄方法を特徴とし、これを適当に包含するか、これから構成されるか、本質的にこれから構成されてもよい。]

(オ)「The system may also include means for sprayingsolvent over the parts to be cleaned, for immersing the parts in solvent, orboth.」(第4欄第30行〜第32行)
[システムは、洗浄対象の物品に溶剤を噴霧するため、または物品を溶剤に浸漬するため、あるいはその両方のための手段も含みうる。]

(カ)「This invention results from the realization thatthe entire problem can be eliminated or at least dramatically reduced by notallowing the solvent vapors to become mixed with air at all: to prevent anymixing at any time of the solvent with the air.」(第4欄第66行〜第5欄第3行)
[本発明は、溶剤蒸気が空気と混合されるのを全く許容せずに溶剤と空気との混合をいかなる時にも防止することにより、問題全体の解決または少なくとも劇的な軽減を実現することから生じる。]

(キ)「One of the advantages of such a system is that itcan work with solvents in the vapor form, in the liquid form or both, and itcan work with a variety of different solvents, e.g., 1.1.1. trichloroethane,trichloroethylene, methylene chloride, perchloroethylene, Freon, aldehydes,alcohols, amines, ketones, aromatics, or other solvents which may or may not beheavier than air.」(第6欄第16行〜第22行)
[このようなシステムの利点の一つは、蒸気の形、液体の形、またはその両方の形の溶剤により機能することであり、多様な溶剤、例えば1.1.1トリクロロエタン、トリクロロエチレン、塩化メチレン、ペルクロロエチレン、フレオン、アルデヒド、アルコール、アミン、ケトン、芳香族化合物、または空気より重いか重くない他の溶剤によってもシステムが機能しうる。]

(ク)「Pump 26 is used to apply a negative gaugepressure to chamber 12 when it is operating as a vacuum pump. An activatedcharcoal filter may be added to absorb any residual solvent vapors before theyenter the vacuum pump. Valve 30 operates to vent the outflow through vacuumpump 26 to carbon filter 28 while valve 32, in a different portion of thecycle, directs the outflow to condenser 34 through vacuum pump 36 to holdingtank 38. Holding tank 38 provided with a heater 40 communicates through valves42 and 44, respectively, that communicates through pump 46 with chamber 120.
Chiller unit 48 is used to provide coolant toheat exchangers 34, 50, and 52. Other conventional means for providing coolinginclude cold water directly from a source of cold water or from a coolingtower. Valves 54 and 56 are used to purge air from holding tank 38 and distillation tank 58 respectively, anddeliver it to a carbon filter 28 or a similar filter before it is vented toatmosphere.」(第6欄第54行〜第7欄第4行)
[ポンプ26は、真空ポンプとして機能する時に、負のゲージ圧を室12に印加するのに使用される。真空ポンプへ入る前に残留溶剤蒸気を吸収するため、活性炭フィルタが追加されてもよい。バルブ30は、真空ポンプ26を通して炭フィルタ28へ流出物を排出するように機能し、一方で、サイクルの異なる部分で、バルブ32は凝縮器34への流出物を真空ポンプ36を通して保管タンク38へ誘導する。ヒータ40を備えている保管タンク38は、ポンプ46を通して室120と連通しているバルブ42、44とそれぞれ連通している。冷却器ユニット48は、熱交換器34、50、52へ冷却剤を供給するのに使用される。冷却を行う他の従来手段は、冷水源または冷却塔からの直接の冷水を含む。バルブ54、56は、保管タンク38と蒸留タンク58のそれぞれからの空気をパージするのに使用され、大気へ放出される前にこれを炭フィルタ28または類似のフィルタへ送達する。]

(ケ)「In operation, with the solvent stored indistilling tank 58, heater 60 is activated to increase the temperature of thesolvent such as tetrachloroethylene to 100.degree. C., producing a 400 torrvapor pressure. Heating is accomplished by steam directed though valve 64 fromsteam source 18. Heating can be accomplished by other conventional means suchas electric heaters or heat transfer fluids. Valve 24 is then opened, ventingchamber 12 to atmosphere, part 20 is placed on support 22 in chamber 12, valve24 is closed and vacuum pump 26 is operated. All of the air and non-condensiblegases and any volatile contaminants are drawn off by vacuum pump 26 and aredirected by open valve 30 directly to atmosphere or, alternatively, through andcarbon filter 28, and then to atmosphere. Vacuum pump 26 is then shut off.Since the tetrachloroethylene solvent in distilling tank 58 is at 100.degree.C., with a 400 torr vapor pressure, when valve 62 is opened, the vapor flashesinto chamber 12 so that the vapor 66 fills chamber 12 and condenses on andcleans part 20. If desired, liquid solvent 68 may also be introduced by openingvalve 70 and partially or fully filing chamber 12 to submerge part 20 forliquid cleaning.」(第7欄第13行〜第33行)
[動作時に、蒸留タンク58には溶剤が貯蔵されており、ヒータ60が起動されてテトラクロロエチレンなどの溶剤の温度を100℃まで上昇させ、400トールの蒸気圧を発生させる。水蒸気源18からバルブ64を通して誘導される水蒸気により、加熱が達成される。電気ヒータまたは熱伝達流体など他の従来手段により、加熱が達成されてもよい。それからバルブ24が開放されて室12を大気へ通気し、物品20が室12内の支持体22に載置され、バルブ24が閉鎖され、真空ポンプ26が作動する。空気と非凝縮性ガスと何らかの揮発性汚染物のすべてが真空ポンプ26により引き出され、開放バルブ30により大気へ直接、または代替的に炭フィルタ28を通ってから大気へ誘導される。そして真空ポンプ26が遮断される。蒸留タンク58内のテトラクロロエチレン溶剤が100℃であって蒸気圧が400トールであるので、バルブ62が開放されると、蒸気が室12へ流入するため蒸気66が室12を満たして凝縮し、物品20を洗浄する。所望であれば、液体溶剤68は、バルブ70を開放することによっても導入されて、室12を部分的または完全に充填して、液体洗浄のため物品20を水面下に置いてもよい。]

(コ)「Following this, vacuum pump 36 may be operatedwith heat exchanger 34 on and valve 32 open. This draws off the vapors 66 intank 12 including the vapors associated with object 20 so that it is driedduring this process. The vapor, being virtually pure, is condensed in condenser34 and delivered back to holding tank 38, which stores only clean solvent whichmay be used when the solvent in distilling tank 58 becomes contaminated andmust be removed and processed. Periodic purging of the air in tanks 38 and 56is accomplished through valves 54 and 56. Drying of part 20 in chamber 12 maybe assisted by throttling vapor solvent in tank 58 through valve 62 whilesimultaneously pulling vapor out of chamber 12 through valve 78 and condensor34 by means of pump 36.
Finally, vacuum pump 34 is stopped and valve 24is opened to vent chamber 12 to atmosphere and part 20 is removed, having beendried and cleaned without introducing any hazardous waste to the atmosphere.Simultaneously, the solvent has been fully recovered with a minimum of effortand expense since it was not mixed with air and there is no need to undertakethe expensive an complex procedures required to separate solvent from air andclean the air of the solvent contaminants.
When the solvent in distilling tank 58 becomescontaminated, the solvent can be distilled by opening valve 64 from steamsource 18, and flashing vapors through open valves 56 and 78. Pump 36 pullsvapors through condensor 34 and sends clean solvent into holding tank 38. Uponsolvent recovery, contaminants can be removed from distillation tank 58 throughvalve 82. Clean solvent can then be returned to distilling tank 58 throughvalves 42 and 72 for reuse.
There is shown in FIG. 2 a flow chart depictingthe operation of system 10, FIG. 1, of this invention. The object to becleaned, such as a piece of clothing or a manufactured part, is placed in thecleaning chamber in step 100. Then a negative gauge pressure is applied in step102. This removes air and other non-condensible gases and it also removes anyvolatile contaminants. The gasses evacuated from the chamber at this point canbe passed through suitable filters if this is necessary. The negative gaugepressure is typically between atmospheric and zero atmospheric absolute.Pressures in the range of 10 torr appear to be sufficient. Following this, thesolvent is introduced in step 104. This can be done in vapor or liquid form, orboth. Then the object is cleaned, step 106, for an appropriate period of time.During this time, the temperature can be varied to favor the appropriateconditions for the material or object being cleaned and also to improve vapordensity and penetration of the solvent into the object. The temperatureincrease or decrease is effected only during the cleaning operation so thatthere is a substantial saving in energy. There can also be a substantial savingin energy by the fact that an increased temperature of the chamber increasesthe differential pressure between the two chambers to the point where thatdifferential pressure alone could be used to drive out the solvent after thecleaning operation is done. Typically, with the solvent being present partiallyas a liquid and partially as a vapor, the solvent is recovered in step 108 byfirst removing the liquid which contains the contaminants, and then removingthe vapor which is virtually clean since it is a distillation product. Acomplete removal of the vapor at this point also effects a drying of theobject, which further minimizes the contamination of the environment withsolvents in vapor or liquid form that would ordinarily cling to the object.Finally, in step 34, the chamber is opened to atmosphere and the cleaned objectis removed.」(第7欄第48行〜第8欄第46行)
[これに続いて、熱交換器34がオンでバルブ32が開放した状態で、真空ポンプ36が作動する。こうして物体20と関連する蒸気を含むタンク12内の蒸気66が引き出されて、このプロセス中に物体が乾燥される。実質的に純粋な蒸気が凝縮器34で凝縮され、再び保管タンク38へ送達され、タンクは、蒸留タンク58内の溶剤が汚染されて除去および処理が行われなければならない時に使用されうる清浄な溶剤のみを貯蔵する。タンク38、56内の空気の周期的なパージは、バルブ54、56を通して達成される。ポンプ36によってバルブ78および凝縮器34を通して室12から蒸気を引き出すのと同時に、バルブ62を通過するタンク58内の蒸気溶剤を絞ることにより、室12内の物品20の乾燥が補助されうる。
最終的に、真空ポンプ34が停止され、バルブ24が開放されて室12を大気へ通気し、乾燥および洗浄された物品20が取り出され、危険な廃棄物を大気へ導入することはない。同時に、空気と混合されなかったので、最小の労力および出費で溶剤が完全に回収され、空気から溶剤を分離して溶剤汚染物から空気を洗浄するのに必要な、費用がかかる複雑な手順に着手する必要はない。
蒸留タンク58内の溶剤が汚染されると、水蒸気源18からのバルブ64を開放して開放バルブ56、78に蒸気を通過させることにより、溶剤が蒸留されうる。ポンプ36は凝縮器34を通して蒸気を引き出し、清浄な溶剤を保管タンク38へ送る。溶剤回収時には、バルブ82を通して蒸留タンク38から汚染物が取り出される。それから清浄な溶剤が再利用のためバルブ42、72を通って蒸留タンク58へ戻される。
図2には、本発明の図1のシステム10の動作を表すフローチャートが示されている。衣類品や製品など洗浄対象の物体が、ステップ100で洗浄室に載置される。そしてステップ102で負のゲージ圧が印加される。こうして空気と他の非凝縮性ガスとを除去し、何らかの揮発性汚染物も除去する。この時点で室から排気されたガスは、これが必要な場合に適当なフィルタを通過できる。負のゲージ圧は一般的に、大気圧とゼロ絶対大気圧との間である。10トールの範囲の圧力が充分であると思われる。これに続いて、ステップ104で溶剤が導入される。これは蒸気か液体の形、またはその両方で行われうる。そしてステップ106では適切な時間にわたって物体が洗浄される。この時間に、洗浄対象の物質または物体に適切な条件を整えるため、そして蒸気密度と物体への溶剤の浸透とを向上させるため、温度が変化しうる。温度の上昇または低下は、実質的なエネルギー節約となるように洗浄作業中にのみ実施される。洗浄作業が行われた後に溶剤を運び出すのに差圧のみが使用されるという程度まで、上昇した室温により二部屋の間の差圧が上昇するという事実によっても、実質的なエネルギー節約が見られる。一般的に、溶剤が一部は液体として、一部は蒸気として存在していると、汚染物を含有する液体を最初に除去してから、蒸留生成物であるので実質的に清浄である蒸気を除去することにより、ステップ108で溶剤が回収される。この時点での蒸気の完全な除去は物体の乾燥にも影響し、これはさらに、普通は物体に付着する蒸気または液体の形の溶剤による環境の汚染をさらに最小にする。最後にステップ34では、室が大気に開放されて洗浄後の物体が取り出される。]

(サ)FIG.1には、以下の事項が図示されている。


(シ)前記記載事項(イ)によると、甲10に記載された発明は、改良型密閉回路溶剤洗浄システム及び方法に関するものである。

(ス)前記記載事項(ク)及び(ケ)によると、蒸留タンク58は、溶剤が貯蔵されており、ヒータ60が起動されて前記溶剤の蒸気を発生させるものであり、室12は、真空ポンプ26により負のゲージ圧が印加され、蒸留タンク58内の溶剤の蒸気が流入され物品20を洗浄するものである。また、真空ポンプ26を作動させ、物品20が支持体22に載置された室12に負のゲージ圧を印加する工程と、溶剤の蒸気を発生させ、当該蒸気を室12に流入させ物品20を洗浄する工程とを備えるものである。

(セ)前記記載事項(コ)によると、凝縮器34は、真空ポンプ36が作動し、室12内の蒸気が引き出される際、蒸気を凝縮するものである。

(ソ)前記記載事項(ク)及び(コ)によると、冷却器ユニット48は、凝縮器34に冷却剤を供給するのに使用されるものであり、冷却器ユニット48が供給する冷却剤の温度は、冷却剤が供給される凝縮器34に流入する蒸気を凝縮可能なものである。また、冷却器ユニット48が凝縮器34に冷却剤を供給する工程を備えるものである。

(タ)前記記載事項(コ)及び(サ)によると、バルブ32は、凝縮器34と室12との間に介在するものである。

(チ)前記記載事項(ケ)及び(コ)によると、溶剤の蒸気が室12に流入し、物品20を洗浄した後、バルブ32が開放した状態で、真空ポンプ36を作動させ、室12内の蒸気が引き出されて物品20を乾燥させ、蒸気を凝縮器34で凝縮させるもの、及びこのような工程を備えるものである。

(ツ)前記記載事項(コ)によると、室12内の蒸気が引き出されて凝縮器34で凝縮した溶剤が、保管タンク38へ送達され、それから清浄な溶剤が再利用のためバルブ42、バルブ72を通って蒸留タンク58へ戻されるものである。

(テ)前記記載事項(ケ)によると、溶剤を前記室12に充填して、液体洗浄のため物品20を水面下に置くものである。

イ 甲10に記載された発明の認定
甲10には、前記アに記載した事項を踏まえると、次の発明(以下、「甲10発明1」〜「甲10発明5」という。また、「甲10発明1」〜「甲10発明5」をまとめて、「甲10発明」という。)が記載されていると認められる。

[甲10発明1]
真空ポンプ26及び真空ポンプ36と、
溶剤が貯蔵されており、ヒータ60が起動されて前記溶剤の蒸気を発生させる蒸留タンク58と、
前記真空ポンプ26により負のゲージ圧が印加され、前記蒸留タンク58内の溶剤の蒸気が流入され物品20を洗浄する室12と、
前記真空ポンプ36が作動し、前記室12内の蒸気が引き出される際、蒸気を凝縮する凝縮器34と、
前記凝縮器34に冷却剤を供給するのに使用される冷却器ユニット48と、
前記凝縮器34と前記室12との間に介在するバルブ32と、を備え、
溶剤の蒸気が前記室12に流入し、前記物品20を洗浄した後、前記バルブ32が開放した状態で、前記真空ポンプ36を作動させ、前記室12内の蒸気が引き出されて前記物品20を乾燥させ、蒸気を前記凝縮器34で凝縮させる
改良型密閉回路溶剤洗浄システム。

[甲10発明2]
前記冷却器ユニット48が供給する前記冷却剤の温度は、前記冷却剤が供給される前記凝縮器34に流入する蒸気を凝縮可能なものである甲10発明1の改良型密閉回路溶剤洗浄システム。

[甲10発明3]
前記室12内の蒸気が引き出されて前記凝縮器34で凝縮した溶剤が、保管タンク38へ送達され、それから清浄な溶剤が再利用のためバルブ42、バルブ72を通って前記蒸留タンク58へ戻される甲10発明2の改良型密閉回路溶剤洗浄システム。

[甲10発明4]
溶剤を前記室12に充填して、液体洗浄のため物品20を水面下に置く甲10発明1、甲10発明2又は甲10発明3の改良型密閉回路溶剤洗浄システム。

[甲10発明5]
真空ポンプ26を作動させ、物品20が支持体22に載置された室12に負のゲージ圧を印加する工程と、
溶剤の蒸気を発生させ、当該蒸気を前記室12に流入させ前記物品20を洗浄する工程と、
冷却器ユニット48が凝縮器34に冷却剤を供給する工程と、
溶剤の蒸気が前記室12に流入し、前記物品20を洗浄した後、前記バルブ32が開放した状態で、真空ポンプ36を作動させ、前記室12内の蒸気が引き出されて前記物品20を乾燥させ、蒸気を前記凝縮器34で凝縮させる工程と、
を含む改良型密閉回路溶剤洗浄方法。

(2)甲19
ア 甲19に記載された事項
請求人が無効理由2に係る証拠として提出した、本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲19には、図面とともに次の事項が記載されている。

(ア)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、電機部品、機械部品その他の部材に、洗浄及び乾燥処理を施すための洗浄装置に係るもので、各処理を、迅速かつ経済的に行うことが出来るようにしたものである。」

(イ)「【0006】本発明は上述の如き課題を解決しようとするものであって、洗浄槽を蒸気洗浄部と蒸気発生部とに分割し、この蒸気洗浄部と蒸気発生部との間の連通口に、密閉蓋体を設け、この密閉蓋体を上下方向に移動する事により、連通口の開口と密閉を可能とするものである。その結果、一つの洗浄槽で蒸気洗浄処理と乾燥処理を行う事を可能とするとともに、無駄な設置スペースを省いて、洗浄装置をコンパクトで経済的に形成しようとするものである。」

(ウ)「【0022】
【実施例】以下、本発明の一実施例を図1、図2に於て説明すれば、(1)は縦型の洗浄槽で、仕切壁(2)を介して上部側を蒸気洗浄部(3)、下部側を蒸気発生部(4)としている。そして、蒸気洗浄部(3)には、被洗浄物(5)を載置するための載置台(6)を配置している。この載置台(6)は、金網材やパイプ材等で形成する事により、蒸気発生部(4)から導入される洗浄蒸気が、載置台(6)を通過して、被洗浄物(5)に到達が可能なものとしている。
【0023】また、蒸気発生部(4)には、洗浄液(7)を充填しており、電気ヒーター、加熱オイルを流通した加熱パイプ等の適宜の加熱手段(8)により、この洗浄液(7)の蒸気化を可能としている。また、蒸気発生部(4)には、サーモスタット(32)を設置し、加熱手段(8)による洗浄液(7)の加熱を制御している。そして、仕切壁(2)には、蒸気洗浄部(3)と蒸気発生部(4)とを連通するとともに、蒸気発生部(4)で発生する洗浄蒸気を蒸気洗浄部(3)内に導入するための連通口(10)を開口している。
【0024】この連通口(10)には、連通口(10)よりも径大な板状部材で形成した密閉蓋体(11)を接続する事により、蒸気洗浄部(3)と蒸気発生部(4)との連通を遮断するとともに、蒸気洗浄部(3)内の密閉も可能としている。この密閉蓋体(11)は、蒸気発生部(4)側に配置し、図示しない適宜の上下動機構により、仕切壁(2)の下面に付き当て可能とするとともに、密閉蓋体(11)と仕切壁(2)との接続部に、オーリング、パッキン等のシール部材(12)を配置する事により、密閉性を高めている。また、このシール部材(12)は、図1に示す如く、上部側に位置する仕切壁(2)の下面に配置している。また、密閉蓋体(11)の上下動機構は、シリンダー、ボールネジ方式、電動式ピストン、チェーンブロック等、適宜の従来公知のものを用いる事ができる。
【0025】また、洗浄槽(1)は、被洗浄物(5)の出し入れを行う開口部に、開閉蓋(30)を着脱可能に接続している。また、開閉蓋(30)と洗浄槽(1)との接続部に於いて、開閉蓋(30)の下面にシール部材(31)を配置する事により、密閉性を高めるとともに、接続部への凝縮液や汚物の付着を防止可能としている。しかし、洗浄槽(1)の開口部を介して洗浄液(7)の流通を行う事はないし、凝縮液が付着する可能性も少ないので、必ずしもシール部材(31)を開閉蓋(30)の下面に設ける必要はなく、洗浄槽(1)の上面に設けても良い。
【0026】また、蒸気洗浄部(3)は、第1電磁弁(17)を介してバキュームポンプ(14)に連結し、蒸気洗浄部(3)内を減圧可能としている。また、第1電磁弁(17)とバキュームポンプ(14)との間には、凝縮器(15)を介在し、蒸気洗浄部(3)の減圧の際に、蒸気洗浄部(3)内の洗浄蒸気を凝縮器(15)に導入可能としている。この凝縮器(15)の内部には、冷却水が流通する冷却パイプ(9)を挿通し、凝縮器(15)に導入された洗浄蒸気を凝縮可能としている。このように凝縮器(15)で凝縮された凝縮液は、第2電磁弁(35)を介して蒸気発生部(4)内に移送され、再生使用を可能としている。
【0027】また、蒸気洗浄部(3)には、減圧蒸気洗浄、減圧乾燥を行う場合に備えて、圧力調整弁(図示せず)等の減圧蒸気洗浄、減圧乾燥に対応する適宜の弁機構を配置している。
【0028】そして、上述の如き洗浄槽(1)で被洗浄物(5)の蒸気洗浄及び乾燥処理を行う手順を説明する。大気圧蒸気洗浄を行うには、蒸気洗浄部(3)内の載置台(6)に、被洗浄物(5)を載置する。そして、仕切壁(2)の連通口(10)を被覆する密閉蓋体(11)を、蒸気発生部(4)側に下降する事により、洗浄蒸気が流通する僅かな流通間隔(27)を介して連通口(10)を開口し、蒸気発生部(4)と蒸気洗浄部(3)とを連通する。
【0029】すると、適宜の加熱手段(8)により、蒸気発生部(4)内で発生した洗浄蒸気は、図1の矢印で示す如く、密閉蓋体(11)と仕切壁(2)との狭い流通間隔(27)でも、確実に通過した後、連通口(10)を介して蒸気洗浄部(3)内に流入する。このように、連通口(10)の開口に密閉蓋体(11)を大きく移動する必要がないので、洗浄槽(1)をコンパクトに形成する事ができる。そして、洗浄蒸気と被洗浄物(5)とが接触して凝縮する事により、大気圧蒸気洗浄が行われる。」

(エ)「【0030】また、大気圧蒸気洗浄とは別個に減圧蒸気洗浄を行うには、蒸気発生部(4)と蒸気洗浄部(3)との連通状態で、バキュームポンプ(14)を作動して減圧する。そして、この減圧によって洗浄液(7)の沸点が低下し、洗浄液(7)の加熱温度よりも沸点が低くなると、洗浄蒸気が発生する。そして、この洗浄蒸気が蒸気洗浄部(3)側に流動し、被洗浄物(5)と接触して凝縮する事により、減圧蒸気洗浄が行われる。この減圧蒸気洗浄は、低温で蒸気洗浄ができるため、洗浄液(7)の熱劣化を防止するとともに、耐熱性の低い被洗浄物(5)の洗浄に適したものとなる。
【0031】そして、上述の如き洗浄処理で凝縮された凝縮液は、被洗浄物(5)から洗い流された汚物とともに、連通口(10)を介して蒸気発生部(4)側に流下する。ところで、本実施例では、シール部材(12)は、密閉蓋体(11)と仕切壁(2)との接続部に於いて、仕切壁(2)の下面に配置している。もし、図19に示す如く、シール部材(12)を、密閉蓋体(11)の上面に配置すると、密閉蓋体(11)の上面と、この密閉蓋体(11)の上面に突出したシール部材(12)の内周面とで構成される凹部(16)や、シール部材(12)の上面に、汚物や洗浄液(7)が滞留してしまう。この状態で、密閉蓋体(11)を仕切壁(2)に接続すると、この接続部に汚物が介在するものとなり、シール部材(12)や密閉蓋体(11)を破損し、密閉性を損なう虞れがある。また、次工程の乾燥処理の際に、凹部(16)に滞留した洗浄液(7)も乾燥するものとなり、乾燥時間を長くしたり、エネルギー効率を悪くする可能性もある。
【0032】しかしながら、前述の如く、本実施例では、シール部材(12)を仕切壁(2)の下面に設けているので、シール部材(12)には、密閉蓋体(11)との接続面に、汚物等の異物が付着する事はない。また、仕切壁(2)とシール部材(12)とで形成される凹部(16)は、図1に示す如く、下側を向いているので、汚物や洗浄液(7)が滞留する事もない。そのため、被洗浄物(5)や蒸気洗浄部(3)の内部に付着した凝縮液が、蒸気発生部(4)側に確実に流下し、蒸気洗浄部(3)内は良好な液切りが行われるものとなる。また、蒸気発生部(4)内に流下した凝縮液は、蒸留再生使用が可能となり、無駄に消費される事がないので、洗浄液(7)の経済的な使用も可能となる。
【0033】そして、洗浄処理が終了したら、乾燥処理を行うが、それには、図2に示す如く、連通口(10)に密閉蓋体(11)を接続して蒸気洗浄部(3)内への洗浄蒸気の流入を遮断するとともに蒸気洗浄部(3)内を気密的に密閉する。この密閉蓋体(11)の接続に於いて、前述の如く、仕切壁(2)に配置したシール部材(12)には、密閉蓋体(11)との接続部に、汚物等の異物が付着していないので、接続によるシール部材(12)の破損を防止する事ができる。
【0034】また、特開平6−15239号の従来発明は、ゲート弁の上部側で乾燥を行い、ゲート弁の下部側で洗浄を行うものであるが、作業の切り換え時に、ゲート弁を摺動する事により、ゲート弁のシール部材が摩耗して、乾燥時の密閉性を損なうものであった。しかし、本発明の密閉蓋体(11)は、上下動による開閉なので、摩擦によるシール部材(12)の摩耗を防止する事ができる。従って、連通口(10)に密閉蓋体(11)を良好に接続でき、蒸気洗浄部(3)の気密性を長期に保つ事が可能となる。
【0035】次に、この蒸気洗浄部(3)に接続するバキュームポンプ(14)を稼働して、蒸気洗浄部(3)内を急速に減圧する。この急速減圧により、被洗浄物(5)や蒸気洗浄部(3)内に付着した洗浄液(7)の沸点が低下し、急速な乾燥が可能となる。この乾燥処理の際も、前述の如く、被洗浄物(5)や、蒸気洗浄部(3)内の余分な洗浄液(7)の液切りが良好に行われているので、乾燥時間を短縮する事ができるとともに、乾燥に使用するエネルギーを節約でき、乾燥処理を迅速かつ経済的に行う事が可能となる。
【0036】また、バキュームポンプ(14)により蒸気洗浄部(3)内を減圧すると、蒸気洗浄部(3)内に残留していた洗浄蒸気が、第1電磁弁(17)を介して凝縮器(15)に移動し、凝縮液化する。そして、この凝縮液を、第2電磁弁(35)を介して蒸気発生部(4)に移送する事により、再び洗浄蒸気化し、蒸留再生使用が可能となり、洗浄液(7)の経済的な再生使用が可能となる。尚、蒸気発生部(4)には、ボールタップ等の液面制御機構(18)を設置している。この液面制御機構(18)により、第2電磁弁(35)の開閉を制御し、凝縮器(15)からの凝縮液の移送を調節して、蒸気発生部(4)内の洗浄液(7)量を適量に保っている。
【0037】そして、乾燥処理が終了したら、蒸気洗浄部(3)に接続した真空破壊弁(26)を介して、蒸気洗浄部(3)内にエアーを導入する。このエアーの導入により、蒸気洗浄部(3)内が常圧状態に戻るので、洗浄槽(1)の開閉蓋(30)を外して、蒸気洗浄部(3)内の被洗浄物(5)を安全に取り出す事ができる。
【0038】また、上記第1実施例では、蒸気洗浄部(3)内を急速減圧する事により、突沸乾燥処理を行っているが、他の異なる実施例として、蒸気洗浄部(3)内に、適宜の手段で冷風や温風を導入する事により、乾燥処理を行うものであっても良いし、他の適宜の従来技術を用いて乾燥処理を行っても良い。何れの場合でも、蒸気洗浄部(3)内の液切りが良好に行われているので、乾燥時間の短縮やエネルギーの節約が可能となり、経済的な乾燥処理が可能となる。」

(オ)「【0063】また、エゼクター部(24)を用いた他の異なる第8、第9実施例について説明する。上記第6、第7実施例では、径大な板状部材で形成した密閉蓋体(11)を配置した洗浄槽(1)に於いて、蒸気発生部(4)にエゼクター部(24)を接続している。一方、他の異なる第8、第9実施例では、図15〜図18に示す如く、径小な密閉蓋体(11)を配置した洗浄槽(1)に於いて、蒸気発生部(4)にエゼクター部(24)を接続している。尚、この径小な密閉蓋体(11)は、シリンダー(22)にて上下動可能としている。
【0064】更に、第8、第9実施例では、蒸気洗浄の前洗浄として行う浸漬洗浄を、洗浄槽(1)の蒸気洗浄部(3)内で行う事を可能としている。そして、蒸気洗浄部(3)は、洗浄液(7)を充填した洗浄液槽(20)と、第7電磁弁(45)を介して連結し、この洗浄液槽(20)を、浸漬洗浄に使用する洗浄液(7)のリザーブタンクとして使用可能としている。また、洗浄液槽(20)は、第6電磁弁(41)を介して、蒸気発生部(4)とも接続し、蒸気発生部(4)内への洗浄液(7)の移送も可能としている。
【0065】そして、第8実施例の洗浄装置で、第1工程の浸漬洗浄処理を行うには、図15に示す如く、蒸気洗浄部(3)内に被洗浄物(5)を収納した後、密閉蓋体(11)を連通口(10)に接続して、蒸気洗浄部(3)を密閉する。次に、蒸気洗浄部(3)と接続する真空破壊弁(26)と第7電磁弁(45)を閉止した後、バキュームポンプ(14)により、蒸気洗浄部(3)内を減圧して、真空状態とする。この真空状態で第7電磁弁(45)を開弁すると、洗浄液槽(20)の洗浄液(7)が、第7電磁弁(45)を介して蒸気洗浄部(3)内に吸引され、図15の点線で示す如く、蒸気洗浄部(3)内に、浸漬洗浄のための十分な洗浄液(7)が導入される。
【0066】また、この蒸気洗浄部(3)への洗浄液(7)の導入の際に、洗浄液槽(20)の真空破壊弁(44)を開弁しておく事により、洗浄液槽(20)内の減圧を防止して、スムーズな導入が可能となる。この導入が完了したら、第7電磁弁(45)を閉止し、被洗浄物(5)の浸漬洗浄処理を行う。
【0067】そして、浸漬洗浄が終了したら、第7電磁弁(45)を開弁するとともに真空破壊弁(26)を開弁して、蒸気洗浄部(3)内にエアーを導入する。すると、蒸気洗浄部(3)内の洗浄液(7)が、重力により、洗浄液槽(20)内に排出される。この場合も、洗浄液槽(20)の真空破壊弁(44)を開弁しておく事により、洗浄液槽(20)への洗浄液(7)のスムーズな排出が可能となる。
【0068】次に、第2工程の蒸気洗浄処理を行うには、シリンダー(22)を上昇して、密閉蓋体(11)を上部方向に移動し、図16に示す如く、連通口(10)を開口する。この開口により、蒸気洗浄部(3)と蒸気発生部(4)とを連通する。そして、蒸気発生部(4)の洗浄蒸気を、連通口(10)を介して蒸気洗浄部(3)内に導入する事により、被洗浄物(5)の蒸気洗浄を行う。この蒸気洗浄処理に於いて、洗浄蒸気が、被洗浄物(5)の微細な凹凸や隙間に入り込んで凝縮し、この凝縮液は汚れとともに落下するので、浸漬洗浄では落とせなかった汚れを確実に除去する事ができる。また、蒸気洗浄処理は、バキュームポンプ(14)を作動して減圧蒸気洗浄を行う事も可能である。
【0069】また、洗浄液槽(20)では、冷水を流通したパイプ等の冷却手段(23)により、洗浄液(7)を冷却しているから、第1工程で浸漬洗浄した被洗浄物(5)の表面温度は非常に低いものである。そのため、第2工程の蒸気洗浄に於いて、洗浄蒸気がこの低温状態の被洗浄物(5)と接触する事により、凝縮効果が促進され、洗浄効果が向上するものとなる。
【0070】また、蒸気発生部(4)内の洗浄液(7)が不足したら、液面制御機構(18)により、第6電磁弁(41)を開弁して、洗浄液槽(20)内の洗浄液(7)を導入し、補充する事も可能である。そして、このように蒸気発生部(4)に洗浄液槽(20)の洗浄液(7)を導入して蒸気化する事により、浸漬洗浄で汚れた洗浄液(7)の蒸留再生が可能となる。そのため、洗浄液(7)の経済的な使用が可能となるとともに、洗浄蒸気の発生作業と浄化を同時に行えるので、作業効率やエネルギー効率が良好なものとなる。
【0071】そして、第3工程では、図15に示す如く、シリンダー(22)を下降して、密閉蓋体(11)を連通口(10)に接続する事により、蒸気洗浄部(3)内を密閉する。そして、バキュームポンプ(14)で蒸気洗浄部(3)内を減圧する事により、被洗浄物(5)の減圧乾燥処理を行う。この乾燥処理の際も、他の実施例と同様に、蒸気洗浄部(3)内の液切りが良好に行われているので、乾燥時間やエネルギーの無駄を省いて、効率的な乾燥処理を行う事ができる。
【0072】そして、蒸気洗浄部(3)内の余分な洗浄蒸気は、このバキュームポンプ(14)による吸引により、第1電磁弁(17)を介して凝縮器(15)に移送され、凝縮される。この凝縮液は、エゼクター部(24)の吸引力により、第2電磁弁(35)を介して洗浄液槽(20)内に迅速に移送される。また、蒸気発生部(4)の洗浄蒸気を、エゼクター部(24)の吸引力により、第5電磁弁(40)を介して、洗浄液槽(20)に直に導入し、凝縮液化する。これらの凝縮液は、再び浸漬洗浄や蒸気洗浄作業に使用でき、効率的な蒸留再生使用が可能となる。」

(カ)前記記載事項(ア)の段落【0001】によると、甲19に記載された発明は、洗浄装置に係るものであり、甲19には、当該洗浄装置による洗浄方法も記載されていることは明らかである。

(キ)前記記載事項(ウ)の段落【0023】によると、蒸気発生部4は、洗浄液7を蒸気化するものである。

(ク)前記記載事項(エ)の段落【0030】によると、蒸気洗浄部3は、蒸気発生部4との連通状態で、バキュームポンプ14が作動して減圧され、この減圧によって洗浄液7の沸点が低下して蒸気発生部4で発生した洗浄蒸気が流動し、被洗浄物5と接触して凝縮する事により減圧蒸気洗浄が行われるものである。

(ケ)前記記載事項(ウ)の段落【0026】及び前記記載事項(エ)の段落【0030】によると、減圧蒸気洗浄を行う際、蒸気発生部4と蒸気洗浄部3との連通状態でバキュームポンプ14を作動して減圧するから、蒸気洗浄部3とバキュームポンプ14の間に介在する凝縮器15も減圧されることは明らかであり、凝縮器15は、減圧蒸気洗浄が行われる際、蒸気発生部4と蒸気洗浄部3とともに、バキュームポンプ14により減圧されるものである。
また、前記記載事項(ウ)の段落【0026】並びに前記記載事項(エ)の段落【0033】、【0035】及び【0036】によると、乾燥処理を行う際、バキュームポンプ14により蒸気洗浄部3内を減圧するから、蒸気洗浄部3とバキュームポンプ14の間に介在する凝縮器15も減圧されることは明らかであり、凝縮器15は、乾燥処理を行う際、蒸気洗浄部3とともに、バキュームポンプ14により減圧され、蒸気洗浄部3内に残留していた洗浄蒸気が移動し、凝縮液化するものである。

(コ)前記記載事項(ウ)の段落【0026】によると、冷却パイプ9は、冷却水が流通するとともに、凝縮器15の内部に挿通され、凝縮器15に導入された洗浄蒸気を凝縮可能にするものであり、冷却パイプ9の温度は、冷却パイプ9が挿通された凝縮器15に導入された洗浄蒸気を凝縮可能なものである。また、凝縮器15の内部に挿通された冷却パイプ9に冷却水を流通させる工程を備えるものである。

(サ)前記記載事項(ウ)の段落【0026】によると、第1電磁弁17は、凝縮器15と蒸気洗浄部3との間に介在するものである。

(シ)前記記載事項(エ)の段落【0033】には、「洗浄処理が終了したら、乾燥処理を行うが、それには、図2に示す如く、連通口(10)に密閉蓋体(11)を接続して蒸気洗浄部(3)内への洗浄蒸気の流入を遮断するとともに蒸気洗浄部(3)内を気密的に密閉する。」と記載されており、この「洗浄処理」とは、前記記載事項(ウ)の段落【0028】、【0029】に記載された大気圧蒸気洗浄と、前記記載事項(エ)の段落【0030】に記載された減圧蒸気洗浄との、いずれにも限定されずに記載されているから、両者の洗浄処理が含まれるものであって、減圧蒸気洗浄が終了した際にも、蒸気洗浄部3内は密閉される、つまり第1電磁弁17は閉弁されるものである。また、同じく段落【0035】には、「次に、この蒸気洗浄部(3)に接続するバキュームポンプ(14)を稼働して、蒸気洗浄部(3)内を急速に減圧する。この急速減圧により、被洗浄物(5)や蒸気洗浄部(3)内に付着した洗浄液(7)の沸点が低下し、急速な乾燥が可能となる。」と記載されているから、この乾燥は、バキュームポンプ14を稼働し、第1電磁弁17を開弁して行われるものである。そうすると、前記記載事項(エ)の段落【0030】、【0033】、【0035】及び【0036】によると、洗浄蒸気が蒸気洗浄部3に流動し、被洗浄物5を減圧蒸気洗浄した後、バキュームポンプ14を稼働し、第1電磁弁17を開弁して、蒸気洗浄部3内を急速に減圧することにより被洗浄物5に付着した洗浄液7を急速に乾燥させ、その際、蒸気洗浄部3内に残留していた洗浄蒸気が、第1電磁弁17を介して前記凝縮器15に移動し、凝縮液化するもの、及びこのような工程を備えるものである。

(ス)前記記載事項(ウ)の段落【0026】及び前記記載事項(エ)の段落【0036】によると、蒸気洗浄部3から凝縮器15に導入されて凝縮された凝縮液を、凝縮器15から第2電磁弁35を介して蒸気発生部4に移送するものである。

(セ)前記記載事項(オ)の段落【0064】〜【0067】によると、蒸気洗浄部3に、洗浄液7を充填した洗浄液槽20から洗浄液7を導入して、被洗浄物5の浸漬洗浄処理を行うものである。

(ソ)前記記載事項(ウ)の段落【0023】及び前記記載事項(エ)の段落【0030】によると、蒸気発生部4と蒸気洗浄部3との連通状態で、バキュームポンプ14を作動して減圧し、その後、この減圧によって洗浄液7の沸点が低下し、洗浄液7の加熱温度よりも沸点が低くなると、洗浄蒸気が発生して、減圧蒸気洗浄が行われるものであるから、蒸気発生部4と蒸気洗浄部3との連通状態でバキュームポンプ14を作動させて、被洗浄物5が載置台6に載置された蒸気洗浄部3を、第1電磁弁17及び凝縮器15を介して減圧する工程と、洗浄液7を蒸気化し、洗浄蒸気が減圧の状態の蒸気洗浄部3に流動して被洗浄物5を減圧蒸気洗浄する工程とを備えるものである。

イ 甲19に記載された発明の認定
甲19には、前記アに記載した事項を踏まえると、次の発明(以下、「甲19発明1」〜「甲19発明5」という。また、「甲19発明1」〜「甲19発明5」をまとめて、「甲19発明」という。)が記載されていると認められる。

[甲19発明1]
バキュームポンプ14と、
洗浄液7を蒸気化する蒸気発生部4と、
前記蒸気発生部4との連通状態で、前記バキュームポンプ14が作動して減圧され、この減圧によって前記洗浄液7の沸点が低下して前記蒸気発生部4で発生した洗浄蒸気が流動し、被洗浄物5と接触して凝縮する事により減圧蒸気洗浄が行われる蒸気洗浄部3と、
前記減圧蒸気洗浄が行われる際、前記蒸気発生部4と前記蒸気洗浄部3とともに、前記バキュームポンプ14により減圧され、また、乾燥処理を行う際、前記蒸気洗浄部3とともに、前記バキュームポンプ14により減圧され、前記蒸気洗浄部3内に残留していた洗浄蒸気が移動し、凝縮液化する凝縮器15と、
冷却水が流通するとともに、前記凝縮器15の内部に挿通され、前記凝縮器15に導入された洗浄蒸気を凝縮可能にする冷却パイプ9と、
前記凝縮器15と前記蒸気洗浄部3との間に介在する第1電磁弁17と、を備え、
洗浄蒸気が前記蒸気洗浄部3に流動し、前記被洗浄物5を減圧蒸気洗浄した後、前記バキュームポンプ14を稼働し、第1電磁弁17を開弁して、前記蒸気洗浄部3内を急速に減圧することにより前記被洗浄物5に付着した前記洗浄液7を急速に乾燥させ、その際、前記蒸気洗浄部3内に残留していた洗浄蒸気が、前記第1電磁弁17を介して前記凝縮器15に移動し、凝縮液化する
洗浄装置。

[甲19発明2]
前記冷却パイプ9の温度は、前記冷却パイプ9が挿通された前記凝縮器15に導入された洗浄蒸気を凝縮可能なものである甲19発明1の洗浄装置。

[甲19発明3]
前記蒸気洗浄部3から前記凝縮器15に導入されて凝縮された凝縮液を、前記凝縮器15から第2電磁弁35を介して前記蒸気発生部4に移送する甲19発明2の洗浄装置。

[甲19発明4]
前記蒸気洗浄部3に、前記洗浄液7を充填した洗浄液槽20から前記洗浄液7を導入して、前記被洗浄物5の浸漬洗浄処理を行う甲19発明1、甲19発明2又は甲19発明3の洗浄装置。

[甲19発明5]
蒸気発生部4と蒸気洗浄部3との連通状態でバキュームポンプ14を作動させて、被洗浄物5が載置台6に載置された蒸気洗浄部3を、第1電磁弁17及び凝縮器15を介して減圧する工程と、
洗浄液7を蒸気化し、洗浄蒸気が減圧の状態の前記蒸気洗浄部3に流動して前記被洗浄物5を減圧蒸気洗浄する工程と、
凝縮器15の内部に挿通された冷却パイプ9に冷却水を流通させる工程と、
洗浄蒸気が前記蒸気洗浄部3に流動し、前記被洗浄物5を減圧蒸気洗浄した後、前記バキュームポンプ14を稼働し、第1電磁弁17を開弁して、前記蒸気洗浄部3内を急速に減圧することにより前記被洗浄物5に付着した前記洗浄液7を急速に乾燥させ、その際、前記蒸気洗浄部3内に残留していた洗浄蒸気が、前記第1電磁弁17を介して前記凝縮器15に移動し、凝縮液化する工程と、
を含む洗浄方法。

(3)甲11
請求人が無効理由1及び無効理由2に係る証拠として提出した、本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲11には、次の事項が記載されている。

ア 「炭化水素系の脱脂洗浄は、古くは洗い油として使用されていたもので、環境問題からトリクロロエタンの廃止が決定された後、急速に進歩し現在では主流となっている。」(第1ページ「1.まえがき」の第13行〜第15行)

イ 「現状、安全性(引火点)及び洗浄性の面から、熱処理工程に使用する洗浄剤として第三石油類のナフテン系の炭化水素系洗浄剤が主流となっている。」(第1ページ「2.炭化水素系洗浄剤」の第9行〜第10行)

(4)甲12
請求人が無効理由1及び無効理由2に係る証拠として提出した、本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲12には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、汚れの付着した金属部品などの被洗浄物を、可燃性の洗浄液などを用いて真空中で洗浄した後、迅速に真空乾燥させる真空洗浄装置に関する。
【0002】
【発明が解決しようとする課題】フロンやトリエタンの全廃後にも拘わらず、理想的な代替洗浄剤の開発が進まない中、汎用性や価格上の利点から、水溶性洗剤や炭化水素溶剤への切替えが積極的に推進されている。その中でも、溶剤系洗浄液の簡便さから炭化水素溶剤が注目されており、かかる洗浄液を用いた真空洗浄装置が各種提案されている。しかしながら、いずれの真空洗浄装置も、洗浄性能が十分ではないか、或いは装置構成が複雑であるという問題点があった。本発明は、この問題点に着目してなされたものであって、簡易な装置構成でありながら、確実かつ迅速な洗浄動作を実現する真空洗浄装置を提供することを目的とする。」

イ 「【0011】
〔第2実施例〕
図4〜図6は、第2実施例に係る真空洗浄装置EQ2の構成を略記したものであり、それぞれ、蒸留再生時(図4)、蒸気洗浄時(図5)、真空乾燥時(図6)を示している。 この真空洗浄装置EQ2は、被洗浄物の蒸気洗浄および真空乾燥に用いる洗浄槽1と、洗浄液を加温状態で貯留する加温槽2と、沸騰した洗浄液を液化回収する減圧槽3と、前記の各槽を所定の真空度にまで減圧する真空ポンプ5A,5Bと、冷却機構6aを備えるコールドトラップ6と、洗浄槽1の洗浄液を加温槽2に回収する回収ポンプ7Aと、装置各部の連通管を開閉するバルブVA〜VHと、装置全体の動作を制御する制御部(図示せず)とで構成されている。この洗浄装置EQ2では、洗浄槽1に加熱機構14が設けられており、この洗浄槽1が、蒸気発生槽を兼ねる点に大きな特徴がある。その他の点は、第1実施例の場合とほぼ同様であり、同一の部分には同一の番号が付番されている。
【0012】以下、図4〜図6に示す真空洗浄装置EQ2について、その動作内容を説明する。
(1)非洗浄時の蒸留再生の動作
洗浄槽1に非洗浄物が投入されていない場合(図4参照)には、開閉弁VE,VF,VB,VHは閉鎖状態であり、開閉弁VD,VC,VGは開放状態である。そのため、洗浄槽1は真空ポンプ5Bの作用によって減圧される。なお、圧力計13の計測値に応じて制御弁VDが開閉して、所定の真空度が維持される。この減圧状態において開閉弁VAを開放すると、加温状態の洗浄液が洗浄槽1に流入される。洗浄槽1には、洗浄液を沸騰させるに十分な加熱機構14が設けられているので、流入した洗浄液は、減圧状態下、直ちに沸騰することになる。そして、洗浄蒸気は、真空ポンプ5Bによって減圧槽3に吸引され、減圧槽3の冷却機構3aによって液化される。つまり、洗浄槽1に非洗浄物が投入されていない状態では、加温槽2→洗浄槽1(蒸気発生槽)→減圧槽3の蒸留再生ラインが構築されることになる。
【0013】(2)蒸気洗浄時の動作
○1被洗浄物を蒸気洗浄する場合には、開閉弁VA を閉じた状態で開閉弁VB を開放し、回収ポンプ7Aを運転させて洗浄槽1の洗浄液を空にする。その後、真空ポンプ5Bの運転を停止して、開閉弁VC,VB,VGを閉じた後、開閉弁VFを開放して洗浄槽1の減圧状態を解除する。なお、適宜なタイミングで開閉弁VHを開放して、蒸留再生された洗浄液を加温槽2に回収する。
○2次に、洗浄槽1に被洗浄物WRを投入した後、開閉弁VEを開放して真空ポンプ5Aの運転を開始する。その後、洗浄槽1が所定の減圧状態に達したら、真空ポンプ5Aの運転を停止して開閉弁VE を閉じる。
○3続いて、開閉弁VCを開放して真空ポンプ5Bの運転を開始すると共に、開閉弁VAを一定時間だけ開放して、加温槽2の洗浄液を洗浄槽1に所定量だけ流入させる。洗浄槽1の加熱機構14は、流入された洗浄液を沸騰されるに十分な能力を有しているので、洗浄槽1では、被洗浄物WRに対して蒸気洗浄が行われることになる(図5参照)。加熱機構14により沸騰された洗浄蒸気は、被洗浄物WRにおいて液化される一方、減圧槽3に導入された洗浄蒸気は、冷却機構3aにおいて液化されて蒸留再生される。
○4蒸気洗浄の処理が完了したら、開閉弁VBを開放すると共に、回収ポンプ7Aを運転して、洗浄槽1に残っている洗浄液を加温槽2に回収する。なお、この動作に合わせて、洗浄槽1の洗浄蒸気は、真空ポンプ5Bによって、減圧槽3に吸収される。
【0014】(3)真空乾燥時の動作
○1その後、開閉弁VEを開放して真空ポンプ5Aの運転を開始して、真空ポンプ5A,5Bによって洗浄槽1の真空度を高める。すると、洗浄槽1の真空度が上がることに応じて洗浄液の沸点が低下して、被洗浄物WRの表面にある洗浄液が急激に乾燥してゆく。
○2そして、真空乾燥の処理が完了すれば、真空ポンプ5A,5Bの運転を停止して開閉弁VE,VCを閉じた後、開閉弁VFを開放する。これにより洗浄槽1の減圧状態が解除されるので、洗浄処理を終えた被洗浄物WRを洗浄槽1から取り出すことができる。これ以降は、新たな被洗浄物を洗浄槽1に投入して蒸気洗浄処理を行うか、或いは、被洗浄物を投入することなく、加温槽2→洗浄槽1(蒸気発生槽)→減圧槽3の蒸留再生ラインで蒸留再生処理を行うことができる。」

ウ 「【0015】〔第3実施例〕図7は、第3実施例に係る真空洗浄装置EQ3の構成を略記したものである。この真空洗浄装置EQ3は、被洗浄物の浸漬洗浄および真空乾燥に用いる洗浄槽1と、洗浄液を加温状態で貯留する加温槽2と、沸騰した洗浄液を液化回収する減圧槽3と、洗浄液を減圧状態下で沸騰させる蒸気発生槽4と、前記の各槽を所定の真空度にまで減圧する真空ポンプ5と、冷却機構6aを備えるコールドトラップ6と、洗浄槽1と加温槽2の間で洗浄液を循環させる循環ポンプ7と、装置各部の連通管を開閉するバルブVA〜VIと、装置全体の動作を制御する制御部(図示せず)とで構成されている。第1実施例の場合と同様、加温槽2の洗浄液は、加熱機構9によって沸騰しない程度に加温されている一方、蒸気発生槽4の洗浄液は、加熱機構10によって沸騰状態に加熱されている。減圧槽3には、冷却機構3aが設けられており、蒸気発生槽4から送られてくる洗浄蒸気が液化回収されるようになっている。減圧槽3と蒸気発生槽4とは、真空ポンプ5によって減圧されるが、この実施例では、圧力計13の計測値に応じて制御バルブVDが自動的に開閉されることにより、減圧槽3や蒸気発生槽4が所定の減圧状態に維持されるようになっている。
【0016】続いて、上記の構成を備える真空洗浄装置EQ3について、その動作内容を説明する。
(1)非洗浄時の動作(蒸留再生)先ず、洗浄槽1には被洗浄物が投入されておらず、洗浄槽1の開閉蓋1aが開放状態である場合について説明する。この真空洗浄装置EQ3では、開閉弁VIは、被洗浄物を真空乾燥する場合を除いて、常に開放状態になっているので、非洗浄時にも、次の蒸留再生動作が行われることになる。なお、このとき、開閉バルブVE,VF,VB,VC,VA,VGは全て閉鎖状態である。減圧槽3と蒸気発生槽4とは、真空ポンプ5によって所定の真空度にまで減圧されているので、高沸点の洗浄液を用いた場合でも、比較的低い温度において、蒸気発生槽4の洗浄液が沸騰することになる。そして、沸騰した洗浄液は、減圧槽3に導入された後、冷却機構3aにおいて液化されて蒸留再生される。このとき、開閉バルブVHは、開放されているので、蒸留再生された洗浄液は、減圧槽3から加温槽2に回収される。また、加温槽2から蒸気発生槽4には、自動的に洗浄液が補給されるので、結局、蒸気発生槽4→減圧槽3→加温槽2→蒸気発生槽4の蒸留再生ラインが構築されることになる。なお、真空ポンプ5に吸引された洗浄蒸気は、コールドトラップ6の冷却機構6aにおいて液化されて加温槽2に回収される。
【0017】(2)浸漬洗浄時の動作(浸漬洗浄+蒸留再生)
○1被洗浄物を浸漬洗浄する場合には、洗浄槽1の中に被洗浄物を投入して開閉蓋1aを密閉した後、先ず、開閉バルブVEを開放する。なお、このとき、開閉バルブVI,VHは開放状態であり、開閉バルブVF,VB,VC,VA,VGは全て閉鎖状態である。開閉バルブVEを開放すると、洗浄槽1の空気は、真空ポンプ5によって吸引されるので、圧力計8の計測値に基づいて、洗浄槽1の真空度が加温槽2と同程度になるまで減圧する。このようにして、洗浄槽1と加温槽2の真空度を同一にすると、その後、開閉弁VA,VG を開放すると、加温槽2から洗浄槽1に洗浄液が自然流入されることになる。なお、上記の説明では、開閉バルブVEを開放して洗浄槽1を減圧したが、これに変えて、開閉バルブVB,VC,VGのいずれかを開放して、洗浄槽1を減圧するのでも良い。
○2開閉バルブVA,VGを開放して被洗浄物WRを浸すまで洗浄液を満たしたら、次に、開閉バルブVBを開いて循環ポンプ7の運転を開始して洗浄液を循環させる。
○3所定時間の浸漬洗浄処理が完了すると、最初に、開閉バルブVAを閉じて洗浄液の供給を止める。そして、洗浄槽1の洗浄液が空になると、開閉バルブVB,VGを閉じて循環ポンプ7の運転を停止する。なお、これら○1〜○3の動作中、蒸気発生槽4→減圧槽3→加温槽2→蒸気発生槽4の蒸留再生ラインは連続して機能している。
【0018】
(3)真空乾燥時の動作
○1浸漬洗浄の動作が完了すると、開閉バルブVI,VHを閉じると共に、開閉バルブVCを開放する。なお、開閉バルブVG,VA,VB,VF,VEは、既に閉鎖されている。開閉バルブVCが開放されたことにより、洗浄槽1は、更に減圧されることになり、加温状態の被洗浄物に付着している洗浄液は、真空乾燥されることになる。そして、減圧槽3に導入された洗浄蒸気は、冷却機構3aによって凝縮化される。
○2上記の処理によって、ある程度の真空乾燥が完了したら、その後、開閉バルブVE を開放して、洗浄槽1をさらに減圧して、被洗浄物を迅速かつ確実に乾燥させる。なお、このとき、開閉弁VC などを閉鎖しても良い。
○3真空乾燥の処理が終われば、開閉弁VE,VCを閉じた後、開閉弁VFを開放して洗浄槽1の減圧状態を解除する。これにより被洗浄物の取り出しが可能となり、また、開閉弁VE,VCを閉じた後、開閉弁VIとVHを開放すれば、前述した蒸留再生動作が再開される。」

(5)甲13
請求人が無効理由1及び無効理由2に係る証拠として提出した、本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲13には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、金属製や合成樹脂製の機械部品・熱処理部品・メッキ部品等のワークを減圧下で蒸気洗浄する真空脱脂洗浄方法とその方法に使用する真空洗浄機に関する。」

イ 「【0018】本発明で使用する上記石油系溶剤としては、第4類第3石油類の洗浄性を有するものが、望ましい。なぜなら、この種の溶剤では、消防法上の貯溜量を、大容量の2000リットル未満まで可能としているからである。かかる石油系溶剤は、一般的にクリーニングソルベントと呼ばれており、具体的には、「クリーンソルG」(日本石油製)・「ダフニーソルベント」(出光石油製)等を使用することができる。」

ウ 「【0021】そして、この真空脱脂洗浄方法では、蒸気洗浄に使用する溶剤が、石油系溶剤であることから、従来の塩素系溶剤やフッ素系溶剤と相違して、毒性が低く無害である。そのため、本発明では、排水処理施設を利用しなくとも、ワークを洗浄することができる。また、本発明では、作業環境の悪化や公害の発生を防止して、ワークを洗浄することができる。
【0022】また、減圧下で蒸気洗浄するため、ワークの隅々まで、溶剤が行き渡るので、良好に洗浄することができる。
【0023】さらに、石油系溶剤は、塩素系溶剤やフッ素系溶剤に比べて、略全て回収できることとなる。なぜなら、石油系溶剤は、比揮発度を1/300〜1/600として揮発し難い。そして、蒸気を発生させないように大気圧に復圧させたり冷却させた後に、ワークの搬入や搬出を行なえば、揮発分は無視できる程度となるからである。
【0024】さらにまた、使用する石油系溶剤は、交換することなく、長い時間にわたって、高い洗浄効果を維持することができる。なぜなら、石油系溶剤を減圧下で蒸発させる際、石油系溶剤と石油系溶剤に混合される油脂類との比揮発度の差は、減圧するにしたがって広がる。すなわち、洗浄後の石油系溶剤が、ワークの洗浄後に汚れて油脂類との混合液となっても、純度の高い石油系溶剤を蒸発させることが可能となる。そのため、石油系溶剤は、交換することなく、長い時間にわたって、高い洗浄効果を維持することができ、ランニングコストを低減することができる。」

エ 「【0029】さらにまた、この洗浄方法では、安全に洗浄することができる。なぜなら、減圧(例えば5〜100Torr)した後に、石油系溶剤を蒸発させているため、発火に必要な酸素が極めて少なくなるからである。さらに、洗浄時に、減圧下を維持するため、洗浄室が密閉構造となり、石油系溶剤の発火が抑えられるからである。
【0030】なお、洗浄後のワークを取り出す際にも発火を防止することができる。すなわち、窒素ガス等の不活性ガスを洗浄室に導入して復圧させるようにすれば、酸素が少なくなって、かつ、蒸発していた石油系溶剤が圧力の上昇で液化してしまうことから、ワーク取出時の発火も防止することができるからである。」

オ 「【0063】図4に示す真空洗浄機M3は、蒸気発生装置34を洗浄室31と分離させている。また、洗浄室31内の下部に、浸漬槽32を設けている。浸漬槽32には、溶剤4と同様な浸漬用溶剤33が貯溜されている。この真空洗浄機M3は、洗浄室31内のワークWを載せる架台を昇降可能にして、蒸気洗浄する前段階において、ワークWを浸漬洗浄できるように構成したものである。すなわち、この真空洗浄機M3を使用する場合には、蒸気洗浄工程と乾燥工程との2工程でワークWを洗浄し、蒸気洗浄工程において浸漬洗浄も行なう。」

カ 「【0065】そして、蒸気洗浄工程において、まず、ワークWを、開閉扉3を開けて洗浄室31の図示しない架台上に載置し、開閉扉3を閉めた後、洗浄室31内を5〜100Torrに減圧する。その後、図示しない架台を下方・上方へ数回移動させて、ワークWを浸漬槽32で洗浄した後、再度、架台を上昇させ、上下の電磁弁Vを開弁させる。すると、洗浄室31内が上方の電磁弁Vから流入した溶剤蒸気で充満され、ワークWを蒸気洗浄することとなる。なお、この時、油脂類を溶解させた溶剤は、浸漬槽32に滴下し、下方の電磁弁Vから蒸気発生装置34に戻り、循環使用されることとなる。」

(6)甲14
請求人が無効理由1及び無効理由2に係る証拠として提出した、本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲14には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、例えばHC(ハイドロカーボン、炭化水素系溶剤の一つ)などの蒸気によりワークを減圧乃至真空状態下において蒸気洗浄および乾燥処理するような蒸気洗浄装置に関する。」

(7)甲15
請求人が無効理由1及び無効理由2に係る証拠として提出した、本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲15には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0050】第2の形態の洗浄機M2では、第1の形態の洗浄機1に比べて、コンパクトに形成している。つまり、図2に示すように、蒸気洗浄室と乾燥室が1室で構成された蒸気洗浄・乾燥室41と、開閉可能な中間扉43を間にして、蒸気洗浄・乾燥室1に対して上下方向の下方に隣接して配置される浸漬槽42とを備えて構成され、浸漬槽42は、槽42内に溶剤45を貯留するとともに下部が蒸気発生室46に貯留された溶剤47内に浸漬するように配置されている。蒸気洗浄・乾燥室41と蒸気発生室46とは、真空容器44の壁で周囲が覆われている。」

イ 「【0064】続いて、材料Wは、蒸気洗浄工程から浸漬洗浄工程に移って洗浄処理される。浸漬洗浄工程では、材料Wを載置した搬送装置56が、エレベータ装置57の駆動によって、材料Wを浸漬槽42の溶剤45に浸漬できるように上下移動を繰り返すことによって行なわれる。」

(8)甲16の1
請求人が無効理由1及び無効理由2に係る証拠として提出した、本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲16の1には、次の事項が記載されている。

ア 真空脱脂洗浄乾燥装置に関する「SGW−1000型・SGW−1200型フロー図」には、以下の事項が図示されている。


イ 前記記載事項アによると、真空ポンプと、蒸気発生器と、蒸気洗浄・乾燥槽と、真空or常圧洗浄槽と、コールドトラップとを備え、真空or常圧洗浄槽は、シャッターを挟んで蒸気洗浄・乾燥槽の下方に接続されている。

(9)甲17
請求人が無効理由1及び無効理由2に係る証拠として提出した、本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲17には、次の事項が記載されている。

ア 第23ページの第2図(a)には、「第2図 3室型真空洗浄機のシステム概要と洗浄工程」、「(a)システムの概要」として、以下の事項が図示されている。


イ 前記記載事項アによると、真空ポンプと、蒸気洗浄室と、浸せき洗浄室と、真空乾燥室と、凝縮器とを備える3室型真空洗浄機において、浸せき洗浄室は、蒸気洗浄室の左方に接続されており、品物を浸せき洗浄室に搬入し、下方に移動させて石油系溶剤に浸漬することにより浸漬洗浄が行われるものである。

4 無効理由1について
(1)本件特許発明1について
ア 本件特許発明1と甲10発明1の対比
甲10発明1の「真空ポンプ26」及び「真空ポンプ36」を合わせたものが、本件特許発明1の「真空ポンプ」に相当する。
甲10発明1の「蒸留タンク58」は、本件特許発明1の「蒸気生成手段」に相当し、甲10発明1の「溶剤が貯蔵されており、ヒータ60が起動されて前記溶剤の蒸気を発生させる蒸留タンク58」と、本件特許発明1の「石油系溶剤の蒸気を生成する蒸気生成手段」とは、「溶剤の蒸気を生成する蒸気生成手段」において共通する。
甲10発明1の「物品20」及び「室12」は、それぞれ本件特許発明1の「ワーク」及び「洗浄室」に相当し、甲10発明1の「前記真空ポンプ26により負のゲージ圧が印加され、前記蒸留タンク58内の溶剤の蒸気が流入され物品20を洗浄する室12」は、本件特許発明1の「前記真空ポンプによって減圧され、当該減圧の状態において前記蒸気生成手段から供給される蒸気によってワークを洗浄する洗浄室」に相当する。
甲10発明1の「凝縮器34」は、その内部空間において、蒸気を凝縮するものであるから、本件特許発明1の「凝縮室」に相当し、甲10発明1の「前記真空ポンプ36が作動し、前記室12内の蒸気が引き出される際、蒸気を凝縮する凝縮器34」と、本件特許発明1の「前記真空ポンプによって前記洗浄室とは独立して減圧され、当該減圧の状態が保持される凝縮室」とは、「前記真空ポンプによって減圧される凝縮室」において共通する。
甲10発明1の「冷却器ユニット48」は、凝縮器34に引き出された蒸気を凝縮器34内で凝縮させるためのものであって、この凝縮を行うためには、凝縮器34の内壁面や凝縮器34内に配置された部材の固体表面の温度を室12の温度よりも低い状態に保持する必要があることは明らかであるから、甲10発明1の「前記凝縮器34に冷却剤を供給するのに使用される冷却器ユニット48」は、本件特許発明1の「前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する温度保持手段」に相当する。
甲10発明1の「バルブ32」は、本件特許発明1の「開閉バルブ」に相当し、甲10発明1の「前記凝縮器34と前記室12との間に介在するバルブ32」は、本件特許発明1の「前記凝縮室と前記洗浄室とを連通させ、または、その連通を遮断する開閉バルブ」に相当する。
甲10発明1の「溶剤の蒸気が前記室12に流入し、前記物品20を洗浄した後」は、本件特許発明1の「前記蒸気を前記洗浄室に供給してワークを洗浄した後」に相当する。
甲10発明1の「前記バルブ32が開放した状態で、前記真空ポンプ36を作動させ、前記室12内の蒸気が引き出されて前記物品20を乾燥させ、蒸気を前記凝縮器34で凝縮させる」ことと、本件特許発明1の「前記開閉バルブによって前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させてワークを乾燥させる」こととは、ともに開閉バルブによって洗浄室が凝縮室と連通した状態でワークの乾燥が行われるものであるから、「前記開閉バルブによって前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させた状態でワークを乾燥させる」ことにおいて共通する。
甲10発明1の「改良型密閉回路溶剤洗浄システム」は、真空ポンプ26及び36を使用するものであるから、本件特許発明1の「真空洗浄装置」に相当する。
したがって、本件特許発明1と甲10発明1とは、以下の点で一致し、
[一致点1−1]
「真空ポンプと、
溶剤の蒸気を生成する蒸気生成手段と、
前記真空ポンプによって減圧され、当該減圧の状態において前記蒸気生成手段から供給される蒸気によってワークを洗浄する洗浄室と、
前記真空ポンプによって減圧される凝縮室と、
前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する温度保持手段と、
前記凝縮室と前記洗浄室とを連通させ、または、その連通を遮断する開閉バルブと、を備え、
前記蒸気を前記洗浄室に供給してワークを洗浄した後、前記開閉バルブによって前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させた状態でワークを乾燥させる真空洗浄装置。」

以下の各点で相違する。
[相違点1−1]
溶剤について、本件特許発明1は「石油系溶剤」であるのに対し、甲10発明1の溶剤は石油系のものであるか不明である点。

[相違点1−2]
ワークの乾燥について、本件特許発明1は「前記洗浄室とは独立して」減圧され、「当該減圧の状態が保持される」凝縮室を備え、開閉バルブによって洗浄室を「前記凝縮室と連通させて」乾燥させているのに対し、甲10発明1は、バルブ32が開放した状態で、真空ポンプ36を作動させ、室12内の蒸気が引き出されて物品20を乾燥させており、凝縮器34が室12とは独立して減圧され、バルブ32によって室12を当該減圧の状態が保持された凝縮器34と連通させて乾燥させているとはいえない点。

イ 判断
(ア)相違点1−1について
甲10発明1の改良型密閉回路溶剤洗浄システムは、前記3(1)アの記載事項(ア)によると、工業的な物品等の洗浄を行うものであるところ、機械部品を洗浄する真空洗浄装置の技術分野において、洗浄に用いる溶剤として、石油系溶剤を用いることは、甲11〜甲14に記載されているように、本件特許の優先日前から周知の事項である。そして、この周知の事項については、甲13の段落【0021】、【0023】、【0024】に記載されているような、石油系溶剤の毒性が低い、回収しやすい、ランニングコストが低減されるといったメリットや、甲13の段落【0029】、【0030】に記載されているような、石油系溶剤の発火を抑制するための安全対策も含めて周知の事項であるといえる。
そうすると、甲10発明1の溶剤として、前記周知の事項である石油系溶剤のメリットに着目し、必要な安全対策を施しつつ、石油系溶剤を採用することは、当業者が容易に想到し得るものである。

(イ)相違点1−2について
a 前記1(1)ア(ア)に示したように、本件特許発明1は、凝縮室が、開閉バルブによって洗浄室と連通される前に減圧の状態に保持され、洗浄室よりも低い温度に保持され、洗浄室を前記凝縮室と連通させることによりワークの乾燥を生じさせるものと解される。
そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、前記1(1)ア(イ)に示したように、乾燥工程において、蒸気洗浄・乾燥室を真空ポンプで真空引きして減圧する従来の真空洗浄装置及び真空洗浄方法では、乾燥工程に長時間を要するところ、ワークの乾燥に要する時間を短縮して全体の処理能力を向上することができる真空洗浄装置及び真空洗浄方法を提供するという課題を解決するために、準備工程で減圧され、減圧状態で洗浄室2よりも低い温度に保持された凝縮室21と、搬入工程でワークWが搬入され、減圧工程及び蒸気洗浄工程を経て高温の蒸気が充満された洗浄室2とを、乾燥工程において、開閉バルブ20を開弁して連通させることによって、洗浄室2内に充満している蒸気が凝縮室21に移動して凝縮し、ワークWを乾燥させるという真空洗浄装置の一連の処理工程が記載されており、この発明の詳細な説明の記載を考慮すると、本件特許発明1は、ワークの乾燥に要する時間を短縮して全体の処理能力を向上するために、減圧の状態に保持され、洗浄室よりも低い温度に保持された凝縮室と、洗浄室とを、開閉バルブによって連通させることにより、洗浄室から凝縮室に蒸気を移動させ、凝縮室内で蒸気を凝縮させてワークを乾燥させるという技術思想(以下、「凝縮により乾燥させる技術思想」という。)に基づくものといえる。
一方、甲10発明1は、バルブ32が開放した状態で、真空ポンプ36を作動させ、室12内の蒸気が引き出されて物品20を乾燥させるものであり、甲10には、前記凝縮により乾燥させる技術思想について、何ら開示されていないから、物品20を乾燥させるにあたり、バルブ32の開放前から凝縮器34を減圧の状態に保持しておくことの動機付けは存在しないし、このように、バルブ32の開放前から凝縮器34を減圧の状態に保持しておくことの動機付けが存在しないのだから、凝縮器34を減圧の状態に保持すべく、凝縮器34を室12とは独立して減圧する動機付けも存在しない。また、前記凝縮により乾燥させる技術思想は、請求人が無効理由1に係る証拠として提出した甲11〜甲17のいずれにも開示されていない。
そうすると、当業者といえども、甲10発明1の真空ポンプ36による乾燥に代えて、又は加えて、前記凝縮により乾燥させる技術思想に基づく乾燥手段(以下、「凝縮による乾燥手段」という。)を採用すべく、バルブ32によって室12を減圧の状態が保持された凝縮器34と連通させてワークを乾燥させることを容易に想到できるものではないし、当該減圧の状態を保持すべく、凝縮器34を室12とは独立して減圧することも容易に想到できるものではない。
そして、本件特許発明1は、この相違点1−2に係る「前記洗浄室とは独立して」減圧され、「当該減圧の状態が保持される」凝縮室を備え、開閉バルブによって洗浄室を「前記凝縮室と連通させて」ワークを乾燥させるという発明特定事項を備えることにより、乾燥工程で真空ポンプを用いなくてもワークの乾燥に要する時間を短縮して全体の処理能力を向上できるという作用効果を奏するものであって(本件特許明細書の段落【0005】、【0006】、【0012】参照。)、このような作用効果については、前記凝縮により乾燥させる技術思想が何ら示唆されていない甲10発明1から当業者が予測できるものではない。

b 請求人の主張について
(a)請求人は、甲10の記載に基づけば、むしろ、洗浄、乾燥、溶剤回収の全てのプロセスで空気を排除していると考えるのが当然であり、乾燥工程で溶剤蒸気が空気と混合しないよう、乾燥工程の前に、凝縮器34は真空ポンプ36により減圧されその状態が保持されていると解される旨、及び乾燥のためにバルブ32を開弁する直前における室12と凝縮器34の圧力の大小関係は、「室12>凝縮器34」になる旨、主張しているが、請求人のこれらの主張は、甲10発明1において、バルブ32が開放した状態で、真空ポンプ36を作動させ、室12内の蒸気が引き出されて物品20を乾燥させる前(少なくとも、初回の乾燥の前)に、凝縮器34が真空ポンプ36により減圧されその状態が保持されることを前提としたものと解される。
しかしながら、甲10発明1は、請求人が主張するように、洗浄作業全体を通して溶剤と空気との混合物を実施的に排除することを課題とする(前記3(1)アの記載事項(ア)及び(ウ)参照。)ものではあるものの、その課題を、真空ポンプ26により、室12内から空気等を引き出すことで解決しており(前記3(1)アの記載事項(エ)及び(ケ)参照。)、請求人が主張するような、乾燥工程の前に、凝縮器34が真空ポンプ36により減圧されその状態が保持されることについては、甲10に記載も示唆もされていない。また、甲10には、真空ポンプ36の排出側に設けられた保管タンク38から空気をパージすること(前記3(1)アの記載事項(ク)参照。)が記載されているように、甲10発明1は、溶剤と空気とを、一切、混合させないことまで意図した発明であるとは解されず、この点からも、請求人が主張するような、乾燥工程の前に、凝縮器34が真空ポンプ36により減圧されその状態が保持されるための手段を備える必要性はないものと考えられる。
そうすると、甲10発明1において、乾燥工程の前に、凝縮器34は真空ポンプ36により減圧されその状態が保持されているとはいえないし、乾燥のためにバルブ32を開弁する直前における室12と凝縮器34の圧力の大小関係が、「室12>凝縮器34」になるともいえない。

(b)請求人は、甲10に記載された発明において、当業者は、蒸留タンク58のパージは、室12から空気を排除する前に行われていると認識し、これと同時に、凝縮器34も真空ポンプ36により吸引されるから、凝縮器34は乾燥工程前に減圧される旨、及び蒸留タンク58のパージが、「凝縮器ルート」(蒸留タンク58→バルブ56→バルブ78→凝縮器34→真空ポンプ36)を用いて行われる旨を主張しているが、甲10には、蒸留タンク58から空気をパージすること(前記3(1)アの記載事項(ク)参照。)は記載されているもの、そのパージのタイミングや、そのパージのルートについては、明確に記載されていない。請求人の主張する「蒸留タンク58→バルブ56→バルブ78→凝縮器34→真空ポンプ36」を結ぶルートは、前記3(1)アの記載事項(コ)を参照すると、蒸留タンク58内の溶剤が汚染された際に、蒸留タンク58内の溶剤の蒸気を保管タンク38へ送る際に用いられるルートと解されるから、蒸留タンク58から空気をパージする際に用いられるルートとは、必ずしもいえない。
そうすると、甲10発明1において、蒸留タンク58のパージにより、凝縮器34が乾燥工程前に減圧されるとはいえないし、蒸留タンク58のパージが、「凝縮器ルート」(蒸留タンク58→バルブ56→バルブ78→凝縮器34→真空ポンプ36)を用いて行われるともいえない。

(c)請求人は、甲10に記載された発明において、室12は、凝縮器34とは別に真空ポンプ26で減圧できるから、一連の処理が終わり、室12から物品20を取り出す際、凝縮器34にわざわざ空気を導入するはずがないから、当業者であれば、室12から物品20を取り出す際、バルブ32を閉弁し、凝縮器34の減圧状態を維持すると理解する旨、主張しているが、甲10には、室12から物品20を取り出す際、バルブ32を閉弁することや、凝縮器34の減圧状態を維持することは、記載も示唆もされていない。また、前述したように甲10発明1は、溶剤と空気とを、一切、混合させないことまで意図した発明であるとは解されないから、乾燥の処理等の一連の処理が終わった後に、凝縮器34の減圧状態を維持することの必要性も認められない。
そうすると、甲10発明1において、室12から物品20を取り出す際、バルブ32を閉弁しているかは明確でなく、仮にバルブ32を閉弁するとしても、乾燥の処理等の一連の処理が終わった後に、凝縮器34の減圧状態を維持しているとはいえない。

(d)請求人は、本件特許発明1においても、開閉バルブ20と切換バルブV4を同時に開いて凝縮室21を真空ポンプ10で吸引した時、本件特許発明1は甲10に記載された発明と同じ洗浄装置の構成、同じ乾燥工程の態様となるのであるから、洗浄室から凝縮室への蒸気の移動も同じ態様となる旨、主張しているが、甲10には、前記凝縮により乾燥させる技術思想について、何ら開示がなく、甲10発明1は、物品20を乾燥させるにあたり、バルブ32の開放前から凝縮器34を減圧の状態に保持しておくものではないから、本件特許発明1の洗浄室から凝縮室への蒸気の移動と同じ態様となるとはいえない。

よって、請求人の主張はいずれも採用できない。

ウ むすび
以上のとおり、本件特許発明1は、当業者であっても、甲10発明1において、本件特許発明1の前記相違点1−2に係る発明特定事項とすることを容易に想到できるものではないから、甲10発明1及び前記周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件特許発明2について
ア 本件特許発明2と甲10発明2の対比
甲10発明2の「前記冷却器ユニット48が供給する前記冷却剤の温度」は、凝縮器34に流入する蒸気を凝縮器34内で凝縮させることができる温度である必要があるため、凝縮器34の内壁面や凝縮器34内に配置された部材の固体表面の温度を溶剤の凝縮点以下に保持することができる温度であることは明らかである。すると、甲10発明2の「前記冷却器ユニット48が供給する前記冷却剤の温度は、前記冷却剤が供給される前記凝縮器34に流入する蒸気を凝縮可能なものである」ことと、本件特許発明2の「前記温度保持手段は、前記凝縮室の温度を前記石油系溶剤の凝縮点以下に保持する」こととは、「前記温度保持手段は、前記凝縮室の温度を前記溶剤の凝縮点以下に保持する」ことにおいて共通する。

したがって、本件特許発明2と甲10発明2は、前記(1)アの[一致点1−1]に加えて、以下の点で一致し、前記(1)アの[相違点1−1]、[相違点1−2]以外に相違しない。

[一致点1−2]
「前記温度保持手段は、
前記凝縮室の温度を前記溶剤の凝縮点以下に保持する」点。

イ 判断
[相違点1−1]、[相違点1−2]についての判断は、前記(1)イで示したとおりである。

ウ むすび
以上のとおり、本件特許発明2は、当業者であっても、甲10発明2において、本件特許発明2の前記相違点1−2に係る発明特定事項とすることを容易に想到できるものではないから、甲10発明2及び前記周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件特許発明3について
ア 本件特許発明3と甲10発明3の対比
甲10発明3の「前記室12内の蒸気が引き出されて前記凝縮器34で凝縮した溶剤が、保管タンク38へ送達され、それから清浄な溶剤が再利用のためバルブ42、バルブ72を通って前記蒸留タンク58へ戻される」ことと、本件特許発明3の「前記洗浄室から前記凝縮室に導かれて凝縮した石油系溶剤を、前記凝縮室から前記蒸気生成手段に導く回収手段をさらに備える」こととは、「前記洗浄室から前記凝縮室に導かれて凝縮した前記溶剤を、前記凝縮室から前記蒸気生成手段に導く回収手段をさらに備える」ことにおいて共通する。

したがって、本件特許発明3と甲10発明3は、前記(1)アの[一致点1−1]、及び前記(2)アの[一致点1−2]に加えて、以下の点で一致し、前記(1)アの[相違点1−1]、[相違点1−2]以外に相違しない。

[一致点1−3]
「前記洗浄室から前記凝縮室に導かれて凝縮した前記溶剤を、前記凝縮室から前記蒸気生成手段に導く回収手段をさらに備える」点。

イ 判断
[相違点1−1]、[相違点1−2]についての判断は、前記(1)イで示したとおりである。

ウ むすび
以上のとおり、本件特許発明3は、当業者であっても、甲10発明3において、本件特許発明3の前記相違点1−2に係る発明特定事項とすることを容易に想到できるものではないから、甲10発明3及び前記周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)本件特許発明4について
ア 本件特許発明4と甲10発明4の対比
甲10発明4の「溶剤を前記室12に充填して、液体洗浄のため物品20を水面下に置く」ことと、本件特許発明4の「前記洗浄室に接続され、前記石油系溶剤が貯留されるとともに当該石油系溶剤にワークを浸漬可能な浸漬室をさらに備える」こととは、「前記溶剤が貯留されるとともに当該溶剤にワークを浸漬可能」であることにおいて共通する。

したがって、本件特許発明4と甲10発明4は、前記(1)アの[一致点1−1]、前記(2)アの[一致点1−2]及び前記(3)アの[一致点1−3]に加えて、以下の点で一致し、前記(1)アの[相違点1−1]、[相違点1−2]に加えて、以下の点で相違する。

[一致点1−4]
「前記溶剤が貯留されるとともに当該溶剤にワークを浸漬可能」である点。

[相違点1−3]
ワークの浸漬について、本件特許発明4は「前記洗浄室に接続され」た「浸漬室をさらに備える」のに対し、甲10発明4は、室12に溶剤を充填して浸漬させる点。

イ 判断
(ア)[相違点1−1]、[相違点1−2]について
[相違点1−1]、[相違点1−2]についての判断は、前記(1)イで示したとおりである。

(イ)[相違点1−3]について
甲10発明4の改良型密閉回路溶剤洗浄システムは、前記3(1)アの記載事項(ア)によると、工業的な物品等の洗浄を行うものであるところ、機械部品を洗浄する真空洗浄装置の技術分野において、蒸気洗浄を行う洗浄室に、浸漬洗浄を行う浸漬室を接続して設け、洗浄室で蒸気洗浄を行うとともに、浸漬室で浸漬洗浄を行うことは、甲13、甲15、甲16の1及び甲17に記載されているように、本件特許の優先日前から周知の事項である。
そうすると、甲10発明4と前記周知の事項とは、機械部品を洗浄する真空洗浄装置に関するものである点で技術分野が共通する上、甲10発明4と、前記周知の事項とは、ともに蒸気洗浄に加えて浸漬洗浄を行うものである点で作用・機能が共通する。
そして、真空洗浄装置の技術分野における蒸気洗浄と浸漬洗浄とを行う装置として、甲10発明4は、蒸気洗浄を行う洗浄室に溶剤を充填して浸漬洗浄を行うものであり、また、前記周知の事項は、蒸気洗浄を行う洗浄室に接続された浸漬室を別途設け、該浸漬室に導入されている溶剤により浸漬洗浄を行うものであるところ、両者を比較すると、前者のものは浸漬室を別途設ける必要がないからスペース効率に優れているものの、蒸気洗浄と浸漬洗浄を順に行う必要があるのに対し、後者のものは浸漬室を別途設けているものの、蒸気洗浄中に、浸漬室に溶剤を充填し、浸漬洗浄の準備をすることができるから作業効率に優れているといえ、両者はそれぞれ長所短所を有するものである。
すると、甲10発明4において、前記周知の事項との長所短所を考慮した上で、作業効率を優先して、前記周知の事項を採用し、室12に接続された浸漬室を設けることにより、本件特許発明4の前記相違点1−3に係る発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

ウ むすび
以上のとおり、本件特許発明4は、当業者であっても、甲10発明4において、本件特許発明4の前記相違点1−2に係る発明特定事項とすることを容易に想到できるものではないから、甲10発明4及び前記周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)本件特許発明5について
ア 本件特許発明5と甲10発明5の対比
甲10発明5の「真空ポンプ26」及び「真空ポンプ36」を合わせたものが、本件特許発明5の「真空ポンプ」に相当し、甲10発明5の「物品20」、「室12」及び「バルブ32」は、本件特許発明5の「ワーク」、「洗浄室」及び「開閉バルブ」にそれぞれ相当する。
甲10発明5の「凝縮器34」は、その内部空間において、蒸気を凝縮するものであるから、本件特許発明5の「凝縮室」に相当する。
甲10発明5の「真空ポンプ26を作動させ、物品20が支持体22に載置された室12に負のゲージ圧を印加する工程」と、本件特許発明5の「真空ポンプを用いることにより、ワークが搬入された洗浄室および当該洗浄室に隣接した凝縮室を各々独立して減圧する工程」とは、「真空ポンプを用いることにより、ワークが搬入された洗浄室を凝縮室から独立して減圧する工程」において共通する。
甲10発明5の「溶剤の蒸気を発生させ、当該蒸気を前記室12に流入させ前記物品20を洗浄する工程」において、蒸気を室12に流入させる際、室12は真空ポンプ26により負のゲージ圧が印加されているから、甲10発明5の「溶剤の蒸気を発生させ、当該蒸気を前記室12に流入させ前記物品20を洗浄する工程」と、本件特許発明5の「石油系溶剤の蒸気を生成し、当該蒸気を減圧下にある前記洗浄室に供給して前記ワークを洗浄する工程」とは、「溶剤の蒸気を生成し、当該蒸気を減圧下にある前記洗浄室に供給して前記ワークを洗浄する工程」において共通する。
甲10発明5の「冷却器ユニット48」は、凝縮器34に引き出された蒸気を凝縮器34内で凝縮するためのものであって、この凝縮を行うためには、凝縮器34の内壁面や凝縮器34内に配置された部材の固体表面の温度を室12の温度よりも低い状態に保持する必要があることは明らかであるから、甲10発明5の「冷却器ユニット48が凝縮器34に冷却剤を供給する工程」と、本件特許発明5の「減圧下にある前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する工程」とは、「前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する工程」において共通する。
甲10発明5の「溶剤の蒸気が前記室12に流入し、前記物品20を洗浄した後」は、本件特許発明5の「前記洗浄室において前記ワークを洗浄した後」に相当する。
甲10発明5の「前記バルブ32が開放した状態で、真空ポンプ36を作動させ、前記室12内の蒸気が引き出されて前記物品20を乾燥させ、蒸気を前記凝縮器34で凝縮させる」ことにおいて、蒸気を凝縮器34で凝縮させる際、凝縮器34内の固体表面の温度が室12の温度よりも低い状態に保持されていることは明らかであり、また、バルブ32が開放され、室12が凝縮器34と連通した状態で物品20の乾燥が行われるものであるから、甲10発明5の「前記バルブ32が開放した状態で、真空ポンプ36を作動させ、前記室12内の蒸気が引き出されて前記物品20を乾燥させ、蒸気を前記凝縮器34で凝縮させる」ことと、本件特許発明5の「開閉バルブを開弁することにより前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させてワークを乾燥させる」こととは、「開閉バルブが開弁され前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させた状態でワークを乾燥させる」ことにおいて共通する。
甲10発明5の「改良型密閉回路溶剤洗浄方法」は、真空ポンプ26及び36を使用するものであるから、本件特許発明5の「真空洗浄方法」に相当する。
したがって、本件特許発明5と甲10発明5とは、以下の点で一致し、
[一致点1−5]
「真空ポンプを用いることにより、ワークが搬入された洗浄室を凝縮室から独立して減圧する工程と、
溶剤の蒸気を生成し、当該蒸気を減圧下にある前記洗浄室に供給して前記ワークを洗浄する工程と、
前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する工程と、
前記洗浄室において前記ワークを洗浄した後、開閉バルブが開弁され前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させた状態でワークを乾燥させる工程と、を含む真空洗浄方法。」

以下の各点で相違する。
[相違点1−4]
溶剤について、本件特許発明5は「石油系溶剤」であるのに対し、甲10発明5の溶剤は石油系のものであるか不明である点。

[相違点1−5]
ワークの乾燥について、本件特許発明5は、洗浄室および「凝縮室を各々独立して」減圧する工程と、「減圧下にある」凝縮室を洗浄室よりも低い温度に保持する工程を備え、「開閉バルブを開弁することにより」洗浄室を「前記凝縮室と連通させて」乾燥させているのに対し、甲10発明5は、真空ポンプ36を作動させ、室12内の蒸気が引き出されて物品20を乾燥させており、凝縮器34が室12とは独立して減圧され、バルブ32を開弁することにより室12を減圧下にある凝縮器34と連通させて乾燥させているとはいえない点。

[相違点1−6]
凝縮室について、本件特許発明5は「当該洗浄室に隣接し」ているのに対し、甲10発明5は、そのようなものであるか不明である点。

イ 判断
(ア)相違点1−4について
前記(1)イ(ア)に示した相違点1−1についての判断と同様である。

(イ)相違点1−5について
a 前記1(2)ア(ア)に示したように、本件特許発明5は、凝縮室が、開閉バルブによって洗浄室と連通される前に減圧下とされ、洗浄室よりも低い温度に保持され、洗浄室を前記凝縮室と連通させることによりワークの乾燥を生じさせるものと解される。
そして、前記(1)イ(イ)の相違点1−2についてにおいて記述したように、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載を考慮すると、本件特許発明5は、本件特許発明1と同様に、前記凝縮により乾燥させる技術思想に基づくものといえる。
一方、甲10発明5は、バルブ32が開放した状態で、真空ポンプ36を作動させ、室12内の蒸気が引き出されて物品20を乾燥させるものであり、甲10には、前記凝縮により乾燥させる技術思想について、何ら開示されていないから、物品20を乾燥させるにあたり、バルブ32の開放前から凝縮器34を減圧下としておくことの動機付けは存在しないし、このように、バルブ32の開放前から凝縮器34を減圧下としておくことの動機付けが存在しないのだから、凝縮器34を減圧下とすべく、凝縮器34を室12とは独立して減圧する動機付けも存在しない。また、前記凝縮により乾燥させる技術思想は、請求人が無効理由1に係る証拠として提出した甲11〜甲17のいずれにも開示されていない。
そうすると、当業者といえども、甲10発明5の真空ポンプ36による乾燥に代えて、又は加えて、前記凝縮による乾燥手段を採用すべく、バルブ32を開弁することにより室12を減圧下にある凝縮器34と連通させてワークを乾燥させることを容易に想到できるものではないし、当該減圧下とすべく、凝縮器34を室12とは独立して減圧することも容易に想到できるものではない。
そして、本件特許発明5は、この相違点2−5に係る洗浄室および「凝縮室を各々独立して」減圧する工程と、「減圧下にある」凝縮室を洗浄室よりも低い温度に保持する工程を備え、「開閉バルブを開弁することにより」洗浄室を「前記凝縮室と連通させて」ワークを乾燥させるという発明特定事項を備えることにより、乾燥工程で真空ポンプを用いなくてもワークの乾燥に要する時間を短縮して全体の処理能力を向上できるという作用効果を奏するものであって(本件特許明細書の段落【0005】、【0006】、【0012】参照。)、このような作用効果については、前記凝縮により乾燥させる技術思想が何ら示唆されていない甲10発明5から当業者が予測できるものではない。

b 請求人の主張について
請求人は、仮に、本件特許発明5が乾燥工程の前から凝縮室の減圧を行うものに限定的に解釈されるとしても、甲10に記載された発明は、室12と連通させる前に凝縮器34を真空ポンプ36により減圧する工程を有するから、本件特許発明5の構成要件L、構成要件Nと相違しない旨等、主張しているが、前記(1)イ(イ)bに示した理由と同様の理由により、請求人の主張は採用することができない。

(ウ)相違点1−6について
甲10発明5は、「前記バルブ32が開放した状態で、真空ポンプ36を作動させ、前記室12内の蒸気が引き出されて前記物品20を乾燥させ、蒸気を前記凝縮器34で凝縮させる工程」を備えるものであるが、真空ポンプ36により室12から蒸気を引き出し、凝縮器34で凝縮させるための、室12と凝縮器34との間の蒸気の流路について、その長さが長ければ、配管抵抗による圧力損失が大きくなることや、装置の大型化につながるなどといった課題が生じることは、当業者であれば、当然、認識できるものである。
そうすると、甲10発明5において、前記課題を認識した当業者が、室12と凝縮器34との間の蒸気の流路を可能な限り短くし、室12と凝縮器34とを隣接させることに格別の困難性はない。

ウ むすび
以上のとおり、本件特許発明5は、当業者であっても、甲10発明5において、本件特許発明5の前記相違点1−5に係る発明特定事項とすることを容易に想到できるものではないから、甲10発明5及び前記周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(6)まとめ
以上のとおり、本件特許発明1〜本件特許発明5は、甲10発明及び前記周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、無効理由1によって、無効とすべきものではない。

5 無効理由2について
(1)本件特許発明1について
ア 本件特許発明1と甲19発明1の対比
甲19発明1の「バキュームポンプ14」は、本件特許発明1の「真空ポンプ」に相当する。
甲19発明1の「蒸気発生部4」は、本件特許発明1の「蒸気生成手段」に相当し、甲19発明1の「洗浄液7を蒸気化する蒸気発生部4」と、本件特許発明1の「石油系溶剤の蒸気を生成する蒸気生成手段」とは、「溶剤の蒸気を生成する蒸気生成手段」において共通する。
甲19発明1の「洗浄蒸気」、「被洗浄物5」及び「蒸気洗浄部3」は、本件特許発明1の「蒸気」、「ワーク」及び「洗浄室」にそれぞれ相当し、甲19発明1の「前記蒸気発生部4との連通状態で、前記バキュームポンプ14が作動して減圧され、この減圧によって前記洗浄液7の沸点が低下して前記蒸気発生部4で発生した洗浄蒸気が流動し、被洗浄物5と接触して凝縮する事により減圧蒸気洗浄が行われる蒸気洗浄部3」は、本件特許発明1の「前記真空ポンプによって減圧され、当該減圧の状態において前記蒸気生成手段から供給される蒸気によってワークを洗浄する洗浄室」に相当する。
甲19発明1の「凝縮器15」は、その内部空間において、洗浄蒸気を凝縮するものであるから、本件特許発明1の「凝縮室」に相当し、甲19発明1の「前記減圧蒸気洗浄が行われる際、前記蒸気発生部4と前記蒸気洗浄部3とともに、前記バキュームポンプ14により減圧され、また、乾燥処理を行う際、前記蒸気洗浄部3とともに、前記バキュームポンプ14により減圧され、前記蒸気洗浄部3内に残留していた洗浄蒸気が移動し、凝縮液化する凝縮器15」と、本件特許発明1の「前記真空ポンプによって前記洗浄室とは独立して減圧され、当該減圧の状態が保持される凝縮室」とは、「前記真空ポンプによって減圧される凝縮室」において共通する。
甲19発明1の「冷却パイプ9」は、凝縮器15に導入された洗浄蒸気を凝縮器15内で凝縮液化するためのものであって、この凝縮液化を行うためには、凝縮器15の内壁面や凝縮器15内に配置された部材の固体表面の温度を蒸気洗浄部3の温度よりも低い状態に保持する必要があることは明らかであるから、本件特許発明1の「温度保持手段」に相当し、甲19発明1の「冷却水が流通するとともに、前記凝縮器15の内部に挿通され、前記凝縮器15に導入された洗浄蒸気を凝縮可能にする冷却パイプ9」は、本件特許発明1の「前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する温度保持手段」に相当する。
甲19発明1の「第1電磁弁17」は、本件特許発明1の「開閉バルブ」に相当し、甲19発明1の「前記凝縮器15と前記蒸気洗浄部3との間に介在する第1電磁弁17」は、本件特許発明1の「前記凝縮室と前記洗浄室とを連通させ、または、その連通を遮断する開閉バルブ」に相当する。
甲19発明1の「洗浄蒸気が前記蒸気洗浄部3に流動し、前記被洗浄物5を減圧蒸気洗浄した後」は、本件特許発明1の「前記蒸気を前記洗浄室に供給してワークを洗浄した後」に相当する。
甲19発明1の「前記バキュームポンプ14を稼働し、第1電磁弁17を開弁して、前記蒸気洗浄部3内を急速に減圧することにより前記被洗浄物5に付着した前記洗浄液7を急速に乾燥させ、その際、前記蒸気洗浄部3内に残留していた洗浄蒸気が、前記第1電磁弁17を介して前記凝縮器15に移動し、凝縮液化する」ことと、本件特許発明1の「前記開閉バルブによって前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させてワークを乾燥させる」こととは、ともに開閉バルブによって洗浄室が凝縮室と連通した状態でワークの乾燥が行われるものであるから、「前記開閉バルブによって前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させた状態でワークを乾燥させる」ことにおいて共通する。
甲19発明1の「洗浄装置」は、バキュームポンプ14を使用して洗浄するものであるから、本件特許発明1の「真空洗浄装置」に相当する。
したがって、本件特許発明1と甲19発明1とは、以下の点で一致し、
[一致点2−1]
「真空ポンプと、
溶剤の蒸気を生成する蒸気生成手段と、
前記真空ポンプによって減圧され、当該減圧の状態において前記蒸気生成手段から供給される蒸気によってワークを洗浄する洗浄室と、
前記真空ポンプによって減圧される凝縮室と、
前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する温度保持手段と、
前記凝縮室と前記洗浄室とを連通させ、または、その連通を遮断する開閉バルブと、を備え、
前記蒸気を前記洗浄室に供給してワークを洗浄した後、前記開閉バルブによって前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させた状態でワークを乾燥させる真空洗浄装置。」

以下の各点で相違する。
[相違点2−1]
溶剤について、本件特許発明1は「石油系溶剤」であるのに対し、甲19発明1の洗浄液7は石油系のものであるか不明である点。

[相違点2−2]
ワークの乾燥について、本件特許発明1は「前記洗浄室とは独立して」減圧され、「当該減圧の状態が保持される」凝縮室を備え、開閉バルブによって洗浄室を「前記凝縮室と連通させて」乾燥させているのに対し、甲19発明1は、バキュームポンプ14を稼働し、第1電磁弁17を開弁して被洗浄物5に付着した洗浄液7を乾燥させており、凝縮器15が蒸気洗浄部3とは独立して減圧され、第1電磁弁17によって蒸気洗浄部3を当該減圧の状態が保持された凝縮器15と連通させて乾燥させているとはいえない点。

イ 判断
(ア)相違点2−1について
甲19発明1の洗浄装置は、前記3(2)アの記載事項(ア)によると、機械部品等の洗浄を行うものであるところ、機械部品を洗浄する真空洗浄装置の技術分野において、洗浄に用いる溶剤として、石油系溶剤を用いることは、甲11〜甲14に記載されているように、本件特許の優先日前から周知の事項である。そして、この周知の事項については、甲13の段落【0021】、【0023】、【0024】に記載されているような、石油系溶剤の毒性が低い、回収しやすい、ランニングコストが低減されるといったメリットや、甲13の段落【0029】、【0030】に記載されているような、石油系溶剤の発火を抑制するための安全対策も含めて周知の事項であるといえる。
そうすると、甲19発明1の洗浄液7として、前記周知の事項である石油系溶剤のメリットに着目し、必要な安全対策を施しつつ、石油系溶剤を採用することは、当業者が容易に想到し得るものである。

(イ)相違点2−2について
a 本件特許発明1は、前記4(1)イ(イ)の相違点1−2についてにおいて記述したように、前記凝縮により乾燥させる技術思想に基づくものといえる。
一方、甲19発明1は、バキュームポンプ14を稼働し、第1電磁弁17を開弁して被洗浄物5に付着した洗浄液7を乾燥させるものであり、甲19には、前記凝縮により乾燥させる技術思想について、何ら開示されていないから、被洗浄物5を乾燥させるにあたり、第1電磁弁17の開弁前から凝縮器15を減圧の状態に保持しておくことの動機付けは存在しないし、このように、第1電磁弁17の開弁前から凝縮器15を減圧の状態に保持しておくことの動機付けが存在しないのだから、凝縮器15を減圧の状態に保持すべく、凝縮器15を蒸気洗浄部3とは独立して減圧する動機付けも存在しない。
そして、請求人が、洗浄室とは独立して減圧され、当該減圧の状態が保持される凝縮室が本件特許の優先日前に公知であったことを立証すべく、無効理由2に係る証拠として提出した甲12には、蒸気洗浄後の真空乾燥時の動作として、前記3(4)の記載事項イの段落【0013】、【0014】に、洗浄槽1(本件特許発明1の「洗浄室」に相当)の洗浄蒸気を、真空ポンプ5Bによって、減圧槽3(本件特許発明1の「凝縮室」に相当)に吸収し、その後、真空ポンプ5A、5Bによって洗浄槽1の真空度を高めることにより、被洗浄物WRの表面にある洗浄液を急激に乾燥させることが開示されているにすぎず、減圧槽3を洗浄槽1とは独立して減圧するものでなく、また、前記凝縮により乾燥させる技術思想も開示されていない。
さらに、前記凝縮により乾燥させる技術思想は、請求人が無効理由2に係る証拠として提出した甲11、甲13〜甲17のいずれにも開示されていない。
そうすると、当業者といえども、甲19発明1のバキュームポンプ14による乾燥に代えて、又は加えて、前記凝縮による乾燥手段を採用すべく、第1電磁弁17によって蒸気洗浄部3を減圧の状態が保持された凝縮器15と連通させてワークを乾燥させることを容易に想到できるものではないし、当該減圧の状態を保持すべく、凝縮器15を蒸気洗浄部3とは独立して減圧することも容易に想到できるものではない。
そして、本件特許発明1は、この相違点2−2に係る「前記洗浄室とは独立して」減圧され、「当該減圧の状態が保持される」凝縮室を備え、開閉バルブによって洗浄室を「前記凝縮室と連通させて」ワークを乾燥させるという発明特定事項を備えることにより、乾燥工程で真空ポンプを用いなくてもワークの乾燥に要する時間を短縮して全体の処理能力を向上できるという作用効果を奏するものであって(本件特許明細書の段落【0005】、【0006】、【0012】参照。)、このような作用効果については、前記凝縮により乾燥させる技術思想が何ら示唆されていない甲19発明1から当業者が予測できるものではない。

b 請求人の主張について
(a)請求人は、甲19には直接の記載はないが、当業者は、当然にバキュームポンプ14の吸気側配管に遮断弁又は逆止弁が設置されていると理解する旨、及び蒸気洗浄に関する一般的な技術常識を考慮すると、甲19発明1において、乾燥のために第1電磁弁17を開弁する直前における蒸気洗浄部3と凝縮器15の圧力の大小関係は、「蒸気洗浄部3>凝縮器15」になる旨、主張しており、請求人のこれらの主張は、甲19発明1において、減圧蒸気洗浄が行われる際、バキュームポンプ14により減圧された凝縮器15が、減圧蒸気洗浄が終わり、バキュームポンプ14を停止させたとしても、バキュームポンプ14の吸気側配管に遮断弁又は逆止弁が設置されていれば、凝縮器15内の圧力が高まらないことを前提としたものと解される。
この点に関し、甲39及び甲40には、ポンプ停止により大気が逆流してロータが逆転することを防止するために、吸気側配管に遮断弁を設けることが示唆されており、甲39及び甲40に記載されたポンプの吸気側配管に遮断弁が設けられているという請求人の主張は理解できるものの、甲39及び甲40の記載が、真空ポンプ一般において、吸気側配管に遮断弁を設ける必然性があることを示しているとはいえない。
そして、甲19には、バキュームポンプ14の吸気側配管に遮断弁や逆止弁を設けることや、その必要性について、何ら示唆されていないから、甲39及び甲40を考慮しても、甲19発明1のバキュームポンプ14の吸気側配管に遮断弁や逆止弁が設けられているとはいえず、また、吸気側配管に遮断弁や逆止弁を設けることの動機付けも存在しない。
そうすると、甲19発明1において、当業者は、当然にバキュームポンプ14の吸気側配管に遮断弁又は逆止弁が設置されていると理解するとはいえないし、乾燥のために第1電磁弁17を開弁する直前における蒸気洗浄部3と凝縮器15の圧力の大小関係が、「蒸気洗浄部3>凝縮器15」になるともいえない。

(b)請求人は、本件特許発明1においても、乾燥工程において、切換バルブV4を開いて凝縮室21を真空ポンプ10で吸引すれば、甲19に記載された発明と同じ洗浄装置の構成、同じ乾燥工程の態様となるのであるから、洗浄室から凝縮室への蒸気の移動も同じ態様となる旨、主張しているが、甲19には、前記凝縮により乾燥させる技術思想について、何ら開示がなく、甲19発明1は、被洗浄物5を乾燥させるにあたり、第1電磁弁17の開弁前から凝縮器15を減圧の状態に保持しておくものではないから、本件特許発明1の洗浄室から凝縮室への蒸気の移動と同じ態様となるとはいえない。

よって、請求人の主張はいずれも採用できない。

ウ むすび
以上のとおり、本件特許発明1は、当業者であっても、甲19発明1において、本件特許発明1の前記相違点2−2に係る発明特定事項とすることを容易に想到できるものではないから、甲19発明1、甲12に記載された事項及び前記周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件特許発明2について
ア 本件特許発明2と甲19発明2の対比
甲19発明2の「前記冷却パイプ9の温度」は、凝縮器15に導入された洗浄蒸気を凝縮器15内で凝縮液化させることができる温度である必要があるため、凝縮器15の内壁面や凝縮器15内に配置された部材の固体表面の温度を洗浄液7の凝縮点以下に保持することができる温度であることは明らかである。すると、甲19発明2の「前記冷却パイプ9の温度は、前記冷却パイプ9が挿通された前記凝縮器15に導入された洗浄蒸気を凝縮可能なものである」ことと、本件特許発明2の「前記温度保持手段は、前記凝縮室の温度を前記石油系溶剤の凝縮点以下に保持する」こととは、「前記温度保持手段は、前記凝縮室の温度を前記溶剤の凝縮点以下に保持する」ことにおいて共通する。

したがって、本件特許発明2と甲19発明2は、前記(1)アの[一致点2−1]に加えて、以下の点で一致し、前記(1)アの[相違点2−1]、[相違点2−2]以外に相違しない。

[一致点2−2]
「前記温度保持手段は、
前記凝縮室の温度を前記溶剤の凝縮点以下に保持する」点。

イ 判断
[相違点2−1]、[相違点2−2]についての判断は、前記(1)イで示したとおりである。

ウ むすび
以上のとおり、本件特許発明2は、当業者であっても、甲19発明2において、本件特許発明2の前記相違点2−2に係る発明特定事項とすることを容易に想到できるものではないから、甲19発明2、甲12に記載された事項及び前記周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件特許発明3について
ア 本件特許発明3と甲19発明3の対比
甲19発明3の「前記蒸気洗浄部3から前記凝縮器15に導入されて凝縮された凝縮液を、前記凝縮器15から第2電磁弁35を介して前記蒸気発生部4に移送する」ことと、本件特許発明3の「前記洗浄室から前記凝縮室に導かれて凝縮した石油系溶剤を、前記凝縮室から前記蒸気生成手段に導く回収手段をさらに備える」こととは、「前記洗浄室から前記凝縮室に導かれて凝縮した前記溶剤を、前記凝縮室から前記蒸気生成手段に導く回収手段をさらに備える」ことにおいて共通する。

したがって、本件特許発明3と甲19発明3は、前記(1)アの[一致点2−1]、及び前記(2)アの[一致点2−2]に加えて、以下の点で一致し、前記(1)アの[相違点2−1]、[相違点2−2]以外に相違しない。

[一致点2−3]
「前記洗浄室から前記凝縮室に導かれて凝縮した前記溶剤を、前記凝縮室から前記蒸気生成手段に導く回収手段をさらに備える」点。

イ 判断
[相違点2−1]、[相違点2−2]についての判断は、前記(1)イで示したとおりである。

ウ むすび
以上のとおり、本件特許発明3は、当業者であっても、甲19発明3において、本件特許発明3の前記相違点2−2に係る発明特定事項とすることを容易に想到できるものではないから、甲19発明3、甲12に記載された事項及び前記周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)本件特許発明4について
ア 本件特許発明4と甲19発明4の対比
甲19発明4の「前記蒸気洗浄部3に、前記洗浄液7を充填した洗浄液槽20から前記洗浄液7を導入して、前記被洗浄物5の浸漬洗浄処理を行う」ことと、本件特許発明4の「前記洗浄室に接続され、前記石油系溶剤が貯留されるとともに当該石油系溶剤にワークを浸漬可能な浸漬室をさらに備える」こととは、「前記溶剤が貯留されるとともに当該溶剤にワークを浸漬可能」であることにおいて一致する。

したがって、本件特許発明4と甲19発明4は、前記(1)アの[一致点2−1]、前記(2)アの[一致点2−2]及び前記(3)アの[一致点2−3]に加えて、以下の点で一致し、前記(1)アの[相違点2−1]、[相違点2−2]に加えて、以下の点で相違する。

[一致点2−4]
「前記溶剤が貯留されるとともに当該溶剤にワークを浸漬可能」である点。

[相違点2−3]
ワークの浸漬について、本件特許発明4は「前記洗浄室に接続され」た「浸漬室をさらに備える」のに対し、甲19発明4は、蒸気洗浄部3に洗浄液7を充填して浸漬させる点。

イ 判断
(ア)[相違点2−1]、[相違点2−2]について
[相違点2−1]、[相違点2−2]についての判断は、前記(1)イで示したとおりである。

(イ)[相違点2−3]について
甲19発明4の洗浄装置は、前記3(2)アの記載事項(ア)によると、機械部品等の洗浄を行うものであるところ、機械部品を洗浄する真空洗浄装置の技術分野において、蒸気洗浄を行う洗浄室に、浸漬洗浄を行う浸漬室を接続して設け、洗浄室で蒸気洗浄を行うとともに、浸漬室で浸漬洗浄を行うことは、甲13、甲15、甲16の1及び甲17に記載されているように、本件特許の優先日前から周知の事項である。
そうすると、甲19発明4と前記周知の事項とは、機械部品を洗浄する真空洗浄装置に関するものである点で技術分野が共通する上、甲19発明4と、前記周知の事項とは、ともに蒸気洗浄に加えて浸漬洗浄を行うものである点で作用・機能が共通する。
そして、真空洗浄装置の技術分野における蒸気洗浄と浸漬洗浄とを行う装置として、甲19発明4は、蒸気洗浄を行う洗浄室に溶剤を充填して浸漬洗浄を行うものであり、また、前記周知の事項は、蒸気洗浄を行う洗浄室に接続された浸漬室を別途設け、該浸漬室に導入されている溶剤により浸漬洗浄を行うものであるところ、両者を比較すると、前者のものは浸漬室を別途設ける必要がないからスペース効率に優れているものの、蒸気洗浄と浸漬洗浄を順に行う必要があるのに対し、後者のものは浸漬室を別途設けているものの、蒸気洗浄中に、浸漬室に溶剤を充填し、浸漬洗浄の準備をすることができるから作業効率に優れているといえ、両者はそれぞれ長所短所を有するものである。
すると、甲19発明4において、前記周知の事項との長所短所を考慮した上で、作業効率を優先して、前記周知の事項を採用し、蒸気洗浄部3に接続された浸漬室を設けることにより、本件特許発明4の前記相違点2−3に係る発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

ウ むすび
以上のとおり、本件特許発明4は、当業者であっても、甲19発明4において、本件特許発明4の前記相違点2−2に係る発明特定事項とすることを容易に想到できるものではないから、甲19発明4、甲12に記載された事項及び前記周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)本件特許発明5について
ア 本件特許発明5と甲19発明5の対比
甲19発明5の「バキュームポンプ14」、「被洗浄物5」、「蒸気洗浄部3」、「洗浄蒸気」及び「第1電磁弁17」は、本件特許発明5の「真空ポンプ」、「ワーク」、「洗浄室」、「蒸気」及び「開閉バルブ」にそれぞれ相当し、甲19発明5の「凝縮器15」は、その内部空間において、洗浄蒸気を凝縮するものであるから、本件特許発明5の「凝縮室」に相当する。
甲19発明5の「蒸気発生部4と蒸気洗浄部3との連通状態でバキュームポンプ14を作動させて、被洗浄物5が載置台6に載置された蒸気洗浄部3を、第1電磁弁17及び凝縮器15を介して減圧する工程」において、バキュームポンプ14を作動させて、蒸気洗浄部3を減圧する際、バキュームポンプ14と蒸気洗浄部3との間に介在する凝縮器15も減圧することになるから、甲19発明5の「蒸気発生部4と蒸気洗浄部3との連通状態でバキュームポンプ14を作動させて、被洗浄物5が載置台6に載置された蒸気洗浄部3を、第1電磁弁17及び凝縮器15を介して減圧する工程」と、本件特許発明5の「真空ポンプを用いることにより、ワークが搬入された洗浄室および当該洗浄室に隣接した凝縮室を各々独立して減圧する工程」とは、「真空ポンプを用いることにより、ワークが搬入された洗浄室および凝縮室を減圧する工程」において共通する。
甲19発明5の「洗浄液7を蒸気化し、洗浄蒸気が減圧の状態の前記蒸気洗浄部3に流動して前記被洗浄物5を減圧蒸気洗浄する工程」と、本件特許発明5の「石油系溶剤の蒸気を生成し、当該蒸気を減圧下にある前記洗浄室に供給して前記ワークを洗浄する工程」とは、「溶剤の蒸気を生成し、当該蒸気を減圧下にある前記洗浄室に供給して前記ワークを洗浄する工程」において共通する。
甲19発明5の「冷却パイプ9」は、凝縮器15に移動した洗浄蒸気を凝縮器15内で凝縮液化するためのものであって、この凝縮液化を行うためには、凝縮器15の内壁面や凝縮器15内に配置された部材の固体表面の温度を蒸気洗浄部3の温度よりも低い状態に保持する必要があることは明らかであるから、甲19発明5の「凝縮器15の内部に挿通された冷却パイプ9に冷却水を流通させる工程」と、本件特許発明5の「減圧下にある前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する工程」とは、「前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する工程」において共通する。
甲19発明5の「洗浄蒸気が前記蒸気洗浄部3に流動し、前記被洗浄物5を減圧蒸気洗浄した後」は、本件特許発明5の「前記洗浄室において前記ワークを洗浄した後」に相当する。
甲19発明5の「前記バキュームポンプ14を稼働し、第1電磁弁17を開弁して、前記蒸気洗浄部3内を急速に減圧することにより前記被洗浄物5に付着した前記洗浄液7を急速に乾燥させ、その際、前記蒸気洗浄部3内に残留していた洗浄蒸気が、前記第1電磁弁17を介して前記凝縮器15に移動し、凝縮液化する」ことにおいて、洗浄蒸気が凝縮器15で凝縮液化する際、凝縮器15内の固体表面の温度が蒸気洗浄部3の温度よりも低い状態に保持されていることは明らかであり、また、第1電磁弁17が開弁され蒸気洗浄部3が凝縮器15と連通した状態で被洗浄物5の乾燥が行われるものであるから、甲19発明5の「前記バキュームポンプ14を稼働し、第1電磁弁17を開弁して、前記蒸気洗浄部3内を急速に減圧することにより前記被洗浄物5に付着した前記洗浄液7を急速に乾燥させ、その際、前記蒸気洗浄部3内に残留していた洗浄蒸気が、前記第1電磁弁17を介して前記凝縮器15に移動し、凝縮液化する」ことと、本件特許発明5の「開閉バルブを開弁することにより前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させてワークを乾燥させる」こととは、「開閉バルブが開弁され前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させた状態でワークを乾燥させる」ことにおいて共通する。
甲19発明5の「洗浄方法」は、バキュームポンプ14を使用して洗浄するから、本件特許発明5の「真空洗浄方法」に相当する。
したがって、本件特許発明5と甲19発明5とは、以下の点で一致し、
[一致点2−5]
「真空ポンプを用いることにより、ワークが搬入された洗浄室および凝縮室を減圧する工程と、
溶剤の蒸気を生成し、当該蒸気を減圧下にある前記洗浄室に供給して前記ワークを洗浄する工程と、
前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する工程と、
前記洗浄室において前記ワークを洗浄した後、開閉バルブが開弁され前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させた状態でワークを乾燥させる工程と、を含む真空洗浄方法。」

以下の各点で相違する。
[相違点2−4]
溶剤について、本件特許発明5は「石油系溶剤」であるのに対し、甲19発明5の洗浄液7は石油系のものであるか不明である点。

[相違点2−5]
ワークの乾燥について、本件特許発明5は、洗浄室および凝縮室を「各々独立して」減圧する工程と、「減圧下にある」凝縮室を洗浄室よりも低い温度に保持する工程とを備え、「開閉バルブを開弁することにより」洗浄室を「前記凝縮室と連通させて」乾燥させているのに対し、甲19発明5は、バキュームポンプ14を稼働し、第1電磁弁17を開弁して被洗浄物5に付着した洗浄液7を乾燥させており、蒸気洗浄部3および凝縮器15を「各々独立して」減圧し、第1電磁弁17を開弁することにより蒸気洗浄部3を減圧下にある凝縮器15と連通させて乾燥させているとはいえない点。

[相違点2−6]
凝縮室について、本件特許発明5は「当該洗浄室に隣接し」ているのに対し、甲19発明5は、そのようなものであるか不明である点。

イ 判断
(ア)相違点2−4について
前記(1)イ(ア)に示した相違点2−1についての判断と同様である。

(イ)相違点2−5について
a 本件特許発明5は、前記4(5)イ(イ)の相違点1−5についてにおいて記述したように、前記凝縮により乾燥させる技術思想に基づくものといえる。
一方、甲19発明5は、バキュームポンプ14を稼働し、第1電磁弁17を開弁して被洗浄物5に付着した洗浄液7を乾燥させるものであり、甲19には、前記凝縮により乾燥させる技術思想について、何ら開示されていないから、被洗浄物5を乾燥させるにあたり、第1電磁弁17の開弁前から凝縮器15を減圧下としておくことの動機付けは存在しないし、このように、第1電磁弁17の開弁前から凝縮器15を減圧下としておくことの動機付けが存在しないのだから、凝縮器15を減圧下とすべく、凝縮器15を蒸気洗浄部3とは独立して減圧する動機付けも存在しない。
そして、請求人が、洗浄室と凝縮室とを各々独立して減圧する工程が本件特許の優先日前に公知であったことを立証すべく、無効理由2に係る証拠として提出した甲12には、蒸気洗浄後の真空乾燥時の動作として、前記3(4)の記載事項イの段落【0013】、【0014】に、洗浄槽1(本件特許発明5の「洗浄室」に相当)の洗浄蒸気を、真空ポンプ5Bによって、減圧槽3(本件特許発明5の「凝縮室」に相当)に吸収し、その後、真空ポンプ5A、5Bによって洗浄槽1の真空度を高めることにより、被洗浄物WRの表面にある洗浄液を急激に乾燥させることが開示されているにすぎず、減圧槽3を洗浄槽1とは独立して減圧するものでなく、また、前記凝縮により乾燥させる技術思想も開示されていない。
さらに、前記凝縮により乾燥させる技術思想は、請求人が無効理由2に係る証拠として提出した甲11、甲13〜甲17のいずれにも開示されていない。
そうすると、当業者といえども、甲19発明5のバキュームポンプ14による乾燥に代えて、又は加えて、前記凝縮による乾燥手段を採用すべく、第1電磁弁17を開弁することにより蒸気洗浄部3を減圧下にある凝縮器15と連通させてワークを乾燥させることを容易に想到できるものではないし、当該減圧下とすべく、凝縮器15を蒸気洗浄部3とは独立して減圧することも容易に想到できるものではない。
そして、本件特許発明5は、この相違点2−5に係る、洗浄室および凝縮室を「各々独立して」減圧する工程と、「減圧下にある」凝縮室を洗浄室よりも低い温度に保持する工程を備え、「開閉バルブを開弁することにより」洗浄室を「前記凝縮室と連通させて」ワークを乾燥させるという発明特定事項を備えることにより、乾燥工程で真空ポンプを用いなくてもワークの乾燥に要する時間を短縮して全体の処理能力を向上できるという作用効果を奏するものであって(本件特許明細書の段落【0005】、【0006】、【0012】参照。)、このような作用効果については、前記凝縮により乾燥させる技術思想が何ら示唆されていない甲19発明5から当業者が予測できるものではない。

b 請求人の主張について
請求人は、仮に、本件特許発明5が乾燥工程前に事前に凝縮室の減圧を行うものに限定的に解釈されるとしても、甲19に記載された発明は、蒸気洗浄部3と連通させる前に凝縮器15をバキュームポンプ14により減圧し、その減圧状態を維持する工程を有するから、本件特許発明5の構成要件Lと相違しない旨等、主張しているが、前記(1)イ(イ)bに示した理由と同様の理由により、請求人の主張は採用することができない。

(ウ)相違点2−6について
甲19発明5は、「前記バキュームポンプ14を稼働し、第1電磁弁17を開弁して、前記蒸気洗浄部3内を急速に減圧することにより前記被洗浄物5に付着した前記洗浄液7を急速に乾燥させ、その際、前記蒸気洗浄部3内に残留していた洗浄蒸気が、前記第1電磁弁17を介して前記凝縮器15に移動し、凝縮液化する工程」を備えるものであるが、蒸気洗浄部3内に残留していた洗浄蒸気を、凝縮器15に移動させる流路について、その長さが長ければ、配管抵抗による圧力損失が大きくなることや、装置の大型化につながるなどといった課題が生じることは、当業者であれば、当然、認識できるものである。
そうすると、甲19発明5において、前記課題を認識した当業者が、蒸気洗浄部3と凝縮器15との間の蒸気の流路を可能な限り短くし、蒸気洗浄部3と凝縮器15とを隣接させることに格別の困難性はない。

ウ むすび
以上のとおり、本件特許発明5は、当業者であっても、甲19発明5において、本件特許発明5の前記相違点2−5に係る発明特定事項とすることを容易に想到できるものではないから、甲19発明5、甲12に記載された事項及び前記周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(6)まとめ
以上のとおり、本件特許発明1〜本件特許発明5は、甲19発明、甲12に記載された事項及び前記周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、無効理由2によって、無効とすべきものではない。

6 無効理由4について
(1)実施可能要件の判断基準
特許法第36条第4項第1号には、発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであることと規定しているところ、物の発明における発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について実施可能要件を充足するためには、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識とに基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があることを要する。また、方法の発明における発明の実施とは、その方法の使用をする行為をいうから(同法第2条第3項第2号)、方法の発明について実施可能要件を充足するためには、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識とに基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その方法の使用をすることができる程度の記載があることを要する。

(2)本件特許発明1について
本件特許発明1は、真空洗浄装置に関する発明(物の発明)であって、前記1(1)ア(ア)及び前記1(1)イ(ア)に示したとおり解釈し得るものである。一方、前記1(1)ア(イ)に示したとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0023】〜【0031】には、準備工程で減圧され、減圧状態で洗浄室2よりも低い温度に保持された凝縮室21と、搬入工程でワークWが搬入され、減圧工程及び蒸気洗浄工程を経て高温の蒸気が充満された洗浄室2とを、乾燥工程において、開閉バルブ20を開弁して連通させることによって、洗浄室2内に充満している蒸気が凝縮室21に移動して凝縮し、ワークWを乾燥させるという真空洗浄装置の一連の処理工程が記載されており、また、前記1(1)イ(イ)に示したとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、凝縮室21が、洗浄室2とは関係なく減圧されることが記載されている。
当業者が、これらの記載を参酌すれば、本件特許発明1の真空洗浄装置で行われる具体的な処理を把握することができるから、過度の試行錯誤を要することなく、ワークを乾燥させることができるように真空洗浄装置を製造し、使用することが可能といえる。
また、その効果についても、発明の詳細な説明の段落【0032】〜【0038】、及び図3〜図6に、乾燥工程で真空ポンプによる真空引き行う従来の真空洗浄装置との比較が記載されており、少なくともこの従来の真空洗浄装置よりも乾燥工程に要する時間が短縮化されることが示されている。
そして、発明の詳細な説明の記載から、本件特許発明1の真空洗浄装置で行われる具体的な処理や効果を把握した当業者であれば、前記凝縮により乾燥させる技術思想についても把握することができるから、本件特許発明1の真空洗浄装置における、凝縮室の熱容量、溶剤の種類、凝縮室内の温度や圧力等の種々の条件を最適化し、ワークの乾燥時間が所望のものとなるように、本件特許発明1を実施することにも過度の試行錯誤は要しないといえる。
そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているということができる。

(3)本件特許発明5について
本件特許発明5は、真空洗浄方法に関する発明(方法の発明)であって、前記1(2)ア(ア)及び前記1(2)イ(ア)に示したとおり解釈し得るものである。一方、前記1(1)ア(イ)に示したとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0023】〜【0031】には、準備工程で減圧され、減圧状態で洗浄室2よりも低い温度に保持された凝縮室21と、搬入工程でワークWが搬入され、減圧工程及び蒸気洗浄工程を経て高温の蒸気が充満された洗浄室2とを、乾燥工程において、開閉バルブ20を開弁して連通させることによって、洗浄室2内に充満している蒸気が凝縮室21に移動して凝縮し、ワークWを乾燥させるという真空洗浄装置の一連の処理工程が記載されており、また、前記1(2)イ(イ)に示したとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、洗浄室2と凝縮室21とを、各々関係なく減圧する工程が記載されている。さらに、本件特許の【図1】の記載から、凝縮室21が、洗浄室2に隣接していることは明らかである。
当業者が、これらの記載を参酌すれば、本件特許発明5の真空洗浄方法の各工程で行われる具体的な処理を把握することができるから、過度の試行錯誤を要することなく、ワークを乾燥させることができるように真空洗浄方法を使用することが可能といえる。
また、その効果についても、発明の詳細な説明の段落【0032】〜【0038】、及び図3〜図6に、乾燥工程で真空ポンプによる真空引き行う従来の真空洗浄装置との比較が記載されており、少なくともこの従来の真空洗浄装置を用いた真空洗浄方法よりも乾燥工程に要する時間が短縮化されることが示されている。
そして、発明の詳細な説明の記載から、本件特許発明5の真空洗浄方法の各工程で行われる具体的な処理や効果を把握した当業者であれば、前記凝縮により乾燥させる技術思想についても把握することができるから、本件特許発明5の真空洗浄方法に用いる、凝縮室の熱容量、溶剤の種類、凝縮室内の温度や圧力等の種々の条件を最適化し、ワークの乾燥時間が所望のものとなるように、本件特許発明5を実施することにも過度の試行錯誤は要しないといえる。
そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明5を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているということができる。

(4)本件特許発明2〜本件特許発明4について
本件特許発明2〜本件特許発明4は、本件特許発明1を引用するものであり、本件特許発明1は、前記(2)に示したように、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき、当業者が実施することができるものであるところ、本件特許発明2において付加された発明特定事項については、発明の詳細な説明の段落【0023】の記載を、本件特許発明3において付加された発明特定事項については、発明の詳細な説明の段落【0019】、及び図1の記載を、さらに本件特許発明4において付加された発明特定事項については、発明の詳細な説明の段落【0043】、及び図7の記載を、当業者が、それぞれ参酌すれば、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明2〜本件特許発明4の真空洗浄装置を製造し、使用することが可能といえる。
そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明2〜本件特許発明4を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているということができる。

(5)請求人の主張について
ア 洗浄室から凝縮室への蒸気移動のメカニズム(作用)について
a 請求人は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0029】末尾と、段落【0030】冒頭と、の繋がりが理解できない。段落【0030】冒頭の「したがって」はその前の段落【0029】の記載を受けていると考えられるが、洗浄室2と凝縮室21との間の温度差により、何故、蒸気が洗浄室2から凝縮室21に移動するのか、本件特許明細書にはそのメカニズムが開示されていないため、当業者は、「洗浄室を凝縮室と連通させるだけで何故ワークが乾燥するのか」理解することができない旨、及び本件特許明細書には、凝縮室と洗浄室との圧力差に関する記載は見当たらない旨、主張しているが、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0029】、【0030】の記載のみならず、段落【0023】〜【0031】の一連の工程に関する記載を考慮すると、乾燥工程において、開閉バルブ20を開弁して、洗浄室2と凝縮室21とを連通させる前に、凝縮室21は、準備工程において、内部を10kPa以下に減圧されており、その減圧状態にある凝縮室21は、洗浄室2よりも低い温度に保持されている。そして、その後の搬入工程、減圧工程、蒸気洗浄工程において、凝縮室21に対する処理は行われないため、乾燥工程の直前において、凝縮室21は、準備工程後の状態が保持されていると解するのが自然である。そして、乾燥工程の直前における、洗浄室2と凝縮室21の圧力の関係に着目すると、凝縮室21は、前述したように準備工程後の状態が保持されているから、減圧状態にある一方で、洗浄室2は、減圧工程で凝縮室21と同じ10kPa以下に減圧された後、蒸気洗浄工程で、高温の蒸気が充満することになる。さらに、乾燥工程において、「開閉バルブ20を開弁すると、洗浄室2内に充満している蒸気は、凝縮室21に移動」(段落【0030】)するのであるから、少なくとも蒸気洗浄工程後、つまり、乾燥工程の直前において、洗浄室2の圧力は、凝縮室21の圧力よりも高くなっていると解するのが自然である。
そうすると、本件特許明細書に凝縮室と洗浄室との圧力差について、明示されていないとしても、段落【0030】に記載された「開閉バルブ29を開弁すると、洗浄室2内に充満している蒸気は、凝縮室21に移動して凝縮する。」という記載に触れた当業者であれば、この移動に洗浄室2と凝縮室21の圧力差が寄与していることは、当然に理解できるものであって、同様に、「洗浄室を凝縮室と連通させるだけで何故ワークが乾燥するのか」を理解できるといえる。

b 請求人は、本件特許発明の解決すべき課題は、「本発明は、ワークの乾燥に要する時間を短縮して全体の処理能力を向上することができる真空洗浄装置および真空洗浄方法を提供することを目的とする。」(段落【0006】)とされているのであるから、「凝縮による圧力差での蒸気の移動」が、従来の真空ポンプの「吸引による圧力差での蒸気の移動」よりも、速いことを説明しなければならないが、洗浄室からの蒸気の移動速度を定量的に説明する記載は、【0032】〜【0038】以外には一切ない旨、主張しているが、前記(2)及び(3)に示したように、発明の詳細な説明の段落【0032】〜【0038】、及び図3〜図6には、乾燥工程で真空ポンプによる真空引き行う従来の真空洗浄装置と比較して、本件特許発明を用いた場合、乾燥工程に要する時間が短縮化されることが定量的に示されている。
また、同じく前記(2)及び(3)に示したように、発明の詳細な説明の記載から、当業者であれば、本件特許発明の前記凝縮により乾燥させる技術思想を把握することができ、ワークの乾燥時間が所望のものとなるように、本件特許発明を実施することに過度の試行錯誤は要しないといえるから、真空ポンプを用いた乾燥よりも乾燥に要する時間を短縮できることを示す定量的なデータを発明の詳細な説明にさらに開示する必要性はないといえる。
そして、真空ポンプを用いた乾燥と比較するとしても、真空ポンプを用いて乾燥した場合のワークの乾燥に要する時間は、用いる真空ポンプの性能により様々といえるから、比較すべき乾燥に要する時間は特定することができないものである(例えば、想定される最高性能の真空ポンプを用いた際の乾燥に要する時間を比較対象とすることは、適当といえず、また、本件特許明細書に比較例として記載された従来の真空洗浄装置による乾燥工程の試験データを一律の比較対象として、この試験データよりも乾燥に要する時間が短縮できる定量的なデータを発明の詳細な説明にさらに開示することも、当該試験データの数値自体に特別な意味があるとはいえない以上、その必要性はないといえる。)。

イ 本件特許明細書に記載された真空乾燥実験について
請求人は、本件特許明細書には、真空乾燥実験の実験条件がほとんど開示されておらず、本件特許明細書における真空乾燥実験の実験条件は、開示不足である旨、主張しているが、前記(2)及び(3)に示したように、発明の詳細な説明の記載から、当業者であれば、本件特許発明の前記凝縮により乾燥させる技術思想を把握することができ、ワークの乾燥時間が所望のものとなるように、本件特許発明を実施することに過度の試行錯誤は要しないといえるから、発明の詳細な説明の記載が真空乾燥実験の実験条件を十分に開示していないとはいえない。

ウ 出願時の技術常識について
請求人は、本件特許出願時においては、「ワーク乾燥時に、真空ポンプを用いて洗浄室を真空引きすることにより、蒸気を移動させること」が技術常識であったため、真空ポンプを用いて蒸気を移動する知見しか有しない当業者は、出願時の技術常識を参酌しても、本件特許明細書記載の蒸気移動のメカニズムを理解することはできず、当業者は、出願時の技術常識を参酌しても、本件特許明細書の真空乾燥実験を理解することはできない旨、主張しているが、前記ア及びイに示した理由と同様の理由により、この主張を採用することはできない。

エ 請求人の行った再現実験について
請求人は、請求人の行った再現実験によると、再現例は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例のみならず比較例に対しても、最高減圧レベルが劣っており、また、最高減圧レベルに到達する時間が長かったことから、本件特許発明を再現することができず、本件特許発明の課題を解決することもできなかった旨、主張しているが、請求人が再現実験で用いた真空洗浄装置と、本件特許明細書の発明の詳細な説明における第1実施形態の試験データ及び従来の真空洗浄装置の試験データを取得する際に用いられた真空洗浄装置とは、同一の装置であるとはいえないから、洗浄室や凝縮室の大きさ、熱吸収量等のスペックが一致していない蓋然性が高く、また、それぞれの実験、試験で用いられた石油系溶剤の種類も異なっている可能性がある。そうすると、請求人の再現実験によるワークの乾燥に要する時間と、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたワークの乾燥に要する時間を、単純に比較することに意味はなく、請求人の再現実験によるワークの乾燥に要する時間が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたワークの乾燥に要する時間よりも長くなったことをもって、本件特許発明を実施できないなどということはできない。
そして、前記(2)及び(3)に示したように、発明の詳細な説明の記載から、当業者であれば、本件特許発明の前記凝縮により乾燥させる技術思想を把握することができ、ワークの乾燥時間が所望のものとなるように、本件特許発明を実施することに過度の試行錯誤は要しないといえるから、請求人の行った再現実験において、本件特許発明を再現することができなかったとしても、発明の詳細な説明の記載が、当業者が本件特許発明を実施をする上で、不十分であるとはいえない。

オ 被請求人らの行った再現実験について
請求人は、被請求人らが特許実施品である真空洗浄装置を用いて行った再現実験において、試験1(初期排気後の洗浄室の圧力=0hPa)の場合、急速な減圧が確認できたものの、試験2(初期排気後の洗浄室の圧力=1hPa)、試験3(初期排気後の洗浄室の圧力=2hPa)の場合、急速な減圧は確認できなかったことで明らかになった、「初期排気後の洗浄室から非凝縮性気体を0hPaまで排除しておかないと、乾燥工程においてワークを迅速に乾燥させることができず、本件特許発明を再現することができない」との知見(実験条件)は、本件特許発明の再現には必要不可欠と思われるものの、本件特許明細書には一切開示されていない旨、及び「乾燥工程中の凝縮室から非凝縮性気体を排除しておかないと、ワークを迅速に乾燥させることができない」との知見は、本件特許明細書には一切開示されておらず、仮に、非凝縮性ガスが凝縮を阻害すること自体が技術常識であったとしても、真空洗浄装置において凝縮室21で洗浄蒸気を凝縮させるのに必要な非凝縮性ガスの許容値(凝縮室21に残留していても、蒸気の凝縮を阻害しない非凝縮性ガス量)までは技術常識ではなく、「0hPa」という許容値に辿り着くには、過度の試行錯誤が必要になる旨、主張している。
ここで、前記(2)及び(3)に示したように、発明の詳細な説明の記載から、当業者であれば、本件特許発明の前記凝縮により乾燥させる技術思想を把握することができ、ワークの乾燥時間が所望のものとなるように、本件特許発明を実施することに過度の試行錯誤は要しないといえる。そして、本件特許発明が、石油系溶剤の蒸気を凝縮室で凝縮させることにより乾燥させるものであることを、当業者であれば、当然、理解できるところ、乙6(第132ページ第20行〜第27行参照。)及び乙7(第107ページ第19行〜第20行参照。)に記載されているように、凝縮性気体に非凝縮性気体が混入した場合、非凝縮性気体が凝縮性気体の凝縮を妨げることは技術常識であるから、前述したようにワークの乾燥時間が所望のものとなるように本件特許発明を実施する際、減圧工程後に洗浄室に存在している非凝縮性気体の許容量、及び準備工程後に凝縮室に存在している非凝縮性気体の許容量も、当然、考慮し、所望の値に調整された上で、実施され得るものである。
そして、被請求人らの甲34に記載された再現実験では、初期排気後の洗浄室の圧力=0hPaの場合に、急速な減圧が確認できたとしているが、何をもって、急速な減圧とするかは、相対的な問題であって、この「0hPa」という数値に絶対的な意味はないといえる。また、最適な初期排気後の洗浄室の圧力は、必要とするワークの乾燥時間や、その他の種々の条件に応じて、変わり得るものであるから、初期排気後の洗浄室から非凝縮性気体を0hPaまで排除しておかないと、乾燥工程においてワークを迅速に乾燥させることができないとはいえず、初期排気後の洗浄室から非凝縮性気体を0hPaまで排除しておくことが、本件特許明細書の発明の詳細な説明に開示されていないとしても、発明の詳細な説明の記載が、当業者が本件特許発明を実施をする上で、不十分であるとはいえない。

したがって、請求人の主張はいずれも採用できない。

(6)まとめ
したがって、本件特許発明1〜5について、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであり、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものであるから、無効理由4は理由がない。

7 無効理由5について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解される。

(2)本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載について
前記1(1)ア(イ)に示したように、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0005】、【0006】によると、本件特許発明が解決しようとする課題は、乾燥工程において、蒸気洗浄・乾燥室を真空ポンプで真空引きして減圧する従来の真空洗浄装置及び真空洗浄方法では、乾燥工程に長時間を要するところ、ワークの乾燥に要する時間を短縮して全体の処理能力を向上することができる真空洗浄装置及び真空洗浄方法を提供するというものであり、その課題を解決するために、発明の詳細な説明の段落【0023】〜【0031】には、準備工程で減圧され、減圧状態で洗浄室2よりも低い温度に保持された凝縮室21と、搬入工程でワークWが搬入され、減圧工程及び蒸気洗浄工程を経て高温の蒸気が充満された洗浄室2とを、乾燥工程において、開閉バルブ20を開弁して連通させることによって、洗浄室2内に充満している蒸気が凝縮室21に移動して凝縮し、ワークWを乾燥させるという真空洗浄装置の一連の処理工程が記載されている。
また、その効果についても、発明の詳細な説明の段落【0032】〜【0038】、及び図3〜図6に、乾燥工程で真空ポンプによる真空引き行う従来の真空洗浄装置との比較が記載されており、少なくともこの従来の真空洗浄装置を用いた真空洗浄方法よりも乾燥工程に要する時間が短縮化されることが示されている。
これらを総合すると、発明の詳細な説明には、ワークの乾燥に要する時間を短縮して全体の処理能力を向上するという課題を解決するための手段として、前記真空洗浄装置の一連の処理工程が開示されているといえる。

(3)本件特許発明1について
本件特許発明1は、真空洗浄装置に関する発明であって、前記1(1)ア(ア)及び前記1(1)イ(ア)に示したとおり解釈し得るものである。一方、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、前記1(1)ア(イ)に示したとおり、前記真空洗浄装置の一連の処理工程が記載されており、また、前記1(1)イ(イ)に示したとおり、凝縮室21が、洗浄室2とは関係なく減圧されることが記載されている。
したがって、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえる。
そして、前記のように解釈される本件特許発明1は、前記(2)に示した、ワークの乾燥に要する時間を短縮して全体の処理能力を向上するという課題を解決するための、段落【0023】〜【0031】に記載された、真空洗浄装置の一連の処理工程と対応するものであるから、本件特許発明1は、前記(2)に示した課題を解決するための手段が反映されているといえる。
そうすると、本件特許発明1は、サポート要件に違反するものではない。

(4)本件特許発明5について
本件特許発明5は、真空洗浄方法に関する発明であって、前記1(2)ア(ア)及び前記1(2)イ(ア)に示したとおり解釈し得るものである。一方、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、前記1(1)ア(イ)に示したとおり、前記真空洗浄装置の一連の処理工程が記載されており、また、前記1(2)イ(イ)に示したとおり、洗浄室2と凝縮室21とを、各々関係なく減圧する工程が記載されている。さらに、本件特許の【図1】の記載から、凝縮室21が、洗浄室2に隣接していることは明らかである。
したがって、本件特許発明5は、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえる。
そして、前記のように解釈される本件特許発明5は、前記(2)に示した、ワークの乾燥に要する時間を短縮して全体の処理能力を向上するという課題を解決するための、段落【0023】〜【0031】に記載された、真空洗浄装置の一連の処理工程と対応するものであるから、本件特許発明5は、前記(2)に示した課題を解決するための手段が反映されているといえる。
そうすると、本件特許発明5は、サポート要件に違反するものではない。

(5)本件特許発明2〜本件特許発明4について
本件特許発明2〜本件特許発明4は、本件特許発明1を引用するものであるところ、本件特許発明1は、前記(3)に示したように、発明の詳細な説明に記載された発明であり、さらに、本件特許発明2において付加された発明特定事項については、発明の詳細な説明の段落【0023】に、本件特許発明3において付加された発明特定事項については、発明の詳細な説明の段落【0019】、及び図1に、さらに本件特許発明4において付加された発明特定事項については、発明の詳細な説明の段落【0043】、及び図7に、それぞれ記載されているから、本件特許発明2〜本件特許発明4は、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえる。
そして、本件特許発明1は、前記(3)に示したように、前記(2)に示した課題を解決するための手段が反映されているといえるから、本件特許発明2〜本件特許発明4についても、前記(2)に示した課題を解決するための手段が反映されているといえる。
そうすると、本件特許発明2〜本件特許発明4は、サポート要件に違反するものではない。

(6)請求人の主張について
ア 文言上、「ワークの乾燥に真空ポンプを用いる形態」が含まれ得るかについて
請求人は、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、従来の真空洗浄装置のように真空ポンプを用いることなく、凝縮室と洗浄室とを連通させることのみによって、洗浄室を迅速に減圧し、ワークを乾燥させる技術が記載されているのに対し、本件特許発明で特定される技術は、「ワークの乾燥工程において、少なくとも凝縮室と洗浄室とを連通させることによりワークを乾燥させる技術」であり、文言上「ワークの乾燥に真空ポンプを用いる形態」が含まれるから、発明の課題(真空ポンプを用いないでワークを迅速に乾燥させる)を解決するための手段が反映されておらず、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することになっている旨、主張しているが、本件特許発明は、前記1(1)ア(ア)及び前記1(2)ア(ア)に示したように、凝縮室が、開閉バルブによって洗浄室と連通される前に減圧の状態に保持され(又は、減圧下とされ)、洗浄室よりも低い温度に保持され、洗浄室を前記凝縮室と連通させることによりワークの乾燥を生じさせるものと解釈できるものであって、ワークの乾燥工程に真空ポンプのみを用いる形態が含まれているとはいえず、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものではない。

イ 真空ポンプの併用が許容されるかについて
請求人は、本件特許明細書に、「乾燥工程において、真空ポンプ10により凝縮室21を吸引してもよい。」等特段の記載がない以上、真空ポンプの吸引による乾燥には課題があるとされているのであるから、当業者は、敢えて凝縮室と真空ポンプを連結し、従来技術と同様の乾燥手段を併用することを許容することが記載されているに等しいとは理解しない旨、主張しているが、本件特許発明は、前記1(1)ア(ア)及び前記1(2)ア(ア)に示したように、凝縮室が、開閉バルブによって洗浄室と連通される前に減圧の状態に保持され(又は、減圧下とされ)、洗浄室よりも低い温度に保持され、洗浄室を前記凝縮室と連通させることによりワークの乾燥を生じさせるものと解釈でき、前記凝縮による乾燥手段について、特許を請求したにすぎないものである。そして、本件特許発明は、この前記凝縮による乾燥手段に加えて、真空ポンプの併用を許容するとも、許容しないとも特定していないのだから、本件特許明細書の発明の詳細な説明に、請求人が主張するような真空ポンプの併用を許容することが記載されている必要はない。
ここで、本件特許発明の実施にあたり、本件特許発明の前記凝縮による乾燥手段を用いた乾燥を妨げない範囲で、前記凝縮による乾燥手段とは異なる、他の乾燥手段(真空ポンプ、加熱手段等)を任意に併用することは、当然、妨げられるものではないが、当該任意に併用可能な他の乾燥手段のそれぞれについて、併用を許容するか、許容しないかまで発明特定事項として特定する必要がないことは明らかである。
また、請求人の前記主張は、本件特許発明には、ワークの乾燥の際に「真空ポンプを用いない」という特定がないため、発明の課題を解決するための手段が反映されていないという主張とも解されるが、前記(2)に示したように、本件特許発明が解決しようとする課題は、乾燥工程において、蒸気洗浄・乾燥室を真空ポンプで真空引きして減圧する従来の真空洗浄装置及び真空洗浄方法では、乾燥工程に長時間を要するところ、ワークの乾燥に要する時間を短縮して全体の処理能力を向上することができる真空洗浄装置及び真空洗浄方法を提供するというものであるから、ワークの乾燥に要する時間を短縮して全体の処理能力を向上することが課題であって、真空ポンプを用いないこと自体を課題としているものではない。
さらに、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0040】には、「さらには、従来の真空洗浄装置においては、減圧工程と乾燥工程との双方で、洗浄室を真空ポンプによって真空引きする。この場合、乾燥工程では、洗浄室から多量の蒸気が吸引されるため、特殊仕様の真空ポンプを採用しなければならない。そのため、こうした特殊な部品を設けることが、装置全体のコストアップの大きな要因となっている。これに対して、第1実施形態の真空洗浄装置1によれば、洗浄室2に蒸気がない減圧工程でのみ、真空ポンプを用いる。そのため、特殊仕様ではない一般的な真空ポンプを採用することが可能となり、装置全体のコストを低減することができる。」と記載され、乾燥工程で真空ポンプを用いないことにより、特殊仕様ではない一般的な真空ポンプを採用することが可能となり、装置全体のコストを低減することができるという効果が記載されている。しかしながら、この効果はあくまで第1実施形態の真空洗浄装置1の効果として記載されたものであって、本件特許発明の効果や解決しようとする課題として、記載されたものではない。本件特許明細書の発明の詳細な説明のその他の記載をみても、本件特許発明の課題が真空ポンプを用いないことであるとは認められない。
したがって、本件特許発明において、真空ポンプを用いないとの特定がないとしても、発明の詳細な説明に開示された前記凝縮による乾燥手段が反映されている限りにおいて、本件特許発明は、発明が解決しようとする課題を解決できるのであるから、「真空ポンプを用いないこと」を発明特定事項として特定していないことをもって、発明の課題を解決するための手段が反映されていないとはいえない。

ウ 凝縮室の熱吸収量について
請求人は、本件特許発明において、「凝縮室の熱吸収量」に関する特定がない結果、文言上「非常に熱吸収量の小さい凝縮室を用いる形態(つまり、洗浄室を迅速に減圧できない形態)」まで、本件特許発明の技術的範囲に含まれ得ることになるから、本件特許発明には、発明の課題(真空ポンプを用いないでワークを迅速に乾燥させる)を解決するための手段が反映されておらず、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することになっている旨、主張しているが、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0030】には、「したがって、開閉バルブ20を開弁すると、洗浄室2内に充満している蒸気は、凝縮室21に移動して凝縮する。これにより、洗浄室2が減圧されることから、ワークWに付着している石油系溶剤および洗浄室2内の石油系溶剤が、全て気化して、凝縮室21に移動する。その結果、従来に比べて極めて短時間で、洗浄室2(ワークW)を乾燥させることが可能となる。」と記載されており、蒸気が凝縮室21で凝縮する速度が、ワークを乾燥させる時間に影響を与えることが示唆されているところ、当業者であれば、この凝縮する速度が凝縮室内の表面積、材質等に応じた「凝縮室の熱吸収量」の影響を受けることを、当然に理解することができる。
すると、当業者が、本件特許発明の実施にあたり、ワークの乾燥時間を、所望の程度まで、短縮化しようとする際、溶剤の種類、凝縮室内の温度や圧力等の種々の条件に加え、凝縮室の熱吸収量を最適化することも考慮し得るものであるから、本件特許発明に「凝縮室の熱吸収量」に関する具体的な数値やその程度について、特定がないとしても、発明の課題を解決するための手段が反映されていないとはいえない。

エ 「ワークを乾燥させる」(構成要件G、O)の語義について
請求人は、本件特許発明の発明特定事項である「ワークを乾燥させる」の語義に関する記載が、本件特許明細書の発明の詳細な説明にない旨、主張しているが、本件特許発明は、前記4(1)イ(イ)及び前記4(5)イ(イ)に示したように、発明の詳細な説明の記載を考慮すると、前記凝縮により乾燥させる技術思想に基づくものといえ、この前記凝縮により乾燥させる技術思想を把握できる以上、本件特許発明の「ワークを乾燥させる」の技術的意義は明らかである。

したがって、請求人の主張はいずれも採用できない。

(7)まとめ
したがって、本件特許発明1〜5は、発明の詳細な説明に記載したものであり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものであるから、無効理由5は理由がない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許発明1〜5の特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2019-12-04 
結審通知日 2019-12-09 
審決日 2019-12-20 
出願番号 P2015-022618
審決分類 P 1 113・ 113- Y (B08B)
P 1 113・ 536- Y (B08B)
P 1 113・ 537- Y (B08B)
P 1 113・ 121- Y (B08B)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 藤井 昇
特許庁審判官 長馬 望
柿崎 拓
登録日 2016-07-29 
登録番号 5976858
発明の名称 真空洗浄装置および真空洗浄方法  
代理人 加治 梓子  
代理人 東口 倫昭  
代理人 牧野 知彦  
代理人 工藤 雪  
代理人 加治 梓子  
代理人 進藤 素子  
代理人 牧野 知彦  
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